レズ声優出張所Part13

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865亀ひよ 1/2



「何なに、失敗作〜?」

クッキーの包みを出した途端、ひよはニヤニヤと変な顔をした。

「そ、そんなことないもん!」

せっかく喜んでもらおうと思って頑張ったのに、あんまりだ。私は一度出した包みをすぐにバッグへ引っ込めた。

「そういうこと言うならもう、なしね」

ぷいっと反対側を向くと、すぐに「えぇー!」という残念そうな叫び。

「ごめんなさい!亀様!」
「……もう」

そんな顔でお願いされたら、怒ってた気持ちが萎えちゃうよ。
私は俯きながら向き直って、怖ず怖ずと包みを差し出した。

「はい。ひよのために頑張ったんだからね…?」

あぁ、この台詞はもっと軽い感じで言うつもりだったのに。
きっといっぱいいっぱいなのがバレバレだ。

「か、亀?」
「何…」
「今のめっちゃ可愛い!キュンキュンしたっ」
「え?」

見上げると、ひよはすごく嬉しそうな表情で口元に手を当てていた。

「あ、ありがと」

ひよからストレートに褒められるのは珍しい。思わず頬が緩んでしまう。

「あーやばい。抱きしめちゃうとこだったわぁ」

笑いながらそう言って、クッキーの包みを受け取る。

「………」

なら、抱きしめてよ。
そう言いたいけど、言えるわけもない。きっと、いつもみたいに警戒されて、冗談だと済まされるだけだ。
866亀ひよ 2/3:2010/05/13(木) 02:04:34 ID:TTZWB1cZ

「一緒に食べよっか!」

見れば、もう包みを開けて目を輝かせている。

「もぅ、子供みたいなんだから」

こっちこそ抱きしめたくなっちゃうじゃん、ばか。
ひよは「亀に言われるなんて心外だな〜」と文句を垂れながら、テレビのリモコンをいじり始めた。

「何観るの?」
「映画だよー。借りてきたから、一緒に観よ」
「うん!」

一緒にクッキーを食べながら、隣同士で一緒に映画を観る。
夢みたいなシチュエーションに思わず胸が高鳴る。

「でもこれ長いんだよねぇ…二時間ちょっとって書いてある」

レンタル特有の簡素なDVDパッケージを睨むひよ。対して私はもっと頬が緩んでしまう。

「三時間でも四時間でもいいよ?ひよといられるなら」
「はぁ?なにこの子は、怖いわっ」
「うふふふ」

いつもと同じ軽口。ひよにとってはそうだろう。
でも、私にとっては……。

「…本気だよ?」

あ、今日はちょっと意地悪だ、私。
ひよをじっと見上げる。

「な、なに、どうしたの」

焦ってる焦ってる。
笑って視線を泳がせながら、若干赤くなるひよっち。
もう、本当に可愛いんだから。

「ひよっちは?」

可愛いせいで、意地悪が止まらない。
私は床についたひよの左手に手を重ねた。私より大きくて細い手が、ぴくりと震える。

「か、亀……?」

その頬が、より赤く染まる。
ダメ、そんな表情しないで。
冗談だよって、言えなくなってしまう。

「……答えてよ」
867亀ひよ 3/3:2010/05/13(木) 02:05:33 ID:TTZWB1cZ

もう離さなきゃいけないのに。
嘘だよー、って笑わなきゃいけないのに。
私は気付いたら顔が熱くてたまらなくなっていた。心なしか、目も潤んでしまっている気がする。

「う…え……」
「………」
「……だ、だぁーーーっ!」
「っ!?」

ひよは両手を挙げていきなり奇声を発し始めた。もちろん重ねていた手は弾かれる。

「ひ、ひよ?あいたたたっ」
「このばか野郎!からかうのもほどほどにしろーっ!」

ぐりぐりとげんこつを頭に押し付けられる。

「いたいいたいっ!ギブ〜!」

元ピッチャーの腕力で思い切り攻撃されたのだから、堪ったものじゃない。私が目尻に涙を溜めた頃、ようやく解放してくれた。

「年上をからかった罰じゃ」

ひよっちはフフン、と満足気に、それでも僅かに耳を赤くして言った。
年齢のことを言われるとなんだかムカムカする。一生縮まらない二年間が、まるで私たちの間にある壁のように感じるのだ。

「痛かった……」
「ほら拗ねないの。再生するよー」

目線はテレビに向けたまま、頬を膨らましている私の頭をぽんっと叩く。
やった方にとっては、何気ない行動だ。
でもやられた方は、不意に訪れた感触にドキドキしないわけはなくて。

「ずるい……」
「へ?なにが?」


やっぱり、惚れた方が負け、ってつくづく本当だと思う。