魔法少女まどか☆マギカで百合萌え 8

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922友情伝説 (夏) 01
「あー、あのサンダル可愛い〜……でも、お財布ヤバいなあ」
休日のショッピングモールで、一人ショーウインドウを眺めているのは美樹さやかだった。
快活なイメージの彼女によく似合った、空色のワンピースを翻し、きびきびとガラスの前を歩く彼女は、
真夏の太陽と、吹き抜ける風のように、爽やかで力強い美しさを放っているように見えた。
足を止めてさやかを振り向く人間も何人かいるが、当のさやかはそれに気づきもしない。
普段は、調子づいてオーバーな自画自賛をすることも多いさやかだったが、
彼女自身は、他人からの評価に対しては、意外すぎるほどに無頓着なのだ。
「あー。どっかにグリシーでも落ちてないかな………お?」
小銭欲しさに物騒なつぶやきを口にしたさやかが目を止めたのは………このご時世には、なんというか意外な光景だった。

「ねぇねぇお嬢ちゃん。どっから来たの?見ない顔だねー。
 俺らジモティーなんだけど?マッジ、この辺とか超詳しいし?
 君のこと案内してあげたいなーっつーか?ってか、君超ッー可愛いくね?
 マジ俺のハートにドストライクっていうかー?あっ、俺この近くでパネェ美味い鉄板焼きの店、知ってんだけど?」
「ショウさん、こんな小っちゃな子までナンパしちゃうとか、マジパネェっすよ。
 あっ、あと俺肉駄目なんでぇー。やっぱサラダ食わないと駄目っすよサラダ」
 なんっつーか、超リスペクトっつーか?やっぱパネェ人は発想もパネェっつーか?マジ超リスペクトっすよ」
「…………あっ、あの」
いかにもギャル男という風情の男達が、一人の女子に絡んでいた。
いや、まあ、いかにもステレオタイプのギャル男+下っ端の構図である。
どこかで直接会ったことがあったとしても、その余りにもアレでナニな様子では、まともに記憶に残りそうもない。
肝心の女子は、完全に怯えてしまっているようだ。
ハーフフレームの眼鏡の奥にある、どんぐり眼いっぱいに涙を溜めて、
首の後ろで二つに分かれた、腰まで届く長いお下げ髪を、犬の尻尾のように震わせて、身を縮こまらせている。
身長はやや高めに入るだろうが、気弱そうな印象と猫背のため、さやかの目には年下に映った。

「俺さあ、ホストやってんのよホスト。マジなんだって、マァ〜ジィ〜でぇー!
 君の瞳に乾杯?みたいなことやってさぁー、女の子のためぃ、我が身を粉にして日夜働いちゃってるしてるわけよぉ〜?
 ってか、君ホンット可愛いねぇ〜、そのちっちゃい胸とか、マジたまんねぇっていうか?
 君パンツとか何色系?お風呂とかさぁー、どこから洗う系?俺マジ、ちょっとナルシー入っちゃってて顔から洗う系だけどさぁ」
「うわぁー、ショウさんのパンツ何色系とか来たよ、来ましたよコレ!
 マジパネェっすよショウさーん。ナンパで下着の色聞いちゃうとかマジパネェっすよ。
 俺なんてせいぜい携帯の番号ぐらいしか聞けないっつーかあ?
 とりま、尻から洗い始めちゃう俺にはもう超絶ついていけないっすよ、マジでぇ!」
「う、ううっ………ぐすっ」

少女は、もう声を上げることも出来ないようだ。
すでに、彼らのナンパは失敗に終わってしまっているらしい。
しかし、チャラ男達はなおも少女の体をなで回し、妙なアクセントであれやこれやと好き勝手な話をしながら、少女をどこかに連れ出そうとしていた。
お互い合意の上で遊びに行くなら、それはそれで結構だ。
だが、『自分の我が儘だけを言うだけ言って、相手の気持ちをまるっきり無視するような狭量な糞男』が相手なら話は別だ。
さやかは拳を握りしめると、憎いあんちくしょう目掛け、

