【ネギま!】近衛木乃香・桜咲刹那百合専用スレ(10)
[各種データ]
麻帆良学園中等部3年A組13番 近衛 木乃香
1989年3月18日生 (巳年・うお座) AB型
好きなもの:占い&オカルト、料理
嫌いなもの:あんまりない
所属:占い研究会、図書館探検部
備考:学園長(関東魔法協会会長)の孫、
関西呪術協会会長(近衛詠春)の娘(オヤジは元「悠久の風」のパーティ「赤き翼」のメンバー)
声優:野中 藍
麻帆良学園中等部3年A組15番 桜咲 刹那
1989年1月17日生(巳年・山羊座) A型
好きな物: 剣の修行。木乃香お嬢様(?
嫌いな物: 曲がったこと おしゃべり
所属: 剣道部
備考:京都に伝わる神鳴流の使い手にして、陰陽道にも通じる剣士・烏族ハーフ
声優:小林 ゆう
前スレに引き続き感動の話題作を心待ちにしていますブヒ
>>1乙。
明日バイト開始がえらい遅いのでお寝坊さんしなかったら投下しますのです(・―・)
>>1おつ〜
投下行きますのですよ、ブヒ。
遠く、誰かの声が聴こえる。
…誰?
聴いたことのある……声。
威厳と……優しさを兼ねた暖かさを持つ……………
あなたは…………………
「…せっちゃん?」
突然声を掛けられ撥ね起きる。
私と同じ位驚いたのだろう、お嬢様の表情はきっと私と似通っていた。
「あ……っ、すみません………」
「うなされとったよーな気したから…えと、起こしたろ思たんやけど…あは、要らんお世話やったかな」
「……いえ、そんなことは…ありません。
余計な気を遣わせてしまったようで……」
「あ、う、ウチもゴメンな?勝手に入ってきてもーて」
「え?」
言われて気付く。
そうだ、昨夜から纏わりついて離れなかった雑念を払う為に夜の校舎周りをひたすら走っていたんだ。
肺が限界だと叫んだ辺りで部屋に戻りそのまま眠ってしまったことを思い出す。
……今、何時だ?
「あ、………あかんっ!」
針はもう学校に向かわなくてはならない時刻を指していた。
何たる失態だ、いつも定刻にお迎えに上がるのに私が来ないことを不審に思われたのだろう、わざわざ出向いてくださったんだ!
「も、申し訳ありませんっ!!!
今すぐ支度致しま……いや、お嬢様先に…あ、いやそれも駄目か、ぅあ、えと!」
頭の中をお嬢様が遅刻しない為の算段が無数に走るが、寝起きと派手な失態によって混乱した私にはそれを実行に移すのは到底無理な相談だった。
「…あは、あはははっ」
私の慌てふためきをかき消すように、笑い声。
きょとんとして動作が止まってしまう。
「せっちゃん、あは、落ち着き?
ちょっと位遅れたって走れば済む話やて」
「しかし…っ」
「へーき。
せっちゃんかてお寝坊さんすること位あるやろ、いっつもそんな気張ってたらばててまうわ」
「…………でも、私は」
「せーっちゃん?
ウチの言うコトは聞かれへんの?」
「いえッ!!滅相もない!!!」
「なら大人しくそこ座り?朝ご飯作ったる〜」
ふんふん、と楽しそうな鼻歌と共にキッチンへと歩みを進める後ろ姿を見て溜め息をついた。
止めたって無駄なんだ。
おっとりした物腰からは想像も付かない位頑固なのだから。
ここは有り難くお嬢様お手製の朝食を戴こう。
…はは、
………敵わないなぁ。
きっと1限の途中からなら間に合う。
カチャカチャと食器の鳴る小気味いい音を聴きながら思った。
……もしかしたらあの声は…、お嬢様だったのかもしれない。
*****
届いた手紙に木乃香はかぶりを振った。
状況は芳しくない、とその流暢な筆文字が伝えている。
幾ら現頭主とは言え、詠春は国を治める地位に君臨しているわけではないし、一族の意向を決定し得る絶大な権限を有する者でもない。
勿論、大きな存在ではある。
しかし同時に一族を纏め従わせる立場。
それはつまり常に保守的な立ち位置でなければならないことと同義だ。
詠春は若い。
だが、その明敏かつ温和な性格が評価され現在の位置に就くに至ったのだ。
その若さと人望が詠春以前の古い勢力にとって目の上の瘤だったのは想像に難くない。
何より彼は新しい考えを持つ人間だった。
近衛家の古の慣習も詠春によって大分変貌を遂げている。
………その詠春が、刹那との本契約の意向をやんわりと折り曲げてきた。
思っていた以上に反発が強いのか、単にそれを見越しただけなのか。
反対されるだろうとは思っていたが、こんなに長い手紙で以てそれを伝えてくるとは。
認識の甘さに眉間に皺が寄りそうになるのを押し止どめる。
代表である頭主に反対されるということは一族がそれを望んでいないのだ。
詠春は顔つきからも分かるように非常に温和で思いやりのある人物だ。きっと会合の場で公表はしていまい。
だからこそこんな手紙を寄越してきたのだ。悪いことは言わないから諦めろ、と。
そうでなければ自分などとっくに京に移されているか下手したら幽閉だ。
父の懐の深さに改めて感謝しつつも、木乃香はやはり気持ちは揺らがないことを皮肉にもこの手紙で確信していた。
手紙はこう締められていたからだ。
『親としてお前の気持ちは最大限尊重したい』
それをそのまま受け取る程木乃香は馬鹿ではない。
しかしこれは父なりの自分へのメッセージなのではないか、と考えたのだ。
つまり。
頭の堅い連中を納得させてみろ、との挑発とも取れるメッセージ。
それが正しいかどうかはわからないが、どこか食えない父のやりそうなことだと思った。
カレンダーを見る。
もうじき連休が来る事を知らせる赤い縁取り。
丁度いい、会合の場で言わずとも父には自分の気持ちを底から話しておくべきだろう。
そう結論付けると木乃香は手紙を大切そうに引出しに終った。
その引出しの中には、あの日刹那にはらはらと舞い落ちてきた桜の花びらも含まれていた。
自分の家なのに少し戸惑う。
こんなに大きかったろうか。
暫く見ないうちに大幅な増築でもしたんじゃないかと思う程近衛家……いや、関西呪術協会本部は広大な敷地面積を誇り見るものを畏怖させる。
帰ることは伝えていない。
だから修学旅行の時のような出迎えはないはずだ。
正直、木乃香はあれが苦手だった。
大袈裟すぎるそれは否が応にも自分は他のクラスメイトとは異なる存在なのだと突き付けられるようで。
だからこそ刹那に惹かれたのかもしれない。
ごく普通の幸せとはなんだろう、と考えた先にはいつも刹那の顔が浮かぶからだ。
刹那は……多分自身に平凡を求めている。そう聞いたことはないが、そうだと木乃香は思う。
……問えば彼女は「強さ」を望むと答えるだろうが。
それに応えるのも役目かもしれない。
魔法使いを目指す切っ掛けのひとつ―今は理由の全てになっていたが―、刹那の癒し。
何をしているのかたまに傷だらけで帰ってくる刹那の為に何が出来るのか。そればかり考えていたことがある。
秘めた魔力を習練により上手く引出せばネギの父をも上回る治癒力を得られると知ってからは早かった。
………刹那の傍に居たかったのだ。
いつも守られるばかりで何も返せていない。だから、自分に出来ることを見つけたかった。
いや、それ以前に。
どこか冷めた目をした、色白の少女が……、好きだったから。
…きっと、初めて会った時から。
刹那を拾い助けた父にならきっと理解ってもらえる。
先ずは父を説き伏せ、それを取っ掛かりにいずれは協会の老中達を。
時間は掛かるだろう。
根気もいるだろう。
でも。
「……大丈夫やんな、
………せっちゃん?」
その名を呟く。
不思議とやや沈み掛けていた気持ちも上昇する気がした。
無理と知っても諦めたくない。
刹那と共に或る未来が欲しいから。
それ以外は要らない、何も。
ただそれだけのことなのだから。
単純かつ、明快じゃないか。
木乃香は軽く目を瞑り深呼吸すると、総本山へと続く長い…長い階段を登り始めた。
…木乃香は知らない。
この階段の先にある……現実を。
*****
「刹那さーん」
コンコン、と木の持つ柔らかい音がした。
その声が聞き慣れたクラスメイトのものだと知ると刹那は返事をしつつドアを開けた。
「あ、刹那さん。ゴメンねいきなり」
「どうかしました?」
仕草で部屋へと招き入れる。明日菜はお邪魔しまぁ〜す、と言いながら小綺麗に片付いた部屋を見回した。
「なんか性格出るんだろーねー」
「え?」
「すごい刹那さんぽいっていうかさ。きれい」
「物が少ないだけですよ」
事実そうなのもあるが、余計な物があると気になる性分らしくすぐ片付けてしまうのだ、と刹那が補足する。
「あたしなんかさ、めちゃくちゃ汚くてさ〜、しょっちゅうネギに言われるよー?」
「あはは。
ネギ先生、随分年下でしょう?
言い辛いだろうに、そんなことしちゃ可哀相ですよ」
「なによ〜ぅ、センセーみたいなこと言うじゃぁん」
冗談混じりの心地良い会話に、暫く明日菜の訪問理由を聞くのも忘れ雑談に興じてしまった。
「アスナさん、今日は?」
「あ、本題忘れるとこだったよっ
あのさ、木乃香どこ行ったの?ネギに聞いたら外出届けは出てるけど行き先が書いてなかったんだって。
忙しくて目を通せなかったらしいのっさ!」
「あぁ、御実家に戻られているんですよ」
「…あ、そなの?
ふーん……あのデラックスなおうちに、ね………」
あんまりあっさりと答えられたものだから少々拍子抜けする。
「なんで行き先書かなかったんだろ?受理されないかもしれないじゃん、未記入じゃ」
「お嬢様、…ほんの少し……御実家を嫌っている節がありましたし……
あまり知られたくなかったのでは」
「え?何を?」
「ご自身の家柄を」
「なんでー?!あたしだったらすっごい自慢しそうだけどなぁー。
デラックスな和風建築にイケメン父さんと何百人もお手伝いさんいてさー。
…まぁ、あたしと比べちゃ木乃香に悪いけど」
「由緒正しい血筋を守る家、を地で行く場所なのです。
近衛家とは…そういう家です」
…ジワリと何かが滲む。
………なんだ?この気持ちは。
「3連休全部あっちで過ごすのはいーんだけど、ね?」
「何か」
「なんか…ヤな予感…しない?」
「………………野生のカンですか」
刹那がにやりと笑って見せると、明日菜も同じ笑いを返した。
「あのさ?
………あたしと…刹那さんしか聞いてないって言うから話すけど」
「はい」
「本契約。
したいって…刹那さんと」
「……はい」
「あの、気悪くしたらゴメン。許せなかったら………殴ってもいいよ。
あの、さ、……刹那さんは………」
「半妖です」
直前まで渋っていたその単語をあっさりと口に出され、明日菜は二度目の拍子抜けを受ける羽目になった。
「え……えと………」
「…見た目こそ人間ですが、私の中には化物の血が混じっている」
「ばけ…………もの」
何でもないことのように目の前のまだあどけなささえ残す少女は言ってのけた。
「羽根、見たでしょう?」
「う、ん」
「何色でしたか」
「し……ろ」
「そう。白。
………異端なんです、私は。
……………化物の…………中でもね」
日常とは掛け離れた単語ばかりの刹那の語りに明日菜は簡単な相槌か鸚鵡返ししか出来なくなった。
だが尚も刹那は言葉を継ぐ。
「そしてお嬢様は将来関西呪術協会を背負うお方だ。
それだけでも……分かるでしょう?」
「釣り合いが悪い…ってこと?」
「……はは。
釣り合いが悪い程度ならどんなにいいか。
不良と世間知らずなお嬢様、とは訳が違います。
私は関西呪術協会の老人達からしたら鼻摘み者なんですよ。
………いや………、腐った蜜柑……か」
「………え?
でも、木乃香を守ってるでしょ?
だったら鼻摘み者…とかに任せるわけないんじゃないの?」
「私を拾ってくださった詠春様……お嬢様のお父上ですが……その方の意向だったからです」
「イケメン父さんの」
「はい。
……命の恩人だった。
その恩に報いる心があれば娘を如何なる害悪からも守るだろうとお考えになられた。
直接拝聴したわけではありませんが、……伝え聞いた話からそう解釈しています」
何となく空気がわかってきた明日菜が絡まりそうな情報の糸を手繰りながら纏める。
「つまり………護衛に付いてるだけでも上のジィさん達には面白く…ない…?」
「ご名答。
野生のカンですね?」
もう一度にやりと笑うと、刹那は片時も離すことのない、相方とも言うべき刀をそっと手に取った。
「…夕凪。
詠春様より賜ったものです」
「…………更にGさん達面白く………ない?」
「この上ないでしょうね」
人事のように刹那はくすくす笑う。
明日菜にはその笑みがどこか場違いのもののように感じられた。
「……でもさ。木乃香は違う風に言ってたけど、一人娘の専属護衛に付けられたりお父さんにそんだけ気に入られてたら本契約も許してくれそう……じゃない?」
「条件付きだったんです」
「え?」
「本当は私はこんなに近くから護衛する筈ではなかった」
「…………あ」
明日菜の脳裏に、一見冷たすぎるとも思える過去の刹那の表情が浮かんだ。
「会話などの一次的接触を極力せず、陰から忍の如くお守りする。
その条件で私はお嬢様の護衛に付くことを近衛家より許されました」
…それすらも詠春の働きかけの賜物なのだが。
「修学、…旅行」
「自分で言うのは……憚られるし私単体の力でもありませんが、私はあの旅行で手柄を立てたと言っても間違いではないようで」
「そうだよ、ね」
確かにネギやエヴァンジェリン、学園長、その他大勢の力がなければ木乃香は助けられなかった。
しかし、決定打となった刹那がいなければ奪還は不可能だったろう。
「このことで老人達は自分達からしたら奇行とも取れる詠春様の言動に口が挟み辛くなったのです。
これだけの働きをした手前、もっと近くで護衛任務に当たらせても文句が言いにくい、というわけです」
「だから…今は近くにいられるんだ?」
「お陰様で」
苦笑気味に刹那が笑う。
「ですがこの位置から離れさせたいと思っている者が多いのは確かなことです、仕方ない…とは思いますが」
「イケメンパパとお手柄があるから強くは言えない…のか」
「そういうことになりますね」
「えっと、つまり、あの…気に入られてはいない。……わけだよね」
「殺してやりたいとさえ思っているでしょうね」
明日菜の顔から血の気が引いた。
まるで今日のごはんは卵焼きがいいです、くらいの軽さで簡単に殺す、という単語が出たからだ。
……それ以上に刹那があまりにも淡々と非日常的単語を口にしたことのほうが大きかったが。
「……もしこれ以上害虫が時期頭首に近づくようなことがあれば。
彼等にとってそれは一つの存在を消す為のこの上ない理由になる」
「…え?」
刹那の顔が感情の通わないガラス人形のように見えて、明日菜はそれ以上何かを聞く勇気が持てなかった。
とりあえずここまで!
ジジィとの戦いを書きたいばかりに無理やりこじつけた感が満々ですが><
今回からちょろちょろウィキを見ながら書いているので破綻はないはずだけど間違いあったら訂正よろしくです。
次回はこのかVSゲンドウらへんを書ければな、と思います
では、お粗末さまでした。
27 :
名無しさん@秘密の花園:2008/01/30(水) 10:16:33 ID:8qyYjAiN
うはっ。知らん間に落とされてた。GJ!
そして期待アゲ。
ぎゃー気になる!!!!!
GGぃむかつくwww
Gさまどもを打ちのめせ!
自宅でゆっくりブランチを食べながら
このスレ読んでニヤニヤしてる自分は相当きもいと思ったw
なんにしても
>>26GJ!
修学旅行前に冷たかった理由が原作よりも自然だと思ったwGJ!
>>26 もうこれ本編でいいよ本編で。
GJどころじゃないわw
クラフト氏に次ぐネ申降臨か?
というわけで、ワッフルワッフル
前スレの終わり方が神がかってるよー
1000ゲトしてきたぜ。
わっふる。わっふる。
前スレの最後の人乙
>>前スレの人
学生の俺としてはすげぇリアルで涙でそうになった。これは鼻水なんだからねっ!
GJ!
何か神懸かってますな今週になってから。
ついこないだまでこのせつ分欠乏症に罹ってたのが嘘のようだ(苦笑)
でもきっとこの流れは、
本編がネギの成長にスポットが当たってる反動なんだろうなあ…………って事で、
神職人諸氏に心からのGJを捧げると同時に、
本編でこのせつが出てくるのも祈りたい。
明日菜とせっちゃんが組んで丁丁発止と月詠達と斬り合うのも良いんだけど、
やはりせっちゃんの隣はこのちゃんのモノだと思うんスよわたしゃ!
なんとか医者に行かずに済みました。
ありがとう!!!!!
前スレ埋め手伝ったものですが、読んでくれた人どうもでした。
読み返してみるとすごい読みにくいし、不愉快になるんじゃないかなって心配だったけど
このスレの懐の広さに感謝です。
あと神の人、すごい面白いです!これぞエンターテインメントですねw続きwktkです!
燃え尽きるまで突っ走るぞー
行くぞブヒ!
「おまえら、ころしてやる、
…ころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやるころしてやる、ぜんいん、のこさずッ!!!!そのはらさいてめだまをえぐりだし、うでをきりおとして、それからころしてやるッッッッッ!!!!!!!!
おまえら、ぜんいんなぁぁあぁああぁあ!!!!!」
ソレが呪詛の言葉を叫ぶ度に口からは血反吐が飛び散った。
異形の化物は大の男数人に両腕両足を拘束されながら尚も耳を劈くような荒げた声を上げ続ける。
その身体は血塗れで、所々には弓さえ刺さっていた。
生きていることさえ不思議なまでの出血量。
…………それなのに。
分かりやすい『化物と人間の差』を目の当たりにした男達の中には、戦意を喪失し喚き散らすだけの者も居た。
それほどまでに…………桁違いの恐ろしさだった。
人間にしたらまだほんの子供ほどの体格に獅子数頭にも匹敵するだろう力。
万一を見据えて両手では足らぬ頭数を揃えたと言うのに、今や動ける者は3人といった所か。
白い…いや、銀?
陽に透けて光る頭髪はそのままの姿であれば美しくさえあったろう。
しかしそれもどす黒い血の滲み痕が至る所にこびりつき、元の色を判別することすら今は難しい。
そんな凄まじいまでの大怪我―満身創痍などもうとうに超えていよう―を負いながらも、流す血よりも数段紅い瞳をぎらぎらと鈍く光らせながら拘束者に抵抗する。
………これが人ならざる者の力か。
飛び道具でこれ以上ない程痛めつけ、弱り切っただろうと早合点し近付いたことを彼等は後悔し始めていた。
一体この小さな身体のどこにこんな力が残っていると言うのか。
口に猿轡を噛ませても狂犬の如く息を漏らしながら、迫害を加える者を圧倒的威圧感を持ちながら睨みつける。
不意に誰かが殺してしまえば、と呟いた。
焦燥から来る言葉とは言えそれは少なからず仲間の反感を買った。
化物に食らいつかれた腕の傷を抑えながらそれでも続ける、上の「意思」と「計画」など末端の自分達には関係の薄いもの。
嗚咽とも取れる声でそう呟き続ける。
彼だけではない。
………努力はしたのだ、と言い訳してしまいたいと口に出さずとも今や誰もが思っている。
だが、殺すわけにはいかない。
…………絶対に、
殺スワケニハ、イカナイ。
生きて捕らえる。
それが任務だった。
しかし、…それを遂行するには今や彼等は犠牲を払いすぎていた。
…ソレを遠くから見つめる者、一人。
彼の手もまた、ここに広がる………紅い色に染められている。
ただ、『ソレ』とはひとつ違っていた。
その手は何故か段々と赤黒い血の色が薄くなっていくのだ。半紙に墨汁を垂らすように、じわり…じわりと。
落ちる滴が血を洗い流しているのだということに気付くのが少し遅れた。
………あまりに皮肉の利いた自分の身体に苦笑すら零れない。
「………ふ………はは……」
………………馬鹿か、私は。
今から自分のすることが何かわかっているのか?
今ここで助けたところで何になる。
むしろ……此処で……
しかし、最終的に彼を動かしたのは……安っぽい良心のカケラ。
…………すまない、
………本当に……………
君、の………
嗚咽とも独り言とも付かぬ呟き。
やがて彼はポケットから真新しい注射器を取り出した……。
*****
刹那のガラス人形のような表情は幾分和らいでいた。
それを見て取ると明日菜は切り出した。
「えっと…えっとさ?」
「はい」
「木乃香………何しに行ったんだろう、……ね?」
それは半ば疑惑を確信に変える通過儀礼のようなやり取り。
「許しを………請う為でしょうね」
「許して、………もらえるの?」
「私に聞かないでください、知りたいのはアスナさんだけじゃない」
くすくすと刹那が笑う。
さっきから感じていた違和感。
…この余裕は何なのだろう。
「なんか…当てでもあるの?」
「何も?」
「何も…、って」
「?」
「だって、ホラ、刹那さんと木乃香の話合わせたらさ、全然無理くさいっていうか……
……あ、無理っていうのすごい…失礼だけど」
「いえ、構いません。
好きに言ってください、無理なのは私も最初からわかっています」
「………え?」
明日菜の当然の疑問を目線から汲取ると、刹那は先程淹れたお茶の湯飲みを手で包みながら話出した。
「お嬢様は恐らくもう此処へは帰って来ない」
「――――――――――は?!?!?!」
勢い良く立ち上がった拍子に明日菜の前に置かれていた湯飲みは派手に転がり、中身をテーブル中にぶちまけた。
「ご……ッ、ごめん…………!!!」
慌てて側にあった布巾でそれを拭く。
刹那は新しい布巾を持ってくる、と席を立った。
零れたお茶は熱いはずだった。
なのに………氷のように冷たく感じる。
何故そう思うのか、考えずとも明日菜には既にその答えが出ていた。
冷静沈着、頭脳明晰などという今まで読んだ漫画の中に腐る程出て来た四文字熟語のような刹那の口振りが純粋に……怖いと思ったからだ。
刹那は厳しい一面を持っていることは知っている。
だが付き合いの浅く、修学旅行から仲を深めた明日菜にとってその情報は何の気休めにもならなかった。
ただ……別人のようで、怖かったのだ。
「あぁ、もう必要なかったかもしれませんね」
あらかた水気の飛んだテーブルを見て刹那が言った。
「あ、もうそちらの布巾は下げま………」
「どういうことなの」
言葉尻を斬られて刹那が少し驚く。
「木乃香がもう帰って来なくて………それで、刹那さんはまるっきり普段通りで……………これって………………」
「私の中で」
「…………え」
「もう決まっていたことだから」
「…………………………え?」
「………想定の……範囲内…という所です」
そう言って控え目に笑った。
その柔らかめの表情は見知ったものだったので、明日菜はやや安堵した。
「……すみません、お嬢様がアスナさんに話されていると知っていたら私も伝えておくべきだったのでしょうが」
「………う、うん」
ぐしょぐしょに濡れた布巾をシンクに置き、ゆっくりと刹那が戻って来る。
「お嬢様は……間違いなく今京に居る。関西呪術協会の総本山に。
…………詠春様に……話をされるおつもりなのでしょう、詠春様は慈悲深くお優しい。
老人達を集め直談判するより身近な方を先ず説得しようと考えたと推測するのは無理矢理ではないかと」
「………うん、私も…そう思う」
「…でも、詠春様はきっとお許しにならない。
許せば近衛家の規律風紀その他諸々が乱れ崩れるでしょうから」
「う、ん。それで?」
「最悪、……幽閉」
「ゆ……………ッ?!」
またも立ち上がりそうになったのを何とか踏み堪える。
「ちょ、ちょっと待ってよ……!!
幽………閉って…………意味……わかんないよ…………?!幽々白書の略の間違いじゃないの………?」
「………分かりにくいのは当然です。
近衛家に生まれた時点で既に他の平凡な者とは一線を引いていますから。
お嬢様に………兄上か姉上、せめて弟君、妹君がいらっしゃればここまで話は大袈裟にはならなかったかもしれませんが……
…詠春様にはお嬢様以外に御子は…………」
「跡継ぎ……の問題……?」
「…はい。
尚且つお嬢様はあのサウザンドマスターを凌ぐとも言われる魔力を有する方。
跡継ぎにこれ程適格な者もいないとさえ言われている」
「で…でもさ?
木乃香がソレに気付いたのって偶然だよ…ね?ホラ、修学旅行で刹那さんが撃たれて…」
「そう、ですね、…偶然です。
詠春様にとっては余り良くない出来事だったでしょうが」
「………?」
「お嬢様がわざわざ京で教育を受けずに麻帆良に越してこられたのは詠春様がごく普通の中学生として暮らすことを望まれたからです」
「え、それは……?」
「…修学旅行で狙われたことがその答え、です。
先述の通り、お嬢様は推し量ることすら不可能な程巨大な魔力を持っている。
悪用しようと考える者は腐る程います。
それらから遠ざける為、京の臭い薄い麻帆良で教育を受けることになったのです」
「でも…それなら修学旅行自体危険じゃない、わざわざ敵陣に飛び込むみたいな真似は」
「ですから私があの時限定で御傍で護衛に付きました」
「……なる…ほど」
「一般人ではないのですよ、……あの方は」
「あ!!それでなんで幽閉なんて話になるの?!」
「まぁ……少し言い方が乱暴ですが…麻帆良には戻さない、という意味合いで実際に座敷牢住いになりとかそんなことはないでしょう」
刹那の話が少しずつピースとなり、パズルに嵌め込まれてゆく。
「……少し……わかったかも」
「はは、それは助かります」
「つまり………跡継ぎがいないと困るわけだよね?」
「そうですね」
「で、その木乃香のうちはカビ臭い考えのGさんばっかで、大切な大切なお嬢様に傷でも付いたら大変、なわけだ。
それで……ちょっと場面変わって、イケメンパパ…長いな、イケパでいい?うん、イケパと刹那さんのお手柄のお陰で嫌いな刹那さんが護衛に付いてる。それが気に入らない。
しかもそいつは白い翼を持っている。益々気に入らない……っていうか…………
えっと………ころ………して………やりたい。
………で、いいのかな」
「大正解です。
すごいですね、理解が早くて嬉しいです」
「………なんか……すごい……事情があるんだね………」
「近衛家、ですから……
委員長にも匹敵する家柄と言えば少しは分かりやすいかもしれませんね」
「いんちょと?!?!
………………ふわぁぁぁ…………なんか手に取るよーにわかった、木乃香んちのデラックスぶり………」
「ははは」
呑気な笑いで刹那はすっかり冷めたお茶を喉に流した。
「………うん。幽閉云々はわかった。
次の質問」
「どうぞ」
「…………なんでそんなに落ち着いてるの」
刹那はまた、にやりと笑った。
「待っていたんですよ」
「?
何を…?」
「この機会を」
話を理解した所でまた訳が分からなくなり、明日菜の脳内はまたもパズルのピースが撒き散らかされた状態に舞い戻った。
「え…?
何、なにを…するつもりなの」
刹那は済ました顔でもう一度湯飲みを傾けた。
*****
その『いつか』は何時なのだ、と問われ唇を噛んだ。
そんなものはわからない。
分かる筈がない。
腕の中で毛布にくるまれた幼子を抱えながら彼は言い訳を考える為の時間稼ぎをするにはどうするべきかを必死に捻りだそうとしていた。
「答えられぬなら引き渡せ。
お前如きに扱える代物ではない」
「………待って………ください……ッ!!!
生まれが悪かっただけではないのですか!!この子に………この子自体に罪はない…………ッ!!」
「14人」
その数字が何を意味するか彼は瞬時に理解し、脂汗が背中を垂れた。
「これを捕らえる為に要した人員だ。
そして、その内の13人。つまりお前以外は全て死んだ。
…分かるだろう?コレは………紛うことなく、
化物、なのだ。
そのまま放置したらどうなるか分からぬお前でもあるまい、いずれは我らをも脅かそうぞ」
「ですが…………ッ」
腕の中の『化物』と呼ばれたモノは穏やかな顔つきで―安心しきってさえ見えた―眠っていた。
年齢そのままの……あどけなさで。
やはり、私が馬鹿だっただけなのか…………………?
詠春は、幼子を落としそうな程に…………震えていた。
前スレ住人が考えてくれた設定を全部消化しようと思ったらパパの過去話になってしまったYO
とりあえずこの後を何にも考えていないのでしばらく投下お休みします。
では、お粗末さまでした。
>>55 ちょおおぉぉぉつつっ!!!
GJすぎる…!!wktkしながら続き待ってるぜ!!
これもう本誌でやって欲しいくらいだよ…!!
ブヒーーー!!!!
ヤバいぜこのクオリティ!! しかもここで寸止めって先生いじめだよぅ(byネギ
いつまでも投下待ってるんだぜ… つーかアスナが最高に面白い件
マジで最高!!!!!
この後を早く考えて!!私がテスト終わるまでに!!!
幽遊白書吹いたww
それじゃ続き書いてもらうために次の展開を考えようぜ。
とりあえず明日菜参戦だね。
若い頃のイケパが出てきたら、つい近衛静香(仮名)が思い浮かんだ。
どんな風に二人はこのかと刹那を育てたんだろうね。
想像してめちゃ和んだ。
もう少し昔話続いてもいい感じ。ちょっと内容つかみにくいし。
拾われたのはせっちゃんでおk?
生い立ちとその時の愛情が深いほどせっちゃんの木乃香奪還が盛り上がるww
‥‥キガス
若かりし頃の詠春と今の詠春の思いが交差して,
今の詠春の動揺と戸惑いなんかが表現されたら,おれ浮足立って悶えちゃうってwww
せっちゃんがチャンスを待っていたって言うのも気になるし。
激名作の予感だわ。
超GJ!これはwktkが止まらないww
正座して続き待ってます
>>62 >内容つかみにくい
そんなことは無いと思うけど…むしろクドくなくて読みやすかった
一見、不可解とも取れるせっちゃんの落ち着きっぷりに期待です!wktk!!
65 :
名無しさん@秘密の花園:2008/01/31(木) 17:31:28 ID:vxPhfbX8
救出に行く前にエヴァ登場
プロット大幅改稿したら書けちゃったのでカレー食べたら投下しますね
今回は
>>61と
>>62を参考にさせてもらいました。トン。
ちょwおまホント神だなww
68 :
名無しさん@秘密の花園:2008/01/31(木) 19:31:54 ID:foM9Sfup
wktkトン!
カレー完☆食
行くぞブヒ!
人里離れた寒村。
豊かとは言えない生活だったが、そこに暮らす人々はその中の細やかな幸せを紡いで生きていた。
その中に………あの少女はいた。
紅く美しい瞳いっぱいに優しい父母の愛情を映しながら。
体格のいい父が少女の小さな身体を抱きかかえる。
心からの笑顔で少女は父に笑いかけた。
その様子を微笑ましそうに一歩離れた木陰の下で母が見つめている。
穏やかな、……当たり前の風景。
一陣の柔らかい風が少女の銀髪を揺らし、可愛いくしゃみひとつ。
少女とその父母が流れついた小さな村。
忌むべき翼を隠し身を潜めるように暮らし始めた彼等を村民は暖かく迎えた。
ふとした時。
何も知らぬ少女は紋白蝶を追いかけ翼を見せてしまう。
鳥族とは何の縁もない彼等の中にもその翼が何を意味するのか知る者がいた。
…だが。
その小さな愛らしい姿はとても禁忌の存在とは思えない。
それに何の害もなく、控え目で優しいこの少女を村民達は可愛く思ってさえいた。
だから誰も何も言わない。
無視しているのではなかった。
腫物に触るような対応をする者など一人もいない小さな村。
少女はこの村が…自然が、村人達が、好きだった。
とても…、とても。
村の誰もが疑わない。
白き翼を持つ少女が異端の存在であろうと赦し守ってきた村民の…そう、誰もが予想すらしなかった。
突然の、余りにも残酷な終焉を。
*****
今やごく普通の生活などかけらもなかった。
あったのは、………………。
詠春の脳裏に思い出すことさえ悍ましい凄惨な光景が広がる。
立ち上ぼる血の臭い、叫び、怒声、……………悲鳴。
記憶に染み付いたそれらは彼を苛んだ。
すまない、すまない、………………すまない………ッ!!
君に………………君達に…………………何の罪もありはしない…………………!!
ただそこで幸せそうに笑っていただけなのに…………!!
非力さを幾ら呪っても出るのはただただ己への自己嫌悪。
握り締めた拳に、ぽたぽたとあの日と同じ滴が落ちた。
泣いて謝ったところで何になると言うのか。
少女の父母を、彼女が愛していただろう村を。
………その目の前で………殺したのだ。
だが、詠春はその言葉を口にせずにはいられなかった。
洗っても洗っても血の臭いが落ちる気がしなくて、帰還してからも気が付けば手を水に浸す毎日。
実際には臭いも何も残ってはいないのだろう。
だが、彼の目には洗面器に溜めた水がいつも血溜りに見えて仕方がなかった。
気が動転し洗面器をひっくり返して漸く落ち着く。そんなことばかり繰り返している。
そんな筈はないのだ。
ここに張ってあったのは只の水に過ぎない。
常識で考えたら、などと挟む必要すらない。
目の錯覚だ。
「………………ッ、………ぐっ…………………!!」
ぶちまけられたものは、水。
血ではない。
でも。
…………でも!!
「すま……………ない………………………ッ!!!!」
今の彼に出来たこと。
懺悔と、後悔と、
………………記憶の回帰。
あの日仲間の一人が言った言葉を思い返していた。
『上の意思と計画など………自分達には…………』
老人達は…知っているのだろうか。
彼等が化物と呼ぶあの少女は……
………いや。
彼等の考えを逆読みするなど死に急ぐだけの愚行だ。
それを理解しながら、恐ろしさから反抗の意すら示せずに長の椅子へと座ろうとしている自分が、詠春は……………心底許せなかった。
*****
光のように閃いたそれは神の囁きか、悪魔の入れ知恵か。
どちらにしろ詠春にはこの窮地を脱する為の最善の道のように思えた。
怒りからなのか獣化し、彼が一度見たことのある愛らしい姿とは一変した少女にその力を一時的に麻痺させる注射を一瞬の隙を突き打ち、ひとまず保護する。
溶けるように元の姿へと変化していく少女を見つめながら詠春は………立ち尽くしていた。
仲間の屍、村人の屍。
生きているのは………自分とこの子だけだった。
「…………すまない、
………本当に……………
君、の………
大切なモノを…………奪って…………しまった…………………ッ!!!
すまない…………すま…………ない………………!!!」
動きを止めた少女をその父がしたように…抱きしめた。
………小さい…………、こんなにも………………。
頬や瞼にこびりついた血が、暖かい滴で少しずつ落ちてゆくのを………少女はどこか夢の中で感じていた………
泣くだけなら誰にでも出来る。
安っぽい良心のカケラに従い保護した少女をどうしようと言うのか。
詠春は今それを問われていた…………。
「『その日』が来たら…………いつか、来たのならば!!その時お渡し致します!!
ですから…………」
無駄と知りつつそう嘆願する。
案の定、答えは否。
その通りだ、目覚めたら親の仇である自分を殺しにかかるだろう。
そうなれば今度こそ無事ではいられまい。
しかし、この少女が『永遠に人ではなくなる』ことは詠春にとってどうしようもなく心苦しかった。
いや、心苦しいなどとは生温い。
……罪滅ぼしのつもりだったのか、贖罪か。
「………………死にたいか、詠春」
低く、それでいて小心に突き刺さるその声。
だが詠春は叫んだ。
「ならば!!!この子の記憶を完全に消し………私が全責任を以て監督致す!!
ですから………ですから………!!」
「……随分と肩を持つのだな」
落ち着いた……しかし聴く者を畏怖のどん底まで突き落としそうな声。
………目を見て話すなど到底叶わない。
詠春は震える唇に発破を掛け、もう一度叫ぶ。
最大の勇気を絞り出し、キッと前を向く。
震えは老人達から見たら一目瞭然だったことだろう。
「………………この……っ、鳥族の子供は生命維持すら危うい程の怪我を負っている、…………更に余りの光景に精神は非常に不安定であると推測…されます。
その状態で術を掛ければ必ずや不完全なものとなりましょう!!」
「何が、言いたいのだ」
先程とは違う声。
しかし詠春にとって畏怖の対象には変わりなかった。
「齢一六を迎えたならば………………必ず、…必ずお渡しすることを近衛詠春、経に手を置き誓いましょう!!
ですから何卒、お任せ願えませんでしょうか……………!!!」
「………まぁ、一理はあろうな。
育ち切るのを待つのも完全なる遂行の為の先行投資とも言える。
…十年か。
失敗は許されない、石橋を叩くのも間違いではないのではないか?」
またひとつ、別の声。
その声が詠春を安堵させた。
声は続けた。
「…………良いだろう、記憶の消去、並びに鳥族の象徴の隠蔽継続を前提とした話だが。
京に合うよう瞳、髪は黒くせよ。無論、翼は言うまでもないが」
「あり…………っ、がとうございます………………ッ!!」
「……遠縁に神鳴流があったな。
ひとまずそこに入れ躾てからお前が引き取るがいい。
無教育の者を近衛家が面倒見ていてはあちらに不審がられよう」
「心得て…おります……」
「だが」
突如厳しくなった声に垂れた顔を上げた。
「記憶を消した上でも覚醒するようであれば、
……二度目は無い」
その声の冷たさに、幾分緩んだ心が再び凍り付くのを詠春はその身で感じていた…………
*****
(名前、どうされますか)
(………浮かばないな、いざ言われると)
(木乃香と対になるようなものにしましょうか)
(……いや、捨て子ということにしてあるからそれは少々まずいな)
(…………せつな)
(……ん?)
(…………この子の幸せは正に刹那的だったのでしょう?
背丈が伸び切る頃には、………その星の下に生まれた運命すら刹那に幸せと変えられますように、と)
(…………ははは。
由来を教えてやれぬな、…それでは)
(ふふふ。
でも、いつか教えてあげましょう?
………幸せを…掴んだ時に)
(…そうだな。良い名だ)
君の名。
…それはね。
*****
ぴゅう、と斬るような風の中刹那は居た。
その前には聳えるように構える、関西呪術協会総本山…近衛家。
ぐ、と目を瞑る。
それは偶然にも数日前木乃香の取った行動と似通っていたのだが勿論本人は知る由もない。
…さて、どうしたものだろう。
明日菜が余りにも挙動不審だったので落ち着かせる意味合いで思わせ振りなことを言ってみただけなのだが、どうやらまるっきり信じてしまったようだった。
策などあるはずがない。
だが、良からぬ空気は感じ取っていたし、木乃香が麻帆良を離れることになるのは避けておきたかった。
…まだ話していないのなら間に合うだろうか。
屋敷の内部は手に取るようにわかるし探すのにそう手間は掛からない。
警護の式神の動作を止める術式も知っているし酷いへまをしなければ諭して連れ帰ることも出来るだろう。
…本契約。
もしそれが本当に叶うのなら刹那にとってこれ以上幸せなこともなかった。
契約を結べば契約主の右腕として正式に認められたことになるからだ。
いつ解任されるかも知らぬ今の立場から見ても、それは。
しかし現実的に考えてみればそれは非常に困難を極める。
近衛家跡継ぎが人でない上に鳥族、………その上白き翼を持つ者と契約を結ぶとなれば、可能性を信じることさえ馬鹿馬鹿しくなってくる。
…だが、刹那の望みこそその「信じることさえ馬鹿馬鹿しい未来」なのだ。
今のままでは到底叶わぬ絵空事だ。
しかし木乃香にそんな弱音は吐きたくなかった。
だから現実的意見も口にしたことはない。
…木乃香が予想以上に行動的だったのが少々痛手だが。
せめて夢くらいは見ていたかった。
桜並木の中交わした、子供の約束のような幼い会話。
それが本当に叶うなら…。
…いや。
私はもっと私のことを思い知るべきだ。
……私は忌むべき化物なのだから。
現実が揃う。
二人の前に、避けられぬ運命として。
そしてひとつの意思は……動き出す。
そろそろ話進めないとですが何も考えてないので進みません(・3・)
マジ感激!!汲み取ってくれてありがとう!
やっぱいい感じに昔話書いてくれて超感激!
せっちゃんの名前の由来も自然すぎてなんかもう感激GJ!
うまく言葉に出来ないんだが物凄いワクワクしてきたぜ。
これからどんな展開になってくのかたまらなくwktkしまくりww
エヴァ様は燃え展開中の燃え展開の最中に出さないとなー
あーマジ最高。
いにゃスキダカラー
やっぱ次はこのか編だよね?
嵐かその前の静けさか……。
さぁ、盛 り 上 がっ て 参りました!
>>85 名前出すのはやめてくれー
このか奪還編冒頭を書いてみた
見慣れた正門を前にして刹那は重い溜め息をついた。
…懐かしい筈なのだがその感情を湧かせるには少々無理がある。
何と言って諭そうか。
納得させるには自分の抱えるもの…いや、それ以前の現実を口にせねばならない。
そのことが刹那の足に根を生やさせていた。
あんなに嬉しそうに話してくれた表情を沈めたくはなくて、でも。
下手をして老人達に知られでもしたら間違いなく木乃香は京に止どまらざるを得なくなる。
………馬鹿な真似をしていないと良いのだが。
刹那はこれまでの人生で妥協を見出だすことに慣れていた。
今までだって木乃香の傍に仕えていられるだけで十二分に刹那は幸せだった。
……そこにはごくごく普通の恋があったから。
出来るならその甘さに浸り切っていたい。それ以上を望むことは木乃香の護衛解任に繋がることを知っていたからだ。
勿論、木乃香の申し出は嬉しかった。
本当に。
自分等を本契約の相手として望んでくれた。
その事実だけで満たされる程に、………嬉しかった。
最初の頃は…只の遊び友達。
師範に手を引かれ初めて近衛の門をくぐったことを思い出す。
大人の陰に隠れながらぴょこりと顔を覗かせた木乃香のことは昨日のことのように覚えている。
鞠つき、お手玉、かくれんぼ。
木乃香は自分の知る遊びはなんでも刹那としたがった。
互いに年の近い友達のいなかったせいもあり二人は姉妹のように中睦まじかった。
それを目を細め詠春は眺める。
そして時折二人の名を呼んでは優しくその髪を撫でた。
捨て子であった自分をこんなに気に掛け、実の子のように接してくれる詠春。
そして時は流れ、二人が十三歳を迎えた頃。
詠春の意向で木乃香は京を離れ遠い麻帆良で新しい生活を始める。
詠春から理由を聞かされた時、刹那は泣いた。
きっと生まれて初めての感情で、…泣いた。
…詠春は泣きじゃくる刹那の髪を昔と同じように、優しく撫でた。
そんなに遠い昔ではない。
ほんの二年程前の話だが、あの時の気持ちは薄れもせずに記憶にあった。
その頃には、おっとりとした京弁のあの人が…好きだったから。
守ってあげたい、とかそんな気持ちではなかった。
傍に居たかった。
近くに居たかった。
でも、それは望んではいけないこと。
いつの日からか、白き翼の意味、何故捨てられてしまったのかを詠春は説くようになった。
刹那を傷付けぬよう、柔らかい言葉で……少しずつ。
翼を出してはいけない、誰にも見せてはいけない。
髪、瞳を隠し続けることの必要性。
『私は君を大切に思う。
だが、そう思わない人が残念だけどね…、……たくさん、居るんだ。
だから。
君が幸せになる為に、この約束を交わそう。
捨てられたことを引け目に感じることはない。
私も、木乃香も、…君を好きだよ』
ひとつ、深呼吸。
縁取られた、ささやかな幸せを守ろう。
忌まわしき翼を持つ私に許された一瞬の暖かさの為に。
刹那は続く階段をゆっくりと……登っていった。
*****
正直、頭は悪い。
秀才揃いとは言えバカレンジャー、しかもバカレッド(つまりリーダー級バカ)なる汚名を着せられる程の成績の悪さは重々承知だ。
…だが。
幾ら明日菜が阿呆で空気が読めなくておっさん趣味で卵焼き好きで料理が苦手だったとしても。
この状況をおかしい、と思う程度の頭はあった。
…木乃香が居なくなるという衝撃の一言を刹那が放ってからわずか一日。
今度は刹那が行き先を告げぬ外出届けを出し、姿を消したのだから。
珍しく空気を読み、ネギには上手く適当な嘘をついておいたから今の所この状況をおかしいと思う者はいまい。
…明日菜以外には。
あんな話を聞かされた以上、二人の行き先は木乃香の実家なのだろう。
しかし、その見当がついているからなんだと言う?
居なくなると宣告されている木乃香に会いに行くか?
…やめたほうがいい。
二人の話を総合すると、事は非常にデリケートだ。
自分などがでしゃばってどうなるものでもない。
…でも。
明日菜には足りない頭を埋めるかのように、友人の窮地を見過ごせない人並みならぬ正義心があった。
出来ることならムカつくことばかり喚くらしいGさんを叩きのめして刹那と木乃香を本契約させてあげたい。
木乃香は大切な親友で、明日菜にとっては刹那だってそれに含まれる。
友人の幸せを願うのはごく当たり前のことだ。
明日菜としては、ムカつくGさん…長いので略してムカGの襟首引っ掴んで堅いこと言ってないでさっさと認めりゃいいだろうが!!位のことを言ってやりたい。
古臭い因習なんてインターネットでIT企業な現代には似合わないでしょ。白い羽根がなにさ?綺麗じゃん。エンジェルじゃん。
が。
……それでも結局頭は足りず、どうしようどうしようと部屋を右往左往するばかりだ。
「…ジジィもガキんちょもだからイヤなのよ」
脇に置いてあったクッションを蹴っ飛ばし呟く。
気に入らないことがあるとこうするのはネギにやんわりと文句を言われる要因のひとつだ。
(世界の男の人がみーんな高畑先生ならいいのに)
………………ある意味怖いからやっぱり却下。
「………はぁ」
…私みたいな子供が喚いた所でムカつくGさん…じゃなくてムカGのカチコチ頭は聞く耳なんか持たないんだろう。
…………木乃香、刹那さんと本契約したいって言ってた時……嬉しそうだったな。
…………………………。
…………やっぱりダメだ。
何かをしたい。
でも下手に騒ぐことがまずい位はわかるから動けない。
ジレンマに絡まりながらまたクッションを蹴っ飛ばす。
―その時、誰かがドアをノックした。
*****
木乃香の頬を暑さからではない汗が一筋、流れる。
「お…………とう………さ………………」
血の気が引くを通り越し、今にも倒れそうだったのを何とか耐えた。
木乃香の目の前。
詠春が四つん這いに近い体勢で蹲っている。
そしてその周りを取り囲む如何にも屈強そうな僧兵―見知った顔だ…―が数人。
何が起こっているのか、…どういうことなのか。
木乃香にはわからない、わかる筈がない……!
*****
門を開け屋敷へと続くよく整備された砂利道を歩く。
とにかく話をしようと父の部屋を叩いた。
返事が無いので近くにいた屋敷の者に聞けば風邪を拗らせ伏せっているとのこと。
自室で待とうとしたが、部屋は長らく入っていないので片付けていないとの理由から二階の客間に通される。
すぐに父の見舞いをしたかったのだが、突然帰ってきた木乃香に屋敷はちょっとした騒ぎとなり、それどころではなくなっていた。
大袈裟なのは相変わらずなようで溜め息が漏れる。
…夜。
なかなか寝付けなかった木乃香は月でも見ようと障子を滑らせ、月明りの照らす廊下に足を出した。
春とは言え夜は少し冷える。
部屋に戻り軽く上を羽織り、ぼんやりと月を眺める。
―朧月夜だった。
どんな順序を立てて話そう。
…風邪、もう良いだろうか。
色々なことが今夜の月のように霞んではぼやけ消えていく。
手摺にやや身体を預け、今居る二階から広がる景色に目をやった。
手入れの行き届いたきらびやかで豪華な日本庭園を羨む者は多いが、そんなものより木乃香は平凡が欲しかった。
自分が平凡な生まれであれば、きっと今よりは………
お・・・おわり?
詠春はどうなったの!?続きwktk
規制でしたー
「………………?」
人の声が聞こえた気がして、木乃香は歩みを進めた。
「…………せっちゃん……………?!」
どうして、と聞く前に口に手をやられ驚く。
刹那の顔は……強張り震えていた。
「…御無礼をお許しください、
ですが今は………………お静かに、……お嬢様」
徒ならぬ気配を察し、仕草でひとまず部屋へと招き入れる。
刹那は部屋に入ってからも震えていた。
何があったのか、聞きたくとも聞ける雰囲気では到底ない。
「…えい………しゅ………」
「………え?」
「詠…………春…………さ、ま、が……………」
傍らの夕凪に縋るように刹那が絞り出した。
「おっ、お父様がどないしたん?!」
静かにしろと注意されていたのも忘れ叫んでしまう。
刹那の顔に緊張が走り、空気が切り立つ。
「か、堪忍な………。
お父…………様が………なに、せ………っちゃん」
風邪が悪化して容態が急変したわけではあるまい、声を出すなという指示と食い違う。
…………否応無く不吉な予感が木乃香を襲う。
「詠春…………様が………、ご乱心………なされました」
「ら、んし…ん……………っ?!」
どういうことなのだ。
父が乱心?!
あの穏やかで物腰の柔らかな父が?!
何かの間違いだろう、そう言ってほしい、いや、刹那はそう言わねばならない!!
「嘘、やろ………?」
「小太刀で……………審議会の一人に………斬り掛りました…………………」
「――――――――――――ッ?!」
少なくとも家の中では刀剣の類を飾りとしか認識していない木乃香にとってそれは余計現実離れした話として耳に届いた。
刀等持っているのを見たことすらない父が………?!
――刹那の話を要約するとこうだった。
本契約の許しを請うのはまだ時期ではない、と伝え木乃香を穏便に連れ帰る為に総本山を訪れた刹那は先ず木乃香の自室のある三階に忍び込んだ。
が、いるだろうとの確信は肩透かしに変わる。
人の気配がなかったのだ。
まぁ部屋を変えること位珍しいわけではない、心辺りを探してみよう。刹那はそう考えた。
詠春の書斎兼自室のある四階に登り耳を澄ます。
微かに声が聞こえたので抜足で近付く。
頑丈な造りの扉から僅かばかり、光が漏れていた。
突如、怒声。
身をびくつかせながらも刹那は下手に動くことも出来ずに壁を背にした。
そこで起こっていた事―。
聞き慣れない言葉、聞き慣れない低い声。
何を話しているのかは怒り狂ったその声と、場の鎮圧の為の怒声でわかる筈がなかった。
しかし、刹那はまだ未熟とは言え剣士。
扉の向こうで誰かが鯉口を切ったのをはっきりと認識した………。
「近衛詠春!!!!!
あの日経に置いた手、今此所で斬り落とされたいか!!!!!!」
「人は偽証が可能な唯一の存在である事、審議会の一員ともあろう御方が知らぬとはよもや思いもしませんでしたからなぁああぁ!!!!」
その声の主は聴き違える筈もない、詠春のもの。
先程の抜刀音と足音から察するに詠春が審議会の誰かに斬り掛かっているのは最早疑いの余地はカケラも………なかった。
「…………嘘や…………」
「詠春様が………危険です。
お嬢様は此所でお待ちくだ…………、?!
お嬢様!!!!」
刹那の制止も聞かず、木乃香は話から察する所、つまりは老人達が定期的に会合を行う大広間へと駆け出していた………………
支援
茶々丸とちさめを出したいのですがこれ以上風呂敷広げると回収できなさそうなのですが出したいのでなんとかお知恵を…!
エヴァ様もそろそろ出したいです。
やや先の構成が見えてきました。
分かりにくくて本当にお粗末様です、すいません。
この後近衛家の真実が明らかになっていくのかな?支援ブヒブヒ。
千雨ちゃんを使うにはネギか茶々丸絡みしかないと思うので,茶々丸絡みでお願いします。
そしてそのラインで妄想した俺の頭の中は次のようなストーリー。
刹那のこのか奪還後,とっさに身を隠すように追っ手から逃げるが,行く手を阻まれ必死に逃避行を続ける。
騒ぎが大きくなった上に,魔法世界に逃げ込んだ為,近右衛門にまで話が広がってしまう。
もとをただせば関西呪術協会の問題なんだけど,関東魔法協会まで影響してしまって……。
仕方なく近右衛門は刺客を放つけど,誰を刺客にしたところで刹那にはかなわないのは明白。
仕方なくエヴァに白羽の矢が立った。しかし簡単には腰を上げないエヴァ。
交換条件として自由の身を要求する。
その一方で刹那の過去を知るエヴァから刹那たちの因縁を聞かされる事無く刹那と戦う事に疑問を感じる茶々丸。
ここからはものすごい強引なんだけど,茶々丸が千雨ちゃんにその事を相談して,
まほネットの何重ものガードがかかった深層部にある刹那たちの因縁の裏データを閲覧してしまう。
その後どうするかまではまだ考えてない。
千雨ちゃんがネギに言うみたいにまた感動の名言を言ってこのかや刹那を説得するのかな。
それとも彼女らには全く絡まず,茶々丸のAIを強化するのに貢献するのかな。
そんでもって前スレのどっかにも書いたんだけど,逃避行の最中に刹那とエヴァ様の対決があって
飛べないくらいダメージを翼に受けて谷底に散っていく刹那の描写で第一部完。
そして第二部は,エヴァに連れ戻されたこのかは記憶を失い、エヴァは晴れて自由の身に(これも実は協会の人は気に入らない。)
何かまた被害が出たら捕まえてやるとかいう捨て台詞を吐いたり。
そしてこのかと刹那の二人の新たな運命が続く……って感じ?
すまん………ただの俺の妄想だ。なんか参考になればいいが。
駄文失礼。
め…めちゃくちゃ長編になりそうだな……
>>107 乙ブヒ!
どうしてもエヴァ様を出したいなら、学園長とのシーンでも挟んでみては?
ラスボスへの複線に。
明日菜はまだバトルしないんだ。なぜか?最後に。
まずは老とせっちゃんのバトル!
「木乃香!刹那さん!」明日菜の叫びは届いたのか
二人は魔法世界へ逃げる。ここいらで消息を掴む為に明日菜が千雨の力を借りるのだ。
月詠だのなんだのとのバトルのラスボスがエヴァ様と茶々丸。
この時に変態した妖せっちゃんの影響でこのちゃん記憶喪失!再び幽閉!
せっちゃんも別の場所に幽閉!
それを父上の手引きで隊長と忍が奪回、龍宮神社に匿う。
ここからもう少しいったら俺の脳内では妖せっちゃんvsネギ&明日菜のバトルが入る。
アナタは本当に素晴らしい!
今後も楽しみにしてるよ!
wktk!wktk!ちびせつなも応援しているぞ!!
, -‐ ‐- 、 , -一
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{´`|!:::|rがト _,, / |::::::::::ヾ\` ヽ!
ゝ 」::::| ゞツ f汀.,イ) |:::i::::::::l|ヽ }
r<⌒ヽ. l::::! , -, `´/リ _j__l:::i:::l| }
| \ f⌒) !:::|> `__.. -‐., -く /`!l:::!
|  ̄ ̄}|::l| ヽ V | ̄`l、___y' | !|
ヽ / ヽ! V ! l | / !
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`ー'´ [二/{_}ヽ}>─‐´
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ヽ::::/:::::::::::::/::::::::::|::::::::ノ
/^>、____/`iヽ、l_/
(/ | /
`´
仕事中雪を眺めながら、こんなん書いてみました。
落とします。
目が覚めた瞬間わかった。音の無い世界。
私は窓辺にもたれ、どこを見るともなく、眺めていた。
幼い頃を思い出す。
お嬢様の黒い髪が、桜色に染まった頬が、雪景色に映えていた。
風邪を引くと諫められても、私達はいつまでも雪と戯れていた。
揃いの綿入れから覗く小さな手。
「このちゃん、手ぇ真っ赤!」
「せっちゃんもや!」
目と目が合うと、途端に可笑しくなって、声を出して笑いあった。
互いの額がつくほど顔を寄せ、息を吐き、手を温め合う。
そうしていると、本当に世界は二人きりなのではと錯覚するほど、静かになった。
やがて世界に音が戻る。
「このままここにじっとしとったら、わからんようになるかな?」
とても小さな声。意味がわからず、私は聞き返した。
「わからんように?」
同じくらい小さな声で。
「せや。雪に埋もれて、うちとせっちゃんがみんなに見つからんように。」
今もそうなのだろうか。
雪に埋もれてしまいたいのだろうか。
「お嬢様・・・」
この景色を見て、同じあの日を思い出しているといい。
「お嬢様・・・」
守るべき唯一を、この手で埋めてしまうなど、出来る筈もないのに。
「このちゃん・・・」
どうしても、消えない。
終わります。
皆さんの淀みない感想、ご意見、いただけたらと思います。ではでは。
スレが更新されなくなったと思ったら板移転?ボードデータ更新しても来れないし…
俺みたいに迷ってる人がいないといいけどな。
>>115 幻想的でとってもええのぅ。俺も窓の外を見て二人のことを考えてみるか…
GJ!
>>107 人間関係としては 詠春 - エヴァ - 茶々丸 - 千雨 と繋がっているから、
エヴァを出せば芋づる式に出来るような気がしなくもない。がんばれ!!
板替えに俺もさまよってた。追尾機能のある専ブラは便利だ。
携帯は彷徨った挙句,URLを見つけて復帰した。
しばらく人来ないかもな。彷徨えるこのせつスキーの同志達よ。
健闘を祈っている。
>>115 とっても透明感のある感じでよかった。
でもおバカなおれの頭では,オチがよくわからんかった。
妙なフィルターが頭の中でかかってたのかもしれないけどな。
でもとっても情景的で良かった。BGMに「聖なる〜」をかけたい気分です。
>>115 GJ!
ちっさい二人が顔寄せ合って手温めあってるの想像して萌えた。
119 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/04(月) 19:27:25 ID:x/dewiyf
目立たせアゲ!
ネギロワのだろ
>>107です。
構成を決め兼ねる&文章力の無さを痛感させられ筆が止まっておりました。ご意見を参考にプロットを練り直したので近日中に投下出来るかと。
ご支援ありがとうございます。
うほっ楽しみにしてるぜ!!
126 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/07(木) 08:38:26 ID:6PIQ3aLw
再び目立たせあげ
115です。ご意見ご感想ありがとうございます。
〆は今イチ…ですね、読み返してみて恥ずかしい限りです、精進します。
次また落とすことがありましたら、よろしくお願いします。
重い扉を開け、見たもの。
蹲る父の姿、それを取り巻く見知った顔。
取り巻くとは言っても護衛のような空気ではない。
護衛どころか……むしろ……
「お、とう……さ……ま……?」
木乃香は苦悶の表情を浮かべ自分に手を伸ばす詠春に近寄ろうとした。
「き…、ては……、
い……ッ、
こ………の、」
切れ切れの言葉を発するその口からは血が滲んで見える。
そんな父を見知った者達は涼しい顔でその動向を窺うかのように眺めていた。
……どういうことなのかはわからない。
倒れ血を流す父。
取り囲む僧兵。
父を侮蔑するかのように冷めた目で見つめる審議会の面々。
………異常な何かだけは、感じ取れた。
「何を……して、おられるのですか……………」
奥の間の暗がりに浮かぶように佇む審議会の長に向かい問う。
長は意図の掴み難い声で少し笑った。
「疵の癒えた翼の姫君をお迎えに上がろうと……ふふ……提案しただけなのですがね」
「つ、ばさ………?」
「そうしたらこの有様だ」
見れば僧兵の一人に腕に白い布を巻き付けた者がいた。
その布には明らかな血の滲み。
武者鎧を貫通したのだろうか、その出血量はかなりのものと木乃香にさえ容易に推測出来た。
「頭主ともあろう者がね、……ふふ……幼児でも知っていることを守らぬので少し叱っている所なのですよ」
「………何を、したと………」
血の気の失せた顔でそれだけ絞り出す。
決定的な何かがおかしい。だが何が起こっているのか見当も付かず、木乃香はへたりこみそうになる脚を懸命に支えていた。
「……約束をね?
十年もの時を掛けた約束を今更になって……ふふ、守らぬと云うのです。
………………少し、頭に来てしまいましてね、ふふ。
饒舌な上言うことを聴いて貰えないので少々寡黙になって戴いているのです」
終始薄気味の悪い笑い方を浮かべながら木乃香には全くわからない話を続ける長を震えながらも睨みつける。
そうだ、自分は次期頭主となる者。
家臣の反乱―反乱と呼ぶべき事象なのかわからないが―を鎮めるは役目だろう。
「父が何を守らぬと云うのか存上げませんが……
頭主に対してそのような無礼を働き許されるとお思いか……!!」
「ははは、一端の口を利く……。さすが詠春の娘よ。
お飾りの頭主を退けて何の裁きが下ると言うのかお教え願いたいものだ」
「おか……、ざり……?!」
詠春の口の端が歪む。
「相変わらず目出度い頭をしているのだな、次期頭主様は……
この父の元育てば致し方ないやもしれぬが」
「父娘共々同じ道を選ぶ、……か………最早血に刻まれた宿命なのでしょうね。
まぁ生き方は自由ですよ、貴女の判断を卑下するつもりは毛頭ありません。
そう、生き方は自由だ。……『人』であればね、ふふ」
長はそう言ってにこりと笑う。
彼だけが異様に若く、妙に場から浮いて見えた。…年の頃は25、6と言ったところか。
何故こんな年で長の座に就いているのか木乃香は知らなかったが、今はそんな瑣末なことを気にしている場合ではないだろう。
「…ふふ、僕は貴女のその生温い性格、嫌いではありませんよ。
だが、邪魔をするようであれば話は別です。
どうですか、楽に生きませんか」
「………何が狙いですか」
「ふふ、そう構えないでください。
ただ僕は翼の姫君をお連れする為に貴女に協力して戴きたいだけなのです」
翼。
その単語から容易に刹那が思い浮かぶ。
連れてくる…?何の為に…?
