ToHeart2 SS専用スレ 22

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1名無しさんだよもん

新しい出会いや恋、そして友情に笑い、悲しみ。
すべてが始まり、終わるかもしれない季節。
季節といっしょに何かがやって来る、そんな気がする―――。


ToHeart2のSS専用スレです。
新人作家もどしどし募集中。

※SS投入は割り込み防止の為、出来るだけメモ帳等に書いてから一括投入。
※名前欄には作家名か作品名、もしくは通し番号、また投入が一旦終わるときは分かるように。
※書き込む前にはリロードを。
※割り込まれても泣かない。
※容量が480kを越えたあたりで次スレ立てを。
※一定のレス数を書き込むと投稿規制がかかるので、レス数の多いSSの投下に気づいた人は
 支援してあげて下さい。
※コテハン・作家及び作家の運営するサイトの叩きは禁止。見かけてもスルー。

前スレ
ToHeart2 SS専用スレ 21
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1191419513/

関連サイト等は>>2
2名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 18:26:48 ID:txG6nx0/0
AQUAPLUS『To Heart2』公式サイト
ttp://www.aquaplus.co.jp/th2/

Leaf『ToHeart2 XRATED』公式サイト
ttp://leaf.aquaplus.co.jp/product/th2x/index.html

前スレのログ、どっかにうpしようか?

Leaf『ToHeart2 AnotherDays』公式サイト
ttp://leaf.aquaplus.co.jp/product/th2ad/

ToHeart2 スレッド 過去ログ置き場(仮)
ttp://f55.aaa.livedoor.jp/~kuma/toheart2/
本スレや各キャラスレはこちらから。

ToHeart2 SideStory Links
ttp://toheart2.ss-links.net/

各キャラの呼称相関図は
ttp://botan.sakura.ne.jp/~siori/hth/
内のToHeart2呼び方相関図を参照。

ToHeart2 SS の書庫 (スレの全作品保管)
ttp://th2ss.hp.infoseek.co.jp/
3名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 19:08:10 ID:txG6nx0/0
保守
4名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 20:06:28 ID:txG6nx0/0
みんなどこへ行った
5名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 20:42:43 ID:MtaCWk2z0
何か短編で書けるようなネタがあれば書きますが、そのネタが無いのが現状です、はい。
長編は完全に手詰まりだし(´・ω・`)
6名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 20:57:31 ID:MW4dcB1p0
なんかまたFSM氏のパクった馬鹿が出たって?
7名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 21:48:48 ID:wmGcrt9K0
ほしゅ

>>4
あんだけレスつけてる人が居たはずなのにねぇ
とはいえ、このままこのスレも維持できるかは疑問だけど
全ては嵐と運営の行動しだいか

>>6
叩きやりたいだけならどこかよそでやれ
迷惑だ
8名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 22:18:15 ID:sRq39IT40
>>2
前スレのログは是非お願いしたいですね。
ってもう遅いかな?

9白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2007/12/26(水) 22:50:37 ID:6MxJT9Fd0
>>8
datファイルなら持ってますが、どうしましょうか
アップします? って、もういないかな
10名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 23:02:59 ID:wmGcrt9K0
結局落ちる前のレスは562で終わりなんですかね?
11白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2007/12/26(水) 23:04:46 ID:6MxJT9Fd0
>>10
そです
12名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 23:09:37 ID:GBtMyjU90
白詰草久しぶりに見たな
全然嬉しくないが
13名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 23:37:36 ID:kLpbKJam0
相変わらずだな。
14名無しさんだよもん:2007/12/26(水) 23:39:33 ID:wmGcrt9K0
アホみたいなレスつけてんな
保守汁
15白詰草 ◆Pd9gE38GCU :2007/12/26(水) 23:51:47 ID:6MxJT9Fd0
保守保守〜
16名無しさんだよもん:2007/12/27(木) 00:01:36 ID:kLpbKJam0
保守保守〜
17名無しさんだよもん:2007/12/27(木) 00:01:41 ID:wmGcrt9K0
保守
18名無しさんだよもん:2007/12/27(木) 00:57:10 ID:cvkDsm0z0
保守
19名無しさんだよもん:2007/12/27(木) 01:21:27 ID:Zjt3q2NQ0
保守
20名無しさんだよもん:2007/12/27(木) 04:13:17 ID:KbrAuJg40
今回の騒ぎで得したのはクソコテ連中だけか…
21名無しさんだよもん:2007/12/27(木) 09:22:41 ID:/FAXPUJq0
ほす
22:2007/12/27(木) 10:14:39 ID:I2XmAEwA0
>>8>>15
自サイトの空きスペースにうpしときました
>>563以降のレスはカットしました(コピペ爆撃のため)

ToHeart2 SS専用スレ 21
http://www2.tokai.or.jp/v-sat/other/1191419513.htm
23名無しさんだよもん:2007/12/27(木) 16:05:06 ID:p134H5eN0
>>22
消えてたの見れなかったからありがたい

しかし562の、ねぎらうってのが感想やGJレスをすることなんじゃね?
ぶっちゃけあまりにも反応少ないから驚いただけなんだけど
24名無しさんだよもん:2007/12/27(木) 18:38:56 ID:P8/AMN4D0
そりゃ感想つけるのは作家さんにとって最高の労いになるだろうさ
でも結局、よっぽど飛び抜けたインパクトがなければ、そうそう感想なんてもらえないわけで
反応すら少ないってーのが現状なんだよね(まあ住人そのものが減ってるんだろうけど)

つうか俺も>>23とまったく同じ感想を抱いたよ、ホントに反応少なくて驚いた
対価って言い方が適切かどうか知らんが、対価に見合わないというか、長く連載してた作品が
完結したワリにはえらくあっさりしてたよねえ
だから作家さんが少ないなりに反応してくれた人に対してレスをするってのはすげー理解できるよ
あれすら否定されたら、モチベーションを自分の中で保つしかなくなって厳しいだろ(´;ω;`)
25名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 00:05:00 ID:O3zjVKTk0
住人が減ってるということは無いと思うんだがね
付くときは嫌って程レス付くし
結局レスつける気にもならんという冷たい住人が増えたんだろ
馴れ合いっぽいの嫌というのもいるし

どうせ板ごと落ちたんだからこの際道場っぽいの真剣勝負スレでも別に立てれば?
読み応えのあるしっかりした投稿とそれにちゃんとした感想をレスできる住人だけのスレ

その代わりここは馴れ合いもそこそこにOK、ライトな作品もどんどん投稿してくれというスレにすればいい
投稿が分散することで薄くなるのはある程度我慢する事になるけど
とりあえず反応が薄かったり、逆に大荒れになるのは減るんじゃないか?
26名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 00:13:02 ID:jTvQyag30
>>25
過疎化してるくせにさらに分割してどうする
現状のままでいいわ
27名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 00:50:15 ID:yQ5NueOe0
SSは読むの面倒だけど議論は読むの楽しいって人が多いんだろ
28名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 00:54:38 ID:CI8ilvMY0
>>25
つーかそれっぽいことを目的としたSS関連スレも一応あったんだわ。
でもやっぱり過疎ってたな。騒動で今は消えてるけど。

葉鍵的 SS コンペスレとか
*9の指定したSSを*0がレビューしてみるスレとか。
感想会っていうか批評みたいなことやってた。

ちなみに消えたスレは今ならほとんどここで保管してるみたいです。

葉鍵板 2007/12/26の朝05:15頃に圧縮dat落ちしたもののdatとhtml保管庫
ttp://nippoudairi.2-d.jp/hakagi_ita/071226/hokanko_071226-0515.html

興味があったらここで読んでみたら?
でも真面目な投稿、感想って言っても簡単じゃないよね。
29名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 01:01:39 ID:0HTFJceG0
コンペスレはまじめに読んだこと無いですけど、レビュースレはわりと見てましたよ
確かに流行ってるとはいえなかったけど、それなりに建設的な書き込みが多かったような気がする
30理性を超えたフェティシズム:2007/12/28(金) 03:18:22 ID:/fTo7/3U0
10レス前後で投下しまーす。
31理性を超えたフェティシズム 1/9:2007/12/28(金) 03:19:05 ID:/fTo7/3U0
「俺、納得いかないんだけどよ」
 ある日のある休み時間、雄二が唐突に語り始めた。
「冬になると制服のスカートの下にジャージ穿く女子いるだろ」
「……それがどうした」
「あれはすべての男に対する宣戦布告だと思うんだよ」
 今さらながら確信する。こいつは馬鹿野郎だ。
「見た目の野暮ったさはもちろんだが、何より露出が減るのが頂けん。より具体的に言うと」
「――もういいから黙ってろ、な?」
 同情っぽい目を向けながら、雄二の肩をぽんぽんと叩いてやる。
 いくら馬鹿野郎でも、俺は幼馴染みを見捨てたりしないからな。
「いいや、言わせてもらうぜ」
 ところが、雄二は俺の制止を振り切り、拳を振り上げながら、
「女の子ってのは見られることで美しくなる生き物だ。スカートを穿いてるのは、そういう意
味だってあるはずだ。しかし! スカートの下にジャージを穿くってことは、スカートを否定
していることに他ならない! そしてそれはそのまま美しくなるための努力を放棄しているこ
とに繋がる!」
「……あのな、女子がスカートを穿いてるのは、あれが制服だからだ。で、こんだけ寒けりゃ
各々で対策を立てるのは当たり前だろ。別にジャージくらい穿いたっていいじゃないか」
 俺は、本人たちが納得済みなら、どんな格好をしてたって構わないと思う。確かに凄い格好
だと思わなくもないが、寒空の下で生足を晒しているのを見ていると、こっちの方が寒気を感
32理性を超えたフェティシズム 2/9:2007/12/28(金) 03:19:37 ID:/fTo7/3U0
じるくらいだ。女子だって、少なくとも雄二が言うみたいな勝手な理屈で文句をつけられたら
たまらないだろう。
 しかし、雄二は俺の言葉にちっちっち、と人差し指を立てる。
「寒いなんてのは分かってんだよ。俺が言いたいのは、防寒と見た目を両立させる手段なんて
いくらでもあるだろってことさ。そう、例えば――」
 雄二の視線が黒板の方に向けられる。
 その視線を無意識のうちに追うと、視界に女子の一団が入る。
「――優季ちゃんみたいな黒ストッキングが最高だと思うだろ! お前も!」
「馬鹿野郎」
「ふごっ!?」
 熱弁を振るう雄二の頭を押さえつけ、机に押しつける。
 さすがにこれだけ騒げば周りの目だって集まるわけで、件の草壁さん自身も不思議そうにこ
ちらを見つめていた。
 はあ……聞こえてなきゃいいけど……。
33理性を超えたフェティシズム 3/9:2007/12/28(金) 03:20:12 ID:/fTo7/3U0
「貴明さんって、ストッキングがお好きなんですか?」
 ごちん。
 あまりにもいきなりだったので、思いっきりテーブルに頭突きしてしまった。
「た、貴明さんっ!? いきなりどうしましたっ!?」
 つむじに向かってかけられた声は、草壁さんのものだ。
 帰りにうちに寄って夕食を作ってくれるという話になっていたのだが、その前にお茶でもど
うぞ、と湯飲みと一緒に質問が差し出されたのである。
「……一応訊くけど、どこからそういう話が出てきたの?」
「学校で向坂くんとそういう話をしていませんでした? ……あ、お好きなのは黒いストッキ
ングでしたっけ?」
 俺は、がばっと顔を上げて、
「色とか関係ないからっ!」
「……色は関係なくお好きなんですか」
「そうじゃなくて……って」
 必死に弁解を試みようと身を乗り出しかけたところで、草壁さんが笑いを堪えていることに
気付いた。
 ひょっとして、いや、ひょっとしてなくても俺、からかわれてる?
「……草壁さん」
「はい」
「オデコ出して」
34理性を超えたフェティシズム 4/9:2007/12/28(金) 03:21:32 ID:/fTo7/3U0
「はい」
 ぺしん。
「あっ」
 お決まりの『おしおき』をされて、草壁さんが可愛らしい声を漏らす。
 それでも、草壁さんは嫌がっているどころか、むしろ凄く嬉しそうで、
「私は別に、貴明さんがストッキングとか好きな人でも気にしないのにな」
 まだ『おしおき』され足りないとでも言うように、そんなことを口にする。
 これじゃあ『おしおき』じゃなくて『ごほうび』みたいだ。
 俺はため息を吐き出してから、もう一度床に座り直し、
「あれは、また雄二のやつがおかしなこと言い出しただけだよ。冬場になると、女子がスカー
トの下にジャージを穿くのが嫌なんだってさ」
 改めて言葉にすると、馬鹿らしすぎて涙が出てきた。
 幼馴染みの脳の具合が本気で心配になってくる。
「ああ――なるほど」
 しかし、草壁さんはなんだか妙に真剣な顔で頷きながら、
「男の子から見ると、あれってヘンですか?」
 意外や意外、真面目に質問を返されてしまった。
「……うーん、俺は別にヘンだとは思わないけど。それにうちの制服のスカートって、ただで
さえ短いから、ああでもしなくちゃやってられないんじゃない?」
 それこそ草壁さんみたいにストッキングでも穿かなければ、という最後の一言は飲み込んで
おく。
35理性を超えたフェティシズム 5/9:2007/12/28(金) 03:22:23 ID:/fTo7/3U0
 これ以上あらぬ誤解を受けたくない。
 それでも草壁さんは、俺が言わなかった内容を鋭く察したのか、くすりと微笑みをこぼし、
「私がああいう風にすると、ホントにヘンなんです。自分でも嫌になっちゃうくらい似合わな
くて。だからストッキングに……って、ダメです貴明さんっ、想像しないでくださいっ」
 頭に浮かびかけた「スカートの下にジャージを穿いた草壁さん」という図が、その言葉で霧
散した。
 気まずいものを感じながら鼻の頭を掻く俺の前で、草壁さんはちょっとだけ頬を膨らませて
いる。
 いや、まあ、どうなんだろう。
 言うほど似合わないってことはないと思うが、確かに草壁さんのイメージとはちょっとかけ
離れている気がする。
 今穿いている黒いストッキングが似合いすぎてるってのもあるだろうし……いやいやいや、
何を考えてるんだ俺は。
「はあ……私も小牧さんくらい似合うといいんですけどね」
 本当に落ち込んでいる声で、草壁さんが呟く。
「確かに小牧さんは似合ってるなあ」
 思わずこぼれたのは、本心からの感想だったからだ。
 おそらく俺と草壁さんは、頭の中で同じ絵を思い描いているだろう。
 見た目のせいなのか、性格のせいなのか、はたまたその両方なのかは分からないが、「スカ
ートの下にジャージを穿いた小牧さん」というのは、良くも悪くも素朴な雰囲気で凄くいい。
36名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 03:23:34 ID:3mx/pqUf0
支援ー
37理性を超えたフェティシズム 6/9:2007/12/28(金) 03:23:58 ID:/fTo7/3U0
本人がどう感じるかは別として、あれはかなり似合っている。
 俺が見る限りでは、実際にその格好で過ごしていることが多いようだし、あれは不思議なく
らい違和感なく受け容れることのできるファッションだと思う。
「……結構大変なんですよね、ストッキングも」
 そう言うと、草壁さんはテーブルの向こうで膝立ちになり、
「油断するとすぐに伝線しちゃうんです。自分の爪とか、あとはカバンの角とか危ないんです
よ」
「そうなんだ」
 これぞまさに乙女の悩みというやつか。
 さすがにストッキングが伝線して困る、なんて悩みは抱えようがない。
「それに自分だと気付かないことが多くて――」
「っ」
 やばい。
 今、お茶を飲んでなくてよかった。
 お茶を口に含んでいたら、吹き出すか、間違いなく気管の方にいってたと思う。
「どうでしょう? もう伝線しちゃってたりしませんよね?」
 膝立ちの格好のまま、不安げに自分の身体を見下ろす草壁さんは、どれだけ無防備なことし
ているのか分かっていないようだった。
 ありていに言うと、短いスカートの裾に手をかけ、ちらちらとめくりあげながら、しきりに
ふともものあたりを気にしている。
38理性を超えたフェティシズム 7/9:2007/12/28(金) 03:24:38 ID:/fTo7/3U0
 きっと、そのあたりが気付かないうちに伝線してしまうことが多い場所なのだろう。
 これまでの話の流れで、それくらいは予想がつく。
「…………」
 だからといって、こんな魅惑的な光景を目にして心穏やかでいられるかといえばそんなこと
はなく、草壁さんって細身に見えるけど着痩せするタイプなんだよなあ、とかいらんことが頭
の大部分を占めていくのは避けられない。
 何だか黙って見ているのも悪い気がして、何と言って教えればいいだろうかと頭を抱えてい
たそのとき、
「――あれ」
 視界の隅に、不意に違和感を覚えた。
「草壁さん、そこんとこ」
「えっ?」
「うん、そう、左足のふとももの裏……伝線しちゃってない?」
「……あ、しちゃってますね……」
 俺が指さした先を探し当てた草壁さんは、自分でも確認してから、がっくりと肩を落とした。
 そして、ようやくスカートの裾から手を放し、ゆっくり立ち上がる。
「すみません、貴明さん。洗面所お借りしてもいいですか?」
「それは構わないけど、どうしたの?」
「伝線しちゃったのをいつまでも穿いているわけにもいかないので、ちょっと脱いできます」
 草壁さんは、傍らに置いてあったカバンを拾い上げて、
39理性を超えたフェティシズム 8/9:2007/12/28(金) 03:25:14 ID:/fTo7/3U0
「こういうときのために、予備のを持ち歩いてるんですよ」
 カバンを軽く掲げて見せてから、得意気な笑みだけを残して廊下に出て行った。
「……すっげー」
 心の底から感心する。
 準備が良すぎるというか、そんなことまでしなくちゃいけないのかというか、とにかく女の
子は大変らしい。
「お待たせしました」
 そして、一分も経たないうちに草壁さんは戻ってきた。
「早かった、ねっ!?」
「ストッキングを脱いだだけですから……どうしました? 貴明さん?」
「い、いや、なんでもないよ、うん、なんでも」
「そうですか……?」
 首をかしげた草壁さんが、怪訝な顔をしながら近づいてくる。
「あ、あの、草壁さん」
「はい?」
「えっと……新しいのに穿き替えるんじゃなかったの……?」
 そうなのだ。
 俺が狼狽したのには理由があって、その理由というのは草壁さんがストッキングを穿いてい
ないことだった。
 さっきまで黒いストッキングに見慣れていたせいか、突然白い足をばーんと見せつけられる
と、とんでもなく驚く。
40理性を超えたフェティシズム 9/9:2007/12/28(金) 03:25:51 ID:/fTo7/3U0
 靴下すら穿いていない、いわゆるその、生足というやつでして。
 今さらという気がしないでもないんですが、その、ギャップによるインパクトというのは大
したものでして。
「あ、はい。室内は暖かいですから、予備のストッキングは帰るときに穿こうと思ったんです
けど」
「な、なるほど」
「……何かいけなかったですか? やっぱり貴明さんはストッキングが……」
「いやいやいやいや! そうじゃないから! それは絶対に違うから!」
 むしろ、どちらかというとストッキングを脱いだという事実の方に困ってます。
 草壁さんは俺の内心を知ってか知らずか、少しだけいたずらっぽく微笑んで、
「じゃあ、晩ごはんの支度はじめちゃいますね。台所お借りします」
 抱えたままだったカバンの中から、今度はエプロンを取りだして、慣れた手つきで身にまと
った。
 これもやばい。
 制服+生足+エプロン。
 しかもスカートが短いせいで、前から見ると下半身はエプロンしか見えない。
 雄二だったら一瞬で理性を吹き飛ばしているであろう、何とも恐ろしい組み合わせなのだ。
 草壁さんは、こみ上げてくる衝動を必死で抑えている俺の目の前で、くるりと一回転して、
「貴明さん、かなりお腹ぺこぺこみたいですね」
 そこで、ぽっと頬を染めて、こう言った。
「……今日はデザートも用意しておきますから、楽しみにしておいてくださいね」

 その日は、夕食もデザートも大変おいしゅうございましたとさ。
41名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 03:27:15 ID:/fTo7/3U0
以上です。

支援ありがとうございました。>>36
貴方に黒ストと生足の加護があらんことを。
おやすみなさい。
42名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 05:57:38 ID:3Ae1PRT30
>41
乙〜
南東北人の俺の周囲は生orジャージが殆どなんだが、
北(盛岡市あたりから)に行くと黒ストがデフォで新鮮だったりするなぁw
43名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 06:30:03 ID:tLRXlzuf0

>>42
そのとうり by 北東北人
44名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 06:30:38 ID:tLRXlzuf0
下げ忘れた
45名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 08:02:48 ID:ICiU5fcU0
>>41
デザートはやっぱあれですか?
46名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 11:06:48 ID:0HTFJceG0

東鳩の制服はスカートが短いからジャージ履くと目立つよなあ
現実では北海道でもはいてる奴は結構居る
体育会系がほとんどだし裾を折って隠してるけど
47名無しさんだよもん:2007/12/28(金) 17:56:49 ID:Xe7v1Jvn0
>>41

草壁さんのストッキングで漉した紅茶なら何杯でも飲める
48名無しさんだよもん:2007/12/29(土) 02:40:52 ID:cpPrAjtu0
さてコミケ当日になったわけだが

俺の他にSS作家見学コースを回る奴はいないかw
49名無しさんだよもん:2007/12/29(土) 14:27:10 ID:wESnscyMO
>>48
何日目に誰がいるんだ?
50名無しさんだよもん:2007/12/29(土) 18:36:39 ID:cpPrAjtu0
葉鍵は三日目だろ・・jk・・

とりあえず白詰草さん見てくるよ
本は買わないけどw
wkwkが止まらないwww
51名無しさんだよもん:2007/12/29(土) 20:00:46 ID:ZW3xxQXS0
>>50
( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` )
52名無しさんだよもん:2007/12/30(日) 03:23:45 ID:i69Nj2590
ToHeart2SS置き場の人も寄稿してるみたいだね。
53名無しさんだよもん:2007/12/31(月) 18:54:33 ID:TBCLKEHj0
hosu
54このみへのお年玉 【1833円】 :2008/01/01(火) 05:56:29 ID:f1yQb7ZI0
あけおめ
55名無しさんだよもん:2008/01/01(火) 07:49:20 ID:gb4NRzzd0
ことよろ
56名無しさんだよもん:2008/01/04(金) 20:47:48 ID:y6ZvVCAG0
ことよろ
57名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 00:09:55 ID:DLZDe2fK0
ええい、新年だというのに、巫女さんコスプレSS書く猛者はおらんのかっ!
できれば草壁さんでお願いします
58名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 09:56:27 ID:QZAbdxQu0
>>57
優季スレにあるよ
59名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 13:05:13 ID:mRxOjbcc0
優季スレで空気読まずにSS投下してるのって、どう見ても物書き修行中氏だよなあ…w
60名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 13:07:33 ID:mRxOjbcc0
こっちに戻ってきてくれればいいのになあ…

途中で送信しちまった、スマン
61おみくじとお守りと交通安全 1/9:2008/01/05(土) 13:41:31 ID:d8wkp1Lz0

「うわー」
このみが間の抜けた声を出す。

「凄い人だなあ」
俺も口をぽかん。

このみと初詣、今年はちょっと足を伸ばして地元で一番大きな神社に来てみたんだけど。
……人、人、人。
「あっ、タカくん! わたあめだよっ!」
の群れに、さっそく突撃しようとする幼馴染み。
「こらこらちょっと待て」
出店の方も凄い混雑。見失ったら大変なので、首根っこつかんで連れ戻す。

「お参りとおみくじとお守りが先だろ。破魔矢も頼まれてるし」
「わたあめ、売り切れない?」
「だいじょうぶ。後でゆっくりな」
「たこやきも? やきそばも買っていい?」
「ああ」
「やたー♪」
春夏さんからのお小遣いは、俺が預かってる。このみに預けると、速攻で食べ物に化けるから。

ともかく、先にするべきことを済ませることにして、俺達は本殿に向かった。
「こっちも人がいっぱいだねえ」
キョロキョロと人の列を見回すこのみ。
「はぐれないでよ」
そう注意すると。

「うんっ!」
このみはやたら元気に応えて、親に甘える子供みたいに腕に飛びついてきた。
……ちょっと恥ずかしい。けど、お正月だし、まあ、いいか。
62おみくじとお守りと交通安全 2/9:2008/01/05(土) 13:43:25 ID:d8wkp1Lz0

<凶>

「あちゃー、やっちゃった」
神社のおみくじってのは吉と末吉が多いんだそうだが、数少ない凶を喰らってしまった俺。

<中吉>
「<ちゅうよし>?」
「読み方違う」
「うーん、あっ、わかったっ! <なかよし>、だねっ! タカくんとも、タマお姉ちゃんとも、みんな仲良し!」
……うん、このみは、それでいいんじゃないかな。でも雄二も入れてやれよ。

「それで、タカくんは」
「凶だってさ……。身辺に怪我の元多し。特に交通事故に気を付けられたし」
「ええっ!」
このみが俺の服をつかむ。
「タカくん、交通事故で死んじゃうの〜っ!」
がくがくがくがくがくがくがくがく。
「し、死なない死なない、というか、このみ揺するのやめて、って、チョーク、チョークっ!」
「そんなのやだぁ〜っ!」
齧り付かれて首が死ぬ。あと、周囲の目が恥ずかしい。
と、
「凶のおみくじは、利き腕と反対の手で結べば大丈夫ですよ」
涼やかな声がした。

振り向くと、真っ黒な長髪が綺麗な、若い巫女さん。
「あっ、すみません、うるさくして。ほら、このみ、離れて」
「うん……」
見られていたことにはちょっと照れて、顔を赤くするこのみ。
「いいえ、もう十分賑やかですから」
微笑んだ巫女さんは、よく見ると俺達と同い年くらい。バイトにしては、はまってるなあ。
63おみくじとお守りと交通安全 3/9:2008/01/05(土) 13:45:03 ID:d8wkp1Lz0

「これで大丈夫かな?」
巫女さんが案内してくれた木の枝に、左手で籤を結んで俺。
ぱん、ぱんと手を叩いて拝んだのがこのみ。
「いや、おみくじ拝んでも」
「心配だもん」
「籤ひとつで大袈裟だって」
子供をあやしてる気分になった俺、だけど、

「そうですね。私も心配です」
あのー、巫女さんに同意されちゃうと、俺も不安になるんですが。

「心配なので、これを差し上げます」
こそっと袂……ではなく何故か胸元から……う、結構おっきい……ぐ、このみに足踏まれた……小さなお守りを取り出す巫女さん。
「う、お幾らですか?」
「これは、私の気持ちですから、無料です」
なんだか申し訳なく思う俺の手に、巫女さんはお守りを押しつける……あ、まだあったかい……痛っ! このみにつねられた。

「破魔矢買って、わたあめ食べるのっ!」
急に何を怒ってるんだよ。
「ふふっ、破魔矢はあっちで売っていますよ」
巫女さんが楽しそうに指さした方向を見ると、神社の拝殿の脇の売店。
「うし、行くか。俺も早く焼きそば食いたいしな」
「うんっ」
食べ物の話ひとつで機嫌を直すこのみ。

「色々、ありがと……あれ?」
礼を言おうと振り返ったら、もう巫女さんはいなかった。
「いついなくなったんだ?」
「? ? ?」
このみも首を傾げる。ひゅうっと一陣の風が吹いた。
64おみくじとお守りと交通安全 4/9:2008/01/05(土) 13:47:39 ID:d8wkp1Lz0

拝殿の方に歩きながら、さっき貰ったお守りを眺める。
紫色の布地に金文字の、典型的なタイプだけど。
「交通安全……yuuki?」
裏側にローマ字が刺繍してあるお守りってのも珍しい。
「あの巫女さんの名前かな? 自分のお守りだったんじゃ?」
だとしたら、悪いことしたような。

「うー、いつまで見てるのっ」
そんなことを考えていると、なんだかまたこのみの機嫌が悪くなる。
「あっ、ほら、あったよ破魔矢」
咄嗟に発見した目標物を指さして注意を逸らす。
「ホントだっ」
とととっと、さっそく駆け出すこのみ。加速度∞。

その横から、別な巫女さんが飛び出してきた。
「あっ、このみ危ないっ!」
「へっ? うわあっ!」
「きゃあ?」
このみと共に、妙に聞き覚えのある悲鳴。ちょっと間が抜けているような。で、激突。

どんがらがっしゃーん。
「はらほれひろふれ〜」
「大丈夫か、すみません」
渦巻きお目々でひっくり返ってるこのみを抱き起こしながら、転んだ巫女さんに謝る、て、あれ?
「委……小牧?」
「痛ぁぃ……って、へっ、こ、河野くん〜っ?」
地面の上で意味もなくわたわたと慌てふためく巫女さんは、見紛うことなく我らがクラスの委員長小牧愛佳その人だった。

「ところで、今あたしのこと委員長って言いませんでした?」
混乱しててもそこだけは突っ込むのか小牧。
65おみくじとお守りと交通安全 5/9:2008/01/05(土) 13:50:26 ID:d8wkp1Lz0

「ごめんね、拾って貰っちゃって」
小牧が抱えていたのは、お守りとか絵馬とか売り物の小品類。
「いやこっちこそ悪い。しかしこんな所で小牧に会うとは思わなかったな」
「あははは、ちょっとバイトで売り子さんを……」
照れ照れで笑う小牧。
あっ、そうだ。

「巫女さんのバイトでさ、ユキさんかユウキさんって子いる?」
さっきお礼言いそびれたので、会ったら伝えて貰おうかと。
でも、小牧は首を傾げる。
「ユウキさん……うーん、わかんないなぁ」
「髪が長くて、すらっとして……」
胸がおっきかったとは、言わないでおこう。

「ごめんなさい、人も多いから、もし会ったら、伝言しておくね」
腕を組んで首を捻りつつ、申し訳なさそうな小牧。
う、胸と言えば小牧もかなり。
さっきの巫女さんはすらっとして正しく幽玄な巫女さんという雰囲気だったけど、
少しぽちゃっとした小牧の巫女服姿は、いかにも不慣れな感じでこれもまた……

「な、なんですかあ、そんなに見ないでくださ……ないでよぉ」
いかん、思わず凝視しちまった。
俺の視線にわたふたと腕を振り回す小牧、と、その腕が商品にヒット。

ちゃりーん。
絵馬の鈴がころころ、すっころりんと転がって、
「あっ、いけない」
小牧は慌てて立ち上がって追いかけかけて、
「ふぎゃっ」
小物拾いを手伝ってそのまま座ってたこのみと、二度目の激突をした。
66おみくじとお守りと交通安全 6/9:2008/01/05(土) 13:53:03 ID:d8wkp1Lz0

「きゅう」
「わわわっ、ご、ごめんなさいっ」
このみともつれてひっくり返った小牧。立ち上がる、けど。
「こ、小牧っ、袴袴っ」
「はい? へ? きゃああああっ!」
転んだ時に、このみが裾を踏んづけてしまったのか、着付けが悪かったのか、
いや、まあ、その、なんだ、緋袴がするりと抜けちゃってさ。

★★★しばらくお待ち下さい★★★

「み、見えて、なかったよね……」
巫女服を直して、初日の出よりも真っ赤になって、小牧は消え入りそうな声。
「う、うん」
嘘じゃないぞ。巫女装束の白衣ってのは、ずいぶんと裾が長いので、袴が脱げても下着は見えない。
ただ、小牧の場合は、バイトさんが動ききやすいようにか、
本来は足首まである白衣が膝下くらいだったから、じたばたした時にちらちらと柔らかそうな脚とか。
あと、その、当然ながら下着は洋式だったから、この、白衣の上からラインとか……言えん言えん。

こほん。まあ、そんなわけで。

「ありがとうございましたぁ」
せっかくなので小牧から破魔矢とか頼まれモノを買って、
「うし、じゃあお店っ!」
「やたーい!」
洒落なのかなんなのか、とにかく元気に走り出すこのみ。

あ、木の根につまづいた。
「ととととーっ!」
「大丈夫かおい」
豪快によろめいた所を、なんとか腕をつかんで回収成功。
67おみくじとお守りと交通安全 7/9:2008/01/05(土) 13:55:33 ID:d8wkp1Lz0

「えへへ、ごめんね」
ちろっと舌を出して、ちょっと恥ずかしそうだけどまったく反省の色はない回収物。

「ったく、俺よりこのみの方が事故に遭いそうだな」
ぼやいてから、ふとさっきのお守りが目に留まる。
……普通に確率高そうだし、な。
「このみ、ほれ」
「?」
俺はお守りの紐を広げて、このみの首にかけてやった。

「でも、これ、タカくんの」
「俺は大丈夫だから、さっきおみくじ結んだし」
「うん……」
ちょっと考え込みそうな幼馴染みの頭を、ぽんと叩く。
「このみが持ってた方が、俺も安心だからさ」
なでなで。

「うー、うんっ、へへっ、ありがとうっ!」
それで、このみもにこーと笑うと、くるくる回ってあたりを駆けだした。
うん、心配してくれた巫女さんには悪いけど、俺は自分とこのみのどっちかって迫られたら、自分が事故に遭う方を選ぶと思う。
笑うなら笑え、俺は、このみには甘いのだ。

「じゃあ、れっつごーっ!」
「おいっ、だから走るなって」
「お守りあるから大丈夫だよ〜っ! わたあめ〜っ!」
今日はやけに機嫌の変動が激しいこのみ。あっというまに人混みに消えていく。かえって危険だったか。

まあ、目的地は判ってるからな。そう思ってのんびり出店の方に歩いていたら、
「あ、たかあきや〜☆」
また、見知った顔にあった。
68おみくじとお守りと交通安全 8/9:2008/01/05(土) 13:57:43 ID:d8wkp1Lz0

「あけましておめでとう、珊瑚ちゃん」
「おめー☆」
俺の挨拶に両手を挙げて応えてくれたのは、一年生の姫百合珊瑚ちゃん。
ひょんな事で知り合った子だけど、ぽわんとした見かけによらない超天才児だ。

「瑠璃ちゃんも。おめでとう」
「ふんっ、新年そうそうたかあきに会うなんて、今年は最悪の年やなあ」
珊瑚ちゃんとは対照的に膨れっ面をしたのは、双子の瑠璃ちゃん。
いつも態度はこうだけど、心根は優しい子だって俺は知ってるから平気。

「瑠璃様、そういう事は、心になくともおっしゃるものではありませんよ」
注意したのは、二人といつも一緒のルックスも性格も素敵なメイドロボ、イルファさん。
「イルファさんも、あけましておめでとう」
「はい、今年もよろしくお願い致しますね」

イルファさんによろしくお願いされたらどんな事でも聞いてしまいそうだけど、
お願いされなくたってこの子達とは仲良くしていきたい。

ただ、最近は問題がひとつあって。
「……あと二人は?」
俺はこっそりイルファさんに尋ねる。
そう、こっそり。できれば、問題は避けて通りたい。
が、
「来てますよ」
う、凶兆。
「さきほど、屋台の方を見に行ったんですけど……」
案の定、イルファさんが答えを言い終わる前に、

「あっ、いたあ〜っっっっっっ!!!」
大音量で、問題の方が俺を発見してしまった。
69おみくじとお守りと交通安全 9/9:2008/01/05(土) 13:59:15 ID:d8wkp1Lz0

「たかあき、あけおめことよろーっ!」
どこで覚えたのか妙な省略語を叫びながら、迫り来る問題その1。

正式名称は忘れたけど通称ミルファ。イルファさんの姉妹機である、来栖川製メイドロボ。
イルファさんに良く似てるけど、ピンクの髪と悪戯っぽい瞳と、あと一回り大きな胸が特徴。
なんで大きな胸ってわかるかっていうと、よく抱きつかれるから。

羨ましいとかいうなかれ、確かにミルファは可愛いし性格も(無茶苦茶だけど)明るくていい娘だけど、加減ってもんを知らないので。
「今年の初だっこーーーーーっっ!」
激突したら絶対にただではすまない速度と加速度で突撃してくる、推定1000万パワーの元気球。

だが、奴の攻撃は直線的だ! 焦るな河野貴明! コースを見切って、身をかわすっ!
「……。」
「のわあっ!?」
しかし、俺が避けようとした先に、気配も感じさせずに待っていた問題その2。

「……ジッ。」
問題その2。通称シルファ。ミルファのさらに妹ともいうべき機体で、無口。
金髪を編んだ尻尾みたいな髪がトレードマークで、ミルファみたいに暴れはしないんだけど……いや、詳細は語るまい。

というか、既に語ってる場合じゃなかった。
「うわっ、急に止まっちゃちゃちゃちゃちゃああああああっっっ!」
目の前に出現したシルファから身をかわそうとした俺は、ノーブレーキで爆走してきたミルファと、

どっかーん。

「はぁ……だから、お守りを差し上げましたのに」
5メートルほどぶっ飛ぶ途上、なぜか眼前に現れた巫女さんの幻を見ながら、俺はこう思った。

メイドロボに轢かれるのも、交通事故っていうのかな……。
70名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 14:00:51 ID:d8wkp1Lz0
以上。6/9の15行目「動ききやすいように」→「動きやすいように」。ほか誤字脱字御免
>57を見てから約3時間で衝動的に書いてしまいました。タイトルも適当です。今は反省していない。後でするかも
71名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 14:04:57 ID:mRxOjbcc0
>>70
新年一発目おつかれさまです
リアルタイムで見れたのはよかったなあ

このみ中吉が読めないってところで思わず突っ込んだw
なんてゆとり? でも中の人ホントに読めなそうです(´;ω;`)

てか面白いっすね、この話
オチもほのぼのって感じだったし、最後まで楽しめました
たしかに交通事故っちゃー交通事故だもんなあw
72名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 14:14:28 ID:3vgyU7oX0
>>70
乙です
最後ミルファとシルファに挟まれてぱらいそなんじゃないかと思った俺はダメ人間 orz

>>60
あんだけボコボコにされたんだし戻ってこないんじゃね?
向こうでもけっこうフルボッコだしw
73名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 14:19:56 ID:QZAbdxQu0
>>70
新年早々乙
交通事故にはやられたぜ
まさかこういうオチでくるとは思わなかったわw
74名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 14:22:10 ID:jmXXwUOL0
先にこのみにお守りあげておけば、愛佳と事故れたのに〜
75名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 14:33:35 ID:D+15sK8E0
歩行者と走行者(?)の激突も一応は交通事故扱いなのかなぁ?w
何にしても乙。最後をメイドロボでしめるとは思わなかったんだぜ。
76名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 14:37:56 ID:d8wkp1Lz0
シルミルサンドイッチは考えたけど、>74の発想はなかったわw
確かに少年/少女漫画で「交通事故」といえば突発キス/胸触りの隠語だし...
77名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 19:19:47 ID:DLZDe2fK0
>>70
リクエストしたらホントにキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

お礼にちーをやろう つi
その代わりに、そこの草壁さんはもらっていく!

>草壁さんスレのSS
彼はもうホームページでも持てばいいと思うんだ
78名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 20:01:11 ID:XHSvQmXT0
しかし、メイドロボが人に怪我させたら主が払うんだろうが、自賠責とかあんのかなw
あと(多分)シルファみたいに所有者と御主人様が違う場合はどうなるんだ?
79名無しさんだよもん:2008/01/05(土) 23:37:43 ID:a0+7EO5XO
>>78
> あと(多分)シルファみたいに所有者と御主人様が違う場合はどうなるんだ?


どういうこと?どっちも珊瑚じゃないの?
80夕飯の準備と洗濯物と 1/15:2008/01/06(日) 00:06:30 ID:bvC3213N0
 お昼も過ぎて。
 そろそろ瑠璃様に珊瑚様、それに、貴明さんが帰ってくる時間。
 今日のお夕食は、いつも行く八百屋さんに良いおナスが売っていましたし、マーボーナ
スにしましょうか。それだけではお口も飽きてしまいますし、さっぱりとした冬瓜のスー
プも一緒に。副菜にもう一品、中華風冷奴もお付けして。
 鼻唄を歌いながら、買い物カゴの中から出した野菜を洗っていく。
 脱衣所の奥からは、さっき回し始めた洗濯機がまるで伴奏するように音を立てている。
 ニンジンに付いた泥を丁寧に洗い落としながら、夕飯の時のことを考える。
 瑠璃様は褒めてくださいますでしょうか。家庭用のコンロでは、どうしても火力が低く
なってしまいますし。
 珊瑚様はあまり辛いお料理が得意ではありませんし、調味料の使い方を気をつけて。
 貴明さん、どれくらいお召し上がりになりますでしょうか。おナス、もう少し用意した
方が良かったかも。
 自分の料理を食べてくれた人が、喜んでくれることを考えながら準備に取り掛かる。鼻
歌は、いつの間にか体でリズムを取るようになってきて。
 だからそれも、けして手を抜いていたせいではなくて。
 つい3人のことを考えていると、野菜を洗っていた時のまま水道の蛇口を閉め忘れてし
まって。水につけていたナスがボウルの外へ流れてしまいそうになる。

「あ、いけな──

 蛇口を閉めようと、慌てて伸ばした手は蛇口のレバーではなく水道の先に触れてしまっ
て。

「ひゃっ、ひゃぁぁぁ・・・・・・
81夕飯の準備と洗濯物と 2/15:2008/01/06(日) 00:08:40 ID:bvC3213N0



 学校が終わって、いつものように俺は珊瑚ちゃん瑠璃ちゃんと一緒に、珊瑚ちゃんのマ
ンションへと帰ってくる。
 玄関の扉を開けて、真っ先に中に駆け込んでいくのが珊瑚ちゃんで、その次が瑠璃ちゃ
ん。一番最後に俺の順番で中に入って行った。
 中に入って漂ってきたのが、食欲をそそるような辛い臭い。きっと今日の晩御マーボー
豆腐に違いない。

「イルファ、ただいまー」

「イルファさん、ただいま」

 ただ今日は中の様子がおかしい。いつもなら俺たちが帰ってきたところで、イルファさ
んが玄関まで迎えに来てくれるのに。
 リビングの方から物音はするから、いない訳じゃ無さそうなんだけど。料理か何かで、
手でも放せないんだろうか。

「いっちゃん、どうしたん?」

 俺たちより一足先に中に入って行く珊瑚ちゃん。

82夕飯の準備と洗濯物と 3/15:2008/01/06(日) 00:10:19 ID:bvC3213N0
「さ、珊瑚様!? 少し、少しお待ちください!」

 けれど中からは、慌てふためいたようなイルファさんの声が聞こえてきて。

「うわぁー、いっちゃんすごいなー。趣味?」

「いえ、けして趣味などでは! こ、これには深いわけが」

 はしゃぐ珊瑚ちゃん。
 俺と瑠璃ちゃんは目を合わせて『なんかあったん?』『いや、わからない』アメリカ人み
たいな仕草で肩を竦めあう。

「イルファさん、何かあったの?」

「あ、た、貴明さんも、まだ心の準備が──

 イルファさんの制止の声が聞こえたのは、俺がリビングの扉をくぐったのとほぼ同時だ
った。
83名無しさんだよもん:2008/01/06(日) 00:13:32 ID:OKlQZLq10
しえん
84名無しさんだよもん:2008/01/06(日) 00:56:55 ID:1nJNUSO90
おろ? 規制にでも巻き込まれた?
85夕飯の準備と洗濯物作者知人より:2008/01/06(日) 00:57:32 ID:bqiKoZ/d0
え〜 すいません作者の知人ですが
投稿中に作者PCがご臨終したそうで
投稿を一時中断するとのことです
関係各位の皆様には大変ご迷惑をおかけしますとのことです
86夕飯作者知人:2008/01/06(日) 01:01:12 ID:bqiKoZ/d0
すいませんsage忘れました・・・
HDいかれたみたいなんで、今復旧のアドバイスしてますんで
明日ノートでどうにかするとのことです
87名無しさんだよもん:2008/01/06(日) 01:02:55 ID:1nJNUSO90
(ノ∀`) アチャー
そりはご愁傷様。復活お待ちしております。バックアップが取ってあるといいんですけどね
88名無しさんだよもん:2008/01/06(日) 01:05:37 ID:1nJNUSO90
連投ゴメソ
>79
ソースは知らない(G's?)が
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1199455127/14
89名無しさんだよもん:2008/01/06(日) 01:21:29 ID:6JEfguOd0
いつものイルファさんの人だよね。
復旧がんばってください。楽しみにしてます。

>>78
エロゲで語る法理論(笑)は、がっつりやると面白くなるかもしれんが
そこまでやるつもりがないならKYっぽくなるからやめとけw
90名無しさんだよもん:2008/01/06(日) 01:33:16 ID:BGnY4UI+0
作者(´・ω・`)カワイソス
91名無しさんだよもん:2008/01/06(日) 01:35:37 ID:Dta5LHHw0
変なところでこの合いの手

珊瑚ちゃんの知り合いが出てきて、イルファさんが壊れたってオチなのかと思ってしまったじゃないか
92夕飯作者知人:2008/01/06(日) 01:39:08 ID:bqiKoZ/d0
おそらくウィンドウズの破損か、HDの不良セクタだと思うので
データの吸出しは機材さえあればなんとか。

こんな時間ではどうにもならんので、しばしお待ちくだされ。
93書庫の中の人:2008/01/06(日) 23:56:52 ID:eYj9gegP0
あけおめです
新年一発目の更新しました。
今年も遅れ気味の更新になってしまうかと思いますが
生暖かく見守っていただけるとありがたいです

>>80-82
間が悪かった
申し訳ありませんが次回の更新で・・・
94名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 00:24:18 ID:qoBRleMV0
>>93
乙です。いつもご苦労さまです
95名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 16:33:19 ID:phA5haXp0
>>93
おお!何気に書庫が更新されている、いつもありがとうございます。
貴方がいないとマジで困ります。
96名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 19:37:10 ID:BGNj3Afr0
>93
書庫の人いつも乙
>92
友人の人乙
イルファさんSSの人カワイソス。だが自分でインスコくらいできるようになった方がいいかモナーw

なに? データが飛んだ? 逆に考えるんだ
「もっと良く書き直すチャンスが出来た」と考えるんだ
97名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 20:40:14 ID:Ndrzhrdq0
>>96
システムのインスコなんてなれりゃどうって事ないけど
HDDが飛んで一番がっかりするのは
部品代がかかることでもシステムインスコがマンドクサい事でもなく
プライベートなデータが飛んで取り戻せない事実に対する精神的ダメージだからなぁ…
書き直すにしてもそんな前向きには考えられんぜ俺なら
98名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 20:47:46 ID:HF7Sauxe0
あと無駄に疑心暗鬼になるな。
またデータ飛んだらどうしようかとか思い始めると止まらない。
ちょっと異音がしただけでディスクチェックをかけバックアップも過剰に取るようになる。
特に再インスコ直後は神経過敏になってるから筆も進まんのではないかと勝手に予想
99夕飯の準備と洗濯物と:2008/01/07(月) 20:50:55 ID:x4xNH8Ue0
>>82 です。
先だっては大変お騒がせいたしました。
ようやく復旧作業もひと段落つき、SSのデータもバックアップがあったため
最悪の事態だけは避けることができました。
ご迷惑をおかけしたこと、この場をお借りしてお詫び申し上げます。
また、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
100夕飯の準備と洗濯物と 4/15:2008/01/07(月) 20:52:18 ID:x4xNH8Ue0
 リビングの中は、イルファさんが慌てる様な特に変わった様子は無くて。
 テーブルの上には、山盛りのマーボーナス。ああ、この良い臭いはこれの臭いだったん
だ。
夕飯の献立が並んでいて。
 そして今度は、イルファさんの声のするキッチンの方に目を移す。
 こちらも、パッと見には別に変な部分は見当たらない。イルファさんが、お鍋を持った
まま右往左往しているくらいだ。
 そう、パッと見ただけなら。

「え、えっと・・・イルファさん? どうしたの、その格好」

 ちゃんと見ていれば、おかしなところ。いや、おかしな格好のことはすぐわかった。た
だ脳の方がそのことをなかなか認識してくれなかっただけで。
 キッチンの中では、裸のイルファさんが夕飯の支度をしていて。
 正確には裸じゃなくて。いつもイルファさんが料理をするときに付ける、エプロン"だ
け"を身に着けて。
 イルファさんがキッチンを歩くたびにその裾の部分がひらひらと舞い上がって、もう、
ちょっとで、その中が見えそうっ・・・・・・
 瑠璃ちゃんに頭を叩かれた。
101夕飯の準備と洗濯物と 5/15:2008/01/07(月) 20:55:36 ID:x4xNH8Ue0

「何いやらしい目つきしとんのや! イルファも!! なに家の中裸で歩いてるの」

「いっちゃんせくしーやなぁ。悩殺?」

「さんちゃんは黙っといて・・・」

「裸じゃありません!」

 必死に反論するイルファさん。
 確かにイルファさん、エプロンはしてるけれど。
 むしろその格好じゃ、裸でいるよりもなんと言うか、目のやり場に困ると言うか。

「違います! ほら、ちゃんとご覧になってください」

 と、後ろを振り向くイルファさん。あまりに急に振り向くものだから、視線を逸らすこ
とも、目を隠すことも間に合わずに。
 けして、見たくて見た訳じゃないからな。
 けれど俺の目に飛び込んできた物は、イルファさんの可愛らしいお尻ではなくて。

102夕飯の準備と洗濯物と 6/15:2008/01/07(月) 20:57:48 ID:x4xNH8Ue0
「下着?」

「はい」

 エプロンの下には、白のショーツとブラ。
 が、がっかりなんて、してないからな。
 と、最初は下着だけでいたのですが。とイルファさん。

「さすがに皆様の帰りを、下着だけでお迎えするわけには参りませんから」

 一応は、考えてその格好をしてたらしいんだけど。
でも、それじゃああんまり意味ないんじゃないかな・・・
 俺が「ねえ」と振り向くと、瑠璃ちゃんも不承不承といった風に頷いてくれた。
 だって、もう一度、俺たちの方を向くイルファさん。いくらその下に下着を付けている
って言われても、エプロンの上からじゃそんなことはわからないし。
 今にもその中が見えてしまいそうなエプロンの裾とか。却ってその下のことを想像して
しまいそうな胸の部分だとか。
 今ここで、イルファさんがお辞儀なんてしちゃったら、一体エプロンはどんなことにな
ってしまうのだろう! なんて考えが、いけないいけないとは思いつつ頭に浮かんでしま
う。
103夕飯の準備と洗濯物と 7/15:2008/01/07(月) 21:00:38 ID:x4xNH8Ue0
 恐るべし、裸エプロ──

 思いっきり、瑠璃ちゃんに足を踏まれた。

「イルファーっ!! このアホが変な気起こす前に、さっさと服着て来ぃ!」

「た、貴明さん大丈夫ですか?」

 慌てて駆け寄ろうとするイルファさんに、何でも無いからと手で制する。本当は悲鳴も
あげられないくらい痛いんだけど。
 それよりも、瑠璃ちゃんの白い目が痛い。

「あの、私でしたら構いませんので。その、多少はやはり恥ずかしいですが、貴明さんで
したら私・・・あ、下着も脱いだ方がよろしければそういたしま──ひっ!?」

 瑠璃ちゃんに睨まれて、今度はイルファさんまで身を竦ませる。
 そろそろ瑠璃ちゃんの我慢も限界っぽい。

104夕飯の準備と洗濯物と 8/15:2008/01/07(月) 21:05:02 ID:x4xNH8Ue0
「あー、イルファさん。気持ちはありがたいんだけど。やっぱり落ち着かないしさ、いつ
もの服に着替えてきて欲しいんだけど」

 と、申し訳無さそうな顔をするイルファさん。

「着替えたいのはやまやまなのですが、実は服を全て洗濯してしまっておりまして」

 イルファさんの視線の先には洗濯機置き場。そういえば、さっきから洗濯機の回る音が。

「今日はお洗濯物も少なかったですし、良い機会でしたので一度きちんと糊付けからと思
ったのですが・・・着ていた服まで、お夕食の準備中に汚してしまって。まさかお出かけ用の
お洋服で家事はできませんし」

 それで考えた結果が、この裸エプロン(みたいな)格好らしいんだけど。

「もう1時間もすれば洗濯も終わりますし、そうすればすぐに着替えますので」

 あと1時間か・・・ま、まあ、1時間くらいだったら何とか我慢することも出来るかな? 何の我慢かはわからないけど。
 でも、他に服が無いって言うんじゃ仕方ないし。
105名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 21:08:15 ID:GrntNVc8O
支援
106夕飯の準備と洗濯物と 9/15:2008/01/07(月) 21:08:57 ID:x4xNH8Ue0
 ん、まてよ?

「イルファさん、珊瑚ちゃんか瑠璃ちゃんの服を着れば良いんじゃないの? 3人とも、
身長だって同じくらいだしさ」

 どう? って、瑠璃ちゃんをみる。瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんさえ嫌でなかったら、いい
アイデアだと思うんだけど。

「まあ、仕方ないやろ。こんな格好で家の中うろうろされるよりはましやし」

「じゃ、うち服とってくるな。 なーなーいっちゃん、どの服着たい?」

「あ、あの珊瑚様」

 洋服を取りに行こうとする珊瑚ちゃんを、イルファさんが引き止める。
 
「お二人のお申し出は嬉しいのですが」

「いっちゃん、遠慮することないよー」

107夕飯の準備と洗濯物と 10/15:2008/01/07(月) 21:12:51 ID:x4xNH8Ue0
「い、いえ、遠慮しているわけではなくて、その、実は先ほど、瑠璃様のお洋服をお借り
しようとしたのですが」

「なんだ、そのまま来てればよかったのに。そんな破廉恥な格好せんでも」

 はい、ですが。とイルファさん。はたしてこの先を言って良いのでしょうか、なんて表
情で固まってしまう。

「確かに基本的なサイズに問題は無かったのですが、その、部分的にサイズの足りない部
分がございまして・・・む、無理に着ることができなかったわけではないのですが」

 首を傾げる。
 部分的に?
 イルファさんの体を、足の先から眺めていく。身長は同じくらいだし、手や足の長さが
イルファさんと瑠璃ちゃんでそんなに違うようなことも無いと思うんだけど。
 そして目に入った、エプロンで覆われた、イルファさんの二つの膨らみ。

「あ゛ーっ!!」

「貴明、どこ見とるんや!」

108夕飯の準備と洗濯物と 11/15:2008/01/07(月) 21:16:07 ID:x4xNH8Ue0
 瑠璃ちゃんに、また、思いっきり足を踏まれた。それどころか、珊瑚ちゃんまで俺のこ
とを睨んできて。
 俺!? 俺のせいなの!?
 けれど確かに理解できた。
 瑠璃ちゃんの服を着るイルファさんは、きっと今以上に目のやり場に困ることになって
いただろう。まして珊瑚ちゃんの服だったりした日には、俺は一体どうなってしまってい
たんだろう。

「仕方ない。そんな格好でうろつかれるのは嫌やけど、あと1時間我慢したるわ」

「はい、申し訳ございません」

 結局、洗濯が終わるまではイルファさん、今のままエプロンだけの格好でいることにな
って。困ったような残念なような・・・・・・ちょっとだけほっとしたような。

「あ」

「さんちゃん、どうしたん?」

「いっちゃん、貴明の服だったら着れるんとちがう?」
109名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 21:22:44 ID:BGNj3Afr0
支援。
110夕飯の準備と洗濯物と 12/15:2008/01/07(月) 21:25:35 ID:x4xNH8Ue0

「大変お騒がせいたしました」

 結局、目の前には俺の服を着たイルファさん。
 さすがにズボンの裾やスウェットの袖の部分が余ってしまったけれど、それ以外は特に
問題なく着ることが出来てるみたいだ。
 まあ、そうだよな。イルファさんと俺とじゃ、そもそも体格が違う訳だし。
 いや、別に、着ることが出来くったって、何がどうなる訳でもないけれど。

「あの、貴明さん。私、どこかおかしいでしょうか。先ほどからじっとご覧になられてい
ますが」

「え、あ、いやー、いつも自分で着ている服でも、イルファさんが着ると随分と雰囲気が
変わるなーと思ってさ」

 イルファさんに聞かれて、慌ててそう答える。
 イルファさんが着ただけで、俺の服とは思えないくらい雰囲気が変わるのは確かだし。
嘘は言ってないよな、嘘は。

「いっちゃん、似合っとるよ。貴明と一緒やー」
111夕飯の準備と洗濯物と 13/15:2008/01/07(月) 21:28:39 ID:x4xNH8Ue0
「そう、ですか?」

 「似合ってますか?」なんて言って自分の様子を見るイルファさんに、ちょっとだけ良
心が痛んでしまったのも確かだけど。
 
「ほら、イルファ。着替えたんならさっさと夕飯の支度、済ませてしまうで。服も乾いた
ら、アイロン掛け手伝うから」

「は、はい」

 そうしてキッチンに向かう瑠璃ちゃんとイルファさん。
 まあ、いろいろあったけど。ようやく一件落着かな。珊瑚ちゃんも手伝いたいのか、一
緒にキッチンについていった。
 一人残ったリビング。テーブルの上には、少し冷めてしまったのが勿体無いマーボーナ
スと、さっきまでイルファさんが付けていた・・・エプロン。
 料理の続きをするのなら、これが無いと拙い、よな。い、イルファさーん。エプロン、
忘れてるよ・・・・・・

112夕飯の準備と洗濯物と 14/15:2008/01/07(月) 21:32:08 ID:x4xNH8Ue0
「あの、貴明さん」

「ち、違うんだなにもやましいことなんか考えてないし俺はただこれをイルファさんに渡
そうと思っただけで」

 キッチンからひょっこり戻ってきたイルファさん。視線は、俺の手に握られたエプロン
に。

「あの・・・貴明さん」

「イルファさん料理するんだったらエプロン必要だよね良かったなー始まる前に渡すこと
ができて」

 けれどイルファさん。俺の必死の弁解にもかかわらず顔を赤く染めて。
 キッチンの方を向いて、瑠璃ちゃんも珊瑚ちゃんもこっちに来ないことを確認すると。そっと、俺の方に近寄ってくる。

「は、はい、イルファさん。エプロン」

「ありがとうございます」

113夕飯の準備と洗濯物と 15/15:2008/01/07(月) 21:37:53 ID:x4xNH8Ue0
 俺は慌ててイルファさんにエプロンを渡して。でもイルファさん、エプロンを受け取っ
た後も、俺の耳元に顔を近づけて。

「二人っきりの時でしたら」

「い、イルファさん!?」

 ありえない言葉に俺が声をあげると。そのころにはイルファさん、もうキッチンのとこ
ろまで向かってしまっていて。
 くるりと振り向くと、イルファさん、ちょっとだけ照れた表情で。

「今度は、エプロンだけで」



 終
114夕飯の準備と洗濯物と あとがき:2008/01/07(月) 21:39:32 ID:x4xNH8Ue0
本来は、イルファさんのキャストオフ見てたらムラムラときただけのSS
だったのに、大変お騒がせいたしました。

最後の台詞は最後の最後まで悩んだなぁ。
115名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 21:45:15 ID:GrntNVc8O
>>114
乙です。
確かに、イルファさんには裸エプロン異常に似合いそうですな。
ついでにミルファには裸Tシャツ、シルファには裸ワイシャツが似合うような気がしてきましたw
116名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 21:49:52 ID:BGNj3Afr0
>114
とても乙&GJ
「今度は、エプロンだけで」も楽しみだが、イルファさんの白下着姿は妄想すると素晴らしい。裸エプより趣があるやもしれん
個人的に他人の服を着せる醍醐味はだぶだぶとぴちぴちだと思うので、貴明服でうぇすとゆるゆるとか、珊瑚服が胸の差でちびT化とかも見たかったかも
117名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 21:50:40 ID:Ndrzhrdq0
>>114
いや、本当に乙でした
バックアップがあって何より
アレは健康保険と一緒で普段価値を感じられないものなのでついつい滞りがちになる

ちなみに俺はこのイルファさんの台詞を聞いた瑠璃ちゃんが怒りながら裸エプで対抗とか想像したw

>>115
俺はミルファは裸セーター(だぼだぼざっくり編みでうっすらと肌が見えるやつ)がええな
118名無しさんだよもん:2008/01/07(月) 23:42:41 ID:IW1mbjnd0
裸エプロンより下着エプロンの方が100倍好きな俺には最後の言葉は頂けない
119名無しさんだよもん:2008/01/08(火) 00:44:15 ID:m0DNZiaU0
>>114
乙ですた
臭いと匂いって意味が違うんだぜ
前者は悪いにおい、後者はいいにおいに使うんだぜ
120名無しさんだよもん:2008/01/08(火) 05:42:12 ID:OFcUx9OI0
>117
あ、ミルファの裸セーターいいな。「チクチクするよぉ〜」とか言って貴明に身体を擦りつけたりするんだな
121名無しさんだよもん:2008/01/08(火) 09:44:34 ID:UkMzlapZO
ここはやはり珊瑚ちゃんも対抗して裸エプロンをし、瑠璃ちゃんをも巻き込んで行くところだと思うんだ
122名無し:2008/01/09(水) 00:15:35 ID:YKd0ne7wO
書庫さん更新お疲れ様でした。m(_ _)m
123名無しさんだよもん:2008/01/09(水) 11:38:25 ID:St5MN8vC0
>>114
災難でしたね、そして乙&GJでした。
書庫の人も乙です。

>>115
あれ、俺がいる…
124名無しさんだよもん:2008/01/09(水) 21:00:22 ID:FHx9O0iR0
>>114
非常によかったです。
イルファさんには確かにエプロン姿が似合いますな。

>>115
ミルファとシルファは逆じゃないかと。
胸元はだけた裸ワイシャツのミルファと、ダボダボの裸Tシャツのシルファの方が個人的には好き。
125名無しさんだよもん:2008/01/09(水) 21:47:00 ID:0+coEQ6+0
>>124
もちろんミルファにはだワイ、シルファにはだTも似合うと思うんだ。
だがあまりに普通過ぎないかね??
んで、「裸ワイシャツに恥らうシルファ」とか「特に意識せず今着ているメイド服も一緒に洗濯機に放り込み、
裸にパンツ+Tシャツ一枚で元気に家事に励むナチュラルお色気全開のミルファ」もいいかなと。

おお、なんかネタになりそうだw
んでも貴明のTシャツだとダボTまでいかなそうだから、単なるズボラメイドに見える気がしてきた……orz
126名無しさんだよもん:2008/01/09(水) 22:33:44 ID:AknvjNfB0
好みすら普通ではいけないのか。SS作家は大変ですね
127名無しさんだよもん:2008/01/09(水) 22:57:40 ID:aiWatwTv0
いや、あまり特殊だと読者が引くと思うが…
128名無しさんだよもん:2008/01/09(水) 23:12:41 ID:FVlOulBo0
つーか124の考えてることも125の考えてることも大差ないwwww

突っ込み待ちだろ? なんでボケ倒してるんだよw
129名無しさんだよもん:2008/01/10(木) 01:40:27 ID:slULh9y2O
裸ワイシャツは大好物じゃが、裸エプロンの良さがわからん
アレの翌朝に「腹減った」→「じゃあ何か作ったげる」でも裸って訳にもいかないから→裸エプロン
→Yes!! チラリズム!!……みたいなシチュ萌的なものなのですか?
130名無しさんだよもん:2008/01/10(木) 06:21:44 ID:qv2CtHUi0
前からみると一瞬普通→背中は全開、というコンボと、
正面からめくるのも後ろから襲うのも自由、上下左右どこからでも手が入るという、
「布地の面積に比例しない無防備さ」が裸エプロンの魅力かと
131名無しさんだよもん:2008/01/10(木) 11:07:34 ID:i2SwWEqB0
>背中全開
びんぼっちゃま君の事か

裸エプロンは衛生的に悪そうだと夢も希望もない事を書いてみる
つ「ノーパンしゃぶしゃぶ」
132名無しさんだよもん:2008/01/10(木) 20:58:05 ID:Xroqavq10
>>129
裸エプロンでキッチンに立ってる姿を後ろから愛でる
これが至福の時だと、お主何故分からん!
133名無しさんだよもん:2008/01/10(木) 23:54:16 ID:yxPAfkNL0
To heart オルタネイティブを書こうかとおもうが
ひどいことになりそう
134名無しさんだよもん:2008/01/11(金) 17:34:01 ID:ZIveGbwB0
まぁ、裸エプロンの破壊力は現物を見るとよくわかるんだがな。
正面だと普通、でも後ろを向かれると理性メルトダウンっていう恐ろしい代物だかんね〜。
だぼだぼ裸ワイシャツの破壊力も異常。特に乳のデカイ女がやると。
だぼだぼ裸Tシャツは色気はそんなにない気もしないでもない。
個人的には裸Tシャツ好きだけどねw出来ればパンツ付きで。
135129:2008/01/13(日) 00:01:32 ID:X2BTokkhO
皆の集ありがとう。裸エプロンの良さが判るまで精進して参ります
P.S――裸ワイシャツはぱんちゅ履いてる方が嬉しひ
136名無しさんだよもん:2008/01/13(日) 01:20:01 ID:3ZZsEZs00
俺もパンツあり派だなw
その際は白が望ましい。
137名無しさんだよもん:2008/01/13(日) 10:31:23 ID:5X9YNRKwO
裸なんとかじゃなくてもパンツは白がいいと思うのは俺だけだろーか???
138名無しさんだよもん:2008/01/13(日) 12:58:39 ID:rVfu5Nhz0
パンツは白だろ…常識的に考えて
139名無しさんだよもん:2008/01/13(日) 16:23:18 ID:7j9rPE8/0
パンツと言えば、今日はまーりゃん先輩の誕生日だが
SS投下する勇者はおるのだろうか…
140名無しさんだよもん:2008/01/13(日) 16:45:38 ID:7j9rPE8/0
間違えた orz
明日だったよ…
141名無しさんだよもん:2008/01/13(日) 17:54:14 ID:io4t3LMs0
>137-138
俺はこのみには主として水色のぱんちゅを履いて欲しいと思っています
142名無しさんだよもん:2008/01/13(日) 20:08:11 ID:ZhgzsfSQ0
まーりゃん先輩なら明日丁度成人式だし何かしらのネタ作れなくもなさそうだよな。
それはそうと、携帯の公式サイトのまーりゃん先輩の誕生日に欲しいもの全く分からなかったw
143名無しさんだよもん:2008/01/13(日) 21:07:53 ID:x38vk6ZnO
永遠の14歳だろ
144せいじんの日:2008/01/14(月) 21:29:16 ID:rfLVoZD40
「たかりゃん君!よもや今日は何の日だか知らぬとは言わんだろうな。」
「成人の日ですが、何か。」
「ばかものぉっ!ドリルまーりゃーんキィィック!!」
「ぐはぁっ」
 抜く手も見せないドリルまーりゃんキックが貴明のバディに炸裂した。
「知らぬならば聞いて驚けっ!今日は尊くもあちし、まーの誕生日だぞ!…というわけで」
 まーりゃん先輩はズバッ、と右手を突き出して言った。
「何かくれ。」
「…いや、何もありませんけど。っていうか、普段から先輩にいろいろ虐げられている俺が何でそんなものを」
「いいか、たかりゃん…まーの物はまーの物、たかりゃんの物はまーの物、それがこの世の摂理なのだっ!」
「うわ…言い切ったよこの人は。」
「ふふーん…差し出すものが無いというなら、たかりゃんのその若鮎のような肉体であちしを満足させてもらおうかのう。」
 ぐふぐふ、と笑みを浮かべながら貴明弄りをおっぱじめようとしたまーりゃん先輩だったが、
「…わかりました。」
「へ?」
 予想外の返答に出鼻をくじかれたまーりゃん先輩をよそに、貴明はずばっと着衣を脱ぎ捨てた。
「ベッドヤクザとの呼び声も高いこの俺のテクニックで、まーりゃん先輩をこの世ならざる快楽の世界へと誘って見せます!」
「え?あ、いや…さっきのは冗談と言うかなんと言うか…間違いって言うか」
「いざ!」
「ひぃぃぃぃ!らめぇぇぇぇ!」
 腰の引けたまーりゃん先輩めがけて、貴明のビッグマグナムが火を噴いた。
 そして数刻後…
 散らばったピンクのセーラーと縞々のパンティ、そして、全裸で貴明にいとおしそうに寄り添うまーりゃん先輩の姿が。
「たかりゃん…ううん、貴明。あたしはもう身も心も貴明の物…どこまでもついてゆくわ。」
「…ちがう」
「え?」
「違う!ちがうちがうちがう!ちっがーう!」
 貴明はすがりつくまーりゃん先輩の体を振り落とすと男泣きに泣き出した。
「下品な言葉で俺を罵倒しない素直なまーりゃん先輩なんて、俺のまーりゃん先輩じゃないぃぃぃぃ!」
 貴明は絶叫しながら、全裸のまーりゃん先輩を置き去りにして逃亡した。
「もしかして…犯られ損?…ぬぉぉぉ!たかりゃんのばか〜!訴えてやる〜!」
 全裸で叫びながら復讐を誓うまーりゃん先輩であった。
145名無しさんだよもん:2008/01/14(月) 21:30:16 ID:rfLVoZD40
構想5分 執筆15分
ついカッとなってやった
反省する気は無い
146名無しさんだよもん:2008/01/14(月) 21:55:32 ID:0WpB4Xes0
こういうまーりゃん先輩ありだな
147名無しさんだよもん:2008/01/14(月) 21:59:24 ID:X2bVxfhA0
ありだが、エロパロ板のドクロちゃんスレあたりに投下されてそうなSSだw もしくは葱板の朝妹スレとかww
148名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 03:05:47 ID:7/4YdS2/0
なんというリビドー
これは敬意を表さざるを得ない
149名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 13:04:09 ID:hKTyrCsD0
>>134
実際やってもらった時はあんまり興奮しなかったな。
チャイナもいまいちだった。
セーラー服やチアリーダーの制服はかなり萌えたw
150名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 14:26:29 ID:rU0eV5fv0
>>149
どうやらお前は全国の童貞を敵に回したようだ
151名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 14:33:02 ID:DFjdM/4T0
>>149
そんな事誰も聞いてねえよカス
152名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 18:23:54 ID:G3xh9AZe0
投下させて頂きます
長さは3レスほど
153人の日記を勝手に読んではいけません(1/3):2008/01/15(火) 18:24:57 ID:G3xh9AZe0
ガタン、バサバサ。
「うわ、やっちまった…」
とある休日、部屋で掃除機をかけていた所、力の入れ方を誤ってしまいそれの被害をまともに受けてしまった本棚は
惜しみなくその中身を床にプレゼントしてくれやがった。
やれやれ、慣れない事はする物じゃないな。
そう思いながら散らばってしまった本を一つ一つ拾っていくと、見慣れぬ本が一つ混じっていた。
いや本じゃない、汚れてボロボロだったけどソレはコンビニとかで売っている学生御用達のノートだった。
そのノートが背表紙を晒しながら床に転がっている。
「あれ、こんなのあったっけ?」
ソレを拾い上げ表表紙を見てみる。そこに書いてあったのは…。
「るーこのうー調査日誌…?」
突如出てきた同居人兼許婚兼恋人の名に俺はしばらくその題名に目が釘付けになった。
つまりこれはアレか、るーこが持ち込んだ物だったのか。
しかしこんな物何処に持っていたんだ…。いつだったかるーこの鞄を覗いた時にはこんな物なかったはずだ。
いや、それは後でるーこに聞けばどうとでもなることだ。俺の今の興味は別の事に向いている。
「この場合のうーてのは…」
どっちの意味なのだろう。
るーこが使う『うー』には二つの意味がある。
一つは地球の事を指す場合。そしてもう一つは俺を指す場合。
るーことは、長いとは言えないが濃い内容の付き合いであると自負している俺は、るーことの会話する上で出てくる
『るー』や『うー』がどのようなニュアンスで使われているかは大体理解しているつもりだった。
しかし今回は、なんと言うかどっちの意味で使われているのかわからなかった。
地球調査日誌なのか。それとも俺、貴明調査日誌なのか。
以前俺の事を調査対象に認定すると言っていたるーこだ、後者でも不思議ではない。
仮に、もし後者なのだとしたら…。
「読んでみたい…」
他ならぬ恋人が自分の事をどう見てどう考えそれをどう表現しているのか。
それでなくとも恋人の書いた日記、いや日誌。興味の対象にするには充分すぎる理由だった。
……ちょっとだけなら。
154人の日記を勝手に読んではいけません(2/3):2008/01/15(火) 18:26:38 ID:G3xh9AZe0
「はっ!?俺は何を考えてたんだ!」
そこで貴明は気づいた。自分がしている事は人の日記を覗き見しようとしていることじゃないか。
人とズレている所があるとは言えるーこも女の子だ。許婚で恋人とは言え、女の子の日記を勝手に見るなんて失礼じゃないか。
いや、それ以前に誰の日記でも勝手に見ちゃ失礼だけど。
「うん、ダメだよな、るーこの日記を見るなんて!るーこの日記…るーこの…」

