■SS投稿スレcheese2

このエントリーをはてなブックマークに追加
1SSルート5
SS書きたい人、読みたい人はこちらでどうぞ。
読んだら一言感想書き込むと作者の筆も滑らかになるよ。
もちろん無言も感想のうちだけど(;´Д`)

前スレ
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=971692127

mio_2ch氏による回収サイト(thx!)
http://members.tripod.co.jp/mio_2ch/

参考 >>2 投稿のしかたの一例
2SSルート5:2000/11/30(木) 00:29
投稿のしかたの一例

1.テキストエディタ等でSSを書く。
2.書いたSSを30行程度で何分割かしてひとつずつsageで書き込む。
 名前の欄にタイトルを入れておくとスマート。
3.全部書き込んだら9つ短い書き込みをsageでして回す。
4.回ったら名前の欄に作者名を書きタイトルを記入して自分が
 アップしたところをリダイレクトする。>>1-2みたいな感じ。
3『ミマえもん』:2000/12/01(金) 02:35
●おもな登場人物●

【ミマえもん】
2112年1月29日生まれのウサギ型ロボット。まいを助けるために未来からやってきた。
かつて耳をかじられた経験から、キツネが大の苦手。牛丼が大好物。
四次元胃袋から秘密道具を出す。
(ざくっ・・・ずび、びっ・・・ぶちゃっ!)
「(ごふっ)・・・『消化器』〜・・・」
「もっと、ふつうに出してほしいなあ・・・」

【まい】
本名は川澄舞。小学4年生。勉強もスポーツも苦手ないじめられっ子。
遅刻と宿題忘れが多く、昼寝好きだが、しりとり、剣道は一流。
弱気な怠け者だが憎めない性格。
のち、シオリ子とコンビを組んで同人作家となるが、失敗して多額の
借金を作ってしまう。そのため、歴史を改変するためにミマえもんが派遣された。
「ミマえも〜ん、徹夜しても眠くならないひみつ道具を出してよ〜」
「・・・『ねむらなくてもつかれないくすり』〜」
「わー、そのまんま」

【まこと】
本名は沢渡真琴。まいとは幼なじみで同級生。
ふまじめでやさしくないがかわいいところもある。
マンガも紙飛行機作りも得意。
大好きなのはおふろと肉まん。よく覗かれたり食べられたりする。
「あぅ〜っ・・・うちのピロが死んじゃったのよう・・・」
「かわいそうっ。ミマえもん、助けてあげようよっ」
「・・・『瓶詰めの天使の人形』〜」
「いや、それはちょっと」

【ナユキ】
本名は水瀬名雪。つよいシォリャンの腰巾着で、まいにはよくいじ悪をする。嫉妬魔。
好かれないタイプだが料理やダッシュはうまい。
「ごめんね〜、うちの空き部屋はふたつしかないから、まいは泊められないんだよっ」
「うわ〜んっ、ミマえも〜んっ」
4『ミマえもん』:2000/12/01(金) 02:37
【シォリャン】
本名は美坂香里。乱暴なガキ大将だった。
野球チーム・シォリャンズのエースとして活躍した。
歌うのが大好きだったがタイヘンな悪声で、みんなが迷惑していた。
妹思いのいい奴だった。
ちなみにあだ名の由来は「栞の姉ちゃん」から来ているともっぱらの噂。
「あたしのものは栞のもの、栞のものは栞のものよ・・・」
「シォリズム、恐るべし・・・」

【シオリ子】
本名は美坂栞。シォリャンの妹。マンガ家志望で、ペンネームはクリスチーネ美坂。
ジャンルは言うに及ばずボーイズラブ。それもフケ専。
未来においてまいの相方となるが、時宜を逸した作品を連発し、
大量の在庫を抱える羽目になる。
「捌けないから、在庫って言うんですよ・・・」
「身に沁みるセリフだね・・・」

【ミマミ】
ミマえもんの妹ロボット。姉機と同型ではあるが、
『天然回路』『明朗回路』『名前一人称回路』などを搭載していることで、
処理速度・家柄・人気・・・など、すべての面でミマえもんを凌駕している。
負けているのは、スリーサイズと男運くらいなものであろう。
「あははーっ、ミマえも〜ん、健康診断ですよーっ」
「嫌・・・あっ・・・あ、くっ・・・!!」(しっぽを引っ張られて活動停止)
「あははーっ、ミマミの1万馬力をなめちゃダメですよーっ」
(・・・1万馬力!?)

【ウグゥスギ】
本名・月宮あゆ。つねひごろからうぐぅうぐぅと言っているがゆえに
このようなあだ名で呼ばれる。他に特筆すべきことは何もない。
「うぐぅ・・・ひどい・・・」
5名無しさんだよもん:2000/12/01(金) 02:41
『ミマえもん』
>>3-4
・・・って、回すほどのネタではありませんね。
6名無しさんだよもん:2000/12/01(金) 20:41
>>5
うーん……
この設定で一本書いてあぷしてみてくれ。
7名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:15
あげ
8名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:16
るま
9名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:17
えに
10名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:17
まわ
11名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:19
そう
12名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:21
13名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:21
14名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:22
15名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:23
あげ
16名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 20:46
みんなクリスマスSS書くのに忙しいのかな?
17名無しさんだよもん:2000/12/02(土) 21:30
これくらいの長さなら、別に回す必要はないと思うよ。
4〜5回分以上の長さなら、回したほうがいいけど。
18名無しさんだよもん:2000/12/03(日) 03:22
agega
 ミマミマドクターKこと川澄舞、本日は助手(といってもただ遊びに来てただけ)の相沢祐一をともなって、
 市中に出張診断という寸法ではございます。
「つってもなあ。べつに往診に行くんじゃないんだし。どうやって患者を探すんだよ?」
「医者は、足で稼ぐ・・・」
「それを言うなら記者だろーが・・・」
「犬さんも歩けば、棒に当たる」
「そういうのは、行き当たりばったりと言わないか・・・?」
「・・・祐一は文句が多い」
「文句というよりまっとうなコメントなんだけどな〜」
 などと言い交わしながら道端を歩いておりますと、ふいに川澄舞が足を止めます。
「ん? どうした・・・」
 と言いさして、相沢祐一、見慣れた顔に気づきます。
「あれ・・・真琴じゃないか。どうしたんだよ?」
「あ、あぅ・・・」
 見れば、因縁浅からぬ少女・沢渡真琴が、道端にへたり込んでおります。
「ちょっと・・・気分が悪いのよぅっ・・・」
「なんだ、貧血か? それともつわりか?」
「違うわよぅっ・・・たぶん、さっき、妙な中華まん食べたから・・・」
「あー、この時期には妙なのがいっぱい出てるよな〜。いったい何を食ったんだ?」
「『ハムまん』」
「ああ、ロースハムでも入ってるのか?」
「あうぅ・・・わかんない・・・道ばたで、ゴザしいて売ってたから・・・」
「そんなあやしげなとこで食い物買うなよ・・・」
「だ、だって・・・安かったのようっ・・・あぅ〜・・・」
 沢渡真琴、食い意地をはった自業自得か、脂汗をびっしょり浮かべ、たいそう苦しそうな按配です。
「う〜ん、しょうがないな。舞、助けてやれよ」
「・・・わかった」
 これまでずっと黙っていた川澄舞、つ、と沢渡真琴に歩み寄りますと、ふいにガバチョと押し倒します。
「あぅっ・・・!?」
「・・・動かないで」
 そのまま沢渡真琴の上着をめくりあげ、お腹をあらわにいたします。
 川澄舞、ぐわんと正の拳を振り上げますと、
「・・・せぃっ!!」
 どぼぐおっ!!

 とばかりに、ヘソのあたりを痛打いたします。
「あぁっうぅっふぅっ!?」
 沢渡真琴、肺じゅうの空気をしぼり出されたかのようにすっとんきょうな声をあげます。
 そのままゆっくりと身を起こす川澄舞に、相沢祐一おずおずと、
「おい・・・大丈夫なのかよ?」
「・・・もう、『治療』は完了したから」
「ホントかあ? なんか、真琴の様子がヘンなんだけど・・・」
「う、う・・・なんだか・・・お腹・・・お腹が・・・」
 上体を起こした沢渡真琴、ふいに「ごばっ」とねばっこい液を吐き出します。
「まっ、真琴っ?!」
「あっ・・・あうぅううっ・・・あぅげうええええっ!!」

 ごぶばちゅううっ!!

 沢渡真琴、いっぺんに大量の吐瀉物をば地面にぶちまけます。
 見れば、そこから小さな生き物が這い出てくるではありませんか。
「・・・ネズミッ!? ・・・いや・・・これは・・・」
「・・・ハムさん」
 川澄舞はしゃがみこみ、2匹のハムスターを手に取り、撫でなでいたします。
「ハムさん・・・かわいい・・・」
「・・・ひょっとして、『治療した』ってのは・・・」
 相沢祐一、いまだあぅげーあぅげーとうめいている真琴とハムスターたちを見比べ、唖然呆然でございます。
「ナイスカップル・・・」
「・・・つがいっ!?」
「ハムくんとスターさん・・・かわいい・・・」
「・・・しかも命名済みっ?!」

患者名:沢渡真琴
診療代:ハムスター2匹
21名無しさんだよもん:2000/12/03(日) 04:47
『ミマミマドクターKの優雅な昼下がり』(その2)
>>19-20
その1は↓にて。
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=971692127&st=676&to=676&nofirst=true
22名無しさんだよもん:2000/12/03(日) 05:02
>>21
面白いっす。最後の二行が実にいいですね。
続きに期待しております。
23名無しさんだよもん:2000/12/04(月) 12:21
>>21
なかなかの荒療治だな(w
栞編に期待。
24名無しさんだよもん@厨房:2000/12/04(月) 22:18
>>21
さすが無免許医師。
BJ並みの大活躍ですな(笑
あと真琴のセリフがエロくて良い。
<<「あっ・・・あうぅううっ・・・あぅげうええええっ!!」
萌え(駄目?)
次回も期待。
25贖罪:2000/12/05(火) 00:32
 俺がこの世界に帰って来てはや半年。
 長森との恋人関係は順調に続いていた。
 一時はこの『恋人』という言葉に翻弄されて、関係が滅茶苦茶になった時期もあったが
それも奇跡的に回避され今の関係がある。
 全くもってこいつと俺との出会いは何だったのかと思わず考えて見る。
「う〜ん…」
 そう唸りながら俺は長森の顔をマジマジと見る。
 バランスの取れた瞳。バランスの取れた眉。バランスの取れた鼻。バランスの取れた
口…。
 それでもって勉強はそこそこ、運動もそこそこ…。
 何とバランスの取れたヤツなんだと俺は強く頷く。
「…ん?どうしたの浩平。わたしの顔に何か付いてる?」
「よし、これからのお前のあだ名は『バランサー』に決定だ」
「…え?」
 長森がキョトンとした顔で俺の方を見る。
 しかしながら俺に対してそんな疑問符を顔に貼り付けたような顔をされても困る。
 俺自身、自分で何を言っているのか解らないからだ。
 だから、俺はこう返す。
26贖罪:2000/12/05(火) 00:32
「何だよ『バランサー』って?訳解んねー」
「はぁ…っ。またまた何を言ってるんだか…」
 いつもの溜息。そうやって俺のボケに果敢に挑んでくる長森。
 結局、こういう事を言い合っている時が一番楽しいのだと痛感する。
 こいつとの出会い。こいつとの関係はこの瞬間の為に存在するのだと。
「あれ、浩平笑ってない?何かあったの?」
 長森が不思議そうな表情を浮かべながらそう返す。
「いや、お前って可愛いよなって思って」
 そう本音をズバッと言う俺。だが長森はそんな俺の言葉に対して飄々と。
「そんな事言っても何も出ないよ〜♪」
 と、かすかに頬を染めながら、切り返してくる。
「馬鹿、俺が言ってるのはそう言う事じゃなくてなあ…」
 夏の熱気が完全に消え去り、カラっとした太陽が覗く秋晴れの中。
 俺と長森は手を繋ぎながら、それぞれの想いを語る。
 徐々に深まって行く秋を俺達の関係と重ね合わせながら。
27贖罪:2000/12/05(火) 00:33
「じゃあ、ちょっとコーヒー持ってくるね」
「おう」
 そして俺は久しぶりに長森の家にお邪魔する。
 名目は受験勉強。
 一年間も存在が掻き消えていた俺は当然ながら留年。
 しかも今年は大学受験。
 一足お先に某二流大学に合格してしまった長森を追いかけるように俺も其処を受験する事になったのだ。
「とは言え今から間に合うかどうか…」
 そう一人で呟きながら、俺は久方ぶりにお邪魔した長森の部屋をしげしげと眺める。
 小学生の時はよく遊びに来て、長森の好きな猫のぬいぐるみにジャーマンスープレッ
クスを掛けたりして良く怒られたものだが、さすがにこの年齢となった今ではそんな野
暮な事はしない。
 せいぜい長渕キックを決めるくらいだろう。
(…あんま変わらんか)
 そう心の中で自問自答しながら、部屋にあふれるたくさんのぬいぐるみを見渡す。
 ネコを筆頭にイヌやらクマやらネズミやらがところ狭しと並んでいる。
 正に野獣の王国だ。
 この状況をほおっておくような俺ではない。
 長森がいない間に動物達の本能に任せた血沸き肉踊る戦いの場面をジオラマ風に演出し
てあいつをアッと驚かせてやろう。
 俺はその光景を想像してみる。
28贖罪:2000/12/05(火) 00:34
「浩平〜コーヒー持ってきたよー」
「お、やっと来たな長森、どうだこの終わりなき戦いの一場面は?ハリウッド映画も真っ
青だぞ」
「わ〜格好いい。こんなぬいぐるみの使い方わたし知らなかったなあ、特にこのネコ
がネズミを丸かじりしているところなんて最高だね♪」
「はっはっは、そうだろう。更に演出に凝る為に机の引出しにあった赤インクを大量に
撒き散らしてみたんだ。どうだこの俺の演出技法は?」
「うん。浩平にこんな才能があるなんて思わなかったよ。わたしもうびっくり」
「はっはっは」
29贖罪:2000/12/05(火) 00:34
うむ、会話の入りとしては最高だな。
 俺は早速実行に移す為にぬいぐるみを物色しだす。
 と、その最中見覚えのある物体が目に付く。
「…これは?」
 そのぬいぐるみを手に取り、俺は何とも言えない気持ちで眺める。
 馬鹿でかい耳をつけたピンク色の物体。
 俺が初めて買ったぬいぐるみ。
 そして長森への初めてのプレゼント。
「そうか…俺のいない間はお前が代わりを務めてくれていたんだよな…」
 バニ山バニ夫。
 それがこのぬいぐるみの正式名称。
 俺の付けた正式名称。
 俺は電池が切れていないのを確認しながら、おもむろにバニ夫の背中にあるスイッチ
を押してみる。
「うっす、おれ、バニ山バニ夫!」
 バニ夫の口から懐かしい声が響き渡る。
 いや、正しくは懐かしい記憶との邂逅を果たすと言うべきか?
 俺はバニ夫を手でしっかり握り、その先の言葉に耳を傾ける。
「元気なくてもそいつには元気のいい笑顔を見せてやってくれ!」
 そして思う。
 俺は何て勝手な事を言っているのだろうと。
 何て我侭を長森に押し付けてしまっていたのだろうと。
 俺はジオラマの事などすっかり忘れて、バニ夫の言葉に聞き入る。
30贖罪:2000/12/05(火) 00:35
「引きつりそうな限界の笑顔で、笑ってろよな!」
 バニ夫の言葉が佳境に差し掛かる。
 自分の声を改めて聞くというのは、何とも奇妙な気分である。
 まるでもう一人の自分がこいつに乗り移ってしまったのではないか?
 と、そんな妄想を抱かせてしまう。
「以上、バニ山バニ夫が贈る、叱咤激励の言葉でした!さらばぴょん!」
 そしてテープはそこで終わる。
 時間にして約十秒。いざ聞いてしまうとわずかな時間だ。
 だが、俺はその短い間に様々な事を考え募らせる。
 俺のいなかった一年間。
 その間にあいつはどんな気持ちで、どんな日常を送っていたのだろうか?
 こんなふざけた約束を守ってくれていたのだろうか?
 だが、それは愚かな疑念である事に気付く。
 そう、守らない訳がないのだ。
 何故か?それは長森だから。
 長森だからこそこんな馬鹿馬鹿しい約束を守ってしまうのだろう。
31贖罪:2000/12/05(火) 00:36
(大切にしてやらないとな…)
 俺は心の中でそう強く決意する。その時。
「…アンタにその資格はないよ」
「!?」
 耳の中に響く何者かの声。
 俺はその冷たい呟き声に背筋を凍らせる。
 一体今の声は誰か?誰だったのか?
 俺は戦々恐々とした面持ちで部屋の中をぐるりと見回す。
 だが、当然の事ながらこの部屋にいるのは俺一人。
 俺以外の声など聞こえる余地があるはずがない。
 そんな事はランドセルも持っていない幼稚園児だって解るはずだ。
「…気のせいかな」
 俺がホッとした面持ちでベッドに腰掛けた瞬間にドアが開く。
「おまたせー」
 その向こうから満面の笑顔を称えた長森がお盆を持って姿を覗かせる。
 俺はその笑顔を見つめながら、一生守ってやりたいと心の底から思う。
 この笑顔。この瞬間を。
32贖罪:2000/12/05(火) 00:40
「…でね、ここの式をこういう風に代入して」
「…う〜む」
 そして俺と長森は勉強を開始する。
 最初こそ順調に進んでいたが、三十分経過した現在、俺の顔はすっかりハニワ顔である。
 困った、難しい。
 元から勉強など殆どやらないだけに、こうきっちし向かい合うといかに自分が馬鹿であるかが良く解る。
「むむむ…」
 俺はうんうん唸りながら、問題を先に進める。
「あれ?浩平、その問題はまだ解けてないよ」
 だがその俺の動きに素早いチェックを入れる長森。
「いや、もう解った。だが余りにも高度な解き方だった為にここで説明出来ないだけだ。
と言う訳で心配するな長森」
「はあっ…。そんな馬鹿な事言ってるから心配しちゃうんだよ」
 そしていつもの溜め息。
 ゆるやかな空気が俺達を包み込む。
 目の前の長森は俺に解き方を教える為に必死こいて公式を書き込んでいる。
 平和な日常。平和な関係。
 俺はこんな関係が一生続けばいいと心の底から願う。
「…そんな事はさせないぜ」
「!?」
 だがその直後、またもや先程の声が耳を貫く。
 俺はちょっとした恐怖を感じ取りながら周囲を見渡す。
 だが、当然の事ながらこの部屋には俺と長森以外誰も居やしない。
33贖罪:2000/12/05(火) 00:41
「…浩平どうしたの?」
 そうやってキョロキョロしていると長森が不思議そうな表情で俺に話し掛けてくる。
「いや…ちょっとな」
 俺はとりあえず話をはぐらかす。
 先程の声が実際のモノだとしたら、長森の耳にも届いているはずだ。
 だが、長森は何事もなかったようにノートに計算式を書き込んでいた。
 つまり長森の耳には何も届いていなかったと言う事だ。
(…疲れてるのかな?)
 とりあえず俺はそう納得して勉強の続きを始める。
 実際声の主が何処にもいない以上、俺の幻聴であると考えるのが一番自然に思えた。
 それが思考の逃避だとしてもだ。
 カリカリカリカリ…。
 部屋の中にシャープペンシルの書き込む音だけが響き渡る。
 俺も先程の件を忘れて真面目に勉強に打ち込む。
 正しくは無視したかったからなのかも知れないが…。
「…で、この公式を覚えていれば、こういう問題にも応用出来るから…」
「ふんふん」
 まったりとした空気が漂う中、俺と長森は懸命に勉強にいそしむ。
 その最中、俺はとあるモノに視線がいく。
 長森の胸。
 俺にいろいろ教える為に上半身をくるくる回転させる長森の胸がわずかに揺れてしまう
のが先程から気になってしょうがない。
 俺は問題を横に置いてその光景を凝視してみる。
34贖罪:2000/12/05(火) 00:41
「…でね浩平、この数字を左辺に代入すれば右辺の数字が出てくるでしょう?」
「ふむふむ」
「そうすれば右辺と左辺のどちらが大きいか弾き出されるって訳」
「なるほど…右と左のどちらが大きいか解る訳だな?」
「そう。で、この場合は右辺の方が数字が大きいから…」
「右の方がでかいのか?俺には同じ大きさに見えるけどな…」
「そんな事ないよ。ほら、答えが出たでしょ?右辺が90で左辺が86…」
「何と四センチも差が…!?俺とした事が迂闊にも気付かなかった…」
「まあまあ…でもそれだけ解れば大したもんだよ」
「う〜む、でも実際に触ってみた時もそんな差は感じしなかったけどな…。大体胸の大
きさって普通左右均等じゃないのか?」
「…はい?」
 そう言って長森がようやく俺の視線に気付く。
 その先にある、自分の胸に。
「きゃあッ!」
 そう小さく叫びながら左右の手で胸を隠しながら縮こまる。
 そしてこちらの方を恨みがましい目で見つめてくる。
「浩平の馬鹿っ!何処見てるんだよ〜」
「いや、何となく…。目の保養」
「わたしの胸なんか見ても目の保養になんかならないよっ!」
 またまた素っ頓狂な事を言い出す。
「いや、十分目の保養になったぞ。栄養満点だ」
「はぅ〜〜〜〜〜っ」
 真っ赤になりながらそう呟く長森を見ていると、俺の中でスケベ心がむくむくと湧き上
がって来るのが解る。
35贖罪:2000/12/05(火) 00:42
「長森!」
 そして俺はそう叫びながら長森の身体に抱き付く。
「こ…浩平!?」
 長森が慌てた表情で俺にそう答える。
 ふかふかの身体。女の子らしい良い匂い。
 俺は全力でその心地よい感触を思う存分堪能する。
「…ちょっと、浩平…。駄目だよ…。今日は勉強するだけだって…」
「これも勉強のうちさ。だろ?」
 俺は照れまくる長森に対してそう優しく答える。
 そんな俺の表情を見て、長森もようやく観念する。
「…もう、浩平の馬鹿…」
 そう言いながら徐々に力を抜いていく長森。
 俺は真っ赤になっている長森の顔をこちらに向け、自分の口を寄せる。
 長森も俺のそんな動きに気付いたのか、瞼を静かに閉じる。
 少しずつ近づいていく二つの唇。その時。
36贖罪:2000/12/05(火) 00:43
「…アンタなんかに瑞佳は渡さないぜ」

 頭の中を駆け抜ける熱く烈しい声。
 それはまるで槍のような衝撃を伴って俺の精神を完璧に射抜く。
 これは先程の声。
 『自分』という存在を否定する悪意に満ちた声。
 そして俺は急速に確信する。
 これは幻聴ではない事を。何者か解らない第三者の声である事を。
(…ぐッ!)
 そして俺は奇妙な感覚を味わう。
 身体が引き剥がされる感触。
 蝉が羽化するようにさなぎの中から自分という存在が引き剥がされるような感触。
 一体誰が?何の為に?
 俺は急速に遠ざかって行く『自分』を真正面に見据えながら必死にその存在を確認しよ
うとする。
 だが出来ない。
 まるで何者かに首が固定されているように、俺は正面の『自分』が遠ざかって行く光景
をまざまざと見せられる。
 そして入れ違いに俺を通りぬける何者かの影。
 その黒く怪しい姿を見た瞬間。
 ドスンッ!
 俺の意識は背後の『何か』に直撃し、そのまま意識を失う。
 頬を真っ赤に染めた瑞佳の顔を胸に抱きながら…。
37贖罪:2000/12/05(火) 00:43
闇。
 闇の中にいる。
 ここは何処だ?
 俺はどうしてしまったのだ?
 どうやら意識はある。
 これといって痛い所もない。
 俺はそう心の中で呟いた後、両手を動かして現状を確かめようとする。
(!?)
 だがそこで奇妙な事に気付く。
 手が動かない。
 というか『手』そのものがない。
 いや、実際の感覚はもっと面妖だ。
 『手』はあるのだが俺のいつも見慣れている『手』ではないというのが正解だ。
 そしてそれは『足』についても言える。
 両手、両足ともピンク色のフサフサしたものに変わり果てている。
 これは何処かで見たモノ。懐かしい記憶の邂逅を果たすモノ。
 そして視界が徐々にはっきりしてくる。
 ぼやけた視界が鮮明になるにつれ、俺は長森の事が心配になってくる。
 何せキスをしようとした直後に俺がこんな事になってしまったのだ。
 さぞや残念がっているに違いない。
 …いや、そういう問題でもないか。
 そして視界が完璧にクリアになった瞬間、俺は奇妙なモノを見る。
 誰かが頭を掻きながら、長森の介抱に応えているのだ。
38贖罪:2000/12/05(火) 00:44
 はて?
 あれは誰だ?
 だって俺はここにいるんだぞ。
 俺がここにいるのだとしたらあの人物は折原浩平の訳がないのだ。
 だって俺なのだから。
 折原浩平は俺なのだから。
 そしてその映像を更に見ていると、長森が心配そうな顔をして部屋から出て行くのが見てとれる。
 お〜い長森、何処に行くんだ〜。
 俺はここだぞ〜。
 そして長森が出て行った部屋の中にはただ一人の人物が鎮座している。
 その人物はまるでわが世の春を謳歌するように手足を伸ばし鼻歌を歌っている。
 そして『奴』が振り返る。
 口の端を歪めながら。
 こちらを嘲笑う表情を浮かべながら。
 そして俺は見る。
 その顔を。その姿を。
 その人物は紛れもない。
 『折原浩平』その人だった。
39贖罪:2000/12/05(火) 00:45
 俺の背筋に今まで体験した事のない冷や汗が流れる。
 いや、正確には冷や汗どころではない。
 言い知れぬ悪寒。とてつもない恐怖。
 今の俺は野獣の群れに放り出された、野ウサギそのものだった。
(…うさぎ?)
 我ながら妙にフィットする感覚を覚えつつ、『折原浩平』が近づいて来る。
 恐るべき巨体を揺らしながら、自分の方に近づいて来る。
(う…うわああああああああッ!)
 と、大声を出そうとするが部屋には全く響かない。
 どうやら今の自分に出来る事はこの映像を見る事だけで、他には全く何も出来ないとい
う事に気付く。
 そして自分の身体を掴む『折原浩平』。俺はどうする事も出来ないこの身体を抱えながら自分の死を覚悟する。
 だが、『折原浩平』から漏れた一言は意外なモノだった。
「…よう『折原浩平』」
 俺はその言葉を聞いて、一瞬思考が停止する。
 折原浩平……?俺の事か?
 やはり俺は折原浩平なのか?
 そう一人で戸惑っている俺に向かって目の前の『折原浩平』は語り出す。
「いや、違うな…。今のお前は『バニ山バニ夫』。そしてこの俺が『折原浩平』…。ま
だ慣れていないもので間違えてしまったようだ…。ククッ…!」
 俺はその発言を聞いてハンマーで頭を叩かれたようなショックを受ける。
40贖罪:2000/12/05(火) 00:46
(…バニ山…バニ夫だって!?)
 そして改めて自分に問う今の現状。
 手足はピンク色のふさふさした物になれ果て、口も全く聞けない。
 もちろん身体を動かすなんてもってのほか。
 こんな…こんな事が起こり得るというのか?こんな…こんな御伽噺のような事が!?
 そんな俺を見透かしたように、目の前の男は更に話を続ける。
「…驚いたか?そりゃあ驚くだろうな。だがな、こんな非現実な事だって起こり得ると
いうのはアンタなら理解出来るんじゃないのか?だってそうだろ。アンタなんて一年間
も存在が掻き消えていたんだぜ。これが非現実と言わないで何と言うんだ?」
 そう嘲笑気味な表情を浮かべながら男はそう語る。
 悔しいが確かに男の言う通りかも知れない。
 今のこの事態と俺が『永遠の世界』に旅立った事にどれほどの差異があろうか?
 俺には全く解らなかった。
「そしてアンタは悲しませた。彼女を。あんたを好きでいる長森瑞佳を。それがどれほど
悲しそうだったか。それがどれほど苦しそうだったか。『現場』にいなかったアンタに
は知る由もないだろう。だが俺は見ていた。彼女の辛そうな表情をずっと見ていた。ア
ンタ知らないだろう?彼女自殺までしようとしたんだぜ?だが直前で『俺の声』を聞い
て踏みとどまったんだ。解るか?今のアンタの幸せは俺がいるからなんだぜ。俺がいた
から彼女はこの世界に踏み止まれたんだ。解ったか?解ってるのか?」
 俺は更なる衝撃の事実を男から聞かされる。
 自殺だって?自殺を考えていただって、あの長森が?
 俺の意識は急速に闇に囚われて行く。
41贖罪:2000/12/05(火) 00:47
「そして俺が生まれた。何故、何の為に生まれたのかは解らないが、俺という存在が生ま
れてしまった。だが…かと言って何も事情は変わらない。俺はただ彼女の悲しみを目の
当たりにするだけ。俺は恨んだよ。こんな、これほどの悲しみを与えてしまった男を。折
原浩平という男を」
 そして男は烈しい憎悪をたぎらせながらこちらを見据える。
 それは敵を見る目。
 長く探し求めていた仇を見る目。
「…そしてアンタは帰って来た。そしてそれに伴って彼女は本当の笑顔を取り戻した。
俺の初めて見る笑顔だった。だが、だがな。だからといってアンタが凄いって訳じゃない
。アンタは『当たり前』の事をしただけだ。だが、アンタは気付かない。自分の犯した
罪に気付かない。そして彼女もアンタの事を責めはしない。辛くて自殺未遂にまで追い込まれた彼女自身がお前を許してしまう。おかしいだろ?おかしいとは思わないか?だから…」
 そして男が息を止める。
 それに伴い部屋中の空気も一瞬その動きを止める。
 呼応するように。
 男の気迫に操られる様に。
「俺が罰を下す。彼女を幸せにするのは俺だ」
 そうして男は俺に対してそう語る。
 暗く、ひどく淀んだ声を駆使して。
 それは俺の声。いや、俺の声だったもの。
 その挑戦的な言葉を反芻しながら俺は自ら犯した『罪』の事をひたすら考えていた…。
42贖罪:2000/12/05(火) 00:47
 長森が冷えたタオルを持って部屋に帰って来ていた。
 俺はその光景をまるで心のないビデオカメラのような感覚で見つめている。
 長森の笑顔、長森の仕草、長森の言葉…。
 ちょっと前まで自分に向けられていたものが、今では遥か遠い宝物のようになってし
まった。
 そして俺に代わってその宝物を独占する男が一人。
 『バニ山バニ夫』。
 俺が付けた名前。
 だが、いつしかヤツは己の心を持ち、俺への制裁を待ち侘びていたというのか?
 今日という日を。その瞬間を。
 そしてヤツは笑っている。
 長森の言葉を吸収するように、まるで水を注いだ樹木のように活力に満ち溢れたあいつが最高の笑顔を見せる。
 そしてその笑顔に応えるように更なる笑顔を長森が返す。
 笑顔と笑顔が織り成すハーモニー。
 まるでこの世の幸せを一身に背負ったかのような様相をこの部屋は映し出す。
 だが、そこに俺はいない。
 その幸せの渦中に俺は存在しない。
 だって俺はぬいぐるみだから。
 じっとその状況を見つめる事しか出来ないただのぬいぐるみだから。
 ふと気付いた時、ヤツが俺の方を振り向き何事かを喋っている。
 その言葉に長森が慌てつつも、照れた表情を浮かべながらヤツの行動に応える。
 一体何を話しているのか?何をやろうとしているのか?
 そしてヤツは俺を掴み上げる。
 その表情は愉悦。俺を嘲笑する悪魔の悦楽。
43贖罪:2000/12/05(火) 00:48
「なっつかしいな〜。俺、一体どんな声入れたっけ?」
 そんなすっとぼけた事を言いながら、ヤツは俺の背中にあるスイッチを入れる。
 だがその瞬間、俺は自分の口が開放される感覚を覚える。
 これはチャンスだ。
 今なら喋れる。
 今なら長森に本当の自分がここに居る事を伝えられる。
 バニ夫の馬鹿め、調子に乗り過ぎて油断したな。
 俺はそう思いながら全力で長森に助けを請う言葉を叫ぶ。
「うっす、おれ、バニ山バニ夫!」
 …あれ?
「よぉ、どうした、長森、元気ないねぇっ!」
「いいか、長森!」
「おまえのそばに、とんでもなく鈍感で頭の悪い男がいるだろう!」
 これは何だ?
 俺は何を喋っているんだ?
「ときにはお前を罵倒したり、なじったりするかもしれない!」
「でもな、許してやってくれ!」
「我慢して、そばにいてやってくれ!」
 違う。
 俺が喋りたいのはそんな事じゃない。
 俺が求めているのはこんな言葉じゃない。
44贖罪:2000/12/05(火) 00:49
「どんなことをしたってな、そいつはおまえのことが好きなんだから!」
「だからな、長森!」
「元気なくてもそいつには元気のいい笑顔を見せてやってくれ!」
 俺は全身の力を込めて、無理やり紡ぎ出される言葉に抗おうとする。
 だが、出来ない。
 まるで別の誰かに操られるが如く俺の口は『バニ山バニ夫』の言葉を弾き出さざる負え
ない。
「そうすれば、バカだから、そいつは幸せでいられるんだ!」
「な、頼むぜ!」
「そしてっ!」
「そして、そのバカがいないときでも笑っていろよな、長森!」
 その俺が喋る声を聞きながら、ヤツは口の端を歪めながら至福の表情に浸っている。
 長森も照れ笑いを浮かべながらヤツの方をずっと見入っている。
 違う。
 違うんだ、長森。
 ヤツは『俺』じゃないんだ。
 本当の『折原浩平』はここにいるんだ。
 だが俺の心は届かない。
 何故か?
 何故なのか?
45贖罪:2000/12/05(火) 00:50
「引きつりそうな限界の笑顔で、笑ってろよな!」
「じゃないと、あいつが戻ってきたときに、寂しい思いをするからな!」
「以上、バニ山バニ夫が贈る、叱咤激励の言葉でした!」
「さらばぴょん!」
 そして最後の言葉を紡ぎ出した瞬間、俺は悟る。
 そうか。
 そうなんだ。
 俺は『バニ山バニ夫』なんだ。
 だから届かないんだ。
 だから俺の声は長森には伝わらないんだ。
 だって俺はぬいぐるみだから。
 ただその光景を見る事しか出来ないぬいぐるみだから。
 愛する人をただ励ます為だけに存在するぬいぐるみだから。
 そして折原浩平は一日の勉強を終え、帰っていく。
 その後ろ姿を見ながら、俺は今日一日の事を改めて振り返る。
 だが、余りにも多くの事が起こりすぎた為か俺は早々と疲れて眠ってしまう。
 ぬいぐるみにも寝る時間があるんだなと言う事を俺は初めて知った。
46贖罪:2000/12/05(火) 00:51
 そして俺はこの日から『バニ山バニ夫』としての生活を送る事になった。
 それは同時に長森のプライベートを覗き見る事と同義だった。
 朝、規則正しい時間に起床する長森。
 パジャマを脱ぎ捨て、楽しそうに服を選んだ後、私服に着替える長森。
 たわわに実った胸も、ショーツに包まれた可愛いお尻もみな丸見えだ。
 そして鏡に向かって化粧をした後、部屋を出て行く長森。
 今日はやけに念入りに化粧をしていたな。
 もしかしてヤツに会うのかもしれない。
 長森の恋人、『折原浩平』に。
 そしてその日は午後六時くらいに彼女は気宅する。
 非常に上機嫌だ。何かあったのだろうか?
 そう思った直後、彼女がリボンの付いた袋のようなモノを持っている事に気付く。
 俺は直感でその袋が何であるか判断する。
 ヤツだ。
 ヤツが贈ったモノだ。
 ヤツが長森へ贈ったプレゼントだ。
 だから長森はあんなに上機嫌なんだ。
 だが、それが解ったからといって俺には何も出来ない。
 だって俺はぬいぐるみなのだから。
 俺自身が長森にプレゼントしたぬいぐるみなのだから。
 いつかはあのプレゼントも心を持ってしまい、このような事態を引き起こしてしまうの
だろうか?
 俺はそんな馬鹿な事を考えながら長森の生活を続けて覗き見る。
 いや、覗き見ざる負えなかった。
47贖罪:2000/12/05(火) 00:51
 夕食後は猫の世話にいそしむらしい。
 隣の部屋に大量に飼っていると思われる猫がニャーニャーとうるさくてしょうがない。
 その声に混じって、長森の楽しそうな声が響いてくる。
(あいつの猫好きは小学生の頃から全く変わってないな…)
 そんな事を思いながら楽しげに猫とたわむれる長森を想像すると、俺自身ちょっとした笑みがこぼれてしまう。
 何も変わらない表情を自覚しながら。
 そしてやがて就寝の時間がやってくる。
 俺が最も困惑する時間が。
 何故か?
 それは長森とて『普通の女の子』であるからだ。
 そう、彼女は週に一回。多くて三回ほど深夜の『自慰』にいそしむ。
 しかもある人物の名前をこぼしながら。
 俺はその光景を見ると何ともやるせない気分にさせられてしまう。
 正直に言うと見たい。
 だが、それは本来見てはいけないもの。
 だがぬいぐるみである俺は見ざる負えない。
 そんな俺の中を凄まじい罪悪感が駆け抜ける。
 秘部の中に指を突っ込み、己の胸、そして乳首を揉みしだき、快楽の表情を見せる長森。
 この光景は禁断の映像。
 だが俺は禁断の果実を食べてしまった、拙い愚か者。
 これは罰なのか?それとも最高の贈り物なのか?
 俺には全く解らなかった、全く。
48贖罪:2000/12/05(火) 00:52
 そして長森が眠りに入る。
 俺はその間に様々な事を思い描く。
 今夜の事、これからの事、そして今現在の折原浩平の事…。
 ヤツは一体何者なのか?
 まず、そこから考えなければならない。
 とりあえず解っているのはヤツが俺を憎んでいる事。
 長森を一年間もほったらかしにした俺を恨んでいる事。
 確かにその件に関しては、俺に非がある事を認めざる負えない。
 長森は自殺すら考えていたと言うのだ。
 もし、そんな事になっていたかと思うとゾッとする。
 俺は間違いなく即座に死を選んでいたであろう。
 そしてその危険な状況を回避させたのが、あいつ『バニ山バニ夫』だと当人は語って
いた。
 その励ましの声で長森を救ったのだと。
(………?)
 俺はそこまで考えてふと奇妙な事に気付く。
49贖罪:2000/12/05(火) 00:53
 『励ましの声』?
 ちょっと待て。
 あの声は誰の声だ?
 あの励ましは誰からのメッセージだ?
 そんな事は言うまでもない。
 俺だ。
 あの台詞もあの励ましの言葉も全て俺の頭から紡ぎ出されたものではないのか?
 じゃあ、ヤツは何なんだ?
 ヤツが主張している『俺が彼女を救ってやった』というのは何なんだ?
 ヤツは一体何者なんだ?
 俺には何が何だかさっぱり解らなくなっていた。
 …ぬいぐるみの精?
 俺はそんなメルヘンチックな考えでこの狂乱状態の思考回路を何とか収めようとする。
 それにしても信憑性は薄い。
 もしホントにそうなのだとしたらこの俺の隣にいる熊のぬいぐるみにも意識がある事に
なる。
 俺はその考えの成否を確かめるべく、隣のクマに心の中から必死にメッセージを呼びか
ける。
 だが当然ながら何の反応もない。
 というか反応があった方が怖い。
 もし反応があったりなんかしたら俺みたいなウサギは一発で食われてしまうのではない
だろうか?
 クマの持つ野生の本能によって。
(…つーか、俺が考えたジオラマそのものじゃねーか)
 全くもってシャレにもならない。
(結局、今の時点じゃ何にも解らないというところか…)
 そして俺は徐々に眠りの世界に落ちて行く
 ここでぐだぐだ考えたところでこの状況は何も変わらないのだ。
 いつか解る日が来るのだろうか?いや、来て欲しかった。
50贖罪:2000/12/05(火) 00:53
 ぬいぐるみでの生活は続いていた。
 結局あれからヤツの事についてあれこれ考えたが、確信に至る意見には辿り着けない。
 いや、正しくはある糸のほつれさえ見つけ出せば全ての全貌が明らかになる予感はし
ているのだが、その糸口が悲しい事に思いつかなかった。
 長森は相変わらず元気に生活している。
 この前の日曜日は部屋の掃除をしている長森に抱かれてしまった。
 正しくはぬいぐるみの整理中にたまたま抱き上げられただけだが、それでも久しぶり
に感じる長森の胸の感触は格別なモノがあった。
 一日も早く元の姿に戻りたい。俺は改めてそう決意する。
 だが、問題が一つある。
 ヤツがあれ以降この部屋に姿を現さないと言う事だ。
 まあ、それも致し方ない事なのだろうか。
 何せ俺がこの部屋に鎮座しているのだ。
 ヤツにしてみれば俺が何らかの方法によって、また入れ替わるという事態になるのを
避けているのだろう。
 まあ実際にはそんな方法、今の俺には見当も付かないのだが危険な事はなるたけ避
けるのが人間の本能と言うモノだろう。
 そこまで考えて俺はふと思考を止める。
(人間の…本能…?)
 そして俺は自嘲的に自問自答をする。
 おいおい、冗談はやめてくれよ。あいつは人間じゃないだろう?
 俺も一体何を考えているんだか…。
 そんな事をあれこれ考えていたらいつのまにか長森の就寝時間が来ていた。
 今日も例の行為を行なうのだろうか?
 俺はドギマギしながらベッドの方を見つめていたが、今日はやすらかな寝息しか聞こ
えて来なかった。
 ホッとしたような残念なような複雑な感情を入り混じらせながら俺も眠りにつく。
 精神的に堕落していく自分を感じながら。
51贖罪:2000/12/05(火) 00:54
 俺は徐々に精神的にきつくなっていく自分を感じていた。
 いつになっても変化しない状況。
 詰まって行く思考。
 俺の精神は出口の見えない迷路に入り込んだように迷走を続けていた。
(このままスタミナ切れで出口に辿り着かなかったらどうなるんだろう…?)
 そんな事を考えるとゾッとする。
 とにかくこの状況に何らかの変化が訪れない限り、いつまでもこのままだ。
 俺はこの微動だにしない生活習慣に対して凄まじい焦りを感じ取っていた。その時。
 バタンッ!
 長森が帰宅する。
 今日はいつもより早いようだが、何かあったのだろうか?
 その時、聞こえる声。
「ちょっとちらかってるから、浩平はそこで待っていてね」
(!!)
 俺はその言葉を聞いて、久しぶりに胸踊る気分を覚える。
 ヤツだ。ヤツが来た。ヤツがこの家にやって来た。
 これで何らかの変化が訪れるかも知れない。いや、変化を呼び込まなくてはならない。
 それがこの焦りを吹き飛ばす唯一の方法だと解っているからだ。
52贖罪:2000/12/05(火) 00:55
 バタバタ…バタバタ…。
 長森が片付けをする為に右往左往と部屋の中をうろうろとする。
 正直、ちっともちらかってなどないのだが、長森的にはもっと片付ける余地があると
言う事なのだろうか?
 そう言えば、俺が来た時も部屋の中から光が溢れるくらいに完璧に片付けられていた
のを思い出す。
 まあ、性分というヤツなのだろう。
(それにしても…)
 俺はそんな長森を眺めながら下で待っているヤツに思いを馳せる。
 一体、ヤツはどういう理由でこの家にやって来たのだろう?
 名目は解っている。受験勉強だ。
 だが、受験勉強など図書館や学校でなんぼでも出来る。
 しかも今は俺がこの部屋にいるのだ。
 わざわざ勉強をする為だけにこの部屋にやって来るとは思えない。
 そう結論づけた瞬間、俺は言い知れぬ不安に覆われる。
 ヤツの正体は一体何なのか?そして今日のその目的は?
 俺は今更ながら繰り返すその疑問に頭を悩ましながらヤツがやって来るのをひたすら
待ちうける。
 それが吉と出るのか。それとも凶と出るのか?
 今の俺には解ろうはずもなかった。
53贖罪:2000/12/05(火) 00:56
「じゃあ、ちょっとコーヒー持ってくるね」
「おう」
 長森とヤツはあの日の情景と全く同じ行動を取る。
 まるで俺を皮肉るように。俺を嘲るように。
 そして長森が一階へと降りて行った後。
「くくッ…!」
 まるでその行動に安堵したかの如く、ヤツが俺に向かっていつもの嘲笑じみた笑顔を向
ける。
 俺を罵倒する為に。その絶対的な優越感を見せつける為に。
 そしてヤツは俺にこう語りかける。
「よう…元気にしてるかい?」
 その言葉を聞いて俺は怒りの炎に火がつく。
 元気も何もこんな状態では何も答えられない事はヤツも重々承知のはずだ。
 ヤツはそれを解った上でそう言う挑発的な発言をしてくる。
 俺を貶す為に。徹底的にいびる為に。
 俺はヤツの挑発に屈しないよう、必死で精神を持ち堪える。
「お?返事はなし…。まあ当たり前か、ククッ…。それより今日は俺から衝撃的なニュー
スがあるんだ。心してよく聞いてくれよ…」
 衝撃的なニュース?何だ…?この男は今から何を言おうとしているのだ?
 俺はその不気味な自信を見せる男を見て、えも知れぬ恐怖を感じ取る。
54贖罪:2000/12/05(火) 00:57
「俺は今日…。アンタの目の前で長森を奪う」
 (な……!?)
 俺に叩きつけるヤツからの再度の宣戦布告。しかも今度の内容は更にぶっとんだもの
だった。
 俺の前で長森を奪う…。つまりそれは俺の見ている前で長森とセックスをすると言う
事か?
 俺の長森を完全に奪い去るとヤツは言っているのか?
 駄目だ。
 認めない。
 当然の事ながらそんな非道が認められる訳がない。
 俺は全身全霊を持って、ヤツにその事を訴えかける。
 だが、やはりこんな状況でも俺の口からは何一つ言葉が漏れない。
 それが悲しく。そしてみじめだった。
「本当は外でやっても良かったんだかな…。それじゃあアンタに与える罰が半減しちまう
…。だから今日、ここでやってやるよ…。アンタから『良く見える距離』でじっくり、
ねっとりとな…」
そう語りながらヤツは中年のスケベ親父のような笑みを俺に見せる。
情欲に支配された人間の見せる、低俗極まりない間抜けな笑みを。
俺はその笑みを見て心底ゾッとする。
俺の長森がこんな下劣な輩に犯されてしまうというのか?
そんな事は許さない。許される訳がない。
だが、俺にはその事態を止める事が全く出来ないのだ。
55贖罪:2000/12/05(火) 00:59
「おまたせー」
「おう」
 そして長森が満面の笑みを称えながらお盆を持ってやって来る。
 駄目だ長森。
 お前はここにいてはいけないんだ。
 逃げろ。逃げてくれ。
 頼む、長森。
 俺は必死に、それこそ脳が張り裂けんばかりに長森に向けて心からのメッセージを
送る。
 だが、長森はいつも通りに参考書と問題集をテーブルの上に置き、ヤツとの勉強を開始
する。
 そんな俺の心を見透かすかのようにヤツが見せる悪魔の微笑み。
 俺は絶体絶命の大ピンチに追い込まれていた。
56贖罪:2000/12/05(火) 01:00
 受験勉強は順調に進んでいた。
 今のところは目立った変化は見られない。
 だがそんなゆるやかな空気を破壊するが如く、ヤツはその肉欲を満たすチャンスを虎
視眈々と狙っているかのように見える。
 実際、長森の身体をちらちらと見てはいやらしい笑みを浮かべている。
 俺はそれを見るたびににおぞけるような悪寒を覚える。
 何としても長森を救わなくてはならない。
 俺はその為に今更ながら思いつく限りの事をぬいぐるみに向けて働き掛ける。
 手、足、身体…。
 ありとあらゆる部分を動かそうと踏ん張るが、どんなに頑張ってもビクともしない。
 とりあえず何でもいいのだ。
 長森の注意を逸らす事が出来れば。
 だが、そんな事が出来れば苦労はしない。
 俺はその事をこの一ヶ月間身に染みて解っているはずだった。
(くそッ!くそッ!)
 だが、何もしないままこの情景を見守る事など俺にはとてもじゃないが耐えられない。
 俺は全身全霊をもってぬいぐるみの中で孤軍奮闘する。その時。
 バサッ!
「あ…。ごめん、浩平」
 長森が落としたノートに手を伸ばした瞬間。
「!」
 ヤツの手が偶然触れる。恐らく狙ってやったのだろう。それでもその作戦の効果はテ
キメンだった。長森が頬を赤く染める。
「こ…浩平…」
「瑞佳…」
 そして寄せ合う二人の唇。遂に恐るべき事態が到来してしまった。
 俺はその情景を見ないようにあらゆる努力を尽くす。
 だが、結果は何も変わらない。
 俺はその見たくもない光景をどうしても見ざる負えない。
 ヤツの勝ち誇った笑みを直視しながら、俺は神様を真剣に呪った。
57贖罪:2000/12/05(火) 01:01
 ヤツの行為は徐々にエスカレートしていく。
 次の標的になったのは長森の胸だ。
 服越しにやさしく、時には激しく長森の胸を揉みしだいていく。
 その怪しい手つきに長森も徐々に興奮していく。
「…いやッ!あッ!こうへい…」
 そしてヤツは順序良く長森の服を脱がして行く。
 その、手つきは初めてのくせに妙に手馴れていた。まるで俺と同じような動きを見せ
るヤツを見て俺は動揺を隠し切れない。
 正直、ここまで来たらヤツの自爆を期待するしかなかったのだが、その望みすら早くも
絶たれつつある。
 一体、何故こんな事になってしまったのか?
 俺は心の中で天を仰ぐ。
 そして長森の形のいい乳房がヤツの前で露になる。
「あッ…!」
 長森が恥ずかしそうに小さな声を漏らす。
 その仕草を見て更なる興奮を燃やすヤツはその乳房を両手と口を使って丹念にいじる。
 徐々に乳首が勃起してくるのがここからでもはっきり見てとれる。
「あんッ…!あッあッ!」
 前後左右にこねくり廻す手と口を使った乳首への刺激で、長森は既に快楽の世界に落
ちつつあった。
 そしてヤツの手が遂に下半身へと移る。
 そのいやらしい右手が長森の秘部へ触れたかと思うと。
「アンッ!」
 長森が何とも艶めかしい声を上げる。
 その光景を無理やり見せられる俺は徐々に自分の精神が蝕まれていく事を実感する。
 あの長森が喘いでいる。
 俺以外の男の手によって隠された感情を剥き出しにされて行く。
 こんな事が許されていいのか?いや、良いはずがない。
 だが、いくらそんな事を問いかけても、答えを返す人は誰もいない。
 目に写るのは長森とヤツとの情事。
 それが全て。それが俺に与えられた非情の答えだった。
58贖罪:2000/12/05(火) 01:02
 そしてとうとう長森のショーツが脱がされる。
 長森の秘部はヤツの手馴れた抽出によってすっかり濡れていた。
 ヤツはそのショーツを持って、これみよがしに俺に見せつける。
 そして俺はその瞬間悟るのだ。
 俺は『バニ山バニ夫』なのだと。
 『折原浩平』は既にヤツなのだと。
 悔しいがこうなってしまってはその事実を認めざる負えない。
 いくら俺がここで意義を申し立てても、今となってはもうどうしようも出来ない。
 だって俺はぬいぐるみなのだから。
 ただそこに座っているだけのぬいぐるみなのだから。
 俺は今日、その事実を強く理解する。
「行くぞ…長森…」
「…うん」
 そして、ヤツのペニスが長森のあそこに挿入されようとしていた。
 俺はその光景を見ながら長森に向かって永遠のお別れをする。
 離別の言葉を。哀感の意を心の中で紡ぎ出す。
(長森…ホントは俺、お前にもっともっと言いたい事やもっともっと謝りたい事があ
ったけど…。もう出来なくなっちゃったな…。でも、それでも俺はここにいるよ。ここ
にいて長森を励ますよ。今はもうお役御免かも知れないけど…何かあった時、必ず俺が
励ましてやるよ。だから…だから…)
 俺はそう呟きながら、心の中で号泣する。
 長森との出会いを思い出しながら。
 長森と辿ってきた、これまでの人生を頭の中に思い描きながら。
59贖罪:2000/12/05(火) 01:03
(…!?)
 だがその時。
 目の前の光景に異変が起こる。
 長森に挿入しようとしていたヤツが激しく震えだし、頭に手を添えながらもがき苦し
みだしたのだ。
 そしてその瞬間に併せて、こちらにも変化が訪れる。
 この前、経験したあの異変が今再び行われようとしていた。
 一体何だ?何が起ころうとしているのだ?
 突然の出来事に限りない戸惑いを感じながら、俺は再び訪れたあの感覚を体験する。
 果物の皮を剥かずに果実だけを引きずり出そうとする感触。
 そして俺は突如現れた謎の力によってぬいぐるみから引きずり出され、ヤツの身体へと猛スピードで飛んで行く。
 その瞬間、すれ違うもう一体の影。
 そして俺は目撃する。ヤツの顔。ヤツの正体を。
 …そして。
 ドゴッ!!
 自分の身体にぶち当たる感触を最後に俺は再び闇に落ちる。
 この出来事が俺の作り出した妄想ではない事を願いながら…。
60贖罪:2000/12/05(火) 01:04
「……いっ!」
(…ん?)
「……いっ!へいっ!」
(何だ…?誰かが呼ぶような声が…)
「浩平っ!大丈夫、浩平!?」
「うわッ!」
俺はそんな声を出しながら思わず跳ね起きる。
そして、ゆっくりと周りを見渡す。いや、『見渡せる』。
「もう…びっくりしたよ浩平。いきなりどうしたの?」
そして『俺』に向かって話し掛けてくる声が一つ。
 その声は俺の知っている声。俺が愛すべき女性の声。
「なが…も・・り?」
 そして俺は声の主に向けて『言葉を発する』。返事を求めて。俺に語りかける言葉を求
めて。
「ど、どうしたの?浩平」
 そんな俺の姿を見ながら、彼女がキョトンとした表情で話し掛けてくる。
 そう、『俺』に向かって。この『折原浩平』に向かって。
「な…」
 そして感極まった俺は目に涙を溜め、こう叫ぶ。
「長森――――――――ッ!」
 俺はその叫びと共に長森の胸に飛び込む。長森は既に服に着替えていたが別に構いやし
ない。
 長森がそばにいる。長森が自分の事を認知してくれている。
 それだけで十分。それだけで満足だった。
 俺は戸惑う長森を無視しながら、ひたすらその暖かい身体の感触を味わった。
61贖罪:2000/12/05(火) 01:04
「もう…いきなりビックリしたよ」
 長森が俺にお茶を薦めながら、そう語る。
 ようやく落ち着いた俺はテーブルの前に座り長森が持ってきた煎餅をひたすら齧る。
「あんな時に…その…倒れちゃうんだもん」
 そう頬を染めながら語る長森がいじましい。確かに何も知らない長森からすればビック
リする事請け合いだろう。
「まあ、いろいろあってな…」
 俺は適当にお茶を濁す。
 あんな事、誰に言ったって信じては貰えない。
 だから俺の胸の中だけに留める事にする。ヤツの事も含めて。
 そして俺は思い出す。ヤツはどうなってしまったのか?何故突然元の身体に戻れたのか?
 俺は事の真偽を確かめるためにあの『ぬいぐるみ』の方に向かう。
 顔に疑問符を貼り付けた長森を横目に見ながら。
 そして俺は『バニ山バニ夫』を手に取る。
 その感触は相変わらずだ。一時とはいえこんなぬいぐるみの中に居たのかと思うと今ま
での一連の出来事が信じられなくなってくる。
 だが、それは事実だ。
 俺はこの中にいた『ヤツ』と身体を交換され、この一ヶ月間ぬいぐるみとして生活した
のだ。
62贖罪:2000/12/05(火) 01:05
 そしてヤツは何処に行ったのか?
 俺の身体を奪った『あいつ』は何処に行ってしまったのか?
 俺はおもむろに背中のスイッチを入れる。
 だが。
「…………………………」
 ぬいぐるみからは何の音も聞こえて来ない。
 恐らくは電池が切れてしまって、中の音声データごと消えてしまったのだろう。
 別にたいした事じゃない。
 日常生活に転がっているありふれた話の一つだ。
 だが。
 もし俺の吹き込んだ声が何らかの奇跡によって思いもよらない事になっていたのだ
としたら?
 そうして生まれた新しい命が俺に対して激しい嫉妬を抱いたとしたら?
 そしてその声が失われた瞬間、その命もはかなく散ってしまったのだとしたら?
今となっては誰にも解らない。誰にも。
63贖罪:2000/12/05(火) 01:06
「浩平?どうしたの?」
 そうして物思いに耽っていると長森が不安げに俺に尋ねかけてくる。
「いや、ちょっとな…」
 俺はそんな長森を優しく抱き寄せながら、二人揃ってベッドに座る。
 そして最後に見たヤツの素顔。
 俺の心の破片が具現化したヤツの素顔は…『俺自身』だった。
 そうしてヤツは消えてしまった。もう一人の俺は願いを成就できずに何処かへと消えて
しまった。
 別に同情するつもりはない。
 だが、ヤツが訴えていた事は良く解る。
 ヤツがやりたかった事は容易に理解出来る。
 だってあいつは俺だから。もう一人の俺だったのだから。
「…ね、浩平」
「…ん?」
 そんな事を考えていると長森がこちらに頬を寄せながらそう語り掛けて来る。
 俺はそんな長森の肩に手を回し、お互いの体温を感じ取る。
「わたし達…ずっと一緒だよね?」
 そうして何とも言えない表情を浮かべながら俺に話し掛けてくる。
「…当たり前だろ」
 そして俺はそう答えながら長森と長い長いキスを行なう。
 もう絶対に悲しい目に会わせない。もう絶対に辛い目には会わせない。
 だって『バニ山バニ夫』はもういないのだから。
 俺の愛する瑞佳に元気を与えられるのは俺一人だけなのだから。
 唇から通じ合うお互いの心を感じ取りながら、俺達は永遠の盟約を誓った。 
64ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:07
回します。
65ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:09
回してます。
66ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:09
回しています。
67ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:10
回します。
68ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:11
回してます。
69ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:11
回しています。
70ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:12
回します。
71ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:12
回してます。
72ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:13
回しています。
73ほかほか兄さん:2000/12/05(火) 01:17
回し終了です。
えーと、新作出来たので公開します。
新作は>>25-63です。
もしかしたらワリに長いかも知れません。
ちなみにジャンルは純愛系。キャラは一応長森です。
良かったら見てやったって下さい。

では。
74名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 01:40
うわ、超大作だ(w
ごめん、今時間ないから後で見させてもらうよ。
75あるSS書き:2000/12/05(火) 03:03
おもしろい。
と言うかくやしい。
自分が書きたくてもなかなか書けない世界観を完璧に出されたので。
第七話 二足歩行

「ただいま〜」
 俺が家にたどり着いたのは既に夜半で、ほとんどの家から灯りが消えている頃だった。
 靴を脱ぎ、居間に上がるが、もうここにはアキコさんも、ナユキもいなかった。
「もう二人とも寝たのかな…」
 放課後から不幸な遭遇戦を三つもこなして疲れきった俺は、早くノートを渡して暖かいベッドにもぐりこみたい衝動に駆られていた。
 そのためにはとっととノートを渡したいんだが…。
「この時間なら、もう部屋に戻ってるだろうな」
 一階でナユキを探すのを諦め、二階のナユキの部屋の前まで移動する。
 ナユキの部屋とかかれたプレートの下を二度ノックする。だが、返事はない。
 もう一度少し強めにノックする。
「ん…」
 中から寝返りを打つ気配。
「だ、れぇ…」
 少し寝ぼけたような、甘ったれたようなナユキの声が聞こえた。
「俺だよ、ユーイチ。お望みの極秘資料持ってきてやったぞ」
「え、ユーイチ…?」
「開けるぞ」
「え、あ、ちょ、ちょっと待ってて」
 中からどたばたナユキが駆けずり回る音がする。
 下で寝てるはずのアキコさんが起きてこないか少し心配になってきた。
 どたどた…。
 がさごそ…。
 たたた…。
(…何やってんだ?)
 ガシャンガシャン。
(ガシャン?)
 機械音だった。
 チュイーン。
(チュイーン?)
 機械音だった。
(この国の戸棚はこんな音で鳴る…わけないか)
 ギギギギギギギ。
(ギギギギギギギ?)
 明らかに、戸棚を空ける音でもなく、まして衣擦れの音でもなく、機械音だった。
 …パタン。
「ふう…」
(…これは戸棚が閉まる音だよな? それとこのため息は一体なんなんだ?)
「おまたせ〜」
「ナユキ、今からお前の部屋の臨時家宅捜索を行う」
「え、え、そんな突然…」
「突然だから臨時って言うんだ。さ、部屋に入れろ」
「わ。だめだよ〜」
「理由を簡潔に述べろ」
「うー…、か、核廃棄物が私の部屋に保存してあって…」
「なら保管方法がしっかりしているかどうか心配だ。とばっちりで被爆したくはないからな」
「あ、実は中には私しか知らないトラップが…」
「片っ端から解除する」
「…ユーイチの用は極秘資料を渡すことでしょ。女の子の部屋に強引に入ろうとするなんて失礼だよ」
「でもな…、今も中から聞きなれない機械音が」
「しないよ?」
「いや、確かに何かが動いてるような…」
「わ、私の部屋には夜中ひとりでに動き出したりする蛙型完全自律決戦携帯兵器なんてないよ?」
「…なるほど」
 ナユキは隠し事が下手だった。
「ってユーイチ、何で一人で納得したような顔してるの〜?」
「いや、もういい。謎はほとんどすべて解けた」
「な、謎って?」
 動揺を悟られまいとナユキが不自然な笑みを浮かべる。
(その不自然さが逆に怪しすぎる…)
 ナユキは本気で隠し事が下手だった。
「俺がわかってるから別にいいんだよ。それよりもほら、約束のノート渡しとくぞ」
「あ、うん」
「一つ忠告しとくぞ。本当に隠したいものは秘密にしたりしないものだ」
「え? どういうこと?」
「忍ぶれど色にでにけり…ってやつだ」
「何言ってるのかわからないよ〜」
「ま、そういうことだ。夜遅くにすまなかったな。おやすみ、ナユキ」
「…おやすみ〜…」
 俺は部屋に戻ってようやく休息を取ることができた。
 そしてミナセ家の夜は更けてゆく…。
「今日は敵基地にて潜入調査をしてもらいます」
「はい?」
 日曜日の朝。
 俺がゆっくり朝食を取っているときにアキコさんは言った。
「今回もまた…唐突ですね」
「直前だから唐突って言うんですよ、ユーイチさん」
「はぁ…」
 どっかで聞いたような言い回しだな、と思った。
「朝食が終わったらВ地点…、ユーイチさんが最初にここに来たときに座っていたベンチに行って、先に出たナユキと合流してください」
「了解しました。アキコさんは?」
「私はナユキに持たせてある携帯電話を使って指示を入れます。あの子と一緒ならあまり心配はないと思いますが」
「集合予定時刻は?」
「0830時、後37分です。遅刻はしないようにしてくださいね」
「俺は大丈夫ですが、ナユキのほうが少し心配です」
 俺は時計を合わせながら言った。
「検問でもない限り大丈夫ですよ」
「アキコさんがそう言うなら問題はないと思いますが…」
「それでは、暖かくしていってくださいね。今日も寒くなりそうですから」
 潜入調査をするのに暖かくするも何もないと思うが…。
 57分後、俺はその言葉の意味を思い知ることになる。
「ナユキ、ひやしあめならいらないぞ」
「え、今日はせっかくメッ○ールにしてきたのに…」
「俺のことが憎いならそう言ってくれ」
 んなもん飲まされた日には発狂してしまう。
「やっぱり、寒いの? ユーイチ」
「伝わってないのなら俺の言い方が悪かったんだな」
「そんな言い方しなくても…」
「で、何で遅れたんだ?」
「来る途中に検問があって、それでちょっと遅れちゃった…、クシュン」
「どんな検問だった?」
「あのね、ふわふわのもこもこで、しっぽもふさふさで、うにゃあんってしてて…」
 人はそれを検問と言わず猫という。
「…もういいから、さっさと目的の場所に案内しろ、ナユキ」
「うん…、あ、電話」
 ナユキは右後ろのポケットから携帯電話を取り出して、通話のボタンを押した。
「もしもし、お母さん? うん…うん、え? それから?」
 俺には通話の内容が聞こえないので気になってしょうがない。
「…うん…そこって確かCD屋の…うん。あ、そういうことか〜。わかったよ。じゃ、きるから。…うん、またね、お母さん」
「で、なんだって?」
「ついてきて、ユーイチ」
 ナユキは携帯電話をポケットにしまうと、市場の方向に歩き出した。
「潜入調査って言うからもっと人気のないところかと思ってたぜ…」
 ナユキに連れてこられた先は、市場の中でもかなり活気のある場所だった。
「木の葉を隠すなら森に、ってことだね」
「お前それがわかってるなら…、まあいいか」
「?」
 ナユキは立ち止まってこちらを振り返った。
「いや、なんでもない…。それより、この先に一体何があるってんだ?」
「えーとね、大きな声じゃ言えないんだけど…」
 ナユキは俺の耳に口を近づけた。
(…武器の密売が?)
(うん。例の組織と関係があるのかどうかはわからないけど、見逃せるほどこちらの状況も芳しくないから、だって)
(なるほどね…)
 俺はうなずいた。
 もしそれが質の悪い黒星(ヘイシン)やトカレフだったとしても、それが武器であることに変わりはない。
 武器という魔性の道具はどんな人間でも瞬時に人殺しに変えてしまう。
 どんな人間でも。
(それでね、ユーイチ。中に入ってからのことだけど…)
(ああ)
(ユーイチは私の援護に回ってくれる? たぶん、あまり面倒なことにはならないと思うけど)
(でも、仮にも密売の現場に踏み込むんだろ? 相手だって黙ってはいない)
(黙らせるための、コレ、だよ)
 ナユキは背負っているザックを示した。
 中身は…、アレ、か。
「…けっこう奥まで着たけど、例の場所はそろそろか?」
 なんとなく、銃の気配がするのだ。
「うん。近くのCD屋の裏手。そのCD屋もちょっとわかりにくい場所にあるから、秘密の取引にはもってこいだね」
 まもなく、件のCD屋に着く。
「ここが、お母さんの言ってた場所」
「確かに、表通りから裏手に入って、そこからさらに換気孔を抜けて隠し扉をくぐるとくれば、わかりにくいことこの上ないな」
 というか、見つけることは不可能だろう。
 この店商売成り立ってるのか?
「それで…、取引現場というのはどこだ?」
「こっちだよ」
 ナユキは俺の二歩先を駆けていった。
 まもなく倉庫の入り口らしきところに出る。
「ユーイチ、そろそろ警備の人がいるかもしれないから、気をつけて」
「お前が言える台詞じゃないな、それは」
「?」
「もう四人ほど片付けてきたぞ。ここに来る途中にな」
「わ。三人だと思ってた」
 緊張感のない奴というか、危機感が薄いというか…。
「それで、どこから入ろうか?」
「お約束から言うと、裏口だな」
「でも、きっと警備の人が…」
「問題ない。さっきのはいないも同然だったぞ」
「そういうなら、ユーイチが侵入経路の確保やっといてね。私は、これの起動準備しておくから」
「これ?」
「うん、このザックに入ってるやつ」
 中身は9割方予想がついているのだが、今は言わないことにしておいた。
「それじゃ、よろしくね」
「まかしとけ」
 俺はそう言い残して裏口へと向かった。
 裏口から少し離れたところに一本の木がある。
 俺はそれに上り、双眼鏡を使って裏口の様子を見回した。
「歩哨が表に一人…中に三人…狙撃兵が二人…ね」
 たかが密売現場とはいえ、十分すぎるほど厳重だった。
「まずは狙撃兵からか…」
 俺はベルトを抜いた。
 それを二つに折り、端同士を合わせて握り石を先端に入れる。
 簡易スリングの出来上がりだ。
 木の枝が少し邪魔だが、この際は自分の腕を信じてみる。
 スリングを回し、狙いをつけて、まずは遠い方の狙撃兵に向けて振り投げる。
 着弾は確認せずに、続いて第二弾を放る。
 見事、二発とも命中。それぞれ他の警備の人間からは離れた場所にいたので、発見されるのにもタイムラグがあるはずだ。
 そして、俺はそのラグを見逃すようなことをしない。
 枝の上から一気に裏口へ向けて跳ぶ。
 跳躍中に鉤をつけたロープを裏口の上に剥き出しになっている排水パイプに引っ掛け、反動を利用して表の警備を蹴り倒す。
 勢いをなるべく殺さないように扉の中に転がり込み、その先に俺を挟むように立っていた二人の手と耳をめがけてクナイを投げつける。
 そして、奥からその物音を聞きつけてやってきた最後の一人を片方に向けて投げ飛ばす。
 残る一人は、左手を使われる前に鳩尾を打って気絶させた。
「経路…確保、と」
「さすがユーイチ、速いね」
 扉の外から、ナユキがひょっこり顔を出した。
「ナユキか。準備は終わったのか?」
「うん、後はこの紐を引っ張るだけだよ」
 確かに、ザックからは一本の紐が出ている。
「さて…、次はブレーカーを探すか。窓には外から見られないように暗幕が張られているから、十分効果はあるはずだ」
「電源を落としたら?」
「あとは、ナユキの蛙型完全自律決戦携帯兵器に活躍してもらうだけだ」
「え、なんで『K−Ro−P』のこと知ってるの?」
 ナユキは隠し事がこれでもかという位下手だった。
 少し探すと、ブレーカーは簡単に見つかった。
「ユーイチ、夜目は利くほう?」
「当然。ナユキも大丈夫だろ?」
「うん。K−Ro−Pがいるからね」
 ちなみに、K−Ro−Pとは蛙型ロボット・ぴーすめーかーの略らしい。
「よし…、いくぞ!」
 俺はブレーカーを降ろした。
「K−Ro−P、セットアップ!」
 言わなくてもいいのにナユキはそう言って紐を引っ張った。
 ナユキのザックからそれらしき物体がバックロールエントリーで外に出てくる。
 それちょうど膝ぐらいの背丈で、一見するととても兵器には見えない。
 そこが利点なのかもしれないが。
「じゃ、K−Ro−Pの後についてきて!」
「ほいきた」
「K−Ro−P、強襲制圧モード! ただし犯人の生命の安全は可能な限り守ること!  いちご、きうい、めろん、援護よろしく!」
 ナユキの言葉に従うように、K−Ro−Pの背後から三体の補助ロボットが射出される。
「いっきに行くよ! ユーイチ!」
「…なんか、性格変わってないか?」
 中に入ると、騒ぎに浮き足立った標的たちが怒号を上げているところだった。
 そのうちの一人が俺たちに気づき、安物のチョッパーでこちらを掃射する。
「ここにいたぞ…グウッ!」
 その男の喉ににK−Ro−Pの有線式ロケットパンチがめり込んでいた。
 男の叫び声に気づいた者がサーチライトでこちらを照らす。
 俺とナユキは光から逃げたが、K−Ro−Pはその場から動かず逆にサーチライトを打ち抜いた。
 その反射光で相手の位置を確認したのか、正確に敵の関節を打ち抜いていく。
 次々と敵は戦闘不能になっていった。
「けっこうエグいことするねぇ…」
 と、俺の後ろから男が二人ナイフで切りかかってきた。
 俺は二、三度跳ねるように交わすと、それぞれの急所に拳を叩き込んだ。
「そうだ、ナユキは…」
 見回すと、ナユキも同じように肉弾戦の最中だった。
 ナユキはあまり得意ではないらしく、徐々に追い詰められていく。
 そして、ナユキが壁際に追い詰められようとした、まさににそのとき。
「めろん、お願い!」
 ナユキの髪の中に隠れていた小型支援ロボットが、相手の右手の甲に向けて発砲した。
 そのまま左肩も打ち抜く。腕を使い物にされなくなった相手は痛みに悶えながらその場に倒れこんでいった。
「どうやら、援護もほとんど必要ないみたいだな…」
 密売現場にいた人間の全てを制圧するのには、思ったほど時間はかからなかった。
 結局、彼等と例の組織の間にはつながりはなく、警察に通報した後は現地での流れ解散ということになった。
「じゃあ、私はこれからお買い物してから帰るね。ユーイチは?」
「ん…、もうちっとぶらぶらしてから帰る」
「何か欲しい物でもあるの?」
「いや…、特にこれといった物はない」
「わかった。この辺りちょっと道が複雑だから、迷子にならないように気をつけてね」
「迷子にって…、あいつじゃあるまいし」
「あいつ?」
「…あれ?」
 自分で口にしてから気が付いたのだが…、確かに今、俺はあいつと言った。
 俺は、そのあいつとは誰のことかわかっていない。
 何か懐かしいような…胸を引き裂かれるような…そんな思いが…。
「誰のこと?」
「……」
 わからない。
「…私のことじゃないよね」
「違う…」
 なら、一瞬だけ頭によぎった見知らぬ風景は、なんだったのだろう。
「ユーイチ…」
「…すまん、なんか変なこと言っちまったらしい」
 自分でも理由がわからない。
「じゃ、じゃあ、私はこれから特売が始まるから、先に行くね」
「ああ…」
 そのまま、ナユキは俺を心配そうに一瞥すると、人ごみの中に走り去った。
 俺は人ごみの中を歩きながら、自分の記憶の奥深くに潜り込もうと必死になっていた。 ほんの一瞬、あのベンチを最初に見たときの感慨に似た感覚の正体を掴むために。
 考え込むうちに、次第に周囲の雑音が消え、色彩が失われていく。
(俺の過去…)
(俺の歴史…)
(俺の思い出…)
(どこかに、手掛かりがあるはずだ…)
 何度も対向の通行人に肩をぶつけられながら、足と気紛れの導くままに歩を進める。
 少しずつ真実に向かうように。
(…そうだ)
(…俺の記憶には、一箇所だけ穴がある)
(…そこで、俺の見た物)
(…そこで、俺の聞いた音)
(…そこで、俺が触れた)
 もう少しで何かに手が届きそうになったとき、不意に意識が外の世界に向き、音と色が脳内に復活した。
 弾かれるように前を向く。

