通常国会で消費税増税についての論戦が本格化するなか、永田町と目と鼻の先にある
日比谷公園前のビルでは、まったく別の緊張感高まる事態が起きていた。
「昨年夏から半年近くもの長きにわたって、中日新聞グループに名古屋国税局と東京国税局を中心とした
大規模な税務調査が入っています。そうした中で 東京新聞(中日新聞東京本社)が税務調査に入っている
国税官から資料分析のために一部屋要求されたため、一部の社員の間では、
東京での本格調査≠ェ行われるのではと緊張が走ったようです」(同社関係者)
複数の同社関係者によると、今回の国税当局の徹底調査ぶりは異常で、
同社記者らが取材相手との「打ち合わせ」や「取材懇談」に使った飲食費を経費処理した領収書を大量に漁り、
社員同士で飲み食いしていた事例がないかなどをしらみつぶしに調べているという。
「実際に取材相手と飲食したのかどうか飲食店まで確認が及び、名古屋ではすでに社員同士で飲み食いしていた
事例が見つかったようだ。一方で『これでは取材源の秘匿が危機にさらされる』と一部では問題視されてもいる」(同前)
ここ数年、大手紙のほか、民放各局、出版社などが相次いで国税の税務調査を受けていることから、
「たんに順番が回ってきただけ」と意に介さない向きもあるが、
「中日新聞グループは、野田政権がおし進める消費税増税に対して反対の論陣をはる最右翼。
今回の徹底調査の裏には、国税=財務省側の『牽制球』『嫌がらせ』の意図が透けて見える」
との見方も出ている。
事実、中日・東京新聞は「野田改造内閣が発足 増税前にやるべきこと」(1月14日)、
「出先機関改革 実現なくして増税なし」(1月30日)な どの見出しで社説を展開、
「予算が足りず、消費税率を引き上げると言われても、死力を尽くした後でなければ、
納得がいかない」などと強く主張し、新規の読 者も増やしてきた。それが今回の国税側の徹底攻撃≠ナ、
筆を曲げることにならないといいのだが。
―世の中には奇妙な「縁」がある。国税に査察され、逮捕に怯えていた産廃企業グループ社長の窮地を救ったのは、
元ホステスだった。社長側近、国税庁職員両者の愛人だった女性は、双方へ情報を流し、
社長から5000万円の謝礼と月30万円の手当などを受け取っていたという。
女性の仲介で国税職員はその後、破格の待遇で同社へ天下るが、男たちの誤算は女性が“黒革の手帖”、
と膨大な数の録音テープをもっていたことだった。
2005年3月28日に撮影された映像を収めた一枚のDVDがここにある。
それは愛媛県松山市の道後温泉にある高級旅館の大宴会場で行われた元ホステス、
X氏(54)の踊りの名取りの襲名お披露目式を録画したものだった。
X氏の晴れ舞台は豪華絢爛そのものだった。金屏風が置かれたステージでは、
和太鼓、津軽三味線の囃子に合わせ、140`もあるマグロの解体ショーが始まった。
このマグロは10日前に釣り上げられたばかりの貴重な天然もので、板前が包丁を入れた瞬間、場内からどよめきが。
招待客の顔ぶれも豪華で、松山随一の規模を誇る産廃、生コン、ホテルなどの企業グループを率いる
「オオノ開発」の大野照旺社長、A副社長、地元銀行の執行役員、そして、高松国税局課税部法人課の
筆頭課長補佐(当時)の浜中均氏(54)らがテーブルを囲む。紳士たちを引き合わせたのはX氏本人だった。
そして、この総費用2000万円もかかった絢爛豪華な襲名披露のスポンサーは
「オオノ開発」の社長の大野社長だったと、X氏自身が言う。
この約1年前の3月25日午後3時過ぎX氏は広大な敷地を持つ大野社長の私邸の離れに招かれた。
豪華飾り付けの部屋の真ん中のテーブルの上に、大野社長は紙袋をポーンと置き、
「これはお礼じゃ」
と差し出した。
「そんなん、もらえん」
とX氏が言うと、
「気にせんでいいから」
と社長は言った。
500万円ぐらいかな、と想像したが、紙袋の中身を見て仰天した。
無地の帯封がついた古札ばかりの札束で5000万円が入っているのだ。
「これからはようやく睡眠薬なしで寝られる。Xちゃん、本当にありがとう」
大野社長が改まって言い、土下座をしたので、X氏は慌てて制止した。
「私の一存ではもらえない」
と紙袋を押し返した。
「彼には言わんでいいからな、な」
と大野社長は言いつつ、紙袋を渡した。
彼というのは襲名披露にも列席したX氏の愛人、高松国税局課税部法人課税課の浜中均氏のことだ。
この時、大野社長の傍らには、A副社長が控えていた。A副社長は大野社長の妹婿だが、
