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807美穂(778) ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:45:28
チョコを渡す勇気があるヤマさんを尊敬しています。
やっぱり皆さんその位頑張っているのですね。
ヤマさんの事を応援しています。
頑張って下さい!

大部分が書けたので書き込ませて頂きます。

これから私の恋愛物語、10年間をできるだけ
コンパクトに詰め込んだ物を書きたいと思います。
それでも長いとは思いますが、
根気強く読んで頂けると嬉しいです。
(小学校から始まってます。あほみたいですがお気にせず)


全ての始まりはここからだと思った。
小学校1年の、春。


教室の隅と隅。
お互い友達とつたない会話。
その中、彼とふと目が合った。
ただそれだけの事で、恋をした。

彼の名前は祐人。
大きくてぎょろりとした目、男子の平均よりは高めの身長。
明るく話しやすい印象の彼は、当時とても人気があった。

「好きな人誰?」と友達に聞くと、2分の一の確立で
「祐人」と照れくさげに返ってくる程だった。
応援してくれる?とお決まりに言ってくる友達に
ただ気持ちを気づかれたくない一心の私は「うん」と頷いた。
808美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:46:55
彼と私は比較的――とはいっても他の子にも同じように
していたのかもしれないけど、仲が良かった。
プールの息止め大会、わざわざ私のところまできて
変な顔をして笑わしてきた。クラスで1番に上がってしまった。
最早定番、いや今となっては古くなってしまったスカート捲り。
彼は私の嫌といっている事を面白がってやってくる。

そんな事をやられても、変に自惚れて期待して、嫌じゃなくて。
周りの子達が次々と好きな人を変えていく中、
私だけは確実に、少しずつ彼への気持ちを大きくしていった。
小学生の恋なんてそんなもんさ、すぐ変わるのよ、だなんて
私には関係ないものだった。今思えば意地でもあったかもしれない。
809美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:48:05
4年、6年と違うクラスだったけど、気持ちは変わらなかった。
そうして何も変わらないまま、中学へ入学した。
またもや彼と違うクラス。
こんなものか、なんて思って新しい教室へと向かった。

「ねぇねぇ、生徒会長の××先輩ってかっこよくない?」
「あーわかる。てかうちのクラスのナリもさ」
「美穂はどう思う?」
正直、興味なかった。

友達の話に出てくる、××先輩だなんてしらないし。
というより生徒会が誰かでさえもしらないし。
成田敦史――通称ナリ、という、私とは違う小学校出身の男子も、
カッコ可愛いという言葉がとても当てはまる子だとは思うけれど
クラスの中心すぎてどうも苦手だった。
つまりは祐人以外ただの背景でしかなかったのだ。

そのはずだったのだけど。
その年の冬、ひとつの夢を見た。
舞台は自分のクラスの教室。
私はなぜか成田を違う場所へと呼び出して、何かを話した。
ただそれだけの、何の脈絡も無い夢だった。
だけどなぜかその夢のせいでか、次の日から彼の事が気になって。
好きという気持ちではないけれど、
苦手というのも変わらなかったけれども、なんかおかしくなった。

ただの背景が、自分の物語の登場人物へと変わった瞬間だった。
810美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:49:07
祐人とは話すこともなく、見かける事も少ないまま2年生へ進級した。
クラスもやっぱり、違った。

5月の宿泊行事。
オールして夜明けを見よう、だなんて無謀な事を企画し
トランプもウノもしりとりもやり飽きて、暴露話へと変わった。
まあこれが1番のお楽しみ、醍醐味ともいえるのだけど。

「私……ナリが好きなんだぁ」
一人の子、唯がそう打ち明けた。
「ええー」と驚きの声が部屋中に響き渡る。
「へぇ……やっぱねー」と私は言う。
彼女の変化はなんとなく気づいていた。
何かにつけて「ナリがね」などと話に出してくるから。
少し、もしかしたらという位小さく、胸が痛んだ気がした。
気のせいかもしれなかったけれど。
「美穂は?」と話が私へ振られた。
「え」
「そういえば美穂の話って聞かない」
「教えてよー。みんな暴露してんだからさあ」

みんなと、その雰囲気に押されて、重い口を開いた。
「……祐人が、ずっと好きだったの」
「あぁ」と妙に納得した声が漏れた。
「あいつなら許す。精一杯応援するからね!」
そう言われ、私は苦笑いを浮かべた。
心の中は、そんな事より違う事で、いっぱいだった。
811美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:50:38
忘れもしない、中間考査が終わってすぐの月曜日。
全校朝礼の帰りに、あの暴露話を聞いていた友達の一人が
「美穂ちゃん!」と慌てながらやってきた。

「どうしたの?」不思議に思いながら聞くと
「あのね……」呼吸を整えて、やっと言った。
「祐人って人、引越したんだって」

“引越し”その単語が私の頭に重く圧し掛かった。
「え、それ、本当?」動揺する気持ちを感じ取られたくなくて、
できるだけ平静を装って言った。多分。
「うん。その人と同じクラスの子に、朝聞いた。
中間テスト終わって、次の日引越したんだって」
あたまがまっしろになる
その言葉の意味を初めて理解した。

「美穂ちゃん、大丈夫?」
何が、と思った。だけどそう言うわけにもいかないので
「もういいよ別に、関係無い」
変に強がって、そう言った。

“もういいよ別に”嘘にきまってる。
良いわけなかった。7年ずっと、ひたすら想っていた気持ちは
そんなやわな物ではなかった。

彼の教室の前を通っても、彼の姿は見当たらなかった。
思えば朝、彼がいつも朝練をしているテニスコートに
彼の姿だけ見つけれなかったのを不思議に思った。
“祐人はもう引越した”
信じられなかったけれど、信じるしかなかった。
812美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:51:35
放課後、やる気がでなくて部活を抜け出した。
教室で一人泣くのもいいと思った。
現実を受け入れる様に、地をしっかりと踏みしめながら歩いた。
そうして教室へ着き、入ろうとした。
戸を開けると視界に移ったのは、
ロッカーで何か探し物をしている様子の成田だった。

