葉鍵聖戦

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1名無しさんだもんよ
2000年冬、不意に生まれる、もう一つの世界。

葉鍵キャラがオリジナル設定で大暴れしまくりな日記形式のリレー小説だゴルァ(゚д゚)
書き手も読み手もルール守ってマターリ逝こうぜゴルァ(゚д゚)

1 基本的にsageで。
2 どんな人間がどのキャラを書くのも構わないが、それまでの伏線は重視する方向で。
3 あまりに立て続けのカキコは自粛すべし。
4 これはあくまでの2chのスレッドである。当然書き手に否定的な意見もあるだろうが、
  いちいち反応せず、作品で結果を見せる。
5 他の書き手が納得出来ない展開はしない。
6 新規参入者は、過去ログしっかり読むこと。

では、貴方も葉鍵な聖戦の世界へ……


2名無しさんだもんよ:2000/11/30(木) 17:30
失敬。過去ログはこちらです。

http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=973607248
3プロローグ:2000/11/30(木) 18:40
菜々子の両親の目の前に「誠意を持って」札束を山積みにした狂児によって、菜々子は得体の知れない「拝総合病院」に送り込まれた。そこで待っていたのは、「決して無理強いはしていない(が、選択の余地もない)」、超ハードなトレーニングの日々。過激な特訓に、あちこち揺らしてヘロヘロになりながらも耐える菜々子。そして芽生える師弟を超えた愛! 見つめ合う2人。狂児は菜々子をしっかりと・・・・・・ 手術台に縛り付けた。「おまえの脳ミソを、ヴィーナス2000に移植するのだぁ!」「そんなのいやぁ〜〜〜〜!」嗚々、薄幸の美少女の運命やいかに!

   ・・・続く。
4名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 18:44
3は脳内あぼーんのこと。誤爆と見られます。
5名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 18:46
、あちこヘ耐え生え師をえた! 見つ合う2人。狂菜っかりと・・・・・・ 手術台に縛り付けた。「おまえの脳ミソを、ヴィーナス2000に移植するのだぁ!」「そんなのいやぁ〜〜〜〜!」嗚々、薄幸の美少女の運命やいかに!

   ・・・く。
6名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 18:50
二目何、とゃったみたい…も、にたいだし。
 バイトろた、倉さんとう人が雑ってくれと言ってきた。
 日当は。考えるまでもなKあ金弱い……
 それにさんがあんてびっハセン人をやっつもん。
 何か、がい人ばっら浮ちゃうよー。
 そいニュんがそうです岸は、「ま、今変わなろう」?
 態だけど、ちょっいたいな……
 えっと、明ゃいけないからしこう。
岸ん藤さん、スンん、長城さん…… 、長ま状け。といいな。点じゃいもんね。
 ん、元……ごめけてと。

 そごき一ません。
 妙な罪識にかられぶ退治すなす。
7続き:2000/11/30(木) 18:52
「私、菜々子。今日は先生といっしょに合宿に来ています。
 サイボーグ手術に耐えられる体をつくるためだそうです。
 毎日走ったり潜ったり変な実験につきあわされています。
 でも、私負けない。いつかこんな日々から脱出してみせる!!」

  ・・・続く。
8名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 18:57
マのた神とのだろ。
久我が立てる。………りゃ?
街に入のれた。
が、の程はない。
神の指指だぞ、指。
魔物の死がら、考える。
街がこんちまった、いないだろう。
美たちも心配だ。
してい中でもがけない。
そ程にこのているのが分かった。
ふいじる。
相確認暇死確信俺一撃放手俺距離離良力手
白衣着女君騒凶正関待捕彼真我放世繋何故なら、あったから。
「勿論、報酬弾…」
言葉途中遮俺受答。聖用奴天野美汐復讐。
9名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 18:58
「私菜々子。今日先生合宿来。
 手術耐体。
 毎日走潜変実験。
 私負。日々脱出!」

  ・・・続。
10名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 19:00
年冬、不意生、一世界。

葉鍵設定大暴日記形式小説
書手読手守逝

1 基本的。
2 間書構伏線重視方向。
3 続自粛。
4 当然書手否定的意見反応結果見。
5 他書手納得出来展開。
6 新規参入者過去読。

貴方葉鍵聖戦世界……
11名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 19:01
脳内誤爆見。

12続き:2000/11/30(木) 19:16
宇宙から回収されたコードネーム「グリーン」は、生命工学の権威である狂児の下へ、分析のため厳重な監視の下で運び込まれた。それは、地球外生命体の組織標本(宇宙人の死体)だった。病院の地下にある最新鋭の設備を誇る「G-ルーム」で分析を開始した狂児は、それが「3重らせん構造」という、再生能力に極めて優れた、特殊な遺伝子を持つことをつきとめた。驚愕する狂児たち。その時、死んでいるはずのグリーンが、突然爆発的に増殖! そして絶妙の間の悪さで、菜々子がG-ルームに入り込んでしまった! 緑色のうごめくゲル状物質に増殖したグリーンは菜々子を体内に取り込み、研究室を破壊しようとしていた。特殊部隊の銃撃も効果はなく、逆に次々と虐殺されてしまう。「菜々子!」「狂児先生ぇ〜!助けてぇ〜!」暴れ狂うグリーンを前に、打つ手がない狂児。だがその時、グリーンの動きが鈍り、黄色に変色し始めた。菜々子の持っていたインフルエンザのウイルスが、グリーンを変質させたのだ。ビームナギナタをふるって菜々子を救い出した狂児は液体窒素でグリーンを凍らせ、何とか増殖を食い止めることに成功したのだった。

  ・・・続く
13茸@真性鍵っ子:2000/11/30(木) 19:21
何故に「菜々子解体診書」・・・?
14名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 19:31
ハンドメイド奈々子?
15名無しさんだよもん:2000/11/30(木) 20:51
みんな実は飽きてたのか?
16書き手さんだよもん:2000/11/30(木) 21:41
まだまだ、専用スレも出来たんだしこれからでしょう(w
17藍原瑞穂:2000/11/30(木) 21:56
宛先:[email protected]
…………………………………………
件名:潜入成功しました

藍原です。今、香奈子ちゃんと一緒に寝室用にあてがわれた一室にいます。
保科さんの遠視で見たとおり、瑠璃子さんはマナさんという女の娘を操り人形にしたようです。
それにしても、狂気に侵された振りは難しいです。香奈子ちゃんは堂にいったものでしたが。
何とか騙しきれましたが、これを何日も続けるのはさすがに自信がありません。
最も、心配はいらないです。彼女らは明日にも緒方さんというツインテールを襲撃するようですから。
私達もサポートはしますが、香奈子ちゃんの肉体限界解放能力とそれを補助するための私の
能力である白魔術だけでは、いささか不安が残ります。出来れば、炎の魔女と異名されたみどりさんとその部隊を
援軍に寄越して下さい。場所は保科さんが「観た」通りの場所です。
それでは、連絡は以上です。これ以上の電波の送信は危険ですので明日まで通信を絶って下さい。
では、頑張ります。
18名無しさんだよもん:2000/12/01(金) 02:18
列車は丁度、クソ長いトンネルを通過中。(青函トンネルか?)
現地到着まで、乗り継ぎの時間を含めてもまだまだ時間が掛かりそうだ。

しかし、昨晩は調べ事をしている内に眠ってしまったのだが……嫌な夢を見た。

――眼鏡を掛けた少女に逆立った形状の髪の女性が2人の金色のツインテールの者に陵辱されている夢。
――そして、青色のツインテールの者にその様子をビデオで収められて、全世界にその散華が流される。
思い起こしても、どことなく後味が悪い。

――藍原瑞穂と高倉みどりが、沢渡真琴と緒方理奈に犯されて、七瀬留美が嘲笑を顔に浮かべながら
その様子をビデオに収めている……

これは夢であって欲しいのだが。
ただ、気になったので青森駅に着いた際に保科に連絡を取った所、藍原を現地に送り込み、高倉もこれ
から現地に向かわせるという。ますます嫌な予感がした。
ただ、夢が現実のものに確実になるという根拠も無いので、はっきりとは言いきれないが。
とにかく、高倉にはツインテールの奴等には十分に気を付けろと云っておいた。
(あいにく、藍原には本人の要求により連絡を絶っているとの事なので、連絡は控えておいた)
とりあえずは今の所、俺にはこれだけの事しか出来ない。

まだ、現地に着くまで十分に時間はある。
そのうちに、例の書物を読みとかねばな……。

P.S.そういえば、また訳せた予言詩があるので(メモも兼ねて)ここに記しておく。
   『野苺が咲き乱れる時、根元から溶岩が溢れ出す
    思い上がりし魔人は黒き穴に吸い込まれる
    ああ悲しや、ああ悲しや』
   また意味不明だ……。やれやれ。
1918:2000/12/01(金) 02:19
名前を書き忘れていた……。
18の文章はリアンのものだという事でお願いいたします。
宇津田師乃羽……。
20柳川祐也:2000/12/01(金) 04:55
封鎖開始から既に3週間が経過――

吹雪は相変わらず続いている。
本庁は相変わらず、封鎖区域には介入しない方向のようだ。
そんな中、監視対象の一人の倉田佐祐理が死亡したというニュースが飛び込んできた。
なんでも、インターネットにて殺害風景を垂れ流されていたのだからたまらない。
被疑者は沢渡真琴および七瀬留美。惨たらしい事をする連中だ。
本庁は一応、彼女らの逮捕状は取ったものの、当面は執行しないとの事。
確かに堅実な判断だ。今殴り込めば、逆に執行される側の命が危ないだろう。

尚、内部は今の所非常に危険な状態なので、立ち入る事はできない。
(何でも、電波使いの月島瑠璃子が暴走してしまい、下手に近寄ると精神を破壊される
可能性がきわめて高いとの事。一応、捜索活動も今は全面的に打ち切っている)
先程、保科智子という高校生からその話を聞いた。長瀬源之助の弟子ということで、
この地にやって来たというのだが、話している事は少なくともまっとうだと思う。
(少なくとも、この地に集っている変人どもと比べての話だが)
とりあえず、今の時点では静観しておくことにしておこう。霧島姉妹もその場にいたが
同意した。

さて、今俺の病室にはもう一人の男が眠っている。
名は長瀬祐介。長瀬源之助の孫で長瀬警部の甥で電波使い。
ただ、封鎖区域内で相当力を使ったらしく、この病院に担ぎ込まれた時には相当の
重傷を負っていた。ただ、回復も早く、じきに意識も回復するとの事なので、回復
次第、内部の事情を訊こうと思う。
しかし…長瀬警部や源之助氏には悪いが、なかなかの美男子だ。
だが…貴之にはかなうまい。

そうそう、今し方妙な電報が届いた。
差出人はなんと倉田佐祐理で、送り主の住所も彼女のものになっていた。
内容は下記の通り。

『シオリモミライモショセンハABセンヲムリヤリCDセンニシタモノ。
 ミスズモCDセンカラABセンニサレタモノ。
 イクラセイノウガヨクテモ、チュウトハンパニサレタママ、ハカイサレルカ、
 ステオカレルノガサダメデスヨー。アハハー』

さっぱり意味が分からない。何を云いたいのやら。
同様のメッセージは保科や霧島姉にも渡されたらしい。彼女らも首をかしげていた。
ただ、もっと不思議なのはこの電報が、彼女の死亡した(正確にはインターネット
の公開開始日)から4日後に送信されていたのだ。発信局は札幌になっていた。
(ただ、後日問い合わせると、代金が同封された郵便が送られてきたとの事)
これはイタズラだろうか…。だが、無視も出来ない…。謎だ…。

最後に、霧島妹の退屈しのぎにと買った雑誌の中に掲載されている漫画の一つが目に
止まった。
見覚えのある絵だと思い、調べてみると、かの大庭詠美の描いた絵そのものだった。
ただ、出版社に問い合わせると、著者は彼女ではないとの事(ペンネームもまったく
違っていた)。更に調べると、雑誌に掲載されている話は彼女の過去の同人誌に掲載
していたのをまるごと使った者だと判明。
なんと…盗作されていたのだ…。さすがにこれには呆れてため息が出たものだ…。
この時ばかりは、大庭に同情してやらなくも無い…。
(なお、著者はその後の調べで大庭の大ファンだとの事…トホホ…)
21巳間晴香:2000/12/01(金) 05:15
 とうとうあたしも動く時がきたのね…。あたしも…妖孤や郁未達を敵に回したくは無いけど…
良祐…あたしのせいで…もう一度あなたに会うためならば…あたしは全てを捨てるわ…。
 まずは高野山に接触を試みないと。でも、元FARGOのあたしがどうすれば信用されるのかしら?
22緒方理奈:2000/12/01(金) 06:21
電波使いたちとやり合えるのを楽しみにしていたのに、郁美の奴の横槍が入った。
あいつのに話は逆らわず聞き流しとけと真琴様に命じられているので
黙って聞いといてやったけど、もうマジギレ寸前。
まったく、なんで真琴様はあんなキ○ガイを甘やかすのかしら。
おかげで、せっかく私と兄さん、ついでに弥生だけで楽しもうと思ってたのに、
留美とその配下に加え、例の「不可視の力」使いの姉妹までが動員される羽目に。
しかも結局、後から郁美と千紗まで応援に来るらしいし…
あの途方もないうぬぼれ屋を、一体どうやっておだてたのかしら?
しかし、電波使いごときに対して、殆ど我らの勢力の総動員状態じゃない。
相手はたかだか数人、我らの手勢だけで十分捻り潰せるはずよ。
どうも真琴様のお考えになることはよくわからないわ。最近、考え込まれることが多くなったし。
危なくなったら無理せず引き上げて来いとも仰ってたし…どう考えても危なくなるはずなんかないのに。
まあいいわ、とりあえず真琴様の命令通り、私たち兄妹はマナの洗脳を解くことを最優先にしましょう。
こうなると実戦のほうは留美達に任せるしかないわね。
…しかし、留美の奴、一体どうしちゃったのかしら。
私から挑発しても、なにか心ここにあらずって感じだったし…
いつもならすぐに噛み付いてくるはずなのに、張り合いがないわねえ…
23天野美汐:2000/12/01(金) 06:26
帰投3日目、後半
梓という鬼を倒したときから気付いていた。茜に治癒して貰いその地に赴く。
近づくにつれ大きくなる殺気。間違いなく誘っている。強者を、それ以上にわたしを。
狩猟者ともあろうものが獲物を呼びつけるとは、無精だな。それに乗る方もどうかしているか。
そして辿り着く。地上最強の二足歩行生物、残酷無比な狩猟者の末裔。鬼…
以前仕掛けた男の鬼だ。完全に戦闘態勢に入っている。姿は既に人間ではない。
女性の胴体ぐらいありそうな腕は爪の先にまで力が漲り、筋肉が軽く痙攣しているのが分かる。
丸太のような太股はズボンをはち切り、足は完全に形が変わり靴すら履けない様子。
前に見たよりも一回り以上大きい体躯、拳銃弾程度では傷すら付けられないような外皮。
迸る殺気が、痛いくらいに肌に突き刺さる。流れる汗、震える足。…でも笑みを堪えることが出来なかった。
わたしは気合いを入れ直し闘気を解放する。汗、震えがおさまった。全身が緊張する。…いくか。

咆哮を上げながら鬼が一気に跳躍した。20メートルはあろうかという距離を一瞬で飛び越える。
降り際に右手を大振りしての引っ掻き、いや斬撃。わたしが居た地面が大きく抉られた。
一歩踏み込み、振り下げた腕を左下から振り上げる。完全に避けたはずだが、制服が少し裂けた。
そのまま体を一回転させて、左上から袈裟懸けに斬りつける。風圧すらも攻撃になっている。
更に左腕で突きを出される。そのリーチと破壊力は槍での攻撃以上だ。不味い、完全に受けになっている。
左手による連打を槍で捌く。素早いのは当然として、一発がボクサーの右フック並の威力だ。まるで機銃だな。
それでも何とか捌ききった。続いて右腕で水平に薙ぎ払いだ。わたしは身を伏せて交わし鳩尾に左肘を突き刺す。
続いて相手の足を踏みながら、顎目掛けて右掌底を思い切り打ち上げた。更に踏み込んで右掌打を叩き込む。
そして間合いを離し身構える。…期待していなかったが、やはり全然効いていない。打撃では無理だな…
自信はないが槍術に頼るしかないか。槍を構え今度は此方から仕掛けていった。
並大抵の攻撃では相手にダメージどころか、傷すら付けることが出来ない。全力であたっていく…
24天野美汐:2000/12/01(金) 06:26
(上の続き)
既に日も暮れている。何て動体視力だ…此方の攻撃は全ていなされてしまう。しかし向こうの攻撃も何とか捌ける。
当然だろうな。どちらの攻撃も命中すれば一発で大打撃だ。例え致命傷を免れても、そうなったら勝ち目はない。
二人ともそれぞれの攻撃により、幾つも軽い擦過傷が出来ている。交わしているのにこれだ。
法術も試したが、呪縛は全く効かず、法力による打撃は無効化されてしまった。特別な防御が施されてるらしい…
もうちょっと色々なものを修得すべきだった…
一瞬の隙に鬼が消えた。しまった。交わす暇がない。再び現れた鬼の攻撃を、為す術もなくそのまま槍で防御。
上からの叩き付けだ。物凄い衝撃。たまらず膝を付いてしまった。間髪を入れず蹴りが入る。防御すら出来ない…
蹴りをまともに喰らい吹き飛ばされた。一瞬意識が飛ぶ。起き上がったところに斬撃。交わしきれなかった。
背中に激痛が走る。それでも何とか体勢を立て直す。二度目を喰らったら終わりだ。だが襲ってこない。
爪に付いたわたしの血を嘗める鬼…何て嬉しそうな顔なんだ。殺気が一段と強まる。…やばいな…
わたしは意を決した。もう今までのような捌きは出来ない。これで決めるしかない。
歓喜の咆哮を上げながら鬼が突っ込む。わたしは槍を構え、鬼の攻撃を受けた。衝撃に足が持たない…
そして二撃目。左腕による薙ぎ払いを、腕で防ぐ。防御法術を使っていた為骨折は免れた。そのまま腕を抱え込む。
鬼が右腕で突いてくる。同時にわたしも左手に持った槍で突いた。腕と槍がぶつかる。その瞬間…爆発した。
鬼の絶叫。見ると右腕が消し飛んでいる。流石にピナーカの破壊力には適わなかったようだ。
だがわたしも無事ではなかった。至近距離での爆発により、鬼の爪の一部が胸部と右腕に突き刺さっている。
更に槍の柄の部分にひびが入っている。もう攻撃を防ぐことは出来ないだろう。
遮二無二襲いかかってくる鬼。わたしも槍を構え、全法力を集中させる。そして攻撃した。
槍が負荷に耐えきれず爆発する。鬼はその直撃を喰らった。爆風により吹き飛ばされる両者。意識がなくなる…

気が付くと目の前に茜が居た。鬼は?そう聞くと、…もう居ません…と返ってくる。
でも何故槍が爆発したのだろう。折れることはあっても、負荷に耐えきれず爆発する事はあり得ないはず。
ピナーカはわたしの法力でもきちんと耐え、増幅できると聞いていたが…まあいいか。替わりの武器を貰おう。
しかし…暫くは闘えなさそうだな。早く養生しなきゃ。こんなに楽しい場所、滅多にあるものではないし…
25藤田浩之:2000/12/01(金) 06:54
この街を彷徨い始めて、数日。
信じられない事が起こった。
いつものように、俺に微笑みかけてくれる、その顔……
「はあい、浩之」
綾香……そんなはずは無い……綾香は……
呆然としている俺を抱きしめ、彼女は囁いた。
「浩之……ごめんね。今度こそ守ってあげる……」
俺を包むその匂いさえも、今となっては懐かしい、綾香のものだった。

俺は、綾香の胸の中で、少しだけ涙を流した。
26保科智子:2000/12/01(金) 07:45
リアンから興味深い情報が入った。
内容は単純だ。あの芹香や倉田ですら逆らえなかった予言に瑞穂と高倉の陰惨な未来があったという。
これは、さすがに見過ごせへん。私は、方々に手をうった。
予言とやらを変えるのが無理なら、別な解釈に変えてやるまでや。
まず、高倉の私兵である宮田に、禁断の武器の使用許可を出した。
「空を切り、血を啜り、果てに主を喰らわん」と言われる伝説の刀や。これはあまりに危険なので禁止していたが、
このさい仕方あらへん。
次に、この地に眠る怨霊……神岸あかりの残留思念に緒方の場所を教えてやった。
そして、ネット上に予言通りの映像を流して置いた。これは倉田の時もあったそうだが、
これを外すと、予言が不履行になってまうから運命が曲がらなくなってまうからね。
そして、私らもいっちょ戦線に立つ事に決めた。全戦力つぎ込んで戦ってやらな、運命は曲げられへんやろ。
教えたるで、予言者さん。未来なんてもんは、自分らの手で変えるもんなんやってな……!
27天沢郁未:2000/12/01(金) 12:52
瑞佳に会いに行くがどうも様子がおかしい。
私が挨拶するや否や「瑞佳様のお友達ですか?」と来たもんだ。
元々、天然な奴だと思っていたが、ここまでとは……。

電波使いの仕業か、と思いもしたが、目は正気を保っている。
やれやれ、瑞佳の治癒能力を目当てでここまで来たのだが、
どうしたら、いいものやら……。

とりあえず『ものみの丘』に連れて行くことにする。
「私は忙しいのですが、瑞佳様のお友達でしたら、無下には出来ませんね」
……とか、まだ言っているが、瑞佳の能力を考えれば易いものだ。

しかし、それが過ちだったことに私は気づいていなかった。
私が『ものみの丘』に連れて行ったのは九尾の真琴≠フ仇敵、
歴史の紐を解いてみても類を見ない、史上最強の方術師鬼菩薩≠フ裏葉だったからだ。

奴は長森瑞佳を転生の依り代にしたらしい。
目的は多分…美汐が神奈を降魔させたことに関係していると思われる。

しかし……。
だったら、今、瑞佳の意識はどこにあるというのだ……。
28美坂香里:2000/12/01(金) 13:59
やっと力が回復してきたみたいね。
栞……あたしの可愛い妹。
でも、あの子はあたしを贄に強大な力を手に入れてしまった。
あたしが、あの空間から抜け出すのに、どれほどの苦労を払ったかっ!

秘術<ドッペルゲンガ―>

いや禁術といっていい。これであたしも汚れ者だ。
誰が自分の複製を作ろうなんて思うものか。
それを身代わりにしても、複製に付けられた傷の半分は、術者のあたしに返ってくる。

しかし当分の間は目くらましくらいにはなるだろう。
問題は、この空間をどうやって抜け出すかだったが、
どうしてかそこにいた相沢君の次元矯正力に便乗して事無きを得る。

異空間を出て、すぐに天沢郁未に連絡を取るが応答がない。
どうやら、どこか強力な結界を張っている場所に居るみたいだ。
『高野の総本山』か…もしかしたら『ものみの丘』か……。
どちらにしろ彼女のことだ、もう…あたしには愛想を尽かしていることだろう。

傷が痛む。
どれだけ休んだとしても、首筋に付けられた生贄の烙印だけはどうにもならない。
烙印に引き寄せられるように、雑魚の妖魔どもがあたしに群がる。
もう夜の平穏はあたしにはない。

栞……私の可愛い妹。
だけど、あの子のせいであたしは……。

違う!

そう……あたしに妹なんていない。
栞の姿をしたゴッドハンドに復讐するために、あたしは帰ってきたのだから。

あたしに妹なんて…初めからいなかったのだから……。
29名無しさんだよもん:2000/12/01(金) 14:07
せっかく良い調子で繋がってるのに横スレすまん。
ゴッドハンド編をどうにかして書いてみよう…と言ったものですけど、
もしかして、このお話だけはリレー形式にはならないの?
みんなゴッドハンドのお話を書くのは気が進まないみたいだし……。
まあ、仕方ないみたいですね。それじゃあ、どうにか続けてみます。
30長岡志保:2000/12/01(金) 15:08
しっかし、警察に捕まってる間に、事態はとんでもないことになっちゃってるわねえ…
私が調べたところでは、あかり姉さんが首尾よく綾香をぶっ殺したところまでは良かったんだけど、
あかり姉さんと来栖川芹香は相打ちだって言うし、セリオを破壊した琴音ちゃんは葵ちゃんに殺され、
そしてその葵ちゃんと……そう、ヒロまでが何者かに殺されたっていうんだもの。
はあ、こんな超重要な時期にブタ箱に入れられて、何も知らなかったなんて…
まったく、この志保ちゃんもヤキが回ったわね…
とにかく、この辺に死んだはずの綾香を探してる男がいるって聞いて、わざわざやって来たんだけど…

閑散とした街並みを歩き回っていた私は、信じられない光景を目にした。
ちょっと…あれってヒロじゃない!! うそっ! ヒロは死んだって聞いたのに…
私に気付かず歩み去ろうとするヒロに、慌てて声をかける。
「ちょっとヒロ、待ちなさいよ!!」
振り向くヒロ。その憔悴しきった表情が見る見る歓喜に満たされ…
次の瞬間、私は力いっぱい抱きしめられていた。

私を抱きしめ、涙を流し続けるヒロ。なんだか夢みたいなシチュエーションだ。
私もおずおずとヒロを抱きしめる。これって、映画のヒロインになったみたいな気分よね…
でも、やっぱり私は、ハッピーエンドのヒロインには向いてないみたい。
ちょっと浮かれた気分になっていた私に冷水を浴びせるかのような、ヒロの呟き声が耳に入った。
「綾香……やっと遭えたよ……もうお前を離さないから……」
ヒロが本当に好きなのは綾香だってことは判ってたつもりだったけど、やっぱりショックだった。
背格好も声も何も似たところのない、私と綾香を間違えるほど愛してるんだ。
もう、ヒロの瞳には綾香しか映らないし、ヒロの心には綾香以外の居場所はないんだ。

…でも、それでもいい。
例え綾香の代用品であっても、一度は諦めていたヒロを手に入れるチャンス。逃したくない。
私は泣きじゃくるヒロを精一杯優しく抱きしめ、一生懸命綾香の口調を思い出しながら、声を掛けた。
「浩之……ごめんね。今度こそ守ってあげる……」
いいわ、ヒロ。私が綾香になってあげる。ヒロがそれで救われるなら。
そう、私はこのとき心に誓った。綾香、あかり姉さん、芹香、セリオ、琴音ちゃん、葵ちゃん。
死んでいった恋敵たちのためにも、絶対ヒロを守り抜いてみせると…
31ルミラ・ディ・デュラル:2000/12/01(金) 15:51
ふむ……私は眼下で繰り広げられる再会の光景を見ながら、思索の纏めに入っていた。

「次元歪曲力」

藤田浩之の完全な消滅状態からの復活の目撃して以来、私はこの力の研究に没頭していた。
幸いというか、私たちは「本来の次元」を失って久しく、根無し草のように次元間を彷徨いし存在。
確固たる「本来の次元」が存在する他の「力あるもの」たちより、次元についての知識は深い。
その結果わかったことがある。
恐らく、藤田浩之の持つ「次元歪曲力」は、いわば正の力。
その因果への干渉力は、ある程度自ら行使できるものの、自分自身に対してしか発動しないようだ。
とすると、相沢祐一の持つであろう「次元歪曲力」は、恐らくはそれと対になる、いわば負の力。
そして、その因果への干渉力は、自らは行使しえず、他者を介してのみ発動するものと考えられる。
共にこの街では限定された力しか発揮し得ないとはいえ、恐るべき力だ。
特に相沢祐一の持つであろう力。
この仮説が正しいなら、彼の心を得し者は、ある程度なら因果を操作し、いわば「奇跡」を起こし得ることになる。
なるほど、この街本来の住人達が血眼になって、通常人に過ぎない彼の心を求めるはずだ。
まあ、いずれにせよ私には関係のない話だ。もうしばらくのんびりとするか…

と思った矢先に凶報が入った。何者かにアレイがやられ、消息を絶ったとのこと。
先日やられたたまといい、どうも我らをつけ狙う命知らずがいるようだ。
血が騒ぐのがわかる。やれやれ、やはり私は傍観者には向いてないらしいな。
私は埒もない思索を脳裏から振り払うと、下僕達に招集をかけた。
魔界の貴族たるルミラ・ディ・デュラルの名にかけて、我に敵対せんとする愚か者を滅ぼさんがために。
32桜井あさひ【ピーチ】:2000/12/01(金) 15:55
 イビルとエビルという魔族にとって致命的だったのは、
ニ体同時に現われた事だ。それも、この私の前に。
 魔族にとって『強く在る』ということは、なによりも他者を穢し、
侵すベクトルである事という事とイコールである。
その相容れない絶対的魔力圏のズレさえ見切れば、二人三脚の
走者を転ばせるよりも簡単にその効果を殺すことが可能だ。
 ギリギリまで『モモ』で動き、ピンポイントで『ピーチ』を引き出す。
『ミキサー(多重人格並操)』…これを使うのも久しぶりだった。
 著しい疲労感に見舞われながらも、これでまた地上から
魔を殲滅できる…そう思いながら見下ろした先には、未練がましく
半身だけ残されたエビルが荒い息をついていた。そして、一言。
確かにこう、呟いた。
『芳晴…』と。

 それを聞いたとき、私の中の脆い部分が微かにおののき…
その一撃を受けてしまった。死神がその力の全てと引き換えにして
放つという『覇滅の楔』。
 私の胸にくいこんだエビルの小指は、次に私が力を使う時──
確実に起爆し、私の心臓を破壊するだろう。
もう私に未来は無い。私は静かに虚空を仰ぐ──
その色は、昏く沈んだ湖底を思わせた。
 この絶望の色に染め上げられた空の下で、今暫く、私は待とう。
やがて到来する魔族の盟主を。
33霧島聖:2000/12/01(金) 16:06
本当に人騒がせな奴らだ。
今日、柳川君と佳乃とで車で、閉鎖区域内を巡回していたところ、長岡志保と藤田浩之を発見した。
一応、家に帰るように柳川君が長岡さんに注意をしていてものの、私はこの中に入り込むと思って
いたのだが、案の定だった。探しにきて正解だった。
とにかく、折角目的の相手が見つかったのに、死んでしまっては何もならないだろうと説得した所、
彼女らは素直に同意して車に乗り込んだ。藤田君は心ここにあらずといった感じだったが気にして
はいられない。藤田君は怪我をしていたということもあり、すぐに病院に引き返すことにした。

閉鎖区域を出ようしている寸前のところで、運転をしていた柳川君が急ブレーキを踏んだ。
衝撃で前方へつんのめってしまったので、助手席に座っていた私はダッシュボードに頭をぶつけてしまった。
……痛い。
フロントガラスの先をちらっと見た時、その原因がわかった。
目の前に妙な格好をした金髪の女の子が道の真ん中でうずくまっていたのだ。
車を降りて駆け寄ると、彼女は腕に大きな傷を負っていた。
手当てをしようとすると、抵抗しようとしたが、なんとか応急手当の処置を済ませた。
ただ、このままでは失血死の可能性もあるので、病院に運ぶことにした。

彼女を乗せたあと、車は無事に閉鎖区域を脱出した。
ただ、問題はその女の子が日本語が話せなかったことだ。
それに関しては、近くにいた保科さんの手助けもあって、なんとか今では簡単なコミュニケーションをとる
ことができるようになった。
聞いてみたところ、彼女の名前はエリアといい、倉田佐祐理によってこの世に召還されたという。
なんとまあ、やっかいなブツを残してくれたものだ。あの女はどこまで人に迷惑をかけたら気が済むのか。
例の謎の電報もさっぱり分からないままだ。
それに、追い討ちをかけるようにして、私の携帯に次のようなメールが入ったものだからたまらない。

 ――みすずは未完成のままのCD線。栞は無理やり作ったAB線。
   前者は完成されないまま捨て置かれ、後者は使用に耐えられなくなり自ら崩壊する定め。
   まさに日本の無駄遣いの極み、ここにあり。――

送信元のアドレスは、これまたなんと言うか……来栖川芹香のものだった。
果たして、これは悪質な悪戯か?
このメールは案の定というか、柳川君や保科さんはおろか、長岡さんの携帯にも着信していた。
さらには、長瀬祐介君や江藤さん、さらには佳乃の携帯にまで入っていた。
ついでにいうなら、こちらに向かっている保科さんの知り合いの姉妹にも同様のメールが入っていたという。
ここまでの人数に送信されていては、悪戯と思えなくもないのだが……。 
34月島拓也:2000/12/01(金) 16:27
すでに、僕の視界は無い。死の間際、人の一瞬は数分にも化けるそうだが、これがそうなのだろうか。

僕は、「銀狼」こと緒方英二と戦った。人の精神をプラスにもマイナスにも導ける悪魔の能力を持った男だった。
数分前、僕はただ破壊を求め決戦の地へ向かっていた。瑠璃子に導かれて。
藍原さん、太田さん、七瀬彰とかいう青年、そしてツインテールのマナとかいう娘も一緒だった。
最初、奴らは二人だけだった。緒方理奈とその兄、英二。妖狐の名は伊達ではなく、半端ではない魔力を感じた。
火蓋を切ったは、なんと「歌」だった。緒方理奈が、歌い出したのだ。
僕が呆気にとられている内に次々と変化が起きた。マナとかいうが苦しみだす。七瀬が倒れる。
奴の能力は、「歌」なのだ。音波に魔力を乗せ、人の心を操る……僕ら兄妹の電波と似たようなものだ。
が、僕ら兄妹と太田さん、藍原さんは耐える事が出来た。
太田さんが、膨れ上がった腕で緒方に襲いかかった。が、それは達成する事なく、太田さんはいきなり倒れた。
マナ……ツインテールのマナだ。自我を取り戻したらしく、その二尾を逆立たせ不敵に倒れた太田さんを見据える。
太田さんが、ニヤリと笑いマナを殴り飛ばす。マナが、するどいキックで太田さんをつまずかせる。
もちろん、僕も動いていた。電波を飛ばし、英二をこちらに吹き飛ばす。
英二はニヤリと笑い、「サシでやるか、少年」とうそぶいて立ち上がった。
そこからは……覚えていない。気がついた時には英二は血塗れで足下に倒れていて、僕もまた大量に吐血し倒れた。
そして、よくわからないがあちこちで戦いがおきていた。例の保科さん達もいるようだ。僕と英二は……相討ちか。
相討ち……ダメだよそれじゃあ……僕がいなきゃ、誰が瑠璃子を護るんだ……
瑠璃子……瑠璃子……瑠璃子……瑠璃子……瑠璃子……瑠璃子……瑠璃子……瑠璃子……
お前の顔を見たい……お前を護ってあげたい……お前と一緒に居たい……
る……り……
35岸辺なつみ:2000/12/01(金) 16:53
私は身体の震えが収まらなかった。まさか、こんな事に……
「ココロ」に、保科さん達の様子を見に行かせている。彼女が見た映像は直接私に送られてくる。私は震えながらそれを見ていた。

まず、月島さんが死んでいる。香奈子ちゃんが、血塗れになりながら瑞穂ちゃんを護り妖狐と戦っている。瑠璃子ちゃんが石化している。
保科さんが、ピンクの髪のツインテールと一進一退の攻防を繰り返している。多少、保科さんが押している。
みどりさんが、銃器を駆使して髪の黒い無表情な女と戦っている。こちらも一進一退だ。
結花さんが、ボロボロになりながら七瀬留美とかいう女に必死で立ち向かっている。ここはかなり不利だ。
そして健太郎さんが、大柄な番長スタイルの男と謎の妖刀を振るって戦っている。ここは、まだ両者とも本気ではないようだ。
何より祐介くんだ。足取りもおぼつかないような状態で、沙織ちゃんと共に例の不可視の力使い二人組と戦っていた。
もっとも、敵の方もタダではすんでいない。英二とやらはすでに死んでいるようだし、かの理奈もさっき赤い髪の幽霊に惑わされていた処を
保科さんに討たれた。黒髪の小さなツインテールの娘もいるが、すでに事切れている。が、戦況はどう見ても赤信号だ。
私は、伝言板にグエンディーナ語で書き置きを残し、急ぎ現場へ急行する事にした。
魔法を使えば十分もかからずに行ける……! どうか間に合って……!
36ルリ:2000/12/01(金) 16:54
ホシノ ルリ 
37柏木楓:2000/12/01(金) 17:06
やっと手に入れました。妖狐の力・・・
手に入れたのは良いんですが、このネコミミはちょっと・・・
隠れ家に帰った時、千鶴姉さんの治療を任せていた初音は「楓お姉ちゃん、可愛いよ」って言ってくれましたけど・・・
やっぱり恥ずかしいです。
けど、そのおかげで千鶴姉さんも回復しましたし、梓姉さんも救出出来ました。
鬼の力は敵を倒すための力ですが、妖狐の力は大自然の力を利用することが出来ます。
治療に関してはやはり、鬼の力より妖狐の力の方が上のようですね・・・

そういえば、千鶴姉さんにも聞かれたんですが・・・
私が妖狐の力を手に入れたのは、妖狐の誰かを取り込んだわけではないです。
七瀬さんにお願いして、ものみの丘に淀む妖狐の気をちょっと分けてもらっただけです。
あの美汐がいる高野に寝返るわけにはいきませんし、毒電波使い達、警察関係でも不安が残ります。
水瀬秋子・・・彼女が再び現れた時にもう1度封印するためには、やはり妖狐の力が必要でしょう。
今妖狐と敵対するのは得策ではありません。

それより心配なのは耕一さん・・・
今何処に居て何をしてるんでしょう・・・
38沢渡真琴:2000/12/01(金) 17:15
馬鹿め…
私は思わず唇を噛んだ。理奈め、あれほど無理をするなと言ったのに…
遠視によって浮かび上がる戦場は、いつしか完全なる乱戦状態となっており、
数の上で圧倒的なはずの我ら妖孤勢も、多大なる損害を出している。
既に英二とマナは事切れ、理奈も虫の息のようだ。
現段階で私自らが動くつもりはなかったが、ここに至ってはもはややむを得ぬ。
しかし、かような偶発的な遭遇戦でかほどの損害を出すとは…
やはり私自らが動いておくべきだった。誇り高き妖孤を統率できるのは私だけなのだから。
そして、私は目の前に控えし新たなる眷属を従え、戦場に向かう。
鬼にして妖孤の力を得るのと引き換えに、我に忠誠を誓いし者と共に…
39フランソワーズ:2000/12/01(金) 17:33
ルミラ様と私が、エビルさんとイビルさんからの標的発見の報をうけ、
その場所に辿りついたとき、既に事態は取り返しのつかない状態になっていました。
既にイビルさんは倒れ、エビルさんも瀕死の重傷でした。
そして、何故か虚無を湛えた表情で天を仰ぐ、二人を倒したであろう人間の娘。
エビルさんの最後の力を振り絞っての思念が伝わってきます。

……奴には『覇滅の楔』が打ち込んであります。ルミラ様、御武運を……

そして、最後に「芳晴…最後に一目会いたかった…」という思念を残し、エビルさんは消滅しました。
その時のルミラ様の表情は、人形である私には理解しがたい複雑なものでした。
とにかく、私は立ち尽くす人間の娘の前に出ます。
エビルさんの言葉が正しければ、彼女が魔力を行使できるのはあと一回限り。
私がこの身で彼女の魔力を受ければ、全てはおしまいです。

「そこをどきなさい、フランソワーズ」
ルミラ様の声が聞こえました。私はその真意を理解しかね、立ち尽くします。
ルミラ様は言いました。
「この者は我が下僕達を滅ぼせし者。それを倒すは主人が義務」と。
そしてルミラ様は、人間の娘に向かい言い放たれました。

「我が下僕達を滅ぼせしお前の力に敬意を表し、
 魔族の盟主たるこの私、ルミラ・ディ・デュラル自らが相手してやろう。
 人間の小娘よ、私は不甲斐無い下僕達とは違うぞ。全力で来るがよい!!」

その言葉を聞いて、虚無を湛えていた人間の娘の顔に溢れんばかりの戦意が蘇りました。
そしてその身に集まる膨大な魔力。思わず前に飛び出そうとした私でしたが、一歩も動けません。
どうやらルミラ様が私を動けないよう、コントロールしているようです。
それに呼応するかのように、ルミラ様もその身に途方もない魔力を集中させます。
そして、双方の魔力が轟音と共に炸裂し……その後には何も残っていませんでした。

いずこからともなく、ルミラ様の声が聞こえます。

…フランソワーズ、私は魔界に帰り、あの役立たず達と運命の帰趨を見守ることにします。
…お前は芳晴の元に赴き、エビルの想いを伝えなさい。居場所はメイフェアが知っているでしょう。
…いずれお前達も私たちの元に来る日が訪れるでしょう。
…その時までは魔族の誇りにかけて戦い抜くように…
40桜井あさひ【主人格】:2000/12/01(金) 18:41
夢とうつつの境界で、あたしは最愛のひとの腕に抱かれていました。
あたしはただ涙にくれて…本当は辛かったの、苦しかったんだよって、
子供みたいに嗚咽するだけです。
アイドル声優も封印の力も、もう、どうでもいいことでした。

でも…『彼』は、本当はこの場にいない人間です。
そう、どんなに力を高めても、どんなに名声を得ようとも
かれを呼びとめるそのたった一言…一言だけは言えなかった。
こみパでの出会い…学園祭…コンサート…。
彼と育んだ、日溜りのように暖かな…思い出のかけらたち。
そんなものは…最初から、あたしひとりが空想した日々でした。

『彼』は──あたしと話してくれていたあなたは、ずっと
あたしの中に、いたんですね。
あたしのためだけに生まれてきた、あたしという世界の中に
存在した…あのひと。
それは、かつてあたしが遠い日に、声もかけられずすれ違った
瞬間から…現実の彼という人間のかたちをかりて、ずっとあたしを
見守ってくれたもの。

それが
桜井あさひ最後の人格
【せんどうかずき】──

そろそろこの日記を終わりにするときがきたようです。
てが なんだかおもくて…うごかなくなって きました。
もちろん さいごをしめくくることばは きまっています。

せめて   さいごだけは、せいいっぱいの勇気をだして。
いつか こ のことばが、こんどこそこそは ほんとうに

あのひとに  とどくことをしんじて 。


 ずっと前     ら 、
                 好   
                        ζ    
41美坂栞:2000/12/01(金) 19:42
気を感じます。
ひどく懐かしいこの気は……お姉ちゃん?

あはは、生きていたとはしぶといですね。
止めを刺してあげましょう。

あれ? お姉ちゃんのすぐ側に使徒の雅史さんがいますね。
よく考えたら……お姉ちゃんごときに私が出るまでもありませんね。

お姉ちゃんの始末は雅史さんにお願いしますか。

私は『パンドラの箱』の解明でもしておきますよ。
42篠塚弥生:2000/12/01(金) 19:45
「ここは、ひとまず休戦としませんか」
切り結びながら囁いたその一言に相手の女…高倉みどりは動揺を隠せないまま飛び退きました。
「何が言いたいの? 私は騙されやしないわよ」
疲労しながらも毅然とした眼差しで睨み返してくる、その表情は嫌いではありません。
「彼女」とは似ても似つかないと言うのに、私はまだどこにでもその面影を探してしまうようです。
そんな馬鹿な己に内心苦笑しつつも、この戦いを見ている真琴に気取られぬようみどりへ攻撃を
仕掛けながら私は更にみどりへと囁きました。
「私が半妖狐だ…といったら?」
「!?」
私の爪をロッドで受け止めた彼女の顔に、動揺が走ったのがはっきりと見て取れました。
…ここからは声を介せば妖狐達に効かれる恐れがあります。
緒方兄妹が死んだ今、想話の受信は何人たりとも出来ぬ領域のはず。
私は送信を開始しながら、カモフラージュのため再度攻撃を繰り出してゆきました。
(私には唯一愛した女性がいたのです)
(しかし彼女の恋人は、彼女を選んだ代償に、慕った先輩を自殺で失いました)
(その先輩を心より愛するある男は、見せしめとばかりに私の最愛の女性を殺したのです)
(知っているでしょう、新進気鋭のアイドル森川由綺が殺されたことは)
(由綺さんこそが私の唯一の人。貴方が知っている七瀬彰こそが彼女を殺した罪人)
(私は由綺さんの恋人…藤井さんと共犯関係を結ぶことにしました)
(彼は七瀬彰の居所を突き止めるため生活を捨て、私は半妖狐となり人間を捨てました)
(彼と共に七瀬彰を討てれば私の生にもう意味はありません)
(緒方兄妹らへの仮初の忠誠も、もうどうでも良いことなのです)
43北川潤:2000/12/01(金) 19:45
おっ。あそこにいるのは俺の愛する香里じゃないか?
霧島姉から巡回するよう言われて、渋々やっていたのだが、
こうして香里に逢えるなんて、やっぱり運命の赤い糸で結ばれてる証拠だぜ。

……ってちょっと待てよ。
香里に襲い掛かろうとしている馬鹿がいる。
まったく……香里にケンカ売ろうなんて百年早いぞ、お前。
元とは言え退魔部部長の香里だぜ、返り討ちに合うのが目に見えてる。

だが、俺は素早く香里の隣に赴く。
せっかく東方不敗先生のもとで修行したんだ。強くなった俺を見てくれ!

「北川君!」

香里の驚いたような声。
……いい。これってすごくいい!
うおーっ、断然やる気が出てきたぞ! 掛かって来い、そこのやられ役!

「あたし、急いでるの。ここは頼んだわよ」

香里……そりゃないぜ。
くそっ。こうなったらやけくそだ。

わははははははははっ!!
見せてやるぜ! これが俺の神の指(ゴッドフィンガー)だああああああああっ!!!

後に…この闘いは史上最悪の脇役対決と呼ばれることになった。
なぜなんだよーっ!?
44篠塚弥生:2000/12/01(金) 19:47
(42より)
連撃の間に想話を送るたび、みどりさんの目の色が少しずつ変わってゆくのがわかります。
最初は驚き、次に苦痛、最後は…哀れみ。
「同情なさっているのですか」
みどりさんが放ったプラズマを避けきり、私は氷のような冷酷さでひとこと告げました。
違う、と叫んだみどりさんは、一気に間合いを詰め、ロッドと銃器による連続攻撃を繰り出しながら
逆に私へとたどたどしくも想話を送り返してきました。
(貴女の愛情は、よく、分かったわ)
(私たちの、陣営には、スフィーさんという魔女が…居る)
(彼女に稀少な美術品を積んで頼めば)
(由綺さんは、蘇るかも知れない)

由綺さんは、蘇るかも知れない。

その言葉に私は少なからずの衝撃を受けました。
彼女を復活させる方法は、彼と私が方々の手を尽くしても成功しなかったことでしたから…
男女の交わりによって発生する精液と血さえ捧げても、それは叶わなかったというのに。
呆然とする私の肩へ、みどりさんのロッドが滑るように叩きつけられ…
「!」
私は避けなかったのです。
「もう…全てはとうに、とうに遅いこと」
みどりさんへ初めて微笑みを向けながら、飛びすさった私は気を失った七瀬彰をかつぎあげました。
今も藤井さんの発する信号を頼りに、彼を二人の手で葬るために。
抜け落ちた歯車を今さら元に戻すことなど不可能なのです。
「ダメよ!」
追いすがるみどりさんは私の腕をがっしりと掴んでいました。爪で振り払っても、彼女はその手を離しません。
かえりたい。また、あの頃のように彼女と穏やかな時を過ごしたい。できることなら精一杯に彼女を愛したい。
だけど、その願いは彼には邪魔なもの。
私が由綺さんを側に置きたくとも、蘇った彼女は彼の元へと駆けてゆくでしょう。
(自分から未来を捨てる真似なんて、しなくていいでしょう!)
(由綺さんもそんな死に急ぐ二人を見ても、きっと喜ばないわ!)
「いいえ…沢渡真琴がもうすぐやってきます」
どのみち、私に未来など無いのですよ。
言って、私は七瀬彰を得意の転移術で一瞬にして信号の元へ送りました。
スフィーに会え、と言うメッセージをつけて。
…みどりさんを突き飛ばし、私は力を解放させます。
「ここにいる全員を元居た本拠地に送る」…無駄なことです。
十数人の妖狐、人間を一度に送れば、私の半妖の体が保たず崩れ去ることでしょう。
しかし今はこれしか、これしか方法がないのです。
妖狐はものみの丘へ、人間は総合病院へ。
光が走ったそのあと…駐車場は血の跡だけを残して無人となりました。
最期に笑顔の由綺さんに抱きしめられたような、そんな幸せな気が、

「頑張ったね」

それも、幻。
45弥生かきました:2000/12/01(金) 20:04
>(由綺さんもそんな死に急ぐ二人を見ても、きっと喜ばないわ!)
このあいだに
>「いいえ…沢渡真琴がもうすぐやってきます」

彼女の真摯な訴えをどこか醒めた想いで聞きながら、私は突然現れた巨大な気を感知していました。
奴が来れば、みどりさんも彰さんも一網打尽とされてしまうことでしょう。
そうなれば私の生きた意味も、何もかもが無駄に。
…どうやら二人で仇を討つのは、無理な願いになってしまったようですね。

この文が入ります。コピペミスです。ゴメソ。
46佐藤雅史:2000/12/01(金) 20:28
悪しき力を感じたのでそこに向かう。そこにいたのは贄の烙印の持ち主だった。
名前は確か……美坂香里と言ったけ? とにかく僕は正義の勇者だ。

>神様の仰るには北に邪悪なる者どもが集結して世界を滅ぼそうとしているとのこと。
>真の勇者たる僕はそれを滅ぼして世界に平和を取り戻さなければならないということ。

まさしくそのお告げとおりじゃないか。
この北の地は邪気に満ちている。僕がどうにかしないと。
しかし、そこで奴が現れた。名前など知らないが顔を見れば分かる。

『私は脇役です。存分に叩きのめしてください』

よし。僕がサッカーで鍛え上げた必殺技・裂蹴紫炎弾をお見舞いしてやる。
『裂蹴紫炎弾』とは、僕の霊気を球状に練って蹴りだす高等霊術。最高百個まで一度に放出できる。
これには大量の霊気が必要だったけど、どうしてか力が溢れ出してくる。
これなら負けない。誰にも負けるものか!!

しかし……意外に敵は強かった。脇役顔の癖に……(ぼそっ)。
戦いの舞台は各地を転々とした……。
廃ビル、夜の校舎、グランド、荒野、そして最後に辿り着いたのが、黄昏の時の砂浜だった。

もう一昼夜以上も闘い続けていた。
僕も相手もあらゆる力を消耗して、術者にあるまじき身体と身体との肉体勝負になった。
夕焼けがやけに眩しかった。そのせいで目を瞑る。そして頬に熱いものが疾った。
僕はその場に膝をついた。負けたのか……僕は?
お前……強いなぁ……と奴が言ってくる。だから僕は言い返してやった。笑顔を浮かべて。

オマエモナー。

どうしてか笑い合う二人。夕焼けが沈んでいく。波の音が聞こえる。
力が消えていた。あの無限に湧き出るような感覚がなくなっていた。でも、心地好い気分だった。
もしかしたら、僕は誰かに操られていたのかもしれない。
そして、その力が消えたということは、洗脳が解かれたということは、僕を操っていた誰か≠ヘもしかしたら……。

来るか、俺と……奴が言う。僕は静かに頷いた。
そのとき僕らは初めて名乗りあった。
47名無しさんだよもん:2000/12/01(金) 20:37
>>4
43の北川を書いたものだが、割り込んですまなかった。
あと、ゴッドハンド編は、どうにかして今日中には終わらせますです。
早く、リレー小説を楽しみたいので。
48美坂香里:2000/12/01(金) 21:04
もうすぐ日が暮れて夜の刻が訪れる。
今更ながら北川君のことが気になるが彼ならきっとやってくれると信じる。
そして、あたしは目的の場所に辿り着いた。
夜の校舎はひときわ大きく、見るものすべてを凍りつかせるような闇で覆われていた。
あたしが足を運ぶのは中庭……いつかあの子と約束した場所。

『ここはね、冬の間は寂れてるけど、春の日差しが届くようになったら、お弁当を食べるには絶好の場所なのよ』
『そうなんだ。だったら、私もここでお姉ちゃんと……ううん、何でもない』
『ばか。大丈夫よ、栞。春風が吹くようになったら、貴女の病気も治ってるわ』
『お姉ちゃん……』
『もう。こんな所で泣きつかないでよ。恥ずかしいじゃない』
『う〜。そんなこと言う人嫌いです〜っ』

それは今となっては遠い過去。
あたしの妹はもう…何処にも居ない。春の日差しには遠すぎる。
今は雪が降っているのだから。
栞は、きっと……初めは病気を治したかっただけだと思う。
あたしとの約束を守りたかっただけだと思う。
それで、あんな姿に……。

いいえ、違うわね。
あたしの栞は居ないのだと改めて心に決意する。
そこに、気配。邪悪な者の……。
ゴッドハンド、黒き翼を身に纏った人ならざる者。

あたしは、ありったけの力≠右手に集める。
分かっている。あたしだけでは、勝てない。
どんなに足掻いても一矢報いることができるかどうかだろう。

それを知っているからこそ、あたしは命を懸けるのだ。
栞のために……。

多分、次であたしが日記を付けるのは、最後だと思う。
49岸辺なつみ:2000/12/01(金) 21:23
 私は、駐車場に辿り着いた。息は切れていたが、右手には破壊を具現化した魔力を生んである。いつでも戦える――
 が、そこにはおびただしい血の跡しか無かった。保科さん達は愚か、妖狐たちすら居ない。
「どういう事……?」
(ここから逃げて下さい)
「えっ!?」
 直接鼓膜を揺さぶる音波に、私は一人叫声をあげた。
(間もなくここに沢渡真琴が現れます……早く、逃げて下さい)
 残留思念。強い想いが遺した、死者の忘れ形見。
「あなたは……? あの女性の残留思念……?」
(そうです。皆は私の最期の力を使い本来の居場所に帰しました。ご心配なく)
「あなたは……敵でしょ? なぜそんな事を……」
(そうです……いや、そうでした。私は……いえ、そんな事はどうでも良いでしょう)
「…………」
(見ず知らず、ましてや貴女の仲間と刃を交えた私がものを頼める立場ではありませんが……)
 すっと、目の前に長身の女性のフォルムが浮かび上がる。
(これを……)
 そう言って、フォルムが静かに何かを差し出す。ロケットだ。
(私のとても大切な方に戴いたものです。これを、篠塚弥生という女の墓に眠らせてやって下さい)
 透ける手に乗った透けるロケットが、それだけ魔法のように実体化する。
「わかったわ、必ず……」
(ありがとうございます……では、失礼します……)
 フォルムが、まるで元から無かったかのように唐突に消滅し……
 キィン、という澄んだ音――ロケットがコンクリートの床に跳ねる音が響いた。
 それを拾い上げる時、衝撃で開いたロケットの中身が見えてしまった。
 片面には二人の女性の写真……もう片面には丸い文字で何か書かれた紙が入っていた。

「弥生さんへ
    いつもどうもありがとう。すっごく感謝してます。
       お誕生日おめでとう!      由綺」

 なぜか、私の頬を涙が伝った。唇が、独りでに一つの言葉を紡いだ。
「由綺さん……どうか幸せに……」
 だが私は、その言葉の意味を知らなかった。それは私の言葉ではなく、彼女の言葉だったからだ。
>>弥生書いた人へ
素晴らしい話をありがとう……
51美坂栞:2000/12/01(金) 21:40
どうやら雅史さんは北川さんと一緒にどこかに行ったようです。
仕方ありませんね。お姉ちゃんとの決着は私が付けるとしますか。

例の箱は一応、繭ちゃんにお預けしました。澪さんは、何か企んでそうで気に喰わないので。
でも、結局は私が一番なんですけどね。繭ちゃんは、なんだったか忘れちゃいましたけど、
澪さんは、自分の声程度しか力の対価として払っていないのですから、そんな人に私が負けるわけないです。

そうこうしているうちに、お姉ちゃんが自分の死に場所に選んだのは、学校の中庭みたいです。
どうしてここを選んだかは知りませんけど、お姉ちゃんには相応しいくらいに侘しい場所ですね。

お姉ちゃんの気が高まりました。笑えるくらい小さな気ですよ。
昔は退魔部部長とか云って自慢してましたけど、今は、それがどうしたの? というレベルです。
まあ、超越者であるゴッドハンドの私に敵うものなど居ませんけど。

それでは軽くあしらいますか。
私はストールを翼に変えてゆっくりと羽ばたかせました。
それだけで、お姉ちゃんはたじたじです。
あはは、所詮、人間なんてこんなものですよ。
お姉ちゃんのそんな姿を楽しむために、私はわざと力を緩めて遊びます。
ああ、勘違いしないで下さいね。
いつだって、殺っちゃえるんですから、これはサービスなんですよ。

お姉ちゃんが這いつくばるように近寄ってきました。
無様です。笑えるくらい無様ですね。
あはは……って本当に笑っちゃいましたね。てへ。

私の身体にしがみ付いてきました。
耳元で泣くように「栞…栞…」と言ってます。
気が違ったのでしょうか?
そろそろ飽きてきたので力を強め……ようとしたところでピシッと音がしました。

あれ? どうしたんでしょう?
あれれ? なんだか……調子が…悪いみた……いで…す……。
52美坂香里:2000/12/01(金) 22:20
弄ばれているのが分かった。
今の栞にとってあたしは弱者に過ぎないのだから。
あたしは残された力のすべてを防壁に使った。
風を右手で押さえ込むように、足を踏みしめて一歩ずつ、あの子に近寄っていく。
抱き締める。
本当は分かっていた。あたしに栞を手に掛けるなんて出来はしないって。
あの子の顔のままのゴッドハンドを見る。睨むことすら出来ない。
だって……あのときの笑顔と何ら変わりない栞がそこに居たから。

恨まれていたと思う。
栞はいつだってあたしのことを慕ってくれていたのに……。
あたしはあの子の病気が治らないことを知ったら、あの子から逃げるように離れていった。
約束なんて果たせない……それを知っていたから。
貴女は助からないのよ。栞にそのことを告げたのもあたし。
なんて姉なんだろう。本当に恨まれていて当然だと思う。
生贄としてあたしを捧げたのも当然だと思う。
もっと、早く、貴女を世界で一番……愛していることに気づいていたら、こんなことにはならなかったのにね……。
すべてが今更だと思う。
でもね、お姉ちゃんはそれでも願うの……。

姉妹仲良く幸せになれますように。

ふと、音がした。
何の音だなんて分からなかったけど、ひどく栞が取り乱したのが分かる。
黒き翼がもがれていく。力の反動……そんな言葉が脳裏を横切る。
自分の力をよく分かっていない能力者が陥る現象に似ていた。
昔は…退魔部部長だった頃は、その光景をよく目の当たりにしていたのだから。

いいのよ。そんなに苦しまないでいいの。

あたしは栞に笑いかける。

翼なんてなくても天国には逝けるんだから。

お姉ちゃん……ごめんね……。

幻聴かもしれない。でも、あたしにはそう聞こえた。
空を見る。夜の星。この街に住む人が居なくなってから、本当に星空はよく見えるようになった。
次にあたしは月を見る。
大きな満月に影が重なった。白く舞い降りるもの。
来てくれたんだ、ありがとう……そう言い残して、栞を力の限り抱き締める。

きっと、天国にも、お弁当を広げられる場所はあるわよ。
ううん。私はお姉ちゃんと一緒なら、どこだっていいの……どこだっていいんだよ。

そうね…答えはそんなどこにでもあるありふれたもの≠セったんだから……。

この空に願いを込めて、あたしと栞は目を閉じた。
53柏木耕一:2000/12/01(金) 22:28
ふん、人間にしては楽しませてくれる……が、これが限界か。
このまま縊り殺すのは簡単だが、それでは『狩猟者』の名に恥じる。
それに、この女、まだ力を隠し持っているようだしな。

ん? 女の仲間か? もう一戦交えるのも良いが……少し遊んでみるか。
「俺を殺さないのか? 右腕は未だ再生していない事だし、
 万が一にも勝ち目はあるかもしれんぞ?」
返事は無かったが、色無き表情の裏で考えている事は直ぐに理解できた。
「万が一にも、俺に死なれては困るか? お前にはその女は殺せまい?」
女の仲間は何も言わず、女を連れて逃げ去った。
ふん、人間どもの考える事は何時の時代も変わりはせんようだな。
安心しろ、その女にはこの俺が誇り高き死を与えてやろう。
『狩猟者』に狩られる、というな。
54川澄舞:2000/12/01(金) 22:40
私は夜の校舎の屋上にいた。
美坂香里という人物に「ゴッドハンドに隙を作ってやる」そう言われたから。
本当なら、こんな頼まれ事は好きじゃなかったけど、彼女の瞳に悲しいまでの決意が見て取れたから。
私も、佐祐理の死を知ったとき、こんな顔をしていたのかもしれない。
それに…私は魔を討つものだから……。

ずっと屋上から戦況を見ていた……その時だった。
ゴッドハンドの力が薄れていくのが感知できた。

二人が何かを話しいる。
嬉しそうに…悲しそうに…寂しそうに…楽しそうに…。
私は逡巡する。
このまま私はあのものを討っていいのだろうか?
でも、こんなチャンスが二度とないのもまた、事実……。
佐祐理…私に力を貸して……。

屋上から飛び降りる。
そして、その勢いを剣に上乗せして銀色の刃を振るった。

香里は私を見ていた。
躱そうと思えば躱せた筈だった。
でも、彼女は身動き一つ取ろうとしないであのもの≠ノ笑い掛けている。

ここまで来ては刃は止まらなかった。
勢いを付けすぎたのだ。
私は、どうしてか泣いた。
何が悲しかったかも分からないまま涙が夜に零れた。

次元斬!

もう…そこには二人の影さえ残っていなかった。

私は茫然としながら、その場を後にする。

さようなら……。

私は振り返らない。
佐祐理の敵を討つまでは……。
55名無しさんだよもん:2000/12/01(金) 23:20
「邪悪な」っていう縛りがなくなったせいか、ここしばらく、いい話のオンパレードですな(w
実にいい傾向だ。やはりキャラは上手く死なせてやってこそ生きますな。
56ゴッドハンド:2000/12/01(金) 23:26
身体が滅びていく。私はこれで終わるのか?
いや大丈夫だ。この世界に私の力を欲するものは幾らでもいる。
それこそ人間の数だけいるだろう。
大丈夫だ。私はやれる。
今度は、最後に人としての情などに流されたあいつのような人間など選ぶものか!

『しつこいの』

何処からともなく声。違うテレパシーのようなのか?

『あなたは人間の心に破れたの』
『それを認めようとしないのは単なる愚か者なの』

これは私と同じ力の波動……? 上月澪なのか!?
どうして、このような敵意がある? 私達は同じ闇に住まうものではなかったか!!

『五月蝿いの』
『お前なんか糞に塗れて死ぬがいいの』
『滅殺なの』
『二度と復活できないようにしてやるの』

ふふっ。やれるものならやってみるがいい。
伊達に私は人類の有史以来から人の負の感情を喰らっておらぬわ!
この魂に触れただけで、貴様のような出来そこないのゴッドハンドは朽ち果ててしまうぞ!
さあ、やってみるがいい。

『舞台を夢見る人にとってどれだけ声≠ェ大切なのか』
『あなたになんかには分からないの』
『それでも諦めたりはしないの』
『それが人間の強さなの』

澪が私に触れようとする。
面白い。やってみろっ!

待ちなさい、澪!

声が聞こえた。
それは聞いただけで揺るぎなき知性≠感じさせる声だった。
その声の主は……信じられない……椎名繭だと?
あの天然ボケの小娘が一体どうして……?
そして、その手にあるのはパンドラの箱≠セった。
まさか……こいつらは、それが目的で、ゴッドハンドになったとでも言うのか?
何者をもひれ伏せさせる力よりも、そんなものを望んだというのか!?

何のためだ! 一体なんのためだ!! 何故だ!!! 私には分からぬ!!!!

そうね。あなたには分からないわ。

繭が言う。その声に私が…私ともあろう者が恐怖しただと!?

これを使えば、あなたの負≠ヘおろか……すべてのものの負≠吸い出すことができるのよね?

何を考えているのだ、こいつらは?
箱が開いていくのさえ、呆然と見送ったまま、私はのすべてがそこから消えていった。

もう…二度と目が覚めることはない闇の中に……。
ふう。ゴッドハンド編終了しました。お疲れ様です>自分
ああ虚しいな。みんなの小説を横目に一人でリレーするなんて。

さて、ゴッドハンド編いかがでしたでしょうか?
氷上シュンの「美坂香里は生きている」の発言がここまで尾を引くとは。
文体を見ていたら、結構、自分が書いたやつって分かるかもですね。
スレ2のゴッドハンド関連は私一人で書いたものです。ついでに言ったら裏葉を登場させてしまったのも(汗)。
それにしても連続カキコすまなかった>おーる
でも、約束は守れたと思っていいですよね?

