51 :
ハルヒ:
森永みるく先生の単行本「くちびるからためいきさくらいろ」百合姫Vol3,4参照。
これは、幼馴染にずっと恋をしていた少女と、彼女の切ない気持ちに気づかないま
ま惹かれていく少女たちの甘〜いお話です。よろしければいくつか載せたいなと
思ってます。
エロ推奨ですので、森永先生のふわふわな世界観がお好きな方にはお勧めしません!
では。
52 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:13:16 ID:Fr2oJIYw
彼女を特別に意識したのは、あの日だった…。
―――夢をみた。
また同じ夢だ。体育館のとまり木の下で、奈々が熱心にマンガを読んでいる。
彼女は、いつもそうして、部活を終えるアタシを待つ。
アタシは、そんな親友をシュート練習の順番待ちをしながら、こっそり眺めるのが
日課だった。
風通しのために開けていたドアの隙間から、ボールがゴロゴロと転がり落ちていった。
階段をトントントンとジャンプして、そのまま奈々の足元で着地する。
奈々が、それに気づいて、そっと顔をあげる。
茶色いボールを持ったまま鉄のドアの傍で立ち尽くすアタシを見つけて、ふわりと
お花のように微笑んだ。
「瞳ぃ!」
――あぁ奈々だ。奈々がアタシに微笑みかけている。アタシのための笑顔。
うれしくなって手を振ると、彼女の顔はサッカー部のユニフォームを着た男子の背
中に立ち塞がって見えなくなった。
「小林、好きだ…。」
カレは、唐突に言ってのけた。
アタシが、ずっと言えなかった言葉をいとも簡単に。
――やめて、やめてったら。奈々はアタシのなのよ。アンタになんか渡さないわ。
「俺と付き合ってほしい……。」
53 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:15:25 ID:Fr2oJIYw
彼をぶっ叩いてでも、奈々を守りたかった。でも、アタシは、なぜだかその場で動
けなくなって…。
鉄の扉を掴みながら、呆然と立ち尽くすしかなかった。
黄色い背中に隠された奈々の顔が、いま、どんなふうになっているのか見えない。
奈々が、彼になにを言ったのかさえ聞こえなかった。
――お願いやめて。奈々はアタシのものなの。誰にも渡さない。アタシの奈々。
どこへも行かないで奈々。好きよ奈々、奈々を愛してるの…。
「いやよっ、奈々ッ!!!」
54 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:17:03 ID:Fr2oJIYw
布団を蹴飛ばして、ガバリと跳ね起きた。
ハァハァとマラソンを終えたときのような荒い息を吐く。
呆然と自室の壁に貼ってある子猫のカレンダーと目が合う。そして、夢であったこ
とをようやく知った…。
シーツにまで染み渡るほどぐっしょりと、厭な寝汗をかいていた。
カーテンの隙間から、朝の日差しが差し込んでいる。
ふと壁に掛かる時計をみると午前5時を指していた。新聞屋さんのバイクの音が
やけに大きく響いている。
ガシガシと長い髪を掻き毟って、ギュっと唇を噛みしめた。
頬に冷たさを感じて、眠りながら、泣いていたことに気づかされる。
「…………奈々、もう限界だよ…。」
ブルーのタオルケットに向かって呟いた。
55 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:18:56 ID:Fr2oJIYw
この胸の気持ちを伝えたら、奈々が傷つくかもしれない。
でも、奈々のことをよく知りもしない男なんかに取られるくらいなら、彼女を
傷つけてでもこの手で奪い取りたかった。
あんな顔だけの男になんか絶対に渡すものか。だって、奈々はアタシのものだ。
負ける気はなかった。奈々の中でアタシが一番なのだと分かっているつもり。
でも、それは、仲のよい親友としての位置づけだった。
どうして、アタシは女の子に生まれちゃったんだろう。
こんなこと思うだけでも罪だ。14年間も大事に育ててくれた両親が知ったら、ひ
どく悲しむと思う。
それでも、アタシが男の子だったら、奈々を恋人にして、奥さんにして、一生宝物
のように大切にするのに…。
そんなことは決して思ってはいけないこと。でも、思わずにはいられなかった。
そんな悪循環に苛まれる。
56 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:19:57 ID:Fr2oJIYw
それでもアタシはやっぱり奈々が好き。もう、この気持ちを抑えることなんて
出来そうになかった。
好きなんだよ、ねぇ、奈々。アナタのことが好きすぎて、毎日、こんな夢をみるく
らい頭がおかしくなっているんだよ。
ねぇ、奈々。奈々は、アタシのことどう思ってる…?