………

……



い、一ページくらいなら…。
「うー、さっきから何を騒いでいるのだ?」
「わああああああああああああああああああああああ!」
貴明が慌てて振り向くと、ソコに立っていたのは両手を挙げてきょとんとしていたるーこであった。
「何を驚いている?先ほどから一人で騒いでいるから様子を見に来ただけではないか…ん?」
そこでるーこはようやく貴明の持っているものに気づいた。
貴明は慌てて日記を後ろに廻して隠すが、もう遅い。
日記に気づいたるーこはなるほど、と言った顔で口を開いた。
「なるほどな、それを見つけたのかうー。読みたいのか?」
「い、いや、別にそんな人の日記を読もうなんて…」
「別に読むなとは言ってないぞ?」
「……え?」
155人の日記を勝手に読んではいけません(3/3):2008/01/15(火) 18:27:54 ID:G3xh9AZe0
るーこの一言で貴明はポカンとマヌケな顔になってしまった。
さっきまで散々悩んでいた問題を、るーこはあっさり一言で解決してしまったのだから。
「え、いや、その。い、いいのか?」
「別に構わないぞ。それにうーには既に毎晩もっと恥ずかしい物を見せているではないか」
その一言に貴明は、ここ毎晩している事を思い出して軽く赤面する。
いや、今の問題はそこではない。
「そ、それじゃあ遠慮なく…」
「うむ、遠慮なく見ろ。そしてるーの事をもっと好きになるが良い」
貴明はドキドキしながら最初のページを捲る。
そして驚愕した。

『ж/▽д

⊥買ヨ〇$Ю#И#
∴Ω買ヨ〇●▽刄ユ⊂≡ΠΨ☆
≡〇⊥【А<и凹(∪<
ω∪⊂Ψψ
ω〇▽≡ψー▽?+*{‘!”』

……パタン。
「るーこ、これ何?」
「るーの文字だが」
それがどうしたと言わんばかりの顔で見つめてくるるーこ。
どうやら日記を読んでの感想を期待しているようだ。
「何でタイトルだけ日本語なの?」
「タイトルを書いて気づいた、不届きなうーに読まれたら大変な事になる。しかしノートがそれしか無かったから止む無くそのままにした」
「……」


結論、やはりるーこは何処かズレている。
156名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 18:29:57 ID:G3xh9AZe0
以上です
ちなみに初投稿だったりしました
157名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 18:45:34 ID:kbWY1HbN0
GJ。
サクサク読める感じがいいな。

あと初投稿乙。これからも良作を投下していってくれ
158名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 22:11:10 ID:wiZHwWSnO

読みやすくていい感じネ
159名無しさんだよもん:2008/01/15(火) 23:05:42 ID:kynHnQ6Q0
なんか日記最後2行の意味がわかったような気がした


気がしただけだった
160名無しさんだよもん:2008/01/16(水) 23:27:15 ID:95ch/4wQ0
乙。日記が暗号なのか適当なのか気になる
161152-156:2008/01/16(水) 23:38:33 ID:jD/c74oz0
適当です、はい
162名無しさんだよもん:2008/01/16(水) 23:49:39 ID:GsXmT34x0
なんとなくマクロス放送当時にゼントラーディ文字打つおもちゃがあったのを思い出したw
あれはアルファベットに対応してたんだったか
163名無しさんだよもん:2008/01/17(木) 18:22:53 ID:rxOCX2Df0
誰かお題plz
164名無しさんだよもん:2008/01/17(木) 18:39:21 ID:BWWUUXUZ0
セックス
165名無しさんだよもん:2008/01/17(木) 18:42:34 ID:rxOCX2Df0
ちょwwwそれ18禁書けて事じゃねえかwwww

でもエロは書けないからエロネタ無しでお題通りやってやんよ
166名無しさんだよもん:2008/01/17(木) 18:54:03 ID:rY3WIJKm0
ではお望みどおり

出演は小牧姉妹で

キーワードは姉妹丼 ただし非エロで
167名無しさんだよもん:2008/01/17(木) 18:56:54 ID:rxOCX2Df0
小牧姉妹の姉妹丼把握
168名無しさんだよもん:2008/01/17(木) 19:02:04 ID:BWWUUXUZ0
wktk
169名無しさんだよもん:2008/01/18(金) 14:30:38 ID:hjpuUysH0
初音丼を思い出した
170名無しさんだよもん:2008/01/18(金) 23:18:11 ID:KZSev/drO
初めてリトライっていうミルファのSS読もうとしたけど無い
消されたの?なんかあった?
171名無しさんだよもん:2008/01/18(金) 23:38:21 ID:zb61/ulv0
>>170
なにも言うことはない。うざい。
172名無しさんだよもん:2008/01/18(金) 23:40:32 ID:Xh85MDDa0
KGBとCIAとDGSEの陰謀で消されたらしいよ
173名無しさんだよもん:2008/01/19(土) 03:11:43 ID:x+3FIAJz0
前にもいくつか消えたことなかった?
174名無しさんだよもん:2008/01/19(土) 04:56:12 ID:cGmqFUft0
あら本当。知らんかったわ。
175名無しさんだよもん:2008/01/19(土) 08:37:30 ID:Qac5Z/3o0
>>170
たしかリンク先のサイト主の人の方針でAD発表直後ぐらいに封印されたとオモタ
RE-try〜リトライ と Raison d'etre と 神の居ぬ間の祭り唄 は連作の長編なので
一緒に封印されたはず
176名無しさんだよもん:2008/01/19(土) 09:14:08 ID:Ja7+O/KCO
>>175
ありがとうございます
177名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 02:32:34 ID:et0wRj/n0
お題もう少し待ってくれ

オチが思いつかない
178名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 08:52:20 ID:WX+nOoQ80
落ち予想してみよう。
勘違い落ち
夢落ち
妄想落ち
179名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 09:22:27 ID:PG+Ah71X0
うおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!
カカロットーーーーーーーー!!!!!!
180小牧姉妹布団 0/10:2008/01/20(日) 17:04:06 ID:xyYaeGoK0
>167じゃないけど>166とADの記事とOPにインスパイアされたので逝きます
181小牧姉妹布団 1/10:2008/01/20(日) 17:09:16 ID:xyYaeGoK0
目が覚めたら、郁乃が俺の隣で寝ていた。

「のわっ!?」
驚いて跳ね起きる。
改めて見下ろしても、間違いなく郁乃だ。愛佳じゃない。
「な、なんでお前がこんなところにっ!」
思わず声を挙げると、生意気そうな顔がうるさそうに歪む。
「ん……うるさいなぁ……ん……う?」
あ、目が開いた。
「うー……まだ夜じゃない……くぅ」
「いやまて寝るな眠るな寝ぼけるな、なんでお前が俺の隣で寝てんだよ」
横になったまま目を閉じる郁乃を揺する。
「うー、寝ぼけてんのはアンタでしょ。ここはアタシのベッド」
「え?」
きょろきょろ。周囲を見回すと、あれ? ここ、郁乃の病室?
「……そうか、お見舞いにきてたんだっけ」

夜の病院に突撃して郁乃と晩飯を食おう、という企画は、俺じゃなくて愛佳が立てたものだった。

「郁乃、いつも帰るとき寂しそうだから」
そういう表情が出てくるようになったのは郁乃との関係として大いに進歩だろうが、
甘えを見せられるとなんとかしたくなるのが愛佳の姉としての性格でもあり。
「たかあきくんも一緒に来てくれる?」
やっぱり妹と二人っきりはやや苦手っぽい彼女の意向は聞いてあげるのが俺の役目でもあり。
「こんな時間に、何しに来たのよ」
憎まれ口を叩いた郁乃も、眼前に姉お手製のお弁当が並ぶと、姉に似た大きな目を丸くしていたりして、夕食会は無事成功を収めた、その後。
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
ちょっと寂しそうな愛佳の呟きに。

「……泊まっていけば?」
ぼそっと郁乃が、思わぬ台詞を口にした。
182小牧姉妹布団 2/10:2008/01/20(日) 17:11:09 ID:xyYaeGoK0
「いや、そういうわけにもいかんだろ、俺は男だし」
「誰がアンタに言ってんのよ」

俺の言は即座に否定した郁乃。まあ、そうだろうな。しかしそうだとしても。
「あっ、あたし、泊まって、いいの?」
動揺著しかった愛佳。
なんだか、俺の家に泊まった時よりも焦って……ゲフンゲフン、いや、なんでもない。
こくっ。
郁乃は、もう言わないとばかりに黙って頷いた。くくく、頬が赤かったぜ。

「ぱ、ぱじゃま取ってくるねっ、家に帰って、あたしっ!」
「あ、途中まで送って」
バタン。バタバタドタドタドタッタッタタ。
凄い勢いで飛び出して行った。たぶん、凄い勢いで戻ってくるんだろう。
「……」
取り残された俺は、郁乃の顔を見た。
「……なによ」
頬が膨らんだ。
「別に」
思いっきりニタニタ笑いで返してやった。
「っ! こっちは検査があるから、勝手に帰って、じゃ」
こんな夜に本当に検査なんてあるのか、単に照れメーターが限界値を突破したのか。
どっちにしろ、郁乃はさっさと部屋を出て行った。
「……ありがと」
退室際に、返答できない速度でぼそっとお礼を言ってたっけ。

「ふああ、疲れたな」
本当は仲がよい癖に素直でない小牧姉妹の同席は、楽しくも多少気を遣った。
気が抜けた俺は、腰を下ろしていた郁乃のベッドに、つい引っくり返って身体を伸ばし。

どうもそのまま、寝入ってしまったらしい。
183小牧姉妹布団 3/10:2008/01/20(日) 17:12:25 ID:xyYaeGoK0
「う……すまん。眠っちまった」
回想を終了して、俺が謝ると、
「別にいいけど、んーっ」
郁乃は俺の横で身を起こして、緊張感のない伸びをした。

しかし、自分のベッドだからって男が寝てる隣に平気で横になれるってのは大物だな。ま、突き落とされなかった事を感謝しよう。
「ふひゅう」
長い伸びを終えて、すとん、と腕を下ろす郁乃。
すとん。
「へ?」
その勢いで、肩からパジャマが外れて。まあ郁乃のだから大したもんじゃ……
「★○×△〜っ!」
突き落とされた。

「っ痛ぅ。今は何もしてねえだろ」
身体見えたの(事故だよ事故)なんて初めてじゃないし。
「うっさいっ!」
両腕で自分の肩を抱いてむくれる郁乃。顔真っ赤。
事故の原因は、細い身体を包んでいるピンクのパジャマが、盛大にゆるゆるしていた事だろう。
「随分だぼだぼなパジャマだな……あれ? それ、愛佳の?」
サイズが合ってないのも当然、今、郁乃が着ているのは、たぶん愛佳のパジャマだ。
身長は大差ないのに、肩幅違うんだなあ。
「お姉ちゃんが間違って持ってきたのよね……ウエストも緩い」
ズボンの腰ゴムを引っ張ってぼやく郁乃。だからさあ、俺の目を気にしてるんだかしてないんだか。
「ところで、なんでアンタがお姉ちゃんのパジャマ知ってるのよ」
う、唐突にそのツッコミは厳しい。
「えーと、なんだ、その、なんというか、流れで?」
苦しい言い訳になりつつ、その時。

「ごめん郁乃っ、遅くなっちゃって〜っ!」
バタンと賑やかに、病室の扉が開いた。
184小牧姉妹布団 4/10:2008/01/20(日) 17:13:45 ID:xyYaeGoK0
「お泊まりセットがまとまらなくなっちゃって」
病院に一泊するだけなのに、妙に大きな紙袋を抱えてやってきたのは当然に愛佳。

「なんだかパジャマも見つからなくって……あれ、たかあきくん?」
今はベッド脇の椅子に腰掛けている俺を見つけて怪訝顔。
「いや、なんかあの後居眠りしちゃってさ」
もう帰るよ、と席を立つ。

が、
「でも……もう玄関閉まっちゃったよ?」
「う、看護婦さんに開けて貰うか」
しかし、
「すみませー……」
「急患でーす、2名応援お願いしまーす!」
「はーいっ、あっ、ナースコール誰か出てー」
戦場。
「……声を掛けられる状況じゃないな」
撤退。

「夜も遅いし、たかあきくんも泊まっていけばいいよ」
愛佳はニコニコとそういうが、郁乃の仏頂面を見るに、
「……別に、いいわよ」
「なんだ、寂しいなら最初からそう言えば」
「5秒で帰れっ!」
冗談はともかく、許可が下りた。

「付き添い用の寝間着があるから、持ってきてあげる」
病院でも委員ちょ技能を発揮した愛佳が備品を調達してくれて、カーテンを利用して俺もお着替え。
「もーいーよー」
OKが出て郁乃のベッド周辺エリアに戻ると、愛佳も着替えを完了していて。
「あれ? ところでパジャマがなかったって……ぶっ!」
185名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 17:14:31 ID:rSdGsWe50
支援
186小牧姉妹布団 5/10:2008/01/20(日) 17:16:35 ID:xyYaeGoK0
自分のが見つからなかったという愛佳は、郁乃のパジャマを着ていた。
「えへへ、郁乃にあたしのを持ってきちゃったんだね」
いや、それはいいんだけど。
サイズが、さ。

「身長はあまり変わらない筈なんだけど……」
どう言い訳したところで、妹が姉のを着てだぶだぶって事は、姉が妹のを着ればぴちぴちなわけで。

「なんだか、腕が回らないような……とやっ、んっ」
腕を天井に向けて背伸びをすると、
「……あまり伸びるなよ」
おへそが見える。
「えっ? あ、うん。うーん、ちょっと苦しい」
腕を下ろして裾を直して、今度は肘を前後に動かして背を逸らすと、
うん。外から見てもかなり。
胸が。
「ズボンも、裾はいいのに」
身体をくの字に折ると腰が、というか、お尻が。

とにかく、愛佳が違和感に耐えかねてもぞもぞと身体を動かす度に、
布地の下から突き上げる内容物の動きが予測できて、なんというか、
ぷるぷると形容すべきか、ぽよんぽよんと形容すべきか、うーん、目の毒です。

ばほっと、布団に人が倒れ込む音。
「……寝る」
ベッドに転がった郁乃。どうやら自分の体型的コンプレックスを思い切り刺激されたらしく、膨れっ面。
勢いよく横になった拍子に、緩い左肩がまた脱げている。

「肩隠せ肩」
「……」
郁乃は指摘されても服の乱れも直さず、何故か黙って俺を見上げた。
187小牧姉妹布団 6/10:2008/01/20(日) 17:18:01 ID:xyYaeGoK0
その視線に、俺は不覚にもドキリとする。

細身というより痩身の郁乃は、年齢よりも幼く見えて、
いっぽうで身体も表情も、要所要所にはそれなりの女っぽさが身に付いていたりして、
なんだか小中学生が無理して彼氏をベッドに誘っているような、って、いや、良く判らないけど。

「……スケベ」
ぐ、今回は反論できん。

「あははは、ね、寝よっか」
ちょっと笑いが乾いている愛佳。
今の郁乃の行動は、あるいは愛佳へのお返しだったのかもな。

「あ、毛布かなんかある? 俺、そっちで寝るから」
此処は相部屋なんだけど、今は郁乃一人しか入院していないからベッドが空いている。
だが、愛佳は妙にニッコリと笑った。

「ダメですよー。たかあきくんも、こっちです」
ぱんぱん、とシーツを叩く、寝っ転がった郁乃の横30cmくらいの位置。
……マジですか。
「親子三人、川の字、やってみたかったんですよねー」
親子じゃないです。ていうか、なんで丁寧語なんですか愛佳さん。
「おい、なんか言わなくていいのか」
部屋とベッドの主に声を掛けると、
「……勝手にすれば」
郁乃はめんどくさそうに服を直して寝返りを打ってそっぽを向く。

結局、どこまで偶然でどこまで意図的だったのか、
意図的って誰が何を意図してなんでこうなったのか、全然不明なんだけど。

三人ひとつのベッドで寝る事になりました。
188名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 17:19:26 ID:et0wRj/n0
支援
189名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 17:22:03 ID:QSayBf2T0
支援
190小牧姉妹布団 7/10:2008/01/20(日) 17:25:04 ID:xyYaeGoK0
並び順は、愛佳、俺、郁乃。
……川の字にならないと思うんだが。サイズ的にも、役割的な意味でも。

「あのー、郁乃さん、もうちょっとそっちに寄ってくれませんか?」
「……」
中央からやや窓側寄りという位置をキープしている郁乃は俺の懇願を無視で、
ベッドの空きスペースは、俺と愛佳の二人で寝るに絶妙のギリギリ具合。
「枕はたかあきくんが使っていいよ」
「いや、でも」
「いいからいいから♪」
やたらハイテンションな愛佳に押し込められるように、郁乃の隣に俺。
「代わりに、これを借りますね」
その隣に滑り込んできた愛佳は、俺の右腕を取って自分の頭を乗せた。
うでまくら。

「愛佳はそれでもいいけど」
実を言えば、腕枕するのも初めてじゃないし。
「郁乃は……」
ぐい。
言ってる途中で、左腕が持って行かれた。
どか。
痛い痛い痛い。
手首を引っ張られて伸びきった二の腕に、頭蓋骨の一番硬い側頭部が直撃する。
「あらら、ふふふっ」
愛佳の楽しそうな笑い声に、ぎゅうっと左腕の感触が強まった。

体勢落ち着いて、布団を被って。やっと落ち着いた俺は溜息なんぞついたりして。
「……迷惑だった?」
こそっと耳元で、愛佳が聞いてくる。少しテンションが戻ったらしい。
「そんなわけないだろ」
「ふふっ、良かった」
他に答えようがない答えを、予期してたとは思うんだけど、それでも愛佳はほっと息を吐いて、更に身を寄せてきた。
191小牧姉妹布団 8/10:2008/01/20(日) 17:28:21 ID:xyYaeGoK0
見慣れない天井、普段と感触の違うベッド。
身体の右側に、ぴっとり寄り添う愛佳の感触。左腕には郁乃の頭。

この状況で眠れる方がおかしい気もするんだけど、
案外俺はうつらうつらし始めて、そうなると二人の体温が素直に暖かくて心地良くて。
ああ、なんかありがたい……

ガチャリ。
「っ!?」
ドアノブの音がして、俺は急に現実に引き戻される。
ギーッ、カツカツ。
あ、此処じゃない、隣の病室みたいだ。
ホッとしたのも束の間。俺はあることに思い当たる。

「愛佳、愛佳」
「うーんぅ、だめだよぉたかあきくん、こんなところでぇ〜」
お約束ありがとう、そーゆう事はまた今度、ね。
「そうじゃなくて、此処の病院って夜の見回りとかあるんじゃないのか?」

「ん、う? ああっ!」
愛佳の目が丸くなる。やっぱり失念していたらしい。
「と、とりあえずベッドを抜ければ隠れられる」
んだけど、左腕が。
「郁乃〜っ」
がっしりと抱えたまま寝入っている郁乃。
と、
カツカツカツ。ガラガラガラ。
足音と、例の何が載ってるか不明な台車の音が、病室の前で止まる。

「と、とりあえず中にっ」
愛佳の指示に脊髄反射で従って、俺は掛け布団の中に潜り込んだ。
192小牧姉妹布団 9/10:2008/01/20(日) 17:30:06 ID:xyYaeGoK0
間一髪、カチャリとドアが開いて、看護婦さんが入ってくる。
「……小牧さーん、寝てますかー」
懐中電灯の光が、顔に当たらないように布団を照らす。
「うん? なんかおっきい?」
体積が明らかに一人前でない掛け布団に、看護婦さんが寄ってくる気配。
やばい。
と、愛佳が思い切り身体をくっつけて、郁乃も引き寄せる。うし、俺の左腕も抜けた。
「あらら、お姉ちゃんと一緒なんだ」
なんとか二人分に見てくれたようで、くすくす笑いを漏らすと看護婦さんは去っていった。

それはとても良かったけど、この状態。
俺は愛佳と郁乃にサンドイッチされてるわけで。おまけに、俺の顔は掛け布団の内部。
愛佳の身体は郁乃の方を向いていて、郁乃もさっき愛佳が抱き寄せた時に愛佳の方を。
イコール二人とも俺にぴったりと、その、色々な部位が。
「も、もう出てきてもいいよっ」
顔色が容易の想像できる声色で愛佳。
といわれても、その、頭が蓋をされていて、何でってあの、アナタの御山の膨らみで。

「ごめんね郁乃〜」
それに気がついたのか、小声で断って妹から手を離そうとした愛佳だったけど。
「……お姉ちゃん」
ぼそっと寝言を漏らして、なんと、郁乃の方が愛佳に抱きついた。

郁乃も俺と会った頃より数段ストレートに愛佳に甘えるようになっていたけど、
こういうのは珍しい。普段ヒネてるぶん、寝ぼけてると素直になるんだろうか。
「……郁乃ぉ〜っ」
で、俺が思った以上に、愛佳は感慨深かったようで。
ぎゅうううううっっっ。
郁乃の頭だか肩だか背中だかわからないけど、とにかく手を伸ばして抱きしめる。
何年ぶりかもしかして初めてか、しっかり抱き合う小牧の姉妹。

あのー、間に俺を挟んで、なんですけど。
193小牧姉妹布団 10/10:2008/01/20(日) 17:37:15 ID:xyYaeGoK0
終始一貫して寝ぼけてた郁乃はともかく、愛佳は一度は覚醒した筈なのに、
二人は結局お互いに腕を伸ばしたまま、再び寝入ってしまった。

ええ、間に俺を挟んで、です。しつこいけど。
一言で言えば、愛佳と郁乃に抱き枕にされてます、俺。

ちなみに腕だけじゃなく、脚も伸ばしてるこいつら。俺の両膝あたりで、二人の脚が交差してる。
細かく言うと、俺の両膝の上と下。つまり、俺の左右の太股が、それぞれ郁乃と愛佳の両脚に挟まれている。
……細かく言わない方が良かったかも知れない。意識してしまうと、下半身がちとヤバい。

そして、ちとヤバいのは下半身だけでなく、柔らかな感触に包まれまくっている頭の方も酸欠状態。そもそも布団の中だし。
「ちょっと、失礼、しまーす」
思わず小声で謝りながら外気への出口を求めて上方に移動すると、
むにっ。
う、愛佳の最近ますますおっきくなってきたような気がするアレの感触が。
やや回避して逆方向に活路を求めるに、
ふにっ。
こっちの方が抵抗は少ないものの、普段外から見ては判別し難かった郁乃の女らしさがしっかりと。
ぐに、ぐに、ひょこ。
ともかく、どうにか両側からの圧迫を逃れて頭を出すと、枕は二人に占領されていて、
これまで見たことがなく、これからも滅多に見ないだろう、顎の下から見上げるアングルの姉妹の寝顔。
お二人の安らかな寝息の間を突破するなんて俺にはできない。その位置で酸素だけ補給。

すぅ、すぅ、すや、すや。
しかしまあ、なんとも幸せそうに、姉妹は眠りに就いている。
そのリズムに誘われて、俺も次第にぼんやり。
どこがどことか、そういう意識が消えてきて、ただただ、体じゅうが柔らかくて温かい。

(……俺って今、世界一幸せな人間なんじゃないかな……)
そんなことを思いながら、俺は本日三度目くらいの睡魔に吸い込まれていった。

翌朝、見回りの看護婦さんに見つかって、黙秘の代償に差し入れをする羽目になったのは、結構シャレにならなかった余談だった。
194名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 17:38:34 ID:xyYaeGoK0
 
以上です。オチがなくてゴメンナサイ

支援ありがとうございました。今日は連投規制がきつかったです
あと、最初の行が改行だけだと書き込みできなくなってるような
195167:2008/01/20(日) 17:42:12 ID:et0wRj/n0
乙&GJ

どうしよう、先にこんな良作を出されたら俺のみたいな駄文投下できなくなってしまう…
まだできてないけど
196名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 17:52:19 ID:xyYaeGoK0
あ、>180でインスパイア元に>114-136を挙げるのを忘れたので追加
それと>195さん楽しみにしてますので私の駄文なんぞ気にせずGoです
197名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 18:03:56 ID:BqjnxAbl0
>>194
乙です
貴明を呪い殺したくなったよ
198名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 18:37:36 ID:et0wRj/n0
完成、これより投下作業に入る

時間かけた割には3レスと短いので支援はいりません
199郁乃出汁丼(1/3):2008/01/20(日) 18:39:20 ID:et0wRj/n0
郁乃が学校に通うようになって少し経った日の事であった。
本日の作業が終わり書庫で寛いで居た所、飲んでいた紅茶を置いた郁乃によりその爆弾は投げ込まれた。
「ねぇ貴明」
「ん、何?」
「姉妹丼って何?」
「!?」

突然の爆弾発言に赤くなったり青くなったりする貴明と愛佳。
きょとんとしている辺り郁乃は意味もわからず聞いてきたのだろう。だから質問したのだろうし。
「い、郁乃。何処でそんな言葉覚えてきたの…?」
郁乃は昔から病院と家を往復する生活を続けてきた。なので世間の事には少し疎い所があるのである
なのに姉妹丼という、所謂破廉恥な言葉何処で覚えたのだろうか。
「えっと…」

――数時間前
『ほう、君が郁乃ちゃんか』
『誰?』
『君のお姉ちゃんとその彼氏のクラスメイト』
『ふーん。で、何か用?』
『んー用があるってわけでもないけどさ』
『用が無いなら話し掛けないで』
『ひゅー、話に聞いたとおりの口の悪さ』
『……』
『羨ましいな貴明はよ、委員長に飽き足らずその妹で姉妹丼とは』
『…?』
200郁乃出汁丼(2/3):2008/01/20(日) 18:40:01 ID:et0wRj/n0
「アイツか…」
貴明は某幼馴染の事を考えながら心の中で舌打ちする。後で殴ってその後タマ姉にチクるか、うん。
「貴明君…」
見ると、愛佳は軽く涙目になりながら此方を見ているではないか。
え、俺何かした?貴明は恋人の突然の変貌に焦ってしまう。
「ど、如何したのさ愛佳」
「まさか…郁乃に手を出したの?」
「えぇ!?」
「…あの、質問の答えは?」
焦る貴明。軽く無視される、というか眼中に入れてもらえない郁乃。
素直な愛佳の事だ、おそらくあのバカの言葉を真に受けてしまったのだろう。
「お、落ち着いて愛佳。そんなわけないだろ!?」
「だ、だって…」
火の無い所に煙は経たない。昔の人はよく言った物である。
最も、今回の犯人は火の無い所でも煙を出すようなとんでもない奴なのだが。
しかし、その犯人とはあまり長い付き合いでは無い愛佳にはそれがわからないのであろう。
「愛佳、女が苦手な俺が愛佳以外に靡くと思うか?」
愛佳の肩を抱きながら言う貴明。
微妙に矛盾した会話だが事実ではある。実際愛佳と親密な関係になったのもこの性格が切欠であるわけで。
201郁乃出汁丼(3/3):2008/01/20(日) 18:40:33 ID:et0wRj/n0
「あの、ちょっと、意味は…?」
「ほ、本当に?」
またもや無視される郁乃。ダメだ、完全に二人の世界に入ってしまっているようだ。
「当たり前だろ、俺は愛佳じゃないとダメなんだから」
聞くとすっごい臭いセリフだが、貴明は本心を言ったまでである。
それに、どのエンディングでも臭いセリフを平気で吐く貴明にとってはそんな事気にしないのである。
「た、貴明君…」
「…姉妹丼」
今度は別の意味で目を潤ませる愛佳。そして蚊帳の外の郁乃。
もう二人は郁乃がこの場に居る事すら忘れているのかもしれない。
「じゃあ証拠見せて」
「しょ、証拠?」
貴明がそう言うと愛佳は目を閉じて唇をつい、と突き出す。つまり、まぁアレをしろと言うのである。
貴明はしばらく唸った後、観念したように目を瞑る。

「……」
完全に存在を忘れ去られた郁乃はそんな二人の様子を見て一人考える。
「(ま、こんなラブラブなようじゃ本当にお姉ちゃん以外に靡きそうにないわね)」
質問に答えないのと無視したのとダシにされたお返しに、後でタップリからかってやろう。
郁乃はそう決めると、すっかり冷めた紅茶をズズッと啜るのであった。
202名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 18:41:36 ID:et0wRj/n0
以上、散々考えたくせにこんなオチですんまそん
203名無しさんだよもん:2008/01/20(日) 19:30:51 ID:xyYaeGoK0
>202
乙です。予想外に真面目なSSでびっくりしましたw
204名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 08:55:21 ID:JN6f8LMn0
>>202
>>194
GJ!いくのん袋充填完了!!
205名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 19:02:37 ID:AR8Ythp20
……袋?
206166:2008/01/21(月) 21:12:56 ID:Mq0zbq/L0
昨日は規制食らってますた
荒らしは氏ねmjd

>>167

俺は愛佳が雄二に吹き込まれてと言う展開を予想していたが、逆で来たかw
確かに落ちて無いけどこれはこれで(・∀・)イイ!!

>>180氏も乙
なかなかの良作だた
ちゃんと最後は落ちてると思う
あと最初の1行が空行だとダメなのは前からじゃなかったか?
荒らし対策だと思うけど


ついでに、
エロ要求が>>164にあったから、俺のお題と合わせて書いてみたんで置いてく
色々捏造してるとか、エロたまにしか書かんのでエロが下手とか、そもそも小牧姉妹でなくても良いんじゃ?
とかのあたりは見なかったことに…
207胡蝶の夢 1/5:2008/01/21(月) 21:14:02 ID:Mq0zbq/L0
 愛佳の小さな唇が、俺の敏感な部分をなぞりあげていく。
 そして先端までなぞり上げたあと、俺の分身をその唇でくわえ込んで、そのまま飲み込んだ。
 だけどそれを見ることは叶わない。俺の目の前、焦点が合わないほどの距離に郁乃の顔があって、
俺と舌を絡ませあっているからだ。

 郁乃の、愛佳と同じ髪の香りと舌の感覚、そして下半身で奉仕する愛佳の愛撫にくらくらしながら、
俺は二人と暮らし始めた頃のことを思い返していた。


 その日、愛佳と郁乃の両親は仕事に出かけたまま帰ってこなかった。
 帰宅したのはその次の日、棺に入れられてだった。

 親戚が二人の身元を引き取ろうと申し出たが、両親と言う最も深い絆を持つ二人を失ったばかりの愛佳には、
さらに恋人や友人という絆を捨てて親戚の下に身を寄せることは受け入れられなかった。
 そしてそれは郁乃も同じだった。親を失い、その上姉と離れて暮らすなど論外だった。
 2人にとって失われた物は大きすぎた。
 そして、小牧家の自宅もまた、そのときの二人には日々暮らす場所としては両親との思い出が多すぎた。

 その結果、二人が取った選択は…俺を頼ることだった。


 その日から俺と愛佳と郁乃の歪な関係は始まった。


「たかあきくんの…もらうね…」
 昼間の、貞淑で純朴な小牧愛佳とは違う艶のある声色でそう言うと、愛佳は寝そべったままの俺の腰の上に跨った。
 愛佳の両足の間には痛いほどに張り詰めた俺の分身が屹立している。
 そして愛佳の秘裂からは、すでに何度も胎内に放った俺の精液がタラタラと滴り落ちてくる。
 滴り落ちる体液にまみれた俺のペニスの上に、愛佳はゆっくりと腰を落として行った。
208胡蝶の夢 2/5:2008/01/21(月) 21:16:20 ID:Mq0zbq/L0
「ん…ふ…ああ…たかあきくぅん…」
 恍惚とした表情の愛佳の口から、甘ったるい吐息と、俺の名が漏れた。
 自分の中に滑り込んでくる異物がもたらす感触に、愛佳の腹筋がぴくぴくと痙攣する。
 同時に俺の分身が締め上げられる。
 すでに何度か放っているのでいきなり果てたりはしないが、愛佳の中は激しく蠢きぬめって、
とてつもない快感が俺を襲った。

 俺のペニスは蠢く襞のトンネルを潜り抜け、やがて先端が奥に行き当たる。
 硬い筋肉質の感触が敏感な先端に触れる。
 俺が快感に堪えている間、愛佳は恍惚とした表情でその感触に身をゆだねていた。
 そうして異物が胎内を押し広げる感触を暫し味わった後、愛佳の白くすべらかな、
肉付きの良い腰がゆっくりと…俺のペニスが中をこね回すように、粘っこく動き始めた。


 俺たちは、2人がこの家にやってきたその日から、こんな夜を幾度と無く重ねていた。
 まるで足りなくなった何かを、俺と交わることで補おうとでも言うかのように。


「貴明…」
 不意に視界が暗くなる。見上げると逆さまに、紅潮した郁乃の顔が見えた。

 郁乃は潤んだ瞳で俺を見つめて一度口づけすると無言のままに俺の顔の上に跨った。
「…あたしも…して。」
 …目の前には郁乃の淡い茂みと秘部があった。

「お姉ちゃん…」
「郁乃…ん…ちゅ…」
 二人が顔を寄せる。
 続けてくちゅくちゅという、愛佳と郁乃が舌を絡めあう湿った音が上から落ちてきた。
209名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 21:17:13 ID:wsqYSKHk0
支援
210胡蝶の夢 3/5:2008/01/21(月) 21:18:26 ID:Mq0zbq/L0
 そしてそれにあわせて、俺のペニスをなで上げる湿った感触が、
先ほどのようなねちっこい、こね回すような動きではなく上下運動へと変わった。

 愛佳とのディープキスで興奮を増した郁乃の秘部から、体液があふれ出す。
 滴り落ちた雫は俺の顔に落ちて、その香りに俺は思考の全てを奪われた。
 無意識のうちに、肉付きの薄い、しかし最近艶っぽさの増してきた郁乃の腰を引き寄せ、
中心のピンクに舌を這わせた。

「ん、はぁっ!」
 鼻に抜けるような甘い声が、愛佳と触れ合わせたままの郁乃の口元から零れた。

 そして、それに刺激されたのか、愛佳の腰使いが激しさ増した。
 先ほどまでは感触を味わうかのようなゆったりした動きだったのに、
今はただひたすら力任せに、尻を俺の腰に打ち付けるような動きだ。

 ぎりぎりまで抜いて、そして奥に打ち当たるまで…いや、それを超えて、
俺のモノを奥まで飲み込むかのように素早く、激しく打ち下ろす。
 肉のぶつかる音と、愛佳と郁乃の漏らすあえぎだけが部屋の中に満ちていた。

「あふ…あふっ…ああ…あああっ」
 甘い吐息は、すでにいつもの愛佳の物ではない。
 焦点を失ってぼうっとした瞳も、ただ快楽だけに意識を奪われていることを示していた。

 俺もまた、今にも果ててしまいそうな快感に翻弄されていた。
 ぎりぎりまで抜かれて先端だけが咥えられた状態から、一気に奥の子宮口にぶち当たるまで
ぬめった襞に飲み込まれ、その後、先端がその筋肉の壁の綻びを穿ち、
さらにきつい部分にわずかに飲み込まれる。

 まるで唇で吸い付かれるような…どこまでも飲み込まれてしまいそうなその感触に、
意識が真っ白になる。
211胡蝶の夢 4/5:2008/01/21(月) 21:19:32 ID:Mq0zbq/L0
 ただひたすらに、目の前の、媚薬の如き愛液の溢れる郁乃の秘裂をなめ上げ、ペニスで愛佳の秘部を、
膣を…その奥の子宮までを犯し、犯される。

 だけどいつまでもは続かない。続けられない。
 気の狂いそうな快楽の中で限界が近いことを知る。

 「ん…はっ、は!お、お姉ちゃん…」「はん…ああん!い、いくのぉ…」
 二人の苦しげな、あえぎに似た嬌声がいくつも落ちてくる。
 「ぐ…あああっ!」
 そして、俺も限界。
 愛佳が打ち下ろす腰の動きに合わせて、俺は本能的に腰を付き上げた。

 ペニスの先端が愛佳の奥にめり込む感触…そしてその快感の一押しが、俺の中の我慢を決壊させた。
 精液を愛佳の胎内の奥深くに思う様ぶちまけると同時に郁乃の秘部にに吸い付く。
「「あああああっ」」
 2人のユニソンの嬌声が響いた。
 俺の上で、二人の体が弓なりにのけぞるのと同時に、郁乃の秘部から大量の体液が撒き散らされ、
俺の顔に降り注いだ。

 3人が3人とも魂を絞りつくすような強烈なオルガズムを得て、狭いベッドの上に倒れこんだ。
 同時に意識が遠のき始める。

「…大好き…たかあきくん…あなたは決して…居なくならないで…」
 襲ってくる疲労感に意識を手放す寸前…そんな愛佳の涙声が聞こえたような気がした。


 窓から差し込む日の光で目を覚ました。

 ベッドには自分ひとりだけ。だけど昨日のあれは夢じゃない。
 その証拠に、ベッドは乱れに乱れ、部屋には昨夜の情事の残り香がまだ残っていた。
212胡蝶の夢 5/5:2008/01/21(月) 21:20:42 ID:Mq0zbq/L0
 俺は落ちていた下着を見につけて風呂場に向かい、シャワーで体を洗い流す。

 風呂を出て、あらかじめ持ってきていた新しい下着と制服を身につけてダイニングに向かうと、
眠そうな顔でテーブルに着いた郁乃と、制服の上にエプロン姿で朝食の用意をする愛佳の姿があった。
「おはよう、郁乃。」
「んあ…おはよ、貴明…ってあんたが一番最後じゃないの。」
 いつもの寝ぼけ眼で皮肉屋の、いつもの郁乃だった。
 郁乃に挨拶したことで俺に気が付いた愛佳が振り向いた。
「愛佳もおはよう。」
 俺がそう言うと…いつもの、陽だまりの笑顔で、愛佳は答えた。
「おはよう、たかあきくん。」


 まるで胡蝶の夢のような日々。
 いつか覚めると知りながら、俺たちは未だまどろみの中に居る。
213名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 21:28:32 ID:blP6he+N0
ジャンクションの人っぽい文体のクセを感じたな
とりあえずsageると幸せになれるかもしれない、うん
214名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 21:31:36 ID:3sCaXS3E0
殺すのは春夏さんの旦那までにしておけ
215名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 21:59:02 ID:MkqZSZLc0
暗いのも嫌いじゃない俺にはGJ。姉妹が死んだら許さんが親ならいくらでもw
216名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 22:34:04 ID:tuCgKgfE0
なんか知らんが活気付いてきたな?
217名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 22:48:11 ID:Mq0zbq/L0
今回の活気の功労者は>>167かと思われ

あとさっきsage忘れたw スマソ
専ブラのsageが外れたままだったわ
218名無しさんだよもん:2008/01/21(月) 23:12:09 ID:e7P4ko8a0
じゃあこの流れをもう一度引き寄せるべくもう一度お題募集してみるか
219名無しさんだよもん:2008/01/22(火) 00:22:50 ID:BnI2wMxt0
>>218
今日はカレーの日らしいんで、カレー料理対決で。
220名無しさんだよもん:2008/01/22(火) 01:10:06 ID:vOMFitxP0
>>218 嫉妬でおねがいします
221嫉妬 1/1:2008/01/22(火) 06:24:59 ID:SGcsnVFN0
「おし、ゲンジ丸、sit(お座り)! ……なんでこのみが俺の膝に座るんだよ」
「だってタカくん、さっきからゲンジ丸とばっかり遊んでるんだもんっ!」
222名無しさんだよもん:2008/01/22(火) 06:38:50 ID:V8t/ectm0
タマ姉とタカ坊のラブラブがいいな
223名無しさんだよもん:2008/01/22(火) 18:11:46 ID:EfllC53A0
多いなw
じゃあ各自気に入ったお題でやるってことで
224名無しさんだよもん:2008/01/22(火) 19:06:23 ID:V8t/ectm0
>>221
短いけど萌えた
225名無しさんだよもん:2008/01/22(火) 22:07:48 ID:D3kxm55S0
ほんじゃま、カレーでも書いてみるかのう

期待しないで待っててくれ 
3日しても音沙汰が無かったら必殺カレー食わされて死んだと思ってくれ
226名無しさんだよもん:2008/01/22(火) 22:14:49 ID:62xlM20A0
ふじゅーけんのカレーは出るのか出ないのか
227名無しさんだよもん:2008/01/23(水) 01:57:19 ID:i5/2SOcuO
>>225
を。実は漏れもカレー対決に着手してるねん。
お互いがんばろーな。


一日二日で書けると思うんだけど、春夏さん対ミルファのカレー対決にチャレンジしてるトコ。
がんばるから生暖かく見守ってくだい。
228『必殺!VS』 1/13:2008/01/25(金) 14:05:54 ID:Ksra8PQC0
「いい国作ろうジンギスカ〜ン♪ 鳴くよウグイスジンギスカ〜〜ン♪ ひつじっ、ひっつじっ、ひつ
じ肉ぅ〜〜♪」
 リズミカルに息をはきながらその少女は楽しそうに、けれど少々調子っぱずれに歌っていた。
 もっとも、スキップを踏みながら上手に歌える人間は、そう多いわけではないのだろうが。
 そう、少女は……柚原このみは、笑顔でくるくると踊りながら歌っていたのだ。
 幼馴染のそんな姿は、昔から本当に子犬のようだ……そんなことを考えながら、河野貴明はともすれ
ば遅れがちの毛むくじゃらの大型犬、ゲンジ丸のリードを曳いていた。
「なに笑ってるの〜〜? タカくぅ〜〜ん!」
 楽しそうなこのみの姿につい、微笑みが浮かんでいたのであろう。
冬の空気の中にあってもなお、軽やかにこのみは歌っていたから。楽しそうに。
「いや、なんでもないって。……このみ、そろそろ帰らないか? ゲンジ丸の息も上がってきたし、家
 に着く頃には日も暮れ始めるだろうし」
 日が暮れれば冷え始めるだろうし……貴明はそうも思ったが、その言葉は寸での所で飲み込んだ。
 そんな事を言えば、間違いなく「寒いから暖めてあげるでありますよ〜〜、てりゃ♪」などと言いな
がら襲い掛かってくるこのみを背負って帰る羽目になる予感があったからだ。
「え〜〜? もう? せっかく久しぶりにタカくんと二人でお散歩なのに……」
 案の定むくれるこのみではあったが……黙って貴明がいかにもダルそうなゲンジ丸を指差すと、しぶ
しぶと首肯した。
「じゃあ、また一緒にお散歩してくれる??」
「……わかっ……」
「もちろん二人でだよっ??」
 ゲンジ丸の散歩くらい、時間があったらつきあうよ……とは言わせてもらえなかった。
(このみのヤツ、最近妙に強引だよな〜〜。 もしかしてタマ姉の影響でも受けてる? あんまり考え
 ていなそうな気もするからタマ姉というよりはミルファの方か?)
 そんな貴明の葛藤を知ってか知らずか、このみは邪気のない笑顔ですりすりと貴明に寄って来た。
「ね? ゲンジ丸の散歩とかなら、いいでしょ?」
 やっぱり、妹分には見透かされているようだ……と、貴明は苦笑せずにはいられなかった。
229『必殺!VS』 2/13:2008/01/25(金) 14:08:13 ID:Ksra8PQC0
 しかし確かに、このみと散歩するにも憚りがあるというのは、いかにヘタレの名をほしいままにする
貴明であっても、男の沽券にかかわるような気がしないでもない。
「わかったわかった。最近運動不足だし、たまには付き合うからさ」
「やた〜〜っ!! 約束したでありますよ〜〜♪」
 やれやれといった風に貴明が承諾すると、このみは文字通り飛び上がって喜ぶ。
「じゃあじゃあ、最近駅の北側によくいるタイヤキ屋さんが美味しいって噂を聞いたんだけど、一緒に
 確かめに行こうよ!」
「……そんな遠くまで連れてったら、ゲンジ丸背負って帰る羽目になるぞ」
「二人で学校帰りに行けばいいんだよ〜〜。タカくん運動不足だったら積極的に歩くべきだよ〜〜」
「それ、ゲンジ丸の散歩じゃなくなってるって」
「ちょっと学校帰りに遠回りするだけだよ? それに、タカくんが運動不足解消のために歩くって言っ
 たんだよ〜? あ、折角だからタカくんを鍛える重石にもなってあげるよ〜〜、てりゃ♪」
「屁理屈を言うな、折角ってなんだ……って、乗るなぁ〜〜!!」
 ……経過はどうあれ、結局貴明はこのみを背負って帰る羽目になったのであった。

   カレー対決?SS『必殺!VS』

 冬の陽は釣瓶落としとはよく言ったもので、二人が家に着いた頃にはすでに夕闇が周囲を覆いはじめ
ていた。気の早い街灯や用心深いドライバーが点けたヘッドライトも、夜の訪れが間もない事を告げて
いるようである。
 背中に荷物を括り付けられたまま柚原さん家の庭に辿り着いた貴明は、まずはほっとしたようにへた
り込んだゲンジ丸のリードを外して鎖に繋ぎ換えてやっていた。
(それにしても……ミルファのヤツ、まだ帰ってないのかな?)
 ペットボトルに汲み置きしてあった水をゲンジ丸にやりながら、貴明はぼーっと自分の家を眺める。
 いつもはこの時間になると灯りのともる家が暗いままだと、なんだか別の家のようにも見えてしまう
のは気のせいなのか……気ままな一人暮らしに喜んでいた自分が、今となっては夢のようだった。
「ターカくん」
「なんだ?このみ。……それよりもいい加減に降りたらどうだ?」
「ん〜〜〜……えへ〜〜」
230『必殺!VS』 3/13:2008/01/25(金) 14:10:57 ID:Ksra8PQC0
 このみは何も答えなかった。代わりに、しがみ付く腕の強さが一段と増す。
 説得を諦めた貴明は、膝に手を突いてまた立ち上がった。
 いくらこのみが軽いとはいえ、さすがに河原からほとんどずっと背負ってくると腰と膝にかなりガタ
が来るのだ。せめて真っ直ぐに背を伸ばし、このみの足を手で支えていなければ間も無くこの年でギッ
クリ腰というものを体験する羽目になってしまうのだろう。
「んで、なによ? それと、ゲンジ丸にエサやらなくていいのか?」
「ゲンジ丸も少しダイエットでありますよ〜〜」
 さらりと無茶な事を言いながら、このみは貴明の肩にアゴを乗せてきた。
 ちなみに、懇願するような『ワフ〜〜〜ン……』は華麗にスルーである。
「ミルファさん、まだ帰ってないみたいだね〜〜」
 まだ暗いままの河野家が気になっていたのは、このみも同じであった。
 それはつまり、いつも貴明の世話を独占的に焼いている赤い髪の少女・河野はるみというか、爆乳メ
イドロボ・HMX−17bミルファというかがまだ研究所から戻っていないということである。
 画期的な新型AIを搭載された「彼女」は、試作機であるが故に調整やデータ回収のため頻繁に来栖
川エレクトロニクスの研究所に通わなければならない事はこのみもよく知っている。
が、彼女が学校に通っていた以前ならいざ知らず、日中自由に動き回れるようになってからは夕方に
は必ず戻って貴明の食事を用意していた。今日のようなパターンは滅多にないのだ。
「そうだなぁ、珍しいな。またどこか改造して欲しいって我が侭言ってるとか、AIにとんでもないバ
 グでも見つかったとか、何か気に入らない事でもあって暴れてるとか……」
 さりげなく酷い事を言いつつ、さっと身構えて表に目を走らせる貴明。……いかに失言で日頃苦労し
ているかがよくわかろうというものだ。そんな貴明の姿にこのみも失笑を隠せない。
「最初から言わなきゃいいのに。じゃ、今のタカくんの台詞はあとでミルファさんに教えておくね♪」
「うっ……。え、えっと〜〜、タイヤキ屋さんだっけ?? 今度天気のいい日でも一緒に行こうな」
231『必殺!VS』 4/13:2008/01/25(金) 14:13:47 ID:Ksra8PQC0
 顔には張り付いたような笑みを浮かべ、頭に大きな汗マークを浮かべ、やむなく貴明は幼馴染を懐柔
する手に出た。この際、タイヤキ屋が駅の近くにある=誰かに発見されて一緒にタカられるリスクが高
いのではなかろうか、という推測は涙を呑んで無視である。
「やった〜〜♪ 約束でありますよ〜〜!」
 決断の甲斐あってか、このみが諸手を挙げて喜んでくれたため、貴明はようやくおんぶから開放され
る事が出来たのは不幸中の幸いと言っていいだろう。
 と、その時。ポーチに明かりが灯るとともに柚原家の玄関が開いた。
 顔を出したのはもちろんこのみの母親、春夏である。エプロンにサンダルというこの上なく所帯染み
た格好であっても若々しく見えるのはどうした事であろうか?
 家の中からはほんのりとカレーの香りが漂ってくる。今日は例の「必殺カレー」の日なのだろう。
「このみ、いつまでも外にいると風邪を引くわよ……あら、タカくん。こんばんは。このみの子守をし
 てくれてたの? ごめんねぇ〜〜♪」
 ころころと笑う春夏。……子ども扱いされたこのみは速攻でむくれているが。
「いえ、最近運動不足だし、ゲンジ丸の散歩に付き合わせて貰っただけですよ。今日はミルファもいな
 くて暇だったし」
 さり気無く墓穴と将来の財布の損害を広げていく貴明である。きっとタイヤキはこのみの友人勢にも
タカられる事になるであろう。ちゃるとよっちだけで済めばよいが、郁乃あたりが参加する事になれば
損害がさらに拡大するのではなかろうか。主に彼の同級生の胃袋によって。
「むぅ〜〜、もう子守されるような年じゃないもん! タカくんもなんだか失礼だよう!」
 娘の抗議をさらっとスルーして春夏はアゴに手をやり、河野家を眺めて、また貴明に目を向けた。
「今日、ミルファちゃんはどうしたの? 研究所で手間取っているのかしら」
「さあ……今日研究所に行ったのは間違いありませんが、どうしたのかまでは。朝は、いつも通り夕方
 までに帰るって言ってたんですが……まぁ、珊瑚ちゃんは何も言ってなかったし、とりたてて大きな
 問題があったとかはないと思うんですけど」
232『必殺!VS』 5/13:2008/01/25(金) 14:16:47 ID:Ksra8PQC0
 首をひねりひねり、貴明はそう答えた。確かに、少なくともミルファに何か重大な問題があったのな
ら珊瑚が学校にいられるはずがない、という推測はそう的外れではあるまい。
 すると、それを聞いた春夏は『ひらめいた!』という風にぽんっ、と手のひらを叩いた。
「それならタカくん、今日はウチで晩ご飯食べたらいいんじゃない? 久しぶりに私の必殺カレー、ご
 馳走しちゃうわよ? あと30分くらいで出来るから」
 貴明にとって「春夏の必殺カレー」という提案は非常に魅力的であった。「このみの必殺カレー」で
さえかなり美味しいのだから、本家本元は無論もっと美味い。当然はっきり口には出せないが。
 彼女の娘の多大なる手助けもあって彼の胃袋は今、大変な空腹状態にある。なおかつさっき少し嗅が
されたカレーの香気によって貴明の脳みそはすっかりカレーモードに突入していた。
 それにしても、ミルファが戻っていないのが気になるが……研究所に行ったのならちゃんとイヤーレ
シーバーを着けている筈だし、研究所に電話すればすぐに消息がわかるに違いない……。とはいえさす
がに今電話するのは過保護っぽくて照れくさいし……とりあえず空腹を何とかするためにも春夏に甘え
てもいいだろうか、などと色々グズグズ考えていると、
「……たっだいまぁ〜〜♪ って、あれ? 貴明、柚原さんちでなにしてるの? あ、春夏さん、この
 みちゃんもこんばんは〜〜♪」
 だしぬけに河野家の玄関先から、生垣越しに元気のよい挨拶が飛んできた。
 貴明が振り向くと、言うまでもない事だが帰宅したミルファが能天気な笑顔で立っていた。

              ◇  ◇  ◇  ◇

「ん、ん……。今日は、随分手間がかかったんだな。何か、トラブルでもあった?」
 リビングの電気を点けながら、貴明は極力平静を保ちながらミルファに問いかけていた。
 ミルファは手早く上着を脱いでエプロンを着け、イヤーレシーバーを外している。少なくとも外見は
いつものミルファのようだ。
「……心配だった?」
233名無しさんだよもん:2008/01/25(金) 14:20:23 ID:0Bv3K+/hO
支援
234『必殺!VS』 6/13:2008/01/25(金) 14:24:53 ID:Ksra8PQC0
 口元を緩ませながら悪戯っぽく尋ねるミルファ。それでも、買ってきた食材を冷蔵庫に入れたり食事
の準備をする手元は疎かにならない。相変わらずの鉄砲玉ではあるが、この半年で家事能力に関しては
長足の進歩を遂げているのだ。
「……まぁな、心配したよ。夜になったら研究所か珊瑚ちゃんに電話しようかと思ってたトコ」
 ほっとしたせいか、貴明はいつもよりずっと素直に、思ったままを言葉にしていた。
その言葉を聞いたミルファは、満足そうに、そして照れくさそうな微笑みを浮かべて振り向いた。
「えへへ、嬉しいな。ホントね、大したことじゃないんだよ? ほら、HMX−17で男の人と暮らし
 ているのって私だけじゃない?」
 確かにミルファの言う通りではある。ミルファの姉妹であるイルファ、シルファは貴明と仲良くはし
ているし、ちょくちょく河野家を襲撃することもあるにしろ基本的には姫百合姉妹べったりだし、姫百
合姉妹や貴明以外に仲良くしている人がいる話はあまり聞いた事がない。
 イルファは以前向坂家にメイドとして出向した事があるので向坂家の人たちとは親しいが、だからと
言って頻繁に会っている訳ではない。
「そのせいみたいなんだけど、最近イルファ姉さんやシルファと私の違いが大きくなってきたんだって。
 それで、今度から比較のためにソフトもハードも今までよりも細かいデータ収集を行うんだってさ」
「な、なるほどね……」
 どんなデータを収集されているのか、貴明的には非常に気になるものがあったが、なんとなく尋ねる
のも恥ずかしくなって苦笑で誤魔化してしまった。
 ミルファもなんとなくその微妙な空気を察したのか、実際に何がしかの照れもあるのか、頬を染めた
ままごそごそとジャガイモや玉ねぎを取り出し、話題を変えてきた。
「貴明さ、必殺カレー食べ損ねちゃったから、ウチでも今日はカレーにしようね。このあいだ、30分
 ちょっとで出来る美味しいカレーの作り方覚えたんだ」
 必殺カレーは仕上げだけで30分はかかるのに、その程度の時間で出来上がるというミルファの新カ
レーに興味を覚えた貴明は、手早く野菜を切り始めたミルファの後ろから手元を覗き込んでみた。
「へー? なんか細かく切ってるね。肉は挽き肉なんだ?」
235『必殺!VS』 7/13:2008/01/25(金) 14:27:23 ID:Ksra8PQC0
「うん。こうやるとすぐ火が通るから、手早く出来るんだよ。まあ、普通のカレーとは少し違うけどね。
 あとは出来てのお楽しみということで、貴明はリビングでおとなしく待ってて」
 そして彼女は貴明の頬に軽くキスをすると、にっこりと微笑んだ。

               ◇  ◇  ◇  ◇

 そして約30分後。おおむねミルファの言葉通りの時間に食卓には出来たてのカレーとサラダが並ん
でいた。細かい具の割にはたっぷりのボリューム感がある。
「ん〜〜、これ、キノコだよな??」
「そだよ、キノコカレー。味のいい具を使ってるから細かく刻んで短時間で作っても美味しいんだよ。
 さ、食べて食べて!」
 スプーンでひと掬いしてみると、たしかに色々なキノコが入っているようだ。ぱっと見、エノキやシ
イタケ、エリンギなどであろうか。それに小さく切ったジャガイモとニンジン、挽き肉が入ってまさに
カレーの様式は整っている。
 そして口元に寄せるてみると、和風だしのいい香りが鼻腔をくすぐる。
「いただきまーす……うわ、これは美味いなぁ。……優しい味って言うか、これカレーライスってより
 カレー丼って感じだね。……うん。がつんとはこないけど、何杯でも食べられそうな美味しさだよ」
 大ぶりの具が入っておらず、またキノコのおかげでのど越しがいいので、貴明は本当に一気に一杯目
を食べ終えてしまった。
 辛さや刺激を楽しむカレーとは真逆の、味わいとまろやかさで押してくるひと皿だが、これはこれで
なかなかに美味しい。少なくとも貴明は気に入っていた。スプーンの進みは正直である。
「ミルファ、もう一杯あるかな。美味しくて一気に食べちゃったよ」
 皿を受け取ったミルファは、嬉しそうに2杯目をよそって貴明の前に置いた。
「よかった、気に入ってもらえて。カレーはなんだか春夏さんに敵わないような気がしてたんだ。瑠璃
 様もカレーには絶対の自信持ってるし」
 確かに、ミルファがカレーの出来に自信が持てないのも無理はあるまい。
236『必殺!VS』 8/13:2008/01/25(金) 14:29:37 ID:Ksra8PQC0
 イルファも悩んでいた事ではあるが、それでなくともメイドロボの舌では人間ほど繊細な味は感じ取
る事が出来ない。ミルファは貴明の好む味に敏感なためか姉妹よりも味覚センサーが上手く働いている
らしいが、長年料理に携わっている春夏や瑠璃の味覚に敵う筈もない。
 その上味と香りのバランスが肝になるカレーの味調節とくれば、難しいというよりも料理センスその
ものを問われてしまう。そしてそんな料理であるが故に、さらに万人に愛される料理であるが故に、料
理の上手な人は得意なカレーレシピを一つや二つは必ず持っているものである。そう考えればメイドロ
ボの身で善戦出来るだけで大したものと言って良いのではなかろうか。
 実際、なんでもそつなくこなすイルファも、カレーに関しては瑠璃に任せてもらえないでいる。
「なに弱気な事言ってるんだよ。ミルファのカレー、すごく美味しいよ。必殺カレーにも劣らないって」
 もぐもぐとキノコカレーを頬張りながら貴明はそう力説した。
「そう?? 慰めで言ってない?? ホントにホント??」
 さすがに必殺カレーと比較されてではリアリティに欠けたのか、ミルファはすぐには貴明の言葉を信
じようとはしなかった。春夏の実力を考えればそれも無理からぬ事ではあるが。
 嘘を言っているつもりはなかったが、縋る様なミルファの視線に押された貴明は、もう少し真剣に脳
内比較を試みる事にして、まずは目の前のキノコカレー2杯目をきれいに平らげた。
 そして手を合わせてご馳走様をしつつよく比べてみる。今食べたカレーと、これまで何度もご馳走に
なってきた必殺カレーとを。
「う〜〜ん、そうだなぁ。確かにスパイスの効いたカレーらしいカレー、って意味なら必殺カレーに分
 があるよ。でも、これってそういうのじゃないでしょ?? 味わいの深さとか、うま味とか、そうい
 う部分でなら絶対負けてない。っていうかむしろ箸?スプーン?が進むって意味ではミルファのキノ
 コカレーのほうが上かも知れないよ。ミルファも見てたろ??」
 こくりとミルファは頷いた。確かに、今日の貴明の食べっぷりは素晴らしかった。
 この短い時間で、テーブルの上に並べられていた皿のほとんどがきれいに空になっているのだから。
237『必殺!VS』 9/13:2008/01/25(金) 14:35:46 ID:Ksra8PQC0
 貴明は同年代男子の中では華奢なほうであり、食べる量だって小食と言うほどではないにしろ健啖と
は言えない。彼が嘘を言ったり無理をしているとは考えにくかった。
「それに、ミルファは俺が腹減ってるなーとか、話の流れで頭の中がカレーモードになってそうだなー
 とか、そういうの考えてあれを作ってくれたわけだろ? そういうのがよくわかってさ、あ〜〜、な
 んだ。料理はアレ次第っていうかさ、それだけでも美味いって。」
 勢い込んでとたんに饒舌になった上に、途中で照れてしまって尻切れトンボのグダグダな話になって
しまったが……しかし『気持ちが伝わる料理だから美味かった』と言いたかった事だけは、ミルファに
しっかり伝わったようだ。
 ミルファは感極まったというか、今にも泣きそうな表情で貴明を見つめている。もし人間のように涙
が出るのなら、とっくに泣いているのかもしれないが。
「貴明ぃ……うれしいよぅ……」
「ミルファ……」
 なんだか、いい雰囲気になってきた。二人の距離もだんだん詰まってくる。
 だが。まだテレが残っていた貴明は、照れ隠しについ自爆ボタンを押してしまった。
「少なくともこのみの必殺カレーよりは美味いって。間違いない」
 ガタンッ!!
 自爆ボタンは速やかに起動したらしい。貴明が口を滑らせたとたん、リビングの入り口の方からまる
でうっかりドアを蹴飛ばしたような音が響いた。
「ひ……ひどいよ、タカくん……」
「へ……?? このみ……??」
 二人がドアの方に振り向いてみると……そこには衝撃に打ち震えるこのみと、苦笑いを隠せない様子
の春夏の姿があった。
 ……なんだか折角のいい雰囲気が台無しである。

               ◇  ◇  ◇  ◇

「……まぁ、ミルファちゃんも帰ったばかりみたいだし、折角だからお裾分けと思って来てみたんだけ
 ど、色んな意味で余計なお世話だったみたいね〜〜」
238『必殺!VS』 10/13:2008/01/25(金) 14:43:09 ID:Ksra8PQC0
 一時の混乱から立ち直った河野家のリビングのダイニングテーブルには、とにかく場を繋ぐべく淹れ
られたお茶が並べられていた。なお、抜け殻と化したこのみの復活を促すべく、イルファに貰ったケー
キなども並べられていたりする。
 そこで真っ先に落ち着いた春夏は、早速お茶を楽しみつつにっこり微笑んだ。……何がしかを企んで
いそうなちょっとコワい微笑みに見えて、貴明は軽く寒気を感じていたりするのだが。もちろん、その
予感は正しい。
「ところでミルファちゃん? その、キノコカレーって私も興味あるわぁ〜〜。まだ残っているなら私
 にもご馳走してくれない?」
 きょとんとする貴明とミルファに、春夏は予想の斜め上を行く要求を出してきた。ショックに打ちひ
しがれていたはずのこのみもびっくりした様子で母親を見つめている。しかし春夏は涼しい顔で娘に理
由をこう教えた。
「まさかとは思うけどこのみ、これであっさりあきらめちゃうの? 少なくとも私はいやよ、そんなの。
 私の必殺カレーは、文字通り必殺、不敗なんだから。このみに私の特訓に耐える覚悟があるなら、本
 物の必殺カレーだって教えてあげるつもりなのに」
「「「本物の必殺カレー!!??」」」
 驚いた3人の声が見事にユニゾンした。図ったかのように完璧に。
「そう。前にこのみに教えたのはスパイスを予め調合する初心者用必殺カレーなの。でも、スパイスの
 魔術はまだまだ奥が深い。そこまで突き詰めたのが私のとっておきこそ『真・必殺カレー』よ」
 もはや3人には言葉もなく、息を呑んで春夏の独演会を見つめるしかなかった。そう、やはりカレー
は危険なメニューだった。絶対に負けられない何かがあるメニューなのだ。料理上手のプライドに火が
点いた春夏は、自分の勝負でもない?はずなのにすでにぼうぼうと燃え上がっていた。
「だから、まずはミルファちゃんのカレーを食べて、リベンジに備えなきゃ! さ、ミルファちゃん、
 お願いね。それと、折角持って来たんだから、私のカレーも試食してみて」
「そ、そうだよねっ! たった一度で諦めるなんてありえないよねっ! お母さんっ、私がんばって特
 訓受けるよっ!! ミルファさーん、私にも一杯っ!!」
239『必殺!VS』 11/13:2008/01/25(金) 14:47:05 ID:Ksra8PQC0
 有無を言わせぬ春夏の強い言葉と、復活するや一気にエンジン全開のこのみの主張にがくがくと頷い
たミルファはあわててカレーの準備に取り掛かった。まあ、準備といってもただ朝食用に用意していた
ご飯を早炊きし、二つのカレーを温めなおすだけなのだが。……しかしなんとなく今後が心配になった
貴明は、お茶のおかわりを貰うついでを装い、こそこそとミルファに話しかけてみた。
(……なぁ、これって「勝負だー!」とかに発展する流れかな?)
(なんかもう逃げられないような気がするよ〜〜? 私、春夏さんには逆らえないし……)
(やっぱりそうだよなぁ〜〜。……せめてこれ以上話が大きくならないように祈るのみか)
 はぁ、と大きくため息をつき、貴明はダイニングに戻っていった。
 そして15分後、ダイニングテーブルの上には4つの皿が並んだ。
 2つはカレー用の深皿。このみと春夏の前に、キノコカレーを入れて置かれている。1つはやっぱり
カレー用の深皿、そしてもう1つは小鉢。貴明とミルファの前に、春夏の必殺カレー(春夏曰く本気度
70パーセントバージョン)を入れて置かれている。
「感想は全員が食べ終わってから発表しましょうね。……では、いただきましょう」
「「「いただきます」」」
 春夏の掛け声に続いて4人はいっせいに手を合わせる。
 そしてそれぞれの前に置かれた皿とスプーンに手を伸ばすと、闘志も戸惑いもとりあえず胸に秘め、
皆黙ってゆっくりと味と香りを確かめていった。

               ◇  ◇  ◇  ◇

「ごちそうさまでした」
 すでに食べ終わった3人が緊張の面持ちで見守る中、最後までゆっくりと味わっていた春夏がスプー
ンを置き、手を合わせて試食の終わりを告げた。
 緊張感に耐えかねたのか、何がしかの感慨があるのか、終わった途端にミルファはがっくりとテーブ
ルに突っ伏してしまった。そしてさらに情けない呻き声が上がった。
「うううぅぅぅっ、やっぱ春夏さんのカレーはすごいっ……。スパイスのバランスが完璧、具の固さや
 塩分量、うまみ成分量もほとんど理想値だと思う。こんなの絶対再現出来ないよ〜〜」
240名無しさんだよもん:2008/01/25(金) 14:47:13 ID:GTwXh05dO
支援
241『必殺!VS』 12/13:2008/01/25(金) 14:49:38 ID:Ksra8PQC0
 どうやらミルファの味覚センサーでも本家必殺カレーのすごさは理解出来るようだった。もっとも、
理解してしまうとこの様に敗北感に打ちのめされることになるのだが……。
 貴明は何も言わなかったが、力なくうなだれるミルファを慰める手が全てを物語っていた。
「ん、でもミルファちゃんのカレーもなかなかのものだと思うわよ。スパイス調合に不利だからうま味
 を引き出すカレーにしたんでしょ? 大成功じゃない。これだったら確かにこのみの必殺カレーより
 も美味しいわね」
 ミルファと貴明の反応に満足したのか、こっそりとテーブルの下でこぶしを握ってガッツポーズ?を
作った春夏だったが、すぐに落ち着いた風を作ると、おもむろにミルファのキノコカレーにも高評価を
与えた。……どう聞いてもかなり上から目線の言葉ではあったが。
「うぁ〜〜、何が違うんだろう〜〜? 確かにミルファさんのカレー美味しかったけど、負けてるのは
 わかるんだけど、私のどこがダメなのかわかんないよぉ〜〜」
 そして春夏にもミルファにも敗北したこのみは、さっきまで復活していた元気を失って再び抜け殻状
態と化してしまった。結果はわかっていたのだが、改めて現実を見つめてしまうといかに普段ポジティ
ブなこのみといえども応えるらしい。
「それはね、まだまだ料理の基本スキル全般が劣ってるからよ、このみ。たとえば野菜の切り方一つ取
 ってみてもミルファちゃんのは大きさが火の通りが均一になるように揃ってるけど、このみのは見た
 目がなんとなく揃ってるだけなの。それだけじゃない。炒め方、スープの使い方、全てにおいてミル
 ファちゃんのほうが数枚上手ね。これじゃあレシピや愛情以前に、技術で大幅に負けてるわ」
 落ち込むこのみに対して春夏は冷静に真実を告げた。……端で聞いていた貴明が「なぜここで愛情が
出てくるんだろう?」と首を捻っているのがいかにも貴明らしい。
「うあぁ、じゃあ全部ダメだったんだね、私……タカくん、私まだまだだったよ。ゴメンね……」
 塩を振られたナメクジのようにしおしおになってしまったこのみであったが、春夏はそんな娘の肩を
力強く叩くとこう言った。
242『必殺!VS』 13/15:2008/01/25(金) 14:52:55 ID:Ksra8PQC0
「さぁ、明日のお弁当の仕込みから早速特訓開始よ! 基本からもう一度技術を叩き込んで、真・必殺
 カレーの伝授を受けられるまでに鍛えてあげるわ! 大丈夫、10日もあれば家だって建つんだから、
 がんばって2週間でミルファちゃんに再挑戦出来る『このみの必殺カレー』を完成させるわよ!!」
「お、お母さん……私、がんばるよっ! がんばって本当の必殺カレーを手に入れるよっ!!」
 手と手を取り合い、二人で燃え上がる母娘鷹……目指すはカレーの星というのが少々アレだが。
 そして春夏は、取り残されポカーンとしていた貴明とミルファに『ビシッ!』と指差すと、貴明が先
刻予想したとおりの宣言をした。
「勝負よっ、ミルファちゃん! 2週間後の金曜日の夕食で雌雄を決しましょう! 審査員は私とタカ
 くんでいいわね。 ……それと、その時のこのみは今のこのみとは違う、νこのみよ。あなたも更に
 腕を磨いておいてね」
 それからまた少し考えると、不敵な笑みを浮かべてさらに付け加えた。
「折角勝負するんだから、何か賭けた方が面白いわよね。……実はね、2週間後の土曜日、また私お父
 さんの出張について行く事になってるのよ。だから、もしこのみが勝ったら、タカくんのお家に泊め
 て貰おうかな、ミルファちゃん抜きで」
「うえぇぇぇ〜〜〜〜っっ!!?? ダメダメダメダメダメぇ〜〜〜〜!!」
「あら、勝てばいいのよ、勝てば。そうね、ミルファちゃんが勝ったら必殺カレーのレシピを教えてあ
 げる。門外不出、普通なら娘以外には絶対教えない秘密よ。スパイスの調合比率をちゃんと教えてあ
 げるから、かなり近いものが作れるようになるんじゃないかしら」
「うぇ……ぇえ??」
 とんでもない春夏の提案に一度は激しい拒絶を示したミルファではあったが、間髪入れずに魅力的な
『勝った場合のご褒美』を提示され、首を捻りつつ黙り込んでしまった。どうでもいいが、誰も貴明の
意向を確認しようとしていないし、貴明もその事については諦めているらしいのが少し哀愁を誘う。
243『必殺!VS』 14/14:2008/01/25(金) 14:55:37 ID:Ksra8PQC0
 春夏はミルファの肩を抱きかかえる様にしながら耳元でさらに説得を続けた。
「ミルファちゃん、このみにもチャンスをあげても良いでしょう? ね? それに負けるとは限らない
 んだから。勝てば約束通り必殺カレーを教えてあげる。必殺カレーだったら、瑠璃ちゃんのカレーに
 だってひけをとらないと思わない? そうしたらイルファちゃんに料理で一矢報いられるかもしれな
 いわよ?」
 春夏の切り札はやはり効果的だったようだ。……ミルファの家事能力は確かに長足の進歩を遂げてい
るが、元来の性格の違いもあって姉のイルファには一歩及ばない部分がある。家事全般の中でミルファ
が一番得意なのは料理だが、それでも身近に良いコーチとなる瑠璃が付いているイルファには敵わない。
そしてミルファがそれをコンプレックスに感じているという事を春夏は薄々感付いていたのだ。
 ……ついに春夏に説得されたミルファががっくりと頷いた。
「わ、わかりました。私もがんばって貴明好みのカレーを研究しておきます」
 満足そうに春夏が微笑む。蚊帳の外に置かれている貴明は「やっぱりこうなったか」と言わんばかり
に大きなため息をついた。
 そしてこのみはというと……
「タカくんと二人でお泊り……二人でお泊り……ほわあぁぁ〜〜〜♪」
 もはや幸せ妄想爆発モードへと突入していた。

 決戦は2週間後。仁義なきカレー対決の行方は誰にもわからない……。
 そして本当に話が広がらないものか、それも誰にもわからない……。

 数日後、とあるマンションの一室において。
「そういえば聞きましたか? 瑠璃様。今度貴明さんとのお泊りを賭けたカレー対決が……」
 また別の日、某学園の書庫において。
「お姉ちゃんお姉ちゃん、このみがぶつぶつ言ってるのを聞いたんだけど、再来週の金曜にね……」
 更に別の日、某学園の生徒会室において。
「さーりゃんさーりゃん、ちと小耳に挟んだのだが……たかりゃん争奪カレー合戦があるっていうのは
 本当かね??……」
 またまた更に……

               〜〜終わり?〜〜
244『必殺!VS』の作者:2008/01/25(金) 15:04:49 ID:Ksra8PQC0
支援ありがとうございました。
以上にて終わりになります。

ちなみに自分は>>227なんですけど、当初「春夏VSミルファ」のつもりでずっと書いていたのですが、
書いているうちにミルファでは春夏さんに歯が立たないことを痛感し、少々流れが変わってしまいました。
まぁ、やっぱ春夏さんはジョーカーですね。

しかし書いててひとつだけ悩んだことが。
……春夏さんって、旦那さんの事をなんて呼んでましたっけ?
本編にあったような気もするのですが、どうしても思い出せなかったっす。
覚えてる人がいたら教えてください。。。
245名無しさんだよもん:2008/01/25(金) 18:56:57 ID:PNDzoda60
>>244
おつかれさまでした。
今回は前もって「カレー」というテーマが提示されていたわけですが、こうした試みは面白いですね。
ゼロからネタを出すのが苦しい場合でも、たった一つのきっかけで物語が閃くということは珍しくありませんし
これを突き詰めていくと落語の三題噺のような、ああいった様式に近づいていくような気もします。

それはともかく『必殺!VS』を読ませて頂きましたが、話の落としどころが上手いなーと思いました。
確かにミルファが春夏の上をいくという状況は想像できません。かといってミルファが春夏の引き立て役になるだけでは困ります。
また、このみをミルファの当て馬として使ってしまっては、このみ好きの方は良い気分ではないでしょう。
その点『必殺!VS』は、それぞれのキャラの持ち味をいかした爽やかな展開になっていてよかったです。
初め、貴明がこのみの必殺カレーを引き合いに出したときは首を傾げてしまったのですが、そのあとでしっかりフォローを入れて
悪意が感じられない落としどころに持っていったのはお見事ですね。
最後も「負けた側が前向きに考える」という描き方をなさっているため、TH2らしい良い意味での温さを感じられました。

対して、一つだけ引っかかったのは、SSの設定に対する状況説明がやや過剰に感じられたということです。
具体的には、3/13におけるミルファ(はるみ)の設定を説明しているあたりですね。
『必殺!VS』では、「普段はミルファが貴明の夕食の支度をしている」という部分が伝われば問題ないわけですから
他の細かい(作者様独自の)裏設定などは、ここで描写する必要があったのかどうか疑問を感じてしまいます。
メイドロボに関してはイルファしか原作に登場していないこともあり、心情としてあれこれ説明を加えたくなるというのは
理解できますが、「世界観」に細かい説明を加えられると、冷めた目で見てしまうという人も多いのではないでしょうか。
それぞれの作者様がどういう「世界観」でSSを書いているかというのは、極力そのSSの展開の中で自然に伝えるのが理想であり
ましてやスレに投下する長さの短編であれば、そうした説明はできうる限り省いた方がいいと思います。

僭越ながら感想を書かせていただきました。
繰り返しになりますが、SS投下おつかれさまでした。
246名無しさんだよもん:2008/01/25(金) 19:43:45 ID:rqth98JC0
でも、カレーってスパイスよりうまみだよな
ミルファの方がおいしそうだな
247名無しさんだよもん:2008/01/25(金) 21:19:28 ID:TjZnDL040
>>244
お疲れ様です。>>255でございます。
なかなかの良作でよかったです。

そして俺のほうは絶賛ぐだぐだ中ですよ... orz
未だ半分くらいです...


