ToHeart2 SS専用スレ 21

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260物書き修行中
懲りずに3連投してみる
261名無しさんだよもん:2007/10/29(月) 00:42:55 ID:a6P2QkMu0
さあこい
262はいてない。 1/7:2007/10/29(月) 00:45:07 ID:ne/a5nU80
 いつも通りの放課後。
 玄関を出て、掃除当番で遅れている由真が出て来るのを校門の近くで待つことにした。

 最初の頃こそ由真と待ち合わせていると、小牧と雄二にさんざ冷やかしていたのだが、
最近ではそう言うこともほとんど無くなり、自然とお互い先に終わったほうが遅れて
いるほうを待つようになっていた。

 下校する生徒達をしばらく見送って、人気が大分少なくなった頃に、由真が玄関から
姿を現した。
 玄関から現れた由真は、なぜかそろそろと内股で歩いていた。
「おーい、由真。どうかしたのか?」
「あ、たかあき…な、なんでもない。」
 なぜか由真は俺を見たとたんスカートをおさえた。
 気になるので、再度問い詰めてみた。
「…本当になんでもないのか?」
「…なんでもない。」
 こういうときの由真は頑固だ。とりあえず聞き出すのは諦めて、下校することにした。
「じゃ、帰ろうぜ。MTBとって来いよ。」
「…今日はいい。置いてかえる。」
 ますますおかしい。MTBは由真にとっては靴と一緒で足代わりだ。いつぞや壊れて
自走できなくなったときなど、わざわざじいさんに電話して取りに来てもらったぐらい
だったのに。
「おまえ、本当におかしいぞ…力になれないかも知れないけど、言ってくれよ。」
「ほ、本当になんでもないんだったら!」
 彼氏として由真の力になりたかったのだが、由真のほうは俺を睨みつけながら怒鳴り
返した。
263はいてない。 2/7:2007/10/29(月) 00:46:12 ID:ne/a5nU80

 その時、一陣の風が吹いた。

「うわっ!」
「きゃっ!」

 由真の制服のスカートが翻って、俺は信じられないものを見た。
 いや、正確には、見えるはずのものが見えなかった。

 由真はあわててスカートを押さえたが、俺は信じられない光景を見て軽くショックを
受けていた。
 由真は真っ赤な顔で俺に聞いてきた。
「…見た?」
「…見た…つか…お、おま、おま、おま、」
「卑猥な事言うな!」
 俺は由真に殴り倒された。


    はいてない。 〜その傾向と対策〜


 由真はパンツをはいてなかった。
「あんた往来でなんて事言うつもりだったのよ!」
「おれは『おまえ、何て格好してるんだ。』って言おうとしたんだ。何と勘違いしたん
 だ?」
264はいてない。 3/7:2007/10/29(月) 00:47:02 ID:ne/a5nU80
「えっ…えっと、その……お(ぴー)こ」
「…いや、聞いた俺が悪かった…だから女の子が往来でそんな単語言っちゃ駄目だ。」
 とりあえず、スカートがめくれたときに周りに人がいなかったのは幸いだった。
 MTBに乗りたがらなかったのも納得だ。もし素股でサドルに跨ってるのを通行人に
見られた日には、どこのAVの撮影やねん、という騒ぎになっただろう。

 部活で残っている生徒の目を避けて裏庭に移動した俺達はベンチに腰掛けた。当然
由真は前をしっかり押さえて一分の隙も無いように気を配っている。
 周りには全く人気は無い。が、念には念を入れて、低い声で話し始めた。
「で、なんでお前はパンツはいてないんだよ。」
「…掃除してるときに、またやっちゃったのよ。」

 今日の掃除は、掃除だけじゃなくてワックス掛けも兼ねていたらしい。そういえばウチ
のクラスでもHRで小牧が言っていたような気がする。
 で、制服を汚さないように、ということで体操着とブルマに着替えてワックス掛けを
やっていたらしいのだが、そこでいつもの由真のドジスキルが発動。いつぞやのように
すっころんで、ワックスを被ったらしい。
 まあ、そこまでなら良かった。わざわざ体操着に着替えていたおかげで制服は無事
だったわけだが、問題はワックスが体操着とブルマにしみこんで下着にまで達して
しまった、ということだった。

 以前は制服に被って下着までどろどろになってしまったので、全部脱いで体操着と
ブルマを履くことで乗り切ったわけだが、今回は無事なのは制服だけ。
265はいてない。 4/7:2007/10/29(月) 00:47:50 ID:ne/a5nU80
 すなわち、そこから導き出される答えは、

 由真(下着装着)+制服−下着=裸セーラー由真

 という答えだ。
 ということは、実は上も中は生乳丸出しということか。
 …
 …
 …
 …ちょっと興奮した。だって男の子だもん。

 こほん…上はまあともかくとして、下は大問題である。
 ブルマは自分で脱いだりしない限りは中がノーパンだということを知られることは無い
だろうが、ウチの学校の制服のような短いスカートではそうも行かない。さっきのように
不意に不特定多数に『ご開帳』しかねない。
 売店でブルマを買おうとも試みたがあいにく在庫切れだったらしい。

「コンビニまで行けばパンツは売ってると思うんだけど…」
 由真はそう言ってため息をついた。一番近いコンビニは坂の下だ。ノーパンで結構な
下り坂をくだらなくてはならない訳で、見られる危険は増大する。
「…俺が行って買ってくるしかないか。」
「コンビニで制服着た男が女物のパンツ買うの?間違いなく変態認定されて学校に通報
 されるわね。」
「仕方ないだろ。お前そのままじゃ帰れないし。」
「あたし、彼氏を変態にしたくない。」
 そう言って由真はぷいっと視線をそらした。そこまで俺のことを大事に思っていて
くれるとは…
266はいてない。 5/7:2007/10/29(月) 00:48:32 ID:ne/a5nU80
「…由真…そこまで俺のことを。」
「だって、変態が彼氏だと、あたしまで変な性癖の女の子に見られちゃうじゃない…」
「由真…」
 期待した俺がバカだった。
「やっぱ自分で行く。たかあき変態にしたくないし。」
「いや、それはやばいだろ。」
「もし誰かに見られても…たかあきがお嫁に貰ってくれるよね。」
 顔を赤くしながら、由真はチラッと横目で俺を見ていった。
 男としてはたまらない一言だった。ここが俺の家ならそのまま押し倒しているところだ。
 そして、そんな由真を見ていて、俺はやっぱり由真を好奇の視線にさらす危険を冒す気
になれなかった。
「…いや、やっぱ駄目だ。」
「あたしは見られても…気にするけど、諦めるから。」
「いや、他の男に由真の大事な部分を見せてちまったら俺が平気でいられそうも無い。
 多分ボコボコにする。由真は頭のてっぺんからつま先まで俺のもんだ。他の男には少し
 だって由真の肌は見せてやりたくない。」
 俺は興奮してそんなことを思わず口走ってしまい、言い終わってから気が付いてはっと
なった。由真のほうをチラッと見てみたら、由真は真っ赤な顔で俺を見たまま固まって
いた。少しの間由真はそのままだったが、金縛りが解けたとたん視線をそらした。
「な…何恥ずかしいこと言ってんのよ…」
「ご、ごめん…つい興奮して…」
「でも…嬉しい。」
「えっ…今なんていったの?」
 由真はいたずらっぽい笑みを浮かべながら答えた。
「ひ・み・つ。」
267はいてない。 6/7:2007/10/29(月) 00:49:26 ID:ne/a5nU80

「それにしても…これからどうやって帰ればいいのよ?」
「日が暮れるまで待つ…わけには行かないか。」
 今はまだ夏で日は長い。暗くなるのはかなり先の話だ。
 二人で知恵を絞ることにしてしばらく考え込んでいたのだが…しばらくして、由真が
口を開いた。
「たしか、この間たかあきの家に泊まったときの荷物、まだ置きっぱなしだったわよ
 ね。」
「ああ、あれか。まだ取りにきてないからな。」
 この間由真がうちに泊まりに来て熱い一夜を過ごしたのを思い出した。あのじいさんが
よく男の1人住まいの家への外泊を許したものだと思ったが…
 あの時は次の日に二人で遊びに行って由真はそのまま家に帰ってしまったので荷物が
置きっぱなしになっていた。
「…まさかとは思うけど、あたしの下着で勝手にハアハアしたりしてないでしょうね。」
「するかっ!大体本人に頼めばやらせてくれるのにそんな下着ドロみたいなことする必要
 ないだろ。」
 俺の名誉のために力いっぱい突っ込んでおいた。
「じゃ、とりあえずたかあきの家まで行けばおっけー、ってことよね。」
「まあ、そうだな。」
「じゃあ、たかあき。」
 由真が俺の胸元にすがり付いてきて、上目遣いで言った。
「たかあきの、……、ほしいの…」
「は?」
 俺は間抜けな返事を返した。
268はいてない。 7/7:2007/10/29(月) 00:50:09 ID:ne/a5nU80

