リトバス専用妄想スレ 4周目

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447はるかなフェスティバルの時間ですヨ(1)
 その日の放課後。
 二木佳奈多は他のクラスを訪れていた。
 扉の外から教室の中を覗き込む佳奈多。
「あれ? 二木さん?」
 そこに声をかけて来たのは、直枝理樹だった。
「直枝理樹… ちょうどよかったわ、こっちのクラスに葉留佳来てないかしら?」
「ううん、今日は来ていないけど…」
「なんだ、三枝のヤツ、また何か騒ぎ起こしたのか」
 そう言って理樹の後ろから近づいてきた大柄な男、井ノ原真人。
「今回はそうじゃないわ。ただちょっと用事があるだけよ」
「なら、携帯に電話すれば良かろう」
 胴着にジャンパーという奇妙な出で立ちのこれまた大柄な男、宮沢謙吾が言う。
「それは勿論試したわ。けど電源が入っていないみたいなのよ。全く、今日に限って…」
「なんだ、そんなに急ぎの用事なのか?」
 学年が違うはずなのに何故か平然とここにいる、棗恭介。
「今日中であればいいからそこまで急ぐことでは無いけど。今日はあの子の… いえ、何でもないわ」
「?」
 訝しげな顔をする恭介。
 その一方で、理樹が佳奈多に言う。
「今日は野球の練習も休みだから会えるか分からないけど、もし見かけたら二木さんが探していたことを伝えておくよ。それでいいよね?」
「…そうね。それでお願いするわ」
「恭介も真人も謙吾もいいよね?」
「ああ」
「それぐらいならな」
「構わん」
「ありがとう。それでは失礼するわ」
 そう言って佳奈多は踵を返した。
448はるかなフェスティバルの時間ですヨ(2):2007/10/13(土) 01:12:05 ID:hIuSchjg0
「…まて、ふたき」
 そこで佳奈多を呼び止めたのは、棗鈴。
「何?」
「はるかは今日、買いたい物があるから街に出てくるとか言ってた」
「買いたい物? 何かしら…」
「そこまでは聞いていない」
 少し考えこむ佳奈多。
「そう。ありがとう。邪魔したわね」
 そう言って佳奈多は教室から去って行った。

 佳奈多は商店街に出てきていた。
 …その自分自身の行動に戸惑いながら。
 今日中であればいい。
 どうせ夜になれば寮に戻ってくるだろう。
 その時でいいではないか。
 無理に急ぐ必要は無い。
 そもそも、葉留佳がいる場所の詳細すら分かっていないのだ。
 あてもなく探したところで、見つかるとは限らない。
 もしかしたら入れ違いになって、今頃葉留佳は寮に戻っているかも知れない。
 なのに、なぜ私は葉留佳を探し続けている?
 迷いながらも、佳奈多の足は歩き続けていた。
449はるかなフェスティバルの時間ですヨ(3):2007/10/13(土) 01:14:04 ID:hIuSchjg0
 葉留佳が見つからないまま日が暮れてしまった。
 もうそろそろ戻らないと、寮の門限に間に合わない。
 風紀委員長である自分から門限破りなどできない。
 けれど、もう少し…探したい…

 そこにかけられる声があった。
「あれ? お姉ちゃん? こんなところで何やってんの?」
 そこには、佳奈多が探し続けた妹、三枝葉留佳の姿があった。
 突然の探し人の登場に、佳奈多の口は自然と動いていた。
「何しているのかってのはこっちの台詞よ! 携帯も切ったままで! 心配かけさせないで!」

 …心配。
 ああそうか、私は葉留佳を心配していたんだ。
 携帯も切ったまま、どこかへフラッと出て行った葉留佳を。
 だから探し続けていたんだ。
 見つけられるかも分からないのに。
 私はそれほどまでに葉留佳を心配していたんだ。

 そんな佳奈多の心中はお構いなしに、葉留佳は軽い調子で言う。
「いやー、充電切れちゃってるのは気付いてたんですけどネ。急ぎの用だったからそのままにしておいちゃったんですヨ。やはは」
「その急ぎの用って何だったのよ? 下らないことだったら本当に怒るわよ?」
 その態度に、佳奈多の機嫌が悪くなっていく。
「んー、下らないことじゃないんだけどなー… ちょっと予定とは違うけど、ここで言わないと本気でヤバそうだし仕方ないか」
 そう言って、葉留佳は鞄から小さな包みを取り出す。
「はい、お姉ちゃん。誕生日プレゼントだよ」
450はるかなフェスティバルの時間ですヨ(4):2007/10/13(土) 01:15:19 ID:hIuSchjg0
 誕生日プレゼント?
 何故?
 わけがわからない。

「葉留佳? どうしてあなたがプレゼントを…」

 そう。
 今日は葉留佳の誕生日。
 プレゼントは、葉留佳が渡すのではなく。

「今日は、あなたの誕生日でしょう? あなたは渡す側じゃなくて貰う側…」

 心配だったのも間違いないが、そもそもの理由はそれ。
 今、自分の鞄の中にある、葉留佳へのプレゼント。
 それを渡すためだったのに、何故…?

