■SS投稿スレcheese3

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日常。そうだあれは、特別なんて、全然当てはまらない日だった。
俺は、眠い目をこすって目覚ましを止めた。予感もへったくれもない、普通の日だとおもっていたんだ。
その時までは…

ぴんぽーん。
玄関の呼び鈴が鳴った。一瞬慌てたが、横の目覚ましを見るとまだいつもより30分も早い。
なんだよ、あかりのやつ今日は変に早くきたな…。俺は制服を着込むと、玄関のドアを開けた。
「あ、浩之ちゃん」
開口一発あかりは俺の名前をいつも通りちゃん付けで呼んだ。
「ったく。なんだよ、こんな早くに」
「浩之ちゃん約束…忘れちゃったの?」
少し寂しげに笑んで、あかりは言った。<BR>約束?何か約束なんてしてたか?俺。
思っていたことがそのまま顔に出たらしい。あかりはしょうがないなぁ、という顔で笑った。
「今日、何の日だか覚えてる?」
「今日?」
別に祝日でもなんでもない。普通の通学日だ。その証拠にあかりも制服を着ている。だとしたら?
なんだっただろうか?
「本当に忘れちゃったんだね」
また、あかりが笑う。寂しそうに。
「わ。わりい。なんだったっけか?」
「いいよ、いいよ。覚えてないなら。じゃあ、朝支度ちゃんと済むまで私待ってるね」
罪悪感を感じてたので、俺は少しばつの悪い顔をしていただろう。
あかりはそれを感じとったように寂しさを消した笑顔を見せた。
「おう、わりぃな。ソファにでも座っててくれ」
俺はあかりを家に招き入れて、その足で洗面所に向かった。
約束?特別な日?そんな覚えは、あかりには悪いが全くない。
いつの話だろう?どういうことだろう?
いくら頭の中の記憶の引き出しをごったがえして探してもその答えは出てこなかった。
「あ、浩之ちゃん、トースト焼いて置いたよ」
俺が洗面所から出てくると、あかりはにこにこしながら、俺ん家に置きっぱなしにしている熊のアップリケのついた
エプロンをつけて朝食を作ってくれていた。
「おう、さんきゅ」
俺は短く礼を言うと、食卓についた。テーブルには、トーストと目玉焼き、
サラダが朝食として丁度いいだけの量盛りつけられていた。
「まだ全然時間あるからゆっくり食べてね」
あかりはまた笑う。
でも違和感が、俺の頭にへばりついて離れない。何故なんだ?
「なぁ、あかり…」
俺は朝食に手を付けながら、あかりに声をかけた。あかりは俺の正面に
座ってにこにことしている。
「ん?なぁに?」
「お前さ…」
言いにくかった。あかりはすぐ我慢する。何に関しても、だ。
例え今俺があかりと別れたいといったとしても。きっと。
…そんな気はさらさらないが。
多分あかりは俺がちゃんと自力で想い出すまで我慢するに違いない。
それはイコール聞いても無駄ってことだ。
「どうしたの?浩之ちゃん。何か変だよ?」
変なのはお前はじゃないか。なんでそんなにさびそうなんだよ。
口から零れそうになって、俺はトーストを口に詰め込んだ。
「まだ寝ぼけてるの?」
くす、と笑ってあかりは席を立った。
「何処行くんだよ?」
凄く、不安に駆られた。何故だかは解らない。
「お手洗い、借りるね」
困ったように笑って、トイレへ向かうあかり。
何で?こんなにも不安になった?
釈然としない。
何か忘れちゃいけないことを俺は忘れてる?
何なんだ。


そのまま、何も聞けず、俺とあかりは学校へ着いてしまった。
別段普段とは変わらぬ、二人。
でも違う。に何かが、違う。微妙な違和感。
もう二時間目が終わっている。教室が酷くざわついている気がした。
「ヒロ!なーにシケタ面してんのよ〜」
「でたな…」
人が悩んでるっちゅーのに、この女は…。
「人をオバケみたいに呼ばないでほしいわね!…で、ちゃんとやったの?」
時々コイツは何の脈略もないところから、しかも主語やらを抜かして会話をしようとする。
「は?宿題なら見せねーぞ」
3年になって俺達は奇跡とも言える4人組同クラスとなった。
だから、志保のお陰でこいつが教室にいる間は始終やかましい。
「違うわよー。あかりとの、ア・レ!」
少し声を潜めでニヤリと笑いながら志保が言う。
「アレって…なんだよ」
「何言ってんのよ。約束してたんでしょ?あかりと」
何でコイツがわかってて俺がわかんねーんだ。
妙ないらだちを覚えた。
「何なんだ、その約束っつーのはよ」
「なっあんた、覚えてないのー?……さいってーね!」
志保は吐き捨てるように言うと、呼び止める間も置かずに背を向けて教室から出ていってしまった。
「何なんだよ…。一体。」
今日はあかりの誕生日でも、俺の誕生日でもましてや、志保や雅史の誕生日でもないし、
他にビックイベントのある日でもない。
それなのになんだっつーんだ。あかりのヤツも志保のヤツも…。
どうして俺だけ何も覚えてないんだ?
「どうしたの?浩之」
背後から声をかけてきたのは雅史だった。
今の一悶着を見てちょっとばかり心配してるらしい。
「いや、何でもねぇ」
俺は曖昧な顔で雅史に答えた。
「なぁ」
雅史がそれに対して返事をする間を与えずに俺は、声をかけた。
多分この時の俺は酷く真剣な顔をしていただろう。
「何?」
心配そうに、雅史は眉をひそめた。
「俺、あかりとなんか約束してたみてーだけど…覚えてねーんだ。お前何か知ってるか?」
「約束?さぁ?僕にはちょっとわからないな。ごめん」
申し訳なさそうに、雅史は頭をかいた。
「いや、いいんだ。こっちこそわるかったな」
そこで、丁度、チャイムがなった。