>>246
俺も個人的にはミルファのほうがよさげかな。

ちなみに若者は比較的スパイシーな出来立てのカレーを好み、
年寄りほど寝かせたまろやかなカレーを好む、と昔なんかで見た気がする。
まあ、当方十分すぎるほどオッサンなわけですが.。 o.............rz
248名無しさんだよもん:2008/01/25(金) 21:20:52 ID:TjZnDL040
>>247
>>255じゃねえよ…>>225だよ

もうだめぽ
249名無しさんだよもん:2008/01/25(金) 23:20:21 ID:32X/THnr0
>244
乙〜。気軽にお題が出たり答えたりすると良いふいんき(←何故以下略
ミルファ&春夏ってのはなさそうで似合う取り合わせでいいな

設定説明は、俺はこんくらいあってもいいとオモタ。ミルファは未確定キャラだしね
文章も読みやすいと感心。敢えて言うなら空白行が多少入ったらもっとリズムがついたかも?
250名無しさんだよもん:2008/01/25(金) 23:29:41 ID:GEyU35Ql0
盛り上がってるから良いけど、お題が出てるとお題無しで書いてきた奴らが投下しにくくなるんだよな
251名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 00:01:36 ID:eS8IFppY0
>250
んなこたぁないさ。お題はネタが無い人への材料提供なんだから、
自分でネタがあるんだったら他人のお題なんか気にせず投下すればいい

誰かが投下宣言してると連続になるのを恐れるかも知れないが、
それは書き上がった人が後ろを気にして投下するのを遠慮するんじゃなくて、
先に投下されちゃった方が少し間を空ければいいだけ。その間に推敲したらなお良いじゃん?
252名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 00:02:09 ID:mLNt+x9a0
そうか?
邪魔になる訳じゃ無し、気にせず投下してしまって良いと思うが。
253名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 00:03:55 ID:BoXvw7pW0
まあ、よくいるよな
宴会とかで盛り上がってるときに>>250みたいに無粋な突っ込みする奴
254名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 02:23:05 ID:mwp/dHPD0
さて、OHPでシルファボイスが公開された訳だが・・・

今までの二次創作とはかなりイメージ違うね。
255名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 02:26:58 ID:RujAkiFH0
男だったりしたのかい?
256名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 02:39:52 ID:dxcEnu/F0
若本だったりしたのかい?

大歓迎だぞ?
257名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 02:43:12 ID:RujAkiFH0
エロがなければそれでも面白そうだが若本でエロは泣くぞ流石にw
258名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 16:14:38 ID:F8jTcO/D0
シルファのボイス聞いてきたけど、なんだいあの口調は?
259名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 17:16:20 ID:H00fuyjaO
>>258
デフォで「らめぇぇぇ〜〜〜〜!」と言ってくれる口調さ
260名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 19:32:51 ID:DwjDlBTI0
それにしても春夏さんって何気にすごいんだね。
Googleでの検索結果。
柚原春夏 に一致する日本語のページ 約 517,000 件中 1 - 50 件目 (0.05 秒)
小牧愛佳 に一致する日本語のページ 約 189,000 件中 1 - 50 件目 (0.06 秒)

いいんちょよりも検索ヒット数が多いとは・・・

ちなみに・・・
柚原このみ に一致する日本語のページ 約 755,000 件中 1 - 50 件目 (0.05 秒)
向坂環 に一致する日本語のページ 約 273,000 件中 1 - 50 件目 (0.34 秒)

こういった検索ヒット数をネタにToHeart2のキャラが雑談というSSを作ったら・・・
あんまおもしろくないか。
261名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 20:01:18 ID:F8jTcO/D0
いいんちょって人気ある割にはあんまり検索されてないんだな

そしてこのみが一番か…やっぱなんだかんだで正ヒロインなんだな
262名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 21:35:47 ID:yUeGLTHx0
"柚原春夏" の検索結果 約 111,000 件中 1 - 10 件目 (0.19 秒)
"小牧愛佳" の検索結果 約 202,000 件中 1 - 10 件目 (0.17 秒)
"柚原このみ" の検索結果 約 203,000 件中 1 - 10 件目 (0.18 秒)
"向坂環" の検索結果 約 272,000 件中 1 - 10 件目 (0.18 秒)
"タマ姉" の検索結果 約 209,000 件中 1 - 10 件目 (0.19 秒)
263『シングルベット』 1/2:2008/01/26(土) 22:55:24 ID:kFgbrHMl0
「うあ、あ、あぁぁぁぁ、た、貴明ぃ……今日は……どうしたの……?」
「別に……ただ……素直なミルファが可愛いな……って」

 冬のある日。夜更けの河野家にて……。
 シングルベットの上で若い男女が情熱的に愛を交わしあっていた。
 
「いつもより……はげしいよ……ああっ……!」
「今日は寒いからさ……いっぱいくっ付きたいんだって……」

 華奢な少年は、あどけない顔に似合わぬ激しさで紅い髪の少女の身体を貪る。
 手が、唇が、舌が、そして彼自身が、寄せては返す波のように、少女に愛を刻み込んでいく。
 少女はただひたすらに愛しい少年の全てを受け入れ、包み込んでいる。

「うあぁぁっ、た、たかぁきぃ〜〜っ……ら、らめぇ……そこさわっひゃ……らめらよおぉっ……」
「ミルファ……ミルファアっ……俺っ……もうっ……」
「あああぁっ……わらひぃ……もうっ、もうらめぇっ……いっひょにっ……いっひょにいぃっ!」
 ……そして二人はさらに強く、強くお互いの中へと没入していった。

            ◇  ◇  ◇  ◇

 幾許かの後。
 心地よい疲労に包まれながら、二人は狭いベットの上で身を寄せ合っていた。
「……なに、笑ってるの? 貴明。なにか面白い事でもあった?」
 貴明の胸に埋めていた顔をあげるとミルファはそう尋ねた。
 さっきから妙に気になるニヤニヤ笑いを浮かべている貴明が気になっていたのである。
「いや、大した事じゃないよ。……シルファとミルファって、性格とかはすごく違うのに、へんなトコ
 で似てるなぁ〜〜、と思ってさ。ちょっと可笑しくなっただけ」
 軽く眠気の来ていた貴明は考えていた事を素直に口に出していた。無論、ミルファの目がすっと細く
なった事には気が付いていない。
「ふぅん……。ね、似てるってどんなトコが似てるの?」
264『シングルベット』 2/2:2008/01/26(土) 22:57:05 ID:kFgbrHMl0
 軽い調子で聞き返すミルファに、まだ寝ぼけ気味の貴明は再び素直に答えた。
「ん? ちょっと興奮すると滑舌が怪しくなるトコとか。『もうらめぇ』とか、まんまだなって」
 シルファが滑舌の怪しさを露呈するほど貴明と親しくしているなど初耳である。
 第一ミルファはシルファが姫百合姉妹や研究所の人間以外と話しているのすら見た事がない。
「……ところでさ、シルファってば、貴明相手にそんなにしゃべるの?」
 少しずつ、ミルファの声から体温が失われてきた。ようやく目の覚めてきた貴明だったが、今更『そ
ういえばシルファって最初は何も喋らなかった』事を思い出しても後の祭りである。
「へ? ……う、うん。まぁ、たまには、ね?」
 極力なんでもない事の風を装ってみる貴明であったが、どうしてもある種の疚しさが言葉の端端に出
てしまったようだ。……ミルファの温度はもはや氷点下である。

「……ところで、さ。シルファが『もうらめぇ』とか言う状況って、どんなのかな? かな?」

 突然、ミルファの紅い髪がまるで炎の様にゆらりと揺らめいた。
 貴明の全身の神経が危険信号を発している。それも多分、命の危機レベルの。
「え゛っ!?」
「ねぇ。ちゃんと説明してくれないかな? ……かな??」
 いつもは柔らかく、良い匂いのするいミルファの身体が、いつのまにか硬い、火薬の臭いのする何か
になっている。
 同じ殺られるにしろ、一応言い訳をするのと素直に『シルファと仲良くなってあんな事までしちゃい
ました』と告白するのとどちらが楽かな、などと考えつつ。
 結局、空しい希望にすがってしまう貴明であった。
「い、いやぁ〜〜、え〜〜〜っとぉ……ほら、一緒に将棋してて……俺が王手飛車取りを……」
「嘘だっ!!」


            〜タカ棒の人生終わりw〜
265『シングルベット』を書いた馬鹿:2008/01/26(土) 23:00:38 ID:kFgbrHMl0
や、お目汚しスマンです。
>>259を読んでふと閃いたやつをつい書きなぐってしまいますた。

何らかの形でシルファを使いたかっただけという気もしますがw
266名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 23:03:44 ID:pa8ISGuN0
最後に
お姉ちゃんお先にごちそうさまと言う黒シルファを
267名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 23:07:59 ID:Yzc2OKRP0
今後は
シルミル仲良くタカ棒をしゃぶりつくすんだな
268名無しさんだよもん:2008/01/26(土) 23:17:08 ID:F8jTcO/D0
GJ

この天然らめぇええええは使えるな…ww
269名無しさんだよもん:2008/01/27(日) 18:49:47 ID:oIRBBU0k0
誰かブルまーりゃんSS書いてみないか?葵ちゃんとのカップリングでも可
270名無しさんだよもん:2008/01/27(日) 20:03:25 ID:b/4ZleNL0
>>265
乙だけど
×シングルベット
○シングルベッド    な。
271名無しさんだよもん:2008/01/27(日) 22:27:50 ID:Mg/dj7E+0
雄二で何か書いてみようと思うんで何かお題くれないか
272名無しさんだよもん:2008/01/27(日) 22:30:38 ID:dltfuW5L0
雄二の初恋でひとつ
273名無しさんだよもん:2008/01/27(日) 22:32:11 ID:ezRewWMc0
その初恋の人がタマ姉に葱入れられちゃった所を見てしまった雄二ってのはどうだ
274名無しさんだよもん:2008/01/27(日) 22:33:04 ID:nsbt73IC0
事実を知ってるとなんて複雑で滑稽な寝取られな構図…
275名無しさんだよもん:2008/01/27(日) 22:35:26 ID:Cr8lK+Je0
個人的にはむしろ貴明が自分に気があるのではないかと勘違いした雄二が
苦悩の果てにソドムの道を見出すような変則的なやつを読んでみたいw
276名無しさんだよもん:2008/01/27(日) 22:39:28 ID:Mg/dj7E+0
つまり要約すれば『初恋の人(貴明)がタマ姉に葱入れられている所を見てしまい次の日フラグが経つ』な話かww

……いや、カオス過ぎて無理

とりあえず雄二の初恋だけ採用して考えてくる
277名無しさんだよもん:2008/01/28(月) 19:19:30 ID:GuvQ3QCl0
ところでADが発売されたらしばらくネタバレ規制とかしたりするの?
攻略する順番は各々違うんだろうし、まだ攻略してないキャラのネタバレ出ても困るだろうから考えといても損は無いと思うが
278名無しさんだよもん:2008/01/28(月) 19:46:32 ID:UYt8seg5O
ブルまーりゃんからサッカーネタを考えてたんだが、本スレのフラゲ情報見て書けなくなった……orz
生徒会やはるみ巻き込んでフットサル〜〜とか思ってたんだが、まるかぶりw
279名無しさんだよもん:2008/01/28(月) 19:52:53 ID:UYt8seg5O
>>277
ネタバレ嫌いなヤシは板自体に来ないんじゃね?
俺も、1週間前くらいから撤退して一通りプレイし終わるまで来ないつもりだし。

ま、ふた月くらいは最初に「ADネタバレ有り」の注意書きを入れるようにする、とかでいいんじゃなかろうか。
280名無しさんだよもん:2008/01/28(月) 20:06:47 ID:GuvQ3QCl0
>>279
それもそうだな
俺も発売前くらいから一通りやるまで封印することにするわ
281このみのなくころに:2008/01/28(月) 21:27:24 ID:igEPQnL40
くんくん・・・
やっぱりあの女のにおいがするよ
(ギクッ)
タカくんのうそつき!信じてたのに!!
(ギギクッ)
タ、タカくんなんか氏んじゃえ!
(グサッ!)
282276:2008/01/29(火) 17:47:17 ID:CzOX1+Pk0
書いてる途中のメモ帳が消えた

( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \
283名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 17:51:26 ID:jimrsCus0
>>282
素直に
『初恋の人(貴明)がタマ姉に葱入れられている所を見てしまい次の日フラグが経つ』な話
を書かないからそうなる…
284名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 19:08:44 ID:w6skVOXGO
>>282
そ、それはイタいな……
俺は一度それやってからワード使ってしょっちゅう上書きして、がクセになってもた。

ちなみに何レス分くらい書いていたのだ?
285名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 19:21:21 ID:o1VphRAz0
話ブッタギって悪いが

ttp://ikunokomaki.web.fc2.com/

ここのSS読んでるやついる?
登録されてて読んだんだけどスゲーなwwwwスタンド能力出てきてバカスwww
TH2だとU-1系の話ってあんまなかった気がしたけどやっぱ何人かはいるんだねえ
ちょっと新鮮だったw
286名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 19:36:20 ID:CzOX1+Pk0
>>284
あー10レスくらいかな?

もう書く気失せたからさっき30分で書いた超劣化版で我慢してくれ
レス数は4レスほど
287思い出は蘇りて(1/4):2008/01/29(火) 19:41:14 ID:CzOX1+Pk0
「ねぇタカ坊」
「ん、何?」
「久しぶりに『アレ』やってみない?」
「アレ?」
「えぇ、昔よくやってた『アレ』よ」
「まさかアレって…ってちょっとまってたまねえなにそのかたてにもったおんなもののふくはやめておれおとこだよやめてやめいやああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

………

……



…そして一時間後。
「うぃーす、ただいまー」
学校から帰宅した雄二が居間の戸を開けると、そこには見慣れない女の子が俯いて座っていた。
この白い服、黒い髪、俯いた顔、そしてこの儚さ。雄二はその姿を確認した途端固まってしまった。

「(この子は…俺の初恋の子じゃないか…!?)」

あれから十年程経ってしまっているが間違えようが無い、この子は間違いなく成長したあの子だ。雄二はそう確信した。
何故この家にいるのか、そんな事は今はどうでもいい。とにかくこのチャンスを逃してはならない。
雄二が女の子に近づくと、女の子はビクッとなり俯いたまま顔をそむける。
気が弱い子なんだなぁ。雄二はその程度しか気にとめず話し掛けてみる。

「なぁ君、姉貴の知り合い?」
「……」

反応が無い。怖がられているのだろうか?
よし、じゃあまずは警戒心を解くか。
雄二はそう決めると目一杯やさしい顔を作り再び話し掛ける。
288思い出は蘇りて(2/4):2008/01/29(火) 19:42:26 ID:CzOX1+Pk0
「あ、俺この家のもんだからそんな怖がらなくてもいいよ」
「……」

やはり反応が無い。むしろ拒絶が強くなっているような気すらする。
何が悪いのか?こうなったら色々試してみるか。

「もしかして男が苦手とか?」
「……」

「あー…この家にはどうゆう用事で?」
「……」

「こ、この近所に住んでるの?」
「……」

「えーっと…俺鬱陶しい?」
「……」

「……」
「……」


だぁー!どうすればいいんだよ!
雄二が心の中で髪を掻き毟っていると、突如玄関の戸が開く音がした。
環が帰ってきたのだ。こうなったら将を取らんば馬から、姉貴から情報を聞き出そう。将以上に恐ろしい馬ではあるが。
雄二はそう決めると姉を迎えるべく玄関へ駆け出していった。
289思い出は蘇りて(3/4):2008/01/29(火) 19:43:06 ID:CzOX1+Pk0
そして再び居間に一人になった女の子は、雄二が出て行ったのを確かめると盛大に安堵の溜息を吐いた。

「バレなくてよかった…」

そう、この女の子、言うまでも無く貴明である。
昔やった遊びと称して環に女装をさせられていたのである。ちなみに環はせっかくだから化粧もさせてみようとコンビニまで出かけていたのである。
しかしこの年になっても通用するとは…。貴明が軽くヘコんでいると廊下のほうから声が聞こえて来た。

『何だよ姉貴化粧道具なんて買ってきて、貴明に色仕掛けで迫る気か?やめとけやめとけ、姉貴がやったって怖いだけあだだだだだだだ割れる割れる割れるー!』

とりあえずタマ姉には悪いけど、時間を稼いでくれているうちに着替えてしまおう。
雄二に真相が知られたら、それはもうあらゆる意味でマズい。

そう決めると、貴明は悲鳴を挙げる雄二を他所に、着替えを探すべくそそくさと居間から出て行ったのであった。
290思い出は蘇りて(4/4):2008/01/29(火) 19:43:52 ID:CzOX1+Pk0
余談

その翌日、教室にて。

「なぁ貴明、前に話した初恋の子いるだろ。昨日その子と再開してさ!いやーこの街に居たんだな。
何が何でもその事お近づきになってみせるぜ!」
「……あー、まぁ頑張れ」
「何だよ冷たいな。チッ、良いよなモテる奴は余裕でしょ。でも今に見てろ、俺ももうすぐそっち側に行って見せるからな!」

熱く語る雄二、これは本気だ。
こりゃまたしばらくは彼女できないんだろうな、可哀想に。
真相を教える気が無い貴明は、熱く燃える雄二に軽く同情しながら心の中で十字を切るのであった。
291名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 19:45:09 ID:CzOX1+Pk0
以上

相変わらずオチ無し&短文ですんまそん
292名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 20:08:28 ID:o1VphRAz0
おつ女装
293名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 22:06:00 ID:Viw+1cgp0
>>285
まだ続いてたんだ、がんばってるんだな作者
というかサイト名変わったんだ
最初わからんかったよ
294名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 22:10:02 ID:w6skVOXGO
>>291
乙。

しかし10レス分も飛ばしたのか……そら痛いな〜。
まぁ、保存は大切だなという事でまた懲りずにガンガろうや。

折角化粧品を買ってきたワケだし、タマ姉がこのまま終わらせてくれるわきゃないよな。
更なるU-2のがんばりを期待しているぞ!
295名無しさんだよもん:2008/01/29(火) 22:10:12 ID:DsHWFbxS0
おつおつ
296名無しさんだよもん:2008/01/30(水) 06:22:24 ID:hWlSM9a90
>291
乙〜
いきなり女の子が自分の家に居たのに感想が「この街にいたんだな」な雄二のアホさにワロタ
データ消失は、書き直して良くなったと前向きに考えよう……(-人-)ナムナム
297名無しさんだよもん:2008/01/30(水) 20:01:06 ID:JOSmeLH+0
最近由真物を見てないな
298名無しさんだよもん:2008/01/31(木) 23:44:15 ID:LwGXJJRC0
さてあと一ヶ月でるーこの誕生日だし、記念SSの準備でも始めるか
299名無しさんだよもん:2008/02/01(金) 00:38:59 ID:toijTjOX0
225です

すんげぇ亀で申し訳ないんでつが、やっとカレーSSが一通りかけました
たいした内容でもないわりにエラい長くなりました orz
これから軽く推敲するんで近日中には何とか
300名無しさんだよもん:2008/02/01(金) 00:40:19 ID:/OouTDob0
別に期日とかは無いし書き手の自由なんだ、謝る事は無いぜ
wktkして待ってる
301名無しさんだよもん:2008/02/01(金) 00:45:15 ID:2qOUwdFS0
つーか、いつまででも待ってるから、いちいち宣言しなくてもいいぜw
302名無しさんだよもん:2008/02/01(金) 22:14:46 ID:JQwY5qbiO
wktk
303華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 1/23:2008/02/02(土) 13:33:50 ID:onvmUp2S0
 昼休み。
 いつものように雄二と学食に出かけて飯を食うことにした。
 今日は何を食おうか…ちょっと迷った挙句、俺はカレーライスのボタンを押した。
 出てくるのは業務用の缶詰カレーを温めてご飯にかけただけのものなんだけど…たまに食うと美味いんだよね。
 券売機がカレーの食券をぺっと吐き出すと同時にカレーの売り切れランプが付いた。

 …へえ、今日はカレーが人気なんだな…

 俺は券売機の口から券を取り出して振り向くと…そこには怒りに震える由真が居た。

 ああ、またなのか…またなんだろ。

 由真は赤ランプが点灯しているカレーのボタンを見つめた後、俺をひと睨みすると、やっぱりいつものように、
びしっと人差し指を突きつけた。
「あんたとはいつか決着をつけなきゃとは思っていたけど…今日こそ決着をつけるべきだと、今確信したわっ!」
「おいおい。」
「河野貴明ッ!あたしとカレーをかけて勝負よっ!」
「まてまて。そんなに食いたいなら譲ってやるから、大声でわめくな。」
 その一言で、周りの注目が自分に集中していることに気が付いた由真は、俺に指先を付きつけたまま、
真っ赤になってブルブル震えていたが…やがて耐え切れなくなったのか、いつもの捨て台詞を口にしかけた。
「ぐ〜〜〜〜っ!これで勝ったと「あいや、ちょほいとまちなぁ」…え?」
 俺と由真が呆気に取られてその声の方を向くと、そこにはゴッテス・オブ・卑怯ことまーりゃん先輩の姿があった。
「その勝負、あたしが預かった!」
「いや、勝手に預からんでください。大体なんで先輩がここに。」
「良いではないか。あんまり細かいこと気にすると若禿げになるぞ、たかりゃん。」
「あたしを放って話するな!」
 いつもの堂々巡りに陥りそうになっていた俺とまーりゃん先輩の会話に、放置プレイ気味だった由真が横から割り込んだ。
「おう、ゆまりゃん。このあたしがたかりゃんとの勝負の舞台を用意してあげようと言ってるんだよ。喜びたまへ。」
「え?勝負の舞台?」
304華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 2/23:2008/02/02(土) 13:35:07 ID:onvmUp2S0
「そう…勝負のリングだよ。ゆまりゃん。英語で言うならバトルフィーバー。」
「…バトルフィールドです。どこの戦隊物ですかそれは。」
 ついつい突っ込んでしまう俺だった。だがそんな些細なことで動じるまーりゃん先輩ではない。
「そんな些細なことなどどうでもいいのだよたかりゃんくん…ぬふふふふふ、まあ、ゆまりゃんも大船に乗った気で
あたしにまかせたまへ。じゃあね〜ばいび〜」
 ぼふん!と言う効果音と共にまーりゃん先輩のちんまい姿は煙幕の中に消え、あとには呆然とたたずむ
俺と由真だけが残された。
「…カレー、食う?」
「…あたしチャーハンでいいや。なんか気がそがれちゃったし。」
 すっかり話の腰を折られて白けてしまった俺たちは、喧嘩する気力も失ってしまっていた。
 そこへ先に券を買って席に行っていた雄二が戻ってきた。
「おまえら何やってんだよ。もう昼休み終わるぜ?」
 雄二の指摘で時計を見ると、もうすぐ予鈴のなる時間だった…
 結局その日、俺と由真は昼飯を食いっぱぐれることになった。

                      ○

 そして、その騒動から数日たったある日の放課後。

「カレーライス。あたしの記憶が確かならば、それはインド料理を起源としながら英国を経て日本に伝わり、
 様々に進化を遂げ、今やラーメンと並んで国民食とされるほどの料理であーる。」
 そう言いながらスポットライトの光の中に現れたまーりゃん先輩は、妙なマント姿だった。
「白いご飯と渾然一体となったのスパイスの香りは、今だ多くの日本人を魅了してやまない。そこで!」
 まーりゃん先輩はばさっとマントを翻した…マントは唐草模様の風呂敷だった。
「今日のテーマは『カレーライス』…よみがえるが良い!アイアンシェ〜フ…ぽちっとな。」

 でんどんでんどんでんどんでんどん…

 ラジカセのスピーカーから鳴り響く、腹に響くドラムに合わせてスポットライトに浮かび上がったのは、
12人の鉄人…ではなく、12人の桜色のセーラー服だった。
305華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 3/23:2008/02/02(土) 13:37:05 ID:onvmUp2S0
 ここは調理実習室。教壇の上には某アカデミー主催よろしくまーりゃん先輩が仁王立ちしている。
 そしてその両脇に並んだ12人の女子生徒は…というと、皆俺と面識のある女子だった。

 おたまを手に立っているのはこのみだ…あのおたまは、もしかしていつも春夏さんが持っている奴だろうか。
「このみはこのお母さんのおたまにかけて、必殺カレーで勝利をもぎ取って見せるであります。」
 このみはやる気満々だった。

 その横、包丁を手に立っているのはタマ姉だ。なんか…タマ姉に刃物ってヤバイ。
「タカ坊、何か言った?」
「いえ、何でもありませんタマお姉さま。」
 なぜか思考を読まれました。…俺って顔に出やすいのかな、やっぱり。

 そしてその隣、ティーカップを手に緊張の面持ちで立っているのは愛佳だ。
 横には半ばあきれた表情の郁乃も居る。
「た、たかあきくん…あたし、がんばるからっ!」
 書庫でもないのに緊張で俺を名前で呼んでいた。
「…バカよね。姉もあんたも、ここに居る全員バカだわ。」
 そんな愛佳を見てあきれ顔の郁乃ちゃんだった。

 さらにその隣にはなぜか笹森さんがタマゴサンド片手にニコニコ立っている。
「たーかちゃん。今日はあたしが美味しいカレー作ってあげるんよ。」
 なんかどんなカレーを作るのか予想できた。
 ゆで卵の切ったのをトッピングしたタマゴカレーなんだそうなんだきっとそうにちがいない。
「たかちゃん、失礼なんよ…これでも料理は得意なんよ。」
 なぜか駄々漏れの俺の思考に笹森さんはぷりぷりと怒っていた。
 …まあ、期待しないでおこう。

 そしてさらに隣にはいつもの決めポーズの由真。
「あたしと貴明の勝負に…なんでこんなにライバルが増えてるのよっ!」
「それは横に居るまーりゃん先輩に言ってくれ。」
306華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 4/23:2008/02/02(土) 13:39:05 ID:onvmUp2S0
 由真は横のまーりゃん先輩をいつものヤバイ目つきでにらみつけたが、そんなことで
あのまーりゃん先輩がひるむはずも無い。
 仕方なく、その視線は俺に向けられた。だから俺のせいじゃないだろって…

 そして、中央のまーりゃん先輩を挟んで由真と反対側には珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんがいた。
「る〜。」
「なんでうちがこんなところに…」
 いつも通りといえばいつも通りだけど…こういう時にはついてきそうな人が一人足りなかった
 …どこに行ったんだ?

 その隣にはちーを手にしたるーこが立っていた。
「料理の勝負なら、るーは無敵だぞ、うー。」
「確かにるーこは料理上手だけど…なんでこんな勝負に参加してるんだよ…」
「るぅ…やっぱりうーはにぶにぶのだめだめだぞ。」
 なぜか非難の目で見られた。…なんでだろう。すごく申し訳ない気がする。

 さらに隣にはバランス栄養食を持った久寿川先輩が…先輩、あなたもですか。
「ごめんなさい、河野さん。まーりゃん先輩を止められなくて…」
「ああ、もういいです。いつものことですから諦めてます。」
 申し訳なさそうな久寿川先輩を見ていると、かえってこっちのほうが申し訳なってくる。

 そしてその隣には、なぜかセーラー服姿のイルファさんが。
 なんで瑠璃ちゃんの横に居ないのかと思ったら、今回はピンですかそうですか。
「何でイルファさんが居るんですか…しかも瑠璃ちゃんを放って。」
 そう言うとイルファさんはぷうっと膨れた。普段が年上っぽいから、なんだか可愛らしい。
「私だって、貴明さんにカレーを作って差し上げたいんです…もう、貴明さん、女心をもっと勉強してください。」
「あー、えっと…ごめん。」
 なぜか逆に怒られた。つい謝っちゃったけど…なんでだろ?
307華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 5/23:2008/02/02(土) 13:41:07 ID:onvmUp2S0
 そして最後に控えしは、ティーポットを手ににっこり笑う草壁さんだった。
「貴明さん、今日は腕によりをかけてお料理しますね。」
「草壁さんまで…」
 ああ、何で最後の良心、草壁さんまで…俺の神は死んだ。

 そしてそんな俺はというと…なぜか椅子に縛られてます。
 …たしかに、まーりゃん先輩が一枚かんでいると言う時点でこういう事態は予想すべきだった…不覚。

「さて、諸君。」
 そう言うとまーりゃん先輩は1歩前に出て、そしてにやりと笑いながら振り返った。
「今日集まってもらったのは他でもない。招待状で伝えたとおり、自らの持てる全てのテクニックを使って
 美味いカレーを作って貰うためだ。
 そして、戦って、戦って、戦い抜いて、最後の一人がキングオブカリーの称号を得るまで戦い抜くのだっ。」
 まーりゃん先輩はもうノリノリだった。
 だがそんなまーりゃん先輩のノリを華麗にスルーしてタマ姉が詰め寄った。
「そんな事よりまーりゃん先輩、ここに書いてあることは本当なんでしょうね?」
 そう言いながらタマ姉が取り出したのは1枚の便箋だった。
 遠目に見ても誤字脱字上等のそれは明らかにまーりゃん先輩の字で、多分さっき言っていた招待状なのだろう。
「ぬっふっふっふっ、勿論だともたまちゃん。優勝者にはキングオブカリーの称号と共にたかりゃんの
 所有権が認められるのだよ、ほれこの通り!」
 俺の体に巻かれていた布をまーりゃん先輩が取り去ると…俺の胴のあたりにはのしが巻かれていて
『優勝商品』と書かれていた。
 ついでに股間には『粗品』と書かれたのしも張ってあった。勘弁してください本当に。
「勿論使い方は自由。煮てよし焼いてよし、膝枕してもらったりお姫様抱っこしてもらうもよし、
 もちろん夜のお供にももってこいだ!」
 フーテンの寅さんよろしく叩き売り口上でノリノリのまーりゃん先輩だが、俺はたまったものじゃない。
「いい加減にしてください、まーりゃん先輩!大体、俺なんか商品に貰っても誰も喜ばないでしょ。」
「あー…本気で言ってるのかたかりゃん?」
 まーりゃん先輩は、全くしょうがない奴だと言わんばかりのため息をついた。
「あれみてみ。本当にたかりゃんなんていらないと思ってるように見えるか?」
308名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 13:41:33 ID:G1WN8I+H0
俺の嫁が出たところで支援
309華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 6/23:2008/02/02(土) 13:43:04 ID:onvmUp2S0
 そう言って、まーりゃん先輩が指した出場者ご一行様のほうに目を向けると…うお…

「タカ坊を独り占め…じゅる…」
「たかあきくん…たかあきくんを独り占め…」
「べ、べつにたかあきなんか…たかあきなんかいらないけど…」

 皆口々にぶつぶつつぶやきながらこっちを見ていた…なんだか熱に浮かされているようなやばい目で。
 まるで猫の目の前の猫じゃらしになった気分だ…何か色々危険な気がする…主に俺の人権とか貞操とか。

「さて諸君。賞品の紹介も終わったところで勝負に入ろうか。制限時間は1時間。
 この調理室にある器具は好きに使っていいぞ〜。そして、カレーが完成したらたかりゃんに食べさせて、
 一番美味いと言わせた人の勝ち。ゆーあんだすたん?」
 全員が頷くのを見届けて、まーりゃん先輩は右手を突き上げて高らかに宣言した。
「では、アーレ・キュイジーヌ!」
 重々しい銅鑼の音と共に、勝負は始まった。

                      ○

 ところで、今ここに居るのは俺とまーりゃん先輩と出場者だけではない。
 教室の後ろではうちのクラスメイトを初めとした観客数十人が勝負を見守っていた。
 勿論俺を心配して、とか出場者を応援するとかではなく俺が酷い目に合わされるのを見る単なる野次馬だ。
 そしてそう言う人間の筆頭が…俺の親友のはずの雄二だった。

「さあ、ついに始まりました。キングオブカリーの称号と副賞の恋愛帝国主義者、もてない男の敵こと
 河野貴明の所有権を賭けた戦いの火蓋が今気って落とされました。
 この文字通り熱い戦いの模様を実況向坂雄二と、解説まーりゃん先輩でお送りいたします!」
「…っていうか、お前はそこで何をやってるんだよ。まーりゃん先輩の暴走を止めろよ。」
「えー、それはお前の役目だろ。それにまーりゃん先輩に協力したらかわいい女の子の作った手料理が
 食えるって言うしさー。姉貴とちびすけのはおいといても、こんなチャンスめったに(ぼかっ)おぐふぁ」
 タマ姉の放ったジャガイモが物凄いスピードで雄二の頭を直撃した。バカなやつめ。
310華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 7/23:2008/02/02(土) 13:45:04 ID:onvmUp2S0
 …あ、復活した。
「負けーん!…ふふふ、今日ばかりは姉貴の暴力なんぞにめげてられんわ〜〜」
 あきれたど根性だ。そんなに女の子の手料理が食いたいのか。
 …まあ、結構レベルの高い面子がそろってることは認めるけど、そんなにいいものなんだろうか。
「たかりゃんは相変わらずの朴念仁だのー。」
「だからモノローグに突っ込まんでください。」
「今更貴明にそっち方面の期待しても無駄っすよ。まあ、そんなことはどうでもいい。」
 マイク代わりの人参を握りなおした雄二は再び調理に励む女子の方に向き直った。

「さて、まずはちびす…じゃなかった、柚原このみ選手の様子であります。
 すでに野菜の下ごしらえを終えて肉の調理に入っております。」
「柚原選手は肉に何かすり込んでいますね…特製スパイスでしょうか?
 横には自家製と思われるカレー粉のビンも見受けられますね。」
 このみは眉を寄せた難しい顔でうんしょうんしょと肉にスパイスをもみ込んでいる。
 よくよく見ると口元でなにかつぶやいてるな…
「…タカ君タカ君タカ君タカ君タカ君タカ君タカ君タカ君タカ君タカ君タカ君…」
 …聞かなかったことにしよう。

「さて、あねき…じゃなくて、向坂環選手ですが…すでに材料の調理を終え、煮込みに入っております。」
「横のフライパンで炒めているのは…カレー粉ですね。スパイスを炒めてさらに香りを引き出す作戦でしょうか。」
 タマ姉は料理上手だから味のほうは心配ないだろう。問題は…
「タカ坊、待ってなさい。今お姉ちゃんがタカ坊をゲットしてあげるから。今夜は一緒に寝ましょうねふふふふ…」
 絶対ヤバイ。俺の貞操の危機だ。

「さて、小牧姉妹ペアは姉の愛佳さんがメインの調理担当、妹の郁乃ちゃんがアシスタントの模様です。」
「これはオーソドックスな『我が家のカレー』のようですね。材料も豚肉にジャガイモににんじんにたまねぎ。
 カレールゥも市販のものを3種類ほど混ぜて使うようです。」
 ある意味愛佳らしいと言うか、物凄く家庭的で一番安心できそうなカレーだ。
311華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 8/23:2008/02/02(土) 13:47:07 ID:onvmUp2S0
「ふ〜んふんふんふふ〜ん…カレーは楽しく作ると美味しくなるんだって。郁乃も歌おうよ〜
 たかあき君がおいしいって言ってくれたらいいな…もしかしたら、そのまま俺のお嫁さんになってくれ、
 なんて言われたりして〜〜〜。どうしよう郁乃〜〜〜。」
「はいはい。手を休めると炒めてる具が焦げるわよ。」
「あわわわわわ!」
 …一番安心、だよな?

「♪タマゴ〜タマゴ〜タ〜マゴサンドを食べちゃうぞ〜っと」
「笹森花梨選手は鼻歌交じりで余裕ですね。」
「これは…普通のカレーとはちょっと違いますね。何でしょう?フライパンでカレーと一緒にご飯を炒めてますね。
 ちょっとわかりません。」
 …一番不安なのが笹森さんだ。
 一体どんなゲテモノ料理を食わされるんだろう…

「さて、次はな「わ〜〜」由真選手ですが…」
 なぜか由真が大声で叫んだ。何なんだあいつ。
 その由真はというと…クーラーBOXからでかい肉の塊を取り出した
「先輩…アレは…」
「うむ、ゆーりゃんクン。あれは霜降りの黒毛和牛ロースに間違いない!」
「ぶっ!」
 由真の奴ナニ考えてるんだ。とんでもなく高そうな霜降りの牛肉の塊を切り刻んでカレーに使っていた。
「おまえ…それでカレー作る気か?」
 思わず俺がそう言うと、怪訝そうな顔をして口を尖らせて答えた。
「別にいいでしょ。うちの冷蔵庫にあったから丁度いいやと思って持ってきたの。」
 いや、そんな高そうな肉が冷蔵庫に無造作に置いてあるって…お前どんな家に住んでるんだよ。

「さて次は姫百合姉妹ペアですが…調理は瑠璃ちゃんがメインで珊瑚ちゃんは…お手伝い、だよなぁ。」
「踊ってるねぇ。応援かにゃ?」
 まーりゃん先輩もちょっとあきれ気味だ。
 それもそのはずで、調理をしているのは瑠璃ちゃんだけで、珊瑚ちゃんは周りをくるくる回って
『応援』しているだけだ。
312華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 9/23:2008/02/02(土) 13:49:17 ID:onvmUp2S0
「る〜☆瑠璃ちゃんふぁいとや〜」
「…」
 瑠璃ちゃんは答えない。調理に集中していて答えてる暇が無いのだろう。
 …まあ、瑠璃ちゃんが作るなら味は安心だろう。

「さて次はるーこ・きれいなそら選手ですが…これから煮込みに入るところのようですが。…あれは!」
「コーラですね。こーら参った。」
 まーりゃん先輩のくだらない親父ギャグは放っておいて…
 るーこが高々と差し上げたのは500ml入りのペットボトルのコーラだった。
 るーこはそれをどばどばと鍋で炒めた材料の上にぶちまけた。
 …どんな味になるんだろう。るーこ…大丈夫、だよな?
「うー、任せておけ。るーの作る料理は絶品だぞ。」

「さて、次は久寿川ささら選手ですが…大量のきのこがありますね。」
「あれは昨日裏山であたしと一緒に採取したものです。さーりゃん選手は昔お父さんとキャンプに行ったときに作った
 きのこカレーを作る模様です。」
 久寿川先輩は色とりどりのきのこを食べやすい大きさに切っているところだった。
 …そういえば、久寿川先輩って、食べるほうはダメだけど、料理を作るのってどうなんだろうなぁ。
「河野さん。子供の頃キャンプでお父さんが作ってくれたカレーを作ってみるわ。
 初めてだけど作り方はちゃんと覚えてるから、きっと大丈夫…だと思う。」
 …はあ、そうですか…なんか不安だなぁ。

「次は家事のエキスパート、俺の憧れのマイラバー、イルファさんです!」
「家事のプロだけに、料理の腕は期待できますね。」
 無駄に熱い雄二の紹介はさておいて、まーりゃん先輩の言うとおりイルファさんなら料理の腕は間違いないだろう。
 最近は瑠璃ちゃんの英才教育のおかげで味付けが難しい料理も難なくこなしてるし。
「さてイルファさんですが…炒めた材料の上になにかペットボトルから注いでますが…」
「うーん、ミネラルウォーターでしょうか?」
 俺の視線に気が付いたイルファさんはにっこり笑って言った。
「美味しいカレーを作りますので。楽しみに待っていてくださいね貴明さん。」
313華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 10/23:2008/02/02(土) 13:51:03 ID:onvmUp2S0
「さて、ラストは草壁優季選手ですが…大量のたまねぎのみじん切りを丹念に炒めていますね。」
「ほほう…あめ色たまねぎでコクと甘みを出そうと言う作戦ですな。
 これは手間も時間もかかる、1時間と言う制限時間では非常に厳しい調理法です。」
 草壁さんはほんのりと汗ばみながら、たまねぎが焦げ付かないように鍋をかき回している。
 …時間内に間に合えさえすれば、美味しいカレーにありつけそうだ。

                      ○

 かくして、短いようで長い1時間が経過した。
「しゅーりょー!」
 どらの音と共に調理終了となり、全員が手を置いた。

「さーて、誰からたかりゃんにカレーを食べさせるかにゃ?」
 まーりゃん先輩の言葉に、皆躊躇した様子でお互いの顔色を伺っていた。
 1番目はもっとも甘い点が付く可能性があるが、逆に後々不利になる可能性も高い。
 皆が躊躇していると、タマ姉となにやら話し込んでいたこのみが元気いっぱいで手を上げた。
「はいはいはーい!最初はこのみでありますよ!」
 そう言いながらこのみはパタパタとカレー皿を持って走ってきた。
「どうぞ、タカ君。」
 目の前に置かれたカレーからはおいしそうな匂いが立ち上ってきて俺の食欲を刺激した。
 だが椅子に縛り付けられた状態では手を使うことができないので食べられない。
「まーりゃん先輩」
「なにかね、たかりゃん軍曹」
「手を解いてもらわないと食えないんですけど。」
「何を甘いことを言っておるのだねたかりゃん伍長。」
 格下げですかそうですか。
「大体縄を解いたらたかりゃん逃げちゃうじゃん。」
「それはごもっとも。」
「と言うわけで…」
314名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 13:55:19 ID:kLgwY2cW0
支援
315名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 14:06:39 ID:79IGvoNo0
あ〜んして待ってるのにまだか
316中の人:2008/02/02(土) 14:17:24 ID:W3okDHABO
さるさん食らってしまいました(T_T)

初めて食らったんですが、間をおくしかなさそうなんで続きは夜にでも投稿します
面目無い(__)
317名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 14:25:53 ID:kLgwY2cW0
さるさん復活してたんか。SSスレにとっては辛いね
夜の方が投下し易いと思うんでがんがれ
318名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 15:16:21 ID:bG7+1rOS0
たかりゃんと同じくお預けか・・・
結局一番は誰になるのかwktkして待ってます
319名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 19:33:04 ID:FWTttxIR0
おつかれ&ガンガレ
しかしバトルロワイヤルとは、どうなるやら期待して待ってる。
320名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 20:08:11 ID:V3fXwG7G0
イルファさんのペットボトルがきれいなみず、に思えてならねぇ。
321名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 21:45:32 ID:LqBqmPj10
>バトルフィーバー

これを知ってると年齢がバレそうだな
とりあえず続きわっふるして待ってる
322名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 21:54:10 ID:Zo8Qk5S8O
>>320
私は一向に構わん!!(AA略
ところでさるさんって何さ
323名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 21:55:10 ID:TQHKS7Ia0
>>322
それはもしかしてギャグで言っているのか?
324名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:01:30 ID:g0rkPnbXO
俺もひっかかった事ないから、さるさんてなんだかよくわからんよ?
こないだ投下した時も何時間もひっかかるような連投制限はなかったし。
325華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 11/23:2008/02/02(土) 22:21:23 ID:onvmUp2S0
 まーりゃん先輩はスプーンを1本取り出すと、それを俺ではなく…このみに差し出した。
「このみん…たかりゃんにあーんで食べさせてあげるのだ。」
 もちろんそれはまーりゃん先輩の親切心などではない。狙いは羞恥プレイだ。
 その証拠に意地の悪い笑みが口元に浮かんでいた。
 だが天然のこのみはそんなまーりゃん先輩の思惑など知るわけも無く素直にスプーンを受け取ると、
カレーをひとさじ掬ってと俺の口元に差し出した。
「タカ君、あーんでありますよ。」
 このみはそんな行為がよほど嬉しいのか、100ワットの笑顔で俺が口を開けるのを待っていた。
「あーん。」
「…」
「あーん。」
「…」
 俺はそんなこっぱずかしい行為を人前でやる度胸は無いので無言で拒否していたが、
 このみはそんな俺の気持ちを察してくれたのか、スプーンを引いてくれた。
「…そうだよね。このカレー出来立ての熱々だから冷ましてからじゃないとタカ君食べられないよね。」
 ぜんぜん察していなかった。
 このみはその小さな唇を尖らせてふぅふぅとカレーを冷ますと、再び俺の口元にスプーンを持ってきた。
「はい、タカ君。あーんであります。」
「…」
 横ではまーりゃん先輩と雄二がニヤニヤしながら見守っているし、外野の野次馬の視線が物理的な重さを伴って
のしかかってきていた。

 …もう度胸を決めて食うしかないか。

 俺は思い切って口を開いた。
 このみは俺の口にそっとスプーンを入れる。
 俺は口を閉じてカレーを口の中で味わった。
「…おお、美味い。前にうちで作ったときよりずっと美味くなってるよ。」
 春夏さん直伝の必殺カレーは確実に美味しさを増していた。
「本当?タカ君?…やたー!嬉しいでありますよ!」
 俺の賛辞を聞いたこのみはスプーン片手にぴょんぴよんと跳ね回って子犬のように喜んでいた。
326華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 12/23:2008/02/02(土) 22:24:04 ID:onvmUp2S0
「ほう、このみんなかなかやるではないか。」
「ちびすけのカレー、結構いい味出してるな。」
 いつの間にかまーりゃん先輩と雄二もマイスプーンでこのみの必殺カレーを味見していた。
「でもずいぶん練習したんじゃないか?」
 俺がそう言うと跳ね回っていたこのみの動きがぴたりと止まった。
「うん…大変だったでありますよ…」
 ガクガクブルブル震えながらこのみは部屋の隅に引きこもってしまった。
 頭を抱えている辺りを見るに、春夏さんに相当お玉で殴られたんだろうなぁ…
 どんなスパルタが行われたか判るような気がする。

「さて、2番目はタマお姉ちゃんよ。じっくり味わってね。」
 そう言いながらタマ姉はテーブルに載せたのは洋食屋さんで出るような本格派のカレーだった。
 タマ姉はカレーソースをご飯にたっぷりかけると、このみと同じようにスプーンで掬って
ふーふーと冷まし、俺の口元に差し出した。
「はい、タカ坊。あーん。」
「…」
 少し躊躇したものの一度衆人監視の元でやってしまっているのでさして抵抗も無く口を開けた。
 …変に抵抗するとタマ姉は後が怖いしなぁ。
 カレーが俺の口に入れられ、俺はカレーを味わった。
「さすがタマ姉!まるで本当の洋食屋さんで食べてるみたいですごく美味しいよ。」
「ふふーん、でしょでしょ。タマお姉ちゃんに惚れ直した?」
「さすがタマちゃん。料理関係も天下一品だねぇ。」
「まあ、暴力的で色気の無いうちの姉貴の数少ない女らしいところっすから。
 (がしっ)わ、割れる割れる割れる割れる〜!!!」
 俺に笑顔を向けたまま、タマ姉の右手はしっかりと雄二の眉間を捕らえていた。
 …雄二、バカな奴。
 だがしかし、雄二には未だ言いたいことがあるようだった。
「し、しかし…姉貴も腹黒いよな…最初にちびすけに花を持たせて…2番目に自分の美味いカレーで他のライバルと
 印象差を植えつけようなんてな…わが姉ながら…恐ろしいぜ…がくっ」
 雄二はタマ姉の謀略を告発して息絶えた。が当のタマ姉は涼しい顔だ。
「あら、何のことかしら。」
「タマちゃんもなかなかワルよのう。…じゃ、次行ってみようか。」
327名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:24:09 ID:TQHKS7Ia0
(゚∀゚)!
支援
328華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 13/23:2008/02/02(土) 22:27:02 ID:onvmUp2S0
「次はあたしよ。河野貴明!覚悟しなさい!」
 次は由真だった。差し出されたカレーは…まあ、見た目は普通だった。
「ほら、口開けなさいよ。」
「…いや、物凄い熱々なんだけど。」
 由真のカレーも例に漏れず、鍋からよそったばかりなので湯気が立つほどの熱さだった。
 そのまま口に放り込まれたらやけどは必須だ。
「!…あ、あたしにふーふーして冷ませっていうの?!そ、そんな…こ、恋人みたいなこと…な、何であんたなんかに…」
 由真は赤面したまま怒ったり困ったりとしばらく百面相をを繰り返していたが、やがて観念したのか、
赤い顔のままふーふーと冷まして再び俺の口元にスプーンを突き出した。
「こ、今回は、特別、なんだからねっ!」
 俺が口を開けるとスプーンを入れてきたのでそのままくわえてもぐもぐと味わった…が、
「…まずい。」
「ちょ、ちょっと!それが女の子の手料理を味わった男が言う台詞?!」
「いや、ゆまりゃん、これは不味い。なんか…ジャガイモは半分溶けちゃってるし、他の野菜とか肉は味ないし。」
「え?な、なんで?」
 由真はあわててカレーを一さじ掬って口に運んだ。そして…間を置かず、その口がへの字に曲がった。
「由真ぁ…ちゃんとお野菜とお肉炒めた?」
 意気消沈していた由真の後ろから、愛佳がおずおずと声をかけてきた。
「え?なんで?お湯に放り込んで煮ればばいいんじゃないの?」
「炒めないとおいもが煮崩れやすくなるし、ただ煮込むだけだと味が抜けやすくなっちゃうよ?
 それに強火でぐらぐら煮てなかった?」
「だって…人参がなかなか煮えなくって…」
 愛佳の指摘に、由真はさらに落ち込んでしまった。
 …でも、俺はそれより気になることがあったんだが。
「なあ、由真。」
「なによ…ぼろ負けしたあたしに追い討ちでもかけるつもり?」
「いや…さっきお前がカレー食べるのに使ったスプーン。俺に食べさせるのに使った奴だよな。」
 そう、間接キスだ。
 俺は新品の状態で使ったわけだが、由真は俺との間接キスになるわけで…
「?……!」
 最初由真は俺の言った意味がわからなくて眉を寄せて考え込んでいたのだが、少し間をおいて
さっきの倍ぐらい真っ赤になった。
329華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 14/23:2008/02/02(土) 22:30:02 ID:onvmUp2S0
「ち、」
「ち?」
「痴漢!変態ッ!よくもあたしの唇を強引に奪ったわね…これで勝ったと思うなよ〜〜〜」
 由真は真っ赤になったまま大声でいつもの台詞をがなりたてると調理室から飛び出した。
 …あ、盛大に滑ってこけた音がしたな。
「純情だねぇ、ゆまりゃん。」
 まーりゃん先輩がしみじみとつぶやいた。
 …これでまた明日から俺が狙われるネタが増えたわけか。とほほ…

「うー、次はるーのカレーだぞ。心して食え。」
 るーこのカレーは…あのコーラ入りカレーか。
 るーこだから料理は不味くないはず…なんだけどなぁ。味の想像が付かない。
「うー、あーんしろ。」
 ちょっと迷った後で、俺は大人しく口を開けた。るーこを信用するしかない。
 ぱく。
 もぐもぐ。
「…あれ、美味しい。」
 ちょっと辛口のカレーなのだが、普通のカレーよりもまろやかで…なんだか1日寝かせたカレーみたい。
「るぅ…うーはるーの事を疑っていたのだな。しつれいだぞ、うー。」
「ごめんごめん。でもカレーにコーラなんて聞いたこと無かったからさ。」
「この間テレビでやっていたのを見かけたので試してみたのだ。」
「む、これはなかなか意外な組み合わせで美味いカレーだぞ。褒めて使わす。」
 どうやらまーりゃん先輩も満足したようでパクパク食べていた。
「当然だ。るーにとってはこんなことは朝飯前だからな。」
 そう言ってるーのポーズをとったるーこはちょっと得意げだった。

「る〜☆次はうちと瑠璃ちゃんのカレーや。」
 お次は珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんだ。
 まあ、作ってたのは瑠璃ちゃんだし美味しいのは間違いないだろう。
 …と思ってたら瑠璃ちゃんが俺の横まで来てそっと耳打ちしてきた。
「貴明には迷惑かけるから、先に謝っとくわ…ごめんな。」
330名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:31:21 ID:TQHKS7Ia0
支援
331華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 15/23:2008/02/02(土) 22:33:30 ID:onvmUp2S0
「え、それってどういう…」
 聞き返す間もなく瑠璃ちゃんは珊瑚ちゃんの後ろに戻ってしまった。
「はいたかあき。あーんしてな?」
 珊瑚ちゃんがカレーの乗ったスプーンを差し出してきた。
 香りも見た目もいつもの瑠璃ちゃんのカレーだ…なんで謝ってきたりしたんだろう。
 とにかく、カレーを味わってみることにした。もぐもぐと咀嚼してみるがいつもの瑠璃ちゃんのカレー…じゃなかった。
 なんだこれ?
「…辛甘ショッパイ…」
「どや?うちの味付けしたあんばたカレー。美味しいやろ?」
 …確かに、ベースは瑠璃ちゃんのカレーだがあんこの甘さとバターの風味が妙に利いている。
 ニコニコ顔で俺に問いかけてくる珊瑚ちゃんの後ろで瑠璃ちゃんが申し訳なさそうな顔で俺に手を合わせて謝っていた。
 …なるほど。珊瑚ちゃんの懇願に負けて、泣く泣く料理人としてのプライドに蓋をして出来上がったカレーを
差し出したに違いない。
「…たかあき…美味しなかった?」
 あまり芳しくない俺の反応に珊瑚ちゃんの顔が曇った。
 すると後ろで謝っていた瑠璃ちゃんが一転して『さんちゃん泣かしたらコロス』とブロックサインを送ってきた。
 俺としてもここで珊瑚ちゃんを泣かすのは本意じゃないので何とか取り繕って笑顔を作った。
「い…いや、美味しかったよ。ありがとう、珊瑚ちゃん。」
「ほんま?やたー!…鍋にいっぱい作ってあるから、後でもっと食べさしたるね。」
 そう言って珊瑚ちゃんが指差した先には大きな寸胴鍋があった…あれ、全部食わなきゃいけないのかな…
「うーん。持てる男はつらいのう、たかりゃん。」
「余計なお世話です。」

「じゃあ、次はあたしなんよ。」
 そう言って笹森さんが持ってきた皿には…普通のカレーじゃないものが乗っていた。
 見た目はドライカレーに良く似ている。
 カレーがご飯にまぶされた状態でお皿にこんもり盛られ、その中央が少しくぼんでいて、そこに生卵が乗っている。
 …予想とは違ったけどやっぱりタマゴのカレーなのね。
「あー、ふじゅーけんのカレーや〜」
 珊瑚ちゃんがそのカレーを見て物凄く食べたそうな顔をしていた。
332華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 16/23:2008/02/02(土) 22:36:04 ID:onvmUp2S0
「そうなんよ。前に大阪に言ったときに不自由軒で食べたカレーが美味しくって、作り方を研究したんよ〜。」
 自分で研究しちゃうところは笹森さんらしいなぁ。
 そう思っている間に笹森さんはカレーに生卵を崩して混ぜると、ひとさじ掬って俺に差し出した。
「はい、たかちゃん。あーん。」
 俺はそのカレーを味わってみた。
 カレーのうまみの中に、和風の出汁の味が混じり、そして混じりあった生卵が味をまろやかにしていて
…ぶっちゃけ意外にも美味しかった。
「意外って、たかちゃん失礼なんよ。…でも美味しいって言ってくれたから許してあげる。」


「では、次は私のカレーを食べてくださいまし。」
 お次はイルファさんだ。
「うむ、是非いただきましょう。」
「雄二…何時の間に復活したんだお前は。」
 先ほどまで死体になっていたはずの雄二がいつの間にか復活していた。
「ふっ、愚問だな…メイドロボマニアと言われ続けたこの俺がイルファさん手作りのカレーを食べ逃すなどありえん。」
「おまえの無駄な情熱は良くわかったよ。」
 雄二とそんなやり取りをしている間にイルファさんはカレーをよそって俺の前に持ってきていた。
「さあどうぞ、貴明さん。」
 イルファさんが差し出したスプーンからカレーを食べる…うん、これは瑠璃ちゃん直伝の姫百合家のカレーだ。美味い。
「うほぉっ…う、美味いです、美味いですよイルファさん。」
 雄二もカレーを口にして滂沱の涙を流して感激していた。
「ほうほう…これが来栖川最新のメイドロボが作ったカレーか。あたしが1年生の頃にいた子とは段違いだのう。」
 まーりゃん先輩の評価も悪くないようだ。
「いつも通り美味しいカレーですよ。味オンチだって言ってたの、大分直ったんじゃないですか?」
「そうですか?貴明さんに褒めてもらえると私も嬉しいです。ああ、そうそう、今回はちょっとした隠し味を
 入れてみたんですよ。」
「へぇ…何を入れたんですか?」
 俺が聞くと、イルファさんはちょっと顔を赤らめて…小さな声で答えた。
333名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:36:22 ID:TQHKS7Ia0
支援支援
334華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 17/23:2008/02/02(土) 22:38:05 ID:onvmUp2S0
「えっと…今回は『綺麗な水』を使ってみました。」
「ぶっ!」
「ぶわっ、きたねえな貴明。何噴出してやがる。」
「い、いやすまない。ちょっとびっくりしてさ。」
 俺が一言謝ると雄二は再びイルファさんのカレーをぱくつき始めていた。
 …雄二には真実は言うべきではないだろうなぁ。変な趣味に目覚められても困るし。
「あの…男の方はそう言うのがお好きだと聞いたことがあったのでやってみたんですけど…いけなかったでしょうか?」
「い、いや…それは人によるんじゃないかな…と、思う。」
 この場で注意するわけにも行かず、俺は言葉を濁さざるを得なかったが…あとでこっそり注意しておこう。

「さて、次はうちのさーりゃんのカレーだ。たかりゃん、心して食えよ。」
「ま、まーりゃん先輩…えっと、河野さん…よろしくお願いします。」
 そう言いながら久寿川先輩が持ってきたのは見るからに色々なきのこがたっぷり入ったカレーだった。
 裏山なんかでこんなに色々取れるものなんだなぁ…
「へぇー、これが久寿川先輩のカレーか。お先に一口…っと、おほ、初めての割には結構いけるじゃないすか。」
 俺より先に雄二がひょいと手を伸ばしてカレーを一口食べたが、味はまともなようだ。
 作るのは初めてとか言っていたから警戒してたんだが…取り越し苦労だった様だ。
「じゃ、じゃあ…河野さん、はい…あーん。」
 久寿川先輩がスプーンで俺の口元にカレーを差し出してきたので、俺も口を開けて迎え入れようとした、その時。
「うけ」
「は?」
「うけけ…うけけけけけけけけけけけ!」
「ゆ、雄二!どうしたんだよおい。」
 雄二が突然不気味に笑い出した。
 普通なら顔を2、3発ぶん殴って正気に戻してやるところだが、あいにく俺は未だ拘束されているのでどうにもならない。
「ま、まさか…」
 何か思い当たる事があったのか、久寿川先輩は調理台にとって返し、残っていたキノコを調べ始めた。
「やっぱり…向坂さんはワライダケを食べたのね。でも…ワライダケは避けていたはずなのに…」
「えっ?それ食べられないキノコだった?…あー、めんちゃい。それ入れたのあたし。」
335華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 18/23:2008/02/02(土) 22:40:49 ID:onvmUp2S0
 まーりゃん先輩が失敗失敗、とでも言うような雰囲気で頭をかいていたが、それで雄二のキノコ中毒が治るわけではない。
「と、とにかく、救急車!救急車を呼ばなくちゃ〜〜〜〜!」

 10分後。
 到着した救急車に収容された雄二は病院へと搬送されていった。
 責任を感じた久寿川先輩と、肉親としてタマ姉と、救急車に乗ってみたいという理由でこのみまで同行して
いってしまった。
 結局先輩のカレーがどんな味かわからずじまいだったが、中毒になるとわかって食うわけにも行かないので諦めた。

「さて、残りはあと2組だが…」
「…まだ続けるんですか」
 俺はすでに疲れにぐったりしているが、まーりゃん先輩はまだまだ元気だ。
「当然。全員にチャンスが無いと不公平だろ…というわけで、まなりゃん、かもぉーん!」
「は、はひぃ!」
 まーりゃん先輩は、押しの強い面子の中でどうにも名乗りを上げるタイミングを失っていた愛佳を指名した。
 愛佳はあたふたとご飯とカレーをよそうと、途中でつんのめって倒れそうになりながらも郁乃ちゃんと共に
カレー皿を抱えてやってきた。
 小牧チームのカレーは当初の予想とたがわず、普通の家庭のカレーだった。
「えっと、うちでいつも作ってるカレーなんだけど。お口に合うといいんだけど。」
 そう言いながらスプーンでカレーを掬うと…顔を真っ赤にして俺の口元に差し出した。
 余計な力が入りまくっているせいか、スプーンの先はブルブル震えていて少しずつカレーが零れていっているのが
愛佳らしいというべきか…なんとなく書庫での特訓を思い出した。
「え、えっと…あ、あーん、して。」
 香ばしいカレーの香りに、俺は自然と口を開いた。愛佳なら美味しいカレーを作ってくれたに違いない…そう思って。
 カレーが口の中に入れられて、噛み締めた瞬間…意識が飛びかけた。
「ど、どうかな…?」
 俺はその愛佳の問いをずいぶん遠くの声のように聞いていた。
 だってそのときの俺はそれどころじゃなかった。
 口の中が溶鉱炉にでもなったかのような、焼け付くような辛さに襲われて…俺は気を失った。
336名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:41:08 ID:TQHKS7Ia0
一人でも支援
337華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 19/23:2008/02/02(土) 22:43:12 ID:onvmUp2S0
 気が付くと俺はゲンジマルと一緒に眠っていた。

 ゲンジマル…
 俺はとっても疲れたよ…なんだかとっても眠いんだ…ゲンジマル

 俺が眠りに落ちようとしたとき、ゲンジマルが俺の頬っぺたをなめた。

 くすぐったいよ、ゲンジマル…

 俺の意識は白くかすんで…飲み込まれた。


 目を開けると、焦点が合わないほどの近距離に草壁さんの綺麗な顔のドアップがあった。
「…あれ、草壁さん。」
 俺がなんとなくそう言うと、草壁さんははっとして、あわてて離れた。
 あれ、頬っぺたの一部が生あったかいけど…さっきのは…もしかして…
「わ、忘れてください。…貴明さんの寝顔があんまりかわいかったので、つい…」
 真っ赤な顔でそう言うと、草壁さんはうつむいてしまった。
 寝顔がかわいい、かぁ…正直男としては複雑な気分だなぁ…
 …と、そこまで考えたところで初めて、今自分がベッドに寝かされていたことに気が付いた。
「ここは…?」
「あ、ここは保健室です。」
 俺の疑問には草壁さんが答えてくれた。草壁さんはベッドの横でパイプ椅子に腰掛けて、俺が目を覚ますのを
待っていてくれたらしい。
「…一体、何があったんだろう。」
「貴明さんは、愛佳さんの作ったカレーを食べて、あまりの辛さに気を失ってしまったんです。」
 そういわれて、俺は気を失う直前のことを思い出した。
 確かに、アレは常軌を逸した辛さだった。
 愛佳って滅茶苦茶甘党だと思ってたんだけど…実はすごく辛いものも好きなのかな。
「いえ、そうではありません。あれは、郁乃ちゃんが貴明さんを懲らしめるために入れた隠し味のせいだそうです。」
「隠し味?」
338名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:44:50 ID:3uFGwLUk0
んじゃカレーホット私怨
339華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 20/23:2008/02/02(土) 22:46:24 ID:onvmUp2S0
「ええ。」
 俺が聞くと、草壁さんは人差し指をピッと立てて、にっこり笑って答えた。
「『ブレア氏の午前4時』を3滴ほど入れたそうです。」
「ぶ、ぶれあ…って何?」

