2 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 18:44:04 ID:p+Y4BG5J
I'm dumb, she's a lesbian
I thought I had found the one
We were good as married in my mind
But married in my mind's no good
Pink triangle on her sleeve
Let me know the truth
Let me know the truth
凄いスレができたなw
でも確かにこの間のドラマといい、この二人は妄想しがいがある。
4 :
久保貢:2006/03/03(金) 19:25:16 ID:3IhT4GDM
この二人大好きです。
6 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/03(金) 23:06:41 ID:6PKUSwDR
えーと・・・・篠原さんは残念ながら思いっきりノンケだし、結婚してるし、だいぶ前、SMとレズ、するならどっち?とかきかれて、レズはだめ、ていってたんで・・・・・萎え発言。
そこを明らかにアレな栗山さんがせめまくって落とすのを妄想するスレでございますかそうですか。
7 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/04(土) 00:18:58 ID:v6sf0+G2
糞スレ立てるなよ・・・
8 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/04(土) 00:24:55 ID:4yVQmbko
芸能人で一番栗山千明が好き
本当に妖しい魅力がある
栗山千明と付き合えるなら次の日死んでもいいよ
9 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/04(土) 17:21:22 ID:8BEnCiEr
せっかくつきあえるようになったのに、翌日死んじゃったら千明ちゃんが悲しむからだめだ
さあ、逝きなさい
sage
11 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 03:59:41 ID:t/aB2Inu
死国で裸が見れます
15 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/05(日) 16:33:35 ID:EnAB/CQX
それこわぃ
それみてから栗山千明のイメージがっ
16 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 00:42:09 ID:ErjJ5Ont
栗山千明出演作品
キルビル
六番目の小夜子
妖怪大戦争
仮面学園
バトルロワイヤル
呪怨
R−17(1)
下弦の月
スクラップヘブン
あと宮崎あおいやベッキーたちと出てたのあったような…?
17 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 00:44:44 ID:ErjJ5Ont
18 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/06(月) 03:13:09 ID:M0TPpfgg
19 :
18:2006/03/06(月) 03:15:54 ID:M0TPpfgg
21 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/10(金) 23:45:36 ID:sNwT/Igo
千明タソ、昔ピチレモン?のモデルしてたよね?確か。
読んでた。あの頃からスキー。
篠原サソはごっつからスキー。
つか、秋CMも春CMあのドラマもそうだし、
ドラマ中で流れた春CMのロングバージョン?もすげーと思った。
制作側でこの二人で萌えな人間がいるのかなと・・・。
あのロングバージョンは他で見たことがないのですが
「崩したくなる」って栗山に言わせる辺りが流石だなと。
23 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/11(土) 13:25:42 ID:tPDkWHoB
>>22 見たAw
『ついついしかけちゃう』(?)
みたいなことも言ってたよね
そのCMの最後のシーンの、
栗山が篠原に顔近付けるところ
禿げしく萌え〜!!
ロングバージョンはあれ以来見ないな
有名人小説スレの最新作、私にはこの二人にしか思えなかったりして…
書いた人には悪いがw
25 :
名無しさん@秘密の花園:2006/03/27(月) 12:36:44 ID:FGaz7jjm
26 :
名無しさん@秘密の花園:2006/04/12(水) 17:27:12 ID:5vh8hWGE
age
えびちゃんも混ぜてあげて
妖怪大戦争の栗は超いい。
金髪ミニスカどS ハァハァ
>>16 リアルシスターズじゃない?
あれ良かったよ
5人で京都行ったりしてさ
雑誌で読んだんだけど、千明ちゃんマキアージュの撮影現場でみんなに面白いって言われたらしい。
特に篠原良子が千明ちゃんの事すっごく笑うんだって。
千明ちゃんは篠原さんの事可愛いって言ってたよ。
31 :
名無しさん@秘密の花園:2006/04/17(月) 18:29:29 ID:0ahDvg5c
今日千明タンにキスされる夢見た。やわらかくて女性らしいキスだった。
でもだんだん激しくなって、結局最後まで…
そしたら篠原サンが来てあたしを殴った。「ふざけんじゃないわよ」って言われた。
あたし何もしてないのに…。起きてからしばらく動けなかった。
>31
そ、その夢の続きを…ハァハァ
涼子たん、涙目で怒りそうで可愛いvv
千明(同い年だ…)には勝てないけど、涼子たん泣かせてみたいよなー。
女子でこんな妄想しちゃってる自分は危険ですかそうですか。
33 :
名無しさん@秘密の花園:2006/04/17(月) 22:18:05 ID:0ahDvg5c
あたしにビンタしたあと、篠原サンと千明タンは口論してました。
でも結局抱き合ってキスしてた。千明タンはごめんねぇごめんねぇって言ってた。
あたしは呆然…
34 :
名無しさん@秘密の花園:2006/04/22(土) 11:23:43 ID:1oyEcY4y
age
35 :
名無しさん@秘密の花園:2006/04/28(金) 10:58:38 ID:QWkkLnOM
着物を来た栗山千明を襲う夢は見た事ある…裸エプロンとか
何考えてんだろ
私
篠原さんも夢に出て欲しいわ33裏山
37 :
名無しさん@秘密の花園:2006/05/03(水) 11:00:36 ID:Pzln6woz
>>38 「マミちゃんと触れ合って成長し」
どんどん触れ合っちゃって!
未来って名前はかわいい子の法則?
石田未来、志田未来。
40 :
名無しさん@秘密の花園:2006/05/07(日) 07:44:29 ID:62CFFcp9
>>39自分が中学の時クラスに未来って女子が居たが
不細工だったぞw
もっと二人が出るドラマとかみたい
42 :
名無しさん@秘密の花園:2006/05/12(金) 17:40:08 ID:JmDBTXq8
43 :
名無しさん@秘密の花園:2006/05/18(木) 22:11:03 ID:1L9rggX9
栗山爽健美茶のCMでくるくるまわってる?
44 :
名無しさん@秘密の花園:2006/05/23(火) 20:53:20 ID:6zAg9Vgu
バレエ踊ってるな
マキアジュCM夏のに変わったから千明ちゃん出ない
45 :
名無しさん@秘密の花園:2006/07/11(火) 20:32:11 ID:ja41KADq
あげ
篠原×エビ萌え
47 :
名無しさん@秘密の花園:2006/07/26(水) 14:07:01 ID:+DA3gh+G
栗山が女の子の肩抱いてほっぺにキスしてる画像がどこかにあったな。
49 :
名無しさん@秘密の花園:2006/07/27(木) 13:43:08 ID:KG8eX6+C
白と黒のワンピ着てる奴な!
禿萌
そんなのあるんだ!?見てみたい・・・
51 :
48:2006/07/27(木) 15:13:19 ID:UdJPgYbY
画像見つけた。…んだけどよく見たら肩抱いてねー!
どうやら脳内補完していたようだw
ウプしたいんだけどやり方がわからん…
53 :
48:2006/07/28(金) 10:30:26 ID:ORul9U4R
ウプしといた。
安藤希かどうかは知らんw
[vi5404978933.jpg] kuri
54 :
名無しさん@秘密の花園:2006/07/28(金) 19:37:27 ID:TA15Ce+W
55 :
名無しさん@秘密の花園:2006/08/02(水) 17:12:11 ID:AZ7Jg8II
∩___∩
(ヽ | ノ ヽ /)
(((i ) / (゚) (゚) | ( i)))
/∠彡 ( _●_) |_ゝ \
( ___、 |∪| ,__ )
| ヽノ /´
| /
クマは大丈夫だろうか・・・心配だ 実に心配だ
>>56 クマは安田か夏川…ってそういう話で(ry
予はB型だお。
涼子タソと同じだ〜お。
59 :
名無しさん@秘密の花園:2006/09/02(土) 01:51:13 ID:quzr36Q+
60 :
名無しさん@秘密の花園:2006/09/05(火) 01:15:54 ID:r/gjJUAe
61 :
名無しさん@秘密の花園:2006/09/06(水) 05:20:03 ID:6JvXyq3P
陰毛なめたい 涼子
62 :
名無しさん@秘密の花園:2006/09/23(土) 12:54:47 ID:FBLx23Sc
篠原涼子、最近スゴく綺麗になったよね
う〜ん色っぽい
昔歌歌ってた頃はあまり好きじゃなかったけど最近いいなぁと思う。
栗山の「神話少女」でオナニーしてると予想される有名人
中谷美紀、神田うの、松雪泰子、栗原恵、鈴木杏
栗山は女を引きつける強力な磁石みたいなエロさがある
64 :
名無しさん@秘密の花園:2006/09/27(水) 18:52:46 ID:4pIwAw3U
65 :
名無しさん@秘密の花園:2006/09/27(水) 23:31:56 ID:ljBw/fAW
篠原「ねえっ、オッパイの触りっこしようか?」
栗山「……えっ、いいけど……」
篠原「じゃあ、私から。気持ち良くしてあげるねw」
栗山「…………アッ……」
66 :
名無しさん@秘密の花園:2006/09/27(水) 23:48:30 ID:jOB85FaP
素晴らしい。続きを希望します
涼子はデビュー当時は女の子と同棲してたし
歌ってた歌も百合っぽかったが
その当時に既に男がいた
(ノ∀`)アチャー
69 :
名無しさん@秘密の花園:2006/10/09(月) 21:22:25 ID:+oGWsnxg
>65
栗山は篠原には敬語だろ?
70 :
名無しさん@秘密の花園:2006/10/09(月) 22:57:25 ID:J/WB9K6W
71 :
名無しさん@秘密の花園:2006/11/19(日) 05:48:50 ID:WtA5nknt
栗山ちゃんも涼子ちゃんも可愛いな…
涼子ちゃんは歌唄ってた頃より数倍、綺麗になった
栗山ちゃんはあの目がセクシー
吸い込まれそうなあの瞳には格好よさを感じる。
72 :
名無しさん@秘密の花園:2006/11/29(水) 13:16:47 ID:i1LX0p8c
栗山千明の眼が素敵
あの眼は超色っぽいね
髪型を短くボーイッシュにしたりウルフカットにしたりしたら凄く綺麗だと思う
自分はおかっぱフェチなので却下。
あの髪型が好きなので却下
私もあの髪の栗山千明が好きなので却下
76 :
名無しさん@秘密の花園:2006/12/17(日) 20:19:33 ID:FbiaLqED
髪型などはどうでもいい
あの瞳が好き
77 :
名無しさん@秘密の花園:2006/12/21(木) 23:25:52 ID:72LAX3dE
今日恵比寿で小柄な男前とラブラブデートしてたぞ
78 :
名無しさん@秘密の花園:2006/12/26(火) 22:46:41 ID:feqhq3XZ
79 :
名無しさん@秘密の花園:2006/12/27(水) 00:34:07 ID:+1dqTqRw
^(#`∀´)_Ψ・・・悪魔vs天使・・・†_(゚ー゚*)β
80 :
名無しさん:2007/01/03(水) 17:18:51 ID:6zFM44dg
アンフェアの篠原がかっこよかった。
81 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/01(木) 00:24:17 ID:tZvyEkBD
やばいどっちも好きだ。
一時期栗山千明の髪型にしてたけど前髪切るのがめんどくて辞めた。
あの微妙な長さの前髪維持するのは結構大変。
凄く個性的で似合ってるからずっとあの髪型でいて欲しい。
83 :
ともか:2007/02/02(金) 23:19:03 ID:3Kup0R3O
84 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/12(月) 17:54:33 ID:AG8MIF0p
日曜日のヒロイン・栗山千明(日刊スポーツ2月11日)
栗山「一番好きなのはエヴァンゲリオンの渚カヲル。かわいらしくて中性的で、ちょっと陰がある感じで、
私より肌の色が白くて細い人。身長はあまり大きくなくて、160aぐらいがちょうどいい。細かく言うと、
ほかにもたくさんでてきちゃうんです。外国俳優だとマイケル・J・フォックス。でも外国の方って、成長
すると大きくなっちゃうんですよね・・・」
記者「あなたが理想とする男性を探すのは大変ですよ」
栗山「そうですよね。でも、女性だったら当てはまる人がいるんです。土屋アンナちゃん。でも、男の人
が恋愛対象なので惜しいっ、みたいな」
カヲルくんに土屋アンナってw
もろにあたしと好みが一緒だw
つかそんなことより爆弾発言だあw
86 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/12(月) 18:56:43 ID:DrpBpaNu
芸スポ板の栗山千明様スレはいつもおもしろすぎる
>>84 つまり「アンナがビアンだったら恋人になるのに!」と言ってるんだよね?
さりげなくカミングアウトする栗山さん、スゴすぎw
アンナじゃなくて自分(栗山)は残念ながら男性が恋愛対象なのでって意味じゃないかな?
他スレで「栗山は昔レズだったけど、今では男性の趣味を語りだした」
みたいに言ってる人がいたけど、
実際は、あまりにビアンを匂わす発言の多さを、さすがに事務所から
注意されたか、表現をズラしだしたと捉えるのが自然ではないか?
まさか「恋愛対象は女性です」とは言わないだろうしさ。
「でも、男の人が恋愛対象なので」なんて言い訳っぽい言い方が怪し杉w
もし「自分は恋愛対象が男だから」と言う意味だと、「惜しいっ」て言い方は、
相手に対して高みに立った偉そうな言い方になっちゃう。
前段階からの流れ上、(既婚者だったアンナさんは恋愛対象が男性なので)「惜しいっ」と
読むのが、自然なような。
>アンナさんは恋愛対象が男性なので
なるほど〜
それで辻褄が合う。
93 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/13(火) 14:30:21 ID:l4TkKSbZ
>>78 超亀レス。
昔の映像でインタビュアーに頼まれてワンフレーズだけラルクを伴奏無しで歌ってた。
音程とれてたし、ビブラートもきかせて普通にうまいと思った。
ちゃんとレッスンすれば十分に歌えると思う。
でもクールなキャラクターとは違ってかわいい声だから事務所的にどうかな〜。
でも篠原さんとデュエットなら萌かも
94 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/13(火) 14:59:14 ID:FMMxqlNK
今日の読売新聞の記事で、栗山さんが出てた!
愛用の白いエレキギターを持った写真が可愛かったよ。
弾き始めてから、3年間も経つんだって。
それと「カッコイイ女性になりたい。男前な女性になりたいんです」と
行ってました。
インタビュアーも女性だったけど、「かっこいい女性だ」って書いてたよ。
96 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/16(金) 13:18:38 ID:pbfXz8+h
栗山千明さんNHKで生出演中!
97 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/16(金) 13:39:24 ID:vOfCAXQn
やっぱりエヴァの(ry
千明たんオタク全開杉。 ちょっとは隠せよw
いくらなんでも綾波フィギュアを全国に晒すのはどうかと…
さわやかにオタク全開な千明たんにワラタw
アニメとかフィギュア見ながら
「このクビレいいわ〜」とか思ってるってww
100 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/16(金) 15:28:01 ID:EziuGor2
>>98 栗山「あっ!さわっちゃダメです(真顔で)」
あの綾波は、栗山千明さんに可愛がられまくってるんだろうねぇ。
なんかフィギュアに嫉妬するw
102 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/23(金) 22:48:49 ID:glahdWPk
ガチで百合でヲタ全開の栗山さんはすばらしい。
90年代より前だったらこういう人は受け入れられなかったのだが、時代もよかったなー
篠原さんは何もないです。完全にノンケだし。栗山さんのみ萌え
104 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/24(土) 07:47:44 ID:WPGRW/F4
千明様は百合アニメなどお好きだろうか?
女の子が出るアニメが好きなのだから高確率で好きなはず
105 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/24(土) 09:08:04 ID:TIKZwwm+
106 :
名無しさん@秘密の花園:2007/02/24(土) 14:04:31 ID:WPGRW/F4
栗ちぃ喋り方かわいいー☆
KDDIメタルプラスのCM、涼子さんは誰と住んでるのか気になる…
千明様に強制綾波コスをさせられたい
そして「なんか違う」とプンスカ怒られたい
ついいつもの癖で千明様って書いてしまう・・・
百合萌え板住人に、千明様スレ住人がいるとはw
好きなタイプは土屋アンナだと公言している栗山さん
昨日のラジオでもまた土屋アンナのNANAの曲かけてた。
栗山さんいわく一ヶ月に一回はかけてるwらしい。
あと昨日はPV(だったかな?)でのアンナちゃんのメイド姿が可愛い!とか
映画「さくらん」は主演がアンナちゃんで音楽はこれまた大好きな椎名林檎さんで完璧!
とも言ってた。
さくらんってまだ見てないけど、予告映像とか見て
絶対千明ちゃんが出ればはまるのにって思った。
蜷川写真集プリンセスの千明ちゃんかわいすぎ。
【父親が40歳以上の新生児、自閉症になる確率は最大で6倍=米研究チーム】
− AP通信によると、米マウントシナイ医科大学の
エイブラハム・ライヘンバーグ博士を中心とする共同研究チームは
イスラエル人を対象とした調査で
父親が40歳以上の時に生まれた新生児が自閉症になる確率は
同年齢未満の父親の場合に比べて、1.5-6倍も高いとの研究結果を発表した。
同発表は4日発売の米精神医学専門誌「Archives of General Psychiatry」
(アーカイブズ・オブ・ゼネラル・サイキアトリィ)の9月号に掲載されたもの。
同調査には1980年代に生まれた13万人のイスラエルのユダヤ人と
コロンビア大学、イスラエルの大学・学術機関の研究者が参加したが
父親が40歳以上の新生児は、自閉症や関連の症例が30歳未満の父親の場合の約6倍で
30―39歳の父親と比較すると1.5倍以上だった。
一方、母親については、高齢者で多少の影響を及ぼす可能性は排除できないものの
子供の自閉症に与える影響はほとんど認められなかったという。【了】
114 :
名無しさん@秘密の花園:2007/04/03(火) 03:13:02 ID:oAPWCqp+
NYLONのグラビア!千明ちゃんのアイメイク無しほぼスッピンPHOTOがかわいい。勇気あるなぁ。アイメイク無くても全然OKなのねぇ。
115 :
名無しさん@秘密の花園:2007/04/03(火) 18:01:32 ID:rSQI5L1P
むしろ初めて見たのがスッピンで、それに馴れてたから
今のアイメイクの方がピンとこないかも。
田中聖が田中聖子だったらよかったんだ
117 :
名無しさん@秘密の花園:2007/04/15(日) 00:09:53 ID:6rqyn4Th
うん、もしくは佐藤聖だったらね
118 :
名無しさん@秘密の花園:2007/04/16(月) 08:50:01 ID:C4mBs7Jb
アンナに押し倒されて服を破られる千明
果たして、その表情は嬉しそうだ
119 :
名無しさん@秘密の花園:2007/04/20(金) 17:20:11 ID:ANoI8o+I
ストーリー、出来たので投下します。
エンターテイメント系ですが、よろしければ、しばしお付き合いを。
↓
120 :
悪魔のキス 1:2007/04/20(金) 17:22:03 ID:ANoI8o+I
「以上、栗山千明でした。それじゃあ、みんなおやすみっ」
出来る限り、あたしの精一杯のきらきらした声でラジオの収録を締めくくった。
OKをもらって席を立ったあたしは、防音室の向こう側の様子が慌しいのに気付く。
なんとなくだが、揉めているのはよく分かる。あたしのマネージャーが申し訳なさそうに謝って
いる姿がひどく滑稽な様に見えた。
お願いします、うちの子をもっと使ってあげてください、栗山は出来る子なんです、お願いしま
す。ペコペコと頭を下げて大きい声で話しているのが、防音壁のこちら側にいてもよく伝わってき
た。でもねぇ、彼女ってプライベートは、ほら、ちょっと暗いでしょ、メディアに出るときは明る
く振舞っててもそういう子と仕事はしにくいっていうかね。そう言ってマネージャーをあしらうデ
ィレクターがあたしにはどうしようもない小物に見える。
伏線はあった。マネージャーが新しいラジオの仕事を貰えるかもしれないと嬉しそうに言ってき
たのが一週間前。案の定と言うかうんざりすると言うか、そのラジオ局のディレクターが2人で会
いたいと言ってきた。あたしはすでにラジオのレギュラーは持っていたので、今回は駄目になって
も構わないか、と思い、それは出来ませんと丁重に断ったつもりだったが、逆恨みを買ってしまっ
たようだった。あたしに聞こえていないのをいいことに、ネチネチとマネージャーに小言を言って
いる。
「お疲れ様でした」
防音室を出て、わざと明るい声で嫌味にあいさつしてやったつもりだったが、脳みそがスースー
のこのチョイ悪気取りの中年ディレクターはあたしを馬鹿な小娘と判断したようで、いやらしそう
な目つきで「この前のこと考えておいてね」と言ってきた。胸の奥から湧きあげてくる不快感を一
切顔に出さずに「ええ」とだけ答え、今だペコペコを繰り返すマネージャーに1人で帰ると伝えて
早足でその場を去った。「今回で、最後かもねぇ」というチョイ悪中年ディレクターの憎憎しい声
が、歩き去るあたしの耳に響いた。
121 :
2:2007/04/20(金) 17:28:16 ID:ANoI8o+I
ラジオ局の空気は酷くタバコ臭く、なんだか自分が汚れてしまった存在になったような気がした。
あらかじめ用意してもらったタクシーを断り、少しでも外の風に当たってそのタバコ臭い汚れを落と
したくて、歩いて帰ることにした。もちろん、それは単なる気休めで、一度汚染されてしまったら簡
単には浄化されることは無い。別に実際に汚れてしまった訳ではないが、あたしの中のルールでそう
いうことになっている。他人にはいくらでも嘘もつけるしいい顔も出来るが、こういう自分の作った
ルールは中々破ることができない。むしろ破ってしまうと、それは栗山千明が栗山千明で無くなると
いう事にもなりかねないからだ。
考え事をしてると、あたしの時間はあっという間に過ぎる。自分の住むマンションの前でふと我に
返り時間を見ると午後10時。今日のことを色々と思い返しながら玄関のオートロックの番号を乱雑
に押す。静かな音を立ててエレベーターが上昇し、電光板が階の数字を刻む。
いつも通りのつまらない日常。
飽き飽きしてるけど、日々繰り返される嫌な人間関係。
大好きな漫画や映画、ゲームだけの生活って出来ないかな。
出来るわけないか。それに、なんだかすぐ飽きそうだし。
――もう、面白いと思うことなんて何も無いのかな。
そんなことを考えながら、あたしは自分の部屋の前に着き、キーを差し込んでドアを開けた。
「ただいま」
誰も応えるはずの無い真っ暗な部屋に、いつも通りの挨拶をした。もちろん静寂があたしを迎えて
くれる……はずだった。
「おかえり」
122 :
3:2007/04/20(金) 17:45:16 ID:ANoI8o+I
誰もいないはずの部屋の奥から、はっきりと女の声が聴こえた。リビングと廊下を分ける薄いドアの
隙間から光が漏れている。そんなはずはない、ここは11階だ、それに鍵は掛かっていた。誰もいるは
ずは無い。きっと電気を消し忘れていたんだ。それに、今のはテレビの声かもしれない。
あたしはゆっくり足を滑らせるように廊下を進み、リビングのドアノブを優しく撫でるように右に回
した。不思議と怖さよりも好奇心のような昂揚感のようなものがこみ上げてきている自分に気付く。な
ぜ、あたしはこんなに昂ぶっているのか。何者だか分からない女が、リビングにいるかもしれないとい
うのに。
かちゃりとドアを前に押して、その隙間から顔だけをリビングに入れてみる。
リビングはいつもどおりのリビングで、何か荒らされている様子も無ければ誰かいる様子も無い。
ただ、部屋の明かりとテレビだけは点いていて物静かな部屋にかすかな賑わいを持たせている。
やっぱりか、出かける前に消し忘れてたんだ。そう、ホッとした気持ちと、何故だか分からない落胆
の気持ちが心の隅っこに引っかかっていた。
「どうしたの? 入らないの?」
急にあたしの頭の横でその声が響き、あたしはうわぁと甲高い声を上げてお尻をついてしまった。
そこには、リビングのドアを掴みもたれ掛かるようにして立っている背の高い女が立っていた。
「ああ、ごめん驚かせちゃった? でもあなた、けっこうオシャレな部屋に住んでるのね。気にいちゃ
った」
そう言ってウインクするその女の顔をあたしはよく知っていた。女は黒いワンピースを着ていて、そ
の裾を指で摘んで持ち上げて挨拶するようにヒラヒラとさせた。すこぶる気分が良さそうだ。
でも何故、あたしの部屋にいるのだ。
「あのう……伊東、美咲、……さん?」
123 :
4:2007/04/20(金) 18:15:29 ID:ANoI8o+I
「ミサキ?
……ああ、この人間、ミサキって言う名前なのね。へぇ、ミサキ。あははははは」
美咲さんはそう言ったかと思うと高らかに笑いながらリビングの中心に配置しているソファにストンと
腰掛けた。あたしは頭の中を整理しながら次の言葉を探すが、あまりの突然の事で頭も上手く働かず、ま
た緊張のため喉が渇いてしまってなかなか声に出せない。
「なぜ、あたしの家に?」
やっとそれだけ言うのが精一杯だった。美咲さんは身体はソファに預けたまま、くるりと顔だけをあた
しの方に向けてニコリと笑い、あたしの問い掛けに応えた。
「それはね、あなたが望んだからよ。ああ、そうそう、私の名前はウオッカ。悪魔よ」
あたしはただただボーっとして、美咲さんの口から語られる嘘みたいな話を聴いた。
「ええとね、私はあっちの世界から来たの。あっちって言っても分かりにくいわよね……。まあとりあえ
ず悪魔で、退屈しのぎにこっちの世界に来たの。ああ、ちなみにこの人間の女の身体を借りてるの。ミサ
キって言うんだっけ? この女に憑依して、悪魔的な波動って言うのかな、そういうのを辿るとこの家に
来てしまったと言う訳ね。理解出来た?」
出来るわけないでしょ、バカ。思わずそう言ってしまいそうになったが、グッと堪えた。
こんなアニメのような馬鹿げた話、ある訳が無い。美咲さんはあたしをからかっているのだろうか、な
にかドッキリのつもりなのか皆目見当もつかないが、あたしは言うことは1つしかない。
「で、出て行って下さい、今すぐ。迷惑です!」
そう言って美咲さんの右腕をぐいと掴んで引っ張ろうとするが、彼女は信じられない力であたしの手を
振り払い、逆にあたしの手首を掴んで身体を入れ替え、ソファに押し倒してきた。
彼女は大きな瞳でじろじろとあたしの身体を値踏みするように見つめた。そしてまたニコリと笑い、あ
たしの耳に口を寄せ、こう言った。
「私を呼んだのはあなたよ。退屈してるんでしょ? 今の生活に」
124 :
5:2007/04/20(金) 18:27:00 ID:ANoI8o+I
「分かる、分かるわぁ、あなたの気持ち。そういう強い波動が私をあなたの元へ連れてきたのね。違うなん
て言わせないわよ。あなた、なにか胸がワクワクするようなことがないか、そういうことを考えていたでし
ょう? あなたは、私がこの部屋にいることに恐怖よりも好奇心を感じてるはずよ。頭では必死に否定して
も、心の片隅では望んでいたはずよ」
彼女は楽しくてたまらないと言った顔で嬉々としてあたしの心の内を語ってみせた。
「かっ、勝手なこと言わないで下さい。そんなこと……」
そんなことない。そう言い返せなかった。現に、あたしはずっとそういう気持ちがさっきからずっと引っ
掛かっていた。妙な昂揚感、期待感。その正体がずっと分からずにいた。
「自分の気持ちは自分でごまかせても、悪魔には通じないわよ」
そう言った彼女は、大きな瞳でジッとあたしを見つめた。そして次の瞬間、彼女の瞳の黒目の部分が縦に
細くなり、まるで猫の瞳のように変化した。そんなこと出来る人間は、まずいない。
「そろそろ信じてくれた? 私って悪魔なのよ。あなたのつまらない日常を変えてあげるためにやってきた
のよ」
そう言って彼女は、あたしの唇にそっとキスをした。
125 :
6:2007/04/20(金) 19:25:14 ID:ANoI8o+I
ダンナが家を出てもう一週間。仕事のことになると他は構わなくなる人なので、別に諦めてはいる。でも
私はドラマが終わったばかりで退屈なことこの上ない。街に出かけるのもなんだか億劫だし、若い頃みたい
にはしゃぐ元気もない。あ、私のことやってる。点けっぱなしにしていたテレビから“女優・篠原涼子”の
特集が妙ちくりんなテーマソングとともに流れている。こういう時は別に恥かしくも無く、なんだか自分の
事とはまったく関係ない世界のことのような気すらしてくる。『今いちばんカッコイイ女性! 憧れの的!』
ああ、そうっすか。でも家ではこんなフツーの冴えないねーちゃんっすよ。そうテレビに突っ込みを入れな
がら、ボケッと肘を着いたまま、顔を窓の方に向けて夜空を見てみた。
ふわり。
あれ? 今なんか……。
私の目の錯覚だろうか。今、なんか、白いものが落ちてきたような……。
「あー! いたぁ!」
突然、女の子の甲高い声が響き渡った。
え? なに? 何がいたの?
「ここ、開けてくださぁい!」
ベランダの方だ。なんだか分からないままに声のする方へ引きつけられるようにように進んだ。
126 :
7:2007/04/20(金) 19:31:40 ID:ANoI8o+I
「あなたですよね? 今、テレビに出てた人! あー、やっぱりだ! お願いです、私に力を貸してください!」
ベランダの戸をバンバンと叩きながら1人の可愛らしい女の子が私に訴えてきている。女の子は白いワンピー
スを着ていて今流行のクルクルの巻き髪。エビちゃん巻きとかいうやつだ。
で、その当のエビちゃん本人が私の家のベランダにいるわけである。しかも空から落ちてきて。
「……なにしてるの?」
とにかく、私はベランダの戸の鍵を開け、エビちゃんを部屋の中に迎え入れた。
「ああ、会えてよかった! やっぱり波動が合ったんですね! お願いです、私に力を……」
「お願い落ち着いて。っていうか、エビちゃんなにやってるの?」
「え? ええ? この身体の人、エビちゃんって言うお名前なんですか? あ、紹介遅れました。
私、天使のスカーレットって言います。以後、お見知りおきを」
ヤバイ。どうしよう。ええと、整理するのよ涼子。この女の子は蛯原友里ちゃんだよね? 間違いない、化粧品
の広告も一緒にやった仲だものね。スカーレットってなんだろ? ああ、そういうのが今、若い子の間で流行って
いるのね。そうそう、こっちが合わせてあげるべきなのよね。
「ス、スカーレットちゃん。ど、どうしてお空から降りてきたのかな? こんな遅くに何の用事かな?」
出来うる限りの優しい声で尋ねてみた。
「はい! 実はウオッカという悪魔が地上に降りてきているんです! 私はそれを追ってこっちの世界に……早く
彼女を捕まえないと、きっと大変なことが起こります! それで、頼りになりそうな人を探してたんです! そし
たらそしたらテレビであなたのことが! このアンフェアとかいう事件を解決されたんですよね!? お願いです!
私に力を貸してください!」
ピシャリ。私は無言で彼女をゆっくりと外に連れ出し、再びベランダの戸を閉めた。
「うわあああん、お願いですぅ、信じてくださぁい!!」
127 :
8:2007/04/20(金) 19:37:23 ID:ANoI8o+I
「とりあえず、お茶でもどうぞ……」
「あ、お構いなく!」
彼女の話を聞いてあげよう。そうよね、仕事が忙しすぎて頭の中がこんがらがってきているのよね、私もそうい
う時期があったし気持ちが分かるわ。
「それでですね、天上界としては地上に降りた悪魔を野放しにするわけにはいかないんです。きっと、ウオッカ
もどこかの人間に憑依しているはずです。あ、私がこの方の身体をお借りしているのはですね、波動が偶然似てい
たからなんですけど。それで、私は地上界のことについてはよく分からないので誰か協力者を探すことにしたんで
すけど、たまたま街角のテレビを見ていたらあなたが映っててですね、アンフェアがどうとかいう難事件を解決し
たって出ててですね、それでこの身体の方は偶然あなたとお知り合いだったらしくてですね、住んでるところも分
かってですね、ああ! これは神様のお導きに違いないと思って急いで飛んできたんです!」
自称スカーレットことエビちゃんはそう一気に私に捲くし立て、ぐいっとお茶を一気に飲み干してふぅと息をつ
いた。
「あ! それでですね――」
「もういいから」
エビちゃんの言葉を遮り、私は彼女の手をしっかり握って目を見つめた。くりくりと大きな目がいっそう大きく
見開かれ私の表情を窺っている。
「事務所と何かあったのね? 私が間に入ってあげるからちゃんと話し合いをしましょう。逃げてたら何も解決し
ないわよ」
可哀想に。よし、ここは芸能界の先輩としてなんとかしてあげなくては。そう思って握ったままの彼女の手を掴
んで立ち上がろうとした。
その時。
バサッ。
エビちゃんの背後に、白く絹のようなものが大きく広がって開いた。妙に生々しい、白鳥のような真っ白な翼。
「あのう、これで信じていただけたでしょうか? 天使なんです、私――」
128 :
9:2007/04/20(金) 19:43:31 ID:ANoI8o+I
「あっ、申し訳ありません! 翼を出しちゃうと、羽が散らかっちゃうんです! だから、なるべくこれを出さず
に説得しようと思ってたんですけど……」
彼女はいそいそと部屋中に散らばった白い柔らかな羽を拾い集めだした。どうしていいか分からなくなった私は、
とりあえずそれを手伝う。これってマジなの?