 そこには、一人の少女がこちらに向かって駆けて来るのが見えた。
89Alfo:2000/12/05(火) 04:01
回します。
90Alfo:2000/12/05(火) 04:01
くるくる。
91Alfo:2000/12/05(火) 04:02
くるくる。
92Alfo:2000/12/05(火) 04:02
くるくる。
93Alfo:2000/12/05(火) 04:02
ぐるぐる。
94Alfo:2000/12/05(火) 04:03
ぐるぐる。
95Alfo:2000/12/05(火) 04:03
ぐるぐる。
96Alfo:2000/12/05(火) 04:04
とかげのしっぽ。
97Alfo:2000/12/05(火) 04:04
……。
98Alfo:2000/12/05(火) 04:07
Капоп 〜あ・ごーすと・いん・ざ・しぇるたー〜 第七話
>>76-88

次回辺りからようやく本題に入れます…。
99名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 04:15
なんか、マイペースな奴だな。
初めて読ませてもらうよ。
100名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 18:09
>>73
うおお…。長森萌え〜〜〜ッ!
よってアゲだ!!
101名無しさんだよもん:2000/12/05(火) 18:27
>>73
ダーク系は正直苦手だけど、面白かった。

>>98
Σ( ̄□ ̄;)
まださわりだったのか!
102−S:2000/12/05(火) 23:44
前スレッドのおはなしだけど…

>佐祐理萌えさん
うまい、読み応えありましたー
わたしも祐一・舞・佐祐理のアンバランスな三角関係を書きたい・・・
103名無しさんだよもん:2000/12/06(水) 01:08
>>73
おいおい、凄い面白いじゃないか。
もうちょっとレスが付いても良さそうなモノの…。

とりあえず上げておこう。
ほかほか兄さん、頑張れ!
104名無しさんだよもん:2000/12/06(水) 03:17
>>73
相変わらず面白うございました。堪能させて頂きました。
できれば、またスカトロもの書いてください。
105名無しさんだよもん:2000/12/06(水) 07:53
ほかほか兄さんおもしろいっす〜。
このスレのために葉鍵板に来ているんす、私。
茜好きな私も心揺り動かされましたにゃ。
106名無しさんだよもん:2000/12/06(水) 17:33
この人にコレを書いて欲しい!とか
この作品の続編きぼんぬとか
そういうのはあり?
107名無しさんだよもん:2000/12/06(水) 22:26
>106
よろしいんじゃないでしょうか。
実現するかどうかは別として。
108名無しさんだよもん:2000/12/07(木) 00:04
そういうことすると他のSS書きがこのスレに入りにくくなるのでできたらやってほしくない。
関係ないけど舞萌えSSがが読みたいよぉ。
109106:2000/12/07(木) 00:22
じゃ作家指名はNGね。
感想にあわせて続編希望くらいはいいよね?
110名無しさんだよもん:2000/12/07(木) 02:15
感想にあわせてやるのなら良いんじゃないのかな?
(104みたいに)

111名無しさんだよもん:2000/12/07(木) 13:50
>>106
保管庫に感想スレがあるからそっちに書くのはどうよ?
112ほかほか兄さん:2000/12/08(金) 12:20
皆さん、いろいろな感想ありがとうございます。
また新作が出来たら書き込みますので、よろしくお願いします。

>>104さん
スカトロネタの方はまた書けるかどうか解りませんが
今度陵辱系を書く時はその辺りを考慮に入れてやっていこうかと
思います。

では。
113高野山の呪いだよもん:2000/12/10(日) 02:30
ようやく書き上がりました、「名雪萌えSS(テーマ:屁)」
つーわけで、今から書き込みを開始します。
終わったら回してから上げますので、それまでカキコは控えて頂けると有難いです。
それでは、そーゆーことで。
「う〜…今日はすっかり遅くなっちゃったよ」
わたしはすっかり暗くなった帰り道を、香里と一緒に歩いていた。
今日は部活がお休みだったので、久しぶりに香里と二人で買い物なんかを楽しんだんだ。
本当は、祐一と一緒が良かったんだけど、用事があるっていうから仕方ないよね。
「ちょっと待ってよ、名雪。さっきから少し急ぎすぎじゃない?」
香里が不満の声を上げる。あれっ、特に急いだつもりはないんだけど。
「えっ、そうかな? ごめんね、香里」
「まあ、らぶらぶ名雪ちゃんとしては、一刻も早く愛する人の元に帰りたいのも仕方が無いことよね」
「わっ、香里ってば何を言い出すんだよっ、そんなことないよ〜」
慌てて香里に抗議する。わたし、そんなこと考えてないもん。
「だって今日だって、時々あらぬ方を見ては溜息をついてたわよ。相沢君のこと考えてたんでしょ」
うっ、香里ってば鋭いよ…図星だよ…
「所詮、女の友情なんてこんなものよね。今日は何だか色々なことを考えさせられたわ」
香里が溜息をつく。その寂しげな表情を見てると、心にちくちくするものを感じる。
「…本当にごめんね。でも、香里も祐一と同じくらい大切なんだよ…」
「冗談よ」
「えっ?」
いつの間にか香里は澄まし顔になって、わたしを面白そうに見ている。
「冗談だから気にしないでね。わたしも相沢君と張り合えるなんて思ってないから」
「…香里ってば、ひどい〜、ひどい〜」
「ごめんね。でも最近、名雪と相沢君はすぐ二人だけの世界に入っちゃうって評判よ」
「…変な評判立てないで欲しいよ…でもね、祐一と一緒にいるときって本当に幸せなんだよ♪…って、何言わせるんだよ〜」
「はいはい。ごちそうさまでした。それじゃ独り者は寂しく帰るわね。じゃあね、名雪」
そう言い残すと香里は、自分の家のほうへと帰って行ってしまった。
う〜、香里ったら、わたしをからかってばかりなんだから。
でも、もう半日も祐一の顔を見てないんだよね。そう考えると、何だかすごく寂しくなってきちゃったよ。
ふと気が付くと、家に向かって走っているわたしだった。
待っててね、祐一。わたし、もうすぐ帰るからね。
「ただいまーっ!」
わたしは玄関で慌しく靴を脱ぐと、リビングへと駆け込んだ。
…祐一は…ここにはいないみたいだね。ちょっとがっかり。
「おかえりなさい、名雪。今日は遅かったわね」
キッチンからエプロン姿のお母さんが出てきた。
「ただいま、お母さん。…祐一は?」
「祐一さんなら部屋に居ますよ。さっきまでここで、名雪の帰りが遅いのを心配してたんですけどね」
ううっ、やっぱり祐一は優しいよ〜。思わず頬が緩んでしまうよ。
「早く顔を出していらっしゃい。でも、ご飯ですから、すぐに降りてくるんですよ」
「うんっ!」
急いで階段を駆け上がり、祐一の部屋の扉をノックする。
「祐一〜、入るよ〜」
返事を待たずに扉を開ける。中には見慣れた祐一の姿があった。
ううっ、半日ぶりに祐一の顔を見れたよ〜
「遅かったな、名雪」
「うん。香里のお買い物に付き合ってたら遅くなっちゃった。…心配してくれた?」
「馬鹿言え。これくらいでいちいち心配なんかするか」
そっぽを向いて答える祐一。
でも、わたしは見逃さないよ。祐一の顔が少し赤くなってるのを。
やっぱり、照れちゃってる祐一って可愛いよ♪
…ちょっとからかってみようかな?
「あのね、今日、男の子に声かけられちゃった。お茶しませんかって」
「…それはまた、ずいぶん基本に忠実な奴もいたもんだな。ま、香里は黙ってれば美人だからな」
「…祐一、何か遠回しにひどいこと言ってない?」
「事実を簡潔に述べただけだ」
わっ、ひどいよ〜、祐一。
いいもん。そんなこと言うんだったら、もっとからかっちゃうんだから。
「結構、格好いい二人組だったよ。話とかしてても面白そうだったし」
「…それで、結局どうなったんだ?」
ちょっと不安そうな顔になる祐一。
「祐一、ひょっとして妬いてる?」
「ば、馬鹿言え。そんな物好きがどうなったか知りたいだけだ」
祐一、平気なふりしても声が裏返ってるよ♪ もうそろそろいいかな?
「で、結局どうしたんだ?」
「もちろん断ったよ」
「え?」
「だって、わたしは祐一だけのものだもん」
わっ、思わず恥ずかしいことを口走っちゃったよ。
祐一は…あれっ、妙にシリアスな顔になってる…
「名雪…」
「祐一…」
どちらからともなく、二人の距離が近づく。やだ…わたし、心臓がばくばくいってるよ…
そして、唇が重なり合おうとした瞬間…
「祐一さん、名雪」
入り口のほうから聞こえてきた声。この声は…
「あ、あ、あ、秋子さん!!」
「お、お、お、お母さん!!」
いつの間にか入り口からこちらを見ているお母さん。
慌てる私たち二人に向かい、お母さんはにっこりと微笑んで言った。
「ご飯ですよ。そろそろ降りていらっしゃいね」
「ごちそうさまーっ」
今日の晩御飯は天ぷらだった。うん、相変わらず美味しかったよ。
でも、お母さんの天ぷらは美味しくて、どうしても食べ過ぎちゃうんだよね…
そういえばわたし、最近、太ってきてないかな…今度、祐一に聞いてみなきゃ。
そう言えば今日は、いつも見てるドラマがあったんだ。見よっと。
後かたづけを手伝った後、居間で祐一と二人でテレビを見る。
お母さんは台所で新しいジャム作りに挑戦している。ちょっと不安だよ…
ぼんやりとテレビを見てると、いきなり祐一が顔を寄せてきた。わっ、何!?
「名雪、今日はしっかり風呂に入っとけよ」
えっ、これってひょっとして…
わーっ! えっちのお誘いだよっ!!
「えっ、えっ、えっ…」
うーっ、いきなり言われたって、頭が混乱して上手く考えがまとまらないよ〜
「返事がないということは、了解と見なしていいんだな」
わっ、ちょっと待ってよ〜
「で、でも…今日はあの子…じゃなかった、真琴がいるよ…」
いつもえっちの日には、真琴は天野さんの家にお泊りなのに…
「心配するな。あいつには『ガ○スの仮面・全41巻』を与えてある。しばらく部屋から出て来れまい」

その頃、真琴の部屋では。

「はぁ…紫のバラのひとって誰なんだろう…」
「あぅ〜っ、続きが気になって止まんないよぅ…」
…結局、自分の部屋で祐一が来るのを待っているわたし。
えっと、身体は一生懸命洗ったし、むだ毛のお手入れも大丈夫だし、下着はお気に入りのを着けたし…
う〜…やっぱりどきどきが止まらないよ…
でも、今日はいったいどんなことされちゃうのかな?
こないだはお尻を攻められただけでいっちゃったし…
ううっ、自分がどんどんえっちな娘になっちゃうみたいで怖いよ…
でもでもっ、祐一はそんな名雪が大好きだって言ってくれるしっ。
「おい」
ひょっとしたら、今夜はあんなことやこんなことまでされちゃったりして…
「おい、名雪」
そして、そして……って、わっ!!
「ゆ、祐一!! いつの間に入ってきたのっ!!」
「ちゃんとノックもしたし、入る時には声もかけたぞ。気付かなかったか?」
うそっ、全然気付かなかったよ…
「しかし、さっきから何を一人で真っ赤になって悶えてるんだか…」
「えーっ、わたしそんなことしてないよ〜。祐一のいじわる〜」
慌てて抗議するわたし。でも、祐一はニヤニヤ笑ってとりあってくれない。
「そっか、名雪はそんなに待ち遠しかったか。最近ごぶさただったからな」
「…そんなことないもん」
わたしはちょっと口を尖らせて拗ねてみせる。
もちろん、全然期待してなかったって言ったらうそになっちゃうけど…
「それじゃ、いっちょやるとするか」
祐一はベッドに腰掛けると、わたしを手招きする。
「…祐一、もっとムードってものを大切にして欲しいよ…」
「うーん、面倒臭い奴だなあ…よし、判ったぞ」
そう言うと祐一は立ち上がり、いきなり私の両肩に手を置いた。
わっ、不意打ちはずるいよ〜
「名雪、俺のこと嫌いか?」
シリアスな顔で迫る。やだ、そんな顔されると抵抗できなくなっちゃうよ…
「…世界で一番大好きだよ」
何とか答えるわたし。どうしよう、胸の高鳴りが止まらないよ…祐一にも聞こえちゃってるかな…
「それなら俺は名雪のことを、宇宙で一番愛してるぞ」
「…祐一の言葉には重みってものが感じられないよ…」
「馬鹿、俺はいつだって本気だ。…でなきゃこんな恥かしいこと言えるか」
そう言うと祐一は照れ隠しのようにわたしを抱き寄せ、強引に唇を重ねてきた。
「あっ…」
祐一の腕の中で、わたしは体の力を抜き、祐一のなすがままに任せる。
ゆっくりと流れる時間。祐一の体温を感じる。
そして、わたしの心臓の鼓動が収まった頃、ようやく祐一は唇を離す。
互いの唇の間を細い唾液の糸が引き、すぐに切れて落ちる。
「…相変わらず祐一は自分勝手だよ…」
「ああ、俺は自分勝手だからな。嫌いになったか?」
ううん、本当は祐一は優しいよ。
わざと強引に振舞ってるけど、いつもわたしのことを気遣ってくれてるもん。
本当は照れ屋で、天の邪鬼で、ちょっと弱気な祐一。そして、わたしの大好きな人。
だからわたしは言ったんだ。わたしにできる一番の笑顔で。
「そんなわけないよ。わたしは、そんな祐一が大好きなんだから」
わたしたちはお互いに下着だけの姿になり、再び唇を重ねる。
今度は濃厚なキス。互いの舌が絡み合い、ぴちゃぴちゃという淫らな音が響く。
「ぷはぁ」
ようやく満足した祐一が、唇を離す。
「名雪もすっかりキスが上手くなったな」
「うん。わたし祐一とキスするの大好きだよ…」
祐一の手がわたしのブラに伸びる。淡いピンク色の、ちょっと大人っぽいデザインのブラ。
「今日はいつもの、子供っぽいプリント柄のやつじゃないんだな」
「ひどい〜、わたしだってたまにはおしゃれするよ〜」
軽口を叩きながら、手際よくブラを外す祐一。露わになるわたしの胸。
「どうだ名雪。おっぱいは大きくなったか?」
「…そんなに簡単に大きくなったり小さくなったりしないよ〜」
「じゃあ、大きくなるようにマッサージしてやらないとな」
祐一の手がわたしの胸に添えられる。動き出す祐一の手。最初は優しく。そして少しずつ激しく。
「あ、あん…祐一の手の動き、いやらしいよ…」
くすぐったいような、それでいて気持ちいいような感覚に思わず声が漏れてしまう。
「おっ、乳首が立ってきたぞ」
「わっ、そんなこと報告しなくていいよ〜」
「そんなこと言っても、事実なんだから仕方ないだろ」
今度は、わたしの胸の先端を愛撫する祐一の指。
すっかり敏感になっていたわたしの身体は、正直過ぎる反応を示してしまう。
「あん…ダメだよ…祐一…わたし、感じすぎちゃうよ…」
「相変わらず名雪は敏感だな。どれどれ?」
あっ、祐一の指がショーツの中に入ってくるよ…
祐一の指がわたしのあそこに触れ、優しくなぞるように動く。
「なんだ名雪、もう濡れてきてるじゃないか。まったく名雪はえっちだなあ」
「それは、祐一がえっちなことをするからだよ…わたし、そんなにえっちじゃないもん…」
「ほう。じゃあ、止めてもいいのかな?」
そう言うと祐一は、わたしの胸とあそこを愛撫していた手を離し、知らん顔をしてしまった。
わっ、わたしをこんな状態にしておいて、今さらそんなこと言われても困るよ〜
う〜っ、相変わらず本っ当に意地悪だよ〜
「祐一、もっと気持ちよくしてほしいよ…」
結局、祐一の思い通りになってしまうわたし。でも、これってしょうがないよね。
「よし、じゃあ最後の一枚でも脱がすか」
祐一の手が、わたしのお尻からショーツを抜き取っていく。
とうとう一糸まとわぬ姿にされちゃったわたし。祐一、綺麗だと思ってくれてるかな。
「それじゃ、いよいよ本格的にいくぞ」
「うん…でも、変なことしちゃいやだよ」
「心配するな。今まで俺が変なことなんかしたことあったか?」
う〜…祐一には変なことしてるっていう自覚が無いのが困るんだよ〜
あんなことやあんなことって、普通しない…んだよね?
祐一はもう一回キスをする。今度は唇を合わせるだけの、優しいキス。
そしてそれは、わたしを安心させるためのキス。
「祐一…わたし、どんどんえっちな女の子になっちゃうよ…」
「名雪…俺は、えっちな名雪も大好きだぞ」
「わたしも、ちょっと変態さんな祐一も大好きだよ」
顔を見合わせ、苦笑するわたし達二人。うんっ、やっぱりわたし達っていいコンビだね。
そして、祐一は優しくわたしを抱きしめ…
わたしを抱きしめ…
…あれっ、この感覚って、何だろ?
このお腹がムズムズするような感覚は…
これって…もしかして…
わーっ! 困ったよっ!! わたし、おならがしたくなっちゃったよーっ!!
え〜ん…よりによって、こんな時におならがしたくなっちゃうなんて…
う〜…晩ごはんのおいもの天ぷらを、ついつい食べ過ぎちゃったのがまずかったのかな…
「ゆ、祐一…ちょっと待ってくれないかな…」
わたしは下腹部の圧迫感が徐々に高まるのを感じながら、作り笑顔で祐一に声をかける。
「今さら何だ、名雪。お前もノリノリだったじゃないか」
「う〜っ、えっちするのが嫌なわけじゃないんだけど…でも、ちょっとだけ待って欲しいよ…」
「まったくしょうがないなあ…で、いったいどういう理由だ?」
えっ、どうしよう…理由なんて言える訳無いよ〜
「…ひょっとして、また変なところに毛でも生えてきたか?」
「…祐一のばか。そんなことあるわけないよ〜」
う〜…トイレに行きたくなったって言おうかな?
でも、こんな状況でトイレに行くなんて、ムード台無しで祐一に嫌われちゃうよ…
まだ、しばらくなら我慢できそうだし…
でも、もしえっちの最中に漏らしちゃったら…
わたしの葛藤をよそに、なにやら考え込んでいた祐一。
そして、何らかの結論に辿り着いたのか、ぽんと手を打つ。
ううっ、なんだか嫌な予感がするよ…
「そうか、名雪。もっと丁寧に前戯をして欲しいんだな。俺としたことが気付かずに済まん」
えっ…わたしは思わず凍りついた。
祐一のばか〜…何をどう考えたらそういう結論に達するんだよ〜
「ゆ、祐一、それは誤解だよ〜」
「はっはっはっ、相変わらず名雪は恥ずかしがり屋さんだなあ。今更遠慮しなくてもいいんだぞ」
わたしが必死で違うって言ってるのに、全然とりあってくれない祐一。
祐一の妄想が暴走するのには慣れてるけど、今回ばっかりは困るよ〜
「う〜、だから違うって言ってるのに…ひゃん!!」
祐一の指が、わたしの一番敏感な部分を這いまわる。
その間も、もう一方の手がわたしの胸を揉みしだくのは止まらない。
気持ちいいよ…何か、頭がぼーっとして、身体の力が抜けて…
体の力が抜けて…?
「だ、だめだよ、祐一…はぁん!!」
わっ、今のはちょっと危なかったよっ!!
つい気持ちが緩んでおならが漏れそうになり、わたしは慌てておしりの穴を引き締める。
「おっ、名雪。今、身体がピクピクってしたぞ。ひょっとして、軽くイっちゃったか?」
ふぇ〜ん、なんで祐一はこんなにお気楽なんだよ〜
つぷっ
あんっ…祐一の人差し指があそこに入ってきちゃったよ…
「おっ、きゅっって締め付けてくるぞ。流石にやるな、名雪」
祐一の指が、小刻みにわたしの中を動くのを感じる。ときに強く、ときに優しく。
その動きに合わせて、身体中に痺れるような甘い感覚が広がってくる。
「あっ、祐一…そんなことされたら、わたし…」
「さっきからうるさい口だなあ…そんな口は…こうだ!!」
後ろからわたしの身体を愛撫していた祐一は、わたしを振り向かせると強引に唇を奪う。
「むうっ…、む〜、む〜!!」
何とか抗議しようとするわたし。でも、口が塞がれてるから、上手く声が出ない。
「むむむぅ、むー、むむ〜!!」
しばらくして、わたしが息が出来なくなってきたころ、ようやく祐一は唇を離す。
「言いたいことはよくわかった。もっと激しくして欲しいんだな。よし、了承だ」
わたしが息切れして反論できないのをいいことに、勝手に話を進める祐一。
う〜…わたし、そんなこと言ってないよ〜
それに、これ以上激しくされたら…わたし…
「名雪はここが一番感じるんだよな」
わたしのあそこにあてがわれた祐一の手の親指が、わたしの一番敏感な突起の部分に触れる。
くりくりっ
「祐一、やめて……ひゃぅぅぅぅん!!」
身体全体に電流が走ったかのような刺激。一瞬、全てを快楽に委ねてしまいたくなる。
だ、だめだよ…ここで気を抜いたら、とんでもないことになっちゃうよ…
…ううっ、なんとか耐え切ったけど、今のはかなり危なかったよ…
「おっ、またピクピクってしたぞ。本当に名雪の身体は敏感で羨ましいなあ」
何も知らずにのんきなことを言う祐一。
え〜ん、こっちはそれどころじゃないのに〜
でも、何だか頭がぼーっとして、なんだか全てがどうでもよくなってきちゃったよ…
このままじゃだめだよ…でも、どうしよう…
「感じまくってる名雪って、すっごく可愛いぞ。もっと感じさせてやるからな」
そう言うと祐一は、親指と人差し指の動きは止めずに、中指をつうっと伸ばして…
気持ちよさに酔いしれていたわたしの感覚に、危険信号が走る。
これって、もしかして…
ううん、頑張って我慢しているわたしに対するそんな酷い仕打ち、神様が許すわけないよね。
でも、これってやっぱり…
「名雪はお尻を弄られるのも大好きだったよな。さっきからヒクヒクいってるし」
わたしのおしりの穴に触れる祐一の指。
一瞬、軽い絶望を感じるわたし。
祐一の指はおしりの穴の周囲を軽くなぞったあと、つんつんと揉みほぐすようにつっついてくる。
熱く火照ったわたしの身体を、二種類の強い感覚が駆け抜ける。
甘く、じんじんと痺れるような快感と、突き上げるかのような生理的欲求の解放への渇望。
わたしは遠のきかける意識を、必死に引き止めながら思った。
祐一…わたし、もうだめかもしれないよ…
「ゆ、祐一…そこはだめだよ…」
必死に祐一にお願いする。もうわたし、これ以上の刺激には耐えられそうにないよ…
「なんだ名雪、お前だってお尻を攻められるの好きだろ」
「…わたし、おしりで感じたりなんかしてないもん」
「こないだなんかお尻だけでイキまくってたくせに、今更何を言う」
う〜、それは本当だけど、でもっ、でもっ…
「そんな嘘つきな名雪には、おしおきが必要だな」
「わたし、うそつきなんかじゃない…はぁん!!」
祐一の指の動きが激しさを増す。わたしは懸命におしりの穴を引き締め、祐一の指の侵入を防ぐ。
このままじゃ、遅かれ早かれ漏れちゃうよ…
せめて、直接おしりをいじられるのだけでも、なんとかしないと…
でも、どうすればいいんだろう…
何か別に、もっと祐一の興味を惹くことがあれば…
ともすれば薄れがちな意識の中、わたしはあることを思い出した。
何度も祐一に頼まれたけど、恥ずかしいから絶対イヤだって断ってきたあの行為。
でも、やっぱり恥ずかしいし…
悩むわたしを、今日一番の生理的欲求の波が襲う。
「はうっ!!」
全身の神経を総動員して、その波を乗り越えるわたし。
ううっ、今のは本当に危なかったよ…
「なんだ名雪、やっぱり感じてるんじゃないか。我慢するな。素直に感じちゃっていいんだぞ」
祐一のばか…わたしが我慢しなかったら、一体どうなると思ってるんだよ…
わたしは来るべき絶望的な状況を想像し、思わず身震いする。
やっぱり、あの手でいくしかないよ〜
本当は恥ずかしいけど、このままおならを漏らしちゃうよりはずっとましだよね…
わたしは祐一に言った。
「祐一、今度はわたしが口でしてあげるよ…」
「…名雪さん、今、何とおっしゃいました?」
…祐一、言葉遣いが変になってるよ…
「だから、わたしが口で、祐一の…その…アレを気持ちよくしてあげたいなって」
「でも、あれだけイヤだって言ってたのに、どういう風の吹き回しだ?」
「だって、いつもわたしだけが気持ちよくしてもらって申し訳ないし…祐一も気持ちよくしてあげたいなって思ったんだけど…だめかな…」
わたしの言葉を聞いて押し黙る祐一。わっ、どうしちゃったんだろう…
「名雪…」
「何、祐一…」
妙にシリアスになった祐一に、思わず身構えるわたし。
こういうときの祐一って、ろくなこと考えてないんだよね…
「ようやく積極的にエッチを楽しむってことを理解してくれたんだな…」
わっ、祐一ったら、本気で感動してるみたいだよ…ちょっとびっくり。
「名雪、その姿勢が大切なんだ。いつまでも受け身のままじゃ成長しないからな」
だから、えっちな成長なんかしたくないのに…でも、よかった。これで何とかなるかもしれないよ。
「それじゃ、さっそくやってもらおうか」
祐一はベッドの上に寝そべり、わたしを手招きする。
「うん…」
…なりゆきでこういうことになっちゃったけど、一体どうやればいいんだろう…
わたしは戸惑いながらも、祐一の股間に顔を近づける。
そういえば、祐一のおちんちんをちゃんと見るのって初めてかも…
う〜…こんな時だけど、やっぱり緊張するよ〜
「わっ、思ったよりも小さいんだね」
改めて祐一のおちんちんを目の当たりにし、正直な感想を口にするわたし。
わたしの中に入ってるときは、あんなに大きく感じるのに。
「名雪…お前って、可愛い顔して残酷だな…」
あれっ、祐一が傷ついたような顔をしてるよ。変なの。
でも、可愛いって言われたのはうれしいよ〜…はううっ!!
ちょっと浮かれ気分になったわたしに、再び生理的欲求の波が襲いかかる。
ううっ、頑張って、急いで済まさないと…
「えっと、どうすればいいのかな…」
とりあえず軽く手で握ってみる。わっ、ぴくぴく脈打ってるよっ!!
「それだけか、名雪?」
「えっと…それから…」
ぺろっ
先端の部分を軽く舐めてみる。わーっ、すごく熱くなってるよ…
「うーん、どうもまどろっこしいな…」
祐一がぼやく。でも、そんなこと言われたって、初めてなんだからよくわからないよ〜
「よし、じゃあ俺の言う通りにやってみろ」
「うん…でも、変なこと教えちゃいやだよ」
最近の祐一ってどんどん変態さんっぽくなってるから、ちょっと不安だよ…
「…名雪、今まで俺が変なことなんて教えたことがあるか?」
だから、自覚がないのが問題なんだよ〜
「じゃあまず、先端の部分を口に含んでみろ」
わたしは祐一に言われた通りに、先端の盛り上がった部分を口に含む。
「ほう、ふういひ…?」(どう、祐一…?)
「じゃあ次に、先っちょの部分に舌を這わせるんだ」
一番先っちょの部分を舐めまわす。なんか変な感じだよ…
「ほうはな…」(こうかな…)
「竿の部分を手で刺激するのも忘れないようにな」
「ふん…」(うん…)
一生懸命言われた通りにするわたし。祐一、感じてくれてるかな?
「ふういひ、ひもひいい?」(祐一、気持ちいい?)
祐一のおちんちんを一生懸命舐めながら、邪魔な髪を手でかきあげ、上目遣いで聞いてみるわたし。
わっ、今、祐一のおちんちん、ぴくっってしたよっ…
「…名雪…その上目遣いは反則だから止めろ…」
祐一が妙に押し殺したような声を出す。相変わらず祐一の言うことは意味不明だよ…
「しかし、一生懸命なのはわかるんだが、どうも激しさに欠けるというか…」
祐一がぼやく。ひどいよ、祐一…わたしだって必死なのに〜
「どうも恥じらいが残ってるみたいだな。よし、なにも考えられなくしてやろう」
わたしにおちんちんを咥えさせたまま、身体の位置をくるっと回転させる祐一。
とっさのことに事態を理解できないわたし。
えっ、この体勢って…しっくすないん?
「俺ばっかりが気持ち良くなるんじゃあ不公平だからな。名雪も気持ち良くしてやるぞ」
そう言って、わたしのあそこに舌を這わせる祐一。
ぞわぞわっ
全身を電流のように駆け抜ける快感。一瞬、おしりの穴が緩んでおならが漏れそうになる。
渾身の力を振り絞って、かろうじて破局を回避するわたし。
今おならを漏らしたら、祐一の顔に直接…
考え得る限りの最悪の状況に、一瞬、悪魔がほくそ笑んでるのが見えたような気がした…
「ふ、ふういひ…ひやはよ…ほんなほほひひゃ…」(ゆ、祐一…いやだよ…そんなことしちゃ…」
「そうか、名雪も気持ちいいか。俺も頑張るから、名雪も頑張るんだぞ」
わたしのあそこに、丹念に舌を這わせる祐一。
すっかりひしょびしょのそこから、ぴちゃぴちゃっという湿った音が聞こえてくる。
とろけるように甘い快感が、身体中にじんわりと染み込んでくるみたい。
でも今は、気持ちよさに浸っていられる状況じゃないんだよ…
「おねはい…はへへ、ふういひ…」(お願い…止めて、祐一…)
懸命に腰を揺すり、下半身を祐一から逃れさせようとする。
でも、わたしの腰は祐一の手でしっかり固定されちゃっているし、力を入れると漏れちゃいそうだよ…
快感と切迫感の狭間で薄れゆく意識の中、私は決意した。
こうなったら、なんとしても祐一を先にいかせちゃうしかないよ…
わたしは祐一のおちんちんを、思い切って深々と咥える。
「ごほごほっ!!」
う〜っ、のどに当たっちゃったよ…
「おっ、名雪。いきなりディープスロートか? どうやらやる気になったようだな」
祐一の軽口を無視し、やみくもに頭を上下運動させる。
じゅぽっ、じゅぽっという卑猥な音が辺りに響く。
「くっ…やるな…名雪…でも、俺も負けてないぞ…」
ぴちゅっ、ぴちゅっ
祐一の舌がわたしのあそこを這い回る。
丁寧に柔らかい突起を舐め上げ、ときどき舌先でおしりの穴を突っついてくる。
その度に荒れ狂う快感。嵐となって襲い掛かる切迫感。
もうなにも考えられない。
わたしも無我夢中で、一心不乱に祐一のおちんちんをしゃぶり続ける。
ただひたすら、本能の命ずるままに激しく。
蛍光灯に照らし出された部屋中に、わたしたちの発する淫らな水音が響き渡る。
そして、もはやわたしの我慢も限界かと思えた瞬間…
「ダメだ…名雪っ、出るぞっ!!」
わたしの口の中で、熱いものが弾けた。
どくどくと口の中に放出される生臭い粘液を、何も考えずにただひたすら飲み込んでいく。
お母さん…わたし、頑張ったよ…
「今日の名雪、すごくエッチだったぞ」
「えっ、そんなことないよ〜」
わたしたちはベッドの上で寄り添って、まだ冷めやらぬ余韻を楽しんでいた。
こうしていると、身体に残る気だるささえも、心地よく感じられるよ。
「いや、今日の名雪はどこに出しても恥ずかしくない淫乱っぷりだったぞ」
「わっ、そんなこと言うなんて、ひどい〜、ひどい〜」
幾度となく繰り返されてきた、他愛ない言葉のやり取り。
でも、こうしているだけで、とっても心が落着くのを感じるよ。
「しかし、実は名雪はこんなに積極的だったなんてな。少し驚いたぞ」
「…うん、わたし、本当はすっごくエッチな子かもしれないよ…幻滅した?」
「馬鹿言え、それくらいで幻滅なんかするか。さっきも言った通り、俺は名雪を宇宙一愛しているんだからな」
そう言って、わたしの髪をくしゃくしゃっと掻き混ぜる祐一。えへっ、相変わらず優しいね。
「祐一…大好きだよ…」
「名雪…」
そして、祐一は優しくわたしを抱き寄せる。逆らわず、祐一に身体を委ねるわたし。
自然にその距離を近づけるわたしたちの唇。互いの吐息が熱く感じられる。
緊張しきっていたわたしの身体から、余分な力が抜けていくのが判る。
…でも、何だか重大なことを忘れているような気がするよ…
そして、二人の唇が重なり合った瞬間…

ぷぅ〜〜〜っ

静寂に満たされた部屋の中に、わたしのおならの音が鳴り響いた…
「……」
「……」
静まり返った部屋を、何とも言いがたい空気が支配する。
わたしの頭の中は完全に真っ白。
重苦しい沈黙を破ったのは、祐一のほうからだった。
「名雪…お前、もうちょっと雰囲気ってものを考えてだな…」
放心状態のわたしの心に、呆れたような祐一の言葉が突き刺さる。
「そりゃあ、生理現象は仕方ないとはいえ、少しは我慢ってものをしてもいいんじゃないか…」
…ひどいよ…祐一…わたし、ずっと一生懸命我慢してたんだよ…
「しかも名雪…お前の屁、結構臭いぞ…」
…そんな言い方ってないよ…わたしだって頑張ったのに…
「まあ、今後はもうちょっと恥じらいとか慎みってものを持ったほうがいいぞ…」
…祐一なんて結局、わたしのこと何もわかってくれてないよ…
「…どうした、名雪? やっぱりちょっとは恥ずかしいのか?」
やり場のない感情に支配されるわたしの心。
全てをぶち壊してしまいたくなる衝動に駆られる。
もう何も考えられない。
「祐一の…」
「えっ?」
「祐一のばかあああああああああああっ!!」
枕、時計、ぬいぐるみ、筆記用具。
わたしは感情の赴くままに、目についた物を手当たり次第に祐一に投げつける。
祐一は何か言ってるみたいだけど、何も聞こえない。聞きたくない。
それからのことはよく覚えてない。
気がつくと私は、めちゃくちゃに散らかった部屋の中に一人、呆然とへたりこんでいた。
「うっ…ううっ…」
電気を消した暗い部屋の中で、どれくらい泣いたんだろう。
今のわたしの心は、後悔と自己嫌悪の念でいっぱい。
冷静になって考えてみると、祐一は全然悪くない。悪いのは全部わたしのほう。
好きな人の前でおならなんか漏らして、しかも八つ当たりまでしちゃって。
祐一も、今度ばっかりはわたしに幻滅したよね。
こんな嫌な女の子、嫌いになるのが当たり前だもんね。
わたしは部屋の惨状を眺める。わたしが投げつけた物が散乱して、ひどいありさま。
きっと、今のわたしも、この部屋みたいにひどい顔をしてるに違いないよ。
ぼんやりと部屋に散らかったものを眺めていると、ひとつの時計が目に入る。
あの時、祐一がくれた目覚し時計。わたしの一番大事な宝物。
こんな大切なものまで投げつけちゃうなんて、わたしって本当に最低だよね。
やっぱり、わたしに祐一の恋人になる資格なんてないよ…ごめんね…祐一
わたしはのろのろと、無残に放り出された目覚し時計を拾い上げる。
かちっ
拾い上げた弾みにスイッチが入り、目覚ましから聞き慣れたメッセージが流れ出した。
祐一の真剣な声。毎朝わたしを起こしてくれる、優しい声。
『名雪…』
『俺には、奇跡は起こせないけど…』
『でも、名雪の側にいることだけはできる』
『約束する』
『名雪が悲しい時には、俺がなぐさめてやる』
『楽しいときには、一緒に笑ってやる』
『白い雪に覆われる冬も…』
『街中に桜が舞う春も…』
『静かな夏も…』
『目の覚めるような紅葉に囲まれた秋も…』
『そして、また、雪が降り始めても…』
『俺は、ずっとここにいる』
『もう、どこにも行かない』
『俺は…』
ぷつっ
わたしは目覚ましのスイッチを切る。だめだよ。これ以上は聞いていられないよ。
苦しくて、悲しくて、そして、切なすぎて。

「名雪のことが、本当に好きみたいだから」

…あれっ、目覚ましは切ったはずなのに、祐一の声が聞こえてくるよ…
なんでだろう。
声は…扉の向こうから聞こえてくるみたいだよ。
わたしは部屋の扉を開ける。
そこには…
「よう」
少し照れた表情を浮かべた祐一が、寒そうな様子で立っていた。
「どうだ名雪、ムード満点の演出だろう」
何事もなかったかのように、いつもと変らない口調で言う祐一。
その淡々とした調子に、ついついわたしも引きずり込まれてしまう。
「…とりあえず、びっくりしたよ…」
「少しはびっくりしてもらわないと困るぞ。この恥ずかしい台詞を延々と言わされたんだからな」
そっぽを向いて答える祐一。
「でも、すごいタイミングの良さだね」
「ああ、廊下でずっと登場の機会を待ってたからな。しかし、さすがに寒かったぞ」
本当に寒そうに答える祐一。変なところにこだわるのは、相変わらずだね。
「…もしかして、最初から目覚ましと一緒に喋ってたの?」
「うーん、最初からと言いたいところだが、本当は『約束する』のあたりからかな? しかし、最後まで名雪に気付いてもらえなかったらどうしようかと、ヒヤヒヤしたぞ」
じゃあ、ずっと目覚ましに合わせて喋ってたんだ。わたし、全然気付かなかったよ…
「でも、こんなに長いメッセージ、よくちゃんと覚えていたね」
「あのなあ…俺がこのメッセージを吹き込むのに、何時間かかったと思ってるんだ。今でも一言一句違わず憶えてるぞ」
ちょっと胸を張る祐一。わたし、何だかとってもうれしいよ…
じーんとしているわたしをよそに、さっきからどことなく落着かない雰囲気の祐一。
なんか、しきりに周りを気にしてるみたいだけど…
「祐一、何をそんなにそわそわしてるの?」
「名雪…その格好、少し刺激的すぎるんだが…」
えっ? わたしは改めて自分の身体を見てみる。
わーっ!! わたし、何にも着てないよ!!
わたしたちは改めて、ベッドに並んで座っていた。
あ、もちろんパジャマは着直したよ。
いつの間にか最悪の気分はどこかに飛んでっちゃったけど、まだわたしの心は重く沈んだまま。
「どうだ名雪、少しは落着いたか?」
相変わらず優しい祐一の声。でも、その優しさが今のわたしには辛いよ…
「うん…ごめんね…祐一…わたしのこと、嫌いになっちゃったよね…」
「祐一の前で、おならなんか漏らすし…その上、八つ当たりはするし…」
心にわだかまっていたものを、少しづつ吐き出していく。そんなわたしの話を、祐一は黙って聞いてくれてる。
「こんな嫌な女の子って、最低だよね…」
「まったくだ。名雪は最低だな」
祐一の冷たい言葉が、他人事のように聞こえる。だって、そう言われて当然だから。
「でもな…」
わたしを抱き寄せる祐一。優しく、そして力強く。
「俺は、嫌なところも最低なところも含めた、名雪の全てが大好きなんだ」
「祐一…わたし…」
また涙があふれてきた。祐一…わたし、本当にうれしいよ…
「ごめんな、名雪。こんな無神経な最低男で。いつも名雪を傷つけてばっかりで、恋人失格だよな…」
「ううん、そんなことないよ…祐一はいつでも優しいよ…わたしがいけないんだよ…」
ぐすっ…嬉しいはずなのに、涙が止まらないよ…どうしちゃったんだろ、わたし…
「言っただろ。俺は、いつでも名雪の側にいるって」
「祐一…やっぱりわたし、祐一が大好きみたいだよ…」
指でわたしの涙を拭う祐一。不器用だけど、優しい祐一。わたしの本当に好きな人。
「俺も、名雪のことが大好きだよ。たとえ何が起きようともな」
「祐一…」
「名雪…」
そして、再び重なり合うお互いの唇。その瞬間…

ぷぅっ

ロマンティックな雰囲気に挑戦するかのような、おならの音が鳴り響いた…
えっ、今のはわたしじゃないよ…
「悪い、屁が出ちまった」
しれっとした顔で言い放つ祐一。あまりのことに言葉が出ないわたし。
「ま、これでお互い様ってところだな」
祐一…きっと、わたしに気を使ってくれたんだね…それは素直に嬉しいよ…でも…
「…祐一、臭いよ…」
「馬鹿、さっきの名雪の屁はもっと臭かったぞ」
わっ、祐一ったら、何てことを言い出すんだよ〜
「え〜っ、わたしのはこんなに臭くなかったよ〜」
「そんなことないぞ。そもそもこの匂いからして、お前の屁の残り香だし」
うそっ、そんなことあるわけないよっ。やっぱり祐一は意地悪だよ〜
「う〜、祐一ってば、本っ当にデリカシーってものに欠けてるよ〜」
「…その点に関しては、名雪に言われる筋合いはないぞ」
いつの間にか、いつものばかな言い合いが始まってるのに気付き、顔を見合わせるわたしたち。
そして、どちらからともなく笑い出す。
まったく、わたしたちってお似合いのカップルだよね。
ばかで、不器用で、でも、お互いのことが大好きで。
「でも祐一、よくそんなに自由自在におならが出せるね…わたし、驚いたよ…」
「ま、これも名雪への愛の為せる技って奴かな」
さらっとした口調で受け流す祐一。う〜…言ってる台詞自体は格好いいんだけど…
「…そんな下品な愛、いらないもん…」
「何を言ってるんだ。名雪みたいな屁こき女には、このくらいの愛がお似合いだぞ」
「わっ、そんなこと言うなんて、ひどい〜、ひどい〜」
相変わらずの他愛ないやりとり。沈んでいた心がどんどん晴れていくのがわかる。
やっぱり、祐一は優しいね。でも、それって当然だよね。わたしが大好きになった人なんだもんね。
「しかし、屁を我慢してる時の名雪が、あんなにエッチだとはな…」
「…そんな言い方されると、まるでわたしが本当の変態さんみたいだよ〜」
当然、不満を口にするわたし。そんな言い方ってないよね。
「今度からエッチをするときには、名雪には常におならを我慢してもらうことにするか」
「う〜…だから、それは祐一の誤解だよ〜」
でも、やっぱりわたしも変態さんなのかな…いつもより感じちゃったのは事実だし…
「じゃあ、今日のエッチの感想を聞かせてもらおうかな」
祐一がにやにや笑いながら聞いてくる。それは…その…
「…いつもより気持ち良かったよ…」
つい正直に答えてしまうわたし。だって、気持ちよかったのは本当だもん。
「でも、結局名雪はイッてないんだろ?」
「うん…だって、いっちゃったらおならが漏れちゃうと思って、一生懸命我慢してたんだよ…」
そうだよ、祐一。わたしだって大変だったんだから。
「じゃあ、今からきっちり名雪をイカせてやるからな。覚悟しとけよ」
「…へっ?」
そう言うと祐一は、いきなりわたしの身体にのしかかってきた。
…わ〜っ、ちょっと待ってよ〜
「ゆ、祐一、本当にするの…?」
「あたりまえだ。それとも、名雪は嫌か?」
もう、祐一ってば、本当にえっちなんだから…でも、わたしはそんな祐一が大好きなんだけどね。
それに、実を言うとわたしも、ちょっと物足りない気分だし…
「…祐一、ちゃんと気持ちよくしてくれる?」
「ああ、大船に乗った気持ちでいていいぞ」
頼もしげに、胸を張る祐一。…何だかわたしもわくわくしてきちゃったよっ。
「祐一…わたし、期待しちゃうからね…」
「おう、任しとけ。それでは…今夜は朝まで寝かせないからなあああ!!」
「きゃ〜♪ 祐一のえっちぃ♪」

同時刻、水瀬家某所にて
「…二人が幸せなら、それで良しとすべきなんですよね…」
秋子さんの悩みは深まる一方なのであった。
「や…やっと41巻まで読み終わったよぅ…」
「いつの間にか、すっかりお日さまが昇っちゃってるしぃ…」
「うーっ、眠いよぉ…でも、続きが気になって止められないよぅ…」
「…あれっ、続きがない…祐一に借りてこなきゃ…」
とてとてとて
「祐一…『ガ○スの仮面』の続き、貸してちょうだい…」
「…ええっ!! 続きって、まだ出てないのっ!!」
「しかも、出るのはいつになるか判らないって言われてるって…」
「…そ、そんなのってないよぉっ…」
ばたっ

とうとう精根尽き果てて、倒れこんでしまった真琴ちゃんなのでした。

おしまい。このSSに関する抗議・罵倒・呪詛のたぐいは、高野山金剛峰寺に向けてお願いします。
ひどいんです。
祐一さんたら、いきなりなんですもの。
その時わたし、お台所で洗い物をしてたんです。
鼻歌なんか、歌っちゃったりなんかして。
そしたら、祐一さんが現れて、いきなり私の胸を揉みながら言うんです。
「秋子さん、いいですよね」って。
わたし、よくわからないままに答えちゃったんです。
「了承」って。
そしたら祐一さん、いきなり私のパンティをひきずり下ろして(以下略)
147高野山の呪いだよもん:2000/12/10(日) 03:14
>>114-137
と言うわけで、前スレの531&533で予告してました、
「名雪萌えSS(テーマ:腋毛)」「名雪萌えSS(テーマ:尻毛)」に続く第3弾、
「名雪萌えSS(テーマ:屁)」ようやく完成いたしました。
思いっきり遅れましたことを、深くお詫び申し上げます。
内容は相変わらずの馬鹿SSです。ちなみに長いです。暇と根気のある人だけ読んで下さい。
今回は、一応えっちに挑戦してみました。薄味ですが。
さて、次こそ「舞萌えSS(テーマ:屁)」のはずですが、まだ何も考えてません。
果たしてどうなることやら…
148名無しさんだよもん:2000/12/10(日) 03:15
まてっ!!
廻しの続きの方が気になるぞ。(笑)
149名無しさんだよもん:2000/12/10(日) 03:18
宇野と言えばオデコキャッチだな・・

スレどころか板違いなのでさげ
150名無しさんだよもん:2000/12/10(日) 03:19
>>148
俺も漏れも!!
151高野山の呪いだよもん:2000/12/10(日) 03:22
×宇野鴻一郎 → ○宇能鴻一郎

我ながら何で間違えるかね、しかし。
宇能先生(芥川賞作家)、ごめんなさい。
152名無しさんだよもん:2000/12/10(日) 16:08
>>147
うおお〜我慢してる名雪、激萌え〜!!!!
名雪の一人称なのがいい感じっす! 押忍!!
153名無しさんだよもん:2000/12/10(日) 23:55
>>147
不覚にも激しく萌えてしまったぞ。
しかし、屁ごときでここまで萌えさせるとは・・・
恐るべし、高野山。
154名無しさんだよもん:2000/12/11(月) 05:14
萌えて笑えてオチまでついて…まったく見事としか言いようの無い出来映え、感服致しました。
次回作執筆の折には是非、回し用9行SSの続きも掲載頂けるよう心からお願い致します。
155Alfo:2000/12/11(月) 23:08
これよりКапопの続きを書き込みますので、
回し上げが終わるまでカキコを控えてくださいませ。
第八話 核となる幽霊

「うわっ!」
「あっ!」
 咄嗟のことで避けきることができず、少女は俺の肩にぶつかって転んでしまった。
 その衝撃で少女が抱えていた紙袋がアスファルトに落ちる。
「おい…、大丈夫か?」
 俺は手を差し伸べて、少女を起こした。
「うぐぅ…、鼻が痛いよ…」
 少女は手を取って立ち上がると、落としてしまった紙袋を拾い上げ、今走ってきた方向を振り返った。
「あっ! もうこんなところまで来てる!」
 瞬間、少女の目に怯えが浮かぶ。
「え、何が…」
「こっち!」
「っ! おいっ!」
「走って!」
 少女は強引に俺の手を引っ張り、駆け出した。
 つられて俺も駆け出してしまう。
「速く! 追いつかれちゃう!」
「だ…、その前に理由を説明しろ!」
「追われてるんだよ! ボク!」
「何に!」
「うぐぅ、黒服の怖い人!」
「こんなところにMIBなんている訳が…」
 ……。
 ……。
 …ステレオタイプの奴がいた。
「うぐぅ、急がないと捕まっちゃう!」
「何で俺まで追われなきゃならないんだ!」
「一緒にいると仲間だと思われちゃうから!」
「巻き込んだのはお前だろうがあああっ!」
「うぐぅ、声大きいよ…」
 そう言っている間に、黒服はアタッシュケースからからサブマシンガンを取り出していた。
 こんな人気の多い場所で…、いや、すこしづつだが俺たちは人気の少ない場所へと誘導されているような…。
「おい! この先には何があるんだ?」
「えっと、おいしいパン屋さんと、いつもよく行く本屋さんと…」
「そうじゃなくてっ!」
 俺は必死で脳内地図を検索した。
「まずい! この先は行き止まりだ!」
「え? そうなの?」
「このままだと追い詰められてしまうな…」
 どうやら、袋小路に追い詰めて蜂の巣にする作戦らしい。
 俺が懐の得物を漁っていると、
「わかった! ボクに任せてよ!」
 そういうと、少女は背負っていた羽根付きリュックを探り始めた。
「あった! よ〜しっ!」
 そのとき少女が取り出したものは…。
「お前、それスティンガーじゃ…」
 対地対空兼用携帯型自動追尾ミサイル兵器だった。
「いっくぞ〜!」
 少女は喜々としてスティンガーをセットすると、狙いをつけはじめだした。
「おい! 市街地でスティンガーなんて使うんじゃ…」
「距離…よし、角度…よし、熱源探知…、よし」
 まずい、目がマジだ。
「何でこんな目に会わなきゃいけないんだあああっ!」
 俺はその場から全力で離脱した。
「今だ! いっけ〜〜〜っ!」
 少女は、スティンガーのトリガーを引いた。

 ドオオオンッ!

 着弾。
 爆発。
「うぐうううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…」
 少女は、着弾の衝撃波で見事なドップラー現象を起こしながら後ろ向きに転がっていった。
 幸いなことに(?)スティンガーの着弾地点はちょうど黒服の足元3メートル前だった。
 事前に威力調整をしてあったのか、ミサイルはレンガのブロックをえぐり、非戦闘員にほとんど被害を与えることも無く黒服達のみを吹き飛ばしている。
 その黒服も致命傷を負ったわけではないみたいだ。
 もっとも、いくつか亀裂が入って崩れ始めた建物もあるにはあったが。
 俺は心の中で犠牲者に祈った。
「たく、無茶しやがるな、街中でミサイルぶっ放すなんて…。あ、そういえばあいつは…?」
 俺は少女が転がってる方向を向いた。
 …まだごろごろ転がってる…。
 あ、海に落ちた。
「うぐぅ、すんごく寒いよ…、えっと…」
 少女は肩を抱えてガタガタ震えていた。
「ユーイチ・アイザワだ。厳寒の海にダイブしたわけだからな。生きていること自体奇跡みたいのようなものだ」
「ユーイチ…君?」
「とにかく、どこかで服を乾かさないと風邪引く…、どうした? そんな神妙な目つきして」
「……」
「お〜い?」
「…もしかして…あの…」
 と、少女が口を開こうとしたそのとき。
「あら?」
 後ろからアキコさんが現われた。
「ユーイチさん、どうかなさったんですか?」
「あ、いえ、今ちょっとこいつが…」
「…あ、ボクはアユだよ」
 少女はずぶぬれのまま答えた。
「アユ・ツキミヤ。アユ、って呼んでください」
「そう、アユちゃんね。わたしはアキコ・ミナセ。よろしくね、アユちゃん」
「あ、はい。よろしく」
 少女…、アユはぺこりと頭を下げた。
「…それで、どうしてびしょびしょなの?」
「えと、それは…」
「俺が説明しますよ、アキコさん」

 かくかくしかじか。

「ユーイチさん、かくかくしかじかと言われても何のことかわかりませんよ…」
「…冗談です」
 俺は、重要な部分だけをかいつまんで話すことにした。
「こいつがスティンガー撃って海に落ちた」
「ユーイチ君、それじゃ端折りすぎだよ…」
「実際あったことと言えばこれだけじゃないか」
「うぐぅ」
「…つまり、アユちゃんが黒服に追いかけられているときに、ユーイチさんとぶつかって、それでユーイチさんも逃げることになって…」
「で、そこのアユが人ごみの中にもかかわらずスティンガーをぶっ放したと…って、何でそんなディティールまでわかるんですか」
「うぐぅ、でも、きちんと周りの人には迷惑がかからないようにしたよぉ…」
「んなこといったってな、一つ間違ったら…」
「まあまあ、ユーイチさん」
 アキコさんが中に入った。
「それよりも今はアユちゃんの状況を何とかしてあげないと、ね」
 アキコさんは鞄から毛布を取り出して、それをアユにかぶせた。
「ひとまずお家につれて帰って、お話はそれからにしましょう」
「でも、アキコさん…」
「だいじょうぶですよ。ユーイチさん」
「そうだよ、アキコさんが大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫!」
「うぐぅは黙ってろ」
「うぐぅ、ボクはうぐぅじゃない…」
 ということで。
 俺たちはミナセ家の玄関にいた。
「それじゃ、わたしはお風呂沸かしてきますから。アユちゃんとユーイチさんはそちらの暖炉のある部屋でしばらくゆっくりしていてくださいね」
「あ、ありがとうございます」
 あゆはぺこりとお辞儀した。
 アキコさんはそれを見届けると、奥の風呂場のほうへと向かった。
 自然、部屋には俺とアユの二人だけとなる。
 俺とアユは、テーブルに向かい合わせで座る格好になった。
「……」
「…ナユキは、まだ帰ってないのかな…」
「ナユキ、さん?」
「ああ、アキコさんの娘だ」
「そうなんだ…」
「先に帰ってるはずなんだけどな…」
「……」
「……」
「……」
「…あ〜、なんだな、その…」
「……」
「…紅茶でも飲むか? アユ」
「うん、お願い。暖かくしてね」
 台所から紅茶の入ったポットを持ってきて、それを二つのカップに注ぐ。
「ほら、お前の分」
 アユの前にソーサーを置いて、そこにカップを置く。
「あ、ありがと…」
 アユは、しかし、それを手に取ろうとはしないで、ただ、俯いたまま。
「……」
「……」
 どことなく気まずい沈黙。
 それを最初に破ったのは、アユの方だった。
「あの…、ユーイチ君?」
 紅茶の入ったカップにゆっくり口をつけながら、俺はアユに返事をした。
「うん?」
「あのね…、もし違ってたら失礼かもしれないけど…」
 俺は紅茶のカップをソーサーに置いた。
「…以前、何所かで会ったことないかな?」
「誰と?」
「ボクと」
「…何を根拠に?」
「ただ…、ユーイチ君の名前に、なんとなく懐かしさみたいなものを感じて」
「懐かしさ、ね…」
 四半ほど中身の減ったカップを置いて、俺はそのまま黙りこくった。
「あちち…」
 猫舌なのか、アユはほとんど中身を飲むことができずに、カップを戻した。
「懐かしさ、か…」
「?」
「…俺も、似たようなことを感じてた」
「……」
 市場のときのように、俺はまた深く自分の中に潜行していった。

「記憶の奥に…」
 潜れ。もっと深く。取り戻す為に。
「確かに…」
 それは俺の記憶。忘れようとしたはずの匂い。
「俺は」
 忘れようとした風景、忘れようとした感触。
「この風景を、見ている!」
 忘れようとした声を。忘れようとした想いを。
「アユ…」
「ユーイチ君…」
「お前…、あのアユか?」
「思い出してくれたの?」
「そうか! おまえ、あのアユか!」
「そうだよ! そのアユだよ! ボク!」
「格納庫で迷子になって泣いてたあのアユか!」
「えっと、そういうこともあったっけ…」
「安全ロックかけ忘れて危うく俺を蜂の巣にしそうになったあのアユかぁ!」
「…ボク、そんなことやってないよ?」
「スッ転んでグレネードのピン23個全部一気にはずしやがったあのアユかぁッ!」
「んと…、それはしたかもしれない…」
「トマホークに引っ掛かって敵地でプライベートになったあのアユか!」
「うぐぅ、あれは怖かったよ…」
「はは…、懐かしいな…」
「ユーイチ君…」
「…でも、ホント、また会えて嬉しいぜ、アユ」
「ボクも…だよ」
 感極まったのか、アユは涙目になる。
 次の瞬間。
「ユーイチく〜〜〜〜ん!」
「おわあっ!」
 俺は紙一重でアユの奇襲タックルを避けた。
 どしっ。
「うぐぅ、奇襲と違う…」
 俺の後ろでは、鼻の頭を赤くしたアユが否定の意を表していた。
「何を言う。そのタックルと出刃包丁で何人もの敵兵を血祭りに上げてきたではないか」
「うぐぅ、ボクは白兵戦はしないよ…」

 それから、アユをお風呂に連れて行ったアキコさんに事の仔細を報告した。
 今日の密輸現場強襲のこと、市場での一悶着、そして、アユのこと。
 アキコさんは、すべてのことを理解した上で、俺に一つの封筒を渡した。
 厳重に封をされたそれは、まさに秘密文書といった趣であった。
「アキコさん…、これは?」
「ついさっき届いた書類です。私達宛てに」
「私達?」
「…ユーイチさん、開ける前に一つだけ約束してください」
「はい」
「これから…貴方の見る事実全てに…曇りなき眼で立ち向かい…貴方の為すこと全てに…決して後悔が残らないようにしてください…」
「…約束します」
「それでは、わたしはしばらく席を離れます」
「え…、どうしてですか?」
「ユーイチさん、もし貴方が望むのなら、この任務を放棄しても構いません。そのことは覚えて置いてください」
「俺は、途中で任務を放棄するなど…」
「それでは、失礼します」
 アキコさんは静かに席を立ち、別室へと消えていった。
 俺は憮然としないまま、封筒を破り書類を手に取った。
 そこに書かれていたのは…。
『for your eyes ONLY』
『operation:codename A GHOST IN THE SHELTER』

 核となる、幽霊。
166現在回転中:2000/12/11(月) 23:14
回します。
167現在回転中:2000/12/11(月) 23:14
回してます。
168現在回転中:2000/12/11(月) 23:15
回れ回れ〜。
169現在回転中:2000/12/11(月) 23:15
もっと回れ〜。
170現在回転中:2000/12/11(月) 23:15
あははははは〜。
171現在回転中:2000/12/11(月) 23:16
男「ほうら、こっちだよ〜」
172現在回転中:2000/12/11(月) 23:17
女「○○○君、待って〜♪」
173現在回転中:2000/12/11(月) 23:18
↑○○○の部分には、お好きな名前を入れて楽しんでください。
174現在回転中:2000/12/11(月) 23:18
……。
175現在回転中:2000/12/11(月) 23:21
>>156-165
Капоп 〜あ・ごーすと・いん・ざ・しぇるたー〜
第八話 核となる幽霊

…まださわりな気もしないでもなくて。
次回はほんとに本題に入ります。お楽しみに。
176Alfo:2000/12/11(月) 23:23
↑何ミスってんだか…俺
177名無しさんだよもん:2000/12/11(月) 23:53
いやいや、入れてると思いますよ。現在回転中さん(笑
178七連装ビッグマグナム:2000/12/12(火) 00:01
痕の長編を小出しにAlfo氏の様に書き込みたいのだがよろしいかのう?
千鶴ハッピーエンド後の暗め&どろどろしたSSなのだが。
短い話ではないので、一応意見を聞きたいでつ。
スレ的にアレかもしれないのでさげで…(小心者
179名無信者さん:2000/12/12(火) 00:09
>>178
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=974734116
ダーク系はこっちの方がいいかも。
180七連装ビッグマグナム:2000/12/12(火) 00:18
>>179
ありがとう。でも鬼畜物ではないのだよ…。(エローリはあるかもだが。
なんというか…重めのクソシリアスなので。
それともそういうのもそっちの方がええのかのう???
181高野山の呪いだよもん:2000/12/12(火) 01:58
>>148-154
数々の感想を頂き、大変有難うございます。
なんか意外と回しネタの方の評判が良いみたいなので、
次はあれの続きにしようかとも思ってます。楽だし。
それでは、そーゆーことで。

>七連装ビッグマグナムさん
ここでよろしいのではないかと思います。
個人的に私は千鶴さん属性なので、読ませて頂くのが今から楽しみです。
あ、できればエローリはありの方向でひとつ(w
182七連装ビッグマグナム:2000/12/12(火) 02:14
>高野山の呪いだもよんさん
レスありがとうございます。いつも素敵でおもろい萌えSSありがとうございまつ。
特にケツ毛萌えました(w
長編SS、近日中にあぷさせてもらいますです。
エローリ…は後半になりそうな予感…(;´Д`)ガンバッテミマツ…
183七連装ビッグマグナム:2000/12/12(火) 02:40
とりあえず長編の冒頭あぷさせて貰うでつ。
議論スレで白熱したオリキャラでてくるので嫌いなら飛ばしてください。
184痕長編@:2000/12/12(火) 02:44
 晴れた空。晴天。照りつける太陽は真冬の凍てつく寒さに少しばかり暖かい。あれから、もう一年以上が過ぎた。感慨にも似た感情を持て余しながら、耕一は公園を独り歩く。
 あと二年。大学を卒業したら、ここの住人になる。それは自分で決めたことだった。愛しい従姉妹達、そして彼女と共にこの土地に永住する。不満は何もない。幸福だと思う。
 それでも。それでも何かが胸に支えている。違和感。そう、酷い違和感が、胸の片隅に確かに存在する。…何故。
「すみません」
 背後からの声に立ち止まり、思考も一度止める。振り返ると高校生くらいの少年が申し訳なさそうに耕一に問いかけた。
「この辺の墓所があるって聞いたんですけど…何処だかご存知ですか?」
 十五、六歳位だろうか。切れ目がちの目に、白い肌。サラサラの髪、灰色のコートを纏ったその体は華奢で、強い風が吹いたら折れてしまいそうだ。声を最初に聞いていなけ
れば女の子に間違えていたかも知れない。そんなことを考えるでもなく思いながら、耕一はふと、墓参りに行くのも悪くないなと思った。何処へ行くでもなくうろうろしていた
のだ、親父の墓に挨拶をしに行くのも悪くはないだろう。
「俺も丁度墓参り、行く途中だから」
 少し笑って答えると、少年は川原聡です、と頭を下げた。どことなく、誰かに似ている。何故かそう感じた。それが誰なのかはわからない。
185痕長編@:2000/12/12(火) 02:49
「俺は柏木耕一。大学の二年だから…ちょっと先輩かな」
 冗談めかして言うと、柔らかく微笑む。やはり、誰かに似ている。墓所に近付き、
会話が進むにつれて、その思考は膨らんでいく。
(でも…誰に?)
 そこで、途切れる。酷く苛立たしい気分にはなったが、彼には何の罪も無い。
 何故、の堂々周りをしているうちに、墓所へ着いた。元々そんな距離はない。疑問
は膨れたが、そこで終わりだ。挨拶をして別れると、かじかむ指で墓に水をかけ、手
を合わせる。
 この墓には代々鬼の、この血に惑わされ、痛ましい想いの中死んでいった者達が今
も眠っている。
「親父、俺は勝ったよ。こうして生きてる。再来年、ここへ越してきたら鶴木屋に就
職するよ。…そして、千鶴さんと結婚する」
 去年もこうして手を合わせていた。幸福の中で、残暑の秋に。でも今は何故か違っ
た想いばかりが走る。焦燥感にそれは良く似ている。疑問符が、気が付くと常に頭上
にもたげている。それが何故だかもわからない。
「…何故だろうな、親父。幸福なのに、何か違う気がするよ」
 応える者はいない。
 風が舞った。ふと見上げると、空に陰りが落ち、気温も少し下がった気がする。
帰ろうと立ち上がり、何気なく、さっきの少年を目で探した
186痕長編@:2000/12/12(火) 02:50
「……あれは…」
 見覚えのある位置。あの墓は……。
「柳川の……」
 彼の親族なのだろうか。彼もまたこの血の被害者だった。一年経ったからこそ、
彼への冥福の気持ちが芽生えていた。
 あのもう一人の鬼が柳川だと知ったのはあの死闘から暫く経ってからだった。夢
で、彼の苦痛を知っていた。千鶴さんを、愛しい人を守る為とはいえ、この手にか
けた。それを自分は無理矢理だとしても正当化している。一度、一人で父の墓参り
をしたときに、彼もまたこの墓所に眠っていることを知って、手を合わせた。酷く
複雑な気分で。
187痕長編@:2000/12/12(火) 02:52
 だが。親族はどう思っているだろう。今も、彼を失った事への悲しみ、痛み、
…そして公式には犯人は永遠に捕まることはない、その苛立ち。
 この血の事を知っているのだろうか。判ってるのだろうか。交錯した想いの中、
立ち上がった少年と目が合った。少年は軽く会釈をして墓所を後にする。
 その後ろ姿が視界から消えて尚、耕一は重い思考に捕らわれ、雪が降り出すまで
そこから動けなかった。
188痕長編A:2000/12/12(火) 02:56


