さあ集え@楓ファン

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623楓たんの1日・家庭編
『四人姉妹』というものは実際、外の視点から観るほど華やかなものではない。

一般的な二・三人くらいのきょうだいや、異性が混じった構成より遥かに、
様々な確執と鬱憤を深く静かに堆積させるものだと実感する。
「家族仲良く睦まじく」なんて、少なくとも私の帰るべき修羅の家からすれば、
まるでどこか遠い異世界の物語だった。
あくまで、耕一さんの目の届かないところで…もっとも、彼は大らかで優しい
ひとだから、そんな陰の実情なんて気付く由も無いに違いない。

梓姉さんは、強くて早くて…激しいひと。私とは違う。同じ屋根の下で
暮らしていくには、生き方が、目的が…価値観が違いすぎるひと。
彼女は、けして私をぶったりはしない。でも、それはことを表沙汰に
したくないだけで、気分次第ですれ違いざまに突き飛ばしたり、粉石鹸の
混じった食事を出してくることなんてしょっちゅうだ。
(そういえば、海苔だと思って口にしたものがカーボン紙だった、なんて事もあった。
黒いリップを掃いた私の口は、その日の食卓に素晴らしい笑いを提供した)

千鶴姉さんは口には出さないけど、やっぱり未だ浮いた話に巡り会えない不運に
日がな苛立っている。そして勿論、その憂さ晴らしはすべて私に向けられる。
私の部屋を荒らしたり持ち物を隠したり…そう、たとえばもうずっと以前…私が
今よりはまだ明るい性格だった遠い昔に一度だけ貰ったラブレター
(その時の私ですら、返事を返す勇気なんてとても出せなかった。結局、
差出人の男の子は翌日引越してしまったが)が半分くらいを残した燃えカスに
変わり果てて彼女の部屋のゴミ箱から見つかった時は、何か本当に私の中の
かけがえの無いところを踏みにじられた気がして、失意のあまり目の前が
暗くなったのを覚えている。

初音はただ、そんな私に侮蔑の視線を投げかけ続ける…私にとっては、
これが何よりも辛くて、いたい──

…いずれも、私が何も言えずに、ただ溜め込んでしまうだけのこんな性格だから。
全部ぜんぶ、私が招いたことだから…いけないのは私ひとりだから。

部屋に駆け込んだ私は、いつか食卓に上った不思議なキノコを手に取る。
そして、全ての悲しみとともにお腹の奥に呑み込む思いで、それを夢中で
口の中にかき入れる。

「………ハッピーーー!ああ、なんかこー楽しいったらないわぁ!まったく、
世の中なんでこんなにも面白い事しかないんだろっ?どっちを向いても楽しくて
楽しくて楽しくてもう、他に言いようがないくらい超・最高の気分ッ♪
…ていうかぁ〜?トモダチだとか家族なんてウザいからヘンに馴れ馴れしくされても
イヤイヤって感じだしィ、ずっとずっと一人でいられたらメンドーなくってぇ、第一
気ままにいられるし言う事ないわネ〜っ♪ウフフ、アハ…アハハッ、アハハハハハハ
ハハハハハハハハハハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

あれ、おかしいな…こんなにもおかしいのに。こんなにも楽しくて仕方が無いのに。


      涙を止めることができないのはなんでなんだろう。                              つづく