「もしもし」電話の受話器越しに聴く声は聞き慣れたやわらかい声だった。
「堀江です」久しぶりに聞く彼女の声は以前と変わらず愛らしい声だった。
「岡崎です」そう答えたが彼女の中では疑問が渦巻いていた。
何で今ごろになって電話なんて?
話を聞いてみるとこういうことだった。
今、歌でスランプに陥って悩んでいる。
昔のようにレッスンをして欲しい、そういう話だった。
断るつもりだった。もう全ては過去のこと。
そう、過ぎ去った日々のことなのだ。
「お願いです。こんなこと頼める人は律子さんしかいないんです。」
しかし、哀願する彼女の言葉に気持ちが揺れた。
あの頃の甘い記憶がせつなくよみがえってきた。
結局折れて、一日だけということで歌のレッスンを引き受けることになった。
これでよかったのだろうか?
きっぱり断れば…でも、彼女の気持ちを考えると…答えの出ない問いだった。
翌日、待ち合わせの喫茶店に現れた彼女はピンク色のワンピースを着て現れた。
あの頃よりも少し大人びてはいるが、かわいい、素直にそう思った。
彼女は席につくと堰を切ったようにいろいろなことを話し始めた。
歌手としての仕事の話。声優としての仕事の話。普段の暮らしのこと。
しかしお互い、二人で過ごした時間のことだけは避けるようにしているようだった。
「二時からスタジオを押さえてあるんです。すぐそこなんです。」
時計を見ながら彼女は言った。店を出るにはちょうどいい時間だった。
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56:05/02/08 23:09:09 ID:ox5YQhA3
スタジオは何部屋かに別れていたが、平日の昼間と時間のためか受付の人以外、
人影は見えなかった。
受付を済ますと彼女はスタジオ一室に案内した。
スタジオの中央には一台のピアノが置かれていた。
ピアノの椅子に座った律子は「まず、何からひきましょうか?」といった。
「律子さんの『最愛』をお願いします。」と彼女はいった。
何でこの曲?と律子は思ったが、彼女のリクエスト通りピアノを弾き始めた。
彼女の歌はあの頃よりもずっと上手くなっていた。
思わず聞きほれてしまうほどだった。
曲が終わると律子は「びっくりしちゃった。由衣ちゃんすごく上手に歌えるようになったね」
といった。
しかし、彼女は何か思いつめているような感じでうつむいて、
じゅうたんの敷かれた床を見つめていた。
「この曲、今の私の気持ちなんです」そうポツリといった。
「えっ!?」
「だって愛しています、今も最愛の人。
知ってます、律子さんが日向さんって娘と暮らしていることも。
分かってます、律子さんにとっては私は昔の恋人だってことも。
でも、そう考えても心とは違うんです。
忘れよう、忘れなければ、そう思っても忘れられないんです。」
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56:05/02/08 23:10:51 ID:ox5YQhA3
そういって彼女は椅子に座った律子を後ろから抱きしめた。
そして、律子の顔を後ろに向けさせると唇を奪った。
唇の隙間から舌を押し入れていった。律子は抗おうとしたが力が入らなかった。
もう、なすがままになっていた。
彼女の手が律子の体を優しくなで、律子のワンピースのボタンを上から順に外し始めた。
こんな日に限って、首もとからすそまで前一列のボタンで留めるワンピースを着てきてしまったのだ。
「ダメ、由衣ちゃん」
「大丈夫です、今日このスタジオ貸切にしてます。誰も来ません。」
「違うの。そうじゃなくて…」
「わかってます。でも、お願いです。一日だけ。今日一日だけ。
私の恋人に戻ってください。そうしたら…そうしたら、
もう、逢わないことにします。」
そう彼女が言い終えた頃には、ワンピースのボタンは全て外されていた。
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56:05/02/08 23:13:47 ID:ox5YQhA3
ほちゃ→律っちゃん×目黒区を書いてみますた。
これじゃあ、ほちゃが悪者ですね。他意はないです。
ほちゃも好きです。でも、昔の恋人という設定。
やはり恋は障害がないと萌えません。