 葉留佳が、口を開いた。
「は? 何言ってんのお姉ちゃん? 私の誕生日ってことはつまり、お姉ちゃんの誕生日でもあるってことでしょ?」

 …ああ、馬鹿か私は。
 私たちは双子なんだ。
 同じ日に、同じ母親から生まれた…双子なんだ。
 こんな当たり前のことに今まで気付かなかったなんて、どうかしてる。
451はるかなフェスティバルの時間ですヨ(5):2007/10/13(土) 01:16:33 ID:hIuSchjg0
 葉留佳が更に言う。
「ね、だからさ、お姉ちゃんも貰う側でしょ? 受け取ってよ」
「え、ええ…」
 そう言いながら葉留佳の差し出す包みを受け取る。
 その手は、情けないぐらいに震えていた。
 しっかりしろ、私は姉なんだ。
 こんなみっともない姿を妹に晒してどうする。
「そ、それなら! 葉留佳へのプレゼントも今ここで渡すわ」
 必死で絞り出した声は裏返っていた。
 左手に葉留佳から受け取った包みを持ち、右手で鞄の中をあさる。
 その手はまだ震えていた。
 震える手でどうにか葉留佳へのプレゼントを取り出す。
「…はい」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
 満面の笑みで受け取る葉留佳。
「ねえ、早速開けてみていい? …いや、せっかくだからいっせーので同時に開けてみない? ね、いいでしょ?」
 よほど嬉しかったのか、まくし立てる葉留佳。
「え、ええ、…いいわよ」
 それだけ返すのが精一杯だった。
「それじゃ、開けるよ… いっせーの、せっ!」
 葉留佳の掛け声にあわせて、包みを開いた。
「「え、これって…」」

 二人のプレゼントは、同じものだった。
 星を象った、銀色のブローチ。
 ただ二つだけ違う点をあげれば…
 葉留佳が佳奈多に贈ったものには、中央に青い宝石をあしらい、裏に『H to K』との文字が彫られ。
 佳奈多が葉留佳に贈ったものには、中央に黄色い宝石をあしらい、裏に『K to H』との文字が彫られていた。
452はるかなフェスティバルの時間ですヨ(6):2007/10/13(土) 01:17:45 ID:hIuSchjg0
「それじゃ、葉留佳もあの店でブローチを?」
「うん、前々からお姉ちゃんに似合いそうって目つけてたんだけどさ、いざ買いに行ったらつい一時間前に売れちゃいましたよ、ってさ」
「一時間…」
「それで、次の入荷はいつになるのかって聞いたら、ギリギリ今日だって言うから、それにしたの。まあその代わりにカラー指定して取り置きしてもらえたんだけどね」
「まさか…」
「でも、入荷のトラックが渋滞で遅れて、こんな時間になっちゃった… って、お姉ちゃん? どしたの?」
「葉留佳。私がそれを買ったときのことなんだけど」
「うん?」
「それを買った時、最後の一個だったのよ。そしてこれを逃したら次回の入荷は今日、って聞いて… 慌てて買ったの」
「それじゃあ、私の一時間前に買っていったのは、お姉ちゃんだったってこと?」
「ええ、恐らく…」
「…」
「…ぷっ」
「…あはははははは、何それ!? もう私たち馬鹿みたいじゃないデスカ?」
「…本当ね、もう…馬鹿よ、本当に馬鹿だわ… ふふふっ」
 もう笑うしかなかった。
 お互いがお互いのことを想い。
 佳奈多が葉留佳へのプレゼントを買ったために、葉留佳がプレゼントを手に入れるのが遅れ。
 その結果、葉留佳は慌てて携帯の充電もせずに今日ここへ出向き。
 それを佳奈多は心配し、追いかけてきた。
 どうすればここまで見事にすれ違うことが出来るのか。
 これが、今まですれ違い続けてきた、この姉妹らしさなのかもしれない。
 でも、二人はもう和解している。
 これからは、一緒だ。
「お姉ちゃん…」
「葉留佳…」
「「ハッピー・バースデー」」
 二人の声が重なった。
453はるかなフェスティバルの時間ですヨ(7):2007/10/13(土) 01:18:51 ID:hIuSchjg0
「ようやく戻ってきたか」
 校門で二人を待っていたのは、来ヶ谷唯湖その人だった。
「全く、もう門限ギリギリではないか。葉留佳君はともかく、佳奈多君の行動としてはどうなのだ?」
「姉御〜、ともかくは酷くないデスカ〜?」
 葉留佳は不満げだが無視される。
「そうね…確かにギリギリですけど」
 佳奈多は少し考えた後、葉留佳の方を見、言う。
「まあ、一応は間に合っているし…たまにはこういうのもいいでしょう」
「…ほう」
 来ヶ谷は満足そうな声を上げる。
「佳奈多君もずいぶん丸くなったものだな」
 不敵な笑みを佳奈多に向ける来ヶ谷。
「おかげさまで、ね」
 同じような笑みを返す佳奈多。
 この二人、やはりどこか通じる部分があるようだ。

