増えるタンス

タンスが勝手に増えた。中身は減った。窓を開けると雀が飛び込んで来た。
捕まえようと振り返るとどこにもいなかった。タンスが震えだした。
「ディープ・パープルの『ライヴ・イン・ジャパン』なら、借りたの俺
じゃないってこの間も」
「いや、タンス増えてんだけど」
「いいんじゃない？」
電話代払ったのいつだったか。タンスは重いので一人では運べなかった。
震えているので持ちにくかった。部屋は別に寒くなかった。
小学生の頃風邪を引いた。風邪にはよくなった。風邪以外の病気には
なったことがない。タンスの木目が化け物に見えた。目に見える埃を
吸わないように息を止めると、我慢しきれなくなった後に余計に空気を
吸い込んだ。
「ええと、蹴ろう」
蹴った。小指をぶつけることはあっても、意図してタンスを蹴ることは
今までなかった。タンスとは蹴られるために作られたものではない。後味
が悪かった。
「すると俺はこのタンスを好きらしい。
そう思い込んで、寝た。起きたらタンスは二つともなくなってた。ちょっと泣いた。

いい話だ

泣いた。

あげとこ。

う　って誰

タンスにゴン誕生秘話

さぁ。

八棹目ｹﾞｯﾄ