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山城教授が現在取り組んでいるテーマは、大きく分けて3つある。1つ目は抗体製剤の研究。抗体製剤とは、
ワクチンが特定の病気に対する体内の抗体を増やし、その病気にかかりにくくするのに対し、ダイレクトに
抗体を患者に接種させることで、短時間での効果をあげようというものだ。
2つ目は、まだ始まったばかりの鳥インフルエンザ研究。発生前から一定の地域を恒常的に調査・分析し、
発生の瞬間をつかまえ、発生メカニズム解明につなげることをねらう。
3つ目が子どもの下痢の研究だ。「個々のウィルスや細菌に着目するのではなく、私たちはあらゆるタイプの
下痢を網羅的に調査・分析することで、小児下痢の全体像を浮かびあがらせることを目指しています。子ども
に焦点を当てたのは、下痢で亡くなるのは圧倒的に子どもが多く、研究の必要性を痛感していたからです。
2007年末にハノイで腸管感染症が流行した際にはいち早く研究を進め、流行制圧への重要な情報を公衆衛生
当局に提供することができました」。
このようにすでに大きな成果をあげつつある同プロジェクトだが、そこにはベトナムの研究状況も大きく寄与
しているという。
「じつは、ベトナムはとても研究しやすい環境なんです。情報公開が進んでおり、ひとつ決まりごとを作ると、
その後はスムーズに進みます。また、政府が協力的で、ひとたび感染症が発生すると全力で制圧に取り組み、
外部研究機関の助力を請うこともいといません」。
数年前のSARS流行の際、この特質が生かされ、早い段階での制圧に成功したのは記憶に新しい。
「今後もベトナムでの研究をさらに進め、感染症に関する重要な情報を発信していけることを願っています」と
いう山城教授。
ベトナム発の研究成果が、世界の感染症制圧への大きな力となる日も、そう遠くないかもしれない。
(2008年11月号 | 2008年12月13日 土曜日 10:50JST更新)
http://www.vietnam-sketch.com/column/japanese/2008/12.html