− ☆ 教えて!草壁先生 ☆ −
「はい、今日の授業は、『ブレア氏の午前4時』についてです。

 『ブレア氏の午前4時』というのは、世界でも指折りの超激辛ソースの名前です。
 1滴たらしただけでバケツ1杯分の水が激辛になるといわれています。

 ちなみに、辛さはスコビルという単位で表されますが、タバスコは2000スコビル程度だそうです。
 対して『ブレア氏の午前4時』4000000スコビル、タバスコのおよそ2000倍になります。
 辛い物好きの人も二の足を踏む辛さで、これはもうほとんど毒薬に等しい辛さといえるでしょう。

 いかがでしたか?今日の授業はためになりましたか?
 では、またどこかでお会いしましょう♪」
− ☆ 教えて!草壁先生 ☆ − 終 −

「…私の顔に何か付いてますか?」
「い、いや…今草壁さんがスーツにめがね姿で教鞭を振るっている幻が見えた気が…」
 俺は目をこすってみたが、草壁さんはやっぱりセーラー服姿だ。
「まだ影響が残っているんでしょうか…?」
 そう言って草壁さんは俺のおでこに自分のおでこを当ててきた。
 か、顔が近いって…
「…熱は無いみたいですね。おなかの方は大丈夫ですか?」
 腹の具合を見てみると、口と喉の奥は少しひりひりしていたけど、別に胃の辺りが熱い感じがしたり
痛かったりということも無いようだった。
「大丈夫みたいだ…飲み込まなかったみたい。むしろ…ちょっとおなかがすいてる位で。」
 あんな目にあったのに、丁度夕食時ということで少し小腹が空いていた。
「あ、それなら…ちょっと待ってくださいね。」
340名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:50:10 ID:TQHKS7Ia0
支援するぜ
341名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:53:04 ID:3uFGwLUk0
さるさん設定がよくわからんのでこまめに支援

ついでに>>322>>324
バイバイさるさん規制スレ その3
http://qb5.2ch.net/test/read.cgi/operate/1188686103/
342名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 22:55:12 ID:TQHKS7Ia0
またさるさん?
343中の人:2008/02/02(土) 23:01:16 ID:W3okDHABO
またしてもバイバイさるさん・・・ orz

どうもまとめて10レス書くと食らう臭いです

ID変わる零時過ぎにまた続きを投下しますわ

ところで、さるさんってあんまり食らうとまずいんですかね?
詳しい人教えて下さいな
344名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 23:05:57 ID:3uFGwLUk0
ということはM=10で、HとNがわからんけど
この時間帯でもひっかかるとなると、Nが結構大きいのかなあ

0時でID変わってもホストが変わらなければ意味がないけど、
時間を空ければHかNかで解除されるだろから、悪いが実験台も兼ねてガンガレ
荒らしたわけじゃないし、さるさん連発喰らってもアク禁とかは無いと思うよ
345名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 23:29:54 ID:79IGvoNo0
あ〜んして待ってたかいがあったが、まただめか
頑張ってください

期待してた、ふじゅーけんのカレーには満足
だが、カレーは煮崩れを防ぐテクニックは常識的だが、
あえて適度に煮崩れを起こす煮方の方がおいしく煮込めるよ
346名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 23:31:11 ID:TQHKS7Ia0
俺は具が全部溶けてるのが一番うまいと思うんだ
347名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 23:33:16 ID:79IGvoNo0
ちなみにカレーは中華なべで煮ると激うま
348中の人:2008/02/02(土) 23:53:32 ID:onvmUp2S0
テストかきこ
これ書き込めたら続き書き込みます

このタイミングで最後の投稿から約1時間
最初の>>325からだと約1時間半
最初の投稿から1時間の辺りでも一度書いてみればよかったかな?
349名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 23:54:04 ID:TQHKS7Ia0
よし、支援するか
350華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 21/23:2008/02/02(土) 23:55:05 ID:onvmUp2S0
 草壁さんが仕切りのカーテンを開けて出て行くと、程なくして戻ってきた。
 …その手にカレーを1皿もって。
「そ、それは…」
 半ばカレーがトラウマになりかけていた俺には、いくら腹が空いていてもカレーを食べるというのは
なかなかヘビーな話だった。
「…やっぱり、ダメですよね。私のも食べてもらいたかったんですけど…」
 だめもとで持ってきたのだろうが…悲しそうな草壁さんの顔を見て、俺は胸がちくりと痛んだ。
「私、購買で何か買ってきますね。」
 カレーを持って出て行こうとする草壁さんを、俺は呼び止めた。
「待って!…草壁さんの作ったカレー、食べたいな。」

 俺の膝の上に置かれたカレーはなぜか今よそったばかりのように熱々だった。
「…これ、どこにおいてあったの?」
 俺が聞くと草壁さんは悪戯っぽく笑って答えた。
「それは秘密です。女の子には秘密がいっぱいなんですよ。」
「はあ、そうですか…」
「さあ、どうぞ。」
 草壁さんからスプーンを受け取ると、俺は一匙カレーを掬った。

 …あれ、この香りは…どこかで…

 カレーの香りにどこか既視感を覚えながら、そのカレーを口に運んだ。
 良く炒められたみじん切りのたまねぎの甘みが口いっぱいに広がった。

 なんだか…すごく懐かしい味がする…

「あれ…?」
 …いつの間にか、俺は泣いていた。
「た、貴明さん、大丈夫ですか?」
「いや…良くわからないんだ。…草壁さんのカレーは初めて食べたはずなのに、すごく懐かしい感じがするんだ…」
 俺がそう答えると、なぜか草壁さんはほっとしたような顔をした。
351名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 23:56:38 ID:TQHKS7Ia0
支援
352華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 22/23:2008/02/02(土) 23:56:38 ID:onvmUp2S0
「良かった…そのカレーは昔、一度だけ貴明さんのお家に御呼ばれしたときにご馳走になったカレーなんです。」
「え?…じゃあ、これはうちのカレー?」
 そういわれてみれば…うちの母さんもこんな風にカレーを作っていた。
 みじん切りのたまねぎを丹念に炒めて甘みを出したカレー。
 具は大きめで、子供の頃は大きなジャガイモを口いっぱいに頬張っていた覚えがあった。
「貴明さんは今はご両親と離れて暮らしていますから、お母様のカレーが一番食べたいんじゃないかなと思って…
 昔ご馳走になったカレーを思い出して作ってみたんです。お口に合ったみたいで、安心しました。」
 こみ上げる懐かしさの理由に気が付いた俺のスプーンは、無心にカレーを掬い上げ口に運んでいた。
 そして…気が付けば、カレー皿は空っぽになっていた
「ご馳走様、草壁さん。とっても美味しかった。」
「お粗末さまでした。」
 空っぽの皿を見る草壁さんは本当に嬉しそうだった。

「ところで、俺が倒れた後どうなったの?」
 おなかもいっぱいになって落ち着いたところで、疑問に思っていたことを聞いてみた。
「結構大騒ぎでしたよ。愛佳さんも倒れてしまいましたし。
 貴明さんが気を失ってしまいましたので勝負もノーコンテストということになったんですけど、
 まーりゃん先輩が観客相手に賭けをやっていたみたいで…胴元の総取りという事で掛け金の食堂のクーポン券を
 持ったまま逃げちゃいまして。
 観客の皆さんはまーりゃん先輩を追いかけていってしまいましたし、私と愛佳さんと郁乃ちゃん以外の方も
 面白そうだということで後を追っていってしまいました。」
 そこまで言って、草壁さんはふう、と一つため息をついた。
「結局、向坂先輩たちも他の皆さんも戻ってきませんでしたので、意識を取り戻した愛佳さんたちと
 先ほどまで調理室の片付けをしていたんです。結構大変でした。」
「あははは…ご苦労様。じゃあさ、」
 俺はベッドから降りて、草壁さんに空になった皿を差し出しながら…ちょっと勇気を出して言った。
353名無しさんだよもん:2008/02/02(土) 23:57:06 ID:TQHKS7Ia0
ラスト支援
354華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 23/23:2008/02/02(土) 23:59:23 ID:onvmUp2S0
「優勝商品、とはいかないけど…帰りにちょっと遠回りして、お茶を飲んでいかない?カレーのお礼にお茶を奢るよ。」
 草壁さんは俺の言ったことが理解できなかったのか、目を丸くしてきょとんとしていたが…
やがて、こぼれるような笑顔で答えた。
「はい!喜んで。」

                      ○

 そして、あくる日の昼休み。
 いつものように雄二と学食に出かけた。
 今日は何を食おうか…
 今日はすでにカレーは売り切れランプが灯っていた。
 まあ、昨日の今日だし、カレーは当分見たくもないからいいんだけど。あ、でも草壁さんのカレーはまた食べたいな。
 そんなことを思いながら、俺は隣のチャーハンのボタンを押した。
 券売機がカレーの食券をぺっと吐き出すと同時にチャーハンの売り切れランプが付く。

 へえ、今日はチャーハンも人気なんだな…

 俺が券売機の口から券を取り出して振り向くと…そこには怒りに震える由真が居た。

 ああ、またかよ…

 赤ランプが点灯しているカレーののボタンを見つめ、俺をいつもの怖い目でひと睨みすると、由真はやっぱり
いつものようにびしっと人差し指を突きつけた。
「まったく昨日といい今日といい…河野貴明!チャーハンをかけて勝負よっ!今日こそギッタンギッタンに
 してやる「あいや、ちょほいとまちな」んだから!…って、また!?」
「もうええっちゅうねん!」

〜おしまい〜
355名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 00:02:00 ID:VJguuQDA0
356華麗なる戦い 〜 Art of Curry 〜 中の人:2008/02/03(日) 00:02:08 ID:XYED6ver0
お待たせしました。途中ぶった切りになってしまい申し訳ない。
そして支援サンクス
次スレ立ての時は何かさるさんの注意書き増やしたほうがいいかもしれませんね
規制と解除の条件はわからんですけど

で、内容に関して
奮闘した割にはぐだぐだな出来になってしまった感が強いです
やっぱり主要ヒロイン全員出しの暴挙が良くなかったと思われ

内容については読んでもらえればわかるとおり、いろんなもののパクリです。
由真エピソードで始まり、料○の鉄人風を装いつつ、美○しんぼの鮎対決風味のオチという節操の無さですw

ちなみに花梨の作ったふじゅーけんのカレーは、恐らく大阪の老舗、自由軒のカレーだろうということでそれをモデルに、
るーこの作ったコーラ入りカレーはこの間見たテレビ番組でトミーズ雅が作っていたカレーをモデルにしています。
どっちも食ったことは無いので味は想像。

そしてなにげに最後で草壁さんが美味しいところを持っていっているのは説明キャラが似合いそうということで

>>320
正解
あなたにはイルファさんの手作りカレーを進t(ry
357名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 00:04:03 ID:Rr435BU00
乙だ
358名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 00:08:03 ID:gQcivUOk0
おいしいところ持って行ったが、草壁さんだけあ〜んしてくれなかったのが残念
359名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 00:08:09 ID:uj9hqvI10
規制にめげず檄乙。全員集合とは頑張ったっスねこれも乙

途中で途切れたのは、逆に読みやすかった意味もあるな
このくらいの長さなら、最初から区切って二日に分けて投下って手もあったかと

しかし、どうも草壁さんは郁乃の行動に気付いて黙っていたような気がしなかったでもないw
360名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 01:06:50 ID:kj8igt2r0
>>359
まるで草壁さんが黒いとでもいいたそうだな。はっきり言わせてもらおう。
同感だ。俺も黙ってたとおmん?誰かきたみたいだ
361名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 01:50:00 ID:g1ctXKnK0
>>356
乙&GJでした。

これだけ大量のヒロインを一度に出すと正直どうなることやら、と思ったけど……
なかなか面白かったですよ、上手くドタバタにまとまってて。
お約束を散りばめてて雰囲気もテンポも良かったですしね。

にしても……「母親カレーでハート鷲掴み」オチを先にやられてしもたww
まぁ、でもここらが一番説得力のある切り札ですもんね〜〜。
362名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 02:19:45 ID:wtRrO8930
             _,,..r'''""~~`''ー-.、
            ,,.r,:-‐'''"""~~`ヽ、:;:;:\
           r"r          ゝ、:;:ヽ
   r‐-、   ,...,, |;;;;|       ,,.-‐-:、 ヾ;:;ゝ
   :i!  i!  |: : i! ヾ| r'"~~` :;: ::;",,-‐‐-  `r'^!
    !  i!.  |  ;| l|  ''"~~   、      i' |
     i! ヽ |  | |    ,.:'"   、ヽ、   !,ノ
    ゝ  `-!  :| i!  .:;: '~~ー~~'" ゙ヾ : : ::|
   r'"~`ヾ、   i! i!   ,,-ェェI二エフフ : : :::ノ~|`T <イエーイ、オリキャラ・オリジナル設定が嫌いな人は閲覧回避推奨。
  ,.ゝ、  r'""`ヽ、i! `:、   ー - '" :: : :/ ,/
  !、  `ヽ、ー、   ヽ‐''"`ヾ、.....,,,,_,,,,.-‐'",..-'"
   | \ i:" )     |   ~`'''ー---―''"~
   ヽ `'"     ノ
363由真物 1/6:2008/02/03(日) 17:28:45 ID:wqiqfe/n0
 
「べ、別にアンタの為に編んだわけじゃないんだからねっ!」
 ゆまはそう言いつつ、真っ赤になっていた。

「俺は何も言ってないだろ」
 いや、頬はちょっと熱いんだけどね、俺も。
「……どうして何も言わないのよ」
 それはそれで不服そうなコイツ。何が不満なんだと言い掛けて、俺は言うべき事に気付く。
「ありがとな、手編みの手袋、大事に使わせて貰うよ」

「っ!」
 ゆまの顔から、ゆでだこみたいに湯気が出る。
「じっ、自分のを編もうと思ったから、その練習台よっ。手慣らし。試作品。お遊び。適当」
 そこまで言うか。
「へえ、じゃあお前の見せてみろよ」
「忘れてきた」
 即答かよ。だが甘いっ!
「ふっ、背中の紙袋に気付かぬ俺と思ってかっ!」
「のわっ、ちょ、タンマっ! あっ、この、セクハラーっ」
「妙な騒ぎ方すんなよ。ふむふむ、これがお前の真の、って、これ……」
 紙袋から出てきた手袋は、大きさも模様も、俺が今しがた貰ったのと良く似て、どうみてもお揃

 ・・・。

「なーに書いてんの?」
「うきゃぁ!」
 図書室で創作活動に没頭していたあたしは、由真の声に飛び上がりました。
364由真物 2/6:2008/02/03(日) 17:31:07 ID:wqiqfe/n0
 
「な、なんだ由真か、おどかさないでよ、もう」
 突然目の前に出現した彼女に上擦った声でフォローしながら、心臓はどきどき。
「おどかしてなんかないわよ。妙に熱中してたから声を掛けそびれだけ。それよりそれ」
「あっ、い、いや、これはこの、暇つぶしというか、その、図書整理も一段落ついたし、あの、なんでもないのっ」
「ふーん、見せて」
「だ、ダメぇ」
 ただでさえ文章は作家の排……ごほんごほん、とにかく恥ずかしいものなのに、本人をモデルにした小説なんて、それに、読まれたら怒られること請け合いです。

 あたしは慌てて背中に物的証拠をこそこそ隠し……
「どれどれ」
 ひょいっと手から重さがなくなりました。え?
「こ、ここここ河野くんいつの間にっ!?」
 背後に近寄っていたのは小説のもう一人の主役、由真の彼氏の河野貴明くん。あたしは男子と接近してるのに気付いてどきどき。
「へえ、小牧は読むだけじゃなくて書く方もするんだ」
 してる場合じゃないぃ〜。

 河野くんは感心しながらあたしの大事なそれを、
「やっ、恥ずかしいから見ないでぇ! そんな、指でなぞらないで、ああっ、めくっちゃだめだってばぁ!」
「……変な言い方しないでくれ」
 創作ノートをしげしげと。

「女の子の持ち物を勝手に覗くなんて趣味が悪いわね、あんた」
 そうですよ。もっと言ってあげなさい由真!
「で、なにが書いてあるの?」
 ああん興味もたないのぉ〜。

あたしの心の叫びも空しく、由真と河野くんはページをめくっていって、
「へえ、恋愛小説? って、これって、こいつ?」
「……”俺”って、あんた?」
365名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 17:32:49 ID:Rr435BU00
支援
366由真物 3/6:2008/02/03(日) 17:32:52 ID:wqiqfe/n0
 
「あ、あはははははは……あたぁっ!」
 あたしはぺしっと、河野くんの手からノートを奪い返しました。はぁはぁ。どきどき。
 ど、どの辺を読まれたのかな。

「いや、えーっと、ほとんど読んでないけど」
 そう言いながら、思い切り照れくさそうな河野くん。由真もほっぺが赤いです。
「まあ、あれだ。名前が同じだけの別人なんだよな」
「そうね。あんたがこんな察しがいいわけないし」
 表情が台詞を裏切って、二人とも素直じゃないです。 

「クリスマスに手編みのプレゼントを貰うとか、お前と付き合ってたら縁の無い話だしな」
 そのくだりでしたか。
 でも、そっかなあ? あれ? 由真はたしか……
「ぐっ、わ、悪いかこんちきしょう」
 ……たしか去年の12月にはクリスマスに向けて編み物してた筈なんだけどな。
「別に悪くないって。そんなのお前のイメージじゃないし」
 河野くん、それ、フォローになってません。

「……アンタ、あたしにどんなイメージ持ってんのよ」
「こんなの」
河野くんは自分のノートを取り出して、サラサラと数行の文書を書いて見せました。

 ゆま が あらわれた!
 コマンド?
 →たたかう
  にげる

「あたしは魔物かーっ!!」
 由真は叫んで鞄で河野くんの脳天を……うわ、バゴッて凄い音がしましたよ?
367由真物 4/6:2008/02/03(日) 17:35:19 ID:wqiqfe/n0
 
「あたたた、自分で肯定してんじゃねえか」
 よっぽど豪快に殴ったのか、頭を抱えてしゃがみこんだ河野くん。
 あ、しゃがみこんだのは鞄から飛び出した紙袋を拾ってあげるためですね。勢いで中身がでちゃった。
「何これ?」
 河野くんが首を傾げたのは、鞄に入った紙袋から飛び出した幅広の毛糸の布。
「あっ、こ、こらっ、引っ張り出すなっ! このセクハラ親父っ!」
 するする。
 わざわざ由真の言葉を確認してから河野くんが引っ張り出すと、それは黒くて長くて幅が広い。
「マフラー?」
「うっ」
 目を白黒させて、どうしたらいいか迷っている由真。

 よーし、おばちゃん背中押しちゃうぞっ。

「あ、完成したんだ。去年から編んでたよねっ、河野くんへのプレゼント!」
「え? 俺?」
「っ!」
 ちょっと下向き上目遣いの由真と、視線が天井側に逸れてる河野くん。ふふっ、二人とも頬が赤いです。

「……もらって、いいの?」
 広げたマフラーを手に持って河野くん。
「い、いいわよ。大したもんじゃないし、別にあんたの為に……」
「ありがとな。使わせてもらうよ」
「っ! じ、自分のを編もうと思ったから、練習よっ!」

 ほら、そんなにイメージ違わないじゃないですかぁ。でも河野くんは、思ったよりも察しがいいみたい。

「編み目が揃ってないのは当然として、ちょっと長いか?」
「だからそれは手慣らしだってば。いわゆる試作品。お遊び。適当。ある意味失敗作」

 由真の方は、予想どおりというか、えーっと、これはクリスマスに間に合わなかったのを気にしてるんですね。
368名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 17:36:32 ID:Rr435BU00
支援
369由真物 5/6:2008/02/03(日) 17:37:04 ID:wqiqfe/n0
 
「そこまで言うなら、お前のを見せてみろよ」
 あはは、もしかしてさっきの覚えてました? お恥ずかしい。
「やだ」
 由真はむっつりと言い切ります。
「なんでだよ」
「心の汚い奴には見えない」
「お前には見えるのか?」
「ユーザーの皆様にはご迷惑をおかけしますが、更なるクオリティアップを目指してスタッフ一同」
「わけがわからん」
 わけはわかりませんけど、つまり、まだできてないんですね。

「わからんけど、つまり、まだできてないんだな」
 河野くんは小さく笑いましたが、由真はむくれてしまったみたいで。
「やっぱ返して」
 手を伸ばしてマフラーを取り返そうとします。
「いいだろ、せっかくなんだから」
「やだ。意味ないから」
「そっちが意味わかんねーよ」
「わかんなくていい」
 黒い長布を両側から引っ張り合いながら言い合ってる二人。

 まったく仲の良いことです。でも、由真は何を気にして……あ、そっか。

「こらこら二人と、もケンカしないのっ」
 あたしは二人の間に入って、マフラーを取り上げました。
「こ、小牧?」
 目を丸くした河野くんの首に、ぐるぐるっと一巻きふた巻き。
「愛佳は黙ってて……へ?」
 三角お目々の由真に、反対側をくるくる。
370由真物 6/6:2008/02/03(日) 17:38:55 ID:wqiqfe/n0
 
「これでお揃いだよ。由真っ」
 二本編むのが無理なら、一本を二人で使えばいいんですよ、ね?

「べ、別にそんなこと思ってたわけじゃない」
 口ではそう言うけど、由真は首に巻いたマフラーを手で押さえてる。
「……」
 河野くんは無言で、彼女に背を向けてあさっての方を見てます。

 照れまくりで背中合わせの二人。お互いを繋ぐ、幅広の布一枚。
 やがて由真はこっそりと河野くんに背中を預けて、河野くんがちらっと視線を後ろに向けて。

 …………。

 ああもうっ、事実は小説より、何でしょうねえ、もうっ!

「じゃあっ! あたしはちょっと仕事していくから、由真も河野くんもさっさと帰った帰った!」
「えっ、って、ちょっと待て小牧、この格好のままじゃ」
「いいからいいから」
「こ、こら愛佳っ! 首、首が苦しいってばっ」
「いいからいいからいいからっ!」
「「お、押すなぁーっ!」」

 二人の抗議なんか無視して、あたしは外にバカップルを放り出しましたとさ。おしまい。


 はぁっ。あたしも男の人が苦手なの、なんとかしたいなぁ……。
371名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 17:40:04 ID:wqiqfe/n0
以上です。
>297に触発されて初めて由真物に挑戦してみました。けど、漏れには由真は難しかった……
372名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 17:41:00 ID:kj8igt2r0
>>371
GJ!由真はそんな感じでいいと思う
373名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 17:41:47 ID:Rr435BU00
いやいやおかげで程よく由真分を補給できたんだぜ
由真も良いけど隠し味の愛佳も良い味でてたぜ

乙&GJ
374名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 17:53:14 ID:KH1r0Px80
しかし、愛佳が自分をおばちゃんというのがほほえましいですね。
375名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 18:52:24 ID:THQ1w7uf0
あんた実は枕じゃあるまいか。すげえGJ!
由真も可愛いしいいんちょも最高!
376名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 22:08:27 ID:3nx+gx660
>361
先にやられてしもた、っつー事はもう一段ひねったオチでカレーSSを書いている最中、って事だな? 期待してるぜ
377名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 23:49:50 ID:hT4Iiidt0
新人ですがSS投下してもいいんですかね?
カレー関係ないけど・・・
378名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 23:52:17 ID:I3Cj6VoF0
全然おk
むしろ新人は大歓迎だぜ
379名無しさんだよもん:2008/02/03(日) 23:54:02 ID:hT4Iiidt0
ではつまらないかもしれませんが・・・
380立場を逆転させてみた:2008/02/04(月) 00:04:14 ID:sjeR7kbD0
俺こと向坂雄二がこの家に戻ってきてずいぶんになる。
俺がいない間にどれだけ成長しているかと思ったら姉貴のやつは全然昔のままだ。
姉貴は健康ではあるものの力は貧弱で朝が弱く、のだから弟の俺がしっかりしなければならない。
今日もいつまでたっても居間にこない姉貴を起こしに行くところだ。
「おい姉貴起きろって!もう朝飯できてんぞ!」
怒鳴ってみるがまるで起きる気配がない。
「ん・・・あと五分だけー・・・」
「はぁ・・・仕方ねえなぁ・・・」
毎度毎度のことだがこう毎日やられるとさすがにあきれてしまう。こっちにも我慢の限界というのがあるものだ。
いつものとおり姉貴が必死につかんでいる毛布は無視し、その下の布団をつかみ一気に引く。すると姉貴はくるんと1回転し無様に床に転がった。
「ふにゃぁ!な、なにすんのよ!」
「仕方ねえだろ?姉貴が起きねえんだから。そんなことより朝飯出来てんぞ。早く準備整えて下りてこい。」
「う、うん・・・」
そういって顔を伏せてしまう姉貴に少し可愛いなどと思ってしまう俺はおかしいのだろうか?
381立場を逆転させてみた:2008/02/04(月) 00:08:45 ID:sjeR7kbD0
「と、いう夢をみたんだ!どうだ貴明!夢のようだと思わないか!」
「さあどうだろうな。」
なんて適当な返事を返しつつ俺は興奮して話す親友をみやった。
今は昼休み。学食に飯を食いにきた俺たちだがこいつが興奮気味にこんなことを話すものだからなかなか箸が進んでいない。そしてこいつはある重大なことにきがついていない。
「18歳以下お断りなDVDだって買いたい放題だし!」
そろそろ気づくか・・・
「休みの日はずっと寝てられるし!」
まだ気がつかないのか・・・
「ナンパはし放題だし!けど俺がしっかり者の設定はごめんだな!」
やれやれ・・・仕方がない、これ以上言わせておくとやばいことになりそうだしそろそろ教えてやるか。
「なあ雄二、非常に申し訳ないんだが・・・」
「あ?どうした?」
「ちょっと後ろ向いてみろ」
「は?なんで?」
382立場を逆転させてみた:2008/02/04(月) 00:09:10 ID:sjeR7kbD0
そうして雄二は不思議そうに後ろを振り向く。そして途端に顔色が変わった。
「げ!姉貴なんでこんなところに!」
「言ってなかったかしら?今日は出るのが遅いからたまには学食にしましょうかっていったでしょ?」
「・・・どっからき聞いていやがった?」
「ぜ・ん・ぶ・よ!」
ガッ―――!
「がはっ!」
「そーかぁ、お姉ちゃんがそんなんだとやらしいDVDに手を出したり」
メキ・・・
「休みの日はぐーたらしてるし」
ミシリ・・・
「あまつさえナンパなんてしまくるんだぁ?そんな悪い弟にはおしおきが必要ねぇ・・・」
「あだだだだだだッ!!割れる、割れるーッ!!」
バキッ!!
「ぐはぁ!!・・・」
「タマ姉?今の音・・・」
「ふんっ!大丈夫よ、こんなことで死ぬほどやわに育ててないから」
「う、うん」
憐れな親友に心の中では謝罪しつつもこれでようやく落ち着いて飯を食えるなどと思う俺なのだった。
383名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 00:09:15 ID:bg8vlvpz0
できれば投下前にレス数言うかタイトルの横に通し番号入れてくれると支援しやすいんだが…

まぁいい支援
384立場を逆転させてみた:2008/02/04(月) 00:14:10 ID:sjeR7kbD0
以上で終了です。
通し番号をいれようかと思ったのですが最初の投稿をしたときにし忘れてしまったので仕方なくそのままで・・・
SSかくのなんて簡単じゃんって思ってましたが実際やってみると大変ですね。特に最後どうしめるか全然思いつかなかったし・・・
本当は雄二のアイアンクローとかやってみたかったのですが全く妄想できなかったし女性に暴力というのがあまり好きではなかったので・・・こういう感じになりました。
それと支援ありがとうございます。
385名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 00:17:59 ID:bg8vlvpz0
お疲れ
まぁギャグ系はオチが重要だから大変だよな
セリフがちょっと多めだったけどそれなりに楽しめた
これからも頑張って作品書いて行ってくれ

などと偉そうな感想を言ってみる
386名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 00:18:03 ID:MXoCpEw+0
>>384

キャラは上手く掴めてる様に思う
個人的にはオチが弱い感じがするなぁ

日常の一コマって感じがしました
387名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 00:24:26 ID:bg8vlvpz0
お、書庫が更新されてる
388名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 01:07:53 ID:VGbeXA030
雄二のアイアンクローは本編の序盤で出てきたような。
相手はこのみだけど。
389名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 01:56:57 ID:SFxMNPpu0
>>384
乙です。
確かに読みにくさはあるけど、話自体は面白いんじゃないかな??
テクについては……何度も書いてると読みやすい書き方とか覚えるしね。
とりあえずそうだなぁ、夢部分と現実世界部分の境目をもっとはっきりさせるだけでも
だいぶ読みやすくなると思われ。
例えば改行を何行か入れて「◇ ◇ ◇」で仕切るとか、さ。

なんにせよ懲りずに書くしかないよな、上達するには。お互いがんばろー!

>>376
実は「必殺!VS」の続きを書いてた、っていうかネタを整理して今まさに本文を書こうかと
してたのよ。
当然バトルものだからまーりゃん先輩とかも絡んでて、かなりネタ被ってるw
だからどうすっかなぁ〜〜と思ってるトコ。
390名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 02:17:20 ID:9hp+B6nf0
このみ+愛佳みたいな女の子がいたら最高なんだけどな・・・
っと妄想してみる。

正直、ふたりとも魅力的。タマ姉を含めて、年下、同級、年上の3人とのムフフな関係になると、
タカ坊は体が持たないな。
391名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 02:51:56 ID:zbqSAfaN0
たぶん命がないと思われ
392名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 03:37:24 ID:CBx182c50
タカ坊も干物になりそうだが
愛佳だと上と下からのプレッシャーで胃に穴あけて吐血しそう

ある意味このたまコンビに対抗できそうなのは草壁さんだな
393名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 06:37:04 ID:FI7wZXxU0
>384
乙〜。
ずぼらで弱弱なタマ姉というのは良いアイディア
起承転結もちゃんとあるので、あとは文章レイアウト(改行)も含めたメリハリというか、
アクセントというか、強調するポイントをつくる事を意識したら良いんじゃないかな
とはいえ、ぶっちゃけ細かい事なんか気にせず思いついたネタでガンガン書いてくれ〜

あと書庫さん更新乙。年明けからこっち、近年希に見る盛況っぷりだねえ(・∀・)
394名無しさんだよもん:2008/02/04(月) 17:02:58 ID:bg8vlvpz0
お題という新要素ができたからだろうな

どうせなら今一度募集かけてみるか?
395シルファ:2008/02/04(月) 19:00:36 ID:E5K+aV7SO
フェラを嫌がるこのみタンを殴る。
ひたすら殴る。
泣いてからが本番、これかでもか!ってぐらい殴る。
ただし、顔は殴らない。
かわいいこのみタンの顔は殴れないよ><
気絶しそうなった所でようやくしゃぶらせる。
歯を立てたらまたなぐry
頭鷲掴みにしてそのままイラマチオにシフト。
頭ガンガン揺さぶって喉の奥にブルクラッシュ!
全部飲むまで抜かない、息させない。
吐いたらなぐry

最後に「ご主人様のミルク、とってもおいしかったです」と言わせる。

ちょ、自分で書いといて勃ってるし^^;
396名無しさんだよもん:2008/02/05(火) 00:54:21 ID:pIeIvpt90
じゃあ「長所短所」で
397名無しさんだよもん:2008/02/05(火) 01:13:47 ID:1I4DchNh0
ttp://www.ss-links.net/user-cgi/bbs/index.html

勝手に登録されたと言い張ってたナントカさん。
メール出せば対応して削除してくれるそうですよ。
よかったですね^^
398名無しさんだよもん:2008/02/05(火) 07:24:27 ID:MqWexd1W0
雄二のナンパ大作戦とかどうだろう?
399名無しさんだよもん:2008/02/05(火) 11:29:25 ID:I4UcVNMaO
金属探知器にひっかかって海外旅行に行けないイルファさん
(*´Д`)'`ァ'`ァ
400名無しさんだよもん:2008/02/05(火) 19:17:57 ID:I7xnhIuD0
海外旅行に行っても愛佳がいれば委員ちょパワーで乗り切れそうだな。
お菓子の甘いにおいで思考停止しなければ。
401名無しさんだよもん:2008/02/05(火) 21:56:45 ID:FVfLeI220
このみが階段の手摺棒でヤジロベーみたいにバランスをとりながら歩いてたら
足を滑らして落ちる!タカ坊ナイスキャッチ…も両腕骨折。
あえなく自宅静養となる貴明、そんな河野家に春夏さんが訪れた。
「あ、あの…私に出来る限りのことはするから」
「そんな、春夏さん。そこまで気を使ってもらわなくても」
「いいの!遠慮しないで。タカ君くらいの年頃の男の子って、その…大変でしょ?」
「は?」
「ォ…が出来ないとつらいんでしょ…」
「え〜と、オ…何ですか?」
「い、言わなくていいの!わ、 私は大人なんだから!」
「それは知ってますが、話が見えてこないんだけど…」
「もう…とぼけなくてもいいのに。…恥ずかしいことじゃないのよ?」
「え〜と、失礼ながら、大丈夫…ですか?」
「大丈夫、あの人以外のは・・・初めて…だけど」
「あの…春夏さん?」
「今だけは・・・春夏って呼んで」

こんな感じの献身的な春夏さんを描く、健全なストーリーを希望。


402名無しさんだよもん:2008/02/05(火) 22:35:47 ID:ITN38fLK0
>401
それなんてとらハ3の両腕骨折エンド?
あ、あれはヒロインみんなに看病を申し出られて困るオチだったか
403センズリ ◆7W9NT64xD6 :2008/02/05(火) 23:12:46 ID:9HxxFyP+O
シルファ〜淫獄のアナザーデイズ〜前編

シルファたんの両手を天井のロープに縛って棒立ち状態にする。
「イルファたんとミルファたんはどこだ!どこにいる!!言うんだ!!ハァハァ」
姉妹の所在を吐くようムチで叩いて拷問する。
当然姉妹を売るようなマネはできないシルファたんは
「い…嫌れす」
と拒絶する。
すかさずシルファたんの周りを男10人で取り囲み、姉妹の所在を言うまで叩いて叩いて叩きまくる。(顔以外)
「もうやめ…て…許して…くらはい…」
泣いて許しを請うシルファたん。
でも…
「やめ…やめてくだ…ぁあっ!」
よりいっそう強く叩いく!
服はボロボロ、体は傷跡だらけの半裸状態だ。

三時間ほど叩いた後、床に下ろし、両手は後ろ、両足を縛った状態にする。
傷口に熱湯をかけると、ビクッと悶絶するシルファたん。ロボでも痛みは感じるんだ^^
徐々にかけていって、傷口に染み込ませる。
「痛っ…熱…もう…やめてよっ…」
と言った瞬間、一気にぶっかける。
「ッッーーーーー!!!」
言葉にならない悲鳴を上げる。
しばらくジタバタもがいた後、痙攣し床に伏した。
「早く言った方がいいよ、シルファたん。やっと準備段階が終わった所なんだから」
男は優しくささやいたが、もはやシルファは虫の息だった。

前編〜完〜
404イルファさんの受難 1/3:2008/02/06(水) 00:01:41 ID:1cVaK0xS0
「たかあき〜長瀬のおっちゃんにええ物貰った〜」
 イルファさんと研究所から戻ってきた珊瑚ちゃんは嬉しそうに俺の元に走り寄ってくると
ぽふっ、と抱きついた。
「何貰ったん?」
 夕飯の支度をしていた瑠璃ちゃんの質問にはイルファさんが答えた。
「来栖川が経営する海外リゾートへの招待券です。4人までご招待だそうです。」
「たかあき〜、一緒に行こうな〜」
 珊瑚ちゃんの中ではもう俺と一緒に行くことになっているようだ。
 まあ、別にこれといって忙しいということもないし、連休かなんか利用すればいけないことも無いだろう。
「それにしても4人で旅行か。丁度珊瑚ちゃん瑠璃ちゃん、イルファさんと俺で丁度いいじゃない。」
「ええ、それなんですが…」
 イルファさんが困ったようにふう、とため息をついた。
「私は全身が来栖川の企業秘密の塊ようなものですから、海外旅行はちょっと許可してもらえないかと。」
「つまり、向こうの悪い産業スパイとかにつかまって分析させられちゃうかも、ってこと?」
「ええ、私の体の隅々までつまびらかに調べられるでしょう。」
 そう言うとイルファさんは自分の体を抱いて、なんとなく悩ましげに体をくねらせた。

 「いやぁ…珊瑚様!瑠璃様!貴明さん!助けてくださいまし!」
 「だ、だめです…そ、そこは…だめぇぇぇ…」

「…貴明さん、お顔がエッチですよ。」
「はっ…き、気のせいですよ。」
 俺は気づかれないようにそっとよだれを拭った。
「まあ、許可が出たとしても出国ゲートで止められちゃいますけど。金属探知機に引っかかって
 しまいますから。」
 うーん。イルファさんのあの柔らかいからだのどの辺りに金属が入ってるんだか…いつも疑いたくなる。
「それなら大丈夫や〜」
 珊瑚ちゃんはそう言うと自分の部屋に引っ込んで、しばらくして何か手にして戻ってきた。
405名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 00:01:48 ID:fMKt6oQ/0
>>402
やべえ懐かしい。同士発見w
SS書き始めたのとらハからだよ俺w
406イルファさんの受難 2/3:2008/02/06(水) 00:02:29 ID:WivVdzJP0
「なにそれ…電卓?」
「ポケットコンピュ〜タ〜や〜。カ○オPB−120〜」
「なんや。それさんちゃんが小学生の頃おもちゃにしとったやつやん。」
 …珊瑚ちゃん、そんな昔から電脳少女やってたのか。
「あのう…それで、どうして私が旅行に行っても大丈夫なんでしょう?」
「これにいっちゃん入れて連れて行く〜」
 珊瑚ちゃんは自信満々で言ったが、イルファさんはちょっとあきれた様子で言い返した。
「あの…珊瑚様。そのポケコンは記憶容量8KBですよ?DIAのような高度な機能を載せるには
 容量が足りませんが。」
「えー?載るよ〜」
「「ええええええ?!」」
 俺とイルファさんの悲鳴がハモった。瑠璃ちゃんは良くわかってないらしくてきょとんとしていた。
「いっちゃんのパーソナル(人格)部分は4KBしかあらへんよ?」
「で、では私の…DIAの大部分はいったい…」
「てきと〜☆」
 珊瑚ちゃんは笑顔で見も蓋もないことを言ってのけた。
「おっちゃんがな、システムは色々機能つけへんとバージョンアップで買ってもらえへんいうから…色々つけた〜」
 イルファさんはもう人格崩壊寸前だった。
「じゃあ、いっちゃん…痛くせぇへんから、大人しくしとってな〜」
「いやぁぁぁぁぁぁ」

                        ◇

「ふご…」
 ずるっ。
 ごちん!
 俺はしたたかテーブルに顔を打ち付けて目を覚ました。
「…なにあほな事しとるん。暇やったら食器並べといて。」
 エプロン姿の瑠璃ちゃんがその一部始終を見ていたらしく、あきれた顔で俺に言った。
 俺は生返事を返して立ち上がり、棚から食器を取り出しにかかった。
407イルファさんの受難 3/3:2008/02/06(水) 00:03:02 ID:1cVaK0xS0
 …さっきのは夢だったのか。まあ、そうだよな。

 そう思いながら皿を取り出してテーブルに並べていると、
「る〜☆」
「あ、珊瑚ちゃんおかえり。」
 俺が出迎えると珊瑚ちゃんは嬉しそうに俺の元に走り寄ってきてぽふっ、と抱きついた。
 …あれ?
「珊瑚ちゃん。イルファさんは?研究所に泊まり?」
「ううん。おるよ〜」
 そう言うと、珊瑚ちゃんはコートのポケットから今巷で人気の携帯ゲーム機を取り出した。
「…まさか。」
 珊瑚ちゃんはそのゲーム機を俺の前に差し出すと…ゆっくりと開いた…
408名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 00:04:10 ID:WivVdzJP0
>>399の書き込み見たらになんとなく神が降りました
本当はポケコンに入れられて旅行に出かけ、旅行先で液晶画面に顔文字表示してやさぐれるイルファさん、
というのもやりたかったんですが収拾つけられるめどが立たないんでやめましたw

俺の中で珊瑚ちゃんがどんどん黒くなっていくYo…
409名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 00:06:39 ID:pIeIvpt90
IDが変わったりしてるのは何故?
まぁとにかく乙
中々面白かった
410408:2008/02/06(水) 00:09:54 ID:WivVdzJP0
あれ、本当だ
IDがころころ変わってる

おなじPCから同じ回線から書き込んだんですけど
零時近辺だからですかね?
411名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 00:46:57 ID:I+c/sB2AO
>>408
乙、面白かった
>本当はポケコンに入れ(略
>というのもやりたかったん(略

そんなことつれない事言わずにやろう、さぁやろう、すぐやろうイルファさんへの思いを力に変えるんだ
412名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 00:47:33 ID:I+c/sB2AO
スマンsage忘れた
413名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 01:33:24 ID:EDJo9T4lO
>>412
興奮しすぎwww
414名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 01:50:06 ID:HiUXeFi10
>>403
暴行ネタは場所を選ぶと思うんだ、ToHarat2はちょと馴染まないかと
理不尽な設定と不満を叩きつけるような展開は、オマイは良くても不愉快な人が多いかな

>シルファたん たん とか言うんだから好きなんだろ、優しくするのが恥かしいのかい
コテを外して甘い話でも書いてみたら、作風が広がるよ
俺なら後編でカッコイイ ?が助けにくる、ヤマなし、オチなし、意味なしならもうレスはしないけどなw
415名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 01:54:27 ID:SG1wAZmg0
あぁソイツ同じ物を他のスレにも貼ってた

他のスレにも出没してる荒らしだから相手しないほうがいいぞ
416名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 02:04:50 ID:HiUXeFi10
>>415
了解した
しかし俺は最初の1回は無視したくなかった、まだ大暴れしたわけでもないし
417センズリ ◆7W9NT64xD6 :2008/02/06(水) 07:04:53 ID:diwPv39kO
ありがとう
やっとまともな意見が聞けたと思います。
シルファをものすごくいじめたくなってこんなSSになりました
自分はアブノーマルでないと筆が進まないのです
ごめんなさい
418名無しさんだよもん:2008/02/06(水) 08:50:51 ID:6SfhKsQS0
>>408
4kbが最高にツボに入りました
ポケコンに入ったイルファさんかそれはそれで萌えの様なw
419『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』1/36:2008/02/09(土) 02:32:20 ID:/90TNzlZ0
 ここ数日というもの、河野貴明は自分の身辺が妙に騒がしい事が気になっていた。

 先週の半ば頃から、貴明は自分が学園内で妙に視線を集めている事を感じ取っていた。
 そればかりでなく幼馴染たちの間にも、クラス内にも、生徒会室にいても、なんだか妙に浮ついた空
気が流れているような気がするのだ。
 特に、学食にいる時や弁当を広げている時の周囲の目は、まるで鷹の目のようである。
 もっとも、この状況に心当たりはないでもない。
 10日ほど前、ミルファとこのみとの間に勃発したカレー勝負の決着をつける対戦が金曜日に行われ
る事になっている。
(どうせ話を聞きつけた雄二が面白おかしく話を広げているんだろうが……)
 これはタマ姉こと向坂環あたりが参戦してくるのは避けられないのかもしれない。
 そしてうっかり彼女が勝利でもした日には……
(色んな意味で俺ピンチだよなぁ……)
 週末の騒動を考えると今から頭痛がしてくる貴明である。

 ……だが、事態は勿論貴明が考えているよりもあらゆる意味で大きく成長しているのであった。


     カレー勝負決着編『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』


「……なぁ、雄二。何で話がここまで大きくなってるんだ??」
「さぁな。でもま、いずれにせよまーりゃん先輩の耳に入ったのが運のツキってヤツだな」
 にやにやと笑いながら自分を見つめる雄二を今こそはたきたいと、貴明は心底思っていた。
 手足が自由になったなら、の話であるが。

 問題の金曜日の放課後の事であった。
420『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』2/36:2008/02/09(土) 02:34:36 ID:/90TNzlZ0
 教室を出たところで謎の覆面ちびっこの襲撃を受けた貴明は、ぐるぐる巻きにされたまま家庭科室に
連行され、どでかい『特別審査員席』のプレートが置かれた席に座らされた。
 マントを着たその女学生?は『あたしはまーりゃんなどではなーい!』なんて言っていたが、無論誰
もその正体は疑わないだろう。
 第一襲撃の際に『ドリルまーりゃんパーンチ!!』と叫んでおきながら『貴様に名乗る名などない』
などと見得をきっているのだから世話はない。

 ともあれ。

 家庭科室にある8つの調理ブースのうち、一つは審査員席に指定されていた。
 そして残りの7つの調理ブースには様々な食材や調理道具が持ち込まれて騒然としている。
 更に審査員席の直近に置かれた教卓にはアナウンス席と、貴明が座らされている特別審査員席が設け
られていたりする。
 教卓の背後にあるホワイトボードにはでかでかと『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』の文字が、そ
して出場者たちの名前と顔写真が並んでいる。どうでもいい事だが、タイプこそ違えど皆魅力あふれる
少女ばかりである。
 なお、廊下側の窓は全て開け放たれ、観客席までが出来上がっていた。
 観客席にはすでに陸続とギャラリーが押しかけている。
 不思議な事に、明らかにこの学園の制服を着用していない者も少なくない。
「あらタカくん、雄二くんもこんにちは。ずいぶん愉快な格好ね〜」
 そこに、妙に場違いな格好の女性が……ふわふわのスカートにパステルグリーンのセーターと、それ
に来客用スリッパという絶妙にミスマッチな姿をした柚原春夏が現れた。
 彼女は新任教師か教生かと言っても通用しそうな若々しい容姿の持ち主だが、言うまでもなくその実
体は柚原このみ(推定18歳以上)の母親である。
「こんにちは、春夏さん。別に好きでこんな状態でいるわけじゃないんすけどね……」
 笑顔で愉快と言われてしまった貴明だったが、憮然としながらもきちんと挨拶を返した。
421『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』3/36:2008/02/09(土) 02:36:23 ID:/90TNzlZ0
 特に躾に関して春夏は厳しい事を、貴明は身に染みて知っているからである。
 しかし近頃春夏と会う事の少なかった雄二は、
「あ、おばさん。おひさしぶりっす〜〜って……あだだだだだだだだ!!ちぎれるちぎれるちぎれる、
 そこ取れるうぅぅ〜〜!!」
 軽く地雷を踏んで……というか逆鱗に触れてしまっていた。
「なぁに、雄二くん。もう一回言ってくれるかな??」
 にこにこと陽だまりのような微笑みを浮かべながら、春夏の両手は強からず弱からず、絶妙の力加減
で雄二の両耳を前後に捻っている。
「は、は、春夏さんっ! こんにちはっ! いつもお綺麗っすねぇ〜〜っ!!」
 瞬時にNGワードの存在を思い出し、恐怖の関節技?と悪魔の微笑みに怯えつつ、雄二は搾り出すよ
うに挨拶のやり直しを敢行してみた。
 途端に両耳が解放され、春夏の微笑みからプレッシャーが消える。
「まぁ、雄二くんったら。しばらく会わない間に口が上手になったのね♪」
(そ、そういえばおばさんは禁句だった……さすがジョーカー、恐ろしいぜ、春夏さん)
 引き攣った笑みを浮かべながら、雄二は「二度と口を滑らせまい」と固く心に誓っていた。
 端で見ていた貴明も、「やはり春夏さんには逆らわないようにしよう」との決意を新たにしていた。

「このみからタマちゃんや郁乃ちゃんのお姉さんも参加するみたい、って話は聞いていたけれど、結局
 それだけじゃ収まらなかったのね」
 貴明の拘束を解きながらホワイトボードの出場者名を眺めると、春夏はいかにも可笑しいといった風
に口元に手を当ててころころと笑った。
「大人気ね、タカくん。ミルファちゃんもこのみも大変ね」
 それを聞いた雄二はうんうんと頷き、貴明は憮然として固まった腕の筋肉を揉みほぐしつつ、想像さ
れる現状を説明した。
「去年の生徒会長なんですけど、まーりゃん先輩っていうお祭り好きの先輩がいて……多分面白がって
 話を大きくしちゃったんですよ」
422『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』4/36:2008/02/09(土) 02:38:49 ID:/90TNzlZ0
 またまた雄二はそれを聞いてうんうんと頷く。
 しかし春夏はにっこり笑って「それだけではないんじゃないかしら?」と付け足した。
「でも、参加したい娘が実際にいるから話が大きくなるんでしょう?」
 三度び雄二は春夏の言葉にうんうんと頷く。
 雄二のその態度にムカついた貴明は、ようやく自由を取り戻した右拳でとりあえず悪友の後頭部を思
い切りド突いておいた

               ◇  ◇  ◇  ◇

「それでは! たかりゃんのハートを射止める大チャンス! たかりゃんと二人だけの週末をゲットし、
 河野家上陸作戦、運命のゼーレヴェ作戦を発動出来るのは誰なのか!? それとも河野家の玄関に立
 ち塞がるはるみんがたかりゃんを守り抜くのか!? ただ今よりぃ〜、第一回ぃ〜、決戦!! バト
 ル・オブ・ザ・カリーを開催するのだぁ〜〜っ!!」
 どんどん、ぱふーぱふー♪
 がん、ごん、バキッ!
「うあたっ! いだっ! ゴルァ! いたいけな美少女になにさらsムゴごごごぉっ!!」
 鳴り物を鳴らしながらまーりゃんが開会宣言をした直後。
 審査員席といわず調理ブースといわず観客席といわずから炊飯器やら信楽焼きの狸やらが投げ付けら
れ、いかに反則的に逃げ足の速い彼女といえど、全包囲攻撃にさらされては抵抗もままならず、怯んだ
所をたちまち簀巻きにされて窓の外に吊るされてしまった。
「むがが、むごむご、ふんぐおぉぉぉ〜〜!!」
 じたばたともがく姿は、さながら風に揺れる蓑虫のようである。
 蓑の中から必死に自分に対する扱いが不当であることを訴えるまーりゃんであったが……
「まーりゃん先輩? 私たちの勝負にかこつけてトトカルチョをやろうとしてたんですってね??」
「(し〜〜ん)」
 窓から蓑虫を見下ろしながら語る環の冷たい声に、まーりゃんは沈黙をもって答えた。
423『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』5/36:2008/02/09(土) 02:40:26 ID:/90TNzlZ0
 観客席の中にも視線を逸らすギャラリーが少なからずいる。
 どうやらトトカルチョは広く学園内に浸透していたらしかった。
「っていうかこのみちゃんと私、ふたりの対決だったはずなのに〜〜!!」
「(つ〜〜ん)」
 悔しがるミルファに対しても知らんぷりを決め込む、話を壮絶に膨らませた張本人。
「まぁまぁ、話が大きくなっちゃったものは仕方がないでしょう?」
 環はじたばたするミルファの肩を叩くと集まっている皆の方に振り向いた。
 そのかんばせには勿論、「素敵な微笑み」が張り付いている。
「と、いう訳で。まーりゃん先輩は放っておくと賭けに勝つために何をし始めるかわからないから排除
 しました。……これで安心して勝負に専念できるわね、みんな」
「(うわ、ありゃ絶対今まで気が付いてて泳がせてた顔だぜ……)」
「(まぁ、まーりゃん先輩が絡み続けるよりはマシ……だといいなぁ……)」
 審査員席界隈でコソコソと語り合う貴明と雄二であったが、
「どうしたの?タカ坊、雄二ぃ〜〜??」
「「いえっ! なんっでもありませんっ!!」」
 環のひと睨みで瞬時に黙らせられるのであった。

「え〜〜、お待たせしました〜〜。それでは前会長から引き継ぎまして〜〜、現生徒会がこの決戦を取
 り仕切りたいと思います。とは申しましても会長から副会長、書記にいたるまで生徒会役員は参加者
 サイドに立っておりますので、司会は不肖このワタクシ、生徒会雑務係向坂雄二が担当させていただ
 きま〜〜す」
 寸刻の混乱はあったが、如才ない向坂姉弟の手によってたちまち事態は収拾され、予定通り決戦は続
行の運びとなった。
 アナウンス席には蝶ネクタイをつけた雄二が陣取り、リングアナのノリで進行を始めている。
 その隣で、憮然とした表情で腕を組んでいる商品の貴明とのコントラストが妙にギャラリーの笑いを
誘っていた。
424『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』6/36:2008/02/09(土) 02:42:11 ID:/90TNzlZ0
「まず審査員ですが、当初の予定通りこの決戦の言いだしっぺである柚原春香さんと、商品の河野貴明
 くんには当然お願いしますね〜」
 雄二の言葉を聞いて春夏は優雅に立ち上がり、出場者たちとギャラリーに対してそれぞれ一礼した。
 貴明は「ふんっ」とでも言いたげであったが、一応立ち上がって律儀に頭を下げる。
「それから本来ならこの二人に加えて窓の外の蓑虫さんが審査員席に座る予定だったのですが……」
 そして大仰に肩をすくめた雄二はギャラリーに向かって片手を差し伸べた。
「結果を捻じ曲げられる可能性が否定出来ないという事で、急遽メンバーチェンジとなります。まずは
 主催者代表として私が司会者と審査員を兼任させていただきます。そしてもう一人はギャラリーの皆
 さんの中から……」
「「「「はいはいはぁ〜〜い!!」」」」
 雄二の言葉が終わらないうちに多くの観客が一斉に手を上げて立候補を始めた。
「あたしがやる〜〜っ!」
「ウチ、ウチ〜「珊瑚様は一応参加者なのですから駄目なのでは……?」えぇ〜、つまらんなぁ〜」
「るー、食べ物の事ならるーはうるさいぞ」
 てんで勝手に自己主張を始めて喧しい事この上ない。
 ところが雄二はそんなギャラリーたちに向かってチッチッと指を振って見せた。
「皆さんの気持ちはわからないでもありませんが……ここは公平を期して他校の生徒さんにやっていた
 だきたいと思っております」
 その言葉で色めき立つのは桜色の制服を着けていない女生徒の一群であった。
「くうっ! こんな事なら転校するのではありませんでしたわっ!!」
「……(涙目でコクコクコク)」
 まぁ、桜色の制服を悔しそうにつまむ一群もあるのだが。
「え〜〜と、春夏さん以外の学園外の人っていうと……チエちゃんにミチルちゃんに菜々子ちゃん、イ
 ルファさんにシルファちゃんがいらっしゃってますね」
 ギャラリーを一瞥して雄二は顎を手で撫でる。
 そして悪戯っぽい微笑みを浮かべると、ぴっと西園寺女学院の制服を着た女生徒を指差した。
425『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』7/36:2008/02/09(土) 02:44:05 ID:/90TNzlZ0
「ここはまぁ、独断と偏見でミチルちゃんにお願いするとしましょう」
 突然の雄二の言葉に、ミチルは眼鏡の奥でびっくりした表情を浮かべた、
「……びっくり」
 のみならず言葉でも驚いている。多分。
「え〜〜つ、どうしてぇ〜〜!?」
「なんであたしじゃないんスかぁ〜〜?? 納得いかないッス〜〜!!」
 やっぱり、という風に肩を落とすメイドロボ二人とは対照的に、当然のように外された菜々子とチエ
は一斉に抗議の声を上げる。
 それに対して雄二はやれやれという風に手を上げながらこう答えた。
「いや、一番客観的に審査してくれそうなのがミチルちゃんだったから。二人は色々私情で目が曇りま
 くりそうな気がするんだけどなぁ〜?」
「う゛っ……!!」
「な、なんかなんにも言い返せない自分が悔しいッス……」
 ニヤリと笑う雄二に、思い当たる節がありまくるのか菜々子もチエも黙り込んでしまった。
「……落ち込むな。人には向き不向きがある」
「メガネタヌキにだけは慰められたくねぇ……っ」
 ミチルに肩を叩かれ、チエは肩に加えて悔し涙まで落としていた。

               ◇  ◇  ◇  ◇

「それでは〜、そろそろ競技の方に移りたいと思いますので〜、早速選手入場でーす!!」
「入場って、最初から並んでるじゃないか」
「あんな、物事には順序ってモンがあるんだよ。商品はまぁ黙ってろ」
 雄二は相も変らぬリングアナ風のまま、まずは無粋なツッコミを入れた貴明の額に裏拳をビシッとめ
り込ませると、参加選手の紹介へと移った。
 選手たちにもギャラリーにも一瞬緊張が走る。
426名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 02:45:11 ID:xVchMPdn0
支援
427『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』8/36:2008/02/09(土) 02:45:51 ID:/90TNzlZ0
「それでは皆さんに、このバトルフィールドに集った7人の戦士たちをご紹介しましょうっ!」
 無駄に気合が入りまくる雄二のコールは更に熱を帯びてきた。
「まずは輝く元気、一番星! 最速のちびっこ幼馴染、柚原ぁ〜、こ〜の〜み〜!!」
 雄二の紹介を受け、このみがぴょこんと頭を下げる。
 元気な頭の上下に合わせて桜色のリボンが揺れた。
「えっとぉ……このみは子供の頃からず〜〜っとタカくんと一緒でした。だから、お母さんの『必殺カ
 レー』の名にかけて、タカくんの事なら誰にも負けません!」
 そう言うと、このみはふんっ!とガッツポーズを作った。
「このみ、がんばってね! 負けたらおしおきよ〜♪」
「はうぅぅ〜〜、もうおたまは嫌でありますよ〜〜」
 審査員席の春夏から応援が上がったのだが……このみのテンションが逆に下がったように見えるのは
気のせいだろうか??

「次も一年生からの参加で〜〜す。ほわっとした外見に騙されるなかれ、何を隠そう全国区の天才電脳
 少女、姫百合珊瑚ちゃん!……の代理で珊瑚ちゃんとは一心同体! 大好きな姉を支える家事のスペ
 シャリスト! 姫百合ぃ〜、るぅ〜り〜!!」
 コールされたものの、気合の入った可愛らしいエプロン姿でありながら瑠璃は腕を組んだままそっぽ
を向いている。
「ウチはバカ明なんかどうでもええんやけど、さんちゃんがどうしても言うから仕方なく代理で出ただ
 けや。忘れんときぃ」
 いつものつんつんした態度を崩さない瑠璃ではあったが……
「瑠璃ちゃん、こういう時くらい素直にならないかんで〜〜??」
「珊瑚様、瑠璃様はいわゆるツンデレさんですから、皆様の前ではきっと恥ずかしくて素直になれない
 んです。お泊り会で私たちだけの時はきっとデレデレさんになって下さいますよ」
「そやなぁ。みんなでらぶらぶらぶぅ、や〜〜♪」
「そんなんちゃう〜〜っ!!」
428『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』9/36:2008/02/09(土) 02:47:42 ID:/90TNzlZ0
 結局、観客席からの暢気な声援にじたばたしていた。

「さあ、続きましては同級生からのエントリーです。柚原このみ嬢や向坂環嬢には思わぬ伏兵出現っ!
 帰ってきた幼馴染! 夢見る美少女、草壁ぇ〜、ゆ〜う〜きぃ〜〜!!」
 紹介を受けた優季はふわりと立ち上がると皆に向けてゆっくりと一礼した。
 そして小首を傾げて微笑むと、こう意気込みを披露した。
「ずっとこの町を離れていたので不利な面もあると思いますが、貴明さんとのずっと昔の約束を実現し
 ていただけるように頑張っていきたいです。皆さま応援、よろしくお願いしますねっ♪」
 を〜! ぱちぱちぱちぱち〜!!
 なんとなく雰囲気に呑まれた観客席からは拍手が上がる。
「(……ねぇ、昔の約束って、なに? 愛佳から聞いてる?)」
「(さあ、なんだか転校当初からやたら親密だ、って姉は気にしてるみたいですけど……)」
 一部釈然としない観衆もいるようではあったが。

「そしてっ! 次なる戦士も同級生。みんなの笑顔が彼女のパゥワァ! 我らが委員ちょ、小牧ぃ〜っ
 ま〜な〜か〜!!」
 次にコールを受けたのは貴明のクラスの委員長、小牧愛佳であった。
 勿論、こういう状況がトコトン苦手な愛佳は、アタフタととにかく両手をぱたぱた振りながら自分の
出場動機の説明を試みてみた。
「ああああああのっ、そのっ、あ、あ、あたしは河野君とのその、お泊りがぁ〜〜どうとかとはあれで
 してぇぇぇ〜〜、そうっ、料理大会があるからどうかってですねぇぇぇぇ〜〜」
 ……もう何を言っているのかさっぱりである。
「何を言ってるんだか。貴明とのお泊りを賭けたカレー対決だってあたしちゃんと教えたわよ」
「い、い、いくのぉ〜〜〜!!」
 だが、そんな言い訳もギャラリーの中から聞こえる溜め息混じりの声が粉砕してしまう。
 するどい妹のツッコミに、愛佳の混乱は更に増幅していくのだった。
「静粛に、静粛に〜。ここからは上級生のお姉さま方で〜す。ったく、この恋愛原子核め……」
 ごちん!とひとつ貴明に拳骨を入れた雄二は出場者紹介を続けた。
「痛いなぁ、なにすんだ!」
「だまれ、男の敵っ! ……さて。こちらにおわしますは麗しの本学園生徒会会長、全学園生のあこが
 れっ! 久寿川ぁ〜〜さ〜〜さ〜〜ら〜〜さ〜〜ま〜〜!!」
 演説慣れしているささらはこの程度では動じないはずなのだが、今日の彼女はどこか落ち着かないよ
うに目を泳がせながら皆の前に立った。
「そ、その……よ、よろしくお願いします……」
 不安そうな瞳で貴明に視線を送るささら。
 その様子に、つい貴明は微笑んで軽く頷いた。
 それを見たささらは、一度顔を伏せ、再び前を向いた時にはいつもの生徒会長の顔になっていた。
「(最初から負けを認めちゃダメだよ、さーりゃん……)」
 ささらの決意を感じ取ったのか、窓の外の蓑虫が感慨深そうに風に揺れていた。

「あー、次はエントリーナンバー6ばーん、太古より闇に潜むエルクゥの生き残りー、向坂たま〜kあ
 だだだだだだっっ!「誰が鬼の一族よっ!」ギブッ!ギブッ!割れる割れるぅぅぅぅ〜〜!!」
 次に、投げやりに姉を紹介しようとした雄二だったが、勿論お約束とも言える必殺のアイアンクロー
に締め上げられ、速攻でギブアップさせられた。
「ユウくんも懲りないなぁ〜」
「むしろタマ姉にいじられたくてワザとやってるんじゃないか??」
「お姉さま、たくましいお姿も素敵です……」
「……(頬を赤らめながらこくこく)」
 当然ギャラリーも呆れ顔?である。
「とほほ……。久寿川会長を支える麗しの副会長、学園に咲く大輪のバラ〜〜! 向坂ぁ〜、た〜ま〜
 き〜〜おねえ〜〜さま〜〜!!」
430決戦!の中の人:2008/02/09(土) 02:56:26 ID:X6EPtqQlO
やっぱさるさんに捕まりましたね。
まぁ、バカみたいに長くした漏れも悪いんですが……
というワケで続きはほとぼりが醒めた頃に投下しに来ます。
431名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 02:58:14 ID:8nqDZ1yT0
支援
432名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 04:50:45 ID:wx7gZ4+b0
猿退治
433名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 05:14:23 ID:/qzicoC90
援護射撃
「最初からそう言えばいいのよ、まったく」
 腕組みをしてうんうんと頷く環。
 ギャラリーも「まったくその通りだ」と納得せずにはいられなかった。

「いよいよ最後の出場者の紹介を残すのみとなりました……」
 先だっての喧騒から瞬時に立ち直った雄二は、さも残念そうに顔を伏せて言葉を切った。
 そしてたっぷりと溜めを取り、観衆に向き直る。
「河野貴明を守るジェリコの壁、来栖川エレクトロニクスの技術力と、姫百合珊瑚ちゃんの天才の究極
 コラボが生み出した科学の子! 河野ぉ〜〜、み〜〜る〜〜ふぁ〜〜!!」
 皆の前に立ち上がったミルファは、今日は以前使っていた桜色のセーラー服に、貴明に貰ったクマの
ワンポイントが入ったエプロンを身に付けた姿だった。
 さらにイヤーレシーバーも着けていないので、それと知らなければ人間そのものに見える。
 ミルファは一歩皆の前に進み出ると静かに話し始めた。
「ご存知の通り、私はメイドロボです……こんな私が、料理自慢の皆さんと競うのはおこがましい事な
 のはわかっているつもりです。でも、私は学園で貴明さんと出会って恋をして、ようやく手に入れた
 この心を信じたい。だから、貴明さんの料理では一番でいたいんです」
 彼女の瞳に強い意志の光が宿る。
 セミロングレイヤーの髪がはらりと揺れた。
「だから、誰にも負けません!」
 ……ぱち、ぱち、ぱちぱちぱちぱちぱち!
 聴衆の暖かい拍手がミルファを包んでいた。
 少し唖然としたようにその拍手を受け取るミルファの表情は、なんだかとてもくすぐったそうだ。
 そして貴明は、そんな彼女がなんだか眩しい様な気がしてまともに見つめられないでいた。
「私もタカ坊の事で負ける気はないわ。お互いがんばりましょうね、ミルファ」
「ふんっ、カレーでウチに勝とうなんて2千年早いわ。思い知らせたるで〜〜」
「ふふっ、貴明さんの一番はかならずいただきますよ♪」
「このみも頑張るよっ! タマおねえちゃんにも優季おねえちゃんにも負けないであります!」
 ライバルたちも、そんなミルファに口々に声をかけてきた。
 ……そしていつしか拍手は、少女たち全てを包み込むように広がっていた。

               ◇  ◇  ◇  ◇

 さすが料理自慢が集結しただけに、1時間の調理タイムの光景はまさに圧巻だった。

 元がまーりゃんルール、『調理器具自由、材料自由、下ごしらえでもなんでも勝手にして持ち込め。
1時間で一人でカレー料理を用意出来れば何でもアリアリ』に則っているため、各参加者はスープ満載
の寸胴だの圧力鍋だの、果ては冷蔵ケースやオーブンまで持ち込み、まさに大騒ぎである。
 メンバーは技術と工夫の限りを尽くしてそれぞれの『とっておき』を完成させたのだった。

「さて、全員の料理の用意が整ったようですね。では、皆様お待ちかねの試食ターイム!!」
 わーわー!ぱちぱちぱちぱちぱち!!
 更に人数を増したギャラリーというか野次馬というかからいっせいに歓声と拍手が上がった。
 皆の注目を受けてリングアナ・雄二のボルテージもいっそう上がる。
「では試食のルールを説明しま〜〜す。まず、試食の順番は年齢の若い順とします。同年齢の場合は誕
 生日の遅い方からになりますね」
 それを聞いた調理ブースに控えるこのみは、早速隣の瑠璃に確認してみた。
 もちろん自分の順番を確認して準備を整えるためである。
「(瑠璃ちゃんって、誕生日いつでありますか?)」
「(ウチは6月16日や。このみとどっちが先や?)」
「(わたし9月だから、わたしがトップバッターだね! 早速温めなおさなきゃ)」
「(……ミルファのが先ちゃうんか? さんちゃんがプログラム組んだ時に遡ったかて、まだ生まれて
 何年と経っておらんはずやで??)」
 ふたりが首を捻っていると、タイミングよく雄二のアナウンスがその解答を教えてくれた。
「なお〜、正妻候補の皆さんの挑戦を受ける立場であるところの河野ミルファちゃんは一番最後の試食
 とさせていただきま〜す。最初にメンバー紹介した順番と言った方がわかりやすいでしょうか?」
 しれっと付け加える雄二に、出場者は一様に「それを早く言え」と言いたげな視線を送る。
 そしてこのみは、とりあえず腕まくりをして軽く気合を入れ直すと、早速ルーの温めなおし作業に取
り掛かるのだった。

 さらに、審査員席のほうに大仰なポーズをつけながら振り向いた雄二は説明を続ける。
「先ほど申し上げましたとおり、審査員は本校生徒会代表として不肖私向坂雄二、ギャラリー代表とし
 て西園寺女学園の山田ミチルさん、そしてカレー決戦提唱者の柚原春夏さん、最後にこの決戦の賞品
 で全男子生徒の敵・キングオブヘタレ!河野たk「ちょ〜〜いと待ったあぁぁ〜〜!!」『バキイィ
 ィッ!!』あぼあぁぁっ!!」
 その時、突然響き渡った甲高い声と激突音と悲鳴が説明を強制終了させた。
「こら〜〜! ゆうりゃぁ〜〜ん! あちきを無視するなぁ〜〜!!」
 この声の主、いわずと知れたまーりゃんである。
 いつの間にか拘束を解き、強烈なイナヅマ反転まーりゃんキックを雄二に叩き込んでいたのだ。
「あのねぇっ!! 当たり所悪かったら死んじゃいますって!!」
 即座にむっくり起き上がって文句を言う雄二であったが……
「(いつも思うんだけど、向坂くんってすごいタフですよねぇ)」
「(今のキック、完っっ璧にテンプル捉えてたような……)」
「(さすがタマ姉のアイアンクローで鍛えられているだけの事はある)」
「(な、なんのことかしら? おほほほほ……)」
 みんなには気味悪がられていた。

