『そういち君、ふぁい、めひあはれ』
『いやいやいや、ここ、公園だし。パブリックな場所でビスケット口移しというのはちょ
っと、どうかと思うんですよ』
『ふぁい』
『そんな悲しそうな顔されてもですねダメなものは・・・・・・一回、だけだぞ?』
『ふん』
『けっして俺がやりたいんじゃなくて、あくまでこれはそっちの意思を尊重してだな』
『ん〜ん〜』
『じゃ、じゃあいくぞ!?』
その後はもう、二人がキスするまであっというまだった。
男の方が女の子の咥えるビスケットに噛り付いたかと思ったら、一気に口元まで食べき
って。
ちゅ〜〜〜っ・・・・・・
・・・・・・す、すごい物をみてしまった。
思わず出る溜息。買い物途中で休憩に寄っただけの公園で、まさかこんな物に遭遇する
なんて。
日曜の公園は、俺たちの他にも家族連れや子供、それにカップルで賑わっていて。
そんな中で、あそこまで堂々と、あんなことが出来るなんて。見ていてこっちが照れく
さくなる。気のせいか、あたりもなんだか暑くなったような。
火照った顔で横を向くと、隣に座るイルファさんも、顔を真っ赤にしてカップルのこと
に見入っている。試しにイルファさんの顔の前で手を振ってみても、全く反応が返って
こない。
やっぱり、刺激が強いよなあ、あれは。
見れば二人とも、俺とそんなに変わらない歳に見えるのに。とてもじゃないけど、俺に
は真似できない。と言うか、真似しろと言われても必死で断る。
たまに珊瑚ちゃんがやってくる「貴明、あーんして」でさえ、照れくさいのを全身の勇
気とか忍耐を総動員して何とかこなしているって言うのに。
あの二人は外の公園で、しかも何人もの人間に注目を浴びつつしているんだから。俺な
らきっと、恥ずかしさと照れくささでこの場から走って逃げ出してるんじゃないだろうか。
さすがに全く平気と言うわけではないらしく、まるで悶えるように体をくねらせるカッ
プル。
これだけ周囲から注目を浴びていて全く気が付かないのは、もう完全に自分たちだけの
世界に入ってしまって──な、ま、また口にビスケットをっ!?
俺だけじゃない、周りでカップルに注目をしている何人かの口からも、どよめきの声が
あがる。イルファさんなんて口に手を当てて「まあ、まあ」なんてうろたえた声をあげて。
再度口にビスケットを咥える女の子。
男の方、一応嫌がっているようなそぶりは見せるけど。でも両手はいつの間にか女の子
の肩へ。やる気満々じゃないか。
「いやー困ったな、俺は恥ずかしいから嫌なんだけどこいつがどうしてもって言っても
聞かないから仕方なく」とか何とか心の中で思ったりしているに違いない顔つきで、女の
子の唇に顔を近づけて行く。
そして咥えられるビスケット。
もうちょっとで唇と唇が触れそうだ、と言う瞬間に割れたビスケットからは、まるでそ
の音がここまで聞こえてきそうなくらいで。それだけ、俺もカップルのことを注目してし
まっていると言うことなんだろう。
向こうが見られていることに全く気が付いていないようで本当によかった。
そして更に、今度は男の方がビスケットを口に・・・
もうお互いのことしか見えていないモードのカップルに、怖い物など何も無いらしい。
恐るべし、バカップルパワー。
とうとう二人を見続けることに耐え切れず空を仰ぐ。完璧に向こうの雰囲気に中てられ
て、体が熱い。思わず出る今日2回目の溜息。
ふと視線を横にずらしてみると、イルファさんはまだカップルのことをじっと見つめて
いて。
真剣な表情で、カップルを見るイルファさんの横顔。
あんな物を見たせいだ。どうしても、イルファさんのその、さくらんぼ色した唇に目が
行ってしまう。止めよう止めようと思うのに、ほんの少し視線をそらすだけでいいのに、
頭の中では今のカップルの様子が思い浮かんで。
いくらなんでも、あんな恥ずかしいこと出来ないって。頭の中で、誰かが言った。
でも、あのカップルの嬉しそうな顔、見ただろ? 耳元で誰かが囁いた。
思い出すのは、イルファさんとキスした時の、イルファさんの唇の柔らかい感触。
視線を下ろすと、買い物袋の中には今日の晩御飯の材料と、クッキーの箱。
な、何でこんな物がっ・・・・・・ああ、さっき買ってきたんだ。
そもそも俺もイルファさんも、この公園には買い物帰りにたまたま休憩に寄っただけで
早く帰らないと珊瑚ちゃんも瑠璃ちゃんも心配するし──
・・・でも、イルファさんの口がクッキー咥えてるのも可愛らしいだろうなぁ今だってほら、
何か喋っているのも
「貴明さん、貴明さん? どうなさいました、私の顔、じっと見つめて」
「うん、イルファさんの唇が、柔らかそうで可愛いなあって」
「ま、まあ」
思わず丸くなるイルファさんの唇。やっぱり可愛らしいっ・・・っておれは一体何を
「う、うぁわぁぁっ!? ご、ごめん? 変なこと言っちゃって!」
い、一体俺は何を言ってるんだ!?
思わず上げた視線の先には、赤くしたイルファさんの顔。そんなに目を丸くして、俺の
ことを見ないでください。
慌てて周囲を見渡すけど、今の俺の叫び声に気が付いた人はいなかったみたいだ。とり
あえず一安心。あ、向こうのカップルも、片付け準備に入ってる。
もう一度イルファさんの方を見る。
もしかしたらイルファさん、聞かなかったことにしてくれているかもなんて期待したん
だけど。やっぱりこっちを見たまま。そう上手くはいかないらしい。
は、恥ずかしい。
「あの、貴明さん」
「な、なんでしょう!?」
声が裏返ってる。更に恥ずかしい。
でもイルファさんが次に言ってきたことは、そんな恥ずかしさも一瞬で吹き飛ばすくら
い衝撃的で。
「貴明さんも・・・その、なさりたいんですか?」
いくら俺でも、そこで「何を?」と聞くほど察しが悪くはない。それに、イルファさん
が顔を赤くしたまま視線を泳がせる先は、さっきのカップルの座っていた場所。
支援?
いいい、いやいやいや、誰がそんなやりたいって、俺が?
そりゃあ、イルファさんの唇眺めてはいたけど、あのカップル見てたら誰だって、ねえ?
確かにイルファさんの唇は柔らかくて気持ちが良いだとか、イルファさんとこんなこと
出来たら凄い幸せな気持ちになれるだろうって思ったりなんかはするけどさ。
「ですが貴明さん、その」
イルファさんの視線が、俺の膝の上に落ちる。
つられて俺も下を向くと、何故か手に持っていたのはさっきまで買い物袋の中に入って
いたはずの、クッキーの箱。
「何で!?」
何でこれがここにある? 誰の陰謀!? これじゃあまるで、俺がイルファさんとあん
なことしたくて無意識のうちに袋から出したみたいじゃないか。
「た、貴明さんがそうご希望なのでしたら・・・」
ま、待ってくださいイルファさん、落ち着いて。
さっきのカップルを見たでしょ? あんな恥ずかしいこと、絶対に
「貴明さんは、私とクッキーを食べたくは無いとおっしゃるんですか」
「いや、だからそんな悲しそうな顔されても。別に、イルファさんとそうするのが嫌だっ
ていうんじゃなくて」
「では、食べてくださるんですね?」
なんだかもう、クッキーを食べなきゃいけないようになってしまったような。
だってほら、イルファさん。俺の手からクッキーの箱を受け取ると、嬉しそうに袋を開
け始めて。ここまでイルファさんがやる気なのに、これをどうやって断れと?
「それでは貴明さん、ふぁい、めひあがれ」
イルファさん、箱からクッキーを一枚取り出すと、躊躇いもせず口に咥えて。
イルファさんの口元で、揺れるクッキー。バニラクッキーだ。
それを「ん〜」なんて俺の方に突き出して。
お、落ち着け? そうだ、いつもしているちゅーだと思えばいいんだ。それならいつも
挨拶代わりにしてるんだし、何を恥ずかしがることがあるでもイルファさんの唇、なんだ
かいつもよりも色っぽく見えるような・・・・・・
え、ええいぃっ!!
イルファさんの肩を抱くと、そのままクッキーの端を齧る。気合を入れた割には、俺の
口を付けたのは縁の部分だったみたいで。
粉っぽい音を立ててクッキーは、俺とイルファさんの唇の真ん中で割れてしまう。
「あ」なんて間抜けな声をあげて、気が付いたときにはクッキーの半分は俺の口の中。
俺とイルファさんの唇が触れる前にクッキーは割れてしまって、俺もイルファさんの唇
から離れてしまう。
なんだか、凄く寂しいような、勿体無いような気持ちになった。
口の中で租借するクッキーに、俺とイルファさんとの間を邪魔されたような。
「なんだか、残念だったねイルファさ、ん?」
けれどイルファさんはそのまま、半分になったクッキーを咥え続けていて。ちょっと困
った顔。
そんなイルファさんに俺が混乱していると、自分が咥えているクッキーをちょんちょん、
と指差して。
もしかして、そっちも?
満足そうに頷くイルファさん。よくよく考えてみれば、イルファさん物を食べられない
んだから、結局全部俺が食べなきゃいけない訳で。
イルファさんが咥えるクッキー。今度は大きさも、さっきの半分。齧れば、すぐにでも
イルファさんの唇に触れるだろう。
「じゃ、じゃあ、いくよ?」
あらためて声をかける。そういえば、さっきこれを言うのを忘れてたな。
「いただきます」
イルファさんの咥えるクッキーを齧る。
そのまま口の中に含んで行くと、俺の唇に触れた柔らかい感触。
俺はイルファさんの肩を抱く腕に力を込めて。イルファさんも、俺のことを強く抱きし
めてくれた。
クッキーが全部、口の中に入っても。二人とも唇を離そうとはしないで。
むしろ口の中のクッキーのせいで、これよりもイルファさんとキスできないことのほう
が勿体無くなる。
そのまま、どれくらいの間イルファさんとキスし続けていたんだろう。俺の方から唇を
離したのは、単に口の中のビスケットがふやけてきてしまったからで。
そのまま噛んで飲み込んでしまう。
あ、イルファさんもクッキーを咥えていたんだから、これも一種の間接キスになるんだ
ろうか。そう考えたら、とたんに照れくさくなってきた。
「あの、いかがでしたか?」
「う、うん、美味しかった・・・・・・それに、柔らかかったし」
真っ赤になるイルファさん。きっと俺も似たようなものだろう。
しかしこれは、ヤバイな、はまってしまいそうだ。口移しで物を食べるのが、こんなに
気持ちが良いなんて。あのカップルの気持ちも、これならわかる。
するとイルファさん、箱からもう一枚クッキーを取り出して。今度は、俺が?
ま、まあ、さっきのカップルもやってたしね。仕方ないよな。
イルファさんからクッキーを受け取って、それを口に咥える・・・前にちょっと考え込む。
「あの・・・どうかなさいました?」
支援。そしてお休み、皆様
あ、いや、したくなくなったわけじゃないんだけど。
ただ、ちょっとさ。
手に持ったクッキー。それを半分に割って。更に半分にして。それを口に咥える。ほと
んど唇の先に乗っているような感じで。
目を丸くするイルファさん。だってこうすれば、その、すぐちゅーが出来るし。それに、
クッキーに邪魔されずにイルファさんとし続けられる、からさ。
俺が何をしたいのか、イルファさんもわかってくれたみたいで。
クスクスと笑いながら、俺の方へ顔を近づけて来てくれる。
お互いに目を瞑っているせいで顔は見えないけど、見えないからこそ、唇同士が触れて
いるのを強く感じることができる。
試しに、舌でイルファさんの口の中にクッキーを押し込んでみた。
イルファさん、それをまるでイヤイヤするみたいにまた舌で俺の口の中に戻してきて。
それが楽しくてまた意地悪しようとすると、今度はクッキーじゃなくて、イルファさんの
舌に触ってしまう。
耳に響くお互いの舌を舐めあう音が、ちょっとだけいやらしい。
クッキーはもう、とっくに口の中でふやけてポロポロに崩れてしまったけど。お互い、
十分満足するくらいそれぞれの唇を味わって、ようやく体を離すことにした。
「え、えーと、なんて言うか・・・ごちそうさま」
「お粗末さまでした。貴明さん、私の唇、美味しかったですか?」
そ、それはもう。美味しすぎてお腹一杯で。
「ありがとうございます。私も貴明さんの、堪能させていただきました。これがいわゆる、
舌の上でとろける、と言うのでしょうか」
それはちょっと違うと思うけど、イルファさんが喜んでくれたのならまあいいか。いい
ことにしよう。
それで、イルファさん。何を、してるの?
「貴明さん。デザートに、もう一つクッキーをいかがですか」
・・・ま、まあ、折角イルファさんが咥えているクッキー、無駄にしちゃ悪いし。
イルファさんの肩に手を置く。目の前にはもう、目を瞑って俺のことを舞ってくれてい
るイルファさんの顔。
デザートのクッキーも、やっぱり溶けてしまいそうなくらい甘かった。
「買い物、時間かかっちゃったね。珊瑚ちゃんたち心配してなきゃいいけど」
公園からの帰り道。
でもイルファさんは、俺が声をかけてもどこか上の空で。
俺の手には晩御飯の材料の入った買い物袋と、それに中身が半分くらい無くなったクッ
キーの箱。
二人とももう止まんなくなっちゃって、気が付いた時には・・・・・・う、うぅぅぅ。
気が付いた時には、俺たちの周りに出来ている人だかり。その中にはさっきのカップル
まで混じっていて。
思い出すだけで恥ずかしさで死にたくなる。まさか、あんなに人に見られていたなんて。
逃げるように公園から飛び出して。イルファさんなんか半分ブレーカーが落ちかけてち
ゃって、手をつないでなかったら、今頃公園でフリーズしてたんじゃないだろうか。
今も、まるでのぼせたみたいに焦点の合わない目をして
「貴明さん」
急に名前を呼ばれて、慌てて視線をそらす。顔を見てたこと、わかったかな。
「貴明さんは、さっきの・・・その、どうでしたか? クッキーのお味は」
「え!? あー、うん。とっても美味しかったよ・・・・・・柔らかくて」
自分でも一体何を言っているのかわからなくなってきた。イルファさんなんて顔を真っ
赤にしちゃって。
「あの、ではよろしければ、マンションに帰りましたらまた、クッキーの方ご用意させて
いただきたいのですが」
イルファさんのその一言で、我慢の限界はあっさりと超えてしまう。
慌ててあたりを見回しても、人影は、ない。
「い、イルファさん!」
俺はイルファさんに向き合うと。
何も咥えていないイルファさんの唇から、クッキーを一枚、口移しで食べさせてもらう。
終
こんな遅くに支援くださった方、ありがとうございます。
久しぶりに書いたらすげぇ時間かかった。
俺はただ、イルファさんとちゅっちゅできればそれでよかったのに。
>>102 久しぶりにスレを覗いたら、支援しようかどうか悩む状況で
結局漏れは支援しなかったわけだがw、代わりに
全部読んでしまったw
おっきしましたw
イルファさんエロす。
つうか、貴明の我慢の限界値低すぎだろうw
GJです!
>102
おおGJ! あと「いつものイルファさんSSの人」なら、お帰りなさい!
「ブレーカーが落ちかけて」ってのはいい表現だなぁ
最後は単にちゅーしたってこと? それとも全咥えでクッキー? それともイルファさんの舌(ry
105 :
見習い氷:2007/10/16(火) 05:56:28 ID:4LGgbUlsO
>>102 乙&GJ!
エロイ…エロイよイルファさんw
>102
あまーい!ただただ甘くて良かった。やっぱり甘いのが一番だね
そして後半はもはやノリノリな貴明も面白い
最後の含みを持たせた終わり方もいいと思うな。ご馳走様です
ちょっとクッキー買ってくるわ
最初のRoutesネタに過剰反応したのは俺だけでいい。
誰が大関伏見山ですかっ!
・・・スレ違いになるな。
とりあえずGJ
もうイルファさんクッキー発売してくれ
イルファさんの個人情報が詰まってるんだな<イルファさんcookie
>>102 乙です
この後もちろんふたご姫のクッキーも増量されてでざーととして出て来るんですよねw
>>110 イルファさんが漏れなく付いてくるなら俺も欲しいおw
さんさんと輝く太陽の下、柚原家の庭で俺はもう何度目になるかわからない台詞を繰り返していた。
「お手っ!」
「……」
……しかし返ってくるのは相変わらずの無反応。いや、無反応だから何も返ってこないのか。
ともかくゲンジ丸はといえば、訝しげに俺の顔を見つめるだけで一向に動こうとしない。
相変わらずのぐうたらっぷりだ。
「やっぱりコイツに芸を仕込もうなんて、無理な話なんだよなぁ」
虚しく差し出しされた右手を下ろしながら、ため息混じりに呟いた。
「えぇ!?諦めないでよ、タカくーん!」
そんな俺の右手を、ぐうたら犬の飼い主であるこのみが、がしがしと引っ張ってくる。
「わ、わかったから、そんな引っ張るなって」
恋人の“諦めないで”の言葉にもう一度だけやる気を振り絞り、再びゲンジ丸に視線を戻してみるが、
視界に写ったのは、庭の真ん中でぐてーっと大の字に寝転っている毛玉木っ葉。
ぷしゅー……一気にやる気が抜けていった。
――ゲンジ丸を鍛え直そう!
突然言い出したのはもちろんこのみ。よくわからないが、ぐうたらな性格を直す=芸を身に着けさせる、
と、このみの中で結論付けたらしく、その結論に今俺はこうやって付き合わされていた。
まぁ言いたいことはわからないでもないが……
「今更無理なんじゃないか?」
うん、やっぱり今更すぎる。こういうしつけは子犬の頃からやっておけってんだ。
「でもでもぉ、ゲンジ丸ってば子犬の頃からこうだったんだもん」
「ん?そうだっけ?」
ぶーぶーと口を尖らせるこのみの言葉に、ちょっと頭の中からゲンジ丸に関する記憶を引っ張り出してみた。
……犬小屋で昼寝するゲンジ丸。
……公園で昼寝するゲンジ丸。
……川に流されながら昼寝するゲンジ丸。
「このみ、コイツはダメだ。諦めよう」
親指をびしっと突き立てて、飛び切りの笑顔で俺は言った。やっぱり人間、諦めが肝心だよな、うん。
「ダメー!タカくんもゲンジ丸も諦めちゃダメー!」
しかしこのみはと言えば、ほっぺをまん丸にして俺とゲンジ丸に檄を飛ばしてくる。
「……やれやれ」
何となくだけど、ゲンジ丸とため息が重なったような気がした。犬がため息をつくのかどうかは知らないけど。
そんなため息二重奏の中、
「あ、そうだ。良い事思いついたよ!」
突然このみはピコーンと何かが閃いたらしく、ぽんと手を叩きながら満面の笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
一応聞いてみる。だってこのみの顔が“聞いて聞いて!”ってアピールしてるんだもの。
「実際にやって見せればいいんだよっ!」
「ん?実際に?」
「そうそう、私が犬役やるから、タカくんはご主人様役ね」
あぁなるほど、俺たちでお手本をみせるって事か。しかしなぜ“飼い主役”じゃなくて“ご主人様役”なんだ?
……まぁいいや。なんとなくそっちの方がロマンを感じる気がするし、なんとなく。
「んじゃ、やってみますか」
「わん!」
俺の言葉に、さっそく元気よく犬マネをして答えるこのみ。
……。
やばい、これはちょっと可愛い。
「……」
「あれ?どしたの、タカくん?」
「わひゃ!?」
いつの間にか近づいていたこのみの顔に、思わず素っ頓狂な声を上げて後ずさってしまった。
……いかんいかん、これはあくまでゲンジ丸の為にやる事なんだ。俺が鼻の下伸ばしてどうする。
なんだかゲンジ丸から冷ややかな視線を感じるけど、きっと気のせいだろう。気のせい気のせい。
……よし、気を取り直してっと。
「ゲンジ丸、よく見てろよ?」
毛玉木っ葉の方に目線をちらりと向けてから、
「お手っ!」
気合一発、その言葉と共にこのみの目の前に右手を差し出す。すると……
ぽんっ。
その上に乗っかるこのみのグー。
……。
……なんだろう、
とっても照れくさくてむずがゆい。もしかして俺たちものすごい恥ずかしいことしてるんじゃ……
いや、先も述べた通りこれはゲンジ丸の為にやってるんだ。そうそう、決してやましい気持ちなんかじゃない。
頭をぶんぶん振って雑念を消してから、
「おい、見てたかゲンジ丸!」
このみと一緒にゲンジ丸の方へと目を向けてみる。
「ヲフゥ?」
気の抜けるような鳴き声……おいおい、頼むよゲンジ丸。
「俺たちがお手本を見せてるって、わかってんのかなぁ」
もしかして犬にとってみれば、俺たちのやってることなんて茶番にしか見えてないのかも。
そう思うとちょっぴり虚しくなってきた。いや、かなり。
「タカくんタカくん、大事なこと忘れてない?」
がくんと肩を落とす俺に、相変わらずグーを乗っけたままのこのみが上目遣いで尋ねてくる。
「忘れてるって、なにを?」
「えっとね、“お手”が出来たご褒美」
……あのなぁ。
「そこまでやる必要……」
「あるよぉ!」
俺の言葉を遮る力強い声。そして思いがけない真剣な表情と、その気迫に押されてしまって……
「これでいいだろ?」
よしよし、と頭を撫でてやる事にした。
「えへへ〜、くぅ〜んくぅ〜ん」
すると、このみは気持ち良さそうに目を細めて喉を鳴らす。
……。
これは、ちょっと……楽しいかもしんない。
「このみ、おかわり!」
「わんっ!」
ぽん。
「よしよし」
なでなで。
「えへ〜」
「このみ、おすわり!」
「わんわんっ!」
ぺたん。
「よしよしよし」
なでなで
「えへへ〜」
「このみぃ!」
「わんわんわんわんっ!わぉーーん!」
……。
……。
夕焼け小焼けで日が暮れて……
「このみ!そら、取ってこーい!」
俺が投げたフリスビーは、綺麗なカーブを描きつつ、家の裏側に入っていった。
「きゃんきゃんっ!」
そしてそれを無邪気に追いかけて行くこのみ犬。
……うずうずうずうず。
早く戻って来い。そしたらまた頭をぐしゃぐしゃとかき回してやろうぞ、ふっふっふ。
湧き上がる笑みを必死に抑えながらこのみを待つ。早く、早く……
するとその時、
「あら、タカくん来てたの」
背後から声をかけられて思わずビクっと体が強張る。この声は……
ギギギギーっとロボットのように首を回してみると、
「は、は、はっ春夏さんっ!?」
「あら、どうしたの?そんなに慌てて」
真っ赤な夕焼けの中、買い物袋を抱えながら不思議そうな顔をして首をかしげる春夏さん。
……慌てもしますよ、だって今俺たちのやってる事といったら、
「わんわんわんっ!」
素晴らしいタイミングで庭中に響く鳴き声。
そしてその鳴き声が近づくにつれ、だらだらと背中をつたう冷や汗。
ま、まずい!
「ん?何かしら、この鳴きご……」
春夏さん言葉はそこで止まり、その手からは買い物袋がどさりと落ちた。
ころころと転がるじゃがいもが、こてんと俺の足にぶつかる。
……そりゃそうだ、高校生にもなる自分の愛娘が、フリスビーくわえながらきゃんきゃんと走ってくれば、
どこの母親だって皆同じような反応をするだろう。
そうやって春夏さんと二人でフリーズしている間にも、泣き声の主はどんどん近づいてくるわけで…
「はっはっはっはっ!」
このみは呼吸を乱しながら俺の前で膝を着き、口にくわえたフリスビーを差し出してきた。
そしてご褒美ご褒美、とせがんでくる上目遣い……うん、それはとっても可愛らしいんだけどさ……
どうたら完全に犬化したこのみは、春夏さんの存在に気がついていないらしい。
「こ、このみ。そ、そこ……」
顔をピキピキと引きつらせながら春夏さんをそーっと指差すと、
「あっ……」
このみの口からフリスビーがぽとりと落ちた。
「二人とも、な、何してるのかしら?」
口元をぴくぴくさせながら聞いてくる春夏さん。
……そういえば俺たちなんでこんな事やってたんだっけ。
「あのー、これはですね、そ、そうだ!ゲンジ丸のしつけの為に仕方なくっ!」
「そうそう、仕方なく実演してたであります、わんっ!」
あわてて言った俺の言葉に、このみもフリスビーを背中に隠しながら続いた……って口調おかしいから。
「へぇ、あのゲンジ丸にねぇ」
春夏さんはイタズラっぽく笑った後、クイっと顎で何かを指す。このみと揃ってその方向を見てみると、
犬小屋から飛び出したふわふわ尻尾。……いつの間にあいつ昼寝なんか始めやがって。
こうして、完全に次の言い訳を失ってしまった俺たち。
「ど、どおしよぉ、タカくん」
「どうするもこうするも……」
どうしようもない。そう、どうしようもないくらい気まずい。そして恥ずかしい。
しかしそんな俺たちを尻目に、春夏さんはふふっと一瞥してから一つ二つとじゃがいもを拾い始める。そして、
「タカくん、私これから晩御飯作ってくるから、このみのお散歩お願いして良いかしら?」
ニンマリと笑ってから、鼻歌交じりに玄関をくぐっていった。
夕焼けに負けないくらい顔を真っ赤にして立ち尽くす俺とこのみ傍らでは、
ゲンジ丸の気持ち良さそうな寝息だけが小さく響いていた。
119 :
↑の作者:2007/10/17(水) 02:21:17 ID:xvDFAkU70
>>59 犬チックってこうですか?わかりません><
>>61 そのネタ…いいかも。ちょっとゲンジ丸ルートやり直してくる
…ってどっちも微妙に亀レスですまん
120 :
見習い氷:2007/10/17(水) 07:06:54 ID:Nz48jRzOO
>>119 乙です。
最近はゲンジ丸SSが流行なんですか?w
とってもサブキャラすぎてネタ思いつかないんですがw
春夏さんが・・・怖いです。笑顔が・・・
GJ
123 :
59:2007/10/17(水) 22:44:22 ID:lSBPMXAk0
Hできるかどうかはまだ分からないが、ADでは春夏さんの個別ルートが
あるらしいので春夏さんSSを誰かお願いします。
当然エロありで。
「おーい?いないのか?」
誰もいないようだ。
「珍しいな…花梨がいないなんて」
ミステリ研の部室。
といっても、そこまで立派な部室ではなく、体育館の使われてない用具室を部室として使っている。
昼にはクラブ活動についての話し合いをし、放課後に実施というミステリ研究会。
どうやら会長である花梨は来ていないようだ。
「どうしたんだろう?…UFOについてったとか?」
ミステリ研究会は会長曰く「アウトドア系で不思議系!」とか。
つまり、推理小説なんかじゃなく、UFOやツチノコみたいなUMAについて研究するのだ。
「いないのか。なら、教室戻るか…ん?」
部室から出ようとしたとき、扉の近くの机の上に何か乗っているのに気づく。
透明で、かっこいいデザインの瓶。
FFなんちゃらのポー○ョンとかいう回復アイテムみたいなデザインの瓶。
その瓶を手に取り軽く振ってみる。
「なんか液体が入ってるな…」
蓋を開けてみる。
ほのかにハチミツというか、市販の栄養ドリンクのような匂いがした。
飲んでもマズくはなさそうだな…。
いや、でも中身がわかんないしな…もしかしたらへんな薬だったり。
…さすがに、変な薬ってのはないだろう。
好奇心で、一口だけ口にしてみることにした。
瓶は小さかったため、一口といっても、瓶の五分の一はなくなっていた。
「甘いというだけで、なんともないな…中身はなんだったんだろう?」
味は少し甘すぎるというくらい。
蓋を閉じ、部室からでようとした。
そのとき。突然、俺の体が、全身が熱くなりはじめた。
「ぐっ!な、なんなんだよこれ!…うっ!?」
急な出来事に体が反応せず、その場に倒れ込む。
全身が燃えるように熱く、まるで焼かれているような感じだった。
あまりの熱さに耐えきれず、俺はそこで意識を失った。
「う〜ん…あ」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
暗闇の中、俺の意識は戻っていた。
でも、なんとなく違和感があった。
自分の体のはずなのに、自分の体じゃない感覚。
無かった物があって、あった物が無い感覚。
そんなことを考えていたとき、なんとなく胸を揉まれた感じがした。
触られたのではなく、揉まれた感じ。
さらに、声が聞こえる。
「…か…ゃん……ど…し…」
次第にはっきり聞こえてくる。
「…たか…ゃん…どうし…の!」
やがて、俺の意識は暗闇だった世界から、現実世界に戻された。
「たかちゃん!どうしたの!大丈夫?」
声の主は花梨だった。
俺の手を取り、心配しているようだった。
「たかちゃん!大丈夫?」
「花梨…あれ?」
変化に気づく。
俺の声は、まるで女の子の声のように変わっていた。
「たかちゃん…もしかして、あの瓶の中身飲んだ?」
…瓶?
ああ、そういえばあったな。
たしか、あれを飲んだら急に体が熱くなって…。
「か、花梨…あれはなんだったの?」
戸惑いながら、女の子のような声に変わってしまっていた声で、花梨に尋ねる。
「この間、家の押入で見つけたやつなんよ」
「うん」
「その液体の中身はね、な、なんと!飲んだ人の性別を逆転させる、不思議な液体なんよ!」
「はあ?」
「ほら!たかちゃんだって、すっかり女の子なんよ」
花梨の言葉を受け、自分の体を確認してみる。
起きあがって、目線を下に移すと、平たかった胸に二つの膨らみが。
「な、なんだってー!」
男の俺の胸は、並の女子生徒に負けないくらいふくよかな胸に成長していた。
自分で胸を触ってみる。
や、やわらかい…。
触った感触はもちろん、触られた感触も感じた。
「ほ、ほんもの!?」
「そうなんよ!自分もさわって確認したけど、本物だよ!」
それで胸揉んでたのか。というか、揉むなよ。
「お、俺は…女の子になったのか?」
「そうだよ?」
ということは…。
そういって立ち上がって、花梨に背を向ける。
スカッ
な、ない!
股間にあるはずの男の勲章、マグナムがない!
「えええええぇぇぇ!」
あまりの衝撃に、変わってしまった声で叫ぶ。
飲んだ薬のせいで、俺の体と声は、女の子の体と声に変化していたのだ。
「ち、ちょっと花梨!なんで?どうして?」
「瓶の中身がそういうのなんよ!」
「なんでそんなのがこんなところに!」
「私が持ってきてたんよ!」
あの瓶の中身の液体は、飲んだ人の性別を逆転させる液体で、飲んでしまった俺は女の子になってしまっていた!
ま、まさか…世の中にこんな恐ろしい薬があるとは思いもしていなかった。
「花梨…これ、元に戻るよな!」
「えっと〜」
紙を取り出して、ふむふむ、とかいいながら読んでいる。
「戻りはするみたい」
「そうか」
とりあえず一安心する俺。
「ただ」
「ただ?」
「飲んだ量が多いから、戻るには一日かかるっぽい!」
「一日!?う、嘘だろ…」
説明によると、本来は一滴程度舐める程度で効果はあるようだ。
効果は短いものの、俺のように苦しむこともなく、割と簡単に変化するとか。
ただ、俺の場合は飲んだ量が多いために、戻るまでの時間が長いとのこと。
それにこの薬も、性交に飽きた人が性を逆転させて、楽しむ為のものらしい。
何故、花梨の家にあったのかは敢えて問わないことにしておこう。
「とにかく、元に戻るなら一日我慢しなくちゃな」
「そうだね」
自業自得でもあるので、俺は元に戻るまでの24時間を戦い抜くことを決意した。
「そういえば、さっきから苦しいんだよな」
制服のボタンを外す。
圧迫されてさっきから苦しかったのである。
しかし、外したことによって、胸の谷間が露わになる。
「ホントに…女なのか…」
元に戻るまでの24時間。
なにもなく過ごせるといいのだが…。
「もしかして、花梨も飲んだことあるのか?」
「さすがに飲むまでは。舐める程度はやったんよ」
軽い口調で、大胆発言をする花梨。
…薬舐めたのか。
「でも…男の子の体って…ホント…大変だね。キャッ」
顔を赤らめながら話す花梨。
この薬のおかげで花梨の中の男のイメージが変わったのだろう。
「だって触っただけで、あの大きいうまい棒が(以下略)」
「ああ、そんなことまで話さなくていいから、はいはい。」
話が変な方向に向くと、自分の身が危ないので、出る杭は早めに打っておかねば。
「とりあえず、教室戻ってカバンとってさっさと帰るか」
きっとそれがいいのだろう。
下手に学校に長くいては危険だ。
「あ、たかちゃん!」
「どうした?」
「…くれぐれも、女の子には気をつけてね」
「え?…あ、ああ」
…普通、女の体だから男に気をつけなきゃマズいと思うのだが。
肝心の薬の情報は花梨しか持ってないのだから、ここは信じるしかないか。
しかし、その花梨の言葉を信じるのに、そう時間は必要としなかった。
※男に戻るまで…残り24時間。
131 :
見習い氷:2007/10/19(金) 17:25:26 ID:4lbYHO4B0
新作投下です。
今回は1人ではなく、ある程度の人数(とはいっても3〜4人の予定)
を登場させるので、長編を書いてみることに。
ある程度の話の構成は出来ているので、割と早めに完結できそうです。
すでに2話目は短いながらも、大部分は完成しているので、夜には投稿できそうです。
誤字・脱字・指摘等ありましたら、いつものとおりお願いいたします。
>>124 このSSに組み込もうと思えば組み込めますが…。
エロありとなるとちょっと厳しくなるかもしれません。
>>131 当然チンポはついたままなんだよな?
な?
134 :
見習い氷:2007/10/19(金) 19:12:59 ID:qZXUrIBWO
135 :
物書き修行中:2007/10/19(金) 19:29:07 ID:2NvEhsJa0
書く側の立場の人間から言うと角が立つかもしれんが、
>>132の誘導スレはあくまでTS物が好きな人間が集ってTS妄想作品UPしたりそれ読んで萌えたおしたりして
楽しむスレであって、見習い氏がUPしたものは多分貴明が一時的に性転換することによって巻き起こされる
どたばたが主題のものだと思うので(TSが目的ではない)、別にスレチではないと思う。
ここはやはり雄二の暴走に期待したいw
どうして書く側の人間が言うと角が立つのか分からんが、俺も一応書く側なんだ
ちょっと書き方というか誘導がとげとげしくなってすまんかったね
別に責める気とかはないから誤解なきよう
てか既にこのスレって書き手以外いない気がするんだが…w
137 :
見習い氷:2007/10/19(金) 19:50:10 ID:4lbYHO4B0
>>135 中途半端に終わらせちゃったから、誤解を招いたのかも知れませんね。
とりあえず今から2話目投稿して、様子みたいと思います。
雄二…どうしようw
>>136 とりあえず2話目投稿しときますので。
ネタがちょっとあれだったかな…。
私の表現の実力不足でもあるのでお気になさらずに。
ちなみにスレみましたが、ハイテンションで凄かったですw
確かに書き手以外って少ない気がしますね。
ここ2年ほどずっとROMってますが何か
「…はあ」
ため息が漏れる。
これからのことを考えると、ため息しか出なかった。
「それにしても、誰も気にかけなかったのね」
花梨が部室に来たのは放課後だった。
つまり、俺が昼に意識を無くしたわけだから、すでに3時間経過していた。
というか、クラスのやつらは誰も俺を心配しようとは思わなかったのか。
もしかしたら、雄二が「今頃、貴明は女の子とあんなことやこんなことを…」みたいなことをクラスメイトに言っているのかも知れない。
…ホントに言っていたら、タマ姉に頼んで再起不能にしてもらう必要があるな、うん。
140 :
物書き修行中:2007/10/19(金) 19:58:15 ID:2NvEhsJa0
>>136 別に変な意味じゃなくて、
お前が言うな、的な反応する人間も居るので…
私も結構とげのある書き方してますな
スマソ
そんなことを考えているうちに教室に到着。
教室には誰もいなかった。
雄二が待っていそうだったが、居なかった。
俺は安心して自分の席に行き、カバンを取りに行った。
「あ、貴明くん」
不意に後ろから声を掛けられる。
俺は慌ててボタンを締めて、胸元を隠す。
「もう、どこにいってたの?何かあったんじゃないかと心配してたんだからね?」
委員長である小牧 愛佳だった。
「じ、実は…あ、」
俺は声が女の子の声だったのすっかり忘れていた。
「?…どうしかしたの?」
言いあぐねたのが不審に思ったのか、小牧がこちらに近づきながら、尋ねてくる。
俺は、できる限り声を低く、かつ男の声に聞こえるようにしゃべった。
「ぐ、具合悪くて保健室行ってたんだよ」
「そっか。そうだったんだ」
どうやらバレていないようだ。
見つけられたのが小牧で良かったと安堵した。
「悪いね、心配かけて」
「ううん。元気ならいいよ」
なんとか無事にやりすごせそうだ…と思ったのも束の間。
「そうそう、連絡だけど、来週から体育は…」
ポスッ
「あれ?」
突然、小牧が俺の体に倒れ込んでくる。
その勢いで、俺も壁にもたれ掛かる形で倒れ、倒れてきた小牧の体を支えた。
「お、おい?小牧?」
支えたまま、小牧をよく見ると、様子が一変していた。
声に反応し見上げた顔は赤みを帯び、息も荒く、虚ろな目をしていた。
「…はぁ…た、たかあき、く…ん…」
切なそうに俺の名前を呼び、息を荒くしながら顔をこちらに近づいてくる。
息が顔に当たる。
そのままの勢いで小牧にキスをされた。
俺は驚きで目を丸くするしか出来なかった。
とっさのことで抵抗も出来なかった。
「あむ……あ…はぁ…ちゅぱっ…」
小牧は唇を甘噛みしたり、舌を入れてきたりと次第に激しく俺の唇を求めてきた。
「ちゅぱ…はぁ……んぅ…ん」
舌を貪る音が教室に響く。
「…はぁ…ん……あん……ちゅぱ…はぁ…はぁ…」
苦しくなり、俺は渾身の力で愛佳の肩を押し、無理やり唇を離す。
依然、虚ろな目のまま、息を荒くして、こちらを見つめる小牧。
「…はぁ……はぁ…小牧?」
いったいどうして、普段おとなしい小牧がこんな行動をとったのか、理解できなかった。
小牧に疑問を投げかけるも、反応はなく、小牧は無言でこちらに手を差し出してくる。
すると、その手はそのまま俺の制服のボタンに伸び、ボタンを外そうとしていた。
「ちょ、ちょっと待って!」
ま、まずい。このままだと女の体になっているのがバレる。
「小牧!ストップ!ストップ!」
再びの注意にも、小牧は反応せず、制服のボタンを1つ外す。
それによって、俺の胸の谷間が露わになる。
まずいまずいまずいまずいまずい。
心でそう叫びながら、抵抗を試みようとするも、何故か体が上手く動かない。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
もし、小牧に女の体になっているのがばれたら…きっと口下手な小牧なら、ぽろっと言いかねない。
そうなったら…例えもとに戻ったとしても、当分の間は笑いものの扱いにされるだろう。
考えている内に小牧が俺の制服の2つ目のボタンに手をかけた。
「……あ、あれ?」
突然、小牧のいつもの口調に戻る。
本人も何が起こったのかわからないのか、あたりをキョロキョロしている。
どうやら、さっきの記憶は無いようだ。
そして、自分が俺の体の上に乗っていて、顔が近いことに気づいたのか。
瞬く間に顔を赤くした小牧は
「ごごごご、ごごめんなさあいいい」
と叫んで、猛スピードでダッシュしてカバンを取り、そのまま教室を出ていった。
「い、いったい何だったんだ?」
いまだに小牧の行動の理由がわからないし、花梨の言葉も引っかかった。
―――「女の子には気をつけてね」
あの薬には男女逆転の他に、どんな効果があるのか。
少し知る必要があると感じながら、帰り支度を再開していた。
※男に戻るまで…あと20時間。
貴明くんって呼ばれてるのに、小牧呼ばわりかよ
つれないな
146 :
見習い氷:2007/10/19(金) 20:07:25 ID:4lbYHO4B0
最悪だ…タイトルの数字、「1話」と「二話」になってる…OTL
とりあえず2話目投稿しました。
ちょっとだけエロイです。
あ、皆さんからしたらエロくないですか、そうですか。
147 :
見習い氷:2007/10/19(金) 20:11:28 ID:4lbYHO4B0
>>145 あんまり親密すぎる関係を持たせないように、「小牧」と呼ばせてましたが。
「河野くん」じゃないと釣り合わないな…。
ごめんなさい。
ダメだ…きっと今日は厄日なんだ。
厄日とかじゃなくて推敲が足りないだけでしょ
違うと思う。それだけいいんちょLoveなんだよ。・・・たぶん。
150 :
物書き修行中:2007/10/19(金) 21:11:13 ID:2NvEhsJa0
>>150 んな同調する前に、中身についての感想書いてあげればいいのに
以前TSモノを書いたことがあるが、女からはヒロインはどういう風に見えるのか、とか
女になってからの苦労話とかを書いてみると面白くなるんじゃないかな
>>131 人の物(おそらく花梨の私物)を勝手に飲むとか普通しなくない?