「おかえりなさい」
 耕一が玄関先で靴を脱いでいると、初音が廊下から顔を出してにっこりと微笑む。もこもこのセーターからはみ出るようにスカートが舞い、するりとした健康的な足が冷たい床の上に佇む。
「ああ、ただいま」
「今日はね、楓お姉ちゃんがご飯作ってるんだよ」
 夕食のご報告。彼女は耕一が昼出掛けて帰ってくるといつもそうして報告してくれる。よほど耕一の帰りを待つのが好きらしく、その顔には常に満面の笑みが彩られていた。
「珍しいね。梓は?」
 ここ一週間この柏木家で、梓以外が作る食事を口にしたことはなかった。千鶴さん
はこの時期のしかも高級旅館だ、運営で忙しくて常に遅く帰るようになっていたし、
楓ちゃんや初音ちゃんが手伝っている事はあっても梓が夕食の支度をしていない事は
珍しかった。
「かおりさんのとこ」
 少し陰りの見える表情。多分自分も同じ様な表情を浮かべているだろうと想いなが
らも、耕一は「そうか」としか応えられなかった。柳川の中の鬼の血暴走。それがも
たらした被害。梓ももう全てを知っている。そして彼女の葛藤も垣間見た。今、梓は
何を想い、かおりの見舞いをしているのだろう。
189痕長編A:2000/12/12(火) 02:58
 玄関の戸が鬱蒼とした気分をうち払うように開き、この家の家長である千鶴が肩
に付いた雪を払いながら笑顔を見せた。チャコールグレイのシックなコートが漆黒
の長髪を溶かすように映えて、夕方公園で出逢った少年を想い出させた。印象が重
なる。似てるわけではない、耕一は何故歳も性別も違う少年と、自らの恋人を重ね
たのか、少し頭をひねったが、答えが到底見つかるわけではないだろうと、思考に
キリをつける。
「ただいま」
 千鶴は微笑むと器用に靴を脱ぎ、玄関に上がってそれを整える。
「あれ?千鶴さん、仕事は?」
 ここ一週間、彼女は仕事で奔走し、疲れた顔で帰ってくるのは常に十時を過ぎた
頃だった。今日はまだ六時を過ぎた頃だろう。
「今日は早めに上がらせて貰ったの。これからまた更に忙しくなるだろうから、今
の内に少し休んでくださいって」
 その判断は正しいと耕一は此処の中で頷く。近頃本当に疲れが溜まっていたのだ
ろう、彼女は普段なら見せない表情をよくするようになっていた。酷く疲れている
のだろうと、やはり皆、心配していた。
「そっか、よかったね。最近疲れた顔してたから。今日はゆっくり休んでね」
「有り難う、初音」
190痕長編A:2000/12/12(火) 03:01
 談笑をしながら、冷えた廊下を歩く。台所では一人小柄な少女が五人分の食事の
支度をしていた。おかっぱがさらさらと少し動くたびに揺れる。去年の夏より少し
伸びたかもしれない。蛍光灯の明かりの下で、その漆黒は艶やかだった。
「美味しそうだね」
 食卓に並べられている数々の料理。梓の指導の元、日々進化する楓の料理はレパ
ートリーもさることながら、味も梓に比べてなんら遜色もなく、最近ではお菓子作
りに凝っているようで、柏木家の食卓にはクッキーやらプリンやら、デザート関連
も充実していた。
「あ、耕一さん。つまみ食いはダメですよ」
 振り向いた視界の中に耕一が唐揚げをつまもうとしているのを見て取り、楓は苦
笑して注意する。
「んん、やっぱり美味しい」
 耕一が笑顔で頬張るのを見て、楓は「もう」と言いながら嬉しそうに微笑んだ。
笑うようになってくれた。それが耕一は一番嬉しかった。自分に微笑むことはなか
った少女。無口で、話すことすら否定された。酷く嫌われているのだと思っていた。
それが違うことを聞かされたのは、全てが終わってからだった。鬼の血の覚醒を恐れ
て接触を避けていたことを聞かされた時に、耕一は安堵する中で胸にちくりと痛みが
走った事をまだ覚えている。あの時の、楓の表情。それが、酷く寂しそうな微笑だっ
たから。
191痕長編A:2000/12/12(火) 03:02
「ただいまー」
 背後で玄関の開く音と同時に梓の声が響く。続いて靴を脱ぎ、それを揃える音も。
「寒い寒い」
 などと婆臭い事を言いながら、廊下を渡る音がする。そして、がらり、と戸を開け
る。
「おかえりなさい、梓」
 それを迎えて千鶴がコートを片手に微笑む。姉が妹に帰りの挨拶をしたというより
、子供が帰ってきた母親の声に聞こえて、思わず耕一は微笑する。平和だと、実感し
ていた。
「あれ?千鶴姉、珍しいね。こんな時間に帰ってるなんてさ」
 珍しく自分の帰宅より早い姉に、驚き半分、安堵半分と言った表情で梓は千鶴に挨
拶を返さずに聞く。
「うん。今日は早めなの。さ、手を洗ってきましょう」
 あれから一年。長いようで短かった時が過ぎて、こうしてまた食卓を囲む。それぞ
れに想い、しこりの残らなかったわけではない。それでも平穏な時は訪れていた。そ
れを耕一は実感している。
 それでも。それでも、と思う。何かが、まだ終わっていない。言われもない焦燥感
が支配している気がしてならなかった。だが、それを口に出してはいけない気がした
。それは自分だけのものに思えたからなのかもしれない。いや、皆が持っているから
かもしれない。だから口に出すことが憚られるのだろう、耕一は水道の冷たい水に触
れ、その思考を凪払うように、首を振った。
192痕長編:2000/12/12(火) 03:03
まわしまつ。
193痕長編:2000/12/12(火) 03:04
ぐるぐる。
194痕長編:2000/12/12(火) 03:05
改行失敗した…鬱だ。
195痕長編:2000/12/12(火) 03:05
漏れの信条が…。
196痕長編:2000/12/12(火) 03:06
とりあえず冒頭のみあぷしてみたでつ。
197痕長編:2000/12/12(火) 03:07
ぐるぐる。
198痕長編:2000/12/12(火) 03:08
あと3つくらいかな。
199痕長編:2000/12/12(火) 03:09
ああ、文才が欲しい…。
200痕長編:2000/12/12(火) 03:10
ラスト〜
201七連装ビッグマグナム:2000/12/12(火) 03:13
>>184-191
「痕長編の冒頭(千鶴さんハッピーエンド後)」
オリキャラでてきまつので嫌いな人はとばしてくれ…(;´Д`)
改行失敗したの…かなり鬱だ……。
202名梨さんだよもん。:2000/12/12(火) 08:56
名作揃いで素敵ですね。
>>201
続き、がんばってください。
個人的には、オリキャラはエッセンス程度としてならOKです。
203名無しさんだよもん:2000/12/12(火) 10:59
 
204名無しさんだよもん:2000/12/12(火) 11:45
要するに文句言うのだけは3人前で
その他は半人前以下のやつらが栞スレッドにはゴロゴロしていると
いうわけか〜。
205名無しさんだよもん:2000/12/12(火) 11:47
スマソスレ違いっス
206七連装ビッグマグナム:2000/12/12(火) 14:27
>>202
うわ!ありがとうでつ!
がんばりまつ〜。わーい。
207七連装ビッグマグナム:2000/12/12(火) 22:55
これより痕長編の続きをお送りしまつ。
208痕長編Bそれぞれの思い・梓:2000/12/12(火) 22:59
 何度も夢に見た。悪夢。酷くうなされて目が覚めると、自分の部屋。この暗い、部屋。
「まただ…」
 呟いて、首を振る。夜気が冷たい。はんてんを着込んで廊下に出る。口の中がからから
に乾いている。喉の内側が貼り付いているような感覚が不快だった。
「もう、終わったはずなのに」
 わかっている。永遠に終わることなど無いことなど。この血が途絶えるまで、そんなこ
とはない。だが。終わって欲しかった。罪の意識に苛まれる。同じこの血が、友人を後輩
を傷つけた。その罪の意識が果てることを望んでいた。
 冷蔵庫を開け、牛乳のパックを取り出す。コップに注いで一気に飲み干した。体の芯が
冷える。臓腑までも。気が付けばスリッパを履くことを忘れていた。足先が痺れるように
冷たい。償うにはあまりにも小さい、だがそれでもこれが自分への罰の様で、梓は呟く。
「かおり…ごめんね」
 贖罪。何に対するものかはわからない。この血がもたらしたもの。同じ血が、かおりに
もたらしたものは、梓をも苦しめる。
209痕長編Bそれぞれの思い・梓:2000/12/12(火) 23:01
 苦手意識はあった。だけども、彼女のことは可愛い後輩だと思っていたし、自分への思いがどう
であれ、好意だったのを梓は知っていた。だからこそ、痛ましかった。病院で再会したかおりの姿。
あの元気な様子はなく、ただ横たえ、その細い腕にはいくつもの管が差し込まれていた。今は元気
に笑う。それがもっと酷い事のような気がして、梓はいつも痛ましい気持ちになる。だが、それを
表にだすことはしなかった。出来なかった。
 姉は気付いているだろう。でも何も言わない。言えないのだろう。そういう所は思慮深い事を梓
自身、良く知っていた。言葉で埋められるものではない。
 よろけるようにテーブルの足にしがみつく。強く掴んだその木の棒は悲鳴を上げるように軋んだ。
210痕長編Bそれぞれの思い・梓:2000/12/12(火) 23:03
 同じ血がしたこと。なのに自分は何も出来なかった。止めることも。終わらさせることも。
何もだ。後になって全てを聞いて、納得するしかなかった。自分を納得させるしか。それしか
出来なかった。薄々は気付いていたのに。自分が他の人間とは違う事に。それがここまでに酷
いことだなんて。力があることを過信していた節のあった自分を恥じ、そして落胆に似た思い
を抱いた。何もできなかったじゃないか。かけずり回っても、何もできなかったじゃないか。
犯人を捕まえる事も、この手で裁く事も。
 …いや。それが出来たとて、この思いが晴れているとは言い難かった。それほどまでに憎め
るとはしらなかった。この血も。他人も。自分ですら。
 酷い吐き気がした。自分が生きている事がこんなに疎ましく感じたことは今までなかった。
こんなにも罪の意識にかられて、それでも吐露することはできずにいる。
「かおりぃ……ごめん…ごめんね…」
 嗚咽ばかりが、胸を占めていた。許せない想いばかりが、こんなにも苦しい。それでも…それ
でもこのまま生きていくしかない。このままで。
 私が何をしたっていうのだろう。どうして、こんなにも酷い事が起こったのだろう。どうして……。
 梓はテーブルに縋り付いたその腕で立ち上がり、寝室へ戻る。暗澹とした想いを無理矢理、胸に
しまいながら。
211まわしでつ:2000/12/12(火) 23:10
お腹いっぱいでお腹痛いでつ。
212まわしでつ:2000/12/12(火) 23:11
何故かPCの時計が10分近く遅れてまつ。
213まわしでつ:2000/12/12(火) 23:12
ぐう。
214まわしでつ:2000/12/12(火) 23:12
ぐるりぐるり。
215まわしでつ:2000/12/12(火) 23:13
くるりんくるりん。
216まわしでつ:2000/12/12(火) 23:14
まわれーまわれー
217まわしでつ:2000/12/12(火) 23:15
回転寿司くいてー。
218まわしでつ:2000/12/12(火) 23:15
でも腹いてー。
219まわしでつ:2000/12/12(火) 23:16
そういえば@・Aはサブタイつけわすれてたなー。
220七連装ビッグマグナム:2000/12/12(火) 23:23
痕(千鶴さんハッピーエンド後)長編の続き。
@発端
A焦燥の日常
>>184-191
改行ミスあり(;´Д`)
誤字発見…ああ、ドキドキハラハラしてたんだな、漏れ。
おのれ、高野山(スレ違い

Bそれぞれの思い・梓(おにゅうでつ)
>>208-210
短くてスマソ。
オリキャラもでてきちゃったりするので嫌いな人はすっ飛ばして
欲しいんだよもん。
221名無しさんだよもん:2000/12/13(水) 02:12
痕祭っぽい感じなのでage
222名無しさんだよもん:2000/12/14(木) 19:50
 # 如何だろう?最新の力作なのだが。

 所変わって、出来麻呂邸。

 出来麻呂は、自室の机に向かっていた。
 その目は真剣そのものだった。
 やはり、出来麻呂の一番は努力の賜であったのだろうか?

 否。

 彼には努力など必要なかった。

 高校の期末試験程度、彼にとってすれば赤子程度の問題。
 なにせ彼は、幼稚園の頃にして東大実戦模試でA判定を手中にしているのだから。

 ………。
 ……。
 …。

 彼は、ドラえもんの単行本を見ながらくつろいでいたのだ。
「出来杉くん萌え…」
 彼がそれ見る目的はただ一つだった。
 …出来杉の勇姿を鑑賞すること。
 彼は、ドラえもんの単行本四十数巻を全て所有している。
 そしてそれは、彼の机の棚に所狭しと並べられている。

 彼の机の上には、勉強に関連したものは何一つなかった。
 彼には必要なかった。

 そして彼の息抜きは、その単行本に登場するしずかちゃんを消し去ること。
「僕の出来杉くんを奪う奴は許さないですよ…」
 しずかちゃんの絵、台詞、その存在全て。
 それらを、油性マジック片手に丹念に塗りつぶしていくのだ。
「ふふ、消えなさい」

 彼の目は、殺気に満ちあふれていた。
 言葉こそ穏やかだが、そこには日頃の穏やかな出来麻呂の面影はなかった。

 そして、そんな彼を心配そうに見つめる彼の母親の姿があった。
「出来麻呂ちゃん、どうして…」

 しかし、母親の想いが出来麻呂に届く由はなかった。
223名無しさんだよもん:2000/12/14(木) 20:06
初日は数学1、世界史、古典だった。1時限目数学1・・・。問題は三次方程式の証明だ。
この証明のために、圭山は何通りの証明を解いた。終了後、彼の周りの人が言っていた。
「あんなのわかんねえーよ。苗記の問題むずい」
その言葉を聞き圭山はにやりと笑った。
「庶民共が・・・。あんなのは東大の試験に比べれば赤ちゃん用の試験だ・・。」
圭山は確信していた。今回は必ずヤツに勝てる!!と。
ちらりとヤツの顔を見てみる。ヤツは笑っていた。満面の笑顔で・・。
「今だけ笑っているがいいさ・・。この試験が終わって試験返答の時、貴様は帝王の座から堕ちるのさ・・。」
そしてチャイムが鳴り世界史が始まった・・・。続く
224名無しさんだよもん:2000/12/14(木) 23:20
 カーテンは固く閉ざされ、外界との接触を拒んでいるようだ。
 昼なのか夜なのかさえ一見分からない。
 文明の利器だけが、かろうじて時を知る手だて。
 しかしあえてそうすることを選ばない。
 というよりも、そんな暇は彼にはなかった。
 時の流れさえ遮断されていた。
 そんな空間。
 辛うじて時を感じさせるもの。
 それは、男の呼吸音と、パソコンの動作音だけだった。

 闇の部屋をパソコンのディスプレイが朧気に照らす。
 そこには、2ちゃんねるが映し出されている。
 そして、男の眼鏡にそれが投影されていた。
「…ふふ。このスレは絶対に受けるだろうな…」
 独り言を呟く。
 彼は、キーボードを叩く。
 静かに、しかし激しく。
「…送信だ」
 静かに呟くと、彼はマウスを力強くクリックした。
 男の口元が綻んだ。
 そして、微かな笑い声が漏れた。
 …彼は夢想にふける。
 俺の書き込みを読んだ誰もが、俺のハイレヴェルなギャグセンスの前にひれ伏す。
 ひれ伏すべきだ。
225名無しさんだよもん:2000/12/14(木) 23:46
>>220
がんばってください。続き、ひそやかに楽しみにしてます。
(出来れば1回が長い方がいいけど、リアルタイムで書いてるのかな?)
226名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 04:22
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ
ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒヒヒヒッヒッヒッヒヒイ

227名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 04:22
抜け出した大地で 手に入れたのは自由 maybe lucky maybe lucky i dare say i@`m lucky
レールの上に沿って どこまで行けるかな maybe lucky maybe lucky i dare say i@`m lucky

焼き増しの未来には惹かれないから
君の未来はあっち さぁtrying trying in yourself

causes stain stay away
acuses sayin stay away

まっさらな太陽は誰にも降り注ぐ maybe happy maybe happy i dare say i@`m happy
うるさく言わないでね沈んでしまうから maybe happy maybe happy i dare say i@`m happy

絡みつく世界にはうんざりなのさ
影踏みしてないでさぁtrying trying in yourself

causes stain stayaway
causes stain stayaway
causes stain stayaway
night away oh! BOTHER ME

生まれながら僕は無法状態さ
石ころ転がしさぁtrying trying in yourself

causes stain stayaway
causes stain stayaway
causes stain stayaway
night away...

浮かぶ雲の様に誰も僕を掴めない
何もかもを壊し自由のもとに生まれた


228MMR in Kanon 第2話:2000/12/15(金) 04:31
『ものみの丘のミステリー?』
 ちゃっちゃっちゃちゃ〜ちゃっちゃちゃ、ちゃちゃちゃ、ちゃららちゃちゃちゃちゃあ〜♪
「皆さんこんにちは。Misaka Mystery Research 略してMMRの時間がやってまいりました。
複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、さまざまな謎や疑問を徹底的に究明する
Misaka Mystery Research 略してMMR。あたしが部長の美坂香里です。」
「そして副部長の美坂栞です。よろしくお願いします。当クラブでは生徒の皆さんの依頼に
基づいて直ちに優秀な部員を派遣して真相の追究にあたります。」
「そして本日の顧問は水瀬名雪です。」
「香里も栞ちゃんもよろしくだよ〜。」
「そして部員の桂小枝です。」
「しかしまあなんですねぇ〜KanonTCGっていたる絵のレベルが明らかになって酷ですよねぇ。
あれって新手の嫌がらせですかねぇ〜って誰が桂小枝だ!」
「のったくせに…それに桂小枝のどこが不満なの?あたしは大ファンよ。」
「祐一さん、あなたは全国3000万の桂小枝ファンを敵に回しました。」
「じゃあ、祐一はこれからずっと松村邦洋。授業中も部活中もずっと松村邦洋。」
「松村はファンだが、それは止めてくれ…そういえばあの番組、新しい局長っていつ決まるんだろうな?」
「どうせならチャーリー浜がなったら面白いのにね。」
「いや、横山ノック復活番組にすればいいと思いますっ。」
「あたしもそれがいいと思うわ。まあそのくらいにして、栞、新しい部員の紹介よ。」
「お姉ちゃん、わかりました。新入部員…川澄舞さんです。」
「…よろしく。」
「おい…舞まで部員に引っ張り込んだのか?」
「あら、違うわよ。川澄さんから入部したいって言ってきたのよ。この色男〜にくいにくい!」
「か、香里…それはちょっと…。」
「コホン…それでは本日の依頼に入る前にちょっと話があるの。」
「はい、実は前の話がMMRである必然性が全然ないという指摘がありまして。」
229名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 04:34
「それは確かにいえるな。」
「で、どうするの?もう話は終わっちゃったんだよ。」
 香里は「ノストラダムス全予言」を取り出すと、あらかじめ栞を挟んでおいたページを開いた。
「とりあえず、指摘にあったように『ノストラダムスはこの出来事を予言していた!』で
いってみようと思うの。これは諸世紀第4巻8番の詩なんだけど…
 大都市は不意をつかれ奪われよう
 夜襲で肝はつぶされ、警備は中断を余儀なきことに
 宮廷の見張りもサン・カンタンの夜警も
 番兵は虐殺され門は粉砕されん
まず、1行目の『大都市は不意をつかれ奪われよう』、これは学校の校舎で夜中に魔物が
出る事を予言してるわね。2行目の『夜襲で肝はつぶされ』とは相沢君が魔物に教われて
驚いているところね。『警備は中断を余儀なきことに』、ここは相沢君が来た事によって
川澄さんの魔物に対する注意が邪魔された事。3@`4行目は何故か宿直の先生や警備システムも
働かずに、校門から堂々と校舎に侵入されたことをあらわしているのね。」
「すごいよ〜香里。」
 今度は栞がページを開き説明を始めた。
「まだあります。今度は第10巻67番の詩ですけど…
 地震は五月に起こり
 土星 流星塵 木星 水星は牡牛座に
 金星も同じく かに座 火星はゼロに
 そこで卵より大きい雹がふるだろう
1行目の『地震は五月に起こり』、これは5月生まれの倉田さんが魔物に襲われ怪我をした
ことです。2@`3行目の5つの惑星が5匹の魔物をあらわし、流星塵というのは舞さんが屋上から飛び降りて
魔物を倒した時の事です。最後の行の『卵より大きい雹』というのは舞さんがつくった
雪うさぎのことを予言してると思われます。」
「……!さすがはノストラダムスね。ここまで正確に予言するなんて…。」
「…栞、なんで雪うさぎのことを知ってるの?」
「そういえばそうだ。佐祐理さんが怪我をするのも、舞が屋上から飛び降りるのも、雪うさぎのことも
本編での話じゃないか。どこが正確な予言なんだ!」
「まあ、細かいことは気にしないでね。とりあえずこれで大目に見てほしいんだけど…。」
「香里も栞ちゃん祐一も、そのくらいにして依頼のほうにいこうよ〜。」
「賛成。」
「…そうね。じゃあ栞、本日の依頼を。」
「はい、1年生の天野美汐さんからの依頼です。」
230名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 07:27
「『MMRの皆さんこんにちは。私は物腰が上品なだけなのに、おばさんくさいといって
相沢さんにいじめられる可哀想な女子高生です。さて依頼のほうですが、水瀬さんの所に
居候している沢渡真琴のことです。彼女は実は妖狐なんですけど、なぜか水瀬さんの
ところに来てから大分経つのに未だに熱を出すでもなし、消えるでもなしで大変元気です。
本編の真琴シナリオでさえ帰ってきたのか分からないのに、これは大変納得いきません。
ぜひ調査して真相を明らかにして欲しいのです。よろしくお願いします。』
 栞は依頼を読み終わると、明らかに軽蔑した目で祐一の方を見た。
「祐一さん…こんなこと言ってるんですか?これセクハラですよ。」
「うっ…それはいわゆるスキンシップというやつで…。」
「何がスキンシップなのよ!まあ、それはあとでゆっくり追求するとして…名雪、あなたの所にいる
真琴って妖狐だったの?」
「そうだよ。でも別にこの街では珍しい事じゃないし…。」
「確かにそう言えばそうだったわね。」
「おい、それで済ますのか!」
「祐一はいちいち細かい…。」
「でも、いつまで経っても消えないってのは初めてね。では早速天野さんに会いに行きましょう。」
 香里達は1年生のクラスがある階を訪れた。まだ授業が終わって大して時間が経ってない為か、
廊下にはまだ大勢の生徒がいた。1年生ばかりの中で香里や名雪や舞がいる香里達のグループは
ひときわ目立っていた。しかし祐一には目立っている理由がそれだけとは思えなかった。
231名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 07:35
「なあ…なんか俺達異様に浮いてないか?というか避けられているみたいな…さっきから俺達のほうを
見てひそひそ話してる連中がいるし、俺達が近づくとみんな道を明けるぞ。」
「あたし達もこの前の事件で少しは有名になったからね。」
「香里…どう考えてもこれは良い意味で有名になってないよ…。」
「そうですよね…あっ、美汐さんのクラスはここですね。」
 栞はそばにいた女生徒に美汐のことを尋ねた。その生徒は顔色を変えると、ひそひそ声で答えた。
「天野さんだったら、ほら、あの教室の隅にひとりで座ってる子よ。でも、あの子に会いに来るなんて
珍しいわね。ひょっとしてMMR関係なの?美坂さんも変なお姉さん持って大変ね。早く縁切ったほうが
いいわよ。大体この前も…」
 彼女がその続きを言う前に香里が口を挟んだ。
「この前…何なの?それに変なお姉さんって誰の事?栞に変なお姉さんなんていたかしら?」
「自覚がないなんて始末が悪いな。」
「相沢君、何か言った?」
「あはははは……私、用があるので…失礼します!」
 そう言うと女生徒は逃げるように教室を出ていった。
「全く、失礼しちゃうわね。こんな妹思いの良い姉をつかまえて。」
「栞…お前色々苦労してるんだな。」
「祐一さん、わかりますか?この辛さが。今までは活動してなかったも同然なので目立たなかった
のですけど、この前のことがあってから有名になっちゃって…私、すっかりさらし者です。」
 名雪と舞はそんな会話を無視して美汐の席に向かった。
「あなたが天野美汐ちゃんね?」
「そうですけど…あなた達は一体?」
「MMR…あなたの依頼でやってきた。」
「えっ、本当に来てくれたんですか…ダメもとだったのに。」
「やっぱり…こんな事だと思ったんだよ。」
 しかし舞は名雪と違って気にした様子も見せず、美汐に尋ねた。
「それじゃ、詳しく事情を話して。」
232名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 07:40
「ええ、真琴は…この写真の子なんです。」
「…前に夜の学校であった事がある。…どこかおかしな子だと思っていた。」
 美汐が真琴の写真を取り出して名雪と舞に見せていると、そこに香里達もやって来て
写真を覗きこんだ。
「この子が真琴なのね?やっぱり名雪のところに居候している子だったわね。」
「まあ、他に殺村凶子なんて奴、まずいないだろうしな。」
「沢渡真琴です!」
 そんな美汐の言葉を無視して栞が口を挟んだ。
「可愛い子なんですね。やっぱり妖狐なんですから耳や尻尾が生えたりするんですか?」
「残念ながら今のところ耳や尻尾が生えてるのは見た事ないけどな。」
「そうなんですか…残念です。」
 祐一の顔を見て美汐が露骨に嫌そうな口調で尋ねた。
「あ、相沢さん…まさか…」
「そのまさか。実は俺もMMRに強制的に入部させられたんだ。」
「強制的なんて失礼ね。」
「じゃあ、脅迫だ。」
「公平な取引。言葉は正確にね。」
「待ってください。入部の経緯はともかく私、これで失礼させてもらいます。私をおばさん呼ばわりする
相沢さんもいるなんて、そんな酷な事はないでしょう。」
 そう言うと美汐は席を立ち教室から出ていった。
233名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 07:48
「わっわっ、祐一、早く謝った方がいいと思うよ。」
「そうですよ、祐一さん。おばさん呼ばわりは酷いです。例えそう思っても本人には言わないのが
礼儀です。」
「…栞も酷い事言ってる…。」
 立て続けに非難されて、さすがの祐一も白旗を上げた。
「わかったわかった、謝るから。待ってくれよー、天野ー。」
 祐一は天野を追いかけて教室を出ていった。少しすると、まだ嫌そうな顔をした美汐を連れて
祐一が戻ってきた。
「仕方ありません。あの子のためです。それじゃ依頼を詳しく話すことにします。」
 美汐は教室の片隅の空席に座り香里たちを見まわすと、ゆっくりと話し始めた。
「栞さん以外はご存知でしょうけど、この写真の子が沢渡真琴です。そして真琴は妖狐なのです。
妖狐は人間に化ける事が出来るのです…命と記憶と引き換えに。」
 美汐はそこで押し黙ると、少し間を置いて話を続けた。
「そしてやがて力を使い果たし、消えてしまう…だから、真琴も消えるはずなんです…。
しかし、真琴は現れてかなり経つというのに消えてません。そこを調査して欲しいのです。
その理由がわかればあの子も復活できるかもしれませんし。」
 美汐が話し終わると、香里は祐一達を見まわして言った。
「それじゃあ、今度は真琴本人に会いに行きましょう。」
234名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 07:51
 美汐を加えて香里達は名雪の家に向かっていた。
「そう言えば、はゆはゆは1日14回だったらしいな。」
「間違っちゃったね〜。」
「でも、世界記録は1日70回超えてるらしいわね。」
「お姉ちゃん、それ、本当?」
「祐一、さっきから何の事なの?」
「う…佐祐理さんに聞いてみろ。」
「相沢さん…そうやって逃げるのは酷いと思います。」
 そんな事を話してると、香里達は名雪の家に着いた。
ピンポーン。香里がチャイムを鳴らすと秋子さんが現れた。
「あら、香里さん。こんなに大勢でどうしたの?」
 名雪は真琴の事を聞いてみた。
「お母さん、真琴いない?」
「…そう言えばいないわね。さっきまでいたのに。」
「真琴、隠れてないでさっさと出てこい!」
 祐一が叫ぶとどこからか声が聞こえてきた。
「ふっふっふっふっ。」
235名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 07:57
「一体誰なの?」
 香里が声をかけると、声は更に続いた。
「夜空の星が輝く陰で 鍵っ子の泣き声がこだまする」
「PCからDCに泣く人の 涙流してティッシュの始末」
「真のヒロイン沢渡真琴」
「およびとあらば即 参上」
「とぅっ。」
 1階の屋根にいた人影は飛び降り、見事に着地した。
「Kanon真のヒロイン沢渡真琴、只今参上!」
「わぁー、かっこいいです。さすが妖狐ですね!」
「えへへぇー、てれちゃうな。祐一、真のヒロインにふさわしい登場だと思わない?」
「真琴!」
 美汐が突然、大声を出した。
「そんな事して怪我でもしたらどうするんです!大体元ネタ解かってるのですか?」
「知ってるよ。銀河旋風ブライガーでしょ?」
「う…まあ、合ってますけど。でも…。」
 秋子さんがそこに割り込んだ。
「真琴も美汐ちゃんを心配させたらダメですよ。ほら、美汐ちゃんに謝って。」
「…わかったわよぅ。美汐、ごめんね。」
「わかれば良いんです。もう、危ない事はしないでください。」
 話が一区切りついたのを見ると、香里は真琴に尋ねた。
「さっきはちょっとびっくりしたわね。ちょっと聞きたいんだけど、真琴、あなた妖狐なのね?」
「あう…真琴にはよくわからないけど、そうみたい。」
「で、真琴さん、耳や尻尾はないんですか?」
236名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 12:54
>>228-235
凄く面白いっす。ところで、何で途中で切れてるんでしょうか?
続き熱烈にキボーン。
237名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 18:22
「一体誰なの?」
 香里が声をかけると、声は更に続いた。
「夜空の星が輝く陰で 鍵っ子の泣き声がこだまする」
「PCからDCに泣く人の 涙流してティッシュの始末」
「真のヒロイン沢渡真琴」
「およびとあらば即 参上」
「とぅっ。」
 1階の屋根にいた人影は飛び降り、見事に着地した。
「Kanon真のヒロイン沢渡真琴、只今参上!」
「わぁー、かっこいいです。さすが妖狐ですね!」
「えへへぇー、てれちゃうな。祐一、真のヒロインにふさわしい登場だと思わない?」
「真琴!」
 美汐が突然、大声を出した。
「そんな事して怪我でもしたらどうするんです!大体元ネタ解かってるのですか?」
「知ってるよ。銀河旋風ブライガーでしょ?」
「う…まあ、合ってますけど。でも…。」
 秋子さんがそこに割り込んだ。
「真琴も美汐ちゃんを心配させたらダメですよ。ほら、美汐ちゃんに謝って。」
「…わかったわよぅ。美汐、ごめんね。」
「わかれば良いんです。もう、危ない事はしないでください。」
 話が一区切りついたのを見ると、香里は真琴に尋ねた。
「さっきはちょっとびっくりしたわね。ちょっと聞きたいんだけど、真琴、あなた妖狐なのね?」
「あう…真琴にはよくわからないけど、そうみたい。」
「で、真琴さん、耳や尻尾はないんですか?」
238名無しさんだよもん:2000/12/15(金) 18:24
「えーっ、耳はともかく尻尾はないよーっ。」
「いや、その耳じゃなくて狐の方の耳です。」
「真琴には普通の耳しかないのっ。」
「やっぱりそうなんですか…。じゃあ、これを付けてもらえます?」
 栞はポケットから狐耳付きカチューシャと尻尾のアクセサリーを取り出した。
「栞ちゃん…いつ用意したの?」
「さあ、付けてみてください!さあさあさあ!」
「栞が壊れている…。」
「あうーっ、美汐、助けてぇ!」
「栞さん、いい加減にしてください!」
 堪りかねた美汐が叫ぶと、その場はすっかり気まずくなってしまった。
「みんな、こんなところじゃ寒いから家の中でね。」
 秋子さんがそんなもっともな提案をしたので、全員賛成しリビングに集合した。
「ほら…栞、真琴に謝りなさい。」
「お姉ちゃん…。わかりました。ちょっと調子に乗りすぎました。真琴さん、ごめんなさい。」
「へへーっ、正義は勝つってワケね。」
「真琴、調子に乗ってはいけません。真琴も謝るべきです。」
「あうーっ、わかった。栞、ゴメン。」
「それじゃあ、お詫びに私がコスプレを披露します。この黄色いバンダナを右手に巻いて…。」
『魔法が使えたらって、思ったことないかなぁ』
「…リストカッター繋がり…。」
「舞、シャレになってないから止めとけ。」
「真琴も真のヒロインとして負けてられないっ。ポニーテールにして白いリボンをつけて…。」
『にははっ、観鈴ちん、ぶいっ。』
「…幼児退行&記憶喪失繋がり…。」
「…だから止めとけって。」
「むむ、真琴さんやりますね…ではこのピンクのパジャマを着て…」
『もうゴールしてもいいよね。』
「…死にかけ繋がり…。」
「だーかーらー、やめとけって。」
「わたしも負けてられないよ〜。着物着て髪の毛たばねて鈴をつけて…。」
『無礼者、余を誰だと思っておる。』
「…父親欠損家庭繋がり…。」
「お前もな。」
「…祐一、ひどい。」
「はいはい、みんな、いたる絵では仕方が無いのだから、そのくらいにしておきましょう。
あたしだって、役回りは友里で外見は晴香なんだから。」
「おいおい…。」
239うわ…2度書きしてる…:2000/12/16(土) 00:14
「それじゃあ、秋子さん、真琴をお借りしますね。」
「晩御飯までには帰ってくるんですよ。」
 香里達は真琴を連れ、水瀬家を後にした。
「それで、香里、これからどうするの?」
「決まってるわよ。事件はまず現場からよ。ものみの丘に行くわよ。」
 香里達はものみの丘にやって来た。春の日差しが青々とした草に降りそそぎ、気持ちのいい
暖かな風がその丘に吹いていた。
「…気持ち良い風ですね。」
「真琴、俺はお前をここで見つけたんだ。」
「あうー、何か懐かしいよ…。」
「あっ…うさぎさん…。」
「みんな、ちゃんと調べるのよ。」
 しばらくして、調査?を終えた全員が香里の元に集合した。
「香里〜、別におかしな所は無かったよ〜。」
「無駄足だったみたいだな。」
「そうかしら?何か気がつかない?」
「そう言えば…。」
 美汐が控えめに切り出した。
「この季節なのに、草木に今一つ元気がありません。」
「良いところに気がついたわね。そうなのよ。この丘全体に今一つ活力というか、元気さが無いのよ…。」
「でも、それと真琴と何の関係があるの?」
「それはこれから調べる事よ。今度は図書館に行きましょう。」
「げ…今から?」
「みんな、早く行くわよ。」
 香里は嫌そうにしている全員を連れて図書館へと向かった。
240名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 00:26
The Great Hanshin Earthquake was a big laugh.
There must have been someone else counting the victims.
I did. It was thrilling to hear the death toll climb:
2000? That's the way!
Now@` another 1@`000!
It was just exciting to watch the numbers continue to rise!
Only 6@`000 died in the end@` though.
It was nothing to fuss about.

The Great Hanshin Earthquake was a big joke.
I mean it.
I was having a nice cup of tea while watching their stupid faces on TV.
I almost went there for a souvenir shot.
But at least the quake had extra advantages for some people.
The governor or the mayor were reluctant to get support from SDF@` they
simply wanted to wipe out that entire area@` you see.
Some of them still live in the shelters@` what the nerve!
We are paying for it@` for God's sake!
Oh@` well@` what did they do with the toilet then.
Shit in the streets? Are you serious?
Disgusting!
Anyway@` the image on TV was spectacular.
It was like watching a live broadcast from some Onsen towns.

A peaceful@` pleasant evening it really was.

241名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 00:35
「すみません…ものみの丘に伝わる妖狐の伝説に関する資料を見たいんですけど…。」
「はい。少々お待ちください。」
 香里は図書館に着くと、職員に資料の貸し出しを依頼した。しばらくすると職員は台車に
本を積んで戻ってきた。
「おい…30冊近くあるぞ。これ、全部調べるのか?」
「みんな、閉館時間までがんばるわよ。」
「…………。」
 しばらく図書館の片隅の机で紙魚くさい本を調べていたが、1時間も過ぎると香里と
美汐を除く全員は文句を言い始めた。
「もう止めようぜ。疲れた。」
「香里〜、百花屋でイチゴサンデー食べようよ〜。」
「お姉ちゃん、私はバニラアイスがいいです。」
「…牛丼がいい…。」
「…あれ?」
 すると違和感に気がついた美汐が叫んだ。
「大変です!真琴がいません!」
「そうだな。」
「そうだなって…早く探さないと。」
「慌てるな、天野。真琴が図書館で行くところなんて決まってる。」
242名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 00:44
「ほら、いた。」
 真琴は児童室で子供と一緒に漫画を読んでいた。
「やっぱり…ここにいると思った。おい、真琴!」
 祐一は真琴が夢中になって読んでいる漫画を取り上げた。
「あーっ、祐一、何するのよっ。」
「勝手にうろうろして…駄目だろう。さ、一緒に来るんだ」
「まだ途中なのに…。」
「ドラゴンボール…?続きは明日にするんだ。ドラゴンボール?ん…?そうか、そうだったんだ!」
「祐一さん、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとな…戻って話すぞ。」
 祐一達は資料が積み上げてある机に戻ってきた。
「祐一さん、一体何なんです?」
「わかったんだよ!真琴が消えないわけが。」
「え、祐一、本当に?」
「ああ…謎を解く鍵はドラゴンボールにあったんだ。」
「…どういう事?」
 祐一は立ち上がり全員を見回すと話し始めた。
「えーっ、実はドラゴンボールには元気玉という技がある。」
「あ、真琴それ知ってる。」
「まあ、知らない人の為に説明すると、悟空がベジータと戦ったときに初めて使った必殺技で、
自分以外の生物から少しだけ生命力をもらって、それを球状にして敵にぶつけるという技だ。」
「つまり…?」
「真琴はものみの丘の草木から生命力を分けてもらっているんだ!」
243名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 01:20
「真琴、そうなの?」
「そんな事言われてもわかんないわよっ。」
「そうだろうな。多分無意識でやってるんだ。これは多分、俺達と離れたくないという願いが
起こした奇跡だろうな。」
「真琴…そんなにまで思ってくれていたなんて、わたしうれしいよ〜。」
「わ、名雪、抱きつかないでよ〜。」
「うんうん、めでたし、めでたしだな。」
 その後、祐一達は夕食を水瀬家で取ることになり、再び名雪の家に向かっていた。
歩きながら香里はさっきの出来事を考えていた。
『おかしいわ…そんな理由なら今までだって他に消えなかった妖狐がいてもいいはず…。』
「香里…そんな顔して一体どうしたの?」
「あ、ああ、名雪。ちょっと気になる事があってね。」
「お姉ちゃん、一体何が気になるんです?」
「今はちょっと…何か引っかかるのよね…。」
 水瀬家ではちょっとしたパーティー並の料理がそろっていた。
「すごいですね…一人でこれだけの料理をあれだけの時間でどうやって作ったのでしょうか?」
「ふふふ…企業秘密です。皆さん、冷めないうちにどうぞ。」
「いただきまーす。」
 秋子さんの料理を食べていても、香里の表情は晴れなかった。
「香里、さっきからずっと何を考えてるんだ?」
「うーん、ちょっとね…。」
「秋子さん、この肉まんおいしい!」
「ありがとう、真琴。手作りなんですよ。」
「これまで手作りなんですか…。」
 その会話を聞いていた香里の顔がいきなり明るくなった。
「そうよ!そうだったのよ!謎は全て解けたわ。」
244名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 01:35
「お、お姉ちゃん、いきなりなんですか?」
「栞…わかったのよ。真琴が消えない本当の理由が。」
「おい、それじゃ俺の推理は間違っていたというのか?」
「ええ。でも、相沢君が間違えたというよりも…間違えるように仕向けられたといったところね。
ものみの丘の草木、そして真琴が読んでいたドラゴンボール。これは推理をミスリードさせる為に
あらかじめ用意されたものだったのよ。」
「…それは一体?」
 香里は真琴を見つめると、話を続けた。
「大体…生命力を分けてもらってるなんておかしいと思わない?そんな事が出来るのならば
今までだって消えなかった妖狐がいたはず…それに悪いけど真琴は余り優秀とは…。」
「あぅー…。」
「大丈夫ですよ。真琴はそのままの真琴でいいのですから。おバカなところも可愛いですよ。」
 美汐は真琴を慰めた。余りフォローにはなってなかったが。
「でも、そう仮定すると一体真実はどうなるのでしょうか?」
「みんな、カッコウって鳥知ってるかしら?」
「カッコウ?」
「…知ってる。」
「それじゃ川澄さん、カッコウの習性も知ってるわね?」
「(コク)…他の鳥の巣に卵を産み付け、その鳥に自分の子どもを育てさせる…。」
 香里は舞の説明が終わると、それを補足するように続けた。
「そうね。託卵という習性ね。あたしは妖狐達はこれを人間で行ってると思うのよ。
人の良さそうな人間がものみの丘に来ると子供を拾わせ、無事戻ってきて信頼できると
判断すると今度は人間の姿で送り出す…そしてしばらく人間のもとで暮らし、
時期が来ると弱った振りをして、そのまま人間のもとを去る…。」
245名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 02:04
 そこまで香里が話すと、水瀬家の食卓は静まり返ってしまった。たまらず、名雪が動揺した声で
真琴に声をかけた。
「…!そんな…真琴、嘘だよね?そんな事無いよね?」
 真琴は顔を真っ赤にして香里に言い返した。
「そ、そんな事ないわよぅ。だ、大体、証拠はあるの?」
「そうですね…確かに証拠は欲しいところですね。」
 秋子さんの言葉に香里はゆっくりと先を続けた。
「あるのよ…今日の秋子さん特製肉まんを食べた人は…嘘をつくと鼻の頭に血管が
浮き出るのよッ!」
「え…?」
「お、お姉ちゃん、それ、嘘ですよね?」
 香里は微笑みながら栞の問いに答えた。
「もちろん嘘よ…でも、ドジな狐を引っ掛けるには充分だったみたいね。」
「真琴…?」
 美汐が恐る恐る見ると、真琴は鼻に手を当てて血管を探していた。
「ほら、ね。」
246名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 02:17
「それじゃ、改めて事情を説明してもらいましょうか?」
 真琴は何かを決意したように顔を上げると、話し出した。
「うん…大体香里が言ってる事で合ってるけど…でも、真琴達はカッコウみたいに
その家の子供にすり変わったりはしないよ。」
「それは当然でしょうね。いくらなんでもそんな事をしていては、誰も拾わなくなるでしょうしね。」
「香里、一体何の為にそんな事をするの?」
「多分、人間の生活を体験させて次に上手く騙せるようになる為だと思うわ。」
「それは、違うよ!」
 真琴は涙を浮かべ、身体を振るわせながら大声で叫んだ。
「違うよ…信じてもらえないだろうけど…真琴の一族は人間が好きなんだよ…。
だから…子供にも人間を好きになってもらいたいと…それだけなんだよ…。」
 そこまで言い終わると真琴は顔を伏せ、泣き始めた。すると美汐は真琴の頭をなで
落ち着かせるように微笑んだ。
「信じますよ、真琴。真琴だって私達の事は好きなんでしょう?」
「うん…大好きだよ。」
「でも、それなら何故、まだここにいるんだ?もう、人間の生活は解っただろう?」
 真琴は泣き止むと、祐一の顔を睨んだ。
「だって、祐一にまだ復讐してないんだもの。」
「まだそんな事言ってるのか、お前は。」
「祐一さん、てれているだけですよ?」
「あ、秋子さん、違うよ、そんな事全然ないわよっ!」
「ふふふふ…。」
247名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 02:52
「真琴、それなら私ももう一度あの子に会えるのですね?」
 美汐は期待をこめて真琴に尋ねた。しかし、真琴の返事は美汐が聞きたかった物ではなかった。
「え、それは…無理だと思う…。」
「そんな…何故なんです?」
 しかし、真琴は口篭もるばかりで答えようとはしなかった。」
「何故なんです!教えて下さい!」
「天野…。」
「相沢さん、何ですか?」
 祐一は美汐の肩に手を置き、口を開いた。
「俺にはわかる…お前は…。」
 真琴は祐一を止めようと叫んだ。
「祐一、言っちゃダメッ。」
「天野…お前はふられたんだ。」
「…そんな…ふられた…私が…。」
「…だから言いたくなかったのに。」
 真琴は呆然とする美汐を気の毒そうに見つめるだけだった。
 やがて夜もふけたので調査はここまでという事になり、美汐を玄関まで送る事になった。
「美汐さん、元気出してくださいね。」
「ええ…それでは失礼します。」
 美汐は過去の楽しかった日々、そして辛い別れを思いだし涙ぐんでいた。
『私…初めてだったのに…最後の思い出なのに…こんな酷な事ないでしょう…。』
 美汐の後姿を見ながら香里達は今回の調査を振り返っていた。
「妖狐の悲しい伝説にも裏があったと言う事ね。」
「まあ、みんな命懸けで会いに来るのもおかしいですしね。」
「つまり、今回の調査の結論は…」
「…自作自演萎え。」
「…それがオチかい!」
248回し様ミニネタ:2000/12/16(土) 07:28
「お姉ちゃんって背が高かったんだねぇ。」
「そうだな。でも、和田アキ子と同じというのは何か嫌だな。」
249その2:2000/12/16(土) 07:38
「お母さんも背が高かったんだ。」
「そうや。そしてこの抜群のプロポーション。うちもまだまだいけるな。早速ナンパに出発や〜。」
「が、がお…。」
250その3:2000/12/16(土) 07:54
「美凪はゲーム中に身長が出ていたけどね。みちるも早く大きくなりたいよ〜。」
「ちょっと待て!只でさえ、つるぺたとは言い難いんだ。それ以上大きくなってどうする!」
「国崎さん…ぺド?」
251名無しさんだよもん:2000/12/16(土) 11:26
>MMR in Kanon 第2話

非常に面白かったです。
小ネタがいちいち効いてる上、きっちり話としてのオチもついててバッチリっす。
第3話も楽しみにしております。
2527:2000/12/17(日) 02:23
上げるまでも無いので回しはやめます。
MMR in Kanon 第2話 >>228-235 >>238 >>239 >>241-247
前鯖で書いていた物の誤字修正と続きです。
…とりあえず読んでくれた人、ありがとう。


253Alfo:2000/12/18(月) 01:49
Капоп 〜あ・ごーすと・いん・ざ・しぇるたー〜の書き込みをはじめます。
諸事情によりこれは年内最後になってしまいますが。
しばらく書き込みを控えてくれると幸いです。
第九話 組織

 話は数日前にさかのぼる。

「…ということで、GHOSTの方は目下捜索中です」
「そうか…。後で捕虜の方に訊いてみるとしよう」
「おそらくは…口を割らないでしょうが」
 暗い部屋。
 幾つものモニターの光の中に浮かび上がる二人の影。
 一つは眼鏡をかけた神経質そうな男。もう一人は…モニターの逆光のせいでよく見えない。
「それでは、残りのご報告を。我々に敵対する勢力の主だった構成員ですが…」
 眼鏡の男がレポートの表紙をめくる。
「まず、アキコ・ミナセの指揮下に新規メンバーが入りました。名前をユーイチ・アイザワと言います」
「アイザワ…ね」
「幼少より特殊な訓練を受けており、東洋の独自の戦闘スタイル、忍術を会得していると思われます。現場に残された武器からそう判断されます。いわゆるクナイという投げナイフの一種ですね。ご覧になりますか?」
「いや、必要ない」
「…そのアキコ・ミナセのほかの主要メンバーとして、ナユキ・ミナセがいます。独自に開発された蛙型完全自律決戦携帯兵器、K−Ro−Pを扱います。ナユキ自身にたいした危険性はないのですが、K−Ro−Pの戦闘力は見逃せません」
「……」
「アキコ・ミナセは未だ謎の多い人物です。彼女の目的、戦闘スタイル等は目下調査中ですが、これといった成果は上がっておりません」
「…調査は続けてくれ」
「御意に。彼女の指揮下には、他にもマイ・カワスミなる剣士がいます。手持ちの武器を使った戦闘では無類の強さを発揮しています。早急の対策が必要かと」
「まあ、俺が出向けば問題はないだろう」
「…左様で」
「第三勢力の方はどうなってる?」
「は。これまでに判明しているのは二人ですね。マコト・サワタリと、カオリ・ミサカ。マコト・サワタリの方は、前述のマイ・カワスミとよく似たタイプの戦士ですが、こちらはスピードを信条とした戦法を取ります。あと、カオリ・ミサカですが…」
「言わなくてもわかっている。TACの方はどうなってる?」
「はい、順調に進んでおります」
「一つ、試してみるとしよう…。今すぐに使えるのはいるのか?」
「は、XTAC−03なら、今すぐにでも」
「XTAC−03か…名前は、なんだった?」
「ミシオ・アマノ。例の学校の生徒でした」
「そうか。なら、今すぐつれて来い、久瀬」
 物憂げな表情の男が久瀬と呼ばれた男に命令を下すと、その男は一礼し、部屋を後にする。
 命令を下した男の方は、微動だにしない。
 ただ顔に憂いを残したまま。
 ほどなく、久瀬がXTAC−03…ミシオ・アマノを部屋に連れてきた。
 少女は無言。
 沈黙は服従の為か、それとも語ることなどないからか。
「久瀬…、お前は下がっていいぞ」
「は…」
 久瀬と呼ばれた男…おそらくは幹部の一人であるのだろう…はまたも一礼をし、自動ドアの向こうに消えていった。
 部屋に残されているのはミシオ・アマノ、そしてリーダーらしき男、その二人。
 不意に、今まで動こうとしなかった男の方が、席を立った。
 テーブルの脇を通り、立ち尽くしている少女の前へと移動する。
 男は少女の目を覗き込んだ。
「…一つお前に質問をしよう」
「はい」
 少女の瞳は、機械的に光を反射するだけだ。
「ガソリンの特性を答えろ」
「ガソリン…揮発性を持つ可燃性の液体…主にエンジン機関に使用される」
「他には?」
「蒸発するときに、触れているものの温度を著しく奪う」
「その通りだ」
 男は質問を終えると、少女の脇を通り過ぎ、扉へと向かう。
「それがわかっている上で、お前に実行することができるか…試してやる。俺について来い」
「はい」
 少女は答えた。
 別室。
 男が少女を連れ去った先には、幾人かの兵隊と、捕虜が一人いた。
 捕虜は椅子に戒められ、目下身体の自由が存在しない状況だった。
「首尾は?」
 男が兵隊に言う。
「は、例の件に関わる情報は、一切…」
「そうか。後は俺がやることにしよう」
 男は捕虜に近づくと、うなだれていた捕虜の髪を掴み、強引に顔を上げさせる。
「サイトウ君…君は充分がんばったよ」
「……」
「だから、これで最後の質問としてやろう」
「…殺せ」
「言われなくても」
 捕虜の目に絶望が浮かぶ。
「…もっとも、君が質問に答えてくれないなら、の話だが?」
「…くそっ!」
 捕虜は何とかして戒めから逃れようともがく。
 だがそれも叶わぬこと。
「質問だ…これが最後の」
 男はそう宣告し、捕虜の目を覗き込むように睨みつけた。
「GHOSTはどこだ?」
「……」
「答えてくれよ、サイトウ君」
「……」
「君のような優秀な人材を、みすみす放逐したくはないのだよ」
「……」
「さあ」
「…答えられない。俺が知りえる情報は、全て上官に報告した。俺の任務は既に終わってるんだよ」
「そうか…」
 男は以前見せたような物憂げな表情を一瞬浮かべると、後ろで待機している少女の方に振り向いた。
「アマノ、部屋の隅にあるバケツを持ってこい」
「……」
 少女は無言で移動する。
「そう、そのガソリンの入ったバケツだ」
 20キロはあろうかというそれを、少女は軽々と持ち上げる。
「ところでサイトウ君…、ガソリンはお好きかな?」
 捕虜の目が驚愕に歪む。
「な、何をする気だ…ッ」
「アマノ、その中身を彼にかけてやれ。盛大に、な」
「はい…」
 次の瞬間、捕虜の視界は茶色い液体で膜を下ろされた。
 男が窓に近い兵隊に合図を送る。
 その兵隊は持っていた散弾銃の柄で窓を叩き割った。
 極寒の空気が捕虜の肌を、そしてガソリンを刺激する。
 声にならない叫びが部屋に響いた。
「サイトウ君、今の君の苦しみの理由を説明してやろう」
 男は苦しみの中にいる捕虜の周りをゆっくりと歩き始めた。
「ガソリンは気化するときに触れているものの温度を奪う。その上この極寒だ。君の肌はもう凍傷なんてレベルではない。既に壊死が始まっているのだよ」
 コツ、コツと足音が響く。
「痛いだろう? いまさら後悔なんかしてないか? もう遅いけどな」
「ガァ…ァァァァッ!」
「…だがな、俺も鬼じゃない。君に一つプレゼントを贈ろう」
 そう言って、男は捕虜に何かを握らせた。
「安物ですまないが、それはライターだ。それでゆっくり暖を取ってくれ」
 男はそういい残すと、部屋を後にする。
 続いて少女、最後に兵隊達が脱出した。

 小一時間後、一つの焼死体が闇に葬られることとなる。
「あ〜ったく、こんな寒い日にマラソンさせるなんて、先生も罪な奴だぜ」
「そうか? ただキタガワがヤワなだけじゃないのか」
「わたしもそう思うよ」
「げっ、ナユキまでそういうこと言うかよ〜…」
 ということで、俺たちは前の時間の授業で、キタガワ曰くみっちり10キロも走りこんできたわけだ。
 実際には5キロも走ってはいないわけだが。
「ちょ、ちょっとタンマ…。まずい、本気でめまいがしてきた」
「おいおい、大丈夫かよ」
「大丈夫? キタガワ君」
「…大丈夫じゃねぇかも。ちょっくら保健室行ってくらぁ」
「あ、わたしも一緒に行くよ」
「恩にきるぜ、ミナセ…」
「これくらい、気にしなくてもいいよ」
 そういうと、ナユキはキタガワの肩を支えるようにして教室を出て行った。
「……」
 その後ろ姿を何とはなしに見送る。
「どうしたのよ。そんな物憂げな表情浮かべたりして」
「なんだ、カオリか…」
「アイザワ君、わたしが話し掛けたらいつもそういう返事しない?」
「カオリが話し掛けてくるタイミングが唐突すぎるんだよ」
「ふふ、そうかもね」
「そうなんだよ、実際」
「これからは前もってわかるようにしてから話し掛けるわね」
「そうしてくれ」
 ここまで話してから、俺は自分とカオリの間に思っていたよりもギクシャクしたものがないことに気が付いた。
 あの、彼女との最初の接触から既に一週間ほど経過しているが、それでもこの打ち解け方は妙だった。
 まあ…、俺と彼女の人徳のなせるわざと言ってしまえばそれまでだが。
 俺も、慣れない学校生活でよくもここまで自分をカモフラージュできるもんだ。
「…何かおかしい事でもあったの?」
「え?」
「だって、アイザワ君なんかニヤニヤしてたから」
「いや、別におかしいことでもなんでもないんだが」
「ふうん…」
 俺はなんとも無しに窓の外の空を見上げた。
「なあ、カオリ」
「何よ?」
「さっき隣のクラスに着替えに行った時、転校したての俺の時みたいに花瓶が載ってる机があったが、あれって珍しいものなのか?」
「そうね…、大して珍しくもないわ」
 カオリは机の縁に座った。
「ぱっと見は平和そうだけど、実はけっこう物騒なのよ、この街」
「……」
「多分、組織に誘拐されたんじゃないかしら? その子」
「!」
「そして、誘拐された人間は、大抵戻ってこない…戻ってきたとしても、前の人格は崩壊していることがほとんど」
「ほとんどってことは…無事に戻ってきたやつもいるのか?」
 カオリはそこでくすっと笑うと、視点を窓の外に向けた。

「アイザワ君、この町ほど見かけと中身が違うことの多いところはないわ。そうね…、ちょうど、あの偽者の空みたいに、ね」
260Alfo:2000/12/18(月) 01:59
>>254-259
Капоп 〜あ・ごーすと・いん・ざ・しぇるたー〜
第九話 組織
気持ち的になんかナユキルート。