彼女は羽を片付けながら気まずそうな顔で言葉を続けた。
「ほんとにほんとに申し訳ありません……でも、どうしても分かって頂きたくて。お願いです、あなたしか頼る人
がいないんです!」
彼女は真っ直ぐな瞳でこちらを見つめる。私はさっきまでの話を脳みそをフル回転させて整理してみた。そして
彼女の大きな勘違いに気付いた。
「あの……私は刑事でもなんでもなくて、ただの女優って言うか、主婦って言うか……とにかく、アンフェアとか
っていうのは、全部、映画の話で、お芝居なんだけど……」
彼女はきょとんとした顔をして私を見つめ、うーん、と眉を寄せてなにやら考え込みはじめた。
そしてええっと大きな声を上げて後ずさりした。
「そ、そそんな! じゃあ、じゃあ私はどうすれば……! 神様、お母様、大天使長様、スカーレットはこれから
どうすれば……」
彼女は手を組み、なにやらぶつぶつと祈り始めている。なんだかとても不憫な娘だ――そう、なんだかこのスカ
ーレットと名乗るエビちゃんの姿をした天使が捨てられた仔犬みたいに見えてきてしまった。止めておけ、あまり
関わらない方がいい、心の中のもう1人の私がそう言って止めるのだが、なにやら母性本能のようなキュンとした
感覚が私の心に芽生えてきてしまっていた。
「あのう、何もできないかもしれないけど、私も手伝おうか?」
言ってしまった。スカーレットは、母犬を見つけた仔犬みたいな顔をしてこっちを向いた。
129 :
10:2007/04/20(金) 21:05:22 ID:ANoI8o+I
――ううん。あれ? もうこんな時間? いけない、随分寝過ごしちゃった。なんだか物凄く悪い夢をみていた。
蛯原友里ちゃんの姿をした天使が空から降ってきて悪魔を捕まえてくれとかなんとか。ふぅ、私ったら。自嘲気味
に笑って、ベッドから降りようと身体を起こす。
むにゅ。
柔らかな手ごたえがした。
ベッドのシーツを一気にめくり上げる。
……くるんと身体を丸めて、エビちゃんことスカーレットがすぅすぅと寝息を立てていた。
はぁ、やっぱり現実か……。
私は彼女を起こさないようにそろりとベッドを這い出て、着替えを済ませて料理を始めた。
ジュー、ジュー。フライパンに卵を割り落とし、目玉焼きを作る。もう考えるのは止めにした。とりあえず、こ
の現実は受け止めて、これからのことを想像することにした。スカーレットに協力して、悪魔を探し出し捕まえる。
はたして、この私にそんなことができるだろうか。
130 :
11:2007/04/20(金) 21:20:14 ID:ANoI8o+I
「あ、おはようございますぅ……。
すいません、私、随分眠っちゃって。昨日はずっと飛び回ってたので……」
スカーレットが起きてきた。子供みたいにぐじゅぐじゅと目をこすりながら私に挨拶する。このコもこのコなり
にきっと必死だったのだろう。スカーレットの住む世界のことはまったく分からないが、一生懸命なスカーレット
を見ていると、彼女にとってはとても重要なことに違いないと思った。
リビングのテレビからは情報番組が流れている。ヨハン・バッヘルベルのカノンが軽快なロックにアレンジされ
たBGMが鳴っている。
「この曲、天上界でも人気あるんですけど、こんな曲調のもあるんですねぇ」
スカーレットは眠け眼でゆらゆらと不器用に音楽のリズムに乗っている。まだ完全に眼は覚めていない様子。
「ほら、座って。遅くなったけど、朝ごはんよ」
まだぼけっとした顔の彼女を席に着かせ、いそいそと朝食を並べる。今日は目玉焼きの他に、鮭の切り身と豚汁
で和食中心だ。
「口に合うかどうか分からないけど、どうぞ」
「ふぁい、ありがとうございます……。
きゃああああああ!!」
ご近所に響き渡るような声で彼女が叫び声を上げた。
「な、なに!?」
「こ、これは、豚さんお魚さんじゃないですか! いけません! 天使は基本的にナマモノは食してはいけないん
です!」
131 :
12:2007/04/20(金) 21:38:02 ID:ANoI8o+I
「大袈裟ね……いいじゃない、今日ぐらい」
「いけませんいけません! わ、私はミルクだけいただきます!」
はぁ、天使っていろいろ面倒なのね。
「でもね、あなたが乗り移ってるその身体は、ミルクだけで体力が持つの?」
「それは……」
「じゃあお願い、エビちゃんの為にもご飯食べてちょうだい」
私の説得に、彼女は昨晩と同じようにうーんと眉を真ん中に寄せ考え込み、わかりましたと頷いた。
「お母様も、郷に入れば郷に従え、と言っていました。豚さんお魚さん、ごめんなさい」
かくして、食事も和やかに進み、穏やかな昼下がりが訪れた。食後の片づけを私がしている間、スカーレットは
新聞を開いて隅から隅まで読んでいた。ウオッカという悪魔は必ず何か騒ぎを起こす、どんな小さなことでも見逃
せないらしい。
「でも、そのウオッカは1人なの? 他に仲間は?」
頭の中にあった率直な疑問をスカーレットにぶつけてみた。
「それなんです。ウオッカはとてもいたずら好きで、退屈を嫌います。しかも、何か事件を起こすとしたら誰かを
そそのかして行うんです。自分では絶対、手を下さないずる賢い悪魔なんです」
スカーレットは嫌なものでも見るような顔をしてそう言った。よっぽどそのウオッカに良い思い出が無いんだな。
「で、そいつは何か魔術とか使うわけ?」
「はい。物質変化化能力を使えます。ウオッカが物質変化させるのは、刃物や鉄砲や爆弾などの武器です。悪魔の中
でも、とってもタチが悪いんですよね」
武器……ちょっと、洒落にならないじゃない。
「あ、あなたも何か使えるんでしょ? その悪魔に対抗する魔法とか……」
「はい! 飛べます!」
「他には?」
「ええと、簡単な防御魔法が使えます!」
私はスカーレットに協力すると言ってしまったことをかなり後悔した。
132 :
13:2007/04/20(金) 21:50:05 ID:ANoI8o+I
都内某ラジオ局。
夕日が東京の街を照らし、静かな今日の終わりを告げようとしていた。
その静寂を破るように、一台の大型バイクが爆音を立ててラジオ局に乗りつけた。バイクを運転しているのは、
身体のラインにピッタリと合った真っ黒なライダースーツに身をつつんだ女。フルフェイスのヘルメットで中の顔は
窺えない。そしてそのライダースーツの女のバイクの後部座席に座っていたのは、黒いワンピースの女。やや大きめ
のサングラスをして、葬儀のときに被るような黒いつばの広い帽子を被っている。
ラジオ局は近代的なガラス張りのビルで、著名なデザイナーがデザインした近未来的な白いロビーが特徴だ。その
ロビーに、ライダースーツの女と黒ワンピースの女が静かに入ってくる。ヘルメットも脱がずになにやら異様な雰囲
気を醸し出すライダースーツの女に、ロビーにいた全員の目が注がれる。その視線を心地良さそうに受けるワンピー
スの女はニコリと笑いを浮かべ、ロビーの人間全てに会釈するように軽く首を傾げて見せた。
コツ、コツ、コツ。不気味な足音を鳴らして、ライダースーツの女は受付に近づく。受付嬢はライダースーツの女
の奇妙さに顔を引きつかせながらも、笑顔で応対した。
「き、今日は、どういったご用件でしょうか?」
ライダースーツの女は何も答えない。その代わりに、ドスン、と大き目のバッグを受付嬢の目の前に置いた。そし
てチャックをゆっくりと開けていく。
「ひっ」
受付嬢はバッグの中身を見て思わず声を上げた。
ピストル、機関銃、数々の銃器。そして手榴弾、見てそうとわかるダイナマイトの束。ライダースーツの女はその
中から1丁の機関銃を取り出し、ガチャンと弾を込めた。
やだぁ、何あれ? 本物? 何かの撮影かな?
ロビーの人間が全員がその非日常的な光景に見入っている。
ライダースーツの女は、機関銃の銃口を天井に向け、引き金を引いた。
面白い、マキアージュの人勢揃いとは
134 :
14:2007/04/21(土) 02:25:27 ID:rEfnmzi1
「ねぇ、テレビ見ましょうよ。ニュースよニュース」
涼子は熱心に新聞を見つめているスカーレットに声を掛ける。
「すいません、こっちで手一杯なので……お願いできますか?」
スカーレットはコンビニで買い込んできた大量の新聞をくまなくチャックしていた。それらから目を離すことなく
声だけで涼子に返事する。
「でも、事件起こすって一体どんなことやるの? その悪魔のウオッカって。なんかけちくさい悪戯とかだったらテ
レビなんかじゃあやらないよね」
ポチポチとチャンネルを回しながら涼子はスカーレットに尋ねる。
「うーん、ウオッカと組んでいる人間の資質が大きいと思います。ウオッカはいつも手を貸すだけ。そそのかされた
人間がどういう行動を起こすかによるんです」
スカーレットは相変わらず新聞に目を向けたまま答える。
「悪魔の囁きも、人間次第ってわけだ……」
涼子は遠くの戦争の様子を伝えるニュースを見ながらそう呟いた。自分も同じ人間ではないか、そう考えて色々と
複雑な思いが湧いてきたが深く考えるのはやめた。
ふっと我に返り、手を止めていたリモコンのボタンを押そうした。だがその時。
『えー、ただいまですね、臨時ニュースが入ってまいりました。ええと、都内のラジオ局に、拳銃を持った2人組み
の女が立てこもり……人質をとって……、ええ、ちょっと情報が混乱していますね……死者、負傷者は出ていない模
様で…今から犯行声明を放送すると……』
涼子は反射的にスカーレットの方を見た。スカーレットもまた涼子の方を見ていた。
「ラジオッ……」
135 :
15:2007/04/21(土) 02:38:31 ID:rEfnmzi1
涼子は立ち上がって物置に走り、ゴソゴソと奥からラジカセを引っ張り出してくる。コンセントを差し、チューナ
ーをそのラジオ局の周波数を合わせた。
『ピーッ…ガガッ……ぇ……みなさぁん……ピーッ……聴こえますかぁ?……これから、とっても楽しいことが起こ
りまぁす……みなさん、世の中に退屈してませんか?……つまらない人間関係や変わり映えの無い日常ににうんざり
していませんか?……そんなみなさんの退屈しのぎにでもなればと…私は立ち上がることにしましたぁ!……ええと、
私は何も望みませぇん……だって、私は女優ですから……みなさんに楽しんでいただくだけでぇーす……ハハハハハ
ハ……では、1つなぞなぞを出しまぁす……時間通りに来てくれないと、とっても怒り出しちゃうものってなぁーー
に? 簡単かなぁ? ではここで曲かけまぁす。私の大好きな映画、トレインスポッティングより、ラスト・フォー・ライフ』
136 :
16:2007/04/21(土) 02:58:23 ID:rEfnmzi1
「アハハハハハハ、チアキ、あんたって最高! あんた素質あるわよ、悪魔の!」
イギー・ポップのしゃがれた歌声と、女の高笑いが鳴り響く。
放送室はライダースーツの女と黒ワンピースの女に完全に占拠されていた。他の職員は外に出され、1人の男のデ
ィレクターだけが人質として捕らえられていた。椅子に縛り付けられた男は、恐怖のあまりか体を強張らせて背筋を
ぴんと伸ばして目だけをきょろきょろとさせている。その男に、今だヘルメットを被ったままのライダースーツの女
がゆっくりと近づいた。
「お・じ・さ・ん、怖い? そうだよね、怖いよね。ごめんね」
口ではそう言っているが、ライダースーツの女はすこぶる楽しそうだ。
「ねぇーん、次はどうするの?」
黒ワンピースの女はライダースーツの女の肩に両腕を回す形で抱きつき、そう尋ねた。
「そうね……警察もたくさん来てるみたいだし、おふざけもそろそろね。ゲームの主役はこんなところで簡単に終わ
っちゃいけないわよね」
「でもなんだか、お外が騒がしいわねぇ。みんな怖くないのかしら。こっちは武器を持ってるんだけど」
黒ワンピースの女は拗ねたような顔をして窓の外をちらりと窺う。
「ほんと、みんな平和よね」
137 :
17:2007/04/21(土) 03:22:24 ID:rEfnmzi1
「あー、なんでこんなに込んでるのよ!」
「もうあんなに人がいます!」
ダイハツ・Cooを猛スピードで走らせ、涼子とスカーレットは立てこもり事件の起きているラジオ局に駆けつけた。
すでに警察のパトカーが何台も到着している。野次馬の数もお祭りの日のような人数である。辺りはすっかり日が暮
れ、サイレンの明かりと、占拠されたラジオ局を照らすライトが不気味に蠢いている。ラジオ局のガラス張りのロビー
は無数の弾丸の穴が空いており、ここで起こったことを生々しく伝えてくる。涼子とスカーレットは車を近場に止め、
現場の野次馬に混じりながらラジオ局の様子をうかがった。
「ねぇ、スカーレット、これってやっぱり、ウオッカって言う悪魔の仕業!?」
「その可能性は高いです! ウオッカは派手なことが大好きですから!」
人ごみのざわめきの中で、2人は大声で会話をする。
「でもどーするの? こんなんじゃ中に入るどころか、近づけもしないわ!」
2人は人の波に流され、どんどん後ろに押し戻されてしまう。
「大丈夫です! 涼子さん、こっちこっち!」
スカーレットは涼子の手を引き、人のいない公園の雑木林の中に連れてきた。
「どうしたの? こんなとこじゃあビルの様子も見えない……」
バサァ。
涼子が言葉を言い終えるか終えないうちに、スカーレットは自身の真っ白な翼を取り出した。
「飛んでいって屋上から進入しましょう! さぁ、私に掴まって!」
138 :
18:2007/04/21(土) 03:44:31 ID:rEfnmzi1
ラジオ局の空の上にはいくつものヘリコプターが旋回している。涼子を抱えたスカーレットはちょうど死角になって
いたビル裏の壁に沿うようにゆっくりと上昇する。ビルを取り囲んだ警察は凄まじい人数の野次馬の整理と避難誘導、
まだビルから逃げ出してくる逃げ遅れた何人かのラジオ局職員の保護に躍起になっている。まさか自分からビルの中に
入っていく物好きがいるとは思ってもいない。
静かに、2人は屋上に降り立った。ヘリのライトが屋上を何度も照らしているが、発見されないよう2人は慎重に1
歩1歩進み、なんとか屋上入り口にたどり着き非常ドアを開けた。
「よかった、開いてた! なんだかツいてるわね!」
「はい!」
2人は階段を一気に駆け下り、放送室のある部屋を目指し走った。涼子はこのラジオ局に何度か仕事で訪れており、
内部の大方の経路は把握している。
ただ、少しばかりスカーレットの息が上がっていた。さっきの涼子を抱えた飛行は少し無理があったようで、地上界
の空気に慣れていないスカーレットの体はダメージが残った。それに気付いた涼子はスカーレットに「大丈夫?」と声
を掛けるがスカーレットは気丈に顔を上げ頷いて見せた。その顔には笑顔が浮かんでいる。涼子もニコリとスカーレッ
トに微笑みかえし、スカーレットの腕を掴んで引っ張って走った。
「よし、ここよ」
放送室前に到着した2人ハァハァと息を吐きながら、今度は慎重に歩を進めた。ドアノブに手を掛け、ゆっくりと開
ける。放送室はビルのワンフロアの半分ほどを占めるスペースだ。
おかしなことに、放送室の中は静寂に満ちていた。2人は部屋中をぐるりと見渡し、犯人の姿を探すがそれといった
人影は無い。
「……いないわね」
涼子は雑然と散らかった部屋を何度も慎重に見渡した。
「でも、悪魔の香りが残っています……やっぱり、ウオッカの仕業に違いありません」
スカーレットが確信に満ちた表情でそう言った。
絶対に絶対に捕まえないと。こんな事件を起こしたウオッカを許せない。スカーレットは改めてそう決意し、涼子の
後に続いて部屋をくまなく探った。
139 :
19:2007/04/21(土) 03:50:19 ID:rEfnmzi1
ふと、涼子が足を止めた。
「ねぇ、何か音がしない? カチカチって感じの……」
涼子は音の鳴る方に向かった。そして、1つの大き目のロッカーを見つけた。
カチカチカチ……。確かに聴こえる。この中だ。
ごくん、と喉をならし、涼子はロッカーに手を掛ける。スカーレットはその様子を固唾を呑んで見守っていたが、ふ
とラジオ放送で流された言葉を思い出した。
「あの、なぞなぞですけど……」
「え? なぞなぞが何?」
緊張で張り詰めていた涼子は少し苛立った感じでスカーレットに言い返した。
「時間通りに来てくれないと怒り出すもの……それって……まさか……」
「それがどうしたの!?」
たまりかねた涼子は思い切ってロッカーを開けた。そこには気絶した1人のチョイ悪オヤジ風の男と……カチカチと
音を鳴らす時計型の、コードがいくつも繋がっている物体が置いてあった。
「時限爆弾じゃないでしょうか」
140 :
20:2007/04/21(土) 03:57:47 ID:rEfnmzi1
ドォン!
突如、ラジオ局の1つのフロアが地響きと共に大きな音を立てて爆発した。外で事件の顛末を見守っていた野次馬は
火の粉を散らすように逃げ出し、警察官や機動隊員は降ってくる細かな瓦礫から身を守ろうとパトカーやビルの影に隠
れた。
ざぶん。
ラジオ局から少し離れた公園の池に涼子とスカーレット、そしてチョイ悪風男が落下した。爆発するギリギリ寸前、
男の首根っこを掴み涼子を抱えたスカーレットは猛スピードでラジオ局から飛び出し脱出した。が、さすがに2人分の
重さは支えきれず、公園のこの池に落下したのだ。幸い、池はさほど深くはなく溺れることは無かった。
「ハァ、ハァ……まったく、酷い目にあったわ……」
涼子は池から這い上がり、力尽きた様子のスカーレットと気絶したままの男を引っ張り上げた。
池から引っ張り上げられたスカーレットはうつろな表情で空を見上げたままだ。涼子はその様子を見ながらまだはぁ
はぁと息を整えている。
ふと、スカーレットが口を開いた。
「涼子さん、もういいです……。これ以上、涼子さんを危険な目に遭わせる訳にはいきません。正直言って、ウオッカ
達がここまでやるとは思ってもいませんでした。ウオッカを甘く見ていたようです、私。これ以上はご迷惑をお掛けで
きません。これからは、私1人で闘います……」
フラフラと壊れた人形のように立ち上がったスカーレットは再び翼を広げ、空に飛び立とうとした。
「待ちなさいよ。こっちはもう迷惑かけられっぱなしよ」
涼子がスカーレットの背中に言葉を投げかけた。
「ちゃんと最後まで付き合うわよ。それに、やられっぱなしじゃなんかムカつくし。それになにより、あんたみたいな
危なっかしいコをほっとけるわけないでしょうが」
涼子のその言葉を聞いたスカーレットは、涼子に背中を向けたまま肩を震わせ涙を流した。
141 :
31:2007/04/21(土) 04:08:09 ID:rEfnmzi1
『ピー…ガッ……ハーイ、みなさん、ゲームの続きですよぉ。では、次のなぞなぞでーす。さっきのはちょっと簡単す
ぎて面白くなかったよねー。昼間は赤くて夜はピカピカ光る、とっても背の高いものってなーんだ? はい、これも簡
単だね、ハハハハ!………』
まだ爆発の残り火で燃えるラジオ局に大きな声が響き渡った。ビル備え付けの拡声器からである。まだ犯人は中にい
る、しかし、爆弾を仕掛けられている可能性がある限り踏み込めない。警察はただ様子を見守ることしか出来なかった。
そのラジオ局から2キロほど離れた、静かな路地裏の舗装路。そこの1つのマンホールががらりと開いた。下から上
がって来たのはヘルメットを被ったライダースーツの女、そして黒いワンピースの女。
「やだぁ、なんかちょっと臭うかも。チアキ、他に道は無かったの?」
黒ワンピースの女がライダースーツの女に話しかける。ライダースーツの女は被っていたヘルメットを脱いだ。長く美
しい黒髪が現れ、夜の闇を裂くように揺れる。
「時限爆弾が爆発して、同時に録音テープのスイッチが入る。そしてその間に下水道に穴を開けて脱出する。美しいわ。
ウオッカ、これからもっともっと面白くなるよ! 楽しい! 生きてるってこういうことなんだね! ハハハハハハハ!」
142 :
32:2007/04/21(土) 18:48:14 ID:UDOWzN5J
「涼子さん! あのおじさん、放っておいていいんですかっ!?」
「いいのよ、あのディレクター、前から評判悪くて嫌われてたし! 別に死にはしないわよ!」
涼子とスカーレットは車に戻り、今だ混み合っているラジオ局の周辺を縫うように突っ切った。ビルの壁や街路樹に車
体が擦り付けられ車のあちこちに大小様々な傷が走る。
「あー、もう! 車検出したばっかりなのに!」
そうして車道を斜めに横切り、ようやく幹線道路に飛び出た。そこもまた多くのパトカーや消防車がサイレンを鳴らし
て猛スピードで走っていく。まるで、東京全体が何か大きな不安感に包まれているように。
「涼子さん、どこ行くんですか!?」
「分かんないわよ! でも、もうラジオ局には誰もいなかったわ、きっと脱出したに違いないよ」
涼子はひたすら車を走らせる。
「さっきのなぞなぞがヒントなんでしょうか?」
「なぞなぞ? ええと、なんだっけ?」
「昼間は赤くて夜は光っている、背の高いものです」
「赤くて光ってて背が高いもの!? うーん……」
ハンドルを握り指でばんばんと叩きながら涼子は考えた。
なんか凄く知ってるもののはずだ。奴らは派手好きで、放送局を爆破するよりもっともっと目立つことをするはず。喉
元まで出ているのに……。
143 :
23:2007/04/21(土) 18:56:17 ID:UDOWzN5J
涼子は事件の手がかりを得ようとカーラジオのスイッチを入れた。チューナーを回し、ニュース速報に合わせる。
「でも凄いですよね、東京って。私、東京の空を飛んでると電波の波が酷くって、ときどきすっごく頭が痛くなることが
あるんですよ」
ふいに、スカーレットがそんなことを口にした。
「……今、なんて言った?」
「え? 東京の空は電波が酷くって……」
スカーレットが何気なく口にしたその言葉で、涼子はなぞなぞの答えが頭にはっきりと浮かんだ。
「Uターンするわよ! しっかり掴まってて!」
144 :
24:2007/04/21(土) 19:30:36 ID:UDOWzN5J
「素敵な景色……でも、この夜景をここから見れるのも今夜で最後になるわけね」
千明はうっとりした顔でそう言った。
地上250m、東京タワー特別展望台。
眠らない街・東京の星空のような夜景が、千明の前に広がる。
千明はその全てを手に入れたような、満足気な気持ちに浸っていた。
タワーはすでに営業を終えていたが、千明とウオッカはいとも簡単に進入しガードマンを全て眠らせた。殺すこともで
きたが、千明は「美しくない」とそれを拒んだ。それが自分のルールである、と。この東京タワーに爆弾を仕掛け、展望
台を爆破しこのゲームのフィナーレを飾る。明日、新聞やニュースは一面でこの華麗な事件を伝えるだろう。千明はその
ことを想像し、嬉しくて仕方ないといった顔をして目を細めた。
「ねぇねぇ、早くドカンってやっちゃいましょうよ。いやぁん、ワクワクする」
ウオッカはサングラスをはずし、その猫の目のような怪しい瞳をギラギラさせた。
「焦らないの。主人公は最後までかっこよく華麗なんだから……」
そこまで言って、千明はある異変に気付く。エレベーターの電光掲示板の矢印が光っていた。
――エレベーターが動いている。
誰かが、この特別展望台に上がってくる気だ。
千明の目に、再び悪魔のような鋭さが戻った。
「ラスボス登場、ってわけかしら?」
145 :
25:2007/04/21(土) 20:15:24 ID:UDOWzN5J
特別展望台の下、地上150m。大展望台に涼子とスカーレットは上がってきていた。その内部をぐるりと一周するが、物静
かで人の気配は無い。
「ここにも悪魔の残り香がします! きっとまだ近くにいるはずです!」
スカーレットが言う。
「やっぱり、この上、特別展望台だわ! 急ぎましょう!」
大急ぎで特別展望台行きのエレベーターに乗り込んだ2人はふぅ、と一息つく。
「いよいよご対面ね。悪魔がどんな顔してるのか拝んでやるわよ」
「気をつけてください。一応、私は防御魔法が使えますけど、今は体力が随分減少してしまって、あと何回使えるか……」
スカーレットは泣きそうな顔でうつむいた。そのスカーレットの肩を抱き、涼子は優しく髪を撫でる。
「ううん、あんたはよくやったよ。私達で、今出来る精一杯のことをやろう」
涼子の優しい言葉にスカーレットはまたポロポロと涙を流した。
しばしの、静かな時間がエレベーター内に訪れる。
が、その時。
ガキンッ!
エレベーターの天井で金属の鳴る音がした。そして、何かが乗ったような低いドンとした音が同時にする。
ガキンッ!
再び金属の音が鳴り、天井から太い刀身の日本刀のようなものが飛び出してきた。
「ちょっと、嘘でしょう!」
ガキンッ、ガキンッ! 一テンポづつ置くように、刃が天井を突き破り2人を襲ってくる。涼子はスカーレットの頭をなる
べく低くさせ、襲ってくる刃を必死にかわし続けた。
146 :
26:2007/04/21(土) 20:19:34 ID:UDOWzN5J
「アーッハッハッハッハッ! オラ、オラ!」
天井から日本刀を何度も何度も突き刺しながら千明は狂ったように笑っている。ウオッカはその千明を見ながら手を叩いて
はしゃぐ。
「やっちゃえやっちゃえー!」
「オラァ! てやぁ!!
もう最高! あたし、イっちゃいそうだわっ!!」
千明はひたすら日本刀を振り下ろし続けた。しかし。
「……やだ、折れちゃった」
千明の使い方に耐え切れなくなった日本刀は根元からカキンと折れてしまった。と、同時にエレベーターは特別展望台に到
着しようとしていた。
147 :
27:2007/04/21(土) 20:56:49 ID:UDOWzN5J
特別展望台。
エレベーターは到着した。ドアが開くと同時に、涼子とスカーレットは転げるようにエレベーターから飛び出す。
「……スカーレット、怪我は!?」
「私は大丈夫です! でも、涼子さんが……」
涼子の左腕にぱっくりと割られたような刺し傷がついていた。そこからどくどくと赤い血が流れ出す。涼子は着ていたシャ
ツの袖を破き、ぐるぐると手際よく巻きつけ止血する。
「これぐらい平気よ。それより、相手は?」
特別展望台はブルーやグリーンの幻想的な照明に照らされて、どこか異空間に迷い込んだような雰囲気を醸し出していた。
その幻想的で未来的な空間の中に、真っ黒なレザーのライダースーツに身を包んだ髪の長い女と、肌も露なワンピースを着た
細い身体の女の姿が浮かび上がる。
「まさか、あなた達が……」
涼子はよく知っている顔のその2人を睨み付ける。
「ハロー。こっちもびっくりです、篠原さん」
千明は口の端を歪めていやらしく笑った。
「ウオッカ、ついに追い詰めたわよ! おとなしく私と天上界に帰りなさい!」
スカーレットは、美咲の姿をしたウオッカに今にも飛び掛らんばかりの勢いで叫ぶ。
「あーら、あんた、もしかしてスカーレット? あんたみたいなマヌケを寄越すなんてね。まあ、誤って私を封印から解き放
ったのはあんただし、しょうがないか」
「う、うるさいわねっ! あなたは私が責任を持ってまた封印してあげるわ!」
涼子は少し呆れたといった顔でスカーレットを見る。
「あんたが原因だったんだ……」
「す、すいません……」
ttp://www.tokyotower.co.jp/333/02_view/index.html
148 :
28:2007/04/21(土) 22:43:22 ID:UDOWzN5J
「ウオッッカァ!」
千明がそう叫ぶと、ウオッカは備え付けられていた手すりを信じられないような力で強引に引き剥がし、手のひらで転がす。
その手すりがみるみる細長く形を変え一振りの日本刀に変化した。
そして出来上がったその日本刀を千明に投げて寄越す。
「さぁ、闘りましょうか!」
千明は日本刀を上段に構え、ギロリと涼子とスカーレットを睨み付ける。ウオッカは再び手すりを引き剥がし、今度は一丁
のリボルバー式の拳銃に変えた。その拳銃の銃口を涼子とスカーレットに向けて、ためらいも無く引き金を引く。
しかしその瞬間、スカーレットが涼子の前に庇うように立ち、薄い透明の膜を張った。膜は衝撃を吸収するようにして弾丸
の勢いを止める。弾はまるで生命を失ったように床に落ち、転がった。
「……凄いじゃん」
涼子がそう言い終わる前に、スカーレットは膜を張ったままウオッカの方に向かって走り出し、一気に飛び掛った。ウオッ
カはニヤリと笑い、自身のネックレス引きちぎりそれを手榴弾のようなものに変化させスカーレットの目の前に差し出す。
ドン、という爆発音と共にスカーレットとウオッカは爆風に包まれ、爆発の衝撃で割れた特別展望台の窓の外に飛び出した。
「スカーレットー!!」
割れた窓から強風が流れ込んでくる。その風を手で必死に遮りながら、涼子は外に飛び出したスカーレットに呼びかける。
「大丈夫です!」
スカーレットは翼を広げて空に浮かんでいた。涼子はホッとするが、もうひとつの黒い影が浮かび上がっているのに気付き
驚きの顔を浮かべた。ウオッカもまた、黒い翼を大きく広げて飛んでいた。
「デビールウイング、なんちゃってぇ」
ウオッカは笑った。
149 :
29:2007/04/21(土) 22:48:51 ID:UDOWzN5J
「よそ見している暇あるのかしらっ!」
呆然とする涼子に、日本刀を振りかざし千明が襲い掛かる。涼子はすでに左腕を負傷している。それに素手ではとても勝ち
目は無い。急いで辺りを見渡し、武器になるものを必死に探す。
――あった。
先ほどウオッカが使ったリボルバー式拳銃が窓際に転がっていた。弾はまだ残っているはず。千明の刃を地を這うように進
んでかわし、右手で拳銃を拾い千明の方に銃口を向けた。千明は動きを止め、じっと涼子を睨み付ける。涼子もまた、千明の
一瞬の動きも見逃さぬように睨み付けたまま銃を構え、ゆっくりとハンマーを起こす。がちゃりと弾倉が回転し、いつでも発
砲可能になった。
「あなたにこのあたしが撃てるかしら?」
挑戦的な口調で、千明が涼子に問い掛ける。
「さぁ、どうかしら?」
涼子もまた挑戦的に千明に言葉を返す。
「涼子さん! その人は、悪魔に魅入られています! きっとウオッカに悪魔のキスを受けたんです! 悪魔のキスは、人の
心を奪うんです!」
空中でウオッカと対峙しながらも涼子と千明の様子を窺っていたスカーレットが涼子にそう告げる。
「……じゃあ、千明ちゃんは元に戻れるってわけだ」
涼子は表情は変えなかったが、心の中では安堵した。
「いいところなんだから、邪魔しないの」
ウオッカは東京タワーの鉄骨を一本掴み、手で撫で回した。その鉄骨がみるみるRPGロケット砲に形を変える。それを構
え、スカーレットの方に向けた。
「いい加減、邪魔だから消えな!」
空気を切り裂く音を立て、ロケット砲が発射された。スカーレットは素早く翼を動かしギリギリで回避する。が、しかし、
ロケット砲は東京タワーの特別展望台下部に被弾し、グラリと展望台が傾いた。
150 :
30:2007/04/21(土) 22:56:10 ID:UDOWzN5J
「えっ!?」
「くっ!」
ギシギシと音を立てて傾く展望台。千明は壁の窪みに掴まって踏ん張ったが、ガツンと床に頭を強打し白目をむいて倒れた。
涼子はふらふらと後ろによろめきスカーレットとウオッカが飛び出した窓に引っ張られるように転がっていった。涼子の身
体がふわっと空中に投げ出される。
「落ちてたまるか!」
涼子は右手を精一杯伸ばし、窓枠を掴んだ。
地上250mに、涼子の身体がぷらぷらとぶら下がった。
地上は幾重にも光が重なり吸い込めれるような美しい夜景が広がっている。
「うぅ……」
涼子の左腕はすでに千明の刃を受けて使えない。右腕だけで必死に自分の身体を支えている。やがて、ずる、ずる、と窓枠
を掴んでいた手も耐え切れずに少しずつ力を失い滑っていく。
「涼子さぁーん!」
スカーレットは急いで旋回し展望台に降り立ち、涼子の手を掴む。
「涼子さん……がんばってっ……」
必死に涼子を引っ張り上げようとするスカーレット。しかし、彼女の体力も限界に近づいていた。涼子を支えきれず、スカ
ーレットの身体は逆に、落ちる涼子に引っ張られる。
ずるずると2人の身体は引力に引っ張られていく。
そして次の瞬間、「あっ」と言ってスカーレットが足を滑らせた。
涼子とスカーレット手を握り合ったまま、凄まじいスピードで東京の暗い空の中に落下していった。
151 :
31:2007/04/21(土) 23:34:45 ID:UDOWzN5J
ウオッカは落下する2人を薄笑いを浮かべながら見送った。
――勝った。
大きく力を消耗したスカーレットのあの様子では、もう1人分の身体を支えて飛べまい。この高さでは間違いなく助から
ない。
そう確信し、ウオッカは展望台のほうを向いた。
が、次の瞬間。
ウオッカの背中に、ぞくぞくとした寒気が走った。
その異様な気配にウオッカは下を向く。
――大きく輝く、発光体がゆっくりと上昇してこちらに向かってくるのが見える。ウオッカはガクガクと身体を震わし怯え、
顔を両手で覆ってヒィと小さな悲鳴を上げた。
152 :
32:2007/04/21(土) 23:38:33 ID:UDOWzN5J
『……ウオッカ、悪戯が過ぎましたね』
ウオッカの目の前に浮かび上がった発光体がそう言った。発光体は、白く輝くオーラをうねる様に発している。
ウオッカは猫目をさらに細くし、憎々しげにそれを睨み付ける。だが身体の震えは一向に止まらない。
やがて光のオーラが少しずつ晴れてゆき、その姿が浮かび上がった。そこには、スカーレットを両手で抱いた涼子が現れた。
「貴様ぁ! 大天使ガブリエル!」
ウオッカは震える声で叫ぶ。
「お母様……」
スカーレットは涼子の腕に抱かれ、疲れきった顔でそう呟いた。
153 :
33:2007/04/21(土) 23:45:43 ID:UDOWzN5J
『油断しましたね、ウオッカ。あなたが地上に潜んでいれば、人間の気配にまじって我々には発見することは難しい。人間
と悪魔の気配は、質は似ていますから。けれど、東京タワーのような象徴的建造物は天上界からも目に付きやすく、しか
も天上界の空気に近い高さにあります。我々でも発見するのは難しくありません』
涼子の姿をしたガブリエルは言葉を続ける。
『少々、この女性の身体をお借りしてしまいました。スカーレット、よく頑張りましたね』
ガブリエルはスカーレットに優しく話しかけた。
「お母様……!」
スカーレットはきつくガブリエルに抱きついた。まさか母が来てくれるとは思ってもいなかったのだ。普段からドジで、
ついには悪魔を逃がしてしまった自分をいい加減見捨てたと思っていた。だからこそ、スカーレットは天上界から1人で地
上に降り立ち、凶悪なウオッカを捕まえようとしていたのだ。母の信頼を取り戻そうと。
『さて、ウオッカ。今からあなたを再び封印します。2000年前と同じく、私の手で』
「嫌だ! 私はまだまだやりたいことがたくさんあるんだ! 2000年も閉じ込められていて、退屈でたまらなかった!
