Hysteric Blue@伝説板

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 国民的歌番組に出演を果たした翌年、正月明けに発売されたCDもそこそこ売れた。
オーピンはすでに中堅どころとして、人気を不動のものにしたように思えたが、その
勢いもすぐに陰りが出始めた。ヒットを連発して発言力を持ったタケが、今まで会社
から押しつけられていた曲ではなく、自分が作った曲をシングルCDとして強硬に発
売させたのだ。だが、その新曲はまったく売れなかった。それまでのポップな曲調か
ら黒人音楽を意識した曲調への変化に、若いファンは付いてきてくれなかったのであ
る。
 それがケチのつき始めだった。その次に出したCDが他のバンドの曲のパクリでは
ないかとマスコミから叩かれ、オーピンの人気は一気に凋落した。もともと音楽性が
評価されたわけでもなく、ユミのルックスとレコード会社主導のイメージ戦略で売れ
ただけなので、ファンが離れていくのは早かった。テレビ出演は減り、中途半端に名
前が売れているためにあまり小さな会場でライブを行うわけにもいかず、スケジュー
ル表が真っ白という日が続いた。そうなると、事務所側との交渉役になっていたタケ
に対する他のメンバーからの不満も大きくなり、関係がぎくしゃくしてきた。特にデ
ビュー時にオーディションで選ばれて加入した、ドラマーのリキの反発は強かった。
 そんなある日、音楽番組の仕事が入った。久しぶりのテレビ出演だ。懐かしい気分
になりながら楽屋に行くと、中から女の喘ぎ声が聞こえてきた。ドアには「オールモ
スト・ピンク様」と書いた紙が貼られている。この部屋で間違いないはずだ。ドアを
少し開けて覗いてみると、椅子に座ったリキのひざの上にユミがリキの方を向いて跨
り、自らTシャツを首もとまでたくし上げていた。こぼれ出た乳房――ソフトクリー
ムのように白くてやわらかそうな乳房に、リキが舌を這わせている。
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「あんっ……」
 ステージで見せるのと同じ恍惚とした表情でユミが喘いだ。リキが軽く前歯で乳首
を噛んだのだ。
(あいつら、いつからこんな関係に……。ユミは俺の女だ!)
 部屋の中に飛び込んでぶん殴ってやろうと思ったが、それより先に、リキがタケの
名前を口にした。
「タケはもうだめだよ。あいつの作る曲は全部、どっかで聴いたことがあるようなの
 ばっかだし、盗作って言われて当然だよ。才能ねえんだよ」
 ユミは特に否定しようともせずに、うっとりと目を閉じてリキに胸を弄ばせている。
「なあ、ユミ。俺と新しいバンドを作らないか? プロデューサーの三浦さんが声を
 かけてくれてるんだ」
 どうしても自分の曲を入れてくれというのでお情けでアルバムに一曲だけ収録して
やったリキの楽曲は、業界内でも評価が高かった。おそらくプロデューサーに誘われ
ているというのは本当だろう。だが、ユミがそんなことをOKするわけがない。
「だけど、タケはどうなるの?」
「あんなやつのことは放っておけよ。あいつにあったのは業界関係者に取り入る才能
 だけさ。所詮はそこどまりのやつなんだ。ユミだったら、もう一花咲かせられるよ。
 俺が曲を書くから、それでもう一回勝負しようぜ。なんだったら、タケをマネージ
 ャーに雇ってやってもいいけどな」
 リキが面白そうに笑った。ユミはじっと黙り込んでいる。ユミがそんな話に乗るも
のかっ。リキに平手を食らわせてやってくれ。
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「まあ、仕方ないかもね。実力がすべての世界だもの。私もこのまま終わりたくない
 し、タケと心中するなんてまっぴらよ」
 ユミはあっさりそう言うと、リキの前にひざまずき、ズボンのファスナーを下ろし、
その中からほじくり出したものをなんのためらいもなく口に含んでみせた。
「お、おい、やめろよ、誰かが来たらどうすんだよ」
 そう言いながらも、リキは愛おしむようにユミの髪を撫でている。唾液を啜るよう
な音を鳴らしながら、ユミは一心不乱にリキのものをしゃぶり続けた。「私たち、ず
っと一緒よ」と高円寺のアパートで寄り添いながら囁いたときとまったく同じ、すが
るような表情で……。
 その時、リキがちらりとこちらを見た。ドアの隙間から覗いているタケと目があっ
たが、リキはすぐにまたユミの髪を撫で始めた。その横顔には勝ち誇った笑みが浮か
んでいる。最初からリキはタケに見せつけるつもりだったのだ。そのことに気がつい
たタケは、怒鳴り込むどころか、ギターケースを抱え、楽屋の前から逃げ出していた。