七瀬が楓と対戦するには越えなくてはならない問題があった。ウェート差だ。
フェザー級でもぎりぎりの減量をしてきた七瀬にとって、楓のいるバンタムに体重を落とすのは至難の業。
部屋を閉め切り、かっぱを着込んでストーブをたく。まさにサウナ状態。
ウェイトにもっとも左右される水分はいっさい取らず、毎日トマト一個の食事で激しいトレーニングを続けた。
大会前夜、七瀬は乾ききった体に耐えきれず地下室の扉をたたき壊し、水を求めて暴れた。
「水だ、水だぁぁぁ!もう減量はやめだ!水、水だぁぁぁ!!」
しかし、水道の蛇口すべてに針金がまかれ水は飲めない。
いつか七瀬が耐えかねて水をほしがる。そのとき乾ききった体に冷たい水は毒。
広瀬はコップ一杯の白湯を七瀬に手渡した。
「私がやったことです。ごめんなさい。こうなるだろうということは分かっていたの。」
「さあ、お飲みなさい。ひといきにこれを飲みほして…元のはつらつとした七瀬にもどるのよ!」
そのコップ一杯の水を捨てた七瀬は不適に笑い。
「あ…ありがとう真希…その気持ちだけ、ありがたく飲ませてもらいます。」
「きざな言い方ですけど、真希の涙を見てこれで楓と戦う決心が更に固まりました。
このやせ細ろえた体で打ち合って見せます。」
七瀬は耐え抜いた。楓と戦うために。
あとすこし、あとすこしだ。がんばってくれ、七瀬!!