【咲-Saki-】 竹井久×福路美穂子 【隔離スレ】

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277名無しさん@秘密の花園
 改めて考えてみると、性行為というものは実に面倒なものだ。必ず四方を壁に囲まれた
プライベートな場所で、しかも何か柔らかいものの上で行われなければならないし、事後
には必ず井戸の底に突き落とされるような疲労に付きまとわれる。さらに言えば通常のも
のだけでなく男同士でも女同士でも、個人差はあるだろうが少なくない量の液体が流れる。
匂いもある。事前にあれこれと頭の中だけで想像すると、なんで人間はこんなことをしたが
るんだろう、と奇妙な気分になってしまう。
 ということを美穂子に話してみると、いかにもおかしい、という風情を全身に表して、彼女
はころころと笑声を上げた。ハムスターが風車を回す時のような声だった。私も苦笑いで
返した。何せ場所は自室のベッドの上で、姿は2人とも一糸纏わぬ状態だったからだ。
「久は私が何を聞けば笑ってしまうのかを心得ているのね」
 ひとしきり笑ったあとで、美穂子はぐるりと首を回した。横になるのが疲れると、私たちは
ベッドに座り込む。私は毛布を抱え込み、あぐらをかいてのんびりとしているが、美穂子は
足を崩していても揃えているし、姿勢もだらしなくはない。ぎしり。わずかなベッドの揺れを、
美穂子は器用に身体から逃がした。
「だって本気で思うんだもん。美穂子が目の前にいないときは」 
「じゃあ、私が目の前にいるときには?」
「少なくとも抱きしめたくはなってるわ、いつもね」
 まあ、と美穂子は笑った。私も幸福感に包まれながら、多分頭の隅の方で、でもなあ、
なんて思っている。人には聞かせられない恥ずかしい話だ。私自身、独りで冷静になって
みると、恥ずかしさで転げ回ってしまうかもしれない。そういうことを平気で言えるというの
は、やはり性行為というのは、それだけ複雑な手続きを踏むだけのことはあるのだろう。
人間をこんなに素直に、というよりは狂気に足を一歩踏み込んだような状態にさせるのだから。
 それは美穂子にもそう作用するのか。顔を赤くし、俯かせながら、彼女はぼそぼそと
本音のようなものを呟いた。
「私もね、少し思ったの」
「ん? なに?」
「一度脱いだ下着ってね、洗濯しないと、もう身に付けたくなくなるのね」
 ああ、と私は頷いた。
「わかるわかる。5分穿いただけの靴下とかもさ、一度脱いじゃうとなんか汚くなったみたい
 に思えるよね」
「そうなの」
 美穂子はいかにも真剣そうに、頬に手を当てて頷き返した。
「だからね、久」
 そして、顔の赤みを深くして、呟いた。
「私、替えの下着を持ち歩くようになっちゃったわ」
 美穂子の身体までが綺麗にピンク色に染まる。話の内容も相まって、私も慌てて目を
逸らした。その、いつでもセックスをする覚悟がある、ということに等しい内容は、美穂子が
口にするにはいささか性的すぎる内容だったからだ。ちらりちらりと美穂子の足の付け根
に視線を送ると、いかにも恥ずかしげに美穂子はそこに手を置いた。私はさらに目を逸らした。
278名無しさん@秘密の花園:2009/11/14(土) 19:48:20 ID:PsKP49Uk
 お互いの身体が標準からどのようにずれているのか、それとも実は標準そのものなのか、
そういうことも私たちにはよくはわかっていない。お互いが初めて愛し合った女性だったし、
そういうことに対する知識も少ないからだ。また性交渉に関する知識もそうはなく、私たちは
