仮題『月と貴女に重箱を』
200X年、春。
2ちゃんねる征服を企む謎の集団”社(やしろ)”が、ついにその牙を剥こうとしていた。
空間を歪め、時間さえ狂わせる究極兵器”ベタエンジン”に、完成の目処が立ったのである。
最終的な性能確認の為、改造人間「重箱」に試作型ベタエンジンが搭載され
ライトノベル板で試験の為実戦投入される事になった。
だが、脳改造の直前に自我を取り戻した重箱は、”社”を脱走してしまう。
追手との戦闘で負傷した重箱は、たまたま通りかかった少女、灯乃鈴に助けられ
そのまま住み込み店員として灯乃書店で働く事となる。
記憶の一部を失い、普通の人間として暮らし始めた重箱。
しかし、”社”の回収部隊は、既に重箱の所在を突き止めていた…。
富士山麓、地下。
豪奢だが殺風景に見える部屋の中、数人の男の姿があった。
黒い制服に身を包んだ男が、やや緊張した声で報告を始める。
「重箱の居所は完全に把握出来ました。捕獲許可を願います」
上手に座る男…”社”の首領、柊が口を開く。
「ならぬ。増援の到着まで待て」
「改造人間の一人くらいなら、待機中の戦力だけでも…」
「重箱を甘く見てはならぬぞい」
いつの間にか部屋に入っていた白衣の老人が、唐突に口を開いた。
「奴が装備しているベタエンジンは、技術的限界を確かめる為にリミッターが外されておる。
万一暴走させたりすれば、2ちゃんは跡形もなく沈むぞい」
首領の前だというのに、謙虚さの欠片もない態度で喋り続ける。
「で、例の物は出来たのか」
「もちろんじゃ。快心の出来ですぞい」
老人はそう言うと、懐から20cm程の棒状の物体を取り出した。
「ヒヒヒヒヒ、これが緊急停止キーじゃ。
これを奴の体に差し込めば、ベタエンジンは完全に停止するぞい」
「…これを使うのですか」
男は、良くも悪くも真面目で実直な性格であった。
松茸と酷似した黒光りする物体を、眉間に皺をよせながら摘む。
「新型の改造人間にやらせる。回収部隊は、支援と事後処理に専念せよ」
「承知致しました」
男は元通りの表情に戻ると柊に敬礼し、軍人らしい足取りで退出した。