810 :
5aaa:2006/09/15(金) 01:05:17 ID:t6htTn7y
その言葉を聞いて、私はやっと静の肩から顔を上げた。
静と目が合う。
なんだか恥ずかしい。
「でも、静が私のこと好きだったなんて全然気付かなかった」
「でしょうね。私だって、こんなことにならなかったら言う気なかったもの」
「こんなこと?」
「だーかーらー、佳奈から聞いてたんでしょ?私が仁美さんのこと好きだって」
「は?聞いてないけど?」
「は?」
「いや、だから佳奈からは、何も聞いてない」
「え?でも、めぐさんが『佳奈が静の気持ち、仁美にバラしちゃったよ』って。
『こうなった以上、ちゃんと自分の口から伝えた方がいーんじゃないの』って。
それで車で拉致られて、ここまで連れて来られたんだけど…だから私、観念して…」
「…はめられたんじゃないの?」
「…ああっ」
811 :
6aaa:2006/09/15(金) 01:06:23 ID:t6htTn7y
静が頭を抱えて崩れ落ちてしまった。
動かない…。
「もしもーし?静さーん?」
「…あんのバカップル、今度会ったら絶対っ!!ブッ殺してやるっ!!!!!!!」
静の形相といったら、
それはもう、物凄いものだった。
<おわり>
812 :
7aaa:2006/09/15(金) 01:06:53 ID:t6htTn7y
<correlation chart ―bonus track― mamiko and ayako>
仕事終わりに綾ちゃんの家に寄って今までのことを報告した。
綾ちゃんは、ふんふんと相づちを打ちながら話を聞いてくれた。
「で?結局全部うまくいったのね?」
「うん」
「なばとは仲直りしたの?」
「うん。この間スタジオでね、みんなで謝った。
そしたらね、なばったら『ううん。いーの。ごめんね。ありがとーっ!!!』って、半べそかいてたんだよ?」
「静ちゃんの方は?」
「えっとね…私はなんともないんだけど。めぐさんと佳奈ちゃんの方は大変だったみたい」
「…だろうなぁ。しっかし、麻美も顔に似合わず大胆なことしたよね。うまくいったから良かったようなものの…」
「うまくいったんだからいーじゃない」
「…私、あなただけは敵に回したくないよ」
「えーっ?!なんでー?私、綾ちゃんの敵になんてならないって」
「だといーんだけどね」
「んー、もうっ」
「そんなふくれないで。可愛い顔が台無しよ?」
綾ちゃんはそう言って、私の頬を突っついた。
813 :
8aaa:2006/09/15(金) 01:07:35 ID:t6htTn7y
「そーいえばさ、なんで亜美ちゃんは逃げ出しちゃったの?あのコ、純情系?」
「純情系って?」
「本当に好きな人以外とはキスなんて出来ませんっ!とか。
実は、本気でなばの事が好きだったのに、ふざけてキスするなんて酷いっ!とか。
あっ!実はファーストキスだったとか?」
「それは考え過ぎだよぉ。
亜美ちゃんにはちゃんと相手がいるし、さすがにファーストキスってことはないでしょ。
ただ単に、びっくりしちゃっただけだって」
「え、何?亜美ちゃんの相手って誰?!」
「三瓶です♪」
「…」
「え?え?何?」
「…ぶわっはっはっはっはっは!!!」
綾ちゃんがお腹抱えて笑ってる…。
私、失敗した?
814 :
9aaa:2006/09/15(金) 01:09:02 ID:t6htTn7y
「はっはっはっは!!!
ひーひー、ちょっと、タイム。やー、むりぃー。おかしいよぉ。
麻美ってば『三瓶です♪』って!振り付きでっ!きつい!きついよ!しかも古いっしょっ!
あー、もう面白過ぎー。
やーん。みんなにメールしちゃおー♪」
「いやーっ!!
綾ちゃん、やめてーっ!それはやめてーっ!!」
「ん〜、誰がいっかな〜。
やっぱ、ここはなばかなぁ?あ、麻美の『お姉さま』とかいっとく?」
「あ〜ん。やだやだ。無理っ!絶対無理っ!!お願いだから、やめてぇ〜」
ニヤニヤしながら携帯を開いてる綾ちゃんの手から、私は無理矢理携帯を取り上げた。
綾ちゃんは、さして気にする風でもなく会話を続けた。
…よかった。本気でメールする気はなかったみたい。
815 :
10aaa:2006/09/15(金) 01:09:34 ID:t6htTn7y
「…ねえ、もしかしてさ、山百合会ってみんな百合?」
「え?!違う違う。恵美さんとか美紀さんとか結婚経験あるし」
「あー、じゃあ、山百合会若手?」
「いや、それもちょっと…」
「え、そう?
