専業主婦になって早3年、赤ちゃんはまだできないけど、お母さんと祐一とわたしの3人の暮らしは
幸せでいっぱい・・・。
今日お母さんは旅行でいない、だから祐一とわたし二人だけの晩御飯だ。
最近、祐一がかまってくれない・・・、ちがうちがう、祐一が元気無いから元気づけてあげなくちゃ。
お仕事が忙しいから疲れてるんだね。平日は残業、今日だって土曜なのに出勤してるし、日曜日は接待
ゴルフ・・・。
だから、うんとおいしいものを作らなきゃ。
「ただいま」あ、祐一が帰ってきた。
まず、あのセリフを言って祐一を和ませよう。小走りに玄関まで走る。
「お帰り、祐一。ご飯にする?お風呂にする?それとも・・・わ、た、し?」
「・・・熱でもあるのか、名雪?」
うぅっ・・・、冷静に返されたよ。
「う、ないよ・・・」
「ご飯にしよう、ご飯。・・・でも、あんまりお腹空いてないんだ」
今日は、特製の牛丼なんだ、その名も名雪スペシャル。隠し味には高級ワインが入ってるんだ、えへん。
「今日は、牛丼だよっ、祐一」
「あ、お土産に牛丼買ってきたのに・・・。それに、俺、昼間食べたんだよ」
「あ、しまった。今日は牛丼の日だったよ・・・」
「何だ、それ?」
「えへへ、祐一のお土産にはローテーションがあるんだよ。「土曜・牛丼、日曜・タイヤキ」、でその
翌週が「土曜・肉まん、日曜・アイスクリーム」
「うっ・・・」
「うん、わたし発見したんだよ、うふふ」
「そ、そうだっけか・・・あははは・・・」
「じゃあ、食べられるだけ食べてね」
「う、うん・・・」
・・・あまり、祐一は食べてくれなかった。心配だよ、お仕事タイヘンなのに。
「はい、お茶」祐一ったら、疲れているみたい。
あ、祐一の携帯が・・・。
「だれから、祐一?」
「わあっ、し、仕事関係の人からメールだよ・・・」
わたしが、覗き込むと隠す祐一。
「み、見るなって」
「ケチっ〜・・・見ないですよ〜だっ」
見ちゃったもん、「はちみつくまさん」だって。祐一、子供みたいなかわいいメール、くすっ。
「そろそろ、お風呂に入るよ。俺」
「ね、わたしもいっしょに入りたい・・・」
「悪い、今日は疲れててさ・・・」
ううん、祐一を困らせる気はないよ。
「うん、そうだね。止めておくね・・・」
「わるい、名雪」
いいんだよ、祐一・・・ちょっと寂しいけど。
祐一の着替えを手伝いながら、そんな話しをしていたら・・・。
「わ、祐一。口紅がYシャツについてるよ・・・」
「ぐはぁ・・・。あ、今日は満員電車に乗ったからなあ・・・」
「会社までバスだよ〜、祐一は」
「・・・うう・・・他社へ届け物があったんだ。そ、そのときだ、きっと」
「わあー、首筋にあざもあるよ。痛くない?」
「ええ・・・っと、そう、どこかにぶつかったんだ。ちょっと痛いけど大丈夫」
タイヘンだったんだね、祐一。今日もお仕事ご苦労様でした・・・。
あ、電話だ。
「はい、相沢です」
「・・・うぐぅ」チンッ・・・切れちゃった。
なんだろう、間違い電話かな?今、あゆちゃんみたいな口癖が流行ってるのかな。
そういえば、昨日は「あうーっ・・・」って間違い電話もあったっけ。
「名雪〜、石鹸とって〜っ」
あ、はいはい。セッケン、セッケンっと・・・。
「ねえねえ、祐一。今間違い電話があったの」
「ふ〜ん」
「『うぐぅ』だって、おもしろい間違い電話だよねー」
「・・・うぐぅ」
わ、祐一まで真似してる、おもしろ〜い。
祐一がお風呂から上がってきた。
「あ、名雪。俺、明日、接待ゴルフだから」
「ええー、またなの・・・。たまには休んでよ、祐一。過労死しちゃうよっ!」
「だって、仕事なんだから、仕方がないじゃないか・・・」
そうだよね・・・わたしのために働いてるんだよね。
「ごめんなさい・・・」
「いや・・・いいよ。俺の言い方が悪かった」
「お土産は、タイヤキ?」
「あ、ああ・・・タイヤキかな・・・」
あ、そうだ。
「そういえば、祐一。先週の日曜日、隣町の駅の近く行った?」
「い、いや行かないけど・・・どうして?」
「今日、香里の家に遊びに行ったんだけど・・・、先週ホテル街で祐一に似た人を見たんだって」
「・・・そ、それは・・・世界には、それぞれ3人そっくりな人がいるっていうから、その人だと思うぞ」
「わ、そうなの・・・。祐一のそっくりさんがあと2人もいるんだ。会ってみたいよ、くすっ」
「あは、はは、はは・・・」
「でね、栞ちゃんにも会ったんだけど。栞ちゃんたら、わたしのことを睨んで『名雪さん、嫌いです』って
言うんだよ。わたし、栞ちゃんに悪いことしたのかなあ・・・?」
「わ、わからないな・・・、俺には」
「そうだよね、祐一のせいじゃないもんね。嫌な話してごめんね」
「・・・・・・」
「そろそろ寝よ、祐一。明日もお仕事だもんね・・・」
布団を2つ敷いた部屋で、祐一に話しかけた。
「祐一、そっちの布団に行って良い?」
・・・寝ちゃったんだ。一緒の布団に入れてね、もぞもぞ・・・。
祐一の寝顔に、わたしは話しかけた。
「ね、祐一、わたし幸せだよ。でも、もう少しひまになるといいね」
「・・・でも、浮気だけはしちゃいや・・・だよ・・・くー」