今回は上げないでみようと思います。
261名無しさんだよもん:2000/12/18(月) 23:48
>>260
大作ごくろうさまです。
262名無しさんだよもん:2000/12/18(月) 23:52
たまーにage〜!
263名無しさんだよもん:2000/12/18(月) 23:55
ごめんなさい。
せめて回してからあげるべきでした。
264名無しさんだよもん:2000/12/18(月) 23:57
>>263
上げる前に気付け!!
トーチューが出現する季節なんだから注意しろ!
265名無しさんだよもん:2000/12/19(火) 00:08
まわすよっ。
266名無しさんだよもん:2000/12/19(火) 00:08
まわすよっ。  
267名無しさんだよもん:2000/12/19(火) 00:08
まわすよっ。
268名無しさんだよもん:2000/12/19(火) 00:09
まわすよっ。  
269名無しさんだよもん:2000/12/19(火) 00:09
まわし忘れたことに気付いたらすぐにまわさないとダメだよっ。
270永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:15
 浩平がこの世界へ帰って来て、既に半年が過ぎた。
 最初は涙が出るほど嬉しかった私だったが、その思いも急速に冷めつつあった。
 自分勝手な言い回しだとは思う。
 でも事実なのだからしょうがない。
 あの時…私の過去へ繋がれた鎖を断ち切ってくれた、浩平。
 けど…何時の間にか私には別の鎖が巻かれていたようだ。
 駄目…忘れられない…。
 私の初恋の人。
 司の事が忘れられない…。
271永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:16
城島司。
 私の幼馴染。
 しかし彼は数年前この世界から消え去ってしまった。
 深い悲しみを抱いて。この世界からの逃避を求めて。
 そして私は囚われた。
 彼の面影に、その楽しかった思い出に。
 だがその行為は私の周りにあった全ての楽しみ事すらも奪ってしまった。
 私の友達は同じく幼馴染の柚木詩子のみ。
 だが私は構わなかった。
 それが普通。その日常が恒久的に続く者だと当たり前にように信じていた。
 心の疲弊を代価として。
 だがその私の日常を壊してくれる人物が現れた。
 それが折原浩平、今現在の私の恋人。
 だが。
 その蜜月の関係すら、永遠に続く物とは誰も保証してくれていなかったのである…。
272永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:17
 そして浩平は今、私の横にいる。
 私の気を惹く様に。
 私の関心を自分に持って行く様にありとあらゆる手段を尽くす。
 私はその様を見て何とも言えない気分になる。
 昔は違った。
 浩平のちょっとした仕草。
 浩平のささやかな悪戯がたまらなく魅力に感じていた。
 たいやきを一緒に買いに行った時、お勧めのジュースを飲まされた時。
 そして時折見せる寂しげな眼差し。
 その表情を見るたびの私は不思議な安堵に包まれていた。
 私は必要とされている、そう感じた。
 しかし今の浩平は違う。
 確かに私を必要としていなくもない。
 だがそれは下世話な恋人としての必要性だ。
 高価なクリスマスプレゼントを渡すために工事現場でバイトする浩平。
 いいホテルを探すために必死で情報誌をかき集める浩平。
 違う。
 何かが違う。
 私が欲しいのはそんなモノではない。
 私が求めているのはそんな浩平じゃない。
 あの神秘的だったあなたは何処に行ってしまったの?
 あのふと目を逸らしたら消えてしまいそうなあなたは何処へ行ってしまったの?
 怠惰な毎日。退屈な日常。
 ただ浩平は私の気を惹くために日々奔走する。
 まるで『操り人形』のように。
273永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:17
「…茜、ちょっと茜聞いてる?」
 私の耳元で誰かの声が聞こえる。
 浩平?いや、違う様だ。
 そして違うと解って安堵する私がそこに居る。
 嬉しくもあり、悲しくもあった。
「だから〜、どのワッフルにするかって聞いてるのに〜」
 女の子の顔が目の前に近づく。
 詩子?
 そうだ詩子だ。
 確か今日は久しぶりに詩子と一緒に街をぶらつく約束をしていたのだった。
 そしてここは山葉堂。
 私は今ここで詩子と一緒にワッフルを買おうとしていたのだった。
 私はすかさず詩子の質問に答える。
274永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:18
「ごめんなさい詩子、ちょっとボーとしてしまって…。では私は蜂蜜練乳クリーム入り
の特製ワッフルを三つ…。後、チョコクリームもたっぷり掛けて下さい…」
「…特製ワッフルはもう無くなったらしいよ、ここ」
「…え?」
 意外な答えに私の目の前が真っ暗になる。
 何故?
 どうして?
 あれがなければ私の日々の楽しみがまた一つ減ってしまう。
 私は目の前が真っ暗になった。
「どうする茜?普通のワッフルならすぐ出来るらしいけど」
「…普通のワッフルでいいです」
 私は心に涙を流しながらそう呟く。
 浩平がおかしくなってからと言うもの、ささやかな楽しみがどんどんなくなっていく。
 残るのは空虚な日常。
 主人公のいない舞台演劇。
275永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:19
「おいしいねー」
 公園のベンチに座って、詩子がそう呟く。
 正直に言うと甘さが足りない、食い足りない。
 だがここでそんな事言うのもどうかと思った。
 最近自分がどんどん嫌な性格になっていくのが手の取るように解る。
「…どしたの、茜」
 そんな事を黙々を考えていると詩子がそう語り掛けてくる。
「いえ…別に何でもないです」
 表情を出さない様にそう返す、幸いな事に私は感情が表に出ないタイプなので
 こういう時助かる、まさか私がこんな事を日々悶々と考えているとはいくら親友の詩
子とは言え思いもよらないだろう。
「はは〜ん、もしかしたら折原君の事?」
 すると詩子は勝ち誇ったようにとんでもない発言をしてくる。
 いや、確かに詩子の言う事に間違いはない。
 ただ詩子の思っている私達の『認識』と私の思っている『認識』に大きな開きがある。
 それだけは間違いなかった。
276永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:19
「どうしたの、浮かない顔して〜?もしかして冷たくされたとか?」
「…別にそんな事ないです」
 私は素っ気なく返す。
「だよね〜、茜ってば折原君にメロメロだもんね。話によると茜の欲しがってた、でっ
かいぬいぐるみも彼、プレゼントしてくれたそうじゃない?茜がラブラブになるのも解
るわよ、そんなに尽くされちゃあ」
 確かにそれは事実だ。
 浩平はあのぬいぐるみをホントに買ってくれた。
しかし、考え様によってはあのぬいぐるみがきっかけになって浩平は変わってしまった
ように思う。
日々繰り返されるプレゼントの応酬。
下世話な情報誌に洗脳された画一的な行動。
「あ〜あ、いいな茜は。私も彼氏ほしーなー」
「そう…?」
つい、そんな言葉が口から出てしまう。
「そりゃ、そうよ〜」
詩子は口を尖がらせてそう発言する。
(欲しければあげましょうか?)
 私はついそんな言葉が出てしまいそうになる。
 その事に気付いて私は何とも言えない気分になる。
 一体私はどうしてしまったのだろうか?何時からこんなすさんだ心になってしまった
のだろうか?
 その原因は浩平にあるのだろうか?
 それとも私?
 答えの解らないパズルが目の前にあった。
277永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:20
 その時だった。
「!?」
 私はベンチの向こうにある噴水の近くで信じられないものを見る。
 憂いを帯びた表情。痩せこけた身体。
 だが…あれは…。忘れもしないあの姿は…。
「司…」
 私はそう一人呟いていた。
「ん?どうしたの茜?」
 詩子がワッフルを頬張りながら、キョトンとした目で私の方を見る。
「いえ…ちょっと…」
 私は走り出したい衝動にかられながらも、平静を装ってそう答える。
 何故?どうして?
 私は不思議がる詩子を横に置いて、ひたすらその思考に没頭する。
 だが今の私には解らない事ばかりだった。
 今のは幻?
 私の希望を映し出した幻影?
 解らない。何もかもが。
278永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:20
 そして私はさっきの場所にもう一度目をこらす。
 だが司らしき人影はもういない。
 やはりさっきのは見間違いだったのだろうか?
 それにしてもリアルすぎるのが気になる。
 私の願いはここまでの映像を見せてしまうくらい差し迫ってしまっているのだろうか?
 正直自分が怖くなった。そして同時に悲しかった。
「茜…大丈夫?」
 そして詩子が心配そうに私に語りかけてくる。
「ええ…大丈夫です詩子。ちょっと、眩暈がしただけで…」
 そして私は嘘をつく。
 いっそ本当の事を言ったらどんなに楽だろうか。
 だが今の私にその行為は許されていない。
 悲しい事にそれが現実だった。
279永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:21
 その日の夜、私は夢を見た。
 それは十数年前の懐かしい光景。
 私と詩子と、そして司が屈託なく笑っている。
 あれは何をしているのだろうか?
 おままごと?いや隠れんぼ?
 でもそんな事は副次的な事にすぎない。
 重要なのはこの三人が同じ場に集まっていると言う事。
 ただそれだけ。
 十数年前には当たり前の事だったこの光景が今では他には変え難い宝物のように思える。
 数年前くらいまではそんな事、思いもよらなかった。
 けど司が消えて…。
 その心の隙間を縫う様に浩平が現れて…。
 そして浩平も消えて…。
 けど帰って来てくれた。
 浩平は帰って来てくれた。
 これで私は幸せになれるはずだった。
 なのにどうして?どうして私は今苦しんでいるの?
 あの時世界が終われば良かった。
 世界が終わっていれば私は幸せのままでいられた。
 けど季節は流れていく。
 あの瞬間。あの幸せな灯火は既に時間という風に掻き消されてしまった。
 そして残るのは怠惰な日常。灰色の光景。
280永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:22
 そしてその夢の最中、私は不思議なモノを見る。
 まるで卵のような。それでいて卵じゃないような。
 それは私の内面。
 内面に浮かんだその丸いモノはゆらゆらと私の中を散歩する。
 時にこちらを見下ろす様にそして何かに納得するように。
 その丸いモノはあちこちと私の心をさまよい続ける。
 そしてある時動きを止める。
 私の心から生まれたそれは何かを訴え様と必死に外側の私に語りかける。
 けどそれが何なのかは今の私には解らない。
 それは遠いから。
 外側の私には遠すぎて聞こえないから。
 だから私はそれに近づこうと歩き出す。
 一歩、二歩。
 それが『崩壊』に繋がるのだとしても、私は一向に構わなかった。
281永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:22
 怠惰な毎日は続いていた。
 私は専門学校へ行くためにパジャマを脱ぎ捨て外行きの服に着替え始める。
 高校を卒業した私は料理の専門学校へ進学していた。
 理由は好きだったから。
 大好きなお菓子を自分の手でもっと一杯作ってみたかったから。
 そして、浩平の為にお菓子を一杯作ってやりたかったから。
 …昔は。
 そう昔はホントにそう思えた。
 あの頃の空気を取り戻したい。あの時の瞬間にもう一度出会いたい。
 そう思っても叶わぬ夢。
 そして私の願いは今や違うモノに変化しつつあった。
「司…」
 そう呟き家を出ようとしたら、けたたましく呼び鈴が押される。
 ピンポンピンポンピンポンピンポーンッ!
 鬱な気分になりながら私は玄関の扉を開く。
 今日も始まるのだ。
 この無意味な『恋人ごっこ』が。
282永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:23
「それでな茜、そのバイトの先輩ってのがまた滑稽でさー」
 電車に揺られながら浩平がまた自分だけの会話を始める。
 バイトが何?先輩が何?
 そんな事を言われても私には解らない。
 何でそんな事も解らないのだろうか?
 いや、解らなくなってしまったのだろうか?
「でさ、その先輩が言うには今度茜も一緒に誘って合コンしようって言ってんだわ。ど
うだ、行くか?」
「…嫌です」
「だよなー、冗談だよ冗談!ハッハッハッハッハッ!」
 そう言いながら私の肩に手を回す。
 高校の頃は『嫌です』と口に出しながらも、満更悪い気はしなかった。
 あの時の浩平は確かに私の心の隙間に入り込み、私の心を魅了していたように思う。
 けど今は違う。
 本心でそう思っている。
 だがその心は浩平には届かない。
 私の『嫌です』は私の照れ隠しでしかその意味を汲み取ろうとはしない。
 それが疲れる。それがきつい。
「おっとっとっ!電車の中でいちゃついたりしたら一人身のヤツに刺し殺されちまう
かな?ハッハッハッ!」
 これみよがしに私にくっつき、下卑た言葉を漏らす。
 本当に刺し殺されればいいのにと心の底から思った。
283永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:23
 その時おかしな感覚を感じる。
 意識が内側に吸い寄せられる感触。掃除機の吸引口に心ごと吸い込まれるような感覚。
 目に写るは青い空。白き雲。そしてその向こうにある『誰か』。
 誰?誰か?何を言っているの?私の目は、私の耳は何を感じ誰を求めているの?
 そんな疑問が波のように私に打ち寄せ、私の心を打ち砕く様に迫ってくる。
 私は逃げる。波から。この大津波から。私を呼ぶ声の方に。
 あれは誰?あれは私?いや違う。けど解る。あれは好きな人。
 私を助けてくれる大事な人。
 だから私は走る。
 この現実から逃げる為に。
 この無為から脱出する為に。
 早く私を捕まえて。早く…早く…。
 そう心で叫びながら私は救いの手を差し伸べる。
 その『誰か』は陽光を浴びながら爽やかな笑みを浮かべていた…。
284永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:24
「…かねっ!おい、茜!!」
 意識が朦朧としながらも、張り叫ぶその声に私は起こされる。
 目の前には浩平の心配そうな顔が映し出される。
 今のは一体何だったの?
 夢?
 しかし夢にしては妙なリアリティが有りすぎる。
 かと言って他に説明のしようがない。
 私はそう納得して取り敢えず浩平と話しを合わす。
「ごめんなさい浩平…。少しボーッとしていたようです。ちょっと寝不足気味で…」
 適当な言葉。適当な相槌。
 いつもの浩平ならその言葉ですぐに納得してくれるところだろう。
 だが違った。
 今の浩平はまるで母親を見失った幼子のように心配そうに私の方を見据えている。
 それは久しぶりに見た昔の浩平だった。
 電車はまだ次の駅には着いていない。
 私が意識を喪失していたのはわずかな時間であろう。
 にも関わらず浩平は何故こうも不安そうな顔をしているのだろう。
 何故こうも目を大きく見開いて私の方を見つめているのだろう。
285永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:24
「…あ、いや…」
 そんな疑問を感じていると浩平が突然お茶を濁した様に目線を逸らす。
 ますます解らない。
 それから学校のある駅まで私達は一言も口を聞かなかった。
 話す会話がなかった。
 確かにさっきの妙な反応の訳を浩平に聞いて見たいと言う欲求はあったが、
 別の欲求が私を支配していた。
(浩平と喋らずにすむ)
 この切実な欲求と比べたら他の欲求など問題にならない。
 そうこうする内に駅に着いた私達は適当な言葉で別れ、学校の方に向かう。
 久しぶりに気分が晴れやかだった。
 そして、この日を境に私の日常が徐々に変化して行く事に私はまだ気付いてなかった。
 その兆候は既に現れていたと言うのに…。
286永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:25
 最初はささいな事だった。
 学校で出席を取る時に私が抜かされたのだ。
 先生は砕けた笑いで私に詫びる。
 だが、次の日も私は出席取りを抜かされる。
 次の日も、次の日も。
 だんだんそれが当たり前のように行なわれていく。
 しかもみんなその事について疑問を差し挟んだりもしない。
 ただ、出席を取ってくれない。それだけだった。
 おかしなイメージは段々形をはっきりさせながら私を包み込んでいく。
 最近、あの声の主が誰なのか解ってきたような気がする。
 だが、ここで確定させるのは怖いので、あえて考えないでおく。
 公園の時の様な出来事はもう御免だった。
 家に帰っても何となく居心地が悪い。
 母親が私の夕食を作り忘れる事が次第に増えて来ていた。
 しかたないので私は外で夕食を取る事にする。
 私の家がもうすぐ私の家ではなくなる、そう考えるとさすがに鬱な気分になった。
287永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:25
 私は一人、公園でパンを頬張りながら、ふと考える。
 何故、このような事態になってしまったのだろうかと。
 全てはこの公園で見た幻影がその発端になっているのだろうかと。
 あの時そばにいた詩子。
 だが今日は私の横にはいない。
 それどころか最近電話すら掛かって来ない。
 この様な状況に陥っている人間を私は以前、見た事がある。
 しかも二度も。
 しかし、あの時の私は只の傍観者だった。
 切ない気持ちを抱えながらも、その別れを黙って見ている事しか出来なかった。
 そう、この事態は誰にも止められない。
 その事を私は重々承知していた。
 そして私の中のイメージは日を追う事に強くなっていく。
 見知らぬ世界に誘う扉にどんどん近づいていくのが解る。
288永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:26
 ただ嬉しい事が無い事もない。
 浩平が私に付きまとう回数が次第に減って来たのだ。
 これはさすがに嬉しかった。
 もうあの無為な時間に付き合わされる事はないのだ。
 この前は詩子と浩平が並んで歩いているのを目撃する。
 本来なら悲しい気分にならなくてはいけないとこだが、私はそうならなかった。
 むしろ晴れやかな気分だった。いや、なってしまった。
 そう、私は全て理解していた。
 今、起こっている状況を。その限りなく非現実な事実を。
 私は消えかかっていた、この現実から。この世界から。
 以前の浩平のように。
 そして私の想い人のように。
 この事実を私は悲しむべきなのだろうか?
 本来ならそうだろう。
 だが私はそうならなかった。
 私はまるでシンデレラの様に自分が消え去る瞬間を胸躍らせながら待ちわびていた。
 だって会えるのだから。
 私の司にもうすぐ会えるのだから。
289永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:26
 その日は朝から雨が降っていた。
 私は傘を手に取り例の空き地へと向かう。
 恐らく今日が限界だろう。
 昨日の時点から私の両親に私という娘がいたという認識は半ば薄れかかっていた。
 だから昨日は人知れず部屋に入り込み、息を潜めて明け方を待った。
 そして今日のこの雨。
 まるで運命的だなと思った。
 司の時、そして浩平の時。
 私の運命は今日で決まると直感的に解った。
 そう、私は今日消える。
 この旅立ちを見送る人物はもういない。
 だが私はそれで満足だった。
 目を閉じればあの世界へと続く扉に私の想い人の姿がはっきりと映し出される。
「…今から行きます」
 そう一人呟きながら私は空き地へと向かう。
 だが。
 そこには意外な人物が私の来るのを待ち構えていた。
290永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:27
「…よう」
 『その男』は土砂降りの雨を受けながら私にそう呟く。
 空虚な風景を目に写し、口を半開きにしつつ『その男』は私に向かって不快な感情を
押しつけて来る。
 まるでストーカーの様だ。
 私は容赦なくそう思った。
「何処行くんだよ…茜…」
「…あなたならもう解っているでしょう」
 私は冷静にそう言い放つ。
「解らねえよ…解らねえからそう聞いてるんだよ」
「解らないなら解らないで構いません。だから浩平、もう私に付きまとわないで」
 不快な感情が交錯する空き地の中心で、私は遂に今まで押し隠していた本音を浩平に
ぶつける。
 浩平は何とも言えない表情で私を見据える。
「…俺が一体何をしたっていうんだ」
 押し殺した言葉。隠し切れない表情。
 その一つ々が私の周りを取り囲み、私の精神を圧迫する。
 だが私もひるむ訳にはいかない。
「あなたは変わってしまったわ…、もうあの頃とは違うの」
「俺に言わせればお前の方がよっぽど変わった様に見えるがな」
 ザッと強い雨が私達に容赦なく降りかかる。
 まるで私達の対峙を嘲笑するように、そして煽るように。
「これ以上のやり取りは無意味だと思います。そう思いませんか浩平」
「…冷てえ」
「…はい?」
「冷てえよ茜…」
 そう語る浩平の目に狂気の光りが生まれているのを私は見過ごさなかった。
 私は身構えつつ後ろへ後ずさる。
291永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:27
「あの時もそうだったよな茜…、確かこんな土砂降りで…この場所で…」
 ジリジリと浩平が私の方に迫ってくる。
「…浩平。詩子はどうしたの?」
 私の口から何故だかそんな質問が出る。
 怯えているから?恐怖を感じているから?
 だから詩子を身代わりにさせようとしているの?
 理由は解らない。
 ただ先日見たあの光景について質問して見たい好奇心がなくは無かった。
 浩平も私の質問を前にして若干動きが止まる。
「詩子…?ああ柚木の事か…。大丈夫、大丈夫だよ茜。心配するな、俺と柚木はそんな
関係じゃないさ。ただ…この前は…。そうこの前はだな。茜。お前の為だ。俺とお前の
未来の為に会ってたのさ。だから大丈夫。大丈夫だ茜…」
 そう言いながら浩平は謎の包みを私に差し出そうとする。
 また何かのプレゼント?
 だがその疑問を一瞬で掻き消すくらい今の浩平の言動、及び表情は私に戦慄の二文字
をプレゼントする。
 狂っている。浩平は狂っている。
 私との別れを前にして、ここまで精神が追い詰められるものなのだろうか?
 ここまで常軌を逸する事になってしまうのだろうか?
 私は他人事の様にそんな事を考える。
「だから茜…俺と…俺と一緒に…」
 そんな言葉を吐きながら浩平はゆら〜と近づいて来る。
 私は正に絶体絶命のピンチに立たされていた。
292永遠に誘われて:2000/12/19(火) 10:28
 だが、その時。
 私の頭の中に例のイメージが浮かび上がる。
 しかもそのイメージは急速に膨張して私と私を取り巻く現実に対して急速に距離を取る。
 始まったのだ。
 この世界との別れが。
 悠久の幸せに至る旅路の始まりが。
 このタイミングに。この絶妙な瞬間に。
「…………!!」
 浩平がこの世の終わりのような顔をして私に掴みかかる。
 だがもう遅い。
 私に降り注いでいた雨は私をすり抜け、大地に潤いを与える。
 目の前の光景が急速に、そしてゆるやかにその彩りを変えていく。
 そして私に迫る無限へ誘う扉。
 その向こう側に立つ人物の顔が初めて私の眼光に映し出される。
「…司」
 それだけで十分、それだけで幸せだった。
 そして目の前には先程の男がこれ以上ないくらい落胆の表情を抱えながら私の方を見
つめている。
 私はその男に対して笑みを浮かべる。
 口の端を歪めた笑みを、その永遠の別れを祝してプレゼントする。
 最高の気分。最高の快感だった。
 そして私の姿はこの世界から完全に消える。
 ゆるやかなフェードアウトと共に私は様々な事を思い巡らす。
 この先に待つのは希望。
 そして永遠の幸せだった。
293ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:29
回します。
294ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:30
回してます。
295ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:30
回しています。
296ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:31
回します。
297ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:31
回してます。
298ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:32
回しています。
299ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:32
回します。
300ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:33
回してます。
301ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:33
回しています。
302ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:42
回し終了っス。
え〜と、未発表だった作品の前半を発表します。
内容が正直暗いので鬼畜スレの方にするかどうか
ずっと悩んでいたのですが、さして陵辱シーンが有る訳でも
ないので、こっちにしときます。
(陵辱シーンがメインでもありませんし…)
ただ本当に暗い内容なのでそういうのがOKな方だけ
読んであげてやって下さい。
ちなみに今回は茜モノです。
後、今回の作品はムービックの小説の方の設定を少々借りております。
(まあ、ホントに一部ですが…)

後半の方は夜にでも書き込もうかと思います。
では〜。
303ほかほか兄さん:2000/12/19(火) 10:44
>>270-292
↑すいません、書き忘れました(汗)
ではでは。
304名無しさんだよもん:2000/12/19(火) 12:19
>>302
むう…完結しているように見せて、実はこれで前半ですか…
後半の展開を楽しみにしております。
305エロゲームセンターアラーシ:2000/12/19(火) 12:42
上に同じ
306エロゲームセンターアラーシ:2000/12/19(火) 12:46
上げちった……ゴメン
307名無しさんだよもん:2000/12/19(火) 23:22
茜ちーん、このあとどうなるの?
続きが気になる。
でもさっすがほか兄サンっすね。
文章うまいです。
308永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:21
 眩しい光りが私を包み込む。
 天と地が逆になった感触。
 いや、そもそもどっちが空でどっちが地面なのか?
 そして何が光で何が闇なのか?
 私の思考は渦を巻いた台風となり、この世界の様々な事象、ことわりを薙ぎ倒す。
 ここはどこ?
 私は里村茜。
 あなたは誰?
 『えいえんの世界』。
 取り止めのない質問を繰り返しながら私は私の作り出した海の上を漂う。
 その海の先に待つのは滝。
 そしてあらゆるモノを飲み込む濁流そのものだった。
「…茜、あかね?」
 誰かの声が私の耳元で聞こえる。
 それは私の心の扉を容易に開き、私に心地よい風を送り込んでくれる。
 そう、来たのだ。
 この世界に、永遠に探し求めたあの人の元へ、待ち焦がれたあの人の元へ。
「…司!」
 そう再会の言葉を紡ぎながら、私は目の前の人に駆け寄る。
309永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:22
「茜!」
 そしてその人は私の気持ちを真正面から受け止めてくれる。
 懐かしい声。
 懐かしい感触。
 その人は私の求めてやまなかった城島司その人だった。
 私の目から涙が自然と零れ落ちる。
 それは再会の喜びを称える噴水のように辺り一面にきらきらと舞い落ちる。
「…会いたかった。ずっと会いたかったです、司…」
「ああ、僕もさ」
 そう言って司は私の肩を掴み真正面から見据える。
 その顔は多少痩せてはいるが懐かしい司の顔だった。
 私はその姿を見て心から喜びに打ち震える。
 良かった。この世界に来て本当に良かった。
 私は長年探し求めた宝物をやっと手に入れた感慨に耽っていた。
 そして私はふと周囲を見やる。
 大地があるのかないのか解らない不可解な感触。
 光りが往々に差し込んでいるにも関わらず深夜のような静寂を思い起こす未知の空間。
(これが…『えいえいの世界』?)
 私は自然とその言葉を弾き出していた。
310永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:23
「それにしても茜…。よくここまで来れたね」
 見知らぬ世界を二人で歩きながら、司が優しい瞳を差し向けながら私にそう語って来る。
 私は数年ぶりに見るその愛らしい瞳を見つめながら、多少戸惑いながらこう答える。
「ずっと…ずっと待っていたんですよ…。あの場所、あの空間で…。でもあなたは帰って来ないから…だから…だから私は…」
 そう言いながら私は司の方に顔を向ける。
 涙でしわくちゃになってしまった自分の顔を。余り見せたくない感情が露見した姿を。
 だが、司はそんな私の心情を察して、暖かい手を私に差し向けてくれる。
(司…)
 私はそんな司の気遣いに感謝しながら、司の手を握ろうと一歩前に踏み出す。
「!?」
 だがその時、私は何かに蹴躓きその場に転んでしまう。
 まだ、この世界に慣れていないのだろう、私は照れながらも地面に手を付ける。
 司もそんな私を見てにこやかな笑みを浮かべている。
 私は何となく気恥ずかしくなり、微笑みを抱きながら立ちあがろうとする。だが。
 ガチッ!
 何かが私の両手首を引っ張る。
 それだけではない。
 両手、両足ともが何か目に見えないモノでガッチリと押さえられているのが解る。
 私は目の前を直視する。
 確かに写るのは司の姿。
 だが周りの雰囲気がいつのまにか先程の光景とは一変しているのが解る。
 それは野獣の視線。
 そんな忌々しい視線が全て私に向けられているのが解る。
 私は不安げな表情で司に話し掛ける。
311永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:24
「…司、これは?」
「…どうしたんだ、茜?早く立ちあがりなよ」
 司は懐かしい笑顔で私に語りかける。
 だが私の四肢は以前動かす事が出来なかった。
 私の中に不思議な疑問がふつふつと浮かび上がってくる。
 私はその不安を打ち消すために司に助けを請う。
「…あの…司。一つ聞きたい事が」
「何だい茜」
 司が爽やかな笑みを私に返す。
「…まだこの世界に来たばかりなので良く解らないのですが…。身体が思うように動き
ません。…どうしたら良いのでしょうか?」
 私は不安げな表情で司に語りかける。
 だが、司はその質問に対してさほど驚きもせず、冷静にこう返す。
「ああ、それか?それは『そのまま』で良いんだよ」
 その答えは私を困惑させるのに十分な威力を持っていた。
 良い?そのままで良い?それは一体どう言う事なのだろうか?
「だって君は…」
 そして司の手が私の頬から離れる。
「永遠にここで『肉奴隷』として暮らすんだから…」
312永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:25
 その言葉が放たれた瞬間、私の両手は見えない鎖で引っ張り上げられ、大の字の格
好で無理やり立ち上がらせられる。
 そして何時の間にか目の前にいた司の手が私の胸に触れる。
 私は突然のその変化に動揺を隠し切れない。
「司!?」
 その時、私はとんでもない事に気付く。
 私が全裸である事を。
 私の胸や大事な所が全て司の前に曝け出されている事を。
 そして司以外の『何者』かにその全様を全て見られている事に。
 司は笑みを浮かべながら私の乳房をこねくり回す。
「…や、止めて下さい、司…、あっ!」
「いい胸しているじゃないか。形も良くて、張りもある」
 何故?どうして?
 どうして司は私にこんな事をするの?
 突然すぎて考えがまるでまとまらない。
 自分がどういう状況に置かれているのでさえ全く解らない。
 私は未だ胸を揉み続ける司に質問を投げ掛ける。
「司…な…何故…こんな事を…?」
 私はビリビリ来る快感に耐えながら必死で問い掛ける。
 その言葉を聞いて司は涼やかな笑みを返す。
313永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:25
「何故だって?そりゃ当たり前さ。だってキミを呼んだのは他でもない、僕なんだ。僕
に会いたかったんだろ茜?そして僕はその願いを叶えてやった。この行為は当然の代償
だと思わないか?」
 司が解るような解らないような答えを投げ掛ける。
 どういう事なの?
 私を呼んだ?私は私の意志でここに来た訳ではないと言うの?
「不思議そうな顔をしているね茜。仕方がない、では今までの経緯とこの世界の習わし
を初心者であるキミに教えてやろう。浩平君の事も含めてね」
 浩平?
 何故ここで浩平の名前が?
 私はその瞬間いいしれぬ不安に襲われる。
 司はそんな私の表情を伺いながら飄々と語り始める。
「そもそもこの世界は何か?そこから説明しなければならないだろう。ここは始まりも
終わりもない世界。…僕らは俗に『えいえんの世界』と名付けているがね。そして…ここは麗しき女王の支配する世界」
 麗しき女王?私には何の事がさっぱり解らない。
「この世界は極度の悲観的な感情が引き金になって開かれる『逃避』の世界なのさ。理
由は様々、まあ一番多いのは大事な人を失ったという理由かも知れない、僕や浩平君然
りね」
 そう語りながら司は私にキスをしてくる。
 これは私の望んだ行為、夢にまで見た願望。
 なのにどうしてこんなに切ないんだろう。
 どうしてこんなに悲しいんだろう。
314永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:26
「そしてその『逃避』の代替として僕達がしなければならないのが『えいえいの少女』に
対する服従と忠誠。…だが、半年前にその掟を破って脱走を試みた男がいる」
 私はその言葉を聞いてハッと司の顔を見据える。
 私は知っていた、その男を。
 今しがた『振って来た』その男の事を。
「脱走は容易ではない」
 司の手が私の股間に向けられる。
 陰毛を優しく撫でながら言葉を続ける。
「通常この世界に来た男は現実の世界に絶望し、帰ろうなどとは思わないはずなんだが、
あの男は違った…。『盟約』が早すぎたのが原因なのだろうが、あの男の現実への回帰
の願いは遂にこの世界の常識を打ち破り現実への扉を開く事となった。何が引き金にな
ったか解るかい?」
 私は呆然と司の言葉を見送る。
「全て…お前のせいなんだよっ!」
 その言葉とともに司は私の陰毛を思いきり引き千切る。
 ぶちぶちぶちぃっ!
「きゃあっ!」
 司は人が変わったように私に対して言葉の銃を乱射する。
「お前があの男、折原浩平を現実世界に連れ戻したいなんて願ったのが全てのきっかけ
なんだよっ!本来あってはならない事なんだ!この世界から現実へ帰るなんて事はっ!
その規律をお前達は破ってしまった!お互いの想う力が思わぬ奇跡を発現させ、浩平の
脱出を許してしまった。これは許せない事なんだよっ!解ってるのか?解ってるのかよ
茜っ!」
 司はそう捲くし立てながら私の秘部を滅茶苦茶に掻き回す。
315永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:27
「いやあっ!やめてぇ、司!」
 私は悲鳴を上げながら司に懇願する。
「お前のやった事は『えいえんの少女』の逆鱗に触れる事になった。そこで策を講じた
のさ、俺という存在を使ってお前をこの世界に引きずり込むという策をな」
「…策?」
 私はその冷たい眼差しにおののきながらそう司に語りかける。
「これはある意味、物凄い反則技なんだがな…。『えいえいの少女』の力を使ってお前
の精神をいじらせて貰った。浩平に対して興味を失わせるように。浩平への愛情を冷め
させるように。お前言われなかったか?『変わったって』」
 私はその言葉を聞いて計り知れないショックを受ける。
 私が?
 私が変わってしまっていたというの?
 浩平は何も変わっていなかったって言うの?
 全て私の変化がもたらした別れだったというの?
 そして私を変えさせた司の策略通りだったというの?
「それにしてもこんなに上手く行くなんて…。そんなに俺の事想ってくれていたのか
茜…」
 司の指が私のあそこに滑り込む。
「司…あなたって人は…あっ!」
 私は司に対して抗議の言葉を述べようとする。
 だが司の指がそうさせてくれない。
「そうしてお前は生んでしまった。『卵』を。こちらの世界へと続く扉の卵を。思い当
たるフシがあるだろ?そして来てしまった『逃避』を求めて。俺との邂逅を求めて。…
馬鹿な女だ、現実世界にいれば幸せに暮らせただろうに…」
 司が口の端を歪めながらそう私に話し掛ける。
 それはもはや私の知っている司ではなかった。
 この世のモノとは思えないもののけ。悪魔の形相だった。
316永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:27
「さーて、そんじゃあ一発決めさせてもらうよ、茜」
 そう言いながら司は自分のペニスを取り出す。
 それと同時に私の片足が見えない力で無理やり上げさせられる。
 私の秘部は今や司の前で無防備に曝け出されていた。
「い…いや…やめて…」
 私は涙をぽろぽろこぼしながら司に哀願する。
 だが司は聞き入れてくれない。
 むしろそんな私の姿を楽しんでいるようにも思える。
「駄目だよ、茜…。これは処罰なんだ。正当のね」
 理不尽な言葉を吐き出しながら、司は自分のペニスを私のあそこにあてがう。
 そして。
 めりっ!めりめりめりめりーーーーっ!
「いやああああああああああーーーーーーーっ」
 私は叫び声を挙げながら、この世界へ来た事を激しく後悔する。
 浩平を信じるべきだった。
 浩平を愛するべきだった。
 浩平が下世話な恋人に見えたのは私の錯覚だった。誰だってこんな密閉した空間に閉
じ込められたら、現実世界の娯楽を楽しもうとするのは当然の行為だ。そして浩平はそ
の当然の行為をしていたに過ぎない。
 おかしくなっていたのは私。
 その当然の行為を穿った目で見てしまった私の責任。
 司の策謀があったとしても裁かれるべきは私。
 その事実を認識した直後、私の中に司の白濁液が注ぎ込まれる。
 これは裁きの鉄槌。
 愛する人を信じてやれなかった私に対する白き洗礼。
317永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:28
 どしゃぁっ!
 司に散々弄ばれた私は地面に蹴り転がされる。
 見えない鎖で両手を後ろで縛られた私はまるでみの虫の様だ。
 司は相変わらずの悪魔の微笑みでこちらを見据える。
「さあ、茜…。今度は皆に可愛がられてやってくれ…」
 そう言い放つと同時に今まで感じていた視線の主達が姿を現す。
 この男達も逃避を求めてやって来たこの世界の住人なのだろうか?
 男達の瞳は皆一様暗く、そして濁っていた。
 まるで作り物の人形のように。
 生気を吸い取られた落ち武者のように。
「げへへへへへへ…、女だ女…」
「久しぶりだな…。見てるだけでチンコがおっ立ってきたぜ」
「最近…女王様が俺達の相手をしてくれないんだな…。代わりにお前が俺達の相手をす
るんだな」
 男達は思い思いに好き勝手な事を口にする。
 狂っている。
 この世界は狂っている。
 そしてこの狂った世界を統治する女王とは?
 男達を食い物にし、暴虐の限りを尽くす『えいえんの少女』とは?
318永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:29
「…みんな、この女をニ度と使い物にならないくらい滅茶苦茶に犯してやってくれ。気
絶しようが、秘部が血まみれになろうが構わん。どうせこの世界で死ぬ事は絶対に出来
ないんだ。容赦なくやってくれ。そしてこの行為そのものが俺達の忠誠の証。この女の
精神を完全に破壊する事が俺達の誠意の象徴。女王様への手土産だ」
 司がこの世のものとも思えない残虐な誓いを立てる。
 私はその余りの恐怖に心の奥から竦み上がった。
 もう声も出ない。恐ろしさの余り言葉を失ったように私は震えながら涙を零す。
 男達は下卑た笑みを浮かべながらじわじわとにじり寄って来る。
 助けて。
 誰か助けて。
(浩平…浩平…)
 私は気付かぬうちに浩平に助けを求めていた。
 厚かましい願いである事は解っていた。
 洗脳が解けたとは言え、私のような女を救ってくれるはずがないと解り切っていた。
 だが私は願わずにはいられない。
(浩平…助けて、浩平…!)
 見知らぬ男の手が私の顔に触れる、その時。
「待てっ!」
 聞き覚えのある声がこの世界に轟いた。
319永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:29
 最初は幻かと思った。
 私の願いが生んだ幻想だと。
 この世界の現実を覆い隠す巨大な妄想だと。
 だが、声ははっきりと聞こえてくる。
 私の方に向かって。
 そしてその姿が徐々にはっきりしてくる。
 それは希望。
 私をこの悪夢から救い出してくれる白馬の王子。
「…こう…へ・・い」
 私は嗚咽を漏らしながらそう呟く。
「折原…浩平!?」
 突然の出来事に男達の動きが止まっている。
 司はその声の先を見据え、憎悪の眼差しを向ける。
「こうへいーーーーーーっ!」
 私は叫ぶ。
 あらん限りの力を込めて。
 この出来事が夢となって消えてしまわないよう、ただひたすら叫び続ける。
320永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:29
 そしてその声の主が姿を現す。
 見なれた顔。いつもずっと横で見ていた顔。
 だがその表情は先程見たあの情けない姿とは完全に一線を画していた。
 ありていに言えば戻っていた。
 昔の浩平に。
 私が一番愛していた頃のあの精悍な瞳に。
「………!」
 そして浩平は私の姿を見て、激しい怒りを発してくれる。
 私はその姿を見て感謝の心で一杯になる。
 崩壊しかかっていた私の精神を癒してくれる。
 それだけで。それだけで十分だった。
 そして浩平は司と対峙する。
 お互いがお互いの瞳を見据え、出方を伺っている。
「…よくものこのこと舞い戻って来れたな」
 最初に口を開いたのは司だった。
 やんわりとした物言いだったが、その節々に憎悪を漲らせている。
「…茜を返してもらう」
 浩平はそれを冷静にいなし、私にとって夢とも思わんばかりの言葉を語ってくれる。
321永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:30
「…返せだと?何を馬鹿な事を言ってる。茜を俺を慕ってこの世界にやって来たんだ。
お前にそんな事を言う権利はないと思うがな」
「その慕ってきた相手に対する仕打ちがこれか?」
 浩平は私の方を見ながら司にそう返す。
「…当たり前だろう。この仕打ちは『えいえんの少女』の願い。俺達はあの方に逆らう
事は出来ない。そしてこの女はあの方の逆鱗に触れたんだ。この位の仕打ちは当然だ」
 司が何食わぬ顔をしてそう返す。
「…相変わらずの狂いっぷりだな、この世界は」
「何!?」
 司と他の男達の形相が変わる。
 だが浩平は飄々とした仕草でその微妙な空気を掴み取り、そう返す。
「おっと待ちな、俺は別にお前達と喧嘩する為に来た訳じゃあない。茜を返してもらいに
来ただけだ」
 その言葉を聞いて、司は醜悪な顔を浮かべながら切り返す。
322永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:31
「返しに…だと?フフフ何を馬鹿な事を。そんな事が許される訳がなかろう。飛んで火
にいる夏の虫とはお前の事だよ、折原。お前達は絶対に現実世界には帰れん。知っている
だろう?現実へ帰るには現実にいる人物の人知を超えた願いが必要だと言う事を。しか
しながらお前達は今双方とも『この世界』にいる。解っているのか折原?もう退路は断
たれているんだよ、お前は。いやお前達は」
 司は勝ち誇ったように浩平にその冷たい現実を叩きつける。
 そしてその言葉は私にとってもショッキングな内容だった。
 帰れないの?
 あの世界に?存在するべきあの現実に?
 だが浩平はその言葉を聞いてもなお平静だった。
 その余りのポーカーフェイスぶりに司も焦る。
「…何なんだ折原?お前のその余裕の表情は?まさか本当に帰れるとでも思っている
のか?」
「帰れるさ…。俺のこの決意をしれば…な」
 そう言いながら浩平は丸い包みを見せる。
 それは空き地で見たあの包みと同じモノだった。
 それを見て司は呆れた表情を浩平の前で見せる。
「何だこれは…?こんなモノとお前達が現実へ帰還するのと何の関係が…」
 そう言いかけた時、司の表情が変わる。
 それは驚愕の表情。
 少なくともこの世界に来てからは見た事のない表情だった。
 そしてその表情はまだ現実で私や詩子と行動を共にしていた頃を思い出させた。
 今となっては遠くなった表情。
 それが今、目の前にあった。
323永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:31
「…本気か、貴様?」
「ああ…」
 短いやり取りだったが、それが逆に浩平の決意の強さを伺わせた。
 一体何を決意したのだろうか?
 そしてあの包みは一体何なのだろうか?
 私へのプレゼントではなかったのだろうか?
 今の私には解らない事ばかりだった。
「…掛け合ってやろう。ちょっと待ってろ」
 そう言って浩平から包みを受け取った司の姿が見えなくなる。
 私は安堵の息を漏らす。
 それと同時にまた別の涙が零れ落ちてくる。
 安心と喜びの涙が。
 浩平が私の方に駆け寄って来る。
「大丈夫か、茜?」
 そして心を包み込む優しい言葉。
 緊張が途切れた私は津波のように浩平に語り掛ける。
「浩平…ごめんなさい、浩平。私…どうかしてました。あんな…あんなひどい事を
あなたに…。ごめんなさい、ごめんなさい。なのに…私を助けてくれる為にわざわざ
…。ごめんなさい浩平…。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
 後はもう言葉にならない。
 私は全身全霊を持って浩平に謝罪の言葉を述べる。
 そんな私を見て、浩平は優しく私の頬を撫でてくれる。
 そして一言。
「もう大丈夫、これからはずっと一緒だ、茜」
 その言葉を聞いて、私は戻って来た感覚を覚える。
 あの瞬間に。あの輝く季節に。
 もう、手放したりはしない。
 絶対に。
324永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:32
 一瞬、空気が凍りついたような感触を覚える。
 その感触は周囲の風景を巻き込んで全体の場を統括する。
 背筋を凍りつかせる感覚。
 恐怖の到来。
「…こうへい」
 私は無意識のうちに浩平に抱きつく。
 そのぬくもりを求めて、この冷気を溶かしてくれる暖かさを求めて。
 浩平もそれを察してか私の手を力強く握り締めてくれる。
「俺に任せろ…茜」
 手の先から全身を包み込むような優しさが溢れてくる。
 私はその優しさに触れて私はささやかな幸せに包まれる。
 そして前方に人影が現れる。
 その瞬間、周りの男達の反応がいびつなモノに変化する。
 皆がみな、自分のペニスを取りだし自慰を始めたのだ。
 私はその光景を見て、身の毛もよだつような感覚を覚える。
(狂っている…、この世界は狂っている…)
 その言葉が頭の中でリフレインさせる。
「おにいちゃん、久しぶりだね」
 そして聞こえるのは少女の声。
 その余りの純粋な問いかけに私は一瞬困惑する。
 だが騙されてはいけない。
 その少女はこの世界を支配する恐怖の象徴。
 狂った男達の永遠の偶像。
 私はそう言い聞かせて声のした方向をはっきりと見据える。
325永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:32
 そして少女が姿を現す。
 それは余りにもあどけない風貌をしていた。
 純真な瞳。
 知的な容貌。
 何も知らない人間が見たら間違いなく天使と見間違えてしまうだろう。
 それだけその少女の纏う雰囲気は俗物的な価値観を遥かに超越していた。
「やっと帰って来てくれたんだね、嬉しいよ、お兄ちゃん」
 そう言いながら少女は自慰をする男のペニスを自然に咥える。
 まるで喉を乾かした子供がジュースを催促するように、その行為は余りにも自然に行
なわれる。
「んふ、おいし☆」
 そう呟きながらコクコクと喉を鳴らしてスペルマを飲み込んで行く。
 男はこの世のモノとは思えない至福の表情を浮かべながらその快感に酔いしれている。
 そして少女はこちらへ視線を向ける。
 綺麗な眼差し。
 とびっきりの笑顔。
 だが私はその瞳の奥にまるで見た事のない空洞を見出す。
 その奥には何が眠っているのか?
 何が生息しているのか?
326永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:33
「あー、おいしかった!」
 そして少女はジュースを飲み終える。
 その瞬間、場の緊張が急速に高まるのが解る。
 呆けた表情をする男の顔が逆に印象的だった。
 私達は自然にお互いを抱き寄せる。
「…帰ってきた訳じゃあない、恋人を連れ戻しに来ただけだ」
 そして遂に浩平の第一声が漏れる。
 その声は先程の司と対峙していた時と同様、力強く頼もしかった。
「…………」
 少女はその言葉を聞いても、相変わらずにこやかな笑みを浮かべている。
 一体その表情は何を表しているのか?
 どんな感情を示しているのか?
 私には見当もつかなかった。
「…と言う訳で、この世界に長く留まる気は俺にはない。悪いが現実への扉を開けてくれ
。俺の決意についてはさっき司に語った通りだ。見てたんだろ?お前も?」
 浩平は更に続ける。
 にも関わらず少女は相変わらずにこやかな笑みをたやさない。
 この反応にはさすがの浩平も戸惑っているようだ。
 巨大な汗が私の背中を滑り落ちるのが解る。
 今、私達の運命は最大の正念場を迎えていた。
 生か死か?
 希望か絶望か?
 私達は断崖絶壁の吊り橋を渡る哀れな冒険家だった。


「…うふふっ!」
 その膠着は少女のあどけない笑い声によって砕かれる。
 その笑い声は何を意味しているのか?
 そして何をもたらすのか?
 私は息を潜めてその場の状況を見守る。
 だが、次に少女の口から漏れたのは意外な一言だった。
「ごめんね、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
 その言葉を聞いた私は一瞬放心状態になる。
 何?
 今、何を言ったのこの少女は?
 そして少女は更に私達に対してぺこりとおじぎをする。
 その余りのイメージの変化に私は戸惑いを隠し切れない。
 それは浩平も同様だった。
 私の隣で大きく目を見開いてその状況を見守っている。
「…どうしたの二人とも?ああ、そっか私が何か酷い事でもすると思ってたのね?やだ
なあ、二人とも。私がそんな事をする訳ないじゃない」
 少女が信じられないような言葉を更に続ける。
 酷い事をしない?
 そんな馬鹿な。
 司が言っていた。
 私はこの少女の逆鱗に触れたって。私を恨んでいるって。
 だから私をこの世界に誘ったんだって。
 そして永遠に奴隷として過ごさなければいけないんだって。
 あれは何?
 あの言葉は何だったっていうの?
 司の虚言?
 しかしあの時の司はそんな気配を微塵も見せていなかった。
 全てはこの少女の仕業。
 全てはこの少女の策謀だったはず。
 じゃあ、何?
 この少女は何?
 この少女は一体今、何を言っているの?
 私の頭はこれまでに無いくらい混乱していた。
327永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:33
「…茜お姉ちゃん」
 その時、誰かが私の名前を呼ぶ。
 それは少女の声。
 私の運命を決定づけるこの世界の支配者。
 だが、目の前に立つ少女からはそんな気配は微塵も感じられなかった。
 まるで先程の戦慄が嘘のように。
 まるで白昼夢を見たように。
 少女は優しい笑顔を浮かべて私に語り掛ける。
「…本当にごめんね、全ては司お兄ちゃんが独断でやった事なの」
 そう言って、本当に申し訳なさそうに言葉を述べる。
「…そうなんですか?」
 だから私もつい、いつもの口調で語りかけてしまう。
 自然に。当たり前のように。まるで普段の日常にいるように。
「…そうなの、司お兄ちゃんってちょっと思い込みが激しいところがあるから、私が浩
平お兄ちゃんの事で悲しんでいると思って、あんな事をしちゃったんだと思うの。ごめ
んね、こんな事になってるなんて夢にも思わなかった…」
 そう言って本当に申し訳なさそうに謝罪してくる。
 その瞳には一点の曇りもない。
 それを見た瞬間、私の考えは180度回転する。
 信じて見よう。
 いや信じたいと思う。
 確かに司は子供の頃から思い込みが激しく、一人で暴走する事が多かった。
 今回の事件も司のそういうところが起因しているのだろう。
 何よりこんなあどけない少女にこんな表情をされて、どう疑う事が出来るだろうか?
 それは人間として失格。
 私には絶対に不可能な事だった。
328永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:34
「…じゃあ」
 そして頃合を見計らって浩平が少女に語りかける。
「俺達を現実世界に戻すという話は…」
「え?いいよ、いいよ、全然おっけーだよ。浩平お兄ちゃんの願いを私が聞き届けない訳
ないじゃない」
 少女はいとも簡単にOKを出す。
 一瞬呆然とした後、信じられない事が起こったのを私は知る。
 帰れるんだ。
 あの世界に。私達のいるべき世界に。
「ありがとう」
 そして浩平も晴れやかな顔で感謝の言葉を述べる。
 その時、私は場の雰囲気が一変している事に気付く。
 いつのまにかあの男達は姿を消し、周辺を優しい気配が包み込んでいる事に気付く。
 それは少女の心。
 人間を包み込む慈しみの心。
「…ホントはちょっと妬けるんだけどね。でも二人ともお似合いだよ、うん。ずっと幸
せにね」
 そう言って少女はこれ以上ない笑顔を覗かせる。
 私は何となく気恥ずかしくなってその場で俯く。
 それを見て少女はまたからかいの言葉を述べる。
 この世界は今、幸せの絶頂にあった。
329永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:34
「後、お兄ちゃんこれ」
 そう言って少女は例の包みを浩平に渡す。
 その包みは希望の証。
 私への最高のプレゼント。
「それじゃあね、二人とも」
 少女が微笑みながら最後の言葉を述べる。
「…ああ」
「…さようなら」
 私達も穏やかにお別れの言葉を述べる。
 その瞬間、周辺の風景が徐々に歪みだす。
 私達はお互いを抱き寄せ、その存在を強く確かめる。
 羽陽曲折あったが、また私達の心は1つに結び付いていた。
 司の件ですらも全てはこの幸せな瞬間の為に行なわれた1つの試練のような気がして
いた。
 そして少女の姿が完全に消え去った瞬間、周りの景色が光り輝き、きらめく星空のよ
うな様相を呈す。
 まるで私達の帰還を祝福するように。
 まるで私達の未来を愛でるように。
 ふと、横を向くと浩平がこちらを見て穏やかに微笑んでいた。
 私もそれにつられて微笑む。
 そして微笑みが重なるように、お互いの心が触れ合う様に。
 私達は口付けを交わす。
 永遠の幸せを誓う口付けを。
330永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:35
 私は空を飛んでいた。
 鳥のように。
 大空を駆け巡るツバメの様に。
 周りに見える光景は雲。
 そして青い海だった。
 そして身体を突き抜ける、清清しい風。
 この風は証。
 この世界に戻って来たという事を体感させてくれる希望の大気。
 その現実の中で私は目覚める。
 浩平に抱かれながら。
 愛する浩平の手に包まれながら。
 大気が身体をすり抜けて行く。
 太陽の光が眩しい。
 そしてその光りに覆い被さる浩平の笑顔。
「…浩平」
 私は呟いて見る。
 愛しき人の名を、心を感謝の気持ちで一杯にしながら。
「…帰って来たよ、茜。俺達の世界に」
 浩平がそう優しく返してくれる。
 帰って来た。
 帰って来たんだ。
 この世界に。
 私達の居るべき現実の世界に。
331永遠に誘われて:2000/12/20(水) 03:36
 その時、私はある奇妙な事に気付く。
 大地の感覚がない。
 私達を支えてくれるべき土の感触がない。
 周りを取り囲むのは全て大気。
 そして突き抜ける風だけだった。
 私はふと回りの光景を見る。
 見えるのは白い雲、眩しい太陽。
 そして眼下に見える青い海だけだった。
 私はそれらの光景を見て軽い混乱を起こす。
 …眼下?青い海?そして正面にそびえる白い雲?
 その雲も一瞬まばたきするだけで私達の上方に吹っ飛んで行く。
 それらの情報を認知した瞬間、私の脳は一瞬活動を停止する。
 そして。
 ある恐るべし結論を弾き出した瞬間、私は壊れたロボットの様に絶叫する。
「………きゃあああああああああああーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 落下している。
 そう、私達は落下している。
 鉄板と化した海面に向かって、その死への扉を目指して。
 私は慌てふためいて浩平にこの状況について問い掛ける。
 だが浩平は驚く事なくこう語る。
「ああ、俺達はこれからも一緒さ。こうすれば永遠に一緒になれる。永遠に幸せになれる」
 浩平のその言葉を聞いて私の精神は大きな破綻を来たす
 私は今までに起こった全ての出来事を思い起こす。
 司とのやり取り。そしてあの少女とのやりとり。
 そんな事を考えていると浩平がニコリと微笑み私に話し掛けてくる。
「心配するなよ茜、心細くないようにちゃんと親友も連れて来ているんだから」
 そう言って手に持っていた包みを開ける。
 そこには人間の顔が。
 私の親友、柚木詩子の生首が収められていた。
「…い…いやああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーっ!!」
 ベキャッ!!
 その大絶叫を最後に私の意識はこの世界から消失する。
 後に残るのは後悔の念。
 そしてあの少女の微笑だけだった。
332ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:37
回します。
333ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:38
回してます。
334ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:38
回しています。
335ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:39
回します。
336ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:39
回してます。
337ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:40
回しています。
338ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:40
回します。
339ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:41
回してます。
340ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:41
回しています。
341ほかほか兄さん:2000/12/20(水) 03:53
これで全書き込み終了です。
前編はこちら>>270-292
後編はこちらです>>308-331
今回はかなりオリジナル色強い上に結構暗いです。
有る意味萌え系とは対極に位置するかも知れません。
まあそんな感じですが、もし興味を持たれた方がいれば
読んであげてやって下さい。

では〜。
342:2000/12/20(水) 04:18
相変わらず上手な文章で面白かったんですけど、何であんな事したのか
良く解らないんですよね…うーん。
343名無しさんだよもん:2000/12/20(水) 06:13
なんかヲタク横が混じってなかったか?
344名無しさんだよもん:2000/12/20(水) 07:00
前半はシリアスだったのに…意地でもギャグに持って行くほか氏に乾杯!
345名無しさんだよもん:2000/12/20(水) 10:13
オチを捻りすぎたんじゃないかな・・
まあ面白いからいいんだけど。
346名無しさんだよもん:2000/12/20(水) 12:51
モテモテ王国かと思った。
(1巻のファーザーがもてた回)
347ほかほか兄さん:2000/12/21(木) 12:59
皆さん様々な意見ありがとうございました。
正直今回の作品は書き上げてからも不思議な違和感を感じ、
中々発表する気にはなれず悶々としていたのですが、その理由が
はっきり解ったような気がします。

特にオチの部分や浩平の動悸については完全に一人よがりだったかな?と
痛感しました。

今後はこう言う事がないように素直な作品を心がけます。
では。
348名無しさんだよもん:2000/12/21(木) 19:48
>ほかほか兄さん

うーん、後半はいささか無理がある展開に感じました。
文章力でカバーするあたりは流石ですが。
個人的には、久々に鬼畜モノも読んでみたいっす。
スレはこのスレでいいと思いますので。(もう鬼畜スレは死にスレでしょう)
349名無しさんだよもん:2000/12/21(木) 20:59
350彼の憂鬱:2000/12/21(木) 23:08
 ん・・・祐・・・一。ひゃぅん!
 ふふ、名雪かわいーぜ。ちょっとあそこ触っただけでもうぐちゃぐちゃ。まったく名雪は変態だなぁ。
 ふえぇ〜私そんなんじゃないよ〜。女の子なんだからこんなことされたら誰でもなっちゃうんだよ〜。
 で、今日は前からと後ろから、どっちがいいんだ、名雪?
 うぅ〜そうやってすぐ無視する・・・。
 で、どっちなんだ?
 ど、どっちでもいいよ・・・祐一の好きなほうで・・・。
 照れた顔もかわいいぜ、名雪。んじゃ今日は後ろ向きだ。ほれ、早く後ろ向きになれ、ほれほれ。
 うぅ〜、なんか祐一のほうが変態さんだよ、って・・・んっ!いきなり、びっくりだよぉ・・・んんっ!
 ははは、驚いたか名雪。でも実はまだ指しか入れ・・・
 んんん、はぁ・・・ゆ、祐一ぃ・・・な、なんか・・・いつもより・・・大きいよぉ。
 ・・・・・・・・・(泣)
351名無しさんだよもん:2000/12/22(金) 02:10
>>348
おいおい、鬼畜ものは鬼畜スレに書いてくれよ。
単に誰も書かないから機能してないだけで、あるんだから。
どうせ回した後でageるんだから問題無いだろ。

352>ほかほか兄さん :2000/12/22(金) 02:15
Airは書かないんですか?せっかくの最新作なのに。
つーか最近ONEばっかなような。

いや、義務でやってるわけじゃないんだし、やりやすいようにやれば良いんですが、
別な作品のSSも見たいかなーと。
353名無しさんだよもん:2000/12/22(金) 07:38
airはおもろくないからONEかKANONがいい…。
いや、まぁ個人的なことやけど。
354ほかほか兄さん:2000/12/22(金) 23:51
遅レスすんません。

>>348
的確なアドバイスありがとうございます。
やっぱ無理に捻ろうとしたら駄目ですね。
奇をてらいすぎてしまったようです。
鬼畜モノは…また気が向いたら書こうと思ってますので
気長に待ってやって下さい。
(名無しで唐突に書き込む可能性もありますが)

>>352
>>353
AIRに関しては…すみません、今のところは予定に入ってないです。
というか実はまだ一周しかしていないものですからあの世界観やキャラが
掴めていないってのが正直なところです。
(後何回かやればネタが思い付くかもしれませんが)
後、ONEがやたら多いのはそれだけ思い入れがあると捉えてやって下さい。
小説書き出したのも全てこのゲームが原因ですので…。
(ちなみに初めて書いたのがここでも発表したみさき先輩の鬼畜モノです)

とりあえずそんな感じです。
近い内にストックしてあるのを発表しますので良かったらその時も
読んであげてやって下さい。

では〜。
355名無しさんだよもん:2000/12/23(土) 00:03
沈んでるのであげ。
明日の今ごろはクリスマスSSが上がってるのかいな。
356名無しさんだよもん:2000/12/23(土) 00:31
SSはみなさんどれくらいの時間で書いているモンなんでしょう。
ネタさえ思いついたらすぐ書けるものなんでしょうか。
357某SS書き:2000/12/23(土) 01:42
>>356
僕の場合はネタが思いついてもあれこれ余分なことを考えてしまうため時間がかかってしまいます。
そんな風に悩んでいるうちに断片的に文章がふっと出てきてそれを書き足したりして行きます。

結果、蛇足な部分がかなり出ます(笑)

出だしだけしか考えずに書くとこうなったり、オチが尻切れトンボになったりするので止めましょう。はぁ。
時間的には2日〜1週間ってところです。掛かりすぎ?
クリスマスSS、明日までに間に合いそうに無い……
358名無しさんだよもん:2000/12/23(土) 17:14
ネタが出てもなかなか書く気にならないな。
だから寡作なんだろうけど。
ほ…
360TKA:2000/12/25(月) 02:43
今晩は。ここを見ていると言う事は良いクリスマスを過ごしていないようですね(笑)
なんか予想に反して誰もクリスマスSSを上げないので今から自分が書き込みます。
急仕上げなんで文章も練れてませんし、穴もあるかもしれませんが読んでいただければ幸いです。
361ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:43
緩やかに、それでも確実に時間は進んで行く。
でも、その時間も、もうすぐ、終わる。
街に溢れるカップル達。
商店街のスピーカーからひっきりなしに流れるクリスマス・ソング。
サンタの格好をしてケーキを売り捌く店員達。
何もかもが、もうすぐ別の世界のに出来事になるんだ。
ポケットに手を突っ込み、寒さに背中を丸めながら、オレは待ち合わせの場所へと足を速めた。−ふたりのメリークリスマス−「……ぐー」
「わっ浩平、寝たらダメだよっ!」
「ん…?冗談だ、冗談」
「はぁ……じゃあその涎、何?」
そう言われてオレは、口元を拭う。
粘り気のある液体が、糸を引いていた。
「……謀ったな長森!オレを陥れようとするとは!」
「はぁ……どうしてそんな事する必要があるんだよっ…」
また溜め息だ。
長森がオレと出会ってから、いったい何回溜め息をついたんだろうか?と、ふと考えてみる。
……きっと、想像もつかないほどの数なんだろう。
「こ、浩平、どうしたの?わたしの顔になにかついてる?」
じーっ、と顔を見つめられ、困惑気味に長森が尋ねてくる。
「いや、長森って綺麗だなーって」
それを聞いた長森の顔が、見る見る真っ赤になって行く。
「わ、浩平、また嘘ばっかり言って〜」
照れているのか、それっきり長森は俯いて無言になってしまった。
う〜む。
脊髄反射で返答してしまうのはある意味オレの癖になっていたが、これは本心だったのになぁ……
でも、冗談と受け止められていようと、長森がオレの言葉で喜んでくれているのなら悪い気はしなかった。
362ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:43
「……って、そうじゃないよっ!」
思い出したように、長森が大きな声を上げる。
オレは頭をコリコリ、と掻いて答える。
「……あぁ、そうだった。長森がオレに勉強を教えさせてやってるんだよな」
「浩平が勉強を教えて欲しいって言ってきたんだよっ!」
そう言って、テーブルに無造作に広げられた教科書をぽんぽん、と叩く。
「はぁっ……そんなんじゃ一緒の大学に入れないよ…?」
「う〜ん……それもそうだなぁ……」
正直全然乗り気ではないが、やらなかったら落ちるのだ。
「それに、オレが落ちると浩平ストーキングのプロ、長森が困るからな」
「わたしはストーカーじゃないよっ!」
「いや、十分に資格有りだ」
「違うったら違うよっ!」

オレが冗談を言って、長森が反論する。
それがふたりのいつも通りの関係であり、それはもう変わることは無い。
変わらない日常の中で、長森と新しい思い出を作っていく。

…やっと、その願いを叶える事が出来る。
そう思っていた。
……だけど。
それこそが、儚い幻だったのかもしれない。
363ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:43
また、あの声が聞こえる……

…嫌だ。

ぼくはもう、きみとは訣別したはずなんだ。

『…何を言っているの?』

ぼくはもう、君を必要としていないんだ。
だから、出てこないでくれ。

『あなたが必要としているから出てきたんじゃないよ』
『わたしがあなたを必要としているから出てきたんだよ』

そんなの、只の我が侭じゃないか!

『…我が侭?』
『じゃあ、自分で作り出した世界、自分が望んだ世界を、
必要無いからと言って勝手に放棄するあなたは我が侭じゃないの?
あなたの勝手な都合で生み出されて、勝手な都合で残されたわたしはどうすればいいの?』

………………。

『ほら、答えられない』
『…そう、世界は、エゴで動いているんだよ』
『どんなときも、どんなところでも、ね』

……それでも……ぼくは……

『待っててね。もうすぐ……迎えに行くから』
364ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:44
まるで首を締められたかのような息苦しさで、オレは目を覚ました。
閉められたカーテンの隙間からは、月明かりが微かに射し込んでいる。
高鳴る胸の鼓動を抑えつけ、呼吸を整えるが、胸の奥にどんよりと沈んだ不安感は決して消えることは無かった。
ゆっくりと起きあがり、おぼつかない足取りでカーテンを開く。
満月さえも、オレを吸いこもうとしているように見えた。
「くそっ!」
開けたばかりのカーテンを、力任せに閉める。

仰向けにベッドに身を沈めても、眠りにつくことは出来そうもなかった。
(なんでこんなことになっちまったんだろうなぁ…)
回らない頭で、必死に思考を巡らす。
だが。
(わかんねぇな)
結論には至らない。
分かっているのは、オレは近い将来に、再びこの世界から消えると言うこと。
それだけだった。


そもそも、あの世界はオレが作り出したもの。
ならば、オレ一人の中で完結している筈なんだ。

だけど……あの世界には、もう一人居る。
でもそれも、あくまでオレが生み出したもので、オレがこの世界に帰ってくると同時に消える。
そう、思っていた…。

でも、違っていた。

彼女…みずかは、オレの中で、確実に『生きて』いる。
そして、自分以外で唯一の住民であるオレを引き戻そうとしているんだ。

なんて馬鹿げた話だろうか?
オレが作った世界に反乱を起こされるなんて、まるで2流のSFか何かみたいじゃないか。
などと自分を嘲笑したところで、オレの置かれた状況が変わるはずも無かった。
365ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:45
「…どったの、浩平?」
「ん、ああ……」
上の空のオレを心配したのか、長森が話しかけてくる。
「いや、長森の胸、大きくなったかなーって」
「そんなの空見上げながら考えることじゃないよっ!」
オレがまた突然消えることになっても、長森はまた覚えていてくれるのだろう。
ずっと、いつまでも……
帰ってくるとも限らないオレのことを。

オレが帰ってきてから暫く経ったある日のことを思い出す。
「そういや長森、少し痩せたか?」
「…あ、やっぱり分かる?」
陰のある表情で、それでも長森は笑っていた。
そんな長森の表情を見るたびに、オレの心は痛んだ。
どんな事があったにせよ、オレが1年間長森に負担をかけつづけたのは揺るぎ様も無い事実だったから。

オレはまた、長森にそんな思いをさせてしまうのか……?
だったらいっそ、オレのことを嫌って欲しい。
オレに絶望して、思いきり罵倒して、そして忘れて欲しい。
そうすれば、少なくともそれっきり長森が悲しい思いをすることは無くなる。
オレが居なくなったからって、何も思うことは無くなる筈だ。
………辛いのは、オレ独りだ。

月が変わり、また1枚カレンダーを引き剥がす。
残ったのは、最後の1枚。
早いもので、2000年ももうすぐ終わりを迎えようとしていた。
そのカレンダー日付の4列目の一番左。
12月24日……
クリスマス・イブだ。
1ヶ月前には、今の関係となってからの長森と始めて過ごすクリスマスだと嬉々としていた自分。
それすらもが、何年も前の事のように感じた。
366ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:45
『寂しいんだよ』

……え?

『誰も居ない、何も無い世界にひとりで居るのは、寂しいよ』

………そうだね

『大切な人を、幸せにしたいって言ったよね』

…ああ。だからぼくは、きみとはいっしょに居られない。
そう言った筈じゃ……

『わたしは、大切な人じゃないのかな』

え?

『わたしは、あなたの望んだイメージから生まれた』
『わたしが、あなたにとっての理想形』
『なら、わたしがあなたにとっての大切な人にならないのはおかしいんじゃないかな?』

…大切なものは、毎日の中で少しづつ変わっていくんだよ。
夢中になっていたおもちゃとかでも、日々が過ぎていくに連れて遊ばなくなる。
そういう事なんだよ。

『そうして、要らなくなったら捨てるの?この世界も……わたしも』

それは……

『あなたは、わたしにとっての大切な人』
『決して捨てることの無い、ね』少しづつ薄れていく、オレの存在。
ひとつの世界を相手にして、人一人が出来る抵抗なんてたかが知れていた。
消えて行くオレに出来ること。
それは………
367ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:46
オレは学校にも行かず、ただ家で何もせず横になっているだけの怠惰な日々を続けていた。
何よりも有り難かったのは、由起子叔母さんが出張で暫く帰ってこないということ。
これでオレは、少なくとも長森の前では普通の生活を送っているように装うことが出来た。
あくまでも、その時まで、オレはいつもの自分でなければならないから。
そのためにも、長森に何か感づかれるわけにはいかなかった。

休みの日を利用し、オレが長森に勉強を教わる、いつもの風景。
違っているのは、オレの心境。
この先確実に訪れる、好きな人との別れを否定したい思いを無理矢理に抑えつける、オレの心境。
「ところでさ、長森」
「ん?何処か分からないところある?」
「いや、来週の日曜空いてるか?」
そう言われ長森は、オレの後ろの壁にかけてあるカレンダーの日付に目をやる。
「えーと…」
「そう、クリスマスイブだ」
途端に長森の顔が赤く染まっていく。
「え、ええーっ!こ、浩平、クリスマスだよクリスマス!そんな日に私なんかと一緒でいいの?」
「あのなぁ……オレ達は恋人同士なんだぞ?クリスマスにデートして何がおかしい」
「そ、そうだけど……」
「じゃあ決まりだ。6時に例の公園、それでいいな?」
「う、うん、いいけど……」
長森が約束を受けてくれたことが嬉しくもあり、悲しかった。
それは、オレの心が愛する人への裏切りと言う行為に耐えられない、という証明でもあった。
……こんな事を考えるのはよそう。
そんな事より、残りわずかな時間をどれだけ長森と過ごしていられるか、
どれだけ幸せな思い出を作れるか、と言う事が大事だった。

だけど、幸せな時間は、すぐに過ぎ去る。

朝日が冷たく感じたのは、始めてだった。
もう暫く布団の中に収まっていたい気持ちを振り切り、
オレは体を起こした。

12月24日が、ゆっくりと始まった。
368ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:46
街路樹に取り付けられた電飾。
そのひとつひとつが代わる代わる、色とりどりの光を放つ。
その光は、幻想的で美しかった。
まるで、これが全て夢であるかのように。

そう、この出来事が、全部夢だったらどんなに幸せだろうか。
そんなオレの願いが叶うことこそ、夢のまた夢に過ぎない。

待ち合わせの場所で、長森を待つ間も、オレは一人考える。
希薄になって行く自分の感覚。
残される長森のこと。
なにもかも、頭の痛くなるようなものばかりだ。
それと同時に、オレ以外の全ての人間への憎悪が湧き上がる。
幸せそうな顔をして目の前を通り過ぎるカップル達の仲を、全部ぶちこわしてやりたかった。
もうすぐ壊れる運命である、オレと長森の関係のように。

そう。
オレは自分の運命を受け入れてから、
今日と言う日をずっと待っていた。
消えそうになる存在を何とか維持して、今日と言う日を待っていたんだ。
長森を振るために。
長森と、別れるために。

余りにもバカで、愚かな考えだと思う。
オレがそれを言えば、長森は悲しむだろう。
それでも、帰ってこないかもしれないオレを待ちつづけて辛い思いをさせるよりは良いと思ったから。
笑いたければ笑え。
これが、オレに今出来る最良の行動だ。
オレは、そう信じている。
369ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:47
遠くから聞こえてくる、耳慣れた声で、オレの意識は現実へと戻った。
「よぅ、長森」
走ってきたのだろう。長森ははぁはぁと息を切らせている。
「浩平ごめんね、待った?」
「ああ待った、一ヶ月は待ったぞ。おかげで凍死しそうだ」
「はぁ……こんな日にまでそんな事言って…」
こうやって長森の傍にいられる時間も、あと僅か。
だったら、それまではいつものオレでいよう。
今日一日、目一杯、両手からこぼれるほどの幸せな思い出を作ろう。
「よし、じゃあ行くか」
「うん」
そう言って立ち上がると、オレ達はゆっくりと歩き出す。
幸せなこの時間を、決して忘れないように…。

オレは、生まれてこのかた経験した事の無いような幸せの中に身を置いていた。
この世の全てが輝いて見える、そんな感覚すら覚える。
だけどそれが、オレが運命を受け入れた事で与えられたものだと思うと、
たまらなく悲しく、そして悔しかった。
そして、その幸せな時間も、終わりを告げようとしている。

「今日は楽しかったね〜」
白い息を吐きながら、長森が言葉通り楽しそうに話す。
このまま笑顔で、「またな」と言って別れたら、
どんなに気分が楽になるだろうかと考える。
でも、それで楽になるのはオレだけだ。

だから……
370ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:47
急に立ち止まったオレに、長森が顔に疑問符をつけながら駆け寄ってくる。
「どうしたの浩平?どっか痛いの?」
心の底からオレを心配してくれている顔だ。
それを今から裏切ろうとしている自分が、どこまでも卑小な存在に感じた。
でも、ここでオレが止めたら、長森は前に進めない。
だから、言わなければいけない。
それは長森にとって一時の悲しみではあっても、結果として未来に続くものだから。
長森に一生の苦しみを背負わせるわけには行かないから。
「長森…」
「ん?」
長森の純真な眼差しが、オレの心を締め付ける。
「好きな人が……出来たんだ」
「え…?」
その表情が、みるみる曇って行く。
そんな長森の顔をオレは直視することが出来ず、目を逸らす。
だけど、ここで話自体を「冗談でした」で済ますわけにはいかなかった。
喉の奥から搾り出すように、少しづつ言葉を紡ぎ出す。
「オレはずっと、一生その人の傍に居たい」
嘘だ。
オレがずっと傍に居たい相手は、長森以外には有り得ないんだ。
「だから、……」
喉の奥に何かが詰まっているような感覚。
たった一言言うだけなのに。
喋るという、ただそれだけの行為にこんな息苦しさを覚えたのは始めてだった。
嘘をつくという事はこんなにも辛いことだったのか。
だったらオレはもう絶対に嘘をつかない。
その代わりに、長森の傍に寄り添って、片時も離れず、ずっといっしょに居たかった。
だけど、それはもう、叶わぬ願い、後の祭りだった。


「別れよう」
371ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:47
言った。
言ってしまったんだ、オレは。
決定的な一言を。

そしてそれと同時に、オレの中に後悔の念が押し寄せる。
それは、また長森を悲しませている自分に対する憎悪とも取れた。
でも、このオレの行動によって長森が悲しむのは一時のことだ。
やがてその記憶も薄れ、長森は何処にでも居そうな普通の女としての生活を送れるんだ。
だから、オレの行動は間違っていない。
間違ってなんか、いるはずが……ないんだ。

「……うん…分かったよ…」
……?
長森が、消えそうなくらい小さな声で、でも確かに、そう言った。
唖然としているオレの前で長森は顔を上げ、
「分かったよ。浩平、好きな人が出来たんだね」
今度ははっきりと聞き取れる声で、もう一度長森は言った。
「だったら、仕方ないね」
瞳から涙をぼろぼろとこぼしながら。

声を震わせながら。

それでも、無理に笑って、長森はそう言ったんだ。


その長森の悲痛な笑顔を見た瞬間、オレに感情の波が押し寄せる。
そんなにまでオレを愛していてくれる長森。
嬉しくてたまらなかった。
オレも笑顔で返して、優しく「嘘だ」と言ってやりたかった。

でも、オレは笑うわけにはいかなくて……

他にこの感情を表現する方法も分からなくて……

「なんで…」

「え?」

「なんでお前は、そういつも笑っていられるんだよっ!」

オレは、怒るしかなかった。
372ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:48
「いつだってそうだ。高2の冬、オレが散々冷たくしたときも!
仲直りして、その後オレが勝手に消えちまうときも!
1年間も待たせて、それでいけしゃあしゃあとオレが告白したときも!
今回だってそうだ!なんでこんなオレに対して、笑顔で居られるんだよ、お前はっ!」
オレの目から涙がこぼれ落ちるのと同時に、堰を切った様に言葉が溢れた。

オレの思い出は、全部、森への感謝の思いで一杯なのに。
ありがとう、そう言って抱き締めたいのに。

今のオレには、それすらも許されてはいなかった。


「…それでも」
オレが押し黙ったのを待って、長森が静かに口を開く。
「それでもわたしは、浩平のことが好きだからだと思うよ」
ゆっくりと、そしてはっきりと長森が笑顔で言う。
オレの顔が、かぁっと熱くなるのを感じる。
心の底から嬉しかった。
そして、謝りたい。
そうすれば、この別れはまた笑顔で迎えることが出来る。
でも、それじゃ駄目なんだ。


何度も繰り返してきた問答。


答えの出ているはずの問答。


だけど、それでも心が揺れ動くのは何故だろう。きっと、オレが長森のことが大好きだから。
オレ以外の世界中の誰にも渡したくないほど、大好きだから。

だから、そんなオレに縛られてちゃいけないんだ。
消えて無くなるオレに、囚われていちゃいけないんだ、長森は。
373ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:48
「ふざけんなよっ!なんで怒らねえんだ!
怒ってるんだろ!オレのことが憎いだろ!ほら、貶せよ!何とでも言えよ!
嫌いとでも、最低とでも、何だって言ってくれよ!
そうすればオレだって楽になれるんだ!変な情けかけないでくれよ!」

だからオレは、長森を突き放す。

「出来ないよ。私には浩平を責めたりなんて」
止まらない涙を流しながら、長森は尚もそう言った。


畜生。
自分と言う存在が、呪わしく感じた。
オレが求めた世界へ旅立つ。
それは悲しくも何とも無いはずなのに、何故こんなにも辛い思いをしなければならないんだろう。

永遠なんて、要らなかったんだ。

だけど、それを再確認したところで、何かが変わるわけでも無かった。

「…目障りなんだよ」
「……えっ」
「いっつもベタベタくっつきやがって…
迷惑なんだよ!鬱陶しいんだよ!
もう……帰れよっ…2度とオレの前に姿を現さないでくれよ……」
散々怒鳴りつづけて、声はもう枯れていた。
長森がオレの言葉にどうしたらいいのか分からず、おろおろとしている。
「行けよ…
とっとと行っちまえよっ!こんなオレなんか放っといて、どっか行っちまえよっ!」
その言葉に長森は下を向き、
「うん、分かった……
浩平がそう言うなら…そうするよ…」
と消え入りそうな声で言った。
そして背中を翻し、走り去って行く。

