葉鍵ロワイアル!#10

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1名無しさんだよもん
基本ルール 、設定等は前スレ熟読のこと。

・書き手のマナー
キャラの死を扱う際は最大限の注意をしましょう。
誰にでも納得いくものを目指して下さい。
また過去ログを精読し、NGを出さないように勤めてください。
なお、同人作品からの引用はキャラ、ネタにかかわらず
全面的に禁止します。

・読み手のマナー
自分の贔屓しているキャラが死んだ場合は、
あまりにもぞんざいな扱いだった場合だけ、理性的に意見してください。
頻繁にNGを唱えてはいけません。
また苛烈な書き手叩きは控えましょう。

前スレ
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=993838953
感想スレ
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=995131452
感想、突っ込んだ議論、NG処理、アナザー没ネタ等にお願いします。
そして、絶対にNG議論は本スレで行わないように。

その他のリンクやキャラの状況は>>2-5にあります
2名無しさんだよもん:2001/07/15(日) 13:49
施設組み
011大庭詠美 017柏木梓  046椎名繭
020柏木千鶴 061月宮あゆ (医務室)
068七瀬彰(突入するかは不明)

診療所
019柏木耕一 088観月マナ 021柏木初音

雨宿り組み
029北川潤 069七瀬留美 092巳間晴香 033国崎往人

反転組み
050スフィー 037来栖川芹香

放送施設探索組み
040坂神蝉丸 083三井寺月代

草原組み
024神尾観鈴 003天沢郁未

誘拐犯
048少年 一緒に気絶したフランクが、長瀬の情報を得るために拷問でもされるか?

単独組み
022鹿沼葉子 023神尾晴子(気絶)
3名無しさんだよもん:2001/07/15(日) 13:50
●リンク
ストーリー編集 (いつもありがとうございます)
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/1168/index.htm

対戦履歴編集
http://members.tripod.co.jp/hakagitac/

アナザー(外部スレ)
http://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=993054328

現在のアイテムリスト(7/12現在)
http://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=991237851&START=991&END=994&NOFIRST=TRUE
4名無しさんだよもん:2001/07/15(日) 13:51
御堂と彰の注意点

1 ここは結界内である
   仙命樹の効果が結界内でもそんだけあるなら岩切は今頃不死身のマーダー

2 いくら仙命樹でも血と共に体外に大量に出てしまうと効果が無くなる
   現に本作中で御堂はセミーに首を切られ、大量失血で死亡した(らしい)

3 原則として死者蘇生はNG
   御堂の死の意味が全く分からなくなる。

空黒作者の他の力も強まるか?と言う質問への回答

>えっと不可視の力ONLYです。

>しかも神奈は少年のみに働きかけたので、
>激しく影響を受けたのは側にいた郁未のみ


彰くんは鬼化できません
結界もあるんだし。『鬼』の力も満足にたまってませんから
彰はナイフしか持っていない。
5策士(1/2)林檎:2001/07/15(日) 14:12
「この下。どうなってるんだろう?」
 目の前にあるのは隠し階段。ぽっかりとその口を開けて彰を中へと誘っている。
 彰はその好奇心を持って一歩を踏み出した。

 奴は落ち着かない。
 同族の女の香り。これほど喜ばしいものはない。
 しかし奴は忌々しげに床を叩いた。彰の理性の檻。その床を。
 力が足りぬ。
 完全に表に出られるのならそれでよい。人間の理性に働きかける結界など、奴にはほとんど意味は無い。
本能で動く。本能で身体を動かす。本能で犯る。本能で殺る。
 身体を乗っ取る程度でもいい。人間の力に毛が生えた程度のだとしても、奴には狡猾な頭脳がある。
 だが失敗した。依然として檻の中だ。
 犯れぬ。同族の女を見つけてもこれでは犯れぬ。
 なんとか『彰』には堕ちてもらわねばならない。
 そのためにも、まずは犯りやすい。殺りやすい相手の豊富な診療所に戻るのが得策。
 しかし意外だった。同族の女が他にもいたのだ。しかも熟成しているとみた。
 なら未成熟な初音など、『彰』を堕とすために犠牲にしてもかまわぬかもしれん。

 しばらく進むと明らかに人工物とわかる空間に出た。
 清潔感のある白い壁。規則的に天上に張りついている電灯。
スプリンクラーに消火器。非常ベルらしきボタン。
なんともどこぞの大病院か研究施設のようだ。
 冷房まで効いている。この島にあってなんとも豪華な。
 彰が読む推理小説に、秘密の研究所などというチープなものは登場しなかった。
が、子供の時にTVで見た記憶から、ここを見てそう思わずにはいられない。
「つまり、あの施設の裏口ってとこかな…」
 耕一が存在を予測した裏口のひとつ。場所もほぼその通りだった。
 彰も作戦会議の中身をあとから聞いていた。耕一の推理力に少しばかり闘争心を燃やしたのを思い出す。
この場所を耕一に知らせた時の得意げな顔が目に浮かんだ。
6策士(2/2)林檎:2001/07/15(日) 14:12
(耕一さんか…)
 初音のお兄さん。実際の兄妹ではなく義兄妹らしい。
――耕一お兄ちゃんが、髪が短くて、すごく逞しい身体の、優しい人
――耕一、という男の名前を出した時、不自然なほど明るい声になった。
――多分、初音ちゃんが好きなのはその耕一という男なのだろう。
 あの時の映像が浮かぶ。
 黒い物が沸いた。
心の中にドロドロとした物が鬱積していくのがはっきりと分かる。
 頭が、考えてはいけない事を勝手に考え出す。
(初音の心は本当に僕のものなのか?)
 彰は自分を見る初音を思い起こす。
(あ…れ?)
 その目はちゃんと自分を見ていた。
 はず。
 気がする。
 気がした…。
 だろう。
 だといいな…。
 いきなり自信が無くなった。
 急激に愛し合った男女。その男など、一時でも離れてしまえばこうなってしまうのかもしれない。
 彰の足が階段に向く。

 人を操るのにたいした『力』など必要無い。
 なにもかも、人の心を流し動かす策士の技なり。
7復帰(1):2001/07/15(日) 16:45
ええ、えーと。
は、はじめましてですー(ぺこり)。
マルチと申しますう。

あのですね。
最新のわたしに事故があったみたいで、ここで復帰中なんですよー。
いつもは来栖川の研究室で復帰作業するはずなんですけれど。
どうしたんでしょう?

『はいはいはい!それじゃとりあえず、荷物拾って!
 繭!あんたは飼育係!そう、みゅーでもなんでもいいから!
 こっこら!ネコミミ引っ張るな!』
大きな声が、聞こえますね。
研究員の皆様とは違うような気がするんですが…。

『あー、解った解った!ネコミミはやるから泣くな!
 うわっ!どっから蛇までつれて来たんだよ!?
 は?そいつもみゅー??なのか???』
なんだか動物さんがたくさんいるみたいですう。
楽しそうで羨ましいですー。

『みゅー♪』
『…あー…もう、なんでもいいや…ホラホラ、行くよ!』
はわわっ!?
なんだかこっちへ来るみたいです!
どどどどうしましょう!?
と・とりあえず隠れましょうか!?

(かっくん)

…はうー…ラインが外せないみたいですー(涙。
えーと、まだエネルギー管理ソフトが、ほとんどインストールされていないんですね。
並列思考は、ほとんど完了してるみたいですけれど…ソフト全体の半分も入ってませんね。
どうしてこんなところで、インストール中断しているんでしょうか…?
8復帰(2):2001/07/15(日) 16:46

『ちょっと梓!何であたしが荷物もちなのよ!』
『うるさいな!じゃあお前、先頭きって突入するか!?』
…と、突入とか言ってますっ(汗。

『ま…まあ、あんたも、したぼくとして認めてあげるから、せいぜい努力なさい』
『だから、げぼくだって』
『みゅー、げぼくだよー』
『……(があぁぁん)』
あ、なんかすごく落ち込みムードが漂って来ますう。
でも、わたしの辞書登録によると、やっぱり”げぼく”が正しいですねー。

(プシー)

自動扉が開くと同時に、身を低くして凄い速さで文字通り突入してきたのは…
…なんとメイドさんでしたー。
ほ、本物ですよ!
わたし憧れちゃいますうー。
でも、すごく物騒なもの持ってますね…本物のメイドさんって、厳しい仕事なんですね…。

「…誰も、いないね」
「ま、誰か居るなら、わざわざ大将がお出ましになる事もなかったろ」
「みゅ?」
はわわっ!
き、気付かれましたっ!
どどどどうしましょうっ!?

 
9名無したちの挽歌:2001/07/15(日) 16:49
【柏木梓 H&K SMGU二丁、防弾メイド服所持、棒は捨てました】
【大庭詠美 ステアーTMP、Cz75-1st(ぽち)、CD無記名、CD4/4、体内爆弾爆破光線銃、
 S&W M10 所持】
【椎名繭 ぴろぽちそら飼育係任命 ステアーTMP、エアーウォーターガン(硫酸入り)、
 機械(実はレーダー)、ネコミミ所持】
※残弾、食料、水については省略。
※千鶴はH&K SMGUを持って行ったものとします。あゆはイングラムM11のままです。

【マルチ未完全体 源五郎がマザーコンピューター操作補助のために個人的に復帰させて
 いたものです】
※結局作業途中で投げ出されたので、記憶も半端で移動もできません(電源有線)。
※マザーコンピューターのオペレーションに助言は出来ますが、CD内容や島の謎、長瀬等
 の情報はもちろん、死亡したオリジナルマルチが島内で得た記憶は、全く知りません。


御堂復活ネタが出たので放棄しようかとも思いましたが…。
マザーコンピューター室の設備の1つと考えてください。
ラインをきれば、電源供給が切れてシステムダウンいたします。
10名無しさんだよもん:2001/07/15(日) 16:52
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      ∨            ∨  
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                                /l     /\
                              /| ̄ ̄ ̄ ̄l\/
                                |  しぃ  |/ ,,,
    ∧ ∧∩         ∧_∧∩  ,,,  ̄ ̄ ̄ ̄ ,,,,
    (,,゚Д゚)/      目.(,, ´∀`)/           Λ_Λ  ヘ、ヘェィ・・・
     |  : /       || | <∞>./   ,,,        (*゚ー゚)∩
   〜∪  |        || U  |  |            ⊂    / ,,,,
     U.U.        || .(___)_)         〜O―‐⊃
11名無しさんだよもん:2001/07/15(日) 16:53
>>10
誤爆スイマセン
12画像(1):2001/07/15(日) 16:55
や、梓だよ。
その後どうなったか、気になるだろうから報告しとくよ。
あたしは何とか動物と繭と詠美を纏め上げて、目的地に到達したんだ。
いや、ほんと大変だったよ…一匹増えてるし。
動物は全部名前がみゅーみたいだし。
わけ解んないよ。
怒るとみゅーだし。
悲しくてもみゅーだし。

…あーごめん。
話が逸れた上に愚痴っちゃったね。

そんでさ。マザーコンピューター室だけど。
ほぼ確実に誰もいないだろうとは思ってたけど、それでも緊張して自動扉を抜けたんだよね。
何がいたと思う?
行動不能の、ぽややんとしたHMが一体だけだよ。

こう、何ていうのかな?
HMってのはもっと真面目なもんだと思ってたんだよね。
「はうー、わたし真面目ですようー」
…これだよ?
大体さ、”はうー”って誰が用法登録したんだよ。
あたし社長ならクビだね、こんなの登録したヤツは。


おもいっきり脱力したころ、再び自動扉が開く音が聞こえてね。
振り向くと、さっき追い抜いた二体のHMがスタスタと歩いてくる。
ガラにもなく銃なんか構えてみたけど、彼女たちは無視したまま席についちゃったんだ。

「通常業務及ビ維持作業ヲ再開シマス」
高らかに宣言すると、そのまま黙ってコンピューターとやりとりを始めていた。
やっぱり、あたし達のことは無視。
そうだよ、HMってのは、こういうもんだろ普通。
13画像(2):2001/07/15(日) 16:56

「はわわー、やめてくださいー」
視線を流せば、繭に遊ばれて困っているぽややんがいる。
肩の力が抜けて、しばし呆けるあたしを引き戻したのは、詠美だった。

「梓、動かないなら放っといていいよ!先にCDだよCD!」
やけに張り切っている。解らないでもないけれど。
これで何も情報が得られなかったら、おっちゃんも報われないもんな。
…でもあたし、コンピューターなんか解んないぞ?
詠美は大丈夫なのか…?

一抹の不安を抱きながら、とりあえず近場の椅子に腰掛けた詠美の傍らに立つ。
「とりあえずココにCD入れて…」
「こ、これって!?…ちょっと待ったあ!」
慌てて詠美を引き止める。

「この画面の隅にあるの…あたしじゃないか?」
「ほんとだ。
 あんた…無意味に胸デカイわねー」
「無意味ってゆーな!」
なぜか、画像は水着姿だった(いつ撮ったんだこれ!?)。

「隣は千鶴さんと、あゆちゃんだね」
画面をずらして、画像を前に持ってくる。
麦藁帽子を被り、鶴来屋のはっぴを着て、アイスを売る千鶴姉。
ダッフルコートを着て、たいやきを咥えたまま、全力疾走しているあゆ。
…どうにも納得いかない画像ばかりだが…たしかに、あたし達だった。
14画像(2):2001/07/15(日) 16:57

「それは、データベースですねー」
振り向けば、繭にオモチャにされながら、ぽややんが発言していた。
「その番号と、あちらのレーダーの番号が対応してるんですよー」
その言葉に操られるように、あたし達はきょろきょろと首を回していた。

ぽややんの助言に従い、マウスを使って次々にページを変えて行く。
「梓達の画像に×がついてたのは…死亡扱いって事かな?」
「うん、偽装は上手くいってるみたいだね。
 三人並んでたとこ見ると、疑われているんだろうけれど…
 …詠美、あんたも付いてるよ、×印」
そこには、執筆中に寝てしまい、大口開けて涎をたらす詠美の姿があった。

「……なあ」
「なによ」
「無意味にデカイ口だな」
「う、う、うるさいわねっ!
 むかつくむかつくちょおむかつくっ!」
「喧嘩はだめですうー」
「みゅーーーーーー♪」



【梓&詠美&繭? マザーコンピューターと格闘開始】
※マルチ未完全体の助言がありますが、どこまで情報が引き出せるかは不明。
※量産HMはレーダー情報管理と、データベースの編集、データのやり取りなどを行っています。
 また、源之助からの通信には617話「侵入」と同じく居留守を使います(本当にいませんが)。
15名無したちの挽歌:2001/07/15(日) 16:59
「復帰」「画像」と連作です。
ようやくこれで、CDネタに入れるわけですね。


そして投稿時に失敗…鬱だ。
>>14の題は「画像(3)」でお願い致します。
16embryo (1):2001/07/15(日) 17:10
長瀬源三郎のいた、医務室。
私が殺した、狂った怪物。
今は、私たちがそこにいた。
人ならぬナニカとともに。

「おじさん、血だらけだよう。千鶴さん、早く、早く、助けてあげてよう。」

人間としての御堂は、すでに息絶えていると言っていい。
私が、そしてあゆちゃんがここに来たのは、御堂の中に居る「熱」。
その「ナニカ」がもしかしたら、御堂を助けるための何かだったら。
もうこれ以上、あゆちゃんを苦しめずに住むのなら。助けてあげたかった。
例え助からなかったとしても、納得させてあげたかったから。
自分たちは、最善を尽くしたと。
たぶん、偽善。

その、「何か」…少なくとも、すがる希望はあるのだ ---それが一体何であろうと。
人を救う過程で、あゆの、「ひとを殺した」意識が少しでも和らげば。
私たちは、人を救おうと、こんなにもがんばっているんだ。
偽善。

御堂の体は、確実に冷たくなってきていた。
ふたりで、少ない知識で、あり合わせの道具で、薬を塗り、包帯を巻き、失血を止めてやる。
何のために?
もう、流れるべき血など、わずかも残っていないのに。
17embryo (2):2001/07/15(日) 17:11
「おじさん、どんどん冷たくなっていくよう…おじさん、助からないの?」
「あゆちゃん、…正直、御堂さんは、もう助からないかもしれない。でも、今はとにかく最善を尽くしましょう。
お別れを言うのは、もっと後でもいいはずよ」

おわかれ、という言葉にあゆは反応した。
包帯を巻いているあゆにも解ったことだろう。一時は平熱以上の熱を持っていた御堂の体温が、
確実に、屍体の「それ」に近づいていることを。

輸血。
造血剤。
解る範囲で、あらゆる手を打った。
しかし。

御堂の体は、ふたたびあの「熱」を帯びることはなかった。

もう、やめよう。
御堂にお別れを言い、私たちはここを立ち去るべきだ。
あゆはそれを納得できるだろうか?

「おじさん、頑張っ、て、ボクと、一緒に、戻ろう、よ。」
「おじさん、頑張って、ボクが、今度はボクが、助けて、あげる、から。」
あゆは、御堂の体の、幸い傷のなかった胸を、懸命にあたため、こすっていた。
懸命に。
あの熱が戻れば、御堂が生き返ることができると。信じて。
信じようとして。

あゆは涙をぼろぼろ流して、
ひたすら息を切らせて。
それは、自分の命を、分け与えているようにすら見えた。
18embryo (3):2001/07/15(日) 17:14
「あゆちゃん、もういいわ。私たちは、出来るだけのことをやったわ。
おじさんにお別れを言って、梓たちのところへ戻ろう。ね。」

正直、梓たちの無事が気になる。詠美も繭も、それなりのショックを受けている筈だ。
特に繭。あの聡明だった娘が、壊れたように喚き叫んでいた。
一体何があったのか。御堂を優先して梓に任せてきたものの、いくらなんでも長居しすぎた気がする。

「いやだよ!千鶴さん、まだまだ足りないよ!今までボクはおじさんたちに助けられてばっかりだったから、
今度はボクがおじさんを助けてあげなくちゃいけないんだよ!
おじさんを助けて、おうちに戻って、商店街も案内してあげたいし、ボクの学校も見せたいのに。
もっともっと、おじさんと話したいことがあったのに。生き残れてよかったねって、
ボクの知ってる人たちはみんな死んじゃったけど、それでも、おじさんや、千鶴さんや、
他のみんなと、よかったねって、もう誰も死ぬのはいやなんだよっ!」

あゆはくしゃくしゃな顔をもっとぐしゃぐしゃにして、流れている涙はぬぐうのに追いつかなかった。
あゆちゃん…
あゆの涙が、かつて熱を持っていた御堂の体に、ぼたぼたと落ちていた。

その時。
あゆの落した涙が、光った。
光ったように、私には見えただけかもしれない。たぶんそれが現実。
あゆの落した涙を受けた部分が、あかく光った。
それは、あのモノが発した熱と同じ。
なんて、風景。

奇跡。
まるで、…天使。

「ガキが、あんまり、世話をやかすんじゃねえぞ…」
「おじさん、やっと会えた…」

私はその時、知らず涙を流していた。
あるはずのない幻聴に。
その奇跡に。
19embryo (4):2001/07/15(日) 17:15
「おじさん、助かるんだよね。また一緒にいられるんだよね。」
「バカ、無理言うんじゃねえ。俺ぁもう駄目だ。
全くらしくねえ。この島を出たら、俺は蝉丸を殺すか、俺が殺されるか、そのはずだった。
それがガキを助けるために死んで、今またチビガキに呼び戻されるなんてよ。
まったく、らしくねえぜ…」
「おじさん、もう、駄目、なの?」
「ああ。こうやってまたおめぇと話せるなんざ、…奇跡…みてえなもんだ。
仙命樹の力ももう及ばねえ。最後の悪あがきってもんさ…まったくこの俺が、ガキによ…」
「おじさん…」
「いいか、あゆ。おめえは生き残れ。詠美も、そこの千鶴も、赤毛も、なんとしてもだ。俺にはもうなんの力もねえが、
少なくともおめえらは今の今まで生き残れた。生き残れるさ。そしてなにもかも忘れて達者で暮らせ。」

「おじさん…今までありがとう。ボク、おじさんのこと、絶対、忘れない。」

「さよならだ。…あゆ、もしかしたら、お前は、俺の…」

消失。

何、今の…
まるで…奇跡。

自分の涙に気づき、私は慌てて、それを拭う。

「あゆちゃん、今の…」
「千鶴さん、お待たせしてごめんなさい。ボク、もう行くよ。
おじさんには、ちゃんと、さよなら言えたから。」

奇跡。
幻聴。
もうどうでもいい。
御堂は、安らかに旅立てたのだ。
あゆも、立派に、それを見送ることができた。
それだけだ。
20名無しさんだよもん:2001/07/15(日) 17:15
これはどうよ? ウキウキしてくるね。

http://www.bbs-express.com/bbs6/pppt.cgi?room=oasis
21embryo (5):2001/07/15(日) 17:17
ふと、気づいた。
もの言わぬ御堂の体の上、あゆが奇跡の涙を流したところに。
一粒の、小さな種。
いや、胚とでも言うべきモノ。
あゆちゃんはそれを、大事そうに両手で抱いた。

(おじさん…ボク、おじさんのきもち、受け取ったよ。
帰ったら、皆に自慢するんだ。
この何日か。ボクの近くには優しいおじさんがいて。
顔はこわくて、そっけなかったけど。
ボクを守ってくれていた。
もう逢えないけれど、ボクはおじさんの気持ちを受け取ったから。
それじゃ。さよなら…おじさん。)

【千鶴、あゆ。御堂に別れを告げ、再び最深部へ】
【あゆ 種(?)入手】

------

書きました。

千鶴が見たものは、「奇跡持ち」のあゆが、仙命樹の最後の力の触媒になった、て所です。
あゆの奇跡も、仙命樹も、御堂復活までの力はないという解釈で。
あゆが手に入れた種は、奇跡が生んだ仙命樹のかけらかもしれませんが、実際の力はほとんどありません。
のちのち話の「種」くらいにはなるかもしれませんが、おじさんの思い出を形にしたものという程度です。
では
22名無しさんだよもん:2001/07/15(日) 17:18
http://www.hokkaiichiba.co.jp/
北海市場!激安食品販売店です!食費が今の半分になります!
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(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
23口は災いの門(その1):2001/07/15(日) 23:08
それにしても腹減ったなぁ。
多分もう昼過ぎだから仕方ないと言えば仕方ないな。

「北海市場!激安食品販売店です!食費が今の半分になります!」

何故かそんなフレーズが頭に浮かんだ。
蟹、イクラ、ホタテ、もずく………食べたいなぁ。
いつもなら「お昼休みはウキウキウォッチング♪」から「何が出るかな、何が出るかな♪」の
ゴールデンコンボを見ている時間だからなぁ。
などと言うことを考えている間も七瀬さんと晴香さんによる国崎往人公開尋問ショーは続いているようだ。
あの二人が刀もって尋問してる様子を一言で表すと、「あれは恐ろしい物だ」って感じだな。
しかしこのままじゃらちがあかないのでそろそろ俺様の出番だな。
24口は災いの門(その2):2001/07/15(日) 23:11
「まぁまぁ、七瀬さんも晴香さんも落ち着いて」
ギロッ!という擬音が聞こえてきそうな程の勢いで二人ににらまれてしまいました、母さん。
蛇ににらまれたカエル、どころの騒ぎではありません。
例えるならラオウの前の村人A、もしも「お前はもう死んでいる」と言われたら
僕は「アベシ!」と言いながら死んでしまってもおかしくないほどです。
それでもわずかながらの勇気を振り絞って二人の女王様に提言いたしました。
「あ、あのデスね、ぶ、武器も持っていないようですし、た、多分危険な人では無いと思われますです、ハイ」
「まぁ、そうね。見た目は十分に怪しいけどね」
そう言って二人は刀を納めてくれました。良かった良かった。
「すまない、助かった」
「いえいえ、大したことはしておりませんよ、国崎往人さん」
「そう言えば………何故お前は俺の名前を知っている?会ったことは無いはずだが」
「ああ、そうそう。私達もそれが聞きたかったのよ」
「あ、それはですね。国崎さんの事を捜している女性二人組と少し前に会ったからです」
「何?!それはどんなやつだ?!」
国崎さんが突然俺の言葉に凄い反応をしたので少し驚きながらも答えた。
「え、え〜とですね。長い黒髪のお嬢様風の人とピンクの髪の小さな女の子でした」
「そ、そうか」
そう言った国崎さんの顔には失望の色がはっきりと表れていた。
「その人達国崎さんの知り合いなの?」
「いや、聞いた感じでは全く会ったことも聞いたことも無い」
「じゃあ何でその人達国崎さんの名前知ってたの?」
「その二人が参加者名簿を持ってたからだよ、晴香さん」
「ふ〜ん、そうだったんだ」
晴香さんはあまり興味が無さそうに返事をした。
25口は災いの門(その3):2001/07/15(日) 23:13
「あ、そうそう。自己紹介がまだだったわね。私は七瀬留美、でこっちが」
「巳間晴香よ」
「俺は北川潤だ」
「あ、ああ。国崎往人だ、っともう知ってるみたいだがな」
「でもどうして国崎さんあんなところに居たの?」
七瀬さんが木の上を指さしながらそう尋ねた。
「いや、それが俺にもさっぱり分からん。気がついたらあの木の上にいたんだ」
「ふ〜ん、不思議なこともあるもんね」
「それよりもお前達に一つ聞きたいのだが、この辺で女の子と関西弁のおばさんの二人組を見なかったか?」
「さあ?知らないわ。北川は?」
「いや、俺も見たことないな」
「そうか………、邪魔したな」
そう言って国崎さんが立ち上がった。
「俺は人を捜さなければならんのでな、失礼させてもらおうか」
「わ、ちょっと待て!捜すってあてはあるのか?」
「………無い」
「それじゃあ、俺と一緒に行動しないか?あんたを捜してた二人に会わせたいんだ」
「悪いが俺にそんな暇は無い、早く二人を捜してやらないと」
「まぁ、待て。あてもなく捜しても仕方ないだろ。その二人に会ってくれるならこれをやるからさ」
「何だそれは?」
「これ、詳しい理屈は分からないがどうやら対人レーダーみたいでさ、これがあればあんたの捜し人も
 早く見つかるんじゃないのか?」
「何?!本当か!」
「ああ、ほらこの光の点が人を表してるみたいでな、ほら中心に4つあるだろ。で、この端っこにある2つの点が多分
 あんたを捜してたっていう二人組だ。方角的に間違いなさそうだ」
「………」
「どうだ?悪い話じゃないだろう?それに国崎さん武器も持ってないみたいだしさ、俺と行動した方が安全だと思うぜ」
「………いいだろう、だがその二人には会うだけだぞ。その後すぐに観鈴たちを捜しに行かせてもらうからな」
「ああ、それで構わないぜ」
26口は災いの門(その4):2001/07/15(日) 23:15
よし、これでスフィー達に国崎さんを会わせることができるな。
会わせる義理は無いけどな。ま、相沢を看取った仲だしな。
それに健太郎さんのこともスフィーに一言伝えておかなきゃならないしな。丁度いいか。
「ちょっと北川」
「ん?何?七瀬さん」
「蝉丸さんたちのところに行くっていう話はどうなったのよ?」
「ああ、それは国崎さんをその二人に会わせてからそっちに向かうよ。そんなに急いでるわけでもないしな」
「そう、まぁあんたがそれでいいんなら構わないけどね」
さて、話もついたことだし一安心だ。
………あ、もう一つあったっけ。
「あの〜、晴香さん、七瀬さん」
「何よ」
俺は恐る恐る切り出した。
「それでですね、国崎さんにも何か武器が必要だろうしこの3つ俺が持っていってもいいよね?」
うぅ、二人の視線が痛い。
「ま、いいわよ。どうせ私達もそんなに持てないし」
「そうね」
27口は災いの門(その5):2001/07/15(日) 23:16
ふぅ、生きた心地がしなかった。あの二人に睨まれたらメデューサも真っ青だな。
え?なんか二人の顔が急に険しくなったぞ?
「北川、あんた死にたいらしいわね」
「七瀬、私も手を貸すわ」
って俺また口に出してたのか〜!!!!
「く、国崎さん!助けて!」
「………二人とも死なない程度にしてやってくれないか。いや、待てよ。死んだらレーダーが無条件で手にはいるな」
「え?え?」
「と言うわけで好きにしていいぞ」
「ちょっと………」
「ま、そう言うわけだから」
「覚悟しなさい」
そう言って二人が近づいてきた。
二人とも笑顔だけどなんて言うかこんなに恐ろしい笑顔を見たのは初めてだ。

相沢、案外早くお前に会えるかもな。

【北川 CD1/4、2/4、無印、志保ちゃんレーダー、M19マグナム、クマ爆弾、釘打ち器、大振りのナイフ所持】
【晴香 刀、ワルサーP38所持】
【七瀬 毒刀、手榴弾三個、レーザーポインター、瑞佳のリボン所持】
【国崎往人 北川と共に行動する】
※端っこに映っていた点はスフィー達とは限りません。そこは次の書き手にお任せします。
28名無しさんだよもん:2001/07/16(月) 01:04
タイムテーブル的にはセミー達あたりか、葉子達か、他にあの辺にいる2人組はいたっけ?
29来訪者の多い場所(1):2001/07/16(月) 01:52
叩きつけるように降り注ぐ、雨。
「随分と唐突に振り出したものねぇ」
呟き、窓の外のグレーの空を見上げる。
この降り方だと、未だ暫くはここに滞在しなければならないようだ。

兎角、時間がない。
こうしている間にも、国崎往人が生命の危機に晒されている可能性もあるのだ。
残りは25人を切った。いままで協力態勢をとっていた者たちでも、
ここまで人数が減れば、もしかしたら全員殺す気になるかもしれない。
――放送の直前か、直後に聞こえた耳を劈くような轟音だってそう。
それは誰かが、まだやる気なのを暗示するものなのかもしれない。

そう考えると、この小屋にも長時間滞在するわけにはいかない。
参加者のひとり、北川潤に場所を知られているからだ。
彼が裏切る気になるとは、そう想像できる事ではないが、可能性は全くのゼロではないし、
本人にその気がなかったとしても、もし他人にこの場所の事を話したりしたときに、
その相手がやる気になっていたとしたら……
30来訪者の多い場所(2):2001/07/16(月) 01:53
「……早くやんでくれないかなぁ、この雨」
溜め息混じりに、スフィーが呟く。
そう。雨が降り止まないと、この場所からは動けない。
降り注ぐ雨は視界を奪い、
響き渡る雨音は聴覚を奪うからだ。
迂闊に動き回れば、それだけ狙われやすくもなる。
いまはただ、時間が過ぎるのを待つしか無い。
ひとつだけやり残したことを、除いて。
ひととおり部屋を見渡す。その中で、どうしても目につくものが、みっつ。
「ねえ、スフィー」
願わくば、彼彼女らに……
「結花たち…ちゃんと眠らせてあげよう」
安らかな、眠りを。

3人の遺体を、室温の低い部屋に並べる。
どろりとした、粘着質な血がべったりと手や服に纏わりついたけれど、気にはならなかった。
……それは、3人が存在した証だから。
31来訪者の多い場所(3):2001/07/16(月) 01:53
終わって。
3人の顔を見る。
それはまるで……眠る様に、安らかな顔で。
そんな3人の顔を見て、情けなく泣く事なんて許される?
(そんな訳…ないじゃない)
だから……精一杯、笑いかけて、言ってやった。
「安心して。あなたたちの気持ち、願い、心……全部、わたしたちが全部……受け継ぐから」
それは、嘘。
ひとの想いをまるまる抱えきれるほど、強い人間なんていない。
だけど、出来る範囲でなら。
自分が頑張って、頑張って、もう限界って言うところまでは、やってみせるから。
……だから、このぐらいの嘘は、許して欲しい。
「芹香……」
気がつくとスフィーが、わたしを見上げていた。
改めてひとの死を認識した事で、心細さとか、そう言った感情が再び沸きあがってきたのだろう。
不安げに、服の端を掴んでいる。
そんな彼女の頭を優しく撫で、わたしは言った。
「まだまだ……これからなんだから。頑張りましょう、3人のぶんも……ね」
そう。一足先にここを発っていった北川潤の、ように。
わたしたちも……強くあろう。
スフィーもそれに、笑顔で、答えた。
「うん!」と、元気いっぱいに。
32来訪者の多い場所(4):2001/07/16(月) 01:54
と。
突然。
ずしん、と言う、微かな重低音と、僅かな揺れ。
「……地震?」
スフィーが、再び顔を曇らせる。
地震。いや、それにしては……揺れが短すぎる。
これは何かが倒れたとか、落ちたとか、そう言う系統の振動だ。
それも……重いものが。
冷や汗がひとすじ、頬を伝う。
参加者同士の戦闘?
それとも何かのアクシデント?
理由は分からない。だが、自然に起こったものとは……そうそう思えない。
そして、それは、この耳で聞こえる位置……そう遠くない位置。
つまり、居るのだ。参加者が、そう遠くない場所に。
……どうする?
ここに留まるのは、危険なのではないか?リスクを負っても、移動すべきではないか?
(全く、この辺りは本当に……来訪者の多い場所ね)
芹香は、皮肉っぽく笑った。

【残り 22人】
33雨宿り:2001/07/16(月) 11:17
「で、やっぱり出かけたいわけ?」
セイカクハンテンタケを食べている芹香は平然として言う。
「やっぱり…ここは危険だわ。あの北川とか言う人も信用できないし」
「ま、どっちでも良いけどね…行くんなら雷の一発や二発がきてもしゃがみこんだりするのは
やめてよね。邪魔になるから。それに下手に動いたほうが目立つ可能性だってあるわよ?」
「…そうね」
「で、行くの,行かないの?どっちでも付き合ってあげるわよ」

 そういえば、あの二人組は小屋にいました。この大雨の中二人の乙女を放り出すのは可哀想です。
「…というわけでみなさんで小屋へ参りましょう」
「どういうわけよ」
今まさに二人は刀に手にもっています。これから私は見事な居合切りで真っ二つになるのでしょうか。
「そうなりたいのね?」
何故私は都合の悪い事に限って思っている事を口に出してしまうのでしょう。なんて思ってる暇は無い。
「その二人組に会ったのは小屋なんです、ハイ。ですから乙女の皆様にも雨宿りが必要なのではないかと…
ほら、先ほどから雷様も鳴っております。不肖、北川はおへそを取られるのでは無いかと心底怯えているの
です。さらに地震までもが起こっております。慈悲と思って、私を小屋まで連れて行ってくださいませ。
さすれば皆様の武器を持っていく必要もございません」
「確かに雨が強いわね。歩いて何分くらい? 蝉丸さんのところよりも近いんでしょうね?」

ええ、確かに近うございました。ですから私もちゃんと生きているわけで。


「この雨の中で人を見つけるのも難しそうね、やっぱりここに潜んでいるほうがいいのかも」
「そうするのね。じゃあおとなしくしていましょう」

【北川、晴香、七瀬留美、国崎往人、小屋に向かう事に決定。】
【芹香、スフィー、小屋で待機。ただし傍目には居るように見えない。】
34来訪者の多い場所(2)※修正版:2001/07/16(月) 12:30
「……早くやんでくれないかなぁ、この雨」
溜め息混じりに、スフィーが呟く。
そう。雨が降り止まないと、この場所からは動けない。
降り注ぐ雨は視界を奪い、
響き渡る雨音は聴覚を奪うからだ。
迂闊に動き回れば、それだけ狙われやすくもなる。
いまはただ、時間が過ぎるのを待つしか無い。
ふと、窓の外にもう一度目をやる。
窓に叩きつける雨、その水滴によってぼやけた風景の中。
並べられた、3つの十字架。
……木の枝を折って、ロープで結び付けただけの乱雑な十字架。
それを見て……思う。

……彼らは、満足だったろうか?
精一杯生きて、満足な死を迎えられたと言えるだろうか?
それは、否、だろう。
突然こんな所に連れて来られて、殺し合いさせられて……満足なわけが無い。
だけど……それなのに。
どうしてあの3人は、あんなに安らかな顔で……眠りについたのか。
ホントは、死にたくなんて無かった筈なのに。
それでも、あの3人は、笑って、逝った。
『死にたくない』と言う自分の気持ち、恐怖、全部押し殺して、それでも笑った。
35来訪者の多い場所(3)※修正版:2001/07/16(月) 12:31
「安心して。あなたたちの気持ち、願い、心……全部、わたしたちが全部……受け継ぐから」
それは、嘘。
ひとの想いをまるまる抱えきれるほど、強い人間なんていない。
だけど、出来る範囲でなら。
自分が頑張って、頑張って、もう限界って言うところまでは、やってみせるから。
……だから、このぐらいの嘘は、許して欲しい。
「芹香……」
気がつくとスフィーが、わたしを見上げていた。
改めてひとの死を認識した事で、心細さとか、そう言った感情が再び沸きあがってきたのだろう。
不安げに、服の端を掴んでいる。
そんな彼女の頭を優しく撫で、わたしは言った。
「まだまだ……これからなんだから。頑張りましょう、3人のぶんも……ね」
そう。一足先にここを発っていった北川潤の、ように。
わたしたちも……強くあろう。
スフィーもそれに、笑顔で、答えた。
「うん!」と、元気いっぱいに。
36来訪者の〜作者:2001/07/16(月) 12:33
はい、埋葬していたと言う描写を見落としていました。
らっちーさん、お手数かとは思いますが、来訪者の多い場所(2)(3)を
修正版の方に直しておいてください。すいませんでした。
37日常と狂気の交わる場所@:2001/07/16(月) 20:34
目覚めは最悪だった。雨に打たれ泥に塗れ見るも無残な姿になっていた。
眠る前と変わらず周りには人の気配は無かった。
しかし風景は少し変わっていた。動転しながら走ったせいだろう。
このまま雨に打たれるのは危険だった、体温も下がりきっている。
重い体を何とか持ち上げ這うように進んだ、視界に映る建物を目指して。



建物は喫茶店だった。誰の持ち物か分からないが毛布も着替えもあった。
震える指先で服を着替え、毛布に包まりながら置いてあったコーヒーを沸かしなおした。
体を温めながら全てを思い返す。全てを――。
何度考え直しても否定できなかった。観鈴は確かに死んだ。
そしてその事を受け入れた時、心を繋ぐ鎖が完全に壊れた時、彼女は――。
38日常と狂気の交わる場所A:2001/07/16(月) 20:34
(3行あけ)かつてこの喫茶店は希望の里であった。
この絶望に包まれた島の中、何とか生きて帰ろうと寄り添ってすごしていた。
しかし何時から歯車が狂いだしたのだろう。

ある者は愛する人に否定され。
ある者は愛する人をその手で殺め。
ある者は愛する人を自分の性で失ったと思い込み。

ココは島で最も日常に包まれた場所。
しかしココを利用した人のほとんどは日常と決別を果していった。
そして新たに――。



「居候……やっぱりアンタの考えは甘すぎたんや。ゲームに乗ってない奴なんてほとんど居ない。」
抑揚の無い声で呟く。その声は染み込むように自分の心に満ちていった。
「観鈴……寂しい思いさせるな。でも待っててな、すぐ友達連れて迎えに行ってやるから。」

愛する者を失った悲しむが己を包む鎧となってまた新たに日常と決別する者が生まれた。
確かにこんな島でも幸せを噛み締めて逝けた人も居た。それは事実だ。
しかし、負の感情を纏い奈落に落ちて逝った人も居る。それも事実だ。

喫茶店――そこは島で最も日常にあふれた場所。
喫茶店――そこは日常があふれるが故に狂気を呼び集める場所。



「ほな……行ってくるわ。」
誰も居ない店内に別れを言うと晴子は進みだした。
その瞳はこの島で最も冷静で最も歪んでいた。


【晴子 ニードルガン、特殊警棒回収】
39日常と狂気の交わる場所作者:2001/07/16(月) 20:35
晴子が気絶していた時間と現在の天候は次の書き手任せです。
40エンプレス二人:2001/07/17(火) 04:36
「……大丈夫か?」
 見目麗しき二人の戦乙女の活躍によって、程良くボロボロになった北川潤(男子029番)に国崎往人(男子033番)は遠慮がちに声をかけた。
「ふぁい…だいじょうぶ…れす」
 あの後、またまた北川は失言を連発し、彼はボコられて地面と抱き合うハメになったのであった。
 往人からしてみれば北川の様は”身から出た錆””口は災いの元”以上でもそれ以下でも無かったが、さすがにここまで無惨な姿をさらけ出されると少々面食らってしまったのも確かである。
 さて、そんな北川を撃破した張本人である二人といえば、一度は小屋までついていく素振りを見せていたのではあるが、いまや「もう、勝手にしろ」と言わんばかりに北川と往人の側を離れ、彼らから少しはずれた木を庇にして、北川から譲渡された武器をきゃぁきゃぁ言いながらなでくりまわしていた。
 一行に降り止まない雨、立ちこめる湿気、お祭り騒ぎの2匹の蛮族と失意の2人。何とものどかな状況であった。
 うんっ、と大きく伸びをして北川は立ち上がる。そして身体にまとわりついた泥や埃を左手で払い落とすと、やれやれといった面もちで往人の方へ向き直った。

「慣れてますから…と言いたいところだけど、あういうタイプの女性はちょっと特異かもわからんですね」

「まったく同感だな。俺の知己にも何人かはっちゃけたヤツはいないでもないが…あそこまで益荒男な女となるとな」
41エンプレス二人:2001/07/17(火) 04:36
「まぁ巳間さんは見た目は勝ち気で負けず嫌い、責任感の強いしっかり者で、曲がったことが大嫌いってな具合の頼れる姉御って感じですけど、そういう人に限ってワルとつるんでヤクを横流ししていたり、幼児虐待癖があったり、ボーガンで鴨をズコバコ撃ってたりするので十分な注意が必要でしょうな」

「手の施しようがないって感じだな。七瀬…だったかあっちのツインテールの方はどうだ?」

 往人は器用に手榴弾をお手玉代わりにして、巳間晴香(女子092番)と遊びに興じている七瀬留美(女子069番)をアゴで指し示した。

「ああ、七瀬は元クラスメートでしたからそこら辺のことはよく知ってますよ。本人曰く『朕は乙女を目指してるモジャー』だそうですけど、実際はトイレの水をガバガバ飲んで、全裸で『コロされるー』って叫びながら校内を駆けずり回ったり、火葬場で大仁田バリに「熱くなってるか!」ってマイクパフォーマンスするような漢でした」

 はぁ、と軽く北川はため息をついた。

「救いようがないって感じだな」

「転校してちっとは変わったかとは思ったんだけどなぁ。なかなかどうして上手くいかないもんです」

 そういって北川は肩をすくめると、ポリポリと頭をかいた。

「それよりも…ここで足踏みしてて大丈夫なんですか?」
「さすがにやばいな。あまり時間食わすわけにはいかないんだ」

 往人は鬱陶しげに天を仰いだ。鉛色の空からはひっきりなしに雨粒が降り注いでくる。どうもこの雨は一向にやむ気配を見せない。
42エンプレス二人:2001/07/17(火) 04:41
「なら、行きますか」
「そう…だな。足元に注意して、ダッシュで行けばずぶぬれちょい前程度で済むだろう。スパッと行ってスパッと用事を片付けてくるか。それまで悪いがよろしく頼んだ」
「オッケー。水先案内人のお役目、請け負わさせて頂きますよ」

 北川はそういうと胸元からレーダーを取り出して画面をチェックした。スフィーを表す光点は依然として先の場所と変わらずに表示されている。

「うっし、動いてないな……。巳間さぁん!! 七瀬ぇ!! ちょっと国崎さんをスフィーの所に連れていくわ! すぐに帰ってくるからそれまで荷物頼む!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! あんた達本気なの!?」
「雨降ってんのよ! すっころんで泥まみれになってもしらないわよ!」

 北川は晴香達に向かって叫ぶやいなや、森の奥へと駆け出していた。そしてそれに続くように往人が後を追う。たちまち晴香と七瀬の視界から二人の姿が小さくなって消えていった。

「こんな雨の中をねぇ…なんとも手の施しようが無いわね」
「どーかん。まったく救いようがないわね」

 二人は顔を見合わせて深くうなづきあった。

 【北川 志保ちゃんレーダー、CD各種、釘打ち器のみ持って小屋に向かう】
【国崎往人 北川と共に小屋へ】
43エンプレス書いた人:2001/07/17(火) 08:18
感想スレ挽歌さんからのご指摘で、>>41七瀬の髪の毛の部分を

>「七瀬…だったかあっちのツインテールの方はどうだ?」

>「七瀬…だったかあっちのザンバラ髪の方はどうだ?」

に修正させていただきたいと思います。
44反転芹香は輝く魔女?(1/3):2001/07/17(火) 15:48
「あくまでここに留まる事にした芹香だったが、かなりの時間がすぎ、苛立ちを隠せないのであった」
まるでナレーションであるかのように話し出す芹香。
「……まだ数十分しか経ってないわよ、そんなに早く雨が上がるはず…」
「そういえばスフィー、貴方魔法使いでしょう?魔法でとっとと晴れにしなさい」
「そんな事出来るんならすでにしてま…」
「その触角は飾りなの?」
勿論、触角(というか髪の毛)が魔法に関係が有る訳も無い。
「芹香さんだって…」魔法を使えるはずでしょうと言う前に更に畳み掛ける。
「いい訳は聞きたくないわ。どうしても言いたいなら私を倒してからになさい」
(そんな、むちゃくちゃな……)
声に出してもいないのに何故か芹香は聞きつける。
「何、その反抗的な言葉は?いいわ、どうせ雨も上がらないなら貴方に身分の違いを教え込んであげるわ」
といいつつも窓の外に人影らしき物を見付ける。
「あら、人影が向かってきてるわね〜、二人かしら。いい?相手がドアを開けたところを一気に取り押さえるのよ」
「はい……分かりました……(芹香さん、何でセイカクハンテンタケなんて食べるのよ……)」
二人はドアが開くまでの間、完全に息を潜めた…
45反転芹香は輝く魔女?(1/3):2001/07/17(火) 15:49
二つの光点は相変わらず動いていない。二人ともあそこで雨宿りをしているのだろう。
「小屋が見えてきたな」
「ああ……」
少しすると、三つの、出る前につくっていた物を見つけた。、
「俺がお前をここに連れていくのは向こうの二人への義理立てだ。もうそれは果たしたから…俺は行くぜ。
あそこに居るのはつらいだろうからな……」
「わかった。元気でな…」
往人に背をむけて歩き出す。
一歩。
二歩。
さん



刀を構える二人の少女を見かけて、立ち止まる。それに気付いた往人が振りかえって見る。
「あの二人…ポーズもバッチリだな。今際の際には人形で送ってやる。安心しろ」
あっさり戻る事にする。
「……さあ、小屋へレッツゴー!」
再び歩いていると、三人の墓を指して往人が言う。
「あそこに知り合いが居るのか?」
「…ああ」
「死者には礼儀正しくしたい。挨拶していっていいか?」
人形を出して往人が言ったとき。
『同じギャグは3回までデス』というレミィの声が聞こえたような気がしたが…まさかな。
「いや、いい。後ろの二人に何を言われるか分からないしな。」
「確かにそうだな」
「そう言えば、小屋の二人のうち、芹香って言う子はかなり大人しいんだが、スフィーは気をつけたほうがいいぞ」
「ああ、参考にしておく」
ドアの前に着く。
「じゃあ、開けるぞ」
確認を取ってドアを開くと、膝蹴りを食らった俺は
「シャイニングウィザード……」
そういう言葉を残して倒れた。
46反転芹香は輝く魔女?(3/3):2001/07/17(火) 15:50
芹香が北川をKOした時、スフィーはもう一人が国崎往人であることに気づいた。
「芹香さん…この人、国崎さんよ」
「え…国崎…往人さん? 済みません。てっきりゲームに乗ってる人だと思って。あ、良く見るとこれ北川だわ」
「国崎さん、実は…」
【往人、北川、芹香達と合流。スフィーからの事情説明は有り】
【晴香、七瀬(漢)、気が変わっていない限り次の話開始時点で小屋に合流している】
朕深く世界の大勢と帝国の現状とに鑑み、非常の措置を以て時局を収拾せむと欲し、茲に忠良なる爾臣民に告ぐ。
――――。
朕は時運の趨く所、堪へ難きを堪へ、忍ひ難きを忍ひ、以て万世の為に太平を開かむと欲す。
――――。
宜しく挙国
一家子孫相伝へ、確く神州の不滅を信じ、任重くして道遠きを念ひ、総力を将来の建設に傾け、道義を篤くし志操を鞏く
し誓って国体の精華を発揚し、世界の進運に後れざらむことを期すべし。爾臣民其れ克く朕が意を体せよ。

 朗々とした声が部屋に響き渡る。
 源之助の周りを取り囲むように、虹色の光が渦を巻き始めた。

 島に巻き起こる、常人には見えない不可視の嵐。
 魔法の力。魂の力。気持ちの力。それらの流れ。

「――――――――――――!!」
 源之助の口から、呪文以外の言葉が発せられる。
 これから消し去らんとする神奈へ、どんな言葉を投げかけたのか。
 不可視の風が集い、一つの大きな流れになった。
 暗雲に、島と青空をつなぐ穴が開く。
『神奈ぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!!!!』

カッッッッッ!!

 空で光が爆ぜ、島全体を閃光が包み込む。
 全ての雲が吹き飛び、その後にはなにも無い青空が広がっているのみ……。


「まさかこんなことを考えていたとはね……」
 担いでいた男を投げ捨て、彼はしばらくその場で考えをめぐらせる。
これからの自分の役割について。

【源之助の魔法の成否やいかに】
【暗雲は全て消え、雲一つない青空に】
【最後に爆ぜた光のみ、一般人にも見えます。他は魔法使いにしか見えません。力の流れを感じる奴はいるかもしれませんが】
48産声。:2001/07/17(火) 22:21
そこに立ちのぼっていた土と雨が混ざった匂いが不快だったので、七瀬彰は思わず眉を顰め、
その果てなく立ちこめた暗雲と降り注ぐ雨に耐えながら、何処かの道を歩き出す。
道とも云えぬ道、森の中を最短距離で抜けようとするその行動には果たして冷静な思考があるのかどうかすら判らぬ。
だが、彼の身体を支配しているのは多分まだ彼自身であったし、
ある種の意志が確かにある事にかわりはない。
自分が愛しいと思っていた人、果たしてその愛しいという感情が正しいものだったのかどうか。
そもそも自分はすぐにその愛しい人の元に帰ると約束したのだ。
あそこを旅立ってからどれ程の時間が流れたか、正直見当も付かない。
長瀬祐介と天野美汐、二人に結局会う事が出来なかったのだ。彼らは本当に素晴らしい二人だと思ったのに。
やはり一緒に行動するべきだったのだろうか。後悔しか残らない。ひどく悲しい事実だった。
なのに、彼らの死を告げる放送を聞いても、まるで涙が流れたなかったのはどうしてだろうか。
それが彰にとってひどく不可思議に思えた。

森の雨は傷ついた脳髄にはひどく重い。冷たく濡らされていく世界が不愉快過ぎた。
ずきりと痛む頭を抱えながら、彰は小さく息を吐く。防弾チョッキも拳銃も持っていない、
なんとなく手に取ってきたこの小さなナイフを右手に、それでも不思議と「安全」を何処かに感じていたのは、
ただもう殆ど敵もなく襲撃もない、そんな直感だけが由縁なのであろうか。
今は考えていても埒があかない。歩みを止めていても診療所への距離が近くなるわけではないのだから。
彰はその曇天の下、また歩き出す。

それを、鬼、と便宜的に名付ける事にしよう。
今、七瀬彰の脳髄を侵蝕している鬼が希っている事は、今彼が巣食っている彼をどうにかして堕落させる事だった。
人間という生き物は、割と簡単に堕落するものだ。そう、鬼にとって、まるで理解出来ないような出来事で堕ちる。
それにとって大切なものを傷つけるか、或いは人間の法意識の元、罪意識を負わせるような事を行うだけで、
簡単に堕ちてしまうのだから、人間とはつくづくおかしなものである。
49産声。:2001/07/17(火) 22:23
今は潜むだけで構わない。その鬼はまだ産声を上げたばかりの赤子のようなものだ。
彼の本能を多少なり刺激するだけで事は成し得る。ならばそれが必要以上に出張る必要はないのだ。
だから、鬼は彰の本能の底に語りかけ、そして、またも眠りにつく。
赤子には睡眠が必須なのだ。それは人も鬼も同じ事だった。

ふと彰が歩みを止めたのは、その雨足が多少強くなってきていたからだった。
雨宿りも良いかも知れない、と思い、何処か適当な木陰を捜し、彰はへたり込む。
泥の色をした水溜まりの前に座り、そこから起点する小さな流れを見つめながら、彰は小さな息を吐く。
考えてみれば、診療所を飛び出してからの自分は、どうもおかしかったような気がする。
ここに至って漸く、思考が多少なり落ち着いてきたような感じがあった。
森の深くからその曇天の空を見て彰が思い出した事は、三年前――自分が未だ高校生だった頃の事だった。
あの頃から貧弱で読書家だった自分にとって、雨というものがひどく喜ばしいものだった事を思い出す。
というのは、雨が降っていれば、無理に外出する必要はなかったからである。
冬弥という活発な友人の事は心底好きだったし、彼に連れられて町中で遊んだりする事が嫌だったわけではない。
彼が連れて行くところで楽しんでいる自分を確かに知っている。
だが、雨が降ると確かに心が穏やかになる自分もまた、彰は知っていた。
晴れた日に図書館に行って借りてきておいた本を、雨を横目に感じながら読む事が好きだった。
そんな日には冬弥やその他の友達も声を掛けてこない、という事に、多少なりの安穏を覚えたのは、
やはり自分は、本当は外出が嫌いだったから、なのかも知れない。

あの日も雨が降っていた。美咲先輩と出会った日の、あの休みの日の事だ。
何故あの日自分が朝っぱらから雨の中図書館に行こうと思ったのか、今でも理解し得ていない。
そんな事の理由を考えても仕方ない、と思えるようになったのは最近だった。
様々な現象の理由について考える事はあの頃の自分にとって日常茶飯事だったが、
結局考えから導き出される答えに一貫性などなく、そして明確な定義もなかった。
50産声。:2001/07/17(火) 22:25

今になって思えば、文学少年の定義とは、何も定義出来ないくせに何かを定義したがる頭でっかちの、
それでいて何も知らない無知な人間、と云えるかも知れないと思う。
その定義の元で、自分は間違いなく文学少年の範疇にあった。
ともかく自分はあの日、雨の中で、図書館の前で一人佇む澤倉美咲の姿を見たのだった。
黄色の傘と真面目に着こなした制服、そして澤倉美咲という人間が雨の中に同時に存在している、
その情景はあまりに美しく、彰にはそれが一つの芸術作品のように見えた。
美咲先輩はあの当時から有名人だったが、対して自分は、下手をしたらクラスメイトにも
名前を覚えられていないかも知れないそんな学生で、自分と彼女はまるで正反対の性質の持ち主だった。
彼女も明るい方ではないとは聞いていた。性質の点で言えば、自分と彼女は似通っていたと云えるかも知れない。
だが、色々な面で、彼女はスターで、自分は惨めな乞食だった。
彼女が書いた文を読んだ事がある。――なんて、綺麗な、優しい文章だろうと思った。
自分とは、まるで別世界にすむ人間だと思っていた。
だから、その日立っている彼女を見た時、彰は少なからず動揺したのである。

市立のその図書館は雨の中閑散としている。――というか、誰もいなかった。
流石にこんな雨の日にわざわざやってくるような人間は少ない、と言う事だろうか?
まあそれは仕方ないにしろ、では澤倉美咲はここで一体何をしているのだろう?
自分の姿に気付いたのだろう。傘を少し揺らせて美咲先輩は振り向いた。
考えてみれば、それが彼女が最初に自分にだけに微笑みかけた瞬間で、そして自分が彼女に惚れた瞬間だったのだと思う。
「あなたも、時間間違えたの?」
少し笑って言う美咲先輩の声を聞いて、彰は漸くにして自分が時間を間違った事を悟ったのである。

それが縁で、自分と美咲先輩、ひいては冬弥、由綺、はるか。その仲間達の円が出来た。今はもうない円が。
縁とは不思議なもので、些細な事から始まる場合が殆どだ。
いや、些細な関係からでなければ、そもそも縁など生まれるはずがない。
51産声。:2001/07/17(火) 22:26

いや、些細な関係からでなければ、そもそも縁など生まれるはずがない。
あの雨の中、自分が外に出ようと思わなければ、この縁は生まれなかった。
美咲先輩と過ごした日々がなければ今の自分はなかっただろう。それを思えば、あの日の自分の行動には、
やはり何かしらの意味が存在していたのかも知れない、と、今更になって思う。

――何故そんな事を今更思い出しているのだ、何故。日常は変わりゆくものだと認識したはずではなかったか?
日常とは変わりゆくものであるから日常なのだ。あの日と同じ日常など存在するわけがないのだ。
吹っ切れたはずなのに、何故、何故?
その理由も判らない。そうさ。理由がない理由を求める事など不可能に近いではないか。
雨。
僕の日常には、常に何処かしら雨の匂いがあったような気がする。
雨が僕の日常の象徴だったのだと、今になって僕は悟る。

激しい雨と雷の音。まるで雨足は緩まる様子がない。
木陰にいるとはいえ、雨は今も容赦なく自分の身体を濡らしているし、
ならば出来る限り早く出発した方が良いのではないか。建物の中で休みたい。初音にも会いたい。
そう、今、自分が守らなければいけない人。早く帰らないと――そう思った、その瞬間。
彰が雨の影の奥に見たのは初音と同じような色をした髪の、少女だった。
多少なり足を引きずりながら歩いている、あの彼女は――
「鹿沼、葉子」
こんなところで何をしているんだ、彼女は?
彰は立ち上がると、その影が向かった方に足を向け、泥水を跳ねとばしながら走り出す。
その行動に、彰の意志はまるでなかった。

彼女は手負いの獣だ。
今はきっと初音よりもずっと弱い。
ならば、護衛がいて戦うのに有利とも思えない初音を襲わせる事もない。
人を堕落させるのには二つの手段がある。一つは大切なものを奪う事、
もう一つは、罪悪感に貶める事だ。

