<フェーズA>おいては、環境の撹乱を情報として受け取った個体がオートポイエーシス的な情報処理の
過程で、「撹乱」→「補償」→「構造改変」→「コード書き換え」(遺伝子書き換え)に至ると考えています。
この過程では、環境からの撹乱(この局面では個体は環境に対して客体となる)、撹乱を閉鎖システム内で解釈
(この局面では個体は環境に対して主体となる)という作動があり、個体は環境に対して客体であると同時に主体、
つまり、「半主体/半客体」であることになります。この点がダーウィニズム=客体、ラマルキズム=主体という捉
え方とは異なっている点だと思います。つまり、個体が環境からの撹乱を受ける局面と個体がその撹乱を独自生
命システムの文法でその撹乱を補償する局面があいまって変異が発生するという観点をとります。
また、このような「撹乱/補償」モデルでは、個体の表現形の変異には情報処理能力の個体差が関わってきます。
つまり、例えば同じ捕食者の卓越という環境の撹乱を受け取っても、ある種はより足を早くすることで撹乱を補償
するかもしれませんし、別の種は擬態をすることによって補償を試みるかもしれません。また、同じ種内でもそれ
ぞれの個体差によって撹乱に対する補償の方法が違ってくる可能性も考えられます。これは、オートポイエーテ
ィックな閉鎖システムは種によって文法が大きく異なり、また種内でも個体によって文法が小さく異なるためだと
考えられます。つまり、
補償の観点で見れば、個体は環境の撹乱を自分が解釈できる文法で翻訳しその文法内で見える範囲で撹乱か
ら逃れる対応、つまり補償を試みます。この場合、補償は突然変異説のようにまったくランダムな表現形の変異
が見られるのではなく、「その生物の撹乱に応じた補償がとりうる範囲、つまり、情報処理システムがその生物
の文法内で変異の仮説を立てられる範囲に限られます」(つまり、キリンにいきなり羽は生えない)。ある制限され
た範囲内でのみ個体差による自由な「仮説」が立てられるという言い方もできそうです。
また、補償の個体差によって発現する変異の表現形にばらつきが発生し、それを変異の結果だけから観察すれ
ば、それは偶然による突然変異のように見えます。しかし、別の視点として環境の撹乱に対応するために個体が
情報処理のシステムにおいて新たな適応の表現形をそれぞれ独自に探している、という見方も出来るのではな
いかと考えます