彼も私の存在に気づいたようで、こちらを見た。
何をしているのか気になったけれど、私と彼はあまり話さないし
声をかけている暇などなかったのですぐその場を後にした。
人気の少ない階段にしゃがみ込み、瞳を閉じた。

結局彼は私の事を何とも思っていやしなかった。
ただの、完全なる私の自惚れだった。
でも好きな気持ちは、私の気持ちだけは本当で。
もし会えるなら今すぐにでも伝えたかった。
“ずっと好きでした”と。

泣くと思った。
目が真っ赤になって腫れるくらい、泣くと思った。
その時は部活早退してもいいかなと思っていた。
だけど涙は、目から溢れてくる気配を見せなかった。
何で、何で
必死に目に力を入れても、無駄だった。
涙を流せば思い出も流れる。迷信でもそれでもよかった。
とにかく泣いて、全てを出し切りたかったのに。

その日は一日、泣けなかった。
813美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:54:07
次の日、隣の席の成田に思い切って聞いてみた。
“思い切って”話す事でもなんでもないのだけど、
なぜか彼に話すのは毎回異常なまでに緊張してしまう。
「昨日何してたの?」
「ああー、提出のプリント探してた」
「ああ」
向こうは何も聞いてこなかった。
ちょっと期待はずれ。
まあ向こうは私に興味なんてないのかもしれない。
そう思うと少し空しくなった。

日が経つにつれ、私は祐人を過去へと変える事ができた。
もう叶う可能性が確実に無い物については、
意外に諦めや切り替えが早いのかもしれない。

すぐに好きかも、と思う人はできた。
だけど1ヶ月も経たない内に「なんか違う」と思うようになり、
それが何回か続いた。

無理してるのかな、と思った。
早く忘れたいって、次行きたいって心の底で願ってるんじゃないか。
無意識の内に。
814美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:54:53
9月の終わり頃、体育祭が行われた。
私たちのクラスは見事総合優勝を果たし、
その日の夜に打ち上げをやる事になった。

みんなでお菓子を持ち寄りわいわい騒ぐ。
その中には、これを主催した成田の姿も勿論あって
普段見ない私服に心ときめかせた。

友達と楽しく話をしていると、こちらへ一つのガムが飛んできた。
丁度私の膝へとそれは落ち、誰が投げたのかと思い
友達と周りを見渡すと、成田が投げた様だった。
「何これ」
これを一体どうしろっていうの。食べていいの。
と頭の上にたくさんの疑問符が浮かんでいる間、
すかさず唯がそれを掴んだ。

「あ」
「なんだろねーこれ」
「……うーん。ね」
私が貰ったわけではないのだから、返して、とも言えず。
そのままガムは姿を消したわけだけど
多分唯が貰ったんじゃないかと思う。
ちょっと残念だった。
815美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:55:59
何時間か経ち、クラスのほとんどが家へ帰った。
6人の女子(私を含む)は近くのカフェの様な店で軽食と雑談する事にし、
成田達男子は少し遊んで帰るとどこかへ行ってしまった。

私たちはパフェやらアイスやらを頼んだ後
今日の体育祭の事、男子があーやらと話していたら
「ねえ、好きな人とかいる?」と紗枝が急に言い出したのを
キッカケにその話へと方向を変えた。

「私、いるよ」
一番最初に言ったのは、唯だった。
「誰誰っ!?」
私以外のみんなが食いつく。
「……ナリ」
「へーっ、ナリ?協力してあげるよっ!」
一番大きな声を出したのは紗枝だった。
紗枝は顔も可愛く、肌も白く、バレエもやっている。
勉強もできて、でも飾らず明るく頼りになる。
そんな紗枝だから男子との交流も多いし
その中でも成田は特別仲が良かった。
実際、打ち上げの主催も成田と紗枝だった。
2人が仲良さ気に打ち上げの計画を立てている間
言葉にできない感情が胸で渦巻いていた。

「なんならメアド教えてあげるよ!」
「ありがとー」
「唯、私も応援するからね」
「ナリはモテるから頑張ってね!」
私は何も言わなかった。ただ、笑っていた。
816美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:59:14
「美穂ちゃんは誰かいないの?」
宿泊行事の時同様私に話が振られた。
「え……私は、今はいない」
「前はいたの? 誰誰っいつ!?」
みんな身を乗り出して私を見る。
でもあまり触れられたい事ではなかった。

黙って俯いた。すると不思議と、目頭が熱くなった。
気がつけば半泣き状態だった。
それに気づき、慌てた紗枝は
「いいよ無理しなくて! 泣かないで、ね」
うん、うん、ごめんねと言って私は顔を上げた。

とても不思議だった。
あの時は泣けなかったのに、今泣けるなんて。
それとも違う事で、私は泣いたのか。
よく分からなかった。
817美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 14:59:47
2学期中間考査が終わり、いよいよ秋になった。
その時の席替えではまた成田と隣の席になった。
単純に、嬉しい。その気持ちでいっぱいだった。
成田の反対側の隣は唯で、唯も嬉しそうだった。
だけど成田は不機嫌そうに机へ突っ伏し、なかなか顔を上げない。
私は嫌われてるのかと不安になった。

「なんか成田、今の席嫌そうだね。私嫌われてんのかな?」
前の席で成田と近くだった愛理に聞いてみた。
「いや。なんか唯が嫌いらしいよ。ずっと言ってた」
「唯が……?」
正直な気持ち、ホッとしたのが大部分だった。
自分って最低だなと思った。

それから少しして、唯が成田へメールをしたらしい。
「紗枝から教えてもらったの。見てみて、返事きたよぉー」
嬉しそうにそのメールを見せてくる唯。
何も知らない唯に、私は何も言うことができなかった。

