咲-Saki-で百合萌え 14局

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147名無しさん@秘密の花園
初夏もとうに過ぎ去り盛夏と言って差し支えない日差しが容赦なく照りつける八月。
全国大会間近という時期にわたし、福路美穂子は同学年の加治木ゆみ、竹井久と会う約束をしていた。
いつもは長野市に住む加治木さんが飯田に来るという展開が多かったのだが、今回はこちらが出向くという事になっている。
上埜…竹井さんも久しぶりに加治木さんのお宅に上がれるという事で、非常に喜んでおり、わたしもそれは同じであった。

当日、わたしは電車に乗り込み、目的地である所の長野駅へ向かった。
夏休み中という事もあり、電車の中は人でいっぱいだ。
席に座る事も出来ず、わたしは扉近くの棒に捕まり揺れと人波をしのいでいた。

自動扉が開き、人が吐きだされ、それよりも多い人々が波の様に乗り込んできて、また閉まった。

あと何駅くらいだろう。
少なくともあと二時間はこうして立ってなくてはいけないのだろうか。
でも諏訪を過ぎれば少しは空くかもしれない。
などとどうでもいいような事を考えていた。
何か考えてないと、風越で頑張っている他のみんなに申し訳が立たなくて、せっかくのデートだというのに気が落ち込むからだ。

三人で会って何をしよう。
加治木さんの事だから下調べは入念にしてあるだろう。
わたしもそれなりに調べては来ているが、三人で歩く時はいつも加治木さんのリードで進む。
それを竹井さんが思いもしない所で止まったり立ち寄ったり食べたり。
加治木さんは予定が狂ったなどと言って、苦笑いするが、それが楽しいように見えた。
わたしも竹井さんがそのように自分勝手にわたしたちを振り回すのが嬉しくて、楽しくて。
いつまでもこんな時間が終わらなければいいと思う。

でも、と考えてしまう。
いくら楽しい時でも終わりは来る。
別れは来る。
さようならと手を振って、別れる時の物悲しさはいかんともしようがない。
もし高校を卒業したら。もしIHが終わったら。
こんな風に会う事もなくなるのだろうか。

いつしか涙がこぼれていた。

こんなにも弱いわたしなんて、大学生になった上埜さんは見向きもしてくれないかもしれない。
上埜さんが好きなのは、加治木さんのように芯の強い、しっかりした人なのだろう。
それでもいいと、普段は思っているけれども。
やっぱり、心のどこかで上埜さんとつながって居たいと思ってしまう、卑しい自分が居るのは否定できない。

   心だけではなく、せめて何か残るものが欲しい。
   会う事がなくなるのならば、なにか思い出に残るようなものが欲しい。

そんな心の声に気付き、かぶりを振る。
なんと自分はいやらしいのだろう!
三年待ち望んだ再会で満足したのではないのか。
それが上埜さんに対して何か欲しいとおねだりするなどと、おこがましいにもほどがある。
自分の身体を抱きしめて、嫌悪感に浸る。
こんな気持ちを上埜さんに知られたら、きっと軽蔑される。嫌われてしまう。
必死になって、自分の心を内へ、内へと閉じ込めた。


そのように、なんの意味も無い思いに流されていたからだろうか。
わたしは時折自分の背後で接触してくる"モノ"に気付く事が出来なかった。

ぞわり

突如として背筋に悪寒が走る。
なにかが背後で蠢いた。
否。
明らかに指が、わたしの身体を意識して触れていた。
148名無しさん@秘密の花園:2010/10/25(月) 03:41:16 ID:dOClATUE

遠慮がちに一、二本。
しばらくして三本。
こちらが恐怖で声も出せずに居る内に、五本の指全部がわたしの臀部に食い込んだ。
思わず爪先立ちになる。
体中に怖気が走り、夜中じゅうベッドの上に何着も置いて厳選した服が冷や汗で濡れるのが分かる。
棒を持つ手が脈打つのが分かる。
気がつけば心臓が破裂しそうなほどに高鳴っている。
胴の中心から下の部分が急激に重くなり、なんの感覚もなくなる。

助けを呼びたいのに、口が開かない。
顎が力の限り、唇を噛みしめさせている。
棒を握る右手は力が入りすぎて白くなっている。
恥ずかしくて、でもそれすら考えられないほどに、怖い。
鼓動を刻んでいた右手が、今度は激しく振動している。
電車の振動?
違う。
わたし、震えているんだ。
恐怖し、震えてると自覚した瞬間、涙があふれてきた。
うつむいた私の足元に、涙がひと粒、落ちた。