「バッカヤローーーーーーー!!!!」
猛烈なドロップキックを叩き込んだ。

―――――
923友情伝説 (夏) 02:2011/03/24(木) 00:00:22.89 ID:twwtYLIr
「そげぶっ!!」

270度の捻りが加えられた渾身の一撃が直撃し、きりもみしながら噴水の中へと叩き込まれるチャラ男A。
ばしゃりと、涼しげな音を立てて大きな水飛沫が上がり、空中で反転する降りかかり、辺りに小さな虹を作り上げた。
左右非対称の髪を翻し、華麗な着地を決めたさやかは、身を反転すると、猛烈な勢いでチャラ男Bへ突っ込み、

「――――俺、デートの約束思い出したんで帰りまーす!」
再び猛烈な勢いでずっこけた。

なんだかよくわからない脱力感の中、さやがが視線を上げると、チャラ男Bは全力疾走したまま器用に回転ドアをくぐり抜け、炎天下の屋外へと躍り出るところだった。
なんなんだあれは、一体。
だるさを振り払って視線をやると、チャラ男Aは噴水の中で微動だにせず、ポマッチョな全裸男性の石像、
その丁度股間の部分に顔を突っ込んだまま、だらだらと鼻血を流していた。
まあ、死んではいないだろう。
どの道、あんなアホ男のことなど知ったことではない。
さやかは立ち上がろうとして、膝に小さな擦り傷が付いていることに気づいた。
さっきずっこけた時にすりむいたのだろう。
放っておけば、明日にはかさぶたも残らず消えているだろうが、お気に入りのショートソックスに血が付いたらショックだ。
なにより、あんな変なのを相手にして被害を被るなどバカバカしいったらない。
右手で髪を掻き上げて、髪に付いた雫を振り払うと、膝から流れる血に気を揉みながら、必死で鞄の中を掻き回し、
やっとの思いで空色(私の一番好きな色だ)のハンカチを見つけることが出来た。
ようやく傷を処理出来る、と、身をかがめたさやかは、そこで、ようやく先程の少女が、ずっと自分を注視していたと言うことに気がついた。

―――――

「……………あ……」
「えーっと…」
視線と視線が交差する。
やばい、完全に忘れてた。
さっきまでガチガチになって半べそをかいていた少女を忘れて、自分の傷にかかりっきりになるとは。
まったく不覚。正義の味方の名折れである。
マミさんなら、こういう時、真っ先に彼女の元へ駆け寄って、暖かい言葉を掛けたに違いないのだが。
「へへっ、大丈夫だった?」
照れ隠しも込めて、笑みを浮かべながら声を掛ける。
少女はまだ目に涙を溜めていたが、なんとか落ち着きは取り戻しているようだった。
「気をつけてね。ここんとこ暑くなってるから、ああいう変なのも出てくるんだよ、きっと」
少女に手を差し伸べる。
少女は最初こそ手を縮こめていたものの、やがて、おそるおそる、本当にゆっくりをさやかのほうへと手を伸ばした。
「よっ、と」
さっ、と少女の手を掴み、腰に手を掴んで立ち上がらせる。
立ち上がった拍子に、溜まった涙がぽろぽろとこぼれ落ち、
少女の三つ編みがふわりと揺れて、ほのかにミントの香りが立ち上った。
少女は眼鏡を外し、俯むきがちなまま、未だ不安げな表情で涙をぬぐっている。
「泣かないで。恐くない。もう大丈夫だよ」
見た目通り、泣き虫で、気の弱い子なのだろう。
さやかは少女の肩をあやすように撫でながら、そのハンカチを少女の頬に当て、優しく涙を拭き取った。
「あっ…………その……」
少女が視線を落とす。
どうやら、自分の自分の膝の傷を見ているようだった。
「あたしは大丈夫だよ。女の子がいつまでも泣いてちゃ駄目。女の子はね、いつでも可愛くしてなきゃいけないんだから」
さやかは膝を折り、猫背のまま俯く少女と視線を合わせる。
アメジストのような、深い紫色の瞳だった。
その瞳を―――――

1.何故か、さやかは知っていた
2.どこかで、見たことがあっただろうか?