徐々に遠くなっていく長森の背中を見ながら、
オレは自分を呪った。
こんなにも自分が憎いと思うことは、これまで無かった。
噛み締めた唇からは、血が滲んでいた。
374ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:49
足元に、何かが当たった。小さな包みだ。
それはがさり、と小さな音をたてる。
オレはそれを手に取り、包みを乱暴に剥ぎ取る。
中には、マフラーがひとつ、入っていた。
……オレの、イニシャル入りの。
激しい虚脱感。オレは、力無く地面にへたり込んだ。
空を見上げる。
クリスマスのデコレーションを施された町の夜空は明るく、
星はほとんど見えなかった。
乾いた涙の跡がひりひりと痛い。
長森の編んでくれたマフラーが目にとまる。
長森が、オレに残してくれた最後の思い出。
向こうに持っていくことは出来ないけど……
せめて、首に巻いておこう。
慣れない手つきで、マフラーを首に巻く。
痛かった。
長森の温かい心遣いも。
こんな行動を取れるオレ自身も。
何もかも痛い。
その痛みを堪える様に、オレはに目をきつく瞑った。
その瞬間を待っていたかのように、地面が、周りの風景が、オレの体が歪む。
そして、オレの意識は飛んでいった。………
街に溢れるカップルの群れ。
行き先は皆違えど、それぞれの表情は嬉しそうだ。
かと思えば、ちらちらと腕時計を見ながらやきもきしている男の姿。
彼女を待っているのだろうか?
街中に幸せな空気が溢れている。

でも、その空気をぼくが感じることはできないんだ。

目を開けると、そこは……
375ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:49
一人の少女が、その風景をじっと見つめている。
彼女もまた、ぼくと同じ。
幸せな顔をした人達を、羨ましそうな顔でじっと見ている。
だから、ぼくは彼女の肩にそっと手を置いて、こう言うんだ。

「寂しくなんか無いよ、ぼくがいるからね」

町並みの景色は変わらない。
だけど、ぼくたちの目には、何もかもが違って見えた。
行き交う人々が無機質に見えるなんて事もない。
例え幻想であれ、ぼくたちもあの中に入れた気がしたんだ。

ぼくと少女を囲んだテーブルの上に置かれたのは、ひとつのクリスマスケーキ。
そのケーキは、決して食べられないけれど、
そのケーキは、決してぼくらの触れられる場所には無いけど、
そのケーキを眺めながらきみと一緒に居られるだけでいいと思った。

ぼくの居場所は、もうここしかないのだから。

「メリークリスマス」
「え?」
突然のぼくの言葉に、彼女が驚いたような顔でぼくを見上げる。
ぼくはそんな彼女の顔を見て、得意げに語るんだ。
「むこうではね、今日はお祝いの日なんだ。街のみんなが楽しそうな顔をして、
それで出会った人々が口々にこう言うんだ。メリークリスマス、ってね」

「へぇ……」
「きみも言ってごらんよ」
彼女は「うん」と元気に言ってから、
「メリークリスマス」
と、それ以上の元気で言った。
ぼくもそんな彼女の顔を見ていると嬉しくなって、
「メリークリスマス」
ともう一回言ってしまう。
376ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:50
幸せだった。
向こうの世界に置いてきたものが、ここにはあったから。

だからぼくは、とても幸せだった。
この世界なら、この幸せは無くなることなんて無い。
ぼくは、ずっと幸せなままで居られる。

それが、とても嬉しかった。

街路樹に電飾が彩られ、ちかちかと幻想的な光を放っている。
ぼくがさっきまで、向こうで見ていた光景。
もちろん、この風景にぼくの姿は無い。
「きれいだね」
そう言って、ぼくはみずかの肩を抱き寄せる。
みずかも体を寄せ、熱を帯びた目でその光景を見ている。
「うん、とってもきれいだね」
その言葉が嬉しかった。
それ以上の言葉なんて必要無い。
肩を寄せ合って、ずっとこの光景を見ていられれば。

「ありがとう」
と、みずかが呟いた。
「いいんだよ、ぼくは」
みずかはぼくの言葉に笑顔で答え、
「楽しかった」
と、涙を浮かべて言った。
「え?それって、どういう……」
その瞬間、異変が起こった。
まるでジグソーパズルのピースが剥がれ落ちて行くかのように、
周りの風景がゆっくりと崩れだしたのだ。
ぼくはみずかの手を掴む。
その手を振り解くように、みずかはぼくから離れて行った。
377ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:50
壊れて行く。
ぼくの作った世界が。
ぼくの居場所が。
「どういうことなんだ!」
ぼくはこの世界の崩壊を止める事が出来ない。
だから、叫ぶしかなかった。
崩れて行く世界の中で、みずかの姿もまた、霞んでいった。
「この世界は、あなたに必要とされなくなった時点で消える運命だったの」
あらんばかりの声を振り絞って、最早姿も見えなくなったみずかに答える。
「必要無いわけないじゃないか!」
ぼくには、もうここしか居場所がないんだから…
「だから最後に、あなたと一緒に過ごしたかった
あなたと一緒の、わたしだけの最後の思い出を作りたかった」
「これからもっと作ろう!だから…」
だから、行かないでくれ!
「大丈夫、あなたを待っている人が居るから
楽しかったよ。ありがとう………お兄ちゃん」
その言葉を最後に、眩い光が辺りを包み、そして……

ぼくは、また違う場所に居た。
暗い。
真っ暗だ。
何処を見ても。
見えているのかすら分からない。
光一つ、無い。

何も無い、無限の空間。
完全な、闇だ。
みずかは、ぼくを待ってくれている人が居る、と言った。
そんな人は、もう存在しないんだ。
ぼくが、自分で手放したから。
ぼくは何をしていたのだろう?
道化。
悲しいピエロだ。
自分一人で慌てて、勘違いして、自分から最悪の結果を招いたんだ。
長森もみずかも悪くない。
悪いのはぼく。
ぼく一人だった。
……やめよう。
ここなら、何も考えなくていい。
考える必要が無い。
何もしなくていい。
何処にも行かなくていい。
ならぼくは、この暗黒の海にいつまでも漂っていよう。
ぼくの居場所は、もう、何処にも有りはしないのだから。
378ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:50
体中から、ふっ、と力が抜ける。
これで、楽になれるんだ、ぼくは。
そうすればもう、後は何も無い。
……終わりだ。

消えて行く意識の中、なにかが視線を掠めた。

……なんだろう。
微かに残る手の感覚を振り絞り、目を擦り、もう一度遠くを仰ぎ見る。
それは、有るはずの無いもの。
そして、ぼくが心の奥で求めていたもの。

光だ。

体中が熱くなり、手足の感覚が戻ってくる。
ぼくは光を目指し、手足をばたつかせ、もがく。
あの光に辿り着けば、何かが変わる気がしたから。

そしてぼくは、光の前に立った。
手を差し出してみる。
……暖かかった。
ぼくは今まで、こんな暖かな感覚の中に居たのか、と実感した。
抱き寄せるように、光を包みこむ。
その光は、今のぼくには眩しすぎるものだったけど、
それでも不快な感じは全く無かった。
安心できた。
不安定な心の波が、収まっていく。

……帰ろう。
ぼくはもう彼女の傍に居る事は出来ないかもしれないけど……
それでもいい。
彼女の居る世界。
彼女の居る空気。
それだけでも感じられれば幸せだ。
だから、帰ろう、元の世界へ。

光がより強くなる。
その光の中、ぼくは誰かの声を聞いた気がした。
379ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:50
「……あっ、やっと起きたぁ」
最初に見たのは、見知った天井。
そして、見知った顔。
…まだ頭の中がぼんやりしていて、よく分からない。
ゆっくりと、無言で体を起こす。
「マフラー落としたのに気付いて戻ったら、浩平が倒れてるんだもん。
びっくりしちゃったよ……」
「…………」
何も喋らないオレに対し、長森は申し訳無さそうに
「…ごめんね浩平。おせっかいだったかな?」
「…………」
「……それじゃあ、私、そろそろ行くよ」
長森が気まずそうにその場を離れようとする。
それをオレは、後ろから抱き締めた。

「…………」
沈黙。
「浮気は…駄目だよ、浩平…」
「昨日別れたんだ」
「また嘘ばっかり言って……そんなんじゃ誰も浩平のこと相手にしてくれなくなっちゃうよ?」
構いやしないさ。
「オレはお前が相手にしてくれればそれでいい」
「本当に……わたしでいいの…?」
オレは長森を向き直らせ、唇を奪う。
それが、オレの答え。
380ふたりのメリークリスマス:2000/12/25(月) 02:51
ふと、長森の腕の中のものに目が行く。
「そうだ長森、マフラー巻いてくれ、マフラー」
「あ……でも、汚れてるよ」
「いいんだよ、さぁ巻いてくれ、じゃなきゃ自決する」
いつもの会話。
いつもの態度。
このままオレは昨日の事を『無かった事』として誤魔化してしまうのか?
本来なら、何十回と土下座しても尚足りないほどの事をしたというのに。
謝ろう。
今からでも遅くない。
謝って、一生賭けて償おう。
「ごめんな……長森」
「いいんだよ……わたしは、浩平の傍に居たいだけなんだから」
マフラーを巻きながら、長森が答えた。
巻かれたマフラーが痛い。
だけどその痛みは、決してあの夜感じた痛みと同じではない。
痛いけれど、暖かかった。
「ありがとう」
「ど、どうしたの浩平?素直にお礼言うなんて」
……オレはそんなに捻くれていたのか。
ちょっとした怒りを覚えたが、何故だか顔からは笑みがこぼれた。
「……ぷ、くくっ」
「わっ!動かないでよ浩平、マフラー上手く巻けないよ」
「あ…スマン」
再び沈黙。
オレの目線より少し下にある長森の顔を見つめながらオレは考える。
長森瑞佳。
オレを毎朝起こしに来てくれていた彼女。
オレの世話を焼いてくれた彼女。
いつでも傍に居てくれた彼女。
そして、オレを救ってくれた彼女。
どれをとっても、オレには勿体無いくらいだった。
そんな長森がオレの傍に今尚居てくれる事自体が、ある意味奇蹟だ。
……不思議なもんだ。
不謹慎かもしれないが、それを思うとまた笑いが込み上げて来た。
「よし、巻けたよ浩平…わっ」
オレは長森の顔を強引に引き寄せると、もう一度キスをした。「メリークリスマス」街を行き交う幸せそうな人達。
ぼくはそれを遠目で眺めているだけだった。
ぼくにはずっと無縁のことだ、そう思っていた。
だけど、きみが一緒なら、ぼくもそっちへ行けそうな気がするよ。
幸せの輪の中へ。
381TKA:2000/12/25(月) 02:55
>>361-380
ふたりのメリークリスマス

なんというか、長森スレのと比べると自分の文章力の無さを痛感出来たり。
ageるほどの作品じゃないですね。
自分としては最後らへんが駆け足気味になってしまったかな?と。

まあともかく、感想頂けたら幸いです。
だったらageろって?それは…
382名無しさんだよもん:2000/12/25(月) 04:47
いや、面白かったですよ。いい意味で王道なお話で。
別れ話に下手な嘘をつく浩平がいいですね。
383長森スレにSS書いた奴:2000/12/25(月) 11:49
面白かったです。文章も読み易いし、原作の現実感の希薄な雰囲気がすごくよく
描かれているな、と思いました。全体に流れるイノセントな情緒が切ないです。
俺の書いた奴はデコボコにズレていて読みにくいですし、原作の雰囲気も再現されて
いないです。
『長森クリスマスSS』というモチーフは一緒でも、TKAさんのと俺のとではアプローチ
やスタンスが違っていると思うので比較しても仕方ないんですけどね。
384名無しさんだよもん:2000/12/25(月) 23:36
あらためて長森って完璧なキャラだなぁ。
こんないい子がいてくれたらマジでがんばるんだけどな。
月並みなコメントですがおもしろかったです >ふたりのメリークリスマス
385名無しさんだよもん:2000/12/27(水) 07:15
age
386名無しさんだよもん:2000/12/28(木) 04:32
age2
387名無しさんだよもん:2000/12/28(木) 04:43
長森姦ってよし!
388TKA:2000/12/28(木) 16:19
皆さん感想どうもです。
これを励みにこれからも頑張りますのでよろしく。
389名無しさんだよもん:2000/12/28(木) 23:40
よかったぁ〜、もうこのスレッド終わっちゃったのかと。
冬厨警戒中なだけか。
390名無しさんだよもん:2000/12/30(土) 01:38
続かない…コ○ケで忙しいのだろうか。
391名無しさんだよもん:2001/01/02(火) 09:48
200まで落ちてしまったな…age
392名無しさんだよもん:2001/01/02(火) 23:27
おのれ高野山!
…といってみるがむなしい。
えーん、舞萌SSがでないよぉ〜。
393名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:39
>>392
皆、帰省してるんだよ
マタ-リ待とうぜ
394名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:40
しまった
ageちったよ
鬱堕篠卯
395名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:41
もう一回sage
396名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:41
もういっちょsage
397名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:42
なぜsagaらん!
398名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:43
つーことでsage
399名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:44
なんか間違ってるのかsage
400名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:45
sage
401名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:45
sage
402名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:45
さげ
403名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:46
sage
404名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:48
あの、sageても順位下がらないぞ。上がらないだけ。
405名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:49
agaりっぱなしだよもん
406名無しさんだよもん:2001/01/03(水) 23:51
>>404
そうだった
何やってるんだ漏れ
鬱どころじゃない
逝ってくるスマソ...
407名無しさんだよもん:2001/01/04(木) 02:06
クリスマスSSなんて書きこまれてたのか…
今ごろになって難だが、長森らしくて(もちろん浩平もらしくて)よかった。
408素足(前編)1:2001/01/04(木) 16:40
 雨の日は憂鬱。誰がそんなことを決めたか知らない。でも、雨の日はあの場所に足を向ける。傘を届けに。
 そして、あの場所で傘を差しているとかかる声。私の名前を呼ぶ声。
「茜」
 振り返る。悟られないように。
「浩平」
 その名前を呼ぶ。そこに立っている人。それが今、私をこの空き地に導いてくれている人。
 忘れたら駄目。忘れないように。あの人の名前。あの人の顔。あの人との思い出。あの人を…好きだった記憶。
 そう繰り返して続けてきた、中学校からの儀式。
「傘、持っていなかったから…」
 雨の日は憂鬱。でも、それはそうじゃないかもしれない。そう、思っていただけで。
 でもそれはたぶん、少し切ない。
 雨音が聞こえると、私の耳は震えだす。
 あの人の声。あの世界へと旅立ってしまったあの人の最後の声が、私をここに縛り付ける。
 司。

  ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
409素足(前編)2:2001/01/04(木) 16:41
 雨の日の学校の廊下は、雨音のせいかいつもより静かな気配だった。窓から響く地を打つ雫の音が、絶え間なく続いて、まるで昔の映画の雑音のように耳に残る。
 中庭でお弁当を食べる。それが半分習慣になってしまっていた茜としては、外がいつのまにか雨であることに、廊下に出てから気がついたほどだった。お弁当箱の入った巾着を持ったまま、窓の外を見つめてしまう。
 朝は、晴れ間すらのぞいていたのに。
「そんなに恨めしい顔をしてどうしたんだ」
「浩平…」
「いくら睨んでも、雨はやむもんじゃないと思うぞ」
 指でつまむように惣菜パンの袋も持ち、それをひらひらとさせながら彼がやってきた。浩平はなにも言わずに茜の隣に立ち、茜と同じように窓の外を視界に入れる。
「教室で、食べるのか?」
「…はい」
「だな。この雨じゃ、学食も大変なことになっているだろうし」
 言いながら、浩平は教室へ戻るために窓に背中を向けた。彼は何も言わなかったが、一度目に映っていた風景をリセットするように瞼を閉じた茜は、そんな彼の斜め後ろに続いた。
 浩平と一緒に食べることに、抵抗がなくなったのはいつだろう。
 茜は思う。けれど、その脳裏にちらつくひとつの影が、その考えを打ち消した。
 雨降る空き地にたたずむ、一人の少年の影。
 茜がふと立ち止まったとき、彼女の方、正確には彼女の前を歩く浩平に迫ってくる少女がいた。
「浩平く…」
 浩平の名前を呼びながら走ってきたその少女は、浩平の側にいた茜に見事にぶつかり、ふたりはもつれ合うように転んでしまう。
「あたた…」
 ぶつかってきた少女が床にしりもちをついたらしく、起き上がりながらお尻をさすっている。それから、周囲をきょろきょろとしつつ、大丈夫でしたか? と呼び掛けた。
 呼び掛けた、というよりも、探している、という状態に近い。
「先輩、いきなりどうしたんだ」
 と、浩平がそんな少女に声をかけた。少女は声のしたほうへ敏感に振り向き、輝きのない黒い闇を宿した瞳を向ける。
「浩平君…? あ、じゃあ私、浩平君とぶつかったの?」
410素足(前編)3:2001/01/04(木) 16:43
 少女は慌てたような様子で、浩平のほうをずっと見ていた。ただいくら見つめても、その瞳に浩平の姿が映ることはない。
「いや。ぶつかられたのは俺じゃない。俺のクラスメイトだ」
 言いながら、浩平はまだ床に倒れている茜に手を貸した。茜はいきなり現れた黒髪の少女と、その見知らぬ少女と親しげに話している浩平にちょっと不安げな瞳を向けながら、それでも彼の手を借りて立ち上がる。
「みさき先輩、こいつ里村茜。クラスメイトだ。茜、みさき先輩だ。3年生の川名みさき先輩」
 友達を紹介するように、浩平は二人の少女の間に立ち、それぞれの名前を呼んだ。
「あの、里村です…」
 遠慮がちに茜が頭をさげる。みさきは、そんな茜の正面に立ち、にっこりと微笑んでいる。
「川名みさきだよ。さっきはごめんね。私、目が見えないから。いつもだったら大丈夫なんだけど、茜ちゃんの気配はなんだか感じられなくて、それでぶつかっちゃったよ」
「目が見えない? 茜…ちゃん?」
 みさきの言葉に反応して、茜が困ったように首をかしげた。視線で助けを求めるように浩平を見ると、その視線に気づいた浩平がそれに応える。
「先輩は目が見えない、盲目なんだ。その代わりに、強靭な胃袋と溜め息でひとつで相手が分かる耳をもっているんだけどな。あと、ちゃん付けで人の名前を呼びたがる。以前、俺もちゃん付けて呼ばれそうになった」
「浩平君、その紹介の仕方はあんまりだと思うな」
 浩平の言葉にみさきは講義したが、本気で怒っている様子はなく、むしろちょっと微笑んでいるようにも見える。
「浩平ちゃん…ですか?」
「そうだよ。茜ちゃんも、可愛いと思わない? 浩平ちゃん」
 茜が、独り言を呟くように問い掛けると、みさきが嬉しそうに答えた。
「私のこともみさきちゃんでいいよ、って言ったのにね」
「先輩にちゃん付けは抵抗あるだろ、普通」
 みさきの付け足した言葉に、浩平が反論する。と、浩平は茜が小さくくすくすと笑っているのに気が付いた。
「浩平ちゃん…」
「ぐわっ」
411素足(前編)4:2001/01/04(木) 16:44
 茜が呟くのと浩平がのけぞるのは同時だった。みさきは、そんな二人の気配を感じて、少し寂しそうに笑っている。
「そういえば先輩」
 浩平は口元に手をやって笑っている茜を見て少し苦笑してから、思い出したようにみさきに向き直った。
「なにか用があったんじゃないのか? 俺に。わざわざ2年の教室までくるってことは」
「あ、うん。そうだったね。すっかり忘れてたよ」
 浩平の言葉で、ちょっとはっとしたように、みさきはうつむきがちだった顔をあげる。
「いっしょにご飯でもどうかな、って思ったんだけどね」
「ご飯って…学食だろ? でも、この雨じゃ今日は混んでるんじゃないのか?」
「ううん、学食じゃないよ。部室だよ。演劇部の部室」
 みさきはにこっと笑った。浩平はそんな彼女の言葉を聞いて、なるほど、という顔をしている。
 茜は、そんな二人の会話を黙って見守っていた。
「でも、演劇部の部室っていっても先輩は演劇部じゃないだろ」
「部長と親友だから、いいんだよ。許可もちゃーんともらってあるんだからね」
「そんなもんか?」
「そんなもんだよ」
 浩平はしばらくみさきの顔を見て考えていたが、思い出したように振り返って茜を見た。茜はそんな浩平の考えを見つかしているかのように、
「かまいません」
 と、呟くように答えた。
「じゃあ、善は…というより膳は急げだな。ぐずぐずしてるとあっというまに昼休み終わっちまうし」
 言って、浩平は歩き出した。足音と気配で分かるのだろう、みさきがそのあとに続く。茜は一番後ろを歩いていたが、ふと、みさきが振り返ったので、その瞳と目が合った。
 深い闇がある。そこに自分の姿はなく、見られているけれど見られていない、変な感覚が茜をわずかに支配した。
「よろしくね、茜ちゃん」
「…はい」
412素足(前編)5:2001/01/04(木) 16:45
 茜が答えると、みさきはにこっと瞼を閉じるように目を細める。とても豊かな表情をもっている笑顔で、茜は自分でもわからないうちに胸の奥をどきりとさせた。
 …先生。
 みさきの笑顔は、茜にある人物を連想させた。笑顔。屈託のないその微笑みは、あの人が好きだった先生に似ていた。
「…司」
 小さな声で呟く。そして、それを振り払うようにお弁当箱の入っている巾着をきつく握り締める。
 雨の空き地には、誰もいない。そのはず、だから。

   ■□■□■□■□■□■□

 暗闇が支配する世界。私は、ずっとその世界を見つめてきた。
 子供の頃、光を失った。それからというもの、私はこの閉ざされた世界で生きてきた。
 学校は、そんな私が光を取り戻せる唯一の場所。
 そして、浩平君は…そんな私を受け入れてくれた光。
「普通で…いいと思うよ」
 私が普通でいられる人。それが、浩平君だった。
 そして、そんな浩平君の側にいる彼女も、私が目が見えない人だと知っても、笑ってくれた。
 茜ちゃん。
 とっても美味しいお弁当を作る子だった。もちろん、顔は分からない。でも、彼女も浩平君と同じような雰囲気をもっていた。どこか優しくて、どこか寂しげで…ふとした瞬間、消えてしまいそうな。
 きっと仲良くなれる。
 だって、私も同じように…この世界から消えたいと思ったことがあるから。
 …私の勘違いじゃないよね?
 里村茜ちゃん、かぁ。
 また明日も、会えると良いな。

   ■□■□■□■□■□■□
413素足(前編)6:2001/01/04(木) 16:45
 冬でも、晴れればそこには心地よい空気が広がっている。雲ひとつない空と、わずかな風のおかげか、朝からずっと日差しで暖められていた芝生は、冬だというのにほんのりと暖かかった。
「先輩に茜。今日も仲良く食事か?」
 浩平がその場所に顔を出したとき、そこには二人の先客がいた。芝生の上に足を崩して座り、まるで行楽にいくかのような大きな重箱を広げている。その量だけで、軽く5人分はありそうだった。
「浩平、遅いです」
「もう、茜ちゃんと一緒に待ってたんだからね」
 先客の茜とみさきは、ようやくやってきた浩平にそれぞれ挨拶代わりの言葉をかけた。その表情は、憎まれ口の言葉とは裏腹に、冬の陽光に透けるくらいに柔らかい。
「茜は同じクラスなんだから、おれが髭に呼び出されたことぐらいは知ってるだろうに…。とはいえ、また今日はずいぶんと豪勢な昼食だな。花見でもするのか」
 浩平は、自分もそのまま心地よい香りのする芝生の上に腰を下ろした。準備の良いことに、彼はどこからか暖かいウーロン茶の缶と割り箸を取り出している。
「私が茜ちゃんのお弁当気に入った、って言ったら作ってきてくれたんだよ。私はよく分からないんだけど…浩平君の口ぶりからすると、なんだか凄そうだね」
「ああ、かなりな。まあ、先輩なら全部食べきってしまうと断言できるが」
 すでに臨戦体勢整った浩平を見て、茜も二つの箸を取り出した。
「どうぞ」
「あ、うん。ありがと、茜ちゃん」
 茜が一揃いの箸をみさきに手渡す。
「茜、俺の分はないのか」
414素足(前編)7:2001/01/04(木) 16:46
「…浩平は準備がいいですから」
「まぁな」
 自分の手にあるウーロン茶と箸に集中する茜の視線に、浩平は少し苦笑しながら呟いた。割り箸を割ると、その音が聞こえたのか、みさきも手渡された箸を準備した。茜が料理を用意してきたらしい紙皿に取り分けている。
「本当に花見のようだ…。真冬の中庭で花見とは…」
「…嫌なら浩平にはあげません」
 山盛りにおかずを盛られた紙皿をみさきに手渡しながら、茜は浩平を牽制するような視線で見つめる。
「…先輩も茜も、いつのまにそんな仲良くなったんだ」
「女の子にはいろいろとあるんだよ」
 いただきます、と付け足したみさきは、さっそく茜の料理を食べ始めた。こと、食べることに関しての手つきは見ていて危なげないもので、一緒にいても彼女が盲目である、ということを忘れてしまうそうになる。
「…うん、美味しい」
「何点ですか?」
 茜がちょっと笑みを零しながらみさきに問い掛ける。その笑みの意味は、以前、浩平に似た質問をしたことがあるのを思い出しているからに違いなかった。
「…95点ぐらいあげてもいいかな」
「へぇ、結構いい点だな」
 みさきの答えに、浩平がすかさず続けた。今度はみさきが笑っている。
「うん。私、茜ちゃんの作るお弁当が好きだからね」
 みさきが最後にそう言うと、誰が言うでもなく、3人は笑い出してしまう。冬の中庭の寒さを忘れてしまうほどその3人を包む空気はとても和やかで、あまりに充実したその時間は、とても短く感じられた。

   ■□■□■□■□■□■□
415素足(前編)8:2001/01/04(木) 16:46

 何もない場所にそれは生まれた。生まれた世界はだんだんと大きくなり始め、そして全てを飲み込んでいく。
 現実が現実でなくなっていく。自分の生きていく世界は、永遠に、それが永遠であるがゆえに全てを飲み込んでしまう。
 もし、この世の中に自分という存在が生きていることを証明してくれる人がいなくなってしまったら、それは生きていないことと同じになってしまうのだろうか。
 今の自分が、この世にあるという確かなもの。
 絆。
 自分が、忘れ去られていくこと。
 人が生きていくために必要なものが、他人が自分の存在を証明してくれることだとしたら。
「えいえんはあるよ」
 じゃあ、もしも…必要としていた人が、自分の全てだと想っていた人が突然いなくなってしまったら。
 それを受け止めることが出来なかったら。

 みさお。

 きっと望んでしまう。その人がいた時間を。その人と過ごした時間を。
 永遠を。
 だから、この世界は終わらない。始まりは終わりへと続き、それは本当に永遠に終わることがない。
 もう、終わっているんだから。

   ■□■□■□■□■□■□

416素足(前編)9:2001/01/04(木) 16:47
 放課後から降り出した雨が、だんだんとグラウンドを濡らし始めていた。頭を鞄で隠すようにして走っていく生徒の声が、昇降口まで響いてくる。
 その人ごみをまるで眺めるように、映らない瞳でじっと見つめている彼女。
「先輩」
 不意に声がして、みさきは振り向く。もちろん、目が見えているわけではないから振り向く必要はないのに、彼女は咄嗟に、声のしたほうに振り向いた。
 たぶん、寂しかったから。だから、そんな自分の行動に驚いて、一瞬、自分でもその名前を呼ぶことを躊躇する。
 でも、沈黙は闇と同じ。だから、みさきは彼の名前を口にする。
「…浩平君」
「どうしたんだ、先輩。傘、ないのか?」
 浩平はみさきの隣に立つと、今まで彼女が見ていたその光景を眺めた。みさきは浩平の気配だけを頼りにしながら彼のほうに向き、そして両手をぱっぱっ、と開いたり閉じたりして見せる。
「うん、傘はないよ。でも、家はすぐそこだからね」
「そうだったな。…送っていこうか? 先輩」
「かまわないけど…浩平君、傘、持ってるの?」
「いや、残念ながら俺もない」
 浩平は、あまり残念そうではない口調で呟いてから、その視界の隅に彼女を見つけた。
「茜」
 ピンクの傘を持った彼女が、浩平の呼びかけに振り返る。茜は浩平の隣にみさきがいるのを見つけて、会釈をしてから近寄ってきた。こつこつというコンクリートを叩く靴音が響く。
「こんにちは、茜ちゃん」
「はい」
 靴音で距離を図っていたみさきは、浩平が彼女の名前を呼んだこともあって、近づいてきた人物が彼女であると分かったようだ。二人の間で笑顔の挨拶が交わされる。
「茜。先輩と俺を送っていってくれないか」
「…」
417素足(前編)10:2001/01/04(木) 16:48
「そんな顔をするな。大丈夫、先輩の家はすぐそこだ」
 浩平が昇降口の外を指差す。さすがにここからは見えないようだが、彼の言葉が正しい、と示すようにみさきが隣で頷いている。
「…じゃあ、先輩を先に送ってきます。浩平はここで待っていてください。3人で行くと、濡れてしまいますから」
「分かった」
 浩平の返事を聞いて、茜が傘を開いた。昇降口にピンクの花が咲く。みさきはその音を聞いて、すっと茜に近寄り、その傘の下に入った。
「じゃあ、またね。浩平君」
 みさきが手を振っている。
「いいですか?」
「うん、いいよ」
 茜の問いに頷きながら応じるみさき。そんな二人の様子を見ていた浩平が、ふと思い出したように問い掛ける。
「そうそう、聞こうと思っていたんだ。二人とも、クリスマスの予定はどうなっているんだ? もう明日なんだが」
「クリスマス、ですか?」
 先に答えたのは茜のほうだった。浩平がそれに頷くと、茜は少し思い出すような仕草をしてから、とくになかったと思います、と付け足した。
「詩子は、予定があると言っていましたし」
「私も…ないよ」
 茜の言葉に続いて、みさきが答えた。心なしかその言葉が寂しそうに聞こえたけれど、浩平も茜も、そのことに対して触れることはしない。
 いきなりな質問にきょとんとした顔をしている二人に、浩平はさらなる提案を問い掛けた。
「じゃあ、突然なんだが。明日、クリスマスパーティーをしないか?」

   ■□■□■□■□■□■□
418素足(前編)11:2001/01/04(木) 16:48

 確か、一度だけあの人と一緒に雨の中を帰ったことがあった。中学校の時の担任だったあの人。
 紗江子先生。
 前向きで、あきらめない。いつも笑顔を絶やすことのなかった人。
 司の好きだった人。
「雨の日は大切なのよ。雨が降らないと、花は咲くことすら出来ない。雨は人の涙と一緒なの。落ち込んだり、悲しかったときは、思い切り泣いてしまうことで、涙と一緒に心を洗い流すことが出来るのよ」
 傘を並べて歩いた帰り道。先生はそう言ってから、私に微笑んだ。
「信じることは、何よりも力になるわ。あきらめてしまっては、そこで全てが終わってしまう。あきらめない限り、希望という光が残っている限り、人はその光に向かって前に進んでいけるものなの」
 先生が好きだった言葉。司が気に入っていた言葉。
 でも、先生の言葉を聞いたのは、その日が最後だった。
 次に紗江子先生と会った時、先生は小さな箱に押し込められて冷たくなっていたのだから。
 その日も、雨が降っていた。冬の寒い日。
 あの空き地で、司は泣いていた。傘も差さずに、泣いていた。
「…諦めない」
 司の声が、私の胸に突き刺さったまま抜けない。
 人のもっている全ての感情が詰まった声が、雨音と一緒に私の胸には突き刺さっている。

   ■□■□■□■□■□■□

419素足(前編)12:2001/01/04(木) 16:49
 あまり使われたことのない様子のキッチンに、カタカタと音が響く。ボールと泡立て器がわずかにぶつかり合う音は、メレンゲを作るために悪戦苦闘している浩平が発生源だった。
「あまり泡立て器とボールをぶつけないでください。味が金属っぽくなってしまいます」
 オーブンの温度を見ていた茜が、そんな浩平に振り向いて声をかける。傘と同じピンクのエプロンと三角巾は、家から持参してきた彼女の自前だ。
「そうは言うが茜。これはかなりの力仕事だぞ」
「だから浩平に頼んでいます」
 氷水の入った一回り大きいボールで冷やしながらひたすらに手を動かす浩平の姿を見て、茜は小さくくすりと笑った。オーブンの中を覗くと、だんだんと焼き色がついてきたスポンジケーキが見える。茜はその出来具合に満足したのか、わずかに微笑んでから別の料理の支度に取り掛かった。
「先輩の為に料理を作ろうと私に言い出したのは浩平です」
「協力します、と即答してくれたのは茜だろう。だからこうして折原家自慢のキッチンも提供している」
「あまり使われいる様子のない、寂しいキッチンです」
 茜は呟いてから、視線だけを動かしてキッチンを見回す。彼女の言葉通り、普通の家庭よりも設備の整っているシステムキッチンは、あまり使われている様子もなく、調理用の器具もあまり揃ってはいないようだった。
「仕方ないだろう。おばさんは仕事が忙しいし、俺もせいぜいチャーハン程度なんだからな」
 茜に言葉を返しながらも腕を動かしていた浩平は、ようやく、といった感じで持っていたボールを茜に差し出す。
「これならどうだ。ちゃんとツノが立つまでかき混ぜたぞ」
 言いながら、浩平がボールから泡立て器を持ち上げる。泡立てられた淡雪のようなメレンゲが、引っ張られるようにしてツノのようなものを作り出した。
420素足(前編)13:2001/01/04(木) 16:49
「合格です」
「ふぅ…。じゃあ、悪いけどあとの支度と鍵を頼む。俺、先に学校行って支度してるからな」
「はい」
 浩平からボールを受け取った茜は、肩がこったのか何度も首や肩を柔軟させている浩平に声をかけた。
「浩平」
「なんだ?」
 キッチンから出て行こうとした浩平が、呼び止められて振り返る。茜はしばらく浩平の顔を見つめていたが、やがて視線を落とした。
「…なんでも、ないです」
「そうか」
 浩平はそんな茜に、自分も声をかける。
「味付けは、控えめで頼むぞ。おまえの味覚は、常人を超越して甘味に鈍感だからな。あと、戸締りもよろしく頼む」
「…はい」
 浩平が冗談ぽく呟いた言葉に、茜は小さな声で答えた。その瞳はどこを映しているのか分からず、浩平は少し後ろ髪を引かれながら、それでもクリスマスパーティーの会場となった教室へと向かった。これから簡単な飾り付けや準備などを全てこなさなくてはならない。
 誰もいなくなってしまうこの家に、茜を一人残して。

   ■□■□■□■□■□■□
421素足(前編)14:2001/01/04(木) 16:49
 子供の頃、事故に遭って光を失った。その事故の後、通院していた病院で私は一人の人と出会った。
 名前を教えてもらうほど、子供の頃の私は機転が利かなかった。だから、覚えているのはおぼろげな声の輪郭。
 その日、私は許可をもらって屋上で風を受けていた。風はいろいろなものを私のところに運んで来てくれる。
 私が失った世界に、一番近い場所。
「こんなところでひなたぼっこ?」
 声がした。女性の声だったから、私はその声をしたほうに振り返る。始めは、看護婦さんだと思った。
 でも、その人が看護婦さんでないことはすぐに分かった。
「目、見えないの?」
 同情や慰みのこもっていない声だった。素直な声。
 いつか、医学が進歩すれば見えるようになるから。
 ずっと病室で両親や先生のそんな言葉を聞いていた私が、ずっと聞いていない声だった。
 私が頷くと、その人は私のほうに歩み寄ってきて、私の頭をそっと撫でてくれた。
「先生?」
 私が問い掛けると、彼女は答える。
「うーん、先生といえば先生かな。お医者さん、じゃなくて学校の、なんだけどね。しかも新米」
 笑っている。そんな気がした。
 光を失ってから、初めて私に笑いかけてくれたのがその人だった。

   ■□■□■□■□■□■□
422素足(前編)15:2001/01/04(木) 16:50
 パーティー、という言葉は少し大げさだったのかもしれない。しかし、簡単な電飾とちょっとした大きさのツリーを教卓の上に飾った教室は、その3人にとっては充分な場所だった。
 いくつかの机を集めてテーブルを作り、そこにクロスを広げる。真っ白なクロスの上には茜お手製の料理やケーキが並び、みさきが用意してきた赤いキャンドルが3本、蛍光灯の消えた教室でその料理を照らしていた。
「こんなふうにクリスマスを過ごすことなんて初めてだから、なんだかどきどきするよ」
 キャンドルの炎が揺らめいて、呟いたみさきの影を壁に映し出している。もちろん茜や浩平のシルエットも、教室の壁で揺れていた。
「寒くないか? 二人とも」
「平気です」
「うん。中庭や屋上に比べたらぜんぜんなんともないよ」
「そうだな」
 自分の問いかけに答えた二人の返事を聞いて、浩平が笑う。
「じゃあ、メリークリスマス」
「メリークリスマス」
 教室に三人の声が響くと、ささやかな宴は始まった。茜の料理はもちろん、みさきの話す3年担任の先生の話や浩平が隠し持ってきたシャンパンもその場を存分に盛り上げる。よどみなく進む教室の時計の針が、いつのまにか夜の9時を回った頃になって、あれだけ用意されていた料理もほとんど綺麗になくなっていた。
「…そろそろお開きの時間みたいだな」
 浩平が教室の時計を見て呟く。
「茜、悪いが先輩を送っていってくれないか? 俺は後片付けをしていくから。もうこんな時間だしな」
「でも、3人で片付けたほうが…」
「そうだよ、浩平君。それに、こんなか弱い女の子だけで夜道を歩かせるつもり?」
 茜の言葉を受けて、みさきがちょっと悪戯っぽく笑うように問い掛ける。どうやらこの中で一番アルコールに弱かったらしいみさきは、その頬を薄い桜色で染めていて、瞳も少しとろんとしていた。
「…たしかに、酔った先輩を茜一人に任せるのは心配だな」
423素足(前編)16:2001/01/04(木) 16:51
「あ、私酔ってないからね」
「全ての酔っ払いは自分が酔っていないと言うもんなんだぞ」
 浩平はちょっと笑いながら、教室の蛍光灯をつけた。いきなり照らし出すその明かりを受けて眩しそうに目を細めた茜は、それから無駄のない動きで机の上の紙皿などを片付ける。
「あ、私もなにか手伝うよ」
「大丈夫です。私、後片付け好きですから」
 みさきの申し出に、茜は優しい声で返した。当然、茜の言葉に悪気はこもっていない。ただ、なにか自分も手伝いたかったみさきとしては、何も出来ないでいる自分が少しはがゆかった。
「先輩」
「なに?」
 そんなみさきに、ツリーと電飾を片付けて戻ってきた浩平が声をかける。
「息、貸してくれ。キャンドルの炎を消してほしいんだ」
「うんっ」
 浩平がまだ炎を保っているキャンドルをもって、それをみさきの唇の前にもってきた。わずかな熱で分かるのか、みさきは唇の先にあるそれに向かって息を吹きかける。一本一本、キャンドルから炎から消えていく。
 3本のキャンドルの炎が消えたとき、茜の後片付けも終わっていた。
「ちょうど人数分あるし…これは今日の記念だ」
 浩平は持っていた赤いキャンドルを、茜と、そしてみさきに手渡す。
「また来年も、このキャンドルを集めて火を灯せるといいな」
「はい」
「そうだね」
 浩平の言葉に、受け取ったキャンドルを大切に持った二人の少女はしっかりと頷いた。
 真っ暗な廊下を歩き、開けておいた昇降口を抜け、今学期最後の教室を後にする。みさきの家は目と鼻の先なので、3人は当然のように、まずみさきの家に向かった。
「今日は本当に楽しかったよ。次に会えるのは新学期だけど、それまで元気でね」
424素足(前編)17:2001/01/04(木) 16:51
「はい。よいお年を」
「先輩も、お餅の食べすぎには注意するんだぞ」
 浩平の言葉に、小さな笑いが広がる。それから玄関先で浩平と茜の二人と別れたみさきは、夜の道に足音を響かせて帰っていく、そんな二人の姿を映らない瞳でじっと見つめていた。
 その足音が、やがて聞こえなくなるまで、ずっと。

   ■□■□■□■□■□■□

 永遠は、いま、ここにある。
 望んだのは誰でもない。自分自身。その世界には、永遠の世界には、あのころの自分が望んだものがある。
 あの時、確かに強く望んだ。
 でも、今はこの世界が大切なんだ。
 側にいたいと思う人がいる。過ごしていたい季節がある。
 灯したい炎があるんだ。
 永遠の盟約が動き出す。
 その気配を感じる。
 自分の存在が消えていく。
 忘れられていく自分。その存在。自分の存在。
 この世界から、消えていく。
 絆。
 失いたくなかった人がいる世界。
 そして、失いたくない人がいる世界。
 だから。
425名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:52
まわしますー
426名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:52
さらにー
427名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:53
もいっこですー
428名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:53
まだまだー
429名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:53
それそれー
430名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:54
ふふふーん♪
431名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:54
まだまわしますー
432名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:54
もいっちょですー
433名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:55
さいごですー
434名無しさん@だよ:2001/01/04(木) 16:59
>>408-424
ONEのオリジナルSS「素足(仮題)」の前編になります。
みさき先輩と茜って実は個人的にからませてみたいキャラだったので、
もしも出会っていたら、というふうに仮定して話を書いてみました。
ちょっと久しぶりなもんで文章粗いかもしれません。リハビリリハビリ。
ちなみに一部設定(茜の幼馴染、その先生)をCDドラマより拝借しております。
聞いてない人には分かりずらいかも知れませんので先に謝っておきます。
好き嫌いのある文章かもしれません。場面転換も(あえて)多いので。
18禁ではありませんので、えち嫌いな人でも大丈夫かもしれません。

後編は未定になってます。続き書きやがれ我慢できんぞゴルァ(゚д゚) って人は
読まないほうがよいかも知れません(汗
出来るだけ頑張るつもりではおりますが…。
435->:2001/01/04(木) 17:01
初めて投稿されている所を見ましたよ。
結構続きが楽しみなのです。
436名無しさんだよもん:2001/01/05(金) 23:09
やたー久しぶりに新しいのでてるぅ。
よかったこのスレッド死んでないよ。
>>435
少し「、」が多いところが気になりました。
あぁ読むばかりなのに文句いってるし、ゴメンナサイ。
でも続き楽しみにしています。
437名無しさん@だよ:2001/01/06(土) 00:24
>435さん
ずっとシチュ板で書いてました。小説自体はもう10年選手になりますが(苦笑
さいわいというか、それでご飯を食べれるようにはなりましたが、修行がまだまだ
足りません。
>436さん
確かに読み返すと、若干多いですね。自身の普段の作風ではそんなことはないのですが、
職場で書いていたせいか、仕事の作風が多少まじったのかもしれません。
もちろん、意識的に書いていた部分もあるにはあるのですが。

感想をもらえて正直ほっとしました。またしばらくはシチュスレでぼちぼち
やるとは思いますので、後編は気長にお待ちくださると幸いです。
絶対に書く、という保証も出来ないものですから・・・・申し訳ないです。
438ミッシング・ピース:2001/01/06(土) 02:17
(先輩…ごめんな…約束守れなくて)
 不意に私の耳元で浩平君の声が聞こえた気がした。
 でもそんなはず、ない。
 浩平君はベンチで、私がアイスを買って戻るのを待ってるんだもの。
(…けど、オレは帰ってくる…絶対に帰ってくるから)
 再び聞こえる、声。私は振り返って訊ねる。
「浩平君? そばにいるの?」
 返事はない。私は思わず苦笑する。
 振り返ったところで、私に確認する術はないのに。
(さようならな、先輩…また会える日…まで…)
 最後は消え入りそうに小さな声…私の背中を冷や汗が流れる。
 こんなのただの幻聴だよ…。そうだよね、浩平君?

「はいよ、お嬢さんお待たせっ」
 その声で私ははっと我にかえる。
「あ、はい…えと、おいくらですか」
 私は支払いをすませ、できる限り急いでベンチへと向かう。
439ミッシング・ピース:2001/01/06(土) 02:17
「お待たせ、浩平君」
 …………。
「あ…えと。どっちがバニラなのかな…? あはは、分からないよ」
「…はい、浩平君が選んでね」
 …………。
「…どうしたの、浩平君?」
「早く食べないと、アイスクリーム溶けちゃうよ?」
 …………。
「…どうしたの…?」
「…どうして…何も話してくれないの…」
 …………。
「浩平君…」
「冗談…だよね…?」

 恐る恐る浩平君のいるはずの場所に手を伸ばす。
 だけど、私の手は空を切るだけだった。
 …分かってた。
 さっきまで確かにあった浩平君の気配が今はなくなっているから。
 でもそんなこと…認めたくなんかない。
「私…ふられちゃったのかな」
 口に出して言ってしまうと、言葉は重い現実として私自身にのしかかる。
 その現実のあまりの受け入れがたさに、私の体から力が抜けて行く。
 すでに溶け始めていたアイスがべしゃっという湿った音を立てて地面に落ちる。
「う…っく…」
 こうなることが恐かったから、今までずっと我慢してたのに。
 浩平君を信じていた私にこの仕打ちは、残酷…だよ。
 その場に座り込んでしまった私は、目の前のベンチにすがりつく。
「…あ」
 そこにはかすかな温もりが残っていた。浩平君が確かにそこにいたという証。
 私は確かめるようにその場所を手のひらで触る。
 すると、さっき聞こえたのと同じ言葉が聞こえてきた。
440ミッシング・ピース:2001/01/06(土) 02:20
(先輩…ごめんな…約束守れなくて)
(…けど、オレは帰ってくる…絶対に帰ってくるから)
(さようならな、先輩…また会える日まで…)

 手を触れている間、同じ言葉が繰り返される。
 何度も、何度も。壊れたテープレコーダーのように。

 私は涙を拭いてベンチに座り直し、浩平君の最後の約束を繰り返し聴く。
 浩平君の思い、よっぽど強かったんだね。
 こんな風にこの場所に残ってしまうほど、強かったんだね…。
 よかった。私は、ふられたんじゃ、ないんだ。
 なにがなんだか分からなかったけれど、それだけが理解できれば充分だった。
「…待ってるよ、浩平君」
 私は空に向かって、そう呟いた。
 
 
『ミッシング・ピース』
 
 
「じゃあみさき、お母さん出かけてくるから」
「うん、いってらっしゃい」
 私は部屋をのぞいて声をかけてきた母に、にこやかに返事をする。
「新聞の集金が来るかもしれないからよろしくね」
「うん、お金はいつもの引き出しの中だね」
「お昼ごはんはテーブルにあるから、レンジで暖めるのよ。一人のときはガスは使っちゃ
ダメよ」
 私は少し頬を膨らませる。
「分かってるよ〜、ほら、早く行かないと、叔母さん待ってるよ」
「はいはい、じゃあね」
 そんな風に母を送り出し、私は静かになった部屋でコタツに入ると、再びラジカセに向
かう。
441ミッシング・ピース:2001/01/06(土) 02:21
 高校を卒業した私は、図書室の先生の計らいで、点字図書を音読してカセットテープに
吹きこむという仕事をしていた。仕事といってもほとんどボランティアのようなものだけ
ど。今は小さな子供のための童話を吹きこんでいる。

 キーンコーンカーン…
「あ、もうお昼だね…」
 私はカセットテープを止めて、昼食を暖めるために台所へ向かう。
 家の前が高校だから、平日は学校のチャイムが時計代わり。
 静かな授業中とは違い、賑やかなざわめきがこの家にまで聞こえる。
 高校。懐かしい思い出。大切な人との、大切な思い出…。
「まだ、なのかな…」
 もうすぐあれから1年になるよ…浩平君…。

 部屋に戻った私は、さっきチャイムの音が入ってしまったのでテープを少し戻す。
「…自分の声って、何度聞いてもヘンな感じだよ…」
 きゅるきゅるとテープを戻して、切りのいいところから再び点字を追って読み始める。
 と。
 ピンポーン
「○○新聞のものですけどー。集金にうかがいましたー」
「は、はーい!」
 わたしは慌てて部屋を出て、棚の引き出しから財布を取り出し、玄関へ行く。
「はい、いつもご苦労様です」
「ハイ、毎度どうもー」
 新聞やさんが立ち去り、ドアを閉めようとした私の耳にその声が飛び込んできた。

「先輩!!」

 一瞬頭の中が真っ白になり、次の瞬間、私は家の前に飛び出していた。
442ミッシング・ピース:2001/01/06(土) 02:23
「こ、浩平君!? 戻ってきたの!?」
 返ってきたのは…沈黙。そして。
「…なんだ、この女」
「なんだよ、いきなり…それより先輩、さっきの話なんですけど…」
 話しながら遠ざかって行く声。
「あ…はは…私のことじゃ、なかったんだ…ね…」
 私はがっかりして、家に戻る。期待してしまったぶん、落胆は大きかった。
「浩平君…浩平君に会いたいよ…」
 私はベッドに倒れこんで少し泣いた。
 泣きながら…私の手は自分の下着の中をまさぐっていた。

 私は浩平君と愛し合うまで、それが具体的にどういうことをするものなのか、はっきり
分かってなかった。
 保健体育で性のことは習ったけど、私の性知識なんてそれくらいのもの。
 学校にある私の読める本にだって、男女のそういう行為をほのめかすような表現はあっ
ても、詳しいことは何も書いてなかったし。
 だから…私はあの時、不安より驚きの方が大きかったんだ。

 自分の身体に、こんな部分があったことを、私は知らなかった。
 乳首がいじられると固く尖ることも、それに触れると痺れるような快感が走ることも。
 普段はさやに包まれた豆のような器官は、私が気持ち良さを感じると大きくなって、
 私にいやらしい声をあげさせる魔法のボタンみたい。
 そして、浩平君のものを受け入れた、私の膣…。いったいどこからこの水は溢れてくる
のだろう?
「ああっ、浩平君、浩平君…っ!」
 私の手はあの時の浩平君の手になって、私の感じる部分を執拗に攻める。
「あんっ、だ…め…そこ…はあんっ…!」
 円を描くように魔法のボタンを触っていると、頭の中に靄がかかったようになる。
「あ、いやっ…来るっ…!」
 大きな快感が来そうになって、私は思わず手を離して、大きく息をつく。
443ミッシング・ピース:2001/01/06(土) 02:24
 まだダメ。だって、まだ最後までしてないもの。
 私は下着とスカートを脱ぐと、びしょ濡れになったあそこをティッシュで拭きとる。
 1枚ではとても足りなくて、2枚、3枚と使って丁寧に拭く。
 拭きながらも紙の感触にまた感じてしまって、ビクビクと腰が震えてしまう。
 私は枕をベッドの中央において、それに覆い被さるように抱きつく。
 それから枕の上に指を2本立てると、腰を落として…それを膣に沈めていく…。
「んくっ…ん、はあっ…浩平君っ…」
 あの時、浩平君がそうしたように、ゆっくりと指を出し入れする。
「はあっ、はあっ、浩平君っ、浩平君…っ!」
 浩平君の代りの枕にしがみつきながら、いつのまにか私は指の方じゃなくて、腰の方を
動かしていた。
「ああん、ああん…そこ、気持ちいいよ…っ」
 ぴちゃ、ぴちゃ、と派手な水音が立って、私は恥ずかしくて枕に顔をうずめる。
「んんっ…あっ、あっ、浩平君っ…なんか、来そう…だ…よ…」
 思わず枕に爪を立てながら、私は激しく腰を振る。
「あっ…あああっ! いやっ…来ちゃうよっ…浩平君っ! ふああっ!!」
 頭の中が白い光でいっぱいになって、びくんびくんと身体が痙攣する。
 あそこがきゅんと指を締め付ける。
「…はあっ、はあっ…はあ…ふう…」
 私はそっと指を抜いて、息を整えながら、目の前の枕に唇をつける。
「浩平君…大好きだよ…」

 私は溜息をひとつついて、気だるく寝返りを打つ。
 冬の冷たい空気が汗ばんだ身体に心地いい。
 しばらくそうしていて、落ち着いてくると、私は少し悲しくなる。
 行為に没頭している間は、それで少しは浩平君の不在を埋められるような気がするけど、
冷静になると以前より深い喪失感が私を襲う。
 …何も浩平君の代りになんか、ならない。この空白は決して埋められることはない。
 浩平君が帰ってくるまで、私は何度でもこの思いを味わうんだろう。
444ミッシング・ピース:2001/01/06(土) 02:25
 突然、カチャン!という音がして、私は飛び上がる。
 しばらく何の音だろうと考えて、
「…あっ!」
 慌ててラジカセに手を伸ばす。
 案の定、テープが最後まで行って録音ボタンが上がっていた。
「録音してたの、すっかり忘れてたよ…」
 私は恐る恐るテープを少し巻き戻して、再生ボタンを押す。
 自慰にふける私の発情した声が大音量で流れ出し、私は慌ててストップボタンを押す。
「うわぁ…ヘンなもの録音しちゃったよ…」
 とてもこのテープに童話の続きを吹き込む気にはなれなかった。
 かといって、このまま捨てて、万が一誰かに聞かれでもしたら…?
「わーっ、わーっ!」
 じたばた、じたばた。
 考えただけで私は恥ずかしさのあまりベッドでのた打ち回った。
 しょうがない。これには何か音楽のCDでも録音してしまおうか。
 そうするのが、多分、一番いいんだろう。…でも。
「……」
 私は少し考えて、そのテープを引き出しにしまった。
 
 
 そして。
 よく晴れた小春日和のその日。私たちが出会ったその場所で。

「明日はいい天気だな」
「…え?」

 私たちは…再会した。
445mio_2ch:2001/01/06(土) 02:29
久々にSSらしきもの書きました。
>>438-444
『ミッシング・ピース』前編です。もう少し続きます。明日続き書きこみます。
今日のところは廻し上げなしで。(めんどいし)
446Alfo:2001/01/06(土) 05:01
そろそろほとぼりも冷めたと思うので、あーゆーの書き込んでみます。
というわけで、しばしの間発言等は控えてくださいな。
447:2001/01/06(土) 05:02

 瑠璃子さんは帰ってこなかった。
448:2001/01/06(土) 05:02

 風温む三月。
 緩み始めた光の中に、春を思わせる柔らかい風が吹いていた。
 屋上のフェンスにそっと寄りかかりながら、僕は地上を見下ろしていた。
 桜の木は今にも咲き出そうという意識を内に潜めながら、まだひっそりと蕾を膨らませ、長く眠りについていた虫たちも目覚めの瞬間を迎えようとする、そんな季節。
 校舎の下から吹き上げる風は僕の髪をすぅっと梳き通し、その優しい手触りはいつか感じた彼女の感触を思い出させた。
 僕は悲しかったが、無理をして薄い笑みを浮かべる。まるでそう感じた自分を嘲るように。
 今は、全てが穏やかだった。

 柔らかな鉄のフェンスに背中を預ける。
 屋上の固い鉄の扉が、きぃ、と錆の音を立てて開いた。
 僕は振り返る。
 女の子が一人、そこにいた。
 瑞穂ちゃんでも、沙織ちゃんでもない。
 見た感じ下級生の彼女は、扉から僕の元へ駆け寄ってきた。
「あの…、長瀬先輩、ですよね…」
 彼女は、どうやら僕のことを知っているようだ。語尾に疑問符が無い。
「僕が長瀬だけど、どうしたの?」
「…えっと、その…」
 その女の子はしばらくどもっていたが、ある瞬間に決意したように顔を上げた。
「わたし…、一年の山崎って言います。えっと…、前に、廊下でわたしが転んだ時に助けてもらったときから…その…」
「……」
 僕は彼女の話を黙って聞きつづけた。
449:2001/01/06(土) 05:03
「…明日はもう卒業式だから、勇気を振り絞って言います」
「……」
「わたし、あの時からずっと…」
「うん…」
「…先輩のことが、好きでした!」
 空の高みを吹く風が、渦を巻いて彼女の周りを吹き抜け、その長い髪をゆっくりと揺らした。
 僕は、ただ何も返事もできないまま、彼女のうなだれたままの頭を見ていた。
「……」
「…返事を、聞かせてください」
「……」
「お願いします」
 僕は、重い口をゆっくりと動かし、返答の言葉を紡ぐ。
「…ごめん」
「!」
 彼女は跳ね上がるように顔を上げた。その目じりには前からあったのか、それとも今できたのか、一粒の涙が力なくぶらさがっていた。
「僕には、ずっと前から心に決めた人が…」
 その言葉が最後まで出る前に、彼女は本格的に泣き出していた。
「あ…」
「…ひっく、うえっ、ううっ…」
 涙は彼女の頬を濡らし、屋上の固い床に落ちて、小さな染みを作った。
「その…えーと…」
「う…、ううっ…」
 ぽふっ。
「うわっ!」
 不意に、彼女の見た目以上に軽い身体が僕に寄りかかってきた。
 彼女は僕の胸に顔を押し付け、声を殺すように泣いていた。
「あの…、山崎さん…」
「ご、ごめんなさい…、その…、しばらくの間だけでも…」
 彼女はそう言って、さらに強く顔を押し付けた。
 僕は、彼女を抱きしめることもできず、突き放すこともできず、ただ、身を任せていた。
450:2001/01/06(土) 05:03
 空の遠くで、チャイムが時を告げている。
 屋上に座り、ぼうっと暮れ始めた空を見上げ、その響きを聞いていた。
 彼女は僕の隣に座っていた。
 僕と同じように、空を見上げながら。
 涙の跡は、もう無い。
 僕はチャイムの残響音が消えていくのを聞き終えると、ゆっくりと立ち上がった。
「山崎さん、そろそろ帰らないと」
「……」
「いつまでもここにいるわけに行かないんだし…」
「…先輩」
「ん?」
「わたしは、もう少しここにいます」
「でも…」
「だいじょうぶです。時間が来たら、帰りますから」
「そうか…。僕は用事があるからそろそろ、行くよ」
「はい…。それじゃ先輩、さようなら」
 彼女は、最高の笑顔を浮かべてそう言った。
「…うん…」
 僕は彼女に背を向けると、屋上の出口に向かって歩き始めた。
 僕の足音だけが、何も無い空に吸い込まれ、響く。
「ながせせんぱいっ!」
 ドアのノブに手をかける直前、彼女が叫んだ。
「あしたっ、卒業式、でますからっ!」
「……」
「だから…、だからぁ…」
 僕は、また泣き出しそうになった彼女に一つ頷き返すと、それ以上の返事をしないで、ドアの向こうへと歩み去った。
451:2001/01/06(土) 05:04

「祐くん、用って?」
「あ、沙織ちゃん…」
「バレー部の卒業記念パーティー抜け出してくるの、結構大変だったんだからね」
「うん…」
「隣、いいかな?」
「え? い、いいけど」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…祐くん」
「……」
「大切な用なの?」
「うん」
「どうして?」
「どうしてって…明日…卒業だし」
「…つまり、卒業しちゃう前に言うことが大事なんだよね、そのこと」
「そう、なんだ」
「祐くん、言って」
「……」
「私なら、別に大丈夫だからさ」
「……」
「…ね」
「…沙織ちゃん」
「……」
「今まで、どうもありがとう」
「……」
「それと、…さようなら」
「…そっか」
「……」
「それじゃ、私もさようなら。あ、といっても明日会場で会えるけどね」
「そうだね…」
「……」
「……」
「…さ〜って、私はパーティーに戻るとするかっ!」
「……」
「じゃあ、また明日会おうね、祐くん」
「うん、また明日」
 ―――。
 ―――。
「また明日、もう一度会おうね〜っ!」
452:2001/01/06(土) 05:04

 僕は、体育館の前にいた。
 中では、明日の卒業式の準備が生徒会主導のもとに行われている。
 その中に一人、眼鏡をかけた小柄な女の子が、必死になって陣頭指揮をしているのが見える。
 瑞穂ちゃんだ。
 彼女は、椅子を置く位置を後輩に教えたり、自らも両手いっぱいに椅子を抱えたりして、額に汗しながら一生懸命働いている。
 明日の主役のはずの彼女がこうやって卒業式の準備をしているのは、別に義務だからとかそういうことではなく、彼女自身が志望したことだからなんだそうだ。
 彼女はその理由を、ある友達のためにも人一倍頑張りたいから、と言っていたことがある。
 たった一人の友達のために、そこまで頑張れる彼女を、僕は正直うらやましいと思った。
 本来なら、彼女にもお別れを告げるべきではあったのだが、一生懸命な彼女を邪魔するのも悪いと思い、心の中でさよならを言うだけにして、ぼくは通い慣れた通学路を帰った。
453:2001/01/06(土) 05:05

 満月が綺麗だった。
454:2001/01/06(土) 05:05

 人生の大半は退屈なルーチンワークだ。
 人間は、そこから脱出できるとき、喜びを感じるようにできている。と同時に、愛着を持った対象への積み重なった思いから悲しみを感じるようにもできている。
 だから、みんな、卒業式で笑ったり泣いたりするんだ。
 僕はといえば、泣いたりせず、かといって笑うわけでもなく、ただひっそりと時の来るのを待っていた。
 ルーチンワークの残骸はその脱出式であるはずの卒業式の中にもたくさん見受けられる。卒業証書授与式なんて、その代表ではないだろうか。
 先生はこう言った。一人一人に手渡すからこそ、意味があるんだ、と。
 それは違う、と思う。いちいち一人一人に手渡して、それで個人の意味を持たせようとしてるだけなんだ。
 本当は皆わかっている。
 個性なんて他人の海の中で希薄になり、そこに溶け込み、いつしかまわりとの区別がつかなくなることを。
 いくら頑張っても、永遠に純粋で、単一でありつづけるものなんて、決してない。
 さっき陸上で表彰されたあいつも、いつかは走れなくなる日が来る。そして後はゆっくりと、無個性なダルマに変化していくだけ。
 さっき一流の大学に合格できたと自慢していたあいつも、いつかはそんなものがカスほどの役に立たない自分となる。そして後はゆっくりと、無気力な飾りへと変化していくだけ。
 そして、何のとりえも無い大多数は、言うまでもない。
 だから、僕は…。
 僕は…。
 ……。
 …。
455:2001/01/06(土) 05:06
 閉めきられた体育館の中に、朗々たる誰かの説教じみた演説が響く。
 誰も聞いていないのに、そいつは、得意になって唾の雫を振り飛ばしながら熱演していた。
 その雫に無表情で何の意味も無い大多数の人間が歪んで映る。
 滑稽だ。
 僕は含み笑いを隠せなかった。
「あは、あはははは、あはははははははははははははは…」
 少しずつ、ゆっくりと、僕を中心としてざわめきの輪が広がる。
 それが教師の元に達するまで、そう時間はかからなかった。
 当然のように、教師が一人、輪の中心にいる僕に駆け寄ってくる。
 でも、止められない。
 自分の止め方なんて知らないんだよね。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
456:2001/01/06(土) 05:06

「続きまして…本校代表の…長瀬祐介様より…弔辞をいただきます…」
 おつかれさま。
 僕が彼を強制労働から解放してやると、まさに操り人形の糸が切れたように倒れこんだ。
 その彼の身体を踏み分けて、演壇へ向かう。
 これまでの学校生活で結局一度も上る事も無かった階段を、一歩一歩踏みしめながら上がった。
 そして、ある意味憧れでもあったマイクスタンドの前に立つ。
「あ、あ…、本日も曇天なり…」
 いっちょ前にマイクテストなどをしてみせる。
 僕なりのジョークのつもりだ。
 反応は上々。
 みんな拍手喝采で迎えてくれた。
 とは言っても、僕がやらせてるんだけどね。あはは。
「…では、皆さん、聞いてください」
 僕は演壇上のマイクに、ゆっくりと話し掛けた。
 一斉にみんなが静まる。僕の電波の効きは最高のようだ。
 僕は嬉しくなった。
「…今日は卒業式です」
 目の前のマイクを通して、僕の声が無線の電波上に流れ、スピーカーで再生される。
 ノイズ交じりのいい音だ。
「いうまでもなく、あなたたち生徒の皆さんの…、そして…、僕の卒業式でもあります」
 僕の卒業式。
 いったい何度、夢に見ただろう。
「あなたたちは、一体何を卒業するというのですか? 学校? 受験戦争? それとも教師?」
 内容自体は短いスピーチながら、次第に熱が入ってくる。
 前に感じたように、だんだんと視界から色彩が消えていき、眩しい日の光も何もかもすべて灰色になった。
457:2001/01/06(土) 05:07
「僕は違います…」
 握り締めた右の掌に、じんわりと汗が滲む。
「僕は今日この場で、このくだらないルーチンワークの世界から、欠けた歯車の世界から、壊れかけてギシギシいってる機械の世界から卒業する事にしました」
 灰色の世界の中で、参列している人間はみんな同じに見えた。
 似たような顔の、似たような背格好の、似たような表情の、似たような生物の、人間達に。
「でも、僕一人がここから卒業するなんて、もったいない。皆さんも、僕と一緒に卒業しましょう」
 そして、僕はもう一度電波を送った。
 脳細胞レベルで人間を破壊する、とっておきの電波を。
 誰も彼もが苦悶の表情を浮かべると、次の瞬間には赤子のように無邪気で狂気に満ちた瞳をヨロコビに痙攣しながら見開いた。
「今から…、卒業記念のパーティーです…。皆さんも、楽しんでいってください…」
 僕の一言で、宴が始まった。
 人間自身が最初から持っている、原始的な快楽を貪欲に求める宴が。
 しかし僕はその輪には交わらず、一人、体育館を後にした。
458:2001/01/06(土) 05:07

 空を見上げた
 次第に世界から灰色さえ失われていく
 僕の魂は緩やかに超越し、肉体すら置き去りにして、何かを求めるように、消えていく灰色の裏側を見つめた

 その向こうに見えているのは
 かぎりなくやすらかなきょうきのせかいだった

end
459現在回転中:2001/01/06(土) 05:08
回します。
460現在回転中:2001/01/06(土) 05:08
回してます。
461現在回転中:2001/01/06(土) 05:08
まわしてまーす。
462現在回転中:2001/01/06(土) 05:09
そう言えば、回しネタ…。
463現在回転中:2001/01/06(土) 05:09
結局考えてないな…。
464現在回転中:2001/01/06(土) 05:10
…今はただ、回そう。
465現在回転中:2001/01/06(土) 05:10
って事で、やっぱり回します。
466現在回転中:2001/01/06(土) 05:11
まわしてまーす。
467現在回転中:2001/01/06(土) 05:11
輪姦し…って、字が違うじゃんか!
468Alfo:2001/01/06(土) 05:14
>>447-458
「春」
 おもいっきり季節はずれですが、「卒業」をテーマとした雫のダークなSSです。
 少し実験的な手法(ってほどでもないか)を採用してみました。その辺り、感想いただけると嬉しいです。
 あと、オリキャラも出てます。念のため。気になるほどストーリーに深く食い込んでるわけではありませんが。
469ミッシング・ピース(後):2001/01/06(土) 23:00
「ただいま、先輩」
「お帰りなさい…」

 彼の変わらない暖かい腕に包まれて。

「浩平君、卒業おめでとう」
「…ありがとう、みさき先輩」

 止まっていた時間がようやく動き出す。

「あのね…ちょっと待っててくれるかな」
「うん?」
「プレゼントがあるんだよ」
 私は浩平君を屋上に残して、家へ走る。

「お待たせ、浩平君」
 息を切らせて、屋上の扉を開ける。
「おう、早かったな」
 本当は少し不安だった。また彼がいなくなってたらどうしよう、って。
 だけど、まぼろしでも錯覚でもなく、その人はその場所にいて、私に応えてくれる。
 私は雪ちゃんに手伝ってもらってラッピングしておいた包みを差し出す。
「でかい箱だな…なんか悪いな」
「ううん、全然…たいしたものじゃ、ないんだよ…」
 バリバリと包装を破く音。
「…カセットテープ? しかも何本あるんだ…」
「絶対、ぜーったい、一人の時に、できればヘッドホンで聴いてくれると嬉しいかな…」
「ふーん…声のラブレターってとこかな?」
 からかうような調子の浩平君の声。
「まあ、そんなようなものだよ」
 私も悪戯っぽく笑って答える。
470ミッシング・ピース(後):2001/01/06(土) 23:01
「浩平君、今日の夕方…またここで、会える?」
「ああ…じゃあ、久しぶりに先輩と夕焼けでも見るか。それまでにこれ聴いとくよ」
 浩平君は、ガシャガシャと音を立てて箱をゆする。
 私はにっこり笑いながら言う。
「じゃあまた、夕方にここでね」
「ああ。またな」
 そうして私たちはお互い一旦家に帰った。

「お母さん、ちょっと学校に行ってくるよ」
 台所にいる母に声をかける。
「今から? もうすぐ夕食だから早く帰ってきなさいよ」
「うん、なるべく早く帰るよ」
「…あら? そんなもの持って行くの?」
 私の腕にはベッドから引き剥がしてきた毛布が抱えられていた。
「少し早いお花見をするんだよ。後輩とね」

