>>552の続き
庭森−27
規則的に扇風機が首を振る。
エアコンが熱風しか出さなくなってから久々に押入れから引っ張り出した。
本当はエアコンを買い直したいだがお金がないので我慢だ。
「浩平、暑いよ〜」
布団の上で暑さにもがく長森が弱音を吐いている。
「おまえの部屋にはクーラーがあるだろう」
「ここでないと眠れないんだもん」
「この暑さじゃどのみち眠れないだろう」
「そんなことないよ」
「苦悶の表情を浮かべて眠っているお前を見ていると怖いぞ」
「わたし、そんな顔してるかな?」
「嘘だよ。本当はかわいいもんだ」
「ば、馬鹿。エアコン直れば普通に眠れるのに」
「先立つものがなくてな」
「はーっ、無駄使いばかりするからだよ」
いつもの通りの会話。
正直、今でも目の前の長森が消えてしまうなんて信じられない。
でもあの日から俺は意識し続けている。
いつその日が来てもいいようにベストを尽くそうと思っている。
ひょっとしたら俺には何もしてやれないのかもしれない。
それならせめて平穏な日々を送らせてやりたい。
「ねえ、浩平」
「ん、なんだ?」
「海に行きたいねえ」