どんな訳があるにせよ、父に拳を上げる人間達に真当な理由があるとは思えない。
出来る限りの気迫を以て相手を睨む。
「嫌や、言うたら?」
「貴女に拒否権はない」
柔らかな姿勢と口調でそう言われ、ほんの少し気が和らぐ。
「…聞いた意味、あらへんやんか」
「単なる意思確認です。
良い答えは貰えないようですね?」
「……せっちゃんをどないするつもりや」
「せっちゃん…?
あぁ、姫君の愛称ですか、ふふ、可愛いですね」
両の腕を掴まれ、思うように動くことを制限される詠春を横目に入れながらまたも長を睨む。
「どうもしませんよ。
ただ、頭主との約束を果たしてもらうだけです」
「………?」
話が見えずに困惑する。
今は刹那の話をしている筈なのに何故詠春の名が出るのか。
刹那が詠春と何か約束を取り交わした…?
「僕はね」
「……何や」
「白き羽根持つあの少女が……ふふ、愛しくてならないのですよ。
もう直き……時が満ちる。
僕らの願いは……漸く………叶う……。
ふ………、
……ふふ………ははッ!!!あはハはッ、ははハ、あハ、あはハははははッ!!!」
常軌を逸したその笑い方に一瞬にして背筋が凍る。
詠春もその例に漏れず、ただ唇を噛んだ。
木乃香の先程までの多少の威勢も今では掻き消えたように跡形もない。
狂気の笑いとは正にこのことだろう……。
誰一人つられて笑う者はないのに、気違い染みた笑い声は続く。
それは……戦慄の奏。
…………せっちゃん…………、この人、…………誰?
*****
ドアを叩いたその音に飛び上がりそうになった。
考え事をしている時に響く突然の物音というのはどうしてこんなに心臓に悪いのだろう?
「どなたですかー」
……?
返事がない。
「どなたーですかー」
やはり返事はない。
幾ら豪放磊落を絵に描いたような性格の明日菜と言えど、こんな時間帯に部屋に返事のないノックが響けば不気味に思う。
もう一度声を掛け返事が無いのならドアを蹴破りタカミチの元へ駆けていこうかなどと考えていたら、小さな声が聞こえた。
「………刹那さん?」
低く、凛とした印象を与えるその声は間違いない、刹那のものだろう。
しかし……異常とも思える程それはか弱かった。
「刹那さんっ?!」
まだ確証はなかったが明日菜は扉を開け放った。
崩れるように座り込むその人は、やはり刹那であった。
「あす…………な、さ……………」
助け起こそうと伸ばした手を力無く握られ少し戸惑う。
…その手が氷のように冷たかった。
「ちょ………っ?!
と、とりあえず入って!!ネギは今夜はいんちょのとこにでもぶち込んどくから!!」
春先で夜が多少冷え込むとは言えあの冷たさはどこか現実離れしていた。
明日菜の動物的勘が言う。
『……何かが起こっている』
寒さなのか他に理由があるのか定かではないが、刹那は小刻みに震えていた。
とにかく落ち着かせようとハーブティーを淹れ前に置く。
口火を切るのを待とう。
そう思った。
「あす、……な、………さん」
「う、うん」
聞きたいことは山程あったが何とか堪え相槌を打つ。
「たす……、け…………」
掠れたような本当に小さな声。
ほんの少しでも雑音があれば聞き取れなかったろう。
「た、助け……、って……
え、待ってよ、ど、どういうことなの………?!」
気が付く。
ぽたぽたと落ちる滴。
…刹那が…泣いていた。
「せっ、刹那さん?!
落ち着いて、大丈夫、…大丈夫だから………!!
だからっ落ち着いて、話して……!何があったの、あたしは何したらいいの?!」
矢継早に口を開いては逆効果だと分かってはいてもどうしてもそうなってしまう。
刹那の堰を切ったような落涙に明日菜は戸惑うばかりだった。
…今は何か聞いてはいけない。
刹那の口が開かなくてはどうにもならないのだ…。
フヒ!?
終わり!?それとも規制!?
続きwktkです
リアル投下キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!………と思ったら規制かな?
支援ブヒ
規制でした…明日残りを投下しますね。
先の展開を考えてくださった方ありがとう。すごく参考になります!
イメージの為、気持ち悪い笑い方の審議長の立ち絵がほしいのですが絵師の方いらっしゃったら御尽力願えませんか><
うはっ!生殺し!
正座して待ってます。
因みに審議長らの服装とか、どんなんかな?やっぱ和服だよね。
詠春みたいな感じかな?
残り投下しますー
明日菜はその背中をさすりながら、嗚咽の止まらぬ友人の胸中を察しようと思案を巡らせる。
しかし、バカレッドの頭では処理しようにも方法がないのは明白だった。
「詠、春様と…………お、嬢………ッ、様、が………ッ」
「イケパとこのかがどうしたの?!」
「私…………ッ、何もせずに…………!!
逃げ……って、しまった………………っ!!!」
「ちょ、え…何?!
イケパとこのかが危ないってこと?!そうなの?!」
嗚咽が邪魔して上手く言葉が出ないのだろう、刹那はひたすらに首を縦に振った。
「逃げたって………すんごい強い誰かが居たとか……?」
自らの命顧ずに矢面に立つ刹那しか知らない明日菜にとって逃げる、という言葉は非常な違和感があった。
「違う…………っ、私は………何も…………!!
ただ…………怖くて…………何もせず………!!逃げた………………っ!!!!」
………怖かった。
詠春や木乃香に対し明らかに好意では無い感情を向けているのだろう人物の顔も見ていないのに、全身を操られたかのような恐怖が襲い、気が付いたら駆けていた。
まるで丸裸の本能に触れられたかのような………。
木乃香を追い、詠春が誰かに斬り掛かったその部屋の前に立った瞬間、突如襲ったその感覚。
知らない、知らない!!
こんな声は知らない。
だが何故その顔が浮かぶ?
貼り付けた温和な表情の裏にある冷酷なあの顔が………何故!!
名も知らない、顔も知らない。
なのにどうして私は『知っている』?!
頭の奥で何かが叫ぶ。
近寄ってはいけない、逃げなければならない。
見付かってはいけない!!!
でないとまた『殺される』!!
肺が悲鳴を上げるのも聞かずただ走った。
一度も振り向くことなく走った。
止まればまたあの感情が沸き起こりそうで、それが怖くて。
理由の見えない恐怖に追われ気が付いたら……このドアの前に居た。
……刹那に話せるのは、これが限界だった。
「刹那……さん」
「わからない……、わからない…!!
姿を見ることさえ……今の私には………っ!!」
怖い。
怖い。
怖い。
なのに何故恐ろしいのかわからない……!!
「……わかった」
迷いのないその声に顔を上げる。
「…なんか話が全ッ然わかんないんだけど……要はこのかとイケパがヤバいんでしょ?」
「…………は、い………」
「じゃあやることはひとつだね」
「アス、ナさん…?」
「行くよ!!刹那さん!!」
「………へ…?」
「話がわかんないなら当人に聞くまでだっつーの!
本気で話わかんないんだけどムカGが二人の恋路を邪魔しよーってんでしょ?!
か〜ッ、ほんとムカつく!!前時代過ぎるっつーの!!」
「ちょ…ッ、アスナさん…………?!」
話が飛びすぎている上に馬鹿丸出しの明日菜を止めようと刹那が立ち上がる。
「ま、待ってください!!
そんな簡単な話ではない筈です………!!」
「戻ってきた」
「……は?!」
「いつもの刹那さん。
戻ってきた」
「……………あ」
言われてみれば。
いつの間にか震えは消えていたし、呂律も回る。
嗚咽もどこかへ行ってしまったようだった。
「さて?
冷静になったところで今するべきことを考えよーじゃない?」
「…………は、はい」
……まぁ、このまま刹那が止めなければ明日菜は関西呪術協会総本山に突っ込む気満々だったのだが。
「まずは何が何なのか聞かせてもらわないと」
「そう…ですね」
憑物が取れたように冷静さを取り戻しつつある刹那が目を瞑る。
これは状況を整理したり気持ちを落ち着かせる為に昔から刹那が行う癖のようなものだった。
…今自分は何をすべきなのか。
何が出来るのか。
……しかし、情報の少ない現状ではいくら知恵を絞ろうにも考えが浮かびようもない。
第一刹那はあの部屋で交わされていた会話はほぼ何一つ聞くことがなかったのでそれは尚更だった。
「ねぇ」
「はい」
「刹那さん、難しく考えちゃダメじゃない?」
「……え」
「今やるべきこと。っていうよりさ、今の気持ちが大事なんじゃないかなって、思う」
「……きも、ち」
「あたしの気持ち!!
『とにかくこのかとイケパがヤバいなら助けたい!』
どう?刹那さんは違う?」
「…………」
「んん〜?何かなその笑いはぁ」
「……違わない、ですね、私も」
「いひひ、んじゃ決まり!!二人で行きゃー怖くないよきっと!」
不思議と刹那もそう心から思えた。
策など本当に何もないが、…ないからこそ出来るのだ。
無鉄砲過ぎる明日菜と慎重派な刹那。
案外相性がいいのかもしれないな、と苦笑気味に刹那は思った。
……またあの感情が沸こうとも、明日菜がいれば……きっと。
後先を考えすぎて結局保身に走るばかりだった今までを振り返りそう思う。
そうだ、護衛解任だろうと気持ちは残るのだ。
形式を恐れるばかりで具体的行動に移れなかった自分を今なら殴れるだろうか?
……何が起こっているのか、何が自分を待つのか。
それはわからないが、木乃香、そして恩人である詠春の為ならば命など簡単に捨てる覚悟で生きてきた。
それなのに…何故?
理由の知れぬ恐怖の訳。
関西呪術協会の黒き陰。
弱冠の審議長。
全てを知る者は……いるのだろうか。
*****
瞳を閉じ、思いを馳せる。
……十年前のあの日へと。
彼の目に川縁で銀髪を揺らす、澄んだ紅い瞳を持つ少女が映る。
成長したらさぞ美しくなることだろう、そう思わせる横顔に暫し身惚れる。
声を掛けると少女は振り向き、そして微笑んだ。
在り来たりな軽い挨拶を交わし近寄るが、少女は川辺のタンポポと戯れるばかりで彼に対し何の不審感も見せない。
手を伸ばし銀髪に触れた。
少女は不思議そうに彼を見たが、撫でるその手を拒否したりはしなかった。
何故なら村の誰もが少女に対しよくこうしていたからだ。
だから見知らぬ余所者の彼がそうしても少女は怯える様子も見せず、ただ嬉しそうに彼を見ていた。
「おにいちゃん、どこからきたの?」
「……僕?」
「まいごになっちゃったの?なにしにきたの?」
子供らしい幼い問い掛けに一瞬、ぎくりとする。
自分の思惑が既にこの少女に見抜かれているような気がしたからだ。
無意識に思わず辺りを見渡す。
だが村の住人達が農作業に勤む姿があるだけで、そこにはありふれたのどかさしかない。
彼は自分の小心を自嘲気味に笑ってから答えた。
「…………探しているモノが……、あるんだ。
もしかしたら………ここにあるかもしれないと……思ってね」
迷子か。
ふふ、そうかもしれない。
「ふーん?
じゃあここでみつかるといいね!」
「…ありがとう。
綺麗な髪だね」
もう一度髪を撫で、心から湧いた気持ちを伝えた。
「えへへ、ありがと」
少女が嬉しそうにまた微笑む。
その屈託の無さは彼の芯をとらえるに十分だった。
支援?
ブヒ?
154 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/08(金) 19:32:25 ID:Rz7KvmkC
期待アゲ!
また規制とみたブヒ。
規制でしたー残り行きます
「ねぇ」
「なーに?」
「……ボクを、
……………」
六日後。
村は惨劇を迎える。
*****
誰かに助言なり応援を求めたほうがいいだろうか?
まず直面したのはその問題だったが、刹那が事が大きくなることを望まなかった為、二人はとにかく総本山へと向かっていた。
山の向こう側から新しい日が朝日と共にやって来るのを目を細めながら見る。
明日菜は学校をさぼる絶好のチャンスとばかりにハイテンションだったので色んな意味で刹那を心配させた。
でもこの無鉄砲さが今の刹那に束の間の落ち着きを与えていたのは言うまでもなく。
非常事態であるというのにこの楽天ぶり。
状況を理解していないのは勿論ではあったが、でもそれは強い意思に基く自信から来るものだと態度で感じ取れた。
……明日菜が居て良かった。
刹那は心底そう感じていた。
「とりあえずさ」
「はい」
「ムカGぶっ飛ばしてイケパとこのか渡せや!!って言えばいいんだよね?」
「……微妙に違うような……」
「あ、本契約許せやゴルァ!のほう?」
「それも違うような……」
目的はふたつだった。
まず詠春と木乃香の保護。
そして……あの得体の知れない感情の訳を探ること。
これがあってはいつまた逃げ出してしまうかもわからないから。
……不意に鳥肌が立ち身震いする。
明日菜との会話で抜け切った筈のあの恐怖が頭を擡げたのだ。
知らないことを知っている。
これはどういうことなのか。
すっかり忘れてしまうには余りにも鮮烈な『知っている恐怖』。
……思い当たる節はあった。
刹那には5歳より溯った記憶がない。
それはぼんやりとした記憶、というレベルの話ではない。
全く……記憶が無いのだ。
まるで切り取られたかのように、記憶に残る人生は5歳から始まっている。
その間に何かがあった?
人は強烈な恐怖を味わうと自衛本能が働きその記憶を消してしまうことがあるという話には聞き覚えがある。
……それなのか?
ならばあの人物に……何か恐ろしい目にあわされた、と?
……わからない。
しかし……顔は浮かぶ。
端正な顔立ちをしたどこか中性的な線の細い青年。
…………誰?
名前も何も本当に思い当たらないのに、口の端を少し上げて笑うあの表情ははっきりと浮かぶ。
切り取られた5年間の中に彼が……いるのだろうか。
ひとつ、確信。
近衛家の誰かが…この人物なのだ、間違いなく。
誰かに証明は出来ないが、頭の奥で幼い記憶が叫んでいたから。
『ちかづけばまた、あいつにころされる』
死ぬ事など畏れていない。
畏れているのは自身の恐怖に駆られ主君を守りきれないことだ。
…必ず、命に換えてもお守りします。
そう誓ったのだ。
………………。
あぁ、違う。
『この命続くまで』だ。
せやろ?
……このちゃん。
立てた誓いを曲げる事など赦されない。
抹消された記憶から逃げ出すわけにはいかない。
その為に……空白の5年間を埋めなければ。
隣の明日菜を見やる。
「…アスナさんが居て良かったです」
「何急に?!」
見知らぬ恐怖を掴もう。
手探りでも、掴んだそれがたとえカケラでも。
私は一人では……ないのだから。
やたら規制で困りますね。
とりあえず切りがいいのでここいらで。
次回このか奪還を書けるといいなと思います
>>141 服装は狩衣をイメージしてます。要は詠春と同じですかね。
原作に出てこないのになんか重要っぽくなってしまったきもい笑いの人の立ち絵、どなたか描いてもらえませんか><
顔が浮かばなくてちょっと困っています…。
>>160 うわぁぁぁぁぁぁぁ
生殺し杉wwwwwwwでもGJ!!!!!
描きたいのは山々なんだが、俺が書くと某人間に毛が生えた程度になってしまうから無理だorz
続きwktkwktk
>>160 GJ!!同じく続きwktk
ただ、無闇に絵にして人物像を固定しない方がいいと思うぞ。
自分の想像で補うのが一番だ
163 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/09(土) 19:55:32 ID:C/TZLTQt
はじめまして!
ずっと観覧していたのですが我慢しきれませんでしたwwwww!
とにかくGJ!!!!!!! つ.....続きをwww
164 :
160:2008/02/09(土) 20:18:21 ID:hYc5vxL4
続きです。
「ああああ!イクわッ!私、またイッちゃうわ!キテぇ、あなた達のどろどろした濃い精液を私の中にぶちまけてぇ」
「あああああああああああああああ!!!アナルとオマ〇コでイックゥ!!!!!!!!!!!!」
「イヤ!抜かないでぇ。もっとエグッてぇ!!!もっと奥まで突き刺してぇん!!!」
そんな電話を延々と聞いていたけど、不思議と切る気にはなりませんでした。
数時間後、私の携帯に写メが送られてきました。
全裸の妻の写真が10数枚でした。
その写真は行為の最中に撮ったのか、2本で挿されている場面や数本のチ〇ポをフェラしているところ、
最大にイッたあとのように地面に横たわっている妻に大量の精液を発射しているところ、
妻の両方の穴から私のではない精液が出てくるところなど、様々でした。
165 :
160:2008/02/09(土) 20:18:57 ID:hYc5vxL4
そこからはもう妻の喘ぎ声しか聞こえませんでした。
「あぁん!ダメ、ダメ、ダメぇん!そんな大っきいの入らないん」
「ちょ、ちょっと待ってぇ・・・そ、そんな・・・んッヒッ!!そんあんッ、はげ、はげ・・・し・・・く、しないでぇ、ヒイッ!私!壊れ・・・ちゃうんッ!!!」
「そう、そこよ。そこイイわ。そこをもっとかきあげてぇん」
「あっ!ダメ、2本なんてムリよぉ〜」
「ダメダメダメ!膣内に発射さないでぇ!・・・・あッ!・・・ああぅん・・・膣内に発射さないでって言ったのにん」
「あん。そうよぉ。旦那なんかより全然大っきいわぁ〜。だから、おねがぁい、私のオマ〇コにそのぶっといので犯してぇん」
「あんッ!今イッたばかりなのに、すっごぉい・・・なんてタフなのぉ・・・ッ!」
166 :
160:2008/02/09(土) 20:19:26 ID:hYc5vxL4
妻が言っていたように、そこに写っているどのチ〇ポも私のよりも元気で太く長かったです。
私はその妻の痴態を見て今までにないくらい勃起してしまい、3度オナニーをしてしまいました。
翌日も妻はどこかのPAで何人かの男に囲まれている最中に電話を掛けてきました。
最初のうちは私に誤り、若干の抵抗はしていたようですが、30分もたたないうちに、昨日の乱れきった妻の本性が現れてきました。
そして、やはり行為の後には写メが10数枚送られてきて、それを見てオナニーをしてしまいました。
>>160 こっのっか!こっのっか!
ブリッジして待ってる
じゃあわたしは素振りして待ってる。
169 :
160:2008/02/09(土) 22:49:46 ID:14ehw9wv
続きです。
「ああああ!イクわッ!私、またイッちゃうわ!キテぇ、あなた達のどろどろした濃い精液を私の中にぶちまけてぇ」
「あああああああああああああああ!!!アナルとオマ〇コでイックゥ!!!!!!!!!!!!」
「イヤ!抜かないでぇ。もっとエグッてぇ!!!もっと奥まで突き刺してぇん!!!」
そんな電話を延々と聞いていたけど、不思議と切る気にはなりませんでした。
数時間後、私の携帯に写メが送られてきました。
全裸の妻の写真が10数枚でした。
その写真は行為の最中に撮ったのか、2本で挿されている場面や数本のチ〇ポをフェラしているところ、
最大にイッたあとのように地面に横たわっている妻に大量の精液を発射しているところ、
妻の両方の穴から私のではない精液が出てくるところなど、様々でした。
この板に関係ない書き込み来るのって初めて?
人気高いってことか(邪魔だけど)?
てかsage進行でひっそりwktk。
単なる誤爆だろ
アンチだろ
反応しないでいいじゃん
あと効果があまり見込めなくても
やっぱりsage進行が無難かと
つか、ここのまとめ管理人さん更新マメすぎて感動!
乙です!感謝してます!
ついでにワガママ言わせてもらうと、
今投下中の連載が連続で読めるように
リンクつけてもらえたらもっといいなぁ
…なんて。
す…スミマセン。戯言です…はぃ。
最後にでも連続リンク付けたらOK?
>>174 携帯から見た時の90から129へのリンクを忘れてたみたいだったんで修正しました。
他の場所だったり、根本的に自分が勘違いしてたら、また指摘してください。
あと、基本的に月一更新なんでマメじゃないんです・・・
なるべく頻繁に更新しようとは思ってるんですがorz
177 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/10(日) 19:36:23 ID:NAlB5iE4
このかって完全にドSじゃ無いところがかわいいよね
Mッ気もあるし。
なんとなく人に二人ともボコボコにされてるのが見たい。
桜の花、舞散る。
どんな芸者も敵わぬだろうその優雅な演舞に見惚れる者、ひとり、ふたり。
そんな風景に溶け込むように少女が笑った。
名が付いてから初めての春。
黒髪の少女は詠春に手を引かれ、近衛家の誇る見事な日本庭園を歩いていた。
桜、春の芽吹き、池の浮草。
初めて見るもののように跳ね回る様子は年相応の可愛らしさで詠春を微笑ませる。
もうあの異形の化物の面影などかけらも見えない。
透き通った銀髪はやや不自然な程に黒く染められ、紅い瞳もまた髪と同じ色に変えられていた。
少女の正確な年齢を詠春は知らない。だが恐らく四,五歳だろうとの事から齢五歳に落ち着いた。
木乃香と年を揃えたのに特に深い意味はないが、遊び相手なら同い年のほうがいいだろうとそうなった。
そして二年の時を少女は神鳴流の元、過ごすこととなる。
*****
師範に連れられ二年ぶりにくぐったその門に刹那は懐かしさを覚え、思わず表情が綻んだ。
「師範、詠春様は……?」
刹那にとって詠春はいつも優しく自分を気に掛けてくれる存在だった。
神鳴流の門を叩いてからというもの―それは刹那の意思ではなかったが―一度も会う機会がなかったことを刹那は幼いながらに寂しく思っていた。
もうじき初等部に入学する年となる次期頭主の遊び相手に、と久しぶりに訪れた刹那が開口一番口にしたのは詠春の名。
また頭を撫でてくれるだろうか。
膝に乗せて昔話を聞かせてくれるだろうか。
あの穏やかな微笑がどれだけ自分を救ってきたか。
幼心にも思う、詠春の為ならば何だって出来る。
それは父を知らぬ刹那の父性を求める気持ちの表れだったのかもしれない。
「御当主はお忙しいので今日はいらっしゃらないのだよ。
刹那、御令嬢にお会いしたことはなかったね?」
「ご、れいじょ?」
聞き慣れない単語に鸚鵡返し。
「詠春様のお子様、という意味だよ。
刹那と同い年だからね、是非遊び相手に、とお前を呼んでくださったのだよ。
ほら出てきなさった、失礼のないようにな」
付きの者に連れられ、肩まで伸ばした黒髪の少女が石畳の上をゆっくりとこちらに歩いてくる。
自分と年の近い子供に会ったことのなかった刹那は妙に気恥ずかしくなって師範の背中に隠れてしまった。
「おかあさま、この子?」
「そうよ?木乃香、こんにちはは?」
「せ、刹那っ!お嬢様から名乗って戴くつもりですかっ」
名乗ろうとした木乃香を制すように師範は手を振った。
空いた片手で頭をこつん、と小突かれ刹那は恐る恐る顔を覗かせる。
周りには大人しかいなかったのだから無理もないのだが、それでも刹那は名乗れずにただ眉を下げていた。
大人の事情や身分の違いなど今の刹那には理解するにはまだ難しすぎた。
不意に木乃香が微笑む。
それは彼女なりの友愛の情を表した笑顔。
刹那もややぎこちなくはあったが、はにかんだ微笑を返した。
近衛木乃香。
桜咲刹那。
出会いすら仕組まれた幼い二人の運命は間違いなくこの日から絡まり出したのだった。
「なー、せっちゃん?」
「……せっちゃん?」
「せつなゆーんやろ?
だから、『せっちゃん』」
「……せっちゃん」
生まれて初めて付けられたその呼称に少し戸惑う。
今まで刹那はその名の通りにしか呼ばれたことがなかったから。
木乃香が口にしたそれは、愛称だった。
何か思い付いたようにしゃがむと舞散る桜の花びらをひとつ摘み、木乃香は刹那にそれを差し出した。
「……?」
「せっちゃんにようにあうな、さくら」
受け取ったそれを見つめる。
どこが似合うのか、よくわからなかった。
「にあうからさくらざき、ゆうんやろ?」
「……わからへん」
「なんでー?
せっちゃんのみょうじやんか」
可笑しそうにくすくす言う木乃香に少し申し訳なくなった。
本当にわからなかったのだ、何故自分にこの名が付いているのかが。
名前ならともかく自身の名字に意味を考えるのは先祖に高名な武将や政治家がいる者位だが、白い肌と漆黒の黒髪にあんまり桜が映えるのでつい聞いてしまったのである。
木乃香は知らないが、詠春もそう感じたから付けたのだ。やはり血は争えないのだろう。
「おじょおさま」
「?
ウチ?」
「うん」
「えー、ウチおじょうさま言われるんいややー。
そうゆわれるんはおとながつまらんことでよぶときやもん」
刹那は困ってしまった。
だって師範がこの少女を「お嬢様」と呼んだから名がそうなのだろうと判断したのにそれを拒否されてはどうしようもない。
わからないのなら聞けばいい、という思考はこの時まだ刹那には備わっていなかった。
古流剣術の流れを汲む神鳴流の基礎と成るものをただひたすらに叩き込まれる日々で、それに疑問を持ったことはない。
だから二年ぶりに訪れた近衛家で刹那が詠春は居るか、と問うたことを師範は意外に思った。しかしそれは例外中の例外と見てもいい。
質問、というものをあまりしたことがなかった刹那は目の前の少女の名を問うよりも、ではどう呼んだらいいのだろうという少しずれた思考に神経を集中させていた。
「このちゃん」
「……?」
「ウチの名前。
このかやから、このちゃんゆうて?」
「この、ちゃん」
「うん!
ほな行こか、せっちゃん!」
満面の笑みで木乃香は刹那の手を取る。
戸惑いつつも刹那は応えた。
「う、うん、
……この、ちゃん」
初めて呼んだそれは、刹那の胸にどこかくすぐったかった…………。
桜が咲いていた。
二人の暫しの平凡な幼少期をその花びらで見守るかのように、ちらちらと。
*****
彼はまたも思いを馳せる。
手許の漆塗りの木箱を国宝でも扱うかのように引き寄せると薄く笑う。
朱の紐を解き蓋を外すと中に入っていたのは、一本の真っ白な羽根。
六寸ほどのそれは純白の輝きで彼の眼に柔らかい表情を作り出す。
壊れ物でもないのに彼は羽根をそっと手に取った。
立ち上がると独特のくぐもった笑いを浮かべながら誰も居ない大広間をゆっくり、ゆっくりと歩く。
手に入れた時は血に塗れていたが、彼が丁寧に処理を施した甲斐ありそれは今は持主の一部であった時と同程度のものとなっていた。
「…………ふふ……」
僕は僕を知っている。
何故なら僕は僕だから。
自分を知らない者などいやしない。そうでしょう?
……いや、彼女は自分の一部しか知らないか。
白き翼の意味も、そこに隠された理由も何も知らない。
うん、知らないほうが幸せってこともあるからね、無知は時に幸福だ。
だけど僕はそれが諸刃なのを身を持って知ってる。
……ふふ、こういうのって処世術に入るのかな。
本音を言えば自分に痛みを伴う現実があるのだとしたら僕なら知りたくないけどね。
だけど彼女はきっとここに現れる。僕に会いにやって来る。
個人的にはそれを両手を広げて歓迎したいのだけど、彼女はそんな気なんか知らないだろうからやめておこう。
……ふふ、消えた五年間を取り返しに来るのは分かっているよ、翼の姫君。
僕は君が愛しい。
だけどね、僕は疼いて仕方がないんだ。
君の求める過去にどんな凄惨な光景が広がっていたのか、その背景に誰の意思が存在するのか。
『迎えなければならない未来』がどんなものか。
教えてあげたくて……ッ仕方がないよ…………ッ!!
…………ふふ、……あは、……ふ、ふ。
あはは、
アは、あはハははハハはははッ!!!!!!
長いこと会っていないけど元気にしているのは分かっているよ。
だって、僕は…
『僕ら』は。
……もうすぐ幕が上がるね。
血の宴、狂気の舞台。
ふふ、前座に僕もひとつ舞でも披露しようか。
間も無く訪れる、願いの日。
その終幕に嗤うは、……果たして。
あと2、3回で大きく話を進めようと思います。
ご支援ありがとうございます!
立ち絵の件、確かにないほうが想像できるのでいいかもですね、スルーしてください><
oh!グッブヒ!
大きな動きかぁ楽しみです
乙さま!
SS書きとして勉強になります。
次回も期待!
長大作乙ですブヒ!
>>190 非常に乙ですブヒ!!!!1
思ったんですが、そろそろコテor鳥をつけた方がいいのでは?
なりすまし(こないだのは誤爆だと思うけど)とかを防げますし、まとめの管理人様も分かりやすいと思うんで。
……ただの読み手の分際でちょっとでしゃばり過ぎたんで樹海逝ってきますλ........
>>193 わかりやすいかどうかは管理人様次第ですがとりあえず今回鳥つけてみます。
このスレは鳥あんまりつけない風習っぽいので問題あればまた名無しで投下します。
大丈夫、…………は、お前を愛しているよ。
……造られた……に過ぎない……を、疎ましく思うことなどありはしない。
だから、……お前は…………
「な、さん?」
「?!」
「刹那さん?」
「えっ、あ!はい!!」
「どしたの、ぼーっとして……」
「す、すいません……ちょっとぼんやりしてしまって」
「刹那さんもぼんやりする、なんてあるんだ?」
明日菜に笑われ、少し恥ずかしくなる。
「すみません、……大事の時に腑抜けた真似を」
「なっはっはっはっは、大丈夫ですよぉ刹那さぁ〜ん。
たまには抜けててもらわなきゃあたしがいたたまれないって」
「抜けているのはアスナさんの役目ですからね」
「あははっ、刹那さんも冗談が言えるようになったかぁ〜、おじさん嬉しいなぁ」
切迫した空気さえ瞬時に和やかなものに換えてしまう明日菜の性格を今日ほど有り難く感じたこともないかもしれない。
自分ひとりではこの現状に何だかんだと言い訳を付けて行動に移さなかったに違いない。
そして―微塵も考えたくない事項だが―手遅れになっていた可能性だってある。
まぁ、今も手遅れの可能性については何も言えないのだが、不思議とそんな予感はしなかった。
何より、二人の安否よりノイズが走るように不意に降ってきた誰かの声のほうが気になったくらいなのだ。
以前にも夢うつつで聴いたようなその声。
これは懐かしい……という感情なのか、それともただ単に忘れてしまっただけなのか。
……今は余計なことを考えるべきではない、と結論付けると刹那は勢いよく首を振った。
…………あなたは……
誰?
冷えた空気の中、それはあった。
……コレは動じることがあるんだろうか。
対象は物言わぬ建造物に過ぎないのにそう思わせるほど、近衛家……関西呪術協会は二人を威圧するように建っていた。
いや、門すらまだ見えないのだからそれでは語弊がある。
長い長い階段を見上げながら今更ながら身震いがする。
ついさっきまでの明日菜の意気揚々とした態度もさすがに萎んだように見え、刹那は拳を握った。
……巻き込んでしまっただけの明日菜に頼るようでは神鳴流の名が泣こう。
後押しをしてくれただけで本当に感謝している。
万一怪我でもあるようでは明日菜に関わる全ての人間に顔向けが出来ない。
一歩踏み出しただけで背中に脂汗が垂れた。……やはりどれだけ強がりを言っても身体は正直らしい。
刹那の脚の震えは明日菜にも見て取れる程になっていた。
「……大丈夫?」
「…………はい」
「全然大丈夫じゃないって顔に見えるけど、あは。
あたし馬鹿だしきっと勘違いだね」
「……はは」
引きつった空気に僅かな緩み。
刹那の表情にほんの少し……本当に雀の涙程ではあるが変化が起きた。
こんな気配りの出来る明日菜を心底尊敬している。
詠春と木乃香の無事が分かったら伝えてみよう。
刹那は密かにそう思った。
「行きましょうか。
む、……むかじー?が何をしているのか分かりませんが」
「発音違う!ムカG!Gで上がるの!」
「あはは」
よく整備された階段を一段ずつ……確実に登っていく。
この一段ごとに自分の過去との距離は縮まっているんだろう。……ぼんやりそう思いながら夕凪を握る左手に力を込めた。
「アスナさん」
「ん?」
「……怪我、するかもしれませんよ」
「なぁに言ってんの、怪我なんて365日あるっての!」
勿論明日菜には刹那の言う「怪我」の意味合い位理解っている。
だが刹那の顔に少しも冗談らしさが無いので敢えてそう返したのだ。
怪我なら修学旅行の際にも幾らか負った。
「ね、刹那さん」
「……はい」
気合いの入った決意表明でも宣誓するのかと、刹那は鈴の音の方向を向く。
「あたしはさ、これでも友達は大事にするタイプ!
それだけ覚えといて!」
「…………ははっ」
「こら、ここ感動するとこよ?」
「すいません、……あは、アスナさんらしいな……。
……はは」
「うぅわ、刹那さんピンチでも放置するよあたし!」
「それはちょっと」
「なはは、任せとけッ!」
明日菜はどん、と胸を叩いた。
*****
顎から滴るのはきっと……いや、間違いなく自分の血なのだろう。
……頭が痛い。
殴られたか斬られたかわからないが、どちらにせよ頭部に出血を伴う怪我を負っているのには違いない。
その血が流れ頬を伝い顎から滴る。先程から自身の血が床にその不快な音を立てている。
ぴた、ぴた、ぴた。
極めて等間隔で鳴る音に気が付いてからどれ程経ったのか、何も情報を得られない為見当すら付かない。
腕も脚も予想通り動かない。
比較的夜目の利く詠春の目にも風景はひたすらに闇だった。
触ることが出来ないので何とも言えないが、この闇はどこか不自然だった。
(目隠しもされている……か)
瞼の感覚でそれを探ろうにも詠春にはその気力さえ切れ掛けていた。
……この部屋は……どこだろう。
老人達の目の届きやすい場所なのか、幽閉するに適した場所か。
頭主とは言えお飾りに過ぎない詠春には自分の屋敷でも見知らぬ部屋が数多かったのだ。
此所は審議会の面々が『観察』する為に設けた小部屋である。
それは一目では人がいるようには見えない。
書類や滅多に使う機会のなさそうな物を保管しておく為の部屋……とでも言おうか。
外観はごくありふれたレンタル倉庫のようだが、その目に滑る形状には不釣り合いな程頑丈そうな施錠が凡庸な使用目的として設置されたのではないことを暗に主張している。
純和風な景観を損ねることを嫌い屋敷の裏手に隠すように置かれても、それは当初審議会の一人二人から反対の意を唱えられた。
『観察』するならばすぐに目の付く屋敷内に造るべきだというのが反対派の主旨であったが、それは直ぐさま却下されることとなる。
確かに目の付く場所に置くべきなのは逃走の危険も考慮に入れたならば場の誰もが承知していよう。
しかし、そこに幽閉される者が屋敷内部に存在すること。
それは儀式を執り行う事を考えたならば極めて不都合な事象だった。
幽閉される者と汚れた者とは同義だったのである。
`ケガレタ'存在を聖なる領域……近衛家に置く事などあってはならない。
この部屋にその身を置かれた時点でその者の運命はほぼ決定されていた。
この事を詠春は知る由もないが、知らないほうが良かっただろう。
…………誰も自分の死期など明確な日取りとして認識したくはない。
……無知は時に幸福だ。
過去にそう口にした者が居たことも勿論詠春は知る筈もない。
身体の自由を奪われながら尚も耐える。
冷えきった空気にも震えることはない。
胸の内に宿る後悔の念は正常な体温感覚を奪い、その全ては今や人知れぬ懺悔へと回されていた。
木乃香と隔離された時に漸く理解したのだ。余りにも自らの考えが甘かったこと、そして……思慮の浅さを。
詫びて全てが赦されるならば死ぬまで彼は唱え続けたに違いない。
しかし、今の彼には審議会にとってもうじき始まる宴への駒としての価値しか残されていなかった。
謝罪の言葉を対象に口にすることも叶わずに詠春は等間隔で響き続けていた水音を乱れさせた。
滴る血に混じり、透明な滴が床を濡らす。
それはあの惨劇の日と同じく、彼の肌を洗い流していたことに詠春は気が付いていたのかいないのか…………
きっと、嗚咽だけが知っていた。
し…支援…?
規制か?規制なのか?
*****
近衛家を取仕切る存在である、通称『審議会』。
この強大な権力を持つ組織の決定は近衛家の意思そのもの。
名目上立てられた詠春は文字通り飾りだった。
彼らにとって詠春は審議会の決定を末端に伝える為の単なる拡声器に過ぎないのだ。
……審議会。
それはどんな役割を持った機関なのか木乃香は知らなかったが、今……確実に理解したことがある。
……善か悪かで分けるのならば紛れもなく『悪』だ、と。
「そう堅くならずとも良いではありませんか、お嬢様?
もう少し楽になさったらどうです、肩が凝りますぞ」
嫌味を含んだようなその口調に木乃香の眼光が鋭くなる。
平均年齢六十八歳と高齢揃いの審議会の面々でも一際皺の目立つ白髪に長身の老人……近衛八重蔵は木乃香の反抗的態度がいたく気に入ったらしく、嗄れた声で笑った。
「威勢が良いのは母譲りなようですなぁ?
あの朴念仁に見習わせたいものです」
朴念仁というのが詠春を指していることに気付き木乃香が八重蔵を睨む。
その目には滴が溜まり、動けばきっと零れただろう。
父は朴念仁などではない、争いを好まぬ優しさと強い意思とを併せ持った尊敬すべき人間なのだ!!
「お父様は…………っ、
どこや……………!!」
「焦らずとも直に知れましょう、そんな調子では次期頭主は務まりませんよ」
「そんなんどうでもええっ!!!
お父様はどこッッッ!!!!」
大広間の一角に涙が散った。
普段のおっとりした木乃香の様子を知る長にとってそれは可笑しい事であったらしい、上機嫌とも取れる声で話し掛ける。
「……ふふ、気になりますか?」
「……当たり……前や……っ」
「教えてあげても良いのですが、知ったら貴女はどうなさるおつもりなのでしょう?」
「愚問をッッ!!!
この足で助けに行くに決まっていましょう!!!!」
木乃香の脳裏に、脇差で峰打ちされ頭から血を流し倒れた詠春が走る。
「あっははははは、親思いの方だなぁ、今の若者は親を省みない者が多いというのに。
貴女のような方が今のこの国にも存在するというのは喜ばしいことだと僕は思いますよ、……ふふ」
「無駄な口を……ッ!!
近衛兼定……、貴方に問います……!!父は……何処ですか……っ!!」
兼定に掴み掛からんばかりの木乃香の腕を脇の僧兵が両脇から捕える。
「何処、と言われましてもあの部屋に名など付いていませんからねぇ……」
名を呼ばれ老人がいやらしい笑いを浮かべる。
「そうですなぁ、はは、『離れ』としか言えませんしな」
「……ふふ、それではあんまりです。
う〜ん、『宣告の間』……いや、『首狩の間』なんていいかもしれないですね。
あはは、僕に名を付けさせるべきではないなぁ、日本語の美しさを死なせてしまう」
怒りで顔を赤くしていた木乃香の表情が途端、色を変えた。
「ころ……す…………つもり…………なん……か……」
「ふふ、そんな事はしませんよ」
一瞬安堵した木乃香を満足そうに見据えた後、近衛家の意思の決定点となる存在……近衛兼定はにっこりと笑い、続けた。
「今はね」
規制でした!
次回でようやく前スレで住人が考えてくれた設定をひとつ消化できそうです。
鳥はどうしたらいいんでしょうかね?名無しのままか付けたほうがいいのかご意見をお願いします
ムカGに名が付くとは思わなんだ。
超長大作なので鳥でヨロ。
wktkしまくって次回を待つのだ(某ヒロイン風に!釘宮voiceで!)
>>209 鳥でおkだと思うお
…と、鳥付けるのを提案した本人が言ってみるテスト。
>>210 脳内で勝手に再生されるから困るwwww
そんな俺N型。。。
ん〜、ローション?
>>209 今回みたいな連載の場合、鳥かコテつけて貰えると、分かりやすくなるんで、自分は有難いです。
途中で他の人の投下があった場合とか、ごっちゃになる可能性が無きにしも非ずなので・・
とりあえず、一読者として続きwktkしながら待ってます。
*****
近衛兼定。
やや低めの背丈に細い手足は見る者にどこか中性的な印象を与える。
彼の実齢を知るのは近衛家全体で片手で足りる数しかおらず、審議会の面々に取っても謎の多い人物だった。
兼定の外見年齢はニ十代半ば程な為、内心彼に従うことを良しとしない者もいたが、その不気味な笑い方と穏やかな口調の不均衡が相俟って逆らう者は余りいない。
長く伸びた前髪は優に目許までをすっかり覆い、薄気味の悪さを際立たせる。
前髪のせいで表情が掴みにくく、くぐもった話し方をする彼は自分がどんな存在であるかを理解した上でこんなことをするのだが、それを承知している者は一人しかいなかった。
いつも彼の傍らで、助言とも進言ともつかぬ言葉を吐くその男。
彼を兼定は嫌ってはいなかった。ただ大人しく自分の言うことを聴くばかりの老人達にやや辟易していた兼定にとってご機嫌伺いではない他者の意見はこの上ない面白みがあったのだ。
(馬鹿な男だ)
内心呟き、薄く笑う。
その馬鹿な所も嫌いではないし、むしろ無駄に生きる老人達より遥かに好感を持っていた。
だからこそこちら側に引き入れたかったのだが、予想通り拒否されたのだった。
それすらも兼定は面白く思っていたが、当人からしたらそんな計画の片棒を担ぐわけにはいかないというだけである。
出来れば殺したくはないが、泳がせるには極めて邪魔な存在。
……しかし。
(……ふふ、どうやら僕はあの人が嫌いじゃないらしいなぁ)
人前に出る事をあまり好まない兼定は自分の言わば分身としての存在を長らく探していた。
温厚そうに見えて芯のある性格を買い、補佐にするつもりで頭主に祭り上げたのだがそれは間違いだっただろうか?
現にあまりに若く頭主となった詠春を毛嫌いする老人が出たからだ。組織に対し無頓着とも言える兼定であるが、派閥が出来る事は望んでいない。
小太刀を持って自分に斬り掛かってきた詠春を思い返す。
あの態度ではもう確実に自分の意を汲んではくれまい。
柔らかな表情の奥の眼光は生かす価値は十分にある。
老人達は彼を貶すことしか知らないようだが、全く……。これだから無駄に歳を食うのは嫌なのだ。
詠春のような一見気弱そうでいて実は堅実な者が何より有能だと言うのに、ああも頭が堅くては出来ることも出来たものではない。
歓心を得る為の行動を取ろうとしないのはその娘にも言えたこと。父娘共々嫌いどころか、逆にさえ思う。
自分の元に付く可能性に賭け問うた言葉を思い返し、薄く笑う。
子供とは言え甘く見てはならない。木乃香の表情から兼定はそう察した。
残念だが詠春は……仕方があるまい。どう説き伏せようと自分に靡くことはないに違いない。
……しかし。
あの温室育ちのお嬢様はまだ必要だ。
(……ふふ、
……まぁ……、オモチャはいつか壊れるものだしね)
手に持っていた扇をぱちりと畳み、軽く力を込めるとそれはまるで紙屑のようにへしゃげて折れた。
骨の折れたそれを一瞥してから床に放る。
乾いた音、ひとつ、ふたつ。
「……次期頭主は……
…………知らなくても良いことを知りすぎたね…………」
その呟きを聞いた者は彼自身を除けば誰ひとり、……いなかった。
*****
まどろみから覚めた時、広がっていたのは見知った天井。
……目の前が真っ白になる。
そんな感覚を木乃香はこの瞬間まで知らなかったが、…………今では。
何かが頭の中から掻き消されたような……そんな奇妙な感覚。
……少し頭が痛い。
今まで何をしていたんだっけ。
……この部屋はどこだっけ?
部屋を見回す内に徐々に断片を思い出す。
確か……何か用があって帰ってきたんだ。
だけどその用というのが思い出せない。記憶にぽっかりと穴が空いている。
大切な用だった気がするのにそれがなんなのかは全くわからなかった。
わざわざ実家に戻ってきてまで言いたいこととはなんだろう?
用があったのは思い過ごしだったのかもしれない。親元を離れて生活するのは案外心細いものだと知っている。
……いや、そんなはずないじゃないか。
切り取られたように消えた記憶をホームシックの一言で片付ける気か?
額に手を当て目を閉じる。
鈍器で殴られたなどないがきっとこんな後味なんだろう、そんな気分の悪さを残す鈍痛。
……落ち着いてひとつずつ思いだそう。
何故自分は実家に帰ろうと思ったのか?誰かは一緒だった?どうやってここまで来た?
……いくら考えても、まるで最初から知らなかったことのように答えは出なかった。
手探りどころか、答えがあるのかさえわからない。
「気がつかれましたか」
知った声がして、顔を向けた。
「……ウチ、何しとったん?」
「お嬢様は先日急に戻っていらっしゃったのですが、お疲れのせいか着くなり眠ってしまわれたのです。
失礼ながらお召物は換えさせて戴きましたが」
「…………そ、か……」
「何か召し上がられますか」
「……ん、えぇわ。
……なんか、言うてへんかった?」
「何か、とは?」
「ウチ。なんか言うてなかった?用事……とか……」
そう言って、じ、と目を見る。
「はは、お嬢様、まだ疲れが抜けていないのではないですか?
まるで記憶喪失にでもなられたようだ」
可笑しそうに笑われ、少し赤面する。
……あっさりと言われてしまったのでなんだか真面目に考えていた自分が変に思えてしまう。
しかし、不自然な時間の流れは笑いでは済まないものがある。
「なぁ」
「はい」
持って来ていたらしい水差をカタ、と枕元に置きながら答える。
「お父様、どこにおる?
なんか……顔見たら思い出す気ぃしてきた」
「詠春様は昨夜お祖父様の元に向かわれましたので今はいらっしゃいません。
言伝があれば」
「あ、うん、えぇわ。
…………実言うとな?
……何しに来たか忘れてもーてん」
「ははは、まだお若いのにそんなでは困りましょう」
「あは。
ほんと……度忘れっちゅうんかな、ややなー。
戻って来たら言うてくれる?」
「はい、直ぐに」
「ありがとな」
「いえ」
障子がそろりと閉まるのを確認した途端、木乃香の表情は変わった。
……おかしい。
何故なら……今様子を見に来たのは明らかに普段自分の世話を焼く身分の者ではなかったからだ。
「…………審議長が直々に水差持って来てくれはるなんてな……
…………随分サービス精神満点やんか」
今自分が今夜が山の病人ならまだしも、ただふらりと帰ってきただけで―今の口振りから察するとだが―審議長がわざわざ自室にまで来るだろうか?
木乃香は近衛家次期頭主であり、かなり大切に扱われてきた正真正銘の箱入りお嬢様なのだからそこまで不思議ではないかもしれない。
……これがせめて『審議会の誰か』なら、の話だが。
否応なしに心がざわつく。
まるで今のは入り用なものを尋ねに来たというより…………
……様子見。
「…………何しに来たん……」
くぐもった独特の声が耳にこびりついたように離れない。
……とにかく、戻ろう。
何故だかここにいることは良くない予感がしてならなかった。
*****
「お嬢様は忘れてしまったよ、キミが殴られ倒れる様を。
だってキミはあの子に平穏を望んでいたんでしょう?
……ふふ。僕がそれ、叶えてあげたよ。
あのおっとりお嬢様には血腥い空気は合わないよね」
目隠しを外され、拘束具も全て解かれている。
だが詠春は動かない。
……動けない。
「やだな、死んだの?」
兼定は詠春の髪を掴むとしゃがんだ自分の高さまで顔を持ち上げた。
「……ふふ。
生きてるなら生きてるって言ってくれなきゃ困るなぁ……。
もうすぐ……、あは。ははッ!!翼の姫君も僕に会いに来てくれるって言うのにさ、そんな辛気臭い顔しないでよッ!!」
「何を…………するつもり…………だ」
乾いた血が固まり上手く喋れない。
……喉が焼けるように痛かった。
「…………ふ、」
暗く澱んだ部屋に掠れた声がひとつ、落ちた。
「…………ふ、ふふ…………、あは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!!!!!
あは、あはははは、あっはははははははは!!!!!
何を言うの、コレはキミが提案した事だよ?十年前キミが翼の姫君を抱えながら語った計画でしょう?!
嫌だな、記憶を消すのはお嬢様だけって手筈だったんだけどキミのも消されちゃったのかなぁ?!僕は指示を間違えちゃったのかもしれないねぇ!!!
あは、あは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!」
……狂気としか言い様のないその笑い声はその場にいた者全員を戦慄に染めた。
……ただひとり、詠春を除いて。
「…………他にも……ッ、方法は…………ある筈だ……!!
何もあの子を使わずとも…………」
前髪に隠れた兼定の眼がその一瞬にして表情を変えた。
髪を離し、額に指を当て直す。
……鈍い音が響いた。
無表情で、いつも浮かべている冷笑すら今は無かった。
壁に掴んだ詠春の頭を容赦無く打ち付ける。
壁はどんどんと赤黒く染まり、次第にその染みも広がっていく。
その光景に、それを目の当たりにした老人達数名は本能的恐怖を覚えずにいられなかった。
最初の方こそ手で額を守る仕草を見せていた詠春がそれすらしなくなった時、老人達の誰もが思った。
『ちかづけば、
…………ころされる』
くっ…またしても……規制、なのか…?
「詠春。
……ふふ、……僕はキミが嫌いじゃないよ」
最早聞こえているかすら怪しい詠春に語り掛ける。
「僕はキミをとても好き。
だからさ、大事にしてあげたいんだよ?」
割れた額に手をやりその血を拭う。
「……やくそく、まもってほしいなあ。
下らない親子愛なんか反吐が出るよ」
死んだように動かなかった詠春の眼に光が戻る。
「……………………ッ!!」
「うん。何かな?」
「親として……!!!
子の幸せを…………!!願って…………何が悪いのだ…………!!!!
何の罪があった?!造られた存在に過ぎないただの少女を……!!!人に生まれなかったというだけで……貴方は……ッ!!!」
「……だから、そういうの、
下らないよ」
詠春の意識は人為的に切れた。
ぷつりと、突然に。
*****
目を疑う、という言葉がある。
それは信じられないものを目の当たりにした時に用いる慣用句のひとつだ。
例えば道の真中に数える事すらままならない大金が落ちていたり宇宙人が降り立っていたとしたらそれは正に目を疑う、になるだろう。
しかし、今は大金を見つけてもいないし未知との遭遇もしていない。
ただ近衛家へ続く階段を上がりきり、どうやって木乃香と詠春を探そうかと思案していただけなのだ。
ある意味、『目』は疑わなかった。
見慣れた探し人がまるで明日菜と刹那の為に用意されたかのようにそこにいたから。
疑ったのは……『耳』。
「木乃香…………ッ!!良かった、無事なんだね?!
えっと、イケパ……じゃない、お父さんは?!」
肩を掴み問質す。
それは音声が無かったとしたら強奪風景にすら見えただろう。それ位に明日菜は動転してしまっていた。
無理もない、無二の親友が幽閉だのなんだのと物騒な話ばかり聞かされていたのだから。
「え、……あ、あの……?」
「お父さん大丈夫なの?!
ドッキリだったとか?!」
「父……は……お祖父様の所……に……居ます、が?」
「学園長?な、なんで?」
「アスナさん」
明らかな違和感を覚え、刹那が手を離すよう制す。
「……お嬢様……?」
「あの…………、失礼ですが……
どちら様……ですか?」
二人の動きが凍る。
少しびくついた様子で自分達を見る木乃香に刹那、明日菜共に思考が止まっていた。
先に口火を切ったのは明日菜。
「…………ちょ、あはは、何言ってんの、冗談……きつい……って……」
努めて明るく振舞う口調すら今は寒々しい、ムードメーカー的役割の明日菜にも処理しかねる悪い冗談。
「お嬢様…………何が……あったのですか」
「え……?あの……」
木乃香は戸惑っていた。
見知らぬ二人組は自分の知らない何らかの事情を掴んでいるように見えた。
……どうして自分の名を知っているのだろう。
面識はない。だが今の様子はそうとは思えなかった。初対面で名を知る筈がない。
そして……何より、父を話題に出したこと。
この事が何かとてつもなく重要な事象に感じられて…………。
「ちょ、なんか……意味わかんないけどとりあえずさ、木乃香はあたしが連れてくから刹那さんはお屋敷行ったらいい!!ような気がする!」
「そ、そうですね……!お願い……出来ますか」
「当たり前田のクラッカー!!
行こう、木乃香!」
「え、わ、?!」
二人は目配せを交わした。
明日菜は木乃香を学園に戻したら自分も駆け付ける、という意思表示。
刹那は木乃香を任せる、という信頼のつもりで。
小柄な木乃香をひょいっと抱えると明日菜は階段を駈け降りる。
その背中に敬礼でもするかのように刹那は腰を折った。
自分も行こう、と足を踏み出したその時。
「………………あ…………」
それはまるで……金縛りだった。蛇に睨まれた蛙、と言ってもいい。
……脚がぴくりとも動かない。
しかしこれは妙な術や魔法の類ではないことはわかった。
何故なら、自分を凍らせたのはあの時と同じ恐怖だったからだ。
「…………こんにちは、……ふふ。……待っていたよ。
悪いけど、お嬢様は渡せない。
君にとってあのお嬢様は命に換えてでも守るべき対象なんだろうけど、僕だってあの子が大事……だから」
階段の中腹辺りで起きた物音を、常人より遥かに優れた刹那の耳は捉えていた。
「あぁ、君にも聴こえた?
……ふふ、逃げ出されるわけには……いかないからね。
ダメだよ、大人に逆らっちゃ、……さ」
屋敷と階段とを繋ぐ石畳。
そこに『彼』は居た。
鬱陶しい程に伸びた前髪に隠された表情を、刹那は見るまでも無く理解していた…………
*****
兼定と刹那の対峙より数日前、エヴァンジェリン宅にて――
呼鈴が鳴った。
暫くすると従者が客が訪ねてきたことを報せてきたのを意外に思いながらも腰を上げる。
この家に来る者などぼーや以外にいやしない。
なので勝手に判断しそれが誰かも聞かずに通してしまったことを後悔した。
「やぁ、……久しぶり」
「…………全くだ」
恐らく顔が引きつったことだろう。アルビレオ並……いや、それ以上に嫌いなモノが目の前に居るのだから。
「上げてくれるとは思わなかったな」
運ばれてきた紅茶には手を付けず、添えられていた角砂糖を2,3粒口に放り込む様を見て溜め息が出た。
嗜好と思考が変わっていないことでもアピールしたいのか、などと勘繰ってしまう。
「ボクは君が好きじゃないけど、君もボクを好きじゃないでしょう?」
単刀直入にも程がある口の利き方もやはり健在らしく、元より滅入り気味の気が更に滅入った。
「……良く分かっているじゃないか。
用件言ってさっさと帰れ」
「お互い嫌っているってさ、ボクは案外作業効率がいいと思うんだ」
「何が言いたい、相変わらず回りくどいな」
テーブルに置かれたカップを手に取り掌に馴染ませる。
その間も角砂糖を口に運ぶのはやめない。
……私も人ではないとは言えこいつの言動は理解の範疇など軽く超えている。
菓子か何かと勘違いしているにしても異様に見えた。
「相手の考えが分かりやすいってことだよ」
「……成程な」
「ねぇ、ボクは君が嫌いだけどボクを助けてくれるならそれなりの対価は渡せるつもりだよ」
白く細い指を突き合わせながら微笑む彼を紅茶を啜るふりをしながら眺める。
本当に……相変わらずだ。
「話だけは聞いてやってもいいが」
「……ふふ、現金だね」
「五月蠅い」
「外に出してあげるよ。
この中は退屈でしょ?」
「生憎だが昔程退屈でもない」
「……そうなの?……ふぅん……
あの赤毛魔法使いが帰ってきたとか?」
「……その名は出すな」
「……名前……言ってないよ?第一知らない、ボクは。
まぁいいや、外に興味がないなんて随分変わったんだね」
「お前も昔程飛び回らなくなっただろう」
「……ふふ、ボクが飛び回ってたなんて何百年前の話?」
「さぁな。
とにかく前程外に興味は無い、奴が生きている事も分かっているしな。その内出られる」
現にアルビレオのカードは死んでいない。奴の生きている何よりの証拠だ。
「あはは、困ったな。
助けてもらえないとなるとボクは非常に窮地に追い込まれるよ」
「それは結構だな」
「白い……翼」
その単語に耳が反応する。
「羽根か?
お前もいよいよ危ないな、悪魔にでもなるつもりか」
「さぁ?……ふふ、どうかな」
言いながら手を伸ばした先にもう角砂糖がないことを見るや途端に顔をしかめる。
これ以上五月蠅くなるのもうんざりなので茶々丸にその旨を伝えた。
「……何をしろと言うんだ」
「翼の剣士に致命傷を」
運ばれてきた角砂糖を5,6個掴み口に放ると、目の前の甘党はそう言った。
規制?
前スレ住人の考えてくれたこのかの記憶抹消とエヴァ様登場を一気に消化してみました。
記憶喪失って何したら戻るんだろう…
鳥付け継続で投下しますね、ご意見ありがとうございます。
記憶と関連の深い事象や衝撃に遭遇…てのが定番だな。
愛の力で万事おk
>>237 乙です
ここはブーイング覚悟で言わせてもらうが…
刹那がエヴァにやられる場面を目の当たりにして
そんなことより作者の年齢を聞かせてもらおうか・・・
当たり前田のクラッカーてうちのオヤジが言ってたギャグ(?)だぞw
きっと明日菜が親父趣味過ぎるんだよ!
と、作者を支援してみる。
なんかもうアスナ大好きになってきた
>>241 職人さんのパパ(略して職パ)が言ってたのかもしれないジャマイカ。
というかかなり有名じゃない?
>>237 記憶喪失…そんなの王子様のキスに決まって(ry
ノ
接吻に一票
でも記憶喪失のままだとチョッチ無理?
知らない人との接吻は…いくらせっちゃんがカワユクても…。
お空に舞い上がったときに、修学旅行の記憶と重なって……何てのはどうだ?
それから記憶の戻ったこのちゃんに感激してせっちゃんからソフトラブラブキッスっての。
うはっ、妄想してちと萌えたwww
満月バックに、是非!
>>246 記憶が無くても、断片的に覚えていて、
せっちゃんの顔を見るたび、すこしずつ思い出してゆく
そんで、木乃香が、刹那の名前を呼ぶ際に、せっちゃんって呼んで、
で、ちゅーをすることもできるさ!空だって飛べるはず!
>>246-247いいっすね、なるべく沿えるよう書きます。
原作に近衛のG共が全く出て来ない為に苦肉の策でオリジナルで出してしまったわけですがその内総スカン食らいそうで心配です><
いわゆるオリキャラというのは自重したほうがいいんですかね?
>>248 AIo1qlmVDI氏かな?
オリキャラって人によっては嫌ってたりするけど、あなたのは設定があまりにも自然すぎるから大丈夫だと思うw
もっとやってくれ
配慮するなら但し書きとか入れればいいんだし、スレに制限はないぞ(はず)。
このかと刹那のカプを大事にしてれば、俺は文句無い。かつ超長大作だからむしろ歓迎。
これでアマエロなら言うこと無い。
記憶無くした木乃香が又刹那に惚れる・・・
そしてキス→記憶戻る
とか勝手に妄想してたりする
「兼定様……、甘い物がお好きなのですね」
角砂糖半袋を平らげた跡を視界に移しながら茶々丸が言った。
「今のは兼定じゃない」
甘いものというよりは砂糖である。
単なる菓子好きとも取れる言い方は間違いだと言おうかとエヴァは思ったが特にその必要もないのでそこは黙っておく。
「……?」
茶々丸の自動思考回路をついさっきまで自分の脇のソファーに腰掛けていた人物の情報が駆け巡る。
あまり多くないとは言え、骨格表情仕草どれを照合してみても結果は『来訪者は近衛兼定』と表示される。
「奴が兄か弟か知らんがあいつは兼定の兄弟、鷹峰だ。
いや……双子なのかもな」
「……タカミネ」
瞬時にその情報を新しくインプットする為の作業を開始する。
……が、兼定との相違点が一つも無いので入力は拒否された。
その様子に気付いたらしく、エヴァが笑う。
「私もあいつらを識別するのに苦労する。
が、あいつは間違いなく鷹峰だよ」
ごっそり減った角砂糖入りの袋を叩きながら言った。
「兼定は甘いものは食べない」
「そうですか」
たったひとつの差を入力し、新しく人物の検索ワードに追加した。
「マスター」
「ん?」
「どうなさるおつもりですか」
比較的穏やかな表情でいたエヴァだが、途端にそれはひき締まる。
「……断るに決まっているだろう」
「そうですか」
「……なんだ」
「いえ、承諾するものと」
「……馬鹿にするな。
奴の条件に一瞬傾いたのは確かだが飲むわけがない」
カチャ、と音を立てて紅茶が置かれるのを尻目に続ける。
「奴は生きているんだ、焦らずともいい。
今日まで何年待ったと思っている?私はその間奴の生死を知らずに待った。
だがな、今は確実に生きているという事実がある。
今更会うのが早まったところでなんだと言うんだ?