 何はともあれ紆余曲折の後。
「……という訳で、特別審査員としてOG代表のまーりゃん先輩でーす。みなさんはくしゅー」
 わーぱちぱちぱち
「なんだか棒読みくさい紹介と投げやりな拍手ではないかね?をい、皆の衆」
「「「「きのせいでーす」」」」
 なんとなく不満げなまーりゃんではあったが、審査員席の上座に席を与えられるとたちまち機嫌を直
してふんぞり返るように着席した。
「苦しゅうない、話を進めたまへ」
 一番厄介な人が黙ったところで雄二は咳払いを一つして審査方法の説明を再開した。
 ギャラリーでも競技者席でも、審査員席にもため息があふれているようだ。
 満足そうなたった一人を除いては。
「おほん……で、では、審査員はこの5名という事になります。審査員には挑戦者たちのカレーを順に
 試食してもらい、最後に7皿の中からベスト3を選んでいただきます」
 そして雄二は審査員の前に置かれている紙を取り上げ、ギャラリー席に見せた。
 そこには「調理者名」「選出理由」「点数」の欄が3つ作られている。
「基本的にこの3人にそれぞれ1点が与えられます。もし、ダントツに美味しいカレーがあったら一人
 に複数点を入れてもらっても構いません。その場合点数の欄に何点入れたかを書き込んでください」
 雄二は振り返り、今度は競技者たちに紙を見せる。
「審査員5人に持ち点が各3点なので満点は15点、もしも同点になった場合は……」
 間を取り、周囲を見渡す雄二。
 皆が息を呑む気配が伝わってくる。
 ギャラリーや審査員席からもゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてくるようだ。
「……同点首位の中から一人を、河野貴明くんに選んでいただきます」
 聴衆の反応に満足した雄二はたっぷりと勿体を付けて結論を述べた。
 しかし、
「えぇ〜〜っ!? お、俺!?」
 どう考えても、誰を選んでも、ただでは済まなそうなポジションにいつの間にか立たされた事を知っ
た貴明は思い切り抗議の声を上げたのだった、のだが。
 少女たちの反応は少し違っていた。
「妥当なんじゃない?」
 腕を組んでコクコクと頷きながら環が、
「タカくんが主役なんだから、タカくんが選ぶのが当たり前であります」
 真剣な顔でこのみが、
「最後の最後で決め手があるとしたら、それは貴明さんの愛情ですからね」
 どことなく楽しそうに優季が答える。
 他の参加者たちも一様に依存はないようであった。
「……だそうだぞ、貴明。せめてそういう状況にならないように祈るんだな」
 ……貴明は神信心に関しては典型的な日本人であるが、こんな時、無性に頼りになる神様が欲しいと
思う事がある。
 そして常にそんなささやかな希望が裏切られてきた事を思い出し、ついつい深いため息を吐いてしま
うのであった。


「な〜〜んか要らん手間がかかった気がするんだけど……さて、一番手の柚原このみちゃ〜〜ん、準備
 は出来ましたか〜〜?」
「はーい、おっけーでーす!」
 雄二が声をかけると、このみは元気に返事をしていそいそとカレー皿の載ったお盆を手に取った。
 お盆の上には勿論このみ渾身の『必殺カレー』が乗せられている。
「では早速試食と行きましょう。最初は目指せ妹脱却! 柚原このみちゃんの登場で〜〜す!!」
 満場の拍手の中、このみはいそいそと審査員席の前に進み出た。
 そしてどーんとカレー皿を置くとまずはカレーの紹介を始めた。
「こんにちはっ! わたしの切り札、『このみの必殺カレー』です! お母さん直伝のスパイスの魔術
 が自慢ですっ! よろしくお願いしますっ!」
 ぺこりっとお辞儀をすると、このみは小さい深皿に必殺カレーを取り分け、5人の前に並べた。
439名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 07:07:46 ID:vr5EUCcY0
このみ萌え
「どうぞっ、お召し上がりくださいっ!!」
「どれどれ……」
 早速5人は皿とスプーンを手にとると、『このみの必殺カレー』を口に運んだ。
 口に入れるとベースになっているスープストックの味わいと、様々な薬味やスパイスの香りが渾然一
体となった刺激が口中に一杯に広がる。
 具材にも火が過不足なく通っており、基本的な技術もしっかりしてきた事がはっきりと窺われた。
「おぉ、これはすごい。肉も柔らかいし、ちびすけの分際でたいしたもんだ!」
「……確かに上手になった。調理実習で惨めな肉じゃがを作った人間と同一人物とは思えない」
 みな喜んでスプーンを進めている。
 そして貴明はというと……心配そうにたたずむこのみに目を向け、
「前食べた時よりはるかに美味しくなってるぞ、このみ。……がんばったんだな」
 彼女の頭に手を伸ばすとぽんぽん、と優しく撫でてやった。
 妹のような幼馴染に対するそれではあったが。
 それでもこのみは満足していた。……貴明が褒めてくれたのだから。
「……えへへぇ〜〜」
 だから、このみは満面の笑みでその賞賛に応えるのだった。
「良かったわね、このみ。頑張った甲斐があったじゃない」
 勿論このみの腕が自分にも、おそらくどの参加者にも届いていない事が春夏にはよくわかっていた。
(まだまだ未熟だけど、諦めずに頑張ってね、このみ)
 それでも、幸せそうな娘の姿に春夏はほっとして胸を撫で下ろす。
 そして子供の頃からよく人となりを知る優しい少年が、このみの「一生懸命」にいつか気が付いてく
れるよう、心から祈るのだった。


「では次に〜〜、姫百合珊瑚ちゃんと姫百合瑠璃ちゃ〜〜ん、どうぞ〜〜!」
 調理ブースから、赤くて巨大な何かが乗った長細いカレー皿を持った瑠璃が登場する。
441名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 07:15:08 ID:8Q+WQ7rq0
支援
442決戦!の中の人の携帯:2008/02/09(土) 07:25:55 ID:X6EPtqQlO
またさるさんに捕まりました……。
まぁ、明日までに全部出せればヨシとしましょう。
というワケで、続きはほとぼりが醒めた頃に投下しに来ます。
443名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 07:40:10 ID:8Q+WQ7rq0
支援
 そして観客席の方からは「るー!」と不思議な返事をしながら珊瑚が進み出てきた。
「ん、こんなでどないやろ」
 どんっ! と置かれたカレーの上には、すばらしく大きな伊勢海老が鎮座ましましている。
 カレールーの方にもどうやら海老の身がふんだんに使われているようだ。
 目を丸くして伊勢海老カレーを見つめる一同の様子に満足したのか、珊瑚は小さい胸を張った。
「どや〜〜? ウチが来栖川のコネで取り寄せてもらった最高級の伊勢海老や〜。ウチのお金パワーと
 瑠璃ちゃんの料理の腕の合体技や。一人一人はただの火でも、二人合わされば炎なんやで〜!!」
「(確かにシーフードカレーは難しいですものね)」
「(ほんとう、すぐ硬くなるし、生臭くなりますもんね〜)」
 出番の近い優季と愛佳は自分のカレーの用意を進めながら語り合っていた。
 そう、確かにシーフードカレーは難しい。
 それでなくともデリケートな素材の良さを生かすのが極端に困難なのだ。
「さ、まずは食べてみて」
 相変わらずそっけない態度で瑠璃は小さな皿にカレーと伊勢海老のローストを取り分けた。
 取り分ける技術も淀みなく、実に手馴れていることが見て取れる。
「いただきま〜〜す」
「えび、えび、えび〜〜♪」
 一同はおそるおそる瑠璃のカレーを食べてみる。
 最高の材料なのだからまずい事はないにしろ……と考えながら食べた一同は、その予想を思い切り外
され目を丸くした。
 もちろん、良い方にである。
「あらあらあら……海老が全然硬くなってないのねぇ〜。それなのにルーにはしっかり海老のだしが出
 ている……これは本当に上手だわ」
「エビエビ〜〜お、おいひぃ〜〜!」
 ビンボ臭く海老にはしゃいでいるまーりゃんがやかましいが、料理の技術面がきちんと評価出来る春
夏は、瑠璃のカレーの力を正確に見抜いていた。
「ルーの方に、下処理をした海老のミソを入れてるのね、多分。そしてローストした海老は全く煮込ま
 ずに、素材の美味しさをそのまま味わえるようにしているんだわ」
 感心したように種明かしをする春夏に、瑠璃は少し照れたように頷いた。
 その言葉に、皆も改めて感心しながら食べ進める。
 確かに海老も、カレーも、それぞれの良さが最高に引き出されていた。
「そうや〜〜、瑠璃ちゃんの料理の腕は三国一や〜〜♪」
 そんな瑠璃に抱きついて、珊瑚はまるで自分が褒められたかの様に喜んでいた。


「さて、下級生の二人に引き続きまして草壁優季さんっ、準備が出来ましたらどうぞっ!!」
「はいっ」
 どことなく優雅さを感じさせる仕草で立ち上がった優季は、最初から5つの皿とボウルに分けてカレ
ーを審査員席まで運んできた。
 皿の上にはおそらくガーリックライスが、ボウルの中にはさらさらのカレーソースが、それぞれ盛り
付けられている。
「これは……スープカレー??」
 一目見たミチルがその名を口にすると、優季がそれにこくりと頷いた。
「ええ、その通り。北海道のスープカレーです。以前、札幌で美味しいと思っていた何軒かの味を参考
 にしたものですよ」
「へぇ〜〜、名前は聞いた事があったけど、これがスープカレー……」
 貴明も感心したようにつぶやいた。
「少しは、他所の土地に行った経験も生かしませんと」
 貴明の呟きを聞いた優季はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「さ、冷めないうちに召し上がれ」
 優季の言葉に従って一同はスープカレーにスプーンを運んだ。
 スープカレーの名の通り、これはベースになるスープストックの出来が全てを左右する。
「鶏がらと野菜のスープ……控えめなスパイスもスープの良さをよく引き出してる……」
 どうやらミチルはスープカレーに並々ならぬ関心があるらしい。
 じっくりと味わい、しきりと褒めていた。
「そうね、このチキンもしっかり下ごしらえが出来ているんでしょうね。骨付きなのに全く食べるのに
 邪魔にならない。これでも我流なんてすごいわ」
 春夏もすばらしいテクニックに感嘆しているようである。
 それ以上に、春夏は彼女が『どこかの店の完成したレシピを再現している』のではなく『自分なりに
再構築してレシピを完成している』センスに感動すら覚えていたのだ。
「あら、具の野菜は皮付きなのね。それに味が濃くて美味しい」
「ええ、ちょっと最近マクロビオティック料理にも興味がありまして、健康に気を使ったふりをしてみ
 ました!」
 優季は悪戯っぽく微笑むと、貴明に向かってちらりと舌を出して見せた。


 次の挑戦者……小牧愛佳は、雄二のコールがかかる前からお盆を持って硬直していた。
「それでは我らが委員ちょ、小牧愛佳さ〜〜ん、審査員席の方へどうぞぉ〜〜! ……お??」
 そして、コールがかかっても硬直し続けている。
 大人数の前に出るのが苦手という訳ではないのだろうが、ピンポイントに「貴明争奪戦」と銘打たれ
て見世物にされているこの状況はさすがにオーバーキャパシティーだったのだ。
(ど、どうしてこんな大仰なイベントにぃぃぃぃ〜〜)
 書庫での日々や、郁乃の事で何度も支えてくれた貴明を意識せずにいられない愛佳ではあったが、と
はいえ他の女の子のように闘志むき出しで争奪戦に加わりたいわけではない。むしろ「メイドロボとは
いってもミルファさんがいるし……」と諦めているくらいなのだ。今回だって妹・郁乃に「別に遊び半
分の料理勝負くらいどうって事ないじゃない?」とそそのかされてつい参加してしまったものの、家庭
科室に一歩足を踏み入れた時から後悔しっぱなしだったのだ。
(も、もう帰りたいぃぃぃ〜〜)
 ……その様子を見ていた郁乃は、大きく溜め息をつくと車椅子の背に仕舞ってある杖を取り出し左腕
をガイドに通し、気合を入れた。
 よろよろと危なっかしく車椅子から立ち上がった郁乃の姿に、壁際でこっそりカレー勝負の行方を見
守っていた由真は、目立たないようにしていた事も忘れて駆け寄っていた。
「ちょ、ちょっと郁乃。アンタまだろくに歩けないのに無理すんじゃないわよ!」
「由真さん……お姉ちゃんたらね、この10日くらい何度も何度も色んなカレーの試作を繰り返してあ
 たしに試食させたの。それこそしばらくカレーなんか見たくもないくらいに。……それだけあたしに
 迷惑をかけておきながら、ここでビビってるなんてあり得ない。ちょっと活入れてこなきゃ」
「郁乃……」
 そんな、無理に立ち上がろうとしている郁乃の姿は愛佳の目にも入っていた。
 そして自分を見つめる郁乃の厳しい視線の陰に隠れているものも。
 郁乃を支えてくれている由真の暖かい気持ちも。
(うん、お姉ちゃんがんばるよ)
 大きく息を吸い込んで目を閉じると、愛佳は貴明と二人で守った書庫の一角を脳裏に浮かべる。
 その大切な場所には、貴明と自分だけではなく照れくさそうに目を逸らす郁乃と、貴明がからむとな
にかと突っかかって来る由真の姿もあった。
 勇気を振り絞ると自然に一歩目が前に出た。
 そうすると、そこから先は普通に歩く事が出来た。
 ほっとした表情の郁乃と由真に軽く微笑むと、さっきまでの緊張が嘘のように愛佳は審査員席の前に
進み出ていた。
「お、お待たせしましたっ。これが今回用意したカレー料理ですっ」
 愛佳の持参したお盆の上には、一つずつ丁寧にワックスペーパーに包まれたハンバーガーのような物
とパイのような物が5個ずつ乗っていた。その他にグラスに入ったアイスミルクティーと思しき物も添
えられている。
「みんながカレーライスを出すとさすがに飽きるんじゃないかな〜〜と思って、あたしはちょっとおや
 つ風にしてみました」
 審査員たちが目の前に置かれた包みを開いてみると、横長の包みからは二つ折りにしてカレーを挟ん
だナンが、そして丸い包みからはキツネ色に焼けたパイが出てきた。
「ふおお、これはちょほ〜〜っとおしゃれでわないかね、マナマナ?」
「そ……その呼び方はちょっと……」
 年相応の女の子(笑)らしくおやつ登場に目を輝かせるまーりゃんだったが、その変な愛称だけはや
めて欲しいと切に願う愛佳であった。
「細かいナリね〜〜、マナりゃんは。……もぐむぐ……うむっ、手を汚さずに食べられるというのもポ
 イントが高いのう〜〜。どうかね、今度の学園祭で大々的に出店を開いてみるというのわ? あちし
 が全面的にプロヂュ〜スして大儲けさせてやるぞよ??」
「来年度も学園来るつもりなのかよ、あんたは……」
「なんだよっ! 仲間はずれにすんなよっ! イジメかっこわるいぞっ!!」
 二人の掛け合い漫才を無視し、他の審査員たちも手に手にナンとパイを手に取った。
「本当、これは気が利いてるわ。手軽に食べられるし、両方ともお肉を使ってないカレーだから重くな
 いし、アイスミルクティーとの組み合わせも秀逸ね」
「まーりゃん先輩じゃないけど、これなら確かに商売出来そうだよな〜」
 ここまでご飯ご飯と来たこともあってか、愛佳のおやつカレー作戦は大成功を収めたようだった。
 ほっとしながら観客席に目をやると、由真がこちらに向かって親指を立てている。由真の隣で見てい
る郁乃は薄く頬を染めながらもそっぽを向いていた。
 相も変わらぬ妹の冷たい様子に、愛佳はなんとなくほっとして笑みが浮かんで来るのだった。


「それでは次に、我らが生徒会長久寿川ささらさまっ! お越しくださいませ〜〜!」
 頬を赤らめながらゆっくり進み出るささらに、特に貴明と雄二は不安の視線を投げかけていた。
 無理もあるまい。二人のよく知るささらの主食といえばアレである。第一彼女が何かを美味しそうに
食べている姿など見た事もない、というか想像すら出来ない。良くも悪くもクールビューティー、それ
が彼らにとっての久寿川ささらなのだから。
 不安要素はそればかりではない。
 クッキングタイムの時、てきぱきと調理を(このみの手元はちょっと怪しかったが)行う参加者たち
の中で、ささらはなにやらマニュアルを見ながらごそごそとやっていたのだ。第一カレーが入っている
らしい大きな寸胴に一度も手を加えていないというのはどう判断したら良いのであろうか?
「(まーりゃん先輩が妙に余裕こいてるのが怪しさ大爆発だよな……)」
「(まぁ、家庭科の成績も人並み以上らしいから下手ではないと信じたいんだけど……)」
 しかし家庭科の成績は料理の腕だけで決まるものではない。手作り料理が食べられないささらの手作
りカレーという想像はあまりにもシュールすぎたのだ。
「……どうぞ」
 そして……審査員たちの前に置かれたカレーは、見た感じは普通、というか激しく高級な雰囲気を漂
わせていた。
 色も香りも食欲を誘うサフランライスには、大振りにカットされた程よい焼き加減と思われるステー
キ!が乗っている。そしてその上に色艶から何か違うカレーソースと、なにやらこれまた高そうな香り
のする何かのスライスが散らされている。
「ス、ステーキ??」
「こ、これってトリュフ??」
「なんだか高級レストランのカレーみたい……」
 唖然とする審査員たち。……それはそうだろう。普通の生活をしていればなかなかこういったものに
はお目にかかれない。
 ささらはなんとなく恥ずかしそうに俯きながら、ちらりとまーりゃんを見ると種明かしをした。
「あ、あの……私はマニュアル通りにしか出来ないから……ホテルニューコタニでシェフをされている
 母のお友達からカレールーをいただいてきたんです。ご飯やステーキはマニュアル通りにやれば作れ
 るから、それで……」
 そう、なんの事はない本当に『高級レストランのカレー』だったのだ。
「今回は『調理器具自由、材料自由、下ごしらえして持ち込みも自由、何でもアリアリルール』だから
 ねえ。さっすがさーりゃん、出来る最善を常に行う女だよ♪」
(((まーりゃん先輩の事だからきっとなにか企みがあるに違いない)))
 得意げに語るまーりゃんに、周囲の人間はあからさまに不審の目を向けるのだった。
 しかし由来はどうあれ……
「う、美味い……」
「トリュフってはじめて食ったよ……」
「なんだか悔しいけど、かけたお金の額だけ美味しくなるっていう見本みたいなものね……」
「『プロ』と『玄人はだし』の差は大きい……」
 なにせベースが違う。本物のプロフェッショナルが作るフォンドヴォーから作られた欧風カレーが不
味い筈がない。さらに手順通り丁寧に作られた黄金色のサフランライスと厚切りステーキ、そしてトッ
ピングされたトリュフも、高級品の実力を惜しみなく発揮しているのだ。
「カレーが美味しいのも美味しいけど……」
 ふと、ある事に思い至った貴明は顔を上げるとささらを見つめた。
 貴明と目が合ったささらは、次の言葉を待ちながらも不安そうに身を竦める。そんな彼女の気持ちを
察したのか、貴明は安心させるように微笑むと言葉を継いだ。
「このご飯とステーキは先輩が作ったんですよね? 先輩の手作り、はじめて食べさせてもらったけど
 美味しかったし、嬉しかったです」
「そう……。河野さんにそう言って貰えてよかった」
 貴明の言葉を聞いて、ささらははじめて安心したようににっこりと微笑んだ。


 マイクを持って雄二が立ち上がると……特別審査員席(アナウンス席含む)に向かって調理ブースの
環の方から強烈なプレッシャーがかけられている事に貴明は気が付いた。
「(おい、雄二。ここは真面目にやっといた方が身のためだぞ)」
 雄二はしばらく葛藤していたようだったが、がっくりと肩を落としたかと思うと次の瞬間、さわやか
な笑顔をギャラリーに向けるとこう言った。
「さあ、皆さまお待ちかね、才色兼備のお姉さま、向坂環選手でーす♪」
451名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 11:58:57 ID:8HHKMdD40
支援。しかしこれは最初から分割した方がいいかもわからんね
「(弱っ! あいつ弱っ!)」
「(貴明にヘタレって言えないわよね〜〜、あれじゃ)」
「(雄二様……イルファはちょっと情けないです……)」
 そして命は拾ったのかもしれないが、何か男として大切なものを失っていたのだった……。
 そんな愚弟を尻目に優雅に進み出た環は、審査員たちの前に小振りな丼物椀を並べた。
 お椀の中には湯気を上げるカレー色のスープが、そして中華麺と思しきものが入っている。
「これは……カレーラーメン??」
 そう貴明が尋ねると、環は艶然と微笑みつつ頷いた。
「ええ、そうよ。ご飯に合わせるカレーだけじゃちょっとつまらないでしょう? さ、のびないうちに
 まずは召し上がれ」
 レンゲですくってスープを口に運ぶと、鶏がらスープと魚介系のスープを合わせたWスープとスパイ
シーな鶏モツカレーのコラボが味と香り、両面で美しいハーモニーを奏でる。そして麺は中太直麺、ち
ぢれはないが、スープに若干とろみがあるのでよく絡んでいる。コシが強いとは言えないが、歯に吸い
付くような独特の食感があり、妙に後を引く美味しさがある。
「なんだか懐かしい感じのするラーメンね、これ」
「ラーメン、ラーメン〜〜♪」
「くっ、なんだか悔しいけど文句なく美味ぇ……」
 一同の賞賛の声に満足した環はすっと人差し指を立てるとこのラーメンの履歴を披露しはじめた。
「これはね、十茶庵っていうちょっと有名なもつ老舗ラーメン屋さんがあるんだけど、そこのカレーラ
 ーメンをアレンジしたものよ。基になってるラーメンにはモツは入っていないんだけど、折角だから
 モツカレーを工夫して具にしてみたってわけ」
 そして環は調理台の上にある麺ケースを指し示す。
 麺ケースの側面には見間違えようもなく大きく『十茶庵』のロゴが入っている。
「麺はとてもじゃないけど手打ちでこの味は出せないから直接お店から取り寄せたの。鶏も、そこの美
 味しい地鶏を分けていただきました。ささらほどじゃないけど、私も使えるものはみんな使ってみた
 つもり」
453名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 12:02:07 ID:zYkFEQcr0
|ω・`)つ@@@@
「う〜ん、麺もスープも老舗の味が基になってるだけあって地力があるって言うか、きっとまた食べた
 くなる味だなー」
「違いない。姉貴のラーメンを褒めるのは何かに負けた気がして腹が立つんだが、こいつは文句のつけ
 ようがねえ。第一まず「ラーメン!」って言うのがにくいんだよなぁ」
「くぅっ、タマちゃんのラーメンで屋台やりてぇ……っ! 儲かりそうだけどな〜〜」
 さすがに男の子と子供はラーメンには弱い。いかにも男好きする味と食感に貴明も雄二も諸手を挙げ
て大絶賛するしかなかった。
「やっぱり、タカ坊にラーメンは外せなかったわね。良かったわ」
 タカ坊宅に泊まる時にはきっとこれを作ってあげよう……そう思いを巡らせながら悦に入る環だった。


「最後に登場するのは、なみいる正妻の座希望者に敢然と立ち向かう河野家側室ナンバーワン! 河野
 ミルファちゃんで〜〜す!!」
 有終の美を飾るべく、ボルテージの上がる一方の雄二のすっとこリングアナウンスに乗り、審査員席
の前にはお盆に大きなランチプレートとソースボードを載せたミルファが進み出た。
「(ううっ、側室決定戦なら私も出場して貴明さんのハートをがっちりキャッチ♪しますのに……)」
「(……いつかみんなの認識違いを正さねばならないのれす。……ご主人様のナンバーワンでオンリー
 ワンはシルファらもん)」
 なにやら観客席の方では、青いショートボブや金色三つ編みのメイドロボさんのものと思われる声が
ボソボソ言っている。
 ……ボソボソ、という割には聞こえよがしの声量ではあるのだが。
 少なくとも貴明にはよく聞こえる。
 貴明が肩越しに恐る恐る覗いてみると、二人はジト目でこちらを見ながら手メガホンでぶつぶつ文句
を言っているのが目に入った。
 その様子に、近日中にまた騒ぎが起こるに違いないことを確信し、彼は今日何十度目かになる大きな
ため息をつかずにはいられなかった。
「ちょっと毛色が違うから、こんなのでもいいのかな〜〜?とは思うんだけど……」
 周囲の喧騒を余所に、そろそろとミルファが出したプレートにはドライカレーとナポリタンが盛り付
けられ、その上には大きなカツが乗っている。更にソースボートによそったカレーが添えられていた。
「え〜〜っと、これって、トルコライス??」
 何かを思い出すようにちょっと首を捻りながら春夏が確かめる。
 しかし雄二はそれを言下に否定した。
「トルコライスはピラフとナポリタンとトンカツだから、マイナーチェンジバージョンだろ」
 そして取り分けられた「それ」にたっぷりとカレーソースを乗せると思わず破顔した。
「おほっ、ミルファちゃん、わかってるね〜! ドライカレー、ナポリタン、そしてトンカツ! お子
 様っつーか男の大好きなものテンコ盛りで、俺のハートも鷲掴みだぜ」
 早速春夏と雄二はミルファのトルコライス風料理にとりかかってみた。
「へ〜、ビーフカレーシチューね。あら、カツもビーフカツレツなのね。どれもこれもすごく丁寧に作
 られてて、本当に美味しいわ」
 甘めに仕上げられたビーフカレーシチューがドライカレーと組み合わさると、いい感じにスパイシー
なドライカレーが食べやすくなり、子供でも喜んで食べられるような味になる。
 ナポリタンも柔らかく揚げられたビーフカツも下ごしらえから丁寧に作られていて、それぞれが単品
でもかなり良い出来に違いない。
「ん〜〜……んぐ、んぐ……やっぱ美味い美味い。子供も好きだろうけど、こんくらいわかりやすい方
 がヤローの舌には合うんだって。……あれ〜〜、それにしてもなんだか記憶の隅に引っかかる味のよ
 うな気がするな??」
 もぐもぐと頬張っていた雄二であったが、急にスプーンとフォークを止めると首をひねり出した。
 どうやらなにかを一生懸命思い出そうと記憶の棚を漁っている様である。
「先輩の胃袋を預かる愛人の料理がこれって……実は先輩ってマザコン?」
「ほうほう、たかりゃんはこういうお子ちゃまな料理が好きなのかにゃ?? まったく、男ってヤツは
 いつまでたってもママのおっぱいから離れられんのだのう……」
 そして、ミチルとまーりゃんは心のメモ帳に「貴明=マザコン」を記載するのだった。
456名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 12:12:27 ID:8HHKMdD40
私の計算が確かならば……この辺でさるさんかな?
 ……その時、それまで黙々と食べ進めていた貴明がボソリと呟いた。
「……インドライスだよな、これ」
 そしてミルファの方を見ると確認するように尋ねる。
「ビーフカレーシチューにビーフカツ……豚を使わず、味付けのメインがカレーだからインドライス。
 子供の頃、テレビで見たトルコライスを食べたくなって母さんに何度か作ってもらった事があるんだ
 けど、そのバリエーションのひとつ。俺の一番のお気に入り……そうだよな?」
 一口食べたときから貴明は確信していた。微妙には違うかもしれないが、記憶の奥に眠っていた懐か
しい母の味がミルファの手によって鮮やかに再現されていたのだ。
 その言葉を聞いたミルファは、両手を胸の前で合わせるようにすると、それまでの不安そうな表情か
ら一転してはにかんだ様に微笑んで頷いた。
「気が付いてくれたんだね。……この前、お母様から電話があった時に作り方を聞いたんだ。レシピや
 色々なデータをあわせて出来るだけ再現したつもりなんだけど、どうかなぁ??」
 そしてやっぱり、探るような表情で貴明の顔色を伺う。
 貴明はプレートの上の一つ一つの料理をじっくりと綺麗に平らげると、ゆっくり顔を上げてミルファ
を見つめ、そしてちょっと困った風に薄く微笑んだ。
「なんて言ったら良いかな……」
 少し考え込んだ貴明だったが、
「う〜〜ん、とりあえずこれだけじゃ足りない。だから、今日の夕飯もこれ作って欲しい、ってのは答
 えにならないかな??」
 しばらくすると軽く視線を泳がせながらそう答えた。
 合わせていた手のひらに額を押し当てるようにしながらその答えを聞いたミルファは、ほぅっと大き
なため息をつくとようやく屈託のない笑顔を浮かべた。
「うん、がんばって作る。いっぱい食べてね」
 ……笑顔をかわす二人であったが、
「(な、なんか結界が張られてるみたいッスね……)」
「(なんか、ムカつくんだけど。これって出来レースって言わない?)」
「(貴明とみっちゃん、あいかわらずらぶらぶらぶ〜〜や♪)」
「(こんな恵まれた環境にありながら更にモテ続けるとは、やっぱ男の敵だぜ)」
 その熱気というか、ATフィールドというかにあてられる周囲の反応は、概ね「バカップルとはやっ
とれんわ」という風の生暖かいモノであった。

               ◇  ◇  ◇  ◇

「さあ、全員の試食が終わりました。早速各審査員の方々はお手元の用紙に記入をお願いします。15
 分後に結果発表をしますので、おトイレタイムが必要な方は今のうちにドゾー」
 雄二が試食の終了と審査開始を宣言すると、それまで張り詰めていた家庭科室の空気にどこかほっと
した雰囲気が漂うようになった。
 ……のであるが。
 貴明の周りにだけは、更なる緊張感が高まりつつあった。
(な、なんなんだよこのプレッシャーは……)
 ちらり、と観客席に目を走らせると……
「(瑠璃ちゃんの美味しかったやろ?)」
 まぁ、珊瑚のプレッシャーはさしたるものではないとして。
「(お姉ちゃんのよ、お姉ちゃんの。わかっってるんでしょうね、あんた……)」
「(センパイ、もちろんこのみのカレーっすよね!?)」
「(お姉さまのラーメンを食べておいて選ばないなど、ありえませんわよ!?)」
「(激しくこくこくこく)」
 突き刺さりそうな視線の雨で、少なくとも胃袋には穴が開くんじゃないかと思う貴明であった。
 しかし……
(ううっ、あっち向けないっ……)
 調理ブースから降り注ぐプレッシャーはそんなものではなかった。
 じわり、と背中に汗がにじむ。
(あっちを向いちゃいかん! 焼け死ぬぞ、俺!!)
 ぎ、ぎぎぎぎぎ……
 そうは思いつつも、錆付いた様な首の間接を動かし、つい恐いもの見たさで眺めてみると。
「(タカくんタカくんタカくんタカくん……)」
「(た、貴明ぃ。ウチのカレー、美味なかったか?)」
「(タカ坊〜〜、当然私に点を入れるわよね〜〜??)」
(コワっ! あっちコワっ!! 誰選んでも俺生きて帰れないんじゃなかろうか……)
 猛烈な視線の槍衾に、つい呆然としてしまう貴明であった。

 そして15分後……
「お待ちかねの〜〜、結果発表〜〜!!」
 どんどんぱふーぱふー! わー!ぱちぱちぱちぱち!!
「皆さん静粛に、静粛に〜〜。……それでは、審査員の皆さまの投票用紙を拝見させていただきましょ
 う。まずは……」
 裏返されている集計用紙を手に取り、雄二は結果を読み上げはじめた。
「えーと、これはまーりゃん先輩のものですね。『一人目タマちゃん。理由、ラーメン! 二人目ルリ
 ルリ。理由、エビ! 三人目、マナちゃん。理由、お菓子!』なんだかすばらしくお子さまな理由の
 ような気もしますが、いかにもまーりゃん先輩ですね」
 ふむふむ、と頷きながら発表を聞いていたまーりゃんであったが、突然はたと何かに気が付いたのか、
いかにも『しまったぁ〜〜!!』な表情をしている。
 とはいえ発表されてしまったものはもう変わらない。
「それでは向坂環選手、姫百合瑠璃選手、小牧愛佳選手、それぞれ1点ずつが入りました〜〜。つづき
 ましては……あ〜、これは私の書いた投票用紙ですねー」
 そう言うと、苦笑しながら雄二は自分の書いた紙を読み上げ始めた。
「え〜、『一人目は久寿川ささら会長。理由は文句なしに味は一番いいと思ったから。二人目ミルファ
 ちゃん。理由、美味しかったのもあるけど男心をがっちりゲットするメニューにやられたから」
 そしてちょっと照れくさそうにしながら、
「え〜〜、『三人目は向坂環。理由、男としてラーメンは外せないから』以上」
 そう発表した。
「うおっほん。……続きましては、これはミチルちゃんの書いてくれたものですね。え〜〜と、『一人
 目、小牧愛佳さん。理由、おしゃれだから。二人目、草壁優季さん。理由、おしゃれだから。三人目
 は柚原このみ。理由、成長著しかったから』う〜〜ん、明快にして端的な理由ですね」
「どれも美味しかったから、単純に好みで選んだ……だから他に言いようがない」
 無表情にぼそりとつぶやくミチル。どうやら雄二の人選は間違っていないようだった。
「ありがとうございましたー。……では次の投票用紙……柚原春香さんのものですね」
 ここまで環と愛佳が2票ずつを得ているが、まさにデットヒート。読み上げる雄二も興奮を隠せない
ようである。
「どれどれ、『一人目、久寿川ささらさん。理由、味は一番優れている。メニューのチョイスといい文
 句のつけようがない。二人目、草壁優季さん。理由、レシピ、技術ともに非常にセンスの良い料理だ
 ったから。三人目は姫百合瑠璃ちゃん。理由、優れた技術に裏打ちされて、見た目も味も素晴らしか
 ったから。個人的にはこのカレーが一番好き』だそうでーす」
 雄二の発表を聞きながら春夏はうんうんと頷いている。そしてべた褒めされた瑠璃は、頬を赤らめて
恥ずかしそうに聞いていた。これでこのみとミルファ以外は全員2票、最後に残された貴明の票次第で
勝負が付くのが確実となっていた。
 ……もったいぶるようにチラリと貴明を一瞥すると、雄二は最後の投票用紙を表返した。
「え〜〜っと貴明くんの票は……あ〜、『選べません。ごめんなさい』って、なんじゃこりゃあ!?」
「「「「な、なんだってぇ〜〜〜!!??」」」」
 素っ頓狂な雄二の声に、ギャラリーも参加者たちも一斉にがっくり来ていた。
「んなこと言ったって選べないって〜〜!!」
 騒然とする中でじたばたする貴明。もうほとんど涙目になっている。
「お前ねえ、この状況でそんな言い訳が許されるとでも思ってるのか?? ああんっ!?」
「ヘタレにもほどがあるわよ〜〜っ!? あんたはぁ〜〜っ!!」
「言い訳とかそういうのじゃなくてだなぁ〜〜、とにかく勘弁してくれよ〜〜」
 雄二や由真に凄まれても貴明はわたわたと首を振って拒否したがった。
 先ほどのプレッシャーの中で、貴明にはついに書ききれなかったのである。
「……ちょっと貸して……。あ、なにか書いて消した跡がある」
 鼻梁の上の弦をくいっと上げて眼鏡を直しながら、雄二の手元の用紙を見つめていたミチルは口を開
いた。当然の事ながら眼鏡のレンズがキラリと光る。
 その言葉を聞いた貴明はわたわたと紙を取り返そうとミチルに迫ろうとして……由真と雄二に取り押
さえられた。
「わ〜〜! わ〜〜! それはいいのっ!!」
「往生際が悪いんだよっ、お前わっ!!」
「ほらほらたかあきぃ〜〜、あきらめようよぉ〜〜!!」
 そしてしばらく紙を調べていたミチルは、無表情のまま観客席のチエを呼んだ。
「そう言われては読まずにいられない……よっち、私の鞄」
「いえっす、まむ!!」
 そしてペンケースから赤鉛筆とカッターを取り出し、かりかりと芯を削ると赤い粉を紙の上に振りか
けた。興味津々にその光景を眺めるチエに対して、
「よっち、ふぅーっとやってみて」
「これを?? どれどれ、ふぅ〜〜〜〜〜っ……あ、字が浮いてきた。なになに。『一番、ミルファ。
 理由、おふくろのインドライスを思い出したから。二番、このみ。びっくりするほど美味くなってた
 から』だそうッス」
 浮き出した文字を見つけたチエは、そのまま結果を読み上げていた。
 これで全員2点。だがしかし……
「え〜〜っと、三番は無記名っす。ちなみにミルファさんやこのみの点数も書き込んでないから……」
「ちょ、今んトコ全員同点かよ……」
 そう。同点で7人が並ぶというまるで漫画のような展開が今まさに現実のものとなっていた。
 残るは一票。勿論貴明の持ち点である。
462名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 12:27:45 ID:8HHKMdD40
まだ逝けるのか? もう少しだ頑張れー
「貴明ぃ、やはり運命はお前に一人を選べといっているぞ??」
 にやにやといやらしい笑顔を浮かべて迫ってくる雄二。
「とにかくさくっと決めちゃいなさいよ〜〜。誰に最後の一点を入れるのか」
「センパ〜イ、こんな時くらいズバッと行きましょうよ〜〜」
 由真とチエは貴明のあまりの優柔不断さにあきれ顔で嘆息している。
「今何時だと思ってんの。あんたが決めなきゃ終わらないのよ」
「ふぁいとやで〜〜、貴明!」
 いつものようにジト目を寄越しながらズバっと厳しい事を言う郁乃と、いつものようににぱーっと微
笑みながら応援を寄越す珊瑚。そして……
「誰を選んでもいいのよ、タカくん。一番美味しいと思ったものを、素直に選んであげて。むしろあな
 たが遠慮することの方がみんな悲しいんじゃないかしら。だって、大切なのはね? タカくんが真剣
 に向き合ってくれる事なんだから」
 春夏がそう、貴明を優しく励ました。
 それを聞いていた7人も一様に頷いて春夏の言葉を肯定する。
「タカ坊、いつか言ったと思うけど、弱気になって逃げてはダメよ。底力を見せて。……みんな、あな
 たが真面目に考えてくれる事を望んでるのよ」
 環は春に食堂で貴明に説教した事を思い出しながら、再び活を入れた。

 しばらく黙って俯いていた貴明だったが、ようやく何がしかの結論を出した表情で顔を上げた。
 調理台のほうに目を向けると、7人の少女たちがじっと視線を返してくる。
 このみはいつものつぶらな瞳で、瑠璃はやっぱり不安そうな瞳で。
 優季は名前の通り優雅に微笑みながら、愛佳は小動物のように落ち付かなそうな上目遣いで。
 ささらは感情を押し殺すようにじっと、環は見守るように暖かく。
 ミルファは……感極まったように、きっと涙を一杯にして。

「俺が一番美味しいと思ったのは……」
 一度言葉を区切って目を閉じる。今日食べた7皿が脳裏を走りぬけていった。このみの必殺カレー、
伊勢海老カレー、北海道風スープカレー、ナンカレーとカレーパイ、高級欧風カレー、鶏モツカレーラ
ーメン、インドライス……どれも美味しかったが、貴明の心に一番響いたのは……
「ミルファのインドカレー、です」

 心を澄ますと、答えはやはり決まっていた気がする。
 だから、貴明はきっぱりとそう答えていた。

 ミルファの瞳が、信じられないという風に大きく見開かれた。
 貴明には、彼女の頬を流れる一筋の涙が見えた気がした。
 ……そして、自分の答えはやはり間違っていなかった事を知ったのだった。

               ◇  ◇  ◇  ◇

「さすがね、ミルファちゃん。見事な勝利だわ」
 ひとしきり大騒ぎした後、参加者たちはお互いのカレーを試食しながらわいわいと決戦の余韻に浸っ
ていた。……ちなみに、女の子たちに好評なのはやはりスープカレーとおやつカレーのようである。
「あ、ありがとうございます……でも、私が勝てたのは……」
「ミルファちゃんの実力よ。確かに技量であなたを上回った娘はいたわ。でもあなたのタカくんへの想
 いが、タカくんのミルファちゃんへの想いが、技術や味覚のハンデを埋めて余りあったの」
 他の参加者のカレーのあまりのレベルの高さに、ミルファは身のすくむ思いを味わっていた。
 でも春夏は、そんなミルファを優しく励ましていた。
「自信を持って。第一、そうでないと今回あなたに及ばなかった他の娘に失礼よ」
「そうだよ、ミルファさん。それに、わたしはまだ負けたつもりはないからねっ!」
 春夏の言葉を受け、このみは薄い胸を張ってリベンジ宣言をした。
「そうそう。まだ初戦が終わったところです」
「今度はちゃんと自分で作った料理で河野さんに美味しいって言ってもらいますから」
 優季とささらもどうやら負けを認めるつもりはないらしい。
 特にささらは『まーりゃん先輩の口車に乗って持ち込みカレーで勝負してしまった』事を悔やんでい
るらしく、いつか料理を覚えて再挑戦したいと意気込んでいるようだ。多分、貴明がささらの手作りサ
フランライスとステーキに喜んだ事が影響を与えているのだろう。
「次はバレンタイン決戦ですよ〜〜。うふふ〜〜、お菓子ならあたしは大得意ですよ〜〜」
 早速次の勝負のゴングを鳴らそうとしてしまうのは愛佳である。
端で聞いている郁乃は「今日の見たら出来レースだってわかりそうなものだけどね〜〜」とあきれて
いるようだが。
「ばれんたいんちょこの材料いうと、カカオ取り寄せるといいんか〜〜? 瑠璃ちゃん」
「……さすがにカカオからはよう作らんわ」
「じゃあベルギーからチョコ取り寄せませんか??」
 それを聞きつけた姫百合家は、すでにバレンタイン作戦について話し合いをはじめていた。

「まぁ、今回は譲っておくわ。さすがね、ミルファ」
 そっとミルファの肩を叩くと、環はそう言って彼女の労をねぎらった。
「いえ、お母様に教えて貰ったレシピのおかげです」
「それを教えて貰えるのもあなただからでしょう? おばさまの信頼を得て、タカ坊を任されていれば
 こそなんだからね」
 ミルファはその言葉に、照れくさそうな微笑を返して答えとした。
「そうだ、ミルファちゃん。明日、私お父さんの出張について行かなきゃならないから、このみを泊め
 てあげて貰えないかな。そしたらこのみ、ミルファちゃんに必殺カレーの作り方を教えてあげて」
 そんな中、春夏は急にぽんと手のひらを叩くとミルファにそう提案してきた。
「スパイスの調合も教えていいんだっけ?」
「いいわよ〜〜。ミルファちゃんとの約束だから、秘密のコツも全部教えていいからね」
 春夏はにっこり微笑んで人差し指を唇に当てた。
466決戦!の中の人の携帯:2008/02/09(土) 12:42:44 ID:X6EPtqQlO
またまたさるさんに捕まりました……。
あと二つだったというに、がっくりです(T_T)

しゃあないので夕方また投下しに来ます〜〜。
467名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 13:10:27 ID:PilIWENN0
夕方の部に期待
468名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 13:23:23 ID:8HHKMdD40
文章が長いので「窓の中の物語」使用推奨かな
と思ったらソフト作った人HP閉じちゃったんだね。ぐぐると再配布してる所は出てくるが
469名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 13:31:05 ID:9RGf7q7Z0
展開というか、母の味は強しって流れが前のカレーSSと同じ・・・だよな?
キャラの配置は違うけど、料理勝負って部分もかぶってるし
テーマ指定の弊害がこんなところに現れるとは
470名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 13:41:14 ID:bgf8A6QS0
>>469
まぁテーマがかぶってる以上多少はしょうがないわな
個人的には作る人によって全然違うから面白いと思う
471名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 13:41:36 ID:8HHKMdD40
>469
ってか>361>389だろ? 別に弊害でもなんでもない。少なくとも俺にとってはね
472名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 14:56:08 ID:LzIDSmL00
逆に考えるんだ
そのほうが様々な対決とカレーを見られると

しかし対決シリーズは面白いな
そのうち料理以外にも何かやらせてみたいもんだな
 このみは大きく頷くと陽だまりのような笑顔になる。
 つられるようにミルファも元気を取り戻し、このみの手をとって大きく上下に振った。
「わかりました! このみちゃん、じゃあ明日は一緒にカレーだね!」
「うんっ! 楽しみだよ! えへへぇ〜〜♪」
 このみのちいさなおさげと桜色のリボンが揺れる。
 ミルファのきれいな赤い髪もそれに合わせるように大きく揺れていた。
「明日の夜もカレーなのか……」
 それを聞きながら、誰知らず溜め息をつく貴明であったが……
「なに言ってるの? タカ坊。あなたには全然十分に食べてもらってないんだからね。そうね、折角取
 り寄せた麺がもったいないし、明日の昼食は私が作ってあげようかしら」
「そうですよ〜〜、河野くん。あ、あたしのはおやつですから〜〜、10時とか3時とかにちょっとつ
 まんでいただければ良いですからね」
「ウチでお取り寄せした伊勢海老もあるで〜〜。そや! 今日はウチと瑠璃ちゃんで伊勢海老カレー作
 りに行ったるな。みっちゃんのカレーと二つくらいなら貴明食べれるやろ」
「瑠璃様、珊瑚様、私とシルファちゃんもご一緒してもよろしいですよね??」
「もちろんや〜〜! みんなでらぶらぶやぁ〜〜♪」
 ……どうやら明日の夜がどうこう言っている場合ではないようだった。

 勿論、さわやかなハイテンションとはかけ離れたテンションで騒ぐ連中もいる。
「料理勝負はんたーい! ゲームとか……フットサル対決とかっ!!」
「そういうのならアタシも参加するッス〜〜!」
「……フットサルさんせい……」
 料理が得意とはいえない、というかむしろ出来ない由真やチエなどは別の勝負をやりたがっていた。
 サッカーが得意なシルファもさりげなく同調している。声は小さいのだが。
「あれ? 由真先輩も貴明争奪戦に参加したいんですか?」
「ぅえっ!? な、なに言ってるのよ、そーいうのじゃなくて、ほら、皆楽しそうだから……」
 しかし、郁乃の鋭いツッコミにいきなり苦しい立場に立たされてしまうあたりいかにも由真である。
「はいはい♪ そういう事にしておきましょう」
「な、なんなのよその生暖かい視線わぁ〜〜っ!!」
 郁乃の尻馬に乗って由真をイジって遊ぶ愛佳、という構図も最早おなじみである。
 そんな喧騒の中、貴明はというと……
「はぁ……もう勝手にしてくれ……」
 がっくりと疲れていた。
 そしてミルファは満面の笑みを浮かべながら貴明の腕にすがり付いていた。
「えへへ……。誰にも、負けないんだから!!」




 その頃。
 人気のない生徒会室で悔しがるちびっこの姿があった。
 手元には『裏トトカルチョ』の文字の入った手帳が握り締められている。
「うぬぅっ! ラーメンとエビとお菓子に騙されてさーりゃんに点入れるの忘れるとわぁっ!「まー
 りゃん先輩〜、賭けチケットを頂きに来たんすけど〜〜」くうっ! こ、これで勝ったと思うなよ
 おぉぉ〜〜!!」
「うわあぁぁぁ〜〜っ、窓から逃げたぞ〜〜っ!」
「追え追え〜〜っ!!」
 そして誰にも知られることのないもう一つの戦いの幕が、密かに切って落とされた。

 ……その後まーりゃん先輩がどうなったのかは、想像にお任せする。


                  〜〜終わり〜〜
475『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』の作者:2008/02/09(土) 15:59:33 ID:/90TNzlZ0
以上にて『決戦!バトル・オブ・ザ・カリー』、ようやく終了になります。
支援の数々ありがとうございました。

>>471さんのご指摘のとおり、これは以前>>361>>389で話していたものです。
二番煎じだな〜〜というのは自分でも気になっていたのですが、折角練ったネタだったので思い切って完成
させてみました。……ちなみに、初期タイトルは『華麗なる決戦!』でしたw
まぁ、バトルでカレーで決着を何で付けようか……となれば私の脳みそはこれ以外思いつきませんでした。
ちょっとでもこの作品で楽しんでいただけたら幸いです。
476名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 16:40:10 ID:PVN2rqKi0
乙乙。楽しめたよ。

キャラの多いバトルロイヤルを良く書けてるし、やりとりも賑やかでいい。文章も巧いと思う。
そういう力量のある人だという前提で、敢えて幾つか苦言というか、希望を。

まず長い! この話なら少なくとも半分、できれば3つくらいに区切ってくれ!
横書きだと文字を追うのも大変で、窓の中の〜で縦にして読んだけど、全体は把握しきれんかった
SSで「長さ」は無条件で読み手に対するハードルになるから考慮されたし

その2。オチが上の「華麗なる〜」と同じなんだけど、
「華麗なる〜」は、
貴明が食べて「あれ?」→草壁さんが「昔遊びに行った時に〜」と理由を説明する流れで、
草壁さんと貴明が幼馴染みだという公式設定を利用しているのに対して、
「決戦!〜」は、
食べて貴明が「昔食べたんだよね」と独白→ミルファが種明かし、
で、母親に電話で聞いた、という理由。
河野母とミルファが電話する仲というのがやや唐突で、
(「必殺!〜」の6/13あたりを読めば想像できなくもないけど……)
比較すると流れの自然さと説得力で『華麗なる〜」の方が上だったと思う。

その3。これも「華麗なる〜」との比較。
「華麗なる〜」は目前で食えなかったり激辛だったりと道中に変化があるのだが、
「決戦!〜」の方は淡々と食べるので素直過ぎる気もする。その2と併せて、も少し工夫の余地がありそう。
(せっかくだからカレー全部食べたいという願望は叶えてくれたのだがw)

その4。至って個人的な感覚だが、ささらが他人のカレールーを使うのは不満。手作り感が欲しいぜ。

比較されるのは両作者に不本意かも知れないが、
せっかく同じテーマで同じ展開の作品を続けて読んだので、今後の参考になればと。

じゃあお前が書けって言われても俺にそんな力量はないから勘弁なw
477名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 17:22:42 ID:uAcx9a5U0
らっきょう支援
478名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 17:49:50 ID:uAcx9a5U0
うわっどじったあ
479名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 18:23:00 ID:bgf8A6QS0
>>475
乙。自分は被りとか関係なく楽しめました

>>476
長々と丁寧に書いてもらったとこ悪いんだが、

>比較されるのは両作者に不本意かも知れないが、

そう思うなら比較しないで書けば?その2なんかただ「唐突過ぎた」で終わる話だし
その3も「淡々としてて素直過ぎると思った」でいい。わざわざ比べる意味が分からん
480名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 19:30:34 ID:LXZOQ87T0
>>475
おつかれさまでした!
俺はカレー対決が終わってからの数レスが一番楽しかったッス。つか、それ以外がちょっと微妙だったw
多分前のカレーSSと被らないように気をつけたんだと思うけど、そのせいで全体的に捻りすぎの感があった。
これじゃカレー対決の話ってより、料理の説明の話になっちゃってる感じだな〜。
文章はいいと思うし、キャラの捉え方も上々だから、あとは注力する場所さえよければ文句なしかも。
次回作はもう少しキャラのやり取り重視っつーか、それ中心の話読んでみたいッス。

>>479
ホントにそう思うなら「被りとか関係なく」なんて書かないで、楽しめたってだけ書けばいいだろ…w
あと感想レスに突っ込むのはこれっきりにしてくれな。意味ねーし荒れる元だから。
481名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 20:12:56 ID:xVchMPdn0
比較されるとなると皆書きづらくなるな
482名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 20:22:58 ID:PilIWENN0
ここはSSコンペスレじゃないんだから
好きなように書けばいいと思うのれす
483408:2008/02/09(土) 20:36:35 ID:ANkbXc1R0
>>475
乙でした
華麗〜の中の人です

全体的にキャラの描写が良くてテンポよく読めるという印象で、楽しく読めました。
でも自分のときもそうだったのですが、長いとさるさんの分断が痛い
長文は苦じゃないんですが、調子が乗ってきた所でちょん切れちゃうので…
書庫に保存されたらまた改めて読みたいと思います。

>ちなみに、初期タイトルは『華麗なる決戦!』でしたw
俺もタイトルについてはすでに世に出ている「華麗なる〜」のタイトルの漫画があるのでそれの影響がw

ちなみに、同じネタが被ると比較されたりして書きづらいという意見もありますが
個人的には同じテーマで書くというのは、自分はこう料理するけど、他の書き手さんはどう料理するのか?
とかの楽しみがあって、結構好きなんですけどね。
484名無しさんだよもん:2008/02/09(土) 20:38:18 ID:ANkbXc1R0
うわ
他のとこのコテ残ったままだったわ
スマソ
485475:2008/02/09(土) 23:30:13 ID:/90TNzlZ0
や、比較されるの覚悟でうpしたんで、ある意味望むところですよ。

料理SSになっちゃってるのは作者自身が作るの好きってのが大きいっすねw
何せ必殺カレー以外には全部モデルありますし。
まぁ、きのこカレー以外は面倒なんで最近はよう作らんですがww
だから出場選手も「出来そうな子」に限定したんですよ。

>>476さん
ささらって対決出来るほどの料理の腕ありますかね〜〜??
これは俺も悩んだんですけどね、ささらって手作り料理苦手がで食に淡白なキャラでしょ??
だからマニュアル通りしか作れない→ルーはプロに(と、まーりゃん先輩にそそのかされた)
ってしてみたんだけど。


それにしても。
AD出るまではよう書かんと思ってましたが、最近は少し書きたい気分かもw
486指先 1/2:2008/02/10(日) 00:27:37 ID:N9LA7kKx0
「あっ…」
 俺の指がそっと触れた瞬間、愛佳の声が漏れた。
「そ、そこはだめぇ…」
「…他の場所がいいの?じゃあ…」
 俺はそこから指を離すと、少し離れた別の場所に触れた。
「や、そ、そこも…だめぇ…」
「…それじゃ俺が困るんだけど。」
 今度は愛佳の言葉を無視して触れた人差し指にわずかに力を込めると、ゆっくりと手前に向かってなぞるように動かした。
「あ…や…」
 愛佳は何か言いかけて、次の瞬間はっとして口を押さえた。
 その間も、俺の指先はわずかな抵抗を感じながらもするするとゆっくり滑っていく。
「…」
 愛佳は口を押さえたまま、俺の指先を凝視していた。
 俺の指先はやがて末端にたどりついたが、深く落ち込んだその場所まで構わずなぞりきった。
「…!」
 凝視し続けていた愛佳の大きな瞳がそれを見届け、「それ」が視界から消えるのと同時に声に出さずに小さな悲鳴を上げたようだった。
「まだ続けていいよな?」
 俺はそう言いながら、先ほど拒否された場所へと人差し指を伸ばした。
「はゎ…だからぁ…そこはだめぇ…」
 俺は無視して人差し指で触れた。
「あ…!」
 またしても小さく悲鳴を上げそうになった自分の口を、愛佳は咄嗟に押さえた。
 俺は先ほどと同じようにわずかに指先に力を込めると、再びゆっくり手前に向かってなぞるように動かした。
「…」
 愛佳もまた、先ほどと同じようにその大きな瞳で俺の指先を凝視している。
 過剰な力を加えないように、あくまでやさしく、慎重に指先を動かす
 そして…先ほどとは違う末端にたどり着いた指先は、再び深く落ち込んだ部分までなぞりきった。
「や…」
 愛佳はそれを見届けながら、再び小さな悲鳴を上げた。
「じゃ、もう一度だな。」
 俺の人差し指が、新たな部分に触れた。
 だが今度は先ほどよりもやさしく慎重にふれなければならない…デリケートな場所だ。
487指先 2/2:2008/02/10(日) 00:28:10 ID:N9LA7kKx0
 俺はそこへと指を伸ばし…

 カタッ

「あ、音鳴ったわよ。お姉ちゃんの番ね。」
「はうう…こんな難しい場所ばかりだとあたしには無理だよぉ。」
 そう言いながら愛佳は人差し指をゆっくりと…将棋の駒の山に伸ばした。

                      ◇

「将棋崩しは俺の勝ち…っと。愛佳には何してもらおうかな。」
「お、お手柔らかにね…」
 書庫の給湯室からティーポットを手にして戻ってきた愛佳は苦笑いしながら答えた。
「それにしても…」
「んー?なぁに、郁乃ぉ。」
「さっきの貴明とのやり取り…言葉だけ聴いてるとなんか恋人同志がベッドで乳繰り合ってるみたいだったなと思って。」
 別段たいした事でもないような口調で言った郁乃のその言葉に、愛佳の顔は瞬時に真っ赤に染まった。
「い、いっ、郁乃ぉ!」
 俺も言葉を失っていると、意地の悪い笑みを浮かべた郁乃が追い討ちをかけてきた。
「なによ…恋人同士の癖にやってないの?…そうだ、貴明、やってみれば。じらしプレイ。」
「お、おいおい。」
 俺がそれを受け流そうとして愛佳を見ると…なぜか熱っぽい視線で俺を見ていた。
「たかあきくん…やってみたいの?」
 愛佳のそう問われると…俺だって男だ…かわいい恋人の痴態を見たくないといえば嘘になる。

 しばらく迷って…俺は答えを口にした。
「俺は…」
488名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 00:28:37 ID:N9LA7kKx0
思いっきり思い付きですw
それ以上でもそれ以下でもありません

貴明がなんと答えたかはお好みでどうぞ
489名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 00:30:00 ID:/qGk6KVj0
何かアンソロコミックで似たようなのあったなw
あれはあやとりだったけど

なにはともあれ乙&GJ
490名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 00:30:18 ID:WCUAh4se0
そして松葉崩しへ
491名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 07:17:39 ID:xN4EqTmP0
わっふるわっふる
492名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 10:46:12 ID:hgPbc6kyO
途中で落ちは読めたが、それなりに楽しめた。GJ
493名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 10:48:04 ID:hgPbc6kyO
下げ忘れてた…
494名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 14:15:59 ID:EfKtN9TqO
GJ。ワロタというより萌えた
>490
そして積み木くずしへ・・・古いかw
495名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 18:01:09 ID:/qGk6KVj0
本編であまり絡みの無い2キャラで何か書いてみようと思う
というわけで組み合わせお題プリーズ
あまり出番の無いキャラは勘弁な
496名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 18:12:09 ID:inw4Jtx30
じゃあ由真と瑠璃で
497名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 18:46:18 ID:xN4EqTmP0
由真と瑠璃のツンデレ対決
498名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 18:56:14 ID:/qGk6KVj0
由真と瑠璃か、共通点は来栖川とツンデレってとこかぁ…
499名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 20:31:39 ID:5CAVkcV30
逆に、普段怒らないけど怒ると怖い(と思われる)キャラでSS作るとしたら、
珊瑚とかこのみとか愛佳とかあたりかな?
500名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 21:06:30 ID:PvKcpOup0
草壁さんとイルファさんにダブルでお仕置きされたい
501名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 21:07:35 ID:X7Ajznvc0
このみや愛佳だとなんとなく病みそうな悪寒w

珊瑚パターンは難しいなぁ。思いつけばいいネタになりそうね。
502名無しさんだよもん:2008/02/10(日) 21:17:31 ID:Zn2KD7ZP0
やさしくジワジワなぶられるのがいいなぁ
503名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 00:23:58 ID:rck6u3FOO
流れに逆らうえ、どうでもいいんだが、このスレ見て久々に東鳩がやりたくなって近所のブックオフで買ってきた。

初日のこのみがスキヤキ持ってくる時の春夏さんの伝言に耐えれず、カフェオレ吹いたら、PS2が逝った…
504名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 00:28:15 ID:KHWL++sD0
それはXRATEDを買ってプレイせよという神のお告げだよ
505名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 02:14:14 ID:rck6u3FOO
リンドウズとか云う意味の分からんOSが入ってるジャンク品同然のパソコンでどうしろと
506名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 11:22:39 ID:1YpYhH2s0
>>505
Linspireか。Winとの互換性が売りだったらしいが、どうなのかな
とりあえず東鳩とかくらいならWINEっていうソフト使えば動くと思う
興味が有ったら調べてみて、体験版が動くかどうかやってみるといい
507名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 21:34:26 ID:BznnBlh90
由真&瑠璃物できたから投下する
長さは5レスほど

相変わらずオチや起承転結無しでございます
508好敵手という存在(1/5):2008/02/11(月) 21:35:46 ID:BznnBlh90
某月某日。
普段は絶対着ないドレスパーティに身を包んだ由真が、やたら煌びやかな装飾が施された会場の片隅で退屈そうに壁に寄りかかっていた。

「…はぁ、早く終わらないかな」

この日、由真は来栖川主催のパーティにお呼ばれしていた。
いや、正確には来栖川グループの執事を務める祖父の付き添いであるのだが。
いずれその立場を継ぐ身(反抗してはいるのだが)である由真も今のうちにこうゆう場に慣れておけと祖父に申し付けられ
半ば強制的に同行させられたのである。
と言っても退屈な物は退屈、元々執事など継ぐ気のない彼女にしてみれば退屈すぎて死にそうな祝い事でしかない。
ロクに会った事すら無い親戚のお葬式に行く様な物だ。不謹慎だがそう思ってしまうものはしょうがない。

こっそり抜け出してしまおうか。由真はそう考える。
しかしソレは祖父に迷惑をかけることになる。
家業を継げと煩い祖父ではあるが、自分の身勝手で迷惑をかけるのは流石に忍びない。
せめて話ができるような知り合いでもいれば退屈くらいは紛らわせられそうなのだが。

「いるわけないわよねぇ…」

一縷の望みを託し会場を見渡してみるがそんな人などいるわけがない。
そんな事を考えてしまったが最後、退屈はますます由真の精神を蝕んでいく。
509好敵手という存在(2/5):2008/02/11(月) 21:36:21 ID:BznnBlh90
このままでは退屈に押しつぶされてしまう。
ならばせめて楽しい事を考えよう、そう由真は結論をつける。

愛佳と書庫で紅茶を飲みながらおしゃべり。
街でショッピング。
貴明との勝負…って何でそこであのバカが出てくるのよ!
無意識に出てきた喧嘩友達(少なくとも由真はそう思っている)の名に、由真は激しく狼狽する。
おのれ、この場にいなくても私の邪魔をするか…!由真は例によって例の如く貴明に責任を押し付け思考を元に戻す。
いかんいかん、もう一度もう一度…。

好きな映画をみた事。
愛佳と街に遊びに出たこと。
貴明とゲーセンで対戦したこと…だからぁ!