 小一時間後…
 俺はスースーして頼りなくなった下半身を気にしながら、MTBを押す由真と二人で
歩いていた。
 言っておくがズボンははいている。猥褻物陳列罪で捕まりたくは無いからな。
 そして由真は…スカートの下に俺のトランクスをはいて歩いていた。
 結局、由真に俺のトランクスを貸し出すことで決着したのだった。
「何か変な気分…男物のパンツってこんなかんじなのね。」
「いや、俺は別な意味で変な気分だ…」
「別な意味で…って?」
「いや、由真が俺の履いてた下着履いてるって思うと…なんかエロイなと思って。」
「な…エロイとか言うな。」
「いや、なんかエッチな気分なんだよな…ほら、ついたぞ。」
 俺と由真は河野家の前に立っていた。
「…やっぱあたし帰る。」
 不穏な空気を感じ取った由真はMTBで立ち去ろうとしたが、俺は素早くその首根っこ
を捕まえつつ、家の門をくぐった。
「まあまあ、ちょっと寄ってけよ。」
「いーやー、たかあきに犯されるー!」
「その通り。この高ぶった気分を解消するのに付き合ってもらうからな。」
「ばかー!変態ー!」
「変態結構。ドア閉めるぞ。」
 暴れる由真を家の中に放り込んで、俺はドアを閉めた。

 結局その日、由真は我が家に外泊することになったとさ。
「ああんっ…もうっ、変態たかあき!」
「うるさいぞ、ドジっ子由真。」
「ドジっ子言うな!」
269はいてない。 7/7:2007/10/29(月) 00:51:36 ID:ne/a5nU80
>>261
なんという絶妙の受けw

それにしても、やっぱこっちのほうが性に合ってるわw
あと小牧姉妹と由真はいじりやすくてお気に入り

この1本は昨日天の声を受信して書きました
はいてない→はいてないといえば由真(生ブルマ)→これだ! ってかんじで
270物書き修行中:2007/10/29(月) 00:52:44 ID:ne/a5nU80
コテ直すの忘れたw orz
271名無しさんだよもん:2007/10/29(月) 01:00:32 ID:RHNg3hGTO
>>270
ドアを閉めた後、玄関で・・・ハァハァ
コホン、GJ!
272名無しさんだよもん:2007/10/29(月) 01:46:35 ID:W8k8Dq1H0
>>269

何気に由真ってけっこー変態指数高いよな、と思った。割とすんなりアナル順応した辺りとか

この後由真を家に送って帰ってきたら、春夏さんにからかわれるわけだな。そしてめくるめく(ry
273名無しさんだよもん:2007/10/29(月) 07:59:08 ID:kFUnpWt00
>>270
メガGJ
274名無しさんだよもん:2007/10/29(月) 19:22:51 ID:jdOzS7NC0
でも、由真が履いてたとしても、トランクスを脱がすのは興奮しないな
275物書き修行中:2007/10/29(月) 20:36:37 ID:ne/a5nU80
>>272
この辺は個人的な見解だけど
自分でも言ってたけど由真は好きな人に尽くしちゃうタイプで、
好きな人の要求なら何でも受け入れちゃうんだと思われ
だから変態的なのは鬼畜野郎の貴明w

一方で好奇心旺盛だから、
AVとか見せたら試しに色々やってみたがったりとかもありそうだけどw
276名無しさんだよもん:2007/10/29(月) 21:07:25 ID:/S/H7Ar3O
>>275
そのシチュで書いてくれるという事だな?

勝手に待ってる
277名無しさんだよもん:2007/10/30(火) 01:52:42 ID:jXz2JzJi0
風でスカートがめくれた時、トランクスが見えたらノーパン以上に言い訳出来ないよな。
こっちの方が噂になる事間違いなし。
278名無しさんだよもん:2007/10/30(火) 20:24:49 ID:eWOcEe9N0
女の子の下着を自分ではくより自分の下着を女の子がはいてるほうが興奮するね
すごい逆転ホームランだ
279名無しさんだよもん:2007/10/30(火) 21:10:59 ID:Pz4RZbRN0
パンツがなくてお父さんのトランクスを履いてるこのみ、という妄想はしたことがあるが、これはまた意味が違うなw
280物書き修行中:2007/10/30(火) 21:45:52 ID:LLM+kdqi0
>>278
はだわいとかもいいけど、着るものが無くて、男が貸したトランクスとだぼだぼのTシャツ
(襟から片方肩が出ちゃってる)着てるのとかも良いよねw

って、どんだけマニアックなんだよ漏れw
281名無しさんだよもん:2007/10/30(火) 22:53:02 ID:hQm+UBaJ0
>って、どんだけマニアックなんだよ漏れw

それこそが(SS)作家の本質、究めればそこに頂点がある。



多分な
282名無しさんだよもん:2007/10/31(水) 15:35:21 ID:s+j0QBpjO
ゴテンクスは同意できないが、大きめぶかぶかの学ラン着てる女の子は俺の中で熱い

だれか学ランネタで一つ頼む
283名無しさんだよもん:2007/10/31(水) 15:56:43 ID:ZUg87VfFO
>205のつづきは?
284物書き修行中:2007/11/01(木) 01:18:42 ID:HpgxcdAY0
続きが来ないっぽいので投下するぜ
285続・はいてない。 1/10:2007/11/01(木) 01:20:23 ID:HpgxcdAY0
 連休を利用して、由真が泊りがけでうちに遊びにくることになった。

 ぴんぽーん

「はいはい。」
 呼び鈴に呼ばれて、俺は玄関へと急いだ。
 玄関を開けると、そこにはキャミソールにぴったりとしたホットパンツ、半そでの
デニムシャツという、夏らしい活動的なファッションでお洒落した、ちょっとだけよそ
行きの由真が立っていた。


    続・はいてない。 〜予習と復習〜


 以前、由真が自分のことを尽くすタイプだと言っていたことがあるけど、あれは本当
だったようだ。

 我が家にやってきた由真は、最近サボり気味で溜め込んでいた洗濯物を見るや否や、
「ちゃんと掃除洗濯はやんなさいって言ってるでしょ。」と文句を言いながらも洗濯を
始めた。
 そして洗濯機が回っている間にちょっと埃っぽくなっていたリビングを見て掃除機を
かけ、掃除が終わった頃に丁度止まった洗濯機から洗濯物を乾燥機に放り込んで、乾燥
している間に昼食を作り始めた。

 普段の粗暴?な振る舞いとは裏腹に、由真は家庭的だった。家事はそつなくこなすし、
料理も結構上手い。将来の夢が『かわいいお嫁さん』というのは伊達ではないらしい。
286続・はいてない。 2/10:2007/11/01(木) 01:21:06 ID:HpgxcdAY0
「由真ってけっこう家庭的だよな。料理美味いし。」
「『けっこう』ってどういうことよ。」
 動かしていた箸を止めて由真が抗議の声を上げた。
「いや、付き合う前の印象だとさ…がさつで家事は一切駄目そうな感じだったから。」
「魚焼いて炭にしたりとか?」
「お米とぐのに洗剤入れてみたりとか。」
「洗濯するのに洗剤入れすぎて床まで泡だらけにしたり?」
「掃除機でカーテン吸い込んですごいことになったり。」
「ふふーん…残念だったわね。」
「そこでなぜに勝ち誇る。」

 昼食を食べ終わると、食器を洗う役を俺に言い渡して由真は乾いた洗濯物を仕舞いに
行った。
 たかだか2人分の食器なので丁寧に洗ってもすぐに終わる。洗い終わった食器を水切り
籠の中に入れると、俺の部屋で洗濯物を仕舞っているはずの由真を手伝いに行くことに
した。
 階段を上がって自分の部屋のドアを開ける。すると、たたんだ洗濯物を仕舞っている
由真の後姿が見えたのだが…げ、それは…
「たかあき…」
「な、なにかな?」
「あんた、こういう趣味があったんだ…」
 由真が手にしていたのはレースのフリルで装飾されたメイド服だった。そろいの黒い
猫耳カチューシャとカフス、レースのストッキングにガーターベルトまである。
 それを手にしたまま、由真は残念そうな表情で言った。
「たかあき…女装の趣味あったんだ…」
「ちがう!」
 予想外の由真のボケに激しく突っ込んでおいた。
287続・はいてない。 3/10:2007/11/01(木) 01:21:52 ID:HpgxcdAY0

「それは雄二のプレゼント。」
「プレゼント?…やっぱり女装の、」
「ちがうっつーの。彼女出来た記念だとさ。だからそれは由真用。」
「あたし?…ふーん、たかあきメイド趣味だったんだ。」
「だから、それは雄二の趣味だっての。」
「ふーん…向坂君の、ねぇ。…本物より生地が安っぽいわねぇ。スカート短いし。」
 レースをふんだんに使った白黒のメイド服をしげしげと見ていた由真はそんなことを
言った。
「本物のメイド服なんて見たことあるのか?」
「前に来栖川のお屋敷に仕事を習いに行ったときに着せられたことある。あれは本当に
 制服って感じで質実剛健だけどね。デザインはこっちのほうがかわいいわ。」

 メイド姿の由真を想像してみた。本物を見たことが無いので、雄二のメイド服のほうだ
けど…結構かわいいかも…。

「ふっふーん。」
 気が付くと、由真がしたり顔で俺を見ていた。
「ちょっと想像したでしょ。」
「何が?」
 俺はしらばっくれた。俺はメイドマニアじゃないぞ…と。
288続・はいてない。 4/10:2007/11/01(木) 01:22:31 ID:HpgxcdAY0
「またまた…どう?あたしに着て欲しい?」
 そう言いながら由真はメイド服を体に当てて見せた…結構かわいい。
 だがしかし、認めてしまうと何か負けた気がする…主に雄二に。
「どう?着てみよっか?」
「う…い、いや…いい。」
「ほんとに…?」
「…」
 由真が顔を覗き込んでくる。眼鏡越しの視線がら俺は目をそらした。
 ここで認めてしまうと、俺のフォースはメイド面(ダークサイド)に落ちてしまうんだ
…許せ、由真。
「いや、これは何か超えちゃいけない一線な気がするんだ。」
「ふーん。あたしにあんだけ鬼畜な事しといて今更人格者ぶるんだ。」
「鬼畜とか言うなよ。とにかく、いい。見たくない。」
「あっそ…あたしには似合わないってわけね。」
 どういうわけか、由真は怒り出したかと思うと立ち上がって俺の背後でごそごそやり始めた。衣擦れの音が二人っきりの部屋の中に響く。
「な、おまえ、何やってるんだ。」
 俺が振り返ろうとしたら、顔に何か投げつけられて視界がふさがれた。…由真の着てた
ピンクのキャミソールだった。由真の匂いがする上に脱ぎたてで体温が残っていてえらく
生々しい。
「見るな。しばらくそっち向いてて。」
「…わかった。」
 仕方なく俺は壁のほうを向いて座りなおす。