日々手探りで、それに関することを行っている。と言っても、結局はまだ数回程度しか経験
はない。互いの家に家族がいないと確信できるときでなければ出来ないし、なんとかホテル
に行くほどのお金も度胸も持ち合わせはない。性欲なんてなければ幸せかなとも思う。とは
いえ、美穂子の白くてやわらかい、しっとりとした肌や、ピンク色にわずかに存在を主張する
胸の突起、くすぐったそうに辛そうに身を捩らす仕草や、目を逸らしつつ小さく声を潜めて喘
ぐさまなどを想像してしまうと、私自身も胸がどきどきとしてしまうのではあるが。やはり人間、
本能からは逃れられないものらしい。
 美穂子の痴態は、一度瞼の裏に張り付いてしまうと、容易にはとれなくなる種類のものだ。
それは日々の生活のどこかしらで、するすると表に出てきてしまう。教室でノートをとってい
るとき、その紙の白さに目を焼かれて。ぐいと白を盲牌するとき、その手触りを思い出して。
日常生活の様々な部分で、様々な美穂子の姿がぬっと顔を出してくる。それは勿論心地よ
いものだが、その心臓を柔らかくしかし急激に包み込まれるような気分は、簡単に慣れるも
のではない。たまに過呼吸でも起こしそうになるのではないかと感じてしまうのだ。
 ただ、私が最も心を乱されるのは、美穂子が私でそのような症状を起こしているとしたら、
と想像する瞬間だったりする。




 美穂子の部屋でしたのは過去に2回だけだ。そのときはどちらも恋の熱情にやられ、頭が
パンクでもしそうな状態で行っていたために気付かなかったのだが、実際美穂子の部屋は、
私にとってアウェーである。なにせ四方八方から美穂子の匂いが漂ってくるのだ。机や本か
らですら、ふわりと美穂子の存在が主張される。もはやどうしようもない。布団に顔でも押し
つけようなら、などと考えると、それだけで顔のあたりの熱量が増すし、腹部が何か、なんと
も言えない感じになる。それが生理中の、あの腹の内部を大勢の小人に蹴られてるような不
快感とは全く違うところが、私をとても恥ずかしくさせる。

 だから今回、美穂子の部屋で唇を奪われた時に、ああしまったな、うかつだったなと思った。
思ったが、もう仕方ないなとも感じた。なにせ美穂子に会うのは10日ぶり、声を聞くのは3日ぶ
りだ。その間、美穂子のフラッシュバックに悩まされ続けた私には、かなりの飢餓感がある。
そんな私が、前後上下左右、美穂子で溢れている部屋に入ればどんな状態になるかは、火を
見るよりも明らかだろう。
279名無しさん@秘密の花園:2009/11/14(土) 19:50:05 ID:PsKP49Uk
「……久」
 水音とともに、何かに取り憑かれているような目で、かすれた喉で、美穂子が私に覆い被さってくる。
布団の上で半身になって、私はぼんやりと美穂子を見上げた。
「美穂子」
 発音した途端、また唇が呑まれる。途端にお腹が重くなる。あーあ、と頭の隅が唸った。替え
の下着が必要というのは、確かなことなんだなと。それをされただけで、多分下着が湿るくらい
に何らかの液が分泌された、という感触が登ってきた。
 鼻だけで呼吸をしながら、身を絡ませ合った。甘くて熱い鼻息が、身体の隅々に染みていく。
んん。ふぅん。どこが天井かシーツかわからなくなる。息や体温が服ごしに混じり合い、ぐるぐ
ると渦を作っている。
「美穂子ぉ」
 自分が発声したとは信じられないくらいの、甘ったるい声だった。きっと清澄では誰も私と
は信じてくれないだろう。ごくり、と美穂子の喉が動くのが見える。でも仕方ない。こんな八
方を美穂子に囲まれたような状態で、私に抵抗などできるわけがない。