次の日。
思ったとおり、席替えの時より不機嫌オーラが漂っていた。
ずっと座って頬杖をかいたまま動かない。
愛理にその事を話すと、
「昨日ナリから“紗枝殺す”ってメールきた。怖かったよ!」
性格が良くないのは雰囲気でなんとなく分かっていたから
その出来事で成田の印象が落ちる事は無かったけれど
そこまで嫌われている唯は何をしたんだろうと思った。

でもそんな事も知らない唯は毎日を楽しそうに過ごして
律儀にメールを返す成田に感心した。
「さすがに無断でメール送るのは引かれるでしょ」
と、その件はクラス中に広まった。
818美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:01:27
文化祭も終わってすぐの授業。
社会の時間という物はとても眠気を誘われて、
さらに先生のくだらない駄洒落で寒気を覚える。
いつもならそうなのだけど。いつもなら。

この席の場合、
毎時間、黒板を見ると唯が視界に入ってしまうからか
成田はいつもこちらの方を向いて顔を突っ伏す。
または額を机にくっつける形で突っ伏す。

別に私を見ているわけではない。唯が見たくないだけ。
そう思っていても、どうも目が冴えてしまって。
それが勉強に向けばいいのだけど先生の言葉も耳に入らなくて。
私も顔を俯けて、無意味にシャーペンを指で遊ぶ。
自然と顔全体が熱くなる。もしかしたら顔は赤いんじゃないか。

この席が、教室の1番後ろの、端っこで良かったと心底思った。

成田はどこを見ているのか、気になったけれど
見る勇気もなかったのでただ視線はノートに注がれる。
鼓動がこんなにも速くなって、顔が熱くなるのは産まれて初めてだった。

性格悪いけど、自己中心的で目立ちたがりだけど
ちゃんと優しくて、人にも気が使えて、そういう所が私は好きなんだ。
私は、成田が好き。
819美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:07:59
2年の最初の頃、一人のクラスメイトが小さな猫を登校中に拾ってきた。
小さな小屋に入れておいたのだけど、授業中に飛び出して
溝の中に落ちて鳴いていた。
放課後クラス全員で探して、溝の蓋を外そうと
引っ張ってもびくともしなかった。
先生を呼んできて、少し離れた所の蓋が開いて、
少し小柄な人なら通れるから、
そこから取ってきたらいいと先生は言った。

みんな嫌がった。
なんせ昨夜は雨が降って、溝にはその水がまだ残っていたので
確実に制服が汚れる。それがみんな嫌だったのだ。
気まずい空気が流れる中、一人の男子が手を上げた。
「じゃ俺いくわ」
成田だった。

迷わず溝に入っていってすぐに猫を連れてきた。
彼は男子にしては細く背も低めだったので
溝の中を通るのは容易い事だった。
制服が所々汚れていた。なのに、嫌な顔もしなかった。
一気に印象が変わった。その瞬間。

その時感じた気持ちが、今も深く残っているのだと思う。
820美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:11:51
この席は少し困った。
休み時間毎に、いつもいつも成田の席の
周りに集まって話す女子達。
羨ましいという感情と、授業始まるから座りたいのに
座れないというどこか空しい感情が入り混じるからだ。

私が席の近くにいっても構わず話す女子。
成田が「あ」というと、今気づきましたとばかりに
「ごめんねー」と言いながら私の席を開ける。
いや、本当に今気づいたとは思うのだけど。
逆に座りにくいったら。

とにかく彼は人気があった。
背も中1の時とは考えられないくらい伸びたし
(とはいっても男子平均程しかないのだけど)
顔立ちも“可愛らしい”というものから
“格好良い”という、男の子らしい顔立ちに変わっていった。
そのせいでかいつも彼の周りには可愛い女の子達がいた。
地味な私には近づけないくらい。
隣の席である事がいけないくらい。

自分を変えたいと思った。
821美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:12:44
春休み中、私はどうしたら変われるだろうと考えた。
考えて考えた結果、手始めにファッション雑誌を買った。
今まで友達が持っているのは見たことがあるが、
実際自分で買うのは初めての物だった。

タンスの中をあさり、自分が着たい服、欲しい服。
雑誌を見ながら決めてお年玉ギリギリまで使った。

3年生に上がり学校へ行くようになると、
毎朝鏡の前で念入りにチェックする事を忘れなかったし、
髪型が少し変だと思ったら時間の許すまで何度でも結びなおした。

多少の事でもよかった。
とにかくその時は、少しでも変わりたかったんだ。
822美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:13:42
3年生のクラス替え。私はこれに賭けているつもりだった。
なぜならこれが中学最後のクラスだから。
同じクラスでなければ、彼の進路に合わせる事もできないかもしれないし、
全然違う進路だったら3年生の間に頑張るしかないのだ。

春休みの間にインターネットで見たおまじないもやった。
叶うわけないと分かっていても、どこか信じたい
何かに頼りたいという気持ちがそうさせた。

当日。昇降口の扉に紙が張り出される。
その紙を見ようと一気に人が群がっていく。
負けじと私もその群がりに入って、やっとの事で張り紙を見た。

私の名前が目に入った。
すぐに上の、男子の名前が書いてある所に視線を移した。
な、な、な……

頭の奥が、痛んだ。
みんなの、嬉しかったり、残念だったりする声が遠く感じた。
なの付く男子の名前はその紙に書かれていなかった。
ただ、それだけ。

隣の、隣に張り出してある紙に
何度も思い浮かべ、私と同じ紙に書かれている事を願った
名前が印刷されているのが見えた。
後ろを振り返ると成田が友達と、群がりから少し離れた場所で
少しでも人が少なくなるのを待っているのが視界に入った。

彼は、私とクラスが離れてどう思うだろうか。
嬉しい?悲しい?
……きっと、私の事なんて頭にないだろう。
ふと気づく。ああ、いなかったんだあいつ。
私はそれだけの存在でしかないだろうから。
823美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:17:28
学校が楽しくなかった。
前までは休みの日なんていらない、という位
土日が暇で仕方が無いくらいで。
今も学校のある日は嬉しい。
少しでも彼が見れるから。
でも、空しい。
彼と話すこともできないから。

