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1名無しさん@いたづらはいやづら
存分にお書きください。
2詩子さん@地下字書家:2000/08/24(木) 02:18
あっちからそのまま持ってきました。

『詩子、その想いゆえに』
詩子には胸に秘めた想い人がいました。
片想いの相手、それは幼馴染の茜でした。
でも、思いが深まれば深まるほど詩子の胸は苦しくなっていきます。
それが許されざる恋だということを知っていたからです。
やがてめまぐるしく変わるふたりを取り巻く環境。
詩子は、そしてふたりはどうなってゆくのでしょうか…

大風呂敷広げてみました。(鬱)
3詩子さん@地下字書家:2000/08/24(木) 11:16
『詩子、その想いゆえに』 書いた人:ゆず木詩子
序章 さめゆくぬくもりの中で

 もう、はなさない……
 もうずっとはなさないよ……
 ずっといっしょ……
 だれにもわたさない……
 わたさないんだから…………
4詩子さん@地下字書家:2000/08/25(金) 01:19
第一章 挨拶

「あ〜か〜ねっ!」
 あたしは後ろから茜に抱きつく。
 あたしなりの茜への挨拶。
 さすがに夏は暑くて出来ないけど、
 これくらいの穏やかな春の日なら暑くないから毎日の挨拶のかわり。
「詩子、はずかしいです…」
 茜は困ったような顔を見せる。
「ごめんごめん」
 あたしはそっと茜の後ろを離れる、残る茜の香りを感じながら。

 春4月、穏やかな桜の日、
 いつもの様に商店街で待ち合わせをして、
 ウィンドウショッピングをしたり、
 時にはワッフルを食べたりして一緒に帰る。
 最近毎日の習慣。
 一頃、茜の元気がなくなってしまってからの習慣にした。
 でも、それは建前。
 本当は……
 茜といつも一緒にいたかったから……
 大好きな、愛する茜と一緒にいたかったから…
5詩子さん@地下字書家 :2000/08/30(水) 03:31
第二章 暑いある夏の日に

 いつ頃からだろう、こんなに茜の事を好きになったのは…
 茜の横を歩きながら良く考えること。
 そして、いつも突き当たるのは同じ想い出。
 暑い夏の日、むせ返るような空気の中の、忘れもしない想い出…

「足が疲れたよ〜」
「本当に疲れました」
 去年の夏休み、太陽が照りつけ入道雲が湧きあがる暑い日、
 近くのプールで遊んだ帰りにあたしと茜は家への道を一緒に歩いていた。
 それぞれ手には水泳の道具が入ったかばんを下げながら。
「あかね〜、おぶって〜!」
「…嫌です」
 あたしは暫く泳ぐことが出来なかったのでここぞとばかりにたくさん泳いだ。
 そのつけがあたしの足に、そして、あたし自身に悲鳴をあげさせていた。
 逆に、茜は疲れたとは言っているけれども、実はそうでもないみたい。
 いつも通りしっかりとした足取りで家への道のりを歩いている。
「でも、こう暑いと歩くのも嫌だね」
 今日の朝見てきた天気予報では、最高気温が何度…思い出したくもない。
 あたしはまだいいけど、茜は長い髪が本当につらそうに見えるけど、
「夏だから仕方がないです」
 とあっさり。
 本当に暑くないのか、無理して我慢しているのか、時々茜にはわからないところがあった。
「仕方がないって…茜、髪の毛暑くない?」
 思わず口に出して聞いてしまう。
「慣れました」
 こちらもあっさり。
 慣れても暑いものは暑いと思うけど…その言葉をあたしは飲み込んで茜の髪を見る。
 その綺麗な長い髪は、茜の腰あたりまで伸びていてやっぱり暑そうだった。
6詩子さん@地下字書家 :2000/09/02(土) 23:29
「でも…もうそろそろ涼しくなりそうです」
 不意にそんなことを言い出す茜。
「なんで?」
 その言葉を聞いて間抜けな声で聞くあたし。
「空……」
「空…?」
 と、空を見上げると、いつの間にやら空がねずみ色に染まり、今にも降り出しそうな雰囲気。
「逃げますよ、詩子」
 茜は一目散に走り出した。
「あっ、あたしも! あかね、まってぇっ!」
 茜へと追いつくようにあたしも走り出す。
 さっきまで足が疲れていたことを忘れてしまったかのごとく一生懸命…
「ぴっ」
 ほほに何かあたる感触。これはたぶん雨粒。
「詩子、降ってきました」
 いまだスピードを緩めることのない茜があたしへと声をかける。
 あたしはもうくたくただった。
 どんどんスピードが落ちてきて、やがて早足くらいのスピードになってしまった。
「ざぁぁぁぁ…」
 足がどんどん遅くなってくるのと正反対に、雨脚はどんどん強まってくる。
「詩子、急がないと…」
 茜は前のほうに止まってあたしに声をかけてくれるけど、もう本当にくたくたで走れなかった。
 雨は容赦なくあたしの全身へとその身をぶつけてくる。
 それはあたしの洋服へと染み込み、水泳のかばんへと染み込み、
 そして、前に立つ茜の綺麗な髪へと染み込んでいった。
「はぁっ…はぁっ……ご、ごめん…先に行って…いいよ。あたしもう…疲れちゃって…ふぅ…」
 大きく肩で息をつきながら答える。
 不幸なことに、周りには雨宿りできるようなところは見当たらなかった。
 立ち止まっているだけで、どんどんあたしはぬれねずみになってゆく。
「では詩子、そろそろ私の家も近いですからいったん私の家へ行きましょう」
 よく見たら周りは茜の家の近く、そしてあたしの家の近くだった。
 あたしたちは早足で茜の家へと向かっていった。
 あたしに付き添って走ることなく一緒にスピードをあわせてくれる茜のやさしさがあたしには嬉しかった。
7詩子さん@地下字書家 :2000/09/10(日) 00:36
第三章 むせかえるような記憶

