Hysteric Blue@伝説板

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黒い報告書―「ロックの街」を汚したバンドマン「転落の曲」― 藤井腱司

 一昨年の大晦日、国民的な人気を誇る歌番組のステージ上にタケはい
た。オールモスト・ピンク(通称オーピン)という名前のバンドのメンバー
として出演していたのだ。
 ヴォーカルのユミとギターのタケ、それにドラムのリキの三人編成のバ
ンドとしてデビュー。二枚目のシングルが大ヒットし、オーピンは一躍人気
バンドの仲間入りを果たした。ヒット曲が出ると、いきなり生活が一変した。
大金が転がり込み、大人たちはみんなタケたちにペコペコして、常に顔色
を窺うようになった。どんな我儘でも通ってしまうのが楽しくて仕方なかった。
 ギターを弾くタケのすぐ前ではユミが満員の観客に向かって声を張り上げ
ている。ミニスカートの下から伸びたしなやかな脚が眩しい。カメラは全部、
下からユミを狙っている。ロックを志していたバンドマンにとってその舞台は
どこか場違いに感じられたが、日本中の注目を浴びているという実感は悪
いものではない。
「タケ!」
 ステージの中央でユミが踊りながらタケに手招きした。身体を摺り寄せ
合うようにしてギターを掻き鳴らす。強烈なライトに照らされながら、タケは
観客の歓声を浴びた。数年前のタケは、こんな状況は想像もしなかった。
いや、想像はしていたが、本当にこんな時がくるなんて、自分でも信じては
いなかったのだ。
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 その頃、JRの高円寺駅から徒歩七分のところにある六畳一間の風呂なし
アパートで、タケはユミと同棲していた。もともとは別々のバンドとして、ライ
ブハウスで競演したのがきっかけだった。ふたりは意気投合し、すぐに一緒
に暮らし始めた。同時にそれぞれバンドを辞め、ふたりで新バンドを結成し
た。ユミの伸びやかな歌声とアイドル顔負けの可愛い顔を武器にすれば、
絶対にメジャーになれるとタケは確信していた。
「暑くて溶けちゃいそうだわ」
 タンクトップとショートパンツという姿で、扇風機を抱きしめるようにしながら
ユミが言った。ノーブラの胸元に乳首が浮き出ている。
「メジャーデビューしたら、真っ先にクーラーを買ってやるよ」
 タケは背後からユミの胸を鷲掴みにした。汗でぐっしょり濡れている。カーテ
ンを開ければもう少し涼しいかもしれないが、部屋は一回で窓の外はすぐに
道なため、通行人に中を覗かれてしまうのだ。食事をしている時やテレビを
見ている時ならかまわないが、さすがにこれからしようとしていることを思う
と、カーテンを開けるわけにはいかなかった。
小柄で童顔なのに、ユミは胸だけは大きかった。乳房を乱暴に数回揉むと、
煙草の火を押しつけられた蛙のように、ユミは扇風機から剥がれてタケの体
に寄りかかってきた。
「またするの? ちょっと元気すぎ」
 呆れたように言いながらも、ユミは自分からタケの股間に手を伸ばしてくる。
朝、起きがけにしたばかりだったが、ユミを見ていると何度でもしたくなって
しまうのだ。
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「ほら、バンザーイ」
 両手を挙げさせて、タンクトップを脱がせると、白い乳房がこぼれ出た。タケは
素早くユミの乳房に食らいついた。ソフトクリームのように白くやわらかだが、
ぺろりと舐めると、しょっぱい汗の味がした。
「私たち、本当にメジャーになれるかな?」
 ユミがいつになく真面目な顔で言い、照れ隠しのつもりなのか、タケの股間を
ぎゅっと強く握り締めた。
「心配するな。俺が絶対にユミをメジャーにしてやるよ。ライブのビデオをもうレコ
 ード会社に送ってあるんだ。結構手応えあるんだぜ」
「さすがね。タケのそういう頼りになるところが好きよ」
 ユミが媚びるような笑みを浮かべ、タケに口づけした。そういう言われ方をする
のは好きではなかった。タケは人当たりがよく、しゃべりがうまいので、今までの
バンドでもいつも渉外的な役割を押しつけられていた。確かに自分でもそういう
仕事が得意だと認めないわけにはいかなかったが、実務的に優れているという
ことは芸術家として劣っているということと同じように思えていやだったのだ。
 ふたりは全裸になり、敷きっぱなしの布団の上で体を重ね合わせた。ユミの両
脚を左右に大きく開かせて、その間にタケは身体を潜り込ませた。ユミの陰部は
すでにすっかり潤っていたため、ふたりは簡単にひとつになった。激しく求め合う
と、すぐに汗が噴き出してくる。手を伸ばして扇風機を「強」にしたが、そんな風
程度ではクールダウンすることはできない。溢れ出る汗によって、ふたりの体は
ぬるぬると滑る。
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「だけどバンドって、成功するとみんな、すぐに不仲になっていくだろ。俺たちも
 そうなるかな?」
「そんなわけないよ。私、タケが作る曲、大好きだから、いつまでもタケの曲を歌い
 続けたいもの」
「うれしいこと言ってくれるねぇ」
 タケは腰の動きをさらに速めた。限界がすぐ近くまで来ていることを感じた。ユミ
も同じなのだろう、可愛く喘いでタケの背中に爪を立てる。その痛みが引き金にな
って、タケはユミの中に精を放った。うっとりとした表情でユミがつぶやく。
「私たち、ずっと一緒よ」
 そしてふたりは望み通り人気バンドとして成功を手に入れたのだ。ただ、ユミが
今ステージで歌っている曲はタケの作曲したものではなく、レコード会社が他のミ
ュージシャンに依頼したものだったのだが……。