だって、麻美でしょ?めぐと植田佳奈。なばと伊藤静。あと小清水亜美ちゃんも山百合会に入るんでしょ?」
「でも、春菜さんとか…」
「春菜ちゃんは氷上恭子じゃないの?」
「え…ほら、甲斐田裕子ちゃんとか佐藤利奈ちゃんもいるし。あと香里ちゃんと理恵ちゃんも」
「理恵ちゃんって釘宮理恵ちゃんでしょ?相手、いるよね?
ほかの3人だって怪しくな〜い?ほら、絶対怪しいって。ってゆーか、3人とも絶対にモテるよ、あれは」
「…」
ま、まさか…そんな…。
い、いや、いくらなんでも全員ってことは…。
…ああ。ダメだ。
深く考えない方が良さそう…。
816 :
11aaa:2006/09/15(金) 01:10:14 ID:t6htTn7y
「なんだかな〜。
私、心配だなぁ。麻美、浮気なんてしちゃ嫌よ?」
「大丈夫だよぉ。綾ちゃん心配し過ぎ」
綾ちゃんがヤキモチ妬いてる。
けっこう嬉しかったりして。
「でも、あれだよね」
「ん?」
「みんな優しいんだね」
「うん、ほんと」
「いーなぁ。私も山百合会、入りたいなぁ」
「わ、それ楽しそう。機会があったらオーディション受けてみなよー」
…そうは言ったけど。
やっぱり勿体無くて、山百合会は私だけの場所にしておきたいな。
なんて、
そう思ってしまったのは、
綾ちゃんには内緒。
<おわり>
817 :
12aaa:2006/09/15(金) 01:11:44 ID:t6htTn7y
<correlation chart ―side story― ami and sanpei>
仕事終わりに、ぺと待ち合わせて、ご飯を食べに行ってきた。
今は私の家に来てる。
今夜は久々のお泊りなのだ。
「あー、超疲れたぁ。先にお風呂入ってもいい?」
「うん。いーよ。着替えは、そこらへんのテキトーに使っていーから」
「ん。サンキュ」
そう言って、ぺは勝手に引き出しを開けてTシャツと短パンを取ると、バスルームへ入って行った。
どこに何があるかなんて、ぺはすでに熟知してる。
勝手知ったるなんとかってやつだ。
818 :
13aaa:2006/09/15(金) 01:12:35 ID:t6htTn7y
シャワーの音を耳にしながら私は思う。
ぺと2人でゆっくり出来るなんて久しぶり。
話したいことがたくさんある。
新しい仕事のこととか。
遊びの計画とか。
秋・冬の洋服の話とか。
ぺは明日は休みだし。
私の仕事は夕方からだし。
今夜はたくさん夜更かし出来る。
嬉しいな。
「風呂上がったよー。ありがとー」
そう言いながら、ぺがバスルームから出てきた。
濡れた髪をガシガシ拭きながら。
子供みたいで色気なんて全然ない。
それでもなーんか可愛く見えちゃうんだよなぁ。
「ドライヤー、使っていーよ」
「ん。ありがと」
「じゃ、私もシャワー浴びてきちゃうね」
「いってらっしゃーい」
819 :
14aaa:2006/09/15(金) 01:13:16 ID:t6htTn7y
…ちょっと、遅くなっちゃったかな。
タオルで髪を抑えながら、私はバスルームを出た。
髪が長いと、何かと時間がかかっちゃう。
短い方が楽なのは分かってるんだけど、ここまで伸ばしちゃうと勿体無くてなかなか短くできない。
部屋に戻ると、ぺの姿が見当たらなかった。
あら?どこ行っちゃったのかな?
ふと見ると、私のベッドにぺが突っ伏してる。
「おーい。ダーリーン。ハニーがお風呂から出てきましたよー」
そう言って顔を覗いてみたら、彼女はすでに寝息を立ててた。
マジ?
私、楽しみにしてたんだけど…。
寝ちゃったの?
いくら疲れてるからって、早くないデスカー?
私のこと待っててくれたっていーんじゃないデスカー?
