Hysteric Blue@伝説板

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 ステージに穴をあけることになってしまうが、あのままユミたちと一緒に演奏でき
るわけはなかった。かといって乃木坂のマンションに帰る気にもなれない。ホールを
飛び出したタケは愛車のポルシェに乗って夜の街をさまよい続けた。気がつくと街の
外には懐かしい風景がひろがっていた。でたらめに走っていたつもりなのに、いつの
間にか高円寺に来てしまっていた。田舎から状況して、デビューまでの三年間を過ご
した街だ。メジャーデビューしてからは一度も足を向けたことは無かった。
 中央線の高架下の駐車スペースに車を停めて、ふらふらと駅に向かった。駅前には
ギターケースを抱えたバンドマン風の男の姿がやたらと目立つ。八〇年代に、『宝島』
という雑誌が頻繁にロックの街として取り上げたため、高円寺はバンドをやりたくて
地方から上京してきた少年少女たち憧れの街になっていた。今でも高円寺には、将来
ビッグになることを夢見ているバンドマンたちが多く住んでいる。タケもかつてはそ
の中のひとりだったのだ。そして、ユミも……。六畳一間風呂なしアパートで暮らし
ていた頃は、金はなかったが夢はあったし、とにかく毎日が楽しかった。それはユミ
が一緒にいてくれたからだ。
 駅の南側に伸びるパル商店街はもうほとんどの店がシャッターを下ろしていた。ラ
イブハウスの前でたむろしている男女を避けるように足早に通り過ぎると、人気のな
い道をウォークマンで音楽を聴きながらゆっくりと歩いている少女の後ろ姿が目に留
まった。胸がドキンと鼓動を刻んだ。ボロボロのジーンズにラバーソウルの靴を履き、
ショッキングピンクの派手なシャツという姿。昔のユミそっくりだ。タケはふらふら
と少女に近づいた。気配を感じた少女がちらっと振り向いたが、馬鹿にしたように鼻
を鳴らすと、またさっさと商店街を歩いていってしまった。
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 自分がオーピンのタケだと気づかれないように、夜だというのにサングラスを掛け、
帽子を目深に被っていた。その決めすぎのファッションのせいで、格好をつけたただ
のナンパ野郎だと思われたようだった。だが、馬鹿にしきった態度をとった少女がユ
ミに似すぎていたことが、タケには神聖な思い出を汚されたように感じられた。まる
で、あの頃のユミも、本当はタケのことなど少しも好きではなく、ただレコード会社
に自分を売り込んでくれる存在として利用しようとしていただけに思えてしまったの
だ。
「いつまでも俺の作った曲を歌っていたいって言ったくせに……」
 タケは少女のあとを追った。音楽を聴きながら歩いているので、追ってくるタケに
気づかない。少女に続いてマンションのエレベーターに飛び乗った。竹はポケットか
らナイフを取り出した。街で他のバンドのファンにからまれた時のために、護身用に
と持っていたナイフだ。
「声を出すな。おまえの部屋に連れて行け。抵抗したら怪我をするぞ」
 少女は大きな瞳をさらに大きく見開き、何度も頷いた。見れば見るほど、昔のユミ
にそっくりだった。さっき目にしたユミの裏切りと思い出の中の可愛いユミが混じり
合い、タケの心は混乱していった。
 もつれ合うようにして部屋の中に転がり込むと、タケは少女の腕を後ろ手に縛り上
げ、タオルで猿轡をした。涙を流すユミに似た少女――いや、思い出の中のユミのジ
ーンズを無理やり引きずり下ろし、尻を高く突き上げさせた。お仕置きだ。タケは自
分を裏切ったユミに制裁を加えるべく、まだ濡れていないその部分に、いつになく力
を漲らせた自分のものをねじ込んだ。どうだ、リキのものより俺のものの方がいいだ
ろう?
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 苦痛にユミの顔が歪む。ひどいことをしているという思いはあったが、なぜだかそ
れがタケには快感だった。ナイフで白い尻にすーっと赤い線を引いた。ユミの体が緊
張し、強烈にタケを締め付ける。恐怖の中、無理やり犯されているくせに、徐々に滑
りがよくなってきた。
「なんだ、感じてるのか。こんなことされてよろこんでるのかよ!」
 今まで経験したこともないサディスティックな興奮に、タケの全身が震えた。自分
の美しい思い出に罵倒の言葉を浴びせながら激しく腰を動かしていると、タケの体は
すぐに限界まで上りつめていた。
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 タケが逮捕されたのは、その二カ月後だった。高円寺での出来事でレイプの魅力に
取り憑かれたタケは、その後も東京都内でレイプを繰り返し、渋谷区本町の路上で女
子高生に暴行しようとしたところをパトロール中の警官に見つかり逮捕されたのだっ
た。その翌日、オールモスト・ピンクの残されたメンバーであるユミとリキからマス
コミに一枚のファックスが届けられた。そこにはバンドは本日をもって解散するとい
うことが書かれていた。タケの行為は結局、他のメンバーにバンドを解散する口実を
与えることになったのだ。
 自分が完全に見捨てられたということを知ったタケは、余罪を素直に自供し始めた。
だが、もう遅い。刑務所から出てきても、タケには帰る場所はどこにもない。芸能界
にも、高円寺にも、もうないのだ。(了)(最近の事件をヒントにした創作です)