晩御飯を食べて、お風呂を済ませる。塾のある土曜日はそれらを終えて部屋で落ち着くのが普段よりも少し遅い。
「よーし、ドラマ、ドラマ」
今日はドラマの最終回だ。この日の為に今まで録画してきたようなものだ。本当はテレビで観たいが、
塾があるので仕方がない。早速準備にとりかかる。……と。
「だああ!失敗してる〜!!」
ナイター中継が延びたせいだった。途中で切れている。
「あ〜、もう、超ブルー」
落ち込んでいる矢先、携帯が鳴った。
――あいつだ。
嫌な予感がした。
「よお、俺だ。明日って暇だよな? 試合があるからさ、いつもの時間にいつもの場所。応援よろしく!」
「――ちょっと、待ちなさ――」
一方的に電話は切られた。
「あ〜もう、どいつもこいつも!」
翌朝、河川敷。冷たい水と温かい弁当をもって少女は現れた。
――1週間に1度しかない日曜日、本当はもっとゆっくり寝ていたいって〜の!
って、毎度毎度、直接頼まれてもいないお弁当を作ってる私も私か……。
少年が少女と出会ってから14年ほど、野球と出会ってから6年半ほどになる。
小学時代はリトルリーグで、中学に入ってからのこの2年半は、学校に野球部がないため、近所の草野球チームで活動していた。
――野球より私のほうが付き合いが長いんだぞ。毎週毎週飽きもせず……。
そこへユニフォーム姿の少年が近づいてくる。
「よ、遅かったな。……っと」
少年は少女から水を取り上げ、一口飲む。
「お〜い、守備練習いくぞー」
監督っぽい人が大声を上げる。
「今行きます! じゃあな。ゆっくりしていけよ」
少年は自分のポジション、レフトにむかった。
むかっ。
――何あの態度? お礼とか言えないワケ? あ〜もう、いっつもこうよ。デリカシーってもんがないのかしら。
少女は更に思う。許せない。もう今日は口聞いてやんない。野球をやるときだけ
誘うなって〜の。次の試合は絶対に行ってなんかやるもんか。
――ほんと、野球って最っ低のスポーツよね。
最終回。少年のチームが1点のリードを守ったまま守備についた。4対3。さっきの攻撃で少年も勝ち越しのタイムリーを放っている。
――このままいけそうね、相手の攻撃は下位打線からだし。しっかしさっきのあいつ、飛ばしたわねー。
なんだかんだ言いながら、彼女は試合に引き込まれていた。
相手チームの8番・9番を抑え、なんなく2アウト。しかしそのすぐ後、安打と四球で二死一・二塁。
少女はスコアブックに目をやる。
――次の人は……げ、今日、2安打1打点じゃないよ。
と思ったのも束の間。そして、快音。打球は――左中間へ。
少女は立ち上がる。あいつのところだ。……追いつけるかはきわどい。2アウトだから、ランナーはスタートを切っている。捕れなかったらサヨナラに――。
無言でボールと少年を目で追う。少年の必死の形相。
真っ白なボール、ただそれだけを本気で追いかけてる。……そして、その眼差し。
――どんなときよりもあいつは輝いてて――。
パシッ……という音が少女の耳にも聞こえた。ゲームセット。
歓声。
――仕方ない、今日は許してやるか。今度の日曜日も晴れるといいね。
整列を見守る少女は笑顔だ。
――ほんと、野球って最っ高のスポーツよね!
……私の逆転負け、か。
本スレが議論気味なのでこっちにこっそりと。
しかし落ちそうで落ちないこのスレは凄い。
実は微妙に完全なオリジナルというわけではないのですが、誰もわからないと思うので
オッケーということで。