わたしの臀部をまさぐる手は動きを止めず、指はずり上げる様に次第にスカートをたくしあげ始めてすらいた。
あぁ、このままスカートの中に手を入れられるんだな、と妙に冷静に分析してはいるが、身体は一向に動く気配を見せない。
動いてはいるが、これは自律した動きではなく、恐怖によって動かされているだけの、いわば反射にすぎない。
スカートが順調にたくし上げられ、おそらくは中指が直接わたしの体に触れた、その瞬間。
背後の手はわたしの身体を離れた。

たくし上げられていたスカートの裾がストン、と落っこちてすぐさま常の状態に戻る。
なにがどうなったのか訳が分からないが、ひとまず恐怖の楔から解放されたことを素直に喜び、深呼吸をする。
今までどれだけ貯め込んでいたのかと思わんばかりに、息が吐き出される。
同時に緊張の極致であった身体が弛緩し、爪先立ちのままだった足もかかとをつけて安堵する。
身体に残るストレスを取り払おうと息を大きく吸ったその時、わたしの胸がわしづかみにされた。

息が止まる。
鷲づかまされたというが、体勢としては下から持ち上げられたという状態である。
生ぬるい空気が首筋に当たる。
おそらくは今まさに胸をわしづかみにしている人物の吐息であろう。
息が当たった部分に鳥肌が立つのが自分でも分かる。
怖気が走るということばそのままに、肌が粟だって行く。
そんな怖気さとは裏腹に、身体はどうやら歓喜を上げているらしく、それが非常に腹立たしかった。
脳とは別の何か他の器官があるとしか思えない。
自分はこんなにも嫌悪感でいっぱいになっているというのに、なぜ、身体はこのような行為を喜んでいるのか。

 「うあぁ…」

情けない声とともに口が開く。
同時に緊張していた身体が弛緩していく。
すぐさまに、後ろに立つ人間が指を口の中に入れていく。
食いちぎる事も出来ず、指は舌を撫でまわし、わたしは汚らしく唾液を指にまとわりつかせていく。
くちゅくちゅという音がわたしの頭の中で反響する。
左胸がもみくちゃにされていくのも、なんの抵抗も出来ずにされるがままだ。

先程から視界がどうもぼやけている。
口の中に指を突っ込まれているというのに、その感覚ももはやない。
トンネルに入る。
暗闇の中、ドアのガラスにわたしの顔が映った。

そこに居るのは両の瞳の色が違う、淫乱な笑みを浮かべながら涎を垂らす、ひどく厭らしい女だった。
149名無しさん@秘密の花園:2010/10/25(月) 03:41:18 ID:dOClATUE

 (なんて気持ちよさそうな顔をしているんだろう…)

そんな自分の有様を見て、何かが頭の中で壊れた。
もう、内から湧き上がる衝動に抗う力もない。
必死になって唇の内側に潜めていた音を、抑えていた声を、わたしはとうとう口に出していた。

そもそもそれは、声とは到底言えぬ言葉。
ありていに言ってしまえば、そう。

喘ぎ声、なのだろう。

一度外に出てしまった声は止めようがない。
二度三度と漏れ続け、次第に大きくなっていく。
それを危惧したのか、口の中にある指は絶妙に舌を絡め取り、声を漏れだしもしないようにしてしまう。
わたしはもっと喘いでいたいのに。

顎まで伝った唾液がわたしの胸に落ちる。
酷く冷たい。
身体が全体がもう火の様に熱くなっているのだと、実感した。
この熱量をもう内に秘めてはいられない。

わたしの身体は我慢という言葉を忘れてしまっていた。
わたしの脳髄は理性という言葉を失ってしまっていた。

ドアに手をつく。
頬をドアに押し当てる。
ひんやりとした金属質の冷たさが心地いい。
わたしの息がかかって、ドアのガラスが白く曇っていた。

口の中の指を唇をすぼめて吸う。
吸うという行為はなにやら心を落ち着かせるものだ。
そんなわけのわからない事を考えていると、胸をまさぐっていた手はおもむろに下へと向かった。
身体がまたも喜びに蠢く。
だってそこは
スカートを前からたくし上げる。
だってそこは
わたしの太腿があらわになるが、もちろんそんなことはもう私は頓着しない。
だってそこは
太腿の内側から這うように手がどんどんと、その付け根に達する。
だってそこは
そしてついに手は、手は