彰が走り出したと殆ど同時に、「象徴の」――雨は止んだ。

【七瀬彰 診療所に戻る前に手負いの鹿沼葉子に向け、走り出す。以下どうなるかは不明】
52破損 - 1:2001/07/17(火) 22:37
目を覚ますと、草の匂いがした。冷たい土の感触。身体が重い。
身体を揺らす。ぐちゃり、と嫌な感触。服が濡れている。今の格好を考えるのは止そう。
ともあれ、観鈴は目を覚ました。空に広がる、灰色の雲。雷鳴が聞こえてきた。
「起きたのね」
と、そんな声。
驚いて、振り向く。包帯だらけの女の人。天沢郁未だ。観鈴の横に座り込んでいる。
目は虚ろ。死んだ魚のような目が、ふと、観鈴を見て、そしてまた前を見る。前には何も無い。
「んと……」
何を言うべきか。声を掛けづらい。話し掛けて、反応するだろうか?
恐らくはしないだろう。何となく、そんな気がした。全身から漂わせる雰囲気。それは拒絶とも取れる。
とは言え、何もしないわけにもいくまい。
「う、うぃっす」
とりあえず挨拶。しかし、無反応。失敗。
いや、反応した。観鈴を見た。そのまま、前を見る事は無い。綺麗な顔だった。
しかし。
その目は、観鈴を見ていない。反射的に振り向いたようなもの、か。暗い。光を灯さない目。
それでも、観鈴は続けた。見ていないからこそ、彼女は続けた。
「びしょびしょ、だね」
「―――」
「こんな所にいたら、風邪引かない?」
「―――」
懸命に語りかける。それでも、彼女は返さない。
続けた。
「あそこの木陰に行こ?ここにいると、寒いよ」
「ねぇ、ここにいると危ないよ。誰がいるか分からないし」
「恐い人が来ちゃうよ。あの、男の人とか――」

そこで、言葉が止まる。
53破損 - 2:2001/07/17(火) 22:38
郁未が、観鈴を"見ていた"。光の消えた瞳に、再び、光が戻る。
だが、それは。何かが違った。普通ではない、何か。思わず、身震いする。
にやり、と笑った。おぞましい笑み。そうだ。あれは、狂気の光。
「あの男」。それが、彼女の"スイッチ"を入れたのか?
「望むところよ」
雷光が、彼女を照らした。


郁美が、ゆらりと立ち上がる。
少女の言葉に、頭が醒めた。そうだ。ここで呆けている場合ではない。
「奴」を追うのだ。自分の元を去った、あいつを。あの人を。
助けねばならない。もし、出来ぬのなら、殺す。そう決めた。そう、約束した。
首を巡らせば、いくつか荷物が落ちているのが見えた。鞄が三つ。アサルトライフル。ショットガン。
とりあえず、鞄を手に取った。誰の荷物だかは分からない。だが、背負えるのは一つだけだ。これでいい。
少年が行った方へ、歩き出す。足が痛い。それでも、歩く。痛い。
「ま、待って――」
声。引き留める声。無視して、歩く。痛い。
「待って。その怪我じゃ危ないよ!」
うるさい。勝手だ。
「ねぇ、落ち着いて――一人じゃ危ないよ?」
掛ける音。ぐしゃぐしゃと、水を踏む音。
腕を掴まれる。振り向けば、神尾美鈴がすぐ後ろにいた。怯えたような顔。それでも、使命感を帯びた顔。
にぱ、と笑う。苦笑じみた笑み。白々しく見えた。
「一緒に行こ。ね?」
「―――」
「わたし、足手まといだったけど――でも、きっと、役に立つから」
「―――」
そう言って、最後に、もう一度だけ笑った。今度は、寂しげな笑顔だった。
54破損 - 3:2001/07/17(火) 22:39
ふと、よく分からない感覚がした。ぞわり、と。何かが蠢くような。
右腕が伸びる。掴む。首を。ぐっ、という呻き声。観鈴のものだ。愕然とした顔。
「――うるさいわね」
意図せず、そんな声が出た。一瞬、誰の声かと疑った。紛れもない、自分の声なのに。
持ち上げる。少女は、軽かった。何となく、自分が笑っているのを感じる。感じる?
少女が、右腕を掴んでいた。抵抗のような、そうでないような。随分と非力だ。
そんな事に、笑っているのか?狂ってる……!
「随分とへちょい考えなのね。一緒に?そんな事言って、私が貴女を殺さない保証があるの?」
どくん、どくん、どくん、どくん――
熱い。全身が昂揚している。血が巡る。不可視の力。それが、私を、狂わせている?
冷静な心。狂った心。冷静な自分が、狂った自分を見ている。不可思議な感覚。もう一人の、自分。
右腕を振るう。放り投げる。背中から少女は落ちた。叩き付けられた。
「笑わせないで」
抑揚の無い声で、そう言った。踵を返すと、森の中へ足を進めていく。
心なしか、痛みが引いている気がした。
いや、違うか。痛みを認識しなくなっているのだ。どうも完全に狂ってきているらしい。
狂っているのが分かっているのに、どうでもいい気がした。目の前の光景を、ガラス越しに見るような感覚。
全てが歪みつつあった。少年を。「奴」を切っ掛けに。そんなに脆かったのか。私は。
彼女の顔も、歪んでいた。ぎらぎらと、狂気を宿した目。裂けたように開かれた口。
それは、まるで、鬼女の様。
"――脆いものよの。"
そんな声が、聞こえた、気がした。

少女が、まだ叫んでいる。名前を。イクミサン、と。
聞かない。聞く必要などなかったから。

それでも、彼女は言っていた。叫んでいた。
戻ってきて、と。



【残り22人】
55彗夜:2001/07/17(火) 22:43
書きました。

郁未の持っている鞄が誰の物かは決めていません。
次の書き手に任せます。
56元・武道板:2001/07/17(火) 22:48
     ______
    /_      |
    /. \ ̄ ̄ ̄ ̄|
  /  /  ― ― |
  |  /    -  - |
  ||| (6      > |
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| | | |     ┃─┃|  < 正直、俺よりもなっちにの力を貸してくれ
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みなさん( ● ´ ー ` ● )に投票してくれませんか

おねがいします    ( ● ´ ー ` ● )板<元・武道板>一同
57名無しさんだよもん:2001/07/17(火) 23:45
荒らし視ね
58名無しさんだよもん:2001/07/17(火) 23:49
一つだけじゃん
59嵐、そして太陽 (1/5):2001/07/18(水) 00:28
「もう一度、落ち着いてゆっくり言ってくれ」
「何度でも言ったげるわ。鹿沼さんが、あれだけひどいケガして寝込んでた鹿沼葉子さんが、いないの」
 マナが息せき切って飛び込んできてそう告げると、耕一の眉がピクリと動き、初音の表情がみるみる不安そうなそれに変わった。
 が、今にも外に走り出してしまいそうな勢いのマナに、耕一は比較的のんきな口調で言った。
「手洗いとかじゃないのか?」
「ん……そ、そうかもね。ちょっと確かめてくるわ」
 パタパタとマナの姿が廊下に消えると、耕一は初音にちょっと待っててね、と言い残して同じくドアから出て行った。
 ――程なくマナが帰ってきた時、耕一は既に居間に戻っていた。それこそ苦虫を噛み潰したような顔をして。
「ダメ、全部の部屋探してみたけどいなかった」
「出てったよ、葉子さんは」
「……はぁ?」
「彼女の部屋の窓からだ」
 耕一はマナが一階を探し回っている間に二階の葉子の部屋を調べに行ったのだった。
 マナは葉子の姿がないことに動転して気がつかなかったのだろうが、少し注意して見れば部屋にもともとあったカーテンがないのがわかっただろう。
 そして、そのカーテンが細く裂かれ、それぞれ固く結ばれて、固定された窓の縁から外に向けて垂れ下がっていたことにも。
「そんな……なんだってそんなことする必要があるの!?」
「気づかれたくなかったんだろ、俺たちに」
「どうして!?」
「そんなこと俺に聞かれたって困るよ。……取りあえずちょっと落ち着け」
 耕一にたしなめられ、マナは予想外の出来事に自分の頭が完全にヒートアップしてしまっていることをようやく認識した。
(この島でいろんなことがあって……ちょっとは成長したと思ってたんだけど、いざとなるとからっきしダメね)
 こんな時だからこそ、いつでも冷静な思考を失わないことが大切なのだ。自分が苦手なことだけに、強くそう思う。
 そして、見た目によらず――と言っては失礼にあたるが――耕一を少しだけ頼もしく思った。もちろん死んでも口には出さないが。
60嵐、そして太陽 (2/5):2001/07/18(水) 00:29
「でも……鹿沼さんケガひどいんだし、わざわざそんな無茶してまで……」
「実際キツかったんだろうな、窓の下に人が倒れたような跡があった。……伝って降りる途中で落ちたんだろ」
「鹿沼さんっ……!」
 そんなことを上でやっていたのなら――あまつさえ、ある程度の高さから落ちたりもしていたのだ、相応の物音もしていただろう――どうして自分は気づけなかったのか?
 気づけていたら、あの状態の葉子をそのまま外に出すようなことはせず、何らかの相談はできたのではないか。そう、私たちは仲間、なのだから。
 だが、その時、今もだが、外では凄まじい雷雨が降り続いており、その音で聞こえなかったとしても何の不思議もない。――忌々しい雨!
「……探しに行くわ」
 マナはすっくと立ち上がった。
「こんな雨の中で鹿沼さんを一人で歩かせておけないもの。どんな事情があるにせよ、すぐにぶっ倒れちまうわ」
「一人で行くつもりだってんなら――」
「ストップ。私は一人で行く」
 ピッと手で制して言いかけた言葉を遮ると、耕一は渋い表情で言った。
「意地張ってカッコつけてるとマナちゃんから死んじまうよ? せめて俺が……」
「あの娘はどうするのよ」
 マナはチラリと一瞬、初音に視線を向けた。
61嵐、そして太陽 (2/5):2001/07/18(水) 00:29
「どうしたって今のところ外よりはここの方が安全よ。あなたもわざわざ初音ちゃんを危険に晒したいわけじゃないんでしょ?」
「そりゃ、そうだ、けど……」
「で、あの娘がここにいるのなら当然あなたもここにいるわよね。一人にしとくわけにもいかないでしょうから」
「な、なら、俺が葉子さんを……」
「あなたが戻ってきた時、私と――私はこの際どうでもいいわ、初音ちゃんが誰かに襲われて殺されてたとしたら、どう?
 どう考えても、あの娘が一番安全なのは私が一人で行くことだと思うんだけど」
「……優しいんだよな、マナちゃんは」
 耕一は歯噛みして、ほとんど泣きそうな表情で吐き捨てるように言った。
「だけど、凄ぇヤな奴だ……」
 耕一の目の前に立つこの小柄な少女は、耕一にとって――例えば二人が崖から今にも落ちそうになっていた時、咄嗟にどちらに手を伸ばすか、というような意味で――自分よりも初音の方が大切な存在だということを知っている。
 その上で、自分の身を敢えて危険に晒すような提案を耕一に呑ませようとしている。耕一が答えにくいのを、そして受け容れざるを得ないのを知って。
「ありがと。全然誉められてる気しないけど、せっかくだからお礼言っとく」
 そうして部屋の隅の、小さくまとめてあった自分の荷物を取ると、顔のあたりでひらひらと手を振った。
「そんな葬式みたいな顔しないでよ。葉子さん連れて、さっさと戻ってくるからそれまで二人とも無事でいるのよ。……じゃ、ね」
 そう言い残して、居間を横切り、窓の側を抜けて玄関に出て行こうとした時だった。
 それまでずっと黙りこくっていた初音が、マナの服の袖を掴んだ。
「……伸びるから離して欲しいんだけど」
「私も一緒に行く」
62嵐、そして太陽 (4/5):2001/07/18(水) 00:29
 マナは初音に向き直ると、その目をキッと見据えて言った。
「あのね、私に気を遣って言ってるんなら止めてちょうだい。……困るわ」
「ううん、そうじゃないの、あのね……」
 初音は小さく首を横に振ると、ややためらいがちに言葉を続いた。
「……彰お兄ちゃんが」
「七瀬さん?」
「うん。……なんだか胸騒ぎがするの。彰お兄ちゃんが、呼んでる……ううん、ちょっと違う。なんて言えばいいのかな……」
 ――そう、泣いてる。泣いてるの。そんな感じがしたの。
 本当はそう繋げたかったのだが、やめた。なんとなく、彰みたいないい大人に泣いてる、なんて言葉を使うのが失礼に思えたからだ。
「……それは鬼の血がそう言ってる……みたいな感じなのかな」
 耕一が、腕を組んでぼそっと呟いた。
「そう……かも、しれない。でも、違う気もする……単に、何の根拠もないんだけど、ただ胸騒ぎがする、みたいな……」
「胸騒ぎ、ね」
 初音はマナの両手を取ると、自分の胸の前あたりまで持ってきた。今度は初音が見つめる番だった。
「だから、多分私は彰お兄ちゃんのところに行かなきゃいけないの。葉子さんを見つけるついででもいい。
 ただ……もしかしたら逢えるかもしれない、って、それだけでいいから……お願い、連れてって」
 マナは量りあぐねていた。初音の言っていることが本当なのか。
 それとも、自分一人危険な目に遭わせないための方便なのか。
 これまで接した短い時間の中でも、初音が優しい子だということは充分マナにもわかっていた。
 だからこそ、初音の言葉の真意が掴めないでいるのだった。
 ――しかし。
63嵐、そして太陽 (5/5):2001/07/18(水) 00:29
「わかった。俺も初音ちゃんも一緒に行く。決まりだ」
「ちょ、そんな、いきなりなんで……」
 初音との付き合いの長さで言えば、耕一はマナの比ではない。
 だから、耕一には初音の優しさがどの程度のものであるかがマナよりも遥かによくわかっていた。
 少なくとも耕一の知る限り、初音はこの状況で気休めのウソをつくような子ではなかった。
「鬼の血ってんならちょっと怪しいんだ。この島ではなんか妙な結界が張られてて、鬼の力とかも薄れてるらしいからな。
 ただ、どんな結界にだって阻めない能力ってもんがある。それが――女の子のカン、特に恋する乙女ならなおさらだ」
 初音の顔がポッと見る間に赤くなる。耕一がニヤッと笑った。
「だから、初音ちゃんの言葉は信用に足る。つまり、初音ちゃんには外に出かける理由がある。
 となれば――頼りにならないこともなさそうなナイト気取りの犬ころが一匹、ついて行っても悪いこたないだろ」
「まったく……」
 肩を震わせて、必死に笑いを抑え込んでいたマナだったが、とうとう堪え切れなくなり、アハハと笑い出した。
「イヤんなっちゃうくらい……いい人たちなんだから」
「見りゃわかるだろ、初音ちゃんのこの天使のような顔に、俺のポルトガル人宣教師のような顔。慈愛に満ちてて、いかにも善人って感じだろ?」
「ぷっ……バカ言ってないの。それじゃ……本当に一緒に行くの?」
「おう!」
 耕一が高々と右手を突き上げた時、サッと窓から一筋の陽光が刺し込んできた。
 その筋はみるみるうちに太くなり、やがて眩しく輝く太陽と青空が覗いた。雨が止んだのだ。
 幸先いいな、とマナは思った。そして――
 雨に錆び付いていた物語の歯車は、ゆっくりと回り始めた。
64観月:2001/07/18(水) 00:32
【マナ・耕一・初音、晴天の島を探索】
【三人が出発したのと彰と葉子がエンカウントしたのがほぼ同時】

誤字とかないといいなぁ。
65fluff (1):2001/07/18(水) 19:15
七瀬彰は獣のような慎重さで、葉子の死角に回り込んだ。
そしてことさらに、慎重に、慎重に、近付く。

そうだ。いいぞ。
一瞬で決めろ。

自分以外の、他者の、意識か。それとも、自らの渇望か。
無力な牝を、襲い、屈伏させ、侵略する。

僕は、何を。
ようこさん。と言っていた。
葉脈の葉だったか、太陽の陽だったか。そんなどうでもいいことに意識がふと向いた。
僕は……僕は……戻らなくてはいけなかった筈。
何処だっけ。
そこには、僕の――
誰だっけ。
まあ、いいさ。

そう。今は集中すればいい。もう少しだ。もう少し近付いたら、僕は一気にキめる。
そうとも。今は、目前のエモノにだけ集中しろ。
まずは一人。お前の力でもぎとってしまえ。
その牝の、体を奪え。心を犯せ。
次々と蹂躙を繰り返せ。そしていずれ。
俺と。
僕は。

一つの、鬼になるために。
66fluff (2):2001/07/18(水) 19:16
じわり、じわりと、彰は葉子に近付く。
そして、一気に躍り出る。

今までの追跡で、葉子の体の状態も大体分かっていた。
この女は、消耗している。
もう、この牝は、俺から逃げられぬ。
俺の、
僕の、
勝ちだ。

葉子は突然現れた人影に驚き、とっさに身構える。
ななせ、あきら。
たしかそう呼ばれていた。あの診療所で、たしか見た顔。
彰だか、明だか……でもそんなことは、もう関係ないようだ。

「あなた、誰」

目の前に居る若者。
多分あの時、あきらと呼ばれていた男。
しかしその雰囲気も、なによりも眼光が。
とても、人間とは思えなかった。

だから葉子は訊いた。
「あなた、何者」
67fluff (3):2001/07/18(水) 19:17
あなた、誰、だって?
まあ、知らなくても無理はないか。
だってそこでは、僕は、――と。
――出てこない。もう一度考える。
たしか、僕は、――ちゃん、と。
いかん。まずい。目の前に集中しろ。惑わされては駄目だ。
そうだ。まずはお前の目の前にある牝を。
僕の目の前にいる彼女を。
お前の手で奪え。侵し、服従させろ。

そうだ。僕にはもう、なにもないから。
美咲も。祐介も。
だから、奪っても、誰がそれを非難する。

彰は獣のような素早さで、葉子の手を凪ぎ払う。葉子の最後の、縋るべき武器が弾かれる。
葉子はそのはずみで、腰から地面に叩きつけられる。
彰はその上に、容赦なく乗りかかってきた。
まずは両手を抑えつけ。
そうだ。
腰の上に体重を乗せる。
そうだ。それでいい。
葉子の左手を抑えたままの手を、葉子の顔に持っていき、顎を無理矢理こじ開ける。
そして、まずは唇を犯す。
彰の舌が、葉子の口腔を犯す。
初めてにしては、上出来だ。そのまま、そのまま、慎重にいけ。
手負いの獣は、一瞬の隙をついて逃げ出すものだ。

……暖かい。
ひとの、体温だ。
――とは、少し違う暖かさ。
そう。僕と、――も、確かこうして、お互いの体温を確かめあった。
僕と、初――

葉子を征服しようとした、彰の力が、一瞬、緩んだ。
無論、葉子はそれを逃さなかった。
68fluff (4):2001/07/18(水) 19:20
がりっ。

「!!!!」

声にならない叫びをあげ、彰は跳びのいた。
野郎、舌を噛んだ。
幸い、たいした傷ではない。
しかし、驚きのあまり、葉子への戒めを解いてしまった。
まずい。

(僕は……何を……僕は……初――)

いかん。
今はまずい。落ち着け。まだ間に合う。急いで奴に飛びつけ。奴の武器に、手が届く前に。
しかし、彰は、葉子をどんと突き飛ばし、そのまま森の奥へと駆け出して行った。

遠くへと。少しでも遠くへと。
69fluff (5):2001/07/18(水) 19:21
――ちっ。失敗したか。臆病者め。
まあいいさ。じっくり、決めてやる。
「初音」の存在が、こいつの枷になっている。ならば、どうしたらいい?
忘れさせればいい。
あまり、力を、使わせる、なよ。

彰はいつしか、駆け出すことをやめた。
歩みがのろくなると同時に、彰の頭脳も急速に鈍くなっていった。

自分が。
なんのために。
ダレノタメニ。
ドコヘ。
そんなことも、考えるのが億劫になっていった。
彰の中にいる、鬼の干渉。彰の意識はぼやけたものになっていった。
視界の全てが、モノクロームで構成されていった。

あまり、消耗させるなよ。
早いとこ、誰かをモノにしないと。
こいつを早いとこ、ケダモノに堕とさないと。
こいつは、俺に、勝ってしまう。
俺は、こいつに、負けてしまう。
70fluff (6):2001/07/18(水) 19:22
葉子は、どうやら、難を逃れた。
とりあえず銃を拾い、身構える。
周りに他人の気配がないことを確認すると、とりあえず近くにあった大きめの木の下に移動する。
多少周りの見通しがよくなったし、一応背中を守れる。

今の青年。診療所では、あきらと呼ばれていた青年。
普通じゃなかった。あの目はまるで、獲物を襲う獣。
ただ、葉子の一瞬の反撃の後、「正気が戻った」ように見えた。
何らかの力の影響をうけて、彼はおかしくなっていた?
もしかしたら、不可視の力。
いえ、それはたぶん違う。私を蝕むこの疲労と倦怠感がなによりの証拠だ。
不可視の力が万全なら、あのような遅れを取ることもなかったはず。
人の能力が制限されるこの島で、発現しえる力とは――。

今更ながら、自分の危険を再確認し、葉子は身震いした。
幸い、たいした危険といえるものではなかったが……
ともかく、危険は去ったようだった。

さて、これから、どうする。
そんなことを考えるのすら、今の葉子には、気の重い仕事だった。
71Children of the grave (1):2001/07/18(水) 19:24
神尾晴子は喫茶店を離れ、野道を進んでいた。
観鈴。すぐ友達連れて、迎えに行ったるからな。
そして。
たぶん、自分もすぐ。

暖かいコーヒーの薫りに包まれても、端切れと化した衣服を着替えても、晴子の心は空洞のままだった

観鈴。
「人を信じなきゃ、ダメだよ」
観鈴。
「みんなで帰ろうよ、あの街に。ね?」
観鈴。もう帰れへんのや。
みんなで帰れへんのや。
ごめんな、観鈴。
うちには、もう、これしか思いつかん。
うちはもう帰れんでも、かまわへん。
ただ、なんで観鈴、あんたが死なんといかんの。
観鈴ひとり逝かせるわけにはいかへん。
居候。観鈴。待っててな。すぐ賑やかにしたる。
そして、うちもすぐに――。また一緒にやろ。な?

その目は既に、この世のものを見ようとしていなかった。
見ようことなど、できるはずがなかった。
72Children of the grave (2):2001/07/18(水) 19:25
歩く中、晴子はまだ誰とも逢わなかった。
屍体とは遭遇したが晴子の目には留まらず。ただ通り過ぎるだけのものにすぎなかった。
幸せそうに寄り添う屍体。
かつて人間だったものが、屍体になってしまっている。
あとは腐るだけの、ただの肉のかたまり。
屍体に、それ以上何の意味がある?
……観鈴も。

いつしか森を抜け、隣接する墓地にたどり着いた。

生存者も、残り四分の一を切った。
この島は、屍臭が支配する、一つの大きな墓場のようなものだった。
殺人の衝動が鎮静しつつあるこの島。
それを象徴するような、鬱蒼とした、陰鬱な場所。

なのに。
なんだか、晴子には、
そのことがおかしかった。
73Children of the grave (3):2001/07/18(水) 19:26
手持ちの武器を確認してみる。
手に入れたニードルガンは、右手からずっと放していない。
いつものズボンは棄てて、置いてあったスカートに履き替えたが、ベルトはそのまま締めて警棒を引っ
掛けてある。いざという時、すぐに抜けるように。
正直、心もとない装備だ。せっかく、やる気になったのに。
この装備で事を運ぶには、一発一発を大事に、狙って当てていくしかない。
弾丸数がどれくらいあるのか、正直気になったが、どうもよくわからなかった。
銃のことなんてよく知らない。吹き飛ばされる前に持っていた銃とはだいぶ違うようだが、
なに、銃なんて狙って引き金を引けば当たるように出来ているものだ。
たとえ返り討ちに遭っても、それはそれだけのこと。

それにしても、これだけ探しても、人っ子ひとり見つかりやしない。
だが遮蔽物の多いこの墓場は、不意撃ちには持ってこいだ。
銃弾を凌ぐこともできよう。

無暗に探すのにも疲れた。
誰か。誰か来ないか。

(来よったで……)

晴子は急ぎ身を隠す。

痩身の青年が、のこのこやって来た。
およそ顔に精気というものは見えず、足の甲は半分持っていかれたように抉られていた。
武器も持っていないようだ。
ただ眼光だけが、獣のような妙な気を放っていた。

(なんやこいつ。よう、今まで生きてこれたな……)
74Children of the grave (4):2001/07/18(水) 19:27
慎重に、近づく。
幸い、青年の歩みが非常にのろのろとしたものだったので、晴子といえども造作はなかった。
それにしても。
この青年、よく今まで生きてこれたものだ。
しかし晴子も知っていた。
何者かの庇護にある限り、または信用の出来る何人かで互いの安全を守ることができれば、
ここまで生き残れないことはない。
ゲームに乗り損ねたものにとって一番恐ろしいものは、疑心暗鬼。
恐怖に導かれ、混乱した人間たちは、あっと言う間に狂ってしまう。

うちにもおったんや。
居候。
観鈴。

青年は一人歩んでいる。
もし、この人がうちと同じで、大切な人を失っていたら。
失意のうちに「壊れてしまった」のだったら。
そう考えそうなって、やめた。
知ったこっちゃない。
うちは、ゲームに乗ってしもたんや。
うちは、殺る。

ぱしゅっ。

晴子のニードルガンが、とうとう放たれた。
75Children of the grave (5):2001/07/18(水) 19:29
やったのか。
やってしもたんか。

しかし、現実は、晴子にとってもっともっと以外な結果だった。

避けた。
まるで忍びよる晴子に気づいていたかのように。
青年は、造作もなく躱した。

「えっ」
思わず声を上げてしまう。
青年は――七瀬彰は、音も立てず晴子の懐に近づき、晴子の腕に手刀を放ち、ニードルガンを落とす。
そして反す手で、特殊警棒を抜き取り、肩に一撃を喰らわす。

ぐっ。
骨が、折れたかもしれない。

反撃はそれだけに留まらなかった。正確に晴子のみぞおちを狙って、拳が放たれる。
晴子の意識は、飛んだ。

人間の動きには思えない。
まるで、理性の箍が外れたような。そんな危険な動きだった。

晴子はすべての武器を失い、痛みで体を動かすことなどできなかった。

あかん。もう終わりか。
もう終わりか。ほんま、情けないな……
好きにしたらええ。銃はすぐそこにある。
殺せ。
殺してくれ。
今までずっと、苦しかった。
体の痛みよりも、心が空虚になるような苦しみ。
後生やから、さっさと楽にしてや。
76Children of the grave (6):2001/07/18(水) 19:30
殺されるより、残酷。
晴子の最後の願いさえ、彰には届かなかった。
かつて七瀬彰と呼ばれた人間には。

「え?ちょっと、何するん!」

彰は、晴子の体を四つんばいにさせた。
晴子のスカートは簡単にめくれ、尻があらわになった。

何や。何をする気なんや。この子は。
そう考えようとしたが、晴子にもわかっていた。
彰は一気に下着を膝下まで下ろし、晴子の肉をわしづかみにし、臀部をこじ開ける。
そして、啜りはじめる。

「やめ、やめて。あかん。堪忍やぁ……」

もう、最後の力も出なかった。
力が抜けると、彰は晴子の胸に手を向かわせ、もみしだきはじめた。

自分が蹂躙されていく、その暫くぶりの感覚。
晴子は、自分の意思にはかかわらず、その感覚に捕らわれていった。
痛み、よりも。
悲しみ、よりも。
77Children of the grave (7):2001/07/18(水) 19:30
彰は、目の前の光景をぼうっと見ていた。
ぼんやりとしか見えなかった。
なんだろう。これは。
柔らかい。
あたたかい。
そしてなんだか、心地いい。

鬼の木偶となっていた彰の心が、目覚めはじめる。
気づいたか。
おまえは?
俺だ。
ここは?
どこでもいい。
僕は?
おまえには、やるべきことがある。
それは?
この女は、おまえを殺そうとした。
僕を?
そうだ。だが安心しろ。おまえは、この女を、倒した。
僕が?
そうだ。おまえは強くなった。そしてもっともっと強くなれる。
僕が?
生贄が必要だ。――お前に、そして俺に捧げるための。
生贄?
女だ。まずは目の前の女を征服しろ。犯せ。壊せ。自分のモノにしろ。
鬼に堕ちてしまえ。そうすればおまえは、もっと強くなれる。
自分の――モノに?
そうだ。おまえの前にそれは、もう捧げられている。
そうか。それなら。

それならば。
78Children of the grave (8):2001/07/18(水) 19:33
彰の無意識の愛撫は、執拗に続いていた。

気持ちわるい。気持ちわるい。気持ちわるい。
うちは、母親だから。
本当の親子じゃなくても、でも、観鈴のおかあさんだから。
おかあさんと呼んでくれたから。
堕ちてたまるか。
あんたみたいな若造に、こまされるわけにはいかへんのや。
汚されるわけにはいかへんのや。

しかし、荒々しい鬼の攻撃は、晴子の感じる部分をとろとろに溶かしきっていた。

あかん。堕ちてまう。
今逃げないと。堕ちてまう。
でも、逃げられない。
こないな貧弱なガキに勝てへんなんて。
女って、損だ。

ずぶ。

彰のモノが、春子の中に沈みはじめる。

「ああああああああああああ!」

叫んでしまった自分に恥じ入る。
こんな所で、こんな奴と、こんな声を上げて息を切らしてる。
もうすべてがいやになっていた。
この島も。
ゲームに乗った自分も。
自分を犯しているこの男も。
そして、感じている自分自身も。

……早く、終らないのかな。
79Children of the grave (9):2001/07/18(水) 19:35
どくん。
彰は、晴子の中に精を解き放った。
しかし意せず、そのまま中を攻め続ける。
二人の液が混ざり、かすかに泡立つ。
晴子の目は、もう何処も向いていなかった。

このまま終れば。
終ってくれれば。
だけどな。
神さん。あんたはなんて殺生なんや。

観鈴が、いた。
木陰から愕然とした表情でうちらを見ている。
うちの、観鈴。

「おかあ……さん……」

途端にうちは、母親に戻る。
「あかん、観鈴、見たらあかん!あんたもやられる!はよ逃げ!」

「うああ……おかあさんを」
あかん。

「おかあさんを、おかあさんを」
あかん。観鈴。来るな。
せっかく、生きとったのや。
80Children of the grave (10):2001/07/18(水) 19:36
「おかあさんを、放して!」
観鈴は、うちの観鈴は、そのへんにあった棒きれを振り回してこっちに向かって来る。
「観鈴!来るな!うちはどうなってもええ。
あんたに、勝てるわけがない。はよ逃げえ!」

「いやだ。いやだよ。お母さんを、助けるの!」
目暗滅法に突っ込んで来る観鈴。

男は、悠然とうちから自分を抜き去ると、うちにしたように、簡単に観鈴の抵抗も止めてしまった。
そしてまるでそうなることが必然のように、観鈴の体の自由を奪っていく。

「観鈴!観鈴!観鈴!」
うちはもう、観鈴の名前を呼ぶことしかできなかった。
すっかり腰が抜けていた。うちにはもう何の力もない。悔しいなあ。悔しいやろなあ。観鈴。

「おかあさん、いいよ。早く逃げて。
わたしは、どうなってもいいから。
観鈴ちん、我慢するよ。だって、おかあさんが苦しんでるの、いやだもの。
だから、逃げて。」

ああ。
そういう奴やった。この娘は。
うちの、可愛い観鈴は。
81Children of the grave (11):2001/07/18(水) 19:37
彰は、観鈴の体をまさぐる。
感触を楽しむように、観鈴の胴のてっぺんから一番下まで、手を往復させていた。

この感触。
そうだ。それが、お前を強くする生贄。
この亜麻色の髪も。そう。お前のモノだ。
初音とは、似ているようで、全然違う。
だけど、似ている。
この目は。諦めではない。
自分を投げ出すことのできる、強い目。
初音も、そんな目をしていた。
「おかあさん」そう聞こえた気がした。
そうだ。これは母の目だ。
「おかあさん」彼女が呼ぶおかあさんとは。
ふと気になって見てみる。
それは。
無残な女の姿。

これは。
ぼくが、やった。
ぼくが、壊した。
82Children of the grave (12):2001/07/18(水) 19:38
「うあああああああああああああああああああああああああ」
突然叫び出す彰。
僕は、僕は。
取り返しのつかないことをしてしまった。
あまりにも酷い、無残な――この娘の母親。

どうした彰。犯せ。殺してもいい。それはお前の生贄だ。
お前のモノだ。
うるさい。黙れ。モノじゃない。この娘の母親だ。
――初音に少し似た、この娘の。
お前は。オマエハ――
やめろ彰。俺は、お前の中の、血。
そして俺をおまえに授けたのは、外ならぬ――
黙れ、消えろ。僕の中から消えろ。消えてしまえ。消えろ。
消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。
消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。
消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。キエロ。
やめろ。彰。俺は。初――

目の前の不快なものが消え去った。
彰の視界が、急にひらけた。
そこに映るものは、鮮明さを増した無残な光景。
世界はもう、白と黒で構成されていなかった。
でも。
何も変わらない。

喋ろうにも、何も口に出てこない。
この状況で、一体、何ができる?
ただ、声にならない叫びを洩らすのみ。

「ごめん…なさい…許して……」

観鈴には、たしかにそう聞こえたような気がした。
しかし、確かめる間もなく彰は逃げ出していった。
陰鬱な墓地を越えて。どこまでも。どこまでも。
83Children of the grave (13):2001/07/18(水) 19:40
「おかあさん。行っちゃったよ。助かったみたい。もう大丈夫だからね」
どあほ。
大丈夫な、訳ない。
見られた。
犯されている自分を。
観鈴に。
「どあほっ!観鈴、なんで近づいてくんねん。ほんとなら、万に一つの勝ち目もあらへんかった――
なんでのこのこ出てくんねん。うちは、うちは――どうなってもよかったんや!」
だって。自分が、殺そうとしたのだから。
「うちなんかより、まず自分の安全を考えや!」
そう。もう、悲しませないで。
「この、どあほっ!」

「……おかあさん」
観鈴がうちの目を見つめる。涙を溢れさせて。
「おかあさん、どうしてそんなこと言うの?
おかあさんが悲しいと、わたしも悲しいんだよ。
おかあさんが苦しんでるの見ると、わたしも苦しくなってくるの。
だから、そんなこと言わないで。おかあさん」
観鈴は、うちを抱いた。
抱き締めてくれた。
涙を我慢して。
そう。いつもあんたは、我慢してたっけ。
友達もおらんで。いつも一人で遊んで。気がづけば、いつも。
84Children of the grave (14):2001/07/18(水) 19:41
「みすず…」
うちは泣いた。
「みすずっ!みすずっ!あんたって娘は。
生きていてくれて、本当よかった。うちの観鈴。観鈴。」
子供のように泣いた。泣くのがこんなに気持ちのいいことだなんて、すっかり忘れていた。
子供に抱き抱えられて、ボロボロの格好で、泣き続ける。

「おかあさん、子供みたい。にははっ」

ほんとそうや。うちは。観鈴が死んだと思って。一人自棄になって。
ゲームに乗りかけた。ほんと子供や。

観鈴、気付かんうちに、大きくなったなあ。
体も大きくなった。こころも強くなった。
まるで、子供がおかんに泣き崩れてる用に見えるんかもな。
自分の子供に。

この涙か枯れるとき。
こんどこそうちは、強くなろう。
本当の、母親になろう。
でもそれまでは。
このまま、子供みたいに泣かせておいて。
もう少しだけ。そうしたら強くなれるから。
85Wheels of confusion (1):2001/07/18(水) 19:42
僕は、犯してしまった。
おそらく、もっとも卑劣な罪を、
僕は、犯してしまった。

僕は、何をしていたのだろうか。
診療所で、きみと結ばれて。
そうだ。祐介を探しに行ったんだ。
この島で再会した僕の従兄弟。
傍らには、少女がいた。天野美汐――そんな名前だった。
二人とも、とても強い目をしていた。

僕にはふたりが、この血塗れの島の、たったひとつの奇跡みたいに見えた。
祐介。美汐。二人にはせめてこれから、幸せな人生を送ってほしい。そう望んでいた。
だって僕には。

――美咲。それが僕の好きだったひと。
巡り会う前に、彼女は永遠に失われていた。

だから、せめて、他人の礎になろうと。
ここまで死ななかったのが不思議なほど。
混乱の中を切り抜けてきた。

だけど。
僕には、好きなひとができた。
守ってあげたい大事なひとができた。
柏木初音。それが彼女の名前。
見た目は小学生みたいなかわいい娘なんだけど。――祐介、笑うなよ。
いろいろあったけど、僕らは再会し、結ばれることができた。
そんなときだ。おまえに会いたい、そう思ったのは。
祐介には美汐さん。
僕には、初音ちゃん。
それに、懐かしい日常へ回帰する手がかりも見つかった。
だから、祐介にもそれを教えたくて。
だけど。
86Wheels of confusion (2):2001/07/18(水) 19:44
だけど、おまえは見つからなかった。
一体どこに行っちゃったんだよ。

そのうち、頭がぼうっとしてきた。
体はあんなに調子よかったのに。
時々、記憶が飛んでいた。

おまえがみつからなかった気もした。
洞窟にいたような気もした。
ようこさん、に会った気もした。
自分以外の誰かが、ずっと語りかけているような気がしていた。

そして。
あれは、「気がした」なんてものじゃない。
あれをやったのは、僕だ。

僕は、渇望していた。
――牝の臭いと、肉の欲望に。
だから、犯した。
彼女を犯し、その娘も手にかけようとした。
そして気づいた。

これをやっているのは、僕じゃないか。

そして――。
87Wheels of confusion (3):2001/07/18(水) 19:46
足が痛い。
こんなに歩けたのが不思議なくらいだ。
どうみても、まともに歩ける足じゃない。僕の足は。
足が痛い。
初音。
初音ちゃん。
会いたいよ。

でも。
ぼくは、どんな顔で君に逢うことができるんだ?
そんなことを考えるうち。
見つけた。
祐介。
でも、それは。

もう、死んでいた。

美汐と二人。まるで夢見るように。
とても幸せそうに。

祐介。
死んでもなおきみは。
まるで、僕の希望であるかのように。
僕は、泣いていた。

希望。
それは遙か遠くにあるように思えた。
あの時、確かに感じた幸せ。そして希望。
しかし今の僕は、
相変わらずの、混沌の中。
88Wheels of confusion (4):2001/07/18(水) 19:47
疲れ果てていた。
体が重くてしかたない。

ここで、眠ろう。
もうどうなってもいい。
目が醒めたらそこは、あいかわらずの混沌の中。
混乱の歯車。

でも。
次に目が醒めた時。
はたして、
僕は、
僕のままで
いてくれるだろうか。

----
書きました。

目茶苦茶長いですね。
感想スレの、今後のまとめ'sには引っかからないように書いたつもりです。

彰は、己の鬼に打ち勝つことができたものと解釈しています。
そのかわりに、罪を背負ってしまったけれど、
彼らはそれにも負けないでいてくれると信じて。
では
89死者からの贈り物(1):2001/07/18(水) 22:57
『ウィーン』
 自動ドアの開く音がし、柏木梓は身構えた。
 その音がしたほうを確かめるとその構えを解いた。
 だが、何も言えなかった…
 二人の顔を見ればあのおっちゃんがどうなったかは聞かなくてもわかることだった。
 二人とも涙を流した痕があった。
 しかし、そのことを乗り越えた意思のある目をしていた。
 そして月宮あゆは言った。
「おじさんの分までがんばろうね!」
「おう!」

「で、あなたたちはなにやってるの?」
「ん〜、今詠美がコンピューターに向かって四苦八苦中」
「どうしてそんなことしてるの?」
「詠美と繭がなんか変なCDを持ってたの。それにあの白衣着たおじさんもCDを持ってたの。
 だから、ここのコンピューターで中身を確かめたいんだって」
 柏木千鶴は一息ついた。ここにきてこれまでの疲れが出たのだろう。
「じゃあ、そのCDの解析が終わるまで休んでていいかしら?」
「いいんじゃない。そんなにすぐに終わるとは思わないし、
 これからまたすぐに動き出すだろうからね。
 それにしても千鶴姉、もうばてるなんて歳なんじゃない」
 そう言って手を口に当てぷぷぷと笑う。
「え、千鶴さんっていったいいくつなの?」
 あゆが無邪気にそう尋ねると同時にあたりになんともいえない殺気が満ちた。
 奥のほうから動物の騒ぐ声が聞こえた。
「企業秘密よ」
 と、にっこり微笑みながらそう答える千鶴であったが目は笑っていなかった。
90死者からの贈り物(2):2001/07/18(水) 22:58
「じゃあ、あたしは詠美のとこに行くから、あゆも休んでおくんだよ」
 と言って、奥のほうに立ち去ろうとした。
「あ、そうだ。お腹空いたから何か食べ物探してみるよ」
「お、気がきくね。それじゃ、よろしくな」
 そして、詠美のところまで戻ってきた。
「どう、進んでる?」
「ふみゅーん。ちょっとわかんないかもー
 で、千鶴さん達戻ってきたの?」
 と、詠美は梓のほうを向かずに聞く。
「う、うん。で、詠美に言わなくちゃならないことがあるんだけど…」
「…したぼくの事でしょ。わかってるわよ。
 あの状態から生き返るほうが不気味なんだから…」
 それ以上梓は何も言うことができなかった。
「だから、あいつの分まで絶対生き残ってやるんだから!」
 それを聞いて梓は詠美を抱きしめた。
「うん」
 ついでになぜか繭も遊んでると勘違いしたのか、抱きついてきた。
「みゅ〜♪」

「ご飯ご飯〜鯛焼き鯛焼き〜」
 あゆは先ほど宣言したとおり食べ物を探していた。
 そして、それはあっけないほど簡単に見つかった。
 隣りの部屋が簡単なキッチンになっていて食事が取れる場所になっていた。
「あ、冷蔵庫がある。食べ物が入ってる!これで何か作っちゃおう!」
 そう言って、食材を冷蔵庫から取り出す。
「秋子さん直伝の腕を披露しようかな」
 しかし、肝心の調理器具は見当たらなかった。
 それもそのはず、ここのキッチンはHMX以外は使っておらず、
 調理器具は彼女らの体に内蔵されていたからである。
「うぐぅ、どうしよう…」
 そこで彼女は思い出した。
「あ、そうだ!ぼくナイフ拾ったんだった」
 そして、彼女は自分のかばんからナイフを取り出した。
 しかし、そのナイフには毒が塗られているということを彼女が知る由もなかった。

【残り22人】
91らっちーさんへ:2001/07/19(木) 01:34
いまさらながら修正
(1)の方の
>「いいんじゃない。そんなにすぐに終わるとは思わないし、
> これからまたすぐに動き出すだろうからね。

この部分を

>「いいんじゃない。そんなにすぐに終わるとは思わないし、
> 解析が終わったらどうせまた動き出すだろうからね。

に修正お願いします。
 くくく……。
 こんなチャンスはもう二度とないかもしれぬ。
 たった一人の雌。
 彰の心に力を送る。刺激するのは性欲。
 「象徴の」――雨は止んだ。代わりに彰の心には『無』が広がる。
決して雨が止んだからといって、晴れるとは限らないのだ。
 記憶改竄なんぞでちまちまやっている必要は無い。ここが力の使い時だ……。
 残りの力のほとんどを使った。
 一度目の失敗の反省を糧としない、本能剥き出しの鬼がここにいる。
 そして眠りについた。起きたときには状況が好転していることを信じて。
――これは心の鬼の勇み足――


 意志無き表情の彰が一歩を踏み出した。
 その時。
 カッッッッッ!!!!!!
 天空で光が爆ぜた。
 ほんの一瞬。他のことに気を取られていれば気づかないほどの一瞬。
「うわっっ!!」
 だが確かな閃光が島を包んだ。
「なんだ!?」
 彰は空に視線を移す。
 同時に『意志ある声』を発した。
 雲が吹き飛び、空が一面青に塗り変わっていた。
 一体何が起きたというのか。
 しばし呆然とそれを見つめ。再び地上に視線を戻した。
 やはり空を見上げて呆然とする鹿沼葉子。
「葉子さん!!」
――これは彰の勇み足。ではない――

 
 閃光。
 その前の力の流れ。
 一体なにが起きているというのだろう。
 しばしその場に立ち尽くす。
「葉子さん!!」
 ハッとしたように彰の方へと向き直る。
 彼は……。
 そう、小さな女の子と一緒にいた男だ。と彼女は気づく。
「こんな所で一人でなにやってるのさ。怪我は?
 えっと、そう言えば僕と初音ちゃんを助けてくれたお礼がまだだったね。
 ありがとう」
「手当てなり、なんなりをしてくれた人の仲間なんでしょ?
 こっちもお礼を言うわ。ありがとう」
 お礼を兼ねた自己紹介。
 言葉が少なくても伝えたいことは伝わる。
「なんで一人でいるんだい? なにしてるのさ。それに武器は?」
 なにをしようとしていたんだっけ?
 なんで武器も持たずに駆け出したんだろう?
 葉子は少年のことを思い出した。あの時彼がやる気だったら……。
 ずいぶん軽はずみな行動をとっていたものだ。今の自分に一体なにができるというのだ。
――これは葉子の勇み足――


「なるほど、それで居ても立ってもいられなくなって、黙って飛び出してきたわけだ」
 彰は渋い表情。
 考えてみれば、彼も軽はずみに外に飛び出した口なのだ。
「さて、ここで愚図っていても始まらない。一旦皆のところに戻るとしようか」
「はい」
 彰は自分の心に住まう鬼を覚えていない。
 記憶や映像の改竄も気づいていない。
 そう。『皆のところに戻る』
 これこそが。
――これは彰の勇み足―― 
94新たなるボケ役?@:2001/07/19(木) 19:17
雨の中ずぶ濡れになって死体漁り、今のうちにやってないと雨が上がってからが恐いからだ。
ナニかが漂いそうで。

「そっちの死体は何か持ってた?」
「変な携帯電話みたいなやつだけよ、メモみたいなものは無いみたいね。」

北川達が出発してからすぐ本来の目的である高槻の死体を調べだした。
もっとも確かな成果があったわけでは無いが。

「とりあえず北川が言ってた小屋に向いましょう。これ以上は何もなさそうだし。」

全く北川もいい度胸である、この乙女たる私に死体漁りをさせるなんて。
晴香の方の同じ意見のようである、次の行動は決まった雨宿りついでに北川を――。
などと話しているとすぐに小屋は見えてきた。往人と女の子二人の姿も見える。
何故か入り口で北川が股間を押さえて痙攣しているが。

「あの馬鹿まさかセクハラでもやった――。」

私の言葉は閃光によってかき消された。
95新たなるボケ役?A:2001/07/19(木) 19:18
(3行あけ)
北川が痙攣している、他の3人は険しい顔をしている。
その上晴香まで険しい顔をしだした、おまけに今の閃光。
気まずい沈黙、小屋に響くのはただ北川の呻き声のみ。

「ここで顔色変えてる人はみんな今の力の奔流を感じ取ったらしいわね。」
「参加者の中にあんな強力な奴のことなんて載ってなかったわよ。」
「参加者じゃないもの。長瀬源之助、管理側の人間よ。」
「あなた、何か知っているの?」
「……。」

先ほどの閃光の後皆さんは必死に討論していて、私と北川は置いてきぼりを食らっています。
しかも何故か国崎さんは私をじっと見詰めてきます。
やはり私は罪作りな乙女、また新しい男を虜にしたようです。
でもタイプじゃないので却下、北川の看病でもしておこうかと思います。

目の前では不可視がどうとか結界がどうとか禁呪がどうとか色々と話し合っています。
でも私には理解できない話なので北川に膝枕してあげてます。
看病するために膝枕してあげる、やっぱり私って乙女ね。
横の変な視線が痛いけど、やはり私を狙ってるのでしょうか?
とりあえず晴香が見つけた携帯電話でも調べてみますか、図鑑で見た気がするし。
こんなことなら診療所の本棚に図鑑置いて来るんじゃなかったな。
とか何とか考えてると国崎さんが私の方に近づいてきた。
もしかしてこれは乙女のピンチ?

「その探知機を譲ってもらえないか?」
「へ?」
「その手に持ってるやつだ。北川から譲ってもらう事になってる探知機と交換してくれ。」

私は何か勘違いしてたのでしょうか?ボケは北川の仕事だったはずなのに。
96それぞれの目的へ:2001/07/19(木) 19:18
「本当に別々に行動するの?」

あの後スフィーちゃんと芹香さんは別々に行動すると言い出しました。

「私の方はこの人にどうしても用があるからね。」
「何の用かは知らないが、とりあえず歩きながら話してくれ。俺は今すぐ出発したいんだ。」
「それは私も同感、じっとしてるなんて性に会わないわ。まずはどっちを探す気?」
「最初は観鈴、その後に晴子だ。」
「じゃあね。二人見つけたら合流するから。」
そう言うとさっさと二人は出発していった。

「俺は今から診療所に向うよ。その後はCDによるな。」
「私はお墓参りして、CDの中身見たら往人さんが見た夢が気になるから西に行くと思う。」
「何でCDに興味持ってるんだ?信じてなかったのに。」
「機会があれば話すわ、さっさと出発しましょう。 また合いましょうね。」
「ちょっと待てって、じゃあまた診療所で会おう。」
こっちもやけにあっさり出発していった。腰を引き気味の北川が少し情けない。

そしてまた晴香と二人っきりになってしまった。
「じゃあ私達も出発しますか。」
「今度こそ寄り道せずに潜水艦を見つけましょうね。」

彼らはそれぞれ目的のため分かれた。
大切な人を捜すため、脱出の鍵をCDにかけ、自分の勘を確めるため、亡き人の言葉を信じて。
彼らがまた再会することができるかどうかは分からない。
ただこの島の象徴たる雨は止み、雲は晴れたことだけは確かであった。

【往人 人物探知機入手】
【七瀬 志保ちゃんレーダー入手】
【往人・芹香   観鈴を探しに出発】
【北川・スフィー 墓参りをした後診療所へ】
【七瀬・晴香   潜水艦探索続行】
97名無しさんだよもん:2001/07/19(木) 22:16
【芹香 スフィーより参加者名簿を譲ってもらう。】
【芹香の武器は次の書き手次第です】

追加です
98名無したちの挽歌:2001/07/20(金) 08:15
書き手チャットで判明した不具合の修正です。

680話「復帰」梓の二個目の台詞
-----------------------------------------------------
『あー、解った解った!ネコミミはやるから泣くな!
 うわっ!どっから蛇までつれて来たんだよ!?
 は?そいつもみゅー??なのか???』
-----------------------------------------------------
これを以下に修正してくださいまし
-----------------------------------------------------
『あー、解った解った!ネコミミはやるから泣くな!
 …名前はみゅー? じゃそっちの烏は?
 は?そいつもみゅー??なのか???』
-----------------------------------------------------

ぽちの施設侵入は放送と同時だったので、この時点での
合流はあり得ませんでした。
ドモッスンマセン(´Д`)
99碁石(1):2001/07/20(金) 08:26
「新規データーを受信いたしました」
「参加者データーを更新いたします」

HMの無機質な声を聞いて、ぱちりと目を開ける。
人は起きた瞬間から、はじめて自分が寝ていたことを理解できる。
そう、私は、まさに寝てしまっていた…ようだ。
楓ほどではないけれど、血圧が高くないせいか、起きがけは少々頭の回転が鈍る。
しょぼつく眼をしばたいて、コンピューターにに囲まれた円形の一室を見回してみた。

 すぐに違和感を覚える。
 -----人の気配が、しない。
 あの口うるさい梓や、負けないくらい騒がしい詠美ちゃん、ときおり奇声をあげるあゆちゃん、
 負けないくらい奇声をあげる繭ちゃん、その誰の声もしなかった。
 それは奇跡と言ってもいい。
 -----静かだった。
 すべての機械が有している、冷却機の運転音だけが不快なコーラスを奏でている。

おかしい。
全員がここに揃っていたはずなのに、私を置いてどこへ行ってしまったというのか。
鈍った思考では付いて行けないほどの急展開に、焦りを感じて頭を振る。

立ち上がり、深呼吸を一回した時。
端末の画面に向き合うように座ったまま、だらりと手を垂らして伏している誰かが見えた。
(-----詠美ちゃん?!)
駆け寄り、姿を確認すると、やはり彼女だった。
あとは探すまでもなく、他の面々が視界に入ってくる。

 詠美ちゃんの使用する端末の、座席にもたれかかるよう倒れている梓。
 そのまた後から、折り重なって倒れた繭ちゃん。加えて烏。さらに猫。
 少し離れて、あゆちゃん。
 辺りには、黒い何かが散らばっている。
 -----碁石?
 銀色のトレイがひっくり返っており、そこを中心に黒い固まりが拡散していた。
100碁石(2):2001/07/20(金) 08:27

一つ拾ってみる。
匂いをかぐと、炭のような臭いに混じってアーモンドのこおばしさが、かすかに感じられる。
この碁石状の何かは、食べ物のようだ。
直径2センチ程度の、円盤状の何かを齧ってみる。

「ち…千鶴姉っ!それを食べたら駄目だっ!」
ごっくん。
苦しげな梓の声を聞くと同時に。
わたしは、碁石を飲み込んでしまっていた。



 …怒っている。
 あれは、かなり怒っている。
 わずかだが、千鶴姉の白い額に青く血管が浮いてるのが見て取れた。
 これは間違いなく、危険な兆候だ。

あたしたちは、この椅子だらけの部屋で、なぜか冷たい床の上に正座をして、小さくなっていた。
正確に言うと、繭と動物は倒れたまんまだけど。
「…つまり、こういうことなのね?」
千鶴姉が、勤めて怒りを抑えながら状況を確認しはじめる。


 『じゃーん!クッキーだよっ!』
 4枚あるはずのCDのうち2枚は手元にあったので、解析はそこから始めた。
 ほぼ可能な限りの調査が終わったと考えた頃、あゆがクッキーと主張する何かを持ってきていた。
 『…なんだこれ』
 『……碁石?』
 詠美と二人で呆れ果てる。

 『うぐぅ、ひどいよっ!ちゃんと甘いしアーモンドも入ってるんだよっ!』
 確かに、そのような臭いがするような気もしないでもない。
 …だが本質的に、これは炭と分類するべきだ。
101碁石(3):2001/07/20(金) 08:28

 『碁石と言うより、炭だな』
 『碁石でいいのよ、だってコレ、かたいわよ』
 驚くべき事に、詠美は文句を言いつつ齧ってみていた。

 ふと視線をずらすと、あゆが涙目になっている。
 (あちゃ…。
  あたし、こういうのに弱いんだよなー…)
 動揺に泳がせた視線が詠美と合う。
 二人で決意と観念の頷きを交わす。
 (ああ、そうだ。
  詠美だけを、彼岸の地に逝かせるわけにはいかない!)
 覚悟を決めて、あたしも齧る。
 『ぅわっ…硬っ!』
 たいやきより先に、あゆには教えてやるべきことが山積みだな、と考えながら。
 あたしは炭を飲み込む事に成功した。


…あとは見ての通りだ。
どういうことか、全員が意識消失してしまっていた。
文字通り、彼岸の地に逝くとこだったよ。
(結局、みんな食ったのか…)
自分も含めて一人残らずお人よしとは、恐ろしくもおめでたい一団すぎて涙が出るね。

千鶴姉の説教のもと、真実は解き明かされた。
原因はやはりクッキー(注:作者自称)。
生地の切り分けに使った刃物に、何かが塗られていたようだ。

(ねえ、梓)
千鶴姉に説教されながら、詠美が肘でつついてくる。
(一つだけ聞きたいんだけど)
(なんだい?)
(どうして、さっき食べたはずの千鶴さんは…倒れないのよ?)
102碁石(4):2001/07/20(金) 08:42

そう言えば。
いまや絶好調の演説をかます千鶴姉に、昏倒の気配はちらりとも見えない。
…地獄の釜か、鉄の胃か。
きっと、千鶴姉に謎な料理は効果がないのだ。
(なあ、詠美)
(…その悟ったような表情はなによ)
(蛇や河豚が、自分の毒で死ぬか?)
(…うぐぅ、あゆ、河豚じゃないよっ)
((そういう問題じゃないっ!))