…。
もうっ。
こんな気持ち良さそうに寝られたら、うるさくてドライヤーなんて使えないじゃない。
820 :
15aaa:2006/09/15(金) 01:14:05 ID:t6htTn7y
仕方なく、私はタオルで髪を拭きながらテレビをつけた。
「…っん」
背後でぺが寝返りを打った。
振り返ると、やっぱり彼女は気持ち良さそうに寝息を立ててる。
無防備な顔、しちゃってさ…。
余裕こいてられんのも、今のうちだからね。
絶対、振り向かせてやるんだから。
「覚悟しとけよ」
私は小さくそう呟いて、ぺのほっぺたをつついた。
それでも、
やっぱり彼女は起きなくて、
そんな彼女を許してしまう私は、
どーしよーもなく、彼女に恋しちゃってるんだなって、
そう思わずにはいられなかった。
<おわり>
821 :
16aaa:2006/09/15(金) 01:15:29 ID:t6htTn7y
<correlation chart ―side story― shizuka and hitomi>
付き合い始めてしばらくした頃、私は彼女に言ってみた。
「私、実は付き合う前に仁美さんに告ったことあるんだけど」
「は?いつ?」
ああ。やっぱり覚えてないか…。
「半年くらい前に。仁美さんとご飯食べた時」
「えぇぇー?それ、ほんとー?」
「ほんと。『私と本気で付き合わない?』って」
「んー。で?私、その時なんて答えたの?」
「『いや〜ん。私、相手を静一人になんて絞れな〜い♪』って」
私は、その時の仁美のように、思いっきり笑顔でそう言ってやった。
822 :
17aaa:2006/09/15(金) 01:16:09 ID:t6htTn7y
「ああっ!!思い出した!あったね、そんなこと」
「そんなことって…。私がどれだけ勇気を出して…しかも思いっきり流されたし」
「いやぁ、ごめんごめん。ま、今はこうしてうまくいってんだからさ」
「辛かったのよ、私はっ!!」
「あら、やだ。そんな可愛いこと言われたら、襲っちゃうよ?」
「…あぁ、もうっ」
そんなこと言って、本当に襲ってきたことなんてないくせに。
これ以上、どれだけ待たせれば気がすむのよ、あんたはっ。
「まあまあ。そんな怒んないで…ところでさ」
「ん?」
「ちょっと真面目な話、してもいい?」
「え?な、何よ?」
「私たち、付き合い始めてけっこう経ったじゃない?」
「うん。そーだね」
「ここらへんでもう一歩、踏み出してもいーと思う」
「は?何の話?」
「私、本当に静のことが好きなんですよ」
「う、うん」
「静は?」
「…私も好き、だけど…?」
「だから私、静とちゃんと抱き合いたい」
「は?抱き合ってんじゃん」
「いや。だから…えっと…裸で抱き合いたいな、と…」
「は、はあ?!あんたはなんでそーゆうことをっ。真面目な話ってそれ?!」
「違う違う。私、真面目だから。超真面目に言ってるから。絶対、ものすごく素敵なことだと思うの」
823 :
18aaa:2006/09/15(金) 01:16:55 ID:t6htTn7y
仁美が顔を赤くして、真剣な目で私を見つめている。
それって…
私たちもついに…。
仁美がついにその気になってくれたってことで。
私はもう待たなくてもいいって…
そーゆうことだよね。
「…私も、素敵だと…思うよ」
ああ、もう。
顔から火が出そう。
「ほんとに?」
「…うん」
「よかったぁ。
私、ずっと待ってたんだけどさぁ。静ったら全然手出してこないから、その気ないのかと思ってた」
「え?」
「ん?何?」
ま、まさか…。
824 :
19aaa:2006/09/15(金) 01:17:25 ID:t6htTn7y
「手出すって、私が?」
「うん、静が。何?私、なんか変なこと言った?」
「いや。私は仁美さんが手出してくるのかと…」
「え?」
「…うそ…」
まさか…まさか…。
そーゆうことなの?
「静、攻めじゃないの?!」
「仁美さん、攻めじゃないの?」
私たちは同時に声を上げた。
ああ、やっぱりそーゆうことでしたか…。
「ちょ、ちょっと。私は静が男役だとばっかり…」
「それはこっちのセリフだっての。勝手に決め付けないでよ」
「どうりで手出してこないわけだわ」
「ほんと…」
もう、馬鹿みたい。
私は仁美が家に来る度に覚悟してたってゆーのに。
825 :
20aaa:2006/09/15(金) 01:18:07 ID:t6htTn7y
「これ、どーすればいーの?」
「どーするって…私に聞かれても…」
私に聞かれても、困る。
「そっかぁ。静ってば受けだったのね。意外…」
「意外?」
「だって、ほら。キャラ的にさ」
「そんなん、仁美さんだって女の子に手ばっか出して。だからてっきり攻めなのかと…」
「それとこれとは話が別だよ」
「それは私だって…」
「…ふぅ」
2人してため息をつく。
女同士って、なにかと大変です…。
<おわり>
826 :
