★01:イカロス君の大冒険
5月21日に打ち上げられた小型ソーラー電力セイル実証「IKAROS」
は、直後に一大イベントを迎えました。「大型膜面の展開・展張」です。著者
は約1年前のメルマガ「皆の想い花開け!」で以下のように記述しました。
「20mの膜面を無事展開して、世界初のソーラーセイル航行を実現できるか
どうかが、最大の山場だと考えています。開発に携わっている皆の想いが花開
くと信じてがんばりたいと思います。」
今回は、この大いなる挑戦がどのように行われ、どのような結果になったか、
について紹介したいと思います。
「IKAROS」で、最初に実施する「大型膜面の展開・展張」は、直後に
実施する「薄膜太陽電池による発電」と合わせて、いわゆるミニマムサクセス
に相当します。「IKAROS」の膜は一辺が14m(対角線が20m)の正
方形で、地元神奈川の座間大凧まつりの凧とほぼ同じサイズです。
・過去の実験(気球実験)で同サイズの膜の展開実績がある
・将来の計画(約10倍の面積を想定)につながるサイズである
という観点で決まりました。
「IKAROS」の本体は円柱形です。打ち上げ時には、この側面に短冊状
に折られた膜が巻き付けられています。「IKAROS」は常にスピンしてい
て、このスピンの遠心力によって、膜を展開し、その後も展張状態を維持しま
す。膜の4隅には先端マス(おもり)がついていて、膜の展開・展張をサポー
トします。展開手順は、下図を参考にしてください。
(
http://www.jspec.jaxa.jp/activity/images/ikaros/pic_08_l.jpg)
(AAによる説明は
>>688-689)
まずは、先端マス分離です。アクチュエータを使って先端マスを切り離すの
ですが、1個でも外れなければ展開失敗です。実は、「IKAROS」は
「あかつき」の相乗り打ち上げということもあり、打上振動で先端マスや膜が
絶対に外れないよう何重ものロックを付けることが課せられています。
何度も試験を実施したのですが、本番はやはり緊張します。先端マスが外れ
て広がると、スピンレートが少し小さくなります(フィギュアスケートで手を
広げるとスピンが遅くなるのと同じです)。仮にうまく外れない先端マスがあ
ると、スピンがアンバランスになり、いわゆる首振り運動になります。運用で
は、この点に注意して、「IKAROS」本体のジャイロデータを見ることで、
無事に先端マスが分離できたことが分かりました。その後、本体に搭載されて
いる4台の固定カメラで、それぞれの先端マスが分離できていることも確認し
ました。
「やった!」
まずは、第一関門突破です。
何度も試験を実施したのですが、本番はやはり緊張します。先端マスが外れ
て広がると、スピンレートが少し小さくなります(フィギュアスケートで手を
広げるとスピンが遅くなるのと同じです)。仮にうまく外れない先端マスがあ
ると、スピンがアンバランスになり、いわゆる首振り運動になります。運用で
は、この点に注意して、「IKAROS」本体のジャイロデータを見ることで、
無事に先端マスが分離できたことが分かりました。その後、本体に搭載されて
いる4台の固定カメラで、それぞれの先端マスが分離できていることも確認し
ました。
「やった!」
まずは、第一関門突破です。
次は、一次展開です。膜が引っかからないよう十分にスピンアップして、
遠心力を大きくしました。まずは、ほんの少しだけ膜を繰り出して運動を確認
しました。先端マス分離と同様、膜の繰り出しにより、スピンレートが低下し
ます。このスピンダウンの値が事前の計算値とほぼ一致しました。さらに、
固定カメラは少しずつ膜が繰り出されている様子を鮮明にとらえていました。
成功です。
「よっしゃー!」
この後も、少し膜を繰り出しては確認、というステップを繰り返し、慎重に一
次展開を進めました。そして、ついに十字形状に到達しました。
いよいよ、二次展開です。十字形の根元の拘束を解除すれば、一気に正方形
に展開します。展開挙動はとても複雑です。膜が途中で引っかかれば、展開は
失敗です。一つでも拘束が解除されなければ、「IKAROS」はひっくり返
ります。プレッシャーで、押しつぶされそうな自分に言い聞かせました。
「これまで数々の展開実験や解析をやってきたではないか!」
「IKAROS」には、皆の想いが詰まっているのです。
「イカロス君、負けるな!!」
二次展開では膜が一気に広がるため、「IKAROS」本体は大きく振動し
ます。しかし、ほどなく振動が小さくなり、ほぼ予想通りのスピンレートに収
束していきました。イカロス君が無事翼を広げたと十分確信できました。
「バンザーイ!」
小さな運用室に大きな拍手が沸き起こりました。それに気がついたのか、向い
のA棟の窓からたくさんの人が顔を出して、運用室に向かって、温かい拍手を
送ってくれました。本当に感動的な光景でした。
翌日には、固定カメラの画像で膜の展開を確認し、さらに、薄膜太陽電池に
よる発電も実証しました。この時点でミニマムサクセスが達成されました。
しかし、まだ、展開ミッションは終わっていません。そう、分離カメラの出
番です!固定カメラは膜を横から撮影するため、展開後に膜がどのような状態
になっているか、正確には分かりません。そこで、離れた位置から膜全体の写
真を撮影するために開発されたのが、分離カメラです。この分離カメラがどの
ように運用され、どのような写真を撮ったかについては、ぜひ、ホームページ
をご覧いただければと思います。
⇒
http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/bn006.html
分離カメラが撮影した、暗い闇の中で太陽の光を受けキラキラ輝いている
「IKAROS」の写真を見て
「これこそが、夢にまで見たソーラーセイルなんだ」
と心から感動しました。
「イカロス君、ありがとう!!」
「IKAROS」チームは若手メンバーで構成されています。多数の学生も
参加しています。いろいろな試練を乗り越えて、日々成長していることが実感
できます。イカロス君は我々自身のことなのかもしれません・・
「IKAROS」の旅はまだ始まったばかりです。引き続き、
・ソーラーセイルによる加速実証
・ソーラーセイルによる航行技術の獲得
というフルサクセスミッションを通じて、世界初の挑戦を続けていきたいと思
います。
「イカロス君、がんばれ!!」
(森 治、もり・おさむ)
P.S.
7月30、31日の相模原キャンパスの特別公開で上記内容も含んだ講演会(宇宙科学セミナー)を行います。
その他、実物サイズの膜と展開機構の展示、ソーラーセイルゲーム大会、
ペーパークラフトの配布、イカロス君グッズの販売、など盛りだくさんです。
ぜひ、ご参加ください!
「IKAROS」専門チャンネル
⇒
http://www.jspec.jaxa.jp/ikaros_channel/index.html