思い起こすと、いつだか怪しいキノコを食ったときも、効果がなかった。
裏の裏は表だから、効果がないように見えただけだと、その時は思っていた。
(懐かしいなー、セイカクハンテンダケだっけ?
 あの時は、初音が豹変しちゃって大変だったよなあ)

(豹変…?)
その単語にちょっとした引っ掛かりを感じ、伏せていた顔を上げる。
千鶴姉の後ろで、まだ倒れている動物と…繭が見える。

何かがカチリと音を立て、ぴたりと一枚の絵が出来上がったような気がした。
思わず立ち上がり、叫ぶ。
「千鶴姉!セイカクハンテンダケだ!」
「お座りなさい梓!」
「はいー…」

繭、あんたの豹変の原因が、わかった気がする。
とりあえず、千鶴姉の説教が終わるまで、おあずけのようだけど。
103碁石(5):2001/07/20(金) 08:43


(あのー…梓さーん)
ぽややんが遠くから小声で呼んでいる。
(CD二枚分の解析、だいたい終わりましたけどー…)
ああ、悪かったね。
あたしたちが寝ちまったから、結局あんた一人でやってたんだね。

でも、だめだ。
あんたの結果発表も、千鶴姉の説教が終わるまで、おあずけだよ。



【柏木千鶴 説教中】
【CD3/4、4/4解析終了 無記名はまだ】
【繭&ぴろ&そら 昏倒中】
※放送終了直後に、千鶴は目覚めました。
※千鶴が無事なのは、単に最後のほうに切り分けた生地から作ったクッキーのために、
 毒の作用が薄かっただけです。最初のほうに切ったやつを食えば、たぶん倒れます。
104名無したちの挽歌:2001/07/20(金) 08:55
これで放送直後まで持っていきました。

今後の指針としては…
当然のこる無記名CDの解析を、行うと思います。
それから千鶴が最初に聞いた言葉や、梓がセイカクハンテンダケに着目したことから
個人のデータベースを調査することでしょう。
「ん?ここはどこだ?」

気がつくと俺は草原にいた。
おかしいな?いつの間にこんなところに来たんだ?
何か記憶が曖昧だ。
落ち着いて思い出してみよう。
確かあのあゆとか言うガキが作った碁石(本人曰くクッキーらしい)を食べたところまでは
覚えて居るんだが………。

バッサ、バッサ。
その音で空を見上げるとそこにはそらがいた。
「おう、鳥。ここがどこだか分かるか?確か俺たちゃ建物の中に居たはずだよな?」
「ええ」
「それが何でこんなところにいるんだ?」
「私にも詳しいことは分かりませんが、私が人間から話に聞かされた【死後の世界】という所かもしれんませんね」
「何?!じゃあ俺達死んじまったってのか?!」
「可能性はあります。あの碁石のような物に毒物が付着していたのかもしれませんね」
「クソッ!こんなことで死んじまうとは情けねぇ!これじゃポテトの野郎に笑われちまうぜ!」
「全くだな。情けない」
後ろから声をかけられた俺は驚きのあまり声も出なかった。
それはこの世に存在するはずのないヤツの声だった。
「ほう。あなたがここに居ると言うことは、やはりここは死後の世界というやつのようですね」
「ああ。ま、正確に言えばその入り口だけどな。それにしても………情けないな、ピロ」
「何だと!」
「フン。情けないヤツを情けないと言って何が悪い。それでも俺が生涯唯一認めたライバルか、貴様は」
「この野郎、言わせておけばいい気になりやがって!丁度いい!ここで決着つけさせてもらうぜ!」
「断る」
「おい!逃げる気か!」
「今の貴様と勝負する気は無い。第一貴様らにはまだやるべきことがあるはずだろう?」
「ポテト!お前、何さっきから訳の分からねぇこと言ってやがる!」
「落ち着きたまえ、ピロ君。ポテト君、我々はすでに死んでしまった身だと思うのだが?」
「ああ、そのことだがな。お前らはいわゆる仮死状態ってやつになってるだけだな」
「何?!じゃあ俺達まだ死んでないのか?!」
「ま、そういうこった」
「そう言うことか………。ん?そう言えば、ポテト。お前さっき変なこと言ってたな。やることがまだあるとか何とか。ありゃどういう意味だ?」
「どういう意味も何も言葉通りだ。お前、そんなことも分からないのか?やっぱり馬鹿だな」
「テメェ!」
「いいか?お前らは俺と違ってまだ生きてるんだ。この俺が命張ってあの人間どもを守ったんだ。お前もそのくらいの根性見せてこい、ピロ!」
「………」
「貴様との決着はその後でゆっくりつけてやるよ。まぁ、俺が勝つに決まってるがな」
「ポテト!その言葉後悔するなよ!今度会うときにはきっちりぶちのめしてやるからな!」
「ああ、せいぜい楽しみにさせてもらおうか」
突然周りの世界がぼやけてきた。辺り一面に霧がかかったみたいでポテトの姿もはっきり見えなくなった。
「何だ?!」
「どうやら時間のようだな。あ、そうそう。もう一つ頼みがある」
「………彼女のことですね?」
「ああ。さすがだな、鳥。話が早い。あいつのこともよろしく頼むぜ」
「ケッ。相変わらずお人好しなヤツだな、お前は。死んだ後まで面倒かけやがって。まぁ、このピロ様に任せときな」
「ああ、頼んだぜ、相棒」
その言葉を最後に俺の意識は光の中へと消えていった。

『………ん?』
『やぁ、ピロ君。気がついたみたいですね。どうやら元の世界に戻れたようですよ』
『ああ、どうやらそうみたいだな』
そこは気を失う前と同じ景色だった。あっちの方では人間どもがわめいてやがる。
全くうるせえやつらだ。
『………何やってるの?あなた達。こんなところに倒れ込んで』
『あぁ、それは色々と訳が−−って何でお前がここに居るんだ?!』
『やぁ、新入り君。どうやら私達の後を追ってきたようですね』
『………』
『どうやらその様子だとポテト君が死んだこともご存じのようですね』
『………来る途中で、見つけた』
『そうか………』
『………だから言ったのに。仲間なんて薄っぺらいって』
『おい!何て事言いやがる!』
俺は思わず叫んだ。
『お前にあいつの何が分かる!あいつはあいつが仲間と認めた女をかばって死んだんだ!それを否定することは許さねぇ!』
『………』
『まぁまぁ、ポテト君。落ち着いて』
『これが落ち着いてられるか!』
『彼女もそのことは分かってるはずですよ。でなければ私達を追ってここまで来たりはしないでしょうから』
『………』
『新入り君。何が君をそんな風にしてしまったのかは私には分からない。でもいい加減自分の殻にこもるのはやめたらどうです?』
『………でも、きっとみんな私の側からいなくなる。現にあの人も居なくなったじゃない』
『確かに彼、ポテト君は死んでしまいました。でも彼はあなたのことをとても心配していましたよ』
『………え?』
『ああ、俺達はあいつにお前の事を頼まれたんだよ』
『………どういうこと?』
『どういうことも何もそのまんまの意味さ。ま、そういうわけだからさ、お前が嫌がっても無駄だぜ』
『悪いですけどそういうことです、新入り君。野良犬にでもかまれたと思って諦めて下さいな』
『お!上手いこというな!確かにそうだ!犬に頼まれたからな!ハハハ!』
『別にそう言う意味で言った訳では無いのですけどね。まぁいいでしょう』
『………』
『ん?どうした?新入り?』
『………ぽち』
『ん?』
『私の名前。そんな変な呼び方しないでくれる』
『ああ、んじゃ改めてよろしくな、ぽち』
『………イヤ。誰があなたなんかとよろしくするもんですか』
『ああ!そりゃどういう意味だ!』
『どういう意味も何も言葉通りの意味よ』
『テメェ!』
 
『フッ。どうやら彼女も吹っ切れたみたいですね。これで君の頼みは叶えましたよ、ポテト君』


(なあ、あの動物達何騒いでるんだ?)
(知らないわよ!そんなこと!)
「そこの二人!真面目に聞きなさい!」
「「はいっ!」」
 
【ぽち ピロ・そらと合流】
109沈黙:2001/07/20(金) 22:51
ソコは沈黙が支配していた。聞こえるのはただ風の音のみ。
十字架の前で黙祷する一人の少女、それを離れたところからただ見守るだけの青年。
やがて少女は立ち上がり歩き出した。そしてその隣りをついて行く青年。
「ありがとう。」
ただ一言、それだけで充分だった。二人は同じ傷を持つ者だから。



静かだった、拍子抜けするほど静かだった。
二人の話ではかなりの人数が寄り添って過ごしている筈なのに全く人がいなかった。
「誰かに襲撃でもされたのかな?」
「それはないと思うぞ、荒らされた形跡も無いし血の痕も無さそうだし。」
水や食料、アイテム図鑑にパソコンを置いていっている事からまた戻ってくる気だということは簡単に想像できた。
全部の部屋を見たがやはり隠れている人や留守番をしている人は見つからなかった。

正直真っ赤なシーツがある部屋を調べるのはちょっと抵抗があったが。



ソコは沈黙が支配していた。聞こえるのはただ電子音のみ。
パソコンの前で悪戦苦闘する青年、それを見つめる頬を赤らめた少女。
二人の頭の中にはただ一つの言葉がよぎっていた。

『『誰だが知らないが(けど)、後始末ぐらいしろよな(よ)』』

この沈黙はCDが解析できるまで続きそうだ。

【北川 CD解析開始】
110選択(1):2001/07/21(土) 03:41
「おや、目覚めましたね」
「……! ……!!」
「やはり、祐介君を殺した事が僕を狙う理由だったんですね」
「……」
「そういう恨みがましいこと言わないでください。一応、僕はあなたの命を救ったんですから」
「……」
フランクが覚醒した場所はベットの上だった。布団は敷かれていないために板張りの上に寝かされていて、体の節々が痛い。
辺りを見渡すとカーテンで仕切られて視界が遮られている。そして、消毒のアルコール臭が鼻をつく。フランクはここがどこかと少年に聞いた。
「ここは『学校』と呼ばれるところです」
「……」
フランクは得心した。だが、別の疑問も浮かぶ。
「……」
少年は少し笑みを浮かべて答える。
「まあ、確かに骨の折れる仕事でしたが……。医療機器があるところは他に知らなかったんです。それと決別です」
「?」
そう言って少年は笑みを消す。そして、今までのどこか余裕ある態度を無くして小さく呟く。
「ここでね、少女が死んだんですよ、埋葬したのはつい先ほどですが……」
「!!」
フランクの目が大きく開かれる。それは無論、死者がいたところに寝かされていたからではない。
「その子は、心臓を患っていました。それでも必死に生きようとしてましたよ……。でも、参加者の一人に殺されてしまった」
「……」
そして、二人の男は目を瞑る。かつてこの部屋で死んだ少女に黙祷を捧げているようにも見えた。
管理者といえどフランクも人の子であった。人の死を悲しみ、悼む心も持っている。そう思う心はこの殺人ゲームを管理することが決まったとき、本人は捨てたと思っていたのだが……。
そして、しばらくして、また少年が話しを続ける。
111選択(1):2001/07/21(土) 03:42
僕はそいつが憎かった。彼女の敵をとってやりたい、そうも思った。だけど、そいつも死んだようです……」
「……」
「そして、僕は悟りましたよ。たとえ、人殺しでも、参加者は皆、被害者であると。真に恨むべきは……」
そう言って少年は身にまとっていた偽典をフランクに向かって投げつける。
「管理者だと」
少年の手から放たれたものは、フランクの頬を浅く切りつけ背後の壁にささった。
「だけど、あなたを殺したりはしません。あなたは責任をとらなければいけない。この島に死んでいったすべての人々に対する責任を」
その言葉に対してフランクは首肯する。言われるまでもないと。
もはや、フランクに少年を殺せる好機は来ないだろう。ならば、生き恥をさらしても死んでいった者たちへの責任をとるのが役目だと、フランクは思った。


少年は話しを続ける。
「高槻を含めた管理者を打倒する。そして、この馬鹿げたゲームを終わらせる。それだけに邁進してればいい。そう、思ったんですけどね。そうはいかなくなってしまったんですよ」
「?」
「植え付けられた疑似人格。それが消えてしまったからです」
「……!」
フランクの額に玉のような汗が浮かぶ。少年が言ったことが真実ならば、事態は最悪の方向に転がっているからだ。
「それともう一つ。今となっては神奈を守るために手段を選んではいられなくなりましたからね」
「……?」
いぶかしげな顔をするフランクを一瞥して、少年は言葉を繋げる。
「あなたが気絶している最中に、大きな魔法が発動しました。おそらく、神奈を誅するために」
「……!?」
「ええ、神奈は生きていますよ。僕が生きていることがその証拠です」
フランクはうつむいて、そうか、と呟いた。そして、その目から涙がこぼれ落ちる。
「そうですよね。神奈を倒すために何人もの人々がこの島で殺戮を繰り返してきた。それがすべて無駄になってしまったのですからね」
その言葉を聞いたとたん、フランクは立ち上がり少年にくってかかる。胸ぐらをつかみ、少年を持ち上げる。少年はこの重病人にこれだけの力があるのか、となぜか感心した。
「……! ……!!」
フランクは早口でまくし立てる。この男がここまで饒舌になるのか、と少年は場違いなことを考える。
112選択(3):2001/07/21(土) 03:44
やがて、落ち着いたのかフランクは少年から手を離した。しわくちゃになった襟元を直しながら少年は言う。
「それでですね、今までのことを踏まえた上で、一つお聞きしたいことがあるんですよ」
「……」
「まあ、そう言わずに。聞いとかないと後悔するかもしれませんよ?」
「……」
フランクは憮然としながらも頷く。
「じゃあ、言いますよ。僕はこれから参加者の中で魔法を使える人を捜さなければならなくなってしまいましてね」
フランクの顔に緊張が走る。
「それで、管理者のあなたなら知っているでしょう? 僕も参加者のことは大会前に少しは教わったのですが、魔法に関しては教えてくれなかったので」
少年をジョーカーとして参加させるにあたって参加者の情報をリークしたが、魔法の使い手は管理者側が万が一を考えてそれだけは秘匿とした。それは、神奈に対抗するのにもっとも有効な手段が魔法であるからだった。そして、疑似人格を失えば少年は魔法使いを狙う……。その管理者の危惧が現実のものになった。
「……」
フランクは首を横に振る。当然だ。
「そうですか……。残念です」
少年は落胆しているように下を向いた。だが、それが演技であるというのはフランクの目にも明らかであった。
「では、残った参加者を全員殺さなければなりませんね」
「!!」
フランクは自分の耳を疑った。先ほどの少女の死を悼んでいた少年とは同じ人物なのだろうか?
「だって、そうでしょ? あなたは魔法使いですかって、一人ずつ聞いて回るわけにはいきませんし」
「……」
はったりだ。そうに違いない。それにしては、あまりにも稚拙だ。そう、フランクは思った。だが、次の言葉がフランクの心臓に見えない槍を突き刺した。
「ですから……。あなたの甥子さん。七瀬さんでしたっけ? も手に掛けなくてはいけなくなってしまうんですよ。さすがにこれ以上あなたに恨まれるのは嫌だと思って聞いてみたんですが……。やっぱりダメですか?」
「!?」
113選択(4):2001/07/21(土) 03:49
そして、フランクは慄然すると共に、すべてを理解した。これは少年を狙った自分に対する復讐なのだと。
少女が死んだというはなしも、管理者の責任も、少年の疑似人格が消失したことも、すべてを話した上で悪魔の選択を少年は強いた。どちらを答えてもフランクの心が傷つき後悔するように仕向けた。
Yes.と答えてもNo.と答えても恐らく少年は言ったことを実行する。それは間違いないだろう。
Yes.と言えば少年は魔法使いたちを殺す。それは今までの自分たちの行為を無に帰することになる。彼女らのことを教えることは、管理者にとってもこの島で散っていった者たちに対しても大きな裏切りになってしまう。
しかし、暗に少年は彰を襲わないと言っている。少年も無駄に戦うリスクを負うとは思えない。だから、その密約は守られるであろう。
No.と答えれば少年は彰を狙う。そして、また自分に強要する。魔法使いは誰か? と……。少年にとっては遠回りになるが結果は同じだ。けれども、監視所で見たときに彰は多くの仲間たちと一緒にいた。少年を返り討ちにできるかもしれない。
だが、無論彰は戦闘にさらされることになる。少年を倒したとしても彰が死んでしまったら元も子もない。それに彰は度重なる戦闘で満身創痍だ。
どうする……。
時計の針が3時を指したとき。フランクはようやく口を開け、
「……」
と、言った。
114選択作者:2001/07/21(土) 03:57
えーと、選択(1)が二つありますが後の方が(2)です。すいません。

どーせ、フランクを尋問しようとしても吐かないだろうとおもって書きましたが。
フランクのセリフの説明がほとんどないので不親切ですが察してください(w
っていうか、少年のセリフとフランクのモノローグで話が進むようにしたつもりですがね。
あと、ブラフや人物の思いこみも入っていますので次を書く方はあまり縛られずに書いてください。
115木と風の祝福(1):2001/07/21(土) 17:14
降りしきる雨の中、汗と埃にまみれて、目の前の機械と外を交互に眺めつつ、
彼らは長らく作業を続けていた。
雨の降り込みを防ぐために、窓を開けることもできず、熱気と湿気がこの狭い
一室の中に充満しており、背後にただ一つある鍵の壊れた扉だけが、換気口に
なっていた。

「どう思う、月代」
「(・∀・)うーん…やっぱり外のスピーカーが、変なんじゃないかな?」
鍵を破壊して侵入したのは、坂神蝉丸。
そして、常に彼と共にある謎のお面は、もちろん三井寺月代だ。

二人は消防団の詰め所にいる。
この建物のすぐ近くで昼の放送を聞いたにも関わらず、声の聞こえた方向が違って
いたため、あまり期待せずに侵入した。

壊れたシャッターを引き上げ、古びた南京錠を掛け金ごと破壊し放送室へ侵入すると、
施設管理のズボラさが見て取れる。
半ば朽ちて倒れた木の椅子。
曇り硝子のように不透明な、ひびの入った窓。
積もった埃と、ほうぼうに張られた蜘蛛の巣が、長らく使われていないことを雄弁に
物語っている。

だが常時使われている施設は、逆に言うと兵士がうろつく可能性があり、たいそう
危険であったから、ある意味これは好都合でもあったのだ。
配線図を手にとると、二人は蜘蛛の巣をはらい、軽く掃除をして、放送施設の配線を
くまなく調べ、また電気が通ってるかどうかを確認し、ようやく内部的に問題はないと
結論を出した。

「(・∀・)あとは櫓の上の、スピーカーそのものだね」
数時間に渡る、埃と蜘蛛の巣と配線との戦いに疲弊した月代が、ほう、と息を吐き
ながら、隣接してそびえる火の見櫓を眺めつつ結論する。
「そうだな。風雨に晒されて、配線が切れたくらいだと良いのだが」
月代と同じように外を見ながら、蝉丸は答えた。

雨の降りは、ときおり集中的に強くなり、遠くないどこかで雷が地を叩いているのが
聞こえてくる。気分的に、高いところへ登りたいとは思えない環境だった。
116木と風の祝福(2):2001/07/21(土) 17:16


そのとき。
あたり一面が、真っ白な光に包まれた。
「(・∀・)せっ!せみまるっ!」
「むう…!」
一瞬爆撃かと思い、伏せてしまったのは、職業軍人の悲しい性だと言える。
続いて思いついたのは、落雷だったのだが、それに思考を寄せる間もなく、大きな
変貌が訪れた。

 -----光が消えると共に、嘘のような青空が広がっていたのである。

「(・∀・)うわ…うっそ…」
「…ふむ」
呆然とする月代。少なからず驚きつつも立ち上がる蝉丸。
「(・∀・)…蝉丸? これ、どういう事なの?」
「まるで解らん。
 …だが、櫓に登って作業をするには、好都合じゃないか」
唇の端だけを僅かに上げて、不敵に蝉丸が笑う。
そして躊躇うことなく立ち上がり、すたすたと外へ向かう。

「(・∀・)わあ、ちょ、ちょっと待ってよ!」
埃を舞い上げながら、慌てて月代も立ち上がる。
走ろうと思って工具につまづき、あたふたしたまま工具箱に詰め込む。
蓋をいいかげんに閉じて、丸ごと抱え、早くも息を切らせながら後を追う。

いつになく素早い判断で行動する蝉丸に、驚きを感じていた。
扉をくぐり、階段を駆け降りる。
シャッターを抜け、すっかり明るくなった外へ出ると、火の見櫓へ向かう蝉丸が見える。

「(・∀・)せみまるっ!」
半ば飛びつくように、半ばぶら下がるように、月代は腕を絡ませる。
「む?」
それでも、ほとんど揺らぐことなく歩みを進める蝉丸が頼もしい。
117木と風の祝福(3):2001/07/21(土) 17:16

満足感を味わいながらも、置いていかれた恨みごとを漏らしてみる。
「(・∀・)もう、工具も無しにどこ行くの」
「月代が持ってきてくれると、思っていた」
「(・∀・)う、うわ…」
…くらっときたのは、太陽のせいだろうか?
月代はそんなことを考えながら、わけもなく赤面した。
あの放送を聞いてからと言うものの、今の天気と同じくらいに、蝉丸は変わった気がする。


ほどなく二人は、火の見櫓の頂上に到達していた。
吹く風が涼しげで、先ほどまで居た狭く暑い一室とは、天地の差がある。
視界は広く、雨宿りを終えた鳥たちが羽ばたいていくのが、あちこちで見える。

柵に足をかけたまま、頭上のスピーカーを点検する蝉丸を見上げつつ、月代はぽつりと
つぶやいた。
「(・∀・)蝉丸…なんか、変わったね」
「…嫌か?」
「(・∀・)ううん、嫌なわけ、ないよ」
小さく答えた言葉の端が、風に揺れる木々の声に掻き消されていく。

その短い会話を最後に、二人は黙々と修理を続けた。
不用意に通した配線が強烈なハウリングを引き起こし、耳鳴りと共に修理の完了を確信
した頃には、かなりの時間がたっていた。

吹く風と、木々の声だけが、変わらず二人を包んでいる。
月代は、この島に不似合いなほどの幸福感を味わっていた。
…そしてきっと、蝉丸も。



【坂神蝉丸 三井寺月代 消防団詰め所、火の見櫓の上で放送施設の修理完了】
118名無したちの挽歌:2001/07/21(土) 17:19
「木と風の祝福」です。
これで蝉丸も三時過ぎくらいになったと思います。
放送の準備は、完了しました。
119名無したちの挽歌:2001/07/21(土) 17:37
むう…>>116に修正お願い致します。

真中あたりの
----------------------------------------------
そして躊躇うことなく立ち上がり、すたすたと外へ向かう。
----------------------------------------------

これを、以下に修正してくださいまし。
----------------------------------------------
そして躊躇うことなく、すたすたと外へ向かう。
----------------------------------------------

些細な事ですが、二回立ち上がっていましたw
120姉として 1:2001/07/21(土) 22:33
私は解析の間、昔のことを思い出していた。

私の母は若くない。両親は婚姻の儀をすませるとすぐに後継ぎをつくろうとした。
しかし母は流産の連続で、グエンディーナ中は失望に包まれていった。
だから私が40を過ぎた母から生まれた時、両親はもちろん国中が歓喜の嵐だったらしい。
母の年齢からいって、私が唯一の子になるであろうことは国中みんなが覚悟していた。

その2年後リアンが生まれた。
成長するにつれ家族、とりわけ祖父の目はリアンに向くようになった。
おそらく私の父と母そして祖父のような家族の場合、神さまからの授かりものはより聡明な方一人で充分だったのだろう。
(事実嫡子が継ぐ、という掟を祖父は改正しようと考えてたらしい)

そんな環境では姉妹仲は険悪だと思うでしょう?
だけど私たち姉妹はめったに喧嘩もしなかったし、憎みあうこともなかった。
リアンは両親や祖父にかわいがられてる時も常に私に気を配ってたし、私の悪口を聞いたら怒って部屋に閉じこもり1日は出てこなかった。
そうこうしている内に私とリアンは大の仲良しとなった、家族にとっては皮肉なことだったが。
121姉として 2:2001/07/21(土) 22:34
私たちは遊ぶ時は何をするのも一緒だった。
ままごとから始まり、
川遊び、(リアンは泳ぎが苦手だったけど)
虫集め(リアンは虫が嫌いだったけど)
魔法を使ってのいたずら、(リアンは反対したけど)
移動魔法による国外旅行、(リアンは泣いて反対したけど)
もちろん寝るのも一緒だった(実はこの年になっても続いていた)。

私にとってリアンはカケガエのない存在だった、だから今でも死んだなんて信じられない。

なんでこんなこと思い出したのかわかる?
あまりにも悲しすぎるから忘れようとしていたのに。
あそこのベットの血のせいだよ。
だぶん愛しあってる二人が使ったんだろうね。
羨ましいよね、結ばれて、愛する人と会えて。
あなたにも好きな人はいたのにね。
会いたかったよね。
122姉として 3:2001/07/21(土) 22:35
「・・・けんたろのばか」
スフィーは呟いた、涙を押し殺しながら。
八つ当たりだとわかっていても。

「・・・やっぱ子供なんだな」
それを見て北川は呟いた、少しの同情を抱きながら
ちょっと誤解入ってるけど。

解析は続く。
123姉としての作者:2001/07/21(土) 22:36
【北川 スフィー CD解析中】
【回想ですので時間はほとんど過ぎてません】


書きました。誤字、矛盾等ご指摘お願いします。
またオリ設定たくさんですので駄目な時は遠慮なく切り捨てて下さい。
124綱の上の踊り手(1):2001/07/22(日) 16:07
例えば、怒りに我を失いながら、悲しみに涙を流す。
 相反する二つの感情の、両方を激しく行き来する。

例えば、憎しみに身を焼きながら、愛しさに心を震わせる。
 あなたは、そんな境遇に陥った事があるだろうか?

  …いっそ落ちてしまえば、却って楽なのだと思う。
   どちらかに決める事さえできれば、悩む必要などないのだから。



かすかに目を開く。
何かに顔を押し付けているのは、うつ伏せに寝転んでいるせいだ。
「くぁ……」
くるりと仰向けになり、目を開くと同時に大きくあくびをして、ぐっと伸びをする。
見上げる空の晴れやかさと、記憶に残っている雷雨との落差に、少なからず途惑ってみる。

私は、あの観鈴とかいう子に怒りをぶつけて、彼女を放り投げたあと、振り向きもせず去ったはずだった。
それから何があったのか、ちょっと整理してみる。
脚の痛みも感じなくなって、彼を探すために森の中へと入って…

「かみなり、だよ」
「わっ!」
突然目の前に被さるように現れた顔に、心臓が止まりそうなくらい驚いた。
一方的に、しかも乱暴な別れを告げたはずの観鈴が、そこに居た。
「あっ、あんたっ!どっから出てきたのよ!」
「にはは、ずっとここにいた」
疑問と共に、びしっと指した指を間抜けにおろしながら、冷静に状況を確認すると、どうやら気を失ったまま、
観鈴に膝枕されていたようだった。
濡れた木々の間を駆け抜ける風が、涼しくて気持ち良い。
125綱の上の踊り手(2):2001/07/22(日) 16:07

いつまでも膝枕をされていては、言いたいことも言えないので、無理矢理体を起こす。
再び脚の感覚が戻ってきており、痛みに顔をしかめながら聞いてみる。
「…雷って、何がよ?」
「どうして倒れたのか、知りたいみたいだったから」
そう言って彼女は、傍らに倒れている巨木を指差す。
ぷすぷすと燻るそれは、落雷で倒れたものなのだろう、見ると鞄が枝に引っかかったままだ。

「倒れてきた木の、枝にぶつかって一緒に倒れたんだよ。
 ほっといたら一緒に焦げちゃいそうだったから、観鈴ちん頑張って引っぱったよ」
「そっか…助けてくれて、ありがと」
あんなにも怒っていたのが、馬鹿みたいに思えてくる。
もちろん、彼女たちに出会った頃から、今の惨劇が始まったと言ってもいい。
だが彼女のせいではないのも、解っている。


…どうして私は、あんなに怒ったのだろう?
思考を巡らせて、過去の情報を吟味してみる。
すると、変わり果てた天気のせいか随分と昔のように思える、少年の言葉を思い出した。

 『君たちは姫君とつながっている。姫君の分身が君たちの中にある』
 『姫君の意識はいずれ君の我を飲み込むだろう』

…そう、”姫君”と彼が呼んだ存在。
私はその声を聞いていた。

 『――脆いものよの』

あの声の主が、私を喰わんとする”姫君”なのだ。
相反する自意識に押し潰されていた、私の心の間隙を縫うように、彼女は現れたということだ。
いま正気を保っているのは、たまたま事故に遭ったショックか何かなのだろう。
それがラッキーだったかどうかは…解らないけれど。
126綱の上の踊り手(3):2001/07/22(日) 16:08

毒気の抜けた意識が、自然と肩の力を抜けさせ、私は軽く鼻から息を吐いた。
ふと手を見ると、爪の間に違和感があり、全ての指先が赤く染まっている。
「なんだろ、これ」
「…な、なんでもないよ!」
慌てて観鈴が、自分の腰のあたりに手を当てた。

あまりに不自然な仕草に、ちょっと腹を立てて追求する。
「なんでもないって、どうしてあなたが解るのよ?」
無理矢理捕まえて、隠した彼女の背中側を、こちらへ向ける。

 -----血だらけだった。

…つまり気を失って、うなされている間に、私がやったのだ。
おそらく彼女の膝に顔を埋めたまま、腰に手を回して力の限り引っかいたのだ。
「あなた…ば、馬鹿じゃないの?
 そんなだから、へちょいって言うのよ」
「が、がお…。
 だって、苦しそうだったから…」
じゃあ、あなたは苦しくないの?…と言おうとしてやめる。聞くだけ無駄だ。
この子は、そういう定規の持ち合わせが全く無い、稀有な存在なのだろう。

「光がね」
気恥ずかしい感謝の気持ちと、呆れた脱力感が私を無口にしていたが、かわりに観鈴が話し始めた。
「…光?」
「うん、ぱあって光が広がって。
 雨も土砂降りだったのが、綺麗に晴れたよ。
 それからずっと、気持ち良さそうに寝てた」
「…そう…か」
127綱の上の踊り手(4):2001/07/22(日) 16:09

どうやら、偶然では無かった。
私のあずかり知らぬところで、何かが”姫君”を押し戻したのだろう。
少年という”姫君”の勢力があるように、それに敵対する何かが存在するのだろう。
しかし、それは私にとって好都合とばかりは言えない。
何故なら私は、彼に約束したからだ。

 『あなたを助けるわ。それができないなら。あなたを殺してあげる』
 『そうだね。君ならそう言うだろうと、思っていた。強いよ、確かに君は』

彼を、助けなければならない。
自分を見失うことなく、失われた彼を救い出す。
限りなく絶望的な目標を達成するために、私は立ち上がる。
「私、行くわ」
「え……」
思考に付いてこれない観鈴は、理解が及ばないようだ。

 だから私は手をさしのべる。
 それが精一杯の、感謝の気持ち。

 「あなたも、一緒に来るでしょう?」
 「にはは、ふぁいと、だねっ」



殺意の巨大な影と、希望の狭い光の小道の間。
 私は、境界線上を、危うい足取りで歩いている。

それは、命綱の無い綱渡り。
私は激しく冷や汗をかきながら、踊り、笑う。

 私の消える、その日まで。

 
128名無したちの挽歌:2001/07/22(日) 16:13
【神尾観鈴 天沢郁未 改めて同行】
※郁未の荷物は回収するでしょう。
※弾の切れたデザートイーグルを残して、全て運んで来ています。

※源之助の魔法で、一時的に神奈の侵食が退行したと思ってください。
神奈に余裕がある限り、これからも侵食は続くでしょう。


「綱の上の踊り手」です。
自分の感情だけでなく、意識の所在さえ危ぶまれている郁未の運命やいかに。

観鈴ちん&いくみんの過去作を読んで、いくみんの精神強度に対する評価の
散らばりを感じたので、全て神奈さんのせいにしてみました(ぉぃ
「あ〜、やっぱここだよ…」
『PassWord 実在する魔法の国の名は?』
 前の解析の時もここで詰まった。
 なんとかこれを回避しようと頑張っているのだが…。
「くそー…。回避できねー。適当に入れまくるしかないのか?」
 それが非常に非現実的な方法であることはわかっている。
 だが他に思いつかない。
「ねぇ、どうしたの?」
 スフィーが北川の後ろから覗きこんだ。
「あ? お嬢ちゃんにはPCわかんないだ…」
「なんだ簡単じゃない。グエンディーナよ」
 沈黙が訪れる。
「は?」
「だからぐ…え…ん……」
 人差し指だけで、カタカタとキーを押すスフィー。
 入力ボックスに次々と文字が表示される。
『h@5y』
 再び沈黙が訪れる。
「むきーーーーーーーー!! なんでよ!!」
「いまどき日本語入力かよ…。で、グエンディーナ?」
――カタカタカタ……カタン!――
『BINGO!!』
「うお!! マジ!? ナイスだスフィー!!」
「え!? え!?」
 自分を抱きしめてくる北川に、あたふたとした態度で応対する。
「これで長年にわたるCDの謎が解ける!!」
 画面いっぱいにMediaPlayerが開かれる。
 流れ始める壮大なムービー?
 画面に!
『へのへのもへじ』が現れた。
 三度沈黙が訪れる。


「わしは長瀬一族の偉大なる長。長瀬源之助じゃ。
 スフィーよ、リアンよ。よくここまで来た!
 ことわっておくが、きみたちがこれを見るころには
 わしはもうこの世におらんだろう!

 それからもう一つ…。
 時間が無かったので顔がてきとうになってしまった。
 あまり気にせんように」
――てきとうすぎだった――

「さてスフィー、リアンよ。
 もしかしたらお前達も勘付いているかもれんが、この大会。
 あの大魔法を使うための布石だ。
 内容くらいは知っておろう。能力者の魂と心。この二つを媒介とするあの禁呪。
 そして禁呪を撃つ対象。それが――神奈――
 奴は………」

 なにやら壮大な話が展開されているようだが、北川にはなんのことやら『はぁーサッパリサッパリ』である。
 だが話は続く。
 例え北川とスフィーの背中に武器が突きつけられたとしても。
「5つのCDを集めろ。それを岩山の施設で使えば禁呪が再現できる。
 守りのHMもお前達の命令なら……」
131真実の明暗(1):2001/07/23(月) 20:05
気の早い鳥たちが、森へと帰っていく。
たった今、抜けたばかりの森は、これから鳥たちのねぐらとして静かに繁盛するのだろう。
草原を横切り、更に森を通り抜けた間、何者にも遭遇しなかった。
ただ鳥だけが、彼の視界の中に生きるものだった。
(まいったな…)
まばらな編隊を、とぼけた顔で見上げながら少年は思う。
そして、ぽりぽりと頭を掻いた。

正直言って、戦力は低下している。先ほどの魔法が、姫君に影響しているせいかもしれない。
魔法の影響はやがて消えるだろうが、消えたら消えたで身体にかかる負荷が強まるだろう。
どちらにしても、ドッグに突入した時のような無茶はできない。
(もう少し、からめ手から攻めるべきだったかな?)
少しだけ、反省してみる。情報は、真に必要な物だけでなくても構わなかったのだから。
きっと長瀬に連なる者ならば、現在どの程度の勢力が存在しているかも知っていただろう。
むしろ彰に直接係わり合いのない情報ならば、安売りしてくれたかもしれないな、と過去を振り返る。


 沈黙の続く一室で、時計の針がかちり、と音を立てて三時を示した。
 発声することを忘れたかのように、沈黙を保持しつづけた男が口を開く。
 「…知ったことか」
 長い長い迷いの時を経て、フランクがようやく出した結論は、全てを運命に任せるかのような一言だった。
 いや、彰という青年の可能性にかけたのかもしれないし、他の参加者に少年が打倒されることを期待して
 いたのかもしれない。
 真意の程は、本人だけが知っている。

 少年は大きく溜息をついた。
 珍しく、苛立たしさを感じていたかもしれない。
 「…強情な人ですね。その上、僕に残りの全員を殺して回れとは、残酷でもある」
 「……」
 「ああ、そうですね。あなたはもう、用なしです…いえ、殺しはしませんよ。
 僕が殺すよりも、他の参加者が憎しみも顕わに、あなたへ襲いかかるほうが、姫君は喜ぶでしょうから」
 少年は表情1つ変えずに、いや、いつもの微笑すら浮かべて死の宣告を行う。
 「どうせあなたの顔は、長瀬の一族だとしか見えませんから…さぞや敵意を、買うでしょうね」
132真実の明暗(2):2001/07/23(月) 20:06

 「…!……!」
 再度興奮し始めたフランクを、つまらなそうに見ながら、少年は答える。
 「はは、今に見ていろ、とは武器も持たずに威勢が良いですね。
 どうやら、いまだに管理者気分が抜けないと見えます」
 「……」
 「ああ、連絡が途絶えているでしょうから、御存知かもしれませんが。
 潜水艦のドッグは僕が襲撃済みですので、あしからず」
 満面の笑みを浮かべながら、そう言ってやいなや、驚くフランクの後頭部に打撃を加えて気絶させた。


…結局、姫君へ捧げるものが一つ増えただけのことだ。
再び執念を燃やして、襲い来るのならば姫君にとって格別のご馳走となる。
彼に言った通り、参加者に殺されるのならば、なお良い。

それはそれで良いのだが。
確かに存在する危険を防ぐという意味では、まるで役に立たない。
彼も今ごろ、目を覚ましてどこかへ移動しただろう。
これからのことを、考えなければならない。


 『おーーーーーーーーい』

思考の淵に沈みこんでいた少年に、伸びのある甲高い声が投げかけられる。
周囲を窺うが、見渡す限り人影はない。
改めて自分の能力に衰えを感じながら、もう一度探してみる。

 『ここだよ!ここーーー!』

かなり遠くだが、高さ十数メートルの鉄塔が立っている。
頂上で手を振っているのは、不思議な仮面の呪いをうけた少女だった。
隣には、常に自然体のままでありながら隙を見せない、手練の軍人が立っている。
(…はずれ、だね)
この2人が魔法使いとは思えない。
133真実の明暗(3):2001/07/23(月) 20:07

だが、この島にあって無敵とさえ思えるあの男を、ここで屠ることができれば僥倖だ。
おそらく、あの男を倒そうとする者など、そして倒せる者など、他には存在しないだろうから。
なればこそ、自らが手を下す必要性が生じるというものだ。

悪意を深く心に秘めて、微笑を浮かべながら少年は手を振った。


「久しぶりだね」
櫓の頂上に登るなり、少年は笑いかける。
「ああ、無事で何よりだ」
「(・∀・)ずいぶんボロボロだけど、だいじょうぶなの?」
蝉丸と握手をし、月代の頭をなでる。

当然のように、話題は蝉丸から聞いた地下の騒音の事となった。
少年は潜水艦があったことを告げ、続けて修理中であったことを告げる。
脱出方法のひとつが浮かび、そして消えたことを蝉丸たちは残念がっていた。

彼らは少年の期待通りに、数人の参加者情報を教えてくれた。
さすがにリーダーシップを発揮し始めたらしく、残り人数から考えると多くのコネクションを築き上げている。
視線を外して、景色を眺めるふりをしながら、少年は情報を吟味した。
(ずいぶん多くを仲間にしたもんだ…でも、魔法使いはいないようだね)
おそらく蝉丸を中心とした一団は、生き残り参加者の最大グループなのだろうと思われる。
それならそれで、全員が集中する前に、戦力を削げれば言うことはない。

「ところで、ここで何をしているんだい?」
蝉丸との会話中、暇そうにしていた月代へ声をかける。
「(・∀・)え?あ、放送、するんだよ」
「放送?」
誘いをかけるために、わざと少年は大袈裟に首を傾げる。
「今はもう、爆弾の起爆装置が無効になっているらしいから、呼びかけも可能だと思ったのだ」
蝉丸が助け舟を出す。
脱出に向け、更に仲間を増やすための放送の内容を考えていたところだった、というわけらしい。
134真実の明暗(4):2001/07/23(月) 20:09

「街角の一室に、仲間のほとんどは居るはずなのだが…」
腕を組み、蝉丸は考え込んでいた。
あそこは安全性の高い反面、解りにくい。なんといっても蝉丸たちは、島の中をあまり移動していないのだ。
常に共に居た月代と相談したところで、あまり良い場所は浮かんでかなかったため、長い間悩んでいたのだ。

「…学校なんて、どうかな?」
「学校?」
「全ての階とは言わないけれど、電気の付けっぱなしになっている教室もたくさんあるし、何より大きいから
 比較的わかりやすいと思うんだ。
 いくつか戦闘のあとがあるけれど…それはどこでも、同じだしね」
蝉丸が慎重に考えながらも、何度か頷く。
「反面、危険性が伴うが…それを考えていては始まらない。
 学校の位置は、説明できるのか?」
「ええ、もちろん」
「では決まりだな」
そう言って櫓を降りようとする蝉丸を、ちょっと待って、と少年は引き止める。
(…ここからが、肝心だね)
心の中で誘導する方向を確かめながら、慎重に、しかしいつもの気楽さを失わないように、少年は発言する。

「せっかくだから、放送内容に加えてほしい事があるんだ」
「む?」
「先ほど空が光って、天気が急変したでしょう?」
「(・∀・)うん、すごかったね」
あの雨の中を移動し、今この空を見れば、誰しも不思議に感じていたこと。
蝉丸たちも例外ではなく、少年の発言に期待する眼差しを送る。

「馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないけれど、あれは魔法なんです」
少々気が引けているような、自信に欠けた態度で言い出してみる。だが真実なのだから、しょうがない。
「魔法、だと」
「(・∀・)馬鹿馬鹿しいなんて…そんなこと、思わないよ」
月代は自分のお面を指差して、魔法を肯定する。
蝉丸もそれを見て、なんとか自分を納得させた。
135真実の明暗(5):2001/07/23(月) 20:14

「あの魔法には、僕も少々関わりがありましてね。
 あれは多分、結界をつかさどる者への攻撃だったんです」
これは、真実。
「でも、僕は魔法そのものの内容について、詳しくは知らない。
 だから、もし加わる仲間に魔法使いがいれば、自ら名乗り出て、説明して欲しい。
 …そう付け加えてもらえないかな?」
これも、真実。
「結界への攻撃か。
 確かに希望の道は、何本あっても困らないからな」
蝉丸が答える。
実際問題として、地下の潜水艦が望み薄となった今、新たな希望は何でも歓迎したいところだ。

そして少年の言葉に嘘はなく、すべて真実なのだから、疑う事もなく受け入れられた。
「では放送を流すとしよう」
蝉丸が櫓を降りる。
「(・∀・)はやく降りたほうがいいよ!ここにいると、音がすごいから」
続けて降りる月代が、少年に声をかける。

「ああ、今行くよ」
少年は、声を涼やかな風に乗せ、軽やかに答える。

 まずは、狙いどおり。
 そして、放送が終われば。

 …この二人に、用はない。


変わらぬ笑みの下に、殺意を秘めて。
少年は、再び大地に降り立った。

 
136名無したちの挽歌:2001/07/23(月) 20:18
「真実の明暗」です。
注意点として、少年は真正面から戦う気はない、ということです。
反射兵器の特性から、蝉丸に対して有利ではありますが、可能な限りだまし討ちを狙うでしょう。
137名無しさんだよもん:2001/07/23(月) 21:45
>>427
fusianasan使え。
正直、偽物だらけでわけわからん。
138芹香の誤算〜1:2001/07/23(月) 23:17
 ザッ!ザッ!ザッ!
 雨が上がった後の草原を国崎往人、来栖川芹香の二人は神尾観鈴を探して歩いていた。
 が、往人の歩くペースでは芹香には辛いのか、すぐに音をあげ始める。
「ちょっ・・ちょっと待ってよ・・・」
「なんだ、もう疲れたのか?偉そうな口調の割にはバテるのが早いな」
「しかたないでしょ!性格は変わったっていっても体力とかは変わってないみたいなんだから!普段は箸より重い物も持ったことないのよ!」
(・・その割にはいろいろ持っているな、あのバッグに)

小屋で北川、スフィーと別れるときに二人が持っていた合計3丁の銃と電動釘打ち機を4人でに分けることになった。
「一人が何丁も持つより、一人が一丁づつ持ったほうがいいんじゃない?」
 と言い出した芹香の提案によってだ。
 一番体格がいい往人がアサルトライフルを、
 北川はデザートイーグルを、
 スフィーはM19マグナムを、
 そして芹香が残った電動釘打ち機を持つことになった。
 何故か北川は、次々と無くなる自分の武器に涙を流していていたが。

「何度も言うが俺は連れの二人を探しているんだ。とろとろ歩いている暇なんかない」
「だからって・・もちょっとゆっくり歩いてくれたっていいじゃない」
「本当は走って行きたいんだ。このペースで歩いているだけ感謝しろ」
「・・まあいいわ、それより聞きたいことがあるの」
139芹香の誤算〜2:2001/07/23(月) 23:17
 と、言いながらバッグから参加者名簿を取り出す。
「これはさっきも見せた参加者の一覧表なんだけど・・」
「ああ、観鈴と晴子の番号を確認するためにさっき見たやつだな」
「そう、それで重要なのはここからなんだけど・・」
 そう言って芹香はペラペラとページをめくって往人の項目を本人に見せる。
「ここの部分、アンタの能力の『法術』ってやつが『現状まま』って書かれているのよ。
だからスフィーと・・もういないんだけど結花って娘の三人でアンタを探してたの、もしかしたら能力者の力を制限している結界をアンタならどうにかできるんじゃないかって」
「・・・・・俺の、力を見てみるか?」
「ええ、興味もあるし、どの程度のことが出来るのかも見たいからね」
「分かった」
 そういって往人は、ポケットから人形を取り出す。
「随分古びた人形ね・・」
「ああ、お袋の持ってたやつだからな」
(・・ってことは相当の伝統ある人形なのね、子にわざわざ託すものなんだから。これは期待できそうね)
「・・見てろ」
 そう言いながら往人は人形に力を込め、やがてその人形がゆっくりと動き出す。
140芹香の誤算〜3:2001/07/23(月) 23:17
「凄い、これが法術・・」
「ああ、種も仕掛けもないぞ」
「分かっているわよ・・で、その人形で何が出来るの?」
「は?」
「は?って法術って人形を媒体にして力を引き出すんじゃないの?今見た感じではそう思ったんだけど・・それとももっと別な方法なの?」
「いや、俺に出来るのはこれだけなんだが・・」
「・・・・・」
沈黙のあと、恐る恐る芹香が喋りだす。
「い、今なんて・・」
「俺の法術は、この人形を動かすことだけだって言ったんだ」
「じゃあ結界の封印をとく事とかは・・」
「出来ない」
「法術を戦闘に使うことは・・」
「人形を動かしても相手は倒せないと思うが」
「傷や病気を治したりは・・」
「それが出来れば今ごろ俺は医者にでもなっている」
 堂々と語る往人。
(つ、使えない・・・)
 完全な誤算だった。優秀な人材だとばかり思っていた往人が箸にも棒にも引っかからないようなヘボ法術師だったとは。
(ぐ、愚痴っても仕方ないわね。取り敢えず戦闘に関しては手馴れているようだし、早いとこ神尾さんって子を見つけて、スフィー達と合流して今後の対策を練らないと・・)
「もう休憩はいいな、遅れた分は走るぞ」
 返事も待たずに、往人は走り出す。
「ま、待ってよもう!」
 送れて芹香も駆け出した。
 往人は気付いていない、人形がうっすらと青白い光を放ち、雪見や智子に人形を動かした時とは違い、いつもの人形の動きになっていたことに。
 そう、まだ彼は気付いていない。
 結界を消すだけの力が自分の人形に集まりつつあることに。

【往人 アサルトライフル 芹香 電動釘打ち機 それぞれ装備】
【消毒液 包帯 往人の肩の傷の治療に】
【人形 現時点ではまだ何も出来ず】
141芹香の誤算作者:2001/07/23(月) 23:24
書いてみました。
人形に関してはAIR本編の観鈴シナリオの時に起こった現象みたいな感じで。
まだ本当に微弱でいまは人形の動きに影響を与える程度ですが。
一応、源之助と神奈の対峙の影響をうけてこうなったことにしてあります。
自分で思ったのですがかなりルールに抵触していいる気が・・。
142飛空挺の墜ちた地で_1/3:2001/07/23(月) 23:46

 喀血!!
 赤黒い液体が大量に舞い散る。
 高度約2000Mの暗室。
 薄闇の中で僅かに揺れていた蝋燭も、火を覆うように吐かれた大量の血液に
よって、全て消え去った。
「まだ、まだ足りぬかよ、神奈……」
 源乃介は全身の力を失い、大きく音を立てながら前のめりに倒れ込んだ。
 外からは派手な爆音が漏れ聞こえいた。
「もはや、これまでなのか……」
 力無く呟く源乃介。
 しかし、彼の瞳は未だ光を失ってはいなかった。
 
143飛空挺の墜ちた地で_2/3:2001/07/23(月) 23:46


──僅かな時を経て、巡視艇艦橋。

「上空で爆発音!! 空が、空が晴れてゆきます!!」
「上空の飛空挺より入電。正体不明の爆発により、緊急事態発生! キャプテン!
 疲空挺側はこちらに指示を求めています!!」
 オペレーター達が驚きと共に報告を読み上げる。
「状況の詳細を至急報告させろ! 向こうへの指示は長瀬老が下されるはずだ!
 向こうのオペレータは何をやっているのか!?」
 大塚は指示を下し、続報を待つ。
「駄目です、キャプテン!!」
「どうした!?」
「飛空挺より入電! 『我操舵不能、我操舵不能。これよりパラシュートによる
脱出を試みる』です!!」
 オペレータの一人が絶望的な表情で大塚を見上げる
「保たせろ!」
──一体、何が起こっているというのだ!!──
 訳の分からぬことの多かった今回のプログラム。
 しかし、此処までの異常事態は大塚も予想し得なかった。
「長瀬老はどうした!? 何故つながらない!?」
「それが、向こうも混乱している様子で……。うわっ!!」
 叫んだオペレータを詰問しようとした大塚だったが、相手の視線が上空に向けられ
たまま釘付けになっているのを見て、その先を追った。
 そして……。
「……なぁんてこった!!」
 呻く大塚。
 炎に包まれた巨大な飛空挺が、ゆっくりと島に向かって落下しつつあるのが見えた。
「一体、何が起こっているのだ……」
 遙か上空で人智を越えた作戦が実行されていたことを、大塚は知らない。
 
144飛空挺の墜ちた地で_3/3:2001/07/23(月) 23:49

──再び同時刻、上空。

「長瀬老はどうした!?」
「それが、お部屋にこもったまま、ご返事も返されぬ様子で!!」
「ならば捨て置け!! もともと俺は、この話には乗りたくなかったんだ!!」
「しかし!!」
「ええい、そんなことよりも自分の命を心配したらどうだ!!」
 追いつめられた者達の怒号が響きわたる艇内。
 刹那、またどこかで大きな爆音が響く。
「駄目です! どの脱出口も火が回っていて、パラシュートが!!」
「馬鹿な!! どこか無事なところがあるはずだ!! 俺はこんなところで死なん!
 死んでたまるか!!」

 戸外の喧噪をよそに、源乃介は己に課された最後の仕事を片付けるべく動いていた。
「今まで多大な犠牲を払って行ってきた『これ』を、このまま無為に終わらせるわけ
にはゆかぬ……」
 伏したまま、源乃介は呟く。
「後事を、誰かに託さねばならぬ……。幸い、今ならば神奈の力が弱まっておる……」
 閉め切ったドアの向こうから、脱出を促す声が聞こえる。
 しかし、源乃介はそれに答えず、自らの血を用いて床に何かを記している。
「今さら脱出もあるまい……。仮に脱出が叶ったとて……ぐふっ!」
 さらなる吐血。
 源乃介の顔色は、いよいよ真っ青になりつつあった。
 ──もはやこの体、保つまい。……スフィーか。或いは、まだ生き延びている能力者
の誰かか……。いや、特殊な能力などなくても……。強い、ひたむきな思いさえあれば。
神奈には、対抗し得るはずじゃ……──
「しかし、『あの情報』を開けるのは、おそらくスフィー以外にはおるまい……」
 ──スフィー……。聞こえるか……。スフィー……──
 残された僅かの力を振り絞り、源乃介は最後の仕事に取りかかる。


 ──源乃介、最後の想い……。届くや!? 届かざるや!?
  
145飛空挺の墜ちた地で_完結編:2001/07/23(月) 23:49

【飛空挺の緩慢な落下、開始。落下予測位置不明。落下予定時刻不明】
【源乃介:神奈の呪詛返しで致命傷。その中で何かを成し遂げようとしている】
【飛空挺の情報は地下施設でもゲットできる?(ゲットするかどうかは別問題かも)】
【巡視艇:プログラムの進行を最後まで見守り、優勝者を迎える役目の船。”その時”
     まで島には決して近寄らず。優勝者を癒す設備あり。非武装】
146セルゲイ:2001/07/23(月) 23:53
『飛空挺の墜ちた地で』です。
(まだ墜ちてませんし、地面に墜ちるとも限りませんが)

 紛らわしくて申し訳ないのですが、本スレでGO!! という話が上がりまして……。
 (特にらっちーさん、恐れ入ります。こちらを編集ページには登録されて下さい)
 こういう結果に相成りました。どうか、お手柔らかに。
147芹香の誤算作者:2001/07/24(火) 00:11
修正です。
その一、  〜探していたの、もしかしたら能力者の力を制限している結界をアンタならどうにかできるんじゃないかって」 を
      〜探していたの、結界の制限を受けないアンタが何かしらの事を知っているんじゃないかって」に変更。
そのニ   「・・・・・俺の、力を見てみるか?」を
      「・・・・・多分何もわからないとおもうぞ、それに俺の力を見れば制限とやらがないのも納得できるだろう。見てみるか?」に変更  
その三   (つ、使えない・・)を
      (つ、使えない・・。なんて無能さなの・・。これじゃあなにも知らないのも無理ないわね・・)
その四   完全な誤算だった。優秀な人材だとばかり思っていた往人が箸にも棒にも引っかからないようなヘボ法術師だったとは。 を
      完全な誤算だった。唯一の結界に関しての手がかりで、優秀な法術師だとばかり思っていた往人が箸にも棒にも引っかからないようなヘボ法術師だったとは。

以上です・・・鬱だ・・。
148ラッチーさん江:2001/07/24(火) 00:21
セルゲイです。鬱2号。
>>141-145
源之助の助の字が『介』になってます。
恐れ入りますが、編集時には修正していただけますか?
149ラッチーさん江:2001/07/24(火) 00:34
セルゲイです。鬱2号’。
>>143
の内『飛空挺』が『疲空挺』になっているところが!!
恐れ入りますが、編集時にはこれも修正していただきたいです。
……はふう。
150ラッチーさん江:2001/07/24(火) 01:52
いつも遅くまでお疲れさまです。
要望ばかりで恐れ入りますが、編集ページに於いて、
タイトルを
『飛空挺の墜ちた地で』
に戻していただけますか?
(つまり、落ちた=>墜ちた)

一応、考えて採用したタイトルなので。
151間が悪い耕一(1/3)By林檎:2001/07/25(水) 00:03
「……えちゃ〜〜ん」
 彰と葉子の耳が同時に声を拾った。
 静寂な森の中にこだまする、少女の声。
「……にいちゃ〜〜ん! 葉子おねえちゃ〜〜ん!」

「彰おにいちゃ〜〜ん! 葉子おねえちゃ〜〜ん!」
 耕一の後ろから初音が叫ぶ。
 考えてみれば、葉子が知っているであろう人物は初音だけなのだ。そして声を知っているのも。
 敵がどこに潜んでいるかも分からないこの島で、声をあげて探すのはかなりのリスクを伴う。
 しかしまぁ、これしか方法がないのだからしょうがない。
 メイド姿の女装マッチョ。しかも面識無しの前にあらわれるほど、阿呆な女の子ではないだろうから。
 うさぎちゃんではなく、狼さんが現れたときのために耕一は辺りを警戒する。
 手にはベレッタ。残してきた武器は丁寧に隠したから、万が一小屋に侵入者がいても大丈夫だろう。
(PCとかも隠しとくべきだったかな?)
 まぁ葉子(とうまくいったら彰も)を見つけたらすぐに戻るつもりだ。そんなに時間もかから……。
「ぜんっぜん見つからないわね…」
 マナの冷静な一言。
「あはは……」
「笑っても駄目」
「うう……」
「泣いても駄目!」
「むきーーー!!」
「怒っても駄目!!」
 マナちゃんは冷たい。
152間が悪い耕一(2/3)By林檎:2001/07/25(水) 00:04
 雨で消えかけていた、足跡『っぽい』ものを追跡。
 考えてみればちょっと不確実?
 あ、あと恋する乙女の勘!
「だいたいなんであの時、あんな提案しちゃったのかしら…。私……。
 考えてみれば全員であの小屋空けるのは致命的な気が……」
「マナちゃん……。ほらほら! もっと元気だそうよ。
 大丈夫。きっともうすぐ見つかるよ!
 耕一お兄ちゃんも元気出して〜」
 初音が二人を元気づける。ずーっと声を出しっぱなしでつらいだろうに。
「うう……。初音ちゃん。いい子だ〜。がんばり屋さんめ〜」
 初音を抱きしめ、ほお擦り。
「あはは、耕一お兄ちゃんおひげが痛いよ〜」
 再会はそこで訪れた。
153間が悪い耕一(3/3)By林檎:2001/07/25(水) 00:05


(やったーばんざーい、あきらくんとようこさんだ〜)
 耕一くんの頭の中はひらがなです。
「……。余計な心配をおかけしました…」
 とは葉子さん。
(……。余計だと思っていた心配は見事に的中しました…)
 とは彰くん。
 沈黙。
 沈黙。
 沈黙。
「あ……彰お兄ちゃん。葉子お姉ちゃん。お…おかえりなさい!」
 初音ちゃんは耕一くんの腕の中から声をあげます。
 ただ、彰くんの目が怖いです。
 初音ちゃんは硬直する耕一くんの腕をすり抜け、彰くんに飛びつきました。
 それでも、彰くんの目は怖いです。
「とりあえず、小屋に戻ってから話さない?
 あんたたちもその様子だと、帰るつもりだったんでしょ?」
 マナちゃんの提案。
「そうですね…。軽率な行動であなた達まで危険にさらしてしまったみたいです…。
 すいません…」
 耕一くんを先頭に、一同は小屋に戻ります。
 でも、初音ちゃんの手を握りながらも、彰くんの耕一くんを見る目は…。
 まじ怖いです。

【一同。小屋へと戻ります】
154CD(1):2001/07/25(水) 08:05
カタカタカタ……
キーボードへの軽快な入力音は、手書きよりはるかに効率的でありながらも、無機質であるという謗りからは
決して免れられない。
ちょっとしたハプニングこそあれ、わたし達は最後のCD解析にまで手を出していた。
いや、正しくはこの部屋に居たHMの1体と、詠美ちゃんに任せきりなのだけれど。

わたしと梓は、その時間を使って参加者のデーターを閲覧し、過去ログを調査している。
…と言うのも、今の繭ちゃんを外に連れ出すわけには行かないからだ。
もともと彼女は今の状態が地のようだ、しかし出会ったときの知性的な彼女の方が、この島で生き抜くのに
都合がいい。あらゆる危険性を理解しない今の彼女が外に出ることは、死を意味する。
「お!?ホントにあったよ千鶴姉!」
「…家に帰れば、簡単に手に入るのにね」
求める一品は、セイカクハンテンダケ。
どうやら、もともと天沢郁未という少女に支給されていた品物のようだが、効果時間を考えると、彼女と
繭ちゃんが別れたあとに、キノコの摂取が行われたと見ていいと思う。

そうなると何らかの理由で、セイカクハンテンダケは繭ちゃんに渡されたと考えるのが妥当だ。
「うーん、過去ログって見難いなあ」
梓がぼやいている。
視界の端で、動物を引き連れ目覚めた繭ちゃんと、あゆちゃんが話し込んでいる。
何か円形の機械で遊んでいるが…あれはなんだったかしら?
どこかで、見た事があるような…気がするけれど…。
155CD(2):2001/07/25(水) 08:06

「千鶴姉、聞いてる?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと……ね」
そうだ…あれは誰かが、持っていたような気がする。
「うん? ま、いいけど。…この時が、怪しくないかな?」
梓が指摘したのは、崖での一幕。その時の画像を呼び出す。
さすがの巨大コンピューターも少々の時間を要したが、二人の少女を救い出そうとする少年の姿が
見え、崖下に鞄が転がっていた。
たぶん引き上げる際の重さを軽減するために、いったん捨てたのだろう。
この鞄のどれかに、セイカクハンテンダケが含まれている可能性は高いと思われる。

その後、繭ちゃんは崖上に残り、相沢祐一と北川潤、宮内レミィの三人は崖下で合流し移動している。
画像を呼び出せば、大量の荷物と相沢祐一を抱えた、北川潤と宮内レミィの姿が確認できる。
その後数人の死者が出て、あの大量の荷物を受け継いだと思われるのは、北川潤の他に、来栖川の
令嬢芹香さんと、スフィーという少女の合計3人となる。
「うーん、ここまで追って3人かあ」
「絞り込んだとは、言えないわね」
それでも3人なら希望が持てるほうだし、誰か1人に遭遇できればセイカクハンテンダケの所在は解るだろう。
一息ついて、CD解析中の2人に声をかける。
「詠美ちゃん、そっちはどう?」

「ふみゅ?呼んだ?」
再び作業に没頭していた、詠美ちゃんが遠くの端末から顔を出す。
だが梓は軽くあしらう。
入力は詠美ちゃんが行っているが、実質的にはHMのほうが解析内容を理解しているからだ。
「詠美、アンタはお呼びじゃないよ」
「なな、な…なによっ!
 し、したぼくのくせにっ!」
「げぼく…まあ、いいや。
 …あたしも色んな呼び方されてるけど、アンタの下僕になった覚えはないってーの」
二人は言い争いを始めた。
梓の方が口達者なのは、慣れというやつだろう。
156CD(3):2001/07/25(水) 08:06