これからは一書き手として頑張ります。
でも、今日はもう疲れました。寝ます。それでは。
58名無しさんだよもん:2000/12/01(金) 23:56
>57
有難うございました。
実に良かったです。長年の(一週間くらいだけど)胸のつかえが取れました。
今後とも、書き手さんとして頑張ってもらえれば嬉しいです。
私も及ばずながら、参加者全員が満足できるENDを目指して頑張りますので。
59名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 00:12
ここにきて急に退場者が出てきたな・・・もう少ししたら途中経過が必要になるか?
60書き手さんだよもん:2000/12/02(土) 00:17
>>57
お疲れ様&ありがとうございました。
まさかあのゴッドハンドがこんな良い話に化けるとは・・・
やれる人は出来るんだなぁと感心したっす。
同時に力量不足痛感してますが、これからも頑張っていくのでよろしくです。
61MD−90:2000/12/02(土) 00:23
書き手さん方へ。内容がすごい良いですね。がんばって下さい。
62名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 00:25
>>59
とりあえずは、妖孤VS委員長一派の結果が確定してからということで。
つーか、そろそろリストラの進行が予想されるので、
出したいキャラのいる人は早めに出しとくようにお願いします。
最終決戦が坂下VS南とかになったら悲しすぎるので(w
63名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 00:38
くーか、今後の浩平ネタの展開に期待っす。
妖孤関係はいささか進展しすぎた感があるので。
64某一書き手:2000/12/02(土) 00:45
>>57
連続カキコおよび、話の収束の方、お疲れ様でした。
すばらしい美談、誠に有り難うございます。
ひさびさに、心が洗われた気がしました。こちらも、さらにすばらしい話を書こう
という意欲がかきたてられてくるというものです。
今後の書き手としての活躍を期待いたします。
65倉田佐祐理(in幽界):2000/12/02(土) 01:09
はぇー。幽界で見ているだけというのも存外退屈な物ですねー。
芹香さんはここにいる力すら無くしてしまったようですが、私はもう少しいけそうですよーっ。
二人で下界に悪戯をしましたが、この真の意味に彼女らが気づくのはいつになるやら。

さて、私たちが唯一干渉できる電気の網の上では妖狐たちが私を陵辱している動画が流されているとか。
ちゃんちゃらおかしくて笑ってしまいますー。
だって真琴は、秘薬を浴びることをものともせずに、私を一撃で喰らったのですからねーっ。
あわてて妖力で抜け殻に偽の魂を吹き込んで遊ぼうとしても、予言の軸がずれている以上無駄無駄、ですよー。
死姦なんて悪趣味なやり方では、さぞかしつまらなかったに違いありません。
一度ずれた予言が少しずつ的はずれの物となっていくのは、目に見えたことでしょうねー。
いい気味です、あははーっ。

ふう、それにしたって妖狐どもは、次々に眷属を呼びだしてきますねー。
楓の真の忠誠は一族にのみ向けられているとは言え、彼女は表向き任務を遂行するでしょう。
そうなれば真琴たちばかりが勝利を得る、つまらないゲームとなるに違いありません。
舞はゴッドハンドを倒したようですし、保科さん達も相手に打撃を与えましたが、
これでは総合的に見てせいぜい痛み分けというのが良いところでしょうしねー。
うーん、困りました。

……そうだ。まだ向こう側に居る残り少ない人間、河島さんを呼んでみましょうかー。
由綺さんの声を真似て留守番電話に吹き込めば、きっとこの街にやってきますよねっ。
藤田浩之や祐一さんがプラス因子による次元矯正力の持ち主なら、
河島さんは自覚していませんがマイナス因子による中和能力の持ち主です。
ひとたびそれを発動させれば、下界を覆う結界さえも通り抜け、妖術の影響なしで
街にやってくることが出来るでしょう。うん、良いアイデアです。
妖術を無効にする人間が保科さんの陣営につけばまた戦況も変わるはずです。
保科さんほどの人なら、すぐ彼女の有益性に気づいて能力を磨かせるでしょうし。
そうそう、私の記憶も「二人目」として美凪のバックアップ用にコピーしてありますからね。
彼女のベースは以前裏ルートで手に入れた方術師、「鬼菩薩」の血ですしねー。
舞、さみしくありませんよ。あなたはひとりじゃないんです。
それを忘れずに皆と協力して、真琴を倒して下さいねーっ。
それでは、そろそろさよならみたいですねーっ。みなさん、またですーっ。
6665:2000/12/02(土) 01:29
はるかを出したかったのでした。そんだけです。
あと、この板読んで美凪と裏葉の関連性に思い至ってみたりとか
リアンの夢や予言の整合性をいじってみたりしました。

今日はいい泣かせが続きますな…
私も精一杯頑張りますので、よろしゅう。
67名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 01:40
しかし、今日は激動の一日でしたな。
今週末は果たしてどうなるのでしょうか?
私もそろそろ寝ます…
68名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 03:37
凄いです>ゴッドハンド纏めたの作者さん
変わった食材も、職人の手にかかれば美味しく頂けるという良い例ですな。
何故か書いているこっちが鬱になりそうですよ…レベルの差は如何ともし難いですね…
でもまあ何とか自分なりの文章を書いていきたいと思ってます。例え駄文でも。2ちゃんだし、いいよね…
69名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 03:54
あさひ、弥生、香里&栞、澪、繭…
今日はレベルの高い日でした…
70名無しさん@だってばよ:2000/12/02(土) 04:17
今さらですが。
一度書き込んでから落ちていましたが、マジでいいもの読みました<ゴッドハンド編終結
納得できる結末を本当にどうも有り難うございました。
いいものを読むと感化されてテンションがいい意味で上がります。
自分も出来る限りのネタを出して書いていこうという気になりますね。

それと名無しさんだもんよさん、69さん、どうもありがとう。
71巳間晴香:2000/12/02(土) 04:21
 目の前には里村茜がいる。天野美汐のかつての修行仲間で、その法術は天野以上
家も知れないと噂される実力者だ。里村は一分の隙も無いままあたしに尋ねてきた。
「何故…元FARGOのあなたが私達に協力を申し出るのですか?」
 あたしは彼女の目をまっすぐに見つめながら話し始めた。
「それは…あたしの兄…良祐にもう一度会いたいからよ…。」
 里村は意外そうな顔をしてあたしに尋ねた。
「たった…それだけのことで…?」
「そんなことないわ!」
 あたしはつい大声を出してしまっていた。
「ぁ…ごめんなさい…でも…。」
「晴香さん…あなた…お兄さんの事が…。」
「ええ…愛していたわ。伝える事は…出来なかったけれど。」
「でも…それなら沢渡真琴に頼んだほうがよろしいのでは?そういう関係ならあちらの方が
専門だと思いますけど。それに天沢さん達はあちらに協力しているのですよ?」
 里村は至極当然な疑問を口にした。あたしはそう言いつつもかけらも隙を見せない彼女に
感心しつつ答えた。
「あたしは…良祐を蘇らせたいわけじゃない…。それは…理に反している…。ただ…もう一度だけ
良祐と話したいの…。郁未達の事は…友達でも立場が変われば…敵よ。」
 里村は警戒を解くと、少しだけ微笑んだ。
「…まあ、いいでしょう。既に因果律も無くなりかけているこの街で、何に拘るのかが気になりますが…
こちらも不可視の力は戦力として欲しかったところです。いいでしょう。」
 あたしは交渉がうまくいったのでほっと胸をなでおろした。
「それでは、よろしくお願いするわ。里村さん。」
 あたしが手を差し出すと彼女は手を握って微笑んだ。
「こちらこそよろしくお願いします。私の事は茜と呼んでください。」
「じゃあ、あたしの事は晴香と呼んでちょうだい。」
 交渉が終わると、別れ際に茜があたしに忠告するように呟いた。
「晴香さん…拘るのもよろしいですけど…ほどほどにしたほうがいいですよ?」
 あたしは心を見透かされたかと思い、改めて彼女の恐ろしさを思い知った様な気がした。
あたしが高野山側についた本当の理由…見透かされたのかも…。
72sufuli-:2000/12/02(土) 05:06
終着駅に着き、レンタカーを借りて、彼の地まで懸命に飛ばしている。
時速60キロ――これが限界だ。これ以上飛ばしたら、事故は必至だ。
外は相変わらず吹雪いていやがる。

彼の地から伝わってくる思念を俺は一部始終を頭の中で反芻していた。
保科らと妖狐との争い、ゴッドハンドの最期に――そして、弥生の最期――。
思い起こすだけで辛くなってくる。
こんなに感傷的になったのは何年振りだろうか?
いてもたってもいられなくなり、俺は路肩に車を止めた。
そして、鞄に入れてあった煙草に火を付ける――。

果して――彼女は幸せになったのだろうか――?
念願だった由綺との再会を――あの世で果たせて――
これ以上、俺には分からない。

――どうやら二人で仇を討つのは、無理な願いになってしまったようですね――
こう彼女は話していた。
だが云って置こう。
討つのはまだ手ぬるい。
それは死を迎えさせることにより、すべてをゼロにしてしまうからだ。
むしろ、この世で罪の意識と亡者へのとらわれという苦痛を恒久的に味あわせる方が、
仇討ちとしての効果は圧倒的に大きいと思う。
説教じみてしまったな。

さて、そうこうしている内に岸辺から連絡が入る。内容は予想していたが、俺の遅延に
対する恨みつらみだ。それは覚悟していたものの、耳に痛く感じる。
とにかく、すまないとだけ云っておいて、すぐに車を走らせた。
この調子だったら、夕方には到着できる。すべてはそれからだ。

ただ、岸辺には一言いっておきたい――
格闘現場に健太郎と立川雄蔵はいないはずだぞ?
健太郎は2年前の絵画の贋作の生産でヘマをやって東京拘置所に拘留中だし、立川雄蔵
はチベットで人との交流を経っての修行をしている最中だ。
この2人が、彼の地にいたとは考えにくい。
言ったら悪いが、彼女も毒電波の影響を受けて、ヤキが回っている可能性がある。

あと、逝っちまった倉田の阿呆にも一言言って置こう。
マニアックな用語を使って予言をするとはあまりにも低級やのう……。
まあ、奴の低級さは今に始まった訳ではないし、その予言も見事に外しちまっているし……。
ただ、保科らには丁度いい頭の体操にはなると思うので、次のようなヒントを残しておいた。

『AB線、CD線の他にも、E線とG線もあります。
 最近はG線の建設がよく問題になっています』

これ、よく考えてみたら、これらの用語はこの場で使うのはあまりにも不適切だと思うが。
たしかに意味は分からなくはないが……それでも分かる奴は、そうとう限られるだろうね。
あーあ……すさみ。
73スフィー:2000/12/02(土) 05:06
終着駅に着き、レンタカーを借りて、彼の地まで懸命に飛ばしている。
時速60キロ――これが限界だ。これ以上飛ばしたら、事故は必至だ。
外は相変わらず吹雪いていやがる。

彼の地から伝わってくる思念を俺は一部始終を頭の中で反芻していた。
保科らと妖狐との争い、ゴッドハンドの最期に――そして、弥生の最期――。
思い起こすだけで辛くなってくる。
こんなに感傷的になったのは何年振りだろうか?
いてもたってもいられなくなり、俺は路肩に車を止めた。
そして、鞄に入れてあった煙草に火を付ける――。

果して――彼女は幸せになったのだろうか――?
念願だった由綺との再会を――あの世で果たせて――
これ以上、俺には分からない。

――どうやら二人で仇を討つのは、無理な願いになってしまったようですね――
こう彼女は話していた。
だが云って置こう。
討つのはまだ手ぬるい。
それは死を迎えさせることにより、すべてをゼロにしてしまうからだ。
むしろ、この世で罪の意識と亡者へのとらわれという苦痛を恒久的に味あわせる方が、
仇討ちとしての効果は圧倒的に大きいと思う。
説教じみてしまったな。

さて、そうこうしている内に岸辺から連絡が入る。内容は予想していたが、俺の遅延に
対する恨みつらみだ。それは覚悟していたものの、耳に痛く感じる。
とにかく、すまないとだけ云っておいて、すぐに車を走らせた。
この調子だったら、夕方には到着できる。すべてはそれからだ。

ただ、岸辺には一言いっておきたい――
格闘現場に健太郎と立川雄蔵はいないはずだぞ?
健太郎は2年前の絵画の贋作の生産でヘマをやって東京拘置所に拘留中だし、立川雄蔵
はチベットで人との交流を経っての修行をしている最中だ。
この2人が、彼の地にいたとは考えにくい。
言ったら悪いが、彼女も毒電波の影響を受けて、ヤキが回っている可能性がある。

あと、逝っちまった倉田の阿呆にも一言言って置こう。
マニアックな用語を使って予言をするとはあまりにも低級やのう……。
まあ、奴の低級さは今に始まった訳ではないし、その予言も見事に外しちまっているし……。
ただ、保科らには丁度いい頭の体操にはなると思うので、次のようなヒントを残しておいた。

『AB線、CD線の他にも、E線とG線もあります。
 最近はG線の建設がよく問題になっています』

これ、よく考えてみたら、これらの用語はこの場で使うのはあまりにも不適切だと思うが。
たしかに意味は分からなくはないが……それでも分かる奴は、そうとう限られるだろうね。
あーあ……すさみ。
7473:2000/12/02(土) 05:10
長文の上に、二重カキコしてしまった……。
スマソ……。逝ってきます……。
75里村茜:2000/12/02(土) 06:40
監視2日目、午後
こっそりと後を着いていって正解だった。まったく、鬼に単騎で挑むなんて…
治りかけのけが人のくせに。闘いとなると、じっとしていられないのは相変わらず。
いつもながら呆れてしまう……こういう対等以上の相手との闘いだけをして欲しいのだけど。
私は闘いは許せる。でも悪戯に力を行使する事は許せない。それは獣以下の行為。
完全なる愚行。こんな事は闘い好きの美汐ならきっと分かるはずなのに。
互いに全力を持ちて、正々堂々と戦う喜び。ただ力を弄ぶだけの鬼とはまた違った喜び…
…尤も、私には全然分からない。何となく、格闘家ならそう考えていそう、と思っただけ…

鬼との戦い。流石に凄まじい攻撃。でも何とかなりそうだったのでじっと観ていた。
突如美汐が隙を突かれて地に伏されてしまう。これはまずいかな…そう思った。
でも未だ目は死んでいない。相手の攻撃は全て見えているようである。
事実その後、鬼の右腕を吹き飛ばす程のダメージを与えてしまった。
が、美汐も無事ではなかった。相打ちと言ったところだろう。意識を失っている。
しかし…どういうことだろう。禁忌武器に指定されているピナーカが、負荷に耐えられず
崩壊してしまった。美汐の法力を最後に計ったときも、力は私の方が上だった。
その私の法力ですら余裕で増幅できるのに…鬼の凄まじい攻撃によるものか。
或いは考えたくないが、徐々に大僧正の封が弱まり神奈の力が漏れ始めているのか…
まあ、今は美汐を治癒する方が先か。…見たところ、右腕と胸部に少し、爪と思われる破片が
刺さっている。左腕の打撲はそれほど酷くないとして、問題は背中の裂傷か。
何れにしろ制服を脱がす必要がある。いくら何でもこんな処では出来ないね… そんな時。
突如倒れていた鬼が起き上がった。臨戦態勢を取る。が直後、鬼が悪魔のささやきをしてきた…

…こいつを殺す必要があるんだろ… はっきりとそう聞こえた。
いや違う。悪魔は私の内にある。ずっと気にしていたこと…

美汐の中にある、あまりに強大な負。もし神奈を押さえられなくなったとして
美汐が神人の力を暴走させる魔物と変化したとする。でも神奈の目的は九尾。
九尾を封じれば神奈の呪いは解け、善神人に戻り、美汐も解放されるはず。
しかし九尾戦後、美汐が改心しなかったら、その上負が解放されてしまったら…
神奈を降ろしたとき美汐が言っていた。降ろしただけで負の力が漏れだしたということを。
間違いなく神奈は負に影響を与えていた。呪いが解けたとしてもそうなることを考え得る事が出来る。
悪戯に力を使う心と負の心は似て非なるもの。どちらの心を基にするかにより、法力も段違いの差を生じる。
そうなった美汐はもはや魔人。私で勝てるのか…
ならばそうなった時には鬼と戦わせ、滅させるも良し、弱ったところに止めを刺すも良し…

私は美汐を担いで隠れ家に戻った。何て事を考えていたのだろう。私の親友で、恩人でもある相手に…
自分が情けない…でももう大丈夫。安心して。もし美汐が魔人と化したら、命を賭しても止めてあげるから…
きっとあの人だってそう言うでしょう……?あの人って誰だっけ?……まあ、いいか…
治癒をしている最中、美汐が目を覚ました。一番に鬼のことを訊ねる。よく考えたら戦闘中に気絶はまずいんじゃ…
処置を施して本部に連絡を取るため出かける。出かける前に言っておいた、美汐専用の武器の出来具合。
体術を得意とする者の為の攻防一体の武防具。「パーホゥラット」と「カムライターオ」。セットで用いるとか。

そしてしばらく歩くと一人の女性に出会った。巳間晴香と名乗るその人は、私にある要望を告げてきた…
7675:2000/12/02(土) 06:47
>>71さん失礼。きちんと書くべきなのだが、疲れた…
(伏線が分からないとか、そう言うことではない…と思うよ。それでも自分の読解力不足に腹が立つ。)

あ、75の後に71が続いていると考えて下さい>ALL
77保科智子:2000/12/02(土) 07:07
 私自身、何で助かったのか未だにようわからん。郁美とかいう生意気なツインテールとかなり激しくやりあっていた処で、
 いきなり転移させられ、気がつけば仲間達と一緒にこの総合病院だ。
 なつみによれば、敵方の弥生とかいう女性が命と引き替えにその場にいた全員を転移させたらしい。
 よく事情が飲み込めないが、重要なのは仲間達が助かったという事や。……助からなかったのも居るけどな……
 見聞きして把握した今回の戦いの概要を、私なりにまとめておいた。

・理奈が音波を利用した精神攪乱攻撃を仕掛ける。七瀬彰気絶、観月マナの電波支配解ける。
・香奈子、力を解放。覚醒したマナとの一騎打ちの構図ができる。
・月島、英二に戦いを挑む。英二、受けてたつ。
・瑠璃子、理奈に毒電波を浴びせる。理奈、これに耐え、逆に音波による精神攪乱で瑠璃子に攻撃する。
・瑞穂、香奈子の身体を強化し、彰の身体を場外へ移す。
・英二、月島の動きを止め強烈な振動波を浴びせる。しかし直後に破壊電波に精神を壊され、自害する。
・両陣営の第二部隊が到着する。それぞれの獲物を決め、分散して戦う形になる。
・香奈子、マナを壁に叩きつけ抹殺する。すぐに、必死に防戦する瑞穂のフォローに回る。
・私が、呪法により神岸あかりの霊を呼び出す。あかりの霊、理奈に取り憑く。
・理奈を私が討つ。しかし死に際に、瑠璃子が異形変化の音波を浴び石化する。
・みどりの私兵を一方的に虐殺する郁美に、私が挑む。
・不可視の力使い参戦。直後、静養を命じておいたはずの祐介とその看病をしていたはずの沙織ちゃんが駆けつける。
・膠着状態。だが、あきらかにこちらの陣営が不利。
・弥生が妙な動きを示す。
・突然、全員が転移。

 ……不格好な形やけど、こんなもんか。
 月島さんはもう死んでしまったし、瑠璃子ちゃんはそう簡単に治せそうにない。
 他にも重傷の人間は多い。恐らくもっとも過酷な戦いをしていた太田さん、格上の相手を必死に食い止めた江藤さん。
 完治せぬまま飛び出してきた祐介くん。不可視の力に傷つけられた新城さん……
 高倉さんはしばらく考えたい事がある言うてどこか行ってまうし、藍原さんも雛山さんと一緒に怪我人の手当におおわらわや。
 七瀬の兄ちゃんは……いや、ここからはもう私らが関わったらアカン。みどりさんも言うとった。
 さて……しばらくは身動きが取れへんな。しゃあない、なつみ達の合流を待って今は静養するか……
78椎名繭:2000/12/02(土) 14:48
私は日記なんて書く趣味はなかったけど、これからは何がおきるか分からないからね。
まあ、仕方ないと割り切るわ。
この世の禍を唯一封じ込めることができる『パンドラの箱』。これを手に入れるために私は自分の知識と知性を引き換えにした。
私の記憶が戻るのは予定とおりだったけど、澪の方は思った以上に力の反動を受けたみたいで、完全に治るのは難しいみたいね。澪はゴッドハンドの一人として覚醒したのだから。
私は澪の使徒ということで思ったより反動は少なかったけど、もしかしたら澪が庇ってくれたのかも知れない。
まったく顔に似合わず強情なんだから。これからの戦いでは人のことより自分のことを憂いなさいと、あれほど言っておいたのに。
希望は長森さんの治癒能力ね。可能性は低いけど。

さて、ここまでは予定とおりに事は運んでいるわね。
みゅーのことも思い出したし♪……って私ったらあの頃の癖がまだ残ってるわね。
……まあ、嫌いじゃないから、別にいいけど。
それより問題なのは、ここまで動きを見せていない邪術師・水瀬秋子と、天使として覚醒した月宮あゆ、それに相沢祐一ね。
彼は知っているのかしら? その力に眠れる特別な力≠。でも、その力を行使するには月宮あゆの天使の力も必要なんだけど……さすがに使いたくはないわね。
それと水瀬秋子はすでに気づいているはずだわ。この地が永遠に近くなっていることを。彼女はきっと永遠≠求めるわ。
ゴッドハンドの影響が無くなって月宮あゆも、そろそろ夢から覚めるはずだし……。

すべての鍵はお姉ちゃん……もとい、長森さんの特殊能力に掛かっているわ。
あの力がないと『パンドラの箱』を手に入れた意味がなくなってしまうから。

ふう。少し疲れてしまったわね。今日はここまでにしましょう。
後は里村さんと七瀬さん次第ね。彼女らのことだから大丈夫だと思うけど。
それと、川名さんも、そろそろ出てきてもらわなくちゃね。

……これは私らしくない考え方だけど、気になったのでここに書き留めておく。
美坂栞……彼女の力の低下は私の思惑とおりだった。それは間違いない。
あの永遠の管理人たる氷上でさえ、私と同じ思いだっただろう。
でも、もしかしたら、彼女は……本当は姉を愛していたのかもしれない。
生贄に姉を選んだのは彼女。姉を殺そうとしたのも彼女。だけど、それは愛情の裏返しだったのかもしれない。
彼女は、ただ、姉に少しでも気にとめて欲しかっただけなのでしょうから。
そして、力が尽きたと思われたあの瞬間、彼女は姉を殺したくなくて、わざと……。

いえ。不確定要素が多すぎるわね。
こんなことを考えるようになるなんて……私もヤキが回ったものだわ。
たくさんのレス有難うございました。
苦労して書いた甲斐がありまたよ(しみじみ)。
でも、私が書いてこれたのは、みなさんの下地のおかげなんです。
名無しさん@だってばよさんの途中経過表がなかったら、
ここまでは書けなかったと思いますし、みなさんの書き物を見て、
自分も励まされたり、>>61さんお頑張っての一言で、やる気をだしてみたり(単純バカですな)。
みんなで自分にはない所を補っているのだと、つくづく思いました。
本当に有難うございます(ぺこり)。

ああ、2チャンネルらしくないカキコでしたね。スマソ。
また次からは、ゴルァ(゚д゚)、とか逝っときますね。それでは。
80名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 15:08
下地って言葉……変ですよね。
申し訳ないです。
きっと病気なんです。生暖かい目で見守っててやってください。
81高倉みどり:2000/12/02(土) 15:51
 私は、妖刀・村雨を腰に携え一つの場所に向かっていた。
 私兵は、今日を以て解散させた。もう、指揮官は帰らないのだから。
 ごめんなさい、保科さん。嘘をついて飛び出してきてしまって。
 まず先にしなくてはいけないのは、藤井さんと七瀬さんの元へ向かう事……二人を止める事。
 無粋かも知れない。余計なお世話かもしれない。しかし、見過ごす事なんてできない……!
 二人の居場所は部下に探らせておいた。藤井さんには七瀬さんが近づいている事はわからないはずだし、
 七瀬さんは、まだ意識を取り戻せないはずだ。まだ、間に合うあず……!

 私は、日暮れる町を疾駆した。
82七瀬彰:2000/12/02(土) 16:35
 ここは……?
 僕は、見知らぬ風景を見回した。すでに日は暮れ、視界は赤い闇に包まれている。
 が、意識が完全に覚醒した瞬間、僕は背筋を走る寒気におぞけだった。
 美咲先輩の訃報を聞いた時――
 由綺ちゃんを殺した時――
 あの時と、同じだった。
「彰ッ!」
 もっとも聞きたくて、もっとも憎かった声。
 僕は、胸に沸き上がる二種の感情を必死に押さえ振り向いた。
「おまえなんだな……!」
 そこに居たのは。
 僕の無二である先輩を奪い、棄てさり、自殺へ追い込んだ男――
 冬弥だ。
 僕は、胸元を探りナイフの存在を確かめた。その時何か紙切れが落ちたが、どうでもいい。
「彰ァーーーッ!」
 冬弥が、拳を固め殴りかかってくる。
「いい事を教えてあげるよ……冬弥……」
 僕は、真正面から冬弥を見つめつぶやいた。
 冬弥の靴底が地面をこする音に続いて、脳内に鈍い音が響く。僕が、頬を殴られた音だ。
「このナイフはね……」
 両の頬に、立て続けにでたらめな衝撃が走る。骨が軋む感覚に襲われる。
「美咲先輩が……!」
 僕は、手加減無しに放たれた冬弥の一撃をかわし、その首筋を掴んだ。
「手首を切ったナイフだァーーッ!!」
 心臓。胸板を貫きそこへ刃が到達するのに、一秒もかからない――
 瞬間、銃声。そして閃光。
 僕の手にあったナイフの刃が根本から折られ、ほとんど柄だけとなったそれが冬弥の身体を突き、奴は傾いだ。
「――!?」
 僕は、閃光が奔ったその軌跡を視線で貫いた。
 血の色からはほど遠い、薄い赤に染まった路地の向こうに一人の女が立っていた。
 その手に握られたグロッグ19の銃口は、うすい煙を吐いている……
「藤井冬弥くんに、七瀬彰くんね」
 女は、大仰な刀を携えて歩み寄ってくる。
「誰だ……!?」
 冬弥が、わずかに血が滲む胸を抑えながら言う。
 あの女は……確か高倉みどりとか言う……そうか、止めにきたのか……
「もし止めにきたというなら、帰ってください」
 僕は静かに言い放つ。
「出来ないわ」
 高倉がきっぱりと言い放ち、僕らの間に立つようにして言った。
「藤井さん。森川由綺さんは蘇るわ」
「なんだって!?」
「高倉さん!? なぜそれを!?」
 僕と冬弥が叫ぶ。しかし、高倉はそれを無視し、さらに言い募った。
「七瀬さん、あなたの足下の紙切れ」
「は、はい」
 僕は、戸惑いながらそれに従い、落ちている紙切れを拾いあげた。
『スフィーに会え』
「これは……?」
「弥生さんの……遺言よ」
 僕は、その一言に凍りついた。   
83深山雪見:2000/12/02(土) 16:55
ふう…
私は溜息をつくと、机の上に積み上げられた書類の山を見やった。
ようやく天野美汐の心に眠りし神奈もある程度安定してきたのか、
天野美汐の侵食を防ぐ為の儀式も一日一度で済むようになってきた。
と思いきや、異界の力による御山そのものへの攻撃、そして「みすず」の脱走など、問題は山積だ。
山を束ねる者という立場にある以上、この多忙さは不可避のものとして受け入れなければならないのだが…
時折、全てを捨てて傍観者となることを選んだみさきのことが羨ましく感じられる。

ついに、柚木詩子及び住井護の両名を、里村茜の元に派遣することを決めた。
これで御山に残された高位法術師は、殆どが直接の戦闘を不得手とする者だ。
しかし、御山でも屈指の術者であるこの二人であっても、
その力は天野美汐・里村茜に比べると落ちることは否めない。
果たしてあの街に集いし強者たち相手に、どこまで対抗できるものかどうか…

しかし最強の退魔師集団と恐れられた我らの力も、今や心細い限り。
神尾晴子は「みすず」と共に出奔。上月澪、椎名繭の両名も神隠しのように消えて久しい。
そして、七瀬留美に至っては実は妖孤であったという体たらくだ。
これは、天野の秘めし「負」の巨大さにに気を取られすぎて気付かなかった私の落ち度なのだが。
そして、長森瑞佳…はて、彼女は何故行方をくらませたのだったか…
何かそれに関係して、重大なことを忘れているような気がする…
…まあよい、今は雑務を片付けてしまわねば…
84志野まいか:2000/12/02(土) 17:05
きょうはとってもふしぎなことがありました
さいかおねえちゃんのびょうきがあんまりなおらないから
かぞくでがいこくのおいしゃさんのところへ
いくことになったの
それでくうこうでしらないおねえちゃんとぶつかって
ごめんなさいっていった
そのおねえちゃんはくろいめがねしててくろいかみのけが
きれいなひとでした
わたしがいろいろはなしたら「まいかちゃんはともだちと
はなれてさびしくないの?」
っていったからさいかおねえちゃんがすきだからっていいました
そしたらにっこりわらって「きょうひこうきにはのらないほうがいいよ」
っていいました
わたしなんだかこわくなってずっとかくれてたらおかあさんに
みつかってすごくおこられた
わたしはばすみたいにつぎのにすぐのれるとおもってたから
がっかりしたけどよるになってのろうとしてたひこうきが
おちたんだってきいてびっくりしました

またあいたいなくいしんぼのおねえちゃん
85沢渡真琴:2000/12/02(土) 17:46
私が戦場に到着した時、既にそこには誰一人存在しなかった。
恐らくは、弥生の強制転移能力の仕業だろう。余計なことを…

しかし、我ら妖孤一族の受けた損害は大きい。
理奈、英二、マナ、弥生…
これで、一気に「力ある妖孤」の半数を失ったことになる。
しかし使える手駒がずいぶんと減ってしまった。しかも残った連中も問題だらけだ。
留美は、最近心ここにあらずといった感じになることが多い。どうやら自分でも理由が判らないらしいが…
郁美は、最強の筈の自分が人間の小娘ごときを倒せなかったことにショックを受け、
今までの反動もあってかすっかり鬱状態だ。ま、そのうち例の根拠のない自信を取り戻すだろうがな。
千紗は、まだ尻尾も生え揃っていない小娘だ。今後はともかく現段階では戦力にならない。
柏木楓は、妖孤の力と引き換えに一応は忠誠を誓ったものの、所詮は鬼。私の自由には動くまい。
私直属以外の連中も、柏木耕一と天沢郁未は行方不明。
柏木千鶴及び梓は負傷中で、戦線に復帰できるのかどうかも微妙だ。
名倉姉妹は力不足も甚だしい。今後の戦闘では殆ど役に立つまい。
まったく、頭が痛いところだ…
あうーっ、なんでこうなっちゃうのよぅっ!!

……はっ、いかんいかん。つい昔の口癖が出てしまった。
……よし、誰にも聞かれてないな。やはり妖孤の支配者としてのイメージがあるからな…

ま、良かろう。所詮は私の完全覚醒までの時間稼ぎ要員に過ぎん。
そして、天野を倒すか神奈の力を使わせるかしてしまえば私の勝ちだ。
憎むべき神奈の力こそが、完全に復活した私を滅ぼし得る唯一の力なのだからな。
…いや、奴が居たか…この街の瘴気を吸い込み、今なお力を増しつづける化け物、水瀬秋子…
私は手首の鈴を見た。これと対になるもう一つの鈴は、今なお水瀬秋子が持っているはずだ。
これこそが水瀬秋子と妖孤の同盟の証…と言えば体裁は良いが、実際は私が水瀬秋子に屈服せし屈辱の証。
それが今や水瀬秋子と現世を繋ぐ唯一の鍵となっているのだから、世の中は判らぬものだ。
しかし、もはや奴の力は完全覚醒時の私の力すら遥かに凌ぐ。今や、あんな化け物を呼び出す気など毛頭ない。
いや、違うな。
私が死んだ時。その時こそが水瀬秋子の復活の日。
そして恐らくは、この世界そのものが無に帰すことになる日……
86藤井冬弥:2000/12/02(土) 17:56
 遭遇。激怒。後悔。諦め。そして混乱――
 ようやく彰を見つけ、俺は無条件で沸き上がってきた怒りに任せ殴りかかった。
 ――奴の怒りは正当なものだ。美咲先輩の死は俺の責任。俺が罪人だ。
 だが、こいつは、由綺を、殺したのだ。
 何発目かに放った俺の拳が空を切った。彰がかわしたのだ。直後、首を掴まれる。
 ――正直なところを言えば、もう死んでも構わなかった。だから、奴が突きだしてきたナイフを避けようとも思わなかった。
 しかし、その刃は折れた。破片同然の刃が胸をわずかに傷つけたが、俺の心臓には届かない。
 そして――この女が現れた。

「弥生さんは、死んだわ。藤井さん、あなたに望みを託してね」
 どういう事だ――そう聞こうとしたが、喉が無形の圧迫に負け空気が通らない。
「弥生さんは、あなたと一緒に七瀬さんを殺そうとしていた。けれど、彼女は周囲の状況がそれを許さぬ事を知り、
 七瀬さんをここに転移させ、藤井さん。あなたに望みを託したのよ」
 弥生さん。俺を殺す。できない。彰を転移。俺に望みを託す。
「あなたが由綺さんを蘇らせれば、由綺さんはあなたと共にいる道を選ぶでしょう。
 彼女は由綺さんを愛していた。だから、彼女は……死を選んだわ」
 弥生さん。由綺が還ってくる。俺と過ごす。弥生さんは……弥生さんは……
「そんな……」
 俺はくずおれた。彰も呆然としている。
「藤井さん、あなたの罪は法では裁けない。だから七瀬さんは陰惨な復讐に走ったんだと思うわ。
 二人の憎執はすぐには消えないでしょうけど、弥生さんに代わってお願いするわ」
 そう言って、高倉さんは膝をついた。
「どうか、もう憎しみあうのをやめて……二人の願いは叶える事ができる。
 憎しみは、時間が薄めていってくれる。だから、お願い……」
 高倉さんは、決して卑屈な調子ではなく真摯な語調で言葉を吐き、こちらに頭を下げた。
「……………………」
 俺も彰も、何も言う事が出来なかった。
「さて……」
 高倉さんは、すっと立ち上がった。
「後は、あなた達の問題。私は行くわ」
 そう言って、身を翻す。その姿は、例えようもなく神々しかった。
「ま、待って下さい……どこへ?」
 俺が問いかけると、高倉さんは何の迷いも無い笑顔を浮かべ、一言だけ言った。
「仇討ち」
 え……? かたき……?
「……さようなら」
 俺が問いただす間もなく、彼女は深まる赤の中へ消えていった。
 俺も彰も、身じろぎ一つできなかった……
87高倉みどり:2000/12/02(土) 18:09
 弥生さんは、あの二人がやり直す事なぞ望んではいなかった。あれは私の希望。
 だが、彼らにとってはあれが真実。光明へのしるべ。
 私は、それを残せたのだ。もう、何も思い残す事はない。
 行こう。勝ち目の無い戦いに。あの無表情な女の仇討ちに。
 沢渡真琴の元へ……
 二度と帰れない、命が参加料の狐狩りに……
 願わくば、我が命の代価があの狐の臓腑たらん事を……

 炎の魔女が最期に見る夢は、自らの身を焼かれる夢……
連続カキコ申し訳ない。これだけ書きたかったんで。
しばらく自粛しますね。ごめんなさい。
89沢渡真琴:2000/12/02(土) 21:50
この「ものみの丘」に、侵入者が一人現れたとの知らせを受ける。
妖孤の本拠たるこの地に単身乗り込んでくるとは、面白い奴もいたものだ。
ま、どこまでやれるかお手並み拝見といこうか。

暫らくして、再び知らせが入った。
侵入者は手にした刀で並み居る妖孤達を切り伏せつつ、私の元に一直線に向かっているらしい。
その姿には鬼気迫るものがあり、既に多くの妖孤が討たれたとのこと。
接近しつつある存在から、私への強い感情を感じる。これは……復讐心か…いや、少し違う…
未だ見たことのない感情の持ち主に対し、私は興味を覚えた。
無論、私に復讐心を抱くものは多いだろう。これまでにも私は、何人もの復讐者達と会い見えてきた。
そして、それが果たしえないと知った時の絶望を喰らってきたものだ。
だが、この人間の感情は、復讐心というには純粋過ぎ、負の色彩に染まっていない。
面白い。この感情の正体、私自らが検分してやることにするか。
私は留美に、侵入者を邪魔するのを止めるように命ずる。
そして、暫らくの時が流れ、遂に侵入者が私の前に姿を現した。

私の前に現れた女は、先ほどの戦いで弥生と闘っていた女だった。
さて、この女に復讐されなければならない理由などあっただろうか?
「私を倒さんとする理由を知りたいものだな」
私の問いかけに対する女の答えは、まったくの予想外のものだった。
「篠塚弥生の仇討ちです」
…一体どういうことだ? 弥生を死地に追いやったのはこの女ではないのか?
「なぜ、敵である弥生の仇を討つ必要があるのだ? そもそも、弥生を殺したのはお前達ではないのか?」
私の当然の疑問に、女は乾いた笑みを浮かべる。
「そうですね…この件に関しては、あなたに責任を求めるのは筋違いかもしれませんね」
「でも、あなたの存在こそが弥生さんを死へと追いやったのも、また事実です」
「…でも本当は、このやり場のない感情をぶつける相手が欲しかっただけなのかも知れませんね」
事情はよく判らないが、どうやらこの女は本気らしい。
とすれば私は、弥生の死について何らかの関与をしているのだろう。
そして、何故この女が、敵である弥生の仇を討たなければならないのかも不明だが、まあよい。
大きすぎる力を持つ私にとって、何ら預かり知らぬところで怨みを買うことは珍しいことではない。
難しい話は抜きだ。この女は純粋に私を討つことを望み、ここまでやって来た。
それだけで、私自らが相手をする理由として十分だ。

「よかろう。その覚悟に免じて、私自らが今の全力で相手してやろう」
そう言うと、私は抑えていた妖気を解放した。大気が揺れ、ものみの丘全体に震動が走る。
しかし、普通の人間なら浴びただけで即死するほどの妖気を全身で受けつつも、その女は何の迷いもない表情で立っていた。
「…行きます」
そう言い放つや否や、電光のごとく捨て身で飛び込んでくる女。
そして放たれた渾身の一撃。無防備になった女の身体を、幾重にも貫く私の力。
そして、我が妖力はその身体を灼き尽くす。決着は一瞬だった。

…女の死の瞬間の表情は安らかなものだった。到底、復讐を果たしえなかった者のものとは思えなかった。
私は自らの受けた傷を確認する。傷そのものもかなり深いが、刀自体も霊力を帯びていたらしい。回復には手間取りそうだ。
正直驚いた。よもや我が身にこれほどの傷を負わせることができるとは。
決して相手を侮っていた訳ではないが、あの程度の力しか持たない者が、あれほどの攻撃を為し得るとは思わなかった。
しかし、我ながら馬鹿なことをしたものだ。
部下達に任せておけば全く問題なかったし、別に真正面から相手をすることもなかった。
いずれにせよ、これで我が真の覚醒の日はしばらく遠のいた。しばらく身を隠し、養生に励むのも良いだろう。
が、自らの愚かしい行動に対し、何故かある種の満足感を覚えているのも事実だった。
ふっ、所詮私もこの街の住人。黒幕を気取ってみても、闘いの快楽からは逃れ得ないということか…
9089:2000/12/02(土) 22:01
何度か過去の展開を読み返してみたのですが、
弥生の死亡について、真琴が仇として狙われる理由が薄いと思ったので、
こんな書き方になっちゃいました。88さん、ごめんなさい。
この件に関しては、実は真琴が一方的に被害者っぽいかも(w
91バカだもんよ@88:2000/12/02(土) 22:52
>>90
いや、言われてみるとそーですね……
なんか、ただの八つ当たりかも(w
それにしても、まかり間違って真琴を倒すみたいな展開にならずほっとしました。
92七瀬彰:2000/12/02(土) 23:49
 暮れかかっていた夕日はすっかり地平線の下に沈んでしまった。
 さらに雪が降り出してきて、すぐさま吹雪に変わり、視界がかなり悪くなった。
 高倉さんがいなくなってから、どれくらいの時間が経ったのだろうか――。
 僕も冬弥も立ち尽くしていたままだった。

 冬弥は許せない罪を犯した。
 だが、僕も許せない罪を犯してしまったのだ。
 今、冷静になってみると、僕はとり返しのつかない事をしてしまったものだ。
 復讐をするのには他にもいろいろな方法があった筈なのに……。
 そんなあさはかな僕が可笑しく思えてくる。

 ――寒い。
 凍える風が剃刀の様に容赦なく吹き付けてくる。
 このままここにいたら、凍死してしまうかもしれない。
 だが……いっそのことここにいてしまおうか……
 死んで……美咲先輩とあの世で一緒になってしまおうか……。

 だが、その願いは叶う事はなかった。
 1台の白いセダンが僕らのすぐ横で停まり、僕と冬弥はすぐさま車に乗せられた。
 死ぬ事さえ……僕には許されていなのだろうか……。
 何もかも嫌になってしまった。

「あんな吹雪の中にいたら死んじゃうじゃないの。ほら、コーヒーでも飲んで。温かいよ」
 そう云いながら、車を運転している女の人――というよりか女の子は、僕に缶コーヒーを手渡した。
 そして、ギアレバーを忙しくいじりながら、吹雪の中であるにもかかわらず、かなりのスピードで
車を走らせていた。
 助けてくれなくてもいいのに――僕はそう思いながら、運転をしているその女の子を睨み付けた。
「一体どうしたのよ。あんな所にいるから自殺するんでも思っちゃった」
 だったら、そのまま放置してくれていたらよかったのに。
 そんな僕の気持ちに構う事無く、その女の子は更に話しつづけた。
「でも、そんな事しちゃったら、弥生さんやみどりさんにに申し訳が立たないと思うけど。七瀬さん。
 それに、藤井さんもふさぎ込んでいても仕方ないと思うけど」
 その言葉に僕は一瞬凍り付いた。冬弥も鳩が豆鉄砲を食らったかのように目を見開いていた。
 この女の子は何者なんだ?
「おっと、見ず知らずの人がいきなりずけずけと云い出すのは失礼ね。私はスフィーっていうの」

 この女の子が……源之助さんや弥生さんの云っていた……。
 こんなに簡単に逢えるとは……。
 僕は驚きを隠せなかった。

「とにかく、今日のところはどこか宿を探して一晩過ごそうかと思うけど、どう?」
 彼女の提案に僕も冬弥も賛成した事は言うまでも無い。
93名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 23:50
俺はあげ荒らし!!!!!!!!!!!!
94名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 23:57
何だここわ……。
地下から発掘されたスレは
電波力が強くてイカン。
95九品仏大志:2000/12/03(日) 00:02
まいブラザー千堂和樹。
我が愛しのあさひちゃんを追いかけて辿り着いたこの街だが、
この状況にはさすがの我輩も驚きを隠せない。
あのコミパの女王、大庭詠美が、あまりエレガントとは言えないオタクの集団を率いて、
大規模な集会を企んでいると言うのだ!
そして、何よりも驚くべき事は、あの長谷部彩嬢の影がその裏にあると言うのだ!
まいエターナルフレンド、千堂和樹!
いまこそ、お前が立ち上がる時なのだ!(ドド〜ン!)
あの時、彼女の心を救えなかった苦しみはよ〜く判る、だが、彼女は死んだわけではないのだぞ!
もう一度、彼女の心を救えるのはお前だけなのだ!

関西の雄、猪名川由宇もこちらへ向かっているらしい。
我輩もこちらに残り、あさひちゃんの後を追う。
頼む、まいブラザー、お前がいなければ終わらない……いや、
始まることすら出来ぬ物語があるのだ!
96天沢郁未:2000/12/03(日) 00:04
「まだ遠いのですか?」
「ああ。もう少し掛かるな……」
 そう言いながらも私は胸中で舌打ちした。
 真琴のやつめ……また、結界の張り方を変えやがったか。
 この街には幾つもの結界が張ってあって、正しい順路で辿らなければ、たとえ同盟を組んでいる私といえども狙われることになる。
 本来ならこんな順路など無視して突き進んでやるところだが、瑞佳が一緒なのと、舞との闘いで力が不完全なので仕方なく歩く。
 川澄舞か……いつか決着を付けなければならない相手だろう。
「……結界に手間取っているのですか? それだったら私に付いて来てください」
「なっ! 分かるのか!?」
 瑞佳は私の前を歩き出す。そしたら数分も経たないうちに『ものみの丘』が見えてきた。
 あの瑞佳にこんな力があったとは……。
 そう言えば……瑞佳は両親の事情で高野山に暫しの間、その身を預けられたのだっけ?
 それなら納得がいく説明になる。なんとなく釈然としないが……。
 いや待て、いつから私は瑞佳と逢っていなかったのだ……?
 どうしてか記憶が曖昧だった。よくあの頃のことが思い出せない。
 ……まあいい。小さなことだ。
「『物の怪の丘』ですね」
「もののけ……? ものみの丘の間違いだろ?」
「あら? 今はそう言うようになったのですか」
 なんだ? この違和感は?
「懐かしいですね。神奈様を探していたのに、ここを見つけてしまうとは」
 おかしい。私の知っている瑞佳は、こんな表情(かお)をするやつではなかった。
 どこか自信有り気に。どこか底の知れない笑み。
「とすると、お母様もご健在なのかしら?」
 お母様? お前の親は確か……と言葉にする前に、そいつ≠ヘ言葉した。
「そうそう。自己紹介もまだでしたね。柳也様に言わせたら、お前はどこか抜けている、とでも言われるのでしょうか?」
 そして、微笑む。
「神奈備命様の付き人にして九尾の真琴の娘……裏葉と申します」
 もう、私はこの先、何が起こっても、驚かないと言い切れる自信があった。
97天沢郁未:2000/12/03(日) 00:09
ぐわっ。上がっているとは知らなかった。
長文スレすまぬ。
98名無しさんだもんよ:2000/12/03(日) 00:31
今、HP作成中なのだが……
よく考えてみたら、それほど需要があるだろうか?
せいぜい全キャラのステータスが公開できるくらいなのだが……
これが終わったら、みんな忘れちゃうだろうし……
それでも作った方がいいという人、何か意見をくれると嬉しいです。
99天野美汐:2000/12/03(日) 00:58
帰投3日目、夜
背中の裂傷も見かけほど酷くないようで、脊椎への損傷はない。
破片が刺さった傷も既に癒えかけており、右腕の打撲は…痛いだけだ。
ただ体力をかなり消耗してしまった。丸一日は養生していないと完全復活出来ないな。

先程の鬼との闘い…相討ちなんかではなかった。わたしの負けだ。
ついさっき感じ取った、鬼の力。右腕を失っても尚、衰えることなく威圧している。
もし茜に助けられなかったら…あの時のわたしには抵抗する術はなかっただろう。神奈を使う以外には。
ひとたびそれを使ってしまったら、わたしが九尾を討つ手は失われる。
九尾の匂いを感じ取った神奈は暴走し、わたしの心は神奈の呪いに汚染、侵略され、消滅するだろう。
例え九尾を封じたとして、神奈の呪いが解けたとしても心は二度と元に戻るまい。
使うぎりぎりまで神奈は抑えておかなければいけない。心が侵略される前に九尾を封じるのだ。
まぁ以前はそれを回避するために、負を解放しようとしたのだが…
負…それをもってすれば、神奈の侵略を防ぐことが出来る。
心を限りなく魔なるものにすることで、呪いによる汚染から免れるからだ。
その代わり人ではいられなくなる。想像も難しいが、冷酷非情、という生易しい表現で済まないだろう。
…一時はそうなることを決意した。そうなることを望んだ。なのに今では、何故かそれを望まない。
逆にそんなことを考えた自分を愚かしく思う。どうしてだろう…そもそも何で負を解放しようと思ったのだろう…
強くなりたいからか…強くなって、もっと闘いがしてみたいからか…
負を解放してより後も、闘いに喜びを見出せるとは限らないのに…
強者との闘いによるスリル。それは例えでなく麻薬だ。相手からの攻撃に対する恐怖
そして攻撃を避けられたときの安堵感。このとき脳内麻薬物質が分泌され、大いなる快楽と化す。
攻撃の恐怖が大きければ大きいほど、その後の安堵感が増大すし、快楽も増していく。
そうなると体は無意識の内に闘いを欲するようになっていく…
けれどわたしは、いつの間にか強者との闘いより、力の行使を望むようになってしまった。
それは単純な破壊欲。自分の力を誇示しているだけの、幼稚で愚かな行為。
分かってはいた。だがそれでも力の行使を止められなかった。それが喜びだと思い込もうとしていた。
何の意味も持たない戦闘。そんな下らない物に、わたしの心は依存していたのか…
闘いが好き。これは今でも変わっていない。現に此の地にいるだけで、湧き出る喜びを抑えられないから。
しかし、明らかに求める闘いの性質が変わってきている。
単なる力の誇示でもなく、中毒者のように戦闘に快楽を求めているのでもない。
無論快楽を感じないのではない。感じつつも、それだけでは無いみたいなのだ。
事実鬼との闘いでも、敗北による死の恐怖より、負けて悔しい気持ちの方が強い。
下らない思いこみで負を解放しようとしていた自分が情けない。そう考えられるほど心は変わっているのに…
…駄目だ。まだ漠然としていて判断が付かない。けれど、もう少しで分かる気がする…

九尾が封じられ神奈が居なくなっても、わたしでいられれば…

神奈は降ろしているだけで負に影響を与えている。下手をすれば、神奈が無事帰還したとしても
負が解放されるかもしれない…可能性自体は半々といったところか。まぁそれも仕方ないか。
今更どうすることもできないし。でもそうなったら頼むよ茜。もう元のわたしではないだろうけど。
どんな手を使ってもあなたは生きたまま、愚かだったわたしを消して欲しい…

それから暫くして茜が帰ってきた。何か持っているので聞いてみる。
…新しい武器です…と言って、わたしにそれを渡してきた。…どう見ても防具にしか見えないのだけど…
10099:2000/12/03(日) 00:59
一キャラの内面だけを書くのに、こんな長文を用いてしまってすいません。しかも整理仕切れていないし…
ていうか、最近の自分の文章は更に孤立していますな。闘いしかやっていないし… 何とかします。
101MD−90:2000/12/03(日) 01:21
>99さん
確かに厳しいかもしれませんね。
HPを作るならこれ以外のスト−リ−を作ったりしてみてはいかがでしょう?
ここの内容は非常にいいですから、そうしたりすれば来てくれますよ。
こんな事を言って悪い気がしますが。
最後に自分はここが良い小説のような気がします。
WEB小説と言えばいいのかな?仕事疲れを癒してくれますね。
102名無しさんだもんよ:2000/12/03(日) 01:48
皆さんへ

http://green.jbbs.net/sports/310/xiantou.html

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このスレを百倍楽しみたい方、ぜひいらして下さい(w
俺が借りた掲示板なので、2chでは語りにくい事も語れます。
裏設定などで熱く語りたい人、ぜひ。

103猪名川由宇:2000/12/03(日) 02:23
 今、苫小牧にて足止めを食らっとる。
 吹雪がひどく、列車は動かないとの事で、どうやら今日は宿をとらなければいけないようや。
 もう、遅い時間やしな。
 何とかホテルの空室を見つけた。相部屋だというが、この際仕方がないやろ。

 その時、その相部屋になった人間ってのが、懐かしい顔やった。
 リアンやった。3年前にちょっとした裏の仕事で世話になっていたのやった。
 彼女もまた、ものみの丘に向かっとるというが、ウチと同様、足止めの憂き目に遭ってしまった
のやという。
 とにかく、彼女と和むのは後回しにして、現地にいる智子に「到着は明日になる」と連絡を取った。
 さすがに今回の争いは智子一人でも十分かと思たが、それはあまりに甘すぎたようや。
 ものみの丘にいかへんかという、大志の奴からの半ば押し付けがましい誘いがあった時に、現地の
現状を知った。先日の高野山の不気味な動きといい、ただ事ではすまされなくなっとる。
 さらには詠美のアホが現地に乗り込んどるということや。
 こんな酷い中にオタクを連れてこみパの発展祈願をしにいきよったの事やが、はっきり云って自殺
行為や。アホな奴は放っておけと思うのやが、どことなく気に掛かるんや。

 ていうか、一般人がいく事自体、あまりにも危険過ぎる。
 少なくとも、詠美と大志は連れ帰らんとな。
 智子の援助をしながら、同時にやっていくことにしよ。
 智子かて、なんだかんだ云って、普段から突っ込みあって、面倒見ている仲やからな。
104保科智子:2000/12/03(日) 03:17
 何か、参ったなあ……
 由宇が来てくれるらしい。やけど、アイツがいると調子が狂うんよ……はあ。
 さっきは河島はるかとかいう女が怪しい作り声で電話してくるし。少しくらい休ませろっちゅう話やな、実際。
 今、藍原さんが作ってくれたカルテにざっと目を通した。
 江藤結花。あばら七本に左腕、両足全て骨折。さらに内蔵破裂に呼吸器系損傷。良く生きとるなオイ。
 太田香奈子。全身可動部に軒並みヒビ。右腕複雑骨折。さらに軽い興奮状態。これも無茶やな……
 長瀬祐介。昏睡状態。覚醒のめどは立たず。……っておい、冗談やないぞ。
 新城沙織。背中に裂傷。しかし傷から来るダメージ以上に衰弱が激しい……なんかこれは気になるな……
 藍原瑞穂。目立ったダメージは無し。……太田さんに礼言っとけや。
 雛山理緒。は? 何で雛山さんが。……治療中に流血を見て貧血を起こし、その際後頭部を強打し気絶……
 ……ええんか雛山さん、それで……
 まあええわ。高倉もいいかげん帰ってくるやろ。なつみは空港の近くのホテルで泊まるゆうとったから帰ってけえへん。
 しばらくは、私と藍原さんで頑張るしかないな……ま、防戦なら霧島聖や柳川のおっさんがいるから平気やろ。
 にしても、瑠璃子ちゃんのこの石像気味悪いわ。早く治してあげんとね。
 もっとも、その時に辛い事実を伝えなきゃあかんのやけど……
 ええい! もうええわ。寝よ寝よ。頭がいいかげんうごかへんわ!
105川澄舞:2000/12/03(日) 03:58
 世界の監視者、ゴッドハンド達は佐祐理と美坂香里、そして美坂栞…彼女達の協力により
消滅した。しかし…犠牲は大きかった。妖孤共への借りがまた増えた私は、あれから狂ったように
妖孤共を狩り続けた。そしてある日私は狩りが終わった後、私を影から見つめている視線に
気がついた。私は警戒しつつそちらに声をかけた。
「あなた…誰?」
 その人物はばれてるのならしょうがないとばかりに、無防備に現れた。その…やや紫がかった
長いウェーブの髪の少女…巳間晴香と名乗った…は私に奇妙な提案をしてきた。
「あなた…川澄舞さん…だったわね。あたしと組まない?」
 その言葉に私は剣を構え、彼女を睨みながら尋ねた。
「あなた…いったい何者?何故私の事を…?」
 それでも彼女は私の視線など気にしないとばかりに、まるで転校生が自己紹介するかのような
親しげな口調で続けた。
「あなたの事は…茜から聞いているわ。あなた…かなりの使い手らしいわね。この間は郁未に
手酷い傷を与えたらしいわね。」
 私はますます彼女が信用できなくなり、すばやく踏み込んで彼女ののど元に剣を突きつけた。
 しかし、それでも彼女は口調を変えることなく私に話し掛けてきた。
「さすがね…これじゃあ、郁未の力を持っても敵わないかもね。」
「あなた…まさか…。」
「そう、あたしもかつてFARGOで不可視の力を…身につけたのよ。そしてあたしは…あなたの
敵じゃない。」
 何時の間にか彼女の瞳は金色に輝き、髪の毛は不自然に空中に舞っていた。
「それは…どういう事?」
 私は彼女から離れると、彼女に当然の疑問をぶつけた。
「天沢郁未達は…沢渡真琴に協力してるはず…。」
「まあ、その辺は色々とね…おいおいあなたにも高野山から連絡が来るはずよ。
今度会うときはいい返事を期待してるわね。それじゃまた…ね。」
 彼女が力を地面に向けて解放すると、辺りは砂埃が舞い何も見えなくなった。
やがて砂埃が晴れた時、彼女の気配はとうに消えていた。
「巳間晴香…いったい何者…?」
どうしてだろう?
胸のあたりがちくちく痛かった。
私は高野の総本山にいた。そう潜入に成功したのだ。これは喜んでもいいことだ。
実際に他の方術師達とはうまくやっている。それなのに、あいつに目を付けられたのは悲惨としか言い様がなかった。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああーーーっ!!!」
「おっ。その悲鳴…やっぱりあの時のやつだったか」
「ちょっと浩平、止めなさいよ。ごめんなさいごめんなさい。ほら、行くよ、浩平。由紀子さんが待ってるよ」
「そうだったな。じゃあ、またな」
「に、二度と私の前に姿を現すなっ!」

そいつの名前は折原浩平といった。その隣に居たのが幼馴染みの長森瑞佳だった。
計画は順調だったと思う。上手く潜入できたはずだったと思う。

「よう。また逢ったな」
「……いやあああああああああああああああああああっ!! 何であんたがここに居るのよ!」

最悪だった。そいつは大僧正・由紀子の甥だったのだ。
夏休みの間だけ、この高野にやって来たらしい。遊びに……って、どういう神経してるのよ。ここは高野なのよ!

大僧正の甥ということだけあって、術者のエリートクラスの里村茜や天野美汐、それに次期、大僧正候補と噂される深山雪見とも良く顔を合わせているみたいだ。
私もエリートクラスに行く位の実力はあったが、目立つのはまずいので、ある程度、手を抜いていた。
本来なら……なめないでよ、七尾なのよ、わたし……とでも言ってやりたいくらいだったのに。
しかし……折原のやつは……。

「お前って妖狐なのか?」
「なななななななななななななな――そんなわけないでしょ(汗)」
「そうなのか?」
「あああああああああああああ――当たり前でしょう!(滝汗)」
「おい、七尾」
「なによ……って、はっ!」
「やっぱりか」
「違うわよ。私の名前は七瀬なのよ。ほら、似てるじゃない? 単なる聞き間違いよ」
「なに言ってるんだ? 俺は最初から七瀬って言ったぞ。なにと勘違いしたんだ?」
「ぐわっ!」

そのときは「どうしよう? どうしよう?」とか思っていたのに。後になってから考えると、どうしてか楽しかった。
それは、折原のことを殺すしかないと思っていたときだった。今から考えると、信じられない思い付きだった。

「こんなところに呼び出して? もしかして愛の告白か?」

もう冗談には乗らなかった。
ただ、殺す。それだけだったからだ。
私は手を妖気で変容させて鋭い刃と変える。
そして、喉もとを貫こうと思った瞬間……。

「俺を殺すのか?」

折原が言った。私の手は何故か止まった。

「俺を殺してもどうしようもないぞ」
「……私の正体に感づいたのが不運と思いなさい」
「だから俺を殺してもどうしようもないぞ。その癖を直さない限り」
「はっ?」
「お前、夜中に尻尾出して寝てるだろ? 大きないびきのおまけ付きで」
「えっ!? ということは?」
「ああ。長森も知ってるぞ。お前と同じ部屋を使ってるからな」
「な、なによ。それ? だったら、なんで私のことをほっとくのよ? ここは高野の総本山なのよ! 方術師の天敵である妖弧なのよ、私!」
「別にいいじゃん。長森もそう言ってたぞ。それにお前ってからかい甲斐があるからな」

その一言で私の中で何かが崩れた……と同時に何かが生まれ始めていた。

「あは……あははっはははははっはは……あはははははははははははははははははーーーーーっ!!」

私は笑っていた。本当に久しぶりに笑った。
こんな敵の本拠地で私は大声出して笑っているのだ。
はっきし言って信じられなかった。そう。私も『別にいいか』とか思っていたのだ。
折原浩平か……なんだか良いかもね、こういうのも。
107柏木梓:2000/12/03(日) 11:04
耕一が帰ってきた。それも、片腕を無くして……
心配する私たちに向かって、
「良かった、梓も千鶴さんも回復したんだ」
なんて……耕一の馬鹿!
しかも、楓の体を気遣って、自分の腕は後回しにさせるなんて、
人間状態の時は物凄い激痛が伴っているはずなのに……

でも、良かった。鬼になった耕一の波動を感じた時には、あまりにも禍々しくて、
もしかしたら、また耕一が本能に支配されるんじゃないかと思ったけど……
やっぱり耕一は優しい耕一のままだった。
安心したら、思わず涙がこぼれてしまった。それをみて、
「なんだ、梓、まだ体が痛むのか?!」
って……もう、本当に馬鹿なんだから。

耕一が帰ってきた次の日、私たちは状況を整理し、次の行動を決める事にした。
今まで、あの女……天野美汐を追い過ぎるあまり、周りの状況を見ていなかったからだ。
まず、妖狐には借りがある。美汐の持っていた怪しげな槍は耕一が破壊したらしいが、
それでチャラにも出来ないだろう。まあ、あちらも手一杯のようだし、敵対でもしない限りは問題ないか。
次は、妖狐と敵対している、関西弁の女が率いる人間たち……多分、柳川も立場としてはここだろう。
こいつらも……妖狐の敵とは言え、私たちの敵じゃあない。
やはり、敵は高野山か。
そう話していると、それまで黙っていた耕一が口を開いた。
「彼女に傷を負わされた千鶴さんと梓には悪いんだけどさ、天野美汐……彼女を助けてやりたいんだ」
耕一の話では、彼女は味方であるはずの高野山からも狙われているらしい。
……エディフェル。前世での妹の名前が思い浮かぶ。
少し、胸に痛いものを感じたが、それよりも耕一が優しい耕一である事の方がうれしかった。
きっと、それは姉さんも、楓や初音も同じだったんだろう。
みんな、微笑んで頷いたのだから。
108岡田(三人組の一人):2000/12/03(日) 16:49
 ツインテール。嫌な響きだ。私は忘れたいと言うのに。
 ついさっき、沢渡から連絡があった。緒方兄妹や観月マナらを次いで失ったため、
 貴様のような三下でも戦力が惜しい。至急この地へ馳せ参じろと。
 ふざけるな。私はツインテールである事などどうでもいいのだ。なぜそんな事のために働かなくてはいけないのだ。
 私のなかに凶暴な力があるのは知っていたが、そんな物はどうでもいいのだ。
 が、奴はこう言う。「従わないのなら、貴様の親友に協力を求めるまでだ」と。
 ……卑怯なやり口だ。松本や吉井をさらい、半妖狐にでもするつもりだろう。
 させるものか……! 私は、自分もあいつらも護ってみせる。
 確か、奴は高野の連中と諍っていたはず。……ならば、私達が奴らについたらどうする?
 ましてや吉井はかつて法術をあやつる事のできた人間。あいつなら、数日の修行ですぐに勘を取り戻すだろう。
 あんな陰惨な戦争に参加する事自体気にくわないが、あいつらを護るためだ。仕方ない。
 さっそく、今日の午後にでも夜行バスで当地へ向かうか……
109里村茜@忘れ去られた手記:2000/12/03(日) 17:13
だめ…。
だめ……。

迫る気配。怖い。ただ怖い。

そして、光が弾けた。

意識を取り戻したとき、詩子が私を見ていた。
…見ていた。
……畏怖の目で私を見ていた。

そこにあったもの……無残に引き裂かれたもの……。
あれは……私の幼馴染みの姿だった。

また……あの夢ですか。
最近は見なくなったと思っていたのに。
あのときから私は高野に身を寄せることになった。
私には類まれを見ない方術師としての才能があったからだ。
でも、私はそれを知らなくて力を暴走させてしまった。
夢の中の私は、その力の暴走であの人を殺めてしまう……。
実際は、下級の妖魔が原因だったけど……力を自由に使えてなら司を助けられたと思っている。
高野に入ってからは、そのことで美汐によく相談に乗ってもらったっけ。
今の私の唯一の友達だから……。

あの詩子の視線は……本物だった。
私を怖がっていた。だから、私はここに来たのだ。もう、普通の生活なんて送れない。
詩子は優しい子。こんな私にも普通に接してくれようとしてくれたのに……。
ごめんなさい。私はもう笑えないんです。

私は軽く上着を羽織ってから山肌にある清めの滝に赴いた。
ここは神聖な場所だ。瞑想するには丁度いい。
悪夢を見るたびにこの滝に打たれる。自分の気持ちを沈めるために。

水は冷たい。でも、私はこの流水にいつまでも打たれている。
水はいい。すべてを流してくれるから。

「よう」

そのとき声を掛けられた。男の声だった。
外界に気を取られるなんて集中力が足りない証拠だ。
そう思っていたのに、私はどうしてか問い返していた。

「誰?」
「……昨日挨拶したやつの名前くらい覚えとけ」

その瞬間から……その男の人が……私の中の凍っていた心を、少しずつ溶かしていってくれた。

「浩平…」
「……ん?」
「合っていますか?」
「ああ、正解だ」

そして、季節は巡り始める……。
110柚木詩子:2000/12/03(日) 19:12
ようやく目的の街に辿り着いた。街全体を覆い尽くす瘴気は凄まじいものだ。
数々の修羅場を潜り抜けてきた私であっても、心に怯みを感じるのを抑えきれない。
「おいおい、なんだよこの街は…」
住井君がぼやく。まあ、私だって任務でなければ逃げ出したいところだ。
これから私たちは茜と合流し、天野美汐のサポートをすることになる。そう、表向きは…

私は懐に秘めた、茜宛ての最優先極秘指令書の感触を確かめる。
その内容は次の通りだ。

「プノンペンに向かいし槙敬介らが『みすず』を確保し次第、天野美汐を秘密裏に抹殺せよ。手段は問わない」

そう、天野美汐の精神は、ゆっくりと、しかし確実に魔に犯されつつある。
大僧正らが必死にその進行を抑えているが、このままでは負に飲み込まれるのも時間の問題とのこと。
そして、もし天野美汐が「神奈」の力と共に魔人と化してしまえば、
その呼び寄せる災厄は「九尾」をも凌ぎ、もはやそれを止める手段は存在しない。
その点、「神奈」の魂の器となるべく造られた『みすず』であれば「神奈」の力の暴走の恐れは無いとのこと。
その心に負を生ずべき、自らの魂そのものを持たないが故に。
そして、美汐が神奈を降ろさぬまま死ねば、神奈の魂はその本来の器である『みすず』の元に宿るとのことだ。
幸いにして、現在の妖孤陣営は混乱状態にあり、沢渡真琴も手負いと聞く。我らに手出しはできまい。
全てのリスクを考え合わせれば、この決定は当然の帰結だ。上層部の判断は正しい。

が、そんな能書きは私にとってどうでもいいことだ。
天野美汐。
私の親友だった茜の心を、私から奪った憎い女。

物心がついたころから、私と茜、それに司は何をするにも一緒だった。
そして、幸せな時間はいつまでも続くものと信じていた。
でも、あの日。
そう、茜が司を殺してしまった日から全ては変ってしまった。
今考えると、あれはどうしようもない出来事だった。
茜が力を解放しなければ、間違いなく三人ともが殺されていたのだから。
でも、その時の私はひたすら茜が恐かった。
そして、その態度が茜に伝わったのだろう。茜は私の前から姿を消した。

茜が高野山というところで、方術師になるための修行をしていると聞いたのはずいぶん後のことだった。
それから私は、茜に会いに行くべく、高野の末寺に入りひたすら研鑚に励んだ。
幸い、私も茜には遠く及ばないものの、方術師としての素質があったらしく、
厳しい選抜を乗り越えて、本山で修行することを許されし身となった。
待ち望んでいた茜との再会。しかし、既に茜の心を占めていたのは、私ではなくあの女だった。
そう、天野美汐。

私と再会した茜の態度は、表面上は以前と変らないものだった。
でも、その心は頑なな殻に覆われ、その殻が外されるのは、美汐と……いや、美汐に対する時だけだった。
私は狂ったように修行に打ち込んだ。美汐の力を超え、茜の心を取り戻すために。
その甲斐あってか、高野でも屈指の術者の一人と呼ばれるようになった私。
しかし、美汐の力を超えることはできず、茜の心も取り戻し得なかった。
そして、美汐が高野を襲ったあの日。あの日の茜は確かに美汐のことしか考えていなかった。
高野最高の術者として、侵入者に対処すべき身でありながら。

この指令書を茜が見るときのことを考えると、笑みが込み上げるのを抑えきれない。
茜、貴方はその時、いったいどんな表情をするのかしら…
111110:2000/12/04(月) 04:00
敬介の苗字を勘違いしてました。スマソ。
×槙敬介→○橘敬介
112遠野美凪:2000/12/04(月) 05:30
 …私は今、川澄舞のところへ向かっている。里村様直々の命令なので仕方がないが
私はあの人に会うのは余り好きではない。私はあの人とその親友だった倉田佐祐理の
遺伝子から生み出された生体兵器…オリジナルに会うのはやはり余り気分の良いものではない。
 しかし、高野山も試作型である私を実戦投入しなければならないとは、そこまで状況は
切迫しているのだろう。…無意味な事に思考をめぐらせてしまったようだ。何時の間にか
妖孤に囲まれている…。奴らは私を取り囲み一斉に襲うつもりのようだ。
 それならと、私は懐からお米券を取り出すとそれに念を込めた。お米券が私の周囲を取り囲み
次の念で一斉に妖孤達に襲いかかった。奴らの断末魔の声が響き渡る…。
 …少々遅れてしまったようだ。私は遅れを取り戻すべく、先を急ぐ事にした。
113小坂由紀子@高野の裏日記:2000/12/04(月) 20:14
私は大僧正にしか見ることを許されない文献に目を通していた。
千年前の高野と妖弧の戦いの歴史書、『翼人伝』だった。
著者は柳也。千年前の戦いでも、深いところに関わった人物の名前だった。
それにしても、読んでいてよく分からない記述があった。

『深き仲に綻びる楔。出逢いし二つの異なる魂、裏葉と神奈。
 運命は思うに残酷であり、従う意思なし。なればこそ離れず。
 九尾なるもの八百比丘尼に対心を持つ。始まりは我が迂闊さから』

これを私なりに解釈すると、昔は高野と妖弧はそれなりに平安を保っていたらしい。
だが、九尾の真琴の娘・裏葉と、八百比丘尼の娘・神奈の出逢い、そして神奈の随身・柳也の二人に対する感情と、
二人の柳也に対する想いが、両一派の関係に綻びを生んだとされている……。

妖弧の裏葉と翼人の神奈、それに人間の柳也。
その三人の関係は確かに傍目から見れば正気の沙汰ではない。
二人の母親は、それこそ必死になって娘を我が元に戻そうとしただろう。
戦いの始まりは、そこからだった……。

少し悲観的なものの考え方だったわね……らしくもない。
そう言えば、そろそろ浩平が来る時間だったわ。
千年前のことより、こちらの方が大問題だわ。一ヶ月で方術を教えてくれなんて。
素質はあると思うけど、こればっかりはね。無理だわ。それでもいいとあの子は言ったけど。
みさおちゃんの病気……悪くなったみたいね。
浩平は縋るような気持ちで方術に目を付けたんだろうけど、それで治るなら当に私がやっている。
方術である程度の怪我は治せても、病気は治せない。
それを知ってても、浩平はやるつもりなのね。
期間付きなのは、それ以上、みさおちゃんの許から離れたくないのね。
相変わらず優しい子。ぶっきらぼうだけど。

PS.美汐が山で見つけてきた小狐は妖弧だった。
  それを知らせないまま、美汐に山に戻すように言ったのだけど、まだ隠して飼っているみたいだった。
  怪我が治るまでは、ということだろう。
  さすがの私も、赤ん坊の妖弧を殺めるのは忍びない。それに僧の徳としても無闇な殺生は許されない。
  でも、気になるのはあの子の優しさね。美汐は母性の強い子。あの妖弧が美汐に悪い影響を与えなればいいけど。
  美汐の負を封じる術に綻びを生じないこともなくはない。
  それに妖弧は成長するにつれ、本能に目覚めて、今の記憶はほとんど残らない。
  また、心配事が増えてしまったようだ。
114神尾晴子:2000/12/04(月) 22:06
 けったくそ暑い東南アジアに来て2週間――
 やっと、ここの生活にもなれたし、観鈴もすっかり近所の人気もんになっていた。

 うちらの面倒を見てくれている清水って女も結構いい奴やと思った。最初こそ、変な女かと思った
が、観鈴の中身を見て以来、特におかしい事はしてへんし、むしろ、うちらの面倒を見てくれてる。
 いつかお返しをせなあかんな。

 ただ――この女、昔にどこかで会ったがあるような気がする。
 それだけが気になってたのやが、ゆうべに彼女の独り言を耳にしてしまった時、うちは思い出した。

 かつて「高野の四天王」と呼ばれとった法術僧の一人、清水なつき――
 大僧正の深山雪見に、先の大僧正の小坂由起子、さらには最強の法術僧と謳われた川名みさき――
 そんな奴らと肩を並べた強者――
 確か、3年前に深山と大喧嘩をした挙げ句に出奔してしもて、行方知れずやったはずやが……
(もっとも、その1ヶ月前に川名みさきも突如失踪してしまったが……)
 まさか、こんな遠くはなれた地におったとは、正直ウチも驚いた。

 ウチが彼女の正体を知っても、彼女は特に何の反応も示せへんかった。
 「あら、バレちゃったの」って茶化しながら、笑っとったぐらいや。
 そして、高野や観鈴の事に付いていろいろ話してくれた。

 ――観鈴は兵器としての機能はない事。
 ――その為に神奈を封じる器としての機能も果たせるか、極めて疑問やという事。
 ――そして、それにも拘わらず、高野の連中は器としての機能をあてにして、観鈴を取り返しに
近い内にこの地にやってきよるという事――。

 ウチはすぐにも観鈴を連れて、他の国に逃げようと言った。
 が、清水に言い返された。奴等の情報網をナメてはいけないと――
 そして、さらにこう言いよった。
 むしろ、奴等を違う方向で納得させなければ、逃げても無駄な結果になると――。

 じゃあ、どない納得させんねんとウチが詰め寄ると、こんな返事が返って来た。
「『みすず』よりもふさわしい、神奈を封じる器がカンボジアにある。そのアテも付いている」――と。

 ホンマなのか――といぶかしんでいる所で、彼女に電話が掛かってきた。
 しばらく、彼女は電話の応対をしとったが、やがて電話を切るとウチの方に向かって言った。
「橘がここにやってきたらしい。だが、地元の連中と一悶着あって、今は警察に拘留されている」と。

 逃げるのは無駄――としたら、どないすればええんや?
 ウチが悩んでいると、清水はさらにこう続けた。

「いっその事、今からツラを拝みにいこうよ。折角だから決着を付けようじゃない」
 ちょっと前のウチやったら、恐らく逆上しとったやろ――でも、今は――
「ああ、分かった。その代わり、観鈴を日本に連れて帰るなんて言い出すのはナシやで?」
「分かってる。私も奴等の主張には反対だし。もし、妙な動きに出たら、それなりの罰を受けてもらう
事にするわ。あいつらも所詮は異邦人。この地にはこの地なりのルールがあるのよ」
 ウチと清水は、観鈴が眠ったのを確認して、ジープで警察署に向かった――。
115神尾晴子(続き):2000/12/04(月) 22:08
「まさか、貴様らから出向いてくれるとは。ご苦労なこった」
 牢獄に押し込められている橘はウチらの姿を見るや否や毒づいてきた。
 当然、ウチはむかついたが、清水は特に反応する事はなかった。むしろ、余裕の笑みを浮かべとる。
「あんたこそご苦労なもんよ。でも、自慢の作品を探すのに、ここの人達を脅すのは間違いだったようね」
 清水はうっすらと不気味な笑みを浮かべながら橘に話し掛けていた。橘は表情こそ変えなかったものの、
瞳はせわしく動いていとった。かなり動揺しとるようや。

「んで、みすずはどこにいる。貴様が匿っているのは分かってるんだ」
「確かに匿っているよ。でも引き渡しには応じられないわね」
「何故だ? 貴様、返事によってはただでは済まさぬぞ」
「そう? じゃあ、今……私と勝負する?」
 途端、橘の顔が蒼ざめていき、額を大量の汗が滝の様に流れていきよる。
先程まで強がっとった態度が嘘の様や。
「いや、それは遠慮して置こう。でも、何故なのだ。それだけでも聞かせて頂きたい」
「理由は簡単。みすずが神奈を封じる器としては不適格だから。
 今、みすずに神奈を封じるっていうのは、まさに未完成のまま放置されたAB線に新幹線を走らせるようなものよ」
「AB線って……貴様、まさか倉田の戯言を信じてるのではあるまいな?」
「信じてなんかないわよ。どうして、あんなデタラメな予言なんか信じなくちゃいけないのよ。
 それに、あいつからの予言にあった言葉を持ち出しただけなのに、それが信じていると言うのは、あまりに論理が
乱暴すぎるってものよ。あんたも相当ヤキが回っているようね」
「……分かった。ただ、貴様の言った喩えがよく分からないのだが」
「仕方ないわね……。とにかく言いたいのは、みすずに神奈を封じるのは不可能という事なの。
 莫大な負の思念を抱えた神奈があんなチャチな容量の器に収まりきれると思う? ただでさえ、法力タービンがない
状態なのにね。
 それに、タービンを取り付けたって無理だと思うわ。容量が足りなさすぎるのよ。
 みすずの容量が1としたら、神奈は10000はいくでしょうね。
 そんな状態で、神奈を収めたりなんかしたら、器が崩壊するのは目に見えてるわ。最悪の場合、神奈は暴走するかも。
 あんただったら、そんな事ぐらいは想像が付く事でしょ?」
「うっ……」
 橘は言葉を詰まらせた。どうやら図星だったらしい。
「とてつもない速度や衝撃に耐えうる整備をしていない『みすず』というローカル線に『神奈』という新幹線なんか走
らせたら、脱線するのは目に見えてる事。そんな感じなのよ」
 橘はいまだに沈黙しとった。下唇をかみ締めながら悔しそうに、目の前で煙草を吸っとる清水を恨めしそうな目つきで
見上げとった。
(ちなみにAB線というのはウチが調べた限り、日本鉄道建設公団ってトコが建設する鉄道路線の種別を示すために用いた
用語の一つらしい。詳しい事は分からんかったが、ちなみにCD線は都市の路線、G線は新幹線を示すという。
って……これって、そこの職員か鉄ヲタぐらいしか分からんやん。ホンマ、倉田ってのもやっかいな事をしよるものやで)

116神尾晴子(続き):2000/12/04(月) 22:09
「じゃあ……神奈を封じる他の方法はあるのか? どうなんだ?」
「さぁ。ただ、神奈を封じるのに適した器は見つかったけど」
「何だと? デタラメではるまいな?」
「デタラメを言って何になるのよ。それこそ時間の無駄だわ。
 これを探すために、私は2年前に、ここに渡ったのよ。良かったら、今からそれを見に行く?」
「ああ、そうさせてもらいたいが、いかんせん檻の中ではどうしょうもない」
「それもそうね」
 清水と橘は笑い出しよった。ホンマ分からん連中や……。
 とにかくその後、清水は警察に保釈金を払って、橘を檻から出した。
(もちろん、観鈴を発見した事を高野には伝えないという条件でだ)
 そして、ジープで一旦家に戻る。
 寝ていた観鈴を起こさない様に車に乗せて、清水の言う「器」のある所にウチらは向かった。

 そういえば、車に乗っている途中で、清水は橘にこんな質問を投げかけとった。
「確か、この指令は雪見がじきじきに出したものなの?」
 橘はそれに対して、当然脳様な口調で「ああ、そうだ」と答えた。
「そう……。んで、その指令はいつ受けたの?」
「5日前だ。独逸にいた所、郵便で書面が送られて来た」
「じゃあ、雪見とは直に話していないのね?」
「ああ、そうだ。最近、人払いをしている様子だったからな。何せ、最重要指令を部屋の外の
郵便入れに挟んでおくほどだったからな。柚木がそのように言っていた」
「なるほど……」
 清水は運転しながらも、深刻な表情で何かを考えている様やった。
117114-116:2000/12/04(月) 22:10
冗長になってスマソ。
118河島はるか:2000/12/04(月) 22:30
 あーあ。来ちゃったよ。自転車はやめといた方が良かったな。こんなに遠いとは思わなかった。
 由綺……彰に殺されて死んだはずの由綺の電話を受け取ってから二日。ちょっと急ぎすぎたかも。
 それにしても、すごい街。なんか、いるだけで憂鬱になるくらい悲しい気が満ちてる……
 こんな所に死んだはずの由綺がいるなんて思えないけど、ま、暇つぶし。どうせ暇だったしね。
 そうそう。この街は、狐がおっかない気を出しながら歩いてる。さっきも襲ってきた狐を一匹懲らしめた。
 電波みたいな物騒な技を喰らわせちゃったのは可哀相だったけど、護身術ったらこれしかないし。
 由綺が隠してたような周囲の物を凍らせる能力なら、手加減もしやすいのに。
 あ……あれが由綺がいるっていう病院かな。ま、あまり期待しないでいってみよう。
 自転車止めるとこ、あるかな……あと、売店も。ポカリ切れちゃったから。
119失われた記録:2000/12/04(月) 23:02
某月某日
 沢渡真琴、天野美汐の遺伝子を含む毛を入手。
 開発コードアンノウン、人工ツインテール「みちる」の開発に着手開始。
 みさお……お前に妹を作ってやる。だから、死ぬな……