鷹峰の算段に乗る必要などない」
珍しく自分に対し饒舌になったエヴァンジェリンを見て茶々丸は思う。
……やせ我慢をしている、と。
しかし従者として主人の気に障るようなことを言うべきでは無い。
茶々丸の人工知能はそう判断したので、これ以上弄るのはやめておいた。
*****
明日菜の頬を脂汗が垂れる。
猪突猛進型馬鹿の明日菜でもこの状況が良いものかそうでないか位わかる。
体格の良過ぎる屈強そうな男が数人階段を上がって来たのを見れば幾ら馬鹿でも気付くというものだ。
抱えたままの木乃香をどうするか一瞬迷ったが、明日菜は腹を決め階段の脇を固める松林を突進んだ。
「ごめん木乃香っ、痛かったらサロンパス後であげるから我慢プリーズ!!」
何処に突っ込むべきか木乃香は迷った。
しかしこのツインテールの少女に自分への悪意は少しも感じられない。身を任せることにも不思議と不安はなかった。
が、見覚えのある服を纏った男達が明らかに自分等を追って来ることにはさすがにそう悠長なことも言っていられない。
「あ、あの……っ」
「何?!今取り込み中!!」
「う、後ろ……」
「後ろ?!
な、なにあれ―――――――!!!」
言われて振り返ってみると、何とも物騒な物を担いだ男が目に入る。
……鉛色に光る細長い円筒型のもの。
軍備知識などカケラもない明日菜であるが、……それは素人目にも小型のバズーカ砲に見えた。
「うううう撃ったりしないよね?!よね?!」
「わ、わからへん」
テロのニュースで良く聴く音がしたと同時に、二人の2,3m横の松林がほんの一部ではあるが吹き飛んだ。
その断片が明日菜の頬を霞め、元より猛ダッシュ気味だった脚を更に加速させる。
「ちょちょちょちょっと―――――――っ?!
冗談きつい通り越してるよね―――――――っっっ?!」
時速100キロはあろうかという明日菜であった…………。
数人を先導する男の一人がぼそりと言う。
「…………構わん、Eを使え」
そのあまりに早い決断に男達の表情が瞬時に変わる。
「し、失礼ですが……っ、我々だけで十分かと……」
彼らは素人を捕えることくらい朝飯前な訓練など腐る程積んでいる。
にも関わらず威嚇射撃一発のみで即Eを使うとは正に夢にも思わなかったのだ。
「威嚇に応じぬ肝を持った輩だ。
逃がしたらどうするつもりだ、……我々が消されるぞ」
彼らに殺傷能力を持った武器―威嚇用に使った小型バズーカは除くが―の使用は現時点では許可されていない。
先程明日菜が冗談じゃねーよと喚いた物も文字通り威嚇に過ぎないし、思い切り外して発射されている。……当たれば死ぬが。
この程度の距離を狙い撃つことも彼らにとっては容易いことだ。しかし、それでは木乃香も危ない。
催涙弾という手もあるが、即効性・確実性を考慮するとやや心許無い。
木乃香に疵をつけてはならないし、それ以上に逃がしてはならないのだ。
「しかし……!」
その間も明日菜は尋常ではない脚力を見せつけその差を広げていく。
議論している余裕がないことは勿論分かっているが、彼らは出来ることなら『E』に遭遇したくはなかった。
「……俺も見たくはない。
気持ちはわかる」
屈強そうな表情を更に頼もしげに見せる髭を撫で付け言う様を見て、その指揮下に付く一人は無線を取り出すと額に手をやりながら上官の指示通り呟いた。
「……E、目標の進行を阻止せよ。
及び最優先事項を近衛木乃香の回収に設定。
場合によってはカグラザカアスナへのコード02適用を許可する」
『………………あ"はッ』
ノイズ混じりのその声に身震いがする。
無線を離し、腕を見るとその肌には鳥肌が立っていた。
その数秒後、階段上で刹那に語り掛ける兼定と瓜二つの男が降り立ったのを明日菜は視界に映していた…………
*****
石畳の上に立つそれと視線を繋ぐ刹那。二人を見る者は誰一人としていない。
刹那は動かぬ兼定をただひたすらに睨むが、それが虚勢であることは兼定には知れていた。
「……ふふ、怖がらなくていいよ、……僕は君が好きだから」
歯を食いしばり、それが鳴るのだけは辛うじて防いだ。
これが今の刹那に出来た最大限の行動である。
「ねぇ、怯えなくていいんだよ?
もうすぐ君の大切な大切な……あはは……お嬢様もここに来るんだし」
「…………お嬢様に……何を……した……ッ」
兼定がやったという確証はないが、今の表情からそれは確信に変わる。
「……少しね、記憶を整理しただけだよ。
ごめんね、君のことも消さざるを得なかったんだ。悪く思わないでいてくれると嬉しいなぁ……ふふ」
「何を消した…………!!」
「まずね、詠春に対する記憶の一部を。存在は消していないよ、オトウサンだもんね、僕にだって良心はあるから。
後君とカグラザカアスナの存在。あることないこと随分余計なこと吹き込んでくれたみたいだから、ふふ」
上機嫌に語る兼定の前髪が不意に1,2本散る。
「……瞬動?
…………へぇ……」
刹那は眼を狙い跳んだのだがそれは空しく空を切り、長い前髪が僅かに犠牲になっただけであった。
「僕は君が好きだけど、君は僕を好きじゃないみたいだねぇ……ふふ。
困ったなぁ」
身体の奥からじわじわと、しかし確実に滲んでくる恐怖と闘う。
……この笑い方が何かを想起させる。が、それが何かがわからない。
「僕らは10年前に会っているけど、君はそれを覚えてる?」
兼定は前髪を人差し指でぴん、と弾くと距離を詰めながら嗤った。
本能的に後退りした刹那を愉しそうに見やりながら言葉を続ける。
「まぁ……覚えてたら困るから今まで言わなかったんだけどね?
…………もう、いいんだ」
「…………誰だ、
あなたは…………」
「……あはは、自己紹介しようか?
近衛家の進路を決定する審議会の長、コノエカネサダ。
……ってことになってるよ」
「…………?」
「僕には近衛家の血は流れていないんだ」
兼定はその細い腕を空に向かい振り上げた。
「…………が、ッ……?!」
その動きと連動し、刹那の身体が突然浮かび上がった。
兼定が指に力を込めると、首に圧力が掛かる。
「……離れた相手も怖くないんだよ、僕は。
君とは相性が悪いねぇ?ふふ、君は剣士だから接近戦しか出来ないでしょ?」
口許を歪ませながら笑う兼定は刹那から優に5mは離れている。
なのに超至近距離で首を締められているも同然……!!
「苦しい?ねぇ、苦しい?苦しいのかなぁ、その顔は!!
あはははははははははははははははははははははははははは!!!!!!
いいなぁその顔ッ!!!僕はもっと『イイ』君の顔を知っているけどねぇ!!!!あはは、あは、あはははははははははははははははははは!!!!!」
確かに首を掴まれている感触。なのにその当人はその仕草が見えるだけで実際には掴んでいない。
打開策を模索しようにも意識は今にも遠のきそうで…………。
じたばたと空で身悶えても何もならない。が、あまりにも間合いが広すぎる……!!
その時。
急に圧力が消え、刹那は石畳に叩き付けられるように落下した。
何とか受け身を取り、骨折は免れる。
「…………っ、?!」
兼定は石化でもしたかのように動きを止めていた。
前髪で隠れて読めないが、それは怪訝な表情に見える。
階段下に意識を飛ばし、刹那のことなど既に眼中にないようにさえ思える。
どういうことかはわからないが、自由になった刹那は途切れていた酸素を思い切り吸う。
首に手をやる。
……窒息死寸前だった。
痕が残りそうだ、と霞みかけた意識でそう思う。
「…………あいつか……」
小さな呟き。
あいつ、とは自分を指して居ないのは明らかだ。
とにかく夕凪を握り直し、いつまた来てもいいように構えを取る。
……また今の術を使われれば意味はないのだが、未熟とは言え剣術を習った者として染み付いた癖のようなものだった。
「また…………邪魔をするつもりなのか……」
ゆらりと階段の方へ足を進める兼定に、木乃香と明日菜の危険を感じ走る。
さっき聞こえた轟音もその不安を掻き立てた。
……何があったというのか、そして兼定と名乗るこの男の態度の豹変ぶりは一体……?!
脇を掠めるように走り抜けても、魂の抜けたように兼定は何もしてこなかった。
前髪に隠れた眼はただ階段下を見つめている。
記憶を探しに来たのは確かだし、理由の知れぬ恐怖と立ち向かう気概は勿論ある。
しかし今は木乃香と明日菜が危険だ!!
階段を駆け降りながら後ろを振り向くと、兼定の姿は煙のように立ち消えていた……。
(…………お嬢様……っ、アスナさん…………!!)
走りながら踏まれ乱れた草の痕を頼りに松林を進む。
「……これか」
一か所、松がへしゃげたように折れている。
まさかこれに当たったというわけではないだろう。
明日菜の身体能力は人並みを外れている。『お猿さん』の由来だ。
「……っ?!」
刹那の目が不意に人影を捉える。
そしてそれが草むらに横たわる明日菜だということに気付くのにそう時間は掛からなかった。
風がちりん……と、明日菜の髪飾りを鳴らしたのと刹那が叫ぶのとはほぼ同時だった…………
なんだかチューフラグ希望の方が多いようで(笑)予定は未定です!
ジジィが出ない関係で出している奴は二人位にしておきます、なるべく原作に沿いたいので。
エヴァも茶々●も出たのでそろそろちさめかな、といった感じです。
引き続きご意見アイディアお願いしますー(・3・)
GJ!
劇甘に餓えてます。
ロマンチックな奴頼む。
感動のエンディング楽しみにしてる。
パパ〜は単身ふに〜ん
「何度生まれ変わっても、ウチの事好きでいてくれる?」みたいな砂糖菓子な台詞を
なんかもうメッサエロな三流SS書いてるんだけど,
今の空気で落とすとまじKY?
つか,出来てから聞けって感じだけどな。
>>270 271に禿同!!萌えた。
シリアスで砂糖菓子をかじれるのはやはりこのせつ。
>>272 さあ早く投下するんだ!
最近エロに飢えてて新婚エロエロな二人しか妄想してない。
>>272 最近なかったしむしろ落とす機は熟してるぞw まぁ出来てから投下するのがいいと思うが、全裸で待ってるぜ!
よし!神作のつなぎにエロを落とすぞ!
エロまっしぐら。
いつものように駄SSなのでその辺のとこよろしく。
この後に展開される新婚ラブラブ蜜月生活は273に譲るぜ。
私は珍しくお嬢様と二人でお嬢様の部屋にいる。
普段はアスナさんやネギ先生が一緒なのだが,今日はお二人でお出かけだ。
お二人のお陰で,お嬢さまの隣に私がいられるようになったのだけれど,
やはり二人っきりの時間が過ごせるというのは,私にとっては至福の時だ。
他愛もない会話を交わし,お嬢様との交流を深める。
時折,お嬢様の視線がじっと私を見つめる。
何だろう。あの視線の意味は‥‥。
「なぁ,せっちゃん。このDVD気にならへん?」
会話のネタも無くなってきた頃,うずうずとした表情でお嬢様は何物かをごそごそと取り出してきた。
お嬢さまの手には『このせつ』とラベルされたDVDが握られてた。
すぐに私の脳裏に浮かび上がったのは『このか・せつな』だった。
「なんですかそれ?」
自分の推測がDVDと何か関係があるものか‥‥と,
私は頭を振り,自分の想像をかき消すとその品物についてお嬢さまに聞き返した。
「カモ君コレクションの中にあったんやけど,なんや気になってなぁ。」
「はぁ,カモさんコレクションですか‥‥。」
エロカモの持ち物と聞いて,私はちょっと引き気味になる。
しかし,お嬢様の顔には満面の笑みが浮かび上がっていた。
「なぁ〜。一緒に見てぇなぁ。せっちゃ〜ん。」
すりすりとすり寄ってくるお嬢様。
こういうお嬢さまに弱い自分の性分に内心ため息が出てしまう。
一応お嬢さまを諭してみようか。
「人の物(オコジョだけど)を勝手に見るのはいけないのでは‥‥?」
「‥‥せっちゃんは気にならへんの?」
お嬢さまは上目使いでじっと私の方を見つめてくる。
DVDの内容が気にならないわけではないのだが‥‥。
やはり,私はお嬢様に甘いのだろうか。
「‥‥気になります‥‥。気になりますけど‥‥。」
お嬢さまの手にするDVDがエロカモの持ち物ということで,私の拒否反応は多少薄れていたのかもしれない。
「ほな,確認♪確認♪我慢は体に良くないえ♪」
私の逡巡を加味することなく,いそいそとお茶とお茶菓子を用意するお嬢様であった。
ネギ先生たちも出かけていて,しばらくは帰ってくることはない。
お嬢さまは,まるで映画鑑賞会でもするかのようにウキウキと準備なさっていた。
「はいせっちゃん。ここ座って。」
お嬢さまは,ご自分の横をぽんぽんと叩いて私をお呼びになる。
そこには,いつも用意して頂くクッションが置かれていた。
私はそこへ誘導される。お嬢さまの,すぐ傍に。
お嬢さまの横に腰かけると,甘い香りが鼻をくすぐった。
お嬢さまの匂い。いい香り‥‥。
シャンプーの匂いだろうか,洗濯物の匂いだろうか。
なんでもないことだったが,それが嫌に刺激的で私の緊張を誘った。
「ほな,スタート!!」
お嬢さまが私の手に手を重ねる。お嬢さまは私の手をきゅっと握り締めた。
表情はウキウキしていても好奇心に胸が踊るのは同じのようだ。
‥‥いや,ドキドキしている理由が違うか。
私も落ち着かない胸の鼓動を確認しながら,私は再生されるDVDを待っていた。
◇◆◇
ドキュメンタリー仕立てに始まった内容に興味が惹かれた。
しかし予想通り,健全な内容のものではなさそうだ。
マッサージ教本のような,いわゆるHow toもの?と呼ばれる部類と理解した。
「この女優さん,せっちゃんに似てるね。」
お菓子を啄み,視線は画面に向けたままお嬢様は言った。
それは私も気になっていたことだ。
出演する二人の女性の一人は,どことなく顔立ちや雰囲気がお嬢様に似ている気がした。
もう少し大人になったら,きっとこんな素敵な女性になるに違いない。
‥‥と以前に年齢査証薬で遊んだ時のお嬢さまの姿を私は思い浮かべていた。
それも束の間,いささかの展開後,このDVDは私の予想を大きく上回る展開を見せたのだ。
『あぁん‥‥は‥‥ん‥‥こんなのっ‥‥ぁ。』
艶やかな声が聞こえてくる。二人の女性が絡み合う姿が画面には映し出されていた。
初めて見るその様子に私は顔が熱くなるのを感じた。
私はお嬢さまと二人でそれを見ていることに居心地の悪い空気を感じる。
見てはいけないものを見ているような,そんな感じがして居た堪れない。
しかしお嬢さまは平然とお菓子を啄み,食い入るように画面を覗き込んでいた。
お嬢さまが見ているので,その場を離れることも,DVDを止めることもできないまま,
私はお嬢様と同じようにそのDVDを見つめることしかできなかった。
体の奥の方がじわっと熱を持った感じがしてなんだか変な気分だった。
スパッツの奥が湿ってくるのを感じて,ドキドキが止まらない。
それはその映像のせいなのか,それともその映像を通して見てしまった自分の淫らな妄想のせいなのか。
私は映像の中の二人に自分とお嬢様の姿を重ねて見てしまっていた。
画面の映像とお嬢様の姿をちらちらと交互に見てしまう。
平然とした表情でお嬢さまは画面を食い入るようにみているので,私の様子には気が付いていないはずだ。
今お嬢様がこちらを向いたら,淫らな映像に動揺している自分を直視されてしまうだろう。
私は用意していただいたお茶を一気に飲み干すと,なんでもない顔で画面に向かった。
しかし見るたびに後悔する。そして自分の邪念を呪った。
マッサージの延長のような滑らかな手つきで,綺麗な肌が揉みこまれていく。
艶やかな声と淫らな喘ぎ声は望まなくても私の耳に入ってきた。
上映中,ずっとお嬢さまに手を握られ,否応なしにその温もりを意識してしまう。
これまでも,たびたび頭をよぎった邪念の数々‥‥。
振り払ってはみるものの,今の環境ではそれは焼け石に水だった。
◇◆◇
気がつくとDVDはエンディングを迎えていた。
二人の女性の濃厚な絡みを中心に展開された僅か数十分の映像。
しかし私にとっては永遠にも近い時間で,私は自分の邪念と闘い続けていた。
終わってからも,しばらくの間,私はぼぅっとしていたらしく,
お嬢さまは私の顔の前で手をパタパタさせて私の意識を確認していた。
「ほぅ。カモ君てエッチなの持ってるんやね〜。」
お嬢さまは赤い顔をなさって,ため息をつくようにそう感想を述べた。
「わっ,私もです。胸がっ‥‥ドキドキして‥‥なんかまだ‥‥ドキドキしてます。」
私も声がだんだん尻すぼみになるが,恐る恐るそう感想を述べる。
言っている間に思い出してしまって,改めて認識してとても恥ずかしかった。
お嬢さまは,ストローに口付けたまま,私の様子をじっと眺めていたかと思うと,
ずっと握っていた私の手をそのままぎゅっと握りしめた。
「感じちゃった?」
「へ?」
お嬢さまの質問が理解できず,私は間抜けな返事を返す。
返事とともにお嬢さまの方を向くと,
「熱っぽい」ような何と言うか,その「色っぽい」顔つきで私をじっと見つめていた。
潤んだ瞳に見入られ,私はその瞳に吸い寄せられるように見入ってしまった。
「‥‥変な感じしてるん?」
そう言いながら,お嬢さまは私のそばに寄り,空いてるほうの手で私の腰から背筋を軽く撫でた。
「ひゃぁっ‥ん‥‥。」
先ほどからムズムズとしていた私の体は待っていましたとばかりに敏感に反応する。
自分でも信じられないような甘い声が漏れた。
お嬢さまの手を鋭敏に感じ取ると,私はピクンと体を揺らし,そのまま腰の力が抜けてしまった。
「‥‥せっちゃん。うちもしてあげようか。さっきのDVDみたいに‥‥。」
力の抜けた体をこつんと押し倒される。
私の体はそのまま押し倒されるといつものいい匂いのするクッションの上に倒れ込んだ。
そのままお嬢さまは私い寄りかかり,捲り上がったスカートの中のスパッツの上から私の太股に手を添えた。
お嬢さまの予期せぬ行動に私は対処できないまま,間近でお嬢様と見つめ合う。
お嬢さまの濡れた瞳の奥に,情欲の色を感じた。
「‥‥せっちゃんのあんよ‥‥気持ちええなぁ。」
擦りすりとすりこまれるお嬢様の手は,太股から移動していくと私のお尻を優しく撫で,揉みし抱き始めた。
「だっ‥‥ダメですっ‥‥ぁ‥‥はぁ‥ん。」
私は抵抗しようとするが,どうにも力が入らない。
先ほどの興奮からか,まるでこうなることを望んでいるかのように
お嬢さまがなされるままに,初めて感じる触れられる快感を体に刻みこんでいた。
「‥‥カモ君‥‥何で『このせつ』なんて書いたんやろな?」
「あっ‥‥ダメっ‥‥そっちはっ‥‥ぁ‥‥。」
「‥‥あの女優さんたちうちらに似てたからかなぁ。」
「あぁ‥‥くっ‥‥ふぅん‥‥ダメ‥そこハァ‥‥そっちはぁ‥‥。」
「ふふ‥‥せっちゃん‥‥気持ちええの?」
「ぁあ‥‥ぁ‥っあ‥‥。」
「うちとせっちゃんがあんなことするの‥‥想像したりするんかなぁ?」
お嬢さまは私の臀部を揉みほぐしたあと,その指先をその間に向けた。
後ろから前から,誰にも触れられたことのない部分をお嬢様に弄られた。
淫らに優しく,その指使いは先ほどのDVDに負けるとも劣らない。
鑑賞中も既に私はそこが熱く潤うのを感じていた。
淫らな映像と,自分と絡み合うお嬢様とのことを想像して‥‥。
「せっちゃんのここ‥‥熱い‥‥ん。」
優しく撫でるように触れるお嬢様の指先に,私はたまらず声をあげていた。
でもやはりだめだ。
女性同士でこのようなこと‥‥しかもお嬢様と‥‥こんな‥‥淫らな‥‥。
邪な妄想をいつも振り払っていた。そんなことはいけないと。
今も私の中に抵抗が残る。お嬢様に触れられていても‥‥そうだ‥‥好きでもないのに‥‥。
不意に思いだした言葉が,私の口から洩れた。
一方的に私が想っているだけなのだといいうことを改めて認識してしまった。
「ぁ‥‥ダメです。お嬢様。好き同士でもないのにこんな‥‥。」
自分の言ったことを再認識するのが嫌で,私はお嬢様から視線を逸らす。
でもすべてを言いかける前にお嬢様の言葉が私の耳元で囁かれた。
「‥‥うちは‥好きやよ。こんなことしてもいいくらい‥うちはせっちゃんが好きやえ。」
囁きながらお嬢さまは私の耳たぶに唇をよせ,唇で優しく甘噛みなさった。
自分のもとに届くお嬢さまの言葉を理解しながら私は敏感にそれを感じていた。
耳を噛まれただけなのに私の口からは自分のものとは思えないくらいの,甘い甘い女の声が漏れた。
お嬢さまが‥‥私のこと‥‥好き?
お嬢さまの言葉を何度も繰り返す。
私も‥‥お嬢様が‥‥好き‥‥。
そう理解した時,改めて体を支配する心地良い快楽がはじけるように全身に広がった。
私の頭がその言葉を理解する頃には,お嬢さまの唇は私のすぐそばに。
そして私の目の前には,紅潮する頬が愛らしい,目をつぶったお嬢様の顔があった。
柔らかい感触と湿った唇が私の唇を塞ぐ。
温かいぬくもりを感じると,頭の芯がぼうっとするような感覚を覚えた。
優しく唇を啄まれ,その感触に陶酔しながら私は頭の片隅で
お嬢様とキスしているという事実を受け止めていた。
お嬢さまが私の唇を解放して下さった頃には,私は全身の力が抜けてキスの余韻に酔いしれていた。
「せっちゃん‥‥好きや‥‥。」
うっとりした表情でお嬢様はそう呟き,再び唇を重ねられた。
私はお嬢様の言葉を遠くで聞き,再び訪れた心地良い感触をそのまま受け入れていた。
先ほどと違うのは,口の中に侵入してくる柔らかい感触。
滑ったそれは私の口の中のあちらこちらに触れ,私のそれと絡まり合おうとする。
口の中を触れられるなどという経験は持ち合わせておらず,私は少し驚いて身を強張らせた。
しかし,お嬢様の優しい触れ合いと,先ほどの映像がフラッシュバックし,
私の背筋をゾクゾクっとした感覚が走った。
キスの余韻の残る僅かな間にお嬢さまは私を見つめる。
にっこりと人懐っこい笑みを浮かべる。私の心を見透かすかのように‥‥。
恥ずかしさから私はお嬢様の視線から逃れるように顔をそむけた。
「せっちゃんは?」
耳元で,お嬢さまは熱っぽく囁く。その吐息すらも私の体は敏感に感じる。
「あぁん‥‥いけません‥‥ん‥‥こんなっ‥‥ぁ。」
耳元を優しく愛撫され,その刺激は首筋にまで広がる。
くしくも,先ほどのDVDと同じセリフを吐いてしまった。
「せっちゃんが言うてくれないからやで。」
そう言うとお嬢さまは,私の服の中へ手を侵入させ,もぞもぞと私の体に直接指を這わせていた。
そんな風に触れられるだけで声が上擦ってしまう。
お嬢さまは知っているのだ。私がお嬢さまをどう思っていて,どうなりたいのか。
首筋から胸元に優しくキスされている間に私の服ははだけ,乱れた隙間から素肌が覗いていた。
衣服から露出した肌には外気が少し冷たく感じる。
しかしお嬢さまに触れられるたびに体温が増していくのを感じた。
寒いはずなのに,熱くて‥‥触れられた場所がちりじりと焦げるように敏感になっていた。
「あっ‥‥あふぅ‥‥お‥‥嬢様ぁ‥‥ぅ。」
胸に巻いていたさらしは解かれ,私の薄い胸が顕になっていた。
お嬢さまは,優しくそこに触れ,そっと揉みしだく。
そしてわずかに色付いた先端に唇を寄せた。
「はぅん‥‥ふぁ‥‥。」
私の口からは悩ましげな声が漏れる。初めて感じる性的な快感が私の羞恥心を焦がす。
こんな姿をお嬢様の眼前に曝しているだけで堪らなく恥ずかしいのに,
それを隠すことをお嬢さまは許さない。
まして,もっと私の恥ずかしい姿をさらけ出さそうとなさるのだ。
スパッツも膝下まで下げられて,私の全身は恥ずかしいところばかりが露出していた。
お嬢さまの唾液でつやつやと光る胸の先端がたまらなくいやらしい。
私は自分が晒す淫らな姿を見ていられなくて,硬く目を瞑っていた。
お嬢さまはまた嬉しそうに私の乳首を舐め,しゃぶり,舌先でつつきながら私の様子を探る。
「気持ちええの?こんなにしっかり尖らせて。せっちゃんの胸小っさいけど敏感なんやね。」
「ぃあ‥ぁん。そ‥‥そんなにぃ‥‥あっ‥ダメっ‥噛んじゃ‥‥ぅん。」
「せっちゃんのおそそ,もうこんなにぬるぬるや。」
私の胸を楽しそうに舐めしゃぶるのと同時にスパッツから解放された私の秘所にお嬢様の手が添えられた。
それまでの淫らな映像と,スパッツ越しのお嬢さまの愛撫とでそこはすっかり潤っていた。
お嬢さまの指の動きに何の抵抗も示すことなく,潤滑油としての役割を十分すぎるくらい果たしていた。
「ひっ‥‥!!ダメっ‥ダメですっ‥そんなとこっ‥‥さわっちゃ‥‥ぁ。」
「DVDのせい?それとも‥‥うちのせい?」
お嬢さまは小悪魔な声色を含ませ,私に問いかける。
その間も,お嬢さまは私の敏感な場所に触れ続けた。
僅かな襞に隠れた秘芯も,秘裂の奥の奥まで。
十分すぎるくらい濡れていたせいか,不思議と痛みはなかった。
痛みの代わりに訪れるのは,経験したことのない快楽の波。
お嬢さまの優しい愛撫は私には心地よすぎて,素直にそれを受け入れてしまう。
欲望に支配された私の口からまともな言葉が紡がれるはずもなく‥‥。
そして全身を駆け抜ける快感が,私の理性を切り裂いていく。
優しく囁きかけられるお嬢様の言葉が私の体に浸透し,私の心を溶かしていく。
「せっちゃん‥‥せっちゃん‥‥好きや‥‥。大好き‥‥せっちゃん‥‥。」
「‥‥私もっ‥‥お嬢さまが‥‥はぁ‥‥好きです‥‥。」
次々に贈られる快感の合間に,必死に言葉を紡ぐ。
隠し通す‥‥つもりだった。私の気持ち‥‥。
護衛として陰ながらお嬢様をお守りするとしながらも,
本当に仲の良い友達としてお嬢さまは,私を扱って下さる。
それで十分。十分すぎる幸せだった。
私が抱いている想いは到底許されるものでもなく。
ましてお嬢様がそのような気持ちを私に抱くはずがないと‥‥。
でもこうしてお嬢様に優しく愛されると,恥ずかしいけれども嬉しさを感じる。
好きだと言われることが心地よく,愛されることが心地いい。
自分の思いに歯止めが利かなくなった私は,私を愛撫するお嬢様にしがみつきながら,
何度も何度もお嬢様への告白を告げ続けた。
それに応えるように何度も何度もお嬢さまも私に繰り返す。
心を解放して心地良い快楽に包まれ,
私は自分の中にどう表現していいか分からない気持ちの高まりを感じていた。
「あぁ‥‥お‥‥嬢さまっ‥‥熱い‥‥私‥‥もうっ‥ん‥‥‥。」
「イきそうなん?」
「イ‥‥く?」
「我慢せんでええよ。もと気持ちよくしたげるえ。」
耳元でささやかれていた言葉と唇の感触は,その言葉を境に遠退いていった。
ふわふわとした頭でやっと自分の状況を理解した時には
お嬢さまは私の脚の間で私の濡れそぼった秘所にふぅっと吐息を吹きかけていた。
「ひゃぁん。ちょっ‥‥何してるんですかっ‥‥?」
「何って,せっちゃんのおそそ‥‥綺麗やなぁって‥‥。」
「ダメっ‥‥はずかし‥‥見ないでっ‥‥くださっ‥‥。」
小さく抵抗するも,お嬢さまは私の脚の間にしっかりと収まっていて,それ以上どうすることもできなかった。
そして私の秘所に指を添え,隠れていた秘芯をむき出しにした。
「せっちゃんのおさね発見♪つやつや濡れてて綺麗‥‥。」
「やっ‥‥言わないでっ‥‥見ないでぇ‥‥‥お嬢さまぁ‥‥。」
「せやかて,自分のもよく見たことあらへんのに‥‥。」
お嬢さまはあまり見慣れていない女性器に興味津々なご様子で,私の敏感になった秘芯をそっと指で触れた。
お嬢さまが言ったとおり,そこは十分に濡れていて,お嬢様の動きを滑らかにサポートする。
その刺激が強烈すぎて,鋭い刺激が,頭の隅にまで勢い良く届いた。
霰もない言葉が私の口からこぼれる。
刺激が強すぎて,体が跳ねるように反応する。
口をふさぐことができずに,頬に唾液が垂れていくのがわかった。
秘芯をひとしきり撫で終わると,お嬢さまは私の秘裂に指先を向けた。
羞恥の泉に指が入っていく。体の奥でお嬢様を感じた。
「ふわぁ‥‥熱い‥‥せっちゃんの中‥‥すごく熱いえ‥‥。」
「私も‥‥感じてます。中を‥‥お嬢様が触れているのが‥‥。」
「こんなのもわかるん?」
「うわぁ‥‥‥あんまりっ‥‥動かさないでっ‥ぇ‥‥くぅん‥‥。」
私の中でお嬢様の指が動く。もごもごと内壁を揉むようにお嬢様の指が動くのがわかった。
場所によっては痛みを感じるところもあったが,
場所によっては視界がチカチカするくらい衝撃的な場所もあった。
体は正直と,こういう時に使うのかなと思うくらい,私の体は正直だった。
痛みを感じるところでは苦痛の声を,快楽を感じるところでは嬌声を零すのだ。
私の反応がはっきりしていたせいで,お嬢さまは私の快楽のポイントを間を置くことなく会得なされていた。
「せっちゃん‥‥気持ちええ?」
「ふぁ‥‥ぁあ‥ん‥‥お嬢さまぁ‥‥。」
初めて経験する快楽に体を支配され,脳までもが支配されようとしていた。
私の耳にはお嬢様の声しか聞こえてこない。
声は理解できても,言葉で返すことができない。
私の口からこぼれるのは,快楽の声とお嬢さまと呼ぶ声くらい。
全身から汗が吹き出し,もう何も考えることはできなかった。
ただ,この快楽の終着点を求めるだけ‥‥。
それがどこにあるのかすら知らないのに本能でそれを求めていた。
「もう‥‥ダメ‥‥ですっ‥‥これ以上‥‥‥はぁ‥‥もう‥‥。」
眼尻に涙が溜まる。自分が言おうとしていることが言葉にならない。
ただ,たった一つ,本能が求めるものだけを欲していた。
それはお嬢様にしかできず,私にはお嬢様しか与えてくれない。
私のその様子を優しく見つめ,嬉しそうに目を細めると,
お嬢さまは私の名を愛しげに囁き,私の最も敏感な場所を舌先で触れた。
「せっちゃん‥‥‥。好きやえ‥‥。」
それからのことは良く覚えていない。
今までで一番激しい快楽の波が来たかと思うと,
そのまま,目の前と頭の中が真っ白になって‥‥。
気がつくと,心地良い倦怠感が体中を覆っていた。
◇◆◇
カチャカチャという小気味良い音に誘われ,私は目を開けた。
疲れて眠っていたのだろうか。
体の上には毛布が掛けられていた。
衣服は元通りにされていて,濡れた不快感もない。
ただ,きれいに折りたたまれていたさらしさえ無ければ,
夢でも見ていたのだろうと言われても不思議ではなかった。
テーブルの上には『このせつ』と書かれたDVDが置かれたままになっていた。
食器を片づけているお嬢様から,にっこりとした挨拶が返ってきた。
「起きたん?」
新しく用意されたお茶を手にして,お嬢様が私のもとにいらっしゃった。
「‥‥あの?」
やはり夢ではなかったのかという思いが,私の中で膨れ上がる。
顔が赤くなるのがわかる。疑問一杯の頭でお嬢様に問いかけた精一杯の声が先ほどの一言だった。
香りの高い紅茶をお嬢さまは口にする。
紅茶を口に含んだまま,にっこりと微笑むと,ぐいっと私を引き寄せ口付けた。
奪われた唇の間から,甘酸っぱいロシアンティーの味がした。
それとともに,侵入してくるのはお嬢様の柔らかい舌。
深いキスはそのままの甘酸っぱさを残し,私は絡み合う唾液とともに甘い甘い紅茶を飲み干した。
私の胸の中に,お嬢様は倒れこむ。
反射的に私はお嬢様を抱きしめた。
「‥‥‥うちら‥‥両想いなんやよね?」
「‥‥‥。」
無言のまま,お嬢様を抱く手に力がこもる。
お嬢さまの愛撫に溶かされた中での告白‥‥。
ちょっと恥ずかしすぎる展開だった。
「今度は‥‥うちにもしてくれる?」
上目使いで私を見るお嬢様は,魅惑的な笑みを浮かべている。
引き寄せられるように私はお嬢様に口付けた。
「でもやっぱり‥‥うちがしたいかなぁ。」
「何でですか?」
「かっこいいせっちゃんも可愛いせっちゃんもうちが独り占めしたいからやえ。」
「なっ,何言ってるんですか‥‥///」
半ば無理やりに始まった私とお嬢様の関係は,もうしばらくの間このままなのだろう。
護衛から,友人に昇格し,今度は恋人として私を愛して下さる。
私も精一杯お嬢さまに尽そう。
この命尽きるまで。
それは文字通り,蜜月の始まり。
くしくも,カモの『このせつ』は現実のものとなったのだった。
追伸....
このDVDの詳細についてカモが刹那に締め上げられたのは言うまでもなく,
カモコレクションの存在を木乃香が知っていることをカモは初めて知ったのだった。
また,このDVDの内容を木乃香が知っていたことは刹那は知らない。
「カモ君。そんなのより本物の方がよっぽどええよ?」
「なんスかそれ!!姐さぁん!!」
不敵なほど人懐っこい笑みの裏側に潜む,底知れない木乃香を
カモは冷汗を流しながら感じていた。
「(これはもしや!!キラーン!!)よし!!まほネットで小型隠しカメラを調達しないと!!」
しかし懲りないカモだった。
規制は連投レス10なんすね。ハラハラヽ(`Д´)ノウワァァン
駄作投下完了!!
慣れない長編に行き詰って創作活動低下中。
とりあえずこのSSは妄想の結果なので,つっこみは無しの方向でヨロ。
超長編期待してます!!
先に断っておきます。
"この命尽きるまで"
使わせていただきました。かっこいいんで。こんな駄作に使ってごめんなさい。
もっと言うと,今日見つけたこのせつSSに使われていた、
"せっちゃんの汗のにおい……嫌いやないで……。"
も使ってみたいみたい!!劇萌えました。余談ですが……。
>>292 GJ〜!久しぶりの甘エロ、良かったです!!
潤い貯水率90%
>>267 以下妄想
木乃香の記憶を取り戻そうと頑張るせっちゃん、
だが記憶は中々戻らず挫けそうになる、
諦めそうになるせっちゃんに千雨アドバイス、
「近衛のこと誰よりも大切だと思ってんだろ?
ならその気持ちを大事にうんぬん、
記憶を戻す方法がどうとかじゃなくて
近衛本人を想う気持ちを第一にかんぬん」
アドバイスに勇気付けられ木乃香の元へ走っていくせっちゃん、
その背中を見て千雨「あんなに誰かのことを一途に好きになる、か……私だったら…」
赤毛の少年が相手として思い浮かんでしまい、必死に否定する千雨
294 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/19(火) 07:43:03 ID:qpOxpvnM
ア…ゲ……ア…ゲ
ひょっとしてみんな神待ち?
296 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/20(水) 13:29:22 ID:XHc10Nt9
神待ちッス!
同じく神待ち!
.
神に限らず何でも投下待ち!
にぎやかにしないと神来ないぞ♪
そして関係ないがこの間のエロのこのかバージョンを激しく妄想中なのだが、需要薄そうなので書くかどうかは考え中なんだ。
神待ちな住人的には実際どうなん?
かく言うオイラも神待ちな一人だが…。
302 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/20(水) 18:41:05 ID:XHc10Nt9
ぐぅ〜〜〜!
最近「甘々」「ほのぼの」がタリナイ(;д;)
い・・・一応小説は書いているのですが、まだ此処に投下できるほどの
モノではないので・・投下でいるように頑張ります!!(皆様がよければですがw)
いいに決まってんだろw 奥ゆかしい人が多いなぁw
俺は完成しててくれればどんな系でも言うことなしだぜ!
私だって甘々ほのぼの書けるって言うかそれが最も得意ジャンルなんだZE
と、いう長編作者の呟き
気分転換にそのうちほのぼのでも投下しますね
>>300 >>302 お待ちしております
この流れに流されて妙なSSを書いてしまいました。
折角なので投下してみます。
「んー。せっちゃんはマシュマロやなあ」
「…はい?」
穏やかな空気の中、それを乱そうという気はないにせよ、
お嬢様の言葉は私の心に各確実に波紋を生じさせる。
そのたび私は意識を持っていかれてしまって、半ば放心状態のようになるのもいつものことで。
ふと我に返るとお嬢様が私の目の前で意識を確認するように手を振っていたりして、
ああ、情けないなあと痛感させられる。
貴女はそれをわかっているのでしょうか。
「……え、っと。マシュマロ…とは…」
「せやから、せっちゃんは真っ白やろ?それで、甘くて、ふあふあーって…な、マシュマロやん?」
「…う、うーん…?」
このようにお嬢様は、時々物凄く抽象的な表現をされる。
…少々失礼な言い方かもしれないが、
そのあまりに漠然とした言葉の群れを、私は"お嬢様語"と称していたりする。
この、古くからのしきたりだとか、剣の太刀筋などで硬く凝り固まった私の脳では、
お嬢様の放つとても易しい言葉を理解することは難しいのだろう。
というか、甘いとか、ふあふあ、だなんて言葉は、貴女にこそ似合うと私は思うのですが。
「ええー?ちゃうー、せっちゃんのが甘くてふあふあやもんー」
「…そ、うでしょうか……?」
「そう!」
「………お嬢さまがそう言われるのなら、そうなのでしょうね」
「む」
私の言葉に、お嬢様が苦々しい顔をされる。
これはいけない。また何かご機嫌を損ねるようなことを言ってしまったらしい。
とは言っても、何がお嬢様のご機嫌を損ねてしまうのか、私にはまるでわからないのです。
「…あの、」
「その言い方、ずるい」
「……え、と?」
「…も、何回言ってもわからへんみたいやから何度でも言うけど。
せっちゃんちゃんと自分の意見言うてる?ウチに合わせとるだけと違う?」
「………そんなこと、」
「ある」
「…………そう、なのでしょうか」
「…せやから、それなんよお!」
「……ぅ…すみませ……」
「あやまらんといて!」
そのように言われましても。
謝る意外に、私に何ができるというのですか。
「……なら…お嬢様、こそ」
「へ?」
「本当に本音で話してくださっているのですか」
…わからないのです、何も。
貴女の考えていることなど、私にはわからないのです。
でも私はわかりたくて、わかりたいのにわからなくて、もどかしくて仕方がないというのに。
これ以上私を苦しめないで下さい。
「せっちゃんてば阿呆やなあ」
「は?」
「本音を話してくれへん人に、本音で話せる訳ないやん」
ああ、確かに。
貴女はわかっていないようで、もしかしたらもっと根元の方を見ているのかもしれない。
その穏やかな瞳の中に実は鷹を飼っていて、
私の見られたくなくてぐるぐるに固められている芯の部分を、高々と見下ろしているのかもしれない。
私はさながら、狙われた獲物ですか。
大人しい顔して強かなこのちゃんを書きたかったんです。
見事撃沈したので、私も神のご光臨を待つとします。
311 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/21(木) 06:35:48 ID:0vWbFHb3
>309
そのまま優しくキスされて心の奥底まで
ときほぐされちゃってください!(>_<)
『マシュマロ』と聞いて、『触感が?』と突っ込んだ俺…orz
甘甘すぎて見てるこっちがニヤケてくる
314 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/21(木) 14:09:34 ID:nVnnasz2
甘々が戻ってきた!!!
せっちゃんはマシュマロ・・・
このちゃんは・・・なんだろう??
キャラメルだな
餅とか
誰とでも仲良くなれるし、力をくれる
もっち餅肌
くっついたら離れないほどの粘着質
記憶の海、数百年を溯る。
血に塗れた白き翼、散り逝く命。
あの日の咆哮に瞳重ね、風に髪を任せる。
想いの先にこの手届くには余りにも現世は無情だ。
……ならば、我が願いの礎と為るべき者を見出だそう。
それこそ積年の刻を掛けるに値する。
……あぁ、僕はどんなに君を待ったことだろう。
…………もうすぐだね。
*****
叢に伏して倒れる明日菜の元に駆け寄り、肩を掴むと身体を空に向けた。
「アスナ…………っ、さん…………っ!!」
傷だらけの明日菜を見てどうしようもない自責の念が刹那を襲う。
……巻き込むべきではなかった。
隣に居てくれることは途方もない勇気をくれたが、しかし……!
「あ…………刹那……さん…………」
「大丈夫、ですか…………」
明日菜の口が開いたのを見てひたすら安堵の息が漏れる。
良かった、良かった、……良かった……!!
「ごめん…………木乃香……守れなかった…………」
何を言う、あなたにそんな義務などなかった!!
その責務果たすは私の役だというのに……!!
「すみません、すみません……、アスナさん……」
「やだな、……泣きそーな顔されるとおじさん困っちゃうな、……なっはっは……」
明日菜は所々血の滲む腕で刹那の頭をぽん、と叩いた。
『大丈夫』の意思表示。
満身創痍とは言わないが、十分に傷ついたその身体を見るとただひたすらに謝りたくなってくる。
「刹那さん……
あたしは平気、だから……木乃香……!追いかけて……」
「そんな……ッ……ことは……!!」
「ダメ……だよ……!
木乃香を守るのが、刹那さんの役目でしょ……?……違う?」
それは勿論違わない、だがしかし……!!刹那にどうして木乃香と明日菜を天秤にかけることが出来よう……?!
急がねばならないことは誰より理解しているつもりだが、ここではいそうですかと木乃香を追う刹那ではない。
首を振り続ける刹那をどう諭そうか明日菜も明日菜で非常に迷っていた。
自分の傷を放って先に行けるタイプではないことなど短い付き合いの中でも十分過ぎる程理解しているのだ。
いい意味でもまたその逆から言っても刹那は律義だ。
この融通の利かなさが刹那の欠点でもあると明日菜は思う。
「う〜ん、
行かなきゃ……ダメだな、刹那さん?」
「馬鹿に……、しているんですか……ッ!!!
行けるわけないでしょう……!!!」
「あたしはさ……、はは。
お猿さん。ですから。
だから、大丈夫」
「冗談を言っている場合じゃあ……!!」
「……そうだね。
こんなん言ってる暇ぁないかな」
「アスナさん……ッ?!」
わかっていながら無駄口を利く明日菜が理解できずに口調にやや棘が現れる。
明日菜はその表情を見るとゆっくり起き上がった。
大柄な男の一人に蹴られた脇腹が嫌でもその動きに不自然な部分を生み出す。しかしそれは少しも顔に出さずに笑う。
「あたしを、信じてよ」
「……?!」
「あたしを信じて、木乃香を助けに行って欲しい。
木乃香を迎えに行けるのは……、
……お姫様を助けるのは剣士の役だと思うんだけど!
それともお猿さんがそのおいしー役奪っちゃっていいのかな、かな?」
ニッと笑うと明日菜は自分より背の低いその少女の頭を掠めるように叩いた。
「行って、こんかぁあぁいぃいいッ!!!!!
これでも行けないならあたしはこのかの友達として顔向けできないってのっ!
このかは刹那さんが助けに行かなきゃ絵になんないんだからさ?」
「アスナ……、さん」
明日菜なりの不器用な励ましに胸が痛くなる。
これは自分の傷を気にしないようにという心遣いに違いない。
「ほんと、平気なんデスヨ?ま、ちょびっと痛かった、けどね。
このツケは前田のクラッカー1年分でチャラにしたるよっ」
「すいません……ッ!」
刹那は唇を噛み締めると明日菜に深く頭を下げると、一度は登りきった階段に再度向き合った…………
「……やれやれ」
刹那の姿がすっかり見えなくなってから呟く。
「…………痛ぇ〜わ、やっぱ……」
服を捲り蹴られた場所を覗き込み、顔を顰める。
転んだ、とは言い訳できないだろう痣がくっきりと残されているのが痛々しい。
「くっそー……、あのデカゴリラ、次会ったら365倍にして返してやるんだからぁぁ………」
それだけ階段に話しかけると明日菜はもう一度背を叢に預けたのだった…………
*****
……いつから私はスクールカウンセラーになったんだ。
そう真剣に悩みたくなってくるある日の放課後。
相手がクラスの馬鹿の誰かならまだいいが、それが教師ではどうにもならない。
「……あの、ネギセンセイ」
「はいぃ!」
そのキョドり具合にイラついたのでペコっとデコピン一発食らわすと大袈裟に痛がったのでもう一度フィンガークラッシュ。
「い、痛っ?!今のはほんとに痛いですよ千雨さん?!」
「ダマレ」
……基本私はお人よしに出来てんだろうな。
なんでわざわざ貴重な放課後を10歳児と過ごしているんだろうね。
「あのですね」
鼻を押さえながら若干涙目のチビガキをため息混じりに見やる。
「中三って年は普通は受験を控えピリピリしてるもんですがここはエスカレーターなわけでその心配はないんです。
で、そのストレスがないので有り余った若いエネルギーで遊びまくる、と」
早乙女あたりとかな、と付け加えようかと悩んだがやめておく。
「……はぁ」
「だからですね、たかだか生徒が無断欠席してるくらいで動揺しすぎるのはどうかと思いますよ?
そういう年頃ってやつなんですよ」
「……それがこのかさんと刹那さんだから心配なんです」
「神楽坂は」
「アスナさんはちょっと置いときます」
「置いとくのか」
……やべ、口調戻っちまった。
「……まぁ、確か生徒が無断欠席してれば心配なのはわかりますけど」
「届けは出てますがその期日はもう2日も過ぎてるんです」
「そう、なんですか」
「こういうことを言うのは気が引ける、んですけど刹那さん……も、アスナさんもご両親がいらっしゃらないのでご連絡しようにも出来なくて」
「?
近衛、サンは」
「した……んですが、繋がらなくて」
「繋がら、ない?」
必ず規制に引っかかるので1回1回を短く投下することにしますー。
ちさめたんはともかく百合版でネギが出てくるのはアリなんでしょうか(・―・)
>>326 GJ! 恋愛にからまなければ全然問題ないと思う。
>>326 前田キタ━━(゚∀゚)━━!!
恋焦がれ求めあうは木乃香と刹那で
それにネギが絡まなきゃいいのです
早くこの本編マガジンで始まらないかなぁ〜
10で規制だから10で切ればいい。
1レス32行まで書けるぜ。
キリの良いまとめ方してくれやんす。
「最初はすごく古い家だからかと思ったんですけど」
……こいつ、大草原育ちか?
いくら近衛の実家が古いったってボロいって意味じゃねぇだろうしこの時代に電話の一本もないはずがない、常識で考えたらそうだろ。
……まぁガキが教師やるご時世だもんな、電話の一本くらいなくても然程驚くことでもないのかもしれない。
「思ったんですけど?」
話を進める為にせんせーの言葉をそのまま継いで促す。
「いつ掛けても、僕がこのかさんの担任だって言っても取り次いでもらえなくて」
?がらないってそういうことか。
誤解を生む言い方すんじゃねっつの。
「……それ、はおかしいですね」
「ですよね?!
僕がの声が子供っぽいから悪戯だと勘違いされてる、とかそういう感じとも思えなくて」
持っていたペンを手の中でクルクル回しながら少し考える。
ネギ先生の言う事は大しておかしいところはないように思える。
要約するとこのお子ちゃま先生は無断欠席が二日続いた3人の生徒を心配している。うん、まずはそこだ。
で、その内二人は連絡先が無いから明確な実家というもんがある近衛の家に最初に電話を掛けた。
そしたら話も聞かずに本人に取り次ぐことを拒否された、ってところか?
私が近衛んちのモンだったとしてガキの声で僕の生徒を出してください、なんて電話があったらそうするだろう?
……切りてぇな。
いや、でも先生もその可能性は言っていた。
自分の声色のせいではなさそうだ、と。
それにこいつも一応教職……に就いているわけだから自分を教師と証明することはそう難しいことではないように思えるし、近衛についての職業上知り得た情報を提示すれば無下にされることはないんじゃないか?
「どういう会話したんです」
「え?」
「?がらない、というか……取り次いでもらえなかった時の会話はどんな感じだったんですか?
もしかしたらとんでもなく失礼なことを言ってたのかもしれませんよ。
先生は確かに天才少年でその年で学校を出てるかもしれないですけど、圧倒的に社会経験は足りてない。まぁそれは私もだし、ウチのクラスで社会経験豊富な奴ってのもいないと思いますけど。
とにかく大人の社会では何が失礼に当たるか私ら子供にはわからないんですから」
「そう……ですね、まずごく普通に名乗りました」
「なんて?」
「麻帆良学園中等部で教師をやっておりますネギ・スプリングフィールドという者ですが、このかさんはいらっしゃいますか、と言ったんですけど……。
……ヘン、ですか?」
「いや、10歳でそんな礼儀正しいのが気色悪いだけで失礼ではないと思います」
「そ、そうですか……、そしたらすごくぶっきら棒にお嬢様は今お出しできません、と言われて。
その時はお夕飯時……7時くらいで確かに失礼だったなって僕も思っていつならご連絡しても差し支えないでしょうかって聞いたんです」
「この時点でも全然失礼じゃない、と思います。
それで?」
「こちらからご連絡差し上げます、って。
それがおとといした会話です」
「…………」
こいつの電話に何一つ落ち度はなさそうで少し悩む。
夕飯時に電話が掛かってくるのを嫌う人もそりゃたくさんいるだろうがあくまでそれは一般家庭での話だろう。
近衛んちは(話に聞いただけだが)すんげー人数の使用人がいる今時珍しいくらいの家柄なわけだろ?
そんな家なら電話を受ける係みたいなのが居ても全く不思議じゃない。
仮にいなかったとしても料理専門使用人がいるのは間違いなさそうだ、っていうかいるだろ。
そいつらが夕飯やらを作る場所に外に繋がってる電話を置くか?置くはずない。
ってことはこの話……っつーかその近衛んちの誰かの対応はかなり不自然じゃねーのか?
「……どうなんでしょう、千雨さん」
「どうもこうも……
まぁ……ヘン、ですね、その話聞くと。
あ、先生の対応は失礼じゃないですよ、私の私見ですけど」
「そう……ですか……
やっぱり……何かあったんじゃ……」
「や、早合点はダメでしょう、大きい家ってのは一般人から見たら訳わかんないことだらけっぽいし近衛、サンはなんか特殊な家柄の人だし下手に騒ぐのはちょっと控えたほうがいいんじゃないですか」
っていうかこーゆーこと生徒に相談してどうすんだよ、相手ならデスメガネとか色々いんだろうが!
アレか?人気の無い教室に生徒と二人っきりフラグか?!
うぉぉぉぉぉ、何考えてんだ私は!!
「高畑先生とかに相談したほうがいい問題な気がしますね」
カバンを手に取りイスから立ち上がる。
「た、タカミチは……」
「生徒に相談するよか何倍も有意義な回答をくれそうだと思いますけど」
「今……麻帆良を離れてて、その……」
夕暮れの空気が開け放った窓から流れてくるのを眺めるフリして先生を見やった。
「どうしたんですか?
高畑先生にしか言えない問題でもないでしょう、私に言ってきたくらいですし」
「ち、千雨さんにしか言えないことです!!」
いきなり大声を出されたので出て行こうとした足が止まってしまった。
「……はぁ?」
「だから……、
千雨さんにしか言えないことだから……、あの、」
先生の頬が夕焼けを受けて赤く見えるのが少し困る。
私はどんな顔してるだろう。
赤くないといいんだけど、……って。
思ってねぇよそんなこと!!!
*****
長く続く階段を出来る限りの速度で駆け上がる。
先程までの喧騒が嘘のように静まり返ったそこは今にも何かが飛び出てきそうで、風が草を揺らすその音でも可笑しい位にびくついてしまう。
こんなに自分は臆病だったのか、と苦々しく舌打ちした。
一段一段確実に上がりながら思った。
石灰色の階段がどこか懐かしいのだ。
(なんで今こんなこと思うんだろう)
この階段は幼い頃、木乃香とよく遊んだ場所のひとつだ。
その事を勿論刹那は憶えている。
ただ、何故今それを鮮烈に思い出したのかよくわからない。
まぁ記憶というものは案外曖昧だ。
何をきっかけに何を取り出すかなど想像が付いてしまったらきっとつまらないに違いない。
……ぼんやりと思う。
小さな頃は木乃香が居て、詠春が居て、ただ暖かくて……。
自分が何者なのかもまだはっきりと認識もしていなくて、純粋に木乃香に好きだと言えていた気がする。
(この、……ちゃん)
心の中でその名を呼んだ。
どちら様ですか、と言った少し怯えた顔が浮かぶ。
忘れたわけがない。
記憶を抹消されたのは明白だ。
だが、誰が……何のために……?
記憶を消して何の利益があるというのだろう。
それに対するリスクを考えたら余りにも後々面倒ではないのか?
麻帆良に戻すつもりがない、という自分の当初からの読みは恐らく当たっている。
しかし……。
自分から遠ざけることにこれだけの手荒な真似をするようにはどうしても思えなかった。
どこか凶暴かつ粗暴な何者かの意思を感じてしまう。
審議会には別の目的があるのだろう。
自分などには想像もつかない……、計画が。
だが、それがなんであれ木乃香の記憶と木乃香自身を取り戻す。
そして、あの男との因果関係も確かめなくてはならない。
刹那は走りながらそんなことを考えていた……。
荒い息を整えつつ、あの不気味な男がいつ現れるかと辺りを見回す。
兼定……と言っていたか。
妙な術を使うあの男……、血が巡っていないのではないかと思える程青白い顔色―鼻と口以外は隠れてほとんど見えていないが―が薄気味の悪さを際立たせていた。
アレは何者なのだろう。
自分には近衛の血が流れていないと言っていた。
近衛でない者が審議会の一員になるにはどんな手段があるのかにさしたる興味はないが仮に顔を混ぜることが出来たとしても長にまで登ることが出来るものなのか……?
余計な事を考える必要はないかもしれないが、確実に自分と関係のあるあの男について思案せずにはいられなかった。
アレが木乃香の記憶を消したかはわからないが、指示した若しくは奴そのものが手を下したのかもしれない。
どちらにせよ自分はアレと顔をあわせなければならないという事実に肌が粟立つ。
得体の知れない胸の奥の叫びが足を一瞬止めさせたが、すぐにまた走り出す。
階段を上がりきり、つい数十分前まで兼定と対峙していた石畳を踏みしめた。
……誰も居ない。
夕凪を握り締めゆっくりと屋敷へと歩き出す。
明日菜を襲ったのは誰だったのだろう。
轟音しか聞いていない刹那には判りかねたが、ネギと仮契約を済ませている明日菜が簡単に倒れるとは考えにくかった。
ネギが居なければ力が契約者としての本来の力を発揮できないのはそうだが、仮契約によって潜在的能力が引き出される。
その状態の明日菜をあの数分で……。
傷口は物理的攻撃によるものだった。兼定とは真逆の純粋な力技。
兼定がこちらのタイプだったらまだ良かったな、と思って苦笑した。
力で押してこようと超常的能力を駆使しようと刹那にとってアレが恐怖の対象であることに変わりはないのだから……
10レスでキリ良くって難しいっすね、無理やりギュー詰めました。
記憶戻し編スタートです!
月夜バックにチューフラグまでもう少しDADADADA
イケイケGoGoじゃーんぷ!
何で姫ちゃんとか知ってるんだよw
そう言うお前もなww
連載乙です!
ドラマチックなせつこのはもとより、密かに育むネギ千雨も良かったです!