喉が渇いてたんじゃね?
俺だったら「ゼッタイ飲んじゃダメだよ、たかちゃん♥」って貼り紙をつけておくけどw
>>154 思わず膝を打った
それくっちゃくちゃ花梨っぽいなw
156 :
物書き修行中:2007/10/19(金) 23:33:32 ID:2NvEhsJa0
>>151 そいつは失礼
でも体裁として1話ごとに一区切りと言うかんじではなさそうなので感想は最後まで読んでからにしとこうかと
すでに構成も考えて早めに完結しそうということですし
157 :
見習い氷:2007/10/19(金) 23:48:23 ID:qZXUrIBWO
仰るとおりであります。
すべては私の実力不足です。
皆様に多大なご迷惑をおかけしたことに関して、深くお詫び申し上げます。
その代わりというのもあれですが、改めて今回の1、2話のほうを修正し、再び投稿したいと考えている次第であります。
投稿までに日数も掛かると思いますが、必ず、前SSよりも向上している新SSを完成させ、投稿できるよう努めようと考えております。
未熟なために、この先も皆様にはご迷惑をお掛けすることもあるとは思いますが、どうかこれからも変わらぬお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
とまぁ、堅苦しいのはここまでにして。
いや、ホントにご迷惑ばかりかけて申し訳ないです。
まだ半人前にすらなっていない私如きが…と今回の件で改めて痛感。
最初は暇つぶしで書いたSSも、今では熱も入り、良いSSを!と奮起してましたが。
…センス無い。うん。
きっと文章作るの向いてないんだな。
スレへの再投稿とかは別にいらないんじゃない?
HTMLにしてリンクでも貼っておけば十分よ
まぁあれだ、小難しい事は考えずに気楽に書けばいいんじゃね?
>157
>158の言う通りだよ。前回のまーりゃんSSの時も書こうかと思ったけど、
キャラのイメージなんて人それぞれなんだし、
他人になにを言われたって、自分でも内心マズったと思ったとしたって、
「俺は良かれと思って書いたんだ文句あるかゴルァ! ……失敗してるけどなw」
くらいの態度でいりゃあいいと思う。その方が書かれたキャラも喜ぶって
SS投下で誰も迷惑なんてしない(嫌なら読まないだけだから)。悩むな悩むな
投下乙。面白そうだからぜひ続けてくれ
あと呼称ミス ×花梨
○笹森さん
>>157 取り敢えず推敲はちゃんとしよう。キャラの呼称とかは一覧表作って(どっかに転がってるかもだけど)確認すべし
にしても、TSか。さっきまで瀬戸の花嫁読んでた所為で、そのキャラはいいんちょのイメージ定着してるわ、俺
なんにせよドタバタ劇として面白くなりそうなんで頑張れ
>>160 貴明は花梨って呼ぶこと多いぞ。特に面と向かってじゃないときは(内心での呼称含む)
OVA3巻でも花梨って呼んでたし、花梨に関してはどっちでも問題ないかと
小テストが、返された。
「おーい、どうだった?」
「あれ? ここFじゃなかったっけ? 見せて見せて」
休み時間に入って、各所で仲良しグループが答え合わせ。
「雄二、何問当たった?」
「そっちは?」
「2問」
「勝ったぜ、3問だ」
「ちぇっ」
ここにも、レベルの低い見せ合いっこをする馬鹿二人。
「そういうところで張り合わないでくださいな」
「お? 玲於奈?」
貴明と机で答案を広げていた雄二が降ってきた声に顔を上げると、
赤髪の少女が、腰に手を当てた呆れ顔で二枚の答案を眺め下ろしていた。
「なんだよ。わざわざ笑いに来たの?」
声を掛けたのは貴明。
環絡みで対立して以来、玲於奈を敬遠してきた彼だが、
ここのところ、日常会話程度のコミュニケーションは取るようになっている。
「まさか。小牧さん、お出かけです?」
玲於奈の口調にも、かつての棘はない。愛佳とも、ちょくちょく話をしているようだ。
「あー、一分前に出て行った」
雄二が返す。
「そうですか。相変わらずお忙しいみたいですね」
ふう、と肩で息をついて、出直しますと玲於奈。
「そうだ、雄二さん」
机から離れ際、立ち止まってふと首を傾げ、雄二を振り返る。
「よろしければお教えしましょうか、勉強?」
放課後。12月の図書室。長机は、受験勉強の三年生を中心に賑わう。
中に混じって、雄二と玲於奈。
「だから、ここは角ACBと同じになりますから」
「なんで?」
「定理、一年生で習いませんでした?」
「覚えてねーや」
「もう、仕方ありませんね」
玲於奈が口を尖らせて腰を曲げ、足元に置いた鞄に手を伸ばす。
「なにやってんだ?」
雄二が覗き込む。
「確かこちらの参考書に解説が……っ!」
目線を鞄に向けたまま答えた少女は、ちらっと隣を見て口篭もる。
机の下まで覗き込んできた雄二の顔が、かなり近い。
「あ」
雄二も無意識だったようで、慌てて顔をあげ、
ごん。
「いてっ」
ようとして、机に頭をぶつける。
左手でぶつけた箇所を押さえて、再び頭を下げる雄二、と。
「大丈夫ですか?」
驚いて玲於奈が顔を雄二に向けるタイミング。
つん。
鼻の頭同士がくっついた。
「「〜っ!」」
二人揃って、赤い顔を机から引っ張り出す。
照れ照れと場の空気を緩ませる二年生に、周囲の受験生が迷惑そうな目を向けた。
「まったく、これでは勉強になりませんわ」
バス停まで一緒に帰る道で、玲於奈がぼやいた。
図書室では、結局いちゃいちゃしていただけだったような気がする。
「ま、俺の頭で勉強したってたかが知れてるって」
「お姉様の弟君が、頭が悪いわけがありません」
雄二はたいしたことないと笑ったが、玲於奈は不服そうに話題を続ける。
「姉貴は姉貴、俺は俺」
「いつぞやだって、私が解けなかった問題を解いたじゃありませんか」
「あれは教科書を」
「見たらできる、というものではないのですよ」
「だって、現に成績悪いぜ」
「勉強なさらないからです」
断言。まあ、誰も否定はすまい。
「少し努力されたら、すぐ伸びますよ、雄二さんは」
「そんなもんかねえ」
言われても、雄二は気乗りのしない顔。
「別に点数取ったっていいことないしなぁ」
「できないよりは、できた方が良いでしょう? 進学先の選択肢だって広がりますし」
「あー、それはいいや。俺、進学する気ねーから」
ぱたぱたと手を振った雄二の口調は至って軽い。
「そう、なのですか?」
一方、玲於奈は少し戸惑った顔をする。
「それならそれで、そういうのもありだとは思いますけど……」
なにやら考えながら独り言。
「そうそう。だからさ、お前が俺の分までいい学校に行ってくれよ」
我が意を得たりと雄二。
だが、玲於奈。
「いえ。雄二さんが進学なさらないのでしたら、私も上の学校には進みません」
断固、というよりむしろ当然という口調で、そう宣言した。
これには雄二の方が慌てる。
「おいおい、なんでそうなるんだ」
「なんでって、その」
少女は、何故か下を向く。
「その、あの、あくまで仮に、ですよ?」
「あ、ああ?」
「ゆ、雄二さんと、わ、私が、その、め、夫婦になったとしてですね」
「あ、ああ」
いきなり怪しい方向に話が振れて、雄二も彼女の顔から視線を外す。
「妻の方が学歴が高いのは、体面上好ましくないと思うのです」
「へ?」
続く玲於奈の言葉は、雄二には想定の範囲外だった。
「そんなことかよ」
思わず、呆れたような声が出る。
「そんなことですけど、そんなことですわ」
玲於奈としては、この手の論法を雄二が嫌うであろうことは分かっているし、
言い回しで自身の価値観ではない事を注釈したが、撤回はしない。
「しかし、なあ」
「私の勝手ですから、雄二さんがお気になさる必要はありません」
議論をする気もないようだ。
(気にするな、ったってなぁ)
二人でいる事が、お互いの価値観に束縛される事だと、
それを知らぬほど雄二は子供ではないつもりだったが、
自分の行動が、こんな形で玲於奈の可能性を否定し得るとは。
「ま、まあ進路の事は来年考えたらよろしいとしてですね」
雄二の沈黙を不機嫌と受け取ったのか、玲於奈が努めて明るい声を出す。
「試しに期末まで頑張ってみませんか?」
「あ、ああ」
雄二は生返事だったので、玲於奈が恥じらいながら続けた言葉は聞いていなかった。
「成果が出たら、なにか"いい事”を考えますよ」
そんなわけで、雄二と玲於奈の動機づけは、実は若干異なっていたのだけれども。
「げ。裏切ったな雄二」
期末試験。向坂雄二の成績は、盟友が驚愕するくらい、なかなか立派なものだった。
「ふっ。俺は先に行く、お前は一生吹き溜まりで生きろ」
「そこまで言う程ではないのでは?」
玲於奈−今回は本当に結果を見に来たらしい−が突っ込む。
「いや、まあ、な」
頭を掻く雄二。
立派といって、まあ平均点どっこいくらいだが、これまでを考えれば飛躍的でもある。
「うーん、なんだか差がついたなぁ」
その横で、貴明がちょっと複雑そうな顔。
カップル二組、どっちも彼女が成績優秀、男が丸出駄目、というバランスが崩れて、
基本的には成績なんか気にしない貴明でも、若干の引け目なり感じているよう。
「でもこんなに伸びるなんて凄いよぉ。がんばったんだね向坂くん」
しかし、愛佳はニコニコ。
「玲於奈のさんの教え方も上手かったんだねえ」
全然、気にしてない感じ。なお、彼女自身の進路希望が一貫して就職なのは、学園内では有名な話。
「もう少し範囲が絞れればよかったのですけれど」
一方、はにかんで話す玲於奈の方には、多少は明るい対抗意識があったようだ。
「いや、十分御指導いただきました、だ」
この辺の感情をどう考えるかは、人それぞれに属する話としても、
恋人の自尊心に貢献できたのなら、それは素直に嬉しく思う雄二だった。
「それで、ですね。その、例の話なんですが」
急に小声で、雄二にだけ話しかける玲於奈。頬がちらっと赤い。
「ん?」
「今週の日曜日、そちらにお邪魔してもよろしいですか?」
自己支援
「いいけど、日曜日は、午前中は石崎さんがいるぜ」
石崎さんというのは、雄二の家で雇っている家政婦さんの名前。
環が居る間は頼んでいなかったが、独り暮らしになって、またお願いするようになった。
半ば両親がくっつけた監視役でもあり、雄二の部屋を勝手に掃除しようとする危険人物でもあり。
「あ、はい、わかりました」
小テストの日からこっち、平日は図書室、週末は向坂邸が二人の勉強場所だったから、
玲於奈が雄二の家に来るのは、環を説得するために来訪した時を除いて、
雄二に会いに来るのが、という意味でも既に初めてではない。
玲於奈の言葉を、午後から来る、という意味に受け取ってin日曜の朝。
雄二は惰眠を貪っていた。
ガラガラガラ。
寝耳に玄関扉の開く音。
(……ああ、石崎ババァが来やがったな)
雄二にとっては油断のならないことに、彼女は屋敷の合鍵を与えられている。
がさごそ。がたごと。
居間の片付けが始まったのだろうか。
(寝てるの分かってるったって、いつもは大声で挨拶してくるのに……)
思う途中でまた微睡みに吸い込まれる。
ぐぉーん。
どげん、がごん。がさごそ。
掃除機の音とか。片づけの音とか。なんだかわからない音とか。
(なんか、いつもより騒がしいような)
夢うつつに、そんな事を思う。
やがて、たぶんもういい加減お昼に近い頃。
つつーっ。
やけにそうっと、雄二の部屋の扉が開いた。
(う……部屋の検閲かよ……)
起きなければという意識に反して、目は開かない。
が、侵入してきた気配も妙に静か。
(石崎さんじゃ……ない……?)
すっ。そっ。
抜き足差し足で、ベッドに近づいてくる足音。
ふわっと肩に手が置かれる感触。
微かに聞こえる息づかい。
ぱちり。
そこまで来てようやく、雄二の目が開く。
視界一杯に、玲於奈の顔があった。
「え?」
「きゃ!」
雄二が驚く実感が湧かないうちに、姿が眼前から消える。
「う、あー」
まだ、よく目が覚めてない。
その耳に、第二声。
間違いなく玲於奈の声、しかし。
「お、お目覚めですか……えーと……ごしゅじん、さま」
「な、なんだと?」
眠気と、台詞の衝撃によろめきつつ、雄二はなんとか身を起こしかけたが。
「お前は一体っぅううお!?」
質問も起床も途中で停止。
聞きたい事は幾つかあったが、全部ふっとぶ。
「あ、あはは、はは」
ベッドの脇にぺたんと座り込んで、漫画なら顔が斜線で潰れそうなほど赤くなって、
自分で言った台詞に耐えきれないようにはにかむ、
玲於奈のメイド服姿を見たら。
黒地に白のメイド服は、学園祭で2−Aが使っていたのと同じもの。
セットのニーソックスとスカート裾の間から、ちらっと覗く太股の肌色。
んくっ。
息を飲んで固まる雄二。
その様子に、玲於奈の表情が不安げに変わる。
ややあって、肌色の面積がちょっと小さくなって、続いてさっきよりも広くなる。
理由は、少女が膝立ちになったから。
「お、お気に召しませんでしたでしょうか?」
上半身だけ起こして横を向く雄二を、覗き込むように玲於奈が膝歩きで寄ってくると、
少年の視界一杯に少女のディテールがはっきりして意識に滑り込む。
曰く、カチューシャを被った赤い髪の柔らかさとか、ちょっと傾げた白いうなじのきめ細かさとか。
曰く、両腕を身体の前に下ろして腰の前で手を組んだ姿勢の、腕の間で少し寄った膨らみとか。
曰く、伸ばした腕の先、腰の前で組んだ両手がモジモジと動く度に発生するスカートの皺とか。
かなり凶悪。まして、世界一好きな相手だし。
「いや、えーっと、お気には召したけど」
「ありがとうございます!」
呆れるくらい無邪気な笑顔が、また眩しい。
「なにを、やってるんだお前は」
手を伸ばして抱き寄せたくなる衝動を、抱き寄せたら抱き寄せるではすまないだろうから、
雄二は抑えて、玲於奈に問う。
「あの、前に言っていたではありませんか、試験の結果が良かったらって」
なにか“いい事”を。
「それで、考えたんですけど、前にメイド服姿が見たいとおっしゃっていましたよね」
学園祭の後、雄二は貴重な機会を逃したことを嘆いていた。
「ですから、今日一日、こちらでメイドさんをさせていただきたいな、と」
「鍵はどうした。ってか、今日は石崎さんが」
「あっ、私が秋子おばさんに頼んだんです。鍵もお借りしました」
「知り合いなのか!?」
「秋子おばさんは、私が子供の頃にうちでまかないさんをしていましたの」
よく叱られました、と舌を出す玲於奈。
「なんてこった」
雄二は、広いようで狭すぎる世間に唖然。
監視役でもある彼女に玲於奈の存在がバレたのはマズイような気もするのだが、
どうしようもないのでそれに関しては思考を停止することにする。
「ですので、朝のうちに入らせていただきまして、着替えて、お掃除などを」
メイド服ルックで街を闊歩してきたわけではないようだ。
「あっ、お食事の用意ができてます。家で作ってきたお弁当ですが……」
不安と期待が半々くらいの口調。
「わかった。悪いな。そろそろ起きる」
雄二の方は、まだ混乱しているのか、定型的な反応を返す。
「はい」
ニコニコしながら、ベッドの横にちょこんと座り直す玲於奈。
雄二はなんとなく布団を除けかけて、止まる。
「どうしました?」
「あのさ」
「はい?」
「着替えるから、さ」
「あっ!」
玲於奈は口元を手で押さえ、慌てて立ち上がる。スカートの裾がふわっと跳ねた。
ぱたぱたと部屋を出て行きかけて、出口で振り返る赤い顔。
「あ、あの、よろしければ、お着替えお手伝い……」
「いらないって」
着替えた雄二は、どんな顔をしたら良いかわからないような顔で茶の間に出た。
「改めまして、おはようございます。ご主人様」
三つ指ついて出迎える玲於奈。少し慣れたのか、照れつつも台詞は回る。
「あのな、いくらなんでもご主人様は、ちょっと」
「お嫌ですか?」
「うっ」
嘘でも嫌だと言えば止めるのだろうが。
「……嫌じゃ、ない」
雄二は、自分に正直な男だった。
「うわ、凄いな」
テーブルに並んだ「お弁当」は、綺麗に盛りつけられていた。
「食器、使わせていただきました。ご飯とおみそ汁、よそってきますので座っていらしてください」
いそいそと台所に向かう少女。
また少し伸びた赤髪。背中で揺れる大きなリボン結び。
腰が細く締まっているせいで、その下の形の良いお尻の膨らみがはっきり浮き出ていて、
裾のフリルのふわふわした動きと、そこから伸びた左右の太股と膝の裏が刻む、規則正しいリズム。
(こんな格好でウェイトレスしてたのかよ)
雄二は改めて学園祭で見逃したのを後悔すると共に、遅ればせながら大丈夫だったのか不安になった。
「おまたせしました」
ほどなく、お盆を持った玲於奈が戻ってきた。白飯と味噌汁の椀をふたつ、雄二の前に並べる。
箸がない。
「あ、俺持ってくるわ」
「いえ、こちらに」
お盆から取った箸を自分の胸の前に示すと、玲於奈はそのまま雄二の隣に座る。
「え?」
「これも宿題でしたではありませんか」
雄二も思い出す。あーん、の話。
「え、ええっと、何から、お取りしましょうか、ご主人、様」
やっぱり照れまくりながら、玲於奈がご飯茶碗を手に取った。
「いや、うー、しかし、これ、全部持ってきたのか?」
雄二の眼前には、焼き魚中心に、色とりどりの小鉢や皿が展開されている。
「纏めるとそれほどの量でも。種類は、最近いろいろ覚えまして」
最近、というのは雄二と付き合い始めてからだろう。
「お口にあいますかどうか……」
少し迷ってから、玲於奈は小鉢の煮物を取る。
手を添えて差し出された箸の先。
それを見つめて、雄二はちょっと硬直。
玲於奈はまた別な事を迷って、おそるおそる。
「あー、ん、。」
ぎこちない声に誘導されて、雄二は半分目を瞑って口を開いた。
「い、いかがです」
飲み込んだ後、反応がない雄二。心配そうに少女が尋ねる。
「え、えーっと」
不味くはなかった。美味しかったような気がする、けど。
「すまん。緊張して、味がわからなかった」
「あは、は」
微妙な笑い方をした玲於奈の手が動いて、二口目。
「あ、やっぱり美味い」
今度は、味がわかった。
「良かった」
一口遅れでも、雄二の言葉が気遣いでないことは玲於奈に伝わったよう。
「こちらも、いかがです」
「ああ、頼む」
ほっとしたように流れが良くなる、二人の遅い朝食。
次々と差し出される料理は、どれも見事な腕前。
「こんなに料理、うまかったのかお前?」
失礼ながら率直な感想を漏らした雄二に、
「最近になって、ずいぶん練習しましたから」
少女は胸を張って、ふたたび最近という言葉を口にした。
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
玲於奈が持参した料理は、種類だけでなく量も結構あったし、
少女が給仕しての食事ということで、時間自体は長めだったのだが。
「なんだか名残惜しいな」
夢見心地で終わってしまったような気分。
「ありがとうございます」
嬉しそうに答えつつ、玲於奈は食器をお盆に片付け始める。
「手伝うぜ」
遠目の小皿に手を伸ばす雄二。
「いえっ、今日は私が」
慌てて隣から玲於奈が取りにくる。
がたっ。かちゃっ。
「あっ、とっと」
二人の手元で食器がかちゃかちゃ鳴って、バランスを崩す少女。
「おっとぅ?」
倒れ込んできた玲於奈を抱える格好になった雄二。
腕に触れる、安物メイド服のざらっとした生地の質と、服の中身の柔らかい重み。
「ひゃう、す、すみません」
縮こまった少女がもぞもぞ動く手応えに、雄二は背筋に電流が走るような感覚を覚える。
ぐい。
雄二は半ば本能的に、彼女の肩を引き寄せた。
「ゆ、雄二、さん?」
驚く声に雄二は力を緩めたが、離しはしない。
玲於奈も逃げない。二人の距離が自然に近づいて。
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
「あっ、洗濯物、脱水に回さないと」
少年は、今どき二槽式な向坂家の洗濯機を恨んだ。
食器を片付けて、洗濯物を干して、合間にお茶など淹れて。
「ゆ……ご主人様の部屋を片付けますので、こちらで休んでらしてください」
ぱたぱた足音が遠ざかる。雄二はなにげなくそれを受け容れて茶の間に腰を下ろしていたが。
「……俺の部屋!?」
「えーっと、やはり定番はベッドの下でしょうか……」
「こらっ!」
「きゃ」
「きゃ、じゃねえって。どこ掃除してんだよ」
「あはは、埃がたまってないかと思いまして」
ベッドの脇にしゃがみこんで、暗い空間を覗き込んでいた玲於奈が立ち上がる。
ぶおーん。
照れ隠しか追及封じか、掃除機スイッチオン。
「掃除の邪魔ですわご主人様♪」
ベッドの上に追いやられる雄二。玲於奈のご主人様呼びも、だいぶ板についてきた。
ぶおおーーーーーーーーーー。
くるくると部屋の床を動き回る掃除機と、その使用者たるメイド服姿の彼の恋人。
自分の想定にない光景に、雄二を襲う一種の幻視感。
ぶおーーーーーーぷしゅうぅん。
掃除機を止めても、ぼんやりしている雄二。
それに気付いた玲於奈は、押し入れを開けてクローゼットケースを物色してみたり……
「玲於奈っ!」
「あ、バレました?」
照れ笑いながら振り向くと、雄二は何故だか、顔を手で覆っている。
「いや、そうじゃなくて、だな」
「?」
ケースの下段を眺めたまま首を傾げる玲於奈の姿勢。
膝を部屋の床について、左手を押し入れの床について、いわゆる四つんばいで。
頭がケースの方向ということは、雄二の座るベッドの方向にお尻が突き出ているわけで。
「ひぁぅっ!」
ミニスカートの裾を押さえた少女の、見えました? という問いは、雄二は聞かなかった事にした。
玲於奈の掃除の腕は、料理ほど安心感はなかったが、まあ雄二よりは数段上だった。
「大体、片付きました」
「お疲れさん。こっち来いよ」
「はい」
二人、雄二の部屋。
座布団並べて音楽鑑賞など。
「時間ありますから、夕飯もお作りしますね」
「それは楽しみだな」
「上手くいくかは神のみぞ知る、ですけど」
そう付け加えながらも、今度は自信が八割という口ぶり。
朝食の出来は、偶然ではないのだろう。
「本当は、もっと早く御馳走したかったんですけれど、なかなか上達しなくて」
「いや、たいしたもんだろあれは」
「クラスの子とか、小牧さんに随分教えていただきました」
「ああ、それでよく委員ちょのとこに来てたのか」
「何度か家にお邪魔して、試食していただいたりして、この間やっと合格が」
「委員ちょが? そんな厳しいか?」
「いえ、妹さんに」
「なるほど。いや、あんなのに食わせるのは勿体ない味だった」
「ふふっ。及第点を頂いた時の妹さんの台詞は、全く同じでしたよ」
「ちっ」
「小牧さんの方は、試食はたくさんしていただきましたけど、何を食べても美味しいとおっしゃるので」
「それは委員ちょらしいな。試食のし過ぎで太らないといいが」
@小牧家。
「くしゅっ!」
「風邪ひくよお姉ちゃん。ついでに、裸で体重計に乗ったって意味ないと思うけど?」
閑話休題。
日曜午後の昼下がり。時間は緩やかに過ぎた。
「小春日和、ってのは少し遅いかなあ」
「もう12月ですから……」
雄二の肩にもたれて、玲於奈がウトウトし始める。
「疲れただろ。少し横になったらどうだ?」
雄二と違って朝も早かったようだし、勝手知らぬ他人の家で掃除や洗濯も大変だったろう。
「大丈夫で……す……ぅ……」
言葉の途中でかくん、と首が怪しくなる少女。
恋人の肩に頬を当て目を閉じると、やがて寄りかかったままで寝息を立て始めた。
「おいおい」
落っことさないように注意しながら、起こそうか迷う雄二。
ちょっと顔を横に向けると、細くて艶やかな髪の匂い。
キュルルッ。
回していた緒方理奈のアルバムが終わる。
入れ替えるにはちょっと手が届かないが、リモコンなら。
少し動いた拍子に、肩から少女の頭が外れた。
「うおっと」
恋人の身体を支えて、とりあえずそのまま自分の膝に軟着陸させる雄二。
「あ……ん……」
玲於奈はというと、目を覚ます様子もなく身体を雄二に預けて、本格的に寝に入っている。
「おーい」
寝耳に口を近づけて、そっと声を掛ける。
起きない。そのまま少しだけ顔を上に向けさせると、雄二の目の前に赤い唇が。
ピンポーン。
「向坂さーん。宅急便でーす」
「のわっ!」
唐突に鳴ったチャイムに驚いた雄二を尻目に、玲於奈が目を擦って起きあがった。
「ふぁい。いふぁ、いひふぁーす」
「待て待て寝ぼけるなっ。その格好で出て行くなっ」
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玄関で雄二が宅急便屋を見送っていると、玲於奈も部屋から出てきた。
「目、覚めたか」
「はい。すみません、眠り込んでしまって」
眠ったのはほんの一瞬の筈だが、すっきりした表情は若さ故か。
「そろそろ、お夕食の買い物をしなくてはいけませんね」
「一緒行こうぜ。荷物持ち、いるだろ?」
「お願いします」
ぱたぱたと茶の間に入って、買い物カゴをぶらさげて来る。
「買い物カゴ持参かよ……っておい、ちょっと待て」
「これですか? お弁当を入れてきたカゴですわ」
「いや、そうじゃなくて、服、服」
かがんで靴を履こうとする玲於奈は、メイド服のまま。
「どこかおかしいですか?」
きょろきょろと自分の格好を見下ろして、スカートを直す少女。
「メイド服姿で街には出ないだろ普通」
「あっ。それは、そうですけど」
指摘に顔を赤らめつつ。
「でも、今日はそういう設定ですから」
誰に吹き込まれたか専門用語まで飛ばして拘る。
「気持ちは嬉しいけどさ。やっぱマズイって」
秋葉原じゃあるまいに。
「そう、ですか?」
「そう。それにさ、俺としては」
まだ未練がありそうな玲於奈の耳元に、雄二は顔を寄せる。
「もう他の野郎共に、お前のメイド姿は見せたくない」
「ぁぅ! ……き、着替えてきます」
小声で囁いた殺し文句に、少女は耳まで染まって茶の間に消えた。
およそ1時間後、冬の陽はそろそろ斜め。
「ずいぶん買ったなあ」
左手に重量物をぶらさげた雄二が呆れる買い物帰り。
「ちょっと調子に乗りすぎました。お財布、大丈夫ですか?」
お代は、玲於奈は割り勘定を主張したが、雄二が出した。
「バイトしてっから平気」
「あら? そうでしたっけ雄……ごしゅ……」
「もう雄二でいいって。ま、“最近”、な」
普通の口調に戻った玲於奈に、優しい苦笑を返す雄二。
もうすぐクリスマス。男としては、多少なりとも無理をしたい季節。
「そっちも持とうか?」
玲於奈の買い物カゴを見やる。
「いえ、重くはないですし。それに、こういうの、憧れていたんです」
少女の目線の先には、買い物カゴから突き出した長ーいフランスパン。
「主婦の絵、ですよね」
荷物を抱えて、玲於奈はあどけなく笑った。雄二はかなり照れた。
家路の途中に、薬局の前を通る。
「あ、剃刀切らしてたっけ」
ちょっと待っててくれ、と言い残して、雄二は店内へ。
「あっ、もう……あら?」
追うタイミングを逃した玲於奈の目にふと留まる、白い四角い機械。
3分後。雄二が用を済ませて戻ってきて。
「ぶっ」
それをしげしげと眺めている玲於奈につんのめる。
「なんの自販機なんですか、これ?」
無邪気に指さし尋ねる玲於奈。雄二は、空いている右手を頭に当てて。
「……“明るい家族計画”」
そっから100メートルほど、二人はあさっての方を見て歩いた。
「あっいっという〜♪ かったっちないもの〜♪」
台所から、綺麗な声が流れてくる。
緒方理奈の代表曲を歌っているのは、もちろん玲於奈。
他人の家の台所でも鼻歌が出るくらい、料理には余裕があるようだ。
茶の間では、雄二が座ってお茶っこ飲み。
手伝おうにもスキルがないし、玲於奈の指示は「座っていてください」。
でもヒマ。
「トイレにでも行くか」
別に溜まってなどいないのだが、なんとなく立ち上がって部屋を出かけた入口で。
「いっきがでーきなーいほーどーの こっいに♪」
二番に入った歌声に引かれたように、雄二は台所に視線を向ける。
お気に入りのトレーナーにパンツルックで、エプロン装備の玲於奈が、
鍋とフライパンを前にして、お玉片手に楽しげに食材を捌いていく。
その姿は、あまりにも場に馴染んでいて。
(なんでこいつ、いま此処で、こんな事してんだ?)
またも現実感を失う雄二。
「あら、座ってらしたらよろしいのに」
ぼうっと突っ立っている少年に、玲於奈が気付いた。
「いや、待ってるのも暇でな」
我に返った雄二は、頭を掻きながら流しの側に寄る。
「ふふっ、お相手できませんよ?」
「あ、ああ。邪魔だよな。悪い」
「いいえ」
なんだかどぎまぎしている雄二と対をなすように、穏やかに笑う玲於奈。
「好きな人が側にいて、邪魔なわけがありません」
「う……」
(俺の事が好き、だから、だよな)
先の疑問に簡単な解答を与えられて、雄二は。
「玲於奈」
背中から、そっと少女の体に腕を回した。
「ゆ、雄二さんっ?」
玲於奈が上擦った声を出す。さっきまでの余裕は、消し飛んだ模様。
朱色の頬よりなお赤い髪に、そっと口づける。
「これでも、邪魔じゃないのか?」
「い、意地悪です、それは」
玲於奈の肩から降りた雄二の腕は、彼女の腰の前で自然に交差し、
彼の二の腕に手を添えて体を預けた少女の背中には、見かけより逞しい少年の胸板。
そこから伝わる、雄二の鼓動。
自分のものではない心音を感じると、玲於奈の心が幸福感で一杯になる。
「どきどきしてますね。すごく」
「お、お前、なっ」
再び攻守逆転。
玲於奈の髪より、更に真っ赤に炎上する雄二の顔。
「いつぞやもそんなんだったなぁ」
初めて少女を抱きしめた時を思い出し、拗ねた口調でぼやく。
「俺ばっか聞かれてんの。心臓」
「私もかなり、ですよ」
玲於奈は微笑で答えた後、急停止。
「……確かめて、みま、す、か?」
「へ?」
5秒ほど固まった後におずおずと玲於奈が言った言葉の、
意味がわからなった雄二は、さらに3秒後、確かめる対象の推測に至る。
玲於奈の心臓の鼓動。
それを確かめるというのは、つまり。
ごくり。
(いやいや、勘違いしちゃいかんな。)
息を飲んでから、雄二は自分に都合の良い解釈を振り払おうとした。
が、玲於奈は俯いたまま、彼の腕を抱いて胸の前に合わせる。
少女の柔らかい膨らみの上に、そっと乗せられた雄二の上腕部。
その腕を伝うように玲於奈の手が降りていき、やがて少年の指に添うと、
おそる、おそる。
雄二の両手を、少しだけ持ち上げる。
それは、解釈が間違っていないことの意思表示。
「「……」」
言葉を発するのを怖がるように、黙ったままの二人。
ゆっくりと、ごくゆっくりと玲於奈に被さっている上体を起こす雄二。
二の腕に触れる玲於奈の感触が、少しだけ強くなり、
組んだ両手が、その動きに連れられるように上方に移動する。
玲於奈の方は、自分と少年の手が彼女の胸に近寄る様子をじっと眺めたが、
やがて耐えきれなくなったように背中の雄二をそっと振り返る。
上体を起こして離れた、雄二の頭との距離を埋めるように追う玲於奈の瞳。
身体の動きが止まっても、瞳と手は止まらない。
玲於奈が少し背伸び。雄二は逆に頭を下げて、二人の目線が出会う。
組んでいた両手が外れて、雄二の手のひらが玲於奈の服の生地に触れる。
ふたつの唇が至近になって、指が目的地に辿り着く直前。
鍋が吹いた。
「だあああ溢れる溢れる」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
誰に何を謝っているのやら。
もう一度支援
夕食は、差し向かいで。
玲於奈はまた隣であーん、をしたかったらしいが、
テーブルを挟んで、お互いの表情を見ながらの食事やこれも良し。
料理−今度はシチューにパンを中心とした洋食−の方も、
途中でずいぶんよそ見をしていた影響を感じさせない出来映えだった。
「ごっそさん」
「お粗末様でした」
「お粗末なんてとんでもねえよ。後片付けは、俺がやるからな」
「いえ……あ、それでは、ご一緒に」
玲於奈洗う人、雄二拭く人。二人並んで台所。
「うふふふ」
「なんだよ、思い出し笑い」
嬉しさが溢れ出たような笑みに、突っ込んだ雄二も頬が緩い。
「あの、ですね」
玲於奈は、さっきから言いたくて仕方がなかったような様子で言う。
「新婚夫婦に、見えますかね」
がっしゃん。
雄二の手が滑って、皿が一枚お亡くなり。
「だ、大丈夫ですか?」
「あっ、あぶねーから」
床に散乱した破片を拾おうと、しゃがみこむ。
ぴと。
流石というかなんというか、揃って同じ破片に指を伸ばしてお手つき。
硬直。
「「……」」
顔を見合わせる。何故だか、周囲を伺う仕草までシンクロ。
鍋は火に掛けてない。洗濯機も回していない。
宅急便が来ても出ないと心に誓って、雄二は玲於奈を、玲於奈は雄二を見つめる。
小さな陶片の上で人差し指を重ねたまま、二人は互いに身を乗り出して……
「雄二さーん、ごめんなさーい」
……ガラガラガラと、玄関の扉が豪快に開く音にずっこけ。
「い、石崎のババァかっ!」
「か、鍵、閉めてましたよね?」
「2本持ってんだろ、ったく」
四度目の正直もならず。水を差されて、スリッパで砕けた皿のかけらを蹴る雄二。
「やーお邪魔しちゃったみたいですみませんねえ」
ずかずか入ってきた石崎さんの用向きは、今日の仕事をしたことにしてハンコをくれ、というもの。
実際は、偵察だろう。
「あら、玲於奈ちゃん、まだいたの? 遅いから駅まで一緒に帰ろっか?」
「あっ、え、ええ」
白々しい台詞で送る機会まで奪われた雄二は舌打ちしたが、親との関係を考慮して黙った。
「それでは、遅くまでお邪魔しまして」
「いや、また来いよ」
「失礼します」
同行者を気にして心持ち他人行儀な挨拶。がらがらぴしゃんと扉が閉まる。
「はあ……」
あれだけいちゃついていたのに、結局キスもできなかったと溜息を、
がらがらがら。
「のわっ!」
「す、すみません」
つく間もなく、唐突に扉が開き直って、顔を出したのは玲於奈一人。
「どうした? 忘れ物か?」
「はい。忘れ、もの、です」
上擦った声。そして、
玲於奈は、玄関口の段差に背を目一杯伸ばして、ちゅっと雄二に口づけた。
「おやすみなさい、雄二さん。良い夢を」
油断すると、とんでもない夢を見そうな気がした。
それから一週間ちょい後。というか、12月24日。すなわち、クリスマスイブ。
雄二は洗面台の前で、身支度に余念がない。
「プレゼント、何がいいかなぁ」
玲於奈と付き合い始めて以来、この日を目途に資金を貯めていた雄二であるが、
いざとなって何を買うか、悩みに悩んで結論出せず、相談の上。
「私も悩んでいたので、一緒に買いに行きましょうか?」
要は、二人でいれば理由はなんでもいいのだ。
「貴明と委員ちょもデートって言ったかな」
広くもない街、鉢合わせしたらどう冷やかしてやろうか。
そんな事も考えながら上機嫌の、その時。
ジリリリリリリリリ、ジリリリリリリリリ。
「はい、向坂です」
「雄二。ちょっと聞きたいんだけど」
電話を取った雄二の耳に流れてきたのは、久しぶりに環の声。
「げっ、姉貴っ!」
反射的に嘆いてから、受話器から拳が飛んでくるんじゃないかと耳を離す。
「玲於奈を最後に見たの、いつ?」
しかし、環は用件を続けた。口調が、いつになく緊迫している。
「えっ? しゅ、終業式だけど」
環の口から玲於奈の名が出てどきり。幸い、嘘でもないし支障もない答えがあった。
「そう……」
電話の向こうで、考え込むような気配。これも珍しい。
「なんでだよ?」
下手するとやぶ蛇かとは思ったものの、当然、気になって尋ねる。
「うん。あのね」
雄二の質問に、環は言葉を切ってから答えた。
「実はね、どうも家出したらしいのよ、あの子」
以上です。>178さん支援ありがとうございました。
5/23の18行目「玲於奈のさんの〜」は「玲於奈さんの」の誤りです。
石崎さんは「家政婦は見た」なわけですが、本編で雄二が同じネタ言ってました。
で、そこら辺(3月上旬あたり)読み返してたら、九条の学食でメイドロボ使ってるとか
ロボに格闘プログラムをインストールしてるとか、前回と矛盾する記述がポロポロと。
なんで毎回投下終わった後に見つけるかなぁ(苦
色々あって3連休や週末が潰れまくりでAD前の完結が怪しくなってきましたが、
ともかく(たぶん)残り2話。次回、桜の群像 第25話 「Sound Of Destiney」の、予定。
>>188 おつー。
ええーここで引きですか。
平成仮面ライダーみたいだ。
それにしても隙の多さが魅力的なお嬢さんですね。
群像キテたー!乙です。ひさしぶりにSS読みながらニヤニヤしてしまったw
初々しい二人が目に浮かんだぜ。しかし、これもあと二話で終わると思うとなんだかさみしいな
191 :
物書き修行中:2007/10/20(土) 21:24:05 ID:J3Bq+hmp0
群像の中の人乙です
玲於奈がかわいすぐる…
読んでたら玲於奈で一本書きたくなりました。いまんとこネタが無いけど。
そしてこの引きは次が待ち遠しすぎるw
最近順調に交際が進んでいたのに一体何が…
でも、あと2話で終わりですか…もう24話も話数を重ねてるんですもんね。
1話からずっと読んでたのでちょっと感慨深いものがあります。
192 :
見習い氷:2007/10/20(土) 21:42:11 ID:n0ekKe9ZO
193 :
188:2007/10/21(日) 00:51:14 ID:IIyO+o510
レスありがとうございます。
>平成仮面ライダー
響鬼の斬鬼さん引退&轟鬼くん襲名エピソードは最高でした
>話数
当初は半年で15話くらいのつもりだったのに一年以上になってしまいました
長さの予測が全然できてなかったって事ですが、もうちょいなので頑張ります
>玲於奈
玲於奈は、これでも本編から妄想を始めたとはいえ原型を留めていませんし、
ツンデレ目指してたのに序盤からデレデレだったり、全然予定通りでもありませんが
漏れ自身はこの玲於奈にとても愛着があるのでそう言っていただけると嬉しいです
194 :
名無しさんだよもん:2007/10/21(日) 06:23:54 ID:rgHMkpCD0
>>190に同意
あと二話といわずもっと引き伸ばしてくれて構わない
無理ならせめてメイン変わってもいいからこの設定のまま別の話かいてくれ!
しばらく間を置いてからでもいいから!
もうこの話が読めなくなるなんて嫌だ!
そこいらの下手なラノベなんかよりよっぽどうまいと思うんだぜ
GJです!