 美穂子が私の部屋でそうなるように。その想像が、私の頭にさらなる膜をかけていく。私の
匂いで興奮している美穂子の姿は、私にとって最高の媚薬になる。
 上手くできたかどうかわからないが、私は美穂子に微笑んでみた。淫靡な、相手を誘うよ
うな表情を狙ってみたのだが、美穂子にどう映ったのかは不明だ。鏡の前でそんな練習を
したこともない。でも、その表情のままでぐいと上着を上げたとき、まるでシマウマを捕食す
るライオンにも似た風情で、美穂子が覆いかぶさってきた。
「久。久、お願い……」
 何かに耐えるように言うと、じっと私の目を覗き込む。その顔はぼわんと真っ赤になり、
性的な、しかしいつも私の下にいる時とはまた別種の、肉食獣のような部分も垣間見せている。
「……私にさせて」
 囁くように、耳元で言った。思わず微笑みそうになり、私はまず背筋を伸ばした。そして下
から、美穂子をぐっと抱きしめる。頬と頬を擦り合わせて、私は耳元で囁いた。
「たっぷりお願いね」
 わざわざ言わなくてもいいのに、黙って犯してくれる方が心地いいのに。あんなに熱い声
でそんなことを言ってしまう私の恋人が、私は愛おしくてたまらないのだ。
 触れ合った頬は、熟した桃のような感触だった。



 ブラを外した途端、獣のように美穂子が被さってくる。その熱い吐息のままで、喉の横の
方にかぶりついた。ん、と私の喉が鳴る。美穂子はれろ、と口の中で喉の皮膚をなめ回す
と、手で器用に私の乳房をまさぐった。随分と冷静だ。悔しさのようなものを感じながら、
でも私の感覚が熱を帯びていく。
 ゆっくりと確実に、美穂子の手は私の乳房を変えていく。ぎゅっと握る。ふるふると揺らす。
指先から脂肪を溢れさせる。ゆるりゆるりと上下させる。それでも、敏感な突起には触れ
ない。どんどん身体が愛撫に物足りなくなっていく。たまらなくなって、はあ、と私は息を
ついた。
 それが合図になったかのように、美穂子の顔が下に降りていく。鎖骨を歯でなぞり、胸骨
に唇で触れた。ぞくり、ぞくり。私の脊椎が期待でりんりんと鳴っている。わずかに、美穂子
が微笑む気配がした。思わず目を開いた瞬間、きりりと私の敏感な部分からの刺激が、
身体と快楽中枢を灼いた。
「あぅぅっ」
 思わず声が出る。と同時に、びくりと上半身が折れ曲がった。右の乳首を吸いたてられ、
左の乳首は美穂子の親指と人差し指の中にある。
 意識しないうちに、右手がシーツを掴んでいた。開けたと思った瞼は既に閉じられている。
突起をぐりぐりと握られ、やわやわと押さえつけられ、舌の上や下で弄ばれ、歯で細かく
激しくいたぶられる。乳房の柔らかくゆっくりと持ち上げられる感覚とは違い、それは与え
られるたびに目の奥に光が走り、頭の奥がちりちりとなるものだった。
 数分後、美穂子が乳首から口を離した。安心する間もなく、唾液混じりでさらに敏感に
なったそこへ、指と爪が攻撃をしかけてくる。ぅぅ。唸り声のようなものがでる。
「ひさ」
 耳元から、美穂子の声が侵入してきた。応える余裕はない。両手で器用に両胸を弄りな
がら、美穂子は一度頬に口を付けると、また耳元に顔を移動させた。
280名無しさん@秘密の花園:2009/11/14(土) 19:51:07 ID:PsKP49Uk
「声、聞かせて」
 きゅっと乳首が抓られる。うんっ。痛み半分甘さ半分の声が、頭の上から漏れる。目はき
つく閉じた。歯も食いしばっている。美穂子は優しげな、しかし情欲に濡れた声で、私の身
体の中に熱を送ってきた。
「いっぱい、聞かせて。久の声、いっぱい、私に刻んで」
 美穂子の匂いに囲まれて。美穂子の身体に包まれて。美穂子の声に入られて。私の身