やっぱり親友? それとも……。
57 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:21:06 ID:Fr2oJIYw
それは、3年の夏休みのことだった。
担任から、山ほどの課題を出された。
それをみんなでやっつけようと新築の亜紀の家で、アタシと優と舞とそして奈々の
5人で取り掛かることになったんだ。
夏休みを前に、都大会出場の夢を果たせなかったバスケ部3年は、そのまま引退の
形となった。
あと一歩のところで力が及ばなかった。
雨の中なのに、わざわざ観に来てくれた奈々の寂しそうな顔が、いまも忘れられない。
「あちぃ。つーか、すごいね、ここ。東京なのにセミが鳴いてるわ。」
「…うっさいな。どうせ人里離れた田舎だよ。」
揶揄るように優が言うと、亜紀はつまらなそうに唇を尖らせた。
58 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:22:32 ID:Fr2oJIYw
アタシたちは南第三中学の3年生。小中とほとんど一緒のクラスで過ごした特に仲
良しの5人組だった。
3年といえば、もう一つの肩書きに『受験生』という文字がつくわけなんだけど。
周りが言うほど、さほど『受験受験…』と目くじらを立てるほどのものでもなかった。
そこそこの高校を出て、そこそこの短大にでも滑り込めればいいかなくらいにみん
な思っている。将来の夢なんて、まだ漠然としすぎていて、いまいちピンとこなかった。
さすがに冬休みにでもなれば、そうも言ってられないんだろうけど、まだ、夏休み
の中間地点のアタシたちは、それはそれは、呑気なものだった。
そんなのんびりしすぎの生徒を見兼ねたのか、担任は、嫌がらせのように膨大な宿
題を出してきたというわけだ…。
59 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:25:15 ID:Fr2oJIYw
亜紀は、新築の家を構えるためにアタシの住んでいる近くのマンションから2ヶ月
ほど前に引っ越していったばかりだった。本来ならば学区外で、別の中学に転校す
るはずなのだけど、一応は受験生だし、あと一年もしないで卒業だから…という
わけで、彼女は30分ほどの距離を電車通学していた。
都心からちょっと奥地に入った変わりに、広いお庭と12畳にもなる大きなベ
ランダ付きの個室が与えられた。
優は、それにひがんで、いつもこうして亜紀を揶揄っているのだ。
まだ、どこか新築の木の香りが漂う。
家の周りが木々に囲まれているせいか、風が涼しく感じられた。
ガーデニングが趣味らしいおばさんの影響なのか、亜紀の部屋にも女の子らしい
花が見事に咲き誇っていた。
60 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:26:32 ID:Fr2oJIYw
「でも亜紀ちゃんチ広くていいなぁ〜。アタシの部屋なんて、ベットと机置いたら
いる場所ないからね。」
あははと、隣で奈々が笑う。奈々からふんわりとお菓子のような甘い匂いがする。
でも、確かに奈々と言うとおり、そこそこ成長期の5人が入っても息苦しさは感じ
なかった。
話もそこそこに、とりあえずは手分けして宿題に取り掛かることにする。
それでも、5人は多すぎだったのではないかと、誰が言わなずとも気づいた。
一人が脱線してしまうと、みんなに伝染していって、誰もがシャーペンを投げ出した。
しまいには、なんのために集まったのかもすっかり忘れてしまうくらいたわいもな
い話で盛り上がる。
61 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:28:01 ID:Fr2oJIYw
「あー、せっかくの夏休みに、女だらけで、こ〜んな人里離れた村に来るなんて
超寂しすぎる〜。」
「ちょっと、優、村は言い過ぎだっつーのッ!」
また、優と亜紀のやりとりが始まった。
アタシタチは、ケタケタと笑いながら傍観する。