「ど〜ん!」
「わぁっ!」
 近い場所で雷の落ちる音、あたしはその音に驚いて思わず大声をあげてしまった。
 隣で茜がびっくりした顔をしている。
「ち、ち、近いっ、近いよぉっ!」
 地面の底から響いてくるような音はあたしを混乱させるのに十分だった。
 茜も本当にびっくりしたように立ち止まってしまっている。
「あ、茜!? 濡れてるあかねっ、濡れるよっ!」
 あたしは止まったままの茜を大声で呼ぶ。
 その声に気づいたように茜は再び走り出した。

「…ただいま」
「おじゃましま〜す!」
 落雷の音を何度も聞きながらあたしたちは茜の家へと到着した。
 茜は鍵を開いて中に急いで入り、あたしもそれに続いて入っていった。
「とりあえず、私の部屋へ行きましょう」
 茜に誘われるまま一緒に茜の部屋へ。
 ここのところ毎日来ている茜の部屋に変わりばえは無かった。
「詩子、どうぞ」
 茜の手にはバスタオルがふたつ、片方あたしに渡してくれる。
「ありがとう」
 あたしはお礼を言って茜の手からバスタオルを受け取る。
 かわいい絵柄の描いてある茜のピンクのバスタオル。
 あたしは髪留めをはずして髪の毛に染み込んだ水分をふき取る。
 茜はお下げを解いて一生懸命水分をふき取っていた。

「茜、手伝ってあげるよ」
「あっ…」
 自分の髪の毛をふき終わったあたしは、茜のそばに寄って髪の毛を拭くのを手伝う。
 茜は急に拭かれてびっくりしたのか、小さな声を上げる。
「あ、ごめん、驚かせちゃった」
「大丈夫ですよ、詩子。お願いします」
「うん、あたしは右側を拭くね」
 すまなさそうに、そして恥ずかしそうに答えてくれた茜。
 その言葉を聞いてあたしは再び茜の髪を拭きはじめた。
 茜の髪は長い分沢山水を吸っていて、いつまでたっても全部拭き取れないような気がした。
「茜、なんだか絞ったら水がたくさん流れてきそうだね」
 そんな茜の髪の様子を見て思わず一言。
「そうですね…」
 茜も左側の髪を拭き取るのに大変そうにしていた。
 雨は容赦無く茜の部屋の窓をたたく。
 どんどん雨脚は強くなっていくけれど、この部屋の中は静かだった。
 入ったときはとても暑かったこの部屋も、外の雨で少しずつ涼しくなってゆく。
 逆に、あたしたちの全身から蒸発する水分で湿度は少しずつ高くなっているようだった。
 そんな中、ただ黙々とあたしたちは茜の髪をふいていた。
 ただ、茜の髪をタオルがすべる音だけが響いていた。
8詩子さん@地下字書家 :2000/09/10(日) 00:54
「…どうしたのですか、詩子?」
「ん?」
 ふと茜の声で気がつくと、茜の髪を拭くあたしの手が止まっていた。
 茜が心配そうな眼であたしを見つめる。
「え…あ、あれ?」
 あたしのほうがびっくりしてしまった。
 眠っているというわけではなく、気を失っているというわけではない。
 ただ、なぜかぼぉっと茜の頭を、そして髪を見つめていた。
「大丈夫ですか、詩子?」
 再び茜は声をかけてくれる。
 あたしはこれ以上心配をかけさせないよう笑顔に戻り、
「大丈夫だよ、ごめんね」
 と茜に伝え、再びその髪をふきだした。