それに人間の欲望を手助けして何が悪い!! こいつらはどうせまた何度も争いごとを始めるさっ!!!」
ウオッカは子供のように目に涙を貯めて泣き叫んだ。
『それは、人間が自分達で決めることです。良いことも悪いことも。ここは、あなたがいるべき世界ではありません』
ぽわんと、ガブリエルの身体が再び光のオーラに包まれた。
その光はだんだんと膨張し、東京タワーを中心に東京の空をすっぽりと包むように拡がっていった――
154 :
34:2007/04/22(日) 00:04:25 ID:SSU96nJ7
「……目が覚めました?」
眠っていた涼子の顔を覗き込んでスカーレットは心配そうに言った。涼子の意識は少しずつはっきりしていき、目をぱちく
りさせながらゆっくりと身体を起こした。
「……あの、私に憑いていたあの天使の人は?」
「お母様ですか? ウオッカを封印して、天上界に帰って行かれました」
そう、と言って涼子は辺りを見回した。どこかのビルの屋上らしい。涼子の横には千明と、ウオッカの憑依から開放された
美咲が眠っていた。
「この2人、これからどうなるの?」
不安気にスカーレットに尋ねる。
「美咲さんはウオッカに身体を使われていただけなので不問になりました。ただ、千明さんは……」
スカーレットはうつむく。
155 :
35:2007/04/22(日) 00:08:16 ID:SSU96nJ7
「ち、千明ちゃんも、ウオッカにそそのかされてただけなのよ、それに、悪魔のキスとかいうやつで正気を失っていたんで
しょ? だったら……」
そう訴えかける涼子にスカーレットはにっこりと笑顔を返す。
「私も、お母様にそうお願いしました。そそのかされたとはいえ、千明さんのやったことは大変な罪です。幸い、死人が出
なかったことと、私の頑張りを認めてくださって千明さんの罪は超法規的に許されました。
ただ、1つ、やらなければいけないことがあるんです……」
やらなければいけないこと……?
そう言ったスカーレットの寂しげな表情に涼子は胸のどきんとした。
「この事件の、一切の記憶を奪います。涼子さんと、千明さんの。この身体のエビちゃんさんと、ウオッカに憑依されてい
た美咲さんも、天使と悪魔に関わったことは全て忘れていただきます。ヒトは、忘れることによってまた生きていけるんで
す。自分の罪や嫌なこと、全て忘れて。これは千明さんや皆さんの為でもあるんです……」
156 :
36:2007/04/22(日) 00:15:42 ID:SSU96nJ7
――全てを忘れる。昨日と今日、起こったこと。スカーレットと出会ったことも、一緒にご飯を食べたことも、2人
で東京の街を走り回ったことも全て。まるで何も無かったように。
涼子はスカーレットを見つめる。スカーレットは今にも泣き出しそうな顔をして、それを堪えるように唇を噛みしめていた。
「あんたに先にそんな顔をされちゃったら、私が泣けないじゃない」
涼子はそう言ってスカーレットの髪を優しく撫でた。そして、ぽつぽつと言葉を続ける。
「そう、記憶をね。しょうがないよね。よし、だったらとっととやっちゃって。東京タワーから落っこちたことなんて、
早く忘れたいわ」
涼子はわざと明るく笑いながら、スカーレットにそう言った。スカーレットは涙でぐしゃぐしゃの顔で涼子の顔を見つめる。
「私……本当は1人でウオッカを捕まえようと思ってました。でも私みたいなドジでおっちょこちょいな天使では所詮
無理だったんです。それで涼子さんに協力をお願いしました。涼子さんのこと、最初は利用しようと思っていたんです。
でも、でも今は……」
涼子はただ笑顔だけを浮かべてスカーレットの話を聞いている。涼子の瞳は寂しさも悲しみも無く、ただただ優しい。
「私だけは、私だけは涼子さんのことは絶対絶対忘れません……!
1000年経っても2000年経っても、ずっとずっと……」
スカーレットはそう言うのが精一杯だった。
…………………………………………………
………………………………………
………………………………
……………………………
……………………
…………
157 :
37:2007/04/22(日) 00:20:22 ID:SSU96nJ7
ジリリリリリリリリ……。
今日も慌しく、朝を告げる目覚ましのベルが鳴る。涼子はベッドに横たわってぐぅぐぅと寝息を立てている。
「しーのーはーらーさーん、起きてください! ほらぁ、やっぱり起こしに来て正解だったでしょ?」
友里が眠ったままの涼子を揺さぶるが、涼子はまったく起きる気配が無い。
「よっぽど疲れてるのかな? まあでも、これじゃいつか旦那に愛想つかされるかもね……」
美咲がつんつんと涼子のほっぺたを長い指先で押す。
「今日はCM撮りの日ですよ。久しぶりに4人での撮影なのに」
千明は呆れた様な顔で涼子を見つめ、溜め息をつく。
「むにゃむにゃ……」
涼子はまったく反応しない。さらに深い眠りについたようだった。
「もう……。
あれ? ねぇ、これなんだろ? 鳥の羽?」
友里は涼子の部屋に落ちていた白い羽を拾い上げ、窓の外の太陽に透かし見た。
158 :
38 END:2007/04/22(日) 00:27:03 ID:SSU96nJ7
GJでした!!
これドラマ化してくれたら素敵なのになぁ。
いろいろ萌え!!
いいもの読ませてもらいました!!
素敵なストーリーでした!!ありがとうございました!!(´∀`)
本当、この4人のドラマ見たいなぁ…☆
161 :
名無しさん@秘密の花園:2007/04/22(日) 03:43:28 ID:ID47xOkZ
162 :
名無しさん@秘密の花園:2007/05/19(土) 09:03:17 ID:3DIvbxql
続きが出来ました。
良かったら、合わせて読んでみて下さい。
それでは、しばしお付き合いを。
↓
――誰だ? 私を呼ぶのは。
アタシは暗い暗い丸い部屋の片隅で身体を丸めて眠っていた。他にすることも無
く、ただ眠って力を蓄えていた。いつかこの薄汚い壷から抜け出して、もう1度、
地上界に降りて自由に思いっきり遊び回るんだ。ただそれだけを想い、じっと眠っ
ていた。誰もいないこの薄暗い丸い壷の中で。
でも、今、確かに私を呼ぶ声が聴こえる。
――ウオッカ。
今、誰かが私の名前を呼んだ。私のことを。
私は目を開け、ゆっくりと身体を起こした。眼球だけをキョロ、キョロと動かし
辺りを見回す。しかし、誰も居ない。居る筈もない。
そう、だってここは、私を封印した天使の作った封魔の壷の中。私だけを閉じ込
めた小さな壷の中なんだ。前は、ここに2千年間閉じ込められた。間抜けで愚かな
1人の天使のおかげで、1度は脱出し自由を手に入れたと思ったのだがそう上手く
はいかなかった。大天使ガブリエル。奴はまた私をこの暗い丸い牢獄に封じ込めた。
――ウオッカ。
また、声が聴こえた。何だ。何故、私を呼ぶんだ。今さら、この私に何をさせよ
うというのだ。
そう、その声には聞き覚えがあった。憎きガブリエル。奴の声に間違いない。
「お母様、どうされたんだろう?」
スカーレットは母・ガブリエルに呼ばれて急ぎ神殿に飛んできた。暖かい陽が差
しこむ純白の神殿を奥に進み、ガブリエルの元に駆けつける。
「スカーレット、ご苦労様。突然呼び出してごめんなさい」
長く美しい髪を揺らし、白いローブを身に纏ったガブリエルは、いかにも天上界
人らしい気品がある。天使達の中でも有数の力を備えた一級の天使だ。
そしてそのガブリエルの前にかしずく、栗色の髪に大きな瞳が特徴の天使。まだ
少女の面影を残した彼女は、ガブリエルの娘・スカーレット。明るく元気な天使だ。
「あなたに来てもらったのは、あなたにやってもらわなければいけないことがある
からです」
ガブリエルは優しくも強い口調で言った。スカーレットは、こういう話し方をす
る時の母は切迫している時だと知っている。顔を上げ、その大きな瞳でガブリエル
を見つめる。
「私がやるべきこととは、なんでしょうか?」
「その前に紹介しなければいけない子がいます」
ガブリエルは真っ直ぐな瞳で見つめるスカーレットに優しく微笑みかける。スカ
ーレットはその母の微笑みが、何か企んでいるときの顔だと知っている。
「どなたですか?」
「――こっちに来なさい、ウオッカ」
ガブリエルは神殿の1本の柱に向かって声を掛けた。その柱の奥から黒く細長い
尾が見え隠れしている。その黒い尾が、ひょこ、と引っ込んだかと思うと、今度は
長い爪の生えた猫科の獣のような足先が現れた。そして柱の影から1人の髪の黒い
背の高い女が徐々にその姿を現した。
「なんで……なんでウオッカが! お母様、どういうことなんですか!」
スカーレットはガブリエルとウオッカを交互に見て言った。
「いちいち騒ぐんじゃないわよ」
ウオッカは言った。
ウオッカは、天上界から逃げ出し、地上界で悪事を働いた悪魔。その物質変化能
力で多くの武器を生み出すことが出来る。
「なぜですか!? せっかく封印したウオッカをなぜ!?」
ウオッカの言葉を無視し、スカーレットは掴みかからんばかりの勢いで母に訊ね
た。
「落ち着きなさい。いいですか、これからあなたが成すべきことを言います」
ガブリエルはスカーレットの両肩に手を置き、諭す様に言った。
「あなたには、このウオッカと協力して、ある悪魔を捕まえてもらいます」
ガブリエルのその言葉に、スカーレットは信じられないという顔でガブリエルを
見た。ガブリエルの顔は穏やかだが、強いはっきりとした意志が感じられる。
「なぜ、なぜウオッカと……」
「これは、天使長会議ですでに決まったことなんです。あなたが、任命されたんで
す。これは天使として誇りに思っていいことですよ」
「それは、それは私も天使としてとても名誉なことだと思います。でもなぜ私が?
それに悪魔のウオッカと協力して悪魔を捕まえろだなんて……私にはよく理解でき
ません……」
スカーレットはうな垂れてその場に座り込んでしまった。そんなスカーレットを
冷たい眼差しで見ていたウオッカが口を開く。
「私の指名だよ。アンタがいいってね」
166 :
4:2007/05/19(土) 09:33:49 ID:3DIvbxql
スカーレットはウオッカをキッと睨みつけ、拗ねた顔をしてあさっての方向を向
いた。
「その悪魔を捕まえるには、ウオッカの協力が必要なのです。私は、その為にウオ
ッカの封印を解きました。ウオッカには、魔力を抑える為の封魔のイヤリングをつ
けさせています。これは、彼女の意志で外すことは出来ません。でも大丈夫、彼女
はあなたに危害を加えることはありません。そうですよね? ウオッカ」
ガブリエルは言った。
「さぁ、どうだか。まったく、アンタも陰険なことしてくれるわよね」
ウオッカは吐き捨てるようにガブリエルに言った。
「で、その悪魔って誰なのよ?」
ウオッカがガブリエルに訊ねる。
「ベラ、です」
その名前を聞いたウオッカの表情に動揺は無かった。しかし、ウオッカの猫のよ
うな瞳が縦に細くなり、ガブリエルの次の言葉を待って怪しく光る。
「ベラはすでに地上界に降りています。誰か、波動の合う人間に憑依して完璧に気
配を消しています。ただ、ベラが行方を眩ました場所の特定は出来ています」
ガブリエルは淡々と言葉を続けた。ガブリエルの話を黙って聴いていたウオッカ
の表情からは、先程までの悪魔然とした悪ふざけの様相は消えていた。
「それで? 私には何か利点はあるわけ? その話を受けたとして」
ウオッカはガブリエルに尋ねる。
「あなたを、自由にするというのはどうでしょう」
167 :
5:2007/05/19(土) 09:37:11 ID:3DIvbxql
ガブリエルのその言葉に、スカーレットはまたしても信じられないという顔でガ
ブリエルに詰め寄る。
「なぜですか! せっかく封じ込めたウオッカをなぜ!?」
「アンタは黙ってなさいよ」
ウオッカはスカーレットを制してガブリエルの方を見た。まるで、ガブリエルの
心の内を探るようにその猫目をじろりとさせる。
「悪くない話だね。アンタらはベラとこの私を天秤にかけて、私を取ったわけだ。
まあ確かに、ベラは悪魔達の中でも相当やばい奴だ」
「ただ、その自由には条件があります。1つは地上界には降りないこと。もう1つ
は、魔力を制御したその封魔のイヤリングを付けたまま暮らすこと」
ガブリエルは言った。
ウオッカは腕を組んでしばらく考え込んでいたが、もう1度ガブリエルをまじま
じと見つめふぅと溜め息をつき、分かった、と言った。
「アンタが嘘をつく様な奴じゃないことは分かる。自由を得られることに比べたら
悪くない条件だ」
168 :
6:2007/05/19(土) 09:39:12 ID:3DIvbxql
「当たり前よ! お母様はあなたみたいな悪魔と違って嘘はつかないわ!」
スカーレットがウオッカに咬み付く。
「いちいちうるさいなぁ。今回はアンタと組まなきゃいけないんだからつまらない
ことでキャンキャン吠えないの。まったく、身体が持たないっての」
「なんですって! もう1度言ってみなさいよ!」
スカーレットとウオッカのやり取りを、ガブリエルは変わらず優しげな微笑を浮
かべたまま見ている。
「あなた達ならうまくやってくれそうね」
「どこがでひゅか!」「どこぎゃよぅ!」
ウオッカとスカーレットは子供が喧嘩するように互いの頬をつねり合ったまま応
えた。
169 :
7:2007/05/19(土) 09:41:03 ID:3DIvbxql
「さてと、そうとなったら地上界に降りるわけだけど、ベラが降りた場所は?」
まだぎゃあぎゃあと騒ぐスカーレットの頭を押さえ込んでウオッカが訊ねた。
「前回のあなたと同じ、東京です。あそこは人間の密度といい悪意のオーラといい、
悪魔が身を隠すには最適なようですね」
ガブリエルがニコリと笑いそう言った。
「フン、皮肉はいいわよ。でも東京なら都合はいいね。憑依体にピッタリの人間が
いる」
「そう言うと思っていました。これを」
ガブリエルは、4つの小さな植物の種のようなものを手のひらから取り出しウオ
ッカとスカーレットに見せた。
170 :
8:2007/05/19(土) 09:48:10 ID:3DIvbxql
「これは記憶の種です。あなた達が前回関わった4人の人間の、事件の間の記憶が
封じ込めてあります。これをどう使うかはあなた達に任せます」
ガブリエルは4つの種を2つずつウオッカとスカーレットに分けて渡した。
「前回の時もそうですが、その4人の人間は、人間の中でも特別な波動を持ってい
ます。あなた達が地上で動くときにきっと力を貸してくれるでしょう」
ガブリエルは言った。
「でも……」
スカーレットは気が進まないといった様子である。
「あら、便利じゃん。使えるものは使わないとね。それにどっちにしろ、地上界で
の実体を持てない私達が地上界で活動するには憑依する人間の身体が必要だ」
「それはそうだけど……」
スカーレットは自分の手のひらの上に乗った2つの種を見て悩んでいる。
「優しいのですね、スカーレットは」
ガブリエルは相変わらず、優しい笑顔で言った。しかし、その笑顔に少し陰り
を見せる。そして溜め息をつき言った。
「実は……1つ言っておかなければいけないことがあるのです。マーガレットが、
すでに地上界に降りています」
171 :
9:2007/05/19(土) 10:00:15 ID:3DIvbxql
随分酔っ払ってしまった。相変わらずだんなは帰ってこない。それには慣れてい
るので、私が酔っ払っているのはそのことではない。そう思いたいところだが、春
の気持ちの良い夜風が私の気持ちを素直に言葉にさせる。
「あーあぁ、ほんっと仕事が好きな人なんだから、あの人は……」
足元はしっかりしているつもりだったが、頭の奥のほうが突き上げられるように
痛くて真っ直ぐ歩けない。悪い酔い方をしてしまったようだった。
「かーわいい女の子でも1人飼って、一緒に住まわせちゃおうかな」
もう自分でも何を喋っているのかよく分かっていない、というのがよく分かる。
もう1人の冷静な私が酔っ払いの私を見ているような感覚。もしかして、酔ったふ
りをしているだけなのかもしれない。私の仕事が仕事だけに、そういう不思議な感
覚に陥ることは何度もある。
ふらふらと歩いて、やっと家の玄関にたどり着いて、鍵をハンドバッグから取り
出し差し込んでノブを回す。いつもやっていることなので酔っていても機械的にこ
なせてしまう。
――誰も迎えてくれない家って、どうしてこんなに寂しいのかな。
いい年して何を考えているのか私は。
徹底的に自己嫌悪になり、そんな恥かしさも手伝って思いっきりドアを引っ張り
開けて、大きな声で「ただいま!」と叫んだ。
172 :
10:2007/05/19(土) 10:05:35 ID:3DIvbxql
「おかえりなさいませ。お邪魔しています」
1人の女の子が、玄関に正座をしている。そして私に挨拶をした。
「あ……」
私は1度玄関を出て表札を確かめてみる。何度確認しても間違いない、私の家だ。
「あの……?」
すっかり酔いも吹き飛んでしまっていた。正座している女の子は眼鏡を掛けてい
て真面目そうだが、どことなく普通の人とは違う気品のようなものを感じる。でも、
その顔は可愛らしく愛嬌がある。
見覚えのある顔だった。
「蒼井……優ちゃんだよね?」
173 :
11:2007/05/19(土) 10:07:20 ID:3DIvbxql
「はい、地上界の名前はそうです。初めまして、わたくし、天使のマーガレットと
申します。前回は不躾な姉が色々ご迷惑お掛けしました」
優ちゃんがそう言って、頭をペコリと下げた。思わず私も同調して軽く会釈で返
す。いや、そうじゃない。何のことか分からない。天使のマーガレットとは何なの
だろうか、新しいお菓子の名前か何か?
「こんなところでは何ですので、どうぞ奥へ」
優ちゃんに促されて私は自分の家に上げてもらう。おかしい、ここは私の家のは
ずだが。
「あ、お茶は私が淹れます。涼子さんはゆっくりしてて下さい」
優ちゃんは私にカップとティーパックの場所を聞き、テキパキと2人分のお茶の
用意をしている。私はリビングのソファに腰を掛けてそれを待った。彼女の無駄の
無い合理的な動きと何やら話し掛けづらい神経質そうな雰囲気が私に緊張感をもた
らし、私は妙に改まってしまう。自分の家なのにすっかり優ちゃんにペースを握ら
れてしまっているのが、彼女より随分年上な自分には少しつらい。
174 :
12:2007/05/19(土) 10:11:36 ID:3DIvbxql
「どうぞ」
優ちゃんは出来上がったお茶を私に持ってきてくれた。スプーン、砂糖、ミルク。
どこかで見た覚えのあるマナー本のそのままの作法でそれらが添えてある。
優ちゃんは夜の静かなリビングにそのまま溶けこんでいるかのように、物静かに
お茶を飲んでいる。少しの飲む音も立てない。が、ときどき眼鏡が湯気で曇ってし
まって、眼鏡を外してティッシュで曇りを拭き取っている。
「あの、優ちゃん……」
「マーガレットです」
私が名前を呼ぼうとすると彼女は即座にシャットアウトし、訂正した。
「じゃあ、あの、マーガレットちゃん、どうやってこの家に入ったの?」
基本的だが、ずっと引っ掛かっていたことを訊いてみた。
「申し訳ありません、窓が1つ開いていたのでそこから入らせていただきました。
なにせ急を要していたものですから」
175 :
13:2007/05/19(土) 10:14:34 ID:3DIvbxql
そうか、また閉め忘れていたんだ。いや、そうではない。だからと言って人の家
に勝手に侵入することは良くないことだ。
「まあ、そのことは……良くないけど、後でいいわ。この私に、どういう用件があ
るの?」
もう1つの基本的な質問をする。
「はい。まずはこれを見て下さい」
優ちゃんことマーガレットは文庫本ほどの大きさの一冊の本をテーブルに置いた。
その表紙には「超簡単! 天上界入門」と書かれている。私はそれを手にとって開
いてみた。すると、本から光の線が幾本も飛び出した。まるで幼いころ見た飛び出
す絵本のように。驚きのあまり口を半開きにしている私の目の前で、光の線があっ
という間に何かの形を構成していき、よく映画で見るCGのような立体的な映像に
変わった。その映像は何か幾重にも断層になっていて、どこかの世界を示している
ように見えた。
「はい、ご説明します」
“マーガレット”がスプーンを持って、その立体映像を指して話し始めた。
「まず、この雲の少し上、ここが私の住む天上界です。あなた方人間が、神や天使
や悪魔を想像しますよね? そういう世界と考えていただいて結構です。そしてそ
の下、この地上にへばりついているのが地上界です。人間が住む世界ですね。私は
天上界から来ました。でも、地上界に住む人間には私達の姿を見ることも触れるこ
とも出来ません。そこで、波動の合う人間を見つけて憑依して身体を使わせて頂い
ています。私の場合、この方だったわけですね」
マーガレットの説明に、私は驚きでただコクコクと頷くだけだ。彼女はお茶
を少し飲み一息つき、また説明を再開した。
176 :
14:2007/05/19(土) 10:18:01 ID:3DIvbxql
「大抵の人間は、その事実を受け入れようとせずただ闇雲に否定しようとします。自
身の理解の範疇を超えているものは恐がって受け入れようとしません。でもあなた
は優秀ですね。さすが、一時的とはいえお母様が人間体に選んだだけあります」
マーガレットは生徒を褒める教師のような口ぶりだ。
「では、何故私がこの地上界に降りてきたかと言いますとですね……」
――ゴトン。
マーガレットが説明を続けようとした次の瞬間、奥の部屋から何かが落ちたよう
な重低音がした。
私は体をビクリと震わせ、音のした部屋の方向のドアを見る。しばらく静かだっ
たが、やがて何かが廊下を歩いてリビングに向かって来ている足音がした。
マーガレットは特に驚いた様子も無く、冷静なままだ。
私はマーガレットの登場ですでに十分驚いていたが、何か得体の知れないことに
自分が巻き込まれていっていることに少しづつ恐怖を感じ始めていた。
足音はどんどん近づいてきて、ピタリと止まった。そして加減知らずの子供が勢
いよく押すようにしてリビングのドアが開けられた。そこには、茶色い巻き髪でよ
く目立つ大きな瞳の、白い柔らかそうな素材のワンピースを着た女の子が立ってい
た。
「マーガレット! どうしてあなたが降りてきてるの!?」
白いワンピースの女の子は開口一番、大声でマーガレットにそう言った。
私はその女の子を知っている。エビちゃんだ。
177 :
15:2007/05/19(土) 10:19:56 ID:3DIvbxql
「姉さん、遅かったわね」
マーガレットはエビちゃんの方を見向きもせず、冷ややかにそう言った。
「こんなところで何やってるの!? 後のことはお姉ちゃんに任せて、マーガレッ
トは早く天上界に帰りなさい!」
エビちゃんはマーガレットを叱るつけている。
姉? エビちゃんがどうして? 私は頭が混乱してしまっていた。
「姉さんになんて任せておけないでしょう? だから、私も天使長の方々にお許し
を頂いてここに来たのよ。大体、姉さんみたいな落ちこぼれがこんな大事な任務を
任されて、天使学校首席卒業のこの私がお留守番なんてありえない。姉さんはドジ
だからどうせまた何かしでかすでしょう? これ以上、お母様の顔に泥を塗るわけ
にはいかないわ」
マーガレットは言った。
「そ、それはそうかもしれないけど……でも、私だっていつも一生懸命に……」
エビちゃんは萎れた花のようにしゅんとしてしまった。
「いい? 姉さん。私は涼子さんと協力して必ずベラを見つけ出して捕まえてみせ
る。姉さんこそさっさと天上界に帰ったらどうなの?」
178 :
16:2007/05/19(土) 10:22:40 ID:3DIvbxql
協力? 私が?
「ち、ちょっと、勝手に話を進めないでくれる?」
私はそう言って2人の間に割って入る。
「と、とにかくエビちゃん……」
私はエビちゃんに説明を求めようとした。しかし彼女は、泣きそうで、それでい
て笑っているような顔で私を見ていた。
「涼子さん……お久しぶりです、スカーレットです。もちろん、憶えてらっしゃら
ないでしょうけど……」
エビちゃんは自身をスカーレットと名乗った。
179 :
17:2007/05/19(土) 10:25:29 ID:3DIvbxql
駄目だ、やっぱり理解できない。私はからかわれているのだろうか。
「さ、さっきからあなたたち、マーガレットとかスカーレットとか……そういうの、
若い子の間で流行ってるの? そ、それともドッキリとか? 分かった、何か仕事
で悩んでるんだね、私でよかったら相談に乗るよ?」
私は真面目な顔でそう言ったが、優ちゃんことマーガレットは呆れた顔で指でお
でこを押さえて溜め息をつき、エビちゃんことスカーレットは目に涙を貯めてニコ
ニコしているだけ。やがて、エビちゃんの泣き笑いの顔がじわじわと本気の泣き顔
になり、私に飛び掛って抱きついてきた。
「涼子さん! またお話できて嬉しいです!」
180 :
18:2007/05/19(土) 10:32:07 ID:3DIvbxql
「よかった、涼子さん全然変わってない。優しい涼子さんのままです」
スカーレットは嬉しそうにそう言った。
ひとまず落ち着かせようとスカーレットをソファに腰掛けさせた。マーガレット
も黙ってソファに腰を下ろす。私は2人の話をきちんと聞いてあげようと思った。
「で、2人は、ほんとにその……天上界ってところから来たの?」
「あ、すいません、窓が開いていたので勝手に入っちゃいました、えへへ」
スカーレットは照れ笑いを浮かべながらそう言った。なるほど、似たもの姉妹な
わけだ。
「姉さん、面倒だから早く涼子さんに記憶の種を飲ませたらどうなの? その、姉
さんの入ってる憑依体の人にはもう飲ませているんでしょう?」
マーガレットが言った。エビちゃんのことらしい。
「うん……そうだけど……」
スカーレットはポケットからごそごそと何かを取り出した。スカーレットの手の
ひらには植物の種のようなものが1つ乗っていた。
「もう! 姉さん、そういう優しさは時に人を傷つけることだってあるのよ!」
マーガレットはその種をスカーレットから奪い、突然私の口に放り込んだ。私は
いきなりのことに驚いて、思わずその種を飲み込んでしまった。
「んぐっ! ……んんんんん!」
私の頭の中の奥の奥、一番深いところから、懐かしい映像と音が感覚を伝って浮
かび上がってきた。
それは、とても恐ろしくて、とても暖かい“記憶”だった。
181 :
19:2007/05/19(土) 11:43:52 ID:3DIvbxql
「チーアーキ!」
もうすぐ自宅マンションに着こうかという、その帰り道。あたしは声を掛けられ
た。振り向くと、そこには美咲さんがいた。春とはいえ、夜はまだ冷えるこの時間
帯に黒いワンピースだけの格好だ。コツ、コツ、とヒールをリズミカルに鳴らし近
づいてきて、あたしに後ろから抱きついてくる。
「相変わらずカワイイねぇ」
美咲さんがあたしの耳元で囁くようにそう言った。なんだかとても気恥ずかしく
て前を向いて俯いてしまう。
「ど、どうしたんですか? こんな遅くに1人で、こんなところに」
何故だか今日は美咲さんの目が見れない。なんだか、とても怪しい魅力が今日の
美咲さんにはある。
「何言ってんのよぅ、私とチアキの仲じゃない」
いつもは、千明ちゃん、とあたしのことを呼ぶ美咲さん。何かがおかしいように
感じてはいるが、その何かが何なのか分からない。あたしは思い切って振り返り、
美咲さんの顔をしっかりと確認してみる。美咲さんはニコニコと上機嫌に笑顔を浮
かべているだけだ。
182 :
20:2007/05/19(土) 11:46:53 ID:3DIvbxql
――酔っているだけなのかな。
そう結論づけて、とりあえず納得することにした。そうとなれば、こんな遅い時
間に酔った美咲さんをこのまま放っておくのはよくない。
「あの、あたしのマンション近くなので寄っていきませんか?」
あたしは言った。
「あらぁー、ありがと。ま、でも最初からそのつもりだったけど」
美咲さんはそう言ってケラケラと笑って見せた。やっぱり分からない人だな。
と、美咲さんがあたしの目の前に小さな種のようなものを差し出してきた。変わ
らず、愉快そうな笑顔で。
「これ、新発売のサプリメントなんだ。チアキが仕事で疲れてると思って持ってき
てあげたの」
183 :
21:2007/05/19(土) 11:48:59 ID:3DIvbxql
断るのも悪いと思い、あたしはそのサプリメントらしきものを受け取った。人差
し指と親指で摘んで街灯の光に透かして見てみる。外見はアーモンドのような形を
しているが、透かして覗いて見た中身は何かゆらゆらと液体とも気体とも言えない
物質が蠢いている。見るからに怪しげではあったが、美咲さんがニコニコと笑って
こちらを見ているので飲まなければいけない雰囲気になってしまっていた。
「じゃあ、いただきます……」
あたしは思い切ってそのサプリメントを口に入れてみた。何か口の中が熱くて、
飲み込む気が起きない。
「噛んじゃダメだよ、一気にいっちゃって」
美咲さんが言った。
覚悟して、ごくん、と一息に飲み込む。が、そのサプリメントが喉を通過する感
覚がまったくしない。
なんだろうと思った次の瞬間、あたしは強烈な立ちくらみを起こした。頭を掴ま
れ酷く揺さぶられているような感覚になった。
あたしは右手を地面つき、左手で頭を押さえた。
184 :
22:2007/05/19(土) 11:52:21 ID:3DIvbxql
「ふぅぅぅぅ……うぅぅぅぅ……」
頭の中の奥の奥、何かの記憶が蘇ってくる。あたしは爆弾をバッグに詰めバイク
に乗ってどこかへ――そうだ、東京タワー、これは……?