 衣擦れの音はしばらく続いた。いい加減妄想で頭が一杯になりかけた頃に由真から
お許しが出た。
「見ても良いわよ。」
 俺は振り返った。
289続・はいてない。 5/10:2007/11/01(木) 01:23:05 ID:HpgxcdAY0
 そこには勝ち誇ったように腰に手を当てたポーズで立つ猫耳メガネのメイドさんがいた。
 元々由真はスタイルのいいほうだが、黒いメイド服の柔らかく膨らんだ胸元とペチ
コートでふんわりと広がるミニスカート、それとは対照的に大きなリボンで細く締まった
ウエストがそのスタイルの良さを一層際立たせていた。そして襟元や裾に備えられた
レースがかわいらしさを引き立てている。
 パフスリーブからすんなりと伸びた二の腕には手首のところにカフスが装着されていて、
頭には黒いビロード調の猫耳が付いたカチューシャも乗っており、良く似合っていた。
 そしてなんといっても足である。マイクロミニからすんなり伸びた由真の二の足は白い
ストッキングで包まれ、スカートの中から伸びたガーターで吊られているのがなんとも
セクシーだった。むっちりした太股の絶対領域が、健康な男子にとってはかなり目の毒だ。
「ふふーん…どう?」
「…ああ、滅茶苦茶かわいい。」
 ごめん…雄二、今まで散々馬鹿にしてたけど、俺ちょっとだけお前の気持ちがわかった
かも。
「じゃあ、今日はこの格好でご奉仕してあ・げ・る。感謝しなさい。」

「♪〜」
 由真は鼻歌交じりで俺の部屋を掃除していた。
 元々俺は部屋を散らかすほうじゃないと思うのだが、由真からするとそうではない
らしい。男の部屋にしては片付いてるほうなんだけどな…一度雄二の部屋を見せてやり
たいもんだ。
 部屋の中に散らかっていた雑誌を片付けて、掃除機をがーっとかける。その間俺は邪魔
なので勉強机の椅子の上に座ったまま、由真の姿を目で追っていた。
 ふりふりと揺れるウエストの大きなリボンとふんわり膨らんだスカートのお尻、そして
その下の絶対領域についつい視線が行ってしまう。
290名無しさんだよもん:2007/11/01(木) 01:26:40 ID:LoUZ31/50
しえん
291続・はいてない。 6/10:2007/11/01(木) 01:29:00 ID:HpgxcdAY0
「…たかあき、視線がイヤラシイわよ。」
「…そんな格好してる由真のせいだ。」
 俺の責任転嫁に由真はあきれた顔をしていた。
「…たかあき放って帰ろうかしら。」
 そう言いながら由真は掃除機をかけていた。すると、ベッドの下に掃除機のホースの
先を突っ込んだときに何かを吸い込んで音が変わった。…って、あそこにはっ!
「なにこれ…」
「い、いや、なんでもない。」
「…怪しい。」
 ベッドの下で引っかかっていた物を取ろうと由真は掃除機を置いてベッドの下に頭を
突っ込んだ。
「お、おい、何もそんなにまでして取らなくってもいいんだ…って、ぶっ!」
 由真を止めようとした俺は信じられないものを見て言葉を失った。
「ぶはっ、やっと取れた…って何て顔してんのたかあき。」
「(゚Д゚)」
 由真が俺の視線をたどって、そして俺が何を見ていたのか悟った。
 由真は女の子座りの状態から上半身を倒して頭を突っ込んでいたのだが、俺の視線の
先には由真の捲れたスカートがあり、そこからはプリン、という擬音が似合いそうな生尻
が突き出していた。由真は一瞬で真っ赤に染まるとスカートを下げて押さえた。
「お、おまえ、なんで履いてないんだよ!」
「ば、ばかっ、履いてるわよっ!」
「いや、今のはどう見てものーぱn」
「ノーパン言うな!」
 俺は由真にしばき倒された。
292続・はいてない。 7/10:2007/11/01(木) 01:29:48 ID:HpgxcdAY0

「見せるけど…襲い掛かったりするんじゃないわよ。」
「そりゃどこのケダモノだよ。」
「たかあきケダモノじゃん。」
「ぐっ…わかったから、早く見せろ。」
「それじゃ…ほら。」
 由真は後ろを向くと、そっとスカートを持ち上げた。
「…Tバック?」
「これはソングって言うの!…ほら、今日の服装覚えてる?」
 今日由真が着てきたのはピンクのキャミソールと白いぴったりしたホットパンツだった
はず…
「あの夏物のホットパンツ履くときに普通のパンツだとラインが出ちゃうのよね。前は
 あんまり気にしなかったんだけど。」
「それとTバックと何の関係があるんだ?」
「ソングだと下着のラインが出なくてお尻が綺麗に見えるの。…たかあきにはちょっと
 でも綺麗に見て欲しいし…これでも気を使ってるんだから。」
 由真が俺のためにそう言う細かいところまで気を使っていたとは…
「ほら、もう解ったでしょ。あたしは露出狂じゃないんだっつーの。」
「いや、この間もノーパンで帰ろうとしてたろ。」
「あれは不可抗力。…それより、これよ。」
 しまった…ノーパン騒ぎですっかり忘れていたが、由真はベッドの下にあった物を手に
入れていたんだった…
 由真が手にしていたのは1枚のDVDパッケージだった。
「どういうこと…この「新人メイド奴隷調教」ってDVDは。」
 タイトルからもわかるだろうが、18歳未満お断りのアダルトビデオだった。
293続・はいてない。 8/10:2007/11/01(木) 01:30:21 ID:HpgxcdAY0
「いや、それはメイド服と一緒に雄二に貰ったもので、見てないし。」
「…封切ってあるけど。」
「すいません、何回か見ました。」
 俺は素直に謝った。そこ、情けないとか言うな。
 だが由真は俺がAVを見てるのがご不満なようだ。
「あたしに普段散々鬼畜な事しといて、AV見てるとかありえないんだけど。」
「エッチさせてくれる彼女が居ても、男はそう言うのが見たいもんなんだって。」
「なんでよ。その気ならあたしが相手すれば済むことじゃない。AVの方がいいとか
 言われたら女としてのプライドにかかわるのよ。」
 どうも、由真は自分がAVと比べられている事が不満なようだった。
 別に比べてるわけじゃないし、比べられるものでもないんだが…
「まあそうだなぁ…たとえば、毎日高級なフランス料理が食える生活をしていてもさ、
 たまに安っぽいヤックのバーガーが食いたいときもあるんだよ。彼女が居てもAV
 見るってのはそんな感じ。」
「…あたしが、高級なフランス料理ってことでいいのよね?」
「は?…まあ、今の例えで言えばそうだけど。」
「許す。」
「何じゃそりゃ。」
 女の子の…というか由真の心理は良くわからん。

「まあ、たまに気晴らしに見るって言うのもあるけど、『参考書』でもあるな。」
「参考書?」
「こういうAV見て、エッチのテクニックを覚えるって言うか。」
「…バカ?」
 由真がバカな子を見るようなかわいそうな目で俺を見ていった。
294続・はいてない。 9/10:2007/11/01(木) 01:31:17 ID:HpgxcdAY0
「バカとか言うなよ…俺達ぐらいの未体験の男なら大体そうだと思うぞ。」
「ふーん…たかあきが鬼畜なのもそのせいね。」
「む…まあ、そうかもしんない。」
 たしかに本能的なものとはいえ、知識が無ければいきなり由真のアナルを征服すること
も無かっただろう。
 やがて眉を寄せてパッケージの裏を眺めていた由真が言い出した。
「ちょっと見てみよっか。」
「…さっき見るなとかいってたじゃん。」
「あたしも一緒に見るからいいの。」
 由真の行動に突拍子が無いのはいつものことだから諦めることにした。
「そうかい。じゃ、パソコンで見てみるか。」

「わ…すご…」
「…」
「何か噴出してるし。」
「…潮吹き、って言うらしいぞ。」
「あれ気持ちいいのかな?」
「さあ…俺も由真しか経験無いから、お前が潮吹きしないと聞きようが無いな。」
「…えっち。」
「…」
「ふわ…あれすごい格好。」
「駅弁、って体位らしいぞ。」
「なんか男の人腰痛めそう。」
「まあ、そうかもな。間違って女の人ずり落ちたりしたらアレがもぎ取られそうだし。」
「…あとでやってみよっか。」
「俺をぎっくり腰にさせる気か?」
「あたしそんなに重くないわよ。失礼ね。」
「そう言う問題じゃないだろ。」
295続・はいてない。 10/10:2007/11/01(木) 01:31:54 ID:HpgxcdAY0
「…」
「…」
「何か、物凄く大きな声でよがってる…恥かしくないのかな?」
「…由真も、イキそうになると結構声でかいけどな。」
「え?うそ、あたしそんなに声出してないわよ。」
「出してるって。」
「出してない。」
「まあ、いいけどな…今度録音でもしといてやろうか…」
「何か言った?」
「…いや、なんにも。」

 そうして約1時間後…
「はふ…」
「ほう…」
 二人ともAVにちょっと当てられ気味でため息をついた。
 一人で見ていたのなら大して感慨も無いのだろうか、隣に肉体関係のある恋人が居るということで微妙にそんな気分になってしまった。
「ね、たかあき…しよっか。」
 その一言で、俺はメイド姿の由真を押し倒した。

 夜…
 由真が夕食を用意する間に、洗濯機ではメイド服が洗濯されていた。
 ちょっと口ではいえないような色々な液体で汚れてしまったからである。
 一方、俺はリビングのソファーに寝転がったままで呻いていた。腰が痛くてたまらない
からである。…なぜそうなったかというと…単に由真の好奇心のせいだといっておこう。
296物書き修行中:2007/11/01(木) 01:39:35 ID:HpgxcdAY0

>>290支援Thx

い、言っとくけど、>>276のために書いたんじゃないんだからねっ!