由真の思考が終わりの無いループに突入しかけたその時、会場の出入り口の扉が重い音を立てて開いた。
誰か新しい来訪者が来たようだ。由真は誰だと思いその方向をみる。
果たしてそこに居たのは…。

「…貴明!?」

突然現れた知り合いに由真はつい大声を出してしまう。
何だ何だという周りの視線が突き刺り由真は軽く赤面する。
くっ、またアイツのせいで恥かいたじゃないの!
実際は貴明のせいではないのだが由真にとっては最早そんな事どうでもよい。
由真はパーティドレスを着ているのも忘れて貴明の方向めがけて走っていく。
先ほどの大声もあって貴明は既に由真に気づいていたようで、顔を軽く引きつらせている。
510好敵手という存在(3/5):2008/02/11(月) 21:36:59 ID:BznnBlh90
「ゆ、由真。何でこんな所にいるんだ?」
「親戚に来栖川関係者がいるのよ!アンタこそ何でこんな所にいんのよ!」

世界有数の大企業来栖川グループのパーティ会場をこんな所呼ばわりする二人。
まぁ庶民的な心を持つ二人には充分こんな所なのだろうが。

「俺は、えっと来栖川グループがメイドロボの開発に力をいれてるのは知ってるよな?その試作機がウチに下宿してて…開発者から招待されたんだよ」

こんな所で出会うとはなんと言う腐れ縁なのだろうか。
まぁいい、今までの恨みまとめて晴らしてくれる。由真はそう考えるや否や、貴明に人差し指をビシッと突きつけ宣言する。

「とにかく、ここで会ったのも何かの縁よ!今日こそ引導を渡してやるわ!」
「ちょいまち!」

由真が宣言すると同時に誰かがそれを遮ってきた。
誰よ邪魔をするのは。由真が声がしたほうを振り向くと髪の毛を団子にした女の子がこちらを睨んでいる。年は自分より若干年下というくらいか。

「な、何よアンタ」
「バカ明に引導を渡すのはウチや!どこの馬の骨かも知らんアンタにそれをやらせるかい!」

由真と同じように人差し指を突きつけビシッと宣言する女の子。
一方馬の骨呼ばわりされた由真は反論を試みる。

「あんたこそ何よ、このバカを倒すのは私よ!」
「ウチや!」

私よ!ウチや!不毛なやりとりをする二人。
一方、ちっとも嬉しくない取り合いをされている貴明は少し焦っている。
二人が大声で言い争いをしている物だから、すっかり周りの注目を集めてしまっているのである。
とりあえず静めたほうが良さそうな気がする。
511好敵手という存在(4/5):2008/02/11(月) 21:37:31 ID:BznnBlh90
「あの…二人共」
「「貴(バカ)明は黙って!」」

ハモりながら怒られてしまった。
どうしたものかと悩んでいると後ろから誰かに肩を叩かれた。
後ろを見てみると珊瑚がニコニコしながら貴明を見上げている。

「止めなくても良いと思うで〜」
「な、何で?」
「見てればわかるぅ」

大丈夫かなぁ…。貴明が視線を戻すと二人の言い争いはますますヒートアップしている。

「こうなったら勝負や!どっちがバカ明を倒すのに相応しいか勝負や!」
「望む所よ!」

そう言うや否や二人は会場の扉をドカンと開けて外に出て行ってしまった。
放っておいて大丈夫なのだろうか。
チラと珊瑚を見ると相変わらずニコニコしている。
本当に大丈夫なのか…。貴明は不安になる。

「大丈夫なの?本当に」
「このほうがいいんやー。瑠璃ちゃんにも友達できるしなぁー」

友達?あれが?
貴明は疑問に思うが、ふと由真と自分の関係を思い出す。
一言で言えば喧嘩友達、いがみ合ってはいる物の勝負している時は何だかんだで楽しいと思う。
あの二人もそうだと言うのだろうか?
512好敵手という存在(5/5):2008/02/11(月) 21:38:03 ID:BznnBlh90
「瑠璃ちゃんはウチのせいで友達あまり作れへんかったからなぁ」
「そう言えば由真も普段は大人しいって愛佳が言ってたっけ」

以前愛佳が言っていた。
由真は普段は眼鏡をかけていて大人しい子であると。
最初それを聞いた時貴明は信じられなかった。
しかし由真と交流を重ねるうちにそれが本当であることを知った。
由真には自分のように自分をさらけだせる相手が丁度良いのかもしれない。たとえ表面上はいがみ合っていても。

「なら両方の為になるやないかー。めでたしめでたしやー」
「俺からしたら心配事が増えるだけなんだけどな…」

とは言いつつもそれ程悪い顔はしていない貴明。
扉の外からはドタバタと人が駆け回る音が聞こえる。おそらく二人だろう。
これが切欠に二人がもっと良い方向に進むことに比べれば自分の心配事など小さい問題なのだろう。
貴明はそう結論づけることにした。

扉の外からは、相変わらず騒がしくも楽しそうな喧騒が繰り広げられる音が響いていた。
513名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 21:40:15 ID:bIyQsA8M0

だが、ちょい短すぎだな
514名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 21:40:22 ID:BznnBlh90
以上、というわけでオチ起承転結なしでお送りいたしております

苦情はうけつけるが反省はしていない
515名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 22:22:26 ID:FmTGB/HO0
乙。こういう引き合わせ方があったか。上手いな

しかし確かに物足りない。せっかく由真と瑠璃と珊瑚がドレスを着ているのに。

少なくとも、誰か一人はサービスで脱ぐべきだろう。常識的に考えて
516名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 22:24:58 ID:o0VOoLox0
>>514

もうちょい捻ればおもしろいかと…
でも、個人的にはこういうのが好みです。
517名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 22:35:25 ID:FmTGB/HO0
あ、あと「きっかけ」の漢字は普通は「切っ掛け」を使う希ガス
「切欠」は(用法として皆無かどうかは分からないが)切片とかそういう意味が主な筈。あと地名
いや、漏れはどっちでもいいんだけどね。>200でも引っかかってたので。細かい事失礼
518名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 23:01:25 ID:wjh/2pXV0
乙。

書き慣れてるが故の弊害ぽいんだけど、一人称と三人称はキッチリ分けて使った方がいいと思う。
確かにプロにも混ざった独特の文体の人はいるが、ああいうのは普通ルールを決めて使ってるから。
ちゃんと主体を定めたりとかね。

細かいかもしれんが気になったので。
519名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 23:27:33 ID:1YpYhH2s0
>>514
乙。短いが楽しめたよ。瑠璃の加勢に入ったイルファさんが〜とか、その気になれば
広げられそうだな
520名無しさんだよもん:2008/02/11(月) 23:45:23 ID:BznnBlh90
感想サンクス、次回に生かさせて頂きます

短いとか捻りが少ないってのは正直感じてました。
あとイルファを絡ませるのは考えていましたが収集つかなくなりそうなのでやめておきました。
521名無しさんだよもん:2008/02/12(火) 00:43:27 ID:Xdg9fV8o0
確かに、イルファさんを絡めると何故か収拾が付かなくなるよなぁw

なにはともあれ>>520にGJ&乙。
短い割には接点のなさげな二人を上手く絡めててなかなか面白いなー。
まぁ、贅沢を言えばちっとオチが物足りなかったかな??
そんな感じれす。
522名無しさんだよもん:2008/02/12(火) 01:54:25 ID:Xdg9fV8o0
そーいえば、今>>499の流れで珊瑚ちゃんを怒らせてみようかと画策中。

……しかし今んトコ何故かシルファが目立っているのは何故??
ともあれ出来上がったら投下させて下さいね。

こーやって自分を追い詰めないと時々筆が止まる自分の弱さが……orz
523名無しさんだよもん:2008/02/12(火) 02:03:08 ID:tEvS4lsf0
産みの苦しみってやつかぁw
雑談をよしとしない傾向はあるけど、創作の気分転換になるならどんどん書き込んでください
いつまでも待ってますよ〜
524『珊瑚ちゃん、怒る!?』:2008/02/12(火) 21:47:17 ID:Xdg9fV8o0
なんだか長くなってきたので、その1を投下して行きます。
予定して切った訳ではないので少々トン切りですが、ご寛恕のほどを。

一応ミルファエンド?後想定のお話です。
525『珊瑚ちゃん、怒る!?』1/8:2008/02/12(火) 21:49:25 ID:Xdg9fV8o0
 ……近頃少しは日が長くなってきたとはいえ、夕刻になれば気温が下がってくる。

 勿論、北国の人間にここいらの人間がそれを愚痴れば『まずなにより装備がなっちょらん!』と怒ら
れるのは必定なのだが、寒いものは寒い。人間とは環境に馴染んで生きていくものなのだ。
 ともあれ。生徒会の雑用をこなすうちに下校が遅くなった河野貴明は、マフラーに顔の下半分を埋め
るように首を竦めながら足早に商店街のアーケードの下を歩いていた。
「……あ、ご主人様発見……」
「ん??」
 衆人環視の場所では滅多に聞く事が出来ない、でももう聞きなれたつぶやきに振り返ると、背後に長
い金髪を三つ編みにした少女がどことな〜く不機嫌そうな顔で佇んでいる。その華奢な身体を覆うのは
柔らかそうなベージュのコートと機能的?で近未来的なメイド服、そして左右の耳には丸くて小振りな
2本アンテナのイヤーレシーバー。
 ……それは貴明を慕っているんだかなんだか今ひとつよくわからない貴明専属メイドロボ?の少女、
HMX−17cシルファの姿であった。


               『珊瑚ちゃん、怒る!? その1』


「やあ、シルファ。晩ご飯の買出しかい?」
「……このくそ寒い中、どしたんれすか……」
 メイドロボにあるまじき無愛想なシルファの態度ではあるが、これでも随分マシになったのだ。
 貴明からすれば、初めて会った頃は殆どというか全く話さなかった事を思うと感動的といっても良い
進歩なのである。……尤も、口を開いたら開いたでとんでもない内弁慶で、『ご主人様はどっちだ?』
と小一時間問い詰めたくなるような規格外メイドロボなのだが。
 まぁ、それでも彼は結構可愛がっているのだから、第三者は何も言うまい。
526『珊瑚ちゃん、怒る!?』2/8:2008/02/12(火) 21:51:08 ID:Xdg9fV8o0
「ああ、つまむ物がなくなったんで買ってこうかと思ってさ。ちょっと飲み物と菓子を」
 ひょいっと左手のレジ袋を差し上げると、中には某真っ黒な炭酸飲料のペットボトルと数種類のお菓
子が入っているのが見てとれる。どれも日頃貴明が喜んで口にしているものばかりだ。
 それを見たシルファはムスッとした顔でこう言い捨てた。
「……ミルファお姉ちゃんは妻失格れすね。今すぐ三下り半を書くべきれす。……本当はめんろくさい
 けど、またシルファが面倒見てあげてもいいれすよ」
 妻とはちょっと違うんじゃないかな……と思いつつも、シルファの真剣な表情に貴明は不要なツッコ
ミは諦め、無難な答えを返す事にした。いちいち憎まれ口は叩くのだが、彼女は彼女なりに自分を慕っ
てくれている……ような気が貴明にはしているからである。
「あ、ありがとうな、シルファ。で、でもまぁ、ミルファもがんばってくれてるし、別にそこまでする
 必要はないかなぁ〜〜??」
 とは言えキング・オブ・ヘタレの名を持つ貴明が『無難そうな返答』などという物をひねり出すと、
どうにも締まらないと言うか、腰砕けの答えになってしまうのだが。
「ふぅん。……じゃあ、その気になったら言ってくらさい。間違ってもイルファお姉ちゃんに言っちゃ
 らめれすよ?? 直接シルファに言うんれすよ??」
「あははは、その時はお願いするよ」
 それでもシルファは大真面目に受け取っているようで、鹿爪らしく貴明に注意をした。そして貴明は
額に大きな汗マークを浮かべながら再び腰砕けの答えを返すのだった。

「……そうら。今日は姫百合のお家で久しぶりにシルファのご飯を食べて行ってくらさい」
 しばらく特に会話もなく肩を並べてアーケード街を歩いていた二人だったが、河野家の方に向かう曲
がり角を目前にしてシルファが口を開いた。そういえば商店街を抜ける間にシルファが手に入れた食材
の量は、珊瑚と瑠璃二人で食べるにしては多過ぎる様にも見える。
 姫百合家で作る場合はエサじゃなくてご飯なんだなーなどと仕様もない事を考えつつも、貴明は自宅
で夕食を用意しているであろう赤い髪の少女の事を思うと気軽に頷く事は出来なかった。
「え? でも家でミルファが晩飯作ってると思うし……」
527『珊瑚ちゃん、怒る!?』3/8:2008/02/12(火) 21:53:09 ID:Xdg9fV8o0
 と、さしものヘタレも断ろうとしたのだが……すぐさま、シルファの細い眉がエアブレーキのような
急角度に吊り上った。そしてす〜っと胸元に顔を近付け、据わった眼でじっと睨み付けてくる。絶妙に
傾けられた首の角度と、への字に曲げられた口元が嫌が応にも貴明の緊張感を高めてくれる。
 シルファの迫力に押され、貴明は「今日は遠慮しておくよ」まで台詞を続けることが出来ずに黙らさ
れてしまっていた。
「お姉ちゃんにはシルファが電話します。……それともシルファのご飯なんて不味くて食べられないっ
 て言うんれすか??」
 そう言うなり、貴明の了承も取らずにシルファは右耳のイヤーレシーバーをぐるりと廻し、アンテナ
状のパーツを口元に向かって引き伸ばした。
 どうやら既にミルファのイヤーレシーバーか河野家の電話を呼び出しているらしい。
「や、そういうワケじゃあ……まぁ、ミルファがいいって言うんなら……」
「ちっ、なんで出やがらないかなあ、もう……あ、お姉ちゃんれすか。またイヤーレシーバー外してま
 したね??メイドロボ失格れすよ?? ……まあ、いいれす。ところで……」
 既にとか、了承も取らずに、の次元ではなく、シルファは全く貴明の言葉を聞いていないようだった。
 いつもの事だが、またしても自分の意思に関係なくコトは動き始めているらしい。貴明は、そう悟る
と心の中で嘆息した。あとは話が妙にこじれないよう、大きくならないよう祈るばかりである。
 ……しかしイヤーレシーバーに向かって話すシルファの挑戦的な言葉の数々を聞く限り、今日も何が
しかの騒動になる事は避けられそうになかった。

「話は付きました。……さ、行きましょう」
 そうこうしている内にイヤーレシーバーを元の位置に戻したシルファは、涼しい顔で貴明に左手を差
し出してきた。どうやら、少なくともシルファの中では(貴明はもちろん、ミルファが納得したのかも
怪しいのだが)貴明の姫百合家訪問が決定したらしい。
「……ん!」
 そして差し出された左手の意図がわからず貴明がぼんやりしていると、シルファは焦れた様に、更に
左手を前方に突き出してきた。
528『珊瑚ちゃん、怒る!?』4/8:2008/02/12(火) 21:55:03 ID:Xdg9fV8o0
「ん? なに??」
 ……しかし、相手はどこまでもニブい貴明である。
 仕方なくシルファは唇を尖らせながら、がっ!と貴明の右手をつかむ。
「手れすよ、手! 寒いし、たまには手を繋いであげてもいいって言ってるんれす」
 更に不機嫌そうに眉は顰められているが、心なしかシルファの頬は赤く染まっていた。
 空気はひどく冷たいのに、繋がれた小さな手からは彼女のぬくもりが伝わってきて、貴明のかじかん
でいた手と凍えていた心を暖めてくれる。
「あ、ありがと、シルファ……」
 ……照れたような貴明の言葉に、シルファはそっぽを向く事を答えとした。
 しかし、彼の手を握る手のひらの温もりがなくなる事はなかった。

                ◇  ◇  ◇  ◇

「おじゃましま〜〜す……」
 さて。シルファに引っ張られるように姫百合家のドアをくぐった貴明が見たものは……
「いらっしゃいませ〜〜。……なによ、手なんか繋いじゃって!!」
 予想外というか当然というか、腕組みをして仁王立ちになっている赤毛のクマさんの姿であった。
 受話器を叩きつけてすぐすっ飛んできた彼女の眼は、しっかり握り合っている(実は貴明は離そうと
しているのだが)二人の手を怒りの炎を宿して見つめている。
「うわっ! ミルファっ!?」
「……寒いから暖めてあげただけ……専属メイドロボとしての務めらもん」
 そして炎は静まるどころか、貴明の間の抜けた狼狽と全く動じずにしれっとしているシルファの態度
によって更に激しさを増していき、
「うわってなんなのよ、うわって! いきなり『今晩ご主人様の面倒は姫百合家で見ます』とか言われ
 て、大人しく『はいそうですか』なんて引き下がれるわけないでしょう!? んもう、旦那さまの妻
 は私だけなんだからーっ!!」
529『珊瑚ちゃん、怒る!?』5/8:2008/02/12(火) 21:57:10 ID:Xdg9fV8o0
 赤い髪を燃え上がる炎のように振り立て、ミルファは大爆発していた。
 その様子に、誰が妻だー!とか、こんなトコで旦那さま言うなー!とか、色々言いたい事のあるはず
の貴明であったが、結局口から出た言葉はというと……
「ちょ、おま、こんなトコで……」
 たったこれだけであった。
 キング・オブ・ヘタレの名は伊達ではない。
 更にそこへ、リビングからドタバタの一部始終を見守っていた姫百合家のほかの面子が介入を開始し
て来た。しかしこの混乱した事態を収拾するためなどでは勿論、ない。
「おい、旦那さま。玄関先でいつまで痴話喧嘩やってる気ぃーや? えーかげんにせえ」
 腕組みをしながら二人にブリザードのような冷たい視線を送る瑠璃は、心底呆れ顔だ。
「あ〜〜っ、旦那さまや〜〜っ。るぅ〜〜♪」
 両手を挙げ、いつもと変わらぬ?不思議の国の挨拶をする珊瑚は貴明の突然の訪問を心底喜んでいる
ように見える。そして、
「お帰りなさいませっ、旦那さまぁ〜♪ お食事になさいます?? お風呂になさいます?? それと
 も、ワ・タ・シ??」
 とてもいい笑顔でしなを作るイルファは、もう心底楽しそうである。
 そしてピクピクと額に青筋?を立てる妹をさらに煽るように大仰に貴明にすがりつくと、見せ付ける
ようにスリスリと腰回りに頬ずりをしている。
「ああんっ、最近旦那さまのお渡りが少なくってぇ、イルファとっても寂しかったですわぁ♪」
「ムキィ〜〜〜ッ!! 姉さん離れて離れてぇ〜〜〜っ!!」
 そんなイルファの精神攻撃にミルファは恥ずかしいやら腹が立つやら……もういかにもジタバタせず
にはいられない!という感じである。そして貴明はというと……
「……もう帰る」
 彼のか細い神経は、とてもではないがこれ以上この環境にいる事に耐えられそうになかった。
 ……だがしかし。サバトから脱出するため貴明は踵を返そうとしても、がっちりとシルファの左手に
捉まえられていてどうにもならない。というか、商店街からずっと手を離さないのである。
530『珊瑚ちゃん、怒る!?』6/8:2008/02/12(火) 21:59:07 ID:Xdg9fV8o0
「……ダメ。今日は帰さない」
 無表情のまま、シルファは貴明の脱出の意思を却下した。
 そう。貴明が修羅場に巻き込まれる運命は商店街でシルファに会った時、既に決まっていたのだ。
 もしかしたらそうではないかと思っていたが、やはりだったのか……貴明は今日もまた、無性に祈り
や願いを聞いてくれる何かが欲しくなる自分を感じていた。
「いい加減その手を離しなさいっ! シルファ〜〜っ!!」
「……や」
 その二人の様子に再びミルファがキレる。……しかしシルファはそんなミルファの叫びにもどこ吹く
風で、見事なまでの知らん顔を決め込んでいた。

                ◇  ◇  ◇  ◇

 寸刻後。
 さっきまでの騒ぎが嘘のように、姫百合家のリビングは落ち着いた雰囲気を取り戻していた。
 珊瑚は先日買って来たばかりのサスペンス風サウンドノベルゲームに夢中になっており、イルファと
シルファは夕食の用意をするため、台所で一緒にパタパタと働いている。さっき、散々な目に会わされ
たミルファだけは未だにイジケているようで、居間の座卓の前で胡坐をかいている貴明の背中にぺった
りくっつき、背中を丸めて座っている。
 そして瑠璃はというと、貴明と一緒に座卓に座り、一枚のプリントを前にずっと考え込んでいた。
「ねぇ、瑠璃ちゃん。さっきからずーっと難しい顔してるね。全然筆が進んでないようだけど、なんの
 宿題なの?? 俺にわかるようなら見てみようか??」
 彼女の重苦しい雰囲気から、なまじの詰まりっぷりではないと見て取った貴明は、お節介とは思いつ
つも助け舟を出していた。珊瑚やイルファがいるのに出張る事ではないのかもしれないが、とはいえど
こか危なっかしい所のある瑠璃を放っておくような真似は、貴明には無理なのだ。
 そんな心配そうな貴明をじっと見返すと、瑠璃は溜め息をつきながらそのプリントを貴明の前に差し
出した。
531『珊瑚ちゃん、怒る!?』7/8:2008/02/12(火) 22:01:10 ID:Xdg9fV8o0
 そのプリントには『第一回進路希望アンケート』のタイトルが印字されている。
「進路希望? ……ああ、2年生になった時のクラスを決める参考にしたり、指導の資料にするための
 アンケートって言ってたっけかな。そういえば去年書いたなぁ」
「そや。……でもなぁ、ウチはアホやし、進路とか聞かれても困るねん。ウチはずっとさんちゃんの世
 話が出来ればそれでええんやけど、でもセンセはそーいうんは進路とは別や!って言わはるん」
 そして瑠璃は座卓に頬杖を突くと、俯いてまたひとつ嘆息した。
「とにかくなんか書け言うんやけど……ウチ得意な学科とかなんもあれへんし、やりたい仕事がある
 わけでもない。せやからなに書いたらええか、さっぱりわからへんのや」
「なるほどなぁ……」
 そういう事なら瑠璃が悩むのも当然かもしれない。
 仲の良い友人とは言え、さすがに他人の進路に軽々しく口を挟むわけにも行かず、貴明はう〜むと腕
組みをすると答えに窮してしまっていた。
 しかし考えてみると、特に希望がないのなら適当に何か書いてお茶を濁せばいいだろうに、いい加減
な事が書けず真剣に悩んでしまうのはいかにも瑠璃らしかった。良くも悪くも、瑠璃は真面目でいい娘
なのだ。
 そのような事を考えていると、貴明にはベストではなくともベターな道が見えてきた気がした。
「そうだよ。つまり瑠璃ちゃんの長所や短所から、どんな仕事や大学に向いてるか、そこのトコを考え
 れば良いんだよ」
 今は特にやりたい事が無くても、性格的な向き不向きから方向性の目処くらいは立てられるのではな
いかと思ったのである。実に当たり前の事だ。それにこれならば別に瑠璃に何かを押し付ける事なく自
分にもアドバイスらしい事がしてやれる……貴明はそう考えた。
「……ウチのいいトコってなんや??」
 それまで力無く視線を落としていた瑠璃だったが、その言葉に軽く顔を上げると貴明に質問した。
 しかし、貴明が顎を撫でながら考えを纏めていると、悩む彼よりも先に、というか間髪入れず、
「とってもお優しくて、とってもツンデレさんで、とっても可愛らしいところですわ♪」
 ダイニングキッチンから顔をのぞかせたイルファが喜々として答えていた。
532『珊瑚ちゃん、怒る!?』8/8:2008/02/12(火) 22:03:08 ID:Xdg9fV8o0
 そして『構って構って〜〜!』のオーラを振りまきながら、にこにこと瑠璃の反応を待っている。
 イルファのそんな様子に、瑠璃はぴくぴくと痙攣を起こしそうなこめかみを押さえながら、
「……頭ん中のネジぃ緩んどるボロットには聞いてへんっ!」
 そう即座に切り捨てた。
 もっとも、切り捨てられたイルファの方はというと、
「はぅっ! ひ、ひどいです、瑠璃さまぁ〜〜。……でも、そんな所もス・テ・キですわ」
 それはそれで楽しそうであるのだが。
 イルファが始めて姫百合家にやって来た時の皆の苦悩は、もう遠い日の花火のようである。
「……ええから、料理でもしとってえな……」
「はいっ! 愛情たっぷりのお料理をご用意しますから、もう少しお待ち下さいね♪」
 ぴょこんと可愛らしいガッツポーズを作ると、イルファは再びダイニングに姿を消していった。
 能天気なイルファに戦意を根こそぎ吸い取られ、げんなりしながら結局優しい?言葉をかけるしかな
い瑠璃の様子を眺めていると、貴明の口元はつい緩んでしまう。
「なんや貴明、なにがおかしいんや」
 そんな、彼の生暖かい笑顔を見咎める瑠璃に対して、
「いや、瑠璃ちゃんのいいところって結局そういうところだよなーと思って」
 ……貴明は、なにやら飛躍した答えを寄越してきた。

 話の展開について行けなかった瑠璃は頭上に幾つもの『?マーク』を浮かべるのだった。



                    〜続く〜

533『珊瑚ちゃん、怒る!?』の中の人:2008/02/12(火) 22:10:40 ID:Xdg9fV8o0
こんばんは。

おわかりの方もいるとは思いますが、>>522です。
とりあえず前半(半分か三分の一かはわからないけど)を晒しに来ました。
まだ正体のはっきりしないシルファをがんばってみたつもりですが、いかがでしたでしょうか?
まだ全部は出来ていないのでいつ晒せるかはっきりしませんが、残りも早く完成させるつもりです。

にしても、タイトルの割に珊瑚ちゃんが目立ってないっすね……orz
534名無しさんだよもん:2008/02/12(火) 22:16:24 ID:ot+nKPKy0
乙、なにこれから出せばいいのさ

ほのぼのした感じがいいな
続き楽しみにしてるぜ
535名無しさんだよもん:2008/02/12(火) 22:35:46 ID:nPFx5Kl30
まとめサイトの編集人って誰かしらないけど
「その他ヒロイン」ってどう見てもこのみ母SSしかいないだろ
と個人的には思っていたが(PS版しかやっていないので)
実際には大部分がささらSSでささらSS以外の
「その他ヒロイン」のSSが探しづらいので
数の多いささらSSは個別に分けたほうがよくね?

まとめサイトからこのスレに飛んできているので
検討違いのこと言ってるようだったらスマソ
536名無しさんだよもん:2008/02/12(火) 22:47:06 ID:cuz3mMwe0
>>533
とりあえずの前半でも、これを読んだ自分の心は掴まれてます。
文章から出る、この雰囲気が好きなので、自分も続き楽しみにしてます。
537名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 00:09:49 ID:LDAz6LJT0
確かにささら物やさーりゃん物は分けるべきだと思う

というかもうすぐAD出るんだから項目いくつか増やすのも考えるべきだろうな
538名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 00:37:08 ID:MmBeDgk20
まとめの管理人さんはPS2版からのファンでXRATEDが出ることにショックを受けた一人だったかと記憶してる
その関係でまとめサイトも一時閉鎖してたくらいだし
そのときの名残でヒロイン分類はPS2の頃の分しかなくて、ささらはその他の分類になってたはず

管理人さんにその後の心境の変化が無ければ今後もこのままでしょう

まとめサイトはあくまで管理人さんの好意で運営されている物なので、
管理人さんが対応してもいいと思うのでなければ別にこのままでもいいかと思いますが
539名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 00:39:38 ID:1FhW78oHO
>>537
ささら物とさーりゃん物は同じだと思われw


でもまぁ、確かにAD出たら増やした方がいいだろうなあ。
540名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 00:48:03 ID:LDAz6LJT0
間違えたまーりゃん物だ

そんな経緯があったのか…最近来るようになったから知らんかった
541名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 21:48:43 ID:NLNzOiwd0
普段2chを利用しないのでわかりませんが、これってもう容量ぎりぎりだったりするんですか?
新しいSS書いたけど。
542名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 21:53:24 ID:MmBeDgk20
たしか500kぐらいが上限だったかと
ゆえに480k超えたら次スレ立て推奨

ちなみに今の容量は325k
543名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 21:53:58 ID:eK4JND5D0
>541
500KBまで逝けるからまだ余裕
544名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 22:01:10 ID:NLNzOiwd0
優しいレスをありがとう。
容量ってどこでわかるんだ・・・
とりあえず明日はあの日なのでそれにちなんだSSを数本投下予定しています。
設定が普通じゃないのでとりあえず被ることは無いと思います。
545名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 22:11:07 ID:eK4JND5D0
>544
美容(読み易さ)と健康(鯖負荷軽減)のため、2ch専用ブラウザを使いましょう
なお、投下の際はバイバイさるさん(1時間前後?の間に10レス?を越えて書くと規制)に注意しましょう
546名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 22:54:55 ID:MmBeDgk20
>>544
webブラウザならスレの最後、書き込みのボックスの上辺りに表示されているのが容量

専ブラの場合はそのソフトによるので説明を見ませう
俺が使っているJane Doeではウインドウ最下部のステータス表示部に出てる

あと>>545もいっている通りSSスレは特に専ブラ推奨だな 
投稿時のページ数の見積もりが立てやすくなるし、それに伴って通し番号なども入れやすくなる
547名無しさんだよもん:2008/02/13(水) 23:39:51 ID:9jxa0Gnb0
IEだと
>327 KB [ 2ちゃんねる 3億PV/日をささえる レンタルサーバー \877/2TB/100Mbps]
 ↑
これだね
548名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 06:54:07 ID:gdCSwesP0
327 KB [ 2ちゃんねるも使っている完全帯域保証専用サーバ Big-Server.com ] 30,000円/月
の場合もあるな
549『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』:2008/02/14(木) 17:45:17 ID:0wblyABC0
バレンタインデー?それ美味しいの?という訳で先日の続きを投下して行きます。
ちなみにまだ完結していません……(-_-;)
550『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』1/8:2008/02/14(木) 17:47:50 ID:0wblyABC0
 商店街でシルファに拿捕され、姫百合家の団欒へと強制連行された貴明であったが……
 なんとなく持ち前の優しさ(笑)を発揮して、進路調査のアンケートを前に思い悩む瑠璃の力になろ
うと、彼なりにがんばっていた。

 しかし。

 結構仲睦まじく進行する『貴明の悩み事相談室』の様子を、周囲はとうにロックオンしていた。
 さっきまでゲームをしていたはずの珊瑚の手が止まっている。
 さっきまで丸まって哀愁を漂わせていたミルファは、背中合わせの貴明に気付かれない様、気配を消
して背後の様子を探っている。
 さっきまで盛んに聞こえて来ていたダイニングキッチンの調理の音は絶え、かわりに青かったり金色
だったりする髪やイヤーレシーバーがちらちらとリビングの様子を伺っている。
 そんな状況を知ってか知らずか、
「いや、瑠璃ちゃんのいいところって結局そういうところだよなーと思って」
 貴明は、瑠璃の良い所探しをする事で彼女の悩み事解決を試みようとしていた。


                『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』


「どういうことや?」
 脈絡のない貴明のそんな台詞に、瑠璃はきょとんと首を捻る。
「さっき、イルファさんを結局放っておけなくて構っちゃうのを見てて思ったんだけど……」
 くすり、と少し人の悪い笑みを浮かべながら貴明はこう言った。
「なんて言うかなぁ、ベタな言い方をすれば『思い遣りがあって献身的』と言ったら良いかな。ちょっ
 と取っ付きは悪いけど、瑠璃ちゃんって結局すごく優しいと思うもん」
551『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』2/8:2008/02/14(木) 17:51:59 ID:0wblyABC0
「そ、そんな事あれへん。っていうかちょっとこじ付け臭いで」
「そんな事あるよ。結局そういうことだもん。気付いてないかもしれないけど、イルファさんが落ち込
 んだりしている時とかの瑠璃ちゃん見てればわかるんだって。瑠璃ちゃんはいつも皆が楽しく笑って
 いられるよう、いつも周りを思い遣ってがんばってる」
 貴明の言葉を疑う瑠璃だったが、ここまで力説されてしまうとさすがに色々と思うところがあるのか、
口をパクパクさせながら黙り込んでしまう。見ると、頬はおろか顔中が茹でタコの様に真っ赤になって
いる。その上わたわたと両手が上がったり下がったり、要はテレまくっている様子だ。
「わ、わ、そんなんやないて、貴明ぃ〜〜」
 彼女のそんな様子に、貴明は少し満足したような微笑を浮かべた。
 瑠璃はとてもいい娘なのに、どうにもいまひとつ自信が持てないでいる。彼にはそれがいつも少し不
満だったのだ。こんな事で自信を持たせられるとは思わないが、小さな切っ掛けになってくれれば、と
願わずにはいられなかった。
 ともあれ。
「それに家事全般が得意だし、そのせいもあるかもしれないけど小柄な割には結構力もあるし。進路希
 望も、そういう長所を活かせそうな進学先なり就職先なりを書けば良いんじゃない??」
「ん〜〜、例えば、なんやろ」
 貴明のアドバイスにかなり乗ってきている瑠璃は、色々と考えるよう眉を寄せながら質問した。
 貴明も一度腕を組み、長所だけではなく短所も考えながら言葉を捜していった。
「ん〜〜、料理人とか、看護師さんとか……でも瑠璃ちゃんってさっきも言ったけど少しとっつきが悪
 いというか、人見知りするというか、たくさんの人に接するのは苦手のような気がするから……」
「確かにそやなぁ。……ガッコの友達くらいやったら気にせんけど、看護師さんとかウチにはちょっと
 しんどそうや」
 うんうんと頷くと瑠璃はちょっと顔をしかめた。……本当にそういうのが苦手らしい。
「でしょ?……まぁ、でも方向性としてはそんな感じでいいと思うんだよ。だからピンポイントに書く
 のは避けて、『第一希望:調理師専門学校など 第二希望:介護・福祉関係専門学校など 第三希望:
 調理か介護・福祉の分野で就職』みたいな書き方にするとかどうかな? 動機の説明も楽だし」
552『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』3/8:2008/02/14(木) 17:54:40 ID:0wblyABC0
「なるほど……貴明もたまにはええコト言うなぁ。あんがと、ウチ、そう書いてみるわ」
 彼がそう締めくくると、瑠璃は大きく頷くとようやく柔らかい表情に戻った。
 そしていそいそとシャープペンシルを握り、プリントに希望を書き込んで行く。
 そんな彼女の様子に、貴明はほっとしたように肩の力を抜いた。
「たまに、は余計のような気もするけど……とりあえず役に立てならよかった」

「なぁなぁ、貴明ぃ。ウチはウチはぁ??」
「ねえ貴明、私は、どうなんだろ?」
 貴明が肩から力を抜いたのを見るや、さっきまでゲームをしていた珊瑚が眼を輝かせながら話しかけ
てきた。どうやらいかにも『ずっと待っていた』という風である。
 珊瑚だけでなく、背中で黄昏ていたはずのミルファもいつの間にか復活し、貴明の首っ玉にかじりつ
きながら話しかけてきた。さっきまでのローテンションは何処へやら、元気にぐいぐいと大きな二つの
膨らみを貴明に押し付け、猛アピールを開始している。
「珊瑚ちゃんは何も悩む必要ないじゃないの」
 そんなミルファをうっとうしそうに押し退けながら貴明は少し考えると、すぐに珊瑚に向かって笑い
かけるとそう答えた。
「逆に決まりすぎてて三つも希望を書くのが難しいくらいじゃない? 『第一希望:来栖大学ロボット
 工学科 第二希望:東京大学自律機械工学科 第三希望:マサチューセッツ工科大学情報工学部』み
 たいな感じでしょ」
 貴明は迷わず、珊瑚の才能にアプローチをかけてきているらしい大学の名前を挙げる。
 しかし。そんな貴明の反応に珊瑚は頬を膨らませて不満を表明した、
「む〜、そ〜ゆ〜ことやなくてぇ〜」
 のだが。
「わ〜〜た〜〜し〜〜の〜〜は〜〜ぁ〜〜??」
 貴明は背後から襲い掛かる赤くて柔らかいプレッシャーに気を取られ、それを見落としていた。
 そして、肩越しにあきれた口調でミルファに文句を言いはじめた。
553『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』4/8:2008/02/14(木) 17:57:12 ID:0wblyABC0
「ミルファには進路とか関係ないじゃないか」
「なぁ、なぁ」
「なんで進路の話よ。進路じゃなくってぇ〜っ、ほら、瑠璃さまみたいに、貴明にとって私の『長所短
 所』ってどういうのかな〜〜とか??そういうことを聞きたいんだってばさ。別に教えてくれたって
 いいじゃなーい、減る物じゃあるまいしぃ〜〜」
 控えめな珊瑚の自己主張も、マシンガンのように捲し立てるミルファの早口にかき消され、貴明に届
く事はない。
 まぁ、ミルファは口ばかりではなく全身で(というか主に胸で)激しい自己主張をするので、珊瑚に
限らず誰でも(イルファとシルファは別)割り込みは難しいのだが。
「はぁ?? なんでそんな……」
「なぁ……なぁ……」
「だって、気になるじゃない、自分が貴明にどう見られてるのかって。……それに、瑠璃さまのコトは
 よく見てたじゃない??」
 そして珊瑚の声は少しずつ小さくなって行き……
「いやまぁ、よく見てたというかなんと言うか……」
「だから教えて? 貴明から見た私の長所と短所ってなに??」
「…………」
 ほどなく、悲しそうな顔で黙り込んでしまった。

 そんな珊瑚の様子を知ってか知らずか、貴明は親指で顎の先を撫でながら、ミルファの疑問に答えて
いた。それは貴明が日頃から思っている『ミルファに元気付けられるところ』である。
「そうだなあ、まずミルファはなんといっても元気で明るいのがいいトコだよな。いつも一生懸命で、
 どんな事にも真剣に取り組むトコなんかとてもいいと思うよ」
 以外に真剣な答えが返って来た事に、ミルファは内心喜んでいた。
 褒められた事も嬉しいが、貴明が真剣に考えたらしい答えをくれた事が一番大切なのだ。
「そ、そう? なんか、照れくさいな……じゃあじゃあ、悪いところは??」
554名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 17:58:47 ID:ZmX6b7+C0
支援するんだぜ
555『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』5/8:2008/02/14(木) 17:59:56 ID:0wblyABC0
 そこでミルファは短所についても訊ねてみた。長所というものは、口のうまい人間であればずらずら
並べられるものだが、それらしい欠点を挙げるのは案外難しいのだ。いわゆる『お受験』の親子面接で
もよく子供の『短所』を聞かれるそうだが、むべなるかなである。
「ん〜〜、ちょっと浮き沈みが激しいかな、って感じる事はある。まぁ、色んな意味で落ち着いてもう
 少し人の話を聞くと良いんじゃないかとは思うけど。すぐやきもち焼くし」
 難しい設問に対しても、貴明の回答はそんなに悪くないものだった。当たり障りのない、ありきたり
な言葉でお茶を濁すような事はしなかったし、なにより内容が的確である。
 だが……
「なぁによう! 貴明がいっつも色んな女の子とべたべたべたべたべたべた……」
「お前が食いつくのはそこだけかいっっ!!」
 今回ミルファが気にかけたのは、極めて限定された一点についてのみだった。
 真剣に向き合ってくれたとか、そういうのはもうどうでもいいらしい。

 ミルファが貴明に食ってかかっていると、今度はダイニングからイルファが参戦してきた。
 わざとらしくキラキラと瞳を輝かせ、両手を口元で組んで貴明の目前へと迫ってくる。
「ではでは、私の長所と短所はどこですか?? 貴明さん」
「え?? え〜〜っと、イルファさんは……」
「ご飯の準備出来た。あとよそうらけ」
 そんなイルファに答える間もあればこそ、今度はシルファがイルファを押し退けて貴明の胸元に擦り
寄ってきた。いつの間にやら貴明の周囲はメイドロボ軍団大集合!になっている。
「……シルファのいいトコは??」
 どすん!と胡坐を組んだ足の上に乗って来るシルファ。
「今は私がお伺いしてるんですっ!!」
 ミルファの位置にさっと割り込むと背中に張り付くイルファ。
「ほらぁっ、貴明がいつもそんなだから私はぁっ!!」
 イルファに場所をとられてジタバタするミルファ。
556『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』6/8:2008/02/14(木) 18:02:56 ID:0wblyABC0
「うわっ、イルファさんっ、シルファっ、重い重い〜〜!!」
 そしてイルファとシルファにサンドイッチにされて悲鳴を上げる貴明。
 もう無茶苦茶である。
「あとずっとシルファのターン」
「いいじゃありませんか♪ 貴明さんは、み・ん・な!の旦那さまなのですからっ♪」
「ちっっっっがぁ〜〜〜〜〜〜うっっっ!! 私だけのぉ〜〜〜っ!!」
 美味しい所をさらおうとするシルファに、とにかくどさくさに紛れてみんなラブラブ路線に持ち込み
たがるイルファ、姉妹の横暴にキレるミルファとまぁ、考えようによってはいつもと変わらぬドタバタ
が繰り広げれられていた。
 そんな日常の(貴明には不本意なのだが)風景の中で、一人珊瑚だけが寂しそうに顔を伏せていた。

 そして、いつも珊瑚の事を気にかけている瑠璃だけがその異変に気が付いた。
「……なぁ、さんちゃん、さんちゃん。どないしたんや??」
「…………」
 瑠璃が声をかけても珊瑚はじっと押し黙って何も言おうとはしなかった。
 ……さすがに、能天気なドタバタ痴話喧嘩を繰り広げていた貴明&メイドロボさんズもそのただ事で
はなさそうな雰囲気に気が付いて、心配そうに珊瑚と瑠璃を見つめている。
「珊瑚ちゃん?? ……なにかあったの?? 瑠璃ちゃん」
「ようわからへん。けど、なんだかさっきから元気ないみたいやねん」
 声をかけてもじっと俯いているばかりの珊瑚の様子に、貴明は瑠璃にも尋ねてみたが、彼女も何もわ
からないという風に、不安げな表情で彼を見上げるばかりだった。
「……どしたの、珊瑚さま」
「もしかしたらもうお腹空かれました? でしたらすぐにご飯お出し出来ますよ??」
 珊瑚の前にしゃがみ込んで様子を伺うシルファにも、空腹を予測してご飯に誘ってみたイルファに対しても、
「……(ぷるぷる)」
557『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』7/8:2008/02/14(木) 18:05:53 ID:0wblyABC0
 そう、力なく首を振るばかりである。
「もしかしてどこか具合悪い? 画面酔いしたとか……」
 そんな珊瑚の様子に、体調の悪化を疑う貴明であったが、
「……そんなんやない。そんなんやないよ」
 珊瑚はそっけい言葉でそれを否定した。
 ……その様子を見て、瑠璃はある事を確信していた。
「……さんちゃん、何か嫌なことあったんやな」
 それがなんなのかはまだわからなかったが……いつも一緒の瑠璃にはそれがわかったのだ。
 それを聞いたミルファは、思い付きでこんな事を言い出した。
「あ、わかった! 貴明があんまり相手してくれなかったからだ!」
 すると、珊瑚はビクッとすると、おびえたような瞳でミルファを流し見る。
 だが、貴明はというと、
「そんなワケないだろ。別にいつもの通りだったんじゃないか? ねぇ、珊瑚ちゃん」
 そんな可能性は露程も考えていないようであった。
 ……そんな貴明の様子を見ると、珊瑚はなんだかひどく悲しくなってくるのだった。
「……やっぱり、貴明はウチのコトなんも……」
(全然真剣に考えてくれへん……みんなには構うのにウチには構ってくれへん……みんなとらぶらぶや
 けど、みんなの中にウチは入ってへん……ウチはトロい子やから、やっぱいらん子なんやろか……)
 貴明は優しいけどニブニブやから……そうは思うのだが、一度下がってしまったテンションや浮かび
上がってしまった黒い感情はどうにもならない。
「……え??」
 様々な感情をもてあました珊瑚は、突然立ち上がるといつもの彼女からは想像も出来ない俊敏さで寝
室の中に駆け込んでドアを締め切ってしまった。
「珊瑚さまっ!?」
「さんちゃんっ!!」
 ガチャッッ!
558『珊瑚ちゃん、怒る!? その2』8/8:2008/02/14(木) 18:08:44 ID:0wblyABC0
 ……そしてこの家の中では、玄関以外で滅多に聞かれる事のないシリンダー錠の硬質な音が響き、珊
瑚の拒絶の深刻さを物語っていた。
「さんちゃんっ! さんちゃんっっ!!」
「ど、どうしたんだ? 珊瑚ちゃんは……」
「さんちゃんがあんなに寂しそうにするなんて! ……貴明、さんちゃんになんかしたやろ?? くや
 しいけど貴明以外、あんなにさんちゃん落ち込ませられるんはおらん!」
 事態を把握し切れていない上にいつまでも自覚のない貴明の言葉に怒りの込み上がって来て、瑠璃は
語気を荒げて悔しそうに貴明にそう詰め寄った。
「お、俺?? 俺が原因なの??」
「貴明ぃ〜〜っ! いったい何したのぉ〜〜っ!!」
「何にもしてない、何にもしてないって!! お前、ここでず〜〜っと俺にくっついてたんだからわか
 るだろうが!!」
「……それもそうね」
 それでもピンと来ていない貴明は、ミルファに食ってかかられてほとほと困り果てている。
 瑠璃は、そんな彼らの無自覚が今ほど許せないと思ったことはなかった。
 悔しかった。それなのに珊瑚の心を掴んで離さない彼が。それを許してしまう、むしろ一緒にいる事
が出来て喜んでしまっている自分が。
「ええかげんにせえ! そんなんして、さんちゃんの前でもず〜〜っといちゃつきおってからに!!」
「瑠璃さま……」
 困惑する一堂の前で、瑠璃は力いっぱいこぶしを握り締めながら搾り出すように吐き出した。
「……さんちゃんが……さんちゃんがかわいそうやっ……」
「瑠璃ちゃん……」
 瑠璃は、涙の溜まった瞳で貴明に一瞥を送ると、身を翻して自分も客室に姿を消してしまった。
 瑠璃の涙に一瞬呆然とした貴明が我に帰ったのは、再び錠の降りる音が響き、事態がすでに行き詰っ
てからの事であった。



                    〜続く〜
559『珊瑚ちゃん、怒る!?』の中の人:2008/02/14(木) 18:16:33 ID:0wblyABC0
こんばんは。
懲りずに続きを作ってまいりました。
多分次くらいで終わるんじゃないかと思いますが……がんばります。
にしてもよーやく珊瑚ちゃんが怒りました。……怒った、のかな??

とにかく……次回、姫百合姉妹の心の傷を癒せるか!?がんばれヘタレ貴明!!の巻です。
あたたかい気持ちで見守ってやってください。
560名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 18:33:34 ID:5wmZo6G10
>>559
乙&続きwktk

しかし、珊瑚の怒り方ってのが未だに想像できない。落ち込むとかなら
なんとなくわかるんだが
561名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 18:34:54 ID:ZmX6b7+C0


文句言うわけじゃないんだけど…うーん、珊瑚って嫉妬で怒ったりするのかな?
むしろ「あははー皆らぶらぶやぁ〜」とかにこにこと言ってそうな気がするけど

まぁでも話自体は面白いぜ、次も期待してるんだぜ
562名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 18:35:11 ID:dDy4+nm10
乙です。
珊瑚ちゃんは怒ると黒い子だと思っていましたが今回はこういう方向性のようで。
珊瑚ちゃんは普段全く怒ることのない子ですから難しいとおもいますが頑張ってください。
563このみのチョコ 1/5:2008/02/14(木) 19:48:36 ID:dDy4+nm10
 それはまだこのみが中学3年生の頃のできごとだった。
 その日出かけるときに春香さんにこのみを預かってくれるように頼まれた。今回はどこに行くんだろう?
 いつもと変わらない日常が過ぎていった。いつも通り雄二、このみと一緒に帰宅路につく。
 そのはずだったが雄二のやつは終業のチャイムと同時に教室を飛び出してしまったので、今日は校門の前で待っていたこのみと一緒に帰ることになった。

「タカくん今日はよろしくね〜」
「ああ。今度はどこに出張なんだ?」
「ん〜とね・・・今度は宮崎だって」
「宮崎か・・・宮崎といったら東国原知事もおすすめの宮崎地鶏だよな」
「えへ〜、それならおみやげは宮崎地鶏かな〜」
 そういって目を輝かせるこのみ。相変わらず食べ物には目がないやつである。

 そんなこんなでマイホームに無事到着。
「タカくん、このみはお泊りセットとりにいってくるね」
「ああ、それじゃあまた後でな」
「うん!それじゃあね〜」
 そういってこのみは鍵を開けようとする、が。
「タカく〜ん」
「ん?なんだ?」
「鍵忘れちゃった・・・」
「はぁ・・・」
 こいつってやつは・・・

 仕方なく俺の家においてある予備を貸してやる。
「・・・んしょっと。タカくんありがとね〜」
 申し訳なさそうに鍵を開けたこのみ。
「ああ、それより早く取りにいって来い。勉強分かるところ教えてやるから」
 本来ならこんなことをするのはかなり面倒なのだが高校入試が目前に迫った今、1年先輩の俺が教えなくてはならない。
「やたー、英語も数学もチンプンカンプンなのでありますよ」
 高校入試は目前なのになんて物騒なことをいうんだこいつは。
564このみのチョコ 2/5:2008/02/14(木) 19:51:41 ID:dDy4+nm10
無事お泊りセットも回収し、今は俺の部屋で勉強している。
「それでどこがわからないんだ。理科社会は教えられないぞ」
「んとね、それじゃあ英語からお願いするのであります」
 英語なら問題ないだろう。数学は少しきついけど。
「それでね、こことこことここがわからないのでありますよ隊長」
「多いな・・・勉強してなかったのか?」
「む〜、勉強しても分からないものは分からないのでありますよ!」
「はぁ・・・ここはな・・・・」



 勉強を始めてから約1時間。なぜだかこのみはさっきからそわそわしている。頑張って教えているのにうわの空といった様子だ。
「このみ、どうした?さっきからそんなそわそわして」
「え?な、なんでもないのでありまするよ」
 口調もおかしい。こいつもしかして・・・
「トイレ我慢してるのか?」
 バチーンッ!
「もう!違うよ!」
 若干顔を赤くして平手打ちされた。結構痛い。
「じゃあどうしたんだよ?勉強がいやか?」
「そうじゃないけど・・・実はね、タカくんに渡したいものがあるんだ・・・」
「渡したいもの?」
565このみのチョコ 3/5:2008/02/14(木) 19:52:48 ID:dDy4+nm10
「うん。タカくん今日何の日か知ってる?」
「2月14日だよな。ん〜・・・」
 2月14日?誰かの誕生日か?けど俺の誕生日はまだだ。
「とりあえず俺の誕生日ではないな」
「・・・タカくんってもてないんだね。今日はバレンタインデーだよ?」
 ばれんたいんでー?・・・そうだった・・・そういえば俺1個ももらえなかったな・・・はは・・・
「もう・・・タカくん!はいこれ!」
 義理チョコすらもらえず落ち込んでいた俺に差し出されるそれ。
「お?おおおおお!ありがとうこのみ!」
「えへ〜、そこまで喜んでもらえると作った方も嬉しいのでありますよ〜」
 そういって満足気にくにゃりと笑うこのみ。
「ん?作ったってまさかこれは手作りか?」
「うん。そうだよ。それより早く食べてみて!」
「うん・・・」
 ああ・・・なんか幸せだ・・・このみの作ったチョコがこんなに嬉しいなんて・・・
 それにしても丁寧なラッピングだ。包みを傷付けないようにこちらも丁寧にラッピングをはずす。
 するとハート型のそれはついに現れた。かなりおいしそうだ。
「それじゃ、食べるぞ?」
 ごくり・・・
 ハート型に中心をまっぷたつにして大変なことにならないよう慎重に食べる。
 ばりっ・・・ぼりぼりぼりぼり・・・
566名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 19:53:25 ID:ZmX6b7+C0
支援しとこうか
567このみのチョコ 4/5:2008/02/14(木) 19:53:44 ID:dDy4+nm10
「ど、どうかな?おいしい?」
 ごっくん
「ふう・・・んまいぞ」
 このみらしくかなり甘いがこれはこれでうまい。
 それだけいってやるとこのみは緊張を解いて大きい溜息をついた。
「はあー、お砂糖をたくさんいれたから甘すぎたらどうしようと思ったよ〜」
「いや、かなり甘かったぞ。もう激甘だ」
「えー!それじゃあ・・・おいしくないの?」
 潤んだ瞳で、上目遣いでそんなことを聞いてきた。う、ちょっと可愛いぞ・・・
「そんなことないって、これはこれでうまいぞ」
「え〜、ほんとー?」
「本当だって。そんなに言うならちょっと食ってみろ」
 そういって口を付けたチョコの反対側を差し出す。するとこのみはチョコを食べずに俺からチョコをぶんどると、なぜかチョコを反転させて俺の口を付けたほうを食べる。
「えへ〜、おいしいね〜」
 何故わざわざそっち側を食べたかいまいち分からないがとにかく味は保証された。
「だろ?だからもっと自信をもてって」
「うん・・・」
 頷いたこのみの表情はとても幸せそうで、見ているこっちも幸せにさせてくれる笑顔だった。
 ジーっとこのみの顔を見ているとそれに気づいたこのみは顔を赤らめた。
「タカくん!食べたらまた勉強だよ!」
「なあこのみ」
「なに?」
「来年もまた俺にチョコをくれるか?」
 するとこのみは満面の笑顔で
「えへ〜、もちろんなのでありますよ隊長」
568このみのチョコ 5/5:2008/02/14(木) 19:54:31 ID:dDy4+nm10
 われながら今のうちから来年のチョコの催促など情けない行為だと思う。だがしかし来年もこのみのこんな表情を見れるならバレンタインも捨てたものではないなと思う。さてと、こいつが俺の高校に合格できるようにみっちり勉強させないとな!
「よし!糖分も補給したし!いまから猛勉強だ!」
「了解であります!」
 その後はいままでが嘘のように勉強ははかどりとりあえず英語と数学に問題点はほとんど解消された。これぐらいの学力があれば間違いなく合格出来るだろう。英語と数学はな・・・

 次の日登校してくると小牧さんからチョコを渡された。雄二を含めた他の男共が泣いて喜んでいたのでおそらくクラス全員に渡していたのだろう。
 それで何故2月15日かというとなんでもバレンタインデーを1日間違えたらしい。全くもってそそっかしいもんだ。まあ存在自体忘れていた俺よりましか。
 そして帰り道であったミチルちゃんとチエちゃんにもひとつずつチョコをもらった。なんでも気合をいれて作ったのはいいが渡す相手がいなかったとか。
 そしてそして家に帰ると昨日は出張でいなかった春香さんにもチョコをもらった。そういえば去年ももらったな。もちろん宮崎地鶏付きだ。
 そしてそしてそして母さんからももらった。売れ残りの安いチョコだが。こちらも去年ももらった。
 そしてそしてそしてそして俺宛に小包が届いていた。差出人はタマ姉。中には有名店パティシエも顔負けのおいしい手作りチョコが入っていた。
 結果、俺は合計7個ものチョコをもらうことが出来た。
「なんだ・・・俺って意外にもてるんじゃん・・・」
 などと一人優越感にひたる俺だった。
569このみのチョコ:2008/02/14(木) 19:58:19 ID:dDy4+nm10
支援ありがとうございます。
2月14日ということでバレンタインデーにちなんだSSです。
途中までまだ貴明の両親は健在ということを忘れていました。
本当に危なかった。
570名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 20:02:16 ID:ZmX6b7+C0
乙、ほのぼのしてて良い感じだな

あとあえて細かい所突っ込むと、貴明って確か雄二に『姉貴が帰ってくる』って言われるまでタマ姉の存在をほぼ忘れてなかったか?
そんなすぐ『タマ姉』の単語にナチュラルに反応するだろうか?

まぁんな事言ってたらキリがないよな
面白かったぜ
571名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 21:00:32 ID:NqAsOtrdO
>>569
乙&GJ。
なかなか甘くていい感じだったよ。
難点をあげるとすると、台詞まわりはともかく情景描写に少し固さがあるのは気になったかな。
慣れの問題だとは思うがね。
572名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 21:11:02 ID:NAFi9xz80
バレンタインデーネタとして使いやすいとしたら、誰だろう?
このみやタマ姉も使いやすそうだし、愛佳や由真もおもしろいかも。
573名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 21:18:24 ID:ZmX6b7+C0
んー…ネタは人それぞれだしな

例えば由真なら
「今日の勝負に負けたらこのチョコやるかな」

あっさり勝ってしまう

「……か、可哀想だからやっぱりあげる」
みたいな純愛系とか

例えばるーこなら
「うー、バレンタインとは何だ?」

「好きな人にチョコをあげる日だけど」

「そうか、ならるーにチョコをくれ」

「いや、あげるのは女の人…」
みたいなギャグ系とか

どうゆうネタでいくかによっても出しやすさは変わるだろうなぁ
574ロマンチストかもりん1/10:2008/02/14(木) 22:53:18 ID:dDy4+nm10
それは寒い寒い冬の出来事であった。
 今年3年生になる俺らに残された行事は残すところ卒業式ぐらいなのだが、まだもう1つ俺らに
残された大きなイベントがあった。
 それは今日、2月14日土曜日。
 そう、それはバレンタインデー。去年までは言われるまで気づかずにいた俺だが今年は違う。
 なぜならば今年は笹森花梨という名の恋人がいるからだ。
 そんなこともあってチョコをもらえることに少なからず期待を抱いているのだが、何しろ相手は
あのミステリ研会長。
 錬金術やUMAに夢中になって忘れていた、ということもありえる。
 だからといって自分からチョコを催促するというのもかなり情けないものである。
 だから仕方なく花梨がチョコをくれるのを待ち、もらえなかったらすっぱり諦めることにした。
 彼女の普通の女の子と違うところに惹かれた俺だからチョコなんてもらえなくても諦めはつく。
 けどほしいよなあ、花梨のチョコ。

 終業のベル終了後、淡い期待を抱きつつ早足で部室に向かう。
「ちーす・・・」
 誰もいない。
「おいーすタカちゃん!」
 とおもったら机の向こうから姿をあらわした。
 覗き込んでみるとリュックサックに荷物を詰め込んでいる最中だった。
「なにやってんの?どっかいくつもり?」
「そうなんよ!今日は山にツチノコを探しにいくんよ!」
「まじかよ・・・今日最低気温何度か知ってるか?」
「えーと・・・だから1回家に帰って防寒対策してくること!わかった?」
「はぁ・・・わかったよ」
 最近寒いし室内の活動が多かったから油断してた。
 ていうかツチノコって今の時期冬眠してるんじゃないか?
 そして一向にチョコをくれる気配がない花梨にある質問をぶつけてみる。
「なあ、今日何の日か知ってるか?」
「ん?さあー・・・なんだろね」
 やはり今年は期待できそうにない。
575ロマンチストかもりん2/10:2008/02/14(木) 22:54:03 ID:dDy4+nm10
というわけで下校途中に花梨と別れ、家に帰ってきた。
 集合は3時半に学校だからかなり余裕をもって出られる。
 たっぷりと上着を5枚ほど着て・・・ってこれじゃ山道は歩けないな。仕方がない、上着は3枚くらい
にしてほっかいろをたくさん持って行こう。
 それにしても・・・今年は小牧さんがくれた1個だけか・・・
 しかもあれは量産型だったな。
 あと期待できるのはこのみにタマ姉、春香さんくらいか・・・
 けど朝会ったときこのみとタマ姉はチョコくれなかったしなぁ・・・
 なんてことを思いながら準備をしていると家のチャイムが鳴った。花梨だろうか。
「なんだ、もう来たのか?たしか学校で待ち合わせのはずだけど・・・」
 もしかしたら待ちきれなくなってはやめに来たのかもしれない。
 しかし扉を開けると意外な人物が2人たっていた。
「このみにタマ姉?どうしたの?」
 扉を開けるとニヤニヤした顔でこのみとタマ姉が立っていた。
「タカ坊今日何の日か分かってるわよね?」
「ああ、2月14日だろ?バレンタインデーだ・・・ってことは」
576名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 22:54:42 ID:ZmX6b7+C0
ツチノコって蛇類だから冬はいませんよ隊長!
支援
577ロマンチストかもりん3/10:2008/02/14(木) 22:54:48 ID:dDy4+nm10
「「じゃじゃーん!」」
 二人の声が重なる。と同時に差し出される二つの綺麗にラッピングされてるそれ。
「これ・・・チョコ!?もしかして俺に?」
「それ以外誰がいんのよ」
「えへ〜、いっつもタカくんにはお世話になってるからそのお礼だよ〜」
「ああ・・・ありがとうな。このみ、タマ姉」
 ちょっと目頭が熱くなってきた。
「ふふっ、どういたしまして」
 ここでふと疑問が浮かんだ。
「なんで朝に渡さなかったの?」
「んとね、朝は忙しいしタカくん驚かせたかったから」
「そんなことよりすごい格好ね。これからどこかにいくの?」
「うん・・・まぁ・・・」
「あはは・・・タカくんも大変だね」
「・・・まあな」
 話さなくても伝わってしまうくらいそれは定番となっていた。
578ロマンチストかもりん4/10:2008/02/14(木) 22:55:42 ID:dDy4+nm10
3時半の5分前に学校にはついた。
 いつも通りやつはそこにいた。
「もうタカちゃん!遅いんよ!」
「遅いって集合時刻5分前だぞ?お前が早すぎるんだって」
「そんなことないんよ。あたしなんかもう30分くらい待ってるんだから!」
「うわ!そんなに待たせちゃったか!?寒くなかったか?」
 意外だ。花梨がこの寒空の下30分近くも早く来てくれてたなんて。
「もう心も体も冷え切ってしまったんよ!だから・・・はい!」
 そういって手を差し出す花梨。
「ああ、悪かったな」
 そういって素直に手を握る俺。
 これでも最初の頃は恥ずかしかったが、探検のたびに手を握るのはもはや俺たちの間では常識となっていた。
 これが花梨の恋人になって幸せを感じる瞬間のひとつである。
「そうそう!タカちゃん、な〜んか忘れてない?」
 そんなこといわれても忘れ物なんてなにもない。タマゴサンドもたくさん持ってきた。
「もう!シャベル!ツチノコは今の時期冬眠してるんよ!だからそのタイミングを狙って土の中にいるツ
チノコを一本釣りなんよ!」
 ああ、なるほど。だからわざわざ冬にこんなことするのか。
「持ってきてないな、仕方ないから学校のを拝借するか」
「その必要はないんよ」
 そういいつつ学校の名前が入ったシャベルを俺に差し出す。
「お前ってやつは・・・」
 もちろん許可などとっていなかった。
「と、いうことで出発進行!」
「おー・・・」
 紆余曲折はあったが俺たちはようやくツチノコ探索に出かけることができた。
579ロマンチストかもりん5/10:2008/02/14(木) 22:56:38 ID:dDy4+nm10
 ・・・探し始めて30分。
 今日の花梨はどことなく変だ。いや変なのはいつも通りなのだけど、今日はなぜかきょろきょろとあたり
を見渡し明らかに挙動不審だ。
 目線も明らかに冬眠の穴を探すそれとは違う。
 なにかを確認するように、まるで決められた道をゆくような感じだ。
「あのさ・・・どうかした?なんかさっきからなんていうか・・・変だよ?」
 すると彼女は少しムッとし
「別に変じゃないんよ!それよりタカちゃんはなんか怪しい穴見つけたら知らせるんよ!」
 見つけたら俺に掘らせるつもりだなこいつは。まあ女の子に掘らせるわけにはいかんからな。
「あともーちょっとなんだけどなー・・・」
「ん?なんかいった?」
「な、なんでもないんよ」
 やっぱり変だ。

 しばらく歩いた後、花梨会長の申し出で休憩を取ることにした。
 かなり歩いたがツチノコの穴どころかモグラの穴すら発見することはできなかった。
 いつもならぷりぷり怒るところだがやっぱり今日は変だ。
 なぜか花梨は緊張した面持ちでタマゴサンドを頬張っている。
 3つ目のタマゴサンドを食べ終わると花梨は突然叫んだ。
「あっ!タカちゃんほらあそこ!土が盛り上がってるんよ!」
 花梨が指をさしたほうを見るとなるほど、確かに不自然に土が盛り上がっている。
「ほらほらっ!タカちゃんなにしてんの!サクサク掘るんよ!」
「へいへい・・・」
580名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 22:57:08 ID:ZmX6b7+C0
支援
581ロマンチストかもりん6/10:2008/02/14(木) 22:57:23 ID:dDy4+nm10
 俺は残りのタマゴサンドをに口の中に放り込むと作業を開始する。
「あ〜、ツチノコを傷つけないようにもっと優しく掘るんよ」
 それもそうだ。強くやりすぎて血まみれのツチノコが発見されても困る。
 20cmほど掘るとカツンッと何かに当たった。石かな?
 しかしそれは石と呼ぶにはあまりにも平べったかった。
 試しに手で土を払ってみるとミッキーの顔がこちらをみていた。
「これは・・・クッキーの箱?」
 それはアルミで出来たクッキーの箱だった。
「あ!もしかしたら徳川埋蔵金かもしれないんよ!早く掘りだすんよ!」
 江戸時代にミッキーはいないよな。
 箱が取り出せるよう箱の周りを掘っていき、一気に引っ張り出した。
 引っ張り出してみるとそれは意外に大きかったがそれほど重くないことから中身はそれほど
詰まっていないようだ。
 試しに振ってみるとからんからんと中から音がした。
「ん?なにか入ってる?」
「早く開けてみるんよ!」
 多分タイムカプセルかなんかだと思うけどそれにしてもこんなところに埋める意味が分からない。
 最初は錆び付いて開けにくいと思っていたが力をこめるとあっさりそれはあいた。
 すると中にはまた一回り小さいアルミの箱が入っていた。
「・・・マトリョーシカ?」
 また箱を開けるとさらに小さい箱が入っていて・・・
 そんな展開を予想してうんざりしながらもう1度箱を開ける。
 すると中には箱は入っていなかった。
「・・・お?なんだこれ?」
 中にはハート型の物体が入っていた。
「これはもしかして・・・チョコ?」
 花梨の様子を伺ってみると彼女は顔をほのかに赤らめ一気に言い切った。
「タカちゃん!それはいつもお世話になってるお礼だよ!これからもよろしくね!」
 それだけ言うと大きい溜息をついた。
582名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 22:58:07 ID:ZmX6b7+C0
支援しえーん
583ロマンチストかもりん7/10:2008/02/14(木) 22:58:37 ID:dDy4+nm10
「はああー、バレンタインデーに気づいてない振りをするのは大変だったんよ。でもよかった、タカちゃん
すごい驚いてくれたみたいだし!」
 俺のほうはというと確かに驚いたが半分呆れ、半分安心といった感じだった。
 でもやっぱり・・・
「ありがとうな花梨。すごく嬉しいよ。俺のほうこそこれからもよろしくな」
 そういってやると花梨は照れたように笑って
「うん!」
 と元気いっぱい頷いた。
「んじゃあタカちゃん。早速食べちゃって!味には自信あるんだから」
「ああ、それじゃあいただくとするかな」
「あ、ちょっと待って!」
 花梨は包みを開けて口を付けようとした俺を制止すると俺からチョコをぶんどった。
 そしてパキッ!っと1口サイズより若干大きめくらいにチョコを折った。
 そして・・・それを・・・口でついばむと・・・
 手を広げて待機状態に入った。
 まさか・・・
584ロマンチストかもりん8/10:2008/02/14(木) 22:59:34 ID:dDy4+nm10
「まじかよ・・・」
 笑顔で答える花梨。
 そして花梨は期待するような目でこちらを見続けている。
 はぁ、ここまでされて断ったら男じゃないよな。
 観念しおとなしく反対側に口を付けた。
 そしてゆっくり・・・ゆっくりとチョコを溶かすように花梨に迫っていく。
 そしてついにお互いの唇が触れ合った。
 と同時にチョコではない何かが俺の口内に侵入してきた。
「んんっ」
 そのままフレンチキスに移行する。
「んちゅっ、んんっ」
 そのままどれくらいキスをしていただろうか。
 永遠にも思えた時間はやがて終わりを告げ、二人は唇を離す。
「はぁ、はぁ・・・ねえタカちゃん・・・ここでしよう・・・」
「え゛、そ、それは」
 花梨の目はとろんとしていてとても妖艶だった、が・・・
 さすがにここでするわけにはいかない。
「あのさ花梨、せめて部室に戻ってからさ・・・ね?」
「え〜・・・ここがいいんよ・・・」
「そんなこといってもなぁ・・・」
「・・・お月様だけだよ、見てるの」
「いやまだ夕方だし」
 俺たちがそんな不毛な会話を繰り広げていると、突然さっき掘り返した穴から何かが飛び出してきた。
585名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 23:00:21 ID:ZmX6b7+C0
支援
586ロマンチストかもりん9/10:2008/02/14(木) 23:00:28 ID:dDy4+nm10
「きゃんっ!」
「花梨!」
 それは花梨めがけて飛んでいき、花梨にタックルをかますとボトっと地面に落下した。
「あいたたた・・・いったいなんなんよ」
「大丈夫か?ってなんだあれ?」
 それは一見蛇のようだが胴体はビール瓶ほどでもちろん手足はない。
「チー」
 あ、鳴いた・・・
 けどこの特徴ってあれみたいだよな、そう・・・なんだっけな・・・
「あー!たたたたたタカちゃん!早く捕まえるんよ!それツチノコ!」
 思い出した。これはあの伝説のUMAツチノコだ!
 あわてて飛び掛るが、それは俺の追撃を恐ろしく早い動きで見事にかわし、なんと火を噴いてきた!
「うお!あちちち!」
「タカちゃん!大丈夫!」
「それよりツチノコを捕まえるんだ!」
「うん!」
 花梨は折りたたみ式の虫取り網を伸ばすとツチノコにむかって思い切り振りかざす。
「おりゃああああああああ!!!」
 しかし気合の一撃もツチノコの素早い動きを捉えることが出来ずに空振りをした。
 そしてそのまま尺取虫のような動きで地面を這っていき坂道まで来るとごろごろと転がるようにしてツチノ
コは俺たちの前から姿を消した。
 すぐ追いかけたかったが突然の出来事に俺たちは腰が抜けて身動きが取れなかった。
「ツチノコ・・・いたんだ・・・やっぱり実在したんだ・・・」
 花梨は呆けたように何度もそう呟いた。
 俺のほうはというと絶対にいないと思っていたものの存在にまだ脳がついていけていないといった感じである。
 二人はしばらくその場から動けなかった。
587ロマンチストかもりん10/10:2008/02/14(木) 23:01:10 ID:dDy4+nm10
 その後学校に帰ってきた俺たちはまず俺のやけどを治療し、部室へ戻ってきた。
「これは世紀の大発見なんよ!あれは間違いなくツチノコ!火噴いてたし」
「そうだな・・・実在したんだな。学校の裏山に・・・」
 ツチノコも意外と身近にいるものである。
「これはレポートにまとめて学会に発表しなくちゃね」
「やめておけ」
「なんで〜?」
 不満そうだがこれも仕方がない。なんせ実物は逃がしてしまったのだから。
「実物がないのに発表しても世間からは白い目で見られるだけだぞ。
 それこそ昔やってた捕まえたけど逃げられたなんていってたどこぞのテレビ番組と変わらんぞ」
「それもそうか・・・」
 そういってしょんぼりする花梨。
「だけどな」
「だけど?」
「あの山にいることはわかった。俺たちならきっと捕まえられる」
「うん、そうだね!」
 俺たちにはまだまだ時間はたっぷり残されている。
 俺たち二人ならなんでも出来る。
 そんなことを感じることの出来たバレンタインデーだった。
588ロマンチストかもりん:2008/02/14(木) 23:04:42 ID:dDy4+nm10
以上ロマンチストかもりんでした。
本当はるーこ書くつもりでしたが他のスレでかもりんだけやたら人気
なかったので彼女にしました。
地底20cmの場所に冬眠するかどうかは分かりませんがそこらへん
は気にしないでください。
589名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 23:07:12 ID:ZmX6b7+C0


これまたほのぼのとしてていい感じだな
またしても少し突っ込みたい所があるが突っ込み厨とか言われそうだからやめとく
590名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 23:08:18 ID:5wmZo6G10
>>588
乙&GJ!

まぁ、人気ないのはスレでいろいろあったからであってキャラが悪い訳じゃない、と思う
ちょっと貴明のしゃべり方に違和感があったけど、楽しめたよ

そういやツチノコってまだ懸賞金かけられてるんだよな。誰か真剣に探してる人いるのかな?
591名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 23:09:40 ID:dDy4+nm10
>>589
お気になさらずいっちゃってください。
今後のためにもなりますので。

遅れましたが支援ありがとうございます。
592名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 23:13:16 ID:ZmX6b7+C0
いや、たいした事じゃない、気にしないでくれ
593『雄二のハッピーバレンタイン』1/4:2008/02/14(木) 23:17:52 ID:0wblyABC0
「ゆうじっ、放課後だよっ♪」

 ある日の放課後。
 向坂雄二は幼馴染の友人を眩しそうに目を細めながら見上げていた。
 華奢な身体に優しげな顔立ち、そして柔らかそうな髪……
 周囲のクラスメートたちはそんな仲のよい二人の様子を暖かく見守っている。

「……なんか、悪いモンでも食ったか? 貴明」

 雄二はがくっと首を垂れると必死に何かを堪える様にこめかみを押さえた。
 にこにこと微笑んでいた河野貴明は、一転して強張った顔になると雄二の頭にツッコミを入れる。
「お前から『やってみろー!』って預けられたゲームの真似したんじゃないか! 素で返されたら俺す
 っげーバカみたいだろっ!!」 
「ああ……すまん……『だおー』ね……微妙にサマになってたから気付かなかったわ……」
「うわっ! みんなに生暖かく見られてるじゃねーかっ!! うわっ! 草壁さんっ! そのメモ仕舞
 ってっ!! 小牧さんっ! 雄二係なんていらないっ!!」
「おめーが勝手にやったんだろうがよ……」
 クラスメートの視線に耐えられなくなった貴明が大騒ぎする様子を横目で見ながら、雄二はまたひと
つ大きな溜め息をつくのだった。

 しばしの悶着の後。
 二人の姿を昇降口の所で見かけることが出来る。
 雄二はいかにもかったるそうに靴に足を突っ込んでいた。
「はぁ〜〜あ。結局今年はチョコ無しかよ」
「……このみやタマ姉に貰ってたんじゃないの??」
 控えめに、というか恐る恐る尋ねる貴明に、雄二は額に青筋を浮かべながら答えた。
「ちび助はまぁともかく、姉貴に貰うのなんかノーカウントに決まってるだろ!」
 そして靴を履くためにしゃがんでいた貴明の頭を捕まえてスリーパーホールドをかける。
「ん〜〜?? そういうお前はどうなんだ?? いったい何個貰ったんだぁ??」
594『雄二のハッピーバレンタイン』2/4:2008/02/14(木) 23:19:23 ID:0wblyABC0
「あいっだだだだだだ、チョーク!チョーク! 首入ってるっ!!」
「このみや姉貴には朝貰ってたよなぁ? 長瀬や草薙さんに貰ってたのも見たぞぉ?? 昼生徒会室に
 呼ばれて行ったのだって非常に怪しい。家に帰ったら、ミルファちゃんが自分にリボンでも巻き付け
 て待ってるんじゃないのか?? 『だーりん、今日のごちそうは、ワ・タ・シだよ♪』とか言わせる
 気だろう!? このド外道がぁっ!!」
「んなワケあるかぁ〜〜〜っ!!」
 もしかしたらないとは言えないかも……と思いつつ、貴明は雄二を振り払った。
「……ったく、今日のところはヤックで勘弁してやるよ」
「わかったわかった」
 苦笑しながら貴明は携帯電話を取り出すと、なにやらメールを打ち始めた。
「なんだよ、遅くなるメールか?? 新婚さんはおあついですねえ」
「ほっとけ」

 その時。
「貴明」
「「んっ??」」
 なんとなく不機嫌そうな女の子の声に二人が振り返ると、下駄箱の陰から車椅子に乗った少女が現れ
た。小柄の身体におさげにした栗色の髪。そしていつものふくれっ面。二人のクラスの委員長、小牧愛
佳の妹、郁乃である。
「やあ、郁乃ちゃん。どうしたの〜〜??」
 何がしか何かを期待しているのか、にこにことしながら答える雄二であったが、
「や、貴明の方に用事なの」
 にべもなく切り捨てられてしまい「とほほ〜〜」と落ち込んでしまった。
「俺に? なにか用なの?」
 すると郁乃は少しはにかむ様に言い澱む。ほんのりと頬も紅潮しているようだ。
「……とにかくこっち来なさいよ。前庭の方でも連れてって」
「え?? でも……」
 困った様に自分を見やる貴明に、苦笑を浮かべながら雄二はこう言った。
「ヤックはまた今度でいーや。明日発売の緒方理奈写真集のフラゲが出来ねーかどうか、本屋巡りしな
 きゃならないんだった」
595名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 23:19:35 ID:ZmX6b7+C0
おお、今日は多いな
支援
596『雄二のハッピーバレンタイン』3/4:2008/02/14(木) 23:21:27 ID:0wblyABC0
 そして右手を上げて踵を返すと、雄二は一人校門の向こうへと去っていった。
「じゃーな。もし写真集ゲット出来たら明日見せてやんよ」

                ◇  ◇  ◇  ◇

「……どーすっかなぁ」
 相変わらず彼の友人はモテまくる。つい気を利かせてしまったが、なんとなくこのまま真っ直ぐ帰る
のも何かに負けたような気がするのは気のせいだろうか。
「マジで本屋でも回っか」
 そう考え、仕方なく雄二は一人寂しく駅前商店街の方に足を向けていた。

 坂を下り、街の様子がぼちぼち賑やかになってきた頃。
 雄二は前方から見覚えのある人影が歩いて来るのに気が付いていた。
 青いショートボブに、丸くて小振りな2本アンテナのイヤーレシーバー。パステルホワイトのハーフ
コートの下には近未来的なミニスカメイド服。
 以前、しばらくの間向坂家のメイドに来てくれていた珊瑚謹製の試作型メイドロボ、HMX−17a
イルファの姿だった。
「やぁ、イルファさん。ひさしぶりー」
「……こんにちは、雄二さま。ご無沙汰しております」
 雄二が立ち止まって手を上げると、イルファは彼の目の前までやってくると丁寧に頭を下げた。
「環さまもお元気でいらっしゃいますか?」
 そしてにっこりと微笑む。
 買い物の途中だろうか。エコバックを小脇に抱えた姿が実にサマになっている。
「元気元気。相変わらずだよ」
 しかし、雄二にはちょっと気になる事があった。
「それにしても、どこかにお出かけなの??」
 ここから先……つまり雄二が今来た方向には目立った店などはない。
 住宅街と、雄二たちの学園くらいしか思い当たる節はない。貴明の家へというにも、ちょっと見当違
いの方向だ。
597『雄二のハッピーバレンタイン』4/4:2008/02/14(木) 23:23:32 ID:0wblyABC0
「ええ。ちょっと、お世話になった方にチョコを差し上げに行くんです」
 バレンタインデーですからね、と言うとイルファは柔らかく微笑んだ。
 今年は収穫ゼロ(本人カウント)の雄二からすると、なんとも羨ましい話である。
「へ、へ〜〜。誰だかわかんないけど、羨ましい人がいたものだなぁ〜〜」
 羨ましすぎて額に大きな汗マークを付けながらそう言わずにはいられなかった。
 するとイルファはくすくす笑ってエコバックを開き、綺麗にラッピングされた箱を取り出した。
 そしてそれをすっと前に差し出す。
「へっ??」
「はい、雄二さま。先だっては大変お世話になりました。これからも色々教えて下さいね」
 予想外の展開に、雄二は少々焦点の定まらない眼で箱を見、イルファを見つめ、自分の手を見、また
箱に目をやり、最後にまたイルファと見詰め合った。
「俺に? もしかして、チョコ??」
「はいっ。一生懸命作りましたっ♪」
 ようやく事態を理解した雄二は跳び上がって喜びたい気分になっていた。
「おおおおっ、ありがとうっ、イルファさんっ!! 今年は人生最高のバレンタインだぜっ!!」
「まぁっ、おおげさですわ」
 思わぬプレゼントに、さっきまで沈みがちだった雄二の気持ちはすっかり晴れていた。
 更に商店街では一日早く緒方理奈写真集もゲット。
 今年は彼にとって、久しぶりの良いバレンタインとなったのであった……。


 ちなみにその日の夜。
「貴明さんっ、今日のごちそうは、ワ・タ・シですわっ♪」
「姉さんっ!! 私の台詞取らないでぇ〜〜〜っ!!」
 貴明は、リボンで綺麗に飾ったイルファとミルファをセルフプレゼント(笑)されていた。
 ……彼がそれを受け取ったかどうかは、各自のご想像にお任せする。


                    〜終わり〜
598『雄二のハッピーバレンタイン』の中の人:2008/02/14(木) 23:27:13 ID:0wblyABC0
こんばんは。
やー、バレンタインのウチに間に合ってよかったっす。
>>572を見て「雄二を忘れないであげて下さい」とか思ったら書きたくなりました。
勢いで仕上げたんで色々アレです。でも反省はしてるけど後悔はしないw
599名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 23:29:32 ID:ZmX6b7+C0


いやいや全然面白いんだぜ
本当に勢いで書いたんかいって思うくらいに

それにしても雄二が不憫すぎるなww
600『雄二のハッピーバレンタイン』の中の人:2008/02/14(木) 23:39:22 ID:0wblyABC0
うわっ!2/4の雄二の台詞で「草壁さん」が「草薙さん」になってるっ!!