頭の異変が少しづつ治まっていき、あたしは目の前がはっきりとしてきた。1つ
咳をしてゆっくりと立ち上がる。
「グッモーニン、チアキ。アンタが飲んだのは、記憶の種だよ」
そう言った美咲さんの瞳の黒目の部分が、縦に細くなる。
美咲さん――いやウオッカだ。
あたしは、失っていた記憶を全て取り戻した。
185 :
23:2007/05/19(土) 11:57:36 ID:3DIvbxql
「んんー、私、チアキの部屋って好きだな。音楽のセンスもインテリアも私好みだし」
ウオッカはあたしの部屋のCD棚をジロジロと見回し、一枚取り出しては開いて
ジャケットに目を通している。
正直、あたしはもうこの悪魔と関わりたくはない。事件のことも思い出したく無
かった。あたしは自分が起こした事件がどれだけ愚かしくてどれだけの人を傷つけ
たかを思い出してしまい、背筋がぞっとする想いでいた。だがしかし、あたしをそ
そのかし事件を起こさせた悪魔が、再びあたしの前に現れた。あたしは、あの時の
キスで何もかもおかしくなってしまったのだ。
「今さら、あたしに何の用なの?」
恐る恐る、ウオッカに訊ねた。しかし、ウオッカはまるであたしの言葉が耳に入
っていないように無視し、コンポを開きCDをセットして再生ボタンを押した。そ
してボリュームを一気に上げる。
大音量のスマッシング・パンプキンズが部屋いっぱいに流れる。ウオッカは身体
でリズムを取りながら、初めて会ったときのように、ドスンとソファに勢いよく腰
掛けた。外見は美咲さんだ。その細長い腕が肘掛に無造作に置かれてだらりと垂れ
ている。
「なにビビッてんのよ。アンタは、この私が見込んだ女だよ」
ウオッカはニヤリと笑いそう言った。
「び、びびってるとかそういうことじゃあ……」
「チアキ、アンタが今、考えていることを当ててあげようか?」
Smashing Pumpkins - Ava Adore
http://youtube.com/watch?v=8Rm_hHfNe6M&mode=related&search=
186 :
24:2007/05/19(土) 12:02:50 ID:3DIvbxql
ウオッカは瞳を細くさせ、あたしの方を真っ直ぐ見て言った。
「いい迷惑だ、なんであたしに付きまとうんだこの悪魔め。そもそも、こいつさえ
いなかったらあたしはあんな事しなかった。全部この悪魔のせいだ」
ウオッカはさらに目を細めて続けた。
「自分は悪くない、そう思うことでなんとか辻褄を合わせようとアンタはそう考え
ている」
「……そーよ! 全部、あんたのせいじゃないっ!」
耐え切れず、あたしは反論した。しかし、ウオッカはその細い瞳であたしの頭の
中を見透かしているように言葉を続ける。
「アンタは悪魔の性質を理解してないね。悪魔は、人間の心を見るんだ。人間が欲
や不満や悪意を持てば、それだけ悪魔が寄って来る。悪魔は、最後の一押しをして
あげるだけなのさ」
「勝手なことを言わないでよ! あんたがいなければあたしはあんな事件を……」
「絶対に起こさなかった、って言える? きっかけがたまたま私だっただけで、ア
ンタなら他にも何かやりかねなかったと私は思うけど?」
言い返せない。悔しいけど。あの時のあたしはたくさんの不満を抱えていて爆発
寸前だった。嫌なものみんな吹き飛んでしまえばいいんだ、そう考えていた。
「……何よ、悪魔のくせにっ!」
あたしはウオッカの座っているソファの向かい側のソファにドンと音を立てて座
って、頬を膨らました。
「ププ……アハハハハハ、チアキってやっぱカワイイよ」
ウオッカは高らかに笑った。
187 :
25:2007/05/19(土) 12:06:30 ID:3DIvbxql
「で、一体何の用なのよ? 言っとくけど、もうあんたと組むのはこりごりなんだ
からね!」
あたしは強い口調でそう言った。
「まあまあ、そう言わないで。アンタにせめてもの罪滅ぼしをさせてあげようと思
ってね。世の中にいっぱい迷惑をかけたアンタに」
ウオッカはそう言ってソファから起き上がり、あたしに対面するように座りなお
した。表情は笑っていたが、さっきまでのからかうような顔つきではない。いかに
も悪魔的な、特徴のあるいやらしい笑顔でもない。
「地上界に、かなりやばい悪魔が降りて来ている。その悪魔を捕まえるんだ。天使
のスカーレットも地上界に降りて来てリョウコに接触しているはず。あのお人良し
のバカ、記憶の種を使うのを相当迷っていたみたいだけど。だって、あんな事件に
巻き込まれて平静でいられるわけないもんね、普通の人間は」
あたしは事件のこと思い出していた。そう、篠原さんやエビちゃんの姿をした天
使――彼女達と闘ったこと。再び、あたしは自責の念に心の奥が締め付けられる。
「実は、私はこれに賭けてる。自由を手に出来るかどうかの賭けなんだ。その為に
は協力者が必要だ。私と波動の合う強力なパートナーが」
ウオッカはあたしの目をじっと見つめて言う。
188 :
26:2007/05/19(土) 12:09:08 ID:3DIvbxql
「べ、別にあたしじゃなくてもいいじゃない。もっと強そうな人にしたら?」
「個人の腕力や物理的な力はあまり関係ないのさ。精神面の強さや適応能力、それ
に第一に私と波動が合うかどうか、それが重要なんだ。例えば……」
ウオッカは急に黙り込み、目を瞑ってあたしに聴こえないほどの小さな声で何か
呟き始めた。あたしはそのウオッカの様子が気になって顔を覗き込む。
ふいに、ウオッカは目を開けてあたしを見た。その瞳に、人間らしい輝きが戻っ
ていた。
「千明ちゃん、私よ。今、ウオッカと入れ替わったの」
「美咲さんですか! 意識があるんですか!?」
瞬時に美咲さんだと悟った。
「うん、もちろん、前の事件の時の記憶も戻った。変な種飲まされて。聞いてよ、
この人勝手に私の身体使って全然出て行ってくれないのよ。あ、人じゃないや、悪
魔だ」
美咲さんはあっけらかんとしてそう言った。あたしは、意外にも明るい美咲さん
にあっけにとられた。
「なんかね、シンクロ率ってのが高いらしくてね、私に憑きやすいんだって。でも
100パーセント乗っ取ってるわけじゃないから私の意識は残ってるっていうか」
「あの……」
「なんか面白いよ、ロボットに乗ってるみたい、自分の身体なのに」
189 :
27:2007/05/19(土) 12:11:26 ID:3DIvbxql
「み、美咲さんは、自分のやったことについてどう考えているんですか? いや、
正確には美咲さんの身体を使ったウオッカがやったことですけど……」
あたしは、一番聞きたかったことを単刀直入に訊いた。あたし以外で、同じ気持
ちを分かってくれるのはこの人しかいない。
「うーん、私は、これからどうしようか考えてる。やってしまったことはもうどう
しようもないじゃない。だったら、どうやって取り返そうかそれを考えてる。ウオ
ッカは、今回は悪巧みは考えてないみたいだし」
美咲さんは、はっきりとそう言った。
美咲さんは目を閉じて少し何か呟き、再び目を開いたときにはウオッカの猫目に
戻っていた。
「……と、まあこんな具合だね。ミサキは分かりやすくて私は好きだな」
ウオッカは言った。
「今の、本当に美咲さんだよね? あんたの芝居とかじゃないよね?」
「信じる信じないはアンタの勝手だよ。私が何言っても、どうせ悪魔の言うことな
んて信じないでしょ?」
ウオッカは悪戯っぽくウインクした。確かにそうだ、ははは。
190 :
28:2007/05/19(土) 13:09:52 ID:3DIvbxql
大都市・東京の、とある高層ビル。
深夜を向かえ静まり返った社内の一室、“社長室”とネームが貼られたドアを開
け、1人の強面の中年の男が入ってくる。
サイレントハピネス興行社長、虎畑次郎。このビルのオーナーであり、サイレン
トハピネスの社長である。人相は良いとは言えない。眼鏡を掛けたその目の奥は冷
たさを感じさせる。実際、虎畑は敏腕だがワンマン経営で、その強引な手法で同業
者からも恐れられていた。彼の仕事は、テーマパークやゴルフ場関連の運営及び不
動産の取り扱いだ。
虎畑は黒く大きな社長椅子に腰掛ける。机に置かれていた“新規事業報告書”と
書かれたファイルを開いてパラパラとめくる。が、そのファイルをゴミでも捨てる
ように地面に投げ捨てた。
「どいつもこいつも、まったく無能だ」
そう独り言を言って立ち上がり、リモコンのスイッチを押した。社長室の壁のブ
ラインドが機械音を鳴らし収納されていき、街と空を見渡せる大きな窓が出現した。
191 :
29:2007/05/19(土) 13:11:23 ID:3DIvbxql
「もっと、この東京に住む全ての人間、いや、日本中、世界中の人間がこの私の作
ったテーマパークに注目し、マネーを生み出すようなプロジェクトは無いものか」
虎畑は、また独り言を言った。しかし、その独り言を言った後、虎畑は苦笑した。
これではまるで古い映画に出てくる悪社長だな。そう思ってこらえきれずに今度は
大きな声を出して笑った。
「おかね、ほしいの? おじさん」
ふと、虎畑の耳に囁くような声が入ってきた。か細いが、はっきりとした女の声
だ。虎畑はいつもの平静さを取り戻し、社長室を見回すが、誰もいない。
気のせいか、と再び窓の外に目を向ける。
そこに。
「おじさん、おもしろいこと、さがしてる」
1人の少女が、社長室の窓の外の、夜の闇に浮いていた。
192 :
30:2007/05/19(土) 13:14:32 ID:3DIvbxql
虎畑は目を大きく見開きその少女を見た。あまりのことに驚き、身体は金縛りに
でも遭った様に動かない。
った。
「はいっていい?」
少女はそう言った。窓の外にいるので、声は聴こえないはず。まるで、虎畑の頭
の中に直接語りかけてくるようだった。
少女は窓に手を当て、ぐいと押した。
ピキ、ピキ。
窓にひびが入り、亀裂がどんどん広がっていく。虎畑は固まっていた身体を少し
づつ動かして後ずさりし、その窓から避難する。
ガシャン、と音を立て窓が割れ、ひと1人分が通れるほどの穴が空き、そこから
強風と共に少女が侵入してきた。
「だ、誰だ、おまえはっ!」
緊張し強張った表情の虎畑は、その性格からか恐怖心を持ったことを悟られぬよ
うわざと大きな声で怒鳴りつけるように少女に言う。
「うーん、あくまなの」
193 :
31:2007/05/19(土) 13:18:04 ID:3DIvbxql
少女は言った。
「悪魔? そ、その悪魔が私に何の用なんだい」
虎畑はどこかで見覚えのあるその少女を必死に思い出していた。テレビでその顔
を知り、自社の広告に起用する候補にも挙がっていた。
身体に比べて、大きなサイズの真っ黒な上着。ひらひらとしたレースのスカート。
顔つきは、幼さを残しながらもどこかミステリアスさを漂わせている。
「思い出したぞ、宮崎、あおい、とかいう名前だったなっ」
虎畑は少女を指差し、確信を持ってそう言った。
「あおい? うん、でも、いまはベラなの」
ベラ、と自らを名乗りあおいは言った。
「なんの悪戯だ、お嬢ちゃん。もしかしてうちのCMにでも使って欲しいのか……」
虎畑が言葉を言い終わるか終わらないうちに、ベラは瞬時に虎畑の目の前に立っ
ていて、机に置いてあった万年筆を虎畑の眉間に突きつけていた。
「わたしは、こどもじゃない」
穏やかに、しかし先程までの子供っぽい声色とは違う低い声でベラはそう言った。
194 :
32:2007/05/19(土) 13:21:08 ID:3DIvbxql
「わぁ、ふかふかする」
ベラは先程まで虎畑が座っていた社長椅子に腰掛け、楽しそうにはしゃいでいる。
「君は、この私を脅しにでも来たのかね?」
そのベラの様子に虎畑は苛立ちながらも、極力、ベラを刺激しないように穏やか
な口調で話した。
「おどす? ううん。おじさん、おかねとかいろいろほしそうだから、ベラがしあ
わせわけてあげようとおもってきたの」
ベラはそう言って、まっすぐに虎畑を見つめる。その見つめる目の奥の、言い知
れない暗さに虎畑は背筋が寒くなり、思わずブルリと震えた。
「その、君は自分を悪魔と言ったが、証明できるのかね? それに、悪魔が幸せを
運ぶなど……」
虎畑が言い終わるか終わらないうちに、ベラが動いた。社長椅子から立ち上がる
と、んんん、っと口から声を漏らし、目を瞑り身体を小刻みに震わせ始める。
「んんんんん、ばぁ!」
ベラが威かすようにそう叫ぶと、ベラの背中には蝶のような大きな羽が生えてい
た。赤と黒を基調に、様々な色の混じった鮮やかな色の羽だ。
「どーう? かわいいでしょ」
そう言ったベラの瞳は、白目の部分がまったく無くなり、眼球は漆黒の色をして
いた。
虎畑はもう言葉も無く、恐怖とも感嘆とも言えぬ表情で立ち尽くしていた。
「おじさん、わたし、おかねになーる?」
ベラは羽を羽ばたかせ、ふわりと浮いて見せた。虎畑の目は変わらず驚きのまま
であったが、口の端をいやらしく歪め、笑っていた。
「ワハハハハハ! ベラよ、君は素晴しい。正に、幸せを運ぶ私の悪魔だ!」
195 :
33:2007/05/19(土) 20:54:58 ID:3DIvbxql
朝、目を覚ました私は二日酔いの強烈な頭痛を感じている。そうか、昨日もまた
酔っ払って帰ってきて、それから……。
妙な夢を見ていた気がする。でもおかしい。前にも、同じようなことがあった。
私は頭痛を堪え、ゆっくりと身体を起こし、眠っていたベッドのシーツを一気に
捲る。
――やっぱりだ。
そこにはスヤスヤと丸くなって眠るエビちゃんの姿をした天使・スカーレットと、
行儀よく仰向けになって眠る優ちゃんの姿をした、同じく天使のマーガレットがいた。
196 :
34:2007/05/19(土) 20:56:56 ID:3DIvbxql
私は2人をベッドに残したまま、キッチンに向かった。冷蔵庫から酔い覚ましの
飲み薬を出し、それを一気に飲み干す。
はぁ。一息ついて、まだ少しぼやけたままの頭で考える。なんだか、私はまたし
ても大変な事に首を突っ込んでしまったようだ。
「おはようございます」
いつの間にかマーガレットが目を覚まし私の前に立っていた。私に堅苦しく挨拶
をした後、洗面所を借りたいと言ったので、あっちだよ、と言って教えてあげた。
「ありがとうございます」
マーガレットはまた仰々しく頭を下げ、スタスタと歩いていった。
「おはようございまひゅ……」
続いて、スカーレットが目を覚まし私のところに来て挨拶した。目は半開きでふ
らふらと危なっかしく立っている。私はコップにミルクを入れて、飲む? とスカ
ーレットに差し出してあげる。
「あ、どうもでひゅ……」
スカーレットはペコリと頭を下げてそう言うが、勢い余ったのか頭を下げすぎて
キッチンの台の縁にゴツンとぶつけた。
「いたぁぁい……!」
それでようやくちゃんと目が覚めたようだ。おでこを摩りながらミルクを受け取
ってチビチビとそれを飲んでいる。
2人に会ったとき気がついてはいたが、この姉妹は何かと対照的なようだ。そう、
天使にもいろいろ個性があるんだね。
197 :
35:2007/05/19(土) 21:00:16 ID:3DIvbxql
私は身支度を整えながら、スカーレットとマーガレットに外出することを伝えた。
「え? どこへ行かれるんですか?」
スカーレットが不安そうに訊ねてきた。
「あなた達も一緒に行くんだよ」
私は2人を車に乗せ、眩しい朝日が照らす東京の街に繰り出した。カーステレオ
のラジオのスイッチを入れ、ボリュームを上げる。FMラジオからは流行の洋楽ロ
ックが流れてきた。
スカーレットは、楽しそうにその音楽でリズムを取りハミングをしている。対し
てバックミラーの中のマーガレットはつまらなそうに窓の外を見ているだけだ。
「マーガレットは、あんまりこういうのは好きじゃないの?」
私は、後部座席に座るマーガレットに話し掛けた。
「私はゴスペルしか聴きませんから。こういう世俗的なのは認めていません」
マーガレットは外を見たまま言った。
「えー、とっても楽しいじゃない。私、前に地上界に降りてきたときにすっかり気
に入っちゃったんですよ。でも、天上界ではあんまりこういうのは手に入りにくく
て……」
スカーレットは残念そうにそう言った。
「姉さんいいかげんにして。大体、姉さんはいつも遊ぶことと食べることと着るも
ののことしか考えてない。あんまり天使の恥を晒す様な言動は慎んでよ。少しはお
母様の立場を考えてちょうだい」
マーガレットはスカーレットをそう言って叱った。スカーレットはしょぼん、と
落ち込んでしまった。
The Fratellis - Flathead
http://youtube.com/watch?v=pKQK8rYZNHY
198 :
36:2007/05/19(土) 21:04:43 ID:3DIvbxql
2人を乗せて、私は馴染みのカフェに来た。ここはお店の配慮でプライベートな
雰囲気で気兼ねなく楽しめる。カフェの二階のテラスに案内され、白で統一された
上品な3人掛けの椅子とテーブルに座る。スカーレットはニコニコと機嫌がよく、
マーガレットはずっとブスッとした顔のままだ。
スカーレットにメニューを見せ、どれがいい? と訊いてみる。うーん、と眉を
寄せてしばらく考え込み、一番甘そうなチョコレートのケーキとキャラメルミルク
を指差す。マーガレットはメニューも見ずに、ミルクでお願いします、と言った。
「どういうつもりなんですか、涼子さん」
マーガレットが私にそう訊いてきた。
――昨日、記憶の種を飲まされた私は失っていた全ての記憶を思い出した。スカ
ーレットと抱き合って久しぶりの再開を喜び合った。そして、2人が地上界に降り
てきた理由とこれまでの経過を全て聞いた。
ベラ。一体、どんな悪魔なのだろうか。
199 :
37:2007/05/19(土) 21:13:52 ID:3DIvbxql
私は協力を約束したが、前回のウオッカのようにその悪魔の性質が分かっている
わけではない。どう太刀打ちすればいいか分からないし、どう探せばいいのかも分
からない。
「それをこれから考えるのよ」
私はマーガレットにそう言って返した。
「涼子さん、恐くないんですか?」
スカーレットが訊ねてくる。
「そりゃ恐いわよ。でも、他ならぬあんた達に頼まれたんじゃあ断れないでしょ。
それに私って、あんまり深く考えないタイプだし、気にしないで」
私はウインクして見せた。
「でもスカーレット、お別れのときにあんだけ泣いたのにこうあっさり再会できる
なんてねぇ」
私はスカーレットにそう言っていじわるっぽく笑って見せる。
「やめてくださいよぉ、涼子さん」
スカーレットは照れてもじもじとする。
「ふざけてないで真剣にやって下さい」
マーガレットは苛立つようにそう言って立ち上がろうとする。
「まあまあ、とにかく落ち着いて考えましょう。お茶飲んだら、ちょっと歩かない?」
200 :
38:2007/05/19(土) 21:21:35 ID:3DIvbxql
カフェを後にして、車には戻らずそのまま近くの自然公園を3人で歩いた。スカ
ーレットはご機嫌で、時折すれ違う散歩中の犬と戯れている。
マーガレットは不審げに私を見ているが、私は気にせず歩いた。
「あ、いたいた。おーい」
私は大きく手を振って、遠くのベンチに座っている2人の人物を呼んだ。髪の長
い若い女の子と、サングラスを掛けた色っぽい女性。
「篠原さん、お久しぶりです」
髪の長い女の子は千明ちゃんだ。千明ちゃんは私に気まずそうに挨拶をした。前
回の事件の記憶が戻ったからだろうか。
「リョウコ、お久しぶり」
もう1人は、美咲ちゃんの姿をした悪魔・ウオッカ。サングラスで目の表情は窺
えないが、口元は笑っている。
この2人を見たマーガレットは少し驚いた表情をしたが、すぐに納得したのか、
ふうんとだけ呟いた。スカーレットはウオッカに「千明ちゃんに乱暴なことはして
ないでしょうね」と詰め寄っていた。
昨晩、スカーレットとマーガレットが眠った後に千明ちゃんの家に電話を掛けた。
ウオッカが地上界に降りてきたのは聞いていたので、味方は多い方がいいと思って
連絡を取っておいたのだ。ウオッカにはまだ不信感は拭いきれていないが、どうに
もこの姉妹だけでは不安だったので仕方が無い。
「さてと、全員集まったところで、作戦会議といきましょうか」
201 :
40:2007/05/19(土) 21:27:10 ID:3DIvbxql
広い公園の、芝生がきれいに敷かれた広場の一角で、地図と新聞、それにワンセ
グ機能の付いた携帯電話でテレビの情報を確認しながら5人で色々と思案を巡らせ
た。
「ベラのことはよく知ってる。昔、付き合いがあってね。奴は目的の為なら誰でも
道具のように利用する。そこが悪魔達の中でも評判は悪いね。私みたいな快楽至上
主義の悪魔とは違うから」
やはり同じ悪魔だからか、ウオッカの話は参考になる。
「そんなの威張って言うことではないでしょう。悪魔は悪魔よ」
マーガレットはそう言ってウオッカを睨む。
「潔癖症なんだね。ま、いつか分かるときが来るかもね」
ウオッカはそう言ってマーガレットに笑って返した。
「それで、何が目的なの? それが分かれば少しはベラの行動が読めるかも」
私はウオッカに訊く。
「多分、この時期だと繁殖かな? いや、脱皮する気かも」
繁殖、脱皮。その言葉にぞっとするような嫌なものを感じる。
「ベラって、蝶の化身なんです。だからそういうのもありえると思います。地上界
は天上界より餌が多いですから、悪魔も必死になって私達の監視の目をすり抜けて
降りようとするんです。でも、悪魔が逃げ切ることは滅多にないんですけどね」
餌、ね。そう言い切ってしまうスカーレットに、やはり天上界人とただの人間の
ギャップを感じてしまった。
「でもさ、あんたのママみたいな強い天使さんが直々に手を下せば、簡単に解決す
るんじゃないの?」
「それは違います」
202 :
40:2007/05/19(土) 21:35:00 ID:3DIvbxql
マーガレットが割って入ってくる。
「お母様の様な一級の天使が地上に降りるということが、どういうことか分かって
いませんね。それは、あなた方人間が神話や伝説と呼ぶようなレベルの話なんです
よ。東京タワーの件を思い出してみて下さい」
そうだ、ガブリエルが私に憑いて東京タワーの空に現れたとき、東京全体がまる
で光に覆われるように輝いた。
「それに何か勘違いされているようですけど、私達天使の仕事は天上界と地上界の
バランスを崩さないようにすることが最優先事項です。別にあなた方人間の為に活
動しているわけではありませんから」
マーガレットはそう言い切った。
「マーガレット、何もそこまで言わなくても……」
スカーレットは妹の冷たい言葉に悲しそうな顔をする。2人の姉妹の間に、何と
なく険悪な空気が流れる。やはりこの姉妹は対照的だ。
「でも、こう何も手掛かりがないといつ何をしでかすか分かりませんね」
場の空気を察してか、千明ちゃんが話を本題に戻した。
「ベラが動くなら夜だね。悪魔は基本的に光に弱いしね」
ウオッカはそう言って自嘲気味に笑う。
「でも、サングラスしてるとはいっても、あんたは平気なのね」
「ああ、それはウオッカはですね……」
スカーレットが何か言いかけたが、ふと目線を私の後ろに向けた。思わず私も振
り返ってその目線の先を見た。
幼稚園ぐらいの小さな女の子が、転んでしまったのかうつ伏せに倒れて今にも泣
き出しそうな顔をしていた。その子の母親らしき女性が遠くから駆けて来るのも見
えた。
203 :
41:2007/05/19(土) 21:38:39 ID:3DIvbxql
「いけませんね。きっと、お母さんの言うことをちゃんと聞いていなかったんでし
ょう。だからああいう目に遭うんです。自業自得ですね」
マーガレットは例のごとく、冷たくそう言った。
「そんな子供にまで……」
あまりに冷ややかなマーガレットに私がひとこと言ってやろうとした。
その時、スカーレットが立ち上がり素早く女の子の元に駆け寄り抱え上げてあや
し始めた。
「よしよし、痛かったね」
スカーレットは女の子の服をパンパンと軽くはたいて汚れを落とし、優しく頭を
撫でてあげる。まだ少しぐずりながらも、女の子は泣くのをやめてスカーレットに
抱きつく。
その光景を見て、千明ちゃんとウオッカはフフッ、っと笑い、私もなんだか自分
の心が暖かくなっていた。
「姉さんの、ああいう誰にでも優しいところはあまり感心できませんっ」
ただ1人、マーガレットは苛立った様子でそう言った。
「でもマーガレット、誰にでも優しくできるっていうのは凄いことなんだよ」
思わず、口をついて出てしまった。マーガレットはじろりと私をひと睨みし、顔
を真っ赤にしてぷいと横を向く。
「私は姉さんと違うんです! 真面目に勉強して、お母様のような立派な天使にな
るのが私の目標ですからっ」
怒らせちゃったかな。困った私は、千明ちゃんに助け舟を出してもらおうと思っ
て彼女を見た。しかし、千明ちゃんは携帯電話から流れるTV中継に目を奪われい
る様子だ。
「どうしたの?」
千明ちゃんのその様子に、マーガレットとウオッカも顔を寄せて携帯電話を覗き
込む。女の子を母親に返したスカーレットもそこに加わる。
204 :
42:2007/05/19(土) 21:43:19 ID:3DIvbxql
『サイレントハピネス社が、新たなテーマパークの建設とその目玉となる企画を近
く発表するとの事です。会見で、サイレントハピネス社の虎畑社長は“まったく新
種の生物を、世界で初めて披露する”とのことで、今後の動向に注目が集まってい
ます。しかし、テーマパーク建設に反対する地元住民との軋轢もまだ解消しておら
ず、一部ではサイレントハピネス社の強引な手口が火種になっているとも関係者の
間で囁かれています』
私達は顔を見合わせた。
「どう思う?」
私はまずウオッカに訊いてみた。
「ありえるね」
ウオッカは、ただそれだけ言った。
「どうする? サイレントハピネスに探りを入れてみる?」
「やるなら、かなり慎重に動いた方がいいと思います。ここの会社、いい噂を聞き
ませんから」
千明ちゃんが言った。
「そう、気をつけた方がいいわね。テーマパークの件もあるし、向こうもそうすぐ
には何も出来ないと思うわ。とにかくもう少し調べてからにしましょう」
私はそう言って、一旦家に戻って対策を練り直すことを提案した。ただ、私はそ
の時のマーガレットのやけに焦ったふうな顔に気付いていなかった――。
…………………………………
205 :
43:2007/05/19(土) 22:44:08 ID:3DIvbxql
サイレントハピネス本社ビル。
社長の虎畑に呼ばれ、黒いスーツに身を包んだ男が社長室に入ってくる。
「失礼します」
ドアを開けた黒スーツの男は、その部屋の異常さに唖然とした。いつもは整然と
高価な焼き物や彫刻が並び、広い室内に外国製の机とソファが置かれているだけの
部屋だ。
だが、その広い社長室がまるで子供が荒らしたように散らかっていた。そこら中
に子供が好みそうなスナック菓子の袋が散乱し、高価な焼き物の上に食べ残したお
菓子が潰されて乗っていた。ソファはところどころ破れて、中の素材が飛び出して
いる。
そのソファに、1人の女の子が身体を横たわらせて眠っている。足や手はソファ
の外に投げ出され、時折ぽりぽりと顔を掻いている。
その女の子を愛おしげに見守って、虎畑は机に座っていた。
「おお、よく来たな熊山」
「社長、差し出がましいようですが、女性の趣味は少し考えられた方がよろしいか
と……」
「うん? わはは、何を勘違いしておるのだ、熊山。まあ、そう取られても仕方あ
るまい。彼女は、今はこの私の最高のパートナーだ」
虎畑は立ち上がり、熊山の元に歩いてくる。熊山は、虎畑の人相が見るからに変
化しているのに気付いた。前から、その強欲さが顔に表れたような人相であったが、
今は何かに取り憑かれたような不気味さがある。
「おまえを、この娘の警護役にする。心して励め。いいか、娘の言うことに口答え
してはいかんぞ。ただただ、黙って警護していればいい」
虎畑の突然の命令に、熊山は驚いた顔を浮かべた。が、すぐに「はい」とだけ返
事し、虎畑に一礼した。
206 :
44:2007/05/19(土) 22:49:26 ID:3DIvbxql
一方、そのサイレントハピネス本社ビルの外。
マーガレットは警備員に見つからぬように腰をかがめて走りぬけ、玄関前の脇の
大きなオブジェに身体を隠した。そして目でビル全体を上から下まで舐めるように
見渡す。天使・マーガレットの能力は“スキャン”と呼ばれるもので、相手が生物
ならその戦闘力や急所まで確認することができ、建造物なら痛んでいるところや欠
陥を見抜くことが出来る。辺りはもう真っ暗であったが、夜でもマーガレットの能
力の精度が落ちることは無い。涼子の家に侵入したときも、この能力で窓の鍵の閉
め忘れを発見した。
(ビルの窓は全て完璧に塞がっている。飛んで侵入するのは無理。30秒後、警備
員が交代する。入れ替わりのときに15秒、玄関横の関係者用通路が開いたままに
なる。ここを行くしかないわね)
マーガレットは慎重にタイミングを計った。
(今だ!)
マーガレットは警備員の消えた玄関を走り抜けて関係者通路に一気に駆け込む。
マーガレットの足は決して速いとは言えなかったが、それでも十分だった。
「よし、上手くいったわ。見てなさい、私ひとりでも出来るところを見せてあげる
んだから」
207 :
45:2007/05/19(土) 22:54:13 ID:3DIvbxql
マーガレットはビルの通路を次々とスキャンし、順調に進んでいった。エレベー
ターは使わず、ビルの数箇所に設置されている階段を使い分けて上っていく。
「楽勝ね。さあ、ベラを匿っているという確証を掴んで私の優秀さを認めさせてあ
げるわよ」
マーガレットは階段を二段飛ばしで駆け上がり、最上階までもう少しというとこ
ろまで来た。
「ふぅ……後は右に曲がってその奥の階段ね」
一息ついたマーガレットが再び走り出そうとしたその時。
「お嬢さん、我が社に何か御用かな?」
虎畑と熊山が、邪悪な目を光らせてそこにいた。
――しまった。油断した。マーガレットは心の中で舌打ちをする。
「熊山、お嬢さんをお連れしろ」
虎畑は熊山に命令を出す。と、同時にマーガレットの正面から黒服の男達が10
人ほど現れ、ゆっくりとマーガレットに近づいていく。
マーガレットは決して攻撃能力に優れた天使ではない。だがそれは天使全般に言
えることでもある。やたらと攻撃性が高いのは、ほとんどが悪魔達だ。
208 :
46:2007/05/19(土) 22:58:54 ID:3DIvbxql
「いけ」
熊山の号令で、黒服の男達がマーガレットに飛び掛ろうとする。
しかし、その時。
黒服の男達が全員驚愕の顔をし、一斉に床に突っ伏し、頭を低くする。何事かと
立ちすくむマーガレットの耳にガシャン、と大きな音が聞こえた。
マーガレットは音のする方に振り向いた。
大人の男1人分の大きさがあろうかと思うほどの、巨大な丸い鉄球がビルの窓を
突き破りゴロゴロと転がってくる。マーガレットも黒服の熊山達も、巻き込まれま
いと壁に身体を寄せ鉄球を避けた。
「あ、ごっめーん。ビックリしたぁ?」
割れた窓の外に、ウオッカが翼を広げて飛んでいた。
209 :
名無しさん@秘密の花園:2007/05/19(土) 23:11:03 ID:Y5VGGOwx
↑
なんか つまらない
頼むからもう書きこまないでくださいませんか?
伏してお願い申し上げます。
210 :
47:2007/05/19(土) 23:13:26 ID:3DIvbxql
「涼子さん、マーガレットがいないんです!」
お風呂から上がった私に、スカーレットがすごい勢いで走ってきてそう言った。
「どこかお買い物でも行ってるんじゃないの?」
「そ、それだといいんですけど……あの子、昔から思い詰めると人の言うこと聞か
ないところがあって……」
それはなんとなく分かるな。確かに頑固な子だ。
「たった1人で、サイレントハピネスを探ろうと動いてるってこと?」
「はい、あの子ならやりかねません……でも、危険な相手だって……」
スカーレットは肩を震わし、泣き出しそうになっていた。いつもマーガレットに
バカにされているスカーレットだが、やはり妹のことは心配で堪らないのだろう。
「落ち着いて。きっと大丈夫。もしかしたら千明ちゃん家にいるかもしれない。連
絡とってみるから」
やさしくスカーレットの髪を撫でて慰めた。
早速、千明ちゃんの家に電話を掛けてみる。2コール程で電話が繋がり、千明ち
ゃんの声が聴こえる。
『もしもし、あ、篠原さんですか! 実は、ウオッカがいないんです、まさか逃げ
たのかも……!』
どういうこと? このタイミングで2人が同時にいなくなるなんて。
「ウオッカのイヤリングには、封魔の力があります。もし逃げ出せば、そのままイ
ヤリングに封印することもできます」
「それじゃあ、やっぱり2人でサイレントハピネスに?」
「それは分かりませんけど……でも、ウオッカは……実は……」
211 :
名無しさん@秘密の花園:2007/05/19(土) 23:17:52 ID:Y5VGGOwx
↑
なんか つまらない
頼むからもう書きこまないでくださいませんか? 伏してお願い申し上げます。
頼むからもう書きこまないでくださいませんか? 伏してお願い申し上げます。
頼むからもう書きこまないでくださいませんか? 伏してお願い申し上げます。
頼むからもう書きこまないでくださいませんか? 伏してお願い申し上げます。
頼むからもう書きこまないでくださいませんか? 伏してお願い申し上げます。
頼むからもう書きこまないでくださいませんか? 伏してお願い申し上げます。
頼むからもう書きこまないでくださいませんか? 伏してお願い申し上げます。
亀井信者を気にせずに頑張って下さい。
213 :
名無しさん@秘密の花園:2007/05/20(日) 01:51:19 ID:Wi1VtwSk
確かに
>>212の言うとおり、亀井静香先生の本の方がよほど
おもしろい
214 :
48:2007/05/20(日) 12:24:27 ID:+SUwjr/E
ウオッカは鉄球で空いた大きな穴からビルに入り、ふわりと床に着地した。
「まったく、見習い天使のくせに面倒かけるんじゃないよ」
ウオッカはそう言ってヒールを鳴らしながらマーガレットの側まで来る。そして
サングラスを外し放り投げ、鋭い猫目で虎畑達を睨む。
「立ちな」
「なんで、あんたが……!」
「悪魔のきまぐれ、ってやつかな。ほら、腰抜かしてるんじゃないよ」
「だ、誰がっ……!」
マーガレットは素早く立ち上がって、ウオッカに負けじと虎畑たちに向かって身
構。ウオッカはそんなマーガレットを見て、ニッ、と笑う。
が、その時、ウオッカの背筋に凄まじい悪寒が走った。ウオッカは猫目を大きく
開き、通路の奥、虎畑達のいるさらに後方を見据える。
――黒髪の女の子が、無邪気な笑顔を湛えてウオッカとマーガレットを見ていた。
「ベラァ……!」
ウオッカは、これまでマーガレットの前では見せたことのないような恐ろしい表
情を見せた。マーガレットはベラのその顔つきに恐怖し、小さくヒィ、と声を漏ら
し、唾を飲み込む。
「あー、ウオッカだぁ、なーに、どうしたの?」
ベラはクスクスと笑っている。
「アンタに用があるんだよ。アンタは、大人しく天上界に帰るんだ。でないと……」
ウオッカは着ていたワンピースのスカートを捲り上げ、太ももに巻きつけたホルダ
ーに備えていたナイフの束を掴み構えた。
「ここで死んでもらうことになるかもね」
215 :
49:2007/05/20(日) 12:29:18 ID:+SUwjr/E
「お嬢さん方、それは出来ないな。彼女は大切なビジネスパートナーだ。おい、熊
山」
虎畑が熊山に指図する。
「殺すな、生け捕りにするんだ。どうやら、このお嬢さん方も使えそうだからな」
静かに熊山が頷く。熊山が手を横に広げると黒服の男達が通路の前後を逃げ道が
無くなるように塞いだ。
「捕まえろ!」
熊山が号令を出した。黒服達がウオッカとマーガレットに襲い掛かる。
しかし、ウオッカは慌てることもなくナイフを前方にいた黒服達の足元に投げつ
けた。ストン、ストンと鮮やかな音を立て襲ってきた黒服達の太ももにナイフが突
き刺さる。ナイフを刺された黒服達はもんどりうって倒れた。
ウオッカは踵を返し、再びスカートを捲り上げ足に巻きつけていた細長いチェー
ンの束を取り出し、カウボーイのように振り回した。するとそのチェーンが見る見
る変化し、分銅のついた鎖鎌のような武器に変わった。
「ハァッ!」
ガン、ゴン、ガンッ!