とりあえず必要以上に友好を深め合う二人を無視して、残ったHMに尋ねることにする。
「CDのほう、どうかしら?」
応じるHMの報告は、予想された結果とは言え残念なものだった。
ぺこり、と頭を下げると、やや緊張した面持ちで、彼女は説明を始める。
「はいー。まだ詳細は解らないんですけれどー。
 えーとですねー…まず、これです」
ぽん、と画面に浮かぶ”神奈備命”という言葉。
「神奈?これが、なんなの?」
「これはですね、番号付きの2枚どちらのCDからも、最初に発見された言葉なんですう。
 どちらも、同じ目的のために作られた、同じ作用のものらしいんですー」

わたしは首を傾げる。
「それじゃ、4枚同じ物がある意味は、なんなのかしら?」
はいー、と深く頷きながら彼女は答える。
「今ある2枚限定で考えるとですね。
 2枚とも、別の座標に作用点を設定されているんです」
「すると4枚とも同じもので、対象座標が異なる可能性が高い、と?」

はいはい、と軽快に返事を返しながら、HMは続ける。
「しかもどちらの地点も…島の外なんです」
説明と共に一番大きな画面を指差しながら、彼女はその2点を赤い光点にして表示させる。
島の北西と、南西に赤い光が点灯する。
「とりあえず、この二点が今あるCDが作用する点なんです」
よく意味が解らない。
「…どういうこと?」
「そうなんです、これだけだと全然解らないんですよー」
明朗に答えられても、それは多いに期待はずれな結論だった。
157CD(4):2001/07/25(水) 08:07

肩を落とすわたしを諭すように、HMは言葉を続ける。
「あ、正しくはですね。
 詳細は解りませんが、大きな負荷がかかるらしい事までは、解るんです。
 タイミングとバランスを取らないと、島自体が大変な事になるって書いてあるんですよー」
「大変な事?」
再び、はいー、と深く頷き彼女は答える。
「この作用点にある装置から、何らかのエネルギーが発生するらしいんです。
 それを効果的に収束させるには、4枚同時に起動しないといけない、と。
 …もし収束に失敗すれば…この島そのものを対象にして、発生したエネルギーが作用するそうですう」
要するに、全部揃うまでは気軽に試してみる訳にはいかない、ということだ。

「単なる、来栖川の兵器である可能性はないの?」
当然の疑問に対し、彼女はにっこり笑って、無記名のCDを指し示す。
「ところがこれに、タネあかしが入ってたんですよー」
それは長瀬源五郎の保持していた1枚であった。
「”神奈備命消滅”という目的のもと作られた四つの装置の存在と、そこへのアクセス方法が書かれているんですう。
 それによると、装置が島の外にあるのは、装置の発動を抑える”結界”と言う力の影響から逃れるためなんですねー」
「…神奈備命、ねえ…」

 よくわからない存在のために。
 わたしたちが玩具にされているらしい事だけは、理解できた。

 
158名無したちの挽歌:2001/07/25(水) 08:10
「CD」です。
施設は、そんまんまな題ばっかりですw

結局まだまだ施設から出ることはできませんでした。
このあとデータベースを駆使した調査や、繭の機械などの調査もしなければなりません。
機械に人が使われる、好例ですね(ちょっと違うかw)。
159動き出す意志@:2001/07/26(木) 00:51
「5つのCDを集めろ。それを岩山の施設で使えば禁呪が再現できる。
 守りのHMもお前達の命令なら……」


まだまだ話は続きそうだが聞き逃すわけにもいかないので俺は一時停止を押した。

「ちょっとまだ途中じゃない、何考え……」
スフィーが抗議の声を上げたがすぐに気がついたらしい。俺の首筋にナイフが突きつけられてるのに。

辺りを見回せばありとあらゆる場所から俺たちは狙われていた。
全ての窓と扉から武器を構えている奴がいる。まあこうなる事を予想しなかった訳でもないが……

「蝉丸さんか耕一さんは居ますか?七瀬さんの紹介で来たんですが?」



人生予想通りに行かないものです。この一言でまわりの人もある程度警戒を解いてくれると確信してたのですが。
このナイフ持った奴だけは全く変化がありません。
「証拠はあるのか?」
この一言です。一歩でも動けば首狩る気満々です。目が血走ってます。
「彰お兄ちゃん止めて!」

とりあえず周りの連中が彼を引き剥がしてくれてホッとしました。
あの薬やってそうな奴は説得してくれた小学生と一緒に奥に下がって行きました。
「さて、七瀬君の紹介とはどういうことか説明してくれるかな?」
女装趣味の変態野郎がこの中のリーダーのようです。
160動き出す意志A:2001/07/26(木) 00:52
(3行あけ)
「……という事でPCがあるこの診療所にやって来たんだ。」
両方の自己紹介や現状説明も終わる頃には彰君と初音も帰ってきた。

「落ち着いたかい?」
「心配かけてすいません。耕一さん少しいいですか?」

彰君がそう言って今度は俺を奥に連れて行った。
「一体何のようだい?」
「実は……」
彰君は一人で行動していた時のことを話してくれた。
知り合い二人を探しに行っていた事、すでに死んでしまっていた事、施設の裏口を発見したこと。そして……
「その施設から同じ匂いっていうか良く分からないんですけど変な感覚なんですよ。」
そこまで聞いて俺はある予感がした。もしかしたら千鶴がそこに居るのではと。
「すいません何か変なこと言って、こんな愚痴初音ちゃんとかに聞かせる訳にもいかないので。」
俺は皆の所に戻りながら決意した、一刻も早く施設に行く事を。

「そろそろ続きを見ていいかしら?」
「ああ、すまない続けてくれ。」

そしてまた変な顔の話は続く。

「……次に神奈が封印されている社の位置ともしもの為の他の封印場所を記載しておく。
 まずは社の位置だ、それは……」

そして全ての情報が読み終わり画面は白紙に戻った。


誰も言葉が出なかった。この老人がしようとしたことも理解できる。
正直鬼の力が使えたとしても神奈とやらには勝てる気がしない。
多分この島の能力者すべてが手を組んでも勝てる可能性は低いだろう。
こんな化物が暴れれば確かに天文学的な被害が出るかもしれない。しかし……

その沈黙は意外な形で破られた。
「──スフィー……。聞こえるか……。スフィー……── 」
161動き出す意志B:2001/07/26(木) 00:52
直接頭の中に刻み込まれる声。この声、この波動、間違いないあの人だ。
私はすぐ返事をするために呪文を唱えだした……でもダメだった。
アレだけ強力な呪文を食らっても結界の方には影響が無いみたいだ。
色々問い質したい事もあった、文句の一言でも言いたかった。でもこの通信は片道だけ。
決して返信することは出来ない。ただ聞くしかない。

「……CDを集め……ることを祈って……施設……別の参加者……占拠され……」

受信状況の悪いラジオみたいに断続的に聞こえてくるメッセージ。
私は結界に妨害されながらも何とか情報を読み取ろうと努力した。

「……奈の善の心……抵抗されず……倒せ」

そして通信は終った。結界の中に入ったかそれとも力尽きたのか。
「今のは一体……内容もあまり把握できなかったが?」
「主催者からのメッセージよ。最新情報のおまけ付きでね。」

私は自分が聞き取ることができた情報をみんなに伝えた。
すでに施設は別の参加者が占拠したらしいという事、先ほどの魔法は失敗したという事、そして……

「私はこれから神奈が封印されてる社に行くわ。」
「どういう事だよ、お前が居なきゃこのCDが揃っても意味無いんだろ?」
「別に私じゃなくても大丈夫よ。」
北川が絡んでくるが私は軽くそれをあしらった。

「確かに魔法の力はある方がいいわ、でもねこれは呪文の手順をほとんど機械化しているの。
 この魔法を成功させるポイントはそれに対する想いよ。
 魔法って言うのは想いを実現させる物、想う力が強ければそれだけ魔法は威力を増す。
 私じゃなくてもこの呪文は発動できる。そしてそれだけの想いを持っている人を二人知っている。
 一人目は芹香さん この人は黒魔術を使えるんだから間違いなく成功するわ。
 そしてもう一人はね……アンタよ。」
162動き出す意志C:2001/07/26(木) 00:53
(3行あけ)
スフィーが俺を真っ直ぐ見つめながらそう言って来た。しかし俺が?魔法を使える?
「アンタがそのCDに今生きる目的の全てを賭けている事は分かってるのよ。」
「確かにそうだ。俺はレミィとの思い出の詰ったこのCDにすべてを賭けてる。だからって……」
「アンタ自分の気持ちが信じられないの?全てをかなぐり捨ててでもCDを使おうとは思わないの?
 アンタが本気で彼女の事を思ってるなら絶対成功させなさい、あんたの手で。」

その一言を聞いて即答してやった。
「本気で彼女の事を思っているならか……だったら絶対俺のほうは成功するぜ。」
「あら、自信満々ね。」
「それよりお前の方は一体どうするつもりだ?このCDを発動させればこんなゲームも終了するのに。」
このまま一緒に施設へ行ってCDを使えば神奈とか言う奴が倒せる。
そうすれば何の邪魔も無くこの島のどこかにある潜水艦で脱出できるんだ。
たとえ潜水艦が無くても能力者の中には脱出することができる能力を持っている奴がいるかも知れない。
「幾らさっきの呪文で神奈が消耗してるからって同じ呪文で倒せるとは限らないわ。
 それにアレほどの化物に下手に抵抗されれば呪詛返しであっという間にあの世行きよ。
 だから神奈が抵抗できないようにしに行くの。」
「そんな事ができるのか?」
「ええ、一つだけ心当たりがあるわ。だから一緒に行けないの。」

リアンと一緒に神奈と接触した時確かに善の心を持っていた、それを説得できれば……。
163動き出す意志作者:2001/07/26(木) 00:54
ラストのスフィーの作戦はスレイヤーズ一巻のラストと
同じようなことをしようとしてると解釈してください。
164北へ(1):2001/07/26(木) 01:01
紆余曲折はあったが、晴香と留美はようやく潜水艦探索を再開する第一歩を、
「ようやく、再出発ね」
「うん、これで探索に専念できるわ」
「で、高槻の死体には何もなかったけど、他に潜水艦を探す手掛かりはあるの?」
「え、えーと、あいつ、ほかになにか言ってたっけ……」
「もしかして……」
「あはは、ないや」

バキッ

第一歩を踏み出せないでいた。


久々に会心の左ストレートをたたき込んだ巳間晴香は大きくため息を付いた。
しかし、心中はそれほど暗澹としているわけではなかった。
そう、彼女には潜水艦がある場所に心当たりがあったのだ。かつての仲間、保科智子と神岸あかり、そしてマルチが一緒にいた頃、管理者側の兵士から奪ったジープに拠点の位置が書かれた地図が入っていた。
だが、晴香はそのことはあまり思い出したくはなかった。
その地図が示した拠点に攻め込んだことを、今は死ぬほど後悔していたからだ。
無謀な戦いの結果、高槻の奸計により、晴香と智子とあかりは捕らえられ、晴香は高槻に屈服することによって命は助けられたが、あかりは慰みものにされたあげく殺され、智子もまた高槻の手の者に殺された。
マルチはそのときは無事だったかも知れないが、放送によると、もうこの島には存在しないらしい。
悔やんでも悔やみきれなかった。
だから、今までの戦いに身を投じた激しさの中で、あのことを忘れ去りたいと思ったのかもしれない。
しかし、今はそんな泣き言は言っていられない。死んでいった者たちのためにも、生き残っている者たちのためにも。そう、今こそ話そう、その潜水艦の所在を示す地図がある場所を。
だが、
165北へ(2):2001/07/26(木) 01:02
「くー、今の効いたぁ」
「しっかたないわねぇ。それじゃあ、今度はジープを探すわよ」
「なんで、ジープ?」
「ふふふ、前にちらっと見たんだけど、そこに、この島の地図が入っていたのよ」
「すごいじゃない。それで、そのジープはどこ?」
「え、えーと、多分、あの基地の前に置いてったけど、出てくるときには無かったから……」
「もしかして……」
「あはは、どこにあるか分からないわ」

ドカッ

だが、地図の場所も不明だった。


脇の下からえぐり込むように、右ストレートを放った七瀬留美は大きくかぶりを振った。
しかし、心中はそれほど暗澹としているわけではなかった。
そう、落ち込んでいるわけにはいかなかった。なぜなら、折原と約束をしたからだ。
必ず生き残る、と。
そのためには、これぐらいのことは挫折でもなんでもない。海岸線を全部まわって潜水艦を探してもいい、島を全部めぐってジープを見つけてもいい。
たとえ、泥水をすすっても生きて帰るのだと心に決めている。折原は乙女らしくない言葉だと笑うだろうが……。いや、笑ってくれた方があいつらしいと留美はそう思い、自分もまた心の中で笑う。
そして、右腕に巻いた瑞佳のリボンを見やる。
これを見る度に、彼女のことを留美は思い出した。笑顔も、泣き顔も、そして今際の顔も……。
そんな、楽しい想い出、悲しい想い出。それらすべてを含めて瑞佳が宿っている。親友はいつでも自分と一緒なのだと。そう思える留美は、もう心の中へ逃げたりはしないだろう。
だから、七瀬留美は誓う。必ず、帰ることを。
二人と出会った、あの町の交差点へ。
二人とおしゃべりをした、あの学校の教室へ。
二人と走った、あの公園の道へ。
166北へ(3):2001/07/26(木) 01:04


「結構痛かったわよ。今のは」
「そう? でも、これでおあいこよ」
「……。まあ、そういうことにしといてあげましょう」
「で、これからどうする? 海岸線を歩いて潜水艦を探す? それともどっかに行ったジープを探す?」
「うーん。外から見て潜水艦がある場所を見つけるのは、難しいと思うわ。参加者に見られたら襲われるのは必至だからね」
「んじゃ、ジープ?」
「それもねー。おそらく基地の奴が乗っていっただろうから、駄目だと思うわ」
「じゃあ、いったいどうするのよ!」
「それを今、考えてるんじゃない。あそこはもう方角分かんないし……。そうだ!」
「なに、今度は? 木の棒を倒して決めるとか言わないでしょうね」
「違うわ。そういえば地図の上の方に一つだけ、ぽつんと印があったのを思い出したのよ」
「地図の上? ああ、北の方ね」
「北の端にあるから、大体の方向で歩いていっても着けるはずよ」
「なるほど。で?」
「で? なに?」
「北ってどっち?」
「磁石は?」
「ないわ」
「……」
「……」


ドカッ
バキッ


クロスカウンターで倒れた二人が起きあがったとき、傾いた太陽は影を少し伸ばしていた。
二人は、最初からこうすれば……、と文句を言い合いながら、影に導かれて歩いていった。

【巳間晴香、七瀬留美。北へ】
167北へ作者:2001/07/26(木) 01:27
自分にギャグ話は書けないと痛感いたしました。
まあ、この二人は拳でコミュニケーショーンをしていると思ってください。

時間軸的にはまあ、影の方向がきちんと識別できるぐらいで適当に。
影は正確ではありませんが、多少ずれても海岸線を歩いていけば
灯台が見えるでしょうから多分、北の基地にこのままいけば着けるはずです。
(428、451話の所です)

晴香が言っていた地図は197話で、ちなみにジープは384話で智子がどっかに乗り捨てています。
この話し中の晴香は、智子は高槻に捕まっているんで、基地の奴が乗っていったとか
言っています。

ようやく、目的地に着けるんですが……。
あるのは艦じゃないんですよね。(451話参照)
168:2001/07/26(木) 01:30
晴香は智子が捕まっていると思っているんで、ジープは基地の奴が〜

ですね。
すいません。
169まだ見ぬ敵(1/3)By林檎:2001/07/26(木) 02:44
 彰は外を見ていた。
 窓から外を見ていた。
 しかしそれは見張りとは名ばかり。
 初音のことをボーっと考えていた。
(初音ちゃん…。愛してるよ……)
 この思いは大きくなっていく一方。
 独占したい。誰にも触らせたくない。自分のことだけ見ていて欲しい。
 彼もまた、普通の男だった。

「…!! 耕一さん!」
 彰の目に飛び込んできた『映像』。
 武器をもった誰かが、森の中にいるのが見えた。
「どうした!? 彰君!」
「誰かが森の奥に! 武器も持っていたように見えました!」
 一同に緊張が走った。
 彰が武器の隠し場所に走る。
「北川君といったね。俺と彰君で様子を見てくる。
 もしかしたら怯えている人かもしれないからね」
「もしものためにこっちにも男手を…。
 信用してくれているのかい?」
 北川は言った。もちろん裏切る気など毛頭無かった。
「裏切る気が大きいようには見えない。
 そして裏切る気が少しある程度なら、女の子を手にかけたりはしないだろ」
 耕一が微笑んだ。
 北川もそれに答える。
「まかせときな! リーダー!」
 女の子達は…。
「あなたに守られなくても自分で身ぐらい守れるわ」
「魔法使いをなめないでよ。逆に守ってあげるわよ」
「私も…。戦えますから…」
「耕一お兄ちゃん…。気をつけてね…」
 北川はこけた。
170まだ見ぬ敵(2/3)By林檎:2001/07/26(木) 02:45
「あそこの辺りです…」
 彰が森の奥を指差す。
 小屋から見えるぎりぎりの位置だろうか。
 二人はそこへ向かってゆっくりと近づいていく。
「おい! 誰かいるのか! こっちから戦う意志はない!
 島の脱出を考えている! 信用して協力してくれ!」
 耕一が声をあげる。
 返事は無い。
「あそこ! 耕一さん!」
 彰がさらに奥を指差した。
「どこだ!?」
「あの辺りに、また『見え』ました」
 耕一の目には、木の裏に隠れようとするウサギが映った。
「あの木の裏です」
(ウサギの隠れたあの木か…)
 遮蔽物を利用しながら、徐々に徐々にと近づいていく。
 ここから小屋は遠い。まわりこまれたら小屋に侵入されていしまうかもしれない。
(北川君。その時は頼むぞ…)
 耕一はその可能性は頭のすみに追いやり、目の前のまだ見ぬ敵に意識を集中した。
(相手はどういうつもりなんだ?)
 彰も頭を働かせる。二対一なのは相手も気づいているだろう。
 だがこっちの呼びかけに反応しない。投降が最善と思えるのに。
(よっぽど強力な銃器でも持っているのだろうか?)
 少々不安になるが、耕一が勇敢な戦士であることは分かっている。
 そして二対一だ。
171まだ見ぬ敵(3/3)By林檎:2001/07/26(木) 02:46
「少し先行する。周りに気をやっておいてくれ」
 耕一が彰の先に出る。
 彰は周りを警戒。
「おい! 誰かいるのか! こっちから戦う意志はない!
 島の脱出を考えている! 信用して協力してくれ!」
 また返事が無い。
『あるはずがないのだ』


 記憶をまるまる捏造するには大量の力がいる。
 なら少しだけ改竄してやれば良いのだ。
――「うう……。初音ちゃん。いい子だ〜。がんばり屋さんめ〜」――
―― 初音を抱きしめ、ほお擦り。そして無理やり唇を奪った。――
――「耕一お兄ちゃん! 私には彰お兄ちゃんがいるのに!!」――
―― 再会はそこで訪れた。――
172狩人の視界(1):2001/07/26(木) 07:28
たぶんそれは、よほど注意していないと解らない程度の変化。
茂みが、風以外の何かで揺れる動き。
しかし、人影をそこに認めることは容易ではない。

気配を消して、ただそこにあること。
フランクは人生のほとんどを、そうして過ごしてきた。
特に意識してのことではなく、生まれついたときから存在を押し出すことなく、居続けた。
要するに、彼は天賦の才として隠密の技を身につけているのだ。


 大きく重い、ひとつの武器。
 取られることはないだろう、そう思いつつも、急ぎここまでやってきた。
 幸いにして誰にも発見されなかったようで、無造作に置かれたままの、狙撃用ライフルを拾い上げる。

 『あなたは責任をとらなければいけない。
 この島に死んでいったすべての人々に対する責任を』

 誰あろう、その少年自身が言った言葉を思い出す。
 漠然とした決意ではあったが、そうした考えをフランクは確かに持っていた。
 だが実際に何を為すかと考えると、死人を生き返らせることのできない神ならぬ身としては、死んで詫びる
 程度がせいぜいだろうか。
 自殺したところで救われる者など、居る筈もないのに、である。

 ならば、全てを滅ぼさんと暗躍するであろう、少年と言う神奈の端末を打倒するために拾った命を使うことの
 方が罪滅ぼしになるというものだ。

 不思議なことに、今や少年に対する憎しみは消えていた。
 代わりと言っては何だが、恐怖が心臓に巻きついている。
 そして、まともに戦って少年という存在にかなう筈のないことも、感じてはいる。
173狩人の視界(2):2001/07/26(木) 07:29

 だが、それでも。
 あの一撃は、間違いなく有効だったと信じていた。
 狙撃し、位置を知られる前に移動し、再び狙撃することができれば、いつかは少年とて倒れる日が来るだろう。

 一度は完全に諦めた少年の打倒を支えるのは、この武器無くしてあり得ない。
 さっそく木に登り、スコープで周囲を見渡す。
 少年が発見できればいいのだが、他の参加者に見つからないようにするのも重要だ。


ひたすら影に隠れながら、ときおり周囲を警戒しつつ、フランクは少年の姿を求める。
二、三度参加者とおぼしき声が聞こえたが、すべてやり過ごすことができた。
しかし、目指す少年の行方は、まるで解らない。
張り詰めた神経が、疲労に繋がり始めた頃、ようやくフランクにも運が向いてきたのだ。

  『おーーーーーーーーい』
  『ここだよ!ここーーー!』

風に乗って、遠くから声が聞こえる。
また参加者に遭遇してしまうところだったか、そう考え冷や汗をかきながらスコープを風上に向ける。
すう、と鉄塔に照準を合わせると、やはり頂上に参加者二人の人影があった。

 -----いや、途中にもう一人。
174狩人の視界(3):2001/07/26(木) 07:30

風に乗って、遠くから声が聞こえる。
また参加者に遭遇してしまうところだったか、そう考え冷や汗をかきながらスコープを風上に向ける。
すう、と鉄塔に照準を合わせると、やはり頂上に参加者二人の人影があった。

 -----いや、途中にもう一人。

あわせた照準を、つつつ、と戻していく。
心臓の高鳴りは、恐怖との再戦を意識してなのか、理想的な情況での発見に高揚しているのか。
ぴたり、と止めたスコープの中央に、黒い人影が入っていた。
(……よし)

だが、ここから少年まで、及び鉄塔までの距離は、確実な狙撃を期待するには遠すぎる。
しかもこの森を抜ければ、隠れるところもない。
(…待つ、ことだ)
自分に言い聞かせるように珍しく声に出したあと、フランクは目を瞑り、再び気配を完全に殺した。
猛獣に挑む狩人に必要なものは、技能と、冷静さに他ならない。
そうして改めて考えれば、自分を見失っていた先ほどの戦闘で、結果が出なかったのは当然なのだ。


 再び静かに目を開いた時。
 鼓動は常と変わらぬ平静さを保っていた。

 どのような形であれ、少年を打倒することが出来さえすれば。
 もはや死んでも、悔いはない。
 両手に構えた銃を天に向け、静謐な空気に溶け込むフランクの姿は、まるで祈るようでもあった。

 
175名無したちの挽歌:2001/07/26(木) 07:36
「狩人の視界」です。

心密かに蝉丸、月代を殺害せんとする少年。
再びスナイパーとして少年をつけねらうフランク。

どちらも現在の情況では、動き出すことができません。
しかし、もうすぐです。
176名無したちの挽歌:2001/07/26(木) 07:39
ああ、ダブっておりましたね…>>174の最初の4行を消してくださいませ。
申し訳ありませぬ。
177霧中。:2001/07/26(木) 17:52
この先にいるのが誰であれ、今自分がすべき事がなんたるかを、柏木耕一はよく理解していた。
人をこれ以上殺さない事。仲間を増やし、ここから脱出し、日々の生活に戻る事。

「俺達は戦うつもりはないんだ――」
再度耕一は呼びかける。
「脱出出来る可能性があるんだ、なら殺し合いなんてしなくてもいい」
まるで返事がない。誰もいないかのようだが、それでも気配は感じるのだ。
そもそも彰がこの森の中に人影を見たのがほんの少し前だ。
そのほんの僅かな時間に、それ程遠くまで動けるわけがないのだ。
はぁ、と息を吐く。すぐ、ほんのすぐ近くに気配を感じる、感じている。
じりじりと暑い。その滴る汗が耕一を蝕む。
「彰、もう少し先行する、今度は横にも気を遣ってくれ」
「判った」

そして、また一歩、森の深くに入る。

そして、また一歩。

だんだん、深い深い森の中に落ちていく。
がさり、と腐りかけの落ち葉を踏みつぶし、入り組んだ枝の下をくぐり抜ける。

そろそろ相手の姿くらい見えてもおかしくない。
相手が走る音は聞こえない。この落ち葉の中ならば、走ればきっと派手な音がするだろうから。
――注意を払え、すぐ横で発砲音が聞こえるかも知れない。
目を閉じ、風のほんの揺らぎにも気を払う。
背後で、ちょうど彰のいる辺りで、僅かに大気が揺らいでいる。
大概冷静な彼も、その冷静なりに焦っているのだろうと思う。

「耕一」

彰の静かな声が、その焦燥の割に、不可思議に冷静に感じた。
「――どうした?」
息を吐いて振り返る。
178霧中。:2001/07/26(木) 17:52
気付くとほんの5mばかり背後、自分のすぐ後ろを歩いていた彰は、少しばかり肩を竦めて
「少し、先行しすぎじゃないか? あまり離れすぎると危険だと思うよ。お前は武器、なんか持ってるのか?」
「一応ベレッタを一丁な。といっても多分に使う事はないだろうが。――それもそうだ、戻ろうか」
「ああ。僕も防弾チョッキを着てないし、武器はナイフ一本だ。相手が混乱してマシンガンを乱射したらお終いだ」
耕一は小さく息を吐く。仲間を増やせなかったのは残念だが――。
「よし、戻ろう」
そう云って振り返り、立ち止まったままの彰の横を通り抜けようとした時だった。

彰が、ひゅんと左腕を上下させた。
あまりに素早い手の動きで、それが何を意図しているものか、耕一には判らなかった。
同時に、自分の肩口に、何か鋭い痛みが走る。

「――!」
左肩に、何か刃物で切り裂かれたような痛みが走るではないか!
「あぁぁあっ!」
思わず悲鳴を上げる。
分厚い筋肉の間の隙間を通すかのように、その痛みは腕を貫通する。
二の腕までの筋肉が、真っ二つに割かれたのではないか?
「ぐぁ――っっ、あぁ、」
何処か、鋭い枝にでも腕を引っかけたか? しかしそれだけでここまでに至るだろうか?
敵が襲いかかってくるまでにはあまりに早すぎる。

なんというお人好しなのだろう、俺は――!

耕一はその痛みの原因を探ろうとして、左を見ようとして、漸く事態を悟る。

ガシッッ!

彰の右拳が自分の顔面に襲いかかる! 油断しきっていた耕一は、口の中が切れるのと軽い眩暈を覚え、
そしてその勢いのまま、後ろの木の幹に叩きつけられた。
ガンッ、と強く頭をぶつけさせられ、軽い脳震盪が身体を支配する。
その衝撃で持っていたベレッタも取り落としてしまう。
179霧中。:2001/07/26(木) 17:52
そして、自分の袖口を掴みながら上目遣いで睨む彰は、その乱暴な腕力で、
一瞬力の抜けきっていた耕一の身体を、ぐい、と僅かに持ち上げると、
がさり、という落ち葉の潰れる音と共に、大地に叩き伏せた。

軽い脳震盪が自由を束縛する。何があったかを冷静にまとめる思考すら浮かばない。
だが、それでも彰の何かしらのつぶやきを聞いて、漸く耕一は理解する。
自分よりも10cmは低い、体重は20kgは違うだろう体格の彰が、その腕力でもって自分を制圧しているのだ!
そして悟る、自分の左腕を切り裂いたのは、紛れもない、この七瀬彰なのだと。

「――耕一」
耕一の上にまたがりながら、低い声で、その七瀬彰は、云った。
「彰っ、何をッ」
どくどくと血が流れている。赤い。
その血が、彰の頬にぴちゃりと付着しているのを見て、それに、
いつか何処かで感じていた、「負の性質」を感じざるを得なかった。
そして、異常な光と闇に充ち満ちた目を見て、耕一はその直感を得た。

まさか、既に鬼が彼を支配していたのだろうか?
敵が近くにいる事など狂言で、俺に単独行動させる事で、撃破する。
確実に勝てる戦いを。それが、正しい獣の習性。

だが、彰の口から呟かれたことばは、鬼の思考とか、獣性だとか、
そういうものからはどうしようもなくかけ離れた、一見冷静に聞こえることばだった。

「この、泥棒猫」

だが、その実、それは不可思議と云わざるを得ないことばだった。

――何を、言っている?
ともかく、どうであれ今は彼を止めなければならない。
脳震盪は殆ど治まった。
今自分の身体を抑え付けている腕力は、鬼のものにしてはあまりにか細い。
180霧中。:2001/07/26(木) 18:00
先程は、油断していた自分だったからやられただけなのだ。
ならば体格で優る自分が負けるはずがない――

だが。

「甘いよ」
身体に力を入れようとし、そして身体を起こそうとした瞬間、彰はナイフを右手に持ち替えて、
先程切り裂いた自分の左腕に、もう一度それを突き刺した。
瞬間、力が抜ける。左腕が切り落とされるかのように、どうしようもなく痛みが走る。
悲鳴をあげるのが相手の思う壺だとは判っているが、それでも耐えきれないほどにその痛みは重い。
「ぐぁぁぁぁッ!」
悲鳴を聞いても彰は表情一つ変えず、ナイフを回転させながら体重をかけ、さらに深くに刺す。
血がまた溢れる。噴水のように上がるその赤いシャワーは、彰の顔を、再び真っ赤に汚す。
真っ赤に。

身を切られるような痛みに耕一は悶える。力が入らない。ちょうど、恋をしていた時のようだ。
(つーか、実際切られてるんじゃないか!)
そんなツッコミをいれている余裕もない。
今自分を殺そうとしている彰の、その目はあまりに暗い。

襟元を抑えられたまま、次は、右肩にもナイフを刺し込んでくる。
身体を動かそうとしても、
そして案の定それを抉るように、掘るように、刺しこみ続ける。
「やめろッ――、やめろっ、彰、」
鎖骨に当たっている! その骨を削るように、まだ抉る。
あれ程に優しい目をしていた頃が嘘のように、
今まで共に戦ってきた戦友に見せる表情とは思えないほど、冷たい目。
耕一の哀願も届かず、彰はまだ、まだ抉った。
「やめろ、やめて――」
やがて哀願は、――絶叫に変わった。
181霧中。:2001/07/26(木) 18:00
その声を聞いて、漸く彰はナイフに興味をなくす。ナイフは刺したまま、彰は小さく息を吐いた。
次に彰は、その拳で耕一の顔面を殴りつける。

ガシッ、と鈍い音を立てて、顔面がずれるほどの衝撃を受ける。
「あぐっ!」
多少なり腕力が強まっている上、自分の失血状態ではそれに抗うほどの抵抗力もない。
「……やめろッ、……彰ッ!」

ガシッ!
そのずれた顔面を、おなじ右拳で、首が捻れるのじゃないかと思うくらいの力で殴りつける。
「あぅっ!」
多少なり、口の中が切れる。歯も何本かずれた音がした。
「やめろ、やめろッ!」

ガシッ!
「ぅぁっ……」
なんていう力だろう。三発目のその攻撃は、耕一に抵抗の意志をなくさせるに充分な攻撃力だった。
ただの人間の腕力にここまで対抗出来ないのは、果たして失血の所為だけだろうか?
「くそッ! やめろっ――」
それでも力を入れ、立ち上がろうとする耕一を見て、彰は不愉快そうな目をして立ち上がると、
その真っ黒な靴の踵を、無慈悲に耕一の顔面に振り下ろした。

ガツンッ!
「ぁぁぁぁっ!」
それで鼻が折れたのは間違いないだろう。だらだらと流れてくる鼻血と折れた歯が、
耕一に抵抗させる気力を完全に失わせた。
「やめて、彰っ――やめ」
そのどもった声を聞いて、彰は無機質なまなざしで、溜息を吐いた。

漸くにして、その拷問は終わった。
182霧中。:2001/07/26(木) 18:01
真っ赤に染まり、黒く光る刀身を見つめながら、耕一は絶望的な気持ちになる。
そこから溢れ出てくる血液の量からして、動脈が切れているわけでは無さそうだ。
それでも頸動脈に近いそこを抉られている痛みは計り知れない。
少なくとも腕の方は動脈をやられているだろう。
血がどくどく流れ、身体からはだんだん力が抜けていく。
常人なら既に致死量だろう。それでも、常人より体力の高い耕一は、意識を失わないで彰を見る事が出来た。
だが、反抗する気力は何処にもない。持っていた拳銃は既に彰の手だし、体力も既に完全に失われた。
生きているのが精一杯だろう。

「どうして、彰、何が……」
「泥棒猫め、まだそんな口を聞く余裕があるんだな」
彰は――心底、悔しそうな顔で言う。何故そんな表情をする?
「どろぼう、猫、だと?」
何だ、それは? さっき初音ちゃんを抱きしめていた事か、なあ、あきら
「おかしな話だよ、人の大切なものに手を出せるような奴と、戦っていたなんてな」
「――何を。何を、言ってる――」
判らない、彰、何を
「黙れよッ! ……僕だって、なんでこんな事してるか判んないんだよッ!」

なんて、おかしな目の色だ。耕一は、茫洋と、そう思った。
ふと、彰の興味が――自分から失せた。
ナイフを森の中に放り、拳銃を右手に強く握ると、

「初音ちゃん、初音ちゃんが待ってる――」

彰は立ち上がると、そんな事を呟いた。
危険だ、今、彰を向かわせると――
「やめろッ……」
身体を起こして、耕一はなんとか彰を止めようとする。
だが、彰は心底不愉快そうな目で、
「黙れよ」
傷ついた左腕を、その足で無慈悲に踏みつぶした。
耕一が何度目かの絶叫をあげるのを聞いて、彰は今度こそ、
「はつねちゃん」
そう呟いて、駆け出した。
183霧中。:2001/07/26(木) 18:02

止めないと、

そう思うのに、身体が動かない。
落ち葉の下で、耕一は口の中を汚している真っ赤な血を舐めながら、
「なんて、奴だよ、畜生」呟く。
あれは鬼の力ではない、と思う。
だが、油断していたとはいえ、自分との腕力差を殆ど感じさせない、悪魔のような強さ。
あれが、鬼の血を多少なり吸ったとはいえ、――ただの人か?
「何なんだよ、ちくしょう――」
初音ちゃんが、診療所が危ない。そう判ってはいるが、耕一のこの失血はあまりに大きい。
結局、その訳の分からぬ混乱の中、耕一は意識を失った。




【七瀬彰  いよいよ狂性増大。小屋へ向かう。武器はベレッタのみ。ナイフ放置。
 柏木耕一 瀕死。辛うじて命をつなぎ止めている程度。誰かが発見しないと危ういかも】
184発見(1):2001/07/26(木) 18:53
「…と、いうわけで。
 わたしたちには、いくつかの選択肢が残されているの」
ぱんぱん、と手を叩き、集まってきた梓とあゆちゃん、詠美ちゃんを相手に小会議を開く。

「まず当初の目的どおり、初音と耕一さんを探すこと。
 ただこれは、今レーダーで確認する限り初音は耕一さんと一緒だし、急務ではないと思うの」
「なんだか同じ建物に、大勢出入りしているみたいだしね」
梓が付け加え、わたしも頷き返す。
街角の一室に、ここ同様の安全地帯を構築するのに成功したのだろう。

「次に残り2枚のCDを探すこと。
 ただしこれは、初期の保持者が死亡してからかなりの時間が経つので、追跡は困難だと思うわ」
「正しくはさらにもう1枚、CDがあるらしいけどね」
梓の補足が入る。

「最後に、セイカクハンテンダケを求めて、北川潤、来栖川芹香、スフィーの3名を探すことが1つ」
「ふみゅ?どういうことなの?」
繭ちゃんの豹変と、キノコの効能を説明し、彼女にも納得してもらう。

「…まあ急ぎなのは、キノコだと思うけどね。
 せっかく仲間が増えても、一緒に動けないんじゃ無意味だよね」
五人全員が銃器を携行していれば、たいていの危険は排除できる。
しかし、今の繭ちゃんを連れて歩くよりは、ここに篭っていた方が安全なのも確かだ。

「ねえ、この3人の情報更新、してみてくれないか?」
梓がHMに注文する。
「はいー。北川さん、芹香さん、スフィーさんですよね。
 この3名様は、一度二手にわかれてから、もう一回合流していますう。
 画像、出しますかー?」
「うん、そこの一番でかい画面に映してよ」
3人一緒というのは、ラッキーと言えるだろう。
ヴン、と軽いゆがみを起こした後、画像が大きく出力された。
185発見(2):2001/07/26(木) 18:54

「まあ……」
「ふみゅ?」
「うっわ…モロだ…」
「みゅー?」
「うぐぅ、痛そうだよう」

真上からの画像なので、想像でしかないのだが。
そこには、降りしきる雨の中、的確な一撃をお見舞いされる北川潤の姿が写っていた。

 犯人は来栖川あやか…いや、芹香のはず。

別荘地の中でも飛び切りのお嬢様と評判だった、来栖川芹香。
彼女がこのような挙動を示す可能性はゼロに近い、はずだ。
「ちちちっ、千鶴姉!これって!?」
「ひょっとして…!?」
2人顔を見合わせる。

 「「見つけたーーーーーーーーーー!!」」

 2人の脳裏には、あの日の禍々しい初音の叫びと、凶悪な表情が浮かんでいた。
 ゼロに等しい可能性を、当然の領域まで変換できる物体をこそ、わたし達は求めている。

 
186名無したちの挽歌:2001/07/26(木) 19:01
【施設組、芹香の反転を確信】

まだまだ穴蔵脱出できませんw

時間的に「反転芹香は輝く魔女?」の時点まで到達しました。
本来衛星画像のはずですが、こうした悪天候用の対策として、飛行艇からの画像が
あったとでもしてくださいませ。

千鶴と梓は、浜茶屋「鶴来屋」での商売中に、お忍びでプライベートビーチから出てきた
来栖川姉妹とコンタクトがあった、というノリで。
もしくは単に、伝説的お嬢様として評判だったということでもスジは通ると思われます。

前者の方が、もしも遭遇した時の反転具合といい、楽しめるとは思いますがw
187狂走_1/2:2001/07/26(木) 20:14
──……美咲さんを奪われ、由綺や冬弥達を奪われ、みんなを奪われた。
 その僕からとうとう、初音ちゃん迄を奪おうというのかい?
 そんなことって許せるかよ……。
 ……そうだ、許せない。
 だから、耕一さんを刺した。僕は悪くない。
 もう、これ以上僕からは何も奪わせやしない。
 僕だって男だ。
 自分の意地を通すにはどうすればいいのか、そんなことも分かっている。
 耕一さん。あなたはやってはいけないことをしたんだ。
 ……もういい。もう、これ以上奪われるだけでいるのはまっぴらだ。
 奪われ続けるくらいならば、僕も……。
 僕もただ……。
 僕も奪う側にまわるだけさ……──
 
 何処で歯車が狂ってしまったのか。それは冷静な彰の思考ではなかった。
 かつて、共に戦ったときに得た信頼感はかき消えていた。
 かつて、彰が覚えた耕一への憧れは微塵も残っていなかった。
 ただ、嫌がる初音の唇を奪った悪漢に対しての憎悪。
 そして嫉妬。
 この二つの感情が、それだけが彰を走らせていた。
188狂走_2/3:2001/07/26(木) 20:17

 ──家屋内。
 パァーッ!!
 それは、全員に武器を行き渡らせようとそれを吟味しようとしていたところだった。
 初音の胸元に僅かな光が宿ったかと思うと、
 心安まるような、透き通るような、その蒼い光は部屋一杯に広がった。
「な、なにっ?」
 慌てて襟元を広げる初音。
 その瞬間、一同を閃光が襲ったかと思うと、間もなく、その光は収束し、
僅かな燐光を残すのみとなった。
 広げられた襟元から漏れる燐光に、4人の目が注がれる。

――この間CMで見たディズニー映画みたいね……――
――ラピュタでもこういうシーンってあったわよね……――
――なに、これ? 不思議な力を感じる……――
――うおっ!! ナディアみてーだ……!――

 葉子、マナ、スフィー、そして……北川潤。
 6つの目がジットリとした潤を睨み付けたが、覗かれてしまった当人には、
それ以上の関心事があった。
「これは、賢治伯父さんの形見の……」
 襟元から服の外に取り出されたそれは……。
  
189狂走_3/3:2001/07/26(木) 20:18
 
 それは、サファイアのような蒼い石のペンダントだった
 キバのように先端の尖ったそれは半透明で。
 中には大理石のように乳白色の筋が幾つか入っている。
 耕一の父であり、柏木四姉妹の叔父に当たる柏木賢治。
 この首飾りは賢治の生前、初音がお守りとしてもらった物だった。
 それを身につけて以来、初音は大きな怪我や災厄に見舞われたことがなかった。
 初音は、今でもそれはお守りの効果だと信じている。
 もっとも、この島に連れてこられた時点で、その御利益とやらも怪しい物だが。
 まぁ、今まで死んでいないだけでも効果はあったものとして良いかも知れない。
 
「今まで、こんなことはなかったのに……」
 トーンの落ちた声で首飾りを見守る初音。
「初音ちゃん……」
 一同が初音を落ち着けようと、何か言葉をかけようとした瞬間、首飾りの先端が、
くるくると回り始めた。
「今度は何っ!?」
 驚く一同の中、初音は言いしれぬ不安におそわれていた。
──何が、何が起きているの? 嫌な予感がする。三人で此処を出ようとしたとき
 よりも、確実に嫌な何かを……──
 
 
 初音の悪い予感は、既に的中していた。
190ラッチーさん江:2001/07/26(木) 23:11
セルゲイです。
狂走の修正です。意味が通らない部分だけ、お願いします。

×:6つの目がジットリとした潤を睨み付けたが、覗かれてしまった当人には、
○:6つの目がジットリと潤を睨み付けたが、覗かれてしまった当人には、
 
 
それと。
707話のタイトルを『飛空挺の落ちた地で』から、『飛空挺の墜ちた地で』に
お願いします。

ぷらす。
通常アナザー風の扱いになった264b話『Comment te 〜』を、中身がある
ようにしていただければ……。

チマチマとすいません。よろしくお願いします。
191名無しさんだよもん:2001/07/27(金) 06:28
さがりすぎだYO!
192不安、あるいは偽りの中で(1):2001/07/27(金) 22:43
 嫌な感覚。あの小屋の中に、初音以外の同族…いや、肉体すら持たない純粋なエルクゥか?
それが俺を警戒しているような、その上俺とはまったく異なり少しも狩猟意志の感じられぬ気配。
確かにそれを放っている。何故だ?
 …考えている暇は無い。少なくとも初音には警戒されているはずだ。たやすく狩る事は出来ぬ。
今の状況では七瀬彰が突っ走って撃たれるだけだ。ならば…

 ━━僕は何故耕一さんを置いて診療所へと戻っているんだっけ?しかも走って。
  そうか、耕一さんはFARGOの連中に連れ去られたんだっけ。みんなで助けに行くしかないな。
   僕は初音と一緒に探しに行こう…ならあそこは危険だし、彼女を連れてはいけないな。━━

 そうだ。「七瀬彰」は耕一を少し羨んでいたが、嫉妬から殺そうなんて考えた事などない。
 ……ではあの気配に気付かれないように再び休むとしようか。

 武器の配分はこう決まった。
 スフィーと北川は最初から武器を持っていたのでそのまま。
 葉子はグロック26。
 マナはダイナマイトとジッポライターの筈だったのだが、
「どうせ私は使わないんだから武器なんて要らないわ」
といって何も受け取らなかった。
 そして初音は彰のつけていた防弾チョッキ。それとダイナマイトとジッポライター。
 決め終わった時、お守りの光が急に強くなって、次第に弱まっていったが初音たちの不安は、
急に強く光っていったそのペースで強まりつづけていた。
193不安、あるいは偽りの中で(2):2001/07/27(金) 22:43
 警戒していながら、ドアの前で彰達で迎える用意をする初音。防弾チョッキを着ている理由は
これもあった。その他の人は窓やドアから敵が来た時に迎撃できるような位置にスタンバイ。
 一瞬、お守りが光り、直後、ドアが開く。
「誰っ!?」
 そうしなくてはならないような気がして、お守りを投げつける。
「どうしたの?初音ちゃん?」
 それを受け取ったのは、何の事は無い、七瀬彰である。お守りの光もさして強くない。
「あ、彰お兄ちゃん? ごめんなさい」
 あたふたと慌てる初音。だが、スフィーは警戒して銃を向けたままだ。
「七瀬さん、耕一さんはどうしたの?」
「耕一さん? そうだ、耕一さんが大変なんだ。神奈たちの仲間に連れ去られた。あの少年だけが
敵じゃないみたいなんだ」
「え?じゃあ耕一お兄ちゃんを早く助けに行かないと」
「でも、奴等がどこに連れて行ったかなんて分からないよ」
「とりあえず、さっきのところに行けば何かわかるはずよ」
「いや、それは危ない(何故だろう…そうか!)あそこには罠が仕掛けてあったんだ。そこに誘い出
されたせいで耕一さんは何も出来ないまま深手を負って…」
(本当にそれでなのかしら…初音ちゃんの嫌な予感の原因は)
釈然としないまま、スフィーはみなを呼ぶ。

結局、ここで二手に分かれて耕一を探す事になった。
【七瀬彰、柏木初音、鹿沼葉子、スフィー、北川潤、観月マナ。耕一を探して出発】
194不安、あるいは偽りの中で:2001/07/27(金) 22:57
*グループは次の書き手任せ。戦力バランス的には彰、スフィー、初音組と葉子、北川、マナ組になると思う。
195名無しさんだよもん:2001/07/27(金) 23:31
おーい、”不安、あるいは偽りの中で”の書き手さん。
感想スレに来てくれないか?
196望まれざる再会(1):2001/07/28(土) 04:24
「で、その、神尾さんがいるところはまだなの?」
もう、何時間も歩き詰めの芹香はいらだった声を往人に投げる。
そのいらだちの元凶は先ほどから探知機と無制限一本勝負を繰り広げていた。
「くっ、この、くそ、なんでだ、この、これか、それとも、ここか」
探知機は往人の執拗な攻撃を受け流しているようだった。
そもそも、往人は機械の操作は苦手だ。
住所不定な旅人を職業としている(無職とも言うが)往人は、日頃から機械に接していないから、至極当然である。さすがに自動販売機を使うことやテレビを点ける程度はできるが、パソコンを使うことも、ビデオで留守録する事もできない。今どきの若者にしては珍種に分類されるであろう。

「うるせぇ! 珍種言うな!!」
往人はついに切れた。実に大人げない。
いや、だって、ほら。名簿にそう書いてあるんだもの。
そう言って、名簿を往人に見せ、そこを指で指し示した。
「どれどれ……な、ひとを、としている、ともいうが……」
お約束だ。そう心の中で私は呟いて空を見上げた。


さて、私がなぜ、このバカと一緒に歩いているかというと……。
197望まれざる再会(2):2001/07/28(土) 04:25
「おい、小さい声で言っているつもりだろうが、聞こえてるぞ」
聞こえるように言ってるのに決まってんじゃない。何、当たり前なこと言ってるの?
「……どうせ、俺は普通の奴とは違う生き方だよ。テレビだってないし、ビデオだって、冷蔵庫だって、どうせ持ってないから機械音痴さ。どうせ、高校だって行ってないし、そもそも、そんなに勉強してなにが楽しいんだ。どうせ、生きてくのにたいして役に立たないこと詰め込まれるだけじゃんかよ、ぶつぶつ……」
あ、いじけた。でも、家すらないんだから、家電製品を持ってないのは当たり前じゃない。
「グサッ」
えー、バカはほっといて。なぜ、私たちはこうも、さまよってるかというと。
「しょうがねーだろ。探知機の電源入れっぱなしにしたら。あっというまに電池が切れちまったんだから」
それぐらい、少しでも考えれば分かるでしょう? 想像力のない人ね。まったく電池切れと気付かずに猿のようにカチカチと動かして……。
「……」
ああ。また、いじける。もう、話しすすまないんでシカトしていくわよ。
探知機のバッテリー切れの前に、観鈴さん(024)と(003)が一緒で、晴子さん(023)が単独行動している、ということは確認した。
名簿によると(003)は天沢郁未さん。何人かいる不可視の力の持ち主の一人。
もしかしたら、彼女たちが結界を破る鍵になるかもしれない。そう思って、往人と同行してるんだけど。
まあ、法術はショボイんだけど、反射神経とか体力とかはケダモノ並にあるから一緒にいる方が安全、っていうのもあるしね。
「ショボイ……。ケダモノ並……」
ああ、まだ落ち込んでる。まったく見かけによらず根性無いんだから。
198望まれざる再会(3):2001/07/28(土) 04:26


で、まあチマチマと歩いてると。正面になんか鉄塔らしいものが見えたのよ。ただ、深い木々の隙間からなんでよく見えないんだけどね。
「なんだ。ありゃ。櫓か?」
櫓なんて古風な。
「古風って。あのな、都会の方じゃもうほとんどないが、地方だとああいう火の見櫓はまだ残ってるんだぜ」
へー、そうなんだ。さすが自由人。で、緑の帽子はかぶらないの? ギターかハーモニカは持ってないの?
「うるせえ。ハーモニカは邪道だ」
ああ、左様で御座いますか。
なんて、バカなことを言いあってると。
「ん? なんだありゃ?」
どうやら、往人がなにかを見つけたらしい。
だが、目を凝らしても何も見えない。巧妙に隠れているのか、ただ小さくて見えづらい小さい獣なのかは分からない。
少しペースを落として、注意深く進む。
そして、
「また、動いた。獣か? 人か?」
そのときの私が運が良かったのか、悪かったのかは分からなかった。
でも、私は目が合ってしまった。
そんなに近い距離ではないのに、彼もまた驚いている顔が見えたような気がした。
そこにいたのは、懐かしい顔だった。
まだ、自分が幼かった頃、何度も会った顔。そして、もう二度と会えないと思った顔。
「へー。あのおっさん、あんたと知り合いなのか」


この人は敵じゃない。

私は走り出していた。

だが、私は知らなかった。

彼がライフル銃を構えていることを。

【往人、芹香。フランクと遭遇】
199望まれざる再会作者:2001/07/28(土) 04:44
すんません。(1)の最後の「は不要です。

えー、まあ放送までに時間があるので一つイベントを放り込んでみましたが……。
隠れるのが得意なフランクを見つけてしまった辺りなんか、またご都合なはなしに
なってしまいましたし。
今、放送を書いてる方がいましたらホントに望まれざるですな。

芹香はわがままお嬢様って感じで書いてみました。そして、それに振り回される往人。
二人の力関係をほぼ対等にしたかったんで、芹香優位に話しを書いてみましたが……。
なんか、往人、北川から伝染してしまったような気がするなぁ。


それで、櫓の上からは木が多くて芹香たちは見えません。
探知機は電池交換か充電をすればまた動くでしょう。
フランクはかつて来栖川でメイドロボを製作していた、というエピソードがあった
ということと、長瀬つながりで既知の間ということで。

ということで、よろしくお願いします。
200ふたつの奇跡(1):2001/07/28(土) 11:25
かくして、わたし達は反転しているであろう芹香さんと交渉し、セイカクハンテンダケを入手すべく
出発の準備をしていた。
残留するメンバーに指示を与え、食料や飲料水の分配を行うだけでも、それなりの時間を要した。
行儀よく座る繭ちゃんと2人で食料を整理するわたしの背後で、残る3人の激しく言い争う声が
聞こえてくる。

「な…なんでよっ!
 このくぃーんをカンヅメにして、かつやくさせないなんて、どういうつもりよっ!」
「うぐぅ、ボクも一緒に行きたいよっ!」
「くぃーんとか、うぐぅとかって…
 お前ら普通に日本語話してくれよ…」
激しく常軌を逸した口論に、梓が珍しく言葉を詰まらせていた。

小さくためいきをついて、わたしは立ち上がる。
助け舟を出さなければならない、いや事実を確認しなければならない段階に来ただろうか。
むやみに心配させるようなことはしたくないが、情況を正しく理解しないことには、生き残ることも
かなわないのだから。
「…ちょっといい?」
「ふみゅ?」
「こんなことは言いたくないのだけど…わたし達は御堂さんほど、強くはないわ。
 だから、今の繭ちゃんを連れて歩いた場合、生き残る自信はないのよ」
「そ、そんなこと…わかってる…わよ」
「うぐぅ」
強弱はともかく、御堂さんでも今の繭ちゃんを連れて歩けるかどうかは疑わしい。
幸運にすがるのでもなければ、試してみる気もしなかった。

 
201ふたつの奇跡(2):2001/07/28(土) 11:26
-----結局のところ、キノコ捜索隊に割けるメンバーは、梓とわたししかいない。
どちらか片方が残ることも考えたが、戦うつもりならば戦力を分けるのは愚かなことだし、逃げる
つもりならば残る必要はない。
今までどおり、あゆちゃんを連れて行くことや、詠美ちゃんを連れて行く選択もある。
その場合、残る繭ちゃんの監視役がいなくなるし、侵入者への対処に不安が残る。

詠美ちゃんならば、ここで何かあっても、最初から逃げるつもりならどうとでもなる。
モニターによる監視と、独特の構造を利用すれば、初めて侵入する相手ぐらいは問題なく回避できる。
そんなわけで詠美ちゃんにはCD解析の続行と管理を任せ、あゆちゃんに繭ちゃん(と動物たち)の
面倒を任せることにした。

「…だから留守の間、よろしくお願いね?」
「ふみゅーん」
「うぐぅ…(ってボクの台詞こればっかりだよっ!?)」


「じゃ、雨が小降りになるのを待って出発するから。
 詠美、あゆに繭、あと頼むよ」
一転して気楽そうに鞄の中身を整理する梓と、頭を抱える詠美ちゃんが対照的だ。
残るあゆちゃんは、ひとり静かにどこかを見ていた。
この情況での心理的閉塞感は、近いものがあるのかもしれない。

同情を覚えながらも、振り返り繭ちゃんに声をかける。
「繭ちゃん」
彼女は相変わらず動物たちを従えて、手には丸い機械を持っている。
「あゆちゃんの言うことをよく聞いて、動物さんたちの面倒を見てあげてね」
「みゅー、これ、あげる」
晴れやかに笑いながら、その機械を手渡してくれる。
先ほどから気になっていたので、チラチラ見ていたのに気が付いていたのかもしれない。
 
202ふたつの奇跡(3):2001/07/28(土) 11:27
「…いいの?」
こくん、と繭ちゃんが頷く。なぜか確信めいた行動だった気がする。
この機械を持っていく意味はあるのだろうか?
そう思いながらも、彼女の瞳に気圧されて、わたしは機械を受け取った。
あとで調べればいい、と考えながら。


期待に反して、全ての用意が整った頃には、雨足はより強くなってしまった。
洋上に浮かぶこの島を滅ぼそうとしているかのように、雷が高木を選び焼き尽くしてゆく。
あまりの天候変化に呆れながら、待ち時間をデータベースの閲覧に費やすことにする。

偶然開いたデータの×印が目に入る。
死亡を示す、その不吉な記号が、件の機械の持ち主に重なっていた。
そうだ、この機械は彼女が持って…いた。
「秋……子さん」
思わず呟いたが、他の皆に聞こえないように語尾を濁す。
彼女の死亡地点、教会では多数の参加者が戦闘しており、現在の生き残りはほとんどいない。
なんの偶然か、その中に繭ちゃんも入っている。
可能性として、反転した彼女ならば、あの秋子さんを打倒する勇気があったかもしれない。

 わたしは、秋子さんと並んで歩いてきたはずだ。
 その距離は遠く、決して交わることはなかった。
 しかし、目指す方向は同じだったのだ。

 
203ふたつの奇跡(4):2001/07/28(土) 11:29
視線を天井に泳がし、しばし呆然としていたが、そこで同様に天井を眺めている人影を見つける。
(…あゆちゃん?)
そう言えば雨足が強くなった頃から、何か遠くを見るような目をしている。
声をかけようと立ち上がり、彼女の方へ歩く。

「……千鶴さん?」
振り向きもせず、視線を動かさないまま、あゆちゃんが先手を取って言い当てる。
わたしだけでなく、にわかに鋭い挙動を示した彼女に、全員の注目が集まる。
「…もうすぐ、晴れるよ」
あゆちゃんを除く全員が、思わず顔を見合わせる。
外部モニターに移る光景は、いまだに雷雨であり、暗く、とても晴れるだろうとは思えない。
「ここを出たら、あっちに行かないと…間に合わない、よ」
振り向いて、指し示した方向には、確かに芹香さんがいる方角だ。
先ほど調べた画像の時点で集合していた参加者たちは、今や二人組でばらけていた。
「芹香さんを探すのだから、そうなるわね」
「ううん、もっと、先の方だよ…」

 まるで、その”もっと先”を見据えるかのように。
 彼女は西の方角を見つめていた。

「あ…あゆちゃん…?」
様子のおかしい彼女に、その言動を問いただそうと発声した瞬間。
まぶしい光が、サーチライトのように外部モニターから投げかけられていた。
204ふたつの奇跡(5):2001/07/28(土) 11:29

「ななななに!?」
「みゅー!」
「攻撃されたの!?」
「いえっ!熱エネルギー反応では、ないみたいですうー!」
「じゃあ、なんだってんだ!?」

 光が弾けた一瞬の間を境にして。
 稲妻は陽光に変わり、地を流れる水音を残して雨雲は消え去っていた。
 果てしなく青い、嘘のように垢抜けた空が、画面一杯に広がっている。

 それが何かと問われれば。
 ひとつの奇跡だと、答えるしかない。

「千鶴さん」
「あゆちゃん、どうして…?」
何から聞けばいいのか、解らない。

言いよどむ私に、あゆちゃんは静かな一言。
「お願いだよ、ボクも連れていって。
 急がないと、間に合わないんだよ-----」


 あの光が、ひとつの奇跡とするならば。
 それを感知した、彼女の言動も。

 間違いなく、もうひとつの奇跡だった。

 
205名無したちの挽歌:2001/07/28(土) 11:35
「ふたつの奇跡」です。
ようやく源之助の魔法が発動しました。

うーん、うぐぅちゃんをここまで絡ませるかは迷ったのですが。
567話「生キル意味ヲ」を拾っての流れですね。
チヅアズに決定的に欠けている、超常現象への導き手として使っているわけです。

詠美は施設およびCDの管理人。
繭は…常識的に考えれば、外には出せないでしょう。
206望まれざる再会作者:2001/07/28(土) 21:53
お手数をおかけしますが、一部改変をお願いします。

「へー。あのおっさん、あんたと知り合いなのか」
を、
「あの、おっさんは確か……。おい、ちょっと待てよ。あいつは!!」
後ろで往人がなにか言っているようだったが、私にはよく聞こえなかった。

としてください。どうかお願いします。
207名無しさんだよもん:2001/07/29(日) 06:40
あがってみたらって思ったことないかなぁ?
208義勇。:2001/07/29(日) 15:25
――少し離れたところで、神尾晴子はそれを見ていた。

――耕一の「森の中に誰かがいるかも知れない」という感覚は正しく、
事実神尾晴子は、そこで準備をしていたのだった。
いくつかの重火器の調整。
いざという時に武器がうまく動かなかったら、それだけで自分の死は確定する。
晴子は溜息を吐く。
それでも、構わないとは思っていた。
どうせ最後には観鈴のところに行くつもりなのだから。
だが、それがある種の心残りを生むであろう予感も感じていた。
「死なばもろとも、やしな」
冷めた目で、遠くを見つめながら晴子は呟く。
殺して殺して、殺しまくってやる。
重い鉄の感触が、少しずつ、理性を奪っていくような感覚。

そんな中、落ち葉を踏む音、そして、男の声が聞こえてきたのである。

晴子は思わず木陰に身を隠す。
ニードルガンを握り締めるも、そこで心臓の音が身を支配する。
自分には武器がたくさんある、負ける可能性は低い。
たとえ負けたとしても、自分には何もないし、観鈴の元に行くことが出来るのだ。
何を恐れることがあるのだろう、そう思うのに心臓の音は晴子の身体の自由を奪うかのように、鳴り続ける。
なんとか武器をがちゃがちゃと鞄の中にしまうと、足跡を殺して晴子は後ずさりをする。
209義勇。:2001/07/29(日) 15:26

「俺たちは戦うつもりはないんだ――」
そう、聞こえた。
「脱出できる可能性があるんだ――」

その声を、もう少し早く、観鈴と共に聞くことが出来たなら、どれほど幸せな事だっただろうか?