実はこのA副社長もX氏の愛人であった。
5000万円ものカネがなぜ、X氏に支払われることになったのか?疑惑の核心はそこにあった――。
大手電機会社のOL。画廊店員などを経てホステスになったX氏は
交際していた男性たちとのスケジュール管理のため、いつも黒革、布などの手帳を持ち歩き、
愛人たちとベッドを共にした時は自分だけが分かる隠語で記していた。
高松国税局の浜中氏とはもともと中学の同級生で、久しぶりに再会したのは、
04年1月4日に開かれた同窓会の時だった。X氏は当時、パチンコ店オーナーの愛人だった。
別れ話が持ち上がり、そのオーナーが所有する高級マンションから追い出されそうになっていた。
明け渡しを拒否したため、提訴されたので、同窓会の時、法律に詳しい浜中氏に相談した。
答弁書の代筆など手取り足取り教えてくれた浜中氏には妻子がいたが、すぐに不倫関係となった。
「オオノ開発はうちの調査対象だ」
しかし、裁判に敗訴したため、X氏はマンション退去を命じられ、預金通帳まで差押えられた。
一文無しになったX氏に当座の生活費として浜中氏は自分名義の通帳2通とキャッシュカードを手渡し、
定期預金を取り崩し、100万円余りを振り込んだ。
ある日、X氏と浜中氏がファミリーレストランで食事をしていると偶然、昔のホステス仲間のB氏と再開した。
B氏はオオノ開発のA副社長の長年の愛人だった。X氏は引っ越し代を稼ぐため、
所有するユダヤ人画家の絵画をオオノ開発へ売りたいと考え、紹介してくれないかB氏に頼んだ。
B氏と別れた後、浜中氏に「誰だ?」と尋ねられたので、
「オオノ開発副社長の愛人」
とX氏が答えると、
「へえー。オオノ開発といえば、面白い話がある」
と言い出した。
数日後、オオノ開発のA副社長とゼネコン幹部、X氏とB氏の4人で松山市内のホテルで食事することになった。
B氏から、
「お金ないんやったら、Aさんと寝ていいよ」
とお墨付きをもらい、X氏はA副社長に絵を売り込んだ。
A副社長が、
「いくら欲しい?」
と尋ねるので、
「100万円ぐらいかな」
とX氏が答えると、その夜、ホテルの部屋に誘われた。
B氏もその後、ゼネコン幹部とホテルへ消えた。
事が終った後にX氏が、
「高松国税のCさんて知っている?高松国税に知り合いがいるの」
とA副社長に尋ねると、顔色がみるみるうちにサーッと変わった。
実は、これは浜中氏のアドバイスだった。
浜中氏に、オオノ開発に絵を買ってもらうつもりでいることを話すと、
「オオノ開発って今、うちの調査を受けている。『C(担当者)を知っているか?』とAに聞いてみろ。面白いことになる」
と言われたのだった。
A副社長はその時、何も言わず、枕元に3万円を置いてそそくさと帰った。
翌日、X氏がパート先で働いている最中、A副社長から電話があり、夜に会うことになった。
「社長が絵を100万円で買い取ってやると言っている」
ホテルに呼ばれて行くと、絵の代金として100万円が用意してあったので、X氏は昨日の今日なのにと驚いた。
そしてA副社長はこう切り出した。
「大野社長が捕まったら、事業がダメになる。実は俺も国税局に呼ばれている。Xちゃん、助けてくれ。
(浜中氏に)何とかしてほしい。とお願いしてくれないか」
オオノ社長が餌に食いついた瞬間だった。
A副社長によると、当時はすでにオオノ開発のすべての関連会社へ査察が入り、
A副社長自身も国税局に呼び出されていた。
脱税容疑で逮捕されるのではないか、という噂も流れ、
すっかり怯えていた大野社長は夜、眠れなくなり、睡眠薬を手放せなくなっていたという。
「追徴金も安くなるようにする・・」
X氏は昔からオオノ開発を一代で築き上げた大野社長という人間に興味を持ち、知り合いになりたと思っていた。
産廃、土木、生コンだけでなく、地元大学と一緒に組んだ自然エネルギーの研究開発、
温泉事業にまで乗り出し、地元ではテレビCMも流れる有名企業だった。
X氏はオオノ開発の件を浜中氏に頼むと、
「担当のCは(同じ課の)後輩だから、何とかなる。俺だったら、助けてやれるよ」
と答え、X氏にこうアドバイスしたという。
「万一に備え、大野社長、A副社長との会話は録音したほうがいい」
だが、X氏はオオノ開発側だけでなく、浜中氏とのやり取りも録音し、テープは123本に上ったという。
X氏が浜中氏から高松国税の動きを聞き出し、それをA副社長へ流すという構図だった。
「今度いつ、呼び出しがあるか、脱税額を減らすには、どうすればいいかみたいな話を浜中氏から聞き、