体は既に私のものではないようだった。私は身を捩りながら、美穂子の愛撫に耐えていた。


「ひ、ぃっ……」
 その部分を布越しでいじられると、それだけで声が出る。そんな部分が身体にあるというのが
信じられない。胸の突起を吸われながら、下着越しに触られる。その刺激だけで何故砂糖をま
ぶしたケーキのような甘ったるい声が出て、陸に上がった魚のように身体がぴくぴくと震えるの
か、私にはとうてい理解が出来ない。
 美穂子の愛撫は、ゆったりとしていても相当にねちっこかった。同じ部分を長い長い時間を
かけて、様々にいじくりまわすのだ。それが身体に染みていく。こちらの状態をまるで観察し
ているかのようだ。とても美穂子らしいと思う。しかしそれが私の身体にとって幸福なことな
のかどうかは、よくはわからない。
 横抱きのような姿勢で、美穂子は指を下腹部に差し入れ、実に器用にくにくにとその部分
を愛撫している。それがあまりに的確なので、私には喋る余裕がなくなっていた。常に感じ
ているわけではないが、私が喘ぎ声と涎以外のものを口からはき出そうとすると、枕にして
いる片腕を器用に動かし、唇でそれを塞ぎにかかってくる。涙が出るほどに正確なそれに、
私は踊らされ続けていた。まさに好調なときの美穂子の麻雀を、身体で再現されているよう
だった。
「下着の替えなんて、持ってないわよね」
 熱を帯びても静かな声が、私の肌を撫でている。余裕たっぷりに答えようとしたけれど、
声が出る瞬間にまた敏感な場所を責められた。いぃっ。結局は意味のない喘ぎ声が、喉
の手前から漏れただけだ。
 生理のとき以上に分泌されている液体は、下着を容赦なく濡らしている。
「そろそろ脱ぐ? このままがいい?」
 子猫に話しかける優雅な貴婦人のように、ゆったりとゆったりと、美穂子は私の耳元に
声を送り続ける。私はびくりびくりと跳ねながら、それを身体に溜め込んでいる。
 また答えようよした瞬間に、今度は唇をふさがれた。美穂子は私の身体の状態すべてを
把握しているらしい。しかし今の私にそんなことを考えている余裕はない。与えられた唇
による愛撫を、腹を空かした豚のように貪るだけだ。
 指をぐにぐにと動かされたままで、咥内を舐られる。私も自然と行っていたその愛撫が、
これほどまでに身体に効くものだとは思ってもみなかった。思考回路が寸断され、まとも
に快楽を受けてしまうのだ。性的な部分の感覚が鋭くなり、それ以外が限りなく鈍くなる。
今や私は、アザラシのように悦楽に蠢くだけの存在になっている。
 ぷあ。唇を離すと、美穂子は笑った。両目が緩く開いて、完璧に妖艶な何かが浮かんでいた。
「久の味がしなくなった」
 ぎりりと布越しに指を突き立てられた。涎交じりの顎が仰け反らされる。
「私、久を食べちゃった」
 今の瞬間、大量に液体が分泌されただろう。その確信と、純粋な羞恥で、私の何かが
壊れた。たまらなくなって、両腕で顔を覆う。そんなことをしたのは初めてで、それがさら
に羞恥を煽った。最後に映った美穂子の顔には、やはり妖艶な色が浮かんでいた。
281名無しさん@秘密の花園:2009/11/14(土) 19:53:14 ID:PsKP49Uk
「ううぅぅぅっ!!」
 いつ下着を脱がされたのか私は覚えていない。そしていつ自分が自分の足を抱え、美穂
子のされるがままになっていたのか、それも覚えていない。ただ、股の間が、快楽か羞恥か
それらの混ざったものによるものか、かつてないほどに熱かった。
「あぁぁ……」
 普段は隠し、見られないようしている部分に、美穂子の顔がぐいと突っ込まれ、あまつさ
