KanonSS鬼畜物投稿専用スレッド

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342まごころを君に
観鈴が一日の大半を苦痛に耐えながら過ごすようになって、さらに数日が過ぎた。
『絵日記・・・書かないと・・・』
痛みから解放されたあと、観鈴は絵日記をつけて寝るだけの生活になっていた。
もう、ろくに食事さえも観鈴は取っていない。
『今日も楽しく過ごしました・・・っと』
観鈴は絵日記に自分のしたい事を書いていた。

今日はひとりで楽しく花火をした。

今日はひとりで海で遊んだ。

全部、嘘の日記。

観鈴は国崎が出ていき、晴子も出かけてひとりぼっちになってから一度も笑っていない。
そして、ひとりで遊ぶことさえも出来なくなっていた。

『にはは・・・嘘ばっかり書いてる・・・』
『嫌だな・・・楽しいこと、ひとつもしてないよ・・・』
観鈴の瞳が涙で滲む。
その時、不意に窓の外から子供達の声が聞こえた。

『お〜い!早くしないとお祭りおわっちゃうぞ〜!!』
『待ってよぉ〜!!』

観鈴は子供達の声を聞いて思い出す。
『そういえば今日はお祭りがあるんだっけ・・・』
観鈴はしばらく考え込むと呟いた。

『・・・お祭りに行こう』

『ひとりだけど・・・きっと・・・楽しいよ・・・』

『焼きそばやわたがしやりんごあめ、いっぱい食べて・・・』

『それで・・・今度は・・・恐竜を買おうっと』

『にはは。楽しみ』

『そうと決まったら早速行こ〜っと♪』
観鈴はシャワーを浴びて服に着替える。
部屋に戻り、恐竜の貯金箱を割って貯金を全部出すとそれをサイフにしまう。
そして家のカギを掛けて、夏祭りの会場である神社へと歩きだした。

しばらく歩いて、神社に辿り着くと普段と違い、神社の境内は大勢の家族連れやカップルでにぎわっていた。
観鈴はとりあえず、出店を見て回る。
『あ、すいませ〜ん。りんご飴ひとつくださ〜い!』
観鈴はりんご飴を買って食べながら歩き回る。
『にはは。おいしい』
『・・・楽しい・・・な・・・・』

やがて、ある程度歩いたところで観鈴は見覚えのある人物を見かけた。
その人物は少しだけ神尾家に泊まったことがあった。

『往人さ・・・』
観鈴は国崎の姿を見つけ、声を掛けようとした・・・が。

『あ・・・霧島さん・・・』
国崎は霧島佳乃と楽しそうに話していた。
佳乃は観鈴と違い友達が多く、観鈴はいつも佳乃を羨望の眼差しで見ていた。
『往人さん・・・あんなに楽しそう・・・』

国崎は目の前にいる愛しい少女を観鈴には一度も見せたことのない笑顔で見つめていた。
そんなふたりを見て観鈴は胸が痛んだ。
そして、心の底から佳乃を羨ましいと思った。

『邪魔しちゃ悪いよね・・・』
観鈴はそう呟くと背を向けて走りだした。

(なんて・・・惨めなんだろう)
(それに引き替え彼女は・・・)

観鈴はいつの間にか泣きながら走っていた。
そして、気がつくと国崎と初めてあった場所に来ていた。

(どうして・・・こんなに苦しいの?)
(往人さんが霧島さんと仲良くしてたから?)

『にはは・・・やきもち・・・なのかな、これ・・・』

『・・・うぅ・・・うわあぁぁぁぁぁぁぁん!!』
観鈴は赤く染まった海の前で堤防に持たれかかり泣きだした。

しばらく声を出して泣いたあと、観鈴は家に向かって歩きだした。
観鈴の瞳からはまだ、涙が流れていた・・・。

『はやく・・・帰ろ・・・』