桜の群像待ってました。
玲於奈好きで一話からずっと読んでた身としてはあと二話で終わりなんてさみしいですね。
今度は雄二と別ヒロインモノ(よっちとかいくのんとか)も見てみたいかも。
続き楽しみに待ってます。
「あら、タカくん今帰り?」
学校が終わり家へと帰る途中、聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはにこやかに微笑む
春夏さんの姿があった。
「あ、春夏さんこんばんわ。ええ今日はお腹も空いたし、まっすぐ帰ろうかと思って」
「ふーん…それで、その手にぶらさげてるのが今晩の夕食ってわけ?」
わずかに眉根を寄せた春夏さんは、視線を俺が持っているコンビニのレジ袋に移した。袋ごしに
カップラーメンの容器が透けてしまっている。
「あ、あはは…まぁ、これが一番簡単で、味も悪くないですからね」
なんとなく気恥ずかしさを覚えながら答えると、春夏さんはふぅっとため息をついた。
「まったく…だめよ、そんなインスタント食品じゃ。いつも言ってるでしょ。きちんと栄養の
バランスが取れた食事を取りなさいって」
「うーん、それはそうなんですけどね…なかなか面倒くさくて」
「しょうがないわね…じゃあ今日はウチで食べていきなさい」
「え…春夏さんの家で?でも、そんな急に大丈夫なんですか?」
「ちょうど良かったわよ。実はね、さっきこのみから電話があって、今日はお友達の家に泊まる
から晩御飯はいらないっていうの。せっかく買い物してきたっていうのに」
そういうと春夏さんは、スーパーのレジ袋を胸の辺りまで持ち上げて見せた。
「だから問題ないわ。おばさんが久しぶりにおいしい手料理を食べさせてあげるから」
「はぁ…そういうことでしたら」
俺のほうに特に断る理由は無い。むしろ春夏さんが料理をご馳走してくれるというのなら、喜ん
でいきたいところだ。
「じゃ、決まりね。行きましょ」
言うなり春夏さんは俺の手を取って歩き出した。
「え、ちょ、春夏さん?」
俺は手のひらに感じる、柔らかですべすべとした感触にどぎまぎとしながら、春夏さんの後を
ついていった。
「…ごちそうさまでした」
一時間後、俺は満ち足りた気持ちで胸の前で手を合わせた。今日の献立は、ご飯に、肉じゃが、
ブリ大根、菜の花の辛子和え、豆腐とわかめの味噌汁と、いたってオーソドックスなものだった
がその味付けは素晴らしく。俺は何杯もおかわりしてしまった。
「とっても美味しかったです。やっぱり春夏さんの料理は最高ですね」
「ふふ、良かったわ。やっぱり男の子の食べっぷりは見てて気持ちいいわね。こっちも作りがい
があるわ」
真正面に座った春夏さんが満足そうに微笑む。年齢を感じさせない、若々しい笑顔に思わず心臓が
高鳴る。
(やば…何赤くなってんだ俺…相手はこのみのお母さんだぞ?)
俺の胸中の動揺など露知らずといった風で、春夏さんは席を立つと、キッチンからビール瓶とグラス
を持って戻ってきた。
「あれ、春夏さんって飲むんですか?」
「ええ、毎日ってわけじゃないんだけど、たまにね。タカくんもどう?」
春夏さんは真顔でビール瓶を俺のほうに差し出した。
「いやいやいや!俺、未成年ですから!」
「もう…ノリが悪いわねぇ。じゃあ、お酌」
「は、はい」
俺はビール瓶を受け取り、春夏さんが持つグラスに注ぐ。注ぎ終わるなり、一気にこくこくと飲み
干した。
「ふぅ…美味し」
あまり酒には強くないのだろう。たちまち頬が桜色に染まる。と、同時に整った春夏さんの顔だちに
艶めいたものが生まれた。
(う…まずい。まともに見ていられない)
思わず視線を逸らす。と、しばらく窓のほうをぼんやりと眺めていた春夏さんがぽつりととんでもな
いことを聞いてきた。
「ところで…タカくん、うちのこのみともうエッチしちゃったの?」
「…は?」
一瞬、俺の聞き間違いと思い、間の抜けた返事をすることしかできなかった。
「だ、か、ら、このみとセックスしちゃったのかどうか聞いてるの」
今度は返事するのに大分かかった。
「…な、な、何てこと聞くんですか!?」
「あら、二人とももう高校生なんだし、エッチの一回や二回、しててもおかしくないと思ったけど
…その様子だとまだなのかしら?」
「あ、当たり前ですよ!だいだいまだかどうか以前に、このみとそういう関係になるなんてあり得
ないですよ。このみは妹みたいなもんなんですから!」
「むぅ、模範解答。つまらないわねぇ」
春夏さんはまるで子供のように口を尖らせた。この時俺は確信した。完璧に酔っている。グラス一杯
で、あっという間に。さらに春夏さんはこんなことまで口にしだした。
「あの子も報われないわねぇ…この間の深夜なんか、部屋の前を通ったら、あの子ったら…」
「え?こ、このみがなんだっていうんですか?」
俺が問うと、春夏さんは無邪気な笑みを浮かべた。
「知りたい?知りたいの?」
「え…いや、まぁ…」
「ふふ…妹だなんていっても、何だかんだ気にしてるんじゃない。実はねぇ…あの子、タカくんの名前
を呼びながら…」
春夏さんが身を乗り出して、俺のほうに顔を近づけようとした瞬間、
ガタンッ
春夏さんの体にビール瓶が当たり、テーブルの上に勢いよく倒れた。あっと思った直後には、俺の股間
が冷たい感触で覆われていた。
(つづく)
わっふるわっふる
200 :
物書き修行中:2007/10/23(火) 21:44:45 ID:4Bbtcufy0
つづくのかよw
実は今漏れも春夏さん物書いてたんだけど被ったw
エロは無いけどな
つづいてもいいが、そこで止めるなw
「う、うわっ!?」
思わず椅子から立ち上がるが既に時遅く、既に股間の辺りがびっしょりと濡れてしまっていた。
「あらあら、大変」
春夏さんが椅子から立ち上がり、俺の前まで歩いてくると、足元にしゃがみこんだ。
「は、春夏さん!?」
「今…綺麗にしてあげるわね」
刹那、春夏さんの手が俺のズボンのベルトに伸びる。俺が押しとどめるよりも早く、スルスルとベルトが
外され、一気にズボンをトランクスごと引きおろされた。
「まぁ…」
春夏さんが小さくため息をもらした。眼前に、屹立する俺のペニスがそそり立っていたからだ。
「は、春夏さん、す、すみません!」
俺は慌ててズボンを引きおろそうとしたが、その行為はすんでのところで、脳髄をかけあがってきた強烈
な快感によって妨げられた。
「いつの間に…こんなに大きくなっちゃって…」
春夏さんの柔らかな手が俺のペニスをしっかりと握りこんだのだ。
「だ、ダメです!こんなことしちゃ!」
俺は最後の理性を振り絞って叫ぶが
「すぐに…スッキリさせてあげるわね」
ペニスを握りこんだ手が、スコスコと上下運動を開始した。
「あ、アーッ!」
思わずもらした声と共に、あっさりと俺の理性は弾けとんだ。自分でオナニーするのとはまったく別次元
の気持ちよさが股間を、全身を駆け巡る。
「どう、気持ちいいかしら?」
「い、いいです…春夏さんの手、最高です」
「ふふ、ありがと。じゃあもっとしてあげるわね」
春夏さんは指先で俺の包皮を剥き、亀頭を露出させた。そのままくりくりと人差し指で亀頭の部分をいじり
まくる。新しい快感を覚え、ペニスがさらに勃起した。同時に尿道口から透明な液体が滲み出してきた。
春夏さんはそれを掬い取ると、ペニス全体に擦り付ける。
「んふ…ペニスがぬるぬるね」
塗りつけられた先走り液によって、ペニスと手の摩擦が少なくなり、さらに手の動きが滑らかになっていく。
始め単調だったペースも、微妙にタイミングを変えることにより気持ちよさの波が引いたと思った次の瞬間
には押し寄せてくる。春夏さんの手コキのテクニックは絶妙だった。童貞の俺がそのテクニックに逆らえる
はずもない。限界はあっという間にやってきた。
「は、春夏さん、で、射精るっ!」
叫んだ直後、ペニスの先から勢いよく精液が飛び出し、春夏さんの顔や髪をべとべとに汚した。
「んふぅ…すごい量…さすがに若いわね」
精液まみれになりながら、春夏さんが艶然と微笑んだ。指先で精液を掬うと口に運んでいく。
「ん…ちゅぽっ…濃いわね。相当溜めてたのかしら?」
指先をまるでペニスに見立てたかのように、春夏さんは執拗に指をちゅぱちゅぱと吸い上げる。そのあまりに
エロすぎり光景に、しぼみかけていた俺のペニスはあっという間に元の硬さを取り戻していた。
「春夏さん、俺…」
声を震わせながら、春夏さんの肩をつかむ。すると春夏さんは最後まで言わせずに、俺の手をそっと握った。
「いいわ…でも、続きはお風呂場でね。お互い綺麗にしないと…ね?」
「はい…」
俺はうなずくと、春夏さんと共に風呂場に向かった。
「ん…じゅばっ、くちゅっ…」
「うわぁ…春夏さん、それ凄い…」
そして今、俺達はシックスナイン状態になり、俺のペニスは春夏さんのオッパイによって挟まれていた。このみ
とは比べ物にならないほどの巨大な乳房が、俺のペニスを隠さんばかりにぎゅうぎゅうに押しつぶす。さらに
ほんの少し飛び出した亀頭の先を、春夏さんの舌がちろちろと嘗め回していた。
「いい?私のおっぱい、気持ちいい?」
「も、もちろんです。気持ちよすぎですよ!」
「あら嬉しいわね。こんなオバさんのおっぱいでも感じてくれるなんて」
「そんな…全然オバさんなんかじゃないですよ。春夏さんのオッパイは」
それは俺の本心からの言葉だった。春夏さんの胸は、とても30代とは思えないほどの張りと艶を兼ね備えて
いた。俺のペニスを柔らかく包みこみ、とてつもない快感を生み出してくれる。
「ぴちゃっ…ねぇ、タカくんだけ気持ちよくなるなんてずるいわ…私も…」
春夏さんがおねだりするように俺の目の前で尻を振った。俺は喉をごくりと鳴らすと、両手で尻肉をつかみ、グッ
と割り広げた。
「うわ…」
初めて生で見る女性器に俺は言葉を失った。ネットの裏サイトで見慣れていたはずなのに、やはり実際に見てみると
全然違う。
「すごくいやらしいです…春夏さん」
春夏さんのそこは、既に蜜があふれ、グチャグチャに濡れていた。
「こんなにビショビショで…」
俺はおそるおそる指を膣口に伸ばす。クチュ…と音がして入り口に触れたかと思うと、次の瞬間にあっさりと第2
関節のあたりまで指が飲み込まれていった。そして入れた途端に膣壁がギュウギュウと締め付けてくる。とても
子供一人を産んだとは思えない締りのよさだ。いや、確か産んだほうが締りがよくなるんだっただろうか?ともかく
俺は、ゆっくりと指を動かし始める。
「ふ…ん…いいわ…タカくん。上手よ」
春夏さんの言葉に励まされ、俺は夢中になって指の出し入れを繰り返した。膣壁が面白いようにウネウネと俺の指
にからみつき、引き抜こうとすると逃すまいとするかのようにピッタリと吸い付いてくる。春夏さんも俺に対抗する
かのように、舌先だけではなく亀頭全体を口でパックリとくわえ込み。口内で舌を亀頭全体でねぶりまくった。
さらに時折、舌先を尖らせると、尿道口をつつき、くびれの部分をさっと掠めるように舐める。ペニスの根元のほう
も、こりこりと粒だった乳首がツボを心得ているかのようにつつきまわす。
(く…やばい…)
春夏さんのフェラやパイズリがあまりにも巧み過ぎて、先ほど出したばかりなのに、もう射精感が高まってくる。
さすがにまたこんなに早く発射してしまうのは情けない。何とかして春夏さんを先にイかせたいと思った。何か手は
ないかと必死に考える。と、俺の顔から数センチの距離、膣口の上に、何かを期待するかのようにヒクヒクと震える
褐色の窄まりが目に付いた。むくむくと湧き上ってきた欲望に突き動かされるままに、膣口に入れた指はそのままに
もう片方の手を、その窄まりまで伸ばした。
「タ、タカくん…?」
さきほどまで余裕たっぷりだった春夏さんの声がわずかに緊張を帯びる。ぐっと尻肉を押さえ、親指でアナルに触れる。
「だ、ダメよ…そっちは…」
春夏さんはイヤイヤするように尻を振ったが。押さえつけているために、指を尻穴から外すことはできなかった。俺は
さらに人差し指を加え、春夏さんの尻穴を開かせる。わずかに覗いたピンク色の腸壁が俺の黒い欲望をさらに燃えあが
らせた。
「舐めますね…春夏さん」
俺は舌先を伸ばすと、ピチャリと春夏さんのアナルに口付けた。
(つづく)
ネットの裏サイトで見慣れているタカ坊wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
わっふるわっふるですぅ
208 :
名無しさんだよもん:2007/10/24(水) 23:22:22 ID:IU1fh8GF0
話の切り方がいいなぁwwwまるで週刊誌みたいだwww
こいつ雑学調べるのにネット使ってたんじゃなかったのかよwwwwwまったくも〜
くそwwwwwww空気読みすぎだろこの作者wwwwwwwwwwwwww
お前ら、とりあえz落ち着けえあえええwqqwせdfrtgyふじこおおお
わっふるわっふる
タカ棒ナイス
213 :
物書き修行中:2007/10/26(金) 21:47:49 ID:xgBSORJK0
今日も春夏さんSSの続きはうpされないのか?
零時までにうpされないならSSをうpしてみるテスト
・小牧姉妹どたばた物
・ちょっと暗い(多分非ヤンデレ)このたま物
どっちがいい?
春夏さんSSも書いたけどちょい消化不良気味なんで書き直し検討中
とりあえず両方のうpされてから、うpして欲しい方を決める
215 :
物書き修行中:2007/10/26(金) 23:22:10 ID:xgBSORJK0
両方は20レス以上になるんで流石に面倒
どっちかうpして、もう1本は後日過疎ってるときにまたうpする
できればドタバタで
wktkしとく
俺もDOTA BATA希望
それはある日の小牧家での出来事。
「ひいいやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
絹を裂くような悲鳴が響き渡った
スイーツ・トラブル・りたーんず
「…で、一体何があったわけ?」
醒めた目で郁乃は聞き返した。
郁乃が居るのは悲鳴の発生源であるお風呂場で、目の前には悲鳴の主である愛佳がバス
タオル1枚を体に巻いただけ、というあられもない姿で立っていた。
「た、体重が…増えてたの。」
「はあ?何を今更。(ぽりぽり)」
当たり前のこと何言ってんだかという風な郁乃の答えに愛佳は反論した。
「い、今更って…お姉ちゃんそんなに太ってないよ。」
「デブだなんていってないでしょ。あれだけおやつをパクパク食べてるんだから太ったっ
て当たり前の話だと思うってだけよ。(ぱりぱり)」
「う、うううううう…」
「まあ、今のところは見た目そんなに変わったようには見えないし、お姫様抱っこでも
されない限りばれないんじゃないの?腹筋がなくておなかのあたりがぷよぷよしてるの
は元からだし。(さくさく)」
「い、郁乃〜〜〜」
「ま、貴明にばれる前にダイエットでもしてやせるのね。(ばりばり)」
そう言っている郁乃はというと、擬音でも解るとおりポテチの袋を抱えて食べながら
しゃべっているわけだが。
「…郁乃だって、太るよぉ。」
ささやかな反撃のつもりだったのだろう。愛佳がそう言うと、郁乃はあっさりと切り
返した。
「あたしはやせすぎだから太らないと、って言ったのはおねえちゃんでしょ。だから
あたしは食べてもいいの。」
「ぶ〜ぶ〜」
「あたしにブーイングしたってやせないわよ。」
大人気ない愛佳に対して郁乃はあくまで冷ややかだった。
「……わかった…明日からおやつ我慢してやせる…」
ぐっと拳を握り締め愛佳は高らかに宣言した。
「元の体重に戻るまでお菓子は口にしない。恋する乙女は必死なんだからぁ〜〜〜〜」
「はいはい。(ばりばり)」
無駄に熱い姉の宣言を冷え切った目で見守る妹だった。
−
「と言うわけで、今3日目。」
「はあ…それでアレか。」
愛佳は司書机にぐでっ、と頭を乗せて呆けていた。心なしかうっすらと隈も浮いている
ようだ。
ここ数日愛佳の様子がおかしかったのだが、今日に至っては朝からこんな有様であった
ために貴明はひどい目にあっていた。
きっかけは雄二が貴明をからかう一言だった。
曰く、「お前、いいんちょと連日連夜がんばりすぎなんじゃねぇの」、と。
一瞬の沈黙の後、クラス中が涌いた。
女子生徒からは「きゃ〜、いいんちょと河野君えっち〜らぶらぶよねぇ〜」と黄色い声
が、男子生徒からは「河野〜お前いいんちょとなんてうれしはずかし羨ましいことを〜」
と血涙を流しながら怨嗟の叫びが上がったのである。
確かに貴明は朴念仁だがベッドに入るとエロエロ大魔王に豹変するベッドヤクザであり、
愛佳は貞淑でありながら、一度火がつくと過剰に反応してしまうちょっとエッチな体の
持ち主のため、一度行為に及んだ場合は若さと愛ゆえに、それこそ燃え尽きるまで励んで
しまう事もしばしばあった。
しかし、今回に限ってはそれは濡れ衣であった。貴明には昨日もおとといも愛佳と
エッチした記憶はないからだ。
色々と弁解してクラス中を鎮めた後で、愛佳への尋問を行ったが結局口を割らず、仕方
なく放課後、書庫にやってきた郁乃を捕まえて聞き出したのである。
ちなみに、郁乃は貴明が問い詰めるまでもなく3秒で白状した事を付け加えておこう。
「まさかとは思うけど…完全絶食とか?」
「朝昼晩の3食は食べてる。ただおやつ断ちしてるだけ。」
「それであれ?…なんで?」
「さあ?…甘いものは別腹って言うくらいだし、あの姉ならもう一つぐらい胃があるの
かもね。」
「そんなばかな。」
否定はしてみたものの、愛佳の有様を見ていると本当に第二の胃袋、というか
「まなか袋」が在るんじゃないかと思えてしまう。愛佳は怪獣と言うよりは小動物系だが。
「別にちょっとぐらい太ったって俺は気にしないけど…女の子はガリガリよりちょっと位
ふっくらした体格のほうがいいと思うんだけど。」
そう言いながら愛佳の頭を撫でてやる。心なしか気持ちよさそうだ。
「悪かったわね、やせっぽちで。」
愛佳へのフォローの一言に今度は郁乃が噛み付いた。
「お前は病人だったんだから仕方ないだろ。それに最近は結構肉が付いて大分丸みが出て
きたじゃん。車椅子の時は痩せてたから階段の上り下りは楽でよかったけどな。」
「な…」
まだ車椅子だった頃に階段の上り下りでお姫様抱っこされたことを思い出して郁乃が
真っ赤になった。
「な、何言ってるのよ。それに、何気に女の子の体をしげしげ観察してるんじゃない
わよ。」
「別に、健康的になったって言ってるだけだろ。それに胸と尻が足りないのは相変わらず
だしな。」
「あ、あんたは〜〜〜」
遠慮のない貴明の台詞に郁乃がぶちきれそうになっていたところで、愛佳がむくり、と
体を起こした。
「…かすたぁどくりぃむの匂いがするぅ…」
愛佳は自分の頭を撫でていた貴明の右手をつかむと、すんすんと鼻を鳴らして匂いを
かぎ始めた。
「…このみが貴明は松阪牛の匂いがするんだって言ってたけど…本当はカスタードクリー
ムの匂いがするのね。」
「んなわけないだろ。昼にクリームパン食ったんだよ。」
うつろな目で貴明の手の匂いをかいでいた愛佳は、おもむろに舌を出すと貴明の手を
ぺろりとなめあげた。
「な…お姉ちゃん?!」
ぺろぺろぺろ…
「う…」
手のひらを一通りなめ終わると、今度は指を一本一本丁寧にしゃぶり始めた。
ちゅぱちゅぱちゅぱ…
「ううう…」
自分の指をなめ上げる愛佳の淫靡な様に、貴明のエロゲージが危険域に到達しようと
していた。もしゲージが振り切ったなら、貴明は社会的地位とか色々かなぐり捨てて、
一匹のケダモノとなって愛佳に襲い掛かっていただろう。
だが、愛佳は一通り指をしゃぶり終えると、大きく口を開けて、
がぶり
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
貴明の手に噛み付いた。
−
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
コメツキバッタみたいにぺこぺこ謝る愛佳を見て、貴明は一つため息をついた。
右手の甲には愛佳の綺麗な歯並びの歯型がくっきりと付いていた。
「ほら、手見せなさい。」
どこからか救急箱を持ってきた郁乃は貴明の右手をひったくると容赦無しに消毒液を
ぶっ掛けて治療を始めた。
「うわ、いてててて。」
「男でしょ、我慢しなさい。お姉ちゃんもバカみたいにへこへこ謝ってないで
手伝って。」
「う、うん…」
数分後、貴明の右手には姉妹の手によって包帯が綺麗に巻かれた。
「それにしても…そんなにおやつ食べられないのがつらいなら、もうおやつ断ち
やめたら?」
「で、でもぉ…」
愛佳は貴明の提案の受け入れを渋る様子を見せた。
女の子にとって体重の増減はある意味最大の関心事である。ましてや恋人のいる女の子
なら、少しでも自分を良く見てもらおうと思うのは当然の心理だ。
「俺は愛佳がちょっとぐらい太っても、健康で明るい女の子でいてくれることのほうが
大事なんだけど?」
男にとっては見た目がそれほど見苦しくないなら体重計の針の多少の動きはそれほど
関係のない話だ。もちろんほどほどであることが前提であるが。
そんな貴明の気持ちがわかったのか、愛佳はやっと納得したようだった。
「たかあきくん…うん、無理してたかあきくんに迷惑かけたくないし。無理なダイエット
はやめるよ。」
「それにしても…そんなに太ったかなぁ…俺が見る限りは変わってないと思うし。」
「そ、そうかなぁ。」
「うーん…ちょっとそっちに立ってみて。」
応接テーブルの横を指されて愛佳は移動した。貴明も立ち上がると愛佳の前に立つ。
「な、なにするのぉ…」
不安がる愛佳を前にして、貴明はウエストの辺りを見たまま両手を愛佳の腰の辺りに
伸ばした。
「う、ひゃ…く、くすぐったいぃ〜〜〜〜〜」
貴明は真剣な目で、しかし遠慮無しに愛佳のセーラーの下に手を突っ込んでスカートの
ウエストの辺りをまさぐっていた。
支援
「なっ…何やってんのよこのエロ貴明!」
あまりに堂々と姉のお腹をまさぐる貴明に郁乃がぶちきれかけたとき、貴明がぼそり、
とつぶやいた。
「…58cm」
「えっ…な、何でたかあきくんあたしのウエスト知ってるのぉ。」
内緒にしてたサイズの一つをあっさり看破されて、愛佳はちょっとなみだ目だった。
「ん〜、前に雄二に無駄に仕込まれた特技なんだけどさ…好きな女が出来たときに服の
一つもプレゼントするのに困るだろ、って。まあ、当の本人は今でも彼女無しなんだ
けど。…見た目でも大体わかるけど、触ったほうが正確なんだ。」
「…相手がうちの姉じゃなけりゃ立派に痴漢行為じゃないのそれ。」
郁乃は冷たい目で見ていたが、貴明は大真面目だったようだ。
「まあ、俺の特技はとにかく…前もたしか58cmだったはずだからウエストは増えて
ない。愛佳もスカートのアジャスターとか変えてないよね。」
いつの間にかトップシークレットである自分の3サイズが駄々漏れだったことに軽く
ショックを覚えながらも、愛佳は自分のウエストを触って確認して答えた。
「う、うん…変えてない。」
「じゃあ…筋肉でも付いたとか?」
筋肉が増えれば脂肪よりも重いので見た目は一緒でも重くなるはずである。
だがそれは郁乃がきっぱりと否定した。
「それはありえないわね。相変わらずの非力さ加減だし、お腹も腹筋なくてぽよぽよ
だから。」
「い、いくのぉ〜〜〜」
もう愛佳の肉体的なプライベートは大安売り状態である。まあ、相手は不特定多数では
なく自分の妹と彼氏なのでバレたところでたいした被害はないのだが。
「ふーむ…じゃあ一体何処が…」
またしても貴明の無遠慮な視線が愛佳の全身を嘗め回す。
全身の隅々を採寸されるかのごときその視線に思わず愛佳は自分の体を隠そうとした。
「や…やめてよぅ…たかあきくん…」
「…そうか…愛佳、るー。」
「ほえ?…あ、えと、るー。」
愛佳は貴明の一言に身を隠すのに使っていた両手を素直に上げてしまった。
その愛佳を貴明が抱きしめた。
「え…ええええええ!」
宇宙人を名乗るクラスメイトに教えられた宇宙の挨拶のポーズをした愛佳を抱きしめる
と言う、はたから見るとかなりおかしな格好だった。
そして抱きしめたままで貴明はおもむろに愛佳の全身をまさぐり始めた。
「ふむ…」
もにゅもにゅ
「あ…た、たかあきくん?」
「んー。」
もみもみ
「あ、や、やん…だ、だめだよぉ。」
「ふむふむ」
さすりさすり
「ああっ…あ、ん…」
「ほうほう」
むにゅむにゅ
「ひ…ひぁぁん…」
「やっぱり…って、あれ、愛佳どうしたの?」
「こ、こひが…抜けちゃって…立てないよぉ…」
「な、何で…?」
採寸作業に没頭していた貴明は自分が重大なセクハラ行為を働いたことに気が付いて
いなかった。
しかし、悪い事は出来ないもので、お天道様は…もとい、郁乃は見ていた。
「この、エロ貴明が…」
「ん?…お、おい、何睨んでるんだ…って、その広辞苑はなんだ!止せ、やめろ!」
「問答無用!死ねこの女の敵!」
「ぎゃー!」
鈍い打撃音は図書室にまで響いたと言う。
−
「それで、何がわかったの?」
重い一撃を食らって危うく三途の川を渡りかけた貴明を睨みつけながら郁乃が聞いた。
愛佳はやっと復活して、今は貴明の頭に出来た巨大なこぶをさすっている。
「ああ…愛佳が太った…っていうか、体重が増えた理由がわかった。」
「え、本当?たかあきくん。」
「うん…胸とお尻がちょっと増えてる。ブラとかきつくなってない?」
「えっ…確かに胸はちょっときつい…かも。でもヒップが増えるのは嬉しくないかな…」
元々ちょっと大きめなお尻がさらに大きくなるのは愛佳にとってはコンプレックスの
増大でしかないようだ。
「いいじゃないか。スタイルが良くなったんだから、ダイエットもやめて普通に食べられ
るだろ。」
「うん、そうだね。…仕舞ってあったお茶菓子出してくるね〜」
憂いがなくなったためか、愛佳は晴れやかな笑顔で台所へぱたぱたとかけていった。
それを見送った貴明の横に、いつの間にか郁乃が立っていた。
「本来ならさっきのセクハラ行為をばらして社会的に抹殺してやりたいところだけど、
元気になった姉に免じて大目に見てあげる。」
「いや、さっき広辞苑で殴り殺されそうになったのでチャラだろ。」
上から目線でえらそうに恩赦を与える郁乃の台詞に、貴明は頭のこぶを抑えながら反論
した。が、貴明は何かに気が付いたのか、郁乃の体を凝視し始めた。
「な、なによ…って、まさか。」
郁乃は反射的に自分の体を両腕で隠した。貴明のあの目…あれは計測モードだ。
ややしばらく、貴明は嘗め回すように郁乃の体を眺めていたが、やがて目を離すとふっ、
と笑った
「な、なによ…また貧乳とでもバカにするつもり?」
「郁乃…」
「なによ…さっさと言いなさいよ。」
貴明は一呼吸置くと、禁断の一言を口にした。
「郁乃…おまえウエスト『だけ』2cm増えただろ。」
勝ち誇ったように言う貴明。だが郁乃は、まるで噴火寸前の火山のようにブルブルと
身震いしていた。そして…噴火した。
「……ばかぁっ!あんたなんか死んじゃえ!!」
何処からともなく郁乃の手に現れた広辞苑が再び貴明の頭上に振り下ろされた。
その日2回目の鈍い打撃音は校内中に響いたと言う。
貴明がその後どうなったかは不明である。
・今日の決まり手
×貴明−愛佳○ 決まり手:かぶりつき
×貴明−郁乃○ 決まり手:叩き落とし
229 :
物書き修行中:2007/10/27(土) 00:26:06 ID:KOu+dqMZ0
>>224 支援サンクス
春夏さんSSの続きはきょうもUpされそうに無いので流れをぶった切ってうpしました
最近スレが賑わっていたので、うpを控えてストックしてたものの1本です
…恋愛同盟が筆が止まってるんでこういうもので気分転換を… orz
タイトルどおりスイート・トラブルの続編的なものになってます
次はやっぱり「ふぉーえばー」か?
GJ
愛佳郁乃の脂肪より俺が死亡した
乙でした、そしてGJ。
貴明がステキな技をラーニングしてるw
恋愛同盟も期待してます!