その声が本当であれ嘘であれ、二人で一緒にいることが出来たなら。
きっと疑うことなく自分たちは飛び出して、彼らと共に行動をしただろう。
だが、帰りたいとか生き残りたいとか、自分にはもう、そういう感情がまるでないのだから。

その時、自分の行動理念に不可思議な事を覚えた。
生き残りたい、殺し合いなんてするつもりはない。そう言う彼らの姿を見て――。
ふと思う、なぜ自分は人殺しをしようと思っているのか、ということ。

観鈴を失った。このくそゲームで、何より大切なものを失った。
だから、他の参加者を殺す?
はじめから乗っておいて、観鈴を害するものをすべて殺せばよかった、と、
そう思ったから、自分は今から人殺しをしようとするのか?
(うちは、アホやないか)
彼らはここから脱出したいのだろう。なんとかして、日常へ続く細いか弱い橋を、渡りたいのだろう。
ならば、今自分が彼らを殺すことに、何の意義があったのだろうか?
自分に日常がなくなったのなら、
(八つ当たりなんかせんで、さっさと自殺なりすればよかったんやな)
失った娘の元に、友達を送ってあげよう。
娘を失った瞬間、自分はそんな事を考えた。
だが、馬鹿げている。
そんなくだらない事をする前に、自分が逝ってやれば良かった訳だ。
210義勇。:2001/07/29(日) 15:26
今、ここを飛び出して彼らの仲間に入れてもらおう、などと、そんなつもりはなかった。
自分はもう死ぬつもりだったし、観鈴のいない世界、寂しい世界に生きていきたくはなかった。
彼らと知り合うことは、自分にとっても、彼らにとっても無益だろう。
晴子は少し笑って、木陰で息を吐く。
(あんたらは、がんばって生き残るんやで)

――だが、どうせすぐ死ぬつもりの自分が、なぜ今これほどに、怯えているんだろう?
――なぜ、心臓の音が止まらない。なぜ、汗が止まらない。
吹き出る汗を拭いながら、晴子はその緊張の正体が何であるのかを未だに悟れぬまま、声の先を凝視した。

二人。一人は自分を片腕だけでねじ伏せられるような体格の男で、右手には拳銃を携えている。
そこで、晴子は見た。
もう一人――巨漢の相方に比べて、ずっと貧相な体格をしたその青年が、左腕のナイフを、上下に動かしている姿を。
「なっ――」
思わず声が出る。だが二人が突然争いをはじめた為、その声は聞こえなかったようだ。
その貧相な体格の青年が、その巨漢を、ねじ伏せている。
争う声は聞こえない。
ただ、倒された男の絶叫だけが聞こえる。
その小ぶりのナイフが、何度となく
その、雨上がりの乾いた空気の中で、噴出す血のにおいが、禍禍しい。
「……やめろッ、……彰ッ!」
殴っている青年は、彰というのだろう。
拳を全力で叩きつけ、そして次の瞬間には踵を顔面に振り下ろされる。
晴子思わず眉を顰め、目を逸らす。
一体何が起こっているのだ。彼らは脱出をする為に手を組んでいたのではなかったのか?
一方的に叩きのめされた男を横目に、彰という名の青年は、何かしらを呟いて、走り去っていく。
倒れた男は、それを追いかけようと何とか身体を起こそうとするが、すぐに力尽きて、倒れた。
211義勇。:2001/07/29(日) 15:32

一部始終を見ていた晴子の心は、何かしらの混乱で満たされていた。
裏切り。
そんな言葉が、晴子の脳裏を過ぎる。
唾をごくりと飲み込む。
(――やっぱり、皆乗ってるんやないか)
きっと彼、彰は。
体よく他人を利用し、そして生き残ろうと考えているのだ。
今まで共に戦ってきただろう仲間を殺してまで。

憎むべきは何なのだろうか、と晴子は考える。
身体が震えているその原因を、晴子は考える。
(決まってるやないか)
――そう。
憎むべきは、主催者だけではない。
自分の弱さを誤魔化す為に、他人を傷つけようとする人間だ。
この島で出会った人間が多くいた。
あさひも、智子も、マルチも、皆、

――やさしかった。

なのに、どうしてこれほどに人は弱い。
自分のことしか考えないで、人を傷つける。だから、無くすものがたくさんあるのに。

身体が震える原因は判らない。
どうして、人の声を聞くだけでこれほどに震えなければならないのだろう。

恐る恐る、その死体に近づいてみる。
めった刺しにされ、血をだらだらと流して倒れている、その青年の傍に。
「あんたも――災難、やったな」
顔を歪め、晴子はその身体に触れようとして――
212義勇。:2001/07/29(日) 15:32
殆ど聞こえないほどの薄い薄い呼吸。
――生きている。
「あんた…大丈夫か」
声をかけるが、まるで反応がない。
だが、生きていることには間違いがないわけだ。
自分は大切なものを守ろうとした。そして、守れなかった。
そして、今目の前で息を引き取ろうとしている男も、きっと大切なものを守ろうとしているのだろう。
今、この男に引き金を引くのは簡単だ。
このくそゲームに巻き込まれているんだ、殺されたって文句は言えまい。
自分だって大切なものをなくしたんだと、理由はいくらでも付けられるだろう。
だが、――陳腐な言葉で言えば、それを観鈴が望んでいるかといえば、そんな訳がないのだ。
その、理由付けは誰の為にある?

あの子があの世でどう思おうと、自分はあの子の後を追う。
自分はそれほどに、大切なものを失って生きていけるほど、強い人間ではないから。

だが、あの子が願うこと。そして死んだ友達が願っていたこと。
やさしかった彼らのことを。

やさしくあれ。

晴子はその重い青年を背負うと、――先ほどいた、あの喫茶店に向かうことにした。
食べ物もあるし、多分、あそこでならなんとか休めさせられるだろう。
生きる意思がある人を、むざむざ見殺しには出来ない。どうか、やさしくあれ。
「すぐ助けてやるからな」
返事はない。晴子は溜息を吐いて、歩き出した。

そして、ひとつの意思も生まれていた。



【神尾晴子 耕一を背負い再び喫茶店へ。最後の「ひとつの意思」の解釈はお任せ】
213合言葉は(その1):2001/07/29(日) 18:26
「なぁ、千鶴姉」

梓が声をかけてきた。

「何?梓」
「繭達をここに置いていくのはいいんだけどさ、誰かここに来たらこいつら危険じゃないか?」

梓の指摘はもっともだった。
確かにこの殺人ゲームに乗った誰かがここを訪れないとも限らない。
かといって連れて歩くのはもっと危険だ。
私は少し考えてHMに声をかけた。

「この施設で鍵をかけられるような場所は無いかしら?」
「え〜とですね〜、ちょっとお待ち下さい」

そう言ってパソコンで施設内を調べ始めた。

「え〜とですね〜、ここ以外には無いみたいです〜」
「そう。それじゃあ繭ちゃん達にはここに居てもらって鍵をかけておけば大丈夫ね」
「あ、でもですね〜」
「何?」
「ここのロックはパスコード式になってますからパスコードを設定しないといけないんです〜」
「パスコード?」
「はい〜、キーワード入力式か応答式でパスコードを設定できます」
「そんなのなんか適当に決めればいいじゃないか、千鶴姉」
「ダメよ。簡単に分かるようなパスコードだと意味がないでしょ」
「う〜ん………、でもさぁ、あんまりややこしいのだとこいつらが外に出たときに困らないか?」
「あら?外に出ることがあるかしら?」
「確かここトイレ無かったはずだけど」
「そうなの?」

私の質問にぽややんとした雰囲気のHMが答えた。

「はい〜」
「そう、それは困ったわね………」
 
214合言葉は(その2):2001/07/29(日) 18:28
簡単なパスコードだと他の人にすぐに分かってしまうから意味がない。
かといってあまりにも難しいのだとこの子達は間違いなく覚えきれないだろう。

「何か良い言葉はないかしらね」
「う〜ん………」

私と梓がそろって頭をひねっていると私達の頭を悩ませている張本人が近づいてきた。

「ふみゅ〜ん、どうしたのよ〜」
「………いいよな、お前は。気楽そうで」
「なによ〜、したぼくのくせになまいき〜!」
「げぼくだっての。それにあたしはあんたの下僕になった覚えは無いんだけどね」

二人が言い争っているのをため息をつきながら見ていると詠美ちゃんが一枚の紙を落とした。
詠美ちゃんはそれに気付いた様子は無かった。
私はそれを拾い上げてみた。何か文字が書いてあるようだ。

「かゆ………うま?」
「ふみゅ?」
「千鶴姉、ボケたか?」

私は梓を一睨みすると詠美ちゃんにこのメモ書きの事を聞いてみた。
何でもどこかの施設を襲撃したときに兵士の死体からパクッてきたものらしい。
 
215合言葉は(その3):2001/07/29(日) 18:29
「千鶴姉、こりゃ単なる落書きだろ」
「そうね、でもちょうどいいわ。これをパスコードにしましょう」
「ハァ?!」
「こんな言葉普通は思いつかないでしょ。第一覚えやすいし」
「まぁ、確かにんな言葉普通は考えつかないよな。それにこれ位ならこいつらも覚えられるだろ」
「ふみゅ〜ん!ばかにして〜!」
「それじゃあお願いできるかしら」

私はまた言い争いを始めた二人をほっといてぽややんとしたHMに頼んだ。

「はい〜」
「そうね。『かゆ』と表示された後に『うま』って入れたらいいようにしてくれるかしら?」
「はい〜、お任せ下さい」
「それじゃ、お願いね」

私はHMにそう頼むと後ろで騒いでいる二人を止めに行った。

【マザーコンピュータルームのパスコードを設定】
216合言葉は書いた者:2001/07/29(日) 19:05
※コンピュータルームのロックは内部からも開けられます
※監視カメラで扉の外をコンピュータルームから見ることが出来ます
217夕べの祈り 序曲 #1:2001/07/30(月) 03:56
 予感は静かな確信へと。
 青く輝く石が、初音の意識にある存在の接近を知らせる。
 言葉やイメージではなく、それはただの感覚。
 それでも確かな感覚。

 ――『鬼』が来る――
 ――人の中に、静かに確かに潜んでいる――
 ――攻撃本能剥き出しの、『鬼』が来る――

 参加者の中でも鬼の血を引いている者は僅か。
 初音の知りうる限り、全員『鬼』は制御できているはずだった。
 ということは、この悪の『鬼』はあの人しかいない。
 消えようとしていた命の灯火を、自分のエゴで引き延ばしてしまった。
 その罪が罰となり遂に自分の身に帰ってきたことを、初音は認めざるをえなかった。
 そして、あの時固めた一つの近い。
 もしもの時は、自分の手で愛する人を殺す。そして自分も。
 予測できてたことなのだ。今、その時がやってきただけなのだ。
 運命に抗おうとする意志を、今の初音は持ち合わせていなかった。

 精算しよう。
「皆、これから話すこと、真剣に聞いてくれる?」
 ここにいる皆に示す確証は何もない。あるのは真摯な決意だけ。
「実は――」
 お願い、どうか信じて……。
218夕べの祈り 序曲 #2:2001/07/30(月) 03:57
「初音ちゃん!」
 ドアを開けて彰が叫ぶ。
 室内には初音しかいなかったが、彰には構うことではなかった。
 初音しか、彼の目には映らないのだから。
「早くここから逃げよう!
 敵は今、耕一さんが足留めしてる。
 彼ならきっと大丈夫だから早く安全なところへ!
 あの男はただ者じゃない!」
 早口でまくし上げる。
 初音の反応は、ない。
 ただ冷ややかな目で、彰を見つめるだけ。
「初音ちゃん?」
「その血は……」
 冷たく通る、澄んだ声で、初音は喋った。
「耕一お兄ちゃんの返り血?
 彰お兄ちゃん、怪我してないもんね?」
「あ、あぁ、最初は二人で戦ってたんだけど、耕一さんが……」
「それだけの怪我だったら、耕一お兄ちゃん無事じゃすまないよね?
 その敵が彰お兄ちゃんを追ってきてるなら、今頃追い付いてるはずだよね?」
「初音ちゃん?」
「もう、終わりにしようよ……彰おにいちゃぁん……。
 耕一お兄ちゃんを殺したの?」

 朝に響く、鳥の初音のように。
 哀しい意味を持った言葉が、小屋の中に響いた。
219夕べの祈り 序曲 #3:2001/07/30(月) 03:58
「あれはっ、耕一の奴が悪いんだ!
 初音ちゃんを奪おうとしたからっ、だからっ!
 初音ちゃんは僕のものだろ?
 僕は初音ちゃんを愛しているし、初音ちゃんもそうだろうっ!?」
「彰お兄ちゃん、自分が何を言ってるかわからないのっ!?
 本当にもう狂っちゃってるんだね!? 戻れないんだね!?
 鬼の血なんてあげなければよかったよ……それでもお兄ちゃんが好きだったからっ!!」
 右手を上げる、銃を構える。
「死んで欲しくなかったんだよぉっ!!」
 発砲。銃弾は、彰の右腕を貫いた。

 彰から見えない位置で銃を構えながら、マナは思う。
 どうしてこの島には、こんなに悲しい想いばかりなのだろうかと。
 初音から彰はきっと狂っている、その原因は私にあると聞かされた。
 そして、それを償うためにも、自分の手で彰を殺してその後を追うと。
 とても嘘をついているようには思えなかった。
 初音の決意と想いが伝わって、それはきっと真実だった。
 マナの、スフィーの、北川の制止も聞き入れることはなかった。
 聞き入れさせるのは、所詮無理な話なのだ。
 北川とスフィーはここにはいない、初音の意向でマザーコンピューターへと向かっている。
 北川は最後までしぶっていた。これ以上、誰かが死ぬのは御免なのだ。
 しかし彰がここに悪意を持って向かっているとすると、時間はない。
 人にはそれぞれの役目がある。
 彼は去り際に「後は頼む」と言い残した。
 涙をたたえて。
(残念だけど、無理みたいよ……)
 人にはそれぞれの役目がある。
 今のマナと葉子の役目は『初音がしくじった時に彰を止めること』。
 できるならば、『自殺する初音を止めること』。
 どちらにしても、死者が出る道は避けられそうにない。
 聖との約束を思い出し、自分の無力さに涙するしかなかった。
(無理そうでも。諦めはしないんだから。
 誰も死なない方法を……考えろ……考えろ……)
220夕べの祈り 序曲 #4:2001/07/30(月) 04:04
 実際、彰の攻撃の矛先は耕一だけだった。
 耕一を排除すれば、他の者に危害を加えるつもりは『今は』なかった。
 そんなこと、初音がわかるはずもなかった。

 彰は右腕に痛みを覚える。
 どうして、自分が撃たれるのだろう。
 自分は何か間違っていたのか。
 やはり彼女は、最初から自分のことなどどうでもよかったのか?

 理性の混乱は、鬼のつけいる隙を与えるだけ。
 初音と過ごした間の彼女の瞳は、いつも違う所を見ていた。
 再会シーン。耕一と、初音。
 偽りの記憶の洪水。
 初音よりも強い力を持った同族がいることがわかった今、鬼にとって初音の存在はどうでもよくなった。
 犯し、殺すだけの対象。
 壊せ、壊せと、鬼の意志が彰の心に潜む疑惑と偽の記憶を活性化させる。

 ――僕だけが何も知らず、道化だったということか――

「初音ちゃん、信じていたのに……。
 こんなにも君のことを想っていたのにっ!!」
 彰は銃を、初音に向けた。

 自分が狂ったという自覚もないまま、初音の想いもわからぬまま。

「彰おにいちゃん、私は、あなたを――」

 ――殺します。

 夕べにはまだ少し遠い。
 哀しい序曲は、始まったばかり。
221嵐のあと(1):2001/07/30(月) 07:47
高さと広さと、迫力に。
思わず目を瞠り、大きく息を吸い込む。

何処を向いても、視界の全ては青と白に埋め尽くされて。
見上げれば吸い込まれそうな空。そして雲。
見下ろせば目が眩むほどに深みのある海。そして波。
それ以外に感じられるのは、潮の香りと、風の音だけだった。


…あら、お久しぶり。
乙女の七瀬よ。元気にしているかしら?

あたし達は、ついに島の最北端まで到達したのよ。
ちょっと早いと思うかもしれないけれど、急がないと、何故だかあたし達の美しい顔が
みるみる破壊されていくの。
それは言うなれば、世界全体にとっての損失なのよ。

「…ねえ、晴香」
「ん…なあに?」
ようやくたどり着いたそこは、数十メートルの断崖。
ただ静かに、切り立つ崖の上から、青と白の世界に囲まれて立ち尽くしていたけれど、
二人で腰に手を当てて仁王立ちしている姿は、いかにもスポコンものそのまんまで、
我ながら乙女離れしたたたずまいだったわね。
夕日じゃなくて良かったわ、なんて思いながら、誰に見られているわけでもないけれど
慌てて姿勢を崩し、晴香に声をかけてみたの。

「す、凄いわね」
「そりゃ、さっきまで大荒れだったからね」
確かに突然晴れたからと言っても、海が平穏を取り戻すのには少々時間がかかる。
真下を見れば、自殺名所のように見えなくもないほどの波飛沫が舞っていたわ。
断崖絶壁に、数メートルの大波がうち寄せているのは、ちょっとしたもんなのよ。
222嵐のあと(2):2001/07/30(月) 07:48

「空はもう、こんなに穏やかなのにね」
「この時期アラシは憑き物だから、仕方ないわ」
(…なんか発音が変な気がするけれど、多分気のせいよね?)
そう自分に言い聞かせて、水面を見つめる。
波に紛れてはっきりとは判らないが、一部分だけ青色が濃く、底が深くなっている…
…つまり穴が開いている感じが、する。

「晴香、あそこ…深くない?」
「七瀬……飛び降りは、一人でやってよね」

 シャキン!
        ガキン!

「何でアタシが飛び降りなきゃなんないのよ!」
「じょじょ、冗談よ!アンタの刀は毒塗ってあるんだから、やたらと抜かないで!」
「だったら煽るんじゃないわよっ!」
(まったく、折原と同じくらいバカだわコイツ。煽りは常に、厳禁なのよ?)
そう思いながらアタシは、真後ろにそびえ立つ灯台へと向かった。
歩きながら考える。
(…そうだ、最初に床を調べてみよう)
もしも海底に繋がっているのなら、きっと地下への入り口があるはずだから。

穴の大きさから考えると、思った以上に小さな潜水艦なのかもしれないけれど。
例え一人だけでも脱出できるなら、きっと助けを呼べるのだから構わない。

 願わくば、この白く巨大な塔が。
 あたし達の、希望になりますように。

 
223名無したちの挽歌:2001/07/30(月) 07:55
【七瀬留美 巳間晴香 灯台に到着】


「嵐のあと」です。

星を探す時「この辺のはずだけど」と思って探す場合と、全く指標なしで探す場合では
見つかりやすさが違うように、七瀬は潜水艦の存在を信じているので、実際にはほとんど
差異のない微妙な変化を発見することが出来た、とでもしてください。
224夕べの祈り 序曲 作者:2001/07/30(月) 19:43
ミスしました。
スフィーは北川と一緒に北へ行ったと記述しましたが、彼女の目的地は西の祠が自然な流れであるとの指摘を受けました。
すぐにでも修正を入れるのが筋なのでしょうが、作者ただ今体調が最悪なためちと書く気力がありません。
後で本文修正加えますので、スフィーは単独で西へ、北川はマザコンへ向かったことにしておいて下さいませ。
武器等は全て次の書き手に任せます。
確定なのは、彰は耕一の銃と何か自分の武器を、初音・マナは銃を一丁ずつ持っていることだけですね。
225夕べの祈り 序曲 作者:2001/07/31(火) 00:42
もう一つ後日訂正します。
武器は彰…ベレッタのみ 初音…グロッグ マナ…ベレッタでお願いします。
少し前の別の書き手さんから訂正入ると思うので、それから修正します。
226献身的な手当て:2001/08/01(水) 02:03
晴子はあせっていた、消毒液が見つからないのだ。
「くそ、いったいどこにあるんや!」

今の耕一の状態はかなり危険である。
晴子も運んでいる時、喫茶店に着くまでに死ぬのではないか、という危惧がまとわりついて離れなかった。
だから喫茶店まで連れてくると、耕一を寝かすと、すぐに手当てをするために救急箱を探した。
見つかることには見つかったが必要な物が一つ欠けていた、それが消毒液である。

「消毒の一つぐらい残しとき!ケチは嫌いや」
誰に言うわけでもなく、晴子は愚痴をこぼした。
しかし、くまなく店の中を捜したがついに消毒液は見つからなかった。
途方に暮れかけた時、晴子は代用品の存在を思い出した。

耕一の意識は朦朧としていた。
目の前の人らしき物は誰でなにをやっているのか、自分が何故こんな所にいるのかもわからなかった。
ただ頭の中では思考が渦巻いていた、それは自分のことではなく他人のこと。
(みんな大丈夫かな…)
けれども考えがまとまらない、なんだか夢の中にいるみたいだった。

次の瞬間、体に激痛が走り、急に意識が覚醒した。
「ぅぎいいあぅあぁぁあ!!!」
耕一は叫び、周りを見回した。
そこには
「勿体無いから飲んどこか」
とか言って一升瓶をラッパ飲みしている女がいた。
227献身的な手当ての作者:2001/08/01(水) 02:07
【耕一 状態はまだまだ危険】

書きました。耕一は別に記憶喪失になっているわけではなくケガのせいで
考えがまとまらなかった、という感じです。
矛盾等のご指摘よろしくお願いします。
228長い道。(The Long and Winding Road):2001/08/01(水) 18:30

「おはよーさん」
暢気に呟く女を見て、よく状況がつかめないまま、俺――柏木耕一は、目を覚ました。
一升瓶――何処で見つけたのか知らないが、ともかくそれを片手に自分の横でそれをごくごくと呑んでいる。
対して自分は、上半身が裸でベッドに横たわっていたのである。

女は自分の呆然とした様子を気にも留めず、救急箱の中から塗り薬と包帯を取り出すと、
何も云わずにそれを自分の傷口に塗りたくる。
「痛ぇっ」
「男の子やろ、我慢せぇ」
乱暴に傷口をえぐるように塗る。塗る。痛い。痛い。痛い。
「こら……傷深いわ」
顔を歪める俺を尻目に、そんな事を呟く。
「だがまあ、あんた男の子やし――すぐ治るやろ」
次の瞬間には少し笑って、そんな事を呟いていた。
「鼻も折れとるんちゃうん? 見せてみ」
優しいとは云い難い手つきだが、その声はあまりに優しかった。
意外にも、鼻の方はそれほど酷い状況でもなかった。血も止まっていたし。
手当てを受けながら、俺は溜息を吐く。
思い出すのは、意識を失う直前のこと。

彰――。

行かなければ、と思うのに身体が動かないのは、果たして肉体が傷ついているからだけなのか。

「君、災難やったな」
一通りの手当てが終わり、包帯で身体がぐるぐる巻きにされた後に、女は思い出したかのように云った。
俺は返事もせずに、ぼうっと天井を眺めていた。めまいがする。
229長い道。(The Long and Winding Road):2001/08/01(水) 18:30

ぐらり、と身体が揺れる自分の様子を見て、
「めちゃめちゃ血ぃ流れとったからな、なんか血が作れる食い物持ってくるわ」
と呟き、その見ず知らずの綺麗な女は、慌しく部屋を出て行く。
すぐに肉塊――生肉、か? を持って戻ってくると、
「ガス切れとったから火で調理できへんかったわ。まあ、肉の鮮度はうちが保証したる」
冷蔵庫の中にあったからな、と笑う。
ガスが切れてるのに、冷蔵庫を動かすだけの電気が流れているのか?
少し抵抗もあったが、俺は素直にそれを口にする事にした。
歯に力が入らない。だが、それをなんとか噛み切って、俺は乾いた喉にそれを無理やり詰め込んだ。
「うぇ」
――胃が、食べ物を受け付けない。入った瞬間にそれが逆流しようとする。
これほどまで弱ったのは久しぶりだ。だが、無理やりに俺は肉を飲み込んだ。
もう一口。喉が痛い。
もう一口。
身体に血が戻る実感はない。果たして、俺の身体はすぐに動くようになるのだろうか?
貪るように食べる俺を、きっと女は笑って見ていた。
生肉は、意外においしかった。

「――おばさん、本当に有難うございました。あなたの名前を教えてくれないでしょうか?」
「おばさん? わははははは、面白い事ゆーの、君は」
ガシッ!
女はその小さな拳を振り上げ、ぽかりと――(ぽかりなんて可愛い音ではなかったが……)自分の頭に叩きつけた。
「まあええわ。けどな、人に名前を尋ねる前に自分の名前を名乗るほうが先やないか?」
そう云う女は、やけに上機嫌に見えた。
俺は逆らわず「柏木耕一です」と、素直に名乗った。

「その耕一君は、あの彰、っていう子を止めないでもええん?」
230長い道。(The Long and Winding Road):2001/08/01(水) 18:31
次の瞬間――女は、そう云った。
びくり、と身体の震える感じがする。
俺は、――怯えているのだろうか?
――何故、彰は俺を殺そうとしたのだろう。
――何故、彰は俺を泥棒猫と呼んだのだろう。
考えても判らない。彰を止めに行かなければならない。
そもそも、自分は足が傷つけられていないのだし、右腕はそこそこに動くのだ。
眩暈がするとはいえ、あの診療所に戻れないこともないのだ。
なのに、何故身体が動かない。
「――あの彰君っての、きっともう、目的地に着いたんちゃうかな」
俯く俺の上で、彼女は言う。
「行かんのか?」
怖い。
そう、俺は、怖いんだ。

あいつに骨を抉られた瞬間を覚えている。肉を切り裂かれた瞬間を。
拳をぶつけられ、鼻を折られ、意識を失うあの瞬間、俺は確かに怯えていたのだ。
鬼の血が、きっと彰を狂わせているのだと思う。
そうでなければ、あんなに優しかった彰が、あれ程に豹変するわけがないのだ。
泥棒猫、という意味の判らない言葉も、鬼が何か関与していたと考えれば納得がいく。
きっと、その鬼の血が結局彰を狂わせてしまい、そして、力も与えた。
その鬼の血は、俺にだって流れている。肉体が強化されたといっても、自分のそれとは比するまでもないほどだろう。
だが、現に自分はねじ伏せられた。あの細腕に、殆ど抵抗することも出来ず。
理由はなんとなく判る。――腕力じゃないのだ、戦闘力は。
深層での強さ。もっと深いところで、今の俺と彰は、圧倒的に違う。

そう、確信があったからこそ――俺は、次こそ彰に殺されるという、そういう強い確信があったからこそ、
俺の身体は動かないのだと思う。動物としての本能が、俺の身体を萎縮させていた。
231長い道。(The Long and Winding Road):2001/08/01(水) 18:34
「なあ、行かんのか?」
女が再び尋ねる。俺の様子がだんだん落ち着いてきたからだろうか?
俺は答えることも出来ずに、そこで歯を食いしばる。
行かなければならない、という意思を、恐怖が覆っているのだ。
「なんや、あんた? 行かないんか?」
心底不思議そうな顔をして、女は俯く俺を眺める。
「さっきうちに呼びかけてたことは嘘やったんか?」
その言葉にも反応せず、俺は俯いたまま、唇を噛む。乾いた唇を舐めて、俺は大きな溜息を吐く。
みるみる機嫌が悪くなっていくのが判るほど、目の前の女はつまらなそうな顔になった。
つまらなそうという表現は適切ではなく、――彼女はたぶん、怒っていた。
「不甲斐ないなあ、あんた」
そう吐き捨てる。
「脱出できる手段があるんやなかったんか? ここから帰るんやなかったんか?」
そう――帰りたかった。きっと帰れる筈だと、思っていたのに。
いい加減腹が立ってきたのだろう、まだ俯いたままの自分を見て、きっ、と表情を歪ませ、

パンッ!

と、女は自分の頬を叩いた。
「――!」
「あんたなあ……ぬか喜びさせんといてや」
女は、本当に不機嫌そうな顔をした。
「あんた、きっと怖いんやろ、あんな貧弱な奴の事が」
「……――そうだよっ、俺は怖いんだよ、あいつが、彰がっ! 判るのかよあんたに、どれだけ怖いか――!」
顔を上げ、女を睨みながら、俺は女を見つめる。
一瞬面食らったような顔をしたが――女は、やけに冷静な目で、こう、ぼそりと呟いた。
「あんたがどれだけ怖かったなんかは知らんけどな、うちが怖い目におおとらんみたいな云い方をされるんはむかつくわ」
232長い道。(The Long and Winding Road):2001/08/01(水) 18:35
――失言だった、と思う。
なんて弱い人間なのだろう、俺は。
見も知らぬ、しかも自分を助けてくれた恩人に当たるなんて。
「――……悪かったな、耕一君」
次の瞬間には、女は笑って言っていた。その笑いは、嘲りの笑い。
「まあ、助け損やと思って諦めるわ」
大きく息をついて、女は立ち上がった。
「ここ、自由に使っててええ。うちには――どうせ、もう守るもんもないし、あの彰君って子を殺しにでも行くわ」
これ以上人殺しを跋扈させとくわけにもいかんしの、と云って。
ドアを開けて、女は部屋から出ていった。

俺はベッドの上で身体を起こして、これからの事を考えていた。
そうさ、彰がああなってしまった以上、もう――帰れることもないのだ。
もうきっと、初音も、あの診療所にいた全員が制圧されているだろう。
それに、自分はたくさんの血を失っている。
生き残るためには、ここで休んでいたほうがいいに決まっているのだ。

それなのに、俺が立ち上がっているのは何故だろう?
眩暈もする、戦ったところで勝ち目もない。
――決まっている。原因は、彼女が呟いた言葉だ。

――守るもんもないし。

そう、――希望はあった。まだ、守るべきものが、守れる形で残っている可能性が。
俺は眩暈のする頭を抑え、ずきずきと激しく痛む左腕と鎖骨を抑えながら、部屋を飛び出そうと、ドアを開けた。

「ん、見込んだ通りやったな」

――その部屋の外、ドアのすぐ横で、女は一升瓶片手に、笑って座っていた。
233長い道。(The Long and Winding Road):2001/08/01(水) 18:36
「うちは、あんたの、脱出するんだ、という姿勢を見て、少し救われた」
俺は彼女の横に座る。
「うちな、あんたの姿見るまで、このくっだらん殺し合いに乗ろうかと思ってた。娘が死んでしもうたんや」
ごくごく、と一升瓶に口をつけながら、ぷはぁ、と息を吐く。
「大切なものを守れんかった、その不甲斐なさでな」
「……」
「はじめから娘を守るために全員殺せばよかったとさえ思った。――そんとき、あんたの声を聞いたんや」
――脱出できる手段がある――ってな。女は笑う。
「大切なものを守るために、必死で動いてたな、あんた。うちは大切なものを守るために、まるで動こうとせんかった。
 いつかきっと神様が助けに来て、うちら二人だけ救われる――なんてな」
「――俺は」
「うちが予言したる。あんたが守りたいと思ってるもんは、まだ、守りきれる場所にある。
 今すぐあんたが走り出せば、きっと止められるくらいの危険に晒されてはいるけどな」
そうだ、大切なものを守るため。その為に今まで俺は、長い長い道を歩いてきたんじゃなかったのか?
「怖いことなんてないわ。うちは命かけて大切なもんを守れんかった、けど君は、命くらい賭けられるやろ。
 君は十分強い。誰にも負けないくらい、強い! うちが保証したる!」
――そう、命を賭けて守りたいものがある。大切な人、そして、

大切な友達を。

「そうや。良い目になったな、耕一君」
「はい」
「それでええ。よおし、約束せえ。必ずあんたは生き残り、守るべきものを守るんや」
そう云って、晴子は拳を握り締め、天井に向けて掲げた。
「な、耕一君。君の拳、うちの拳に併せえ」
「――はい」
俺は拳を握って、その小さな、けれどしなやかな拳に自分の拳をぶつけた。

「うちの手に誓え、必ず生き残るって。次の死者放送ん時、君の名前が呼ばれたら、あんたは大嘘吐きや」

「はい」
「よおし、よく云ったぁ! うちの武器、一階にまとめて置いてあるわ。好きなの持ってってええで」
234長い道。(The Long and Winding Road):2001/08/01(水) 18:41
「うちは君の事を肴にして、ここで酒呑んどるわ――!」
そう云って、女は、本当に嬉しそうに笑い、俺の肩を叩いた。
俺と彼女は立ち上がり、階段を降りる。
まだ多少なり眩暈がするが――傷はだいぶ癒えた感触がある。
結界の中とはいえ、それなりに身体は丈夫に出来ていたと云うことだろうか。

女の武器のうちの一つ、ニードルガンを手に取る。このくらいの重さがちょうどいい。
「耕一君の武器、そこのテーブルの上に置いたるから」
ナイフと、キャノンだった。きっと彼女が回収してくれたのだろう。
準備を整え、俺は鞄を担ぐ。今から走り出せば、きっと守れる。そう信じよう。
喫茶店のドアを開け、俺はふと、振り返った。女は少しだけ悲しそうに、笑っていた。

ああ、と俺は思う。

「本当に、ありがとうございました。――名前、教えてくれませんか?」
この長い入り組んだ道の中で、
「――神尾晴子や、耕一君」
どれだけの人と出会い、
「――それじゃあ、行って来ます、晴子さん」
別れて行くのだろう?
「ああ、うちとの約束守ってや」
だが、今はまだ風の中。
「はい!」
振り返る間もないほどの、
「負けるなよ」
長い長い道の中で、
「――はい」

俺は、今だけは、ただ――前だけを見つめていた。


【柏木耕一 診療所へ。武器はナイフと中華キャノンと晴子のニードルガン。彰を止めるために行動開始。
 神尾晴子 一人喫茶店で待機。何かしら思うことあって動かず。
 耕一が目覚めたころ診療所ではどうなっているか…は、次の人にお任せです】
 「あ〜、疲れた〜」

 私達はようやくその建物に到着した。
 外見上は灯台のような建物。
 でも、ここに私達が探しているものがあるに違いないと私は確信していた。

 そう、言うなればこれは乙女の勘ってヤツね。

 「何、バカ言ってるのよ」

 晴香は心底呆れた、といった顔つきで私のことを見ていた。

 「ア、アハハ、気にしない気にしない」

 どうやら、口に出ていたらしい。これじゃまるで折原みたいだわ。
 私は笑ってごまかした。

 「さてと、ふざけるのはここまでにしておきましょう。敵側の施設なんだから何が起こるか分からないわよ」

 晴香の顔つきが一瞬にして緊張感を持ったものに変わった。その手には既にワルサーが握られている。

 「そうね」

 私も刀を鞘から抜いた。

 「それじゃ、行きましょうか」
 「ええ」
 
 私達は慎重に建物の中へと入っていった。
(三行空け)
 「………人の気配は無いみたいね」
 「そうね、でも油断は禁物よ」

 晴香も私も神経を集中させながら建物内を一通り見てみた。

 「ふぅ、どうやら大丈夫みたいね」
 「そうね」

 私達は緊張を解いた。念のため武器は持ったままだけど。

 「でも、一通りみた感じじゃどこにも潜水艦がある場所に行く通路は無いみたいだったわね」
 「きっと、どこかに隠してあるのよ。と言うわけで探してみましょう!」
 「ちょっと、七瀬。何そんなに張り切ってるのよ」
 「あら、何かこういうのってワクワクしてこない?RPGの主人公になったみたいで」
 「何か子供みたいね。まぁ、いいけど。それでどこから探すの?」
 「そうね、さっき海岸で見た感じだと潜水艦があるなら多分地下ね。だからまず床を調べてみましょう」
 「それじゃさっさと始めましょう」

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        はるかとるみはゆかをしらべてみた
  
          なにもみつからなかった
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 

 「何も見つからないわね」
 「そうね、ちょっと休憩しましょうか。ずっと四つん這いだったから腰が………」
 「腰にくるなんてもう年ね、七瀬」

 私は無言で刀の切っ先を晴香に向けた。

 「ち、ちょっと!それ毒が塗ってあるんだからむやみに人に向けないでって言ってるでしょ!」
 「だったらさっきの言葉を訂正しなさい!腰は単に昔痛めただけよ!」
 「わ、分かったから!」
 「全く、乙女である私に対してあんまり失礼なこと言わないでよ」
 「そのすぐ手が出るところ直さない限り乙女とは言えないわよ、あんた」
 「うぐっ」

 私は何も言い返せなかった。
 私が床にへばっていると晴香は部屋の隅にあった本棚のところで本を手にしていた。

 「あら?あんた本なんか読むの?」
 「別に。ただ手に取っただけ………」

 晴香の言葉が不自然に途切れた。
 

 「どうしたの?晴香」
 「七瀬、ちょっと来て」
 「何よ」
 「ねえ、七瀬。これ何だと思う?」

 晴香が指さしていた本棚の奥を見てみると奇妙な出っ張りがあった。

 「さあ?何かしらね。何かボタンみたいにも見えるけど」
 「そうね。私もそう思ってるのよ。押してみる?」

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
      るみたちはきみょうなでっぱりをはっけんした

             おしますか?
       
           → はい
             いいえ
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 「そうね、こういう怪しい物は取りあえず押してみるのがRPGの基本よね」
 「RPGなら何かの罠ってこともあるかもしれないわよ」
 「う〜ん、でももう遅いわよ。もう押しちゃったもの」
 「でもこれで隠し通路でも出てきたら本当にRPGみたいね」

 晴香がその言葉を言い終わるのとほぼ同時に本棚が右に動いた。
 その後ろには下へと続く階段があった。
 

 「………」
 「………」

 私も晴香も驚きのあまりしばらくの間一言も発することも出来なかった。

 「と、取りあえず見つかったんだから行こうか、七瀬」
 「そ、そうね」

 私達は武器をもう一度構えると階段を下りていった。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
       ここまでのぼうけんをほぞんしますか?
 
           → はい
             いいえ
 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 【七瀬 晴香  地下ドックへと続く階段を発見】
240―― Kizuna――_1:2001/08/02(木) 19:16
(今やもう、あと一歩の所まできた!!)
 よもや初音が彰に発砲するとは思わなかったが、それ以外はほぼ、鬼の思惑通りに
事は進みつつあった。
 彰の理性はもはやガタガタで、あと一歩踏み出してさえしまえば、粉微塵に散るだろう。
(その時こそ、己が完全なる自由を手に入れるときだ。
 さぁ、彰よ、早く! 早く自分を裏切った醜い雌をその手に掛けるのだ! 俺がこれ以上
 力を傾けなくても、もうそれぐらいのことは自分の意志で出来るよなぁ?)

 右腕を左手で押さえるようにして構えた銃を、初音に向けて彰は立ちつくしていた。
(僕は初音ちゃんを撃つ。撃ち殺す。何故なら彼女が僕を裏切ったからだ……。
 何もかもを失って、唯一残されたものにまで。その彼女にまで裏切られたら、
 許せるはずがない。だから、僕は。
 ……初音ちゃんを殺す!)

(『また』撃ってしまった。いや、『今度こそ』撃ってしまった。千鶴お姉ちゃんの
 時とは違う。私は、私の意志で彰お兄ちゃんを……) 
 震える手で拳銃を握ったまま、初音もまた立ちつくしていた。
(私は、彰お兄ちゃんを殺す。殺さなければならない。そして私も……)
241―― Kizuna――_2:2001/08/02(木) 19:24
 
 そして、物陰では。
 二人の女がそれぞれの場所でそれぞれの武器を手に、息を潜めていた。
 
(自分は本当にこのままで良いのか? 自分が助けた命が、目の前でお互いを殺そうと
 している。こんな事を認められるのだろうか? 初音の真摯な訴えに気圧されて、
 一度は身を隠したけれども、本当に良いの? 私は!?)
 
(初音ちゃんが……本当に撃った!? あの優しい娘が自分の愛する人を……。
 こんなのって、ないよ。愛する人を自分の手で殺すなんて。
 何とか、何とか良い方法を……。でも、いい方法なんて考えられない!!
 聖さん。わたし、わたし……!!)
 
「初音ちゃんが僕を受け入れてくれないのなら!! 君を殺して僕も死ぬ!!」
(何!? それは違うぞ、彰!! それは断じて否だ!! 認められない!!)
 初音の瞳から、涙がこぼれ落ちる。
(何でこうなっちゃったのかな……。リネットは上手くいったのに……。でも、
 私、彰お兄ちゃんとなら……)
 
 初音に向けられたままの銃。
 引き金にかかった彰の指に、僅かずつ力が入ってゆく。
(本当にこれで良いのか、僕は……!?)
 彰のどこかには迷いがあった。
 まっすぐに自分を見つめる初音。
 悲しいまでに済んだ初音の瞳に吸い込まれそうになる。
 しかし、彼女の手には銃があり、それが彰に向けられているという現実……。
 
 その時、どれが最初に起こったのか、分かった者はいなかっただろう。
 それらは本当に、ほぼ同時に起こったのだ。
 
「こんなのって、認められないわ!!」
「こんなの駄目ーッ!!」
 各々叫んで飛び出した、葉子とマナ。
 急激に光を取り戻した初音のペンダント。
 そして、銃声。
 ……均衡は破れた。
242セルゲイ:2001/08/02(木) 19:29
『――Kizuna――』
アプしてしまいました。
本当は、他の人のアプを待とうかと思ってたんですけど、急にムクムクと
書きたい気持ちがわき上がってきて……。
全部書いてしまいたい気持ちは取りあえず抑えて、ここで区切りです。

……あと、ちょっと表現の方法を変えてみましたがどうでしょう?
243名無しさんだよもん:2001/08/02(木) 20:02
御堂さん、お盆の帰省ラッシュのピークを占ってください。
244名無しさんだよもん:2001/08/02(木) 20:09
誤爆すまんです。
245旅の途中:2001/08/02(木) 23:18
「はぁ、はぁ、はぁ…」

診療所を出発してから、スフィーはひたすら走った。
どれくらい走っただろうか、長い坂道を駆け上がり、かつて神奈が封じられていた神社に辿り着いた頃には、
すっかり息が上がってしまっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ…」

ここまで一途に走ってきたスフィーも、思わず地面にへたり込む。
しかしスフィーの目的地である祠(ほこら)は、ここからさらに山道を登らなければならない。
こんな所で休んでいる暇はないのだ。

数分後、スフィーの息もようやく整ってきた。
そして立ち上がろうとしたスフィーは、その時上空に何かを見つけた。

「あれ、何だろう…」
それは、上空に糸を引きながら少しずつ下界に向かっている様に見えた。
スフィーはしばらくそれを眺めていたが、ふと我に返る。
「いけない! 早く祠へ行かなきゃ!」

そして、スフィーは再び走り出した。
進む道はただ一つ。

【スフィー、落下する飛空挺を発見(ただしスフィーは飛空挺とは認識していない)】
※飛空挺が落ちるまでにはまだ時間がかかります。
246旅の途中:2001/08/02(木) 23:22
訂正です。

(誤)診療所 → (正)療養所

スマソ。
247フランクの思い1:2001/08/03(金) 12:48
見つかった。
フランクがそのことに気付いたとき、
まず最初にしたのは逃げる事だった。
木々に紛れて森の奥へじわじわと後退する。

今となっては少年以外の参加者と戦うつもりはない。
しかし、自分は長瀬なのだ。
こんな馬鹿げた殺し合いに巻き込まれ、
その首謀者たる自分達を憎まないものなどあろう筈がない。

その怒りは当然だし、殺されるのもやむなしと思う。
だが、ここで戦闘になるのはまずい。
騒ぎを少年に嗅ぎつけられては元も子もない。
少年を、倒す。
それだけは。なんとしてもやらねばならない。

「……フラ……さ……!」

ふと。遥か記憶の底から、自分を呼ぶ声がした。
それは優しい記憶。
モノクロームの景色の中で、自分は一人の少女を見ていた。

「…芹…! …危な……!!」

せり……
せりか。
そう。そんな名前の少女だったか。
248フランクの思い2:2001/08/03(金) 12:50
フランクは思い出していた。
源四郎に連れられて店にやってきた、双子の少女達のことを。
元気に走り回っていた妹とは対照的に、
姉はいつも源四郎の後ろに隠れて、伏し目がちにこちらを見ていた。
妹に「このおじさんはこわくないよ」と促され、おずおずと前にでてきた姉。
自分の入れた紅茶を飲んで、穏やかに笑いあう二人を見ていると、
こちらまで癒されているような気さえした。
不思議な少女達だった。

「フランクさん! フランクさんでしょ!?」

はっ、とフランクは目を覚ました。白日夢でも見ていたのか?
いつのまにか、自分を呼ぶ声はかなり近くまでやってきていた。

フランクは思い出した。
来栖川芹香。双子の少女の生き残り。
こちらに近づいてくるのは、あの子なのか。

少年を倒す、それが今の自分の全て。
だがもし自分が失敗したら。
自分の知りうる事だけでも、誰かに託すべきかもしれない。
それがあの少女にならば。
託せるかもしれない。

フランクは狙撃銃を隠すと、両手をあげて茂みから立ち上がった。
249スタートライン(その1):2001/08/03(金) 13:11
 パスコードの設定はさっきのぽややんとしたHMがやってくれた。
 HMにはCDの解析の続きも任せてある。
 護身用に武器も残してあるがとにかくいざとなったら逃げるように詠美ちゃんには言い含めてある。
 詠美ちゃんなら今の繭ちゃんのことをちゃんと守ってくれるはずだ。
 ようやく出発の準備が全て終わった。

 「梓、そろそろ行くわよ」
 「あいよ、千鶴姉」
 私は梓にそう言うとあゆちゃんに話しかけた。
 「あゆちゃん、本当に私達と一緒に来る気なの?」
 「うん。お願いだよ。ボクも連れていって」
 あゆちゃんの目には確かな決意の色が見えた。
 「仕方ないわね、それじゃあ一緒に行きましょう」
 「ち、千鶴姉!?」
 「梓。多分あゆちゃんは一人でも行く気よ。それならまだ私達と一緒に行動した方が安心でしょう」
 「でもさ」
 「お願いだよ。梓さん。ボクも一緒に連れていって」
 あゆちゃんのそのまっすぐなまなざしに梓も折れたようだ。
 「じゃあ、詠美ちゃん、後のことよろしく頼むわね」
 動物達と戯れている繭ちゃんの方を見ながら詠美ちゃんに言った。
 「だいじょーぶ!このくぃーんにまかせて!」
 私達は詠美ちゃん達をその部屋に残すと施設の外へと向かった。
 
250スタートライン(その2):2001/08/03(金) 13:11
(三行空け)
 外に出ると私は手元のレーダーを見た。
 そこにはハンテンダケを持っていると思われる芹香さんの居場所が示されている。
 私はこのレーダーの持ち主だった人の事を思い返した。
 私と秋子さんは思えばかなり似かよっていた。
 私達の根底に流れる物に違いはほとんど無かったはずだ。ほんの少しの違いが今の私と秋子さんの違い。
 秋子さんは私をこの世界に引き戻してくれた。
 私は秋子さんを引き戻せなかった。
 それでもお互いが目指していた方向は同じだった。
 だから私もこれからも自分が正しいと思う道を進もうと思う。
 家族を、守りたいと思える人を守っていく。その為なら私がどうなろうとも構わない。
 私は最後まで足掻き続ける。
 それは秋子さんへと放った言葉。
 それは私の誓い。
 私は改めてそのことをここで誓う。
 それが秋子さんへの、同胞への餞となると思うから。
251スタートライン(その3):2001/08/03(金) 13:12
(二行空け)
 あたし達はようやく外に出てきた。
 何か一ヶ月くらい中にいたような気がする。
 横では千鶴姉がレーダーを見ながら考え事をしてる。
 どうせ、また何か一人で抱え込んでいるんだろうな。
 千鶴姉はいつもそうだ。
 でも、あたし達は家族なんだぜ。
 千鶴姉があたし達のことを大切に思ってるようにあたしだって千鶴姉のことを大切に思ってる。
 だからあたしはこれからも千鶴姉の事を支えていきたい。
 千鶴姉はこれからも何も話さないで一人で何でも抱え込むんだろうな。
 だったらあたしも千鶴姉のことをずっと支えてやるよ。
 でも、こんなことは絶対に千鶴姉には言えないけどな。
 そんなこと言ったら千鶴姉は「そんなことしなくていい」って言うに決まってる。
 だから、これは密かにたてたあたしの誓い
252スタートライン(その4):2001/08/03(金) 13:13
(二行空け)
 雨はすっかりやんでいた。
 やっぱりさっきボクが感じた何かが原因なのかな。
 何か分からないけど、ボク、そこに行かないといけないような気がするんだ。
 ボクは建物の方を振り返った。
 ポケットの中から一粒の種を取り出す。
 それはおじさんがボクに残してくれた物。
 でも、ボクはおじさんからもう一つ大事な物をもらったんだよ。
 ボク、おじさんの気持ちもちゃんとあの時受け取ったから。
 おじさんが言ってた通りにちゃんと生き残るから。
 今までボクのこと守ってくれてありがとう。
 ボク、頑張るからね。
 おじさんがいなくてもちゃんとやっていくよ。
 だから見守っててね、おじさん。
253スタートライン(その5):2001/08/03(金) 13:14
(二行空け)
「それじゃ、行きましょうか」

 −−−彼女たちの胸に秘められた3つの思い−−−

 「ああ」

 −−−その決意を胸に彼女たちは再び歩き出す−−−

 「うん」

 −−−この場所が3人の新たなスタートライン−−−


 【千鶴 あゆ 梓   ハンテンダケ捜索に出発】
 【繭 詠美 ぽち ぴろ そら   施設に残留】
 【千鶴  鉄の爪(左) 防弾チョッキスクールタイプ Cz75初期型 人物探知機 所持】
 【梓  防弾チョッキメイドタイプ H&K SMG2二丁 所持】
 【あゆ  ポイズンナイフ×2 イングラムM11 種 所持】
 【施設残留組  無印CD CD3/4 CD4/4 体内爆弾爆破光線銃 ネコミミヘアバンド
         S&W M10 エアーウォーターガンカスタム ステアーTMP マイク ダイナマイト一本】
254らっちー様江:2001/08/03(金) 21:52
セルゲイです。修正分を書き込みます。
よろしくお願いいたします。

『──Kizuna──_2』より、
葉子の台詞などを該当部分を下記のものに差し替えて下さい。


(自分は本当にこのままで良いのか?〜以下一通り〜)
=> (私は本当にこのままで良いのでしょうか? 自分が命を懸けて救った命が、
 目の前でお互いを殺そうとしているなんて。こんな事が認められるのでしょうか?
 初音ちゃんの真剣な訴えに気圧されて、一度は身を隠してしまったけれど、
 本当に良いの? 私は!? )

「こんなのって認められないわ!!」
=> 「こんなこと、認められません!!」

リネット
=> エディフェル
255姉妹(1):2001/08/04(土) 08:09
お世辞にも優しいとは言い難い苛烈な日射しが、三人に容赦なく照りつける。
先ほどまで降っていた雨が乾き、湿気が肌にまとわりつくような感じがして不快感が増す。
なにより、彼女たちは数時間前まで地下にいた。急に高い温度と湿度の場所に出てしまえば、拭うのも億劫になるほどに汗が吹き出るのも当然だろう。
彼女たちは、寡黙に歩く。聖地に向かう巡礼者のように。
先頭の少女は首から下げているのはサブマシンガン。それを腰だめに構えながら歩く。そして、その後ろを歩く二人も日本で平和に暮らしていれば一生お目にかかることはない銃器を持ち歩いている。
髪がショートの少女が一番前を歩き。その後ろにセミロングの幼女。そして、ロングの女が続く。
真ん中の幼女がときどき、首のストラップに掛けられた丸い機械に手をやる。先頭の少女は前方を、後方の女は側面と背面に警戒する。
突然、正面の丈が長い草が揺れる。
三人は銃を構えながらも散開し、遮蔽物に向かって走る。木の陰に隠れながら何者かが潜んでいる場所を警戒する。
迂闊に発砲することを彼女たちはしなかった。それは、彼女たちが訓練された兵士だからではなかった。
彼女たちの戦いは人を殺すためではない。生き残るためにある。その為には、自分や身内だけではなく、会ったこともない他人も助ける必要がある。だからこそ、無闇な発砲は躊躇われる。
緊張が続く。
草が揺れる音は消えない。
暑さのためではない汗が彼女たちの頬を伝う。拭うことはできない。
銃を持つ手の平にも汗がにじんでくる。
不意に、何かが草の中から飛び出す。
彼女たちは、それに銃口を向ける。

その先には、まるで不思議そうな顔を彼女たちに向けるウサギがいた。
256姉妹(2):2001/08/04(土) 08:11
「ああ、疲れる」
ショートカットの女がそう言って地面にへたり込む。幼女はウサギに何とか近づこうとしたが逃げられてしまい、やはり座り込んでしまう。
ただ、最後尾にいた女は未だに周囲を警戒していた。
「千鶴姉。用心のしすぎだよ」
その言葉が聞こえたからだろうか、やがて千鶴と呼ばれた女は、地面に足を投げ出した幼女の手を引っ張り、立ち上がらせる。
「ボクも梓さんの言うとおりだと思うなぁ」
そう言われた千鶴は苦笑いをする。そして、彼女の手を優しく握ったまま、梓の元に歩いていく。
そして、梓にも手を差し伸べる。梓はそれを握って、起きあがろうとした。
だが、それはかなわなかった。
「何やってるんだよ、千鶴姉」
千鶴は逆に梓に引っ張られる形で地面に転がってしまったからだ。
「うぐぅ」
そして、千鶴が片手を握っていた幼女もまた一緒に転がる。銃が暴発しなかったのは僥倖だった。
自力で立ち上がった梓は千鶴の顔を見るとその異常に気が付き、もう一人の女にここで休憩することを宣言した。

軽い過労、というべきものであろう。千鶴は木陰で軽い寝息をたてている。
極度の緊張の連続。溜まった疲労。それに急激な暑さに体内で温度調整が出来なかった、というのもある。防弾服が温度を発散させづらい、というのも原因のひとつだ。それに、施設内で摂取した毒もまったく効いていないわけでもなく、千鶴の抵抗力を奪っている。
それらの要素が合わさり、現在の症状を引き起こした。だが、若い千鶴なら少し休息をとれば、すぐに元気を取り戻すだろう。
「千鶴さんって、すごいんだね」
空を見上げながら幼女が呟く。
「ああ、うん」
同じく、梓も空を見上げながら頷く。
もし、本人が目を覚ましていたら、梓は首肯できなかっただろう。
「ボクもお姉さんが欲しかったなぁ」
その視線の先には鳶が輪を描いている。
「そう……」
梓は曖昧な返事をしたきり二人は押し黙ってしまった。そして、風が流れる音と鳶が鳴く声しか二人の耳に入らなかった。


千鶴は夢を見ていた。
彼女の大切な妹たちの夢だった。
257姉妹(3):2001/08/04(土) 08:12

どこか薄暗いところに、みんなはいた。
ああ、そうだ、これからみんなで夏祭りに行くんだ。
友達と一緒に行く約束を断ったのはちょっと心苦しいけど。
遠くに見慣れた神社の鳥居が見える。そして、数多くの提灯と盆踊りの櫓も。
お祭りは賑わっている。沿道に連なっている屋台には多くの人で賑わっている。

リンゴ飴。かき氷。たこ焼き。ミニウサギ。ヨーヨー釣り。型ぬき。カルメ焼き。焼きトウモロコシ。金魚すくい。イカ焼き。ひよこ。スーパーボールすくい。おめん。輪投げ。お好み焼き。べっこう飴。射的。

梓は金魚すくいが大好きだ。でも、あまりじょうずじゃないから、なんどもやろうとする。お小づかいが無くなるから、二、三回でやめさせよう。
楓はつめたいものをよく食べる。特にブルーハワイのかき氷は屋台にしかないから、お祭りではかならずだ。食べ過ぎておなかをこわさないよう注意しなきゃ。
初音とは、はぐれないように気をつけよう。まだ小さいし、目をはなすと、どこに行くかわからない。人が多いから手をしっかりにぎろう。

わたしも、なにかやろうかな。ううん、でもいいや。梓のとなりで金魚すくいを見るのは楽しいし、楓といっしょにたこやきを半分ずつ食べるやくそくしたし、初音は……

あれ、はつねがいない。
どこに行っちゃったの? あんなに、はなれちゃいけないって言ったのに……。
ううん、ちがう、わたしがわるいんだ。はつねの手をしっかりにぎっていなかったからわるいんだ。

