( o^v^o) ネギま!DE バトルロワイヤル (・∀・ )
3−1
ガタッ・・・段差につまづき、少女は倒れた。尻餅をついて彼女は畳に右手をついた。
暗くて周囲の様子が把握しづらい。懐中電灯を持ち直し辺りを照らす。部屋の中は
カビ臭いがそれほど汚くはない。二十年も人が住んでいない廃屋にしては、ずいぶん
綺麗だ。よく分からないが、手入れが行き届いているようだ。埃を払って掃除したら、
普通にすぐ居住できそうな感じだった。
宮崎のどか(女子27番)は軍基地の東の集落の最東端にいた。
無人となった廃屋を物色し、良さそうな隠れ家を探しているところである。
鬼畜達のスタート地点から近いため、最初は北に走って逃げようかとも思ったが、
集落の北は浜から続く乾いた砂地になっており、まばらに草が生えるのみの大地は
月明かりに照らされて見晴らしが良すぎた。1km程走れば雑木林にたどりつけるのだが、
鬼畜達が近くにいれば林にたどりつく前に発見されてしまうかもしれない。
どちらにしろ、GPSを持った彼らは島のどこにいても追ってくるのだし、
身を隠すものが少ない自然の中よりは、集落群の中に隠れていた方が発見されにくい
と彼女なりに判断したのである。
玄関にわらじの切れた下駄が一足落ちている。左手は家屋と繋がった納屋のような構造で、
床は石でできており、壊れた冷蔵庫が放置されている。電源コードは切れていて中に何も入っていない。
たった今つまずいた数十センチの木製の段差を上がると、正面には台所があった。床は木の板で
できており、流しは乾いていて、割れた皿の破片が散らばっている。木製の食器棚は空で
中には蜘蛛の巣が張っている。水が出るかと思って蛇口をひねる。が、当然のように水は出ず、
蛇口は回す時の抵抗感なしに、キュルキュルと空回りした。
「きゃっ」
突然蛇口からボトッと黒い塊が落ちた。のどかは驚いて懐中電灯を取り落としてしまった。
心臓が高鳴る。流しから身を引いて、床に転がった懐中電灯におそるおそる手を伸ばす。
(ゴ、ゴキブリ、かな・・・?)
あまり気が進まなかったが、彼女は再び懐中電灯で流しを照らした。虫は嫌いだが、今はどんな
些細な情報も取りこぼさない方がいい。なんとなくそう思った。
「あれ、いない・・・」
蛇口の下には何もなかった。気のせいだったのだろうか、それともカサコソと移動してしまった
のだろうか?また後でばっと目の前に出てこられても心臓に悪いなぁ。
水が出ない以上、流しは何の役にもたたなそうだし、ゴキブリか何かがいるみたいで気持ち悪いので、
彼女は玄関から入って右手側の畳のある部屋に移動した。
入ったときは真っ暗だったが、目がなれてきたせいか屋内がうすぼんやりと見えてきた。
和室の障子の外から薄い月明かりが入ってきている。部屋の中央に囲炉裏があり、焼け焦げた墨が
残っている。障子は色あせていたが穴は一つも無かった。その代わりに畳があちこち破れてささくれ
になっている。隅の一角に凹んでいる部分がある。どうやらかつてTVが置かれていた場所らしい。
天井を照らすと、真ん中にゴルフボール大の穴があり、そこからちぎれた電源コードが伸びていた。
ここに何がしかの照明器具が繋がっていたのだろう。玄関側と振り返ると、入り口の上の壁に
大きな掛け時計が埋まっていた。針は2時13分の位置で止まっていた。
この畳の部屋は居間のようだ。
居間の奥にはもう一つ部屋があり、そこもやはり畳の間になっていた。居間との間に障子で
敷居をすることができる仕組みのようだ。障子は脇に寄せられ、二つの部屋の間は最初から
開いていた。深呼吸してから、のどかは暗い奥の部屋へ歩いていった。
そこは寝室のようだった。左手前に仏壇が埃を被っている。なぜ置いていかれたのだろう?
仏壇の隣に木製の本棚と小さな机があり、やはり埃を被っていた。右側は居間と同様、やはり
窓になっており、内側に障子があり外から直接部屋がのぞけないようになっている。
のどかは窓と反対側の壁を照らした。そこには一枚の掛け軸がかかっていた。
「何、これ・・・?」
掛け軸には一体の生き物が描かれていた。猿に似ているが、全身に毛がない。
全身が茶色っぽく、顔だけが赤らんでいる。鼻は丸く腫れたように大きく、
口から歯が前に突き出しており、小さな目は黄色く濁ってこちらを見据えている。
頬の部分が油っぽくてかっており滑らかだが、目の周りには深い皺が刻まれていた。
その表情は獲物を威嚇しているようでもあり、にやついているようにも見えた。
しかし何よりも不可解なことは、腕が四本ついていることだった。焼け焦げたように
黒く細長い四本の腕・・・。その奇怪な猿が草原の中で四つん這いになり、顔だけを
こちらに上げているのだ。
「変なの・・・」
空想画だろうか。少なくとも地上にこんな生物はいないはずだ。それにしても、
いつ描かれたものだろう。色がふんだんに使ってあるから明治頃かな?
