「鍋を火にかけて三分後に牛肉を入れ、七分後に砂糖を加える。一番大切なのは、火を消す三分前に玉ネギを入れること。調理の時間も、
素材を入れる順番も大切なんです」
肉じゃが発祥の地を自任する京都府舞鶴市。まちおこし団体「まいづる肉じゃがまつり実行委員会」会長の伊庭節子さん(60)は、
こう強調する。
きちんとレシピを守ると、ほくほくのジャガ芋とシャキシャキの玉ネギが絶妙な食感を作り出し、素材の甘さが際立つ。思わず「お代わり!」
とおわんを突き出したくなるおいしさだ。
レシピを作る際に参考にしたのは、同市内の海上自衛隊第四術科学校に残されている旧海軍経理学校刊「海軍厨業管理教科書」。
調理のエキスパート軍人を育てるための明治時代の教材である。あれ、肉じゃがって、おふくろの味じゃなく、海軍の味だったっけ?
にっこりほほ笑んで、大きくうなずく伊庭さん。「当時の水兵さんは、生野菜があまり食べられないのでかっけや壊血病などの病気に
なりやすかった。それを解決する手段としてビタミン豊富な艦上食が考えられ、次第に家庭食として普及していったと、私たちは見ています」
旧海軍の献立が知られるようになったのは二十年ほど前。「甘煮」と書かれ、必要な素材の量は記載されていないが、「これは肉じゃがの
ことなのではないか。まちおこしに使わない手はない」と、市民が結集。料理長を兼ねる伊庭さんが現代のレシピとしてよみがえらせ、一九九五年
に実行委を設立した。
一般家庭で作られている肉じゃがとの違いは何か。素材を入れる順番と煮る時間が決められ、ごま油を使う半面、だしやみりんは加えない
点だという。
ちなみに、会の名前に「まつり」とあるのは、「肉じゃがあるところ、すべてが祭り」という気持ちからだ。
ところが二年後、同じ旧軍港の広島県呉市にある市民団体が「肉じゃがの元祖はこっち」と主張し、時ならぬ“肉じゃが戦争”がぼっ発。
「こちらのまねして、ホント厚かましいわあ」と冗談めかして言う伊庭さんたちだが、話題がマスコミで大きく取り上げられ、全国から肉じゃがを
食べに来る客が急増。元祖争いも、まんざらでもない様子だ。
(以下略)
東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2009100302000068.html