毎日が不満でいっぱいだった。
クラスの女子と楽しそうに会話をする成田を見ては
嫉妬して、でも1回でも多く成田を見たいと
クラスに遊びに行ったり、教室の前を通るたび伺ったり
自分のクラスの前を通る時間、いつも気にしてみたり。
目が合えば一日幸せに過ごせた。
それだけで何にでも妄想はできたし、自惚れる事もできた。

恋をすると周りが見えなくなる。
確かに学校にいる時間は成田に集中していた。
いわば私の学校生活は成田中心で回っていたと言ってもおかしくない。
とにかく必死だった。
824美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:20:14
そんな毎日の中で訪れた修学旅行前日。
帰りに学年全体で最後の確認があるという事で
体育館に友達と向かっていた時。
違う班の子なので「1日目のディズニー、どこ行くの?」
などと聞いて実際どうするんだというような話をしていた。

すると後ろに、成田がいる事に気づいた。
当たり前だけど彼も体育館に行くのだろう。
こんな小さな事で無性に嬉しくて、
話を「ご飯はどこで食べる?」に持っていった。
1日目の夜ご飯は各自、ランド内で食べるのだ。
ちょっとでもいいから、一応言ってみた。

「私の班は○○……とかなんとかって所で食べる予定なの」

言ってどうにかなるわけじゃないかもしれない。
けれど、信じてみたかった。
これを聞いていて、そこの場所で彼も食べてくれないか。
だなんて変な期待をしたんだ。
825美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:21:04
ランドに入った時、多分みんなはしゃいでいた。
当然私のテンションもかなり上がって子供の様に走り回った。
班の子達とランドをぐるりと一周している時。
その間に成田を3回見た。

1回目はコースターに成田が並んでいたのを友達が見つけて
「あ、ナリじゃん」
と言ったのを聞いて、振り向いたら目が合って驚いて転んだ。
友達には爆笑されたし、成田にも思い切り見られていたし最悪だった。
2回目はその近くにあったゴーカート後。
ベンチでトイレに行った友達を待っていたら横を通った。
3回目は買ったシャーベットを食べようと、
でもスプーンが折れそうで苦戦していたら目の前を通った。
友達に「美穂ちゃんかなり見られてたよ」と言われて恥ずかしかった。

こんなに会えるとは思っていなかったので嬉しくて。
十分満足してて。昨日の夜ご飯の話なんて頭から抜けていて。
でも、更に嬉しい事が起きた。

昨日宣言していた通りのお店で食べていたら
成田達がふっと視界に入ってきた。
友達もそれに気づいて、「よく会うねー」だなんて笑っていた。
「たまたまここ通るのかな」
「ここ食べにきたりして」
「あはは。そしたらどーしよー」

どんどん近づいてくる。
まさか、いや、まさか、いや……そんな具合に
変な期待とそれを打ち消す言葉が頭の中で繰り返される。

思わずポテトを3本程落とした。
彼等はここのお店で食べ始めたのだ。
別に悪い事はない。だけど昨日の事が思い出される。
もしかして……いやいやいや、たまたまかも。
でもちょっとは。ううん他の人がここにしようって言ったかも。

ひたすらその繰り返し。
さっきより綺麗にハンバーガーをかじろうとする私。
とにかく嬉しくて。ここは自惚れておく事にした。
826美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:23:14
3日目のお昼。
私の班のテーブルだけ料理が運ばれるのが遅く、
もう成田のクラスは全員食べ終え部屋を出ていた。
バスに乗ったら駅までまた会えなくなるので
帰り道一緒になったらいいのにと思っていたけど
仕方が無い、と諦めていた。

料理を食べ終え、じゃあバスに戻ろうかと部屋を出た。
その時ふと横を見ると、行ったはずの成田達が
部屋の戸の外に居たのだ。理由は分からないけれど。

その後はずっと私たちの後ろを歩いてバスまで。
すごく嬉しくて、幸せだった。
偶然でも自惚れでも構わなかった。

家へ地下鉄で帰る時。
トイレに行ってて遅くなったのに、
なぜか帰る電車が一緒になったのもすごく嬉しかった。
成田もたまたま何かしてたんだとは思う。
でもその時は、やっぱり自惚れてたかったんだ。
827美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:24:06
彼は3年になってから、更に人気になった。
その理由は中三前期生徒会長に任命されたから。
全校生徒の前で活躍の場が設けられた彼。
それを見た、今までライバルとも何とも意識していなかった
後輩達が騒ぎ出す。部活の後輩もそうだった。

「成田先輩ってかっこいいですよねっ」
「ナリって呼ばれてるんですよね、ナリ先輩ー!」

とまあこんな具合に彼の人気は今まで以上に上がった。
中には自分の教室から成田のいる教室
(私の学校は1,2年生と3年生は校舎が違うので)
を放課の間ひたすら観察して見かける度騒ぐ、という
軽いストーカー行為までしていたと後輩が言ったのには
開いた口が塞がらなかった。

しまいには
「あ、美穂先輩っ」
「おはよー」
「この前ですね、成田先輩のファンクラブ作ったんです」
「……はい?」
「私一応会長なんですよ。会員No.1です」
思わず聞いた時は我が耳を疑った。
ファンクラブだなんていつの時代かと思う。

その子は1年生なのだけど、
同じ塾に通う2年生の男の子から聞いた話では
「え、僕の学年の女子もファンクラブ作ってますよ」
今度は気が遠くなった。

なんでこんなにライバルが増えてしまったのか。
生徒会という物を恨まずにはいられなかった。
828美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:33:53
私は部活が終わると(この部活は他の部より
いつも大体早く終わる)、必ず生徒会室の前を通る。
通ればいつも成田がいる。その事からだった。