はつね。
どこ、はつね。
おねえちゃん、おこらないから、帰ってきて。

あ。
はつねだ。よかった。こっちに走ってくる。
手になんか持ってる。おもちゃかな。きっと、あれがほしくって、どこか行ってたんだ。
なんだろう?
鉄砲?
258姉妹(4):2001/08/04(土) 08:16
私は初音に向かい手を振った。
しかし、走ってきた初音は私の横を通り過ぎた。
怪訝に思い、私は振り返る。なぜか、小さいと思っていた初音は自分よりも大きく見えた。
そして、私は信じられないものを見た。
セーラー服を着た楓の胸に初音は拳銃を押しつけ、引き金を引いた。
胸が赤く染まり、定まらない視線を虚空を見ながら楓は倒れる。
驚愕し、目を剥く梓。
私は初音に言葉を投げることも体を動かすことも出来ない。
そんな私を後目に、初音は躊躇もなく梓の額に銃口を向け発砲した。
梓の顔が風船のように爆ぜる。梓の制服が朱に染まる。
そして、私になにか暖かいものが降りかかる。
それが、かつて梓だったものだと理解するには時間が掛かった。
「あっ……ああ、あ」
私の口からはただ呻き声が、形になった言葉が出てこない。
血溜まりの中に倒れている楓。
首から赤い噴水を流す梓。
「本当は、私の方が偽善者なんだよね……」
初音は私に銃を向けながら、そう呟く。
「は、はつね。あなた、なにを……」
動転した私の問いに耳を貸さず、朗々と初音の声は続く。私が今まで聞いたことがない、冷たい言葉を。
「大切だった人を殺され、その人の思いを叶えるために同じくらい大切な人たちを殺したの……」
「な、なにを、言ってるの? 初音」
寒い、体が震える。これは恐怖? なぜ? 初音が?
冷たい風が初音の方から押し寄せて来る。そして、私は見てしまった。初音のその目を。
それは狩猟者の目、だった。
「ソシテマタ、ツライ、ヘイワナヒビヲ、スゴスノ……」
259姉妹(5):2001/08/04(土) 08:20
「千鶴姉。千鶴ねぇ!」
急に呻き声を発した千鶴に驚き、梓は体を揺り動かす。
やがて、ゆっくりと目を覚ました千鶴を見て、心の底から安堵する。
「どうしたの? 千鶴さん。すごい汗だよ」
千鶴は自分の体を見回す。首筋や脇の下にかなり汗をかいている。
梓はバックからタオルと水を取り出し、千鶴に渡した。
「で、千鶴さん。どっか体の調子が悪いの? あの、もしかして、ボクが、ボクが……」
両手をふさがれながら、千鶴は、その泣きそうな頭を優しく抱いて、大丈夫よ、と言葉を投げる。
「じゃあ、なんか変な夢でも見た?」
意地の悪い笑みを浮かべ、梓はそう言った。だが、その問いに千鶴は曖昧な返事をした。さすがに、あなたが死ぬ夢だとは言えるわけがなかった。

夢。
たかが、夢。
だが、夢だと一笑に付して片づけるのは簡単だ。だが、それが一部真実を含有することがあることを、千鶴は耕一の経験則上から知っていた。
そして、初音の言葉もかつて、自分に投げられていたものに似ていることも覚えている。
千鶴は自問する。では、どうするか? 初音に会いに行くか?
いま、千鶴が初音に会っても事態は好転するとは思えない。だが、このまま嫌われたままではいたくはない。
だが、芹香に会いに行くという目的を放り出すわけには行かない。繭たちも自分たちの帰りを首を長くして待っている。

「……千鶴姉」
「千鶴さん……」
思考の淵に入ってしまった千鶴に二人は心配げな顔を向ける。
千鶴は幼女から丸い機械を借り受けて、あらためて、芹香と、耕一、初音の位置を調べる。
そして、千鶴は立ち上がり、二人に目的地を告げた。
260姉妹作者:2001/08/04(土) 08:33
【千鶴  鉄の爪(左) 防弾チョッキスクールタイプ Cz75初期型 人物探知機 所持】
【梓  防弾チョッキメイドタイプ H&K SMG2二丁 所持】
【あゆ  ポイズンナイフ×2 イングラムM11 種 所持】



今回は127話、390話、409話が参照です。
どのぐらいの時間が経ったかは次の書き手さんにお任せいたします。

もちろん、所詮、夢ですのでこのエピソードを放置するのも可です。初音に会いに行っても
どうしようもない目算は高いですから。
発信機は、適当な穴に紐でも通して首からかけていると思ってください。
261相似性(1):2001/08/04(土) 09:56
 風に揺れる枝葉越しに感じる。
  厳しい表情と、冷えた拒絶の意志。

 振り向かなくても解る。
  トーンダウンしたその声と、鋭い殺気。

「……」
「おっさん、どういうつもりだ?」
「叔父様…」
両手をあげた叔父様と銃を持った往人の、ちょうど中間で私は立ち止まっていた。
いや、前後から感じる圧力に挟まれて、どこにも動けなかったと言ってもいい。
ただその名を問うだけが、私にできる全てだった。

「…叔父様?」
「……?」
叔父様は、少々の疑問を含んで私の名前を呼んだ。
今の私に疑問を感じるということは、私を知っている人物であることを証明している。
そこには何の感動もなく、ただ事実を確認するだけの響きがあるのみだったけれど。

がちゃり、と銃器の金属音が聞こえる。
「芹香、その髭親父は-----叔父様なんて、上品なもんじゃない」
「あなたに何が解るというの!?」
往人に否定されたのが苛立たしい。
だから私は、重ねて問う。
「叔父様!?」
「……」
答えは”去れ”と一言だけ。
否定も、肯定もない。

 
262相似性(2):2001/08/04(土) 09:58
「ふん…あんたが芹香の何だろうと、だ。黙って去れるわきゃ無ぇだろうが。
 …あんたいたいな奴を、放っておくわけには、いかないんだよ」
再び殺気が迸り、往人が狙いをつけたのが感じられる。
二人の間に何があったのだろう?
黒く横たわる、怨恨の溝の深さは私に計れる物ではなかった。
「どうして?どうしてよ!?」
叫び、振り向いた私の視界に入ってきた往人の表情は、驚くほど叔父様に似ていた。
もちろん髭もないし、顔つきは全然違う。

 それでも、似ていると思ったのだ。
 どちらも初めて見る、恐ろしく厳しい顔だった。

「……」
「芹香、どけ」
二人は同時に、発言した。

叔父様と、往人を交互に見ると、射線の半ばに私の頭があることが解る。
「どかないわよ!!」
意地ではなく、憤りがそう叫ばせる。
往人から返ってきたのは、食いしばる歯の隙間から漏れた、冷たい怒りの声だった。
「…どういう手段を使ったのかは、まるで解らん。
 だが間違いなく、俺を撃ったのは…お前の”叔父様”なんだよ」
「-----そんな!?」
「お前にも見えてただろうが!
 そこの茂みに、ライフルを隠していたのをよ!!」
往人の怒りが弾ける。

「……」
否定も肯定もなく。叔父様の警告が聞こえる。
ただ”去れ”と。
それに対して往人が、荒ぶる意志を押さえて尋ねる。
「どういう心境の変化だ?
 何を見ていた知らないが、なぜ俺を撃たなかった?
 どうせお前らは、皆殺しがお望みなんだろう?」
263相似性(3):2001/08/04(土) 09:59


 …返事はない。
  その問いが、宙に浮かぶ。


「往人…やめてよ…」
私は彼を咎めることしかできない。
だから彼に声をかけようとした。

動きで沈滞を破ったのは、叔父様だった。
往人がびくり、と銃に緊張を伝えたのが見え、どうにか発砲を抑えたのが解る。
叔父様は静かに手を上げて、遠く櫓の方へ指をさしていた。

 「……俺は、あの少年を殺す」

あとは、お前の好きにしろ。
そんな風に続ける。
叔父様がはっきりと話すのを、私は初めて聞いた。
それだけ言うと、驚く私と途惑う往人を無視して振り向き、再び茂みに入っていく。

「あの…少年……って?」
私には何の事だかまるで解らない。
櫓の人影も、はっきりとは視認できない。
しかし往人には見えたのだろうか。
何かを悟ったらしく、厳しい表情を崩さないまでも、緊張を解き始めていた。

銃を下ろし、そして叫ぶ。
「…あいつは…あの小僧は、何者なんだ?
 何故あんたは、あいつを付け狙うんだ?」
叔父様は立ち止まり、少しだけ考えてから、背中越しに答える。
「……」
 
264相似性(4):2001/08/04(土) 10:00
私たちに向けて、話題が飛躍したような答えが返ってきた。
「…神奈備命の長き腕?」
「ああ?神奈備命?そいつはなんだ?
 そんなんで納得できると思ってんのか!」
往人が叫ぶ。
当然、私にもさっぱり理解できない。
「……」
「翼を広げ魂を啜るもの?」
「普通に話せ!普通に…ちょっと待てコラ!」
往人が更に声を荒げる。

「あんた”翼”と言ったか?まさか、白い翼のおっかねえ女だ、とか言うなよ!?」
そうだ、あれは夢の話のはず。
抽象的なイメージだと思われたそれが、唐突に現実味を帯びてきたため、往人と私は途惑う。
叔父様が若干驚いた顔をして体ごと振り返り、小さく、だがしっかりと頷く。
「……」
「”翼人”神奈備命の分身…?」
「マジか」
…その時点で私には解らなかったが。
往人が夢の中で見た”翼人”と、木の上に転移する直前に出会った”少年”という存在から
受ける威圧感は、どちらも同じ物に感じたために、往人の理解は早かったらしい。

往人の理解を感じたのか、叔父様は再び踵を返し、歩を進め茂みに入っていく。
「おっさん!もう一つ教えろ。
 …あいつは、何をしようとしているんだ?」
また足を止め、背中越しに振り向く。
今度は、私の方を見る。
「……」
「神奈を滅ぼす”魔法使い”を…狙っている?」
「おい、魔法使いって…」
私は往人と顔を見合わせる。
話題の輪から弾き出されていたと思っていた私が、知らないうちに中心に据えられていた。
 
265相似性(5):2001/08/04(土) 10:02
「叔父様、さっきの閃光はやっぱり魔法なのね?」
「つまり、あの小僧は羽根女の子分って事か?」
二人同時に発した疑問に目だけで頷いて、茂みの中からライフルを拾う。
叔父様と往人が、私を挟むように銃器を手にして相対する。

だが二人とも、既に先ほどのような殺気は帯びていなかった。


「最後に、ひとつだけ教えろ」
往人が脱力しながら、溜息混じりに尋ねる。
「…あんたが、俺たちの背中を撃たないって保証はあるのか?」
問いを受けて、叔父様はただ片眉を上げた。
そしてにやり、と笑い肩を竦める。
往人も笑う。
「…負けたぜ、おっさん」
僅かに歯を見せながらも、口唇の片端だけを吊り上げた、悪人笑い。
私だけをのけ者にして、二人はいつの間にか手を組んでいたのだ。
その目的は、ただひとつ。

 『……俺は、あの少年を殺す』
 それは、私の知らない叔父様。
 そして、私の知らない往人。

呆然とする私を残し、叔父様は木に登り、往人は林を出て櫓の方へ歩いて行く。
「……どうなってんのよ…?」
そこに答える者は、誰もいない。
釈然としない気持ちに不満を募らせて、私は往人を追いかけることにした。
「もう、待ちなさいよ!!」

 風が、吹いている。
 揺れる木々の囁きの中に、叔父様がいる。

 そして先行く往人の、遥か向こうに。
 ようやく私にも、人影が見えた。
266名無したちの挽歌:2001/08/04(土) 10:10
【国崎往人、フランクと少年打倒に向け共闘】
【国崎往人 来栖川芹香 櫓へ】
【フランク 再び樹上へ】
※注意すべきは、フランクの狙撃は櫓まで届かないことです。
それに往人が気が付くかどうかは、微妙なところです。
※また少年が往人を見つけるかどうかも、今後の展開に大きく影響するでしょう。
267名無したちの挽歌:2001/08/05(日) 00:06
えーと、申し訳ありませぬ、またもや修正をお願い致します。

>>262
 二行目の「…あんたいたいな奴」を「…あんたみたいな奴」に修正。

>>266
 ※印一個目の「櫓まで届かないことです」を「櫓の距離だと確実性が無いことです」に修正。
268侵食、『痛み』 (1):2001/08/05(日) 05:06
「大丈夫?郁未さん」
私、観鈴の問いに郁未さんは、軽くうなずく。
でも、すごく痛そう。ひどいケガだもん。普通だったら、歩く事だって出来ないと思う。
でも、郁未さんの足取りはしっかりとしていて、視線も口調もしっかりしていて。
すごいな、って思う。私だったら、絶対くじけてる。
私たちは今町にむかっていた。
郁美さんて言う人の初期武器が救急セットだったおかげで、応急処置だけは出来たんだけど、やっぱりそれだけじゃ足りないもん。もっとちゃんと治療しないと。
ほんとに、それぐらいひどいケガなんだよ、郁未さん。
私、心配になってもう一度声をかける。
「ねぇ…少し休んだほうがいいんじゃないかな?」
「必要ないわ」
郁未さんの声はそっけなくて、観鈴ちんちょっと落ち込み。
郁未さん、私のそんな様子に気付いたみたいで、
「本当に必要ないの。それに、早く落ち着ける場所を探したほうが安全だしね」
ほんのちょっぴり優しい声で、そう続けてくれた。
そういうときの、郁未さんの目は優しくて暖かい。
うん、郁未さん、いつもそんな目をしてくれてたらいいのにな。
でも、そういう目をしてくれるのはほんのちょっぴり。
すぐに、怖い目に戻ってしまう。
その目は何かをにらみつけるようで。何かに抵抗しているようで。
すごく強い視線なんだけど、その視線には、なんていうかな、余裕がないよ。
そう、それは綱渡りをいている最中、そんな視線。
表情は無表情なのに、目だけはぎらぎら光ってて、…正直、ちょっと怖い。
269侵食、『痛み』 (2):2001/08/05(日) 05:07
「郁未さん…」
「ん?」
「何か、思いつめてるのかな?」
「別に」
か、間髪入れない即答に、観鈴ちんびびり。
け、けど、ファイト。
「あの、郁未さんてとってもしっかりしていて、すごいと思う。だけどね、」
にははって笑ってみる。
「何か辛いことがあったりしたなら言って欲しいな。そしたら、楽になるかも」
「…辛いことね」
フッと一瞬だけ、郁未さんが笑ったような気がした。
「ほら、ケガだって痛いんだったら、頼って欲しいな。私のこと。観鈴ちん、結構頼りになるかも」
「…頼りになるの?」
が、がお。郁未さん視線が冷たいよ。
「な、ならないかな?やっぱり。でもね、なにか思いつめてることがあっったら、吐き出しちゃったほうがいいと思うんだ。お母さん、そう教えてくれたんだよ」
「お母さん…か」
けど、郁未さんは何かを嘲るようなの笑みを浮かべるだけだった。
270侵食、『痛み』 (2):2001/08/05(日) 05:08
(2行あけ)
実を言えば、この子が心配していることは的外れだった。
怪我はそれほどには『痛く』ない。
いや、この言い方には語弊がある。
痛覚はある。足を動かすたびにある感覚が情報として脳に伝達されている。
だが、それは辛くない。苦しくない。感覚に付随するはずの感情が極端に薄れてしまっている。
それは、ほとんどただの情報だ。
私が『痛み』にさほど邪魔されることなく歩けるのはそのおかげだった。
そして、私から消えようとしているのは感覚的な『痛み』だけではなかった。

観鈴から放送のこと、由依が死んだことを聞いたとき、私は泣くと思った。
泣くのをこらえなきゃいけないと反射的に思った。
…けどその必要はなかった。涙腺なんてまるで刺激されなかった。
悲しくなかったわけじゃない。けど、それは予想していたよりもずっと弱くて。
しかも、今やそのときの悲しみすら薄れてきてしまっている。
まるで、何かのお涙頂戴な映画を見た後。そんな感じ。

(ゴメン、由依)

本当にすまないと思う。でもそれが真実で。
晴香の事もそう。本当だったらもっと心配しなくちゃおかしいはずなのに。
水瀬秋子のことも放送に流れていたらしい。
あの時感じた彼女に対する怒りや憎しみも、もうどんなものか思い出せない。
そう。思い出せない。
水瀬秋子との戦いも、
どんな風に殺しあったかも
由依との出会いも、
どんな風に笑いあったかも、
もう思い出せない。
記憶は確かに残っている。だけどそのとき感じた感情は別の人間のもののようで。
消えていく、薄くなっていく、飲み込まれていく。
私が私であるためのものが消えていってしまう。
そして、その隙間に呪詛が流れてくる。
侵されてしまう。犯されてしまう。あいつが経験したように。
それが、侵食だった。
271侵食、『痛み』 (3):2001/08/05(日) 05:09
(2行開け)
「辛いことね…」
だから、私は自嘲した。
あいにくだけどね。観鈴、私のそういう『痛み』は薄れていってしまうみたいだよ?
まだ、辛い。
お母さんのこと、あいつの事を考えるのはとっても辛い。
まだ、苦しい。
お母さんのこと、あいつのことを考えるのはとっても苦しい。
まだ、悲しい。
お母さんのこと、あいつのことを考えるのはとっても悲しい。
けれど、

―――――好都合じゃない。

『痛み』が消えてくれるなら。それは好都合だ。
『痛み』なんて戦いには邪魔なものだ。
呪詛ならば耐えられる。
さっきは負けてしまったけれど、戦う対象さえわかっていれば私はきっと耐えられる。
私は強いから、お母さんが言った通り私は強いから。
『痛み』なんていらない。感傷なんていらない。
私に必要なのは意志。戦うために必要な意志。

『だから、あなたを助けるわ。それが出来ないのなら、あなたを殺してあげる』

その約束を守るための意志。
このまま侵食が続けば、きっとあいつを、姫君を感じ取れるときが来るだろう。
今、この胸にある感応がもっとはっきりとしたものになるだろう。
そのときが勝負だ。
そのときまでは決してこの意志だけは消させない。
272侵食、『痛み』 (4):2001/08/05(日) 05:11
「なにか思いつめてることがあっったら、吐き出しちゃったほうがいいと思うんだ。お母さん、そう教えてくれたんだよ」
「お母さん…か」
私のお母さんはそんなことは言わなかった。
強くあるように。お母さんが私に願ったのはそういうこと。

―――――どうしてなんだろう?

ほんのちょっとだけ、どうしようもなく醜い感情が私の胸に突き刺さる。

―――――どうしてこの子は守ってもらえるんだろう?母親に、恋人に。
―――――どうして私は守ってもらえないんだろう?誰も、誰も。
―――――どうして、なんだろう?

それは、本当に醜い感情で、なのに、それなのに、
「ね?ダメかな?郁未さん」
「…大丈夫よ。観鈴。思いつめてなんてないってば。でも、ありがと」
なぜ、私は、この子に優しい言葉をかけているんだろう?

―――――『痛み』なんてなくなるはずなのに、
―――――どうしてこの子に癒されていると感じてしまうのだろう?

【郁未&観鈴、救急セット、ベネリM3、G3A3アサルトライフル等フランクの荷物
 の荷物、少年の荷物、自分の荷物所持】
273女と女の子 1:2001/08/05(日) 16:31
「ねえ、郁未さん少し休もう?」
観鈴はもう泣きそうな顔でそんなことを言ってきた。
本当に必死、といった感じ。
だから私はしょうがなく
「…五分だけよ」
とため息まじりに言った。

腰を下ろしてからも私はどうしてこの子に癒されていると感じてしまうのか、このことをずっと考えていた。
やっぱり家庭環境が原因だろうか?
観鈴の母親は見たところ若かったけど、本当に娘のことを大事に思っていた。
そして、観鈴も母親のことを大事に思ってる。
何かが私とは違う、幼い子供を残して宗教団体へ蒸発した母を持つ私とは。

なんか、二人が、うらやましい。
ちょっと、困らせて、やりたくなった。
だから、いじわるな質問をしてみた。
「ねえ、観鈴って処女?」
274女と女の子 2:2001/08/05(日) 16:32
観鈴は私と同じ17歳だけど、もう男の人とベットに入ることを日常としている私と違い、
まだキスもしたこともないらしい。
だから、そのベットの中の話までしてしまうと、顔を真っ赤にして壊れたように、
「が、がお…」
とわけのわからない言葉を言って俯いてしまった。
それに加えて性の知識も無茶苦茶だった。
女性器を観音様とか言ったのは驚いた、聞けば母親にそう教えてもらったという。
おかげで私は一から性教育を教えねばならなかった、それに加えて少々ベットの中のテクニックも。

「…は、初めての時ってどうだったの?」
観鈴は顔を真っ赤にしながら聞いた。
「忘れたわ」
「…ど、どして?」
「だって今の私にとってはどうでもいいことだもの、覚えてるのは名前だけ、それだけのことよ」
何故か涙がこぼれた、痛みを感じないはずなのに。
けど、それはその時のことを思い出してではない。
――そう、今の彼氏、アイツのための涙。

「大丈夫、生きてるよ。
あなたとわたしの好きな人は」
気がつくと、観鈴はそう言いながらハンカチを私に差し出していた。
自分もつらいだろうにそれを押し隠しながら。
どうやら観鈴は私より少し大人らしい、まったく処女のくせに。

呪詛も姫君も家庭環境も何も関係ない。
私はこの子自身が好きで、だから癒されている。
275女と女の子 3:2001/08/05(日) 16:33
「あなたの彼氏は幸せね。」
私がそういうと観鈴は無邪気な笑顔で、
「うん、わたしが男の人なら郁未さんのこと好きだよ」
今度は私が赤くなる番だった。

しかしすぐに状況は変わった。
元、パンツ無しスカート男。
現、包帯男を私が見つけてしまったからだ。

【郁未 耕一を発見】
【郁未が耕一をどうするかは次の書き手さんにおまかせします】
276女と女の子の作者 :2001/08/05(日) 16:34
書かせていただきました。
矛盾等の指摘よろしくお願いします。
277微笑と嘲笑(1):2001/08/05(日) 20:39
開いた窓から吹き込む風が、おざなりな掃除を咎めるように埃を巻き上げる。
空気が入れ替わり差し込む光が明るく、暖かい。
放送室は、今までと同じものとは思えないほど希望に満ちていた。

マイクの前に立つ蝉丸に、ぶらさがるように月代が抱きついている。
「(・∀・)蝉丸、ドキドキするね!」
「うむ。
 これが生き残った者たちの、脱出へのきっかけとなる事を祈るばかりだがな」
遅れて入ってきた少年が、部屋の荒れ様に少々驚く。
「これは・・…凄い有り様だったのだね」
「(・∀・)うん、たーいへんだったんだよ!」
「しかも、お互い機械には疎くてな…難儀したよ」
成功者のみが持ち得る達成感を胸に、苦労話など漏らしてみる二人。

「仲間で機械に詳しい人物はいなかったのかい?」
月代の誇張に満ち満ちた大冒険を片耳に任せて、少年は蝉丸に話を振る。
「居る事には居たのだが…放送することで居場所は知れてしまうため、死の危険を呼び込むことにもなりかねん。
 もしもの時、俺の死を知らせるために月代に同行してもらったのだ」
大真面目に答える蝉丸。

(…ふうん、なるほどね…)
少年は意外に思いながらも、蝉丸と月代の関係を修正した。
そして、心に秘めていた計画も修正する。
(…思ったより、楽かもしれないね)
蝉丸という人物から受ける印象は、有能さに裏付けられた人間的迫力の強さだ。
だが、もしも。
この少女を失った時、心の動揺はいかばかりだろうか。
以前遭ったときは、そうした効果は期待できない程度の関係だったように感じた。
-----もちろん少年自身が、そんな効果を求めてもいなかったのだが-----今は違うと見た。
一方的な庇護ではなく、互いの間に信頼が成立しているようだった。

 
278微笑と嘲笑(2):2001/08/05(日) 20:40
「…あそこに…端っこだけだけれど…見えるのが、学校なんだ。
 ホラあそこ。解るかい?」
開けた窓の隅に、特有の白く巨大な建物が見える。
ベランダが無く、規則的に大きく窓が開いているのが見て取れる。
「なるほど、たしかに市街地からなら、山側を見て左だな」
蝉丸がスピーチに含める時のために、簡潔にまとめる。

「それで放送が終わったら、どうするんだい?」
少年はいつもの調子を崩さず、何気なく尋ねる。
「(・∀・)終わったらって?学校、行くんじゃないの?」
「無論、学校へ向かう」
二人同時に答える。
聞いた少年は、思わず心の中で苦笑した。
(…これほど共鳴しているとはね)

「街中に居るという君たちの仲間には、小学校に集まることにした訳を説明に行かないのかい?
 君たちを知ってる人であるほど、集合場所を小学校へしたことを不審に思うかもしれない。
 少なくとも僕なら、どうして君たちから小学校という発想が出てきたのかを、疑うね」
「(・∀・)…あ」
「む」
またも二人で答える。
心の中の笑いを収めず、少年は畳み掛ける。
「方向が違うから寄り道するのは効率が悪いし、学校を偵察する必要があるかもしれない。
 最初の予定通り、月代さんにメッセンジャーをやってもらっても構わないとは思うけど…一人は危険かもしれないよ」
「うむ……確かに、そうだが…」
蝉丸が言い澱む。
先のことを考えれば、この反応は当然なのだ。
地下施設の時も蝉丸は慎重だったし、少年の事を気にかけていたから。

「大丈夫、僕は一人で学校を偵察するよ」
最後の一押し。
いつもの微笑を浮かべて、そう言いきる。
(ちょっとした、賭けだね)
失敗したら、放送直後に背後から蝉丸を襲うしかない。
成功すれば…二人同時に相手にする必要がなくなる。
(さあ、どうするかな?)
279微笑と嘲笑(3):2001/08/05(日) 20:41


しばしの沈黙ののち、蝉丸が意を決して口を開く。
「いや…いつも君だけに危険な役を任せるわけにはいかない。
 君だってずいぶん傷ついているじゃないか」
「うん?これかい?
 …少々、無理もしたからね。
 これくらいは、必要経費というものだよ」
(我ながら…しらじらしいね。
 もともとの僕が、こういう口調で助かったよ)
成功を確信しながらも、少年は肩をすくめながら返答する。

「今度は、俺が行こう」
蝉丸は決定を印象付けるように、はっきりと言った。
…この答えは、少年の予想通りでもあったのだが。

「(・∀・)え!?
 でもでも、みんなは、彼のこと知らないよ?」
ちょっと寂しそうに、控えめな不満を漏らす月代。
「いや月代、お前も彼と一緒に行ってもらう。
 …少年、月代を頼めるか?」
「(・∀・)ええー!?」
蝉丸としても、月代と別れたくはない。
だが心構えとして心に留めている自らへの厳しさが、そうした甘えを許さなかった。
自分に。
そして今は-----月代にも。

 外に微笑を絶やさず。
 内に嘲笑を含んで。

 少年は答える。

「ええ-----こう見えても、腕には自信がありますから-----」

 
280名無したちの挽歌:2001/08/05(日) 20:45
放送直前にひと挟み。
「微笑と嘲笑」です。

少年は月代を戦力として認めていませんが、蝉丸と月代の絆から起こりうる
イレギュラー(かばうとか、予想外の粘りとか)を考慮して、分断を狙っている
のです。

分断後も、もちろん蝉丸と正面から戦うつもりはありません。
281導く声<前編>(1):2001/08/06(月) 07:45
ガピィーーーーーーーーーガガ・ガ!!
櫓の頂上に設置された巨大なスピーカーたちが、共鳴と接続音を撒き散らす。
隣の室内では、緊張した面持ちで3人の男女が声を抑えていた。

『島内に生き残る、全ての善意ある参加者たちよ!!
 聞いているだろうか?
 俺は坂神蝉丸。
 最初に断っておくと、管理側の者ではない。
 諸君らと同じ、被害者である参加者だ』
「(・∀・)蝉丸、かっこいい…」
「ぼくにはできない演説だね」

『もはや体内の爆弾に危険は無く、我々の同志は管理側の拠点に攻め入ることさえ始めている!
 参加者同士で殺しあう愚を悟り、今こそ手を組んで立ち上がるときなのだ!
 怯え隠れる者も!
 後悔を胸に血塗れた腕を抱く者も!
 仲間と共に脱出を願う者も!
 全ての者を、俺は歓迎する!!』
「(・∀・)なんか決めた内容より、すっごく熱いね」
「この情況でのアッピールは、過剰なほど効果があるかもしれないね」

『繰り返す!
 俺は全ての者を歓迎する!
 今こそ我々は手を組んで立ち上がるべきなのだ!!
 我が意に賛同する者は、学校に集って欲しい。
 そして我らが希望に反する者どもよ、決着をつけようじゃないか!!
 現在俺と志を共にする仲間は…』
「(・∀・)…そう言えば、敵も来るかもしれないんだね」
「君は……気付いて、なかったのかい…?」

『学校は、市街地南部に広がる山の東側にある!
 街から山を見て、その左だ。
 繰り返す……』
 
282導く声<前編>(2):2001/08/06(月) 07:46
一気にまくしたてて、さすがに息を乱した蝉丸が振り向く。
『…ふう』
『(・∀・)せみまるっ!』
離れていた月代が駆け寄り、少年がその後を追う。
『(・∀・)お疲れさまっ!』
『もう一言、魔法使いの件もお願いできるかな』
『ん?…ああ、済まん、そうだったな』
やはり自分の意志から出た物でない情報は、忘れがちなのだろう。
蝉丸は苦笑して、改めてマイクに向き直る。
『(む…電源を入れたままであったか…)
 あー…追加の情報だ。
 集合にあたって現状の打破のため、諸君にお願いがある。
 恐らく既に知らぬものはいないだろうが、我々の中には多くの異能者が存在する。
 中でも現在求められているのは”魔法使い”だ!
 心当たりのある者は、是非とも名乗り出て欲しい。
 その知識と、能力に期待する!』

蝉丸は今度こそ全てを語り終え、電源を切った。
これで当初の目的は達成されたということだ。

「では早速、移動するとしよう」
「そうだね。
 ”敵”が音源を聞きつけて、ここに来る可能性も無視できないからね」
真っ先に少年が外へ向かう。
(…お別れの時間くらいは、残しておくよ)

 少年の顔は、いつものように笑っていたのだろうか。
 それは、誰も知らないことだ。

 少年自身にすら、解らなかった。

 
283導く声<前編>(3):2001/08/06(月) 07:46
月代が蝉丸を見上げ、その袖口を掴んだまま、ぽつりと呟く。
「(・∀・)…蝉丸……」
「月代、そんな声を出すんじゃない。
 初音君やマナ君をはじめとして、他の皆と思えば俺たちはよほど幸運だろう?
 その幸運を、全ての参加者に分け与えるつもりで、俺はここに来たんだ」
いつになく多弁な蝉丸。
演説気分が残っているのかもしれない、そう思うと口元が緩んでくる。
それがなんだか照れ臭くて、月代は下を向き、こくりと頷く。
「(・∀・)…うん」

「大丈夫、すぐに会える」
「(・∀・)…うん」
照れ臭いだけのはずなのに。
何故だか涙が出そうになる。

「心配、するな」
「(・∀・)…うん」
「皆で帰るために、俺はこうしている。
 もちろん、俺とお前も、一緒に帰るんだ。
 …そうだろう、月代?」
「(・∀・)…うん」
蝉丸の言うことは間違っていない。
それでも涙が止まらなくって。
月代は、思わず蝉丸に抱きついていた。

「(・∀・)蝉丸……学校で、会おうね」
「ああ、学校でな…」

 
284名無したちの挽歌:2001/08/06(月) 07:59
【坂神蝉丸 学校へ】
【三井寺月代 少年 療養所へ】
※前編で重要なのは、放送のスイッチを切り忘れたことで、少年の存在も知れたと言うことです。

連作ですが、このまま続けさせていただきます。
285導く声<後編>(1):2001/08/06(月) 08:00
丸く狭い視界が、左右に揺れる。少年が、ついに動き始めたからだ。
「……」
スコープ越しに五人の行動を監視しつづけたフランクは、気持ちを入れかえて再びライフルを構えなおす。
放送に足を止め相談していた芹香たちも、再度動き始めようとしている。

放送施設から出てきた三人は、二手に分かれて行動することにしたようだ。
男が一人、こちら側へ向かってくる。
はずれだ-----少年は、市街地の中へと向かっていく。
「……」
人知れず悪態をつき、木から飛び降りる。
このまま林の中を迂回して接近し、市街地で改めて狙撃するしかない。
幸い少年に同行する少女のに合わせてだろう、移動速度は極めて遅い。
無謀な攻撃は避け、ひたすら位置取りを考えるべきだ。
思考が沸騰しないように自分を戒めながら、フランクは林の中を駆け抜けていった。


遠く櫓の方から歩み寄る影を見つめ、芹香は尋ねる。
「…あれが坂神蝉丸さんってわけ?」
「当然、そうなるな。
 用事があるのは…あっちの小さい方なんだけどな」
つまらなそうに遠くを見ながら、往人は言った。
いや、苦々しい顔と言ったほうがいいだろうか。
「……どうしたのよ、渋い顔して」
「ふん…考えてもみろ。
 露骨に魔法使い探しを挟むように要求されて、素直に受けてただろ。
 あの坂神ってのは、小僧を信用しているんだよ」
「たしかに、そうなるわね」
当然の分析に、素直に頷く私を、往人は呆れ顔で見つめる。
「…下手すりゃここで、殺し合いになるだろうが」
 
286導く声<後編>(2):2001/08/06(月) 08:01
-----考えてもいなかった。
放送を聞きながら、往人から教えてもらった少年の凶暴性は、にわかに信用できる物ではない。
遠くで少女を道連れに歩く姿からは、全く想像がつかなかった。
私がその話を信じる気になったのは、叔父様と往人の態度が一致しているからに他ならない。
「そっか…普通にしている限り、相手にボロは出ないのね…って、どうするのよ!?」
「林を背にしているとは言え、向こうもそろそろ、こっちに気が付いているかもしれんな。
 不自然な話だが…街に用があるとでも言って、すれ違うしかないか?」
「…あからさまに怪しいわよ、それ」
「くそ、やっぱりか。まじいぜ…」

進退窮まった、というところだろう。
この情況を覆すことができるのは、皮肉なことに敵とみなした少年だけなのだ。


蝉丸と別れてすぐに、月代と少年は市街地のはずれを歩いている。
「ここから遠いのかい?」
「(・∀・)ううん、そんなでもないけどね」
ふうん、と無感動に答える少年。
実際、特に興味はない。蝉丸の仲間達には魔法使いがいないことは判っているからだ。

「…ところでそのお面だけど」
「(・∀・)…うん?」
「どうあっても、取れないのかい?」
「(・∀・)うん…色々試したんだけど…」
それは残念だね、と少年はそう言いながら本を開く。

仮面とその本に、関係でもあるのだろうか?
そう思って月代が覗き込む。興味津々というやつだ。
「なあに、その本?」
「…いや、これで仮面を外せないかと思ってね」
ぴり、と少年がページを破る。
 
287導く声<後編>(3):2001/08/06(月) 08:02
月代にとっては、何のことだかさっぱり解らない。
どうしてページを破く必要があるのだろう?
「(・∀・)なんで…?」
そう尋ねようとした月代に、少年が言葉をかぶせる。
「…最期くらいは、綺麗に死にたいだろうからね」
「(・∀・)…え?」

 驚き、見上げたその眉間に。
 すとん、と硬質化した紙片が突き立った。

「(・∀・)…!?」
かくん、と右膝の力が抜けて、斜めに倒れこむ月代。
ぱかり、と割れ落ちる仮面。

しかし紙片は、そのまま彼女の顔から離れることはなかった。


どさり、と重い音が響いて、少女が倒れる。
割れた仮面を拾うと、少年は蝉丸の姿を求めて移動する。
「少々、忙しくなるね」
市街地から出て林側を観察する。
まだ林には入っていないはずだ、そう思いながら遠くを見る。

蝉丸を探しながら、少年が無意識に割れた仮面を重ね、左手に持ったその時。

 『蝉丸……』

声が、響いた。
先ほどの放送にも劣らぬ、大きなささやき。
そして声の主は、もはやこの世にいないはずの月代。

 『…ごめん、学校…行けないよ…』
288導く声<後編>(4):2001/08/06(月) 08:03

少年は驚き、左右を見る。
いや、原因は手の中にあった。
「そうか、この仮面は…」

 『…せみまる…』

この仮面は、人格操作か何かの研究用に教団によって作られた物だったのだろう。
今や仮面自体に、月代の意識が投影されている。
「…ご同類ってやつだね」
擬似人格を貼り付けられた自分とは、親戚のようなものだ。

 『…さよなら』

ぱきん、と小さな音がして、仮面が砕ける。
握り締めた少年の手の中で、外れた仮面はプラスチック板のように簡単に割れていた。
(もしもこの仮面を、僕が付けていたなら。
 …もう少し長く、郁未と居られたかもしれないね)

ようやく、蝉丸がこちらへ走ってくるのが見えた。
仮面は、もはや何も話さない。
溜息をついて、少年は苦笑いをする。
自分が何を求めているのか、解らなくなってしまった気がする。
(…考えている暇はないね)

少年は蝉丸の進路を予想し、月代の遺体より先に発見できるように仮面の破片を置いた。
そして建物の影に隠れ、蝉丸の到着を静かに待つ。

 彼女の死を確認した瞬間こそ。
 その一瞬こそが、彼の隙となるだろう。

 
289名無したちの挽歌:2001/08/06(月) 08:08
【三井寺月代 死亡】

【残り21人】

※蝉丸は仮面の声を聞いて、その方向を頼りに接近しています。
※往人たちと遭遇したかどうかは不明。
※フランクは蝉丸より遅れるでしょうが、往人たちより早く少年を視界に納めるかもしれません。
290日々。:2001/08/06(月) 10:15

「耕一さん」
思わず呼びかけてしまったのは――何故だろう。
自分たちには時間がない。大切な人を早く探さなければならないのに。
それは、きっと――彼の様子が、以前見た時とまったく違う、そんな印象を醸し出していたからだろう。
「――郁未、ちゃん?」
振り返った耕一の顔は、確かに耕一の顔なのに、まるで違う生物が耕一の顔をしているかのように感じてしまう。
右手には銃。左手にはナイフ。そして、ぐるぐる巻きにされた、包帯。
まったく、どうしようもなくグルグルだ。ミイラ男。聖水をかけたら一撃死しそうな程だ。
え? 聖水? あはは、勿論ここで言う聖水って言うのは……って、ゲフンゲフン。
ごめんなさい、女の子が妄りに口にして良い言葉じゃなかったわ。

そんな私の思考はともかく、その様子は、今から自分は殺し合いをしにいくのだ、と言っているようなものだった。
観鈴の手の震えが、私にも伝播する。――怖い。
初めて、彼の事を怖いと思う。あの頃は、割とのほほんとしていたから。
「本当に久し振りだな――元気だったか? ……なんて話してる時間もない、残念だが。
 ちょいと急いでるんだ――生きてたら、また会おう」
再会を喜ぶ時間もない、というのはこちらも同じだ。
なのに、わたしは彼を止めようとする。
「耕一さん。あなた」
「大丈夫。俺は大丈夫だ」
見透かすように、耕一は微笑んで呟いた。
「俺の頭も身体も、正常そのものだ。殺し合いなんてするつもりもない。けれど、やらなくちゃいけない事はあるわけでな」
じゃあ、先を急ぐから耕一は言って、また歩き始める。
先を急ぐのは自分達もだが――。
291日々。:2001/08/06(月) 10:15
「待って」
「待てない」
強情に云う耕一は、自分の言葉を聞こうともしない。
――何故、自分はこれほどに彼を止めることに執着するのだろう?
それは。

彼が――少なくとも、自分とそれなりの時間を共有した友達が。
死ぬかもしれない。そんな予感に晒されたからだろうか。
だが、私はそんな不安を振り切るように言う。
大丈夫だ、そんな簡単に死ぬような男じゃない。
「取り敢えず言わせて。前はごめんなさい、勝手に一人で行動して」
「その事なら、郁未が無事だったわけだし、もう良いよ。大変だっただろ、あれから」
耕一は微笑んで、そしてやはりすぐに歩き出そうとする。
「待ってよ」
「待たない。本当に時間が無いんだ」

「――良いわ。じゃあ、一つ聞きたいことがあるのよ。人を探してる」
私は諦めて、息を吐いた。
「高校生かそれより少し上くらいの男の子と、若い女の人、見なかった?」
「お、お母さんを探してるんです」
後ろにいる観鈴も、声を震わせながら、懸命にそう尋ねる。
耕一は一つ息を吐いて、答えた。
「――そんな少年は、最近は見てない。けど女の人ならさっき会ったよ。この先の喫茶店にいる。素敵な人だ。
 その人は、娘さんを亡くしたって言っていた。――君の探し人と同じ人かは判らないけど」
そう言って、すぐに耕一は歩き出す。
他人の事に構っている暇はない、とでも言いたげに。
「え、あの」
「耕一さんっ」
292日々。:2001/08/06(月) 10:32
二人の呼びかけにも答えようとしないで行こうとするその目は、あまりに強い。
傷ついている身体の割には、あまりに早い足だった。
「それじゃあ、また何処かで会うことが出来たら」
そんな声を残して、森の影に消えてしまった。

どうか、自分の予感が外れているように。

「――取り敢えず、行ってみようか、喫茶店」
私は、呆然とした表情の観鈴に提案した。
「――うん」
彼女の手を引く。
見知らぬ人と出会って、震えている手。彼女はなんと弱いのだろうと、改めて思う。
その女の人は晴子さんで、観鈴が死んだと思い込んでいるのかもしれない。
ならば、今はその二人を合わせることが、何より重要だ。取り敢えずはそれからだ。
耕一のことは考えないようにしよう。
それから――自分の大切な人を、探しに行こう。
そう考えているのに、どうしてこれほどに気が懸かる。

それは、私の中に――彼と過ごした少なからずの日々が、思い出があったからかもしれない。
彼と出会えて本当に良かった、という、そんな思考が頭を支配する。
楽しかった。彼といて、本当に救われた。
きっとこれが最後になる。確信はない、ただの直感だけど――
私は、泣いていた。また一人、友達を失う悲しみを抱いて。

そして、その耕一もまた――友達の為に、戦おうとしている事など、私には知る由も無かった。


【柏木耕一  すぐに二人と別れ、街へ。葉子さんの事は言い忘れ。
 郁未・観鈴 取り敢えず喫茶店へ向かう】
293無力。:2001/08/06(月) 21:05
その引き金を引いたのは、誰だったか。
血を流しながら苦しそうに蹲るのは、――七瀬彰、だった。

自分の胸元で、輝き続ける光。
それをぼおと眺めながら、柏木初音は、ぶるりと震えた。
上手く事態を呑みこめないのは当然だった。自分は、引き金を引いていない。
なのに、何故彼は苦しそうに蹲っているのだろう。
それは、ただ今飛び出した二人も同感だっただろう。
自分たちは構えた銃の引き金を引いた覚えは無い。
なのに、何故?
だが――答えはすぐに出た。
軽い音を立てて粉々に砕けているのは、初音の後ろの窓ガラスだった。
初音の頬を濡らすのは、紛れもない、彼女自身の血、だった。

流れた血が唇に至って、初音は漸く、自分が撃たれたのだという事を自覚する。
硝煙の匂いが、彰の手から立っていた。
狭いこの部屋の中では、その重苦しい匂いは一層心地の悪いもの。
血は、初音が先ほど撃った、右腕から流れていた。

――結局撃てなかった。震える指先は、引き金を引くには至らなかった。
わたしは、結局、そんな卑怯な人間だったんだ。
自分の後ろで待機していた二人に、自分がしくじった時の事を任せていた。
自分が彰より先に、引き金を引けなかったとき。その時、二人に撃ち殺してもらおう。
――馬鹿な話だ。
自分は、こんな小さな銃の引き金すら引けなかった。大切なものを失う事が怖かった為に。
偽善者じゃないか。この島にいる誰よりも、偽善者。
自分に向けて、引き金を引いた。彰はきっともう、壊れてしまっているのに。
まだ彰お兄ちゃんが帰ってくるかも知れないと、そんな幽夢を抱いていたのか?
自嘲気味に笑って、わたしは、自分の拳銃を彰に向けた。
自分とほんの2メートルも離れていないところで、外す筈もない距離で、
手を伸ばせば届くような距離で。
294無力。:2001/08/06(月) 21:05
七瀬彰は、一人――激しく息を吐く。
何がそんなに苦しいのか、というくらいに。

それにしても、何故彼は、自分を撃ち殺さなかったのだろうか? 初音は、
そう、彼は自分に向けて引き金を引いたのに。自分の脳天に向けて、銃弾を放ったのに。
どうせなら自分を殺してしまえば良かったのだ。
そうしたならば、きっと自分は何も考えずにすんだのに。
何故?

――そうだ。決まっているじゃないか。
彰は今、自分の中に生まれた鬼と、戦っているのだ。
自分を撃ち殺さなかったのは、彰が鬼と格闘しているからだ――。

だが、それは――正しいのだろうか?

少しして――ゆらりと立ちあがった彰。
しかし未だに俯いたままの彼を見つめながら、初音は呆然と、胸元で未だ光り続けるそれを握り締める。
光り続けるのは、自分に、マナ達に、そして彰自身に、災厄が訪れることを意味している。
これから、まだ、どんな事が起こるというのだろう?
握り締めた銃、滲む手のひらの汗を拭うことも出来ず、だらだらと流れる汗。
銃口は彰に向けられたままだ。この距離なら、自分でも外さないだろう。
さあ、さっきはわたしは撃てなかったのだ。今度こそ撃たないと、本当の偽善者になってしまう。
一番苦しいのは、きっと彰お兄ちゃんなのだ。さあ、初音。彼の脳天に鉛弾をご馳走してあげなさい。

けれど、――まだ、引き金が引けない。
どうして? 初音は考えながらごくりと唾を呑んだ。
そして初音は、漸くゆらりと顔をあげた彰の、その表情を見て、――震えた。
295無力。:2001/08/06(月) 21:06
――僕は、変わったのだと思う。
心底に、そう思う。
この島に来る前の自分と、島で戦ってきた自分。
これほどに自分の意思で何かをやろうとした事など、今までの自分の人生ではなかったのだから。
施設を破壊し、人を何人も殺し。
それを、他人の為にやってきた。きっと、自分のことなど一度も顧みずに。

今、自分の中で暴れる獣。そんなものは、正直、大した変化ではなかった。
この島に来て、自分が変わっていくと実感している時に比べれば。

ふと思う。たぶん僕がはじめて愛した人間は、自分自身だった。
そして、きっと、この島に来て、彼女と出会うその瞬間まで、僕は僕自身しか愛してこなかったのだと思う。
本当に美咲さんのことが好きだったのなら、その気持ちを即座に彼女にぶつければ良かったのだし、
あの雨の降る彼女との出会いの日、あの耳鳴りのする中で、すぐにでも抱きしめてしまえば良かったのだ。
なのにそうせず(ああ、良いなあ)という、そんな憧れだけを抱いて暮らしてきたのは、
自分自身が結局、何よりも可愛かったからなのだろう。
拒絶されることを恐れて、自分の弱い心が傷つくのを恐れて、僕は逃げ回っていた。

或いは、他人の事も好きだったのかもしれないとも思う。
自分の脆い心に優しく接してくれようとしてくれた友人たちのことが、好きだったのかもしれない。
はるか、冬弥、由綺、そして、美咲さん。
けれど、それも違うと判る。判ってしまう。
僕は、彼らのことをきっと愛していなかった。
彼らに愛されていた実感はあるのに、どうして彼らを愛せなかったのだろう。
答えは見つかっている。きっと、僕は、誰よりも誰よりも、弱い人間だったのだ。
愛さなくても、愛されてさえいれば、人は――幸せなのだから。
296無力。:2001/08/06(月) 21:12
彼らの笑顔の中にいる間、自分の気持ちが安らぐような感触を得たのは、そこが自分にとって、居心地の良い場所だったからだ。
結局、自分の事しか考えず、生きてきたんだ。

きっと、その彼らがここにいて、今の自分の愚痴を聞いていたなら、
優しく、或いは厳しくそれを否定してくれるだろう。
冬弥はきっと言うだろう、人を愛せない人間なんていない、と。
「美咲さんへのお前の気持ちが紛い物だとは思えない、単にお前が意気地なしなだけさ」
そして、はるかも、美咲さんも、由綺も、きっと同じような事を云うのだろう。

判ってる、僕もそれは、今では判っているんだよ。
愛せないと思い込んでいただけで、僕は、きっと皆の事が大好きだったんだ。
ほら、僕は今、こんなに他人のことが愛しい。
そんな実感を初めて得たのが、皆をなくしてからなんだから――僕は、なんて愚か者だったんだろう。
ああ、支離滅裂な話になっている。僕は何を言っているんだろうか。
愛していなかったのか、愛していたのか、どっちなんだろう。
まあ、どちらでも良い。

それにしても、この島に来て――自分が死ぬかもしれない、そんな状況に立たされて、
何故、その時になって初めて、他人のことを心底で守ろう、そういう感情を持ったのだろうか?
それが不思議でならない。

あの時、茂みがざわめく音を聞かなかったならば。初音を見つけなかったならば。
きっと、僕はもっと簡単に死ねていただろうし、こんな気持ちになることもなかった。
他人への嫉妬、そんな感情も一度も覚えることもなく、僕は死んでいったのだろう。
他人を愛するという気持ちが、良くわからないままに、僕は、死んでいったのだと思う。
297無力。:2001/08/06(月) 21:13

きっと、その方が幸せだったと思う。
今では、僕はすてきな愛を心から憎むような、そんな道化だ。
けれど、まだ浅い。
ああ、落ちていきたい。この、奈落のような狂気の底に。
未だ僕は落ちきれていない。愛する人も、裏切り者の友人も、きっと殺しきれなかったのだから。


――彰が、茫洋とした目つきで初音の横を通りすぎる。
それを止める術はいくらでもあるのに、何故、身体が動かない。
そして、初音は。
彰の――涙を拭おうともしないその表情を見て、
初音は、自分が何処か間違っていたのかもしれないと、初めて気付かされた。

ひょっとしたら、自分は――大きな勘違いをしていたのではないだろうか?

そう、感じていたのだ。すべて。
あの茫洋とした表情も、あの狂ったような眼差しも、
自分を守るために、人を殺すような狂気も、夢中になって、物事を進めるところも。

――すべて、自分が血を分け与える以前から、彰が持っていたものではないか。

彰、お兄ちゃん。
呼ぼうとしても、声すら出ない。振り返る事すら出来ない。
割れて壊れた窓を無理やりに抉じ開け、そこから彰が外に出るのを、音で感じるしかなかった。
がしゃがしゃと、粉々に弾けている窓ガラスを踏みつけた音がした。
298無力。:2001/08/06(月) 21:13
たん、と音を立て、家の外に飛び出したのも判った。
そして、ゆっくりとした歩調で歩き始めるのも判った。
ああ。動かない。動けない。
そうか、そうだったんだ。

鬼って言うのは――結局。

身体が感覚を取り戻す。殆ど同時にマナと葉子も息を吐く。
「初音ちゃんっ! 彰さんがっ」
判ってる、判ったんだ。
止めなければ、きっと、すべてが終わってしまう。

何故なら、鬼なんてものは、少なくとも彰の中には――

「はじめからいなかった」んだから。

自分が与えた血は、きっかけに過ぎなかった。
彰が持っていた、二重人格とまでは云わないまでも、少なからず人間すべてが持っている、
そんな――二重性を、ただ際立たせただけなのだ。

すべての事象に説明がつくわけではない。
自分の推論は正しくなく、本当に彰の心には、鬼が巣食っているのかもしれない。
だが、彰のそれにおいて――
少なくとも、あの時の次郎衛門のように、劇的な変化は起こらなかったと、そう考えるのが自然だと思うのだ。
耕一をねじ伏せた力は、確かに鬼の力だったのかもしれない。
だがそれは、自分の与えた血が、彼の身体を少し、強化した結果の筈、なのだ。

そうでなければ――鬼の力が彰の身体に宿っていたのだとすれば、結界の力を無視する事など、出来なかったのだから。
299無力。:2001/08/06(月) 21:16
言い換えれば、人は誰しもが「鬼」を持っている。
それは、自分たちの事を指す意味での「鬼」ではない。
言うなれば、人が誰でも持ちうる狂気――。
その二重性を、便宜的に「鬼」と呼ぼう。
犯したい。殺したい。壊したい。そんな衝動を、人は誰でも持っているのだ。

彰は、自分が血を与えた事を、少なくとも無意識のうちに知っていただろうと思う。
そして、彼は自分がその血を得たことで、肉体が活性化していることに気付く。
その結果、彰は、錯覚してしまったのだ。

「自分は、人ではなくなった」のだと。

――これほど傷ついてもまだ動ける。それは、自分が獣と化したからではないか。
――化け物でなければ、今まだ生きているのは不思議だと。
――そう、そうだ。自分は化け物だ。

きっとこんな思考があったに違いない。
そして、彰は自分が人外になったと思い込み――
――もはや化け物ならば、何をしても構わないじゃないか。
血の力で強まった、温厚な彰の裏にあった狂気が、そう促したのだ。
きっとそれは、声のように聞こえたかも知れない。
そしてその声は、彰自身の声と、まったく同じものだっただろう。

彰が耕一を殺そうとまでした理由は何故だろうか?
耕一が自分を奪おうとした、と、彰は云った。
だが、少なくとも彰と再会するまでの間に、そんな事実は無かったのだ。
ならば、何故彰は耕一を疑ったのか。それも、きっとその二重性の力だ。

それで上手く説明できるかは判らない。すべてそれの所為にするのは強引かもしれない。
だが、「狂気に落ちていきたい」と願う彰の心は、自分の記憶を改竄してまで、
「大切なものを奪われた」という印象を自らに圧したのだと、そう考えれば。
300無力。:2001/08/06(月) 21:16

そう。彰は、きっと最初から――狂気に落ちたがっていたのだ。
温厚な彰も、狂暴な彰も、どちらも同じ彰。
温厚な彰が表に出ている、というだけだ。
ココロは一つ。一つの中に、二つが同居している。――それは、どんな人間も、同じだ。
そして、彰自身のココロは――狂暴な彰になりたがっていたのだろう。
それが、鬼の血を得たことで加速された。急速に、彰は落ちていく。

同時に、狂暴になりたくないという意思もあるに違いない。今、自分を撃ち殺せなかったことからも判る。
だが、狂気に落ちていくことをとめるのは、多分無理だと――彰も、判っているだろう。

ならば、彰が次に何をするか。

歯を食いしばり、初音は駆け出した。
「初音ちゃんっ!」
それに続くように、二人も駆け出す。
間に合って欲しい――!
何処に行くのだろう――まるで見当がつかない。
ともかく、三人は走り出した。


――市街地をいつのまにか抜けて、僕はいつしか、街の東の端にあった、高い金網の前に至っていた。
がしゃり、と金網を掴み、その遠くに見える景色を見た。
指に入る力が、次第に強まっていく。
がちゃがちゃ、と音を立て――僕は、金網を揺り動かした。
まるで、わがままな子供がねだるように。
301無力。:2001/08/06(月) 21:17
どれだけの時間、僕はそこで、ぼおとしていたのだろう。
金網越しの風景は、まるで変化する事もない。
あまりに変わらない風景は、時間の流れを忘れているかのようで。
ただ、目に見えない風だけが、時間の流れが止まっていない事を告げていた。

初音達の声が、街の遠くで聞こえる。きっと、見当違いの方向を探しているのだろう。
彼女らには、僕が何処へ向かうかなど判るまい。

初音ちゃん。
本当に、愛していたんだ。愛していたんだから――。
僕が狂っていたとしても、きっと、それだけは変わらない。
今から僕は、本当の奈落に落ちていく。

僕がここにいる理由はただ一つ。
こちら側から、きっと――彼は来る。
風景が、多少――揺れた。風も、何かの存在に気付いたかのように、
ココロの底から声が聞こえる。僕とまったく同じ声をした、誰かの声が。
――殺してしまおう。すべて、すべて。目の前にいる、すべての障害を。
その声を、僕は無視した。言われなくても判っている事だから。
そして、網膜の裏に映る視界を観て、僕は――薄く、笑った。
やっと僕は、狂気に落ちることが出来そうだ。

――その金網の奥、青い空も青い海も永遠に見渡せるような、美しい、美しい場所。
そこに広がっていた森から、僕が殺した筈だった、柏木耕一が――現れたからだ。


【七瀬彰 柏木耕一と対峙。武器 彰…ベレッタ 耕一…中華キャノン・ナイフ・ニードルガン
 柏木初音 観月マナ・鹿沼葉子と共に彰の元へ走るが――】
302サヨナラ 【1】:2001/08/07(火) 02:23
『島内に生き残る、全ての善意ある参加者たちよ!!』

私と観鈴がその放送を聞いたのは、耕一さんから教えてもらった喫茶店までもうすぐのところだった。
「郁未さん…今の」
そう問い掛けてくる観鈴に対し、私は手で制して放送に耳を傾ける。

『今こそ我々は手を組んで立ち上がるべきなのだ!!
 我が意に賛同する者は、学校に集って欲しい。 』

「郁未さん、これって!」
目を輝かせて観鈴が弾んだ声を出す。
その気持ちは私も同じだ。こういう人がいるというのは、それだけで希望が湧いてくる。
だけど。
(手を組んで、か)
私は、それに参加してよいのだろうか?私の心はいつ消えるともわからないのに。いつ姫君の手先になるともわからないのに。
だが、それでもこの放送が明るい材料であることに変わりはなかった。
希望があるということはいいことだ。
だが、私のその気分はあいつの声で一瞬にして消し飛んだ。