 …一方で。
「…いーもんいーもんどーせ私なんか…」
 葉留佳は少し離れたところで蹲り、地面に『の』の字を書いていじけていた。

「ほらほら葉留佳君、そんなところでいじけているんじゃない。なぜおねーさんがわざわざこんな時間まで外で待っていたと思ってる? 君達二人に用があるのだよ」
「へ?」
「私たち二人に、ですか?」
「ああ、とりあえず二人とも食堂まで来てくれ」
 先にたって歩き出す来ヶ谷。
 二人は訝しげに思いながらもそれについていった。
454はるかなフェスティバルの時間ですヨ(8):2007/10/13(土) 01:20:53 ID:hIuSchjg0
 食堂の入り口前に着いた三人。
 しかし、食堂の電気は消えていた。
「ねぇ姉御、電気消えてるよ?」
「うむ、しかし構わんから二人一緒に扉を開けてくれ」
「二人一緒に? 別に一人でも開けられるのに何でわざわざ…」
「まあ、これはこれで意味のあることなのでな。なに、悪いようにはせんさ」
「…? うん…」
「来ヶ谷さんがそう言うなら…」
 釈然としないながらも、来ヶ谷の言うとおりにする二人。
 観音開きの扉の右に葉留佳が、左に佳奈多が、それぞれ立つ。
「それじゃ、いい? 葉留佳」
「うん」
「「せーのっ…!」」
 ギィィッ…!
 二人の手によって、扉が開いていった。

 カッ!
「わ、眩し…っ」
「なっ…?」
 突然、二人にスポットライトが当てられる。
「おっと、ようやく主役のご登場かい、こっちは待ちくたびれちまったぜ!」
 食堂に、マイクを通した恭介の声が響き渡る。
 次の瞬間。
 カッ!
 今度は二人から離れた場所…食堂の奥にスポットライトが当てられる。
 どこから用意してきたのか、そこには1mほどの高さの壇があり。
 壇上では、恭介がマイクを手に立っていた。
 その恭介がマイクに向かって口を開く。
455はるかなフェスティバルの時間ですヨ(9):2007/10/13(土) 01:22:00 ID:hIuSchjg0
「レディーーース…アーン…ジェントルメーーーーーーーーン!!
 大変長らくお待たせいたしました!
 ただいまより『はるちんかなたん仲直り出来てよかったね 二人一緒の誕生日パーティーだよ全員集合』を開催します!
 皆さん、本日はどうか心ゆくまで飲んで、食べて、歌って、踊り狂っちゃって下さい!!
 はい拍手ー!」
 パチパチパチパチパチ…
 拍手の音に、そちらに目を向ける。
 そこには、笑顔で拍手をするリトルバスターズの面々の姿があった。

「え、ちょっとこれってどういうことデスカ?」
「誕生日のことなんて言ってないのに、どうしてこんなことに…?」
 突然、自分達の誕生日パーティー(しかもネーミングセンスが無い)をすると言われ困惑する二人。
「それはだね…」
 二人の隣で、来ヶ谷が口を開いた。
456はるかなフェスティバルの時間ですヨ(10):2007/10/13(土) 01:22:45 ID:hIuSchjg0
 遡ること数時間。
「そう。ありがとう。邪魔したわね」
 佳奈多は立ち去った。
「…なんだったんだ、二木のヤツ」
「確かに、騒ぎを起こしたわけでもないのに三枝を探す二木、というのも珍しいな」
「でも、もう二人は仲直りしたんだし、おかしいことじゃないよね?」
「まあ、それはそうだな。気になるのは『今日はあの子の…』って台詞か」
「今日? 今日って何かあったっけか?」
「今日…十月…十三日? もしかして…」
「心当たりがあるのか、理樹」
「うん、確か葉留佳さんは十月十三日が誕生日だって言ってたから、それじゃないかと」
「なるほど、誕生日か。多分それだな」
「けど理樹、お前よく三枝の誕生日なんて知ってたな」
「うん、この前女子でなんか誕生日をもとにした占いやってて、葉留佳さんが言ってたんだ。鈴もそのときいたよね?」
「あー…あれな。そう言えばそんなことを言ってた気もするな」
「気もする、かよ…」
「うっさい! お前に言われたくないわ、ぼけー!」
「しかし、三枝の誕生日ということはつまり二木の誕生日でもあるわけだな」
「うん、そうなるね」
「…よし、今回のミッションは決まりだな」
「恭介?」
「俺たちで、三枝と二木の誕生日パーティーを開く。それも盛大なのをだ。…みんな、いいな?」
 いつの間にか、葉留佳を除いたリトルバスターズメンバーが勢揃いしていた。
「うむ、いいだろう」
「はるちゃんとかなちゃん、喜んでくれるといいね〜。私、がんばるよ〜」
「はいっ! 私もがんばりますっ!」
「分かりました」
「よし、それじゃあ… ミッションスタートだ!」