というわけで、書いてみた。
何か書いてるうちにユルい由真話になってしまった
色々「試した」部分が薄いのは気のせいw

>>282
一応把握しておく
書けるかどうかはわからんので、期待しないで待っててくれ
297名無しさんだよもん:2007/11/01(木) 22:54:36 ID:wn0vw+7a0
>>296
全裸で待つ
298名無しさんだよもん:2007/11/01(木) 23:58:54 ID:YIOOfGXMO
>>297
靴下くらいはけよ、風邪ひくぞ

オレも全裸で待つが
299物書き修行中:2007/11/02(金) 00:36:36 ID:ffLrqLvY0
二人とも風邪引くどw

少なくとも今日明日明後日ぐらいまでは別件で手をつけられないからまだ色々仕舞っとけw
300名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 01:48:58 ID:fXgDHUqf0
水を差すようで悪いんだが、正直、最近の物書き修行中氏のSSは書けば書くほどレベルが低下しているというかなんというか…
状況説明を「〜〜が〜〜で〜〜した」みたいに簡略化しすぎてないだろうか。こういうのって、悪く言えば手抜きに感じてしまう。
反応欲しさのあまり、粗製濫造になってしまってるような気がするんだよなあ。
沢山書けばその分だけ腕が上がるというのはあるかもしれないけど、自分の中である程度のハードルを設けた方がいいかも。
301名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 02:26:23 ID:9z8QfID+0
確かにテンプレ的になって来てるかも、とは思う。
302名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 03:09:16 ID:M+rOUiAH0
確かに、ネタはものすごくいいんだけど、速さを重視するあまり質が落ちてるかも
もうちょい台詞回しとか地の文とか凝った方がいいかもしれないな
まあ、これだけの速さで書けるってのはそれだけですごいことなんだけど
少しくらい速さ落ちてもいいから、じっくり書いてみて欲しいな
303名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 06:20:31 ID:i6EY+Kti0
SS書きにはネタをすぐ文章化できる時期と苦戦する時期ってあるだろうが、
今の物書きさんが前者の状態なら変に意識せずバシバシ書いた方がいいと思う
ウンコじゃないが、文章って変にじっくり我慢すると出てこなくなる恐れがあるw

文体に関しては、俺は全然質が悪いとは思わないが、変化をつけていこうと思えば
いったん書き上がってから数日間手元に置いて推敲し直すといいかもな

なんにしろ、最近のSSスレを盛り上げてる功労者なので引き続きがんがってホスィぜ
304名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 14:25:03 ID:weHUsxz70
はっきりいえば、今の物書き修行中氏のSSは出来損ない。
面白いと感じるかどうかは好みの話だからそこについてとやかくいうつもりはないけど
それでも、早く書こうとしているからなのか、推鼓不足は如実に出ているし
SSである以上、作品としての完成度を高める労力は必要だと思うよ。
その労力を払うつもりがないなら、コテは消した方がいいな
305名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 17:21:24 ID:wUoeSGBd0
>>304
物言いが大仰すぎてどうにも頷きがたいなあ。
SSはかくあるべし、なんて抽象的かつ主観的な意見を押しつけても
作家には何のプラスにもならないと思うよ。

個人的には、今の物書き氏のSSは完成度を高める以前の段階って感じがする。
なんだろうなあ……書き方がテンプレ的とかそういうレベルの問題じゃなくて
これは単なる「ネタ」だよね。「SS」ではなくて。
ぶっちゃけると、ここんとこの物書き氏の作品は「ネタ」の羅列でしかない。
厳しい言い方かもしれないけど、肉付け前のプロットを見せられてる感じなんだな。
まあ、スレに投下するとなると、それなりに短くまとめないといけないから大変なんだけどさ。
306名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 17:35:26 ID:tv/uUkmn0
フルボッコwww
307名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 18:22:09 ID:weHUsxz70
>>305
どんな意見だろうがプラスになるかどうかなんて受けた側次第だろ

あと勘違いされてるようだから言っておくけど
俺は物書き修行中氏に頑張って欲しいとも、今後よくなって欲しいとも思っていないから
そう思うなら作品を読んできっちり感想レスつけてるよ
その方がよっぽど「作家にとってプラスになる」ことだと思うからね
308名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 18:49:22 ID:wUoeSGBd0
>>307
いや……じゃあ何でわざわざ書き込んだんだよ。
なんだかSSそのものじゃなくて、物書き氏に対する悪意みたいなものが透けて見えるんだが。
スレの流れに乗って物書き氏にいちゃもんつけたいだけだったの?
309名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 19:10:27 ID:1xkD0Y8S0
基地外にレスするなよ
310名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 19:13:00 ID:EHBPwxtK0
またこの流れかよ
SS書きを何人追い出せば気が済むんだ
311名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 19:35:10 ID:iwe2XCSR0
>>308
スルー汁!
312物書き修行中:2007/11/02(金) 20:17:13 ID:ffLrqLvY0
なんか1日ぶりに見に来たらスレがおかしな雰囲気になっているんで、
何か言っても言い訳にしか取られない気もしますが一言だけ

別に俺個人に意見を言ってもらうのはぜんぜんかまわないわけですが、
それによってスレの雰囲気が悪くなったりそう言う書き込みでスレ消費が進むのは
本意ではないので、しばらく消えます。

ちなみにコテハンなのは意見を言ってもらったときにレスを返しやすくするためであって
それ以外に他意はないです。
名無しだからっていい加減なものかいていいとは思ってないですし。

書く早さに関しても色々頂いてますが、自分自身は急いで書いているという意識はないです。
前にも書いたかもしれませんが、進むときは進むし、駄目なときはまるっきり駄目なだけです。
また、自分なりに推敲や修正や添削も、全体執筆後、次の日以降に1〜3日程度かけて行い、
それなりに気を使って書いていたつもりではあります。

コテつけて戻るか、名無しで戻るか、書くのやめるかは考えてからにしますが、しばらくはROMに戻ります。
明日用の物も一応用意して会ったんですが、燃料にしかならなそうなのでやめときます。
313名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 20:28:53 ID:Ja6iUOtG0
まあ、俺は委員ちょかこのみのSSであまりにもエロ&鬱すぎなければ、無問題だけどね。
まあ、表現の自由だから、書くのも自由。褒めるのも自由。貶すのも自由。萌えるのも自由だとおもう。
314名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 20:53:07 ID:qR7cVFQF0
>312
暫く様子見は正解な態度だと思うが、
名無しにしろコテにしろ、俺は戻ってくるのを待ってるかんね。無理せずがんがれ
315名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:03:04 ID:weHUsxz70
>>312
消えるのは別に好きにしてくれて構わないんだけど
結果として俺を悪者に仕立て上げてるだけだろ。
あんたはそれで良いかもしれないけど、俺からすりゃちょっと待ってくれって話なんだが。
雰囲気が悪くなりそうって便利な言葉だけどさ。
こんなの酷評がでるたびに存在するような雰囲気だぜ?
俺からすればあんたのその行動は「叩きがいるならいなくなりますよ」って脅し。
しかも正当化するために俺を利用するとか悪意しか見えないな。

ついでだからいっておくと、推鼓や添削は時間をかければいいってもんじゃない
というか、時間をかけたから十分だって考えの時点でアウト。
>>305の言い分を借りると、ネタのまま出してる状態。
これがSSになっていないって推鼓して気づけないのなら推鼓していないに等しいな。
316名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:10:42 ID:bCeMd2I+0
悪者になるのが恐いなら、最初から問題が起こるであろう文章を書くなよ
なにを言うのも自由なら、言った相手がどう受け取ろうと、どうリアクションしようと、それは自由だろ
317名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:11:06 ID:eyzmGNFy0
悪者になりたくないんなら最初から変な書きかたしなきゃいいのに……と釣られてみる
318名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:11:54 ID:qR7cVFQF0
>315
SSスレでSSを書くでもなく、SSの感想を書くでもなく、作家にアドバイスするでもなく、
それで「俺は俺は俺は俺は叩きじゃない」って言うなら、なにがしたいの?就職?