このせつ千雨がベスト3な自分にとって、今後の展開や絡みを非常にwktkしながら待ってます。
344 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/24(日) 01:36:02 ID:gBBEZNmo
あげるえ〜。
ウチの記憶を取り戻す話、続き待っとるえ〜。
ほな、それまでせっちゃんとええことしてよ〜(^з^)
あん、逃げんでぇ。
待ってえなぁ〜せっちゃ〜ん♥
sageだバカ
場つなぎで駄作落とします。
>>301 おみゃぁさんの返事がうれしかった。(*´д`*)
wktkしてひっそりと限定版と読者プレゼントを待ってます。
「それではまた明日,お迎えにあがります。」
そう言ってせっちゃんはぺこりと頭を下げ,うちに背を向けた。
うちは「またね。」と言ってせっちゃんを見送る。
その背中が見えなくなるまで,ずっとせっちゃんを見送るのが日課となっていた。
「‥‥‥だから,‥‥なんだぜ姐さん!!」
いつものようにせっちゃんを見送って部屋に戻ると,アスナとカモ君が鼻息を荒くして何か言い争っていた。
その風景も日常的なものだけど,一応うちは二人を落ち着かせるために,話に入っていった。
「どうかしたん?」
「やっぱ『このせつ』っスよね?木乃香の姐さん!!」
「だから,バカ言ってんじゃないわよ。このエロオコジョ!!」
うちが入っていっても,やっぱりこの二人は喧嘩をやめない。
アスナはカモ君の首をつまみあげ,激しく言い争っている。
でもうちには何のことやらさっぱりや。
二人をなだめながら,うちは話の内容を追って聞くことにしたのだった。
◇◆◇
「だからね。木乃香がずっと刹那さんのこと見送ってるじゃない。だから,二人は恋人同士みたいよねって言ったら,このエロオコジョがっ。」
「刹那の姐さんは普段はキリっとしてるけど,木乃香姐さんの前ではデレアマになるんっスよ!!それでそれでっ!!」
カモ君は自分の妄想に耽って,鼻息を荒くしてうちとせっちゃんの妄想を怒涛の様子で語りだした。
その途中,すべてを言う前にアスナに頭をげんこつで殴られていたけど。
「そんなぁ。せっちゃんはうちの前でもきりっとしとるよ?」
「姐さん!刹那の姐さんはクラスの中でも(総受け度で)人気No.1なんスよ?!他にも色々噂があるんっスから!!」
「うわさ?」
「龍せつとかにんせつとか,くーせつとか‥‥‥その他大勢以下省略!!」
やっぱりカモ君は,自分の妄想に耽っていてうちやアスナのことに意識を向けることはなかった。
アスナの力のこもったげんこつと,うちの(アスナに言わせれば黒い)オーラと異様な空気が部屋に立ちこめる。
「‥‥ちなみにその噂って‥‥誰から聞いたの?」
「そりゃ,裏情報に詳しい朝倉の姐さんとハルナ姐さんか‥ら‥。あれ?」
やっとうちらの様子に気づいたカモ君はコソコソっと後退りしだした。
「どういう頭してんのよ〜!!あんたたちは〜〜!!」
「しぎゃぴー!!」
うちのトンカチが炸裂する間もなく,カモ君はアスナに締めあげられていた。
でも初めて知った。うちらそんな風に見られてたんや。
女子校によくある噂話やけど,火のないところに煙は立たへん。
だって,うちやって,せっちゃんのこと好きやもんな。
アスナに握りつぶされそうになって,「ギブッ!ギブッ!」とうちに
助けを求めるカモ君を優しく見守りながら,うちはそんなことを思っていた。
◇◆◇
あれから数日が過ぎた。
うちは相変わらず,せっちゃんのお迎えで部屋を出て,せっちゃんの見送りで部屋に帰る毎日を過ごしていた。
誰もいない休日,珍しくアスナはネギ君とカモ君を連れて出かけた。
だから今日はせっちゃんと二人で休日を過ごそうと,午後部屋に招待したのだった。
うちはいつもよりも念入りに掃除をする。
せっちゃんと過ごすと思うといつもよりもずっと気合が入った。
せっせと掃除に勤しんでいると,カモ君の寝床に何にも表示のないDVDケースが置かれているのに気づいた。
時々,危険なものも出しっぱなしにするカモ君やネギ君だ。
それで以前は惚れ薬を飲んでせっちゃんに抱きついて困らせたこともあった。
好奇心の下,何気にうちはそのケースを開いた。
無地のDVDにはマジックで「このせつ」と書かれていた。
うちは首をかしげる。
以前の話もあるので,何かそれに関する内容が収められているのかもしれない。
うちは内容がどうしても気になり,カモ君に悪いと思いながらもそれをプレーヤーに入れた。
「ひゃっ?!?!」
思わず驚嘆の声が漏れた。
それは綺麗な女の人が裸で絡み合うちょっと刺激的なものだったのだ。
うちはドキドキしながらもその行為をじっと見つめてしまう。
どんな風にしているのか,どんな風になってしまうのか。
そして,どうしてこれが「このせつ」なのか。
「あ‥‥‥この人‥‥せっちゃんに似てる‥‥。」
すらりとした和風美人を見つめ,うちは数年後のせっちゃんの姿を思い浮かべた。
今でもせっちゃんはうちのこと大事にしてくれる。
でもそれは,友情とか愛情とは少し遠い気がしてならない。
まだせっちゃんはうちに遠慮してる。
身分や立場を気にして,うちとは距離を置いている。
うちは胸をドキドキさせたままDVDを止め,ケースにしまって目につかないところに移動した。
DVDを閉まった今も,まだドキドキしている。
せっちゃんともっと,もっと近づきたい。溶けあうくらい一つになりたい。
せっちゃんのこと,どうしようもなく求めてしまう自分がうちの中にいるのがわかる。
毎日,せっちゃんの背中を見送っているときに感じる切なさは,
きっとこれが原因なのだろうと,うちは強く思い知った。
でも‥‥。
「きっと,せっちゃん困らせてまうな。」
ドキドキする胸を抑えて,うちはひとり呟いた。
◇◆◇
相変わらず時間通り,せっちゃんは部屋のドアを叩いた。
待ち望んだ人の到来なのに,うちはその音に体が硬くなった。
さっきのDVDのせいで妙にせっちゃんのことを意識してしまう。
うちは平静を装い,せっちゃんに感づかれないようにいつもより明るく振る舞った。
敵の気配に敏感なせっちゃんも,こと情緒には少し欠けるところがある。
今日のうちにとってはそれは,幸運かもしれない。
でも時折,せっちゃんをじっと見つめてしまう。
見つめるたびに,うちの中でせっちゃんが占める割合が膨れ上がっていく。
好きなのに,大好きなのに,友情以上にそれを伝えられない。
話題も色々出てきて,好きな人の話とか,クラスの噂話とかに発展した。
そこで,せっちゃんに少し探りを入れてみる。
せっちゃんも,そう言うことに関心がないわけじゃないことがわかった。
でも苦手なのか,恥ずかしそうに照れた表情が印象的で,思わず見とれてしまう。
さっき見たDVDのせいでうちは前よりせっちゃんのこと意識するようになった。
もしかしてせっちゃんも,あれを見たらうちのこと意識してくれたりして。
万が一,失敗してもせっちゃんもそういうことに関心がないわけじゃないから,
凄かったねって笑ってごまかせるかもしれない。
うちは思い切って,『このせつ』をせっちゃんに見せるために,片付けたDVDを取りに立った。
◇◆◇
自分でもわざとらしいかと思う。でも賭けだった。
うちはお茶を用意してせっちゃんを呼ぶ。せっちゃんの好きな物を探すのがうちは好きや。
香りのいいものを好むせっちゃんの好きな香りを探す。
それは偶然にうちの好きなものが多くて,何気なく使っているものをせっちゃんは好きだと言ってくれた。
せっちゃんが隣に座る。せっちゃんの清潔そうな匂いがうちのもとにふわっと香る。
うちを安心させる優しい匂い。
うちはそのまま,傍に寄せられたせっちゃんの手に自分の手を重ねた。
不思議だった。さっきはドキドキしてまともに見ることもできなかったのに,
今はせっちゃんが隣にいてくれるだけで,落ち着いていられる。
でも,せっちゃんの顔を見ると,自分を隠せる自信がなくて,じっと画面だけを見つめていた。
あんなに幸せそうに,抱き締め合えるものなのだろうか。
悩ましい嬌声とともに繰り広げられる行為を,うちは冷静に分析していた。
さっきは途中でとめてしまったから,最後まで見るのはこれが初めて。
うちはテレビを止め,ふぅっと息をついた。
いくら冷静にと言っても,うちだって全然平気で見れたわけじゃない。
体がホクホクとして,ちょっとエッチな気分だった。
「ほぅ。カモ君てエッチなの持ってるんやね〜。」
そう言って,はじめてせっちゃんの方を向いた。
うちは驚いてしまった。
だってせっちゃんが真っ赤な顔して,俯き加減でもじもじとしているんだから。
いつもキリっとしているのに,言葉もはっきり言えない。
こんなに恥ずかしそうにしているせっちゃんをうちは見たことがなかった。
せっちゃんの様子をうちはストローに口付けながら分析してみた。
今のせっちゃんの様子が意味するもの‥‥。
いつも学校でハルナやユエたちとやってるみたいに,冗談半分でせっちゃんに絡んでみた。
「感じちゃった?」
うちの一言に,せっちゃんはどぎまぎする。
うちはもう一度確認するみたいにせっちゃんに詰め寄った。
せっちゃんは恥ずかしそうに,うちから視線をそらせ,一定の距離をとって逃げようとする。
でもうちはまだせっちゃんの手を握ったまま。
逃げられるわけがない。
うちは再びせっちゃんの手を強く握り,空いている方の手でせっちゃんの背中や腰のあたりをそっと撫でた。
感じやすい子はこれだけでも感じちゃうんだよ〜ん。とハルナがよくのどかをからかっていた。
せっちゃんものどかと同じように,可愛らしい声を上げた。
そのまま,腰が砕けるようにせっちゃんはくらっと体勢を崩す。
その時のせっちゃんの瞳が,とても印象的だった。
うちは誘われるようにせっちゃんを押し倒した。
こんなことして嫌われたらどうしようなんて,考える余裕はなかった。
我慢て,意外とできないんだなって,どうしようもない衝動って本当にあるんだと感じた。
「‥‥せっちゃん。うちもしてあげようか。さっきのDVDみたいに‥‥。」
うちの口から洩れた言葉は,うちとせっちゃんの時間を止めた。
少しだけ,激しくなる呼気の音だけが耳に届く。
うちはせっちゃんの体に覆いかぶさると,いつもよりずっと近い距離でせっちゃんを感じた。
せっちゃんも興奮してる。このDVDを見てうちのこと‥‥意識してる。
潤んだ瞳を見るだけで,それを感じた。うちに訴えかけるような視線。
なんでわかったかのかってきっとせっちゃんは思ってる。
でもそれはうちの賭け,うちのこと意識してたらきっとそうなるって思ったから。
せっちゃんの体に直接触れる機会はあまりない。
お風呂に一緒に入ることもあるけど,それとはまた違う。
せっちゃんに惹き付けられるというのが一番適切な表現なのかな。
うちも同じだから。せっちゃんの体熱くなってるの‥‥うちにはわかるから。
◇◆◇
せっちゃんの体に触れる。
うちと一つになるために,肌を重ねる。
触れ合って擦れたところが熱くなって,うちの体に広がっていく。
うちの手がせっちゃんを撫でるたびにせっちゃんの口から艶っぽい声が漏れる。
感じてくれてるのがうれしくて,もっと触れたくなってしまう。
でも,素直になってはくれない。
うちとこうしてて嫌じゃないことはもう十分わかっているのに。
肝心なことは言ってくれない。
ただDVDに興奮しただけ?たまたま好奇心だけでうちとこんなことしているの?
不意にそんなことを思い不安になる。
「ぁ‥‥ダメです。お嬢様。好き同士でもないのにこんな‥‥。」
せっちゃん‥‥いじわるや。今更そんなこと言って,うちを突き放そうとして。
でも目の前の真実と言葉と,どっちを信じるかって言われたらどっちかな?
うちから視線を逸らしたせっちゃんは,おびえた色を見せていた。
主の戯れを,本気にしないようにしているという自己防衛なのだろう。
でもそれが勘違いだって,どうして気が付いてくれないん?
うちがあかんのかな?
いつもこうやって本気をはぐらかして,うちがせっちゃんを戸惑わせていたのかもしれないね。
うちはそっぽを向いたせっちゃんの耳元に顔をよせ,うちの本気をせっちゃんに伝える。
誰が相手でも嫌や。うちはせっちゃんだけ,せっちゃんとだけこんなことしたい。
うちの言葉に耳を傾けるせっちゃんの耳は,一生懸命アンテナを伸ばし,うちの言葉を捕まえていた。
ご褒美に,うちはそこへ口付ける。そして優しく噛み,うちの存在を示した。
その刺激が敏感なせっちゃんの体に響き渡ったのか,嬉しいくらいせっちゃんは感じていた。
恐る恐る顔を上げる。
うちの方を見つめるせっちゃんは子犬のような表情で心配そうにうちを見ていた。
そんなに心配しなくても,冗談なんかやないえ。
うちは目をつぶってそっとせっちゃんの唇を捕まえた。
きっともう,言葉よりもこっちの方がわかってくれる。
うちの本気感じてほしい。せっちゃんの全部,うちは感じたい。
◇◆◇
それでもせっちゃんは言ってくれない。肝心なことは一言も。
でもうちもわかったから,心配することはない。
でも言わないせっちゃんはずるくて,ついいじめたくなってしまう。
恥ずかしいのか,嫌がるそぶりを見せるけれど,本気でないのは明々白々。
むしろそんな行為がうちをもっと昂らせているのをせっちゃんはわかっているのだろうか?
さらしをほどくと,せっちゃんの白い肌が顕になった。
いつも見てるけど,今日は全然違う。
密着する体が熱くて,でも嫌じゃなくて。
手になじむ感触が印象的で,もっともっと触れたくなる。
その度にせっちゃんは熱い溜息をこぼして,うちに応える。
せっちゃんの全部を見たくて,うちはせっちゃんを脱がす。
今まで衣服で隠れていたところを全部見えるようにすると,せっちゃんの生まれたままの姿を見ることができる。
綺麗。うちの正直な感想や。その中でも一際目立つ胸の頂。
感じると立つって言うけど,せっちゃんのここはもうずっとこうなってる。
うちは舌全体で掬うように舐め,先端でつつくようにしたりと様々な角度からせっちゃんのそこを弄った。
とても敏感なのか,刺激するたびにせっちゃんの口から甲高い声が漏れた。
「気持ちええの?こんなにしっかり尖らせて。せっちゃんの胸小っさいけど敏感なんやね。」
うちはせっちゃんの赤ちゃんになって,せっちゃんの胸を夢中で吸った。
規制回避のためちと休憩。
30minくらいしたら続き落とします。
んだば。再開
>>356 反応サンクス。
ちなみにKが4つもそろってるあなたのIDはなんか凄い。
「ぃあ‥ぁん。そ‥‥そんなにぃ‥‥あっ‥ダメっ‥噛んじゃ‥‥ぅん。」
こんなに甘い声を洩らすのに,うちのこと好きだって,まだ言ってくれない。
恥ずかしがり屋のせっちゃんには恥ずかしいお仕置きが一番効くんやろうなぁ。
せっちゃんの反応を楽しみながらうちはもう躍起になっていた。
うちが好きになった人は何でこんなに素直やないんやろ?
でもうちは,そんなせっちゃんが大好き。強情で,一途でまっすぐで‥‥。
でも今うちの目の前のせっちゃんはうちが見たことないくらい色っぽくて,扇情的で,きれいだった。
うちはそっとせっちゃんの大事なところに触れる。
「せっちゃんのおそそ,もうこんなにぬるぬるや。」
「DVDのせい?それとも‥‥うちのせい?」
うちのはもう触らんでもわかるくらいせっちゃんと同じになってた。
でも,せっちゃんはそれを知らない。
今日はせっちゃんだけ,せっちゃんを正直にさせるんや。
DVDのせいだなんて言わせない。うちのせっちゃん‥‥大好き。
◇◆◇
いっぱいいっぱいせっちゃんを好きって言葉で包み込む。
何回言っても言い尽くせないくらい,せっちゃんのこと好き。
せっちゃんは‥‥どうなん?うちのこと‥‥好き?
ずっと躊躇っていた視線が,次第に熱っぽいものに変わる。
うちを求めてやまない熱い視線がついにせっちゃんの表情に現れた。
素直になってええよ?せっちゃんの本気うちにも示して。
あれ?
なんか10が投下できない。
なんでだ?
じゅぷじゅぷと音がするくらい濡れているので,強くしなければ痛くはなさそう。
でもその音を立てるとうちも恥ずかしくなってしまう。
でもせっちゃんの方がもっと恥ずかしいのか,白い肌は赤くなり体を強張らせた。
そっとせっちゃんに触れる。
とてもとても敏感で,そこに集中的に触れると,今まで以上に霰もなくせっちゃんは乱れた。
素直にうちを受け入れてくれるからこんなに感じてくれていると思うととてもうれしくなった。
奥からどんどん溢れてくる秘裂の奥に指を入れる。
そこはすごく熱くてうちは驚嘆の声を漏らした。
指を動かすと,せっちゃんの体が跳ねる。
どんなふうにしていいのか分からなかったから,うちはとりあえずせっちゃんの中で指を動かした。
すると,あることろに触れると苦しそうにうめく声が,
別のところに触れると苦痛の和らいだ安らかな嬌声に変わるのがわかった。
うちはせっちゃんの中を探検する。どこが良くてどこが痛いのか。
せっちゃんの中は指に絡みついてとても熱かったけど,
でもそれでせっちゃんが蕩けていくのがわかったからうちは続けた。
時折切羽詰まった声が聞こえる。
せっちゃんの表情を確認すると,十分に解れてトロトロに溶けてしまっているかのような
扇情的なせっちゃんがいた。うちを求めてうちに何かを乞うている。
せっちゃんが何を欲しがっているのかうちにもわかった。
せっちゃん‥‥大好きやから,うち‥‥せっちゃんのこと‥‥大好きやから‥‥。
せっちゃんにもっと感じて欲しくて,せっちゃんのおさねを唇でつまんだ。
そして,せっちゃんの気持ちいいところ全部一度に刺激したんや。
しばらく続けると,せっちゃんの体が激しく揺れて,ひときわ甲高い声が響いた。
せっちゃんの体から一気に力が抜けると,うちの体からも力が抜けた。
気を失ってるみたいにぐったりとするせっちゃんを抱き寄せて,うちはそっとキスした。
大好き‥‥。
安らいだ表情で眠りにつくせっちゃんは,なんだかいつもよりずっと幸せそうに見えた。
◇◆◇
せっちゃんの体をきれいにして,うちはせっちゃんの服を着せた。
流石にきつく締めないといけないさらしはつけられなかったので,畳んで置いておいた。
今度一緒に可愛い下着を探しに行こう。
それで今度はせっちゃんの好きな下着の趣味を調べようかな。
目覚めたせっちゃんがどんな顔をするのかなんとなく想像できるけど,
うちはもうせっちゃんのこと逃がさんからね?
おいしいジャムがあるから今日はロシアンティーにしよう。
お湯を沸かして香りのいい紅茶を入れると,せっちゃんがごそごそと動きだした。
さて,なんて言うかな。
今度こそ,真剣にうちのこと好きって言うてな。
それでうちはなんて言おう。
うちは愛しい人の目覚めに合わせて,今までで一番嬉しいお茶を持っていった。
なぜか10が投下できない。
普通に書き込み終了してしまうのに,板に反映されないぞ ヽ(`Д´)ノウワァァン
原因不明なので,うpろだかります。
でもなぜ?どぼじで?
364 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/24(日) 16:32:35 ID:ufWrPP1p
GJ
甘エロをいつもありがとう
レスの最初に改行を多く取ってない?
確か3〜4個付けるとその現象が起きる
>>363 GJ
一文字目にスペースがあると、九州去れる場合があるよ
しかし何より恐ろしいと感じること。
それはやはり自分自身だろう。
何故自分はあの男を恐れるのか。
アレと過去に何があったのか。そしてそれらとこの一連の動きに関係はあるのか?
……握る手が汗ばむ。
「……やぁ」
「?!」
突如聴こえたその声に驚き振り向く。
が、声がした方向に人影はない。
「……?!」
ざわめく草木の中から気配を取り出そうと眼光を鋭くする。
その目の端が僅かに動く影を捉えその一秒後には夕凪の刀身が光っていた。
「挨拶したんだから返してほしいなぁ」
「……誰だ…………ッ」
受けるかもしれない攻撃を回避する為に目を瞑り神経を極限まで尖らせるが、生きた気配が微塵も感じられずに数秒後目を開けた。
「……っ?!」
「やぁ。
って言ったじゃないか」
十寸先にまで迫っていたのはついさっきまで自分の首を絞めていた張本人、近衛兼定……!!
「あ、ボクを勘違いしてる目だ」
斬り付けてきた切っ先を中指で止めるとその男は笑った。
「兼定じゃないんだからボクは君を酷い目になんか遭わせないよ。
……あぁ、よくわからないよね?
ボクは兼定の兄……でいいんだっけ?弟だったかな?
まぁいいや、とにかく同じ顔してるけどボクはあいつじゃないからそこは誤解しないでね」
狩衣を簡略化した簡素な衣服をまとうその男は愉しげに笑いながら夕凪を離した。
男が話しているその間も刹那はありったけの力を込めていたのだが、まるで固めたセメントに固定されたように全く動かない夕凪に動揺していた為反動で派手に転ぶ。
「あはは、大丈夫?」
にこにこ笑って男は刹那の手を取り、半ば強引に起き上がらせた。
……その手はとても人肌とは思えない温度だった。
「ハジメマシテ、桜咲刹那さん。ボクは君をなんて呼べばいいかな?
あ、ボクのことは鷹峰って呼んでいいよ」
その馴れ馴れしい口調が不快で後ずさりして距離を取る。
「?
ボクは兼定じゃないのになんでボクを嫌がるの?」
「知、るか……ッ!!」
顔を隠すように揺れる長い前髪や嫌に余裕のある態度は本当にこの男が近衛兼定ではなかったとしても刹那は嫌っただろう。
「ねぇ、ボクは君と仲良くならなきゃいけないんだ。
だってさ?闇の福音は君を好きらしくって君の敵には回らないって言うんだよ。
あんなに……ふふ、お願いしたのにヒドイヨネ?ふふ、はは……。
ボクはあんまり血を見るのが好きじゃないんだ、骨が軋む音は好きなんだけどね?
でさ、多分君はボクのお願い聞いてくれないだろ?
このままだとボクさ、君の血飛沫を見なきゃなんないんだ。言う事聞かないならやっていいってやえぞーが言っててさ」
鷹峰は腰に下げていた金魚柄の巾着から透明な袋を取り出すとその中身を五,六個口に放る。
ガリガリと口内で堅い音を立てながら笑うその顔を蹴り付けたい衝動に駆られたが、本能が言っていた言葉に耳を傾けじっと耐える。
そう、敵わぬ相手に向かって傷を負うのは愚か者のやることだ。
現にまだ刹那は未熟であり、この男―鷹峰と言ったか―に太刀打ち出来ないことを恥じる必要はない。
今やるべきなのは柔らかい態度に隠した明らかな敵意を湛えたこれからどう逃れるかを考えることなのだから。
「やっぱり角砂糖は堅くなきゃダメだなぁ、ボク」
先ほどの言葉とは全く脈絡の感じられ無いその愚痴に若干戸惑う。
辺りを見回し、木乃香がいると思われる屋敷へと通じる道が此処以外にあっただろうかと考える。
この石畳はそのまま行けば屋敷に繋がる最短経路だが、一度階段を降り階段入り口にもなっている鳥居からやや離れた箇所にある抜け道を辿っても中に入ることは可能だ。
それはまだ二人が幼かったころ木乃香が見つけた獣道である。
その頃に比べたら格段に背の高くなった刹那がくぐり抜けるにはやや骨が折れるが、目立たないという利点があった。
「冷凍してあれば文句ないんだけど普通角砂糖は常温保存だよねぇ。
ボクは自分で食べる分は冷凍しておくんだけどそれって外に持っていくと解けるからなのかな、ベタベタになっちゃって残念だけど食べられなくなるんだよ、知ってた?
ああ、でもエヴァンジェリンが出してくれた角砂糖は美味しかったな、堅くて。あれ、どこで売ってるのかな、是非纏め買いしたいね。
ボクの話ばかりじゃつまらないか、えっと……君は好物ある?」
「……さぁな」
子供のようなその空気と先ほどの無音の接近がコレの実力を浮き彫りにさせる。
本当に強い者は普段と戦闘時とで温度差があるものだ、というのが刹那の持論である。
わかりやすいのは楓だ。
糸目の柔らかい印象があれほど豹変するものも珍しい。
足に全てを込めて走れば一瞬くらいは攪乱出来るかも知れない。
階段を下りるのに何秒掛かる……?
少なく見積もっても十秒は要るだろう。
……駄目だ、時間が掛かり過ぎる……!!
刹那の躊躇いから来る苦々しい表情に鷹峰の口の端が歪む。
それは笑み……とも取れた。
「ねぇ、君は周りからなんて呼ばれてる?
ボクは名前で呼ばれないからもし君が名前で呼ばれてるんだとしたら少し羨ましいな。
あはは、睨まないでよ、怖いなぁ。せっかく会えたんだから話そうよ」
相変わらずにこにこと笑いながら距離を詰めようとする鷹峰に刹那は生理的嫌悪感を抱き始めていた。にこにこ、とは言っても彼の目は前髪で覆われており見ることが出来ないが、口調や言う内容がそう予測させる。
こんな無駄な時間を使っている事にも気が焦るし、一番最初は木乃香の審議会への直談判を止める為に此処に来た刹那にとってこの鷹峰の世間話は非常に苛立つものだった。
何がどうなると木乃香の記憶が消され明日菜にまで危害が加わりこんな得体の知れぬ者と会話しなければならなくなるのだろう?
「……お前の目的は何だ」
「会話というのは片方が質問して片方がそれに答えることで成立するものだよね?
つまり今ボク達の間には会話が成り立たなかったことになる。
だからヒトは会話をキャッチボールに例えるのかな?
あはは、上手く例えるものだね?今ボクは君に対し会話の切っ掛けとなるボールを投げた。
そのボールは極めて受け取りやすいものだったにも関わらず君は取らずに君のボールを投げてきた。
これはダメだね、ルール違反だ。キャッチボールにはボールは一つしか使わないだろう?」
言ってからごそごそと巾着から袋を取り出し中身を口に数個放る。
刹那と顔を会わせてからもうこの作業は少なくとも7回行われていた。
「ボールと言えばこんな話を知っているかい?
ある夜のこと、殺人事件が起こった関係で深夜のパトロールをしていたお巡りさんがいたんだよ。
彼は巡回先の一つである公園でボールを蹴る音を耳にしてこんな真夜中におかしいな、と思って自転車を降り公園内に入った。
すると小学生くらいの男の子が一人でサッカーをしている。
不審に思ったお巡りさんは話し掛けた、こんな時間にどうしたんだい、ってね。
すると少年は答えた、新しいボールが嬉しくて時間を忘れていたんだ、と。
でもいくら愉しくても子供がこんな時間まで遊んでいるのは危険だよね?だからお巡りさんは少年の背を軽く押して帰る様に促した、送っていくからとでも言うつもりだったんだろうね。
出口付近の街灯まで来た時お巡りさんは奇妙なものを目にして立ち止まった。
少年のサッカーボールが妙にでこぼこしていることに気付いたんだ。
それでよく見る為に少し屈んで叫んだ。だってね、ふふ、それはヒトの生首だったからさ。
ふふ、あははは……!
それを見て少年は言った。
このボール、蹴りすぎてもうぼろぼろなんだ。おじさん、僕の新しいボールになってくれる?
そしてそれ以降も真夜中にボールを蹴り続ける音は続き、首だけがもがれた死体も発見され続けるっていうコワイ話。
知ってた?こういうの都市伝説っていうんだよね、面白いよね」
その異様な話に背中に冷たい汗が落ちる。
何が楽しくてこんな事を言い出したのか刹那はカケラも理解できずに固まっていた。
「う〜ん、ボールに絡めて話をしてみただけなんだけど失敗だったかな?
ボクには会話のキャッチボールが出来ないのかなぁ、君は普段どんな会話してる?」
このまま黙っているとまた妙な話を始めそうなので答える。
「只の、今日何をしたかとか……そういうことだろう」
「ふぅん?
君は化け物なんでしょ?化け物はヒトと会話が成立する?
ボクもヒトじゃないから君とは話せると思ったんだけど違ったことを考えるとヒトと化け物は案外上手くコミュニケーションが取れるものなのかな」
「……黙れ」
「なんで?
君、半妖でしょ?なら化け物だろう?もしかしてまだ受け入れてなかった?
それなら悪かったね、化け物同士仲良くしようよ」
「……だま、れ」
化け物と呼ばれることに強い嫌悪感を覚えるのは人の間で生きてきた刹那にとって至極当然のことだった。
それが事実であることは理解しているが、呼ばれることは耐え難かった。
何故なら自分が化け物である事を知りながらも変わらず接してくれる者が刹那には在ったからだ。
それらをひっくるめて侮辱されたような気がしたのである。
「ダメだね、君。賢くないよ。事実を認める事は重要だ。
自分を受け入れないなら君はきっと兼定みたいになるよ。
兼定は馬鹿だからね、君に似てる」
「一緒に……するな」
「嫌なの?
ボクは兼定に似ていないけど君と兼定はとても似てるよ。ふふ、生まれ変わりみたいだと思えるくらいにね……。
だからアイツは君が欲しいんだろうなぁ」
「私が近衛兼定と似ていようがいまいが私にはどうでもいいことだ……っ、お前の目的はなんだ!!」
「う〜ん、ボクはボールを無下にしたくはないし答えてあげてもいいんだけどねぇ、やえぞーがなんて言うかな、言ってもいいのかな?」
「判断くらい自分で下したらどうだ」
「はは!それもそうだね、桜咲刹那サン!
じゃあボクは秘密にしておくよ、君がこれから踏み込むのは正に君とあのお嬢様を軸とした物語だからね、はは!
筋が割れてしまった物語なんか読むのが辛いだけさ、そうだろう?
ボクはいつだったか図書館で推理小説を借りた事があったんだ。一人読もうとしたら目次の部分に犯人の名前が書かれていたことがあってねぇ。
いやぁ、人間っていうのは何とも腹の立つ悪戯を考え付くものだね。
それと同じさ、君もボクも所詮物語を織り成す上での役者A・B・C・Dに過ぎない。ボクはこの舞台の犯人と目的を知っているけれど作者ではないし、舞台に出るよ。
だけどボクは役名くらいは欲しいからね、少し動いてみたりもする。ふふ、Eだなんてあんまりさ。
この物語が終幕を迎えた時君が舞台の上で挨拶を述べられているといいねぇ?」
訳の分からぬ講釈を垂れる鷹峰に刹那は目眩ましの一撃を放つ。
それを又も指一本で止められたが、今度は怯まなかった。
夕凪が堅い金属音を放った瞬間に屈みこみ素早く後ろ手に回り込むと膝裏を蹴った。
「わ」
間接を蹴られ僅かに体勢を崩した所で立ち上がり勢いを乗せた夕凪でこめかみを打つ。
少しばかりは効果があったのか鷹峰は呻いた。
それを確認するまでもなく刹那は走った。
時間が足りないのは承知だがあそこに留まる訳には行かないのだ、自分には助けねばならない者がある!
致命傷を与えるには及ばないし、足止めにさえなっていないだろうが……。
振り向くことさえなく階段を降り松林を右手に突き進む。
少し行けば獣道に出る、そこを抜ければ屋敷の裏門が覗いているのだ。
屋敷内が安全であればこれほど心強いこともないがきっと逆だろう。
しかし囚われた木乃香と詠春を見つけ出さねば……!
「こぉら」
すぐ近くで聴こえた声に鳥肌が立った。
気配は……全くしなかった。
「…………ッ、
が、……はッ……っ?!」
腹部に焼けるような熱さ。
「この角砂糖はダメだ、ボクには柔らかい」
そう言いつつ袋を逆さにして残りを口に流し込む。
空になった袋をくしゃりと空に舞わせると鷹峰ははっきりと嗤った。
その鷹峰の腕が自分の腹を貫き、夥しい量の鮮血が噴出しているのを刹那は見ていた…………
10レス制限はなんとかなんないのかな、かな!
おっさん好きなのでタカミチ出現フラグを立ててみました。
サーバー変わるまでは20だったのにな。
セッティング変えてよって言う板で訴えてみよか。
何にせよ兎に角GJ!
続きも待っとるからなぁ!
ルーターを電プチすれば書き込めるようになるんじゃなかったっけ?
ちょww神すぎるだろうが。続きが気になって眠れぬ。
「………………」
高畑はこの日何度目とも知れぬ溜息を吐いた。
事態が思わしくないことは薄々感じていたがここに来て突然早急さを増すとは……。
吸わずに指で挟み放置していた煙草は灰皿ではなく書類の上にその残骸を散らせている。
慌てて灰をはたき、少し汚れてしまったそれに目を落とした。
「……そうだな、彼女等ももうじき十六だ」
呟いてから乱雑に物の犇く卓上に置かれた小さなカレンダーを見やる。
余りにも伸びた猶予期間に今まで意識が遠のいていただけで今日まで何事も起こらなかったことが奇跡なのだ。
そうだ、これは十年前に既に起こっていた筈の事。それを詠春が止めたからこその今日の平和だ。
ゆるゆるとかぶりを振り、箱から煙草を新しく一本取り出す。
が、普段の自分からすると明らかに量が多いことに気付き、一度取り出したそれを終った。
高畑はあの場に居合わせては居なかったが、其処から帰ってきた詠春の荒み振りに驚いたことははっきりと憶えている。
いつ見ても手を洗っている詠春の様子は正直、異様だった。
四六時中水を張った洗面器に張り付く彼に事情を聞こうにも詠春はただただうわ言のように呟くだけで要領を得なかった。
(すまない……、すまない……、すまない…………ッ!!)
何に謝っているのか、詠春は自分など見えていないかのようにそればかり繰り返していた。
肩を揺すり正気に戻しても数時間後にはまた手を洗っている。その手を見れば皮が剥けて薄く血が滲んでいた。
(落ち着け、落ち着くんだっ、詠春……!君は何もしていない、君が悔やむようなことは何も……!!
それどころか君はあの少女を救ってさえいるだろうっ?!)
(違う……ッ!!
救ったわけじゃないんだ、私は……私、は……ッ!!
安っぽい良心が……いや、それも違う……、
目の前の惨劇を自分の中で無かったことにする為に……自分が楽になりたいが為に……何の後先も考えず……ッ!!!
私は…………ッ)
何も詳しくは知らない高畑にそれ以上何が言えただろう?
彼に許されたのは盟友の嗚咽をその腕で受け止めることくらいだった……。
その後精神療養を受け詠春は徐々に回復し、笑顔を見せられるようにまでなる。
それを見て安堵したのが懐かしくさえあった。
高畑は鳥族を知っていたし、彼らと戦ったこともある。あの悠久の風の一員だったのだから当然と言えば当然だが……。
詠春が鳥族の子供を助けたと聴いた時、高畑は驚いた。
彼の心をぼろぼろにさせた原因は鳥族に非がないとは言え、その子供を見ればきっと思い出すに違いなかったから。
しかし詠春は自分の子供のように少女に接した。
庭園を連れて歩いたり、膝に乗せて髪を撫でている様子を見たこともある。
私は彼女の想いを忘れてはならない、だから忘れてしまった彼女の代わりに自分が憶え続けていようと思うのだ、と詠春は後に高畑にそう語った。
詠春は複雑な表情を浮べ高畑にもう一度言った。
(これは罪滅ぼしのつもりなのか、贖罪の念がさせるだけなのか……、まだ分らない。
だが、私はこの子の幸せを探したいんだ。
何処かに必ずある、幸せを……。
その為に……、刹那と……名付けたのだから)
整いつつある舞台を前に高畑は迷っていた。
「彼」の目的を知る数少ない人間の一人として、苦渋の選択を迫られているのだから。
高畑はごく普通の人間だ。数百年の時など生きてはいない。
しかし、それでも……若輩の身でもわかることが少しはある。
だからこそ迷っていた。
このまま傍観者でいるのは高畑のよく知る人物達に危害が加わるのを文字通りただ眺めているということだ。
それを理解していても……高畑は制止の言葉を思いつけずに居た。
あまりに似たふたつの影が瞼の裏で重なり、消えていく。
彼を最後に見たのはいつだったろう。
その時既に彼は……。
……記憶が途切れかけてきている証拠だ。
恐らく羽の数も後1,2本しか残されていないのだろう。だから彼女等の16歳を待たずして動き始めたに違いない。
翼と……記憶。
そのふたつは既に揃っている。
後彼がやらねばならないことはひとつだけだ。
小さくその名を呟く。
それに込められたものを知る人間として。
その呟きと連鎖するように、後方で凄まじい音が響いた。
振り向いて人影に気付く。
「ネ、ネギ君……?!
と、……長谷川、君?
どうしたんだい、そんなに慌て……」
その少々意外な組み合わせとドアを開けただけとは思えない轟音に驚きの余韻が抜けない。
しかし高畑がそれを言い切らない内にネギは口火を切った。
「た、タカミチっ!!
あの……っ、僕……!!」
意表を突かれた高畑だったが、ネギの次の言葉で更に目を丸くさせる。
「僕……っ!!
京都に行くよ!!」
「ど、どうしたって言うんだい、いきなり……!!
京都は修学旅行で行っただろう?」
「……タカミチ、僕、
僕……僕は……京都に行かなきゃならないんだ、アスナさんにこのかさん、刹那さんを……助けるために!!」
「…………ネギ君?」
「タカミチは知ってるんでしょ?!
今……このかさん刹那さんが危ないってことを!!」
「な、何を言ってるんだ!!」
生徒に聞かれるのが好ましい話ではない。
高畑は何故いるかもわからないが千雨を部屋から出そうと立ち上がった。
しかし、それはあっさりと破られる。
「ダメですよ」
「……っ?!」
ネギの穏やかとはいえない言葉に動ずる様子も無く、メガネに付いた汚れを拭き取りながら何でもないことのように千雨が言った。
「私みたいな奴なら聴いてしまった話を無視することは可能です。自分には関係ないって括って普段通りの生活を送ったらいいんですから。
でも、それでもそんな誰もがやることを出来ない人だって沢山います。
見て見ぬ振りが出来る人間じゃなかったみたいですよ、ネギ先生は。
……私の名誉の為に言っておくと、一応止めました」
「ネ、ネギ……君?
一体……どういう……」
事態が飲み込めずに、ネギと千雨の顔を交互に見ながら立ち上げかけた腰を椅子へと預けた。
「……無断欠席が……続いていたから……、心配になって……電話を掛けたんだ、このかさんのご実家に。
それで折り返し連絡をもらえることになって……、それで……今日の朝、このかさんの……た、退学届けを……学校に提出したって……電話が……来たんだ」
少し大きめの背広の肩を震わせながらネギが絞るように言う。
「そんな……馬鹿なこと、あるわけないよ……、
ねぇ、タカミチ……、そうだよね、何かの間違いなんだよね?!」
「落ち着きなさい、ネギ君。
今動揺してはならない人物が一人要る。
……君だ、ネギ・スプリングフィールド。
君は3人の担任だろう?……落ち着きなさい。
落ち着いて、何があったのか話してくれるかい」
小さな肩をそっと掴み、手近の椅子を二つ取り片方をネギに宛がい、もう一つをドアの近くで壁に凭れ高畑を伺うように見る千雨に座るよう目で言ってから置く。
元々狭い部屋は高畑の私物で―主に書類の類だ―溢れ返っており、大の男が座ればもう余裕はあまりない。
ネギと千雨が小柄だったのが幸いだったが、それでも部屋は狭い。少し動くと肘やら頭がうず高く積まれた書類の山に当たるので無駄に動けなかった。
少しは処分するかデータ化してPCに突っ込んどきゃいいのに、と千雨は内心で余計なおせっかいを焼いた。
そのどちらも忙しい高畑には無理な相談だったが。
「お茶でも……淹れよう」
落ち着くとは言いがたいが、何とか二人を座らせると高畑が言った。
「あ、場所教えてくれれば私行きますけど」
「いや、学校内とは言え一応僕の部屋みたいなものだしね、勝手もわからないだろう?僕が行くよ」
「先生が動くとこの山が崩れそうで怖いだけです」
皮肉の利いたそれに苦笑してから急須と湯のみ、茶葉の場所を大体伝える。
千雨は雪崩を避け器用に場を離れた。
その姿が見えなくなってから高畑は少し声を潜めて切り出した。
「……Eに、会ったのかい」
「……うん」
「何か危害を加えられたりは……ないね?」
「うん、それは……大丈夫。
タカミチ……なんでわかったの?」
「近衛の老人達とは少しコネがあってね、話は少しながら伝わっているんだ。
それに……もうじき君を巻き込むんじゃないかと思っていた。
……長谷川君が居る手前知らない振りをしたけどね」
「あの……Eって……」
「ああ、……あれは危険だ。
今は覚醒を制御されているからまだいいが……」
解除の切っ掛けを持つのは……恐らく。
「全く馬鹿なことを考えるものだね、欲に目が眩んだ人間と言うのは」
「タカミチ……どうしよう?!僕、僕は……今すぐにでも京都に行ってこのかさんのご実家に行こうと思うけど……でも……!!」
「ネギ君、君は此処に残るべきだと僕は思うよ」
「タカミチ……っ?!」
「君の気持ちはわかる。
大切な生徒を君自ら助けたいという思いは同じ教師である僕だからこそわかってやれる、
……と言うのは説得力に欠けるかな。
それに君にはここで授業をする義務がある。それを放って京に行くわけにはいかないだろう?」
「わかってる、わかってるけど……でも、僕……っ!」
思わずネギは立ち上がり、その振動で積まれた書類がばさばさと床に落ちた。
「う、うわ、ごめん……っ!」
「大丈夫、いつものことさ」
尺の長い腕を伸ばし椅子に座ったまま落ちた書類を拾いながら高畑が言った。
自分も拾おうとしたネギを腕で制し、更に続ける。
「君は今この部屋に居る僕に似ているね」
「……え?」
「この部屋は綺麗かい?」
「え?」
「綺麗か汚いかで言ったらどちらだと思う?」
「し、つれい……だけどその二択なら……汚い、かな」
「はは、その通り。
この部屋は正直汚いし、さっきみたいに君が少し立ち上がっただけでこの有様だ。
さて、ここで問題だ。
この部屋を綺麗にするにはどうしたらいいかな?」
話がずれているが高畑が話題を逸らすとは思えないので答える。
「……掃除、すればいい」
「そうだね。掃除すればここは綺麗になるし、来客に僕自身がお茶を淹れることも簡単だ。
だからこの部屋は君に似ているんだよ」
「……僕に」
「ああ。
天才少年を僕なんかに例えて悪いとは思うがね」
ネギは否定するように勢い良く首を振った。
それを笑いながら高畑は一瞬天井に視線を移した。
吸いすぎた煙草の煙ですっかり染まってしまっている。
……やれやれ、掃除はたとえ話だけでは済まないな。
「何かをするべきなのはわかっているのにそれが何なのかわかっていないってことさ。
掃除しようにもどこから手を付けたらいいものかさっぱりだからね、僕は。
……つまりね。君は君の確実に出来ることをするべきだって言いたいんだ」
「僕の……出来ること」
「君はここに残り本来の義務を果たそう。
京に向かいたい気持ちは痛いほどわかっている、だけどそれで疎かにしていいことではないことを君自身理解しているから僕のところに来たんじゃないかと踏むのは行き過ぎかな?」
赤い髪を撫でて高畑はにこりと笑った。
ネギの表情は口には出さずともそう言っていたからだ。
「……うん」
「僕が戻ってきていること、誰に聞いたんだい。Eかい?」
「……うん、……ごめん」
「謝ることじゃないさ、アレは危険だからあまり近寄って欲しくないだけだよ。
……ネギ君」
「何?」
「京には僕が行こう。君の代理としてね」
「た、タカミチ……っ?!」
またも書類が落ちた。
ゆっくりそれを拾い高畑は山にそれを戻す。
「大丈夫さ、今受け持っているクラスはないからね。
それにアスナ君の保護者だったんだよ、僕は。
それとも……僕では不安かな?」
「そ、そんなことないよ……!」
「じゃあ決まりだね、僕は僕の出来る事を。君は君の出来る事をやろう」
ネギは不満半分という顔で頷いた。
どこまで聞いたのかはわからないが、単なる身分の差を気に入らない者が恋路を邪魔しているなどという生温い話ではない所まで知ったようだ。
そう、蠢く二つの意思、その表側を。
さて、どう動いたものか……。
ネギを帰らせてから千雨のことを思い出した。
何故彼女はネギから事情を聞いたのだろう。
結局戻って来なかったが、場所がわからなかったんだろうか……?
立ち上がり歩みを進める。
千雨が凭れていたドアの近くにある今やその用途ではなく小テーブルとして使われているチェス盤の上に盆に乗せたお茶と買った覚えのない可愛い菓子が幾つか置いてあった。
高畑は長谷川千雨という生徒がなんとなくわかったような気がして、少し笑った。
置かれたお茶に手を伸ばし口を付ける。
……京都、か。
「どうやら僕は傍観者に向かないみたいだな」
高畑は苦笑すると、一度は終った煙草をやや鹿爪面で取り出すと火を付けた。
規制だったのでラスト携帯から投稿です(・3・)
作者はネギがアレなので積極的参戦はさせない方向です。
〉ネギがあれ
ワロスw規制がいやならうpロダでも使えばいいのに
何か目から鱗が落ちた
そういえば、うpロダという案がどうして今まで出てこなかったんだろう
これだけ長いとその方が良いよな
だがこうしてレスをつけにくい。
そして、投下されるのを待つのもまた一興なのだよ。
でも今作は最後まで絶対書いてほしいので作者様のいい方で良いや。専用うぷろだあるしな。
395 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/28(木) 02:12:34 ID:cPNX+bKU
実写版刹那が〜〜〜〜!!!
実写刹那の交代がなかったらもっとこのせつあったのかも
来週のこのかパクティオも刹那の交代がなければ
刹那が怪我して今度はこのかが刹那を守るために・・とかそんな脚本だったんじゃないかと
色々妄想してなんか残念な気分
398 :
名無しさん@秘密の花園:2008/02/28(木) 13:43:39 ID:cPNX+bKU
今の人には悪いけど、何か男前度が下がった希ガス…(涙)
声とかもっと低いほうがいい
なんか、長編はすっげえ面白いし神だと思うけど、それゆえに甘いのとかエロい短編ものが恋しい・・・
鶴の恩返し ぱろ
スマン
そろそろホワイトデーネタで
頭抱えるせっちゃんを優しく抱きしめるこのちゃんで。
流れぶった切るがこんな妄想が…
おかしい。
先程から、木乃香お嬢様の様子が妙におかしい。
そわそわとやたらと落ち着きがない。
っと思っていた矢先―
「せっちゃんー飴玉あげるえーv」
―ゴクッ
「!!」
刹那は、木乃香に無理矢理口に押し込まれた飴玉を勢い良く飲んでしまった。
「ゴホッゴホッ…ちょ‥おじょうさっ‥うわぁっ!?」
ガクンと身体が揺れたと思ったら、視界が見る見るうちに低くなっていく。
小さくなってしまった刹那の頭上で、ニヤニヤとする木乃香。
「お嬢様っ!!こっ…このような物を一体どこからっ!!」
「んふふーv」
木乃香の右手には、怪しい例の小瓶が。
中には青と赤の飴玉が艶やかに輝いている。
恐らく、ネギ先生の魔法道具の中から見つけ出したのだろう。
「はっ‥恥ずかしいですっこんな姿…お嬢様っ―!!」
「せっちゃん‥」
小瓶をテーブルの上に置くと、刹那にジリジリと詰め寄る木乃香。
「ふわぁっ―!!」
姿は変わっても、感度の方は変わらないらしい。
「指1本なのにキツキツやえ」
「せっちゃん、胸ぺたんこでめっちゃ可愛いわぁ」
ごめんなさい。
冬眠します。
むっは〜♪書きたくなった。
でも時間とれるかわからんのが悔しいゾ。
ぶったぎり便乗で、
以前よく落としてくれてた4コマ萌え絵の御仁はもう来てないのかな?
好きだったのに……。
ネタ落として神待とうぜ。
んー、ネタかぁ・・・
仕事で疲れて&怪我をして動けないせっちゃんがパクティオーカードでこのちゃんを森とか?に呼び出し。
このちゃんは傷ついたせっちゃんを治す為に服を脱がしていく。
(3分経っているけど、このちゃんの魔法で治る程度の怪我)
治ったせっちゃんは、疲労と“気”の大量消費で力が入らないが、このちゃんはその姿に見とれて・・・
いいだしっぺのくせにこんなのしか思い浮かばないや、スマソ。
個人的にはせっちゃん受けがいいな、なんて。
設定変えてくれて全然オケだから、職人様の手助けとなるなら幸いだ。
妄想をぶちまけてみる
新婚せつこの
結婚一カ月目の二人
近衛家の実家はまだ継いでおらずマンションに住んでいる
あるとき刹那が退魔師の仕事で3日間ほど家を空ける。 仕事の終わる日このかがカードで呼び出して刹那が家に帰ったところから本編スタート
久々のお帰りのキスに盛り上がってしまう二人だがとりあえず風呂に入ることに
このかの体を洗ってた刹那がスイッチ入っちゃって第一ラウンド開始
ごめん…
うはww俺も読みてぇー!
カードで呼び戻すってことは、
既に二人はラブラブぱくてお済みか!!!
ちんこあったほうがいい?ないほうがいい?
多分荒らしだろうが
マジレスすると、百合にふたなりは邪道と思う。
だがしかし、おれ的には『萌え』があればドンとこい!
いやすまない荒らすつもりはなかったんだが、
>>405を文にしようかと妄想したところ
第一ラウンドってどうすればいいんだ?ということでおまいらの意見を聞きたい。無い方がいいのか
新婚さんらしい可愛いこと言うこのちゃんにスイッチオンされたせっちゃんに
ベタベタでアマアマな愛撫をかまされてこのちゃんがトロトロにされるベタアマな第一ラウンドが読みたい。
ちんこより、初めて使うオモチャを試すというノリのがいいな。
そこにバイブでもディルドでも出てきてもおK!
ちょっとハード指向だが久し振りの熱い夜をすごすならいいをじゃないかなないかな?
はじめまして
前スレの
>>353の絵師さんってサイトあったりします?
最近ここのまとめサイトから知ってすごく気になったので…
絵師……?
スマン誤爆だ
前スレ、な
416 :
405:2008/03/04(火) 18:50:32 ID:aXQqAK/p
>>411 ありがとう職人さん。
生えてても無くても甘々ならオケ! と思ってるけどやっぱ少数派かな?
生えてるのもちょっと見たい気がするが、荒れそうだしね。
因みに脳内設定だと結婚してんのに敬語も変かな〜ってことで刹那が京都弁使ってる
せつ×こので刹那方言萌えとか、どんだけ人とツボがズレてるんだろう…orz
安心しる!
ここにもひとりいるからおK!
生えるのは正直別スレでやってほしい…
うん、ティンコいらない
俺もいらないと思う
長編とアマエロを裸で正座待ち
このせつチュッチュッキター
423 :
名無しさん@秘密の花園:2008/03/05(水) 09:41:23 ID:WxIImdbg
ほっぺか、くちびるか、それが問題だ。
どれどれ
ここはあえてほっぺを推すw
久々の神回だった
ほっぺ両サイドに違いない
今週号…
キタァァァ(゚∀゚)ァ( ゚∀)ァ( ゚)ァ( )ァ(` )ハァ(Д`)ハァ(;´Д`)ハァハァ
428 :
名無しさん@秘密の花園:2008/03/05(水) 19:56:17 ID:Yynqibkb
このかのスカートの捲れ具合は異常だと思うがどうか
>>423 ほっぺだろ。口だとあの擬音じゃ収まるまい
上げちまったごめん
唇だと舌も入るから、せっちゃんが酸欠にならないとおかしい
再会したのは嬉しいが、あっけない。じっくり2ヶ月くらいかけて欲しかった。
今週は本当にいいこのせつだった!!チュッチュッとか、木乃香せっちゃんのこと好き過ぎやわw
それと、木乃香の尻肉の見え具合い、パンツはいてない…!なんという誘惑!!
それせっちゃんが見たら発狂しちゃうよ><やっぱそっち方面は黒木乃香かw
そうか!
占いで近日中にせっちゃんに逢えることが分かってたから
ノーパンスタンバイしてたんだな! なんという誘惑!
434 :
名無しさん@秘密の花園:2008/03/06(木) 00:25:23 ID:kl2OyTsu
くちびるなら声がだせないはずだよな。ほっぺか。
首筋という線も
今回はいつものほほんとしてる木乃香のせっちゃん大好きぶりがちゃんと出ててよかった。
じゃあ間を取って全身にキスしたってことで。
つか早く仮契約してくれ
でも仮契約しちゃったらしちゃったでなんか寂しい。
してほしいけどw
そういえばもし仮契約したとしてカードの絵柄はどうなるんだろ
ネギのと一緒?
間を取ったって言うか足して割らなかった感じだがw
契約者が違えばカードの内容は変わって当然な気がする。ただし別のAFが配布されるかは謎だ
>>435 こ「悪い虫がよりつかない、おまじないやえ」
とか言って跡残すんだな
クウネルのカード全部一緒だっただろ
久々の登場に俄かに賑わったな。
あまりの盛り上がりに単行本派の俺だが
立ち読みしてきたぞ。
ハァ〜ン(*´Д`)
……萌えた。
僕はわかっているのだろうか。
残された羽の数は後二本。
だからもう時間が無い。
わかっている。
……わかって、いる。
本当は彼女らの十六歳を待つつもりだったけど、そういう訳にもいかなくなってきた。
案外僕もポンコツなんだな、なんて苦笑する。
ポンコツの上人じゃないなんて救いようがないね。
まぁどうせ……化け物だから。
僕を見て怯えない人が居るのなら見てみたいくらいだ。
いや、……会いたい。
僕は化け物だから。
忌み嫌われ蔑まれるのが似合いの生き物。
だからあの翼の姫君がとても好き。親近感、とでも言おうか。
……好きだけど、嫌いだ。
だって同じ化け物なくせにあいつは……
笑っているんだ。
だから、嫌いだ。
でも、とても大切。
……あはは、自分でも何が何なのかよくわからない。
要は僕はあいつに嫉妬しているのだろう。
そっくりなのに、僕とは全然違うあの子を。
僕の欲しいものを持っているから、ってだけじゃない気がする。
……それは多分可能性。
僕は彼女の可能性が嫌なのだろう。
羽を毟ったらもう用は無いし、あのお嬢様の前で殺してやろうか。
近衛……木乃香。
記憶、全て消した方がいいかもしれない。
真っ白な方がより完成度は高い気がする。
………………。
不意に脳裏をあのお嬢様が言った言葉が巡った。
………………。
記憶の完全な抹消はやめておこう。
直前までは少しくらい残っていてもいい。そうだよ、翼の姫君への思慕の情が邪魔だっただけなんだから。
それに僕はあのお嬢様が嫌いじゃない。面影を追う方でもないけど、少し惜しいから。
だからほんの少し猶予をあげよう。僕だってそんなに酷い目には遭わせたくない。
イレモノは手に入れた。
邪魔はさせない、時間がない。
鷹峰が居たって関係ないよ。ころしてやる、あいつなんか。死に損ないの爺さん達に飼われているだけの猛獣の何が怖いって言うんだ。
もう僕はあの頃とは違う。柳の下に泥鰌は二度もいないんだって教えてやるだけさ。
もうじき……会える。
君のイレモノと記憶を繋ぐ羽根……、僕は必ず揃えて見せる。
大丈夫、血が付いたらちゃんと手は洗うから。
もしも臭いが付いたなら水を浴びてそれだって消すよ。
だから君を怖がらせる要素なんかないんだ。
大丈夫、大丈夫……。
だから………………、
待っていて。
数百年の時を紡ぐ為用意した役者達はもう既に……僕の舞台の中に在る。
*****
長谷川千雨、15歳。(一部の)みんなのスーパーアイドル。
偶然知られてしまった担任教師ネギ・スプリングフィ−ルドを除けば彼女の意外すぎる趣味を知るものはいない。
まだ子供だから大目に見てやるが、これが自分と同等の年の者だったら持ち得る全てのネットスキルで相手を脅迫してでも口を噤ませるだろう。
何故ならそれは普段の千雨の生活態度から言って知られてはならないことだからだ。
メガネがないと人前で話せないような女子がネットアイドルだなんて早乙女や朝倉辺りに知られたらもうこの学校には居られない。いや、マジで。
千雨は在り来たりな平凡を好む。騒がしさなんぞ更々御免だ。
どこぞのラノベヒロインのような「日常を変えたい」なんて思ったことはないし、アルファベット3つ並べた団を作ろうとも思わない。だから校庭に謎の絵を描きもしなければ映画だって撮らないのである。
平凡が一番幸せだ。
千雨は心底そう思う。
第一非日常を望む輩って言うのは要は今の自分の境遇に不満を抱いているわけだ。
そんな毎日を変えたいから、訳のわからん夢を持つ。
その点、千雨は日々に何の不満も持っていない。変な期待はするだけ無駄なことだと理解しているのである。
期待するから疲れる、失望する。
十五でこの冷めた感覚を持った自分に呆れることさえあるが、それでも千雨はこの性格を少し気に入ってもいた。
その実、心の壁を作っているだけだということを絶対に認めはしないが。
そんな彼女の1日はPCの電源を入れる所から始まる。
ヴーン……という独特の音は彼女に今日も変わらぬ平穏がこの部屋にあることを実感させる。だから千雨はこの音が好きだった。
起動確認すると、画面をちらりと見てから顔を洗ったり朝の身支度を手短に済ませる。
それらが一段落付くと盆に簡単な朝食を載せてPCの前に据えられた椅子に座り、壁の時計を見るのがここ数年の習慣だ。
ネットに繋ぎ、HPのチェックやメール確認と、ややネット依存の気が感じられる作業を食パン片手に行いつつ時折甘めのコーヒーが入ったマグカップに口を付ける。
このPCの前で食事を取るという行為はあまり行儀が良くないとは分っているが、染み付いた感覚はなかなか抜けないものらしく今日も千雨はキーボードや周辺機器にコーヒーを零さない術を益々高尚化させていくのだった。
ほぼ毎日日記や写真と、何かしら更新しているHPだが最近はそれが出来ずにいた。
原因は担任教師ネギ・スプリングフィールド(10・♂)にある。
「……っだよ、……あいつは…………」
液晶画面にネギの顔を浮べ、悪態をつく。
この微妙な胸のざわつきが何なのかはっきりと分らないことが苛立ちを煽る。
急に呼び出したかと思ったら延々電波な話を振りやがったのだ、それもHP更新に頭が回らない程のレベルの。
なにかファンタジーなゲームか映画かアニメでも見たんだろうか。そうとでも考えなければ現実主義の自分と余りに思考回路が食い違う。
何が悪の組織だ、馬鹿馬鹿しい。
あの時は高畑先生がいた手前適当に話を合わせたものの、実際は果てしなく冷めていた。
何やら二人で会話したそうな空気を感じたのでチャンスとばかりに抜け出してきてみたが、戻ってこなかった為に後からネギに詰め寄られたのを思い出す。か―――っ、近寄るなファンタジー王子が!!
……あいつがいると私の日常は崩れてく気がする。事実、崩れてる。
訳のわからんことに首を突っ込みたがる年なんだろーか。自分のこともままならないのに他人を気にしてどうするつもりなんだか。
それできちんと世話できるならいいが、手を出しておいて結局何も出来なかったらそっちの方が質が悪い。
それ、言ってやれば良かったかもしれない。
前の見えないガキってのは困りモンだ、ほんとに。
目を瞑り奴の話を咀嚼し直す。
……すればする程溜息が出そうになるがそろそろ出ないと遅刻するので一度だけ吐いてからPCの電源を落とした。
それからゆっくりと立ち上がり、本日二度目の溜息を吐いてからカバンを手に取る。
やけに重く感じた。
多分今日も近衛とその家来(?)とアホ猿は居ないんだろう。
これで実際居なかったら奴らが欠席し出してから丸四日目ってことになる。
流石にこれは皆少しおかしいと思い出す頃だろう。その内捜索隊とか結成しそうだ。
他の世界ならそれはないだろ、と言われることがウチのクラスでは常識なのだから全くやっていられない。
このクラスに割り振った先生諸氏を訴えてやりてーな、私の日常を返せ、ってさ。
……やれやれ、なんでウチのクラスの奴らは人のことにそんなに興味を示せるのかねぇ。
数分も部屋の真ん中で立ち止まっていたことに気付き慌てて机の上の眼鏡を手に取る。
「…………やべっ」
小さく呟いて足早に部屋を後にした。
……願わくば、あの三人が教室に居ますように。
「………………………」
この世に神様なんか居やしないらしい。
千雨のささやかな祈りはあっさりと却下されたようで、近衛木乃香・桜咲刹那・神楽坂ブヒ菜の席は今日もぽっかりと空いたままだ。
教室をさり気なく見渡せば千雨の予想通り、クラスの騒ぎ立て屋数人が欠席の続く三人の話を回りに振っている真最中だった。
なんで悪い予想というのはこうもビシバシ当たるのだろう。
この的中率ならノストラダムスも目じゃないな、などとくだらないことを考えながら席に着く。
カバンから今日の授業に使う教科書をごそごそと取り出し、机に放り込む。
横文字の綴られた教科書が目に入り顔を顰める。
今日は英語がある。……ネギの受け持ち教科だ。
担任なのだから顔を合わせるのは当然だが、更に別の時間でもそれがあるとなると千雨の気分は自然重くなる。
あの子供は千雨にとって非常に迷惑な存在だ。
可愛い顔した少年が教師というだけで話題性は十分だし、おまけに真面目で有能な天才ときたもんだ。
そしてなかなか人間としても出来た奴なのも、少し癪ではあるが認めざるを得ない。
そんなのが担任で何も起こらないわけはなく、去年の一年間だけで一体どれだけ周りが騒いだことか。
干渉して来る者の居ない環境とは程遠い世界を作るネギが千雨は苦手だった。
当人にその気はなくとも、周りがそうさせるのだからこの評価は少々彼に不憫かもしれないが。
動作の止まった手に神経を送り、英語の教科書を机に押し込む。
……またネギが何か言ってくるかもしれないな、と思うと幾らでも溜息が零れそうになる。
溜息をつくと幸せが逃げる、とは良く言ったものだ。
溜息をつくような鬱屈とした表情の人間には福は来そうにないから。
笑う門には福来る。
千雨は迷信を信じるタイプではないが、この手の諺はなかなか的を得ていると思う。
かと言ってニコニコするわけでもないのが長谷川千雨のジャスティスだった。
仏頂面は嫌な事しか呼び込まないことに気が付いたのは数秒後。
「ねー」
不意に頭上に掛かった声に顔を上げる。
声の主が誰なのかを確認すると千雨は露骨に面倒臭そうな顔を作った。それが出来ればあまり関わりたくない人種だったからだ。
「何」
「ん?
いやさー、うん。
元気なさそうだなー、みたいな?」
……嘘つけ。
目の前でへらへら笑う人物に対し内心吐き捨てるがそこまで社交性を欠落させるつもりもないのでそれは眉の動きだけにしておく。
「なんか用デスカ」
「いやいやいや、あはは、やだなー、元気?って言ったじゃん」
「生憎ですが気分は良くないです。まだ何か?」
「辛辣だなぁ、クラスメイトに向かってぇ」
ただクラスが同じだっただけでそんな馴れ馴れしい口を利かれるのならそんなもんは願い下げだ。
全く、友達レベル設定の低い奴はこれだから嫌なんだ、少し話したら友達か?
「うーん、参ったなぁ、あはは」
お前が参ろうと困ろうと私は何の関係も無いんだが。
朝倉が何か言う度に内心で突っ込んでいる自分がなんだか可笑しくて笑いそうになる。
「たはは、いやー、攻め難いなぁ。
んじゃ本題っ!
こないださ、ネギ君と二人で夕方の教室に二人きりで居たよねっ?!
そのことについて聴きたいんだよねぇ〜」
「……はぁ?」
「とぼけないとぼけないっ、某ゴキブリ触覚さんのタレコミだからね〜、信頼性の点では疑ってないよ」
「ただ授業のわかんなかった所を聞いてただけだけど?」
「なっはっはっは、それはないでしょ〜、わざわざ二人きりになる必要性がないもんね!それなら職員室行った方が早いし?
いやぁ、長谷川も隅に置けないな〜」
……殺すぞ色惚けパイナップル赤毛。
「じゃあネギ先生に直接聞いてみたらどーですかー、接続詞の用法を聞かれただけですよって返ってくるだけだと思うけど」
「んん〜?そうなの?
……ふーん、そっか。成程ねぇ〜……。いや、千雨たんも3−A爆闘☆ネギ君争奪31凶に参加してんのかと思ってさ、てっきりポイント稼いでるのかと」
「……なんだそれ」
「あ、知らない?これの勝者は卒業式の後にネギ君とのお花見デート権が進呈されるんだよ!