GJ
今回の枠外MVP:雄二
ってところかwwww
235 :
物書き修行中:2007/10/28(日) 01:08:14 ID:/zyJNC980
>>234 まあ、そう言えなくも無いけど、決まり手が思いつかないし愛佳の勝ちということで
きょうも投下してみるテスト
※ご注意※
このSSはタマ姉、このみ、その他キャラクターのイメージを著しく害する恐れが
あります。また、若干の残酷表現が含まれます。
以上をご承知の上でお読みください。
-------------------------------------------------------------------------------
タカ坊とこのみが結ばれて、私の初恋は終わった。
だけど、私は相変わらずタカ坊の事を異性としてしか見られなくて、心の何処かで
このみの事を妬ましく思っていた。それは事実だった。
そんな浅ましい私を、タカ坊が感情の抜け落ちた冷たい目で見下ろしていた。
その視線に耐えられず私は瞼を閉じた。ひどく寒い。一人ぼっちだ。
そう、これは愚かな私に下された罰なのだ。だから、私は罰を受け入れよう…
−嫉妬の代償−
「ねえねえ、タマお姉ちゃん。お化粧の仕方教えてよ。」
年下の妹分はいつも通りの屈託のない笑みを私に向けてきた。
これが以前の私ならば、素直に妹分の望みを聞いてやっていただろう。
だが、先日このみは私の思い続けてきたタカ坊と結ばれて、私は失恋したばかりだった。
私は本心を押し隠したまま、幼馴染として、年長者として、姉貴分らしく振舞うように
勤めていたが、このみがタカ坊との仲睦まじい毎日のことを語るたびに、私はまるで傷に
塩を摺りこまれるような苦痛を味わうことになった。
このみだって私がタカ坊に恋心を抱いていたのを知っているはずなのに、なぜ見せ
付けるようなことをするのか。
最近の私は、心のどこかでこのみの事を疎ましく思う様になっていた。
私は、いつもの姉貴分の顔を心がけながら答える。
「このみ…このみはお化粧なんてしなくても綺麗よ。」
「でも…このみはタマお姉ちゃんみたいに綺麗になって、タカ君に褒めてもらいたいので
ありますよ。」
「私みたいに…ね。…このみは、なぜ私を目標にしているの?春夏さんでもいいじゃ
ない。」
少し苛付きながらそう聞くと、好みは屈託のない笑顔で答えた。
「タマお姉ちゃんが、このみの理想の女の子なんでありますよ。」
今日はタカ坊も雄二も居ない。二人は修学旅行で今は遠い場所に居る。私とこのみの
二人だけでの登校だった。そんな二人だけの環境が、私にそんな台詞を言わせたのかも
しれない。
「…それは、皮肉?」
「…タマお姉ちゃん?」
「…私は、タカ坊が傍にいても恥ずかしいと思わないような女の子になろうと思って努力
してきた。勉強も、スポーツも、お料理も…スタイルだって。別に何の努力もなしに
今の私が居たわけじゃない。」
「……」
「だけど全ては無駄だった。タカ坊はこのみを選んだ。でもこのみは、そんな敗者の私を
目標としているというのね…これが皮肉でなくてなんなの?」
「このみは…このみはそんな事思ってないよ。」
「本当は私の事を笑っているんじゃないの?ふられてもタカ坊のことを諦められない、
未練がましい私をせせら笑っているんでしょう!!」
いつもの私なら、このみがそんなことを考えるような子じゃないことは良くわかって
いたはずだ。でもそのときの私はそんな事すら忘れてただ自分の中に溜め込んでいた黒い
感情をこのみにぶつけていた。
このみは、あたしの豹変に驚き、そして悲しい顔をしていた。
「このみは…ただ…」
「ただ何?ただタカ坊との仲を見せ付けているだけ?私にとってそれは最大の苦痛になる
とわかっているの?」
「ご、ごめんなさい…」
ついにこのみの顔がくしゃりと歪んだ。そして、その愛らしい大きな瞳からボロボロと
涙がとめどなく流れ落ちた。
「う…ごめんなさい…タマお姉ちゃん…ごめんなさい…」
このみの涙を見た私の頭は、急速に冷えていった。代って私の心をひどい罪悪感が満た
した。
そのとき、私が素直に謝ることが出来ていればよかったのだろう。
だけど、そのときの私は、その場にいることに耐えられないほどの居心地の悪さで、
逃げ出したい気持ちで一杯だった。結局このみに謝ることも出来ずにその場を立ち去って
しまった。
それが取り返しの付かない失敗だったと知ることになるのは、ずっと後のことだった。
−
結局、その日はひどい後悔と罪悪感に苛まれ、このみと再び顔を合わせる勇気が持てず、
放課と同時に逃げるように帰宅すると、誰が来ても通さないように家政婦さんに言いつけ
て、自分の部屋に篭った。
次の日も、顔を合わせる勇気が出ずに朝早くに家を出て、待ち合わせずに先に登校した。
その次の日も、避けるように先に登校した。
そしてその次の日。私はまだこのみの顔を見るのが怖くて、朝早くに家を出た。
その日は朝から、今にも振り出しそうな空模様だった。
傘を片手に歩いていると案の定、ぽつぽつと雨が降り出してきて、私は傘を開いた。
白いニーソックスにはねる泥を気にしながら歩いていると、いつもこのみ達と待ち
合わせをしている場所に、小さな人影が背を向けて立っているのに気が付いた。
それはおさげ髪で桜色の制服を着た女の子…このみだった。
このみは雨の中で傘も差さずに立っていて、それはまるで飼い主に怒られて項垂れて
いる、ずぶ濡れの子犬のようだった。
このみは、何かに気が付いたようにふらりと振り返ると、項垂れていた頭をあげた。
以前は愛らしかった瞳から輝きは失せ、まるで漆黒の穴倉のようになってしまった暗い
眼差しは、私の心に巣くっていた疚しさを暴き立てた。
私の足はいつの間にか止まっていた。そして、気が付くと一歩二歩とあとずさって、
やがてきびすを返して走り出していた。
手にしていた傘は走っている間に無くしていた。かばんもいつの間にかかなぐり捨てて、
たどり着いた向坂家の鍵を震える手で開けると、自分の部屋へと飛び込んだ。
ずぶ濡れで泥だらけのまま、布団に潜り込んで、私は泣いた。
−
次の日、私は学校を休んだ。
このみと顔をあわせるのが怖かったのもあったけど、昨日濡れたまま泣きつかれて
眠ったのが良くなかったらしく、朝起きたら頭が重く、体の節々が痛んだからだ。
今日は家政婦さんもいないので、自分でおかゆと氷枕を用意して、食事を済ませてから
薬を飲んで眠った。眠っている間だけは、このみの事を考えなくてすんだ。
「あれ…姉貴寝てんの?病気?」
雄二の声に目を覚ます。ああ、そうか…修学旅行は今日までだったんだっけ。
窓から差し込む日はすでに夕焼けの色になっていた。
「ちょっと風邪引いたみたい。薬を飲んで休んでたからもう大分良いけど。…ご飯は自分
で何か作って頂戴。」
「了解。…ああ、そうそう、姉貴。」
「…なに?」
「ちびすけ…このみの奴今日貴明の迎えに来なかったんだけど、どうかしたのか?」
何気なしに…しかし探るような雄二の言葉に、内心びくびくしながらも平静を装って
答えた。
「今日は朝からここで寝てたから…このみには会ってないから、知らないわ。」
嘘はついていない。一日寝ていたから、今日このみにあっていないのは事実だ。
「…そっか。…晩飯は何か買ってきて食うわ。」
「ごめんね、雄二。」
ドアが閉じると、私はこのみの事に頭をめぐらせた。
このみがタカ坊の帰りを出迎えないなどと言うことはありえるだろうか。…いいや、
ありえない。よほどの事がない限り必ず迎えにいくはずだ。
だとすれば…もしや、昨日このみもまた雨の中濡れ鼠で立っていたはずだから、風邪
でも引いて寝込んでいるのかもしれない。それならばたとえタカ坊を出迎えたくても、
柚原のおば様が許さないだろう。多分それが正解だ。
だが、そんな私の考えはあっさりと崩される事になった。
『もしもし、春夏です…環ちゃん?うちのこのみがそっちに行ってないかしら。あの子
風邪で熱を出してるのに、外出したみたいなの。』
夜もふけた頃、柚原家から電話がかかってきた。
雄二から電話を受け取って話してみれば、このみが行方不明だという。
『もしかしたらタカ君を迎えに行ったのかと思ったんだけど、タカ君も会ってないって
言うし。環ちゃんのところに行ってないかと思ったんだけど。』
「…いいえ、私もちょっと調子を崩して寝てたものですから。今日はこのみに会って
いないんです。」
『そう…あ、いまタカ君に代わるわね。』
『…タマ姉?タマ姉も調子悪いの?』
久しぶりのタカ坊の声を聞いたとき、私の心臓が高鳴った。…なんて往生際の悪さ。
『…マ姉…タマ姉?聞いてる。』
「あ、う、うん。聞こえてるわ。」
『タマ姉も風邪?』
「ちょっとね…でも1日寝てたからもうほとんど良くなったわ。」
『そう…気をつけてね。』
「ありがと、タカ坊。」
『あ、春夏さんに代わるね。』
『環ちゃん。これから近所を探してみるけど、もし環ちゃんのところにこのみが来たら、
連絡をちょうだいな。』
「はい、わかりました。失礼します。」
このみは私のところへは来ないだろうと言うのは、別に深く考えたわけでもないが
なんとなくわかった。
決して、以前のような、姉妹のような関係にはもう戻れないことも容易に想像が付いた。
だが、現実はそんな私の想像さえ上回り、斜め上を行くような物だった。
深夜、再び向坂家の電話が鳴った。
このみは陸橋から線路に飛び降りて、礫死体となって見つかった。
−
後悔した時には、大抵の物事は手遅れなことが多い。
とはいえ、本当に取り返しが付かないことは少ない。
だが、このみの命が失われた今、私の後悔はもはや取り返しの付かないものになって
いた。
祭壇に飾られたこのみの遺影。その横には柚原のおじ様が疲れきった表情で座り、
このみの死を悼むために集まった参列者に挨拶をしていた。
おば様は、身元確認の際に見た愛娘のあまりにむごい有様に錯乱状態となって病院に
担ぎこまれた。そして、恋人の無残な姿に打ちのめされたタカ坊は、おじ様の横で放心
したまま祭壇のこのみの遺影を見つめ続けていた。
私は、自分が行動が招いたこの結果を胸に刻むために、このみの遺体と対面した。
そのむごたらしさに、私は耐え切れず嘔吐した。これがあの天真爛漫で愛らしかった
少女の成れの果てなのか、と思うと耐えられなかった。だがこれが私の嫉妬と意気地の
なさが招いた結果だった。
だが、その一方で、私の中の冷徹な部分がある事実を囁きかけてきた。
これでタカ坊の傍にいる異性は自分だけだ、と。
きっとタカ坊はこのみを忘れない。このみが死んだことで、このみの存在は彼の中で
永遠のものになってしまったのだから。
だが私は生きて彼の傍にいる。このみを忘れさせることは出来なくとも、同じだけの
存在になることは出来るだろう。そして生きているからこそ、その先も目指すことが
出来る、と。
このみの死を悼みながら、浅ましくも私はタカ坊を手に入れることを考え始めていた。
−
1週間の間、毎朝河野家へと出向き、ノックを続けた。
でもタカ坊の心の傷は深く、学校へ登校するほどの気力は無いようだった。
当たり前だ。タカ坊はこのみの事を心から愛していたのだから。そしてそんな誠実な
彼だからこそ、私は好きになったのだから。
だが焦ることは無い。私と彼にはこの先たっぷり時間がある。ゆっくりタカ坊と心を
通わせていけばいいのだから。そう思っていた。
このみの初七日が終わった次の日、タカ坊はノックに答えて登校してくれた。
「タカ坊…もう大丈夫?」
私がそう声をかけると、タカ坊は少しやつれた顔で、それでもいつもの笑みを向けて
答えた。
「大丈夫、とまでは言えないけど、でも、いつまでも落ち込んでたら、このみが悲しむ
からね。」
タカ坊の笑みは痛々しいものだったけど、それでもその言葉にはこのみの死を受け入れ
て前へ進もうとする意思が込められていると思えた。
…でもその考えが間違いだったと私が気付くには、もう少し時間が必要だった。
昼休み、以前と同じように、でも1人減って、3人だけでお昼を食べる。
シートを敷いて、いつものようにお弁当を取り出す。いつタカ坊が来てもいいように、
この1週間タカ坊の分も考えて持ってきていた。
「さ、タカ坊。お皿とお箸。」
「あ、いいよ…弁当持ってきてるんだ。」
私が差し出したお皿と箸を受け取らずに、タカ坊はタッパーをひとつとり出した。
誰が作ったお弁当だろうか…柚原のおば様はまだ病院に入院しているし、河野のおば様
は、おじ様と共に未だ海外で、このみのお葬式に出席したがっていたけど帰りの予定が
つけられず、まだ戻ってきてはいなかった。
だとすれば、タカ坊が自分で作ったのだろうか。まさか、もう誰か、私ではない誰かが
タカ坊の心に入り込んだのか。タカ坊のクラスのあの子だろうか。私の心がざわついた。
だが、タカ坊が開いたそのタッパーの中身はカレーだった。料理が駄目な女の子なら
ともかく、あの子は家庭的な雰囲気の子だったから、もっとまともなお弁当を用意して
くるだろう。
このお弁当は…恐らく、タカ坊が自分で作ったものだ。このみの得意だったカレーを
作って持ってきたのだろう。
未練がましい、とも取れるその行動を咎めたくもあったが、私はぐっとこらえた。ここ
で咎めることによって、タカ坊の心が私から離れてしまえば他に付け入る隙を与える事に
なるからだ。今はまだ理解のある姉を演じ続けるべきだろう。
「…そう。もし私のお弁当が食べたくなったら言って頂戴。何時でも用意して待っている
から。」
「うん…ありがとう、タマ姉。」
そう言って、タカ坊は冷えたカレーにスプーンを入れた。
冷えたカレーなど、味は最悪だろう。だがタカ坊が味わっているのはカレーではない。
タカ坊が味わっているのは、楽しかった頃のこのみとの『思い出』なのだから。
私はカレーを口に運ぶタカ坊を見つめながら、自分とこのみとの決定的な差を思い知ら
されずにはいられなかった。
放課後、柚原のおば様を見舞いに行くというタカ坊と別れて、雄二と帰宅の途について
いた。
柚原のおば様は、錯乱状態こそ脱したものの未だにショックから立ち直ることは出来ず、
食事すらままならない状態で病院で臥せっているという話だった。
「なあ、姉貴。」
黙々と歩いていた雄二が唐突に話しかけてきた。
「なに?」
「俺達が修学旅行に出ていた間…このみとなんかあっただろ。」
核心を突くその一言に、私の足が一瞬止まった。でも、動揺を悟らせまいと、私は再び
雄二と並んで歩き出した。
「何で、そんなことを聞くの?」
「…あいつは、俺達が旅行に出る前は悩みなんてなさそうな、いつも通りのお気楽なお子
ちゃまそのものだったからな。最大の悩みだった貴明との関係が決まった今となっちゃ、
あのちびすけに死にたくなるほどの悩みなんてあるわけないしな。」
「……」
「貴明との関係だって、順調そのものだ。見送りのときだっていちゃいちゃベタベタして
困るぐらいのバカップルだったんだからな。…だとすれば、自然と選択肢だって
狭まる。」
「何も無いわ…何も。」
横目で私を見る雄二の視線が、私の心の中の疚しい部分を見通しているような気がした。
しばらく二人で無言で歩いていた。そして、雄二が再び言葉を口にした。
「話したくないなら、話さなくてもいい。…だけどな、今の貴明の心に付け入るような
事はすんなよ。もし、それで貴明を手に入れられると思ってるんなら、おれは姉貴を
軽蔑する。それだけは言っておく。」
私の心を見透かしたような雄二の言葉に、私はただ睨み返すことしか出来なかった。
だけど雄二は怯えるどころか、冷ややかな視線を私に返しただけだった。
いつもはいい加減なくせに、こんな時だけ大人びたことを言う弟の存在が、ひどく
うっとおしかった。
−
おとといもカレーだった。
昨日も、今日もカレーだった。
多分明日もタカ坊はカレーを持ってくるつもりだろう。
しかし、今日タッパーを開いたときに、カレーのスパイスの匂いに混じってすえた匂い
がしたのは流石に看過できなかった。
「タカ坊!それ腐ってるんじゃないの?」
私はタカ坊の持っていたタッパーを取り上げた。その時に触れたタカ坊の手が恐ろしく
がさがさだったのを覚えている。後から考えれば、それは当然のことだったのだが。
タッパーの中身に鼻を近づけるまでも無く、強烈な腐臭が私の鼻を突いた。
「返せ!俺の、このみのカレーを返せ!」
目の色の変わったタカ坊が、私に襲い掛かってきた。だけどそのタカ坊の手は酷く弱々
しくて、容易に払いのけることが出来た。
「駄目よ。こんなものを食べていたら、タカ坊の体がおかしくなってしまうわ。」
「五月蝿い!」
タカ坊の平手が私の頬を打った。それはとても弱々しくて少しも痛くなかった。でも
その一発は、私の心を打ちのめした。
「…タカ坊。」
放心した私の手からタッパーを奪い返したタカ坊は、中身を素手でつかむと貪り食った。
タカ坊の豹変に呆然としていた雄二がそれを見て我に帰って、タカ坊を止めようとする。
それでもタカ坊は食べることをやめようとはしなかった。
「よせっ!貴明!死ぬぞ!」
「うるさいっ!」
タカ坊は腐ったカレーを貪り食って、そして激しく嘔吐したかと思うとそのまま意識を
失った。
病院に緊急搬送されたタカ坊は重度の食中毒と診断された。
何日も前から下痢が続いていて、重度の脱水症状だったということも検査の結果わかっ
た。肌がかさかさだったのはそのせいだ。
病院に運ばれた後も、目を覚ますとタカ坊は暴れ続けた。今は鎮静剤で眠っているけど、
いつ目が覚めて暴れだすかわからないので、両手は拘束されている。
微妙なバランスで保たれていたタカ坊の心が大きく壊れてしまった今、普通の生活に
戻れるのは当分先の話になるだろう。
だけどこれで邪魔が入ることも無くなった。私の冷酷な部分がそう囁く。
母親や看護士という例外はあるが、それ以外に病院の個室という閉鎖空間に立ち入る事
を許された女は私だけだ。クラスメイトの見舞いも病気を盾に絶つことが出来る。これ
からは合法的にタカ坊は私が独り占めできるのだ。
タカ坊の入院の手続きをとった後、私は河野家を訪ねた。河野のおば様が戻っていない
上に柚原のおば様も入院している以上、入院に必要な荷物は私が用意するしかないからだ。
あれだけ言っていたのに鍵の隠し場所は変わっていなかったから、探し出して鍵を
開けるのは簡単だった。
家の中は思ったよりも荒れたりはしていなかった。居間のところどころに嘔吐した跡と
思しきシミが幾つか残っていたが、それだけだ。
キッチンに足を踏み入れると、カレーの香りと共に強烈な腐臭が鼻を突いた。
レンジに一つだけ大きななべが乗っていて、中には三分の一ほどカレーが残っており、
それが腐った匂いを放っていた。
私はそれを片付けようと流しに視線を向けると、そこには汚れた食器と共にいくつか
汚れたなべが放置されていた。
妙な話だ。タカ坊が自分でカレーを作っていたのであれば、カレーを食べつくしたら
普通はなべを洗って、同じなべで次のカレーを作るはずだ。タカ坊の性格を考えれば洗う
のが面倒で別のなべを使ったというのもあまり考えにくい。考えられるとすれば、大量に
一度に作ったというパターンだ。
私は気になって、冷蔵庫の取っ手に手をかけた。
もしかしたら、という思いを抱きながら扉を開けると、そこにはなべ、ボール、ありと
あらゆる容器になみなみと入れられたカレーが、冷蔵庫一杯に入れられていた。とても
1人で食べきれる量ではない。
「なんで…」
私は、その光景に唖然としながらも、一つ一つカレーの入った容器を取り出した。案の
定、冷蔵庫に入れられていたとはいえカレーは痛み始めていた。これを食べ続けていたら、
タカ坊は死んでいただろう。
だけど、なぜこんなに大量のカレーを作ったのだろう…カレーを食べ続けるだけなら、
無くなってから作れば良いのに。
小一時間かけて私が全てのカレーを取り出し終えたとき、冷蔵庫の奥に1通の封筒が
落ちているのに気が付いた。
封筒を取り出して宛名を見ると『向坂 環様』と書かれていた。私宛だ。そしてその字
には見覚えがあった。女の子らしい、丸い文字…このみの字だった。
私は、震える手で便箋を取り出した。恐る恐る便箋を開いて、その『遺書』を読み始め
た。
『
タマお姉ちゃんへ
これを読んでいる時、きっと私はこの世にはいないと思います。
死ぬ前に、タカ君のために私の最期の「必殺カレー」を作りました。
たくさん、たくさん作りました。
これが、私が作ったお料理の中で一番タカ君が美味しいといってくれたものだから。
きっと、私とタカ君が結ばれたことが良くなかったんだと思う。
タマお姉ちゃんとタカ君が結ばれていれば、みんな幸せになれたのかもしれない。
でもね、でも…
タカ君は、 絶 対 に 渡 さ な い。
』
−
気が付けば、私はその手紙をめちゃくちゃに引き裂いていた。
気が付けば、私はこのみのカレーを全てぶちまけて、キッチンの中で1人肩で息をして、
泣きながらぽつんと立っていた。
「なんで…死んでまで…私からタカ坊を奪うの…」
全ては、このみが死んでしまった時に終わっていたのだ。
このみは死んでタカ坊の中で永遠の女性となった。
そして、その思惑の上で浅ましく踊ってタカ坊を求めた私は、とんだ道化だったのだ。
決して、タカ坊が私のものになることは無いだろう。
私は子供のように、ただ泣いた。
しばらく泣いていた私は、不意に背後に人の気配を感じて振り向いた。
振り向いた私の視界一杯に見えたのは、振り下ろされるキッチンの椅子だった。
次の瞬間、強い衝撃を頭に感じ、意識を失いかけて私は倒れた。
頭が酷く痛い。目を開けて見上げると、パジャマ姿のタカ坊が椅子を持って立っていた。
「なんで…タカ坊がここに…」
タカ坊の両手首には、拘束帯から無理矢理腕を引き抜いたと思しき裂傷があった。
かなり出血していたが、そんな事は気にも留めていないようだった。
そして、私を見下ろすタカ坊の目は冷え切っていて、まるで漆黒の穴倉のようだった。
そう、あの雨の日のこのみの目と同じだった。
「おまえ…誰だ。」
「…タカ、坊?」
タカ坊の目には、私は知らない何かに見えているようだった。
「私よ、環よ。ねえ…タカ坊には解らないの?」
「…お前が、タマ姉だって?」
タカ坊は私の答えを聞いて一瞬鼻で笑って見せた。でもすぐに無表情に戻って、そして
無造作に私の横腹を蹴り上げた。
「あうっ!」
「…お前がタマ姉の訳無いだろ。タマ姉が、このみの作った料理をぶちまけたりする
もんか。」
その言葉に、私は反論できなかった。あれほどお互いを大事にしていた私とこのみが、
こんな事をするわけが無い。それは幼馴染のタカ坊であれば良く知っていることだ。
タカ坊の視線に耐えられず私は瞼を閉じた。ひどく寒い。一人ぼっちだ。もう私には
誰もいない。雄二ですらきっと私を拒絶するだろう。
あの時、一言このみに謝ってさえいれば、謝る勇気さえあれば、こんなことにはならな
かったのに。
そう、これは愚かな私に下された罰なのだ。だから、私は罰を受け入れよう…
瞼を開くと、タカ坊は無表情なまま、再び椅子を振り上げようとしていた。
私は、少しだけ微笑んで、そして目を閉じて、『罰』が下るのを待った。
252 :
物書き修行中:2007/10/28(日) 01:32:30 ID:/zyJNC980
このみorタマ姉ファンの皆さんごめんなさい。
チキンなタマ姉VSちょっぴり黒化したこのみ+壊れたタカ坊な話だったわけですが…
展開が無理矢理すぎな感が拭えません… orz
おまけに冷蔵庫一杯のカレーってのは現実にあったら狂気の光景かも知れないけど
ぱっと見はギャグだよな…
まあ、所詮思いつきでしかないわけですが、たまにいつもと毛色の違うものを
書いてみたかったということで。
でも性に合わないので多分この手のものは2度と書かないな。きっと。
>>252 これがホントの必殺カレーなのか...
乙カレー、こういったふいんきの作品にこう言うのもアレだが、素直に面白いと思ったよ
GJ
ハートフルとはかけ離れてガクブルものだったが…これはこれで面白いと思う。
まぁこういうのが嫌いな人から苦情が来そうだがねw
物書き修行中さん2作連投乙
スイーツ・トラブルの方は、エロくておっきした。貴明を食べる愛佳も萌え
が、雄二がどうやって貴明を仕込んだのか気になるな
自分で練習させてたらアッーだし、このみを使ってたりしたら……俺が許さん
嫉妬の代償の方は、ダークなのかギャグなのかわからんかったな
暗い話なのに小道具カレーってのに笑ってしまった。あと、このみが死ぬの早杉w
256 :
物書き修行中:2007/10/28(日) 13:30:28 ID:/zyJNC980
>雄二がどうやって貴明を仕込んだのか気になるな
たぶんこんなふう↓
貴明が愛佳と付き合う前のある日曜の駅前…
雄二「よし、次はあの子だ。…言ってみろ。」
貴明「えーっと…80、60、82」
雄二「ちがうちがうちっがーう!81、61、84だ」
貴明「はいはい。」
雄二「貴明…俺はお前をそんな情けない奴に育てた覚えは無いぞ。」
貴明「いや、育てられた覚えないし。」
雄二「いちいち細かい奴だな。細かい男は女に嫌われるぞ。
いいか、女にもてるには1にプッシュ、2にインパクト、3に真心だ。」
貴明「別にもてなくてもいいし。」
雄二「1と2は努力と根性次第だ。3の真心、これは難しい。やさしさを見せる、
親切にする…それも良いだろう。だが、やはり真心を形にしてあらわす
プレゼント。」
貴明「……ふわ…あふ」
雄二「その女の子に相応しい服、アクセサリーをコーディネイトして送る。これぞ至高。
だが、そのためには身長体重BWH、胸のカップ数から、足のサイズに指輪の
サイズまで、その子のデータを知る必要があるだろ。だが本人に聞くわけには
行かない。」
貴明「…ZZZZ」
(続く)
257 :
物書き修行中:2007/10/28(日) 13:32:55 ID:/zyJNC980
雄二「今俺達が研鑽を積んでいるのは、そう言うときにあたふたしないための目視による
サイズ計測法だ!これさえ会得すれば、何時でもどこでもさりげなくプレゼントが
可能。…って寝るな!」(ぼかっ)
貴明「いってぇな…もう演説は終わったか。」
雄二「ばか者!お前はたるんでるぞ貴明!…ようし、お前にはサイズ計測の特訓をもう
100本追加だ。次はあの子。」
貴明「何なんだよ…ったく。えーと…89、59、82」
雄二「違う!あれは偽パイだ!実サイズは80でパッド入り!貴様!偽パイの見分けも
付かんとは情けないぞ。」
貴明「そんなの知るかっ!」
そして、月日は流れ…
貴明は愛佳と結ばれ…
雄二はいまだ1人…(涙)
こんな感じかとw
触覚についてはこのみが飛びついたときとか、タマ姉が抱きついたときとかに鍛えられたということで…
>>252 ひゃー、これはこれで新鮮、おもしろいがやっぱスイーツトラブルみたいなののほうがいいねw
GJ 之もよい
260 :
物書き修行中:2007/10/29(月) 00:41:33 ID:ne/a5nU80
懲りずに3連投してみる
さあこい
いつも通りの放課後。
玄関を出て、掃除当番で遅れている由真が出て来るのを校門の近くで待つことにした。
最初の頃こそ由真と待ち合わせていると、小牧と雄二にさんざ冷やかしていたのだが、
最近ではそう言うこともほとんど無くなり、自然とお互い先に終わったほうが遅れて
いるほうを待つようになっていた。
下校する生徒達をしばらく見送って、人気が大分少なくなった頃に、由真が玄関から
姿を現した。
玄関から現れた由真は、なぜかそろそろと内股で歩いていた。
「おーい、由真。どうかしたのか?」
「あ、たかあき…な、なんでもない。」
なぜか由真は俺を見たとたんスカートをおさえた。
気になるので、再度問い詰めてみた。
「…本当になんでもないのか?」
「…なんでもない。」
こういうときの由真は頑固だ。とりあえず聞き出すのは諦めて、下校することにした。
「じゃ、帰ろうぜ。MTBとって来いよ。」
「…今日はいい。置いてかえる。」
ますますおかしい。MTBは由真にとっては靴と一緒で足代わりだ。いつぞや壊れて
自走できなくなったときなど、わざわざじいさんに電話して取りに来てもらったぐらい
だったのに。
「おまえ、本当におかしいぞ…力になれないかも知れないけど、言ってくれよ。」
「ほ、本当になんでもないんだったら!」
彼氏として由真の力になりたかったのだが、由真のほうは俺を睨みつけながら怒鳴り
返した。
その時、一陣の風が吹いた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
由真の制服のスカートが翻って、俺は信じられないものを見た。
いや、正確には、見えるはずのものが見えなかった。
由真はあわててスカートを押さえたが、俺は信じられない光景を見て軽くショックを
受けていた。
由真は真っ赤な顔で俺に聞いてきた。
「…見た?」
「…見た…つか…お、おま、おま、おま、」
「卑猥な事言うな!」
俺は由真に殴り倒された。
はいてない。 〜その傾向と対策〜
由真はパンツをはいてなかった。
「あんた往来でなんて事言うつもりだったのよ!」
「おれは『おまえ、何て格好してるんだ。』って言おうとしたんだ。何と勘違いしたん
だ?」
「えっ…えっと、その……お(ぴー)こ」
「…いや、聞いた俺が悪かった…だから女の子が往来でそんな単語言っちゃ駄目だ。」
とりあえず、スカートがめくれたときに周りに人がいなかったのは幸いだった。
MTBに乗りたがらなかったのも納得だ。もし素股でサドルに跨ってるのを通行人に
見られた日には、どこのAVの撮影やねん、という騒ぎになっただろう。
部活で残っている生徒の目を避けて裏庭に移動した俺達はベンチに腰掛けた。当然
由真は前をしっかり押さえて一分の隙も無いように気を配っている。
周りには全く人気は無い。が、念には念を入れて、低い声で話し始めた。
「で、なんでお前はパンツはいてないんだよ。」
「…掃除してるときに、またやっちゃったのよ。」
今日の掃除は、掃除だけじゃなくてワックス掛けも兼ねていたらしい。そういえばウチ
のクラスでもHRで小牧が言っていたような気がする。
で、制服を汚さないように、ということで体操着とブルマに着替えてワックス掛けを
やっていたらしいのだが、そこでいつもの由真のドジスキルが発動。いつぞやのように
すっころんで、ワックスを被ったらしい。
まあ、そこまでなら良かった。わざわざ体操着に着替えていたおかげで制服は無事
だったわけだが、問題はワックスが体操着とブルマにしみこんで下着にまで達して
しまった、ということだった。
以前は制服に被って下着までどろどろになってしまったので、全部脱いで体操着と
ブルマを履くことで乗り切ったわけだが、今回は無事なのは制服だけ。
すなわち、そこから導き出される答えは、
由真(下着装着)+制服−下着=裸セーラー由真
という答えだ。
ということは、実は上も中は生乳丸出しということか。
…
…
…
…ちょっと興奮した。だって男の子だもん。
こほん…上はまあともかくとして、下は大問題である。
ブルマは自分で脱いだりしない限りは中がノーパンだということを知られることは無い
だろうが、ウチの学校の制服のような短いスカートではそうも行かない。さっきのように
不意に不特定多数に『ご開帳』しかねない。
売店でブルマを買おうとも試みたがあいにく在庫切れだったらしい。
「コンビニまで行けばパンツは売ってると思うんだけど…」
由真はそう言ってため息をついた。一番近いコンビニは坂の下だ。ノーパンで結構な
下り坂をくだらなくてはならない訳で、見られる危険は増大する。
「…俺が行って買ってくるしかないか。」
「コンビニで制服着た男が女物のパンツ買うの?間違いなく変態認定されて学校に通報
されるわね。」
「仕方ないだろ。お前そのままじゃ帰れないし。」
「あたし、彼氏を変態にしたくない。」
そう言って由真はぷいっと視線をそらした。そこまで俺のことを大事に思っていて
くれるとは…
「…由真…そこまで俺のことを。」
「だって、変態が彼氏だと、あたしまで変な性癖の女の子に見られちゃうじゃない…」
「由真…」
期待した俺がバカだった。
「やっぱ自分で行く。たかあき変態にしたくないし。」
「いや、それはやばいだろ。」
「もし誰かに見られても…たかあきがお嫁に貰ってくれるよね。」
顔を赤くしながら、由真はチラッと横目で俺を見ていった。
男としてはたまらない一言だった。ここが俺の家ならそのまま押し倒しているところだ。
そして、そんな由真を見ていて、俺はやっぱり由真を好奇の視線にさらす危険を冒す気
になれなかった。
「…いや、やっぱ駄目だ。」
「あたしは見られても…気にするけど、諦めるから。」
「いや、他の男に由真の大事な部分を見せてちまったら俺が平気でいられそうも無い。
多分ボコボコにする。由真は頭のてっぺんからつま先まで俺のもんだ。他の男には少し
だって由真の肌は見せてやりたくない。」
俺は興奮してそんなことを思わず口走ってしまい、言い終わってから気が付いてはっと
なった。由真のほうをチラッと見てみたら、由真は真っ赤な顔で俺を見たまま固まって
いた。少しの間由真はそのままだったが、金縛りが解けたとたん視線をそらした。
「な…何恥ずかしいこと言ってんのよ…」
「ご、ごめん…つい興奮して…」
「でも…嬉しい。」
「えっ…今なんていったの?」
由真はいたずらっぽい笑みを浮かべながら答えた。
「ひ・み・つ。」
「それにしても…これからどうやって帰ればいいのよ?」
「日が暮れるまで待つ…わけには行かないか。」
今はまだ夏で日は長い。暗くなるのはかなり先の話だ。
二人で知恵を絞ることにしてしばらく考え込んでいたのだが…しばらくして、由真が
口を開いた。
「たしか、この間たかあきの家に泊まったときの荷物、まだ置きっぱなしだったわよ
ね。」
「ああ、あれか。まだ取りにきてないからな。」
この間由真がうちに泊まりに来て熱い一夜を過ごしたのを思い出した。あのじいさんが
よく男の1人住まいの家への外泊を許したものだと思ったが…
あの時は次の日に二人で遊びに行って由真はそのまま家に帰ってしまったので荷物が
置きっぱなしになっていた。
「…まさかとは思うけど、あたしの下着で勝手にハアハアしたりしてないでしょうね。」
「するかっ!大体本人に頼めばやらせてくれるのにそんな下着ドロみたいなことする必要
ないだろ。」
俺の名誉のために力いっぱい突っ込んでおいた。
「じゃ、とりあえずたかあきの家まで行けばおっけー、ってことよね。」
「まあ、そうだな。」
「じゃあ、たかあき。」
由真が俺の胸元にすがり付いてきて、上目遣いで言った。
「たかあきの、……、ほしいの…」
「は?」
俺は間抜けな返事を返した。
小一時間後…
俺はスースーして頼りなくなった下半身を気にしながら、MTBを押す由真と二人で
歩いていた。
言っておくがズボンははいている。猥褻物陳列罪で捕まりたくは無いからな。
そして由真は…スカートの下に俺のトランクスをはいて歩いていた。
結局、由真に俺のトランクスを貸し出すことで決着したのだった。
「何か変な気分…男物のパンツってこんなかんじなのね。」
「いや、俺は別な意味で変な気分だ…」
「別な意味で…って?」
「いや、由真が俺の履いてた下着履いてるって思うと…なんかエロイなと思って。」
「な…エロイとか言うな。」
「いや、なんかエッチな気分なんだよな…ほら、ついたぞ。」
俺と由真は河野家の前に立っていた。
「…やっぱあたし帰る。」
不穏な空気を感じ取った由真はMTBで立ち去ろうとしたが、俺は素早くその首根っこ
を捕まえつつ、家の門をくぐった。
「まあまあ、ちょっと寄ってけよ。」
「いーやー、たかあきに犯されるー!」
「その通り。この高ぶった気分を解消するのに付き合ってもらうからな。」
「ばかー!変態ー!」
「変態結構。ドア閉めるぞ。」
暴れる由真を家の中に放り込んで、俺はドアを閉めた。
結局その日、由真は我が家に外泊することになったとさ。
「ああんっ…もうっ、変態たかあき!」
「うるさいぞ、ドジっ子由真。」
「ドジっ子言うな!」
>>261 なんという絶妙の受けw
それにしても、やっぱこっちのほうが性に合ってるわw
あと小牧姉妹と由真はいじりやすくてお気に入り
この1本は昨日天の声を受信して書きました
はいてない→はいてないといえば由真(生ブルマ)→これだ! ってかんじで
270 :
物書き修行中:2007/10/29(月) 00:52:44 ID:ne/a5nU80
コテ直すの忘れたw orz
>>270 ドアを閉めた後、玄関で・・・ハァハァ
コホン、GJ!
>>269 乙
何気に由真ってけっこー変態指数高いよな、と思った。割とすんなりアナル順応した辺りとか
この後由真を家に送って帰ってきたら、春夏さんにからかわれるわけだな。そしてめくるめく(ry
でも、由真が履いてたとしても、トランクスを脱がすのは興奮しないな
275 :
物書き修行中:2007/10/29(月) 20:36:37 ID:ne/a5nU80
>>272 この辺は個人的な見解だけど
自分でも言ってたけど由真は好きな人に尽くしちゃうタイプで、
好きな人の要求なら何でも受け入れちゃうんだと思われ
だから変態的なのは鬼畜野郎の貴明w
一方で好奇心旺盛だから、
AVとか見せたら試しに色々やってみたがったりとかもありそうだけどw
>>275 そのシチュで書いてくれるという事だな?
勝手に待ってる
風でスカートがめくれた時、トランクスが見えたらノーパン以上に言い訳出来ないよな。
こっちの方が噂になる事間違いなし。
女の子の下着を自分ではくより自分の下着を女の子がはいてるほうが興奮するね
すごい逆転ホームランだ
パンツがなくてお父さんのトランクスを履いてるこのみ、という妄想はしたことがあるが、これはまた意味が違うなw
280 :
物書き修行中:2007/10/30(火) 21:45:52 ID:LLM+kdqi0
>>278 はだわいとかもいいけど、着るものが無くて、男が貸したトランクスとだぼだぼのTシャツ
(襟から片方肩が出ちゃってる)着てるのとかも良いよねw
って、どんだけマニアックなんだよ漏れw
>って、どんだけマニアックなんだよ漏れw
それこそが(SS)作家の本質、究めればそこに頂点がある。
多分な
ゴテンクスは同意できないが、大きめぶかぶかの学ラン着てる女の子は俺の中で熱い
だれか学ランネタで一つ頼む
>205のつづきは?
284 :
物書き修行中:2007/11/01(木) 01:18:42 ID:HpgxcdAY0
続きが来ないっぽいので投下するぜ
連休を利用して、由真が泊りがけでうちに遊びにくることになった。
ぴんぽーん
「はいはい。」
呼び鈴に呼ばれて、俺は玄関へと急いだ。
玄関を開けると、そこにはキャミソールにぴったりとしたホットパンツ、半そでの
デニムシャツという、夏らしい活動的なファッションでお洒落した、ちょっとだけよそ
行きの由真が立っていた。
続・はいてない。 〜予習と復習〜
以前、由真が自分のことを尽くすタイプだと言っていたことがあるけど、あれは本当
だったようだ。
我が家にやってきた由真は、最近サボり気味で溜め込んでいた洗濯物を見るや否や、
「ちゃんと掃除洗濯はやんなさいって言ってるでしょ。」と文句を言いながらも洗濯を
始めた。
そして洗濯機が回っている間にちょっと埃っぽくなっていたリビングを見て掃除機を
かけ、掃除が終わった頃に丁度止まった洗濯機から洗濯物を乾燥機に放り込んで、乾燥
している間に昼食を作り始めた。
普段の粗暴?な振る舞いとは裏腹に、由真は家庭的だった。家事はそつなくこなすし、
料理も結構上手い。将来の夢が『かわいいお嫁さん』というのは伊達ではないらしい。
「由真ってけっこう家庭的だよな。料理美味いし。」
「『けっこう』ってどういうことよ。」
動かしていた箸を止めて由真が抗議の声を上げた。
「いや、付き合う前の印象だとさ…がさつで家事は一切駄目そうな感じだったから。」
「魚焼いて炭にしたりとか?」
「お米とぐのに洗剤入れてみたりとか。」
「洗濯するのに洗剤入れすぎて床まで泡だらけにしたり?」
「掃除機でカーテン吸い込んですごいことになったり。」
「ふふーん…残念だったわね。」
「そこでなぜに勝ち誇る。」
昼食を食べ終わると、食器を洗う役を俺に言い渡して由真は乾いた洗濯物を仕舞いに
行った。
たかだか2人分の食器なので丁寧に洗ってもすぐに終わる。洗い終わった食器を水切り
籠の中に入れると、俺の部屋で洗濯物を仕舞っているはずの由真を手伝いに行くことに
した。
階段を上がって自分の部屋のドアを開ける。すると、たたんだ洗濯物を仕舞っている
由真の後姿が見えたのだが…げ、それは…
「たかあき…」
「な、なにかな?」
「あんた、こういう趣味があったんだ…」
由真が手にしていたのはレースのフリルで装飾されたメイド服だった。そろいの黒い
猫耳カチューシャとカフス、レースのストッキングにガーターベルトまである。
それを手にしたまま、由真は残念そうな表情で言った。
「たかあき…女装の趣味あったんだ…」
「ちがう!」
予想外の由真のボケに激しく突っ込んでおいた。
「それは雄二のプレゼント。」
「プレゼント?…やっぱり女装の、」
「ちがうっつーの。彼女出来た記念だとさ。だからそれは由真用。」
「あたし?…ふーん、たかあきメイド趣味だったんだ。」
「だから、それは雄二の趣味だっての。」
「ふーん…向坂君の、ねぇ。…本物より生地が安っぽいわねぇ。スカート短いし。」
レースをふんだんに使った白黒のメイド服をしげしげと見ていた由真はそんなことを
言った。
「本物のメイド服なんて見たことあるのか?」
「前に来栖川のお屋敷に仕事を習いに行ったときに着せられたことある。あれは本当に
制服って感じで質実剛健だけどね。デザインはこっちのほうがかわいいわ。」
メイド姿の由真を想像してみた。本物を見たことが無いので、雄二のメイド服のほうだ
けど…結構かわいいかも…。
「ふっふーん。」
気が付くと、由真がしたり顔で俺を見ていた。
「ちょっと想像したでしょ。」
「何が?」
俺はしらばっくれた。俺はメイドマニアじゃないぞ…と。
「またまた…どう?あたしに着て欲しい?」
そう言いながら由真はメイド服を体に当てて見せた…結構かわいい。
だがしかし、認めてしまうと何か負けた気がする…主に雄二に。
「どう?着てみよっか?」
「う…い、いや…いい。」
「ほんとに…?」
「…」
由真が顔を覗き込んでくる。眼鏡越しの視線がら俺は目をそらした。
ここで認めてしまうと、俺のフォースはメイド面(ダークサイド)に落ちてしまうんだ
…許せ、由真。
「いや、これは何か超えちゃいけない一線な気がするんだ。」
「ふーん。あたしにあんだけ鬼畜な事しといて今更人格者ぶるんだ。」
「鬼畜とか言うなよ。とにかく、いい。見たくない。」
「あっそ…あたしには似合わないってわけね。」
どういうわけか、由真は怒り出したかと思うと立ち上がって俺の背後でごそごそやり始めた。衣擦れの音が二人っきりの部屋の中に響く。
「な、おまえ、何やってるんだ。」
俺が振り返ろうとしたら、顔に何か投げつけられて視界がふさがれた。…由真の着てた
ピンクのキャミソールだった。由真の匂いがする上に脱ぎたてで体温が残っていてえらく
生々しい。
「見るな。しばらくそっち向いてて。」
「…わかった。」
仕方なく俺は壁のほうを向いて座りなおす。
衣擦れの音はしばらく続いた。いい加減妄想で頭が一杯になりかけた頃に由真から
お許しが出た。
「見ても良いわよ。」
俺は振り返った。
そこには勝ち誇ったように腰に手を当てたポーズで立つ猫耳メガネのメイドさんがいた。
元々由真はスタイルのいいほうだが、黒いメイド服の柔らかく膨らんだ胸元とペチ
コートでふんわりと広がるミニスカート、それとは対照的に大きなリボンで細く締まった
ウエストがそのスタイルの良さを一層際立たせていた。そして襟元や裾に備えられた
レースがかわいらしさを引き立てている。
パフスリーブからすんなりと伸びた二の腕には手首のところにカフスが装着されていて、
頭には黒いビロード調の猫耳が付いたカチューシャも乗っており、良く似合っていた。
そしてなんといっても足である。マイクロミニからすんなり伸びた由真の二の足は白い
ストッキングで包まれ、スカートの中から伸びたガーターで吊られているのがなんとも
セクシーだった。むっちりした太股の絶対領域が、健康な男子にとってはかなり目の毒だ。
「ふふーん…どう?」
「…ああ、滅茶苦茶かわいい。」
ごめん…雄二、今まで散々馬鹿にしてたけど、俺ちょっとだけお前の気持ちがわかった
かも。
「じゃあ、今日はこの格好でご奉仕してあ・げ・る。感謝しなさい。」
「♪〜」
由真は鼻歌交じりで俺の部屋を掃除していた。
元々俺は部屋を散らかすほうじゃないと思うのだが、由真からするとそうではない
らしい。男の部屋にしては片付いてるほうなんだけどな…一度雄二の部屋を見せてやり
たいもんだ。
部屋の中に散らかっていた雑誌を片付けて、掃除機をがーっとかける。その間俺は邪魔
なので勉強机の椅子の上に座ったまま、由真の姿を目で追っていた。
ふりふりと揺れるウエストの大きなリボンとふんわり膨らんだスカートのお尻、そして
その下の絶対領域についつい視線が行ってしまう。
しえん
「…たかあき、視線がイヤラシイわよ。」
「…そんな格好してる由真のせいだ。」
俺の責任転嫁に由真はあきれた顔をしていた。
「…たかあき放って帰ろうかしら。」
そう言いながら由真は掃除機をかけていた。すると、ベッドの下に掃除機のホースの
先を突っ込んだときに何かを吸い込んで音が変わった。…って、あそこにはっ!
「なにこれ…」
「い、いや、なんでもない。」
「…怪しい。」
ベッドの下で引っかかっていた物を取ろうと由真は掃除機を置いてベッドの下に頭を
突っ込んだ。
「お、おい、何もそんなにまでして取らなくってもいいんだ…って、ぶっ!」
由真を止めようとした俺は信じられないものを見て言葉を失った。
「ぶはっ、やっと取れた…って何て顔してんのたかあき。」
「(゚Д゚)」
由真が俺の視線をたどって、そして俺が何を見ていたのか悟った。
由真は女の子座りの状態から上半身を倒して頭を突っ込んでいたのだが、俺の視線の
先には由真の捲れたスカートがあり、そこからはプリン、という擬音が似合いそうな生尻
が突き出していた。由真は一瞬で真っ赤に染まるとスカートを下げて押さえた。
「お、おまえ、なんで履いてないんだよ!」
「ば、ばかっ、履いてるわよっ!」
「いや、今のはどう見てものーぱn」
「ノーパン言うな!」
俺は由真にしばき倒された。
「見せるけど…襲い掛かったりするんじゃないわよ。」
「そりゃどこのケダモノだよ。」
「たかあきケダモノじゃん。」
「ぐっ…わかったから、早く見せろ。」
「それじゃ…ほら。」
由真は後ろを向くと、そっとスカートを持ち上げた。
「…Tバック?」
「これはソングって言うの!…ほら、今日の服装覚えてる?」
今日由真が着てきたのはピンクのキャミソールと白いぴったりしたホットパンツだった
はず…
「あの夏物のホットパンツ履くときに普通のパンツだとラインが出ちゃうのよね。前は
あんまり気にしなかったんだけど。」
「それとTバックと何の関係があるんだ?」
「ソングだと下着のラインが出なくてお尻が綺麗に見えるの。…たかあきにはちょっと
でも綺麗に見て欲しいし…これでも気を使ってるんだから。」
由真が俺のためにそう言う細かいところまで気を使っていたとは…
「ほら、もう解ったでしょ。あたしは露出狂じゃないんだっつーの。」
「いや、この間もノーパンで帰ろうとしてたろ。」
「あれは不可抗力。…それより、これよ。」
しまった…ノーパン騒ぎですっかり忘れていたが、由真はベッドの下にあった物を手に
入れていたんだった…
由真が手にしていたのは1枚のDVDパッケージだった。
「どういうこと…この「新人メイド奴隷調教」ってDVDは。」
タイトルからもわかるだろうが、18歳未満お断りのアダルトビデオだった。
「いや、それはメイド服と一緒に雄二に貰ったもので、見てないし。」
「…封切ってあるけど。」
「すいません、何回か見ました。」
俺は素直に謝った。そこ、情けないとか言うな。
だが由真は俺がAVを見てるのがご不満なようだ。
「あたしに普段散々鬼畜な事しといて、AV見てるとかありえないんだけど。」
「エッチさせてくれる彼女が居ても、男はそう言うのが見たいもんなんだって。」
「なんでよ。その気ならあたしが相手すれば済むことじゃない。AVの方がいいとか
言われたら女としてのプライドにかかわるのよ。」
どうも、由真は自分がAVと比べられている事が不満なようだった。
別に比べてるわけじゃないし、比べられるものでもないんだが…
「まあそうだなぁ…たとえば、毎日高級なフランス料理が食える生活をしていてもさ、
たまに安っぽいヤックのバーガーが食いたいときもあるんだよ。彼女が居てもAV
見るってのはそんな感じ。」
「…あたしが、高級なフランス料理ってことでいいのよね?」
「は?…まあ、今の例えで言えばそうだけど。」
「許す。」
「何じゃそりゃ。」
女の子の…というか由真の心理は良くわからん。
「まあ、たまに気晴らしに見るって言うのもあるけど、『参考書』でもあるな。」
「参考書?」
「こういうAV見て、エッチのテクニックを覚えるって言うか。」
「…バカ?」
由真がバカな子を見るようなかわいそうな目で俺を見ていった。
「バカとか言うなよ…俺達ぐらいの未体験の男なら大体そうだと思うぞ。」
「ふーん…たかあきが鬼畜なのもそのせいね。」
「む…まあ、そうかもしんない。」
たしかに本能的なものとはいえ、知識が無ければいきなり由真のアナルを征服すること
も無かっただろう。
やがて眉を寄せてパッケージの裏を眺めていた由真が言い出した。
「ちょっと見てみよっか。」
「…さっき見るなとかいってたじゃん。」
「あたしも一緒に見るからいいの。」
由真の行動に突拍子が無いのはいつものことだから諦めることにした。
「そうかい。じゃ、パソコンで見てみるか。」
「わ…すご…」
「…」
「何か噴出してるし。」
「…潮吹き、って言うらしいぞ。」
「あれ気持ちいいのかな?」
「さあ…俺も由真しか経験無いから、お前が潮吹きしないと聞きようが無いな。」
「…えっち。」
「…」
「ふわ…あれすごい格好。」
「駅弁、って体位らしいぞ。」
「なんか男の人腰痛めそう。」
「まあ、そうかもな。間違って女の人ずり落ちたりしたらアレがもぎ取られそうだし。」
「…あとでやってみよっか。」
「俺をぎっくり腰にさせる気か?」
「あたしそんなに重くないわよ。失礼ね。」
「そう言う問題じゃないだろ。」
「…」
「…」
「何か、物凄く大きな声でよがってる…恥かしくないのかな?」
「…由真も、イキそうになると結構声でかいけどな。」
「え?うそ、あたしそんなに声出してないわよ。」
「出してるって。」
「出してない。」
「まあ、いいけどな…今度録音でもしといてやろうか…」
「何か言った?」
「…いや、なんにも。」
そうして約1時間後…
「はふ…」
「ほう…」
二人ともAVにちょっと当てられ気味でため息をついた。
一人で見ていたのなら大して感慨も無いのだろうか、隣に肉体関係のある恋人が居るということで微妙にそんな気分になってしまった。
「ね、たかあき…しよっか。」
その一言で、俺はメイド姿の由真を押し倒した。
夜…
由真が夕食を用意する間に、洗濯機ではメイド服が洗濯されていた。
ちょっと口ではいえないような色々な液体で汚れてしまったからである。
一方、俺はリビングのソファーに寝転がったままで呻いていた。腰が痛くてたまらない
からである。…なぜそうなったかというと…単に由真の好奇心のせいだといっておこう。
296 :
物書き修行中:2007/11/01(木) 01:39:35 ID:HpgxcdAY0
>>290支援Thx
い、言っとくけど、
>>276のために書いたんじゃないんだからねっ!