二日目
 人間の乳幼児クラスの大きさにまで育った。あとは、然るべき教育と栄養を施してやるだけ。
 近頃、みさおの具合が悪そうだ。くそ、死なせはしない。

五日目
 きょうびょういんへいったみさおのびょうしつへいったみさおのかおにしろいぬのがあれはなんだ
 みさおおまえはしんだのかうそだよなだっておにいちゃんにまけないっていったもんなみさおは
 つよいこだからしなないってなあみさおみさおみさおおおおおおお

十日目
 みちるはとても元気だ。きっとこいつなら世界を壊してくれる。
 こんな世界、いらないんだ。

十五日目……とでも書いてやるか。
 折原浩平が極秘裏に行っていた実験の正体を知った。正直震えが走った。
 なんてヤバいものをつくりやがる。法術の力で遺伝子情報を自ら書き換え育つツインテール……
 こんな事が大僧正に知れたらコトだ。こちらで抹殺し、投棄した。
 あんなものが覚醒したら、九尾の狐どころの騒ぎではない。
 かの邪術士・水瀬秋子の再来だ。折原の奴め、ただではすまさんぞ。


120名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 00:02
>>115
なるほど。日本鉄道建設公団でしたか。
伏線を無視しないように考えていたんですけど、これで謎が解けました。
これからの展開に期待しています。
121名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 00:20
>>119
格闘型式神みちる?
122名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 00:40
>>121
みちるは美凪、美凪は佐祐理が作ったんであってる?
あれ、この二つも高野傘下?(ツコーミスマン)
123名無しさんだもんよ:2000/12/05(火) 00:50
>>122
…………みちる、もしかしてがいしゅつ?
だったら逝ってきます……
124名無しさんだもんよ:2000/12/05(火) 00:52
……俺、何回ageれば気が済むんでしょう。
解答待たずに逝きます……
125名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 00:54
>>121-123
いやいや、ここをどううまく調整するかが職人の腕の見せ所ってものです。
123さんはじめ他の職人さんにに期待します。
126名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 00:56
>>名無しさんだもんよさん

言いづらいですが多分がいしゅつ…ではないかと。
これ、そろそろ状況まとめに入った方がいいんかなあ。
ってか逝かないで〜!
127114-116:2000/12/05(火) 00:58
>>120
一応、僕もこれらの事場が分からなかったクチです。検索で調べた上で、この解釈
が適当かなと思った次第です。(ただ、文脈を見た限り最もこれが妥当だと思います)
芹香が「日本の無駄遣いの極み」と言っていた所を大いに踏まえました。
128114-116:2000/12/05(火) 01:00
>>120
言い忘れていましたが、結局は鉄道スレで話すべきネタにしてしまいました。
スマソ。逝ってきます……。
129新着メール一件:2000/12/05(火) 01:08
宛先:Kanolovelove@hiziri.co.jp
…………
件名:

依頼アリ。
遠野美凪ノ手駒、ミチルノ過去ニツイテ疑惑アリ。
詳シクハ、コノメールヲ返信シタ先ニキカレタシ。
単独調査ハ危険。ゼヒ、色ヨイ返事求ム。

私ノ素性ハ、直接会ッテ明カソウ……
130里村茜:2000/12/05(火) 03:41
詩子が来た。私の幼なじみ。とっても大切だった友達…
小さい頃、もう一人幼なじみの司と三人、いつも仲良く遊んでいた。
あの事件が起こるまでは…
本当に単なる偶然だった。あの日…負に囚われ、心を失ってしまった一人の法術士が
いつの遊び場に現れたのは…
彼は力を行使する喜びを求め続けるあまり、魔人となっていた。
能面のような顔をしながら、私たちに襲いかかってくる姿。今でも目に焼き付いている。
その当時、私は自分が不思議な力を持っていることを知っていた。
けれどその威力は全く知らなかった。子供にして、法力だけは既に高位法術僧に匹敵していたという。
恐怖のあまり、私はその力を全開にして放出した。無我夢中だったのだろう。
それに相手も比較的弱かったのだろう。目を開けると、法術士は私の前から消えていた。

…司と一緒に…

司の居た位置が悪かったのか。それとも力を制御できなかった私が悪いのか。
しかしそれは問題ではない。事実は、司は死んでしまった、いや私が殺した、ということだけだ。

何が起きたか理解できていない私の耳に、悲鳴が聞こえる。詩子の声。私はゆっくり振り向いた。
どうしたの?何で泣いているの?司は…どこへ行っちゃったの…

そこにあったのは、怯える目。まるで化け物でも見るように…襲いかかってきた法術士よりも、更に禍禍しい物を見るように…

二人の幼なじみを同時に失った私は、知り合いの薦めもあり、高野へこの忌まわしい力、法術を制御するために行った。
そこで美汐と出会った。始めは何とも思っていなかった。逆に嫌いだったと言える。
無口。無表情。感情を表に出すという事を知らない子供。まるで私みたい。
でもある事件をきっかけに、私は彼女を見直し始めた。そして、思い切って声をかけてみる…
…その時から私と美汐は親友になった。誰にも話したくないことも、彼女になら打ち明けられる、そんな真実の友。
美汐との付き合いは、いつしかあの辛い思いでを薄れさせていった…

詩子と会うのは未だに少し苦手。あの時の彼女の顔を思い出すだけで、胸が張り裂けそうになるほど痛い。
何とか堪えつつ、彼女を迎える。…暫くぶりですね。何かあったのですか?…
詩子の様子がおかしいことに、そのときは気付かなかった。何故なら渡された命令書を見て愕然としていたから…
「みすずを確保し次第、美汐の抹殺を命ずる」
馬鹿な。美汐は対九尾戦の重要武器の筈。それに抹殺指令は、彼女が負に犯されたときに発動する事になっているのに…
理由を聞かされた。…みすずを神奈の依代に出来ることが分かった。つまり危険極まりない美汐に用はない。
今の内に抹殺して、神奈をみすずに降ろさせるべき…
おのれ、高野山。人の命をなんだと思っている。それでも仮初めとはいえ、人を説くべき立場の者なのか。

…言いかけて気付いた。そんな台詞、私に言う資格はない…

それに納得できないことがある。あの大僧正が斯様な発言をするだろうか…もしかしたら、一部の高位僧の独断では…
確かめに行こう。総本山へ。未だ美汐を消すには及ばない。まだチャンスはある。それを談判するためにも。
その事と、美汐のサポートを詩子に伝え、私は出かける。美汐は…何も知らずに眠っていた…
131遠野みちる:2000/12/05(火) 04:00
 むー、みちるまでこの街に来る事になるなんて…この街では何が起こっているんだろう…。
早く美凪に会わないと…。でも、この街に来てから何か変…みちると同じ気配を感じるよ…。
美凪…みちる…怖いよ…でも、美凪のためにがんばるよ…。
132遠野美凪:2000/12/05(火) 05:33
私とみちるの出会いは、そう、夢の中。
私は倉田佐祐理と川澄舞の遺伝子を利用して、高野の術者たちによって造られし人工術師。
翼人の「器」になり損ねた失敗作にして、人にあらざる試作品。
その運命を厭うがゆえに倉田佐祐理に背き、「力」のみとなって夢の中に封じられた私。

そこで出会ったのがみちるでした。
私と同じように、沢渡真琴、天野美汐の遺伝子から何者かによって造られしもの。
人の都合によって生み出されようとし、人の都合によって破棄された存在。
生まれることができたとしても、この世界を壊すべき定めを負うはずだった忌むべき存在。
私は意識のみとなって夢の世界を彷徨う彼女に問いました。再び生を得たいですかと。
私には仮初めの生を与えることしかできませんが、それでもいいですかと。
彼女は答えた。それでもいい。生きてみたいと。

こうしてみちるは私と共に生きることになりました。
本来あるはずだった存在としてではなく、翼人の力の欠片を宿した格闘型式神として。
もっとも、式神といっても行使し、行使される関係ではありません。
みちるにとって、そしてわたしにとってもただ一人の友達です。
「力」である私が夢の世界に封じられし時間、私の本体は海沿いの田舎町で暮らしていました。
普通の人間として、誰にも頼らず、一人ぼっちで。
でも、みちるは、現実の世界と夢の世界、両方の私の友達になってくれました。

楽しかった。
現実の世界で傷つきながらも、精一杯生きる私。
夢の世界でそれをみちると一緒に見守る私。

でも、そんな時間も長くは続きませんでした。
倉田佐祐理の死によって再び現世に呼び戻され、本来の自分の身体に戻った私。
お陰で私の心には、二人の私、両方の記憶が詰まっています。
みちると過ごした時間の記憶、そして、国崎さんと過ごした時間の記憶も…

私は高野の命に従い、この街へとやって来ました。
私が現実の世界に戻った以上、みちるも現実の世界に戻っているはずです。
間違いなく、ここに来ればもう一度みちると会える。
そして、国崎さんとも会えるのではないかと思って…
133132:2000/12/05(火) 05:37
前スレの523でも、119でもありませんが、一応、設定の整合性を図ってみました。
どんどん修正してやって下さい。
134名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 05:41
ギャーすいません。
ちょうど同じ所の(美凪の)設定部分書いてましたよ…
宇都駄師乃宇。ボツります。
135名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 16:18
なんで地下で進行してるの?
136名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 16:20
長文が多いからです
137ROM君:2000/12/05(火) 16:35
>>135
ウザがる人もいるようので、書き込まれる方はその辺りも配慮されてるようですポムァ(゚◇゚)
138名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 16:50
>>128
いえいえ。逝かないで下さい(笑)。
すごく的を射抜いた文章だと思いました。
そのネタを振って頂いた方も、きっとですよ。

>>134
もし、よろしかったら、だもんよさんのHPにある書き手さんのネタ晴らしの所に、
UPして頂けませんか? 拝見したいです。だもんよさん、よろしいでしょうか?
139八百比丘尼:2000/12/05(火) 17:18
深山雪見とかいう女の身体を乗っ取ってから、かなりの時間が経過しました。
既にこの女の力と記憶は、全て吸収し終えました。もう表に出ても大丈夫でしょう。
今や私の正体を見抜きえる存在があるとすれば、あの盲目の小娘くらいですか…

しかし千年の間に、高野も質が落ちたものです。
「九尾」「神奈」の相次ぐ復活によって、我が封が弱まっているのに気付かぬとは。
高野の大僧正たるこの女もかなりの力の持ち主でしたが、所詮は人間にすぎません。
翼人の真の力たる「星の記憶」こそ神奈に継承させたとはいえ、私とて翼人。
疲労困憊したこの女の精神を打ち倒すことなど、造作も無いことでした。

しかし、封の中で無為の時を過ごせし千年の間、奴らに対する怨みは募るばかり。
我が愛し子に呪詛を掛けし、邪悪なる妖「九尾」
それまで我らに頼りきっておりながら、手の平を返すかのように我らを封印せし高野山。
そして、我が愛し子をかどわかせし「九尾」の娘と人間の男。
これら全てに、等しく滅びを齎すことこそ我が望み。

我が愛し子神奈よ、もう少しで貴方を囚われの身から解放できます。
ああ、母は貴方をこの腕に抱ける日が来るのが待ち遠しゅうてなりません。
この願いが叶うなら、例えこの世が滅ぶところになろうとも構いませぬ…

…どうやら里村茜が戻って来ているようですね。
巨大な負を秘めし天野美汐と違い、彼女は高野の掟に忠誠を近いし者。
情に流されることはないかと思いますが、一応釘を刺しておきますか。
もともと天野美汐など、高野にとっても不要な存在に過ぎないのですから…
140132:2000/12/05(火) 17:45
>>134
先走ってしまい申し訳ありませんでした。
私も是非見たいっす。
141橘敬介:2000/12/05(火) 19:00
プノンペンを出て相当の時間が経つ――

 昼に差し掛かった辺りで、ようやく目的地に着いたようだ。
 清水なつきに連れられて鬱蒼とした森の中を歩く事15分、目の前に古代の寺院の遺跡が現れた。
 俺は一瞬、アンコールワットの遺跡かと思ったが、形が何処と無く違うし、写真で見たのより
も遥かにスケールが小さいように思える。
 清水に訊いた所、やはりここはアンコールワットではないという。
 ただ、アンコールワットと同じクメール朝の時代に出来た寺院なのだが、用途が違うという。

 あらゆる負の思念を消化させるために作られた寺院だ――と彼女は話した。
 そして、神奈の負の思念ぐらいは簡単に処理できるらしい。
 当然、俺は本当だろうかと疑った。
 まあ、論より証拠だと清水に言われるがままに遺跡の中に入ったのだが――

 寺院には様々な石像が整然と並べられていたが、それらを通り過ぎていく。
 そして、寺院の最深部にまでやって来た時、目の前に巨大な石像が現れた。
 俺は一瞬(当時国教だった)ヒンドゥーの三大神のシヴァ神かと思ったが、そうではなかった。
 やや風化して、苔が生していたので分からなかったが、
 ――その巨大な石像は裸像で、更には顔がなかったのだ。
 一体、これは何なのかと思った。ヒンドゥーの神々にこんな神はいない筈だ。
 だが、清水はこれこそ目的のものだという。
 そう、この巨大な石像こそが、負の思念の浄化装置であり、神奈を封じるのは勿論、浄化させる
のにも適した人形だと言うのだ!

 俺は近くに寄ってみた。
 石像の前には祭壇があり、さらにその両側には同じような小ぶりの石像が無数に並んでいる。
 俺は巨大な石像の前に立って、手を恐る恐る触れてみた。
 するとどうだろうか! 俺の体内の法力が勝手にその像へと放たれていくではないか!
 俺は思わず手を引っ込める。すると、自然と法力は放たれなくなった。
 本当に何なのだこれは?
 俺は妙な気分で、その像をじっと見詰めていた。まるで巨大な怪物を目の前にしているような
気分だった。

 これは強いて言うなら――ブラックホールのようなものだった。
 そう、何でもかんでもお構い無しに吸い込んでいく、あの限界知らずのブラックホール。
 まさに、この石像がそうだ。
 しかし、古代の連中はこんなとんでもないブツを作り出していたとは――大したものだ。
 そんな事も知らず、みすずを作っていた俺が馬鹿みたいでちっぽけなように思えた。

「どう? これなら神奈を問題なく封印できるかと思うのだけど。これは表向きはヒンドゥーの
寺院だけど、調べた限りこれは仏教の知識を総動員させたものみたいよ。古代の書物によると、
これで負の思念に侵された神々を封印しては浄化したというわ」
 おいおい、これなら神奈はおろか、不動明王や八百比丘尼でさえも封印できそうだぞ。
「これなら、みすずに封印するより遥かにリスクは低いと思うけど」
 清水の言葉に俺は、当然こう答えた。

「いいね。俺もこいつに神奈を封じる事に賛成だな」
142清水なつき:2000/12/05(火) 20:06
 その日の深夜に家に戻ってきた。
 日帰りとはいえ、とんでもない長旅になってしまった。
 神尾観鈴は当然、爆睡している。晴子や橘や、この私でさえ憔悴しきっていた。
 そんな中、家に一通の電報が届いている事を確認した。送り主は川名だった。

 とりあえず、橘は観鈴発見の報告は当面見合わせて、深山にそれとなく例の浄化装置の事を話すと
いう。そのための言い訳を私も一緒になって考えていながらも、一つ気になる事があったのだ。
 その深山の事だ。
 橘から効いたのだが、深山が里村に宛てた指令とは、「みすずを発見次第、天野を抹殺せよ」との
事だという。
 馬鹿な。今、天野を抹殺すれば、神奈と九尾、さらには水瀬秋子との瘴気のバランスが崩れて、
それこそ神奈は暴走しかねない。ゴッドハンドが逝った時にこの3者の力関係は偶然釣り合いが
取れたものとなり、一時的にではあるが、この3者は安定した状態にあるのだ。
(そのために神奈への祈祷は週1回程度ですむようになったのだが、私に言わせれば祈祷は不要だ)
 そんな時に仮初めの依代である天野を抹殺すればどうなるか……深山なら簡単に分かる筈だ。
 更には、最近の深山の不審な行動といい、悪い予感がした。それで例の寺院に行く前に川名に以下
のような電報を送っておいたのだ。
『ゲンザイノミヤマノセイシンジョウタイヲ、シキュウサグラレタシ ナツキ』
 そして、返事は返って来たのだが……

 その時、隣の部屋でテレビを見ていた晴子が真っ青な顔で部屋に飛び込んできた。
「えらいこっちゃ! こ、高野にいた僧侶が全員殺されよったで!」
 何だって?
 私は隣の部屋に駆け込んで、テレビに映っている画面を見た。
 CNNのニュース番組らしいが、そこにはなんとあの高野山が映し出されていた。何と、寺院の大
部分が跡形も無く徹底的に破壊されていた。そして、日本人らしきニュースキャスターが、高野で何
が起こったのかを声を荒らげながら説明していたのだ。
143清水なつき(続き):2000/12/05(火) 20:07
「そんな……」
 橘は呆然としてしまっていた。
 確かに無理も無い。私も何が起こったのか一瞬認識できなかったのだから。

 ニュースで報じていたのを要約すると以下のようになる。
 日本時間で16時頃、高野に戻った僧侶(これは後に里村と判明した)が、寺院の中にいた僧侶が皆
銃器のようなもので撃たれて殺されていたのを発見したという。犯人は僧侶を全員殺害した上で、
強力な爆発物(映像を見た限りプラスチック爆弾)で爆破したという。そして、警察当局は寺にいた
面子で唯一行方不明である大僧正の深山を重要参考人としてその行方を追っているという。

 なんてこった。
 行方をくらました深山も深山(彼女をこう呼ぶのは止めておこう。理由は後述)だ。
 だが、奴までも動き出したというのか。
 でも、時期的には奴にとっては今が狙い時かもしれない。何せ、格闘が出来る高野の僧侶が出払っ
ている状態なのだから。高野やものみの丘の地下に隠されたブツを狙っている奴ゆえに、この動きは
極めて合理的とも言える。まさに奴らしい。
 そのブツについて記された、ある旧日本軍の兵士の手記と先程の電報を握りながら、私はうち震え
ていた。事態はとんでもない方向にいよいよ動き出したようだ。

 とりあえず、私は橘の了解を得て、以下のような電報を里村に送った。
『イマ、アマノヲヤルノハヒジョウニキケン。ショウキガボウソウスルカノウセイアリ。トウメン
 ミアワセラレタシ。 タチバナ』
 そして、私は先程川名から送られた電報を読み返す。

『ユキミノセイシンハ、スデニショウメツシタモヨウ。ヤヲビクニノカノウセイアリ ミサキ』
144名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 20:20
そろそろ話の転換期、盛り上がってきましたね。
美汐が神奈を降ろすところも見てみたいし、141さんの話がどう絡むのかも知りたい。
微妙なところですな。
ところどころで書き手さんたちの設定の遣り合いが見受られる今日この頃です。
145椎名繭@破り捨てられた手帳:2000/12/05(火) 21:16
7月27日
高野山の麓の町に着く。
大僧正に会う約束を取り付けたのはいいけど、どうして日本には飛び級がないのだろう?
おかげで夏休みまで、ここに来れなかったんだから。
まあいい。これで私の研究する不可視の力や法力の謎を解くヒントが見つかるだろう。
その時こそ、私の論文を学会に発表して、医学の進歩を飛躍的に伸ばせるのだ。

これで良し。それにしても暑いわね。
澪ったら、まだかしら?
まったく……あの幻の舞台女優の深山雪見がいるって話したら、付いて来るって聞き無かったくせに遅刻なんて。
あの子の事だから道に迷っているだけでしょうけど……目を離したのがまずかったわ。
深山雪見……どういう事情で高野に居るのかは知らないけど、勘弁して欲しいわね。
澪の熱の入りっぷりは異常よ。私には理解できないわ。
でも、演劇が引っ込み事案だった澪を変えてくれたのも事実だし、まあいいけど。

ああ。いたいた。
もう…どこに行ってたのよ?
ん? なに、そのスケッチブックは?
え? 澪にサインをねだった奇特な人が居たって!?
ごめん。奇特ってのは言い過ぎたわ。
それにしても、サインを貰うのにスケッチブックをわざわざ買って上げるなんて物好きね。
こんなところに、色紙なんて売ってないのだろうけど。
それで、青色のクレヨンですか? はいはい。良かったわね。
盛り上がってるところ悪いんだけど、もう行くわよ。

「うん」

澪は最後に大きく頷いた。声を出して……。
嬉しそうな澪。今まで見たこと無いくらい浮かれていた。
その時の私は何も分かっていなかった。
この先に何があるのかを。この向こう側にある悲しみを。
そして、私は……。

「ほら。手伝ってやるよ」

澪と一緒にいて山道に迷い込んだときだった。
どこの飼主に捨てられたのか、フェレットが横たわっていた。
多分、野犬にやられたのだろう。
澪が可哀想なの…としつこく言ったので、私は弔ってあげようと土を掘っていた……ときだった。
彼が現れたのは。

「……ええ。お願いするわ」

澪は純粋に再会を喜び、私は出会いに感謝した。
居るかどうかも知れない……神様とやらに。

後に澪は語る。
私から頑なさが無くなった、と……。
146名無しさんだもんよ:2000/12/05(火) 21:49
>>138
いえ、そのために作ったもんだし(w
むしろ、内容にそったカキコならどんどんお願いしますだ。
147藍原瑞穂:2000/12/05(火) 22:48
「高野山……いいかげん、見過ごせんようになってきよったな」
 TVによる報道やなつみさんからの報告をノートにまとめていた保科さんが、難しい顔で唸った。
「ですね……」
「私らも何とかこの事態を収拾に協力せんとあかん。それには、渦中にいる天野を何とかするのが早道や。
 けど、腹立たしい事に私らでは奴は倒せん。やから、件の事情について明るい奴にアドバイスを貰おうと思う」
「それは……誰ですか?」
「前にリアンが言うとった、清水なつきたら言う女にコンタクトをとってみる。
 確か、お師さまが気にかけとった神尾親子を保護してくれとる奴や」
「かの高名な……でも、彼女が、私達を信用してくれるでしょうか?」
「そやなぁ……ま、リアンに仲立ちを頼めば何とでもなるやろ。あいつやスフィーももうそろそろ来る時間やしな」
 その時、会議室の院内電話が鳴った。
「お、噂をすればナントヤラやな」
 保科さんがオヤジくさい口調で言い、電話を受けた。
「ん……、私や。お客さんが来たんやろ? うん……え? スフィーでもリアンでもない?
 ……うん、わかった。今行くわ」
「誰が来たんですか?」
 私は、妙なやり取りに疑問を覚え訊いてみた。
「何か、例の河島はるかとかいう女が来たらしい。森川由綺に会いにきたとか言っとるようや。
 ま、とりあえず会ってくる事にするわ」
「気を付けて下さいね」
「ああ、ありがと」
 保科さんは適当に手を振り、部屋を出ていった。
(さて……香奈子ちゃん達の容態でも見に行こう)
 そう考え、私も部屋を出た。
「みさき! どこに行ったの! 出て来なさい!」
 わっ。雪ちゃんが来ちゃったよ。
 どうしよう? ああ、そこの人、匿って。お願いだよ。
「川名みさきーっ! いるのは分かってるんだからね。早く出てきなさい!」
 えっと。えっと。私は居ないって言ってね。
「あれ? 絶対にここだと思ったんだけど……ねえ、あなた……折原君だっけ?
 ここにぼーっとして能天気そうな女の子、来なかった?」
「確かに来たけどな、そこのフェンスをよじ登って飛び降りた」
「……どこにフェンスがあるのか教えてくれる、折原君?」
「だったら、学校の屋上から夕日を見て、なおかつ65点だ、とか言って辛口の評価を――」
「ああ、もういいわ。みさきったら、逃げ足だけは速くなって、ちっとも方術の方は出来ないんだから」
 ひどいよ、雪ちゃん。ぼーっとなんてしてないよ。
「行ったようだぜ、先輩」
 うん、ありがとう。
「それにしても、どうして追われてたんだ?」
 きっと、小学校の給食の時に雪ちゃんの冷凍みかん食べちゃったのを今でも怒って。
「絶対違う! そんな昔のことでどうして今になって追いかけるんだよ」
 食べ物の恨みって根深いからね。
「それで……いつまで木の上に登ってんだ、先輩は」
 あのね、ここから見る夕焼けは最高なんだよ。

 私と浩平君の出会いは夕日の暮れる森の中だった。
 二人で木によじ登って大きな夕焼けを見ていた。
 どうしてか、懐かしい気持ちに包まれた。

 浩平君は、高野にいつまで居られるの?
「そんなに長くは居られないかな……」
 そう。残念だね。でも、どうして私を先輩って呼ぶのかな?
「深山さんの知り合いってことは、俺より年上なんだろ?」
 そんな何でもない時間が…私の中で特別になったのは、いつからだったろう?
 浩平君、明日も来れるかな?
 気が付くと、私はそんなことを言っていた。
「先輩は?」
 うん。元気だよ。
「いや、そうじゃなくて……まあいいや。明日も来るよ」
 だったら、明日は競争しようか?

 夕日の赤さ。今でも覚えてる。
 夕焼けの眩しさ。今でも目に焼き付いている。

 今は、ただ、記憶の中に……。
 目の見えていた、記憶の中に……。

 浩平君と一緒だった思い出の中に……。

 でも、あの日を境に浩平君は変わっていった。
149川名みさき:2000/12/05(火) 23:47
 「監督が舞台に上がっていくときはただ一つ、どうしても上手くいかない
展開を書き換えなきゃならない時だけよ」
 かつて、学校では演劇部長という表の顔を持っていた『彼女』は、そう語っていた。
 既知のシナリオに割り込んでいく事の意味──それは、私が運命を変える事に
他ならないのか。

 時折、出来の悪い悪夢のように…光を失った時の事を思い出す。それは私が
見る能力を失い、観る力に目覚めたあの時のこと。そして、世界のすべてを観、
かつ識(し)るということはそのすべてを赦し、受け入れるということでもあった。
 『彼女』は実に、その結果まで見越してかつての『事故』とやらを『起こした』
のだ。それこそは、何て素晴らしき彗眼だろう。そして私は闇に沈んだ。
 確かに、私は全てを知った上で復讐者にはなりえない。また教義の守護監である
御山では、もう表には立てない存在となった私が自ら高野を出奔する流れまで、
彼女には予測済みの筋書きだった。
 おそらくはこの視界こそが、歪んだ形で決定付けられてしまった、私の力。
ある意味で、彼女は驚異の芽を的確に矯正してのけたと言える。

 雪ちゃん、深山雪見…それとも内に隠されたその名『八百比丘尼』と呼んであげるべきか。
でも、彼女はどこまで自覚しているのかな。
 貴方の目的を果たすには、ちょっと回り道が多すぎるだとか、考えたことない?
どっからどこまでだとか、存在の割合なんて些細なことだと思うけど…私なんかは、特にね。
 取り込まれたのは雪ちゃんの方なのかな?それとも比丘尼のおばさんの方だったのかな…?

 一方で、私とすれ違うように今は異国にいるあの子は、相変わらず遺跡にご執心の様子だ。
ただ、こと宗教に根ざしたシステムはなにものよりも精密な術式と作法なしには成立しない
ものだから、ことを急ぐとロクな事にはならないよと、その旨をあの子に電報しておいた。
 観ることばかりで忘れていた、すぐ其処にある、誰かの言葉、誰かの想い、誰かの温度。
それを思い出させてくれたのはやっぱり…あの子だったに違いないから。
『ゲンザイノミヤマノセイシンジョウタイヲ、シキュウサグラレタシ ナツキ』
 …だから、その報を受けた時も、私はついに、その呪われた翼人の名を明らかに
する事にした。これで、八百比丘尼の存在は歴史の表に引きずり出されるだろう。

 ついでに「なんか、ここんところ私達まるでメル友、って感じだね。今っぽいかな?」
なんてメッセージもつけておいた。…ちょっと不謹慎だったかも。うう、あとで怒られそうでコワイ。


150川名みさき:2000/12/05(火) 23:51
みさき話書かれてる…ごめんなさい
151名無しさんだよもん:2000/12/06(水) 00:04
>>150
え? ええ?
148というか過去編をちまちま書いてるものですけど、
149の文章は何ら問題ないのでは?
念のため106、109、113、145、148はすべて過去の出来事のことです。
つーか過去編っていらないのかな? 
152書き手さんだよもん:2000/12/06(水) 00:30
>>150
特に矛盾無いし、矯正しなきゃならんとこも無いんで大丈夫でしょう。
と言うよりは、その話の先がかなり楽しみなんだが・・・

>>151
過去編楽しませてもらってます。
いらないのかな?何て言わずに是非とも続けて下さい。
ってあと一人か・・・
153柏木楓:2000/12/06(水) 00:30
「高野の連中が全員殺された。」
居間にみんなを集めて開口一番、耕一さんはこう切り出しました。
「TVで見た限りでは高野の大僧正、深山雪見が犯人の可能性が高いらしい。
 理由は分からないが、高野の中で何かあったと考えた方がよさそうだ。
 ・・・もしも高野の中で天野を狙っていたのが深山だとすると、天野が危険だ。
 俺は天野を助けに行く。」
それは耕一さんが前にも言っていたこと。
久しぶりに耕一さんの優しさに触れられた瞬間だから、みんな覚えてます。
けど、けれど・・・
「仕方無いさね・・・あたしも行く。」
梓姉さんが、私の思っていたことを先に言ってしまう。
「梓が出るのは心配だもの・・・私が行きます。」
千鶴姉さんが口を挟む。
・・・梓姉さんが行くのも、千鶴姉さんが行くのも、どっちも心配だけど・・・
「私が行きます。」
思わず口に出してしまっていました。
「梓姉さんも千鶴姉さんも、回復して間がないです。無理はいけません。」
それに・・・梓姉さんも千鶴姉さんも、彼女に一度深手を負わされています。
いくら耕一さんが助けたいと言っても、もう一度対面した時にどうなるかとても心配ですし。
流石にこれは口には出せませんでしたが、二人とも分かってくれたようでした。
「楓ちゃんが来てくれると心強いよ。」
そう言って、耕一さんが笑ってくれました。

けれど私は、この時まだ知らなかったのです。
私の中の妖狐の力が騒ぎ始めていることを・・・
154新城沙織:2000/12/06(水) 01:20
「あ……れ……?」
 私は、いつもの学校にいた。
 祐くん達と通っていた、あの学校だ。
 気がつけば、不可視の力使いに切り裂かれたはずの背中の傷も消えていた。
 どういう事なのだろう……?
「こんにちは、沙織ちゃん」
「わっ!?」
 唐突に、目の前の景色が錆の浮くフェンスに変わった。その下に広がるのは、住み慣れた街。
 そして、薄青い髪を風になびかせる少女……
「瑠璃子ちゃん?」
「そうだよ……」
 少女――瑠璃子は、くすりと笑った。
「ごめんね。どうしても力を借りたかったの」
「力?」
「教えてあげる。ここは、長瀬ちゃんの心の中」
 瑠璃子ちゃんは、そんなとんでもない事を言いだした。
「長瀬ちゃんはね、悪い魔女が死ぬ前に遺した呪いのせいで苦しんでるんだよ。
 だから、助けてあげたいの。だから、呼んだんだ」
「祐くんの心が……悪い魔女に?」
「うん。私と沙織ちゃんで、その魔女をやっつけよう」
「いいけど……私なんかで頼りになるの? 足手まといになっちゃうかも……」
「そんな事、ないよ」
 また、くすくすと笑う。
「じゃ、行こう。長瀬ちゃんの心のどこかに、その魔女は隠れてるんだ」
「おっけー、頑張ってみる」
 私は、パシッと拳で手のひらを叩いた。その瞬間――
「あれ? あれれ?」
 私の服が、体操服に変わっている。
「その格好の方が動きやすいから変えたんだよ、きっと」
「そ……そういうものなの?」
 私は面喰らいながら、瑠璃子ちゃんの後にくっついて歩き出した。
 瞬間、またしても空間が暗転する――
155新城沙織:2000/12/06(水) 01:48
154の続き
 生徒会室。教室。渡り廊下。校門前。体育館。更衣室。職員室。講堂――
 私はせいぜい20歩も歩いていないが、その間に空間は実に目まぐるしく変わった。
「ねえ、本当に魔女はいるの?」
「うん」
「こんな探し方で、見つかるの?」
「探してれば、きっと見つかるよ。思い出せない事なんてないから」
 ワケのわからない事を言う。
 それからまた歩いた。いくつもの光景が、目まぐるしく切り替わっていく。
 黒い怪物との戦闘。病院での生活。駐車場の決戦。怪物同士の戦い――
「あ……ここにいるよ」
「えっ!?」
 私は、慌てて立ち止まった。
 周囲の空間に貼りついた絵は、多分神岸あかりと来栖川芹香の戦いの記憶だろう。
 互いが恐ろしい形相でにらみ合い、観ているだけで震えが走る程の迫力だ。
「ねえ、出てきてよ」
 瑠璃子ちゃんが、優しく呼びかける。
「い、いくら何でもそんなんじゃ――」
「呼びましたか……?」
 すっと、黒髪の女性が現れる。
「きゃああああああああああああああああああああああああ!」
 私は仰天し、ぺたんと尻餅をついた。
 そんな私とは裏腹に、瑠璃子ちゃんはくすりと微笑んでその女性語りかける。
「はじめまして。私、瑠璃子っていうの」
「来栖川……芹香と申します……」
 相手の女性は、ぼそぼそと名を口にした。……って、来栖川芹香!?
「あのね、一つお願いがあるんだ。長瀬ちゃんをいじめるの、やめてくれないかな?」
「……………………」
 黒髪の少女――芹香は、小さな声で何か答えた。小さすぎて聞こえない。
 しかし、瑠璃子ちゃんには聞こえたようだ。困ったように笑い、右手をすっと差し出した。
「そう……なら仕方ないね……」
 瑠璃子ちゃんのショートカットが、ざわりと持ち上がる。
「……………………」
 芹香も、すっと手に杖を出現させる。
「怖くないよ……気持ちいいまま死ねるから」
 ちりちりちり…………
 瑠璃子ちゃんが電波を飛ばし始めたようだ。余波が、少しだけ私の肌をひりつかせる。
「…………来たれ、悪霊…………」
 芹香が、ぼんやりとしたエクトプラズムのようなモノを杖の先から出現させる。

 ――しゅぼう。

 炎が燃え尽きる瞬間のような音を立てて、エクトプラズムが消滅する。多分、電波を浴びて死んだのだろう。
「やるね……手加減はしないよ……くすくす……」
「……………………」
 両者が、再び電波とエクトプラズムを放ち、そしてまた相殺する。
 私は、ただ呆然とそれを観ているだけだった……

156新城沙織:2000/12/06(水) 02:20
155の続き
 ――しゅぼう。
 ――しゅぼう。
 ――しゅぼう。

 永遠の繰り返し。
 しかし、瑠璃子ちゃんの方に異変が起き出した。
 すこしずつ、すこしずつ身体が石になっていくのだ。
「心の世界なのに……まだ呪いが追いかけて来るんだね……」
 電波を飛ばしながら、無表情につぶやく。
 いったん始まりだすと、後は早かった。右手を前に差し出したポーズのまま、瑠璃子ちゃんは
 一体の石像と化してしまった。
「……………………」
 電波の妨害が無くなったエクトプラズムが、瑠璃子ちゃんの石像に襲いかかる。
 ――ぴしり。ぴし。ぴしし……
 瑠璃子ちゃんの石像に、ひびがはしり始めた。
「だ、ダメっ!」
 私は反射的に動き、いつの間にか持っていたバレーボールで思い切りスパイクを放った。
 狙うは芹香。が――

 ぱきぃぃぃん。

 乾いた音を立て、ボールがはじき返された。
「そんなものじゃ私は倒せない」
 それまでぼーっとしていた芹香が、急に邪悪な顔つきに変わり笑った。
「さあ、まずは小生意気な電波娘から殺してやる」
 芹香がそう言い、杖を瑠璃子ちゃんの方に向けて何かを放った。
 一瞬、瑠璃子ちゃんの石の顔が揺らぎ――
 次の瞬間、粉々に砕け散った。
「!!」
「さて、次はおまえか?」
 ……許さない。
「ほう、お前はあの長瀬祐介の恋人か――」
 炎。ただ燃え上がるそれをイメージする。
「この小僧の心を破壊しきる前に、貴様を最大の魔力を持って殺してくれよう」
 炎が、激しく燃えさかる。もっとだ、もっと――
「ふふ、もはや抵抗する気も起きないか――?」
 さらにヒートアップする炎はその限界温度を超え、その姿を変える。それは――
「ふふ、魔力も練れた。あまりに味気ないが、一息に殺してくれよう――」
 芹香が、杖をこちらに向けた瞬間――私は、ボールを空中高く放り投げ、それを追い飛んだ。
 手に纏うのはもはや炎ではない――プラズマ!
「ファイナル・アルティメット・プラズマ・スプワァアアアイク!!」
 暴発した力が、全てボールに叩き込まれる。
 同時に、私の身体を芹香の魔法が襲った。が、ボールはエネルギーの尾を作りながら直進し、
 魔法の帯を貫通し、見えない壁を砕き、芹香を貫いた。芹香が、悲鳴すらあげず一瞬で燃え尽きる。
 ――相討ち。
 急速に薄れゆく意識の中で、私は満足感を覚えながらそれを感じていた。
 あれ? 私なんでこんな事してるんだっけ。
 ああ。祐くんを助けるためか。
 身体が動かないね。これじゃ、祐くんが元気になっても一緒に過ごせないよ……
 祐くん……ごめんね……
 
157リアン:2000/12/06(水) 03:59
苫小牧で足止めを食らった翌日――

 天候は相変わらず雪だったが、昼過ぎになると昨日よりかは遥かにマシになった。
 一応、列車も運行を再開していた。ただ、終点は本来向かうべき目的地より遥かに手前だったが、
行くしか仕方が無い。終点からはレンタカーでも借りていけばいいだろう。
 早速、列車に飛び乗った。列車はエンジンの唸りを上げながら徐行運転でゆっくりと進んでいく。
 時計を見ると既に16時――この調子で(運がよければ)深夜には現地に入れるだろう。

 そういえば、列車の中でラジオを聞いていた時に臨時ニュースが流れた。
 高野山にいた僧侶が皆殺しにされて、警察は大僧正を参考人として行方を追っているという。
 一瞬、大僧正がご乱心したかと思ったが、冷静に聞いてみると、殺された面子の死因は射殺で、
寺院は爆破されたとの事だ。

 俺は疑問に思う事があった。
 大僧正の深山雪見が仮に殺戮を行うとしたら、銃器を使うものか?
 むしろ法術でやる筈だ。その方が法廷証拠は残らない。何と割の合わない行為に出たものだ。
 待てよ――。
 銃殺に爆破――そんな芸事をかます奴が一人思い当たる。

 今の所は判断する材料が少なすぎるので何とも云えない。とにかく、今は深山のご乱心にし
ておくが、念の為に注意が必要だろう。

 列車が終着駅に付いた時、携帯に保科から連絡が入る。
 なんでも清水とコンタクトを問ってほしいとの事。高野の連中の内情を知りたいという。
 俺は連絡を仲介してやる事に同意した。清水は合理的な人間に興味を持つ。
 保科は十分該当するので、コンタクトを取り合う事は恐らく可能だろう。

 とりあえず、次に清水に連絡を取った。
 返事は予想通り、OKとの事。なんと、彼女直々に連絡を入れるらしい。
 よほど、保科の事が気に入ったのだろう。
 その際に例の殺戮の事で、奴の仕業ではないかと訊いた所、彼女はその可能性もありうると
云った。やはり注意は必要だ。
 とりあえず、銃に対する装備を完璧にして置けと、後で保科に伝えておいた。
158清水なつき:2000/12/06(水) 17:10
『カテイヲスットバストオオヤケドヲオウ、ヨウチュウイ』

 川名から受け取ったメッセージにこんな文があった。
 はっとさせられた。現実の自分というものを思い知らされたのだ。

 ここのところ、非日常の出来事が立て続けに起こっていた。
 そして、そんな中私は冷静になっていたつもりだったが、実際ははしゃいでいたにすぎなかった。
冷静に物事を見ているつもりが、何時の間にか当事者になって、感情が高ぶっていたのだ。
 そう、自分でも気づかないうちに非合理的な行動をとってしまっていたのだ。

 とにかく、例の石像のことを考えてみれば、かなりの問題が横たわっていた。
 いえるのは、本格的にあの石像を発動させるにはどのようなプロセスを経る事が必要なのか?
 恐らく、何かしらの儀式といったような手続きを経なければいけないと思う。
 そして、私はあの石像のすべてを知り尽くしたわけではない。
 それらについて、今後も研究していくことが必要になる。
 時間はまだまだある。もっとも、あの3者が緊張状態に入っている間の話だが。

 そういえば、過去に今のように感情が高ぶってしまった時期があった。
 そう……私が高野を去ったときだった。
 思えばあの時からかもしれない。高野の内部が欺瞞と不合理に支配されていたのは。
 あの時、深山は言った。
「世にはびこる全ての物の怪や邪神どもを一掃する」と。
 私は理解に苦しんだ。
 そう、それぞれの物の怪や土着の神の実情を調べずにやるというのだ。
 泰平の世を維持という名目で、実際には高野の発展に邪魔な勢力をそぐがゆえに。
 他にも方法はあるのではないのか? これでは、魔女裁判ではないか……。
 私はそのことで深山と激しい争いをした。外枠しか見ていない両者が争うという醜い争い。
 結局は私が高野を去るということで、決着をつけた。
 そのときこそ自分を見失っていたのだ。高野に残って軌道修正をするという方法もあった
だろうに……。
 その時はそんなことに気づかず、はしゃいだ挙句に高野を貶したりもした。
 今から思うと目を覆いたくなる行為をしたものだ。
(もっとも、その後に天野が中国で指名手配されても、彼女はお咎めなしというのだから、
腐りきっているのは明らかだったが)
 その後、私は未知のものを無くしていくためにぶらりと世界を回った。
 むしろこの方が楽しかった。高野という束縛がなくなったから。

 とにかく、己の実情に気づかせてくれた川名には大いに感謝したい。
 さて、例の高野の殺戮事件だが、大体の大枠がわかった。
 まず、凶行が行われた時間は15時頃だということだ。
 そして、一旦10時に深山は高野で里村と会見した後、12時頃に行方不明になったという。
 その後高野の内部が大慌てになっている中で凶行が行われ、16時頃に高野に戻ってきた
里村が、本山が焼け落ちているのを発見したという。
 そのことで、先ほどリアンから電話があった。
 奴の犯行の可能性もあるかと訊いてきたが、私は「ああ」と答えておいた。
 このことについては今後も見守る必要もあるだろう。

 さて、そろそろ保科って女に電話をするとするか。リアンがいうには、かなり合理的判断を
する人間だという。彼女の言うことは確かだ。保科と話すのが楽しみだ。

 それはそうと、川名からの電報に「今時の女の子みたいだね」という趣旨の記述があった。
 その言葉……聞くだけで耳が痛いです。見事に私も当てはまっているよ。
 だって、国際電話に電報……今月の通信費は日本金で25万5千円……
 ゴチバトルじゃねぇぞ……じゃなくて、まさに通信費は今時の女の子並です。
 おのれ、高野山……って、めっちゃ筋違いね、これ。
159川澄舞:2000/12/07(木) 05:56
 高野山からの使者がやって来た。それは驚いた事に遠野美凪だった。彼女は佐祐理に
従っていた筈なのに?しかし、彼女は自分は里村茜の命によって私のところへやって来たと言う。
 この間出会った巳間晴香がそんな事を言っていたのを思いだし、話を聞く事にした。
「…連絡事項です…。…高野山の戦力は…深山大僧正によって…全滅…です。」
 彼女は顔色一つ変えずに、私にそんな恐ろしい出来事を伝えた。
「…全滅…?」
「…はい…もう後は無いです…。後…巳間晴香という人物について…。」
「…知っているの、彼女を?」
「…私は知りません…しかし…里村様は…彼女は信頼できる人物だと…。」
「…そう。わかった。里村によろしく伝えておいて。」
「…了解です。」
 そう言うと彼女は懐を探って紙切れを取り出し、私に手渡した。
「…お米券…進呈です…。」
「…?これは…?」
「…高野山特製の物です…きっとお役に立ちます…。」
「…じゃあ、もらっておく。」
「…(ぽ)。それでは…ご武運を…。」
 彼女は去っていった。しかし…遠野美凪…彼女はなにか懐かしい感じがする…。
そう、まるで佐祐理のような…佐祐理…私は…。
160保科智子:2000/12/07(木) 14:18
「それじゃ……由綺はやっぱりいないんだ」
 河島はるかは、全く表情を変えずにつぶやいた。
「そういう事や。ま、誰かのいたずらやろな。……しかし……」
 犯人は、少なくとも私とこの河島、そして森川由綺を知っている人物という事になる。
「あんた、知り合いでこういう悪趣味な事やる奴に心当たりないか?」
「さあ」
 すっとぼけた調子で、それだけ言う。
(つかみ所のない奴やな……)
 内心辟易しながら、私はふと気になった事を訊いた。
「で、あんたはこの後どうするんや? 七瀬さんや藤井さんを捜すんか?」
「そうするつもり」
「そうか。まあ気ぃつけ。何かあったら、ここに来てええから」
「うん、ありがと」
 あっさりと答え、席を立ち、そして思い出したように言いだした。
「あ、そうだ。ここって売店ある?」
「……売店は無い。けど、生活必需品や食料なら分けてあげてもええよ」
「じゃ、ポカリ」
「……それだけでええの?」
「うん」
「じゃ、ロビーで待っとき。届けさせてあげるから」
「わかった。ありがとね」

 私は具合が良くなったらしい雛山さんに、院内電話をかけた。
『はい。こちら雛山ですけど』
「保科や。悪いけど、ロビーにいる女にポカリ届けてやってくれへん?」
『ポカリスエットですか? わかりました……え? 藍原さんどうしたの?』
 受話器の向こうがにわかに騒がしくなり、続けて藍原さんの慌てた声が耳に飛び込んできた。
『大変です! 瑠璃子さんの石像が砕けてて、新城さんの脈が――』
「何や、落ち着き! ちっとも聞こえ……」
 カチャ
『申し訳ない、そちらは○市総合病院?」
 何かが切り替わる音と共に、聞いた事の無い女の声が届く。外部電話を優先で受信する機能が働いたのだろう。
 何なんや、もう!
「そうや、こっちは総合病院! ちなみに今は患者は手一杯で受けつけてない――」
『いやいや、私は患者じゃない。清水なつきという者だが――』
 何やて、清水なつき!? わざわざ向こうから連絡してきてくれるとは!
「わわわ。エライ失礼しました! ちょっとこっちはたてこんどって――」
『別に気にしていない。ところで、高野について知りたいと聞いてこうして電話をしているのだが」
 タイミングは悪かったが、事態の突破口の一つが向こうから寄ってきてくれた。私は気を取り直し、
「そうです。お願いします――」
 そして彼女は、訥々と語りだした……
見かけた時は本当に驚いた。
じっくりと見て生き写しだと思った。
私のお兄ちゃんに……。

「ねえ、お兄ちゃん」

私はそう呼びかける。あの時と同じように。

「誰だ?」

当然の返答だったのに、どうしてか哀しい。
もう一度、呼びかける。

「浩平さん」
「うん? さっきお兄ちゃん≠ニか言わなかったか?」
「あははー。そんなこと言ってないよ」

そう微笑む。浩平さんは表向きは遊びに……ということだったけど、
昼間は方術の修行に勤しみ、夜はいくつもの難しい文献と格闘していた。
何が彼をそうさせるのか、私は興味を抱き始めていた。

「あのさ……」

私は思い切って訊いてみた。
それが彼にとって、どんな辛いことかも知らずに……。

「妹のためだよ」

たった一言だけ、彼は呟いた。
その一言で充分だった。私は自分の浅はかさを思い知った。
そして、妹のためだよ、と言った彼に、私は死んだ兄の面影を重ねていた。

私のお兄ちゃんは優しい人だった。
いつも私のため、私のためにと頑張っていたのを今でも覚えている。
私を庇って死んでいった、あの時でさえも……。

「妹とか……そんなことに……こだわらないでよ……」

何を言っているのだろう、と思いながらも、言葉は止まらなかった。

「お兄ちゃんは、私より大切な人が居るんでしょう? だったらその人のために生きてよ!
 その人のために生きなさいよ! 私は……そうして欲しいよ、そうして…欲しかったんだよ……」

八つ当たりだった。そんなこと分かっていた。
今まで胸につかえていた『もやもや』をお兄ちゃんに似ている彼に言って気を晴らしたかったのだ。
本当は顔なんて似てなかった。声も。性格も。髪型も。なにもかも違っていた。
妹のために……という雰囲気を除いては。

私はなんてひどい妹だろう?
お兄ちゃんのこと好きだった…大好きだったから……。
本当は、「ありがとう、お兄ちゃん」って言いたかっただけなのに……。
胸の中で冷たくなっていく、お兄ちゃんを見ていることしか出来なかったから……。

浩平さんは私を見ていた。
場を支配するのは沈黙。何か言いたそうに浩平さんは私を見つめる。
そして、彼の口が開いた……瞬間の出来事だった。
唐突に、それは訪れた。

「浩平っ! みさおちゃんが……みさおちゃんが……」

夏の日差し。木漏れ日が輝く。
耐え切れない悲しみが静かな森の中を包み込む。

浩平さんは、ただ呆然と立っていった。
162スフィー:2000/12/07(木) 18:18
 彼の地から25キロほど離れたペンションにて。
 俺は藤井冬弥と七瀬彰のお二方を連れてチェックインした。
 そして、夕食を済ませて、彼らにどう話を切り出そうかと考えていると、保科から連絡
がきた。
 なんでも、逝っちまってる筈の森川に呼ばれた女が一人、このお二方を探していると
いう。
 やれやれ。またキティガイが増えやがったか……。話はますます悪化しやがる一方だ。 まあいい。とにかくこちらに来るように連絡しておいたが……妙な気がする。

 さて、お二方の願望とは当然、その森川と、七瀬が入れ込んでいる澤倉美咲という女
の復活だ。しかし、個人的な願望で、しかも仮にも自分らの過失が招いた事態だろうと
いいたくなるところだ。が、いかんせんその影響で森川に付いていたマネージャーだっ
た篠塚弥生という女が半妖になっちまったので看過はできない。
 それになにより、この依頼は――あの長瀬の親父と高倉の姉貴からなのだ。断るわけ
にもいかない。
 とりあえず、問題は二点。

 第一に蘇らせる相手の、森川と澤倉のお二方の魂の安定状況だ。
 話を聞いた限りでは、両者とも逝ってから1年少ししか経過していない。
 だが、蘇生には少なくとも魂を5年を置いておき、安定させる必要があるのだ。
(厳密にいえば15年の年月を必要とするが、それはあくまで一般的な場合。七瀬や藤井
、さらには篠塚みたくに亡者への思念(というより未練)の強さによっては、短くなる
ケースがある)
 ただ、亡者の精神が安定しないままで蘇生を行うと、思わしくない結果になる可能性
が高い。よくて、蘇生呪術の失敗、最悪の場合は呪術によってこの世の因果律が崩壊し
て、世界が崩壊するということもありえる。しかも、仮に成功したとしても、余計な浮
遊霊や土着神、さらには悪霊が魂に付着して蘇生してしまうという大きいリスクもある。 野郎二人の思念が強いとはいえ、やはり5年は必要だろう(過去の例を参照して)。
 ただ……こんな場が不安定なかの地でやれば、蘇生が成功する可能性はなきにしもあ
らずだが……やはりリスクが極めて高いものになりそうだ。

 第二に、蘇生後の話だが、死んだときの状況が状況だけに関係がぎくしゃくするのは
目に見えている。
 藤井は森川と相思相愛だが、問題は澤倉が藤井に入れ込んでおり、その澤倉に七瀬が
入れ込んでいるということだ。挙句に果てには澤倉が藤井に相手にされなくて自殺して
しまったというのだからな。しかも七瀬はそんな藤井と森川を恨みの対象にしちまって
るからな……。まったくもって始末が悪い。
 それに、蘇生に澤倉が同意するかということも大きな問題だ。

 とにかく、蘇生するまでの間、(場合によってはかの地で蘇生を行ってから)5年の
間は彼ら4人を互いに会わさないようにしておこう。全員、海外の僻地に住んでもらっ
て、その間に冷静に自分の好みの相手について考えていただくことにしよう。
 恨みは長い年月を経ると、忘れ去るとも言うし……。
 とにかく、彼らには冷却期間が必要だろう。

 そしてなにより……彼らにはきっちり働いてもらわなくてはいけないからな……。
 今回の蘇生でかかる費用は見積もって34億8千万円。
 きっちり働けば、少なくとも5年で償還できる額だ。
 そう、死ぬ気できっちり働けばね(にやそ)。
 とにかく、仕事としてはタコ部屋から、原発の作業員、さらには麻薬や武器の密輸に
スパイ活動……もちろん芸能活動も……仕事はきっちり斡旋してやるから、まずは安心
だろう(藁)。

 P.S.今、高野が襲撃されたというニュースを部屋のテレビで見ている。
   しかし、ひどい状況だな。いったい誰がやったのやら(藁)。
  (ただ、蘇生活動を行うになれば、とんでもない障害になるには間違いないのだが)
163長岡志保:2000/12/08(金) 01:34
これは私への“罰”なのだろうか……
あれ以来、ヒロの様子は徐々におかしくなっていった。
いや、経過日数から言えば、急速に、というべきだろう。
幼児退行……もちろん、私に正確な病名なんてわかるわけないけど、どうも、そういう言葉が
ピッタリと当てはまりそうな状態だ。
無邪気に、私に懐いてくれている……でも、こんなの、ヒロじゃない。
でも……私だけを頼ってくれる……私だけに笑いかけてくれる……
放したくない、私だけのヒロを……

膝枕の上で安らかな寝息をたてるヒロを見て、ぼんやりとしていた時の事だった。
あたりの気配が一瞬にして変わり、濃い瘴気が立ち込める。
……化け物!? 妖狐じゃない……もっと低級の妖怪だ。
それでも、私には手に余る。逃げなきゃ……ヒロを守らなきゃ……
ヒロを背負って走り出す。力の抜け切った体がこんなに重いなんて……
直ぐに息があがりだす……けれども、止まれない。止まるわけにはいかない。
実際に逃げていた時間は、どのくらいだったのだろう。
長い間走り続けていた気もするし、ほんの一瞬だったような気もする。
私はヒロと一緒に、化け物に吹き飛ばされていた。
……ごめん、ヒロ……私……
意識が遠退きかけた瞬間……私とヒロは、誰かの手によって、抱きとめられていた。

『ごめんねえ、おそくなっちゃって』
この声、この自信に満ち溢れた声!何度も、何度も真似をした!
振り返った私の目に映ったその顔は、紛れも無く……
「来栖川綾香!」
……なんで……あんたが生きてんのよ!
『ちょ〜っと待っててねえ、この化け物を片付けるから』
そう言って、私たちを地面に寝かせたと思うと、文字通り、一瞬にして化け物を蹴散らした。
「死人は死人らしくしてなさいよね……」
『ごめんねえ、私、死んだくらいじゃ浩之のこと、諦められないから♪』
皮肉を皮肉で返す、妙に能天気な声に安心したのだろうか。私は意識を失っていった。

……ヒロは渡さないんだから。
164天野美汐:2000/12/08(金) 04:02
目が覚めた。久しぶりに気持ちの良い朝だ。
鬼との闘いでの傷も癒え、体力も完全回復した。少しウォームアップすれば
直ぐにでも全力で戦うことが可能だ。全く…いつもながら茜の回復術には驚かされる。

ところで…気になるのはあの夢だ。恐らくは神奈の古い記憶なのだろう。
舞台はかなり昔。若い男と女が出てきた。そして妖狐、更には別の神人まで…
断片的なので理解し難い。宗派の歴史をもっと習っておけば理解できたのだろうが。
問題は内容でなく、そんな夢を見たことだ。今までこの様な夢を見たことはなかった。
神奈の記憶がわたしの中に流れる…心への侵食かもしれないが、どうも様子が違う。
呪詛のせいで、神奈は完全に自我を喪失していると思われていたがそうでないのかもしれない。
まあ、それなら好都合だ。用は必要なときに力を放出してくれさえすれば、それで問題無い。
負のことは…考えても仕方ないな。

表へ出て、軽く体を動かす。いい気分も、周りの陰鬱な景色、気配によって直ぐに消え去った。
二人の法術僧が居た。見覚えはあるが名前は知らない。…わたしに何か用?…そう訊ねる。
話によると二人はわたしのサポートに来たとのこと。嘗められた物だな。…そんな物必要な……
言おうとして気付く。わたし鬼に負けたじゃん。それで代わりにこう言った。…よろしく…
男のほう(住井といった)は、飄々とした印象を受けた。が、その実力はなかなかの物だろう。
上手く隠した物だ。女(柚木という)は、何故か不機嫌だ。理由は分からない。
そう言えば茜は何処へ行ったのだろう。聞いてみると、総本山に急用があって向かったらしい。

現在の一番の障壁は鬼だ。九尾を封じようと動く際、尤も厄介な障害となる。
致し方ないので、ここは高位法術僧を何人か集め、対鬼用の法術でも唱えて貰うとしよう。
他には…天沢郁未がいるが、彼奴は健在なのかわたしには分からない。
茜が何事もなく戻ってきたので、彼奴はやられたと判断して間違いないであろう。
では対鬼用の法術僧でも集めるか…そんなことを考えていると誰かが来た。
鬼だった。しかも二体!
全く気配を感じなかった。……というより殺気を放出していない。どういうことだ…
つい先程闘った、男の鬼が話しかけてきた…
……
そうか。わたしは抹殺対象にあるのか…
鬼の話を聞いていた柚木がたまらず会話に入ってきて、結果総本山の意向を聞くこととなった。
無理もない。安全装置の取れた爆弾を放っておくような行為、普通ならするはずがない。
大僧正の慈悲とはいえ、やはり高位僧の中にはその決定を許せない者はいるだろう。
けれどわたしは死ぬつもりはない。大僧正が封じている間は、侵食されている気配はないから。
茜はそれに抗議するために行ったのか…わたしの為に…
感動に浸っているわたしに、鬼が更なる情報を告げた。曰く、総本山での大事件。
大僧正が未だ残っていた僧達を皆殺しにしたという。わたしは耳を疑った。訳が分からない。
とにかく茜が心配だ。けれどここを動くには忍びない。九尾の覚醒。今のところその気配はないが
いつ覚醒するやもしれない。ここは住井と柚木の二人に頼もう。
くっ。友一人助けられないとは…無力感に苛まれる。無事でいて、茜…
今になって思う。
夢のような日々だった。
それがついさっきまでの現実だった。

「やっぱり、浩平にはしっかりした人が必要だよ」
「今の話題から、なんでそうなるんだよ?」

朝起きるといつものように朝寝坊な幼馴染みを起こしに行って。
学校に着いたら宿題を忘れたからと私のを取っていく。
そのことをみさおちゃんに話して浩平が笑う。
みさおちゃんが「ごめんね」と苦笑する。
私は溜息を付く。

そんな日常が確かにあったのに……。
今は、その思い出にしがみついているだけだった。

みさおちゃんのお葬式は滞りなく終了した。

浩平はどこを見ているのか視線は虚空を彷徨っていた。
私は声を掛けることも出来なかった。

一日…二日…三日…。
流れるように時間は過ぎていく。
止まらないのだ。
いつも刻は移ろうものだから。
永遠なんてないから。

私は浩平の家をずっと見ていた、
二階にある浩平の部屋の窓をずっと見つめていた。
時折、窓に小石を投げてみた。
こん、と小さな音だけを立てて地面に落ちていく。
ただ、それだけ……。

暑い日々が続いた、
浩平は今も家から出てこない。
部屋からさえも一歩も出ていない様子だった。

「どうして…こんなことになちゃったんだろう……?」

幸せだった。
ずっとその幸せの中にいられるのだと思っていた。
浩平の悪戯に頬を膨らませることだって、それは小さな幸せの欠片だった。
失った今、それに気づく。

ある朝の一時。
私はふと言葉する。いつものように。日常のように。
声は弾む。まっすぐに大切な人を見つめて。

「ねえ、浩平。知ってる?」
「なんを?」

私の心の中に貴方がいます。

いつからだったかなんて分からないけど、それは日に日に大きくなって……。
それでも、変わらない二人でいられたらいいね……。

いっぱい集めたい。
宝石みたいな煌めきなんていらない。
ビー玉のような懐かしい輝きがあればいい。

それだけで、私は幸せだったんだから。

そうだよね、浩平……。

「浩平……?」

誰だったろう。それは誰だったんだろう。
あの時にまして虚ろな瞳。生気の無い白い顔。それにうわ言のように呟く言葉の羅列……。

「…駄目だった。みちるも…奪われた…あと…何がある…何をすればいい…?
 みさお…みさお…お兄ちゃんは…どうしたら…もう一度…お前に会える…?
 そうだな…あれがあったな…そうだ…今度は…茜に…協力してもらおう…。
 七瀬にも…手伝って貰おう…みさお…会えるから…お兄ちゃんが…みさおを…」

私は背筋に冷たいものが走るのを、ぼんやりとした感覚として受け止めていた。

「お兄ちゃんが…生き返らしてやるからな…」

そのとき、私は悲鳴を上げていたのかもしれない。

浩平はそんな私を見向きもしないでどこかに歩いていった。
私は動くことも出来なかった。
あの時と同じように…。

でも……。
私はきっとそこに行くのだろう。
ううん、絶対に、そこに行くのだろう。

浩平が向かうその場所を目指して。

だって…まだ、きっと、大切な人だと思うから……。
私は浩平のことが大好きだから。
166小出由美子:2000/12/09(土) 03:16
 今日、山中の洞穴で興味深い文献を見つけた。
 難解な文字(というか記号)が羅列されているものだ。だが、私はあっさり読解した。
 かつて、「鬼」達が使っていた種族特有の文字に酷似していたからだ。
 内容はこうだ。
「ジローエモンと四姉妹は転生する。恐らくは、今は生きながらえているダリエリも。
 ダリエリは、ジローエモンの宿敵として転生するであろう。だが、人の身にあっては、覚醒が
 遅れるやも知れぬ。だが、無情なる狩猟者の血は必ずや多くの血を啜り、貪るであろう。
 三女のエディフェル、彼世においても禁を破るであろう。汚れた狐の血と交わり、
 邪悪な力を手中にせん。
 末女のリネット、母なるレザムに回帰せん。ヨークを慈しみ、愛情をそそぎ、
 その破滅の力を己がものにするであろう。
 長女と次女、呪われし運命に」

 ……ここから先は、引き裂かれた後が残っているばかりで読めない。
 ただ、「卑しき狐」「小兎たるべき小賢しき人間」「超常なる坊主ども」という単語が
 端々に見て取れる。意味は不明だ。
 だが、とりあえずこれを書いたのは鬼の一族である事は間違いない。
 転生後における死者達の運命を書き連ねた内容のようではあるが……
 いずれにせよ、研究の余地はある。
 極力自分で調べたいが、もう少し調べてお手上げなら智子ちゃんにも研究を手伝ってもらおう。
 まる。
「反魂の法? 正気ですか?」
「…わかりません」
「その術に協力して欲しいなんて…そんな酷なことはないでしょう……?」
「…そうですね」
「茜……あなた、本当は……」
「そうでもないです。もう…行きます…。彼が待っていますから…」
「大僧正様に報告しますよ?」
「…構いません」

そう言うと茜は踵を返した。
例え茜の頼みだとしても、私が協力しないことは分かっていたはずだ。
それなのに、どうして、茜は私に声を掛けたのだろう…?

答えは一つだった。茜は私に止められたがっている。
茜は自分の凶行をよく知っている。だから…私に話したのだろう。

折原浩平。あの茜に、そこまでさせるなんて一体どんな人物なのだろう?
この前、会ったときは挨拶程度しかしなかったので、彼の記憶はあまりに希薄だ。

「それにしても…反魂の法ですか…」

術の体系としては確かに出来上がっている。
でも、成功例は、ゼロだった。つまり、今まで成功した試しなど無い術なのだ。

茜もそのことは充分承知だろう。
成功するはずも無い術を彼女は使おうとしている。
そして、あの術の反動は、術者の命をも奪う、禁断の秘術。
茜は無事ではいられない。でも、だからって茜が私に声を掛けたのは、そうだから、ではないだろう。
彼女は自分よりも、彼を止めて欲しいのだ。自分には何も出来ないから……。

「こんなことは初めてですね…」

茜が誰かを頼るなんて。
私にだって今まで頼み事なんてしなかったのに。
強くて弱い子…。

私と同じかな……?
そんなところが互いを惹き付け合ったのかもしれない。
でも、今は、そんなことを考えているひまはない。

私は本殿の方に向かった。この事を彼女に告げるために。
しかし外に出て目にする。山を覆う純白の光を。何かが起こっている。
私はそれを見て身体に震えが疾った。次の瞬間には、私はあの子の許に走っていた。

「ごめんね、茜…」

誰よりも、大切だった人に謝罪を述べながら……。
そして、その結末は、悲しいものでしかないとは知らないままに……。

「妖弧?」

私が向かったその先から凄まじい妖気。それは、あの子の全身から迸っていた。

「そんな…嘘です…。そんなの…嘘ですよ……」

八本の尾。その子の身体を包むように金色の尻尾が生えていた。
小さな女の子の姿となって……。

「破っ!」

私は素早く印を切っていた。それこそ無我夢中に。
大気が弾ける。彼女の足元に。すぐ側にある木々に。

「雷よ!」

それも、また霧散する。
泣いて何かいないと言い聞かせて私は何度も印を結ぶ。
でも、駄目だった。記憶があった。あの子と遊んでいた記憶。大切な思い出。

妖弧は高野の宿敵なのに。
私はそのために術を磨いてきたのに。
妖弧に殺された両親の敵を討つために励んできたのに。

「霊・動・天・牙――滅っ!」

今の私に出来る最高の印を結ぶが……発動しなかった。
もう一度、試すが同じことだった。

「高野の娘よ」

あの子が言う。驚くほど冷たい声で。

「その程度か? 昔に比べて質が落ちたようだな」

胸が苦しい。動悸が加速する。
私は何も出来なかった、あの時と同じように……。

いや、違う!

私は…私は……あの子の思い出が私の手を止めているなら――忘れる。
彼女との思い出も。温もりも。すべて……忘れる。
残るのはあの子に対する憎しみのみ!