―――――
924友情伝説 (夏) 03:2011/03/24(木) 00:02:01.58 ID:twwtYLIr
どこかで見たことがあっただろうか?
確かに、どことなく見覚えがある。
だが、記憶をいくら辿ったところで、こんなにも弱々しく、儚げな眼をした人間は思い浮かばなかった。
さやかは、不意に脳裏をかすめた疑問を振り払い、再び少女に意識を向けた。
「………す、すみません」
少女は泣くのはやめたようだったが……内気な性格なのだろう。
萎縮してしまって、まともに話も出来ないようだ。
痛ましい。だけど、これ以上は彼女自身の問題だ。
赤の他人の自分が、これ以上の世話を焼いてやっても、彼女の心には届くまい。
「あやまらないで。……さ、おうちに帰りな」
精一杯の笑顔を浮かべて、彼女の肩を叩く。
私は私に出来る精一杯のことをやったつもりだ。
だが、せめてもと、ハンカチを手に握らせて、さやかは少女に背を向けて歩き出した。

背中に彼女の視線を感じる。しかし、追っては来ないだろう。
まだ、お礼の一言も聞いていない。
決して、それが聞きたいわけではない。
しかし、それを言えないことが、彼女の心残りになるのではないだろうか?
だが、それを求めることも出来ない。
それは彼女を傷つけるだろうし、彼女自身の心に従って行うべき、彼女自身の勇気の産物でなければならない。
誰もが強く在れるわけではない。そして、強くなれない人もいる。
諦めや後悔ではない。彼女には、もっと強くなって欲しい。
でも、彼女と関わり合いのない自分に、もう出来ることはないのだ。

それが少し寂しかった。
―――――
「おーっす、おっはよー!」
教室に飛び込み元気よく挨拶をすると、暁美ほむらが、ノートとプリントの束をいじくっていた。
ノートには付箋が張られているが、色や並びが全く不規則で、法則性がまるで感じられない。
プリントの左下には通し番号が張られているところを見ると、ある程度の几帳面さはあるようなのだが。
いや、その前に、あんたはあたしに挨拶を返すべきじゃないの?
「おっすぅ〜?おはよぉ、転校生ぇ〜?」(!?)
首を捻った状態から顔を見上げ、疑問系で挨拶(メンチ)を繰り返す。
「おはよう」
たったのそれだけ。視線は相変わらずノートに釘付け。
ちくしょう、こいつめ。あたしよりノートのほうが大事だってか。
「………まどかは?」
「中庭よ。園芸部の人と、花の手入れに行っているわ」
「………あ、そ」
正面の席から椅子を引っ張り出し、ほむらの対面に座る。
相も変わらずの仏頂面だ。
こっちに視線の一つもよこさず、黙々とノートの整理に没頭している。
ああ、ホントに顔は可愛いのに。
なんて、もったいない。
もうちょっと、愛想良く接してくるなら、さやかちゃんの愛情のひとかけらぐらいは分けてやるのに、
こいつと来たら、まどかに一日中べったりで、こうして毎日構って貰ってるあたしに対して、可愛い笑顔の一つもないとは。
「………あー、やんなっちゃう。転校生は構ってくれないし、結局昨日はサンダル買い損ねちゃうし」
悪漢をやっつけたヒーローが、店の前をうろうろし、財布の中身を確認している姿。
実にひどい。
悪漢をやっつけ、身を翻して立ち去るヒーロー。
実にかっこいい。水もしたたるいい女だ。
つまりはそういうことだ。残念無念、また来週。
「……そういえば、あなた、いつもスニーカーだものね」
おっ、やっとまともな反応を返したぞ。
対話がなければ関係は衰退すると、川口市民も言っている。
さあ、トークトゥミー!
「そうそう。昨日、すっごく可愛いサンダル見つけてさあ……」
「買わなかったのは失敗ね。夏場の靴は蒸れるわ。あなたの臭い足を嗅がされるようなことになれば――――」
「臭くないわよ!!!!!!!!!!」
925名無しさん@秘密の花園:2011/03/24(木) 00:02:01.37 ID:3qw3GQS9
>>919
押し倒すがいつの間にか杏子に逆転されそう。
926友情伝説 (夏) 04:2011/03/24(木) 00:04:44.50 ID:twwtYLIr
脳味噌が一瞬で沸騰して、頬を毎秒300回突き回す。
ああ、むかつくむかつく!いっそ今すぐあんたの口に靴下を放り込んでやろうかしら!
あたしのフローラルな香りを嗅いで、その気高さに恍惚とさせてくれるわ!!
アホ女は何秒かはされるがままになっていたものの、すぐに手で指を払われてしまう。
右手で髪を掻き上げて、クールなお断りの言葉を放つ。
「私は忙しいのよ。あなたに構ってる暇はないわ」
「わけわかんないわよ!!!あんたから喧嘩売っておいて―――!!」
「今日も暑いわね」
「うざいうざいうざい!!!あんたってホントうざい!!ぎゃああーーー、今すぐ絶対シメてやる!!!」
「やってみなさい。出来るものならね」
窓の外から蝉の鳴き声が聞こえてくる。
まあ、こいつとあたしの日常はいつもこんなものだ。
それなりに仲良くやっているのだ。
そうだ。今日あたり、みんなで集まってこいつの暴言を晒し上げてしまおう。
この季節ともなると、まともな冷房器具のないほむらの家に集まるのはキビシイ。
幸い、今日は土曜日だ。みんなでマミさんの家に集まって、美味しいアイスティーでも――――