 茜の髪をふいていると何か鼻の奥をくすぐるものがあった。
 それは茜の髪の毛から香り立つシャンプーの香りと夕立の雨の匂いが混ざったような、そんな香りだった。
 その香りが鼻の奥をくすぐるたびになんだか頭がぼぉっとしてきて、ふと手が止まりそうになる。
 あたしは手を止めないようにと一生懸命、そして丁寧に茜の髪の水分をふき取る。
 やがて、胸が激しく鼓動を打ち、その中で何かよくわからない感情が渦巻き始める。
 茜の髪をずっと拭き続けていたい、そして、この香りにずっと漂っていたい…
 そんな感情があたしの胸の中でどんどん大きくなってゆく。
 そして、あたしはその感情の赴くまま茜の髪を持っていた手を鼻へと近づけたい衝動に駆られる。
 でも、茜にもう心配かけさせたくないから、すんでのところで止める。
 そんな心の葛藤が続いているうちに、茜の髪はどんどん乾いてゆき、
 茜の髪から漂う香りは薄まっていき、それと共に、あたしの衝動も息を潜めていった。

「詩子、ありがとう」
 そんな茜の言葉がかすかに耳に入ってきた。
 あたしは心配掛けさせないように普通を装って、
「おやすい御用だよ」
 いつもの調子で言葉を返す。
 でも、そんなあたしの様子を見て、茜はちょっと首をかしげる。
「詩子、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だって」
 あたしはさらに普通を装うけど、茜にはお見通しらしい。
 あたしがいつもと少し様子が違うことが…
 もしかしたら、このあたしの胸に渦巻いていた感情まで見通されているかもしれない。
 そんな考えが頭の中に生まれると、あたしは恥ずかしさと茜のまっすぐな眼が怖くなり、
 思わず茜から視線をはずしてしまった。
 と、ふと茜が、
「本当に大丈夫ですか? 顔が赤いですよ」
 と言ってきた。
 様子だけではなく、顔にまで出ていたらしい。
 ますます恥ずかしくなってきたあたしは、ゆっくりと顔を下げてゆく。
 なるべく悟られないように、本当にゆっくりと…
「雨に濡れて風邪をひいてしまったのではないですか?」
 その言葉であたしは止まってしまった。
 てっきり悟られていたのかと思ったけれど、
 茜にはこんなあたしの様子が風邪を引いたそれに見え、心配になった茜は聞いてきたのだろう。
 そう思うと、なんだか心にのしかかっていた重荷が軽くなり、
「うん、大丈夫だよ」
 と、茜に笑顔を向ける事ができた。
「でも、顔が真っ赤ですよ。風邪をひいたら大変です」
 そして、茜は左手で自分の前髪をかきあげ、右手であたしの前髪をかき上げて、
 そっと目をつぶってあたしの顔にその顔を近づけてくる。
 あたしはびっくりしてしまい、ぎゅっと強く目とつぶった。
 やがて、ひんやりとした茜の額があたしの額に軽く触れる。
 それは茜の軽い、そして暖かな吐息と共に。
 あたしの心臓は、再び激しい鼓動を打ち、顔もどんどん熱を帯びてくる。
 そして、茜の額があたるあたしのおでこもどんどん熱くなってきて、
 あたしはもういても立っても入られなかった。
 鼻の頭に感じる茜の吐息、そしておでこに感じる茜の額。
 思わずそのまま茜にしなだれつくようにゆっくりと体を倒していった。
9詩子さん@地下字書家 :2000/09/10(日) 01:06
「やっぱり熱があるみたいです」
 そんな茜の声に、あたしは正気に戻り姿勢を戻した。
 額から茜が離れていく感覚。
 そっと眼を開けると、本当に心配そうな茜の顔。
「そんな心配そうな顔をしないで。あたしがそんなに病弱に見える?」
「それは…ないです」
「でしょ? 大丈夫だって」
 その言葉に茜の顔の半分ぐらい覆っていた翳が少し薄まった感じがして、あたしは胸をなでおろす。
 茜の顔と同じように外もすっかり雨が上がり、強い陽差しがカーテンをすかして茜の部屋に入ってきた。
「雨、上がったね」
 そう言って外を指差すと、茜もその方向に首を動かす。
「そうですね。早くにあがってよかったです」
 こっちを向いた茜の顔は、ちょっと嬉しそうな顔。
 それにつられて、あたしも茜に笑顔を向ける。
 茜の心配を取り除くように。
 そして、すくっ、と立ちあがって茜に、
「雨も上がったし、あたしそろそろ帰るね」
 と伝えた。
 これ以上茜と一緒にいると、今は心の奥に閉じこもっているこの気持が大きくなって、
 なんだか心の中がどんどん苦しくなっていっていくような気がしたから。
 そして、この気持の整理をつけたかったから。
 あたしは家で一人きりになりたかった。
「もう少しゆっくりしていけばいいのに…やはり体の調子が悪いですか?」
 やさしい言葉を掛けてくれる茜、そんなやさしい言葉になぜか鼓動はすぐに早まる。
「悪くはないけど…うん、一応家に帰って一眠りするよ。大丈夫、一晩経ったら治っちゃうって」
 あたしも一晩眠れば治るだろうって思っていた。
 この心のもやもやも、そして不思議な気持ちも…
「それでは、玄関まで送ります」