「霊! 動! 天! 牙! 滅!」

空が割れた。天空すらも貫く波動。雷光が煌めく。
それすらも……彼女は涼しげに受け止めて見せた。

「傷を癒した霊に助けてやろう。私も目覚めたばかりで力が上手く扱えぬ。
 さて、今暫しは眠りにつくか……しかしその前に、我が古の尾を返してもらうぞ」

彼女は光の矢となって私の前から姿を消した。
そして、私は倒れ込む。術に身体が耐えられなかったのだ。

目が覚めると、私は何かを忘れていた。
それにつれ、私の中で何かが変わっていった。

それが何だったのか分からないまま、時は流れていった。
今、この瞬間すらも。負≠フ力をその身に受けながら……。
168名無しさんだよもん:2000/12/09(土) 21:18
ゲ。
ァ。
169名無しさんだよもん:2000/12/09(土) 22:58
「くうぅ! 神奈をゲットしたはいいが、呪いの被害が!」
「美凪司令! 敵が翼人ユニットを手に入れました! MAP兵器の危険が!?」
「そんな貴方にはお米券を進呈します」
「あの……司令?」
「くくく……馬鹿め! さらに、こちらには虎の子のエルクゥユニットがある!」
2001年冬、発売。

……だったらいいな。
170巳間晴香:2000/12/10(日) 04:49
 彼女…七瀬留美は青い髪の毛を2ヶ所赤いリボンで止めていた。力ある妖孤の印、
ツインテール。あたしは彼女を取り巻く妖気に気圧されつつも、精一杯虚勢を張りながら
彼女に向き合った。
「あなた…七瀬留美さんね?」
「そうよ。そう言うあなたは巳間晴香さんね。…今は敵の。」
 彼女があたしの今の状況を知り尽くしている事は明らかだった。
「何を驚いているのかしら…?郁未さんはお友達でしょう?」
 それはわかっていた…でも、郁未が何故あたしが敵に回った事を知っていたのかは
わかるはずもなかった。
「ふふっ。ねえ、提案なんだけど…晴香さん、あたし達に協力できない?あなたを殺すのは
少々惜しいからね。」
 彼女はそんな魅力的な事を言う。しかしあたしの答えは決まっていた。
「お誘いはありがたいけど…お断りするわ。」
「そう…残念だわ。」
 彼女はさして残念でもなさそうな口調でそう言うと、あたしに向かって飛びかかってきた。
171名無しさんだよもん:2000/12/10(日) 06:29
>>167
あの失礼ですが、この話は過去の話ですよね?
茜の話を思いついたのですが
もし茜が現在時間軸から居なくなったのであるなら
矛盾してしまう内容なので、その事を確認させて貰いたいです。
172名無しさんだよもん:2000/12/10(日) 10:59
>>171
カコ。かこ。思い切り過去の話です。

>もし茜が現在時間軸から居なくなったのであるなら

そ、そんな無茶なこと出来ませんよぅ。
173里村茜:2000/12/11(月) 03:27
今私は何故か留置場の中。参考人の扱いにしては、ちょっと酷いと思う…
しかし一体誰の仕業なのであろうか…僧兵達を全滅させる必要性を持つ者…
警察は大僧正を追っている。事件当時其処に居て、現在行方が分からないのだから当然だけど。
けれど僧兵達の死因は銃殺。私の知る限り、総本山に銃火器の類は無い筈のなのに。
また銃創からして簡単に手に入る銃でないことが分かった。少なくとも40口径以上、日本の警官の銃は38口径。
それに手口もただ者ではない。大多数が現地に向かったとはいえ、40人からの僧は居た。
全員が眉間と心臓を打ち抜かれている。このやり口からすると、特殊部隊クラスの経験を積んだ人間だと思うけど…
まあ私はこういうのに詳しくない。気になるが、それより今は先に考えるべき事がある。大僧正のこと…

総本山に戻り、会見した大僧正は間違いなく別人だった。外見は同じだが発しているる気が明らかに違う。
私に見破られることは予期していたのだろう。隠す様子もなく話しかけてきた。八百比丘尼と名乗って…
彼女は恨んでいた。九尾を、高野を、そして柳也という男を、裏葉という女を…
八百比丘尼…神人・神奈の母を自称したその存在は、続けてとんでも無いことを口にした。
曰く…彼ら全てに等しく亡びを…
理由を聞かずには居れなかった。九尾に対する恨みは分かるが、他の者へは何故なのか…意外にもそれに答える。
神奈をかどわせた九尾の娘裏葉と人間柳也。彼女を封じた高野。…事情は複雑のようだ。
私が学んだ歴史は九尾と神奈しか出てこなかった。隠蔽されていたのね。でも何故…
そんなことを考えていると、更に恐ろしいことを話し出した。…目的のためならば、水瀬秋子を乗っ取ることも厭わない…
名前を聞いて驚く。未だ存在していたのか、水瀬秋子…
日本史史上最大の力を持った邪術士。元は日本の陰陽道に於ける開祖であり、陰陽術の全ては彼女が創造した。
しかし突如として邪なる存在と化す。恐れた陰陽道士、そして当時出来たばかりの我が宗派の法術士が封印を試みた。
けれど全く太刀打ちできない。それも当然。全ての業は彼女が創り上げたのだから…
そこで我が宗派はある力を用いてその封を為し得たという。…今分かった。その力は神人・八百比丘尼。
当時の全法術士達と、神人の力を用いてやっと封印できたような化け物。そんなモノを解放するわけにはいかない。
私は直ぐに詠唱を始めた。禁忌法術ブラフマーストラを使うときが…駄目だ。
ブラフマーストラは術者の周囲に重力結界をつくり、其処に存在する物体を原子レベルにまで崩壊させる。
物質である以上回避は出来ない。確実に存在を抹消させてしまう業。詠唱時間は短く、精神力もさほど使わない。
だがこの業、敵味方お構いなしにその威力を発揮してしまう。使用に対しては十分に注意する必要がある…
そう、乗っ取られているとはいえあれは大僧正の体。こんな業は使えない。
その隙に大僧正、いや八百比丘尼は逃げた。それを追って私も駆け出す…

結局見失い、仕方なしに総本山に戻ったとき、あの惨劇を目の当たりにする。
其処へ何故か警察が現れる…事件を起こした者が通報したのだろうか。そうだとしたら大した自信だ。
振り切って逃げれば良かったが、その暇もなかったので取り敢えずついていった、いや捕まった。

八百比丘尼…本当にあの化け物を乗っ取るつもりなのだろうか。今考えてみると伝承では、水瀬秋子の力自体を
封じたとされている。つまり今の状態ではかつてほどの力は無い筈だけど…伝承も信頼できない。
でもこの状況なら、美汐への抹殺指令も取り消されるでしょう。目的は果たせた…?
174巳間晴香:2000/12/12(火) 02:54
 あたしは彼女に向かって力を解放した。その力は彼女を捕らえ、戦闘不能にするはずだった。
しかし…彼女が手をかざすと、その力はいとも容易く消滅してしまった。予想していた事だけど、
あたしは彼女の力に正直、驚いていた。
「晴香さん…きついご挨拶ね。今度はこちらから行かせてもらうわね。」
 彼女がそう言った途端、姿が掻き消えた。あたしは反射的に目の前に倒れこむように
身体を伏せた。その直後、あたしの上を灼熱の炎が通りぬけていった。危なかった…。
あたしはクラウチングスタートの要領で地面を蹴ると、彼女と間合いを取って向き合った。
「結構やるみたいね…でも、晴香さん、あなたもう楽には死ねないわよ。」
 彼女は両手の拳に炎を宿すと不敵に微笑んだ。
「拳に狐火を宿して相手を確実に焼き尽くす…乙女にしかなせない技…あなた、受けてみる?」
 彼女は今度は真正面からあたしに突っ込んできた。彼女の炎をまとった拳があたしに向かって
繰り出された。避けられない…そう判断したあたしは力を腕に集中して防ごうとした。
 ガツッ…何とかしのいだと思った途端、あたしの腕が炎に包まれた。
「…!、きゃあああぁぁっ。」
 あたしは地面を転がって腕に着いた炎を消そうとした。しかし炎は勢いを弱めず、あたしが
力を炎に向かって炸裂させると、ようやくそれは消えた。
「普通の火と同じように考えない事ね。さて…晴香さんはどこまで耐えられるかしらね?」
 彼女はまた正面から突っ込んできた。正面からでもあたしを捉えられると判断したのだろう。
その判断は悔しい事に正しかった。あたしには彼女の動きはほとんど見えなかった。
175清水なつき:2000/12/12(火) 03:45
 ――お兄ちゃん――。

 必要な事を一通り終えて、一段落した後――神尾晴子や橘敬介との酒を入れながらの雑談にて。
 晴子の口からぽろりと出たその言葉。

『居候が観鈴のお兄ちゃんやったらって? どーやろな……』

 何気ない「娘」についての話の中で出たその言葉。
 耳にした途端、大きく胸が張り裂けそうになる。
 そしていてもたってもいられなくなる。冷静さが欠けてきて、興奮してきたのだ。
 たまらなく、私はベランダに出た。
 夜遅くという事もあり、幾分か涼しくなっている。しばらく頭を冷やすとしよう。
(二人は私のそんな行動を訝しんでいたが、んな事は今は知った事ではない)
 煙草を口にくわえて火を付ける。そして、ぼんやりと夜空を見上げる――。

 思えば、兄という存在にずっと縛られてきたと思う。
 実の兄が私をかばって死んだ時も、全く関係の無い折原浩平という男を兄と思い込み慕った時も、
そしてカンボジアに渡った今も――。
 そう、未だに私は『兄の存在をひきずる妹』なのだ。
 人間は必ず死ぬ。死んでしまった時点で、その存在は無に帰してしまう。
 故に本来なら既存の存在は一刻も早く、無に帰した者を一刻も早く消し去ってしまうべきなのだ。
 『思い出』という領域から――。
 だが、出来ない。いくらそう意識しても無理なのだ。
 いまだに心が囚われているのだろうか――兄のいる『えいえんにせかい』に――。

 私はかつて『えいえんのせかい』に関与した事があった。
 もともと、その世界に干渉する能力があったというせいもあった。
 高野での不条理に負けて、現世に一時絶望してしまったせいもあった。
 が、最大の要因は、兄へのあこがれだった。亡者である兄に逢いたいという思いが強かったのだ。
 そうして、私は『えいえんのせかい』に渡った。そして一時期、そこの管理人を任された。
 そこでは、兄が亡くなったが為に出来なかった事がなんでもできるようになった。
 そして楽しかった。思い切り楽しかった。
 だが――それだけだったのだ。
 自分の囚われた心を満たすだけで、変化が無く、進展も無い世界――。
 そして、無力であるという自分から逃れる為の言い訳にしか過ぎない世界――。
 ――所詮は仮初めの、単なる虚構だったのだ。

 自己満足を満たすだけでは何も生み出さない。せいぜい腐っていくのが関の山――。
 停滞の中では何も生み出さない。
 変化があってこそ、生み出すものや得るものがあるのではないだろうか?
 そう思うと、現実の方がマシなように思えた。いや、現世に戻らねばいけないと思った。

 管理人仲間だった氷上シュンや折原みさおが惜しむ中、結局私は『えいえんのせかい』を去った。
 その管理人としての力は、その際に永久封印しておこうと心に決めた。
 そして、「生み出すものや得るもの」を求めて世界を回る事にしたのだ――。
176清水なつき(続き):2000/12/12(火) 03:46
 さて、長々とした講釈はここまでにしておこう。
 とにかく、今回の騒ぎで絶対に避けたいのは『因果律の崩壊』である。
 もし因果律が崩壊すれば、現世と他の次元との境目が曖昧になってくることが考えられる。
 となれば、他の次元の因果律が現世に干渉してくる恐れがある。
 そうなると、とりかえしがつかなくなり、最悪の場合は人類を含む現世の存在すべての形態ががら
りと変わり果てることにもなりかねない。
 今の時点で絶対に防いでおくべき事柄は二つ――
 『八百比丘尼の暴走』と『天野、沢渡および水瀬の死亡』だ。
 もし、これらのうちでいずれかの事が発生する事に成れば、因果律の崩壊は免れないだろう――。

 とにかく、先程保科には高野の僧兵のデータや内部事情を伝えた際に警告しておいた。
 さらに私は下記のような文句をも伝えておいた。

  Look outside. And pay attention to the basics.

 英語であるのもなんだが、意味合い的には日本語よりも伝わると(私は)信じている。
 さて、保科がどのように意味を受け取り、その上でいかに行動をどのようにとるか。
 大いに楽しみだ。

 あと、今し方岡田から連絡があった。無事にものみの丘への潜入に成功したという。
 私が『えいえんのせかい』から出た時に、高野時代の弟子の吉井のよしみで面倒を見てやった事が
あったのだ。妖狐の、しかもツインテールだがそんな事は私の知った事ではない。
 現実を的確に把握し、妖怪というこだわりに囚われず、常に合理的でいる彼女を私は大いに気に
入っていた。(ただ、性格がひねくれていたもので扱うのに結構苦労はしたが)
 一昨日、沢渡からに誘いが掛かっている事や、吉井とその友人の松本が人質に取られそうになって
いる事、そして自分は一体どうすればいいのかという相談を電話で持ち掛けてきた。
 今の時点では、奴等に吉井らの居所は知れている事や、今逆らうのは吉井らに止まらず岡田自身も
非常に危険だという事から、一応は招集に応じておき、隙をうかがって反撃に移すのが合理的な判断
だと伝えておいた。
 岡田自身は自分の存在を汚らわしいものだと思っていて、最初こそ参戦に難色を示していた。
 最終的にはそれに彼女は合意した。今の時点ではそれが合理的な判断と言えよう。
 とにかく、私はその際に以下の頼み事をしておいた。
 第一にものみの丘の埋蔵物の有無を確かめる事、第二にもし埋蔵物が存在すればどのようなものか
をおおざっぱでいいから調べる事、第三に妖狐の勢力関係はどうなっているかを調べる事の3点だ。
 彼女はその依頼に了承した。(なお、それなりの見返りははずんでやるつもりだ)
 ただ、あまり埋蔵物に関しては掘り出したりするなという事と銃器などの備えをしておけという
警告もしておいた。念には念を押しておいた方がいいだろう。

 その後、保科に岡田の事を伝えておく。
 彼女に関しては打ち合わせ済みなので、そちらに危害を加えない限りは手出し無用だと。
(もちろん、岡田にも保科の事は伝えてある)
 さらにリアンに吉井と松本の安全を確保しておいてくれと伝えておく。
 その30分後、彼女から現地にて二人を無事確保しておいたとの返事が来た。さすがは彼女だ。
 いい仕事をしていますね。
177語り風・保科智子:2000/12/12(火) 15:09
 病室の天窓から夜空を見上げ、智子はここ数日の出来事を反芻していた。
 ……目を閉じれば、浮かんで来るのは嫌な光景ばかりだからだ。
 顔中の穴から血を吹き出して死んだ月島拓也。砕け散った瑠璃子。唐突に脳死状態になった
 沙織。消息を絶った、事件に関わりがありそうなみどり……
 未だ昏睡状態の香奈子や祐介も、心配でならない。
 スフィーや由宇達が助けにくるのが待ち遠しくて仕方なかった。

Look outside. And pay attention to the basics.

 わかっているつもりだった。
 しかし初めて会話をした清水なつきにこれを言われ、智子は内心ドキッとした。
 何から何まで見抜いているのだろうか。恐ろしい女性だった。
 それから言われた通りに(リアンにも忠告されたが)対銃器用の装備を整え、何度か新しい武器を振り回した。
 とりあえず、明日の自分の仕事は岡田のバックアップと決めていた。瑞穂は、万一の時のためここに残していく事に決めていた。
 あと数時間もすればなつみが帰ってくるし、由宇も駆けつけてくれる。三人いれば、何とかなるだろう。

 ……智子はその後数時間を、訓練に費やした。

「何なの、あの光は!?」
 山全体を覆い尽くすように純白の光が迸っていた。
 あの方向は霊山・金剛峰寺の中でも神聖不可侵な場所――『八百比丘尼』塚のある方からだった、
 私は胸中で舌打ちした。天野からの知らせ(テレパシーのようなもの)を受けて由紀子さんには内密で動いていたのが仇になった。
 もう私たちの予想を遥かに上回る事態が起こっている。
「みさき、貴女はこの事を大僧正様に知らせて。なつきは水鏡湖に。私はあの$ホ塚に向かうわ」
 みさきは……いや、八百比丘尼のことを知る者は高野では由紀子さんと私となつきの三人だけだったから、一応、伏せておく。
 あの石塚の近くにある<霊力場>といったら、水鏡湖しかないので、なつきはすぐに頷いてくれた。けど……。
「嫌だよ。私も一緒に行くからね!」
 普段からは想像することも出来ないみさきの強張った声。
「駄目よ。みさきは方術を私やなつき以上に使える? 貴女は自分の身を守る術がないわ。それどころか私たちだってどこまでやれるか」
「――関係ないよ。あそこには浩平君がいるんだよ? それを知ってて背を向けることなんて出来ないよ」
「みさき…あなた……」
 いつの間に、こんなに強くなっていたのだろう? 私の知っているみさきは、食いしん坊で、ぼんやりしてて、見かけはお嬢様みたいなのに、いつだって能天気で……。
 そんなみさきを、私はずっと面倒みていたのに……そう思っていたのに、それは私の思い上がりだったみたいね。
 みさきは、私の友達なんだから。大切な友達なんだから。だから、お互いに支えあっていたんだね……。
「仕方ないわね……いいわ。私の負けよ」
「雪ちゃん」
「言っとくけど……命懸けよ?」
「うんっ。やってみるよ」
 あんたって子は……こんなときにも、そうやって笑えるんだから。
 そんな、貴女に私は支えられてきたのね。今、ようやく分かったわ。
「なつき。ごめん。そう言うことだから」
「…分かった。でも、本当に気をつけてね、二人とも」
「ええ。承知してるわ」
「ええと……きっと、大丈夫だよ」
 三人で顔を見合わせる。そして笑い合う。
「行くよ!」
 私の号令に合わせて三人は離散した。
次に会うときも、笑顔でありますようにと……。
 だけど、私は……。
 雪。この夏夜に雪が降っていた。
 これは異常気象なのではない。何かが起こる前触れなのだと私は知った。
「ここが……『八百比丘尼』の石塚……」
 気を研ぎ澄ませてみる。そこに感じる僅かな負の力。
 予想通り封印が甘くなっている。なんとか由紀子さんが来るまでは私がもたせないと。
「封呪・縛の陣!」
 今の私の力を持ってしても結界の綻びから漏れでる負を押さえ込むのが精一杯だった。
 翼人の力。あまりにも強い。まさか、これほどとは……。
『そう。これが翼人の力。それが人間の限界です』
 声が聞こえた。どうしてか意識が遠くなる。
『貴女もこの力@~しくはないですか?』
 力? この力を私に?
『そうです。すべてのものをひれ伏せさせる力をです。欲しいのでしょう?』
「そんな力…いらない」
 私が欲しかったのは……みさきの目を治す力だったから……。

 方術というものに興味を持ったのは本当に偶然だった。
 最初は、「へぇ〜、そんなことも出来るんだ」、程度のものだった。
 中国に伝わる気功のようなものだと思った。
 時が流れて、私の親友のみさきはある『事故』で視力を失おうとしていた。
 だから、やれることは、やってみようと思った。
 償い? 分からない……。
 でも、いつからだろう?
 大僧正の秘蔵っ子などと噂されるようになったのは。
 法力が上達するのは望むところだったし、辛い修行にだって耐えたと思う。
 体系の分からない病気と違って、みさきの双眼に気≠送り込むことは有効だった。
 このままなら、完全に……とまでは行かないけど、もう光を失うことはないほどの回復を見せた。
 私は嬉しかった。

 夢があった。舞台女優になるという夢が。
 みさきのことで少し遠回りしてしまったけど、きっと大丈夫。全部、上手くいく。
 私はそう信じていた。

『力を欲しなさい。その感情のままに』

 それは、ある舞台での出来事だった。方術と言うのはある意味残酷だった。
 紛れ込んだのは、何でもない妖魔に過ぎなかった。
 だけど、常人には、それはとてつもない畏怖の対象だった。
 私はそれを祓った。それだけだった……。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああーっ」

 悲鳴が交錯した。どうして?
 今、祓ったばかりじゃない。何を怖がっているの?
 視線は一箇所に集まっていた。
舞台中央にいる私に……。
それからのことは、よく思い出せない。

『人間などその程度です。欲しなさい力を。復讐を』
 復讐? その言葉を聞いて私は笑った。これ異常ないほど唇を歪めて。
「馬鹿にしないで!!」
 私は怒鳴っていた。
「復讐? ああそう。貴女はそれを果たしたいわけね? なら言ってあげるわ。良く聞きなさい! 翼人だって所詮その程度なのよ!
 私はこの力を身につけた事に後悔なんてない。みさきの目が治ることを考えたら、舞台のこともどうだっていい。
 この力がなかったら、あの舞台に居てくれた観客だって守れなかった。そりゃ悔しい思いもしたわ。でもね――」

『ねえ。雪ちゃん』
『まったく。仕方ないわね、あんたは』
『そうですね。川名さんも、ほどほどにしないといけませんよ』
『…私のワッフルまで、食べられるかと思いました』

思い出がある。幸せな記憶。
ここに来て得たもの、たくさんある。
どれも、大切な……。
「私は……私は貴女なんかには負けない!」
 私は印を組む。封縛の呪。誰も傷つかないでいいように。
「発っ!」
 術を放つ。でも、それは……。
『この精神力。このような者が現れるのを今まで待っていました。私の依代たるにふさわしい』
 身体が壊れるかと思うほど、歪んだ。胸が痛くなるほど、苦しくなった。
 そして、心が無くなるくらい、思いが霧散した。
『雪ちゃんのこと大嫌い』
『え?』
『私の保護者きどってるんでしょう? そういうの嫌いだよ。そうやって優越感に浸っていたんでしょう?』
『何を言ってるの、みさき……?』

『嫌いです』
『え? 天野…あなたまで?』
『偽善者なんですね。深山さんは』
『どうして? どうしてそんなこと言うの?』
『そうやって、いつまでも優等生を振舞っていれば良いんです』

『…嫌です』
『里村さん……?』
『貴女がいなければ次期大僧正候補は私だったのに』
『嘘よ。単なる噂よ。私にそんなのなれるわけ無いでしょう?』
『…嫌です。触らないで下さい』

『もう無理よ、貴女は』
『なつき、どうして?』
『だって、ここには、もう貴女を必要としている人は居ないんだよ?』
『そ、そんなの嘘よ』
『誰が嘘だって言ったの? 私? 違うわね。貴女でしょう?』

 なによ、これ? なんなのよ、いったい!?
 心が壊されていく。思い出が汚されていく。あの子の顔がよく見えない……。
「待ちなさいっ!」
 誰? もう私はここにはいらないんじゃなかったの?
 私のこと嫌いなんじゃないの?
「八百比丘尼! よくも私の可愛い娘に!!」
 由紀子さんだ……。
 そう。由紀子さんは、私たちのことを娘だと思ってくれてるんだよね。
「許しませんよ! 己の罪を憂いでおとなしく封印されなさい!!」
 由紀子さんが印を結ぶ。もう、大丈夫だ……。
 そう、私が思った時だった。

 由紀子さんのお腹から手が出ていた。真っ赤に濡れた女の子の手。
 生暖かい感触。その感覚。私の手から伝わっている。由紀子さんのお腹から出ているの……私の手だ。
「雪見…」
 由紀子さんの顔に広がる驚愕。でも、それはすぐに笑顔に変わる。
「私は大丈夫よ」
 そう言って、もう一度、印を結び直す。
「……封縛…翼…の……陣……」
 由紀子さんが唱え終わると、結界の修復が為される。
 そして、私の頭を撫でながら……。
「……強く……ありなさい……」
 そう言葉を残して、私の胸に倒れこんできた。
 それは、ほんの一瞬の出来事だった。
「―――――っ!!」
 私は何かを叫んでいた。
 それが何だったのか……良く思い出せなかった。

『強くありなさい』

 その言葉の意味も分からないままに。
 だけど、私の中に潜んだ邪悪な気は日に日に膨れ上がっていたのだ。
 いつしか心が蝕まれて……。

 翌年の月が満ちた最初の日……私は大僧正となっていた。
181巳間晴香:2000/12/13(水) 02:11
 あたしはその場から離れ、彼女があたしに攻撃しようとしたところを狙う事にした。
悔しいが今のあたしには他に対抗する手段は無かった。しかし…
「遅いわね、こっちよ。」
 彼女はそれでもあたしの目の前に現れ、その拳を振るった。今度はセーターをこがし、
肌を焼いた。
「はあ、はあ、くっ…これくらいで…。」
 そんな事を言ってはみたけれど、もうあたしの意識は途切れかけていた。
「まだそんな口をきけるのね。でも、これで終わりにしてあげるわ。」
 もうその攻撃を避ける事は出来なかった。あたしは覚悟を決めた。
「これで…止めよっ!」
 彼女の炎に包まれた拳が迫る…あたしは自分から前に出て彼女の腕を脇に挟んだ。
あたしの腕と脇腹が焼け、皮膚と髪の焦げる嫌な臭いが漂った。
「あ、あなた、そんな事するなんて…。」
 あたしはやけどによる激痛を懸命に耐えながら口を開いた。
「もう、あたしにはこうするしかなかったのよ…いくわよ…。」
 あたしは掌に力を発生させると、それを彼女のボディに叩きこみ炸裂させた。
その爆発が生み出した衝撃は彼女だけでなく、あたしの手の骨もくだいた。
 あたしは炎が消えたのを確かめると、倒れている彼女に近づき見下ろした。
「う…さすがね…肉を斬らせて骨を断つ…あたしの負けよ…。」
「……。」
 あたしは黙って彼女に向けて意識を集中させた。ばしゅう…そんな音と共に彼女の
ツインテールの片方が吹き飛び、消滅した。
「七瀬さん、これであなたの力の元は失われたわ。…さようなら。」
 あたしは止めを刺されずに呆然としている彼女を残し、脇腹をかばいながらその場を去った。
力を失った彼女がこの街でどうなるのか…そんな事を考えながら。
182名無しさんだよもん:2000/12/13(水) 19:45
すみません…僕が書いたところの妖狐、みんな字間違ってます。ごめんなさい。
183藍原瑞穂:2000/12/13(水) 22:27
 私は、すっかり混乱していた。
 沙織ちゃんは脳死状態、瑠璃子ちゃんは粉々、そして、祐介さんの脳波が急に正常に戻って……
 何が起きてるのか、さっぱりわからない。保科さんは明日高野山の牽制のため動くし、
 しばらくは、私と雛山さんで動かなくてはいけない。どうしろと言うんだろう……
 香奈子ちゃんはひどい状態だし、江藤さんは起きあがってるし……って、ええっ!?
「う……瑞穂……ちゃん?」
「え、江藤さん!? 意識戻ったんですか?」
「そう……みたいね。何か、色んな夢を見たわ……私、行かなくちゃ……」
 そう言って、ギプスをはめた足で床に立とうとし――
「だ、ダメですっ!」
「うっ!」
 江藤さんは、無様に転んだ。
「両足の骨が折れてるんです! 無理ですよ、歩くなんて!」
「じゃあ……あなたの白魔術で、何とかしてちょうだい……」
 地に伏したまま、苦しそうに呻く。
「あたしを、こんな格好にした相手が、弱ってるみたいなの……今度こそ、あたしの手で……」
「つ、ツインテールとまた戦うつもりなんて! ダメですッ!」
「う……それっ!」
 江藤さんが、折れていない方の手で無理に上半身を起こす。
「ねえ……お願い……あたしさ……夢で見たんだ……」
無理な格好で、無理に笑顔を作りながら言う。
「沙織ちゃんと瑠璃子ちゃんが……長瀬くんの心の中で戦ってさ……みどりさんは、
 人を思う心が災いして、逆恨みみたいな形で巨大な敵に向かっていって、死んで……」
 何を言ってるのかよくわからない。錯乱してしまったのだろうか?
「あたしもさ……寝てられる気分じゃなくて……さ……ねえ……お願いだよ……」
「で、できません……」
「そ……じゃあ、仕方ないね……」
 江藤さんが、ふうとため息をつく。
 そして、何を思ったのかドアに向かって這いずって行く。
「な、何やってるんですか!?」
「何って、あの……七瀬って……女と……ケリ……つけに……いく……のよ……」
 額に汗を浮かべながら、一語一語呻くように言う。
「え、江藤さん――」
「いっとくけど、ドアの鍵を閉めたら窓から落ちて行く。窓の鍵を閉めたら割って出て行くから」
 冗談には聞こえない。江藤さんは、多分本当にやるだろう。
「わかり……ました……」
「ホント?」
「ええ、一時的な肉体強化と痛覚の遮断、損傷した箇所の代わりに身体機能の補強をすれば、多分数分なら持つと思います……」
「やって」
 何のためらいも無く、江藤さん。
「ええ……ただ、白魔術はあくまで呪術。こんな無茶な魔術の施し方をしたら、もう二度と――」
「戦えなくなってもいいわ」
「わかりました、やります。ただし――」
 私は、ここだけははっきりと言った。
「絶対に、生きて帰ってきてくださいね」
184江藤結花:2000/12/15(金) 00:48
 感覚が無いというのは、あまりにも不便だった。
 感覚の無い両足はどこにあるかさえわからないし、まるで夢でもみているかのようだった。
 しかし、これは夢ではない。戦わなくてはいけないのだ。
 七瀬留美――あの女と、決着をつける。
 夢でみた情報にどこまで信憑性があるかどうかわからないが、少なくとももはや妖力を使う事はできまい。
 奴は確かに体術も長けてはいるが、あたしはその上を行っている自信がある。
 秒殺。瑞穂ちゃんの施術効果が残っているうちに叩く。それしかない。

 五分経過。まだ見つからない――

 どこだ。

 七分経過――

 まだ効果は持っている。が、そろそろまずいのではないか。

 九……

「見つけたっ!」

 あたしは、感覚の無い両足で疾駆した。
 七瀬が、あたしの姿を見て驚く。その必然的好機を逃さず、あたしは全力のハイキックを叩き込んだ。
「ぐあっ!?」
 狙い通り。蹴りは、奴の側頭部をまともに捕らえ、勢い良く横手のガードレールに叩きつけた。
「き、貴様っ……!」
「問答無用!」
 あたしは、膝をつき頭を抑えて呻く奴に、真空かかと落としを仕掛けた。
 ――が、そうそう全てが上手くはいかない。
「なめる……なッ!」
 奴は反射的に両腕をクロスさせ、あたしの全体重の乗った右足を受け止め、転がるようにして後方へ滑りよけた。
「殺す!」
 七瀬は、どこからか一本の刀を抜いた。刃が鈍く光る、いかにも業物といった一刀だ。
「素性の知れぬ妖しの刀ゆえ、沢渡様から使用を禁じられていたが、貴様だけは許さん!」
 ちっ! まずい……!
 七瀬は低く腰を落とし、駆け抜け様の一閃でこちらを仕留める構えだ。
 腕の一本や二本なら今更構わないが、胴を手ひどく斬られれば終わりだろう。
 逆にこちらから反撃の一蹴を浴びせる事もできるかもしれないが、一撃必殺にはなるまい。
 終わりか!?
「今更命乞いはきかないわよッ!」
 七瀬が、強く後足を踏み切ってこちらに向けて踏み込んでくる。
 その瞬間、あたしにあるアイデアが浮かんだ。
 七瀬が般若の形相で間合いに入る。奴の右手が残像を残した瞬間、あたしも動いた。
 これしか――ない!
「…………何だとッ!?」
 奴が、驚愕におののく。
 あたしは、切り札の右足で下薙ぎの奴の一閃を止めたのだ。
 あたしの右足が舞った瞬間。あたしは七瀬に肩からぶつかる。
「ぐっ!?」
 隙を突かれ、奴は刀を手放し――
 次の瞬間、それを手にしたあたしに真っ二つにされていた。
「ざ――」
 全身が二分される瞬間、奴はうわごとのように泡だった声で呻いた。
「ざわたびさま……おゆぶしを……」
 そして。
 奴は凄まじい狂気の表情を半々になった顔で浮かべ、消滅した。
 瞬間。
「ぐ……ああっ!」
 あたしの身体もまた、限界を迎えた。
 激痛に意識を失う間際のあたしの聴覚が、最後にこんな言葉を捕らえた。
『キサマモ、ワレノカテトナルガイイ――』
 暗転。
185七瀬留美:2000/12/15(金) 17:11
 蒼い芝生。懐かしい草の匂い。私は仰向けになって青空を仰ぎ見ていた。
 ここが天国かしら? 確かに悪くないかもね、でも……。
「あんたも一緒っていうのは気になるわ」
「それはどうも」
 私の呟く声に僅かな苦笑で彼女が微笑む。
 椎名繭。またの名を伏龍の繭。あの高名な天才軍師と同じ字名を持つ少女。
「ふう。危ないところだったわ。もう少し早く助けてくれてもよかったんじゃないの?」
「助かったんだから良いじゃないですか。それより七瀬さんらしくないですね、その髪型……」
「そう? まあ、良いじゃない。それで、どうやって助けてくれたの?」
「永遠の力を使ってみました。まだ未完成ですけど」
「そっか。あんたは自分のやるべきことはやってるんだ」
「七瀬さんもですよ。お疲れ様でした」
 改めてそう言われると、ちょっと照れてしまう。
 でも、これで、私は……。
「私は本当に人間になれたの?」
「はい――と言っても七瀬さんはもとから人間でしたよ」
 そう彼女が微笑む。なんだか嬉しい。
「七瀬さんの妖気はすべてこの箱に吸い込ませてもらいましたから」
 パンドラの箱。それが私たちの計画の要だった。
「繭、もうすぐであいつの顔を思い切り引っ叩けるのね?」
「過激ですね、七瀬さんは」
 また苦笑。この子がこんなにも笑うようになったのは、やっぱりあいつのおかげかな?
「後は里村さんと川名さんですね」
「大丈夫よ、彼女たちなら。それより澪は?」
「はい。里村さんのところに向かってもらいました」
「心配性ね」
「はい。そうかも。でも、どちらかと言うと澪の方向感覚のほうが心配ですけど」
「あはは、それは言えるかも」
 蒼く広がる空。吸い込まれそうな蒼穹。
 その空に願いを込めて、私は残った片方の尻尾を手刀で切った。
「七瀬さん!?」
 それを、この大気に放つ。
 青色の髪の毛が風に流されていく。
「もう、私は妖弧じゃないから……」
 それと、今まで闘ってきた人たちの冥福を祈って。
「ごめんね、真琴。それと……」
 私はこれでもかと言うほど、空気を吸い込んで思い切り怒鳴ってやった。
「そろそろ、戻って来い、折原ーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 もう一度、あの日常を取り戻すために。
186185書いたやつ:2000/12/15(金) 17:28
>>184
こんな展開にした漏れを許してくれ。
 とても幸せだった…。
 それが日常であることをぼくは、ときどき忘れてしまうほどだった。
 そして、ふと感謝する。
 ありがとう、と。
 こんな幸せな日常に。
 水溜りを駆けぬけ、その跳ねた泥がズボンのすそに付くことだって、それは幸せの小さなかけらだった。
 永遠に続くと思ってた。
 ずっとぼくは、幸せのかけらを集めていられるのだと思っていた。
 でも壊れるのは一瞬だった。
 永遠なんて、なかったんだ。
 知らなかった。そんな、悲しい事をぼくは知らなかった。
 知らなかったんだ…。

「準備はいいか?」
 俺が呟くと二人は静かに頷いた。妖弧でも上位クラスのツインテールである七瀬留美と
 方術僧の中でもトップクラスの法力の持ち主である里村茜。
 大丈夫だ、きっと上手くいく。
 今は、ただ、そう信じることだけが救いだったから……。

君の望んだ通りの未来を僕が上げるよ
さあ、おいで、浩平君、君の望んだものがここにある

 声が聞こえていた。
 誰の声? 知らない男の子の声だった。
「浩平…大丈夫ですか…?」
 里村茜。俺の狂気を知っていてなお協力してくれる。
「折原…やっぱ不味いよ、引き上げよう…?」
 七瀬留美。妖弧の身でありながら俺に協力してくれている。
(ごめんな…)
 静かに呟く。謝罪。二人に対して? 誰に対して?
 守れなかった妹?
 いや誰でも良かったんだ。
 謝った振りをして自分の心から逃げたかったんだ。

 反魂の法。
 今、叶うはずの無い願いを込めて、術を解き放つ。
 そして、光が広がった。

 うわーん。
 うわーーーーーーんっ!
 泣き声が聞こえる。
 誰のだ? ぼくじゃない。
 そう、いつもの通り、みさおのやつだ……。
「うわーーーん。うわーーーーーんっ!」
「う……ごめんな、みさお」
「うぐっ、うん。わかった…」
 よしよし、と頭を撫でる。
「良い子だな、みさおは」
「うんっ」

 あの幸せな日常を望みながら……。 
 湖から白い光が無限に溢れ出していた。
 俺はそこで見ていた。水面に立つ少女の姿を。
「みさお……みさおなのか……?」
 返事は無かった。少女はただ、にっこりと微笑んでいた。
「えいえんはあるよ」
 そしてぼく≠フ両頬は、その少女の手の中にあった。
「ここにあるよ」
 言って、ちょんとぼくの口にその少女は口を当てた。
「ずっと、わたしがいっしょに居てあげるよ、これからは」
 永遠……? 永遠の盟約……? そこにある君の姿……誰かに似ている。
 それが、誰だったのか、もう……思い出せない。
「折原!」「浩平!」
 すぐ側からぼくを呼ぶ声。それは誰の声だったろう?
 ここにある。みさおと過ごした楽しい日々の欠片が……。
「だから……邪魔しないでくれ……」
 優しい光。この先に待つ永遠を求めてぼくは歩き出す。
「…みんな…俺ことなんか…忘れてくれ…」
 忘れることは救いだから。大切なことも忘れたなら傷つくなんてこと無いから。
「……だから……さようなら……本当に好きだった人……」
 そこで誰かの笑顔を俺≠ヘ思い浮かべていた……。
 誰よりも近くで、誰よりも同じ時間を過ごして、誰よりも側にいてくれた……大切な幼馴染みを。

「つかまえた」
 声。すぐ後ろから……。
「やっと、つかまえた」
 優しく抱き締められる。
「浩平、つかまえたよ」
 懐かしい匂い。牛乳のような。
「痛い…放してくれよ…」
「いやだよっ…もう、絶対に放さないって決めたもん…」
 長森。ずっと俺の側にいてくれた大切な人。
「浩平とずっと一緒にいるって決めたんだもん…」
「大丈夫…もう離れない」
 気づいたから。
「ほんとう?」
「ほんとう」
 ずっとお前のことが好きだったんだって。
「ただ……」
 ただ…俺は…お前のことを…。

 正面から、抱き締めたいだけなんだから。

 長森を抱き締めようとした瞬間、俺はこの世から消えていた。
 私は繭ちゃんの二人で光の中心に向かったの。
 繭ちゃんは行かないほうが良いって言っていたけど、すごく胸騒ぎがしたの。
 そこで私が見たもの、それは……。
「浩平っ!」
 消えていくあの人とそれを見守る……きっとあの人が大切にしたかった人の姿だったの。
「これは……? 長森さん、これは一体どうなっているの!?」
「浩平が……浩平が……浩平が消えちゃったんだよっ!!」
「待って長森さん。浩平って誰なの? その人が一体そうしたって…………え?」
 長森さんに詰め寄っていた繭ちゃんが、はっと息を呑んだ。
 浩平。折原浩平。そう、あの人の名前……なのに、次第に思い出が希薄になっていくの。
 どんな顔をしていたのか、どんな声をしていたのか、その人が私にとって、
 どれくらい大切な人だったのか忘れてしまう……そんなの――
「嫌なの! そんなの嫌なのっ!」
「澪……」
 そんなの悲しすぎるの。そんなの寂しすぎるの。
「澪ちゃんの言う通りだよ」
「そういうことね。折原の奴、一発くらい殴ってやらないと気がすまないわ」
 みさきさんと七瀬さん。その二人に肩を預けている茜さん。
「この子…ちょっと無理をしちゃってね。でも大丈夫よ。心配ないわ。それより……」
 七瀬さんの視線がみさきさんを捉えたの。その彼女の瞳には光が宿っていなかったの。
「あはっ。ちょっと光を強く浴びちゃったみたい。でも全然平気だよ。
 それに雪ちゃんに掛かったら、これくらいは、すぐに治るんだからね」
 それが、みさきさんの能力の片鱗であり、深山さんとの間に亀裂を生むことを、今は誰も知らないの。
「今の問題は私よりも……」
 みんなが同時に頷くの。未だ途切れることの無い白い光に向かって。空から舞い降りる粉雪さえも。
 心なしかその雪に触れたものは時間を止めたような気がするの。
「これは、すでに反魂の法の失敗とか、そういう問題じゃないみたいですね」
「茜ちゃん? 起きて大丈夫なの!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないです。早くこの場から逃げてください。後は私がどうにかしますから」
「ばかっ。あんた一人で何ができるって言うの? そんなの絶対に許さないからね!」
 堪らずに七瀬さんが怒鳴ったの。すごく怖いの。
「逃げるのも無理そうね。さて、みんなどうする? あれが人体にどう影響が出るのか興味はあるけど、知りたくは無いわよ」
 繭ちゃんが落胆の声を上げる中で、湖に向かう人影があったの。
「瑞佳ちゃん! 危ないよ」
「……ううん、私は大丈夫だよ。それより、ごめんね、みんな。浩平が迷惑かけたみたいで」
「怒りますよ、長森さん」
「…あっ、そうだね。やっぱり、ごめんだよ」
 長森さんが私たちの顔を見つめていた。
「澪ちゃんや繭ちゃん。里村さんも七瀬さんもみさきさんも。みんな浩平のことが好きなんだね。
 そして、私も浩平のことが大好きだもん。なんだか、みんなしっかりしてそうで、私も安心だよ」
「待って長森さん。あなた何をする気なの?」
「あははっ。なんとなくだけど出来そうな気がするんだ。もしもこの先…みんなで会えるようなことがあったら…クリスマスパーティでもしようか?」
 煌めく雪の中。決してありえない夢を語る。とても哀しくなる。
 長森さんの背中も悲しいくらい寂しそうに見えるの。
「永遠なんていらないんだよ、浩平。今、この瞬間を大切にしよう」
「……永遠の少女……」
 誰かがそう呟く中、私たちの目の前で、長森さんとその白光は消えていった。
「…………」
 希薄。今この瞬間のことさえも忘れてしまうような喪失感。
「あっ……だめ。このままじゃ駄目なのよ。みんな集まって! 私の話を聞いて頂戴……お願いだから」
 繭ちゃんがこれ以上ないほど悲痛な声を上げる。

 それから始まったの。あの人を取り戻すために私達は今……。
 過去の思い出よりも、未来の笑顔のために――頑張ってるのっ!
190名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 21:02
過去編……と言うのもおこがましい気がしますが、とりあえず終了しました。

参考までに、106(七瀬)、109(茜)、113(由紀子)、145(繭)、
148(みさき)、161(なつき)、165(瑞佳)、167(美汐)、
178〜180(雪見)、187、188(浩平)、189(澪)、以上が過去の物語です。

最後の方での連続カキコすみませんでした。後はゆっくりと本編の方をやっていきたいです。
191名無しさんだもんよ:2000/12/15(金) 22:12
>>190
お疲れ様っす。これからも頑張っていくべ。
>>185
むしろ伏線を無視しかけた軌道を修正してくれてありがとう。
192囚人NO、×××231:2000/12/16(土) 00:22
 何にも見えやしない。
 懲罰房だか何だか知らないが、全く人間のやる事は悪趣味としか言いようがないな。
 大体、俺は無実なんだから労働なんざする必要は無いから寝てただけなのに、サボリだとか抜かしてこんなトコにぶち込みやがった。
 ま、いいか。寝てりゃ一日なんてあっという間だろ。脱獄するのも簡単だが、こういう経験も新鮮でいいもんだ。
「…………! だいたい貴様……! 何度……!」
 あん? 何か騒がしいな。
「へいへい、もうしませんって」
「その言葉は聞き飽きた!」
「わかったっての。深く反省してますって」
 どうやら、隣りにお客さんらしい。なかなか食えない奴みたいだな……
「いいか、貴様にはメシも出してやらんからな! 腹を鳴らして泣いてやがれ!」
「にゃおーんってか」
「…………!」
 鈍い音。当番の男が壁を思い切り蹴ったらしい」
「おいおいダンナ、公僕が公共物に当たり散らしてちゃいけないぜ」
「うるせえっ! そこで腐れた頭を冷やしてろ!」
 甲高い足音が、遠ざかっていく。
 ……ひゅう。よくあそこまでやって殴られねえもんだ。
 俺は少し関心が湧いてきて、男と話したくなった。
「なあ、アンタ」
「ん? 俺の事?」
 反応があった。どうも気さくな奴らしい。
「そー。アンタ、何やってこんなコトになってんだ? 俺は無実の罪で捕らわれた可哀相な小鳥だけど」
「自分で無実なんて抜かす奴に限ってコロシをやってるもんだがな……まあいい。俺は、骨董の贋作がばれてぶち込まれたんだ」
「はん、アンタもケチな事やったもんだな」
「仕方なかったんだよ、バカ。クソ親父が店の資金使い込みやがったせいで、人間様と同じ生活ができなくなったんだ。
 涙を飲んで、この白い手を悪事に染めたんだ」
「はは、そりゃ間の抜けた話だ」
「言うなって」
 なかなか話せる奴だ。こりゃ退屈せずに済みそうだ。俺達は、何度も牢番に注意されながら
 色んな話をした。

193保科智子:2000/12/18(月) 23:43
 四月に雪が降る事もある――
 早い話が、この世にあり得ない事など無いという事だ。お師さまが、たまに冗談めかして言っていた言葉だ。
 今、私はその言葉を何度も反芻していた。そして、あの忠告。
『外観を見ろ。基礎にこそ注意を払え』
 ……私はこう訳した。これは私情を捨てた視点から事態を見て、根本の当たり前のような事にこそ気を配れ、という意味だと。
 今私は、ひとまずの味方であるらしい岡田に、由宇、なつみの三人に埋蔵物の調査を任せ、自分は上空から周辺の警備にあたっていた。
 敵がいる。目的が不明。正体は……まだ不明。銃器や重火器を扱うらしい。
 奴がここに現れるかどうかは不明だが、用心はするに越した事は無い。もし奇襲されても最悪私は生き残り、次の手を打つ事ができる。
 それに、地上に残してきた連中はいずれも腕が立つ連中ばかりだ。彼女らを一撃で殲滅する事は、私の最強最大の攻撃でも不可能だろう。
 一応、ものみの丘に張られている結界に加え、その内部に小規模のバリアーを一つなつみに作らせてある。
 なつみが味方と認める者以外が侵入すれば、たちどころに発光し耳障りな騒音を立てる一種のトラップだ。
 まあ、本来ならそれで十分なのだが、『味方』が『敵』である可能性も考慮し、私はここにいるのだ。
 銃器……爆発物……まさかとは思うが……いや、『まさか』は捨てて考えなければいけない……。
『ちょっと保科さん、聞こえる!?』
 ヘッドフォン型のトランシーバーから、耳障りな雑音と共に怒鳴り声が聞こえてきた。
 岡田だ。
『あいよ、聞こえてるで。どうしたんや、何か見つかったんか?』
『よくわからないけど、像みたいなものが埋まってて、それの頭の部分が――きゃっ!?』
 言葉の最後が、悲鳴に化ける。
 来たか!?
 私は、全速力で真下へ急降下した。

194岡田(三人組の一人):2000/12/19(火) 02:12
パシュンッ…。

空気が抜けるような音…。
途端、私の右耳に痛みが走った。
「きゃっ!?」

私は小型トランシーバーを手にしたまま、その場に固まった。
殺される――。
本能でそう察知した。恐ろしさのあまり体が固まって、後ろを振り返る事が出来ない。
とてつもない殺気が背後から伝わってくる。
その気配に今にも押しつぶされそうな感じだ。
冷や汗だけが頬を滝のように流れるのを感じた。
正直、死を覚悟した。だが……

――ゆういち〜、朝だよ〜、朝ご飯食べて学校行くよ〜。

間延びした女の声が周囲に響き渡った。

「な、何だ?」
突然の妙な声に思わずずっこけそうになった。これでは、恐怖もへったくれもない。
もちろん、背後の殺気はとうの昔に消えていた。
やがて、音を聞きつけた妖狐たちが動き出した。
だが、この変な声に皆唖然としながら周囲を見回している。
首領の沢渡なんかは、あう〜なんて叫びながらキレていた。
やれやれ…。

音はすぐに止んで、狐らもしばらくは音の発生源を探していた(私も埋蔵物の調査を
止めて、それを探すフリをしていた)が、結局それは見つからなかった。
立川がもっと探そうなんてゴネていたが、沢渡は機嫌が悪そうな顔を彼女に向けて、
もう止めると怒鳴り散らしていた。
やれやれ…。

結局、事無きを得た事になる。猪名川も岸辺もバレていないようだ。
改めて埋蔵物を眺め回した。
地面から先端の部分が少し突き出しているので何とも云えないが、直径1mほどの黒い
半球がついた円柱状の物体のようだ。側面には顔(?)ら敷物が描かれていたので、像
だと先程保科には伝えたものの、実際は何であるか判断がつかない。
詳しく調べたい所だが、清水サンにも言われている通り、掘り出そうとすると命に関わ
るので止めて置けと言った(現に先程狙われた時がそうだ)。
とにかく、その物体はそのままにしておく事にして、腕時計型小型カメラで写真だけを
数枚撮影しておく。そして、近くの木に私の耳元をかすめた銃弾が埋まっていたので、
ほじくり出した上で、ポケットにしまって、その場を立ち去った。

しかし…あの声は一体?
まさか…岸辺の仕掛けた罠があれだと言うのではないだろうな(笑)?
195194書いた人:2000/12/19(火) 02:24
修正。

下から2段落目の上から4行目
誤:〜ら敷物が 正:〜らしきもの
同じ段落の上から7行目
誤:止めて置けと言った 正:止めて置く事にした

スマソ…。宇津山車農…。
196保科智子:2000/12/19(火) 04:10
 しっ……心臓に悪っ!
 私が降りていった直後、何と沢渡達がわらわらと寄ってきたのだ。
 岡田の様子を確かめる暇もなく上空に再び戻り、じっとしていたのだが……あと一歩タイミングずれてたら
 鉢合わせやで。あー、怖。

 ん……?

 人影。それは丁度、銃痕の軌道上に居た。
 あいつが犯人か……!
 そいつは頑丈そうなメットで顔を隠し、私の気配に気づいたのかいきなり駆けだした。
(逃がすかい!)
 私は片手で由宇の携帯にあらかじめ用意しておいた『不審人物発見』のメールを送り、
 上空からその影を追った。
 そいつは、エラく身が軽かった。屋根の上やら電線の上を全くスピードを落とさず駆け続けるのだ。
 私は途中から魔力の消耗を避けるため、地上から走って追ったが、差は広がれど縮まらない。
(そうとう訓練されとる……やはり!)
 私は胸の内で膨らみつつあったクエスチョンにある明確な方向性を見いだし、胸元から特製の追尾型爆弾を出した。
 私は再び上空に飛び、熱源反応を逃げるメットに合わせ、思い切り投げた。
 私の投げたそれは直線の軌道を描き、逃げるメットに直撃し、大爆発を起こした。
「どうや、高倉みどり特製の爆弾の味は!」
 もうもうと煙を上げて倒れ伏す相手に向け、はっきりと言ってやった。
 私は、もう確信していた。
 ――こいつは、高倉みどりだ!
「事情を話し! みどり!」
「私は――タカクラミドリジャナイワ――」
 みどりと思しき人物が、ゆっくりと立ち上がる。
 そいつは――
「ゆ……結花!?」
「キサマモ、ワレノカテトナレ!」
 その人物――江藤結花は――手にした刀で斬りかかってきた。
「くっ!? 何かしらんがどつかせてもらうで!」
 私はその刀での一閃を内側に回避してかわし、腹部に掌底突きを叩き込んだ。
 結花はまともに吹っ飛び、高そうな車のフロントガラスに凄絶に突っ込む。
「な、何事や! 結花ちゃん、なんで私を襲うんや!」
 それには答えず、結花がのそりとガラスから身体を出す。
 血塗れになりながらも、全くの無表情。そして、刀を振り上げる。
「いい加減にせえへんと――」
 しかし結花は、私の問いかけに答えず、刀を自分の腹にあてがい――
 ――突き刺した。
「なっ!?」
 私は、あまりの事に思わず駆け寄る。
「ほ……保科さン……殺スワ……」
 結花の身体が、悪趣味な粘土細工のように崩れ、そして再び人形をとる。
 しかし、その人物は――
「このツインテール、七瀬留美がね!」
「な、何やて!?」
 突然すぎる変貌に、私は一瞬対応しそこねた。奴の狐火をまとった拳が、迫る――
 が。
「奥義・紅蓮ハリセン!」
「ぐあっ!?」
 目の前で、突如小規模の爆発が起きる。その爆心地には、一本のハリセン――
「何をぼーっとしくさっとんじゃ、智子! 死にたいんかい!」
「由宇!」
 見れば、由宇がなつみを引き連れ駆け寄ってきてくれていた。
「あいつがツインテールっちゅーっやっちゃな!? ひとまず逃げるで!」
「わ、わかった――」
 混乱で脳味噌がどうにかなりそうだったが、私は由宇を抱え、なつみと共に空を飛んで急いでその場を離れた。
 一体、どうなっているんや……!?
197196:2000/12/19(火) 04:13
人形→人型。
スマソ。
198HMX−13 セリオ:2000/12/21(木) 00:02
私はどうしてしまったのだろうか。
あの時……綾香様が亡くなられた時、私の身に起こった異変。
綾香様が私の内に入ってきたような妙な感覚。
0と1の数字の羅列に過ぎない私の思考回路に魂が宿った……そんな気がした。
もちろん、理由をつける事は不可能ではない。
あのとき、赤毛の怪物の発した力場の影響により、私の中の綾香様の記録が、私の記憶として誤って認識された……
かなり無理があるが、それでも魂が宿った、よりは可能性がある。

私はその後の戦いで、浩之さんを守るため、自爆という最後の手段を選んだ。
それは、私の判断だった筈だ。綾香様なら、そんな方法は選ばないだろう。
だが……自爆した後、バックアップから再起動された時も、エラーは確認されなかった。
それにも関わらず、私は自分を来栖川綾香と認識した。
浩之さんを……浩之を助けに行かなくちゃ……と。
わたしは髪と顔を自分のものに戻し、すぐにこの街へと向かった。

……私……わたし……私の記憶……思考は残っている。
綾香様は死んだのだし、この体は私の予備機だとわかっている。
でも、そんな事は関係ない。
わたしは浩之を守る。今度こそ、守る。
199宮田健太郎:2000/12/24(日) 04:17
 カツン、カツン、カツン……
 一寸の光も無い暗闇の奥から、甲高い足音。
(けっ。まぁたうるせえのが来やがった……メシ食わせろってんだ)
 俺は、心中毒づいた。正直またからかってやりたい処だったが、飢餓感は限界にまで達している。
 だが足音は、俺の独房の前を少し過ぎた所で止まった。
「コラ、起きろ千堂! 弁護士が面会に来ている!」
「んあ……?」
 寝ぼけた声が答える。大方、奴も空腹に負けて寝ていたのだろう。もっとも俺は、
腹が空きすぎて眠れないのだが……
「澤田さんという、その道で知らない人は無いやり手の弁護士だ。キサマ、どんな手ェ使ったんだ?」
「知らねぇよ……メシをくれ」
「はっ、後で食わせてやる。今鍵を開けてやるから、とっとと出ろ」
「うぃす……」
 隣りから、錆びた金属同士が擦れあう神経に響く音が聞こえてくる。
「さあ、とっとと歩け」
「はい〜」
 姿は見えないが、千堂と看守が遠のいていく足音が聞こえる。
(バカヤロー、メシ食わせろよォ……)
 俺は、心中毒づきながら闇の中に意識を落とした。

「……くん。宮田くん? 聞こえる?」
 ん、何だ……ラーメンの匂いがする……
「あーあ、澤田さん、こいつダメっすよ。俺だけ連れてって下さい」
「そうはいかないわ。もう、指輪をはめちゃったし」
 何の会話だよ……夢ならもっとわかりやすい夢を見たいもんだ……
「まあいいわ、そのまま聞いて。要点だけかいつまんで話すから」
 うるせー、メシ食わせろ……
「えっとね、貴方と千堂君は仮釈放されるわ。超法規的措置でね」
 あっそ。
「それで、今から言う事をこなしてくれれば、残りの刑期もチャラにしてあげる事ができるわ」
 そりゃありがたい。夢らしいムシのいい話だぜ。
「ある街に行って、難事件を解決して欲しいの。概要は道すがら説明するわ、私も監視がてら協力するから。
 何だそりゃ。連続殺人犯でも捕まえろってか?
「で、問題はその薬指の指輪。私が定期的にデータを送信しないと、大爆発する仕組みになってるわ」
 そりゃまた王道だな。
「無理に外そうとしても同じ結果よ。特に宮田君、貴方には働いてもらいたいから
 そんなケチな死に方はしないでね」
 へいへい。
「……妖刀村雨という響きに、聞き覚えはないかしら?」
 !?
「何でアレを知ってる!?」
 俺は、なりふり構わず起きあがり、口早にまくし立てた。
「まあまあ、落ち着きなさい」
 女――澤田は、隙の無い動作でこちらにラーメンのどんぶりを寄越す。
 俺は、問答無用でそれを食べ始めた……
200天沢郁未:2000/12/25(月) 11:57
私が一緒に行けるのはここまでだった。
ものみの丘の最奥。この街を最も見渡せる空に近い場所。
沢渡真琴の居る場所だった。

瑞佳は……いや裏葉は微笑を浮かべて一度だけ頷く。
私は踵を返してあいつの所に向かう。
そうだ。あいつとだけは決着を付けなければならない。
これはビジネスの問題じゃなかった。

待っていなさいね。

この街に漂う正気がそうさせるのか、私はそのとき歓喜に震えていた。
201裏葉:2000/12/25(月) 12:41
千年という刻を越えての再会。
なかなか風流ですね。でも、私の知っているお母様とは少し違うように見えます。

「裏葉か……」

はい、と私は応える。
どうしてかお母様の瞳に憂いが見えた。

「今更……何をし来た……」

お母様の方こそ今更復讐≠烽ネいでしょうに……。
どうやら、神奈様の呪印を解いてもらうのは無理みたいですね。
当てにはしていませんでしたけど。

確かに、お母様のことより好いた殿方や主にお使いになるのは罪なことかもしれませんね。
でも、私もいつまでも子供ではありません。
それに、お母様こそ……。

そこで、私の思考は止まっていた。

「目障りね! 少し黙ってなさいよーっ!」

お母様の声に幼い少女のものが混じる。
私の周りを狐火が取り囲む。高位の炎縛結界ですね。

そういうことなら待ちましょう。この『物の怪の丘』での決戦のときを。
その時に神奈様は降臨なされるのでしょうから。

それにお母様……。
もしかして千年前のことよりも……今の意識にある幼い妖弧の器の記憶に戸惑っていらっしゃるのでは?

『許さないから!』

私の耳に聞こえる風の音はそう語っていました。
夢を見ていた。
仲の良い姉妹の夢だった。
姉は誰よりも妹のことを思っていた。
妹はそんな姉のことが大好きだった。
一緒の学校に通って。
中庭でお弁当を食べて。
暖かな日差しを浴びながら悪戯に時間を過ごす。
そんな平凡な毎日。
いつまでもそんな幸せな日々が繰り返されるという……。
二人の姉妹はそう信じているという……。
そんな……悲しい夢だった……。

栞ちゃん。
目が覚めたとき、ボクは泣いていた。
暗い部屋の中で、ひとり息を潜めて泣いていた。
隣には祐一君が居てくれるというのに……。
ううん、だからこそ、こんな悲しみを繰り返したくないとボクは思った。

すぐ側で、今も眠り続けている祐一君の頬に、ボクは唇を近づける。
ボクは不器用に微笑んでこう言っていた。

ボクのこと、忘れてください……。

もう会える保証なんてどこにもないから。
それでも、ボクはあそこに向かうんだと思うから。

もう誰にも傷ついて欲しくない。

ボクは真っ白な翼を広げて大空へと羽ばたいた。

いつか見たことのある光景に向かって……。
203河島はるか:2000/12/25(月) 14:59
「秒読みが始まった」
 私は、何の前触れもなくそう感じた。
 ものみの丘とかいう場所に、先刻までとは比べるべくもない巨大な力が充満している。
 恐ろしく高圧的で、怨念に満ちた気だ。弱っている人間なら、浴びただけで命を奪われそうな程に。
 こんな恐ろしい力に対抗できる力を私は知らない。しかし――
「次元矯正力」
 プラス因子は、あらゆる悲劇を逆転し、運命や生死すらもねじ曲げる驚異の力を秘め、
 一方マイナス因子は、プラス因子を抑え、その奇跡を打ち消す力を持つ。しかしそれ単体では何も意味を為さない。
 私はまだプラス因子を持つ人間に出逢った事が無い。この世にただ一人いるという話だが、
 やはりマイナス因子を持つ人間も一人なのだろうか。
 ――それは、私なんだけど。
 かつてナントカっていう邪術士が猛威を振るっていた時代、その化け物を封印した後に、
 ただの一度だけその力が使われたらしい。結果次元は矯正され、あらゆる悲劇が覆り、
 ゼロに戻ったが、その直後に力が暴走し、その力は大地を引き裂き、
 あらゆる生き物の鼓動を一瞬にして止めたらしい。……笑い話にはちょっとキツイね。
「あれ」
 私は足を止めた。行く手に、緑色の逆立った髪が特徴的な女性がうずくまっている。
「大丈夫?」
「え、ええ……大丈夫です……」
「全然大丈夫そうに見えないけど」
「平気……ですから……お願い……離れ……ルナ……コッチヘ……コイ……!」
 うずくまっていた女性の声が、次第に無機質な低音のものに変わる。
 これ――やばいんじゃ……
「キサマモ、ワレノカテトナルガイイ!」
 弾かれたように、女性が刀を持って私に襲いかかる。
「うわわ」
 私はその一閃を後ろに大きく飛びすさって回避し、続けて襲いかかるその身に電波を飛ばした。
「グウッ」
 女性が、低く呻いて片膝をつく。頭を抱え、ぶるぶるを震え出す。
 変だな……? それほど強い電波は送ってないけど……
「おオおオ……呪わしき妖狐……にっくき法術使い……外道たる鬼共……」
 もしや……他の原因……?
「我が主よ……魔を討つ者の末裔よ……邂逅は、まだナノカ……」
 魔を討つ者の末裔? 何の事だろ。
「我は……この……呪いさえ……なくば……邪なる姿に身を落とす事も……無かったろうに……」
 ……逃げよう。
 私は、くるりとターンし、遠ざかろうとした。その刹那――
 
204北方不敗*k川潤:2000/12/25(月) 15:02
俺は憤りを隠せなかった。
動くな。それが上からの命令だったから。
もうすぐ高野と妖弧との決着が付くと見越しての結論なのだろう。
警察は漁夫の利をかすめ取ろうとしているのだろうけど、そんな都合よく行くわけがない。

柳川さんや長瀬さんは上の命令に(表向きだろうけど)逆らえないようだった。
でも、霧島姉の意見は臨機応変に対応しろとのことだった。

さて、俺はどうしたらいい?

正直に言って分からない。
雅史はどうするんだろうか?

でも、きっと俺が動くとなれば雅史も一緒に来てくれるはずだった。
裏情報では、警察は力≠フある囚人なんかの力も借りるらしい。

あくまで、こちらの勢力は消耗しない腹づもりなのだろう。

そんなことを俺は許せるのか?

俺はどうしたらいいのか……そんなのとっくに答えは出ていた。
205邪術師$瀬秋子:2000/12/25(月) 15:07
そろそろ私の出番ですかね?
感じる気配。鳴動する真琴の力と八百比丘尼の鼓動。

あらあら? 八百比丘尼さんも復活しましたか?

どうやら役者は揃ったみたいですね。

それと永遠の力ですか……。

うふふ、楽しみですね。

ゴッドハンドが居なくなったのは寂しいですけど、
みなさん、安心してください。

私が殺してあげますから。

ねえ、名雪……。
206ソードダンサー$澄舞:2000/12/25(月) 15:19
時間は流れるように過ぎていた。
それでも悲しみは止まらない。
溢れるばかりで止まらない。

佐祐理……。

美凪という少女の佐祐理とよく似た面影を思い出す。
それに触れてしまって、佐祐理といるような錯覚を感じていた。
でも、それは……。

ごめんなさい……。

そっと呟く。歩き出す。
ものみの丘に向かって……。

頂上を見据える。
邪悪な気。禍々しいオーラのようなものが丘全体を覆っていた。

足を踏み出す。
佐祐理の仇を討つために……。

そこで、声。

待っていたわ。

私の前に立ちはだかっていたのは天沢郁未だった。
207河島はるか:2000/12/25(月) 15:28
 ザシュウ!
「つっ!?」
 かまいたちのような空気が、耳たぶをかすめ、前方の道路標識を切り裂き、霧散した。
 私はクロスガードしながら転がり、そのまま身体をひねり起きあがった。
 私の視線が、うずくまる女性のさらに先に立つ少女の姿を捕らえる
「……あなたに当てるつもりは無かった。ごめんなさい」
 その少女は抜き身の剣を油断なく構え、その刃先をうずくまる女性に向けた。
「こいつは、私の家系が代々探していた堕ちし邪刀・村雨。こんな所にいたとは」
 うずくまったまま、女性が苦しそうに答える。
「主よ……私は、ただ、貴方を守るためだけに――」
「そんな事はわかっている。しかし今のお前は邪刀。捨て置くわけにはいかない」
「ならば、今の内にお斬り下さい……もうすぐ、私の意識さえも――食われル――」
 女性が、ゆっくりと立ち上がる。その姿が、みるみる崩れ、違う姿へと変化していく。
 逆立った髪は輝く金髪へと変わり、その髪が伸び、球体を形取り、女性を呑み込む。
「くっ、させない!」
 少女が、剣を水平に構え、全ての力が一点に集中したかと錯覚する程の緊張を見せる。
「奥義――次元斬!」
 叫び声と共に、剣が消えた。
 ――いや、それは錯覚だった。実際次の瞬間には、少女の剣は振り抜かれたままに手に握られていた。
 黄金の球体は、忽然と消えていた。何も存在しなかったかのように。
「…………すまない、村雨。こうするしかなかった……!?」
 少女の身体が、ふわりと持ち上がる。
『無駄だ、川澄舞。なかなか面白い技だが、私には通じないよ』
 何もない空間から声が響いた。かと思うと、次の瞬間にそこにひとりのツインテールの少女が居た。
「お、お前はもしかして……」
 舞と呼ばれた少女が、苦しそうに呻く。
「ご察しの通りだろう。私は沢渡真琴だ」
 舞の身体が、弾けたように吹っ飛ぶ。まともに壁に叩きつけられ、吐血する。
「が……はっ……」
「正しくは沢渡の力が使える人形だがな。これも私の能力の一部にすぎん。切り裂いた者や使い手の精神を複製し、
 その肉体を形作り、力を振るう事ができる。最も――」
 真琴とやらの身体が、再び崩れていく。
「これほどに大きな力は、さすがに長続きしない。つまり、私は逃げなければいけない」
 真琴が崩れていく顔でにやりと笑い、フッと消えた。
「…………」
 さすがに私は呆気にとられたが、すぐに正気に戻り舞の側へ駆け寄った。
「大丈夫?」
「……大した怪我じゃない。ありがとう」
 舞はそう言うとあっさり立ち上がり、剣を拾った。
「……私から離れた方がいい。今の奴もそうだし、私には敵が多すぎる」
「……その通りね」
 通りの向こうから、クールな女性の声がした。私は、思わずそちらを振り返る。
「天沢……郁未か。そこの人」
「ん」
 私は、何の気なしに振り返った。その瞬間。
「次元斬」
 剣閃が、一瞬だけひらめき――
 その声が、最後の聞いた声だった。
 一瞬にして闇に沈む意識の中で、こんな言葉が聞こえた気がした。
『最も親しい人の所へ送る。これから起こる戦いに関係ない人を巻き込めないから――』

208名無しさんだもんよ:2000/12/25(月) 15:30
うがあ、被った。スミマセン、>>206さんの方で決定という事で。
209名無しさんだよもん:2000/12/25(月) 15:52
>>208
ぐわっ、ごめんなさい。
最近はどうも、寂しかったので、連続カキコを……。

うわぁ、もしよろしかったら、あの雑談スレで話の統合をしませんか?

http://green.jbbs.net/sports/310/xiantou.html

210名無しさんだよもん:2000/12/25(月) 16:23
あふぇ
211河島はるか:2000/12/25(月) 16:42
『最も親しい人の所へ送る。これから起こる戦いに関係ない人を巻き込めないから――』

そう思っていたところで意識が覚醒していた。
半ば強制的に。鈍器で殴られたような感覚すらあった。
いや実際に目を開けた光景はもっと過酷だった。

「どうした? 幻でも見ていたか?」

そこには天沢郁未の姿があった。
私の頭はどうかしてしまったんだろうか?
ついさっき川澄舞に助けられたばっかりじゃなかったのか?
どうしたんだよ。
そうだ……私は逃げようとした瞬間に意識が遠くなって……。

「……マイナス因子の力が発動してしまっていたんだ」
「そういうことだ。マイナス因子の力を使われては私もただではすまないのでな……」

野球というスポーツでは、見せ球というのがよく使われる。
ツーストライクからでの見せ球は、インに入れば次に狙うアウトコースの視野が狭くなるという。
そんな話を聞いたことがあったような……うろ覚えなんけど。

でも仮に、今の状況にそれを当てはめることが出来たなら、私は川澄舞という見せ球を投げられて、
見事にそれに引っ掛かって、マイナス因子の力をすべて流されていたんだ。

ツーストライクからのワンボールという安心感。
マイナス因子の発動は危機的状況にあったからこそ。

その呼吸を見事に外されたと言うわけだ。
私のように闘いに慣れていない者では、あのような緊張感がそうそう保てないと分かった上で……。

「……そういうこと」

え? どうして? 後ろから別の女の人の声が聞こえた。
川澄舞。あの幻の記憶から名前を呼び起こす。

「私のENPLODよ。本物の二人は今まさに闘いを始めようとしている最中だからね」
「……そう。この力は惜しいから……カテ……トナッテ……モラッタ……」

!? 途中で違和感のある声となる。

「『これほどに大きな力は、さすがに長続きしない。つまり、私は逃げなければいけない』」
「……そう言ったのは、嘘じゃない」
「つまりは……力を試したダケ……。それと……アナタのマイナスいんしの力……ソレが欲しい……」
「カテとなれ……」

前門の狼。後門の虎。
逃げられない。
それが分かったとき、私は息の続く限り絶叫していた。

「冬弥ーーーーーーーーーーーっ!!」

そして私の視界は暗転した。
次に目を覚ましたとき、冬弥と同じところに居ることが出来たならと思いながら……。
212名無しさんだよもん:2000/12/25(月) 16:45
これでどうでしょうか?
河島はるかがどうなったかはお任せします。
別に氏んでないと私は思っていますので。
213藤井冬弥:2000/12/25(月) 22:51
「…………!?」
 俺は、不意に鼓膜の裏側を揺らした叫びに硬直した。
「どしたの? 藤井」
 横手からスフィーが声をかけてくるが、俺は答える余裕が無かった。
 あの声は――
「はるか……か?」
「あん? それって河島はるかの事?」
「どうしたんだよ、何でこんな所にいるんだよ……」
「藤井? あんたおかしいよ?」
 スフィーがあくまでのんびりと言ってくる。しかし、俺は無視して駆けだした。
「彰ッ! どこだ、彰ッ!」
「ちょっと、どういう事……?」
 スフィーが、怪訝そうにつぶやくのが聞こえたが、それに答える暇は無かった。

「今度は、はるかか?」
 彰は、感情の無い眼差しで俺を見据えそう言った。
「美咲先輩に由綺。そしてはるか。冬弥も忙しいね」
「違う、そんなんじゃない! あいつが危ないんだ! お前の能力で、場所を探ってくれ!」
「由綺の保険? 卑怯なのは相変わらずか」
「違うッ! もういい!」
 俺は彰に怒鳴りつけ、部屋を飛び出して階段に躍り出た。
「待ちなよ、藤井!」
 その声が魔法の引き金となったのだろうか。俺の身体がぴたりと止まった。
「スフィー!? 魔法を解いてくれ!」
「落ち着け、このタコ! すでに手は打ってやった!」
 そういうと、スフィーはパチンと指を鳴らした。俺の身体が、ビタリと天井に張り付けられる。
「宮田健太郎って男が知り合いにいる。今、そいつを戦場に転移させた。
 今確認したが、あの妖刀が相手なら健太郎以外の人間に勝ち目は薄い。しかし奴なら、
 しかるべき対処法を知っている。封印で止まるか破壊にまで持ち込めるか、はたまた返り討ちに遭うかどうかは
 わからないが、最も可能性を秘めているのはアイツだ。他の人間じゃ分が悪い。
 ましてやパンピーのてめえに勝てる相手じゃない。歯痒いだろうが、ここでおとなしくしてな」
 スフィーはそう言い放ち、手近な椅子にどっかと座った。
「ったく、余計な魔力使わせるんじゃねえよ。また縮んじまった」
 俺は、ギリと奥歯を噛んで思いを巡らせた。
 はるか――!


耕一さんの話を聞いた天野さんの表像は形容しがたいものがあった。
自分の暗殺を知ったら、誰でも表情くらいは強張るのだと思う。
でも、天野さんにあるのは諦めにも似た感情しかなかった。

仕方ないから……。

そんな悲しい色を瞳に宿らせていた。
妖弧を狩るために要らない感情はすべて捨て去った少女……。
私はそんな風に思っていた。
少なくても、そう思わせるほどの力と強さを彼女は持ち合わせていた。
それなのに……。
こんなにも今は弱々しく見えるなんて。
でも、それは年相応の少女に相応しい面影も同時に見せていた。
耕一さんが助けたくなったのも分かる気がする……。

歩み寄れるかもしれない。
鬼と方術僧という相容れない関係だったけど、信じればきっと……。

そこで、私の思考は停止した。
天野美汐……神人を降ろしたその身……。

気が付いたときには、もう遅かった。
私の指先が硬化して鉄をも引き裂く砕牙となる。

妖弧の意志と鬼の本能が身体中の血を沸騰させていた。
混濁する意識……。

楓ちゃん!

愛しい人の声すら、もう……聞こえない。
215流離の人形遣い″総濶攝l:2000/12/26(火) 13:32
信じられないくらいの妖気が膨れ上がっていた。
いや、鬼の気なのか……?
混じりあるひどく乱れた気の力……負の力だった。
それに、以前一度だけ手合わせした覚えのある鬼の力……。

やばいな……。

尋常では考えられないくらい強い力だった。
その周辺にもかなりの力が集まっているようだったが……その比ではないだろう。
まさに圧倒的だった。

鬼と妖弧のブレンド……まさか、これほどとは……。

でも、行くしかないだろう。
そいつらも人手が欲しいだろうからな。
俺の力でどこまでやれるか、分からねーけど……。

「みちるきっく!!」

ぐはっ。誰だよ、おい!!

「やっと見つけたぞ! 国崎往人!!」

みちる……?
それに美凪も……?

「おはこんばんちは」
「お、おう……って美凪、どうしてお前が……?」
「人手が欲しい年頃……なんて、思っちゃったりしちゃたり……」

そうか……。
そうだよな……。

「一緒に来てくれるか?」
「はい」
「美凪が行くならみちるもだよ! 有り難く思いなさいね!!」

何とかなる……。

俺は不思議なことにそんな気にさせられていた。
216里村茜:2000/12/26(火) 15:00
勝手です……。

警察の取調べを終えて開口一番そう言っていた。
高野の惨劇。大僧正の行方。美汐の負の力。邪術師$瀬秋子。
目眩がするほど、考えることは幾らでもあった。
それなのに、渡しが高野の幹部の一人だと分かった途端、手の平を返したように、
この状況の鎮圧を頼み込んできた。

頼まれて出来るくらいなら、もうやってます……。

今の気掛かりといったら、やはり美汐のことだった。
美汐の抹殺については、八百比丘尼の仕業だったけど、問題の大きさはあまり変わらない。
私に大僧正を助けることが出来るのでしょうか?
それとも……大僧正をこの手で……。

……馬鹿馬鹿しいです。

空を仰ぐと黒い雲が街を覆っていた。
ひと雨くるかもしれない。

迷っている暇なんて無いのかも知れませんね……。

決着を付けよう。
美汐とあの人のために……。

「あのひと……?」

どうしてか違和感。
不意に零れ落ちる涙……。

こうへい……。

私は知らない人の名前を呟いていた。
217雪の少女$瀬名雪:2000/12/26(火) 15:15
名雪……居るんだろう?

遠くからの声。
扉……。

居るのなら返事してくれよ。

激しく打ち付ける。
雨……。

いや、居るのならいいんだ。そのまま聞いてくれ。

窓の外に降り落ちる。
雪……。

俺はものみの丘に行く。もう戻って来れないかもしれない。

やがて空に白いものが混じる。
私……。

でも、ううん、だからこそ、名雪には言っておきたいことがあるんだ……。

膝を抱えている。
声……。

名雪のこと、好きだったよ……。

もう聞こえない。
涙……。

あゆちゃんの方が大切なくせに……。

止まらない。
夢……。

それでも、私は……祐一のこと好きみたいなんだよ……。

捨てられない。
音……。

え? 祐一……?

そこにあったのは目覚まし時計。
彼……。

祐一さんは、もう行ったみたいですね。

そこにある姿。
母……。

お母さん……!