「―――うぜっっっくしょおぉぉぉい!!!!」

ほむらの目の前で、盛大にくしゃみを飛ばすさやか。
机の上にまとめてあったプリントが一斉に巻き上がり、ほむらの顔にバサバサと張り付いた。
「……………ずずっ……あー、風邪っぽいなあ、こりゃ」
恐らく、先日の騒ぎで噴水の水を被ったのが原因だろう。
いくら暑かったとはいえ、冷房の効いた店内で水浴びをしたともなれば、体が冷えるのも無理はない。

「…………………風邪かしら」
ほむらは無表情のまま、プリントの右下に振られた通し番号通りに、手早く紙を並べ替えていく。
っていうか、いつの間に拾い集めたんだろう?
「ううん、まあ、そんな大したもんじゃないから、あんたには感染さないと思うけどね」
「そう」
ポケットから取り出したハンカチで、べちょべちょになった顔を拭き取るほむら。
あれ?ひょっとして今、あたし悪いことしなかった?
ちょっと、謝った方がいいかな?と思って、テキトーな謝罪の言葉を並べようとすると、
「使いなさい」
目の前にセンスの良い空色のハンカチが差し出された。
ほんのりとミントの香りがする。なんだか、妙にイイ感じだ。
「あれ?いいの?」
てっきり怒ると思ったのだが拍子抜けだ。
まあ、ほむらがこういうおかしな態度を取るのは珍しくない。
怒ったり怒らなかったり、時たま妙なお節介を焼いてきたりと、こいつの行動はなかなか謎が多いのだ。
「一人前の女子が、そんな顔でいるものではないわ」
なるほど。いい気構えだ。気が合うね。

―――あなたは半人前だけど。

うるせー。一言余計だよ!

―――――

ほむらは空色のハンカチで顔を拭くさやかを、何かいとおしい物でも見るような目で見つめていた。
「美樹さやか。そのハンカチは―――」
「ズビッッッーーーー!!!うう、すっとした………はい、どうもね、転校生」

「―――返さなくていいわ」