もしもライトノベル作家が一つのクラスにいたら3

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173掃除屋1/3・矛盾体現
「――川上先輩、手合わせ願いたい――」

富士ミスクラスを出て、廊下を行く川上とさとやすの前に現れた男が、無表情に告げる。
白いコートを羽織り、右手にナイフ、左手にアタッシュケースを持つ男、
電撃9期の坂入慎一はケースを床に置き、構える。

さとやす「川上君…………」
川上「大丈夫だ。みたところ立場はフリーのようだし、何より純粋な殺気しか見えない……
   最もそっちの方が問題かもしれないが、とりあえず生意気な後輩は殴って矯正させてみよう」

川上も構える。拳による打撃をメインとしたスタンス。
彼我の距離は20メートルほど。どちらからともなく駆け出し、一瞬にして衝突する。
       サバット/ジムナ/ボクステック                 ヒット
――川上・脚術/体術/腕術技能・重複発動・コンビネーション・成功!
初撃は牽制の左拳、だが既に坂入は更にその左に位置し、黒塗りのナイフを振るう。  
       ダッジテック テイク ダッジ ヒット
――川上・回避技能・発動・回避・成功!
一転して回避に移る。が、その回避に成功したはずの川上の右腕に小さな切り傷が入る。
再び距離を離し対峙する二人。何事もなかったかのように川上が口を開く。

川上「……文体の能力化と対比か。奏音の領主と名付けるにはちと違うか」
坂入の表情は変わらない。

さとやす「ど、どういうこと?」
川上「……我々の使う能力はそれぞれの提出したレポートに準拠してる。これはわかるね?
   そしてそのレポートにおいて能力や心情は文字で表現される。これも当然だね?
   私だったら技能や記動力、そして唄を詠んだりだ。もっと単純にいえば振りおろした拳に描写が入る。
   それによって想起されるイメージは、ただ殴ると書くよりも痛い結果になるとは思わないかね?」
さとやす「そ、それは確かにただ殴ったって書くよりも『どりゃー』とか『てりゃー』っていった方が……」
川上は前を見据えたまま頷く。気が付けばいつの間にか坂入から発せられていた殺気が消えている。
構えと表情に変わりはないが戦闘を仕掛ける意思はないと判断。構えを解いてさとやすに語る。

川上「そう、そちらの方が痛い。そしてそれは実時間にして一瞬だ。振り下ろす拳は拳の速度で動く、
   だがそこには様々な描写が入る、彼はそこを突く。何故そんなことができるかわかるかい?
   彼が文体の特徴自体を能力と解釈してるからだよ。あくまで淡々と綴る彼の文体自体が彼の速度だ。
   速いという表現すら遅い。無心という描写ですら遅い。動くという行為があるだけだ。
   同じ一瞬がそうではない、素晴らしい矛盾だ。確かに意思が介在しない以上、威力には期待できない。
   
   だが、ナイフが急所に刺さったという行為をされた人間が、生きていると思うかね?

   描写の隙を突くまではかわし続け、隙が見えれば打ち込む。威力よりも致死力、まさしく掃除人だ。
   だがしかし坂入君、君にはわかっているのかね? その弱点が」

言葉を続けようとした川上の視界に軽い擦過音と共にアタッシュケースが足元まで滑り込み、止まる。
顔を上げて坂入を見る川上に映るのは、無表情のまま一度だけ頷く坂入。
そのまま窓へ近づき、ナイフの柄で窓ガラスを叩き割る。その行為の意味するところは。

さとやす「い、一緒に戦ってくれないの?」
坂入「さとやす先輩、俺は掃除屋で、暗殺者です」
如何様にも取れる、だから如何様に取ってもかまわないのであろう。
川上「――ならば、存分に行きたまえ。ただし、後悔に獲り殺されぬようにな。」
坂入は答えない。あいも変わらず無表情のまま、外へと身体を躍らせる。


「――9期の恥は、9期が雪ぎます――」



さとやす「(ぼそっ)……ここ……四階だよ」
175掃除屋3/3・進撃再開:03/08/09 15:55
川上「で、残ったのはこのアタッシュケースというわけだが」
さとやす「ば、爆発とかするのかな……」
川上「それは開けてみなければわかるまい。というわけで開けるぞ…………どかーん!!」
さとやす「きゃああああああぁぁっ!」
絶叫と共に後ろを向いて耳を塞いでしゃがみこむさとやす。もちろん爆発などしていない。
川上「まロい……なんともまロい。」
さとやす「え? 今何か変なこと言った?」
川上「しゃがむことで強調される尻の曲線がなんとも……いやなんでもない」
さとやす「う、なーんかイヤだなぁ……」

中身はケースの両面にくくりつけられた幾つもの軽金属の箱。
箱には赤いボタンスイッチとマジックによる殴り書き。川上は流し読む

川上「職員棟、部活棟、懲罰棟、本校舎A/B/C……ふむ」
さとやす「あれ? 手紙がついてるよ?」

一枚目には校舎の見取り図が、二枚目は白紙で三枚目にはただ一文。
川上は一瞥すると、少しだけ表情を崩し……折りたたんで懐にしまう。
そしておもむろにケースの蓋を閉じ立ち上がる。

川上「さて、行こうかさとやす君」
さとやす「う、うん。ところで、結局坂入君は何が言いたかったのかな?」
川上「何となくはわかるが、彼の流儀にのっとって、ここは言わないでおこうか」
そう答える川上の顔は、ほんの少しだけ、喜んでいるように見えた。


【川上&さとやす、アイテムゲット。坂入、???】