えぺろぺろと舐められている。その事実だけで頭がおかしくなりそうなのに、美穂子はまた
的確に私を責め立てた。口元に垂れた自分の涎が気にならないほどに、私の感覚は一部
分だけに集約されている。
 脚を大きく抱えられているので、私の敏感な部分はすべて美穂子にさらけ出されている。
美穂子は目を伏せ、普段の母親のような表情とは完全に違う色のもとで、私への愛撫を
行っている。
「ひ、ぁ……」
 太股をれろりと、舌で嘗め回される。普段ならくすぐったさを覚えるであろう感触が、身体の
内側をまるで生卵を捕むときのように、快楽を刺激している。そしてすう、とそこに意識がいった
途端に、指が性器の突起を刺激しにくる。私はまさにまな板の上の魚のように、美穂子の愛
撫のされるがままに、びくりびくりと跳ねているだけだ。
「久は、素敵だね」
 呟くような声と共に、膣にふうっと息が吹きかけられた。
「ひゃん!」
 頭のてっぺんから出たような声は、いったい誰のものだろう。羞恥で赤い顔がさらに赤く
赤くなり、思考力がどんどん奪われていく。
 美穂子がくすりと笑った気配がする。
「らいふき」
 突起を口に含みながら、美穂子は声を出したらしい。敏感な部分が歯や舌や粘膜にあた
り、ぐるぐると震える。電気が通るというのは本当のことだ。
「いつもかっこいい久の恥ずかしいところ、もっと見せて」
 いやぁ。また、自分のものでない声が出る。導線で作られた哀れで愉快なマリオネットの
ようだ。
 美穂子は左手で乳房を揉みしだきながら、右手で膣を弄くり回している。入り口をくにく
にと刺激したと思えば、内側を指のひらで撫で回し、ふいに奥に突き入れたりもする。ど
こで覚えたのだろう。私はこんな責めをしているのだろうか。そんなことを考えている余裕
は既にない。ただただ、美穂子に身体ごと弄ばれるだけだ。
「みほこぉ……」
 1時間くらい前まで竹井久だったはずの物体が、まるで溶けたバターのように弱々しい声
を上げ、死にかけのカエルのようなひ弱さで身体を蠕動させている。口の中で転がされてい
る胡桃になったような気分だ。すべての場所から、美穂子の身体のすべての部分が、私の
身体のすべての部分に愛撫を繰り返している。
「好きよ、久」
「みほこぉ、みほこ、みほ、お、あぁぁ……」
 背骨にハッカでも仕込んだのか、と感じるほどに背が一定しない。上に跳んだり、右に捻
られたり、自分の意志から完全に逃れている。
「いぅっ。あっ、はあぁぁっ」
「久。久。久。久」
 お腹から高まってくるのがわかった。それは心臓を突き抜け喉元を抉り、唇に予感をたぎ
らせ鼻腔を抜ける。
「来る。来るよっ。みほこ。みほこっ」
 すべてを了解したように、美穂子は膣口に口を付けた。私が最も求めていた部分への、
最も求めていた愛撫だった。美穂子は両足で抱きかかえるように私の背中を挟み込むと、
それこそ捕食するような勢いで、私の膣を吸い込んだ。
 きゅぅぅ、と口の中で何かが鳴った。下腹に杭が打ち込まれた。脳がぐるんと裏返った。
282名無しさん@秘密の花園:2009/11/14(土) 19:54:56 ID:PsKP49Uk
「みほこっ。来るっ。みほこ、みほこっ」
「いいお、いあ」
 子宮の中に子どもがいたら吸い込まれてしまうと思った。私のすべてが吸い込まれたら
いいと思った。氷混じりのジュースをストローで吸い込むような音が、耳の奥から響いてき
た。唇のあたりがぬめぬめとした。喉の奥は焼けそうだった。
「やだ。やだ。みほこ。みほこ。やだあっ。あ、あ、あああ……」