中1の時から部活に対して不真面目だった彼は
生徒会になってからは全く部活に出なくなった。
私もその点では部活をよくサボッていたし
(中1・中2だけの話だ。中3は出席はしていた)
特に彼に嫌な気持ちを抱く事もなかった。
(恋は盲目、というのが当てはまるかもしれないが)

友達と面白がって生徒会室の前を通っては
一人で何かをしている(宿題か何かかと初めは思ったが
私の学校は宿題が滅多と出ない。毎日残る程
生徒会の仕事も出るはずがないので結局不明)
成田をわざわざ覗いて、彼がこちらを向いては
わけのわからない笑いが口からこぼれる。

きっと彼にとっちゃいい迷惑だったとは思う。
でも変に嬉しかったんだ。
この時間だけ、このほんのちょっとの間だけ
成田を独占できた感じがして。
誰もしらない、私と友達だけの。
829美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:35:02
「私、N高受けようかなって思ってる」
もういつの間にか冬になっていた。
帰り道、一緒に下校していた友達がそう切り出した。
N高といえばここから一番近いが、校則が厳しく
制服も田舎臭い程この上ない、という
私にとってはあまり行きたくない高校だ。
でも近くてレベルも中の下な為か
私の中学から行く人はとても多い。

「そうなんだぁ。
でもN高、うちの中学から来る人多そうだよね」
「うん。今まで聞いた中ではね、
○○とか、▲▲君とか、……とか、ナリとか」
聞き流そうと思っていた脳みそをぴたりと止めた。
変更、じっくり頭に焼付けましょう。

「今あげた人達、みんな推薦狙ってるっぽい」
「そっかぁ」
行きたい高校、一応あった。
T高で、やりたい部活もあったし校則も自由だ。
だけどレベルが自分より上な為、お母さんには
進学率も良いN高にしなさいと言われていた。

悩んだ末、結局流された。
私はN高を選んだのだ。

そのから私はまるで人が変わった様に勉強し始めた。
冬休み中も、土日も。
塾の先生に頼んで無料の補習を入れてもらい
死に物狂いで勉強した。

苦手な英語を基礎の基礎からやり直し
ひたすら頭に叩き込み、小テストを何度も受けた。

やってきた私立入試も軽々と成功し、
ふと気づけばバレンタインが近かった。
830美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:36:00
「私成田が好きなんだ」
と随分前に一緒に下校してる子に打ち明けていた。
成田の事を明かすのは初めてだったので緊張した。
だからこそこのイベントが近づいてくると
「あげないの」と真顔で聞いてくるのだった。

「そっちこそ。あげないの」
彼女も、成田ととても仲が良い矢野君という男の子が好きだった。
とてもクールという言葉が当てはまる、
黒縁の眼鏡がよく似合う野球部で格好良い子だ。
でも中身は意外に面白く抜けてる、らしい。

切り返すと、その子はさらりと
「美穂があげるならあげるよ」と言う。
2人は去年同じクラスでメールもしているし、
彼女は男子と仲が良いのであげるのは然程困難なわけではない。

だけど私はというと。
最後に話したのなんて覚えてない、
メールしてないというより男子とメールした事すらない、
大体チョコを渡す時に「成田」と声をかけるだけでも
きっと呼吸困難に陥るだろう。
とにかく無理。無理無理無理。

とか言いながら、作る予定のチーズケーキと
トリュフの数が一人分ずつ多いのは、まあ、なんとなく。
831美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:37:22
やってきたバレンタイン。
「美穂はあげるの」
「……まさか」
変なチャンスを期待したから作ってきた、なんて
到底言えなくて。そんな事あるわけないのに。
「だろうね。まあ私もあげないけど」
なんだ、つまんないの。
更にあげにくくなってしまった。

いろんな子に配って
予定通り一人分だけ袋の中に残って
早くも放課後になってしまった。

「美穂、帰ろー」
「うん」
やっぱ無理だったな。
成田はクラスの子からチョコ貰ったのかな。
考えながら昇降口まで歩いた。
すると下駄箱近くで友達の歩みが止まった。

「どうしたの?」
「ちょ、ちょっと静かに」
声を殺して下駄箱の方の様子を伺っていた。
全く状況が理解できない私に友達は
「ナリが、いる」と簡単にそれだけいった。
「そうなの……?」
いいじゃん、行こうよと声を出そうとした時、
それは微かに聞こえてきた。

「悪いけど、受け取れません」

状況が掴めない。
ワルイケド?ウケトレマセン?
成田の声が所々掠れていた。
でもとにかく、下手に私たちの存在がばれては
いけないという事は肌で感じ取れた。
そのまま黙っていると

何か女の子らしい声でぼそっと、多分「すみません」
だとかそんな言葉なのではないかと思う。
聞こえて、すぐに一つの足音が遠のいていった。
敬語を使っているあたり、後輩か。
その時になってやっと、大体の状況を理解した。
832美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:38:31
「帰ろうぜ」
多分矢野君の声がした。
いつも2人は一緒に帰っているから、きっとそうだ。
すると友達は、壁に凭れて俯いている私の腕を掴み
強引に下駄箱までずんずんと歩いていく。
「え、ちょ何」
足がもつれそうになりながら体制を立て直す私。

「ナリ」
急に声をかけられ、いつからここにいたんだという
ような目で2人をみた。
少し目が見開かれたのは、気のせいかもしれない。
「なんで受け取ってあげなかったの」
何この展開。少女漫画じゃないんだから。
矢野くんは呆然としてるし、勿論私も呆然としてるし
友達は真剣そのものだし、成田も目つきがなんか真剣だ。
誰かここにきたらどう思うんだろう、と考えたが
もう下校時刻ぎりぎりな為教室には私たち以外誰もいなかった。

「折角本命だったんじゃん。
きっと頑張って作ったん……」
「菅原さんには関係無い」
遮って成田は冷たく言い放った。菅原さんとは友達の苗字だ。
続けた。
「好きでもない奴に本命もらっても困るんだよ」
心臓が強く跳ねた。
これを私に向かっても言われていたとしたら。
いや、言っているのかもしれない。

