教授は部下に「こういうストーリーだったら良いなあ」という話をする。
出世したい部下(院生の直接の指導教官)は、教授の意思を汲み取り、院生に「こういうデータを出すように」と伝える。
しかし、教授の妄想でしかないので、当然結果は出ない。
それでも、指導教官は、自身の出世のため、教授の信頼を勝ち取るため、その実験を院生に続けさせる。
全く結果が出ないため学生は疲れてくる。博士過程4年になると心身ともに疲弊してくる。
そんな時、指導教官が「この抗体で免染をすれば染まるよ」 と言って、ある抗体を使うように院生に提案してくる。
聞けば、研究室で伝統的に使われている「お助け抗体」だと言う。
実は、その抗体はノンスペだらけで、コントロールも同様に染まってしまうため、本来、全く使い物にならない。
しかし、切羽詰った院生には、そういう判断ができない。
これを受け入れれば楽になれると考える。
さらに、そこでタイミングよく指導教官が「コントロール用の写真にはこれを使ったらどう?」と提案してくる。
薄く染まった全く別の実験のコントロール写真だ。
背中を押された院生は、たいがいそれで全てを悟り、諦めて受け入れる。
あとは、指導教官の思いのままだ。
例えば、他の実験で「再現性が出ません」とその院生が言えば、「そのサンプルで3回電気泳動すれば3回やったことになるよね?」と提案してくる。
10回中1回だけたまたま都合よく出たサンプルを3回使ってデータを出せという露骨にアブナイ指示だ。
それはさすがにマズいのではと意見しても、「君は今までの苦労を無駄にするのか?」と猛烈に脅しをかけてくる。
時には、指導教官だけでなく、既に忠実な下僕となった院生数人も一緒になって、数時間にわたり吊るし上げる。まるでどこかの宗教団体のようにだ。
もはや院生には抗う術はない。
今や、教授自身も、自分の手を汚さなくて済むこのシステムを有効利用している。
このシステムで卒業した院生は過去5年で5人以上に達した。
今年も2〜3人は同様にして学位を取って卒業していくだろう。
内部からの軌道修正はもはや不可能だ。
いつか天罰が下って欲しいと切に思う。