「ねえ、アヤ」
「なあに、マイ?」
二人の姉妹はベッドに腰掛けて座り、お揃いの猫の柄のマイはピンクの、アヤはグリーンのパジャマを着ている。
まだ眠る時間には少し早い。しばらくマイとおしゃべりしているのもいいかもしれない。
「人を好きになるのって……どんな気持ち?」
マイもやっぱり恋が気になる年頃の女の子なのね。
そう思いながら、どう答えようかと考えを巡らす。
「そうね……傍にいるだけで安心するとか、こんな風に手を握るとドキドキしたり……いつも一緒にいたいと感じる。そんな気持ちかしら?」
アヤの手が私の手に重なり、指を絡めて手を握る。
アヤの暖かい手に触れられて胸がきゅんとなる。
繋がったと手と手が、アヤがすぐ傍にいてくれる事をはっきりと実感させる。
アヤが傍に居てくれる。ただそれだけで深い安心感に包まれる。
「マイは私のこと好き?」
「う、うん……」
上目遣いで、そう頷く。
照れくさくて、なんだかくすぐったい気持ち。
マイのこの素直さが可愛い。
上目遣いで頷くしぐさ。照れてるところがまた可愛い。
なかなか言葉で直接「好き」とは言わないけれど、言葉以外でそれを伝えてくれる。
そんなマイを愛しいと思う。
「うふふ、可愛い……」
マイのうっすらと朱く染まった頬に、そっと手を添える。
「私もマイが好きよ」
そう言うとマイが嬉しそうに微笑みを返す。
この素直な眼差しがたまらなく愛おしくて、このままキスしたい衝動に駆られる。
もしキスしたら、マイはどう思うだろうか?
そう思いながら顔を寄せ、マイの瞳をまっすぐ覗き込む。
頬に添えられたアヤの手の温もりを感じながら、視線を絡めあう。
アヤの顔がこんなに近くにあると思うと胸がどきどきする……。
「今どんな気持ち?」
アヤがそうたずねるとマイは少し俯いて、何か言いたそうな顔で口ごもる。
どう言えばいいのかわからなくて考えているようだ。
本当は、好きになるのがどんな気持ちなんて聞かなくても、わかってた。
アヤが好き。ただ、それを確かめたかった。
「ええと、その……難しいけど、でも……アヤが好き」
少し言葉に詰まりながら、そう答えた。
マイの気持ちは以前からわかっていた。でも、その気持ちにダメなんて言えなかった。
大切な妹の気持ちを裏切るなんて、できないから。
好きと言ってくれたマイの気持ちに応えるには、これが一番の方法だと思った。
「キスしていい?」
その問い掛けに一瞬驚いた表情をしたがすぐに笑顔に戻り、小さく頷くと、目をとじてそれを受け入れた。
アヤとの、初めてのキス。それは優しいキスだった。
やわらかいアヤの唇の感触。その濡れた感触にマイはかすかに体を震わせた。
このまま少しでも長くキスしていたくて、アヤの手をぎゅっと握る。
長い長い時間が過ぎたように感じる。そして、ふっと唇が離れた。
かすかに荒い息づかいの、とろんとした目でアヤを見つめる。
どれくらいアヤとキスしていたんだろう……。
高鳴る胸の鼓動を今、はっきりと感じる。
頬に添えられたアヤの手を取り、熱くなった胸に当てる。
「どきどきしてる……」
こんなにどきどきするなんて、今まで知らなかった。
キスって、こんなにいいものだったんだ。
アヤの温もりを感じたくて抱きつくと、やわらかい胸に顔をうずめる。
おとなのからだっていいな……。
どきどきと高鳴るアヤの胸の鼓動が伝わってくる。
アヤもどきどきしてるんだ……。そう思うと、幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。
アヤに抱かれながら、初めてのキスの余韻に浸る。
初めての人が、アヤでよかった……。
心に直接触れられられるような、そう感じるのはアヤと一緒にいる時だけ。
触れ方も、声も、さっきのキスも、アヤはいつだって優しい。
今もこうして優しく抱いてくれる。
だからアヤが好き。
マイのからだを抱きながら、首筋をすっと撫でる。
女の子の柔らかいからだが心地いい。
姉妹なんだから、キスぐらい大したことじゃない……。
そう思っていたけれど、実際にしてみればそこに親愛以上のものがあった事に疑いの余地はなかった。
マイとのキスは、恋人同士のような特別なものだった。
本当に、心からマイを愛しいと感じる。
こんなに可愛い妹をどうして愛さずにいられるだろうか?
「ね……もう一回……」
アヤがマイに微笑み返す。愛する妹の頼みを断る理由はどこにもなかった。
今度は、私からアヤにキスをする。さっきのお返し。
あのやわらかい感触を、もう一度確かめる。
「ン……?」
薄く開いた唇の合間から、ゆっくりとアヤの舌が入ってくる。
口内をなぞり、ねっとりと舌に絡みつく。甘くて、とろけるような熱いキス。
ゆっくりと誘うように絡みつくアヤの舌の動きに合わせようと、ぎこちなく舌を動かしてみる。
舌が絡み合う度に徐々に増していく快感に、背筋がぞくぞくする。
舌が深く絡み合い、甘い唾液が混ざり合う濡れた音が部屋に響く。
動きを早めることなく、唇と唇を離さないように、緩やかに長い時間をかけて深いキスを交わす。
混ざり合った唾液をこくりと飲み込む。アヤの味がする……。
唇の合間から零れる吐息と甘い声が、気持ちを高ぶらせる。
このまま溶け合って一つになってしまいたい……。ずっとアヤを感じていたかった。
それから、時間だけが過ぎていった。
どちらからともなくゆっくりと唇が離れ、透明な糸が一瞬、二人を繋いだ。
長い長いキスを終えた頃には、二人とも空気を求めて喘いでいた。
「アヤ……」
潤んだ瞳で、アヤを見つめる。
今度はもう、迷わずに言える。
「大好き……」
指を絡めた手を握ったまま、アヤに身を委ねる。
「ずっと一緒にいてね……」
「ええ。もちろん……」
抱き合ったまま、二人で過した時間を思い返す。
その内にうとうととしはじめ、気持ちのいいまどろみに落ちていく。
「アヤ……」
眠そうな声で、アヤの名前を呼ぶ。
「もう少しだけ、このままでいさせて……」
「うん……」
大好きなアヤと、もう少しだけ……。
それから少しの時が経ち、マイはアヤの胸の中で安らかな寝息をたてはじめた。
マイの穏やかな寝顔を愛おしげに見つめながら、
「おやすみ、マイ。また明日ね」
と囁いた。
朝、目が覚めれば私のマイが傍に居る。そんな毎日にこの上ない幸せを感じるのだった。