俯いてた顔を上げた。
瞬間、上げた事を後悔した。
私より少し背の高い友達をすり抜けて、
視線が思い切り成田と合ったのだ。
その目が何を語っているのか到底分からない。
けれどその時は“お前も困るんだよ”と
遠まわしに言われているようで。

「じゃ、さようなら」
言い残して2人は帰っていった。
「何あいつ。すっげぇむかつく」
男まさりな友達は掴んだ靴を床にすごい剣幕で叩きつけた。

結局お菓子を渡すことはできなくて。
諦めた方がいいのかとその晩ずっと悩んだ。
だけどいつも同じところへ戻ってくるんだ。
諦める事なんてできないって。
833美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:39:12
公立推薦入試前日。
推薦の子は放課後、先生と面接の最終特訓を受けていた。
友達もそれを受けているので教室で待っていた。
「後もう少しだから」
「わかった。じゃあ下駄箱で待ってるね」
そう言って私は下駄箱へと向かった。
行く途中に面接をやっている教室の前を通ったら
成田とまた目が合ってしまった。

どうもバレンタインの時から
目が合う度「迷惑」と言われているようで。

すぐに俯いて、小走りで下駄箱へ向かった。
3分、いやもう少し早かったか。
それくらい経った後階段の方から足音がした。
その足音はやけに急いでいるようで、
ばたばたばたと大きな音をたてて聞こえてきた。

何となく直感で、成田かと思って。
階段を見るとやっぱり成田だった。
目が合って、すると足音は
普通のとん、とんという音に変わった。

彼がゆっくり歩いているように見えるのは気のせいか。
彼の動作の全てが遅く見えるのは私の妄想か。
靴をはいている時、わざわざ靴紐まで結び直すのは
あなたの癖ですか。それとも――

胸が痛いくらい締め付けられた。
息がつまる。呼吸が上手く出来ない。
漫画や歌詞や、そこら中に散りばめられてる言葉
「定番すぎてくさい。こんな事あるの」と思っていたけど
それは本当にあった。その時初めて知ったんだ。

「美穂ごめんっ待たせて!」
さっきと同じ位のばたばたという音で友達が下りてきた。
「全然いいよー」と声をかけて
ふっと視線を成田へ戻すと、彼は立ち上がり帰っていった。

「明日頑張ってね」
言おうかどうか迷っていた言葉は言えなかった。
834美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:41:40
後日無事彼も友達も合格したという情報が入り
じゃあ今度は私が頑張る番だと更にやる気が出てきた。
N高はなんと倍率がそこらより高く
絶望を感じていたけどそれを振り払って勉強した。

あっという間にきた卒業式。
「告白するの」と聞かれたけれど
楽しそうに女子と写真を撮る成田を見て
そんな勇気は消え去っていった。
元々あるかないか位の小さな勇気だったのだけど。

卒業式の後も塾で補習。
N高に入ればまだ告白するチャンスはある。
そう思って。ひたすらペンを走らせた。

始まった入試。できる、できると言い聞かせ
合格しなきゃもう成田に会えないんだと
一世一代の賭けというつもりでやった。

結果は合格。
頑張った事が報われ友達と抱き合って泣いた。
これから素敵な高校生活が始まるって
思ってた、思ってた。
そんな矢先の出来事。
835美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 15:44:20
「美穂、話があるの」
お母さんに深刻な面持ちで言われ、
「なあに」と躊躇いがちに言った。

「あなたが受験だったから、言わなかったんだけどね
お父さん、会社リストラされちゃったの」

こうして文に起こしただけでも
冗談みたいな話だった。
実際自分もその時「え、冗談じゃなく?」
と聞き返したくらい。とにかく実感が湧かない物だった。

「だからね、大学は受けさせてあげられない
かもしれないし、もしかしたら受けたとしても
関西の方になるかもしれないんだけど、いい?」
なぜ関西かというと、父母両方とも関西出身だからだ。
いい、と聞かれても。いいわけがない。

「それで、もしかしたら高校に行ってる間に
もう関西に帰るかもしれない」
「……お兄ちゃんはどうするの」
「お兄ちゃんはもう、仕事してるもの。
一人暮らしするのよ」
「私は一人暮らししちゃいけないの」
「できるの?できるとしてもそんなお金ないの」

現実は冷たかった。
「ごめんな」とお父さんは謝った。
そんな言葉はいらなかった。
私はただこの土地にいたいだけで。
高校から、この県から離れたくないだけで。

でもそれは、叶わないのだ。
何か少しでも、石油を掘り出したりとか
宝くじが当たったりだとか
そんな事がない限り無理なんだ。

泣く時じゃないと、思った。
836美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 16:14:57
全く着慣れない、そして着づらい制服に身を包み
新しい生活の場に心躍らせた。
やってきた入学式。
成田とまたもや違うクラスだったけれど
さすがに2回目は仕方無いと思う事ができた。

周りの子がぼそぼそ、と話しているのを見て
ああ友達もうできてきてるんだな、と思った。
隣の子をちらっと見る。
今まで確実に仲良くなった事がない子だ。
私が中学の時にいたグループは、
そんな目立つ方(楽しくやってたし
男子との交流もあったけど)でなかったので
違うグループの人たちに私は微かに憧れていた。

自分が変われる。変える。
「ねぇ、うちのクラスの担任って誰だっけ?」
話かけたら心良く返してくれて、仲良くなった。
その日の内にクラスの女子の大部分の子と仲良くなり
私は大満足。

ただ、成田とはクラスが結構離れてしまい
私のクラスの横は階段、その隣の隣の隣が階段、
その間に彼のクラスがある為、自分の教室の前
を通る事はもうないのかと思うと心が沈んだ。