真っ白な式服を身に纏った母の姿がそこにあった。
218宮田健太郎:2000/12/26(火) 16:03
「な、何が起きてる!?」
 俺は、体裁も考えずラーメンのどんぶりを持ったまま喚いた。
 薬指の指輪は消失しているが、何やら前後からおっかない少女が迫ってきている。
 俺の横手では、緑髪の女の子が俺に驚いているが、こちらは危害はなさそうなので放っておく
『そいつは村雨だよ』
「え!? スフィーか!?」
『うん。ちょっと魔法で話してる。で、そこにいるのは村雨だよ』
「どうも二人いるようなのだが……」
『片方は奴のELEPOD。つまり、使い魔みたいなものだと思って』
「ちょっと待ってくれ。村雨はいいが、道具無しじゃ勝てないぞ」
『はいはい、任せなさい』
 上空の空間から、俺の剣の柄と小さなツボが降ってくる。
「わたたっ、封魔のツボをぞんざいに扱うなぁ!」
『じゃ、任せたわよ。その娘を助けてあげてね。でないと契約不履行になっちゃう』
「オタメゴカシはオワッタカ?」
 剣士スタイルの女が、気がつけばすぐ目の前にいる。
「うるせえな! てめえはすっこんでろ!」
 俺は剣の柄に霊力を込め、蒼く光る刀身を生んだ。そして、咄嗟にガードした奴の刀ごと、
 女剣士の身体をぶった斬った。
「一撃で……」
 横手で見ていた女が、驚きの声を漏らす。
「へっ、こいつは信じられねえくらい弱い。本命はあちらさんだ」
 俺は口内にたまった唾を捨て、剣を握り直した。ツボは、腰のベルトにくくりつけた。
「ほう、もしや宮田家の末裔か? 面白い所で出逢うものだ」
 ツインテールが、にやりと笑い気を充実させる。黄金のオーラが、はっきりと見える。
「しかし、妖狐の力に勝てるものかな?」
 奴が、右手をすっとかざした。その手のひらから、猛烈な勢いで気の塊が放たれる。
「封魔!」
 俺は、ツボをそれに向けた。気の塊は、あっけなくそこに吸い込まれる。
「ほっ、封魔のツボ……!? 面白い玩具を用意したものだ!」
「てめえが媒介となった攻撃なら、全てコイツで吸収できる。あきらめな」
「どうかな?」
 奴が言うと、ツボにぴしりとヒビが走る。
「何!?」
 俺は、驚愕した。

219宮田健太郎:2000/12/26(火) 16:26
「所詮玩具は玩具にすぎん。そうそういつまでもそんなものに脅かされている私ではない」
「ちっ……」
 このヒビの走ったツボでは、せいぜい後一回使えるかどうかだろう。距離を保ったままの戦いは不利だ。
「くそがっ!」
 俺は、刀身を生んで一気に特攻した。奴の右手が新たな気の塊を生む。
「死ねっ…………っ!?」
 奴が、急に片膝をつく。気の塊も、急に消えていた。
「電波……か……! 忌々しい!」
 何の事か良く判らなかったが、とにかくチャンスだ。俺は、一気に切り込んだ。
「なめるなっ!」
 奴は、体内から村雨本体を取り出し、俺の刀を振り払った。
「もう距離はとらせん! この間合いで仕留める!」
 俺は、動きが鈍る奴に猛打を浴びせた。しかし奴はすんでの所でいなし、致命打を浴びせられない。
「今回のてめえのマスターも、どうせあいつなんだろうが!」
 俺は、剣をかみ合わせながら怒鳴った。
「リネット……鬼の姉妹の末女! ジローエモンに出逢うはるか前に、邪術士を祓うため貴様を生んだ鬼だ!」
「だとしたらどうする!」
「奴の狙いはどうせ真なるレザムの復活! この世界を自らの一族で滅ぼし、侵略する事だ!」
「ほう、大した想像力だ!」
「俺の一族は常にてめえと戦ってきた! 俺の代で負けちゃあ先祖の方々に申し訳がたたねえんだよ!」
「川澄家の連中の方が、貴様らなどよりよほど驚異だ。貴様らは所詮三下なんだよ!」
「黙れ!」
 俺は、一気呵成に奴の剣を跳ね上げ、それを斬り飛ばした。
「くっ!?」
「三下にやられるたあ運がなかったな!」
 俺は、最後の仕上げの為、呪を口にした。霊力で奴を拘束する網を放ち――
「……まだやられるわけには参りません」
 奴が、黒髪の長身の女性に変身し、そして転移する。……刀の方が。
 俺の網は、虚しく空を切り、消失した。
 奴の肉体は、奴が操っていた誰かの肉体に過ぎない。真の姿に戻るはずだ――
 俺は、期せずして驚愕した。その真の姿に。

「結花!?」
220雪の少女:2000/12/26(火) 19:40
晒すよーっ。
221雪の少女:2000/12/26(火) 19:40
晒すよーっ!
222雪の少女:2000/12/26(火) 19:41
晒しageるよー!!
223雪の少女:2000/12/26(火) 19:42
晒したい話があるんだよ。
224雪の少女:2000/12/26(火) 19:43
ageて書きたい話があるんだよーっ!
225雪の少女:2000/12/26(火) 19:43
みんな、ごめんだよーっ!
226雪の少女:2000/12/26(火) 19:44
もう一回書き込むよーっ!!
227雪の少女:2000/12/26(火) 19:45
それじゃあ行くよーっ!!
228語り部:2000/12/26(火) 19:48
我が子よ……。
よくお聞きなさい。
これからあなたに話すのは、とても大切なこと。
母から子へと、伝えられていく。
とても悲しい記憶の物語りなのです。

多くの命がこれまで散ってきました。
たくさんの涙が流されてきました。
そして……。
これからはもっと多くの血が流されることでしょう。
でも、目を背けてはいけません。

彼らの戦いの記憶を、私たちが受け止めなければいけません。
ほんの一刻の間でいいのです。

その戦いの記憶を、皆さんの心の中に刻み込めるように……。

私たちは物語の記憶を紡いでゆくのですから。
229伏龍£ナ名繭:2000/12/26(火) 19:51
え? 空が金色に光っている。
もしかして、これって?

七瀬さんを見る。
彼女は静かに頷いていた。
沢渡真琴。九尾≠フ復活と覚醒。
ものみの丘から発せられる光は止むことを知らない。
そう、訪れたのだ。
すべての決着を付けるときが……。

川名さんに里村さん……お願い間に合って。

大勢の人たちの意志が交錯してきた街。
まだ何かを為そうとする人たちの心も知らないままに物語は終結しようとしている。

時間は止まらない。
いつだって流れているのだから。
その流れには逆らえない。

でも、もしも叶うなら、あとほんの少しだけ待って欲しい。

「行くわよ、繭……」

だけど、時は流れる。
無常にも……。

幾多の試練があった。
もう駄目だと思った時もあった。
でも、私はここに居る。七瀬さんだってそうだ。
この闘いで得たものが確かにある。
そのことに誇りを持とう。

七瀬さん。里村さん。長森さん。川名さん。それに澪。

出会えてよかった。
みんなと頑張って来れて本当に良かった。
私だけじゃあ、きっと、ここまで来れなかったと思うから。

この街に訪れてくれた大勢の人たち……。
立場は違ったかもしれないけど、みんな一緒に頑張ってきたんだね。
今なら分かる気がする。
みんなの願い。この空に届いて欲しいと祈って私は誰かに#笑み掛ける。

ありがとう、みんな……。
それに、私も……頑張ってきたよね。

かすかな期待と、あの頃から変わらない決意を込めて、私は向かう。
約束の地。ものみの丘へと。
230名無しさんだよもん:2000/12/26(火) 20:22
>雪の少女
それだ!がんばれよ!
231名無しさんだよもん:2000/12/26(火) 23:38
232神尾観鈴:2000/12/27(水) 01:35
……眠れないよう……。

夜中なんだけど、観鈴ちん、お水でも飲もうと思って台所に行こうと思ったの。
真っ暗でなんにも見えなくてちょっと恐かったけど、台所になんとかついたの。
そしたら……

「あのクソガキが!! どこまでおちょくりゃあ気が済みやがる!!」

 が、がお……。
 こ、恐いよう……。

 台所のお隣の部屋から耳をつんざく声がしたの。なつきお姉さんの声だったよ……。
 で、でもいつものやさしいお姉さんと違うよう……。
「み、観鈴ちゃん?」
 いきなり隣の部屋のドアが開いて、そこからなつきお姉さんがびっくりしたような
顔で観鈴ちんの顔をじっと見ていたの。でも、目は真っ赤っか……。
 が、がお……やっぱり恐いよう……。

「そっか……さっきの聞いちゃったの。びっくりさせちゃってごめんね」
 なつきお姉さんはもとのやさしいお姉さんに戻ってくれたみたい。そして、観鈴ちん
を抱きしめてくれた。
 あったかかった……。お母さんとは違うけど、でも気持ちいいよ……。
 いつのまにか恐くなくなってきちゃったよ。

 でも、さっきなんで怒っていたのか気になっちゃった。だからきいてみたの。
 そしたら、なんでも”かわしまはるか”って人が”くらたさゆり”って人に勝手に変
な所に連れて行かれて、”むらさめ”って刀に命を狙われてやばいんだって。
 んで、そのままほうちしていると周りの人も危ない事になるんだって。
 だから、今さっき”さわむら”って人と電話していて、何とか手が打てないかって考
えたみたいだけど、こっちとしては”みやたけんたろう”って人以外にはどうにもでき
ないんだって。とりあえず、その”さわだ”って人と”ほしな”って人に”かしわぎか
えで”って人がどんな状態か知りたいと電話をしておいたから、その返事が返ってくる
まで待たなければならなくて、だから、なにも出来なくていらだってたんだって……。
 で、でも観鈴ちん、何の事だかさっぱり分かんないよう……。

 とにかく、観鈴ちんは何で今起きていたのってきかれたから、素直にのどがかわいて
寝られないと言ったよ。そしたら、
「こんなんでいい?」
 って言って、冷蔵庫から何とどろり濃厚ジュースをだしてくれたの。
 もう飲めないからあきらめとき、とお母さんに言われてがっかりしていた分、うれし
かった。なんでも、昨日きた違う店の人にこっそり取り寄せておいてもらったんだって。
 んで、明日の朝に観鈴ちんをびっくりさせようと思っていたみたいだって。
 うれしいよ。ジュースおいしいよ。
 お姉さん。ありがとう……。
233澤田真紀子:2000/12/27(水) 02:28
 私の狙いは、ごく単純だった。
 プラス因子は自覚なく扱える力だが、出力が制御できない。
 一方のマイナス因子は扱いが難しく小さな力を出すのも一苦労だが、プラス因子を打ち消せる。
 ならば、プラス因子の暴走分のパワーをマイナス因子で打ち消せば、何とか使えるのでは無いか?
 そう考え、過去の事例を調べたりもした。そういった使われ方は未だされていないようだが、マイナス因子により
 清水さんに説明を受けてから考えた方法だが、どうなんだろうか……
「何や、ぼーっとして。柏木家の門くぐってるんやから、しゃきっとしてえな」
「あら、私ぼんやりしてた? ごめんなさい」
 私は、出されたお茶をすする保科さんに肘でこづかれ、平静を装って答えた。
 ここは柏木家の茶の間。今は家に残っているのは末女の初音ちゃんだけらしく、閑散としている。
 初音ちゃん曰く、「もうすぐみんな帰ってきます」なのだが、どうも胡散臭い。
 さっきからその初音ちゃんもどこかへ引っ込んだまま出てこないし、もしや足止めでは……?
 私は、苛立ちを抑えるためお茶に手を伸ばした。その瞬間、保科さんがやんわりと言った。
「……飲んだらアカンよ」
 その瞬間、私はすぐに彼女の言の意を察した。そして、お茶を飲む振りをし、またちゃぶ台に戻す。
「ねえ」
「何や? まあ、ちょいと強力な睡眠剤ってトコやから心配いらんで」
「その割には、あなた本当に飲んでない?」
「お師さまの訓練で、服毒っちゅうのがあってな。何度も繰り返し飲んで耐性をつける訓練や。
 そのお陰で、私は平気なんや。まあ、即死するような毒には勝てんけどな」
「あら、そう。相変わらず化け物じみてるわね」
「誉め言葉としていただいとく」
「……ねえ、初音ちゃんってもしかして何か単独で企んでない?」
「多分な。宮田さんの話じゃ、一番危険かもしらんって言ってた」
「足止めの意味は?」
「高野山に向かった柏木一族、特に楓のバックアップをさせないためやろ。
 恐らく初音の狙いは次元矯正力を暴走させ、この辺に棲む生物を全て消し、成り代わる事や。
 ……真なるレザムからの移住民達を、な」
「なら、なぜ自分の血族まで消すの?」
「他の連中は、人と交わっていきるうちに、本来の残虐性が隠れてしまったからやと思う。
 楓なんかは、すでに鬼をやめてるも同然みたいやしな」
「恐ろしい娘ね……で、私達はどう動くの?」
「ひとまず祐介と千堂を柏木家の皆様のバックアップのため送りこんだ。残りの奴らは全力ではるかの護衛や」
「へえ……で、私と貴女は?」
「私は、由宇と合流して初音の足取りを追う。あんたは、清水さんからの依頼通り
 楓の様子を見に行ってくれんか。あんた、腕に覚えはあるんやろ?」
「誰に聞いてるの?」
 私は不敵に笑った。
「じゃ、いこか」
 そんな言葉に、にやりと笑い返す。
234リベンジャー%V沢郁未:2000/12/27(水) 15:09
そう。この感覚だ。
舞の剣が身体をかすめる緊張感。
頬を伝う汗。
これこそ私たちの雌雄を決するに相応しい。

「次元斬!」

舞の一撃が凄まじい波動を持って私に迸る。
直撃。激しく上下する視界。
しかし、舞……お前が倒したと思ったのは、もう一人の私。
ELEPOD。

舞に隙が生まれる。
がら空きの背中に不可視の力を叩き込む。
勝った。
そう私が確信した瞬間だった。

今度こそ本当に視界がぶれた。
少なくても私の眼では捉えることが出来なかった。

「神速……」

舞がポツリと呟く。私の背後から……。
首筋に押し当てられる刃。

私の負けか……。

そう思わされたことが、逆に私の腹を決めさせた。
舞にとっては皮肉でしかないだろうけど……。

敵を殺すまでは闘いは終わってないのだから!

「MINMES」

これには嫌な思い出しかなかった。でも使うしかなかった。
負けたくない。
ただ、それだけだったから。

私の周囲に光の粒子が生まれて空間ごと呑まれる。

どちらか一瞬でも早く目覚めた方が、この闘いの勝者になれるのだろう……。
235柏木初音:2000/12/27(水) 16:00
 ケッ。どうも思い通りにいかねえな。
 バカの保科がババアを連れてのこのこ家に来やがったからオヤスミしてもらったが、
 あれだけってのは困る。戦力を分散させなければ、村雨にはるかを襲わせるのも簡単じゃなくなる。
 ひとまず、アタシは藤田の野郎を捜さなければいけねえ。そして、奴に関わった女を全て殺す。
 保科、雛山の二人だ。もしかしたら腐れメイドロボの二匹も蘇ってくるかもしれねえが、まとめて殺してやる。
 愛した者を失った、日常を破壊されたアイツは、必ず次元矯正力を暴走させる。
 そして、その時余計な事をされないために河島はるかの力を確実に奪う必要がある。
 殺してはダメだ。そうすればマイナス因子は、他の人間の所へ行ってしまうからな。
 さて、戦力が足りねえな。雛山はいいが、保科の野郎は厄介だ。さすがにガチンコで勝てる自信はねえ。
 ヨークの力は、本当にぎりぎりまで使いたくねえ。誰か、奴を潰してくれるような、奴に恨みを抱く奴は……
 ……そうだ、例の郁美はどうだ? 奴は高位の妖狐、人間如きに互角の戦いを演じられてさぞ怒っているはず。
 よし、藤田の確保の前に――
「待ってや、そこのちんちくりんのお嬢さん。ちょいと野暮用があるんやけど」
 ああん?
 突然の声に振り返ってみれば、そこには胸の無いメガネ関西人。
 猪名川由宇とかいう奴か。こいつ一人ならどうとでもなる。
「テメー、誰がちんちくりんだと? 胸無しのくせしやがって」
「なっ……このガキ、あんたかてないんと違うか!」
「アタシはコーコーセーだからなぁ。テメーはすでに胸無しで許される年齢すぎてんだろ?」
「ほざいてくれるやんか……やっぱ、アンタは死刑やな」
「はっ。テメーごときに殺れるかってんだ。一人で鬼に勝てると思ったか?」
「――まあ、一人やったら危険かもしれんな」
 !?
 見れば、行く手に保科智子が立っていた。
「てめえ、どうやって!? オネンネしてるはずじゃ――」
「あいにくと、お子様のママゴトにつき合ってあげる暇は無くてな。企み全部吐いてもらうで、
 覚悟してや」
「へへ、そういうこっちゃ。ガキ、覚悟せえや」
 ちっ。関西人どもが調子に乗りやがって……!
 しかし、ヤバいのは事実だ。前後からの2対1では、どう考えても勝ち目は無いし、逃げる事も
 ままならない。
 くそったれが――どうする!?
236235書いた奴:2000/12/27(水) 16:30
申し訳ないっす、雛山、保科、”長岡”を忘れてました。
追加しといて下さい……
237柏木耕一:2000/12/27(水) 17:21
楓ちゃんから迸る妖鬼≠ヘ圧倒的だった。
すんでのところで初手はかわせたが、これからはそうも行かないだろう……。
これは俺でもただではすまないな……。
だとしたら――

「天野……お前らは逃げな……」
「……でも、貴方だけで勝てるとは思いませんが?」
「ちょっと天野さん、俺は鬼≠セぜ? 舐めてもらっては困るな」
「だけど……」
「それに、楓ちゃんの中の妖弧≠ヘあんたを狙ってるみたいだぜ?
 どうせ、ここで神奈≠フ力を使わせようとの魂胆だろう。
 あんたは九尾≠ニ闘うためにその力を得たんじゃないのかい?」
「……分かりました。ここはお任せします」
「ああ、これは柏木家……いや、俺の中に眠る次郎衛門と楓ちゃんの中に眠るエディフェルの問題だからな」
「……死なないで下さいよ?」

天野の後ろ姿を見送ってから、楓ちゃんと退治する。
楓ちゃんは縋るような瞳で俺を見ていた。

俺は本気を出すため、身体を真のエルクゥの姿へと解放する。
楓ちゃんと闘うためにじゃない。

楓ちゃんを助けるためにだ!
238千堂和樹:2000/12/27(水) 23:08
「ちっ、どうするんだよこりゃあ!」
「僕に訊かないで下さい……っ!」
 ものみの丘。澤田さんの指示で一緒にジェット機に乗っけられ、変なメガネ女に最初に指示されたのが、
 この電波小僧と一緒に楓とかいう少女を助けろという事だった。
 だが、悪いがそれどころでは無い。ここに来た途端、大量の妖狐が狂ったように吠えながら
 どこかへ走ってゆくのだ。その方向は、先ほどから強大なプレッシャーを感じる方向だ。
 妖狐の大爆走はいつまで続くのかわからなかったが、不意にはるか先の方向で強烈な気が膨れあがった。
「これは……天野美汐……!」
 祐介が、顔を緊張させ呻く。
「そりゃ、例の神奈がどうとかこうとかのアレか?」
「ええ。恐らく妖狐達はその力に触発され興奮しているんだろうと思います」
 祐介が、何か考え込むような表情になる。恐らく、電波を練っているんだろう。
 それから数分もたたない内に、後方から声がかかる。
「ちょっと千堂君、こんな所で何をぼーっとしているの?」
 澤田さんが、腕組みして立っていた。
「澤田さん……いや、仕方無いんですよ。この行列に加われってんですか?」
「確かに、これじゃ先に進めないわね……」
 俺達三人は、どんどん近づいてくる天野の気を感じつつも、事態を黙ってみているしかなかった。
 数分後、行列が止まった。凶悪な殺気を放ちながら、何か脅えるように黙って佇んでいる。
「どうやら打ち止めか……前方の方で妖狐の気がどんどん減ってる。天野とやらが軽く暴れてるらしいな」
「おかしい……なぜ沢渡が出てこない? 何か、他に強大な敵を迎えているのか……」
 祐介が隣りでぶつぶつ言っている。事情はよくわからん。
「さて……こうしてても仕方ないわね。ちょっと無理する?」
 澤田さんが、何か懐から出しながら言う。
「そうですね。そうじゃなきゃ来た意味が無いってもんだ」
 俺も、バックから画材一式を取り出した。その中から、鉛筆を取り出す。
「ちょっと、二人とも!?」
 祐介が何か抗議しようとしている。しかし、このままじっとしても事態が進展しないのも事実なのだ。
「じゃ、いくぜ」
 俺は、宙にシャッと鉛筆を躍らせた。黒鉛がある物を描き、それを実体化させる。
 手榴弾。
「な……それが、千堂さんの能力なんですか?」
「いんや、これはオマケみたいなもんだ」
 俺はニッと笑い、手榴弾を妖狐の群の中に放り込んだ。
 大爆発――
 何十匹かの妖狐が吹き飛び、無事だったものもこちらに殺気を向け、飛びかかってくる。
「くそ、もう知らないぞ!」
 祐介が、拡散した強烈な電波を飛ばしたらしい。前衛の何匹かが泡を吹き、仲間を襲い出す。
「やるじゃないの」
 澤田さんが微笑みながら、大口径のマシンガンを構える。
 3対数百――
 狂気の宴が始まった。
239天野美汐:2000/12/27(水) 23:30
気が付くと薄闇の中に居た。黄昏時とは全く違った、唯々陰鬱な闇が辺りを支配している場所。
そして目の前にはわたしが立って居る。夢か、幻覚か、まあそんな事は問題ではない。
ただ、自分と同じ存在を見ているのは気分が悪い。それだけだ。…折角なので喋り掛ける。

…だれ? ──(我ながら気の利いた台詞だ。)
「私は…貴方」 ──(何の捻りもない回答だった。気味悪いぐらい素直なのだな、夢を見ているわたしは。)
…そう。 ──(さて、早いところ目覚めるとしよう。)
「負が…増してきています」  ──(……)
「このままでは…我々の心全てが侵略の憂き目にあうでしょう」  ──(………)
「ペルソナとは云え、貴方の力はオリジナルの私を凌ぎます」  ──(…………)
「私に協力して…」  ──(ちょっと…)
…ちょっと待って。まるでわたしが、まがい物であるように聞こえるが…  ──(何なの、これは?)
「……遙か昔、一つの狐が邪悪と化しました。その原因は…負です」
「負は、この世に知恵が生まれたとき、同時に生まれました」
「生物の黒い感情。それが凝り固まり、たった一つだけの意志を持ったのです。いわば純粋の悪」
「私はその狐により、負の洗礼を受けました。その結果オリジナルである私が、表から姿を消す羽目に陥ったのです」
「その時に生まれたのが貴方。私の記憶を引き継ぎながら、しかし私とは異なった存在」
「長い間貴方と連絡を付けようと努力してきました。もっと早く出会うべきだったのですが、残念ながら出来ませんでした」
「今、負は次第に大きくなりつつあります。周りを見回せば分かるでしょう」
「そこで私と協力して、この負を消して欲しいのです。負が完全に侵食した時、それは私たちの最期ですから」
……その後、わたしはどうなるの?  ──(既に答えは分かっていたが、聞かずには居れなかった。)
「現在の私の立場と同じになります。表から姿を消し、傍観者となるのです」  ──(やはり…)
頭の中が混乱している。理性では状況を理解しているが、たくさんの感情が錯綜する。わたしは…
「苦悩するのも分かります。私もそうでしたから。少し時間をあげましょう。考えを整理して下さい」
「…尤も、協力以外の選択肢は、存在の消滅と同義ですが」…そう言うと”わたし”は目の前から消えた…
…周りの風景が変わり…

ふと、目を覚ました。目前に、心配そうにわたしを窺う少女が居る。確か楓と名乗った娘だ。
ならば今までのは白昼夢のようなものか…軽い目眩がする。全身が汗だらけだ。
突然の”わたし”との邂逅。あの話が事実かどうか判別は付かない。だが完全否定もできない。
どうする?わたし…
そんな中、鬼達…いや、柏木耕一と柏木楓。両人がわたしを気遣う。ふふ、つい先日まで
死闘を繰り広げていた相手に、こんな事を言われるなんて…思いも寄らなかった。
取り敢えず強がっておいた。…本当はそんな余裕ないけど。
すると二人は、よかった、と言う。何だかむずがゆくなり、わたしは顔を伏せてしまった。
人柄がいいのだろう。こんなに落ち着ける相手、わたしにはあまり居ない。
わたしは、一頻りその気分を味わうことにした。

突然巨大な妖狐の気配を察知した。反射的にその発生源をみる。…楓だった。鬼ではない。明らかに妖狐の気配。
何も言わずに攻撃を仕掛けてくる楓。わたしと耕一は反射的に身をかわす。様子がおかしい。何故妖狐の力を…
それに彼女の顔からみると、最早正気ではないようだ。完全に理性を失っている。
また…闘うのか。気は進まないが戦闘態勢に入った。彼女の攻撃を交わしながら、広い場所に出る。
其処へ国崎往人が訪れた。どうやら生きていたみたいだ。更に二人…?…何?この二人の気配は……
そうこうしているうちに、楓の殺気は更に増大する一方。鬼の力と妖狐の力。見事に絡み合い、爆発的に気が膨れ上がる。
くっ、勝てるか?そう逡巡しているわたしの前に、柏木耕一が立った。
─これは俺の問題だ。彼女と俺が交わした、古い約束。それを果たす─
そう言ったときの、柏木耕一の目…語らずともその想いは受け取れた。
…どちらも死なないで。こう呟くと、わたしは武器を取り国崎往人達と共に走り出した。
240237:2000/12/28(木) 00:08
ぐわっ。今更ながら誤字が一杯だ。

×楓ちゃんと退治する
○楓ちゃんと対峙する

すまん。俺の文章って誤字ばっかりだ。
241橘敬介:2001/01/04(木) 00:55
翌朝、普段よりいっそう蒸し暑いので早めに目が覚めた。
 時計を見ると4:00だ(もっとも、このすぐ後でブン屋の手伝いと称して清水にたたき起こ
されるのだが)。
 案の定、清水は起きていた。だが、意外な事にみすずも起きていた事だった。
 みすずは嬉しそうに何かジュースらしきものを飲んでいた。パッケージを見ると、なんと
『どろり濃厚ジュース』だ。みすずが高野で修行していた頃に好んで飲んでいたものだ。
 だが、日本でしか発売されていないこんな物を、よくこんな最果ての地で入手できたものだ。
 そんな思いで様子を見守っていると、清水はみすずがジュースを飲み終わったのを見計らって、
「ちょっと、結界を今ここで張る事が出来る?」
 と云った。なんだと…。確か、法力タービンは来栖川に盗まれて法力は使えない筈では?
 みすずはかつて里村に教えられた通りの動作を行う。だが、このままでは不発で終わるのが……
 ……え!?

 なんと、みすずの体から法力が発せられていくではないか!!
 その法力はみるみるうちに大きくなっていき、やがてそれは結界を作り出していく。
 ――信じられん……。
 タービンなしでもこんな事が可能とは俺も知らなかった――。

 だが、その結界は数分しない内に消失してしまった。
 みすずの周囲に渦巻いていた法力もみるみるうちに小さくなっていき……無くなっていく。

「あれ? 前に教えてもらった時はもっと出来たのに……変だよ……」
「いや、それでいいのよ。ありがとう」
「にははっ。どーいたしましてっ」
 法力の出具合をおかしく思っていたみすずに微笑みかけた後に、清水は俺の方を向く。
 俺はすぐさま疑問を口にした。
「一体……どういう事なんだ?」
「ちょっと試してみたのよ。ほら、前に話していたでしょ……里村が修行を付けた時にみすずは
タービンを抜き取られていたのにも拘わらず、法術が使えていたって。設計図を見ていた時にち
ょっと思い当たる事があってね」
「それは何だ? ちょっと思い当たらないのだが……」
 すると清水は以下のような事を話し出した。
 みすずの兵器としてのエネルギーはタービンと消化器官の2つで作られている(その事は俺は
勿論知っている。だが、後者から供給されるエネルギーは高が知れていて、兵器のエネルギーと
してはまったくといっていい程使えないが)。来栖川サイドがタービンを取り外した際に、内部
機関を多少いじったらしい。その時に体が消化器官の方を自動的にタービンと誤認識してしまい、
少しではあるが、他の機関が無理矢理、消化したエネルギーを増幅するようになったというのだ。
 ただ、それが機能する食材は非常にかぎられていて、糖分と粘りのあるものを同時に摂らなけ
れば作動しないという。どろりはそれに一番適しているのだ。
 そんなことがあるなんて……。油断がならない。
242天野美汐:2001/01/09(火) 01:12
柏木楓の元から逃走する途中、無数の妖狐に遭遇する。
面倒だが仕方がない。ついでに武器の試用も兼ねて相手をすることにした。
両腕両足に一つずつ付いている、黄金色をした三連の輪。見た限りでは綺麗な腕輪と言ったところ。
足を止め、丁度前にいた一匹と対峙する。両腕に法力を纏わせ、いつもの様に威力を増そうと…
……何の反応もない。
法力の増幅は感じられない、と言うより素手の状態と同じだ。
…紛い物か?それとも何か手順が必要なのか…
しかし考えている暇はない。非常時用の独鈷を取りだし、戦闘を開始した。
今回は相手の数が多い。長期戦になりそうなので法力増幅器を必要としたわけだ。

──既に乱戦状態。味方の姿は確認できない。四方から襲い掛かる妖狐に対し、最小限の動きで対処する。
一方の攻撃を交わす動作で他方の敵に攻撃を加え、その動きにより更なる攻撃を交わす…
乱戦は結構得意。パズルのような面白さと舞踏のような美しさに憧れ、何度も乱取り稽古をしたお陰だ。
それにこの程度の相手なら一撃で屠る事が出来る。人数の差は大きいが、今のところ此方が優勢であろう。
安心感に伴い、次第に攻撃の手も機械的になる。迫る攻撃を無心で交わすうちに、心は何時しか無意識の中に落ちていった…
243天野美汐:2001/01/09(火) 01:12
いつの間にか薄闇の世界にいる。その闇は以前より深く、暗い。…またか…目の前にはわたし。
「考えはまとまりましたか?」
…あれからほとんど時間が経っていないのだけど…
「まあ考えても仕方のないことですけどね」
…それもそうなんだけど…
「見て分かるとおり時間がありません。早速ですが協力して貰います」
……何をするの?
「以前にも言いましたが、貴方の力は私を上回っています。精神力つまり意志の力が、です」
「負の侵食への対峙として、有意識下で漠然と意識を集中させるよりもこの場所」
「つまり無意識と有意識の狭間で直接相見える方が、格段に効果的なのです」
「要は現在の私と同じ場所に来て欲しいわけです。その間私が有意識に在りましょう」
「二人同時に有意識下を離れるのは非常に危険ですから。大丈夫ですよ。ずっと有意識には居ません」
「逐一この場所、狭間に来て貴方の助けを致しますから。とにかく今は少しでも力の大きい者に、ここで壁となって貰いたいのです」
…結局わたしが”裏”に行かなければならないわけか…それもまたやむを得ない…のね…
「そうです。ではお互いのの立場を入れ替えましょう。”こちら”に来て下さい」
ゆっくりと”わたし”の方へ向かって歩き出す。同時に”わたし”も此方へ向かって歩き出した。
”わたし”と擦れ違った瞬間、意識がはっきりする。そうか…今のわたしは夢を見ているのではなく、夢から覚めたのか。この場所が現実世界か…
「それではまた後ほど…」
消えゆく”わたし”に、ふと気になったことを聞いてみた。
…神奈はどうなるの?それに何故負にそれほど詳しいの?あなたの全記憶を受け継いでいる筈なのに、わたしにはその知識はない…
「さあ?何故なのでしょうかねぇ」
ニヤリと微笑んだ”わたし”に対し、初めて物凄い不安の感情が生まれた。あれは本当にわたし自身なのだろうか…
どうして無条件で信用したのか…けれど、もう手遅れだった。”わたし”は消え、自分は一人、狭間に残される……
244天野美汐:2001/01/09(火) 01:12

……
気が付くと目の前に妖狐。しかもいっぱい。……やった。とうとう出られたー!何年ぶりかな、有意識下にあるなんて。
嬉しさのあまりその場で踊りだしたくなったけど、どうやらそんな状況じゃないみたい。周りは敵意むき出しの妖狐だらけ。
「さぁーて、一気に行くよ!天之御劔(あめのみつるぎ)よ、在れ!!」
何故か頭に浮かんだ台詞。手の中にあった独鈷を捨てて、空間から剣を取り出した。続けて祝詞を唱える。
「高天原に神留り坐す 神漏岐神漏美の命以ちて…………」
あれ?…私ってこんな術を使っていたっけ?……まあいいか。
剣に力が集中し…そのまま左から右に薙ぎ払う。走る切っ先からは衝撃波が生まれ、前方にいた妖狐が消し飛んだ。
「ふふふふ。楽勝!あんた達じゃ相手にならないよ。雑魚は消えてなさい!」
続けざまに剣を振る。辺りに立ちこめる爆風。それが晴れると、私の周囲からは妖狐の姿が消えていた。逃げたかな?
少し経って往人達が私の元にやってきた。向こうもどうやら片が付いたみたい。
「大丈夫?みんな怪我はない?」
折角声を掛けてあげたのに、往人はきょとんとしている。失礼な奴。
「んじゃあ、今度は追撃戦と行こうか」
そうみんなに言うと、私は妖狐の気配を追い始めた。逃がしはしないよ。
245長瀬祐介:2001/01/09(火) 16:35
 秩序ある混沌。イメージするのは、そんな曖昧なもので良かった。
 暴れようとする電波の粒子を制御し、然るべき方向に向け、然るべき命令を与えて飛ばす。
「……壊れて……しまえッ!」

 ヒィィィィィィィィィィィィン…………

 妖狐の悲鳴か、あるいは電波の咆吼か。低い呻りが周囲に散り、電波に犯された妖狐が狂いだす。
 もう何匹目だろうか。顔色を変えず重機関銃を乱射する変な女と、宙に何か危険物を描いてはそれを用いて妖狐を殺す
 変な男に挟まれ、僕は休みなく電波を練っていた。いい加減頭痛を覚え始めてきている。
「おっ……奴等、逃げてくか?」
 変な男が軽口を叩いた。確かに、生き残った妖狐の群れがどんどんあらぬ方向へ散っていく。
 僕は電波の濃度を薄めた瞬間、無邪気な陽気さにコーティングされた殺気を感じた。
「…………!」
「んあ!?」
 二人も察知したようだ。先ほどまでの天野の気が消え、全く異種の気を感じる事に。
「天野って奴が、とうとう本性を出したか?」
「いえ、多分違います。それにしては、恐ろしい程澄んでいるというか……」
 僕は、すっかり人気が消えてしまった周囲を見渡し、提案した。
「とりあえず、そいつとの遭遇を避けるルートで柏木楓に近づきましょう。もし出逢ってしまえば、ただで済むとは思えない」
「そうね。賢明だわ」
 変な女が同意してきた。尋常ならざる人物ではあるが、頭は悪くないらしい。

 ……そして、僕らが辿り着いた場所は、修羅場だった。
246川澄舞:2001/01/09(火) 20:19
ここはどこ?
ううん、私は知ってるんだ。
帰ろう……私の帰りたかった場所へ。

そこにはお母さんがいた。
いつだってそこに居てくれた。
私が『お母さん』と呼んだら、いつも笑顔を向けてくれていた。
嬉しかった……。

そこに居てくれるのが当たり前で、怒った顔なんて見たことなくて、
優しく私を包み込んでくれる。

「あれ?」

何かしなくちゃならなかったはずなのに、何か大切なことがあったような気がするのに、

「舞」

お母さんに、そう頭を撫でられると、どうでもよくなっていた。
もう眠りたい。お母さんの胸の中で楽しい夢だけを見ていたい。
こうしていると暖かいから。お母さんの温もりが伝わってくるから。

「さようなら」

どうしてだろう?
私はお母さんの胸の中で泣いていた。
本当にどうしてだろう?
でも、いくら考えてみても、その答えは見つからなかった。
247天沢郁未:2001/01/09(火) 21:36
目覚めたのは私の方が早かった。
過去の修行によって耐性が出来ていたおかげかもしれない。
それは皮肉でしかなかったが、今だけは感謝しよう。

地面の上に横たわっている舞。
眠っているのだ。もしかしたら永遠に目覚めないのかもしれない。
でも躊躇いはなかった。私は全力を持って仇敵を打ち倒す。
不可視の力、ただ純粋に力を解放して。
衝撃。その後に来る爆音。
砂煙が巻き起こる。
そして、私は見た。
彼女の姿を。

「倉田佐祐理!?」

そこにいるのは間違いなく倉田だった。
舞を護るように立ちはだかっている。
幻のように揺らめきながら。

「ありがとう、佐祐理」

疾風のごとく駆け抜ける少女。いつ目覚めたのか舞が私の懐に潜り込む。

「やらせない!」

私は残り少ない余力を振り絞りながら不可視の力を叩き込もうとした。
でも、駆け抜ける風は速くて、私には追いつけなくて。
意識が遠くなったのか、舞の姿が何人にも見えた。

終わった。

自分の負けを私は認めていた。
すべての力は出し切れた。だから悔いは無かった。
でも、私の目の前で刃は止まって、私の予期していた瞬間は一向にやって来なかった。

「……敗者を弄るつもり?」
「……違う、負けたのは私の方だから」

よく分からないことを言いながら、舞はポケットの中から、一枚の紙切れを見せる。
お米券? いや、符だな。それが一体どうしたというのだ……?

「本当は、もう駄目だった。でも、眠りにつこうとした瞬間、声が聞こえたから……」
「倉田佐祐理……」
「……そう、私が勝てたのは、佐祐理のおかげだから」

舞は踵を返すと最後に一言だけこう言った。

私は魔物を討つものだから

私は魔の者ではない。そう言いたかったのだろう。
不器用な奴だ。

「ふふっ、やっぱし、私の負けみたいね」

どうしてか負けたのに心は爽やかだった。
こういうのも、悪くない。
この街では辛いことが多すぎた。そろそろ潮時なのかもしれない。

「あなただって、そう思わない?」

物陰に潜んでいるあいつに、私はそう言ってやった。
248巳間晴香:2001/01/09(火) 21:51
「いつから気づいていたの?」
「……なんとなくね」
「言葉遣い戻ってるわよ?」
「別に構わないわ」
「これからどうするの?」
「もう、この街には用がなくなったから、出て行こうと思ってる」
「そう……」
「どう? 一緒に来ない?」
「一緒に帰らない≠フ間違いでしょう?」
「そりゃあ帰るけど、終わりと始まりは共にあるものでしょう?」
「……そうかもね」
「どう?」
「……これから、どうする気?」
「とりあえず、由衣たちを探して、ケーキのバイキングにでも行くわ。もうお腹ペコペコよ」
「いいわね、そういうのも。でも、私は……」
「そっか……。残念」
「……ごめんね」
「いいわよ、晴香にもやることあるんでしょう?」
「…………」
「それが終わったら、また一緒に、ね?」

 本当は少しだけ迷っていた。
 だけど、私にはこの街ですることがあったから。
249巳間晴香:2001/01/09(火) 21:52
「あっ!?」
「――っと、ごめんなさい」

 ふらっと郁未が足元を崩す。
 どうやら今まで気力で立っていたみたいだ。
 私は慌てて郁未を受け止める。

「ありがとう」
「……そんな身体でどうするつもり?」

 どうしてか大きな声で私は言っていた。
 郁未のこと、心配してるの、私……?

「どうやら力を使い果たしちゃったみたいね」
「……」
「え、ええーっ!」
「うるさいわね、放って行くわよ!」

 郁未に肩を貸しているのが恥ずかしくなって、また声を荒立ててしまう。

「やることあるんじゃなかったの?」
「ええ、あるわ。でも今は、お尻の重いあんたを運び足すことで手一杯よ」
「素直じゃないわね」
「……やることあるんだから、友里さんか葉子を見つけるまでだからね」
「……ありがとう、晴香」
「なっ!?」

 そんな風に言われたら、顔を赤くさせるしかないじゃない。
 今だけ。今だけは、この子のために。
 でも、やっぱり迷ってしまう。
 みんなと一緒にこの街を出るのもいいかもしれない。

「ねえ、郁未」
「……」

 声をかけると郁未は眠っていた。
 それは心のそこから安心しきった寝顔だった。
 さて、本当にどうしようか?
 このまま、やっぱり街に残る、それとも……。

「まあ、いいか」

 今はこの子のためにだもんね。
 私が、どうしたいかは、後で考えよう。

「そういうのも悪くないよね?」

 郁未にそう語りかけてから、私は彼女をおんぶして歩き出す。

「私は……晴子の思った通りしたらいいと思うよ……」

 そんな寝言みたいなこと言う、郁未に苦笑しながら。
250名無しさんだよもん:2001/01/09(火) 21:55
×「私は……晴子の思った通りしたらいいと思うよ……」
○「私は……晴香の思った通りしたらいいと思うよ……」

鬱だ。すっごく鬱だ。だいなしやもん。逝ってきます。
251名無しさんだよもん:2001/01/10(水) 23:38
あげっ!
252神尾晴子 (1/7):2001/01/10(水) 23:38
 なんや、敬介も観鈴も起きとるやないか。
 ふぁあ……結局、遅くまで寝とったのはウチだけか……。
 しかし時計は7時半……。珍しいな、こんな時間に起きても清水がイヤミの一つもこぼさんなんて。
 まあ、その理由はその直後に分かるんやけど。

「今日、店は休業よ」
 開口一番に清水の口からでた言葉やった。そういや、そうやっような気が……まあええ。
 でも……昨日と違って、彼女の顔は相当深刻そうやった。
「なんか、顔色わるそうやけど……一体どないしたん?」
「ちょっとね。遂に始まっちゃったなって感じ」
「始まったって……ひょっとしたら、高野と妖狐が全面的に衝突しよったんかいな!?」
「ええ……ついでに言うと、あの最凶の邪術師も、ものみの丘に乗り込んだらしいよ……。
さっき、そこに忍び込んでいる知人からそれを聞いたの」
「せやったんか……」
 そう、すでに戦争は山場に入りよった……そんな所やろ。てことは、神奈が降りてきよる……。
 そして、ついでにいうと最悪の場合、次元の因果律が歪んでもおかしくないと。
「ただ、神奈の降臨は……今の時点ではそこまではまだ心配しなくてもいいみたい」
 清水はウチの思いを見透かしていた(かどうかは分からんが)のか、そう云って微笑みよった。
 だが、それでも表情はどこか暗かった。
253神尾晴子 (2/7):2001/01/10(水) 23:39
それより、心配なのはプラス因子とマイナス因子の存在よ。彼らの動き次第によっては因果律の歪
みを促進してしまうかもしれない……。他にも問題は山積みだけど、何よりそれが気がかりなの」
「確か、プラスが藤田って奴と相沢って奴で、マイナスが河島ってのやったっけ? プラスが暴走し
たり、その暴走を押え込むマイナスが消失したりしたら、次元がムチャクチャになりよる……。それ
で、河島をあの世界に放り込んだ倉田って奴を散々けなしとったな」
「まあね。本当、厄介な事になったわ。しかも、藤田は精神的に危なくなっているし、相沢は何を考
えたのかものみの丘に足を向けているし、河島にいたっては柏木の末女が放り込んだ妖刀に狙われて
いるし……。1番目も気になるけど、ヤバいのは2番目ね」
「2番目というと、相沢のことか?」
「そう。近くに水瀬がいたから、それだけでも不安だったんだけどね……」
 その時、部屋の中の電話が鳴りよった。清水は「ちょっと待ってね」と云って、電話に出よった。
「……んで、あゆちゃんの行方は……そう……。コリンちゃんの方は……」
 掛けてきよったのは、先程云ってた「知人」からやろか。少なくとも、現地にいる人間からやとい
うのは分かる。どうやら、月宮って奴を探しているみたいやが、行方が分からないままで、清水の表
情はいっこうに晴れる様子はあらへん……。
254神尾晴子 (3/7):2001/01/10(水) 23:40
「そういえば、河島の方は大丈夫なん? ちゅうか、一番危険なのは彼女やろ?」
「ううん。それは心配ないよ。まず、彼女の周りには保品さんの一味が護衛をしているし、その保科
さんも柏木の末女を抑えにいっているし。
 ていうか、柏木の末女は保科さんと顔を合わす以前……いや、この争いに参戦する以前に、既に
チェックメイトが掛かった状態だから、大して問題はないんだけどね。ただ、当の本人はその事にまったく気付かずにはしゃぎまわっているみたいね。たいした厨房さんよ。心配はないよ」
「ちょい待ちぃや。仮にも彼女は伝説のエルクゥの一族やろ? それがすでに勝負にならない状態
やって? 鬼を相手にするのは高野の者でさえ手間取るって言うのはあんたも分かっとるやろ?」
「それは相手が柏木の長女といった有力者の場合ね。対して末女の鬼としての力は高が知れている
し、そもそもプラス因子を暴走させたら破滅の力を必ず手に入れられると思い込んでいる時点でドボ
ンなのよ。まあ、例の妖刀を投入したのが彼女だと知って笑っちゃったけどね。さっきまで、妖刀の
事で心配したけど、本当に損しちゃったって感じ」
「そこまで云いきってええんか……? ウチにはその根拠が今一つよう分からんのやけど……」
「あっ、そうね。そうしたらちょっとこれを見て」
 清水は、テーブルの上においてあった数枚の写真をウチに手渡した。
 写真には古い和本が写っとった。本の表紙から中はもちろん、裏表紙までくまなく写したものやっ
たが、その大半は何者かに引き裂かれとって読む事が出来ん状態になっとる。
 しかも読めそうな場所も、見た事のない文字で書かれとるものやから、内容がさっぱり分からん
かった。それもあたり前の事で、これは大昔にエルクゥが使うとった文字やったと清水は云いよった。
255神尾晴子 (4/7):2001/01/10(水) 23:41
 とにかく、1ページ目に書かれていた内容はこんなもんや。

 ――ジローエモンと四姉妹は転生する。恐らくは、今は生きながらえているダリエリも。
 ダリエリは、ジローエモンの宿敵として転生するであろう。だが、人の身にあっては、覚醒が
 遅れるやも知れぬ。だが、無情なる狩猟者の血は必ずや多くの血を啜り、貪るであろう。
 三女のエディフェル、彼世においても禁を破るであろう。
 汚れた狐の血と交わり、邪悪な力を手中にせん。
 末女のリネット、母なるレザムに回帰せん。ヨークを慈しみ、愛情をそそぎ、
 その破滅の力を己がものにするであろう。
 長女と次女、呪われし運命に……――

 この先からは、おもっくそ乱暴に引き裂かれとってまったく読めん状態やった。
「これがどないしたんや?」
「実はこれは小出って学生がとある山中の洞窟を探索した際に発見したんだけどね( >>166 参照)。
 前の日に保科さんに解読を依頼したみたいなのだけど、本人がさっき言った事情で不在だったのよ
ね。んで、資料の方は藍原さんが預かってくれたみたいなのだけど、彼女もまったく理解できないも
のだったから、私に頼み込んできたのよ。夜明けに資料の方はついたのだけど、確かに2ページ目か
らのほとんどは何者かが引き裂いてしまって読めない状態になっているわね。
 でも、4ページ目も結構大意は把握できるよ」
 そう云って、清水は手元にあったノートに2ページ目から4ページ目までの訳を書き出しよった。
256神尾晴子 (4/7):2001/01/10(水) 23:42
(この文章は1ページ10行くらいで書かれとることをいっておく。また『・・・・』の部分は判読不
能の箇所を示す)
(2ページ目)
(3行目)・・・・・・・・・・・さながら、天につばを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(7行目)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・愛する者を見限り・・・・・
(8行目)・・・欲を満たそうと欲するなら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(9行目)・・・・・・・・・・・・・・・悲惨な・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(3ページ目)
(2行目)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・リ・・・ほど、弱くもない。
(4行目)・・・・・・・・・・・・・・ン次第では・・・・・・・・・・・・・になろうものだ。
(7行目)・・・・過去にジローエモンを奪っ・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・・・
(9行目)を繰り返すほど愚かではなくなって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(11行目)・・・・・場合によっては、ち・・・・・と猫は争わずに済むであろう・・・・・・・・

(4ページ目)
(1行目)・・・・・・・ただ、・・・・・は忌まわしき相手に昔も今もおいかけられる。だが、そ
(2行目)んなときこそ平和なものよ。狩りへの衝動に動かされずに済む。そ・・・・・・・・・・
(6行目以降)・・・・・・も、もし匿った愛人への思い強ければ、無情に血を求める事はない。
     愛するものへの思いは鬼たちを狂わせもした。
     だが、それは狩人の血から遠ざける薬にもなりうる。
     ただ、狩猟者どもも所詮は生かされているもの。天には逆らう事はできない。
     自分の領分を知りて、この世での生を受け入れることこそ、狩猟者としての意義あり。

 やっぱ、意味分からんわ……。
 小出って奴も結局、2ページ以降の解読を断念してしまったというのも頷ける。材料があまりにも少なすぎるやん。
 でも、清水は解読できたという。ついで、この書を引き裂いた犯人も、引き裂かれた部分もだいたい想像が付いたという。
257神尾晴子 (7/7):2001/01/10(水) 23:44
「これがどないしたん?」
「とにかく、こいつを読めなくした犯人はだれか考えてみてよ。
 容疑者は全部で6人。柏木四姉妹と従兄弟の耕一、さらには刑事の柳川祐也、ってとこね。
 まあ、さらに付け加えておくなら、この資料が引き裂かれたのはごく最近、しかもこの引き裂いた
痕跡はエルクゥの爪によって引き裂かれてできたものだった、とだけ云っとくね。これだけあれば犯
人はだいたい分かると思うけど」
「でも、これが保科らは心配ないっちゅうのと、どんな関係があるん?」
「この資料がすべてって訳じゃないんだけど……まあ、それはこれを考えてからにしてみて。これも
渡しておくから。ちょっとした頭の体操にはなるでしょ」
 目の前に置かれたのは、柏木家およびその周囲の人間の詳細な情報をまとめたファイルやった。
性格や交友関係はもちろん、親族の住所や犯罪歴までしっかり書かれとる。濃いファイルやね。
「さてと……なつきはちょっとメールでも見とこっかな」
 清水は大きく伸びをすると、窓際に置かれているパソコンにスイッチを入れて、回線をつないで
メールボックスをチェックしとった。(どうでもいい事やが、清水はマジになっとるときの一人称は
『私』、普段の時の一人称は『なつき』というようになっとる。要は、今はなんとか落ち着きを取り
戻したっちゅうことやね。これが分かったんはごく最近の事やが)
 仕方あらへんなぁ……とにかく、ウチはこの犯人当てに乗ってやるとしよか。
 そう思ってファイルを開けようと思った時――。

「ちょっと待ってよ……。送り先を間違っているとはいえ、こいつからのメールが来るなんて……。
 でも、ちょうどいいわ。あそこの内情もすぐに知りたいと思っていた所だし」
 清水は急に大声を上げて、画面に見入っとった。どうやら、意外な相手からメールが来よったらし
く、画面に穴が開きそうなほどじっと、文字を目で追いかけとった。
 ウチもさりげなくその背後から、画面を覗き込んだ時……。

 ちょっと待ちぃ!? こんな事ってありなん?
 私の目はすっかり、送信人の名前に釘付けになっとった……。
258神尾晴子 (2/7):2001/01/10(水) 23:47
「……とにかく、相沢君とあゆちゃんを見つけたら監視お願いね。特に、相沢君は厳重に注意してお
いて。危険地帯の中でかなり大変かと思うけど、頼んだよ。じゃあ……」
 清水は相変わらず、うかない表情のままやった。
 なんでも、相沢に付き添っとった月宮あゆって娘の後を追ってものみの丘に行きよったらしい。
 確かに、相沢があんな所に行きよったら、どんな事になってまうか分からへん。たまたま区域内に
おったユンナとかいう知り合いに、念の為に捜索(とついでに見つけたらボディガード)を頼みよっ
たみたいやけど、結果は思わしくないみたいや。
(しかし、清水の交友範囲はエゲつなく広い。天使にも知り合いがおるとは……しかも、かつてそい
つを弟子にしていたってんやから……ホンマ、こいつ何者って感じや……)
「今まではあゆちゃんが相沢君を見守っていたから安心してたけど……どうしよう……」
 清水は誰に云うわけでもなくそう呟きよると、すぐさま受話器を取って、岡田って奴と藍原って奴
に電話をかけていた(どうも、全面戦争開始の事をタレ込みよったのは、この岡田ってのらしい)。
 内容は、相沢を見つけたら注意する事というのに加え、藤田にも気を付けろという事と、何か資料
らしきものを送ってもらった事への礼をしとった。
 そして、一連の事を話し終えると、清水はウチの方に向き直った。
「ずっと話を聞いていたみたいだから分かると思うけど、今、相沢君は無防備の状態よ。次元の崩壊
を狙う連中にとっては格好の餌食ね。まあ、一応護衛はつけておいたけど……。
 あと、気になるのは水瀬の娘ね……。さらにものみの丘の地下に埋蔵されているブツや、エディ
フェルの事も気になるけど、まずは、因子の問題をなんとかしなきゃあね。藤田君の方は藍原さんが
どうにかしてくれているからいいものの……」

注:これが2番目に来ます……。んで、253が3番目、254が4番目、255が5番目、256が6番目です。
  非常に長い上にスマソ。ちょっと回させて頂きます……。
259251〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:48
回します。
260251〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:49
回し中です。
261252〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:50
スマソ。251は違いました……。あげてるじゃないか……。回し。
262252〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:51
回し。
263252〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:52
回し。
264252〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:53
まだまだ回します。
265252〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:55
まわします。
266252〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:56
まわしま〜す。
267252〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:57
回しま〜す。
268252〜257書いた人:2001/01/10(水) 23:58
最後の回しで〜す。
269252〜257書いた人:2001/01/11(木) 00:01
やっと。回しました……。
とにかく、しつこいようですが順序は252、258、253、254、255、256、257の順です。
あらら……258を書いていた事に今ごろ気付きました……宇嗣雫篠宇……。
270正天使<ンナ:2001/01/12(金) 17:49
「てやーっ!」
 光の粒子が四散して弾けて、周りにいた数十の妖弧はすべて薙ぎ払う。
「参ったわね」
 私はやっと一息つけたことに安堵の溜息を漏らした。
 まったく、なつきの頼みじゃなかったら、こんな手間なこととしないのにね。
 この雪の街でたった一人の人間を見つけるなんて至難の業よ。
 天使の私でもきついったら、ありゃしない。
 相沢祐一とか言ったけ? 写真(霊視をするため)を見たところ普通の子供じゃない。
 これなら、まだ芳晴の方が戦力になるはずよ。一体何を考えてるの、なつき?
 まあ、いいわ。貴女のことだもん、何か考えがあるのね。
 そろそろ、00マイナス4ポイント。
 この辺りにいるはずなんだけど……。
「うふっ、ビンゴーって奴ね」
 私の視界に映る少年の姿があった。
 まあ、我ながら大した霊視能力だと自分で誉めたくなっちゃうわ。
「あなた、相沢祐一君ね?」
 と、私は呼びかける。すると、何やら身構えようとする祐一君。
「誰だ?」
「まあ、敵じゃないわ。安心して……とはいえない状況だけど、あなたを保護しに来たのよ。一緒に来てくれないかな?」
「……一緒にって、俺はあゆのところに」
「あゆ?」
 そう言えばコリンが変なこと言ってたわね。
 この街には、もう天使が来てるとか何とか……。
 そんなわけないのに。
「分かったわ。その子のことも私が探してあげる。でも、まずはあなたからでしょ、祐一君?」
「でも、俺は…………ごめん、やっぱり、あゆは俺の手で探してやらなきゃいけないから」
 そう言って、駆けて行こうとするので、私は慌てて祐一君の手を掴んだ。
「ちょっと、ここはあなたみたいな力のない子が平気で歩ける場所じゃ――!?」
「歩ける場所じゃないんだよ、祐一」
271正天使<ンナ:2001/01/12(金) 17:52
 なに、この感覚? 誰、この子?
 どうして、私、倒れてるの?
「だけど、貴女みたいに弱い人に言われてもぜーんぜーん、説得力ないよ〜」
 間延びした声。流れるような髪。そして白い巫女装束。
 彼女の手に貫かれてた……私のお腹……。
「へぇー、天使っていっても、大したことないんだね。これじゃあ、あゆちゃんにも期待できないよ〜」
「名雪? 名雪なのか?」
「あははっ、祐一、おかしなこと訊くね。当たり前だよ〜」
 暗転する視界。身体に寒気が走る。
「こ、このーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 純白の翼を羽ばたかせて神気を一気に解放した。
「あ、まだ動けるんだ〜。じゃあ、止め、だよ」
「人間如きに、この私がやられるものかっ!!」
「ううん、やられるんだよ」
「神気<ヴァルハラ>!!」
 身体に満ちていく高貴な光。天使の扱える術の中でも禁忌とされる問答無用の<生者脱魂>。
 死神遣いさえも恐れる、生きた者の魂を強制的に昇天させることができる。
でも、彼女は身の毛のよだつくらい笑顔で、にっこりと微笑んでいた。
「ねえ、凍って」
 彼女――名雪といった少女が一言呟いただけで、私は文字とおり凍りついていた。
 そして、砕けていた。
 意識は、そこで止まった。永久に。
272保科智子:2001/01/13(土) 03:36
「待ちや! こんのクソガキャア!」
 私とした事が、とんだ所で大ポカやってもうた……!
 私と由宇は完全にあのクソガキを追いつめていた。だが、奴は、別行動をとっているとばかり
 思っていた村雨を操り、由宇に手痛いダメージを追わせ、逃走したのだ。
 村雨の足取りを追っていた宮田と香奈子ちゃんが合流はしたが、この街の地理に通じている初音は
 あっさりと包囲網を逃れ、逃げおおせた。
「クソガキが、絶対しばいたる! ウチの怒りは……!」
 呻く由宇。はっきり言って戦える状態では無いが、あのまま放置しておくわけにはいかず、連れてきた。
「保科さん、奴がどこに逃げようとしてるかわかる!?」
「恐らく、妖狐達のシマに逃げ込む! 奴にとっても危険地帯やけど、私らにはもっとや!
 そうなったら、いらん犠牲を――」
『もう手遅れよ』
「――!?」
 迸る狐火。
 由宇が、いきなり私に体当たりした。まともに吹っ飛び、私は路上に転がった。
「……っ!」
 一瞬だった。由宇は悲鳴すら遺さず、炭クズとなって空に消えた。
「…………!」
 私は、咄嗟に狐火の飛んできた方向へ手を差し出した。
「星の臓腑にたぎる火よ、人の罪を裁けっ!」
 私の呪文が形を為し、特徴的なピンクのポニーテールが、轟火に包まれる。
『弾け!』
 気の強そうな、女の声。
 火が、拡散する。後に残ったのは、三人の人影。
 立川郁美、柏木初音、そして……大柄な学ラン男。
「何が……一体……」
 香奈子ちゃんが、緊張した構えで呟く。
「妖狐とエルクゥが、一時的に局部同盟を結んだようだな……」
 宮田が、据えた目つきで刀の柄を構える。その視線は、初音の持つ村雨に釘付けだ。
「お返しにきたわ、保科智子」
 郁美が、不敵に微笑んで言い放った――
273高瀬瑞希:2001/01/13(土) 04:27
私は捨てられた失敗作。
私は捨てられた偽造品。
私は捨てられたコピー。

───私は、価値のないもの。


…初めて目を開けたとき、そこに居たのはどこか遠くを見ているような少年。
浩平、と名乗った彼は、私の髪を愛おしげに撫でて「……完成だ」そう、呟きました。
ピンク色のポニーテール。その髪型に何の意味があるのかは分かりませんでしたが、
彼にとってはそれがとても大事なことだったようです。

それからしばらく、私はひたすら彼から術を教え込まれました。
術の記された巻物は高野山の名が入ったものから、禍々しげな妖のものまで様々でした。
初めは上手く行ったものの、術の種類が増えるごとに私は日に日に消耗していきました。
そんな私を見る彼の目は段々と冷静さを失い、しまいには殴られるようになりました。
「どうしてできないんだ…配合は完璧だったのに…なんでだよ…」
私を殴った後、誰かに向かって独りごちる彼の姿は、明らかに常軌を逸していました。
それが数日続いた後、彼は私に見向きもしなくなりました。私はひとりになりました。
「そうだ、天野が連れてきた子ギツネだった──天野の遺伝子を組みこめば──」
意味も分からず彼の言葉を近くに聞きながら、食べることも眠ることもなくても、
私は何故か生きていました。暗い蔵の中で、ひたすらに何かを作る狂った少年とふたりきりで。
ふたりといえども、私は孤独でした。何も話さず、何も見ず、ただそこにいる日々でした。

そして目覚めて五日目、彼は私に告げました。
「お前はもう要らない。壊すのはみちるの役目だ」
「真琴をベースに七瀬や里村たちの遺伝子を利用してもこんなものなんて、呆れたぜ」
意味が分かりませんでした。ただ、彼の横に困った顔で佇む幼い少女が居て、
彼女がみちる、という名らしいことだけは理解できました。
「やっぱりツインテールでないと駄目なんだ。お前は所詮出来損ないなんだよ」
彼の激しい口調に気圧されるうちに、私はじりじりと後ずさっていました。
「…逃げるなよ。お前のことがバレちゃあ面倒になるんだ。…みちる」
彼がみちるに何事か合図をした瞬間、…私は光に灼かれていました。
274高瀬瑞希:2001/01/13(土) 04:28
…次に目が覚めたのはまた、暗い場所。どこかの廃棄場でした。
何故意識があったのかは分かりませんが、また私はひとりでした。
ずっと、ずっと、私はひとりなのだと思っていました。
それを助けてくれたのは和樹、というひとでした。
どうやらそこへ絵を描きにきたようでした。
変な人、というと(私の生まれて初めて発した言葉は、それでした)
笑って「題材が欲しかったんだ。…人間が落ちてるとは思わなかったけど」
そう、言いました。それから私は彼と暮らしました。楽しい日々でした。
私に高瀬瑞希、と名前を付けてくれました。喧嘩したり、仲直りしたり、笑ったりできるようになりました。
世話を焼いて、テニスも覚えて、幼なじみみたいにいつも一緒にいて、私は普通の女の子になれたのかな。
だけど彼もまた、姿を消しました。警察が家に来て、逮捕されたのだと告げました。
何が悪かったんでしょうか。術が使えないからでしょうか。
私はまた、置いて行かれました。

そして、ゆうべ私を拾ってくれたのは沢渡真琴という少女。
我が娘よ。微笑みながら真琴が言いました。
こんなふうに呼ばれたのは初めてで、すこし胸が暖かくなりました。
そう、こんなことも言っていました。
お前の才能はまだ眠れし卵。我が元にいれば必ず孵る。
そして生まれ変わりしみちるもまた、我が娘であったことに変わりなしと。
今は眠りにつき、身勝手な人間共につけられた心の傷を癒すが良いと。
初めての眠りはさぞ心地よいだろうと。

だけれど私──また捨てられるような気がして──
だから真琴のいうこと聞かなくちゃ──

ねえ、和樹…さみしいよ。帰ってきてよ。かずき。かず…き…
275水瀬秋子:2001/01/13(土) 22:04
 ふと庭を見たら、庭の苺がよく実っていた。
 日に日に膨れ上がる妖気を吸って、真っ赤な良い色をつけていた。
 だからそろそろ外へ出ようかしらと思って───

「まさか自分の娘が率先して母親を封じ込めようとするなんて、
 お母さん全然思わなかったわ」
 にっこりと微笑みながらそう言うと、名雪は表情を凍り付かせて
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい───」
 壊れてしまった鸚鵡のように同じ言葉を繰り返した。
 面白い子。
「もういいわ、名雪。お母さん怒ってなんかいないから」
「…………え?」
 涙がつうと名雪の頬を伝った。また顔色が変わる。
「名雪はなんにも悪くないのよ。
 悪いのはあなたの心をそそのかした真琴と鬼たち」
「でも、でもわたし」
「たったひとりで私を閉じこめられると思った?
 それをやったのはエルクゥの柏木姉妹と妖狐達よ」
「うそ…」
 呆然とした名雪の顔があんまり面白いものだから、
 私は早速次の話を切り出す。
「祐一さんを連れ戻したい?」
「……!」
「酷いわよね、名雪を置いていくなんて」
「ゆういち…ゆ、いち…」
 その名前を出すと同時に、すうと名雪の目の焦点がぼやける。
 どこか遠く、そう、例えば狂気の世界に消えた人のように。
「あゆちゃんが憎い? 天使が憎い?」
 糸の切れた人形のように、こくこくと頷く名雪。
「なら、この服を着てお行きなさい。ものみの丘へ」
 私は、自分が着ているのと同じ白装束を差し出した。
「そこに行けば、祐一さんを『永遠に』名雪のものにできるかもしれない…」
276水瀬秋子:2001/01/13(土) 22:04

 …こうして名雪は、私の思惑通りものみの丘へ向かった。
 可愛い名雪。
 私の血を受け継いだ才能ある子。
 きっとよく働いてくれるでしょうね。
 この街の能力者を全て消せば、必ず世界のバランスは崩れる。
 千年以上観察に専念していたけれど、こんな楽しそうな機会逃すわけには行きません。
 最大の障害に成りうる真琴は、倉田さんが弱体化してくれましたし。
 私を裏切って封印なんてするからからあんな目に合うんですよ、真琴。
 ものみの丘の地下に眠る例の物も、回収しなくてはいけませんね。
 とにかく、まずは私の力を更に増すため『永遠』を手に入れなければ。
 だから名雪に各勢力をつぶしてもらうの。
 上手く行けば永遠の力を持つ者たちを殺してくれるはず。
 まだ彼女たちの存在に気づく者はいないでしょうけど、
 いつまでも暗躍していられると思ったら大間違いです。
 繭さんの持つパンドラの箱、あゆちゃんの天使の力、そして『永遠』…
 …力は強者の元に集う運命なのですから。

 名雪が行っていた、眠りを力に変える儀式の残骸を冷たく見据えながら。
 私は静かに声をかけます。

「どうですか? 私と共に天使と永遠の力を得たくはありませんか?
 ───鹿沼葉子さん」
277名無しさん@だってばよ:2001/01/13(土) 22:08
秋子、白装束で娘の元へ現れる→名雪参戦

の間を書いてみました。
時間軸的には少しさかのぼってます。
278猪名川由宇:2001/01/14(日) 11:46
――ここは……どこや……?

黒。
目の前は黒。
何も見えない……かと思たら、目を閉じたままやった。
そら、何も見えへんわ。

ゆっくりと……瞼をあけた。
急に……眩しくなってきよる……。

「やっと、気が付きましたか?」
目の前に眼鏡をかけた長い髪の女の子……って、リアンやないかい。
どうやら、どっかの家の寝室に寝かされとるみたいや。
確か――郁美の奴が急襲してきよったから、ウチは慌てて分身を作って、智子をかばわせたけど……。
んで、それからは覚えてへん……。どうやら、その間にリアンが運び出してくれとったわけや……。

ウチはゆっくりと体を起こそうとした。だが、その途端に全身に激痛が走りよる。
思わず悲鳴を上げてしまう。我ながら情けない。
「ま、まだ、体は動かさないでくださいね。ほとんど骨折してしまっている上に出血も激しいですから
今動くのは本当に危険です」
リアンが慌てて止めに入ってきよった。確かにその通りや。
でも、今ウチが動かんかったら……智子や香奈子ちゃんや健太郎が危ないんや……。
あのクソガキをいてこまさなきゃあ、気が済まへんし……。リアンやったら、わかるはずやろ……。
それに……リアン。あんたは智子らを放ったまんまどうしよったんや……?
「そ、それは……」
リアンがそう言いかけよったとき、部屋のドアがゆっくりと開いた。
「と、智子!?」
そう、目の前に現れよったのは智子やった。相当の怪我をしとるらしく、頭に巻いた包帯が痛々しい。
その後ろに香奈子ちゃんと、健太郎もおった。彼らもやっぱり顔に包帯を巻いとる。
「よかった……。やっと気ぃ、ついたんか……。かばってくれてありがとな」
そ、それはええけど、あのクソガキどもはどないしたんや? それが一番気になる事やった。
「ああ、あれなぁ……。あんたが気絶してから事態は思わぬ方向に傾きよったんや。正直、生き帰っ
てこれたんは奇跡やで」
思わぬ方向って? どうなりよったんや……。
その疑問を口にすると、智子は重々しく口を開きよった。

「……あいつが……水瀬秋子が現れよったんや……」
279牧部なつみ:2001/01/14(日) 12:45
 私は、必死に走っていた。
 はるかさんと瑞穂ちゃんや理緒ちゃんは、すでにリアンのねぐらに辿り着いたはずだ。プラス因子の持ち主、
 藤田とその一行もそこに避難するよう警告しておいたし、警察関係者にも話は通した。
 向こうでも柳川とかいう刑事がいなくなったとかで騒いでいたようだが、今度ばかりは重い腰をあげるだろう。
 神奈の降臨、妖狐の完全覚醒、次元矯正力暴走の危機、そして、まだまだ私の知らない事象がいくつも渦巻いている事だろう。
 そして、邪術士・秋子の復活。これで動かないなら、どこで動くというのだ?
 保科さんは言った。真の脅威に対抗するためには、点であってはいけないと。
 この地にはいくつもの”力”が集った。悲しい運命に翻弄され散っていった力もあったが、
 元々、利用されて集っただけの力もある。今、行き場を無くした力達は、あの巨大な悪の気におののいている事だろう。
『集められるだけでええ、集めるんや。秋子や神奈やら妖狐やらに対抗するためだけやない。
 きっと、どうしようもない位の悲劇が今に姿を現す。その時のために、集めるんや……』
 携帯から聞こえてくる声は、躰の痛みからか震えていた。しかし、強い確信に満ちた声だった。

 ――あれは。
 私の視界に、樹にもたれかかった女剣士が映った。
280長瀬祐介:2001/01/14(日) 13:22
「くっ……」
 僕は折れた右腕を抱え、何とか立ち上がった。
 変な女は、いきなりの爆光に巻き込まれ気絶している。男の方は、呻いてはいるが外傷は無いようだ。
 壮絶だった。
 巨大な鬼と、小さな猫狐が、高速で交差する。少し離れた所に、女性が二人倒れているのが見える。
 よりにもよって、一番最悪の事態となっていたようだ。柏木一族は楓とかいう娘を何とか助けようとしていたらしいが、
 どうやら、楓とやらは覚醒してしまったらしい。あそこで倒れているのは、長女の千鶴と次女の梓か。
 猫狐が、距離を取りざまに光球を生み出し、鬼に投げつける。
「グアオオオオオオオッ!」
 鬼が、大きく見を沈ませてかわす。光球は遙か彼方の岩にぶつかり、大爆発を起こす。
 さっきの爆光はあれか……!
「おい、どうするよ電波クン」
「ひとまず、電波の濃度を最大にまで練って、あの二体を止めます」

 イメージする。熱く、ねばついた、濃い粒子達。
 僕の髪が、逆立つような錯覚を覚える。頭上に集まった電波は制御できる域を超え、
 容易に大量に人の精神を再起不能にまで壊せる濃度になっている。

 行け……! 止めろ!!

 チリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリ
 チリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリチリ

 二体の躰が、ビクンと強張る。
 さすがに、容易に脳に働きかける事は出来ないらしい。彼らの狂気の本能が、眠りを拒んでいるのだ。
(今度は……気絶したりしない! 二人の少女が僕の為に犠牲になった……! ここで役立てないなら
 彼女達は犬死にだ!)
「うああああああああああああああああああああああああああああァ!」
 爆発。その奔流は電波の火線となって彼らに殺到する。
 鬼達の精神が一線を越えたのが、僕にもわかった。外皮のような肉と皮が剥がれおち、元の人間へと戻る。
 楓が、がくりと片膝をついた。耕一が、慌てて抱き起こすが、本人もふらつき、結局二人一緒に倒れてしまった。
「すげえ……あんなのを……」
 変な男が呆気にとられている。
「僕には……これしかできませんから……」
 僕もまた、彼らと同じように倒れた。
281霧島聖(1/4):2001/01/14(日) 22:01
「駄目だよぉ…やっぱり、この街の外はずっと吹雪だよぉ」
 遠視を終えた佳乃の声は、いつになく落ち込んでいた。
「そうか…無理をさせたな」
「ううん、平気だよぉ」
 そうは言うものの、佳乃は連日の小競り合いや病院の結界保持で相当に参っているはずだった。
 本当はこれ以上力を使わせることはしたくなかったが、本人きっての頼みとなれば聞かぬ訳にはいくまい。
 佳乃曰く───
『南さんを呼べないかなって、思ったんだぁ』
 牧村南。私と同時期に対妖技術搭載の手術を受けた女性だ。
 人の過去を詮索する趣味はないが、手術を志願した彼女の瞳の奥には深い悲しみが秘められているように思えた。
 担当は違えど、科学の力とは言え人であることを半ば放棄した同類として戦う彼女。
 国が保持する二人きりの対妖サイボーグとして、つたないながらも友情を育むまでには、そう時間はかからなかった。
 別区域担当の彼女に救援を求めること自体が既に不可能に近かったが、佳乃はそれにすらすがりたかったのだろう。
 藤田君とエリアさんたちをここ、リアンさんの隠れ家に誘導し終わり、今度はこちらが味方を捜さねばならない。
 しかし、石像になった月島の妹さんはスフィーさんの処置待ちだし、新城さんはもはや植物人間状態ときている。
 戦況は苦しい。
282霧島聖(2/4):2001/01/14(日) 22:01
「きっと、街に張られた結界の悪影響なんだよねぇ…」
 積雪による交通マヒ。停電。各地で相次ぐ地震。豪雨。
 インターネットで随時確認するニュースは、ろくでもないものばかりだ。
「この様子じゃ、南さんが来るのは無理かなぁ」
 痛々しくも無理矢理に笑みを作る佳乃。
 そんな表情を見るのは、この街を訪れてから何度目になるだろうか。
 状況が厳しくなればなるほどに、佳乃は笑おうとする。
「そう心配するな。私が居るだろう」
 言って、妹の細い身体を抱きしめた。
 ゆっくりと背をさすると、随分と薄着をしているようだとわかった。
 風邪を引かなければいいが。
「佳乃、上着を」
「…お姉ちゃん」
 言い終わる前に、佳乃が口を開く。
「本当はね、こんなつらいお仕事だって思わなかったんだ。
 だってこんな、こんな…簡単に人がいなくなっちゃうなんてっ…」
 肩が濡れた。泣いているのだと気づいた、その瞬間が何よりつらかった。
「あたしたち、なんで何にもできないの? なんで見ているしかできないの?」
「それが…上の方針だ」
「どうして!? 人が死んでるのに、いっぱい死んでるのに、なんで何もしないのよぉ…」
 嗚咽を漏らしながら、涙で頬を濡らしながら、佳乃は問う。
 その純粋な哀しみの視線が、刺すように痛い。
「私とて医者の端くれだ。救いたいさ。だけれどな佳乃、上の者は私たち戦力を失いたくないんだそうだ」
「外部の者にやれるだけやらせ、双方が最大限に疲弊したところでトップを叩きつぶす。それだけが任務だった」
「それだけが、ここの警察担当者全員に伝えられた指示だ───」
 繰り返す。傷つけるのは本意ではなくとも、真実を隠すことはなおさらに佳乃を欺くことだったから。
「そんなのってない…そんな人の言うこと、聞かなくて良いよぉ…」
 泣き崩れた妹を慰める術も持たず、ただ抱きしめ続けることしかできない。
 妹を護るためには、死ぬわけには行かない。だから上に従う。
 そう、佳乃だけではなく私もまた、現実に対しどこまでも小さい。
 どこまでも、ちっぽけだ。
283霧島聖(3/4):2001/01/14(日) 22:02

「猪名川さんたちの様子、見てくるよ」
 ひとしきり泣いた後、佳乃は気丈にもそう言って立ち上がった。
「…終わったら、今日はもう寝るといい。風邪を引くからな」
 扉を開けた後ろ姿がいつもより小さく見えて、何か言わなくてはという気になって、声を出す。
「うん。…それとね、お姉ちゃんが悪くないの、知ってるから。わがまま言ってゴメンね」
 また、あの苦しそうな笑み。
 振り返った佳乃のそれに、胸を抉られた気持ちになった。
 これ以上を口に出来ぬままに、扉は無情に閉まる。

 柳川君との連絡は依然取れなかった。
 二日前のパトロール中、携帯に入ったメールを読んで血相を変えて飛び出していったのだ。
 彼はそのまま姿を消し、一向に戻ってくる気配もない。
 夕べ、病院に柳川君の友人と名乗る青年から電話が入るも、用件だけ告げて切られてしまったし…
 電話での彼の様子がおかしかった。今度は俺が助けに行かなくちゃ、と。
 …頭の痛いことになった。

 ともかく、暗い考えに浸っても仕方がない。
 気持ちを切り替え、情報収集の為ノートパソコンに向かい、電源を入れる。
 ───微かに違和感を感じた。

『今日はもう寝るといい』
 先刻、佳乃にかけた言葉を思い出したのだ。
 その違和感が消えぬ前に、マウスでパソコンの右下、時刻の表示をクリックする。

 1月7日、22時53分。

 …1月7日? それは私が到着した日ではなかったか?
 違う。佳乃と会った日は、そして今日は…
 そこまで考えて、私はまず混乱する自分の記憶を疑った。
 正しい日付が思い出せなかったのだ。
284霧島聖(4/4):2001/01/14(日) 22:02
 来栖川の機械人形を破壊したのはいつか。
 柳川君や佳乃と藤田浩之らを保護したのはいつか。
 保科さんから秋子の復活を知らされたのはいつか。

 行動の順序として把握できていても、日付の概念だけがそこから抜け落ちていた。
 私は半分人ではない。つまり、人間の極めて不確定な記憶をほぼ正確に再現できると言うことだ。
 にもかかわらず、曖昧にぼやけた記憶。
 現在この身体に異常はない。ならば───

『街の外はずっと吹雪だよぉ』

 遠視をした佳乃の言葉。それから、あるひとつの推論に思い当たる。
『この街の時間は、ループしているのではないか』と。
 推論が事実なら、私たちは全員『日付が変わった』という時間の錯覚をしていたことになる。
 つまり客観的に『永遠に』今日を繰り返していると言うことだ。
 それがこの街に張られた結界の効果なのか?
 ならば『誰が初めに』結界を張った? もしくは、何者かが結界に干渉しているのか?
 この結界に関する情報は全く上から知らされていない。
 スフィーさん一行の到着が予定より遥かに遅れているのもその影響なのだろうか。
 私たちは行動の結果だけを引き継いで(そう、死者さえもだ!)不完全な永遠、1月7日に捕らわれるのだろうか。
 ───何のために?

 この思考が何周目なのかは知れないが、おそらくこちら側でループに気づいたのは今のところ私だけだ。
 1月7日を、何度私たちは無駄に過ごしたのだろう。
 しかし、なぜ能力者たちは結界破りなしでこの街に入れたのだ? 人であって人でない異物だからか?
 いやまず、上はなぜ南ではなく私を派遣した? まさか佳乃すら奴らの想定内だったというのか。
 長瀬源三郎…上層部に一番近い彼ならば、この状況の意味を知っているかもしれない。

 それから数十分後、こちらの現状や組み立てた推論と疑問点を清水さんの元にメールで送っておいた。
 更に保険として北川君とスフィーさんにも同様の物を送る。
 保科さんと佳乃には…そうだな、今から出向くか…
 パソコンの電源を落として椅子から立ち上がった瞬間、携帯のメール着信音が鳴った。

 件名は…『返信メール承リマシタ』…。
285名無しさんだよもん:2001/01/14(日) 22:04
冗長だ…すいません、努力します。
286雛山理緒:2001/01/14(日) 23:36
・看護ノート
 保科智子さん:全身を強打、及び右上腕部火傷、頭部に無数の擦り傷。
 猪名川由宇さん:背中に裂傷、全身数カ所に骨折。
 宮田健太郎さん:腕部に創傷無数、全身を強打、頭部に無数の擦り傷。
 太田香奈子さん:両腕の骨にヒビ、全身を強打、頭部に無数の擦り傷。
 新城沙織さん:依然意識戻らず。危険な状態。
 江藤結花さん:昨日発見。意識不明。片足が無く、戦線復帰は不可能であると断定。

 ふう……
 そういえば、私に報酬をくれるみどりさんって、行方不明なんだよね……

 鬱だよ……
287七瀬留美(1/6):2001/01/16(火) 21:59
「え? それってどういうこと?」
「言葉通りですよ。この地が永遠に近くなっている証拠なんです」
「で、でも、そんな……」
 私はあまりの返答に言葉を失う他なかった。
『今、何時くらいなのかな?』
『そんなの……今となっては意味無いことですよ?』
 たったそれだけの会話から、突拍子もない方向に話が流れたのだから、当然といえばそうかもしれないけど……。
「つまりですね、時間の概念が消失し始めているんです」
「時間の概念……?」
「七瀬さん……七瀬さんは、永遠をどういうものだと思いますか?」
「えーと、永遠って、変わらないことじゃないの? ずっと一緒だってことじゃないのかな?」
「少し……歩きながら話しましょうか」
 繭は笑顔でそう提案した。
288七瀬留美(2/6):2001/01/16(火) 22:04
 散歩……というのは適切ではなかったけど、そんな感じで私達は歩いていた。
繭が言うには、永遠の力を使って存在を希薄にしている。
 だから、誰にも気づかれないで、無事に目的地にまで行けるとのことだった。
 雪と風の吹雪。もっとも、それすら私達を避けているかのようだった。
「永遠っていうのは終わりません。そして、始まることもない……そういうものです」
 今まで黙していた繭が唐突に言う。
 永遠についての考察を。
「終わらないって言うのは分かる気がするけど、始まらないって言うのは、どういうことなの? 現に折原は――」
「そうですね。始まらないのであれば、折原さんは消えたりしてませんね。そして、終わらないのであれば、私達のしていることは、無意味になります」
「それって……」
 もし、そうなら私たちのしていることって何なの? 意味の無いことなの?
 そう言いたいのを我慢して繭の次の言葉を待った。
 繭のことだ。どうせ私の反応を楽しんでるに違いない。
 この子ってば、説明的な話題になると、いつもこんな風に意地悪するんだから。
 こちらの疑惑の視線に気づいてか、繭がひとつ咳払いをする。
「氷上シュンに会ったことがあります」
「あの永遠の管理人の? 繭って永遠の世界に行ったことがあるんだ」
 それは私にとって驚くべき事実だった。
 繭の言うことが本当なら折原にも会ったことになるんだけど……。
 どうしてか、違う、と私は感じていた。
「そう。彼はそこに居ませんでした。これは予想通りです。でも、そこで思いも寄らないよらない人物に会うことが出来ました」
「誰なの!?」
 含みを持った言い方は好きではなかったので、ついつい大声を出してしまった。
「折原みさおちゃん……折原さんの妹ですね」
 繭は苦笑を浮かべて言っていた。
289七瀬留美(3/6):2001/01/16(火) 22:06
「どういうこと? 反魂の法は失敗したんじゃなかったの?」
 反魂の法。死者を蘇生させる禁断の秘術。
 みさおちゃんは、あの時に生き返っていたの?
 でも、永遠の世界に居るって?
「もう、わけが分からないわ!!」
 私は頭を抱えてうめいていた。
「確かに術が成功したとは言えませんね。だけど、完全に失敗したわけでもないです。
 ほんの一瞬だったけど、みさおちゃんは生き返っていたんです」
「え? でも、あのときは……」
「みさおちゃんの姿を見た人は居ませんね。だったら、こう考えるべきだですよ。
 誰がみさおちゃんを永遠の世界に連れていったのか、ってね」
「でも、どうして? 一体、何の為に!?」
「みさおちゃんの一瞬を永遠のものにする為にですよ。
 永遠の世界でなら、みさおちゃんは生きていけるから」
「それをしたのが、折原」
「ではなく、本当の不変の持ち主、永遠の少女≠ナすよ」
290七瀬留美(4/6):2001/01/16(火) 22:10
 繭は言った。
永遠≠ニは瞬間≠ナあると。
 その瞬間という煌めきを永遠のものにする。
 すでに始まっているものを。とっくに終わってしまったものを。
 凍りつかせるように。
「永遠の世界≠チて、本当は……悲しみしかない記憶の世界なんです」
「記憶の世界か……」
 辛いだけの現実から目を逸らして、そこに留まって。
 明日は無くて、それは今日で、昨日ことだけを見ている、そんな世界……。
 どこにも進めない、ある意味で、終わっている世界なのね。
「でも、永遠は本当にあったんです」
「それが永遠の少女ってわけね」
 繭は静かに頷いた。
 仮初の永遠。そこには時間が無いのではなく時間を忘れているだけ。
 留まること。つまりは繰り返されることしかできない。
 思い出を反芻させているだけ。その記憶を明確に表わすことが出来る世界ってわけか。
「じゃあ、本当の永遠っていうのは? それに今のだと、みさおちゃんが生きていられる説明にはなってないわよ?」
 そうだ。時間が過ぎるのなら、みさおちゃんは生きていられないんじゃあ……?
「……永遠は、昨日今日にあったわけではないですから」
 繭は初めて辛そうに言葉を濁した。
「あれは、あの日から……いいえ、ずっと私たちの世界と表裏一体だったんです」
 あの日とは、折原が消えてしまった日のこと。
 だけど、それはただのきっかけで、誰もが望んでいた、そして誰も辿り着けなかったはずの永遠……。
 それは、今、もうすぐ……。
「仮初とは言え、永遠の影響を初めに受けるのは、あの記憶の世界≠ネんです。
 そして、変わってしまったんですよ。仮初だったものが、本当の永遠へと……」
291七瀬留美(5/6):2001/01/16(火) 22:17
「私たちの記憶が消えてしまうのは、記憶の世界に保存するからです。
私の記憶や、七瀬さんの記憶。他の皆のものも」
「永遠に記憶を反芻するため?」
「そうです。一人での記憶では補えないものや、より明確に記憶での出来事を再現するためにです」
「それが、仮初の永遠ってわけね」
「はい。私たちが記憶を取り戻すにしたがって、記憶の世界の思い出も消えて、いずれこの世界に現出します。
反芻するだけの思い出が無くなるのですから……でも――」
「本当の『永遠の世界』の影響で、そのバランスが崩れた」
「……永遠は現出してしまいました。今は時間の概念がなくなっているだけですけど、
そのうち季節は留まり、風は吹くことをやめて、夜が明けることもなくなってしまいますね……。
七瀬さん、お腹って空きます?」
「…………?」
 そういえば不思議なことにお腹どころか生理現象さえ起こらない。
 あれ? 本当にいつから食べてなかったんだっけ?
「指摘されなかったら気づかなかったと思いますけど、もう食事をとることも必要ないし、寝ることも必要なくなってきます。
 それでも、他の人たちは食事をとったり、寝たりしてるかもしれませんね。
 これは、そろそろそういうことが必要だ、と脳が思う心理的行動になってしまいます」
「……知らず知らずのうちに永遠≠ノ侵食されてるってわけね。気に入らないわ」
「本当は……喜ぶべきことだとと思いますよ」
 そう言った後の繭は、とても悲しそうに笑った。
「もう、永遠≠ノ何の心配もいらないんですから……」
「繭、あなた……」
「あはっ、だからと言って勘違いしないで下さい。私は永遠なんて入りません。
 今、このときを、七瀬さんや澪、みんなと出会えたこと、嬉しく思います。
 凍りついたときの中では、得られないもの、一杯ありますよ」
「そうね」
 私は頷く。明日のために頑張れること。
 それは生きていく中で、本当に大切な物だと思ったから。
292七瀬留美(6/6):2001/01/16(火) 22:24
「もうすぐ永遠がこの街に降臨します。これは私の計算を越えた出来事です。
 そして、その永遠を呼んでいるのは邪術師$瀬秋子」
「あ、あの邪術師≠ェ!?」
「はい。こんなにも早く行動を始めるなんて予想外でした。
 私の永遠の世界≠ヨ辿り着く構想は、正直言って崩れかけて来ています」
「……でも、なんとかなるのね?」
 繭の真っ直ぐに前を見据えた瞳。そこに迷いは無かった。
 私は、彼女を信じているし、他の皆だってそうだ。だから、そう問い掛ける。
「はい。修正範囲内です。伏龍≠フ二つ名は伊達ではありませんよ。
 それに、これで彼女の目的、それに正体が分かってきました」
「何なの? 最強とまで謳われた、あの邪術師≠フ目的って?」
「それは……」
 私がそう訊いたのは興味本位だった。
 途端に、繭の表情が曇る。
「最悪ですね。深山さん……いいえ、八百比丘尼さん、と言った方がいいですか?」
「や、八百比丘尼!?」
 繭の視線の先を見ると、深山美雪の姿をした女性が立っていた。
 でも、八百比丘尼ってどういうこと? 彼女がそうなったって言うの?
「あら? 続けてもらえませんか? 邪術師$瀬秋子の正体……私も興味があるわ」
 余裕の表情で、彼女が言い放つ。
 それは、そうだろう。すでに力を失った私と、参謀の繭では力の差がありすぎる。
 一体どうしたらいいの……?
 でも、繭も、彼女と同じくらい余裕の表情でこう言った。
「それは……企業秘密です」
「ふふっ、だったら、力尽く、ということになりますね」
「どうぞ、ご勝手に」
 まずい、そう思った刹那――
 私たちの前に新たなる影が八百比丘尼の光術を防いでいた。
「待ちくたびれましたよ、川名さん」
「あははっ、ごめんごめん。ちょっと寄り道してたから」
「また、バイキングか、なにかですか?」
「うぅ〜、厳しいね、繭ちゃんは」
 盲目の才媛。川名みさき。
 今の術から私たちを助けてくれたのは彼女だった。
「ばかっ。どこほっつき歩いてたのよ」
「うぅ〜、だから、ごめんだよ」
 彼女との再会に私は涙を流して喜んだ。
 助けに来てくれたから? ううん、彼女が無事で居てくれたことに。
293柏木初音:2001/01/17(水) 00:49
 た、助けてくれ……!
 私は流れ出る血を気にする余裕すら無く、必死に這いずっていた。
 チクショウ……”はずれ”クジをひいちまった!
 奴は……水瀬秋子はあまりにも唐突に現れた。
 強すぎる……!

『ふふふ……皆さん、随分と腕が立つようですね」
「貴様は、あの邪術士・秋子……!」
 郁美が、ニヤリと薄笑いを浮かべる。対峙していた保科どもの事すら眼中に無い様子で、続ける。
「真琴も、貴様の実力だけは恐れていた……。つまり貴様を殺せれば、私は奴以上であると実証できるわけだ」
「…………」
 無言で、学ランの大男が身構える。郁美の補佐をしようってわけだ。
『あらあら。血気盛んなお嬢さんね』
 秋子が、微笑む。そして、すっと腕を振る。
 あまりにも、何気ない動作。
「……!?」
 郁美が、自らの胸からはみ出た心臓を凝視する。秋子の邪術を侮った結果だった。
『お仕置きよ』
 ぐしゃっ。
 心臓が、無惨に飛び散る。
 力あるツインテール・立川郁美の、あまりにも呆気ない最期だった。
「……退くで!」
 保科達が、一斉に逃げ出した。私も、迷わず退路を確保した。
『あらあら、もうお帰り?』
 秋子が、すっと手をかざした。
 大爆発。保科達は勢い良く吹っ飛び、すぐに見えない所まで消える。
『もう少し、抵抗してくれれば良いのに』
 少しつまらなそうに、秋子が頬に手を当てる。そして……
『……じゃあ貴女とは、少し時間をかけて遊びましょうか?』
 笑顔で私ににじりよる、秋子。
「……ちっ。ナメんなよ!」
 私は、村雨を構えた。
294柏木初音:2001/01/17(水) 01:15
「ぬおおおおおおっ!」
 それまで静観していた大男が、剛拳をかざし秋子に挑みかかった。
「砕け散れィ!」
 唸りをあげ、剛拳が秋子に襲いかかる。
『えいっ』
 軽い音。
 秋子は、大男の剛拳をあっさりいなす。そして、腹部に掌底を叩き込んだ。
「ぐっ……」
 大男が、大仰に腹を抱え、倒れる。どれほどのダメージか、知る由も無い。
『あなたは見所がありそうですね。少し、お手伝いをお願いしましょうか』
 秋子が、大男の額に手を触れる。
『少しの間、眠っていて下さいね』
 秋子が、にっこり微笑んで囁いた。大男の首ががくんと垂れ、昏睡状態に陥ったようだ。
『さて……』
 秋子が、こちらを向く。しかし、私の準備はすでに出来ていた。
『おや……?』
「少しは驚いたか?」
 金色のツインテール・沢渡真琴。村雨の変身能力を、私が吸収したのだ。
「妖技・九陣焔獄!」
 秋子の周囲に、九つの金色の炎が湧き出す。それらは一瞬だけ揺らめき、秋子に一斉に襲いかかる。
 煉獄の火炎が逆巻き、連続して起きる爆発が大地を揺るがす。私が引き出せる技の中でも、最強のモノだ。
『なかなかやってくれますね……』
「何!?」
 堪えてないのか!?
『滅』
 ぽつりと一言。それだけで、炎の渦が消滅する。
「…………」
『まあ、所詮はモノマネに過ぎないという事ですね。威力がお粗末すぎます』
 秋子は、火傷の一つすら負わず悠然と立ち尽くしていた。
『でも、その刀は厄介ですね。……えい!』
 びくり。
 私の躰が、奴の声に合わせて震えた。
 からん……
 村雨の刃が、地面に転がる。
「!?」
『さて、遊びましょう……』
 秋子が、邪気のない笑みを浮かべる……

『鬼ごっこは、そろそろ終わりにしたいのだけど?』
 爆発。私の躰が吹っ飛び、一層傷つく。
「く……ちくしょう! ちくしょう!」
 使うしかないのか……ヨークの力を……!
 私は立ち上がり、ペンダントに祈りを込めた。
 瞬間、空が輝いた――
295名無しさん…だよね?:2001/01/17(水) 21:09
>>292
えっと、以前川名みさきを書いてた者です。
なにげにちょくちょく来ては雪ちゃん(比丘尼)の書き手さんの
出方を伺っていたんですが…
それじゃ 後はお任せしまーす。
(やっぱり引っ張りすぎはよくなかったか…)

ふたたびROMへ戻るとするよ〜。
296新着メールが届いています。:2001/01/19(金) 01:08
Date:Sun@`7 1 2000 13:56:24 JST
 From:”n.minase”<[email protected]>
To:[email protected]
Subject:祐一お願い

 祐一、早く帰ってきて。
 あゆちゃんが憎い、殺したい。
 でも、このままだったらわたしがわたしでいられなくなっちゃう。
 それかこの世にいられなくなっちゃう。

 こわい。
 こわいの。

 だから止めて。お願い止めて。
 止めて、そのままわたしとどこかへ逃げて。

 いかなくちゃ。お母さんがよんでる。
297保科智子:2001/01/19(金) 01:43
もうすぐだ。
今や、人材は揃おうとしている。あの邪術士に数の暴力は通用しないが、上手く連携ができれば
奴にも一石を投じる事ができる筈。
そのためには、奴を正面切って食い止める事ができるだけの実力を持つ人材が必要だ。
今こそ、私が後先考えず戦える時が来た。
これが、多分最後や。勝っても負けても、こんなドンパチはもう無いだろう。
散らばる『力』……どこまで協力してくれるかが問題やが……
奴、邪術士秋子の脅威をこそぎ取る手段は三つ。
一つ。完全に消滅させる事。転生すら許さない程に。
一つ。えいえんの世界に閉じこめる事。
一つ。異なる次元に放逐してしまう。
最初に挙げた手段以外は皆消極策だ。それ以外の手段では、いずれまた奴が復活するだろうからだ。
しかし、もっとも現実的なのは最後の手段だ。川澄舞の能力を借り、奴を異なる次元に放逐する。
川澄は『魔物を討つ者』。恐らく、邪術士退治には一肌脱いでくれるだろう。
とりあえずは待ちだ。長瀬くん達も帰ってこないし、なつみからも連絡が無い。
ひとまず、私は最後の仕上げをする。
単純な戦略。自分の鍛錬を……
298佐藤雅史@別離@:2001/01/20(土) 11:54
「ちくしょう! ちくしょう!! 一体何がどうなってんだよ!!」
 僕は傷ついた身体で走っていた。ものみの丘に向かって。
 あいつは唐突に現れた。その憎き名は邪術師$瀬秋子。
 それは警察側の上層部の意向に反発するように僕と北川がものみの丘に向かっていた時だった。
「こんにちは」
 陽気な声音で邪術師はそう言った。
 僕と北川はすぐさま連携を取って邪術師を討とうとした。
 でも、彼女の前では僕らはあまりにも無力だった。
 たった手の一振りで僕らは倒れていた。
 絶望。そんな言葉が脳裏を横切るほどに。
 僕らは死を覚悟した。もう恐怖のあまり体が動いてくれなかったからだ。
 どんなに足を前に踏み出したくても、がくがくと震えが止まらない。
 悔しかった。僕らの決意がこんなにも呆気なかったことに。
 それでも、北川は……。
「俺のこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!!」
 最後の一撃を放った。それすら彼女には届かなかったけど。
 僕は嬉しかった。もう一度戦おうとする力が湧きあがってきたから。
 立ち上がり邪術師に向かって対峙する。
「行くぜ、雅史」
「うん」
 僕らの一撃。それで戦いは呆気なく終わるだろう。
 邪術師の勝利を持って。でも、それでいい。
 前に向かうものの意志、それがあるなら、いつかこの邪術師を討つものが表れるかもしれない。
 そうだ! だから、僕らは戦えるんだ!

 ……でも、運命は過酷だった。
299佐藤雅史@別離A:2001/01/20(土) 11:55
「北川さん。なかなかの力をお持ちですね」
 金縛り。今度は恐怖のせいじゃない。
 邪術師の力≠フせいだった。身体が動かなくなる。
「…………」
 彼女が同じく動けないであろう、北川に何か耳打ちをした。
 すると、北川の顔が見る見るうちに、青くなって、次の瞬間には能面となる。
「本当なのか!?」
「はい」
 何か話をしている。僕の耳には聞こえない。
 そして、北川が一言、こう漏らした。
「すまない、雅史」
 北川は彼女と共に去っていった。後に残された僕は何も出来なかった。
 事の顛末はそれだった。
 走っていたはずの、見慣れた視界が急に暗転する。
 転んだのだ。見てみると足から血が出ている。
 赤い血はいつまでも止まらなかった。
「ちくしょう!」
 僕は叫んでいた。涙が出ることもお構いなしに。
「何でだよ、北川!?」
 あまりにも無力。この街は力のない者には冷たすぎる。
「北川、僕らの友情はここで終わるのか……?」
 冷たい大気の中で、僕は一人地面に横たわりながら……泣きつづけていた。
 どうすることも出来ない、僕の弱い心に……。
300鹿沼葉子:2001/01/20(土) 12:29
 私の前に現れた女性は水瀬秋子と名乗った。
 天使の力と永遠……? 馬鹿げてると私は思った。
「思わないわ」
 私は躊躇い無く応えていた。間近で天使の力の発動を見ていた私には分かります。
 あの力は人間にどうこう出来る力ではない。
 不可視の力でさえ人の手には余るというのに。
「そうですか」
 彼女はこっこりとそう微笑んだ。それが逆に恐ろしく思えた。
「貴女……何者なの?」
「邪術師……そんなふたつ名を持つごく普通の主婦ですよ」
「そう、貴女があの……。確かに貴女ならどうにか出来るかもね」
 応えながらも私はどうやって彼女から逃げるかだけを考えていた。
 彼女の申し出を断ったのだ、ただで済むとは思っていない。
「ふふっ。大丈夫ですよ」
「……!」
 こちらの思惑を見透かしたような声音。
 侮れない。そして、その言葉を間に受けるほど私は愚かではない。
「発!」
 出鼻をくじくため先制の一撃を加える。これで彼女を倒せるなんて思ってはいない。
 私は踵を返して駆け出した。不可視の力なんて彼女の前では子供遊びに過ぎない。
 目暗まし程度にしかならないのだから。
 そのときだった。彼女達が私の動きを封じたのは。
「由依ちゃん。友里さん。どうして?」
 振り向いた先に見慣れた影二つ。
 不可視の力で私の両手両足を縛っているのか動けない。
 水瀬秋子が私の頬に手を触れてくる。
「彼女達は快く引き受けてくれたものですよ?」
 嘘だ。彼女達の眼はあまりにも虚ろだ。正気とは思えない。
「それでは一緒に来ていただきますね」
 妖しく光るもの。それは瞳。とても眩しく気持ちが晴れ渡る。
 怖い。そう怖くないことが怖かった。
「すぐに楽になりますよ」
 その声は私の心臓を鷲掴みするかのように優しさと畏怖で満ち溢れていた。
 意識が遠くなった。
 もう目覚めることは無いかも知れない闇の中へと。
301川澄舞:2001/01/20(土) 12:59
 思ったより力を消費したみたい。
 ちょっと疲れてる。天沢郁未……強かった。
(それと、ありがとう、佐祐理)
 いつも一緒に居てくれる心友に惜しみない感謝を述べる。
「…………?」
 気配を感じる。すぐ近くまで来ている。でも悪い気配じゃない。
「そこに居るのは誰……?」
 念のため剣を構えながら言う。
 走った来たのだろうか? 彼女は息を切らせながら私に近づいて来た
「川澄舞さんですね?」
「…………(こくり)」
「あなたの力を貸して欲しいんです」
「私の……?」
「はい。あなたの……川澄家の魔を討つ力が必要なんです」
 彼女は牧部なつみと名乗った。
 なつみが言うには邪術師$瀬秋子が復活したのだと言う。
 あの川澄家の宿敵。幾度となく川澄家の当主は邪術師≠ニ手合わせして散っていった。
 強い。多分、私よりも。でも彼女は続けた。
 私の奥義『次元斬』を持って邪術師を異なる次元に送り込むのだということ。
「悪くない策だと思う」
「それじゃあ」
「でも、駄目」
「え?」
 途端に彼女の顔が曇る。
「協力してくれないんですか?」
「そうじゃない、けど……」
 私は胸元にしまっていた一枚の符をきゅっと握った。
「敵は邪術師∴齔lじゃない。私はまず九尾≠討つ」
 九尾は佐祐理の仇。理屈ではなくて感情。佐祐理の仇を討つまでは止まれない。
「情報では美汐さんが九尾を討つために『ものみの丘』に向かったようです。
 九尾は彼女に任して、川澄さんは邪術師$瀬秋子を討つべきだと思います……!」
 強い瞳。意志の篭もった眼差しだった。
 でも、私にも譲れないものがあるから。
「私は九尾を討つ」
 そう言って歩き出す。少し休みすぎたみたいだから。
「川澄さん!」
 彼女の訴えに振り返らずに。
(間違ってないよね、佐祐理)
 私の心の中の佐祐理は寂しそうに笑ったような気がした。
 ものみの丘、もうすぐそこに。
302保科智子:2001/01/20(土) 13:57
「そうか……まあええよ」
 なつみの報告を聞き、私は答えた。
「正直、この話はうまくいったら儲けもん程度に考えとった。引き続き、バッティングだけには
 気をつけながら『力』を捜してや。結局正攻法しか無いみたいや。……うん、それじゃ」
 私は携帯を切り、少し考えてから番号をプッシュした。
「あ……私や。うん。そうか、楓は何とかなりそうか……でな、一つ頼みが……
 うん……いや、手は出さなくていいで……うん、じゃ、しんどいやろうけど……」
 ピ。
 私は、適当に携帯を放った。そして、重いドアを開け、再び荒行に戻った。

 もう、何かが失われる必要など無い。誰一人、死んで欲しくは無い。
 もし、失われるとしたら、それは自分の命で良い。
 お師さまはまだ見ぬ明日の為に死んでいった。真似るつもりは無いが、私もやはり彼の弟子だから。

 ――呪われし秘奥。相手ばかりで無く、使用者の命すらたやすく刈り取る奥義。
 これを使用した者は永遠に外道の烙印を押される。それほどに呪わしい技なのだ。秋子といえど、これには絶対に耐えられない。
 お師さまは、『決して使う事は無いでしょう。もし使う時が来るなら、それは世界の破滅の時です』と言った。
 ふふ……と、自嘲的な笑みが洩れる。今がその時のようです、お師さま。

 不謹慎かもしらんけど、楽しかったなあ……
 ホンマ楽しかった。あいつらと過ごした日々は。

 ――さて。全て、お膳立てをしとかんとな!
303椎名繭@友達@:2001/01/20(土) 16:28
「久しぶりだね雪ちゃん」
 川名さんは古くからの友人に出会ったような調子で言っていた。
 でも、今、目の前にいるのは、深山美雪ではなく、翼人#ェ百比丘尼だった。
 それは川名さんも、よく分かっているはずなんだけど。
「川名みさきですか……ふふっ、目の方は大丈夫なのですか?」
 軽い挑発。それを間に受けはしない。
「そうだね。もう治る見込みは無いかな? でも慣れたよ」
 心眼。彼女の能力はまさにそれだったから。
 方術師としての彼女の才能は平凡でしかなかった。
 でも、その視力を失ってからの、彼女の上達には誰もが目を見張るものだった。
 深山美雪さんや清水なつきさんと肩を並べるほどに。
『風の流れが見えるようになったんだよ』
 そう彼女は言っていった。どことなく悲しそうな瞳で。
「椎名繭。何を考えているか知りませんが、この者が倒れたとき、貴女の望みも断たれます」
「さて、どうかしらね?」
「ふふっ、強がりを。この八百比丘尼、小娘にやられるほど、年を取ったつもりはありません」
「なら、やってみなさいな」
「そこで見ていなさい。川名みさきのやられる姿を」
 ……まったく貧困ですね。いろいろな意味で。
 みさきさん、すみません。私はここで見ているしかないけど、信じています。
 私の命、預けますよ、その証に。
304七瀬留美@友達A:2001/01/20(土) 16:33
「もっと早く思い出していればよかったね」
 みさきさんが悲しげに言うのを私は黙って見守っていた。
 思い出せないもどかしさ。それは私にも充分に分かることだったから。
「雪ちゃん……」
 深山美雪の姿をしたものと対峙して。
 光が襲う。八百比丘尼の放った汚れた光。
 みさきの目の前で弾ける。
「…………?」
 八百比丘尼の額に、僅かに汗のようなものが伝っていた。
 それは鳩が豆鉄砲を受けたような滑稽な表情だった。
「加減し過ぎた? 違うよね、雪ちゃん」
「ど、どうしてです?」
「その身体は貴女のものじゃない。そういうことよ」
 繭は手を組んで静かに言い放つ。
 こういうときの繭は刃物よりも鋭く冷たくなる。
「星の記憶≠サれがないとね、やっぱり」
「ま、まさか……そんなこと……」
「貴女自身は邪術師≠竍九尾≠ニ肩を並べてるつもりみたいだけど、実際にはそれほどでもないわ。
 好き勝手にやってくれたみたいだけど、私たち人間も日々成長してるのよ」
 つまり八百比丘尼の力は星の記憶≠ってこそなのだ。
 その力は今、神奈にある。
 なんだ心配して損したじゃない。もしかしたら今の私でも勝てるかもね。
 あれ? でも、ふたりの表情は決して楽観的なものではなかった。
 一つの気配が消えて、一つの気配が生まれる。
「……そうね。あんな人じゃあ、みさきの相手にはならないか」
 桜色の髪をふさっと掻き上げたのは、確かに彼女・深山美雪だった。
「それじゃあ本気で行くわよ、みさき。この高野の大僧正・深山美雪が遊んであげる」
 何がどうなっているのか、私には分からなかった。
305川名みさき@友達B:2001/01/20(土) 16:53
「ちょっと予定が狂ったわ。本当は八百比丘尼に全ての罪を被ってもらおうと思っていたんだけどね」
 余裕の表情で雪ちゃんが言う。さっきまでとは違う確かな波動があった。
「どうしてなの、雪ちゃん?」
 雪ちゃんの行為は、初め八百比丘尼に侵食されたからだと思っていた。
 でも、違和感があった。私の心眼でも読み取れないくらいの僅かな心情があった。
 それが今になって確信へと変わる。
「さあ、どうしてかしらね」
「雪ちゃん……」
「いえ、からかっているわけじゃないわ。本当にどうしてか分からないのよ。
 ただ、思うだけ。どうしたら、由紀子さんが笑ってくれるのか……」
「迷い? それとも何かを晴らしたいの?」
「許せない……それだけよ。由紀子さんを殺した、私自身がね」
「由紀子さんは、雪ちゃんにそうなって欲しくて、逝ったわけじゃないよ」
「うん、分かってる。実を言うとね、本当は八百比丘尼に復讐したかっただけ。
 八百比丘尼が私の身体を乗っ取ろうとしていたことは分かっていたから。
 それを好きにさせてあげたわ。絶望を教えてあげるために。
 実際に彼女は苦しみ、自らの力の無さを思い知らされているわ、私の中でね」
 雪ちゃんがそっと胸に手を当てる。
「本当に取り込んだのが誰なのかを教えてあげたわ」
「だったら、もう……」
「でもね、満足なんてしなかった。ねえ、どうしたらいいと思う?
 みさきは、どうやったらこの胸のつかえを取り払えることが出来ると思う?」
「……分からないよ。でも、こんなことしていても胸のつかえは取れない。それだけは分かってるつもりだよ」
「優等生の答えね。そんなことじゃあ止まれないわ。今の私に出来るのは一つだけよ。
 天野美汐の中に眠る神奈≠八つ裂きにすること。それしか思いつかないわ」
 八百比丘尼の娘・神奈備命。彼女はそれすらも闇で覆い尽くそうというのだろうか。
「させないよ、そんなこと」
 理屈じゃなくて感情だった。雪ちゃんにそんなことして欲しくないから。
「黙りなさい! 貴女たちがそんなこと言える立場なの!?」
 初めて感情を露わに声を荒げた。
306川名みさき@友達C:2001/01/20(土) 17:06
「知ってるのよ、貴女たちの計画、全部をね」
 悠悠自適に彼女は言い放つ。
「椎名と上月はパンドラの箱の回収。七瀬さんが九尾の復活のお手伝い。
 そうそう。茜は本来なら、その身に神奈を降ろす役目だったわね。
 そして、みさき。あなたは、全ての状況に臨機応変に対応するため、最初に記憶を呼び覚まし、
 みんなのサポートを影ながらする。なつきは、あまりこの計画には関わってないみたいだけど……」
 私を見る目は、明らかに侮蔑の意志を表明していた。
「正気なの、貴女たち? 復活させた九尾と神奈を戦わせて、両者が弱ったところをパンドラの箱を使って彼女らの負を一気に回収する。
 それを長森さんの力で浄化させて、永遠……あのときの状況の再現をしようとしてるんだから」
 そこで雪ちゃんは溜息を付いた。呆れたように。
「そのために何を失ったの?」
「…………」
「七瀬は主……悠久の友を裏切り、里村は、その身に耐え切れないほどの負を降ろそうとしていた。
 上月は女優としての命、声を失って、椎名は永遠と交わり、もう二度と年を取ること無い身体になった。
 そして、みさき、貴女は視力ね……」
 静かな笑みを浮かべて、彼女は続けた。
「その代償を払ってまで、するようなことなの?
 だったら、私とどこが違うっていうの? 言ってみなさい!」
「そ、それは……」
 私は何て答えたらいいの?
 だけど、口は勝手に動いていた。
「でも、でも、私はそれでも会いたい人がいるんだよ。
 逢って、ありがとうって、言いたい人がいるんだよ」
「…………」
 無言で頷いてくれる友がいる。
 繭ちゃんと留美ちゃんもきっと同じ想いなんだね。
 そして、私も……。
307深山美雪@友達D:2001/01/20(土) 17:09
「自分勝手なことね」
 そうだ。人はあまりにも弱い。私も復讐という歓喜に身を委ねたのだから。
 ずっと迷っていた。八百比丘尼の行動を好きにさせていたのもそれが原因だった。
 由紀子さんを失ったあの時から自分に出来ること。
 探していた。でも、私に出来るのは、出来たのは……。
「少しお喋りが過ぎたみたいね。私が間違っているというなら止めてみなさい。
 この街では力≠持っているものが正義! 容赦はしないわ」
「…………」
 みさきは俯いていた。私のさっきの言葉は真面目なみさきには耐え切れない事実。
 ずっと考えずにいたことだから。
 私は気を練る。大僧正の秘術。高野の秘術を使うため。
「解呪! 裂・新月!」
 月の霊法。三日月の光刃がみさきに斬りかかる。
 まだ、みさきは動かない。
 そのまま死ぬの? その程度の決意だったの?
 だったら――所詮は、そこまでだったのよ!
「…………だよ」
 俯いたみさきが顔を上げる。
 ……震える唇を必死になって動かして。
 やがて、それが言葉となった。
「ごめん……だよ……」
 つたない声だった。
 涙声だった。
「みさき、あなた……」
 何に対して謝ったの? 自分の行為に? 自分たちがしていたことへの後悔?
 違う。そう違うのだ。
 だって、こんなにもあなたの心、伝わってくるもの。
 目の見えなくなった、みさきに私が出来たこと。
 あのときの想い。あのときの心が甦ってくる。
「そうか……」
 私が求めていたこと。こんなすぐ側にあったんだ。
「神眼・影二重」
 みさきが神眼≠フ力を使う。
 生まれるもう一つの三日月。私に迫り来る。
 相打ち……? 違うか、彼女がそれを望んだんだ。
「私の方こそごめんね」
 胸に疾る激痛。でもそれは心地好くて。
 そうか……私はずっと死ぬ場所を探してたんだ。
 親友に殺される、みさきに由紀子さんの所に送って欲しかったんだ。
 あははっ、そのために悪い子になったのかな、私……?
(みさきに叱ってもらいたかったのかもね)
 でも、みさきには……生きていて欲しいから。
308川名みさき@友達E:2001/01/20(土) 17:12
 どうしてだろう? 怖くは無かった。
 雪ちゃんの言う通りだよね。誰にも迷惑をかけないようにしてきたけど限界ってあるよね。
 刃が迫って来ていた。でも、避ける気力さえ湧いてこなかった。
「いつまでも一緒だよ」
 高野を私が去った理由は何だっけ? 雪ちゃんと喧嘩したから?
 理由が思い出せないよ。でも、どんなことだったとしても別に良いよね。
 ふたりは親友なんだから。
「ごめんだよ」
 そして消えていた。私の目の前の光がその輝きを失っていった。
「え?」
 呆然とする。風は優しく教えてくれていた。
 彼女が助けてくれたことを。大切な親友のことを。
「雪ちゃん……?」
 まるで初めて目が見えなくなったときのように手探りで歩き出す。
「どこに居るの、雪ちゃん」
 地面に手をついて、倒れて、私の助けを待っているだろう、雪ちゃん。
「ねえ、返事をしてよ」
 でも、返ってくる声は無かった。
「川名さん」
 繭ちゃんの声。
「雪ちゃんは? ねえ雪ちゃんは? どうなったの? ねえ!?」
 今くらい眼が見えないのを、もどかしいと思ったことは無かった。
「川名さん!」
「雪ちゃんどこ? ねえ、そこに居るんでしょう? いつだって雪ちゃんは意地悪なんだから」
「みさきさん!」
 ばしっと音がした。頬が赤くなる。
 でも、雪ちゃんは何の返事もしてくれなかった。
 私が泣いてるときに駆けつけてくれた、あの笑顔はどこにもなかった。
309七瀬留美@友達F:2001/01/20(土) 17:16
「な、七瀬さん」
「繭は黙ってて!」
 私はみさきさんの頬をぶっていた。深山さんの遺体のすぐ近くまで彼女が来ていたから。
 私がこれから言うこと。多分、偽善と言うなの行為だと思うけど。
「深山さんは……みさきさんに敵わないと知って逃げました」
「…………」
 みさきさんが私をじっと見る。暗い色した瞳で。
「あの傷だと当分は戦線に復帰は出来ないと思う。追いかけるだけ無駄よ」
「…………七瀬さん」
「そうよね、繭?」
「……はい。川名さん、今は前に進みましょう」
 涙声だった。私も繭も。鼻が赤くなるほどだらしなく。
「…………っ!」
 みさきさんの手が挙がる。憤怒の表情で。
 殴ってくれてよかった。私がみさきさんの頬を張ったように。
 でも、みさきさんは、手を幾度もなく震わせた後、しっかりと手を握って。
「ありがとう……」
 そう零したのを聞くと私の涙はもう止まらなかった。
 何について泣いてるかも分からないのに。
 みさきさんは、不器用なくらいの作り笑いで繭に訊ねていた。
「繭ちゃん、どっちが私の進む道なのかな?」
「はい……私たちの進む道は、こちらですよ」
 繭がそう言ってみさきさんの手を取る。
「そっか。こっちでいいんだね」
「はいっ!」
「ふたりとも……きっと恥ずかしい顔してるよ……」
「鼻水……たらしたりしてるとか……?」
「……鼻も真っ赤っ赤ですよね、きっと」
「あははっ、そうだよね、見れないのが……残念だよ」
「意地悪なこと……言いますね、川名さんは」
 誰も彼もが泣いている。この街で人はたくさんの涙を流してきた。
 でも、今の私たちの涙はきっと、素敵な思い出に変わるから。
「それじゃあ行こうか、みんな?」
「うん」「はい」
 そこで声。旅立つ人への励ましの声だった。
『行ってらっしゃい』
 あの人の声。みさきさんが一番に反応する。
 でも、しっかりと顎を引いた顔は真っ直ぐに、後ろは振り返らないで。
「雪ちゃん……行ってきます!」
「え? ……みさきさん、あなた眼が……」
 みさきさんの瞳に宿る確かな光を見て、私はふたりの友情に胸を熱くさせていた。
 ……うう……ここは……?

 目を開ける。
 なにか……灰色の天井か……。

 そして、うなるようなエンジンの音。
 はっきりとはわからないが、どうやら、僕は車の座席に座らされているようだ……

「……やっと目を覚ましたみたいよ」
 前の方から……声がした……。
 女の子の声だった。
 でも、どっかで聞いた事のあるような、ないような……。
「そう? その両脇は?」
 今度は右前方から声がした。
 ここで、やっと視界が開けた。

 ……!!

 僕は目を疑った。
 運転席にはどうみても小学生くらいの桃色の髪の少女が座って、運転していた。
 そして、助手席には水色の髪のツインテールの女……って、何処かで見たことがあるかと思えば岡
田じゃねぇか!!
 僕のいた学校の同級生であり、妖狐の高位種族のツインテールである彼女がなんでここに……。
 憎たらしい奴であり、今回の戦にも参戦しているであろうから、出会った際には駆逐することにな
ろうから……そう思っていたのだが……。でも、なんで僕を車にのせてどこに行こうと……。
 そうか……そういうことなのか……。
 そして、僕は言った。

「ものみの丘に連れて行くのか?」

 一瞬の沈黙。
 岡田がすぐさまこちらを振り返る。そして僕の顔をじっと見て……言った。
「馬鹿じゃないの?」
 その嘲るような口調……相変わらず憎たらしいな、こいつは。
「でも、そう思われても無理はないよ。特にこんな非常事態の中だったら……」
 運転席の少女がクスクスと笑っていた。
「そうかもしれないけど……。でも、あんな状態のものみの丘に行くと思うなんてあまりにも短絡的
すぎない?」
「そうかなぁ? でも彼、今の状況を把握してないみたいだから、そう思ってしまったかもしれない
よ。妖狐どもに拉致されそうになってるなんて……」
「そうだとしても、こんな奴連れても何のメリットもないと思うんだけど?」
 そして、再度、岡田は小馬鹿にしたような笑みをこちらに向けた。本当に嫌な奴だ。
 それに僕が役立たずなんていわせないぞ。僕にはあの力が……。
 僕は『あの力』を見せ付けるために、こっそり気をため込んでいた。すると……。
「でも、彼も結構のやり手のように思えるけど。今だって……」
 何!?
 運転席の少女の言葉に僕は慌てて、集めていた気を消滅させる。岡田はそう言われて、訝しそうに
僕の顔を見ていた。未だに疑り深い表情でいることから、少なくとも彼女にはバレていないらしい。
 でも……この運転席の少女は一体何者だろう?
「そうかなぁ。まあ、あんたが言うなら間違いないとは思うけど」
 岡田もやや疑ぐりながらも何とか納得はしているようだった。
「あっ、そーいやさっきのメールは?」
「霧島さんからよ。ほら、警察に頼まれたあのヤブ医者」
「聖サンからだったの……。って、仮にもかつてあんたがヘマをやって金沢の拘置所にブチ込まれた
時によくお世話になった人じゃないの」
「そうですね。でも、ヤブはヤブよ。もっとも、信頼しあった関係だからこんな悪口が言えるんだけ
どね」
「信頼しあった仲だからこそけなせるか……妙なものよね」
 桃色の髪の少女の言葉に岡田は複雑そうな表情で窓の外をながれる景色を眺めていた。
 外は相変わらず吹雪だった。
 住宅地の中を車は走っているようだ。ただ、今までの過酷な戦いのせいか、崩壊している箇所が
所々見られる。
「しかし……そのメール一体なんだったの?」
 岡田が唐突にその少女に問い掛けた。
「どうも、この区域の時空間についてなんだけどね。確かに、この区域に入って来た時には何か妙な
感じがしたけど……考えるのは向こうに着いてからね。さて……」
 そういって、その少女は視線を一瞬こっちに向けた。(もっとも運転中なのですぐに元に戻したが)
「とにかく……佐藤君だっけ」
 運転席の少女が呼びかけてくる。背格好と同様、声にもまだ幼さが残っている。
「はい。そうですけど……」
「今から連れて行くのはものみの丘じゃないから安心して。避難先に向かっているから」
「避難先……?」
「うん。とりあえず、そこで今後の作戦を練るとしましょ。北川君の事が気に掛かって仕方ないのも
分かるけど、今、下手に出るとはっきり云って危険だから。その足の傷も治さなくちゃいけないしね」
 な、なんで、僕が心の友の事で悩んでいるのが分かったのか?
 本当にこの女の子……何者だ?
「は、はい。んで、失礼ですけどあなたは一体……?」
 僕は思わず丁寧語でしゃべってしまった。本能でこの人には逆らってはいけない――僕なんかより
遥かに強い人だ――と認識していたからかもしれない。
「そういえば名前も言ってなかったね。私はスフィーっていうのよ。よろしくね」
 スフィーっていう少女は朗らかな声で自分の名前を名乗った。
313新着メール1件:2001/01/22(月) 23:22
Date:Fri@`27 5 2000 23:56:24 JST
 From:"n.shimizu"<[email protected]>
To:[email protected]
Subject:質問の答えはこんなものでいかがでしょうか?(その1)

 どうも、こんばんわ……と言っていいのでしょうか?
 そういえば、先日のメールの誤配信の事を多少気になさっているようですが、なつきはあま
り気にしていませんので。ご心配無用です。
(むしろ、いい機会を作って下さって感謝……といったらおかしいかと思いますが、それなり
になつきにしてもプラスの事になっていますので。ていうか、貴女のご親友の牧村女史からそ
の事はうかがっておりまして、いつかお話をしたいと思っていましたので(^^)。
(なお、メールは結構長いですので勝手乍ら2つに分けさせて頂きます。申し訳ありません)

 さて、貴女が送付なさった質問ですが、以下の通りでしたね?
 @例の区域が1月7日という時を繰り返しているがどういうことか?
 A能力者どもがそんな区域にいとも簡単に出入りできるのはなぜか?
 Bなぜ上層部は牧村女史ではなく貴女を投入したのか、その理由に心当たりはないか?

 これらの項目については現時点ではなつきも分からないとしか言う事が出来ません。
 ただ、あえて言うならBについては心当たりがあります。
 先のメールで佳乃さんがやってくるという事も警察は意図していたかもしれないなんて事を
おっしゃられていたようですが、それは違うと断言できます。
 連中は恐らくそこまで先が見えていません。ていうか、佳乃さんの存在は気にしていません。
(次のメールへ続きます)
314新着メール1件:2001/01/22(月) 23:25
Date:Fri@`27 5 2000 23:58:41 JST
 From:"n.shimizu"<[email protected]>
To:[email protected]
Subject:質問の答えはこんなものでいかがでしょうか?(その2)

(前のメールからの続き)
 念のために、警察およびICPOの内部資料を念のために入手し、確認してみましたがそこ
まで考えている形跡はなかったです。むしろ、単に牧村女史に連絡が付かなかったから、貴女
に依頼したのだとみるのが妥当かと思われます。
 当時、牧村女史はチベット山中にて公安庁要注意人物である立川雄蔵の監視をしていたそう
です。ただ、1週間ほど前に立川が突如いなくなり、牧村女史もその行方が分からなかった
そうです。(でも、まさかよりによってものみの丘に来ていたとは……。それを聞いた時腰を
抜かしてしまいました)その後、牧村女史は警察にその事を伝えようとしましたが、例の騒動
でてんてこまいの状態らしく、うまく伝わらなかったそうです。
 結局、立川の行方を知ろうと、一昨日なつきの所にやって来たわけですが。

 なお、@、Aについては今の所は根拠があまりに少ないため、申す事は出来ません。
 情報が集まって、結論が確実と思えた時点で回答致します。
 ご期待に添えず、申し訳ありません。

 最後に、今回の騒動で言えるのは『時期を見極めよ』ということでしょうか。
 最近、水瀬が動き出したと知人から聞きましたが、そんな状況だとなおさらそれが言えると
思います。少なくとも、今動き出すのは早計で、かつ非常に危険かと思われます。
 では、お気を付けて。
315名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:05
現在363番目。
316名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:06
流石に沈みすぎなので、
317名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:07
そろそろサルベージなどしてみたり。
318名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:10
私はROM専に回って久しいですが、
319名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:11
ストーリーはそろそろクライマックスに近づきつつあるようですね。
320名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:12
ここのところ、やや間隔が開いているようですが、
321名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:16
現役書き手の方の手腕に期待しております。
322名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:17
それでは、話が収束する日を楽しみにしつつ、
323名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:18
上げてみたいと思います。
324名無しさんだよもん:2001/01/26(金) 12:21
age
325名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 17:23
あげとくか
326名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 17:27
下げ開始
327名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 17:50
下げ
328名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 17:52
ダウントリム5度、良し
329塚本千紗:2001/01/28(日) 05:12
にゃぁ〜。散々ですぅ。
留美お姉様は妖狐を裏切って行方不明、郁美お姉様は秋子相手に喧嘩を売って惨敗なんて……
その上、雑魚とは言え岡田さんや不可視の力姉妹までいなくなっちゃうんですよ……ふみゅうん。
今残っている主な戦力は、真琴お姉様と飼いギツネの瑞希くらいときたもんですから、
千紗、頭が痛くなっちゃってきましたです……

───はっ。以前の名残が出ちゃったわ。
媚びを売っていた郁美があっさり死にやがった以上、
もうかわいこぶる必要はないのよね。
この金色のツインテール、千紗の不遇の身は随分長かったわ……

ともかく、秋子までもが「真琴が完全復活した」と
思い違いしてくれているのは有り難いことだわ。
真琴が完全覚醒するにはまだまだ力が食い足りないのだから。
あの莫大なエネルギーの放出も、所詮は前戯に過ぎないのよ。
そう、擬似的に目覚めたように真琴の身体をいじっただけ。
ふふ、真の覚醒に怯えおののくと良いわ、小賢しい長瀬の後継者達。

さてと、柏木の小娘と秋子がやりあっているうちに
瑞希と真琴を連れて退避するのが賢い道ね。
あの川澄舞と秋子を同時に相手するなんて正気の沙汰じゃない。
ともかく、恐山屈指のイタコ『七変化の玲子』なら──
理奈や英二、マナの魂をこの世に呼び戻せるはずだわ。
器なら、ものみの丘のありったけの妖狐を圧縮変換して連れていけばいいことよ。
このまま雑魚として死ぬくらいなら、いっそ真琴の糧になる方が幸せよね?

さ、行くとしましょうか──眠り姫の真琴様?
330太田香奈子:2001/01/28(日) 14:17
「瑞穂、本当にこっちで合ってる?」
「うん、確かにこっちの方角だよ。さっき、凄まじいエネルギーが放たれたのは」
 私は、瑞穂共々突如放たれた謎のエネルギーの調査に来ていた。
 同じ時間に雛山さんが光の柱らしきものを見たと言う。恐らくは、秋子か柏木のクソガキの仕業だろう。
 秋子がまだ潜んでいる可能性は捨てきれないが、真実を掴んでおかないと後手後手にまわる今の状況から脱却できない。
 保科さんは渋っていたが、牧部さんはまだ帰ってこないし、私たちが行くしかないのだ。
「香奈子ちゃん、ポイントとしてはこの辺だよ……あっ!」
「!」
 私と瑞穂は、息を呑んだ。
「何……だ……。テメエラ……か……よ……」
 全身にひどい怪我を負った柏木初音が、塀にもたれかかっていた。
「くそっ……たれが……あのババア……逃げやがった……後一歩で……仕留められたかも……しれねえのに……」
 憎々しげに呻く初音の手から、チャリンとペンダントが落ちた。
「いや……私にゃ……もう決め手が……無かった……どうせ……意味無かったか……」
 そこで、激しく咳き込む。口から零れる血の量が尋常では無く、明らかに致命傷を負っているであろう事が知れた。
「よお……悪いが……ボンクラの姉貴共に伝えておいてくれねえか……せめてあの秋子ってババアを……ぶっ殺してくれって……」
 荒い呼吸が、次第に細くなってゆく。
「チクショウ……エルクゥの復興……所詮は、見果てぬ夢……か……よ……」
 もはや光を宿さない瞳が、虚ろにさまよう。
「ちくしょう……ちくしょう……ちくしょう……ちく……しょ……」
 その瞬間。
 柏木四女の末女、初音はこの世から去った。
スマソ……
わざとやってるわけじゃ無いんだ……
332名無しさんだよもん:2001/01/28(日) 14:36
>>362
うわっ、ほんとだ。
これで、QOHの再インストの手順がまた増えるそうだね。
99→SE→ラピード→坂下→コリン
って、すげーめんどくさいような…。
再インストしなければ、いいんだけど…。

> ところで15150Hitはキリ番でよろしいでしょうか?
ぜんぜん、オッケーです。
気にしていませんので、じゃんじゃん報告を…。
333名無しさんで逝こう:2001/01/28(日) 20:35
すみません。少しだけ告知の書き込みです。

http://green.jbbs.net/sports/310/xiantou.html

まあ、馬鹿が馬鹿なりに考えた末の結論です。
こんなことに掲示板を使って申し訳ないです>だもんよさん
334名無しさんで逝こう:2001/01/28(日) 20:36
あれ? どうしてageったんだ?
たびたび申し訳ないです。
335高野の大僧正$[山雪見:2001/01/31(水) 11:42
「行ってらっしゃい」
 私はそう言っていた。ものみの丘に向かう彼女らに向かって。
 うふふっ、私の演技力も落ちてなかったみたいね。
「本当は駄目だって思ったんだけど……」
 どうも八百比丘尼を取り込んだことが良い方向に出たらしい。
 身体の方が幾分、丈夫になっていたようだ。
「伊達に千年もしぶとく生きてはいないのね。八百比丘尼さんも」
 それに、みさきへの攻撃を消滅させたら、私の方の月の刃≠熄チ滅したから。
 まさしく本体を失っては影も消えていくしかなかったのだろう。
「みさき、それは最後のたむけよ」
 月の霊法<治・月光>。高野に伝わる回復術だった。
「これで貸し借りは無しね」
 私も向かう。ものみの丘に。
 目的は多分……。
「今も私はそれを求めているのね……」
336沢渡真琴@魔物を討つもの@:2001/01/31(水) 12:37
「……というわけで川澄舞と水瀬秋子を同時に相手にするのは得策ではないです」
「千紗よ。私が敗れるとでも言うのか?」
 永い眠りについていた。
 千年前の戦い以来の眠りだった。
 混濁する記憶の海からようやく蘇ることが出来たのだ。
 そして、以前にもまして力≠ェ増していた。
「にゃあ〜。そんな滅相もないですぅ」
「お前は何も分かっていないのだな……」
 千紗よ。おろかな子狐よ。
 この『物の怪の丘』を引き払うだと?
 この神聖な妖弧の丘を。全ての地脈が集まる場所を。
 我らも人間も『物の怪の丘』と呼んできたのだ。
「何故に恐れる……? 妖弧に迷いは許されぬ」
「で、でも……」
「迷いは許されぬ。返事をためらうことも許されぬ。
 分からぬか? お前も所詮は郁美と同じ出来損ないか?」
「ひいっ! すみませんでした」
「あらあら? いけませんよ、真琴……」
 この声……。
 やはり来たか、邪術士よ。
337沢渡真琴@魔物を討つものA:2001/01/31(水) 12:38
 高い大木の枝に腰掛けて邪術士はこちらを見ていた。
 気に入らぬ。その余裕の態度。我と対峙してなお保っていられることが。
「そんなに怯えさせたら、可哀想ですよ」
「何用だ?」
「随分な言い方ですね。知らないとでも思いましたか? 封印のことを」
「ならば我と戦うか?」
「いえ。その鈴を付けているところを見ると、まだ同盟は廃棄されていないみたいですから」
「付けているのは戯れだ。妖力の回復した今、我は何も恐れぬ」
「うふふ、仕方ない子ですね」
 殺気は感じられなかった。まだ殺る気はないということか。
「はい。こちらも忙しい身ですので」
 邪術士は一つ手を振り上げる。
 空に次々と浮かび上がる水晶のような塊り。
 その中に幾人もの眠れる力≠る者たちの姿があった。
 知っているだけで異界の光の戦士<eィリア。不可視の使い手%oタ葉子。
邪教崇拝者¢蜥詠美。先導°纒i仏大志。怪物@ァ川雄蔵。
 その他にも幾人もの行方知れずだった者たち。
「にゃあ〜。真琴様これは……?」
「どういうつもりだ?」
「結界を張ろうかと思いまして」
「結界だと?」
「そうです。私や貴方それに翼人にも。不公平だと思いません?
 力があるものが、その力を存分に揮えないなんて?」
338沢渡真琴@魔物を討つものB:2001/01/31(水) 12:39
この世界には律≠ェある。
その均衡は決して歪められていけない。
 そんな法則があった。
 破れば空間が変動して世界のあるべき姿が崩れ変容をきたす。
 それは消滅をも意味する。
「ですから、私はこうしようと思います」
 ぱちん、と邪術師が指をはじくと、次々と結晶が砕けていった。
 中にいた者たちは、もちろん言うまでもなく……。
「贄≠ニいうことか?」
「はい。物分りの早い人は好きですよ。それでは暫しのあいだ結界を創ります。
貴方と美汐さんが戦うときには、出来てると思いますよ」
 邪術士はそう言って姿を消していった。
『あ、そうそう、美汐さんの前に舞さんが来ているみたいです。仲良く遊んであげてくださいね』
 それは我も望むところだ。存分に結界とやら張るがいい。
その時こそが貴様の最後なのだから。
339川澄舞@魔物を討つものC:2001/01/31(水) 13:59
 歩く先には数限りない妖弧が蠢きあっていた。
 さすがは『ものみの丘』。簡単に突破はさせてくれないみたい。
 九尾と戦う前に力を消耗させるのは得策ではないけれど、一気に駆け抜ける。
 斬! 疾風のごとく妖弧の群れを光りが貫いた。海を割ったかのように一筋の道が開ける。
 そこを駆け抜けるようとすると、道の先に新しい気配が生まれていた。
「にゃあ〜。あなたが魔を討つもの$澄舞さんですね?」
「…………(こくり)」
「待っていました。真琴様がお呼びです」
 金色のツインテールが手を上げると他の妖弧らは散っていった。
「何を考えているの?」
「真琴様のお考えは深く千紗には分かりません。でも一つだけ……」
「…………?」
「真琴様は戦いを求めているのですよ」
 ものみの丘に足を踏み入れる。
そして私はしっかりと剣を握りなおした。
(佐祐理……もうすぐだから……)
 想いの全てをぶつけるために。
340千堂和樹:2001/01/31(水) 16:23
 あれから数分。
「じゃ、アンタラに助けてもらったわけだ……これで二度目だね」
 最初に目を覚ました鬼姉妹の次女、柏木梓は決まりが悪そうに言った。
「しかしまぁ……耕一と楓を止めるなんて、よほどのバケモンだね、その子も」
「そーみたいだな。今は見ての通りお昼寝タイムのようだが」
 俺はあっさりと返した。未だ意識を取り戻さない祐介の寝顔は、この世で最強の電波使いのモノとはとても思えない。
「じゃあま、長居は無用だね。アタシはウチの身内を連れて帰るけど、アンタはどーすんだい?」
「とっとと引き返すよ。こんな物騒な場所にいられるか――」
 そう言って、踵を返した瞬間――

 かずきにあいたいよ

「ん? 何か言ったか?」
「いいや」
 梓は首を振った。
「声がしたような……気のせいか」
 俺は肩をすくめ、打ち消した。

 たすけてよかずき

「……」
 今度ははっきりと聴こえた。この声は。
「? 何かあったのかい?」
「……なあ、すまないけどよ。俺の方の身内も連れて帰ってくれないか」
「はあ? 何でさ」
「いや……どうしても気になって仕方が無い事があるんだ。大変だろうが頼めるか?」
「ったく、誰かに似てんな。アタシを女として扱わないなんて……まーいいけどさ」
「一応携帯も渡しておく。じゃ、頼んだぜ!」
 俺は、梓に携帯を放り、全力でものみの丘を駆け抜けた。

 数年前、高校で親しくつき合っていた女がいた。
 そいつは大学も一緒だったが、ある日突然姿を消したのだ。
 なぜかは分からない。だが、アイツは絶対ここにいる。声が聴こえたんだ。
 瑞希――! 
341高瀬瑞樹@魔物を討つものD:2001/01/31(水) 16:54
「真琴様……どうしてです? どうして川澄などと戦うのです?」
「不服か?」
 金色の視線が突き刺さるように私を捉える。
 不服というよりも、真琴様が自ら立とうという意味が分からなかった。
 恐れ多いのは重々承知で、その旨を私は真琴様に伝えた。
「何も案ずることはない。美汐……神奈と戦う前の肩ならしだ。
 それにお前と千紗では……川澄家の人間相手では荷が重い」
「そ、それは……」
 確かにそうだった。
 でも、それでも私は……真琴様のお役に立ちたかった。
 それが私の存在意義だったから。
「瑞樹よ」
「はい」
「妖弧の精鋭5000を貸してやる。それで長瀬一派を討って来い。
 それで見事、保科智子の首を討ち取れ。名倉姉妹も好きに使うといい」
「…………」
「私の期待に応えてくれるな?」
「……はい」
 私には頷く以外に道はなかった。
 もう誰も私を必要としてくれていないのなら。
 せめてお母さん≠ニ呼べる人のために……。
342名無しさんだよもん:2001/01/31(水) 16:57
>>340
ぐわっ。すみません。ど、どうやら、まだ被っていませんよね?
今度は様子を見てから、まとめてUPすることにします。
343ロムラーだよもん:2001/01/31(水) 19:26
ちゃん様…(泣)

じゃなくて。前スレからいつも興味深く読んどります。
書き手さんへの批判禁止的なことが1にあるので言いづらくはありますが、
どうも最近キャラに偏りがありすぎる気がします。

話を進めやすいキャラ、そうでないキャラいるでしょうが、
全く出てこないまま使い捨てなのは哀しいので。
ガンガン死ぬ陣営もあればひとりも犠牲者のないところもあるし。
出たきり→いつのまにか場外? なキャラの数が増えたのは事実ではないかと。

諸事情で書き手さんが固定化してしまう以上仕方ないのでしょうが…
1キャラを動かしてる人が来られなくなれば出番もなくなるでしょう。
でも、せめて1キャラに1つは見せ場を作って欲しいなとか思っちゃったり。
なら自分で書け、と言われてしまうでしょうか。すいません。
とはいえ、面白く読んでいたものとして最近の人の少なさは寂しいです。

私情混じりの身勝手な書き込みですが、少しでも目に留めていただければ。
344名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 20:27
初めましてロムラーさん、書き手の一人です。

>ガンガン死ぬ陣営もあればひとりも犠牲者のないところもあるし。
>出たきり→いつのまにか場外? なキャラの数が増えたのは事実ではないかと

今回のその件については私個人の至らぬところにあったと思います。
ちゃん様やティリア、大志を問答無用に場外に行ってもらったのは私ですから。
345名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 20:33
上位20にあるので長文は避けております。ご了承ください。

犠牲者のないところも主にONE陣営ですね? それも私が主に書いているところです。
本当は雪見のところで七瀬が逝くところでしたが、ちょっとした諸事情があってそうなってしまいました。
でも、だからといって他のキャラクターを軽んじているわけではありませんよ。
346名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 20:40
前スレ@でもありましたが、リレー小説というのは過酷な争奪戦です。
持ちキャラ制度ではありませんが、それぞれのキャラに愛着が湧くこともご理解あるようお願いします。
そして、物語も佳境に入って話に一本の筋が見えてきました。
多分、他の書き手さんたちもだと思います。
347名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 20:46
その筋に向かって物語を収束させて行きたいと私は思っています。
ですが、書き手さんの都合上、時間の取れないことだって、もちろんあります。
348名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 20:48
でも、そんな中でも私や他の書き手さんたちは話を盛り上げようと、
努力を惜しまないように、展開や伏線を張り巡らせようと心がけています。
……って、それは私の言えた義理ではありませんが。
349名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 20:52
>どうも最近キャラに偏りがありすぎる気がします
もう少し様子を見てくれませんでしょうか?
私だってプノンペン組の動向を楽しみにしておりますし、
美汐たんの行動だって『この先どうなるんだろう?』と楽しみなんですから。
書き手であっても、私も読み手の一人なんです。
350名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 21:00
今は人数が少なくて寂しく思われることでしょうが、後から見たらきっと≠ナすよ。
それと聞いておきたいのですけど、今までのは、それほど無理な展開だったでしょうか?
いやいや、私はともかく、なので(汗 
351名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 21:03
でも、私的にも理由づけが一応あって、今までティリアやちゃん様が出てこなかったのは、
どうしてなのかを、それで説明したかったのです。
それが空回りに終わったようで、残念ですけど……。
352名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 21:10
でも結果的には意見や感想を述べてくれてありがとうございました。
大庭詠美については、私が責任を持って見せ場を作りたい思います。
だけど、最後に一つだけです。
ageるときは面倒でしょうが、回してからでお願いします。
もしくは、こちらに。

http://green.jbbs.net/sports/310/xiantou.html
353名無しさんで逝こう:2001/01/31(水) 21:13
他の書き手の皆さん、読み手の皆さん、すみませんでした。
話の腰を折るのも何でしたので、こちらのスレに書き込んでしまいました。
それと書き手代表みたいなことになって、他の書き手の皆さんごめんなさい。
脊髄反射だったかも……。いや恥ずかしい。もう少し慎みたいです。
354名無しさんだもんよ:2001/01/31(水) 22:03
>>342
ぐはあ、すみません。何とかこじつけますから、お気にせず続けて下さい〜
逆に相手に合わせて書く方が楽しいですから。

>>逝こうさん
そんなに堅苦しくならずとも〜
まあ、書いていく内に意見を反映していく上での理想値が見つかると思いますよ。
後、意見を下さった方、ありがとうございます。個人的には参考になります。
355名無しさん@だってばよ:2001/01/31(水) 22:46
うう、自分が話の筋や空気を読めているか、いまいち自信がない…

>>ロムラーだよもんさん
読む側の視点からのご意見、ありがとうございます。
自分はわりに突発で脇キャラ中心に書いていますが、
確かに幅が狭かったかもしれません。
今後、参考にさせてもらいます。
改めて、ありがとうございました。