勝負は簡単ギャルゲ形式!卒業式までに最も好感度の高かった人がウィナーってわけ!今のトコ、クラスの7割が参加表明してるよ〜ん」
そう言って朝倉は1枚のA4サイズの紙を千雨に見せてきた。
そこにはクラスのほとんどと言える生徒の名前が書き込まれている。
……恐らく本人は知らないんだろうな。千雨は少しネギが可哀想に思えた。
っていうか好感度ってどうやって調べるんだ。ネギが伝説の木の下で告白するとかいうエンドでも用意しない限りわかんねぇだろうが。
突っ込みたい気持ちを抑えつつ、何となく誤魔化せたようなのでやや荒い口調も治まる。
「私はそんなんに参加するつもりはないよ」
「そぉ?千雨ちゃんいい線いくと思うんだけどねぇ」
「はぁ?」
「なはは、知らぬは渦中の人間だけってか」
面白そうに笑う朝倉を千雨はうざったそうに見る。
それをニヤニヤしながら見返してくる朝倉が心底うざったい。
この年頃の女子は1に恋愛2に恋愛、3・4がなくて5に恋愛だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、その手のことに極めて関心の薄い千雨にとっては至極迷惑な話だ。
何をフラグと見ているのか知らないが自分とネギの間に朝倉が期待するような事など何も無い。ネギが敢えて自分にだけトリップトリオのことを話してきたのにはそういう感情があったからというわけではないのだから。
それに、仮にネギがその手の感情を持って近づいて来たのだとしても千雨としてはお断りだった。
あのセンセーはどうにも自分とは合わない。
真っ直ぐで糞真面目な所に惹かれる部分があるのは認める。でもそれは尊敬という意味でありその先には何も無い。
一緒に居たらトラブルの連続で疲れ果ててしまいそうだしな、と更に付け加える。
クラスの馬鹿連中のようにアイドル視すらしないだろう。
例えるならネギが10なら千雨はマイナス1000だ。
対極とまでは行かないが、それ位の温度差を感じる。
いつも全力投球でぼろぼろの少年が少しも気にならないと言えば嘘になるのだが……。
そんなことを言ったら最後、とんでもない尾鰭を付けて誇大化されそうだとは安易に予想がつくので死んでも言わないが。
「アンタは?」
「ん?」
ブレザーの袖でデジカメのレンズをちょいちょいっと拭いていた朝倉に話しかける。
「アンタはその企画どーすんだ?また司会進行か?」
修学旅行で大目玉を食わされたことを思い出す。
こいつの企画は要注意だから触りだけでも知っておいて損は無い。
朝倉は腰を凭れさせていた千雨の机から離れると笑った。
「んん〜?ライバルは一人でも少ないほうがいいって?」
「……言ってねぇだろ、んなこたぁよ」
「んっふっふっ、逃げるねぇ?」
「水掛け論になるから否定も肯定もしないけどな、アンタが司会進行をやるってんなら先にこれだけは言っとく。
私は絶対んなモン参加しねーから巻き込むなよ」
「ははは、エントリーは卒業式前日まで受け付けるから前言撤回もOKだかんね〜?」
「……話聞けよ」
「いやぁ、その気がないブラックホースを如何に乗せるかに軽く命張ってるからね!」
「そうかい」
ひらひらと手を振り、あっちへ行けと意を込める。
相も変わらず面白そうな顔で千雨を見る朝倉だった…………。
……やれやれだ。
世の中には傍観をこよなく愛するやつってのが居るが朝倉は間違いなくそれに分類される。
人の恋愛の世話焼きが何より好きなタイプなんだろう。
他人に興味の無い千雨からしたら朝倉のような人間は全くもって理解し難い存在だ。
合コンの幹事やセッティングもその内手を付け出しそうだな、と思い少し笑った。
はまり役ってのはこういう時に使う言葉なんじゃないかと……思ったから。
いつも空いた隣席を時々見やりながら座っているその姿を視界に映しつつ考える。
あいつが世話焼きタイプなら自分は何なのだろう?
無気力?
交流嫌い?
当て嵌まる言葉が浮かばずに机の上を指でなぞった。
「……定義なんかどうでもいいっちゃいいけど、な」
朝に中断したネギの話の反芻。
喧騒の教室でそれを行うのは場違いな気もするが、部屋に居るときはPCと向かい合ってしまうのでここしかないのである。
ネギの口走った「E」とはなんだろう。
何かの略語であるのだろうが、千雨にその一文字で表される言葉の心当たりは無かった。
話を要約すると簡単だが異様に現実味が薄くなる。が、思考の整理には丁度いいのかもしれない。
第一ポイント。
近衛が悪の組織に攫われて危機に陥っている。
第二ポイント。
神楽坂と桜咲はその救出に向かっている。
第三ポイント。
どうやら神楽坂と桜咲も揃ってピンチらしい。
…………アホか。
なんだよ悪の組織って。
ロ○ット団か?それともレッド○ボン軍か?
誰に吹き込まれたか知らないが、今のところ妙なのは近衛が突然の退学届けを提出したってとこぐらいだろ。後の二人はそれを止めさせるために実家にでも行ってんじゃねーの?
確かに担任としては騒ぎたくなる気持ちはわかる。
今まで楽しそうに通学してたのに急にそんなんなったら誰だって気になるさ。
……けどなんでそれが悪の組織だ誘拐だになるんだよ。あいつの本立てに並んでる漫画やら小説やらを一冊ずつ検めたいところだな。間違いなく小学生向け冒険小説はあると見た。
センセーのメンツの為に少し付き合ってやったが、まぁ私が出るまでもなく高畑先生が諭してくれたことだろう。
今私が心配すべきはそんな安っぽいファンタジーよりも朝倉だ。
妙な話をばらまかれたら今後のネット活動に響きそうで困る。
小賢しい朝倉のことだ、この後ネギに直接話を聞きに行くかもしれない。
そう思った千雨はネギの携帯に話を合わせるように、との指示メールを送っておく。
送信完了画面が出た途端にドアが開き、朝のHRの為ネギが現れた。
そのタイミングの良さも相俟って、ネギの背広ポケットの中で携帯が震えているのが見えて妙に千雨は気恥ずかしくなった。
「…………いや、だってあいつが勝手に登録しやがったから…………」
その呟きを後方に居た茶々丸の聴覚センサーは目聡く捉え、主にそれを報告すべきかの判断の為、人工知能プログラムの起動を開始していた…………。
原作萌えの流れを読まずにちさめのターン!
ろだで投下したほうがいいですかね?
いや、構わずここで落として下さい!
今後の展開に期待大!
連載乙です。
渦中のこのせつ明日菜ネギに第三者視点+渦中に飛び込まんとする千雨。自分はここ投下で全然オッケーです。
続きにwktkしてます!
千雨キタな。GJ!続きもwktkして待ってるぜ!
な、手ぇ繋ご?
一拍置いてから、くるっと半回転して彼女に向き合うと
予想通り、耳まで真っ赤に茹で上がっていて。
言葉になっていない何かを発しながら
両手をばたばたさせるその姿は誰が見ても可愛い。
本当は、了承なんか取らずに唇まで奪いたいけど
嫌われてしまうのは、何より嫌。
だから手くらいは。
右手を差し出すと、彼女はブレザーで左手を拭いてから、優しく繋いでくれた。
その顔は、ウチより全然赤いくせに
繋いだ手は、ウチの方が震えてて
そこから伝わる鼓動が、あんまりに同じだったから
同時に吹き出して、寄り添った。
***
空気読まずに投下です
甘々ほのぼのには程遠い〜・・・
黒このかも好きですが白このかも好きです
このか視点の時の語りを私にするかウチにするか迷う
どっちの方が読みやすいんでしょうか?
>>457 同じ悩みありノシ
便乗して皆さんにお聞きしたい
このちゃん視点の場合、京訛りで「ウチ」にした方がいいのか
標準語で「私」にした方がいいのか
これ考えると、どうしてもせっちゃん視点ばっかり書いてしまう…
一人称視点の場合、地の文まで方言にすると読みにくいような気がするよね。
自分は前に投下したときは標準語+「私」にしたけど…
普段標準語にしてここぞってときだけ方言にしてる
(心の中での)問いかけなんかは方言
あとはひたすら標準語
たまには、せっちゃん攻めが見たいな
再会編でせつこの妄想!楓がらみ?
普段受けっぽいからこそ、何かの弾みでバリバリの攻めになるせっちゃんが
見たいと思うのは自分だけかな。(少し鬼畜入っていればなおよし)
いや、そんなことはない。
攻め攻めなせっちゃんも
にゃんにゃんなこのちゃんも
歓迎だ!
是非みたい!
そして長編完結に向けて支援
乙女な木乃香が見たい、それだけです
只今執筆中…
ですが後半しかこのちゃんとせっちゃんが絡みませんorz
しかもコメディ路線なんですが、需要あります?
ばっちこ〜いvv
このせつ分を補充させてくれ。
組曲このせつ動画の歌詞を考えたんだが、動画に出来ないことに気がついた
オンボロPCめ
放課後。
HRを終えた生徒達がそれぞれの余暇時間を過ごす為に教室を後にしていく。
教室に残り級友と談笑に興じる者も多いが、長谷川千雨は其の例には入らない。何しろ彼女は団体行動を嫌う一匹狼派である。
鞄に手早く教科書を詰め込むと足早にそこを立ち去る。
五月蝿いクラスメイト達は好きになれなかったし、なるつもりもなかった。
騒いでばかりで中身のない同年代を冷めた目で見るのが自分の役所だと勝手に解釈しつつ、それが一番合うとも思う。
友人が欲しいと思うことはあるが、それに至るまでの係わり合いが面倒で結果いつも独りを選ぶ。
人間関係は煩わしい。
全てはその一言に尽きた。
トモダチゴッコをやるくらいなら少しの孤独の方が後腐れなくて過し良い。
そんなスタンスの千雨に話しかける者はあまり居ない。
が、物事には例外が付き物なのは世間の常であり、非常識が罷り通る3−Aでもそれは常識として認識されていた。
この場合の例外とは朝倉である。
元々朝倉はクラスに馴染もうとしない千雨に小さくは無い興味を抱いていた。それがクラスを纏める為ではないのは勿論だ。
理由としては単純な人的興味である。
これだけの個性派揃いのクラスに身を置いていると、逆に千雨のようなタイプが目に付く。
クラス分けを見た当初は気にならなかったが、もうこの面子とも付き合いは2年目になる。すると級友一人一人に次第に関心が広がるわけで、現在の朝倉の目は千雨に向かっているというわけだ。
「ねー」
人気のすっかりなくなった教室で朝倉が呟く。
しかしそこには誰の影もない。それでも朝倉は言葉を続ける。
「長谷川って何なのかなーぁ」
夕焼けが入ってくる窓辺を眺めながらペンを回す。
「あ」
だが上手いとは言えないそれはあっけなく朝倉の手から離れ、床に転がる。
「あはは、確かに」
笑いながらペンを拾う彼女の姿を見る者があったなら不審に思うことは間違いない。誰も居ない教室で一人喋り笑っているのだから。
「……そういうもの?」
今度は神妙な表情に変わり、降りた椅子に再度腰を掛ける。
「……や、それは違うけど。
何て言うのかなー、事件のニオイ?みたいな?」
懲りずにまたもペンを回し出す。
数秒後、ペンはころりと手を離れ、宙に浮く。
それにさして驚く様子もなく朝倉は頭の後ろで両手を組むとゆっくり伸びをした。
「……いやね?私だってそんな首突っ込むべきじゃないこととそれ以外のことの区別はついてるつもりだよ。
けどねぇ、ネギ君云々で釣ろうとしたのが間違いだとも思わないしなぁ。長谷川からはフラグの匂いがする……って、それはいいや。
………………あんなん見たら、さぁ?誰だって気になるでしょ。
うん、こーゆうのが良くないってのは分るよ?」
揺ら揺らと浮かんでいたペンはことり、と小さな音をたてて机に降りた。
「なんだったんだろ……アレ……」
朝倉はぼんやり窓を見ながらもその眼は『あの』光景に意識をやっていた。
昨日屋上で見たもの。
ソレは人の形をしていた。ちゃんと足は二本あったし腕も自分と同じ数を持っていた。だから、間違いなく人間だったんだろう。
顔は判別出来なかったが、やけに黒い髪だけははっきりと見えた。
風に揺れるほどは長くなさそうなのにその髪はやけに靡いていて、それが妙に……不気味で。
「……どう思った?」
此処に来てその話し相手は実体化するように姿を現した。
若干透けていて眼を凝らせば向こう側が見えてしまうが、それははっきりと朝倉に見えている。
「……いやな、感じ。
としか……」
「……だよねぇ。私もそう思う。
でも嫌って言うよりは……」
怖かった、と言いかけて口を噤む。
何故ならその理由が目の前の相坂さよに対して失礼な気がしたからだ。
相坂さよ。
朝倉の隣席の生徒で、非科学的事象などほぼ解明されている現代において堂々とそれを論破する存在。
つまり『幽霊』だ。
さよは現世に何らかの後悔があり此処に残り続けていると考えられる。
何故ならさよはある一定の場所を言わばテリトリーとし行動しているからだ。勿論、テリトリーとは言ってもそこに侵入した者を攻撃する、という訳ではないが。
そしてそのテリトリーとは主に今二人の居る教室である。
さよは何十年もこの教室の一見空席と思える席に座り続けてきた。
まだ生きていた頃割り当てられた席。そこに愛着を持っているのか違うのか定かではないが、今のさよには明確な理由がある。
朝倉が自分を視認するようになったからだ。
誰とも接触することができなかったさよにとってこの世を去ってから初めて出来た友人だった。
朝倉はいつもさよには理解できない器具を持って校内を駆け回っていたかと思うとこうやって何をするでもなく談笑することもある。
悪い意味ではなく、朝倉は二面性を持った人物だったと言える。
もうさよは自分が何故現世に残っているのかを忘れてしまったが、それでもいいか、と思うようになっていた。
朝倉が自分と話してくれるのがただ純粋に嬉しかったのだ。
そして……その朝倉は口にこそ出さなかったが、思っていた。
……あの男が生きた人間に見えなくて不気味だった、と。
屋上に上がっていくネギを見かけたので3−A爆闘☆ネギ君争奪31凶について説明するつもりで何気なくその姿を追った。
そしてそこで見たものは、時代錯誤にも程がある衣服を纏った痩身の男。
教科書で見たことがある。あれは平安時代の貴族が着用し、今では特殊な職に就く者だけが身に着けている衣服。狩衣、と言ったか。
いや、男だったかどうかもわからない。その身体は痩せぎすで、男性的な体格とは言い難かったのである。
「まぁそんなよく見たわけでもないしね……」
「私も見ていましたけど……痩せた方だったのは確かです」
「うん。
なんか盗み聞きするのも嫌だったからすぐ降りちゃったじゃん?
でもさ、なんか物騒な話してた空気だったんだよねぇ……」
「何か聴こえたんですか?」
「いや、なんも。
ネギ君が顔強張らせてたように見えただけ。
なんていうか……冷や汗?みたいな感じがした」
冷や汗か脂汗か分らないが、朝倉も同様だったのだが。
「さよちゃんさ」
「?」
「アレに触れると思う?」
アレ、とはあの得体の知れない男の事だろう。
「……どうでしょう。
同じな気がするので出来る気もします……けど」
「けど?」
朝倉の前髪が揺れた。
さよのそれはさよ自身が動いた時だけに限り揺れる。眼に見えるとは言ってもその身体は幽体であり、風や空気に晒され変化を起こす類のものではないからだ。
同様にさよはこの教室にあるものに触れることが出来ない。しかし一部を除いて、の話だ。さよは朝倉の所有する物の一部を触る事が出来る。その理由を単純に朝倉はポルターなんちゃらのお陰だろう、と思っていた。
だが朝倉はさよ自体には触れないし、その逆も言うまでも無く。
更に言うならば幽体と生きた人間が交流を持つことも通常は不可能だ。
存在する世界そのものが違うから、としか言いようがない。
幽体とは肉体を失った魂と考えて良い。魂とは言ってもそれは抽象的な言葉であり、実際は魂という概念は存在しない。
あるのは、自身の無念の残る場所に『在りたい』と願う心だからだ。そんなものと交流出来る筈がないのが普通だが、例外が此処に有り。
「幽霊……ではないでしょうね。
ネギ先生と会話していましたし」
「あ、そか。
私とさよちゃんみたいなのが常識なわけじゃないもんね」
「でも」
「うん?」
「でも……生きている感じも……しなかった、……です」
「…………やっぱ?」
さよがこくりと頷く。
複雑な表情を浮べる朝倉に声を掛ける。
「……何なんでしょうね」
「さぁ、ね。
なんかヤバイ匂いはするよね」
はは、と軽く笑ってみたが、内心あまり穏やかではない。
何か、このままでは今のありふれた日常が形を失くし崩れていくような気がしたのだ。
「あのさ?」
「はい」
立ち上がり窓まで歩く。開け放した窓から入る空気は少し冷えていた。
校庭を見やると陸上部が部活に励む様子が見える。
「それでさ、長谷川の話になるんだけど」
「……長谷川さん?」
さよは誰に対してもつっけんどんな千雨が少し苦手だった。苦手、と言っても朝倉以外と交流を持てないのだからそれは間違いかもしれないが。
どちらにせよさよは千雨と相称が良いとは言い難かった。
「長谷川さんが、何か」
「私の勝手な予想なんだけどね、長谷川は何か知ってる。……と思う。
あの変な男……っても実際男かわかんないけど」
何故そう思うのかは正直、単なる勘だ。
千雨に興味を持って眺めていたからかもしれない。
その『変化』は些細すぎてきっと誰もわからないだろうが、一人、朝倉は気付いた。
いつも無表情に近い千雨がここ数日、妙にイラついているように見えたのだ。そして千雨はネギに対し何らかの感情を有している、とも踏んでいた。
勿論根拠は無く、これもただの勘だが。
それが恋愛絡みか明日菜のようなお姉さん的心情か、今は置いておくとしても。
「ねー、さよちゃん」
「?
はい」
朝倉の放ったペンをくるくる回していたさよは名前を呼ばれたので自分も窓に移動する。そのペン捌きは達人業と言って良かった。目まぐるしく回転するソレを見ながら相変わらずだな、と苦笑する。
しかし朝倉は急に表情を締めると言った。
「人が最も動く時って何だろうね」
ペンがぴたりと止まり、宙を移動し朝倉の机に置かれる。
「行動、ですか」
「うん」
二人の間に暫しの沈黙が流れた。
バレー部か何かだろう、元気な掛け声が聴こえる。
「…………なんでしょう」
数秒の間があった。
朝倉はさよを見て、言う。
「私は……誰かを想う気持ちなんじゃないかなって、思うよ」
「誰か、を」
「そ。
現実追求型の私が言うとあんま説得力ないけどね」
「いえ。
……そんなことは思いません」
「そぉ?
……あは、ありがと」
横顔が少し緩む。それをさよは柔らかい表情で見つめた。
空気が暖かいものに変わる。
……触れられないのが惜しいな、なんて。
こっそりそんな気持ちを共有していたことを、二人は知らない。
いや、その必要はないのだろう。同じ想いを抱えているのなら、それで十分なのだから。
二人は互いの気持ちを知りはしないけれど。
でも。
その心を染めた色は、きっと同じだった。
「やぁ」
その声に振り向く。
もしかしたらそれは自分に向かって掛けられたものではないのかもしれない。だが今この廊下には千雨しか居ない。必然的にその挨拶は千雨に発しられていたことになる。
HRを終えて早々に教室を後にした千雨だが、何故だか自室にこもる気がしなくてこうして校内をぶらついていたのだ。
……失敗だった、と千雨は思った。
「……高畑先生」
「この間は美味しいお茶をありがとう。それだけは伝えたかったんだけどなかなか君を見かけられなくてね」
小脇に抱えた鞄を持ち直すと千雨は眼鏡の蔓に触れた。
「いえ、礼に及ぶ事をした憶えはありませんから。失礼します」
礼も何もアンタの茶葉だろ、と内心付け足す。
「え?
……あ、はは、素気ないなぁ、君は」
「何か」
千雨は他者との一時的接触を嫌う。理由はただひとつ、面倒だからだ。
関わると碌なことにならないと去年の余りに騒がしい一年間で悟った。
「少し、いいかな」
「お断りします」
高畑が呆気に取られている間にぺこ、と形だけの辞儀をして千雨はすたすたと歩き出した。
「……参ったな」
五m程先の千雨を見て苦笑しながら髪を掻く。
「攻めあぐねるね、あの子は」
少し早歩きをすれば長身の高畑の歩幅だ、あっという間に追いついてしまう。
「すまない、無理強いをしたいわけじゃないんだけどね」
進行方向に回りこむ形になった高畑を、眉間に皺を寄せて見る。
「何ですか」
「少し、時間を貰えないかな。……うん、五分で構わない」
「お断りします」
「……あはは、嫌われちゃったかな、僕は」
「嫌ってはいません」
明らかにこの態度は今の発言を否定している。
しかし、実際千雨は高畑を嫌ってはいない。ただ関わるのが誰であれ面倒なだけなのだ。
「長谷川君」
返事はせずに高畑を見る。蛇睨み、と言っても良かった。千雨はある種の予感を高畑から感じ取っていたからである。
「言い方を変えよう。
僕も関わり合いにならせるつもりはない。これを知ったことで何かが変わる可能性も否定はしないよ。
だが。……これは、君が聞かなければならない話なんじゃないかと思う。この話を聞き、君がどう思いどう行動するかは自由だ。でも、君は君が思う以上に事に踏み込んでいる。このまま中途半端でいることは君にとって極めて危険な事だ。
せめて何に足を突っ込んでしまったのかを知らなければならない」
「…………は?」
再度歩き掛けていた千雨の足が止まった。
「聞いて欲しい。……君の為にも」
高畑の表情が余りに沈痛なものなので流石に千雨も少し感情を動かされた。
「……何の話をされるのか知りませんが……
聴かない事で私に何かある可能性がなら聞いておきます」
合理主義な千雨の性格を高畑は既に掴みかけていたのかもしれない。
朝さよ好きデェース
引き続き千雨たんのターン!
ここはこのせつ板ってこと忘れないでね♪
クライマックスに期待!
>>483 連載乙
wktkして待ってるぜ
>>484 過去ログは読もうぜ
これは前スレから続く壮大な長編だ
今はこのせつから少し外れてるが、最後に超展開があるに違いない
分かってるけどはやくこのせつが読みたい。
期待して待つノシ
無駄なレスさせてしまってすまない、これだけ反れてるんだからこのせつルートは気合を入れて書かせてもらう
ただ、このせつを際立たせるというか対比させる為の伏線として書いているつもりなんだ。
自ブログのノリで好き勝手書いてしまっていることは否めない、ラストはきちんとこのせつだがこうゆう形式が問題なら、うん(´;ω;`)
いやいや全然良いよ、期待してる
というかどのカプもしっかり書けてて逆に尊敬するわw
やめる・・・とか言わないよね!?
ぜひ完結までお付き合いしたく存じます
応援ありがとうございます
このせつ視点からではない色んな角度から見せたい、と言うのがあって多視点構成なのですが考えたらCP固定のスレ向きではなかったですね…。
今一番心配なのが伏線総回収編として書いた部分が百合でもなければ勿論このせつでもないということです><しかも長い。
ひぐらしで言うと暇潰しに当たるシナリオなので読まなくても一応構わない内容にはなっているんですが投下するかは反応を見て追々。
>>490 打ち切るのは住人に見放された時です。よろしくお願いします
いやいや、ここで打ち切られるほうが拷問だ
頑張ってくだされ
>>491 暇潰し…だと…
それはつまり読んでおけばラストが10倍楽しめるというやつですね
続きを心待ちにしてるよ。いつも乙!!
主役がこのせつで
面白ければ何でも来い!
ここまで書いたんだ。絶対書き上げてくれ!
「場所を変えてもいいかい。あの後、少し片付けてね。
ちょっと動いた位じゃ雪崩は起きないから」
「物騒な話ですか」
「……穏やかな話ではないと言える。
全く、余計な入れ知恵は困るが知ってしまったのなら仕方がないことだからね……。
今を嘆いても状況は変わらない」
千雨は一つにまとめた髪を少し撫でてから軽く頷いた。
安心したように高畑が微笑する。
朝倉に見られたらまた五月蝿いことを言ってきそうなので足早に二階へと向かう為歩き出す。
「………………」
高畑の辞書にある『掃除』という単語にどのような説明が載っているのか見てみたい。千雨は目の前のうず高い書類の山をみて心底そう思った。
高畑は恐るべき馬鹿か、掃除をしたと虚偽の発言をしたかのどちらかに違いない。
何せそれは先日ここを訪れた時と変わらないどころか、その状態は悪化の一途を辿っていたからだ。
ドアノブを掴んだまま硬直して動かない千雨に気付いた高畑が自分の弁護に走る。
「あ、ああ、そこだけだよ、汚いのは。座る場所は綺麗だから」
書類の向こう側に見えるスペースは確かに綺麗、と言えなくもないかもしれない。しかし、この惨劇の舞台と比べたらという話であり、一般的には高畑の言う『綺麗』は通用しないだろう。むしろ逆に分類した方がいい。
どちらにせよ入り口がこんな有様では何も言えたものではない。
……先生の辞書は大幅な改稿の必要がある。少なくとも掃除の項目は全面的に、だ。
千雨は煙草で染まった天井と夥しい量の書類・切抜き・フロッピーディスクで埋め尽くされた一室に高畑の弁明の齟齬を感じながらも異を唱えることはやめておいた。
「高畑先生」
「ん?」
「掃除とは一時的に何とか人を通せるスペースを作る為に物を移動することではないのでは」
しかしあっさりと先ほどのささやかな決意を折る。これは小学生が掃除しろと叱られ机の上のごたごたをとりあえず隅に纏めるのと全く同じだと思ったからである。
「あ、はは……。
掃除は昔から苦手でね」
ずぼらなわけではないのだろうが、高畑は家事が丸っきり駄目なタイプだった。
将来奥さんが苦労するな、と彼の未来の花嫁に黙祷を捧げる。
きっと少し触れただけで大災害だ。
絶妙としか言い用がない角度と密度で構成された山を見て思う。
これ、残してあるということは全て必要なものなんだろうか。しかしこんな有様ではそうとは考えにくい。機密書類の類だったらここまで乱雑にはしておかない筈だ。
だが実際は千雨の予想の斜め上。ここにある書類やデータはどれもが一級品の機密レベルだ。
それがこんなになっていても平気なのは学園に張られた結界のお陰である。そうでもなければ高畑がいくら掃除を不得手としていようとそんなことは言っていられまい。
だがそれに甘んじた高畑の情報管理に対する意識はやや低いと言わざるを得ないかもしれない……。
そして、千雨は知らないがこの部屋自体が結界に覆われている。
侵入しようにもドア自体が視認出来ないようになっているし、仮に入れたとしてもここは実際には存在しない閉鎖空間なのでその心配は杞憂にもならないというわけで、そもそも『入れる』ということは通常有り得ない。
高畑は呪文詠唱が出来ない為に現実離れしたそれを行ったのは彼ではないが。
ネギが何の前触れもなくこの部屋に入れたのには勿論理由があり、ある種暗号のような鍵にあたる言葉を高畑から聞いている為入室を可能にしている。
因みにその暗号とは『僕はフリーの魔法先生。この部屋には時々来るんだ』というふざけたものである。
入室許可の暗号を知っている者と同時であれば何の知識もない人間でもこの部屋に入ることは可能だ。だが、普段は開かずの間どころか学園には存在しない部屋として有るこの部屋に何も知らない千雨を連れてきてしまったネギは軽率だった。
今日は高畑が個人的に千雨を連れてきたからいいが、千雨のほうからこの部屋を訪れたとしたら。つい何日か前まであった部屋がドアもろとも忽然と消え去っていれば誰でも不審に思い、それが騒がしい者であれば要らぬ騒動を起こす可能性がある。
この部屋は立地的に『有り得ない』場所にあるのも理由の一つに挙げられる。
ドアを視認できない状態で見ると、この部屋はコの字型の校舎の一角の最先端にあたる、部屋がある筈がない場所に存在する。
あまりここに来ない千雨はそこまで勘付くことはなかったが、この部屋が奇妙なことに気付いた場合を考え高畑は彼女を呼んだ。勿論、千雨の今の状況を話す目的もあるが。
その危険性を承知してまでここに造られたのにも理由がある。
単純な話だ。魔法先生が多数在籍し、かつマンモス校、更に関東魔法協会理事長でもある近右衛門が学園長を務める麻帆良学園を何らかの敵意を持ち攻めて来る者は皆無に等しいからである。一たび攻めれば即座に関東魔法協会を敵に回しかねない。
目立つ真似さえしなければ、機密管理にこれ以上安全な場所もないと言えた。
鷹峰はそれを知っていた為にネギに接触するだけに留まったと考えられる。ネギは教員であり、接触するならば学園内が最も安易だ。
しかしそれもネギに監視の目を光らせる者が居たとしたら危険な話だが、ネギはまだ少年であり、行動範囲も非常に狭い。
危険だが、仕方が無い。そういう事だろう。
「じゃ、すまないけどこっちに来てもらえるかい」
いつの間にか移動したらしい、高畑が綺麗だと言い放った箇所から声がした。
一体どうしたらこんなに上手く物を積み上げられるのか逆に聞いてみたい。高畑の手にかかればピサの斜塔など寝ぼけながらでも建設できそうだ、などと考えながらそこに辿りつく。
……着くころには山が二つほど倒壊したが。
「ああ、いいよ、直そうとすると余計崩れるんだ」
いよいよ掃除ができていないことを露呈していることに気が付いていない高畑だった……。
「じゃ、そこに座ってもらえるかな」
「はぁ」
少し足の曲がった三脚椅子に腰掛ける。若干体が傾く。
「すまないね、備品が行き届いていなくて」
そう言う高畑の椅子は理科室で少し前まで見かけた木製のものだった。処分する寸前だったのをわざわざ貰ってくる程備品が無いらしい。今では理科室の椅子は全て綺麗なものと換えられている。体格の良い高畑にその椅子は低すぎて、それが少し滑稽だった。
「エコロジー。ですか」
「ん?いや、そういうわけでもないかな。単に僕がここで使っていた椅子がもう完璧に使い物にならなくなっただけで」
「そうですか」
ふう、と一息ついたところで高畑が思いついたように言った。
「そうだ、今度は僕がお茶を淹れよう」
「え」
千雨は別に家事が得意ではないし、況してやお茶を淹れるのが特技でもない。
今日発覚した高畑の凄まじい家事音痴と『美味しいお茶をありがとう』発言。
これらから導きだされる結論は…………、
「私が行きます」
きっぱりとした千雨にしては珍しい意思のこもった声に高畑が少し驚く。
「え?いや、今日は僕が。僕が私用で呼んでいるわけだし」
立ち上がりかけた高畑より先に千雨が椅子から腰を上げる。
「先生。私は率先して人を傷つけたくはないです」
「?」
意味を解せぬ高畑を放置し、千雨は一度通り覚えたこの部屋備え付けの給湯室に向かった。
「長谷川君」
声に振り返る。
「ありがとう」
軽く頷き返し、歩みを進めようとした時、もう一度呼ばれその足を止めた。
「今日はちゃんと戻ってこなきゃだめだよ」
にこりと笑い高畑が言った。
誰かがドアを開ければ離れていても高畑には分るようになっているが、今日はそれをしていない。
流石にいつも通り、ドアを外からのみ視認不可能な状態にはしてあるが。
「………………」
無言で会釈し、千雨は給湯室に向かっていった。
……書類の山がまたひとつ、崩れた。
「………………………」
湯気を上げながら黄緑色の液体が湯飲みを侵食していく様をぼんやり眺めながら千雨はネギの話をまたも反芻していた。
悪の組織。攫われた近衛家令嬢。救出に向かう二人の少女、そしてその危機。
やはりどう考えても納得がいかない以前の問題だ。誰がこんな阿呆話を真に受ける?
早乙女、朝倉を筆頭とする馬鹿集団なら飛びつきそうだがそれは非常識なあいつらだからこその話であり、普通の一般人である自分には縁遠い、と思う。
「…………デスメガネ登場、ね……」
呟いてから天井を見やった。
ここの天井は幸い本来の白さを残している。しかしドア一枚隔てたこの先はザ・煙草天井と化している。一体どれ位吸えばあれ程になるのか見当もつかない。……付ける気はないが。
まぁそんな瑣末な事はこの際どうでもいい。
千雨の現在の懸案事項。それは……。
「この話がマジだったらどーすんだよ……」
仮に近衛木乃香が何者かに攫われたとしよう。実際千雨は目にしていないが、アレだけの豪華絢爛なお屋敷に住んでいたんだ、身代金も期待できるだろう。
悪の組織っていうのはネギの大袈裟な話というだけで単なる刑事事件にすぎないのではないか?神楽坂と桜咲には悪いが、あの二人は馬鹿だったんだ。警察に任せておけばいい話を自らの手で、という要らぬ正義心に駆られ突っ込んでいった、と。
(無理な想像じゃないな)
だが、この仮説を覆すのは先日届いたという退学届。
……これの意味が全く分らない。第一誰が出したんだ、それは。
犯人?確実に違うだろう。メリットがない。
犯人でないとするとでは、誰が?
…………まぁ、高畑の話を聞けばこれの真相がどんなものかわかる。出来れば穏便な話であってほしい。
高畑の口ぶりがそれを否定するものだったことを棚に置いて千雨はそう願った。
給湯器の近くに置いてあった盆に湯飲みを乗せるとドアを開ける。
今気付いたが、この部屋は給湯室・トイレ・簡易寝床・更には少々狭いがシャワールームまであった。こんな校舎の奥地にこんな設備付きの部屋があったとは。もしかしたら探せば簡単なキッチンくらいはありそうだ。
高畑はよっぽどここに篭る必要があるのだろうか。それならもう少し住み良い環境にすればいいのに、と千雨は思ったが掃除の定義が既に一般とずれている高畑にそれを提案するのは確実に無駄だろうとの結論に達し進言はやめておくことにした。
どうもあの先生を見ていると要らない世話を焼きたくなってしまう。流石にこの量では及び腰だが、部屋がもう少し狭ければ大掃除を敢行してやりたい。割と綺麗好きな千雨にとってこの部屋は許しがたいレベルにまで十分達している。
それにファイルや棚その他の収納グッズを活用するだけでここは確実に見違えるのが目に見えるのでそれは余計だ。
床に散乱する書類は一部破れて、更には高畑のものだろうか、足跡までついていた。
「……そりゃ無精髭も生えるよな」
これ以上雪崩を起こさないように、と最大限気を遣うがそれは少し無理な相談で、結果高畑の元に戻ってくるまでに千雨が起こした災害の数は過去最大の5件に上った。
「先生、ちょっと動いた位じゃ雪崩は起きないって仰ってましたけど」
「あ、ははは…………」
物の位置を多少変えただけなので至極当然だが。
申し訳なさそうに短い髪を掻く高畑に淹れたばかりのお茶を差し出す。
「うん、やっぱり君の淹れたお茶は美味しいな」
「……どうも」
本当にそう言っていそうな高畑が普段どれ位悲惨な食生活を送っているのか少し気になる千雨である。……レトルトカレーのチンしないやつとかだろうか。
ずず、と音を立ててお茶を飲んでから傍らのサイドテーブルに湯飲みを置くと高畑が切り出した。
「長谷川君。君はネギ君にどこまで聞いたのか、それと何故ネギ君に話を聞くに至ったのか教えてもらえるかい」
「あぁ、はい……。
まぁ大した理由があるわけじゃないですけど」
「構わないよ、簡潔でいいから話してもらえると嬉しい」
ふぅ、とひとつ溜息を零してどこから説明しようかと脳内で構成を組み立てる。
「まず、ですね」
「うん」
湯飲みを大きい掌で包みながら高畑が千雨を見る。少し話し辛いな、と千雨は思った。
「ネギ先生が帰りのHRの後に私を呼んだんですよ」
その日もただぼんやりと教室に残っていたんだよな、と思い返す。
意味もなく校舎に残ると何かしらを呼び寄せる気質なのかもしれない、とやや本気で思った。
「長谷川君を?えっと、その場に居たのは君だけで間違いはないかい」
「私だけです。聞き耳立ててる奴がいたかどうかまでは知りませんけど」
「うん、それで?」
「近衛サン桜咲サン神楽坂サンの無断欠席してる、って相談を受けました。
話したのはその程度です。
で、翌日位にあの退学届が来て高畑先生の所に乗り込んできた、って感じですね」
あの時は遊びたい年なんだしそう騒ぐ事じゃないとか言ったんだよな、と記憶を確かめるように慎重に思い返す。
「……そうか。
その時はネギ君、恐らくEに会ってはいなかったんだね。後で前後関係をネギ君に聞かなくてはな」
「あの」
「なんだい?」
「その、『E』っていうのは」
「あぁ、うん。
ある人物の兄弟のコードネームみたいなものさ。
彼の名前に鷹の一字があってね、鷹を意味するイーグルから来ている単純なものだよ」
「……はぁ」
「僕からばかりで悪いけど、何故ネギ君に相談を受けたのか聴いていいかい」
「大した理由じゃないです、
…………大した理由じゃ」
千雨が口篭ったので高畑が怪訝な表情を向けた。
今になって失敗した、と思った。
高畑が自分にどんなイメージを持っているか知らないし興味もないが、間違いなくネットアイドルをやっているとは思っていない。知っているのはネギだけだ。曰く、ファンで毎日閲覧している、とか。
そのネット活動に通じるものがあり相談を受けた、などとは口が裂けても言えない。否、死んでも言えない。いつだったかビシっと言ってやった言葉に尊敬の意を抱かれてしまったのも要因のひとつだ。
高畑はそこまで年を食ってはいないが物心着いたころにはネットが普及していた千雨とはそれに対する考え方も印象も大分違う。正確なところはわからないが、多少の差異はあるだろう。
恥を覚悟で……言うしかないのか。
いや、無理だ。無理無理無理無理。
ならば残るは…………
「わ、私、ですね」
「うん」
「ネギ先生と、ですね、その、
…………お、おぉ……おつおつつお付き合いさせて…………戴いてまして、それで、あの」
「あ、あぁ、それは野暮な事を聞いてしまったね、あは、はは……、
あは……、は、ネギ君も隅に置けないなぁ、はは」
真っ赤になって膝上で握り拳を固めぷるぷる肩を震わせるその姿は、隠していた彼氏の存在が周知となり恥ずかしがっている、ように何とか見えなくもなかった……。
「いや、まぁネギ君も男の子だし、……って所はいいんだけどね、うん。
本題に入らせてもらうよ」
かなり念入りにネギに言い含めなければ、と必死で考えていた為に千雨は高畑に返事をするのを忘れてしまった。
「……長谷川君?」
「わひゃぃ!!」
「……すまないね、個人の事情に首を突っ込んでしまって」
高畑はネギと千雨の仲を信じたらしく、それを知ってしまったことを職権乱用と捉えたか気に病んだ様子だった。
「あ、あの、…………あんまり気にしないでください。
誰かに言わなければ構わないですから」
「そう、かい。いやしかし……、すまない」
「いえ、私も気にしませんから先生も」
「……あぁ、悪いけどお言葉に甘えさせてもらおう」
「はい。本題を」
「そう、だね。
単刀直入に言おう。回りくどく言っても仕方がない。
近衛木乃香君。君のクラスメートはね、超が付く……強力な魔法使いなんだ」
「……………………………………………………………………………はぁ」
「驚いたかい」
「いや、そりゃ、……まぁ」
「もう少し呆気に取られるかと思ったよ」
高畑は笑いながら湯飲みを傾けた。が、中身が入っていなかったようですぐにそれを戻した。
若干温くなっていますけど、と千雨が言って注ぎ足す。
「あぁ、ありがとう。
あんまり驚いていないなら話がしやすいね。じゃあ続けるよ」
「はい」
本当は大分驚いていたが千雨はあまり感情が表に出るタイプではなかった。
「仮契約、って知っているかい?」
「いえ」
「魔法使いはね、援護に回るかその逆かは決まってはいないけれど、戦力上パートナーを必要とするんだ。まぁ、ネギ君のお父さんのように例外はあるけれど、大抵の魔法使いはパートナーを探している。ネギ君も魔法使いだからね、それの最中だ。
簡単に言うと仮契約というのは最適のパートナーを得るためのお試し用品のようなもの、と考えてくれるかな」
「…………はぁ」
「仮契約は魔法使いであれば極端な話、何人とでも可能だ、お試しだからね。
その分本契約には劣るけれどそれでも強力な能力を仮契約者に与えることが出来る」
「え、あ、ちょっと待ってください、その契約、ってそもそも……?」
額に手をやりながら千雨が呻き気味に言う。
「魔法使い、つまり術者と契約と呼ばれる儀式を行うことで対価として強力な能力を付与される事、……かな。少し違うけど相違というわけでもないね。
明日菜君は最も早くネギ君と仮契約を結んでいる。結果彼女は通常では有り得ない身体能力を得た。まぁ元々明日菜君は飛び抜けて運動神経が良かったせいもあるけどね」
「は、はぁ……」
「あまり長々と話すわけにはいかないから多少端折るけど、この先の話を飲み込んでもらうために理解してもらいたいのは、魔法使いはパートナーとなる者を探している、ということだ。
正式なパートナーになるというのはね、本契約を結ぶという事なんだよ」
「本、……契約」
「そう。パートナーとは最高の相方、と言ったところだね」
「は、はぁ…………」
既に言葉がこれしか出てこない。
魔法使いって、おま……と言いたいのを必死に堪える。高畑が冗談を言う人間にも思えず千雨は頭を抱えたくなった。
ファンタジーはお話の中だけにしてくれ、現代社会で罷り通る話題じゃないだろう!!
「そして、木乃香君は魔法使いだ」
「……パートナーを、探している?」
「ご名答。
彼女はね、桜咲刹那君との本契約を望んでいた」
「望んで、いた……?」
それが過去形で語られたことに疑問を持つ。
「木乃香君は近衛家の跡取りとして密かにだけど非常に期待されているんだよ。
彼女は推し量る事さえ不可能な程の強力な魔力の持ち主だからね、次期関西呪術協会の長としてこれ程の適格者も居ないとさえ言われている。
何せ魔力量だけを見るなら最強クラスの保有率だ、それも当然、だね。修練次第でどれだけの魔法使いになるか見当もつかない。
つい最近まで彼女自身も自分の魔力を知らずにいたんだけどね、ある機会をきっかけにして自覚するようになった。
そして魔法使いとして修行に励むようになり、自身の本契約者候補として刹那君を挙げたんだ。
しかしね、…………難しい事情があるせいなんだけど木乃香君のバックにある関西呪術協会は刹那君を良く思っていない。
だから事実上、刹那君との本契約は不可能と言って良い」
「?
なんで、ですか」
「……すまない、君の事情を聞いておきながら不公平にも程があるけど、その質問は答えられない」
「…………まぁ、いいですけど」
「すまないね、他意はないんだ。
詳しくは話せないけれど、木乃香君は刹那君との本契約を結ぶことは立場上不可能だ。
しかしそれを上の者……、に、訴える為に実家に戻った。
木乃香君はその際欠席届を出しているけど、届け理由は未記入だった。
何故かわかるかい?」
「欠席理由が魔法云々だからでしょう」
「……鋭いな、君は…………」
高畑は驚いて少し目を丸くした。
「その通り。学校を休むのは本契約を反対されているから上層部へ嘆願に行く為です、なんて書くわけにはいかない。
そしてそのまま木乃香君は未だ帰ってきていない。
残る刹那君と明日菜君だが、僕はこの二人の足取りは今一掴んでいないから推測になるけど、恐らく刹那君は木乃香君を追ったんだろうね。あの二人の関係性から考えても刹那君が彼女の行動を予測することは十分可能だ。
そして木乃香君のご実家、関西呪術協会本部にて何かがあり、一度麻帆良に戻った。
ここで明日菜君に事情を話し、二人で再度ご実家に向かったんじゃないか、と僕は思っている。
三人が居なくなった経緯は大体わかってもらえたかな」
「…………まぁ、何とか」
「……よし、じゃあ次は君の話に移ろう。
率直に言ってね、君はある人物と組織の企てている二つの表情を持つ計画、それの片鱗を既に知ってしまっている。それが何を意味するか、……これは極めて物騒な単語を使わなければならない」
「物騒、……ですか。一介の中学生相手に穏やかな話じゃなさそうですね」
「全くだ、本当に。欲に目が眩むのは構わないが周囲に飛火を散らせるのは困る」
苦笑しながら高畑は胸ポケットから煙草を取り出しかけたが、その手を止めた。
「?
いいですよ、別に。嫌煙家じゃないですから」
「いや、遠慮しておこう」
箱を仕舞い、ふぅ、と息を吐く。
高畑はブラインドを下げ、薄暗くなった室内を見回してから言った。
「…………さて、物騒な話をしようか」
改めて見ると百合版でやっていい話じゃないですな…
どこまで好き勝手やっていいのかわかりかねるのですが長編をこのせつ二名で進める事は不可能に近いのでご容赦して頂けるとうれしいです><
しかし、総合スレでやっていた方が良かったかもしれないですね…
>>508 乙!!自分はこういう細かい展開大好きだ
>>『僕はフリーの魔法先生。この部屋には時々来るんだ』
テラ富竹wwひぐらし好きですなwww
>>508 乙です。ひぐらし好きだったのかw
いや、このせつがメインなわけだし、いろいろなキャラを混ぜてストーリーを
進めてるなんて小説の面白みが増すじゃないか。俺的には全然おkだが。
続きもwktkしてまってる!
>>508 乙です。
内容について色々な意見もあろうし作者さん的な葛藤もあろうかとは思いますが
気に入らない人は普通にスルーしてるでしょうし問題ないかと。
自分は気に入ってる人なので続きを待っております。
お嬢様、お誕生日おめでとうございます!
513 :
佐々木まき絵:2008/03/18(火) 22:49:54 ID:sriDFSYA
木乃香、お誕生日おめでとうwwwww
514 :
名無しさん@秘密の花園:2008/03/18(火) 23:23:02 ID:+zvHdw/I
間に合った〜!
ぎりぎり3月18日ぃ!!
木乃香お嬢様 誕生日おめでとう^^これからも刹那とお幸せに(^0^)
木乃香、誕生日おめでとうー
絶望した!ホワイトデーと木乃香誕生日SSが投下されなかったことに絶望した!
ごめんね、ごめんね
親知らず抜いた後がこんなに憂鬱だなんて
思わなかったんだよ(ノД;`)
来年までには仕上げるよ
ごめんね、ごめんね
>>517 よく分からんがとりあえず親知らずは相当痛いよね
>>517抜いたのか…
私は生やしてます。親知らずで歯肉が捲れて…orz
いつのまにか親知らずのスレにww
お嬢の誕生日に全く間に合わなかった。SS今から書こうと思ったけど
遅すぎるなorz
>>520 全然オッケーさ!
このちゃんは優しいからきっと許してくれるえ?
誕生日でもないし
>>520氏でもないけど投下ー。
親知らずがあることを親は知っているので私のこの歯は親知りだな。
偶然街で見掛けた淡いピンクのマフラーについ、足を止めて見入ってしまった。
手に取ったら浮かんだのはどこか抜けてる剣士さん。
ちょっぴり考えて、レジスターまで、一歩二歩。
「ありがとうございましたー、またどうぞー」
ぺこり、店員さんに軽く会釈してから店を出る。
カサコソ音を立てる袋の中にひとつ、ぬくもり。
色の白いあのヒトに似合う気がしたから買ってみた。
何の特別な日でもないんだけど、でも。
まだまだ冬はこれからだから。だから、いいでしょ?
いつも守ってもらってるお礼くらい理由なしにしてもいいでしょ?
せっちゃんは携帯を携帯しないことで有名だけど、なんだか今日はすぐに出てくれる気がするから掛けてみる。
……………………。
……………………。
……………………。
……あは。
*****
「どうなされましたか」
「ん?
なんかー、せっちゃんに会いたいなー思てー」
「……は、はぁ」
せっちゃんのほっぺが赤いのは、多分寒いからだけじゃない。
待ち合わせ場所の公園ベンチ。
ウチだけ座ってるのは落ち着かないから横をぽんぽん、と叩いた。
「座って?」
「え?」
「となり。
座って?」
「ぁ、え、
…………は、……はぃ」
何をそんなに畏まるの、このヒトは。
こんなだからいつまで経っても呼び名も距離も、変わらない。
30cm空けて隣にせっちゃんが座った。
……失礼します、とか要らないのに。
多分これが今のふたりの距離なんだろう。
詰めようとしたらきっと今直ぐにでも縮まるけど、だけどそれってちょっと違う。
距離って、ふたりで詰めるもの。ウチだけが寄ってもしょーがない。
こればっかりは、仕方ない。
「あんな?」
「はい」
かばんの横に隠すように置いてあった紙袋を手渡す。
「?
これは」
「あげる」
「……ありが、とう、ございます」
細くて白い指が戸惑ってるのがわかる。
「せっちゃん薄着やんかー」
「は、はぁ」
「風邪引かれたらウチが困るやんかー」
「は、はぁ」
「……あほ。
はよ開けて」
「え、あ、……はい」
……なんか、うまくいかない。
「……わ」
「桜色。
せっちゃんに似合う思たんやけど」
やわらかい微笑、30cm横にひとつ、ふたつ。
「……ありがとうございます」
「せっちゃん」
「?
はい」
「巻いたるー」
自分で出来ますとかなんとかぴーぴー言うけど今はちょっと悪いけど関係ない。
出来る出来ないじゃなくて、やりたいの。
若干あわあわ気味のせっちゃんからマフラーを強奪。
ふわり。首に桜色。
「あは、やっぱ似合うわ」
「……む」
ちょっと顔がうもれたせっちゃんの頬がマフラーとおそろいの色になっててなんだか可愛い。
「可愛ぇよ?」
照れてるらしい。
返事はなかった。
「わざわざ呼び出して堪忍な?
寮で渡せば良かったかも」
からかわれるのは慣れてるつもりだけど、ふたりだけの時間の中で渡したくて。
「いえ」
「ほな行こかー、夕方なると結構寒なるもん。
おさんぽがてらで帰ろか」
少し桜色、抜けてきた。
ふたりで歩く、もうじきやって来る冬の街。
今はカレンダー的にはまだ秋だけど、あっという間に木枯らしで街の気配は変わっていくんだろう。
「……なぁ」
「はい」
「今は秋やんか」
「はい」
「でも結構寒いと思わん?」
「そう、ですね。
私は割と寒さには強いですが」
「ウチはさむいー」
言いながら、せっちゃんの右手をきゅぅ、と繋いだ。
せっちゃんはびっくりしてウチを見る。
無視。
無視。
無視。
手なんかもう何回もつないだことがあるのに。
こーも毎回毎回びっくりされると少し自信なくなるよ?
「せっちゃん手ぇあったかい通り越してる」
「……や、あの、その」
困ってるのが分かってちょっぴり面白い。
なんだか困らせてやりたくなる。色白の肌が赤くなるの、見たくなる。
「寒いからかなー、あんま人おらへんねー」
周りを見回す。
時間帯的に普段はもっといるのだけど、今日はそれがうんと疎ら。
だから都合がいい。
「えい」
抱き付いてみた。
せっちゃんの匂い、する。
「おじょ、ぅ……ぅう」
固まりかけてる剣士さんの首元は淡い淡い、パステルカラー。
「命令です。
抱き返してください」
「…………職権乱用です」
「ぶぅ〜だ。
あんまヘタレやと浮気するで?」
『あぁ、…………もう』
せっちゃんの心の声、ばっちり聞こえた。
ぎゅぅ。
細い腕が距離を詰めた。
だけどこれじゃウチが20cmは寄っていってる。
30cmを詰めるには、ウチが15cm、せっちゃんも15cm寄り合わなきゃ意味がない。
「ばぁか、……せっちゃん」
「ぅ、え、えぇ?」
「うそ。
だいすき」
困ってる声が洩れている。
知ってるよ、せっちゃんもウチのことそう思ってる。
言ってくれないし未だにウチは『お嬢様』だけど。
でも分かってる。
「おじょ、う。さま」
ほらね。
「なんですかー」
「す、き、です。よ」
「あは、噛みすぎ」
「……ぅ」
「せっちゃんにしてはがんばれたほうかな?
普段は絶対言うてくれへんもん」
「……すいません」
「ほんとやー。
けど、今日はそれで許したる!」
ぱ、と身体離して鼻先をちょん、と突っ突いた。
「けどいつまでもそんなんは困るで?」
「…………努力、します」
「怪しいなーぁ」
「……う」
「わー、有言不実行の匂いするぁ」
あっかんべーしてから歩き出す。
置いてけぼりのせっちゃんが困った顔して追いかけてくるのもいつものやり取りの一部だ。
「ち、違」
「なにがぁ」
「い、言えます。出来ます」
「ん?」
「おじょ、……ぅ、
…………この、ちゃん」
ものすごく控え目に摘まれたブレザーの袖。
せっちゃん、顔赤いよ?タコさんになっちゃうよ?
「……す、すきです。だいすきです」
……知っているのにそれを形として欲しがるのはわがまま?だってせっちゃんがこんなに困ってる。
行かないで、怒らないで、って細い指先が言っている。
怒ってなんかいないし、先に行ったりだって全部うそだよ。
そんな面倒なことさせるのはせっちゃん、キミひとり。
「……一週間。
それで許す」
態度を求めるくせしていざ言われたら逆に少し照れてしまった自分がちょっぴりおかしかった。
距離感、これで適正だったりするのかもしれない。
だけどいつかは仲良く等分、30cm。
おわり
あわわわ…すみません517です
私のせいでなんかおかしなスレに…
>>529 可愛い!なんかクネクネしちゃうよ!
GJです!!
やっぱりお誕SS仕上げようかなぁ
しらばっくれて落とすか!?(`・ω・)
531 :
名無しさん@秘密の花園:2008/03/20(木) 21:30:32 ID:Byt+jw8M
甘々このせつ光合成完了(=3=)〜♪
じゃんじゃん落としてくれ!!!
532 :
名無しさん@秘密の花園:2008/03/20(木) 23:51:49 ID:88cF7aBN
文章下手糞すぎで読む気もしない
釣りか?
>>532はよっぽど高尚な文章書けるんだろうな
釣りだな。
悲しいぜ。だって読めなきゃこんなにキュンキュンできないぜww
読めたオレは勝ち組!!
是非お誕生SS落として欲しい。な!
連投スマソ
このせつ専用うpろだのNo47,48って何か知ってる?
このせつと関係ないと思うんだけど。
オイラ知らないだけかな?
うpろだの管理人です。
>>535の言う通り、このせつと関係ないようなので、削除ました。
部屋を後にする千雨を見送り、高畑は軽く手を振った。千雨は特にそれに反応を見せるわけでもなく彼の視界から消える。
「…………」
千雨の気配が部屋のある三階から消えるまで、高畑はドアの外でただそこに立っていた。
そして、気配が高畑の意識圏内から完全に絶たれる。この校舎棟の部屋付近に残っている生徒もいない。高畑はドア消滅の鍵を唱え、部屋に戻った。
千雨に散々言われた雪崩書類の山をぼんやり見つめ、数枚手に取り再度戻す。掃除するのは相当後になりそうだな、と思った。もう今夜には京に出向かなければならないのだ。
それに、ネギと会話せずとも高畑は京に行く事が決まっていた。
「こんなだからここは片付かないんだね」
苦笑しながら部屋を見回す。一言で言うなら、そこは『荒廃』。
もうかれこれ三年は手を入れていない。下の方にある書類などは既に用済みとなっているものが多数だろう。取り出して眺めたら懐かしさと相俟って随分面白いに違いない。
しかしそんなことに感けている余裕など、高畑にあろうはずもない。掃除が苦手なのは事実だが、それよりも困難を極めるものが彼の世界には数多存在した。
そして、今回のそれは高畑の記憶にある限り、最悪最強と言える。いや、最兇……か。
……そんな定義付けなどどうでもいい事この上ないのだが。
千雨の座っていた椅子を脇に寄せ、代わりにサイドテーブルをずらしそこに置く。新しく彼に届けられた書類一山を溜息と共にテーブルに置くと目を瞑った。
誰の血が流れるのだろう。
今回は、誰が死ぬのだろう。
誰も傷付かない方法など結局、ありはしない。
綺麗事の理想論を振り翳す時期はとうに過ぎた。今でも出来る限り犠牲は出さぬよう努めているが、それでも人は死ぬ時は死ぬのだ。彼がいくら手を伸ばそうと、目の前で……、死んでゆく。
それが……、高畑の現実だった。
自分の守りたかったものは何なのだろう、と額に手を当てながら思う。
昔は全ての人が幸せになれることだけを念頭に突き進んでいた。
今では誰も傷付かない、誰も不幸にならない可能性を思案することさえ無駄だと思ってしまう。
誰かにこう言ったとしたら冷血漢と罵られることだろう。教師の言葉か、と蔑まれるだろう。
だが、争いの中でかけらの犠牲も払わずに事を治めようと考えることがそもそも間違いなのだ。
争いは争いを生む。
だが、争いを鎮めるのはいつの世も圧倒的勝利に支えられた事実のみなのだ。
勝てば官軍、とはよく言ったものだ。
勝った者が時代を造り、常識を作り、未来のレールを形作る。
そんな世界を変えようなどと思っていた頃が高畑にもあったけれど。ひとりふたりの力で世界が変わるのなら、世界は太古より腐るほどの変革の繰り返しとなっている。
何かを変えるということ。それは今までの何かを殺すことに他ならない。
そうして殺された世界に生きていた者達を誰が省みる?自分のような過去に引き摺られ中途半端な位置に立つ者位だろう。いや、省みるなんておこがましいにも程がある。ただ眺めていただけだ。
例えばそれは十年前。詠春が苦しみもがき懺悔の涙を零す様をただ、何もせずに見ていた。
翼の少女とその周りの世界が殺されていくのを、ただ……。
…………あの時本気で動いていれば少しは何かが変わったのだろうか。
詠春はソレを贖罪、と呼んだ。
ならば、僕はこれをなんと呼ぶのだろう。
千雨に重要なことは伏せつつも話したことを高畑は少し後悔しかけていた。あのまま半端に知っていることは間違いなく危険だ。だから伝えること自体に間違いはない。
だが、もう少しやり方はなかったか、と今更ながら思う。
ほんの少しだけ事実を晒し、完全なる保護下に置くべきではなかったか。
ネギを責めるわけではない。ネギはまだ本当に幼く、老獪の権謀など理解できる筈がないのだ。だからこそ、老人達はそれを狙ったに違いない。何も知らない非力な人間を巻き込むことで有利なカードを作り出すということを。
どちらが不利か有利かなどはわからない。しかし、仮に五分五分の開始だったのだとしたら、今こちらは老人達にとって有利となる者を二人造られてしまったことになる。
ネギと、千雨だ。
ネギは将来が非常に望まれる前途多望な少年だ。消せるのならば今のうちに、とでも考えているのかどうかは知らないが、少なくとも現時点は強力な能力者ではない。
そして千雨は間違いなく一般の何の変哲も無い少女である。もしあちらの手に渡ることがあれば切り札とまではいかなくとも人質としては利用出来る。
……………………。
高畑は自分の冷たさに心底嫌気が差した。
………………違う。
本当は千雨に人質としての価値などないし、あちらに渡ろうと一向に困りはしない。
何故なら彼女は『只の一人の人間』だからだ。
千雨が死のうと生きようと世界に変動など起きない。
人質が成立するというのは、世間の目がある時である。例えばそれは時に誘拐事件であったり、銀行強盗であったりする。メディアを介し世に流れ、人名を軽視することが批判に繋がる土壌があって初めて人質とは価値を持つのだ。
もうじき始まる血の宴に措いて世間の目など関係があるはずがない。
事実、これから起こるのは人が触れることは決して赦されない、神の領域なのだから。
既に存在しない人間が、再びこの世に現れる。
それが何を意味するのか。
彼が何を求めて彼女を追い求めているのか。高畑には察することしか出来ない。高畑が知るのは、彼がある人物の現界を目指し近衛木乃香と桜咲刹那を手中に入れようとしているという事だ。
二人は『彼女』のイレモノであり、そして記憶を繋ぐ羽となる。
そこまで知っておきながら、特に理由もないのに高畑は重い腰を上げることを今まで躊躇してきた。
高畑は彼の名に込められたものに……薄らと気付きかけていたのかもしれない。
……いや、それよりも。
不意に明日菜の顔が浮かんだ。
慕ってくるその少女が自分に好意を持っているのは知っている。だがそれはあの年頃にありがちな年上の者に対する憧れから来るだけだ、と高畑は思う。
「僕は人に愛される資格なんかない」
小さく呟いて、鉛のように重い息を吐いた。
心底、そう思ったのだ。
誰かを愛することも、愛されることも許されない。……きっと自分自身がそれを許さない。
その記憶が駆ける様に目の前を巡る気がした。
煙草を取り出し、火を着ける。しかしそれを咥えることはぜずに手元でゆらゆらと揺れる煙をぼんやり視界に映すのみだ。
灰がじりじりとその範囲を広げ、ぼとりと灰皿に塊を落としてから高畑は今日のやり取りに目を瞑った。
もう少し驚くかと思っていたのだが、というのが高畑の本音だった。
一時間前の長谷川千雨との会話を脳裏で再生する。
……………………。
「平和主義なのでお手柔らかにお願いします」
「……はは。僕も君とは穏やかな話だけをしていたいね」
「口説いてるんですか」
「え?