というわけで、書いてみた。
何か書いてるうちにユルい由真話になってしまった
色々「試した」部分が薄いのは気のせいw
>>282 一応把握しておく
書けるかどうかはわからんので、期待しないで待っててくれ
>>297 靴下くらいはけよ、風邪ひくぞ
オレも全裸で待つが
299 :
物書き修行中:2007/11/02(金) 00:36:36 ID:ffLrqLvY0
二人とも風邪引くどw
少なくとも今日明日明後日ぐらいまでは別件で手をつけられないからまだ色々仕舞っとけw
水を差すようで悪いんだが、正直、最近の物書き修行中氏のSSは書けば書くほどレベルが低下しているというかなんというか…
状況説明を「〜〜が〜〜で〜〜した」みたいに簡略化しすぎてないだろうか。こういうのって、悪く言えば手抜きに感じてしまう。
反応欲しさのあまり、粗製濫造になってしまってるような気がするんだよなあ。
沢山書けばその分だけ腕が上がるというのはあるかもしれないけど、自分の中である程度のハードルを設けた方がいいかも。
確かにテンプレ的になって来てるかも、とは思う。
確かに、ネタはものすごくいいんだけど、速さを重視するあまり質が落ちてるかも
もうちょい台詞回しとか地の文とか凝った方がいいかもしれないな
まあ、これだけの速さで書けるってのはそれだけですごいことなんだけど
少しくらい速さ落ちてもいいから、じっくり書いてみて欲しいな
SS書きにはネタをすぐ文章化できる時期と苦戦する時期ってあるだろうが、
今の物書きさんが前者の状態なら変に意識せずバシバシ書いた方がいいと思う
ウンコじゃないが、文章って変にじっくり我慢すると出てこなくなる恐れがあるw
文体に関しては、俺は全然質が悪いとは思わないが、変化をつけていこうと思えば
いったん書き上がってから数日間手元に置いて推敲し直すといいかもな
なんにしろ、最近のSSスレを盛り上げてる功労者なので引き続きがんがってホスィぜ
はっきりいえば、今の物書き修行中氏のSSは出来損ない。
面白いと感じるかどうかは好みの話だからそこについてとやかくいうつもりはないけど
それでも、早く書こうとしているからなのか、推鼓不足は如実に出ているし
SSである以上、作品としての完成度を高める労力は必要だと思うよ。
その労力を払うつもりがないなら、コテは消した方がいいな
>>304 物言いが大仰すぎてどうにも頷きがたいなあ。
SSはかくあるべし、なんて抽象的かつ主観的な意見を押しつけても
作家には何のプラスにもならないと思うよ。
個人的には、今の物書き氏のSSは完成度を高める以前の段階って感じがする。
なんだろうなあ……書き方がテンプレ的とかそういうレベルの問題じゃなくて
これは単なる「ネタ」だよね。「SS」ではなくて。
ぶっちゃけると、ここんとこの物書き氏の作品は「ネタ」の羅列でしかない。
厳しい言い方かもしれないけど、肉付け前のプロットを見せられてる感じなんだな。
まあ、スレに投下するとなると、それなりに短くまとめないといけないから大変なんだけどさ。
フルボッコwww
>>305 どんな意見だろうがプラスになるかどうかなんて受けた側次第だろ
あと勘違いされてるようだから言っておくけど
俺は物書き修行中氏に頑張って欲しいとも、今後よくなって欲しいとも思っていないから
そう思うなら作品を読んできっちり感想レスつけてるよ
その方がよっぽど「作家にとってプラスになる」ことだと思うからね
>>307 いや……じゃあ何でわざわざ書き込んだんだよ。
なんだかSSそのものじゃなくて、物書き氏に対する悪意みたいなものが透けて見えるんだが。
スレの流れに乗って物書き氏にいちゃもんつけたいだけだったの?
基地外にレスするなよ
またこの流れかよ
SS書きを何人追い出せば気が済むんだ
312 :
物書き修行中:2007/11/02(金) 20:17:13 ID:ffLrqLvY0
なんか1日ぶりに見に来たらスレがおかしな雰囲気になっているんで、
何か言っても言い訳にしか取られない気もしますが一言だけ
別に俺個人に意見を言ってもらうのはぜんぜんかまわないわけですが、
それによってスレの雰囲気が悪くなったりそう言う書き込みでスレ消費が進むのは
本意ではないので、しばらく消えます。
ちなみにコテハンなのは意見を言ってもらったときにレスを返しやすくするためであって
それ以外に他意はないです。
名無しだからっていい加減なものかいていいとは思ってないですし。
書く早さに関しても色々頂いてますが、自分自身は急いで書いているという意識はないです。
前にも書いたかもしれませんが、進むときは進むし、駄目なときはまるっきり駄目なだけです。
また、自分なりに推敲や修正や添削も、全体執筆後、次の日以降に1〜3日程度かけて行い、
それなりに気を使って書いていたつもりではあります。
コテつけて戻るか、名無しで戻るか、書くのやめるかは考えてからにしますが、しばらくはROMに戻ります。
明日用の物も一応用意して会ったんですが、燃料にしかならなそうなのでやめときます。
まあ、俺は委員ちょかこのみのSSであまりにもエロ&鬱すぎなければ、無問題だけどね。
まあ、表現の自由だから、書くのも自由。褒めるのも自由。貶すのも自由。萌えるのも自由だとおもう。
>312
暫く様子見は正解な態度だと思うが、
名無しにしろコテにしろ、俺は戻ってくるのを待ってるかんね。無理せずがんがれ
>>312 消えるのは別に好きにしてくれて構わないんだけど
結果として俺を悪者に仕立て上げてるだけだろ。
あんたはそれで良いかもしれないけど、俺からすりゃちょっと待ってくれって話なんだが。
雰囲気が悪くなりそうって便利な言葉だけどさ。
こんなの酷評がでるたびに存在するような雰囲気だぜ?
俺からすればあんたのその行動は「叩きがいるならいなくなりますよ」って脅し。
しかも正当化するために俺を利用するとか悪意しか見えないな。
ついでだからいっておくと、推鼓や添削は時間をかければいいってもんじゃない
というか、時間をかけたから十分だって考えの時点でアウト。
>>305の言い分を借りると、ネタのまま出してる状態。
これがSSになっていないって推鼓して気づけないのなら推鼓していないに等しいな。
悪者になるのが恐いなら、最初から問題が起こるであろう文章を書くなよ
なにを言うのも自由なら、言った相手がどう受け取ろうと、どうリアクションしようと、それは自由だろ
悪者になりたくないんなら最初から変な書きかたしなきゃいいのに……と釣られてみる
>315
SSスレでSSを書くでもなく、SSの感想を書くでもなく、作家にアドバイスするでもなく、
それで「俺は俺は俺は俺は叩きじゃない」って言うなら、なにがしたいの?就職?
どうやら構ってちゃんの一種っぽいから触らないように。
>>315 あれ? ねぇ、君、もしかして「すいこ」って打ってる? 「推敲」だよ?
自分の文章添削した方がいいんじゃないかなぁ。
推古天皇っていいたいんだよ
「このスレッドは、好きですか」
「え…?」
「わたしはとってもとっても好きです。
でもなにもかも…変わらなすぎて困ります。
煽りが定期的に沸いたり、煽りに噛みついたり、ぜんぶ。
…ぜんぶ、変わらなすぎです。
それでも、この場所が好きでいられますか。
わたしは…」
「スルーすればいいだけだろ」
「えっ…?」
「次のSSが投下されたり、ネタが投下されたりするまでスルーすればいいだけだろ。
あんたの趣味は煽りの相手をすることなのか? 違うだろ。
ほら、いこうぜ」
あ、本当だ。
推敲が推鼓になってるなw
器用な間違い方だな。
気づかない俺も対外だが。
もしかして、草壁さんSSなしかよ
あぼーん推奨 ID:weHUsxz70
草壁さんSS書こうと思って挫折。半年のブランクでけーw
「よいではないか、よいではないか。ささ、遠慮せずに入るがよい」
「ちょ、ちょっと、まあちゃん?」
生徒会室の外から聞こえてくる喧騒に、ささらは小さくため息をついた。周りからは苦笑が漏れる。
すでに4月も終わりに近いというのに、相変わらずあの人は、騒動の種を持ち込んでくるらしい。
ただ、まあちゃんという呼び名と、どこかで聞き覚えのある声が気になった。さて、誰だったろう?
すぐにドアが、勢いよく開かれた。
「おはよう、諸君! 元気してたか? それともあたしに会いたくて夜泣きしてたか?」
言わずとしれた、まーりゃん先輩の登場だ。それにくわえて、もう一人。
「こ、こんにちは……」
まーりゃん先輩に、半ば抱きつき気味に引きずり込まれ、窮屈そうに頭を下げるのは、少々小柄な、ショートカットの女の子。
この学校のものではないジャージ姿だが、しかし、ささらと、ついでに雄二はその顔を知っていた。
貴明もどことなく見覚えがあるらしく、
「……あれ? 雄二、あの人誰だったっけ?」
「馬鹿かお前!?」
間髪入れずに、ヘッドロックの返答が貴明に返される。
「な、なんだよ。うちのクラスにいたっけ?」
「違うわっ。あの人はだなぁ……」
「松原先輩……」
息を呑みつつ、ささらが言葉を繋いだ。まーりゃんは、まるで自分のことのように胸を張り、
「そのとーりっ! この人こそが、昨年エクストリーム全国大会で準決勝にまで勝ち進み、
全国にその名を知らしめた、松原葵その人だっ!」
「ど、どうも」
対照的に、言われた本人が、照れつつ、謙虚に頭を下げた。
「はっはっは。こんな有名人に会えるなんて嬉しかろう。みんなひれ伏せ」
「あの、お構いなく」
時ならぬ闖入者×2に、生徒会の仕事は一時停止。環がお茶を入れる合間に、馴れ馴れしく雄二が話しかける。
「いやー、まさか松原先輩に、こんなむさ苦しいところに足を運んでもらえるとは。本日は一体、どういうご用件で?」
「はい。先日、エクストリーム同好会に部室が宛われたと聞いて。それでロードワークがてら、ちょっと様子を見に」
「ああ、あの件ですか。いやぁー、苦労しましたよ。申請はされてたんですが、どこもなかなか、空いている部屋がなくて」
「恩着せがましいこと言うんじゃないの」
すかさず環の肘が、雄二の頭を軽くこづく。
「いえ、でも本当に嬉しかったから。私の代には間に合わなかったけど、でも、みんなもすごく喜んでいたし。
ありがとうございました」
そう素直に言われると、嬉しい半面、少々面はゆい。環がその気持ちを代弁したように、素っ気なく、
「生徒会の仕事ですから」
「でも、私達のために働いてくれたんだから、お礼くらいは言わないと」
あまりに直球で、正攻法で、さすがの環も上手い具合に切り返せずに、返答に詰まる。
環の否定は、所詮、照れ隠しだから、無理に切り返すこともないのだが。
若干、すさみ気味だった生徒会の面々の心を、さわやかな風が吹き抜けていくようだった。
「どーだ、あーりゃんはいい子だろう」
すさんだり澱んだりしていた原因の大半が、得意げに葵の肩を抱く。
どうやったら正反対なこの2人が、友達づきあいが出来るのか。
そんな素朴な疑問を、なにも知らないこのみが抱いた。
「まーりゃん先輩と、松原先輩は、お友達なんでありますか?」
「うむ。強敵と書いて友と呼ぶような、いわばライバルでありながら親友の関係だ」
葵がちょっと困り笑顔を作るが、否定の言葉は出てこない。
「ライバル?」
「そう。ざっと一年ほど昔――あたしとあーりゃんの間にあったのは、戦いの二文字」
「ちょっと、まあちゃん、あの話はっ」
「ふふふ。一敗を刻みつけられた屈辱の過去を、かわいい後輩に話されたくはないか」
「あれか……」
「あれはひどかったな……」
それはもちろん、新入生歓迎会の折の話。当事者だった雄二と貴明は、はっきりその光景を記憶している。
「え、なに? タカくんたちは知ってるの?」
「あぁ。俺たちの新入生歓迎会の時、部室対抗エクストリーム大会を開いたってのは話したよな」
「確かに部室の備品は使っていいって話だったけど、あれはないよなぁ……」
「備品?」
くるりとこのみは生徒会室を見回すが、武器になりそうなものは見当たらない。
すると、当時を思いだしたのか、ささらが盛大にため息をついた。とても悲しそうに。
「久寿川先輩?」
「もういいの。みんな無事に帰ってきてくれたから……」
「みんなって?」
「カエルさんたち……」
そう。それまでにも色々と卑怯戦法で勝ち上がってきたまーりゃんは、
決勝で葵と対峙するに当たって、生徒会室で飼っているんだから、カエルは生徒会の備品だと主張し、
それを全身に装備するわ投げるわで、会場は大パニックに。
さすがの葵も、ただでさえ友人相手に本気で攻められないところにくわえて、カエルを潰すのも触るのもごめんこうむりたい。
じりじりと下がる葵と、カエルを詰め込みまくった水槽を頭上に抱え、不気味な笑顔を浮かべながら詰め寄るまーりゃん。
時折よけそこねてカエルが貼りつくたびに、葵の悲鳴が上がって、
体操着には湿り気が付いて、なにやら会場に妙な熱気が渦巻いたりも。
そんなカエル弾幕も終わりが近づき、一気にとどめを刺そうと水槽ごと投げたらよけられて、それがリング外に炸裂。
悲鳴と混乱と蛙の大合唱がけろけろと響く中、ゴングが鳴らされ、まーりゃんの優勢勝ちというしょっぱい結果に。
いろんな意味で不満な観客席からはブーイングがあがり、様々なものがリングに投げ込まれ、さらにカエルが投げ返され、
うやむやのうちに歓迎会は幕を下ろす傍らで、ささらが泣きそうな顔でカエルを回収していた。
「どうだ、すごいだろう。尊敬したか、このみん?」
「あはは……」
確かにすごいし、敵にはけっして回したくないが、それ以上に、ひどすぎると誰もが思った。
とりわけ、その直接対決の被害にあった葵は、さすがに疲れた苦笑を浮かべて、
「あれはちょっとひどかったよ……」
「まぁそんなわけで、あーりゃんが日本で一番になったら、あちしも自動的にその上にランクアップされるから、精進してくれ」
「もう……」
普段、まーりゃんに振り回されっぱなしのささらは、しみじみ葵に同情した。
半面、仲の良さそうな間柄に、わずかな嫉妬も覚えた。
「そんなわけで、いざ、君らがたるんだ暁には、麻亜子と松原のだぶるまーりゃんきっくが、
君らの非道を正しに来るからきをつけたまへ。ちなみに威力は当社比十倍」
「二倍じゃないんですか」
「なんせ、あーりゃんのキック力は松井のホームラン五万本分だからな」
「そんなにないよ」
葵は生真面目に否定するが、それはそうだ。そんなにあったら、十倍じゃすまない。
雄二が横からちゃかすように、
「まーりゃん先輩、いらないんじゃねぇ?」
「友情のコンビネーションだよ。友情。君らにはまだわかんないかなー?」
「よし、貴明。俺らもなんかやるぞ。友情のコンビネーション」
「そんなの作ってどうするんだよ」
「決まってるだろ。悪逆非道な姉の支配から離脱するためにだな」
「……そういうことは、本人の見ていないところで企みなさい」
「あだだっ! 割れる、割れるっ!」
「私もコンビネーション作ろうかしら。前からつかんで、後ろからもつかんで、押し潰す力も加えて」
「ぐがあああああっ! 姉貴、1人でコンビネーションはないだろ、友達いないからって! あだ、あだだだっ!」
余計な一言をくわえてしまったせいか、環の新技、ダブルアイアンクローが圧力を増した。が、その横から、
「あの……」
見るに見かねてか、葵の手が、遠慮がちに添えられる。やめろと言わない代わりに、申し訳なさそうな視線と一緒に。
力を込められたとか、間接を取られそうになったとか、そういうわけでもないのに、
なぜか違和感を覚えて、環は雄二から手を離した。
いや、あのまま離さなかったら、なにかされていたのかもしれない。怪我をさせない程度に。
そう思わせるものがあったが、葵はほっとした様子で、あっさりと手を引いた。
「ふぅん……」
一通り武道を仕込まれた身としては、興味はそそられるが、さすがに戦いたいとは思わない。まーりゃんとは違った意味で。
「いやぁ、助かりましたよ松原先輩。優しいし強いし、うちの姉貴とは大違いだ」
さっくり立ち直った雄二が、葵の手を握って感謝感激と振り回す。
「いえ、そんな……」
「あの冷酷無情な姉を倒すために、いっちょ俺にも武術を仕込んでくれませんか。出来れば手取り足取り」
「少しは懲りなさいっ」
「あだっ!」
直接打撃が後頭部にヒットし、今度はさすがの葵も止める暇はなかった。手を握られていたし。
「それじゃ、私は部の方に顔を出してきますから。失礼します」
その一言と、深いお辞儀を残して、葵は去っていった。
貴明がしみじみとつぶやく。
「とてもまーりゃん先輩の友達とは思えない、礼儀正しい人だ」
「少し、礼儀正しすぎるって気もするけどね。私達、後輩なのに」
「姉貴もお嬢様学校にいたんなら、あれくらい殊勝になっててしかるべきだろ」
「……もう松原先輩はいないわよ?」
「お、おいおい。見てなきゃなにをやってもいいってのは、人として間違っていると思うぞ」
言われて、環は先ほどの一件を思いだしたのか、すねたように「フン」とつぶやいて、開き掛けていた手を下ろした。
どちらかといえば、雄二を解放したのはあの視線が主な理由だったのだが、
実際にやりあったとしたら、自分が負けるのではないかと思わせるものがあったのも事実だ。
専門家相手、しかも先輩とはいえ、負かされたような気分にされて、少し消化不良気味な環だった。
「ま、多少堅苦しいかもしれないが、あれがあーりゃんの美点なのだよ。武道とは礼に始まり、礼に終わるものだからな」
「爪の垢でも煎じて飲んだらどうですか?」
「たかりゃんも飲むか? 先輩に対する生意気な口が、少しは直ると思うぞ」
そう、けろりと返されると、貴明としても苦笑するしかない。
むしろ水と油だからこそ、相性がいいのだろうか、この2人は。
このみが不思議そうに首をひねって、
「うーん。そんな強そうな人には見えないんだけどなぁ。わたしとあんまり身長変わらないし」
「あたしともあんま変わらん。このみんもそうだが、あーりゃんは同士だ。主に性的な意味で」
「性的?」
「おっぱいぺったん同盟の一員と言うことだ」
「こ、このみもその一員なんでありますかっ?」
「はっはっは。どこからどうみても同士ではないか。大丈夫。最近はこういうのも需要が大きいから」
「脱退届を提出するでありますっ!」
「いまのこのみんに、脱退届を出す資格はみあたらんねぇ」
けけけと嬉しそうに笑うまーりゃんに、このみは激しく落ち込んだのだった。
さて、そんなこんなで本日の仕事も終わり。
「あの、私ちょっと、寄り道するから……」
相変わらずの申し訳なさそうな態度で、ささらがそう言った。
「む? あたしらをハブとはいい度胸だな。なに用か激白したまえ、さーりゃん」
「そ、それは……」
どこか不安げなのはいつも通りだが、少しばかり、挙動不審の影も見える。
特にまーりゃんを見る目に、その色が濃い。
「いいじゃないですか。なにか用事があるんでしょ」
「たかりゃん、物わかりのよすぎる男は、面白みがないぞ」
「はいはい。面白みなくていいですから」
「わかった。わかったから猫みたいに持つな、こそばゆい」
意外とあっさり引き下がったまーりゃんをよそに、環が代表するように、
「それじゃ、また明日ね。久寿川さん」
それを皮切りに、口々に別れの挨拶を交わして、一同は去っていった。
と、見せかけて、こっそりムーンウォークで離脱しようとするまーりゃんの首根っこを、貴明は再度ひっ捕まえて。
全館支援砲撃用意・・・・・・撃て!!!!
「なんだよぉ、気になるだろぉ」
「気になりますけど、ダメですよ」
「女の子の秘密、知りたくはないかね? 知りたかろう?」
「いかがわしい言い方をしないで下さい」
「ぶーぶー。へたれー、へたれたーかーりゃぁあ〜ーー〜ん♪」
「変な節つけないでくださいっ」
「そんじゃなさーりゃん、ばははーーい」
小さく手を振り替えしながら、遠くなっていく貴明たちの声を聞いて、ささらはほっと息をついた。
そう。できればまーりゃんには来て欲しくないのだ。
ささらは、裏山へ続く道を歩いていた。
夕暮れに染まりつつある、ほとんど誰も通らない、狭くて急な小道。
急かされるような気持ちで、ささらは足早にその勾配を昇っていたが、
それよりも、なお早いペースで、迫ってくる足音がある。
まさか、という思いで振り向いたが、しかしそこにいたのはまーりゃんではなかった。
「あれ? えぇと……久寿川さん、だよね?」
あーりゃんこと、松原葵が人好きのする笑顔で、ささらを見上げていた。
葵は息を乱した様子も見せず、ささらの横に並ぶと、不思議そうに尋ねた。
「家、こっちの方なの?」
ささらとは、まーりゃんを通じて幾度か会っているせいで、口調が気安いものになっていた。
あるいは生徒会室という特殊な空気と、お客様という立場が、幾分、葵を固めていたのだろうか。
「いえ、違いますけど……先輩は?」
「ううん。私もこっちの方にちょっと用事があって。この先に神社があるの、知ってる?」
ささらは頷いた。神社といっても、神主さえいない、小さな汚いもので、参拝する人がいるかも怪しいのだが。
「昔、私がエクストリーム同好会を始めたとき、部室どころか、練習する場所もなくって、あそこらへんで練習していたんだ」
「あの神社で?」
「うん。そこら辺の木の枝に、サンドバッグをぶら下げて。
着替える場所もないし、雨が降ったら練習できないしで、さんざんだったんだけど」
内容に反して、葵は楽しそうに、懐かしむように話す。
「去年からは練習場所は体育館の隅にもらえたし、あそこによることもなくなったんだけど、
せっかく来たんだから、久しぶりに、覗いてみようかなって。もう、なにもないんだけどね」
そんな話をするうちに、神社についた。くるりと葵は周囲を見渡す。
端々で目を留めて、目を細めて。それはきっと、夕焼けの眩しさのせいばかりでもないだろう。
なにもない。そう葵は言ったが、ここには思い出と、過ごした時間が残っていた。
ささらには見えないが、葵の姿を通して、その存在を感じることが出来る。
少し奥に分け入って、一際太い木の幹に手をついて、空を見上げる葵。
きっとそこが、サンドバッグを吊したという場所なのだろう。
たぶん、たった一人で。
そこに、誰かの姿が重なった。
「……先輩」
「うん? なに?」
「寂しくなかったですか、一人で」
誰かとは、自分自身だ。生徒会室で、一人で作業をしている自分。ある意味気楽で、とても空しい、寂しい時間。
聞いてどうなるものでもないが、聞いてみたいと思った。それは同じ立場の人を見つけて、慰めを求めているのだろうか。
だけど、葵は首を振って、
「ううん」
とても大切な物を、思い返す瞳で、
「一人じゃなかったよ。ずっと、じゃないけど」
少し遠回りな言い方に、ささらが首を傾げる。葵は神社の縁側に座り、ささらにもその横を勧めた。
「確かに初めは一人きりでね、自分だけで練習して、自分だけで活動してた。
でも、一人だけ。私の勧誘の話を、まじめに聞いてくれる先輩がいたんだ」
わずかに照れたように、葵は遠くに視線を飛ばす。
「そのうち、その先輩も、練習に参加してくれるようになった。
一緒に部活をするというよりは、私のお手伝いをしてくれるって感じだったかな。
ちょっと事情があって、私の試合も近かったし。でも、それでも嬉しかったし、楽しかった。
上手くできたときに褒めてもらえるのが、こんなに嬉しいんだって、気づかせてもらえた。
私は一人でも頑張ろうって思っていたけど、やっぱり一人よりは、誰かいてくれた方がいいよね」
今ならささらも、その気持ちが分かる。
いつの間にか貴明がいる日常に慣れて、もっとたくさんの仲間がふえて、騒がしい日々が、当たり前になっていった。
「本当はね、私もよく分かってなかったんだ。先輩がいてくれることが、どんなに貴重なのか。
分かったのは、先輩が修学旅行で一週間もいなくなったとき――。
練習にも身が入らなくって、寂しい気持ちばっかり膨らんで、もう、先輩が来ないんじゃないかってバカなことを考えて」
やっぱり同じだ。一人でいた時は気楽だったけれど、いまさら一人には戻れない。
卒業式の日、まーりゃんのために泣いてしまったように。
「だから、先輩が帰ってきたとき、そう、ひょこって、そこの階段の隅から、おみやげの人形をもって、現れたとき――」
そこで不意に、葵は顔を赤らめて、ささらの座っている床のあたりに視線を走らせて、言葉を詰まらせる。
「……先輩?」
「ううん。なんでも、なんでもないの。うん。三年も前のことだし」
「……なにがですか?」
「あの、その、だからね、えぇと……」
あたふたしていた葵は、質問を重ねられると湯気が上がりそうなほどに真っ赤になって、うつむいて固まってしまった。
なにか、あったのだろう。きっと微笑ましい、幸せななにかが。
ささらはそれ以上追及しないことにした。もう少しこのかわいらしい先輩を、いじめてみたい気分にもなるのだけど。
……そんな発想はまーりゃん先輩の影響だろうかと、脳裏によぎった不安を、ささらは首を振って追い払った。
思い出の場所から、ささらは立ち上がって、
「素敵な人だったんですね」
葵は、少しは落ち着いたが、それでもまだ十分に赤い顔を上げて、耳たぶを押さえながら、
「うん……」
と頷く。おそらく、過去形ではなく、現在進行形なのだろう。視線は遠くではなく、足元をさまよっているから。
そこまで真っ直ぐに思いを寄せられて、羨ましいと思う。
いや、その人のことだけではない。
自分は流されて生徒会に入っただけだが、この人は自分で道を切り開いた。
どこまでも素直で、純粋で、真っ直ぐで――強い。不安に揺らいだ部分は、支えてくれる人がいた。
かなわない、という思いが、また、ささらのコンプレックスを不安の槍で刺激する。
こういうマイナス思考自体が、自分のダメな原因だという自覚はあるのだけれど。
けど、不意に葵がふわりと、
「大丈夫だよ」
人生経験の差だろうか。まるで、心を読んだように、
「久寿川さんにも、あんなにたくさん友達がいるじゃない」
あなたのいるのはそういう場所だよと、暖かく告げてくれる。
「でも、私……」
それでもなお、不安を払拭できない自分が、情けなく思う。
「だめなんです。いつも不安で、信じられなくて。
そのくせ、私より上手くできる人がいたら、私なんかいらないんじゃないかって考えて。
まーりゃん先輩みたいに前向きにも、松原先輩みたいに真っ直ぐにもなれない。
ダメな子なんです、私……」
言うたびに、情けなさが募ってくる。過去に鬼の副長などと呼ばれていても、それは所詮、虚勢で作った鎧だったのだ。
こんなにちっぽけで、情けなくて、みっともない姿が、本当の自分なのに。
……なんでこんな話をしているんだろう。こんな気持ちになっているんだろう。
目の前にいるこの人が、こんなにも眩しいからだろうか。
とても、夕焼けの似合う、わずかに日焼けした肌の、優しい先輩が――小さな体で、あやすようにささらの頭を軽く抱きよせる。
「私は知っているよ」
――なにを?
「あれだけめちゃくちゃなまあちゃんが、あんなに元気に暴れられたのは、それを支えている人がいてくれたからだってこと」
葵の手は、小さいのに力強くて、その心通りに暖かい。まるで太陽をそのまま宿しているみたいに。
「私は、まあちゃんのことはよく知っているから。
あなたの活動を直接見たわけじゃないけど、きっとすごい頑張ったんだろうなって、分かるよ。
あなたはまあちゃんを頼りにしていたかもしれないけど、ほんとはまあちゃんの方が、あなたを頼りにしていたんだよ。
その期待に応えられたんだから、あなたがダメな人だなんて事、絶対にないよ」
――本当に?
無言の問いに、葵は髪を優しく撫でることで答えた。
そしてもう一つの懸念にも、
「今度は、久寿川さんが周りの人に頼ってもいいんじゃないかな」
「でも……」
「いやだった? まあちゃんの信頼に応えるの」
少し距離を作って、葵が聞いた。ささらは首を振る。すぐ目の前にある葵の顔が、だよね、と言いたげに微笑んだ。
「誰かの支えになることも、誰かに信頼を預けられることも、どっちも幸せなことだよ。迷惑だなんて、きっと思わない」
嫌われないだろうか。イヤな子だと思われないだろうか。必要ないと思われないだろうか。
いつもいつも、そんなことばかり考えていて、そう思うこと自体が、ささらの心を追いつめていた。
そんなわだかまりが、暖かい夕焼け色の癒しで溶かされていく。
そして、もう一度同じ言葉が触れてきた。
「大丈夫だよ」
開いた掌が、ささらの頬に触れた。
「今日会ったばかりの私でも分かるよ。あの生徒会室は、とても暖かくて、楽しい空間だった。
あそこにいるみんな、あなたのことが、大好きだから」
――それは、きっと一番欲しかった言葉だった。
「久寿川さん?」
ささらは葵の肩に顔を押しつけて、小刻みに震えた。
その頭に、もう一度葵は優しく手を回すと、震えを収めるように、そっと抱きしめた。
オレンジ色の空の片隅に、わずかに蒼が混じり始めていた。
こうなると、一気に夜が訪れるのは早い。
ささらが足早に、葵を先導する形で小道に分け入っていた。
「すみません。時間を食ってしまって」
「ううん、平気。こういうの、慣れっこだったから」
それにしても、思い返すとささらの頬は熱くなる。
見た目に反して、子供っぽいのもささらのコンプレックスの一つだが、あんなふうに泣きじゃくってしまうなんて。
「あの、今日のことはまーりゃん先輩には……」
「大丈夫。喋らないから」
「ありがとうございます。迷惑、かけちゃった上に、こっちの用事にもつき合ってもらって」
「先輩ですから」
得意げに胸を張る葵。さっき自分で言ったように、あんな事は迷惑でもなんでもないんだと。
ただひとつ。ささらに対して、気になることがあるといえば。
ささらは不意に、意味ありげな視線を感じた。主に胸の辺りに。
「え、なにか?」
「ううん、ちょっと羨ましいなって思っただけ」
小さくため息をつく葵。葵にもコンプレックスはある。ささらとは逆に、見た目の子供っぽさというか……幼さが。
メロンに形容される胸が直接当たる感触は、相変わらず膨らんでいない胸の持ち主からすれば、多少の羨望は抱いてしまう。
葵の言わんとすることを察して、ささらは胸を、腕で覆った。
「松原先輩……まーりゃん先輩みたいです」
「あ、それはちょっとショックかも」
2人の笑い声が、夕闇に弾けた。
「それで、久寿川さん。用事ってなんなの?」
そう、問いかけたと同時に、
「つきました」
「……池?」
というより、沼だろうか。神社の裏手に、こんな沼があったとは、葵は知らなかった。
ささらがしゃがみ込んでいる後ろから、葵も沼を覗き込む。
「あった。良かった……」
ささらがなにか、手に取った。半透明で、ぶよっとしたゼリー状で、長くて、黒豆のような物が浮かんでいる……。
「かっ……」
それは葵のコンプレックスではなく、トラウマだった。
カエルの卵。例の大会が話題にでた際に、ささらとしては、ここのカエルの卵が無事かどうかが気にかかったというわけだ。
が、葵にしてみれば、あの悪夢のような戦いの記憶を呼び覚ます、忌むべきところてんに過ぎない。
葵はたちまち五メートルほども後退した。
「先輩?」
「いや、あの、私はここから見ているだけでいいから」
ぶんぶんぶんと、なにを頼まれてもいないのに、激しく首を振る。
「かわいいのに……」
大方の人と同じ反応を返されたことに、ささらは大いに傷ついた。
そのせいだろうか。ささらは困ったふりをして、つぶやいた。
「やっぱり、こういう狭い池だと、外敵に狙われることも多いんです……」
次に続く言葉を予想して、葵の体が硬直する。
すがるような目つきが、葵に注がれた。
「先輩のお家で、飼えませんか?」
さっきの倍の速度で、葵は首を振った。
ささらはほとんどわざと、すねたような口調を作って、
「頼ってもいいって言ったのに……」
「あの、ごめんね。場合によりけり」
こらえきれず、ささらは噴き出した。
どうしよう。やっぱり、自分の方がまーりゃん先輩の影響を大きく受けているみたいだ。
すっかり暗くなった帰り道で、1メートル以内に近づこうとしない葵に、
ひそかに距離を詰めておどかしたりする自分に、そんなことを思う。
葵もそれを察してか、
「久寿川さん、それじゃまあちゃんみたいだよ……」
「それはちょっと……」
「ショック?」
「いいかもしれませんね」
楽しげに言うささらに、葵は大きくため息をついて、
「確かに迷惑だなんて思わないっていったけど……2人もまあちゃんはいらない」
ささらのくすくす笑いを聞きながら、そう、ぼやいたのだった。
久々に来てみたらまたこの流れかw
確かに物書き氏も初期に比べると謙遜が薄れて(主観だけど)、SSの出来も微妙なのも増えたけどさ。
SSの最大のいいとこって楽しめることだと思うし、
その点じゃ枯渇してたこのスレへの物書き氏の功績は大きかった。
作品も楽しめることに関しては十分よかったと思うし。
あ、シャナ始まったか。ノシ
>341
クロス乙。猫SS(「今、そこにある獲物」)の人かい?
鳩で最初にクリアした葵ちゃんがどんな娘だったか既に記憶が薄れているが、
この二人は本スレとかでも接触あったら面白いかなって意見が出てたっけな
×「今、そこにある獲物」
○「すぐ、そこにある獲物」
今そこにいる〜じゃ大地丙太郎のアニメだなw
ToHeart2AD延期キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!^
……(´;ω;`)
今年は何を楽しみに生きていこう。
イイもん読んだGJ!
1と2のクロスでこれほどの作品が読めるとは思ってなかった。
いやー、完成度高いね。
文章的には文句のつけようがないというか、かなり書き慣れてる印象を受ける。
話的にも、この長さで導入から違和感なく展開し、まとめつつオチをつけてるのが上手い。
いいSSだと思う。
突っ込むとしたら、ささらと葵の関係つか距離感ににちと疑問を覚えたってことくらいかな。
まーりゃんと葵が同級生で友人関係を結んでいるなら、それ繋がりで、ささらとはもっと
気楽な関係になっているような気がするんだよね。
このSSは、お互いに面識はありつつもキチンと話すのは初めてに近い、みたいな設定だと
思うけど、このあたりにもう一工夫あると、より完成度の高いクロスモノになったかも。
SSとは関係ないが、他に書くところもないので場所借り。
物書き修行中氏がここ見てくれてる前提で書くので色々省いて本題だけ。
あのさ、俺が思うに優季スレの714みたいなのが余計なんじゃないかなあ。
正直、あそこでもSS投下しただけだったら「SSありがとう」って感じで丸く収まるのに
誰も聞いてない身の上話まではじめるのは思いっきり蛇足でしょ。
あんま無駄な自己主張してると
>>315みたいなのも沸いてくるし、SSの内容云々より
もう少しだけ自己主張を抑えめにするのがいいんじゃないでしょうか。
とまあ、以前スレに投下してた人間が老婆心で言ってみました。
>348
SSと関係ない、他スレの、しかも「こっちを追い出されたー」みたいなレスを
わざわざこっちに紹介するのはあまり良くないと思います。老婆心まで
とまあ、それはともかくせっかくなら後でもいいからSS投下してってくれ
まともに感想もつかないスレに出て行った人が今更投下する人とは思えんがな
>>341 乙。
俺もだいたい
>>347と同じ。それに感性が近いのか心地よく読めた。
生徒会室でのやりとりで全キャラ上手く扱えてて(空気になったキャラがいない)、
多人数でも誰がしゃべっているのかがわかりやすくて凄く読みやすい。
気になる点は、話に起伏があまりないから単調な感じがするのと、導入での引き込みが弱いところかな。
白状すると、いきなりクロス入ってたから読むのやめようかなって思った。
最初のつかみの部分が良くなればもっと良くなると思う。次回作に期待してる。
>>341 るーこSSと合わせてぐっじょぶ。
俺もみんなと同じ感想。文章も話の運び方も巧いなぁと感心した。なんというか読みやすい。
るーこSS書いてくれる貴重な作家さんなのでこれからも頑張ってほしいなっておもたよ。
いや、もちろんるーこ以外のSSもねw
我楽多の人が出て行ったときは確か身の上話をSSの設定に組み込んで叩かれてたな
正直アレは「こんなことがありました。共感して慰めてください」って空気が丸出しだったから叩かれたわけだが
ま、投下しやすい2chで練習して、コテハンのしがらみで居づらくなったら
自分のHP持って出てくってのは自然な流れでもあるさ。SS作家の1ステップってとこだ
誰も読まない鬱日記を書くのが第2のステップ
第三ステップは自分のSSが他の全SSより期待されてると勘違いすること
そして末路は基地外ニートと一緒に他のSS作家を叩くようになる
はるみはすごいヤキモチ焼きでシルファに対してもヤキモチ焼く
ってG'sの記事にあったがこんなんでシルファにいって大丈夫なのか?
俺は・・・俺ははるみ以外のヒロインにいけない・・・よっぱいしたいのに!
スレ間違えたごめんw
360 :
や・ゆ・よの作者:2007/11/05(月) 21:11:52 ID:YKF0AJJW0
長らくこちらに来てませんでしたが、ずいぶんといい作品が届いてますな。
というか、よっちとちゃるの作品が僕のだけってのがなんというか……
まあそれはそれとして『や・ゆ・よトリオのタカ君大騒動』の続きのネタが全然浮かばねえ……
一応、や・ゆ・よ&HMXシリーズの続編みたいなのならこんなのあるんですが
ちゃるとイルファの長女談義
よっちとミルファの対貴明用必殺技開発
このみとシルファの甘え三昧
とりあえず、ネタ募集しようかなと思う今日この頃。
まあ、上記の三つも近々うまく書けたら掲載予定。
>360
ばかもん! まだ添い寝をしとらんだろうが添い寝を!
よっちの肉枕を書かずしてお泊まり編を終わらせる気か!
ちゃるの「どうせアタシなんか……」属性を生かさずに何の一年生トリオか!
ADはちゃるとよっちに一番期待している俺はやゆよの続きにも期待してますよ?
トランプ大戦は一時休戦。
只今河野家の戸締りを実行中であります。
玄関の扉の鍵とチェーンロック、確認完了っと。
ついでに外にある隠し鍵も回収完了。
「タカ君隊長殿! リビングの窓、鍵と安全ロックをかけたであります♪」
「玄関の扉及び窓、右に同じであります♪ センパイ隊長殿」
「一階客室、左におなじ」
全部の進入路の遮断は完了した様子。
……タマ姉がせめて、常識の範疇で行動してくれればと思いますよ。
「くしゅんっ!」
「どうした姉貴? 風邪か?」
「そうみたいね。今日はもう寝るわ」
「おーおー、そうしてくれ……くくくっ、今日はお楽しみだぜ……」
「あ、そうそう雄二、あんたの部屋の床下にあったダンボール、処分しといたからね」
「ん? 今日は良く断末魔が響くな」
「ユウ君、またタマお姉ちゃんを怒らせたのかな?」
「いや、肉体的な苦痛の響きじゃないぞこれ」
「じゃあ、エッチな本とかDVDとかを捨てられちゃったのかな?」
「多分な」
「……すごい会話」
「うん……この断末魔より、これが普通なセンパイにこのみが恐ろしいっしょ」
「さて、それじゃ客室に行くよ。布団出さないと」
「了解であります」
所変わって客室。
押し入れに入れてあった敷布団、掛け布団、枕を三人分出してセットにする。
「さてと、三人分きっかりあるね」
「うん。それじゃタカ君の部屋に持って行くであります」
「了解ッス♪」
「うん」
「じゃあ運……んじゃいかんだろ!! ダメ! いくらなんでもそれはダメ!!」
「え〜! みんなで寝た方が楽しいよ」
「そうッスよ、今日は家族のつもりで皆で川の字って感じで寝る所っしょ」
「うん。家族団欒のしめとしてはこれ以上の物はない」
……なんか俺の感覚の方がおかしいんじゃないかって思えてくるな。
食事に風呂、極めつけが一緒の部屋で寝るだなんて……余所に知られたら、三又の鬼畜と言われても文句一つ通らんぞ。
「とにかくダメ。頼むから勘弁してくれ」
「……あたしじゃ不満ですか?」
「え?」
「どうせあたしなんか……」
「ああ、いやいやそう言う意味じゃないよ!」
「……」
思いっきり泣き脅しだよこれ……
後ろではこのみは泣きそうな顔だし、チエちゃんもなんか寂しそうな視線で俺を見てるし……
年下の女の子に手玉どころか、バレーボールだよこれじゃあ……
「はい、スリーカードであります」
「ごめんこのみ、フルハウスだ」
「甘いっしょちゃる、ストレートフラッシュッス♪」
「……ツーペア」
結局泣き脅しに勝てず、現在俺の部屋で布団並べてトランプ真っ最中。
……これはヘタな真似したら、末代までの汚点になるな。
いやいや、別に一緒の布団で寝る訳じゃないんだ!
