小保方らは、多能性細胞に特異的なOct-4遺伝子の発現がオンになると蛍光を発するように遺伝子操作したマウス(Oct4::GFPマウス)
のリンパ球を使用し、細胞外環境を変えることによる細胞の初期化への影響を解析した[8]。細いガラス管を通すという物理刺激や、
毒素(細胞毒素ストレプトリジンO)で細胞膜に穴をあけたり、栄養を与えずに飢餓状態にしたり、熱刺激を与えることなどさまざまな方法を試した結果、
小保方は、酸性溶液中での細胞刺激が有効なことを発見した[17]。小保方らの試行では、生後1週のマウス脾臓のリンパ球をpH 5.7、
37℃の酸性溶液に25分浸して刺激を与え、多能性細胞の維持・増殖に必要な増殖因子である白血病阻止因子(LIF)を含む培地に移して培養する方法が、
最も効率的にSTAP細胞を作製できた[8][9][18]。小保方らはこの過程について、生きた細胞を長時間培養しながら顕微鏡で観察するライブイメージング法(英語版)
で7日間にわたって解析を行い、酸性溶液処理を受けたリンパ球が2-3日後に多能性を獲得していることを解明した[1][8][9][19][注 3]。
酸性溶液処理の影響で多数の細胞が死滅し、7日後の生存細胞数は当初の約5分の1となったものの、そのうち3分の1から2分の1がOct4陽性だった[8][9]。
次に遺伝子解析(英語版)を実施してOct4陽性細胞を生み出した「元の細胞」を検証した結果[8]、Oct4陽性細胞のT細胞受容体遺伝子にリンパ球T細胞が分化した時に生じる特徴的な組み替えが検出された[8]。
このことから、Oct4陽性細胞が、T細胞に分化したリンパ球由来の細胞が酸性溶液処理により初期化された結果生じたものであり、試料に含まれていた極めて未分化な細胞が酸性溶液処理の影響で選択されたもの
ではないことが証明された[8]。また、このOct4陽性細胞は、Oct4以外にも、多能性細胞に特有のSox2、 SSEA1、Nanogという遺伝子マーカーを発現していた[8]。
その後、小保方らは、脳・皮膚・骨格筋・脂肪組織・骨髄・肺・肝臓・心筋などの組織の細胞についても同様に処理し、いずれの組織の細胞からもSTAP細胞が産生されることを確認した[8]。
また、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を含む培地を用いることにより、多能性と自己複製能を併せ持つ細胞株を得る方法を確立した[8]。