 シーツを握っていた両手を、美穂子の手が探り当てた。反射的に私はそれをぎゅっと
握った。美穂子も同じ力で握り返した。
 美穂子と、繋がった。美穂子に、繋がれた。その感覚が、瞬間的に身体の中で弾けた。
「うううぅぅぅ……」
 まるで爆発するように、背骨が破裂した。美穂子の身体から逃れるように、右に2度蠕動
する。黒目がぐりんと後ろに行った。感覚が何か妙な状態になり、白い遠くのところに押し
出されていく。自分の存在がふにゃふにゃと落ち着かない。はっ、はっ。短い息が遠い。す
べてが遠い。これが幸せということなのだろうか。それとも全く別の何かなのだろうか。わか
らない。わからなくていい。美穂子がいる。こんなに近くにいる。だからいい。全部いい。ねえ、
美穂子。そうでしょ、美穂子。美穂子。
 蠕動を続けていた私の身体がどさりとシーツに包まれるまで、5分ほどの時間がかかった。



 意識はわりとすぐに戻ってきた。飛んでいたのも、多分数分くらいだろう。何か形容し難い
だるさが、蓑虫のように私を包んでいた。今が私一人だったならば、このままぐっすりと眠り
込んでいたのかもしれない。
 しかし私がぼんやりとでも覚醒したのは、ある種の息苦しさを感じたからだ。猫が顔の上
で寝ているような心地、と認識して、ああなるほどと気づいた。先ほどまでの行為の相手が、
私の唇をきゅうきゅうと吸っているのだなと。
 電気が通ったあとのような身体の感覚を、苦労して掴みにかかる。唇は口の中の飴を弄ぶ
ように、完全になすがままだった。その感覚だけでも、彼女が普通の状態でないことがわかる。
 気づかれないように呼吸を整えると、ばきばきと関節が鳴っているのを無視して、思い切り
行動に移した。側でかがみ、私の唇を夢中で吸っている美穂子の身体を、ぎゅっと抱きしめる。
のと同時に身体を反転させて、ベッドの上に美穂子を押さえつけた。ひゃっ。可愛らしい声が
漏れた時には、既に私が美穂子の上に乗っかっていた。とはいえ無理をしすぎたのか、頭は
ぼうっとしているし、左腕ががくりと折れた。それでも苦労して、にいっと笑ってみる。
「みーほーこー」
 その左手で、眉をぎゅっと寄せている美穂子の頬を掴む。柔らかくてかなり熱を帯びている
そこを、ぐにぐにと引っ張った。
「久」
「やってくれたなー」
「……ごめんなさい」
 本気で申し訳なさそうにしている美穂子の表情が面白くて、私はにまにまと頬を引っ張り続けた。
「きもちよかったよー」
 言って、頬に口付ける。美穂子の目尻には既に涙が浮かんでいた。まったくこういうところは
どうしたものか。でも今はあまり深く考えられない。身体も限界だ。頬から指を離すと、またど
さりと美穂子の横に倒れ込んでしまった。
283名無しさん@秘密の花園:2009/11/14(土) 19:57:06 ID:PsKP49Uk
 白い天井が、まだちかちかとする目に優しく映る。
「凄かったよ、美穂子」
「……久が、いつもとあんまり違うから」
 右手が、ぎゅっと握られた。美穂子の身体の方がはるかに熱かった。
「いつもよりずっとずっと可愛くて、なにがなんだかわからなくなったわ」
「美穂子」
 手を握り返す。呼吸も収まってきた。地和を振り込んだ時以上の気怠さと、天和を上がった
時くらいの満足感が、私の心に降りていた。
「美穂子に可愛がって貰えて、私は凄く幸せだよ」
「久」
「美穂子は私を抱いて幸せだった?」
 首の向きを変える。顔を真っ赤にして、目尻に涙を溜めた美穂子が、幾分恥ずかしそうに
こくりと頷いた。
 私はにこりと笑うと、身体を無理に動かして、その美穂子の頬に口付けた。
「またしようね」