21aaa:2006/09/15(金) 01:18:47 ID:t6htTn7y
<correlation chart ―side story― megumi and kana>
ほんとに…
人生どーなるかなんて、わかったもんじゃないよなぁ…。
「あ、聖さまー。ごきげんよー」
『マリア様がみてる』のスタジオに入ると、佳奈が私の元に駆け寄って来た。
相変わらす、おめめキラキラめぐさん大好きオーラ全開だ。
「ごきげんよう、祐巳ちゃん」
このスタジオ限定の挨拶を私は返した。
この作品の仲間は、なぜだか妙にウマが合って、みんな持ちキャラそのままで接する。
827 :
22aaa:2006/09/15(金) 01:19:25 ID:t6htTn7y
ああ、痛い…。
私は彼女からバシバシ飛んで来る目線に気付かないフリをしながら台本のページを捲った。
好いてくれるのは、べつに悪い気はしない。
でも、ここまであからさまにキラキラオーラ出されても…。
正直、ちょっと困っている。
一体、私なんかのどこがいーんだか。
植田佳奈。
彼女が女の子大好きなのは知っている。
色んな噂が私の耳にも入ってきているから。
…まぁ。
どこまで本当なのかわかったもんじゃないけど。
それに、噂さえ気にしなければ、
彼女は明るくて人当たりもいいし、
仕事も真面目にこなす。
嫌いじゃない。
828 :
23aaa:2006/09/15(金) 01:20:01 ID:t6htTn7y
しっかし…
このキラキラ攻撃がなければなぁ…。
麻美子はヤキモチ妬くし。
静にはからかわれるし。
仁美にいたっては、影で佳奈を焚きつけてる節さえある。
週に一度の収録は、
楽しくもあったけど、
少しだけ気合いを入れて臨まなければいけなかった。
佳奈ちゃーん。
早く目を覚ましてくれよぉ…。
これはまだ…
私が彼女と恋に落ちる
少し前のお話。
<おわり>
829 :
aaa:2006/09/15(金) 01:24:17 ID:t6htTn7y
<あとがき>
長々すいません。
番外編まで一気にのせてしまいました。
これで本当にもう終わりです。
もう当分(金輪際?)こんな長いの書きません。
ここまでありがとうございました。
>>829 GJ!!
長編お疲れ様です。
楽しませて頂きました。
また機会があれば、長編でなくとも、期待してます
>>829 Congratulations on the conclusion!! It's Great,Good Job!!
略してGGJ!!
>>829 お疲れ様でした!
まさに大作!ホントGGJ!!
新作の楽しみにしてます!
GJとしか言いようがない…
最高だった
神!!超GJ!!
お疲れ様です、なば静最高でした。
ほんとGGJ!!!
こんな神SSを読めるなんて幸せ…(´Д`*)
個人的に番外編のあみっけさんぺーが良かったです。
乙でした!!よければまた書いてw
突然だが
菊地美香→千葉紗子
なSS希望してみる。
837 :
aaa:2006/09/18(月) 00:47:08 ID:I2/Lb2qP
>>830-835 コメントありがとうございました。
とても嬉しかったです。
>>835 自分もあみっけさんぺー編はけっこう気に入ってたりします。
このカップルは需要がないと思っていたので喜んでくれた方がいて良かった。
もうネタが尽きたのでしばらくはお休みしますが、いつかまたSS載せることがあればよろしくお願いします。
今までありがとうございました。
838 :
名無しさん@秘密の花園:2006/09/20(水) 05:24:42 ID:FQEIOl7s
tiara期待age
>796の続きですが、一応ここで始めたのでここに投下しようと思います。
で、新スレ立てようと思ったんですがホスト規制でハジかれました・・・。あー。
一応テンプレ案を載せときます。
どなたか参考にして立てて頂ければ幸い。
立ったら続きはそこで。
や。別にここはPart5で打ち止めにして以降は主張所+で、という流れでも全然いいんですけど。
とりあえず。
●SCENE 4
2006年8月3日 東京
今度のお盆なんだけどね――と麻美子に話を切り出され、私ははっと息を飲んだ。
「特に帰る予定はないって言ってたよね?」
「・・・そうだね。特にないよ? こないだ栃木に行ってきのがお盆の代わりだったしね」
「うんうん」
麻美子が正にあの夢の通りに話を進めてきたので、私も夢と同じように答えていた。
唯一違うことと言えば、うなされていたという私を気遣って
麻美子が煎れてくれた水出しのお茶がテーブルに置いてあることだけだった。
ここに来て、私はつい先ほどまで見ていた夢が悪夢でも正夢でもなく、
現実だったのではないかと疑い始め、本当にやり直せるかも知れない期待感で麻美子の言葉を促した。
「麻美は今年も帰るんだ?」
「・・・うん。それなんだけどね?