触れられた途端に、わたしはわたしという存在ではなく、ただのメスとなっていた。
右手を下に、左手を胸に。
自らの身体を他人の手の上に、自らの手を置いて、さらに強く、慰めていた。
快楽だけを求めていた。
快感だけが欲しかった。
この後なんて考えられず、この瞬間だけを考えていた。
否、感じていた。
気持ちいい事だけ感じていたかった。
この先どうなるかなんて考えたくもない。
高校生活が終わって上埜さんとそれっきりになるだなんて想像したくもない。
いわんや、インターハイが終わって離ればなれになるなんて考えたくない。
そんな、いつか来る必然なんて一瞬でもいいから忘れ去りたい。
そんな考えがあったから、なのか。ただ単に私が淫乱な女だからなのか。
ただただ、この破廉恥極まりない行為に没頭したかった。
だが、現実はいつも予想を大きく上回って、わたしに振りかかる。
150名無しさん@秘密の花園:2010/10/25(月) 03:41:21 ID:dOClATUE

 「あら、ずいぶん気持ちよさそうね。やっぱり電車の中って興奮する?」

間違えようのない声だった。
三年間、忘れたくても脳裏から離れない声だった。
三年経って会ったらもう二度と別れたくなくなった声だった。
好きで大好きで愛してい人の声だった。

なぜ指を見た時に気がつかなかったのか。
この指は華奢で細くて白くて長くて、どう考えても男性のそれではなく、女性。
そしてこの指からはじき出される闘牌は、いつも私の心を熱くさせていたではないか。
その指が、声が、顔が、瞳が
わたしの身体に雪崩れ込んで、めちゃくちゃにしていた。

 「上埜さん?!」

素っ頓狂な声が出た。
上埜さんの指は、もう既にわたしの秘所から離れていた。
変わって両腕でくるむように、後ろからわたしを抱きしめてきた。身体の中の熱量がどんどん下がる。

 「いやぁ美穂子があんまりにも可愛いからつい、痴漢したくなっちゃってさぁ」

言い訳とも状況説明とも単なる冗談とも取れぬトーンで私の耳元に呟かれるそれは、いつものように適当一辺倒だ。
わたしの汗ばんだ身体のにおいを確かめるかのように、上埜さんはクンクンと鼻を鳴らす。

 「で、どうだった?気持ち良かった?」
 「しりません!」

思わず語気を荒立てて答えてしまう。
そんな自分にびっくりして、口を抑える。
周りの乗客が迷惑そうに怪訝そうにこちらを見ている。
上埜さんはそれらに手を振って応えた。
ますますわたしに寄りかかりながら、気持ち良くなかったの?なんて淋しそうに言う上埜さんに、
わたしは何と答えたものか返答に窮していると、奇天烈な着信音が聞こえてきた。
上埜さんはため息をつきながら携帯を取り出した。
その為に私は上埜さんから放り出された形だ。
なんとなく、弾き出されたような気がして途端に淋しくなる。
なので私はとりあえず上埜さんの腕にしがみついて、少しでも密着の度合いを高めようと努力した。
上埜さんの身体はとても甘い匂いがして、どんな香水をつけているのか気になったが、お話し中なので当分は聞けない。

 「え、そうなの?残念。えー、そりゃもうもちろんそっち向かってる最中よ。電車代?いいわよ、そんなの。じゃあ、また今度ね」

名残惜しそうに通話を切る上埜さんを、わたしは見上げた。上埜さんは残念そうな顔を隠そうともせずに継げる。

 「加治木さん、東横さんに捕まったんだって。あーぁ、せっかくおめかしして来たのに」

加治木さんの前では上埜さんはやたらと少女的で、可愛らしい。
わたしの前で見せる大人っぽさはなりをひそめる。
わたしはそれを羨ましいとは思うが、でも加治木さんの様にはなれないので、そのような上埜さんを引き出すことをわたしは早々に諦めた。
だからわたしはわたしの方法で、上埜さんと一緒に居ようと決めた。
いつか離ればなれになってしまう時が来るまで、上埜さんともっと一緒により近くに居ようと、それは今、決めた。

 「今日一日空いちゃったけど…どうする?」

携帯を畳ながら気さくに言ってはいるが、このような事は他人の身体をまさぐりながら言うセリフではない。

 「わたしは…さっきの続きがしたいです…」

そんなこんなは全部スルーして、わたしは上埜さんにおねだりした。
上埜さんはにこりと笑うと、数分前までと同様、わたしの身体を蹂躙し始めた。(了)