(こっそりエイラーニャを貼るテスト)
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夜間戦闘から2日後、久しぶりの休暇を貰ったのだけど、時差ボケが戻らない私と
サーニャは、相変わらず真っ暗なサーニャの部屋で寝ていた。
私は夢を見る。
星降る夜、高度10000フィート、遥か山脈の向こうへ届けとばかりに歌うサーニャ。
声を出せない私、歌声が心の奥底を温かく揺らす。
鼻歌のような声がだんだんと形を持って耳に届く。「…きて。おきて…」
「んぁ?」
世界が滲む。眩しい。目の前にはサーニャ。窓が開いて朝光が差しこんでいた。
「風が強くて…窓が開いちゃったの。もう、起きる…?」
サーニャ、少し寝癖がついてる。曲がった前髪も似合ってるなんて欲目ダナ…。
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「ブルーベリー?」
私が聞き返すと、サーニャはちょっと首をすくめて小さくうなずく。
「その…おいしかった、から…」
サーニャはブルーベリーが食べたいと言った。オローシャにはブルーベリーは
なかったんダナ…なんて思いながら、少し考える。サーニャが自分から何かを
ねだるなんて本当に珍しい。出来る事なら叶えてあげたい…。
「し、し、少佐に相談してみるよ」
「うん…ありがとう…」
上目遣いでサーニャに見つめられると、どうしてもちゃんと話せなくなるんダナ…。
あぁ、こんなんヘナチョコじゃ、サーニャに相応しくないよな…とか自己嫌悪。
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日陰が濃い。午前11時、私とサーニャは田舎道を二人で歩いていた。
サーニャは麦わら帽子をかぶっている。
風に飛ばされないように、軽く手を添えて、生真面目にゴムも顎にかけて
なんだか女の子の遠足みたい。
少佐に相談したら、真面目な顔つきで「どうした?なにかあったのか?」なんて
聞かれた。思わずサーニャの名前が口から出てしまって、少佐は小さく笑うと、
基地の近所でブルーベリーを栽培している農家を教えてくれた。
きっとあの魔眼で、私の気持ちなんて全部お見通しなんダナ…。
「エイラ…。あれ…」
サーニャが私の手を取る。小さくて涼やかな手のひらの感触。
私はびっくりして背筋が伸びてしまう。
「どうしたの…?」
「や、いや…、なんでもない。それよりどうしたんダ?」
サーニャが手を引っ張って差し示す先には、小さな農家とブルーベリーの畑が
みえた。
「あそこ…かな?」
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農家のおじさんは好きなだけ持って行っていいよ、と言ってくれた。
さすがサーニャだな。みんなが優しくしたくなるんダ。
「…いっぱい…」
サーニャが山のようになったブルーベリーを見てつぶやく。
薄藍色の小さな実が沢山寄り添って、木になっている。
夏の日差しの元、風が吹き抜けて、木擦れの音が心地良くって、
二人して畑を目の前に茫然と立ち止まってしまう。
「サーニャ、行こっ!」
私は思い切ってサーニャの小さな手を取り、畑の方へ歩き出す。
「うんっ」
サーニャの返事の調子だけで、気持ちが手に取るようにわかる。
私はサーニャが喜んでくれていることが嬉しくて、少しだけ握った手に
力を込める。サーニャも握り返してくれる。
私は嬉しくて、恥ずかしくて、どうしたら良いのか分からなくて、
思わず手を握ったまま畑の中を走りだしてしまう。
「エイラ…早いよぅ…」
「わっ、ごっごめん」
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「これだけあれば、みんなのお土産も大丈夫かな…」
籠一杯のブルーベリーを抱えてサーニャが優しく微笑む。
まだ畑には一杯なってるし、もっと…とも思ったけど、言うのはやめた。
そんな控えめなサーニャが良いんだから。
農家のおじさんにお礼を言って、帰り道を歩きだす。
空は茜色に染まり始めて、私たちの影は長くなっていた。遠くに鳥の声。
二人とも口を開かない。
私たちは心地良い沈黙がある事を知ってるんだ、と思う。
不意にサーニャが私の袖をひっぱる。
「うん?」
「今日は、ありがとう。楽しかった…」
小鳥のさえずりのような声、花のような笑顔、言葉じゃ言い表せない
サーニャの優しい表情。胸の鼓動が速くなって、身体が自分の身体じゃ
ないみたいな感じで…。
思わずバカな事を言ってしまう。
「帰ったら、ジャム作ろうか、知ってる?私の故郷ではミートボールに
ジャムをつけてたべるんだ。結構おいしいんだな、コレガ」
「…えー」
サーニャが疑わしそうな目で私を見あげる。
「ほ、本当なんだゾ」
私はしどろもどろになってしまう。
「ふふふっ」「エヘヘっ」
サーニャが小さく笑う。私も笑う。夕日が沈まなければいいのに、と思う。
基地が夕日に染め上げられて、まるで教会のように見えた。