あのぅ、なるべく綾ちゃんの予定に合わせるからさ、一度、一緒に帰れないかな?」
「二人で、金沢に?」
「うん。綾ちゃんをね・・・実家に紹介したいの」
そうだね――と私は即答した。
「そうだね。ちゃんと挨拶したほうがいいもんね。お姉さん頑張るから。麻美とのことだから、頑張る」
頑張るよ――。長い回り道をしてしまったけれど、
ずっと応えてあげたいと思っていた言葉を、ようやく麻美子に伝えることができた。
あの夢の中で私は、麻美子に応えてあげることができなかった。
それがずっとわだかまりとして残り、心の中でチクチクと痛み続けていた。
あの夢で味わった後悔をずっと引きずったまま生きていくのなら、
いっそ自分が死んでしまったほうが余程気楽のように思われた。
私の答えた内容が予想外だったらしい麻美子は、以前の私のように、
虚を突かれたように目を丸くして固まっていた。
「・・・ヤダちょっと・・・なに言ってんのもぅ〜〜〜。別にそんな、深い意味はないよ?」
「でも、ちゃんと考えておかなきゃいけないことなんだよ?」
「違う。違う違う。そういう意味で言ったんじゃないの。
先輩として。私が一番お世話になってる先輩としてよ?」
「麻美は、それでいいの? 私は――」
麻美さえ良ければ――と言うつもりだった私の言葉を、
だって・・・と遮ったまま返す言葉に詰まってしまった様子の麻美子は、
視線を泳がせながら話題を変えようとした。
「まあ・・・まあいいや。この話はまた今度ね?
綾ちゃんがアメリカから帰ってきたら、今度は私が綾ちゃんち行くからさ。その時にでもね、また――」
「私はいいんだよ? 金沢に行くの、いいよ? どうすればいい?」
「もぅ〜・・・なんで・・・」
顔を伏せ、その場から逃げるように立ち上がろうとする麻美子の腕を、私は咄嗟に掴んでいた。
「ごめん・・・でも、私は、麻美が大切。先輩だし、ちゃんと・・・。いつかちゃんと、挨拶もしなきゃって――」
「ホントにそういうんじゃないんだって。なんで急に・・・そんなこと言うんだよ・・・」
麻美子はこちらに背中を向けたまま、少し震えた声で囁いた。
「・・・おかしいかな?」
麻美子は、おかしいよ――と言って、顔を伏せたまま振り返り、私の胸元にこつんと頭を預けた。
「・・・ずるいよ、いきなり・・・。いまこっち見ないで」
「麻美・・・」
「もぅ〜・・・ダメだ私・・・。ありがとう」
振り返って頭を預けてきた麻美子は、嗚咽を押さえるようにはらはらと泣いているようだった。
私は麻美子にゆっくりと腕を回して、少しずつ、少しずつ彼女が落ち着いてくるまで抱き締め続けた。
――これで良かったんだ、と思うと同時に、私は、あの夢はやはり現実だったのだと思い知った。
私は一度、確かに選択を間違えた。
この子が自分を犠牲にして教えてくれたもう一つの現実を、夢と片付けるべきではない。
「あたしさ、綾ちゃんと一緒に住みたいんだ」
大分落ち着いて来た様子の麻美子が、顔を伏せたままポツリとそう呟いた。
「今すぐにって訳じゃないけど、ずっと考えてた」
「そっか・・・。そっか。そんなこと考えてたんだ、麻美は」
「うん・・・。だから、そうなった時にね、両親も、一度綾ちゃんに会ってたほうが安心するかなって。
・・・それだけ。それだけで、今はもう十分」
ああ、そうか――と私は思った。
両親に会ってほしいという麻美子の思惑はそこにあったのだと、私はようやく気が付いた。
「そうか・・・麻美は、それを言いたかったんだね。ごめんね・・・気付いてあげられなかったね」
麻美子は私に抱き付いたまましきりに頭を横に振って、言いたくて――と繰り返した。
「あたし、言いたくて・・・言いたくて・・・でも――」
「私が嫌だって言う訳ないでしょう? そんな所でぐるぐる悩むんじゃないの」
「綾ちゃん・・・っ」
私は、一緒に住みたいと言ってくれたこの子の勇気に、応えたいと思った。
私がこの子にしてあげられることは、まだまだ沢山あるはずだった。
そうだな、まずはキスをして、もうちょっと泣かせてあげようかな――と思った私は、
麻美子の頬に手を添え、そのまま軽く頭を上げさせた。
麻美子は特に抵抗することもなく上を向いて、私と麻美子の視線がまっすぐに絡み合った、その時――。
「あはっ!」
やはり泣いていた麻美子は涙のせいで目元がパンダのように黒く染まっていて、
私は不覚にも、思わず声を上げて吹き出してしまっていた。
慌てて横を向いて笑いを隠したが――もう遅い。
「ぃやだもぅ〜〜〜! 見ないでって言ったのにーーー!」
「違う違う違う! ごめん! ホントごめん! 待って!」
「サイッテー! 綾ちゃんサイテー! たまにお化粧したらこれだよ!」
「可愛いよ! 麻美は可愛いって!」
「笑ったじゃん! いま思いっきり笑った!」
洗面所に駆け込んでそれきり籠もってしまった麻美子が再び出てきてくれるまで、
ドアを挟んで私は如何に麻美子が大好きかを蕩々と語り続ける羽目になった。
積極的にはあまり思い出したくない恥ずかしい台詞をここぞとばかりに連呼しながら、
私は、今度真由美さんに会ったら何とかもう1回だけリテイクさせてもらおう――と願わずにはいられなかった。
SCENE 5 へ続く
>>844 GJ!