「でも、女だらけつーのは、やっぱ寂しいよね。あぁ、アタシも早く彼氏欲しい〜!」
「んな恥ずかしいこと叫ぶな! 近所迷惑になるだろ!」
「えっー。お隣さんなんかぜんぜん見えないじゃんよォ、亜紀ちゃん!」
「うっさい優! つーか、舞も。アンタは、またそれかよ…。もう、だったら、
クラスの男でも誘ってどっか行けばよかったじゃん。」
亜紀が、二人にすかさず突っ込む。
こういうとき、なぜかアタシと奈々は蚊帳の外になるんだ。
62 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:29:48 ID:Fr2oJIYw
「クラスのなよなよした男は趣味じゃないって言ってるじゃない。じゃなくてさ、
もっと、こう、運命的な出会いが…。」
「出会いね…。はは、ま、頑張れよ。」
テーブルに手を組みだして遠くを見つめ出す舞に、亜紀はポンポンと華奢な肩を叩
いて宥めた。
女の子が5人も集まれば、ファッションの話や、食べ物の話、テレビの誰それの
悪口、それに男の子の話にと話題には事欠かない。
そんなとき、アタシだけはちょっと後ろめたい気分に駆られる。
ふと、隣の奈々を見ると、彼女もアタシの視線に気づいてニコリと微笑む。
胸が、甘酸っぱくきゅんてなった。
可愛い可愛いアタシの奈々。そっと伸ばせば届く距離にある愛らしいちいさな手。
すいと伸ばしかけて、寸前のところでピタリと止めた。
唇を噛み締めて、この胸のドキドキをどうにかやり過ごす。
63 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:31:25 ID:Fr2oJIYw
「ところで、ねぇ、奈々。3組の菅野くんのことどーするの?」
「…エッ?」
奈々のことなのに、アタシのほうがビクンてなる。
みんな奈々を一斉に注目していたから、アタシのそんな反応には誰も気づいていな
かった。
「ちょっと、なによそれ、菅野くんって、サッカー部の…?」
「それが実はそうなのよ。ちょいと聞いてよ、みなさん、この奈々ちゃんたらね、
こないだサッカー部一押しの菅野くんに告られたんだってー。たく、もー、アン
タも水臭いんだからそれならそうとアタシたちに言ってよねッ!」
「え、ちょ、おばちゃん、亜紀ちゃん? てか、待ってよ。なんでそれ知って
るの…?」
みんなに注目されて、奈々の白い肌が、急激に赤くなる。
アタシの目の前も真っ赤に染まった。
64 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:33:52 ID:Fr2oJIYw
「はは。実は3組の友達に聞いたんだよ。あの菅野が告ったって、もう有名だっ
て話よ!」
「えっ、ウソー。奈々、菅野くんに告られたの? あのサッカー部でモテモテだっ
ていう?」
「エーっ。すごいじゃん。奈々もついに彼氏持ちかぁ…。先越されちゃったな。
でも、ま、おめでと、奈々。」
みんなに追求されて、顔を真っ赤に染めながら奈々が俯いた。
奈々の膝の上の指が、ギュっと握られているのが見えた。
アタシは、この胸の怒りが爆発してしまうんじゃないかって、それと必死に戦って
いた。
「ちょ、ま、待ってよ。そんな、おめでとうって優ちゃん…。アタシ、まだ、
付き合うって決めたわけじゃないしぃ…。」
「エー。……じゃ、断っちゃうの? なによそれ、もったいないよ〜。」
五人の中でも一番面食いな舞が、奈々に詰め寄った。
65 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:35:43 ID:Fr2oJIYw
「も、もったいない…かな…?」
「うん。菅野くんて言ったら、南三中一のちょうモテ男のイケメンクンよ。菅野く
んが彼氏だったらチョー自慢じゃん…。」
「……そう。そ、だよね? カッコいいとはアタシも思うけどね。でも、アタシ、
菅野くんと同じクラスになったことないし、よく知らないしぃ…。」
「はあぁ? んなの、これから、知ってきゃいいんじゃん!」