別に寝相が悪い訳じゃないし、気が付いたら……なんて不可能だ
「センパイ、何か暗いッスよ?」
「そう言えば、そろそろ3時だ。眠くなって当然だと思う」
「そうだね、ふぁ〜っ……このみも眠たくなってきちゃった」
……おーい、ちょっとは躊躇ってくれ頼むから。
俺が変みたいじゃないか。
それから一時間後。
「ん〜……ふにゅ〜……」
おいこのみ、服の中に潜り込むな! つーか胸板に顔を押し付けるんじゃない!!
「くぅっ……くぅっ……」
だーっ! チエちゃんそんなにひっつかないで! 柔らかな感触が当たってます!!
「すぅっ……すぅっ……」
ちょっ、ミチルちゃんも近い近い! ああ……そんな、頬擦りなんてダメだよ!!
このみは俺の上で、ミチルちゃんは左側、チエちゃんは右側からひっついているという抱き枕状態。
なぜこんな状況かと言うと、先程の賭けトランプの続きで何故か神様に見放されたかのような引きの悪さが災いして、結局俺のベッドの布団をおろして眠る事になってしまったからである。
何というか、核ミサイル1000発を一度にぶち込まれてるレベルですよこれは!!
ううっ……ダメだ!! ……でもちょっと位なら……って違う! 煩悩退散煩悩退散!!
「天魔外道皆仏性四魔三障成道来魔界仏界同如理一相平等……」
以前法事か何かで聞いたうろ覚えのお経を唱えながら、夜をすごす俺であった。
あー……夜は長い、長すぎるぞこのヤロウ。
チュンチュンッ……
「……やっと朝か」
相も変わらず、このみは俺の服に潜り込んで胸板に顔を埋めた状態。
腕にしがみついてるチエちゃんに、首に手を廻して俺の頬に頬を当ててるミチルちゃん。
結局、疲労がピークを迎えて緊張の糸も意味をなさなくなり、俺は静かに着水する様に意識を手放し睡眠へといざなわれた。
『添い寝』というキーワードで脳に神キター!! って感じで短いですが書きました。
とりあえず次のアイディアもなし崩し的に浮かんだので、仕事が終わり次第執筆予定。
書いててこんなことあったらな〜って個人的願望もありますが
よっちちゃる、そしてはるみにシルファのストーリー早く来いって感じです
乙
長い夜なのに短いよ
>366
GJ。服の中に潜り込むこのみは猫っぽくてツボだ
シチュはすばらひいので全体的にもっと詳しい詳細を描写して書いてくれー!
詳しい・・・しょう・・・さい・・・?
頭痛が痛い 見たいな感じかな
もっと詳しい詳細を描写して書いてくれー!
↓
もっと細部を詳しく描写してくれー!
こんな感じかな
超先生か・・・何もかもが懐かしい・・・
最萌ではテンプレにまで採用された、伝統の言い回しなのにな……
375 :
物書き修行中:2007/11/07(水) 20:30:26 ID:73ZoMJp80
とりあえず騒ぎが収まったようなので…
前回書き込み時はまず自分が引っ込んで騒ぎを早々に収めるのが肝要かと判断して
要点のみ書き込んだきりだったので、遅ればせながらまず、
>>300-305 各氏のレスには感謝を。
確かに自分の楽しさに任せて書いたものを投稿していた感は否めないので、今後は執筆工程?を
見直してみたいと思っています。
ただ、書く速度を落とすと途中でテンションが維持できなくなるので、一旦書いてからストックして、
しばらくあとで見直していくことにしようと思っています。
今までも書き終えてから1〜2日間を置いてから見直ししていたのですが、まだ客観的な視点での
推敲が出来ていないな、ということで、書いた当初の気分が醒めたころあいでの推敲に切り替えようと
思います。
それからコテについては、しばらくは「修行中」の看板はかけたままでいるつもりでしたが、
それが荒れる元になるのは本意ではないので、今後は名無しか「〜の中の人」とでも書くことにします。
>>348 「SSスレじゃないから、これ書庫に保管されないんだよね」というレスに「訳あって投稿しなかった」と
答えただけで特別な意図もなく、文句を言った訳でもなかったのですが…
今後は自重します。
最後に、色々お騒がせしたことをお詫びします。<(_ _)>
>>366 乙です
なんとなく飼い主のベッドにもぐりこんで寝る3匹の猫が頭に浮かんでしまいました…
>375
お疲れ。こういう時は黙ってコッソリ戻ってくるのが良いんだが、なんにせよ頑張れや
「どう書く(書いた)か」なんて言い訳程度の話だから宣言する必要も縛られる必要もないし、
外野の言は参考程度に聞き流して、あまり悩まず好きなように書きなされ
SSスレも丸くなったもんだ。
日本語が読めないわけではなさそうだから、理解力が足りてないんだろう。
すまん誤爆。
本当に誤爆か、オイwww
俺の場合、逆に書く前にさんざん時間掛けて、頭の中で転がして、
書きながらも戻って直して書いて戻ってを繰り返しつつ、
最後の方は一気に書き上げて、推敲一回軽く流して、即投稿というのがパターンだなぁ。
その、一気に書き上げるというプロセスの前に、没にされるものも多いが。
やっぱりちゃんとネタは練りこまなきゃダメか……
その場の勢いだけのはさすがにNGでしたね、反省。
というわけで、現在お泊り編のエピローグと同時に(8)の生中継をただいま制作中。
まあ、5、6話のような感覚で書いてみましょうかね
しかし今回のものが問題になって、テンプレそのものだった
河野家がほとんどマンセーばっかだったのは一体・・・
>>384 あれはサザエさんみたいなものだった(褒め言葉だよ)
>384
あれは水戸黄門(以下同文
といいつつ、途中マンネリを叩かれたことも何度かあったと記憶しているが、
あのノリの良さで2年間ほぼ毎週投下という偉業を成し遂げればこその評価だろう
学食の続きを待ち望んでいる俺が通りますよ
書庫さんだいぶん更新ないけど大丈夫でつか?
しょこしょこ大丈夫
しょーこーしょーこーしょこしょこしょーこー
紺野か
欝厠だろ。
冬の海。
夜明け前後の薄闇の中、玲於奈が砂浜を歩いていた。
「……寒い」
肩を抱いて身を震わせる。トレーナーにジャンパーで防寒はしているものの、冬の潮風は染み通って。
「私は、なにをやっているのでしょうか?」
まだ暗い時間、当てもなく家を飛び出し、遠くに行こうと乗った始発電車。
知っている一番遠い駅名がアナウンスされると、急に心細くなって降りてしまった。
そこは、夏に訪れた海沿いの街。
(誰も、いらっしゃいませんね)
早朝マラソンにも少し早い時間。人影は見あたらない。
(私は、どうしたらいいんでしょう?)
自問するのは、この場所に来てからでも二度目や三度目ではない。
「……雄二さん」
ぽつりと呟いたその時、びゅうっと強い風が吹き付けた。
「きゃっ」
舞い上がった砂嵐に襲われて、玲於奈はその場にしゃがみ込む。
ばちばちと身体にぶつかる粗い粒。襟元を押さえても、髪は砂だらけ。
「まったく、もうっ。……あら?」
泣きそうな気持ちで目を開けた時、眼前の砂浜に突き挿さった異物を見つける。
「箱? あっ!」
包装紙に覆われた小箱には「○×海岸カラオケ大会 副賞」ののし紙。
夏に皆で此処で遊んだ時、玲於奈が獲得して、どこかに放りやった景品。
砂に埋もれ、拾われも流されもせず、再び日の目を見た所に玲於奈が通りかかった。
世のなかには、偶然というものがある。
ただ、それを拾い上げた玲於奈は、
「……決めましたわ」
それに何かを感じて、ぼんやり来た道を、真っ直ぐに戻っていった。
駅前通りを行き交う車の騒音。
信号が変わる度に、交差点に吐き出される人の波。
クリスマスイブを控えた街は、この冬一番の混雑に埋もれていた。
その雑踏の中で、立ち尽くす雄二。
決して低くない背を気持ち伸ばして、無数の人影のなかに想い人を探す。
玲於奈は来ない。
「さっき、玲於奈の家の方から連絡があってね」
少年は、姉との会話を頭の中で反芻する。
「朝、部屋を覗いたら居なくて、書き置きがあって、それで、九条の方に来てないかって」
環の声は、落ち着いてはいたが不安を隠せない。
「薫子とカスミにも聞いてみたけど、会ってないみたいで、二人とも心配してるわ」
それはそうだろう。雄二は同意しようとしたが、頷いただけで言葉が出なかった。
「学校の方でなにか変わったこと、なかった?」
「いや……警察には?」
「捜索願いは出してあるけど、本気で探しては貰えないでしょうね」
誘拐の疑いが強まればともかく、家出少女に真面目に構うほど警察はヒマではない。
「わかった。俺も探してみる」
「当てがあるの? そっちの学校の友達とか、分かる?」
「俺さ、今日、アイツと遊びに行く約束してたんだ」
「えっ?」
雄二は、迷ったが、事の軽重を間違えていい場面ではない。
自分と玲於奈が付き合っていることを、短く告げた。
「あら、中途半端で終わっていたと思ったら、ちゃんとくっついたのね?」
感心したような声色の環は、多少の余裕を取り戻しているだろうか。
「だから、関係あるか分からないけど、駅で待ち合わせだったし、行ってみる」
「そうね。私も薫子と出るわ。連絡は、寮にカスミが残るからそっちか、学校の携帯を借りていくから。番号言うわよ」
言われるままに数字をメモした雄二の字は、心なしか揺れた。
「向坂くん?」
「おおうっ!?」
突然近距離から声が掛けられて、雄二は飛び上がる。
遠目ばかり気にしていた彼の目の前に、2−Aのクラス委員長が立っていた。
「なにぼーっとしてんだ?」
その隣に並ぶ、見飽きたほど見知った顔、河野貴明。
「なんだ、お前らか」
「ご挨拶だね。オプション待ち? にしては待ち時間が長くない?」
「いつから見てたんだよ」
「さ、さっき通りかかって、あっ、お邪魔だと思ってですね、声かけなかったんですけど」
愛佳が言い訳臭く説明。
「でも、お茶して戻ってきたらまだぼーっとしてますから、どうしたのかなーって思って」
二人の表情は、口調ほど軽くない。
事情は知らないながらも、雄二の様子がおかしいことは察しているようだ。
「いや、ちょっと……」
言い淀んだ雄二。
玲於奈の家族に無断で話を広げて良いものか、また、話せば二人にも迷惑がかかる。
けど。
「こーさかくんっ」
じーっ。
愛佳は、両拳を握りしめて委員ちょモード。
貴明も、真剣な顔。
雄二は、真面目な友人達に感謝すると、状況を説明した。
「い、いっ、家っ!?」
「出えええええ?」
「……遊んでんのかお前ら」
少し後悔した。
支援
が、挙動はともかく、愛佳の行動は迅速だった。
「九条院の方には連絡されたみたいですけど、こっちの友達には?」
「してないと思う。俺も電話番号知らねえし。わかるか?」
「二人くらい。由真はアテにならないけど、ツテを辿れば、たぶん」
手帳を取り出す愛佳。
「えーっと、2−A、2−Aで、窓際グループの、玲於奈さんと知り合い……」
「相変わらず人別帳みたいだね」
貴明は、この物体の記載内容を見たことがあった。
「うぅぅ茶化さないでぇ〜! あった」
愛佳が手帳に付箋を挟んで、三人は電話ボックスに歩く。
「あぅ。テレカが切れてる」
「ほれ」
定期入れを引っ繰り返した少女に、雄二が自分のを差し出した。
緒方理奈の、レア物。
貴明は何度も自慢された事がある、中学生時代からの雄二のお護り代わり。
「売店で買ってくるよ、俺」
携帯電話が普及し始めたとはいえ、まだまだ公衆電話の存在意義は失われていない御時世。
「いや、いい」
お護りは、願を掛けてこそ意味がある。
「ん」
小さく笑って、愛佳は受け取った。
プルルルルル。
「ボックスに男二人と女一人ってヤバくね?」
「たかあきくんは外に出てて、ってあっ、もしもし、小牧だけど」
玲於奈と同じグループにいる知り合いから、他のメンバーの電話番号を聞き出して連絡してゆく。
「……だから、もしそっちに行ったら連絡くださいね」
「うん。大丈夫、かくまったりしないって。小牧さんならともかく玲於奈でしょ? 家出なんて無茶無茶」
玲於奈の性格と性能は、彼女らにも理解されているようだった。
かちゃり。
「ふうっ」
受話器を置いて、愛佳が溜息く。
「お疲れ」
「サンキュな」
「んっと。クラスの、付き合いのある子にはだいたい連絡ついたと思う」
玲於奈が訪問することがあれば、連絡をくれるように伝えたと愛佳。
「連絡先って俺の家か? それじゃ空けられねえな」
「探しに出たいよね。俺が留守番してようか?」
「でも、そうすると向坂君と連絡が取れな……あっ!」
愛佳が手を叩く。
「郁乃が携帯持ってる。最近買ったの」
35分後。向坂家前。
「遅い」
門の前でふてくされていた郁乃は、開口一番雄二を責めた。
「お前が早えんだよ。駅からだから時間かかるって言ったろ」
「この子が待つわけないでしょ」
アゴでしゃくった先には、門扉によりかかって半分寝ているこのみ。
緊急連絡用に家から携帯電話を持たされている妹の方の小牧は、
昨夜は柚原家で女の子二人のお泊まり会だったそうだ。
「とにかく、中に入れて、寒いんだから」
「ああ」
がちゃり、鍵を回す。
ぐい。がこん。
「なにやってんの?」
「あれ? 開いてたか」
気が動転して出てきたせいか、閉め忘れたらしい。
「……入ってりゃ良かったわ。ほら、このみ」
「ふぁあい」
「お、お邪魔しまーす」
愛佳が雄二の家に来るのは初めて。おそるおそる敷居をまたぐ。
「寒いな。このみー、ストーブ点けてー」
「うん。ユウくん冷蔵庫のジュース出すよー」
「エアコンないのね。このみ、それ、賞味期限だいじょうぶ?」
勝手知ったる貴明と、同じく慣れっこなこのみと、初めてだけど泰然自若の郁乃。
トイレを借りた愛佳が客間に現れた時には、お茶の用意が出来ていた。
「ほら、昼飯買ってきたから」
「あっ、後でおかーさんがなんか持ってきてくれるって言ってたよ」
「このみが寝坊するから、朝食べ損ねた」
貴明は無論、このみと郁乃も事情は既に知っているが、慌てた様子はない。
まだ今朝の事で書き置きもあるし、客観的には楽観的に構えていい状況だろう。
「ったく。人の気も知らねぇで」
毒づく雄二も、友人達の落ち着きに救われるのを自覚する。
「とりあえず姉貴に電話するわ、俺」
「あっ、じゃあこっちの番号教えた方がいいね。えっと、郁乃?」
「はい。電池ある、けど、一応充電器」
「ありがと」
「……あっ、ええと……薫子か? ああ、雄二だけど、久しぶり」
雄二がメモしていた番号に掛けると、向こうの携帯に出たのは薫子のようだ。
「ああ……こっちもダメだった……うん、そうか、あっ、いや、替わらな……ぐ」
環に交替した模様。
「いや、えっとさ、こっちも小牧に携帯借りたから。ああ、駅でさ……番号言うぞ」
「あっ、えとえと、ちょっと待って番号表示番号表示」
聞き耳立ててた愛佳が慌てて携帯電話のボタンをいじくる。
「覚えてるでしょ? ぜろきゅーぜろ、ぜろななにぃ……」
暗記もメモもしているのに液晶とにらめっこする姉に呆れて、郁乃がフォローした。
あらよっと
「こっちは、カスミに留守番してもらうから」
「俺も午後また出るから、連絡はさっきの番号にくれ」
環と雄二、会話の続き。
「そう? 万一があるから、一人で出るのは感心しないわね」
「誰かと行けって?」
「あっ、このみが一緒に探すっ!」
雄二を挟んで、愛佳の反対側で話を聞いていた少女が元気な声を挙げる。
「あら? このみもそこにいるの?」
「うんっ。ユウ君のことはこのみにおまかせなのでありますよ」
力こぶを作る少女。雄二はついつい苦笑い。
「俺達も手分けするよ。適当なとこで連絡入れるね」
貴明が申し出て、うんうんと愛佳も頷く。
「だけど、もしかしたら玲於奈がそっちに連絡するかも知れないわね」
「ああ、学校の友達にも俺んちに貰うように頼んだ。妹、留守番頼んでいいんだよな?」
「あたしは妹なんて名前じゃないけど。別に構わないわよ、知らない人でもないし」
水族館にも一緒に行ったが、玲於奈は小牧邸にお邪魔した事もあった筈だ。
「みんな頼もしいわね。私からもありがとうって伝えておいて」
「分かってる。それじゃ」
気を付けて、なんて言葉は環に限って不要だろう。雄二は電話を切った。
「うし、じゃあそういう事で、電話貸りてくぞ」
「このみが一緒なら、このみが持ってなさいよ」
愛佳から雄二に渡りかけた携帯は、郁乃の言葉でこのみに携帯者変更。
「ま、間違い電話とか来たら?」
「間違いじゃなくて他の用件でしょ。このみが知らない相手だったら切っていいわ」
このみと郁乃の会話で、雄二もはたと気付く。
「あのな、小牧妹、留守番中に、関係ない電話が来てもだな、」
「致命傷には、ならない程度にしといてあげる」
郁乃は人の悪い笑みを浮かべたが、口調で冗談であることも示していた。
間もなく春夏が差し入れてきた昼食をかっこんで、雄二達は再び玲於奈を探しに出た。
雄二とこのみは街へ、貴明と愛佳は、学校の方を中心に。
「すっかり寒くなったねぇ」
「そうだな」
バス停に向かって歩きながら、このみが自分の手に息を吐く。
少し大きめなクリーム色のダッフルコートは、何年も前から「少し大きめ」だったような気もする。
「なんだか久しぶりだね、ユウくんと一緒に歩くのは」
「そうか?」
「そうだよ。最近ユウくんは……」
ピリリリリ。ピリリリリ。
「わわっ、な、なんの音っ?」
このみが飛び上がる。雄二も驚いたが、すぐに音源が少女自身である事に気付く。
「電話電話っ。鳴ってるぜっ」
「あわわわわわぁっ」
慌ててコートのトグルを外そうとする少女。
「どこに入れたんだよ」
「む、胸ぽっけっ、とっ、とれなっ」
鳴り続ける電子音に、このみは焦ってしまう。胸元がなかなか開かない。
「うー、うりゃあっ!」
面倒とばかり裾からコートを捲り上げると、今日はキュロットではないデニムのジャンパースカートまで一緒に。
「こらこら待てっ!」
雄二は大至急で手を伸ばし、幼馴染みのスカートの裾を引き下げて内容物を自分と通行人の視線から救った。
ピッ。
「は、はい、このみ、……じゃなくて、小牧……じゃなくて、ええっと、なんて言ったらいいのかなユウくん?」
「俺に聞くなよ」
ぼやいた雄二だが、電話機を耳に当てたこのみは、暫くして首を傾げる。
「どうした?」
「うん、なんかね、しーんとしてるの」
「無言電話か? ちょっと代われ」
このみから携帯を受け取った雄二は、位置をちょっと迷ってから耳に当てる。
「もしもし、誰です?」
「……」
返答はない。ただ、電話機の向こうで息をつく気配。
「イタ電なら切るぞ。こっちゃ忙しいんだ」
「……待って……さい」
か細い声。聞き覚えのない。いや、どこかで聞いた。
状況と記憶から、雄二は発話者を推測する。
「……カスミか? もしかして」
(コクコク……。)
「いや、頷かれてもわかんねーから」
「……はい、私です」
今度はさっきよりもはっきりした声で、カスミが言葉を喋った。
「誰ですか、今の?」
険がある。女の子が出たことに不審を持ったようだ。
「このみ、ってほら、春に姉貴と貴明と俺とメシ食ってた子」
(ポム……。)
受話器の奥で手を叩いた音がした。
「それで、どうした? なにかあったか?」
「いえ」
少し間が空く。基本的に喋るのが苦手なのだろう。
「……部屋に、直通の、親子電話を借りましたから、番号を」
朝に環に言われた連絡先は、寮の電話だった。
「そうか、サンキュ」
着信入ってるから番号まで言わなくていいぜ、と補足。
「こっちの携帯は多分このみが出るから、次は名乗ってくれ、じゃな」
「あ……待って」
「なんだ?」
「……玲於奈、たぶんそっちだと思うから、お願いします」
ピ。
「誰だったの?」
「九条院の寮にいる子、髪の黒い、このみも会ったことあんだろ」
「うーんと、かおるこさんだっけ?」
「それは長髪のヤツ。今のはカスミ。ほれ……っとぉ?」
ピリリリリ。
携帯が雄二の手から離れる前に、二度目の呼び出し。
通話ボタンを押してから、郁乃の顔が浮かんで電話をこのみに押しつける。
「えっ、えとえと、もしもし? あっ、う、うん。そうだです。い、いま代わるです」
どもりながら応答した少女は、すぐに電話を耳から話した。
「ユウくん、えっと、“かおるこ”さん」
「なんだよ立て続けに。あー、俺だけど?」
「薫子です。すみません。情報があったわけではないのですが」
「こっちもだ。ってか今、探しに出たとこ」
「そうですか。カスミが直通電話を借りたのでそのご連絡を」
「知ってる。さっきあっちから電話来た」
「そうですか?」
薫子は少し驚いた様子。
「珍しいですね。カスミが自分から電話を掛けるなんて」
「今後は名乗るように指導してくれ、無言電話かと思った。いや、無言電話だった」
雄二の苦情に、スピーカーからクスリと笑い声。
「用件はそれだけですけど、その、雄二さん?」
「あ?」
「今回は根拠がないんですけど、玲於奈は、雄二さんの側に行くと思います」
今回は、の前回とは、九条院からの転校騒ぎの時だろう。
あのとき薫子は、玲於奈の転校先を知っていて雄二に教えなかった。
「だから、繰り返しになりますが、玲於奈のこと、よろしくお願いします」
「カスミにも同じ事を言われたぜ」
「そう、なんですか? それで電話したんですね、カスミ」
「ったく。お前らの勘なら、当たりそうだな」
学校では半年足らずの付き合いだったが、三人の友情は雄二にも見えていた。
「玲於奈が何考えてるか俺には判らねぇが、なんであれできることはやるよ」
雄二が約束して、薫子は受話器に小さく頭を下げた。
「なんの電話?」
「寮の方の番号変わったからってのと、アイツの事は俺がなんとかしろってさ」
「責任重大だねえユウくん」
電話をコートの内ポケットにしまい込みながら、このみが微笑む。
「なんだか最近のユウくん、すごくカッコいいのでありますよ」
「最近って、これまではどう思ってたんだよ」
「うーんとねー」
人差し指を頬にあてて頭の中から言葉を探している幼馴染み。
「いや、いい。聞きたくねえ」
どんな言葉を引っ張り出してくるのか知らないが、ロクなものではない気がした。
「あーあ、でも、うーん」
伸びをしながら、このみがらしくない顔で空を仰ぐ。
「ユウくんも、ずいぶん遠くにいっちゃった気がするなあ。もしかしてタカくんよりも」
その言葉に、どきりとする雄二。
「そんな事はねーだろ」
反論はしたものの、このみとは水族館以来遊びにも食事にも行ってない。
貴明とは、郁乃と愛佳を経由した繋がりもあるのだろう。
いずれ貴明にしろ雄二にしろ、このみに対する感情は全く変わっていないのだが、
友情も愛情も、持っているだけで伝わるものでもない。
「せっかくタマお姉ちゃんが帰ってきたと思ったら、みんないなくなっちゃった」
少しわがままな独り言を肯定も否定もせず、雄二は幼馴染みの頭を撫でた。
「えへ」
このみは、いつもより照れくさそうに笑った。
支援
同じ時間帯、四方で玲於奈捜索の輪は広がっている。
その一方、九条院。
「今回って?」
雄二に電話していたらしい薫子に、環が尋ねる。
「雄二さんが、九条院にいらした時の事です」
いったん足を止めて、薫子は事情を簡単に説明した。
「そうだったの。あれにそんな根性があったとはね」
環は感心した模様。
「でも玲於奈もちょっと頼りない子だから、雄二とじゃ心配ねえ」
今回に限らず、と腕を組んだ環に、後輩から反論があった。
「雄二様は、頼りがいのある方だと思います」
「そう?」
「はい」
先輩は首を傾げたが、薫子はお世辞のつもりはないようだ。
「あの子たちも、成長しているってことかしら」
この春、久しぶりに会った貴明が立派な男性になりつつあったように、
雄二も、いつまでも出来の悪い弟ではないのかもしれない。
嬉しい反面、少し寂しくも。
「といって、面倒見てたというほど世話もしてないか」
気には掛けていても、ずっと九条に居た自分である。
「じゃ、行きましょうか。あなたの勘が正しければ、向こうの健闘を祈るだけだけど」
「祈るのは、カスミがやってくれてると思いますよ」
薫子が頷いて、二人は肩を並べて前を向いた。
次方、九条院女子寮。
(ナムナム……。)
薫子とカスミ、寮内唯一の二人部屋では、昼間なのにカーテンが引かれ、
机の上にローソクを立てた黒髪の少女が、何かに手を合わせて祈っている。
「カスミさん。昼食はよろしいので……す……か? あ、あら、失礼」
様子を見に来た寮当番の教師が扉を開けたが、絶句してそのまま閉めなおした。
三方目、時間的には少し経って、貴明と愛佳は、学校付近を探索中。
「校舎の中ってことは、ないと思うけどなあ」
「あ、でも2年くらい前のゲームで、家出した恋人同士が生徒会室でってのが」
「まだ先生は出てきてるだろ?」
一応職員室に顔を出してから−玲於奈の家から連絡を受けたらしい担任と教頭も出勤していた−
学校の敷地をぐるっと回って、裏手の神社まで。
とても静か。
「玲於奈さーん、いるなら出てきてくださーい」
思わず声をかけてみたりして。
「猫じゃないんだから、やめなよ」
「そういうたかあきくんは、どうして軒下を覗いているんですか?」
「いや、なんとなくイメージが、最近変わってさ」
「あるよねぇ、元気な人なのに」
膝抱えてうずくまってる少女の図が脳裏に浮かんで、勝手に同情する二人であった。
最後、四方目、その頃の向坂邸。
「ぽりぽり」
米せんべいを囓りながらヒマそうな郁乃。
状況的にイタズラする気は起きないし、といって緊張を保つ必要もない役回り。
捜索隊に加われない自分の足も恨めしくは思えど、心の切り換えは得意技。
「……くぅ」
午後の陽気に、ついつい眠気を誘われたあたり。
ガタン。
「へ?」
音は上方から聞こえてきた、頭を戻して天井を見上げる。
しーん。
「……ネズミ?」
独り言に、回答がある由もなかった。
雄二とこのみ、貴明と愛佳、環と薫子。
楽観している向きが多かったとはいえ、それぞれの探索は真剣なものだったが、
午後一杯の三組の努力にも関わらず、玲於奈は見つからなかった。
「明日も探すからねっ、絶対見つけるからねっ!」
腕を振り回して慰めてくれた幼馴染みを送って、雄二は自分の家に戻る。
玄関には、靴が三足。
「あっ、おかえりなさい向坂くん」
先に戻っていた愛佳が、わざわざ廊下に顔を出した。
「お疲れさん」
茶の間では、貴明の声と郁乃の視線が出迎える。
「悪いな、遅くなった」
「晩飯、先に食べてたから」
テーブルには、春夏が持ってきたらしい、かなりの量のオードブル。
「後でお礼に行かないといけねえな。妹も、留守番サンキュ」
「座ってただけよ。あとお米炊いた。このみは?」
「直で家に帰した。眠そうだったしな」
外はとうに暗い時間。
三人の顔にも、疲労が見える。
「お前らも、もういいぜ。姉貴と薫子が今夜中にこっち来るって言ってたし」
「あ、そうなんだ」
「向坂先輩が来るまで待ってる?」
「うーん、いや、今日は帰ろう」
貴明は少し迷ったようだが、小牧姉妹を巻き添えにするのを避けた。
「また明日、朝から来るからさ」
「だいじょうぶ。きっと見つかるよ」
「今夜一晩過ごしたら、へばって出てくるでしょ」
異口異音でも、心は一緒。
「ありがとよ」
雄二は改めて、優しい友人達に感謝した。
「ふうっ」
貴明達が去って、静かになった居間で溜息をつく雄二。
「少し食うか。ってすげーな春夏さん」
半日で良くぞここまで、と思うような品数と量が並ぶ食卓。
「あ、姉貴達の分もあるな。連絡しとくか」
受話器を取りかけて、帰路で電話を入れた時の二人の声を思い出す。
「……そう、お疲れ様」
「明日は、私達もそちらを探しますから、今晩はそちらへ泊めてください」
滅多に聞けない憮然とした環の声と、不安を抑えた様子の薫子。
(みんなに心配かけて、どこにいるんだよ、一体)
「玲於奈は、知らない場所に一人で行く子ではないと思います」
薫子の見解は、雄二も首肯できる。
(行き場所なくて、そこらをウロウロしてそうだよな)
だが、彼女が知っていそうな場所は、殆ど探して回ったつもり。
九条院は環と薫子、学園の方は愛佳と貴明。
そして雄二とこのみが、午後中探し回った街並み。
駅前、喫茶店、映画館、遊園地、水族館。
思えばわずか八ヶ月で、玲於奈とは色々な場所を巡った。
往路復路のバス通り。公園。川辺。並木道。
家の前で少女達と出会った日が、ずいぶん昔に思える。
怒った顔。笑った顔。
喜怒哀楽の賑やかな娘は、今、どこにいても、泣いているような気がして。
「……っきしょうめ」
腹立たしげに呟いた、その時。
ガタンと、天井で大きな音がした。
「なんだあ?」
素っ頓狂な声を挙げる雄二。
向坂家の屋根裏には、祖父母が使っていた調度品をはじめ、
柄ばかり立派で役にも立たない−と、雄二は思う−家具類が眠っている。
(そういや、小牧妹がなんか鳴ったって言ってたな)
何かの拍子に、積み方が悪かったものが崩れたのかも知れない。
「こんな時に」
ぼやきながらも、雄二は様子を見に行くことにした。
家の隅にある梯子から久方ぶりに上った屋根裏部屋は、以前にも増して埃っぽい。
おまけに真っ暗。
「電気、どこだっけな」
近くの柱を手探りで、スイッチを入れると、裸電球の小さな灯りが。
「ひゃっ?」
点くと同時に、小さな悲鳴が。
聞こえた直後。
ガタ、ガタガタガタタタタタどしゃーん。
まるで天井が抜けそうな音がした。
「な、なんだこりゃ?」
さっきよりも3倍くらい慌てて、雄二が崩れた山に駆け寄る。
崩れたのは、本棚とか、化粧箪笥とか、中物クラスが積んであったらしい箇所。
バラバラと散らばった物品に混じって。
「……」
絶句する雄二の見下ろす先に。
「イタタッ、っ、ごほけほっ」
薄明かりでもはっきり分かるくらい埃まみれになって。
「けほけほっ、あ、あはは、ゆ、雄二さん。お久しぶりです」
床に突っ伏した状態から辛うじて顔だけ上げながら、誤魔化し笑いを浮かべる玲於奈がいた。
「す、すごく物の多い屋根裏ですわね、ここ」
よたよたと身を起こした少女は、板間に女の子座りして周囲を見上げる。
へたっ。
雄二は力が抜けたように、少女の前に座りこむ。
「ちょっと隠れているつもりが、何かに挟まって身動きが取れなくなりまして……」
玲於奈の説明もごく部分的な代物だったが、そもそも雄二の耳には入らない。
「あ、あの、雄二さん、大丈夫ですか?」
ぼーっと自分を見つめる少年に、アクションに窮する少女。
「え、ええっと、その、何から話したらいいか……きゃ?」
がば。
唐突に、彼女の言葉を全て遮って、雄二は玲於奈を抱き寄せた。
「あ、え? う……ん……」
突然の抱擁に混乱した少女はしかし、すぐに彼の腕に収まって大人しくなる。
「……すみません、でした」
雄二の胸で呟く謝罪。
「……」
すっ。
それを聞いて、雄二がまた不意に少女を離す。
「は、はい?」
戸惑う少女を、まだどこかきょとんとした顔で見つめた少年は。
やがてその表情を消して。
すうっ。
息を吸って。一瞬止めて。
「馬鹿野郎ーーーーーーーーーーーーっっ!」
今度は屋根の方が落っこちそうな怒鳴り声。
「い、いきなり怒鳴らな……」
身を縮めて涙目で反論しかかった玲於奈の声は、雄二の厳しい眼差しに途中でフェードアウト。
「ご、ごめんなさい……」
両手を割座の太股に挟んで小さくなったまま、上目遣いに説教の続きを待つ少女。
「お前、なぁ」
が、雄二からも次の言葉は出てこない。
ぐぅーきゅるるるぅ。
黙った二人の代わりに、まず玲於奈のお腹が鳴った。
「あ……」
暗いので顔色は判らないが、恥ずかしそうに下を向く玲於奈。
「はぁっ」
雄二は大きく溜息をついて、
「ほれ、来いっ。下に、このみの母さんがメシ持ってきてくれたから」
「あっ、いえ、その」
「いいから来い」
玲於奈の腕を取って、膝の間から引っこ抜く。
彼氏の強引さに引きずられるようにして、少女は居間に降りた。
電灯の下で見ると、玲於奈の顔は寒さと空腹で青白い。
雄二はストーブの火力を上げると、玲於奈にご飯をよそう。
少女は何度か何かを言い掛けたが、食べ終わるまで何も喋らせて貰えなかった。
「それで、だな」
彼女が箸を置いて頭を下げたのを見届けて、雄二が口を開く。
いろいろと聞きたい事はあるのだが。
「とりあえず、なんで家出なんかしたんだ?」
「ああっ、そ、そうでした! ゆ、ゆ、雄二さんっ!」
「はい?」
途中から大人しく食事に専念していた玲於奈の、いきなりな剣幕に驚いた雄二は、次の言葉にもっと驚く。
「わ、私と、か、駆け落ちしてくださいっ!」
「ところで、どうして家出なんかしたんです? 何かあったのですか?」
雄二が恋人を発見したのと、ほぼ同時刻。
薫子は親友の母親に、今日の結果と明日の予定を報告していた。
「ほんとにもう、ごめんなさいね」
恐縮する玲於奈の母に、薫子は思い当たるふしを尋ねたのだが。
「それがね……」
昨夜。
「お風呂いただきました。お休みなさいませ」
「なんだか浮かれてるわねえ」
茶の間に顔を出して就寝の挨拶をした玲於奈に、母親が声を掛ける。
「そう、かしら?」
言葉と裏腹、愛娘はふふっとあからさまに上機嫌。
「あっ、そうだ、玲於奈、ちょっと座れ」
そのまま去ろうとした少女を、新聞を読んでいたのか眺めていたのか不明な父が呼び止めた。
「なんでしょう?」
座布団を敷くまでもないと畳に直座り。
「いや、あー、実はな、うちにお見合いの話が来てな、いーい話なんだがこれが」
「……そうしたら急に感情的になって、最後は部屋に閉じこもってしまって……」
「朝覗いたらもぬけの空、というわけですか」
「お父さんの言い方も悪かったとは思うんだけど……」
説明を聞くうちに、薫子はなんとも言えない表情になっていく。
「……薫子ちゃんには、いつも迷惑ばかり掛けて悪いわねえ、馬鹿な娘で」
事情を話し終えた玲於奈の母は、受話器の向こうで手を合わせていそう。
「迷惑だとも思いませんし、悪くもありませんけれど」
事情を聞き終えた薫子は、携帯電話を耳に当て、空いている手を腰に当て。
「それは本当に、馬鹿ですねえ」
深々と嘆息した。
支援砲撃、てーっ!!
以上です。支援ありがとうございました。おかげで間隔短めで投下できました。
今回、普段にも増して会話ばかりになってしまい、思わず題名変更。
なんにせよ、次回最終話(今度こそ)「Sound of Destiney」(+エピローグ)、です。
前回の引きから続きが気になってた〜
家出した理由はありがちっちゃありがちですが、
そこで駆け落ちに行っちゃう辺りがやはり玲於奈クオリティかw
とにかく乙でした
GJ!
>「覚えてるでしょ? ぜろきゅーぜろ、ぜろななにぃ……」
何気に吹いてしまいましたw
貴明、雄二に恋人ができて、このみはどうするんだろう・・・とちょっと思いました。
ゲンジマルとry
いくのんが世話してくれてるようだぞ
>>422 そういう意味も含めて「ありがち」って言ってるんじゃ?
由真の場合は駆け落ちまでいかなかったわけだし、そこで差を表現してるんだとオモ。
まぁ自分で書くときには、ちょっとこういうのが怖いな〜と思うんだけどねw
原作プレイしてから間があくと、自分で考えたつもりのネタが既に原作にあったりとか
SSが知らず知らずのうちに原作をなぞってるだけになってる、みたいなの。
プレイ直後には絶対にありえないのに、時間の経過とともにどんどん記憶が曖昧に。
由真の家出の理由はじいさんが勝手に海外の音楽学校の進学を決めたからだった気がするけど…別ルートあるの?
>>424 PS2版は縁談のはずだよ
PC版は音楽学校であってるから心配すんな
PC版やったのに全然それに気づかなかった俺みたいなのもいるから安心しろ。
PC版だと家出の理由が違うのか、PS2版しか持ってないから知らんかった。
428 :
424:2007/11/18(日) 22:30:35 ID:RapPX2dJ0
やり漏らしがあるのかと思ったよw
まあ、姫百合シナリオとかはかなり怪しいんだけどな
429 :
417:2007/11/18(日) 23:30:28 ID:JP1kAnGy0
>家出と由真の縁談
久々にPS2版起動して確認しました。すっかり忘れてましたw
もっとも、縁談&家出のコンボは由真に関係なく非常にベタな展開ではあります。
話を書く上で意識したのはむしろささらシナリオの方でして、
あれの裏(二人を捜す側)をやりたかったのと、あとは由真でも他のゲームでも、
よくヒロインが行方不明になった時に主人公一人で探す、ってのに違和感があって、
玲於奈をみんなで捜すネットワークを書いてみたかった、というところです
や、イベントが家出なのはラスト一波乱向けの事件が思いつかなかっただけだし、
展開もラス前だから全員出したいという単純な欲求の方が大きいんですけれどね。
いやあ、恋愛話の最後一悶着ってのは難しいですねえ……ええ、単なる力不足でございます(泣)
>このみ
このみは、郁乃に引き取らせる予定だったんですが、もうキャラが勝手に走ってて、
書けば書くほど泥沼というか、フォローしようとしてかえって可哀想になってる気が。
正直このSS内で救済するのは無理になってしまいましたが、先は長いんだし、
そのうちいくのんフィルターを透過するような良い相手が見つからんことを(−人−)
実は全て雄二の夢オチってことで、実は貴明も委員ちょと付き合っていない・・・なーんてね(笑
貴明が小牧姉妹をまとめて面倒を見るでいいんじゃね?
まあ、ぶっちゃけ俺は、委員ちょとこのみがいれば問題なし!
郁乃は・・・かわいい妹としてなでなでしたいね〜
貴明は本当にうらやましいね。
むしろ郁乃とこのみの年下丼というのも捨てがたい意味もあるのではあるまいか
>>433 その発想は無かった!