分銅は次々と黒服達を捕らえ、壁まで弾き飛ばした。だが、勢い余って分銅が壁
の出っ張りに引っ掛かる。その隙を見て、黒服の男が1人立ち上がりウオッカに襲
い掛かった。
ウオッカは素早く髪に挿していたヘアピンを抜き取り、細いアイスピックのよう
な武器に変化させ男の足に投げつける。男は叫び声を上げながらその場に倒れこんだ。
216 :
50:2007/05/20(日) 12:34:12 ID:+SUwjr/E
「凄い……」
ウオッカの鮮やかな戦いぶりに、マーガレットは驚嘆していた。
「封魔のイヤリングのせいで、完全に力が出せないんよね。こういう原始的な武器
しか作れないんだよ」
ウオッカは事も無げに言った。
「で、でも殺すのは大罪よ……!」
「大丈夫だよ、1人も殺ってない。急所は外してるつもりだから」
そう言ってウオッカは振り返る。
そして虎畑、熊山、ベラを指差した。
「さぁて、そろそろ本気出したらどう?」
ウオッカの挑発に、熊山がスーツの上着を脱ぎ指を鳴らしながらウオッカに近づ
いていく。大柄な熊山の体が、一層大きく見えた。
「私、見下ろされるのってキライなんだよね」
ウオッカは右の拳で熊山に殴りかかる。しかし、熊山はあっさりとウオッカの腕
を掴んで止めた。ウオッカは今度は左手で髪からヘアピンを抜き再びアイスピック
型の武器に変え、熊山の体に振り下ろす。だがそれも熊山に受け止められ、ウオッ
カは両腕を塞がれてしまった。
217 :
51:2007/05/20(日) 12:42:40 ID:+SUwjr/E
「ふぅん!」
熊山がウオッカの両手を掴んだまま、壁に向かって投げつけた。
「ガハッ!」
壁に打ち付けられたウオッカは、そのままもたれかかるようにズルリと崩れ落ち
て倒れた。
マーガレットがすがるようにウオッカのもとに駆け寄る。
「ちょっと、大丈夫!?」
「……フン、やるじゃないか」
ウオッカはコキコキと首を鳴らし立ち上がった。ぺっ、と吐き出した唾には赤い
血が混じっている。
「まだやるの!? 勝てっこないよ! あの男の力は、今のあんたよりずっと強い!」
マーガレットは熊山の筋力や体重をスキャンし、今のウオッカでは勝てないと判
断していた。
「やってみなくちゃ分かんないだろ。
……アンタさ、もっとしっかりしなよ」
「えっ?」
「甘ったれるな、って言ってるんだよ」
218 :
52:2007/05/20(日) 12:45:51 ID:+SUwjr/E
「な、なにを……」
「アンタ、なんで地上界に来た時に、真っ先にリョウコの所に行ったんだ?」
「それは……」
「アンタの母親の、地上界での憑依体がリョウコだって知ってたからだろ? いざ
となったらママに助けてもらう気だったのかい」
「……」
「フン、まだアンタの出来の悪い姉さんの方がマシだね。アイツは、記憶の種を使
うことを最後まで迷ってた。自分の力だけで何とかしようとしてね」
「でも私は……1人でここに来て……」
「人の言うことも聞かないで、勝手に先走ってこのザマ。それが勇気で、天使らし
い行いかい? 笑わせるんじゃないって。だから甘ちゃんなんだよ」
ドンッ。
ウオッカはマーガレットを突き放した。
「さっさと姉さんのところにでも帰りなっ」
ウオッカはそう言って、熊山に再び立ち向かっていった。
「何よ……なんで、なんであんたみたいな悪魔にまでそんなこと……なんでみんな
姉さんばっかり褒めるのよ……私のほうが、ずっとずっと優秀なのにっ!!」
マーガレットは掛けていた眼鏡を外し、床に叩き付けた。
顔はぐしゃぐしゃで、大粒の涙を流していた。
219 :
53:2007/05/20(日) 12:48:44 ID:+SUwjr/E
「ウオッカが元は天使ですって!?」
スカーレットはコクンと頷いた。
「ほんとなの、それ?」
急ぎ我が家に到着した千明ちゃんも、そのことは初耳だったようで驚いていた。
「はい、悪魔にも色々な悪魔がいて、ベラのような生粋の悪魔もいればウオッカの
ような元は天使だった堕天使もいるんです」
元は天使の、堕天使。そうか、悪魔は光に弱いと言っていたウオッカが昼間でも
活動できていたのはその為だったから。
「恐らくウオッカはマーガレットのことが気になって、自分もサイレントハピネス
社に向かったんだと思います」
スカーレットは言った。
「どうしてマーガレットを?」
「実は、マーガレットって昔のウオッカによく似てるんです。私は天使学校でウオ
ッカと同級生でした。いつも真面目で頭も良くて、落ちこぼれだった私とは全然違
ってました」
「あのウオッカが……」
千明ちゃんは、信じられない、といった顔をした。
「ただ、その気真面目な性格からか思い悩むこともよくありました。そのうちクラ
スのみんなとも打ち解けなくなっていって……そんな時、ウオッカにある悪魔が囁
いたんです、『苦しいなら、私のところにおいで』って。それが、ベラです」
220 :
54:2007/05/20(日) 12:52:27 ID:+SUwjr/E
「ベラ……!」
「お母様は、ベラのことをよく知っているウオッカがいればベラを捕まえやすいと
考えたんでしょう。だからウオッカの封印を解いて……。
ウオッカはマーガレットに昔の自分を見てるんだと思います。マーガレットはま
だ小さかったし、悪魔のウオッカしか知りません。私、お母様からよく言われてい
ました。『あなたのその優しさを、マーガレットに教えてあげて欲しい』って」
スカーレットは、まるで花を愛しむような表情で語る。
「お母様は『マーガレットは優秀だけど、天使に最も必要な優しさに欠けている。
だから、スカーレットがしっかり支えてあげて欲しい』ってよく仰ってました。私、
マーガレットがとても大事です。あの子には、立派な天使になってほしいんです」
221 :
55:2007/05/20(日) 13:02:53 ID:+SUwjr/E
「どうしたの? ないてるの?」
いつの間にか、ベラがマーガレットの後ろに忍び寄っていた。マーガレットの髪
を手ですくい上げ、指で弄ぶ。
「ひぃ……!」
マーガレットは声を上げかけるが、恐怖で言葉にならず、怯える仔猫のようにガ
タガタと震えて、ベラのされるがままになっている。
「つらいの? くるしいの? ……それじゃあ、ベラといっしょにくる?」
ベラはマーガレットを後ろから抱き、頬に軽くキスをした。
すると、マーガレットの身体が足元から黒いシミで染まり始めた。その黒いシミ
が少しずつ這い上がっていき、上半身までマーガレットを汚していく。
熊山と戦いながらその様子を窺っていたウオッカがチッ、と舌打ちをし戦いから一
旦離脱する。
「バカッ! アンタまで悪魔に堕ちてどうするっ!!」
ウオッカはベラに飛び掛った。
222 :
56:2007/05/20(日) 13:05:46 ID:+SUwjr/E
――あのときと同じだ、私が堕ちていったときと。
ウオッカは、自らが悪魔に堕ちていったときのことを思い出していた。苦しく、
真っ暗で寂しいあの世界。その寂しさから逃れようと、心に刃を持った。やがて、
他者を傷つけることが快感に変わっていき、自分は心に痛みを感じなくなってい
った。
223 :
57:2007/05/20(日) 13:11:42 ID:+SUwjr/E
「ばーか」
ベラは、背中から大きく色鮮やかな羽を出現させ、マーガレットを抱いたまま羽
ばたき後方に飛び、ウオッカをかわした。
「クソ、ちょこまかと!」
ウオッカは猫目をギロリとさせベラを見据える。そして、再び飛び掛ろうとした
が、身体が上手く動かない。
「……なんだ?」
ウオッカは自分の手がわずかに痺れているのに気付く。
「キャハハハ、りんぷんこうげきだよー」
ベラはウオッカをかわしたとき、羽から痺れ効果のある鱗粉を撒き散らしていた。
それをまともに受けてしまったウオッカはまともに身体を動かせなくなっていた
のだ。
「ばいばい」
ベラがそう言って、羽で凄まじい強風を起こす。
ブワッ。
ウオッカは自分が入って来たビルの、鉄球で空けた穴から窓の外に放り出され、
遠くのビル街の雑踏の中に落下していった――。
224 :
58:2007/05/20(日) 19:02:45 ID:111Qdr2Y
「もうすぐだね、間に合えばいいけど……!」
私とスカーレット、そして千明ちゃんはサイレントハピネス本社のビルに向かっ
ていた。車を走らせて繁華街を一気に駆け抜ける。
「マーガレット、無事でいてね……」
「ウオッカ……」
スカーレットと千明ちゃんも、それぞれ複雑な思いを巡らしているようだった。
私はマーガレットに冷たく当たってしまったことを後悔していた。あの子はあの
子なりに精一杯だったんだろう。聞けば、まだ天使学校を卒業したばかりの見習い
天使だという。早く一人前になりたくて頑張りすぎたのかもしれない。
そう考えて車を走らせていたが、何やら街のある一角が騒がしい。ここはもうサ
イレントハピネス本社に近い。もしやと思い減速して窓を開けて通行人の話を盗み
聞きしてみた。
「女が倒れてるって」「どこかの酔ったキャバ嬢じゃねーの?」「スッゲー美人ら
しいぜ」
私はアクセルを踏み、ハンドルを大きく切って騒ぎの中心部に向かった。
225 :
59:2007/05/20(日) 19:08:57 ID:111Qdr2Y
ベラに吹き飛ばされたウオッカは、騒がしい繁華街のメインストリートの、露天
商の屋台に落下していた。細かい細工をされた不気味な指輪や手作りのネックレス
が並べて売られていたが、それらはウオッカが落下した衝撃で散り散りになって転
がってしまっていた。
商品を売っていた、白人の貧乏そうな露天商の男は驚いて腰を抜かしたまま立ち
上がれない。なにせ、謎の美女が空から降ってきたのだから。
野次馬が何人か集まってきて、大丈夫? と声を掛ける人もいれば、散らばった
商品を拾って勝手に持っていってしまう者もいる。
その中の1人の野次馬が、恐る恐るウオッカに近づき「怪我は?」と声を掛けた。
ウオッカは目を閉じて動かないままだ。
今度は1組のカップルが近づいてきて、ウオッカの顔を覗き込む。
「これ……えーと、誰だっけ……どっかで見たことあるような……」
「まさか、そんなゆーめーじんがこんなとこいるわけないじゃん」
次々と野次馬が集まってきて、ウオッカの顔を覗き込む。
と、眠っていたウオッカがその大きな目を開いて周りをジロリと見渡し身体を起
こした。野次馬達は一斉にウオッカから離れる。
「クソ、よくもやってくれたね」
ウオッカは首を鳴らしながら立ち上がり、そう言った。そして着ていた黒いワン
ピースの汚れを払う。
226 :
60:2007/05/20(日) 19:14:03 ID:111Qdr2Y
そこに、一台の白い車が騒がしくクラクションを鳴らし走ってきた。野次馬達は
何事かとその車から逃げる。
車のウインドウがゆっくり開き、中から顔を出した涼子が「乗れ」とウオッカに
手招きした。
ウオッカはぽかんと見守る野次馬達を尻目に、何事もなかったのように車に乗
り込もうと歩き出した。
が、ふと立ち止まると、散らばっていたいくつかの指輪を拾い上げ「迷惑かけた
ね。これ、買うわ」と、露天商の白人に言った。ウオッカは指輪を持っていないも
う片方の手でアクセサリーを拾い上げ、露天商に放り投げた。それを受け取った手
には、アクセサリーではなく、純金と思われる硬い金属の延べ棒が乗っていた。
「釣りはいらないから」
そう言って、ウオッカは車に乗り込み、車はそのまま走り去っていった。
「なんだったんだ今の?」「手品か?」
野次馬はざわざわと騒いでいる。露天商は手で十字を切り、走り去る車に祈って
いた。
227 :
61:2007/05/20(日) 19:19:49 ID:111Qdr2Y
私は再びサイレントハピネス社に車を向かわせようとしたが、ウオッカがそれを
止めた。
「奴らはきっともういないよ。それと、アンタの妹、ベラに捕まっちゃったから」
ウオッカはスカーレットに言った。
「なんですって! マーガレットが……!」
「でも、ベラの目的は分かったよ。何の収穫も無いほど私もバカじゃないんでね」
ウオッカは着ているワンピースのスカートの下から手を突っ込み、ごそごそとお
腹の辺りを探って一枚のファイルを取り出した。
「どこに入れてんのよ……」
千明ちゃんが呆れて言った。
「まあこれ見てよ。一応、サイレントハピネスのビルの中を先に探っておいたんだ。
そしたらこれよ。テーマパークが期限までに開園できそうにないからって、先に企
画だけをマスコミに公開しようっていう計画書さ。ベラを使った、金儲けの計画。
場所は書かれてないけど、サプライズ発表の期日は明日。どこか大きな会場を貸し
切って盛大にやるってさ」
228 :
62:2007/05/20(日) 19:27:13 ID:111Qdr2Y
「でも、ベラはなぜそんなことを?」
私はバックミラーの中に映るウオッカに訊く。
「ベラは鱗粉を出していた。アレは、生まれ変わりが近いときに起こす蝶科の悪魔
の特徴だ。すっかり忘れててまともに喰らっちゃったよ」
「生まれ変わり? それって……」
「脱皮して、成長するんだよ。繭を作ってサナギになるんだ」
「なんかモスラみたい……」
私は幼いころに観た怪獣映画を思い出していた。
「そして、成長には多くの栄養が必要だ」
ウオッカのその言葉に、私とスカーレットと千明ちゃんは息を呑んだ。
「広い会場に人を多く集める。世紀の昆虫、繭から孵り成虫へ。実況生中継とか言
ってさ。ところが、生まれ変わったばかりの悪魔は腹を空かしてるんだ。するとど
うなる。
……街中で逃げる人間を捕まえるよりは、手っ取り早い」
私は心の底から湧き上がる嫌悪感を感じずにはいられなかった。
「でも、もっとヤバイのはアンタの妹だね、スカーレット」
「えっ、マーガレットがっ!?」
「そう、このままベラに魅せられたままだと、あの子は自分から喜んでベラに身体
を差し出すだろうね。天使のエキスなんて最高のごちそうだろうから」
「や、止めてよ! 縁起でもないこと言わないでよっ!!」
「だったら一刻も早く奴らがいる場所を掴まないとね。ほら、考えるんだよ」
229 :
63:2007/05/20(日) 19:32:59 ID:111Qdr2Y
大きな会場、人を集められる……。
東京ドーム、武道館、神宮球場、味の素スタジアム。東京にある様々な施設を1
つづつ思い出してみる。しかし、絞りきれない。かといって、いちいち全部まわっ
ている時間はない。マーガレットがさらわれているのだ。
「どこだ、どこだ……」
前回の東京タワーのときも同じように迷っていた。あの時はなぞなぞを解いたか
ら場所が割れたものの、今回はそうはいかない。ふと、そのことを思い出して後部
座席に座っている千明ちゃんをバックミラーで見る。
千明ちゃんは、その神秘的な大きな瞳で窓の外の一点を見つめていた。
「篠原さん、車を止めてください!」
千明ちゃんが突然大きな声で言った。車が完全に停止する前に千明ちゃんはドア
を開け飛び降りて、変わらず一点をジッと見つめている。
「なに? どうしたの千明ちゃん」
私とスカーレットとウオッカも車から降り、千明ちゃんの見つめる方向に目を向
ける。
230 :
64:2007/05/20(日) 19:38:30 ID:111Qdr2Y
その先には、ビルと一体化した大型ビジョンがあった。
そこには激しい闘いを繰り広げる格闘技の映像が映し出されている。私はどうに
もこういう血なまぐさいものが苦手なので思わず目を背けた。
「これ、この試合、前にも見たことあるんです。でも、今日は試合の日だから生中
継のはず……なんでさっきから過去の試合ばかり……」
千明ちゃんは言った。でも、それがどうしたんだろうか。
「なんだよー、やっぱり昔の試合の再放送かよー」「なんか場所のことで揉めて直
前で中止になったしいぜ」「マジかよ、どこだよ」「あのサイレントハピネス興行
だってさ」「うわ、ほんと最悪だなその会社」
大型ビジョンの放送を見ていた若い男の子達の声が聴こえた。私達は顔を見合わ
せてうなずく。
「千明ちゃん、その会場は!?」
「さいたまスーパーアリーナです!」
231 :
65:2007/05/20(日) 19:45:00 ID:111Qdr2Y
広い広いメインアリーナの中央、今は誰もいない観客席をぐるりと見渡し、虎畑
はいやらしい笑みを浮かべ、顎を手で摩った。
虎畑以外には、熊山、ベラ、そして眠らされたマーガレットしかいない。
「明日は、この会場がいっぱいになるのだな。そして日本中、いやぁ、世界中が私
の名を知ることになる。熊山、マスコミにはもう告知したんだろうな」
「はい、社長」
虎畑は心を躍らせていた。きっと株価は跳ね上がり、テーマパーク建設に反対し
ている馬鹿な小市民共も黙らざるを得なくなる。そう考えていた。
「キャハハ、にんげんっておもしろーい」
ベラは虎畑を指差してケラケラと笑った。
「おお、ベラ。そうかそうか面白いか、わはははは。では、早速頼むよ」
「うん」
ベラはマーガレットを抱きかかえて飛び、アリーナの中央に降り立つ。
そして、目を瞑り、ふぅ、と息を吐いた。
すると、ベラとマーガレットを包み込むように、白い糸が2人の周囲をぐるぐる
と取り囲み始めた。
熊山はその幻想的な光景に見とれながらも、自分が何か後戻りできない領域に踏
み込んでいるように思えて恐怖し、その大きな体を震わせた。対照的に虎畑はさも
愉快そうにその“儀式”をうっとりとして見守っている。
――自分は歴史の証人だ。
そう信じて疑っていなかった。
232 :
66:2007/05/20(日) 19:47:38 ID:111Qdr2Y
糸が少しずつ嵩を増し、ベラとマーガレットを見えなくしていく。マーガレット
は今だ眠ったままだった。
「待ちなさい!!」
――静かだったアリーナに、1人の女の声が響く。
「これ以上はさせないわよ! あんた達全員ブッ飛ばして、マーガレットを返して
もらうんだから!!」
通路からアリーナに至るエントランスの入り口に涼子が立っていて、虎畑達に啖
呵を切った。
233 :
67:2007/05/20(日) 20:02:41 ID:111Qdr2Y
「おいおい、お嬢さん1人じゃあなぁ」
虎畑は余裕たっぷりに言う。
「ありがと、まだお嬢さんって呼んでもらえるんだ、おっさん」
涼子も譲らない。
「熊山、お引取り願え」
虎畑が熊山に命令した。
熊山は指を鳴らしながらゆっくりと涼子に近づいてくる。熊山は、元はプロレス
ラーだったが、あまりに力が強すぎて練習中に先輩レスラーを殺してしまい追放さ
れた。そしてクラブで用心棒をしていたところを、虎畑が拾ったのだ。
熊山が近づいてきても、涼子はまったく引かない。それどころか笑みすら浮かべ
て熊山を挑発している。
何かがおかしい、そう思い、熊山は立ち止まった。
とその時、熊山の耳に何かが風を切るような音が聴こえてきた。
――上からだ。
熊山は顔を上げた。
千明が、刀のような細長い金属の棒を振り下ろしながら落ちてきていた。
バチンッ!
熊山は咄嗟に、木の根のように太い腕を差し出して千明の攻撃を防いだ。
攻撃を防がれた千明は素早く熊山の懐から離脱し、再びその棒を構える。
「アーッ、チアキ惜しい!」
アリーナの空中に、ウオッカが翼を広げて飛んでいた。ウオッカが千明を持ち上
げて運び、空から奇襲したのだ。
「味なマネを……」
熊山は腕を擦りながら千明を睨みつけた。
234 :
68:2007/05/20(日) 20:04:26 ID:111Qdr2Y
「なーに? じゃましないで」
繭はすでに半分近く出来上がり、その中からベラの声がした。
その声を聞いたウオッカは翼を畳み地面に降り立ち、ナイフを取り出して繭に投
げつけた。しかし、一匹の大きな漆黒の蝶が繭の前に現れる。繭の身代わりになり
ナイフを受けた蝶は、その場にボトリと落ちてやがて動かなくなった。
「ボウヤたち、やっちゃいなさい」
ベラの声が響いた。繭の周りに人の顔ほどの大きさの蝶が多数出現した。その蝶
達は尾に鋭い針が備えられている。
蝶は、真っ直ぐにウオッカに向かって飛んできた。
「チッ、うるさい虫だね!」
ウオッカはナイフを逆手に持ち、飛んでくる蝶達を片っ端から切り裂いていった。
「きゃあ!」
その内の一匹の蝶が、ウオッカから涼子に目標を変えた。
真っ直ぐに尾を向けて涼子に迫ってくる。
ビュン!
その刹那、蝶を斜め上から飛んできた一本の矢が貫いた。そして続々と飛んでく
る矢は的確に他の蝶も貫いていく。
235 :
69:2007/05/20(日) 20:07:00 ID:111Qdr2Y
アリーナの観客席、そこからスカーレットが弓で矢を放っていた。
「凄い、やるじゃんスカーレット!」
涼子は驚いて、スカーレットにそう言った。
「えへへ、キューピッドの家に遊びに行ったとき習ったんです!」
スカーレットは得意気だ。
「キューピッドって、あの恋の天使の?」
「はい! 『どんなダメなやつでも1つぐらい特技ってあるんだね』って言って褒
めてくれました!」
「そ、それって褒めてるかなぁ……?」
236 :
70:2007/05/20(日) 20:12:12 ID:111Qdr2Y
熊山と対峙している千明は、さいたまスーパーアリーナに向かう車内でウオッカ
に言われたことを思い出していた。ウオッカは、3人にそれぞれ武器を渡していた。
千明が受け取ったのはこの刀型の金属棒だ。
『いいかチアキ、体力や腕力は必要ないんだ。イメージするんだよ、自分がどう動
きたいか。そうすれば後は勝手にこいつが動いてくれる』
千明は目を瞑り静かに深呼吸をする。熊山の鋼のような体は、無駄打ちしても効
果は薄い。その隙を付かれて熊山に捕まったらそれで終わりだ。なら、一撃で決め
るしかない。
237 :
71:2007/05/20(日) 20:17:45 ID:111Qdr2Y
千明は目を開けた。
そして、一気に熊山との距離を詰める。
右か、左か、それとも上、下か。
熊山は大きく手を広げて千明を迎え撃つ。どこから来るか、ジッと千明の動きを
窺う。
千明はジャンプした。
――上か。
熊山は足を引き衝撃に耐えるガード姿勢を取った。しかし、千明のジャンプは高
くなく低い。
――正面。
真っ直ぐに、千明は熊山に飛び蹴りを放った。千明の足が目の前にまで迫り、咄
嗟に熊山は腕で顔を防ぐ。
グニッ。千明の足が熊山の腕に当たる。しかし、その衝撃は弱い。
しまった!
熊山がそう思ったときにはすでに遅かった。千明は熊山の腕を踏み空中で後方に
一回転し、熊山の足元に着地した。
そして、熊山のがら空きの胴の右腹を金属棒で打った。千明の打撃は正確に肝臓
を捉え、熊山は腹を押さえて気絶した。
238 :
72:2007/05/20(日) 20:20:37 ID:111Qdr2Y
頼りの熊山が倒され、虎畑は後ずさりしてベラの繭に擦り寄った。
「お、おい! どうするんだ!」
虎畑は繭を掴んで揺らす。
「うるさぁい、いまとってもきもちいいんだからじゃましないで」
ベラがそう言うと、繭を揺らしていた虎畑の手が黒いシミで染まり始めた。
少しづつ少しづつ、虎畑の身体にそのシミが拡がっていく。まるで恐怖が迫って
くるように。
「ひぃぇぇぇぇ!!」
虎畑は狂ったように転げ周り、メインアリーナの外へ逃げ出していった。
「あ、待ちなさい!」
涼子は追いかけようとするが、それをウオッカが止める。
「ほっときなあんなザコ。それよりも……」
ベラの繭はどんどん膨れていた。中にはマーガレットが――そう、マーガレット
が“餌”にされそうになっていた。しかし、先程の虎畑の様子を見てしまうと、簡
単には近づけない。
……助けて。
繭の中から、微かだが声がする。間違いない、それは助けを求めるマーガレット
の声だ。
「マーガレット!!!」
スカーレットは翼を広げてメインアリーナに降り、迷わず繭に駆け寄って繭を掴んだ。
「待ってなさい、今、お姉ちゃんが助けてあげるから!!」
スカーレットは自分の身体に黒いシミが広がるのを気にもとめず、繭を掻き分け
てマーガレットを探す。
239 :
72:2007/05/20(日) 20:24:38 ID:111Qdr2Y
【――ここはどこ? なんだか、すごく気持ちいい。
ベラ? そこにいるのはベラなの? じゃあ、私は悪魔になってしまったの?
嫌だ。私がいけない子だからなの? いつもいつも姉さんや他の人に冷たくして
た罰なの?】
『うわ〜ん、おねーちゃーん』『どうしたのマーガレット、またいじわるされたの?』
『うん……』『よしよし、こんどいじわるされたらお姉ちゃんがちゃんと守ってあ
げるから』『うん、ありがとおねぇちゃん』『マーガレットは大切な妹だから、絶
対絶対助けてあげるからね』
これって、昔の記憶? そうか、姉さん、ずっと私を見てくれてたんだ。ごめん、
私、いい子のふりして姉さんをいつもいつも馬鹿にして……。
私、全然気付かなかった。
……お願い……助けて……おねぇちゃん、たすけてっ!!!!
240 :
74:2007/05/20(日) 20:26:02 ID:111Qdr2Y
「マーガレット!!」
スカーレットは腕を伸ばし、繭の奥に眠っていたマーガレットの腕を掴んだ。
「起きるのよマーガレット!」
スカーレットは絶叫し、マーガレットを繭から引きずり出した。
「スカーレット! マーガレット!」
涼子たちも駆け寄り、2人を繭から少しでも遠くへ引き離す。
マーガレットは身体中に糸が巻きつき、意識はなく目は閉じたままだった。
「マーガレット!! いやぁぁぁぁぁ!!!」
スカーレットは眠ったままのマーガレットを抱き、泣き叫んだ。
241 :
75:2007/05/20(日) 20:33:03 ID:111Qdr2Y
「かえして……」
ベラが、繭の中から姿を現した。その表情は怒りと苛立ちに満ちている様に見える。
ベラはふわりと飛び上がり、ゆっくりと羽を動かし空中に浮いた。
「バカ、さっさと逃げるんだよ!」
ウオッカが叫ぶ。
ベラはマーガレットを抱くスカーレットに襲い掛かった。
スカーレットは目を瞑り、マーガレットを庇うようにしてベラに背を向けた。
――ベラが迫ってくる。
スカーレットの背で、ドン、と重い音がした。
スカーレットが振り向くと、そこにはウオッカが立っていてベラを受け止めていた。
「グッ……」
ウオッカは大きなダメージは負っていなかったものの、ベラに肩をつかまれ流血し
ていた。
ベラはさらに怒り、ウオッカを揺さぶって投げ捨てようとする。
「ウオッカ、なんでじゃまをする、あくまのくせに。もうじゃま。おまえ、しねっ」
ベラはウオッカを掴んだ手にさらに力を込める。
「……アンタがくたばれ!」
ウオッカは右手の指全てに嵌めていた露天商で買った指輪を変化させ、鋭いハンド
ナイフを作り上げた。そしてそれをベラの羽に突き立て一気に切り裂いた。
242 :
76:2007/05/20(日) 20:41:04 ID:111Qdr2Y
「アァァァァァァァァァ!!」
ベラはウオッカを投げ捨てて空中に飛び跳ねるように逃げた。しかしウオッカの刃
を受けたせいで安定性は無くアリーナの壁に次々と激突する。
「ウオッカ!」
倒れたウオッカの側に千明が駆け寄った。
「フン、一発、喰らわせてやったよ。ザマーミロ」
強気な口ぶりとは逆に、ウオッカは苦しそうだ。
「チアキ、アンタのそれ、こっちに」
ウオッカは千明の持っていた金属棒を自分に見せるように言った。千明は訳も分か
らずそれを差し出す。ウオッカは、指で金属棒の表面をなぞった。すると、刀身がみ
るみるうちに鋭い日本刀に変わった。
「これで、ベラを切るんだ」
「で、出来ないっ、そんなこと……ベラの身体はあおいちゃんなんだよ! それに…
…」
千明は前回の事件のことを思い出していた。日本刀を振り回し、涼子やスカーレッ
トを殺すところだったこと。その時の罪悪感と恐怖が蘇っていた。
「さっきも言ったでしょ、イメージするんだ。悪魔の武器は、何も物理的に相手を倒
すだけじゃない。精神を切り裂くことが出来る。アンタが集中すれば、ベラと憑依体
を切り離すことだって出来るんだ」
「でも……」
「逃げてちゃ、アンタずっそのまんまだよ。大丈夫、チアキなら出来る。なんて言っ
てもこの私が見込んだ女なんだからね。それに……」
「それに……?」
「私を、ベラの呪縛から救って。私の運命を断ち切って」
ウオッカはそう言って笑った。
千明はうんと頷き、決意して立ち上がった。
243 :
77:2007/05/20(日) 20:45:22 ID:111Qdr2Y
涼子はウオッカから授けられたパチンコをパンツのポケットから取り出し、空中に
いるベラに向けた。
「あーもう、ウオッカのアホ! なんで私だけこんなしょぼい武器なのよ!」
文句を言いながらも、狙いを定めてゴムを引き、パチンコを放つ。
ダンッ!
まるでピストルの弾が当たったような固い音がし、パチンコ玉はベラの羽に直撃し
バランスを失わせた。
「す、すごいじゃん意外と……」
涼子は次々と弾を込め、ベラに放つ。
ダンッ、ズドンッ。
鈍い音と共に次々とベラの羽にヒットし、ベラの飛ぶ高度が下がってくる。
「おまえ、うっとうしい!」
ベラが急降下して涼子に迫ってくる。
しまった、後のことまでは考えてなかった。涼子は背中を向けて、猛ダッシュでベ
ラから逃げる。
しかしその時、低空まで降りてきたベラの背中にズシンと重みが架かった。
――千明だ。
千明は握っていた日本刀を逆手に持ち替え、「はっ!」と言う掛け声と共にベラを
串刺しにした。
244 :
78:2007/05/20(日) 20:54:03 ID:111Qdr2Y
「キィヤァァァァァァァ!!」
ベラはおよそこの世のものとは思えない、凄まじい高音の叫び声を上げてもがき苦
しみ始めた。千明は振り落とされ地面に叩きつけられる。しかし、日本刀を支えにし
てすぐさま立ち上がり、ベラの様子を見守った。
「ゥゥゥゥゥッゥッゥ……!」
ベラの、いやあおいの背中から、得体の知れない黒くおぞましいモノが浮かび上が
ってくるのが涼子と千明には見えた。やがてそれはアリーナの天井まで伸び、あおい
の身体から完全に剥離した。
「あれが、ベラの本体……」
地上界での実体を持たない悪魔は、もやもやとした黒い煙の塊にしか見えなかった。
やがてその煙は天井をぐるぐると回り始めると、そのままアリーナの観客席を転げま
わるように猛スピードで動き回る。
と、再び空中で一回転した煙は、アリーナの出口に向かって猛スピードで飛んでいく。
「外に逃げる!」
間に合わない。涼子がそう思った時。
ビュンッ!!
一本の矢が、煙の先端部を捉えそのまま煙ごとアリーナの壁に突き刺さった。矢は
容赦なく次々と打ち込まれ、煙は完全に壁に磔にされてしまった。
涼子が矢が飛んできた方向に振り向く。そこには弓を構えて立つスカーレットがいた。
245 :
79:2007/05/20(日) 20:55:36 ID:111Qdr2Y
虎畑は転げまわりながら駐車場に向かっていた。車のトランクを開け、現金の入っ
たアタッシュケースを取り出した。明日、マスコミ発表の後に、ビジネスを持ちかけ
てくる企業との交渉用の見せ金として用意していた金だ。
虎畑は車の運転が出来ない。いつも運転していた熊山はもういない。
虎畑は体を汚染する黒いシミを指で掻き毟りながら真っ暗な夜道を走って逃げた。
どこに行けばいいかも分からない。ただ、黒いシミと共に湧き上がってくる恐怖心か
ら逃げようと遠く遠くへ走った。
ふと、人通りの少なくなった道路に一台の黒塗りのワゴン車が走ってくる。その車
はヘッドライトを虎畑に向けながら近づいてきた。
「うわぁぁ!!」
グシャリ、と鈍い音を立て、虎畑は5mほど吹き飛び動かなくなった。
車は減速することもなく、そのまま夜の闇に消えていった。
246 :
80:2007/05/20(日) 21:10:31 ID:111Qdr2Y
スカーレットは磔になったベラに手のひらを向け、前に東京タワーで見た、薄い
膜の防御魔法を放った。
一瞬で、ベラはその膜に包まれる。
スカーレットがパチン、と手のひらを合わせると、ベラを包んでいた膜は収縮し、
丸い小さな石のような塊に変わった。そしてその塊は落下し、スカーレットの手の
ひらに収まった。
「あそこまで弱らせて動けなくさせれば、封印するのは簡単です」
スカーレットは言った。ベラを封印したためか、身体の黒いシミは消えていた。
「マーガレットは!?」
私は、スカーレットにマーガレットの容態を訊く。
スカーレットは顔をくしゃくしゃにし、これ以上はないほどの悲しい顔をした。
さっき、ベラを矢で磔にした精悍な戦士の顔つきとは180度違っていた。
私は横たわって動かないマーガレットに駆け寄った。
「マーガレットは……それに、優ちゃんはどうなったの!?」
「……息はあります。でも、天使がここまでエネルギーを吸われてしまうと……」
スカーレットはマーガレットの側に来て屈み、マーガレットの顔を見つめてポロポ
ロと涙を流す。
手傷を負ったウオッカ、そしてベラの憑依から解放されたあおいちゃんを千明ちゃ
んがおんぶし、足を引きずって歩み寄ってくる。
「あおいちゃんも全然起きません……」
千明ちゃんが沈んだ声で言った。千明ちゃんはあおいちゃんを降ろし、マーガレッ
トの横に寝かせる。
2人とも息はある。でも、私達の呼ぶ声にはまるで反応しなかった。
247 :
81:2007/05/20(日) 21:14:45 ID:111Qdr2Y
「まったく、しょうがないな」
ウオッカはそう言うと、ちらりとスカーレットを見た。
「アンタ、どうしても妹助けたい?」
スカーレットにそう訊いた。
「当たり前じゃない!」
スカーレットは泣きながら応える。
「じゃあ、力貸しな。そうそう、リョウコ、チアキ」
「な、なに?」
「なによ?」
「ここでお別れだ。後は、この寝てる2人の人間を頼む」
ウオッカは言った。ここでお別れだって?