 至近距離で、みるみるうちに美穂子の顔が崩れていく。美穂子の涙の感覚も、付き合いが
長くなれば慣れてくる。私の身体を責めたことで、何か罪悪感のようなものを感じているのだ
ろう。いつも自分がされているのに。気にすることなど全然ないのに。そういう自己罰的な部
分は、修正した方がいいかなとも思う。
 ぐすぐすと泣いている美穂子を抱きかかえて、私はちらりとそんなことを考えていた。どちら
にしろ、美穂子が泣きやむまではしばらくかかりそうだったし、また私と美穂子の付き合いだって、
そう簡単にはなくならないものだ。まあ、今幸せだし、いいかな。と自分を納得させて、私はゆ
るやかに目を閉じた。眠り込む時間もまた、ある程度はありそうだった。


 この恥ずかしさは何に起因するんだろうと毎回思う。性行為のあと、2人でのそのそと服を
着るのは。1人づつシャワーでも浴びに行けば少しはましになるのだろうが、人の家の廊下
を裸で歩き回るのも気が引ける。身体を拭いて下着と服を身につける間、相手の身体を見
ていいものかどうか、目を逸らすのは失礼なのかどうか、じっと考えてしまうのだ。
 身体つきがあまり変わらないからか、美穂子のストックの下着は私の身体に違和感なく当
てはまった。するりと脚をそこに通して、私も換えの下着を持ち歩こうかとちらりと思う。私の
下着は既にぐちゃぐちゃだ。私に喘がされる美穂子がその恥ずかしい思い付きを実行に移し
たのも、どうにも当然という気がする。
「……恥ずかしいね」
 目を逸らしたままの私の肌が、喋りかけた相手が真面目にこくりと頷いたのを感じた。少し
笑って、制服のスカートを上げる。少し前まで好きやら何やら言っていたのが信じられない。
性行為のときは、本当に自分が自分でなくなっているようだ。あんな恥ずかしいことを、堂々
とできるなんて。
284名無しさん@秘密の花園:2009/11/14(土) 20:00:26 ID:PsKP49Uk
「……久」
 美穂子の声が届いた。スカートをはいて、ブラもつけて、そろそろ恥ずかしさもなくなって
いる。振り返ってみると、きっちりと服を身に着けた美穂子が、少し恥ずかしげに、そして誇
らしげに微笑んでいた。
「ありがとう」
 その笑顔があまりに美しかったので、私の動きは止まってしまった。半歩近づいて、美穂
子は私の目を見つめた。
「美穂子」
「私といてくれて、私を抱いてくれて、私を受け入れてくれて。久、ありがとう」
 恋人に面と向かってそんなことを言われて、嬉しくならない女はいないだろう。赤くなって、
泣きそうになって、俯いてしまうのも。ただ、素直にそうするには、私はきっと、竹井久であ
りすぎた。いっぱいになった胸を喉のあたりで押し留めて、私はきゅっと唇を結んだ。こう
いう場所こういう場面では、どうしても格好をつけたかった。目に涙がたまるのだけは、防
げなかったけれども。
 ああ。今こんなに私が格好を付けたいのは、もしかしたら抱かれていたときに、美穂子に
甘えすぎたからかもしれないな。
 涙混じりにくすりと笑うと、私も美穂子に一歩近づいた。
「その唇」
「え?」
「さっきまで私の舐めてた唇」
 途端に美穂子は真っ赤になり、口を両手で押さえた。その仕草に私は心から笑って、
美穂子の側面に回り込んだ。
「こちらこそ、ありがとう。美穂子」
 私の頬も赤くなる。それを隠すように、私は腕を美穂子の背中に回した。一瞬震える
ように、美穂子の身体が動く。それでも構わず、私は軽く美穂子の身体を抱きしめると、
そのまま頬に口付けた。
 こんなことをするりと出来るようになるなら、セックスも悪くはないかな、と思った。