※のどかが足を踏み入れた民家・簡易見取り図
_______
| |風呂 |
|流 台 便所 |______
――|し 所 |____|仏 掛軸 |
納  ̄  ̄| |壇 |
屋 玄関 居間 寝室 |
―‐‐| | | .|
|引き戸 |―――┴――――|
のどかは自分の置かれた状況を思い出し、はっと我に返ってデイパックを置いた。中から
おそるおそる拳銃を取り出す。コルトガバメント45口径。彼女はその冷たい銃身を抱きしめた。
「小太郎君、夕映、どこにいるの――」
のどかは半泣きでか細い声を上げた。どうしてこんなことになってしまったんだろう。
遅かれ速かれ鬼畜達は自分を見つけて襲い掛かってくる。できれば隠れてやり過ごしたい
のだが、うまく隠れていられるか自身がなかった。暗い廃屋に一人ぼっちという事実も
彼女の不安を加速させる。せめて傍らに誰か友達がいてくれたら。
(どうしよ、どうしよう、うちに帰りたいよう・・・)
静寂の中ザッザッと音がした。のどかはびくっと顔を上げ息を殺してあたりの様子を窺う。
少し離れた場所を人が歩いている・・・!足音から判断するに、相手は複数いるようだ。
(クラスの誰かかな・・・?それとも―――)
少しして響くように野太い男達の話し声が聞こえてきた。のどかの淡い望みは断ち切られた。
足音の主が鬼畜達であることはほぼ間違いようだ。
(そんな・・・もう来たの・・・?)
のどかはがばっと身を起こして立ち上がった。どこかに隠れなきゃ。そのためにこの家に入った
んだから。のどかは部屋の中を見回したが、隠れられそうな場所は仏壇の後ろぐらいしかなかった。
震える手でデイパックを抱え、仏壇の後ろに回ろうとした。が、隙間が10cmぐらいしかない。
(どうしよう。このままじゃ隠れられないよぅ・・・)
額から汗が噴出してくる。時間がない。仏壇を手前に引いて隙間を作らないと。
のどかはデイパックを置いて、両手で仏壇を抱え、引っ張った。
ズズ・・・
仏壇を畳の上で引きずる音がやけに暗闇に響いた。のどかは全身が縮み上がりそうになった。
(き、き、き、聞こえた・・・?)
のどかはおびえた顔で窓の障子の向こうを見た。ザッザッという足音は止まっていた。
聞こえてしまったのかもしれない。ここに私がいることが気付かれてしまったかもしれない。
(ああぅ・・・あ、あ、あああ)
10秒程そうして呆然としていただろうか。のどかはイチかバチか空いた仏壇の隙間にデイパックと
拳銃を抱えて隠れた。
(お願い・・・見つかりませんように―――お願い、お願い)
壁と仏壇の隙間で胎児の姿勢で縮こまるのどか。
どれだけ時間が経っただろうか。そのままの状態で、のどかはひたすら目を閉じて息を殺していた。
静寂が夜を支配していた。先程からずっとそうしているが、何も変化はない。鬼畜達は諦めて
別の場所へ行ったのだろうか?