 階段を降りて茜の家の玄関へ。
「蒸し暑いだろうね」
 玄関は外の熱さが伝わってくるよう。
「風邪ひきさんにはちょうどいいです。でも、家についたら汗をきちんと拭いてくださいね」
「うん、ありがと。それじゃ、またね、茜」
「はい、ごきげんよう」
 茜に手を振ってあたしは家に向かって歩き出した。
 茜の心配そうな視線を背中に、そして全身に受けながら…
10詩子さん@地下字書家 :2000/09/18(月) 18:50
第四章 欲望のままに

「茜、手伝ってあげるよ」
「あっ…」
 自分の髪の毛をふき終わったあたしは、茜のそばに寄って髪の毛を拭くのを手伝う。
 茜は急に拭かれてびっくりしたのか、小さな声を上げる。
「あ、ごめん、驚かせちゃった」
「大丈夫ですよ、詩子。お願いします」
「うん、あたしは右側を拭くね」
 すまなさそうに、そして恥ずかしそうに答えてくれた茜。
 その言葉を聞いてあたしは再び茜の髪を拭きはじめた。
 茜の髪は長い分沢山水を吸っていて、いつまでたっても全部拭き取れないような気がした。
「茜、なんだか絞ったら水がたくさん流れてきそうだね」
 そんな茜の髪の様子を見て思わず一言。
「そうですね…」
 茜も左側の髪を拭き取るのに大変そうにしていた。
 雨は容赦無く茜の部屋の窓をたたく。
 どんどん雨脚は強くなっていくけれど、この部屋の中は静かだった。
 入ったときはとても暑かったこの部屋も、外の雨で少しずつ涼しくなってゆく。
 逆に、あたしたちの全身から蒸発する水分で湿度は少しずつ高くなっているようだった。
 そんな中、ただ黙々とあたしたちは茜の髪をふいていた。
 ただ、茜の髪をタオルがすべる音だけが響いていた。
11詩子さん@地下字書家 :2000/09/18(月) 18:52
 茜の髪の毛から漂ってくる香りにあたしは光悦とした表情を浮かべている。
 そして、あたしは茜の髪をひとふさ手に持ち、じっとその手を見つめる。
 湿った茜のきれいな髪はあたしの手の上で輝いているように見える。
 と、あたしはその髪をそっと鼻に近づけ、そっと眼とつぶる。
「どうしたのですか、詩子?」
 茜は驚いたような顔であたしを見る。
 あたしは光悦とした表情で茜にそのまましなだれつく。
「あかねぇ……」
 あたしは茜の背中へとそのままぴたっと離れない。
 そして両手で茜の髪をそして頭をなぜながら、顔を埋めてゆく。
「や、やめてください、詩子……」
 茜はいやいやとあたしを引きを離そうとしている。
 それでもあたしは離れない。
 背中から感じる茜の体温、そして、響いてくる鼓動はあたしを安心させてくれる。
「詩子、嫌です、やめて下さい…」
 嫌がる茜、少し泣きそうな声をしていた。
 そんな茜の様子を見て、あたしはもう少し意地悪をしたくなってきた。
「だめ、はなさないよ〜」
 そして、腕をそっと伸ばして、茜の後ろから肩に腕を回す。
 茜はいやいやと頭を振る。
 あたしはそれにも構わずにそっと頭の中に顔をうずめる。
「いい香り…いい香りがするよ、あかねぇ…」
「詩子…も、もう……やめてください」
 茜はもうほとんど泣き出しているようだった。
 あたしはそっと腕を離して茜の背中から離れる。
 茜は相当ショックだったのだろうか、まだ肩を震えさせている。
 あたしはそんな様子を見なかったふりをして、そっと茜の前に移る。
 「びくっ」と茜の肩が震える。
 あたしは茜と眼を合わせる。
 茜の瞳はあたしを恐れている眼をしていた。涙をいっぱいにあふれさせて。
 でも、あたしの行動は止まらない。
「泣かないで、あかねぇ…」
 あたし自身でもぞっとするような甘ったるい声で茜を慰める。
 それが全然慰めにならないことを知らないふりをして。
 そしてあたしは顔を茜に近づけてゆく。
 あたしは茜の唇の柔らかさを頭に浮かべつつ、想いを遂げるため瞳を閉じた。
 茜の叫び声が耳をつんざく、と同時にあたしの唇は茜の唇と重なった。
 その、震える茜の唇と。
12詩子さん@地下字書家 :2000/09/18(月) 18:53
「はぁっ、はぁっ………」
 あたしは肩で息をしていた。
 夕陽が窓からカーテンを通して射し込み、あたしの網膜にその橙の光がまぶしい。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ………」
 あたしの激しい呼吸は止まらない。
 布団も寝汗でかなり濡れていた。