 今日は風もあんまりなく、屋上は穏やかだった。
 暮れて行く町を見下ろしながら、春の匂いのする空気を吸いこむ。
 浩平君の第一声はなんだろう?
 私はもれてくる笑みを押さえることができない。
 びっくりしたかな。
 呆れられた…かな。
 嫌われちゃったり…してないよね。
「来てくれる…よね?」
 私は誰にでもなく、そう呟く。
471ミッシング・ピース(後):2001/01/06(土) 23:02
 ガチャ…扉の開く音。私は振りかえらずに訊ねる。
「今日の夕焼けは、何点くらい?」
 …返事はない。不安にかられた私は、震える声で確かめる。
「浩平君…だよね?」
 ばふっ。
 背中に僅かな重みと暖かさ。力強い腕が私を抱き締める。
「まったく…なんてもの、聴かせるんだよ…先輩」
 耳元で、溜息混じりに低く囁く浩平君の声。
 息が詰まりそうなのは、きつく抱き締められているせいだけじゃない。
「…驚いた?」
「驚いた。つーか、あれな…」
「なぁに?」
「…思わず抜いちまったよ」
「…抜く、って何を?」
「……」
「……?」
「いや…もういい」
 浩平君の腕から僅かに力が抜ける。なんだか少し笑っているみたい。
「ごめんね…」
 小さく囁くと浩平君の唇が私の耳に優しく触れる。
「オレの方こそ、ごめん。約束守れなくて…先輩を寂しがらせて」
「いいんだよ…」
 だって、こうして帰ってきてくれたから。
472ミッシング・ピース(後):2001/01/06(土) 23:02
 結局、私はあのテープを捨てられなかった。
 そこにあるのは、確かな私の想い。
 寂しくて、辛くて、それでも彼を待ちつづけていた、そんな私の想い。
 私はあれから必ずそれを録音することにした。
 君はこんなにも、私のことを待たせたんだよ、って。
 私はこんなにも、君のことを求めてたんだよ、って。
 そう知らせたくて、浩平君に、そう知って欲しくて…。
 溜まった想い。カセットテープ11本分の…私の想い。
 ようやく伝えることができた。恥ずかしいけど…嬉しいよ。

「それはそうと、先輩。何持ってるんだ?」
「毛布だよ」
「いや、それは見れば分かるんだが」
「だって、夜の教室は寒いからね」
 一瞬の沈黙。
「あ、ほら、それに…前のときも汚れちゃうから制服脱げなかったし」
 さらに沈黙。
「…浩平君?」
 くっくっくっ…と低い笑い声。
「わ、笑うなんて、ひどいよ〜」
「ご、ごめん…いや、真面目な顔してとんでもないこと言い出すなと思って」
 まだ笑ってる…。私は頬を膨らませる。
「わ、悪い…。それはやっぱり、あの教室か?」
「もういいよ…私、帰る」
「ごめんってば! ほら。行こう」
 浩平君の手が私の手を握る。
 二人で、教室に向かって歩き出す。
473ミッシング・ピース(後):2001/01/06(土) 23:04
「ところで先輩」
「?」
「これって不法侵入だよな」
 私は頷く。
「犯罪だね」
「だな」
 浩平君はどことなく可笑しそうに相槌を打つ。
「見つかったら、えらいことになりそうだな」
「大丈夫だよ。私は関係者だからね」
 …また笑ってる。私そんなにヘンなこと言ってるのかな。

 その教室の前で、私たちは立ち止まる。
「ここ、だったよな」
「うん…」
 そこは私がここの3年生だった時の教室。
 それから…ちょうど1年前、浩平君と二人だけの卒業式をした教室。
 そっと中に入る。
「もう、暗くなってるのかな」
「ああ。前と同じ、月夜だな」
「そう…」
 私は窓際へ歩く。懐かしい匂い。懐かしい場所。
「綺麗だな」
「うん、きっと今日も綺麗な星空なんだろうね」
 浩平君の手が私の肩にかかる。
「…先輩が、だよ」
 私はなんて答えたらいいのかわからなくて、黙ってうつむく。
 その顎を浩平君の指が持ち上げて、唇が重なった。
474ミッシング・ピース(後):2001/01/06(土) 23:04
「これ、敷けばいいのか?」
「う、うん…」
 私は浩平君に背中を向けて服を脱ぎ始める。
「なあ…寒いんじゃないか? 無理しなくてもいいぞ」
「ううん…平気だよ」
 今度はちゃんと見て欲しいから。私のこと全部。
「ということは、オレも脱いだ方がいいのか」
「そうだよ」
「やっぱり、そうか」
「私だけ裸じゃ、恥ずかしいよ」
 脱いだ服を畳んで机の上に置きながら答える。
「だけど、二人ともすっぽんぽんじゃ、見つかったら誤魔化しようがないぞ」
「どっちにしても、見つかったら誤魔化しようはないよ」
「いや、服を着てたら『筋トレしてました!』とか…」
「…っくしゅん!」
「あ、ごめん!」
 慌てたように浩平君が裸の私を抱き寄せる。
「…あれっ?」
「なんだ?」
 私の肩に当たる、浩平君の肌…。
「浩平君も、ちゃんともう脱いでたんだね」
「ああ。みさき先輩に露出狂の変態女の汚名を着せるわけにはいかないからな」
「露出狂の変態女なんかじゃないよ〜」
 文句を言いながら浩平君の胸に顔を埋める。
 とくん、とくん、という心臓の音。私のも浩平君に伝わっているのかな。
「先輩…」
 浩平君に促されるように、私は毛布の上に横たわる。
475ミッシング・ピース(後):2001/01/06(土) 23:05

「浩平君…」
「なんだ? 先輩」
 私を気遣うような優しい声。優しい手。
 私の心と身体の空白を、浩平君が満たしていく。

「私、やっぱり、浩平君のことが大好きだよ…」

 私たちは、今から、もう一度はじまる。
 やっと、見失っていたかけらを、取り戻すことができたから。

FIN
476まわします〜:2001/01/06(土) 23:10
よいしょ。
477まわします〜:2001/01/06(土) 23:10
こらしょ。
478まわします〜:2001/01/06(土) 23:10
どっこいしょ。
479まわします〜:2001/01/06(土) 23:11
あらさ。
480まわします〜:2001/01/06(土) 23:12
ほいさ。
481まわします〜:2001/01/06(土) 23:12
よいやさ。
482まわします〜:2001/01/06(土) 23:13
えっさっさー。
483まわします〜:2001/01/06(土) 23:14
ほいさっさー。
484mio_2ch:2001/01/06(土) 23:22
みさき先輩自慰SS(^^;)「ミッシング・ピース」
Gシーンはありますがエチシーンはあえて書きませんでした。
のでそんなにエロくないです(たぶん)純愛系(おそらく)

>>438-444 前編
>>469-475 後編

>@だよ さん
よかったです〜。後編どういう話になるか楽しみです。気長に待ってます。

>Alfoさん
あーゆーの、読みました。ほとぼりってなんスか、なんかあったですか。
それはそうと、僕Alfoさんの雫SS、なんか異様に好きなんですけど(笑 
485通りすがりだよもん:2001/01/06(土) 23:32
あと1個回さないといけないんじゃ…?
486Alfo:2001/01/06(土) 23:45
>mio_2chさん
…ごちそうさまでした。
自分、ラヴラヴの表現法に非常に疎いもので、参考になります。

ほとぼりの件に関しては、
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=971692127&st=249&to=249&nofirst=true
この前後を参照して下さいな…。
487某SS書き:2001/01/07(日) 03:31
>>484
みさき先輩の心理描写が何か間違ってません?
正直ちょっと引きました。
488mio_2ch:2001/01/07(日) 14:59
>487
ああ〜すみません〜〜(;´Д`)
僕の妄想の先輩Gシーンに前後をつけてみたらこうなりました…
先輩がエロすぎ、ということならそういういきさつで書いたので…ご容赦を。
そういうことではなくて全体を指しているんなら、僕の脳内みさき先輩像が間違ってるようです。

>Alfoさん そゆことありましたね。了解。
489某SS書き:2001/01/07(日) 15:09
>>488
いえ、あくまで後半部分です。
まあ、話の肝の部分なのでああいう展開にしたいのは解るのですが
ちょっと強引過ぎるような気が…。

私的には偶然浩平があのテープを聞いてしまったっていう展開の方が
より「らしい」のでは?と感じられました。
ドラマ的にもうひと山、作れますし。

まあシチュ的に書いたのであれば、しょうがないとは思いますが。
490mio_2ch:2001/01/07(日) 21:38
>489 あ、ナルホド。展開、そう言われれば確かに強引っすね。
参考になりました。精進します。
491名無しさんだよもん:2001/01/07(日) 23:56
イクよ!岬クン!
492題未定〜その一〜:2001/01/09(火) 22:36
「はぁ・・はぁっ・・・ふっ・・・」
階段を登ることすらままならなくなってきた。
腿は上がらず、体の節々が悲鳴をあげる。
自分の体の不調に終幕を示唆させる。
それでも体に鞭を打ち、階段をまた登り始めた。
やがて階段を登りきり、屋上へと繋がる扉を開ける。

空を見上げる、いつも燦々と輝く太陽は見かけられず、空一面薄暗い雲に
その顔を隠され、圧迫した世界を作るのに手助けをしていた。

中央に立つと深呼吸する。
途中、石で敷き詰められた床に何故か雑草が顔を出していた。
ついでなので踏みつけておいた。執拗に。
なんとか呼吸を整えようとしても鼓動は激しさを納めずにいるので
深呼吸をするのをやめる。息が荒かろうが荒くなかろうが、今のオレには
正直どうでもいいことだった。

周囲に目を配らせる。
「フッ・・・ハハハハハ!!!」
思わず笑いがこみ上げてくる、それもその筈、物陰で男女が情事に励んでいるのだ。
これが笑われずにはいられない、特に今のオレには。
普通ならば男女は居たたまれなくなりこの場を立ち去るのだが
オレの事など眼中に無し。といった様子で事を続ける。
男が先ほどより腰の振りが激しくなったと思うのはオレの気のせいだろうか?
493元・某ゲーム店バイト:2001/01/09(火) 22:52
初めまして。上のSS書いた者です。
本日はここまでです。
大まかな構想はできているので暇を見つけてはシコシコ書き殴って逝きたいです。

>SS書きの皆様
小説はよく見る方ですか?
ブラウザの戻るボタンを押してもかけないので、こちらで、リロードしてください
494名無信者さん:2001/01/09(火) 23:51
>>493
あの…何のSSなんでしょうか?
書き込むにしてもさすがに短か過ぎのような気が…。
495狂気の名無しさんだよもん:2001/01/10(水) 23:37
>>492
このままでは意味不明なので続きお願いします。
496名無しさんだよもん:2001/01/11(木) 01:13
>>493
ONEかな? 一人称「オレ」だし。
小説は…よく読みますが、自分が書くものと読むものの傾向はまったく別物ですな。
497七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:13
放置しっぱなしだった痕長編あぷしまつでつ。
ちなみにこれまでのお話は↓
痕(千鶴さんハッピーエンド後)長編の続き。
@発端
A焦燥の日常
>>184-191
改行ミスあり(;´Д`)
誤字発見…ああ、ドキドキハラハラしてたんだな、漏れ。
おのれ、高野山(スレ違い
Bそれぞれの思い・梓
>>208-210

498それぞれの思い・千鶴:2001/01/11(木) 21:17
 自分達は過去、狩人だった。そう告げたのは伯父だった。愛しい人の父親。父が苦しむその隣の部屋で、この体を流れる血の秘め事を聞かされたのはいつだっただろうか。
 眠れない。こんな事じゃいけない。なのに。最近は理不尽極まりない罪悪感で胸が占められて、息苦しくなってしまう。仕事をしているときも、食事をしているときも。
 耕一さんは私を選んだ。そのことに罪の意識を覚える。それは、私が前世の自分達を知っているから。覚えているから。耕一さんは覚えているのだろうか。それでも私を選
んだのだろうか。
 怖くてたまらない。もしそうではなくて、「今」の彼だけの思いならば。もし想い出してしまえば、酷く苦しむ。楓の事で、酷く苦しむ。どちらをとるのだろう。想い出し
た彼は、私と楓、どちらを愛するのだろう。
 楓は何も言わない。だけど、きっと彼女は高校を卒業すればこの家から出ていくだろう。そうして、きっと戻ることはないだろう。私は、それを知っている。だけど、それ
を止めることなど出来るわけがない。「この家にいて」なんて事は言えるはずもない。私達はその秘め事の全てを知っているから。それ故に決別を選ばなければならない。そ
れがどれほどに残酷な事なのか、知っていても。感情では納得出来るはずもない、理不尽な事。…胸が痛い。
499それぞれの思い・千鶴:2001/01/11(木) 21:19
 梓も酷く苦しんでいる。知っていても何もしてやれない。「貴女の所為じゃない」と言っても私にも同じ血が流れている以上、そして梓の様に同じ血が友人を痛めつけた
事がない以上、そんな無責任なことなど言えるわけがない。誰も傷を負ったまま、癒されることなんてないのだろうか。時間が解決してくれるのだろうか。少なくとも梓は
そうかもしれない。だけど、楓は?あの娘は、時間に捕らわれたままなのに。それでも時間が解決なんてしてれるのだろうか。…答えは、否、だろう。きっと「今」の彼女
を救うものなど無いのだ。もし、耕一さんが全てを想い出し、そして楓を選びなおしたとして、楓は本心からそれを受け入れることは出来るまい。私を一度、耕一さんは選
んでしまった。その事実が消えない限り、彼女は今と違う苦しみを得るだろう。
「…どうして…私たちだけ…こんな」
 何度も呟いた台詞が、のどの奥からまた、溢れた。外では雪が静かに降り積もっている。深々と、それでも儚げに、力強く。
500それぞれの思い・楓:2001/01/11(木) 21:21
 カーテンを開けると窓辺に白い雪が積もっていた。これから本降りになるのだろう、予感していた。吐いた溜息も白い。ガーディガンを羽織り、暖房のスイッチを入れた。ベッドから降りて、スリッパを履いて机に着く。
「もう、どうしようもないの」
 自分を言い聞かせて、スタンドのあかりをつける。暗がりに灯った光とどことなく所帯なさげで、まるで自分の様だと自嘲じみた笑みがこぼれる。
 そうして机に頬をついたものの、する事はない。この家を出るために行こうと思っている大学への成績には充分、事足りていた。あの日以来、忘れ
る為に勉強をずっとしてきた。一人暮らしをする為の家事も梓姉さんから一通り教わっている。決別を告げねばならない。この家から、姉から、妹か
ら、……耕一さんから。そして、自分の前世から。
 そうしなければ、ここから離れなければ、「今」の私が私であることをなくして、悲しみに埋没してしまう。それだけはいやだった。過去の自分故
に今の自分を壊すのは嫌だった。確かに今は苦しい。痛い。前世からの恋が終わってしまった。それは最悪の形では無かった。だけど…苦しいことは
変わらない。祝福しなければならない。前世から愛し続けた人と姉が結ばれたことを。
501それぞれの思い・楓:2001/01/11(木) 21:23
 何も言える筈はなかった。糾弾することも、号泣することも、誰も責めることなどできるはずもない。
全ては終わり、幸福が始まったのだから。それを私が責めることなどどうしてできるだろう?
 それでも。それでも、救われない。それは私だけ。今の私には、何が残っているだろう。これから失わ
なければならないものは多い。これから得るものは…?そこまで考えて頭を振る。
「これから…自分で探さないと…だめ」
 でも、今は何も考えることなどできない。夢も何もかも置いて、追った人はもう他の…自分の姉のもの
になってしまった。彼が前世をまだ想い出してないとしても、想い出していたとしても、それを定めたの
は彼自身。もしも。もしもと思う。彼が、前世を想い出していないのならば。もう一度自分を振り返って
くれるのなら。
「だめ…」
 それでも彼が私を選ばない。そう決断し、それを告げられてしまったら。もう、生きていくことすらした
くはなくなるだろう。私はこれまでずっと前世に縛られ、彼に縛られ続けていた。今もそうだ。それでも、まだ。
502それぞれの思い・楓:2001/01/11(木) 21:25
 まだ彼は、前世を想い出していないのかもしれない。それが自分にとって命の手綱なのだ。もし、想い出していたとしても
それを一生告げないで欲しい。想い出して、それでも千鶴姉さんを取るというのなら、言わないで。必要ない…そんな言葉は。
 …でも、もし。もしも…彼が全てを想い出してなかったとして。今ここで想い出して、私を選んだら。
 考えかけてまた頭を振る。それこそ、酷いことではないか。全て崩れてしまう。私だけの犠牲で済んだことが、蒸し返され
て千鶴姉さんを苦しめ、そして…耕一さんは梓姉さんにも、初音にも責められるだろう。そして、私も。
 理不尽だ。何もかもが。彼と私を繋ぐ前世という糸は、私に苦痛しか与えなかった。今も。これからも。でもそれを誰に訴
え、詰ることが出来るの?出来ははないのだ。未来永劫。この思いを抱えたままで、幸福など訪れる筈もない。 
溜息を吐き、スタンドの灯りを落とす。終わりを呟くように、涙が頬を伝うのを止めることは出来なかった。
503七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:27
今日はここまで。
504七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:28
まわしまつでつにゃー
505七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:29
ぐるぐる
506七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:30
まわしまわし
507七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:31
楓ちゃんまんせー
508七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:32
不幸な美少女萌えー
509七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:33
どこまで回せばいいのかわからなくなったぞゴルァ(゚д゚)
510七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:34
あと1つでいいっぽいにゃー
511七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:35
ラストだよもん
512七連装ビッグマグナム:2001/01/11(木) 21:37
痕(千鶴さんハッピーエンド後)長編の続き。
@発端
A焦燥の日常
>>184-191
改行ミスあり(;´Д`)
誤字発見…ああ、ドキドキハラハラしてたんだな、漏れ。
おのれ、高野山(スレ違い
Bそれぞれの思い・梓
>>208-210
Cそれぞれの思い・千鶴
Dそれぞれの思い・楓
>>498-502
513囚人番号603:2001/01/12(金) 00:26
>>512
こっちに書いていたのかよォ
やっぱり敢えて楓と耕一をくっつけなかったのかと邪推してみたりしてな(www
楓も運命に縛られてるンだな…運命か…
さておき「スタンドの灯りをおとす」の部分でエディフェルが浮かんだので
逝ってくるわヒャハハ!!
514鬼人変人:2001/01/13(土) 06:33
う〜ん、やっぱ千鶴さんハッピーエンド後ってこういう部分が出てくるよなぁ・・・
かと言って楓ちゃんだったら千鶴さんが重責に耐えつづける状況になっちゃうけど・・・
515名無しさんだよもん:2001/01/14(日) 15:15
たまにはage
516名無しさんだよもん:2001/01/15(月) 23:23
>七連装ビッグマグナム
悲しいお話は気分が沈んでしまひます。
でもすごいです。
というわけで新作期待書き込み。
こんどはハッピーエンドだったらいいな。
517名無しさんだよもん:2001/01/16(火) 00:17
  ┏┓┏┳┳━━┓ ┏┓                .∧ ∧ エロ・・・        ∧ ∧
┏┻┻┗┻┻━┓┃  ┃┃ ┏━┓  ┏┓    Σ(@`@`゚д゚)         ┏┓ (@`@`゚Д゚)つ ゴルァ
┗┳┳┛∧ ∧ ┃┣┓ ┃┃ ┗━┛┏┫┣━┓┏━ .U U━┓┏━━┓┃┃∧ ∧
┏┻┻┓(゚Д゚@`@`) つ ┃┃ ┃┣━━━┓┃┏┏┛┗━━━━┛┗━━┛┃┃(@`@`゚Д゚)つ イッテヨシ
┗┳┳┛ .U┏━┛┃┃ .┃┣━━━┛┃┣┛    レ レ   ┏━━━┛┃∧ ∧
  ┗┛   ┗━━┻┛ .┗┛      .┗┛            ┗━━━━┛(@`@`゚Д゚)つ ギコギコ〜
518名無しさんだよもん:2001/01/16(火) 23:37
定期age
519名無しさんだよもん:2001/01/17(水) 01:03
スペランカーは虚弱体質だとか散々な事言われてきたけど、
本当は弱くなんかないんだ。スペランカー以外のゲームのキャラクターが
尋常じゃないほど 強いんだよ。
例えばスーパーマリオを見てみようか。このゲームの主人公マリオやルイージは、
ボーナスステージの空の上から落ちても、ピンピン生きているじゃないか。
さらに、海の中を息継ぎもしないで泳いでいるじゃないか。こんなに強靭な肉体の
持ち主なのに、ノコノコとかいう亀にぶつかるだけで昇天してしまう方が
よっぽど不思議だと 君は思わないかい?
スペランカーは、確かに自分の身長より低いところから落下するだけで死ぬよ。
でもこれは、この洞窟がとてつもなく熱いからなんだ。
洞窟の中は密閉された空間なので外からの空気が入ってこないし、
間欠泉や火の粉、謎のガスが噴き出したりしてとても温度が高いんだよ。
スペランカーがちょっと高い ところから落ちた場合、空気との摩擦により、
ものすごい熱が発生してしまうんだ。普通の環境であればこの空気との
摩擦なんて大したことないんだけど、密閉された空間で 高温となると、
この時発生する摩擦熱は想像を絶するほどの威力なんだ。
スペランカーが死んだ時、スペランカーは点滅するだろう?
これは実はスペランカーが気化して いる状態なんだ。あまりの熱で、
一気に固体から気体へ状態変化してしまうんだ。恐ろしい洞窟だね。
この辺の状態変化は、だいすけ君がもう少し大きくなったら科学の授業で
習うと思うよ。
もちろん、スペランカーは通常の状態であれば、耐熱服を装備しているし、
摩擦熱が最低限になるようにちゃんと計算して移動しているんだ。
そんないつ気化するかわからない ような危険な洞窟に入ってまで欲しい財宝とは、
一体なんだろうね。そっちの方も気になるね。
520名無しさんだよもん:2001/01/17(水) 01:15
>>519
SSと関係ねえだろが。どっからのコピペだ?
…それはそれとして、スペランカーは重度の心臓病で手術費用を捻出するために
あえて洞窟探検に出かけたというデマって、有名なのか?漏れはちょっと信じてたぞ(w
521bright for season その2:2001/01/18(木) 00:15
オレはシニカルに肩をすくめる。
先日の七瀬との教室での行為を思い出したからだ。
まぁ、仮にも学舎、愛想をつかれてもそれは極々普通の事ではある。
しかし、オレが必死であることに七瀬は気づいていただろうか・・・


長いこと屋上に居た。
ここに来たのはおそらく2時限から3時限目の間の筈。
オレは時計は持ち歩かない人種なのであくまでも予想である。
太陽が顔を出していればその陽光で影が立ち、大まかな時間が把握できるのだが、
折からの天候不順でそれはできなかった。
だが、昼過ぎであることは確証できる。
つい先ほどまで、ここに多くの生徒が弁当を持ちよい、会話に花を咲かせていたからだ。
その光景はとても楽しそうに見えた。

ポケットから煙草を取り出し、火を点ける。今日は今まで吸ったことのない、きつい銘柄を用意してきた。
522bright for season その3:2001/01/18(木) 00:18
暫くするとこちらに向かう足音が扉の向こうから聞こえてくる。
やがて足音は止み、扉がゆっくりと開かれる。
オレはその顔を見て驚愕する、そいつはこの世で一番顔を合わせたくなかった奴だった。
「折・・・は・・ら」
七瀬だ。
七瀬がオレの名を告げる。その瞳は冷めていて、七瀬の中での
オレのポジションが、どのような位置にあるか手に取るようにわかる。
「くっ・・・」
目の前にいる人物がオレだとわかると@`ばつが悪そうな顔をして今来た道に引き返そうとする。
「七瀬!」
つい、口にだしてしまった。出す気は無かったのだが。
いや、あったのだろう。無ければ口に出すはずはない。
そして言い訳がしたかった、自分勝手であるのだが、先日の事を。
(今、終わりを迎えるのに?)
自問する。
だからこそじゃないか、あそこに後悔は連れて行きたくはない。
「七瀬、前のことだが・・・」
オレは言葉足らずに切り出す。時間が無いのだ。
今、この瞬間もあの世界はオレを蝕んできている。
気を抜けばすぐにもっていかれる、繋ぎ止めているは七瀬だ。
「折原・・・そのことなんだけど」
そうなんだ七瀬、オレはお前に謝らなければならない。
「ああ、お前にはほんと・・・」
言葉の途中で七瀬に遮られる。
「別になんとも思ってないから」
「え・・・」
「じゃーね」
踵を返し、階段を下りていった。
オレは一時言葉を失った、七瀬の言葉がオレの意図するものと違っていたからだ。
しかし七瀬の次の言葉にオレは絶望を見た。
「あ、言い忘れたけど。金輪際私の前に姿を現さないで」
523bright for season その4:2001/01/18(木) 00:21
そうだ。
解っていたじゃないか、結局こうなることは。
この期に及んで誤解を解く、ましてや和解なんて。
馬鹿げてる。
そう、オレは馬鹿なんだよ。今、改めてそう思う。
そして今オレは破滅へと向かって行くんだ。

「七瀬!!」
叫ぶ。
七瀬はまだ階段の踊り場の辺り居て、こちらを怪訝な顔でみつめる。
「何よ、さっき言ったこともう忘れたの」
強めの口調でオレを咎める。
「いや、わかっているんだ。ただ、七瀬、君に謝りたい。それだけなんだ。
 このままじゃ君に悪い。だから少しの間だけでいい、時間をくれないか?」
オレは本来するべきだった事を口にした、だが今のオレは微塵もそう思っていない。
ただ七瀬と居たい、終幕までの僅かな時間を。
「はぁ。わかってないじゃない、でもいいわ、聞いてあげる」
「よかった、さぁ、こっちだ」
オレは七瀬を屋上に案内した。
524bright for seasonその5:2001/01/18(木) 00:23
今も太陽は厚い雲に覆われている。
けどそれは今にも終わりそうだった。
根拠は無い、でもそんな気がする。

「さ、アンタの言い分聞いてあげる」
あとどれくらいでオレはこの世界から消えてしまうのだろう。
そんな事が頭に浮かんだ。
もしかしたら七瀬と話をしているうちに消えてしまうかもしれない。
そしたら七瀬はどんなリアクションするだろうか。
「ギャーーーーーーーー!!」とか言いそうだな。
それはそれで七瀬らしい、オレは苦笑する。
「なに、にやついてんのよ。気色悪い・・・」
「七瀬・・・オレはお前が好きだ・・・」
つい、口にだしてしまった。
「・・・へ?え、な、な、なに言ってんのよ折原」
動揺している、頬を赤らめ、目は泳いでいる。
愛おしい。
オレはキスをした。
舌を入れ、長い間。
「愛してる」
そして
「さようなら」
オレは七瀬の首を強く絞めた。
暫くすると七瀬の呼吸は止まった。
オレは七瀬の体を持ち上げ
「くっ、意外と重いな」
屋上から投げ捨てた。
どすん
威勢のいい音がなった。
525bright for season その6:2001/01/18(木) 00:27
「すごい音がしたね」
後ろでオレを呼ぶ声がする
声から察するに幼いようである
そして女

きた

「ああ、そうだな」
地を映していた瞳を引き上げ
「そろそろいこうか?」
オレは振り返る
「そうだね、みずか」
雲の裂け目から一線の光が大地に突き刺さった
>>492 >>521-525
のSSを書いた者です。
当方、普段は文章なんぞ書かない人間なんで
おかしい所が多々あると思いますが見逃してください(^^;;;

>>493-495
ONEです。一人で勝手に盛り上がっていたせいか、後で説明するの忘れてました(;´Д`)

訂正(汗)
>>492
>〜目を配らせる
は、{辺りを見渡す}に訂正します。
あと、行間は「その6」意外は適当です(;´;Д`;;)
527Alfo:2001/01/18(木) 06:34
…ONEやったことはないので内容についてはコメントできませんが、
一応いくつか私見をば。
5の「くっ、意外と重いな」って台詞はないほうがいいかもしれません。
この台詞で文の淡々とした流れが阻害されてます。
あと、人間を絞殺したときにはどうなるかとか、人体が高所から落下したときの音とか、
その辺りがリアルっぽいとさらに趣深く(^^;
これからも気が向いたらふぁいとです。

ってことで、ほぼ一ヶ月ぶりにКапопの続きを書き込みます。
しばらくの間、書き込みのほうはご遠慮くださいな。
第十話 記憶

 部屋が赤く染まっている。
 西の窓から夕陽がなんの遮断もなしに、直に俺の部屋に降り注いでいる。
 その光はベッドに横たわる俺の右頬をゆっくりと撫でながら、床で跳ね返り、向こうの壁に奇妙な模様を作っていた。
 厚いガラス越しに生まれる平行光線の乱舞。
 景色は遠い水面のようにたゆたう。
 思い出もまた、それと同じように輪郭すらはっきりとせず、一が千のように、千が一のように、移り変わっては逃げていった。
「アユ・ツキミヤ…」
 その名を再び口にする。
 そのたびに沸き起こる、違和感。何かが違う。そんな思い。
「俺は、何を忘れているんだろう…」
 目を閉じていても、開いていても、しかし、答えは遂に浮かび上がってこなかった。
「…アユ…」
 俺は寝返りを打って夕陽を背にした。
 部屋が赤く染まっていた。
「ユーイチさん?」
 ノックの音とともに、アキコさんのそんな声がした。
「はい…」
 俺は体を起こし、声だけで返事をする。
「ちょっと、下まで降りてこられますか?」
「どうして…」
「お話があるんです。アユちゃんのことで」
「アユの?」
「それでは、下で待ってますから。用意ができてからでいいですよ」
「用意も何も…、すぐに行きますよ」
 その返事は届いただろうか。
 アキコさんは、結局扉を開けることもなく、用件だけを告げた。
 俺は、寝転んだままでいたせいでできた制服の皺を正すと、この赤い部屋を後にした。
「と言うわけで、アユちゃんも一緒に戦ってくれる事になりました」
「これから、またよろしくね、ユーイチくん」
 ミナセ家の床に、破砕音とともに大穴があいた。
「あらあら、こんな大きな穴、補修しておかないと危ないわね…。そろそろこの床も寿命かしら」
「ユーイチくん、大丈夫?」
「これは…予想外だ…何もかもが」
 俺の声はミナセ家の床下に響いた。
 つまり、俺の上半身は穴の中にめり込んでいるというわけだ…って、冷静に状況説明をしている場合ではない。
「見かけよりも古いんですよ、この家」
「それでも、ユーイチくんが転んだだけで床に穴があくなんてすごい古いんだね」
「二人とも俺が転んだ理由を考えないんですね…」
「えっと、大工さんの電話番号、どこかに控えておいたかしら」
「修繕するんなら僕もお手伝いするよっ」
「…二人とも、床に頭突っ込んだままの人間を無視して話を進めないで下さい」
「聖剣ユーイチ、ここに眠る、っと」
「そういえば、むかし桜木町駅前にこんなのがありませんでしたっけ?」
「……二人とも、懐かしいネタで俺を辱めるのはやめてください」
「ふふ、冗談ですよ」
「冗談だよ、ユーイチくんっ」
「………そう言いながらなんで声は楽しそうなんですか…」
 身の危険を感じた俺は、自力での脱出を試みた。
 両手を床にふんばって、その力で何とか頭を抜こうとする。
 が。
「…抜けない」
「何が抜けないんですか?」
「…あたま」
「思いっきりやっても抜けないの? ユーイチくん」
「だめだ。これ以上思いっきりやったら頚椎に傷がついちまう」
「丁度、魚を捕る罠のようになってるんですね」
「あはは、ユーイチくん、おさかな〜♪」
「二人とも、笑ってないで何とか…」
 俺は少しずつ希望を失い始めていた。
「大丈夫、こういうときのために、かばんの中にとっておきの物を入れてあるんだ」
「あの羽リュックの中にか?」
「そうだよ。えっと…」
 そう言って、アユがなにやらかばんの中をごそごそやり始めたようだった。
「えっと、…これは結構危険だし、…こっちはだいぶ危険だし、…これはかなり危険だし」
「じゃあ、これなんてどうかしら」
「だめだよ〜。ユーイチくんと、ユーイチくんの首と、どっちが大切かっていわれると、それはやっぱりユーイチくんだし…」
「それもそうね…、なら、こっちは?」
「だめだめ。上手く使っても、上手く使えなくても、どちらにしろユーイチくんがかわいそうなことになっちゃう」
「なら、そこのなんてどう?」
「…それを使ったら何か大切なものをなくしそうで怖いんだよ…」
「う〜ん、迷うわね…」
「難しいね…」
「すいません、指示代名詞ではなくて固有名詞を会話の中に混ぜていただけるとこちらとしては非常に嬉しいのですが…」
 希望は既に風前の塵芥、まな板の上の大根だった。
「よし! これに決めたっ!」
「あの、『これ』というのは…」
「じゃじゃじゃーん! チェーンソー!」
「%$#&@(声にならない叫び)!」
「アユちゃん、このマスクつけないと雰囲気が出ないわよ」
「あ、さすがアキコさん。気がきいているというかやっぱり最初の犠牲者はカップルじゃないといけないな〜というか」
(お父さんお母さんごめんなさい、俺はもう逝きます…)
 俺はこのとき既に心の中で両親にお別れを済ませていた。
 グオオオオオォォォン!
 タララランッ、タンッ、タンタンタンタン…。
「フー、フー、フー、フー…」
 チェーンソーの規則正しくも荒々しい鼓動の中に狂気に満ちた吐息が聞こえてくるのは気のせいだったらいいなあと思った。
「それじゃユーイチさん、行きますよ〜」
「…一刻も早く楽にしてください」

 ヂュイイイィィィィィンッ!
 ガン! ガッ! ガガガガガガガガガガ…。
「よかったねユーイチくん、ちゃんと脱出できて」
「俺はもうロシアンルーレットなんて怖くないぞ…」
 で。
 アユの活躍のおかげと言うか、単に運がよかっただけというか、ともかく俺は脱出に成功していた。
 さっきまで俺が嵌まっていた所には丁度俺の輪郭ギリギリに鋭利な切断面が除いていた。
 一歩間違えば、その切断面が俺の首に見えていたに違いない。
 あなおそろし(古語)。
「それにしても、よく生存できたもんだ、俺」
「ユーイチくん、それ遠まわしに僕のこと非難してない?」
「まあ、お前が悪いとは言わないが、もう少し安全確実、迅速丁寧なやり方はなかったのか?」
「うぐぅ、あれで精一杯だったんだよ…」
「…楽しんでたように聞こえたがな」
「うぐぅ」
「ところでお二人とも、ちょっといいですか?」
 俺達の会話が途切れたタイミングを見計らって、アキコさんが口を挟んだ。
「まだちゃんとした説明をしていませんでしたね。アユちゃんについて」
「そう言えば。聞いた途端に頭突っ込んじゃいましたから」
「ユーイチくん、何でそんなことしたの?」
「俺がしたんじゃなくて、お前にさせられたんだ」
「ん? なんのこと?」
 アユは何も知らないような表情で首をかしげた。
「ったく、こいつはよぉ…」
 俺は、もうどうしようもないなという感じで呟き、アキコさんのほうに向きなおした。
 その意を察したのか、アキコさんはゆっくりと話し始めた。
「…今回、アユちゃんが私たちとともに戦ってくれるようになったのは、他でもない、アユちゃん自身の志願なんです」
「そうなのか?」
「そうだよ」
 アユは、また無邪気な表情で頷いた。
「危険だということを承知の上で?」
「当然だよ。ボクはユーイチくんと一緒にいたいから」
「おいおい…」
「…多分、ボク、ユーイチくんのことかなり忘れてると思うんだ。それはユーイチくんも一緒だと思う」
「まあ、な」
「だから、ユーイチくんのこと、少しでもたくさん思い出したくて…」
「俺も、…できれば思い出したいとは思ってるが」
「ユーイチくんも?」
「…一応」
「本当?」
「……」
 俺は、すこし考えてから答えた。
「ああ、認めてやる。俺はお前のことを思い出したい」
「じゃ、じゃあボク…」
「その前に!」
 俺は両手を上げて喜びだしそうになったアユを手で制した。
「なに?」
「これからお前に一つテストをさせてもらう。思い出したいのは確かだが、その所為でお前に危害が及ぶのは嫌だからな」
「うん…」
 アユは神妙な面持ちで頷いた。
「それで、テストって言うのは?」
「簡単だよ。これから俺とお前で、この町の中で鬼ごっこをする」
「鬼ごっこ?」
「そう。アユが勝てば合格。俺が勝てば不合格。単純だろ?」
「ルールは?」
 ふと気が付くと、アユは子供のようなまなざしで俺を見上げていた。
 懐かしいまなざし。
「鬼は30分遅れて出発。1時間以内にに鬼が子を捕まえれば鬼の勝ち、子が逃げ切れば子の勝ちだ」
「うん、わかった! なら、どっちが鬼か決めようよ!」
「と、その前に、武器とかそういう道具の使用はルール違反だからな、お互い」
「わかった。それじゃ、じゃーんけーん…」
「結局、ユーイチさんが鬼ですね」
「まあ、じゃんけんばっかりは時の運ですから」
「この時間から鬼ごっこをはじめるなんて、怪人赤マントさんに連れて行かれるわよ」
「はは…、そういえば昔、そんなことを言われましたっけ」
 昔…か。
 一体いつ頃の昔のことだろう?
「ところでユーイチさん」
「はい」
「本気で、やるんですか?」
「当然ですよ」
 俺は当たり前のことのように答えた。
「でも、アユちゃんのこと…」
「いいんですよ。もし俺が思い出せなくなっても」
「どうしてですか?」
 アキコさんは不安そうな表情で問い返してきた。
「今のアユと、思い出と、天秤にかけるとしたら、答えはもうわかってますから」
「…そうですね」
 一通り準備をそろえてから、玄関で靴を履き替える。
「…あ」
「どうしたんです?」
「今ふっと思い出したんですが…」
「はい」
「あいつ鬼ごっこだけは特別に強かったんですよね…」
 一時間後。
 結局というか、やっぱりというか、俺にアユは捕まえられなかったわけで。
 制限時間終了を表す時計のアラームが鳴るとともにアユが後ろの街路樹の中からひょっこり顔を出したのには驚かされた。
「へへっ、これでボクの勝ちだね」
「…あー、アユ、鬼ごっこは得意だって事、隠してただろ」
「敵に与える情報は少ないにこしたことは無いからね♪」
「そいつはご立派なことで」

 そう言って歩き出した二人の周りは、もう夜のような暗さで町を染めていた。
 太陽は西の空低くに落ち、おぼろげに光る月の横には宵の明星が輝いていた。
 一筋の風が運動で暖まっていたアユの身体を急速に冷やす。
 身震いをしたアユに、ユーイチは用意していたコートを、そっと、手渡すのだった。
「ところで、アユ」
「なに?」
「今はどこに住んでるんだ?」
「うん…、それはちょっと言えないかな」
「なら俺は別にそれで構わないけどよ」
「でも、アキコさんに話したら、あそこにいてもいいって言ってくれた」
「そうか、よかったな」
 丁度そのとき、横の道からナユキが姿を現した。
「あれ、ユーイチ…と、アユちゃんだっけ?」
「えっと、そちらは、ナユキさん…だよね?」
「そうだよ、よろしくね、アユちゃん」
「うん、こちらこそ!」
「あれ、ナユキ、どうしてお前がアユのこと知ってるんだ?」
「さっきお母さんに聞いたんだよ。そうそう、お母さん今からお出かけだってことで、今晩は私が夕飯作るからね」
「ナユキさんのご飯?」
「安心しろ、ナユキの料理の腕前は俺も認める所だ」
「そうなんだ。楽しみにしてるよ、ナユキさん☆」
「ちゃんと材料は三人前用意してあるから、期待しててね」
「ねえねえ、どんなお料理作るの?」
「それは出来上がるまでのお楽しみだよ。アユちゃんの口に合うといいけど」
「平気だよ。ボク好き嫌いはしないいい子だもん」
「どうしても苦手なものとかはある?」
「んーと…、特にないや」
「冬瓜とかセロリとかも人によっては好き嫌いあるけど」
「うん、それもだいじょうぶだから」
「そうなんだ。じゃあ、私も安心してアレ使えるね」
「あの…、アレって何?」
「食べ物だよ。あまり一般的じゃないけど」
「うぐぅ…、なんか心配…」

 そんな二人の何気ない会話を聞きながら、俺は一体何をしていたかというと。
 何の事は無い。
 ただ、後ろから迫る危険な何かを警戒していただけのことだ。
 街中なら直接危害を与えてくるようなことは無いだろうが、どこかで追跡をまくか、それとも返り討ちにする必要があった。
 この二人に余計な心配はさせたくない。
 俺は、帰り道の途中のどこかで二人と一旦別れる決意をした。
 どうやら、しばらくはこんな危険と背中合わせの生活が続くに違いない…。
536現在回転中:2001/01/18(木) 06:41
まわしますー。
537現在回転中:2001/01/18(木) 06:41
まわしてますー。
538現在回転中:2001/01/18(木) 06:41
まわしネタをー、
539現在回転中:2001/01/18(木) 06:42
考えるのはー、
540現在回転中:2001/01/18(木) 06:42
もう諦めましたー。
541現在回転中:2001/01/18(木) 06:43
まわれー。
542現在回転中:2001/01/18(木) 06:43
まわれまわれー。
543現在回転中:2001/01/18(木) 06:43
まわれまわれまわれー。
544現在回転中:2001/01/18(木) 06:44
独楽のように回れー…ってのもなんか変か。
545Alfo:2001/01/18(木) 06:46
>>528-535
Капоп〜あ・ごーすと・いん・ざしぇるたー〜
第十話 記憶
一ヶ月ぶりのご無沙汰です。
第九話まではmio_2chさんの所にあります。
546名無しさんだよもん:2001/01/18(木) 20:09
「SS投稿用スレッド@エロゲー板 」
http://www.bbspink.com/test/read.cgi?bbs=hgame&key=979813230
今日立ったもののまだ書き手が居ない様子。
葉鍵板精鋭部隊の援軍求むっ・・・。
547名無しさんだよもん:2001/01/18(木) 23:18
>>546
つーか、エロゲー板ではネタスレは禁止じゃなかったのか?
まあ、立った以上認められてはいるんだろうけどね。
548名無しさんだよもん:2001/01/18(木) 23:23
>>546
とてもSS書き込める雰囲気じゃないね…。
549名無しさんだよもん:2001/01/19(金) 07:54
>>bright for season
ごめんなさい。いまいちです。

>>alfo
超マイペースな方ですね。うぐぅ。
550名無しさんだよもん:2001/01/21(日) 01:06
>>546
書きたいネタはあるんだけどね。とりあえず様子見。
551mio_2ch@SS回収屋:2001/01/21(日) 14:20
業務連絡。高野山の呪いだよもん様、回収屋BBSに感想が入っています。
遅くなってスマソ…だよもん(;´Д`)
552名無しさんだよもん:2001/01/22(月) 18:57
彼はもういない筈だよ。
553名無しさんだよもん:2001/01/23(火) 06:37
>>552
高野山ってどうなったの?
彼のSSおもしろいのに。
554名無しさんだよもん:2001/01/24(水) 23:24
定期age
555Alfo:2001/01/27(土) 06:40
マ〜イぺ〜ス、マイぺ〜ス〜ゴルァ(゚д゚)←スレ違い
ってーことで書き込みます。
しばらくの間傍観してくれると幸いです。
556Alfo:2001/01/27(土) 06:41
第十一話 倉庫

 俺が遅めの昼食を取リ終え、ロビーで横になっているときだった。
「ユーイチさん、お電話が入りましたよ」
 廊下からアキコさんがコードレスの子機を持って姿を現した。
「誰からです?」
「ユーイチさんの上司に当たる人のようです」
「大佐から、ですか」
「はい」
 俺はいつもと表情の変わらないアキコさんから子機を受け取った。
 そして、いつもの台詞。
「こちらユーイチ。大佐、聞こえますか?」
「通常回線というものは感度を気にしないですむ分気が楽だな、ユーイチ君」
「全くです」
 俺たちはそう言って一通り笑った。
 彼とは付き合いが長い方になるが、電話口で話し合うのはこれが初めてだった。
「現在の状況はどんな塩梅だ?」
「こちらにも、敵組織にも主だった活動はないようです。少なくともこの2週間ほどは」
「そうか」
「それで、用ってのは何ですか?」
 俺のほうからおもむろに話を切り出す。
 向こうから連絡を入れてくる以上、緊急の用事に違いない。世間話をして冗長な時間を過ごすこともないだろう。
「通常回線でそんなこといえるわけがないだろう」
 だが、大佐はあたりまえのようにこう返答した。
「それなら、何処で?」
「倉庫Т−3、そう言えばアキコ…ザザッ…か、娘のナユキには話が通じるだろう」
 なぜここでノイズが走るんだ?
 俺は疑問に思ったが、ここでの長い生活の結果、それ以上は考えない方がいいということを、経験上知っていた。
「倉庫Т−3、ですね。了解しました」
557Alfo:2001/01/27(土) 06:42
「それと、もう一つあるのだが」
「なんでしょう」
「…アユ・ツキミヤと接触(コンタクト)したというのは、本当か?」
「間違いありませんよ。アユは今もそこでのんきにテレビ見てます」
 俺の言葉のとおり、アユはソファーに座って寛いでいる…、のか、それとも眠そうにしているのか。
 自分の名前が呼ばれたというのに、何の反応もせず幸せそうな顔で目を瞑っていた。
「う〜ん…、昼下がりの午後にはつぶあんのほうが…」
 よくわからん寝言つきで。どうやら今はアユのお昼寝の時間らしかった。
「……」
「大佐?」
「…なんでもない」
 どうにもなんでもないようには聞こえない。
「確かアユ・ツキミヤも一緒に作戦を行っているそうだな?」
「誰から聞きました?」
「アキコ…ザッ…からだ。あとで確認を取ってくれてもいいが」
「……」
「この際、アユ君も一緒に連れてきてくれ。俺もいろいろ聞きたいことがあるからな」
「例えば、何を?」
「そうだなぁ…、君の昔の話だとか、思いで話なんかを中心に」
「…なるほど」
 思い返してみると、彼の悪だくらみにつきあわされたのも一度や二度ではない。
 気にするほどでもないとは思うが、一応警戒しておくことにした。
「では、集合時間は1230時。少し性急だとは思うが、まあそれだけ緊急性の高いことだと理解してくれ」
「了解。1230時に、倉庫Т−3に集合ですね」
「そういうことだ。ついでに補充もそこで行っておくといい」
「補充?」
「行けばわかるさ。では、通信を終わる」
 ツーツーツー…。
 俺は信号音を出し始めた子機を充電器の上に戻すと、アキコさんに事の仔細を伝えた。
「1230時ですか…。今から行かないと遅刻しちゃいますね」
「では、その倉庫Т−3場所を…」
「ナユキに連れて行ってもらうことにしましょう。今電話かけて呼び出しますから、その間にアユちゃんを起こしておいてください」
 とのことらしいので、俺は案内役がナユキという部分に一抹の不安を感じつつ、ソファーに埋もれたアユを起こしに行った。
 とは言っても、爆撃の音を録音したテープを聞かせるだけなのだが。
558Alfo:2001/01/27(土) 06:42
 耳元にラジカセを置いてスイッチオン。
「はっ! 敵襲? 防空壕と防災頭巾ともんぺはどこ?」
「起きたか、アユ」
「おっちゃん! 早く逃げないと空襲がくるよ!」
 アユは起きるなり謎の寝言を口走った。
「…運の悪い奴が死ぬんだ。逃げたきゃ一人で逃げな」
「え?」
「起きたか。アユ」
 俺は鳩が豆サブマシンガン喰らったような顔をしているアユに、本日三度目となる質問をする。
「あれ…、米軍爆撃機は…それとおっちゃんは?」
「随分波乱万丈な夢をみていたようだなアユ」
「うぐぅ、隣のみっちゃんは機銃掃射でやられたんだよ…」
 どうやらはこいつはまだ夢と現実の区別がついていないらしい。
 どうしたもんかね。
「それで、えっと…ここは?」
 現に戻り始めたアユに、声をかけて覚醒を促す。
「ここはミナセ家の居間で、お前はアユ・ツキミヤで、俺はユーイチ・アイザワだ。思い出したか?」
「…っと、そうか、これはユーイチくんか」
 アユは今思い出したことのように呟いた。
「…ユーイチくん、あれ夢だったのかな」
「今まで寝てたんだから、多分夢だったんだろうな」
「そうか…。よかった」
「まるで黒服の男にピカッとやられたみたいだな」
「なんのこと?」
「こっちの話だ。それより、出かける用ができたんで可及的速やかに外出用意を整えること。以上」
「…怖い夢をみたんだよ」
 アユは何の前触れもなく、そう呟いた。
「よくは覚えていないんだけど、すごく怖い夢…」
「その話は今度聞いてやるから、支度はじめないと遅刻するぞ」
 俺はそう言って、アユに行動を促した。
 アユの言う怖い夢にも興味がなかったわけではないが、今は約束を守る方が先だ。
「…あれ?」
「こんどはなんだよ」
「ボクの羽リュックが…」
「踏みつけてる踏みつけてる」
「…あれ」
 俺は何故かかなり心配になってきた。
「今日も寒いんだから、コート忘れて風邪引くなんてことするなよ」
「うぐぅ、寒かったらコートぐらい着るよ…」
 そのとき、電話を終えたアキコさんが居間へと入ってきた。
「それで、ナユキは?」
「全力で帰ってくるそうです」
 ならもう到着してるんだろうな。
 俺はナユキが全力で帰ってくる様子を想像し、いまさらながら戦慄した。
「あ、そう言えば俺のコートは…」
「多分ユーイチさんの部屋にあると思いますよ」

 二階の部屋に戻り、コートを羽織ってから玄関の外に出る。
 やはりナユキはその間に帰ってきていたようだ。
 アユも一緒にいる。
「じゃあユーイチ、早速Т−3に行くよ」
「ここ以外に倉庫があるなんて意外だったな。で、それは一体どこなんだ?」
「行けばわかるよ」
 そう言ってナユキは歩き出す。
 その後をアユ、俺の順番でついて行く格好になった。
「アユはその場所知ってるのか?」
「うん、よく使う場所だから、店員さんにも顔なじみなんだ」
「店員さん?」
 アユの口から意味明瞭、理解不能のワードが飛び出す。
 倉庫に店員さん?
「特にこしあんなんかはお勧めだよ」
「こしあん?」
 倉庫に、こしあん?
「…行けばわかるのか?」
「行けばわかるよ」
 ということらしいので、俺は考えるのをやめた。
 それから15分ほど歩いた所で、ナユキが不意に立ち止まった。
「ここだよ、ユーイチ」
「どこだ?」
 見回しても、それらしい入り口も何もない。
 というか、どうみてもここはただの商店街の中だ。
「だから、ここだよ。まあ、初めてだからわからなくてもしょうがないけど」
 そう言ってナユキが指差した先には、

 タイヤキ屋台。

「……は?」
「Т−3、要するにタイヤキ屋さんのこと。ここがТ−3倉庫だよ」
 毎度の事ながら、俺たちに足りないのは緊張感なのかもしれない。
「アユ、お前知ってたのか?」
「知ってたもなにも、行きつけのお店だもん、ここ」
 そういうと、アユはメニューを見つめて目をきらきらさせ始めた。
「えっと…、おじさん、ボク今日はつぶあんとステーキ!」
「へ?」
 何なんだステーキってのは?
「私はボンゴレだけでいいかな」
「あいよ、つぶあんとステーキ、それにボンゴレね。そっちの兄ちゃんは?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。つぶあんは理解できるとしても、ステーキとボンゴレってのは…」
「ほら、何か注文しないと」
「う…、じゃ、クリーム…」
 ナユキに背中を押される格好で、ついつい注文してしまう。
「はい、クリームね。じゃあ、兄ちゃんはここで待ってて。そっちのお嬢さんがたはこちらへどうぞ」
 そういうと、屋台のおっちゃんは脇のマンホールの蓋を引き上げた。
「なるほどね、そこが倉庫の入り口って訳か」
 アユとナユキの二人が入り、ついで俺が入ろうとすると、屋台のおっちゃんが立ちふさがった。
「だめだめ、ここは関係者以外立ち入り禁止なんだから」
「でも、俺はこいつらの関係者ですが」
「ユーイチ、ここではタイヤキだけ頼んでもだめなんだよ」
 ナユキが助け舟を渡す。
「メニューにない注文をすることで、中に入れるようになっているんだから」
「そういうことか…」
「だからユーイチくんも何か他の物注文しなきゃ。例えばフルーツとか」
「人の心を読むなっ! それを今言おうとしていたとこなんだ!」
「うぐぅ、ボクだって今勝手に心に浮かんだこと言っただけだよ」
 まあ、アユに当たってもどうしようもない。
「ユーイチ、早くしないと」
 ナユキがせかす。
 ついでに、おっちゃんの無言の視線も実はかなり怖かったりする。
 何か考えないと。えっと、食べ物食べ物…。
「早くしてくれよ兄ちゃん!」
 その声に弾かれるように俺はある言葉を口走っていた。
 丁度そのとき考え付いてしまっていた、食べ物のようで絶対に主食にはなりえないものを。

「…こちらが当店自慢の紅しょうが尽くしでございます」
「……」
「神奈川は三浦半島で取れました新鮮な紅しょうがに、これまた新鮮な紅しょうがの絞り汁を加え、さらに…」
「…説明はもういい」
「左様で」
 要するに、紅しょうがが目の前のさらに山のように積まれているだけのことだ。
 それ以外になんとこれを説明することができるだろうか。いや、ない(反語)。
「ユーイチ、変わったもの食べるんだね」
「僕も、そんなものをそれだけ食べられる人を純粋にすごいと思うよ」
「……」
 俺は、赤い塊を見て、一つため息をついた。
 他の二人の前には、しっかり注文した料理が置かれている。
「…ここで昼飯にするつもりだったのか?」
「そうだよ。お母さんが、ついでだからお昼ご飯も一緒に食べてきなさいって」
「…そうか」
「ついでにいうと、ここで食べてくるだろうから、お昼の支度はしてないって」
「……そうか」
 諦めて箸を赤い塊に伸ばし、赤い塊を口にする。

 そのとき、壁にかかっていたプロジェクタースクリーンに光がともった。
562現在回転中:2001/01/27(土) 06:45
まわします。
563現在回転中:2001/01/27(土) 06:46
まわしてますー。
564現在回転中:2001/01/27(土) 06:46
途中で
565現在回転中:2001/01/27(土) 06:47
名前欄のところが
566現在回転中:2001/01/27(土) 06:47
「Alfo」のままになってるのは
567現在回転中:2001/01/27(土) 06:48
単なるミスですのでー。
568現在回転中:2001/01/27(土) 06:48
3、
569現在回転中:2001/01/27(土) 06:48
2、
570現在回転中:2001/01/27(土) 06:49
1、
571Alfo:2001/01/27(土) 06:52
>>556-561
Капоп〜あ・ごーすと・いん・ざしぇるたー〜
第十一話 倉庫

…二年目突入最初、ですね。
572名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 20:33
シチュエーションスレでONEvsKanonという小ネタを書いていた者です。
小ネタとはいえ話が進むに連れてシチュスレには相応しからぬ長さ&
内容(これは最初からか?)になって来てしまい、こちらで続きを
進めさせて頂きたいと存じます。
駄文の程失礼致しますが、ご用でない方はどうぞお付き合い下さいませ。

Round1〜5の内容はこちら『萌える!葉鍵シチュエーション#4』
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=980239420
573突発ネタ:ONEvsKanon!:2001/01/27(土) 20:39

Round6:ななぴー試練の四番勝負! 一回戦・七瀬留美vs天野美汐

祐一「何だ? この唐突な企画は…」
浩平「仕方ないだろ…作者が『ONEとKanonじゃメンツの数合わないし
雪ちゃん先輩じゃキャラが弱いんだよもん』とか言い張るんだから」
祐一「それ絶対文句出そう…」
浩平「だよなー…お、もう始まってるぞ」

天野「…こんにちわ」
七瀬「あ、ど、どうも(なんかとっつきにくそうな娘ねぇ…)」
天野「……………」
七瀬「…え、えっと…天野さんの…趣味とか、何ですか?」
天野「………それを聞いてどうしようというのですか」
七瀬「……え、…ほ、ほら、これって一応乙女対決な訳だし、
天野さんっていかにもこう、乙女! って言う雰囲気あるし…(汗)」
天野「………バーゲンの」
七瀬「え?」
天野「バーゲンのチェックなどを、少々」
七瀬「あ、わかるわかる、ブティックとかの…」
天野「デパートです」
七瀬「………」
天野「………」
七瀬「え、えっと、他には…」
天野「他には……手慰み程度ですが、パッチワークなどを」
七瀬「………(老けてる…)」

浩平「………(老けてる…)」
祐一「………(やっぱり…)」
574突発ネタ:ONEvsKanon!:2001/01/27(土) 20:43

天野「そちらのご趣味は、何でしょう」
七瀬「あ、あたしはやっぱりウィンドウショッピングとか、お菓子作りとか…
ま、まあ作るって言ってもクッキーぐらいだけど」

祐一「なんだ、天野勝ち目無いじゃん」
浩平「いや、あいつの言うウィンドウショッピングとは破りに入る道場の
品定めで菓子制作とは並み居る強者を片っ端から料理する事を言うんだ」

びゅっ!(湯飲みの飛ぶ音)

浩平「(ごすっ!)ブゲェ!?」
祐一「お、折ぴー!?」

七瀬「(誰だよ折ぴーって…)…あ、あはは、それで何の話だっけ?」
天野「………(冷ややかな目)」
七瀬「(う…まずいわ、このまま相手のペースに乗せられていては…
しっかりするのよ留美! 緒戦からつまづいていては乙女の名折れ!)」
天野「…七瀬さんは」
七瀬「う、うん?」
天野「七瀬さんは…私のどこを見て乙女らしいと言われたのでしょう」
七瀬「え、それは…やっぱり物静かで落ち着いた雰囲気って言うか、
清楚な感じと言うか…」
天野「いいんです」
七瀬「え?」
天野「自覚はしているつもりです…自分が同年代の子たちと比べて、変わって
いるかもしれないというのは」
575突発ネタ:ONEvsKanon!:2001/01/27(土) 20:47

七瀬「天野さん…」
天野「なりたくてなった訳ではありませんが…趣味や言動が老けていると
言われるのも、自分が人と交わらないと感じるのも」
天野「でも、どんな由来があっても、それはもう私の一部ですから」
天野「身に付いた物をどうしようもないと嘆くより、それと一緒に生きて
行くほうがいいと思うんです」
七瀬「(しんみり)…いい事言うなあ…」

浩平「(じ〜ん)これが大人って奴なのかな…」
祐一「(じ〜ん)ああ…高一の発言にしちゃ老けてるけどな…」

天野「七瀬さん…」
天野「私は…こんなふうになってしまいましたが…」
天野「…七瀬さんは、どうか強くあってくださいね」
七瀬「ええ…あたし、負けないわ! あなたのくれた想いの分まで、戦い
抜いて…」

祐一「ちょっと待ったぁっ!」

七瀬「え?」

祐一「フッ…勝った気になるのはコレを見てからにして貰おう!(がさごそ)」
浩平「何それ? ……日記帳?」
天野「!!!?? あ…相沢さん!? そ…それは!!?」
576突発ネタ:ONEvsKanon!:2001/01/27(土) 20:50

祐一「『二月十八日、雨  今日は一日中天気が悪かった。 雨の日はきらい。
お気に入りの靴もはけないし、お空が暗いとずっとゆーうつな気分。 雨じゃ
なくて、お菓子が降ればいいのにな』」

七瀬「こ…これは!! 乙女ポエム!」
浩平「ぐわぁぁっ、なんて乙女ちっくなんだあぁぁっっっ!!」
天野「☆◎◇♪〒□▲◯♯★!!!???!?!?(真っ赤)」

祐一「『二月十九日、晴れ  とってもいい天気、きのうの雨が嘘みたい。
おへそを曲げていたお日さまがみしおのおねがいを聞いてくれたのかな?
どうせならお菓子も降らせてほしかったけど、お日さまが出てきてくれた
だけでみしおはとってもはっぴーな気分(はぁと)』」

天野「△◯★%◎$#☆▼¥●〒♪※@〜〜〜〜!!?!!!??(真っ赤)」
浩平「わ、わかった、わかったから!! かっ、体がかゆい〜〜!!(悶絶)」
七瀬「…ま、負けたわ…………(がっくり)」

祐一「じゃ、そう言う事で後はヨロシク! ハッ、脱出!!(だだっ)」
天野「☆%¥□★◯♯★〜〜〜〜〜〜!!!!!!〜〜〜!!!(だだっ)」〜収録後〜
浩平「ん? 何だこのボロ切れ? ………相沢? 相沢なのか!? おい!?」


試合結果・・・・・・・・・●七瀬留美(乙女ポエム)みしおたん○
・・・・・・・・・・・・・●相沢祐一(公開撲殺刑)天野美シタ○

To be continued…
577名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 20:54
回しています。
578名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 20:56
回しています2。
579名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 20:56
回しています3。
580名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 20:57
回しています4。
581名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 20:57
回しています5。
582名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 20:58
回しています6。
583名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 20:59
回しています7。
584名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 21:00
回しています8。
585名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 21:00
回していますFINAL。
586名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 21:09
>>572-576
ONEvsKanon、第六ラウンド終了しました。…改行失敗してる…鬱だ。
果たして何人の人が見ているのか知りませんが、止めろと言われない限り
(ひょっとしたら言われても)続けるつもりです。
これから七瀬には恐るべき強敵達、修羅に次ぐ修羅の道を見せてやらねば
なりませんので(w

…次回はななぴーvsかおりんだ!乞うご期待ゴルァ(゚д゚)
587586:2001/01/27(土) 21:15
なお、作中のネタの一つは某スレのネタ職人の皆様の
アイディアを借用致しました。
この場を借りてお詫びとお礼を申し上げて置きます。
ありがとうございました。
588名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 21:48
一部みしおたんが混ざってる気もしますが、笑えたのでヨシ
589名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 22:48
美汐とみしおたんと美シタの絶妙な配分にワラタ。
590名無しさんだよもん:2001/01/27(土) 23:19
面白い。大いに笑わせてもらいました。
ただ、1〜5を探すのが面倒なんで、このスレに再録きぼーん。
591名無しさんだよもん:2001/01/28(日) 03:03
あたまっから(>5)やってるからよんであげてよ。
おもしろいよ、これ
592591:2001/01/28(日) 03:10
>>5-6
Round1@`2

>>20-21
Round3.4

>>33-37
Round5

読み返すついでで、番号調べといた。個人的には板うつすと追いかけるのめんどいからシチュスレで続けてほしかったがまあよいか。
593591:2001/01/28(日) 03:11
594名無しさんだよもん:2001/01/28(日) 17:33
595名無しさんだよもん:2001/01/28(日) 21:29
>591、594さん
わざわざすみません。こんな駄文にお付き合い頂いて感謝致します。
…つーか、全部上がったらRound1書き直そうかな…まさかここまで
話が長くなるとは…(汗
596名無しさんだよもん:2001/01/29(月) 00:04
>>594
スマソ。間違いに気付いた時点であまりに鬱だったので速攻寝ちまったから……。

みしおたんは破壊力ありすぎっす、ハイ。
597名無しさんだよもん:2001/01/29(月) 07:24
hage
598名無しさんだよもん:2001/01/29(月) 15:35
頑張れ。
599放置の予感…その1:2001/01/29(月) 22:41
 ぱたぱたっ…
 軽くカーテンがはためいた。
 同時にショートの前髪が揺れる。
 それを左手で撫でるようにして直しながら、あかりは机の横に戻ってきた。
「…いい風だね」
 窓の方を見たまま、言う。
「…そうだな」
 俺も頭を軽く振って、髪を元に戻す。
「別に、寒いとは思わないでしょ?」
「あぁ…って言っても、わざわざ開ける必要があるようには思えねーな」
 あかりの横顔を見ながら、俺は返した。
「でも、草の匂いがすると思わない?」
 あかりがこちらを振り向いた。そして、スカートを少し押さえながら椅子に座る。
「ほら、中庭の…」
「そうか?俺は何も感じねーぞ」
「…浩之ちゃんらしいね」
 上目遣いであかりは言った。
 それは、単に俺が机に座っているからのはずだが。
「そう思うか?」
「うん、そう思うよ」
 いつものように微笑みながら、あかりは右手に持っていたピンク色の筆箱を鞄にしまおうとする。
「…って…あかり、そりゃ一体なんだ」
 筆箱のように見えたものは小さなメークポーチだった。
「これ?志保が買え買えってうるさかったから」
「お前…化粧始める気か?」
「まさか。みんな笑っちゃうよ」
 あかりはそう言ってまた微笑んだ。
600放置の予感…その1:2001/01/29(月) 22:43
「志保は一緒にファンデや口紅買えって言ってたけど…」
「買わなかったわけか」
「お金もないし…ファンデや口紅まではね…」
「んじゃ、その隅にクマでも縫い付ける気か?」
「あ。それいいかもね」
 半ば冗談で言ったのだが、どうやらあかりは本気で取ったようだった。
「バカ。そんな事したら、ただのオモチャじゃねーか」
「…そうかな?」
 小首を傾げて言う。
「せっかく高い金出して買ったんだから、しっかり使えばいいだろ」
「うーん…でも…どうしようかな…」
「計画性ない奴だな」
「うん…そうかも…」
 またあかりが上目使いで俺を見つめていた。
 しゅっ。
「ん?」
 紙が擦れるような音がする。
 見ると、右の机にあったプリントがこちら側に滑り落ちるところだった。
「あ…」
 かたん。
 あかりが椅子から立ち上がり、落ちたプリントを拾う。
「窓、やっぱり閉めた方がいいかな?」
「ああ…」
 返事をしつつも、俺は窓の方を向いていた。
 窓は、左だ。
 机の上にプリントを戻したあかりは、窓の方に向かって歩いていく。
「…バカ。…先に窓を閉めなきゃまた落ちるだろ…」
「あ、そうか」
「…いいから、さっさと閉めろ…」
601放置の予感…その1:2001/01/29(月) 22:43
 ぱたん。
 あかりが窓を閉める。カーテンとあかりの前髪が、開けたときと同じように舞い上がった。
 プリントは右側に少し動いたが、落ちない。
 窓を閉めてしまうと、部屋は意外なほど静かになった。俺たちの他に残っている連中はほとんど勉強しているか寝ているかだ。
 あかりが戻ってきて、また椅子に座る。
 俺は腕時計に目をやろうとした。
 …が、うまくいかなかった。あかりと完全に目が合ってしまう。
 しかも、今までとは違って瞳が真っ直ぐ俺を見つめていた。
 反射的に目をそらす。
 こういう時に限って軽口が浮かんでこないのは、我ながら面倒な性格だ。
「…悪ぃ、用事思い出した。先帰る」
 恐らく、動物的勘にかけては、あかりは誰よりも鋭い。
 目をそらしたのが完全に失敗だったことに気付きつつも、俺は机から飛び降りた。その瞬間、微かな香りが鼻をつく。
 がたん!