319名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:15:19 ID:iXFoU8swO
どうやら構ってちゃんの一種っぽいから触らないように。
320名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:15:42 ID:bCeMd2I+0
>>315
あれ? ねぇ、君、もしかして「すいこ」って打ってる? 「推敲」だよ?
自分の文章添削した方がいいんじゃないかなぁ。
321名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:25:10 ID:ebHfcOJI0
推古天皇っていいたいんだよ
322名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:31:23 ID:i9KbGZ2Q0
「このスレッドは、好きですか」
「え…?」
「わたしはとってもとっても好きです。
 でもなにもかも…変わらなすぎて困ります。
 煽りが定期的に沸いたり、煽りに噛みついたり、ぜんぶ。
 …ぜんぶ、変わらなすぎです。
 それでも、この場所が好きでいられますか。
 わたしは…」
「スルーすればいいだけだろ」
「えっ…?」
「次のSSが投下されたり、ネタが投下されたりするまでスルーすればいいだけだろ。
 あんたの趣味は煽りの相手をすることなのか? 違うだろ。
 ほら、いこうぜ」
323名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 22:53:52 ID:3qe7yKAv0
あ、本当だ。
推敲が推鼓になってるなw
器用な間違い方だな。
気づかない俺も対外だが。
324名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 23:45:14 ID:lBxLkEw/0
もしかして、草壁さんSSなしかよ
325名無しさんだよもん:2007/11/02(金) 23:52:06 ID:04sQMGHR0
あぼーん推奨  ID:weHUsxz70
326名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 00:01:49 ID:d5O1cxiY0
草壁さんSS書こうと思って挫折。半年のブランクでけーw
327もう一人のまー先輩  1/13:2007/11/03(土) 01:16:38 ID:aD6oYpBM0
「よいではないか、よいではないか。ささ、遠慮せずに入るがよい」
「ちょ、ちょっと、まあちゃん?」
 生徒会室の外から聞こえてくる喧騒に、ささらは小さくため息をついた。周りからは苦笑が漏れる。
 すでに4月も終わりに近いというのに、相変わらずあの人は、騒動の種を持ち込んでくるらしい。
 ただ、まあちゃんという呼び名と、どこかで聞き覚えのある声が気になった。さて、誰だったろう?
 すぐにドアが、勢いよく開かれた。
「おはよう、諸君! 元気してたか? それともあたしに会いたくて夜泣きしてたか?」
 言わずとしれた、まーりゃん先輩の登場だ。それにくわえて、もう一人。
「こ、こんにちは……」
 まーりゃん先輩に、半ば抱きつき気味に引きずり込まれ、窮屈そうに頭を下げるのは、少々小柄な、ショートカットの女の子。
 この学校のものではないジャージ姿だが、しかし、ささらと、ついでに雄二はその顔を知っていた。
 貴明もどことなく見覚えがあるらしく、
「……あれ? 雄二、あの人誰だったっけ?」
「馬鹿かお前!?」
 間髪入れずに、ヘッドロックの返答が貴明に返される。
「な、なんだよ。うちのクラスにいたっけ?」
「違うわっ。あの人はだなぁ……」
「松原先輩……」
 息を呑みつつ、ささらが言葉を繋いだ。まーりゃんは、まるで自分のことのように胸を張り、
「そのとーりっ! この人こそが、昨年エクストリーム全国大会で準決勝にまで勝ち進み、
 全国にその名を知らしめた、松原葵その人だっ!」
「ど、どうも」
 対照的に、言われた本人が、照れつつ、謙虚に頭を下げた。
328もう一人のまー先輩  2/13:2007/11/03(土) 01:17:42 ID:aD6oYpBM0
「はっはっは。こんな有名人に会えるなんて嬉しかろう。みんなひれ伏せ」
「あの、お構いなく」
 時ならぬ闖入者×2に、生徒会の仕事は一時停止。環がお茶を入れる合間に、馴れ馴れしく雄二が話しかける。
「いやー、まさか松原先輩に、こんなむさ苦しいところに足を運んでもらえるとは。本日は一体、どういうご用件で?」
「はい。先日、エクストリーム同好会に部室が宛われたと聞いて。それでロードワークがてら、ちょっと様子を見に」
「ああ、あの件ですか。いやぁー、苦労しましたよ。申請はされてたんですが、どこもなかなか、空いている部屋がなくて」
「恩着せがましいこと言うんじゃないの」
 すかさず環の肘が、雄二の頭を軽くこづく。
「いえ、でも本当に嬉しかったから。私の代には間に合わなかったけど、でも、みんなもすごく喜んでいたし。
 ありがとうございました」
 そう素直に言われると、嬉しい半面、少々面はゆい。環がその気持ちを代弁したように、素っ気なく、
「生徒会の仕事ですから」
「でも、私達のために働いてくれたんだから、お礼くらいは言わないと」
 あまりに直球で、正攻法で、さすがの環も上手い具合に切り返せずに、返答に詰まる。
 環の否定は、所詮、照れ隠しだから、無理に切り返すこともないのだが。
 若干、すさみ気味だった生徒会の面々の心を、さわやかな風が吹き抜けていくようだった。
「どーだ、あーりゃんはいい子だろう」
 すさんだり澱んだりしていた原因の大半が、得意げに葵の肩を抱く。
 どうやったら正反対なこの2人が、友達づきあいが出来るのか。
 そんな素朴な疑問を、なにも知らないこのみが抱いた。
「まーりゃん先輩と、松原先輩は、お友達なんでありますか?」
「うむ。強敵と書いて友と呼ぶような、いわばライバルでありながら親友の関係だ」
 葵がちょっと困り笑顔を作るが、否定の言葉は出てこない。
「ライバル?」
「そう。ざっと一年ほど昔――あたしとあーりゃんの間にあったのは、戦いの二文字」
「ちょっと、まあちゃん、あの話はっ」
「ふふふ。一敗を刻みつけられた屈辱の過去を、かわいい後輩に話されたくはないか」
329もう一人のまー先輩  3/13:2007/11/03(土) 01:18:47 ID:aD6oYpBM0
「あれか……」
「あれはひどかったな……」
 それはもちろん、新入生歓迎会の折の話。当事者だった雄二と貴明は、はっきりその光景を記憶している。
「え、なに? タカくんたちは知ってるの?」
「あぁ。俺たちの新入生歓迎会の時、部室対抗エクストリーム大会を開いたってのは話したよな」
「確かに部室の備品は使っていいって話だったけど、あれはないよなぁ……」
「備品?」
 くるりとこのみは生徒会室を見回すが、武器になりそうなものは見当たらない。
 すると、当時を思いだしたのか、ささらが盛大にため息をついた。とても悲しそうに。
「久寿川先輩?」
「もういいの。みんな無事に帰ってきてくれたから……」
「みんなって?」
「カエルさんたち……」
 そう。それまでにも色々と卑怯戦法で勝ち上がってきたまーりゃんは、
 決勝で葵と対峙するに当たって、生徒会室で飼っているんだから、カエルは生徒会の備品だと主張し、
 それを全身に装備するわ投げるわで、会場は大パニックに。
 さすがの葵も、ただでさえ友人相手に本気で攻められないところにくわえて、カエルを潰すのも触るのもごめんこうむりたい。
 じりじりと下がる葵と、カエルを詰め込みまくった水槽を頭上に抱え、不気味な笑顔を浮かべながら詰め寄るまーりゃん。
 時折よけそこねてカエルが貼りつくたびに、葵の悲鳴が上がって、
 体操着には湿り気が付いて、なにやら会場に妙な熱気が渦巻いたりも。
 そんなカエル弾幕も終わりが近づき、一気にとどめを刺そうと水槽ごと投げたらよけられて、それがリング外に炸裂。
 悲鳴と混乱と蛙の大合唱がけろけろと響く中、ゴングが鳴らされ、まーりゃんの優勢勝ちというしょっぱい結果に。
 いろんな意味で不満な観客席からはブーイングがあがり、様々なものがリングに投げ込まれ、さらにカエルが投げ返され、
 うやむやのうちに歓迎会は幕を下ろす傍らで、ささらが泣きそうな顔でカエルを回収していた。
330もう一人のまー先輩  4/13:2007/11/03(土) 01:20:39 ID:aD6oYpBM0
「どうだ、すごいだろう。尊敬したか、このみん?」
「あはは……」
 確かにすごいし、敵にはけっして回したくないが、それ以上に、ひどすぎると誰もが思った。
 とりわけ、その直接対決の被害にあった葵は、さすがに疲れた苦笑を浮かべて、
「あれはちょっとひどかったよ……」
「まぁそんなわけで、あーりゃんが日本で一番になったら、あちしも自動的にその上にランクアップされるから、精進してくれ」
「もう……」
 普段、まーりゃんに振り回されっぱなしのささらは、しみじみ葵に同情した。
 半面、仲の良さそうな間柄に、わずかな嫉妬も覚えた。