時計を見ると、時刻は19時10分。仏壇の裏に隠れたのは19時ちょっと前だからまだ10分ばかりしか
経っていなかった。しかしのどかにはその10分が永遠の時のように長く感じられたのだ。
(助かったのかな、私・・・)
少し気持ちがリラックスしてきた彼女はほっと一呼吸しようとした。
その刹那――
ガ ラ ガ ラ ガ ラ ・・・
おもむろに家の引き戸が開けられ、数人の人間が入ってきた。
のどかは脂汗でじっとりと濡れた手を握り締める。
(怖い、怖いよ、助けて夕映、小太郎くん)
「おい、これ・・・」
「ほほう。こいつは愉快だなぁ」
玄関の辺りから男達の卑しい笑いが聞こえてきた。
「見ろよ。ご丁寧に靴が揃えて脱いであるじゃねーか」
「げっへっへ。肝心な所が抜けてるなぁ、お嬢ちゃんは」
「すぐに見つけてやるから待ってろよ。うはは」
(しまった――どうしよう・・・)
のどかは玄関に学生靴を脱ぎっぱなしにしていたのを思い出した。
気が動転していて今まで忘れていたのだ。隠れる前に取りに行ってくれば良かった。
「おーい、みんなー!女はこの家にいるぞーっ!!」
鬼畜の一人が外にいる仲間達に向かって声を張り上げた。
「おいおい、マジかよ」
たちまち玄関には10数名の鬼畜達が集まった。
「早く見つけちまおうぜ」
「おうよ。この狭い家のどっかに隠れてるんだろ?」
鬼畜達が台所や居間に土足で上がってくる音が聞こえる。
あまりの恐ろしさにのどかは息が出来なかった。
「お嬢ちゃーん?隠れてても無駄だよー。早く出て追いでー」
「優しくしてやるから心配しないで出て来いよー」
「嘘付くなよお前、どうせSM楽しむ気なんだろ?」
「ばーか。言うなよお前。お嬢ちゃんがびびっちゃうじゃねぇか」
「びびってる女はいいぜ。そそられるものがある」
「変態か、お前はw」
「そりゃ、お互い様だろーが」
鬼畜達は風呂や便所、納屋にあるものをあちこちひっくり返しては練り歩く。
のどかは拍動する心臓の音が彼らに聞こえやしないかと気が気でなかった。
「うりゃあ!」
鬼畜の一人が居間の窓に蹴りをかまし、窓を割った。
「こらぁー早く出てこねぇと、ひでぇ目に合わせるぞ?」
パリィン!
別の鬼畜が台所のガラスの食器戸棚をナックルパンチで破壊した。
「出て来いっつってんだろ!ぶち殺されてぇのかよ!!」
民家を荒らしまわる鬼畜達の狼藉ぶりに、のどかは頭が真っ白になっていた。
(いやぁ・・・いやぁ・・・)
そしてとうとう鬼畜達が寝室にやってきた。
「残るはこの部屋だけだな。」
「おい、そこ・・・」
鬼畜達は部屋の片隅に置かれた仏壇に視線を集中させていた。
(ああ・・・見つかっちゃったよぉ)
目をぎゅっとつぶり、恐怖に打ち震えるのどか。
「見ぃーつけたぁ!」
鬼畜の一人が仏壇を少し引っ張った。
急に隙間が広がりバランスを崩したのどかは、デイパックを取り落とし、畳の上に
転がった。闇の中から白い片足がなまめかしく浮かび上がった。
鬼畜がその細い足に手を伸ばした。
「いやぁっ!」
のどかは反射的に身体を引っ込め、銃を持って再び仏壇の裏に隠れた。
鬼畜達に緊張が走り、彼らがパッと後方に飛び退く。
「おい!この女も銃持ってるぜ!」
「またかよ!クソッ、面倒くせぇな」
二人の鬼畜は、窓を突き破り、縁側の下に伏せた。別の鬼畜三人は居間に飛び、
柱や壁の影に隠れた。居間にはイングラムを構える鬼畜達がさらに三人いた。
「おい、今度は殺さないようにしようぜ!」
「ああ、生きたまま桜子ちゃんとHできなかったのは勿体なかったからな」
淫獣は仏壇の影の少女に向かって猫撫で声をかける。
「お嬢ちゃんよ、銃をこっちによこしな」
「いっ・・・嫌です。出てって、出てってよぉ!!」
パン!
鬼畜の一人が、銃弾を仏壇に向けて放った。別の鬼畜も天井に向けて撃つ。
パン!パン!
仏壇に飾ってあった釈迦像の首が飛び、天井の板の破片がパラパラと落ちる。
「いやぁ!止めてっ!」
「死にたくねぇなら、銃をこっちによこせ」
「うぅ・・・やだぁ・・・・・・」
パン!パパン!ドパパパ・・・
鬼畜達は誰もいない壁や天井、床に向かって銃弾を次々と打ち込む。
ガシャァン!
机が弾け飛び、掛け時計が落下した。
のどかはありったけの声を振り絞って叫んだ。
「わ、私っ・・・!戦う気なんてありません!だから、助けてっ!」
銃声が一時的に止む。
「よし、それなら銃をこっちに投げてよこせ!」
「あぅぅ・・・」
数秒ためらった後、のどかは震える手でコルトガバメントを仏壇の影から
力なく放り投げた。
「ほほう」
最前列にいた鬼畜がそれを広い、鬼畜達に安堵のため息が広がった。
「おい、安全装置解除されてねーじゃねーかよ!」
「なんだ、拍子抜けさせやがるぜ」
「まぁいい、やっとお楽しみの時間の始まりだな」
鼻息の荒い猛者達は、じたばた弱々しくもがく少女を仏壇の裏から引きずり出した。