 勢いよく上がった音にまかせて、鞄をひっつかんで教室から飛び出した。
 そのまま廊下の端まで突っ切り、階段を五段飛ばしで降りる。
 頭はほとんど働かなかった。
 だん!
 俺は一階の廊下に思い切り着地する。
 そのまま、右側に並ぶ教室の方に走ろうとするが…
 その必要はなくなったようだった。
 俺を見つめる、一人の少女の姿が視界に入ってきたからだ。
602回し:2001/01/29(月) 22:44
くるくる…
603回し:2001/01/29(月) 22:45
くるくる…
604回し:2001/01/29(月) 22:45
くるくる…
605回し:2001/01/29(月) 22:46
くるくる…
606回し:2001/01/29(月) 22:46
くるくる…
607回し:2001/01/29(月) 22:47
くるくる…
608回し:2001/01/29(月) 22:47
くるくる…
609回し:2001/01/29(月) 22:48
くるくる…
610回し:2001/01/29(月) 22:48
 …とん。(胸に手を当て、目を閉じる)
611放置の予感…:2001/01/29(月) 22:52
>>599-601

 顛末はこちら…
http://cheese.2ch.net/test/read.cgi?bbs=leaf&key=972297337&ls=50

 描写がやや簡潔すぎるような気がするのは半分狙い、半分は90分で書いたためです…
612ヤン・ウェンリー:2001/01/29(月) 22:55
あれ、なんであがってるんだ?
613名無しさんだよもん:2001/01/29(月) 23:57
「ただいまぁ〜。」
 祐一が玄関から中に声をかけると佐祐理が出迎えた。
「あ、祐一さん、お帰りなさい。」
「あれ?舞はどうしたの、佐祐理さん。」
「あははー、ちょっと買い物に行ってもらいました。それよりも祐一さん、今日が何の日なのか
覚えていますか?」
「勿論。舞の誕生日だろう?」
「それで、サプライズパーティーをしようと思いまして、舞にちょっと時間のかかる買い物に
行ってもらいました。舞が帰ってくるまでに用意をしますので、祐一さん、手伝ってくださいね。」
「もちろん手伝うけど、そんなに早くできるものなのか?」
「大丈夫ですよ、前から準備してましたから。」
「でも、ぜんぜん気がつかなかったけどな…。」
「あははー、当然ですよ。祐一さんにも秘密にしておこうと思ってましたから。」
 それから30分そこそこで、いつものリビングはパーティー会場へと変わっていた。
「スゴイな…一変しているよ。」
「よかったですねー、間に合って。舞が帰って来ちゃったら意味が無いですから。」
「でも、よかったよ。どうしようか決めかねてたから。とりあえず、帰ったら皆でどこか食べに行こうと
思ってたけど、それじゃ何か味気ないからな。」
 その時、ドアの開く音がして舞の声が聞こえた。
「あ、帰ってきたみたいですよ。それでは祐一さんは佐祐理が舞を連れてきたら、このクラッカーを
鳴らしてくださいね。」
 そう言って佐祐理は玄関へと向かった。残された祐一はクラッカーの紐を持って舞が
やってくるのを待つ。
「ほらほら、舞、早くこっちに来て。」
「佐祐理、引っ張らないで。」
 祐一は舞たちが姿を現すと、すかさずクラッカーの紐を引いた。
「ハッピーバースデイ、舞!」
「誕生日おめでとう、舞。」
 佐祐理も隠し持っていたクラッカーを鳴らす。驚いて呆然としている舞の頭にクラッカーから
飛び出た紙吹雪が貼りついた。
614名無しさんだよもん:2001/01/30(火) 01:33
>613
つ、続きが気になって眠られないじゃないか(泣
どうなるんだ、これで終わりなのかゴルァ(゚д゚)
リロードして待ってるんだが、面白くなりそうなところで止まったままだ。
まさか放置プレイか(泣
続くなら「ただいま続きを制作中」とか「続きは出来次第上げます」とか
「待たれよ待たれよ時は短し」とかあおりを書いてくれぇ!!ゴルァ(゚д゚)
615C射腹:2001/01/30(火) 01:45
クラッカーの音が部屋中に響く

パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン

「お誕生日おめでとう!」
「ハッピーバースデイ、舞!」

パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン
616名無しさんだよもん:2001/01/30(火) 01:56
>>615
ヘソ噛んで氏ね。
617名無しさんだよもん:2001/01/30(火) 02:58
「祐一…これは一体?」
 いつもと違うリビングに舞は驚いて祐一に尋ねた。
「ん、知らないのか?これは誕生パーティーと言って、誕生日を迎えた人を祝うための
パーティーだ。」
 ズビシッ!
「ううう…何するんだよ…。」
「そのくらい知ってる。」
「あははーっ、祐一さんも舞もそれくらいにして、早く始めましょうよ。料理が冷めちゃいますよ。」
 料理が冷めるのも嫌だったので、祐一達はパーティーを始める事にした。
「……こ、これは…」
「?」
「どうしたんですか、祐一さん?お口に合いませんでしたか?」
「うまい、美味いよ。まず、この鳥もも肉の照り焼き。このコクのある肉汁と肉の歯ごたえ。
これはブロイラーで決して出せない。いい地鶏の肉を使っているな。そして甘すぎず辛すぎず
肉の旨みを引き出すタレ。まさに絶品だ。そして…」
「祐一、うるさい。…それに美味しんぼはもう古い。」
「クッ…ならクッキングパパで…『今回は本格的なデコレーションケーキに挑戦してみよう。
なあに、スポンジさえちゃんと出来れば後は簡単だ。基本は…』……。」
「………。」
「あ、あははは…。」
「…ごめんなさい。もう静かにします。」
「わかればいい。でも佐祐理、本当にありがとう…。」
「良いんですよ。舞が喜んでくれて佐祐理も嬉しいです。」
「…俺もパーティーの準備は手伝ったのに…。」
618それなりに幸せな誕生日:2001/01/30(火) 03:06
 料理を食べ終わると、佐祐理の提案で佐祐理が借りてきたビデオを見る事にした。
「ア、アラビアのロレンス?あのジョセフ=ジョースターをしてクソ長いと言わしめた…。」
「あははー、佐祐理はもう10回も見ましたよー。何回見てもロレンスの栄光と挫折の日々は
最高ですよー。」
「そ、そうですか…。舞、覚悟しておけよ。」
「…はちみつくまさん。」
 4時間半後、スタッフロールが終わり、ビデオが自動的に巻き戻しを始めると舞は立ちあがった。
「お風呂に入ってくる。」
 それを聞くと佐祐理は立ち上がり、舞に抱きつき耳打ちした。
「佐祐理が背中流してあげますよ…もちろん背中以外キレイにしてあげますからね…。」
「…俺も手伝う事にするかな。3人でするのも久しぶりだし、今夜は寝かさないからな。」
「……(真っ赤)。」
 翌日、祐一と佐祐理は顔を真っ赤にして寝込んでいた。
「うううう…ダルイ、寒い、苦しいぃ…。」
「くしゅん、さすがに夕べはやりすぎましたね…。」
「なあ、舞、力で治してくれよ。」
「ダメ。祐一達は鍛え方が足りない。」
「そんな事言われても、舞と較べないでくれよ…。何せ深夜の教室で服脱いでも風邪一つ…グハッ。」
 祐一がその先を言う前に舞の抜き手が決まっていた。
「あははー、見事な抜き手ですねー、喉、潰れてないと良いですけど。」
「手加減したから大丈夫。きじさんも鳴かずば撃たれないのに…。」
「…舞、ちょっと違いますよ。」
『ううう、何でこんな目に…。』

誕生日に書きたかったけど、パソコンがフリーズ…。by 7
619対放置氏SS-1:2001/01/30(火) 23:29

浩之は、窓に歩いていったあかりの背中を見やった。
さっさと帰りじたくをしようと、机の上のものを鞄につめている最中だった。
あかりは浩之の視線に気づくことなく、カーテンと窓を少しだけ開けていた。
黒板に春の陽射しがさした。放課後の教室。残っているのはあかりと浩之と数人の
クラスメートたちだけ。
まだ暖かさには遠いけど、しかし真冬のつきさすような寒さは和らいでいる風が
教室内にふきこんで、緑のカーテンとあかりの前髪を揺らした。風の通り道にいた浩之の髪も、
同時に捲り上げられる。他のクラスメートは誰も窓が開いたことに気づいていないようだ。
しばらく浩之はあかりが開けた窓の方をぼうっと眺めていた。自分の髪を直すこともせずに。
あかりは浩之の方を振り向き、自分の乱れた前髪を直しながら言った。
「…いい風だね」
浩之はその一言で我に返ったのか、自分の髪を直しながら生返事した。
「…ん…」
あかりは浩之の憮然とした表情にちょっと気落ちした様子を見せたが、すぐに
笑顔で言葉を続けた。
「もう春かなぁ。なんか風が気持ちいいね」
「……」
会話は途切れてしまった。あかりは少し困惑の表情で、手に持っていたものを鞄にしまおうとしていた。
浩之には最初、それがピンク色の筆箱のように見えたが、すぐに別のものであることに気づいた。
「あかり…、そりゃなんだ?」
「ん…、これ、メイクポーチだよ」
あかりは照れくさそうにそれをさっさと鞄にしまいこみ言った。
「志保がね、買え買えってうるさかったから」
浩之は、いかにも信じられないといったおおげさな表情を作って言う。
「へ〜、あかりがお化粧ね〜」
あかりは視線を落として何も答えない。頬の赤みがさらに増したようだった。
620対放置氏SS-2:2001/01/30(火) 23:31
と、その時、浩之がまだ机の上に出しっぱなしにしておいた、ホームルームで配られたプリントが
風に吹かれて宙を舞った。プリントはひらひらとあかりの足元に落ちた。
彼女は腰をかがめてそれを拾い、浩之の机の上に置きなおした。浩之は最初に窓が開いた時の
心地よさを思い出していた。風は止んでいたが、しばらく浩之は無言のままだった。
「窓、閉めてくるね」
「…ああ…」
ふたたび窓の方へと歩いていくあかりを、浩之は先ほどと同じように眺める。ぎしっと音がして窓が
閉じられた。あかりが静かにカーテンを引くと、黒板に差していた陽射しが薄らいだ。
浩之は腕時計を見やった。
「ね、浩之ちゃん。今日いっしょに帰ろ」
浩之は突然のあかりの誘いに少々驚く。いつもいっしょに帰っているのに、なぜかその日の誘いは
特別なもののように聞こえた。
彼はあかりと目をあわさないように、もう一度腕時計に視線を落としてとってつけたように答える。
「悪い、今日用事あるんだ。先帰る」
いつもとは違う雰囲気の浩之に、あかりは怪訝そうな表情を見せたが、浩之はそんなあかりの方を
振り向きもせずに、鞄をひっつかむと教室を飛び出した。
あかりは浩之をあわてて追うこともせず、自分の鞄を持つと、ゆっくりとした動作で教室の扉を開け、
浩之が走っていった方向へと歩いていった。廊下の角を曲がると、最初に見えたのは浩之と一人の
女生徒だった。女生徒はちょっと不機嫌そうな表情をしていた。
あかりはあわてて歩みをとめ、廊下の角からふたりの会話に耳をそばだてた。
621対放置氏SS-3:2001/01/30(火) 23:34
「遅かったじゃない」
「ごめんよ、志保。ちょっと探し物があってさ」
「自分からデートを申し込んでおきながら、この志保ちゃんを待たせるとは、なかなかいい度胸してるじゃない?」
志保は浩之を鋭い視線で見据えてすごむ。
「おいおい、誰が誰とデートだ。買い物つきあってほしいだけだよ」
「それを世間一般ではデートというのよ」
だから、違うって、と浩之は心の中でつぶやくが、口では別の話題をすでに振っていた。
「志保〜、今日はいい匂いさせてんな〜、失恋でもしたのか?」
「何よそれ? ちゃんと日本語しゃべってよ。日本語」
少し機嫌を取りなおした志保も、浩之の最後の一言にカチンと来る。浩之はまた失敗したなと、
心の中で舌打ちした。
次の言葉は無意識のうちに出ていた。
「…あいつもさ、同じ匂い、させててさ…」
あかりはその言葉を聞くと、なにか心の中に暖かいものが浮かび上がってくるのを感じていた。
志保は、ふっと微笑む。
「不思議だよな。同じ匂いなのに、何かが違うんだ。何が違うかって具体的に言えないんだけど…」
浩之は志保の方を見ず、ひとりごとのようにつぶやいたが、それはあかりの耳にもしっかりと
届いていた。
「言えなかったんでしょ。あたしに言ったのと同じこと」
志保のさりげない一言に、浩之は、こいつ、なにもかもお見通しなんだな、と思った。
「素直になれないのよね〜。幼なじみってさ。おたがい意識しちゃうと」
「……」
「さっ、行こうか。ホワイトデーのプレゼントでしょ、浩之の買い物って。そりゃあんたがセンスも
へったくれもないプレゼントすりゃ、たとえ百年の恋でもいっぺんに時空の彼方に吹き飛んじゃうのは
間違いなしだから、この志保ちゃんが、も、ばっちりハート直撃のプレゼントをプロデュースしちゃいますですよ。
まかしとき」
自分の能書きのセンスも人のこと言えないんじゃないのか、と浩之は心の中で苦笑しつつ、階段を降りて
いった。
622対放置氏SS-4:2001/01/30(火) 23:35
あかりは、二人がいなくなった廊下をしばらく眺めていた。
開けられている廊下の窓から吹き込む風も、まだ決して暖かくはなかったけど、あかりはその場を動こうとは
しなかった。鞄の中にしまったポーチを静かに取り出すと、手のひらにそっと包んだ。
風が背後から優しく彼女の髪を捲り上げる。誰もいないのがわかっているのに、
あかりはゆっくりと振り向き、髪を整えた。そして、ポーチをしまうと、浩之が降りていった階段に向かって
歩き始めたのだった。
誰もいなくなった廊下には、風だけが、音をたてずにいつまでも吹いていた。

623sage:2001/01/30(火) 23:37
ロレ
624sage:2001/01/30(火) 23:38
ンス
625sage:2001/01/30(火) 23:38
萌え
626sage:2001/01/30(火) 23:39
627sage:2001/01/30(火) 23:40
628sage:2001/01/30(火) 23:40
629sage:2001/01/30(火) 23:41
630sage:2001/01/30(火) 23:41
しゃん
631sage:2001/01/30(火) 23:42
しゅき…
632sage:2001/01/30(火) 23:42
あははー
633sage:2001/01/30(火) 23:44
634名無シズム:2001/01/31(水) 01:10
不思議だよな。同じ匂いなのに、何かが違うんだ。
何が違うかって具体的に言えないんだけど…

この一言が恥ずかしすぎる気がする。ヒロのキャラじゃねえ
でも他のところは良さげ〜
635名無しさんだよもん:2001/01/31(水) 16:11
対放置氏=放置氏 慈作慈円 稚拙な文を稚拙な文で訂正してる
ここまでくると哀れだな(藁
636名無しさんだよもん:2001/01/31(水) 16:16
634=放置=対放置
637Alfo:2001/02/03(土) 03:53
…こっそりとsageつつ。
しばらくは書き込みのほう、ご遠慮ください。
第十二話 新展開はいつだって唐突に

『ユーイチ君、君が今食べているものに実に興味が沸いたのだが、解説して貰っても良いかね?』
 この赤い塊のことだろうか。
 俺は正直に答える。
「Т−3倉庫名物の紅しょうが尽くしです。なかなか美味いですよ」
『……』
「…美味いってのは嘘です」
『…虚偽の報告はこれっきりにしてもらいたいね』
 あきれた表情の大佐の顔がスクリーン内に映し出されていた。
 彼が直接出てくるってことは、局面は実は深刻になっているのかもしれない。
(ユーイチ?)
 ナユキが小声で俺に囁きかける。
(あの人がユーイチがいつもいってる大佐って人なの?)
「その通り。あれが例の敵兵の血から作った赤ワインを三度の飯より好む変態将軍だ」
 スクリーンには笑顔で血管を浮き出させている大佐がいた。
(随分若いんだね)
「ああ。年齢的には俺と同じか、あるいは少し年上だってことは聞いたことがある」
(へえ…)
「世が世なら、今は普通の学徒だったかもしれないとも、な」
 普通の、という部分に、なぜかしら郷愁のようなものを感じた。
『…まあ、食べながらでも聞いて欲しいんだが』
「大佐、それでは駄目です」
『何故かね?』
「一名、食事をしながらでは社会復帰ができないものがいます」
 アユはたいやきの山に猪突猛進だった。
 比喩でなく、山である。
「アユちゃん、すごいね…」
「ああ、右手と左手と口が、まるでそれぞれ別の生物のように動いてるぜ」
 たいやきの山の向こうからうぐぅと聞こえた。
 反論したかったのだろう。
『私の上司の在りし日の姿を彷彿とさせるよ――いや、まだ生きているんだがな、暫く会ってない』
 大佐は言い訳をするように呟いた。
 たいやきの山がたいやきの丘になった頃、ようやくアユも会話ができる状態になった。
 というか、これ以上はドクターストップが入るから、というのが主な理由らしい。
「つまりはまだ行ける…と?」
 アユは笑顔で首を縦に振った。
『そろそろいいのか?』
 痺れを切らした大佐がいらつきを隠さずにそういった。
「うん、ボクならもういいよ。長い間待たせてしまってごめんなさい」
 アユがぺこっと頭を下げるのを待たず、大佐は話し始めた。
『まずは、補給の方からはじめてもらおうか』
「補給?」
 俺が言い終わるか終わらないかの内に、メニューが俺の席に配られた。
 ナユキにも、アユにもそれは渡された。
 畳んであったそれを開いてみると、そこには見慣れたある物の名前がいくつも書かれていた。
「レミントン、モスバーグ、PSG−1、カラシニコフ、ピースメーカー、コルトパイソン、ワルサーP38…?」
 よくもまあ節操もなくここまで集めたもんだ。
「大佐、補給ってのは…」
『見てのとおり、得物の補給だな』
 なるほど。だから「倉庫」なのか。
「忍者刀、クナイ、十字手裏剣、十手、投げ銭…ぉぃ」
「えと、強化人工知能、耐火フレームに、チェーンハンマー、ドリル…は見逃せないね。あと、目から光線兵器も」
「斧、鉈、刺身包丁、肉切り包丁、中華包丁、穴明き文化包丁―これ便利だよね―、ゴルフクラブに、釘バット…は持ってるからいいや」
 各々適当に独り言を呟きながら品定めをしている。
 三人三様、といったところか。
 中には非常に気になるものもあるが。
「まあ、俺には必要ないですね」
 俺はカタログをテーブルに伏せた。
『君にはデリンジャー、スタングレネード以上の銃火器の類は必要ない…そう言ってたのは君だったかな』
「概ね正解です、大佐」
『相変わらず甘いというか、それとも自信の表れなのか―まあ君が大丈夫というなら大丈夫なのだろう』
「信頼してくれて有難く思います」
 実際、この二つ以外のものを使わないのには理由があるのだが、それはまだ誰にも話したことはない。
 そして、多分これからも、ない。
『まず、これだけは覚えておいて欲しいのだが』
 大佐は手を組み、心持ち猫背の姿勢になって、上目遣いでこちらを見る。
 彼が重要な話をするときの癖だ。
『…現時刻よりこれまでの生活のような安穏とした日常はなくなると思ってくれ』
「……」
『つまり、本格的な戦闘があちこちで繰り広げられるということだ。これまではアキコ…ビーッ…の尽力により派手なドンパチは発生しないようになっていたが、平和の均衡は崩されてしまった。まあ、今の今まで平和だと思っていたものは、ただの睨み合いだったのだがね』
「力の均衡が崩された理由というのは?」
『その質問に対しては、私よりカオリ君に話してもらった方がわかりやすいだろう』
「えっ?」
 振り向くと、スクリーンの反対側のところにカオリがいた…いや、漸く認識できたというのが正しい。
 おそらく、ずっと前からいたのだろう。彼女はそれを隠していただけのことだ。
「カオリ…、いつからいたの?」
「随分前からね。ナユキ達が認識できていなかった、それだけの話よ」
「でも、何でここにカオリが…」
「前にアイザワ君には話したと思うけど、私はこちら側の人間だから。そういうことよ」
 確かに、あの放課後、別れ際に彼女はそう言っていた。
 その真意を掴みきれず、結局ナユキには黙っていたのだが…。
 どうやら、ナユキは知らなかったようだ。
「え、でも、カオリは一般人だったんじゃ…」
「違うわよ」
 声は、反対側から聞こえた。
 スクリーンの前から。
 反射光の影がカオリの顔をヴェールのように包み込む。その影の中に鮮やかに浮かぶ赤い唇がゆっくりと言葉を紡ぎだした。
「力の均衡は既に崩れたわ。それも、…こちらにとって不利に」
 カオリはそこで一度言葉を止めると、顎を引いて訥々と語りだした。
「…ゴースト、いえ、その最たる存在であるGHOSTが、発見されたのよ」
「そういうことか…」
 俺はそうつぶやき、あの日アキコさんから渡された資料のことを思い出した。
 作戦名:核となる幽霊。
 それが今、発動しようとしているのだ。
「確認の為に、いろいろと解説するわね。そもそもゴーストというのは…」
 ゴーストというのは、一言でいってしまえば巨大なエネルギーをもつ『存在』である。それ以外に規定のしようがない。
 そのキャパシティは、一説によると太陽が一日に発するエネルギー量に匹敵するという。
 正体は未だ不明であるが、制御方法だけは既にとある天才科学者によって(既に故人)確立されている。
 ただ、その技術は今のところ明かされることもなく、ゴーストのことを知る人間も僅かにしか存在しない。

 その特徴として力の可塑性が挙げられる。
 ゴーストを利用するためにどうしても必要となる「媒介」の「意思」によって、その力の発現法は全く異なるといってよい。
 「熱」というイメージならば、ゴーストは超高熱の火の玉となる。その実験の所為で二人蒸発した。
 「冷」というイメージならば、ゴーストは絶対零度の空気となる。その実験の所為で五人砕け散った。
 「平穏」というイメージならば、ゴーストは強力なトランキライザーとなる。強力すぎて、精神に影響が出てしまうほどの。
 「闘争」というイメージならば、ゴーストに取り憑かれた人間は誰にも止めることができない。
 また、力の度合いは媒介の意志の強さに比例する。ゆえに、安全な使用にはある程度媒介の意志の強さを下げる必要がある。
 催眠、脳改造、あるいは薬物…。

「…そして、そのゴーストが使われている顕著な実例があのシェルターなのよ。何者も通すことを許さない、徹底した否定の意思」
 前にも言った通り、ゴーストの利用法は独占状態にある。
 そして、それを所有するものこそ我々の敵である「組織」である。
 組織はその力の絶大性から、最早絵空事でしかなかった「武力による世界制覇」を目標としてしまう。そして、それは不可能ではなかったのだ。
 そして、その橋頭堡としてのシェルター。

「―GHOSTというのは、これまでに観察されたゴーストの中でも最大級の力を発する、いわばゴーストの中のゴースト。それが、自分達のシェルターの中にいるって言うんで、組織は上に下にの大騒ぎってことよ」
「ちょっと待った。GHOSTを観測したのは組織なんだろ? なら、なぜそれを探す必要があるんだ?」
「GHOSTは、偶然の産物なのよ」

 ゴーストの力を過剰評価した組織は、遂に最大の失敗を犯す。
 自らのシェルターに水爆を落としたのだ。
 それでも、通常どおりなら確実に防げるとの自信があったのだが、その日、媒介となる少女が「暴走」をしてしまったのだ。
 暴走というよりも、寧ろ迷妄といった方がいいかもしれない。
 ともかく、少女の意識レベルは通常の100000000分の1という信じられない数値を出した。

「自業自得といえばそれだけだけど、ともかく、この町が絶体絶命のピンチとなったわけ」
 ゴーストの加護が得られないシェルターなど、水爆の前には水に濡らした紙に等しい。
 組織の人間が皆諦めたそのとき、この町の中のどこかに、これまでにみたこともないような巨大なゴーストが発生したのだ。
 それは、あまりに大きすぎて、実際の場所を特定することができないくらいに巨大だったのだ。
 その力は上空の水爆本体に向けて放たれ、その「中和」の意志をもって水爆を消滅に至らしめたのだ。

「…以来、組織はその力をGHOSTと名づけ町の中を躍起になって探し回っていたの」
「それが、今遂に見つかってしまったということなの?」
「そうよ。もともと、隠しきれる性質の存在でもないし、ね」
「隠しきれる、ということは、GHOSTは私たちが…?」
「ええ。確かにGHOSTは私たちが所持しているわ」
「…そのGHOSTを組織の手から守り、なおかつその組織を壊滅に追い込むというのが、これからの作戦というわけだ」
「そのとおりよ、アイザワ君。…どうやら、書類には目を通しているようね」
「……」
「ねえ、その書類って?」
「あなたが知っても悪いことが起こるだけのものよ、ナユキ」
「これで、おおよそのことは説明し終わったけど、大佐さん?」
『それでは、作戦における役割分担をしようと思う…。ユーイチ君、君は組織の壊滅を担当してくれ』
「了解しました」
『組織の担当は、あとはナユキ君、カオリ君がついてくれ』
「わかりました」
「…了解」
『アユ君だが…、君はGHOSTの守護に回ってもらうことになるな』
「うん、了解しました」
『以後の指令はアキコ…ガー…から降りることになると思う。諸君の健闘を祈る』
「大佐はこれからどうするんですか?」
『私はこれから南の島でバカンスだ』
「これが終わったら連れて行ってくださいよ」
『ふふ、ユーイチくん、バカンスの意味がわかっていてそう言っているのか?』
「当然ですよ。大佐」
『そうか。せいぜい怪我しないように気をつけろよ。それでは…』

『各々、作戦行動を開始したまえッ!』
「Sir@` yes Sir!」

「一度でいいからこの台詞みんなであわせてみたかったんだよねー」
「なんかこれからすごいことが始まるぞって緊張感がでてくるよね、アユちゃん」
「すまん、お前らの口から緊張感なんて言葉が出てくるとは思わなんだ」
「同感よ、アイザワ君」
 会議を終えた俺たちはたいやき屋の親父の真下からお天道様の元へと帰ってきた。
 一人、アユだけは大佐が守護担当の心構えというのを教えるというので、倉庫の中に残っている。
「なんか、久しぶりに日の光を浴びたって気分にもなれないな」
 体感時間はかなり長かったが、そういった当然のはずの感慨が出てこない。
「まあ、ことがことだしね…」
 ナユキも、未だ実感にはいたってないらしい。
「……」
 香りはしばらく何かを考えていくような表情をしていたが、不意に顔を上げて、こう言った。
「ナユキ、ちょっとアイザワ君を貸してくれない?」
「ユーイチを?」
「俺を?」
 二人は同時に答えた。
「え、なんだってユーイチを?」
「ちょっと連れて行きたいところがあるのよ」
「…例の書類がらみのことか」
「違うわ」
 カオリはきっぱりと言った。
「でも、どうせならユーイチだけじゃなくても私も行くよ。同じ組織壊滅担当なんだから」
 どうでもいいことだが、こいつがいうと物騒な言葉もそうは聞こえない。
「いえ…、今はまだ言えないんだけどね…」
 さっきとは打って変わって、歯切れの悪い返答である。
「…ユーイチはどう思ってるの?」
「俺は…よしておくよ」
「……」
「どうしても俺が必要なら強引にでも俺をひっぱて行くだろう。そもそも、カオリならたいていのことは一人でできるはずだ。そのくらいの実力は持ってる」
 俺がそう答えると、カオリは難しい顔をして、
「…そうね」
とだけ答えた。
「なら、今はとりあえずアキコさんのところへ向かいましょう。これからの指示を受けないと」
「そうするか」
「あ、帰る途中で夕ご飯の材料買っていっていいかな」
「ナユキ、頼むから緊張してくれ」
「これでも緊張してるつもりなんだけどなぁ…」
 ナユキは、信じられぬ一言をはいてから、商店街の向こうにある自宅に向けて歩き始めていた。
 俺とカオリはその後ろ姿を追う。
「なあ、用ってのは一体なんだったんだ?」
 ナユキに聞こえない程度の小声で話し掛ける。
「…今、ここで言ってもどうしようもないことよ」
 カオリは、それだけ告げるとナユキの横に追いついた。
「詮索は、無理か…」
 俺もこれ以上の追及を諦めて、夕闇が迫りつつある街中を歩いていった。
647現在回転中:2001/02/03(土) 04:02
回します。
648現在回転中:2001/02/03(土) 04:07
くる。
649現在回転中:2001/02/03(土) 04:08
くるくる。
650現在回転中:2001/02/03(土) 04:09
くるくるくる。
651現在回転中:2001/02/03(土) 04:10
くるくるくるくる。
652現在回転中:2001/02/03(土) 04:11
くるくるくるくるくる。
653現在回転中:2001/02/03(土) 04:14
狂狂狂狂狂狂狂…<ゲーム違い
654現在回転中:2001/02/03(土) 04:14
……。
655現在回転中:2001/02/03(土) 04:14
…寒。
656Alfo:2001/02/03(土) 04:16
>>638-646
Капоп 〜あ・ごーすと・いん・ざ・しぇるたー〜
第十二話 新展開はいつだって唐突に
657名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 21:57
ぬー、最近どれもイマイチ
新作求ム
658神聖川澄王国:2001/02/05(月) 23:39

登場人物紹介

・舞ザー:正体不明の魔物ハンター。なぜか不死身。
・祐一スキー:七年前の記憶を失った男。なぜか舞ザーの弟子。ていうか飼い主。


舞ザー 「……トンカツは、嫌いじゃない……(もむもむ)」
祐一スキー 「…とにかく魔物狩りに行くぞ(もう来てるんだが…)…で、今日の
作戦は何なんだ?」
「(ごっくん)……囮作戦…」
「…魔物が寄ってくるような格好をして、向こうから罠に飛び込んでくる
様にしむける…」
「囮か……まあ古典的だが有効な手段ではあるかもな」
「…まず、私が手本を見せるから」


※お色直し中です・・・・・・・・・・・・・


舞ザー 「…完成」


★ユニット名:魔物ハンター妖花
 装備:チャイナドレス(お約束)館林ヘアー(なんて髪型?)いつもの剣(銃刀法違反)


 魔物ハンター妖花はそのスリットから見える確信犯的な脚線美で
魔物をおびき寄せて受粉する南米原産の第108代目巨大植物である。


「………言いたいことは山ほどあるが、……とりあえず、なぜチャイナなんだ」
「…これで魔物もイチコロ」
659神聖川澄王国:2001/02/05(月) 23:41

「魔物より先に変なのが寄って来そうだが…しかしお前、やはりその剣丸出しで
歩くのはなんとかならんか? せめて鞘に入れるとか…」
「…ぽんぽこタヌキさん」
「…やはり丸見えは色々とまずいんだが…まあいい、行こう(どこへ?)」
「…待って」
「何だ、まだ何かあるのか」
「…これ、アシスタント用の衣装」
「……うさ耳?」


★魔物ハンター二号


 魔物ハンター二号は一号が帰省中のため急遽ショッカー本部から脱走してきた
改造アシスタントである。改造中に脱走してきたので何の力もない。通称無力の二号。


「いやだあ!!(涙)」
「…上出来」
「うるせー! 大体こんな格好したって魔物が寄ってくる訳ないだろ!!」
「大体何が魔物ハンターだ!! そんな事一匹でも倒してから言って見ろ!!(涙)」
「…倒せないのは…」
「…倒せないのは?」
「…何かの陰謀」
「もうたくさんだあ!!(涙)」


そのころ。

ちびまい「うーん、出て行きづらいよー」
うさみみにお子さまチャイナ着用のちびまいが廊下の影から様子をうかがって
いましたとさ。
とっぴんぱらりのぷぅ。
660名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:41
回転中です。
661名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:43
回転中です。
662名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:44
開店中です。…あれ?(w
663名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:44
回転中です。
664名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:45
回転中です。
665名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:45
回転中です。
666名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:46
…いつもながら面倒くさいです。
667名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:46
回転中です。
668名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:47
いつもより多く回しておりません。
669名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:50
>>658-659
『神聖川澄王国』掲載いたしました。
どっちかと言うとコントに近い気がしますが、たまにはこういう
軽めのネタもいいかと。
なお、元ネタが非常にマニアックな為、かなり人を選ぶ内容になって
おります。やはりビジュアルがないとモテモテネタは苦しい…
670名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:52
とりあえず、2レス分くらいなら回さずとも良いかと。
671名無しさんだよもん:2001/02/05(月) 23:54
>669
笑わしていただきました。シリーズ化きぼん。

ながいけん氏はどこへ消えたのかにゃー。マクー空間?
672悪戯から始まる出会いと別れ:2001/02/06(火) 18:23
「う゛ー…」
 朝。
 だるい。
 頭が痛い。
 喉も。
 …起きるのが、辛い…。

がちゃ。

 ドアの開く音と、声。
「朝〜、朝だよ〜」
「……」
 楽しそうな声が頭に響く。
 …頭痛が酷くなった。
「祐一〜、早く起きないと遅刻しちゃうよ〜?」
 俺より早く起きられたことがそれほど嬉しいのか、名雪は楽しそうに俺に近寄ってくる。
 ぐっ、と布団を掴まれた。
 …剥がす気か?
「…やめれ」
「あ、起きてたんだ」
「…まあな…」
 返事をするのもだるい。
 …これは、もしかして…
「あれ?」
 ふと、名雪が気づいたように俺の顔を覗き込む。
 じーっ。
 そのまま顔を近づけ、じっと俺の目を見つめて。
「祐一、もしかして…風邪?」
「…かも」
 俺がそう返事をすると、名雪はぴとっ、と俺の額に手を置いて。
「……」
「……」
「わ、すっごい熱」
「…そうなのか…?」
 自分ではわからないが、少なくとも驚かれるような体温にはなっているらしかった。
「わたし、お母さんに言ってくるねっ」
「…ああ」
 ぱたぱたと急いで一階に降りていく名雪をぼんやりと見つめながら。
 俺は、再び目を閉じた。
673悪戯から始まる出会いと別れ:2001/02/06(火) 18:24
 がちゃっ。
 ドアが、開かれる。
「あはは…」
 …この声は…
「ふっふっふ…、とうとう年貢の納め時ね、祐一っ!」
「あー、わかったからでかい声出すな。頭に響く」
 ひらひらと手を振って、出ていけのサイン。
「あーっ、今真琴のことバカにしたーっ!! 祐一、今自分がどういう立場かわかってるのっ!?」
「俺は病人だ。普段より優しく扱ってくれ」
「あぅー…、いいわよ、勝手にするから」
 言いながら、足音が近づいてくる。
 ちなみに、俺はドアが開いてからずっと、ドアに背中を向けて寝ていた。
 …足音が、止まる。
「あはは…、これで祐一も終わりね」
 楽しそうな声。
 …微妙に気になって、視線をちらりと真琴の方に移す。
 …コップが手に握られていた。
「…それで何する気だ?」
「え? 決まってるじゃない。祐一にかけて、風邪を悪化させてあげるの」
 いつもにも増して悪質だった。
 洒落になって無い。
「あのな、いくらなんでも怒るぞ」
 言いながら、真琴の腕を掴む。
 ぐいっ。
 ……あれ?
「…あ、あれ?」
 力が入らない。
 …というか、真琴に力負けしている。
「あ…あははっ、祐一に勝ったわよぅっ」
「わーっ、や、やめろーーっ!!」

ばしゃぁっ!!

 ご丁寧に氷まで入っていたそのコップの中身は、見事に俺にぶっかかったのであった。
674悪戯から始まる出会いと別れ:2001/02/06(火) 18:24
 その日の、夜。
「あぅ……」
 真琴が、俺の部屋のドアを開け、中に入ってくる。
「……まだ何かする気か?」
「そ、そんなのじゃないのっ。あ、謝りたくて…」
「……謝りたい?」
 …朝方より強くなった頭痛に悩ませられながら、考える。
 秋子さんあたりに叱られた…んだろうな。
「…あぅ…」
 泣きそうな目で、こっちを見ている真琴。
「……仕方ないな」
「…え?」
「許してやってもいいぞ」
「ほ、ホントっ?」
 俺のその一言に、ぱぁっ、と顔を明るくする真琴。
「ああ。…ただし、条件付きだ」
「え…? な、何…?」
 不安そうに俺を見る真琴。
 ころころと変わる表情を眺めているのも楽しかったが、それよりも気にかかることがあった。
「ここんとこ毎日、このくらいの時間になると…俺は何してたか覚えてるか?」
「え、えっと…、外。学校に行ってた」
「ああ、その通りだ。俺は、風邪だろうがなんだろうがそこへ行かなくちゃいけない」
「…そうなの?」
「…腹すかせて待ってる相棒がいるんだよ」
 もし、俺を待ってるんじゃないか、って思うと、今すぐにでも行きたくなる。
 …が。
「だが、さすがにこれだけ風邪が悪化した状態で外を出歩いたら、命が危ない」
「あぅ…」
 責任を感じているのか、俯く真琴。
「…そこで、だ」
「え?」

 俺は、少し前から考えていたことを口に出す。

「今日は、お前が俺の代わりに行ってきてくれ」
675回し中〜:2001/02/06(火) 18:29
回し中です〜
676回し中〜:2001/02/06(火) 18:29
回し中〜
677回し中〜:2001/02/06(火) 18:30
ちなみに初回し〜
678回し中〜:2001/02/06(火) 18:30
回し〜
679回し中〜:2001/02/06(火) 18:31
千年前にサムライが馬に乗って駆け抜けた…
680回し中〜:2001/02/06(火) 18:31
不思議の扉が開く。
681回し中〜:2001/02/06(火) 18:32
郵便ポストに潜り込み、水道ガス管くぐり抜け、テレビのアンテナ発射台だ。
682回し中〜:2001/02/06(火) 18:33
……回し中です〜
683回し中〜:2001/02/06(火) 18:33
…回し完了っ。
684名無しさん だよもん:2001/02/06(火) 18:36
>>672-674

とりあえず、前編だけです。
今日は時間がもう無かったので、明日にでも後半がUPできれば、と思います。

685名無しさんだよもん:2001/02/07(水) 07:15
sageながらも期待大
 急な連休に思いついた温泉旅行。予約もなく温泉街にやってきた茜と浩平だったが、
さほど苦労することなく宿をみつけることが出来た。
「いい湯だったなぁ…」
 浩平はさきに湯をすませ、部屋に戻ってきていた。部屋を出るときは
なかった布団が、料理とともに部屋に並べられている。ぴたりと並べて
敷かれたふとんを見て、浩平は思わず笑ってしまった。
 これを見た茜はどんな反応をするのか。
 浩平はそんなことを考えながら、テーブルに並んだ料理に目をやった。
いつも茜の手料理ばかりを食べているせいか、少し新鮮に感じる。
「お待たせしました」
 と、部屋のドアが音もなく開き、浴衣姿の茜が姿を見せた。いつもは均等に
ふたつに分けて編んである三つ編みも、湯上りのためなのか、大きく簡単に
束ねてあるだけで、それが浴衣の彼女に似合っていた。
「…そこで、ご夫婦ですか、と仲居さんに尋ねられてしまいました」
 恥ずかしさからか、それとも湯上りのせいなのか、わずかに上気した頬を
隠すようにうつむきながら茜が呟く。その視線の先には、わざとそのままに
しておいた布団があった。
「で? 茜はなんて答えたんだ?」
 浩平は、そんな茜の視線に気づかないふりをして問い掛ける。
「…秘密です」
 茜は浴衣を正してから浩平の正面に正座した。その答えを聞いて浩平が曖昧に
微笑んだので、茜はなおさら恥ずかしそうに顔を伏せる。
「ビールじゃ雰囲気でないと思ってな。日本酒にしておいてもらった。
甘口だそうだから、茜でも大丈夫だろう」
 言って、浩平はそれを注いで茜に勧めた。茜は少し戸惑ったものの、
浩平の差し出した日本酒を受け取り、口元に近寄せる。ちょっと香りを
かいでからぺろりとそれを舌で舐めた茜は、わずかに笑みを零した。
「…美味しいです」
「そうか。まあ、茜はもともと強いからな。平気だろう」
 浩平も自分の分を手にとる。そして小さく乾杯をした後、二人は並べられた料理を
楽しみ始めた。茜は料理を食べる前にそれを見つめ、盛り付けなどに感心してから
味を楽しみ、その味の感想も嬉しそうに浩平に話した。普段ならばなんでもない
会話も、温泉旅館という雰囲気がより和やかな会話に変えていく。
 料理を食べ終わると、茜がすっと立ち上がった。
「ん? 入りにいくのか?」
「はい、せっかくの温泉ですから。…浩平は、いかないんですか?」
 畳の上に寝転がるようにくつろいでいる浩平を見下ろすように、茜が問い掛ける。
「俺は少し休んでからにするよ。満腹で湯船につかったら、気持ちよくてそのまま
眠っちまいそうだからな。せめて混浴だったら、お供したんだが…」
「…浩平らしいです」
「だな」
 くすくすと、珍しく笑顔を隠さずに笑う茜を見て浩平も笑った。
「ま、ここの温泉は24時間いつでも入れるらしいしな。俺は夜中にでも入りにいくよ。
星が綺麗だろうからな」
「男湯は露天風呂なんですか?」
 浩平の言葉を聞いて、準備をしていた茜の手が止まる。
「男湯は…って、女湯は違うのか?」
「室内です。窓はありますが…あまり外は見えません」
「覗きを防止するためなんじゃないのか? この辺結構、背の高い旅館多いし」
 少しがっかりした様子の茜をなだめるように浩平がフォローを入れたが、
しかしわずかに酒気を帯びている瞳を浩平に向けた茜は、
「…ずるいです」
 と、ぽつりと一言呟いた。
「こればかりは俺に言われてもなぁ…」
「ずるいです…」
「…じゃあ、男湯に一緒に入るか?」
 浩平は冗談っぽく言ったつもりだったが、茜はそれを本気だと受け取ったらしく、
わずかに唇を尖らせて少し拗ねるような表情を作った。
 二人きりという状況とお酒の効果、旅館という雰囲気が、普段の彼女から
隠れている表情を引き出してくるのかもしれない。
「私は男湯に入りたいのではなくて、露天風呂が羨ましい、と言ったんです」
「だから、露天風呂に入りたいんだろ? 男湯は露天風呂だぞ」
 浩平は少し大げさに、星は綺麗だろうなぁ、とため息を混ぜて呟いた。
「…」
 思案し始めたのか、茜は口元に手を当てて押し黙っている。
 盗み見るように茜の表情を確かめ、その顔にわずかに迷いの色を見つけた浩平は、
さらに言葉を続けた。
「今日は俺たち以外に客はいない、って旅館の女将さんもさっき言ってたしなぁ。
今日は貸切みたいなものですよ、って笑ってたの、茜も聞いてただろ?」
「はい…」
「茜も露天風呂は入りたいよな?」
「はい…」
「…じゃあ、決まりだ」
 浩平は悪戯好きな子供のような顔で笑った。
「バスタオルは…とりませんから」
 そう言うのが、露天風呂という言葉の響きに負けてしまった茜の精一杯だった。
 念のため時間をおき、夜も11時を過ぎた頃に二人は部屋を出た。旅館はすっかり
静まりかえり、廊下も風呂までの通路以外はほとんど明かりが消えている。
 茜と浩平は自然と早足になりながら、目的の場所に急いだ。脱衣所の入り口で周囲を
見回し、人影がいないのを確認してから二人は素早く同じのれんをくぐる。
「男湯…広いです」
 脱衣所に足を踏み入れた茜の第一声がそれだった。
「風呂はもっと広いぞ」
「…はい」
 いけないことをしているのかもしれない、という気持ちがどこかにあるのか、
茜の表情がわずかに上気しているように見える。あるいは、男湯に入ってしまった、
という恥ずかしさがあるのかもしれない。
「先、入っていてください…」
 茜は浩平に背を向けると、そう言って目蓋を閉じる。浩平は素早く浴衣を脱いで
脱衣カゴに放りこむと、タオル一枚だけを手にして湯船のほうに出た。
 外に出ると、まだ肌寒い2月の風が浩平の肌を撫でた。一瞬ぞくっとなったものの、
湯船に入ってしまえば逆にその冷たさが心地よい。岩を使った露天風呂の、その岩を
背もたれにしてよりかった浩平は、空を見上げてそれに息を呑んだ。
 湯気が昇っていくその向こうに、無数の輝きが待っていた。わずかに曇っている
空の向こうで、少し欠けている満月が明かりのない露天風呂に光をもたらしている。
「浩平…」
 その月明かりに照らされて、茜が露天風呂に姿を見せた。湯気の向こうに
見えたシルエットがどれほど神秘的かといえば、天女が現れたのかもしれない、
と一瞬本気で浩平が考えてしまったほどだった。
 解いた髪をそのまま背中に下ろし、きっちりとバスタオルで肌を隠した茜はそっと
かがみ、桶で湯を浴びてからゆっくりと湯船に足を入れる。
「…んっ」
 寒い空気とわずかに熱い温泉の湯の温度差に、茜が小さな吐息を漏らした。それから
茜は湯船の中を歩き、浩平の隣までやってくるとそこで腰をおろして肩まで湯船に
つかった。束ねていない髪の毛が、一瞬浮かび、水を吸って静かに沈んでいく。
「髪、いいのか?」
「はい。あとでまとめますから」
 茜はそれから浩平と同じように岩にもたれて、空を見上げた。
「わぁ…」
 驚きが言葉となって、ため息と一緒に茜の唇からこぼれる。
「綺麗です…」
 隣を見ないでも茜が満面の笑みをたたえていることが分かる。浩平はそれでも
そんな茜の笑顔をすぐ隣で見つめ、それから水面をただよう髪に目を向けた。
 水を吸っていつものふわりとしたボリュームを失った髪の毛を、浩平は手を伸ばして
捕まえた。冗談半分でそれを三つ編みにしようとすると、茜のくすくすという笑い声が
聞こえたのに気づく。
「まるで澪ちゃんみたいです」
「はは、そういえばそんなこともあったっけな」
 浩平が笑うと、星空から視線を戻した茜も同じように微笑んだ。自然に目線が
重なると、浩平が少しだけ悪戯に、持ったままの茜の髪を引き寄せる。
 抵抗なく茜の体が傾き、そして視線と同じように唇もまた重なった。
「…なんて答えたんだ?」
 唇を離し、離れずにより距離をつめた浩平は、そのまま茜の耳元に言葉を置く。
「なんのこと…?」
「仲居さんに、俺たちの関係聞かれたとき」
 瞬間、茜の息を呑む音が浩平の耳に届いた。
 沈黙が続き、浩平がその耳を茜の唇に寄せると、茜の唇がきゅっと結ばれたあと、
小さく言葉をつむいだ。
「…そうなるのが夢です、と…」
 茜が精一杯の声で呟いたそれを聞いた浩平は、小さく微笑んだ。
691名無しさん@だよ:2001/02/07(水) 09:42
まあこの程度なら回さなくてもいっかなぁ。…ダメ?
ちゅーことで
>>686-690
裏同棲シリーズ 茜との温泉旅行。です。表はみさき先輩シリーズ(笑)
これはシチュスレで個人的に盛り上がってしまった「茜×温泉×ほろ酔い」
ちゅーのに触発されて勢いで書いてしまったもの。
えっちに流れようかとも悩んだけれど、方向性はとりあえず「萌え」で。
まだリハビリが足りない。
続きもあるがここに書くには文章的に恥ずかしすギル。ので没。

この話はネタ提供してくれたシチュスレの「名無しさん@見習」さんにささげよう。
いらんといわれてモナー。
692名無しさんだよもん:2001/02/07(水) 12:29
非常に萌える。よってage。
続きも是非きぼーん。
693名無しさんだよもん:2001/02/07(水) 12:42
>>692
先に回してから上げてね。
694買い物に行こう!:2001/02/07(水) 20:11
梓 「こういちーっ、いるー?」
耕一「・・・大声出さなくても聞こえてるよ。で、何か用か?」
梓 「ん。買い出しに行くから付き合って」
耕一「荷物持ち?」
梓 「そ・う・い・う・コ・ト」
耕一「そういや書きかけのレポートを仕上げないと。
  いやー残念だがひとりで、ってぐぉっ!」
梓 「ほほぅ、そんな事を言うのはここか?!
   今日は商店街が休みなんで、郊外のスーパーまで
   出掛けなくちゃなんないんだ!かよわいアタシに
   ひとりで荷物を持てというのか、あんたは〜!!」
耕一「分かったから、ヘッドロックを、はー、なー、せー」


梓 「分かればよろしい」
耕一「(どの辺が、か弱いっ!どの辺がッッ!!)」
梓 「何か言った?」
耕一「いーや、何にも」
梓 「・・・晩のおかず、マイナス一品」
耕一「うっ」
695買い物に行こう!:2001/02/07(水) 20:14
耕一「でかい店だなぁー」
梓 「最近出来たトコなんだけどね。品揃えはいいけど
   遠くって、一人じゃとても来る気になれないんだ」
耕一「で、俺を生贄にしたと?」
梓 「あはは、それじゃ可哀想だから召使いにしてあげるよ」
耕一「でも、やることは変わらないんだな?」
梓 「うん」
耕一「・・・・・・」
梓 「・・・・・・」
耕一「ワタクシ、実家に帰らせていただきます」
梓 「こらこら何処に帰るのよ。大体、実家ってあたしと同じトコでしょうが」
耕一「ううっ・・・この世に俺の安息の場所は無いのか」
梓 「いいから早くついてくるっ!特売の卵売り切れてたら、
   耕一のせいだからね」
耕一「梓、」
梓 「え、何?」
耕一「おばはんくさいぞ」
梓 「真面目な顔して、言う台詞がそれかーっ!!」
耕一「ぐはっ!(気絶)」
梓 「晩のおかず、マイナス二品!」
696買い物に行こう!:2001/02/07(水) 20:16
梓 「いいなぁ、あんなの欲しいな・・・」
耕一「あずさ〜、俺も卵買ってきた・・・って何見てんだ、お前?」
梓 「ええっ?あ、え、・・・耕一か。驚かさないでよ」
耕一「(じーっ)お前、あれ見てたのか?」
梓 「う、うん。良いなぁって思って」
耕一「・・・梓、お前も年頃の女の子だよな?」
梓 「な、なによ。あらたまって(赤面)」
耕一「じゃあ言うが、普通の女の子は、
   赤い顔して大型冷蔵庫に見とれない、と思うぞ?」
梓 「あうっ」
697買い物に行こう!:2001/02/07(水) 20:18
 「「「「いただきまーす」」」」
初音「ねぇ、梓お姉ちゃん?」
梓 「ん、何?初音」
初音「なんでお兄ちゃんのおかず、おみそ汁だけなの?」
楓 「正確には味噌も入ってないから、お吸い物だと思う・・・」
梓 「・・・ダイエットだってさ」
千鶴「そうなんですか、耕一さん?」
耕一「うぅ・・・」
698買い物に行こう!:2001/02/07(水) 20:21
楓 「・・・何してるの?」
梓 「わっ!・・・って楓か。どうしたの?こんな時間に」
楓 「ちょっと喉が乾いて。姉さんは・・・夜食?」
梓 「あ〜そうそう、夜食。夜食つくってんだよ、うん」
楓 「夜中にそんなに食べるの、身体に悪いと思うけど・・・」
梓 「い、良いんだよ!お腹すいてるんだから!」
楓 「・・・ならいいけど」

楓 「それじゃ、おやすみなさい」
梓 「ああ、おやすみ」

楓 「・・・梓姉さんも嘘が苦手なんだから(笑」
699"梓"原理主義者@過激派:2001/02/07(水) 20:41
あうぅ、
カギ括弧が全面的にずれてますね。何故?
ともかく『梓たん好感度UP計画』その壱……のつもりだったんですが、
果たしてみなさんの反応は如何に?
700名無しさんだよもん:2001/02/07(水) 23:51
茜激萌へ〜!
文章も非常にいい感じ。
葉鍵板っぽいSSですごく良かったです。

買い物に行こうは会話オンリーですね。
書きにくかったと思います。
で、ここは2ちゃんなんではっきり言わせてもらうといまいちです。
書き慣れていないような感が、というかお約束すぎな展開です。
きついこと書きましたがこれからもがんばってください。
701名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 13:31
会話オンリーの大御所、しゅたいなあを皆さんはご存知ですか?
702詠美if:2001/02/08(木) 15:54
詠美は一人になった。例の『乱雑コピー本事件』以来、詠美は取り巻きやサークル仲間から干され、今では漫画を描く事もなく毎日を屍のように生きている。由宇や和樹が時折、励ましにくるが、今の詠美はその優しさを素直に受け止める事は出来なかった。 そのくせ彼女は人一倍寂しがりだから毎晩、彼女は誰にも知られる事なく枕を濡らしていた。
『寂しい』
素直になれない彼女には決して口に出来ない言葉。それを口にしてしまえば和樹に負けた事を認めてしまうことになるし、何よりも今までの自分を否定してしまう事になる。ゆえに決してそれは決して口に出来ない言葉だった。
「そこのカノジョ、ちょっと俺とアソバナイ?」
死語にも近いナンパ文句。 普段の詠美なら絶対についていくことはなかっただろう。だけど寂しさと悲しさに苛まれていた彼女は自分に声をかけてくれたその男についていってしまった。この時の詠美は人から声をかけてもらった事がただ嬉しかったのだ。
703詠美if:2001/02/08(木) 15:55
男に連れて行かれたのは今では誰にも遣われていない廃ビルの一室。そこは昼間でも薄暗く、辛うじて付く裸電球がなければ足元すら見る事が出来ない。さすがに不安になった詠美は男にここで何をするのか訊いた。すると男は詠美の質問に答えず代わりにポケットからナイフを取り出した…。
「…ッ!?」
突然、目の前に光り物を出された詠美の背筋が凍る。同時にようやく自分の置かれている状況に気付いた。 これは今まで素直にならなかった自分への罰だろうか? ナイフの光沢を見ながら一瞬そんな事を思う。
(だとしたら酷すぎる!)
詠美は男が近寄るよりも早く、持てる限りの勇気を持って男に跳びかかった。
「!!」
男は思わぬ抵抗に一瞬たじろいだ。それが幸いした。詠美は持てる限りの力でナイフを持つ男の手にしがみついた。バランスを失い、もつれるように倒れる二人。男は空いている方の手で詠美を引き剥がそうとするが詠美も離れない。二人は床の上をじゃれあう様に部屋の中を転げまわった。部屋に積もった埃が衣服に纏わりつくが二人ともそんな事はお構いなしだ。
 クチュッ…。
詠美が男の上を取った時、不意にそんな音がした。一瞬、詠美は何が起きたのか判らなかったが彼女を掴んでいた腕の力が抜けていくことから詠美は何が起こったか悟った。恐る恐る見ると男の脇腹にはナイフが生えていた。そして男はもう何も言葉を発することは無かった。
704詠美if:2001/02/08(木) 15:56
男に刺さったナイフは指紋を取って捨てた。服についた血も前の即売会で壁を殴った時にできた傷が開いて再出血したといえば誤魔化す事ができる。何一つ問題は無い。………だけど身体の震えだけが止まらない。
 さまよう様に町を歩いていると電気屋のテレビが、たまたまニュース番組を流していた。
「速報です。先ほど○×区の廃ビルで二十歳前後の男性が――――」
 最後まで聞く前に詠美は走り出していた。もちろん、あてなど無い。この現実から抜け出せるのならどこでもよかった。もっとも、そんな所はありもしないのだが…。
 走り疲れ体力が尽きた場所は偶然にも彼女にとって皮肉な場所だった。明有コロシアム…毎月行われている同人誌即売会の会場だ。そして偶然にも今日はその即売会の開催日だった。
「あれ? 詠美やないか」
スペースを売り子に任せて外の空気を吸いに来ていた由宇は満身創痍の詠美を見つけた。
「パンダ……」
「どないしたんや、そんなにボロボロで。服だって埃だらけ―――――」
「わああぁぁぁぁん!」
 由宇の言葉を最後まで聞く前に詠美は由宇に跳びついていた。例に無く自分に泣きついてきた詠美に由宇は一瞬驚いたが、一呼吸し落ち着くと詠美の背中を優しく撫ぜてやった。
「わたし…わたしぃ………」
 詠美はそんな由宇の胸でただ泣きつづけ、しばらくすると由宇の胸の中で泣き疲れて眠ってしまった。
705詠美if:2001/02/08(木) 15:57
即売会のスタッフ詰め所で由宇、南、和樹の三人は眠っている詠美をただ見つめていた。
「どうしたのかしら、詠美ちゃん」
「わからへん、ウチも突然泣きつかれただけで何があったのかは訊いてないんや」
「そうか、でも詠美の奴よっぽど辛い事があったんだろうな」
「え?」
「だって詠美、寝ている今だって泣いてるじゃないか」

詠美は夢を見ていた。
自分の描いた漫画をみんなが喜んでくれる。
みんなが自分のことを認め、必要としてくれている。
自分のスペースには今日も人が沢山集まり、売り子も自分も手が離せない。
やがて本も完売し一段落ついた頃いつもの様に由宇がやってくる。
由宇は相変わらず挑発的で、そんな彼女に腹を立て私達はいつものように収拾のつかない喧嘩を始めてしまうのだ。
ふと横をみるといつの間にか来ていた南や和樹が私達の喧嘩を困った顔をして見ている。
やがて由宇が和樹を巻き込み事態は、ますます収拾がつかなくなるが、毎度のように最後は南の一喝でようやく喧嘩は収まるのだ。
腹が立つ事もあったがとても楽しかった。
涙を流す事もあったが励ましてくれる友達がいた。
ずっとこのまま楽しくやって行けると思ってた。

そんな、『悲しい夢』を詠美は見ていた…。
706詠美if:2001/02/08(木) 15:57
「ここに大庭詠美さんは居ますか?」
突然、詰め所のドアが開き即売会とは明らかに縁のなさそうな中年の男性が入ってきた。
「すみません、ここはスタッフ以外の人は―――」
南が全て言いきる前に男は「失礼」と南の言葉を制し背広の胸ポケットから警察手帳を取り出して見せた。それを見て和樹達の表情が強張る。
「あの、詠美が何かしたんですか?」
「いやね、3時間ほど前、○×区の廃ビルでナイフで刺された男が発見されましてね、聞き込みをしたところ彼女が現場から逃走するのを見たという証言が得られまして…」
 面倒そうにそう説明する刑事の目はしっかりと詠美の服の裾に付いていた血痕を捉えていた。
「刺された男も婦女暴行のマエ(前科)がある男でしてね、大方どうゆう状況だったか想像はつくのですが一応、彼女に御同行してもらい事情徴集しないことには……」
「そうですか……」
そういって南がうなだれるのと同じに詠美は目を覚ました。
「…………」
詠美は男を見て全てを悟った。
「大庭詠美さんですね? ○×署の者です。2、3伺いたいことがありますので署まで御同行お願いできますか?」
「……はい」
 詠美はもう観念していた。 いや、もう未練が無かったと言った方が正しいのかもしれない。どうせ先ほど夢で見ていたような光景はもう見る事が出来ない。寂しい思いをするのならどこにいても同じだ。だったらなるべく知り合いの居ないところの方がいい。
「それじゃあ、行きますか」
「あの、混乱は避けたいので手錠とかは…」
ようやく自分の仕事を思い出した南は刑事に手錠をつけないよう催促した。
「わかってます、私も彼女を晒し者にするつもりはありませんから」

707詠美if:2001/02/08(木) 15:59
実際、刑事の配慮は行き届いていた。手錠をかけなかったのは勿論、パトカーも即売会の会場から離れたところに止めてあった。
由宇達が見送りについてくる間も詠美は一度も由宇達の方を見る事は無かった。和樹達もかける言葉が見るからず黙って刑事と詠美の後ろをついてきた。
「じゃあ、行こうか」
刑事は紳士のようにパトカーの後部座席のドアを開け詠美に乗るように促す。詠美はいつに無く殊勝で刑事に軽く頭を下げパトカーに乗ろうとした。

「アホ詠美!!」

由宇の声。パトカーに乗りかかった詠美の動きが止まる。
「待ってるからな! 早ぅ、帰ってくるんやでっ!」
「詠美! 俺だって待ってるからな! 帰ってきたらまた一緒に本を作ろうぜ!」
「詠美ちゃん、私も待ってるから」
詠美は振り返らない。いや、振り返れなかった。だって見られたくなったから、久しぶりに流す『嬉涙』を。
                     
   完
708詠美if:2001/02/08(木) 16:06
>>702-707
「詠美if」
誤字脱字があっても笑わないでね。変なとこがあった時は教えてね。
あと>>702で「決して」が連続で遣われてる変な文があるけど、それは単に前の「決して」を消し忘れたから。
あぁ、鬱だ。
709名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 21:11
変わりに
710名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 21:11
回して
711名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 22:02
回して
712名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 23:08
回して
713名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 23:30
回るよ〜
714名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 23:31
回れGOGO!
715名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 23:32
回ります。
716名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 23:33
クルクル
717名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 23:34
そろそろかな?
718名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 23:35
回し終わりました〜。
719名無しさんだよもん:2001/02/08(木) 23:39
>>702-707
詠美If。
作者からのお願い(?)は>>708
「…じゃあ、さっそくその夢を俺がかなえてやろう」
「浩平…?」
 茜が分からない、といった風な声を零す。その声を耳元で聞いた浩平は、
声は出さずに口元だけで笑うといきなり立ち上がった。
 薄暗いとはいえ相手の顔ぐらいならば認識できる明るさのなかで
いきなり立ち上がった浩平から、茜は慌てて目を逸らす。
「なっ、なんですか…いきなり」
 思ってもいなかった浩平の行動に、茜は顔を赤らめてうつむいた。明らかに
動揺している彼女を見下ろし、今度は声を出して浩平は笑う。
「そんなに慌てなくてもいいぞ、ちゃんと前は隠している。それに俺はただ、
背中を流してもらおうと思っただけだ」
「背中…?」
 浩平の口調がいつもと同じなので、いくらか落ち着きを取り戻した茜が
不思議そうに顔をあげた。
「ああ。ずっと思っていたんだ。茜に背中を流してもらいたいなぁ、ってな。
いま住んでいるアパートの浴室は狭いからな。…結婚したら、と思っていたんだ」
「浩平…」
 浩平の言葉に少し照れくささが含まれていることに気がつき、茜は
思わず彼の名前を呟きながら笑った。それから自分も立ち上がった茜は、
「…背中、流します」
 と浩平の顔をまっすぐに見て微笑んだ。
721名無しさんだよもん:2001/02/09(金) 00:37
>>700
このHPにある梓SSはどうだろう?
ttp://www.jupiter.sannet.ne.jp/dokudami/
コピペはマズイんで。
 露天風呂の洗い場まで移動した浩平は、イスに腰を下ろした。風は冷たいものの、
充分に湯につかっていて体が温められているせいか、寒さはあまり感じない。
「…じゃあ、頼む」
 言って、浩平は茜にタオルと石鹸を手渡した。濡れた髪をタオルで頭の上にまとめた
茜は、さっそく石鹸を泡立て、浩平の背中にそれを当てるとゆっくり動かし始める。
 タオルを持っていない左手が、浩平の肩に触れた。
「頭、重くないか?」
「慣れてます」
 背中を滑るタオルのやわらかさを感じながら、浩平が間をうめるように問い掛けた。
茜はちょっとおかしそうに笑って答える。
「…かゆいところはないですか?」
「前だ、といったら…」
「知りません」
 いつもの調子で呟いた浩平に、茜が可笑しさを隠した声を返す。それでも手は休む
ことなく、やがて浩平の背中の隅々にまで石鹸の泡が行き届いた。
 桶に湯を汲み、その泡が全て流れるまで、茜は丁寧に浩平の背中に湯をかける。
その間もずっと、茜の左手は浩平の肩に触れていた。
「…終わりました」
 やがて、茜が少し名残惜しそうな声で呟いく。
「ああ、ありがと…」
 言って、振り返ろうとした浩平の顔を、茜の左手が制した。浩平の頬を触れる
ほどの力でおさえながら、それでもその場所からその左手は動かない。
「…茜?」
 振り返れず、茜に背を向けたままで問い掛ける浩平。
「…私が良いというまで、振り向かないで下さい」
 その言葉と同時に、茜の手が離れた。そして、わずかな物音。
「…いいです」
 言われるまま振り向いたそこに、白くて華奢な背中があった。
「私の背中も…流してください」
「茜…」
 なんと返事をして良いか分からずに、浩平は思わず名前を呟く。そんな彼の
様子を背中で感じ、茜は自分でも驚くほど素直に笑っていた。
「私の背中、流したくありませんか?」
「い、いや…もちろんそんなことはないんだが…」
「…では、お願いします」
 茜の言葉に冗談が含まれていないことに気づいてる浩平は、タオルと
石鹸を手にとった。
 わずかに濡れているその背中は、月の明かりを帯びたかのように白く、
触れるのに一瞬躊躇してしまいそうになるほど綺麗だった。
 ただ、触れると思ったよりも冷たいのは、背中を流している間に
湯冷めをしてしまったせいかもしれない。
 浩平は少し熱めの湯を茜にかけてから、その背中にタオルをあてた。ゆっくりと
優しく自分の肌を包む石鹸の泡の感触と、それを広げていくタオル越しの浩平の
手のひらの感触に、茜は思わず目蓋を閉じる。
「浩平…?」
「なんだ?」
 手を休めずに答える浩平。茜は少しくすぐったそうな笑みを浮かべていた。
「…浩平の背中、大きかったです」
「まぁな」
 浩平がちょっと笑いながら答える。茜もつられたのか微笑んでから、閉じていた
目蓋を開いた。少し視線を上に移せば、そこに星がある。
「…浩平はあの背中で、あの日、私を運んでくれたんですよね」
 問いかけ、というよりも呟きだった。呟いた声が嬉しさと懐かしさに満ちていて、
呟いた茜自身、それを聞いてもう一度微笑んでしまう。
「…あの日から、私は浩平の背中が好きです」
「好きなのは背中だけか?」
 浩平がわざといじわるな口調で問い掛けると、それを聞いた茜はまた笑った。
「私は…」
「嫌いな人に背中を流して欲しいと思ったりはしません、か?」
「…はい」
 茜はまた微笑む。
「…今日の茜は、なんだか良く笑うな」
 そんな茜の声を聞いていた浩平が、ちょっと意外そうに呟いた。茜はその言葉を
聞いてちょっと思案したふうだったが、やがてまた笑う。
「…少し、酔っているのかも知れません。お酒、結構飲みましたから」
「茜は酔うと笑い上戸になるのか。知らなかったよ」
「私も知りませんでした」
 それを聞いて、浩平も笑った。あまりに楽しそうに笑っている浩平の笑顔が見たくて、茜はなんとか背中を向けたまま振り向こうとする。
「きゃっ…」
 しかし石鹸の泡で滑ってしまった茜は、小さな悲鳴とともにイスから滑り落ちて
しまう。洗い場の床に尻餅をつく格好になった茜はそのままバランスを崩して
しまい、倒れまいとして、とっさに浩平に抱きついた。
「うおっ」
 が、浩平もいきなり抱きついてきた茜に驚き、彼女の勢いに押されるような形で、
そのまま洗い場の床に倒れこんでしまった。
 第三者からすれば、茜が浩平を押し倒したように見えたかもしれない。
「…たたた」
 洗い場の床に頭を軽く打った浩平は、反射的にその場所に手をやる。
「こ、浩平…! 大丈夫ですか?」
「あ、ああ。べつになんとも…」
 上から聞こえてきた茜の声に答えるために、浩平は顔をあげ、息を呑む。
 髪をまとめていたタオルが解け、茜の長い髪が自分の体に降り注ぐ。月の光を
程よく反射してぼんやりと輝く髪の、その輝きの中に彼女の白い素肌があった。
「やっ…!」
 浩平の沈黙とその視線で状況を理解した茜は、まず肌を隠さなくては、と判断
したらしい。唯一肌を隠せそうなタオルは、自分の足元にあって、手が届かない。
 茜はちょっと迷ってから、自分から浩平に肌を重ねた。
 浩平の胸板に、柔らかな感触が伝わる。
「…大胆、だな」
「…見られるより、いいです…」
 そう言った茜の声は、恥ずかしそうでもあり、おかしそうでもあった。
「…茜は酔うと大胆にもなるんだな。知らなかったよ」
 浩平は、言いながら茜の背にそっと両手を回す。流しそこねた石鹸の泡が、彼の
手を出迎えた。茜の体がわずかにぴくっと震える。
 と、茜はその手に包まれるのを望むように、より浩平に体を預け、囁いた。
「…知らなかったんですか?」
 熱い吐息が浩平の耳元にかかる。悪戯っぽい声が、二人きりの露天風呂に響いた。
「私は酔うと、大胆になるんです…」
726名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:39
回してみたり。
727名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:40
さらに回してみたり。
728名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:40
いやーしかしさげまわしも
729名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:40
かちゅ〜しゃのおかげでだいぶらくになったよねぇ
730名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:41
みさき先輩シリーズをさぼってなにをやってるんだ@だよは、
と思っている人もいるかもしれませんが
731名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:42
@だよは、表みさき裏茜という人です。
732名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:42
本当は回すほどのものでもないのかも、とも思ったりするのですが
733名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:42
前回はそれで周囲にご迷惑がかかってしまったようなので。
734名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:43
完了。
735名無しさん@だよ:2001/02/09(金) 00:48
>>720 >>722-725
つーことで裏同棲シリーズ茜温泉旅行後編です。
えっちなのを期待していた人(いる?) ちょっと申し訳ないです。
そのあとはそれぞれの想像力で、ということでよしなに。

この話も、もとネタ提供の「名無しさん@見習い」氏にささげましょう。

温泉行きたいゴルァ(゚д゚)
736名無しさんだよもん:2001/02/09(金) 07:47
age〜!
切に続ききぼーん!
737名無しさんだよもん:2001/02/09(金) 16:52
納屋の上で朝日におこされた“彼”はゆっくりと伸びをする。

あの時、奴にたしなめられたのは気のせいじゃないのかもしれない。
少々長く地上に居すぎだ。本当は眠りも必要無いのだ。

『仕種が人間くさいぞ』確かにな。

“彼”が夜通し見守っていた“彼女”は今は飼葉を食んでいる。
その横で、一番気になる“あの子”はよたよたした足取りで“彼女”から乳をもらっている。

もう大丈夫だろう。次はどちらへ行こうか。
“彼”は立ち上がり、もう1〜2年見守りたいのを振り切る様につぶやいた。

「じゃ、行くか」
738名無しさんだよもん:2001/02/10(土) 07:49
>>737
???
739名無しさん だよもん:2001/02/10(土) 18:20
>>672-674
の後編、書き込みます。
740悪戯から始まる出会いと別れ:2001/02/10(土) 18:21
「あぅ…」
 きょろきょろと辺りを見回しながら、真琴は夜の校舎内を歩いていた。
「大体、なんでこんなところまでこんなものを届けないといけないのよぉ…」
 不満を漏らしながら、手にしたコンビニの袋を見る。
「やっぱり、行ってきたふりだけして帰っちゃった方がよかったのかなぁ…?」
 寒いし、暗いし、疲れるし…、と、ぶつぶつと呟きながら、歩く。
 怒っているというよりは、不安そうな表情。
(喋って無いと、こんなところ…怖くて歩けないわよぉっ…)
 前にも一度来たことがあったが、その時は祐一のことしか考えていなかった。
 だから、怖くなかった。
 けど…
「もーっ、誰でもいいから早く出てきてよーっ!!」
 大声で、叫ぶ。
 と…

 すたっ。

 背後に何者かが着地する音と、足音。
「きゃぁっ!?」
「………」
 反射的に体を震わせ、後ろを向く。
 …そこには。
「……?」
「…あ…」

 不思議そうな目で、自分を見つめる人間が立っていた。
741悪戯から始まる出会いと別れ:2001/02/10(土) 18:21
「…だから、今日は真琴が祐一の代わりに来たの」
「……そう」
 黙々と牛丼を食べながら、それだけの返事。
「あぅ…」
「………」
 沈黙。
 ただ、しんとした廊下に舞が牛丼を食べる音だけが響いていた。
「…ねえ」
「……何?」
 真琴の声に、食べる手を休めず視線を向ける舞。
「こんなとこでこんな時間に、何やってたの?」
「……魔物退治」
「…へ?」
「…魔物退治」
 きょとんと聞き返す真琴に、律儀に答えを繰り返す。
「魔物退治って…、その剣で?」
 舞の持っている剣を指さし、言う。
「……」
 こくり。
「ふぅん…」
 てくてくと、近寄って。
「ね、これ、ちょっと持ってみていい?」
 興味深そうに剣を見つめる真琴。
「……駄目」
「えー? なんで?」
「……」
「理由が無いんだったらいいじゃない、ね?」
「……………」
 剣を握っている舞の手をぎゅっ、と握りながら。
 真琴は、目を輝かせて舞を見ていた。
742悪戯から始まる出会いと別れ:2001/02/10(土) 18:22
「わ、わ、わっ…、重いーっ」
「……大丈夫?」
「だ、だいじょう…きゃーーっ!!」
 剣を高く掲げながら、真琴はよろよろと足をふらつかせていた。
 舞は、心配そうな目で真琴を見ながら、おろおろと真琴を見つめていた。
「やっぱり危ないから…」
「だ、大丈夫よぅっ…、ほら、だんだん慣れてきたし」
 未だ足はふらついているものの、一応安定感は出てきたようだ。
 ぶん、ぶんと軽く降りながら、その感触を楽しんでいる。
「ねー、何か試し切りできるものとか無いのー?」
「……」
 真琴に言われ、きょろきょろと辺りを見回す舞。
 その後、申し訳なさそうに真琴の方を見て。
「…無い…」
「えー? あぅー、じゃあ、じゃあ…」
 自分も、きょろきょろと辺りを見回して…
「あ…、そうだっ」
 何かを思いついたように顔をあげ、ごそごそと自分のポケットを探る。
「…何してるの?」
「あははっ…、これよぅっ♪」
 そう言って真琴が取り出したのは、財布。
「…斬っていいの?」
「うんっ、だって祐一のだもん」
 言いながら、舞に財布を投げる真琴。
 ぱし、と軽い音を立てながら、舞の手に財布が渡る。
「……」
 重さから考えて、小銭が結構多く入っているようだった。
「じゃあ、真琴が投げて、って言ったら投げてね?」
「………」
 こく、と頷き、投げる体勢に入る。
 真琴も、緊張しながら剣を構えて…
「…投げてっ」
「……!」
743悪戯から始まる出会いと別れ:2001/02/10(土) 18:23
 投げられた財布が、宙を舞う。
「え、ええぇぇぇーーいっ!!」
 ぶぅんっ、と大きく風を切る音がして…

 がづんっ!!