「そんなわけで、いざ、君らがたるんだ暁には、麻亜子と松原のだぶるまーりゃんきっくが、
 君らの非道を正しに来るからきをつけたまへ。ちなみに威力は当社比十倍」
「二倍じゃないんですか」
「なんせ、あーりゃんのキック力は松井のホームラン五万本分だからな」
「そんなにないよ」
 葵は生真面目に否定するが、それはそうだ。そんなにあったら、十倍じゃすまない。
 雄二が横からちゃかすように、
「まーりゃん先輩、いらないんじゃねぇ?」
「友情のコンビネーションだよ。友情。君らにはまだわかんないかなー?」
「よし、貴明。俺らもなんかやるぞ。友情のコンビネーション」
「そんなの作ってどうするんだよ」
「決まってるだろ。悪逆非道な姉の支配から離脱するためにだな」
「……そういうことは、本人の見ていないところで企みなさい」
「あだだっ! 割れる、割れるっ!」
「私もコンビネーション作ろうかしら。前からつかんで、後ろからもつかんで、押し潰す力も加えて」
「ぐがあああああっ! 姉貴、1人でコンビネーションはないだろ、友達いないからって! あだ、あだだだっ!」
 余計な一言をくわえてしまったせいか、環の新技、ダブルアイアンクローが圧力を増した。が、その横から、
「あの……」
 見るに見かねてか、葵の手が、遠慮がちに添えられる。やめろと言わない代わりに、申し訳なさそうな視線と一緒に。
 力を込められたとか、間接を取られそうになったとか、そういうわけでもないのに、
 なぜか違和感を覚えて、環は雄二から手を離した。
331もう一人のまー先輩  5/13:2007/11/03(土) 01:22:11 ID:aD6oYpBM0
 いや、あのまま離さなかったら、なにかされていたのかもしれない。怪我をさせない程度に。
 そう思わせるものがあったが、葵はほっとした様子で、あっさりと手を引いた。
「ふぅん……」
 一通り武道を仕込まれた身としては、興味はそそられるが、さすがに戦いたいとは思わない。まーりゃんとは違った意味で。
「いやぁ、助かりましたよ松原先輩。優しいし強いし、うちの姉貴とは大違いだ」
 さっくり立ち直った雄二が、葵の手を握って感謝感激と振り回す。
「いえ、そんな……」
「あの冷酷無情な姉を倒すために、いっちょ俺にも武術を仕込んでくれませんか。出来れば手取り足取り」
「少しは懲りなさいっ」
「あだっ!」
 直接打撃が後頭部にヒットし、今度はさすがの葵も止める暇はなかった。手を握られていたし。

「それじゃ、私は部の方に顔を出してきますから。失礼します」
 その一言と、深いお辞儀を残して、葵は去っていった。
 貴明がしみじみとつぶやく。
「とてもまーりゃん先輩の友達とは思えない、礼儀正しい人だ」
「少し、礼儀正しすぎるって気もするけどね。私達、後輩なのに」
「姉貴もお嬢様学校にいたんなら、あれくらい殊勝になっててしかるべきだろ」
「……もう松原先輩はいないわよ?」
「お、おいおい。見てなきゃなにをやってもいいってのは、人として間違っていると思うぞ」
 言われて、環は先ほどの一件を思いだしたのか、すねたように「フン」とつぶやいて、開き掛けていた手を下ろした。
 どちらかといえば、雄二を解放したのはあの視線が主な理由だったのだが、
 実際にやりあったとしたら、自分が負けるのではないかと思わせるものがあったのも事実だ。
 専門家相手、しかも先輩とはいえ、負かされたような気分にされて、少し消化不良気味な環だった。
332もう一人のまー先輩  6/13:2007/11/03(土) 01:23:59 ID:aD6oYpBM0
「ま、多少堅苦しいかもしれないが、あれがあーりゃんの美点なのだよ。武道とは礼に始まり、礼に終わるものだからな」
「爪の垢でも煎じて飲んだらどうですか?」
「たかりゃんも飲むか? 先輩に対する生意気な口が、少しは直ると思うぞ」
 そう、けろりと返されると、貴明としても苦笑するしかない。
 むしろ水と油だからこそ、相性がいいのだろうか、この2人は。
 このみが不思議そうに首をひねって、
「うーん。そんな強そうな人には見えないんだけどなぁ。わたしとあんまり身長変わらないし」
「あたしともあんま変わらん。このみんもそうだが、あーりゃんは同士だ。主に性的な意味で」
「性的?」
「おっぱいぺったん同盟の一員と言うことだ」
「こ、このみもその一員なんでありますかっ?」
「はっはっは。どこからどうみても同士ではないか。大丈夫。最近はこういうのも需要が大きいから」
「脱退届を提出するでありますっ!」
「いまのこのみんに、脱退届を出す資格はみあたらんねぇ」
 けけけと嬉しそうに笑うまーりゃんに、このみは激しく落ち込んだのだった。

 さて、そんなこんなで本日の仕事も終わり。
「あの、私ちょっと、寄り道するから……」
 相変わらずの申し訳なさそうな態度で、ささらがそう言った。
「む? あたしらをハブとはいい度胸だな。なに用か激白したまえ、さーりゃん」
「そ、それは……」
 どこか不安げなのはいつも通りだが、少しばかり、挙動不審の影も見える。
 特にまーりゃんを見る目に、その色が濃い。
「いいじゃないですか。なにか用事があるんでしょ」
「たかりゃん、物わかりのよすぎる男は、面白みがないぞ」
「はいはい。面白みなくていいですから」
「わかった。わかったから猫みたいに持つな、こそばゆい」
 意外とあっさり引き下がったまーりゃんをよそに、環が代表するように、
「それじゃ、また明日ね。久寿川さん」
 それを皮切りに、口々に別れの挨拶を交わして、一同は去っていった。 
 と、見せかけて、こっそりムーンウォークで離脱しようとするまーりゃんの首根っこを、貴明は再度ひっ捕まえて。
333名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 01:25:48 ID:tJhaosX70
全館支援砲撃用意・・・・・・撃て!!!!
334もう一人のまー先輩  7/13:2007/11/03(土) 01:26:19 ID:aD6oYpBM0
「なんだよぉ、気になるだろぉ」
「気になりますけど、ダメですよ」
「女の子の秘密、知りたくはないかね? 知りたかろう?」
「いかがわしい言い方をしないで下さい」
「ぶーぶー。へたれー、へたれたーかーりゃぁあ〜ーー〜ん♪」
「変な節つけないでくださいっ」
「そんじゃなさーりゃん、ばははーーい」
 小さく手を振り替えしながら、遠くなっていく貴明たちの声を聞いて、ささらはほっと息をついた。
 そう。できればまーりゃんには来て欲しくないのだ。