一旦切ります。
後もう少しで、終わるかと。
837恋する名無しさん:2006/07/29(土) 19:10:11
うお〜続きが楽しみw
ヤマさんも美穂さんも女の子の気持ちが溢れてていいですねw
838美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:32:23
ある日いつも通り帰っていると、
少し遠くの方で、成田の後姿に似ている人が
自転車の後ろに女の子を乗せて帰っているのが見えた。
あれは間違いなくN高の制服。
一瞬息が止まって、心臓が止まった気がした。
自転車を倒してしまい、でも直さずその場に座り込んだ。

成田の帰る道は反対方向だ。
ここに来るわけ無い、来るわけ無い。
言い聞かせて。でももし彼だったら、私は。

自転車を直し、逃げるように帰った。
当分成田の顔など見たくはなかった。
839美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:33:23
中間考査が近づいてきて、テスト週間。
部活のない放課後、普通は皆家に帰るのだが
私と同じクラスの友達4人、男子5人で
教室にたまって話して仲良くなっていた。

私はその中の一人、杉浦君が気になっていた。
誠実そうで、本当に優しくて、細かい所に気がついて、
一途そうで、でも話してて面白い。
まさに望んでいた好みのタイプそのまんまの人で
4月最初に見た時からいいな、と思っていたのだ。
成田には考えられないくらい優しい人。

だけど教室にたまって話している時
もう1日目で異変に気がついた。
杉浦君が、友達の中の一人――加奈を
よく見ているのだ。ちらちら気にして。
帰る時もいつも加奈の隣にいるし、
歩くペースも加奈に合わせている。

とてもわかりやすすぎる光景だった。
私がもう少し鈍感だったら。
胸が痛くて堪らなかった。
ご飯も喉を通らず、お昼・夜ご飯と抜く事も何日かあった。

Wで失恋だなんて、ダメージが強い。
全てがぼろぼろで何も考えたくはなかった。
840美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:35:29
予想に反して中間テストの結果は良かった。
学年17位。
中学では考えられない成績に唖然とした。

考査が終わったら体育祭準備。
加奈達がいない、他の女子たちとポンポンや
鉢巻などを作っていた。
すると男子達が自主的に手伝いにきてくれ
その中に杉浦君もいた。

普通に笑いながら話をして、
普通の授業合間の休み時間も話をするようになった。
変に自惚れてしまう事も、やっぱりあった。

だけどそれもこの時で終わった。
体育祭後、期末考査のテスト週間中。

いつも通り残っている私たち。
なぜか友達と私と杉浦君の3人で話していた。
加奈達は離れた所で楽しそうに遊んでて
向こうを気にせずこちらにいる杉浦君に
なぜか腹が立った。

「向こう行かなくていいの」
今思えば意地の悪い質問だったかもしれない。
杉浦くんは少し驚いて、でもすぐに笑って
「みんなそれ、言うんだよ」
「見ててすっごいもどかしいのね。
このままでいいの」
どこかで聞いた事のある言葉を口にしていた。
841美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:36:29
「はいはい。どーせ俺はもどかしいですよ」
「ちょ、開き直らないで」
無言。
その時の私は確実におかしかった。
なんでかしれないけれど、私は泣いていた。
「なんで泣く」
「杉浦君がもどいからだよー!」
「俺のせいかよ」

何を考えていたか分からない。
でもその時勝手に口が動いていた。

「同じクラスなだけいいじゃん。
他のクラスの人の事も考えてよ」

「……え。他のクラスにいんの?」
心底意外という口ぶりで言われた。
失礼だ、そう思ったが口にしなかった。
「もう1年以上話もしてないし、
もう無理だけどね。2年も想って馬鹿みたいでしょ」
「すっげー恋愛体質」
「うるさい」

「話かけられて、変な声出しちゃった事もある」
情けない声でそういうと、
「それもいんじゃね」と彼は笑った。
不思議とその瞬間、心が軽くなった。

その夜、その場にいた友達に
「杉浦君に“今日はすみませんでした。
杉浦君のペースで頑張ってね”って送っといてくれる?」
と頼んだら、友達から返信がきた。
「“いい説教となりました。
美穂のために‘もどかしい’卒業します”だって」
ときて、また泣いてしまった。

彼が頑張ったら、私も頑張れる気がした。
今まで彼の事を応援できなかったけれど、
その日から私は、心から杉浦君を応援する事ができた。
何がきっかけで、だとか
細かい事は自分でもよく分からなかったけれど。

いつの間にか彼と自分を重ねていたのか、と思った。
842美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:37:36
信じられない事を耳にした。
同じ部活で成田と同じクラスの子から聞いた。

「成田君、クラスで最下位なんだって。期末」
「……はい?」
「“俺留年したら学校やめる”って言ってた」

さすがにないだろう、とは思っていたけど
心配でならなかった。
成田は中学の時私より頭が良かった。
推薦もらったんだ、当たり前だ。

なのになんで――

放課後、成田が赤点とった人がいく
補習の教室に入っていくのが見えた。

でも私が心配する事じゃない。

そう振り払っても、やっぱり気になってしまった。
その子から聞いた話では、
“俺はやればできるんだよ”と言っていたらしい。
だから、再考査ではさすがにやる、よね。
と思っていても不安になる。

もし成田がこの高校をやめてしまったら
私はどうすればいいのかわからない。
843美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:38:41
悩んでる中、2年の類型選択を話し合う
三者面談がやってきた。
私は文型で四大に行きたい、ということで
進むコースは決まった。

その後でお母さんは担任に言った。
「その……お恥ずかしい話なんですけれども、
うちの主人が、その、リストラされてしまいまして」
忘れかけていたけど、この問題もあった。
「もしかしたら、途中で高校を変える事も
あるかも、しれませんが……」

お母さんの目から涙が零れていた。
先生はそれを見て押し黙ってしまった。
私も泣きたくなった。
行きたくない行きたくない行きたくない。
そう思っていてもこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

自分の手を力一杯握り締め、奥歯を噛んだ。
出そうになる涙をひっこめ、笑った。
笑うしかなかったのだ。その時。
親子泣かれて困るのは担任だし
黙って無表情でいるのも無理だった。

