葉鍵聖戦 3rd Period

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298保科智子@炎の誓い(3/4)
「……え?」
 素頓狂な声を上げたのは結果があまりにも自分本位なものだったからだ。
 煙が消えた後には、煤こけた死体がひとつあっただけだった。
 自分の勝利を確信できなくて、それの近くに私は歩み寄っていく。
「……勝ったのか?」
 霧が晴れるように雨月山だった風景は物の怪の丘へと変わっていた。
 そこにある、亡骸だけを残して……。
「……やった。私は勝ったんやあの水瀬秋子に!」
 私は信じられない面持ちで、勝利の味に陶酔していた。
「誰もが挑んで、誰もが敗北していった水瀬秋子に、私は勝てたんや!」
 格闘の世界に闘志を滾らせる者なら、誰もが一度は夢見た最強の称号を私は手に入れたことになる。
 欺瞞だろうか? いや何でもよかった。
「そう何でもええ。これでみんな報われるんや! やったで! 私はみんなの仇をとったんや!」
 歓喜に震えた。そこにあったはずの亡骸が消えていることにも気づかないほど有頂天だった。
 それほどまでに私は浮かれていたのだ。
「保科さん危ない!」
「な――!?」
 その声は河島はるかの声だった。
 どうしてここにいるのかというよりも早く体は反応していた。
 無理に体を跳ねさせる。首筋を突く徒手に逆らうように仰け反って。
「あら? 外れちゃいましたね」
 そこには何食わぬ顔で佇む水瀬秋子の姿があった。