小野不由美&十二国記 其の34

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ふと、背後の庭の隅で何かの気配がした。
男の子は吸い寄せられるようにその方向に歩いていく。
次の瞬間、男の子の腕に何かがからみつき…
蒼い海が眼下に広がる住宅街の一角によろめき出た全裸の男の子がぱたりと
路上に倒れた。額から血を流している。
あの雪の舞う夜に立たされていた男の子のようだ。
髪がまるで女の子のように伸び、それだけ時間が経過しているのか、
あの夜に比べると多少成長しているようにも見える。
男の子はふらふらと葬式の花輪が並ぶ家の前を通りかかった。
その時、「要(かなめ)!戻ってきてくれたのね!」と一人の喪服姿の
女性が駆け寄り、男の子を抱きしめた。周囲でも喪服姿の親類たちが騒ぐ。
「一年前に行方不明になった要くんだ」と…。
葬式は要と呼ばれたその男の子を、あの夜に折檻していた祖母のものだった。
そのことを思い出しながら高里要は、美術室の片隅でキャンパスに
向かって絵筆を取っていた。
繰り返し、夜の庭の隅から路上に倒れるまでの間のことを思い出そ
うとするのだが、瞬きをしたように何も覚えていないのだ。