「あ゛ぅっ!?」
 手に、鈍い感触。
「な…何よぉ…」
「…壁に当たった」
「あぅぅっ……」
 びりびりと手が痺れる。
「な、なんで注意してくれなかったのよぅっ」
「…慣れた、って言ってたから」
「あぅーっ、もっともっと特訓して、もっともっと上手く使えるようになってやるんだからっ!!」
「…私の剣…」
「真琴が牛丼持ってきてあげたんだから、交換よぅっ」
「……」

 何か言いたそうに真琴を見ている舞。

「ね、今度は一緒にあそぼ?」
「…一緒に?」
「うんっ♪」

 にこにこと、舞に向かって微笑む真琴。
 ぎゅ、と舞の手を握って。

「今夜は、寝かさないからっ」
「……使いどころ間違えてると思う……」
「……あれ? そうだったっけ?」
「…多分…」
744悪戯から始まる出会いと別れ:2001/02/10(土) 18:23
 そして、翌日。
 完全にとは言えないが、一応体調を取り戻した俺は、夜の学校へ向かおうと玄関へ。
「じゃあ、行ってくる」
 そう言って、靴を履いて…
「あーっ、真琴も行くーっ♪」
「…はぁ?」
「今日も学校行くんでしょ? だったら、真琴もっ」
 にこにこと俺を見ながら、靴を履く真琴。
 …昨日一日で舞と仲良くでもなったのかな…?
 …そう簡単に舞が他人に心を開くとも思えないな、とも思いながら。

「じゃあ、行くぞ、真琴っ」
「うんっ!!」

 俺達は、夜の学校へと歩いた。
おまけ。

「ふぇー、舞、お友達増えたんだ」
「……」(こくり)
「わ、すっごいお弁当…、これ、全部自分で作ったの?」
「こら真琴っ、そう言いながらウィンナーを持って行くなっ!!」
「あははっ、先手必勝よぅっ♪」
「……その通り」
「ぐあっ、共同戦線を張るな二人ともっ!!」
「あははーっ、まだまだありますからいっぱい食べてくださいねーっ」
「あぅーっ♪」
746回し中〜:2001/02/10(土) 18:27
とりあえず一段落です。
747回し中〜:2001/02/10(土) 18:27
ただ、もう少し長く書きたいのも事実です…。
748回し中〜:2001/02/10(土) 18:28
ネタが浮かんだら、続きを書くと思います。
749回し中〜:2001/02/10(土) 18:29
そのときには、もう少しレベルアップしていたいですね。
750回し中〜:2001/02/10(土) 18:30
あとは…、他のSS書きさん達のSSにも、感想を纏めて書いておきます。
751回し中〜:2001/02/10(土) 18:31
感想が貰えると、本当に嬉しいですから…
752回し中〜:2001/02/10(土) 18:31
だから、自分の好きなSS書きさんには、感想を送って、やる気を出して貰いたいです。
753回し中〜:2001/02/10(土) 18:32
あとふたつ…
754回し中〜:2001/02/10(土) 18:32
ラストです。
755名無しさん だよもん:2001/02/10(土) 18:33
>>740-745

もしも貰えるなら、感想お待ちしています。
756Alfo:2001/02/11(日) 10:00
週に一度のКапопの時間〜。
例によって、しばらく書き込みはご遠慮ください。
757Alfo:2001/02/11(日) 10:01
第十三話 彼方から、此方へ

「ナユキのやつ、遅ぇ…」
「そうですね。一体どこまでお買い物にいったんでしょうね」
 アキコさんはそう言うと、湯飲みに入ったお茶を一口啜った。
「…アキコさん、ナユキのこと信頼してるようですね」
「どうしてですか?」
「見た感じですが…あまり心配していないようにも」
「これでも、結構心配なのですよ」
 アキコさんは人形焼をつまんでそう言った。
「私の娘ですから、信頼はしてるんですけどね。それでも、少し心配です」
「そういうもんですか」
 俺も人形焼を頬張った。
「そういうものです」
 アキコさんは湯飲みをテーブルに置いた。
 結局、あの後買い物にいったナユキを商店街において、俺とカオリはミナセ家作戦本部に帰ってきたわけだが。
 ナユキは、一時間経っても帰ってこなかった。
「こりゃあ、かわいそうだがあいつは戦場(ここ)に置いていくしかないな…カオリ、ヘリを出せ」
 場を和ませるために下手な冗談を言う。
「ハインドDでいい?」
「……」
 素で返された。
 俺の心、カオリ知らず。
「なんだったら、私なりのルートでF16とかも用意してきていいけど」
 カオリは少し笑ってそう言い返してきた。
「そのルートを教えろ」
「秘密、よ」
「けち」
758Alfo:2001/02/11(日) 10:02
「まあまあ、ユーイチさん」
 アキコさんが中に入った。
「攻撃用ヘリならうちの物置の中にいくつかありますから、自由に使っていいですよ」
 アキコさんはしれっとそう告げた。
「ま、使うときがありましたらね…」
 と言いつつ、こっそりヘリを使うシミュレーションを立ててみる俺なのだった。
 シミュレーションが遂に敵地潜入! というところまで進んだ所で、カオリが茶々を入れる。
「でも、シェルターの壁についた組織のレーダーが隙間無く監視しているはずだから、空中からの攻撃はおそらく不可能よ。撃墜されて鉄屑になるのがオチ」
「それは初耳だ」
「もともとはGHOSTを探す為のセンサーだけだったらしいんだけど、改良してレーダーも一緒になってるわ。シェルターの壁には、都合2700個のレーダーがついてるから、潜入するなら陸路ね。―あ、でも、ヘリを囮にするならいいかもしれない」
「やけに詳しいんだな」
「まあね。こういうことは情報が大事だから」
「その情報源を教えてくれと言っても、多分教えてくれないんだろうな」
 俺はソファーに深く体を静めながら、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「謎の多い女だ…」
「お互い様よ」
 カオリは、どうやら笑っているらしかった。
759Alfo:2001/02/11(日) 10:02
「そういえば」
「はい?」
「アキコさんとナユキって、親子なのに一緒にいるところをみたことないような気がするんですよね」
 そう、俺の記憶が確かならば、二人が一緒にいるところを見たことはこれまでに一度もない。
「そんなことありませんよ。ユーイチさんが覚えていないだけです」
「いえ、でも俺には…」
「ユーイチさんは覚えています」
 アキコさんは俺の目の前に手をかざす。
 すると急に視界が水の向こうに見える風景のように歪み始めた。
「おぼえていーる、おぼえていーる…」
「あ…、う…」
「そうですよね、ユーイチさん?」
 ……。
 ……。
 なんだか、急にそんな気がしてきた。
「今朝だって、一緒に朝ご飯食べていたじゃないですか」
「…えーと」
「ほら、思い出しました?」
「…あ」
 確かに、今朝はナユキとアキコさんと一緒に朝食を囲んだ…気がする。
「おかしいな、そんなに俺の記憶って不確かだったっけ…」
「少し疲れているんじゃないですか? ここの所ずっと何かを警戒しているようでしたし」
「うーん、そうかもしれませんね…」
 なぜか強引に理由をつけられた気がしないでもないが、とりあえず俺は納得した。
760Alfo:2001/02/11(日) 10:02
「ナユキ、とんでもなく遅いですね」
「これは何かあったと考えるべきなのかしら? 普通の商店なら、もう店じまいの時間よ」
 カオリはちらりと時計を見る。
「この国は、店じまいが早いんだな」
「多分、ここの夜は何処よりも早く訪れるからよ。そして、ここの夜は何処よりも暗い」
「妙に格好つけるな」
「事実を言ったまでよ。アイザワ君」
「……」
「……」
「言われてみればアユも遅い…」
「私は何も言ってないわよ?」
「いや、今のは確かにお前の声だ。お前の心の声が俺に届いた」
「…私はテレパシストじゃないわ」
 カオリはジト目でこちらを睨んだ。
「聞こえたものはしょうがない。ということで、これからは俺に言いたいことがあればなんだって心の中で呟いていいぞ」
「あきれた…」
 カオリの見せた表情は言葉どおりのものだった。
「あ、そのことでしたら大佐さんからお話は伺っています」
「大佐はなんと?」
「アユちゃんはこれから私たちと別行動になるそうですよ。なんでも、守護役と攻撃役が一緒にいるのはまずいだろうって」
「…そうですか」
 言われてみれば確かにそうだ。
 ただ、そうならそうと、あのときに言ってくれればアユに妙な気を遣わずにすんだものを。
「…それは少し失礼だと思うわ」
「なにっ? まさか、お前やっぱりテレパシストなのか?」
「自分で独り言を言っておいて何を言うのよ」
「え?」
「さっきから聞いてると、下手な冗談だとか、シミュレーションがどうだとか、アユに妙な気を遣わずにすんだとか」
「…そうなのか?」
「その、自分が考えることをいちいち口に出す癖、直した方がいいわよ」
「アキコさんは知ってたんですか?」
「便利でしたから今までずっとほっときました」
 マジらしい。
761Alfo:2001/02/11(日) 10:03

「ただいま〜」
 玄関の方から力無い声がする。
「あら、ナユキが帰ってきたようですね」
 俺はその声に反応して玄関のナユキを出迎えた。
「おかえり。ずいぶん遅かったんだな。何してたんだ?」
 言ってみてその台詞が何処となくその辺の頑固な父親臭いなーと考えて、少し恥ずかしくなった。
「なんだか、すごく疲れたよ…」
「まあ、この時間まで出歩いてるんだからな」
「くー」
「玄関で両手に荷物を下げたまま立ち寝するなっ」
「じゃあ、荷物降ろす…」
「玄関で立ち寝するなっ」
 ばたん。
「くー」
「玄関で寝るなっ!」
 だめだ。
 ナユキお得意の半レム睡眠モードになっている。
 こうなったが最後、ナユキにまともな社会生活をさせることはできまい。
「ユーイチ、なんかすごく失礼なこと言ってる…」
 よく見るとナユキに見えないでもない青い放射状の物体は、それでも、自分のことに対する感覚はしっかりしていた。
「ユーイチさん、すいませんがナユキを部屋まで連れて行って寝かせてあげてくれませんか」
「え、でもこれから話があるんじゃ」
「ナユキには明日私のほうから話しておきますから、お願いします」
「わかりました」
 腰をおろし、ナユキの肩を自分の肩に乗せる。
 ナユキの長い髪が、ばさっと頬にかかった。
「ほら、ナユキ。自分でも動け」
「ん〜…」
「結構お前重いんだからな」
「わたし、そんなに重くない…」
「だったらはよ動け」
 ゆっくり、ゆっくりとナユキの足が交互に動く。
 そのおぼつかない足取りで、ミナセ家の階段を上っていく。
 どうやら、本当に疲れているらしかった。
762Alfo:2001/02/11(日) 10:03
「ナユキ…」
「…なに…」
「今まで一体何してたんだ?」
 ナユキの眠ろうとする意識を阻害しないように、小さな声で囁く。
「閉店直前謝恩特別大売出しセール・ファイナルリミックス…」
「それでこんなに遅くなったのか」
「……」
「……」
「…ファイナルリミックス?」
「……」
「…ナユキ?」
「…すー」
 返事は無かった。
 かわりに、穏やかで規則正しい寝息が耳をくすぐる。
 もう眠ってしまったようだ。
 俺はナユキの足が段差にぶつからないように、少し抱え挙げた。
 さっきはああ言ったけど、実はナユキの身体はかなり軽い。
 別にナユキが動かなくても、俺だけの力で十分に上ることができる。
「今度は、そうしてやるか…」
 起こさないように、聞こえないように、俺はそう密かに宣言した。
763Alfo:2001/02/11(日) 10:04
 ナユキの部屋のドアをゆっくりと開ける。
 目覚し時計に囲まれた、いつもどおりのナユキの部屋。
 そこに、主であるナユキが帰ってくる。
 それまでざわめいていた時計たちが、それに気づいて静かに部屋の中に落ちついた…ように見えた。
 部屋の真ん中にあるベッドに、眠り姫のナユキを横たえる。
 その穏やかな寝顔に、戦いの使命がある少女の面影は無い。
 今はただ、眠りの世界に。
 開いたままのドアから外に出ようとすると、ナユキの寝言が夜風に乗って聞こえてきた。
「窓、開きっぱなしだったかな」
 確認のため、もう一度部屋の中に入る。
 窓枠を見ると、そこにはかすかに隙間が開いていた。その隙間から風が吹いてきたらしい。
「う…ん」
 窓の鍵を閉める俺の横で、ナユキが寝返りを打った。
 ナユキの身体はちょうど俺のほうを向く。
 悲しい夢でも見ているのだろうか、ナユキは顔をしかめていた。
 とは言っても、よく見ないとわからないほどの小さな歪みなのだが。
「……」
 黙ってナユキの毛布をかけなおす。
「…おかあ、さん…」
 どうやら、ナユキはその怖い夢の中でもお母さんと一緒のようだ。
 それなら、きっと大丈夫だな。
 俺は安心してもう一度部屋を出ようとした。
「お母さん…どこ…?」
「え…」
「どこ…どこにいるの…」
「…ナユキ…」
 少し、心配になった。
 けど、俺にはこうやって傍観することしかできない。
 どんなに頑張っても、ナユキの夢の中に入ることはできないのだから。
「おかあさん…」

 ―その時、ナユキの目からこぼれた涙の意味を、俺は知らなかった…。
764現在回転中:2001/02/11(日) 10:04
回します。
765現在回転中:2001/02/11(日) 10:05
回してます。
766現在回転中:2001/02/11(日) 10:05
ぐるぐる。
767現在回転中:2001/02/11(日) 10:06
回し文ですから、
768現在回転中:2001/02/11(日) 10:06
特に見るべき内容なんか
769現在回転中:2001/02/11(日) 10:07
ありませんので、
770現在回転中:2001/02/11(日) 10:07
下のリンク先を
771現在回転中:2001/02/11(日) 10:07
見ていただけると
772現在回転中:2001/02/11(日) 10:08
嬉しいです。
773Alfo:2001/02/11(日) 10:09
>>757-763
Капоп 〜あ・ごーすと・いん・ざ・しぇるたー〜
第十三話 彼方から、此方へ

そろそろ新スレの時期でしょうか。
774名無しさんだよもん:2001/02/11(日) 12:31
>>757-763
Капоп 〜あ・ごーすと・いん・ざ・しぇるたー〜
第十三話 彼方から、此方へ

そろそろ新スレの時期でしょうか。

775名無しさんだよもん:2001/02/11(日) 22:14
>>740-745
真琴と舞の組み合わせは新鮮。
だが真のヒロインであるみしおたんとさゆりさんの出番が減少すると考えられるので却下だ(w)
同ネタってどっかにある?漏れはみたことないのだが
776名無しさんだよもん:2001/02/12(月) 03:09
>悪戯から始まる出会いと別れ
うん。面白いっす。
ちなみに真のヒロインは秋子さんと名雪ですけどね(w

>Капоп 〜あ・ごーすと・いん・ざ・しぇるたー〜
うーん、依然として元ネタが判りませぬ。
大昔に質問したのですが、回答が理解できませんでした(泣
777Alfo:2001/02/12(月) 07:10
>>776
あうち。確かにMGSといわれても何のことかわかりませんよねぇ。
元はといえばPSのメタルギアソリッドだったはずなんですが、途中から他の物が入ったりして
なかなかに節操なく展開してしまってます。
武器とかの中途半端な知識があるとさらに楽しめるかと思われます<俺が中途半端だから

あ、キリ番GET。
778あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:11
 あたしは今、重大な危機に直面していた。
 十七年間生きてきて、こんな事態に晒されるのは初めてだった。
 これは神様のいたずら?
 それとも誰かの陰謀?
 そう一人で自問自答を繰り返しながら、あたしはとある学校へ向かう。
 最初は違った。
 最初は仲良しの幼馴染にただ会う為にその学校へ向かっているだけだった。
 しかし何時の間にか目的が入れ替わり…。
 あたしは今や恋する乙女のような面持ちでその学校に忍び込む。
 ついつい手に持っていた手鏡で自分の髪型なんかをチェックする。
 己のにやけた表情に辟易しながら。
 だけどしょうがない。
 これがあたしの本心なんだろうから。
 あたしの名は柚木詩子。
 バリバリの高校二年生。
 ま、実際は出席日数の関係で進級が危ぶまれているが、そんな事あたしには関係ない。
 このとびっきりの瞬間に比べれば、進級問題など物の数ではない。
 そしてあたしは見つける。
 あたしのハートを奪った男、『折原浩平』の姿を。
779あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:11
 彼は相変わらず周りの人と楽しくお喋りしている。
 あれは長森さんと七瀬さんね。
 あたしはこっそり近づき上手く会話に入る瞬間を狙う。
 この行為は子供の時からのとっておきの必殺技。
 昔からこの技を使って教室を混乱に導いて来た。
 一回、ごつい男の先生が泣きながら教室を出て行ったのが記憶に蘇る。
 いや、まあ、さすがにアレはやりすぎた気もするが、後悔はしていない。
 あたしは好きなのだ。
 こうやって会話に乱入する瞬間が。
(…あれ?)
 と、一人で悦に浸っている隙に折原君の姿が何時の間にか消えている。
(あれ? あれ? おかしいな?)
 あたしはらしくもなく混乱する、その時。
780あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:11
「くおら! 柚木!」
 という声と共にあたしにヘッドロックを掛ける誰かの姿。
 その聞き慣れた声と共に技を掛けた人物が誰なのか一瞬で把握する。
 密着した身体の事を思い描き、あたしは頬が赤らむのを必死で堪えながらいつもの軽口
を叩く。
「あれ〜、ばれちゃったかしら?」
「ばればれだ!」
 そう言いながら更に強くヘッドロックを掛けてくる。
 でも、実際はほとんど痛くない。
 恐らく折原君もその辺りを考慮して冗談程度で掛けて来ているんだろう。
 だが今のあたしはこの状況に対して別の事で気を揉まなくてはならなかった。
 密着している。
 折原君と身体を寄せあっている。
 あたしはその事を考えるだけで胸の動悸がどんどん激しくなっていくのが解る。
 だが悟られてはいけない。
 その事を折原君に知られる訳にはいけない。
 何でなのかは解らないが、とりあえずそうしたかった。
781あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:12
「ちょっと浩平。やり過ぎだよ」
 とか何とか考えていると長森さんが割って入って折原君の行動を止めてくる。
 あたしは嬉しいやら悲しいやらの気分で折原君とようやく身体を離す。
 胸の動悸が激しく波打っているのが解る。
 それをあたしは頑張って打ち消そうと努力する。
 大丈夫。
 うん、大丈夫だ。
 そしてあたしは満面の笑みをこぼしながら普段通りに皆に語りかける。
「また来たよ♪」
「そんなのもう解ってるわよ…」
 七瀬さんがナイスな突っ込みをあたしに入れてくれる。
「あはは、やっぱりそう?」
 人差し指で頬を掻きながら、あたしはそう答える。
 にしてもこの学校は楽しい。
 無論、自分の通っている学校も楽しい事は確かだが、何と言うか独特の雰囲気が漂って
いるというか…。
 まあ、もしかしたら折原君がいるからそう思えるのかも知れない。
 とにかく自分の学校に居る時には味わえない新鮮な驚きがある事は確かだ。
 そしてあたしは周囲を見回す。
782あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:12
「♪」
 その中に茜の姿を見つけ、あたしはニッコリ微笑みながら手をひらひらと左右に振る。
 茜もあたしの仕草に気付いたのか、キョトンとした表情で手をひらひらとさせる。
 うん、我が親友ながら相変わらずナイスな返しだ。
 あたしはそこに流れるまったりとした空気を楽しみながら、再び折原君のグループに身
を寄せる。
 そんなあたしの姿を見て折原君が怪訝な顔で話し掛けてくる。
「…にしてもな、柚木。何でお前こんなにウチの学校に遊びに来る訳? 自分の学校は大
丈夫なのか?」
 と、お約束の疑問をぶつけてくる。
 まあ実際出席日数はぎりぎり、テストも赤点が多いあたしにとってその質問はちょいと
頭が痛いと言えば痛い。
 とは言え、そんな事でめげていたら世の中は楽しめない。
 あたしは余裕の笑みで折原君にこう返す。
783あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:13
「大丈夫よー。あたしこれでも頭がいいんだから」
 と、閻魔様に舌を取られかねない一言。
 恐らく去年同様、何とかなるだろうから多少のブラフを語っても問題はないだろう。
「そうだぞ、折原。せっかく遊びに来ている女の子に向かってその言い方は良くない」
 その会話に入り込んで来たのが、折原君の友人の住井君。
 いかにも飄々としたその軽い物腰はどこかの誰かを思い起こさせる。
(…つーか、あたしか)
 自分で自分に突っ込みを入れながら、あたしは住井君のフォローを最大限に利用させて
もらう。
「そうそう、せっかくこんな美少女が遊びに来てるんだから折原君ももっと喜ばなきゃ」
「はいはい、そーでごぜーますか」
 折原君がまるで子供のような仕草であたしに嫌味っぽい返し方をする。
 だけどあたしはちっとも構わない。
 だってそれがあたしの一番好きな彼の仕草。
 一番好きな表情。
 そうこうする内に担任の先生が現れあたしはその場を退散する。
 …つもりだったが逃げ遅れてしまったあたしは折原君と七瀬さんの間でHRが終わるま
で密かに待機する。
 七瀬さんが物凄く困った表情をしていたが、何だかんだ言ってこの状況を上手くフォロ
ーしてくれる。
 あたしは彼女のそういう所が好きだ。
 そして無事HRも終わり、今日も上手く事無きを得る。
 その事実にますます自信をつけたあたしはその後みんなに別れの挨拶を告げ、茜と共に
帰宅を始める。
784あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:14
「…に、しても茜のクラスって楽しいよねー」
 あたしは開口一番彼女にそう告げる。
「…そう?」
 だが彼女はいつも通りの仕草であたしにそう返す。
「そうよー。あたしの学校もそう悪くないけど、茜のクラスは別格! あんなスリル、普
通は味わえないわよ」
「…スリルを楽しむ為に来ているのですか?」
 茜がちょっぴり寂しそうな表情であたしにそう語る。
 あたしはそんな彼女に慌ててフォローする。
「そ、そんな訳ないじゃない。楽しさに任せて長居しようとしたらスリルが舞い込んでく
るってのが正解ね。茜やみんなにも会えるし」
 あたしがそう言うと、何となくホッとした表情で茜は前方を見つめる。
 季節はすっかり冬の真っ只中。
 突き刺さるような寒風があたし達の歩みを遅くする。
785あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:14
「に、しても詩子…」
 ボーとそんな事を考えていると茜が神妙な表情をしながらこちらを振り向く。
「え? なーに茜…!?」
 あたしはその表情を見てビクリとする。
 この顔は何かを訴え様としている顔。
 あたしの隠された本音を言い当てる顔。
(やだ…!? 折原君が好きって事、茜にばれた…?)
 あたしは咄嗟にそう判断し、観念したかのような面持ちで茜と対峙する。
 何でばれたら困るのかは良く解らないが、あたしの直感がばれない方が良いと告げてい
た。
「…最近、思っていたんですが」
 そして茜が真実を告げる前奏曲の第一小節を読み上げる。
 あたしは目を瞑り、この瞬間をいかに切り抜けるかに気力を集中する。
「学校の成績の方は大丈夫なんですか?」
 その言葉を聞いた瞬間、あたしの貯め込んだ気力が華麗に決壊する。
 と、いうか気力という泉が一瞬で蒸発したというか。
 漫画のように道路と口付けを交わしているあたしを見て、茜がキョトンとした声であた
しに話しかける。
786あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:15
「…詩子、どうしたんですか?」
「…いや、な…、何でもないよー」
 すかさず起立したあたしは服を整えながら余裕の笑みを茜に返す。
「いや、最近あんまり勉強してないように思ったので…。気に障ったのなら謝ります」
 茜がさっきのあたしのオーバーアクションを素のままで取ってしまっている事に気付く。
 あたしはまたもや慌てて茜にフォローを入れる。
「や…、やーねー。こう見えても帰ったらちゃんと勉強してるのよ。小学校の時だってそ
うだったじゃない?」
「…そうでしたっけ?」
 茜が痛いところを突いて来る。
 あたしはこの頭の痛い話題を早々に切り上げる為に周囲を見回す。
 すると、あたし達の向かう先にあるお菓子屋で何やら同年代の女の子達がたむろってい
る。
 そしてあたしはその店に書かれたポップを見て思わずハッとなる。
787あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:16
(…バレンタインデーか…)
 恐らく今までの人生の中で縁がありそうでなかった行事の一つ。
 今まで好きになった男の子のいないあたしにとって、この行事は常に蚊帳の外だった。
 だが、今年は違う。
 今年は居たりする。
 チョコレートをあげたい相手が。
 喜んだ顔を見てみたい男の子が。
 だが、そこであたしは頭を悩ます。
(…どうやって渡せばいいのかな?)
 そう、今まで誰にもチョコをあげた事のないあたしにとってこの行為は初体験。
 どんな理由で何と言って渡せばいいのかが全く思いつかない。
 元より本音をついつい隠してしまう自分にとって、真剣に相手に向かい合うという行為
自体どう対処していいのか解らなかった。
 あたしは頭を悩ます。
 くいくい。
 何かがあたしを引っ張る感触。
 くいくいくい、くいくいくいくい。
 その感触は徐々に激しさを増してくる。
788あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:16
「……こ、…子」
 今度は声まで聞こえてくる。いよいよもってあたしの思考を寸断していく。
「詩子」
「きゅあ!?」
 耳元に放たれた呼び声にあたしの思考は現実世界に引き戻され、思わず叫び声をあげる。
 あれ…?
 その横には戸惑いを隠し切れない茜の顔が。
 あ、そうかそうか、あたしついついバレンタインの事で頭が一杯に…。
 茜が不思議そうにあたしに話し掛けてくる。
「…どうしたんですか詩子? チョコレートでも食べたいんですか?」
「いや、あたしが食べたいっつーか、何つーか…」
 そう何とか上手く難を切り抜けながら、あたし達はその店の前を通り過ぎる。
 新しい目標が出来た。そう心に誓いながら。
789あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:17
 そして数日後。
 あたしは先日、茜と一緒に見かけたお菓子屋さんの前に居た。
 バレンタインデーまで後二日。
 案の定、店先はあたしと同年代の女の子でごった返している。
 今までは遠目で見つつもその騒ぎを嘲笑していたあたし。
 そんな過去を振り返ると、何とも切ない気分になる。
 皆こうやって好きな男の子に思いを告げていたのだろうか?
 これだけのパワーを使って恋愛というモノに真剣に立ち向かっていたのだろうか?
 そう考えると、今ここから始まる一連の計画を完遂出来るのか、自信が無くなって来る。
 あたしは生まれつき物事に対して常にいい加減に接する事によって人生を歩んできた。
 それは逆に言うと、本気で揉め事や問題に立ち向かった事がないと言う事だ。
 物事に本気で立ち向かわない人間は事の他、ショックに対して弱い。
 だからいい加減に物事を考えることによって、そのショックから目を逸らさなくてはな
らない。
 これは有る意味、悪循環。
 そのうち、大きなしっぺ返しを食らう予感だけはあった。
(でも…)
 この一戦だけは真剣に立ち向かわなければいけない。
 だってそれは初めての事だから。
 あたしの中で生まれた初めての感情だから。
(…よし!)
 あたしは決意をもって店内に入り込む。
790あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:17
 こざっぱりとした店内は様々なチョコレートがセンス良く包まれながらその存在を自己
主張している。
 あたしはとりあえず一番高そうなのからチェックを入れる。
(げ…? い…、いちまんえん!?)
 思わず声が漏れそうになるのを押さえる。
 噂には聞いていたが大小とりどり色んなチョコが並んでいて、どれが良いのか何が悪い
のかさっぱり解らない。
 正直焦った。
 場違いな場所に来てしまった気がした。
 だがここで逃げ出す訳にはいかない。
 あたしは手持ちのお金『2千円』を手にして、何とかそれなりに高級で美味しそうなチ
ョコを探す。
 そうして探す事、一時間。
 ようやく買えたチョコを手にして、あたしはぎゅうぎゅう詰めの店内から何とか抜け出
す。
「…ふぅ…疲れた」
 結局買ったのはオーソドックスなハート型のチョコ。
 店員さんが名前入りにしますかと言われたがそれはさすがに断った。
 だって上手くいくかどうか解らない事にそこまで気合を入れる事は…。
(…あ)
 そこまで考えてふと考えをやめる。
 また自分の悪い癖が出ているのが解る。
 またいい加減に物事を済まそうとしているのが解る。
 あたしはその事を思い出し、ふと店先を振り返る。
 店内はまだまだ人でごった返しており、再び入る気には到底なれない。
(…もうちょっと人が減ってからにしよう。まだ、間に合うよね)
 そう思い道路でボケーっと突っ立てると。
791あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:18
「あれ、詩子さん?」
 誰かの呼ぶ声があたしの耳に届く。
 一体何事かと思い、後ろを振り向くと。
「今晩はー」
 何と長森さんがあたしを見ながら満面の笑みをこぼしていた。
 こんなところで会うなんて何て奇遇なんだろう。
 あたしも満面の微笑みを称えながら長森さんに挨拶する。
「長森さん、今晩はー。こんなところで会うなんて凄い偶然だね」
 そう返すと、長森さんもペコリと頷き。
「まあ、時期が時期だもんね。で、詩子さんはもう買ったの?」
「…え?」
 あたしは言葉を聞いて、順調に上昇を続けるアドバルーンが破裂したようなショックを
受ける。
 しまった。
 そうだった。
 こんな所で会ってしまったらあたしがバレンタインのチョコを買っているのがモロに解
ってしまうではないか。
 あたしは咄嗟にその場のコンクリートで塗り固めたような嘘を付く。
「や、やーねー。そんな訳ないじゃない、あたしがバレンタインのチョコ買うなんて…。
ちょ、ちょっと通りかかっただけよー。そ…それじゃあね長森さん」
 と言いながら駆け足でその場を離れる。
「あ…、詩子さん?」
 長森さんがキョトンとした表情でその場に残される。
 あたしはその事を考えると軽い罪悪感に襲われる。
 何で素直に言えないんだろう。
 何で普通に本音を語れないんだろう。
 何でいちいち他人に嘘を付いてしまうんだろう。
 あたしは駆けながらひたすら自分にそう問いかける。
 まだ名前を書き込んで貰っていないチョコレートが手の中にあった。
792あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:18
 時間という名の風は一瞬にしてその瞬間を風化させてしまう。
 そして今回もそれは例外では無かった。
 いや、正しくは激しい嵐が巻き起こり、一瞬で時間をけし飛ばしてしまったと言うべき
か。
 こういう心理状態に陥ると、ここまで時が経つのが早いものなのかと一人で感心する。
 そう、来てしまったのだ。
 運命の日、二月十四日が。
 という訳であたしはいつも通りあの学校へ向かう為、昼休みの最中に帰宅準備をすます。
 クラスメートのからかう口調を横目にかわし、あたしは意気揚々と昇降口の方に向かう。
 とりあえず早いところさぼって、先に行きたい所があった。
 この前チョコレートを買ったあの店である。
 実はまだ彼の名前をチョコに書き込んで貰っていなかった。
 先日、長森さんと気まずく別れてしまって以来、何となく行きづらくなってしまったの
である。
 しかしそれも今日がタイムリミット。
 ここまで来たら思い残す事がないように全力を尽くそうとあたしは考えていた。
(とりあえず…、やるだけやってみよ)
 あたしは靴を履きながら、そんな自分を奮い立たせていた。
 その時。
793あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:19
「おい、柚木! 何処行くんだ!?」
 誰かの怒鳴り声が聞こえる。
 あたしは紐を結ぶ手を止めながら、ゆっくりと後ろを振り返る。
 そこにはあたしの担任教師が怒りではちきれんばかりの表情でこちらを睨みつけていた。
(あっちゃー…)
 あたしは心の中で神様に対して不満をぶちまげていた。
 何故?
 何でこんな時に限って、こんな事に…。
 初めて本気になったのに。
 生まれて初めて真剣に物事を取り組む気になったのに。
 しかし神様は何も答えてくれない。
 代わりに答えるのはあたしの担任。
 怒気を振り撒きながらあたしに迫ってくる。
「またさぼる気だったなお前! …今日は日が暮れるまでゆっくりと説教してやる! 来
い!」
 そう喚きながらあたしを職員室に連れて行く。
(違うよ、先生)
(あたしが行きたいのはそっちじゃないよ)
(あたしが本当にやらなきゃいけないのはそんな事じゃないよ)
 目の前から遠ざかる玄関を見つめながらあたしはそう空しく呟く。
 窓越しに見える、しんしんと降り出した雪の欠片が印象的だった。
794あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:20
 あたしは走っていた。
 時間は既に六時を回っている。
 あの後、職員室に連れ込まれたあたしはひたすら続く説教に加え、溜まりに溜まった小
テストなどを延々とやらされてしまった。
 今までのいい加減な行動のしっぺ返しが遂に来てしまったという所だろうか?
 しかもこんな日。こんなタイミングで。
 あたしは空を見上げながら、神様を恨む。
 ちらほらと降って来る薄い雪の結晶がその答えのように感じた。
 そしてあたしは彼の学校へ到着する。
 …と、言っても残ってる生徒など誰もいない。
 あたしは人気のなくなった校門を見つめながら、先日買ったチョコレートをぎゅっと抱
きしめる。
 結局名前を書き入れ損ねたバレンタインチョコ。
 中途半端なシロモノ。
 そしてその中途半端さはまんま、あたしの人生そのものと言っても良かった。
 何をやっても本気でやれないあたし。
 本気で物事に立ち向かうと言う事に恐怖を感じるあたし。
795あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:20
「…ふう」
 そう疲れたような声を出しながら校門横の電柱にもたれかかる。
(…何かもうどうでも良くなってきちゃった)
 そうして弱気の虫が表に出る。
 一生このままなんだろうか?
 死ぬまでこんな中途半端な自分を団子の様に積み重ねながら生きて行くのだろうか?
「…きっとそんな団子は食っても美味しくないだろうな」
 そう、自分に呟く。
 目の前の光景が急速に灰色に帯びて行く。
 数時間前までのきらきら輝く世界はもうあたしの中に存在しなかった。
(…このチョコどうしよう。今日渡せなかったんじゃ何かもう意味ないよね。後日渡すの
は格好悪いし…)
 彼の家の場所を知っていたら良かったのだろうが、あたしはあくまで他校の生徒。
 所詮は部外者である事を今更ながらに痛感する。
 あたしはこの学校の住所ですらはっきりとは解らないのだ。
「…帰ろ」
 そしてあたしは重い腰を持ち上げて、家路に向かう。
796あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:21
 後日。
 今日もあたしは折原君の教室へ遊びに来ていた。
 普段と同じ様に。
 いつもと変わらない軽口を叩く為に。
「あはは、やーねえ折原君、そんな訳ないじゃない♪」
 あたしのいつもの冗談が彼にヒットする。
 彼は例の投げやりな仕草であたしの言葉を軽くいなす。
 あたしはその度にささやかな幸せを感じる。
 結局チョコはまだ渡してない。
 あの後、一応名前だけは入れてもらったのだがそれで満足してしまい、渡すタイミング
を完全に逸してしまっていた。
 だが、それでも何かの機会が訪れるのを期待して鞄の中には常に待機させてある。
 まあそんな機会、自分で作らない限り有り得ないのは解っているが何となく持って来な
いのも寂しく思えた。
 相変わらずあたしは仮の自分を心の中から操るだけの悲しい道化師だった。
「にしても柚木さんって結構美人だよなあ、通ってる所でも結構もてるんじゃないの?」
 と、住井君が難しい質問をしてくる。
「あはは、そんな事ないよ。あたしのクラス可愛い子が多いしね」
 あたしはとりあえず無難な答えを返しておく。
 正直な話、色恋沙汰にはとことん薄いあたしとしてはそう返事する事しか出来なかった。
797あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:21
「ホントに? でもバレンタインのチョコくらいは本命の誰かにあげたりしたんじゃあな
いの?」
 住井君が更に痛いところを突いて来る。
 あたしは折原君を横目で見ながら。
「や、やーねー。そんな人居ないって。うんうん」
 あたしは手の平をパタパタさせながら、そう答える。
 胸の奥がちりちりと痛む。
 自分が嘘を付いている事を攻め立てる。
 あたしはいつからこんなに嘘が得意になってしまったのだろう?
 その事を考えると何となく悲しくなった。
「あ〜あ〜。チョコ欲しかったな〜」
 住井君がそうぼやく、折原君は聞いているのか聞いてないのか解らない表情で机に頬杖
を突いている。
「その点、折原はいいよな。長森さんって彼女がいるもんな」
「…………」
 その瞬間、あたしの周りの風景が止まる。
798あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:22
 え?
 何?
 今何て言ったの?
 え? え?
(…長森さんって彼女がいるもんな)
 彼女?
 誰の?
 長森さん?
 え? え?
 折原君の彼女? 彼女? 彼女?
 そしてあたしは数日前の光景を思い出す。
 長森さんはチョコを買いに来ていた。
 よくよく考えたら何の為に買いに来ていたのだろう?
 当然バレンタインのチョコを渡す為だ。
 誰に?
 誰の為に?
 そんな事は解りきっていた事だ。
 解り切っていた事のはずなのにあたしは気付かなかった。
 何て間抜けなんだろう。何て愚かなんだろう。
 結局、あたしは一人で舞い上がっていただけなんだ。
 ちょっと考えれば解る事だったのに…。ちょっと想像すれば解る事だったのに…。
 だけど…。だけどあたしは…。
799あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:22
「へー。折原君の彼女って長森さんなんだー。よっ! この色男」
 あたしは即座にそう答える。
 だってあたしは駄目な人間だから。
 どんな事でも真剣に取り組めない駄目な人間だから。
 だからあたしは大丈夫。
 全然、気にしてなんかいない。
 こんな中途半端なあたしが成功なんてする訳なかったんだ。
 それは当たり前の事。
 当たり前の事だったんだ。
「でさあ、最近はやってる音楽の事なんだけど…」
 そうしてその日の学校は全て終了する。
 あたしは住井君や七瀬さん、そして長森さんと折原君に満面の笑みを振り撒きながら、
茜と共に学校を後にする。
 普段通りの日常。
 いつもと同じ笑顔。
 大丈夫。うん大丈夫。
 全然気になんかしていない。
 それを証拠に誰にも気付かれなかったじゃないか。
 誰にも気付かれなかったと言う事は何も問題がなかったと言う事なんだ。
 だからあたしは大丈夫。
 大丈夫。
800あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:23
 帰宅途中、あたしはひたすら茜と喋り捲った。
 学校の話、趣味の話、音楽の話、お菓子の話…。
 有りとあらゆる話題を茜にぶつけまくった。
 茜は何とも落ち着かない心持ちであたしの話に相槌を打つ。
 今日のあたしはひたすら元気だった。
 そして、それは当然の事だった。
 今日も茜の学校に遊びに来て、好き放題やって来たのだ。
 折原君や住井君、七瀬さんや長森さん達と楽しくやって来たのだ。
 これで機嫌が悪い訳がない。
「そういえば茜、ちょっと甘い物でも食べたくない? あたし、いいもの持ってるんだ」
 そう茜を促して、いつもの公園のベンチに座る。
「これ、これ。これがまた美味しいのよ〜」
 そう言いながら取り出すのはでっかいハート型のチョコレート。
 本来は別の目的が有ったはずだが今となってはどうでもいい。
 即座に思い出せない記憶はどうでもいい記憶であると何かの本で読んだ事がある。
 だからきっとどうでもいい事なのだ。
801あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:23
「ちょっと大きすぎるよね。バラバラにしちゃおっか」
 そう言いながらあたしは力を込めてハート型のチョコを食いやすいサイズに細かく砕く。
 何やら文字が刻まれているがあたしには読めない。
 元より成績の悪いあたしに英語なんて無縁のモノなのだ。
「はい、茜の分」
 そう言いながら、細かく砕いたチョコの半分を茜に渡す。
 よく考えたら先程から茜の声を一切聞いていないような気がする。
 あたしの気のせいだろうか?気のせいなのだろう。
「おいしいねー」
 そう呟きながらチョコをポリポリ噛み砕く。
 ポリポリ、ポリポリ。
「…あれ?」
 不思議な事が起こっていた。
 チョコをポリポリ噛み砕くたびに目の前の光景が陽炎のように揺れるのだ。
 ポリポリ、ポリポリ。
 チョコレートの美味しさとは裏腹に眼前の光景が更におかしくなっていくのが解る。
 これは何?
 何が起こっているんだろう?
 ポツッ!
 え?
 今度は雨?
 けど空は雲一つない快晴だ。
 じゃあ、この雨は何?
 どこから降って来ているの?
 ポツ、ポツ…、ポツ、ポツ…。
 チョコの味を噛み締めるたびに雨がどんどん激しくなっているのが解る。
 目の前に景色は既に認識が出来ないほど歪んでおり、雨脚は一層激しさを増す。
802あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:24
「…う」
 そして何かが崩れる音。ダムが決壊する瞬間。
「うぅ…うわああああああああああああーーーーーーーーーんッ!!」
 そう泣き叫びながらあたしは横にいる茜に抱きつく。
 もう何が何だか解らなかった。
 頭の中が完全にパニック状態だった。
 茜はそんなあたしを優しく抱きしめながら、ゆっくりと頭をさすってくれる。
「うわあああああああーーーーーーーーんッ! あかねッ! あかねーーーーッ!!」
 大絶叫の中で、あたしはたった一つの真実に行き当たる。
 本気だったんだ。
 あたしは『本気』で彼の事が好きだったんだ。
 『本気』だったからこんなに切ないんだ。
 『本気』だったからこんなに悲しいんだ。
 その『事実』を認めたくなかったんだ、あたしは。
 零れ落ちる涙の量がその事を赤裸々に物語っているように思えた。
 そしてあたしは出発する。
 嘘偽りのない自分を探す旅に。
 この場所、この瞬間から。
803あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:24
 季節は春を迎えていた。
 三年生に何とか進級したあたしは、日々勉強する毎日を過ごしている。
 そのあたしの変わりっぷりに周りの友達や先生も驚いている。
 最近は彼の学校にも顔を出していない。
 話によると皆クラスがバラバラになってしまい、悲しい思いをしているという。
 あの時、あの瞬間はもう戻らない。
 だが、それよりも何よりもあたし自身がもっと成長しなければいけない。
 逃避を求めない強い自分になる為に。
「…詩子」
 校門を通りかかるあたしの姿を見て茜がそう話し掛けてくる。
 最近は茜の方があたしの学校へ来てくれる事が多くなった。
 恐らくはあたしの事を心配してくれているのだろう。
 確かにあの時のあたしを見てしまうとそれも当然と思ってしまうだろう。
 だが、単純にあたしの身を案じてくれる茜には本当に感謝している。
「ありがと、茜」
 だからあたしも満面の笑みで茜の優しさに応える。
804あたしは大丈夫:2001/02/12(月) 14:25
 そして帰りがけ、あたし達はワッフル目当てに山葉堂に寄る。
 茜が買って来てくれるというので、あたしは必死にメニューとにらめっこする。
 そして目に付く一つの言葉。
 あたしはそのワッフルの名前を茜に告げる。
 茜はその名を聞いて不安そうな顔を浮かべるが、あたしはウインクで茜に『大丈夫』と
返す。
 そしてあたし達はいつもの公園に移動する。
 今日のあたしが頼んだのは、『チョコレート』味。
 あの時食べたモノを同じ味だ。
「いっただっきまーす」
 あたしは口を大きく開けて、思いきりワッフルに噛み付く。
 口の中に広がるチョコレートの味。
 淡く、切ない、失恋の味。
 あたしは感慨深げな表情を浮かべながら、空を見上げる。
 雲一つない、穏やかな青空があたし達を包み込んでいるように感じた。
805ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:25
回します。
806ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:26
回してます。
807ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:26
回しています。
808ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:27
回します。
809ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:27
回してます。
810ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:28
回しています。
811ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:29
回します。
812ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:29
回してます。
813ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:30
回しています。
814ほかほか兄さん:2001/02/12(月) 14:34
お久しぶりです。
えーと時期が時期ですので、こういうネタのSSを
書き込んで見ます。
キャラは詩子さん。
ジャンルは一応、純愛ものです。
(けどHシーンはありません)

新作はこちらの方になっております。
>>778-804

良かったら見てやったって下さい。
では〜。
815名無しさんだよもん:2001/02/12(月) 17:07
マンセー!!!
816名無しさんだよもん:2001/02/12(月) 17:25
何だよぉ…詩子さんいい娘じゃねぇかよぉ…
畜生、切ねぇよなぁ…。そういやもうそんな時期なんだよなあ。
817名無しさんだよもん:2001/02/12(月) 23:01
>そういやもうそんな時期なんだよなあ。

痛烈に同意!
言われなきゃ忘れてるねぇ。

さすがほかほか兄さんだぁだぁだぁ。
切なくなりましたよ〜ほろほろ…。
818まんりきくん:2001/02/13(火) 10:46
ほかほか兄さんと詩子に激リスペクト(滝涙)
切ないねぇ……
819名無しさんだよもん:2001/02/13(火) 11:03
菅野ひろゆきが出るというウワサも。
820名無しさんだよもん:2001/02/13(火) 11:40
>>819
誤爆?
821バレンタイン・ディ:2001/02/14(水) 01:41
「ふぁ…」
 夜、遅く。
 これから寝ようか、と思っていたときに、ふと栞に英語の辞書を貸していたことを思い出した。
 今返して貰わないと忘れてしまいそうだったので、眠い体を起こして栞の部屋に向かう。
 こんこん、と軽くノックをしてから、声をかける。
「栞、入るわよ」
 …返事は、無い。
「…寝てるのかしら…?」
 よく考えてみれば、あたしも辞書のことを思い出さなければ寝ている時間だ。
 栞があたしより早く寝ていても不思議では無いと思う。
「…明日で、いいか…」
 寝ているところを起こすほどの用事でも無いかな、と思い、そのまま自分の部屋に戻ろうと足を向ける。
「……あれ?」
 一階から、明かりが漏れていた。
 方向から見て、台所…だろうか。
 親はとっくに寝ている時間だし、栞は今この部屋で寝ているはずだった。
「泥棒、ってわけでもないだろうけど…」
 なんとなく気になって、あたしは明かりの方へと向かった。
822バレンタイン・ディ:2001/02/14(水) 01:42
「…うー…」
 台所には、確かに人がいた。
 ドアから見ているあたしには気づいた様子も無く、ただ作業に没頭しているようだった。
「なんで上手く行かないんだろ…、本の通りにやってるのに…」
 そう呟きながら、がしゃがしゃと作業を再開する。
「…何やってるの?」
「ぅわっ!?」
 びくぅっ、と体を震わせながらながら、豪快に調理器具を横倒しにする。
「わ、わ、わっ…」
「…実の姉の声ひとつでそこまで驚かなくてもいいでしょうに」
「うー…」
 がちゃん、と調理器具達を整頓してから、こちらに向き直る栞。
 水色のパジャマに、ピンクのエプロン。
「…で、何やってるのよ?」
 ため息混じりに、聞いてみた。
「…見てわからない?」
「台所を散らかしてる、ってだけならわかるけど」
「違うもんっ!」
 うー、と拗ねたような表情を浮かべたまま、栞はあたしを見上げている。
 その表情を少し可愛いな、と思いながら、視線を調理器具、そして周りに置いてある材料に移した。
「…チョコレート?」
「うん、当たり」
 にこっ、と微笑む栞。
「それはわかったけど…、どうしてこんな時間に栞がチョコレートを作ってるのよ」
「お姉ちゃん、それ本気で言ってる?」
「……本気で、って……」
 少し、考え込む。
 確か、今日は…
「……あ」
「お姉ちゃん、もしかして本当に忘れてたの…?」
 呆れたような顔で、栞はあたしの顔をのぞき込んでいた。
 栞の誕生日や大学の合格発表等でごたごたしていたこともあり、すっかり記憶から消え去っていた、その行事。
「バレンタイン…だったわね」
「うん」
 思い出してみれば間抜けだった。
 なんでこんなことを忘れていたんだろう…。
「でも…、上手くいかないんだ…」
 俯きながら、悲しそうに呟く栞。
 あたしは、そんな栞の頭にぽん、と手をのせて。
「せっかくだし…、手伝ってあげるわよ」
 そう、言ったのだった。
823バレンタイン・ディ:2001/02/14(水) 01:43
「あ…、12時回っちゃった…」
「ほら、さっさと仕上げるわよ」
「うん…」
 時間も経ち、栞の欠伸も多くなってきた。
「でも、お姉ちゃんってやっぱり凄い」
「おだてたって何も出ないわよ」
「だって、本当にそう思ったんだもん」
 笑いながら、チョコレート作りを進めていく。
「……」
「あれ? お姉ちゃん、どうしたの?」
「…ちょっと、ね」
 言いながら、栞の横へ。
「あ…、お姉ちゃんもチョコ作るの?」
「…ええ」
「ふーん…」
「材料、借りるわよ」
「あ、うん」
 意外そうにあたしを見つめている栞。
「…あたしがチョコレート作ったら、変?」
「えっと、そうじゃなくて…、やっぱりあげる人いるんだな、って思っただけ」
「そりゃ…ね」
「ね、誰?」
 興味深そうに、栞は目を輝かせながらあたしを見つめた。
「…嫌よ」
「うー、代わりに私があげる相手、教えるからっ」
「相沢君でしょ? 他にいないもの」
「えぅー…」
「ほら、栞の分はもうできあがってるみたいだし」
「え? …あっ」
「完成したなら、早く寝ないと明日起きられないわよ」
「うー…」
 不満そうに、あたしを一度見てから。
 栞は、できあがったチョコレートを袋に詰め、大事そうに部屋へと持っていった。
「さて…と」
 これだけ大量に材料があると、結構な量が余るかな…。
 そんなことを思いながら、あたしは自分の分のチョコレート作りを開始した。
824バレンタイン・ディ:2001/02/14(水) 01:43
 その、次の日。
 バレンタインデー当日の通学路は、栞からの質問責めだった。
「…どうしても教えてくれないの?」
「どうしても」
「絶対?」
「絶対」
「うー…、いいもん、お姉ちゃんがそのチョコ渡すところを目撃すればいいんだから」
「もしそんなことしたら、今夜の夕食は栞だけ紅しょうがになるわね」
「…それは絶対嫌だけど…」
「なら、おとなしく自分のチョコレートを相沢君に渡すことだけを考える」
「…うー…」
 なおも質問を重ねようと栞が口を開きかけたところで、校門につく。
「……うー…」
「…どうしてついてくるのよ」
「もしかしたら、下駄箱に入れたりするのかな、って」
「…それは無いから安心して自分の教室に行きなさい」
「はーい」
 未だ不満そうにこちらを見ながら、それでも意外に素直に歩いて行く栞。
 ちらちらとこちらを振り向いたりはしているけれど。
「ふぅ…」
 ため息を、ひとつ。
「…慣れないことはするもんじゃないわね」
 そう、呟いて。
 あたしは、自分の教室へと歩いた。
 
825バレンタイン・ディ:2001/02/14(水) 01:43
「はい」
 すっ、と、手渡す。
「…………………へ?」
「いらないの?」
「あ、いるっ、いりますっ、貰わせていただきますっ!!」
 呆れるほどに、喜んで。
 北川君は、あたしからのチョコレートを受け取った。
「おおお…、でかいな、美坂」
「…まあ、ね」
 大きい目に作ってきたそのチョコレートを手に、嬉しそうに北川君は笑っていた。
 …ちなみに、結構人目を引いていたりした。
「……で、相沢君?」
「ん…、どうした?」
 くるり、と180度向き直って、相沢君に声をかける。
「収穫は?」
「全然。名雪はおろか、栞からすら貰えていないぞ」
 …まあ、一時間目も始まっていない時刻では仕方がないのだけれど。
「仕方ないわね…」
 ごそごそと、鞄の中に手を入れて。
「………はい」
 小さな袋に入ったチョコレートを、手渡した。
「お…、くれるのか?」
「…せっかくだから、ね」
「サンキュ、な」
 がさがさと、袋を開ける音。
「貰ってすぐ食べるの?」
「あそこにいる名雪のおかげで、俺は今日ろくに朝飯を食べて無いんだ」
「ああ…、なるほどね」
 名雪は、相沢君の横でぐっすりと眠っていた。
「じゃあ、遠慮無く食べていいわよ」
「ああ…、お、美味いな」
「…頑張ったからね、一応」
 相沢君が、おいしそうにチョコレートを食べているのを見ていると。
 …少しだけ、栞に悪いような気がした。
826バレンタイン・ディ:2001/02/14(水) 01:44
「お姉ちゃん、チョコはもう渡したの?」
「まあ、ね」
 その日の放課後。
 あたし達は、二人で商店街を歩いていた。
「それで、誰に渡したの?」
「秘密」
「うー…、お姉ちゃんのいじわる…」
 拗ねたように頬を膨らませ、こちらを見つめる。
「まあまあ…、ほら、今日はあたしが奢ってあげるから」
「本当っ?」
 一変して、嬉しそうに微笑む栞。
 本当、表情のころころ変わる妹だ、と思った。
「あんまり高い物は駄目だけど…」
「じゃあじゃあ、これっ! 二人で食べよう?」
「…全然人の話を聞いてないわね」
 …そんな、何でもないような一日。
「祐一さん、今日はどうでしたか?」
「どうでしたかって…」
「はい、祐一」
「お? これってまさか…」
「うん、チョコレートだよ」
「名雪と、二人で作ったんです」
「…二人で?」
「うんっ、頑張ったんだよ?」
「隠し味に色々加えてますから、おいしいと思いますよ?」
「……隠し味……」
「…祐一? どうしたの?」
「いや…、何か凄く嫌な予感がしただけだ」 
 
828回し中〜:2001/02/14(水) 07:34
今回は時間が無かったので
829回し中〜:2001/02/14(水) 07:36
誤字脱字等があるかもしれませんが
830回し中〜:2001/02/14(水) 07:36
手直しする時間が今日中にはとれそうになく
831回し中〜:2001/02/14(水) 07:38
不満も残っている作品ながら投稿させてもらいました。
832回し中〜:2001/02/14(水) 07:42
日にちを合わせた方が、
833回し中〜:2001/02/14(水) 07:45
なんとなく、いいですよね?
834回し中〜:2001/02/14(水) 07:45
3……
835回し中〜:2001/02/14(水) 07:45
2……
836回し中〜:2001/02/14(水) 07:46
1っ…!
837名無しさん だよもん:2001/02/14(水) 07:49
>>821-827

バレンタインSSです。
前作には、色々な感想、どうもありがとうございました。
838名無しさんだよもん:2001/02/14(水) 07:55
結局栞ちんはチョコを渡せたのでしょうか。

バレンタインですねぇ(´。`)はぁ・・・。
839名無しさんだよもん:2001/02/15(木) 18:26
           @` -――-、―-、_
           /          ‐- 、
         /               `ゝ
   @` -――- / 〃/ @`  @`  @` @`    、 、 ヽ`ヽ
  <       _| /@`/ / @` | @`l | | | | i i 、 N
  ヽ、    ゝ|〃 / /ナナ7lノlノlノナナ | | レ′
    入  / 7 |ミ|/|/ |Τ.Τ   'T.i|ノ|ノレ′
    ヽ _/ / 八(6| |" ̄   _' ̄.! i'  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      | | | / lヾ|  |      / | < ………age
      | L| |    |  |` ┬@` ´ |  |  \______
      |  | |  | /|  | ̄~T  |  |
      |  |_  / .|  |'´~只~ヽ|  |
840名無しさんだよもん:2001/02/15(木) 18:40
オマエラキショイ
841名無しさんだよもん:2001/02/15(木) 19:47
無意味に回すくらいなら書き込むな、ヴォケ!
842名無しさんだよもん:2001/02/15(木) 20:51
>>840
精一杯、考えに考えてレスしたんだよね?
君はよく頑張ったよ、本当に。

でもくそレスだね。
843名無しさんだよもん:2001/02/15(木) 23:25
>>840
うっわ、こんな板に来てる奴がなに言ってんの?
844名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 04:16
>>814
詩子さんに惚れました。イイネ!
845名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 06:12
前に誰かが言ってたけど、本当にそろそろ新スレ移行の時期じゃないか?
前スレは682レスで移行してるよ。
SSスレは文字数が多いから、早めに立てる必要があるそうだ。
846177しさん:2001/02/16(金) 06:30
http://www.bbspink.com/test/read.cgi?bbs=hgame&key=979813230
ん〜、君達もアレだ、葉鍵ものしかやらないってわけじゃ。協力を頼む。
847真琴萌え:2001/02/16(金) 07:54
「さぁ真琴はじめようか」
俺はいつものように真琴を全裸にして自室の天井に吊らした。
天井に吊され、顔中唾液まみれの真琴を見てふと感慨に耽る。

今では−この遊びを始めてから一週間が経つ−進んで裸体をさらけ出して
くれるようになったものの、当初はなかなか俺の言うことを聞かず、
手を焼いたものだ。と。

いや、手を焼いたというのは適切な表現ではないな。
なぜならば真琴をまるでアルミ缶を潰すかのごとく、くしゃくしゃにできたのだから。
俺は信心のたぐいは無かったのだが、流石にこれは神に感謝せねばあるまい。
848真琴萌え:2001/02/16(金) 07:57
一週間前

「なぁ、真琴。楽しいことするぞ」
返事はなかった、真琴は漫画に熱中しているようである。
こいつは漫画のことになると何もきかなくなる、今地震が起きたとしても
漫画を読み続けることだろう。・・・言い過ぎか。
そんなことを考えながら、真琴に歩み寄る。
「おい、真琴聞いてんのか!?」
頬の水枕のようにやわらかい所に蹴りを入れ、もう一度訪う。
「あうぅーーーーー!!」
体重の軽い真琴は二メートルばかし宙を舞い、尻から床に着き、尻をさすりながら
一時の安らぎを邪魔した侵入者の顔を涙に溢れ霞む目で確認しようとする。
「いたい……一体なんなのよぅ……」
「っ!!!あ、あぅっーーーーーーー!!」
侵入者が俺だと気づくと飛び上がるように部屋の奥に逃げ込む。
奥に逃げ込んでも意味無いのに。俺は真琴の浅はかな行動に口元を緩め、ゆっくりと
ライオンがゼブラを補食するかのように歩み寄る。
「あぅ、あ、うぅ……」
言葉は震え、手足も震え恐怖に怯える真琴を見つめると、唾液が口の中を飲み込む程に
あふれ出てくる。

 ふと、このまま恐怖に怯える真琴を家庭様ビデオで撮るという考えを思いついた。
ビデオテープが切れるまで真琴をただ写し続けるのだ。
そしてその後自室に籠もり、日がな一日、ウィスキーを片手にそのビデオを見続けるのだ。しかしその案は早くも却下された。なぜなら俺は家庭用ビデオなんて物をもっていなかったからだ、そもそも俺の部屋にはテレビすらない。
今度からは用意しておこう、秋子に言えば金なんて物はどうにでもなる。
秋子も名雪も、今や俺の奴隷だ。
849真琴萌え:2001/02/16(金) 07:59
それよりも今大事なことは真琴を俺の部屋に連れ出すことなのだ、俺は真琴に優しく
囁く。
「大丈夫だよ真琴。怖がることはない、これから始るのは拷問じゃない。
 気持ちいいことなんだよ?だから安心して、真琴」
手はじめに、真琴の艶のある栗色の髪を根本から−毛根まで抜ける程に−強く引っ張り上げる。
こうすると真琴は眉をひそめ、くりくりとまるで馬のように美しく大きい眼球から沢山の滴を滝のように流し
「いたいーーーーーー!!!!」と叫び泣きじゃくってくれるのだ、俺の目の前で。

 そうすると俺は背中をネズミが駆けるような感覚に襲われる。
それはあまりにも心地よい。しかし残念なことにその感覚は長く続かなかった。
自分としてはもっとその感覚に浸かりたいたいのだが、真琴はまだ俺の言うこと理解せずにいたので次の手に行動を移す。
髪を引くのを止め、用意しておいたかなおろしを赤というよりは血に染まったと比喩したほうが似合うパーカーの大口のポケットから取り出した。

 取り出しているうちに真琴の髪を引くのを止めたので、真琴は「あぅ…あ……ぅ…」と掠れ消え入りそうな声を出し、顔中液まみれになっていた。
鼻水にいたっては唇から顎へ、そして首筋へとつたうというその有様は淫靡きまわりなく、恐悦する程である。
850真琴萌え:2001/02/16(金) 08:02
「さぁいくよ」
最初は撫でるようにかき、真琴の反応を楽しむ。
引いたり押したりするたびに真琴の顔は苦痛に歪み、俺を更なる快感の高みへといざなう。
「あっ!あぅ!あぅーーーーー!」
そしてこの喘ぎ。
「こら真琴!この程度で興奮するな。まだ指折りも爪はぎもやってないんだぞ!
 それにお前が喘ぐと俺のペニスは勃起して、射精してしまうじゃないか!」
俺は真琴の鼻に掌打をくらわす、この後のことを考えると、今遊んでいてはいけないのだ。
「さぁ真琴!俺に従え!俺の従順なる奴隷となれ!そして奉仕しろ!」
細くしなやかな弾力を持つ足。かなおろしをかける手に力を込める。
「あ〜〜っ!あうぅっっっ!!!」
「どうした!なぜ俺の問いかけに答えない!?答えろ!答えるんだ真琴!」
真琴の足は潰れたトマトの様にドロドロになっていく。
「うごぅっっ!?」
身体が熱い。口の中が胃の中の物で溢れる。苦い。意識が世界から抜け出し
白の世界を見せる。真琴が俺に蹴りを入れた。
「真琴ぉ!!これが答えか!?そうか!そうなのか!?
 これでは満足できないのか!?そうだったのか・・・すまない真琴!!」
己の浅はかさを呪う。真琴がここまでのものとは思わなかったからだ。
しかし、よく考えてみれば真琴の行動にも合点がつく。
一見真琴が俺を拒んでいるように見えるのだが、それは少年が意中の相手に
わざと冷たく接するのと同じことなのだと。その証拠に真琴は俺の行動に
対し、喘ぎ、感じている。
「不器用なやつだ」
口元を緩ませ、わざと声に出して言う。
851真琴萌え:2001/02/16(金) 08:03
真琴の顔は顎が尖っていてシャープな作りである。
また、真琴の様に身体の作りが全体的に尖った女性は鼻も高い、
そして美しい。
しかし真琴は高くない、真琴がまだ成長途中であるからかも知れない、
けどこれから鼻が高くなるとは限らない、もしかしたこのまま鼻の低いまま
でいるかも知れない、そうなった真琴を想像すると、とても不憫に思う。

 掌打。
手首の付け根あたりを真琴の鼻頭にぶつける。
シリコンの固まりを床に叩きつける様な音。
甲殻類に属する動物を片手で握りつぶす様な感触。
「びゅびぃ!」
ほのかに熱を帯びた液体が手首から腕へと伝わる。
手のひらのしわ、爪が赤く染まるまで続ける。
「美しい………」
思い浮かんだ言葉を口に出す。
真琴の高くなった鼻、そして全体を赤に染めた身体、これを美しいと
言わずなんというのだ。

「あ、うぅーっ」
「うん、そっか」
真琴も満足してくれたようなので、髪を引き、俺の部屋に連れて
続きを楽しんだ。
真琴の細く長い、まるで精練されたナイフのような指を折った時の
真琴の喘ぎ声といったら素晴らしく、俺は射精してしまった。
翌日は秋子と名雪も混ぜ、朝から日が暮れるまで楽しんだ。
また、真琴が肛門を責められると喜ぶことがわかり、充実した日であった。
今度は鉄パイプがどこまで入るかためしてみよう。
852真琴萌え:2001/02/16(金) 08:03
「今日は何しよっか?真琴。肛門責めがいいかな?でも今日は違うことしたいな〜
 でも何も思いつかないな〜。ってダメジャン!ハハハ・・・」
「あぅーっ」
「まぁまぁそう急かすなよ真琴、今考えているから。
 おまえが喜びそうなこと・・・う〜ん・・・」
顎に手を添え、一考してみる。
「あっそうだ、こんなのはどうだろう、真琴もきっといいと思ってくれるはずだよ。
 一升瓶を真琴の子宮に差し込んで、酒がどのくらい子宮内に入るか実験するんだよ、
 いいと思わない?真琴」
夜が更けていく。
853名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:05
西本さん萌え〜
854名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:05
西本さんの熱い拳萌え〜
855名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:07
みらくる☆バッファローズ萌え〜
856名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:08
a
857名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:09
s
858名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:10
d
859名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:10
カカオたんに裾を引っ張ってもらいたい
860名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:11
悲しいけどこれ戦争なのよね、であ〜
861名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:12
東証
862名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 08:13
らすと?
863コウチマン.com:2001/02/16(金) 08:15
>>847-852
を書いた者です。
よかったら感想聞かせてください。

864名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 09:20
865名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 09:23
866名無しさんだよもん:2001/02/16(金) 20:30
>>863
マジでこんなんで喜んでる人いるの?
人間として鬼畜系好きな奴は最低だと思うのだが。
すまんね、これが正直な感想だわ。
867名無しさんだよもん
>>866
まあ、趣味は人それぞれだよ。
相容れないからと言って責めるのは良くないと思う。
正直言って私も鬼畜は好きじゃないけどね。

とりあえず、スレ違いは痛いね。