……スマン、吊ってくる……orz
601名無しさんだよもん:2008/02/14(木) 23:49:11 ID:b3IZO6Zj0


面白いし、良い目にあう雄二物は結構貴重やねw
郁乃が貴明を呼び出してどうしたのかも微妙に気になる〜

しかし、漏れも昨日からぼちぼち書いてるんだが間に合いそうもないや
まあ、焦らず書くか…
602名無しさんだよもん:2008/02/15(金) 00:02:31 ID:j/FZcmp10
乙です。

確かに雄二はバレンタインネタやりやすいですね。
主に負け組みですが。
603名無しさんだよもん:2008/02/15(金) 19:22:43 ID:NnnZ1Wtl0
川辺沿いの土手で、このみとゲンジ丸にも同情される雄二、みたいな哀愁漂う雄二を想像しましたw
でも、普通にしていたら、タマ姉だってやさしくチョコくれそうなのに、あえて茨の道をゆく雄二って漢だよな。
604甘い一粒 1/9:2008/02/16(土) 14:31:04 ID:2dojsk5A0
 チョコレートをカリカリカリ
 小さく刻んでボウルに入れて

 生クリームはコトコトコト
 お鍋でほんのり程よい湯加減

 ボウルのバスタブ
 そそいだクリーム
 ちょっと熱めでいい気持ち

 チョコは蕩けてミルクチョコ

 ラム酒ちょっぴりほろ酔い加減
 涼んで火照りを冷ましましょ

 火照りが冷めたらくるくるころころ。
 お風呂あがりの体操でみんなまん丸つやつやに

 最後にお化粧チョコを塗り塗り
 ココアをふるって出来上がり

「…変な歌。」
「…変…かな?あたしは結構いいと思うんだけど。」
 キッチンでトリュフチョコを作っていたあたしの鼻歌に郁乃がクレームをつけてきた。
 あたし作、トリュフチョコの歌は不評みたい…ぐすん。
「それはそうと、郁乃はチョコ作らないの?バレンタインデーは明日だよ?」
「あたしはもう用意してあるから。ほら。」
 郁乃がそう言って見せたのはスーパーのビニール袋。
 中にはあたしも良く買うお菓子メーカーの包み紙で包まれた箱がいくつか入っていた。
「手作りじゃないの?」
「仲良くしてくれるクラスの男子と女友達にいくつかあげるだけだし。
 義理なのに手作りなんか渡したらかえって誤解されるわよ。」
605甘い一粒 2/9:2008/02/16(土) 14:33:36 ID:2dojsk5A0
「ふーん…たかあきくんにもそれで済ますの?」
「なっ…何であいつがここで出てくるのよ。」
 郁乃が顔を真っ赤にした。…こういうところは結構わかりやすいんだよねぇ。
 郁乃はたかあきくんのこと気にしてる…あたしの心がちょっとだけ痛んだ。
「あいつなんて義理なんだから出来合いでで十分よ。
 だいたいお姉ちゃんが本命渡すの知ってるのに、あたしが本命渡してどうするのよ。」

 そうなのだ。あたしとたかあきくんは付き合っている。
 だから今年のバレンタインデーは特別。
 初めて、心から好きな人にあげるためにチョコを作っている。

「あいつだって、お姉ちゃんのチョコを一番に楽しみにしてるんだから
 …またドジって家に忘れたりしないでよね。」
「うん、忘れないように袋に入れてちゃんとカバンにぶら下げておくから。」
 郁乃のちょっと素直じゃない心遣いに感謝しながら、できたチョコに茶漉しでココアを振りかけた。

 あたしの気持ちを込めた、まあるいチョコレート。
 ただ好きっていう気持ちだけじゃなくって、いっぱいの感謝も込めて、一つ一つ丁寧に箱に収める。
 箱の蓋を閉じて、とびきり丁寧にラッピングして、綺麗にリボンを結わえたら完成。
 …たかあきくん、どんな風に受け取ってくれるかな?

                 ◇

 次の日はちょっと寒かったけど、でも空は高くてとってもいい天気だった。
 予備のお弁当袋に入れたチョコをお弁当と一緒に縛り付けて、いつもよりちょっとだけ
重たくなったカバンを手に、あたしは家を出た。
 バスの中でたかあきくんにどんな風に渡そうか考えながらチョコの入ったお弁当袋を覗いてたら、
にやけててみっともないって郁乃に怒られちゃった…しゅん。

 学校の傍のバス停で郁乃と一緒にバスを降りて、長い坂を上って学校に向かう。
 いつも通りの時間に教室に入って自分の席に着く。
 たかあきくんはまだ来てない。いつも向坂先輩たちと待ち合わせてるから、来るのはもう少し後。
606甘い一粒 3/9:2008/02/16(土) 14:36:03 ID:2dojsk5A0
 たかあきくんが来るまでの間に、何時渡そうか、どんな風に渡そうか…あたしは頭の中で
シミュレーションを繰り返した。
 でも何度やっても途中で舌を噛む自分の姿が容易に想像できて情けなくなった…
 付き合い始めてもう半年以上になるのに、何時までたってもあたしはたかあきくんにドキドキしっぱなし。
 何時になったら自然に恋人らしく振舞えるようになるのかなぁ…
 たかあきくんは「慣れないほうが愛佳らしくっていい。」って言ってくれたけど…

「姉貴の奴め…くそ。」
「雄二はいつも一言余計なんだよ。自業自得。」
 あ、たかあきくん。
 向坂くんと一緒に入ってきたたかあきくんは、手に小さな紙袋を持っていた。
 …向坂先輩とこのみちゃんのチョコかなぁ…あたしも今のうちに渡しちゃおうかな。
 そう思って私は机の横のカバンにぶら下げてあったお弁当袋に手を伸ばした。

 …あれ?

 カバンにぶら下がっているお弁当袋は1つだけだった。
 …お弁当が入れてあるほうだけしか付いていなくて、もう一つのチョコが入れてあったほうの袋が無くなっていた。

 え?え?…うちに忘れてきちゃったの?
 …ううん、バスの中で眺めてたから、少なくともバスを降りるときまでは持ってたはず。
 …じゃあ、バス停から教室に来るまでの間のどこかで落としちゃったんだ…
 …バスの中で覗いたりしてたせいで、学校まで来る途中で紐が解けて、袋ごと…

 とたんにあたしは泣きたくなった。
 …ううん、泣いてる場合じゃない。すぐ探しに行けば、まだ見つかるかも。
 そう思って席から立とうとした瞬間、ホームルームを告げる鐘の音と共に先生が教室に入ってきた。
 ううう…まさかここで学校をサボって飛び出すわけにも行かない。あたしは学級委員長だし…
 あたしは…泣く泣くチョコの捜索を諦めて号令をかけた。

                 ◇
607甘い一粒 4/9:2008/02/16(土) 14:38:07 ID:2dojsk5A0
 結局その後、休み時間ごとにあたしは頼みごとをされて、チョコを探しにいけなかった。
 …こういうときは人の頼みを断れない自分の性格が恨めしくなる。

 そしてお昼休み。
 いつもならたかあきくんと郁乃と一緒に書庫でお昼を食べるんだけど、今日はそんな場合じゃない。
 4時間目が終わると同時に素早くたかあきくんのところまで行って、お弁当を押し付けた。
「あ、あたしちょっと用事があるからお弁当もって先に書庫に行ってて!郁乃の事よろしくね!」
「あ、愛佳!」
 呼び止めるたかあきくんを振り切って、あたしは教室を飛び出した。
 そして…いきなり飛び出したせいで、入り口に立っていた女の子に思いっきりぶつかった。
「いたたたた…ご、ごめんなさい。」
「いったぁ…って、愛佳!」
「あ、え?由真?」
「丁度よかった…あのね、ちょっと話あるんだけど…」
 わわわ、また頼まれごとしちゃうと探しにいけなくなっちゃう!
「ご、ごめんね由真!話は後で聞くから!」
 由真が話し始める前にあたしは玄関に向かって走り出した。
「あ、ちょ、ちょっと愛佳!…なんでこんな時ばっかり足速いのよあの子は〜!」
 由真が後ろで叫んでたけど…今のあたしにはチョコの方が大事だった。

 玄関で靴を履き替えてあたしは校舎から飛び出した。
 そして校門まで一直線…というところで、
「愛佳っ!」
 あたしは腕をがっちり捕まえられて止められた。
 振り返ると、腕をつかんでいたのは息を切らせた由真だった。
「あ、あたし探し物があるから…行かないと。」
「はぁ…はぁ…こ、これでしょ。」
 そう言って由真が見せたのは、あたしの落としたお弁当袋だった。
「そ、そう、これ、これだよ〜。ありがとう由真〜」
 あたしは嬉しくて思わず由真に抱きついた。でも…由真の表情はなぜか暗かった。
「これのことで話があるの…中庭いこ。」
608名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 14:39:33 ID:/zAeh2M5O
支援
609甘い一粒 5/9:2008/02/16(土) 14:41:22 ID:2dojsk5A0
 中庭にはところどころにお昼を食べる人たちが陣取っていた。
 あたしと由真は空いていたベンチ見つけると、そこに腰掛けた。
「ねえ、由真…それどこに落ちてたの?」
「学校の前の上り坂にあったの。…それでなんだけどさ。」
 由真は申し訳なさそうな顔で、お弁当袋を私に返してくれた。
「坂で思いっきり立ちこぎしてた最中でさ…お弁当袋見つけたときは手遅れで…轢いちゃった。」
「え?」
 …恐る恐る、あたしは袋の中を覗き込んだ。
 中に入っていたチョコの箱は…つぶれちゃっていた。

「ま、愛佳…」
「へ?」
 気が付くと、あたしは泣いていた。
「ごめん…それ、あいつに渡すチョコだったんでしょ?謝って済む事じゃないけど…」
 そう言って由真はあたしに頭を下げた。
「ううん…あたしが落としちゃったのが悪いんだから…由真は悪くないよぉ…」
 あたしはそう言ったけど、由真は下げた頭を上げようとはしなかった。
「それじゃあたしの気がすまないの…愛佳のやつの代わりにはならないかもしれないけど…これ。」
 そう言って由真があたしに差し出したのは…綺麗にラッピングされた箱だった。
「これどうしたの?」
「…何でもいいでしょ。受け取って。」
 あたしはその箱を受け取って…それがどんなものなのかわかった。
「…やっぱり、これは受け取れないよ。」
 そう言って、あたしは箱を由真に返した。
「それ手作りのチョコだよね。包み方がお店屋さんのと違うもの…たかあきくんに渡すのに作ったんでしょ?」
「!…そ、そんなわけ無いでしょ…って、愛佳に言っても無駄か。…そうよ。あいつにあげようと思って作ったの。」
 あたしとたかあきくんが付き合う事になった後で由真もたかあきくんが好きだったことを聞いてたから…
「でもあくまで義理よ義理。ただちょっと凝ってみたかっただけ。あいつを愛佳から取り上げるつもりとかじゃないからね。」
「素直じゃないなぁ、由真は。」
「余計なお世話よ。…でもどうするの?予備なんて用意して無いでしょ?」
「うん…でもね、」
610甘い一粒 6/9:2008/02/16(土) 14:43:08 ID:2dojsk5A0
 あたしは、心の中でたかあきくんの姿を思い浮かべた。やさしくて、いつも私を助けてくれる人。
「…たかあきくんなら、正直に訳を話せば怒ったりしないで許してくれると思う。
 正直に謝って、今日帰ってから作り直しても間に合うよ、きっと。」
 あたしがそう言うと由真はちょっとだけ呆気に取られて、その後笑って答えた。
「…そっか、そうだよね…愛佳にはかなわないな、そう言うとこ。」
 いつの間にか、あたしの涙は止まっていた。由真は手を伸ばして、あたしのほっぺたを拭ってくれた。
 そしてちょっと意地悪な笑みを浮かべて言った。
「でも、あいつガキだから…後々根に持つかもよ。」
「…誰がガキだよ。」
「えっ!こ、こうのたかあき!何時の間に!」
 いつの間にか、あたしたちの後ろにはたかあきくんの姿があった。
「ど、どこから聞いてたのよ!」
「んー、「あいつガキだから」とかのあたりかな。お前があいつ、なんていうのは俺の事ぐらいだろうなと思って。」
「たかあきくん…なんでここに居るの?」
「うーん…今日朝から愛佳の様子がおかしかったからさ。」
 あたしが不思議に思って聞くと、たかあきくんはちょっとばつが悪そうに頭を掻いて答えた。
「…さっき先に行っててって言われたから、書庫に行って先に来てた郁乃に何かあったのか
 聞こうとしたらさ…そんなに気になるなら直接聞きなさい、あんたは彼氏なんでしょ、
 って怒られた。」
「当然よね。何のための彼氏なんだか。」
 由真がざまあみろ、っていう感じにニヤニヤしながら言った。
「ま、それで探しに来たんだけど…ちょうど窓から由真と一緒なのが見えたからさ。
 …愛佳、何かあったの?」
 ちょっと心配そうな顔でたかあきくんがあたしを見た。
 …また心配かけちゃった。あたし、まだまだたかあきくんに甘え切れてないんだなぁ…
 だから、あたしはたかあきくんの優しさに期待して、思い切って切り出した。
「あ、あのね、たかあきくん。」
「うん?」
「今日、バレンタインだよね。あたしもチョコ用意してきたんだけど、これ…」
 そう言って、あたしはつぶれてしまったチョコの小箱をたかあきくんに見せた。
「あ、それ…あたしが朝MTBで踏んじゃったから…」
611甘い一粒 7/9:2008/02/16(土) 14:45:14 ID:2dojsk5A0
「ううん、由真は悪くないよ。あたしが朝落としちゃったのが悪いんだから。」
 あたしと由真はたかあきくんの言葉を待った。
 でもたかあきくんは何も言わずにあたしの持っていた箱を取ると、リボンを解いてラッピングを開け始めた。
「あの…たかあきくん?」
「…お、愛佳、これ。」
 たかあきくんはつぶれた箱の中から、無事で残っていたトリュフチョコを取り出した。
「ひとつは無事に残ってた。俺はこれでも十分。」
 たかあきくんはそのチョコレートを口の中に放り込んで笑ってくれた。
「甘いな…愛佳の気持ちがこもってるから、美味しいよ。」
「たかあきくん…」
 あたしの目からまた涙が出てきちゃった…涙腺ゆるすぎで困っちゃうな…もう。
「やっぱり愛佳にはかなわないわ。心配無用だったわね。お邪魔虫は消えるわ。」
 そう言って由真は立ち去ろうとして…すぐにまた振り返った。
「そうそう…これ、あんたにあげるわ。」
 そう言って、由真は自分のチョコをたかあきくんに渡した。
「なんだ?バレンタインのチョコか、これ。」
 …たかあきくんて、こういうところ鈍感だよねぇ…
 由真は耳まで真っ赤になって…怒ったような顔で怒鳴り返した。
「愛佳のチョコ踏んじゃったお詫びよ!義理なんだからね!勘違いするんじゃないわよ!」
「はいはい。」
 由真は真っ赤になったまま走って逃げていっちゃった…

 後に残されたあたしとたかあきくんはしばらく由真を見送っていたけど、その後で
あたしはたかあきくんに提案した。
「ねえ、たかあきくん…今日はうちに来て欲しいな。チョコ作り直して渡したいの。」
「OK、帰りに愛佳の家に寄ってく事にするよ。」
「ついでに、お夕飯も作ってご馳走するから。」
「…うーん、愛佳の手料理は魅力だけど、ご両親と顔合わすの照れくさいんだよな。」
 たかあきくんは苦笑いしながら答えたけど、でもあたしは嬉しかった。
 こんな風に、もっと自然に甘えられるようになれるといいな。

                 ◇
612甘い一粒 8/9:2008/02/16(土) 14:46:42 ID:2dojsk5A0
 チョコレートをカリカリカリ
 小さく刻んでボウルに入れて

 生クリームはコトコトコト
 お鍋でほんのり程よい湯加減

 ボウルのバスタブ
 そそいだクリーム
 ちょっと熱めでいい気持ち

 チョコは蕩けてミルクチョコ

 ラム酒ちょっぴりほろ酔い加減
 涼んで火照りを冷ましましょ

 火照りが冷めたらくるくるころころ。
 お風呂あがりの体操でみんなまん丸つやつやに

 最後にお化粧チョコを塗り塗り
 ココアをふるって出来上がり

「…変な歌だな。」
 テーブルでチョコを作っていたあたしの鼻歌を聴いたたかあきくんが、郁乃と同じようにクレームをつけた。
「…あたしは結構いい歌だと思うんだけど…やっぱり変かな?」
 あたしがちょっと苦笑いしながらそう言うと、たかあきくんはちょっと笑って答えた。
「でも、ちょっとピントがずれててゆるい感じは愛佳にあってるかも。」
「ひど〜い〜たかあきくんひどいよ〜!」
「ははは、ごめんごめん。」

 ちょっぴり甘くて嬉しい時間。
 今日のチョコレートは一段と甘くなっちゃいそう…
613名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 14:48:16 ID:2dojsk5A0
というわけで、2日遅れのバレンタイン物です…
しかもレス数の見積もり間違えた…8レスで終わりです

最近いつも貴明視点で書いてたのでたまに愛佳視点で書いてみましたが
キャラが安定しねぇ…鈍ってるなぁ
614名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 15:44:29 ID:/p+rPiAN0
>>613
GJ!!愛佳はこんな感じでいいと思うよ。楽しめました
615名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 17:41:12 ID:rUZjejjM0
>>613
乙&GJです。

いやいやいや、この甘ったるさはイイですな。自分は好きですよ。
郁乃と絡めるかと思いきや由真と、ってのもなかなかいい感じです。

んでもオチでちょっと「郁乃の事も忘れないであげてください」と思ったかなw
いずれにせよ面白かったです。これからもガンガンやっちゃって下さい。
616名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 18:13:43 ID:IAgVYZpS0
>>613
乙です。
読み始めたとき草壁さんかと思ってけど違った。
AD発売すればこういう攻略できないキャラのSSはやっぱり減るのかなあ。
617名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 19:13:02 ID:mRe6HRBr0
いや、普通は増えるでしょ。
キャラの性格がよく解ってない今が一番減ってる時。
618名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 19:21:45 ID:3FXgL46X0
>>613
GJ! 愛佳も良いけど由真がさり気に良い!
619名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 19:31:36 ID:CgoJKgB40
>>613

乙です。
この文章から伝わるどこまでも甘い雰囲気がたまりません。
もし、またこういうの作るのならよろしくお願いします。
620名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 20:37:21 ID:sRheLNxL0
>>613

かーっ!甘い!迸るほど甘い!
甘ったるすぎる!
たまにはこうゆうのもいいな
621名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 22:28:49 ID:O2XlOgr80
でも愛佳ならもっと甘くても俺はいける!
甘々すぎるバカっプルに突っ込みを入れる郁乃。
そして、突っ込みを入れたはずなのに、逆に突っ込まれてあせる郁乃。

姉妹ならではの甘くどたばたストーリなんておいしそう、いやおもしろそうだね。
622名無しさんだよもん:2008/02/16(土) 23:29:00 ID:2dojsk5A0
中の人です
感想どうもです
愛佳ファンの萌え回路をハードヒットできたようで何よりですw

実は当初由真は出ない予定で考えてたんですが、
愛佳がチョコをなくして台無しにしてしまう部分がそのままだと痛過ぎる展開になりそうだったので
それを和らげるクッション役として登場願いました
はからずもゆまなかの友情話が成立してよかったかなと

逆に、当初は郁乃がチョコを渡すシーンを入れたいなぁと漠然と考えていたのですが、
愛佳主観で話を作る関係でどう考えても愛佳と郁乃と貴明を登場させるシーンがひとつ余計に必要になり、
それによって話が長くなって中だるみしそうな予感がしたもんで残念ながら割愛しました

また何か楽しいネタを思いついたら書きますノシ
623謎のネタ投下人:2008/02/17(日) 00:00:59 ID:3kxsW57Z0
郁乃 「私のお兄ちゃんになってください!」
貴明 「えええっ〜〜〜!!!」
郁乃 「なんでそこまで驚いてんのよ?」
貴明 「そ、そ、そ、それって間接プロポーズ?!」
愛佳 「えええっ〜〜〜!!!」

こんな感じで始まる(終わる?)定番ネタっぽいのに
何故かいまだ書かれていない(少なくとも自分は見たことがない)
愛佳の間接プロポーズ勘違い暴走ラブコメSS 誰かキボンヌw
624名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 00:44:10 ID:9q0bdMxv0
じゃあ自分は旦那が海外での支援活動中に捕虜になって心労で倒れた春夏さんを
見守る横恋慕確定純愛SSをキボンヌ

「でもお父さんが無事に帰って本当に良かったよ」
「ああ、まったくだな」
「下手したらたかくんの事”パパ”って呼ばないといけなくなってたかもしれないしね」
「ブ―――っ ゲホッ ゲホッ なななんで………」
625『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』1/14:2008/02/17(日) 03:05:43 ID:QtuwE5500
「……さんちゃんが……さんちゃんがかわいそうやっ……」
 こうして珊瑚だけではなく瑠璃も、客室に閉じ篭って鍵までかけてしまっていた。

 何が起こったのか理解出来ず、しばらくの間呆然としていた貴明とHMX−17姉妹であったが……
「……ミルファちゃんが節操なく貴明さんを独占するからですよっ!!」
「そうらそうらー」
 我に帰ったイルファとシルファは、いきなりがーっ!とミルファを責め立てはじめた。直前の瑠璃の
言葉を思い返せば仕方のない言葉というか、それぞれ瑠璃と珊瑚を心配すればこそ(?)の行動なのだ
ろうが、なんとなく日頃の恨みというか、溜まった鬱憤が垣間見えるのは気のせいだろうか??
「ううっ、ごめんなさぁ〜〜い」
 それでも瑠璃の言葉がショックだったのか、日頃この手の言葉にはすぐ反駁するミルファもしょんぼ
りしてしまう。それを見かねて、このまま不毛な叩き合いになってしまわないように
「ね、ねぇ。そんなコトより、どうやって二人に元気になって貰うかみんなで……」
 と、話題を強引に本題に戻そうとした貴明だったが……
「そんなコトとはなんですかっ!? 貴明さんも貴明さんですよっ!!」
「そうらそうらーっ」
 今のイルファとシルファに対しては火に油にしかならないのであった。


                『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』


 大体ですねー、とイルファは貴明にじわぁ〜〜っと詰め寄ってきた。
 どうやら余計なちょっかいをかけた為か、彼女の矛先は彼の方に向いてしまったようである。
「ちゃんと珊瑚さまと瑠璃さまと私を平等に愛してくださらないからこんな事になるんですよっ!?」
「シルファも忘れるなー」
 ……どうも、二人は貴明の理解とは違う方向性で問題を捉えているらしかった。
626『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』2/14:2008/02/17(日) 03:10:40 ID:QtuwE5500
(瑠璃ちゃんの言ってた事ってそういう事だったかなぁ……??)
「それとこれとは別のような気が……」
 ここ数ヶ月の経験に基づき、物事が独り歩きを始めて大きく成長する前に事実誤認をなんとかしよう
とする貴明であったが……
「いーえっ! 違いませんっ!!」
「そうらー。そういうことらー」
 勿論、もう二人は話を聞いてくれるはずもない。
 まぁ、実際彼女らは不満に思っていたのだろうから、問題の一端ではあるのだろうが。
 だが精神的に不器用な上にキング・オブ・ヘタレの貴明に、彼女らの要望に十分応えられる様な甲斐
性があろうはずがない。とはいえどう反論するべきか皆目見当も付かず、ただ口をパクパクさせるのが
精一杯であった。なんとも情けない話である。
「そんなのダメぇ〜〜っ!! 貴明は私だけを愛してくれてるんだからぁ〜〜っ!!」
 そしてそんな頼りにならない貴明に代わり、ミルファがジタバタと孤軍奮闘するのであった。


(ホンマ、さんちゃんはなんであんなんがええんやろ)
 貴明とメイドロボたちは事ここに至っても未だにドアの前でどたばたしている。
(仲がいいやら、悪いやら……端で聞いてるとまるっきり漫才や……)
 その騒音を、瑠璃は寝室と客間を隔てる壁に寄り掛かりながら聞いていた。

 姫百合家のみならず、ほうぼうで少なからぬ少女たち、それも年下から年上まで各種タイプ取り揃え
た美少女たちに大モテの彼であるが、瑠璃にはただのヘタレにしか見えない。
 そら優しいし、さんちゃんもウチも大切にしてくれるし……それでも、そんな事を考えていると何故
か今までの貴明との思い出が瑠璃の脳裏に蘇ってきた。
 遊園地でおぶってもらった事。あの時貰ったペンギンさんのぬいぐるみは、今もいつも枕元にいる。
 塩チャーハンをかき込んでくれた事。致死量に迫る調味料が入っているコトは身を以って知っていた
だろうに、冗談抜きで身を挺して珊瑚をかばってくれた。
627『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』3/14:2008/02/17(日) 03:12:02 ID:QtuwE5500
 家出した時にそっと抱きしめてくれた事。今まで珊瑚以外に、あんな風に瑠璃を赦してくれた人がい
ただろうか。あの温もりに包まれて、自分は何を感じたろうか……。
(ウチは……)
 瑠璃は、あわてて頭を振って浮かび上がって来た『その考え』を追い出す。
 今はそんな感慨に囚われている場合ではない。それに……
(ウチは、さんちゃんの妹なんや……)
 ……さんちゃん取る、貴明は敵や。
 ……さんちゃん取る、貴明なんか嫌いや。
 いつものようにそう、心の中で念じる。
 そして、珊瑚がいるはずの寝室側の壁を軽く叩いて呼びかけはじめた。
「さんちゃん、さんちゃん、なぁ、ウチとお話しよ。ウチの声、聞こえとるんやろ??」


『さんちゃん、さんちゃん、なぁ、ウチとお話しよ。ウチの声、聞こえとるんやろ??』
 その、心配そうな瑠璃の呼びかけを、珊瑚はベットの上で蹲ったまま聞いていた。
 聞こえないはずがない。珊瑚にとって、掛け替えのない半身の声なのだから。
 だが。珊瑚は何も応えられずにいた。言葉も、壁を叩くことすらも。
(ウチ、どないしたんやろ……)
 いつもみんなでらぶらぶ……それが好きなはずなのに、そうしていたいはずなのに。珊瑚は何度もそ
う自問していた。さっきも理想的な、いつもの姫百合家の団欒の中に身を置いていたはずなのに、突然
感じてしまった寂しさや怒りが酷く珊瑚を戸惑わせていたのだ。
『さんちゃん。……心配せんでも大丈夫や。さんちゃんにはウチがついとるやないか。それに貴明かて
 さんちゃんのこと色々頼りにしとるし、大事にしとる。ウチが保障するて』
(本当にそうやろか……瑠璃ちゃんは妹やから、貴明はウチがダメな子やから、ほっとけなくて一緒に
 いてくれるだけと違うんやろか)
 瑠璃は本当は何でも出来る。頼りになる。たとえ瑠璃本人が信じていなくとも、誰よりも珊瑚はその
事を知っていた。
628『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』4/14:2008/02/17(日) 03:14:07 ID:QtuwE5500
 貴明も言っていたではないか。瑠璃は思い遣りがあって献身的で、家事が出来て結構力もある、とて
もすごい子なのだ。きっと貴明に指摘されていた欠点だって、本を糺せば珊瑚のせいで染み付いてしま
ったに違いない。少なくとも珊瑚はそう、思っていた。
(昔の瑠璃ちゃんは友達いっぱいおった。よう知らん人といるんが苦手になったのは、ウチをかばって
 友達なくしたせいや……すごいんは瑠璃ちゃんや。ウチは瑠璃ちゃんが居らんとなんも出来へん、ト
 ロトロのダメダメな子や)
 自慢の妹。自慢の瑠璃。
 一つの魂を、身体を、分かち合ったもう一人の、自分。
 これまではそう考えると訳もなく誇らしく、胸が温かくなったはずなのに……今日の珊瑚は、訳もな
く悲しく、胸が締め付けられるような感じを覚えていた。
 そんな瑠璃に、貴明が惹かれるのは当然の事だ。
 そして自分もそのそばにいられる事がとても嬉しい。優しい貴明と、大事な友達になってくれたイル
ファと、ミルファと、シルファとずっと一緒にいられる事が嬉しい。これまではそう思っていたはずな
のに……今日は何故か苛立ち、胸の奥が重くなってくる。

 大好きな人たちと、大好きな場所で。でも……

(いつのまにかウチだけおらん気がする。……なんも出来へんウチなんて、貴明に見てもらえへんウチ
 なんて、おらんのと一緒やん)
 優しい、自分をとても大切にしてくれる貴明。
 ネコを追って塀に登った、春のあの日の事。貴明は疲れて路上にへたり込んでいたのに、降りれなく
なった自分を助けてくれた。
 遊園地では瑠璃をずっと助けてくれた事。そして行方不明になった瑠璃を見つけてくれた事。珊瑚のために、自分のために、必死に走り回ってくれた。ペンギンさんも取ってくれた。
 イルファと瑠璃の間に立ち、仲を取り持ってくれた事。あの時、怯えるばかりで自分には何も出来な
かった。貴明が必死にイルファを引き止めてくれなかったら、瑠璃を支えてくれなかったら、姫百合家
の今の幸せはなかったかも知れない。
629『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』5/14:2008/02/17(日) 03:16:05 ID:QtuwE5500
 シルファの教育を助けてくれた事。そしてミルファを本当の人間のように愛してくれる事……。
 ……珊瑚は、いつの間にか涙を流している自分に気が付いた。
(ウチは、ヤキモチやいてたんやなぁ……)
 そして認めていた。
 自分の怒りが、寂しさが、瑠璃やミルファに対する嫉妬であったという事に。

『……ごめん。ごめんな、さんちゃん……』

 その時、押し殺したような瑠璃の声が客間から聞こえてきた。
 震えるようなその声……多分、瑠璃は泣いている。珊瑚にはそれがわかった。
『ウチがアホな子やから……貴明にめんどうかけてさんちゃんから取ってもうたから……それで寂しい
 想いさせたんやろ??』
 ごつん、と何かが壁に当たる音がする。
 おそらく、瑠璃が頭をぴったり壁に着けたのだろう。
『ウチ、出来るだけ面倒かけんようにするよ。……第一、ウチ貴明なんかキライやもん。さんちゃんか
 ら引き離すような真似、もうせんから……』
 ごつん。
 また、何かが壁に当たる音がした。
 瑠璃にここまで言わせてしまった……珊瑚の心の中にじわじわと後悔が広がっていく。
 そしてそれと同時に、
(ウチはお姉ちゃんなんや。瑠璃ちゃんにこんな事言わせとったらいかん……)
 さっきまで心を満たしていた寂しさや怒りが消えて行くのを感じていた。
 かわりに、後悔が運んできた自分に対する憤りややるせなさで頭が一杯になる。
 ……珊瑚は、さっき音がしたあたりの壁にこつん、と頭を当てた。
「ごめんな、瑠璃ちゃん……ウチ、どうかしてたわ……ウチな、貴明がよう相手してくれへんかったか
 ら、みんなにヤキモチやいててん……ホンマ、アホやなぁ……」
『さんちゃん……』
630名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 03:17:35 ID:3lGvYBbC0
支援
631名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 03:21:50 ID:6B2E1EDe0
支援
632『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』6/14:2008/02/17(日) 03:24:05 ID:QtuwE5500
 珊瑚は、吐き出すようにそう告白していた。
 罪を赦されようという告白ではなく、ただただ、自分の愚かさを慨嘆するような……

 だから。

 瑠璃は珊瑚を放って置く事は出来なかった。
 すぐにでもそばに行かなければならないと思った。
 とても辛そうだったから。他の誰も交えず、自分が。
『さんちゃん、今からそっち行くから、待っててや』
 そして客間の窓を開ける音がする。
「瑠璃ちゃん、瑠璃ちゃん、なにするん??」
『さんちゃん、窓開けて待ってて』
 待ってろ言うたかて……珊瑚は窓の外の事を思い出して凍り付いた。
 確かに、客間と寝室の窓は隣り合わせである。しかし、客間側は目一杯部屋を広げる設計になってお
り、寝室のように外側がベランダになっているわけではない。
 窓枠と、外壁のPC梁を使えば寝室のベランダに移る事も出来るだろうが、今は冬真っ盛り。そして
それでなくとも小柄の瑠璃は極度の恐がり……
「瑠璃ちゃんっ!!」
 飛び付く様に窓を開け、ベランダに出た珊瑚が見たものは……

                ◇   ◇   ◇   ◇

「とにかく、ね?? 今大事なのは、珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんに元気になってもらう事でしょ??」
「……確かにその通りですわ……」
「……うん」
 その頃。
 二つの天岩戸の前に控える連中はようやく落ち着きを取り戻そうとしていた。
633珊瑚ちゃん怒るの中の人:2008/02/17(日) 03:40:54 ID:5nW3zl7fO
6レスでさるさんにひっかかるとは……
仕方ないのでまた朝にでも投下しにきます。

あ、ちなみに今回で完結です。
では、また後程。
634名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 08:46:20 ID:3kxsW57Z0
支援
635『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』7/14 :2008/02/17(日) 09:15:04 ID:QtuwE5500
「そうだそうだー、話を逸らすなー」
「ミルファちゃんは黙っててっ!」「すっこめエロメイドロボー」
 ……まぁ、多少まだ殺伐とはしているが。

 その時。

『……り……んっ!! る……ち…ゃ……!!』
「……珊瑚さまがなにか叫んでる」
 シルファがその声に気が付いた。
「ん??」
「どうしたの??」
 叫んでいる、というのは尋常ではない。ましてこの状況においては。
 気になって全員が聞き耳を立ててみると、ドアの向こうから……

『貴明〜〜っ! 貴明ぃ〜〜っ!! 瑠璃ちゃんがぁ〜〜っ!!』

「珊瑚ちゃんっ! 瑠璃ちゃんっ!!」
「待って、貴明っ!」
 ブンッ!! ……バキイィィィッ!!
 珊瑚の悲鳴のような叫び声に、慌ててドアに飛び付こうとした貴明を制すると、ミルファはいきなり
ドアノブに向け、渾身の後ろ回し蹴りを繰り出した。
 ……ミルファのフルパワーが生み出す激しい衝撃をピンポイントで加えられ、錠ごとシリンダーが破
壊されてひしゃぐ。
「これで大丈夫っ!!」
 関節系に過負荷がかかったのか、膝を抱えてうずくまりながらそう言うミルファに向かって頷くと、
貴明はドアに思い切り体当たりして寝室の中に転がり込んだ。
 飛び込んだ寝室は、この寒い中で何故かベランダに通じる窓が開けられている。そして……
636『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』8/14 :2008/02/17(日) 09:18:57 ID:QtuwE5500
「きゃあああぁぁぁっっ!! 瑠璃さまぁぁぁっ!!」
 その光景を見るや、驚愕のあまりイルファは腰を抜かしてしまった。
「ちょ……っ! 瑠璃ちゃん!?」
 貴明たちが目にした光景。それは……
「……た、たかあきぃぃっ……」
「貴明っ! 瑠璃ちゃんが、瑠璃ちゃんがぁ〜〜っ!!」
 かろうじて手すりに掴まっているものの、危なっかしくベランダの外にぶら下がっている瑠璃の姿で
あった。

                ◇   ◇   ◇   ◇

「瑠璃ちゃんっ、瑠璃ちゃんっっっっ……」
 必死になって瑠璃の手首を掴もうとする珊瑚だが、非力な彼女にはなかなかままならない。
「さんっ……ちゃあん……」
 瑠璃も必死に這い上がろうとしている様だが、手すりの下部には縦格子しかない、掴まりにくいタイ
プの上に、寒さで手がかじかんでしまい、なんとか体勢を維持するのがやっとという風だ。
 このままでは遠からず瑠璃は落ちてしまう。
 一瞬、レスキューを呼んで……と考えかけた貴明だったが、すぐにベランダの手すりに手をかけると
膝をすっと沈めた。
「た、貴明っ、せめて命綱付けてっ……!」
 そこに、シルファに肩を借りたミルファが現れた。その手には延長コードが握られている。
「……わかった」
「シルファはいいもの取ってくるのれす。119も」
 そう言い残すとシルファはイヤーレシーバーをぐるりと回しながらベランダから駆け出す。
 貴明はミルファから延長コードを受け取ると、腰にぐるぐる巻いてズボンのベルトに縛り付けた。
「ミルファ、頼むぞっ」
「……安心して、絶対離さないから」
637『珊瑚ちゃん、怒る!? その3』9/14 :2008/02/17(日) 09:23:05 ID:QtuwE5500
 貴明は、にこりと微笑むミルファに、ひとつ頷く。
 そして寒風に吹きさらしのベランダ外壁へ向かって、手すりを乗り越えた。


 数分後。
 決死の覚悟で瑠璃を助けに向かった貴明であったが、予想外の寒さと足場の悪さに悪戦苦闘を余儀な
くされていた。瑠璃の方も、貴明の補助で少し息がつけたとは言ってもやはり苦しそうだ。特に掴みに
くい手すりとかじかんでしまった手が深刻である。一生懸命珊瑚が手を温めようとしてくれているが、
珊瑚の努力よりも温もりを奪おうとする大気の力の方が明らかに強い。
 貴明の延長コードを支えるミルファも、滑るコードと膝の不調が邪魔をして有効な手助けを出来ずに
いる。イルファが精神的衝撃で活動不全に陥っている事も痛い。
「貴明っ……なんで来たんやっ……あんたまで落っこちるでっ……」
 そんな中、貴明に支えられながらも、瑠璃は何度目かの憎まれ口をきいた。
「何度聞かれても……同じだよ。……瑠璃ちゃんが危ない目に遭っているから……他に理由はない」
 そして貴明も何度目かの同じ答えを返す。
「さあ、ちょっと気合を入れて押し上げるから、なんとか手を伸ばしてみて。手すりの横の格子に届け
 ばかなり違うはずだから」
「瑠璃ちゃんっ、がんばるんやっ……」
 珊瑚も立ち上がり、小柄な身体で精一杯瑠璃に向けて手を伸ばす。
 貴明がミルファに向けて小さく目配せを送ると、ミルファもこくりと頷いて応えた。
「いくよっ!」
 貴明は片手を離してぐっ!と瑠璃を押し上げた。
 瑠璃も、珊瑚も、必死に手を伸ばす。
「瑠璃ちゃんっ……! あと少しやっ……!」
「さんっ……ちゃんっ……!」
 一瞬、二人の指が絡み合い、そして握り締めあう……
 しかし
「「あ……っ!」」
「……うわっ!」
 手を繋ぎあった所で油断したのか、ずるっと二人の掌はすっぽ抜けてしまい、瑠璃はバランスを崩し
て貴明に圧し掛かってしまった。
 必死に瑠璃を受け止めた貴明であったが、命綱がなければ危険だったかも知れない。
 ……しかし、その一瞬命綱にかなりの荷重がかかる事になってしまった。
「くっ……うくっ……」
 滑るコードを手首に巻いて支えていたため、突然の負荷がかかったミルファの左手首には思い切りコ
ードが食い込み、充電用のジョイントが壊れて外れてしまった。また左腕の力がストールした事で右手
首にも瞬時に過大な負荷がかかり、指の力のほとんどを失ってしまったのだ。
 だが、ミルファは決してコードを離さなかった。
 左の手首と右手の指のほとんどの機能を失った彼女だったが、一瞬の躊躇もなくコードに噛み付いて
支え続けたのだ。……もちろん首に大きな負荷がかかり、関節部と駆動系が嫌な音をたてる。
「みっちゃん! あかんっ!!」
「ミルファあっ! 無理すんなっ!!」
 珊瑚と貴明の言葉にも、ミルファは笑って小さく首を振った。
 ミルファの危機に、必死になった貴明が体勢を立て直してコードが少し緩むと、彼女は獅子舞のよう
に首を振り、なんとコードを首に巻きつけて固定してしまった。
「ミルファ、待ってろっ! こんなのすぐ上がってやるからなっ!!」
 その姿に、貴明はミルファの覚悟を見た。自分が落ちれば、ミルファも死ぬ。
 失敗は許されない。貴明はもう一度、悲壮な覚悟を決めて瑠璃を押し上げる為に力を溜めた。
「……これに掴まって……」
 その時。
 ぱたぱたと駆け込んで来たシルファが、何処かの脱出用具箱から引きちぎってきたらしい非常用縄梯
子を投げ下ろした。

                ◇   ◇   ◇   ◇
「……ゴメンな、ミルファ」
「いえ、別にそんな大した事をしたわけじゃ……こんなのすぐ直りますし」
 あれから1時間ほどが経ち。
 姫百合家のリビングで応急修理の終わったミルファ(と言っても部品が脱落したりショートしたりし
ないように処置して、ハンカチで包んだだけ)に対して瑠璃が平謝りに謝り倒していた。
 ちょうどそこに、駆けつけたレスキューや近所の人に謝り倒していた珊瑚と貴明、そしてイルファが
戻ってきた。だが、
「すみません、瑠璃さま……さっぱりお役に立てなくて……」
 機能不全を起こして瑠璃救出に全く寄与出来なかったイルファはまだ滅茶苦茶落ち込んでいた。
 
「何はともあれ、瑠璃ちゃんが大きな怪我とかしなくてよかったよ。ミルファには随分無理させちゃっ
 たけど」
「みっちゃん、無理したらあかんて〜。頭に大怪我したらメイドロボかて危ないんやで??」
 何とか無事解決した事を喜ぶ一同ではあったが、ミルファの無茶には貴明も珊瑚も突っ込まずにはい
られなかった。確かに彼女の力で助かったのは確かだが、手首と同じ事が首でも起きていたら、明らか
にミルファはただでは済まなかったのだ。
 しかし、当のミルファはあっけらかんとしたものだった。
「いや〜〜、でも貴明が落っこちたりしたら、私も一緒に死んじゃうし……」
 そして、ハンカチで包んだ手で頭を掻くのだった。
 そんな中、シルファはじっと珊瑚の様子を伺い続けていた。
 よく見ると珊瑚にはさっきのような影はなくなっている。だから、率直に訊ねてみた。
「……珊瑚さま、もう元気??」
 突然そうたずねられた珊瑚は、ついきょとんとなってしまった。
 ……そういえば、つまらない事でみんなに嫉妬して天岩戸を演じたのだった……そんな事を思い出し
て、つい苦笑いを浮かべそうになった。が、その通りに言う事もないだろう。少なくとも瑠璃にはある
程度本音が話せた。
 だからいつもと同じに笑おう。珊瑚はそう決めたのだ。
640名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 09:34:35 ID:xKFLJCOXO
援護射撃
(みんなでらぶらぶ、それでええやん。瑠璃ちゃんがウチの事ホンマに心配してくれた。貴明がウチら
 のために必死になってくれた。それで十分やん)
「忘れとった〜〜。ウチはモウレツに怒っとったんや〜〜」
 ぷんすか!と怒ってみせる。いや、考えてみれば貴明に放って置かれたのがムカムカの原因なのだか
ら、貴明に怒るのは楽しいかもしれない。
 だから珊瑚は、貴明に怒ってみる事にした。
「……ねえ、珊瑚ちゃん。珊瑚ちゃんはどうして怒ってたの??」
「貴明、ウチとちゃんとお話してくれへんかったやん。ウチもアンケート何書こか悩んどったのにぃ」
 おあつらえ向きに貴明が落ち込んだ原因を聞いてきた。
 そしてそう言ってみると、確かにそこは怒るポイントのように思える。みんなに嫉妬してしまうほど
ぞんざいな受け答えしかしなかった貴明に、改めて腹が立ってきたくらいである。
「え? それならあの時……」
「大学とかそんなんなんでもいいんや。ウチの将来の希望ちゅうたらそういうのちゃうもん」
「そうなんだ?? じゃあ、珊瑚ちゃんはなにになりたいのかな??」
 そんな珊瑚の胸の内を、やはり貴明は全くわかっていなかった。
 まぁ、直前の瑠璃の話が『大学とかそんなん』だったのだから、わかれと言うのも酷な話と言う気が
しないでもないが……
 ともあれ。
「貴明のお嫁さん〜〜♪」
 貴明の質問に対して珊瑚は迷わず大きな『るー』のポーズをとりながら答えた。
 さっきまでの怒りは何処へやら、すっかりいつものにこにこ珊瑚である。
(さんちゃん、もうええんか??)
 そんな珊瑚を見つめて、瑠璃が軽く微笑む。
(ありがとな、瑠璃ちゃん。……もう大丈夫や)
 そして珊瑚は瑠璃の視線を真っ直ぐ見返すと、いつも通り満開の笑みを浮かべた。
 そんな彼女らのアイコンタクトを知る由もなく、貴明は『お嫁さん』発言に焦りまくっていた。
「……そ、そういうのは進路希望で書く事とは違うんじゃ……」
642名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 09:37:52 ID:xKFLJCOXO
支援?
「つまらんなぁ。センセもそう言わはるねん」
 そう言うと憮然とする珊瑚。しかし、その言葉の中には看過出来ないものがあった。
 なので恐る恐るその点を確認してみると……
「へ、へぇ〜〜、そう。せ、先生にも言ったんだ、それ……」
「センセの前どころちゃうで。クラスのみんなの前でこーやって言ってたで」
 珊瑚の真似か、大きく『るー』のポーズをとりながら瑠璃がニヤニヤ笑いとともに答えてくれた。
「ぐぁ……じゃあ、まさかまさか……」
 想像の範疇では限りなく最悪に近い答えに、貴明は慄然となる。
「もちろん、このみやいくのんも聞いとったなぁ」
「マジですか……」
 そんな貴明に、瑠璃は優しく止めを刺してやった。

「ところで、貴明さんたちには進路調査はないんですか??」
 がっくりと項垂れる貴明の前にお茶を出しながらイルファがたずねてきた。
 どうやら、ようやく少し浮上してくれたようである。
「2年生は3学期に入ってすぐにあったよ。まぁ、もうすぐ3年生だからアンケートとかじゃなくて3
 者面談だったけどさ」
「そうなの?? じゃあ貴明は誰と一緒に面談だったの??」
 貴明の答えにミルファが首を捻る。彼女の記憶によれば3者面談なるものは親子教師が揃う物のはず
だが、3学期が始まった時には既に貴明の両親は海外勤務に戻っていたのだ。
「先生があらかじめ親と電話で話をして、俺に面接して、また親に電話して、ってやり方だった」
「……ご主人様はなんになりたいんれすか?」
 なるほどなるほど、と頷きながら今度はシルファが貴明に質問した。
 それに対する貴明の答えはちょっと意外なものだった。
「まぁ、受かるかどうかわからないけど……一応来栖大学工学部を志望したいっては言っておいた」
 驚いた瑠璃は目をぱちくりさせながら確認してみる。
「来栖大言うたら、さんちゃん誘われてる長瀬のおっちゃんの研究室あるとこやんか?」
「うん。だから、俺も長瀬さんの研究室とかロボット工学とか面白そうだなぁ〜〜と思って」
 姫百合姉妹やメイドロボ姉妹に関ってHM研究室に顔を出すうちに興味を持った、と言うこともある
が、理系の方が手に職をつけやすいし、色々顔見知りが多い来栖大なら楽しかろう、という打算や読み
もないではない。どちらにしろまだ固い決意をしたわけではない……のだが……

「なるほろ……シルファのメンテナンスは自分でやりたいんれすか。……ご主人様が大事なシルファを
 他の人に触らせたくないって言うんなら仕方ないれすね……」
 なにやらシルファは眉根を寄せて腕組みをしながらうんうんと頷いている。
 いかにも『納得しました』という顔である。
「貴明ったらもう〜〜、私といつまでも一緒にいるためにロボット工学をやりたいなんて……」
 そしてミルファはなにか怪しげなドリームを受信したらしく、赤くなったり踊ったり、なんだかえら
く忙しい。それは毒電波だ!と指摘するのも躊躇われる様なはしゃぎっぷりである。
「なんや貴明、ウチと一緒の大学行きたかったんやぁ? そういうコトは、早う言うてくれなぁ〜〜。
 よっしゃ、まかせときぃ。ウチが毎日、勉強教えたるな♪」
 更に珊瑚はと言うと、もうすっかり『その気』のようで、早速立ち上げた高速PCで赤本やら参考書
やらを大量注文している。
 すでに、1時間前のあの騒ぎはなに?と言いたくなる『いつもの珊瑚』っぷりである。
「え゛!? 別に俺決めたってわけじゃ……まだあくまでそれもありかなという程度……」
「無駄ですわ、貴明さん。みんな珊瑚さまの娘ですし、思い込んだらもう止まりませんわよ♪」
 焦りまくる貴明に、イルファがにっこり笑って冷徹な事実を突きつけた。
 ……と言うか息の根を止めた。
「……アンタもな、イルファ……」
 呆れた様につぶやく瑠璃の声を、貴明はどこか遠くの世界の物のように聞いていた。


                    〜終〜
645『珊瑚ちゃん、怒る!?』の中の人 :2008/02/17(日) 09:51:16 ID:QtuwE5500
おはようございます。
それと朝から支援、ありがとうございました。
これにて『珊瑚ちゃん、怒る!?』完結となります。

さて、「珊瑚ちゃんをマジ怒りさせられるのか??」をテーマに書き始めた本作でしたが……
結局怒ったんだか単に機嫌が悪くなったんだか微妙でしたが、そこは見逃してやってください。
もう一つ言い訳を。
瑠璃ちゃん救出時にイルファさんを脱落させてしまったのは、3人寄るとたちまち問題解決して
しまいそうだったので、本編で腰抜かし経験のあるイルファさんには過剰に驚いて貰いました。
ま、瑠璃の危機なのでいちばん驚くのはイルファさんだろうというのもありましたが。
まぁ、そういう都合でしたので、イルファさんには申し訳なかったです。
ミルファが活躍するのは私のデフォなので、勘弁してくださいね(^_^;)

皆様には少しでもお楽しみいただけたのなら良かったのですが……。
646名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 10:25:03 ID:yjLrnewzO
らめご主人様にしては良かったのれす
647名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 14:01:26 ID:gD4t91Cy0
>>645
乙&GJ!。全員をうまく登場させててよかったと思う。面白かったよ
648名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 14:11:59 ID:3lGvYBbC0


別にイルファさん機能させて、さっさと助けてもよかったと思うけどね
珊瑚ちゃん怒らせるのが目的だったわけだし
649名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 15:22:46 ID:5nW3zl7fO
>>648
や、珊瑚ちゃんを怒らせるのが目的じゃないんだけど……。
あくまで面白い話を作る手段なんだがなぁ。
650名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 15:39:08 ID:Uk/H2MWP0
>>645
乙&GJ
面白いか面白くないかで言うなら、その1だけ面白かったです。
後半にいくにつれてgdgdになったのが残念。期待してたんだけども。

テーマに関しては失敗じゃろw
「嫉妬やそういう感情が希薄そうな珊瑚をどう怒らせるか」ってのも見所なわけだし。
最終的に嫉妬って落としどころにするなら、それこそこのテーマである必要がない。
651名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 15:43:49 ID:1f9KyV5C0
最初から言われているが珊瑚がマジで怒るのは難しいよね
俺の頭だと、イルファさんが開発中止で廃棄されそうになって、
来栖川本社相手に双子とメイドロボが大逆襲、最後はダニエルとミルファの怪獣大戦争、とかしか思いつかんw
652名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 17:40:29 ID:3FnJMyMQ0
乙&GJ
久しぶりの長編楽しませて貰った

うーん、珊瑚ってかなり前向きな上に怒るより落ち込むタイプだからなぁ、怒らせるのは難しいんだろうな
珊瑚って意外と策士だから大抵の事件は先読みして心配せんでもーとか言うしな
最終手段としては、本編で瑠璃が言おうとしてた『言ってはいけない事』を言わせるとかかね?
653名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 19:56:54 ID:6xJffmU50
>>645
GJ!
久々に楽しく長編を読ませてもらいました。

普段の珊瑚ちゃんを考えたら、怒るってところは想像したことがないから
ちょっと考えさせられるお話でよかったです。
654名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 20:59:19 ID:Wxu6AOVu0
久々に投稿します。
なんだか規制が厳しいみたいなので7レス程度ずつで様子を見ながら。
もししばらく投稿が止まったら規制で中断したものと判断してスレを通常進行させて下さい。
本文は19レスを予定しています。
655名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 21:01:58 ID:t0I3Sw3y0
+   +
  ∧_∧  +
 (0゜・∀・)   ワクワクテカテカ
 (0゜∪ ∪ +        
 と__)__) +
656生まれたばかりのメイドロボ 1/19:2008/02/17(日) 21:05:39 ID:Wxu6AOVu0
 それは、珊瑚が貴明に出会う一週間ほど前のある日のこと――

 結局、18時間ぶりの休憩さえも軽くシャワーを浴びるだけで済ませてしまった。
 シャワーから上がった珊瑚は足取りも迷うことなく、再び電源を入れっぱなしのパソコンに向かっていく。
 しかも薄手のキャミソールを身に付けただけのあられもない格好で。
 彼女は濡れた髪を乱暴に拭いたバスタオルを放りだし、キーボードにパスワードを打ち込んでメインシステムを再起動させる。
 そしてまた複雑な数式の並ぶプログラミングの世界に没頭していくのだった。

 こんな日が、もう何日続いたのだろうか。
珊瑚の顔には疲れの色は見えないけれども、でもやっぱり身体にいいはずがないと思う。
 きっと言っても無駄だと思いつつも、瑠璃は声を掛けずにはいられなかった。

「さんちゃん、ええかげん寝たほうがええよ」
「んー……」

 心配する声に生返事で答えながらも、珊瑚のしなやかな指先はひたすらにキーボードを叩く。
 一度何かを始めると夢中になってしまう珊瑚は、もう作業を終わらせることしか頭にないのだろう。
 瑠璃は溜息をついて珊瑚が脱ぎ散らかした衣服やタオルを片付けながら、じっとその後姿を見守るしかなかった。
 パチパチとキーボードを叩く音が静かなリビングに響く。
 キーボードの上で珊瑚の指が踊る度に、ディスプレイにいくつもグラフや計算式が浮かんでは消えていく。
 傍らの書類にも目を通しながら、珊瑚はたった一つのことだけを考えていた。

(どうしたら、しっちゃんは目覚めてくれるんやろうなあ……)
657生まれたばかりのメイドロボ 2/19:2008/02/17(日) 21:07:36 ID:Wxu6AOVu0
 ――珊瑚を中心としたメイドロボ『HMX-17』シリーズの研究開発はすでに最終段階を迎えていた。
 しかし、ここにきて一つの大きな問題が発生。
 メイドロボ三姉妹のうちイルファ、ミルファの稼動状態は順調。
 ところが、末っ子のシルファだけはぬいぐるみから人間型ボディへと人格移植しての起動テストに失敗した。
 その後いくつかの方法を試してみたが、シルファは現在でも自分の殻の中に閉じこもったままだ。
 初期起動の不能。メイドロボが精神的に不安定な状態だとときどき起こる現象だ。

「ほんと難儀な子やなあ……うちと一緒や」
 
 人知れず珊瑚は呟く。
 初期起動に限らずメイドロボの人工知能が自分の殻の中に閉じこもってしまう、というのは実はそれほど珍しいことではない。
 自分で考え、感じるこころがある以上は製作者の思い通りには育たない。
 特にHMX-17シリーズのような最新式のメイドロボは、あらかじめ高い知性と感受性を備えているのだが、それだけに精神的には繊細であるとも言える。
 シルファは珊瑚が育てたOSの中でも極端に内向的な性格に育ったメイドロボだった。
 俗っぽく言ってみれば内弁慶。
 身内には毒舌を吐くこともあるけれど、本当はは臆病で人見知りが激しくて。
 いつもイルファ・ミルファの姉妹から離れようとせず、ときおり開発関係者の手を焼かせている。

 そんな彼女はメイドロボとしてはあまり高く評価されていない。
 過去のメイドロボと比較して最優秀とまで言われているイルファとは、姉妹機でも大きな差があった。
 『メイドロボには向いてない』
 そういう陰口が叩かれていることも――少しは知っている。
 正直に言えば、珊瑚も同じ考えだった。
 きっとメイドロボになれたとしても、シルファはいろいろと苦労することだろう。
 それでも珊瑚はそのOSの基本人格にはあえて手を加えるようなことはせず、臆病な性格のままの彼女を育ててきた。
 なんとなくシルファにはそのままでいて欲しかった。
 自分が人格に手を加えて、彼女を変えてしまうようなことはできるだけ避けたかった。
 彼女を見ていると、ふさぎこんでいた頃の自分を少しだけ思い出すからかもしれない。
658生まれたばかりのメイドロボ 3/19:2008/02/17(日) 21:08:23 ID:Wxu6AOVu0
「でも、きっともう少し……」

 珊瑚はシルファの現状データを眺めながら呟いた。 
 もう、この子は目覚めようとしている。
 過去に200回以上行われたさまざまなメイドロボの初期起動データ。
 その全てに目を通してきた珊瑚には直感的に感じるものがあった。
 あともう少し何かのきっかけがあれば、きっとこの子は本当のメイドロボとして生まれてきてくれるはずだ。
 でも、そのきっかけはどこにあるのだろう?

「いっぺん、うちが自分だけで起動させてみようかなあ」

 初期起動は珊瑚の専門外の仕事だから、今までは上がってきたデータを見て調整を加えているだけで、
 彼女には自分の手でメイドロボを起動させてみた経験が一度もない。
『データだけでは分からないことも、たくさんあるんだよ』
 珊瑚が『長瀬のおっちゃん』と呼んでいる開発主任が、以前コーヒーを飲みながらぽつりとそう呟いた。
 その後姿をふと思い出す。 

「やってみようかな……」

 それに久しぶりにシルファに会いたくなってきた。
 シルファのOSをぬいぐるみのボディから初期起動用の機材に移植してからは、もうずっと話をしていない。 

「よし、明日おっちゃんのとこに頼みに行ってみよっと」

 そう結論付けると、珊瑚はパソコンの電源を落として身体をベットに投げ出した。
 彼女が眠りに落ちるのは、それからわずか数分後のことだった。
659生まれたばかりのメイドロボ 4/19:2008/02/17(日) 21:09:12 ID:Wxu6AOVu0
次の日。
珊瑚はシルファの預けられている研究所へと足を運んでいた。
 企業機密を守るためのいくつかの厳重なチェックを受けつつ数時間。
 やっと通されたメイドロボ検査用の一室に、シルファはいた。

「しっちゃん。ひさしぶりやね」

 返事は無かった。
 珊瑚が声をかけたのはベッドに横たわる全裸の美しい少女。それは珊瑚が初めて目にするシルファの姿だった。
 ぬいぐるみではない、本来のシルファに用意された完全なボディだ。
 その身体の機能は、ほとんどの点で人間と同じように世界を感じることができるよう設計されている。

 人間の心は人間の身体にしか宿らない。
 だからメイドロボの身体も人間と同じでなければならない。
 メイドロボ研究者なら、だれでもそのことを知っている。
 そしてこのボディの中に、既にシルファの全データは移植されているのだ。
 でも、そこに横たわった身体は全く動かなかった。まるで精巧な人形のように。

「ね、しっちゃん。起きとる? ウチの声、聞こえとる?」

 念のためにもう一度呼びかけてみたが、やはりその身体には何の反応もなかった。
 外部センサーとしての耳はもう機能しているはずだが、その言葉はシルファの『こころ』には届かない。
 珊瑚は会話での接触を諦めて寝台の隣に配置されている機材を起動させた。
 これを使えば、ボディの外部機能が働いていないシルファとも直接会話することができるはずだ。
 珊瑚は備え付けのボイスマイクにもう一度呼びかけた。

「しっちゃん。うちの声、聞こえる?」
『はい……聞こえています、です……』
660生まれたばかりのメイドロボ 5/19:2008/02/17(日) 21:09:54 ID:Wxu6AOVu0
 問いかけてから少し間があって、やっと耳に届くようなか細い返事が聞こえてきた。
 シルファの口から、ではない。
 これも研究室に備え付けの外部スピーカーから響く声だった。
 シルファはまだ、声さえ出せない状況にある。

『あの……珊瑚様、シルファになにか御用ですか?』
「んー? しっちゃんが全然起きられへんって聞いたからウチが来た」    
『!』
 
 スピーカーの向こう側のシルファの「こころ」が戦慄する。
 頭はよくとも人の心理には疎い珊瑚の言葉は、メイドロボ見習いの繊細なハートに突き刺さった。
 それは今のシルファには最後通告にしか聞こえなかった。メイドロボ――クビ。

『あ、あの……もしかして、珊瑚様もシルファが起きないから怒ってるんですか?』
『へ?』

 スピーカーから聞こえてくるシルファの言葉は恐怖で擦れてしまっている。
 可哀想に、自分が製作者についに引導を渡されたと勘違いしているのだ。
 シルファの頭の中には手足バラバラにされて鉄屑になっていく自分の姿が浮かんでくる。
 それは全身から血の気が引く光景だった。血は無いけど。

『あ、あ、あう……シルファのこと、見捨てないで下さいなのです。ちゃんと頑張りますから』
「……??」
 
 震える声で嘆願するシルファだが、珊瑚にはシルファが怯える意味が分からない。
 そういう方向にはちっとも頭が働かないのだ。
 イノセントなのだ、彼女は。 
 穢れを知らないのだ。いい意味でも悪い意味でも。
661生まれたばかりのメイドロボ 6/19:2008/02/17(日) 21:11:53 ID:Wxu6AOVu0
 こうなる前に研究所の所員が気を利かせてメイドロボの感情値をモニタリングする機能も用意すべきだったのだ。
 しかも幼稚園児にも理解できるような分かりやすいイラスト表示で。
 恐怖に怯え泣きながら震えているチワワが画面に表示されれば、珊瑚にだってさすがに状況が理解できたかもしれない。
 そこまでやらないとこの娘には分からない。

 と、その珊瑚がシルファの肩を労わるようにぽんぽんと優しく叩いた。

「心配することなんかあらへんよ。ウチがシルファが目を覚ましてくれるように、いい方法を思いついたんや」
『えっ? ほ、本当ですか??』

 想いもかけず優しい言葉を掛けられて、少しばかり安心した様子のシルファ。
 と、いったい何をするものか。珊瑚はシルファのボディの傍らに立ち、その頭におもむろにチョップを食らわせた。
 ぽこっ。
 
『さ、珊瑚さま??』

 驚いた、というよりは呆然としているシルファ――のボディに、珊瑚はくりかえしチョップをぽこぽこ打ちつける。
 同世代の女の子と比較してもなおさら華奢なその手のひらを、いくら打ち付けたところでちっとも痛くはないのだが……
 それ以前に、感覚が機能していないシルファのボディは今は痛みを感じないのだが。
 でもさすがにこの珊瑚の奇行には意味が分からず困惑するシルファだった。

『あの……珊瑚さま、いったいシルファに何をしてるんですか?』

 なんとなく口を開くのもはばかられる雰囲気ではあったが、いつまでもぽこぽこやっていても仕方がないのでシルファは思い切って珊瑚に尋ねてみた。
662生まれたばかりのメイドロボ 7/19:2008/02/17(日) 21:12:22 ID:Wxu6AOVu0
「んー……ちょっとこの前家のテレビの映りが悪くなってもうて。でも、瑠璃ちゃんが思いっきり蹴っ飛ばしたら綺麗に映るようになったんや」
『…………』
「で、調子の悪い機械があったら、叩いてみたら案外直るんやって。そういうやり方、ウチは今まで知らんかったなあ」
『……』
「んー、でもシルファは動かんなあ。叩く角度が悪いんかな? 確か45度の角度でこうやって……」
 ぽこっ。
『あ、あの……』

 眉根を寄せて頭をひねりながら、ぽこぽこと空手チョップを打ちまくる珊瑚。
 シルファはツッコミを入れる勇気も無く、ただ珊瑚が諦めてくれるのを待つことしか出来なかった。
 なんというアナログ思考。
 これが新世代メイドロボの感情プログラムという、希代の発明を成し得ようとする天才少女のすることだろうか?