あ、はは……、最近の中学生はそんな言葉知ってるのかい」
「ブラインドまで下げてムード作りも万全ですね」
「……あはは、参ったなぁ」
長谷川千雨という存在が掴み切れずに高畑は苦笑した。
成程、ネギ君と噂になるわけだ。千雨の下手な返し通りに実際恋仲というわけではなさそうだが、2,3年先の近い未来に可愛いカップルが見られそうだな、と微笑ましく思う。
「まぁ冗談はここまでにしておくとして、物騒な話とやらを聞いておきます」
「あぁ、……そうだね」
どこから話したものか、とやや思考を束ねる。核心に触れる寸前で止めて尚且つ危険性を示唆しなければならないのだ。それはなかなか容易ではないように思えた。
とりあえず、キーワードとなる事だけでも。
「長谷川君。
唐突だけど、君は輪廻転生を信じるかい?」
「輪廻転生……って、仏教の?」
「そう、それだね。どうかな。信じるかい」
千雨は一呼吸置いてから言った。
「信じませんね。魂は輪廻とかいう輪を回り回って現世に生まれ変わり続けるとかいうやつでしょう。人並み以下しにか知りませんけど、非現実的にも程があります」
「はは、君の基準は現実的か否か、って所と見て間違いなさそうだね」
「お察しの通りです」
ずず、とお茶を飲み込み肯定する。
「うん、君の価値観を否定はしないしそれを笑いもしないよ。逆に君の年でそれだけ達観出来る事は長所だと思うね、あはは。
じゃあ話を多少変えるけど、君は記憶と言うものをどう解釈しているかな?」
千雨は眉を少し上げた。話が予想していない方向に向かっているからだろう。これでは雑談と変わらない。
輪廻がどうとか言ったと思ったら次は記憶か。まるで禅問答だな、と思ったが顔には出なかった。
薄暗い部屋に切れ込みを入れるようなブラインドから漏れる光。話のせいも相俟って妙にそれが現実味を薄く感じさせた。
「そりゃ、
………………」
言葉が詰まる。記憶が何かということは理解しているつもりだが、それをどう解釈しているか、などと聞かれるとは思いもしなかった。いざ説明してみろと言われると上手く口が動かない。
「今までに起こった、覚えている範囲のこと、……ですか」
「うん、それで間違いはない。記憶とは脳に蓄積される情報のことだからね。
君は物忘れが多い方かい?」
「や、たまに度忘れはありますけど物忘れかって聞かれたら違いますし」
「そうか、それは結構。僕ならともかく君の年でそう物忘れが多かったら困ってしまうね。
長谷川君」
「はい」
「『忘れてしまう』というのはね、本当に……絶望的なことなんだよ」
「…………?」
「仮に、君と言う人間を構成している記憶が10あるとしよう。例えば自分の名前・通う学校・飼っているペット、という具合にね。
それらがある日を境に突然全て消えてなくなったとしたら、その人間は君だと言えるだろうか」
「……はぁ?」
高畑の言う言葉の真意がさっぱり掴めずに、千雨は思わず素が出てしまった。
「君が持っている、君自身の記憶。
それが今全て消え失せたとしたら。何故僕とこうして話しているのかわからない、なんてレベルではなく、自分が誰かも知れないという段階の話だよ。
記憶喪失、と置き換えてくれても構わない。
記憶喪失に陥った人間は記憶が戻るまでまるで別の人格が宿ったかのように見えるだろう?
そういう事さ。
例えばの話だけどね。君を象徴する趣味嗜好その他全てが無くなったら、僕は君を君と呼んでもいいんだろうか。
姿形は長谷川君なのに、君は全ての記憶を失くし、全く違う人間のように振舞う。それは果たして本当の意味で君なんだろうか」
「言っている……意味がよく……わからないんですけど」
「……あぁ、僕もだ。
実際この話を聴いた時僕も君に近い感想を抱いたものさ。
……僕個人としては、記憶とはその人そのものなんだと思う。
自分が好きだと思う物をしっているからそれをする、嫌いだと知っているからそれを避ける。
そのもの、という言い方は……少し違うかな。
つまりね。個人を特徴付ける差異を生み出すのは各人の性癖だ。
しかし、それを覚えていなかったとしたら性癖は消えたと同義さ、少なくとも思い出すまではね。
だから、一切の記憶が無くなったとしたら、僕はその人はもう記憶を失くす前の人物とは別物だと思う」
「や、それは違うでしょう……、記憶があろうがなかろうがその人がその人である事に変わりはない筈です」
「一般論、だね」
「な…………、」
馬鹿にされたように感じ、千雨は席を立ちかけた。
「あぁ、……すまない。
尋常でない話をする為には普通の切り口では何も伝わらない。悪気はないんだ、……すまないね」
千雨は同い年の生徒と比べると大人びている。それは謝罪の有無に限らず筋が通っていれば納得が出来るという意味でもそう言えた。
再び腰を落ち着けると千雨は先を促した。
「気を悪くしないでもらいたい、…………あはは、僕は君に嫌われても仕方ないね。
うん、話を進めよう。君が懇意にしている人物がいたとする。その人物を仮にAとするよ。
君はいつものようにAと会う為に家を出る。待ち合わせの場所に着く。けれど待てど暮らせどAは来ない、連絡しても捕まらない。さて、君はどうする?」
「……とりあえず、帰りますね。後で事情を聞くとかすると思います。それか家に行ってみるとか」
「そうだね、普通そうするだろう。
じゃあ君はAの家を訪ねたことにしようか。Aが玄関から顔を出す。君は文句の一つも言うだろう、約束はどうした、とか風邪でも引いたのか、とか何でもいいけどね。
そうしたらAは言った、『どちら様ですか』と。
君は……どうする?」
「ど、どうするもこうするもないですよ、悪い冗談にも程がある」
「冗談ではなく、Aは君を本当に知らないんだ。だが君が訪ねたのは紛れも無くAの家だ。君に『どちら様ですか』なんてふざけた事を言う人間はAに間違いはない。
オチとしてはAが記憶喪失に陥っていた、という事になるんだけどね。
そこで話を少し戻すけど、君はこの人物をAだと言えるかい。
今までの君との時間はすっぱり消えて、Aとしては君とは本当に初対面なんだ。君の事を忘れた……というより『知らない』Aを、君はAと呼べるのか、と僕は聞きたい。
記憶の無い人間を、自分を知らない人間を、君は?」
「…………さっきも言いましたけど……AはAでしょう、いずれ記憶が戻れば済む話です」
「戻らない。
………………と、したら?」
「そ、れは…………、」
口篭る。考えた事が無かった。
千雨には高畑の例え話に出てきた懇意にしている者、『A』などいない。
だが予想くらいは出来る。
また明日、と言って別れた相手が今日になって自分を知らないなんてことになったら。
……共有した時間がないものにされてしまったら。自分の中だけの絵空事にされてしまったら。
「それは、……もう違う人間と言えないかい」
「……まぁ、確かに」
「実際そんな事が起きたら、という話だけどね。
ただ君がどう認識しているのか知りたかっただけだからこの話にそんなに深い意味はないよ。
ただ、君に話す上で記憶というものが非常に重要な位置に来る」
この部屋は少し蒸し暑いような気がした。
「輪廻転生を信じない、と言ったね」
「はい」
「Aが記憶喪失ではなく輪廻転生だったのだとしたら、どう思う?」
「……………………はぁ?」
信じないか、との問にそうだと答えたのにそれを前提とされた話を振られ戸惑った。掃除云々もそうだが、高畑は少しおかしいのかもしれない、と千雨は思った……。
「話を少し整理しよう。
Aは君との記憶を失くしていた。通常は記憶喪失だと思うだろう。だが、一向にAは君との時間を思い出す気配は無い。普通ならば徐々に記憶は何らかの欠陥を残しはするかもしれないが戻っていくものだ。勿論例外はあるよ。これは統計的な意見だからね。
Aの記憶が消えたのがもし、輪廻の輪に乗った『誰か』がAに宿ったからだと考えたらどうだろう?」
「ちょっといいですか」
眼鏡を軽く押さえて千雨が言った。
「はっきり言います。さっぱりわからない」
「ははは。僕もいつ君がそう言うかと思っていた所だよ」
「……からかってるんですか」
「いや、そんなつもりはない。
これは極めて君にとって有意義な話さ」
危険を知る、という意味でね。と内心で付け加える。
「単刀直入に言おう。
君が信じない上に一笑に付す可能性が非常に高くて気後れするけれどね」
「この時点で既に失笑モノですから安心してください」
「はは、……食えないね、君は」
苦笑混じりの声で笑ってから高畑は天井を見上げた。煙草で黄色く染まったそこは中華料理屋の厨房と通じるものがある。
ひとつ違うのは、厨房ならばゴキブリが多発するだろうが、ここには生きたモノが高畑と千雨しかいないという一点だった。
ひとつ違うのは、厨房ならばゴキブリが多発するだろうが、ここには生きたモノが高畑と千雨しかいないという一点だった。
「昔、……昔ね。
そう、今では化石でしか見ることの出来ないような生物がまだまだそこらを闊歩していた位の大昔」
今度は何の話だ。千雨の眼鏡の奥の目がそう言っているのを高畑は察していたが続ける。
「ふたつの種族が共存する世界があった。
異種である存在は互いにないものを補い合って平和に暮らしていた。
自分には有り得ない能力を持ち合うのだから手に手を取れば暮らし良いに決まっているからね。
だけど異種は異種であるが故に、些細な事件をきっかけにいがみ合うようになったのさ。
それから後は簡単だ、殺戮と血の惨劇、そしてそれらを繋ぐ憎悪と恐怖。種の片方は片手に残る数を残し死に絶え、残りは繁栄を極めることとなる。
その残り、と言うのが僕ら人間だよ」
「……どこの神話ですか、それ」
「神話、か。
……そう言えなくもない」
「それで?記憶と輪廻転生と神話がどう繋がって私にとって有意義な話になるんですか」
「はは、急かさないでくれるかい、話すのは上手い方じゃない」
「先生がファンタジー趣味だとは思ってませんでした」
「はは、……どっちが年上かわからなくなってくるよ。君とは相性が悪いのかな」
「どっちでしょうね」
「これ以上君に嫌われないように気をつけよう」
高畑は微笑してから口元を締め、言った。
「…………鳥と人とのかつての大戦の傷跡を抉り返そうとしている者が居る。
欲に眩んだ目で、白き翼を見る者が居る」
千雨はその時初めて気付いた。
窓が開いているのに、風が少しも入ってこないことに。
そして高畑の目が哀しみとも哀愁ともつかぬ色をしていることにも、気が付いていた。
それは…………、千雨には静かな怒りとして映った。
そして、物語の幕が上がる。
誰の血が流れるのだろう。
今回は、誰が死ぬのだろう。
彼も、老人達も、誰も知らない。
だが、この時既に決められた事実は確かに其処にあったのだ。
応援ありがとうございました
こんな有様なのでこのせつルートに死力を尽くすことを誓います。
私は日常系萌え話しか書けないので燃えにチャレンジさせてください><
頑張れ!期待してる。
乙!ホント文章うまいな。誕生日SSもどうしたらいいのかアイディアが
浮かばない俺としては本当にうらやましいw
>>548 このちゃんが「うちのお願い聞いて!!」ってせっちゃんに飛びつく感じのSSキボン
なんて言うか,天然このちゃんにテレテレなせっちゃんが見たかっただけ。
できればほのぼの路線でヨロ!
最初に謝罪。
久しぶりすぎて、書き方忘れた。
ごめん、何か知らんが投下できん。
後で試してみる。
552 :
進路:2008/03/22(土) 17:04:42 ID:nHqN27GD
3月――今年も進路の追い込みの時期。
他校ならば、既に進路も決まって落ち着いた時期だろう。
しかし麻帆良では、この時期が一番忙しい時期だった。
理由としては、麻帆良には学問・部活で多彩な才能を持つ生徒が多いからだ。
それらをほしがる他校の"引き抜き"が、ギリギリまで行われるのだ。
「進路希望調査のプリントを配りますので、書いてから帰ってください」
ネギはそういうと、3-Aクラスの生徒たちにプリントを配っていった。
しかしこの中等部は、元々高等部までエスカレータ式の学校。
大抵の人は"一般進級"の欄に丸をつけていた。
(希望調査・・・・希望、か)
その中で出席番号15番の桜咲刹那は、ペンを止めた。
刹那は、近衛家の跡取りである近衛木乃香の護衛。
孤児で身寄りのない刹那は、拾ってくれた近衛家の指示によりここにいるのだ。
(お嬢様は普通に進級するだろうな・・・・私もそう書いておくか)
"一般進級"の欄にペンを運ぶ刹那。
しかしふと手を止めた。
『せっちゃんには親友として・・・・それ以上として、傍にいてほしいえ・・・・せっちゃんはどうなん?』
つい先日に木乃香に言われた事を、刹那は思い出したのだ。
護衛という立場でなら、木乃香についていくのが当たり前だろう。
しかし親友としてなら?
553 :
進路:2008/03/22(土) 17:05:49 ID:nHqN27GD
(私の・・・・希望・・・・)
"親友についていく"というのは、生真面目な刹那からするとそれはどこか間違ってた。
友達と遊びたいがために、将来を捨てる・・・・そんな感じがしたからだ。
「――美空は聖ウルスラにいくんだ?」
「まぁ、そういう契約・・・・じゃなくて、約束だったからさ」
「シスターだもんね、寂しくなるな・・・・でもずっと友達だからね?」
窓際の方からそういった会話が聞こえてきた。
このクラスにも、仲間と離れて違う道を行く者がいるのだ。
自分とて、希望を考えるぐらいなら許されるだろう・・・・刹那はそう思い、可能性のある道を考え始めた。
(従者でなくてお嬢様の傍にいるには、やはり独立・・・・自由・・・・)
刹那が護衛でなくて、木乃香の傍にいるのに必要なもの・・・・それは自由。
近衛家に仕える存在としている限り、刹那が護衛や部下といった枠から出られることはない。
それを打開するには、自由になること・・・・近衛家からの独立が必要となる。
(不可能・・・・ではない、長には迷惑をかけてしまうけれど・・・・)
一昔の近衛家だったら、独立という単語だけで首が飛ばされたであろう。
しかし今の近衛家なら・・・・近衛詠春の力ならば、何とかなる。
その詠春の後継が木乃香ならば尚更、刹那が独立した所で刹那が敵にまわることはない。
刹那は詠春・木乃香に絶対の忠誠があるので、刹那の独立後の勢力は近衛家の力にもなるのだ。
まぁ・・・・考えようによっては、"恩義を返さずに独立した裏切り者"と呼ばれるかもしれないが。
(もしこれを・・・・"今"、実行するなら・・・・)
554 :
進路:2008/03/22(土) 17:07:14 ID:nHqN27GD
ギリギリ見える薄さで、刹那は"他校への編入"に丸印を書いた。
今の時代、学歴というのは地味に響くもので、中卒では格好がつかない。
独立するならば一度関西でそれなりの成績を出し、そして実力面でも結果を出す。
実力も成果もなければ、独立後に近衛家に取り合うのも難しくなるからだ。
この独立から友好関係までの道のりは、かなり苦しいもの。
しかし木乃香の望む『刹那が親友以上として傍にいる』には、これが効果的であった。
(うーん、しかし高校ではまだ早いか・・・・? せめて大学とかの方が実力的にも・・・・)
「桜咲さん、書いた?」
「あ・・・・」
「え、刹那さん転校するの!?」
「いや、その・・・・!」
本気で考えていた刹那は突然の展開に対応が遅れてしまった。
ちょっとした思考の中で、無意識に記入した"他校への編入"。
それを隣の席の釘宮まどかに見られてしまったのである。
「えー本当? どこいくの?」
「京都に帰っちゃったりするの?」
「あの、皆さん・・・・私は・・・・」
「それとも剣道部が強い学校に引き抜かれちゃったり?」
「いえ、ですから――」
必死に否定しようとする刹那。
しかし生まれつきの押しの弱さが面に出てしまい、なかなかクラスメイトは弁解を許してくれない。
そして結局そのまま刹那は、訂正せずにプリントを出して教室から逃げ出してしまった。
555 :
進路:2008/03/22(土) 17:08:35 ID:nHqN27GD
*
「なるほどのぅ、間違いとな・・・・」
「申し訳ございません、学園長・・・・」
「いやいや、修正するぐらいならたやすい事じゃよ」
後で事の重大さを再確認した刹那は、学園長室に来ていた。
ネギがプリントを持っている時点で回収したかったのだが、部活動で抜け出すことが出来なかったのだ。
「・・・・他校への編入・・・・となると、刹那君は――出たいのかね?」
「いえ、そういうわけでは・・・・でも、その・・・・」
「言わんでもよい。木乃香がわがままでも言ったんじゃろう?」
刹那が近衛家の従者である件について、木乃香の祖父である学園長にも話はきていたようだ。
図星だったため、刹那は否定できずに俯いた。
「元々刹那君は孤児じゃからの、独立は難しくなかろうて。じゃがその後が大変じゃぞ」
「・・・・はい、存じております。・・・・今回の件、できれば内密に・・・・」
近衛家は伝統ある家系。
新しい勢力を迎え入れるにはそれなりの手続きなどが必要であり、簡単に加える事も出来ない。
古くからの風情を大事にする頭の固い連中が、厳しく目を光らせているのだ。
おいそれと独立が受け入れられる事は、まずない。
下手に口を滑らせれば、裏切り者として首が刎ねられるだろう。
「今回は何も聞かなかった事にするがの・・・・道の一つとして考えているならば、時を待ちなさい」
「・・・・といいますと?」
「・・・・古い人間から先に、消えていくもんじゃよ」
556 :
進路:2008/03/22(土) 17:10:03 ID:nHqN27GD
小さな声で誰にも聞かれないように、それでもしっかりと学園長は言った。
いつしか古い伝統は消えていく・・・・その時期に、新しい風を起こせと。
その意図を読み取った刹那は、静かにお辞儀をして部屋を後にした。
「・・・・せっちゃん!」
「お嬢様?」
刹那が学園長室を出ると、ちょうど木乃香が廊下に立っていた。
待ち合わせをしてなかった刹那はもちろん驚く。
「担任の先生の所行ったって聞いてな・・・・でもネギ君とこにもおらへんから、探したんやえ」
「あ、お嬢様に手間を掛けさせてすみません!」
「それは、ええんよ・・・・」
そういう木乃香の息は少し乱れていた。
木乃香も部活に捉まっていたらしく、部活動後に慌てて刹那を探していたようだ。
「なぁせっちゃん・・・・中等部卒業したら、どっか行ってまうの?」
「え?」
「ウチが、強く止める事できへんけど・・・・」
木乃香は寂しそうな顔で俯く。
木乃香は初等部の頃に、一人で麻帆良に転校してきた。
その際、唯一の友達であった刹那を置いてきてしまったのだ。
木乃香はそれ事を引き摺っており、中等部になって再会した刹那が会話をしてくれないのもそれが原因だと思っていた。
刹那は一瞬何の事かわからなかったが、その意味を察すると木乃香に優しく語りかけた。
「転校はしませんよ・・・・まだ、ですが」
「まだ・・・・?」
「時期が微妙といいますか・・・・でもお嬢様の為を思ってのことですので、心配なさらないでください」
557 :
進路:2008/03/22(土) 17:11:50 ID:nHqN27GD
あまり話しすぎて、関西呪術協会の方に情報が漏れるのは危険だ。
刹那はそれを考慮して、核心には触れずに木乃香をなだめる。
だが木乃香はそれに納得しなかった。
「何で転校するん? ウチと、仲直りしてもうたから・・・・?」
「え? いえ、そういうわけでは・・・・」
「じゃあ何で、何で・・・・いなくなってまうの!」
「お、お嬢様。落ち着いて・・・・」
予想外の木乃香の取り乱し様。
周りの学生たちが驚いて二人を見る中、刹那はあたふたするしかない。
そんな中、木乃香の後方から、明日菜が二人を見つけて駆け寄ってきた。
「あ・・・・いたいた木乃香! まったくもー、また刹那さんに迷惑かけてたんでしょ?」
「そないなこというたって・・・・せっちゃんがいなくなってまうんよ!?」
「そんなの刹那さんの自由でしょ? だから、なんだかんだで一番拘束してるのは木乃香じゃん」
「!?」
「あ、あの、拘束だなんて・・・・私はそんな・・・・」
明日菜の一言に、木乃香が凍りつく。
刹那は目の前で固まってしまった木乃香を見て、慌てて訂正する。
しかし明日菜は構わずに、話を続けた。
「そうやってまた木乃香のこと甘やかしてさ。たまにはこう、びしっと――」
「――明日菜のバカ!!」
「お嬢様――ぶっ!?」
明日菜の言葉に耐え切れなかった木乃香は、刹那にカバンをぶつけて走り去ってしまった。
慌てて追いかけようとした刹那だったが、周りの目もあり踏みとどまる。
周りに漂う、不穏な空気――。
その刹那の葛藤を後ろで見ていた明日菜が、先に口を開いた。
558 :
進路:2008/03/22(土) 17:12:45 ID:nHqN27GD
「・・・・ごめんね刹那さん」
「い、いえ・・・・でもどうしてあんな事を・・・・?」
「ここに来る前にちょっと喧嘩しちゃってさ。刹那さんがいなくなるの、相当いやみたい」
明日菜と木乃香の喧嘩・・・・刹那には想像が付かなかった。
明日菜ならば、あやかなどとしょっちゅう喧嘩をしている。
が、はんなりした木乃香が他人と喧嘩をする事が、想像できなかったのだ。
「・・・・刹那さんって、本当にわかりやすいね」
「え?」
「木乃香、刹那さんの事になるとすぐ熱くなるんだよね。木乃香のあんな一面、私もはじめて見た」
ふぅ、と明日菜はため息をつく。
その時初めて、明日菜も今の木乃香に戸惑っているということが刹那にわかった。
修学旅行以降に変わったのは刹那だけでなく、木乃香も微妙に変化していたらしい。
「明日菜さん・・・・」
「なんで転校とか言い出したかわからないけど・・・・ちゃんと話しておいてね」
「・・・・申し訳ありませんでした」
「はい、カバン」
明日菜は、木乃香が先ほど投げた木乃香のカバンを刹那に渡す。
木乃香の同居人である明日菜が持って帰れば手間は省けるのだが、あえてその役は刹那に渡したようである。
刹那もそのカバンを受け取ると、一礼して寮へと走り出した。
「・・・・そろそろ進学だし、寮の部屋変えるかぁ」
今までずっと同じ部屋だった寮友の変化。
何かを悟った明日菜は、少し寂しげな顔で刹那の後姿を見送っていた。
*
559 :
進路:2008/03/22(土) 17:13:39 ID:nHqN27GD
「あの、お嬢様・・・・開けてはもらえませんか?」
木乃香の部屋の前で、刹那は中に向かって話しかける。
中にいるのは気配でわかる。
玄関の所まで来てくれているのも、わかっていた。
「お嬢様・・・・」
しかし木乃香が扉を開ける事はなかった。
もう数分話しかけてはいるが、答える事もない。
周りに一般生徒がいるために刹那も強行手段を用いる事は出来ず、二人の間は鉄の扉に遮られたままだった。。
「そのままでいいので、聞いていただけますか?」
――。
「・・・・お嬢様が望むのでしたら、転校などは一切しません」
――。
「だから・・・・ごめんなさい、変な事になってしまって・・・・。カバン、置いておきますね」
カタン。
木乃香のカバンを置く音が、部屋にもしっかりと届く。
その音は、刹那が手渡しを諦めた音だった。
刹那は自分の不甲斐なさに、拳を強く握り締める。
「・・・・また明日、お迎えにあがります。・・・・では――わっ!?」
560 :
進路:2008/03/22(土) 17:14:37 ID:nHqN27GD
諦めと油断の瞬間。
急にドアが開き、刹那は中に引きずり込まれた。
もう外は暗いというのに部屋には明かりは灯っておらず、ドアが閉まると同時に刹那の視界は奪われる。
「お、お嬢様?」
「・・・・」
「あの・・・・?」
刹那の腕の中には、一人のぬくもりがあった。
震えるそれは力強く刹那を抱きしめて、離す様子はない。
気が付くと部屋には暖房も入っていなかった。
外から来た刹那には部屋は暖かく感じられたが、ずっとこの部屋にいた木乃香は寒かったに違いない。
「お嬢様、寒くないですか? 暖房を――」
「そんなんええ・・・・せっちゃんあったかいもん・・・・」
「いえ、外から来たので・・・・冷たいと思いますけど・・・・」
見当はずれな返答をする刹那。
それでも木乃香が刹那を離す事はなかった。
さらに強く刹那を抱きしめ、顔を刹那の胸に押し付ける。
「・・・・拘束してもうて、堪忍な・・・・」
「あ、明日菜さんの言う事は気になさらないでくださ――」
「でもこれで最後な・・・・。せっちゃんを独り占めにするん、今日で終わりや・・・・」
「え・・・・?」
すっと木乃香が刹那から離れた。
その別れを告げるかのような言葉に、刹那の表情は強張る。
「ま、待ってください、そんな・・・・」
「ウチのせいで、せっちゃんの将来壊すわけにはいかへんもん」
「お嬢様・・・・そ、そんなの、いやです・・・・!」
561 :
進路:2008/03/22(土) 17:16:06 ID:nHqN27GD
また一歩離れる木乃香。
その距離一歩一歩が、刹那にはとても離れて見える。
焦った刹那はいつもの照れは見せず、強引に木乃香を後ろから抱き寄せた。
「・・・・せっちゃん、それ矛盾しとる・・・・転校したいんやろ?」
「ですから、お嬢様が望むのでしたら絶対にしません!」
「じゃあなんで、転校するって言うたん? せっちゃんが悩むやなんて、何かあるんやろ・・・・?」
くるりと木乃香が回転し、二人は向き合った。
ここでやっと刹那の目も暗闇に慣れ、木乃香の表情を捉える。
木乃香の目には涙が溜まり、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
その顔を見て刹那が隠し事を出来るはずもない。
刹那は静かに、話し出した。
「・・・・お嬢様が望んだ、普通の親友・・・・それ以上になるためでした・・・・」
「へ?」
「ひ、秘密ですよ? 従者でなくなれば、もっと自由に・・・・接する事が出来るかと思いまして・・・・」
刹那は他の誰にも聞かれないように、周りに細心の注意を払って話した。
しかし肝心の、目の前の木乃香に気を配るのを忘れていた。
「・・・・せっちゃん!」
「え、・・・・んっ!?」
胸の内を話し、再び油断した刹那の唇に何かが触れる。
触れたものが木乃香の唇だと気付いたときには、もう木乃香の舌が刹那の中に進入していた。
刹那が開放される頃には刹那の顔は紅く火照っており、木乃香に支えられてやっと立っている状態だった。
「お、お嬢様・・・・何でいきなり・・・・?」
「・・・・うちらが、こういう関係やって事・・・・こっちを秘密にすればええやん・・・・」
「え、で、でも・・・・」
「ウチに隠し事なんてしないで。二人で大人を騙せばええやん・・・・な・・・・?」
562 :
進路:2008/03/22(土) 17:18:08 ID:nHqN27GD
再び重なる唇。
刹那が本当に自分の事を考えてくれてた事を知った木乃香は、感極まって刹那を両手で捕らえた。
刹那もその拘束を心地よく感じ、されるがままになる。
もう刹那に困惑の色はなく、木乃香にも悲しげな色はなかった。
そしてそれからの一時間、部屋に明かりが灯る事はなかった。
*
「来年から三人部屋か〜」
「す、すみません、お邪魔します」
「せっちゃんなら大歓迎やえ? ネギ君がいなくなるんは、ちょっと寂しいけどなぁ」
来月からの寮も発表され、引越しの時期。
明日菜は身を引こうとしていたようだが、木乃香の強い要望によって明日菜、木乃香、刹那の三人部屋となった。
ネギは社員寮が空いたので、そちらに移るようになったようである。
「高校生になってもよろしくね、二人とも」
「はい」
「ご飯なら任せとき?」
引越し作業をしながら、三人は新しい生活に心を躍らせる。
その中木乃香が少し離れた瞬間に、明日菜が一言刹那に言った。
「ま・・・・私は早く寝るけど・・・・夜はほどほどにね?」
「ぶっ。明日菜さん!」
「んー? 何の話しとるん?」
「ななな、なんでもありません!」
「・・・・せっちゃん?」
さっそく隠し事を作ってしまった刹那は、この日の夜さっそく木乃香に襲われたようである。
次の日何があったかを悟った明日菜は、寝つきがいい自分に感謝しながらため息をついたそうな。
FIN KEYWORD PUZZLE(
ttp://id41.fm-p.jp/35/sieg74/ )
10レスで無事収まったか? 時期的にタイムリミットが近づいてて急ぎすぎたが、勘弁してください。
クーさんキタ━(゜∀゜)━!
アスナになりたい
ひゃっはー(゚∀゚)待ってましたァァァ!!
ぎゃーク氏お久しぶり!!!
相変わらずGJな文!!
お久しぶりっす♪
相変わらずのGJな文を10レスで納めるあなたに乾杯。
それにしてもこのかと刹那の逢瀬中、明日菜とネギ君はどうしてたんだろうね。
そんでもってそんな関係なのに、明日菜の同居を強く求めたこのかの思惑は一体ww
イカン!妄想が、妄想が、
どうしてあなたはそんなに妄想エロのシチュが旨いんだ〜。
やっぱ嫉妬する。良い意味で(モツボイスで)
567 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:20:52 ID:dqkXTSt1
「本当に・・・・本当にすみません・・・・」
今日は久しぶりのお嬢様とお出かけの日だったのに、急に仕事が入ってしまった。
なんとか許してもらおうと、電話をかけたのだが・・・・。
『・・・・せっちゃんの馬鹿!』
怒鳴られて、切られてしまった。
お嬢様はとても楽しみにしていたのだから、相当傷ついたに違いない・・・・。
しかし忙しさで動転していた私はお嬢様に対し、適切な判断が出来なかった。
「まずい、時間が・・・・」
この時私は、無理をしてでもお嬢様に会いに行くべきだったのだろう――。
*
「ご、ごめんなさい、お嬢様・・・・」
「・・・・」
仕事終わりの夕方、私はお嬢様に会いに来ていた。
そして何とか許しを請おうとしたが・・・・お嬢様はまったく許してくれない。
元々積極的でない私は強く出ることができず、完全にお嬢様に主導権を握られてしまっていた。
「な、何でもします・・・・この、ちゃん・・・・」
「都合ええときだけこのちゃん言わんといて」
「あ、う・・・・」
ぴしゃりと言い放たれ、何も言えなくなる。
もし誰かがこの現場を見ていたら、私は相当情けなかっただろう。
誰もいない部屋でよかったと、私は無意識に安堵した。
568 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:22:12 ID:dqkXTSt1
「でも・・・・ほんまに何でもしてくれるん?」
「あ・・・・は、はい!」
「・・・・そやね・・・・」
一瞬見えたお嬢様の黒い笑顔。
しかし私は、許してもらえる事が嬉しくてそれを見落としてしまった。
お嬢様は机の方へと行くと、なにかを持ってきた。
「これ、明日の授業中入れててくれたら許したる」
「・・・・入れる?」
お嬢様に渡された玉状の物。
お嬢様はリモコンのような物を持っていた。
「・・・・?」
「わからん? じゃあ、スイッチ入れるな?」
「え、わわっ!?」
お嬢様がリモコンをいじると、私が持っていた玉が大きく震えた。
突然の事に驚いて玉を落としそうになり、あわててそれを持ち直す。
その瞬間に唐突にだが・・・・これが何か理解した。
「ま、まさか・・・・」
「わかった? ・・・・せっちゃんの誠意、見せてな?」
「あ、ちょっ・・・・!」
恐ろしい事をやんわりと言われ、部屋を追い出された。
どうやらまだ喧嘩は続いてるらしい。
「ど、どうしろって・・・・お嬢様・・・・あっ」
クラスメイトに見られないように、慌てて『それ』を隠した。
幸い誰にも見られてなかったようだ。
しかし本気なのか冗談なのかわからない私は、しばらくその場に立ち尽くすしかなかった。
569 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:23:07 ID:dqkXTSt1
*
「木乃香と喧嘩中なんだって?」
「はい・・・・面目ないです・・・・」
次の日、朝の修行中に明日菜さんに心配された。
どうやらお嬢様が明日菜さんに話したらしい。
「今日はもう良いからさ、木乃香と早く仲直りしてね?」
「す、すみません・・・・集中できなくて・・・・」
「大好きなお姫様と喧嘩中だもんね、仕方ないよ」
「あ、明日菜さん・・・・!」
からかわれて反論するものの、本当のことだったので強く言い返すことができなかった。
木刀と夕凪を手に、足早に部屋に戻る。
そして早めの登校準備をしたが・・・・やはり最後に手が止まった。
「これ、どうしよう・・・・」
手にあるのは、昨日お嬢様に渡された玉。
知識にしかない物だが、これがどんな用途で使われるかだけは知っていた。
今はただの玉・・・・だがお嬢様の持つリモコンと合わさると、いろんな意味で凶器になるに違いない。
それを公衆の場で身に付けろというのだ。
戸惑わないほうがおかしい。
「冗談、か・・・・? でも、あの目は本気だった・・・・」
冗談ならば笑って済めば良い。
しかし冗談でなくて、入れていかなかったら・・・・今度こそ愛想を尽かされてしまうかもしれない。
お嬢様に捨てられるほうが、何よりもずっとずっと怖い。
(――えぇい、成るように成れだ!)
570 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:24:10 ID:dqkXTSt1
チャンスがあるのにそれを手放すなど、私にはできなかった。
私はトイレに入ると、恐る恐るそれを挿入する。
感じるのは冷たい感触と、嫌な異物感。
(・・・・でもこれぐらいなら、なんとか・・・・)
落ちてしまわないように、しっかりと奥に入れる。
異物感は残るものの、生活には支障ないようだ。
「大丈夫かな・・・・っいけない、遅刻する!」
慣れないことをしていたせいで、時間の経過に気付かなかったようだ。
時間に追われた私は慌ててトイレから飛び出すと、そのまま荷物を持って部屋を出た。
*
「皆さん、おはようございます」
「ネギ先生、おはようございま〜す!」
登校中に例の物が落ちないか心配だったが、しっかりと奥に入れたのでその心配はなかった。
ネギ先生は私を見ると、少し安堵した表情を見せる。
お嬢様と喧嘩しているため、久しぶりの一人登校だったからだろうか。
「それでは一時間目は英語なので、皆さん教科書を出してください。宿題はやってきてくれましたか?」
「げ」
「・・・・明日菜さん・・・・」
明日菜さんの宿題忘れで、教室がどっと笑いの雰囲気に包まれる。
お嬢様との喧嘩と異物の違和感でやや落ち込み気味だった私も、自然と笑っていた。
「もう、ちゃんとやってくださいよー」
「忘れてたんだってば!」
「じゃあ・・・・刹那さん、問1の解答をお願いします」
「はい」
571 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:26:06 ID:dqkXTSt1
この宿題は先日にお嬢様に教えてもらったものだ。
私はお嬢様に心で感謝しながら、席を立った。
――その時、身体の中で何かが動いた。
「・・・・うっ・・・・!?」
「刹那さん?」
振動は昨日、お嬢様の部屋で感じたものと同じ。
いきなりの振動に驚いて少し身をかがめると、ネギ先生が心配して近づいてきた。
「刹那さん、具合悪いですか?」
「い、いえ・・・・大丈夫です」
「そうですか? 具合悪かったら無理しないで、保健室に行ってくださいね」
ネギ先生が話しかけてきたとき、振動は収まった。
そのおかげで何とかその場を乗り切る。
席に着くときに後ろを振り返ると、お嬢様は少し嬉しそうな顔で見ていた。
・・・・お嬢様の仕業で間違いないようだ。
「それでは代わりにいいんちょさん、お願いします」
「はいネギ先生! おまかせくださいまし!」
先ほど刺激された部分がじわりと疼く。
しかし訴えようにも授業中に携帯電話は使えないし、席を立つなんて事も非常識だ。
そのため、今はじっと耐えるしかなかった。
*
「・・・・っ、・・・・!」
それからの授業も、お嬢様の攻撃は続く。
もちろん休み時間に止めてほしいと言おうとした。
が、お嬢様は他の人と会話を盛り上げていて私を近寄らせてくれなかった。
故意に避けられてるのはわかっていたが、お嬢様相手に強く出るなど私には出来ない。
572 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:28:14 ID:dqkXTSt1
「・・・・・・・・っ!」
何パターンかある玉の動きは、絶妙なタイミングで私を昂ぶらせた。
しかし周りには多くの人がいる。
その為、私は声を抑えて耐えるしかなかった。
「・・・・桜咲さん」
「あ、は、はい?」
「大丈夫・・・・? 苦しそうだけど・・・・」
紅潮した顔で時折唸る私は、さすがに周りから見たらおかしいのだろう。
隣の席にいる釘宮さんが私の肩に手を置いた。
その優しい感触に、ビクッと体が震える。
「先生に言おうか・・・・?」
「い、いえ・・・・」
後ろの席の四葉さんも声をかけてくれた。
しかし今保健室へと逃げてしまったら、きっとお嬢様は許してくれないだろう。
いくら鈍感だといわれる私でも、それぐらいはわかった。
これは"お仕置き"なのだから。
「・・・・だ、大丈夫で、ぅっ・・・・!」
「うぉ、大丈夫かー!?」
何を考えたのか、お嬢様はよりによって話してる時に振動を与えてきた。
私はつい耐え切れずに声を上げてしまい、前にいた鳴滝風香さんが大きめの声で心配してくる。
一気に注目が集まってしまった。
「桜咲さん、大丈夫ですか?」
「す、すみません、大丈夫です・・・・」
「大丈夫じゃないよ! 先生、桜咲さん調子が悪そうで・・・・」
「く、釘宮さん・・・・」
573 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:30:05 ID:dqkXTSt1
クラス中の視線が集まり、さすがの私も居た堪れなくなった。
この視線の中でもお嬢様は手を緩めてくれない。
私は恥ずかしさと何ともいえない感触で、顔を伏せた。
「無理しないで保健室に行ってくださいね。保健委員は桜咲さんを――」
「和泉さんは今日風邪で休みです」
「あ、そういえばそうでしたね・・・・」
そういえば今朝の点呼の時、和泉さんは風邪で休んだと同室のまき絵さんが言っていた。
心配される声に包まれる中、私は恥ずかしさと絶望感で顔を上げる事ができない。
「っ!?」
「大丈夫?」
・・・・突如、釘宮さんが触れた方とは逆の方の肩に何かが触れる。
驚いて顔を上げると、触れたのはお嬢様の手だった。
優しく背中を撫でてくれる。
ゾクゾクとした感覚が全身に走り、私は妙な敗北感を味わってまた机に伏せた。
「――ウチが連れてくえ。先生、ええですか?」
「わかりました、お願いしますね」
お嬢様は私の手を引いてくれる。
いつの間にか振動もなくなっていて、私は何とか立つ事ができた。
「お、嬢様・・・・?」
「ほな、いこ?」
お嬢様が何を考えているか私には予想できない。
しかしお嬢様に逆らうなど元々できない私は、黙ってついていくだけだった。
*
574 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:32:29 ID:dqkXTSt1
「失礼します〜」
「・・・・誰もいないようですね」
保健室に担当教師の姿はいない。
職員室のほうにいるのだろうか。
「せっちゃん、こっち」
「あ、はい・・・・?」
お嬢様は私をベッドのほうへと導く。
しかし私は病気などではない。
お嬢様もそれを知っているはずだ。
私がベッドに腰掛けて疑問の目をお嬢様に向けると、お嬢様もベッドに腰掛けた。
「お嬢様、なぜ・・・・?」
「せっちゃんが我慢できそうやなかったから」
「え・・・・あっ、あの・・・・!」
「これ、なんや?」
肩を押され、ベッドに倒される。
いきなりの事に私はとっさに抵抗するが、お嬢様が目の前に出したリモコンを見て抵抗できなくなった。
無意識に喉が鳴る。
「ええ子やね・・・・スイッチ入れてほしい?」
「そんな・・・・」
「ずっとこれで感じとったやん? 入れてあげるな」
「ぅ・・・・あぁ!」
お嬢様は目の前でスイッチを入れた。
誰もいない場で、この感覚は卑劣すぎる。
私は声を抑える事ができなかった。
「くっ、は・・・・! だって・・・・こんなの、まさか本当に・・・・」
「ウチやって、本当に入れてきてくれるなんて思わへんかった」
「んぁ・・・・」
575 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:34:07 ID:dqkXTSt1
私が逃げないように、お嬢様は私に体重を乗せていた。
そして優しい手つきでラインをなぞるように手を這わせてくる。
その間も、いまだ中にある玉は私を攻め続けていた。
「我慢できへんやろ・・・・?」
「うあ、や・・・・――あぁっ!」
刺激から逃れようと、私は無意識にお嬢様に手を回してすがり付く。
お嬢様は手を私の下半身にまわし、スカートに手を忍ばせた。
「あや、今日はスパッツやないんやね」
「け、今朝・・・・い、入れるのに手間取って、時間が・・・・」
「・・・・ふふ、ほんまに何に対しても一生懸命なんやなぁ」
「ふあぁぁ・・・・ぁあっ!」
下着にまでも進入してくるお嬢様の手。
前からお嬢様は、下着の上からなぞると言う事をしない。
お嬢様曰く、『汚れてしまうから』だそうな。
洗濯など家事を受け持つお嬢様だからこそ、気にする面なのだろう。
・・・・今回は既に、手遅れのような気もするが・・・・。
「あの、お嬢、様・・・・っ」
「ん、なんや?」
「こ、これって・・・・お仕置き、ですか・・・・?」
私は歯を食いしばり、声を抑えながら尋ねた。
これがお仕置きだとしたら、素直に感じてしまうのはおかしいだろう。
お嬢様は一瞬手を止めた。
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
「お仕置きでもええけど・・・・」
「・・・・え?」
「今は純粋に、せっちゃんに触りたい。・・・・こないな無茶な事頼んで、堪忍な・・・・?」
576 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:34:41 ID:dqkXTSt1
お嬢様の声にはもう怒りの感情はなかった。
いつも通りのはんなりとした口調で、謝罪と共に優しく抱きしめてくれる。
じわりと胸の奥が温まり・・・・私は自然とお嬢様に腕をまわした。
「私の方こそ・・・・約束を破ってしまい――」
「もうええから。な、それより・・・・触ってええ?」
「・・・・はい。触って、ください・・・・」
初めての自室以外。
でもそんな環境など関係なく、私たちは求め合った――。
*
「あ、刹那さん。放課後まで保健室にいるなら帰った方がよかったんじゃないの?」
「え、えと・・・・その、それは・・・・」
「ウチが引きとめたん。道端で倒れたらあかんやろ?」
事が終わったあと、私は放課後まで保健室で寝てしまっていた。
お嬢様とのケンカで夜寝れなかったのと・・・・行為が原因だったのかもしれない。
私を保健室へ送るだけだったお嬢様は、私を寝かせつけた後に授業に戻ったようだ。
護衛たるものが・・・・恥ずかしい。
「んじゃ、かえろっか。刹那さんの荷物持ってあげるよ」
「す、すみません・・・・」
「じゃ、ウチはせっちゃん持って帰るなv」
「はい!?」
ぴったりと寄ってくるお嬢様に、保健室での事を思い出して赤面してしまう。
いつ誰が来るかもわからない状況であることも忘れ、私はお嬢様を求めてしまったのだ。
後に、誰も来ないように人避けの術が施されていた事をお嬢様から聞いたのだが・・・・。
「ふーん、大好きなお嬢様に看病されて元気になったみたいね」
「な、私は別に、お嬢様に看病されなくとも・・・・!」
「ウチに看病されなくても?」
「あっ・・・・」
577 :
授業中に:2008/03/23(日) 15:36:24 ID:dqkXTSt1
売り言葉に買い言葉で、つい心にもない事を口走ってしまった。
もちろんお嬢様がそれを聞き逃すはずも無く、黒いオーラが背後から漂ってくる。
「あ、あの、お嬢様・・・・?」
「・・・・素直や無いせっちゃんにはお仕置きや! ていっ」
「んぁう!?」
「え、ちょ、刹那さんどうしたの!?」
すっかり忘れていたが、まだ例の玉は中に入ったままだった。
不意打ちで中を掻き回されて、力が抜け、不本意にお嬢様に跪く形になる。
それを見ていた明日菜さんは、驚いた顔をして私に駆け寄ってきた。
「なに木乃香、何か魔法でも使ったの!?」
「えへへ、まぁそないなもんやなぁ。な、せっちゃん?」
「な・・・・か、堪忍してください。あうう・・・・」
抗議しようとしたが、目の前の無邪気な顔でその気力すら奪われた。
ぐったりとした私と、そんな私の手を引くお嬢様。
明日菜さんはクエスチョンマークを頭から出していたが、お嬢様はそんな事には気にもかけていなかった。
「後でウチが魔法解除したるからなv」
「え・・・・いえ、自分で・・・・」
「だめやえ。ウチがかけた魔法はウチが解いてあげな・・・・あかんやろ?」
それが何を意味するか。
悟った私は、赤面した顔を見られないように俯く。
「なんかわからないけど、刹那さんはうちに寄るのかな? 私はもうすぐバイトなんだけど」
「ほな、せっちゃんとお留守番しとるな」
「・・・・もう、お好きにしてください・・・・」
その後お嬢様の部屋で何があったかは――皆さんのご想像にお任せします・・・・。
FIN KEYWORD PUZZLE(
ttp://id41.fm-p.jp/35/sieg74/ )
リクエスト。リハビリで申し訳ない。
大人の玩具に詳しくないので、「電池で動くアレ」ではこれしか思いつかなかった。
そして本番を飛ばすのは定番。
定番でも二本に一本は入れてほしいww
GJ!たまらんかった!
●うpロダの初期化について
まだよくわからないのですが、うpロダのサーバーが初期化されます。
それに伴い、今まで投下したものが全て初期化されてしまうそうです。
それの対処ですが、こちらのほうでバックアップをとってあります。
初期化が行われたら、今までのデータを圧縮した状態でアップし直すつもりです。
ですがそれでも不安な方は、今のうちにデータをダウンロードしておくようにしてください。
以上、業務連絡でした。
うおおおク氏のSSはやっぱり最高だ!!
>>577 うぉっ、半年以上も前に出した(?)リクが採用されているのに驚いた。
マジでGJ
長編もいいけど、一回で読みきれる文もいいよな。
あんたがネ申だぜ!!
ク氏、ニ作品GJです
あなたの作品は物語的な美しさがあって好きです
次回咲くにも期待してます!
>>382 み、みえた!…じゃなくて、GJ!
丸みのある絵がいい!なごみ癒されます
585 :
刹那の過去夢:2008/03/25(火) 20:24:03 ID:xVOYJQX9
かたん!
(あちゃ・・・・)
誰もが寝静まった夜中、小さな物音が響く。
普通の人間ならば誰も気付かないだろうが、これから向かう部屋の住人ならば気付いてしまっただろう。
特にこんな時間には、部屋を抜け出す者などいないのだから。
(・・・・気付かれんかったかな?)
部屋を抜け出して寮内をうろついていたのは、この寮の使用者でもある近衛木乃香だった。
本来ならば消灯時間後の外出は禁じられている。
それでも抜け出す人間はちらほらいるのだが・・・・学園長の孫でもあり優等生の木乃香が抜け出すのは、珍しい事だった。
かちゃ・・・・パタン
木乃香は出来る限り大きな音を出さないように気をつけ、とある部屋へと入る。
とはいえ、この部屋の住人はとても鋭い。
もう気付かれているだろうから、音を気にしすぎることは無かった。
それでもそぅっと忍び足でベッドのある部屋まで進む。
「あれ・・・・起きとるん?」
机の電気はついたままだった。
しかし返事はなく、ベッドにも人がいる気配はない。
ふと木乃香はソファーの方を見る。
「・・・・すぅ・・・・」
「ありゃ・・・・?」
机の主はソファーの上で寝ていた。
普段の疲れがたまって、転寝してしまったのだろう。
同居人は仕事なのか、姿はなかった。
586 :
刹那の過去夢:2008/03/25(火) 20:24:45 ID:xVOYJQX9
(せっちゃん・・・・気持ちよさそうに寝てんなぁ)
つんつんと頬を突付くと、刹那は少し表情をゆがめる。
そして聞き取れないほど小さな声で、何やら寝言をつぶやいた。
(せっちゃんも人間なんやし、やっぱ夢見るんよなぁ)
最初は一緒に寝ようかと思って忍び込んだ木乃香。
しかし久しぶりに見る刹那の無防備な姿に、悪戯心が疼いた。
刹那の上に毛布をかけると、折りたたみ式ワンドを取り出した。
「プラクテ・ビギ・ナル・・・・・」
刹那を起こさないよう、小さな声で呪文を唱える。
唱えるのは夢見の魔法。
木乃香は寝ている刹那の夢を覗きたいと思ったのだ。
「夢の妖精、女王メイヴよ、扉を開けて夢へといざなえ・・・・」
ネギに習ったばかりの魔法だったが、無事に刹那へとかかった。
いつもなら魔法抵抗力のある刹那にはかからないのだが、日頃の疲れが抵抗力を下げてしまっていたのだろう。
(少しぐらいなら、ええよね)
木乃香には悪気などまったくない。
そのまま、刹那の夢の中へと入っていった。
*
『・・・・ここはどこやろ?』
刹那の夢の中へと入った木乃香は、見慣れない森の中にいた。
耳を澄ますと、どこからか水の音がする。
流れるというよりも流れ落ちるといった音で、滝が近くにあるのだと木乃香にでも容易に予想する事ができた。
587 :
刹那の過去夢:2008/03/25(火) 20:26:15 ID:xVOYJQX9
『なんやか、夢にしてははっきりしとるなぁ・・・・どないな夢見とるんやろ?』
意識だけとなった木乃香の身体は、自然と滝の方へと引き寄せられていった。
『あ、せっちゃんや。小さいなぁ・・・・ありゃ?』
木乃香が見つけた刹那は、滝の下で翼を広げていた。
容姿はかなり幼く、木乃香と刹那が出会った時よりも小さいように思えた。
「なんで・・・・ウチのは、しろいん・・・・?」
刹那は自分の背中に生える白い翼を見て、悲しげな顔をする。
刹那が暮らす村で白い翼を持つのは、刹那だけだった。
自分と同じようにほかと違う人といえば、翼すら持たない母のみ。
父は村の烏族たちと同じように、黒い翼を持っていた。
「ウチ・・・・ニンゲンでも、ウゾクでもあらへん・・・・」
まだ小さな刹那だが、それでも周りの冷たい視線で自分が異端だという事は知っていた。
人間でも妖怪でもない自分にも、幼いながらにも気付いていた。
「これさえ、くろければ・・・・!」
刹那は羽根を掻き毟る。
物心ついた刹那は、よくこうやって一人になり羽根を毟っていた。
それはストレスとコンプレックスによる行動。
自然と流れる涙は、痛みよりも精神的なものだった。
むしろ翼の痛みが心の痛みを和らげていた。
「ひっく・・・・あかん、かえらな・・・・ははうえが、まっとる・・・・」
すっかり沈んだ太陽を見て、刹那は水から上がる。
夕飯までには戻ってくるようにと、母親に言いつけられていたのだ。
重い足取りで、刹那は自宅へと歩き出した。
588 :
刹那の過去夢:2008/03/25(火) 20:28:08 ID:xVOYJQX9
「・・・・ただいま」
「刹那? どこ行ってたん、遅かったやな――」
帰りの遅い娘を心配していたのだろう、刹那の母親はすぐに家の奥から出てきた。
叱るつもりでやや強張った顔で出てきたが、刹那の血に塗れた翼を見て驚いた顔に変わった。
「翼・・・・またやったんやね・・・・」
「ははうえ・・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」
泣いて謝る我が子に、母親は怒らなかった。
母親は刹那を優しく抱き寄せ、『治癒』と書かれた札を刹那の翼に張る。
刹那の母親は陰陽道にも通じていた。
「刹那、よく聞き?」
母親は泣きじゃくる刹那の顔を見て、言い聞かせる。
刹那も嗚咽を漏らしながら母親を見た。
「翼が白うても、刹那は刹那や。他の誰でもないん、あなたなんやえ」
「う、ひっく、でも・・・・ちちうえはヨウカイで、ははうえはニンゲンで・・・・」
「堪忍な・・・・でも私たちは刹那が生まれて嬉しかったんよ」
・・・・カタン
突如、部屋の奥から物音がした。
刹那の父親も帰宅していたようだ。
烏族でありながらも、人の姿をしている妻と我が子を優しげな表情で見ている。
父親のその雰囲気は、どこか他の烏族と違った。
「おいで、刹那」
「・・・・はい」
尊敬する父に呼ばれ、刹那は怒られる事を覚悟して恐る恐る近づく。
しかし予想に反し、刹那は父親の大きな翼に包まれた。
589 :
刹那の過去夢:2008/03/25(火) 20:29:00 ID:xVOYJQX9
「大事な娘だよ、刹那は。だから・・・・自分を苛めるのはやめてくれないか?」
「・・・・でも・・・・」
「どんな者であれ、苛める事は愚かな事。例え自分でもだ。・・・・わかるな?」
刹那ははっとして、父親を見上げる。
やはり父親は優しい顔をしていて、刹那を見下ろしていた。
それだけで刹那は罪悪感をいっそう感じ、父親にしがみついた。
「・・・・はい・・・・ごめんなさい・・・・」
「苛めてしまった自分に謝りなさい。・・・・さぁ、ご飯にしよう!」
「はいな、温めなおしてくるな」
刹那は優しい両親に連れられ、温かい家に戻っていく。
そのとき見えた刹那の顔は、とても嬉しそうだった。
『――これは・・・・ネギ君が言うてた、記憶の夢・・・・?』
意識のみとなって刹那の夢を覗いていた木乃香だったが、これがただの夢でない事に気付いていた。
人が定期的に見るという、思い出の夢。
思い出を維持するための夢なのだが、その大事な夢の中に紛れ込んでしまったようだ。
『この夢は見たらあかん気がする・・・・でも、どないすれば・・・・』
木乃香は魔法のかけ方は習ったが、解除の仕方は習っていなかった。
夢から抜け出そうと慌てるが、それは叶わない。
そうこうしている間に夢は、次の場面へと切り替わってしまった。
*
刹那はその日も滝の下に来ていた。
しかしもう羽根を毟る事はしていない。
ただこの場にいる魚や虫、小鳥たちと遊ぶ事が刹那の日課だったのだ。
「おーい・・・・おかしいなぁ、なんでみんなおらんのやろ・・・・」
590 :
刹那の過去夢:2008/03/25(火) 20:30:25 ID:xVOYJQX9
しかしいつも遊んでいる動物たちが、今日は姿を現さない。
刹那は不審に思いつつも、石を投げたり魚を追いかけたりしていた。
――ドォン・・・・
「な、なんや・・・・?」
不意に刹那は、村の方向が騒がしい事に気付いた。
風に乗って漂ってくる臭い・・・・そして空に向かってのびる黒い雲のようなもの。
「村が燃えとる・・・・?」
何かが燃えて、煙が昇る。
母親が寝る前に話してくれた物語では、そのような事を言っていた。
刹那はそれを思い出し、信じられない心境のまま村へと走り出す。
異端児といって苛められていても、生まれ育った村は放っておけなかったのだ。
「な、なんやこれ・・・・」
燃える村に、転がる烏族たちの亡骸。
飛び散る血と、焼ける死体の臭い。
その村の光景はまさに・・・・地獄だった。
「は、ははうえ・・・・ちちうえ・・・・っ!?」
両親を探す刹那だったが、不意に何者かが向かってくるのに気付いた。
その男は袴姿で刀を持っており、刹那を見ると驚いた顔をする。
しかし刹那の白い翼を見ると、急にその表情は殺意に満ちたものとなった。
「やっぱり・・・・しろはダメなん・・・・?」
刹那の問いかけには答えず、男は剣を抜き振り下ろす。
刹那は男に怯え、動けなかった。
「や、やだ・・・・ちちうえ――!」
591 :
刹那の過去夢:2008/03/25(火) 20:33:31 ID:xVOYJQX9
――ザシュ。
血が吹き出る音。
しかし刹那に痛みはなく、目の前の男が倒れた。
代わりに目の前に立っていたのは、黒い翼を持つ見慣れた姿。
「大丈夫か、刹那!」
「ちちうえ! ・・・・ははうえ・・・・?」
凛々しく立ち振る舞う父親の腕には、力無い血まみれの母親の姿。
あの優しい顔はもう無く、眠るように目を閉じていた。
「ここは、もうだめだ。・・・・刹那」
「・・・・っ」
頭の中が真っ白になり、硬直する刹那を父親は抱き上げる。
そして翼を広げた。
(なんで・・・・むらが・・・・ウチのせいなん・・・・? ははうえは・・・・?)