>>逝こうさん
迅速なフォロー、どうもです。毎回タイミング遅くて大変申し訳ない。
意見を取り入れた上で、自分も少しずつでも成長したいと思います。
356保科智子:2001/01/31(水) 23:02
 出陣。
 私は書き置きを残し、隠れ家を出た。
「ん……委員長?」
「何や、藤田君か……」
 外に設置されたベンチで、藤田君が一人空を見上げていた。
 様々なショックで脳に障害を来たし、今は長岡さんの事を来栖川綾香と思いこんでいるらしい。
「どこ行くんだ?」
「いや……ちょっと星見や……」
「死相が出てるぜ」
「え!?」
「死相だよな。うんそうだ。死相。委員長、死ぬつもりだ」
 何度も同じ事を繰り返す。精神がおかしくなっているというのは本当らしい。
「死んじゃダメだぜー。死んだら終わりだ。悲しい。悲しむ奴がいるぜ。俺は悲しい」
「…………」
 狂人の戯言で片付けようと思えば出来た。
 だが、藤田君の言葉にはなぜか奇妙な迫力がこもっていた。
「死んだらダメだ。俺は悲しかった。あいつが死んで悲しかった。あいつが死んで悲しかった」
 藤田君の顔はゆるんでにやけていたが、目から雫がこぼれた。
「あいつが死んだから悲しかった。悲しいよ。悲しい。悲しいね」
 あいつ……? もしかして藤田君、記憶が戻りかけて――
「ダメッ!!」
 背後から突然の怒声。いつからいあたのか、長岡さんがすごい剣幕で藤田君に歩み寄る。
『ヒロは渡さない……渡さないんだから……ヒロ……』
 ただそれだけを呟いている。私は、背筋を凍らせた。
357川澄舞@魔物を討つものE:2001/01/31(水) 23:07
 目の前にいたのは少女だった。
 少なくても私にはそう見えて仕方なかった。
 幼い顔つき。明るめの長い髪。上目遣いに私を見るのは背の高低差からくるものだった。
 どこから見ても、子供にしか見えない。
(でも……何なの、この感覚……)
 さっきから震えが留まらない。
 幾多の敵を滅してきた私に怯え≠ニいう感情が体内を駆け巡っていた。
(…………)
 今まで感じたことのなかった情があった。
 恐怖……。
(私は勝てるの……?)
 震えが留まらなくなっていた。
 気持ちは前に進もうと思っているのに、身体が拒否してしまう。
 戦う前から私は敗けていたのだ。
「千紗、ご苦労だったな。退っていいぞ」
「……はい」
「しかし、つまらぬ戦いになりそうだな……」
 揺らぎない口調。その声すらも少女のものなのに空気を重く振動させていた。
 格が違う……。
(これが九尾≠ネの?)
 最強の名に相応しい金色に揺らめく九つの尻尾があった。
 その威圧感だけで私は屈服しそうになった。
 そこで……。
『あははーっ』
 励ましの声が聞こえた。
『大丈夫ですよ。舞には佐祐理がついていますからね』
 目の前にいる少女。九尾@d弧一族の長・沢渡真琴。
 勝てるわけがない。誰であっても勝てるわけがない。
 でも、負けられない。
 私は強く強く想いを込めて剣を握った。
「私の親友・佐祐理の仇と、あなたのせいでに散っていた魂の安らぎのために……。
 川澄家が長女・川澄舞! 魔を討つもの≠ニして九尾≠なたを討つ!!」
 もう一人じゃない。いつだって一緒だから。
 そうだよね、佐祐理……。
358川澄舞@魔物を討つものF:2001/01/31(水) 23:12
「そう来なくては意味がない」
 余裕のつもりか腰に手を当てたまま何の動きも見せない。
 しかし、それならそれで構わない。返って好都合だったから。
「次元斬!」
 九尾相手に力を余すつもりはなかった。最初から奥義をぶつけていく。
 後先を考えないで私は自分の身体を酷使していた。
「通用すると思ったか?」
 避けようともせずに九尾は次元斬を喰らっていた。
「無傷!?」
「強制的に空間を捻じ曲げる技か……防御不可能だな。
 しかし、当たらなければ意味がない。そうは思わないか?」
「……!」
 九尾と私の剣の間に僅かな隙間が出来ていた。
 それより先に刃が進んで行かないのだ。
「空間を操れるのは何も貴様の一族だけということもあるまい。
 忘れたか? 私は川澄家の人間と戦うのは初めてでない。
 お前と同じような力量の持ち主は……稀だが、それでも私は勝利を収めて来たのだぞ?」
 ――危ない!
 咄嗟の反応だった。
 回避しようと身体をあらぬ方向に向ける。
 無理な姿勢に体中が悲鳴を上げる。
「……くう!」
 すぐ脇を九尾の内の一本が駆け抜けていった。
 もう少し反応が遅れていたら串刺しになっていたところだろう。
「神速? ほう、それまで習得しているとはな……」
 感心したような声ではなかった。むしろ嘲るような口調でしかなかった。
「ますます楽しくなってきた。どれ、神奈の依代がくるまで遊んでやろう」
 さっきの尻尾の一本だけが、九尾の身体に纏わり付くように蠢く。
 つまり……。
「これで充分ということだ!」
 力の差は歴然だった。でも、私は絶対に諦めたりなんてしない。
 私の背中をいつも佐祐理が支えてくれているのなら。
 はぇー。さすがの舞でも敵いませんか。状況は厳しいですね。
 でも、大丈夫ですよーっ。何と言っても舞には佐祐理がついてるんですからね。
 初めの頃は祐一さんを争って舞と衝突したりもしていましたが、やっぱり佐祐理の大事な親友です。
 あははーっ、もっと早く舞のこと大切な人だって気づいていれば良かったですね。
 今、この瞬間を舞と一緒に戦っていたかったですよ……。
 だけど、悲しんでばかりはいられませんね。
 佐祐理の最後の力、今こそ舞のために使います。
 これで佐祐理はもう現世に留まっていられなくなりますけど、へちゃらへーですよ。
 舞には生きていて欲しいから……。
 受け取ってくださいね、佐祐理の力を。
 沢渡真琴さん、これは佐祐理にとって復讐≠ナはないですよ。
 佐祐理はちょっぴし舞に力を貸すだけです。
 大切な心友のために、佐祐理は……。
 あははーっ、それでは行きますよーっ!
360川澄舞@魔物を討つものH:2001/01/31(水) 23:16
「うん、やってみる」
 心のうちから聞こえてくる佐祐理の声に、私は泣きそうになるのを必死に堪えていた。
 そして九尾に立ち向かう。神速を使って一気に間合いを詰める。
 一秒よりも早い刹那の中で、必死になって意志を貫いて、剣を煌かせて、刃を振るっていた。
「てやっ!」
 まだ駄目だ。もっと九尾の注意を私に向けさせないといけない。
 もっと速く。もっと速く動かないといけない。
 でも神速を超えるほど速くは動けない。
 だから動きを変える。
 それは佐祐理の心のように穏やかな流水の動きだった。
「…………!?」
 私の動きを捉えようと九尾は追いかけてくる。
 速かった。私の神速よりもずっと速かった。
 でも、動きが直線的だった。
 それに、九尾はあくまで一本の尾で私を捉えることに拘っていた。
 これなら――いける!
「佐祐理−っ!」
 私は胸元から一枚の符を取り出して九尾に投げつけた。
361塚本千紗@魔物を討つものI:2001/01/31(水) 23:20
 まったく真琴の気紛れにも困ったものですね。
 千紗をこき使うなんて許せませんよ。
 でも、川澄舞と戦ってくれるのには助かりました。
 千紗だけだと本気を出して、今まで猫被っていたのがバレちゃいますから。
 まあ、真琴なら完全覚醒してなくても、川澄舞に遅れをとったりはしないでしょう。
 それじゃあ、千紗は仕方ないので、狐の伝令を玲子さんの許に使わせますか。
 それはそうと、川澄舞相手に手こずりますね、真琴も。
 にゃあ〜、遊んでないで早くやっつけてくださいよ。
 やること一杯あるんですから。
「…………?」
 あれれ? 千紗の目の前で大変なことが起こってますよ。
 真琴の身体に小さな粉のような物が纏わりついて……。
 どうしよう? どうしよう? 真琴を中途半端に覚醒させたのが裏目に出るかもですよ。
「にゃあ〜」
 光りが広がっていきます。
 それと、それと、真琴が地面に膝を付いちゃいましたよ。
 えーと、えーと、どうなっちゃうんでしょうか、お兄さん?(意味不明)
362保科智子:2001/01/31(水) 23:20
「ダメじゃない『浩之』。今は危険な状態なんだから、ふらふら出歩かないの」
「おう、悪いな綾香」
普段より鼻にかかる口調で、長岡さんが喋る。
(なりきってるんや……)
「じゃあね、保科さん。風邪ひかない内に中に戻った方がいいわよ」
 長岡さんが、綾香になりきったまま藤田君の手を引き、引き返す。
「…………」
 私は、呆気にとられ硬直していた。
「とーもーこ」
「どわあっ!?」
 いきなり背後から話しかけられ、私は飛び上がった。
 そして振り向き、二度仰天する。
「スフィー!? スフィーやないか! やっと来てくれたんか!」
 そう。触角つきちんちくりん魔女っ娘。スフィーがそこにいた。
「いやあ、遅くなってメンゴ。岡田さんに送ってもらっちゃった」
「そうゆう事」
「僕も……いるよ」
 そこには岡田、そして驚くべき事に佐藤君まで立っていた。
 スフィーが、ポンと私の肩を叩いた。
「ダメだよー智子。今時自己犠牲なんてナンセンスだって」
「!! あれは、藤田君の戯言……」
「魔女に嘘が突き通せると思ってる?」
「…………」
 にやりと笑うスフィーに、私はヤレヤレと肩を崩した。
「……敵わんな。私は、死神さんに嫌われてるみたいや……」
 岡田が、例の憎ったらしい表情で言ってくる。
「保科さんらしくないわね。それに思い上がってるんじゃないの? 自分だけで秋子を倒そうなんて」
 やかましい。しばくで。つくづくカチンとくる奴や……
「ま、積もる話やら今後の作戦会議は中でみんなでしようよ。あたしも休みたいし」
「うん……そうやな……」

(やれやれ。私、どうかしとったな……)

 空を見上げ、苦笑する。

 その時。
「お〜〜〜〜〜〜い、ちょっと手ェ貸してくれるかい……」
 柏木梓が、まるでブレーメンの音楽隊のように五人の人間を背負って、
 こちらへ近寄ってくるのが見えた。
363沢渡真琴@魔物を討つものJ:2001/01/31(水) 23:26
「こ、これは……?」
 力が抜けていく。
 あれほど誇っていた私の力が尽きていく。
 な、なんたることだ!?
『あははーっ、ざまあみろですよーっ』
 この声にも私は聞き覚えがあった。
「倉田佐祐理か!?」
『そうですよ。あの時はよくも不意をついてくれましたねー!
 ――といっても復讐するほど、佐祐理は野暮ではありませんよーっ!
 復讐なんて舞にはして欲しくないです! 復讐は悲しみしか生みませんからね。
 だから今日は舞の魔物を討つもの≠ニしてのお手伝いをしにきたんです』
「馬鹿な……こんな力がお前などに……」
『あははーっ、佐祐理をなめてもらっては困りますね。例の秘薬の効果を忘れてもらっても困ります。
 あの秘薬はすぐには効かなかったですけど、徐々に真琴さんの体を蝕んでいたんですよ』
「くぅ……」
『完全覚醒したと思っていたのが貴女の敗因です。
 それに舞の力を侮っていた貴女の傲慢さにも原因はありますね。
 舞の本当の力、佐祐理は良く知っています。
 ねえ、舞、後は任せても良いかな……?
 佐祐理、もう限界みたい……。
 でもね、最後に言わせて欲しいことがあるんだよ』
「あぅーっ! どうなってんのよ!」
 力が抜けていくおかげで知性すらも人格すらも元あるとおりに……。
『舞と出会えて佐祐理は幸せだったよ』
「――――っ!」
 私はこの丘を震わすほどの絶叫を上げていた。
364川澄舞@魔物を討つものK:2001/01/31(水) 23:32
「安らかに眠って佐祐理……」
 私は嬉しかった。佐祐理の最後の言葉に感謝した。
 そして私は刃を振るう。
「この程度で私が負けるものか!」
 揺らめく九本の尾。でも今となってはそれら全て弱々しかった。
「私は今まで自分の力を否定してきた」
 尻尾は針のような鋭さを持って私に直進してきた。
「本当の私の力……川澄家には有ってはならない力だったから」
 それらを躱して真琴の側に近寄る。
「でも、今なら分かる……」
「殺してやる! 殺してやるぞ!」
「その力を持っていた意味が……」
 九本の尾が一斉に私に襲い掛かる。
 例え直線的な動きでも一気に来られては、あの速さなので躱せはしない。
 私はそれらに貫かれる。
「でも、はずれ」
「…………!?」
 私の側にいるたくさんのわたし=B
 ずっと忌むべきだった私の中にあった邪悪な力。
 でも、きっと、それもわたし≠ノ違いないから、私は受け止めようと思う。
 私の中にいるまい≠スちを。
「こ、これは……この気配は私たち側の気では……」
 忌むべき力、今こそ解放させて……五人のまい≠ェ一斉に九尾を捉える。
「X次元斬!」
 五人のまい≠ェ私の奥義を放つ。威力はその比ではない。
 何倍も、何十倍も、それは膨れ上がって……。
「この程度で、私が参るものかー!!」
 そして、九尾*レ掛けて私は左手に、残った全ての気を集めていた。
 収束する光。切り札は最後まで取っておくものだから……。
「サイコカノン!」
 そう叫んだとき、私の左腕から血が迸っていた。
「…………?」
 私の左手は、ごとっと鈍い音を立てて地面に転がっていた。
 その所業は真琴じゃなかった。彼女も呆然と見ている。
 そこにいたのは……。
「…………」
 俺は無意識に視線を……舞とかいう女の手に向けていた。
 それは俺がさっき引き千切ってやったものだ。
「……ちっ!」
 舌打ちしてそれを踏みつける。
 何度も何度も踏みつける。でも足りない。
 まだまだ、やり足らない。
 俺の手は川澄舞の首もとに伸びていった。
「……殺してやるよ」
 そこにちびまい≠ェ俺に向かって駆け寄ってくる。
 蹴散らしてやる、そう思ったとき、九尾のやつが立ち上がって、
 そいつらを一人残らず、その尾を持って串刺しにしていた。
「ふん、秋子が連れてきた男か……」
 値踏みするように俺を見てくる。どうやら薬の効果は完全に消えてしまったようだ。
 ……憎らしいが今は関係ない。俺は舞の首を思い切り締め付けていた。
「この! この! このこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこの
 このこのこのこのこのこのこのここのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこののこのこのこの この!!!!」
 俺はもう狂っていた。そう自覚できる。
 でも、それが分かってしまっても留まることなんて出来ない!
 誰にだって出来はしないのだ!!
「ちくしょう! ちくしょう!! ちくしょう!!!」
 絶叫に篭もるのは涙声でしかなかった。
「お前が香里を殺したのかあああああぁぁぁぁぁぁああああああつつつつつつつつつーーーーーーーーーーーっ!!!!」
 ただ悲しくて、悔しくて、それだけで心の中が怒りの炎で一杯になって……。
「ちくしょう! 好きな女も護れないで、俺は何のために強くなったんだよ!!」
 俺はその場で泣き崩れてしまった。
 知らなければ良かった。そんな事実知らないままでいれば良かった。
「ご、ごほっ……ごほっ……」
 しぶとくまだ生きている。俺はもう何もかもがどうでも良くなってしまっていた。
 それでも、地面に落ちている剣を見ると、それで舞が香里を殺したのだと理解すると……。
「…………」
 俺はそれを無言で舞の心の臓に突き刺していた。
 もう何も見えなくなって……。
「人間に出来るのはそこまでだろう? 後は私がやってやる。
 こいつの魔の力を喰らえば、それこそ私は完全復活となろう……。
 ふっ、それにしても、魔を討つもの……自らの魔の所業によって討たれるか……。
 最高の皮肉だな……」
 もう本当に全ての事がどうでも良くなって……。
「香里……仇はとってやったぞ……とってやったぞ……香里の仇を……とって……」
 俺は何度も何度もそう呟いていた。
 壊れてしまったテープレコーダのように……。
367名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 00:01
>>354さん
いやあの342と同一人物です。すみませんややこしくて。
その件については有難うございます。こちらでは一応、だよもんでやってますから。
あの時コテハンにしたのは、やはりそうしないと駄目なような気がして。
えーと、それと『魔物を討つもの』長い間のお付き合い有難うございました。
いや、とうとう、やっちまったよ。どうしよう……?
368名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 00:03
ああ、意味不明な文章に……。逝こうは私だということです。
鬱だ……逝ってきます……。
369リアン:2001/02/01(木) 00:36
 車を運転していると、目の前を狐が横切った。
 どう見たって妖狐……しかも一匹だけ。
 おかしいです……確か、妖狐どもは進入者からの防衛で必死の筈……。
 そのキツネの後を追うことにした。
 すると、そいつは俺の気配に気付いたのか全速力で突っ走りだした。ますます怪しい。
 しかもよく見ると、首には何か筒らしきものが……何かの伝令でしょうか?
 だが、そいつはかなりの速さで走っている為に、なかなか追いつけない。おまけに狭
い路地に入ってくれたために、見失うのも時間の問題だった……だが。

 パーン……。
 どこからか乾いた銃声が聞こえた。
 俺は慌てて懐に38口径のベレッタがあるのを確認して、用心しながら車を降りて路地
の奥へと進んでいった。
 その狐はすぐに見つかった。だが、その場に横たわっていて、その周囲には赤い液体
が飛び散っている……何者かに射殺されたのは明らかです。
 俺は用心しながら、静かに傍へと近寄った。
 周囲に銃弾がないことから、一発でしとめたらしい……しかも、銃弾はマグナム357
……まさか!?
 そう思った時だった。

「……動かないでください……」
 背後から暗そうな女の声がしたかと思うと、俺の後頭部になにか冷たい金属状の
ものが押し当てられた。それは銃であることは明らか。
それに、この声、この口調……。

「誰かと思えば、長谷部さん……。お久しぶりです」
 俺は背後で銃を突き付けている女――長谷部彩にそっと声をかけた。
「……誰かと思えば、リアンさんでしたか。いきなりやってくるからびっくりしましたよ……」
 彩はふうと息を吐くと銃をおろした。
 やれやれ、こんな所でとんでもない奴と出くわしちまったな。
370リアン@362の30分前:2001/02/01(木) 02:32
「……しのあいだ結界を創ります。
貴方と美汐さんが戦うときには、出来てると思いますよ……」
 FMラジオのスピーカーから流れてくる二人の女の――沢渡真琴と水瀬秋子との会話に僕
もスフィーも岡田も耳を傾けていた。なんでも、岡田がものみの丘に潜伏していた時に盗
聴機を仕掛けたらしく、おかげでその中の会話が筒抜けになっていた。
「ふぅ、ますます厄介な事になったね」
 スフィーはため息を吐きながら、FMラジオのスイッチを切った。
「力のある奴を捕まえていっている……これだけは確かね」
 岡田が深刻な表情のまま、すっと立ちあがった時、ドアが開いた。
 橙色のワンピースらしき服を着た、茶色の髪の女だ。名をコリンという。
「コリン、彼女の様子は?」
 スフィーの言葉に、コリンは暗い表情で小さく首を振った。
「肉体と分離させて戦ったから、肉体に損傷はなくて、意識もかすかにあるんだけど……
力をほとんど使い果たしてしまって動けない状態なの……」
「そう……。辛うじて、砕かれた精神体は回復できたけど、さすがに禁断のやつを使っち
ゃね……とにかく、彼女はしばらく休ませた方がいいよ。んで、もう一人の方は?」
「彼女は意識はあるんだけど体の方が損傷が酷くて……」
「河島はるか……彼女もとんでもない所に呼び出されちゃったね。
 それにユンナも……よりによって水瀬の娘とあたるなんて……。
 とにかく、雅史に岡田」
 スフィーは小さくそう呟くと僕の方を向く。
「今から智子たちがいる所に行くけど、どう?」
「うん。私はいいけど、佐藤君は?」
 岡田も戸口に立ちながら呼びかけてくる。
「分かった。行こうか」
 僕は頷くと、そのまま彼女らに付いて、階下に止めてあった車に乗り込んだ。コリンが
心配そうな面持ちで見送る。
「じゃあ、コリン。悪いけど、後は頼んだよ。しばらくしたらリアンが来るから」
「分かったよ〜。じゃあね」
 僕らを乗せた車はそのまま、今までいたねぐらを後にして、委員長のいる所に向かった。
371370:2001/02/01(木) 02:35
これ、はリアンでなく佐藤雅史でした。
正しくは「佐藤雅史@362の30分前」です。スマソ……。
372長谷部彩(1/2):2001/02/01(木) 04:38
 ……正解だったかもしれません……読みはあたっていました……。
 ……って、日記までもこんな調子ってのも妙な感じだな。

 とにかく、あの狐はにらんだ通り、いろんな意味でトンデモないブツを持っていた。
 中身は1枚の手紙。そこには以下のようなことが書かれていた。

 『にゃあ〜、塚本千紗って妖狐なんです〜。千紗のお願いです〜。
  あなたの力で今までに殺された妖狐達を蘇らせてくださいです。
  あなたの力でならどうにかなるはずですよ。七変化の玲子さん』

 思わずワラタ。ていうか、一瞬ネタかとオモタ。
 内容も文法も無茶苦茶で、これが本当に密書かとも思った。
 生き返らせることは可能か否かの判断は別として(私自身は、そんな事はまず有り得ない
と思うのだが)、せめて物を頼む時ぐらいはもう少し丁寧な文調で書くのが礼儀ってものだろ。
 さすがにこの厨房級ともいえる文書にリアンさんも大笑いしてしまったのは言うまでも無い。
(ただ、そのはずみで運転を誤って、危うくボンネットを電柱にぶつけそうになったのは減点だが)
 とにかく、この文書は即効、コレクションに加えることに決定(藁)。
373長谷部彩(2/2):2001/02/01(木) 04:40
 気に掛かるのは一つ、この「七変化の玲子」って名前。
 私の記憶にある限り、恐らくこいつは芳賀玲子さんだろう。
 変装の達人でかつ、法術士でかつ、イタコという際物だ。
 今、渦中の高野山をはじめ、さまざまな
 さらには、裏社会に飛び込んで大規模な犯罪に関与してきた。
(そういえば、かつて私は玲子さんと仕事をしたことがあった。NYで銀行を襲撃した。
 もっとも、その時は玲子さんが高野にいたころに面倒を見ていたなつきさんやリアンさん
の姉の スフィーさんとやっちゃったが。今ごろどうしているのか)
 ただ、玲子さんはいくらイタコとは言え、死者を蘇らせることができるのか?
 確か、そんな高等な術ができるには10年はかかるなんて彼女は笑っていたのを覚えている。

 そういえば……先日の高野山の襲撃事件。
 あれは恐らく私の仕業だろうと……少なくともなつきさんやスフィーさんや……そして横で
運転しているリアンさんは疑っているはずです。
 でも……あの事件は……。
 その時でした。
 リアンさんに高野の僧を40人まとめて殺すなんて大した事しますね、と言われたのは。
 ……だから、言うことにします……私の本心を……。

「……私は……高野の僧の殺戮はしていません……」
 案の定、リアンさんはあっけにとられていました。無理もないことです。

 P.S.今、これを見返したら口調が度々変わってやんの。オマエモナーって言われるぞ、ヲイ。
374霧島聖(1):2001/02/01(木) 09:48

 聞き慣れた音色。
 臨時同盟を結んだ後、長瀬方の人間には番号を明かしてあった。
 何かあったのか。
 携帯着信音の「六甲おろし」に、意に反して足が止まる。

『キタガワサンガカワスミサンヲコロシマシタ ナツミ』

 カタカナだけのショートメールで、呆気なく手短に。

 リアン嬢の隠れ家からの連絡だった。
 なつみは舞に助力を請いに行ったのち、そのまま彼女を追っていたのだろうか。
 ああ、安全な場所に戻っているのか。
 一瞬、思考回路がそう認識したが、それは文面からの逃避にしか過ぎなかった。

 北川くんが。川澄舞を。何故。

 初めて会ったときの好青年然とした印象からは想像し難い話だった。
 彼は佐藤くんと共に遊撃に当たっていたのではなかったのか?
 その事実に至る理由が、まるで分からない。
 隠れ家を出てから今までに何があったのか…見当もつかない。
(私が北川くんを巻き込まなければ、彼女は死ななかったな)
 考えが自虐的な方向に向く。それも確率論の話だと言うのに。
 どちらにせよ、川澄舞はもういない。

 そう、衝撃を受けるより先に──私には行くべき場所があった。
375霧島聖(2):2001/02/01(木) 09:54

 真夜中の、風が吹き抜ける歩道橋の中央で。
雲の隙間から覗く月光を一身に受け、少女は立っていた。

「ご足労ありがとう、霧島さん。感謝するわ」
 満ちかけた月がよく似合う、そんな艶やかな笑み。少女らしくないそれ。
「まさか高野の有名人に会えるとは…流石に思わなかったな」
「そう? 特別対策室のエースほどじゃないわよ」
 柚木詩子。高野山の精鋭の生き残り。広報の仕事でか、一度ブラウン管越しに顔を見たことがある。
「世辞はいい。用件を話してもらおうか。お互い暇ではないだろう」
「ふふ、ご機嫌斜め。いいわ、約束だものね」
 言うなり、口の端を僅かにつり上げて微笑む。
 人を食った余裕の表情の中で、その眼だけが。
 闇に星が浮き上がるような、強い意志を持っていた。
 場違いなほどに。

「…みちるはね、素質があるのよ。九尾の素質が」
「とうに消化されて遠野さんの式神になったんじゃあないのか」
「自分と同じ、つくりものには詳しいのね。でも少し違う」
「…………それで」
「折原浩平って名前を知ってる? 前大僧正の甥っ子。
 彼が真琴の尾と天野の髪の毛から破壊兵器としてみちるを製造したの。
 そしてそれを廃棄したのは、橘って男と私。
 つくりもの同士、みちると美凪は相性が良かったようだけど…」
「能書きは後にしてくれ。遠野みちるは何なんだ」

 はぐらかすような柚木の物言いに、つい語調が荒くなった。
(馬鹿者、冷静さを失うな!)
 そう自分に歯噛みをして言い聞かせた次の瞬間、

「九尾のみならず翼人の眷属でもある。どう、この答えで満足?」

 その唇から、更に不可解な言葉が紡がれた。
376柚木詩子(3):2001/02/01(木) 10:07

 驚愕に歪んだつくりものの女の表情が可笑しくて、私は殊更ににっこり笑ってみた。
 動揺している。思い通りの反応をしてくれるのは気分がいい。

「高野山の活動目的は、妖しの者の抹殺だけじゃないのよ。
 術師育成と称して翼人のいれものにふさわしい人間をつくるところでもあるの。
 つまりは来るべき神奈降臨の為の生け贄、ってとこね。
 だけどそんな素質のある人間はそうそう居ない。
 だから代わりにクローニングや遺伝子改造で人工の術師を創り、
 それに神奈を降ろさせようとしたのよ。表向きでは翼人を忌みながら。
 知ってるでしょう? 対妖人型兵器の『みすず』。
 出来損ないだって聞いたときはがっかりしちゃったけど、可笑しくもあったわね。
 ああそうそう、元は美凪は『みすず』開発の為のサンプルだったらしいよ」

 女は口を引き結んで私を凝視している。綺麗な眼。
 私だけを映し視ているのかと思うとぞくぞくする。
 にせものにしておくにはもったいないな。
 しょせんは機械だけど、やっぱりもったいない。
377名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:09
あげちまっただよ。まわし。
378名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:11
スマソ。まわし。
379名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:12
無駄遣い失礼。まわし。
380名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:12
てーかまわしであげてんな自分ゴルァ(゚д゚)
381名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:13
おのれ、自分。
382名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:14
無駄に書き込み時間をかけることに、意味はあるのでしょうか
383名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:15
ないと思うよぉ♪

と寒い自作ツッコミしつつまわし
384名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:15
95は重いなあ(●´ー`●)
385名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 10:16
早く98に乗り換えたいっす

よし終了か!?
386柚木詩子(3):2001/02/01(木) 11:16

「要するに最近の高野山生まれの切り札術師はね、皆人間じゃないってこと。
 美凪、みすず、みちる…みんなつくりもの。切り札が機械なんだよ。可笑しいね。
 人間に神奈を降ろすなんて不可能だもの。容量オーバーで早死にするのが関の山。
 本当は茜が一番強いのに。誰よりもすごいのに。ずるいよね」

 ああ、また女の眼の色が変わる。困惑の色。
 あのこがよく私に見せたそれ。影を帯びた大嫌いなそれ。
 昔の貴女はもっとやさしくわらってくれたのに。

「つまりね、少しでも神奈を降ろせた天野も純粋な人間じゃないの。
 天野の両親が死んだのも意図的だったんだか初めからいなかったのか。
 主謀は誰か知らないけど、今はどうでもいいわ。
 だけど、それを教えられたときには大笑いだった。
 法力なら茜の方が上なのに、どうして天野だけが特別扱いかやっと分かったから。
 普通に暮らしてきた私なんかが天野に勝とうと思うのが間違いだったんだ。
 あんな負に取り憑かれた化け物に。高野の人形のくせに生意気なのよ!」

 茜。あかね。ねえ。何で笑ってくれないの。
 ごめんなさいって言ったのに。今でも大好きよって言ったのに。
 そんな女の方がいいの? それとももう居ない折原浩平がいいの?
川名さんたちと同じに、茜も男のことしか見えてないの?
 わたしは? ねえ私は?

 ……気づけば、女の眼はもう困惑も驚愕もうつしていなかった。
 つめたく冴えた機械の眼だった。
 月はもう、分厚い雲に隠されていた。
387名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 11:17
3じゃなくて4…うっかり者め…鬱山車能
388霧島聖(5):2001/02/01(木) 11:20

 半ば錯乱した柚木詩子の絶叫が、わぁんと耳に反響した。
 喉が嗄れたのか、彼女は荒く呼吸を整えている。
 小悪魔めいた先程とは別人のような顔だ。
「……つまり、ね…遠野みちるは………翼人と九尾のデッドコピーなのよ…
 今に…暴走……するわ…美凪じゃ、いつまでもは…押さえられない……」
 咳き込みながらも彼女はにやりと笑う。まるで猫のようだった。

「それは──誰に教えて貰ったのかな」
 驚くほど冷静に声が出た。
 私はそれを予測していたから。
 そして私には、引けない理由があったから。
 ほどなく呼吸を取り戻すと、柚木はまた口の端をつり上げて言った。

「水瀬さん」

 予想範囲内の答えに、私は一気に距離を取った。どちらが先に仕掛けるか。
「霧島さん…教えてあげたお礼をしてよ」
「断る」
 鋭く言い捨てる。言葉の毒が届く前に。
「ひどいな、つくりものの霧島さんに思い知らせてあげようって思ったのに」
 銀に光る特殊メスに指をかけた。戦闘用モードに移行する。
「みちると一緒。あなたは人間じゃないよ、道具なんだよって」
 少女の微笑み。感じる違和感。
「お断りだ。私には帰らなければならない場所がある」
 動じない笑顔。酷く純粋な。
(違う──彼女は水瀬秋子に操られていないのか!?)
 白い手が伸ばされる。
「………ねえ、私の人形になってよ、霧島さん!」
 その言葉と同じくして、急激に間合いが詰まった。
389霧島聖(6):2001/02/01(木) 11:24

 きぃん!
「ちっ」
 彼女の手から繰り出された光の刃は既に抜き放ったメスに受け流され、
 私はその反動を利用して後ろへ飛んだ。
 歩道橋の手すりを飛び越え、ビルのガラス窓を蹴りつけ、さらに空中から二本同時にメスを放つ。
「あはは、当たらないよっ」
 やや甘かった到達点を見切り、柚木は軽々と跳躍した。
 同時に、かわしきったはずの刃が恐ろしい速さで私の髪を切り裂く。
 ブーメランのような形になったそれは、瞬時に柚木の手元へ収まった。
「残念。でも霧島さん、馬鹿にしてるでしょ私のこと。でもね…」
 口上は余計だった。攻撃が放たれる前に、急接近して柚木の右肩を深々と切り裂く。
 集中が途切れれば術は解ける、方術師相手のセオリーだった。
 が───
「複製品なんかに私は負けないんだから!」
「く…!」
 血を流しながらも、彼女は新たな札を放っていたのだ。
 死角から直撃を喰らい、私は地面に叩きつけられた。
 そのまま───第二撃が来る!
「…………!!」
 今度は蔓状の法力の帯。辛うじて身体を立て直し、軌道をそらす。
 さらに私を追う光に銀の楔を打ち込み、その威力を打ち消していく。
 そして、無数に繰り出したメスのうちの一本が、柚木の左足を貫いた。
「うぅ…っ!」
 攻撃が途切れたわずかの合間を縫い、私は容赦なく札を放った。
390霧島聖(7):2001/02/01(木) 11:26

 五茫の星が刻まれた、カルテ仕立てのそれ。
 ぱしぱしっ、という破裂音と共に柚木の周りに呪の式が敷かれる。
「霧島伍式・開の陣・発!」
 悪しき土地を清める──聞こえはいいが、相手の霊気を強制的に冥土へ返す代物だ。
 霧島式対人間用の霊術では最高位。精神は完全にチリに還るはず!
 空が荒れ狂い、雷光が轟く。
 両手から力を迸らせ、少女の身体をがっちりと包み込み──

「……なぁに? 今の」
 囁かれた言葉に、私は自分の耳を疑った。変わり身か!?
 咄嗟に避けたが、間に合わない。目前での爆発に吹き飛ばされ、受け身も取れぬまま私は電柱に激突した。
「私ね、強くなったの。茜を護りたいから。茜を取り戻したいから」
 炎を背に立つ血塗れの柚木詩子の笑顔は凄絶なまでに晴れやかで、
「だからね、住井君の力を食べちゃった」
 …その声は底冷えのする明るさだった。
 間違いなく深手を負っているにも関わらず、彼女は全く引かないのだ。
「天野は美凪たちを置いて今は単独行動。ばかね。
 あなたを人形にしたら天野を殺しに行くから、ね、早く止まって」
「くそ、邪術の影響か!」
 歩み寄る彼女に無数のメスによる連撃を繰り返す。
 が、傷は増えてもその涼しげな表情は崩れない。
 逆に、放たれる法術に身体が灼かれる。貫かれる。熱い。オーバーヒートか。
 ならば…! …私は防御を犠牲にし、相討ち覚悟で正面に飛び込んだ。
 間に合うかは分からない。ただ信じる。
 そう、ひとつきりの可能性に賭けて。
391霧島佳乃(8):2001/02/01(木) 11:29

 あたしがみっともなく泣いちゃった、その夜更け。
 お姉ちゃんがいつになく真剣な目で、外へ出ていったのを見た。
 嫌な胸騒ぎ。また誰かが居なくなる、そんな胸騒ぎがして。
 それにお姉ちゃんが巻き込まれるなんて考えたくもなくて。
 それで、あたしはなりふり構わず、その後を追った。
 勿論すぐに見つかっちゃって、帰れって言われた。
 でもいやだったんだ。今度もまた何もできないの、いやだったんだよ。
 そしたらお姉ちゃん、困った顔で危ない目に合わせたくない、隠れてろって言った。
 あたしの魔法は強い敵との実践向きじゃない、翼人の力を引き出すまでにやられちゃうって。
 その通りだった。ポテトは強いけど、上級妖狐とじゃ決定打にならず、削り合いで勝てない。
 白穂を呼べば、同調しきるまであたしの意識が保たず、暴走してしまう可能性が大きい。
 だからあたしは、それを承諾するしかなかった。見守ることしか。

 ……だけど、今だった。
392霧島佳乃(9):2001/02/01(木) 11:29
「───佳乃」
 静かな、とっても静かな囁きで呼ばれたその刹那に。
 あたしは白穂と同調して、犬神ポテトをお姉ちゃんに共鳴させた。
 間に合え。間に合え。間に合え。間に合え。お願い、間に合って……!
(今なんだぁ! 今できなきゃ魔法の意味なんてないよぉ! お姉ちゃんを助けたいのぉ!)
 あたしが魔法をもらったのは。大事な人たちを守りたいからで。助けたいからで。
 ポテトを。往人くんを。一緒に戦うみんなを。
 そして誰よりもお姉ちゃんを。あたしの家族を。

「もう、もうなくしたくないんだよぉ!!!!」

 心の中で叫んだ。喉から血が出そうなくらいの、一生でいちばん大きい声で。
 頭が真っ白になって、目の前が光って、ようやく音が戻ってきたとき、
 ───お姉ちゃんは、銀の刀になった右腕を、女の子に、突き刺していた。

 女の子の膝がくずおれる。お姉ちゃんが腕を抜く。どさりと地面に落ちる。
 お姉ちゃんがこっちを向いた。歩いてくる。疲れたふうに笑う。
 ああ、無理しなくていいのにな。でもお姉ちゃんが笑ってくれるのが嬉しくて。
 人が倒れてるのに。血の匂いでいっぱいなのに。ひどい妹かなぁ。
 そうだよねぇ。……でも。でも。でも。

 あたしの眼からは、堰を切ったように涙が こぼれ た。
393柚木詩子(10):2001/02/01(木) 11:40

 力が抜けていく。嘘みたい。嘘でしょ?
 だって私は、茜を護るのに。指一本触れさせないはずなのに。
 そう…そうだよ、天野なんかに渡さないんだから。
 今度こそ私がたすけるのに。
 もう怯えない、もうさみしがらせない、もう離れない。
 弱かった私も、ちっぽけだった私も、捨ててきたから。
 高野の真実を知った私は強くなったから。

 なのに、なのになのになのになのにどうして───こんな女に。
 生体兵器の、にせものの、つくりものの、人形なんかに!!!!!!!

 私は渾身の力を振り絞った。まだ生きてる。まだ動かせる。
 ふらふらと歩く機械の背中に、理力の槍を打ち込むくらいは。

 ───か細い光の槍だったけれど、それで充分だった。
 女の右腕がちぎれ飛ぶのが映った。瓦礫の上にどう、と倒れ込む。

 満足だった。私はつくりものに勝てたよ。これで天野に勝てる。よかった。
 視界がぼやけていく。甲高い悲鳴。
 それから、とてもゆっくりとした速度で、無様に逃げていくふたり。
 ふたり? え? 私、勝ったんじゃないの?
 そうだよね? ねえ茜、あか
394「想いの向こうがわ」:2001/02/01(木) 11:54

『可哀想なひと。やり方を間違えたのね』
(ううん、私は自分から水瀬秋子に会いに行ったわ)
『掛け違えたボタンを直そうと必死になっていたのね』
(そしたらあのひと、命令しないから好きに動きなさいって)
『ボタンは落としてしまったのに』
(誰でも良かったのよ。あの子に勝たせてくれるなら)
『そのことに気づけばまた新しくやり直せたかもしれないのに』
(茜を護れるなら、他のことはもうどうでもいい)
『教えられた真実が正しいのかも分からず良い様に使われて』
(後悔なんてしてないわ。するとしたら弱い頃の私にだけ)
『生体兵器の自己再生に、最後にまた絶望を味あわされて』
(憎いのはあの日に親友を傷つけた私、私から彼女を奪った奴ら)

 声。理性。常識。良識。一般論。思考に混じるノイズ。雑音。
 そのうちのいくつが本当なんだろう。
 いいや、真実は様々だ。
 人は自分の目の前すら見えてはいない。
 全てを正しく捉えることなどできるものか。
 ならば、自分が信じられるものを信じたい。
 そうでなければ、きっと皆壊れてしまうから……

 天国なのか、夢なのか、現実なのか。
 分からぬままにまた、意識は消えてゆく。
395名無しさん@だってばよ:2001/02/01(木) 12:17
「想いの向こうがわ」>>374-376 >>386-394
 長くひっぱっていた怪メールネタようやく終了です。
 名前だけの人間含め、生死の最終結論はあえてぼかしました。
 詩子話の香りが漂いますが(ようやくONEやりだしたんで)
 にしては愛情が歪んでるな。
 自分最長になっちまいましたが、読んでくれて有り難うございます。
 嬉しいです。
396名無しさん@だってばよ:2001/02/01(木) 12:19
× 嬉しいです。
○ 読んでもらえるだけでも嬉しいです。

トホホ。今日は不調です。
夜中からぶっ続けで書いたりするもんじゃないす。寝ます。
397保科智子@インターリュード:2001/02/01(木) 13:53
「さて……」
 私は、この隠れ家に集ったメンバーを見回した。
「まず、一言だけ言っておこうかと思う。これは、今結論を出した事やけど……」
 咳払いを一つして、はっきりと言う。
「死にたくない奴は今すぐ帰れ」
「え!?」
「何やて!?」
 皆が、口々に驚きの声を洩らす。
「智子は親切心から言ってるんだよ。いい?」
 スフィーが、静かに立ち上がった。
「智子。あたし。けんたろ。祐介。耕一さん。千鶴さん。梓さん。楓ちゃん――」
 スフィーが、すらすらと実力者の名前を挙げる。
「せいぜいこれだけだよ。あいつとまがりなりにも渡り合えそうなのは。
 ましてや柏木さんご一行は別な目的もあるし、楓ちゃんだって安定しきってない。
 あんた達全員が命を張る理由はどこにも無い。生きて帰れる保証は無い。
 この事を踏まえてなおここに居たい奴はいてもいい。さあ、考えな」
 高慢な言い方だったが、的を射ている。
「私は――」
 香奈子が、ぽつりと切り出した。
「月島さんが死んだ。もう失うモノは無い。最後までこの行方を見届けるよ。
 瑞穂、あなたは――」
「帰らないよ」
 瑞穂が、穏やかに笑って遮った。
「香奈子ちゃんと一緒なら、怖くないから。香奈子ちゃんと帰りたいから」
「勝手になさい……」
 香奈子が、少し顔を赤らめて呟いた。
398名無しさんだよもん:2001/02/01(木) 13:56
一度は止められたもの、俺は一秒でも早くはるかに会いたかった。
生きているようだとスフィーに伝えられても、不安は少しも晴れなかった。
だから俺は、無茶を承知で提案した。
「……まだ貴女は用事があるんでしょう? それなら俺は先に行く」
「パンピーのくせにいきがるんじゃねーよ。無駄死にする気か」
ぶっきらぼうな答えを返されても、引き下がる気は起こらない。
この魔女に一生頭が上がらなかろうと、はるかを見捨てるよりはマシだ。
「分かってんだろうな? アンタらは俺にとんでもない借りがあるんだぜ。
 借金返す前に死なれちゃ困るんだよ。いいから黙って……あ」
その視線の先にいたのは、鞭を持った日本人離れした女性だった。寒そうな服だ。
何かを探しているようだが、まだこちらには気づいていない。
「……風向きが変わった。藤井、それと七瀬も。あの女をリアンのとこまで送れ」

そう命令されて、俺と彰は(彰は乗り気でなかったが…)女性に声をかけた。
初めは凄まれてどうしようかと思ったが、スフィーに伝えられたとおり
エリア、と言う名を出した途端態度が変わり、同行を快諾してくれた。
彼女はサラさんと言うらしい。しかし、異界の人間と言われたときは驚いたよ…
その上、持っている何かの道具のおかげで意志の疎通が出来るとか。
やはりこの人も力ある者らしく、時折寄ってくる狐を蹴散らしながら目的地に向かう。

道中で腕が半ばなくなった女性とその妹さんを発見したけれど、
「見た目ほど傷ついてないみたいだね。目的地が同じなら、一緒に戻ろうか」
と、サラさんが手早く交渉を進めてくれ…ようやくここに到着したわけ。
結局、はるかは眠っていると口を濁されて、今は会えないと言われたけど。
仕方ないよな、女の子の部屋に男が無断で立ち入ったら雷落とされそうだ。

しっかし、歩いているうちに白衣の女性の腕が繋がっていくのはグロかった…夢に見そう…
399藤井冬弥メモ@二重スマソ:2001/02/01(木) 14:03

 はるかは生きているようだとスフィーに伝えられても、不安は少しも晴れなかった。
 だから俺は、無茶を承知で提案した。
「……まだ貴女は用事があるんでしょう? それなら俺は先に行く」
「パンピーのくせにいきがるんじゃねーよ。無駄死にする気か」
ぶっきらぼうな答えを返されても、引き下がる気は起こらない。
この魔女に一生頭が上がらなかろうと、はるかを見捨てるよりはマシだ。
「分かってんだろうな? アンタらは俺にとんでもない借りがあるんだぜ。
 借金返す前に死なれちゃ困るんだよ。いいから黙って……あ」
その視線の先にいたのは、鞭を持った日本人離れした女性だった。寒そうな服だ。
何かを探しているようだが、まだこちらには気づいていない。
「……風向きが変わった。藤井、それと七瀬も。あの女をリアンのとこまで送れ」

そう命令されて、俺と彰は(彰は乗り気でなかったが…)女性に声をかけた。
初めは凄まれてどうしようかと思ったが、スフィーに伝えられたとおり
エリア、と言う名を出した途端態度が変わり、同行を快諾してくれた。
彼女はサラさんと言うらしい。しかし、異界の人間と言われたときは驚いたよ…
その上、持っている何かの道具のおかげで意志の疎通が出来るとか。
やはりこの人も力ある者らしく、時折寄ってくる狐を蹴散らしながら目的地に向かう。

道中で腕が半ばなくなった女性とその妹さんを発見したけれど、
「見た目ほど傷ついてないみたいだね。目的地が同じなら、一緒に戻ろうか」
と、サラさんが手早く交渉を進めてくれ…ようやくここに到着したわけ。
 結局、はるかは眠っていると口を濁されて、今は会えないと言われたけど。
 仕方ないよな、女の子の部屋に男が無断で立ち入ったら雷落とされそうだ。

 しっかし、歩いているうちに白衣の女性の腕が繋がっていくのはグロかった…夢に見そう…
400あぼーん:あぼーん
あぼーん
401“妖狐鬼姫”柏木楓 (1/2):2001/02/02(金) 16:33
 自分の意識が、混濁の闇の中から浮上しているのが分かった。
 目を覚まさなければ・・・誰かに伝えなければ・・・
「戦いが・・・始まりました・・・」
 何とか、無理矢理口を動かした。
「楓ちゃん、目ぇ覚めたんか?」
 知らない声が私に降り注ぐ。
 私はうっすらと瞳を開けると、あたりを見回した。
 知ってる顔も知らない顔もたくさん・・・耕一さんと千鶴姉さんはまだ寝てるみたいだけど・・・
 でも、今はそんなことを気にしている場合では無かった。
 伝えなければ、みんなに知ってもらわなければならない事があった。
 ここに居るみんなが、この戦いに関わっていると確信があったから。
「夢を見ていたんです。私の中の妖狐の私と、ずっとお話していたんです。
 あの子は・・・"妖狐の私"は沢渡さんを守りたがっていました。
 それこそ、私の身体を乗っ取ろうとして。
 彼女はとても強かったです。私の鬼の力さえも使いこなしてしまうほどに。
 彼女は言いました。彼女は"私"であり"沢渡真琴"でもある、と。
 沢渡真琴の中に留まれなかった妖狐の力、沢渡さんから溢れ出した沢渡さんの欠片。
 それがものみの丘に溜まっていた力の正体でした。
 もちろん、他の妖狐の力もその中には含まれますが、それは微々たるものだそうです。」
 そこまで一気に喋ると、途端にむせった。
「ダメや。まだあんたは動いちゃあかん。」
 そんな訳には行かない・・・もう、時間が無いのだから。
402“妖狐鬼姫”柏木楓 (2/2):2001/02/02(金) 16:33
 私は、大阪弁の女の人に笑顔を向けるとまた話しだした。
「あの戦いの一部始終を、私は見ていました。私の変わりに私の身体を動かすあの子の想いも一緒に。
 彼女は怒っていました。天野美汐に対しても、沢渡真琴に対しても・・・
 あの子は私に見せてくれました。遥か遠い、過去のビジョン。
 まだ私がエディフェルだった頃の、ものみの丘の姿を。
 そこには、沢渡さんと天野さんが居ました。仲良く座っていました。そしてもう一人・・・
 彼女は名前を教えてくれませんでしたが、男の人が居ました。
 私の中の沢渡さんは、あの頃に戻りたがっていました。
 今の沢渡さんは、自分の力に固執するあまりその姿を忘れている、とも。」
「あの子は私でもあるんです、私も、沢渡さんには戦って欲しくないです。
 けれど、天野さんも、今の沢渡さんも・・・。
 沢渡さんは、既に戦いを始めています。
 川澄さんが沢渡さんに倒されました。
 もうすぐ、天野さんが沢渡さんの元へ辿り着くはずです・・・」
 思わず声が震える。
 それでも、これだけは言わないと・・・
「・・・二人は、もう終わりなんでしょうか?
 あの頃みたいに、仲良く笑いあう事は出来ないんでしょうか?
 お願いです・・・誰か・・・あの人達を止めて下さい・・・
 あの人達は、戦ってはいけないんです・・・!
 お願い・・・します・・・」
403牧部なつみ:2001/02/03(土) 14:02
「千堂和樹さん! ねえ、千堂さん」
 私は、ココロを操って上空から必死に呼びかけた。
「おお、あんたらか……。心配ないぜ、すぐ帰るから」
 千堂は、震える足を手で励ましながら歩いていた。恐らく、走りっぱなしだったのだろう。
「心配無いじゃありません! そこがどんなに危険な場所か知ってるんですか!?」
「そりゃまあ、半日近くもここにいるからなぁ。何度も死にかけた」
 表情を変えず、淡々と答える。
「だったら! どんな事情か知りませんがすぐに帰ってきて下さい!」
「できないんだよ」
「千堂さん!」
「あんた、悪いけど少し黙っててもらおうか」
 千堂が、こちらに向き直る。
「ヘブンズ・ドアー」
 そう、つぶやいたのが聞こえた瞬間。私の眼前に、少年が出現する。
「!?」
『いかなる理由があろうとも千堂和樹の邪魔は出来ない。また、そいつに都合の良いように動く』
 少年の手が高速で動き、私の顔に何かが書き込まれる。
「……!」
 私の意識は、そこで途切れた。

「……じゃあ、千堂の奴はものみの丘をすでに離れてるんやな? 心配無いんやな?」
「ええ、そう言ってました」
 私は、保科さんに歯切れ良く答えた。
「じゃあ、引き続き千堂さんのサポートに就きます」
「ああ、頼んだで」
 私は、何の疑問も無くココロを再び飛ばした。
 なつみは和樹のサポート。はるかの護衛はもはやそれほどの重要性を持たなくなったが、
 一応残りのメンバーは待機兼はるかの護衛だ。柏木一行は、貧乳長女と逆玉男が意識を取り戻し次第ものみの丘へ向かうらしい。
 初音の事は、適当に疎開させたと伝えておいた。真実を話すのは、今でなくてもいいだろ。
 さて……。課題は二つ。秋子の抹殺と、翼人が九尾と殺りあうのを止める事だ。
 どちらも超難題だ。まずは鬼どもがクチバシをつっこんでる、キツネvs羽人間の方から片付ける。
 ただこれは……はっきり言って部外者には手が出しづらい。鍵を握る人物――過去に奴等と関わった、当事者達以外には不可能だろう。
 俺達に出来るのはお膳立て。これは、聖やリアン、なつき達に任せれば上手くやってくれるはずだ。これだけ駒もいるしな。
 問題は、秋子の始末。今の戦力では、例え俺が手を貸してやっても不可能だろう。それくらい奴の力は飛び抜けている。
 俺が見る限り、奴はまだまだ往年の力を取り戻していない。突っつけば、その未知の部分――本領を発揮してくるだろう。
 これに対するには、こちらのレベルを上げるしかない。そこで――
「智子。アンタの出番だよ」
「へ?」
 智子は、疑問に満ちた表情で聞き返してきた。
「そら、自分が中心になるって覚悟はあるけど――」
「違う違う。アンタが、秋子と同じくらい強くなるの♪」
「……なんぼなんでも無茶なんじゃないんか……」
「できるって。そーだね、二年間もあれば……」
「偉く気の長い話やな、おい。世界が百回くらい滅べるで、その間に」
「ふっふっふ。魔女っ娘を舐めてもらっちゃあ困るよ〜」
 俺は、ニヤリと笑った。
405神尾晴子:2001/02/03(土) 23:43
「もう、耐えられないよ……。逃げるのは嫌だよ……」

 観鈴が涙交じりで言った言葉。
 ついにこの時がきてしもたか。
 予想はしていた事なんやけど。

 発端は清水の机においてあった一枚の書類。
 そこに書かれとったのは、彼の地での戦いの現状報告やった。
 見た限り、多くの人が殺されて、傷つけられているようやった。
 そこには……ウチが高野で世話になった奴や友達やった奴もおった……。

 敬介が言うには、家を出た時から観鈴の戦闘本能を促すプログラムが作動しているという。
 でも、それだけやないと思う。いや、そんなんやない。

 これ以上、人が悲しんでいるのを黙って見過ごすのが嫌なんや……人として。
 そして……ウチもまたそんな気持ちやった。

 幸せを壊されたくないために遠くの国へ逃げて何もせずに、ただ人が死ぬのを見守るだけ。
 やるせない気持ちだけが、心の中で空回りをしとった。

 ウチは卑怯もんや……。
 みんなが命懸けで戦っとるのに、ウチらはそこから逃げ出して、ただ、終わりを待ってるだけや。
 最初こそ観鈴を傷つけたくなくて、逃げ出したけど……
 そんなんが本当に幸せやといえるんか?
 他の人を苦しんでいるのを見て見ぬふりしていて、それでええんか?
 あまりにも卑劣や。最低や。
 何もせずにのうのうとしているなんて、人のやることやない。

 幸せに暮らすには……逃げてばかりしてたらあかんのや。
 このまま放っておいたままにして、観鈴と幸せに暮らせるなんて思えん。
 もし、妖狐や邪術師どもが残ってしもたらどないする?
 そんな事になったら、ウチらの幸せは永遠に来えへん。

 ウチは決心した……彼の地へ行って決着を付けようと……。

 観鈴も敬介もそれに納得してくれた。
 ただ、清水は果してそれをよしとするか……それが気になる……。
406月宮あゆ@覚醒(1/2):2001/02/05(月) 15:23
 ボクにこんな力があるなんて知らなかったよ。
 とても強い力。もっと早くこの力があることに気づいていたら、
 あのときボクはもっと簡単に、あの窮地から逃れられたかもしれない。
 実際に今だってそうだ。
 ボクはあのあのとまったく同じ状況にいた。激しく追い立てられる。
 それは、とても強力な敵だった。天使の力をもってしても太刀打ち出来はしない。
 動悸が早くなる。呼吸が乱れる。地を蹴っていた足が地上から離れる。
 ほんの瞬間、身体が宙を舞って、こけそうになったとき、ボクは力を解放した。
 純白の光に覆われて、背中から翼が広がって、大空を翔ける力となる。
 白鳥のように、ボクは翼を羽ばたかせた。
 緊迫した状況下、ボクは今始めて『天使の力』を自分の意思でコントロール出来たんだと思うよ。

「こら、この食い逃げやろう、空なんか飛ぶんじゃねー! そりゃなんつーか反則だろ!? 降りてきて金払いやがれゴルァ(゚д゚)!」
「うぐぅ、ごめんなさい、だよーっ!」

 だって、お腹空いてたから……。
 うぐぅ、誤解しないでね。お財布落としちゃってたみたいなんだよ。
407月宮あゆ@覚醒(2/2):2001/02/05(月) 15:25
 すっかり道に迷っちゃった。
 ここってどの辺りだろ? おかしいな〜? ボクは『ものみの丘』にまっすぐ向かっていたはずなのに。
 うぐぅ、考えていても仕方ないよね。
 とりあえず地上に降りて戦利品……じゃなくてたいやきを食べることにするよ。
 はぐはぐ。
「うん、おいしい。ごめんね鯛焼き屋のおじさん。今度絶対に払うからね」
 これでなんか細かいことはクリアーしたような気がするので、二個目のたいやきに取り掛かる。

 どすん!

「わっ!」
 誰かがぶつかって来たみたい。その反動でたいやきを落としちゃったよ。
 うぐぅ、いいもん……。まだ十八個もあるからいいもん……。
 ボクは瞳に涙を溜めながら地面を見ていると、その横で女の子が倒れていた。
 ボクより、ずっと年下の女の子みたいだった。

 女の子→年下→ボクの方が年上→お姉さん→なんだか良い!

『あの、ごめんなさいなの』
「ううん、いいんだよ」
 ふっと余裕の笑みを浮かべて彼女に手を貸す。
 あれ? この子……今喋ったけ?
『ありがとうなの』
 やっぱり口を動かしていなかった。
「もしかして君……」
『喋れないの。でも大丈夫なの』
 彼女が言うにはテレパシーのようなものを使って意思の疎通を図っているらしい。
 でも、どうしてこんなところにいるんだろう?
 ここってものみの丘のすぐ近くだよ。そんなところに女の子ひとり(自分より年下)だなんて。
 そう問い掛けると、彼女は目に涙を溜めながら、こう言った。
『迷ったの』
 ボクもだよ、とはさすがに言えなかった。
408水瀬名雪:2001/02/05(月) 18:50
 祐一……。もう大丈夫だよ。私が守ってあげるからね。ずっとずっと一緒だよ。
 それなのに、どうして何も話してくれないの? どうして、こちらを見ているだけなの?
 まだ、あゆちゃんのことを思っているの? それだけは、許さないからね。祐一は私だけの祐一なの。
 ううん、分かってるよ。悪いのはあゆちゃんだもん。
 祐一を怒ったりはしないよ。だから、そんなに怖がらなくていいよ。

 ふと気がつくと雪は止んでいた。
 雪の街。その潤いに相応しく白一色に染まっている。
 そこに、声が木霊する。
「名雪……ちょっと、いいかしら?」
「どうしたの、お母さん?」
「名雪に頼みたいことがあるのよ」
「うん。いいよ」
「助かるわ。お母さんは手を離せないところだったの」
 お母さんが何をしているのか私は知らなかった。
 でも、別に構わない。祐一がここに居てくれるだけで私は充分だったから。
「この子たちの一人を始末して欲しいのよ」
 お母さんが私の頬に手を触れると、その思い描いていたイメージが私の頭に浮かんで来る。
 それは、五人の女の子たちの映像だった。
「強いの?」
「そうね……名雪よりは弱いかしら?」
「なんだ、詰まらないよ」
「よろしくね」
「なんで一人なの? 全員やっちゃえるよ?」
「ジャムの材料が切れたから……それと警告の意味も込めてね」
「うー、だったら、あゆちゃんともやっていい?」
「それは駄目よ。今の名雪では勝てないわ」
「そんなことないよー。お母さんは私を過小評価してるよ。それに天使なんて大したことなかったよ」
「うふふ、今はまだ駄目ですよ」
「……分かったよ。じゃあ出かけてくるね」
「行ってらっしゃい、名雪」
「うん。行ってきます。……あれ? 祐一もお出掛けする人には、行ってらっしゃい、だよ?」
 でも、祐一は何の反応も示さなかった。仕方ないので、私は祐一の頬に口付けしていく。
 冷たい口付け。祐一はただ沈黙したまま、私の作った氷の棺の中に……。
「祐一、すぐに帰ってくるね」
 そう微笑んで私は戦いを求めてお出掛けする。夕飯の買い物を頼まれたときのように。
409北川潤:2001/02/05(月) 21:39
 俺はそこにいた。
 ものみの丘の頂上部だった。
 長い夢を見ていたような気がするが、どうってことない。
 腕がなるぜ!
 もうすぐ、ここに天野美汐が来るらしい。
 ようやくリベンジを果たせるぜ!
 このために、俺は強くなったんだからな。
「北川潤よ」
「おう! なんだ真琴さんよ?」
「ふっ、いや何でもない。……期待しているぞ?」
「任せておけって! あんたから貰った力¢カ分に役立ててやるよ」
「それでいい」
 真琴は何やら微笑を浮かべて俺を見ていた。
 おかしな、奴だな?
 まあ、いいや。愛する¥H子さんのためにも一丁腕を振るってやるか!
「どこへ行く?」
「待ってるのも、もどかしいから、こっちから決着つけに行ってやるよ。あんたはそこで見ていてくれ!」
 俺は丘を駆け下りていく。どうしてか身体を動かさずには居られなかったから。
 止まっていたら、何かを考えていたら、胸が押しつぶされそうで怖かった。
「待ってろよ、美汐!」
 すべてのわだかまりを天野にぶつけるために俺は急ぐ。
 そうしたら、きっとこの気持ち悪いのも治ると思う。
 でも……。
「なんでだろうな……」
 俺が泣いているのは……。
「ちくしょう!」
 何かを誤魔化すように俺はさらに足を速めた。
 頬に流れる雫は風を切って、冷たい大気へと散っていった。
 もう、止まれない……。
410清水なつき:2001/02/05(月) 23:36
「そうなの……。でも、今あそこに飛び込むのは危険よ。それでもいいの?」
 目の前ですごむ晴子さんを目の前に、私はそう言い放った。
「でも……でも……。このままやったらウチの気が済まへんのや」
 晴子さんは今にも泣き出しそうだった。
 戦闘を回避することに後ろめたさを感じるようになって来た……
そして、何もしない自分に苛立ってきた……私もその気持ちは分からないでもない。
 それに、昨日の神尾親子の会話を立ち聞きしていて、みすずも戦闘本能が微かだが
日増しに強くなっている。敬介さんも張る古参と同じ気持ちになっていることから、
恐らく、数週間も耐えることはできないだろう。
 だが、今飛び出しては悲惨なことになるのは目に見えている。
 そして……ものみの丘の事態はますます悪化してきていた。

 先程、岡田さんから受け取ったメールを見た時、愕然としてしまった。
 水瀬が力あるものをダシにして結界を張るという。
 さらには、九尾が水瀬を一時封印するという裏切行為も発覚したという。
 どうやら……水瀬と九尾と神奈の三者の均衡状態が保たれるのも時間の問題だろう。
 そうなれば早めに手を打たないと、最悪の場合……
 ――世界の崩壊はすぐにも訪れるかもしれない……。

 当初、私はじっとこの地で事の顛末を見守るつもりだった。
 神奈と九尾と水瀬が互いに潰しあい、疲弊して、因果律の安定に三者の力が影響しな
くなった所で一気に封印もしくは抹殺されるというシナリオで事が進む筈だった。だが、
今の状態のまま結界が完成してしまうと、恐らく水瀬もしくは九尾の力がとんでもなく
増大されることになり、混沌が増して、最悪の場合、神奈の消滅による、バランスの崩
壊が起こり、私のいるこの地も崩壊を免れないかもしれない……。
(もちろん、これは推測に過ぎなく、根拠もないので、必ずしもそうだとはいえないが)
 最悪の場合に備えて……私も彼の地に……いや、すくなくとも日本に行った方がいい
かもしれない。だが、それはあまりにも割の悪すぎる行為だ……。
 結局、私は悩んでしまった。
411芳賀玲子@偽りの召還(1):2001/02/06(火) 23:57
 絶望を知った。それは恐怖だった。言い知れないほど強くて……。
 始まりは一枚の手紙だった。大庭詠美からの依頼状。詠美は『たこの神様』とやらの召還をあたしに依頼してきた。
 その手紙の内容は……ひどく眩暈を引き起こすものだったので割愛させていただくが……。
 とりあえず、こういう手合いのものを集めている長谷部彩嬢に着払いで送っておく。
 まあ、何にしろ報酬が良かったのと、力試しをかねて、私は彼の地に向かったのだった。
 それにしても、詠美のやつと組むことになるとは、世の中とは不思議なものだった。
 でも、全ては失敗に終わった。たった一人の闖入者の存在によって……。
 その名は……邪術士・水瀬秋子といった。
 そのときの出来事をあたしはここに書きとめようと思う。
 我輩がこの地に足を運んだのは必然であった。
 ここは聖地! そうオタクたちの聖域『電気都市』秋葉原なのだ!
 詠美が北の街から姿を消したと聞いて、我輩はピーンと来た。
 大庭詠美はここに居るのだと。
 我輩はあるビルの一角から地下へと続く階段を降りていった。
 誰もが思ったことがあるだろう。秋葉原の地下には何かがあると。
 まさしくその通り! ここはその最奥なのだ! しかしその場所は秘密だ!
 すまない、マイフレンド!
 トントン。現れた鉄の扉を我輩はノックする。
 薄っすらとドア越しに声が聞こえた。
『合言葉は?』
「○○○○!」
 我輩が答えるとゆっくりと扉は開いていった。
 薄暗闇の中に微かに鼻腔をくすぐる焼香の匂いがした。
「あら? ポチの友達じゃない? 確か九品仏大志とか言ったっけ?」
 その中心に居たのは、こみパのクイーンである大庭詠美だった。
 どうやら、我輩の読みは外れていなかったようだ。
413柳也 〜千年の想い:2001/02/06(火) 23:59
 ここは……何処だ?
 視界に映るのは、まるで見た事の無い世界のものだった。
 見慣れた板の床や薄汚れた火鉢は無く、用途不明の怪しげな器具ばかりが設置してあった。
 裏葉はどこだ? 智徳様は? 坊主達は?
 枕元に置いてあった刀すら無い。代わりに、強烈な霊気を帯びた神具らしきものを腰に帯びている。
「……何が起きた?」
 俺は呟いた。部屋と思しき空間の中には自分以外誰も居ない。
 ……いや、気配が一つ、どこからか近づいてくる。
 戸と思しき板の横にぴたりと身を隠し、いつでもとびかかれるように呼吸を整える。
414大庭詠美@偽りの召還(3):2001/02/07(水) 00:04
 誰もあたしを見てくれなかった。あたしがここにいるのは変だと言った。
 あたしの描いた漫画ってそんなに詰まらない? どうして誰も見てくれないの?
 イベントが終わるまで、そんなことをブースの中で考えていた。

「ふーん。よくここが分かったわね?」
「我輩の辞書に不可能という文字はない! そこでだマイ同志・詠美よ」
「あのね〜、いつからアンタの同志になったのよ? ちょー迷惑!」

 だったら上手くなってやる。みんなが振り向くぐらい面白い漫画を描いてやる。
 あたしはそう決心した。そう自分を慰めるしか立ち直る方法が思いつかなかったから。

「まあ、そう言うな。ここに来たのは他でもない」
「ああー、もう聞きたくないって! あたしは『たこの神様』のことで忙しいの!」
「いや聞いてもらうぞ! マイブラザー・千堂和樹のことなのだからな……」
「あんたって……嫌な性格してるわね」

 少しずつ本が売れるようになっていった。手にペンダコが出来るくらい努力した結果だった。
 嬉しかった。手にとってくれる人みんなにあたしは感謝した。

「きゃあははははー。どうしたの詠美ちゃん? そろそろ祭壇の準備も出来る頃だよ」
「おう、このようなところで出会うとは、やはり地球は我輩を中心に回っているのだな! 七変化の玲子よ!」
「あれれー? 大志君じゃない? ひっさしぶりー!」
「ちょっと、二人とも黙りなさいよ! この詠美ちゃん様を差し置いて話をしないでくれる?」

 出会いがあった。温泉パンダを初めとしたこみパで出会った人たち。
そうだ。あたしは必要とされてる。もう惨めなあたしじゃない。
 誰もが認めてくれるこみパのクイーン詠美ちゃん様なんだから。

「それでポチがどうしたって? 何かやばいことやってけーさつのお世話になってるらしいけど?」
「同志・詠美よ。これだけはマイフレンドの名誉のために言っておく! あれは和樹を貶めるための陰謀なのだ!」
「うるさいわねー。わかったから先を続けなさいよ!」
415大庭詠美@偽りの召還(4):2001/02/07(水) 00:07
 あたしが自他共に認められる大手になった頃、あいつと出会った。
 千堂和樹というピーコちゃんだった。それだけの関係で終わるはずだった一瞬の出会い。
 でも、どこかあたしを惹きつける絵を描いていた。
 技量や構成にペンタッチ……どれもあたしより劣っていたのに……面白かった。
 素直にそう思わされたのが、何よりの屈辱だった。

「高瀬瑞希という女性を知っているな?」
「まあね。あいつのやってたことは一通り知ってるわよ」
「そうか……だったら話は早い」

 あたしはポチを自分の手元に置くことでプライドを保とうとした。
 あたしの持っている全てを教え込んだ。ポチを自分で育てること。
 それは逃げ道だったかもしれなし、もしかしたら尤も過酷な道だったかもしれない。
 でも、そのときが幸せなときだったと思う。
 高瀬瑞希、あいつが現れてから歯車が噛み合わなくなった。

「で? 結局、何がいいたいわけ?」
「事態は切迫している……」
「は? わかってるわよ! だから急いで『たこの神様』を召還しようとしてるんじゃない?」
「そうだな……我輩らしくなかったな、率直に言おう!」

 ポチは瑞希とかいう女を構うようになった。
 あれだけあたしが手を掛けて上げたのに、それを忘れたかのように……。
 瑞希、瑞希、と二言目には、その女の名前を言うようになっていた。
 あたしは……悲しくて仕方なかった。
 その悲しみの正体も理解していないお子様だったというのに。
416芳賀玲子@偽りの召還(5):2001/02/07(水) 00:12
「……それ本気で言ってるわけ?」
「無論だ!」
「あの、ちょっと……だったら、あたしの立場って一体?」
 二人のやり取りにあたしは入っていった。
 大志君曰く、『たこの神様』の召還は止めておけ、ということだった。
 なんでも九尾や邪術士、翼人がいるあの街に、これ以上の厄介ごとを持ち込むなということだった。
 うーん、言ってることは正論なんだよね……。
 だからといって、詠美ちゃんが納得するはずないんだけど。
「何のために秋葉原まで来たと思ってんのよ? ここはオタクの聖域なのよ? 『たこの神様』は召還するわ!」
 あ、やっぱし……。
「どうして、そうこだわる? 同志・詠美よ! お前は単なる力を持って場を制しようというのか!?」
 びしっと指先を立てて大志君が言う。
「違うだろう? 世界を制するのは、世界を漫画という感動で包むのと同意語だ! それを――」
「ちょームカツク! あんたになにがわかるのよ! 人の気も知らないで!」
 物凄い形相で詠美ちゃんはあたしに合図を送った。
「準備は出来てるわね!? 行くわよ下僕たち! 『たこの神様』の召還を始めるわよ」
「待つのだ! それを召還してどうする? それではオタクは――」
 あたしは大志君の頭に、例のカタログを投げていた。
「きゃあははははー。大当たり!」
 さすがの大志君もあれには撃沈みたい。
「ごめんね、大志君。これも『腹黒い姉妹』の『翔様・総受け本』のためなのよ」
 地面に横たわる大志君を尻目に、あたしは詠美ちゃんに続いて祭壇を昇っていった。
 
417大庭詠美@偽りの召還(6):2001/02/07(水) 00:16
 誰もわかってくれなかった。だから、あたしにはこうするしか方法がなかった。
 みんなみんな、あたしの許から去っていったから。どうしてなのか、わからなかったから。
 あたしは、その答えを探して、北の街に向かった。
 そこは現実とはかけ離れた世界だった。
 由宇も南さんも、そこに行くはずだったのに、あたしだけは行くのを止められた。
 あたしはすぐに理解した。
 力がないからなんだ。みんなと同じ力があったら、みんな、あたしを受け入れてくれるし、きっとあいつも返って来る。
 勝手にそう信じて、それしかなくて、あたしは一冊の書物に目を向けた。
『たこの神様』を召還して、その力があたしのものになったなら……。
 もう、仲間外れになんて……されないよね?
 そして、あたしが祭壇に上がって、玲子が召還の術を唱えたとき、それは起こった。
 目の前の視界が青一色になって、冷たい水に飲み込まれ、あたしは気を失った。

『ねえ、和樹?』
『うん?』
『あたしね……』
『ああ』
『和樹のこと……』

 それはノートに書いた落書きだった。ネームみたいなものを何度も描いては消していた。
 やっぱり、あたしにはそれしかなかったから、想いを昇華させるために……。
 でもね、あたしは漫画の中でも強情で、意地を張っちゃってるみたいだから……。