『もう一言、魔法使いの件もお願いできるかな』

…あいつの声。懐かしくその声。私の好きだったときのままのその声。
でも私には、継嗣である私にはわかるのだ。
普通の少年のものにしか聞こえないその声の裏には空虚、そして殺意しかないということが。
「グッ…」
痛みを感じないはずの私なのに、ずきりと胸に痛みが走る。
熱い、とても熱い。
感応しているのだ。継嗣たる自分が、主たる者の分身の声に。
303サヨナラ 【2】:2001/08/07(火) 02:24
「?どうしたの郁未さん…!!」
うめき声をあげた私に観鈴が振り返り、そして息を呑んだ。
さぞかし凄絶な顔をしていたのだろう。私は。
「郁未…さん」
だが、それでも観鈴は私におずおずと声をかける。
「…なんでもないわ」
「で、でも」
涙ぐんで観鈴はいってくる。そこまですさまじい表情をしてるらしい、私。
(…また、泣かせちゃったわね)
チラッとそんなことが頭を掠める。
「お願い、観鈴。静かにして。放送を聞かせて。大事なことなの」
そう、これは大事なことだ。おそらくあいつは…
『…心当たりのある者は、是非とも名乗り出て欲しい。
 その知識と、能力に期待する!』
その声とともに放送は終わった。
だが、それでも胸の奥は熱いままだ。
「…大変ね」
「え?」
「あの、放送の中に男の声が二人あったでしょ?」
「あ、うんあったね」
「そのうちの一人、後ろで喋っていたほうはね、管理者の手先なの」
「そ、そうなの!?じゃ、それって…」
「多分、このままだったら放送をしていた男とあの女の子はだまし討ちされるわ。あの放送を信じて学校に集まった人たちもね」
「そ、そんな…」
「私は、一刻も早く警告をしにいかなければならない。あいつと対決をしにいかなくてはならない。だから」
私はそこで言葉を切って、そして、観鈴から目をそらして、
「ここでお別れよ。観鈴」
そう、いった。
304サヨナラ 【3】:2001/08/07(火) 02:26
「…が、がお…お別れ…」
私の言葉に、観鈴の目が丸くなる。
「だから、お別れよ。観鈴はお母さんに会いに喫茶店に行くんだから」
「で、でも急すぎるよ…こんな…」
「観鈴」私は、今度はまっすぐに観鈴の目を見た。「お母さんのこと、好き?」
「うん…好きだよ」
「そう。私もよ。私もお母さんのことが大好き。いいものね、お母さんって。
 お母さんといることって本当に素敵な事だもの」
今の私は、お母さんの思い出は辛いものだけど。
「だから、お母さんのこと大切にしないと駄目。耕一さんがいったこと覚えてるでしょ?
あなたが死んだと思っているって。だったら、早く安心させなくちゃ」
「それは…そうだけど」
「それにね、いい機会ではあるわ。どの道、いずれは別れようと思っていたんだし」
「え…なんで…そんな風に思ってたの…?」
「私は侵食されているから。このさきどんな風になってしまうか判らないから」
侵食のこと、姫君のこと、あいつの事は観鈴に話していなかった。
話すことが辛いことだったのもあるし、
多分、この子に恐れられるのが怖かったこともあったかもしれない。
けど、もうそれも終わりにしなくてはならないだろう。
だから、私は、今私の身に何が起こっているのか、この島でなにが起きているのか、知っていることを全て手早く観鈴に話した。
「…このままだと私はあなたに何をするか判らないわ。だから、お別れよ。なにがあるか判らないから気をつけてね」
喫茶店にいるのが観鈴の母親かどうかはわからない。けど、きっと信用できる人なんだろう。少なくとも私よりは。
305サヨナラ 【4/4】:2001/08/07(火) 02:28
「郁未さん…」
ようやく事態を理解できたのだろうか。観鈴の目から涙が零れ落ちる。
(最後まで泣かせちゃったわね)
私は、唇でそっと観鈴の涙をぬぐう。
「観鈴、あなたに会えてよかった。あなたに会えて、晴香や由依とすごした日々が思い出せそうだった」
…それは結局無理だったけれど。
「さようなら」
笑顔でいれただろうか?優しい声が出せただろうか?
そうだったらいいな、と思う。
もうそれがわからないぐらいに侵食は進んでいるけど。
そうして、一方的な別れを告げて、私はまだ呆然としている観鈴から背を向けて、
私は全速力で走り始めた。
きっとあいつのところに辿りつける。放送によって場所はだいたい判った。後はこの胸の感応があればきっと辿りつけるだろう。
だから、私は後ろを振り返らずに走りつづけた。

【天沢郁未 救急セット、ベネリM3ショットガン、フランクの荷物、自分の荷物所持】
【神尾観鈴 G3A3アサルトライフル、少年の荷物、自分の荷物所持】
【観鈴がこの後どう動くかは、次の書き手次第】
306名無しさんだよもん:2001/08/07(火) 23:31
そろそろあげ
307名無しさんだよもん:2001/08/08(水) 18:34
ボーダーギリギリで残ったか…
308礼 1:2001/08/08(水) 19:00
耕一の背中は、あっという間に小さくなっていった。
「行ったな」
傷だらけで脅えていた耕一の横顔を思い出す。
だが彼も最後には、立ち上がって晴子をまっすぐに見据えていた。
「あの調子なら大丈夫やろ。きっと」
晴子は踵を返すと、喫茶店の中に入っていった。一つ、確認したい事があったのだ。

喫茶店の最奥の部屋。
先ほど耕一の手当てをするために薬を探し回ったとき、そこで"それ"を見つけた。
そのときは怪我の手当てを優先するため、後回しにしたのだが。
部屋に足を踏み入れる。
そこには、一人の少年の亡骸が安置されていた。
晴子は躊躇うことなくその横にまで歩み寄ると、かがんで亡骸の顔に掛かっていた布切れを取り除く。
「やっぱり、あんただったか」

氷上シュン。
出会うなり逃げていった観鈴を、優しく諭してくれた少年。
彼が居なければ、観鈴に再び会うことも出来なかったに違いない。

晴子はどっかと腰をおろすと、横に一升瓶を置いた。
「あんたには本当に感謝してる。……放送聞いたときは悔しかったわ。最後まで礼のひとつも言えんかった」
持ってきたコップに酒を注ぎ、亡骸の横に置く。
「それで愚痴を聞かされるのは、割に合わんと思うかもしれんけど……ちと付き合ってや」
彼と出合った時のことを、彼の言葉を思い出す。

――そうすれば全てがうまくいくはずです――
309礼 2:2001/08/08(水) 19:02
「あんたの言うほどには上手くいかんかった。観鈴は、観鈴は……居なくなってしもた」

――それがあなたのせいだとでも?――

誰かの言葉が聞こえたような気がした。はっ、と晴子は頭を上げ、彼をみる。
しかし、そこには穏やかな死に顔の亡骸が一体、あるだけだ。
「酔ったんかな……この程度で酔うなんて、うちも相当弱ってるんやな」
ははっ、と自嘲気味に笑って、手元の一升瓶に視線を戻す。
「うちは観鈴を守りたかった。でも、どうしたらいいか解らなかったんや」

――そんなことはだれにだって解りません。でもあの子は、あなたと共にいることで随分救われていたはずです――

また声が聞こえたような気がした。しかし、もう晴子は気にしなかった。
酔って聞こえた幻聴が、愚痴に付き合ってくれるのならありがたいというものだ。
「そうかな。そうだとええんやけどな」
そう呟いて一升瓶をあおる。

――あなたはこれからどうするつもりですか――

「……はじめは、残ってる奴みんな殺して観鈴のとこに送ったろか、思たんやけどな」

――やめたんですか?――

「そんなこと、観鈴が望むわけない。向こうにいってあの子に嫌われたくないしな。
 それで、次は自殺しよかと思たんやけど」

――それもやめたんですか?――
310礼 3:2001/08/08(水) 19:03
「耕一君見つけて、色々やってるうちにすっかり忘れとったわ。……まあ、死んで観鈴と同じ所にいけるならええんやけど。
 自殺すると地獄に落ちるとかいうしなー。それが一番心配や」
晴子は苦笑する。

――生きていくつもりは、ないんですか――

「生きていく、か。どうやろな。観鈴はうちの全てやった。
 あの子を失って生きる意味も――ああ。脱出したい連中がたくさんいるんやったら、手伝ったるのもいいかもしれんな。
 観鈴もきっと喜ぶし、死んでも神さんが天国へ行かせてくれるかもしれへん」
苦笑いのまま、晴子はそう続ける。

「さっきの耕一君は――」
そのとき。突然スピーカーがガリガリと音をがなりたて、やがて呼びかけが始まった。


「……」
放送は、脱出への誘いだった。
今となっては殺しあおうとする者も大分少なくなっているという事だろうか。
だが、それはいい。それは今の晴子にとって些細な問題に過ぎない。

あの少年。
観鈴が死んだ、いや死んだと思っていたあの爆発。
それに巻き込まれたはずのあの黒い少年が、生きている。ならば。

「観鈴……!」
生きているかもしれない。いや、きっと生きている。
観鈴が、生きているのだ……!
「今度は間違えんで。観鈴……一緒に、こんな馬鹿げた島からはオサラバするんや!」
「月代ーっ! 何があったんだ!? 少年ーっ!!」
 叫びながら走る蝉丸。
 蝉丸が学校に向けて歩き出してから間もなく聞こえてきた、あの声。
 己の耳に届くはずのない、あの悲痛な声。
(何故聞こえてきた? いや、何があったというんだ!? 月代、月代ッッッ!! )
 蝉丸が元来た道を走り出すのに、時間はかからなかった。
 消防団の詰め所は目指さず、声の聞こえた方向、つまり北西に向けて進路を取った。
 市街地の外れと、その南に広がる森林の狭間を蝉丸は走った。
 かつての戦場でも、これほどの全力疾走はなかったであろう必死さで駆ける蝉丸。
(月代、月代、月代っ)
 未だはっきりとした形を持たぬ焦燥感に襲われながら、蝉丸は声が聞こえたと思える地点にたどり着いた。
「月代っ、何があったっ! 何処にいるんだ二人ともッ!!」
 叫べども、返事は返らない。
「まさか、二人とも、放送を聞きつけた奴に殺されてしまったのでは……?」
 何か手がかりはないものかと、蝉丸は速度を緩めて辺りを見て回る。
(俺は……いい気になっていたんじゃないのか? 年下の者達に囲まれて、一団の中心人物気取りで。仕舞いにはあんな、殺人者を挑発するような言葉まで発して……。その結果で月代と、少年の命を失ったのだとしたら……)
「俺は何という愚者なのだ!!」
 叫び、立ちつくす蝉丸。
 しかし、蝉丸はそのままでいることを良しとしなかった。
 何とか己の納得がいく理屈を組み立てる。
(いや待て、蝉丸。そう決めつけるな。落ち着くんだ。まだ、希望はある。襲撃者の危険にさらされた二人が、息を殺してその脅威をやり過ごしている可能性だって……)
「……だとしたら、落ち着かなければならないのは俺の方なのか?」
 可能な限り周囲に気を配りつつ、小声で二人の名を呼びながら、蝉丸は再び周囲を捜索しはじめた。
  
312礼 4/4:2001/08/08(水) 19:06
晴子は慌しく立ちあがると、急いで部屋から出ようとして――ふと気付いたように立ち止まり、振り返る。
視線の先には、シュンの亡骸。

「……おおきに、な」

そして、部屋を出た。

【神尾晴子 包丁・シグ・ザウエルショート9mm・伸縮式特殊警棒】
【一升瓶は氷上シュンの亡骸の横へ放置】
「もっと、目立つところに置くべきだったかな?」
 物陰に隠れたまま少年は一人ごちた。
 先程まで割と無防備だった蝉丸を見るにつけ、何度襲いかかろうという誘惑に駆られたことだろう。
 しかし、気付かれずに襲いかかるには少々距離があったし、決定的瞬間を待った方が成功率は高まるだろう。
「狩りのチャンスは一度きり……。慎重にならざるを得ないね」
 自らを狩人になぞらえる少年が、既に別のハンターに狙われている皮肉。
 神の視点を持たざる少年がその事実を知らなくとも、それは仕方のないことであった。
「ん。やっと餌に食いつきそうだ」
 蝉丸は今や、仮面の破片が視界に入る位置に立っていた。
 間もなくそれに駆け寄り、次に倒れている月代を発見するだろう。
「さて、そろそろ決めなくては……」
 
 
「これは、月代の!?」
 視界に仮面を見つけた蝉丸。
 その動揺は大きかったが、しかし、本人を見つけたわけではない。
 蝉丸は改めて周囲に視線を投げた。
 結果、うつ伏せに倒れ込んだ月代を見つけるに至り、蝉丸は慌てて駆け寄った。
「しっかりするんだ、月代!」
 そう言って月代を抱き起こし、その体を自分の方に向け直した。
「む!!」
 月代の顔面は綺麗なものだった。しかし、額からは血が流れ出している。
「む!?」
 地面に目をやれば、相当量の血が流れ出した形跡がありありと分かる。
「しっかりするんだ、月代。まだ何も終わっていない。全て、これから始まるんだ。これからはじめるんだ。お前と、みんなとで!!」
 まだ暖かい月代の体を揺すって叫ぶ。
 しかし、月代が返事を返すはずはなかった。彼女は即死だったのだから。
 仮面さえなければ、死に際の言葉一つ残さずに死に至るはずだった。
「ぐおおおぉぉぉーっ!!」
 それでも蝉丸は、月代の体を揺することをやめなかった。
「月代、月代、月代っ!!」
「俺と結婚するのだと、言っていただろう!! さあ、目を開けるんだ月代! 開けてくれ、月代……」
 次第に温度を失っていく月代の体をかき抱いて、蝉丸は泣いた。
「あれは嘘だったというのか!? 違うだろ、月代……」
夏にしては早い夕暮れの中、月代を抱いたまま蝉丸の慟哭が辺りに響きわたる。
 しかし、その首筋には白い紙飛行機が迫っていた。
「う、ぐぅ!!」
 身に迫る危機を軍人ならではの感覚で察知し、素早く身をかわそうとした蝉丸だったが、辛うじて首への直撃を免れたのみだ。
 儀典から切り取られたページで作られた紙飛行機は、驚くべき早さで飛来し、その鋭さを十分に発揮して蝉丸の背に突き刺さった。
 完全に月代に気を取られており、かつ仙命樹の効果が弱まっている中ではそれさえも奇跡的な回避動作だった。
 蝉丸は、同時に間近かから聞こえてきた駆け足の音に振り返った。
「!?」
 蝉丸が振り返るとそこには、今にも己に斬りかからんとする少年の姿があった。
(どういうことだ!?)
 疑問はともかく、武器をかざしてそれを防ごうとする。
 しかし、武器をかざそうにも両手はふさがっていた。
(ならば!)
 蝉丸は自ら、少年に肩を向けて突っ込んだ。
 少年の儀典が蝉丸の右肩に深く切りつけられた。
 だが、骨がそれ以上の進攻を止めたか、タックルで少年が弾かれるのが早かったか、蝉丸の腕を切り落とすには至らなかった。
 激痛に耐えながら、蝉丸は月代を抱く手を離さなかった。
 そのままに少年と距離を取る。
 少年は何事もなかったように立ち上がった。
「何故だ。何故なんだ、少年……」 異常なほど低い声で蝉丸。
 対する少年は屈託のない笑顔で言い放った。
「蝉丸さん。なんだか、ショックを受けてるみたいだけど……」
「貴様ッ!!」
 ギリギリの線で耐えていた蝉丸の、堪忍袋の緒が音を立てて切れた。
 少年の顔に張り付いた微笑は
 (やれやれ。蝉丸さんの能力は十分に評価した上でしかけたつもりだったけど、それでも仕損じるとはね。しかも士気は十分ときている。でも、今の蝉丸さんは冷静さを欠いているはずだ。それにあれじゃ、右手は使いものにならないはず。彼の利き腕は右だったようだけど、両利きの可能性はあるかな? 手負いの獣を前にして、続けるべきか、続けざるべきか。……狩人としては判断に迷うところだね?) 
 
 
 暮れ始めた陽の光のもと、往人と芹香は走っていた。
 急遽、方向を変えて走り出した蝉丸を追って。
フランクも走っていた。
 誰にも気が付かれぬよう、市街地の南に広がる森林を縫うようにして。
郁未もまた、走っていた。
(放送がされた場所は本当に近くみたい。そこにまだ少年がいるのだとしたら。
 私が止めなくてはいけない。私が、私こそが……)
 
 
『なんだか、ショックを受けてるみたいだけど……』
 すぐ近くから聞こえてきた、懐かしい声、懐かしい台詞に、郁未の俊足が僅かに速度を落とす。
 あまりの奇行にあきれる私に、しれっと言ってのけた少年。悪びれたところの全くない、無邪気ともいえるあの笑顔が蘇る。
 あの脱腸ウサギのぬいぐるみ。寝しなに語られた突拍子もない昔話。私の無理な注文に応えて作ってくれたひどく不格好な食卓……。それから、それから……。
 非常識な隔離施設の中で、全く不条理な思考回路を持つ少年。
 けれど、その行動にはどこか愛嬌と暖かさがあって……。
 FARGOでの懐かしい思い出に郁未の心が揺れる。
 ……けれども、と郁美は思う。
(さっき聞こえてきた女の子の悲しい声。そして今さっき聞こえた、男の人の怒声……。今、彼の手で起こされたショッキングな出来事って言うのは……)
 人の死、なのだろうと郁美は悟った。
 少年と別れて、どれだけの時が経ったのかは正直分からないけれど、それほど多くの時間を浪費したつもりはなかった。
 しかしその間にもう、少年は一人の人間をその手に掛けてしまったのだろう。
『私が助けてあげる』
 少年に向けた約束の言葉が頭の中で空回りしていく。
 発作はあれ以来まだない。今、少年の前に出ても、自我を失うことはなさそうだった。
(私が彼を助けなくてはいけない。彼を止めるのは私でなくてはならない。だって、約束したでしょう……?)
『だから、あなたを助けるわ。それが出来ないのなら、私があなたを殺してあげる』
(まだ感傷に浸れる心が残っている。約束を果たそうと動くことで心が痛む。こんな痛みが完全になくなってしまえば、躊躇なく行動が出来るのに……。こんな痛み、早くなくなってしまえばいい……)
 しかしその時こそ、郁未が神奈の完全なる影響下に収まるという瞬間でもあった。
 
 郁未は駆けた。
 惨劇の舞台へ。
316斜陽 ラスト byセルゲイ:2001/08/08(水) 19:14
郁未は駆けた。
 銀髪の少年の元へ。

 郁未の目的地は、もう目の前だった。

【残り21人】

少   年:偽典(反射兵器)
坂上 蝉丸:ベレッタM92F
三井寺月代:初期支給品と竹槍。近辺に安置?
天沢 郁未:救急セット、ベネリM3ショットガン、フランクの荷物、自分の荷物所持
国崎 往人:人物探知機(高槻所持品・電池切れ) アサルトライフル
来栖川芹香:消毒液、包帯、虫よけスプレー、セイカクハンテンダケ×2、参加者名簿、電動釘打ち器
F・長 瀬:狙撃用ライフル


●『斜陽』、書き上がりました。
多すぎる書きたいことの中からそれを絞るのと、アイテムの確認と、
位置関係の把握などで時間がかかってしまいました。
なにせ位置次第では彰と耕一までも巻き込むので……。

●らっちーさん江
タイトルは実験的にこんな感じでやってみましたが、結局一つのパートなので、
編集の際には以下のものにまとめていただけますか?

『斜陽 ── なんだか、ショックを受けてるみたいだけど…… ──』

よろしくお願いします。 
317名無しさんだよもん:2001/08/08(水) 20:39
dat落ち阻止あげ
318名無しさんだよもん:2001/08/08(水) 20:40
容量問題で飛び、の心配はまだない?
319らっちーさん江:2001/08/08(水) 21:40
訂正その2。全て >>315 にある記述が対象です。

1.以下の記述を、前の書き込みの後に一行空けた上で移動して下さい。
>フランクも走っていた。
>誰にも気が付かれぬよう、市街地の南に広がる森林を縫うようにして。

2.以下の記述の前に二行分、空行を入れて下さい。
>郁未もまた、走っていた。
>(放送がされた場所は本当に近くみたい。そこにまだ少年がいるのだとしたら。

3.郁未の名前が一カ所間違って(郁美になってる)います。正しいものに差し替えて下さい。

お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします。それでは。
320切り裂く閃光(1):2001/08/08(水) 23:43
林を抜け、風を抜き、階段を駆け上る。
踏み潰す草の音が、鉄の硬い音に変わる。そこは五階建てのビルディング。
まだ建設中の体裁を取った、赤い鉄骨の塔を、息も絶え絶え登っていく。
フランクの濃い髭に汗が吸い込まれ、そして喉から流れていく。
アイスコーヒーなど馬鹿が飲む物だ、と常々心の底では考えていたが、今なら悪くない。
髭が無くては夏でも寒くてたまらないと思っていたが、剃ってみるのもいいかもしれない。
まるで関係ないことを考えながらも、この建物を選んだのは訳がある。

周囲で最も高く見晴らしが利き、壁が無いために物影でなければ、どこでも狙撃できる。
三階まで上がったところで、ようやく視界が確保できた。
あの「声」の方向を聞き誤ったのでなければ、ここから見える範囲で少年は事を起こしたに違いない。

(----……!?)
少し頭を巡らすと、ライフルを構えるまでも無く、およそ100mの距離に標的を見つけた。
想像以上に、近い。だが少年と対峙する男が邪魔で、狙撃は困難だ。
スコープを覗く。やはり命中角度は狭い。外せば、男に当たるだろう。
いや、当てたとしても----前は意識してそれを狙ったが----。

フランクは、微動だにせず考え続ける。
…芹香たちの到着を待てば、動きがあるかもしれない。
しかし少年にやられたのか、男は既に右腕から派手に血を流し、左手に銃を構えている。
…一発外して、無理矢理動かしてみるか?
いや、履き違えるな。あの男を救う事が目的ではない。少年を殺すことこそが、最重要だ。
大局的に、あの男を見捨てても、他の参加者を救う事になる。

 …迷うことは、無い。
 あの男に当たろうが、外れようが同じこと。
 要は、少年に当てることだけを考えればいい。

意を決すると、そこからは早かった。
そのまま両手をいつもの位置に据える。軽く息を吸い、少しだけ吐く。
吸気を幾らか残したまま、息を止めて微調整。
風を感じながら、軌道をイメージする。

 ぴたり、と動きを止めて一秒。
 そしてフランクは、引き金を絞った。
321切り裂く閃光(2):2001/08/08(水) 23:44


無人の街、偽りの建物の間を少女が駆けて行く。
時々痛みに怯みながらも、かなりの速さで移動していた。
脚を引き摺りながら、郁未は走る。声が近い。
大きなホールの脇を抜け、その角を曲がったあたりに少年は居るだろう、そう予測して窓を覗き込む。

(……いた!)
しかし方向も距離も、予想外だった。ホールのちょうど反対側。部屋を挟んで、窓の向こう。
少年は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべて立っていた。誰に話しかけているのかは判らない。
声が近く感じたのは、ホールの共鳴のせい。少女の姿はなく、既に倒れているのならば窓枠より下にいるのだろうと思った。

『何故だ!彼女が、月代が!一体何をしたというのだ!』
『…何を、と僕に聞くのかい?』

(ん、もう!)
情況が解らない。その上、思ったより遠い。苛立たしさに地団駄を踏みたくなるが、今はそれどころではない。
ただ、走る。そのまま直進し、角を曲がる。
数十メートルを駆け抜け、再び角を曲がれば少年と正対する事になる。
心臓が悲鳴をあげる。それは運動による要求なのか、心にかかる重圧によるものなのか、考えている暇もない。

『そうだね、何もしてないんじゃないかな?』
『き…貴様っ!』
『強いていえば、あなたという実力者の行動を妨げた、というところかな』

…相変わらず、耳に痛いことも平気で口にする。きっと、あの微笑を浮かべたままだろう。
あの笑顔を思い出すだけで、脚の痛みがぶり返す。
郁未は顔をしかめて、痛覚を抑えた。
減速しようとする脚を、意志の力で鞭打ち、更に駆ける。

ようやく角を曲がった、その瞬間。

 右から、左へ。
 閃光が郁未の目の前を切り裂いていった。

 
322切り裂く閃光(3):2001/08/08(水) 23:46
紙切れを一枚持って、少年は遠くを見るような目つきで口を開いた。
発する言葉は、自分を語るものでありながら他人事のような、奇妙な台詞。
「僕という少年は、死力を尽くして戦いました。
 その間、あなた達は何をしていたんだい?」
「くっ……」
もちろん、蝉丸とて遊んでいたわけではない。
主催者側の老人と拳を交え、少女のような機械を相手に危うく命を落としそうにさえなった。
しかし仲間を集めることを第一に考え、安全性を優先したのも事実だ。
(だからと言って、何故今になって…!?)
月代を失った怒りと、少年の豹変振りに、蝉丸は混乱し何も言い出せなかった。

 一瞬の、無音。
 それを待っていたかのように。

 閃光が貫いた。


郁未は光の筋を追って、しかし遥かに遅れて、視線を左に流していた。
50mほど向こうで、少年と男が同時に吹き飛ぶ。
二人の間に少女が倒れている。
何があったのか、まるで解らない。

郁未は凍りついていた。
駆け寄ろうとして、やはり足を止める。
少年がうめき、転がっているのが見えた。もう一人の男は、そのまま。
郁未は反射的に反対側を振り向き、遠くを見た。

 少年と、自分を結ぶ線の延長上。
 そこに、あの時の髭の男が居た。
 
323切り裂く閃光(4):2001/08/08(水) 23:47
「あいつ…!」
----思えば、あの状態にそっくりだ。
一発の銃声が聞こえ、やはり少年が倒れ、同時にもう一人が倒れる。そして髭の男がいた。
全く、同じだった。頭に血が上り、殺意がみなぎる。
「…許せない!」
再び素早く振り返ると、少年がゆらりと立ち上がり、物陰に隠れたのが見える。
少なくとも、少年は無事なようだ。
それだけ確認して、髭の男に視線を移す。
男はビルを降りている。耳を澄ませば、鉄筋の音が聞こえる。

あんな男に、少年を殺させるわけにはいかない。
ショットガンを手に、殺意を胸に----全ての引き金を引いたのは、あの男ではないだろうか----そんな確信を抱いて、郁未は駆け出していた。


(なるほど、さっきのは…こういう事だったのだね)
少年は左肩の激痛に怯みながら、どうにか射線から身を隠した。
骨が砕けたかもしれないな、と考えながら蝉丸を見る。
倒れたまま、ずるずるとこちらへ近付いて来ていた。
「…聞こえているかい?」
荒い息のまま壁に身を任せて、なんとか声を出し、尋ねる。
「ぐ……」
蝉丸の意識はあるのだろうか。うつ伏せのまま、胸を抑えて片肘で這っている。
出血も酷く、長くはないかもしれない。

「…つまらない愚痴をこぼしてしまって、済まなかったね。
 だけど、もっと早くに全ての決着がついていれば…」
そう言って右腕を上げる。手には偽典の1ページ。

 「僕もこんな事はしていなかった、と思うんだよ」

 腕を、振り降ろす。
 そして紙片は、吸い込まれるように。
 蝉丸の首をかすめて地面にすとん、と突き立った。

 …最期にひゅう、と耳障りな音がした。
324切り裂く閃光(5):2001/08/08(水) 23:51

蝉丸は、何か話そうとしたのかもしれない。
だが首から抜ける空気の音は、既に言葉ではなく。
人には意味の聞き取れない、風の音だった。

降ろした腕を前方に向けたまま、少年は蝉丸を見ていた。
「なるほど、僕を見ていたわけでは、無かったのだね-----」
少年は目を閉じて、そう呟くと蝉丸の銃を拾い、よろめきながら街の暗がりへ身を隠したのだった。


「急げよ、芹香!」
銃声に反応し、往人は更に速度を上げた。
恐ろしい速さで駆けて行く男を追うには、芹香の脚が遅すぎたのだ。
事ここに至っては、芹香に合わせて走るわけにもいかない。
「俺は先に行く!」
そう言って、全速で駆け出す。
角を曲がった瞬間、何かをパキンと踏み潰し、驚いて立ち止まる。
「…なんだ、こりゃ?」
踏み潰した物体は、おどけた仮面のような破片だった。
拍子抜けして、ふと視線を流したところに-----それは、あった。

僅かの時間に、大きく引き離された芹香は、大慌てで角を曲がる。
曲がってすぐのところに、往人が立ち尽くしていた。
「待ってよ往人…きゃっ!?
 何よ、いきなり立ち止まるんじゃ-----」

 二人がそこに到着した時には。
 手を重ねて眠る、二つの死体があるのみだった。

背後に光る、二つの瞳の存在に、二人は気が付いていなかった。
325名無したちの挽歌:2001/08/08(水) 23:55
【坂神蝉丸 死亡】
【残り20人】
※ベレッタM92F少年の手に。
※少年は往人たちに気付いていますが、仕掛けるかどうかは未定。
※郁未はフランクを襲おうとしていますが、現在フランクが郁未に気付いてるかどうかは未定。

感想スレへの誤爆、申し訳ありませんでした。
326暇AX:2001/08/09(木) 15:47
杞憂に終わるかもしれませんがメンテです。
スレ汚し失礼。
327やわらかな傷痕。:2001/08/09(木) 21:57

風が少しだけ揺れた。それがその二人の、二度目の対峙の始まりとなる。
草の踏み潰れる音までが耳に届く。それ程に、何も聞こえない。何も。
石が転がる音もする。風が頬を切り裂くかのように鋭いだけで、後は何も聞こえない。

――そこで待っていた七瀬彰を見ても、柏木耕一はまるで驚くことなく、そこへ向かって歩き出す。
なんとなく待っていてくれるだろう、と思っていた理由があったからだ。
10メートル、9メートル――……。そして、手が届くような距離に至る。

耕一は、がしゃり、と音を立てて金網を掴む。目の前の彰がそうしているように。
その彰は、耕一の顔を見ると少し気まずそうな顔をして――だが、すぐに微笑った。
だが、耕一は笑い返さなかった。それ程の余裕は無かった。

手が届くような距離にいるのに、それでも届かない。
金網越しに、二人は対峙する。
だが、それはけして自分と彰の立場の象徴ではない。
自分と彰との間には、ただ、蒼い大気と、二歩ばかりの距離があるだけなのだ。
けして届かない、どうしようもない高い壁がある訳ではないのだから。

「生きていたんだな」
彰は、その沈黙を破るかのように――金網の向こうで笑った。
「ああ」
耕一は笑い返す事こそ出来なかったが、穏やかな口調で、そう返した。
「誤解で殺されるのなんて、まっぴらだからな」
そして、今度は笑った。
それを見ると――金網の向こうで、彰は多少なり怪訝そうな顔をした。
「僕を殺しに来たくせに、何故笑う」
そして、がちゃり、と手に持っていた拳銃を耕一の脳天に当てる。
328やわらかな傷痕。:2001/08/09(木) 21:57

「お前は何も判っていない」
そう、彰は呟いた。

「――僕は、引こうと思えば、すぐにこの引き金を引けるんだ」

少し不愉快そうに、彰は耕一を睨む。人差し指は引き金にかかったまま、だが、凍ったかのように動かない。
「お前も何も判ってない」
まるで動揺する様子を見せず、耕一は――また、笑った。
「何がおかしい」
「なあ、彰? わざわざここで俺を待っていてくれた理由は何だ?」
「――お前を、ここで殺す為だよ」
歯軋りが聞こえる程、彰は不愉快な表情をし、力任せにその銃口を、耕一の額に抉るように圧し付ける。
銃口の長さ、わずか十数センチの分しか与えられていない命の猶予にも関わらず、
耕一は、その笑みを崩さずに――云った。

「銃を下ろせよ、彰」

初めて、びくりと彰は震えた。果たしてそれが畏怖による震えだったのか、
それともまったく別の種類の、ある予感から来たものだったのか。
しかし、臆した訳ではない。彰はそれでも銃を下ろそうとしなかったし、その震えも、僅か数瞬で止まっていた。

「下ろせ」

もう一度、耕一は云った。その笑顔を崩さずに云う様子は、余裕があるというよりは、狂気の沙汰にしか見えない。
それでも、彰は銃口を下ろさない。不愉快そうな表情を隠さず、吐き捨てるように言う。
「お前を殺さなくちゃさ、僕は駄目になるんだよ」
小さく息を吐いて、耕一はもう一度云った。――今度は、笑わなかった。

「下ろせ」
329やわらかな傷痕。:2001/08/09(木) 21:58

――何がしかの放送が聞こえてくる。多分、坂神蝉丸の声だった。
だが、そんなものは今の自分達にとって、どれだけの意味がある。
何も聞こえない。聞こえるのは風の音と、木々のざわめきだけだった。

彰は、小さく溜息を吐くと、
「――判っている」
と呟き、その構えた銃を下ろした。
そう、彰だって判っていた。何故、自分がここでわざわざ半死人の耕一を待っていたか。
激昂に任せて引き金を引くなど、そんなつもりは更々無かったし、
あまりに超然とした様子の耕一が、多少なり不愉快に感じただけだった。
銃を下ろした自分を見て耕一が少し笑うのも不愉快だったが、それは我慢した。

金網越しに、二人は改めて対峙する。


何故、僕はここに来たのだろうか。
ただ呆然と、耕一が倒れている筈だった方向へ向かった。
町の端、人もいない、あるのは風と森と、この金網だけ。
初音達がこちらに来る気配は無かった。きっと見当違いの方向を捜しているだろう。
或いは、初音は”あそこ”に向かっているのかもしれない。ならば、僕は事を終えたら、すぐにそこへ向かおう。
ともかく――僕がここに来た理由は、一つだけだった。

包帯をぐるぐる巻きにした耕一は見ていて痛々しい程だった。今も殆ど左腕は動く様子が無かった。
右手に鞄を持っている、先は持っていなかった筈の鞄を。あの中に武器が入っているのだろうか?

しかし、今の耕一にとってそのような要素は――大した問題ではないように思えた。

耕一の目は、先程、自分に打ちのめされた時のものとは、まるで違った。
――決意と、勇気に充ち満ちた、強い目だったから、僕は――。
330やわらかな傷痕。:2001/08/09(木) 21:59
ここに来た理由は、一つの動機があったからだった。
内側から声が聞こえてくる。その声がずっと僕に語り掛けた、ひどく嫌な言葉。
その言葉がひどく嫌に聞こえるのは、その言葉が、耐えられない程の誘惑が秘められている、甘美な誘いだったからだった。

落ちていくにはそう、殺せば良い。大切なものを一つ、壊せば良い。

結局僕が殺しきれなかった耕一。
あの時、どうして殺しきれなかったか、その理由は判っていた。

とにかく――今僕は、耕一を殺しきれば良いだけの筈だった。
今度こそ、その”理由”をかなぐり捨てて、僕はあいつを殺す。
彼を殺す事が出来たなら、今度こそ、僕は本当に落下していけるのだろう。

しかし。
先ほど引き金を引けば、それで、すべてが終わりになっていた筈だ。
満身創痍の耕一に、弾丸をかわす術も、それ以上の傷に耐えられる術もないこと等、判っていたのに。
そうだ、殺すためにここに来たのに、何故僕はさっき殺さなかったのだろうか。
その理由も判っていた。あそこで引き金を引いて耕一を殺しても、僕が落ちきれる事などなかった。
それでは、僕はすべてをなくした事にはならないからだった。


「――で、耕一。お前はここに何しに来たんだよ?
 僕にさっきぼろぼろにやられた事も忘れて、性懲りも無く、殺されに来たのかよ」
挑発するように、彰は言った。微動だにせず見詰め合う時間に、多少なりの窮屈を感じたからだった。
「その鞄の中に武器でも入ってるんだろうけど、お前が鞄に手を伸ばした瞬間に、僕はこの拳銃でお前を撃つ」

だが、そんな言葉を聞いても、耕一は肩を竦めて笑うばかりだった。
「そんなつもりはないよ。――俺は、お前を止めに来たんだから」

止める? 彰はその言葉を聞いて、思わず吹き出していた。
331やわらかな傷痕。:2001/08/09(木) 22:00

「お前、自分の状態見て云ってるのか? その傷、誰にやられたんだよ。
 ――やったのは僕だろうが。そんな寝言を言う暇があったら」
がちゃり、と、再び彰は拳銃を耕一に向けた。
「僕を殺せよ。僕を止めるには、殺すしかないぜ。その前に僕がお前を殺してやるけどな」

良く判らないんだよ、と耕一が呟く声を聞いて、彰は首を傾げる。
「何故、俺を殺そうとした」
「――お前が、泥棒猫だからだよ。人の大事な初音ちゃんを奪ったんだからな」
吐き捨てるように彰は云う。だが、その顔は不愉快げというよりは――何処か、迷いがあるように見えた。

「それは誤解だ、俺はそんな事をしていない」
眉を潜めて、耕一は云った。何を言っているのだ、とでも言いたげに。
「初音ちゃんを守るのは、お前の仕事だろが」
――彰の表情が、どうしようもなく揺れたのを、きっと耕一も見逃さなかっただろう。
そう言って、耕一は笑っていた。
「思ったより理性的で良かった。拳銃も引いてくれたしな。
 俺が初音ちゃんを奪おうとするわけがない。信じろ、俺は人のものを奪おうなんてけしてやらない」
耕一は――説得するように、そう言った。

それが、彰には不可解でならなかった。
彼は。耕一は――勘違いをしていた。
彰は心底に耕一を殺す為に、引いては自分が落ちていくためにここにいるというのに、
耕一はきっと、彰が自分に謝るために、ここに来ていたのだと――そう考えているのだ。
つまり、耕一は優しすぎたのだろう。甘かったのだろう。


きっと耕一はこう考えているのだろう。
まだ彰は正気の部分にいる。先程自分を殺そうとしたのだって、一種の気の迷いのようなものだ。
結局自分を殺しきれなかったのがその証拠だ。彰は戻ってこれる。
332やわらかな傷痕。:2001/08/09(木) 22:00
そう、多分僕はまだ、ぎりぎり戻る事が出来るのだと思う。
耕一は僕を許しているし、きっと初音達も許してくれるだろう。
そして全員で力を合わせて大団円を迎える事も出来るのだろう。
しかしそれは、僕の精神を無視した場合の話だ。
僕の心にとってみれば遅すぎた。僕の心には傷痕が増えすぎた。

大切な友達を失い、好きだった人を失い、そして、数え切れないほどの多くのものを失った。
そんな中で、落ちていきたいと願うようになっていた。
いつからだったのだろう。初音の事を抱きしめている間は、自分が死んだとしても、彼女を守りたいと思っていた。
その、愛するものが自分に銃口を向けた瞬間。彼女が、僕に狂っているんだよ、と言った瞬間。
その瞬間に、きっと切り替わっていたのだろう。

いつも、落ちていきたいと思って生きてきた事は否定しない。
日々恙無く暮らしていながら、いつも、堕落していけたら。そう思って生きてきたのだから。
初音の――愛する人の、最後の裏切りに遭った瞬間が、その機会だった。

あの瞬間、僕はきっと、反転していたのだ。

耕一が笑っている理由は、彼がすべてを赦そうとしている事を表しているのだろう。
理不尽な暴力で傷つけた事も、先程自分が彼に拳銃を向けた事も、今彼に拳銃を向けている事も。
僕の目が、望外に理性的に見えた事も関係しているのだろう。
初音の名前を出した瞬間に、確かに僕の目の色は落ち着いていただろう。
僕が、自分のした事を悔いて、そして、また一緒に戦って行こうと、そういう風に考えているように見えたのだろう。
だが、それは――まるで別の意味だという事に、耕一は気付いていない。

「さっき、俺がここに何しに来たか、と言ったな。
 お前を止めに来た。そして、――お前は、止まっただろう? 拳銃を下ろしてくれ。
 ――そして、俺は、帰ってきたんだよ、護らなくちゃいけない人たちのところに。
 俺はもう――迷わない。必ず、皆で帰るんだ。お前も一緒にだ」

「さあ、初音ちゃんのところに帰ろう」
333やわらかな傷痕。:2001/08/09(木) 22:02
その言葉を聞いて、僕は思い付いた。僕がすべてを喪失できる方法を。
耕一は、きっとこの言葉だけは、赦せないだろう。
「もう無理だよ、耕一」
僕は、拳銃を下ろした。だがそれは、けして、降伏ではない。
一瞬呆然とした耕一の顔を見つめて、僕は言ってやった。

はじめから――こう言えば、自分と耕一の殺し合いは始まり、そして、すべての喪失も約束されたのだ。

「だって僕はもう――初音ちゃんを殺してしまったんだから」

耕一の表情が急変するのを見て、やっと僕は笑う事が出来た。
これでやっと心置きなく僕は耕一を殺せるし、耕一は――僕を殺せる。
「――彰、冗談だろ」
絶望を浮かべ、しかし薄ら笑いを浮かべて、冗談だと思い込みたい、そんな表情。
「冗談なんて言うものか。――僕は、もう戻れないし、戻らないんだよ。愛するものを殺してしまったんだ」


――僕の心には、小さな小さな傷痕がたくさんあった。痛みも感じない、苦痛も感じない、けれど蓄積されていく傷痕。
そして、それは誰の心にもある傷痕。耕一にも、初音ちゃんにも、誰にでもある傷痕。
それは僕の場合、きっと人よりも目立たない、小さなものだった。そして、きっと誰よりも深い深い傷痕だった。
僕は、呆然と立ち尽くす耕一を尻目に、すぐ横にあった向こう側へ出る扉に手を掛けた。
僕と耕一を隔てていた脆弱な金網は、そして用を成さなくなった。
そして、直接――そこに、対峙した。

「僕が憎いだろ、耕一。――さあ、殺し合いを始めようぜ」

その瞬間、僕の短い生涯で最後の、やわらかな傷痕が一つ、音を立てて僕の心に刻まれたに違いない。


【柏木耕一 七瀬彰 ――――――戦闘開始】
334名無しさんだよもん:2001/08/09(木) 23:03
たまにはage
335ハゲ:2001/08/10(金) 00:26
ヨーイドンだぜ
336 ◆oMdsxsDI:2001/08/10(金) 01:03
oremona-
337名無しさんだよもん:2001/08/10(金) 06:30
本スレ、容量は問題なし?
338名無しさんだよもん:2001/08/10(金) 10:18
あと100ぐらいはOKでしょ。
339応用と実戦 1:2001/08/10(金) 16:08
「チッ……!」
 往人はいち早く気を取り直し、いまだ呆然としたままの芹香の腕を掴んで建物の影に転がり込むと、
 すぐさまアサルトライフルを構えなおして通りの方を覗きこんだ。
「どっ、どういうことよ、あれは!」
 ようやく気を取り直した芹香が、往人に食ってかかる。
「知るか。『あいつ』がやったんだろ」
 対する往人の答えはそっけない。
 芹香の方を振り向きもせず辺りを警戒している。ただでさえ悪い目つきがますます険しい。
 その真剣な様子に、思わず芹香は黙り込んだ。

(倒れていた男はさっきの蝉丸とかいう奴だった。やられたのはおそらく俺達が来る直前。
 なら、あいつはまだ何処かに隠れて獲物を狙っているに違いない……)
 こちらの居場所も知れているのかもしれない。先ほど撃たれなかったのは幸いと言えるだろう。
 往人の頬を嫌な汗が伝う。
「くそっ、ヤバイぜ……これが使えりゃな」
 往人は探知機を取り出してスイッチを動かした。
 だが、そこには何も映らない。ただカチカチという音だけが空しく響くだけだ。
「こんな大事な時に電池切れなんて、これだから機械は嫌いなんだよ」
 そうボヤくと、足元にそれを投げ捨てる。
「あ、こら。そんな乱暴に……」

(電池……?)
 そのとき、芹香はふと思い当たった。
 手元の電動釘打ち機を見る。
 電動。
 それには当然ながらコンセントはついていない。ならば、どうやって動いているのか。
 グリップの辺りを探り、そこにあった蓋をあける。
 その中の、線に繋がれた黒い箱に収まっているものは――
「……あ、乾電池」
 正確には充電池であるが。
「ってことは……!」
 芹香は急いで往人の投げ捨てた探知機を拾い、それを探った。
340応用と実戦 2/2:2001/08/10(金) 16:10

「おい、あまり音をたてるな」
 後ろでなにやらゴソゴソやりだした芹香に声をかける。
「ちょっと待って。もしかしたら、探知機が使えるかも」
 それを聞いて往人は思わず振り返った。
「なに? 本当か?」
「ええ……んと、+がこっちだから……よし、はまったわ。映すわよ」
 探知機を覗き込む。そこに映る光点は――
「……あれ?」


 その瞬間、あたりに銃声が響き渡った。

 郁未は思わず足を止める。
(今の音……さっきの場所から? 他に誰かいたの?)
 誰が撃ったものかは解らない。
 しかし、それが誰であろうとあいつは戦うだろう。殺そうとするだろう。
 それが『今のあいつ』の全てだから。

 あの髭の男は放っておくわけにはいかない。
 けれど……脳裏に、重症を負ったあいつの姿が浮かぶ。
「どうすれば……」
 どうすれば。

 郁未は立ち尽くしていた。

【探知機 電池交換により復活、しかし電池の残量は不明】
【電動釘打ち機 電池無し】
【銃声 誰のものかは不明】
341応用と実戦作者:2001/08/10(金) 16:15
書きました。
少々尻切れトンボかも知れません。
次の方任せの部分が多すぎるかも……。

指摘など、よろしくお願いします。
342使徒_1:2001/08/10(金) 20:48
 
「彰さーんっ!!」
 葉子は彰の姿を求め市街地を彷徨っていた。
 すぐ近くから、初音とマナの声が聞こえてくる。
 お互いの声の届く範囲で行動することに決めていた。
 満足な武器もない3人だったから、出来れば少しでも離れない方が望ましかった。
 けれども、それでは人捜しに不向きすぎる。
 苦慮の末出されたのがこの結論だった。
 しかし、依然として彰の姿は見つからない。
 姿を隠しているのか、それとも見当はずれの方向を探しているのか。
 それすらも見当が付かない。
(こんな悲劇が、起きてはいけないんです。なんとしても、彰さんを見つけませんと……)
    
343使徒_2:2001/08/10(金) 20:51
 
 FARGOでは感じることのなかった、人々の喜怒哀楽。季節の変遷。
 様々な事象の移り変わり。
 郁未と出会えて良かった、と葉子は思った。
 あの時、外の世界を知りたくて、葉子は教団を飛び出した。
 葉子はその外の世界で、郁未から感じ取った様々なものを肌で感じ取った。
 なんて刺激的で、素晴らしい世界なのだろうかと、葉子は思った。
 無論、素晴らしいことばかりでないのも分かっていたが、それでも葉子はそう思った。
 しかし、身よりもなく、無一文の人間が暮らしてゆけるほど世の中は甘くなかった。
 葉子は程なくして、FARGOに逆戻りする事になる。
 Aクラスで唯一の生者である葉子は、教団を脱した事を咎められることはなかった。
 ただ、元の生活に戻っただけだった。
 元の、窮屈で退屈な生活へ。
 葉子の毎日はかつての通りに過ぎていった。
 そのあまりのひどさに、外の世界のことなど知らなければ良かったと思うときもあった。
 しかし、総じて葉子は郁未に感謝していたのだった。
 ずっと母に縛られて教団の教え以外に興味を持たないでいた自分を開放してくれたのは郁未だったと。
 母がその価値観に置いて葉子よりも優先した、不可視の力。
 不可抗力とは言え母を自らの手で殺してしまってからと言うもの、葉子にとってFARGO、ひいては不可視の力が唯一にして最高の価値観だった。
 己のエゴが許されない。許すことが出来ない。
 その呪縛を解いてくれた郁美と再会したい。
 今は動けないさだめだけれど、諦めはしない。
 もう、目は覚まされたのだから。
 郁未との邂逅で、得たものを絶対に忘れない。
 そして、いずれまたFARGOを出て郁未と過ごすのだと、葉子は決めていたのだった。
  
344使徒_3:2001/08/10(金) 20:54
 
 このプログラムに郁未と自分が組み込まれると知ったとき、葉子は複雑な思いながらも郁未との再開の機会が到来したことを僅かに喜んだものだった。
 しかし、未だ再開は果たされていない。
 再開にはやる気持ちもあったが、その障害になるであろう高槻らの抹殺が重要事だったということもある。
 それに、一時的にとは言え行動を共にした人間を見捨てられるほど、他人に無関心にもなれなかった。
(郁美さん。あなたがこの心を下さったのですよ? そして私はそのことをとても嬉しいことだと思っているんです。だから……。ですから、もうしばらくの間、待っていて下さいね……。そして再開がなったとき、無事に島を出ることが出来たなら、あの時のゲームを二人でやりましょう……)
345使徒_4:2001/08/10(金) 20:55
 
 
 その頃、晴香は七瀬と二人、灯台のような施設の奥深くに潜入していた。
『冒険を続きからはじめる』よ、と七瀬の言葉が何処からか聞こえてくるようだった。
行けども行けども、人の気配が無く、二人がやや気抜けした頃だった。
「ねぇ、あんた。何か嫌な感じがしない?」
 晴香が小声で問う。
「今さら怖じ気づいたって訳?」
 腰に手を当てて七瀬がやや小馬鹿にするように問い返す。
 質問に質問を返すな!! と、突っ込みたいところを晴香は堪える。
「……。違うのよ。なんかこう、すっきりしないと言うか……」
 そう言いながら、視線を中に泳がせて、適切な表現を探す晴香。
「大げさに言えば、『頭の中がざらざらする』って言うか……」
 表情を曇らせる晴香。
 しかし、七瀬はそんな晴香を笑い飛ばした。
「ここに侵入した緊張感でちょっとばっかり参ってるのよ。あちら側の施設って事で、随分と緊張してるのは私もそうだから」
 今度は晴香を安心させるような微笑みを見せて七瀬は付け加える。
「もうちょっとだけ、気楽に行こうよ。何かが起こる前に参ってるんじゃしょうがないからね?」
 晴香は七瀬の笑顔につられて頷く。
 そして七瀬に心配をかけぬよう、晴香は笑顔を返して言った。
「分かったわ。先を急ぎましょう!!」
 しかし、晴香の疑問は消えなかった。
 (本当にこの感覚は杞憂に過ぎないのかしら……?)
 
 
 そして、さらにその頃の郁未は……。
346使徒_5_End:2001/08/10(金) 20:58
 
 
──何か奇妙な物に守られている者が一人おるの?
 じゃが、今一人は少しずつ余の影響を受けつつある。
 そして、もう一人じゃ。
 あの時のは半ば偶然じゃったが、しかし、二人が場所をおなじゅうしておったのが良かったの。
 アレがどれほどに強い意志を持とうとも、さほど時をおかずに『できあがる』じゃろう。
 なに、今はまだ己が意志で動いておるがよい……──

                                    【残り20人】

【葉子が守られているというのは、高槻の例の装置によって、葉子の不可視の力が封じられているために起きた神奈側の誤認です】
347セルゲイ:2001/08/10(金) 21:03
郁未の描写は他のパートで散々書かれているのであえて触れてません。
この3人の名前がでていることだけで、すでに意味があることなので。

らっちーさん江。
編集時には、各書き込みの間に2行ほど改行を入れていただけると幸いです。
よろしくお願いします。
348名無しさんだよもん:2001/08/10(金) 23:32
349名無しさんだよもん:2001/08/11(土) 00:28
>>227
最近の松井は大振りのし過ぎだね。
ノリじゃないんだから、もっと落ち着けばいいのでは?
350名無しさんだよもん:2001/08/11(土) 03:40
メンテ
351道化(1):2001/08/11(土) 09:48
赤色灯と警戒音が充満する中。飛空艇の乗組員は緊張と焦燥を抱えて走り回る。

「長瀬老はどうした!?」
「それが、お部屋にこもったまま、ご返事も返されぬ様子で!!」
「ならば捨て置け!! もともと俺は、この話には乗りたくなかったんだ!!」
「しかし!!」
「ええい、そんなことよりも自分の命を心配したらどうだ!!」
「駄目です! どの脱出口も火が回っていて、パラシュートが!!」
「馬鹿な!! どこか無事なところがあるはずだ!! 俺はこんなところで死なん!  死んでたまるか!!」

そして、手近にあったドアを開けた瞬間。猛り狂った炎の精霊の舌が彼らを舐め回し、あとには何も残らなかった。


飛空艇は炎を身にまといながら、徐々に高度を落としている。
この飛空艇は上部にヘリウムが詰まった気嚢で浮力を得ている、いわば飛行船の小型なものである。
安全性で言えば、飛行船が空を飛ぶ乗り物では一番である。
だが、飛行船というとヒンデンブルグ号の大惨事を思い浮かべる人もいるかもしれない。
あの事故はヘリウムが手に入らなかったために水素を使っていたために引火し爆発をしたのである。
現在の飛行船は例外なく不燃のヘリウムが使われているために、あのようなことが再発することはまずありえない。
もっとも、この船は源之助の魔法と結界の影響で電気系統に狂いが生じ、監視装置や防火設備が作動しないまま火災が発生、延焼している。つまり、通常ではあり得ない事故である。


「長瀬老のご様子は!?」
「意識ありません! おそらく爆発のショックで大量の失血です」
「クッ、艇内はどうなっている!」
「機関室で爆発! 第三艦橋大破!!」
「機関室近辺の隔壁を閉め、防火装置を作動させろ!」
「了解!」
「無線はどうなっている!」
「だめです。発信はできますが、受信できません!」
女性オペレータの悲鳴のような報告と船長の怒声がブリッジの中を行き交っている。
352道化(2):2001/08/11(土) 09:49
整備班から報告です。……えっ!」
「どうした!?」
「おやっさんが……、いえ、整備班長が死にました……」
「……」
「作動しなかった給油装置を手動で止めにいったそうです、それで……」
「……そうか」
この船の整備を統轄する班長を乗組員は親しみを込めて、おやっさんと呼んでいた。
寡黙な職人気質だが面倒見がよく、整備班だけでなくすべての人に慕われていた。
そして、この船のことを一番に愛していたのは彼だったのかもしれない。この船に殉じたことはおやっさんらしい、とこの場にいる全員が思った。
「船長! 乗組員の一部に混乱が生じています! ご指示を!」
しばしの熟考の後、船長は遂に苦渋の選択を下した。
「総員、退艦!」
「はっ」
「巡視艇に打電。操舵不能。パラシュートによる脱出を試みる」
「了解」
船を放棄することはそれを統轄するものにとって、最大の屈辱である。
そしてなにより、おやっさんが命懸けで守ったこの船を捨てたくはなかった。
しかし、船長は乗組員の命を預かる者だ。彼らに対する責任は重い。
これ以上の死者を出すことの方が、彼に対する裏切りになってしまうだろう。
「副長、君は生存者を捜して脱出してくれ」
「ですが、船長は?」
「私は、この船に残る。万が一、島にこれが落ちたら大変なことになる」
島にはまだ哀れな参加者がいる。森が多いこの島に火の固まりとなったこの船が落ちれば……。
「しかし、舵はもう……」
「まだ、方法はある。だが、もし駄目だった場合確実に死ぬんだ。おまえたちを道連れにすることはできない」
それは嘘だった。もはや、この船の墜ちる先は神にしかわからない。
船長は死ぬ気であった。彼にはもう、なにも残されてはいない。妻も子供も皆、あの島で散っていった。
「そんな。私も残ります!」
オペレーターの声にブリッジクルーから次々に同意の声があがる。
そんな彼らの存在を船長は嬉しく思った。しかし、実際に出た言葉は違った。
「馬鹿者ッ! おまえたちにはやることがある!!」
そして、そこにいるすべての者の顔を見わたす。
「長瀬老は倒れた。だから、プログラムは中止させる」
船長の言葉に一同は驚愕する。
353道化(3):2001/08/11(土) 09:51

それもそのはずだ。実際に一介の船長でしかない彼にその権限はない。
だが、『長瀬』がいなくなれば積極的にこのプログラムを進めようと思う者はいなくなる。金銭で仕事をしている者はパトロンがいなくなったことを知れば職務を放棄するだろう。
それに、本人もしくは親類をプログラムに参加させると言われて仕方なく管理者になった者も多い。
オペレータの彼女は親が残した多額の借金を返済するために仕方なく参加した。
もう、自分は汚れているからと、悲しく微笑みながら。
副長は妻と子を守るために、誰にも言わず人殺しの手伝いをしている。
たとえ、家族に駄目親父と罵倒されていても。
他にも多かれ少なかれ理由があって彼らは管理者となっている。その人々を糾合すれば、この馬鹿げたゲームを終わらせることが出来るかもしれない。

「わかりました」
そう言ったのは船長の右腕といえる副長だった。
「必ずや、このプログラムを終わらせます」
最も船長を尊敬している彼がそう答えれば他の者も是非はない。駄々っ子のようにごねても時間を浪費するだけである。
「うむ、よろしく頼むぞ」
胸にこみ上げるものを堪えながら、船長は絞り出すようにそう言って再び全員の顔を見渡す。
そして、誰ともなく手を差し出して、やがてクルー全員ががっちり手を合わせて決意を固めた。
だが、
「脱出されるのは一向に構いませんが、プログラムを止められるのは」
入り口から聞こえた声が、その場にいた全員に冷水を浴びせた。
「ちと、困りますな」
その言葉と共に入ってきたのは長瀬源之助であった。
足元はふらつき、口の端から血を流し顔色は悪い。だが、その威圧感はブリッジにいた全員を萎縮させた。
「そ、そんな……」
先ほど長瀬の様子を見に行ったクルーが青ざめた顔で呟く。
意識がなかったのは念話をしていたからだということは、さすがにわからない。
354道化(4):2001/08/11(土) 10:02
緊迫した空気の中、一人の男が腰のホルダーから拳銃を取り出す。
「だが、あなたが死ねばプログラムは終わる。いや、終わらせる!」
そう言って銃を源之助に向けたのは副長であった。普段は見せることのない感情を露わにして。
オペレーターも銃口を振るわせながらも銃を構える。以前に人殺しの道具なんて持ちたくないと言っていたのに。
他のクルーもそれに倣う。怯えた砲列が一人の死にかけた老人に向けられる。
だが、源之助はそれらを意に介さず、無感動に眺めて軽く首を振る。
「やめ!……」
そして、一人銃を取らなかった船長がなにごとか叫んだときだった。
風船が破裂したような音がいくつも鳴った。

いや、現に彼らは破裂した。

源之助は懐から小さい機械を取り出し、それをもてあそぶ。
それは、スイッチ。付近にある小型爆弾を作動させるためのスイッチ。
結局、彼は誰も信用していなかった。ただ、利用するだけで。
旧知の青年も。故郷から来た少女も。
自らの手駒も。
「終わらせるわけには、いかないのだよ、神奈」
源之助はコンソールパネルに何事か命令を入力した。

【疑似人格 G.N.実行】

それは源五郎が作ったメイドロボの疑似人格の応用である。
『長瀬』が全滅したときに残りの管理者が職務を放棄しないよう、あらかじめプログラムされた指示を彼らに流す。
そして、あたかも生きているかのように、生者たちに戦いを強要する。
355道化(5):2001/08/11(土) 10:03
船長の遺志が通じたのか、やがて飛行船が島の北西に着水したとき、源之助は朱に染まった羽織を着ていた。
それが己の朱なのか、他人の朱なのか、もはや誰にも分からない。
そして彼は、最期の仕上げのために彼は飛空艇の通路を這いつくばって進んでいた。
わずか、数十メートルだが、失った体力では何十倍もの長さに感じられる。
多くの人々に与えた苦しみに比べれば、明らかに安易な道のりだが。
何度も意識を失いそうになりながらも、やがて、通路が途切れ、海が見える所に着いた。

海は変わりなく、青く。
雲は変わりなく、白かった。
彼がこの世界に初めて来たときと、変わりなく。

源之助はそこら辺に落ちていた金属の破片を懐に入れると。
「道化、だな……」
そう呟くと、長瀬源之助は海に飛び込んだ。


【長瀬源之助 入水】
356幕開けは爆音と共に(1):2001/08/11(土) 14:17
ふわり、と光が浮いてくる。
番号で人物位置を表示するレーダーの光点を、芹香は食い入るように見つめている。
往人がその後から、被さるように覗き込む。

 「……あれ?」

中央に二つの番号。033と037は往人と芹香のものだ。
往人が暗記しているのは023と024、晴子と観鈴だけ。
(おい、あいつの番号は何番だ!?
 そもそも、あいつの名前は何ていうんだ!)
(私に聞かないでよ!えっと、たしか…少年、だったかな?)
(ハァ(゚д゚)? そりゃ名前とは言わないぞ… )

しかし考えるまでもなく、すぐ隣に一つの光点があった。
…048番。近すぎる。
すぐ、隣。だが姿は見えない。それは、ホールの中だからだ。
往人は鋭敏に殺気を感じとり、芹香を突き飛ばす。
「あいた!…何す…!!」

 そして、銃声。

抗議をしようとした芹香の脚に、赤い液体がぱたたっと音を立てて生暖かい斑点を付けていく。
芹香のいた位置に置かれた往人の腕が、真っ赤に染まっていた。
「…往人!?」



びゅう、と大きな音がした。
街の外では心地よかった風が、ビルディングに乱され郁未の長髪を流している。
銃弾がかすめた跡を、なぞるように強く吹きつけていた。

 (どうすれば……)

銃声を聞いて生じた、一瞬の迷い。
だが、それには無限の長さと等しい意味がある。
 
357幕開けは爆音と共に(2):2001/08/11(土) 14:21
くるりと鉄筋の骨組みをふり返ると、既に人影も物音も消えてしまっていた。
…つまり、全ての元凶の、少なくとも一端を担うであろう、あの髭の男を見失ってしまったのだ。
小さく舌打ちをして、追跡を諦めた時、ふと違った考えが浮かぶ。
髭の男の銃弾によって、少なくとも一人は倒れていた。
実は髭の男と少年は組んでいて、二人で参加者を狩ることにしたのだろうか?

