幼馴染推奨スレ

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終末はいつもこうだ。
「Just like me〜♪」
台所で僕は片付けをし、
「ねぇ……」
いつも通り君はティーカップを両手で持ち、その中に映る自分を見ている。
振り向いても、位置の関係から背中しか見えないけど。
「ん?」
「私……いると迷惑だよね」
君の言葉に、僕は驚いた。
「は?」
なに唐突に唐突なことを……。
「『幼馴染み』なんて、便利な言葉だけどさ。小さい頃から一緒にいるってだけだし」
「そうだね。家は生まれた時からお隣だし。よく両親は若いのに土地付きで家なんて買えたよねー」
言って、汚れた皿に目を戻す。
「料理なら君の方が上手だし、女性らしさならずっと素敵な先輩がいるし。
 男心をこうくすぐるような可愛げのある後輩には、私は絶対なれないし。
 君の努力なら、私より君の部活のクールな先輩にいじらしー後輩の方が知ってるし。
 秀才なんて頭はもってないし、漫画が描けるとかの特徴もないし。ましてや外国人やエスパーじゃないし」
「はぁ」
静かに言ってるようで、水音に負けない声を出す所は流石だね……。
「特別『イイオンナ』な訳じゃないし、いわゆる『萌える要素』なんて……たいしたこと無い肩書きの“幼馴染み”だけだし」
「うん」
……あ、今の「うん」はマズかったかな。なんか怒気を感じる。
たっぷり一分間、君は口を開かなかった。
「やっぱり……駄目だよね。一緒にさ、よくいるっての。幼馴染みだから〜とかって、ウザいだけだよね。うん」
ようやく開いた口から、溜息混じりの言葉。僕達の関係を一気に否定しようとしてる。
「なんで?」
だけど僕は、彼女に賛同できなかった。
「君に、迷惑かけてる。一緒にいるだけで」
「そーかなー」
楽しいと思ったことはあれど、迷惑と思ったことないんだけど。
……と、振り向くと君は肩震わせている。
「かけてるよ! ……こうやって、週末は一緒にゴハン食べたりしてるけど。
 それだけでも、変な噂が流れてるんだよ」
変なって……なんだそりゃ。と、無反応の僕に君は
「……鈍い。鈍すぎる! 君と私が、付き合ってるんじゃないか、っていうの!」
何故か怒った。
「私なんかより、ずーっと特徴のある人がいーっぱい君の周りにはいるんだよ。
 私が近くにいるだけで……その人達とお近付きになる機会を逃してるってこと!」
「…………」
ピンとこなかった。うーむ。字名:ザ・鈍感野郎。なんちゃって。
「だから……さ。これっきりにしようよ。その方が、君のためだよ!
 一度っきりしかないせーしゅんを、こんな幼馴染みのために無駄にすることはナッシング!
 消えろ邪魔者、逝ってよーし! あぼーん!」
僕が振り向いても、その顔は見えない。見えるのは、拳をふりあげてポーズを取る君。
僕は再び、流しの皿に目を移す。そしてスポンジで、マヨネーズととんかつソースの入り混じった皿をこする。
「これっきりって、何を?」
泡まみれになった皿を、ぬるま湯で洗い流す。流れ落ちると同時に、再び君の声。
「お隣さんとか幼馴染みとか、そういうの。だからさ、これからはもっと、お互いに左右されないようにしようよ、って」
「……って言われてもなぁ。僕達、何かお互いに左右されたっけ?」
「小さい頃からずっとそうでしょ。両方両親が、その……」
「あ、いいよ僕の方は」
僕の母親は交通事故で亡くなってる。親父は単身赴任。対する彼女の両親は、海外での仕事が主とかなんとか。
「ん、ぅ。だからその、両方あまりいなかったから、兄妹みたいになっちゃって……」
「うん。お風呂はいつまで一緒だったか忘れちゃったけど」
「…………」
あ、また怒気。
「ともかくっ! 年頃のオトコノコとオンナノコが一緒にいるってだけで、色々あるでしょ! 噂とか!」
「それはさっきも聞いたよ」
「……だから、その……兄妹みたいだってのが問題だよ。それ、君にとっては恋愛の障害だよ。だから、さ……」
水を止め、タオルで手を拭く。
「んー、さっきから聞いてるとさ。なんか、僕のことばっかりだよね」
「…………」
君は何も言わない。ただ、肩を震わせている。
「君はどうなの? “幼馴染み”ってのは迷惑?
 小さい頃からずっと一緒で、なおかつ僕達の場合小学中学高校の学校&クラスも一緒で。
 お互いの事をそんなに知ってるってのが、駄目なことかなぁ」
君は何も言わない。
「出会いって不思議だよね。
 綺麗な先輩や、可愛い後輩とか。ミステリアス少女とか、騒がしい情報屋とか。関西弁に眼鏡っ娘とか。
 でも……僕は馬鹿だからかなぁ」
君の肩に手を置く。それだけで、君はビクッと震える。
見下ろすと、君の頭。後ろからだから、顔は見えなくて。
今までのショートカットの位置からはみ出つつある髪が、君の肩の上の僕の手に当る。
「なんって、言うんだろうね。……それでも君と一緒にいたいんだ、これからも。できれば、ずっとさ」
「…………」
「酷いなぁ。今の結構、言うのに勇気がいるんだよ」
そして帰ってきた言葉は、
「馬鹿! こ、この際だから言うけど。
 わ、私が……私が……私が、迷惑なの! 君と一緒にいると、恋も……できないからっ!」
昔からの君の癖を、僕は知ってる。泣く時は……
「私は。君なんかっ、大嫌い。
 君と一緒にいるのが、凄い、凄い……」
「――あのさ」
僕は背中から、君を抱きしめる。
「僕の事が嫌い。じゃあ、どうして……君は泣いてるの?」
泣く時は、決して嗚咽をもらさず。肩を震わせるだけだって事を。


BGM:THE CARPENTERS (THEY LONG TO BE) CLOSE TO YOU

御目汚しスマソ