「なんか、随分急じゃない」
「ハハハ、まあね。スカーレット、今回は、人間達の記憶はどうするんだい? 消し
ちゃうのかい?」
ウオッカはスカーレットに訊ねた。
スカーレットは私達の顔を順に見回す。いつもの迷ったときのように、眉を寄せて。
「私は、どっちでもいいかな」
「あたしもどっちでもいいです」
私と千明ちゃんは言った。千明ちゃんは不思議とスッキリとした顔をしている。
「ミサキもどっちでもいいって言ってるよ」
ウオッカは目を瞑ってそう言う。心の中で、美咲ちゃんと会話しているのだろうか。
「今、エビちゃんさんにも確認してみました。どっちでも構わないって」
スカーレットも目を瞑ったままそう言った。
248 :
82:2007/05/20(日) 21:16:17 ID:111Qdr2Y
「そうか、じゃあ好きにするよ。いいよね? チアキ」
ウオッカは千明ちゃんにウインクした。千明ちゃんはコクリと頷く。千明ちゃんは
千明ちゃんなりに、自分に決着を付けれたようだった。
「よし、スカーレット、私の封魔のイヤリングをはずしな」
ウオッカは言った。
「なぜなの?」
「いいから、私を信じろ」
ウオッカとスカーレットは互いの目を真剣に見つめ合っている。ウオッカはどうす
る気なのだろうか、私にはさっぱり検討がつかない。
「……わかった」
スカーレットは頷き、ウオッカの左耳に付けられている宝石のような赤いイヤリン
グを握った。スカーレットは小さな声で何か呪文のようなものを唱える。すると。
249 :
83:2007/05/20(日) 21:19:56 ID:111Qdr2Y
パリン。
乾いた音を立てイヤリングは割れて落ちた。元の力が戻ったためか、ウオッカの身
体の傷はゆっくりと消えていき所々にあったアザも無くなっていく。
「……よし。いいかスカーレット、私はこれからミサキから抜けて、寝てる2人に出
来るだけのエネルギーを分ける。ミサキの身体のままだと、ミサキにも影響が出かね
ないからね。アンタも天上界体に戻って私の補佐をしろ。持ってる力を注ぎ込むんだ」
「そ、そんなことができるの!?」
私は思わず声が上ずる。
驚いた。やはり天上界人はすごい。
「せっかく2千年間、溜めてた力を使っちゃうのももったいないけどね。この2人が
目を覚ませば成功だ。私らはそのままマーガレットを連れて天上界に帰る。成功して
も、すぐにちゃんとした治療を受けさせなければ完全には治らない。ユウとアオイは、
リョウコとチアキに任せる」
「うん……わかった、お願い」
「それじゃあ、やろうかスカーレット」
250 :
84:2007/05/20(日) 21:22:35 ID:111Qdr2Y
スカーレットとウオッカは、眠っている優ちゃんとあおいちゃんの横に立ち、静か
かに手のひらを合わせた。
「ねぇ、スカーレット、ウオッカ。最後に教えて」
「なんですか?」「なんだよ?」
「……あんた達って、ほんとはどんな顔してんの?」
スカーレットとウオッカは目を合わせて笑った。そして私の方を向き同時に言った。
「内緒です」「内緒だよ」
そんな2人を見て、千明ちゃんはお腹を押さえて笑った。私もなんだか楽しくなっ
て笑った。
「っと、笑ってる場合じゃないや。それじゃあチアキ、また遊ぼう」
「もう勝手に家に入らないでよ」
ウオッカと千明ちゃんは別れの挨拶を言った。
「それじゃあ……りょうござぁん……うぇ……ざようなら……」
「ほらほら、泣かないの。お姉ちゃんなんでしょ。じゃあ、元気でね。マーガレット
と仲良くね」
「はぁい゛……」
スカーレットとウオッカは目を瞑った。
2人の頭上に白い煙と黒い煙が立ち上る。その2つの煙がぐるぐると渦を巻き、光
を放ち始めた――。
251 :
85:2007/05/20(日) 21:30:12 ID:111Qdr2Y
………………………………………
「――ねぇねぇあおいちゃん、何か最近、身体の調子が悪いとかない?」
優とあおいは久しぶりに2人っきりでお風呂に入っていた。仲良しの2人はときど
きこうやってお互いの近況を話す。湯船に向かい合わせで座り、優があおいに訊ねた。
「え? 何にもないよ。どうしたの優ちゃん?」
「ううん、だったらいいの」
優には、マーガレットの記憶が残っていた。事件のこともベラのことも覚えている。
「あー、気持ちいい」
優はときどき、あおいに探りを入れてみたがあおいは何も憶えていないようだった。
優は事件のことは自分の胸にだけしまっておこうと決意していた。悪魔に身体を乗っ
取られていたなんて、あおいちゃんだっていい気はしないはずだ。そう考えていた。
「なーんか憑き物が取れた感じで、どちらかと言うと調子いいんだよね」
ときどき、あおいはどきりとするようなことを言う。本当に憶えていないんだろう
か。優はその度にドキドキする。
ふと、あおいがそのミステリアスな目で優を見つめていた。
「な、なーに?」
「優ちゃん、やさしいんだね」
「えっ? な、なにが?」
「別に〜」
あおいは優を残してお風呂から上がってしまった。
「なーに、ねぇ、あおいちゃん!」
252 :
86 END:2007/05/20(日) 21:35:01 ID:111Qdr2Y
『続いて、サイレントハピネス社の続報です。虎畑次郎社長が交通事故に遭い全身打
撲の重傷を負った事件について、轢き逃げした車は現在も見つかっておらず、一部で
はテーマパーク反対派の仕業ではないかとの声も上がっています。また、サイレント
ハピネスのイベントが中止になった件に伴い、株価の急落も止まりません』
テレビから伝わってくるサイレントハピネス社のニュース。チッ、あいつ生きてたのか。
――ったく、もうほとんど力が残ってないや。ちょっといいカッコしすぎたかな。
結局、私は魔力の大半を失ってしばらくは悪魔らしいことも出来ない。スカーレット
とマーガレットは上手くいってるみたいだ。チアキもリョウコも、ミサキもユリも順
調だと聞いた。ベラは頑丈に封印されてるからもう出てこれないかもな。
なーんか全部が上手く行き過ぎてる。ガブリエルのやつ、まさか全部分かってて私
らに今回の件を任せたんだろうか。
いや、まさかな。娘が娘だ。間違いなく天然だな。
私は、今、地上界にいる。もちろん、地上界の人間には私の姿は見えない。
ここはカブキチョーって云うらしい。私には、とても合っている場所だ。
スカーレットから「天使に戻らない?」って言われた。でも、断った。今、私は悪
魔でもなく天使でもない、ただの中途半端な堕天使だ。マーガレットを救ったことを
認められ、特例で地上界に降りる自由ももらった。ま、今の私じゃなんにも出来ない
からって事だろうけど。
あーあ、何でもいい。退屈で死にそうだ。そうだ、チアキんちに行こうかな。まだ聴いてな
いCD、たくさんあるんだよね。まあでも、またミサキに身体を借りなきゃいけないんだけど。
†〜おわり〜+
おもしろかった!長いけど読みやすいので苦痛じゃなかったです。
また書いてくれるなら是非読みたいです。お疲れ様でした。
同じく、是非読みだいです!!
素敵でした!ありがとうございました!!
またお願いします♪
ありがとー。また近いうちに書いてみます。
256 :
名無しさん@秘密の花園:2007/06/02(土) 18:20:07 ID:QJcP8z8N
もう少ししたら、続き投下してみます。またよろしくお付き合いお願いします。
こちらこそお願いします。
258 :
名無しさん@秘密の花園:2007/06/02(土) 20:52:43 ID:CebFjJXP
なんか文章がすごい下手糞だし、ストーリー展開も冗長で、
自分で「素敵でした」とか自作自演するのもみっともない。
亀井信者よ、亀井先生がお怒りだぞ。
いつまでここで油を売っているつもりだ。
先生の大切な仕事をほっぽり出して遊びおってからに。
別に文章下手だとは思わんけどな。
実はこういうSFファンタジーな題材を毛嫌いしてたんだが、
(っていうか今も嫌い)
これはいやいや読んでるうちにハマってしまった。むしろ文章上手くね?
ID:CebFjJXPは亀井信者っていう荒らしで
SSスレを荒らすときは毎回
>>258みたいなこと書くのがお約束なんです
スルーしてあげてください
夜の新宿歌舞伎町、人ごみを縫うように歩く背の高い女。長く美しい茶色の髪が
揺れている。かなりの数の人通りの中を、まったく通行人にぶつかることなく軽や
かにくぐり抜けていく。
ショートパンツからのぞく足はすらりと長い。顔はオークリーのサングラスに隠
れて窺えない。手には指貫グローブをしていて、一見するとミリタリー調のいでた
ちである。
女はかなりの早足で歩いている。人目に付かないようにするためだ。しかし、そ
れでもその美しい容貌はかなり目立った。街を歩く何人かの夜の女達はその女に気
付き、足を止めた。
「ねぇ、あの子に似てない? 鈴木……」「スズキ……えみ?」「そーそー」
「あー、似てるかも」「でも、こんなとこ居るわけないよね」
女はその声に気付き、話をしている夜の女達の方をちらりと見るがすぐに目線を
進行方向に戻す。少し歩く速度を上げた。それでも通行人にぶつかることはない。
女はひたすら歩みを進めた。
と、女は一軒の薄暗い路地の前で立ち止まった。周囲に目配せし、今度はゆっく
りと歩を進める。そしてその薄暗い路地に入った。
263 :
2:2007/06/03(日) 02:21:13 ID:2DRjataI
猥雑とした歌舞伎町の中で、その路地だけはゴミひとつ落ちておらず整然として
いた。その路地のど真ん中を女は歩く。やがて、路地の突き当たりのバーと思しき
小洒落た店に女は行き当たった。
店の前ではその店のマスターであろう髭を生やした中年の男が店の周囲をいそい
そと掃除していた。この路地が綺麗なのは、この男のおかげのようだ。
女は、そのマスターに声を掛ける。
「ウオッカは、今日は居るのか?」
マスターは女を一瞥した。しかしすぐに目を逸らし
「すいません、まだ店開けてないんで後で来てもらえますか」
とだけ言った。
女はマスターの前に回りこむと、胸ぐらを掴み自分の方を向かせ言った。
「居るのか、居ないのか。それを訊いている」
マスターは迷惑そうな顔で「ウオッカねぇさんのお知り合いですか?」と訊き返
した。しかし女は無言で、マスターを締め上げる手に先程より強く力を込めた。
「分かった、分かりましたよ、ねぇさんなら1時間も前に来て1人で飲んでますよ。
でも気をつけたほうがよろしいですよ、あの人、強いから。それに気分屋なもんで」
マスターは白状した。
女は胸ぐらを掴んでいた手を離した。
「知っている」
そう言って、女はバーの中へ入っていった。
264 :
3:2007/06/03(日) 02:23:29 ID:2DRjataI
女がバーに入ると、カウンターのちょうど真ん中の席で1人の女が酒を飲んでい
た。黒いワンピース、赤いハイヒール。美咲の姿をした、ウオッカだった。
「だぁれ?」
そう言って、ウオッカが振り返った。顔は赤らんでいて、多少、ろれつが回って
いない。
「わたしが分からないか?」
女はサングラスを外し、そう言った。
「んん……?」
「カーナだ」
女は名乗った。
「カーナ……ぁあ!? なんだアンタ、カーナかよ!」
「ウオッカ、貴様に訊きたい事がある」
カーナはウオッカに近づく。
「なんだよ、あんまり側に寄るなよ、シッシッ、天使臭いんだよ」
ウオッカは露骨に迷惑そうな顔をする。
「おまえ、ここ最近、他の悪魔と接触したか?」
構わず、カーナはウオッカに質問した。
265 :
4:2007/06/03(日) 02:28:08 ID:2DRjataI
「はぁ? なんでアンタにそんなこと言わなきゃいけないんだよ」
「いいから答えろ」
「ヤだね。アンタの態度が気に入らない」
ウオッカは意地になっている。再びカウンターに身体を向けて酒を飲み始めた。
そんなウオッカに業を煮やしたカーナは、椅子ごとウオッカをくるりと回して
無理矢理に自分のいる側に向けた。
「答えろ!」
「うるさいよ! ったく、ガブリエル風情の犬のくせに……」
ウオッカのその言葉に、カーナの頬がぴくんと動く。
「貴様、ガブリエル様を侮辱するか、この猫女」
今度は、ウオッカの頬が引きつった。そして、瞳の中の黒目が縦に細くなる。
「猫じゃねぇよ、女豹だよ、分かったかこのワン公」
「貴様、もう1度言ってみろ。今度は一生外に出れないように封印してやるぞ」
「やってみなよ、アンタにやれるならな」
ウオッカは椅子から立ち上がり、カーナと顔と顔が触れそうになるまで接近し
にらみつけた。
カーナも負けじとウオッカをにらみ返す。
「闘るか?」
「闘ってやろうじゃないか」
266 :
5:2007/06/03(日) 02:32:04 ID:2DRjataI
外で掃除をしていたマスターは、店からグラスが割れる音がするのに気付いた。
そして、ぎゃあぎゃあと騒がしく言い争う女たちの声がするのを聴いて呆然とす
る。
『テメーコラ! 久々に会ったと思ったらそれかよっ!』
『貴様! 誰が犬だこのネコマンマ!』
『ムッキー! もー許さねー! ホント、アンタってムカつくヤローだな昔っか
ら!』
『それはこっちの台詞だ! ガブリエル様への日ごろの数々の暴言、もう我慢で
きん!』
ガシャン、ガシャン。
互いが何かまくしたてる度に、グラスの割れる音がする。
――子供みたいな喧嘩だな。
マスターはそう思いながらも、巻き込まれるのを恐れて喧嘩が一息つくまで待
つことにした。
267 :
6:2007/06/03(日) 02:36:38 ID:2DRjataI
ひとしきり大騒ぎして、ウオッカとカーナは喧嘩する手を止めた。
「ハァー、ハァー……あー、ウザい! 大体、なんでアンタ地上界に降りて来て
るんだよ! また天上界で揉め事か!?」
ウオッカはそう言いながらグラスに酒を注ぎなおし、それをぐいと飲み干した。
「悪魔の貴様に言うことは何も無い!」
カーナはカウンターの椅子に勢いよく腰掛けた。そして、ウイスキー用の氷を
を1つ摘み、口の中に放りこんでバリバリと噛み砕く。
「フン、今の私はもう悪魔とは言えないかもね。半端な堕天使だよ」
そう言って、ウオッカも椅子に腰掛ける。
「ふん、どうだか」
カーナは再び氷を摘んでそれを口に入れた。
「こう見えて私は繊細なんだよ。その氷みたいに、簡単に砕ける」
ウオッカはそう言って寂しそうに目を伏せた。
ウオッカのその様子に、カーナは思わず氷を食べる口を止める。
「……まあ、貴様の言うことは鵜呑みにはできないが、そういうことにしておい
てやる」
「ありがと」
ウオッカは自嘲気味に笑って、口だけの礼を言う。
「実は、天使の卵が盗まれたんだ」
カーナは、唐突にそう言った。ウオッカは目を丸くする。
「マジで?」
「冗談でこんなこと言うか」
「アンタら、最近何やってるんだよ。ベラの件と言い不祥事だらけじゃんか」
「貴様に言われたくない」
「そりゃそうか」
――少しの沈黙が、店の中におとずれた。ウオッカもカーナも何か考え込むよ
うに押し黙った。
268 :
7:2007/06/03(日) 02:42:09 ID:2DRjataI
その静かな店内に、外で喧嘩が止むのを待っていたマスターが恐る恐る入って
くる。マスターはウオッカとカーナを見比べる。どちらも何も言わずに座ったま
まだ。
「あの……そろそろ、店を開けたいんですけど……」
マスターは2人の無言の重圧に押され、声が裏返った。
カーナはマスターをちらりと見て、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
「で、天使の卵を奪ったのは?」
立ち上がったカーナに、ウオッカがそう訊いた。
「悪魔盗賊団、ピンクカメオだ。ここ最近、前頭首から新しい頭首に変わって凶
悪化しているらしい。それ以外の情報は入っていないが。今は地上界に降りて来
ている。現在は大阪に潜んでいるとのことだ」
「オオサカ? トウキョウからは遠いのか? ああ、言っとくけど私は何も知ら
ないから」
「だったら最初から素直にそう言え。そうだマスター、色々散らかしてすまなか
った」
カーナはそう言って、割れたグラスの破片が落ちている店内を出口に向かって
行く。
「請求は、ウオッカにしといて」
カーナはマスターにそう言って手を振った。
「はぁ? なんで私が……」
ウオッカがそう言って振り返ると、すでにカーナの姿はなかった。
「ったく、相変わらず、すばしっこさだけは一級だな」
…………………………………
269 :
8:2007/06/03(日) 02:45:30 ID:2DRjataI
「じゃあお疲れ。ゆっくり休めよ、サダ」
「お疲れーっす」
居酒屋を出て仲間と別れ、サダは1人で飲みなおそうと歩き始めた。サダは劇
団員で、今は舞台で全国を回っている。ここ大阪で最終日だった。
ホテルに戻って部屋で飲もうかとも思ったが、せっかく大阪に来たのだからな
にか美味いものを肴にして飲みたかった。千鳥足でふらふらとしながら粉物が食
べれる店を探して歩いていると、前から歩いてきた2人組のガラの悪い男達にぶ
つかった。
「どこ見て歩いとんのや、兄ちゃん」
2人組の、下っ端と思われるほうのジャージを着た男がサダに因縁をつけてき
た。
「あっ、すいません、すいません」
サダは小柄で気が弱い性格だった。何度も繰り返し頭を下げ2人組に謝る。
「すいませんやあるかアホ。アニキの靴を踏んづけといてからに」
サダがジャージではない方の男の靴を見た。確かに、高級そうな革靴にサダの
履いているスニーカーのものと思われる足あとが付いている。
「ちょっとこっち来いや」
サダはジャージの男に襟首を掴まれ、ビルの路地裏の狭い空間に引っ張り込ま
れた。サダは千葉の生まれで、東京に出て劇団員になった男だった。大阪弁の人
間には慣れておらず、元来気が弱いサダには普通に絡まれるよりも何倍もの恐怖
だった。
270 :
9:2007/06/03(日) 02:49:55 ID:2DRjataI
「兄ちゃん、大阪のもんやないやろ? 舐め取ったらあかんぞコラ」
ジャージの男が凄んでみせる。
「はい、も、申し訳ありませんでした、申し訳ありませんでした」
サダは必死に謝る。その声は震えていた。
「おい、もうええやろ。放したれや」
兄貴分の男が、ジャージの男に言った。
「兄ちゃん、手荒なことしてすまんかったな。実はこいつな、バクチで銭スッて
しもて、今、機嫌が悪いんや。そうや兄ちゃん、こいつの機嫌直すためにも少し
援助したってぇな。そしたらこいつの機嫌も直ると思うんやけどな」
サダは兄貴分の男の言うことに従うことにした。殴られるよりは何倍もマシだ、
そう判断したからだ。サダはズボンのポケットから財布を取り出し中身を確かめ
る。しかし、紙の紙幣が一枚も無かった。
そうだ、さっきの居酒屋で仲間に奢っていたのだ。そう思い出した。
サダは青ざめた顔で2人組の顔を見る。ジャージの男は肩をいからせサダをに
らみ、兄貴分の男の顔はあからさまに不機嫌になっていた。
「これやったらあかんなぁ。こいつも一発どつかんと機嫌悪いままやわぁ」
兄貴分の男がそう言うと、ジャージの男が再びサダを掴み上げる。
――嫌だ、なんで自分がこんな目に。
サダは心の中で祈っていた。誰か助けてくれ。誰でもいい。
271 :
10:2007/06/03(日) 02:52:00 ID:2DRjataI
その時、サダは身体の全ての感覚が急激に研ぎ澄まされていくような錯覚に陥
った。身体中の毛穴が開き、何か別の何者かが自分の中に入ってくるのがはっき
りと分かった。サダは小刻みにぶるぶると震え、頭ががくんと後ろに傾いた。
「お、おい、どないしたんや、兄ちゃん」
サダの身体から急に力が抜けたのに驚き、ジャージの男はサダから手を離した。
サダはそのまま地面に崩れ落ちる。しかし、すぐにゆっくりと身体を起こし立ち
上がった。
立ち上がったサダの表情には、薄気味悪い笑顔が浮かんでいた。口の端をいや
らしく歪め、目には異常なほどの鋭さがあった。サダは2人組をその鋭い眼光で
にらみつけ、フフンと軽く笑いながら口を開いた。
「ちょっとおにいさんたち、随分このボウヤをいじめてくれるじゃないの」
オカマ口調だった。
「な、なんやねん、気色悪いのう。おう、兄ちゃんヤル気か、おう?」
ジャージの男が再度、サダに掴みかかろうとする。しかし。
「乱暴に触らないでくれる?」
サダはそう言うと、右手で男の手を払った。
ぽとりと、何かが地面に落ちる音がした。
不思議に思って、ジャージの男は地面を見る。そこには、見覚えのある2本の
指が落ちていた。
272 :
11:2007/06/03(日) 02:53:36 ID:2DRjataI
「ぎぃややあああ!!」
ジャージの男は叫び声をあげて路地裏から飛び出して、大阪の街に消えていっ
た。
兄貴分の男の方は、何事かと思って走り去ったジャージの男を目で追うが、す
ぐに見失ってしまった。そして地面に落ちている指を見てそれを理解し、青ざめ
た顔をした。
「じょ、冗談やないか兄ちゃん、な、話したら分かる。もう止めとこうや、な?」
兄貴分の男はそう言ってゆっくりと後ずさりしながら、サダから距離を取って
いく。そして、サダに背を向けて路地裏から逃げ出そうと走り出した。
「どこ行くのかしらん?」
サダが兄貴分の男の目の前に降りてきた。そう、空から降りてきたのだ。
兄貴分の男は驚愕のあまり声が出なかった。
「うーん、おにいさんタイプじゃないわ。それじゃ、アデュー」
サダはそういうと、右手の人差し指を兄貴分の男の眼前に突き出した。
その指先には、まるで鷹のような鋭い爪が生えていた。
…………………………………
273 :
12:2007/06/03(日) 03:00:06 ID:2DRjataI
電子レンジの中で、少しづつパン生地が膨らみ始めた。スカーレット子供みた
いにレンジの前に張り付いてそれを見ている。
「ほーら、そんなに顔近づけると危ないよ」
私の忠告にも「はぁい」と生返事を返しただけのスカーレット。そんなに珍し
いのだろうか、電子レンジが。
「天上界ってさ、電化製品とか無いの?」
スカーレットに訊ねてみる。
「え? ああ、すいません涼子さん。ちょっと夢中になっちゃって。無いことは
無いですよ。ただ、あまり使いません。パンを焼くのもかまどですね。あまり急
ぐということもありませんし」
そうか、天上界と地上界じゃあ時間の流れも寿命も違うんだった。時間がもっ
たいないとか言ってせかせかすることもあまり無いのだろう。
「あー、いい匂いがしますねぇ。クリームの香りがいっぱいです」
スカーレットはうっとりとした目でそう言う。甘いものを目の前にするといつ
もこうだ。その顔はまるで恋するお花のように幸せいっぱいに咲き誇る。
付けっぱなしのテレビからは、スカーレットが好みそうなポップスが響いていた。
Mika - Grace Kelly
http://www.youtube.com/watch?v=yL_PrcqKynQ&mode=related&search=
274 :
13:2007/06/03(日) 03:04:53 ID:2DRjataI
――スカーレットはときどき、友里ちゃんの身体を借りて私の家に遊びに来る
ようになった。スカーレットのママのガブリエルいわく「地上界でいろいろ学ぶ
こともあるだろうし、研修みたいなもの」らしい。でもそれはきっとガブリエル
なりの気遣いで、仲良くなった私に会いに来れる機会を作ってあげたんだと思う。
私はスカーレットに様々なことを教えてあげた。今までスカーレットが地上界
に降りてきたときはいつも事件を解決するためだったので、ゆっくりとした時間
を過ごすということが無かった。スカーレットは本当に純粋で、地上界のことに
は疎い。何にでも興味を持って私に質問してくる。この前、やっと携帯電話の使
い方を憶えた。友里ちゃんのとは別にスカーレット用の携帯電話を買ってあげた。
よほど嬉しかったのか、地上界に遊びに来るたびに「今から行きますね!」とい
う内容の絵文字いっぱいのメールを何通もくれるようになった。
そんなスカーレットは今、電子レンジについて学習している様子だ。説明書を
開いて、いつものように眉を寄せて、うーん、と考え込んでいる。聞いていた通
りお勉強が苦手なスカーレットだが、何にでも一生懸命に打ち込むところはすご
く魅力的だと思う。それに、集中しているときのスカーレットはいつもの天真爛
漫さとは違う、なんだか張り詰めた雰囲気を醸し出すときがある。まあ、それは
ごくたまにだけれども。
お母様にも気をつけなさいってよく忠告されます、とスカーレットは言ってい
たな。もしかしたらスカーレットは自分でも気付いてない、凄い天使なのかも。
「じゃあスカーレット、パンも焼けたしせっかくだからどこか外で食べようか」
「はい!」
スカーレットは嬉しそうに返事した。
275 :
14:2007/06/03(日) 03:10:24 ID:2DRjataI
外で出来立てのパンを食べよう、と外出してみたものの特にどこに行こうとか
は決めていなかった。でもそれはいつものことだ。スカーレットはそれがいいと
いう。スカーレットは地上界には何度も降りて来ていたが、見ることは出来ても
触れたり話したりすることは出来なかった。何せ地上界では天上界人は実体が無
い。今みたいに誰かの身体を借りなければ、天上界人は地上界で何も出来ないに
等しいからだ。
ジレンマ。それがスカーレットを悩ませていた種。スカーレットは、地上界人、
つまり私達人間とコミュニケーションするのが楽しくて仕方ないらしい。スカー
レットにはあまり天使や人間という垣根が無いのかもしれない。それがスカーレ
ットの良いところの1つだと思う。
そんなことを考えながら歩いていると、スカーレットが消えていた。スカーレ
ットは時々、こうやって突然いなくなる。
なにせ好奇心が先走るコなのですぐに迷子になる。で、携帯電話で私に助けを
求めてくるのだ。さて、そろそろ掛かってくるころかなと思うが私の携帯電話に
反応は無い。いたずらっこの猫みたい。
「……スカーレット?」
辺りを見回してスカーレットを呼んでみるが、応答は無い。
おかしいな、と思い少し大通りに出てみる。平日で、行き交う人も少ない。小
さな男の子を連れた母親と、上品のかたまりみたいな奥様方が数人歩いているだけ。
あ、スカーレットがいた。大通りに面したオシャレな雑貨屋さんの店先に置い
てある、妙な顔をしたタコの置物を夢中で眺めている。
276 :
15:2007/06/03(日) 03:15:41 ID:2DRjataI
「おーい、スカーレット」
スカーレットを呼ぶ。
「あ、涼子さん」
スカーレットは私に気付き、笑顔で手を振ってきた。
しかし、不意にその笑顔が固まった。
私の所に猛然と走ってきたかと思うと、私の横を掠めて道路に飛び出していく。
数は少ないが、何台か車が行き来している。一体どうしたのかとスカーレットが
向かう方向を見ると、さっき見た小さな男の子が母親から離れてふらふらと道路
に歩き出している。そして、タイミング悪くそこに1台の大型トラックが迫って
いた。
「危ないっ!」
私もスカーレットの後を追って走る。
スカーレットは男の子を抱き上げた。しかし、トラックはすでに目前に迫って
いる。ダメだ、間に合わない。きゃあ、という悲鳴が聞こえる。
――トラックが、スカーレットと男の子の居た場所を通り過ぎた。
気持ち悪い、沈黙。
トラックは、数メートルしてようやく急停車する。
「うそ……そんな……」
トラックの死角になっていて、その現場が見えない。
私はへたり込んでしまいそうなのを堪え、ゆっくりと“そこ”に歩み寄る。
そこには――。
277 :
16:2007/06/03(日) 03:19:15 ID:2DRjataI
「あ、危なかったです……」
スカーレットが男の子を抱いたまま、へたりとしゃがみ込んでいた。
そして、その2人の側には1人の女の子が立っていた。
長く綺麗な茶色い髪。意志が強そうな目。ショートパンツからのぞく長く細い
足に不釣合いな無骨なブーツを履いている。頭にはベレー帽を被っていて職業軍
人のような装いだ。
一瞬、本職の人かもと思ったが、その割には身体がスマート過ぎた。
その顔には見覚えがある。すずきえみちゃんと言う名前だ。
「あ、ありがとう……」
どうやら、そのえみちゃんが助けてくれたらしい。スカーレットがお礼を言っ
た。すると、女の子は片膝をついて座り、仰々しくスカーレットに頭をたれる。
「いいえ、当然の責務を果たしたまでです、スカーレット様」
「え……?」
「カーナでございます」
「えぇっ!?」
スカーレットは驚いて、その拍子に男の子を放した。男の子は何事もなかった
かのように母親の元へ戻っていった。
私はスカーレットに近寄り、驚いている彼女に耳打ちした。
「……ねぇ、あんたの知り合いなの? また身体を借りて天使が?」
「は、はい。でも、なぜカーナが地上界に……?」
スカーレットはそう応えて、不思議そうにカーナと名乗った女の子を見る。
「はい、実は――」
カーナは暗い表情になった。
「天使の卵が盗まれたのです。わたしは、天使の卵とそれを盗んだ悪魔を追って
地上界に来ました」
「えぇぇ!?」
スカーレットは再び驚きの声を上げた。
278 :
17:2007/06/03(日) 03:23:12 ID:2DRjataI
ひとまず、カーナを連れて家に戻った。
カーナは基本的に無口だったが、こちらからの質問にはハキハキと答え私の
こともよく知っていた。彼女は天使の中でも武闘派で、天使特選部隊という護衛
や戦闘を専門とする部署に所属しているらしい。そして、その一小隊の隊長を務
めているということだ。
「へぇ、カーナってばまた偉くなったんだね、すごいね」
スカーレットは感心してそう言った。
「いいえ、まだまだです。それにわたしは地位にはこだわりません。ガブリエル
様にお仕えしてガブリエル様の為に尽くす、それがわたしの望みですから」
カーナは今の自分があるのはガブリエルのおかげだと言った。昔、相当ひねく
れていた時期があったらしく、一時は悪魔に堕ちそうになったが、それを救って
くれたのがガブリエルだと言う。それ以来、ガブリエルを敬い、いつかガブリエ
ルの役に立つような戦士になりたいと思い天使特選部隊に志願したらしい。
「でも、カーナがわざわざ地上界に降りてくるなんてよっぽどだね」
スカーレットは言った。
「はい、面目もありません。まさか我々の警備をかいくぐって天使のたまごを奪
うなどとは想定外でした。いいえ、かいくぐったなどと生易しいものではありま
せん。警備にあたっていた私の部下を含めた何人もの天使が大怪我を負いました。
ピンクカメオ一味め、頭首が変わってから凶暴性が以前とは段違いです」
カーナは悔しそうにそう言う。
「その、ピンクカメオっていう盗賊団は東京にいるってこと?」
私はカーナに訊ねた。
279 :
18:2007/06/03(日) 03:26:39 ID:2DRjataI
「いえ、奴らは大阪に潜伏しているという情報を掴んでいます。今日はスカーレ
ット様のご様子を伺いに来たのと、ウオッカに会うために東京に来ました」
「ウオッカに?」
「ええ。結局、ウオッカは何も知らない様子でしたけど」
「あいつはさぁ、ああ見えて結構いいやつだったりするから大丈夫だと思うよ」
「しかし、ガブリエル様やスカーレット様を愚弄するあの態度は許せません」
カーナは憎々しげにそう言う。
「ふふ、涼子さん、ウオッカとカーナは昔から喧嘩仲間なんです。ウオッカが封
印されてる間はむしろ退屈そうでしたよ、カーナは」
スカーレットがそう言ってくすりと笑うと
「だ、誰がですかっ。あんな悪魔……」
沈着冷静だったカーナが慌てて反論した。スカーレットの言うとおりか。
「と、とにかく、わたしはこれから大阪に向かいます。天使の意地に賭けても、
天使の卵は取り返さねばなりません」
「じゃあ、私もお手伝いするよ!」
スカーレットはそう言って立ち上がってファイティングポーズをとった。
「い、いけませんっ! 今回のことは全て我々の不手際によるものですからわた
しにお任せを! それにスカーレット様をむやみに危険に晒すわけには……」
「心配しないでカーナ。それに、涼子さんっていう頼りになる人もいるし」
ああ、そうか、やっぱり私も手伝うハメになるんだね。
かくして、私達3人はピンクカメオ盗賊団を探し出しやっつけて、天使の卵を
取り返すために大阪に向かうことになった。
…………………………………
280 :
19:2007/06/03(日) 03:28:50 ID:2DRjataI
ウオッカが赤い顔をしてあたしのマンションに来たのは、まだ夜も空けきって
いない早朝のことだった。眠っていたあたしを叩き起こしてなにやら愚痴を溢し
ていた気がするがよく憶えていない。ひとしきり騒いだ後、いつものようにリビ
ングのソファに寝転がりそのまま眠ってしまった。
昨晩は随分飲んだらしい。お酒に強いウオッカは滅多なことではここまで酷く
酔ったりしないが、機嫌がいいときや楽しい気分のときは徹底的に酔っ払う。だ
から何かよほど嬉しいことがあったのだろうか、と思う。
シャワーを浴びて一息ついたあたしは、少し大きめのバッグに下着と洋服を詰
める。ごそごそとクローゼットを漁る物音でウオッカが目を覚ました。
「あー、おはよ、チアキ」
「おはよう。あたし、しばらく仕事で外に泊まるから。部屋は好きに使っていい