「あかんなあ……」

 やがて、打ち疲れしたのかそれともこの作業に飽きたのか。
 はたまたやっと現実を直視してくれたのか。空手チョップを諦めた珊瑚が残念そうに俯いた。

「んー、この方法ではシルファを起こすことは出来ないみたいやなあ。残念や」
『そ、そうですか……』

 それは当然だろう、とはさすがに言えないシルファ。

「ごめんな、しっちゃん。ウチ、上手いこと出来なくて。しっちゃんのこと、これならきっと起こしてあげられると思ったんやけどなあ……」
『珊瑚様……』
 
 けれども、がっくりとうつむいてしまった珊瑚の横顔がとても寂しそうだったことにシルファは気が付いた。  
 やり方はともかく、珊瑚が一生懸命に自分を目覚めさせてくれようとしていることが、ようやくシルファにも分かったのだ。
 だからだろうか。ついシルファは今まで誰にも言えなかった正直な言葉が口からこぼれだした。
663生まれたばかりのメイドロボ 8/19:2008/02/17(日) 21:12:47 ID:Wxu6AOVu0
『珊瑚様、シルファのこと気遣ってくださって、どうもありがとうなのです。
でも……いいのです、なにも珊瑚様がそこまでなさらなくっても。シルファのことはほおっておいてもよいのです』
「へ? なんで……?」
『あの、珊瑚様……わたし、あんまりメイドロボにはなりたくないのです』
「えーーー?! なんで?」

 正に衝撃の一言。
 想像すらしていなかったシルファの言葉に珊瑚はとても驚く。

『この身体のままでもデータ実験や、データ試験ならいくらでもやります。
 だから……わたし、ずっとこのままではいけないでしょうか?」
「それはかまへんけど……でも、しっちゃんはそれでええの?」

 シルファの考えをそのまま実行することは簡単だけれど、それではこのメイドロボは一生外に出ることもなく実験室の中に閉じこもりっきりだ。
 それはあまりに悲しいことだろう。

「だって、しっちゃんは、メイドロボになってやりたいこととかあらへんの?」
『……何も、無いです。お外に出て、それでなにをしたらいいのか……シルファには、分からないのです……』

 そういえば、と珊瑚はシルファの二人の姉たちのことを思い出していた。
 イルファには瑠璃に尽くしたいというはっきりとした目的があった。
 ミルファは……メイドロボになって王子様みたいに素敵なご主人様を見つける、とか言っていたっけ?
 そういう目的がメイドロボにとってとても大切なものである、ということは珊瑚も経験的に知っていた。
 イルファもミルファも、事あるごとにその目的を口にして、自分を励ましていたからだ。
 でも、シルファにはその目標が無いという。
664名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 21:15:28 ID:D6Rip9S/0
665名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 21:18:52 ID:gD4t91Cy0
ひっかかったかな?
666名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 21:28:12 ID:6B2E1EDe0
支援
667生まれたばかりのメイドロボ 9/19:2008/02/17(日) 22:18:14 ID:Wxu6AOVu0
『珊瑚さま……シルファはなんの為に生まれてきてしまったのでしょうか?』

 そして、そんなシルファが自分に存在意義を問いかけている。
 一体なんと答えればいいのだろうか。

「んー……」

 メイドロボの存在意義は、ひとえにご主人様の意向にかかってくる。
 シルファにはまだ特定のご主人様はいないわけだが。
 根が生真面目なシルファは珊瑚を自分を製作した珊瑚をご主人様に近い存在として考えているらしい。
 でも、もちろんそれに珊瑚はまったく気付いていないのだが。
 そんな珊瑚にシルファは問いかける。


『珊瑚様、どうして珊瑚さまはシルファのようなメイドロボを作ってしまったのですか?』
「えっと……」

 そう問われて珊瑚の頭の中に思い浮かぶのは、自分がメイドロボを作ろうと思いついた一番最初の理由だった。
 自分のせいで友達を無くした瑠璃の為に、沢山の友達を作る。
 その決意がメイドロボを作るもともとの始まりだったはずだ。

「しっちゃんに、友達になって欲しかったから」
『おともだち……ですか?』
 
 ともだち、という言葉を意外に思ったのだろう。不思議そうにシルファが尋ねる。

「うん。ウチと、そして瑠璃ちゃんとも仲良く一緒に遊んでくれる友達がいっぱい欲しかった。でも、ウチは友達とかぜんぜんできへんかったし」
『そうなんですか?』
「うん、だから自分でともだち、作ろうと思った。いっぱい」
 
668生まれたばかりのメイドロボ 10/19:2008/02/17(日) 22:19:04 ID:Wxu6AOVu0
 だからしっちゃんやみんなを作ったんだよ。と、何故か珊瑚は嬉しそうにそう言うのだった。
 シルファはそんな珊瑚の考えを今日初めて知った。
 珊瑚はただただ天才で、自分達を新世代メイドロボのサンプルケースとして開発したのだとしか考えていなかった。
 だから性能的に劣る自分はきっと見捨てられてしまうのだと怯えていたのに。
 友達になって欲しくて自分を作った、などとは想像すらしていなかった。

『でも……シルファはメイドロボなのです。ご主人様に仕える身なのです。おともだち、と言われてもそんな身分じゃないはずなのです』
 
 けれども、本来のメイドロボの役目を考えればシルファの立場はだいたいそんなもののはず。
 彼女にはご主人様とお友達になる、という感覚がシルファにはどうしても理解出来なかった。
 返事が出来なくてシルファがまごついているのを見て、珊瑚は眉をひそめる。 

「やっぱり、しっちゃんもウチのお友達になってくれへんの……?」
『さ、珊瑚さま?』

 いつも明るい珊瑚の声に不意に影がさしたことに気が付いて、シルファはかなり動揺したようだった。

「ウチと友達になるの、イヤなのかな……」
『そ、そんな……』

 しかもその瞳から今にも涙がこぼれそうになっている。
 産みの親であり、ご主人様(仮)でもある珊瑚が泣き出してしまいそうになっているのを見て、
 久しぶりに目覚めたメイドロボの本能がシルファの心をかき乱した。 
 ご主人様を泣かせたのでは、メイドロボの存在意義に関わるのだ。
  
『ごごご、ごめんなさいなのです、珊瑚様。違うんです、だから泣いたり悲しんだりしないで下さい。
 あの、おともだちになるの……イヤとかそういうのではなくて、その……』

 シルファは自分の言うべき言葉が分からないようで、またしばらくあうあうと言っていたが、  
669名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:23:55 ID:D6Rip9S/0
支援
670生まれたばかりのメイドロボ 11/19:2008/02/17(日) 22:25:23 ID:Wxu6AOVu0

「あの……ただ、シルファにはよくわからないだけなのです。珊瑚さまのおともだちに……どうすればなれるのでしょうか?」
「ウチと瑠璃ちゃんと、ずっとそばにいてくれればそれでええよ」
「一緒に……」 
「ウチ、しっちゃんたちと一緒に遊びたくて、だから一生懸命勉強したんや。いろんなことを試して、やっと今日ここまでこれたんや」

 珊瑚はそう言ってまた笑った。
 そこにはただ眩しい夢を長い間待ち続けていた、無邪気な女の子の笑顔があった。
671生まれたばかりのメイドロボ 12/19:2008/02/17(日) 22:26:08 ID:Wxu6AOVu0
『は、はい……』

 そして、珊瑚があまりにも嬉しそうに話すので、シルファはただ頷くことしか出来なかった。

『でもともだちって……シルファはいったい何をしたらいいんでしょうか?
 珊瑚さまのために、シルファに何が出来るんでしょうか』  
「したいこと、いっぱいあるよ。たとえば瑠璃ちゃんはうちに全然料理させてくれへんし……だから一緒に料理とかやってみたいなあ」
『シ、シルファも料理なんてしたことないのです……』
「それでええねん。瑠璃ちゃんは一人で全部作るから、なんかウチは寂しいんや。ウチと一緒にゆっくりやろう?」
『は、はい……』
「ああ、楽しみやなあ。しっちゃんがはやくお家に来てくれたら、とっても嬉しいんやけどなあ」
『……』

 あれこれと一緒にしたいことを考えながら嬉しそうな珊瑚の姿を、シルファは不思議な思いで見つめていた。
(よく……分からないのです)
 珊瑚の考え方は自分の常識からはかけ離れすぎていて、こうして聞いてみてもよく分からなかった。
 でも、今日こうして話してみて、自分が目覚めることをこんなにも強く願ってくれているのだということだけは分かった。
 それは今のシルファにとって、とても大切なことであるように思えた。
 シルファはやっと決心した。

『あの……。珊瑚さま、シルファの起動に付き合っていただけますか? シルファはもう一度頑張りたいのです』
「ウチが?」
『はいです。珊瑚さまと一緒なら、きっといつもより頑張れると思うです』
 
 こころなしか元気になったシルファの言葉に珊瑚も元気に答えた。

「えーよ! じゃあ、ちゃっちゃとやろっか」
672名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:27:59 ID:R/R9kaTu0
支援
673生まれたばかりのメイドロボ 13/19:2008/02/17(日) 22:28:05 ID:Wxu6AOVu0
 言うが早いか、珊瑚はキーボードを叩きつつ起動用の準備をてきぱきと準備を整える。
 正規の職員が数人がかりで取り掛かる作業をあっというまにこなしてしまう。
(やっぱりすごいのです……珊瑚さまは)
 そしてそんな珊瑚を見ていると、さっき自分に向けて『ともだちになって』といってくれたあの珊瑚が、また少しだけ遠くに見えて。
 シルファはなんだかまた心細くなってしまうのだった。
 準備を急ぐ珊瑚の背中に、シルファはためらいがちにそっと呼びかける。

『あの……』
「なあに?」
『手を……』
「ん?」
『シルファの手を、握っていて下さいますか?』
「……ほえ?」

 珊瑚は、シルファのうごかない手をじっと見つめる。

『ごめんなさい……本当はまだちょっとだけ、怖いのです……』
「ん、ええよーー」

 珊瑚は寝台に手を伸ばして、横たわるシルファの小さな手を取って優しく握り締めた。
 体温電気の通っていないシルファの手は、まだ固く冷たい機械の手だった。

「じゃあ、始めるよーー」
『は、はい……』

 能天気な珊瑚の合図で起動用の機材のスイッチが入る。
 面倒な手順を一気にすっとばして、珊瑚は次々と起動用のプログラムの手順を進めていく。
674生まれたばかりのメイドロボ 14/19:2008/02/17(日) 22:28:32 ID:Wxu6AOVu0
 パスワード認証……OK。セフティ解除。
 メインシステム起動。メンテナンスモード開始。
 各部チェック……オールグリーン。
 電圧チェック……正常値。

(うん。きっと大丈夫や)
 
 珊瑚はすでに起動の成功を確信していた。
 そして思った通り、これまで問題だった箇所も難なくパスしてシルファの初期起動シークエンスは開始される。
 シルファのボディに稼動に必要な電流が流れる。
 電気の流れは血の流れと同じ。
 シルファの身体を電流が駆け巡ると、シルファの機械の身体が少しずつ人間の、或いはメイドロボの身体に近づいていく。
 握り締めたシルファの手から少しずつ温もりと暖かさが伝わってくるのを感じて、珊瑚は少し驚いた。
(ああ、メイドロボって、こうやって生まれてくるんやなあ……) 
 やがて握り締めていた小さな手が、ほんの少しだけ力を込めて自分の手を握り返してきた感触を感じた珊瑚は、
 横たわる小さな身体にそっと声をかけた。

「しっちゃん、動ける?」

 珊瑚の言葉に応えて長い睫毛がぴくりと震える。
 ずっと閉じていた瞳がゆっくりと重たげに開かれていく。

「さ……珊瑚、さま?」

 それは珊瑚が初めて聞いたシルファの本当の声。
 鈴の音のように高く澄んだ声だった。
 とても綺麗で素敵な声だと、珊瑚はそう思った。
 シルファの各部が正常に稼動できる状態になったことをディスプレイで確認した珊瑚は、彼女にそっと声を掛けてみる。 
675名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:28:46 ID:D6Rip9S/0
支援
676名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:30:58 ID:6B2E1EDe0
支援
677生まれたばかりのメイドロボ 15/19:2008/02/17(日) 22:36:55 ID:Wxu6AOVu0
「もう、しっちゃんはちゃんと動ける立派なメイドロボや……よかったなあ」
「は……い」

 少し震えた声でシルファは答える。
 彼女は自分の身体の感覚機能が徐々に機能し始めたのを感じていた。 
 ぬいぐるみの中に入っていたときには感じなかった全ての感触。
 床の固さと空気の冷たさ。身体の重さ。耳に響く機械音。
 データとしてしか知らなかった、たくさんの感触と感情がまだ何も知らないシルファに次々に襲い掛かってくる。
 シルファはその感触に恐怖した。
 自ら裸の肩を抱きしめて、震えているシルファに気が付いて、珊瑚は声をかけた。

「どや? 今どんな感じ?」 
「床が硬いのれす……足が痛いのれす……いろんな音がいっぱい聞こえてきて……」

 シルファの返事は幼児の話し方に似た舌足らずの言葉だった。
 まだシルファは自分の発声機能が完全に使いこなせていないのかもしれない。

「しっちゃん、落ち着いて」
「怖い、こわいのれす、珊瑚さま……外気が肌に感触を与えてるのれす……これが寒いという感触なんですか……?」
「さむいの? そっか。今しっちゃんは裸やもんなあ」

 珊瑚は震えてちいさくなっているシルファをそっと抱きしめた。
 なるべく自分の温もりが伝わるように。シルファの身体を包み込むように抱きかかえると、その震える背中に腕をまわしてそっとなでた。

「さ、珊瑚さま?」
「どうや? しっちゃん、あったかい?」
「は、はい……」
678生まれたばかりのメイドロボ 16/19:2008/02/17(日) 22:37:41 ID:Wxu6AOVu0
 シルファは自分の身体が珊瑚の腕にそっと抱きしめられていることを感じて驚いていた。
 彼女は今、新しい人間の体で初めて人肌の温もりに触れたのだ。
 人間の素肌が触れ合う暖かく柔らかな感触。
 それは、ぬいぐるみの中にいたときには決して感じることは出来なかった感触だった。
 その温もりが優しくシルファを包み込んでくれている。

「あったかい……れす。とっても……」

 ほう、と溜息をついてシルファはそっと呟いた。
 こうして抱きしめてもらって、背中をそっとなでられていると、なんだか不思議な気持ちになる。
 
「あう……珊瑚さまに抱かれていると、シルファはなんだかこころの中があったかいのれす……」
「うん。うちもあったかい。しっちゃんが側にいてくれるから」
「珊瑚さまも? そうなんれすか?」
「うん、ずっと、こうしたかった。しっちゃんとこうして仲良しになりたかった」
「珊瑚さま……」

 柔らかな腕の中に包まれて、シルファは初めての感触に戸惑っていた。
 珊瑚に抱かれて、珊瑚の優しい声を聞いていると自分の心の底から暖かい気持ちが湧き上がってくる。
 この気持ちはなんなんだろう? どうして珊瑚に抱かれているとこんな気持ちになるのだろう?
 シルファは自分の知っている知識の中から、この感覚の意味を探した。
 いくつかの単語が浮かんでは消え、やがてその思考がひとつの言葉に纏まっていく。

「おかあさん……」
「え?」
「なんだ……おかあさんに抱かれているみたいれす……」
「ウチがおかあさん?」

 微かに甘えるような響きを乗せたシルファの言葉に珊瑚は驚ろく。
679名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:39:31 ID:D6Rip9S/0
支援
680生まれたばかりのメイドロボ 17/19:2008/02/17(日) 22:39:49 ID:Wxu6AOVu0
「は、はい……あの、ごめんなさい、なんとなくそう思えてしまって……ダメでしょうか?」
「あはは、おかあさんかぁ。なんだか照れるなぁ」

 確かにシルファの設計者であり、彼女をずっと育ててきた珊瑚はシルファの母親のようなものかもしれない。
 でもおかあさんなんて言われたはこれが初めてだった。
 イルファだってミルファだって、珊瑚を母親とは呼ばないし、これまでのシルファもそうだった。
 なんだか胸のあたりがくすぐったくなるような気持ちになる。

「これから、珊瑚様のことをおかあさんって、呼んでいいですか……?」
 
 いま、生まれたばかりのメイドロボが無垢な瞳で自分を見つめている。
 シルファはもう一度、『おかあさん』と小さく呟いた。
 
「えへへー。じゃあ、今日からしっちゃんはうちの子やー」

 そう言って、珊瑚はシルファのことをぎゅうぎゅう抱きしめた。

「あ、あうあう……」

 シルファは目を白黒させながらも大人しく珊瑚の腕に抱かれていた。
 なんだか、二人の今後を想像させるような構図である。
 やがてシルファが恥ずかしそうに俯いて珊瑚に問いかけた。

「あ、あの……」
「なあに?」
「……メイドロボになったら、おかあさんはずっとわたしの側にいてくれますか?」
681生まれたばかりのメイドロボ 18/19:2008/02/17(日) 22:40:27 ID:Wxu6AOVu0
「うん。ずっと一緒や。だって、うちはシルファとお友達になりなくてしっちゃんを作ったんやもん」
「あ、あい……」
「おふろも一緒、ごはんも一緒。ずーーっとうちといっしょや」
「あい……ずっと、ずっといっしょなのれす。ずっと……」
「うん」

 珊瑚は、シルファの手が何かを求めるようにそっと自分の服の裾を掴んできたことに気が付いた。

(ああ、シルファはもう動けるんやなあ。いまやっと動けるようになったんやなあ)

 そのことが、なんだかたとえようもなく嬉しかった。
 やがてシルファのまぶたが眠りを求めるようにゆっくりと閉じていく。
 初期起動用のバッテリーの持続時間はあとわずかだ。
 あと数分もせずにシルファの機能は一時停止の状態に移行するだろう。
 生まれて初めてのぬくもりに包まれながら、シルファはゆっくりと眠りに落ちていった。

「生まれてきて、よかったです……」

 最後にそう告げて、そして静かにその瞳を閉じた。
682名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:50:32 ID:wUnA4sNE0
支援
683名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:50:47 ID:xKFLJCOXO
支援?
684名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:55:44 ID:R/R9kaTu0
また捕まっちゃったのか
幸せな最期を迎えたようなところでぶつ切りw
685名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 22:59:24 ID:a4s/seyS0
>684
こらこら、最期はマズイだろ最期は
686生まれたばかりのメイドロボ 19/19:2008/02/17(日) 23:02:47 ID:Wxu6AOVu0
「……ありがとう、しっちゃん」

 珊瑚はシルファが完全にスリープ状態に移行したことを確認すると、その身体を優しくベットに横たえた。
 彼女が寒がっていたことを思い出し、自分が着ていた上着を脱いでその裸体に掛けてやる。
 その行為に何の意味も無いと分かっていても、そうしたかった。

「そや。ちゃんと状態チェックせな……」

 念のため、チェック用の機材で彼女の身体の状態を確認する。
 データーの上でもはっきりとわかった。ただの眠りさえ、以前のシルファとは違う。
 シルファは、もう生きている。

「やったーーーー!!!」

 珊瑚は小さな実験室で一人大声を上げて転がり回った。
 そうしてしばらく部屋の中をころげ回っていたが、ふと思いついたようにその動きを止めた。
 立ち上がってシルファの寝ているベットに歩み寄ると、幼子のように眠るシルファの頬にそっと唇を寄せた。

「今度目を覚ました時には、一緒にいっぱいあそぼうね……」
687名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 23:04:21 ID:2ETZLrfY0
688名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 23:04:44 ID:Wxu6AOVu0
以上で終わりです。
大変ご迷惑かけまして申し訳ありませんでした。
特に支援くださった方には心からの感謝を捧げます。
それではありがとうございました。
689名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 23:07:19 ID:R/R9kaTu0

途中、珊瑚ちゃんのチョップで言語機能が麻痺する話かと思ってたw
690名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 23:14:58 ID:xKFLJCOXO
>>688
乙、読みやすいし面白かったぜ
あと、>>ミルファは……メイドロボになって王子様みたい(略
ミルファは貴明と出会う前は生粋の乱暴者でやんちゃだったからそれは微妙じゃね?
>>689
俺も思ったw
691名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 23:15:45 ID:t45+W6Wk0
現在446KB
692名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 23:23:09 ID:6xJffmU50
>>688
GJ!
本当にいい話だな〜って思いました。
読みやすくて、続きが気になる作品でした。
693名無しさんだよもん:2008/02/17(日) 23:54:25 ID:a4s/seyS0
>688
乙。

随分古いラノベだが小林めぐみの『ねこのめ』を思い出した
原因不明だが絶対に目覚めない生体機械を、超能力者の女の子が呼びかけて目覚めさせたお話
694名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 07:49:11 ID:YIz32AoR0
>>688
乙&GJ
実に心温まるお話だったぜ
そしてここからシルファのマザコン人生が始まるわけd(ry

ところで誰かありそうでない貴明+ヒロインズ+おまけ(雄二)の旅行話なんて書いてみる気ないだろうか
695名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 08:29:50 ID:WO9aJXet0
ところでToHeart2にかぎらず他作品のSSでも
ヒロインと2人で鍋をつつくシーンを含むSSは
個人的にクリーンヒット率高いことが最近判明したわけだが
誰か書いてくれないだろうか と言ってみるテスト
696名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 10:26:43 ID:Z64eAbIPO
また料理かね。
鍋なら対決しなくていいけど……
あとこの時期旅行ちゅうとスキーに温泉かしらん。

ネタとしては悪くない、かな?
697名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 16:49:15 ID:dE9Dfn2OO
実は奉行なるーこ
698名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 18:54:25 ID:RydmlX9fO
闇鍋なんかどうだろうか?
699名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 20:56:41 ID:UmDSbZp70
ここで敢えて一人鍋
700名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 21:00:24 ID:WXH5Uisq0
雄二が一人で鍋を食うと
701名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 21:18:02 ID:rBJCsom10
なべ奉行キャラって誰だろう?色々と思いつくけど・・・
702名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 22:24:30 ID:Z64eAbIPO
鍋奉行かあ。
まぁ、タマ姉はガチ。
あと一番うるさそうなのはシルファかな。
由真あたりも面白いかも。
「あっ……」「ええっ!?」「あー、もうっ!私にやらせなさーい!」みたいな感じでw
703名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 22:28:53 ID:qq0vNykT0
普通に黄色だな
704名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 22:45:27 ID:cxVwM1kcO
ADにイルファさんの個別ルートないっぽいから
発売後に誰か書かないかなぁ・・・・・
705名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 22:57:32 ID:rBJCsom10
愛佳やこのみは最初、「鍋はこうするんだよ〜」と主導権を握ろうとするが、みんなの意見に押され、
最終的になし崩しになって、うきーとうなだれそう・・・

鍋奉行としてタマ姉に勝てるのは春夏さんぐらいか?
706名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 23:02:02 ID:YSFHCBDs0
>>697
速攻コーラ投入で闇鍋化の悪寒
「鍋とは好きなものを入れろと聞いたぞ。 うー」

このみの場合
仕切りきれずに、鍋奉行ならぬ、鍋召使に
「う〜みんな、このみにばかり入れさせてず〜る〜い。
このみも食べるであります」→放棄

由真の場合
仕切りは出来るけど料理の知識が乏しく
愛佳の補佐の元、奉行職に→そのうち、ひょんなことで貴明とバトルで、奉行放棄。
「あの…由真。 あたしがやっていいの…?」

愛佳の場合
鍋奉行そのものは無難にこなしていたんだけど
貴明と手が触れる等の「ちょっとした」ハプニングによりパニック
「あ〜あのえとえとえと」→食材全て鍋にぶちまけお役御免。

優季の場合
「あ、あの草壁さん。 真冬に夜の学校の屋上で鍋ってのは無理が有るんじゃ?」
「駄目ですか」(上目遣い)

707名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 23:02:21 ID:YSFHCBDs0
ささらの場合
「…これも鍋って言うのかな?」
ささらと、2人。 インスタントの「鍋焼きうどん」を前にして。

まーりゃん先輩の場合
「ようよう、たかりゃん。今度君んちで闇鍋パーティ…」
「お断りします!」

珊瑚の場合
「あんバタ入れたらあかんの?」→ とりあえず、全会一致で解任

瑠璃の場合
多分、無難かつ完璧に仕切るだろうからネタにならず
珊瑚による、妨害工作(当人は、妨害だと欠片も思ってない)ぐらいか。

タマ姉の場合
同じく、完璧に仕切るが、貴明に対するスキンシップ等も完璧に仕切りそうで

郁乃の場合 仕切りと共に貴明に対する嫌がらせも忘れずキッチリこなす
そのころ、同じ部屋の片隅で愛佳は姉の威厳の崩壊にただいじけてマスタ。
708名無しさんだよもん:2008/02/18(月) 23:36:27 ID:/QgyWii+0
>>706-707
そこまでネタ出しできてるなら書けば?
もしくは誰か代筆w

…俺はやらんよ?
709名無しさんだよもん:2008/02/19(火) 01:23:19 ID:XFxXVIgIO
イルファさんの場合
自分は食べられないので、あ〜んする役で我慢
710名無しさんだよもん:2008/02/19(火) 06:50:25 ID:yFJGpmk40
タマ姉がネギを入れようとしたところでトラウマ発動とか…
結構ネタが広がるな

それとさりげなくスルーされまくっている>>694に同情しとく
711名無しさんだよもん:2008/02/19(火) 07:17:02 ID:RNPcfVTo0
ヘタレ返上で貴明が鍋奉行。
デキる男を示そうとしたが、ヒロインズにもみくちゃにされ、結局ヘタレに・・・
さらに、その鍋パーティにすら呼ばれなかった雄二。
712名無しさんだよもん:2008/02/19(火) 07:19:59 ID:fE0MG6HL0
なんで貴明はヒーローでなくてヒロインなのか…
貴明なんて雄二に掘られてしまえ!
713名無しさんだよもん:2008/02/19(火) 10:52:19 ID:tUeBsSos0
>>710
実はスルーしてないぞ。
ちょっと旅行ものの電波来たトコ。暇を見つけて書くつもり。
状況に若干無理がある気がする上に、雄二抜きで二人旅になりそうだが……
 
 春の九条院大学付属女学校。
 時刻は夕食後消灯前。ジャージ姿の女子高生が、お菓子を囲む六人部屋。

「薫子さん、先生がお呼びですよ」
 入浴から部屋に戻ってきた三年生にそう告げられて、栗色の髪をした少女は一瞬怪訝な顔をした。
「私ですか?」
 同室の相棒玲於奈−隣で自分をきょとんと見ている赤髪の少女−ならともかく、
比較的無難な学園生活を送っているつもりの彼女には、呼び出しを食らう心当たりはあまりない。
「いえ、はい、分かりました」
 ないのだが、聞き返されても三年生だって分かる筈はないだろう。
 無駄に先輩の機嫌を損ねる前にと、すぐ立ち上がった。
「どうして薫子が呼び出しなど?」
「私に分かる筈がないでしょう?」
 配慮自体は、相棒の発言で無駄になったけど。

 @宿直室。

「失礼します」
「あ、いらっしゃい。掛けて」
 ノックして寮番教師の部屋に入った薫子は、勧められるままに椅子を引く。
「どう、高等部は、もう慣れた?」
 薫子は、この春に入学してまだ一月も立たない新入生。
「ええ、まあ、寮も同じですし」
 とはいえ、九条院は幼稚園から大学まで揃えた私立学校であり、
彼女も玲於奈も小学校からのエスカレーター組なので大きな差異は感じない。
 ……メンバーが変わった部屋の人間関係には多少のぎこちなさがあったが、
若干の摩擦を引き起こすのはいつも彼女自身でなく直情的な親友の方だし。

「そう、それでね、慣れたところで悪いんだけど」
 新米と中堅の間くらいの女教師は、言いづらそうに切り出した。
「実はね、部屋を替わって欲しいの」
 
「どうして薫子が部屋を移動しなければならないのです!」
 怒るんだろうなとは思ったが案の定、玲於奈は顔を真っ赤にした。肩よりも少し長い髪を振り回す。

「大きな声を出さないの」
 耳に指で栓をしながら同室の二年生がたしなめる。
「同室の生徒達が部屋替えを希望して逃げ出したんですって。絶対嫌だって」
「噂の新入生ですよね」
 上級生の話を、荷造りをしながら聞き流す薫子。

 今年の一年生に変わった娘がいるという噂は、始業当初から流れていた。

 生徒の殆どが中等部からの持ち上がりである九条の高等部にも、
 毎年数名は受験による新入生が存在し、
「だから外来など入学させなければよろしいのにね」
 “外来”と呼ばれる彼女らと、多数派のエスカレータ組とは多かれ少なかれ溝はある。

「話を聞く限り、その子がかなり特殊なようには思いますが……」
 それにしても、同室だった生徒達からの情報では公平ではないにしろ、
6人部屋で他の5人を追い出したというから只事ではあるまい。

「なんかねー、怪我させられた子もいたらしいわよ。気を付けてね」
「はい。忠告ありがとうございます」
 三年生の言葉に感謝を述べたものの、薫子の声は少し暖かみに欠けた。
(怪我をしたのは、貴方の派閥の一年生でしたよね、確か)
 別口で拾った情報は、心の中に留める。

 物心ついた頃からの、人生の大半を共に過ごしてゆく九条院の生徒達は、
上下関係の厳しい伝統のなかで、上級生を頂点とした派閥を形成するようになっていた。
 今回、部屋の移動を希望したのは、薫子と同室である三年生の派閥に属する子。
 そして、薫子自身は彼女の派閥ではない。
 
「手続きしてきます」
「いってらっしゃい」
 とはいっても、帰ってくるなと言われるほど、薫子は先輩にたてついた記憶もない。
 各派閥の領袖達が、自分の子分を出したがらなかっただけか。

(「ごめんね。きっと薫子さんなら上手くやれると思うのよ」)
 昨夜聞いた教師の言。
 あるいは、小学校時代から協調性にマルが付く数少ない生徒であった薫子は、
問題児と組ませるに都合が良いと思われたのかも知れない。

 だって、無派閥といえば。
「薫子っ」
 ガチャリ。
「玲於奈、何しに出てきたんです?」
「えっ、そ、その……ジュースを買いに……」
 彼女を追うように部屋を飛び出してきた親友もそうなのだから。

「絶対に、おかしいですわ!」
 廊下を並んで歩き出すとすぐに、玲於奈は感情をぶつけてくる。
 彼女とは、小学校低学年からの親友である。
 根は素直で人の好い娘だ−と薫子は思っている−が、なにかと自分の家柄を鼻に掛ける事と、
思ったことは直ぐ口に出す性格で、周囲と衝突することは少なくない。

「薫子も、そんな話は断ればよろしかったのに」
「他に人がいないのでは、仕方がないでしょう」
 九条院の教育方針として、一人部屋は認められないそうだ。
 だからって誰かを放り込んでおけ、というのも乱暴な話で、所詮はその程度の理念。
「もうっ! ですから、そもそも家柄の卑しい娘など入学させるべきではないのです」
 件の新入生は、かろうじて旧家と言えなくもない程度の、起業家の娘らしい。
 しかし、そんなことは。
「言っても栓なき事です。私達とて、例えば向坂先輩に比べれば凡庶の一でしょう?」
 
「それはそうですわ! 環お姉様こそは高貴なる血筋の体現者でいらっしゃいますもの!」
 話題の転換を狙った誘導に、玲於奈は喜んで乗ってきた。赤い髪が飛び跳ねて肩を叩く。

 向坂環。二年生。名門向坂家の長女。容姿端麗。成績優秀。文武両道。
 加えて気さくな性格でもあり、周囲、特に下級生の人気は絶大である。

「環お姉様が最上級生になれば、高等部からも無駄な派閥争いなど無くなるでしょうに」
 小学部の途中から編入してきた向坂環は、その頃から既に勢力争いとは無縁だった。
 実力で彼女を取り込もうとしたり、排除しようとした連中は少なからず存在したが、
環は、物理的にも政治的にも、他の生徒や、教師にすらどうこうなる相手ではなかった。

「私の本家筋にこのような方がいらして、同じ学校に通えるとは幸運の極みです」
 演説続行中。
 玲於奈は環の編入直後から熱心な“向坂派”であり、薫子も、自身は環との面識は殆どないが外向きには一蓮托生。
 他にも環の信奉者は数多く、といって、環自身は子分を引き連れてなにかする、
ということもないので、純粋な向坂派というのは、事実上の無派閥勢力となっている。
 今回は、それが裏目にでたようだ。

「自販機はそこですが?」
 薫子は、声が他の部屋まで聞こえそうな大きさになってきた玲於奈を止める。
「あっ、え、えーっと」
 慌ててポケットを探り出す友人。
 ジュースは口から出任せで、単に薫子についてきただけなのだろう。
 ふっと笑って、薫子は小銭入れを取り出した。
「私の事はいいですから。先輩の分も買っていくのですよ」
「どうしてそんな事を……」
「どうしてでも。黙って出てきたのでしょう?」
「それは、そうですけど……」

(……まったく。私よりも、貴方の方がよほど心配ですよ)
 そう案じる余裕が、この時点の薫子にはまだあった。
 
 コンコン。
 ……。
 無応答。

 薫子が新しい部屋の取っ手を引いてみると、鍵がかかっていた。
 先程教師から受け取った合鍵を差し込んで、ゆっくりドアを開ける。

 中は暗かった。
 電気が点いていないので当然といえば当然だが、
部屋は無人ではなく、奥の勉強机のスタンドだけが明かりを灯している。

 机の前には、こちらに背中を向けて座る少女。
 彼女が、部屋の主。
(なるほど、変わった娘みたいですね)
「灯り、点けますよ」
 心と口を別々に動かして、薫子はスイッチに手を伸ばす。

 ぬるっ。
(ぬる?)
 プラスチック製の点灯スイッチにあるまじき感触。
 電気は正常に点いて、手を戻して指先を見ると茶色い液体はソースか何か。
(……さっそくですか)
 明るくなった足元に目をやると、さりげなく画鋲のマキビシ。
(…………性質の悪い小学生みたい)
 しゃがみこんで画鋲をさらうに、カーペットに着いた手のひらにベチャリと。
(………………接着剤)
 画鋲を避けると踏みそうな位置に巻き散らかされている。
 後ろ手にしめようかと思ったドアノブを見れば、当然のようにガム状の物体が。
(……………………)

 薫子はティッシュで手元を処理しながら、とりあえず挨拶を、などと考える自分にちょっと感心した。
719名無しさんだよもん:2008/02/19(火) 22:54:17 ID:XJojm0930
支援
 
「こんばんは。今日から、同室になります薫子です」
 ……。
 近づいてあげた名乗りと挨拶は、当然のように無視された。

 広い6人部屋の、窓のない隅に置かれた机。
 その前に腰掛けて、本のようなものを見つめている少女。
(……綺麗な子)
 部屋が明るくなると、黒いおかっぱ髪がいっそう目に映える。
 机上を見つめて薫子に脇目もふらない横顔は、なかなか整った顔立ち。
 そして、外界の全てを拒否するような、全くの無表情。
(笑ったら、可愛いでしょうに)
 なんだかふと、そんな考えが浮かぶ。

 ともかく、今はこの部屋に拠点を構えなければ。
 相手の態度からして距離を離した方が良いだろうと、入口側のスペースに向かう。
 ベッドは後で作るとして、まずは衣服をしまおうとクローゼットに手を伸ばす。
 と、
「痛っ!」
 指先に鋭い感覚。良く見れば取手の裏側に、安全カミソリの刃が貼り付いていた。

 これは少し、度を越している。
(こちらに害意がないことだけでも納得してもらわないと、身が持ちませんね)
「ねえ、カスミさん、とお呼びしてよろしい?」
 再び主−カスミという名前だと聞いている−のいる机に近寄って、声を掛ける。
 彼女は当然のように、顔も上げずに同じ冊子を読んでいる。
「すみません、こちらを向いて貰えます?」
 少しムッとした口調で、薫子はカスミの手元から冊子を取り上げ、ようとした。

(アルバム?)
 ちらと中身が目に入る。少女が見つめていたのは、本ではなく写真帖のよう。
 が、それを確かめる間もなく、薫子の目の前で、黒髪がひるがえった。
 
 ズキリ。
「きゃっ!」
 伸ばした右手に走る激痛。さっきのカミソリの比ではない。
「っ、な、何を!?」
 手を離して飛びすさった薫子の足下に、赤い雫が飛び散った。
 右手の小指の脇が、鋭く裂けている。
「か、カスミさん?」
 愕然として目の前の少女を見つめる薫子。

 今や振り仰いでこちらを見つめる黒髪の少女。
 胸には、よほど大事なものなのだろう、左手でしっかりとアルバムを抱えている。
 右手に光るもの。
 バタフライナイフ、とかいうやつか、折りたたみ式の刃物。これが薫子を傷つけた。
 その鈍い光は彼女を慄然とさせたが、それを凌駕して印象に残ったものがある。
 少女の瞳。
 先程まで無表情を貫いていた目には、烈火のごとき怒りが渦巻いていたが、
それでも薫子はその瞳に、自分に対する怯えと、より本質的に潜む孤独と悲しみを見た。

「……ごめんなさい。勝手に手を出して」
 手の傷にハンカチを当てながら、薫子は頭を下げた。

 本来、謝るような事でもない。
 呼びかけを無視したのはカスミだし、刃物を振り回すのは次元が違う。
 学校側に通報すれば、薫子も注意されるだろうが、カスミは良くて停学といった事案。

 薫子自身も、どうして怒りでなく謝罪の言葉が出たのか判らない。
 別に彼女は博愛主義者ではない。玲於奈に対しては、少し甘過ぎる自覚はあるけれど。
 ただ、自分に刃を向けた少女に対して浮かんだ感情は、
理不尽な攻撃への怒りではなく、かえって少女の領域を侵した事への罪悪感で。

 そして黒髪の少女は、薫子の謝罪に不思議そうな表情をしていた。
 
 それから数日間。薫子はカスミの嫌がらせに対処しつつの学園生活を送った。
 嫌がらせの種類は、可愛い悪戯で済むものから大怪我しかねないものまで多岐に渡ったが、
要領の悪い友人を持つ経験から、薫子は悪意を波風立てずに受け流すのは得意だったし、
カスミの方も、一切反発してこない相手に困惑しているようでもあった。

 そんなわけで、薫子とカスミの状況がそれなりに落ち着き始めた、その矢先。

 コン、コン。
 薫子が移住して以来、一人も来客のなかった部屋の扉に、ノック。
「はい……玲於奈?」
 カスミは当然のように全てを無視して、入口に近い薫子が扉を開くと、入ってきたのは薫子の無二の親友、玲於奈。
 それはいいのだが。
「ど、どうしたんですその荷物!?」
 少女が背負ったスポーツバッグは、どうみても寮内生活用家財道具一式。
「どうもこうも。私も引っ越してきましたのですわ。よろしくお願いしますねっ」
「引っ越すって、どうして」
「だって、薫子がいないと、部屋にいるのが不愉快なんですもの!」

 薫子は頭を抱える。
 そういえば引っ越し以来、学校でも寮でも、玲於奈を構っている余裕がなかった。
(そろそろ、フォローに行こうと思ってましたのに……)
 そうは思っても、間が悪いのと空気を読まないのは玲於奈の専売特許。

「貴方がカスミさんね、よろしくお願いしますわ」
 全く無警戒に部屋の主に近寄っていく。噂を聞いていないわけではないのだから、ある意味大したものだ。
 薫子は慌てて間に入ろうとしたが、玲於奈はすぐに戻ってきて、
「無口な方ですわね。でも、クッキーをいただきましたわ」
 にこやかに小さなお菓子を口に放り込む。

 5分後に部屋を飛び出した親友がトイレで唸っていたのかどうか、薫子は年頃の乙女として聞かないでおいてあげた。
 翌日の放課後。玲於奈が大泣きしている。

「ぐすっ、ひぐっ、えぐっ」
「ほら、頭動かさないで、危ないですよ」
 ハサミを片手に宥めるのは薫子。
「すん、はい、ひっくっ」
 ぐずりながら正面を向く玲於奈の肩には使い古しのシーツ。
 椅子に座った少女の足元には新聞紙が敷かれ、トレードマークの赤毛が落ちていた。

 簡単にいうと、散髪中。ただし、自発的にではない。

 部屋の二段ベッドに仕掛けられたトリモチに、無警戒な玲於奈が頭から突っ込んだのは1時間ほど前。
 粘り着いたのはかなり本格的なガム状の物体で、やむを得ず裏庭で断髪式となったのだ。

「せっかく、すっ、薫子と同じ、ぐすっ、長さまで、へぐっ、近づきましたのに」
 玲於奈が髪を伸ばし始めたのは去年の秋。薫子の髪が、肩を過ぎたあたりだったろうか。
「伸ばしていたんなら、早く言ってくださいな!」
 などと理不尽な文句を言いながら、玲於奈は親友を追い掛け始め、
 薫子はそれを笑い流しつつも、整髪の度に心持ち長さの差を詰めるように気を遣っていたりした。

「だから、玲於奈にあの子の相手は無理ですよ。元の部屋に……」
「戻りません!」
 はあっ。涙目でも強情な玲於奈に溜息。
(私の方で、部屋替えを希望した方がよろしいでしょうかね)
 自分の為にも、親友の為にも、その方が良いのは分かり切っていた。
 二人で頭を下げれば、元の部屋の先輩達と関係修復は可能だろう。
 だけど。
(そうなったら、あの子は……)
 九条に馴染む気のない外来生など知ったことではない。そう思いつつ頭に浮かぶ漆黒の瞳。

(……間もなくゴールデンウィークですし、ね。)
 連休にかこつけて様子を見ようと、薫子は決断を先送りにした。理由は、本人にも判らなかった。
724名無しさんだよもん:2008/02/19(火) 23:03:34 ID:eceFxn4K0
以上です。前中後の3回になると思います。今週末までにはなんとか全部投下したいです。
いちおう九条院三人娘の結成と、環との出会いのお話ですが、やたら脈絡の無い話になってしまい、
本編を読んでいない方はおろか、読んでいただいた方でも訳が分からないかも。

なお、タイトルは(また)昔の少女漫画
実は微かな記憶しかないんですけどね。本田恵子は『おきゃんでゴメン!』しか読んでなくて。
725名無しさんだよもん:2008/02/20(水) 15:56:39 ID:yiUK3pRPO
群像の人キテター!
乙です。密かに楽しみにしてましたよ
あの情報の少ない三人娘でここまで書けるその心意気に乾杯
なんか俺の中で三人娘の印象がすっかり群像色に染まってきたなw

 ゴールデンウィーク。

 カレンダーにもよるが、九条の生徒達は八割方が実家に戻る。
 薫子は、残り二割の方。玲於奈は、帰省組。

「実家に、戻らないのですか?」
 ……。
 カスミはどうやら、居残りを選択したようだ。

(授業がないから、一日中お付き合いですか)
 そう気構えた薫子。が、意外にも連休初日は平穏に過ぎた。
 警戒対象は部屋で難しそうな本を読みふけって時間を過ごしていてそれだけだが、
荷物への悪戯を防ごうとすると薫子も部屋を離れられない。

 膠着そのまま二日目。
(……暇、ですわね……)
 天気が良いのに部屋主の意向でカーテンを閉めたままの窓を見て溜息。
 そのまま視線を移すと、主は相変わらず読書中。

「……図書館に、行ってきます」

 席を離れると、何か仕掛けられるかも知れない。
 けれど、どのみちずっと部屋に篭もっていられるわけもない。
 行き先を宣言したのは、長い共同生活上の習慣であって、特に意味もなかった。
 が。
 チラ……。
 珍しく、カスミが発言者に視線を向けて、薫子は、その意味を推測する。
 構内に詳しいとは思えない、孤立した新入生。読んでいるのは、昨日と同じ本。

「一緒に、行きますか?」
 案外自然に、誘いの言葉が口から飛び出した。

 九条院の図書館は、寮と校舎の中間に位置し、施設も内容も充実している。
 それは敷地内で人生の大半を過ごす生徒達への配慮でもあり、学校が配慮を実現できるだけの財政事情にある事を示してもいた。

 その図書館へ向けて、休日の寮内を歩く人影ふたつ。

 前を歩く薫子。後ろをついていくカスミ。二人の距離は、約3メートル。
(手を繋いで歩けとは、申しませんけれど。)
 背後からの視線は、まるで人質に道案内をさせる誘拐犯。

 ぴた。
 試しに足を止めてみる。
 ピタ……。
 距離を詰めずに、後ろの足音も止まる。
(……。)
 今度は、少し早足。
 トトッ……。

(……面白いかも。)
 薫子は何度か速度を調整してみたが、そのうち後方からの視線が凶悪になったので悪ふざけをやめた。

 それで、@図書館。

「着きましたよ?」
 キョトン……。
 薫子の後をついて建物に入ったカスミは、その広さと蔵書量に驚いた様子で。
「入館は自由です。貸し出しは、カウンターでカードを作ります」
 トタタッ……。
 ロクに説明も聞かずに、本棚の間に溶けて行く黒髪。
(水を得た魚、とはこのことですね。)
 薫子は、お礼も言わない無礼さに怒るより先に、初めて見るカスミの活動的な姿に嬉しくなった。

 トコトコ……サッ……トコトコ……サッ。
(……やっぱり面白い。)
 自分の本を探しつつ、ちょこまかと館内を動き回る少女から目が離せない薫子。

 書棚は相当な数があるのだが、カスミは目星の付け方が巧いのか、すぐに何冊かを選び出す。
 視線には気付いているのやら、薫子には目もくれず、
 トコトコ……ピタ。
 貸し出しカウンターに行こうとして、だが、その足が止まる。

「?」
 怪訝に思って書棚からカウンターを伺った薫子。
(あの娘は……。)
 図書当番の生徒は、カスミの元同居人だったのだ。
 黒髪の少女は暫し逡巡していたが、やがて黙って−元から黙っているが−読書机に席を占めた。
「失礼しますね」
 薫子は、ごく当たり前のように向かいの席に着く。
 チラ……。
 一瞬だけ彼女に視線を投げて、すぐに読書に埋没していくカスミ。
 薫子も新書本を開きつつ、文章と少女と、注意力は半々くらい。
(この子、読むの速い。)
 カスミは分厚くて難しそうな理系の本を、ライトノベルでも流し読むかの如き速度でめくっていく。
 この風変わりな転校生が、極めて優秀な成績で外来試験に合格したという噂は、どうやら本当のようだった。

 とはいえ、人間の読書速度には限界がある。

 2時間ほど経過してお昼時、薫子が空腹を覚える頃になっても、カスミは学術書と格闘していた。
(……お昼に戻ろうかな。)
 カスミをどうしようか、ページをめくりながら悩み始めて5分くらいで、

 キュウ……。
 黒髪の少女のお腹が鳴った。
729名無しさんだよもん:2008/02/21(木) 21:23:13 ID:q1EXSdtx0
shien

「お昼、どうします?」
 少し笑いをこらえて、薫子はカスミに声を掛ける。
 ……。
 無反応。でも、少し目線が下がった。

「食べてから戻ってくることもできますけれど」
 ……。
 多分、カスミと当番の子は顔を合わせたくないだろう、お互いに。
「よろしければ、私が借りましょうか?」
 パッ……。
 表情が明るく。でも、少し目線が下がった。
「枠は、三冊ありますから」
 ……コク。
 カスミは小さく頷いた。あるいは、頭を下げたつもりだったのかも知れない。
 読み終えたらしい一冊をしまって、残り四冊。
 ヒョイ……ジッ……。
 一冊はすぐに書棚に戻したが、三冊からどれを戻すか迷っている。
 ……。
 まだ、迷っている。
 ……。
 まだ、迷って。
 すっ。
 薫子が手を伸ばして、三冊とも小脇に抱えた。
「私の方は、特に借りたい本はありませんから」
 言いつつ、自分の読みかけを棚に戻す。

(これは我ながら、ご機嫌の取りすぎでしょうかね。)
 カウンターで貸し出し手続きをしながら、そうは思いながら。
 ペコ……。
 さっきよりは判りやすく謝意を示したカスミが、
 手渡した書籍を大事そうに胸に抱く様子を見ると、口元が緩む薫子だった。
 
 借りた本を部屋に置いてから、薫子はカスミを昼食に誘った。
 暫し迷って結局2メートル後方をついてきたカスミは学食を利用するのも初めてのようで、
年中無休で給仕するメイドロボのウェイトレスぶりを物珍しそうに眺めていた。

 その帰り道、購買部前。カスミが立ち止まった。
「どうしました?」
 1メートル後ろの少女の様子に気付いて、薫子が足を戻す。
 ……ジッ。
 カスミが見ていたのは、デスクトップ用の写真立て。
「買おうと思っているのですか?」
 コクコク……。
 商品に気を取られて無意識なのか、会ってから一番明瞭な意思表示をされた気がする。
「今日は、売店はお休みですけれど……あ、少しお待ちになって」
 タイミング良く、店番の中年女性が奥に見えたのだ。
 3分後、薫子が顔見知りのよしみで店を開けてもらって、カスミは写真立てを購入した。

「何に使うのです?」
 紙袋を抱える少女の、思い切って隣に移動して、薫子は尋ねてみる。
 ……。
 カスミは答えてくれなかったが逃げもせず、二人は並んで部屋まで歩いた。

 ガソコソ……。
 部屋に戻ると、黒髪の少女はさっそくアルバムから一枚を写真立てに移す。
(あのアルバム、最初の日の?)
 薫子が手を切られた時のものだ。よほど大切な写真なのだろうか。
「なんの写真か、見てもよろしいですか?」
 前回の二の舞にならぬよう、少し距離を置いて尋ねる。
 ……コク。
 カスミが小さく頷いたので、薫子は机に近づく。

 写真立ての中には、髪の長い、綺麗な顔立ちをした少女が二人居た。
 
 片方はカスミだろう。小学校の、低学年だろうか、可愛いけれど、仏頂面。髪が長い。
(この頃から、笑わなかったんでしょうか)
 笑ったら可愛いだろうに。少し切なさを感じながら、薫子はもう一人に目を引かれる。
(綺麗な子……)
 今のカスミによく似た長さの、ただ少し色が薄い、背中まで届きそうな長髪。
顔立ちも似ているが、明るい笑顔。凜とした眼差しが、カスミとは正反対のプラスの輝きを灯している。

「こちらは……」
「お姉様」
 言おうとした台詞を、黒髪の少女から明瞭な発音で聞いて驚く。
「カスミさんの、お姉様?」
 コク……。
 ひとつ頷く。
「優しそうな方ですね」
 コクコク……。
 強く頷く。
「とても利発そうで、カスミさんに良く似てらっしゃいますわ」
 ……。
 似ている、という言葉には首は動かなかったが、ほんのわずか頬に朱が差した。

(それにしても、この写真。)
 今はさぞ綺麗に、と言い掛けて、薫子はひとつ気が付く。
 写真の中の、二人の年齢。
 姉の方は、中学生くらいだろうか。いずれカスミの姿を見れば、ずいぶん前のものということになる。
「お姉様、今は、どちらへ?」
 ……。
 訊いた瞬間のカスミの顔を見て、薫子は質問を後悔した。
 そしてカスミは、10秒ほど重苦しい沈黙を作り出した後。

「……お姉様、死んじゃったから」
 ぽつりと、か細く小さく呟いた。
733名無しさんだよもん:2008/02/21(木) 21:28:47 ID:xh4JB7or0
しえん
 
 その日は、それで会話が途切れて、カスミは借りてきた図書に没頭した。
 自分の分を借り損ねた薫子の方は、相変わらず手持ちぶさたでおり、
カスミが貸してくれた一冊は、記号の羅列にしか見えない代物だった。

 翌日、薫子は再び図書館にやってきた。

 カスミもまた一緒。
 あれだけ難解そうな本を、彼女は1日で読み終えてしまって、お昼前。
 ジッ……。
 ベッドに寝転がって教科書を読んでいた薫子の側に、カスミの方から寄ってきた。

「……また、行きたいんですか、図書館」
 コクコク……。
「今日は、2冊にしてくださいね」
 コクコク……。
「お昼、食べてからにしましょう」
 コクッ……。

 部屋から食堂へ、食堂から図書館へ、今日は最初から、二人並んで歩いた。

「返却は、私がしておきますから」
 コクッ、パタパタ……。
 頷くや否や、本の山に突撃してゆくカスミ。
 苦笑半分、微笑半分でそれを見送って、薫子はカウンターへ。

(あら?)
 日替わりの図書当番に加えて、昨日の子が居る。
 そして、返却を終えた所で、

「あら、薫子さんじゃないの、お久しぶり」
 横から声が掛かった。
 
「先輩、こんにちは」
 薫子はぺこりと頭を下げる。やってきたのは、元ルームメイトの三年生。

「こんにちは。帰省しなかったのね、貴方」
「はい。家が遠いもので」
「玲於奈は帰ったんでしょう?」
「ええ。あ、玲於奈の件では、ご迷惑をお掛けしました」

 玲於奈のことだから、挨拶もせずに飛び出してきたのだろうと謝る。
「いいのよ。玲於奈がそうしたいっていうんだし、私たちも、あの子は貴方の側の方がいいと思うし」
 先輩は、微妙でもない言い回しで厄介払いの意を示す。

「ところで、薫子さん」
 わざわざ枕詞を付けられて、薫子は表情を変えずに気構える。
「例の子の事だけど」
「例の子、と言いますと?」
「貴方のルームメイトよ」
 分かり切った事を敢えて訊くと、分かり切った事を訊くのね、という口調で返答が来る。

「なんだか、仲良いんですって? 貴方とあの子」

(どういう意味かしら?)
 薫子は内心で首を傾げる。
 先輩の子分がカスミに追い出された経緯からして、彼女はカスミを快くは思っていないだろう。
 だが、今になって自分らに関わる理由があるのだろうか。
「別に、そういうわけでもありませんけれど。どうしたんですか、一体?」
 明言を避け、愛想笑いを贈りながら意図を探ってみる。

 果たして、先輩は誘導に乗ってきた。
「あんな子が私たちの九条にいるのは、おかしいと思いませんこと?」
736名無しさんだよもん:2008/02/21(木) 21:32:59 ID:wvysb+DVO
支援
 此処の生徒達には、九条院というブランドと自分の家柄に、過剰なプライドを持っている娘も少なくない。
 派閥の領袖としてそれなりの出自を持つこの先輩もそうだし、薫子の盟友である玲於奈も似たようなもの。
 今回の件では、相手を自分の空間から排除しようとまで思うかどうかに差があるようだ。

「私は先輩のような名家の出ではありませんので、どうでしょうか、なんとも」
「あら、やっぱり肩を持つのねえ」
 お茶を濁したつもりが、三年生はしつこく絡んでくる。
「ねえ、昨日もあの子と一緒に図書館に来ていたわよね、貴方」
 わざわざカウンターから出てきて、元カスミのルームメイトが口を挟んだ。
「食堂でも二人を見かけましたわ」
 斜め後ろから別な声、派閥の取り巻きの二年生だ。
「ふうん、二日連続で図書館。お昼食も?」
 先輩の口調が、嫌な味にうねる。いつの間にか、三人に囲まれるような立ち位置になった。

 失敗した、と薫子は内心で舌打ち。
 最初に仲が良いかと訊かれた時に、素直にそうだとでも答えれば良かった。
 なまじ相手の意図が示された後では、カスミを庇う事は即ち彼女らに敵対する意思表示になる。

「同室としてのお付き合いですよ」
 ちくり。
 嘘ではないし、当初は全くそのつもりだったのだが。
「ああいう子ですから、機嫌を損ねると大変なもので」
 ちりり。
 笑って捻り出した自分の言葉に、何かが痛む。
「そうよねえ、粗野で下品で、本当に何故あんな子を合格させたのかしら」
「それがねえ、お勉強はできるみたいよ」
「ふうん、でしたら、別にどこにでも転校できますわよね」
「九条が合わないなら、合うわけありませんけど、さっさと居なくなってくれればいいのに、貴方もそう思うわよね?」
「ええ、まあ、居なければ居ない方が……」

 つきり。
 有り難いですね、そう言おうとした薫子の台詞は、自分の内部の何かに途中で遮られた。
 
 それでも話を合わせているうちに、いびり口調だった先輩達の機嫌は良くなっていった。

「対処に困ったら、いつでも言ってね」
 最後はそんな言葉を残して、三人は去っていく。昨日の図書当番の娘は、わざわざこの為に此処に来たのだろうか。
(……ふう)
 その姿が完全に図書館から消えたのを確認して、薫子は息を吐く。
(なんだか、踏み絵でもさせられたみたいです。)
 嫌な気分でカウンターに背を向ける。

 どさっ。

 書棚の列まで向き直らないうちに、その本が落ちるような音は聞こえた。

(誰かが落っことしたのかしら?)
 音がした列を覗き込んだ薫子の視界の、奥の方でちらっと黒いものがよぎった。
(え?)
 二、三歩駆け寄って、足下に放置された書籍が目に入る。
 タイトルが読めないような洋書。九条の一年生でこんな本を借りようとするのは、一人だけ。
(もしかして、先の会話……)
 キリリ。
 聞かれていたのかも知れない、そう思い当たった瞬間、薫子は身体を締め付けられたように感じた。
(さっきのがカスミなら、まだ近くに)
 黒い影が消えた奥の方に駆け出す、いや、駆け出しかけて、
(どんな事を言えば……)
 止まる。
 適当に言い抜けした言葉であろうと、彼女の悪口を言っていた事に違いはないのだ。
(でも、探さないと)
 また、小走りになって、書棚の列を抜ける。

 足を緩めたり早めたりしながら図書館を探したが、カスミは見つからなかった。
739名無しさんだよもん:2008/02/21(木) 21:40:21 ID:vWBhjDwzO
さるさん来たので一時間くらい中断します
740名無しさんだよもん:2008/02/21(木) 22:04:11 ID:sEGJWucu0
しえんーー

 ギーッ。
 そうっと開けたつもりのドアが、いつになく大きな音を立てた。

「……」
 寮に戻ってきた薫子は、声を掛ける勇気もなく様子を窺う。
 カーテンが閉まった部屋の中は、これまでにも増して暗く感じた。
 その暗がりの奥、カスミのベッドに、人影。
(……戻ってた。)
 布団を被って寝ている様子に、おそるおそると薫子は近づく。

 ガバッ。
 声を掛けるべき距離になった時、カスミが大きく掛け布団を被り直した。
 頭まですっぽりと、相手を拒絶する意思表示。
 びくっと身体を震わせて、薫子は一歩を飛び退く。
 ギリッ。
 まただ、身体の中の何かが締め付けられる感覚。
「……」
 ごめんなさい、そんな一言も口に出せず、自分のエリアに戻る。

 ベッドに腰掛けて、枕に手をついた。
 妙な手応え。
「? ……っ!」
 抱え上げた枕には、幾つもの刺し痕があった。
 薫子の脳裏を、黒髪の少女が持っていたナイフがよぎる。
「あ……」
 小さな呻き声は、自分の口から漏れたもの。

 ズキリ。
 さっきから、何度も自分を襲っていた感覚の、特大版。

 それで薫子は、痛んでいたのが心だと知った。

 プルルルル、プルルルル。

「……はい、お久しぶりです……はい、お願いします」
 寮の電話、握った受話器の向こうで、パタパタと生活音。
「薫子? どうしたのですか?」
 やがて聞こえてきた親友の声が、薫子の沈んだ心に明るく響いた。

「玲於奈、ごめんなさいね、お休みなのに」
「そんな遠慮は無用ですわ」
 暇を持て余していたんですよ、と心底嬉しそうな声色。
「休みの間、出かけたりはしなかったのですか?」
「それがですね……」
 ひとしきり、玲於奈の話を聞く薫子。
 相手から掛かった電話で、何の疑問も持たず自分の話をするのは彼女らしい。
「薫子の方は、どうですか? 寮は」
 それでも愚痴ったり自慢したりを終えた後、薫子に話を振ってきた。
「その事、なんですけど」
 相棒の話を聞くうちに落ち着いたつもりで、やはり言い淀む薫子。

「……部屋を、替えてもらおうかと思っています」
「あら、そうなんですか?」
 苦労して絞り出した台詞を、玲於奈はあっさりと受けた。

「それでは、私もまた引っ越しですね。あの人達の部屋には戻りたくないのですけれど」
 玲於奈のこういう素直さを、薫子は羨ましく思う。
「でも、急にどうしたのです? あの子に、何かされました?」
 薫子なら最初に聞いているだろう質問。

「いえ……どちらかと言えば、何かしたのは私の方です」
「ふうん、珍しいですわね、それも」
 友人の歯切れの悪さを、やはり玲於奈は気にしない風に答える。

「何であれ、何処であれ、私は薫子と一緒ですから」
 お好きにしてくださいな、と玲於奈。
 見えないのを承知で、薫子は小さく頷く。その後、すこし迷って。
「……玲於奈」
「はい」
「仮に、の話ですけれど」
「はい?」
「私が、余所で玲於奈の悪口を言っていたら、どうします?」
「怒ります」
 即答。
「……何か事情があったとか、情状酌量はしてくれません?」
「しませんわよ、そんなこと」
 ちょっとは考えて欲しかったという薫子の抗議にも、玲於奈は断言した。
「だって、事情があれば説明してくださるでしょう? 薫子は」
「あ……」
「そうしてくれたら、許しますわ、私は」

 玲於奈が自分に寄せてくれる信頼の厚さを、改めて薫子は感じ取る。
 同時に、会って間もないカスミを、彼女と同じように考えてしまったのかと後悔がよぎる。

「でも、あまり嬉しくはありませんわね、そういうのは」
「それはそうね。無いといいですね」
 当たり前の事を言い交わして、ふと薫子は気が付く。
「もしも、逆にそんな事があれば……」
「ありませんわ」
 気にしないで欲しいと、玲於奈の信頼に対する返礼のつもりの台詞は、また途中で返された。

「私は薫子みたいに思慮深くありませんから」
「嫌いな相手に話を合わせて、好きな人の悪口を言うなんて耐えられませんもの」
 そう言って玲於奈は、からからと笑うのだった。
 玲於奈と話をしたことで、薫子の気持ちはだいぶ軽くなった。
(とにかく、謝ろう。)
 受け入れてくれなどと虫の良い事は考えなくとも、それが最低限すべきことだ。

 穴だらけになった枕をこっそり新品と交換した後、
 電話をかける前に寮をウロウロした時間が自覚より長かったようで、部屋に戻る廊下は既に薄暗かった。
 コンコン。
 答えのないノックを敢えてして、薫子は部屋に入る。
 カスミは、まだベッドに横になっていた。

「カスミさん」
 さっきよりも明瞭に声を掛けて、寝台に近寄る。反応はない。
「先程は、申し訳ありませんでした」
 掛け布団からは、黒髪だけが露出して、顔は壁の方を向いて見えない。
「言い訳はしませんが、あれは、私の本心ではありません」
 無言。
「傷つけて、ごめんなさい」
 頭を下げた薫子の耳に返答はなかった。
 が、
 その代わりに、苦しそうな寝息が聞こえた。

「……カスミさん?」
 様子がおかしい事に気が付いて、そっと少女の額に手を伸ばす。
(熱い。)
 右手に伝わる発熱は、看過できる高さではない。
 顔をこちらに向き直らせても、カスミは抵抗もしない。

 慌てて薫子は、保健室に走った。
 どきり、どきりと、心臓が不安に高鳴る。
(ただの過労でしょうに)
 そう言い聞かせても過剰な鼓動。その原因を、そう鈍感ではない彼女は感づいていた。
(わたしは、あの子が好きなのかも知れない……)
745名無しさんだよもん:2008/02/21(木) 22:44:06 ID:JfvCNxYh0
支援ありがとうございました。以上中編でした。レス数間違えましたorz
後編は土曜日の夜か日曜日になると思います。
746名無しさんだよもん:2008/02/22(金) 00:55:54 ID:y1yweLaz0
>>745
乙です。
前編読んだ時は正直「これでいいのだろうか?」と思わなくもなかったのですが、中編に来てみるとしっくり来るようになってきました。
後編に期待して待っています。


ともあれ。
ちょっと投下すっかなーと思って来てみたんだけど、486KBになってるしまず次スレ立てた方がいいのかな??
スレ立て慣れてないから時間かかるかも試練けど、とりあえず挑戦してみるので、よろしく!
747名無しさんだよもん:2008/02/22(金) 01:05:09 ID:y1yweLaz0
次スレ出来たっす。
  ↓
ToHeart2 SS専用スレ 23
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/leaf/1203609690/
748名無しさんだよもん:2008/02/22(金) 01:08:25 ID:/CYdpY+Y0


じゃあ埋めるかい
749名無しさんだよもん:2008/02/22(金) 06:30:33 ID:Zk12Z6lE0
こっちではスレ縦乙
750名無しさんだよもん:2008/02/22(金) 06:59:09 ID:4VWsr3Nx0
ニコRPG最終話来てるな
751名無しさんだよもん:2008/02/22(金) 07:08:00 ID:4VWsr3Nx0
誤爆
752名無しさんだよもん:2008/02/23(土) 04:26:57 ID:IqcXC8xg0
どんな誤爆やねん。


ともあれ、さすがにあとはADが出てからっすかね〜〜。
メイドロボばっか書いてたから、どうイメージが変わるか怖いやら楽しみやら……
口調の多少の違いは気にならないけど、性格が丸変わりだと少し戸惑うかもw
シルファはてんからわからない事だらけだったからあまり自分内イメージ固まってなかったけど、
ミルファはかなり固まってましたからね〜〜。
少し脆い所があるイメージで捉えてたから、そこらがあまり崩れないことを祈る。。。


などと適当な雑談梅
753名無しさんだよもん:2008/02/23(土) 11:16:57 ID:WjYr6MYAO
アフターADはよっちゃるの作品も増えてくれる事を期待埋め
754名無しさんだよもん:2008/02/23(土) 12:52:43 ID:75l/DmvN0
>>752
メイドロボばっかってどんなSS書いてたの?
読んでみたいから作品名教えてくりゃれ
755名無しさんだよもん:2008/02/23(土) 16:33:38 ID:IqcXC8xg0
>>754
最近メイドロボばっかり投下してる人ですがな。
このスレだとカレーの奴とか。
次スレでいきなり旅行の奴とか。あれはタマ姉メインだけど……
756名無しさんだよもん:2008/02/23(土) 16:38:44 ID:JpZVJwQS0
公式に上書きされるのは二次創作の常だからね
書いたキャラに愛着は持つにしろ、ADが出ればすっぱり切り換えるしかない
>753
個人的には、特にちゃるの方に一番期待している漏れガイル
757名無しさんだよもん:2008/02/24(日) 16:07:37 ID:sf2tnRSy0
メイドロボに一番期待してるけど、よっちといくのんにも期待してる梅
758名無しさんだよもん:2008/02/25(月) 20:50:22 ID:xr8p0oFSO
上に同じだぜ!
759名無しさんだよもん:2008/02/26(火) 19:58:22 ID:sqyQIRG90
埋め
760名無しさんだよもん:2008/02/26(火) 19:58:45 ID:jRQP1fiz0
メトロイド期待梅
761名無しさんだよもん:2008/02/26(火) 21:55:47 ID:bxBlKNgjO
どこの雪乃丞だ生め
762名無しさんだよもん:2008/02/26(火) 22:34:26 ID:7CTn09MQ0
実は、菜々子に期待してる膿め
763名無しさんだよもん:2008/02/26(火) 23:42:13 ID:6iwSBwUX0
オレの子を産め
764名無しさんだよもん:2008/02/27(水) 09:48:25 ID:Tw8tK929O
発売が待ちきれん膿め
765名無しさんだよもん:2008/02/27(水) 09:54:17 ID:Tw8tK929O
ADひととおりやったら、とりあえずメイドロボものは絶対書きたい。
あと、いくのんやよっちにも興味があるなあ。
ひそかにもしかしたらネタになるかも、って思うのがこのたまかな。

なんにしろまずははるみじゃ〜〜。はるみやらせぇ〜〜梅。
766名無しさんだよもん:2008/02/27(水) 14:42:37 ID:uaT8AOdn0
なかなか埋まらないのう。

なぜだ??
AAでも貼ればいいのか??

ではワシがこよなく愛する鋼鉄の騎士殿を……               
           ___   
          ヽ==☆=/         
        ∩( ・ω・)∩ チハタンばんじゃーい
       ─┬=====┬─┬─┬       
         ヽ┴-----┴ 、/_ /            
        ==||:|:  :|: 「r-┴──o
 ____________ |:|:__ :|: ||--┬┘ ̄
 |ミ///   /   ~~|ミ|丘百~((==___
└┼-┴─┴───┴──┐~~'''''-ゝ-┤            
 ((◎)~~~O~~~~~O~~(◎))三)──)三)
  ゝ(◎)(◎)(◎)(◎) (◎)ノ三ノ──ノ三ノ  
                       
                                   
767名無しさんだよもん:2008/02/27(水) 14:45:38 ID:uaT8AOdn0
    , -‐―‐‐- 、
  /  ,      ヽ
  | | | |_ll|_||_l_|lj」)
  ||| | ┃ ┃ | |
 ノノ,レ| | ''' ヮ''ノi |、  「はやく会いたいねっ♪」 
  "'' と.}| {介}|{つ"
      く._/_|_j_ゝ
     (__八__)

768名無しさんだよもん:2008/02/28(木) 12:53:18 ID:AKp+uyF/O
密林から発送確認メールが来て一安心だぜ梅。
769名無しさんだよもん:2008/02/28(木) 15:39:42 ID:amFePFxi0
なんだか色々不安な声があがってる梅
770名無しさんだよもん:2008/02/28(木) 17:34:31 ID:QEXuQq0BO
いくのんSSはなくなるだろうなぁ…うめ
771名無しさんだよもん:2008/02/28(木) 17:38:06 ID:RgUQ2UAS0
描かれなかったことを表現するのが俺たちの役目だ! …ぅめ
772名無しさんだよもん:2008/02/28(木) 21:59:18 ID:YNi8Oii40
>>768
漏れも密林から発送確認がきたぜ、同志よ。倦め
773名無しさんだよもん:2008/02/29(金) 01:01:21 ID:7TnEcF2/0
今買って戻ったぜw 楳
774名無しさんだよもん:2008/03/01(土) 07:48:17 ID:Ax9yCBQl0
775名無しさんだよもん:2008/03/01(土) 16:31:55 ID:yvUWTULg0
ミルシル√終了したー。

思ったよりは、悪くなかった、かな??
もちろん気になる所はたくさんあったけど、また遠からず妄想の世界も出てきそうで、自分の頭の中のキャライメージとそんなに乖離しなくて、正直ちょっとほっとしたな〜。
シルファはもともとそんなに固まってなかったけど、ミルファの純真さからくるエキセントリックさ、って想像がすごく心配だったからな〜〜。
言葉遣いとかがまだ染み込んでないから、もう何回かやらないと湧き上がるようには出てこないだろうけどw

まぁ、なにはともあれ。
ミルファには元々べた惚れだからあれだけど、改めてシルファいいなぁwww
はやく電波が来るといいな〜〜、埋め。
776名無しさんだよもん:2008/03/01(土) 17:10:13 ID:nTNo3yfh0
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777名無しさんだよもん:2008/03/01(土) 17:52:34 ID:Z8HlwVQK0
396 名前:名無しさんだよもん[sage] 投稿日:2008/03/01(土) 17:04:23 ID:yvUWTULg0
>>394
確かにシルファは良かった。
烈しく大化けした。めちゃくちゃ萌えた。

だけどミルファも良かったと思うが??
シナリオは確かにアレなところがあったけど、ミルファは一途で可愛くて、オレぁ好きだけどな〜。
元々ミルファスキーだけど、改めて好きになったよ??
778名無しさんだよもん:2008/03/01(土) 21:08:07 ID:yvUWTULg0
>>777
晒すなww

埋め
779名無しさんだよもん:2008/03/01(土) 21:09:21 ID:yvUWTULg0
なかなか埋まらんな、埋め。
780名無しさんだよもん:2008/03/01(土) 21:29:36 ID:3gn6WajYO
なにはともあれ梅梅
781名無しさんだよもん:2008/03/01(土) 23:42:02 ID:WdlHC0El0
さてさて、うめうめ
782名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 00:28:41 ID:/uFnACHu0
ウメス!
783名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 00:29:49 ID:fv5pWy5K0
いつもの陵辱リレーが無いから埋まらんのだなきっと 埋め
784名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 00:53:45 ID:iYtbubLgO
郁乃おわしたー。


……これはSS書きにくくなったな、ヲイww
あれ、あのニーチャンのデフォ名ってあるんかな?
つい名前入力しちまったんだが、膿め
785名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 00:59:51 ID:N5l2AyHT0
無かった事にすればいいよ。
786名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 01:31:38 ID:nVvq4Fqs0
おばかミルミル可愛いよ 埋め
787名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 01:43:41 ID:iYtbubLgO
ちょwwwww郁乃エンド3パターンもあるんかwwww
葉め、考えたなwwww

ヤっちゃったおバカエンドからなら姉妹丼でもなんでも行けそうな気がしてきた、産め。
788sage:2008/03/02(日) 11:36:06 ID:cSUpnYIk0
貴明に女装させざるをえない
789名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 11:42:04 ID:nVvq4Fqs0
790名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 12:37:57 ID:AlgtM5H30
頬染めて嬉しそうにしやがって(;´Д`)ハァハァ……
791名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 12:54:52 ID:cSUpnYIk0
>>788

まーりゃん先輩ルートやってる途中で書いたのにほんとにたかりゃんが女装しちゃったじゃないか

いいぞもっとやれ
792名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 13:16:18 ID:STKaQbug0
某サイトのSS、AD完全仕様なのにミルファの貴明の呼称がダーリンになってないんだが
こいつミルファ好きっていってるけど絶対嘘だろ
793名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 13:21:41 ID:FsO1Qmsp0
シルファルートだと最後に貴明呼称になるけどな
794名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 13:46:35 ID:iYtbubLgO
よっち√、出来いいなぁ。
はるみ√とは大違いで少し……orz
795名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 13:51:02 ID:lRtlO3HJ0
>>792
呼称なんてどうでもいいよw
そこのSS読んだけど、イルミルの気持ち悪さでADを上回ってたwwww
三宅を超える才能を見つけちまったぜ・・・
796名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 16:11:09 ID:OWBkeGlC0
お、これで埋まるかな?
AD仕様のSS、楽しみですな梅
797名無しさんだよもん:2008/03/02(日) 23:07:08 ID:ZPvWMauE0
オールクリアー、て三人娘はOPに出ておいて出番マーメイド戦隊だけっスか?w

よっちと菜々子は期待通り、ちゃるは期待以上、シルファは予想外に良かった
このタマはおk、郁乃はEDはアレだがキャラはなかなかいい感じ
イルファさん微妙で、はるみとまーりゃんは……見なかった事にしよっと産め
798名無しさんだよもん
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ToHeart2 SS専用スレ 23
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