「そ、そうだよね…はは。」
どうにも耐え切れなくて、バンてテーブルを叩いた。
ほとんど飲み終えていたみんなのグラスがガタガタに揺れる。
みんなが、一斉にこっちをみる。
アタシは、背中からぎゅうと奈々をかき抱いた。
66 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:37:34 ID:Fr2oJIYw
ちいさな奈々。アタシの腕の中にすっぽり入っちゃう。いい匂い。サラサラな髪に
顔を埋めてグリグリしたくなる。
「……ちょ、ひ、ひとみったら、急に、どうしたの?」
奈々が、アタシを見上げながら上ずった声を上げた。
アタシは、奈々の渦巻きを見ながら、フッと大きく息を吐いて。
「もうだめよ〜。奈々はまだアタシのなんだから〜。いい、奈々。男はみんなオオ
カミだっていつも言ってるじゃないのォ〜? 野獣よ…男はみんな野蛮なのよ…。
こ〜んなちっちゃい奈々なんてあっという間にぱくっと食べられちゃうんだからね。
そんなのは、まだダメなのよ〜。」
そう言ってグリグリと肩におでこを寄せる。
ふざけておかま口調のアタシに、奈々は笑いながら、アタシの頭をよしよしと撫でた。
「カーっ、またそれかよ! ちょっとちょっと奈々いいの? このまま瞳を野放し
にしといたら、アンタ、ホントに一生彼氏なんかできないって!」
3人の肩が、やれやれと同時に下がった。
67 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:39:32 ID:Fr2oJIYw
「いいもんね〜。そのときは、アタシが奈々をお嫁さんに貰ってあげるから。」
「もう、瞳ったらっ!」
やだなぁと言いながら、バシッと肩を叩かれた。
それでも、さっきよりもうれしそうに笑う。
アタシはホッとして、奈々をますますぎゅっと抱きしめた。
ねぇ、奈々。
アナタは、ぜんぜん気づいてないかもしれないけどね。
アタシが、こうして冗談のように節々に入れる言葉には、全部本気が含まれて
いるんだよ?
奈々をお嫁さんにしたい。そしたら、一生、傍にいられるのに。
奈々を誰にも渡したくない。
アタシの腕の中に閉じ込めて、こうして閉まっておきたい。
怖いよ、奈々。
奈々が、別の人のモノになっちゃったらと思うと怖くて眠れなくなる。
奈々が、アタシの知らない誰かの腕の中に埋もれるのを想像するだけで嫉妬の
炎で焼ききれそうになる。
68 :
瞳×奈々:2006/04/26(水) 23:41:29 ID:Fr2oJIYw
それでも、この気持ちは自分の胸の中に頑丈な鍵を掛けて閉まっておこうと思って
いたんだ。
奈々のあの姿をみるまでは……。
「ねぇ、ちょっと、それよりみんな、実は今日は、すっごい物あるんだ。ふふん。
ジャーン。これ、観たい人ォ〜?」
「ギャー、なによそれ、ヤダー。観たい観たーい!!」
ジャジャーンとドラえもんのような効果音つきで取り出された物にみんなの視線が
一気に釘付けになる。
舞と優の甲高い声が、「ギャォー」と、雄たけびを上げた。
奈々を見ると、アタシの腕にちいさく包まれながら、ぶわって耳たぶまで真っ赤に
なっていた。
そんな奈々を見下ろしながら、アタシは、本気でこの子を手に入れたいと我慢がで
きなくなったんだ。
もう親友でなんかいられないよ。
ごめんね奈々。でも、大好きだよ奈々。
69 :
ハルヒ:2006/04/26(水) 23:47:00 ID:Fr2oJIYw
今日のところはこの辺で。
この先も、ご要望があれば続けていきたいと思ってます。
ずっと大ファンだった森永センセイのシリーズパロです。
シリーズ全部好きだけど、特に大好きな瞳×奈々編でした。
これは、瞳と奈々の中学の頃のお話を妄想してみました。マンガのほうは奈々
ちゃん視点な感じなので、報われない瞳のほうを…。(*^∀^*)
実は、アタシ、リアルな小説しかやったことがなく、創作モノは初めてだった
ので、いまいち勝手が分からず、こんなんでいいのかしらんと。(^o^;)
感想とかいただけたらうれしいです。