よ。でもあんまり散らかさないでね」
「え? チアキ、どこ行くの? ねえねえ?」
「大阪」
「オオサカ!?」
ウオッカはソファから飛び起きて、あたしの所に走ってくる。
「ねぇねぇ、オオサカって遠いの?」
「うーん、遠いっちゃあ遠いかな」
「私もついてっていいかな?」
「えぇっ、何言ってんのよ」
「いいでしょ? そうだ、車で行こうよ! 真っ赤なフェラーリでブッ飛ばした
らすぐだよ!」
ウオッカは2千年間封印されていたせいで時勢には疎いが、高級なものには目
が無くどこからともなく色んな言葉を覚えてくる。要領いいやつ。
281 :
20:2007/06/03(日) 03:31:31 ID:2DRjataI
「あのね、美咲さんの都合もあるんだし勝手なこと言って身体を使わないの」
あたしが文句をつけると
「ミサキは今オフだからオッケーなんだって。それに、私が憑いてるときのミサ
キっていつも寝てるし」
ウオッカはそう言ってオネンネのジェスチャーをしてみせる。
「もう。だいたい、なんで付いて来るの? あんた、なんか大阪に用事でもある
の?」
「天使の卵だよ、天使の卵」
「なにそれ?」
「いいからいいから。それに、私って地上界のことはトウキョウ以外はなーんに
も知らないんだ。ずっと、ひとりぼっちで封印されてたから……」
ウオッカは寂しそうな顔をする。思わず、どきんとした。
「まあ、どうしてもって言うなら……」
「ほんと? やったー! チアキ愛してる!」
さっきまでの悲壮感はどこへやら、あっという間にいつものウオッカに戻った。
忘れてた。ウオッカは悪魔で嘘が上手い。
「ったく、口がうまいんだから」
「あら、寂しかったのはほんとだもんね。だからチアキ、アンタが友達になって
くれてマジで嬉しいんだから」
ウオッカはそう言って、あたしの頬を長い指でつんと押した。
「な、なによ、調子いいんだから」
「ウフフ、これだからチアキって好きなんだよ」
…………………………………
282 :
21:2007/06/03(日) 03:35:56 ID:2DRjataI
「そりゃ、そりゃ、やったー! 見てください涼子さん!」
「はいはい、すごいすごい」
大阪に向かう新幹線の中。スカーレットはPSPでぷよぷよをプレイしている。
服はいつもの白いワンピースではなく、せっかくお出かけするからと友里ちゃ
んの部屋から色々借りてきたという。スキニーのデニムにカーディガン、髪はア
ップにして頭にサングラスを乗せている。フェミニンな印象の強いスカーレット
がこういう格好をしていると随分印象は違うが、彼女のセンスは十分感じさせる。
まあ外見は友里ちゃんなので何を着ても似合うのは間違いないんだけれども。
カーナの方は、ただ黙って座って外の景色を眺めているだけだ。容姿はえみち
ゃんである。何も喋らなくとも背筋を伸ばして座っているだけでうっとりするほ
ど絵になる。
「なんだかさ、若くてかわいい2人に挟まれてちょっと気まずいわ」
つい、そう溢してしまう。
「何言ってるんですか、涼子さんも全然いけてますよ!」
スカーレットが慰めてくれる。彼女はお世辞とか嘘とかがヘタクソなのできっ
と心からの言葉なのだろう。嬉しい。
「ねぇ、カーナもそう思うでしょ?」
「え? ああ、そうですね」
スカーレットの問い掛けにカーナはふと我に返ったようにそう言った。
「カーナ、さっきから黙ってるけど何か考え事?」
私はカーナに訊いた。初めて会ったときの機敏な印象から比べても、どうもボ
ーっとしすぎている気がする。
「あ、いえ……少し、気になることがあって」
「なに?」
「あの、ピンクカメオ一味のことなんですが、その新しい頭首というのがどうも
引っ掛かるんです」
283 :
22:2007/06/03(日) 03:38:18 ID:2DRjataI
「先代から変わって凶悪化したっていう?」
「はい。奴等にやられた天使達の傷跡といい、その手段を選ばない手口といい、
私がずっと前から追っている事件によく似ていて……」
「今回の件と、共通点が多いわけだ」
「はい。ただ、なぜ天使の卵を狙ったのかわかりませんが……」
「ねぇ、ずっと気になってるんだけど、天使の卵ってなに?」
私が素直な疑問を口にすると、
「あ、それはですね」
スカーレットが割って入ってきた。
「天使の卵は、天使の力を何年も掛けて少しづつ込めたものです。そしてある程
度育つとそこに命を吹き込みます。そして、そこから天使の赤ちゃんが生まれる
んです」
「えっ、天使って卵から生まれるの? スカーレットもカーナも、ピキピキッ、
パカッ、って感じで?」
「はい、ピキピキッ、パカッです」
「へぇー……」
また天上界の神秘を知ってしまった。
「ちょ、ちょっと待って。それじゃあ、ピンクカメオ一味は赤ちゃんを盗んだってこと?」
「いえ」
今度はカーナがこたえる。
「奴らが盗んだのは、まだ命を吹き込む前の卵です。それを盗んだところで、悪
魔にとってさほど価値があるとは思えませんが。でも、私達にとっては由々しき
問題です。もしかしたらただの愉快犯なのかもしれません」
「タチが悪そうな奴らね、ピンクカメオって」
「はい。動機は何にしろ、奴らの行いを許すわけにはいきません。絶対に捕まえ
てみせます。絶対に……!」
そう言ったカーナの目には強い意志が感じられた。と同時に、冷静な彼女の感
情的な危うさも見た気がした。それが気のせいだといいんだけれど。
…………………………………
284 :
23:2007/06/03(日) 03:41:02 ID:2DRjataI
「いやーん、めちゃくちゃおいしいですね、これ!」
スカーレットはたこ焼きを頬張っている。これで3箱目。
「こんなおいしい物を食べられるなんて、大阪の人って幸せですね〜」
「そうだね、ハハハ……ハハ……」
私達は大阪に到着した。とにかく悪魔が好みそうな俗な雰囲気の街を当たって
みようと、まずやって来たのが心斎橋・アメリカ村。そこいらを目一杯オシャレ
した若者が闊歩している。スカーレットとカーナは鼻を利かせるが、悪魔の残り
香は感じないとのこと。しかしスカーレットの鼻はおいしいものの匂いはちゃっ
かり嗅ぎ付けたようで、今はたこ焼きに夢中である。
そんなスカーレットを放っておいて、私とカーナは地図を広げてピンクカメオ
一味が潜伏していそうな場所を探した。
「でもこう広いと、まるで検討がつかないわよね」
「盗賊ですから、なるべく目立たないところに身を隠すはずです。しかし、新頭
首の考えることははっきり言って読めません。奴らの手口からしても、まるで自
分達の力を誇示してるかのようなところがあります」
「コソコソしてない、ってことか」
「ウオッカやベラ以上に目立つことをして人間達を混乱に陥れようとしている可
能性は高いと思います」
「悪魔め、地上界では好きにさせないわよ。私たちの世界は私たちで守ってやる
んだから」
私はそう言ってぎりっ、と歯軋りをした。
そんな私の様子を、カーナは黙って見つめていた。
「……なに?」
「あっ、いえ、やっぱり、涼子さんってガブリエル様に少し似ているところがあ
るなって。さすが、ガブリエル様が憑依体に選んだだけあると言いますか」
285 :
24:2007/06/03(日) 03:43:19 ID:2DRjataI
「そ、そうかな? えへ」
「いえ、わたしがそう感じただけですから……それに、涼子さんは涼子さんです
し」
「まあ、そりゃそうよね。でもありがと、ちょっと勇気出てきた。正直言って恐
かったから、得体の知れない悪魔を追いかけるのって。3回目だけど全然慣れな
いや。よし、がんばろうね、カーナ!」
「はい」
「スカーレットも……こら、スカーレット! いつまで食べてるの、置いてくよ!」
私とカーナが真剣に話し合ってる最中でも、スカーレットはマイペースにたこ
焼きを食べている。これで4箱目。
「あー、まってくらはーいぃ!」
スカーレットは口一杯にたこ焼きを詰め込んでいる。
少々、シリアスさが足りないスカーレットに意地悪したくなってきた。
「ところでスカーレット、そのたこ焼きの中に何か入ってるでしょ? それなん
だと思う?」
「えっ? えーと、グミでひゅか?」
「タコの足だよ。海で泳いでる、あのタコ。だからたこ焼きっていうの」
スカーレットはもぐもぐと動かしていた口を止める。そして、その顔が青ざめ
ていく。
「なんでさきにいってくれないんでひゅか! 天使はナマモノはだめだってしっ
てるくひぇにぃ!」
「いいじゃん、食べちゃったもんはしょうがないでしょ。たこさんにお祈りでも
しなさい」
手を組んで空に向かって懺悔するスカーレットを尻目に、私はぺろりと舌を出
した。
「やっぱり……ガブリエル様に似てます、涼子さん」
カーナがそう言った。
…………………………………
286 :
25:2007/06/03(日) 03:45:51 ID:2DRjataI
「ウオッカ、こんな高そうなお店に入って大丈夫なの?」
あたしとウオッカが大阪に到着したのはもう陽が暮れるころだった。ウオッカ
はさっそく梅田の街に繰り出して、ホテルの高級レストランをめざとく見つけこ
こで食事しようと言った。
ウオッカはいつもの黒いワンピースとは違ってバギーのジーンズにタンクトッ
プというラフな格好だ。でも、足元はいつものように真っ赤なハイヒール。グッ
チのサンダルだと自慢していた。
ウオッカはそんな格好でも堂々と高級レストランに入る。あたしは、ウオッカ
のこういう物怖じしないところが好きだ。もちろん、限度はあるけど。
「チアキ、私に任せなさいって」
「もしかして、美咲さんのお金使ってるんじゃないでしょうね? ちゃんと自分
の分と美咲さんの分は分けるって約束したでしょ?」
「この私がそんなケチなことしないって。ほら、これ見てみなよ」
ウオッカはジーンズのポケットからマネークリップで挟んだお札の束を取り出
して私を仰いで見せた。独特の湿った匂いと、ウオッカのつけている香水の香り
がする。
287 :
26:2007/06/03(日) 03:47:46 ID:2DRjataI
「それどうしたのよ、まさかあんた……」
「チッチッ、盗んでないよ。競馬で勝ったのさ。私と同じ名前の馬がダービーに
出ててさ、それに有り金ぶち込んだのよ」
ウオッカは得意げだ。
「もしかしてあんた、悪魔の魔法とか使ってその馬が勝つようにしたとか……」
「だー、やってないって! いい加減、私を信じなよ、チアキ!」
もちろん、ウオッカの性格からしてそんなことしないのは分かっている。ただ、
こういうウオッカとの他愛も無い会話があたしは好きだった。最初はうざったく
て仕方が無かったウオッカの存在が、あたしの中で大きくなっているのを感じて
いた。ウオッカもウオッカで、最近少しづつ人間くさくなっているようにも思う。
「そういえばウオッカ、大阪に来る前に言っていた天使の卵って……?」
「ああ、それはね――」
ウオッカがあたしの質問に答えようとした、次の瞬間。
――ゴォン。
何か、遠くで低く重い物音がした。ほんのわずかだが薄い振動が伝わってくる。
現場は近いのか。
「さっそくお出ましってわけかな」
ウオッカはそう言って、猫のようにぺろりと舌で唇を舐めた。
…………………………………
288 :
27:2007/06/03(日) 10:23:12 ID:5vOR9DeZ
大阪の中心部を一望し見下ろすことが出来る、梅田スカイビル。2つのビルが
並び立ち、屋上は空中庭園展望台と呼ばれ大阪の空の風を感じることが出来る。
すでに太陽は沈んでいる。街にはネオンが灯り美しい夜景が広がっていた。こ
れからは悪魔の時間である。
真っ白なスーツに黒いマントを羽織った顔色の悪い男が、空中庭園から街を見
下ろしている。サダだ。口には真っ赤なルージュを塗り、顔にはまるでタトゥー
を施したような奇怪な模様が描かれている。手に持っているステッキをくるり
と回し、地面にコツコツと打ち付ける。
そのサダを囲むように10人ほどの男たちが後ろ手に腕を組んで立っている。
皆一様に黒いマスクで顔を覆い、胸には不釣合いなピンク色のカメオを付けてい
た。
「面白くなりそうねぇん、フフン」
サダは笑ってそう言った。
「ボス、なぜこんなお遊びを……俺達は、あくまで盗賊であってこんな――」
マスクの男たちのうちの1人が、サダに忠告しようとした。
しかし、その男が言い終えないうちに、男の腹にステッキの先端が打ち込まれ
た。男はその場に前のめりになって倒れ、苦しそうにもがく。
「このホーク様に意見するのはタブーよ。次は殺すわよ」
ホークと名乗ったサダは、倒れた男の頭を踏みつけてそう言った。
――悪魔盗賊団・ピンクカメオ。天使の卵を盗み、地上界に揃って降りてきた。
現ボスは、サダの身体に憑依したこのホークである。そして部下の男たちも大阪
の街に暇を持て余してたむろする若者たちの身体を乗っ取っていた。
289 :
28:2007/06/03(日) 10:26:19 ID:5vOR9DeZ
「さぁて、お次はどうしようかしら」
ピンクカメオ一味はスカイビルを完全に占拠していた。入り口や周辺には入場
禁止の看板を立て、職員や客は全て一箇所に集められて外との連絡を遮断されて
いた。そして、ホークはマスクの男たちに命じてスカイビルの一室を爆破させた。
ホークの部下であるマスクの男たちは、新頭首のホークの行動を理解できなかっ
た。ホークは元々ピンクカメオの幹部の1人に過ぎなかったが、ある日突然頭首
を殺し自分が頭首に収まった。他の幹部も全て追放し、自分の言うことを聞く部
下だけを残した。ホークは昔から何を考えているか分からない狂気じみたところ
があったが、ボスになってからその狂気を隠そうともせずに残虐な手口で盗みを
働いていった。そしてついには天使のホスピタルを襲い、天使の卵を奪った。さ
らに地上界に降り立ち、今まさに大阪を混乱の中に叩き込もうとしている。
ホークは懐に手を入れ、スーツの内ポケットから天使の卵を取り出してまじま
じと眺めた。一見、にわとりの卵のように見えるそれだが、内部から薄く光り熱
を発している。
「綺麗ねぇ。でもアタシって綺麗なものって嫌いなのよねぇ」
ホークは卵をぺろりと舐めて再び懐にしまった。
そして部下の男たちに向かって大声で言った。
「いーい? アタシは面白いことが好きなの! 面白いから遊ぶのよ! 他に理
由なんてあるぅ? オホホッ!」
ホークは高らかに笑った。
290 :
29:2007/06/03(日) 10:31:43 ID:5vOR9DeZ
「バカじゃないの?」
ホークの後ろで女の声がした。ホークが立っている場所は、空中庭園の端。そ
の後ろには何もないはずだ。
しかし、ホークに動揺は無い。
「あーらぁ、随分早いお出ましね、どこの天使かしら?」
ホークはそう言うと、体を180度回転させる。そして振り向きざまに持って
いたステッキを投げつけた。
ステッキが真っ直ぐに声のした方に向かう。しかし、声の主の女はそれを首を
反らして事も無げにかわした。
「あらぁ、はずれたわね。あれ? あなた天使じゃないわね」
ホークがそう言うと、女はにやりと笑って見せる。瞳の中の黒目が、縦に細く
変わった。背中から黒い翼を生やし空中に浮いている。
ウオッカだった。
ウオッカはそのまま空中庭園に降り立ち、翼を身体に戻す。
「アンタだったんだ、ホーク。どおりで趣味が悪いこと。全然似合ってないんだ
けど、そのスーツ」
ウオッカは見下した口調でホークに言い放った。
291 :
30:2007/06/03(日) 10:35:30 ID:5vOR9DeZ
「ほぉ、あなたもしかしてウオッカかしらん? なぁに? また天使にでも趣旨
替えしたのかしら?」
「まさか。っていうかさ、アンタみたいな低レベルなやつに地上界でウロチョロ
されると悪魔の品格が疑われるんだけど。さっさとお空に帰ってくんない?」
「なぁに? 偉そうなこと言っちゃって。あなたも、元はアタシと同じ考えの悪
魔のはずよねぇ? 快楽中心、自分が大好きな悪魔」
「ハァー? 止めてよ気色悪い。アンタみたいなのは悪魔の中でも下の下、鬼畜
だよ鬼畜。ほら、アンタの部下だって別にアンタを慕ってるわけじゃないだろ?
どーせ恐いからアンタに従ってるだけだよ。心の中じゃあ、アンタのことキモイ
とかウザイとか思ってるに決まってるだろ」
ウオッカのその言葉に、ホークの顔が険しく変わる。ゆっくりと振り向いて、
部下のマスクの男たちを睨みつける。
「……あんた達、そんなこと思ってないわよねぇ?」
ゆらゆらと部下達に歩み寄り、ひとりひとりの顔を覗き込んで尋問し始めた。
「ねぇ、アタシのことチビだとか気味悪いオカマだとか思ってないわよねぇ、そ
うよねぇ?」
部下たちは冷や汗を流しながらただ頷くだけである。
ホークが言っていることはいつも今まで自分が言われてきたことである。その
たびに、ホークは相手を殺してきた。
「はぁーあ、アンタ、偉くなってもずっとそのまんまだよね。何度でも言ってや
ろうか? アンタは悪魔の恥なんだよ、クズ」
ウオッカは容赦ない。
292 :
31:2007/06/03(日) 10:41:01 ID:5vOR9DeZ
「むぅぅぅぅぅ……図に乗ってんじゃないわよこのクソアマぁー!!」
ホークの体が、黒く変化していく。背中からは短く太い翼が生え、目は大きな
鳥目に変わる。そして口には鋭い口ばしが出現した。
ホークの体は、まるで人間と鷹の融合体のようだった。
「ブラック・ホーク。アンタ、やっぱその姿が一番マシだよ。あ、でも確かアン
タ飛べないんだっけ? だっさぁ」
図星だった。ホークは翼を持っているが空を飛べなかった。
「ほざくなぁー!!」
ホークは翼をひと羽ばたきさせる。そしてその反動を使って凄まじいスピード
でウオッカに襲い掛かった。
「シャアァー!」
ホークは鋭い爪を一閃させる。ウオッカはぎりぎりまでホークを引きつけてそ
の爪をかわし、ジーンズから取り出したナイフでホークに斬り返す。しかしナイ
フはホークを捉える事は出来ず、空振りした。
ホークは後方にバック転し、ウオッカと距離を取った。
「小娘が……」
ホークはウオッカの思わぬナイフさばきに幾分冷静さを取り戻し、慎重に距離
を取る。
「さー、次ははずさないよ」
ウオッカはナイフの切っ先をホークに向けて言った。
…………………………………
293 :
32:2007/06/03(日) 10:49:25 ID:5vOR9DeZ
地下鉄を降りた私たちは、複雑に入り組んだ梅田駅の地下街を抜けて階段を駆
け上がる。阪神、阪急、大きな文字が己を主張して私の視界に飛び込む。
「ええと、大きな爆発音のような音がしたのは梅田の中心部らしくて、警察もま
だ詳細は掴めていないらしいです!」
スカーレットは携帯電話でニュース速報を確認し、私とカーナに伝える。
「どう? カーナ」
「可能性は高いと思います」
「まったく、なんで悪魔ってどいつもこいつも目立ちたがり屋なんだろっ」
私たちはとにかく街中を走った。街の人たちは口々に恐いとかどうしようとか
口走ってはいるが、特に足を止める様子も気にする様子も無い。
――無関心さは東京とさほど変わらないな。そんな青臭いことを考えながらも、
ピンクカメオ一味を探して走った。
と、私の携帯電話の着信音が鳴った。表示画面には、千明ちゃん、と出ている。
「もしもし?」
『あっ、もしもし、千明です。事情はウオッカに聞きました、もしかしたら近く
にいるかもと思って。私とウオッカも、今、大阪にいます』
「えぇ!? なんでウオッカと千明ちゃんが大阪にいるわけ?」
『それはまた後で。それよりも、ウオッカが先走っちゃって。ピンクカメオの奴
らは、梅田スカイビルにいます』
梅田スカイビル。私は目線を上げて空を見回す。一際目立つ2つの背の高いビ
ルが頭に屋根を渡して、積み木みたいに並んで立っているのを発見した。
「千明ちゃん、ありがと!」
私は携帯電話を閉じてスカーレットとカーナに内容を伝えた。
「行こうっ!」
294 :
33:2007/06/03(日) 10:51:35 ID:5vOR9DeZ
ヨドバシカメラを横目に、私たちは直線距離でスカイビルまで一番近そうな道
を人を掻き分け走った。スカイビルに近づくほど、その人数が減っていく。「今
日はスカイビル休みやって」「えーほんまに?」という会話が耳に入ってきた。
ピンクカメオ一味はどうやらビルそのものを乗っ取っているようだ。
途中に“立ち入り禁止”と書かれた看板を見つけたが蹴っ飛ばして無視し、ス
カイビルの玄関前の広場に到着したときにはすでにひとりの人影もいなくなって
いた。
騒がしい大阪の街で、スカイビル周辺だけが不気味な静寂に包まれていた。ま
だ警察も来ていない。
「よし、中に入ろう」
私がスカーレットとカーナにそう言うと、2人はコクンと頷く。
しかしその時。
広場をぐるりと囲む建造物の陰から、体格のいい男たちがスケートボードやピ
ストタイプの自転車に乗ってぞろぞろと顔を出してきた。
全員、黒いマスクと黒いTシャツ、ダボダボのパンツを着用している。そして
私たち3人を取り囲みぐるぐると渦を巻くように周囲を回り始めた。
「なぁ、ねえちゃんら俺らと遊ばへん?」「3人ともむっちゃ可愛いやん」「な
ぁ、ええやろ?」
男たちは妙にざらついた声で口々に好きなことを喋りかけてくる。
少しづつ、私たちとの距離を詰めるのが分かる。
その中の1人が、マスクを降ろしてスカーレットに顔を近づけてきた。
295 :
34:2007/06/03(日) 10:59:40 ID:5vOR9DeZ
「なんかごっつええ匂いするやん。俺、ええにおいのする子が好きなんや」
スカーレットは怯えた子猫のようになる。男はニヤニヤと笑いながら、今度は
スカーレットに手を伸ばしてきた。
しかし、その手がグイッと捻り上げられた。カーナだ。
「汚い手でスカーレット様に触れるな」
カーナはそのまま男を突き放した。
「いったー、なにすんねん、ねーちゃん! まあでも、気ぃ強い子も嫌いやない
で」
懲りない男は、今度はカーナに顔を近づけて匂いを嗅ごうとする。
「おい」
「なんや? ねーちゃん」
「臭い息を吐きかけるな」
ズドンッ。
鈍い音がして、くの字になって男が後方に吹き飛んだ。カーナが男にボディブ
ローを打ったのだ。
「おうコラ、なにするんじゃ!」
別の男がカーナに殴りかかる。カーナはその男の拳をいとも簡単に受け止めた。
そしてその細い身体からは信じられないような力で腕を引っ張り上げた。
「いたたたたっ!」
男がうめき声を上げる。その男の腕をカーナはジッと見て、
「おまえ、いい時計をしているな」
と言い、男がはめていたデジタル腕時計を手早くはずし、男の尻を蹴飛ばした。
男は前のめりに仲間の男たちの中に突っ込む。カーナはその間に自分の腕に時計
をはめ、いくつかスイッチを押して機能を確かめ始めた。
「コラァ、俺のGショックやぞ!」
カーナに蹴飛ばされた男が立ち上がって、再びカーナに突っかかっていく。カ
ーナは時計を弄りながらくるりと反転し後ろ回し蹴りを放った。男は、またして
も仲間の男たちの中に転がっていった。
「よし、理解した」
カーナはようやく腕時計から目を離し男たちをジロリとひとにらみした。
296 :
35:2007/06/03(日) 11:09:30 ID:5vOR9DeZ
「……かっこいいー」
私は思わず感嘆の声を漏らした。なんてスマートな闘いぶりなんだろう。ちょ
っと惚れそうだ。
「涼子さん、少しの間、スカーレット様をお願いします」
カーナはそう言うと、私たちを取り囲む男たちを威嚇するようにジロッ、ジロ
ッっとにらみつける。その迫力に、男たちは1歩、2歩と後ずさりする。
「カ、カーナ、あんまり手荒なことしちゃダメだよ」
スカーレットがカーナにそう言った。
大丈夫なのだろうか。いくらカーナが強くとも、相手は喧嘩慣れした風な男た
ち10数人。何か手があるのだろうか。
「この憑依体の身体に負担が掛かるので、動けるとして10秒。でも、それだけ
あれば十分です」
カーナはそう言うと、デジタル腕時計のタイマーのスイッチを押した。
カーナの姿が、一瞬、消えた。
と、次の瞬間、マスクの男の1人が、大きく上に吹き飛ぶ。
私の目の前を、何かが目にも止まらぬ速さで駆け抜けた。そして私の後ろにい
た男が腹を押さえてその場に倒れる。
「えっ? えっ?」
ドカッ、バキッ。
男たちが鈍い音と共に次々となぎ倒されていく。男たちの間を、凄まじい速さ
で何かが駆け抜けていた。
「うわぁぁ!!」
最後に残った男が、背中を向けて逃げようとする。しかし、逃げる男の体がピ
タリと止まった。そしてそのまま後ろに大の字になって倒れた。
297 :
36:2007/06/03(日) 11:12:39 ID:5vOR9DeZ
「――ストップ。ジャスト、10秒ですね」
倒れた男の脇に、カーナが立っていた。そして、デジタル時計のアラームが鳴
る。カーナはスイッチを押してアラームを止めた。
あっという間の出来事に呆然とする私に、スカーレットは言った。
「これがカーナの能力。カーナは身体能力を最大まで高めて、限界ギリギリの速
さで動くことが出来るんです。ねっ、カーナ」
カーナははにかんだ様に笑っている。
「すっごい。仮面ライダーみたい」
私も絶賛した。
ますます照れた表情になったカーナだったが、ふと真顔に戻り横目で周囲を窺
っている。
――カーナに倒されたはずのマスクの男たちが、まるでゾンビのように起き上
がってきた。
「最初から、そうやって正体を現していればいいんだ。下手な演技をせずにな」
カーナはそう言って私とスカーレットに手で合図した。
自分は、男たちの動きに目を光らせる。
男たちの眼は先程までとは輝きが違っていた。そう、まるで悪魔に取り憑かれ
たように。
「ここは任せてください、2人は早くビルの中へ!」
カーナは男たちの中へ飛び込んでいった。
「よし、スカーレット行こう!」
「はい!」
…………………………………
298 :
37:2007/06/03(日) 11:16:54 ID:5vOR9DeZ
「アンタ、部下を出っ払っちゃってよかったのかい?」
ウオッカとホークの闘いはすでに数10分が経過していた。しかしほとんどが
小競合いでお互い決定打は無い。
「あんたはこのアタシが直々に嬲りころしてあげるわ。むしろ邪魔者がいなくな
ってスッキリしたわよん」
「あっそう」
「天使の戦闘力なんてたかが知れてるわよ。部下どもで十分」
「フン、あんまり甘く見ないほうがいいと思うけどね」
ウオッカは笑う。
ホークもにやりと笑って返した。
と、ホークは高くジャンプし、空中庭園のエントランスの屋根に飛び乗った。
(上から狙ってくる……?)
ウオッカは身構える。しかし、ホークの見据える先は違っていた。
――2つのビルを繋ぎ、屋上に向かうエスカレーターを涼子が駆け上がって来
るのが見えた。エスカレーターは透明の筒状のガラスに覆われていて、外から丸
見えだ。
「あのバカッ!」
ウオッカがそう叫ぶと同時に、ホークはエスカレーターに向かって飛び降りた。
獲物を狙う鷹のように。
299 :
38:2007/06/03(日) 11:19:20 ID:5vOR9DeZ
はぁ、はぁ。
私はウオッカとピンクカメオのボスが闘っている、その屋上に向かうエスカレ
ーターを必死に駆け上がる。ピンクカメオ一味がやったのか、エスカレーターは
動きを停止していた。
別に私が行ったところで何か出来るわけではないのかもしれないが、じっとは
していられなかった。
ここまで登ってくる途中でお客さんやビルの職員の人たちが閉じ込められてい
るのを発見した。その場はスカーレットに任せ、私は1人で屋上に向かったのだ。
――ふと、月に照らされている空が暗くなった気がした。
気のせいではなかった。私の頭上に、何かが降ってくる。
とっさに後ろに避けた。いや、正確には転がった。
ガシャンッ、と乾いた響き。
さっきまで私がいた場所に、割れた大小のガラス片が落ちて来た。
天井を見上げると、鋭い爪が生えた太い手が私のいた場所に伸びていた。
「……よくかわしたわねぇ」
黒い鷹の姿をした半人半鳥の悪魔がくぐもった声でそう言った。
こいつが、ピンクカメオのボス!
300 :
39:2007/06/03(日) 11:22:01 ID:5vOR9DeZ
「ターッ!」
かん高い叫びが聞こえる。そのボスの上から、ウオッカがボスに向かってナイ
フを振り下ろしながら飛来するのが見えた。
「チッ!」
ボスは人間の姿に戻った。それは以外にも小柄な男で私は拍子抜けした。ボス
は私に一瞥をくれると、エスカレーターを脱兎のごとく駆け下りて去っていった。
ドンッ、とお尻が弾む。
ウオッカが私のそばに降ってきた。地上140mのスカイビルでもウオッカは
臆すること無い。まあこいつは飛べるからなんだろうけどっ。
「ちょっと、美咲ちゃんの身体なんだから少しは大事に使いなさいよバカ!」
「バカはアンタだろ! 無防備に何やってるんだ! おかげであいつ逃がしちゃ
っただろーが!」
そうだ、おもわず腰が抜けて奴を見逃してしまった。一生の不覚。
「もう! 私にもなんか武器ちょうだいよ! もうゴムパチンコはいやだけどね!」
「贅沢言うなバーロー! とにかく今はホークを追うよ!」
私とウオッカはエスカレーターを揃って駆け下りた。
…………………………………
301 :
40:2007/06/03(日) 11:26:16 ID:5vOR9DeZ
悪魔の本性を現したマスクの男たちは、巧みにスケートボードとピストバイク
を使いカーナに波状攻撃を仕掛けてきた。カーナはそれを狼のような華麗な身の
こなしでかわす。
高速化能力は身体の負担が大きいためそう軽々しく使えない。
「はっ!」
カーナはスケートボードの男に前蹴りを食らわせ気絶させる。襲ってくる男た
ちを同じように順調に倒して行った。
と、カーナの視界に閉じ込められていた客と職員が逃げる様子が入って来た。
それを扇動するスカーレットはカーナの方をちらりとみてウインクする。
――よし。
カーナは事がうまく進んでいるのを確認し残った数人の男たちを片付けようと
構え直す。
しかし、男たちは少しづつカーナから距離を取り始めた。そして、背中を向け
ビルの方へ走り去っていった。
「なんだ?」
カーナは逃がすまいと男たちを追う。男たちが走る先に目を向けた。
1人の小柄な男が、手招きをして逃げたマスクの男たちをビルに招き入れてい
る。その小柄な男を見てカーナはピンクカメオ一味の頭首であると確信した。
「逃がすか!」
カーナは一気に差を詰め、飛び蹴りを放った。
しかしその瞬間、頭首の体が黒い鷹に変化し翼を羽ばたかせ、その強風でカー
ナを押し戻した。
302 :
41:2007/06/03(日) 11:29:41 ID:5vOR9DeZ
「きゃあ!」
カーナは大きく吹き飛び、地面に叩きつけられた。
「うぐ……」
それでもカーナは立ち上がる。
そして、その黒い鷹を凝視した。
「おまえは……」
――カーナは黒い鷹に見覚えがあった。昔、まだ自分が幼い子供だったときだ。
黒い鷹は再び人間の姿に戻りビルの中に消えていく。
「カーナ! 大丈夫!?」
客と職員の避難誘導を終えたスカーレットがカーナに駆け寄った。
しかし、カーナはジッと男たちが逃げた方を凝視したままだ。
「奴は……あいつは……!」
カーナの表情は、徐々に険しく変わっていく。
「カーナ、どうしたの!?」
カーナの耳にはスカーレットの言葉も入っていなかった。
「……うああああー!」
カーナは走り出した。
…………………………………
303 :
42:2007/06/03(日) 11:34:37 ID:5vOR9DeZ
エレベーターは生きていた。私とウオッカはスカイビルを降り、ロビーを抜け
てカーナが闘っているはずの広場へと向かう。
「ちょっと何やってんだアイツ?」
ウオッカがそう言った。
カーナがこちらへ向かって猛然と走ってくるのが見える。
「なんだなんだ?」
ウオッカは首を傾げる。
その時、私とウオッカの後ろで車のエンジン音がした。振り向くと、爆破され
開けられた壁の穴から、1台の車と3台のバイクが飛び出していくのが見えた。
やつらめ、その為にわざわざビルを爆破したのか。逃走経路を作るために。
そして、その車とバイクをカーナが獣のごとく追った。
「なんだカーナのやつ、えらく張り切ってるじゃんか」
ウオッカは訝しげな顔だ。
カーナは、さらに速度を上げた。
「逃がさんっ!」
走るカーナは、デジタル腕時計のスイッチを押す。
カーナの姿はまるで細い線が幾重にも重なっているように見え、彼女の残像が
それを消すようにして私の目に飛び込んでくる。
高速化だ。
カーナはあっという間に1台のバイクに追いつき、乗者の頭を蹴飛ばしてバイ
クから突き倒した(様に私には見えた)。
304 :
43:2007/06/03(日) 11:35:55 ID:5vOR9DeZ
続いて車に向かって飛びつくが、車は急にUターンして私たちの方を向いた。
「やばい!」
ウオッカが叫ぶ。私とウオッカはぎりぎりのところで横っ飛びで車を避けた。
避けた瞬間、私はボスの顔を見た。笑っていやがる。
カーナは時間切れがきたようで足でブレーキを掛けて止まった。腕時計のアラ
ームが鳴り、カーナはスイッチを叩くように押して止める。
「はぁ、はぁ……くそっ!」
カーナは恨めしそうに車を見送っている。無理をしたのか、吐く息は荒かった。
「あっ……!」
カーナが息を吐くのを止め、大きく目を開いた。なに?