目が覚めるような思いだ
もの凄い茨の道だけどな。
二人の性格に加えて愛佳、タマ姉、春夏と認めてくれなさそうな人が一杯だ。
巷ではりゅうおうたんのイメージが強いが、
アナザーEDを見るに、このみはタカくん欲はあるが独占欲はそうでもなさそうだし、
郁乃も倫理観とか欠けてそうだから、当事者達は案外なんとかなるかも?<年下丼
保護者達は、愛佳はどーにかなるだろう。タマ姉と春夏さんは手強い・・・
>郁乃も倫理観とか欠けてそうだから
どこから出てきた発想なのか詳しくwwww
初対面で「自分が何人目(の男)なのか教えてあげようか」などと言い放ち、
異性に突然「パンツ」とかのたまうヤツの、むしろどの辺に倫理感を感じろというんだ
>>438 お前が今感じている倫理観は精神疾患の一種だ。
鎮める方法は俺が知っている。俺に任せろ。
440 :
名無しさんだよもん:2007/11/21(水) 02:35:04 ID:razdy4sM0
この作品が力不足ってんなら今世の中にあるラノベはおよそ半数が出版されなかっただろう。
>>194でも言ったが次で終わるのが怖くて仕方ない!
愛佳の
「2年くらい前のゲームで、家出した恋人同士が生徒会室でってのが」
ってのはどう見てもXRATEDのささらルートですほんとうにありg(ry
エロゲやってる愛佳ってのは想像できないな
まぁラストエピソードが独創的できっちり決まる長編なんてラノベでも漫画でも滅多にない
エロゲでもそうか。戦闘系の話なら派手にラスボス出しときゃそこそこだが
エロゲーマーが出会い系なんか使うんだろうか
瞼を開くと、透き通るような青空が目に飛び込んできた。
そして、風に混じって感じる青臭い草の匂い。
だがそれらにどこか現実感が伴っていない…そんな違和感に戸惑いを覚えていた彼女の
視界に、一人の男の姿が飛び込んできた。
「あ、おきたんだ…イルファ」
男の声はよく知った物だった。
だが、青空のキャンバスを背に目の前に現れた男性は彼女の…イルファの記憶よりも
逞しく、記憶よりもずっと大人の男のものだった。
それに違和感を感じつつも、なぜか当然のように彼女は男の声に答えた。
「おはようございます…貴明さん。」
夢あわせ
心のどこかで微妙な違和感を覚えながらも、イルファは置かれた状況に順応していた。
イルファは体を起こすと、寝ている間に乱れてしまった髪を整えた。髪は肩にかかる
ほどに伸びていて、耳にセンサーユニットはなかった。
二人がいたのは、見渡す限り青い空と緑の草原が続く丘陵の中だった。
辺りにはいくつかの立ち木が在るだけで、他には誰もいない。
「まだちょっと眠そうだね…最近は夜中にたたき起こされるから、よく眠れてないん
だろ?」
貴明はそう言って、イルファの横を指した。
イルファの横には大きな揺りかごが一つあって、その中ではまだ生まれたばかりの
赤ん坊が一人、すやすやと眠っていた。
その顔はどこかイルファに似ていて…髪も彼女と同じ色をしていた。
イルファは手を伸ばして、いとおしそうに、そのふっくらとした頬をそっと撫でた。
それで目が覚めたのか、その子は急にむずがって泣き出してしまった。
「おなかがすいたのかな?時間も頃合だし。」
貴明が時計を見ながらそういったのを聞くと、イルファは一つ頷いた。
「では、おっぱいをあげましょうか。」
そう言って、イルファは手馴れた手つきで揺りかごから赤ん坊を抱き上げると、自分の
胸元をはだけて乳房を取り出した。
服の間から覗く乳房は母乳のために大きく張っていた。イルファがその先端を口に
含ませると赤ん坊は力強く吸い始める。
それはイルファにとって、貴明に愛撫されるのとは違う、とても心安らぐ、幸せな感触
だった。
貴明もそんなイルファと赤ん坊の様子を見てとても幸せそうな柔らかな笑みを浮かべた。
その暖かい雰囲気に、イルファは例えようのない幸福感を覚えていたが、しばらくして
その時間は唐突に終わりを告げた。
突然世界が色あせ、遠のき始める。
待って!
今までの幸福感から一転、例えようのない喪失感に、イルファの心が悲鳴を上げた。
しかしイルファの願いは届かず、貴明の笑顔が脳裏に焼きついたまま、イルファの意識
は光に飲まれた。
−
タイマー起動。
セルフチェック開始…終了。異常なし。
いつも通りの朝の目覚め。イルファはゆっくりと目を開けた。
目に飛び込んできたのは窓から差し込む日の光といつも見慣れた天井。姫百合姉妹の
住むマンションの、イルファの部屋の天井だった。
さっきのは一体なんだったのでしょう…
知らない風景の中で、大人の貴明さんと過ごしているなんて…何かのエラーでしょうか。
イルファはそんなことを考えながら、とりあえず体内時計で現在時刻を確認した。
するととうに7時を回っていることがわかった。いつもなら6時には起きて姉妹のため
に食事を用意するのが日課なのに大寝坊だ。メイドロボとしてありえない失態といって
いい。
タイマー設定のミスか、自分にどこか異常があるのか…原因はわからなかったが、後で
珊瑚か長瀬主任に相談してみようと思いながら、イルファはとにかく身支度を整えること
にした。
急いでパジャマからいつものメイド服に着替えて、鏡で見ながら簡単に髪をブラッシン
グする。
そのついでに、イルファは鏡の中の自分の姿を確認した…センサーもあるし髪型も
ショートカットの、いつもの自分の姿だった。
「申し訳ありません、寝坊してしまいまして。」
「あ、いっちゃんおはよう〜」
イルファがリビングに飛び込むと、すでに起きていた珊瑚が出迎えた。瑠璃はイルファ
の代わりにキッチンに立って朝食を用意している。
「あ、起きたんかイルファ…寝坊ならさんちゃんのせいやから気にしんとき。」
「え?…珊瑚様のせい…ですか?」
「そうや〜ウチの仕業〜」
珊瑚はいつものようにるーのポーズであっさりと犯行を自供した。
「一体なぜ…」
「今日いっちゃん誕生日やろ?」
そういわれて、イルファは体内時計のカレンダーを確認した。確かに今日は11月26
日で、イルファが起動した…人間ならば誕生日だった。
「たしかに、私の誕生日ですが…」
「だから…ウチから誕生日プレゼント〜」
「さんちゃん、一体何プレゼントしたん?」
瑠璃が料理の手を動かしながら、イルファも感じていた疑問を珊瑚に投げかけた。
珊瑚はそれに対して蕩ける様な笑顔で答えた。
「夢や〜」
「夢…あの、将来の目標とかの夢ですか?」
「そっちの夢やなくて、寝てるときに見る夢〜」
夢…眠りの中で見る、自分の願望。
イルファは先ほど見た貴明との未来の姿を思い出していた。あれが自分の望んでいる
未来なのだろうかとイルファは思った。
「イルファ、どんな夢見たん?」
瑠璃は出来上がった朝食の皿を珊瑚の前に置きながら、イルファに尋ねた。
イルファは自分の見たものをどう話したものか、少し考えこんでしまった。
「…別に嫌なら話さんでもええよ。」
考え込んでしまったイルファを見て、瑠璃は聞くのはやめたほうがいいのかと思ったが、
それをイルファは頭を振って否定した。
「…いえ、そうではないのです。夢を見たのは初めてでしたので、どう話すべきかと
思いまして。…順番にお話しますね。」
イルファは夢で見たことを話し出した。
イルファが貴明と夫婦らしい間柄だったこと。
貴明との間に子供がいたこと。そして、その関係を幸せに感じたことを。
「…ごめんな、いっちゃん。」
イルファが話し終わったとき、珊瑚はしゅんとして謝罪の言葉を口にした。
イルファの中にある願望を元に夢を生成するプログラムを無断でインストールした上に、
そのプログラムが見せたものは、ロボットであるイルファには叶わない残酷な夢だった
からだ。
だがイルファは珊瑚を責めようとはしなかった。
「珊瑚様が謝られる必要はありません。夢の中だけでも、私の願望が実現したのですから、
私は幸せです。」
瑠璃もまた、謝罪の言葉を口にした。
「イルファ…ウチがさんちゃん止めとけば…」
「いいえ。あれでよかったのです。夢を見たおかげで愛する人の子を授かる気持ち、
そしてわが子を愛しいと思う、人の親の気持ちがわかったのです。」
「イルファ…」
「ですが、現実には私は貴明さんの子を生むことは叶いません。ですから、」
そう言うと、イルファは瑠璃の手を取ってしっかりと握った。
「ですから、瑠璃様…瑠璃様には貴明さんと結婚して元気な赤ちゃんを生んでいただき
たいのです。」
「…は?」
突然の願いの言葉を聞いた瑠璃は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
うほっ
「瑠璃様が貴明さんと結婚して母となられた暁には、私も乳母として共にお子様の育児や
教育に参加させていただき、もう一人の母として愛するわが子の成長を見守りたいの
です。」
イルファが熱弁を振るっている間に、瑠璃が正気を取り戻して眉を吊り上げながら反論
した。
「ちょ、ちょっと待ちぃ!」
「はい?」
「な、何でうちが貴明と結婚せなあかんねん!」
「貴明さんはお嫌いですか。」
「う…そやない…けど。」
「みんなで貴明さんのお嫁さんになれれば良いのですが、残念ながらメイドロボに人権は
認められておりませんし、重婚も許されてはおりません。お嫁さん、つまり正妻の座は
残念ながら珊瑚様と瑠璃様の二人に一つしかないのです。」
「な、ならさんちゃんが貴明のお嫁さんになればええんや。さんちゃんは貴明のことすき
すきすき〜やねんから。」
「瑠璃ちゃん。」
珊瑚もまた瑠璃の手を取りながら真剣な顔で言った。
「瑠璃ちゃんかて貴明のことすきすきすき〜やろ? 自分の方がお嫁さんになりたいのに、
無理せえへんでもええんよ。」
「あ〜う〜ちゃうねん〜」
瑠璃としては半分照れ隠し、半分珊瑚を思って「お嫁さん」に押したのだが、まるっき
り逆効果だった
「瑠璃ちゃん、ツンデレはトレンドやけど、ツンもたいがいにせんと本当に貴明に嫌われ
るよ。」
「あ〜う〜」
そんなお嫁さんの座を譲り合う姉妹を見るイルファの眼差しは暖かだった。
イルファ自身は確かに法的にも貴明の妻となることは叶わない。だがそんなことは関係
無しに、この関係は変わらないでいければいいとイルファは願っていた。
だが、それはそれとして、こんなほほえましい瞬間にも現実の時間はどんどん過ぎて
いくもので、
「…あ、瑠璃様、珊瑚様、もうそろそろお出かけになりませんと、学校に遅刻してしまい
ますよ!」
いつの間にか、時間は8時を回ろうとしていた。
「なっ、もうこんな時間やないか!」
「まだ朝ごはん食べてへん〜」
珊瑚は瑠璃が用意した朝ごはんを前に指をくわえてそんなことを言っていたが、瑠璃の
ほうは大慌てで出かける準備を整えていた。
「ほらさんちゃん!出かけるで!」
「でも〜、ごはん〜」
「もー、しゃあないな。」
瑠璃は自分と珊瑚のお皿に乗っていたトーストを手に取ると、同じくお皿に乗っていた
オムレツを片方のパンに乗せ、その上にサラダのレタスを重ねてトーストを載せ、即席の
ホットサンドにした。
「これを半分に切って…はいさんちゃん、これで我慢しとき。」
「わ〜、サンドイッチや〜」
瑠璃はナイフで2等分した片方を珊瑚に差出して、自分も残りの半分にかぶりついた。
一方、イルファはすでに二人のかばんを持って玄関口で待っていた。
「珊瑚様、瑠璃様。お早く出かけませんと、貴明さんたちがお待ちですよ。」
「ひゃかあひひやんふぇほうへふぉへへふひゃ!」
瑠璃はホットサンドを咥えて靴を履いていたので何を言っているのかわからない。
「瑠璃ちゃん、行儀悪いで〜」
「もが…しゃあないやん。手ぇ使わんと靴履けへんもん。そんなことよりイルファ、
かばん。」
「あ、はい、どうぞ。」
イルファの差し出したかばんを二人分まとめて受け取って瑠璃が玄関を出る。
「ほなイルファ、留守頼んだで。ほら、さんちゃん急がな。」
「あ〜、待って〜瑠璃ちゃん〜」
そう言って、先に走り出した瑠璃を追って珊瑚は玄関を出た。が、なぜかすぐに戻って
きた。
「珊瑚様、何か忘れ物でも?」
「ううん…今日は貴明も誘って、みんなでいっちゃんの誕生日パーティするから〜、
たのしみにしとってな〜」
そう言って、珊瑚は再び瑠璃の後を追って走っていってしまった。
−
騒がしいひと時が過ぎ、家の中はイルファだけになってしんと静まり返ってしまった。
だが夕方には貴明もメンバーに加えて、一段と騒がしくなるに違いない。
…午前中のうちに家事を済ませて、午後は腕によりをかけてお料理を用意しましょうか。
今日は瑠璃様に習ったレパートリーを存分に披露してみんなに喜んで貰いましょう。
イルファは一つ深呼吸をして気合を入れた。
愛する人たちの笑顔こそ、イルファにとって最高の「プレゼント」だ。
その笑顔を見るために、今日もまたイルファの忙しい1日が始まった。
>>449 支援THX
一応イルファさん誕生日SSということで
アイデアは割りとすんなり思いついたんですが、いろいろ表現がうまく行かなくて
結局何度も書き直ししてやたらと時間がかかってしまいました…
その割にはあまり成功していない気がするけど…
本当は来週のミルシルも書きたいと思っていたのですが、おかげで何にも
手をつけてないんで無理ですな
ちなみに「夢あわせ」は夢占いのことです
夢占いでは、赤ちゃんが登場する夢を見ると運気が上昇するそうです
454 :
名無しさんだよもん:2007/11/26(月) 02:37:23 ID:CZpVUGTE0
お疲れさまでした〜。無理せず頑張ってくださいな。
>453
乙! 真面目な珊瑚ってのは珍しいな
双子とメイドロボは、真面目に境遇を省みると辛い部分も少なくないんだよね
だから珊瑚やイルファがぶっ飛んで勢いで引っ張るSSが多いんだろうけど
(本編からしてそうかw)、こういうちょっとローテンションな話もいいもんだ
456 :
名無しさんだよもん:2007/11/30(金) 07:37:23 ID:qFMOojyJ0
age
あれ?ミルファの誕生日SSは?
458 :
名無しさんだよもん:2007/12/04(火) 03:02:50 ID:RcE16twL0
しかし、急に書き込みが亡くなったよな・・・
>>458 冬コミの準備で忙しいんだろ
そう信じようや
冬コミ原稿が終わってきたのかSSLinksの方は急に賑やかになったけどなぁ
要は冬コミのせいじゃなくてリアルで書き込む人間が減ったってことでしょ
ほす
464 :
名無しさんだよもん:2007/12/14(金) 00:39:04 ID:Y16ouhNj0
ほしゅ
465 :
名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 08:37:13 ID:WQr7tuQAO
一体いつになったら前のような賑やかさが戻るんだろ?
賑やかだった時期の方が遥かに短いと思うけど、とりあえず>465が書いてみたら?
投稿いっぱい→誰か目立った作家が叩かれる→他の作家も投稿控える→過疎る→新たな作家登場→投稿復活→最初に戻る の循環だからな
冬コミのせいだとか現実逃避してる香具師もいるけどそんなに賑やかなのが良いなら叩かなきゃ良いのに
叩く人は「過疎スレw」って書きたくて追い出してるんだから仕方ない
寂しい人にできることは、まず自分で書いて投下復活のきっかけを作ることだね
AD待ちじゃないのか?
じゃああと2ヵ月半待て
叩き自体は悪いことじゃない。悪感情であれ、それも作品を読んで生まれた一つの感想だから。
問題は作者でもない第三者が、その叩いた人を諌めたり攻撃したり、挙句の果てに
「気にしないで頑張ってください!」などと余計なことを言うこと。
これをやると議論や便乗煽りが起こって、結果作品がそっちのけになり、作者はそれを嫌って
投下を控えてしまいスレが過疎る。
まあ要するに他人の感想にケチつけんなってこった。
作品の内容関係ない個人攻撃とかならなおさらスルーするべきだしな。
>>472 その通りっちゃその通りなんだが
2ch、しかも過疎ってるとはいえ七厨板だぞ?
煽り煽られ叩き攻撃は止めようがないっつーか、
それを嫌うんだったら他所に行くしかないんじゃね?
作家の保護やってるわけじゃないんだから、
投下する人にもそのくらい覚悟してもらわんと
>>叩き自体は悪いことじゃない
そんなわけあるか。
それに作品叩きも感想叩きも本質は同じだ。
>>叩き自体は悪いことじゃない
感想(悪い所の指摘含む)と叩きは別物だぞ?
感想はより良い作品への糧だが、叩きは一方的な排除だ。
マンセー以外は叩き、って訳でも無いし。
ここはSS専用スレであって、議論スレじゃないよ。それにADが出ればここも活性化するだろうし、まったり待たないか?
それまでお前らも自宅警備で色々と忙しいだろうけどみんなで保守頑張ろうぜ。
まぁ、とりあえずADが出ないと書きにくいのは確かだわな。
・・・・・特にメイドロボものは書けんww
シルファなんか怖くて触れん!!
しょこさん更新乙
>>477 お前俺がどれだけメイドロボSSを待ち望んでると思ってるんだ
遠慮なく書いてクダサイネー
空気読まず聞きたいんだが、
オマエラ一押しのささらのSSってないか?
>>477 ちょっといいか?こういう思考が理解できんのだが、どうしてそう思うのか教えてくれ
というのも、ADの情報が出てくるにつれて「シルファは書けない書きにくい」って言う
作家の人を結構見かけるんだよね
477はメイドロボ全般について書いてるから、この例には当てはまらないんだけど・・・
なんか堂々とミルファを書く一方で、シルファが書けないって嘆く人いるじゃん
俺はぶっちゃけ出てる情報量はミルファもシルファも変わらないと思うわけよ
だからイルファ以外のメイドロボなんて、妄想の産物に過ぎんと思うんだよね
確かにその妄想が実際のキャラとかけ離れてなさそうなのはミルファの方だが
こういうのを見ると上手く言えないんだがもにょってしまう
AD出たらイメージが刷新されて、既存のSSが過去のSSになるのは変わりないと
思うんだけどなあ
ADが出ることでダメージを負うと思ってる作家の人って、現状自分で何をしてる
つもりなんだろう・・・
>>481 う〜〜ん、どう言ったらいいかわからんが……
今出てる断片情報があまりにも従来の自分の中のシルファからかけ離れているから、かな??
言葉遣いとか性格とか、オレん頭の中のシルファは大混乱だもんよ。
ミルファも今は書きにくいっちゃ〜書きにくいが、これは愛ゆえと言ってもいいかも試練。
すっごい好きだから、その期待感で頭がいっぱいになってて、神が降りてこないのよ。
ADが出て過去作品にダメージが、ってまでは思わないけど、ADが出ないうちは妄想が
上手く広がってくれないんだよ。
こんな回答でよろしかろうか??
>>481 ミルファは今までの情報で強気キャラという点では固まってる。
シルファは、貴明を足蹴にしたCGとダンボールに入ってるCGと、人見知りで研究所から
出たことが無いって情報が出てる。この情報から導き出されるキャラクターが俺にはわからん。
>>481 メイドロボSSばかり書いてる人間からすると、乱暴な言い方になってしまうけども
別にADの情報が出ようが出まいが「今の段階では」関係がないな。
だって反映させようがないんだからしょうがない。それでもキャラは書きたいしね。
シルファを槍玉にあげてるようだけど、個人的にはミルファも既存のイメージとは
かなりかけ離れてるんじゃないかなー、と思ってる。
ゲーム画面の写真を数枚見た程度だから確信を持って言えるわけではないけど
単なる強気っていうより、THの綾香みたいな曲者っぽい印象を受けたんだよね。
そういう意味では、ミルファを書けるのにシルファを書けない、って言ってる人の
考えてることは俺にも分からないかな。別に知りたいとも思わないんだけどさ。
ただまあ、俺はもちろんADが出て、気に入ったらそのキャラを反映させて書くよ。
それに、気に食わなかったからといって、今書いてる自分のキャラをごり押しして
書き続けようとは絶対に思わないしね。
OCN規制ホントに解除されてて俺歓喜\(^o^)/
シルファはふたなりという俺設定があったのだが
無念じゃ
無念じゃわぃ
>>486 いや、まぁ、ロボットなんだからして、オプションパーツを付ければお手軽にフタナリ
になるんじゃね??
そういうシチュエーションを作ればSSキャラにするに何の問題もないと思われ。
外部に対しては「AD非対応」の一言で済む話だろうけど、
結局は書き手自身の気持ちの問題だから議論してもしょーがないことではある
俺は個人的には>477の方に共感するな
自分の書いたキャラに愛着はあっても、設定やイベントならともかく、
キャラの性格づけが公式と真っ向から食い違ったらやっぱションボリするだろうと思う
「後から公式設定でちゃうかもな」くらいの状況ならともかく、
ADで予告されちまってるわけだからね。発売日をまたぐ連載なんか絶対書けん
>481の末2行の答えになるか知らんが、「鳩2SS」を書いてるつもりだから、
原作と大幅にズレたら自分で自分の作品を「鳩2SS」と思えなくなるのが怖い
別に共感は求めないけど、さほど不自然な感情とも思わないんだがな
>>488 その鳩2SSって結局なんなのさって話になるんじゃね?
情報出る前のミルシルを使ったメイドロボSSなんてそれこそ鳩2SSとはもっともかけ離れたSSだろ。
ADでミルシルが出るって確定した時に止めてる人ならともかく、キャラ情報が少しだけ提示されてから
鳩2SSと思えなくなるのが怖いから書けませんってのはなんかおかしくないか?
>>490 オレの場合はAD出る&ミルシル出るって決まった段階で書きにくくなったけど……
キャラ情報が出てきたら更に書きにくくなったのは確か。
なんつーか、イメージの乖離が大きくてさ。
まさに「鳩2SSと思えなくなるのが怖いから書けません」状態だよ。
上で
>>488も言ってる事だけど、誰よりも自分にウソはつけないからね。
誰がどう感じようと、オフィシャルとあまりにかけ離れてしまったら、自分自身が鳩2SSだと
言えなくなってしまうかも試練。それは非常に怖い。
自分の作品や自分のイメージが生んだキャラにはやっぱ愛着があるやん??
それを偽物と感じたらすごい寂しいんだよ。だから今は書きにくい。そういう事さ。
ま、インスピレーションの神が降臨したら発売日前日でも書いちゃうだろうけどねw
だれか菜々子のSS書いてくれんかな
シルファは本編中であった情報からは考えも付かないようなキャラになりそうだよな。
最初は誰かの倉庫のシルファSSみたいなのが俺のもともとのシルファ像だったんだが、
今ではだいぶ、どころか俺脳内のシルファが180度別のキャラクターになってしまった。
かと言って、情報が結構出揃った今でも倉庫のシルファSS読めばTH2のシルファとして萌えるし、
恐らくAD発売後もADのドSシルファにも、それまでに出たSSのMっぽいシルファのどちらにも萌え続けると思う。
現時点なら俺は作者の妄想のキャラクター像でも十分楽しめるから、
別にADと方向性が全く違うキャラクターになっても『今のところは』気にしない。
ただAD発売後では性格の固定化が行われるだろうから、
AD発売後に昔の性格で新しく書かれたシルファを見たら多分叩くと思う。
すまん、結構眠い目で書いてるから、言ってる意味たぶん伝わってないと思う。
要するに今の俺はシルファSSに餓えてて、妄想性格でもいいから俺にもシルファSSくれ、と言いたいかったんだ。寝ます。
>>491 だからさ、今までさんざんかけ離れたSS書いてたくせに、今更かけ離れるのが怖いって理由はおかしいでしょって話なんだけど。
そら
>>491がそう思うなら書かなくてもいいんだけどさ、理由としておかしいだろって言ってるわけ。
自分の作品に愛着があるのはわかるけど、自分のイメージが産んだキャラに愛着があるってのは理解できないなあ。
それこそ
>>491のいう鳩2SSってのは自分のイメージした鳩2であって実際の鳩2じゃないってことじゃん。
原作にないからこそ許された妄想を台無しにされる可能性なんか考えてたらSSは書けないし、メイドロボSSなんかは絶対に書けないよ。
あえてキツイ言い方をするけど、自分の作品の価値が無くなることを認めたくないだけにしか見えないわ。
別に見たいように見てもらって結構だと思うが、
俺や>491のように書きづらくなっている人がいるって所で、
どうやらそうでないらしい>494に一本メイドロボSSを期待したいな
>>495 いくらなんでもそれはねーよwwww
ID:yA58OcmU0は自分の意見を述べてるだけだし(その意見をどう感じるかは人それぞれだろうけど)
その意見ってのは別に「俺はお前らと違ってメイドロボSS書きにくくなってねーぜ」なんて主張する
ものではないだろ…
日本語はちゃんと読んだ方がいいと思いまるする^p^
とりあえずオフィシャル設定出してくれるってオフィシャルが言っているわけだから、
それが出るまで様子見ておこうか〜、と考えるのはそんなに不自然ではないような。
別に、この時期に無理にシルファを書く理由があるわけで無し、
しばらくは気心の知れたキャラを書いておいて、2月末からは「書くぞ、オラッ」ってね。
出るかでないか判らなかった頃と、出るよ〜って確言されている今では状況が違うんじゃないかなぁ。
と、どっかのSS書きさんが言っていたとかいないとか。
今はパワー充填、ニッカド充電。読む人も書く人も、二月末をお楽しみに!
待ちきれない? ガマンだガマン! あと二ヶ月がんばれ!
って感じかなぁ。
発売日がまた延期する可能性に一票
>>494 強いて理解して貰おうとは思わんが……
SSってのは結局妄想の産物やん。
原作の枠内でたくましく妄想を育てるのが何より楽しいわけだし、枠が決まっていてこそ
神様も降りてくるわけだ。
また枠の中にいるからこそ「SS」と言えるわけだしね。
ところがこれから新しくオフィシャルが出るってわかった。
一人称や貴明の呼び方、口癖、CVもこれから型枠が出来る事になってるんだぜ??
こりゃ神様も降りてこなくなるって。
少なくともオレの場合はそれが「書けない」最大の原因だよ。
もっと噛み砕けば「燃料マダー?」と言ってもいい。
これでFAって事で。
生暖かく見守ってた皆様スマソ……
書きたいなら書けばいいと思います
書く気が起きなきゃ書かなきゃいいと思います
それだけの話です
書けないとか言ってる人は読む人間の反応窺いすぎなんでしょう
この時期にあえてシルファのSS書く人ってのはきっと
既に持ってるシルファのイメージが未だ膨らみ続けているか
あるいはシルファのCGや小出しの情報見て妄想掻き立てられたって人でしょうし
そこまで妄想の翼が広がらないって人はwktkして発売を待つだけの話だと思います
要するに「書かない」と「書けない」ではニュアンスが違うよ、ってことではないでしょうか
日本語って難しいですよね
>>494 やはり公式にキャラクターが発表されると違うと思うよ。
今まで個人個人が設定したキャラと公式の設定との剥離が大きいんだよな。
書けなくなると言うよりも原作のキャラを膨らませるのではなく、
オリジナルキャラを出してるような錯覚になるから戸惑いが生まれるんだと思う。
オリジナル設定と公式設定、どちらをベースに書けばいいか分からないってのが正しいんじゃないかな。
ついでに公式設定もいまだ正確なものが出てないしさ。
ぶっちゃけメイドロボどころかたぬきやきつね、まーりゃん先輩すら今は書きづらいと思う。
っていうか、いま何人のSS書きが集まってる?w
>496
>494の、要約すれば
「お前が(書きづらいと)感じている感情は精神的疾患の(ry」
という意見が何を意図して述べられたのかなんて知る由もないが、
スレ的に「(書く)方法は俺が知っている俺に任せろ」と言ってくれるのかと期待したw
人の書きづらさなんて他人がどうこう言えるもんじゃないと思うんだがw
桜の群像ラスト行きます。最終話とエピローグを連続投下します。
クリスマス・イブ。
ネオンサインとイルミネーションが、カップルに溢れる街を彩る夜。
その灯りを窓の外に見ながら、電車に揺られる一組の男女があった。
「……」
ボックス席の一角で、荷物を膝に抱えて小さくなっているのは玲於奈。
ちらちらと向かい側の席に視線を送るが、言葉は発しない。
「……」
その視線の先、流れ去る光を眺めて不機嫌そうなのは雄二。
むっつりと唇を結んだまま、顎に拳を当てて沈黙を保つ。
雄二が自宅の屋根裏で玲於奈を見つけてから、およそ1時間半。
「わ、私と、か、駆け落ちしてくださいっ!」
無茶な申し出の後、
「お前は何を言ってるんだ」
いちおう、色々とやりとりはあって、
「縁談なんか断ればいいだろ」
雄二も説得は試みたのだが、
「相手方の家が格上のようなのです。禍根を残しては」
「駆け落ちはいいのかよ」
「私が勘当されればそれで済みます」
理屈は苦手分野でもあり、
「とにかく落ち着けよ。もうすぐ姉貴と薫子がウチに来るからさ」
失言もあり、
「お、お姉様がいらっしゃるのですか!?」
大慌てになった玲於奈、
「待て待て、すぐに連れ帰らないように俺が説得してやるから」
「雄二さんがお姉様に勝てるわけがありません」
「……まあ、な」
見も蓋もない発言に、思わず頷いてしまった雄二の負けだった。
「〜。〜。」
乗車アナウンスが、新たな駅名を告げた。
「あ」
玲於奈が小さく声を挙げる。
いつの間にか自分が知らない路線区域に入っていたことに、少女は気付かなかったのだ。
今朝は無意識に降車してしまった程だったのに。
理由はすぐに思い当たる。
(一人ではないから、ですね)
斜め前に座る少年の様子を窺う視線に、信頼と照れが混じった。
いっぽう雄二は、それを視界の端に感じながら変わらず押し黙る。
信頼されたって、応えられるとは限らないのだ。
「……次の次で降りるぞ」
とりあえず、二駅先の街なら、宿も複数あった筈。
玲於奈よりはマシな程度の土地勘を総動員して、雄二はそう踏んだのだけれども。
「申し訳ありませんが、本日は満室です」
「ご予約がありませんと、すみません」
「今日はねぇ、一杯だねぇ」
観光拠点の宿は、クリスマスに飛び入りできるほど甘くなかった。
「カプセルホテルまで埋まってるとはな」
自分一人なら、サウナでもカラオケボックスでも夜明かしできるだろうが。
「……」
参ったな、と口には出さず、顔に出ているのを見られないように足早に玲於奈の前を歩く。
と、
「あの、ゆ、雄二さん?」
黙って付いてきていた玲於奈が、前に回り込んで来た。
「何だ?」
「あ、あそこですね、“空き室あり”って……」
おずおずと玲於奈が指さした先には、煌々と輝くラブホテルの看板があった。
「い、意外と普通の部屋、なんでしょうか?」
「俺が知るかよ」
偽名偽齢で入ったホテルの部屋は、若い二人が妄想逞しくしたような怪しい空間ではなく。
アットホームな印象の壁紙に、大きめのソファと小さい冷蔵庫。
テレビはなかなか立派で、ビデオは貸し出しらしい。
ダブルベッドひとつ。
「「……」」
こればっかりは、どうにもならない。
「そのっ、電子レンジがありますね、お弁当温められますよ」
上滑った手つきで途中で買い物をしたコンビニの袋を引っ繰り返す玲於奈。
「明日の朝でいいだろ、ってなんだそりゃ」
転がったのは、単三電池×4。
「あ、これは、ですね」
がさごそ。
なにやら急に手つきが軽くなって、自分のスポーツバッグを探り出す。
「MD?」
少女が手に取ったのはポータブルプレーヤー。電池を入れて、スイッチを入れて。
「あははっ、動きましたよ」
少年に笑いかけて相手の怪訝な表情に気付くと、続けてバッグから紙片を取り出す。
「のし紙? これって……もしかしてカラオケ大会のアレか?」
雄二は、夏の出来事を、玲於奈が放り出した景品の事まで覚えていた。
「今朝、あの砂浜で拾ったんです」
その事実になお嬉しげな顔をして、ディスクをセット。
「それ、俺の?」
「すみません。お部屋から拝借しました……ほら、音も鳴りますよ雄二さんっ」
どうにも幸せそうな玲於奈が差し出すイヤホンを、もはや諦め顔で受け取る雄二。
耳元で流れる、緒方理奈の声。
二人で片方づつの音楽を聴きながら、暫しの間、雄二も状況を忘れた。
「海、行ったのか?」
こく。
目を閉じて歌に聴き入ったまま、玲於奈は小さく頷く。
「本当は、一人で遠くに行くつもりだったのですけれど」
とん。
雄二の右肩に、軽く頭が寄りかかる。
左手を伸ばして頭部に触れると、いつもは柔らかい髪が潮風にべたついていた。
「砂、ついてるぞ」
「ん」
雄二は確かめるかのように、小指から順に玲於奈の髪に手を差し込む。
恋人の指先に髪を梳かれて、猫みたいに目を閉じる少女。
「この時期に砂浜なんてな……寒かったろ?」
「今は温かいです」
雄二の膝に玲於奈の手が乗って、肩の荷重が少し増した。
やがて、カチリと再生が終わる。
「あ……」
玲於奈はわずかに口を尖らせて身を起こすと、イヤホンを耳から外す。
赤い髪に絡ませていた指をほどいて、ぽんとその頭を叩く雄二。
「ほれ、シャワーでも浴びてこい。俺も汗流したいし」
「そうですね」
玲於奈はするりと立ち上がり、ひとつ背伸びをして、それからバッグを持って浴室に向かう。
「……」
扉の前で、ふいに立ち止まって振り向く。
「こ、こういう宿って、浴室が部屋から覗けたり?」
「分かるわけねえだろ」
意識から消えかけていたロケーションをわざわざ想起させられ、雄二はそっぽ。
「そう、ですよね」
玲於奈も顔を赤くしながら、こそこそとバッグを抱えてドアの向こうに姿を消した。
玲於奈が普段より長めのシャワーを浴びた後、雄二も風呂をつかった。
「やっぱ寒かったんだな。生き返ったぜ」
「思ったより浴室も広かったです……っよっねっ」
「どうした?」
風呂上がりの会話、急に語尾が怪しくなった少女に怪訝な雄二。
「い、いえ、な、なんでも……」
なくはなさそうな表情と口調で、少年から目を逸らす、ふりをして横目な玲於奈。
「? なんか変か?」
雄二は自分の格好を見直すが、別に前がはだけているわけでもない。
ないのだが。
風呂上がりの少年。
最初から予定の家出だった玲於奈と違って着替えなぞ用意していないので、
ホテルに備え付けのバスローブを羽織っている。
下着はコンビニで買った。シャツは着ておらず、襟から覗く胸元は外見より逞しい。
洗ったばかりの前髪が、額に乱雑に張り付いていて、
「お前、洗面台からドライヤー持ってったただろ」
それを掻き上げながら、テーブルの上からドライヤーを取る仕草とか。
「ブラシ忘れた……ま、いいか」
手で髪を直しながら組んだ脚の、裾から伸びた裸の足とか。
「大丈夫か? 具合でも悪い?」
ふと手を止めて玲於奈を向く視線。
彼女はというと、床にぺたんと座った膝の上で手を組んで、心持ち肩を縮めていて。
「だ、だいじょうぶです。そうではなくて、その……」
組んだ手を口元に持ってきて、意味もなく何度も息を吹きかけてから、その片方を胸に当てる。
「あ、あはは、な、なんだか、急に心臓が止まらなくなりました」
それは止まったら死ぬのだろうが、そういう趣旨ではなく、
初めて見た恋人の寝間着姿に、口から飛び出しそうな少女の心臓は、早鐘のように鳴っていた。
shien
「……なにを言い出すんだか」
玲於奈の鼓動は、1メートルほど離れた雄二にも伝播したようだ。
さっきまで普通に見ていた少女の姿格好を、強く意識してしまう。
家出娘は、スポーツバッグに簡単な着替えを詰め込んできたのだが、
就寝着には、クリーム地にピンクの水玉という、どう見ても外用ではなさそうなパジャマを選んでいた。
少しゆったりした長袖長ズボンに、いつもはすらりとした印象のある手足の指が小さく見えて可愛らしい。
雄二よりも一足先に洗われた髪はふわりと乾いて、潮風の影響を排した本来の柔らかさを主張している。
部屋の暖気と自身の血流が相まって、ほんのり紅潮した頬と首筋。
(……やばいやばい)
心臓から送り出された血液が、微妙に頭と下半身に集まるのを自覚した雄二は、
元凶から意識を逸らそうと少女の周囲に視線を移す。
と、
「なんだ、それ?」
玲於奈の目の前にある物体に目を引かれた。
「えっ? あっ、これはですね」
ひょいと玲於奈が手に取ったのは、小さな預金通帳らしきもの。
「軍資金です」
預金通帳、そのものだったようだ。
「お前の? 貯金なんかしてたのか?」
「はい、といいたいところですが、家のです」
結構平気な顔で、とんでもないことを言い出す少女。
「ちゃんとハンコも持ち出しましたから、下ろせます……あれ? 雄二さん?」
得意げな言葉の途中で、雄二が頭を抱えていることに気が付いた。
「どうしたのですか? 頭が痛いのですか?」
笑ってしまいそうなくらい無邪気な問いに、確かに頭は痛い雄二。
だが、顔を上げた少年は真面目な顔を作った。
「……玲於奈」
「はい?」
「明日の朝イチで、家に戻るぞ。お前も俺も」
支援
彼の言葉に、玲於奈から表情が消える。
「なぜ、ですの?」
絞り出す声には、寂しさと不満が入り混じった、自分を否定されたような感情。
「なぜもハゼもあるか。俺はお前を犯罪者にする気なんかねえぞ」
「家のお金ですわ」
「家出しようって奴が何言ってやがる」
「それはそうですけれど、でも」
厳しい口調に、玲於奈はあっというまに目に涙を溜める。
「私は、雄二さんと一緒にいるためなら、どんなことでもしたいのですのに」
俯く少女。
「だから、だよ」
雄二はひとつ溜息をつくと、立ち上がって玲於奈の正面に移動した。
見上げた少女の視線を受け止めながら、片膝をついて目の高さを合わせる。
「お前は、俺と一緒なら不幸になってもいいと思ってくれてるみたいだけどな」
「そうではありません」
玲於奈は首を振る。
「雄二さんと一緒なら、それで幸せなんです」
「サンキュ。俺だってそうだ。でもな、」
小さく目で笑って、雄二は続ける。
「俺は一般的な意味でも、お前に幸せになって、いや、お前を幸せにしたい」
「だから、どうしてもそうしないと一緒にいられないなら、駆け落ちでも犯罪でもするさ」
「けど、それは最後の手段だろ」
「見合話のひとつやふたつで家出してたら、家がいくつあっても足りねえよ」
面白くもない冗談でくくっと笑う雄二。
「でも……」
「いいから普通に頑張ってみろって」
雄二は、抵抗しかけた玲於奈を遮って付け加える。
「もしもどうにもならなくなった時は、俺がお前を攫(さら)ってやる」
「雄二さん……」
自分を覗き込む恋人の目を、揺れる瞳で見つめ返す玲於奈。
床に突いた膝と膝は、30センチほどの距離で向かい合わせ。
そうっと、雄二が左手を玲於奈の髪に伸ばした。
「みんな、凄い心配してたんだぜ」
「みんな……」
「姉貴も、薫子達も、委員ちょ達も、クラスの連中も」
「小牧さん達まで……」
「親御さんも、心配してんだろ?」
「おそらく……」
玲於奈の声が詰まる。
「だからさ」
雄二は、俯きそうになった少女の顎に手を当てて、前を向かせる。
「戻ろうぜ、みんなのところに」
「……はい」
少女の瞳から、涙がこぼれた。
少年は、右手を伸ばして頬を指で拭った。
髪を撫でる左手に少しだけ力を入れ、恋人を引き寄せる。
床に座り込んだまま、玲於奈の上体が前に傾く。
合わせるように頭を下げてゆっくりと、覗き込むように唇を寄せる雄二。
玲於奈も両手を膝の前について、自ら相手を求めた。
