純澪2レスくらい投下。
マネキンのお姉さんの作り笑いで差し出した細切れのチキン。
ファミリー向けなのか少し甘めで・・・。
色取り取りのイルミネーションの中、くたびれた背広を着る真面目そうなサラリーマンが頬を染めてケーキを買う。
前が見えないほど大きなプレゼント抱えはしゃぐ子供、とにかくみんなが幸せそうだった。
***
憂は薄情者だ。高校まで共にする仲。一緒にクリスマス過ごそうって言ったのにとある人物の名前を理由に断った。
昔からそう。可愛くて頭もよくて、すごくいい子。自慢の友達。唯一の欠点と言えば行き過ぎた姉への愛情。
「はあ・・・。」
漏れる吐息は白い。
さっさと帰宅して家族でケーキでも頬張りたいけれどなんとなく街中にいた。
クリスマスってそれだけでわくわくするのにたまにふと夢から醒めたかの様に寂しくなる。
ふと、私の横を誰かが横切る。
流れるような黒髪。整った顔に特徴的な釣り目。
――間違いない。あの人だ。
「あ、あの・・・」
「え?」
私より少し背丈の高い彼女が振り返る。寒さのせいだろうか?頬を真っ赤にして。
凛としていて――先輩という事もあるけれどまるで敵いそうに無い大人の雰囲気。密かに慕っている人。
「え、えっと・・・憂ちゃんの友達だよね?」
振り返り美人というのかな?切りそろえた前髪がふわりとなびく。
澪先輩だった。
ちらちら目線を合わせようとはするけれどどこか明後日の方向を見ている。
「は、はい
「純・・・ちゃんだっけ?」
返事を遮る様に私の名前を呼ぶ。
嬉しかった。入学前の部活動見学でしか関わったことなかったのに、私の名を覚えていてくれた。
以外と人見知りなのだろうか、先輩は髪を弄りながらあ・・・えっとと声を漏らす。
「今日は一人なんですか?」
「あ・・・ああ、ちょっと友達に落ち合う前にプレゼント買おうと思って。」
「そうなんですかー。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・純・・・ちゃんは?」
ためらいながらももう一度私の名を呼んでくれた。
よく、梓や憂と冗談交じりで掛け合う”軽音部に入ればよかったね”。
本当にそう思う。
つい、意地を張って別にくやしくないもん!とは言うけれど少し後悔している。
入学式の前。憂のコネでだれよりも早く軽音部の見学ができた。
とても軽音部とは思えないまったりとした空気。
真面目に部活をやりたかった私はその雰囲気に馴染めなく入部する気にはなれなかった。
けれど今年の学園祭でその決断に後悔した。
その時、あの真面目な梓がなんであんな腑抜けた部にいるか、理由が分かった。
私もあの時、軽音部の本質を見抜けていれば・・・今頃こう澪先輩とたどたどしく会話をしていなかっただろう。
秋の学園祭の日。憂の最愛の姉の事唯先輩。その唯先輩がいない間澪先輩がボーカルをやっていた。
ハスキーで語尾が上がる独特の癖のある歌い方。流し目でフレットを抑えながら一生懸命歌うその姿に一発で虜になった。
そんな澪先輩に虜になったのは私だけじゃなかった。
梓の話によると本人半非公式のファンクラブがあって、噂だと生徒会の人が会長をやっているらしい。
クラスの子も時々廊下で澪先輩を見かけては黄色い声を上げる人もいる。
でも今はその澪先輩のプライベートの時間を私が独り占めしている。
私服の先輩は本当に大人っぽくて格好良くて、なんていうか文字通りいい女で・・・こんな駅前一人で歩いていたらナンパにでもあうんじゃないかと思った。
「あ、そろそろ行かなきゃ。」
「すいません、忙しいのに足止めしちゃって・・・。」
「そんな事ないよ?あ・・・。」
思いついたように先輩は財布から何かを取り出す。
「もう買物しないし、あと一枚で引けるからよかったら使って?」
いかにもさっき貰ったばかりという感じの折り目のついてない福引券。
「あ・・・ありがとうございます。」
ただの紙切れといえどあの澪先輩から貰った物・・・。この現場をファンクラブの人にみたら殺されるかも・・・。
そう言って甘い香り残して先輩は去っていく。
数分の出来事。それなのにサンタクロースの衣装以上に頬を赤くする自分がいる。
やっぱり澪先輩は格好良いなあ・・・。先輩に会えるなんて・・・もう今年のクリスマスプレゼントはいらないかも?
憧れの先輩と会話ができて浮かれる自分。ふと、貰った福引券を見ると白い紙が混じっている。――レシートだ。
5桁の数字・・・金額の横に記された商品名。
その文字を見た瞬間さっきの浮かれた気分が一気に冷める。振り返るとき先輩が顔を真っ赤にしていた理由が分かった。
やっぱり私は澪先輩と恋人とか・・・そんな仲にはなれないよね。
やけくそ気味にクリスマスソングを口ずさみながら帰路に着く。
別に・・・くやしくないもん・・・。澪先輩に恋人がいたって・・・。
***
――ガララ・・・・コロッ
「はあーあ・・・。」
期待はしていなかったけれどやっぱり残念賞。満面の作り笑いでお姉さんがポケットティッシュを渡す。
所詮私と澪先輩の関係もこんな物なんだよね・・・。
さっさと家に帰ろう。今夜はケーキの妬け食いだ!
レシートに刻まれた”RING”の文字。
くしゃくしゃに丸めてぽいっとゴミ箱へ捨てた。
終わり。
枕元にプレゼント置くまでの間暇だったからちょこちょこと書いた。
暇つぶし程度にどうぞ。