瞬間、ドスンッ、と重く深い音がした。
私も車が走り去る方向を見る。
……なんてことだ。
さっき避難されたとき、逃げ遅れたのだろう。
1人の若い女性が血を流して倒れている。そしてその女性の横で、幼い女の子
がママ、ママと言ってその女性を揺さぶっていた。
…………………………………
305 :
44:2007/06/03(日) 11:38:30 ID:5vOR9DeZ
「おい、どうするんだよ!?」「わからねーよ! ホーク様、俺達を見捨てやがったんだ!」
ホークの乗る車からはぐれてしまった2台のバイク。乗っているピンクカメオ
一味の悪魔達はノロノロと走って自分たちのこれからの処遇を相談していた。
「おまえ、戻るか!?」
「嫌だよ、もうあいつの下で働くの!」
「だよなぁ……って、おい、あれ」
走る車もほとんどない、静かな道路の中央に、1人の髪の長い女が立っている
のが見えた。背中には日本刀を背負っている。
千明だった。
千明は口の端を上げるだけの、不気味な笑みを浮かべている。
「お、おい、あの女、ウオッカ達の仲間か!?」
「なんでもいい、構うもんか、このまま轢き殺しちまえっ!」
2人はバイクの速度を上げ、千明に向かって突っ込んでいく。
千明は慌てること無く、鞘からすらりと日本刀を抜いた。そして逆手に持ち替
え、槍投げに似た姿勢をとる。
「おい、まさか……!」「ど、どっちに投げるんだっ?」
千明は微動だにしない。ただ、不気味に笑みを浮かべているだけだ。
「うわぁ、うわぁぁ!!」「どわぁ!!」
2人はそれぞれに右と左にハンドルを切り、横転した。バイクから身を投げ出
された2人は千明の両横を滑っていき街路樹に激突した。
「……なぁんちゃって」
そう独り言を言って、千明は日本刀を背中の鞘に戻した。ふぅ、と息をつく。
ふと、千明の後ろにスカーレットが立っていた。だが、その顔はどこか暗い影
を落としている。
「スカーレット、ちょうどよかった。この2人を封印して……」
千明がそう言い掛けて、止める。
スカーレットの目に、涙が浮かんでいたのだ。
「……どうしたの?」
…………………………………
306 :
45:2007/06/03(日) 12:17:16 ID:5vOR9DeZ
ホークの乗る車に轢かれた女性が、救急車で運ばれた。私たちはその女性の子
どもである女の子を連れて病院に駆けつけた。
母子家庭で他に身寄りが無いらしく、病院に来る親類は1人もいなかった。母
親と女の子はたまたまスカイビルに遊びに来ていてたまたま事件に巻き込まれて
しまったのだ。
“手術中”のランプが灯る病院の廊下の長椅子に私とカーナは腰掛けている。
少し離れたロビーの椅子で、スカーレットが沈んでいる女の子をなだめている。
鉛みたいに重い沈黙が流れる。大袈裟じゃなくて本当に。
カーナが口を開いた。
「わたしがあんなに取り乱さなければ……このようなことは防げていました……」
「ううん、カーナはよく頑張ったよ」
「……ありがとうございます」
「でも、どうしてあんな……?」
「……奴は、ホークは、わたしが幼いころにわたしの母を殺した男なんです」
「なんですって! じゃあ、カーナがずっと追っていた事件って……」
カーナは頷いた。
「名前までは掴めていませんでした。でも、さっき奴の姿を見てはっきりと思い
出したんです。黒い鷹の盗賊、ホークに間違いありません。わたしの目の前で母
を殺した、悪魔……!」
カーナは唇を噛み締めた。
307 :
46:2007/06/03(日) 12:20:06 ID:5vOR9DeZ
「母を失ったわたしは、成長してからも荒んだ生活をしていました。およそ天使
らしくない。一時は悪魔に堕ちかけたこともありました。でも、それを救ってく
ださったのがガブリエル様なんです」
「そうだったんだ……」
「ガブリエル様は『つらいときや苦しいときは胸に手を当てて祈りなさい。そう
すれば、きっと心が導いてくれます』と仰いました。そして、スカーレット様や
マーガレット様と分け隔てなく優しく接してくれました。わたしは、とても嬉し
かった……」
昔のことを思い出したのか、険しかったカーナの表情が少し和らぐ。
しかし、すぐに泣きだしそうな顔に変わった。あのカーナがこんな悲哀の顔を
するなんて。
「わたしはっ……またホークと闘うときにも、平静でいられる自信がありません
っ! 奴が、ホークが憎くて仕方が無い……!」
カーナは声を絞り出すように叫ぶ。その声に驚いて、スカーレットがこちらを
見る。
「それに、それにあの子の母親が死んでしまったらっ……あの子をわたしと同じ
にしてしまう……」
カーナはうつむいて嗚咽する。カーナの心の中で、様々な葛藤が渦巻いている
のだろう。それはあまりにも重く純粋で、私は何も言ってあげることができない。
私はカーナの側に座って彼女の頭を撫でてあげた。私はどうすればいいのだろ
う。分からないが、今の私に出来ることはこれぐらいしか思い浮かばなかった。
「うぁぁぁ……」
カーナは私にしがみついて声を出して泣き始めた。私は、ただずっとカーナを
撫で続けてあげた。
…………………………………
308 :
47:2007/06/03(日) 12:28:45 ID:5vOR9DeZ
千明に倒された2人の悪魔は、病院の庭にシンブルのように立っているヤシの
木に縛り付けられていた。2人を縛ったロープにはスカーレットの防御魔法がか
けられており、低級悪魔の2人ではどうすることも出来ない。
深夜ということもあって誰も近くを通り掛かる者はいない。
その2人を、ウオッカと千明はジッと見下ろして立つ。
「で、おまえらのアジトはどこだ? そこにホークもいるんだろ」
ウオッカが尋ねる。
「言えないな」
男の1人がそう答える。
「鉄の団結力、ってわけじゃないんだろ? おまえらみたいな低級の悪魔にそん
なもん無いしな。大方、ホークの報復が怖いんだろ?」
ウオッカはそう言って男たちの目の前にしゃがみ、顔を覗き込む。
「言えないものは言えない」
男たちはウオッカから目を逸らしてとぼける。
おもむろに、ウオッカは男たちが履いていたスニーカーを脱がせ始めた。そし
て靴下も。両足とも全て脱がす。
「おい、何をするんだ」「やめろ!」
男たちはそう言って足をバタつかせた。ウオッカはそれを見て楽しそうに笑い、
ジーンズのポケットからナイフを一本取り出した。
「よく切れそうだろ、え? 指を11本にしてやろうか? それともゼロがいい
か?」
ウオッカはナイフの刃を手で弄ぶ。
「ちょ、ちょっと待て……俺達は人間の体を使っているんだぞ? この体の男が
どうなってもいいのか?」
309 :
48:2007/06/03(日) 12:30:42 ID:5vOR9DeZ
「おまえらアホだろ? 私は悪魔だよ。知ったこっちゃない」
ウオッカはナイフを地面に突き立てた。
「先に吐いた方は勘弁してやる」
ウオッカはニコリと笑う。
「ちょっとウオッカ、足の指じゃなくて手の方がいいんじゃない?」
千明が言った。
「おお、そうかな。じゃあ足の指が全部無くなったら次は手だね。ちなみに、そ
こにいるチアキは人間のくせに血を見るのが大好きなやつなんだ。おまえら生き
て天上界に帰れないかもな」
ウオッカがそう言うと千明は背中から日本刀を抜く。
男たちは千明の不気味な笑みを見て、震えが止まらない。
「わ、分かった! 言う、言うから!」「てめぇきたねぇぞ! 俺が言う! ホ、
ホーク様は天保山のアジトにいるっ!」「ば、場所はだな……」
男たちは我先にとウオッカに進言する。
「テンポーザン? どこそれ?」
ウオッカが千明に訊ねる。
「海があって、水族館があって、観覧車があるとこ」
千明はそう答えた。
「オッケー。じゃあおまえら、おやすみ」
ウオッカはそう言って、2人の頭をナイフの尾で殴り気絶させた。
「じゃあ行こうか。あとでスカーレットを呼んできてこいつら封印させよう」
ウオッカは立ち上がって言った。
「あんたさぁ、人を殺人鬼みたいに言わないでよね。誰が血を見るのが好きだっ
て?」
チアキは文句を言う。
「何言ってんだよ、アンタもノリノリだったくせに」
「まあ、ね」
310 :
49:2007/06/03(日) 12:38:24 ID:5vOR9DeZ
…………………………………
…………………………………
『やめて! お母様を殺さないで!』
わたしは叫んだ。
でも、黒い鷹はそれが面白くてたまらないという顔をする。
『お願い! 助けて! お願い!』
黒い鷹は、お母様の背中に爪を突き立てた。
『いやだぁぁぁーー!!』
……。
いけない。気が緩んだ。
ほんの少しの間だが、眠ってしまっていたのだろう。
悪夢を見ていた。とても恐ろしくて、どこまでも深い、わたしの中の悪魔。
目が覚めると、涼子さんがわたしを膝枕をして頭を撫でてくれている。
――やっぱり、ガブリエル様に似ている。
そう、思った。
…………………………………
…………………………………
311 :
50:2007/06/03(日) 12:45:29 ID:5vOR9DeZ
「リョウコ、ホークの居場所が分かったよ」
ウオッカと千明ちゃんが戻ってきた。アジトの場所を聞き出すと言っていたが
上手くいったのだろうか。
「案外素直に吐いたよ。この私が優しく手ほどきしてあげたからね」
ウオッカは鼻を鳴らして言った。なぜだか千明ちゃんが引きつった顔をしている。
「じゃあ、ともかくそのアジトに行ってみようか。スカーレット、あんたはその
子に付いててあげて」
私はスカーレットに言った。女の子の肩に手を添え、スカーレットは頷く。
「分かりました。そうだ、涼子さん、これ」
スカーレットはおもむろにハンドバッグから小さな石を取り出した。
「封印石です。これは一時的に悪魔を封印するためのものです。悪魔たちが動け
なくなったらこれを使って封印してください」
そういえば、ベラのときに使ったのを憶えている。私はそれを受け取った。
「……カーナ」
呼びかける。まだダメか。カーナは虚ろな目をして座ったまま。
「おい、カーナ、どうしたんだよ、アンタらしくもない」
ウオッカがカーナを促す。
「あの、実はね……」
――私はカーナの過去のことをみんなに言って聞かせた。ホークがカーナの母
を殺した悪魔だということを。
皆、黙ってそれを聞いた。スカーレットは目に涙を浮かべ、千明ちゃんは目を
閉じて唇を噛み締めている。
312 :
51:2007/06/03(日) 12:51:09 ID:5vOR9DeZ
「だったらぶっころしちまえばいいんだよ」
唐突に、ウオッカが口を開いた。
「で、でも、憎いからといって憎しみのままにそのような行動を起こすのは……」
スカーレットはウオッカの言葉に賛成しかねるようだ。
「どこまでお人良しなんだよアンタは。親の敵なんだろ? そいつを目の前にし
て普通でいられるかよ。それにスカーレット、前回の事件でマーガレットがベラ
にころされかけたときの、あの時のアンタの怒りは嘘だったのか?」
ウオッカはスカーレットを蔑んだふうな眼で見た。ウオッカがこんな眼をする
のは見たことが無い。
――ベラにエネルギーを吸われて動かなくなった妹のマーガレットを見て、ス
カーレットは怒り、ベラを矢で磔にした。あの時のスカーレットは明らかにいつ
もの心優しいスカーレットとは違っていた。
「まあ、そういうのが性に合わなかったから私は天使をやめたのかもね。どっち
にしろこれはカーナの問題だ。カーナが決めるといいさ」
ウオッカは病院の出口に向かって歩いていった。千明ちゃんがそれを追って走
り出す。
一方、黙ったままのカーナ。しかしゆっくりと椅子から立ち上がり、眼をこす
って頬を2度パンパンと叩いた。
「大丈夫です。わたしはガブリエル様の教えを受けた天使ですから」
カーナは気丈にそう言った。
「よし。ケリをつけにいこう!」
…………………………………
313 :
52:2007/06/03(日) 12:55:05 ID:5vOR9DeZ
天保山ハーバービレッジ。海遊館、大観覧車、商業施設など海に面した様々な
建造物が立ち並ぶ。
辺りはすでに人影もなく、施設の営業もほとんどが終了していた。
ここのどこかにホークは潜んでいるのだろうか。いや、とっくに見切りをつけ
てアジトを替えているかもしれない。それでも手がかりが他に無い限り私たちが
来る場所はここしかない。
私たちは車を停めて、歩いて探すことにした。4人で手分けして怪しそうな場
所を回るが、ホークどころか人ひとり見当たらない。そもそもこんな目立つとこ
ろに奴らはいるのだろうか。いや、すぐそこのホテルに部屋を借りて潜んでいる
かもしれない。方々探し回った私たちは海遊館前広場に集合した。大観覧車が高
くそびえ立ち、私たちを見下ろす。
「まるで気配も無いわね」
「でも、確かに悪魔の残り香はします。ここの近くにいたことは間違いないかと」
カーナが言う。
「あのヤローども、ハッタリか? 身を隠すったって、こんなとこに……」
ウオッカは訝しげな顔をする。
「とにかく、もう1度手分けして……」
千明ちゃんがそう言おうとした。
『その必要はないわよん』
314 :
53:2007/06/03(日) 12:59:12 ID:5vOR9DeZ
特徴のある、くぐもった裏声が響き渡った。私たちは一斉に声のした方を向く。
「ようこそ」
黒い鷹の姿をしたホークが腕を組んで立っていた。手には何故かCDラジカセ。
そして物陰からはぞろぞろとマスクをした男たちが現れた。その数、ざっと50
人か。
「いらっしゃい、アタシのショーへ」
……私たちはホークを追っていると思っていたが、どうやら奴の術中にはまっ
たようだ。
「何がショーだよヘンタイ野郎。数そろえて勝ったつもりか? ちょうどいい、
ここでおまえらまとめてぶちのめしてやるよ。覚悟は出来てるのかっ!?」
ウオッカが啖呵を切る。こういうときのウオッカは頼りになるよ、ほんとに。
カーナはホークをジッとにらみつけている。何を想っているのだろうか。
千明ちゃんは背中の日本刀に手を掛け、男たちの動きに注意を払っている様子
だ。
ホークはウオッカの啖呵も気に止めずに、CDの再生ボタンを押した。奴には
不似合いな美しいピアノの旋律とハイトーンの歌声が聴こえる。
と、その音に紛れてウオッカが私たちに小さな声で囁く。
「……リョウコ、チアキ、カーナ。いいか、リョウコはチアキが仕留めた悪魔を
封印石で封印しろ。私はホークの周りを固める雑魚をやる。カーナ、アンタはホ
ーク一匹だけを狙え」
全員賛成だ。私たちはこくんと頷いて返事した。
Muse - New born
http://youtube.com/watch?v=qZrxVng6YBc&mode=related&search=
315 :
54:2007/06/03(日) 13:05:11 ID:5vOR9DeZ
「やっちまいなさいっ!」
流れてくるピアノの音が、ギターの爆音に変わった。それと同時にホークが叫
ぶ。
ホークの号令で、男たちが一斉に襲い掛かってきた。私たちは四方に散って第
一波をかわす。千明ちゃんはヘアピンを取り出して手際よく髪をまとめて短くし
て留める。そして日本刀を抜き、男を1人、袈裟に斬り倒した。そして返す刀で
もう1人仕留める。もちろん、物理的に切ったわけではない。ウオッカの作り出
す武器は使用者の能力で左右され、可能なら精神だけを断ち切って悪魔と憑依さ
れている人間を切り離すことが出来る。
そして、千明ちゃんはそれが出来る“達人”である。千明ちゃんが斬った男た
ちの背中から、黒い煙に似た不気味な塊が浮かび上がる。それが悪魔の実体だ。
「えーと、こうかな? てりゃ!」
私はスカーレットからもらった封印石をその黒い煙の方に向ける。煙は掃除機
に吸われるみたいに封印石に吸い込まれた。
その様子を見ていた他の男たちは驚いた表情でジリ、と後ずさりする。よし、
奴らビビッてるな。
「さぁ、次は誰が封印されたいのっ!」
つい調子に乗って言ってしまった。男たちはビクンと体を震わせたが、開き直
った様子でやけくそ気味に私に襲ってきた。
「わー! ちょっとタイムタイム!」
私は背中を向けて逃げる。そこに千明ちゃんがやってきて襲ってきた男をバサ
バサと斬り伏せた。
「涼子さん、あたしから離れないで」
「う、うん、そうする」
私は千明ちゃんの後ろに隠れて、ウオッカとカーナの様子を窺った。
316 :
55:2007/06/03(日) 13:10:38 ID:5vOR9DeZ
カーナは襲ってくる男たちを軽快にかわし華麗にカウンターを打ち込んでいる。
しかし、その狼のごとき眼光は常にホークの方を見据えている。
「タァ!」
ウオッカは両手一杯にナイフを持って、それをホークに投げつける。狙いは足
元だ。だが、ホークを庇うように男たちが立ちふさがり身代わりになってナイフ
を受けた。
「フフン、残念でした、おバカさん」
ホークは小ばかにした口調で笑うが、
「バカはおまえだよっ! 今だ、カーナ!」
ウオッカの声にカーナは素早く反応し、一直線にホークに向かっていった。も
うホークを庇う部下の男たちは残っていない。
カーナが勢いよく右の拳で正拳突きを放つ。
ドン!
決まった。ホークはまともにそれを腹に喰らった。その衝撃でか、ホークは懐
に入れていた天使の卵を落とした。
ウオッカはその気を逃さず天使の卵を回収する。
「小娘めっ……」
ホークは爪を尖らせてそれをカーナの頭上に降らす。しかしカーナはホークの
腕を掴んで止めた。
2人の力比べが始まった。
「おい……貴様、わたしを憶えているかっ!?」
カーナがホークをにらみつけてそう言った。
「フン、知らないわね」
ホークは強い力でカーナを押し潰そうとする。
「貴様は、わたしの母の仇だっ!」
カーナはホークの爪を押し返した。ホークは舌打ちをして後ろを向き、凄まじ
い速さで走り出した。
「待て! また逃げるのかっ!」
カーナはホークを追って走った。
317 :
56:2007/06/03(日) 13:14:25 ID:5vOR9DeZ
…………………………………
「ここだここだ。涼子さん、どこですかぁー?」
スカーレットは涼子たちを追って天保山に来ていた。いてもたってもいられな
かったのだ。女の子はだいぶ落ち着いたのでナースステーションに預けてきた。
方向音痴のスカーレットだったが、覚えたての携帯電話のGPS機能を使って
場所を探し当て飛んできたのだった。
「えーと、あれ?」
スカーレットは一際目立つ大観覧車に目を向けた。
「あれは……カーナに、ホーク!」
…………………………………
318 :
57:2007/06/03(日) 13:16:53 ID:5vOR9DeZ
ホークは軽い身のこなしで大観覧車を駆け上がっていく。上へ上へ、次々に鉄
柱に飛びつく。
「今度は絶対逃がさない!」
カーナは腕時計のタイマーのスイッチを入れた。右足を引き、身を低くする。
「はっ!!」
カーナは一気に大観覧車を走って駆け上がり、一瞬でホークの背中に迫った。
「くらえ!」
カーナは蹴りを放つ。ホークはそれを背中に受け、大観覧車のゴンドラのひと
つに頭から突っ込んだ。カーナもそれを追って同じゴンドラに乗り込む。
アラームが鳴り続ける腕時計。
カーナはそれを止めることもせず、倒れたホークを険しい顔で見下ろしている。
「いたぁい……ね、ねぇ待って……! ごめん、アタシが悪かったわ……た、助
けて、ね、ね?」
ホークはカーナに許しを請うた。
「貴様は、そう言って命乞いしたお母様を殺した!」
カーナはホークの顔面を強く蹴りつけた。
「いだぁい! ちょ、ちょっと、あんたそれでも天使なのっ!?」
「ああ。でも、貴様にとっては悪魔かもなっ!」
カーナは再びホークを蹴りつけようとした。
しかしその時。
――ズドンッ!
319 :
58:2007/06/03(日) 13:19:08 ID:5vOR9DeZ
ウオッカたちが闘っている広場で、大きな爆発音がした。
「なんだっ!?」
カーナはゴンドラの窓から下を覗いた。その刹那。
ズブ。
カーナは左肩に強烈な痛みを感じた。
「おバカさん」
ホークの爪が長く伸び、カーナの肩に突き刺さっていた。
ホークはそのまま立ち上がり、爪を突き刺したままカーナをゴンドラの窓に押
し付ける。
「うぅ……」
カーナは苦しげに息を吐く。
「思い出したわん、あんた、あの時のベイビーちゃんね。ごめんねぇ、許してね
ぇん。アタシもほんとはとっても反省してるの……」
ホークはゴンドラのドアを蹴破った。
「なんてね! ウッソー! 調子乗るんじゃないっての!!」
ホークはカーナの頭を掴み、そのままゴンドラの外に放り出した。
ビュゥゥゥゥゥゥ……!
カーナは頭から真っ逆さまに落下していく。身体からは、血と共に力が抜けていった。
320 :
59:2007/06/03(日) 13:26:07 ID:5vOR9DeZ
――もうダメだ。お母様、ガブリエル様、申し訳ありません。
ホークのあざ笑う姿が脳裏に焼きついている。
ちくしょう。
カーナは目を閉じる。
死を、覚悟した。
「カーナァァ!!」
カーナは自分を呼ぶ声を聴いた。目を開ける。
スカーレットが、翼を広げてこちらに飛んできていた。カーナは懸命に手を伸
ばした。
地上まであと少しのところ。スカーレットはカーナの腕をしっかりと掴まえて
そのまま転げるように地上に着地した。
カーナはぐったりとして呻いている。スカーレットは抱きしめて「しっかり!」
と嘆いた。
…………………………………
321 :
60:2007/06/03(日) 13:31:29 ID:5vOR9DeZ
「ゲホッ、ゲホッ……おーい、リョウコ、チアキ、何とも無いか?」
ウオッカの大声が私と千明ちゃんのところに聴こえてくる。
「大丈夫よっ、けほっ……ったく、何なのこれ?」
ホークが置いたCDラジカセが、音楽が鳴り終わった瞬間爆発したのだ。しか
し煙が散漫するだけで、それ以外は実害は無い。
「あのヤロー、つまんないもの仕掛けやがって」
ウオッカはそう言って、煙幕の中を襲ってくる男を捕まえてポカポカ殴ってい
る。千明ちゃんは首に巻いていた花柄のスカーフを口に巻いて煙を防ぎ、冷静に
敵を見極め次々と斬り倒している。
「カーナ、無事かしら。ホークはこんなせこい手を使うやつだし、うまくやって
いればいいけど……」
私は煙幕の向こうに微かに見える大観覧車の方向を眺めた。
…………………………………
322 :
61:2007/06/03(日) 13:33:35 ID:5vOR9DeZ
「カーナぁ……」
スカーレットはカーナを抱きしめて涙を流す。
「スカーレット様、申し訳ありません……わたしは天使でありながら憎しみに負
けて……こんな……」
「ううん、カーナは立派だよ! カーナはきっと乗り越えられるよっ!」
「わたしもこのままお母様と同じように……ホークに……」
「そんなことさせない! 私が絶対にさせないからっ!」
スカーレットは再びカーナを強く抱きしめた。
「何を話してるのかしらん?」
ホークが、スカーレットとカーナのすぐ後ろまで迫っていた。鋭い手の爪を黒
い舌で舐め、足の爪をカチカチと鳴らす。
「あんた達、仲良しみたいだから一緒にころしてあげるわ」
ホークはそう言うと、いやらしい笑みを浮かべて、1歩、1歩と2人に近づいた。
しかし次の瞬間、ホークの足がピタリと止まる。
――足が、前に出ない。
ホークは己の足元を見る。そして驚愕した。
真っ赤な花が足元を埋め尽くし、そのツタが足元に絡み付いている。
ホークは顔を上げた。――辺り一面が、赤い花で埋め尽くされている。まるで
別の空間に引き込まれたようだった。
その花々は、スカーレットとカーナを囲むように咲いていた。
323 :
62:2007/06/03(日) 13:35:01 ID:5vOR9DeZ
カーナを静かに寝かせて、スカーレットはゆるやかに立ち上がった。
「あ、ああああ……」
ホークの体に、ツタが少しずつ絡み付いていく。まるでホークを喰らうように。
いつの間にか、ホークの前にスカーレットが立っていた。瞳の奥に底が見えな
い闇が拡がっているのが、ホークには分かった。
「お、おまえぇ……」
「――私、怒ります」
スカーレットの、瞳の奥で、赤い閃光が走った。
「ヒッ」
――ホークの体が後方に大きく跳ねた。
そのまま、海まで吹き飛んでいく。
「ヒィヤァァァァァ!!」
ホークは白目を剥いた。背中から海に落ちていく。
しかし、ホークが海に落ちることはなかった。
「よ、っと」
ウオッカだった。黒い翼を羽ばたかせ、ホークの首根っこを掴んで陸まで運んだ。
「おらよ」
ウオッカはホークを乱暴に放り投げる。ホークは地面をのた打ち回りながら叫
んで体を掻き毟っている。
「花が、赤い花がぁぁぁぁーー!!」
「なんだこいつは……?」
ウオッカは首をかしげた。
…………………………………
324 :
63:2007/06/03(日) 13:37:52 ID:5vOR9DeZ
カーナは無事なのだろうか。私と千明ちゃんはようやくホークの部下達を全て
片付けて大観覧車の元へ走った。ウオッカとは煙幕の中ではぐれてしまった。カ
ーナは正気を保って闘えるか分からないと言っていた。
もしかしたら……。嫌な考えが脳裏に浮かぶ。
「あれは……?」
カーナがいる! 血を流しているが無事だ。倒れているのは――スカーレット?
「カーナ!」
「涼子さん……千明さん……」
「ど、どうしてスカーレットが?」
「スカーレット様は、私を救ってくださいました。でもその後、意識を失われて
……」
一体何があったの?。
「あの、涼子さん、あれ」
千明ちゃんが私の肩を叩いた。私は千明ちゃんの指すところを見る。
そこには紐でぐるぐるに巻かれたホークが横たわって気絶していた。黒い鷹の
姿から小柄な男の姿に戻っている。そしてホークの頭に『にるなりやくなりすき
にしろ うおっか』と汚い字で書かれた紙が張ってあった。
「あいつ……何なの?」
よく分からない。が、こうしてホークが捕まっているところを見ると、どうや
らひとまずはケリがついたようだった。
325 :
64:2007/06/03(日) 13:42:49 ID:5vOR9DeZ
「あーっ!」
ふいに、千明ちゃんが大声を上げた。
「どうしたの?」
「天使の卵、ウオッカが持ったままですよ!」
「あーっ! そうだった! ウオッカのやつ、黙って持っていったんだ!」
そうか、なんでウオッカが今回の件に乗り気だったのかよく分かった。あいつ
め、最初っから天使の卵が目的だったんだ。
「天使の卵には、長年蓄積された天使の力が宿っています。悪魔はそれを扱えま
せんが元天使のウオッカなら……」
カーナがそう言った。そうか、あいつ、前回の事件でマーガレットを救うため
に大量の力を使ったからそれを補充するために……。
「そうだ、肝心なことを聞き忘れていました」
ふと、カーナがそう言って立ち上がり、ホークの元に歩み寄って頬を打ち目を
覚まさせた。
「ヒッ!」
「おい、なぜ天使の卵を奪った? もしや、誰かに頼まれたのか?」
「ヒィィ! ゆ、許してしてちょうだいっ!!」
「答えろ!」
「……殺される……赤い花の女に……!」
「貴様っ……!」
カーナはひどく狼狽している。ふと、横目でスカーレットを見た。
「ヤメテェェェェー!!」
がくん、と首が後ろにたれ、ホークはまた気絶した。
326 :
65:2007/06/03(日) 13:46:52 ID:5vOR9DeZ
「一体何が……?」
私はカーナに訊ねた。
「うまく説明できませんが……スカーレット様が……わたしは、あんなスカーレ
ット様を知りません……」
カーナはホークを倒したときのスカーレットの様子を私たちに話した。スカー
レットが怒り、見たこともない様な異常な能力を発揮してホークを倒した……。
にわかに信じられないが、ホークの怯えた様子からどうやら本当のようだ。
「またガブリエルさんにでも聞くしかないね」
私はそう言ってカーナを、そして自分を納得させた。分からないことは分から
ない。考え続けるしかないのかな。
「それで、こいつどうする? 封印しちゃう?」
私は親指でホークを指して、カーナに訊ねる。
「……そうですね」
「いいんだね? 仇は取らなくて」
「はい。お願いします。これでいいのかどうかわたしには……でも、わたしは、
天使ですから」
カーナは真っ直ぐに私の目を見て言った。彼女もまた、考え続けるのかもしれ
ない。
「うん、分かった。ねぇ、カーナ」
「なんですか?」
「泣いてもいいんだよ、思いっきり」
カーナ自身は気付いていないようだ。私を真っ直ぐ見つめるカーナの瞳からは、
海の色みたいなブルーの涙がこぼれ落ちていた。
…………………………………
327 :
66:2007/06/03(日) 13:48:52 ID:5vOR9DeZ
――その後、スカーレットは目を覚ましたが「何も憶えていない」ということ
だった。
……憶えていないならそれでいいのかもしれないな。何故だかそう想った。
ウオッカは姿をくらましたままだったが、千明ちゃんのケータイに「先に東京に
帰る」とだけ電話してきた。まったく、なに考えてるんだか。
私たちは病院に戻って傷の手当をしてもらうことにした。みんな、心の底から
疲れていた。
そうこうしているうちに、気付けばもう夜が明けて――。
…………………………………
328 :
67:2007/06/03(日) 13:52:21 ID:5vOR9DeZ
朝の病院の、まだ肌寒い庭。女の子は母の手術が終わったのを看護師から聞い
た。看護師は女の子には詳しい病状を伝えなかったが、女の子は看護師たちの立
ち話を聞いていた。もうだめらしい、意識が戻る可能性は無いって、まだお子さ
ん小さいのにかわいそうね――。
女の子はベンチに座ってただ母が目を覚ますのを信じて待っていた。
自分がこれからどうなるのか見当も付かないまま、座っていた。
「隣、いい?」
ふと、カーナが木陰から現れた。
「うん」
女の子の了承を得て、カーナはベンチに腰を下ろした。女の子は、カーナが首
から包帯をぶら下げているのに気が付いた。
「おねぇちゃん、怪我したん?」
「うん、ちょっとね」
カーナは優しくそう答える。
「ママ、もうあかんかもしれんって」
「そう……」
女の子とカーナの間にしばしの沈黙が流れた。
329 :
68:2007/06/03(日) 13:54:15 ID:5vOR9DeZ
「ねぇ」
沈黙を破り、カーナが女の子に語りかけた。
「なーに?」
カーナは女の子の眼前にしゃがみ込み、強く女の子の手を握って言った。
「負けちゃダメだよ。何があっても。つらいときや悲しいときは、胸に手を当て
てお祈りするんだ。そしたら、きっと心が導いてくれる」
真っ直ぐに、女の子はカーナの眼を見つめる。
「うん、ありがとう、おねぇちゃん」
「いい子だ」
カーナは立ち上がり、女の子の頭を撫でてそのまま去っていく。
それに代わって、1人の看護師が女の子の元に大慌てで駆けてきた。
「ああ、こんなとこにおったん! お母さんがね、目を覚ましたんよ!」
女の子は嬉しそうな顔をして看護師の後に付いて病院の中に消えていった。
(ウオッカのやつ……か……)
カーナは静かに笑った。
…………………………………
330 :
69:2007/06/03(日) 13:56:33 ID:5vOR9DeZ
「おいサダ、なんであんなとこで寝てたんだよ?」
「へ……へぇ?」
「へぇじゃねぇよ! ケーサツから呼ばれて来てみたら、おまえの身柄引き取っ
てくれって!」
「し、しらねぇって」
「おまえあん時そうとう酔ってたもんなぁ。でもなんだそのセンス悪ぃ服は」
「お、おれだってわからねーよ!」
「わからねーじゃねぇよ、考えろよ、思い出せよ!」
「東京帰りたい……」
…………………………………
「またいい人ぶっちゃった。なんか私って悪魔になりきれないな」
ウオッカは半分ほどの大きさになった天使の卵を指で転がしながら言った。
「しっかし、命を救うってのは思ったより容量食うんだな。もうこんだけしか残
ってないや。まあ、これだけあれば十分か」
ウオッカは空に天使の卵を放った。そして落ちてきた卵を口で受ける。
「うん、うまい」
…………………………………
千明は病院を出て、そのまま仕事に向かった。心の中でウオッカのアホ、と千
回以上は唱えていた。
「もう絶対家に入れてやんない!」
千明は大阪の街を早足で歩く。
「もう! 絶対1人でおいしいもの食べて帰ってやる!」
…………………………………
331 :
70:2007/06/03(日) 14:00:15 ID:5vOR9DeZ
「スカーレット、そんなに電子レンジに顔近づけると危ないって言ってるでしょ」
「はぁい」
私たちは無事、東京に帰りついた。
カーナはお別れのとき身体を借りていたえみちゃんと相談し、そのまま記憶は残
すことにしたらしい。「別にいいんじゃん?」とはえみちゃんの弁。
大阪で闘った、ピンクカメオ一味の憑依体たちの記憶は全部消したけどね。
まあそんなこともあって、私とスカーレットは今日もパンを焼いている。
スカーレットの謎の力について疑問は残ったが、そのうち分かるときが来るかも
しれない。
とにかく、今はパンを焼く。これって真理かもね(なんてね)。
「そうだスカーレット、パンにたこ入れてみようか?」
「もー! なんでそんな意地悪なんですか!」
「うそうそ」
†〜おわり〜+
今回は結構面白かったよ。
サダはさだまさしかと思って脳内ビジュアル変換してたW
田中ととうとう・・・・
まあお芝居だもんね。
下弦の月のときもそうだったけど、男性とのKISS演技って
なんか硬いよね。
333 :可愛い奥様:2007/07/24(火) 19:38:00 ID:wX2I/yoO0
篠原は確か不倫略奪したんじゃなかった?
それで「頑張って仕事が評価された」ウンヌンいわれても腑に落ちないな。
朋ちゃんは要領悪いとは思うけど、よそ様の家庭を壊さないだけまだマシ。
338 :可愛い奥様:2007/07/24(火) 19:55:45 ID:HHrP+97i0
>>334 不倫略奪婚ですわよ、篠原さんの場合。
市村さんには奥様がいらっしゃいましたから。
343 :可愛い奥様:2007/07/24(火) 21:05:24 ID:BXiaYloR0
>>338 市村さんが、篠原さんを好きで好きで離婚したんですよ。
344 :可愛い奥様:2007/07/24(火) 21:14:59 ID:GjoodHBu0
結果的にはよそ様の家庭を壊したことには違いないよ<篠原
まさか離婚するまで一回もHしていないなんて事は無いだろうし、不倫は不倫。
頭が固いといわれそうだけど、自分が結婚したせいかどうも本妻さんに同情してしまうわ。
345 :可愛い奥様:2007/07/24(火) 21:58:07 ID:kEzPBZn50
とりあえず、篠原のほうが華原より親父ころがしはうわてで
そういう神経の図太さがないと、芸能界で生き残れないんだろう
それでも周りの反感買わない篠原って、
いろいろと気配りできて、賢いんだろうな
347 :可愛い奥様:2007/07/24(火) 22:13:15 ID:uUcrVdgkO
>>343 世間ではそれを「不倫」というんですよ。
336 :
名無しさん@秘密の花園:2007/08/23(木) 23:40:49 ID:iaWDVa+p
>>331 続きはもう書かないの?
ひそかにまってるよage
337 :
名無しさん@秘密の花園:2007/09/20(木) 16:44:40 ID:yCEr9/qK
鼻デカコンビめ
338 :
名無しさん@秘密の花園:2007/09/22(土) 12:09:59 ID:3aX27rHU
R-18だよ
いや、R-17
341 :
名無しさん@秘密の花園:2008/01/14(月) 16:16:52 ID:Mmo25X92
キル・ビル、深夜放送していた。
初見だけど、すげえ、おもしろかった。
ストーリーは荒唐無稽だけど、アクションがすごいね。
クビが飛んで人間噴水(噴血?)になるは、
腕や足がスパッと切られて血しぶきが飛び散るは。。。。
(なんでこの映画がゴールデンで放送されないかも、わかったw)
栗山千明もゴーゴーなんとかという女子高生の殺し屋を演じて
アクションもがんばっていたね。
主人公と女ボスとの対決より、こちらの主人公と栗山の対決のほうが
一対一の対決としては秀逸だった。
342 :
名無しさん@秘密の花園:2008/01/22(火) 22:29:25 ID:jJ+RWvlg
千明ちゃん可愛い
344 :
名無しさん@秘密の花園:2008/01/22(火) 23:07:05 ID:Wd0EGrcE
篠原さん、美しすぎる
>>341 DVD特典のNG集には
モーニングスターを振り回すのに失敗した千明が
ユマに腰を抱かれ慰められてるシーンがあって得した気分になる
346 :
名無しさん@秘密の花園:2008/11/02(日) 13:53:23 ID:vXq3Pm7m
age
347 :
名無しさん@秘密の花園:2010/01/19(火) 21:26:56 ID:VMlWi8tE
CHiAKi KURiYAMAと栗山千明と森。
吉瀬美智子と篠原涼子の組み合わせはどうだろうか