「はは、泣かないでよお母さん」
お母さんなりに情けないと悔いているのか
三者面談中はずっと鼻をすすり、目元をハンカチで抑えていた。

もしここを離れる時がきたら、私は泣くだろうか。
そうしたらみんなを困らせてしまうだろうか。
私は、いつ泣くんだろう。

変な事をずっと考えていた。
844美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:41:42
「杉浦くん、告ったんだって」
「嘘!」
「本当。昨日聞いた」

友達からの突然の報告。
まさかそんな。
だけど前みたいな気持ちではなく、
ただ「頑張ったんだ」といった清々しい気持ちだった。

「で、結果は?」
「んー……ふられちゃったって」
「そっかあ」
結果はどうであれ、告白したのには変わりない。
彼はあれから頑張ったのだ。
それは見習わなければならない。

「さて、杉浦くんも頑張った事だし?
美穂ちゃんも頑張る番かなーこれ」
「ちょ、やめてよっ無理だし」
微かな決意はどこへいったのか。
やはりいざとなると逃げ腰になってしまうのが
私の短所。いけない所だ。
「来週は夏休みだよ!頑張らなきゃ」

確かに夏休みだ。
夏休みは長い間会えなくなる。
正直、嫌だ。

「んー……でもなあ」
私が杉浦君に言った言葉を思い出した。
“もどかしい”って、杉浦君以上に私に当てはまる。
でもどうしろっていうのか。
845美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:43:19
終業式が終わり、帰る時。
友達は部活なので一人で帰っていたら、
前を見てないせいでか誰かにぶつかった。

「うわ、あ! すいません」
そう言って顔を上げる。
振り返った前の人は、成田だった。

成田は驚いたように目を見開いて、でもすぐ戻って
「いや、別に大丈夫だから」と言った。
「う、う、ん」
一気に身体が熱くなる。
久しぶりに会話した久しぶりに会話した!
その事だけで舞い上がりそうになる自分を押さえ
思った。

杉浦君も頑張った。
今度は私が頑張る番。

周りを急いで見渡して、人がいない事を確認した。
「な成田」
こちらを見ている彼に視線を合わせる。
恥ずかしくて背けそうになる顔を支えて
掠れそうになる声を何とか絞り出して、言った。

「あ、たし……成田が好き」

もう成田の表情も確認してる暇はなかった。
すぐに震えて座りそうになる足をしかって
成田の横をすり抜け、自転車置き場へと走った。

言った、言った、言った。

きっと私の顔は赤いと思う。
もういいんだ。これで諦められる。
私、ちゃんと言えたんだ……!
846美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:44:52
急いで自転車の籠にバッグを入れ、
鍵をさそうとポケットから取り出した、まさにその瞬間
足音が聞こえた。
中3の冬に階段から聞こえた足音に似ていた。

すぐにそれは近づいてきて
私のすぐ後ろで止まった。
逃げようとは思わなかった。

「忘れていいから、ね。気にしなくていいから」
さっき刺しそびれた鍵をさして言った。
顔は見なくても誰かは分かっている。
2年も好きだったんだ。

でも今日でその気持ちとさようならかと思うと
名残惜しいというか。変な気分だ。
今日は泣けるかもしれない。

「俺も……なんだけど」

鍵が入って、かち、という音がとてもよく響いた。
まさかという気持ちで恐る恐る振り返ると
彼はなぜか笑っていた。
微笑んでいた、という表現の方が正しいかもしれない。

「嘘。からかってる?」
「からかってない」

目が潤んできて、涙が出そうだった。
まさか叶うと思っていなくて。
2年が無駄じゃなかった。
報われた瞬間、幸せを感じた。

俺も、坂下が好きだよ。
847美穂 ◆kYxYjmK6mo :2006/07/29(土) 21:45:24
後日、お母さんが
「いい仕事が見つかってね。もしそれがいけたら
お兄ちゃんと2人暮らししなさい。
お母さんとお父さんはそこの寮に入るから」
と言われました。
「でももし駄目だったら来年にでも帰るわよ。
それに仕事もいつやめさせられるか
分からないからね」と。

でも十分、希望は見えた。
まだ私はここにいれる可能性があるのだと。

いつ関西へ帰るか分かりません。
でもそれまで私は成田と一緒にいれるので
もし別れる事があっても大丈夫なように
今を大事に過ごしていきます。


皆さんここまで読んで頂
ありがとうございました。
あまりに上手くいきすぎていて
漫画みたいな展開ですが
正直私もまだ夢を見ているようです。

話をわかりやすくする為
少々付けたしました。
文章が分かりにくくなっていたら
すいません。

皆さんにも素敵な恋が見つかり
それが成就する事を心よりお祈り申し上げます。
848恋する名無しさん:2006/07/29(土) 22:50:53
美穂さん。おめでとう!
胸が熱くなったよ☆
オレも7年片思いだからうらやましいですw
成田君と幸せになってください(^^)
849恋する名無しさん:2006/07/30(日) 03:12:33
ほぅ!ハッピーエンドですな!まだ付き合い始めたばかりなのかな?
これから、今までのすれ違いの様子が明らかになっていくんだろうね。
例えばバレンタインデーの時に成田くんはすでに美穂さんの事好きだったとか…
何にせよ、二人の未来が明るい事を願ってます。
850恋する名無しさん:2006/07/31(月) 02:00:12
管理人候補は作業中?なんで顔見せないのかな?
851恋する名無しさん:2006/08/02(水) 11:40:42
age
852恋する名無しさん:2006/08/05(土) 23:52:38
age
853恋する名無しさん:2006/08/08(火) 21:40:47
age
854恋する名無しさん:2006/08/09(水) 21:43:01
age
855 ◆KatsuBvw6o :2006/08/09(水) 21:46:15
アゲチャ駄目だっつーの
856恋する名無しさん
マテルヨ