A副社長へ伝えていました」(X氏)
大野社長から浜中氏へ伝えてほしいと、X氏が頼まれた要望は一つだった。
「追徴金はきちんと払うので、逮捕だけはされないように配慮してほしい」
浜中氏に伝えると、
「きちんと応じれば、逮捕はされない。安心していい。追徴課税も安くなるようにしてやる。
お前、大野社長に億のカネをもらってもいいぞ。それだけの仕事を俺はしてやっている。
俺は国家公務員だから、カネをもらえないので、お前がもらえばいい」
交渉途中で、恩着せがましい浜中氏と大ゲンカとなったことがあり、X氏が、
「もう、あいつとはつき合えない」
と大野社長、副社長に訴えたこともあった。2人はこう諭したという。
「Xちゃん、目をつぶって我慢してつき合ってくれんとこっちが困るけん。減るもんやないやろ」
100万円で絵を買ってもらった恩もあり、X氏はノーといえなかったという。
大野社長、A副社長にイタリアンレストランに呼び出されたX氏が、
「社長が逮捕されることはないって浜中が言っています」
と状況を伝えたこともあった。大野社長は当初、
「ほんまか、間違いないやろな」
と疑っていたが、途中から、
「今度は女を紹介してくれよ」
と冗談を言い出すなど、すっかり安心した様子だったという。
結局、オオノ開発は追徴課税を払い、ピンチを脱した。大野社長が土下座してX氏へ支払った5000万円は、
国税局への口利きの礼と口止め料だったのである。
「5000万円も現金を狭くて古いマンションに置いておくのは物騒だったので、
金庫を買うまではスーツケースに入れ、持ち歩いていました」(X氏)
だが、お金はこれだけではなかった。
「他に何かしてほしいことはあるか?」
と大野社長にさらに聞かれたX氏は遠慮なく、こう切り出した。
「今のマンション、狭いので、いい部屋を社長がお持ちなら、お借りしたいわ」
大野社長はその後、X氏が借りているマンションのすぐそばに建築中の高級マンションの一室を買い上げた。
上層階に4つしかない100平方b以上の広い部屋で、松山市内を見渡せる眺望だった。
案内されたX氏は、ドア、システムキッチン、壁紙など内装まで自由に選ばせてもらった。
少なくとも家賃15万円以上はする物件だが、共益費分の5万円を毎月、X氏が支払う形で賃貸契約を結んだ。
さらに、A副社長がマンションを訪れ、毎月30万円のお手当をX氏に手渡していた。
浜中氏X氏に夢を語ったという。
「将来は税理士のための学校を作って、本を書き、全国で講演をしたい。だが、国税にいたら、できない。
税理士として独立したい。あの時、大野を助けてやったよな?」
ピンときたX氏が、
「大野さんに頼もうか?」
と水を向けると、浜中氏はこう条件を話したという。
「オオノ開発に役員で入れないかな。報酬は毎月120万円は欲しい。
早期退職で退職金が2千万円減る分を補てんしてもらいたい。X氏が話をうまくまとめてくれたら、
俺から毎月20万円のお小遣いと年に2回、ボーナス50万円を出してあげるよ」
X氏が、大野社長、A副社長に入社や待遇を打診したところ、
「すぐに入社してもらっていい」とオオノ側は快諾した。それを浜中氏に伝えると、
「すぐに入ると、国税から怪しまれるので、しばらく時間をおきたい」
と話した。
05年7月、浜中氏は高松国税局から松山税務署総務課長になって故郷に戻ってきた。
翌06年1月13日午後6時半、大野社長の行きつけの寿司屋にX氏と浜中氏が呼ばれ、正式に入社が決まった。
浜中氏と大野社長、A副社長が会ったのは、これが2回目だった。
1回目は、冒頭のX氏の襲名披露の席だが、3人は挨拶を簡単に交わしただけで、ほとんど会話をしなかったという。
大野社長は退職金の補填として2000万円を用意したと言い、源泉徴収などを差し引いた額1610万円を
紙袋に入れて店に持参していた。だが、浜中氏は受け取りを慌てて断った。
「まだ現職だから、僕はいただけません。そうだ、Xちゃんが預かっていてくれ」
その後、浜中氏と一緒に喫茶店に行ったX氏は、化粧室に行くからと、紙袋を預け、席を立った。
結局、浜中氏の現金はX氏が預かることになり、自宅に持ち帰ったが、中身を確かめると、
無地の帯封がついた札束が12個(1200万円)しかなかった。
「浜中が抜いたんだなと思いましたが、あまり気にしませんでした。悪い女と言われても仕方ないですが、
実は半分は私が使ってしまいました。でも、浜中の独立の支度にも使いました。
ブランドの背広を2着つくったり、グランドセイコーの腕時計、大野社長へのお礼に絵画二つも買いました。