初めて見る災害に、刹那は意識を失う。
気を失う刹那が最後に空から見た村は、業火に包まれ原形を留めていなかった。
そして母親の元気な姿を見たのも、この日が最後だった。
後半へ KEYWORD PUZZLE(
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わっふるわっふる
593 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 01:57:45 ID:JnundNSl
それから半年が過ぎた。
刹那は父親に、人気のない森の中で妖怪として生きる術を学んでいた。
翼を隠す術や、空を飛ぶ術。
村にいたとき父親は村の為に尽くしていたので、こういった事を教える事が出来なかったのだ。
「もう飛べるようになったのか? 刹那は上達が早いな」
「ウチ、父上みたいにもっと飛べるようになりたいん!」
「ははは、刹那ならすぐ私に追いつくよ」
あの災害の後も、刹那の父親は変わる事はなかった。
母親を埋葬したあと少し涙を見せたが、それもその日のみ。
落ち込む刹那を優しく、そして厳しく・・・・一人で生きるために育てていた。
刹那もそんな父についていき、半年でやっと明るい表情を取り戻した。
「む・・・・?」
そんな生活が続いたある日、夜中に父親が立ち上がった。
もう夕食も済ませ寝るだけだったので、刹那は不審に思う。
「ちちうえ?」
「家の中でもう寝てなさい。すぐ戻るから」
父親はそれだけ言い残し、刹那を置いて家を出る。
家の外では人間の男が一人、父親を待ち構えてた。
眼鏡をかけたその人間からは殺意が漂い、普通の来客ではない事が伺えた。
「誰かと思いきや・・・・人間が何用か?」
「ここに烏族が逃げ込んだと聞いたので」
ピクッと刹那の父親は反応し、人間を睨んだ。
そしてお互い距離を測りながら、相手の動きを探る。
刹那の父親も殺意を漲らせていた。
594 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 02:00:02 ID:JnundNSl
「・・・・ここに近寄る人たちを殺したのは、お前だな?」
「人間は私たちを殺す、だから殺される前に殺っただけの事」
「そうか・・・・」
それを聞いた人間は、木刀袋から刀を取り出す。
その大きな野太刀をみた刹那の父親は、急に目の色を変えた。
「その刀・・・・貴様、神鳴流か!」
「その通り。お前の退治を依頼された」
「・・・・我が村の民と、妻の仇・・・・!」
刹那の父は剣を抜く。
神鳴流の剣士も刀を抜いて構えた。
「よくも・・・・我が故郷を・・・・返せ、我が仲間を・・・・妻をぉぉっ!!」
「っ・・・・!」
刹那の父親の姿は、妖怪の凶暴さがあらわとなっていた。
刹那を想って胸の奥へと閉じ込めていた感情――復讐の念が、仇の姿を見て燃え上がったのだ。
静かな炎のように刀を振るう剣士と、烈火の如くに激しく剣を振る烏族。
「――悪事を請け負っていた村だ、いつかは滅び行く村だったかもしれない・・・・。
だが貴様らに対してこの憤りを抑える事は、もうできぬ・・・・!」
「・・・・心が納得しない、その気持ちは私にもわかる・・・・」
「貴様らがいなければ、妻は生きていた!」
烏族の中でも強い力を持つ、刹那の父。
だが・・・・今回は分が悪かった。
相手は数年前に『紅き翼』として有名となった、英雄の一人だったのだから。
「神鳴流、奥義・・・・!」
「ウガァァァ!」
595 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 02:02:44 ID:JnundNSl
しかし二人はこの時、何かを感じ取っていた。
種族が違う二人でも・・・・大切な何かを守ろうとするお互いの信念を、戦いの中で見出していたのだ。
そして大事なものを失ってしまった、お互いの苦しみも感じ取っていた。
「――神鳴流、貴様も・・・・何かを失ったか」
「・・・・朋友を。まだどこかで生きていると信じてはいるが」
「ふ・・・・希望があるのは羨ましい限りだな・・・・」
さらに小半時ほど剣を交え、二人は互いを認め合った。
最後の一撃が決まる頃には・・・・片方は死に、片方は生きるという悲しい結末が待っていようとも。
ザン――
結末を告げる音が森に響く。
黒い羽根が散り、刹那の父親は地へと落ちた。
「・・・・すまない・・・・こうするしかなかった・・・・」
「これも運命・・・・だがお前は・・・・他の神鳴流とは違った、何かを感じる・・・・」
「・・・・ちちうえ・・・・?」
「っ、子供?」
その結末を、刹那は見ていた。
騒がしい外が気になり、我慢ならずに出てきてしまったのだ。
倒れる父親の身体と、刹那を見て驚く人間の顔。
「ちちうえ!!」
「せつ、な・・・・」
「この子は・・・・ハーフ・・・・?」
剣士には目にもくれず、刹那は父親に走り寄る。
神鳴流の人間は刹那の姿に、自分の娘の姿を重ねた。
「人間・・・・一つ聞きたい。お前にも、子がいるか・・・・?」
「・・・・あぁ。ちょうど同じぐらいの娘が」
「そうか・・・・お前の守ろうとするのは、私と同じであったか・・・・がはっ・・・・」
596 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 02:05:10 ID:JnundNSl
肺に血が溜まり、呼吸も困難な状態で刹那の父親は言葉を続ける。
その目にもう殺意は無い。
一人の父親として、剣士に話しかけていた。
「――ずっと、悩んでいた・・・・この子を妖怪として生かすか、人間として・・・・がふっ・・・・生かすか・・・・。
・・・・頼、む・・・・この子の命だけは・・・・私と妻の、っつな、だけは・・・・」
「――この子は人間。神鳴流が人間に手を出す事はない・・・・安心を」
「感謝、す・・・・この子の、人間の、父、を・・・・――」
そして刹那の父は、最後に刹那を力なく抱きしめて息絶えた。
大切なものを残して逝く、無念を残して。
「ちちうえ・・・・、っ・・・・」
一度村の惨事と母の死を見ている刹那は、すぐに"父は死んだのだ"と察する。
血で染まる父の剣を持ち、神鳴流の男に刃を向けた。
「その剣を持つには、君は幼すぎる」
「く、くるな・・・・!」
「父に似て、やや乱暴な口調ですね。・・・・私の名は詠春と言います」
幼い容姿とは似つかない威厳ある刹那の口調に、剣士は息絶えた烏族と刹那の姿を重ねる。
しかしそのときに刹那に見せた剣士の表情は優しく、刹那の警戒を一瞬和らげた。
その隙に人間は刹那から剣を取り上げた。
「あっ・・・・!」
「あなたを殺すことはしません。・・・・この剣は私が預かります」
「かえ、せ・・・・!」
「あなたと・・・・私の娘が、一人で生きていけるようになった時に返します」
詠春は取り上げた剣を刹那の前に出す。
しかし今返すわけではなく、預かるとしっかり公言した。
「返した時・・・・その時にこれで、私を殺しなさい」
「・・・・!」
597 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 02:06:02 ID:JnundNSl
詠春はそう言い終えて刹那を抱えると、刹那の父に背を向けて歩き出す。
本当ならば刹那の父親を埋葬したかったのだが、それは神鳴流としてはできなかった。
妖怪に情けをかける事は、禁じられていたのだ。
「離せ・・・・!」
「・・・・あなたの父に頼まれ、あなたの人間としての父親を引き受けました」
「い、いやだ・・・・!」
「嫌だと言っても私は約束を守ります。・・・・同じ父親として」
そう言いながら、詠春は一枚の札を取り出す。
詠春がその札に気を込めると、刹那に急な眠気が襲った。
「・・・・刹那君、と言いましたか。ぜひ私の娘とお会いになってください」
眠気でもう何も喋れない刹那に、詠春は優しく声をかける。
その顔を見つつ、刹那は深い憎しみと共に眠りについた。
*
「・・・・ウチのお父様が・・・・せっちゃんのお父さんを・・・・」
刹那より先に目覚めた木乃香は、しばらく放心状態で刹那の顔を見ていた。
外はもう明るく、小鳥のさえずりが聞こえる。
ちょうど刹那が目覚める時間だったので、夢も途切れたようである。
「ん・・・・お、お嬢様!?」
「あ・・・・」
慌てて立ち去ろうとした木乃香だったが、その動揺による気の乱れで刹那が目覚めてしまった。
刹那は木乃香の姿を確認すると、大慌てで起き上がろうとする。
が、その前に木乃香が刹那に頭を下げた。
「か、堪忍!!」
「・・・・え?」
「ほんま・・・・何て言えばええかわからへんけど・・・・堪忍・・・・!」
598 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 02:07:04 ID:JnundNSl
木乃香はさらに大きく頭を下げる。
自分がしたことではないが、自分の父親がやってしまった事だ。
謝らずにはいられなかった。
「えと、あの、怒ってなんていませんよ? 驚いただけで・・・・」
「せやかて・・・・あ・・・・」
木乃香ははっとして頭を上げる。
刹那は木乃香に夢を覗かれた事を知らないのだ。
さらに目覚めた直後に木乃香がいた事に驚き、夢の内容すら忘れている状態。
それに気付いた木乃香は、なんと言えばいいかわからず再び視線を下げた。
「えと、あの・・・・何か約束、してましたっけ?」
「ううん、ウチが勝手に来ただけやけど――・・・・ひとつ聞いてええ?」
「はい?」
木乃香は一息ついて、自分の心を落ち着ける。
そして先ほどの夢を見て気になった事を、遠まわしに聞くことにした。
なんとなく、直接聞いてはいけないような気がしたからだ。
「せっちゃんの刀・・・・お父様のなんやよね?」
「あ、はい。詠春様がまだ退魔の仕事を行っているときに、使っていたものですね」
「なんで・・・・せっちゃんがもっとるん?」
刹那が木乃香の父・詠春を殺すつもりならば、危険な刃物を刹那に与えるはずは無いだろう。
それなのに殺人に最適な得物――さらには自分が使っていた大切な物を刹那に譲った。
それが木乃香には理解できなかったのだ。
「えっと・・・・長が使用していた得物を私が持つのは、ご不満ですか?」
「ちゃ、ちゃう、そんなんやなくてな・・・・ちょっと気になってもうただけで・・・・」
刹那は少し考える。
その横顔を木乃香は注意深く見ていたが、刹那の顔に怒りなどはまったくなかった。
599 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 02:08:00 ID:JnundNSl
「・・・・とある約束を果たすための担保・・・・と言ったところでしょうか」
「約束・・・・?」
「私と詠春様が出会った時の約束です。詠春様に預けている物がありまして、一人前になったら返してくださると・・・・」
『返した時・・・・その時にこれで、私を殺しなさい』
刹那の言う約束と、先ほどの夢の詠春の言葉。
嫌なほどに一致していて、木乃香は心が激しく高鳴るのを感じた。
先ほどの夢が本当ならば、刹那は大人になった時に詠春を殺すという事なのだから。
「か、返してもらったらどうするん・・・・?」
「え?」
「大切な、ものなんやろ・・・・?」
予想外の返しだったのか、刹那はキョトンとした顔になった。
そして少し唸る。
ほんのわずかな間だったか、この間が木乃香にはとても長く感じられた。
もし『詠春を殺す』と答えられたなら、どう反応したらいいのだろうか。
自分の父・詠春に父を殺された刹那に、復讐を止めろなんていうのもおかしい気がした。
肉親を殺された者にしかわからない傷も、刹那には多くあるのだろうから。
「――そうですね・・・・特に何をするとか、考えてませんでしたが・・・・お墓参りですかね」
「・・・・え?」
「父の形見なんですよ、詠春様が預かっていらっしゃるのは。私の父と詠春様は――お知り合いだったようで」
夢を見られた事を知らない刹那は、苦笑いしながら言った。
しかし刹那の言葉は、修学旅行の時に聞いた話とは若干矛盾がある。
それに加え先ほどの夢を見ていた木乃香には、『刹那の父と詠春は知り合い』が嘘である事に気付いていた。
少し怪訝そうな顔をした木乃香に、刹那は言葉を続ける。
「えっと・・・・神鳴流に預けられるのを嫌がった私に、そういう条件をつけたんです。今では感謝してますが」
「ほんで、返してもろうたら・・・・墓参りするだけなん?」
「はい。最初はもっと違う目的のために強くなろうと思ったのですが・・・・今ではもう、どうでもいい事です」
600 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 02:11:43 ID:JnundNSl
親の復讐をどうでもいいと笑っている刹那に、木乃香はどう返していいかわからない。
偽りなのか真なのか。
ただそれを聞くことで精一杯だった。
「どうでもええの・・・・?」
「ええ。きっと・・・・その、貴女という人に巡り会わせてくれたから、でしょうね」
「っ・・・・!」
照れた様な笑顔で、刹那は木乃香の手をとった。
きっと今の刹那の中でも、過去の思い出が蘇っているのだろう。
しかしその憎しみを上回るもの・・・・それがあるから、乗り越えていけるといった。
そんな刹那の強さに、木乃香は目が熱くなる。
そして自分がその理由であることが、なぜかとても嬉しく感じられた。
「――あ、いけない、お嬢様! 遅刻してしまいます!!」
「あ・・・・へ、部屋もどらなあかんな、ウチ」
「・・・・あれ? それよりどうして私の部屋に?」
「え、えと、そのー・・・・お、驚かせよう思ってな!」
木乃香は涙を隠し、刹那に夢の事を話すのはやめた。
刹那の本当の胸の内はわからない。
問い詰めた所で、本当の事を話すとも限らない。
「せっちゃん、ほな後で!」
「あ、はい、すぐ迎えにあがりますので!」
・・・・それでも、木乃香と会えた事で復讐をやめたといってくれた。
木乃香は刹那のその言葉を信じたかった。
「このかー! なにやってたのよー!」
「堪忍、せっちゃんの部屋で寝過ごしてもうて!」
木乃香は涙を拭き、笑顔で答える。
何もなかったかのように、何も見なかったかのように。
601 :
刹那の過去夢:2008/03/26(水) 02:13:20 ID:JnundNSl
「僕、職員会議があるので先行ってます――わわっ!?」
「お嬢様、迎えにあがりました!」
「せっちゃん早っ!」
「刹那さん、遅刻よ遅刻! 木乃香とこんな時間まで何してたのよー!」
――今日もまた、日常が始まる。
だがいつもの朝とは違い、木乃香はひとつ心に誓った。
もし刹那が一人前になった時に、悲劇が起こらぬよう・・・・刹那の傍に在り続ける事を。
学園のチャイムが木乃香を応援するように、遠くから鳴り響いた。
FIN KEYWORD PUZZLE(
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リクエスト。
期待に添えられたかわからないのですが。
おお!GJ!文才ありすぎてウラヤマシスw
刹那の過去原作で載る予定だったのが無くなって悔しくてしょうがなかった
俺にとってはすごい感動しました。ありがとー
603 :
うpろだ”管理”人:2008/03/26(水) 19:47:47 ID:JnundNSl
うpろだのサーバー初期化が行われたので、バックアップをうpしておきました。
>>582のデータを残念ながら取り忘れてしまったので、ぜひもう一度うpしてくださると嬉しいです。
業務連絡でした。
sage忘れゴメンナサイ
霜月、十九。天候、雨。
靄がかかったような記憶の乱れ。少量の動作で息切れる。
湿気の所為か、今朝見たら筆がかびていた。日当たりのいい場所、探す。
羽根を使うべきか迷う。極力その私用は控えたいけれど、今の体調がその判断は間違いだと指摘している。
何も消したくはない。でも、知らない思い出が増えていく。
酷く複雑な気分だ。けれど、これが事実であり現実だという事を僕はその瞬間まで保持し続ける必要がある。
同月、二十三。天候、晴。
体調、極めて良好。
一昨日の日記の記述に違和感。
忘れてしまう事がこんなに絶望的なことだとは思わなかった。もしかしたら書き残しがありはしなかっただろうか。そんな後の祭とも杞憂とも知れない憂鬱に襲われてばかりで、体調は良くても気分は悪い。
分単位で残しておきたい。容量の問題ではないことは理解している。
今はっきりと残っている記憶でさえ消えてしまうなんて本当に信じ難い。書き残すことに限界を感じる。
同月、二十四。天候、晴。
何年単位で消費するのかの配分が掴み切れない。
うかうかしていれば僕の限界が来てそこだけぽっかりと抜け落ちてしまう。
だがひとつだって無駄には出来ない。僕自身に掛かっているのだろうか。気が付いていない記憶の陥没がある可能性が怖い。
手が墨だらけで、黒い。時間が無い。記憶の保存にばかり手を回していられるわけでもないのが悔しい。やるべきことは山より高いのに僕の力は全く以ってそれに追いつけない。
間に合わないのか。気魄が足りないのか。
酸味が恋しい。一通り済ませたら仕入れておこう。
同月、二十七。天候、曇。
空が嫌に仄暗い。快晴なら少しは気分も晴れるのに。
カラスが軒先に止まった。羽が黒いのが癇に障る。
捻り殺してやろうかと思ったけど、やめておく。飛び立った所に足下の石を投げつけて殺した。
呆気なくカラスは死んだ。だから屍骸を焼いた。燃えが悪かった。
生きていたんだな、と思った。
*****
鉄の味がする、と思った。
釘をぐじゃぐじゃに丸めたものを口内に放り込まれたみたいだ。それで口の中が切れているような気さえする。
けれど、鉄はおろか釘だって口に入れたことは一度だってない。それなのに感覚は間違いなくこれは鉄だ、と主張していた。
……わかっている。
口の中で血が流れているからそう思うんだ。
どこかで口を切ったんだろう。ぬるぬるするような、熱いような……、とにかく気分のいいものではない。
世界が闇で構成されていて何がなんだかわからない。今が昼か夜か、死んでいるのか生きているのかすら。
記憶がぷつりと途切れている気がする。頭が痛い。
頭が痛い……?
違う、どこが痛いのか本当は分らない。でも多分どこかは痛い。
血が出ている。沢山出ている。
どこから出ている?どこが切れている?
わからない、わからない、わからない。
此処はどこなんだろう。少し暖かい気がする。音が聞こえない。夢を見ているのかもしれない。
夢ならもう少し目覚めのいいものを見させてくれてもいいだろうに、こんな訳のわからない闇では夢を語る資格を問いたくなってくる。
望む夢なら即座に答えることが出来るから叶えてくれないか。会いたい人がいるんだ。
私のことをまるで忘れてしまったかのように見えたけれど、でも。
きっと大丈夫だ。何の根拠も確証もないけれど、断言する。
アスナさんも居る。だからお嬢様は、きっと…………。
……ああ、だけど、
今…………何処に?
……………………………………。
「起きた?」
再度消え掛けた意識を引き摺り戻したのは、聞き覚えのある声。霞む目が声の主を捉えようと虚ろに動く。
「死んでる筈はないと思うんだけど」
少し広めの和室。障子を透かして柔らかい光が入ってくる。
見慣れない天井が広がる其処に見覚えはなかったが、刹那を諭す人物には間違いなく見覚えがあった。
見覚えがあったどころか、ついさっきまでコレに殺されかけていたのだ、忘れられる筈がない。
前髪で覆われた陰気な印象を与えるその顔を見た瞬間に全ての記憶は舞い戻る。刹那は一瞬にして意識を尖らせた。
「が、…………っ、?!」
反射的に起き上がろうとしたが、腹部に今まで経験したことのない程の激痛が走りそれは無駄に終わった。
「駄目だよ君。死に掛けてたんだから」
声の主は穏やかな口調でそう淡々と言った。穏やかでない事項を穏やかな声で言うのでそれはどこか現実味が薄い。
声を発することも難しい激痛に数秒耐える。息をするだけで抉られるように痛んだので目を瞑り息も止め、腹を抱えるように背を丸めた。
背中ががら空きなのが、剣士である桜咲刹那にとってこの上ない屈辱だった。
痛みに慣れていないわけではない。職業……と言っていいのかはわからないが職業柄怪我には慣れているし、流す血に恐怖したこともない。
だが、今刹那を苦しめる激痛は文字通りのものだった。耐える、耐えられないという問題ではない。
……額を大粒の脂汗が流れる。
どろりとしたそれは額から離れずにこの苦痛を他者にも分り易い形で視認させるために齎されたかのようだった。
ぎりぎりと歯を噛み締めてただ耐える。
敵を前にしてこの有様なのか、と自身に檄を飛ばすが全くの無駄だった。痛みというものは自制が利く類の感覚ではない。精神力で痛みを緩和出来るのならば刹那はとうに走り回れていることだろう。
長い長い数秒の後、男が口をついた。
「やせ我慢は良くないよ。痛いのなら痛いと言ったらいいんだ。
……ああ、でもある種の鳥なんかは怪我を隠すっていうからねぇ。君もその例に漏れず、なのかな」
鳥であることを前提に話すこの男に敵意を込めた眼差しを送る。が、それは彼の言う通りやせ我慢から来る虚勢であった。
「痛いだろ?腹を貫かれたんだ。いや、痛くないはずがない。
僕はそんな間抜けな真似は晒さないけど、実際腹を何かが貫通したとしたら痛いだろうなあ、とは簡単に予想が付くね」
ふふ、と薄気味悪く笑うソレを出来る事なら斬り付けてやりたいのだが、身体は回復に全てを回してくれと懇願していた。
「……痛そうだね」
抑揚のない声がぽつりとそれだけ零した。
「死ぬのかな、君」
……………………死。
言葉にすることでそれは急に目の前の現実として刹那の前に提示された。
死ぬのかもしれない。
今、ここで終わるのかもしれない。
この男がほんの少しその気を起こして腹を蹴り飛ばしでもしたのなら。
……その先は容易に想像出来た。
死ぬのか。
此処で、死ぬのか。
生まれた意味さえ持てずに、何の理解もなく理由もわからず死ぬのか。
あんまりじゃないか、そんなのあんまりだろう。
やりたいことがある。
守りたい人が居る。
その手を引いて、出来るなら一緒に歩いていきたい人が居る。
「死んで……たまる、か……ッ!!」
唇を噛んだ所為で端に血が滲んだ。
こんな所で死ぬわけにはいかないんだ、死ぬわけにはいかない、絶対に!!!
「…………死なないんだ、君」
感情の篭らない声が蹲る刹那の真上で響く。
「残念……ながらな、死ぬ予定は今の所……っ、無い」
「……そう」
男はそう言ってから腕を伸ばし腹部にほんの少し、触れた。サラシを巻かれたそこは赤黒く血で染まっている。
「死にたくないんだね、君は。
…………ふふ、僕は神になんかなろうとは思わないけど、生殺与奪は今僕の手の中だ。たまにはそれに手を向けるのもいいよね」
男の手が鈍く光ったように見えたのはほんの一瞬。
「…………、……?!」
「どうかな、もうそこまで痛くないんじゃないかなあ」
「何、を…………」
「無理に喋らない方がいいと思うなぁ、……ふふ。口の中だって切れてるみたいだし喋ると痛いんじゃない?」
ぽたりと口の端から血が垂れて、服の裾に落ちた。
その血が染みた箇所、ちょうど臍の辺り。相変わらず血は滲んだままだが、痛みはほぼ消え失せていた。それでもぴりぴりするような痛みは残っているが、それでもほんの数秒までとは雲泥の差だった。
「何を、した…………」
「何って、瀕死の君を助けてあげたんだよ。
あはは、腕ほどの太さのもので腹を貫かれていたらどんな医者もお手上げだよ?君、僕が居なかったらあの時に冥土に旅立ってる頃さ」
響くような鈍痛に堪えながら男を睨む。
「な、何のつもりか知らないが……、」
言いかけた刹那を制し、男が口を差す。
「好意は受け取っておきなよ、やり方とか細かいことは置いておいてさ。
そんな身体じゃ何も出来ないってことはわかっていたんだろう?」
言われるまでも無く、勿論分っていた。
先程まで蝕むように精神を削ってきた痛みがあれば気魄さえ霞んでしまうかもしれない。
「君、僕を鷹峰だと思ってるんだろうけど僕は兼定だよ。鷹峰は老人達の溜り場に戻った。ああ、僕が追い払った、の方が正しいかな。
どうでもいいかもしれないけどね。同じ顔だから見分けもつかないし証拠も無いけど言っておくよ、僕は近衛兼定。あれとは違うから」
その鷹峰とやらとほぼ同じ会話をしたな、などと思う余裕もなく刹那は立ち上がった。根本的痛みは消えたが、動けば膝ががくがくと震える。
腹を貫かれたのは事実だ。痛みと言うよりは焼けるような熱さ。……はっきりと覚えている。
だが、サラシを巻かれたそこは完全に塞がれていた。
大分血が滲んではいるものの、間違いなく瀕死などではない。戦闘はまず無理だ、と感じた。
夕凪、夕凪はどこだ……?
「君は安静って言葉を知らないのかな」
兼定が刹那の肩に指一本程触れると、まるで力を吸い取られるように刹那はその場にへたり込んだ。
「血が滲むから無理はやめてくれると嬉しいな。
君さ、自分がどうなったか覚えてないのかなあ」
兼定は顔を覗き込むようにしゃがみ込んだ。しかし前髪の向こうにあるだろう表情はまるで厚い霧に覆われているかのように窺い知る事が出来ない。
「君ね?鷹峰に殺されかけてた……、いや、ほとんど殺されていた、と言った方がいいかな。
だって君、腹を貫通されて生きている方がおかしいんだよ?
……ふふ、二度目の生はどう?」
「……二度、目の……生……?」
蹲りながらも刹那の目は縦横無尽に部屋を走る。
視線が突き刺さる先、兼定の手許に夕凪があった。
「普通に考えたらさ、鷹峰が君にああした時点で君は死んでいたって何ら不思議はなかったんだけどね、そこは人為らざる者の潜在的生命力、とでも言うんだろうね?
調子に乗ってた鷹峰の脳髄に一撃浴びせて君を助けたはいいんだけどその時はさっき以上に瀕死だったから僕も困ったよ」
面白そうに話す兼定を見ながら、刹那はあることに気が付いていた。尤も、口にも態度にも出す事はなかったが。
「僕さ、血が付くのって嫌だから抱えるわけにもいかなくてね、だけど放って置いたら君死んじゃうし。ふふ、困ったなあ、あれは。
だから一時的にだけど君の傷口周辺を魔力で覆ってから運んだんだ。君が目を覚ましちゃったからそれ、解けちゃったんだけどね」
「…………だから二度目の生、か」
「僕がいなかったら死んだのと同然だったんだから、そう言っても構わないだろう?
ふふ、君はそれでも僕に感謝の意を示してくれるとは思えないけどね」
「…………いや、どんな意かは知らないが……助けてもらったのは事実らしい、礼は通す」
「へぇ?……僕に?」
兼定が少し笑った。
「?
不服か」
「いや?予想外なだけだね、……ふふ、本当……大いにね」
「感謝する。
どんな裏があるか知らないが命は一つだ」
兼定は表情を変えた。変えた、と言ってもそれは口元の微妙な変化であり、刹那は分っていなかったが。
「君は芯根から剣士なんだね。
こんな会話交わす暇があるならさっさとコレを僕から奪って逃げるなり斬りかかるなりしたらいいのに。馬鹿は長生き出来ないって知ってる?」
刹那は腹部を片腕で庇いながら少し笑った。
「お前にも言える事だ、私を助ける暇があったなら、いや、暇以前に見殺しにしておけば良かっただろう。馬鹿は長生き出来ないんだろう?」
「……ふ、あは、ははは…………、そうだね、常識で考えたらね。
でも僕は僕の信念に従って行動しただけだし、それに僕にとって君は脅威には成り得ない。僕のほうが君より何倍も強いよ」
ふ、とその言葉を付してから刹那は応える。
「よもや同じ顔の男二人、その両方に殺されかけるとは思っていなかったが」
「ふふ、貴重な体験が出来たね?
だけど僕は君を殺そうなんて思っていないよ、鷹峰はそうだったみたいだけどね」
…………妙な空気だった。
ついさっき―刹那の感覚なので本当についさっきなのかどうかは定かではないが―まで殺気を滾らせていた二人が談笑とも取れる会話をしているのだから。兼定の弁では殺す気はなかった……そうだが。
しかし、内容は極めて物騒だった為に一層その空気を妙なものにしているのだった。
「その割には窒息死寸前だったんだが」
喉を摩る仕草をしてから言う。
「力加減がね、難しいんだ。直接掴んでいるわけじゃないからね」
「どうやったんだ、アレは?間合い外からの飛び道具は反則だろう」
「それは言えないね、僕にも秘密はあるよ。飛び道具か。面白い言い方をするな、君は」
くすくす笑う兼定を見ていると、本当に自分はこの男に殺されかけたのだろうか、と思ってしまう。鬱陶しい前髪が覆うその顔は爽やかさとは程遠いが彼の現在の態度は非常に穏やかで紳士的と言えなくもなかった。しかし内容は相変わらずのものだ。
「何故助けたかも秘密に入るか?」
「ふふ、そうだね、最重要機密だ」
「そうか」
それ以上食い付くこともなく会話を切る。
「……ああ、サクラザキセツナさん」
兼定は夕凪を刹那に手渡しながら言った。旧知の友人にするかのようなその動作は一瞬刹那に目の前の人物が敵だということを本当に忘れさせていた。
そっと渡された夕凪を手にし、何とはなしに兼定を見た。
「…………な、なん、だ、?!」
「あはは、だめかな?」
柔らかい声で笑いながら兼定は刹那の頭を撫でてきた。わしゃわしゃと、まるで小さい子供にするように。
175cmはないだろう彼は一般統計から見たのなら決して背が高いとは言えないが、小柄で線の細い刹那と向き合うといやに大きく見える。
その手を払い除けるでもなく、刹那は撫でられるままにしていた。
好きではないが、嫌でも……なかった。
何故そう感じられるのか、誰かに聞いてみたい。そう思った。
それ位、桜咲刹那の中で近衛兼定という存在は自然に受け容れることが出来たのである。
「綺麗な髪だね」
兼定は中腰になり、いきなり頭を撫でられ明らかに戸惑っている刹那を満足そうに見つめる。
そして薄く嗤って、……言った。
「……………………何か、
……………………………………思イ出スカイ?」
開いていた障子から一陣風が入り、兼定の頬を撫でた。ふわりと前髪が風に乗る。
彼の瞳を刹那はその時、初めて視た。
…………間違いなく、知っているものだった。
何かが……疼いた。
恐らくそれは、血の滾り。
抹消された記憶と過去を現在と隔ててきた壁は、この瞬間……音を立てて崩れた。
卵焼きはなんであんなに美味しいんだろう。
高畑先生はどうしてあたしにとってあんなにクリティカルヒットな要素をたくさん持っているんだろう。
木乃香ってなんで可愛くてビューティフォーなんだろう。
刹那さんって何使えばあれくらい色白になるんだろう。
世界は不思議でいっぱいだ、なんて小学生のような疑問を明日菜はしみじみとした面持ちで空に浮べた。
しかし、一番不思議なことと言ったら先ほど明日菜が目にした状況に違いない。
「……………………木乃香…………………………どうしちゃったんだろ、だろ…………」
空が嫌味なくらいに青かった。横たわる叢が青春のにおいを醸し出す。
その中で起こったこと。それはバカレンジャーのリーダーを務める明日菜にとっては想定の範囲外にも程があった。
訳がわからないなんて段階ではなかった。あんな事を誰が信じられるだろう?
唯一無二の親友が自分を見て、言ったのだ。
『どちら様ですか』
「どちら様じゃないわよぉ……、様付けとか……なんなわけ…………?」
油断すると頬を熱いものが流れそうで、それが嫌で。
だから目を堅く、堅く瞑った。
「……正義の味方ぁ……、見てたら助けに来なさいよ……」
誰に向けたか、その呟きは蒼過ぎる空のむこうに消えていった…………。
誰かに助けて欲しいわけではなかった。
ただ、何をしたらいいのかわからなかったのだ。
この意味のわからない状況はなんなのか、何がどうして親友があっち行ったりこっち行ったりしてやっと見つけたと思ったらどちら様?!ふざけるのも大概にしてよ、あたしは3人で帰りたいだけなんだから!!
……刹那さん、泣いてた。逃げてしまった、って泣いていた。
でも、仕方が無いことなんじゃないか、と思う。きっとその予想は当たっている。
それこそ自分の命よりも大切にしている木乃香を放って逃げるなんて刹那さんじゃない。
必ず何かある。それだけは、わかる。
でもそれがわかったところで何が出来るのか、それは全く見当が付かなかった。
自分を蹴り飛ばしたゴリラを蹴り返してやりたい、ということしか浮かばない。全く、これだからいいんちょにお猿さん呼ばわりされるんだ、と苦々しく笑った。
少し笑ったら、なんだか起き上がれる気がした。
「…………いてて」
腰に手を当てながらゆっくりと立ち上がり、首筋を撫でながら辺りを見回す。
超巨大な芋虫が這った後のような無残な松林を見る。
……それだけで尋常でない空気を感じる事が出来るくらいの頭は明日菜にも備わっていた。
どこに行こう、と少し迷う。
今ここは階段からやや外れた叢だ。叢、と言っても背丈はせいぜい15cmあるかないかなので雑草が生えたごく小規模の原っぱという表現の方が似つかわしい。
その幅4m程の原っぱの右側を埋め尽くすように木乃香を肩に背負って駆け抜けた松林が広がる。
思い返せば思い返すほど非日常感がじわりじわりと滲むように範囲を増していく。
いきなり変なミリタリーおっさん集団が現れたかと思ったら大砲みたいなもの出すわびっくりしてたらそれ撃つわで、戦場に迷い込んだか弱い子ウサギ気分満点だった。
…………そうだ、それで……あの変なゴリラが出てきたんだ。
っていうか、あれ、……何?変身?変化?忍術?魔術?
呼び方はどうでもいいが、痩せた男がまるで空を切り取ったかのように突然現れたのだ。
驚いている明日菜の度肝を更に抜いたのは、その痩せ男が一言二言口を開いたかと思ったら毛むくじゃらの動物になったことだった。
その姿をよく観る間も無く明日菜はその図体からは想像も付かないほど俊敏な動きを見せたソレの蹴りを喰らい、跳ね飛ばされたのだ。
木乃香は何としてでも守らねば、と思った明日菜であったがあまりに突然の事にそれすらままならなかった。
松の一本に激突して止まってみれば木乃香は毛むくじゃらマンの手中に入っていた、という訳だ。
ソレは背中から見れば熊に似ていたが、特有の鋭い爪は無く代わりに丸太のように太く逞しい腕があった。
そして顔は獰猛な性格を言葉の代わりに十二分に語る瞳をぎらつかせ、霊長類を思わせる人間的表情を持っていた。二足で立ち、その身長は3m程度優にあっただろうと思う。
黒と茶の中間色の毛がびっしりと身体を覆い、元がひ弱そうな青年なだけに明日菜は余計唖然とした。
とりあえずゴリラっぽいな、と思った。
あのゴリラに何としてでも一矢報いてやりたいが、恐るべき身軽さで木乃香を連れ去った姿を見た今となっては少し決意が揺らぎかける。
「……うー……………………」
頭の中がみっくすJuice並みに、ぐちゃぐちゃだった。階段を上がるか登るか、その判断すら付きかねる程に。
だが、切り替えの早い明日菜は決断すると階段を駆け足で登り始めた。
木乃香を任されたのだ、その木乃香が上に連れ去られたのならそれを追うべきだ。
難しいことはその時考えよう。何がどうなっているのかもきっと後で誰かが説明してくれる。多分。
階段を駆け上り、ふと立ち止まる。
…………そこに、『この場に相応しいとは言いがたい、在るモノがあったから』
それを手にするか否かで、神楽坂明日菜の運命は変わる。
そして、彼女はふたつのうち最悪の決断に手を伸ばしてしまった。
記憶の改竄。
その、かけら。
ああ、誰が死ぬ?
明日菜プッシュしたくなってきました。
なんだか全然終わる気配が見えません。3、4ヶ月かかるような気がします……。
それまでお付き合い戴ければ非常に有難いです。
まとめ管理人さま、いつもご苦労様です。自分では保管していないので助かってます。
>>614 連載乙
例え終わりが3スレとか4スレ先だったとしても、俺は読み続けるぜ
そして、きっと最後には盛大な結末が待っていることをwktkして待ってるから( ゚Д゚)ガンガレ
ク氏復活と言い超大作の投下といい
このスレは相変わらずの豪華だぜ!
引き続き期待してます!
それにしても、どうしたらこんなにストーリー練れるのか?
そのワンダフルな才能を俺にも少し分けてチョーダイ('-^*)/
あとク氏、うぷろだも初期霞んだし、ホストの番外編読ませて下さいませ。頼んます。
618 :
名無しさん@秘密の花園:2008/03/28(金) 16:26:29 ID:3qsdGIxj
神待ちと書きたい衝動に駆られ投下。
1.エロなし
2.タイトルを見て頂ければ解りますが参考資料がありますが少し参考になってません。
3.見たくない人はスルー推薦で。
では次から投下します。短いです。
あぁ、下げわすれたっ…スマソ…
私の名に入った、桜の花が咲いては散る季節。
春は、もう訪れを知らせている…。
花は桜 君は美し (いきものがかりの曲より)
花と聞いて、皆は何を思い出すだろう?
バラ、牡丹、梅、桜…
それぞれの季節と共に咲き誇っては散っていき…
私達を楽しませてくれるもの。
「なぁ、せっちゃん」
「はい、なんでしょう?」
不意に呼ばれ、首を傾げながら続く言葉を聴く。
「せっちゃんの名前とあう、季節やね」
そう。
桜の咲く、季節だ。
「そうですね…」
春は、誰でも光り輝ける。
――お嬢様にしてもだ。
桜の花びらと戯れるその姿は…――
「どうしたん?」
どうやらボーっとしていたらしい。
「いえ、綺麗ですね」
「そやなぁ…今度花見でも、しよか?」
いいですね、と告げる前に
「せっちゃんと二人で」
言われてしまった。
極上の笑みと共に。
「…そうですね」
「ぶーーーー、妙な間はなんなん!?」
膨れるお嬢様ににっこりと笑い返しながら。
「夜の空中散歩でみる桜は綺麗なんですよ」
「このちゃんと一緒で」
赤くなりながら膨れるお嬢様と手をつないで。
今日は、夜の散歩と行こう。
きっと、このちゃんも喜んでくれる。
そう思った。
では乱筆乱文、sage無視失礼しました。m(_ _)m
GJなんだぜ
…続き期待して良いか?
623 :
618:2008/03/29(土) 01:20:40 ID:KVxzGJr2
気が向いたら続きを書くかもしれません。
続くとしたら夜散歩でしょうか…。
暇があればまたきます。
アニメ3期(OVAだが)やる件について
今度こそ作画をなんとかしてほしい
このせつがあるようでない話ばかりだからな・・・。
あ、でもせっちゃんがお祭りのときにあわあわするのは期待できる。
>>625 たしか2期と同じって書いてあったような・・・
181話カットなんて…せっちゃん冒頭にばっちり出てるジャン。
羽ジャン。
アニメ制作が2期と一緒ってだけで作画は違うんじゃ…
てか違っててほしい。
>>627 赤松センセ日記より、181話は載ってなかったと思うぞ?
このせつあまり絡みないね…
動くこのせつもいいが
おまえら考えてみろ
我々には神がいるじゃないか
嘆くより、妄想力を鍛えようぞ
作画見てきたが…2期よりいい
ネタバレスレ
な〜る
キャラデザに関しては安心できそうだね。OADだから作画も安定するだろうし
個人的には初期の絵準拠だったら神だったが
問題はこのせつが無さそうということだ
個人的に明日菜のもみあげが気にくわん
まーそれはどうでもいいとして…
このせつのパクテオ未遂をどうにかしてほしい
せめて指ちうちうだけでも
おもわず月詠にワロタww
アンサイクロペディアとはいえ
笑ってはちょっと許せへんとこもあるなぁ。
そうか?
俺はこのせつへの愛を感じたけどw
せっちゃんに関しては許さへん
クソ笑いました
あの悪ふざけ空間にしてはまだ常識的な記述だと思うぜ。物書き云々は不覚にもワロタ
コレは確かに笑えたけど許せない。
全刹那ファンを敵にまわしたな、書いたヤツ。
あれって、消去とか出来ないっけ?
鳥で済ませばいいものを・・・。
でもやっぱビミョー。激笑えるけど。
この板的なこのせつ分補充したい。
今SS書いてるけど純愛が悲哀になった。
最後はハッピーエンドにしたいけど、悲しい話になりそうな感じ。需要あるのかなぁ。ことと次第によれば百合板にしようかとも考えてる。
まだできてないけどね〜。
心配なら最初に注意文みたいなの書けばいいんじゃないかな。
普通に読みたいから期待して待ってるぜ。
ひとまず頑張るぜ。
改めて見直したら言葉足らずだったようだ。
龍せつが多いんだわ。メインはこのせつなんだけどね。
でも取り敢えず書いてみる。
するーするー。
ああいう奴は反応するとつけ上がるからな・・・。
ここの住民はかなり賢いことが証明されたぜ。
そーいえば、今週号で月詠があすこのせつかえの動向をちろっと洩らしてたね。
道中明日菜や楓に隠れて逢引するこのせつ
でも野性や忍びの勘を誤魔化す事は出来ず覗かれる
むしろ二人に見せつけるかのように刹那を啼かせる木乃香、
まざりたいけど我慢して明日菜を抑え続ける楓、真っ赤になってもがく明日菜
…………ってな妄想が瞬時に脳内に再生された自分はもうおしまいか?
むしろ は じ ま っ た な
うわ何かかぶった!w
あの報告のみで道中の描写スルーかと不安になった今週号。
それはさておき、月詠のいうお姉さまって刹那のことだと思うんだが
修学旅行時の呼称は先輩だったのにどういう心境の変化かね。
それとも、そもそもお姉さま=刹那という前提自体が間違いで刹那以外の誰かを指しているんだろうか。
お姉様って刹那のことじゃないの?
修学旅行で手合わせしてから想いが募りに募った結果…お姉様
赤松が忘れてただけの可能性もある。違和感を感じさせる時点で失敗感が
コスも変わったから教育されたんだよきっと。
そう言うことにしておこう。
これからせっちゃんはお姉様って迫られるのか。
鳥肌たててるせっちゃんもカワユス。
皆の前でお姉さまって呼ばれてからかわれるせっちゃんが見たい
そして木乃香の反応が見たい(黒くない方向で)
月詠「さぁお姉様、存分に戦いましょ?」
刹那「仕方ない…皆さんは下がっててください!」
木乃香「せっちゃん…」
アスナ「頑張ってお姉様!」
楓「頑張るでござるよお姉様」
刹那「(コイツら…)」
月詠が神鳴流から離れたのかもなーとうっすら思った。
同門の先達だからこそ先輩と呼んでたのだろうから、流派を違えたのなら呼び方変えるのもまぁアリかなと。
変えずに先輩で通すほうがよっぽど自然だと思うけどな。
いや、もしかしてこれは本当の姉妹フラグか!?
とか心の底で思っている俺がいる・・・。
でもやっぱりせっちゃんは一人っ子がイイな、(このせつ的に)
OVAシリーズ セツナをねらえ!(月詠的な意味で)
第一話「お姉さまと呼ばせてください」
第二話「お姉さまなんかになりたくない」
以下続刊
そうか…2人はスールか
って事はアレか?
せっちゃんは隊長だけではなく月詠にも仕込ま(ry
…………ゴメン、忘れて
妄想が広がりんぐww
672 :
名無しさん@秘密の花園:2008/04/06(日) 00:47:59 ID:CROOsHUs
>>655のエロプロットが俺の脳内をまだ汚染してるww
だれか書いてはくれまいか?
妄想を文字にするにはちと時間と腕が足りない…。カナシス
全然関係ないけど花見で酒飲まされて
トラになったこのちゃんに美味しくいただかれるせっちゃんネタを考えてました。
もう終わってるな…俺orz
「せっちゃん、ひさしぶりにかわいがったげるな。今夜は寝かせへんえ…………」
「お嬢様……おやめくださいっ……明日菜さん、やっ、楓に気づか……あっ」
「ええよ?気づかれても。それとも見せてあげるのもええかもな。
だってせっちゃんこんなに綺麗やしかわええんやもん、うちが独り占めするのは殺生かもしれへんし」
「お嬢様ぁ…………」
「嘘や。せっちゃんはうちのやさかい、明日菜にも楓さんにも龍宮さんにもぜーったいに渡さへん」
「〜〜〜〜!」
「二人揃って夜中にどこに行くのかと思えば、野暮でござったな。
…………だがこんなにも見せつけられては拙者もまざりたくなってくる。刹那の喘ぐ声、乱れまいと堪える顔、なんともそそるでござるな。明日菜殿もそう思わぬか?
しかし拙者も人恋しくなってくるでござるな…………ああ、真名ぁ…………」
「〜〜〜〜!」
(楓さん、せつなげな溜息つきながら私を弄るのはやめてー!私は刹那さんでも龍宮さんでもないってばー!)
お目汚し失礼。
楓ワロタwwwgjw
675 :
672:2008/04/06(日) 19:24:34 ID:Mn1Y+SCQ
うっはww久々エロ!!GJ!
文字にしてくれてdクス!
でもっ!でもでもっ!
そのせいでさらに妄想が膨らんだ!!!
このせつに飢えた俺には致命傷だゼ。
もうだめポ‥‥orz グハッ
おっし。
妄想とらい。ハフハフ
なんか最近ちょい過疎りぎみだな・・・;
もし今書いている人がいれば、書き途中だからしばし待て!とか言われると
テンションがあがるんだが・・・。
どうだろう?
いちゃいちゃラブラブ系のを描こうとしたら何故か凌辱系になってしまったので封印しましたw
680 :
名無しさん@秘密の花園:2008/04/08(火) 21:31:31 ID:b7/b0RfG
それはそれですてきと思われる。
と言うわけで期待あげ
「お‥‥じょ‥‥。」
「二人になるの‥‥久しぶりやんか。」
そう言いながらお嬢様はすがりつくように私に腕を回した。
夜更けに、眠れないというお嬢様をなだめるつもりで私はお嬢様を散歩に連れ出した。
幸い近くには見通しの良い湖畔があり、私はそこにお嬢様と隣り合わせに座った。
心寂しかった旅も明日菜さんに出会い、やっとお嬢様とも出会うことができた。
後はネギ先生を目指してオスティアを目指すのみ。
敵の手に落ちた悔しさはあるけれど、何よりもお嬢様と離れ、危険にさらしてしまったことが私には悔やまれてならない。
まして念願かなってご無事なお嬢様と出会えた私はこれ以上ない嬉しさに満ちていた。
しかしそのため私はお嬢様が誰よりも不安を感じていたことに気付くことができなかったようだ。
「‥‥せっちゃん。」
歓談の隙間にお嬢様は、私の名を呼びながら、ためらいがちに手を重ねた。
そしてお嬢様の方に顔を向けると、目をつむったお嬢様の顔がすぐそばにきていた。
無言のお嬢様の要求を私は受け入れる。
重なる唇は優しくて、情熱的で‥‥。
「お‥‥じょ‥‥。」
「二人になるの‥‥久しぶりやんか。」
というフリのネタを妄想ちゅー。
お目汚し失礼。
>>682 wktk
リクエストを投下。
性転換ネタなので、ガチな方は回避してください。
ttp://www3.uploader.jp/dl/konosetu/konosetu_uljp00004.txt.html *あらすじ
一日目:
クラス単位で行われる小麻帆良祭に参加する事になった3-Aは、ホスト喫茶を出す事になる。
そしてクラス内投票によって、神楽坂明日菜・釘宮まどか・桜咲刹那・龍宮真名・長瀬楓がホストへと抜粋された。
選ばれた5人は早乙女ハルナと村上夏美の指導を受け、ホストの役を演じきる。
そのおかげで、ホスト喫茶は大繁盛だった。
しかしそのホストたち・・・・特に刹那の人気に、近衛木乃香は大きな嫉妬感を抱いてしまう。
そしてお客の行動についに我慢できなくなった木乃香は、会場を飛び出してしまった。
二日目:
刹那の人気は高く、二日目のホスト喫茶の売り上げも上々。
しかしその人気を嫉んだ上級生が、休憩中の刹那を口車に乗せて連れ去ってしまった。
休憩時間が終わっても戻らない刹那。
刹那の危機を感じ取った木乃香は、大急ぎで彼女の救助に向かったのであった。
*
・・・・若干本編と違いあり。読み直し推薦。
なんという本番飛ばし。だがGJ
萌え死にました。GJ
初携帯で書いてみました。
でも限界。いい加減でスマン。
ク氏のじらし攻撃を受けてアワアワしてました。全くGJな作品です。
と言うわけで駄作を始めから投下します。
ク氏ほど萌えませんが過疎防止と、長編支援のためということで。
因みにエロです。
「お‥‥じょ‥‥。」
「二人になるの‥‥久しぶりやんか。」
そう言いながらお嬢様はすがりつくように私に腕を回した。
夜更けに、眠れないというお嬢様をなだめるつもりで私はお嬢様を散歩に連れ出した。
幸い近くには見通しの良い湖畔があり、私はそこにお嬢様と隣り合わせに座った。
心寂しかった旅も明日菜さんに出会い、やっとお嬢様とも出会うことができた。
後はネギ先生を目指してオスティアを目指すのみ。
敵の手に落ちた悔しさはあるけれど、何よりもお嬢様と離れ、危険にさらしてしまったことが私には悔やまれてならない。
まして念願かなってご無事なお嬢様と出会えた私はこれ以上ない嬉しさに満ちていた。
しかしそのため私はお嬢様が誰よりも不安を感じていたことに気付くことができなかったようだ。
「‥‥せっちゃん。」
歓談の隙間にお嬢様は、私の名を呼びながら、ためらいがちに手を重ねた。
そしてお嬢様の方に顔を向けると、目をつむったお嬢様の顔がすぐそばにきていた。
無言のお嬢様の要求を私は受け入れる。
重なる唇は優しくて、情熱的で‥‥。
「お‥‥じょ‥‥。」
「二人になるの‥‥久しぶりやんか。」
私を放さないとでも言うかのように、お嬢様はしっかりと腕を回す。
私は捕らえられたまま動くことはできなかった。
わずかにふるえて見えるのは気のせいだろうか。
私が何か言おうとする素振りを見せると、お嬢様は再び情熱的に唇を重ねた。
「あの時本当はこうしたかったんよ。」
お嬢様の濡れた唇はそう言いながら私を誘う。
腕は次第に首に回され、貪るように唇を求め合ったまま私はお嬢様に押し倒される格好で倒れ込んでしまった。
見上げた空には輝く星々と大きな満月がさしかかっていた。
「知らない土地に放り出されて、慣れないこともありましたが‥‥。」
私はお嬢様の両頬に手を添え、私の方を向けた。
わずかに濡れたお嬢様の瞳が私を見つめる。
「あなたが無事で‥‥再び巡り会えて‥‥嬉しかった。」
今度は私からお嬢様に口付けた。
そして、強く抱き締めた。もう絶対に放さない。それは私も同じだった。
普段ならこんな事言うはずない。
でも強く強く抱いた感情が、痛いほどに感じたお嬢様の思いが、私を大胆にさせたのかもしれない。
「‥‥抱いて下さい。お嬢様をもっと感じたいんです。」
「‥‥せっちゃん、久しぶりに可愛がったげるな。」
私の物言いに驚かれたのだろうか。
冗談混じりな言葉と共に、お嬢様は私の服を脱がし始めた。
ゆっくりと器用にボタンを外し、服にできた隙間からそっと地肌に触れた。
既に期待で興奮していた私はその刺激さえも敏感に感じていた。
「ねぇ…翼出して‥‥せっちゃん。」
じわじわと私の肌を撫でながらお嬢様は私の耳元でそう囁いた。
防衛の為に、水浴びは交代で行った。だからお嬢様とご一緒したことはない。
明日菜さんが私の羽根が好きと言ってもふもふと擬音語を
つけて話すとお嬢様は少しご機嫌斜めだったのを思いだす。
「明日菜はよくてうちはだめなん?」
意地悪く肌を撫でながらお嬢様はそう言う。
お嬢様から繰り出されるわずかな刺激が私をもう十分に敏感にさせていた。
でもそれがかえってまずい。
ただでさえ敏感な翼をお嬢様に触れられてしまったらどうなってしまうんだろうと。
さり気なく今までそれだけは避けてきたはずだったのに。
でも私がお嬢様のお願いを断れるはずもなく。
脱げかけた服を剥ぎ、私はお嬢様に背を向けた。
翼を広げるとお嬢様からは驚嘆の声が漏れる。
私の白い翼が月明かりに照らされお嬢様には白く輝いて見えたらしい。
「やっぱ綺麗。うちの天使さん。」
うっとりとしてお嬢様は私の羽根に触れた。
さわさわとした動きを感じ私は背中にぞくぞくとした感覚を感じた。
お嬢様は様子を掴むと次第にしっかりと私に触れだした。
「いゃ〜ん。もふもふや〜。」
楽しそうに羽根の感触を楽しむお嬢様とは反対に私は必死だった。
ただでさえ敏感な部分に触れられて、しかもお嬢様に‥‥。
お嬢様に表情を見られないことは幸いなのか、私は口を押さえ漏れる喘ぎを必死に堪えていた。
でも時折堪えきれず吐息がもれ、体がふるえる。
「ふふ。敏感なんや。」
「は‥‥はぃ…。」
羽根に触れていた手はいつの間にか翼の生えた背中に移っていた。
そこはもっとも敏感なところだ。
私はつつつっと動く指に堪えきれず嬌声がこぼれた。
「あっ‥‥そこは、急所なので‥‥。」
やめて下さいと続けようとしたら、それは遮られてしまった。
背筋をはうお嬢様の唇の感触を感じとってしまったために。
「せっちゃんの弱いとこ、うちにはさらしてくれるんね。大事にするえ。大事なせっちゃん‥‥大好き‥‥。」
ねっとりとした熱いもので背中を刺激される。それがお嬢様の舌だと私の体は良く知っていた。
四肢の自由を失い、腰が砕けたように力が抜けていく。
お嬢様に促されるままにそのままうつ伏せた。
柔らかい若草が私を包む。さわさわと柔らかな風が肌をなぶった。
心地よい快感に身を委ねていたのに、認識したのは野外でことに及んでいるという事実だった。
「あっ‥‥やっ‥‥誰か‥‥来たら‥‥見られ‥‥。」
慌てて私はもがくけれど、そのせいで浮いた上半身の隙間からお嬢様の手が侵入し私の敏感な突起を摘んだ。
鼻から抜けるような甘い声が私の口から漏れると、抵抗は形をなさずにお嬢様のなすがままにされた。
「見られてもええんやない?せっちゃんとっても綺麗やし‥‥。」
うっとりとした口調でお嬢様は私の下半身を覆う物も脱がし始めた。
うつ伏せたまま私はお嬢様に愛でられる。
お尻を優しくなでさすられ、揉み解されたそこはいやらしい音を立てる。
割れ目を開いて奥に隠れた窄まりや濡れた秘所をもお嬢様は月明かりの下に晒した。
「せっちゃん‥‥もうぬるぬるや。‥‥もっとして欲しいん?」
お嬢様は濡れた秘裂に指をはわせゆっくりと沈めていった。
そして物欲しげにひくつく私の秘蕾にねっとりとした熱い口付けを交わした。
体の中を蠢く指と舌は私を快楽の渦に落とす。
見られるかもしれないという状況は分かっているけれど
それ以上にお嬢様から与えられる快感に私は飲み込まれていた。
「あっ‥‥はぁ‥‥。」
与えられるままに受け入れ、私は次第に自分からもお嬢様を求めていた。
うつ伏せた体は向きを変えお嬢様を正面から強く抱き締めていた。
お嬢様の指は私の背中に回り敏感なそこを優しく撫で続ける。
反対の手は私の深部に、ツンと起立した秘芯をじらすように撫で転がしていた。
遠くで枝を踏んだような小音が耳に届く。
でも危険ではない気配から仲間の存在を感じた。
‥‥見られている。自分の痴態を‥‥。
お嬢様もそれを感じたのか先ほどよりも激しく私を煽り、喘がせる。
「っぁ‥‥もっ‥‥!」
「‥‥ええよ。‥‥イってええよ。せっちゃん。」
私はお嬢様の優しさに包まれて‥‥‥‥果てた。
◇◆◇
「なかなかやるでござるな。木乃香どの」
木陰からこっそり様子を見ていた楓が一人ごちる。
傍らには気を失って呆けた明日菜が伸びていた。
楓はふぅとため息を吐き、空を仰いだ。
同じ空の下に、心通わす者がいることをまだ彼女は知らない。
彼女は明日菜を連れ、野宿場まで戻っていった。
「‥‥偶には二人にさせてあげるでござるよ。ニンニン♪」
そう言って楓は人肌恋しく思いながら二人を祝福していたのだった。
終わり
お目汚し失礼。
以降神待ち
投下キター GJ!!
放心してるアスナにワロタw
あんた神だ……当方
>>655で
>>673だった者だが、すっげー面映ゆいw萌えと羞恥双方より転げ回らせていただきました、GJ!
高畑は現実を受け容れるべきか放棄すべきかという最悪の自己判断を目の前に眉根を極限まで寄せていた。どちらを選んだとしても結果自分に良くない未来が訪れるのはいとも簡単に展望できる。
……先行きの見渡せる未来ほど憂鬱なものもないかもしれない。
右を選べば破滅、左を選べば地獄の業火に焼かれる。その二択を前にすれば如何に高畑が幾つもの死線を潜り抜けてきた屈強な男といえど躊躇うだろう。
頭上を黒く厚い、晴れることのなさそうな雲が支配しているような気がした。今にも豪雨が降ってきそうなのにいつまで経ってもその兆しが見えない、不快な焦燥感。
滲む汗がぽたり、握った拳の上に落ちた。
「……だ、ダウト」
「残念、違います」
「う……、また君か……」
「最後にダウトになる手は持ってこないですよ、普通」
ぱさりとカードの山の上にその最後手を落として千雨が言った。山の頂点に降り立ったハートのクイーンが自分の勝負事の弱さを笑っている気がする。
「先生嘘つくのも見破るのも壊滅的に下手ですね」
現在ダウトは5回戦目が終了したところなのだが、言わずもがな、勝利は全て千雨の手の中だった。その前はババ抜きをやったのだが、手札のジョーカーに千雨が手を掛けかけると目に見えて高畑は表情が変わるのでこれもまた惨敗。
千雨の圧倒的勝因は高畑がそれに気が付いていないことにあった。
「はは、その通り。
……と認めたら情けないかな」
「負けを認めることは大切ですよ」
カードを一まとめにし、器用に切りながら言う。その表情は極めて無感動かつ冷徹だ。勝負事に燃えるタイプには見えないのだが、意外と違うのだろうかと高畑は少し不思議そうに千雨を見た。
「……?
何か顔に付いてますか」
「あ、いや……、なんでもないよ」
笑ってそう言うが、やはり高畑は嘘がつけない性格のようで、千雨は訝しげな目を向けた。
「言いたいことは言いましょうよ」
カードをきっちり30回だけ切り、手を少し伸ばせば届く位置にある小テーブルにそれを置く。
「大した事ではないからね、言って損得が発生するわけでもない」
「会話っていうのは基本そんなものでしょう」
高畑はYシャツのポケットに入った煙草に触れ掛けた指を引っ込めた。
「…………なんですか、気持ち悪いですよ」
「え?あ、ああ、すまない」
思った以上に笑ってしまっていたらしい。緩んだ口元に手をやる。
「嬉しいね、僕と会話しようという気を起こしてくれたわけだろう?どういう風の吹き回しだい」
「……二人きりだったらその相手と会話を試みるのはごく普通のことだと思いますけど」
「はは、やっぱり僕は嫌われたままか」
「?
嫌いではないです。好きでもないですけど」
「……その発言を受けてこの場が気まずくなるかも、とかは想定の範囲内の上で言ってるのかな」
「なっても別に構わないですから」
どこまでもマイペースな千雨に高畑は苦笑を隠せなかった。そんな意味もあり、高畑は千雨と居るとよく笑う。
「文明の進歩と言うのはめざましいね」
「何ですか、いきなり」
「こんな短時間で東京と京都を結べるというのは本当に凄いことだと思うだけだよ」
缶コーヒーのタブを起こしながらしみじみした口調で言う。明日菜はこの空気が大人っぽく見えて好きなのだが、千雨からしたらただの不精髭のおっさんであった。
「先生とはジェネレーションギャップがあります」
「そうかい?」
「私は新幹線の移動速度に感動できる人間じゃないです」
「辛辣だねえ、君は」
くつくつと笑って缶を傾ける。しかしそれは若干温くなってしまっていた為に高畑の眉間に微妙に皺を寄せさせた。要らない時に限ってやたらとやってくる売り子の影を探すが、やはり必要な時には現れない法則があるらしい。
やれやれ、と内心呟いて缶を座席備え付けのテーブルの窪みに嵌め込むように置いた。
流れる景色を眺めていたい気もするが、そんな悠長な気分で居てはいけない。そう脳裏に一瞬浮かばせるが、その割には生徒とトランプなどしているのだから案外というか、実際気が緩んでいるようだった。
高畑・T・タカミチと長谷川千雨は東京とかつての日本国首都であった京都を結ぶ便、のぞみ29号、その座席に肩を並べていた。
現時刻、11:25分。乗車してもう1時間ほど経過しているので後1時間半もすれば京都の土を踏む事ができるだろう。
何故この組み合わせが新幹線になど乗っているかと言うと話は簡単である。事の顛末を暈しながらも伝えた結果、千雨も高畑の京都行きに同行することになっただけだ。
勿論高畑は反対した。足手纏いとまでは言わないが、何の戦闘知識も経験もない一般女子が『あの世界感の中で』生きて帰ってこられるか問われたようなものだからだ。
当然、答えは否。
実質人質としての価値が千雨に無いとは言え、高畑はごく普通の神経を持った常識人であり、死んでも構わないなどとはかけらも思っていない。
だからこそ、わざわざ危険に飛び込む真似はしてほしくなかった。会話の節で聴いた千雨の言葉を鸚鵡返ししてみせた。
『平凡な日常こそが幸福の源泉。
じゃ、なかったのかい』
宥めるように話す高畑に千雨が返したのはごくごく当たり前でいて、高畑の原動力ともなっていた思い。
『正直神楽坂とか近衛とか桜咲とかがどうなろうと知ったことじゃないです。友達でもないし仲良くするつもりもありません。うるさいし騒いでばっかりの中枢みたいなやつらは居ない方が私は私の日常を静かに過せる。
……だけどもしもそれがひとつでも欠けたら。
その日常、ってモノは永遠に帰ってこないんじゃないか、って……思いますから』
そう言った千雨の目は冷めてはいたが、どこか優しげに見えて、……だから。
「人は見掛けに寄らないものなんだろうね」
「……はあ?」
「独り言さ」
足手纏いかどうかはわからないが、危険が迫るのであれば自分が守ればいいだけじゃないか。それが教師としての努めであり義務だ。
そんなささやかな決意を秘めながら隣の毒舌眼鏡少女を見やった。
……感謝の言葉が聴けるとしたらいつだろう。
「先生」
「ん?」
「罰ゲーム。
忘れないでくださいね」
アルコール・乾き物・その他諸々の旅のお供を台車に載せてにこやかな笑顔振り撒きながらこちらに向かってくる乗務員を目で指しながら千雨が淡々と言った。
「……ほ、本当にやるのかい?」
「当然です。敗者が勝者に従うのは歴史が証明していますよ」
「いや、まあ確かにそう言えるかも知れないけど」
ふと、あることが頭を掠めた。
「長谷川君。
君は僕と勝負をする前にこの罰ゲームの内容を決めたね?」
「そうですね、勝ってから決めてやらせるのも面白いですけど、それじゃ緊迫感がないですから」
「……君は自分が負けるかもしれないことは考えなかったのかい」
提示された罰ゲームは男女問わずに非常に過酷かつ劣悪だったからだ。
「負ける事を視野に入れていたら勝てるものも勝てませんよ」
ギャンブラー顔負けのその台詞に高畑は一瞬目が点になった。
……本当に人は見掛けに寄らないものらしい。
高畑は千雨の設定した過酷な罰ゲーム、その内容を反芻しつつ冷や汗を垂らしながら心底そう感じた。
静かな夜だった。
静寂はどこまでも夜を美しく際立たせ、足元に広がる湖畔もまた、この夜と同じ澄んだ黒を湛えている。
そこに散らばる中からひとつ小石を拾い、水面に投げる。
ぽちゃりと小さな音を立て、それは直ぐに底へと消えていった。ゆらゆらと揺れる湖畔が時折月明かりでぼんやりと光る。
……綺麗だ、と少女は思った。
綺麗だから、誰かに見せたいとも思った。
けれど、何故そう思ったのかわからずに暫し水面を見つめる。……どうしてそんなことを思ったのだろう。誰に見せたいと思ったのだろう。
心に滲む出所の知れない感情は靄となり少女の胸を埋めた。
不意に、草を踏む音がして少女は振り向いた。
「……こんな所に居られたのですか」
そこにいたのは見慣れた従者の姿。簡素な衣服を身に纏い、片手に少女の私物である上着を持っている。
探しましたよ、と言いながらその者は少女へと歩みを向けた。
「風邪を引かれます」
手にしていた少し厚めのカーディガンを少女の肩に掛ける。
「……堪忍な。
なんか、……眠れへんかったから外出てもーた」
「悪い夢でも?」
「……憶えてへんけど、いい夢やなかった。
なんか……大事な何かがすっぽり抜け落ちたみたいな気分する」
「……お疲れなのでしょう。さ、屋敷に戻りましょう」
従者は少女の手を取り歩き出そうとしたが、立ち止まった。少女が歩こうという意思をまるで持とうとしていなかったからだ。
「……紅い、眼」
「………………え?」
「誰かが、誰かのこと呼んでる夢やった」
「それが、悪い夢ですか」
「……その子、泣いてた気がする。誰かの名前呼びながら、……血みどろの手で……何かを掴んどった」
「血、みどろ」
少女はゆるくかぶりを振った。
ここ数日同じ夢ばかり見る。その夢には特に共通点はなかったが、しかし常に現れるものがあった。
……紅い瞳と、白い羽根。
「キミも持ってる」
その一言に、従者は固まったように少女を見た。
少女は従者に近寄り、少し背伸びをすると長く伸ばされたその前髪に触れた。
親指でずらすように前髪を除ける。
月明かりが従者を照らし、その顔を映し出す。
白い肌にふたつ……紅い、瞳。
どんな葡萄酒も敵わぬだろう深い真紅が其処にある。
まるで……血のような混じり気の無い赤。
「この眼、夢で……見た」
「僕が」
「……わからへん。
でも、この眼と……白い、羽根……が、いつも……」
「夢占いでもさせましょうか」
「……いい」
「そうですか」
静かな夜に、紅い瞳を持つ者と何かを忘れた少女が佇む。
……そう、静かな夜だった。
そして、その静けさの理由を理解している者もまた、存在した。
「お嬢様」
「うん?」
「僕のことでしたら呼び捨てで構わないのですよ」
「……うん」
「『キミ』だなんてお嬢様、大企業の社長のようですね」
「……そういう意味やないもん」
「承知しておりますよ」
弱く、風が吹いた。
「……それに、年上やん」
「ですが僕はあなたの従者です」
「他の人に呼ばせてあげたらえーんちゃうの?」
「他の人?」
少女のつま先で蹴られた小石が僅かな砂煙を上げる。
「この家にはお偉いさんいっぱいおるやろ?その人たちに呼んでもらい」
「お嬢様に呼んで戴きたいのですよ、僕は」
「……なんやそれ」
ふ、と苦笑するように笑ったその表情に従者は目を細めた。
……月が美しい。
そして、水面にこの月を映す小さな池もまた、美しい。従者は小石を緩く放り、それが描き出す波紋を見つめた。
しかし彼は思う、……何より美しいのは自分の前に立つ少女だと。
長く伸ばした黒髪が今日の夜と月にどこまでも映えていた。
「記憶が戻られたら」
「うん?」
従者は言葉を一度切った。
そして、言おうとしていた言葉は捨て、当たり障りの無いものにさし変える。
「お嬢様の記憶が全て戻られたら、また学校にも行けますよ」
「……うん。
なんで……忘れちゃったんやろね」
「何か……辛い事でもあったのかもしれませんね」
「つらい、こと」
小さくそう呟いた少女の頭を従者は優しく撫でた。
「大丈夫ですよ、……必ず、思い出せる日が来ますから。
それまでは此処に居ましょう、僕は片時も離れずお傍に居ります」
「……ありがとな」
少女は弱い笑みを彼に向けた。彼もまた、にこりと微笑み返す。
微笑の陰で少女は別のことを考えていた。今彼の言った言葉に何かがざわめくような感覚を覚えたからだ。
だれかが良く似た事を言ってくれた。そして、それをとても嬉しく思ったような気がする。
わからないけれど、でも。
その言葉をくれた人。
その人はとても大切な人だったような、そんな……霧の向こうの予感。
……誰?