 ささらは、裏山へ続く道を歩いていた。
 夕暮れに染まりつつある、ほとんど誰も通らない、狭くて急な小道。
 急かされるような気持ちで、ささらは足早にその勾配を昇っていたが、
 それよりも、なお早いペースで、迫ってくる足音がある。
 まさか、という思いで振り向いたが、しかしそこにいたのはまーりゃんではなかった。
「あれ? えぇと……久寿川さん、だよね?」
 あーりゃんこと、松原葵が人好きのする笑顔で、ささらを見上げていた。
 葵は息を乱した様子も見せず、ささらの横に並ぶと、不思議そうに尋ねた。
「家、こっちの方なの?」 
 ささらとは、まーりゃんを通じて幾度か会っているせいで、口調が気安いものになっていた。
 あるいは生徒会室という特殊な空気と、お客様という立場が、幾分、葵を固めていたのだろうか。
「いえ、違いますけど……先輩は?」
「ううん。私もこっちの方にちょっと用事があって。この先に神社があるの、知ってる?」
 ささらは頷いた。神社といっても、神主さえいない、小さな汚いもので、参拝する人がいるかも怪しいのだが。
「昔、私がエクストリーム同好会を始めたとき、部室どころか、練習する場所もなくって、あそこらへんで練習していたんだ」
「あの神社で?」
「うん。そこら辺の木の枝に、サンドバッグをぶら下げて。
 着替える場所もないし、雨が降ったら練習できないしで、さんざんだったんだけど」
 内容に反して、葵は楽しそうに、懐かしむように話す。
335もう一人のまー先輩  8/13:2007/11/03(土) 01:27:32 ID:aD6oYpBM0
「去年からは練習場所は体育館の隅にもらえたし、あそこによることもなくなったんだけど、
 せっかく来たんだから、久しぶりに、覗いてみようかなって。もう、なにもないんだけどね」
 そんな話をするうちに、神社についた。くるりと葵は周囲を見渡す。
 端々で目を留めて、目を細めて。それはきっと、夕焼けの眩しさのせいばかりでもないだろう。
 なにもない。そう葵は言ったが、ここには思い出と、過ごした時間が残っていた。
 ささらには見えないが、葵の姿を通して、その存在を感じることが出来る。
 少し奥に分け入って、一際太い木の幹に手をついて、空を見上げる葵。
 きっとそこが、サンドバッグを吊したという場所なのだろう。
 たぶん、たった一人で。
 そこに、誰かの姿が重なった。
「……先輩」
「うん? なに?」
「寂しくなかったですか、一人で」
 誰かとは、自分自身だ。生徒会室で、一人で作業をしている自分。ある意味気楽で、とても空しい、寂しい時間。
 聞いてどうなるものでもないが、聞いてみたいと思った。それは同じ立場の人を見つけて、慰めを求めているのだろうか。
 だけど、葵は首を振って、
「ううん」
 とても大切な物を、思い返す瞳で、
「一人じゃなかったよ。ずっと、じゃないけど」
 少し遠回りな言い方に、ささらが首を傾げる。葵は神社の縁側に座り、ささらにもその横を勧めた。
「確かに初めは一人きりでね、自分だけで練習して、自分だけで活動してた。
 でも、一人だけ。私の勧誘の話を、まじめに聞いてくれる先輩がいたんだ」
 わずかに照れたように、葵は遠くに視線を飛ばす。
「そのうち、その先輩も、練習に参加してくれるようになった。
 一緒に部活をするというよりは、私のお手伝いをしてくれるって感じだったかな。
 ちょっと事情があって、私の試合も近かったし。でも、それでも嬉しかったし、楽しかった。
 上手くできたときに褒めてもらえるのが、こんなに嬉しいんだって、気づかせてもらえた。
 私は一人でも頑張ろうって思っていたけど、やっぱり一人よりは、誰かいてくれた方がいいよね」
 今ならささらも、その気持ちが分かる。
 いつの間にか貴明がいる日常に慣れて、もっとたくさんの仲間がふえて、騒がしい日々が、当たり前になっていった。
336もう一人のまー先輩  9/13:2007/11/03(土) 01:29:05 ID:aD6oYpBM0
「本当はね、私もよく分かってなかったんだ。先輩がいてくれることが、どんなに貴重なのか。
 分かったのは、先輩が修学旅行で一週間もいなくなったとき――。
 練習にも身が入らなくって、寂しい気持ちばっかり膨らんで、もう、先輩が来ないんじゃないかってバカなことを考えて」
 やっぱり同じだ。一人でいた時は気楽だったけれど、いまさら一人には戻れない。
 卒業式の日、まーりゃんのために泣いてしまったように。
「だから、先輩が帰ってきたとき、そう、ひょこって、そこの階段の隅から、おみやげの人形をもって、現れたとき――」
 そこで不意に、葵は顔を赤らめて、ささらの座っている床のあたりに視線を走らせて、言葉を詰まらせる。
「……先輩?」
「ううん。なんでも、なんでもないの。うん。三年も前のことだし」
「……なにがですか?」
「あの、その、だからね、えぇと……」
 あたふたしていた葵は、質問を重ねられると湯気が上がりそうなほどに真っ赤になって、うつむいて固まってしまった。
 なにか、あったのだろう。きっと微笑ましい、幸せななにかが。
 ささらはそれ以上追及しないことにした。もう少しこのかわいらしい先輩を、いじめてみたい気分にもなるのだけど。
 ……そんな発想はまーりゃん先輩の影響だろうかと、脳裏によぎった不安を、ささらは首を振って追い払った。
 思い出の場所から、ささらは立ち上がって、
「素敵な人だったんですね」
 葵は、少しは落ち着いたが、それでもまだ十分に赤い顔を上げて、耳たぶを押さえながら、
「うん……」
 と頷く。おそらく、過去形ではなく、現在進行形なのだろう。視線は遠くではなく、足元をさまよっているから。
 そこまで真っ直ぐに思いを寄せられて、羨ましいと思う。
 いや、その人のことだけではない。
 自分は流されて生徒会に入っただけだが、この人は自分で道を切り開いた。
 どこまでも素直で、純粋で、真っ直ぐで――強い。不安に揺らいだ部分は、支えてくれる人がいた。
 かなわない、という思いが、また、ささらのコンプレックスを不安の槍で刺激する。
 こういうマイナス思考自体が、自分のダメな原因だという自覚はあるのだけれど。
 けど、不意に葵がふわりと、
337もう一人のまー先輩  10/13:2007/11/03(土) 01:30:34 ID:aD6oYpBM0
「大丈夫だよ」
 人生経験の差だろうか。まるで、心を読んだように、
「久寿川さんにも、あんなにたくさん友達がいるじゃない」
 あなたのいるのはそういう場所だよと、暖かく告げてくれる。
「でも、私……」
 それでもなお、不安を払拭できない自分が、情けなく思う。
「だめなんです。いつも不安で、信じられなくて。
 そのくせ、私より上手くできる人がいたら、私なんかいらないんじゃないかって考えて。
 まーりゃん先輩みたいに前向きにも、松原先輩みたいに真っ直ぐにもなれない。
 ダメな子なんです、私……」
 言うたびに、情けなさが募ってくる。過去に鬼の副長などと呼ばれていても、それは所詮、虚勢で作った鎧だったのだ。
 こんなにちっぽけで、情けなくて、みっともない姿が、本当の自分なのに。
 ……なんでこんな話をしているんだろう。こんな気持ちになっているんだろう。
 目の前にいるこの人が、こんなにも眩しいからだろうか。
 とても、夕焼けの似合う、わずかに日焼けした肌の、優しい先輩が――小さな体で、あやすようにささらの頭を軽く抱きよせる。
「私は知っているよ」
 ――なにを?
「あれだけめちゃくちゃなまあちゃんが、あんなに元気に暴れられたのは、それを支えている人がいてくれたからだってこと」
 葵の手は、小さいのに力強くて、その心通りに暖かい。まるで太陽をそのまま宿しているみたいに。
「私は、まあちゃんのことはよく知っているから。
 あなたの活動を直接見たわけじゃないけど、きっとすごい頑張ったんだろうなって、分かるよ。
 あなたはまあちゃんを頼りにしていたかもしれないけど、ほんとはまあちゃんの方が、あなたを頼りにしていたんだよ。
 その期待に応えられたんだから、あなたがダメな人だなんて事、絶対にないよ」
 ――本当に?
 無言の問いに、葵は髪を優しく撫でることで答えた。
 そしてもう一つの懸念にも、
「今度は、久寿川さんが周りの人に頼ってもいいんじゃないかな」
「でも……」
「いやだった? まあちゃんの信頼に応えるの」
 少し距離を作って、葵が聞いた。ささらは首を振る。すぐ目の前にある葵の顔が、だよね、と言いたげに微笑んだ。
338もう一人のまー先輩  11/13:2007/11/03(土) 01:31:46 ID:aD6oYpBM0
「誰かの支えになることも、誰かに信頼を預けられることも、どっちも幸せなことだよ。迷惑だなんて、きっと思わない」
 嫌われないだろうか。イヤな子だと思われないだろうか。必要ないと思われないだろうか。
 いつもいつも、そんなことばかり考えていて、そう思うこと自体が、ささらの心を追いつめていた。
 そんなわだかまりが、暖かい夕焼け色の癒しで溶かされていく。
 そして、もう一度同じ言葉が触れてきた。
「大丈夫だよ」
 開いた掌が、ささらの頬に触れた。
「今日会ったばかりの私でも分かるよ。あの生徒会室は、とても暖かくて、楽しい空間だった。
 あそこにいるみんな、あなたのことが、大好きだから」
 ――それは、きっと一番欲しかった言葉だった。
「久寿川さん?」
 ささらは葵の肩に顔を押しつけて、小刻みに震えた。
 その頭に、もう一度葵は優しく手を回すと、震えを収めるように、そっと抱きしめた。

 オレンジ色の空の片隅に、わずかに蒼が混じり始めていた。
 こうなると、一気に夜が訪れるのは早い。
 ささらが足早に、葵を先導する形で小道に分け入っていた。
「すみません。時間を食ってしまって」
「ううん、平気。こういうの、慣れっこだったから」
 それにしても、思い返すとささらの頬は熱くなる。
 見た目に反して、子供っぽいのもささらのコンプレックスの一つだが、あんなふうに泣きじゃくってしまうなんて。
「あの、今日のことはまーりゃん先輩には……」
「大丈夫。喋らないから」
「ありがとうございます。迷惑、かけちゃった上に、こっちの用事にもつき合ってもらって」
「先輩ですから」
 得意げに胸を張る葵。さっき自分で言ったように、あんな事は迷惑でもなんでもないんだと。
339もう一人のまー先輩  12/13:2007/11/03(土) 01:32:52 ID:aD6oYpBM0
 ただひとつ。ささらに対して、気になることがあるといえば。
 ささらは不意に、意味ありげな視線を感じた。主に胸の辺りに。
「え、なにか?」
「ううん、ちょっと羨ましいなって思っただけ」
 小さくため息をつく葵。葵にもコンプレックスはある。ささらとは逆に、見た目の子供っぽさというか……幼さが。
 メロンに形容される胸が直接当たる感触は、相変わらず膨らんでいない胸の持ち主からすれば、多少の羨望は抱いてしまう。
 葵の言わんとすることを察して、ささらは胸を、腕で覆った。
「松原先輩……まーりゃん先輩みたいです」
「あ、それはちょっとショックかも」
 2人の笑い声が、夕闇に弾けた。

「それで、久寿川さん。用事ってなんなの?」
 そう、問いかけたと同時に、
「つきました」
「……池?」
 というより、沼だろうか。神社の裏手に、こんな沼があったとは、葵は知らなかった。
 ささらがしゃがみ込んでいる後ろから、葵も沼を覗き込む。
「あった。良かった……」
 ささらがなにか、手に取った。半透明で、ぶよっとしたゼリー状で、長くて、黒豆のような物が浮かんでいる……。
「かっ……」
 それは葵のコンプレックスではなく、トラウマだった。
340もう一人のまー先輩  13/13:2007/11/03(土) 01:33:59 ID:aD6oYpBM0
 カエルの卵。例の大会が話題にでた際に、ささらとしては、ここのカエルの卵が無事かどうかが気にかかったというわけだ。
 が、葵にしてみれば、あの悪夢のような戦いの記憶を呼び覚ます、忌むべきところてんに過ぎない。
 葵はたちまち五メートルほども後退した。
「先輩?」
「いや、あの、私はここから見ているだけでいいから」
 ぶんぶんぶんと、なにを頼まれてもいないのに、激しく首を振る。
「かわいいのに……」
 大方の人と同じ反応を返されたことに、ささらは大いに傷ついた。
 そのせいだろうか。ささらは困ったふりをして、つぶやいた。
「やっぱり、こういう狭い池だと、外敵に狙われることも多いんです……」
 次に続く言葉を予想して、葵の体が硬直する。
 すがるような目つきが、葵に注がれた。
「先輩のお家で、飼えませんか?」
 さっきの倍の速度で、葵は首を振った。
 ささらはほとんどわざと、すねたような口調を作って、
「頼ってもいいって言ったのに……」
「あの、ごめんね。場合によりけり」 
 こらえきれず、ささらは噴き出した。
 どうしよう。やっぱり、自分の方がまーりゃん先輩の影響を大きく受けているみたいだ。
 すっかり暗くなった帰り道で、1メートル以内に近づこうとしない葵に、
 ひそかに距離を詰めておどかしたりする自分に、そんなことを思う。
 葵もそれを察してか、
「久寿川さん、それじゃまあちゃんみたいだよ……」
「それはちょっと……」
「ショック?」
「いいかもしれませんね」
 楽しげに言うささらに、葵は大きくため息をついて、
「確かに迷惑だなんて思わないっていったけど……2人もまあちゃんはいらない」
 ささらのくすくす笑いを聞きながら、そう、ぼやいたのだった。
341名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 01:38:20 ID:aD6oYpBM0
以上です。>>327-340 「もう一人のまー先輩」でした。
>>333支援サンクス。
葵ちゃん好きなんだけど、なんかめったにSS書けないんだよな。
東鳩世界で一番の良識人(たぶん)であるからだろうか。
関係ないけど保管所にささらの項目ないのに吹いた。