『まだ、あのカネ、残っている?物入りなんだ』と浜中から言われ、残りの400万円は国税局を辞める直前、
彼にお返ししました」
松山税務署に戻ってすぐオオノ開発へ入社すると癒着を疑われると浜中氏は警戒し、半年後の06年7月、
早期退職。オオノ開発の会計参与(非常勤役員)に同10月末に就任している。
「浜中氏の入社以来、おかげで税金が10億円ぐらい助かったな。お礼せんとあかんな」
大野社長は上機嫌で浜中氏の働きぶりをX氏に語ったこともあった。
同年末には浜中氏は市内のオフィス街の4階建てのビルを買い取り、
税理士事務所を構える羽振りの良さでX氏にも07年、50万円のボーナスを計2回、振り込んでいた。
X氏が持っていた「浜中均」名義の2通の預金通帳によると、浜中氏がオオノ開発に入社してから、
毎月15日前後に「ハマナカヒトシ」名義で、浜中氏からは10万円、
オオノ開発側からは30万円が別々に送金されていた。
ちなみに、浜中氏の入社前も合わせると、オオノ開発から1億円近いカネを受け取ったことになるとう。
X氏は通帳を手にしながらこう説明した。
「10万円は浜中、30万円はオオノ開発からのお手当でした。私からお金がほしとお願いした訳ではありませんが、
昨年までは振り込んでいただきました。
私が悪い女であることは否定しませんが、自分なりにオオノ開発には尽くしました」
だが、浜中氏に入社後、X氏とオオノ開発はだんだんと疎遠になったという。そして、徐々に疑問を抱くようになった。
「みんな一生懸命、確定申告をしているのに、浜中やオオノ開発のこんな理不尽がまかり通っていいのかしら」
消費税アップなど増税が連日、国会で論議され、われわれの税負担は増える一方なのに、
国税当局の特定企業への指南や、その見返りの「天下り」は許されるのか?
渦中の浜中氏を松山の事務所ビルで直撃した。
X氏との関係は?
「彼女とつき合っていたというか、パチンコ屋から追い出されたので、いろいろ助けてあげただけです。
オオノ開発に税務調査があり、その話を彼女としたのは事実です。
『もう、終わらせたい』とオオノ開発が言っているというので、
調査担当に『どないなっとるん?向こうはスムーズに終わらせてほしいと言っているよ』と伝えた。
私は当時、全体を見ていた。彼女を通じ、オオノ開発へ『国税の指示に従って修正しろ』とアドバイスしました。
当時、大野社長が逮捕されるという状況じゃなかったと思う。国税は手心を加えるなんて許されない組織ですからね」
「僕らは被害者」弁明する元職員!
X氏の口利きでオオノ開発にあまくだった?
「私から頼んだわけじゃないが、月々120万円の報酬、退職金の補充も結果、その通りになった。
破格と言われればそうですが、当時は国税で僕が一番、知識と力があった。十分、返したと思う。
退職金の補助約1600万円は着手金としてもらい、彼女が持って帰り、私も400万円もらったが、退職後です。
大野社長へ渡した絵、スーツ、時計を彼女にもらったことは事実です」
最近までX氏が所持している「浜中均」名義の銀行口座への計40万円を毎月、振り込んでいた?
「口座を貸すのは違法ですが、彼女がマンションを追い出された時。かわいそうになったので、つい渡してしまった。
そのままになっている。30万円は大野社長から預かったもので、10万円は僕が個人で払っていた。
まあ、脅されているようなものです」
X氏は何と脅した?
「いや、具体的には・・・。ただ、大野社長に迷惑をかけたくないので払いました。オオノ開発へ結果的に入れたので、
10万円ならいいかなと。彼女の話は大筋で合っていますが、僕らは被害者だと思っています」
高松国税局に取材を申し込むと、こう回答した。
「特定企業の話は守秘義務があもあるので答えられない」
東京の国税局はこう回答した。
「現在事実家計を調査中であり、調査のプロセスについてコメントは差し控えさせていただきたい」
続いてオオノ開発の大野社長を直撃すると、こう怒りだした。
「こっちは警察に知り合いが大勢、おる。言いがかりをつけると訴えるぞ」
オオノ開発に改めて取材を申し込むと、文書でこう回答した。
「当社は従来から複数の顧問税理士の指導のもと、適正な税務申告を行っています。
浜中氏については、経歴、人格、見識等から適任と考え会計参与として採用しております。
それ以外の質問についてはお答えすることはできません」
国税職員と特定企業の”癒着“は、税金に振り回される一般国民からみれば、到底許されることではない。