オープニング案2:主人公はキャリア数年の現役ヒッキ−という設定で
懐かしい響き。
「もしかして、○○君…?」
ほんの気まぐれ、連日の熱帯夜にたまにはPCを休ませてやろうと、久々に外に出た俺にかけられた、どこか怯えたような、そしてなにか安心させる声。
「………?」
反応が遅れたのは他でもない。呼ばれた名前が自分のものであるということを忘れていたからだ。
「名無し」として過ごす数年の生活は、俺を本当の「名無し」に変えつつあったようだ。
「………」
ふと見ると、俺に声をかけてきた少女が不安げに俺を見つめている。
それで、俺はまだ返事をしていないことに気付いた。
「焼肉定食?」
ふと口をついた言葉は、おおよそその場に似つかわしくないものだった。
会話ボケといっても、これは逝きすぎだ。
しかし、少女の反応は、俺の予想を超えるものだった。
「○○君、私のこと覚えててくれたんだぁ…」
そんな、些細なことで涙ぐむほど喜ぶ少女。それで、思い出した。
昔、俺の背後をちょろちょろと付いて来てた女の子のことを。
そして、俺は、本当にわずかな間だけだが、昔の俺に戻ることが出来た。
「それじゃ…」
「おう、気をつけて帰れよ」
それから、二言三言たわいのない言葉を交わし、俺達はそれぞれの帰途についた。
彼女は日常の世界へ。俺は閉ざされた自分だけの空間に。
もうお互い会うこともないだろう。
彼女のあの言葉がなければ。
俺を自分で作り上げた牢獄から解放したあの言葉がなければ。
「でも、ちょっと嬉しかった…○○君、全然変わってないんだもん」