 茜に言われた通りあたしはすぐに汗を拭き、パジャマに着替えてベッドの中に入った。
 あたしはそのまま5分と経たずに眠りに入っていって、
 そして見た夢がこれ…
 あまりに甘美でいて、そして恐ろしい夢…
 あたしの心はもうぐちゃぐちゃだった。
 何を考えても全てが混沌とした心の中に埋もれて、
 どんな言葉も全てが混沌とした心の中に埋もれてしまう、
 そんな気分だった。

 そして、わずか言葉にすることが出来る気持ちがその中に生まれる。
 それは、あまりの恐怖感、そしてちょっと残念な気持ち、そのふたつだった。
13地下探検隊@読書中 :2000/09/29(金) 21:37
ここはしばらく稼動していないようだが、
上手いので続きなど希望してみたりする。
先に進もう。
14名無しさんだよもん :2000/10/01(日) 08:45
あげ
15詩子さん@地下字書家
第五章 投影

 うっすらと差し込む朝の陽射しであたしは目覚めた。
 時計を見るとまだ4時、目覚めは最悪だった。

 ベッドにもぐって暫くすると、昨日の昼に見た夢が再度流される。
 そして、同じところであたしは飛び起き、乱れた呼吸を整える。
 汗を拭いてベッドにもぐると、再び始まる同じ夢…
 これの繰り返しだった。
 そんなだから、あたしは十分に眠ることも出来ず、
 体は未だだるいまま、パジャマは寝汗で濡れていた。
 仕方なくあたしは汗を拭いて居間へと降りていく。
 あまりにも喉が渇いていて水を飲みたかったから。

「ふぅ…」
 うっすらと光の差し込むリビングであたしは一気に水を飲み干す。
 喉は少し潤ったけど、体全体の気だるさはまだ収まらない。
 頭を一度軽く振って自分の部屋に戻ろうと今の扉を開けた、と、
「詩子、どうしたの?」
 と言うお母さんの声、あたしの様子を見て心配そうな顔をしている。
「うん、ちょっと熱っぽいかも…」
 あたしは無理して大丈夫そうな声を出して答える。
 熱はあるけど大丈夫だよと言うふうに。
 心配をかけさせたくなかったし、誰の顔をもみたくない気分だった。
 どうしてかはわからなかったけど…
「熱測ってみた?」
 お母さんは後ろから声をかける。
「うん、まだ…」
 あたしはお母さんに背を向けて一言ぽつりと伝える。
「熱測らなきゃだめでしょう。こっちおいで」
 と少し怒ったような心配したような声、
 あたしは逆らうことも出来ずにお母さんのほうへと向かう。
 と、お母さんのおでこがあたしのおでこと重なる。
 ひんやりとしたお母さんのおでこがとても気持ちいい。
 ゆっくりとあたしのおでこにお母さんのおでこの冷たさが伝わってくる。
 あたしはゆっくりと瞳を閉じた。
 と、ふと昨日の茜との出来事が、そして今晩中繰り返された夢が思い出されて、
 あたしは思わずお母さんから離れてしまった。
「どうしたの、詩子?」
 お母さんはことさら心配したような顔をする。
「うん、なんでもない…」
 そう答えるのがあたしはやっとだった。
 そんなあたしの様子を見てか、お母さんは、
「とりあえず今日一日寝てなさい。明日にはすっかり治るでしょう?」
 といってくれたので、あたしは、
「うん、寝る。おやすみなさい」
 と後ろに向かって声をかけ、そのまま階段を上がっていった。