「ヒャッホーッ!」
俺は縄をぐるぐる回しながら今日の獲物を追いかける。
しかもその狩猟場は屋外ではなく自宅。
最近降り注ぐ豪雪のせいで運動不足の俺としてはこの狩猟こそ
ストレス発散の最高の舞台。
最高の娯楽だ。
「い…いやァッ!祐一、勘弁してえッ!誰か…誰か助けてぇッ!」
泣き叫ぶ獲物を目の前にして俺の闘争意欲は更に掻き立てられる。
そもそも狐の分際で人間の家庭に潜り込もうってのが、そもそもの
過ちなのだ。
俺は今日、その事を徹底的に叩き込もうかと思う。
『真琴』という生意気にも人間の名前を騙る畜生に。
「ハア、ハア…、死んじゃう…死んじゃうよお・・・」
真琴は何も覆われていない胸を揺らしながら、息も絶え絶えにそう語る。
そもそも畜生が服を着ているのがそもそもの間違いなのだ。
そう悟った俺は真琴からありとあらゆる服をむしり取ってしまった。
おかげで胸もあそこも丸見え。男の俺をしては非常に刺激的な光景で
あるともいえる。
だが、騙されてはいけない。
あれは仮の姿なのだ。
ヤツの本性はあくまで女狐。
しかも厄災をもたらす妖弧であるというではないか。
これを放っておく訳にはいかない。
このまま、生かしておいてはどんな悲劇が起こるのか解らないからだ。
「祐一どう?ちゃんと捕まえた?」
そんな事をふと考えていたら名雪が台所からひょこっと顔を出す。
「おう、名雪か?」
俺はその笑顔を見て、思わず顔が綻んでしまう。
前方の真琴は涙を溢れさせながらガタガタと震えている。
まるで俺達を悪魔でも見るかのような表情を浮かべながら。
「いや、もうすぐ生け捕りに出来そうだな。鍋の準備は出来てるか?」
「うん、ばっちしだよ」
俺はその話を聞いて安心する。
これで厄災に見舞われる事もないのだ。
しかも話しによると妖弧というのは食料として見た場合、物凄い栄養素に
満ち満ちているという。
これは逃す手はない。
「さーて、それじゃあ捕まえてみっか!そ〜れ」
ビュンッ!
俺の放った縄は螺旋状の弧を描き、一直線に真琴の方に向かっていく。
希望の弧を描いて。
ギュゥッ!!
「あうッ!痛いーーーーーッ!」
そして縄は見事に真琴の身体を捕らえる。
俺はその感触に快感を覚えながら、力任せに真琴は引き寄せる。
「おらぁッ!もう逃げられやしないぞッ!」
ぐいッ!
「きゃああああああーーーーーーッ!」
身体をぎちぎちに縛り上げられた真琴が断末魔の悲鳴を上げる。
その瞬間。
ぶしゅうううーーーーーッ!
俺はその瞬間、我が目を疑った。
何と真琴のヤツが余りの痛さに絶えかねて失禁してしまったのだ。
この人間様に唾を吐く行為を絶対に許す訳にはいかない。
俺は食べる前の身をほぐすという意味も込めて、真琴を思いつくまま
殴りまくる。
「この家畜の分際でッ!恥をしれ、恥をッ!」
「ひぎィ!ゆう・・い…ち…勘弁…グゲェッ!」
俺が力任せに殴っていると奥から秋子さんが頬に手を当てながらこちらに
やって来る。
「あらあら、祐一さん。下ごしらえしてくれているの?」
いつも微笑みを絶やさない秋子さんの笑顔を見て、ようやく俺も我に帰る。
気が付くと真琴が瀕死の状態で廊下に倒れていた。
既に鼻は折れ、口から吐血し、足は変な方向に曲がっている。
もしかして、さすがにやりすぎたかと心配する。
だが、それを見て秋子さんは一言。
「さすが祐一さんね、いい感じで仕上がっているわ」
俺はその言葉を聞いて救われる。
秋子さんが『いい感じ』と言ってくれているのだ。
良かった。今日の鍋は最高のモノになるだろう。
「さてそれじゃあ、お料理を始めましょうか。二人とも手伝ってね」
「うん、解ったよお母さん」
名雪が満面の笑みを浮かべながら台所の方に入っていく。
俺はその笑みを見て何とも言えない安心感に包まれる
(やっぱ、親子だよな…)
そして俺は感謝する。この家での暮らしを与えてくれた神様に対して。
「祐一さんは材料を運んできてね」
「了解」
そう言いながらパタパタと台所に向かう秋子さんを追いかけるように、俺は真琴を
担ぎながら同じく向かう。
(どんな味なんだろうな…?)
肩越しにあたる真琴の胸をなで繰りまくりながら、俺は今日の鍋の事を思い浮かぶ。
「…ゆ・・ういち… 何で…こんな・・こと…するの…? まこ・・と…がわる…い・・の?
おしえ・・て…ゆうい・・ち… おしえて…」
その最中、何か声らしきモノが聞こえるが俺は気にしない事にする。
そんな事よりも今日の夕食の方が頭にあったからだ。
楽しみだ。本当に楽しみだ。
30分後。
食卓に豪華な料理が並べられる。
さすがは秋子さんだ。副菜にまでこんなに力を入れるとは…。
そううっとりしている所に秋子さんと名雪が巨大な鍋を持ってこちらに現れる。
「出来たわよ。さ、皆で頂きましょう」
そう言ってテーブルに置いた鍋の中身は大量の狐肉がぶちまげられていた。
物凄い量だ。ホントに三人で食べられるのだろうか?
「ふぁいとっ、だよ」
そんな俺の考えを読んだのか、名雪が笑顔を浮かべながら俺にそう話し掛ける。
「…そうだな、よ〜し、今日は食って食って食いまくるぞ!」
「期待してるわよ。祐一さん」
秋子さんが手に頬をそえながら俺の言動に応えてくる。
鍋から立ち上る湯気を嗅ぎながら俺は真琴を力の限り胃袋に流し込む。
最高の肉。最高の味だ。
俺はこの自分の置かれた境遇に感謝する。
何故ならこの二人が揃わなければこんなに楽しい食事は出来ないに違いないからだ。
暖かい湯気同様の温かみある家族愛がこの家をゆるやかに包み込んでいた。