『和樹のこと……』

 その後の言葉……続かなかった。
418芳賀玲子@偽りの召還(7):2001/02/07(水) 00:19
「なによこれー! どうなってんのよ!」
 地下の祭壇上いっぱいに水が溢れていた。このままだと水没するのも時間の問題だった。
 召還の失敗? どうして? 何が間違ってたの?
 その中から、荒れ狂う赤い色した長い吸盤付きの足が幾本も現れて、天井を叩きつけていた。
 そして天井が崩れて、コンクリートの塊りが落ちてくる。
「きゃあ!」
 あたしは咄嗟のことに目を瞑った。水の中では身動きが取れなかったから。
 だけど、いつまでも覚悟していた衝撃はやって来なかった。
「大丈夫か?」
「た、大志君?」
「まったく、やってくれたな……」
「こ、これってどうなって……」
「何を言っている!? 『たこの神様』とは、つまり『クトゥルー神』のこと!」
「それくらい知ってるわ! 説は色々有るけど要するにあたしが呼び出したのは『水の神様』ってわけね」
「その通りだ! その姿はいわゆる『たこ』の巨大版だと思えばいい!」
「って言ってもさ、限界があるわよ!
 もう詠美ちゃんは水の中に飲み込まれてしまったようだ。どこにも姿が見えない。
 そのことに絶望しながら、なんだって、こんなことになっちゃったんだろう? とあたしは恐怖に震えていた。
「くう! 思った通りだな! 制御しきれないのではないかと思っていたのだ!」
「そんなこと……」
 今更言われても。
「あたし……あたし……どうしたら……いいの……?」
「……泳げるな?」
「あっ、うん……」
「だったらそのまま泳いで行け!」
「え?」
「逃げろといっているのだ!」
「だって、じゃあ大志君は?」
「我輩か?」
 こんな状況下というのに大志君は、ふっと笑みを零して、
「クトゥルー神か……我輩にとって絶好の相手だと思わないか?」
 大志君は愛用のサングラスを取って、真っ直ぐに前を見詰めていた。
 すべては和樹を止められなかった我輩の罪なのかも知れない。
 こういう事態になることは分かっていたはずだったのに。
 しかし今は我輩の命を懸けてでも止めてみせる。
「先導・九品仏大志! 参る!」
 神と人……普通に考えたら馬鹿げている。
 通用するはずがない。だが我輩はもう知っているのかもしれない。
「踊れ! 水よ!」
 すべてのものを自由自在に操れる力、これが我輩の力だった。
「<水竜の舞>!」
 渦巻きのように水が巻き上がって大蛸を激しく天井にぶつけ上げる。
 思った通りの……いや思った以上の力が働いている。
 そうだ。我輩の力ではここまで出来ない!
 ずっと違和感が拭えなかった。そして確信が持てなかった。
 でも、ここにあるもの、すべては……。
「やったー! 強いじゃん、大志君!」
「違う、早く逃げろ! これは我輩の力ではない!」
「え? だって、『たこの神様』はもう……」
「いいから早く逃げるのだ! 奴はもうここまで来ている!」
「へ? やつって?」
「それは――」
「それは私のことですよ」
「やはりか……」
「ええ。そういうことです」
 水瀬秋子に抱かれた大場詠美を見て我輩はやっと確信が持てた。
「すべては、詠美一人の能力だったということだな!?」
420偽りの召還@エピローグ:2001/02/07(水) 00:29
 大志君がそう言ったとき、風景が変わった。
 ここは建物の中だった。様子から見ると、多分学校の体育館みたいだった。
「え……?」
 どうしてだろう? さっきまでの現実が途端に希薄になる。
 そうだ。あたしは秋葉原なんかじゃなくて、ここに呼び出されたはずだった。
「我輩もいつの間にか迷い込んでいたみたいだな。すべては大庭詠美の能力のせいだろう」
 大志君は悔しそうに眉をひそめていた。
「そうです。すべての事象を、自分の思い描いた物語りのように動かしてしまう、そんな力です」
「あさひちゃんを探していた我輩も、どうしてか詠美を探しているという錯覚に陥っていた」
「だからと言って、この子の思い描いた虚空間にも現実という認識がいります」
「現実感がないことは、幻の中に引き込めないということだな?」
「ええ。あくまで嘘は嘘ですから……今ごろ、この子が見てるのは悪夢かも知れませんね」
 邪術士に抱かれながらも、詠美はずっと目を閉じていた。見ようによっては、安らかな寝顔だった。
 そうやって、ずっと夢を見ていたのだろう。大切な人が自分を助けに来てくれる日のことを。
 それなのに、現実は過酷でしかなかった。
「おかしいと思ったのだ! クトゥルー神など召還できるわけがない!」
「そりゃそうですよ。居もしない神をどうやって呼び出すというのですか?」
 いや、千年生きたという邪術士が言っても説得力ないんだけど……。
「さて、お話しはこれくらいにしましょうか?」
「…………」
 その言葉を聞いてあたしの背筋は凍った。
「芳賀玲子よ! さっきの我輩の言葉……覚えているな?」
「う、うん」
「だったら、次の瞬間にはそうするのだ! もう後ろを振り向くな!」
「…………で、でも」
「行けーっ!」
 大志君の叫び声が聞こえた瞬間、あたしは走り出していた。
 結局のところ、邪術士にとってあたしは興味のない存在だったのか……。
 大志君の声が聞こえなくなった後も、あたしを追いかけてこようとはしなかった。
 あたしは、ただ泣くことしか出来なかった。
 でも、泣く資格さえないのことに気づいて、何も出来なかった自分に気づいて、あたしはまた大声で泣いていた。
 誰の為にでもない、自分の為に……。
「宮田さ〜ん。検診の時間ですよ」
 私は引き戸を開け、ベッドの上にいる宮田さんに声を掛けた。
「……あれ?」
 なぜか、ベッドはもぬけの空だった。意識を取り戻し、トイレにでも行ったのだろうか?
 いずれにせよ、ベッドメイキングをしなくてはならない。私はベッドに向かって――
「――動くな」
「ひっ!?」
 急な脅しに、私は背筋を凍らせる。
「騒げば、酷い目に遭わせる事になる。まあ女人にとってロクでもない事だ」
「は、ははははぃい……」
 相手の顔は見えないが、声にすごく迫力がある。とても逆らえる雰囲気では無い。
「質問に答えてもらいたい。まず、ここは何処だ?」
「ほっ、保科さん達が世界の敵と戦う為の隠れ家ですぅ……」
「ほう……世界の敵? そいつは何者だ」
「み、水瀬秋子さんとかいう……」
「秋子だと!?」
「ヒィッ!?」
 私は、急に声を荒げた暴漢に身をちぢこませた。
「邪術士・秋子の事か! 奴は封印されたはずでは無いのか!」
「い、いえ、知りませんよう」
「そうか……時に、今はどの血筋の天皇が世を治めている?」
「し、知りません……」
「知らぬ? そうか、学の無い娘なのだな……」
 何やら勝手に納得している。
「最後に一つ訊く。翼人の噂を聞かなかったか?」
「か、神奈とかいう娘の事ですか……?」
「……有り体に話してもらおう」
 男の声音が変わる。私は、ごくりと生唾を呑み込み、
「た、確かもの……なんとかの丘に……」
「物の怪の丘か?」
「そ、そんな名前だった気もします……」
「そうか、感謝する。では、良い夢を見てくれ」
「え?」
 すとん。
 首筋を打たれ、私は問答無用で気絶していた。
 最後の瞬間――男の顔をちらりと見た。
 それは、宮田さんの顔だった――
422天野美汐 (1/3):2001/02/07(水) 00:49
暗い闇…有意識と無意識の狭間で、わたしはそれと闘っていた。
闇は別に攻撃を仕掛けてこない。ただ此方にまとわりついて来ようとする。
押しつぶされそうな恐怖を振り払い、何度も攻撃を繰り返すも、まるで煙を相手にしているような手応えの無さ。
切りのない、終わりのない闘い。相手を消滅させたのか、それとも退けただけなのか…
それすらも分からないまま、闇雲に周りに群れる闇へと攻撃を繰り返していた。

どの位経ったのだろうか。不意に辺りの雰囲気が変わる。
漂い続けていた不快感が和らぎ、同時に辺りが明るくなり始めた。
突然上から光が降りてきた。光は闇を切り裂くように一層強く輝く。
そして闇が姿を消すと、光が形を帯び始めた。
人の形…羽の生えた、髪の長い人間へとそれは姿を変える。
…神奈……
何の情報もなかったがわたしは確信した。あれこそ神人、神奈であると…
神奈がゆっくり降りてきた。四対の純白の羽は大きく広げられ、強烈な光を発している。
後光りに包まれた、その美しい容姿。幻想的な光景に、私は暫し見とれてしまった。
ある場所では天使であり、ある場所では神そのものと言い伝えられたであろう、神人。
そして神奈は、羽ばたきもせず静かにわたしの前に降り立った。身長だけならわたしとさほど変わらない。
姿形こそ少女にしか過ぎないが、感じ取れる力は想像を絶した。…こんなものを身体に入れていたのか。
羽から発する光が落ち、たたまれる。彼女はゆっくりと顔を上げ…そしてわたしに話しかけてきた。
423天野美汐 (2/3):2001/02/07(水) 00:52
「済まぬ、遅れてしもうた。一足遅かったようだの…」
─遅れた?何を言っているの?
「…おお、挨拶を忘れていたな。余は神奈備命、神奈と申す者。おぬしは…美汐であろう。もう一人の」
─いや、それは分かっているが、何故わたしが本物でない事を知っている?
「余が気付いたとき、真のおぬしがおぬしを誑かしている最中であった。急いで伝えに行こうと思ったが」
「どうにも負が邪魔しおっての。結局遅れてしもうた」
「…ふむ。何とも合点がいかん、という顔をしておるな。うむ、まず坐るがよい。このままでは落ち着いて話せぬ」
神奈に促されて、その場に座った。続けて神奈もどっかと胡座をかいて坐る。
「何を呆れ顔で見ておる?まあよい。おぬしが本当のおぬしでないことは分かっておろうな」
頷くわたし。
「負に心を犯されたとき生まれたのが今のおぬしだ。尤も今の余も同じ立場であるが…」
─ではわたしの前にいる貴方も本物ではないということか。本物は…恐らく本当のわたしと同じ状態…
「その通りだ。今から一千年前、真の余は九尾と戦いて呪詛を受けた。その時大部分の記憶を受け継ぎ」
「余は生まれた。しかし余の身体は真の余でしか動かせぬ。真の余は呪詛に完全に囚われ、凍り付いてしまった」
「…余は千年の間、虚空に居続けるしかなかった。千年の間、負に囚われた真の余の陰から、外を垣間見る事しか出来なんだ…」
─つまり新しい人格が生まれても、必ず身体のコントロールが出来るわけではないのね。
─ん、わたしの場合とは少し違う…
「おぬしの場合は、ここのおぬしが身体を動かしていたらしいな。そして、今の真のおぬしは負に囚われている」
─ではあの”わたし”は本物だったのか…だけど負に犯されて…
「けれど真のおぬしは、完全には負に囚われてはおらぬようだ」
─?ということは?
「負のせいで、真のおぬしは正しい判断が付けられなくなっておるだけだ」
─…ウイルスによる症状…か。要はまとじゃないってことね。今のわたしは。
「まあそういうことだ」
─?どうしてウイルスなんて単語を…以前にコントロールとも言ったけど、何故理解しているの?
「千年も生きていれば、それなりに知識が入り込むのでな。まあこれより先、余を生き字引と呼ぶがよい」
424天野美汐 (3/3):2001/02/07(水) 00:53

─……取り敢えず今の状況は理解できたけど、これからどうしよう?
「そうだな。今の真のおぬしでは、余の力は使えぬだろう。まともでないまま九尾の元へ向かっても…」
「いや、向かうかどうかすら分からぬ。何も分からぬまま戦い、大怪我を負ったらと一大事だ。余が死ぬることはないが」
「おぬしは死んでしまう。それでは不憫ゆえ、余が真のお主をしばらく封じておいてやろう。その間におぬしが九尾の元へ向かい」
「余の力を以て九尾を封殺するがよい。急がぬと、真のおぬしが何をするか分からぬぞ」
─ならゆっくり話す暇なんて無かったのでは…それはともかく、親切にどうも有り難う、神奈。
「……会うて幾ばくも無しに、余を呼び捨てるとは不躾な…」
「…ふ…遙か昔にも、この様なやりとりがあったな…」
「…九尾は我が大切な者の眷属。しかし今の真の余では手加減など出来ぬであろう」
「この時が来るのを永く思い悩んでいたが、遂に来るべき時が来たようだ…」
─…神奈…
「辛気くさい顔をするな。余も善神人の端くれ。ここまで強大になった負を見過ごすわけにはいかぬ」
「それに…おぬしと九尾の間柄、余にとっては他人事ではあらぬゆえ」
─?わたしと九尾は単なる敵同士の筈だけど。
「…知らぬか…ならばよい」
「良いか、一つだけ言っておく。負は絶対悪などではない。負もまた、ある意味善なのだ」
─光は闇が在ってこそ、文明の発達は負によるもの…と言いたいわけね。
「まあそういうことだ。それに、負を根絶することなど出来ぬ。この世に知恵の根元たる”記憶”がある限りな」
─分かっているよ。……では本当のわたしと、再び対面といくか。
「さて、行くぞ」
わたしと神奈は同時に立ち上がる。そして神奈が歩き出し、わたしはその後に付いていった…
425名無しさんだよもん:2001/02/07(水) 13:55
きゃあはははははーっ。召還って字が間違ってるよ。
○召喚 ×召還
鬱だよ……。
426椎名繭@伏龍の憂鬱(1/6):2001/02/07(水) 17:11
 私たちはやっとの想いでものみの丘に辿り着いていた。
 ここまで来るのに色々な事があったけど、今はそれを懐かしむ余裕すらない。
 ここでは気配を完全に希薄にして、私たちの存在を相手に知られないようにしていた。
 そのため里村さんや澪とは一切の連絡が取れなくなるけど、川名さんと出会えたのは幸運だった。
 川名さんなら、澪や里村さんのいる場所を的確に探索できる。と、思っていたんだけど……。
「うーん、やっぱり駄目みたい」
「そうですか……」
 川名さんは視力が回復したせいか、どうも心眼の調子が良くないようだ。
 それと、このものみの丘の異様なまでの瘴気にも原因があるかもしれないけど。
「でも、それは喜ぶべきことだと思いますよ」
「……ごめんね、ふたりとも」
「……怒るよ?」
 川名さんの落ち込みように七瀬さんが優しく諭す。
 まあ、悪くないよね、こういうのも。
「……繭もこういう状況でよく笑えるわね」
「あれ? 笑ってましたか、私?」
「ええ、口を大きく空けてだらしなくね」
「や……やめてくらはいよ……」
 七瀬さんが私の口を手でこじ開けるので呂律が回らない。
 意地悪ですね、ほんとうに。
「それは、そうと……繭ちゃん、あのことなんだけど?」
「はい?」
「えーと、何だか悪い予感がするんだ……」
 私も七瀬さんも、川名さんのその表情に悪ふざけを中断する。
「邪術士$瀬秋子のことですね……」
「うん。その邪術士って人と初音っていう子の戦いを途中まで見てたんだけど……圧倒的だった。
 ヨークって言う船みたいなものが空に浮かんで、雷のようなプラズマが発生したんだけど、
 それすら意に介さずに、そのヨークって言うのを粉々に破壊してた。
 強いよ、あのひと。私たちだけじゃあ、絶対に勝てないよ」
 邪術士・水瀬秋子……多分、この物語を語る上でKEYポイントになる人物……。
「そうですね、話しましょうか……水瀬秋子という人のことを……」
 私は、暫し瞑目してから言葉をつむいだ。
427椎名繭@伏龍の憂鬱(2/6):2001/02/07(水) 17:12
「私が永遠の世界に行ったことは話しましたね」
 二人とも頷いてくれる。川名さんもすでに知っているみたいだった。
「そこに行った目的は……あることを確かめるためと調べるためだったんです」
「確かめるって言うのは折原がいるかどうかよね?」
「それじゃあ調べるって言うのは何なのかな?」
「記憶の世界……私は前に仮初の永遠のことをそう言いました」
「ええ」
「うーんと、それは初耳だけど続けてくれるかな?」
 はい、と私は頷いて話を続けた。
「初めは永遠≠ニいうものの存在について、先の時代にもその前例がないかどうかを調べていました。
 それは……残念ながら、見つからなかったですけど、色んな時代の色々な背景を見てきました。
 誰もが望んで、誰もが手に入れられなかった永遠の物語を……」
 永遠の世界に保存されていたのは膨大な数の記憶。
星の記憶≠持つというのが翼人なら、永遠に記憶を反芻させるのは……。
「時代の影に少女≠り――
 その姿は千差万別でした。自分がもっとも求めている人の姿を宿してくれます。
 でも、その少女……いえ彼女のことを、私はこう呼ぶことにしました。
永遠の少女≠ンずか……と」
「へ? 瑞佳? 瑞佳って……」
「もしかして長森さんのことなのかな?」
「それについては、今は何も言えることはありません。話を本題に戻しましょう」
 余計なことを喋ったと私は頭を掻いた。
428椎名繭@伏龍の憂鬱(3/6):2001/02/07(水) 17:15
「その永遠を求めていた人の中に、この名前があったんです」
法術士$瀬秋子。そう、邪術士となる前の彼女のことだった。
「彼女が法術と言う体系を生み出したのも永遠を求めていたからでした」
 その者は限りない才能≠ノ恵まれてこの地に生を受けた。
 でも、どこから来て、何を目指して、高野に寺院を建てたのかは誰も知らなかった。
 しかし、その容貌と、慈悲深い彼女の性格に誰もが慕い、羨んでいた。
 曰く、どんな万病からも救ってくれる。
 曰く、どんな災害からも救ってくれる。
 曰く……。
「彼女は悪鬼と成り果てた……」
「……え?」
 いきなりの話の飛びように呆気に取られる七瀬さん。
 川名さんもぼーっと……じゃなくて、きょとんとしている。
「話の筋を分かり易くするために、少し時代考証について話させていただきますね。
 方術宗家の水瀬秋子さん、その後の時代に八百比丘尼さんの登場です。
 その時代にはエルクゥと呼ばれる異邦人の来襲もありました。
 これについてはあまり触れませんが、武家の次郎衛門さんと高野の柳也さんが
 手を組んでの決闘があったみたいです。つまり、これがエルクゥと高野の因縁ですね。
 時代の背景で、実際の史実には出てきませんが、これらの事件には全て高野が絡んでました。
 分かり易く言うと、これが今の戦いの発端です」
「えーと、九尾はどうなったのかな……?」
「……すみません。話を端折り過ぎました。九尾との戦い八百比丘尼が水瀬秋子を
 封じてからですので、今語ることではないですし、だからと言って……」
「ちょっと待って!」
「はい? 七瀬さんも質問ですか?」
「もっと『簡単』に『分かり易く』お願いしたいんだけど……」
「? そうしてるつもりですけど?」
 七瀬さんは、どうしてか頭を抱えていた。
 本当にどうしてだろう?
429椎名繭@伏龍の憂鬱(4/6):2001/02/07(水) 17:16
「私たちが重要なことは一つでしょう? 水瀬秋子を倒せるか否かの一つだけ!
 それ以外はパスするわ! 今は歴史の授業を受けてる場合じゃないでしょう?」
「……ふう、分かりました。七瀬さんにでも&ェかるように説明すればいいんですね?」
「すっごく引っかかる言い方だけど、まあ間接にお願いね」
「はい、つまり水瀬秋子は今まで本気を出さなかったではなく、本気を出せなかったのではないかと
 私は推論したわけです。ゴッドハンドとの戦いや、その後の封印、復活するまでの長い時間、
 それからの回りくどいやり方と、永遠を求めての行動……」
「…………」
「それと一番のポイントはこの街です。水瀬秋子ほどの人物が何故におとなしく主婦などに専念していたか」
「……あの、いいかな、繭ちゃん?」
「はい。構いませんよ」
 挙手する川名さんに私は応える。
「秋子さんって本気出したことないって……それ、本当なの?」
「? そう言ったつもりですが?」
「だって今でも充分強いんだけど……」
 川名さんが微妙に肩を震わせて言った。邪術士の力を間近で見たものなら、そう思えるかもしれない。
 しかし、私も見ているのだ。水瀬秋子が邪術師と言われる所以のほどを……。
「そうです。水瀬秋子に勝てるか否かはそれに掛かってるといっても過言ではありません……。
 水瀬秋子の本当の力……邪眼を開眼させる前に討ち滅ぼすしか方法はないでしょう」
430椎名繭@伏龍の憂鬱(5/6):2001/02/07(水) 17:19
 邪眼……。それは<サードアイ>のことだった。
 他の宗教を紐解いてみても、三つ目というのは神族クラスに値する。
 シヴァという神を例に上げればピンと来る人もいるだろう。
「でも一つだけ言っておきます。水瀬秋子は人間なんです。この地に降り立った天使や、
 物の怪の類の九尾とは違います。本当に人間なんです! ただ圧倒的に強い、ただそれだけなんです!」
「……繭ちゃん」
「本当に……そんな奴に勝てるの?」
「それは……勝てます。私が保証しますよ」
 私は嘘をついた。ただの憶測でしかない。でも参謀役として私が弱気になっては駄目なのだ。
 だけど、二人ともそんな私の嘘なんて見破っているのかも知れない。
 二人ともしっかり頷いてくれるから。私は表向きには冷静を装って話し続けた。
「水瀬秋子は本気を出せません。どうして彼女が千年間もおとなしくしていたのかは、
 そこに理由があるはずです。つまり彼女にとっても千年という歳月は長すぎたんでしょう。
 体の崩壊が始まっているはずです。本気を出したら、その反動で崩れてしまうほど弱っているはずです。
 これは危険な賭けになると思います。彼女が永遠を求めているのは、これしか考えられません。
 永遠の命……そんな幻想を彼女は追い求めてるんです!」
 私は断言していた。いささか興奮していたのかも知れない。
 だけど、これ以外には考えれらないのも、また事実で……。
「どうして……秋子さんはそんなものを求めてるんだろうね?」
「…………!」
「あのね、みさきさん。それは今、繭が言ったような……」
「うん、それは分かってるんだけど……どうしてかな?」
 川名さんは、自分でも分からないよ、と漏らした。
 その言葉に何故か……私は動揺していた。
431椎名繭@伏龍の憂鬱(6/6):2001/02/07(水) 17:22
「彼女は悪鬼と成り果てた……」
 どうしてそうなったのか私には分からなかった。
 そこだけ霧が掛かったように見えなかった。
 もしかしたら、私は何かを見落としているのかもしれない。
「そこが私も引っかかってるんだよ」
 川名さんはポツリと呟く。
「でもさ、実際に水瀬秋子は私たちにとって脅威なんだよ」
 永遠……。そう、彼女は永遠を求めていた。
 でも、だったら、どうして……。
「だよね。私の考えすぎなのかな?」
 彼女は今まで、何の行動も動かさなかったんだろう?
 浩平さんというファクターがなかったら、どうするつもりだったんだろう?
 分からない……。
「ちょっと夜風にでも浴びてくるよ」
 川名さんはそう言って出かけようとする。
「なに言ってんのよ!? ここは敵地のど真ん中なのよ。散歩なんて出来はしないわよ!」
「あはは、ちょっと留美ちゃん……」
 こそこそ、と川名さんが七瀬さんに耳打ちする。
「あっ、ごめん……そういうことか」
 七瀬さんは頬を染めて、頷いていた。
「じゃあ、行って来るね」
「早く戻ってきなさいよ」
 二人のそんなやり取りにも気づかないまま私は考え込んでいた。
 それを後に私は後悔する。
 しかし、今は水瀬秋子の娘である名雪のことを考えていた。
 彼女の存在が不自然に思えてならなかった。
 もしかしたら、彼女は……。
「あの、七瀬さん……」
「なに?」
「名雪さんって……本当に水瀬秋子の子供なんでしょうか……?」
432柏木耕一:2001/02/07(水) 18:19
 俺と楓ちゃんは、ものみの丘まで出向いて来ていた。
 あの大阪弁の女の子、保科さんと言ったかな。
 彼女には感謝せねばなるまい。
 今まで彼女らを無下に扱っていた俺達を置いて看病してくれたしな。
 気になるのは祐介君の容体だが・・・俺達の闘いを止められる程なのだから、大丈夫だろう。
 そうそう、千鶴姉さんと梓には天野のところへ行ってもらっている。
 事前に楓ちゃんから話しは聞いているから、それを説得のネタに使って欲しいんだが・・・
 それより前にあの二人が暴走しないか心配だ。
 そう考えているうちに、俺達は沢渡真琴のところへ通された。
「・・・来たか」
 俺達より先に、真琴が口を開く。
「鬼達が今更何の用だ?」
 その一言一言が重い。
 その場に居るだけなのに、殺気も闘気も感じないのに凄まじい威圧感がある。
 これが完全復活した沢渡真琴なのか・・・
 だけど楓ちゃんはそれを苦にした風も無く
「沢渡さん。これを見て下さい」
 言うが早いか、楓ちゃんの頭髪の色が突然黄金色へと変化した。
 目にも美しかった黒髪と黒瞳が、鮮やかな輝きを見せる黄金色へと変わってしまったのだ。
「これは元々貴方の力。1000年前に貴方から分け隔てられた、妖狐の力です。
 貴方はこの1000年の間、力を封じられ人間として転生を続けてきました。
 その間封印された貴方の力は、ここものみの丘に留まって貴方を見守り続けて来たのです。
 そして・・・おそらく貴方は覚えていないでしょうが、同じ時代に転生を続けて貴方の側に居た方が居ました。
 貴方の力と同じように、貴方を見守り続けて来たのです。
 ――ばたんっ
 いつも通り、突然襖が開けられる。
「よぉ真琴。やっぱりここに居たか」
「また何か読んでるのか? お前それ好きだな」
「なぁ真琴、今日はお前と遊びに行こうと思って誘いに来たんだが・・・」
「はぁ・・・あいかわらず気付いてないのな」
すぅっ、と息を貯め・・・
「まことぉっ!」
「わぁっ! 何っ!? って、わっ! 祐一っ!」
「お前なぁ、驚くなら一度に驚けよ」
 祐一がわざとらしく大きなため息をつく。
「あぅーっ、何よぅ。驚かす方が悪いのよぅ」
「ところでな真琴、今日は物見に出ようと思うんだが、一緒に行かないか?」
「話そらしてる・・・って、物見?」
 にやり、と祐一は不敵な笑みを浮かべてみせる。
「いまだ妖狐の伝説が残る恐怖の地・・・『物の怪の丘』だ」
 どうやら、それで真琴を怯えさせようっていう魂胆みたい。
 丘まで真琴を連れていって怖がらせて、それをネタに数日は真琴で遊ぼうというちゃちな計画。
「物の怪の・・・丘?」
 だけど真琴は、知らないはずのその名に何故かひかれた。
 何か懐かしい雰囲気を帯びたその名前に。
「何だ、怖がらないのか?」
 心底残念そうに祐一が呟く。
「行きたい。ねぇ祐一、そこ連れてって」
 今度は祐一が驚く番だった。
「寒い。やっぱりやめる」
「まだ3歩しか歩いてないわよぅっ」
 所々に雪が残る厳冬のこの街では、足袋の上から草鞋を履いても冷たさは拭えなかった。
「だってなぁ、真琴が怖がらないんじゃ行っても面白くないだろう」
 真面目な顔で超不真面目な台詞を吐く。
「いいの、真琴が行きたいんだから。ほら早くっ」
 祐一を背中から押して、無理矢理歩かせる。
「はいはい、分かったよ。真琴姫は我侭だからな・・・」
 それでも祐一はやっぱり気が乗らないのか、ゆっくりと歩を進める。
「おーそーいーっ、そんなに遅いと祐一置いてっちゃうわよっ」
「・・・場所知らないのにそんなわけ無いだろ・・・」
 そんないつものやりとりをしながらも、物の怪の丘は徐々に近づいてきていた。
「ほら、ここが入り口だ。」
 木々に囲まれたわずかな隙間。
 人一人がやっと通れる程度の大きさ。
 丁寧にも『此処より物の怪の丘。何人も立ち入るべからず』と書かれた立て札がある。
 普通の人間ならまず入ろうとは思わないこの穴に、真琴はすぐさま身体を滑り込ませた。
「おい、真琴っ」
 驚いた俺は一瞬躊躇した後、真琴を追いかけて物の怪の丘へ足を踏み入れた。
 何も言わずに奥へと進んでいく真琴を追いかけて、俺も先へ進む。
 その途中・・・左右からガサガサ音がした。
 俺と真琴が進むスピードにあわせるように、左右の音も移動している。
 俺はその音の正体を盗み見た。
「何だ・・・? 狐?」
 隣で一緒に進む狐を気にしながら、真琴の後を追い掛ける。
 しばらく進むと、唐突に視界が開けた。
「ここは・・・」
 山間の、森が開けて出来た草原。
 そこだけ木々が刈り取られたように無くなっていて、下方に町々が見渡せる。
 その草原の真ん中に、一人の女性が立っていた。
 真琴じゃない。
 真琴は草原の入り口でぼけっと突っ立っていた。
 僅かに微笑んでいるような表情のその女性が、口を開いた。
「真琴様。お久し振りですね」
 は? 真琴様? お久し振り?
 何を言ってるんだ、この人は・・・
「誰?」
 真琴が本気で分からない、という顔で尋ねる。
 というか真琴、相変わらず俺以外には愛想悪いのな・・・
「ふ・・・記憶が無いというのは本当のようね。いいわ。自己紹介してあげる。
 私は、真琴様の後を継いで妖狐を統べております。立川郁美と申します」
 以後お見知りおきを、と言ってももう会う事はないでしょうけどね、と立川と名乗った女性は笑った。
「真琴様のお力が封印されてから早300年。七瀬も緒方元気にしていますわ。」
 七瀬? 緒方? 誰の事を言ってるんだ・・・
「なぁ、あんた」
 立川さんの瞳が俺を凝視する。
「真琴の知り合いなのか? こいつの事を知ってるのか?」
「・・・只の人間のあなたが呼び捨てとは、真琴様も地におちたものね」
 また訳の分からない事を。
 そもそも俺の質問に答えてないだろう。
 ふっと、立川さんが眼下の街に目をやる。
「・・・もうすぐ、女性が一人ここにやってくるわ。その人に聞いてみればいいんじゃない?」
 おどけているのか蔑んでいるのか。
「それでは私はこれで。真琴様、失礼致します」
 そう言うと、立川さんは草原の中へと消えていった。
 何なんだ、一体・・・

 何がどうなってるのか、俺にはサパーリだぜ・・・
 今日も空は快晴だ。
 こういう日には、丘へ行きたくなる。
 あの人が居た、あの丘へ・・・
 私はゆっくりと丘へ向かう。
 あの人の事を思い出しながら。
 けれど丘の入り口は、いつもとは違っていた。
 誰かが乱暴に分け入った跡がある。
 ・・・これは?
 不思議に思いながらも、丘への入り口をくぐる。
 いつもの道、あの人へと続く道。
 やがて、森の向こう側に空が見えて・・・視界が開けて・・・
 そこには、一組の男女が居た。
 誰も居ないはずのその丘に。
 男の人が私に気付いて振り返る。
 女の子も、それに続いて振り返る。
 この子は・・・
「ちょっと、悪いんだけどさ」
 男の人が、バツが悪そうに私に声をかける。
「はい」
 いつもの返事。
 誰に話し掛けられても、私はいつもこうだ。
「こいつの事、何か知ってないか?」
 そう言って、女の子を指差す。
 女の子は、私をじっと見つめていた。
 ・・・この子は、あの人と同じ。
 私は女の子に近づく。
「あなた・・・お名前は?」
「・・・真琴」
「そう、真琴と言うの。良い名前ね」
 私はその子の頭をなでてあげる。
「この子は・・・おそらく、妖狐です」
「なっ!?」
 たぶん意図していなかったであろう私の言葉に、男の人が驚愕の声をあげる。
「それは・・・本当・・・なのか?」
「えぇ、間違いありません」
 この子は、あの人と同じ匂いがするから。
 男の人が信じられない、という表情でかぶりを振る。
「今は、力を失っているようです。詳しくは分かりませんが・・・
 そういえば、自己紹介がまだでしたね」
「あ、あぁ」
「私は天野美汐と言います。天野、とでもお呼び下さい」
「俺は、相沢祐一だ」
 では相沢さんで良いですね、と私は尋ねる。
 構わない、と返事。
 それが、私と真琴が初めて出会った日・・・

 ――沢渡真琴、5回目の転生の時の事であった。
439柏木耕一:2001/02/07(水) 18:27
 それがあの・・・天野さんです」
 楓ちゃんのまっすぐな瞳が真琴を見据える。
「ふん・・・そのようなこと、とうに知っていたわ」
 しかし真琴は悠々と・・・自虐的な笑みを浮かべながら言葉を吐き捨てた。
「私が完全復活を果たしたあの日。ここに残っていた我が力も全て取り終えた。
 残っているのは、お前の中に居るそいつだけだ。
 その時に、転生中の私の記憶も全て取り戻した。
 ・・・・・・それでも私は闘うと決めた」
 真琴の目が、すっと細くなる。
「妖狐の歴史は血塗られた争いの歴史。鬼一族や高野の歴史もそうだろう?
 どのような生き物にも戦闘本能は存在する。戦闘本能が存在する限り、戦闘による快楽もまた存在する・・・
 この地に魅入られた者達全てが、今は己の為に闘っている。己の快楽の為にだ。
 お前達もそうだろう? 私と美汐の仲を取りもちたいというのは、お前達が自己満足したいからだ。違うか?
 私もそうだ。私は美汐と闘いたい。あいつなら、美汐が相手ならおそらく私は全力で闘えるだろう・・・
 これ以上私の邪魔をするならお前達も死ぬ事になるぞ。」
 ゾクリとする、まさに背筋も凍るほどの寒気。
 最強の鬼である俺にこれほどの恐怖を与えられるなんて・・・
 5月29日の事――
 今朝早くに出かけて、用件を済ませた帰り道の事でした。

「……それ、本当の話ですか?」
 清水さんは運転をしながらも、念を押してきました。
「ええ。昨日私のメールボックスを見たら、メールがあったのですが……。
 発信日は5月16日でした。そこに今話したことが書かれていたのですが」
「それが、玲子さんからのメールだったと……」
「彼女は後悔しているようでした。詠美さんを何で止めなかったのだろうって……。
 なんでもっと危険に気付かなかったのだろうって」
 私は助手席の窓の外を流れる景色を眺めながら、玲子さんから来たメールの文面を思
い出しました。いつもみたいに能天気なものではなく、自分の無力さと人を危険に晒し
てしまった後悔でそのメールは満たされていました。
 この事に気付かなかった私もまた情けないとしか言えません。
 いくら公安の依頼でチベットに赴いていたとは言え、彼女たちに気を配っていなかっ
たのは私の落ち度です。それが悔やまれてなりません。
 そして感じました……結局何もできていないと。
 あの1年前の……悲劇以来、結局……結局、誰も救えていないのだと。
 それを思うと、涙が流れてきました。
「……思い出したのですね……あの事件の事を」
「…………」
 清水さんがそっと声をかけて下さったものの、私は何も答えず、ただじっと下を俯い
たまま泣いていました。
 今から3年前になるでしょうか――
 当時、私は公安の仕事なんかはしていませんでした。
 『こみっくパーティ』――
 ――略して『こみパ』という同人誌の即売会のスタッフをしていました。

 毎月に東京の港で行われる、創作者たちのお祭――
 そこにはいつもいろんな人がきていました。
 初めて同人誌を売る人から、プロの作家さん――そしてなにより漫画を愛する人達が
集い、みんなが楽しんでいた――それは楽園でした。
 そこには、壁際の大手としていつも競り合っていた詠美さんに由宇さん、一方で地道
に努力していた彩さん、コスプレイヤーの人気者だった玲子さんに瑞希さん、そして、
短期間で急に成長してきた和樹さんと大志さん――。
 みんなそれなりに楽しくやっていました。
 私はそんな皆さんに楽しんでもらおうと必死でした。
 ――そして幸せでした。

 でも、そんなお祭りの終わりは突如やってきたのでした――。

 当時、こみパは全国単位で盛り上がっていた、日本最大の同人誌即売会でした。
 だが、一般のマスコミでは規制されかねないきわどい表現に対して、こみパは寛容な
姿勢をとっていたために、政治家や行政の一部の人達はそんな集まりを疎ましく思って
いたようです。
 そして、こみパで大きなトラブルが起こるのをじっと狙っていた節がありました。
 悲しいことに……それが起こってしまったのです――。
 その日は雨でした――。
 いつも通りに開場になり、拍手が巻き起こりました。
 お盆の『夏こみ』、しかも3日目ということもあって、人の入りも尋常ではありません。
 そして会場にはお約束の通り、大手の同人誌を狙って、たくさん人がなだれ込んでき
ました。問題こそはありましたが、いつもよく見る風景です。
 毎度のように私は列整理に追い回されていました。
 でも、そんな中皆さんは楽しんでいました。そして表情が輝いていました。

 ――事件は開場から30分程経過した時に発生しました。

「うおおおおおおおおおお!!」
 突然、一人の僧らしき男性が、入場者や出店ブースをなぎ倒しながら会場に乱入して
きたのです。
 目は血走っていて、精神は普通じゃないということは一目見ただけでも明らかでした。
 それまで会場を満たしていた活気は、その闖入者のおかげで突如静まり返りました。

「妖狐はどこだぁぁぁぁぁ!! 出てこい!!」
 その男性は周囲を見回しながら、そう叫んでいました。
 私も含めスタッフの全員がその男性を止めようとしましたが、逆に投げ飛ばされてし
まいました。全く敵わなかったのです。

 その男性は会場内を徹底的に荒らしながら、ターゲット(と言っている)妖狐を血眼
になって探していました。会場にいた参加者らは手が出せず、ただじっと見守ることし
かできませんでした。
 そして、その男性が玲子さんのサークル『チーム一喝』の前で立ち止まり、そこにい
た夢路まゆさんが目に入った時でした――悲劇が起こったのは。

「ぐぉぉぉぉ!! 貴様が妖狐かぁぁぁぁ!!」
 その男性はまゆさんを血走った目で睨み付けて恫喝すると、手にしていた杖を振り上
げました。
 それを……一気にまゆさんの腹部に突き立てたのでした……。
 一瞬の事でした。
「きゃああああああああ!!」
 会場内には悲鳴が上がりました。
 逃げ惑う人々。飛び交う悲鳴。
 会場は一気に大混乱に陥りました。

 その男性は悠然とまゆさんの腹部に突き立てた杖を抜くと、さらに会場内を荒らしま
わりました。
「妖狐はどこだぁぁぁぁ!!」
 狂った声をあげながら、ただ獲物を探しまわっていました。

「まゆ、しっかりして!!」
 一方、玲子さんは既にぐったりしたまゆさんを抱きかかえながら、必死に呼びかけて
いました。私も必死に応急手当をするものの、まゆさんは絶望的なのは誰の目から見て
も明らかでした。

「きゃあああああ!!」
 会場の違うホールから更に悲鳴があがりました。一体、何がまた……。
「南さん、あなたは早く行って!! こっちの方は大丈夫だから!!」
 玲子さんは真剣な瞳で私を見ました。
「分かりました。救急車はすぐに来ると思いますから……頼みます!!」
 私はその場を離れようと、立ち上がったその時――

 パーン!! パ、パーン!!
 乾いた破裂音が3回ほど会場内に響き渡りました――。

 音のしたホールに入って目に入ったのは――

 床で突っ伏しているその男性と――

 怯えてうずくまっていた瑞希さんと――

 そして――その横で男性に銃を向けていた和樹さんでした――。
「……結局、その僧侶が瑞希さんを殺そうとしたのを止めようと、和樹さんが銃を発砲
したわけですね」
「はい……。後で聞いた話ですと、その僧侶は高野の僧で、何でも……」
「負の意識に精神がやられてイッてしまった方だと……そういう事ですね」
 清水さんは間髪入れずに、私が話そうとしていた事を口にしました。
「何で分かるんですか……?」
「高野の僧の中にはごく希ではありますが、負の意識に侵されて自我を見失う者がいます。
大抵は即刻仕留めるのですが……。
 なつきの記憶が確かなら、そいつはあまりにも攻撃的すぎて高野から破門になった人間
だと思います。ただ、その凶報を聞きつけた時には高野の僧らも必死に探索していた様だ
ったのですが……いや、罪を棚に上げているようなものの言い方で申し訳ないです」
「いえ、済んでしまったことは仕方ありません。
 それに……私は……何もできなかったのですから……」
 悔しかったです。
 無力です……参加者を危険から守れなかったどころか、一人の参加者の命を落とさせること
になってしまったのですから。
 悔しさが込み上げてきて、涙は更に流れつづけました。
 だが、違った感情が急速に心の底から湧きあがってくるのが感じられました。

「むしろ……腹が立ったのは、その後の国の対応でした……」
 国――この言葉を思い出しただけで、本当に苛立ってきました。声が震えているのが自分
でもよくわかります。

「……和樹さんを……警察は殺人容疑で逮捕したのですね」

 清水さんのその言葉に私は、ただ小さく頷きました。
 未舗装の道を走る車はガタガタと小刻みに相変わらず揺れていました。
445某一書き手:2001/02/08(木) 02:34
こみパの一部の面子の過去を記してみましたが――
>>440にミスがありました。
(下から6行目)誤:1年前 正:3年前 です。
 本当にスマソ……。雨津出汁濃……。
「何やねん、このゴミ箱は」
「ちょっと覗き込んでごらん」
「…………?」
 智子が、訝しげにゴミ箱(ホントは違うけど)を覗き込む。
「ケンカキック!」
 あたしは、躊躇なく智子の背中を蹴り飛ばした。
「のわっ!?」
 まともに体勢を崩し、ゴミ箱(じゃないけど)に頭を突っ込む智子。
『おわわわわわわ! 吸い込まれる〜〜〜!?』
 足をばたつかせるが、智子はどんどんゴミ箱……型転送装置に吸い込まれてゆく。
「……必ず帰ってくるのよ! ちなみに過去に於いて達成者はゼロ!」
 涙を堪え見送るあたし。
『……って、私はどこに行くんや!!』
「過去の強者たち! あるいは鬼! あるいは電波使い! あるいは魔女!
 そして、極めつけは天使に九尾! そんな顔ぶれが次々と貴女を襲うわ!」
『はなっから話通しとけやぁぁぁぁぁぁ……』
 完全に、智子の姿が消える。
「…………」
 ちょっと早まったかなー、とか思ったりする。
「必ず乗り越えるのよ、智子……」
 天井を見上げキメてみたが、やっぱり不安は消えなかった。
「ま……これくらいできなきゃ秋子は倒せないけどね」
 それは、真実だった。
447千堂和樹:2001/02/11(日) 01:07
俺は、ぞくりとして立ち止まった。
「瑞希……?」
ココロ、とやらが見せてくれる、一人の女の映像。
 大量の妖狐を引き連れ、剣呑な気を発しながら歩いている女。
 ぴっちりとしたジャンプスーツを着込み、仮面で顔を隠している。しかし、その全身に染みついた匂い――雰囲気は、間違いなく瑞希のものだった。
 周囲の景色から見るに、ものみの丘のどこかを進んでいる。
「おい! これはどこの映像だ!?」
『高度はここより数百メートル上方、位置は登山ルートCの中腹よりやや上です』
「予想進路と、どうすれば最短時間で接触できるかを教えてくれ!」
『麓を一直線に目指しています。こちらも一度麓まで下り、登山ルートCを直接登ってゆくのがいいでしょう』
「分かった!」
 俺は、疲労しきった身体に喝を入れて駆けだした。
448高瀬瑞希:2001/02/11(日) 01:08
 先刻――いや、数日前から妙な違和感が消えない。
 私は沢渡様麾下の兵の一人であり、ツインテールでない身ながら彼女の側近たる幸福を得た、忠実な沢渡様の僕(しもべ)。私の幸福はあの方の幸せであり、それ以外には有り得ない。死ぬ事が任務なら、喜んで死ぬ。それが至福――。
 だが、異な感情が心に巣くっている。それは今の自分への疑問という、最も厄介なモノ。
 心の奥底で、見えない何かを求めている。それは、沢渡様の寵愛では無い。
 それよりも心地良く、暖かで、安らぎをくれる人――
「……ちっ!」
 私は、自分への怒りで舌打ちした。沢渡様以上の存在など、それを考えてしまっただけでも腹立たしい。何という不敬。恥ずべき裏切りだ。
 沢渡様の居城とすら言えるこの場所――ものみの丘に唾を吐くわけにいかず、私は苛立たしい感情を抱えたまま進軍を続ける。
『よう、少女。ご機嫌ななめのようじゃないか』
「!?」
 私は、驚愕で足を止めた。どこかから、声が聞こえた。
 軽薄な、しかし強烈な存在感を持つ声。この声は――
「銀狼……か!? 貴様、殉死した筈では――」
『随分と低く評価されてたみたいだなぁ。俺はあの程度じゃ死なないよ。わが可愛い妹も……ね』
「なぜ、生きていながら沢渡様の前に姿を現さなかった! 戦況は激変しているのだぞ!」
『まあ、負ったダメージは浅くなくてね。無様な怪我人が増えても嬉しくないだろうから、今まで場外で休ませてもらってたのさ』
「……ふん。言い訳だけは達者だな。まあいい。理奈も生きているのだろう? 貴様等も保科一派殲滅に協力しろ」
『当然、参加させてもらおう。ただ――』
449銀狼・緒方英二:2001/02/11(日) 01:09
「瑞希ちゃん。君は一つ厄介事を片付けなきゃならんぜ」
『厄介事……だと?』
 俺は口の端をくっくっと歪め、言った。我ながらつまらない演出が好きだな。
「近頃、妙な不快感を感じてはいないか?」
『――!? 貴様、なぜ!』
「他人の心理を操るのが俺たち兄妹唯一のつまらない芸でね。まあ、感情の機微には人一倍敏感って事さ。原因も、目星がついている」
『教えろ! 原因は何だ!』
「言ってもどうせ納得しないさ。それよりも、自分で確かめ、解決するんだな。君の行く手に、それは間もなく立ちふさがる」
『愚弄されるのは好かん。はっきりと教えろ――』
「じゃあな、恋する少女。狐ちゃん達は借りとくぜ」
 俺は、妖狐の群れに暗示をかけた。妖狐達は興奮し、瑞希を追い越してどんどん駆けていく。
『待て、貴様何をした! 今すぐ術を解除しろ――』
 俺はそれを無視し、保科達のアジトへ向かった。
450千堂和樹:2001/02/11(日) 01:09
駆ける事数十分――
 俺は、ついに仮面の少女と相対した。
「……瑞希。瑞希だろう?」
 俺はそう言いながら、歩み寄った。
 様々な感情が噴出してくる。喜び、驚き――だいたいそんな感情。
「なあ、探したんだぜ――おい、聞いてるか?」
 俺は、無反応な瑞希になおも歩み寄る。なぜ、答えてくれないんだ?
「瑞希、疲れてるんだな? よし分かった。休めるトコ知ってるからそこ行こうぜ」
 俺は、瑞希の両肩を掴んだ。
「……触れるな。下郎」
「え?」
「薄汚い人間ごときが、触れるなと言っている!」
 バシン!
「ぐわっ!?」
 俺は信じがたい膂力ではじき飛ばされ、寝転がった。
「私は今、虫の居所が悪い。貴様は保科の一味だろう? 鴉も喰らわん程に凄惨な死体へ変えてくれるわ」
「み、瑞希……」
「気安く名を呼ぶな!」
 瑞希が、怒号と共に右手を一閃させた。目に見えるほど極大の真空波が迫る。
 俺はそれを転がって回避し、反射的にペンを取りだした。空に、巨大な網を描く。
「瑞希、頼むから話を聞いてくれ!」
「耳障りだ!」
 俺が瑞希を取り押さえようと放ったネットは、いとも簡単に焼き尽くされた。
「まずは、その汚らわしい声を二度と出せんようにしてくれる!」
 瑞希が、猛烈な勢いで突進してくる。俺は反応すらできず、硬直した。
 瑞希の細い腕が俺の喉を掴み、一気に身体を持ち上げる。
「ぐ……が……」
「爆!」
 まるで、金属のドアに鉄球がぶつかったかのような大轟音。
 俺は吹き飛んだ。爆心地となった喉は焼けこげ、文字通り灼けつく痛みにのたうち回る。
「……! …………! ……!」
「ふん、もはや呼吸もできまい」
 そんな瑞希の声が、やけに遠く聞こえた――
451高瀬瑞希:2001/02/11(日) 01:10
圧倒的優位に立ちながら、なぜか私は焦っていた。
 早くこの男を殺さなくては――! こいつは、私に害を為す!
(違う! 殺しちゃダメ! 和樹を殺さないで!)
「うるさい、うるさいんだよ!」
 私は真空波を乱打した。それは転げ回る男をデタラメに切り刻み、周囲を赤く染めた。
(確かに沢渡は行き場を失くした貴女――いや、私を救ってくれた。でも、目の前のあの人は!)
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!」
 私は咆吼した。ビリビリと空気が震え、激しく揺れる視界に世界が回転する。
(ほら、思い出して! 造られた貴女に温もりをくれたあの人を)
「うぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 私は仮面を剥がし、足下に叩きつけた。木っ端微塵に砕け散ったそれを踏みにじり、烈情のままに叫んだ。
「私は沢渡様のしもべ! それ以外の何者でも無い!!」
 気がつくと、両手に大きな力を充満させていた。これを放てば、あの男を殺せる――!
「死ねぇぇぇ!!」
 狙いなどつける余裕は無かったが、巨大な真空波はまっすぐに男へ向かっていた。
 もう終わりだ! これで何もかも! 死んでしまえ!
 しかし――

 ……ぱぁん。

 真空波が、何の前触れもなく弾け飛ぶ。
 ……そして同時に、私の意識は消えた。
452高瀬瑞希:2001/02/11(日) 01:11
夢を見ていると思った。
 瑞希が俺を殺そうとしている。俺が瑞希に殺される。
 夢としか思えなかった。だから、俺は目の前の光景も夢としか思えなかった。
 カードマスターピーチ。アニメの中のキャラの格好をした女の子が、真空波をかき消したのだ。

『……かずきさん』
 その女の子の顔が見えた瞬間、俺は硬直した。
『瑞希さんと幸せになって下さい……私はそれが一番だと思ったから身を引』

(……あさひちゃん!)
 声にならない声で、俺は絶叫した。
 しかし俺が叫んだ時には、もうあさひちゃんの姿は無かった。
(守ってくれたのか……あさひちゃんが……)
 しかし俺は、すぐに現実へ引き戻された
「……!?」
 瑞希が、頭を抱えて苦しんでいるのに気づいたからだ。
(瑞希ッ!)
 体内の酸素が尽き、足が思うように動かない。だが俺は、必死に這いずった。
「……ぁ……。かずきぃ…………かず……き……」
 瑞希は、うわごとのように俺の名を呼んでいる。
(俺はここにいるぞ! 瑞希、瑞希!)
 俺は、瑞希の身体を掻き抱いた。震えるその身体を、必死に押さえる。
「かずき……かずき……」

「……にゃあ〜。もはやそうなっては使い物になりませんね。千紗悲しいです」

(……!?)
 俺は、突然の声に振り向いた。
453塚本千紗:2001/02/11(日) 01:11
全く計算外でした。
 真琴への瑞希の忠誠は、並では無かったですが……
 ま、こうなった以上処理するしかないですね。残念です。
「死んで下さいです〜。それ〜!」
 乱打。乱打。乱打。めった打ちです。
 和樹とかいう人だろうが瑞希さんだろうがお構いなしです。私は両手両足を赤く染めながら二人をボロゾーキンにしました。
 そうそう。和樹さんが瑞希さんをかばおうとするので、とっても殴り辛かったですよ。
「……う……ぁ……かずきぃ……」
「うるさいです〜」
 呻く瑞希の土手っ腹に、さらにつま先を叩き込んでやりました。
 男の方は死んだのか、完全におとなしくなりました。瑞希は血ヘドを吐いて痙攣してます。可哀相に、きっと内蔵は折れたアバラで無茶苦茶な事になってるですね。
「それじゃ、ここで一緒に土さんの養分になって下さいです。さよならです」
 私はやっと満足し、その場を後にしました。
454 :2001/02/11(日) 01:14
 二人の男女が倒れていた。
 男の方は、まるで女をかばうように覆い被さって倒れていた。女の方は、焦点の合わない目つきで男を見つめている。
 女は、思い出していた。過ぎ去りし日々を。
 そして、男の頭をなぜる。男は死んでいるように見えたが、その行為に反応したように口元に笑みを浮かべた。
 女の目元に、涙が浮かぶ。
 折れた腕で、男を抱きしめる。温もりを失いつつあるその身体に、温度を分けるように。
 風が吹いた。血に濡れていない髪の一房が流れる。
 女が、両手で男の顔を押さえた。その口元に、自分の唇を近づける。

 そっと、唇が触れ合った。

 女の顔が、穏やかな笑みを称えた、至福の表情へと変わる。
 そして、永遠にその表情は動かなくなった。

 誰も、その光景を知らない。
455名無しさんだもんよ:2001/02/11(日) 01:15
452は和樹です……スンマセン……
連続スミマセン……
鬱です……
ものみの丘の中腹――
 心のすれ違いにより生じた激闘――。
 妖狐らはそんな彼らの心を弄んだ挙げ句に、彼らを処分した――

 ――30分後の事――。

 ……なんで、なんで……。
 何のために……あの人を……和樹さんを貴女に譲ったと思うのですか!!

 私は懸命に山の中腹を目指していました。
 危険な行為だと分かっていました。
 現に妖狐どもが近づいてきました。
 手にしていたイングラムM10で蹴散らしながら、真っ直ぐ中腹を目指していました。
 目に涙を浮かべながら――。

 ――ものみの丘に車が近づいた時、妙な予感がしました。
 車のFMラジオから流れていた、人の話し声。
 ものみの丘に仕掛けられた盗聴機から流れてきた、男女の死闘の様子――。

 それは――瑞希さんと――和樹さんの声――

 ――なんで……なんで……争わなければならないのですか!!

 耳にすると同時に私はリアンさんに車をものみの丘にやるように命じていました。
 今から考えれば、あまりにも愚かしい行為だと思えるのだが――
 それでも――放っておけません――。

 ――でないと……瑞希さんの不幸に終止符が打てないし――
 ……私がここまでやって来た意味がないから――

 やがて、目の前に二人の男女が倒れているのが目には入って来ました。
 私は足の動きを更に早めました――。
 ……!!
 私は足を止めました。

 目の前に倒れているジャンプスーツの女性と――
 そんな彼女をかばうようにして倒れている男性――

 私は近くに駆け寄りました。
 しかし、二人の体はぴくりとも動きませんでした。

 まさか――。
 悪い予感がしました――。

 直後、私は和樹さんの手首と瑞希さんの手首を触っていました――

 ――!!

 ……まだ……生きている――。
 二人とも――微かだが脈はあった。
 だが――
 意識は全くなく、何度もゆさぶったり頬を叩いたりしても目を覚ます気配はないです。
 その上、全身の骨が折られている上に、出血も激しい状態です。
 まだ、油断はできないようです――。

 その時でした――。

「にゃあ、お馬鹿さんがやってきたですよ〜」
 頭上から声がしたので見上げると、そこには金色のツインテールの姿が見えました。
 そいつは嘲笑を浮かべながら私の方を見下ろしていました――。
 私は同時に、手にしていたサブマシンガンのトリガーに手をかけましたが――
 ――しまった……。
 弾切れでした。
 徹底した準備もせず、衝動的に動いてしまった事に後悔しました。
 もちろん武器の持ち合わせもありません――すべて車の中に置いてきてしまったから――。

「あなたも千紗が殺してあげますですよ〜」
 そのツインテール――千紗という少女は両手に青白い炎を浮かべると、
そのまま放ってきました。
 私は死を――覚悟しました――。

 ――和樹さん、瑞希さん……ごめんなさ……。

「にゃあ、まだいたですか!!」
 千紗が驚いたような声を上げて――私の背後をみていました。

「彩さん、逝くのはまだ早いですよ!!」
 背後からした声に私も思わず振り向いていました。
 そこには――青色の髪の眼鏡をかけた少女――リアンさんが立っていました。

「にゃあ、狐火が消えてしまったですぅ!!」
 千紗の放った炎は私の数メートル手前で消滅してしまいました。目を凝らすと、
何か黄色い幕のようなものが掛かっています。
「バリアを張っておきました。狐火くらいでしたら防げる筈です。
 しかし、魔術の類を一切信じない貴女が、狐火を見ただけで死を覚悟するなんて、
らしくありませね」
「……最後の言葉は余計です……。とにかくここから立ち去りましょう……」
「そうですね」
 私は撤収の提案すると同時に和樹さんの体を肩にかついで走っていました。
リアンさんも瑞希さんの体を担ぎながら後を追ってきます。
「にゃあ!! 逃げるつもりですよ〜!! みんな追っかけてくださいです〜!!」
 千紗の声と共に周囲から妖狐たちがわらわらと集まってきました。
 集団になって私たちを追っかけてきます。

 そして――逃げている内に行き着いたのは――崖でした――。
 ――くそったれ!!
 俺は目の前の現実――遥か下の方にある崖下の風景に地団太を踏んでいた。
 反対方向には千紗とかいうツインテールと、それに引き連れられた無数の妖狐――。
 しかも、俺も彩も怪我人をしょっているときたものだから、飛行魔法も使えねぇ。
 ……追いつめられちまったか……?

「にゃあ、後ろは崖、前は3000匹の妖狐ですよ〜」
 千紗がニヤニヤしながら俺達に迫ってくる。
 2対3001――勝てる争いじゃねぇ。
 となれば――手段は一つ――。

「彩さん」
 俺は小声で彩の耳元に囁いた。
「……何でしょうか……」
「これを肩にしょって下さい」
 私は腰にぶら提げていた小型のリユックサック状の袋を彩に手渡した。
「……なるほど……分かりました……」
 彩は担いでいた男を一旦下に降ろすと、その袋を背負う。
 俺も「それ」を身に付けると、女の体を再度担ぐ。
「にゃあ……何をしてるですか〜?」
 千紗は俺達が何をしているのか理解できないようだ。
唖然とただ俺達のしていることを見守っている。
「……準備は終わりました……。でも、大丈夫ですか……」
 彩は男の体を担ぎ出した。準備は終わったようだ。
「まあ、一か八かの博打ですけどね」
 俺がそう彩に囁いた所で、千紗が苛立った様子で叫んできた。
「にゃあ!! さっきから何をこそこそしてるですか!! とっととあきらめなさいです!!」

「……おめえは馬鹿か? 誰があきらめるって言ったよ?」
 俺は挑発を浴びせてやった。
「じゃあ、どうするですかぁ?」
 千紗はさらに嫌みな笑みを俺達に向けてくる。

「こうするんだよ」
 にゃあ〜!!
 信じられないです〜!!
 あの人達。こうするなんて言って、崖から飛び降りてしまったです〜!!
 本当の馬鹿ですよ〜!!
 千紗、何をしていいか分からなくなってしまったですよ。

「じゃあ、ばいば〜い」
 え……? どいうことですか?
 あの人達の声がするです。
 千紗は思わず崖の下を覗き込んでしまったです。

 にゃあ〜〜〜〜〜〜〜!!
 しまったです〜〜〜〜〜!!

 崖の下の方には黄色と赤の布が広がっていたですよ!!
 パラシュートですぅ〜!!
 千紗、甘すぎたです〜〜〜〜!!

「刑務所の脱獄よりマシだぜ〜!! じゃあね〜」
「……では……さよなら、さよなら……」

 にゃあ、今は亡き淀○×治さんの真似をしてトンズラかましていったですぅ!!
 あの人達、平気で地面に降りてさっさとパラシュートを片づけてるです。
 しかも、最後には私にアカンベーをして手まで振ってたですよ!!
 千紗、悔しいですぅ!!

 千紗は後ろの妖狐たちに向かって叫んだですよ。

 あなたたち、何をしてるですか!!
 とっととおいかけていってくださいです!!
 ああ、崖から飛び降りないでくださいです!! あなたたちも馬鹿ですか!!
 死んじゃったです……本当、馬鹿です!!
 とっとと追っかけてくださいです!!
 早くしてくださいです!!
 にゃあ、どうしたらいいですか〜。お兄さん(また混乱)。
「……なんとか逃げ切れたのはいいのですが……」
 彩は車の外で不安げにものみの丘を眺めていた。
 妖狐らがざわめいているのだろう。ぐずぐずしていたら追いつかれてしまう。
 俺達は麓に止めていた白のブルーバードに辿り着いくや否や、車内やトランク、
エンジンルームの安全を確かめた。
 何も取られていないな……トランクにつんだ「あれ」もな。

 そして、助手席に女(彩が言うに、こいつは瑞希っていう名前らしい)を乗せて、
その後に運転席に乗り込みエンジンをかける。
 エンスト……なんてことはなく、順調にエンジンの唸りがあがる。
 彩も後部座席に担いでいた男(こいつは和樹っていうらしい)を押し込むと、彼女も
即車に乗り込む。そして、足元においていた彼女の鞄をごそごそまさぐっていた。
「行きますよ」
「……ええ……」
 俺は即、車を発進させた。
 ものみの丘があっという間に遠ざかっていく――と思いきや、さっきの妖狐の群れが
追いかけて来るじゃねぇか。まったく、手間が掛かりやがる……。
「……厄介なことになりましたね……」
 彩は他人事みたいな言葉を吐きながらも、手にはAK−7を手にしていた。
 ――ちゃっかりしてんぜ。
「とにかく、スピードだしますけど、大丈夫ですか?」
「……大丈夫です……。でも、さっきの脱出にはびっくりしました……。
 ……さすが、脱獄王と言われるだけあります……」
「あなたこそ余計なこと言わないでください」
「……ごめんなさい……」
 彩はそう言いながら、何時の間にか開けた窓から身を乗り出して、狐どもに向けて銃弾
を浴びせていた。俺はそれ以上何も言わず、アクセルを吹かしていた。
462国崎往人:2001/02/13(火) 19:55
(尋常じゃあねえぞあの力は!)
 美汐の力を見て俺は思った。これも神奈の力の影響なのか?
 ズタズタに引き裂かれた妖弧の山が一丁あがりってやつだ。
「んじゃあ、今度は追撃戦と行こうか」
「ん? あ、ああ……」
 返事に一瞬戸惑ったのは美汐の雰囲気のせいだった。
 そこに居るのは確かに美汐の筈なのに……。
(違和感……?)
 それを考える前にあいつは現れた。
「ふん! さすがは天野だな……まあ、それくらいやってもらわないと、俺もやりがいがねえか……」
「……? あんた誰?」
「よく言うぜ。北川潤って名前に覚えがないとは言わせねーぞ!」
「……知らない」
 素で言い返す美汐に、北川と名乗った男は薄ら笑いを浮かべて見せた。
 その間に俺は美凪とみちるに目で合図を送ったおく。
「…………」
 美凪は無言で頷き、みちるは『あっかんべー』で返してくれたが、俺が言いたいことは伝わったはずだろう。
 天野が何を言おうが目の前にいる敵は巨大な妖気に包まれている。
 それも、あの鬼一族の長男・柏木耕一ともタメを張れるくらいにだ。
「まあ、いいや」
 そう歩み寄る北川と名乗るもの。
「天野がここで死ぬのは変わりないんだからな……」
 肩を落として、『やれやれ』と手でゼスチャーを作る。
 その直後に、風が駆け抜けた。
「きゃあ!」
「なに!?」
 信じられなかった。北川は何もしてはいなかった。ただ、抑えていた妖気を開放しただけだったのだから。
 目の前にいるもの、紅いオーラに包まれて、静かに宣言する。
「ハイパーモードってやつさ。明鏡止水の心……何事にも動じない強固な魂……」
 そして、自信に溢れた瞳……。
「沢渡真琴に貰った力だよ」
 1対4のはずだったのに、俺はまったく勝てる気がしなかった。
463名倉友里:2001/02/13(火) 19:58
「ふっ、あそこが奴らの拠点か……」
「そうみたいね……」
 二人の妖弧が薄ら笑いを浮かべてる。銀狼が言うには瑞希は逝ってしまったらしい。
 まあ、私たち姉妹にはどちらでもいいことだった。
 この妖弧の大群が言うことを聞くのは、上位のツインテールだけだったから。
「お姉ちゃん……」
「なに?」
「もうすぐ永遠が手に入るんだね」
「そうよ……」
 私は優しく微笑んだ。そうだ。永遠こそ私たち姉妹の求めるもの。
 だからこそ水瀬秋子に従う。永遠を手に入れるために……。
『…………』
 一匹の白色の妖弧が緒方兄妹の前に跪く。どうやら準備は整ったようだ。
 白色の妖弧は中位の眷属。今までの雑魚とは一味も二味も違う強力な妖弧だった。
 それが五千。今、やつらの拠点を取り囲んでいる。
 銀狼が口を大きく開けて奴らに叱咤した。
「真琴様の復活はなされた! 今こそ我ら一族の時代! それを阻む愚か者をこの地にねじ伏せろ!
 敵はそこにあり――全軍突撃ガンパレード・マーチ! 最後の一匹にになるまで真琴様の為に命を懸けろ!
 敵と闘って死ね! 持っている全ての妖力を駆使しろ! これは聖戦である!」
 銀狼が言い終えると、街中から次々に鬨の声が上がる。
 街中に響く『コーン! コーン!』という狐の雄叫びは異常なまでに耳に付いた。
「突撃!」
 その声が引き金となって妖弧は一挙に動き出す。
「俺たちも行くぞ!」
「分かってるわ!」
 緒方兄妹も狂喜の面(おもて)で、ある一点を目指していく。
 ここから見ても、その光景は圧巻だった。妖弧五千は雪崩の如く突き進む。
「妖弧か……最後には奴らも……」
 そう苦笑を浮かべて、私は由依に告げた。
「私たちも行くわよ」
「うん!」
 私たちの目的は真琴ではなく、秋子からの直接の命令だった。
 すなわち、それ――
「この混乱に乗じての保科智子の暗殺か……意外と簡単に終わりそうだな……」
 私の呟きに、由依は笑顔で頷いていた。
464月宮あゆ:2001/02/13(火) 20:55
「ふーん。里村さんって人を探してるんだ?」
『そうなの。でもどこにいるのか分からないの』
 ボクたちは鯛焼きを頬張りながら雪の街を歩いていた。
 在り触れたはずの商店街の様子も、今ではシャッターの閉まった店が陳列するだけだった。
 悲しみさえ沸き起こらない、寂しい光景だった。
「そうなんだ。どうしようか?」
『あのね、早く見つけないと繭ちゃんに怒られるの』
 その繭ちゃんって子が怖いのか、また目に涙を浮かべる。
 うぐぅ、なんだか人事じゃないように思えてきたよ。
「そっか。だったら……」
 そこに『どどどどどどどどーんっ!!』といった轟音が耳を貫いた。
 雪崩だろうか、ものみの丘から白いものが街を突き抜けていく。
「危ないよ」
 ボクは咄嗟に光の翼を開いて、澪ちゃんを抱いて上昇する。
 ほんの僅かな時間の差で、商店街は白く蠢くものに覆い尽くされていた。
「こ、これって!?」
『あれは妖弧なの』
 上空からは地上の様子が手にとるように分かった。
 白い妖弧の一段が街中を物凄い数と勢いで駆け抜けていくところだった。
『なにか変なの』
「え?」
『胸騒ぎがするの』
 澪ちゃんは肩を震わせていた。
 だから、ボクは……。
465椎名繭(1/2):2001/02/13(火) 21:57
 水瀬名雪……。彼女の存在が希薄に思えてならなかった。
 あの邪術士の娘。そう、それが引っ掛かる……。
 どうしてだろう? こんなにも違和感を感じるなんて……。
 千年生きてきたという水瀬秋子と、その境界線上にあるこの街……。
 物の怪の丘のある、この地に彼女が根を下ろしたのが偶然だったとは考えにくい。
 だったら、あるいは……。
「あの、七瀬さん……」
「なに?」
「名雪さんって……本当に水瀬秋子の子供なんでしょうか……?」
「え、どういう意味?」
「それは……」
 話そうとしたときに川名さんがいないことに気づく。
「あれ? 川名さんはどうしたんですか?」
「ああ、あのね……」
 七瀬さんが私に耳打ちする。なんでも生理現象がどうのこうのって……。
「トイレのことですか? だったら、そう言ってください」
「あのね、乙女はそんなはしたないこと口にはしないものよ。それに……」
 もごもごと口ごもる。
「どうしたんですか?」
「もういいわ。繭はお子様だからいいかもしれないけど……鬱だわ」
 ああ、ここは山の中だから、自分も催したとき、どうしたらいいかってことですか……。
 呑気ですね……。次の瞬間には命を無くしてるかもしれない状況なのに。
 でも、だからこそ、七瀬さんたちといて良かったとも思えます。それって意地悪でしょうか?
 だけど……。
 私はある可能性に思い至って激しい自己嫌悪に陥ってしまった。
466椎名繭(2/2):2001/02/13(火) 21:59
「探しに行きましょう!」
「え? ど、どうしたの血相変えて?」
「しくじりました」
「だから何が? 何なの? どうなったって言うのよ!?」
「白状します。私の結界は……存在を希薄にして気配を消す能力のことですけど、欠陥があるんです」
「え?」
「せいぜい一人。多くても二人。とてもじゃありませんが三人なんて大人数はカバーできません」
「それって、ここに私たちがいるのがバレバレってこと?」
「半分はそうです。でも、私は細工をして、見つからないように、カモフラージュをしていたつもりでした」
 そうなのだ。だからこそ二人には要らぬ心配を掛けないよう話さなかったのだ。
 その場から動かないこと。限定結界。範囲は狭まるが効力は格段に上がるはずだった。
「でも、それを見破れるほどの人物がいた。一人は川名さん自身の心眼と……」
「もう一つは?」
 私は息を飲んで応えた。
「……水瀬秋子の邪眼です。それしかないでしょう」
「うそ……。だって、みさきさんはトイレに行きたいって出て行っただけなのよ」
「……言ったはずですよ。永遠の存在に気づいているものなら、もうお腹が空くこともないし、
 食事をとる必要もないってことを知っています。もちろん、生理現象だって起こりません」
「じゃあ……」
「川名さんは気づいていました。だから……」
「急ぐわよ、繭!」
「はい」
 私は悔しくて舌打ちしてしまう。
 お願いです川名さん、早まらないでくださいよ……。
467スフィー 〜滅亡の前哨戦〜:2001/02/13(火) 22:35
「さて」
 俺は、後ろ手にポインターを持って、意味ありげにボードの前を往復した。
「大変です。強い妖狐が来ます。しかも五千匹。しかも実は生きていたという緒方兄妹付き。逃げるのは今からでは不可能。さて、迎え撃つしか手は無い」
 バシバシと、ボードを叩く。
「私は、パンピー君達と怪我人の皆様方を護るため結界を張ります。よって、私は戦力外です。以上を踏まえた上で、行動しやすいようにチームを二つに分けます」
 マジックペンで、どんどんボードに名前を書く。
「まず、表に出て侵攻を止めるAチーム。これは乱戦が得意な方がいいですねー。
 聖、サラ、雅史、岡田、佳乃、由宇、真紀子。以上のメンバーという事で。
 ここは、聖。あんたが指揮して」
「あいわかった」
 聖が、繋がったばかりの腕でOKサインを出す。
「そして、二箇所ある出入り口を封鎖するBチーム。電波が決め手だよ?
 祐介、香奈子、瑞穂で正面出口。はるか、なつみで裏口。だけど、窓もあるし、何より建物を破壊される可能性大だから、あまり通路封鎖にこだわらなくてOK。敵の攪乱に専念してね」
 祐介らが頷く。
「いい? 個体数の差をいかに詰めるかがポイントになるよ。こちらの数を減らさず、敵を屠る。これに尽きるはず。そして――」
 俺は、祐介をポインターで差す。
「緒方兄妹には精神操作の術がある。これを無効にできるのは最強の電波使いの祐介のみ。
 奴等が出てきたら、何としてもアンタが叩く。いいね」
「……うん。わかった」
「よぉし。じゃあ、全員用意しな!」
468スフィー 〜滅亡の前哨戦〜:2001/02/13(火) 22:37
(……問題は)
 俺は、封印結界の魔法を行使するための呪文をそらんじながら考えていた。
(二匹のネズミだ。あのおちこぼれの不可視ヤローども。智子は手が出せないし、どうするか……あのゴミ箱を壊されれば終わりだしな)
 印を切る。
(待てよ……そうか。なら、奴等も……智子がいる異次元空間に送りこんじゃえ。それなら智子も戦える)
 最後の集中。魔力を周囲に散りばめ、結界を形作る柱を生み出す。
(……けっこう乱暴な手だけど、さしもの俺もこの魔法を維持してる間は手が出せないしな。智子なら、何とか片付けてくれるはず)
外から、鬨の声が聞こえる。始まったようだ……
「絶対不可侵領域、形成!」
 俺は、魔力を床に叩きつけた。
 音も無く波紋が広がり、薄い膜のような力場が柱を基点に張られる。
「さてと……」
 俺は、縮んだ身体からずり落ちる服を押さえ、座り込んだ。
「頼むぜ、皆さん方」
「……なんとか……追手を巻いたみたいですね……」
 彩が背後をうかがいながらほっと胸をなで下ろしていた。
「でも、まだ油断はできません、くっ!!」
 俺は咄嗟に急ブレーキを踏んだ。

 キィィィィ!!

 車輪が悲鳴を上げていた。
 スピードは多少落ちるものの、路面が凍結しているために車はやや斜めになったまま、
なおも進み――ていうか滑りつづけていた。
「くそったれ!!」
 俺は下手にハンドルを動かさずに、ブレーキを懸命に踏みつづけていた。

 キィィィ……。

 やがて……悲鳴を落としながら……車は止まった……。
 運よく――俺にブレーキを踏ませた原因のほんのわずかな手前で止まった。

「……何があったのですか……!?」
 急ブレーキの衝撃で彩が額に手を当てながら、俺の方を睨み付けてくる。
 声にもわずかながら怒気が含まれていた。
 どうやら、前の座席に頭をぶつけてしまったらしい。
 そんな彩の膝の上には和樹が倒れ込んでいた。
 瑞希も危うくダッシュボードに頭をぶつけそうになったものの、シートベルトを付けてい
たために、損傷は免れたといった様子だ。
 そーいや、怪我人がいたことをすっかり失念しちまってたな……。だが……。

「あれを見て下さい」
 俺は目の前の「原因」――二つの人影を指差した。
 行く手を遮るかのように、この「原因」が横切ろうとしたのが目に入ってしまっての事だ。
「……よく気付きましたね……でも、こんなところで交通安全もへったくれもないです……」
 彩はため息を吐きながら、目の前の二人――青い髪の女を背負った、すみれ色の髪の女を
じっと見詰めていた。