798 :
英霊:
らしくねぇ……、いつから俺はこうなっちまったんだ?
そもそも、この大会っていうのは、この俺にとって望むべくものだった。
なにせ、犬飼にグダグダ言われることなく坂神とやりあえるんだ。
それに、他の野郎どもと戦えるのもわるくはない。今の日本はあくびが出そうなぐらい平和なのだからな。こんな機会、望んだって得られるもんじゃない。
なのに……、なんで、こうお人好しになっちまったんだ?
そもそもは、あのチビに出会ったときからだ、ケチが付いたのは。
いや、管理者の馬鹿が俺の荷物にあの猫を仕込んだときからかもしれない。
あの猫はとっとと皮剥いで保存食にしちまえばよかったんだ。
あのチビは首でも折って、さっさとおさらばしちまえばよかったんだよな。
震える頭を握り、そして力を込めて……。
なぜ、できなかったんだ? 俺は、坂神のように腑抜けになっちまったのか?
あの震えているガキを見ていると、なんか。そう、忘れていたものが、思いだしてきそうだった。
肝っ玉はちいせえくせに、なぜか俺が何度も怒鳴っても側から離れようとしなかった。そのくせ、ときたま生意気なことを言いやがる。
ははっ、あいつは、まるで死んだ妹にそっくりだったな。不細工な顔も、性格も……
そうか……。
そうか、今になって思い出した。
俺は守りたかったんだよな。誰かを。