(ああもう、考えても、仕方がないわ!)
少年の敵であろうと味方であろうと、危険な存在である事には変わりない。
常に遠距離から狙われる恐怖を感じたまま、今は少年のところに向かうと決める。

二発目の銃声は誰のものだろうか?
現在重要なのは、それだけだ。
…多くの迷いを両手一杯に抱えて、それらを保留したまま、郁未は走った。



ショックに震える脚を、どうにか制御して立ち上がろう、駆け寄ろう、とする芹香。
しかし往人は、先ほどフランクとの邂逅で見せた、狼のような眼をして、無言のまま血に染まった腕で芹香の襟首を掴むと、
凄い速さでビル影に引き摺って行く。
まず芹香を投げ飛ばし、続いて自分も転がり込むと、声を抑えて叫んだ。
(くそったれ、銃まで持ってやがったのか!)
(往人……)
(悪ぃが文句は安全になってからにしろ!
 方向からして…あのホールの、二階か三階から撃ちやがったな)
(違う、傷!腕は大丈夫なの!?)
(派手に血が出てるが、動く。今はそれで、じゅうぶんだろ)
そう言いながら、ホールの様子を見ようと顔を出す。

だが少年の姿を認める前に、住人は一人の少女を発見してしまった。
(おいおい…あいつは、小僧と一緒にいた女じゃねぇか!)
いつの間にか接近していたのは、たしか郁未とか言う女。
死体に驚くこともなく、きょろきょろと何かを探している。
 
358幕開けは爆音と共に(3):2001/08/11(土) 14:24
やがて郁未の視線がこちら側を向きそうになるのを見て、住人は慌てて顔を引っ込めた。
そのまま肩口を芹香に引っ張られ、住人は彼女の膝の上に後ろにごろり、と倒れ込む。
(うお、何しやがる!)
(いいから!腕!見せなさい!)
いつの間にか開いた鞄から、包帯を取り出して往人の腕に巻く。
((……))
柄にもなく、無言の二人であった-----本来片方は、無言の人なのだが。

(こんな時に、何考えてんだか…)
照れもあって、ふい、とずらした住人の視線が、何かの視線と重なる。
(…おい……こいつは、何者だ?)
(え?ああ、小屋で分配した時に余ってた、クマ爆弾よ)
(「ぴこ」とか「ぴっこり」とか奇声はあげないんだな?)
(ぴこって…あんた何言ってるの?)
冗談だ、と言いながら起き上がり、治療を終えた腕でクマ爆弾を掴む。

あぐらをかいた脚の間にクマ爆弾を置いて、芹香のレーダーを見ると、003番が光っている。
(そうそう、もう一人お客さんがきたようだぜ…ああ、これだな)
(…ほんとだ。それで、この人は味方なの?敵なの?)
(どっちかと言えば敵くせぇが…いや、なんとも言えないな。
 あの小僧を探しているのかもしれないから、会わせてやれば解るだろ)
(…どうやって、よ?)
クエスチョンマークを頭に浮かべてしかめっ面の芹香に、にやりと笑みを投げかけて、往人はクマ爆弾を手にとった。

そっと顔を出して、郁未の位置と方向を確認する。少年の気配を感じたのだろうか、彼女はホールのほうを向いていた。
幸運に小さく頷くき、背中のタイマーを操作して無造作に放り投げると、ホールのある建物の、郁未と反対側の端に落ちた。
(ちょ…何してんのよ!!)
(なあに、自分の位置は知られてねぇと思っている、あの糞ったれに見せてやるのさ…得意の、人形劇をな!)
最後は半ば叫ぶように言い放って、頭を引っ込める。
耳をふさぎ、小さく縮こまる住人を見て、芹香も慌ててそれに倣う。
 
359幕開けは爆音と共に(4):2001/08/11(土) 14:26
 ドカン!
  バクン!ドドドドドン!
   ガシャン!バリバリバリン!

爆発音。
続いて壁の抜ける衝撃と、天井の落ちる音。
吹き飛ぶ硝子と、それが地面に降り注ぐ音。

一瞬にしてホールは半壊し、今や火の手が上がっていた。
二人同時に顔を出して、様子を窺う。
(ちっ、思ったより大した事ねぇな…それでも、上手くいきゃこれで死んだだろ)
(どこが人形劇なのよ馬鹿!
 もっと凄かったら私達まで吹き飛んでたわよ!)
ぺちん、と住人をはたく芹香。
(そりゃそうだがよ…あいつの相手は、正直、荷が重いんだぜ…)

…ぼやく往人の希望は、かなわなかった。
爆破したホールの反対端、郁未の立つ正面に非常階段がある。
きい、と小さな音がして、三階の扉が開いたのだ。

姿を現したのは、もちろん少年。
三階までは抜けなかったのだろう、見たところ大きなダメージを負っているようには見えない。
往人は歯を食いしばり、再び狼のような笑みを浮かべて、銃を手に持ち立ち上がる。

 (さあ、楽しい人形劇の始まりだ)
 (もう、悪趣味よ)

 自分の事すら操り人形に例える住人を、ぴしゃりと芹香がたしなめた。


 
360幕開けは爆音と共に(5):2001/08/11(土) 14:28
そしてその頃、少年と郁未は燃える炎の音だけを聞いて、静かに対峙していた。

見下ろす少年。
「…久しぶりだね、と言うほど時間は経っていないかな?」
見上げる郁未。
「……」
いつになく多弁な少年が、階段を降りてくる。
「具合は、どうだい?見たところ元気そうだね。」
対する郁未は、無言のまま立ちすくむ。
「……」

 郁未は、迷っていた。

 私は彼を、救えるのだろうか?
 私は彼を、殺せるのだろうか?

 そもそも私は、生き残れるのだろうか----?

 -----答えが出るのは、これからだ。

 
361名無したちの挽歌:2001/08/11(土) 14:31
【郁未と少年、階段を隔てて対峙】
【往人と芹香、二人の様子を見物中】
【フランクは迂回中?】


「幕開けは爆音と共に」です。
いろいろと芝居がかった場面を散りばめてみたり。
「…どうしよう…」
見る見る遠くなっていく郁未さんの背を見ながら私はつぶやいた。
ちらっと後ろを見る。
耕一さんの教えてくれた喫茶店はすぐそこだ。
まだ決まった訳じゃないけど、きっとお母さんにすぐあえる。
けど、だけど。
それでいいの?
観鈴ちん、それでいいの?

郁未さんは私に言った。
お母さんの事は大事にしないとだめって。
お母さんといられる事はとてもすばらしい事だって。
とっても優しくてそして悲しい顔でそういった。
それは正しいと思うんだけど、でも私その時気づいてしまって。
もしかしたらって思ってたけど、
放送で呼ばれた天沢未夜子さんは郁未さんのお母さんだって事に、
郁未さんのお母さんはこの島で死んでしまったという事に、私は気づいてしまって。
あさひちゃんの事、思い出す。
この島で出来たお友達のこと思い出す。私の前で死んでしまって、私何もできなくて。
智子さんもお母さんも必死に戦っているのに、私突っ立っているだけで。

そんな私だから、往人さんなにも言ってくれなくて。
きっと何かのため人を殺してしまったのだろう、何かとても重いもの背負っているようなのに、
観鈴ちんにはなにひとつ言ってくれなくて。

茜さんの時も私何もできなくて。
私、もっとしっかりしてたらあんなことにならなかったかもしれなくて。

お父さんも、あさひちゃんを守るために戦ったのに、
私だけ、私だけどうしようもなくて。

お母さんの事思い出す。
「もう大丈夫や、観鈴。うちはずっと、あんたと一緒や……」
そう言ってくれたお母さんの事思い出す。
安心させてあげたい。
顔を見せてあげたい。
抱きしめて欲しい。
抱きしめてあげたい。
今すぐ、会いたい。
お母さん、お母さん、お母さんお母さんお母さんお母さんお母さん・・…・

決めなくちゃならない。今、すぐに。もう、郁未さんの背中は随分小さくなってしまっている。
このままじゃ見失っちゃう。
「ごめんなさい…!!」
喫茶店の方むいて、私叫んだ。
「今すぐ会いたいけど、でもお母さんに会うと、私、弱くなっちゃう…!!」
ここから、声なんて届くかなんて分からないけど、私叫んだ。
「お母さんに会ったら私、きっと甘えちゃう!!きっと安心して、お母さんから離れたくなくなっちゃって、もう…戦う事なんてできなくなる…!!」
鳴咽とともに、声を嗄らして叫んだ。
「もう…いやなの…それだけは…いやなの…友達が…危ないの…あさひちゃんのときのようなの…もういやなの…だから…!!」
郁未さんが友達なんて私の一方的な思いかもしれないけど。
私、郁未さんの方に振り向いて、
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!!」
そう叫びながら走りはじめた。
「郁未さん、待って!!待ってよ!!」
前を走る郁未さんに私必死で呼びかける。
けれど、距離がありすぎて。私が迷ってしまった分の距離が開いてしまって。
精神感応に集中しているせいなのかもしれないけど、郁未さんちっとも気づいてくれない。
「待って、待って…」
私、もういきがきれてしまって。
どうしてだろう。怪我しているのに郁未さんの方が足が速い。
このままじゃ見失っちゃうよ。
そう思ったとたんに、わたしは転んでしまった。
「が…お…」
痛い、痛いよ。走っていて転んだだけなのにとても痛いよ。
「見失っちゃう…立たなくちゃ」
でも、そう言っている間にも、郁未さんはずっと先に言ってしまって、ついに視界から消えてしまった。
「うっぐ…うう…」
痛くて、立てなくて、私泣いてしまって。
…情けないよ…
郁未さんはあんな怪我でがんばっているのに。
情けなくて、どうしても涙が出るのを止められなくて。
郁未さんにはもう、こんな痛みすらなくなってしまったてういるというのに。
どうして、私は…
だから、私立ち上がろうとして、
そこで急に肩を貸してもらった。
「大丈夫かよ!?あんた!?」
そんな言葉と共に。
ちわーす。目的のためなら仲間も見捨てるニヒルなナイスガイ、北川潤でーす。
皆さんお久しぶり!!ほんと久しぶり!!
はい? こんなところで何してるのかって?施設に行ったんじゃなかったのか?ですか。
ああ、はい、行こうとはしたんだけどね。ほら放送かかったじゃん?
あの蝉丸さんて人の。
いや、直接会った事はないけどさ、一応初音ちゃん達からその名前は聞いていた訳だし、
ま、療養所の事言いに行ってもいいんじゃないかとか思った訳ですよ。
一応はきにしてるんだぜ? 療養所の連中、見捨てた事。
で、ちょっと回り道になるけど顔ぐらい見せに行くか、とか思ってちんたら歩いてたら。
なんか目の前でずっこけられた訳。
思いっきり全速力で頭からズシャーと。
なんかその女の子必死に立ち上がろうとしてたけど、ありゃ痛いでしょ。下コンクリートだし。
で、思わず肩を貸してしまった訳ですよ。
ん?ああ、はいはい。そりゃごもっとも。
銃持ってる知らないやつに手を貸すなんて愚の骨頂。
いきなり撃たれても文句言えないですな。
状況分かってんのかっていわれても仕方がない。
だいたい、こんなことしている場合じゃないだろって?
まあ、そうなんですけどね。俺、なんかCDとかレアアイテム持っているらしいし。
さっさと施設にでも行けって感じだよな。そのために仲間とか見捨てちゃった訳だしさ。
それで、こんなとこで女の子に声かけるなんて、たいしたナンパ君ですよ。
ほんとに全く御説ごもっとも!!
けどさ、まああれですよ。あれって言うかなんて言うか。つまるところまああれで。

…レミィに似てるんだよ、畜生。
反則だぜ、おい。
レミィに、数時間前に死に別れた好きな子に似てる子が、
苦しそうな声あげて、立ち上がろうとして。
…畜生。反則だろうが。そんなの。
「 大丈夫かよ!?あんた!?」
だから、俺はそう言って手を貸してしまう。
「えっ…!?」
その子は、やっぱり驚いたみたいだな。それでも、その子はすぐ笑顔をこっちに向ける。
「う、うん、大丈夫。にはは」
その子は結構かわいい子で(レミィに似てるんだから当然だよな)、
そんな子に笑いかけられたら、普通喜ぶ所なんだろうな。
普段だったら俺も小躍りどころかランバダにリンボーダンスをはしごするぞ。
けどさ、やっぱ辛い。
レミィの顔で、レミィとは違う声で笑いかけられるのはやっぱ辛い。
「そうかよ。そりゃよかったな」
そんな訳で俺はついそっけない声を出してしまう。
「うん、平気。観鈴ちん強い子」
…観鈴だと?
その名前には聞き覚えがあった。
たしか、国崎がそういう名前の子を探していたはずだ。
「おい、今あんたなんて…」

ターンッ

だが、そこでそういう音が鳴り響いた。銃声だ。
「…クッ!?」
俺はその子、観鈴を引っ張って身を隠そうとしたが、手を振り払われてしまう。
「行かなくちゃ、私」
「おい、そっちは銃声がした方だぞ!?」
軽くびっこをひいて、観鈴はいこうとする。その膝は擦り剥いて血が流れてきている。
「うん、だから私行かなくちゃ。あそこには友達がいて、管理者の人と戦おうとしていて。私、助けなくちゃいけなくて」
管理者って。さっきの放送に管理者側が何かやらかそうとしたのか?
「…見失ちゃったから、探さないと。ありがと、助けてくれて」
そういっているうちに、もう一発銃声。
「待てよ!!おい、ちょっと…!?」

バアアアアアゥゥゥッッッッッッン

今度は爆発かよ!? 何が起きてるんだ!? やばくないか!?
観鈴も驚いたようだが、黒煙が上がった方へ歩いていく。
そこまではまだちょっと距離があるようだが…

どうする? どうしたらいい?
相当あそこはヤバイ事になっているみたいだ。
そんなところにこんな女の子を一人でいかせちまっていいのか?
どう見たってこの子戦いなれてなんていない。銃を持つ手もおぼつかない。
そんな女の子をいかせてしまっていいのか?

じゃあ、何か?俺もあそこまでいけってのか。
ほとんど見ず知らずなこの子のために修羅場に飛び込めってのか?
命はもちろん惜しい、そんなことは恥ずべき事じゃない。
命をかけることがかっこいいだなんてこれっぽっちも思えない。
でも、それだけじゃない。責任の問題もある。
何のために療養所の連中を見捨てた?
おそらく切り札であるCDを危険にさらす事のないように。そのためだ。
そういう理由で小学生の女の子に説得させられた。
確かに、危険な事はさけるべきだ。今俺が持っているアイテム、情報は貴重すぎる。
それなのに危険に飛び込むのか?
それとも…いっそのこと力づくで引き止めるか?
そんなことができるのか?
こんなに必死に前に行こうとしている子なのに?
それでも、この子の安全のためにはそうするべきなのか?

畜生。
畜生、畜生、畜生。
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生
畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生…!!
どうすりゃいいんだよ、俺はぁっ!!

【北川潤 デザートイーグル、ノートパソコン、CD無印、CD2/4、CD1/4所持】
【神尾観鈴 G3A3アサルトライフル、少年の荷物、自分の荷物所持】
370道化作者:2001/08/11(土) 23:46
いつも、編集おつかれさまです。
申し訳ないですが、修正をお願いします。

"船長の遺志が通じたのか、やがて飛行船が島の北西に着水したとき、
源之助は朱に染まった羽織を着ていた。"
           ↓
”飛空挺は島の北西に着水に成功する。船長の遺志が通じたのだろうか。
そのとき、床に倒れ伏す源之介が着ていたのは朱に染められた羽織だった。”


”そう呟くと、長瀬源之助は海に飛び込んだ。”

のあとに、

”そして、二度と浮かんでくることはなかった。”

の一文を足してください。

お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします。
371観鈴の決断、北川の迷い作者:2001/08/12(日) 03:02
編集のほうお疲れ様です。
いつもお世話になっています。

申し訳ありませんが、訂正のほうお願いします。
【6】の真中らへんの
>その名前には聞き覚えがあった。
>たしか、国崎がそういう名前の子を探していたはずだ。


”その名前には聞き覚えがあった。
たしか、国崎さんがそういう名前の子を探していたはずだ。 ”

に訂正お願いします。
よろしくお願いします。
372名無しさんだよもん:2001/08/12(日) 09:58
アゲ荒らしに沈められそうなんでage
373名無しさんだよもん:2001/08/12(日) 09:59
全然、上げてなかった…
374「まだ癒えぬ傷痕。(Summer.)」:2001/08/13(月) 10:33

「顔を上げろよ。その脳天撃ち抜いて、お前の事も終わりにしてやるから」
そして、その瞬間に僕は鬼畜に落ちるのだろう。僕も終わっていくのだ。
或いは、僕がこいつに殺されるか。どちらにしろ、地獄に行くという意味では一緒だ。

――七瀬彰が、無言で俯いたままの柏木耕一に拳銃を向けて、
その引き金に人差し指をかけた、その瞬間だった。

「あきら」

ゆっくりと顔を上げて、耕一は彰の名前を呼んだ。
刹那、ぞくりと震えたのは、何故だ。相手が自分を殺す事を厭わないよう、あんな言葉を吐いたのに。
殺される事など既に怖くはない筈なのに、何故これほどに恐ろしい。
二十歩ばかりはある距離なのに、この、今もう脳天に拳銃を突き付けられているかのような威圧感は何だ。

その耕一の頬には、一筋の真っ赤な血が、何処からか流れてきていた。
何処か怪我をしたのだろうか。いや、そうではなかった。

それが真っ赤な色をした――涙だと気付くのに、それ程の時間は要さなかった。

――鬼神。それは、とても人の姿には見えなかった。
今の僕の肉体と同じで、いや、自分とは比ぶるまでもなく。
人とは、違うものなのか――?

真っ赤な涙を流しながら自分を見るその目は、怒りというよりはむしろ、悲しみに満ちていた。
護れなかった悲しみ。大切な人をまた一人失った、悲しみ。自分の無力感。
それがきっと、あのような表情にさせているのだろう。
――そうではないのか?
耕一の視線の先にあるのは、もう「死んでしまった」初音なのではないか?
375まだ癒えぬ傷痕。(Summer.):2001/08/13(月) 10:34

「判った」
殆ど聞こえないかのような声で耕一が呟いたのを、彰ははっとして聞く。

「彰、俺がお前を殺してやる」

思わず震える。なんて声だろう。あんなに小さな呟き声なのに、何故これ程に重い。
人の声だとはとても思えない。「あれ」は、人の姿をした――修羅だ。きっと、自分は殺される。
肉片も残らないくらい、ずたずたに引き裂かれて殺される、そんな予感さえする。
それ程の事を自分は言ってしまったのだ。彼にとって、初音はどうしても護らなければならないものだったのだから。

(――望むところだ)
だが一方で、そのどうしようもない恐怖の裏に、不思議な恍惚感を覚えているのも事実だった。
それは死ぬ事への憧れなのか、それとも――戦う事への憧憬、生き残る事への執着なのか。
自分の身体に充足を感じる。貧弱だった自分を思い返す事すら出来ないほど、今の自分の身体は充実していた。
思わず乱れそうになる呼吸を抑えながら、高鳴りそうになる心臓を抑えながら、彰は薄く目を閉じた。

(二度と空を見る事はないだろう。見る事があれば、それはきっと地獄の空だ)

――耕一が鞄から取り出したのは、自分が耕一を刺した、あのナイフだった。
他に武器があるだろうに、何故よりによって最も貧弱な武器を選ぶ?
それを右手に強く握ると、耕一は、あのどうしようもなく胸が透くような声で――こう言った。
「すぐ、終わらせてやる」

その言葉を聞くや否や、彰も肩を竦めて――こう言った。
「始めようぜ」
そして、銃口を耕一に向けた。それが契機となった。
376まだ癒えぬ傷痕。(Summer.):2001/08/13(月) 10:39
ガァンッ!

足元を狙って彰は引き金を引く。殆ど練習のような射撃だった。
自分の腕力が、この拳銃を扱う程あるかどうか確かめるための射撃。手応えは十分だ。

タンッ!

だが、泥が撥ねる音がしたかと思った瞬間には、耕一は銃弾をかわし、中空を舞っていた。
信じられない事に、耕一は1メートル近く飛んでいる。
その勢いのまま、一瞬にして自分との間合いを詰めると、
手に持ったナイフで彰の頚動脈を狙い、力任せにそれを振り下ろしてくる!
その斬撃を、彰は咄嗟に銃の背で受ける。

キィィィンッ!

片腕だというのに、その逞しい一本の腕だけで耕一は自分を殺しきろうとしている――!
先程とはまるで違う。なんという戦闘力だ――
両腕で銃を持ち構え、彰は懸命にその腕力に耐える。
「――……はぁッ!」
圧倒的な腕力で刃を強引に彰の身体にねじ込もうとするが、
「っ……離れろっ――!」
彰は大声をあげてそれを弾き飛ばした。
――大丈夫だ、負けていない!

耕一は弾き飛ばされて、体勢こそ殆ど崩さなかったが、そこには五歩分の距離が開く。
すぐさま銃口を向け、彰は引き金を躊躇うことなく引く。
「くらえ――!」
今度は殺すつもりで、脳天めがけて!

ガァンッ!
377まだ癒えぬ傷痕。(Summer.):2001/08/13(月) 10:39
だが、耕一はほんの一瞬しか隙を見せない、反射的に屈み、脳髄を狙った弾丸をやり過ごす!
なんて運動能力だよ、彰は舌を巻く。
そして低い体勢のまま、再び彰に向けて走りかかる!
彰は後ずさりしながら、耕一との間合いをなんとか取る。ナイフが届く位置に入らせては駄目だっ――

ガァンッ! ガァンッ! ガァンッ!

「くっ――……」
彰は走りかかる耕一に容赦なく銃弾を放つが、そのどれもまともに命中しない。
落ちつけ、クールに!
一番面積の広い腹を狙っても、耕一は刹那のサイドステップでそれをやり過ごす!
「このぉ――っ!」

ガァンッ!

その四発目を放った瞬間、ぱしゅ、と音がして、耕一の頬から血が吹き出した。
漸く当たった――だが。
それは耕一の前進をまるで止めない。怯むことなく、耕一は駆ける!
吹き出た血を無造作に手の甲で拭き取る、赤く染まった頬が禍禍しい力を象徴するかのように、それは耕一を彩る!
「くそっ――」

ガァンッ!

ナイフが届く距離まで近づいているのに、まるで当たらない!
自分の運動能力も相当高まっているはずなのに、何故?
そして、どうしようもない速度で動き回る耕一が、その速度のまま自分の横をすり抜けた!

ザシュゥ……――
378まだ癒えぬ傷痕。(Summer.):2001/08/13(月) 10:40
「うぐっ――」
左腕に走る痛み。すれ違いざまに斬られた!
そして、耕一を刹那見失う。なんて早さだ、と舌を巻く、何処だっ!
(しまったっ)
神経を集中し、気配を感じ取ろうとするが――遅かった。
その太い腕で首根っこを掴まれる。抵抗できない程の圧倒的な腕力で、耕一は自分を持ち上げると、
「終わりだ、彰」
そう言って、そのまま彰の身体を勢い良く大地に圧し伏せた。
軟らかな土に顔面を押し付けられた。下が軟らかな土だったから、それ程のダメージは受けなかったが、
それでも彰は――敗北を感じずにはいられなかった。
この状況は、先程の自分と耕一の、最初の戦いでの状況を、配役を入れ替えて演じているようなものだったから。

――そうして、あっさり勝負は決した。

――これ程までに、力の差があったというのか。拳銃で、ナイフに敗れた。
彰は自嘲気味に笑う。苦しい。喉が圧迫されて、声を出す事も、息をする事もままならない。
真っ赤な頬をした耕一は、その顔を見ても、何も思わないかのように、息を吐くだけだった。
――それは、そうなのだ。
耕一と自分では、今では圧倒的に違う。肉体も、――心も。

自分はここで殺される。耕一の手によって、肉片が残らないほどに。
きっと、その手首だけで、耕一は自分の首をもぎ落とす事さえ出来るのだろう。
首にかかっている圧力が、それを教えてくれている。
ああ、しかし何故だろう、これ程に感慨深いのは?

やっと死ねるのだ、という幸福。

僕は、その時やっと気付いた。
ここに来たのは、耕一を殺すためではなく、耕一に殺してもらうためだったのだと。
379まだ癒えぬ傷痕。(Summer.):2001/08/13(月) 10:45
狂気に落ちていく、それでも良かった、けれど結局、僕は――弱者だった。
そう、死にたかったのだ。耕一を殺して心が死ぬか、耕一に殺されて、身体も心も死ぬか。
そして、僕はある哀しい事実を、或いは救われる事実を、確信する。
僕はずっと、自分の事しか愛していないと思っていた。
けれど、それが偽りなのだと。他人の為に、きっとすべてを投げ出せる人間だったのだ。
きっと、きっと――はじめから。

耕一を、初音を。この島で出会ったすべての人たちを愛していたから。
愛する人を護るために、僕は自分を捨てても良いとさえ、思っているのだから。
狂った僕の衝動が、きっといつか、愛するものを本当に傷つけてしまうのなら、僕の身など必要が無い。
狂っているのだろう。きっと本当に僕は狂っている。
僕の奥深くに潜んでいた、狂気。すべてを滅茶苦茶に壊したいという、その衝動は――
きっと、自分自身を壊したいという衝動から、始まっていたのだ。
誰よりも自分を愛していると錯覚して、本当は誰よりも――自分が嫌いだったのだ。

「さあ、殺せよ」
喉にかかった力が抜ける。右手にナイフを持ちかえるためだ。
声が出せるようになった僕は、そんな言葉を呟いた。
目がかすむ。耕一の表情すら見えないまま、僕は、ただ、早く死にたいと願っていた。
耕一の身体で見えない空。そこには何がある?
(何もないよ。空の果てには何かがあるなんて、そんなのただの大人が吐いた嘘なんだから)

「ああ、殺してやるよ」
耕一の吐息が、頬にかかるまで近い。
さあ、早くその手に持ったナイフを僕の首元で動かしてくれ。
380まだ癒えぬ傷痕。(Summer.):2001/08/13(月) 10:47
――――――――――――――――けれど。


「――どうして、殺さない」
言葉が無くなって、どれほどだったろうか。僕は、未だに死んでいない自分の身を顧みて、息を吐く。
「殺せないのかよ、意気地なしめ」
罵倒の言葉を僕は吐く。
「殺せよ! 憎いだろうが、僕が憎いだろうがっ」

「――俺は、お前が死にたがっているのが判ったから」
そんな言葉を呟いた。そうか。――見透かされていたというわけか。
喉元に刃物がある、ほんの僅かでも動いたならば、僕はきっと死んでいく。
なのに、時が止まったかのようにそれは動かない。

「なあ……殺さないで、どうして護りたいものを護れるというんだ? だから護れないんだよ、大切なものを」
耕一は、たぶん、苦々しい顔をした。
「お前は、俺を殺さなかった」

ぽたり、と、頬に雫が零れる。耕一の汗だろうか?
透明な色をしたそれは、ぽたぽたと、耕一の瞳から零れ落ちていた。
「お前は、俺を殺さなかった」
その細められた哀しい目の先には、紛うことなく、自分だけがあった。


それでは先程のあの血の涙は、僕の為に流していたというのか?


「だから、お前が、本当に初音ちゃんを殺したなんて思わない。絶対に思わない」
「……――殺したよ。――この銃で、初音ちゃんを殺した」
「それが嘘だって事くらい、判る」

「俺も殺せないで、一番大事なものを殺せるわけが無い」
381まだ癒えぬ傷痕。(Summer.):2001/08/13(月) 10:53
僕は否定もせず、耕一の顔を眺めた。意識が朦朧として、その表情は判らないけれど。

「お前は俺を、殺さなかったにせよ、殺そうとした。それは赦さない」
「なら、殺せ」
「殺すなんて死ぬほどつまらない。だから、俺はお前に命令する。絶対に死ぬな。初音ちゃんを護りきれ」

「それか――嘘を吐くな。初音ちゃんに新しい日常を与えると言った、あの言葉を反故にするな」

耕一は立ちあがると、黙ったままの僕の手を取り、無理やりに立たせた。
「帰るぞ、療養所に」
真っ赤に装飾された顔に、先程のような鬼神のような印象はかけらも無い。
なんと優しい男なのだろうと、そう思う。
そして、なんと甘い男なのだと。

「耕一。お願いだから――そんな、酷な事を言うな」

背中を向けた耕一に、僕は持っていた拳銃の先を向けた。
反射的にそれに気付いたのだろう。耕一は振り返るが――
多分、遅かった。その筋肉に護られた腹筋に、僕は弾丸を叩きこんでいた。

「うぁっ――!」

瞬間、腹をうずくめて、耕一は倒れた。
――あそこなら、耕一も死ぬ事はあるまい。防弾装備もしていた筈だから。
だが、防弾装備をしていたと言っても、すぐに立ちあがれるほどの距離からの射撃ではなかった。
「彰っ――」
僕はそれでも無理矢理に立ちあがろうとする耕一を哀しげに見ると、拳銃をその傍らに放った。
もう、必要の無いものだ。

「サヨナラだ、耕一」
382まだ癒えぬ傷痕。(Summer.):2001/08/13(月) 11:00

そう言い残して、森に入る。耕一が何か呼ぶ声が聞こえるが、――関係無い。

何処へ向かっているのか、と言えば――それは、判らない。
けれど、少なくとも死の淵の方向へ向かっている事だけは判った。
誰の手も借りず、死ぬ事が出来る場所。そこを捜して、僕は歩き出した。

耕一の言葉があまりに嬉しかったのだろうか?
嬉しすぎて、――哀しかった。
もう、あそこに戻る事は出来ない。喩え本当は狂っていなくても、それでも。
生きているのがつらい。
だが、それ以上に――自分の自虐衝動が、初音を、耕一を、傷つけるのが怖かった。

この島に来て生まれた新たな傷痕は、もう二度と癒える事がない。
この島に着た誰もが、その癒えぬ傷痕を抱きながら生きて、死んでいった。

どうか。ここで出会った優しい人たちよ。僕のように弱い心じゃない、逞しく生きていく人たちよ。
まだ癒えぬ傷痕は、それでもいつかは癒える日がやってくるのだから。

ああ、神様。
もう一度だけ空を見ても良いですか?


【七瀬彰 柏木耕一 戦闘終了。彰は何処かへ歩き出す】
383↑の作者:2001/08/13(月) 12:28
ちょいと最後がおかしいので訂正。


この島に来て生まれた新たな傷痕は、もう二度と癒える事がない。

この島に来て生まれた新たな傷痕は、一つ、二つ、心に深く刻まれていく。


に差し替えてください。申し訳無い>らっちー氏
384名無しさんだよもん:2001/08/13(月) 13:55
夏は上げ荒らしの為にすぐdat逝きそうになる
385霊山:2001/08/13(月) 18:13
夏の象徴たる太陽もほとんど沈みかけている。
先ほどまでの銃声も離れすぎてしまったのか決着がついたのかついに聞こえなくなってしまった。
私は幾度目かの休憩をとりながら翼人についての知識を思い出していた。

『唐天竺では鳳翼と呼びならわし、異名を風司、古き名では空真理ともいう
 肌はびろうど瞳はめのう涙は金剛石
 やんごとなきその姿はまさしくあまつびと』

(よくもまあ美辞麗句を並べ立てたものね。)
息は落ち着いたが足の震えがとれない。山を一気に上っているので当たり前なのだが。
蝉の音に包まれながら重い足を何とか動かしながら私はさらに翼人について考えた。

人に知恵と知識をさずけた、貴ぶべき神。
かつて地上に災厄をもたらし、人により掃討された悪鬼。

翼人がそして神奈備命が何者なのかははっきり分からない。真の神であったのか悪鬼であったのか。
ただ一つ言える事がある、この山の上にいるのは好奇心と欲望にもてあそばれ歪みきっている。


ふいに空気が変わった。重くどんよりした物に。辺りを見回すと幹に麻縄を巻かれた木がある。
そこから等間隔に、白い紙が垂らされていた。
「注連縄……結界が張られてるの?」
この程度の結界私にはほんの少しの足止めにしかならない。さっさと一つ目の結界を越えた。
すると……。


森の様子が変わった。人が入った事の無い、原生林のようだった。
辺りを見回すと湿り気を帯びた靄、麻縄の残骸と捻じ曲がった木、そして死体。
結界は魔法の影響で外側を除いてバラバラに、そしてその中で警備していた人も。

「頑張るのよスフィー、ココからが本番なんだから。」
自分自身に一喝して歩き出す、神奈の封じられた祠は近い。

【祠付近に張られた結界は道を迷わせる物で島全体に張られてる物とは関係ありません】
386名無しさんだよもん:2001/08/13(月) 22:05
俺も念のため上げ。
でも、そろそろ容量的に移行の時期なんじゃないの?
まだ?
387疑似人格起動:2001/08/14(火) 00:49
ここはどこにでもある島。
ただ普通と違うところはそこで殺人ゲームが行われているということだけ。
そしてその島の中にある施設。
そこはマザーコンピュータが置いてある事から考えてこの島の中でも最重要拠点であろう。
これはそんな場所での出来事。

「ふみゅ〜ん!ひま〜!」
「みゅ〜!みゅ〜!」
「ちょっと〜!ここなんかひまつぶしになるものないの?」
「すみません〜。何もそういうものはおいてないんです〜」
「つまんない。………そういえばあんなさっきからなにしてるの?」
「あ、はい〜。千鶴さんに頼まれたCDの解析の続きと現在のCDの行方を捜索してます〜」
「ふ〜ん。で、それどのくらいかかりそうなの?」
「そうですね〜、まだ結構かかりそうですぅ」
「う〜。やっぱりひま〜」
詠美はふと繭の方を見てみた。

「みゅ〜♪」
「にゃ〜!にゃ、にゃ〜!(しっぽを引っぱるな!お、お前らも見てないで助けろ!)」
「ばっさ、ばっさ(いえいえ、お邪魔は致しませんよ)」
「しゃ〜、しゃ〜。しゃ〜(そうね、その子凄く楽しそうよ。良かったわね)」
「にゃ〜!!(俺は楽しくね〜!!)」

「こどもはきらくでいいわね〜」
詠美はため息をつくと一言そう言った。
388疑似人格起動(その2):2001/08/14(火) 00:51
(三行空け)
どれくらいの時間が経っただろうか。
突然マザーコンピュータから電子音が発せられ始めた。
「な、なによ〜!ちょっとあんた!なにしたのよ〜!」
「え、え〜と、私は何もしてないですぅ」
その間もマザーコンピュータから発せられる音はずっと続いていた。

突然音が止んだかと思うとマザーコンピュータの画面に
【疑似人格 G.N.起動開始】
という文字が表れた。

「ふみゅ〜ん、どういうこと?」
「あ、あれはですね」
「ちょっと待った〜!そっから先はワシが説明しとこうか!」
「ふ、ふみゅ〜!コンピュータがしゃべった?!」
「ワシはこのコンピュータ上の疑似人格プログラム『グレート・長瀬』通称G.N.だ。よろしくな!」
「ど、どういうことよ〜」
「全く理解の遅いやつだな!要するにそこのロボットと同じようなもんだ」
「そ、そうなの?」
「はい〜。私の人格プログラムと原理は同じですぅ」
「そういうこと。分かったか?お嬢ちゃん」
「ふ、ふみゅ〜!このくい〜んをばかにしないで!ちゃんとわかったわよ〜!」
「ほう、偉い偉い。ま、ワシの事は気楽にGちゃんとでも呼んでくれ」
コンピュータから発せられた声はそのままのテンション(?)で続けた。
389疑似人格起動(その3):2001/08/14(火) 00:52
「あ、そうそう。おい、そこのロボット。何かワシの体使ってたみたいだけど何してたんだ?」
「あ、はい〜。このCDの解析と他のCDの捜索ですぅ。でもまだ終わってないんですぅ」
「そうよ!あんたちょうどいいからてつだいなさいよ!」
「え〜!ワシが何でそんなことしなきゃならないんだ。めんどくさい」
「そんなこと言ってホントはできないんでしょ〜」
「何だと!」
「いいわよ。むりしなくても」
「ワシの力なめんなよ!おい、ロボット!終わったところまでのデータよこせ!」
「は、はい〜」
「まずはCDの捜索からか。こんなもん過去ログあさればすぐに分かるな。待ってな!1分で終わらせてやる」
G.N.がそう言うやいなや部屋中のコンピュータが一斉に動き始めた。

【疑似人格通称G.N. 起動】
390名無しさんだよもん:2001/08/14(火) 07:24
細かく上げとこうぜ。
391NANASHI!:2001/08/14(火) 07:28
392名無しさんだよもん:2001/08/15(水) 06:26
刻むゼ!!
393幽夢。:2001/08/15(水) 07:18

鹿沼葉子がその放送を聞いて走り出したのは――
放送が聞こえてきた方向とは真逆の、北に広がる深い森の中へ向けて、だった。
初音やマナ、その他の皆には勝手な行動を取ることを謝らなければならないけれど、今はその時間も惜しい。

あの少年の声が、聞こえた。

その声で葉子が連想したのは、当然――友人である天沢郁未の事、だった。
少年の傍に郁未がいるかもしれないという連想は決して突飛ではない。
島に来る前からの知り合いは減って、片手で数えられるくらいまでになっていた。
ならば――郁未があの少年と一緒に行動しているという可能性は、けして低くはないだろう。

逢いたい、逢いたい。郁未に逢いたい。

――それでも、何も疑わずにそこへ向かう事が出来るほど、葉子の判断能力は衰えていなかった。
あの時、再び出会った時の、少年の顔。
きっと彼は既に、狂っている筈なのだ。あの時の嫌な笑顔が、今でも忘れられない。

――人の多い場所は無いかい?

ぞくり、と震える。あの質問の意義は、今となって考えてみれば――皆殺しの為だったのではないか。
ならば、今の放送もまた、その為の布石なのではないだろうか。
葉子は考える。ほぼ確信と共に、ある考えを持つ。
あの少年には――「多少」なり、不可視の力が戻っている、と。
そう、飽く迄「多少」だ。
もし完全に力が戻っているのだとすれば、瞬きをする間にこの島は消し飛んでいるだろう事は想像がつく。
394幽夢。:2001/08/15(水) 07:19

だから、運動能力が常人を遠く超えたものになっているとか、たぶんその程度だろう。
だが、その程度でもこの島の人間を皆殺しに出来るだけの力は――ある。
何故ならば、彼は持っている。自分の命を護った一枚の紙切れ。「偽典」という名の、最強の兵器を。
拳銃も効かない。彼の運動能力にあの兵器は、あまりに危険過ぎる。

郁未は一緒にいるのだろうか? それとも、もう殺されてしまっているのだろうか?
想像はしたくない。だが、殺されている可能性を考えないわけにはいかなかった。
どちらにしろ、葉子はそこに向かわざるを得なかった。
(可能性がある限り、希望を捨てちゃいけないんです)
たとえ、その圧倒的な能力に、無残に殺される事と、なっても。
(諦めたらそこで試合終了ですよ)
バスケがしたいです―― とか、今はそういうくだらない事を考えている場合ではないかな、とも思ったが、
(いえ、違う。大事なのは心の余裕。熱くなり過ぎず冷静になり過ぎず。適度な興奮状態で、ですよ)
そう思って、葉子は少し笑う。考えろ。考えろ、考えろ。

その瞬間、葉子に走る閃き。
それは――
「そうだ」
それが、葉子を声とは反対の方向へ向かわせる理由だった。
息が切れる。身体が重い。だが、止まってなるものか。
正確な場所はわからない。けれど、街よりは北のほうだった筈だ。

そう。――すっかり、忘れていた。
森の中に落ちこんでいる筈の、高槻が持っていた――あの装置の事を。


【鹿沼葉子 持ち物……槍 北の森、高槻の死体のところへ向かう】
395信頼関係_1:2001/08/15(水) 19:11
「私たちはこれから南東の方角に向かうことにします」
 千鶴姉は唐突に言い放った。
「え? だって、あゆは西の方に行きたいって言ってて、芹香さん達もその途中にいるはずだっただろ?」
「うぐう! そうだよ、千鶴さん。おかしいよう!」
 予想と違いすぎる千鶴姉の指示に、わたしは疑問を投げかけた。
 あゆだってそうだった。
 自分の意志と違う方向に赴くくらいならば、一人で駆け出しかねない勢いで声を上げている。
「それがごめんなさいね。私のせいで状況は変わってしまったみたいなのよ」
 千鶴姉はわたしたち二人に見せるように、参加者の位置を示す装置を差し出した。
「あ、ほんとだ」
 何処をどう移動したのか、芹香ともう一人のペアはさっき千鶴姉の言った方角へと随分移動してしまっている。
 つまり……。
「南東に向かうことで初音達に会うことと、セイカクハンテンダケを手に入れることの、両方が達成できるってわけだ。だけど……」
 わたしは視線を左に流した。千鶴姉もその視線を同じ方に流した。
 当然、そこにはあゆが立っている。
「うぐう……。千鶴さん達がそっちにいくのなら、ボクはあっちに行くよ!? わがままを言ってるんじゃないんだよ。本当に急いでいかないと駄目な気がするんだよっ」
 あゆが西の方角を指さし、千鶴姉に必死の表情で訴えかける。
 さっきの雨のこともあるし、あゆの勘もおいそれと放っておくわけにもいかないかもしれない。
 けれど、一つだけ分からないことがあるんだ。それは……。
「あゆちゃん、もう一度だけ聞くわ。何が間に合わないのか、教えてもらえる?」
 わたしの疑問を代弁するように千鶴姉が問う。
「うぐう。それはボクにもはっきりとは応えられないんだよ。でも、これは確かなことなんだよ。信じてよ、千鶴さん……」
 言いたいことを上手く言葉に表せなくて、あゆは涙目になってしまった。
 わたしは左手をあゆの肩に置き、落ち着かせようとした。
396信頼関係_2:2001/08/15(水) 19:12
「わたしも千鶴姉も、あゆの言うことは信じてるよ。だけど、確実に出来ることが目の前にあるのなら、そっちから片付けた方が良いんじゃないかとわたしは思う。千鶴姉も……」
 そう思うだろ? と続けるつもりだった。けれども、千鶴姉は首を横に振ったんだ。
 そして、またしてもわたしの予想外なことを言い放った。
「梓……。初音をお願いね?」
 わたしもあゆも、驚いて目を見張った。
「じゃ、じゃあ千鶴さん!!」
「お、おい、千鶴姉!!」
「私はあゆちゃんと二人の時に、もう一つ不思議な体験をしているのよ、梓。だからこそ、施設を出るときにあゆちゃんの同行を許したの。それに……」
 脳裏に苦い過去をよぎらせたのか千鶴姉はそこで一度、言葉を止めた。そして僅かに表情を歪めながら続けた。
「初音と私がいま会っても、上手くいかないっていうのは梓にだって分かっているはず。だとしたら、考えられる手は一つしかないわ」
「つまり、わたしが一人で例のキノコを手に入れて、施設の繭に食わせてやるってことなのかい、千鶴姉……?」
 千鶴姉の言葉に、あゆは目を輝かせている。
 確かに施設にいるときに確認した限りでは、ここより西には参加者のいる形跡がなかった。
 だから、あゆは千鶴姉がいるかぎりまず安心だろう。
 そしてわたしも、自分一人の身ならばどうとでも出来る自信はあった。
 だけど……。
「西に何があるっていうのさ! あゆには悪いけど、ここで別れるのには賛成できないよ!!」
 わたしが叫んだことで、あゆは再び涙目になってしまった。
 あゆには本当に済まないと思ったけれども、わたしは叫ばずにはいられなかった。
 正直に言えば、わたしは怖かったんだ。
 具体的に何がということがあったわけじゃなかった。
 だけど、ここで別れたらまた会うことが出来ないような気がして。
 何の根拠もないのにわたしは怖くなってしまったんだ。
「しっかりしなさい、梓!!」
 間髪入れず、わたしの左頬が千鶴姉の手ではられた。
 気持ち良いくらいの音が辺りに響きわたる。
「あなたがしっかりしてくれていないと、困る。……頼りにしているのよ、梓」
397信頼関係_3:2001/08/15(水) 19:12
「ち、千鶴姉……」
 わたしはそれ以上抗議をすることが出来なかった。
 日頃、憎まれ口をききあってる間柄だけど、お互いの信頼関係あってこそのものだ。
 それをお互い分かった上で、あえてそれは口に出さないようにしている。
 言わないでも分かってるからだし、気恥ずかしいからだ。
 けれど千鶴姉はあえて、改めて口に出してわたしを頼りにしているのだと言ったんだ。
 これ以上抗議するなんて、出来るわけがなかった。
「分かったよ、千鶴姉。わたしも千鶴姉を信じてるから。だから、あゆをよろしく」
「ええ、任せておいて」
 千鶴姉が大きく頷く。
 それを見てわたしは安心した。
 安心することが出来た。
 さすがは千鶴姉だと思った。
 わたしを簡単に落ち着かせてくれる、立派な姉。
 もちろん、口に出して言ってなんかやらないけど。
 あゆの頭を撫でながら、わたしは自分の気を完全に落ち着かせた。
「うん。じゃあ、善は急げだ。もともと短距離の人間だけど、別に長距離だって苦手じゃない。わたしはもう、お暇するよ」
 そう言ってわたしは荷物を担ぎ、駆け出そうとした。
「梓、これをもって行きなさい」
 千鶴姉がわたしに、生体探知機をかざすように見せた。
「これも併用して、出来るだけ危険な行動を避けてね。そして一刻も早く目的の物を手に入れて岩山の施設に戻ること。わたしもあゆちゃんの件が片付き次第戻るわ。それから……」
 千鶴姉は万が一岩山の施設が合流場所に出来なかった場合は、施設内で見た初音たちのいた場所を次の集合場所とすることをわたしに告げた。
 わたしは探知機を預かり、千鶴姉の話をあゆと良く確認した上で今度こそ出発することにした。
「じゃあ、ちょっくらいってくるから。あゆ、千鶴姉をよろしくな!」
「うぐう、任せて置いてよ、梓さん。ボクだって何から何まで二人にやってもらってばかりじゃないんだよ。ボクだって、ちゃんとボクなりに……」
「うん、わかってる。それじゃあ、二人とも。またすぐに会おうね!!」
「ええ。分かってるわ、梓」
「うぐう。梓さんも気を付けて!!」
398信頼関係_4_End :2001/08/15(水) 19:13
わたしたちはこうして二手に分かれた。
 正直に言えば、その時もまだわたしは二手に分かれるのが最善の策だとは思っていなかった。
 けれども、千鶴姉の言うことと、あゆの要求をはねのけてまで一緒にいるべきだとも思わなかった。
 だったら、わたしに出来ることは一つだ。
 二人を、千鶴姉を信じて、自分は自分の最善を尽くすこと。
 わたしはさっさと自分の役目を果たして仕舞うべく、小走りに駆けだしていった。
 太陽はさっきよりも傾き、幾分か過ごしやすくなっていた。
 けれども、夕暮れにはまだ少し遠い時間帯だ。
 わたしの足ならば、完全に暮れるまでには目標の人物に出会えるだろう。
 セイカクハンテンダケを持つ、来栖川芹香に。

【残り20人】
 
 
【時制が最も遅れているグループです。まだ蝉丸の放送さえ終えてません。
 当然のことながら、飛空挺の落下もまだです】
399セルゲイ@D:2001/08/15(水) 19:14
多忙のため週末まで書かないつもりだったんですが、あまりの放置っぷりが
気になって梓組を書きました。
微妙なところは出来るだけフォローしながら書き上げたつもりですが、
いかがなもんでしょう?
400セルゲイ@D:2001/08/15(水) 19:21
書き忘れです。

【千鶴  鉄の爪(左) 防弾チョッキスクールタイプ Cz75初期型 人物探知機 所持】
【あゆ  ポイズンナイフ×2 イングラムM11 種 所持】
【梓  防弾チョッキメイドタイプ H&K SMG2二丁 所持】
401らっちーさん江:2001/08/15(水) 22:55
修正です。お願いします。

●生体探知機は表記ミスです。以下のものに変えて下さい。
>爆弾感知型の人物探知機

●アイテム表記もミスしました。
 千鶴さんと梓のアイテムに間違いが。二人のアイテムを以下のものに修正して下さい。
>【梓  防弾チョッキメイドタイプ H&K SMG2二丁 爆弾感知型の人物探知機 所持】
>【千鶴 防弾チョッキスクールタイプ Cz75初期型 鉄の爪(左) 所持】
402灯台地下にて:2001/08/16(木) 17:41
 二人は薄暗い通路を歩く。
 得物を構え、足音を忍ばせながら、点々と続く誘導灯のわずかな明かりだけを頼りに。
 備え付けの懐中電灯は手に入れていたが点けてはいなかった。
 足元が心許ないが、発見される危険を考えればまだましだ。
「それにしても、全然人がいないわね」
「油断は禁物よ」
「わかってる。ただ、おかしいなって」
 今までいくつかの部屋を巡ってみたが、人がいる形跡は見当たらなかった。
「……そうね。警備の一人もいないなんて。たいして重要な施設じゃなかったのかしら」

 やがて二人は『管制室』と記された部屋の前についた。
「ここなら何かありそうね」
「そうね。ちょっと待ってて。様子を見てくるから」
 晴香は部屋の前まで忍び寄ると、静かに聞き耳を立てた。
 人の声は無い。
 建物全体を包むわずかな機械の駆動音を除けば、あとは静かなものだ。
(ここも無人? 鍵は……開いてる。とりあえず、大丈夫みたいね)
 振り返って七瀬を呼ぼうと――その途端、部屋の中から声がした。
「っ!?」
 とっさにドアの前から離れ、その横の壁に張り付く。
(まさか人がいたなんて。気付かれた? にしては変化が無いけど……)
 相変わらず声は聞こえてきているが、その内容までは聞き取れない。
(どこかで聞いたような声……)
「どうしたの?」
「〜〜〜ッ!!」
 部屋のほうに全感覚を集中していた晴香は、後ろからいきなり声をかけられて思わず総毛だった。
 そのまま声をひそめて怒鳴る。
「ちょ、ちょっと七瀬! おどかさないでよ!」
403灯台地下にて:2001/08/16(木) 17:42
 二人は薄暗い通路を歩く。
 得物を構え、足音を忍ばせながら、点々と続く誘導灯のわずかな明かりだけを頼りに。
 備え付けの懐中電灯は手に入れていたが点けてはいなかった。
 足元が心許ないが、発見される危険を考えればまだましだ。
「それにしても、全然人がいないわね」
「油断は禁物よ」
「わかってる。ただ、おかしいなって」
 今までいくつかの部屋を巡ってみたが、人がいる形跡は見当たらなかった。
「……そうね。警備の一人もいないなんて。たいして重要な施設じゃなかったのかしら」

 やがて二人は『管制室』と記された部屋の前についた。
「ここなら何かありそうね」
「そうね。ちょっと待ってて。様子を見てくるから」
 晴香は部屋の前まで忍び寄ると、静かに聞き耳を立てた。
 人の声は無い。
 建物全体を包むわずかな機械の駆動音を除けば、あとは静かなものだ。
(ここも無人? 鍵は……開いてる。とりあえず、大丈夫みたいね)
 振り返って七瀬を呼ぼうと――その途端、部屋の中から声がした。
「っ!?」
 とっさにドアの前から離れ、その横の壁に張り付く。
(まさか人がいたなんて。気付かれた? にしては変化が無いけど……)
 相変わらず声は聞こえてきているが、その内容までは聞き取れない。
(どこかで聞いたような声……)
「どうしたの?」
「〜〜〜ッ!!」
 部屋のほうに全感覚を集中していた晴香は、後ろからいきなり声をかけられて思わず総毛だった。
 そのまま声をひそめて怒鳴る。
404灯台地下にて:2001/08/16(木) 17:44
「ちょ、ちょっと七瀬! おどかさないでよ!」
「……あ……あんたこそ……なんのマネよこれはっ……!」
 驚いた拍子に刀を振ってしまっていたようだ。
 七瀬は目前に迫った刀の切っ先を、両手で必死に防いでいる。いわゆる真剣白刃取りである。
「あ、ごめんごめん。……えーと」
 晴香は刀を下ろし、コホンと咳払いを(もちろん小声で)すると表情を引き締めた。
「中から声が聞こえるわ。どうする?」
「何事もなかったようにいうか、あんたは。……で、踏み込むかどうかってこと? 数が多いなら危険よね」
 飛び道具を持った集団相手では勝ち目が無い。こちらの得物は刀2本に拳銃1丁だ。
「手榴弾は……ここが最深部みたいだから、音で他の連中が寄ってくることはないと思うけど。
 でも、爆発で施設に影響がでたら困るわね」
「……そうね。でも他に方法も手掛かりもないわ。制圧しましょう。いい?」
 七瀬が頷いたのを見て、先を続ける。
「幸いドアは内開き、鍵も開いてるから、まずドアを蹴りあける。次に敵を確認したら手榴弾を放り込む。
 爆発したら私が突っ込んで残りを片付ける。これでどうかしら」
「それって晴香が危険すぎない?」
「私にはこれがあるから」
 そういってワルサーP38を見せる。
「それに、どちらかといえばあんたの仕事のほうが重要なのよ」
「そうだけど……」
「あんまり長話もしてられないわ。……準備はいいわね? いくわよッ……!」

 七瀬が手榴弾の安全ピンを抜く。
 チン、と音がした。
 即座に晴香はドアを蹴り開け、すぐに飛び退いて突入の体勢を整える。が――
「……だれもいない……?」
 拍子抜けしたように、呟く。
405灯台地下にて:2001/08/16(木) 17:49
 部屋の中に動くものの影はない。
 あるのは薄ぼんやりと光を放つたくさんのモニター、そしてわけの解らない機械類。
 そのうちのひとつから声が聞こえていたようだ。
「大丈夫だったみたい。やれやれね」
 そういって立ち上がると、七瀬の方を向き、そして――硬直した。
 七瀬も気が抜けたように肩の力を抜いていた。……ピンの抜けた手榴弾を持ったまま。
「七瀬! ちょっと、危ないって! ピン! ピンもどして!」
「……えっ?」
 動揺した留美はうっかり安全レバーを離しそうになる。
(間に合わないっ……!?)
 晴香はとっさに手を伸ばした。


 しかし、それは届かなかった。
 七瀬は手を滑らせ、安全レバーは弾けとび、死のカウントダウンが始まる。
 あまりの事態に思わず立ち尽くしてしまう晴香と、現状が把握できない七瀬。
 無情にも3秒の時は過ぎ――そして死神の鎌が振り下ろされた。
 爆発と共に辺りに撒き散らされた破片は七瀬と晴香の体を所構わず射抜きその命を奪う。

 施設は再び無人となり、そこにあるのはただ二人の乙女の亡骸のみであった。

【069七瀬留美 死亡】
【092巳間晴香 死亡】
【残り18人】
406灯台地下にて:2001/08/16(木) 17:50


「……なんてことにならなくてよかったわね」
「あ、危ないところだったわ……」
 晴香は間一髪、七瀬の手ごと手榴弾を握り締め、爆発を防いだ。
 そしてゆっくりとピンを戻す。
「知らなかった。手榴弾って、どこかに投げつけなくても爆発するんだ……」
「今の手榴弾はみんな時限式よ。レバーを離して3秒で爆発……あんた、知らずに使おうとしてたの?」
「乙女の辞書に手榴弾の扱い方なんて文字は無いわよ、いくらなんでも」
「……そもそも、アイテムリストに説明乗ってなかった?」
「そんなの覚えてないって」
「はあ……ま、いいわ。確認しなかった私も悪いし。ただ、今度からは私に断ってからにしてね」
「うん、解ってる……」
 七瀬は思う。
 ここまで来て自爆で死ぬなんて情けなさすぎる。
 そんな理由で浩平に再会したら、あいつは腹を抱えて笑い転げるに違いない。
 それは避けたかった。
「それより、声ってなんだったの?」
 言われて晴香は思い出す。まだ声は聞こえ続けている。
 近づくと、はっきり内容まで聞きとれるようになった。

『ザザッ……り返す! 俺は全ての者を歓迎する! ……』

「……蝉丸さんだわ、この声」
「どういうこと?」
 手元を見ると、<38番マイク受信中>と書かれた文字が点灯している。
「どうやら蝉丸さんが何処かで喋っているのを、この施設の耳が聞きつけたみたいね」

 そして二人は、放送の内容に耳を傾けた。

【灯台地下管制室へ到着、蝉丸の放送を聞く】
【069七瀬留美 毒刀、手榴弾三個、志保ちゃんレーダー、レーザーポインター、瑞佳のリボン、ナイフ所持】
【092巳間晴香 日本刀、ワルサーP38所持】
【残り20人】
407灯台地下にて作者:2001/08/16(木) 17:51
二重カキコ申し訳ありません。
一番最初のレスを削除して下さい。
408名無しさんだよもん:2001/08/16(木) 17:51
作者さん。
感想スレに来てくださいな。
409名無しさんだよもん:2001/08/16(木) 20:01
その必要は無いと思われ
410名無しさんだよもん:2001/08/18(土) 01:50
メンテ。
http://hakagi.net/check.html

問題は山積み。
411名無しさんだよもん:2001/08/18(土) 02:14
容量の関係で新スレに移行しました。

http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=998068289
412名無しさんだよもん:2001/08/20(月) 09:58
sage
413名無しさんだよもん:2001/08/22(水) 07:23
メンテ
414名無しさんだよもん:2001/08/22(水) 14:08
もいっちょ。
415名無しさんだよもん