-MISSION START!!-
457はるかなフェスティバルの時間ですヨ(11):2007/10/13(土) 01:23:58 ID:hIuSchjg0
「…と、言うわけだ。食堂の許可は勿論、男女寮長の許可も取った。ついでに佳奈多君以外の風紀委員も抱きこんである」
 パーティー開催の経緯を話す来ヶ谷は得意げだ。
「いやそりゃ嬉しいんですけどネ… やはは、ちょっと照れますヨこりゃ」
「ご厚意には感謝しますしその手腕には感服しますけど。よりによってこんな時間に騒がしくして…」
 それ自体には喜びながらも戸惑う二人。
 特に佳奈多の方は不満も大きいようだ。
 それを聞いて恭介は言う。
「甘いぜ二木、こんなのまだまだ序の口、騒がしいのはこれからさ… 理樹」
 そして、理樹に合図を送る。
「OK」
 合図を受けて理樹がスピーカーのボリュームを上げる。
 イィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!
 急にボリュームを上げたため、スピーカーがハウリングを起こす。
「わわっ!?」
「きゃっ!」
 葉留佳と佳奈多は驚いて耳を塞ぐが、他のメンバーはあらかじめ打ち合わせて耳栓でもしておいたのだろう、平然としている。
 寮中に響き渡るであろう音量で、恭介は話しはじめた。

「みんな、聞こえるか?
 突然だが、みんなは今日が何の日か、知ってるか?
 今日、十月十三日は…三枝葉留佳、そして二木佳奈多の…誕生日なんだぜ!」

「ちょっ、恭介さん!?」
「棗先輩っ、何を…っ!?」
 寮中…いや、あるいは近所にまで自分達の誕生日を暴露され、動揺する二人。
 しかし、恭介は気にせず続ける。
458はるかなフェスティバルの時間ですヨ(12):2007/10/13(土) 01:25:10 ID:hIuSchjg0
「これから、食堂で三枝葉留佳、二木佳奈多の両名の誕生日パーティーを執り行う!
 既に知っている奴も多いと思うが…
 この二人は最近まで、いがみ合っていた。
 そうなったのには色々とわけがあるんだが…まあ、それはいいだろう。
 とにかく、今はちゃんと仲直りした…双子の姉妹なんだ。
 十七年前の今日、二人は共に産まれてきた。
 そして一度はすれ違い…再び手を取り合って始めて迎える誕生日が今日なんだ。
 以前の過ちを繰り返さないためにも、今日この日を意味のあるものにしたいと思う。
 それが俺たち…リトルバスターズの総意だ。
 そして、そのために、みんなの力を借りたい。
 二人を、祝福してやって欲しいんだ。
 お揃いのプレゼントなんかあればなおいいが、突然な話だしな。なくても構わない。
 ただ、こっちに来て祝いの言葉をかけてくれるだけでいいんだ。
 『誕生日おめでとう』って。
 『仲直り出来てよかったな』って。
 それだけでいいんだ。
 俺の声が届いた全ての人たちに…頼む」

 恭介はそこで言葉を切った。
「恭介さん…」
「棗先輩…」
 姉妹が、恭介の名を呟く。
 それが聞こえたのか、恭介は二人に向けてニヤリと笑い、親指を立てて見せた。
 そして、再びマイクに向かい、声を張り上げる。
 
「おっと、俺としたことがしんみりしちまったぜ!
 何事も楽しんで、が俺のモットーだからな!
 ここからはテンション上げていくぜぇ!
 それじゃあ野郎共、準備はいいか!?
 パーティーの…始まりだ!!
 イィーーーーーーーーヤッホゥーーーーーーーー!!!」