あなたは、誰?
夢の中で血みどろになって泣いていたのは……あなた?
紅い瞳、白い羽根。
そのふたつが脳裏をちらついて離れない。
「お嬢様、本当に風邪を引かれますから」
従者の声がそれを断ち切った。……確かに少し冷える。
「……うん」
「さ、行きましょう」
従者は白い手のひらを差し出し屋敷へ帰ることを促した。あまり背の高くない彼であるが、小柄な少女と並ぶと大きく見えた。
彼は少し身長を気にしている節があったので、だから自分と並んで歩きたがるのかもしれないな、と少女は思った。
「なあ」
「はい」
屋敷へ続く砂利道を歩きながら少女は声を掛ける。その目は今宵の月に注がれていた。
「今夜の月、綺麗やね」
「そう、……ですね」
「ウチな、さっきこれ誰かに見せたい思ーてな?でも、それが『誰に』見せたいんか、自分でわからんかった。
誰に見せたい思たんか、それが思い出せんくて、なんか……むず痒い感じや」
「……それも含めて、ゆっくり思い出しましょう。お嬢様の生まれ育ったこの家で」
しばらく、広大な日本庭園を敷き詰める砂利を踏む音だけが響いていた。
綺麗に整えられた松の木や、鯉を泳がせた池、白い砂利道。そのどれもが知っているものに違いなかった。けれど、なにかが違うような気がして、落ち着く事が出来なかった。眠ればあの夢を見たし、記憶を失くしたことは焦燥に似た思いを感じさせたのだ。
「誰に、見せたい?」
「え?」
「この月。キミは見せたいって思う誰かがおる?」
「僕ですか」
「他に誰がおるん?もしかして幽霊でも見えてる?」
まさか、と笑う横顔を見て少女は、自分は誰に見せたいと思ったのだろうと再度自問する。
何を忘れてしまった?
それはとてもとても大切な事?
「僕がこの月を見せたいと思う人は……もう居ませんから」
「……ご、ごめん」
またも思考の海に潜りかけていたが、彼のその答えで我に帰る。
「いえ。何れお話出来れば、と思っていましたから」
「……亡くなって、しもうたん?」
「……そうですね。随分昔に。
……あはは、そんな顔なさらないでください」
「だ、だって、何か言いたいのになんて言えばええかわからへんから……」
「ふふ、お嬢様はやはりお優しい。
確かにその時は悲しかったですよ。彼女が死んだ時は涙と声が枯れるかと思ったものです。
でも、彼女は僕に沢山の思い出を残してくれた。僕が寂しくないように、生きている間に数え切れないくらいの笑顔をくれた。
だから辛くはありません。それを糧にすることが出来ましたから」
「……ウチやったらがまん出来ひんかもしれん……寂しがりやから……」
「思い出、というのは過去の記憶に他ならないですが、過去だからこそそれを踏まえ生きる事が出来るのです。
会えないことはそんなに絶望的な事象ではないのですよ」
「……まだ難しいことはわからへん」
「分ってしまったらそれはお嬢様が一番大切な人を亡くした時でしょうから理解できない方が良いでしょう」
彼はそうなんでもないことのように笑った。
けれど少女は、理解は出来ずともこの優しい従者の抱えていたであろう悲しみをほんの少し、掬い取れるような気がした。
「誰か、他の誰かがまたキミのこと想ってくれたら……ええな。
つらいこと……半分に出来る人ともう一度逢えたら、ええなあ」
「……はは。ありがとうございます」
従者は少女を見た。
少女も彼を見た。
互いに互いの到達点を願うように。
その先に見えるものが何なのか知らずとも、ただ……願った。
砂利道を越え、石畳にまで来た所で従者が言った。
「輪廻転生を信じますか」
「……どうやろ。あるとしたなら、ええね」
「?
何故ですか」
「必ずまた逢えるってことやん。
輪廻の輪があるなら時間は掛かっても、キミの大切な人はまたどこかに生まれてくれるってことやろ?それなら、待ってるんもつらくないかもわからんし」
「……そう……ですね」
「あったらええのに。
ウチ、その大切な人とキミを逢わせられるんやったら何でも協力したる」
日ごろの感謝を込めてな、と付け加え、少女はいたずらっ子のように笑った。
少女を自室まで送り、静かに閉められたドアを背に従者は一人溜息を吐いた。
……輪廻転生。
それは間違いなく存在するものですよ、と言ってしまいたかった。
あんな言葉を言うのは彼女が、やはり……。
(何を今更……)
後ろ手に触れたドアが妙に熱く思えて仕方ない。
夢を見た、と言っていた。
いい傾向だ。その内容もまた、好ましい。
カグラザカアスナ周辺の記憶はもう既に全て抹消した。それには氏家鷹峰に連れ去られかけたことも含まれる。……余計な記憶だ、必要無い。
少女が触れてきた髪を自分自身も触れた。
……何かを思い出しそうな気がする。袂に忍ばせた古い和綴じの古書を取り出し、ぱらぱらと捲った。だが、特にそのことについて記述は無い。重要な事項ではなかったのだろう。
本を閉じ、無邪気な笑顔を思い返す。
きっと本心から僕に協力する、と言ってくれたんだろう。
あの笑顔もいずれ消してしまわなければならないのは残念だった。出来るなら時を真空にして取っておきたい。
きっと、『あんな風に』笑ったんだろうな。
僕に翼はもう無いけれど。でも、代りはきちんと現れた。
(傷は癒えたかい、翼の姫君)
君は僕で、……僕は君。
「大切な人なら輪廻を巡り……、
…………もう、僕の元に生まれてきてくれたよ」
扉の向こうに囁くように、近衛兼定は呟いた。
この板は昔からSSのレベルが高いよなあ、などと思いつつビクビクしながら投下しておりましたがここ最近は特にそれが顕著です。
SS職人ってすごいなあ……。
そんなこんなでお粗末さまでした。
おお!続きktkr!
っていうか
>>705もかなり文才あるぞ。
とにかくGJ!
おお!!久々超長編!
感激だ。どんな展開になっていくのか
wktkして止まらない!
続きも気長に待ってます。
さてこの板も444kbを迎えましたが
次の準備が必要ですか?
常連のみなさまいかがなもんでしょう?
なんか…このSSのネタバレスレが欲しいw
先が読めない。続きが気になって仕方がない!
>>684 やっぱ中かな?頑張って外?
なんか気になっちゃって。
微妙にスレちゴメン。
どう見てもご想像にお任せしますだろうが。野暮なこと聞くなよw
その野暮をつつきたくなっちゃうんだよwww
相変わらず何という寸止め!
>>710 うぷろだ参照です!
ク氏の注意書きも読んでね。レス番分からんけど。
SS書くのも結構難しいな…。
ところでちょっと質問だがせっちゃんは退魔の仕事中
木乃香の護衛はどうしてるんだ?チビ刹那がいるのか?
常に組んで仕事してるわけじゃないんだろうから(たまに一緒に仕事する仲とか言ってたし)
龍宮、ひょっとしたら楓あたりに代理頼んでるんじゃないかと思ってるけど実際どうなんだろうね
ネタ系でちょっと書いてみた。
投下します(´・ω・)
716 :
名無しさん@秘密の花園:2008/04/13(日) 02:51:16 ID:SLjs6Rq2
しえん
ある日、明日菜と木乃香の部屋。
明「あれ?この歯ブラシだれの?」
木「あぁ、それうちのお客さんがつこてるんよ」
明「へぇ?」
明「あれ?こんなマグカップあったっけ?」
木「あぁ、それもうちのお客さんのや」
明「ふぅん…」
明「あ、あれ…この下着、このかのじゃないよね…?」
木「ん?あぁ、それもうちのお客さんの」
明「へ、へぇ……あれ、このさらしは…?」
明「あ…?このか、シーツ変えたの……?」
木「あぁ、前のやつな、うちが汚してしまったんよ…」
明「そ、そうなんだ……なんで恥ずかしそうなの?」
大浴場で。
明「はぁ…お風呂はいいねぇ…」
木「日本人の心やねぇ…」
刹「全くです、このちゃ…お嬢様」
明「…」
木「せや、明日菜。せっちゃんな、結構胸大きいんよ、な?」
刹「ちょ、お嬢様…」
木「ええやん。ほら、こんなに」
刹「あ、あん……お嬢様、こんな所で…」
明「…」
木「ほら、ほら!明日菜も触ってみ?」
刹「はぁ…んっ……だめ、です…お嬢様…」
木「えぇ?なんでぇ?ふふ、せっちゃん、ココ気持ちええんよねぇ…?」
刹「…ん、あぁん!…ふぁ…」
木「あはは、せっちゃん、ココ好きやもんね」
刹「はぁ、はぁ……おじょ、さま…あぁ…」
明「あ、あ、あたし、先上がるねっ!」
ガラガラ…
明日菜が浴室を出たと同時に、中で。
刹「こ、このちゃんっ!」
木「きゃ!せっちゃん、そんな急に…あ、はぁんっ!」
刹「もう待てん…このちゃん!大好きや!…んっ…」
木「あんっ!…せっちゃん、うちも…!」
明「部屋、移ろうかな…」
クソワロタw こういう一発ネタもいいな
バカップル全開ww
誰か本番補完してw
明日菜wwGJwww
最近龍にんだの明日菜だのが絡む話が増えてきたような感じがする。面白いし話に広がりができるからもっとやってほしい。
今めっさそんな絡まってるヤツ書いてる。
今の長編シリーズが完結する頃には投下したいという目標。
>>717 もシチュすげー脳内保管してた。超バロスwwwGJ!!
ちょっと前に刹那板で見た
せっちゃんのイラスト(サンプルって書いてある奴)が
この間のバカップルネタと重なって萌えた。
誰か他に見た人いないかな?
スパッツがとてもエロい(*´Д`)
つか ID OTL って‥‥。
俺終わってる?|||OTL
まぁ待て詳細を聞かせてくれw
刹那スレ?板?
スレはいっぱいありすぎてどれのスレだか
あ り が と さ ん ダゼ(´・ω・`)
キャラスレなのかな?地鶏てやつ。
このスレのレス3にリンクしてるところ。
そこの650あたりの画像リンクなんだ。
素人画とは思えないが、商用でこんなエロい画あってたまるかって感じ。
まあなんていうか
ムチムチプリンプリン?
>>723 ありゃ視覚破壊兵器だわ、龍にんや月詠に見せちゃいかんw
…………っとすまない、どーにもこのせつは好きなんだが上の三人や明日菜にクーをまぜた妄想をしたくなる。
『ムフフ‥‥先輩、美味しそう‥‥。ムフフ』
『刹那‥‥も‥‥これほどとは!』
『拙者、縛り甲斐が合って嬉しいでござるよ。』
こんな感じかな?ムッハ-!
729 :
618:2008/04/17(木) 19:39:07 ID:P8JyMGQh
以前投稿したものです、こんにちは、いやこんばんは?
以前の続き投下準備中です。(参考曲を決めています)
ついでに此処のネタも少々拾っていこうかと思います。(
>>717さんのなどとか…)
良いこのせつorせつこの(をイメージ出来る様な)曲ってありますか?
ちょっと話のこしを折るようで恐縮ですが是非参考にさせてください。
某レンタル店であるいは動画サイトなどで発見しだい聞きながら書きます故
どうぞお力添えをお願い申し上げます。
あ、鳥つけたほうが良いなら其方にいたしますが利便上やはり鳥付きの方が良いのでしょうか…。
(以前鳥付きで何処かに投下していた記憶があるのですが鳥のキーを忘れてしまったという大馬鹿をしてます…)
では、失礼します。
市販品はわかんないけどニコニコ動の聖なる空の下でのMADがガチで好き。
ウマウマも神作と思われ。
何が参考かと問われれば、
せっちゃんなら『お嬢様、お供します。』と絶対やるだろうシチュが参考になる。
多分こんな鳥だったはずと思い出しながら鳥をつけてみました。
(あってるかなーと心配ですが)
>>730さんの「聖なる空の下で」で書かせていただきました。
(ですが殆ど参考になっているかどうか…)
次から投下します。短いです。(多分)
あの約束を、履行しようと思った。
聖なる空の下で
今日、の昼のこと。
其れを踏まえたうえで
「夜の、桜を見に行きませんか?」
と、お嬢様に聞いてみた
「えっ、ええけど…」
何を戸惑っているのだろう。
ふと服装に目をやれば…納得した。
既にパジャマ姿だったのだ。
…これは戸惑わないわけはない。
「ち、ちょぉ着替えてくるな!?」
「え、は、はい」
提案する前に行かれてしまった。
…まぁ…着替えを見たいとか、そんな変態ではないのだから良いとしよう。
お嬢様が着替え終わり、扉が開く。
「お、お待たせや、…て、せっちゃん?」
はっ、どうやら見とれていたらしい。
「す、すみません…」
「あはは、そないにせんでもー」
かしこまらんと、な、と呟きを聞きながら
「で、では、失礼します」
とお嬢様を抱え、屋上へ向かう階段を3段飛ばしぐらいして駆け上がる
「せっ、せっちゃん、そないに急がんでもええよー!?」
其れは無理な相談です、お嬢様。
そう心で返答しても伝わらないわけで…。
「せっ…ちゃん?」
少し、怖がらせてしまったようだ。
「…ぁ、すみません、早く…その見て頂きたくて」
扉の前に着き、ようやく喋るとお嬢様は顔を明るくし
「あはは、だから急がんでもええてー」
そうだとしても、どうしても早く見せたい。
と、思いながらお嬢様を見つめていると
手が塞がっている私に気付いて扉を開けてくれて…。
「あ、ありがとうございます」
「ウチも見てみたいもん、せっちゃんのお墨付きやもんな」
はやる気持ちは同じなようで、くすくすと二人で笑いながら
「では、いきましょうか…」
と呟きながら隠していたあの翼を出す。
「天使さんにつれてかれるんなら何処へでも〜」
だから天使じゃないですってば、と心の中でツッコミをいれつつ。
ばさっ、という音と共に飛翔した。
しばらくぎゅ〜、とお嬢様は私にしがみついていたが
「そんなにしなくても落ちませんよ」
と告げると少し力を抜いていた、高所は苦手ではないはずだが。
「あ、ぅ、せっちゃんを信用してないとかそんなんやないからな!?
か…堪忍な…」
「大丈夫ですよ」
…嬉しかった、なんていえるわけがない。
だが逆に心配したような顔になる。
「堪忍…」
「謝りすぎです、このちゃん」
…あ、あれ、今自然と言葉が…?
「せっちゃん…」
えっ、なんかお嬢様が赤くなって…えっあれ!?
「その呼び方も慣れてきたんやなー、ええことや〜」
…でも照れてるのですね。とは言えなくて―――意地悪したくなる。
「なんなら呼びなおしましょうか?」
「あ、あかん、そのままで…」
「解ってます」
くすくす、と笑う私に、膨れるお嬢様。
「今日のせっちゃん、意地悪や」
誰がさせてると思っているのですか。
なんてやっぱり心の中で呟いて。
足元に広がる夜桜を背景に、お嬢様をみて…。
「やはり、綺麗ですね」
なんていきなり言ってしまった。
「え…そ、そんないきなり大胆…」
再び赤くなるお嬢様と慌てる私。
こ、これはなんとか修正しなくては…。
「夜桜を背にしたこ、このちゃんが……そ、その…」
多分私も赤くなっているんだろうな、これは。
「う、うん…えと、ありがとう…」
自分の中では意外な言葉が返ってきて。
「い、一旦地上に…」
と目を逸らしながら茂みに入る。
見つからないよう、慎重に…。
「…ほわぁぁぁ…」
その茂みの中で、眺める夜桜にお嬢様の感動?と思える声。
ライトアップされた桜は、散る花びらも含めて幻想的で。
―――やっぱり、綺麗で。
「せっちゃん…」
…はい?と言おうと振り向いた瞬間。
私とお嬢様の距離が、0だった。
「…!?」
音もなく私の唇からお嬢様の唇が離れると…
「確かに、せっちゃんのお墨付きだけあったなぁ」
と、笑っていた。何時もより数倍の明るさで。
「…お、お勧めできて、よかったです」
今告白しても、おかしくない、そう思える。
「ありがとう、大好きや、せっちゃん」
…言おうとした言葉をさらっと持ってかれて。
―――かなわないな。本当に。
「私も、大好きです、このちゃん」
もう一度唇を重ねて…この幸せな時を止めたいと、願った
多分、お嬢様も、願っているだろう…この時を。
おまけ
慎重が直ぐに解けてしまった為か、朝倉さんに見つかっていたらしい。
次の日散々尋問させられて部屋に帰ればどうやら楓と龍宮も見ていたらしい。
写真に関しては買占めものの、噂に関しては止められない。
暫くは自重しよう、と思った。
では、乱筆乱文失礼しました。m(_ _)m
乙でGJ。夜の桜吹雪の中、このちゃんをお姫様抱っこにして佇むせっちゃんを幻視させてもらいました。
GJ!です。
このちゃんとせっちゃんのいじらしさに萌えた。
こういうの好きだ。(*´д`*)
ゆっくりと瞼が動き、ひとりの少女が目を覚ました。
まるで百年の眠りから覚めた御伽噺の姫のように、そっと。
(…………痛い)
体のどこかが少し痛む。
でもどこが痛いのかわからない。もしかしたら気のせいかもしれない、と少女は思い一度閉じかけた瞳を再度押し開いた。
そこにあったのは、見渡す限りの白だった。
どこを向いても白なので、目を覚まして数秒は自分が宙に浮かんでいるかのような錯覚に陥ったほどである。
しかし、見渡す限りとは言ってもその空間はせいぜい十畳ほどであったので少し齟齬があるかもしれないが。
だが少女にとってはその表現がどれ程の面積を有する土地に使うべき単語なのかという定義決めはどうでも良かったし、聞かされたとしても直ぐに忘却の彼方へ飛んでいくことだろう。
それにここは異空間でもなんでもないただの部屋なので少女がごく普通の現実を取り戻すのにそう時間はかからないはずだった。
白い壁で構成された部屋の真ん中で体をパイプベッドに横たえ、自然視界に映ることとなる天井を、たたただ見つめていた。まるで、そうすることしか知らないかのように。
ただ白いだけの天井。眺めていても何の暇潰しにもなりはしないだろう。しみのひとつもあれば生活感も伺えるというのに、この部屋にはその手の『人が暮らしていた痕跡』が欠片もなかった。
少女は自分の呼吸音だけが響くこの部屋で何かを考えていた。取り留めの無い……、何かを。
記憶が酷く曖昧だった。まず、名前が思い出せない。何故ここにいるのかもわからなかった。だから天井を見つめた。まるでそこに答えが書かれているのだと信じ込んでいる人のように。
長い髪が簡素なベッドの上に広がっている。それに触れて初めて少女は自分の髪が長いことに気が付いた。上体を軽く起こしてみる。……少し、目眩がした。
辺りを見回してみる。
仰向けの時には気が付かなかったけれど、ごく簡単な家具が備えられていた。
小さな三脚の台の上に透明な瓶が置かれている。七分目位まで中に何かが入っているように見えた。……飲み水だろうか?
けれどそれを確かめに行くでもなく、少女は再度体を横たえた。
……ここはどこなんだろう。
しかし考えても分かる筈も無く、少女は瞳を軽く伏せた。白い電球の光は網膜を通すとぼんやり赤い光へと変わる。
……赤。
…………白。
安全か危険か、ここがどういった場所なのかもわからないのに少女は特に取り乱すでもなかったが、このふたつの色はそんな少女の心に波を立たせた。
何かが頭の中でざわめいている。
自分は何かを知っている。
このふたつを知っている。
それなのに手掛かりや切掛けとなるものが頭の中をいくらまさぐって探しても出てこない。これはきっと思い出さなければならないこと。そう心が警笛を鳴らしている。
耳を塞ぎぎゅう、と目を瞑る。
これは、……何?
ああ、その前に。
……わたしは、わたしは……誰?
再び天井を見上げ、手を伸ばしてみた。その先と同じくらいに白い自分の手のひらが見えただけで何も変わらない。血色が悪いのかこの部屋の色に目が感化されているだけなのか。
どちらにせよ、少女には自分が何者なのかを知る手立ては現時点では皆無でありその努力もまた、無駄だった。
白いだけだと思っていた部屋の片隅に鏡が掛かっていた。そっと足を下ろしそこまで歩く。少し、よろけた。
鏡に映るのは、長い黒髪の少女だった。少々血の気がなく見える。名前はわからないけれど、ここに映る者が自分である事は断言できた。
誰がわたしを知っているだろう、と少女は思った。
あの人に聞けば答えてくれるだろうか。名前を呼ぶととてもうれしそうに笑ってくれる、……あの人に聞けば。
……でも。
あの人って、誰?優しい声のあの人は……誰?
どうして知っているんだろう。自分の名前もわからない、何も、何も……わからないのに。
何故その顔が浮かんだのかわからずに鏡の中の顔が少し眉根を寄せた。
照れてあまり言ってはくれなかったけれど、時々小さく名前を呼んでくれた。
声と同じくらい優しい眼をした、ひと。
一生懸命なところ、可愛いと思っていた。いつか言ってくれた言葉、嬉しかった。だけど何と言ってくれたかはわからない。でも、嬉しいと思った、……思ったことを、心が憶えている。
背を……気にしていた。「小さいなあ」ってからかったら、少し困ってた。
……いつのこと?いつ交わした言葉?
知らないのに知っている。あの人を、知っている。
突然細切れになったような記憶がいくつもいくつも頭の中に入ってきた気がして、少女は背を丸め縮こまった。そのままでいたらどこかからこの記憶が流れて消えるような、そんな予感がしたから。
暖かいものだと思った。
この人との記憶は、きっと優しくて暖かいものだった。分からないことだらけだけれど、それだけは妙に確信を持てた。
涙、ひとつ。
ぽたりと突然、滴が服の袖に染みを作る。
見覚えの無い記憶の中で、この人がとても悲しい眼をしている映像がフラッシュバックのように脳裏に描かれた。それはきっと、……優しい記憶の裏側。
たくさんのものを失った。
たくさんの人が悲しみ、吼えている。
その中で、わたしは……………………?
何かをしようと、走った。
だって、
……ずっと一緒に居たかった。
あの人と、ずっと一緒に居たかった。
桜色の景色の中で、手をつないでいたかった。
桜を見て、綺麗だねって言って、そして全く同じ言葉が返ってくる。そんななんでもない時間が、どうしようもなく……愛しかったから。
きっと存在していた、そんな日々。
それを、守りたかったから。
からかうと眉を下げて少し呻く顔が、照れた笑顔が可愛かった。
あの人のことが好きだった。
とてもとても、…………好きだったから。
自分がそこにあるのは間違いないと思った。あの人が呼んでくれたらきっとわかる。
痛んだのは、きっと……消えた記憶の中にある心。
どうして会えなくなったのか、少女はわからずに一言だけ呟いた。
少し震えた声で紡がれたその名前は、白い部屋に吸い込まれ消えていった…………。
「突っ込む所だって今気付いたんですけどいいですか」
「なんだい」
「あのEとかいう奴のことです」
「ほう。何かな」
「先生、Eは鷹峰の鷹を意味するイーグルから来ているって言いましたけど、鷹ってホークですよね。イーグルは鷲ですよね」
一瞬止まってから、高畑は0点のテストが見つかってしまった小学生のような顔をした。
「うん、……そうだね」
「そうだねって……
教師がそんな簡単な英語間違えてどうするんですか」
千雨は呆れたように言いながら眼鏡を少し押し上げる。
しかし高畑が間違えているのは英単語ではなく、千雨にリベンジを申し込んだことだった。嘘をつくのが下手だと指摘されたので無表情でいれば勝機があるだろうと読んだのである。
結果は惨敗。
無表情を作ったことで、確かにババ抜きの際にジョーカーがどれかはわからなくなった。が、それも一瞬わからないという意味に変わっただけで、千雨から見ればババは透けて見えているようなものだった。
高畑はジョーカーを千雨が取り掛けると指がうんと緩まり、ジョーカー以外を取られそうになるとさせまいと親指に力がこもったからだ。
簡単に抜ける札がジョーカー。そんな公式が出来上がるのにさしたる時間は掛からなかった……。
罰ゲームに次ぐ罰ゲームで高畑はすっかり車内販売のお姉さんに変態を見るような目を向けられているし、近隣の乗客からもひそひそ声で囁かれる始末。
そんな中年男が明らかに自分よりひと回りふた回りは下の少女といるとなるといよいよ高畑を見る乗客及び添乗員の目は厳しくなる。
だが高畑は空気が読めない男だったのでそれには気が付いていなかった……。
千雨としてはこの天然眼鏡教師にひとつ赤恥をかかせてやろうなんて思っていたのだが計画は相当失敗しているようだった。
「いや、すまない、自分のペースで話していたからつい略してしまったらしい」
「略……?」
猫耳と巨○の星アイマスクを外し、代わりに眼鏡を取り耳に掛ける。そして観念したように飲みかけの缶コーヒーをあおると小さめの声で言う。
「あまり大きな声で話せる内容ではないから降りてからでもいいかい」
いいですよ、と千雨が答えかけた時に車内アナウンスが間も無く京都に到着することを報らせた。
「……うわ、結構暑……」
「今日は気温があるからねえ」
「勝手なイメージですけど、京都って涼しいと思ってました」
「京も関東も同じ日本さ、沖縄と北海道は別物としてもね」
京都駅に降り立った二人は在来たりな会話を交わしつつ出口を目指す。二人が居なくなったことを完全に確認した後の車内の様子は語る必要もないだろう。
たくさんの人を吐き出し、新幹線が動き出す。その様を見ながら高畑は千雨に対し完全なる事の始まりを説明しなければならないのだろうか、とぼんやり思う。
人を騙すのは好きではない。だから些細なものを除けば嘘はあまりついたことがなかった。氏家鷹峰についても頭文字云々を話しただけで鷹と鷲を見抜かれた。やはり自分は正直に生きた方がいいのかもしれないな、と苦笑する。
しかし鷹と鷲を見抜くのは技術など一切いらないということに高畑は気が付いていない。小学生でも知っているだろう英単語の知識の有無なわけなのだから。
天然おちゃめな30代、高畑・T・タカミチであった……。
タクシーを拾い、ひとまず予定として3日を過す宿へと向かうことにする。運転手は乗り込んできた親子とは言いがたい年齢差の二人について言及したそうだったが、彼は空気を読めるほうだったので会話は観光客へ向けるそれだった。
「お客さん、どちらから?」
「え?
ああ、東京ですよ」
「ほぉ、東京かい。てっこたぁ新幹線で来なすったんですか」
「はは、ご名答」
「観光ですか」
「う〜ん、観光……したいところだけど生憎仕事です」
にこにこ笑いながら言うので、仕事にこんな少女を同伴させる理由はなんだ、とよっぽど聞いてやろうかと矍鑠の運転手は思ったがなんとか踏みとどまる。
やくざ者ってのは分かり易い奴ばかりじゃねえからな、と内心呟きながらハンドルを切る。今日は妙に車の往来が少ない。
「運転手さんは京者じゃないですね」
「へ?」
「言葉が違う」
「あ、ああ。そうですね、私ぁ国が東北ですから」
「転勤か何かですか」
高畑としては雑談に興じているだけなのだが、彼を特殊な人種だとやや決めかけていた運転手にとっては最早『詮索するな』との無言の圧力に思えてならなかった……。
運転手が早々に会話を切り上げたので高畑はそれ以上何か話を振るでもなく、窓の外を走る景色に目をやり始めた。
町並みは所々が細かく変わっていて、違う場所に来てしまったような感覚を高畑に与えた。
……あれからもう十年か。変わっていて当たり前だ、……街も、人も。
どこか諦めたように内心で呟いた思い。そこにはかつての自分と決意があった。
いや、……変わったのは俺だけなのかもしれない。
同じ思いを抱き続けることの難しさ、そして理想と現実。胸焼けのする過去に額を押さえた。
再び景色に視線を戻す。
不意に、見覚えのある茶菓子屋が景色に現れた。
「残るものも、……あるか」
「先生、独り言はせめて第三者にも意味のわかるもの限定で」
「え?」
「好きなメニュー取られた過去でも思い返してたんですか」
千雨が眼鏡を拭きながら言った。我に帰り、千雨を見る。
「長谷川君」
「なんですか」
「君は、………………」
気の遠くなるほどの時間の中で、何があろうと同じ想いを貫く事は出来るか。そう聞いてみたかった。
何故か、この長谷川千雨という人間に無性に聞いてみたかった。
どうしてだろう。その答えになんの期待もしていない。
だが。
「着きましたよ」
運転手が会話を遮るようにそう言った。
「こうしているとなんだか間柄を疑われそうで困るかもしれないね」
何を今更、と千雨は突っ込みたかったが一見朴念仁の教師が実際は違うことを知っているためにそれは胸にしまっておく事にした。
確かに自分と高畑が一緒にいるのは外見的に不自然だ。親子にはまず見えない。かと言って兄弟でも無理がある。残るは友人・恋人だがそのどちらも厳しいだろうな、と思う。
こんな状況に陥ると思っていなかったので何も考えていなかったのだが、これはかなり異様だ。超がつくほどの変人(と千雨は思っている)教師でも流石に部屋を同じにはしなかったらしく、今二人が居るのは高畑が使うことになった方だった。
日当たりも良く、窓際に置かれた籐椅子に柔らかい日差しが延びている。ここで昼寝したらさぞ気持ちがいいだろう。あまり広いとは言えないが、簡素で上品な印象を与える和室はデジタル趣味の千雨にも好感を持たせた。部屋の隅に生けられた花が、今が春だと知らせている。
籐椅子を引き寄せ、高畑がそこに腰を落ち着かせたので千雨も倣い対のそれに座った。
「フロントでじろじろ見られてね、何か聞かれたら参るなあ、なんて思ったよ」
あはは、と笑う高畑だが、あまり冗談になっていないので千雨は笑わなかった。ネギとならばまだ兄弟で通じるのに、と思いかけて千雨は顔を軽く振って眼鏡を押さえた。
なんで今あのファンタジー教師が浮かんだんだ。自分の脳内構成を呪いたくなる。
……少し頬が熱かった。
「先生」
「うん?」
備え付けのティーバッグでお茶を淹れる背中に声を掛ける。
「英単語間違い講座の開講はまだですか」
嫌味たらたらで言うが、高畑には通じなかったらしい。頭上にはてなマークを浮かべられたので言い直す。
「後で話す、って言ってた話です」
「あ、ああ」
漸く前後が繋がったようで、高畑はバツが悪そうに笑った。
「氏家鷹峰のことだね」
「うじいえ……?」
タカミネという人物はコノエカネサダとかいう奴の兄弟だと言っていたはずだ。何故苗字が違うのだろう。婿入りでもしたのか?
そこは汲み取れたらしく高畑が答える。
「ええとね、近衛家の家系図を紐解く必要があるんだけど簡潔に言うとね。近衛家はうんと昔、氏家家の分家に当たる位置にいたんだ。遠い親戚と考えてもらえればいい」
「はあ」
「鷹峰と兼定は間違いなく兄弟だ。だけどね、何か事情があったのかどうか知らないけれど鷹峰は本家である氏家の家に養子として入ったんだ。だから兼定とは姓が違うんだよ」
本当はまるで違うのだがあながち間違いでもないし、そこまで説く必要も無い。そう高畑は思った。
「ええと、それで……、うん。
鷹峰の別称が何故Eなのか、という事だったね」
「はあ」
「鷹=ホークでその頭文字だとHで卑猥だから……というわけじゃないよ」
「わかってますよ」
そんなこと今時中学生でも言わねえよ、と言ってやろうかと思ったがやめておく。尋ねる、という漢字でニヤニヤした世代なんだろうか。
「三鳥項という言葉があってね」
「さん……ちょう、こう?」
聴きなれない所か聴いた事もないそれに思わず鸚鵡返ししてしまう。
「鷲・鷹・鳶。それら三つの猛禽と称される鳥達を纏めた言葉さ」
「はあ」
「君は知らないかもしれないが、世界には人間ではなくとも知能を持った種族と言うものが存在する。そのひとつが鳥族なんだ」
自分で淹れたお茶を一啜りして、言葉を選ぶように高畑は一度黙った。その間が少し長かったので千雨も高畑に先ほど手渡されたお茶に口を付ける。
……悪い意味で、個性的な味がした。
「鳥族はね、成人すれば単体で複数の人間を相手に戦って勝てる程の戦闘力を持っている。けれど非常に温厚で危害を加えなければ攻撃してくる事は無い。
……とりあえずそこだけは憶えておいてくれるかい」
「はあ」
「彼らはふたつに分類することが出来る。
まず戦闘を得意とし、かつ強力な力を持つ者。そして逆にあまり戦闘を好まない者。さっきの三鳥項とされる鷲・鷹・鳶は前者だね。後者は鳩か燕と呼ばれる。
そして氏家鷹峰は鷹の鳥族。近衛兼定は燕の鳥族だよ」
「え?人間……、じゃないんですか」
古めかしい名前だな、とは思っていたがこうもあっさりと人外であると断言され、千雨は少し戸惑った。
「ああ、人ではないよ。だけど一部の鳥族は生活形態がかなり人間よりだし外見は人と変わりない。彼らは人間の姿を借りることも出来る。言わなければまず鳥だとは思われないだろうね。
知能は人間並みだから人として生活している鳥族もそう珍しくない。羽根さえ見られなければ何の問題もないかもしれないね」
「……羽根」
「鳥だからね。羽根を持っているよ、当然。仕組みは知らないが上手く隠せるらしい。
それからね、彼らはある組織に属している。
近衛家だよ」
「攫われたとかいう、……近衛?」
「ああ、近衛木乃香の生家に違いない。属していると言っても服従しているかと言ったら恐らく違うだろうけどね」
「……?じゃあ何の為に」
高畑は一呼吸溜めてから押すように言った。
「生きる為、だよ」
「生きる……、為」
「氏家鷹峰も近衛兼定も本当ならとうの昔に死んでいる。彼らが生きていたのは数百年も前の話だ」
「……………………………………はあ?」
「やはりそう返してきたね。あはは、予想はしていたけど少しやりにくいものみたいだ……」
くすくす笑う高畑に、壮大なドッキリに掛けられたかと思いかけた千雨だが、すぐにその考えは棄てることになる。
高畑が……あまりに真剣な顔をしたからだった。
「彼らは平安時代末期に生きていた鳥族でね」
言ってから高畑は個性的フレーバーのお茶を湯飲みに注ぎ足した。千雨にも目で勧めるが軽く手を振られたので急須を置く。
「鳥の寿命はそう長くない。長生きして三十程度かな。氏家鷹峰は十五、近衛兼定は十七で死んだ。だけど彼らの死因は寿命じゃない。二人とも殺されたんだ」
「殺され、た」
「そう、殺された。
………………輪廻転生を、信じるかい」
既に何度か高畑の口を出ているその単語。
「……信じろと、言いたいんでしょう」
「……はは、参ったな……、そんなに僕の考えは駄々漏れなのかい」
「信じざるを得ない話なら信じなければ進まないでしょうが」
高畑は苦笑して湯飲みを口に付けた。……不味いな、と思った。
「輪廻がどんなサイクルかは知らないが、兄弟揃って同じ時期に巡り生まれるなんて神は偉大だね、誠慈悲深い」
「……本気で言ってます?」
「まさか」
視線を下に落とし高畑が薄く笑う。
「作為的なものだよ。だから本当は輪廻転生なんかじゃないんだ」
「え?」
「『呼び出された』のさ。遂行の為には力が、化け物が必要だから」
「……話が見えません」
「そうかい。じゃあ要約して説明しよう。
氏家鷹峰、近衛兼定は過去既に死んでいる。だが間違いなくこの世界に存在している。つまりは二度目の生だ。それがどういうことか。
まず氏家鷹峰。彼はある組織が必要としたから『呼び出された』。だから今この時間軸に生きている。
そして近衛兼定。彼は一度死に、だが何らかの方法で再度命を得ている。
彼が生きる為には膨大な魔力が必要だ。彼は自身の羽根に込められた魔力を使うことで今まで生き続けてきた。だから羽根が尽きれば彼は生きてはいけない。
召喚された鷹峰には羽根があるけど、兼定には羽根が無い。
ここまでは理解できたかい」
「…………ぶっ飛んだ……話ですね……」
思い出したように眼鏡の蔓に触れる。
「……確かにね。じゃあ続けるよ。もし分からなければ遠慮なく話の腰を折ってくれて構わない」
了解の意を込め頷いた千雨を見てから高畑は先を話し出した。
「召喚に必要なことがひとつある。
なんだかわかるかい」
「……いえ」
「残された意思、だよ。
自縛霊の話を聴いた事はあるかな」
「人並み程度になら」
「そうかい、それは結構。自縛霊というのはこの世に未練があるからその場に残り続けている幽体のことだね。彼らは目的を果たせず死んだ、もしくは恨みがあってそこを離れられないか大概どちらかだ。
氏家鷹峰は殺された。その相手を殺したかった。だから殺された土地に浮遊し続けていた。
ある組織は力が必要だった。だから強力な力を持つ者を探していた。
ここに契約の条件は揃っていたんだ」
「……契約?」
「召喚には対価が必要なんだよ。それを払ってまで現世に戻らせてやるから言う事を聞け、という約束事さ。召喚された者は現世で果たせなかった思いを叶えるチャンスが与えられる。
そしてその組織は氏家鷹峰を手中に入れた。彼を使い目的を遂行しようとしている」
「……目的」
「欲に目が眩んでいるだけだよ。……迷惑な話だね。
その対価というのはね、……召喚される者、この場合は氏家鷹峰だね。彼と同等の力を持つ鳥を転生先として用意すること。魂を呼び出しただけでは駄目なんだ」
「相応しい体が必要、ってことですよね」
「そういうことだね。そしてその組織は氏家鷹峰召喚の為に転生先を探す。だがそんな鳥はそう簡単には見つからない、何せ三鳥項のうちのひとつなわけだからそこいらをうろついて見つかったら苦労はしない。
だが彼らは年月を掛けてそれを見つけてしまった。
……………………桜咲、刹那。
……彼女のことは……知っているね?」
私独りで何KB喰ってるんだろう……
記憶喪失っていうか消されたんならどうやってもどせばいいのかわからないZE!
では、お粗末さまでした。
ご 馳 走 様 で し た 。
なんだか聞き捨てならん裏設定がちらほら出てるなあ、続きが気になる。
ヒロインは千雨か。今の原作みたいだね。
そろそろ次スレ必要かにゃ?
後2、3日でいいんじゃない?
んー、内容的にはかなり神がかっているんだが・・・、
このせつスレでやらなくても・・・というのはある。
まぁ、こんな長編だと他スレにも書きにくいかもしれないけど・・。
>>750のように主人公がたまにズレるってのも・・、
しかもオリキャラでいっぱいだし。
だったらスルーしろと言われたらそれまでなのだが、作者様も自重し始めている発言が出たので・・。
自分のサイトでうpすればいいのに、とはどうしても思ってしまう。
>>753 確かに微妙だけど・・・・・俺はこのまま続けて欲しい派
でも書け書け言って書いてもらった経緯もあるので
この作品については書ききってもらいたい。
でもって皆の衆。
ラストの劇的なこのせつ感動ハッピーエンドを期待して
それですれ違い系の米はチャラにしようぜ。
もちっとwktkして待とうや。
まさかこんな大作になるなんて初めは思わなかったし
それについては改めて作者さますげー(*´Д`)=зて感じ。
このせつスレに合わない、いわゆるオリキャラ多発っていうのはスレ的にかなり心配してたことなので問題なら私は一応自分のブログという個人的な場所を持っているので、検索ヒントかなにか置いて移動するってのも可能だと言っておきます。
本来なら全編をこのせつで進めるべきなのですがなかなかそうはいかなくてですね><後、ネギまには明確な悪役が居ない(ような気がする)のでそういう意味でオリキャラってのは投入せざるを得なかった事情があったり。
無関係な他キャラエピソードは全て最終的にこのせつに繋げる為の伏線としてプロットに組みこんで書いているんですがその過程が長いんじゃ意味がないですよなあ…。現在全体の半分いったかな?程度ですし。
今年受験なのでだらだら連載化するのは目に見えてるし…ということでご意見お願いします。
応援してくださる方、ありがとうございます><
携帯から長文失礼しましターン
だらだら連載ってなら後々面倒になりそうだから
一気にキリをつけといた方がいいと思う。
まとめサイトにも保管済みなのでサイト誘導というのも勿体無い。
長い間書けないというなら仕方ないけど
書ききった方が勉強にも集中できるんじゃないかな。
個人的なことなので自分が言っても大きなお世話なんだけど
一読者として、また書き手の一人として言わせてもらえば
書くと決めたなら、読んでくれる人がいる限り
読者の為に書け。
(中略)
例えそれが趣味の域だとしても。
って感じだ。
このせつで良い作品を書けば誰も文句なしだと思われる。
話を面白くするためには伏線は必要だ。
ただ長すぎて先が見通せなくて読者が困ってるんだと思う。
その辺の読者の気持ちは汲み取って欲しいと思うな。
偉そうに長々と失礼しました。
気に入らない人はスルーでヨロm(_ _)m
そう言えば受験て何受験?
年齢制限大丈夫か?
>>758 それこそスレ違いだろw
プライベートな事聞いてやるな
ここって21禁だったっけ?18だったっけ?
1 8 禁 ら し い
おやまあ
なんだかスレチ勃発だなぁ・・・、
>>756 あんたのSSめっちゃ面白いし、今までに無いスリルを味わえて大好き。
・・・なんだが、やはり結構長いのでちょっと読むのが大変だったりというのもある。
>>757の言う通りだし、個人的な意見でも続きは大いに期待してる。
だが、もう少し溜めてからとかそうゆうのを考えるのもいいことだと思う。
一刻も早く読みたいって人はいるだろうが、オレてきにはまとめて読みたいかもな。
だらだらとクソつまんない文をスマソ。
こんなこと書いてなんだが、あんたのことすごく応援しているから頑張ってくれ!
>>756 今のスタイルで続けるか書き溜めて一息に放出するかブログに移行するかの三択なら
現状維持でいいかな。
やりやすいスタイルが現状なんだろうしこっちは読ませてもらってるだけなわけで、
書き手の負担にならないスタイルならそれが一番。
望むことは終わりまで書ききってもらうことくらいかな。
あと作品とは関係ない話になるが、書き終えた後ブログにアップする予定があるなら
最終話ででも検索ヒントを頂戴な。
返答がずれてたかすら。
内容についてはとやかく言う気はございません。
気に入らなければスルーするし。
強いて言うなら冒頭にオリキャラ有りと書くくらい?鳥あるからいらないと思うけどね。
766 :
名無しさん@秘密の花園:2008/04/21(月) 01:45:12 ID:UjvgkeOK
もともと こっちが書いてくれとお願いしたわけだから 此処で書いて、読ませてもらうのが妥当だと思うがどうかな?
個人的には此処で読みたいし コレからのストーリーに期待していたいんだが・・・
767 :
名無しさん@秘密の花園:2008/04/21(月) 02:00:46 ID:IiIclAY9
期待しながらマンコくちょくちょしちゃうよね。
私も同じくwww
色々とご意見ありがとうございます。
私の中ではれっきとしたこのせつとして書いてはいますがその間のメインヒロインずれ、他キャラ使用でのストーリー進行が住人的にあまり良くないということですよね。それが問題だとここで投下することがダメってことになってしまうかなあ、と。
あと、文量は月1位で纏めて投下したほうがいいですかね?
長いから先が見えなくてアレ、というご意見があったので少しネタバレすると作者超ひぐらし厨なので「仲間と力を合わせよう!決められた運命なんかひとつもないんだぜ!」的進行で最後はこのせつ大団円です。
朝倉とか出したのはそれの為、みたいな感じだったりします…各人個性的な力持ってるのでうまく組込めばラストが面白くなるんじゃないかと思ったんですが(・3・)アルェー?だったみたいで、申し訳ないです…
作者一応18超えてますんで年齢制限はおkです。
あと、書き終わったら加筆修正版をブログに上げるのでその時は検索ヒント載せますね。
携帯から長々とすいません。
応援ありがとうございます。
スレ制限があるのでまとめて投下は難しいかな?
取り敢えず量によるかにゃ。
因みにダメとは誰も言ってないので、そこんとこ注意ダゾ。
このせつを期待して良いなら期待して待つ。
結果良ければすべて良しだからね!
必ず完結してください!
プレッシャー\(゜□゜)/カケテヤル〜
応援してるゾ♪
待ってるからね♪
ペースは今まで通りでいいと思うけどなー
別にこの小説は長編でもオリキャラでても最終的にこのせつなワケだし
続き見たいっていう人が多いんだからこのままでいいと思うがな。
逆に無くなったらサビシイ(´・ω・`)
というか俺も続き気になってしょうがないんだが。
ニコ動であるMADみて速攻書いたものですがよければどうぞ。
1なんとなく支離滅裂な気がする
2このちゃんっぽくない所があるかも…。
3というか、ちょっと狂い目?
それでもバッチこいな人は次からどうぞ
ウチはせっちゃんに溺れてるんや
溺愛…とでも言うんやろうか…?
ウチとせっちゃん
せっちゃん。
せっちゃん、せっちゃん。
此処は暗いよ、感覚もない。
けどな、せっちゃん。
ウチせっちゃんが居てくれるなら。
「――――――――――」
居てくれるなら―――
酷く幸せな夢だったのかもしれない。
世界が、真っ暗で、何も見えないのに。
せっちゃんは其処にいるという確信があって。
多分其れは、二人だけの世界、そのものだった。
それに…意味深なことを、せっちゃんが言っていた気がする。
モヤモヤとしたまま、朝を迎える。
ジリジリと五月蝿い目覚まし、多分アスナの…。
「…ん、ぅ…ってこらこのエロネギィィィィ!!!」
何時ものとおり。ネギ君は怒られている。
また潜り込みでもしたかやろうな…。
「…おはよう…」
「あれ、随分テンション低いじゃない」
…何時ものウチらしくない。
何時もなら、ひとつ笑い飛ばしてでも朝食を作りに向かうはずなのに。
「風邪でも引きました?」
そんなことはない。けど何か重い、そんな感じがして。
―――自分の部屋のはずなのに居た堪れない。
「うーん、そうかもしれん…」
―――嘘をついた。
「けど、一日で治るようなんやし、へーきへーき」
無理やりな笑顔、多分物分りがいい二人なら…。
そんな淡い期待を思いながら…。
「…そう、じゃあこのかはお休み、ついでに刹那さんも」
…気づいてくれた。
「うぇ、刹那さんも…ですか?」
「いいから、ってヤバ、こんな時間じゃない!!」
困るネギ君と上で叫ぶアスナの声は、何か遠くに感じた。
暫く、寝ていよう…。さっきの夢、もう一度見れるといいな、と期待しながら。
―――――せっちゃん。
呼ぶと、困った顔をする。
何でやろ?と思いながらも、でもひたすらに呼ぶ。
近くへとやってくるまで。
「どうしました?」
―――――なぁ、此処にいて。
「其れは無理ですよ」
すんなりと否定される。
何で、と頭に廻るだけで答えはおろか、何で、と唱える事しか出来ない。
―――――何で?!何でなんせっちゃん!?
ほら、また困った顔。
最近、この顔しか見ていない気がする。
「お嬢様の言葉には、従います、ですが―――」
条件でも、なんでも平気やと、思っていた
「ずっと一緒に居ることにも限界があるということです」
条件でもましてやお礼の言葉でもない。
完全な「限界」を意味する言葉。
否定したかった。別れの手前を。一時の離れさえも。
其れすら「嫌」と感じていた。
此れを溺れてると言わずして、何といえる?―――
ふと、目が覚めた。
枕は、涙で濡れていた。
今は何時やろう、と近くの時計を見る。
昼や、昼休みの時間…ウチは相当長い間、眠っていたようや。
横には、せっちゃんがいた。
ウチの手をとって、それに縋るように、眠っていた。
―――アスナやろうな、こうさせたんは…。
何故か酷く寒い感覚がした。
―――せっちゃんは、ウチを置いて行かんよな…?
それは自分にとっての希望で、願望で。
…絶対に否定されたくない、だから命令でもあった。
普段は優しくて、其れを皆にも分けて、そしてウチを護ってくれる。
けど、其れを全部ウチのもんにしたくて…
「んぅ……」
もぞ、とせっちゃんが動く。
手を握る手が、無意識のくせに強なって、少し幸せな気がする、けど…
―――せっちゃんが、泣いとる…?
その頬には少し光る筋。
―――堪忍な、せっちゃん
ネギ君に貰った簡易杖で…
「プラ・クテ・ビギナル…」
せっちゃんに、通じるか解らんけれど…それに頼るしか、なかった。
―――――白い。
真っ白な、世界だった。
せっちゃんが見えた…と思ったら…
「誰だ…誰だ…誰だ…っ!?」
赤、強烈なほどの、血。
其れを滴らせてる……ウチ…?
「お嬢様を…このちゃんを…やったのは誰だ!!」
せっちゃんに見えているのは、ぐったりしているウチだけで…。
…でも何故かその姿がとても愛おしく思える。
だってずっと見てくれているのだから。
―――――其処で、途切れた。
…ウチにとっては、幸せな、夢だった。だけど…。
「…ぁ…お嬢様…目を覚まされていたのですね」
せっちゃんにとっては、最悪の夢。
「…うん…おはよう、せっちゃん」
出来うる限りの笑顔を作るも、せっちゃんは…
「私の夢、見たんですね」
それは、冷たい言葉。
「…ごめん…な、出来心にしても、ちょっと酷いゆーんは…」
「いいですよ、別に」
次の言葉を言わせないかのように、少し押される言葉。
せっちゃんの顔が、曇った気がした。
話題もなく、只じっと黙るしかなかった。
でも確認したいことがあった。
「せっちゃん…ウチのこと、“愛してくれる?”」
「………お嬢様が、望むなら」
―――ウソつき。
もう愛してるくせに、と、言いたくなる。
「お嬢様が望むなら…私は―――」
「アホせっちゃん」
今度はこっちが切る。
「…お嬢様…」
悲しげな声に精神が掻き回されている様で
「ちゃんとウチのこと見て、触って、感じて…呼んで?」
全部、して欲しい事。
「おじょ…」
「ちゃうやろ」
正させる、命令ともいえる、言葉で。
「……このちゃん」
やっと、呼んでくれた。
夢の中では叫ぶほどに言っていた。ウチの名前。
せっちゃんの服を掴んで引き寄せ、すかさず、唇を奪う。
「……っ」
―――知ってる?せっちゃん。
もうウチは止まらんよ、せっちゃんの為なら。―――
その想いを込めながら、唇を離す。
「このちゃん…私は…」
「ウチな、せっちゃんのこと好きで、愛しとる
…それだけじゃ足らん…?」
ぶんぶん、と音が鳴るぐらい横に首を振る仕草。
消えたりしたら、容赦せん。
多分、其れくらい、ウチはせっちゃんに溺れてるし、好きだし…。
其れを表にしちゃいけんと知ってても、ダメで。
まだ、迷惑かけてまうな…。
なぁ、せっちゃん…。
では、乱筆乱文失礼しました。m(_ _)m
テラGJ
こうゆうSSも好きだ
そろそろ次スレを
今から次スレ立ててくる
乙です!
今回は間に合ったね。
テラ乙。梅に何か投下したいが最近帰ったらすぐ寝ちゃうorz
週末にでもやろうぜ。
俺も何か考えてみよう。
梅ついでに
何かネタかシチュかお題を
誰かギブミー。
春っぽく中学生らしいさわやかラブラブ物を所望する!w
俺がやるとどうも暗い鬼畜になってしまう。
じゃあ俺は中学生っぽく初々しいエロエロ物を所望する!
これ以上はヤバいと思いながらも、初めて味わう快感に止まらなくなる二人、みたいな!
魔法世界で二人っきりで彷徨って欲しい。
明日菜と楓となぜかはぐれてしまったとか
いっそパラレルワールドってことではじめっからペアで飛ばされたとか
刹那攻めのエロが読みたいZE!
俺もせつ→この派だなw
へたれなとこもあるが王子様なせっちゃんが好きだぜ
ヘタレ王子様なせっちゃんはきっと、
パツキン紅眼の魔女っ子や双子巫女のツンデレ姉と魂の姉妹。
総受け時々攻めな雰囲気がそっくりだと思うのは自分だけか?
すまんその魔女っこや双子の姉がさっぱり分からない…梅だしはっきり言っちゃってくれ
東方とらきすたかな?
おれはこの→せつダナ。
可愛ええせっちゃんに萌え死に///
797 :
793:2008/04/25(金) 00:31:30 ID:kdtB3uZN
>>794-795 リリなののフェイトとらきすたのかがみ。東方の事は全然分からん。
>>796 この←→せつ、だけど遠慮や躊躇があって互いに多少距離置いてるところに
明日菜が頑張ったり龍にんがちょっかいかけたりするのが好きだな自分は。
>>790 そのパラレルかなり妄想しがいがあるw
服を食べるモンスターにこのかが襲われる
↓
刹那助けるが手遅れ、服全部食べられる
↓
刹那がスカートとシャツだけこのかに貸す
↓
刹那はサラシとパンツだけ、このかはノーパンノーブラというエロい格好で
二人のジャングル生活スタート
末期かな…orz
いやwww
是非とも萌え絵描きの皆様にイラスト化して欲しい図柄だ。
むしろ萌えへのはじまり‥‥。
>>798 ここは全身媚薬まみれの怪物(魔物)をせっちゃんが倒して、
その姿に刺激された木乃香が押しt(ry
オレの脳内はこんなもん
やっとパクテオカード届いたんだが……
このせつ向き合って重なってたから、キスしてるみたいだ!と開けた瞬間思ってしまった。
家宝にする。
うめようとしてやってしまいました。単品なので許してください。
BRネタです、スレ違いは重々承知で投下させてください。
完全にせつ→このです。痛過ぎです、というかせっちゃん殺人鬼。
あえて何時もとは違う書き方です。ちょっと独りよがりシチュなんで。
では、それでもイイって方はどうぞ。
………本当に申し訳ないです。(最初から謝っておきます)
madness〜狂気〜
殺人ゲーム。
そういうことらしい。
勿論理解していた。
だから…―――
皆、殺した。
途中、お嬢様と会った。
勿論、返り血を浴びた姿だったから、恐れられた。
「大丈夫ですよ」
といっても、聞いてくれない。
こんなに貴女を思ってクラスメイトを手にかけているというのに。
「…貴女だけは、殺しませんから」
その場を立ち去りながら言ったの、聞こえてましたか?
再度お嬢様に会える様に乗ってる人を抹殺して見せた。
一人でも殺した人、敵意を向けた人全員殺した。
ほら、ゲームなんですから。
だったらお嬢様を優勝にさせたいと、思うじゃないですか。
お嬢様に付き添って、守りたいけれど
そんなことしたら、お嬢様が壊れてしまうでしょう?
壊れるなら私の前で、私が死ぬ様で壊れて欲しいと思うじゃないですか。
…あれ、思いませんか…?
お嬢様みたいに、武器もなくって震える人が居ましたが。
お嬢様のために死んでください、って言っても、恐れるだけですから。
同意だと思って殺してしまいましたが、問題ないですよね?
流石に不眠不休は疲れましたが、それでもお嬢様の為と思って。
私、頑張ったんですよ。お嬢様の為に。
最後の二人になって、やっとお嬢様の前で終われる。
ほら、喜んでくださいお嬢様、優勝ですよ。
なんでそんな憎むような顔をするんですか。
だって私はお嬢様のために…
「今のせっちゃん、大嫌いや」
…そんな、冗談を言わないでくださいお嬢様。
私はお嬢様の為を思って…。
「せっちゃん…今のせっちゃんはせっちゃんやない
―――ただの殺人鬼や」
そうですか…、殺人鬼、ですか。
確かにそうかもしれませんが、私は後私を殺さないといけないんです。
死んだら、欠片でも良いので、私を持っていてくれませんか?
それでは、今度会うときは何処でしょうね。
輪廻転生があるなら、また会いたいですね。
今度は、普通のお友達として会いたいですね。
どうなんでしょうか?
そろそろ私はこの世からは去らないと、お嬢様もろとも死んでしまいます。
其れはそれで良いかもしれませんがお嬢様には生きていて欲しいですし。
だから沢山のクラスメイトの命を奪ったんです。
解りますか、お嬢様。これが私ができる精一杯なんです。
殺さず脱出できる方法、私には、思いつきませんでしたから。
ごめんなさい、と謝ったところで、戻ってきませんし。
ねぇ、お嬢様、最後にお願いがあります。
忘れてください。私以外のことを。
そしたら何時も私はお嬢様と共に居られます。
別に、全部でなくても構いません。
私だけを覚えていてくれればいいのです。
さて、そろそろ危険ですね。
またお会いしましょう…、 。
ほんと、すみませんでした(平謝)
ちょっとせっちゃんをヤンデレにしたかっただけなんです。
かっとなってやっちゃったんです、今は反省してます。
本当の乱筆乱文、まことに失礼しましたm(_ _)m
梅 乙
BRスレ潰れたの? まぁこのせつだからスレ違いではないかもしれんが。
まぁ、いいんじゃないか。
いや、よかったよヤンデレせっちゃん
本家BRスレで作者不在の時に、投下してみたら?
ちょっとだけ、お話を…。
>>808 潰れていませんよ。
>>809 ありがとうございます。励みになります。
>>810 実は本家に投下していた経験アリです。(汗)
黒歴史化されているかも知れませんが、作者2なんですよ。(苦笑)
バットエンディング書くときに行き詰って投下しにくくなっていって…。
気付いたら既に作者が21に増えててびっくりでした…。
最近まとめのサイトに日参して補完している最中です…。
まぁ、そこで思いついたのですけどね、↑のを。(汗)
では、乱文、失礼しました!
>>798 原作で二人とも安否不明だった時から妄想が止まらなかったというのに
なぜまだSSが投下されてないんだろうorz
こ、こええええぇ!!(((;゚Д゚)))
でもあんまり違和感無い……返り血塗れであっけらかんと嗤うせっちゃんの顔が脳裏から離れません。
GJで乙っした。
妄想し過ぎて燃え尽きた?
OR
妄想が膨らみすぎてまとまらない?
いや舞台設定がはっきりしないからかもなぁ‥‥。
プロットを落としてみたら以外と職人さんが反応するかもね?
それにしてもクロスイーターのプロットなかなかいいですなぁ。
ちょっとまたうめにきました…。全部入るといいんですが…。
今回はif魔法世界と題してもしもこのせつが近くに飛ばされていたらです。
どうも皆さんが妄想しすぎているようなので(まぁ、人のこと言えませんが…)
ちょっとした小話(のつもりですが)をうめ投下します。
では、スレ住人と少し違いがあるかもしれませんが、どうぞ。
早く、早く探して見つければ。
私はともかく、お嬢様が…!!
if魔法世界〜もしもこのせつ二人が近くに飛ばされていたら〜
お嬢様の気配はずっと覚えている。
だから、探す。
だとえ私が死のうが生きようが。
弱いが、近くに居ることはわかった。
だから―――私は駆ける。
「いややぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
お嬢様の叫び声だ
…いま、参ります、お嬢様!!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
問答無用でお嬢様を襲う変な物体をぶった切る。
何かが引っかぶるが、気にせずお嬢様を即座に助ける。
バッチは…、よかった、持っておられるようだ。
…あれ?お嬢様がほんのちょっとだけ軽い…?
「…あれ?せっちゃん……うわわっ、見んといてー!」
気付いたのか抱きついてくるお嬢様…ん、見るなとはどういうことだろう?
…もしや、この微妙な軽さは…服…?
ちらりと見れば、其処にはお嬢様の素肌が見えて…。
…なるほど、先ほどの変な物体は…
服を溶かすような液体を持っていたやつなのですね。
にしたとしてもそれだけではないようですね…。
何かかかったようですが服が溶けた様子はない…、あれ…?
「なぁ、せっちゃん…」
…お嬢様の様子が少しおかしいような…?
「なんでしょ…ん!?」
顔が近いと思ったら…キス、された……!?
待て、待て待て、相手お嬢様、うん、これは会ってる…っておい。
「なっ、ななななっ…!?」
私の頭の中は混乱の一途を辿る。
勿論走る意味も解らなくなって、徐々に速度が遅くなって、やがて止まる。
支える以外意味を失った腕からお嬢様するりと抜けると抱きしめてきて…。
何してるんですか、お嬢様、しかもお嬢様…裸ですよね、ねぇ?!
そう言いたいのだが思うとおり動かない、余りの事に混乱を通り越したか。
いや、考えろ、お嬢様は何した?何をしていた?
もしかしたら私の背についたものは自然の媚薬だったとか。
で、あの変な物体の中で生成されるがために切って離脱する時に付いて。
其れがお嬢様の気を引いて、お嬢様が舐めたか嗅いだかして、今に至ると。
…うん、完璧な推理だ、多分あっている、としても…としても、だ。
私にどうしろというんだ!?なぁ、教えろ、誰でも良いから!!
なんて思考で叫んでも誰も反応しないわけで…。
しかもお嬢様私の服脱がし……まてぇぇぇい!!!
「おじょ、このちゃ、いや、なんしとるん!?」
あまりの衝撃に京都弁らしきものがでたな…自分、大丈夫か?
「んー?何って…ウチせっちゃんとイチャイチャしたいわぁ…」
あかん?とか涙目で告げるなんて、お嬢様、それは反則だと思うんです。