「んっ……」
静かに重なる、二人の影。
向かいあわせに座って頭だけを重ねた、少し不自然な姿勢。
それでも彫像のように固まって、エアコンの風に少女の髪だけが揺れて。
雄二と玲於奈は、これまでで一番長いキスをした。
やがて唇が離れると、玲於奈は小さく息を吐く。
「雄二、さん、あ、あの、ですね……」
「抱かねぇぞ」
「っ! まだ何も言ってませんっ!」
台詞とは裏腹に、真っ赤っ赤に赤を重ねたくらいの顔色が図星を物語る。
すぐに考えが分かったというのは、雄二も同じ事を考えていたということだが、
恥ずかしさで心臓が飛び跳ねた玲於奈は気付かなかった。
「俺は、お前を幸せにするって決めたからな。無責任な事はできない」
こちらは真剣な顔色で雄二。
さっきから臭い台詞ばかり言っている気もしたが、それでも今は気持ちを伝えたかった。
こくっ。
玲於奈も素直に頷いて、黙って少年に抱きついた。
その夜は、同じ枕で眠った。
ベッドがひとつでも、雄二はソファで寝ることも考えたのだが、
玲於奈は拗ねたし、布団の中では当然のように腕に寄り添ってきた。
「絶対に、お父様とお母様に雄二さんを認めさせてみせますからね」
耳元で、あまり囁くようでもない声で目標を語る少女。
「私も、お姉様に認められる女性になりませんと」
返答は求められていないように感じたので、雄二は黙って聞いている。
「進学でも、雄二さんが就職ならそれでも構いませんけど」
「駆け落ちでなくとも、一時期は二人きりで暮らしたいです」
「家事は任せてくださいな。最近、また料理のレパートリーは増えたんですよ」
「それで、そのうち子供を、何人くらいがよろしいでしょうかね。二人? 三人……」
ぽん。
「あんまり、先走るなよ」
雄二が空いている手で頭を軽く叩くと、玲於奈は切なそうな顔になった。
「そうですね」
彼の腕を枕にして目を閉じる。
「とりあえず明日、怒られる準備をしませんと……」
雄二も、環に殴られる覚悟をしなければいけないなと思った。
翌日、玲於奈は自宅に帰った。
予想に反して、玲於奈はあまり叱られなかった。
雄二も、一日連れ回したことを事情も含めて詫びたのだが、
少女の両親は彼を責める事はせず、ただ連れ戻してくれた事を丁重に感謝した。
「御両親は、玲於奈に甘いんですよ」
これは、薫子の言。
雄二に対しては信頼のこもった眼差しで頭を下げた彼女は、
どうも玲於奈には説教する気満々だったので、彼女とカスミが両親の寛容を補うのだろう。
「クラスの友達には、小牧さんが連絡しておいてくれたそうですから」
「みんなにもバレてているのですよね……」
自業自得とはいえ、級友達にも当分からかわれそうだと玲於奈は嘆いた。
環には、向坂邸に戻ってから一発殴られた。
「自分で戻ってきた判断は正しいわ。雄二にしては上出来ね」
殴られた頭をおさえて呻く弟に、それでも姉は好意的な評価を与える。
「とはいえ、迷惑は迷惑だから。罰として年末年始は家に缶詰」
「げっ。ってことは姉貴もこっちに居るのか?」
軟禁自体よりも、そっちを嘆いてもう一発殴られる雄二。
「ご愁傷様。遊びに行くよ」
「やたー! お正月はタマお姉ちゃんと一緒だあ」
貴明とこのみは、自分達自身の労には一言も触れなかった。
年末年始。
雄二は環の宣言どおり家から一歩も出して貰えず、電話すらかけられず。
玲於奈の方も、雄二と連絡を取ることはできないままで。
そして年が明け、まだ冬休み中のある晴れた午後のこと。
「ほら、そんな膨れ面してないの。先方に失礼でしょう?」
「わかってますわ。わかってますけど」
よく似た音質の声がふたつ、そこそこ高級なホテルの一角に響く。
「あん……もう、どうしてこんなに早いのですか?」
レストランで言い合う声の主は、玲於奈とその母親。
「貴方に受ける気がないのなら、時期を引っ張っては先方に御迷惑よ」
見合いを今日に設定した母の言い分に一理はあるが、どうも釈然としない。
「でしたら最初から断ってくだされば」
「往生際が悪いわよ、玲於奈」
議論を打ち切られて、娘がまた最初の膨れっ面に戻った時。
「往生際が悪いわよ、さっさと来なさい」
入口から聞こえた声が、玲於奈の耳朶を打つ。
「あら、いらしたようね」
「ようねって、お母様……」
近づいてくる足音。
「会うだけだぜ。ったく。最初からやめときゃあいいのに」
聞こえてくる声。聞き覚えのある声。
「何度も聞いたわ。お父様が決めた事なんだから観念なさい。ほら、シャキッとする!」
バシッと人の背中を叩く音、そして、ドアが開かれて。
「っつっ! っとっと……へ? 玲於奈?」
入ってきた青年、いや、少年は、テーブルで待つ相手方の姿に目を丸くする。
「雄二さんっ? どうして?」
立ちつくす当事者二人を置いて、保護者同士は挨拶を。
「遅くなりまして、申し訳ございません」
「いえいえ、本当に良いお天気で。ほら、早くご挨拶なさい、玲於奈」
「え?」
「なにぼうっとしているの、雄二、こちらが今日のお相手よ」
「え? え?」
「「えええええええええっ?」」
「き、聞いてませんわよお母様」
「聞いてねえぞ、姉貴」
問いかける声は、ほぼ同時。
「言ってませんから」
「言ってないもの」
答える声も、若干の悪戯っぽさを含んで同じ。
ぽかんと開いた口が塞がらない雄二と玲於奈。
「学校でも、良くしていただいているようで」
「いえいえ、こちらこそ」
保護者の会話は続く。
「だから、今度の事は良いお話だと思ったんですけどね」
これは玲於奈の母。
「どうも本人が乗り気でないようで、お断りしたいって」
「えっ?」
「あら、そうですか? 実はウチのもなにか事情があるらしく」
玲於奈の疑問符を無視して、環が受ける。
「いや、おい」
「本当に、残念ですわねぇ」
雄二のツッコミも流される。
「それじゃあ、このお話はなかったことに……」
「「ちょ、ちょっと」」
「姉貴っ」
「お母様っ」
からかわれているのは、雄二はむろん玲於奈にだって分かった。
別に縁談の有無で二人の関係が変わるわけでもない。
「「ま、待ってく」」
「れ!」
「ださい!」
それでもここは、やっぱり止めるところなのだろう。保護者二人も微笑んだ。
しえん
およそ30分後。
「ああもうっ! お父様もお母様も環お姉様も、悪ふざけが過ぎますわ!」
賑やかな挨拶と、軽い食事−雄二と玲於奈は味など分からなかった−の後、
「暫く本人達に任せましょうか」
少女の母と少年の姉は定番の行動として席を外し、
「「……」」
改めて面と向かうと会話に困って、
「天気がいいし、外にでも出るか?」
「はい」
中庭に散歩に出たあたりで、ようやく玲於奈も調子を取り戻したようでさっきの発言。
「なんかおかしいとは思ったんだ。名前も教えないでお見合いなんて」
雄二もぼやく。相手の素性を尋ねても「どうせ断る気なんでしょ」と環にはぐらかされたのだ。
「そういえば、そうですわね」
「お前は違和感感じなかったのかよ。っつーか、家を飛び出す前に相手くらい確認しろよな」
「違和感は覚えるものです」
恋人の本気ではない口調の苦情に、玲於奈の頬が膨れる。
「雄二さんだって、連絡くださっても良かったじゃありませんか」
「今日知ったんだ。年末年始は家にカンヅメだったしよぉ」
反撃の矛先を流して、雄二は伸びをひとつ。
「うーん、朝から緊張してたから気が抜けたな」
「そうなんですか?」
「ああ」
頷いて、ちょっと意地悪くニヤリと笑う。
「育ちが良くて美人だって聞いてたから、少し楽しみにしてたんだけどな」
「どういう意味ですかっ!」
たちまち、少女の顔が真っ赤に沸いた。
「どうせ私は粗野で品がないですよ」
誰もそんな事は言ってないし、少なくとも雄二は思ってもいないのだが。
「こっちはどうやって失礼なく断ろうかと真剣に悩んでましたのに……」
勢いに任せて言葉を続けかけて、少年の目が笑っていることに気付く。
「なんですか?」
「いや、怒った顔は久しぶりだなと思って」
「っ!」
雄二の楽しげな言葉に、玲於奈の赤面ぶりが微妙に色を変える。
「そういう言い方は、ずるいですわ」
もう見慣れた拗ねた顔。どちらにしろ、少年には愛おしい。その視線に、また少女は困る。
「……んもうっ」
紅い頬を膨らませたまま反撃の台詞を探す玲於奈。
やがて、急にニコっと笑って。
「似合ってますね、その服」
「……そう来たか」
いちおう公の場ということで、今日の雄二は濃紺のスーツ姿。
普段は学生服か、私服でもあまり構わない格好なので、
少し子供っぽさは感じるものの、彼を見慣れた玲於奈にも新鮮な印象がある。
「どうせ背伸びしてるよ」
「そんな事ありませんわ。格好いいです」
ニコニコ。
無邪気な笑みに、今度は雄二が追い込まれる手番。
冬の日溜まりの中、常緑樹の間を歩く少女の姿。
玲於奈の方の服装は、まるで雄二に合わせたようなピンクのカジュアルスーツ。
「……」
思いついた台詞はあって、しかし素直過ぎる気がして迷った雄二。
それでもたぶん、言って欲しいんだろうなと思って口を開く。
「お前も、似合ってるぜ」
「ありがとうございます!」
やっぱり言って欲しかったらしい玲於奈は、満開の笑顔で応えた。
私怨ノシ
「しかしなんだ。全然お見合いらしくはねえな」
「あはは、そうですね」
真面目な格好で場所が場所でも、どうにも気分は出ない。
少しはらしい話題でもしてみようかと、
「ご趣味は」
「音楽鑑賞など」
以下、いつもの緒方理奈談義を妙な丁寧語でひとしきり。
「学校はいかがですか?」
「楽しいですよ。同じクラスの友人もいるし、隣のクラスに……」
恥ずかしい会話になりそうなのでやめた。
「勉強の方は?」
これは玲於奈から、ちょっと意地悪な振り。
「全然ダメですが、なんとか大学には進みたいっスね」
が、回答に表情を変えたのは玲於奈の方。
しげしげと雄二の顔を見る。視線をあさって方向に逸らす少年。
じーっ。
逸らした視線を宙に三回転半くらい彷徨わせて戻しても、まだ玲於奈が見ていた。
「……そういうことだ」
観念して進路変更を認めると、玲於奈は嬉しいようで困ったようにはにかむ。
「そ、そうですか。それでは私も頑張りませんと」
「頑張る必要ある……んですか?」
お見合いごっこが続いているか否か判別できずに変な語尾で尋ねる雄二。
玲於奈の成績は優秀だ。よほど志望が高いのだろうか。
返事は明快だった。
「はい。実は、九条院を受験しようと思っています」
九条院の大学部は、エスカレータで昇ってくるお嬢様達は十人十色として、
良家の子女とお近づきになりたい連中の存在と、やはり定員が少ないので結構な難関である。
「それはまた、難儀だな」
成績の差が歴然としている所以、同じ大学を目指そうと思ったわけでもないが、
出戻りした上にもう一度転校した玲於奈は、合格すれば三度目の九条院入学ということになる。
「幼稚園からずっと九条で過ごして来て」
少女は前を向いて言葉を紡ぐ。
「それが当たり前だと思っていたことが、転校して色々と違うことに気がつきました」
「一度戻って、なお差異を感じて、またこちらに戻って、また思うことがありましたし」
「九条には、外から入る人はいますけど、往復する人はあまりいませんから」
「ですから、是非、どこまでできるかは別として、その経験を生かしたい」
「九条を変えるってか」
「いくらなんでも。そこまでは思っていませんけど」
恥ずかしそうな苦笑。
それにしても、玲於奈がそんなことまで考えていたというのは意外だった。
「変わったな。お前」
雄二が指摘すると、玲於奈は首を傾げる。
「どうでしょう?」
「ああ。随分と、大人しくなったような気がする」
大人になったという意味も込めて。
「……雄二さんは、変わりませんね」
誉めたつもりだったが言葉が悪い。ちょっと斜に受けて返す少女。
「あっそ」
この一年で多少は成長した気になっていた雄二としては面白くない。
「ええ」
しかし玲於奈は、穏やかに微笑んだ。
「出会ってからずうっと、私が信じる雄二さんのままですわ」
雄二は、照れてそっぽを向いた。それを見て、玲於奈はいっそう笑った。
日差しが少し雲に隠れて、冬らしい冷たい風が通る。
「寒くないか? そろそろ戻るか」
「もう少し……」
言って玲於奈は身体を寄せる。二人の手が繋がる。
「今年は受験生かあ」
空を仰いで雄二。吐く息が白い。
「お互い、まずは勉強を頑張りましょうね」
彼の肩の隣で、彼と同じ雲を見て玲於奈。
「九条に受かったら、少し離れてしまいますけど」
雄二も受験しろとは、流石に言わない。
「週末は必ず戻ってきますからね」
目線が遠くなったせいか、少女は思考も未来に走っていく。
「それで、卒業して就職したら、二人で一緒にいたいですね」
数日前に、泣きはらした目で呟いた目標。
「あ、私は専業主婦でも共働きでも構いませんから」
空想は、いきなり現実味を帯びてきた。
「それで、そのうち子供……あはははは」
昼間言うと照れくさかったらしい。
二人の未来は始まったばかり。
簡単には行かない事もあるだろう。失敗することもあるだろう。
(ま、目標ってのは下方修正していくもんだろうけどさ)
それでも、
「何人くらいがいいでしょうかね……」
なにやら自分の世界に突入している玲於奈の横顔を見ながら。
少女が広げる未来予想図を、重ねて描くであろう、自分の人生設計を、
自分の力の及ぶ限りは叶えたいと、雄二はそう願った。
「雄二さんは野球チームとサッカーチーム、どっちが好きですか?」
さっそく修正の必要がありそうだったけど。
以上です。
最終話にして風呂上がりの雄二なんぞ描写してしまいました。
続けてエピローグ、行きます。
それから、一年と少し経って。季節は春。
山道を走る、一台の乗用車。
「こっちはまだ、咲いてねえな」
「例年どおりなら、もう少し後ですね。今年は暖かいですけれど、山の中ですから」
助手席で答えたのは玲於奈。
「しかし凄い所にあるよな。道も細いし」
「運転、気をつけてくださいね」
ハンドルを握るのは、免許取りたての雄二。
「私も夏休みには免許を……」
「やめとけ。向いてない」
「んもうっ、いつもそうなんですから」
「バスもあるし、電話くれりゃあ迎えに行くぜ」
そんな会話をしながら、向かう先は、私立九条院大学。
この3月、玲於奈は見事に、第一志望の九条院に合格した。
入寮は強制ではないが、近くの町までバスで3時間という地理条件により事実上の全寮制。
地元の大学に通う事になった雄二−周囲の心配を他所に、きっちり合格して見せた−とは、微妙に遠距離になる。
「毎週戻りますから、よろしくお願いしますね」
「無理すんな」
そんな会話をしながら、車はやがて見えた大きな校門をくぐって敷地内に侵入。
「うわ、立派な車ばっか」
普段は無駄なほど広い来客用駐車場に、所狭しと高級車が勢揃い。
外車もあるが、どちらかというと国産車が多いのは学校柄だろうか。
車と車の合間を縫って駐車スペースを捜す雄二の中古。
今日は、九条院大学の入学式。
「うーっ、空気がいいな」
長時間の運転から解放された雄二が、車から出て思いっきり欠伸。
「花粉症の人は大変なんですよ、毎春」
馴染みのある場所に舞い戻って楽しげな玲於奈。
「式は11時からか? 少し早かったかな」
「そうですね。でも人はだいぶん……あっ!」
きょろきょろと周囲を伺っていた少女が声を高くする。
人混みという程でもない人の群れの中、落ち着いた様子で周囲を眺めているのは、
「環お姉様っ!」
向坂環。
玲於奈は車の合間を縫って駆け寄った。
「おはようございます! お姉様!」
「久しぶりね、玲於奈。おはよう。それと、入学おめでとう」
「ありがとうございますっ!」
環と玲於奈が会うのは、合格発表の時以来だった。
駆け寄って環の手を握りしめる少女。
(尻尾があったら振ってるだろうな)
苦手の姉を避けて遠目の雄二は、そんな失礼な事を発想したり。
「ええっと……」
「薫子とカスミなら、すぐ来ると思うわ」
第二駐車場の方を見に行って、ここで待ち合わせだから、と、
近くを見渡す玲於奈の思考を読んで環が説明する。
果たして、間もなく校舎の方から現れるふたつの人影。
「薫子っ! カスミーっ!」
周囲の目もはばからずに手を振る玲於奈。
二人も、それに気付いた。
タタタッ……。
まず駆け寄ってきたのは、黒髪の少女。
「カスミっ! お久しぶり……あらら?」
ヒシ……。
変わらず無口なカスミは、玲於奈の口上を遮って抱きついた。
ギュウ……。
「く、苦しいですわよ、……カスミ……」
語尾が詰まる玲於奈。
まったく会っていないわけでもなかったわけではないが、
再び同じ学校に通う事には、また違った感慨があるのだろう。
その二人の肩に。
スッと、もうひとつの手が回る。
「ずるいですよ、私も入れてください」
玲於奈とカスミを包むように腕を回したのは、慌てず歩み寄ってきた薫子。
「久しぶりです、玲於奈。会いたかった」
静かに、しかし感情を込めた声で再会を喜ぶ。
「薫子ぉ……」
たちまち涙目になる玲於奈。少し背が伸びた幼馴染みの肩に泣きつく。
カスミも抱きついたまま。三人ひとかたまり。
「ふふっ、三人とも、ようこそ九条院大学へ。歓迎するわ」
優しく見ていた環が、改めて祝いの言葉。
薫子とカスミは高等部からのエスカレーターだが、そこは節目というもの。
先輩の言葉に、姿勢を正して向き直る玲於奈、薫子、そしてカスミ。
「「よろしくお願いします。お姉様!」」
ペコッ……。
九条院三人娘、およそ一年半ぶりの再結成であった。
しえん
「もうすぐ会場に入れるわね。ほら、化粧直してきなさい」
先の抱擁で、玲於奈の顔はぐしゃぐしゃ。
カスミの頬にも、珍しく涙の跡がある。
薫子が泣いていないのは性格というか芸風であって、想いの深さは変わるまい。
「は、はい」
トコトコ……。
手近な女子トイレに向かって歩き出す赤と黒のコントラスト。
茶色の少女も一歩後ろをついて行くが、道中で脇に逸れる。
「お久しぶりです雄二さん。玲於奈、お世話になってます」
車に寄りかかって佇む、親友の想い人を目ざとく見つけたのだ。
「よう、初詣以来か? 元気そうだな」
雄二は玲於奈の合格発表には付き合っていないので、その前は年明けになる。
「元気ですよ。私もカスミも」
「アイツはまあ、相変わらずだから。迷惑かけると思うけど、よろしくな」
「えっ?」
少年の言葉に、薫子がキョトンとした顔をした。
何か変な事を言ったろうか、雄二が首を傾げたあたりで、
「あっ、そうですね。ちょっと驚きました」
納得したように頷く。
「ふふっ、ご両親以外に玲於奈をよろしくお願いされるなんて」
幼稚園時代に出会って以来、無鉄砲で方向音痴な親友の世話は薫子の当然の日課だったので、
彼女は他人に玲於奈の事を頼むことはあっても逆は滅多になかった。
「なんせ此処だから、俺は普段は面倒見られないし、やっぱ心配でな」
雄二は地面を指さして九条院の立地を嘆く。
「大丈夫ですよ」
薫子は保証して、楽観する理由を述べた。
「玲於奈、いつも幸せそうですもの」
電話でもノロケ話ばっかりで、と、悪戯っぽく付け加えるのも忘れない。
「お前らだって、負けてないだろうが」
やや赤面した雄二が、顎で示す先。
「薫子、何をしてますのっ!」
ジッ……。
校舎に向かう途中で薫子を待つ、玲於奈とカスミ。
「……はぁ」
溜息をつきながらも、薫子の唇には笑みが浮かぶ。
「それでは、また」
「ああ」
くどい挨拶が必要な仲でもない。薫子が踵を返す。
「あっ、そうだ」
と、もう一度返し直して雄二を向く長髪の少女。
「なんだ?」
「ひとつご報告です。カスミ、刃物を持たなくなったんですよ」
「……そうかい、良かったな」
寡黙な少女がポケットに危険物を持ち歩いていた事は、雄二は何度か目撃している。
それをやめたというのがどういう意味か、明確に分かるほど付き合いは深くないが、
薫子が嬉しそうに話すということは、喜ばしいことなのだろう。
「それと、もうひとつ」
「なんだよ」
いい加減しつこいぞと苦笑する雄二に、薫子はニッコリと笑って。
「早く挨拶しなくていいのですか、お待ちかねですよ、お姉様」
反撃も許さずに、薫子は相棒二人の下に駆け去った。
「……」
相手のいなくなった雄二はやむを得ず、ギギギと首を見たくない方向に回す。
「……」
そこには、腕を組んで一向にやって来ない弟を睨む、眉目秀麗な姉の姿があった。
「よお、姉貴、来てたのかガガガガガ」
射程距離の1メートル手前で声を掛けたつもりだったのにアイアンクロー。
環の踏み込みの鋭さを計算し忘れた雄二のミスである。
「ってえな、っつーか俺がなにをしたんだよ!」
「挨拶がわりよ。相変わらず頑丈なのだけが取り柄の頭蓋骨ねえ」
わざとらしく溜息。
「失敬な。そっちこそ相変わらずのバカ力ガフッ!」
雄二の方が背が高いはずなのに、拳が脳天に振ってくるのは何故だろう。
「玲於奈も元気そうでなによりだわ。薫子とカスミも、相変わらずみたいだし」
「みたいだしって、同じ校舎だろ?」
「うーん、やっぱり大学部と高等部だから、そんなに会わなかったわねー」
「へえ?」
薫子はともかく、カスミならそんな垣根はもろともせずに押しかけそうなのだが。
「去年の頭から、そんなに頻繁には来なくなったわよ?」
卒業式では泣かれたけど、と付言した上に、
「薫子とは、四六時中一緒みたいだけど」
さらに付け加える。
「玲於奈が嫉妬しそうだな」
先の薫子との会話を思い出しながら雄二は冗談9割本気1割で心配。
「玲於奈は、あの様子なら大丈夫でしょ」
アンタがいれば、とは口には出さずに表情で伝えた。
「そういや、久寿川先輩は来てねえの?」
雄二が名前を口にした、美人で人見知りな元生徒会長久寿川ささらは、なんと九条院大学に進学していた。
元生徒会副会長向坂環を追いかけて、だと、雄二は半分くらい思っている。
「今日は街の方に出ているわ。お母様が見えてるらしくて。よろしく伝えてって言ってた」
「そっか」
やや残念だったが、久寿川がいるとセットで例の危険な先輩も出てきそうだからと自分を納得させた。
「卒業式はどうだった? 行きたかったんだけどな」
まだ残念がっている顔で、用事で外した環が尋ねる。
「どうもこうも、メンツは違えど前と一緒だ。このみが大泣きしてな」
「そうでしょうねえ」
はあっ、と、やや環らしくない息を吐く。
「タカ坊が、あんな遠くに行っちゃうなんて」
あまり真面目に進路を考えていた様子もなかった河野貴明は、突如この春から関西移住。
なんでも、卒業旅行先の大阪で偶然手助けしたおばあさんに気に入られ、
家にお邪魔してみたら、そこが恋人である小牧愛佳の母方の実家。
「アイツも詳しくは語らねえけど、色々あって後を継ぐとか継がねえとか」
「タカ坊らしいわ」
もう一回嘆息。
「さすがに、これから逆転は難しいかしらね」
「……まだ諦めてなかったのかよ」
「人の気持ちってのは、そんな簡単じゃないの」
他人事のような物言いに、姉の寂しさを感じた雄二はそれ以上突っ込まない。
「ところで、小牧さんの実家って何やってるの?」
「ケーキ屋」
「……ぷっ」
一瞬絶句した環、ややあって吹き出す。
何を想像したのか、雄二も正確に推察できる。
「そっか、あはは、タカ坊のケーキ屋さん、ふふっ」
何歳になってもどこか女の子っぽい童顔の貴明に白衣。
似合う似合わないとは別に想像力を掻き立てられるものがあるらしい。
「これは近いうちに遊びに行かなきゃね、是非」
貴明強奪は諦めても、玩具にすることは止めないつもりらしい環。
雄二は同情を禁じ得ない、貴明本人よりも、主として彼の恋人の方に。
「そんときゃこのみも連れて行ってやれよ」
「もちろんよ。雄二もね」
「日程があればな」
雄二は、今のところ全週末帰ってくるつもりらしい玲於奈の事を考慮して答える。
(でも、玲於奈を連れて行くのもいいかもな)
貴明はともかく、玲於奈は小牧姉とは至って良好な関係で学園生活を終えた。
「電話ちょうだいねぇ〜」
「九条院にも是非、遊びにいらしてください」
別れ際の二人の会話を思い出して、雄二は卒業式を回顧する、
「ごごぎごががぐぐごぎっごぎごぐががぎぎぐぅ〜(このみもタカくんと一緒に大阪に行くぅ〜)」
と、やっぱり思い出す幼馴染みの泣き顔。
「無茶言うなよ。ていうか、この間も散々泣いただろ」
大阪行きが決まった時も、無人になる河野家大掃除の時も豪快にグズった少女だが、
卒業式という節目で再び寂しさ極まったらしい。この後の送別会でも、もちろん大泣きした。
「あ、あははは」
同情しつつも、もはや笑うしかない愛佳。オプションの多い恋人を持つと苦労するという教訓。
彼女にとっては、貴明の進路は色々と望ましいものでもあったろう。
もっとも、愛佳自身は意外とそんな余計な事は考えていないのかも知れない。
河野貴明がどんな道を歩もうと、小牧愛佳は、彼の隣を歩むだけだから。
「ぞずぎょうじだら、ぎぐががげ(卒業したら、行くからね)」
まだ言ってるこのみ。
「このみはこっちの大学受けるんじゃなかったの? あたしと一緒に」
故意に拗ねた表情で引き取ったのは、小牧郁乃。
最近、杖は手放せないものの車椅子なしで外を出歩けるまでに回復した愛佳の妹は、
姉が進学しなかったことで生まれた経済的余裕を、遠慮なく生かすつもりらしい。
しえん
「ごうじゃぐがががおえうががぁ〜?(大阪から通えるかなぁ?)」
無茶言うこのみ。
無茶と言えば、学年一桁順位の郁乃と赤点候補生が同じ学校を目指すのも常識的ではないが、
何事にも素直なちびっ子は、郁乃の言葉と指導を真に受けてメキメキ成績を伸ばしつつあり、
「いつまでも秋田ローカルの超神みたいな発音してないで諦めなさい」
いっぽう郁乃は、既に親友の数字に合わせて志望を落とすと決めているようで、
成績優秀な小牧家の姉と妹は、2年続けて進路指導部を嘆かせることになりそうだ。
「どうせ会いに行ったり来たりはするんだから」
「うんうん、戻ってくるよ」
力一杯頷くのは、妹離れが不安な愛佳。
「あんまり戻ってこなくていい」
「えぇ〜」
相変わらず好き勝手を言う妹が、密かに家を出ることを考えていることを姉は知っている。
あわよくば、そこに寝起きの悪い同居人を獲得しようと目論んでいることも薄々。
もちろん、実現までには数多くの障害、主として郁乃の体調面を中心に、がある。
それでも、家族に頼って生きるという、許された唯一の選択肢を黙々と選び続けてきた彼女が、
一時的にせよ家から離れて生活しようという野望を持てるだけでも愛佳には幸福だったし、
妹を自然にサポートしてくれている元気少女が、もう暫く側に居てくれたらとも願う。
「だがぐんばぼびびぶぶばばべ〜(タカくん遊びに行くからね〜)」
愛佳自身の利害関係も、絡まないというと嘘になるけど。
で、話題の元凶たる約1名は。
「あはは、まあこのみも郁乃も遊びに来たらいいよ。いちおう雄二もね」
困ったような笑顔でいつもの曖昧な発言。
「……私は、やっぱり河野さんが一番性質が悪いと思いますわ」
「今に始まったこっちゃねえけどな」
雄二と玲於奈は、こっそり頷いた。
回想終わり。場面戻って九条院。
「そういう貴方は? 玲於奈のご両親に、失礼してない?」
「本人の心配はしねえのかよ」
「見れば分かるもの」
二人が上手く行ってるのは、と環は笑う。
雄二は腕を組んで、
「うーん、嫌われてはいない、と、思う」
玲於奈の家には、お見合いの直後に初めて挨拶に行って、
この一年間で何度もお邪魔して、泊まった事すらある。
「優しい親御さんだな。玲於奈の親とは思えんような」
後半は冗談。
明るくて、どこか抜けたところなど良く似ていると思う。
「そうね。でも娘思いだから、玲於奈を傷つけたら怖いわよ」
「気を付けるよ」
環が脅すが、言わずもがな。
「けど、そうだな。家出の事とか、もっと怒られるかと思ったんだけど」
やや古い話を持ち出す。
あの時雄二は、ホッとしながらも少し愛情に欠ける親ではないかと思った。
今は、そんな誤解は微塵も残っていないが、自分らを自由にさせすぎではないかと感じる事がある。
「あら、怒ってたわよ」
それを告げると、しかし、環は首を振った。
「私が玲於奈の御自宅に連絡した時なんて、怒鳴りこんできそうな勢いだったもの、お父さん」
雄二と玲於奈のプチ家出の、第一発見者は向坂邸に戻った環と薫子だった。
「そうなのか?」
「ええ。俺が娘の幸せを考えずに縁談を持ち込むような親だと思ってるのか、とね」
「……玲於奈が言ったんだぞ」
「そっちにはがっかりしてた。信用されてないんだなって」
クスリと思いだし笑いをしながら環が語る、雄二も玲於奈も知らなかった事情。
「取りなすのも大変だったんだから」
「いや、悪かった。けど、ぜんぜん素振りも見せねえけどなあ」
玲於奈の父親とは最近は晩酌の相手−雄二は年齢なりに−をしたりもして、
けっこう人生語られたり打ち解けているつもりだが、その辺は何も聞いていない。
「気を遣ってるのよ」
「俺に?」
「当たり前でしょう。婿に迎えようって男で、しかも向坂本家の人間よ」
「……」
雄二の腕組みが少し深くなる。
それを見て、環が少し真面目な顔をした。
「察しなさい、そのくらい。いつまでも、他人の好意に無邪気に甘えていい年齢ではないわ」
「分かってるよ」
雄二が不機嫌になったのは、前段部分のせいではない。
「家の事もよ」
それも、姉はお見通しだった。
「貴方が家柄とかそういうものを嫌うのは構わない。お婆さまもそう思っていたし」
二人の祖母は、姉弟の性格を見抜いていた。だから、環を後継者として育てた。
「でもね、向坂の人間として生きていく以上、それはついて回ること」
付き合う相手が分家筋の娘であれば、尚更。
「貴方が拒否すれば、その分が玲於奈に降りかかる事になるの」
雄二は腕を組んだまま、姉の言葉を聞いた。
環が言及した雄二と玲於奈の関係が、そのまま環と雄二当てはまる事に気がついたのだ。
そして本当は、姉も家柄や血筋の話など好きではない事を、彼は知っている。
「……分かったよ」
自分が分かっていなかった事が。
「すまなかった、姉貴」
「あら? 私に謝ってもしょうがないわよ?」
「いや、そうだな。じゃあ、サンキュ」
もう一度、雄二は環に感謝した。姉は、いつになく軽く、弟の頭を小突いた。
「雄二さんっ! 雄二さんっ!」
かなり遠くから雄二を呼ぶ声は、聞き慣れた玲於奈の声。
どうやら、化粧直しは終わったらしい。
「あら、呼んでるわよ?」
面白そうに環が指さす先に、飛び跳ねながら手を振る赤髪の少女。
ずいぶん長くなった髪が、身体の動きに合わせて上下に揺れている。
「なんだよ、ったく」
玲於奈は何かに夢中になると人目をはばかるということをしない。
恥ずかしい思いする時間を短くしようと、一気に駆け寄る雄二。
「こちらにいらして」
そのまま校舎の裏側に誘う少女。薫子とカスミは、笑いながら環の方に戻っていく。
「トイレなら案内してもらわなくても平気だぜ」
「違いますっ。ほらっ!」
玲於奈に引きずられて辿り着いた、敷地の一角。
日陰になっている校舎裏で、ちょうどそこだけ陽当たりが残る場所。
まだ春になりきらない九条院の構内で、一本だけ桜が咲き始めていた。
「陽当たりいいからか? それとも、種類が違うのか」
「わかりませんけど、この木だけ咲くのが早いんです。毎年そうでした」
自分で思い出したのか薫子あたりに想記させられたのかは分からないが、やたら嬉しそうな玲於奈。
すっと二人は手を繋ぐ。並んで見上げる、薄紅色の春の花。
「学園の方は、今が満開だろうな」
“タカくん”と離れた幼馴染みは、それでも無邪気に跳ね回っているだろうか。
その隣で、皮肉屋の少女が苦笑しているのだろうか。
「西の方は、こっちより遅いんでしたっけか?」
「同じくらいだろ?」
異郷の地で新たな生活を始めた貴明と愛佳は、どんな桜を見上げているのだろうか。
「此処も、これからどんどん咲き始めますよ」
まだ蕾の桜達を、空いている方の手で示した玲於奈の目に、
キョロキョロ……。
彼女を捜す、カスミの姿。
「玲於奈ーっ! そろそろ受付の時間ですわよーっ!」
親友を呼ぶ、薫子の声。環もこちらにやってくる。
「ふふっ、それでは一足先に、大学生になってきます」
環達の方に走り出す玲於奈。繋いだ手が、するりと外れた。
「入学式が早いだけで」
苦笑する雄二。
再会した三人娘と、彼女らが尊敬する先輩が見る桜は、
そして、まもなく雄二が自分の学校で見る桜は、どんなものになるだろう。
春。それぞれの未来へ、それぞれが走り出す季節。
「……今晩あたり、委員ちょんとこに電話してみるかな」
少女達の様子に、厚くもないと思っていた友情を刺激されて雄二は呟く。
ずうっと並んで歩いてきた日溜まりを離れ、それぞれの場所を歩き始めた雄二と貴明。
ひょんなことから彼等と同行することになった、玲於奈と愛佳。
「そうそう、柚原さんと小牧さんの妹さんも、今日が始業式なんですよ」
「このみが受験生とはね。可哀想に」
「私たちも、去年は受験生だったのですから。皆が通る道ですわ」
「そんなこと言って、大変だったのは私だけではありませんか」
ニコニコ……。
先輩達の残した標をたどって、間もなく自分の船出を迎える、このみと郁乃。
いったん分かれて、またひとつになった玲於奈と薫子とカスミの、そして環の線路。
しえん
先の事は、わからない。
離れた道も何時か交わり、並んだ道も何時か離れ得る。
堅い絆を信じる雄二と玲於奈にも、これから乗り越えるべき壁はいくらだってあるだろう。
だけど、だから。
人混みに紛れてゆく玲於奈の背中に、雄二は願う。
振り向いて確かめた雄二の視線に、玲於奈は想う。
この愛しさだけ、いつも君に届けと。
以上です。支援ありがとうございました。
そういうわけで、完結です。
が、実は番外編をひとつ構想しているので、そこまで書いて「終わり」にしたいと思います。
ADに間に合わないならやめようと思ってたんですが、2月末ならなんとかなるだろうから(苦笑)
ただ、薫子が主役で、三人娘が雄二と会う前の話になるため玲於奈もあまり活躍しません。
後半出番のなかった九条院組のフォロー狙いということで悪しからず。
しかし長い話でした。通算445レス、原稿用紙換算600枚超……間違いなく私の人生最長の文章。
環シナリオやった時から三人娘は「外見可愛いのに勿体ないなあ」と思っていて、
最萌の支援絵で玲於奈の良さげなのを見たのがきっかけで書いてみたくなった作品ですが、
期間も分量も予定の倍以上に。当初は1話も10レス前後にまとめるつもりだったのに……
内容については、自分で評するなら、なんともテンプレどおりなお話だったかなと。
ホントは玲於奈にはもっとツンデレっぽい落差を出したかったし、テーマ的な事を言えば、
彼女の家柄への拘りを雄二が解いていく話にしたかったけど無理無理カタツムリでした。
あと、このみに悪いことした罪悪感が。最後まで貴明に拘るとは予定外だったので。
ちなみに桜の群像というタイトルは、この郁乃&このみ部分(第5話と、11〜13話あたり)を
「桜吹雪の周辺事情」という仮題で妄想していた名残だったりします。
後悔は無数にあるし書き直したい気持ちも一杯ですけど、自分の力は出し切りました。
胸を張れるとすれば、脇役も含めて全てのキャラに愛着を持って書けたことですかね。
あとがきも長くなっててすみません。
「反応ゼロでも最後まで書く」と覚悟して始めた長編ですが、皆様のレスは非常に励みになりました。
特に第8話にして初めて「玲於奈に萌えた」って趣旨の感想を頂いた時は凄く嬉しかったです。
とにかく、本当にありがとうございました。よければもうちょっとだけ、三人娘(+環)とおつきあいください。
とりあえず完結乙でした
楽しみに待ってましたよ
>あと、このみに悪いことした罪悪感が。最後まで貴明に拘るとは予定外だったので。
このみに関してはわりと仕方が無いんじゃないかなと。
タマ姉の貴明に対する恋心は意識的な部分が大きいけど、このみの貴明に対するこだわりは無意識の部分も多いと思う。
このみらしく書こうとするとこの部分は避けようが無いと思われ。
ともあれ、長丁場での連載で、俺も楽しませてもらいましたし、最も続きの楽しみな連載でした。
最後にもう一度、乙でした。
547 :
545:2007/12/23(日) 22:55:06 ID:UkKounJg0
>546
レスありがとうございます
このみは13話でさくっと区切りをつけて郁乃とらぶらぶにする予定だったんですが、
22話の水族館でキャラが暴走しまして「これ区切りついてねーじゃん!」てw
この娘の貴明への想いは、このみシナリオだと凄く意識して恋い焦がれていて、
逆に他キャラの話だと、無意識だし、そもそも家族的な感覚が強い印象があります
(そうでないと可哀想でToHeartにならないって事情もあるでしょう)
このSSでは後者で無意識に燻ってる恋心を自覚して失恋させるのを狙ったんですが、
自覚させた時点で私の方が前者に引きずられてしまったのかも知れません
しかし郁乃の手に負えないと、貴明と雄二以外にこのみに似合う子……雅史ちゃんあたり?
>>545 完結乙&GJです。
まず、これほどまでの長編を最後まで書ききったという偉業を称えさせてください。
途中のまま、絶賛放置中の作品がSS倉庫に眠っている自分には、その凄さが
よく分かります。
内容についても、本編では本当に只の脇役でしかなかった玲於奈を、露骨なキャラの
改変なく、これほどの萌えキャラに仕立て上げたのが素晴らしかったです。
というより、もはや、自分の中での玲於奈のイメージは、この作品の玲於奈に
既に置き換えられてて、前に2周目の環シナリオをやった際、あれ? 玲於奈って
こんな嫌な役どころだったっけ? と、むしろ本編の方に違和感を感じたという
思い出があります。
何はともあれ、本当に楽しませてくれてありがとうございました。
残るは番外編ということで、楽しみにしてます。
このみと愛佳好きなので二人が出てくるSSとして楽しませてもらいました。
しかし、今後は愛佳も苦労するのですかね?
本当にこのみが関西へきたりして・・・
550 :
545:
>548
ありがとうございます。ですがまず、絶賛放置中の作品を続(ry
でも実際、ここで完結した長編ってこれの前が河野家で、
その前ってたぶん「冬のNYのひと時のやすらぎ」あたりまで遡りますよね
期間的にも話数的にも、長いのを連載するのは色々と苦しい
これも当初は1週とか2週間隔だったのに後半は月イチ未満。青息吐息でした
ですがやはり、完結すると嬉しいです。単なる自己満足だなんて重々承知、
自分で書いたキャラに結末を与えられるのは自分だけだから、最後まで面倒みられて良かった
なので>548さんも他の連載中の皆様も、ぜひ続きに挑戦して見てください
もちろん、拘らずに新作というのも良いと思いますけれど
>玲於奈
玲於奈は、原作では薫子との区別すら殆どないくらい無個性だと思います
雄二の方も、各シナリオでバラバラな性格づけをされている奴ですから、
この雄二と玲於奈が本当に“TH2のキャラ”なの? と言われたら難しい所です
(むろん自分では、二人とも原作から妄想してキャラが出来ていったのですが)
それでもなるべく“TH2のSS”にはなるように、展開や他キャラを含めて頑張ったつもり
>549
漏れもこの二人好きだし書き易いので、雰囲気作りと話の推進役をして貰いました
愛佳にはもっと見せ場をあげたかったのですが、このみに食われましたねw
今後……まあ、貴明はあれで愛佳一筋でしょうから、実は問題ないのではないかと
このみと郁乃が大阪に来て四人同居なんてのも、それはそれで面白そうですが(ぉ