【咲-Saki-】 竹井久×福路美穂子 【隔離スレ】
改めて考えてみると、性行為というものは実に面倒なものだ。必ず四方を壁に囲まれた
プライベートな場所で、しかも何か柔らかいものの上で行われなければならないし、事後
には必ず井戸の底に突き落とされるような疲労に付きまとわれる。さらに言えば通常のも
のだけでなく男同士でも女同士でも、個人差はあるだろうが少なくない量の液体が流れる。
匂いもある。事前にあれこれと頭の中だけで想像すると、なんで人間はこんなことをしたが
るんだろう、と奇妙な気分になってしまう。
ということを美穂子に話してみると、いかにもおかしい、という風情を全身に表して、彼女
はころころと笑声を上げた。ハムスターが風車を回す時のような声だった。私も苦笑いで
返した。何せ場所は自室のベッドの上で、姿は2人とも一糸纏わぬ状態だったからだ。
「久は私が何を聞けば笑ってしまうのかを心得ているのね」
ひとしきり笑ったあとで、美穂子はぐるりと首を回した。横になるのが疲れると、私たちは
ベッドに座り込む。私は毛布を抱え込み、あぐらをかいてのんびりとしているが、美穂子は
足を崩していても揃えているし、姿勢もだらしなくはない。ぎしり。わずかなベッドの揺れを、
美穂子は器用に身体から逃がした。
「だって本気で思うんだもん。美穂子が目の前にいないときは」
「じゃあ、私が目の前にいるときには?」
「少なくとも抱きしめたくはなってるわ、いつもね」
まあ、と美穂子は笑った。私も幸福感に包まれながら、多分頭の隅の方で、でもなあ、
なんて思っている。人には聞かせられない恥ずかしい話だ。私自身、独りで冷静になって
みると、恥ずかしさで転げ回ってしまうかもしれない。そういうことを平気で言えるというの
は、やはり性行為というのは、それだけ複雑な手続きを踏むだけのことはあるのだろう。
人間をこんなに素直に、というよりは狂気に足を一歩踏み込んだような状態にさせるのだから。
それは美穂子にもそう作用するのか。顔を赤くし、俯かせながら、彼女はぼそぼそと
本音のようなものを呟いた。
「私もね、少し思ったの」
「ん? なに?」
「一度脱いだ下着ってね、洗濯しないと、もう身に付けたくなくなるのね」
ああ、と私は頷いた。
「わかるわかる。5分穿いただけの靴下とかもさ、一度脱いじゃうとなんか汚くなったみたい
に思えるよね」
「そうなの」
美穂子はいかにも真剣そうに、頬に手を当てて頷き返した。
「だからね、久」
そして、顔の赤みを深くして、呟いた。
「私、替えの下着を持ち歩くようになっちゃったわ」
美穂子の身体までが綺麗にピンク色に染まる。話の内容も相まって、私も慌てて目を
逸らした。その、いつでもセックスをする覚悟がある、ということに等しい内容は、美穂子が
口にするにはいささか性的すぎる内容だったからだ。ちらりちらりと美穂子の足の付け根
に視線を送ると、いかにも恥ずかしげに美穂子はそこに手を置いた。私はさらに目を逸らした。