そうか、もう新スレの季節か・・・
>>844 GJ! あぁもうラブラブっぷりがたまらん!
しかし、次スレ立てるか、出張所+に移行するかは考えた方がよさそうだね。
GJ!
よかった!すっごくよかった!
もっと希望!
>>844 GJ!サイコーです。身悶えてしまった・・・
確かに出張所+へ移行するかどうかは話し合わなきゃいけませんね。
ですが、雰囲気も読まずに一ヶ月前に予告した番外編投下します。
好きだから不安になる
好きだから会いたくなる
ほんのちょっとのきっかけで
遠くもなるし 近くもなる
恋愛って本当に難しい
ライバルは沢山いた。
特に…生天目仁美は尋常じゃない。
彼女はいるはずなのに、麻美にちょっかい出して、麻美も満更じゃないみたい。
現場で見掛けても、いつも抱き合ってる。
しかも、これみよがしにアタシに見せ付けてくるし。
「絶対あの二人デキてるよね」
誰かが囁くのを聞いた。
あたしもそう思う。
だから、麻美から告白された時は驚いた。
そりゃあたしも麻美の事好きだけど。
『麻美はなばが好きなんじゃないの?』
聞きたくても、聞けなかった。
表情をみれば、きっと分かってしまうから。
もし麻美のホントに好きな人があたしじゃなかったら…
多分あたし立ち直れない。
ある日。
仕事仲間から話を聞いた。
麻美となばの雰囲気がおかしいと。
収録後、皆で飲みに行ったらしい。
それはいい。構わない。
飲み会中もいつものようにイチャイチャしていたらしい。
情報提供者によれば、麻美がなばに
「あーん」
とかしてあげてたらしい。
羨ましいけど、それは許す。
で、飲み会後。
麻美はなばと二人で早めに出ていったらしい。
しかし、麻美の忘れ物があり情報提供者が後を追い掛けた。
飲み会は裏路地にはいった場所で行われて、人通りはまばらだから、二人はすぐに見付かった。
きつく抱擁しあい、熱い口付けを交わす、二人が。
あれは友達とかいうレベルじゃない、明らかに恋人だった、と。
電話を切った後に送られてきた写メは、暗くてわかりにくくはあるけれど確かに麻美となばがキスしているものだった。
ガラガラと音を立てて何かが崩れた。
メールを打つ手が震える。
『話があります。仕事が終わったら家に来てください』
深夜零時を回ってから麻美はやってきた。
「ごめんね綾ちゃん、収録がおしちゃって…」
麻美の顔を見ると、全てを許してしまいたくなる。
だけど、それじゃダメだ。
「…なばとはどういう関係なの?」
「綾ちゃん、顔怖いよ」
「茶化さないで。どう思ってるか聞いてるの」
あたしがずっと知りたかったこと。
「なば?……仕事仲間だよ?」
嘘だ。単なる仕事仲間にキスしたりしない。
「それじゃぁ、これはどういうこと?」
受信した画像を麻美にみせつける。その瞬間、麻美の顔が青ざめていく。
「これ、麻美となばだよね?どういうことかな、キスしてるよね?仕事仲間にキスするの?」
「何でっ!?」
麻美の言葉が、この写メが二人であることを物語っていた。
否定していない。 それだけであたしは十分だった。
「しばらく距離を置いたほうがいいかもしれないね。」
これ以上、麻美と付き合っていくことはできないだろうから。
「収録が一緒で、それでふざけてて・・・」
「嘘。」
「嘘じゃない。なばと恋人同士の役だから、そういう雰囲気も必要だって・・・」
「あたしそんなの聞いてないんだけど!?」
なばと恋人同士とか知らない。そんな役もらったこと、あたしは聞いてない。
「綾ちゃんに言う必要ないと思って。」
「何で?何でそうなるの?麻美はいつもそう、あたしに何も話してくれない。
だからあたしも不安になるの。もう限界なの。別れよう、こんな気持ちじゃあたし麻美を大事にできない。」
麻美が大事な存在で有ることは間違いない。
だけど、本当に傷付く前に…自分を守ろうとしている。
まだあたしの中では麻美より自分自身が大切だ。
麻美の全てを愛したいのに、それには信頼が薄すぎる。
「麻美、別れよう。ううん、別れて。」
全てじゃないなら、ゼロでいい。
静かに部屋から去る麻美をみながら、これでいいんだと自分にいい聞かせた。
綾ちゃんの家を出て、私は行くあてもなく街をさまよっていた。
家に帰ればいいのかもしれない。
だけど、そういう気分じゃない。
殆ど人のいない公園のベンチに腰を下ろし、私は深くため息をついた。
「別れるって・・・ホントなのかなぁ・・・」
綾ちゃんに知られてるなんて思わなかった。
