誤爆だけで1000目指すスレ#2

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745名無しさんだよもん
「まことに申し上げにくいことですが……」
 主治医の、抑揚のない声が病室に響いた。彼の職業的無感動に支配された表情は、重い事実にも少しも変わることはなかった。
「……では、あの子は、栞はもう?」
 対照的に香里の顔には、すでに達観したような、諦めが色濃く漂っている。全てを捨てて看病を続けてきた彼女には、もう気力も体力も残されてはいないようだった。
「非常に珍しいケースなのですが」
 銀縁の眼鏡に手をやって、主治医は眉一つ動かさないまま続けた。
「空っぽになった卵巣から侵入したウイルスが、すでに脳の言語野や海馬に達しています。今はかろうじて日本語で思考する能力が残されてはいますが、
それももう時間の問題でしょう。それに、思考しているといってもそれはあくまで形式的な話で、日常生活に支障のないレベルは、すでにキープできていません。正直な話、日本の高校生が発症した例を、私は寡聞にして知りませんでした」
「そうですか……」
 香里はそういって深く首をうなだれた。そのとき、栞が最後の力をふり絞るようにして香里のほうに手をさしのべた。栞の口から、大量の涎が流れ出し、香里は妹の頭を抱えるようにして、ゆっくりとそれを拭った。
「……バ……バ……」
「どうしたの? 何か伝えたいことがあるの?」
「……バ」
「さあ、言ってみなさい。生き延びて見せる、そう宣言してご覧なさい。」香里は妹を愛撫しながら、そう励ました。
「……バ」
「さあ」
「……バニラアイス」
 主治医の能面のような表情に翳りがさし、彼はそれを隠すように目をそむけた。
 あとには香里のすすり泣く声だけが残った。