確かに、あれはやりすぎだったと思う。
私が酔ってたせいもあって、なばに送ってもらうってことで一緒に店を出た。
なばはホントに一口くらいしかお酒は飲んでなかったし、そこまで酔ってたわけじゃない。
「キスしようか?」
寒いって言ったらなばが抱きしめてくれて、耳元でそう囁かれた。
多分なばはホンキじゃなかったんだと思う。
いつもやる悪ふざけとおなじ。
だけど、私が酔ってたせいもあって・・・
私のほうからなばに口付けた。
欲求不満だったのかもしれない。
触れるようなキスじゃなくて、激しくなばを求めた。
多分、あの写メはその時のもの。
「ちょーっとまった、麻美子、ストップ、ストーップ」
強く肩をつかまれて、体を引き離された。
「麻美子、気持ちはうれしいけど、ちょっとやりすぎ。」
顔を赤くして、なばは言った。
「私には静がいるし、麻美子にも綾ちゃんがいるでしょ?」
なだめられて、私はやっと自分のやったことの重大さに気づいた。
「ごめん、なば・・・」
「いや、いいんだけど。そういう日もあるから。だけど誰かに見られたらやばいから。お互い怒られちゃうよ。」
「うん・・・」
あの件は、私が悪い。
酔っ払ってて理性が飛んでた。
だけど・・・
私にはたったそれだけで綾ちゃんが怒るなんて思ってもいなかった。
別れるなんていわれるとか、思わなかった。
誰かに相談しようか。
だけど、誰にも相談できない。
一番になばの顔が浮かんだけれど、多分なばに相談したらダメだってことは、理解してた。
もう二度と綾ちゃんとよりを戻せなくなる。
それは漠然とだけど理解してた。
いろんな人の顔を思い浮かべては見たけれど、やっぱり相談に乗ってもらえそうな人はいなかった。
こんなとき、どうすればいいんだっけ・・・
ずっと側に綾ちゃんがいてくれてたから。
綾ちゃんが一番大切だから。
いざそれを失ったときにどうするか全く分からない。
どうしよう・・・
静まり返った深夜の公園で、私は声を押し殺し涙を流し続けた。
流石に・・・言い過ぎたかもしれない。
一ヶ月が過ぎて、冷静になって考えると、ちょっと後悔した。
こんなに長い間連絡しなかったのは初めてだった。
付き合い始めてからは、毎日のように連絡を取り合っていた。
こんなことで別れてしまったんだなと実感する。
麻美のいいわけくらいはしっかり聞くべきだったのかもしれない。
麻美のことだから、多分ホントに連絡すらしてこないだろう。
巷のカップルは、一体どうやってこういうとき対処しているんだろう。
経験が少ないせいもあって、うまく対処法が思い浮かばない。
「誰か経験豊富そうなひとは・・・」
経験が豊富で、それでいて秘密を守ってくれそうで、あたしの気持ちを理解してくれそうな人。
出来ればこの話は、あまりおおごとにしたくない。
携帯であたしの求める条件に該当しそうな人物を探す。
「あ・・・」
そこまで深い交流があるわけではない。
だけどきっとこの人なら大丈夫。
あたしとおなじ同性の恋人がいて、秘密は守ってくれそうで、そしていつも恋人の行動にやきもきしている人。
結構長いこと呼び出し音が続いた。
「はい・・・」
ものすごく低く不機嫌そうな彼女の声。
「あ、あの、川澄綾子ですけど・・・」
「・・・はい・・・・・・あ、はい、伊藤です。」
「今大丈夫?」
「大丈夫です。珍しいですね、川澄さんが私に連絡してくるのは。」
「・・・ちょっと、静ちゃんに相談があるんだけど・・・」
「アタシに・・・ですか?あ、ちょっと待って下さい。」
電話口から、ギャーギャー悲鳴が聞こえる。
『ウザイからあっち行ってて!』
『もっとかまってよ〜、静さ〜ん』
『うっさいっ!向こう行けって!』
『電話〜?誰から?浮気〜?』
『友達!ていうか服脱がすな!触るな!』
『私より電話が大事だっていうの?酷いわ、静さん・・・』
『あ〜も〜!!!』
「すいません、ウザいのがいるんで、すぐかけなおします。」
「あ、いや、ちょっと聞きたいことがあるだけなんだけど・・・」
「聞きたいことですか?」
「今日空いてるかなぁって・・・」
「えっと・・・今日の午後でしたら、一応空いてます。」
午後だったらあたしも空いている。
そういうことで、午後に会う約束をして電話を切った。
多分、横にいるのはなば。
仲いいんだなぁとちょっとうらやましくなる。
二人はきっと修羅場を随分くぐってきてる。
だから、あんなに仲がいいんだろう。
待ち合わせ場所で10分くらい待つと、静ちゃんはやってきた。
「すみません、バカを巻いてくるのに時間がかかってしまって・・・」
「いやいや、ごめんね、急に呼び出して。今日デートとかの予定だったりした?」
服装などを見ると、その可能性は否めない。
「あ〜・・・デートというか、珍しくオフが重なったので部屋でグダグダしてただけですよ。」
「そっか。」
それは悪いことをしたな・・・
「川澄さんは・・・?今日は麻美子と一緒じゃないんですか?」
『麻美子』
その響きを聞いて、ビクッっとする。
「あ・・・うん・・・ちょっとそのことで相談があってね・・・」
あたしは静ちゃんに、麻美子と別れた旨を伝えた。
ただし、なばと麻美子の話は伏せて。
黙ってあたしの話を聞いていた静ちゃんだったが、暫く考えてから、言った。
「あの、もしかしてそれって、仁美が関係してますか?」
「・・・ん〜・・・関係しているような、していないような・・・」
「すみません、ホントに。アレの行動にはアタシもちょっと困っているところで・・・何かあったんなら、ちゃんと謝罪させますから。」
静ちゃんにあの写メを見せようかと思ったけれど、流石に私達の二の舞になってもらっては困る。
「静ちゃんは…なばを100%信頼できる?」
「アタシは…」
口ごもる静ちゃん。
もしかしたら、何かあったのかもしれない。
「あたしね、麻美を信頼しようって必死だった。だけど、麻美はあたしに何も話してくれない。…麻美を信じられなかったの。」
麻美が、あたしに嘘つくはずはない。
そうおもいながらも、何処かで疑ってた。
信じるには、まだ情報が少なすぎて。
「アタシは、仁美を信頼してません。」
「え…?」
「いつも調子の良いことばかり言って、他の女の子にちょっかいだすし、『静が一番好き』って何度も言われても信じられない。
抱かれてるときもいつも不安。仁美は私をどう思っているのか分からない。」
そういって、お冷をグイッと飲み干す。
「だけどアタシは仁美が凄い好きだから、それでもいいやって。」
「そう・・・なんだ・・・」
「アタシは結局仁美から離れられないんです。
仁美がアタシをどう思ってても、アタシには仁美しかいないって。例え偽りの愛であったとしてもアタシはそれにすがるしかないんです。」
そういって、静ちゃんは苦笑する。
あぁ、この人はあたしと似てる。
相手のことを信じられないのに、それでも好きって言う気持ちは抑えられなくて。
相手の行動で一喜一憂して、傷ついて。
だけど、どれだけ傷ついても、相手のことを忘れることはできない。
性格とか、容姿とか、そういうのはぜんぜん違うけど、なぜか鏡を見ているような気分になるのはそのせいなのだろう。
「・・・仁美と麻美子、何かあったんですか?」
「ん?・・・ちょっとね・・・」
「アタシに・・・話してくれませんか?」
話していいのだろうか。
静ちゃんを傷つけてはしまわないだろうか。
「アタシのことは気にしなくて大丈夫ですよ。大概の事じゃ驚きません。」
その言葉には諦めも感じられた。
「ホントに?・・・後悔するよ、きっと。」
それでも・・・と静ちゃんが言うので、私はケータイを取り出し、あの写メをみせた。
一瞬で凍りつく静ちゃん。
「ね、言ったでしょ、後悔するって。」
「すみません・・・」
凄く申し訳なさそうにうなだれる静ちゃん。
静ちゃんには何も非はないと思うのだけれど。
「あ、でも・・・麻美子はホンキで川澄さんに惚れてますよ。変なフォローですけど。」
「え・・・?」
「何度か相談されたことがあるんです。仁美の過剰なスキンシップが困るって。『私には綾ちゃんがいるのに』って。」
それって・・・どういうこと?麻美が、あたしを大事に思ってくれてた・・・
「麻美子から何度ものろけられましたもん。その時の麻美子の顔、ホント幸せそうでした。」
「だけど・・・」
「川澄さんの気持ちもアタシには分かります。麻美子はモテるし、しかも麻美子、人がいいからそれを拒まないし。不安になると思います。だけど、アタシは麻美子を見てて思いますよ、本当に川澄さんが好きなんだなって。」
「本当に・・・?」
「ホントですよ。絶対より戻したほうがいいですよ。川澄さんも麻美子が大好きなんでしょ?」
それは勿論。
麻美はあたしの最愛の人。
誰よりも麻美を愛してる。
「お互い好いてるのに、もったいないですよ。」
少し寂しそうに笑う静ちゃん。
「・・・うん・・・そうだね、ありがとう。」