おまけ。
http://www.hakagi.net/ss/active/index.cgi?action=html2&key=20070925205751
るーこSS。以前このスレに落としたのと、構成がほとんど一緒なことに自分で苦笑した。困ったものだ。
342名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 01:57:15 ID:fMThbL0RO
久々に来てみたらまたこの流れかw

確かに物書き氏も初期に比べると謙遜が薄れて(主観だけど)、SSの出来も微妙なのも増えたけどさ。
SSの最大のいいとこって楽しめることだと思うし、
その点じゃ枯渇してたこのスレへの物書き氏の功績は大きかった。
作品も楽しめることに関しては十分よかったと思うし。

あ、シャナ始まったか。ノシ
343名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 06:24:48 ID:3OK/gjPS0
>341
クロス乙。猫SS(「今、そこにある獲物」)の人かい?
鳩で最初にクリアした葵ちゃんがどんな娘だったか既に記憶が薄れているが、
この二人は本スレとかでも接触あったら面白いかなって意見が出てたっけな
344名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 06:27:23 ID:3OK/gjPS0
×「今、そこにある獲物」
○「すぐ、そこにある獲物」
今そこにいる〜じゃ大地丙太郎のアニメだなw
345名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 21:22:40 ID:d5O1cxiY0
ToHeart2AD延期キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!!^



……(´;ω;`)
今年は何を楽しみに生きていこう。
346名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 22:04:53 ID:fuF/0PiT0
イイもん読んだGJ!
1と2のクロスでこれほどの作品が読めるとは思ってなかった。
347名無しさんだよもん:2007/11/03(土) 22:39:08 ID:69PVniNv0
いやー、完成度高いね。
文章的には文句のつけようがないというか、かなり書き慣れてる印象を受ける。
話的にも、この長さで導入から違和感なく展開し、まとめつつオチをつけてるのが上手い。
いいSSだと思う。

突っ込むとしたら、ささらと葵の関係つか距離感ににちと疑問を覚えたってことくらいかな。
まーりゃんと葵が同級生で友人関係を結んでいるなら、それ繋がりで、ささらとはもっと
気楽な関係になっているような気がするんだよね。
このSSは、お互いに面識はありつつもキチンと話すのは初めてに近い、みたいな設定だと
思うけど、このあたりにもう一工夫あると、より完成度の高いクロスモノになったかも。
348名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 01:20:14 ID:CdAKsfm90
SSとは関係ないが、他に書くところもないので場所借り。
物書き修行中氏がここ見てくれてる前提で書くので色々省いて本題だけ。

あのさ、俺が思うに優季スレの714みたいなのが余計なんじゃないかなあ。
正直、あそこでもSS投下しただけだったら「SSありがとう」って感じで丸く収まるのに
誰も聞いてない身の上話まではじめるのは思いっきり蛇足でしょ。
あんま無駄な自己主張してると>>315みたいなのも沸いてくるし、SSの内容云々より
もう少しだけ自己主張を抑えめにするのがいいんじゃないでしょうか。

とまあ、以前スレに投下してた人間が老婆心で言ってみました。
349名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 02:00:50 ID:MGatLPEC0
>348
SSと関係ない、他スレの、しかも「こっちを追い出されたー」みたいなレスを
わざわざこっちに紹介するのはあまり良くないと思います。老婆心まで

とまあ、それはともかくせっかくなら後でもいいからSS投下してってくれ
350名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 04:22:46 ID:S9ZFvvLj0
まともに感想もつかないスレに出て行った人が今更投下する人とは思えんがな

>>341
乙。
俺もだいたい>>347と同じ。それに感性が近いのか心地よく読めた。
生徒会室でのやりとりで全キャラ上手く扱えてて(空気になったキャラがいない)、
多人数でも誰がしゃべっているのかがわかりやすくて凄く読みやすい。
気になる点は、話に起伏があまりないから単調な感じがするのと、導入での引き込みが弱いところかな。
白状すると、いきなりクロス入ってたから読むのやめようかなって思った。
最初のつかみの部分が良くなればもっと良くなると思う。次回作に期待してる。
351名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 09:14:23 ID:bpZHlfx3O
>>341
るーこSSと合わせてぐっじょぶ。
俺もみんなと同じ感想。文章も話の運び方も巧いなぁと感心した。なんというか読みやすい。
るーこSS書いてくれる貴重な作家さんなのでこれからも頑張ってほしいなっておもたよ。
いや、もちろんるーこ以外のSSもねw
352名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 10:28:25 ID:Jcga4uIj0
我楽多の人が出て行ったときは確か身の上話をSSの設定に組み込んで叩かれてたな
正直アレは「こんなことがありました。共感して慰めてください」って空気が丸出しだったから叩かれたわけだが
353名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 11:40:42 ID:Ea1JA3J70
ま、投下しやすい2chで練習して、コテハンのしがらみで居づらくなったら
自分のHP持って出てくってのは自然な流れでもあるさ。SS作家の1ステップってとこだ
354名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 11:51:57 ID:wEEBw20/0
誰も読まない鬱日記を書くのが第2のステップ
355名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 13:18:36 ID:GsTxyJ4mO
第三ステップは自分のSSが他の全SSより期待されてると勘違いすること
356名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 20:18:49 ID:KLIcx6O/0
そして末路は基地外ニートと一緒に他のSS作家を叩くようになる
357名無しさんだよもん:2007/11/04(日) 21:05:47 ID:7sTM6Hns0
>>353-356が全員作家っぽいから困るwww
全部経験談っすか^^;
358名無しさんだよもん:2007/11/05(月) 21:04:52 ID:JL+hPuLe0
はるみはすごいヤキモチ焼きでシルファに対してもヤキモチ焼く
ってG'sの記事にあったがこんなんでシルファにいって大丈夫なのか?

俺は・・・俺ははるみ以外のヒロインにいけない・・・よっぱいしたいのに!
359名無しさんだよもん:2007/11/05(月) 21:05:50 ID:JL+hPuLe0
スレ間違えたごめんw
360や・ゆ・よの作者:2007/11/05(月) 21:11:52 ID:YKF0AJJW0
長らくこちらに来てませんでしたが、ずいぶんといい作品が届いてますな。
というか、よっちとちゃるの作品が僕のだけってのがなんというか……
まあそれはそれとして『や・ゆ・よトリオのタカ君大騒動』の続きのネタが全然浮かばねえ……
一応、や・ゆ・よ&HMXシリーズの続編みたいなのならこんなのあるんですが

ちゃるとイルファの長女談義
よっちとミルファの対貴明用必殺技開発
このみとシルファの甘え三昧

とりあえず、ネタ募集しようかなと思う今日この頃。
まあ、上記の三つも近々うまく書けたら掲載予定。
361名無しさんだよもん:2007/11/05(月) 22:11:47 ID:M/agZP1p0
>360
ばかもん! まだ添い寝をしとらんだろうが添い寝を!
よっちの肉枕を書かずしてお泊まり編を終わらせる気か!
ちゃるの「どうせアタシなんか……」属性を生かさずに何の一年生トリオか!

ADはちゃるとよっちに一番期待している俺はやゆよの続きにも期待してますよ?
362や・ゆ・よトリオのタカ君大騒動(8) 1/4:2007/11/06(火) 07:34:40 ID:jw3MuzM40
トランプ大戦は一時休戦。
只今河野家の戸締りを実行中であります。
玄関の扉の鍵とチェーンロック、確認完了っと。
ついでに外にある隠し鍵も回収完了。

「タカ君隊長殿! リビングの窓、鍵と安全ロックをかけたであります♪」
「玄関の扉及び窓、右に同じであります♪ センパイ隊長殿」
「一階客室、左におなじ」

全部の進入路の遮断は完了した様子。
……タマ姉がせめて、常識の範疇で行動してくれればと思いますよ。


「くしゅんっ!」
「どうした姉貴? 風邪か?」
「そうみたいね。今日はもう寝るわ」
「おーおー、そうしてくれ……くくくっ、今日はお楽しみだぜ……」
「あ、そうそう雄二、あんたの部屋の床下にあったダンボール、処分しといたからね」


「ん? 今日は良く断末魔が響くな」
「ユウ君、またタマお姉ちゃんを怒らせたのかな?」
「いや、肉体的な苦痛の響きじゃないぞこれ」
「じゃあ、エッチな本とかDVDとかを捨てられちゃったのかな?」
「多分な」

「……すごい会話」
「うん……この断末魔より、これが普通なセンパイにこのみが恐ろしいっしょ」

「さて、それじゃ客室に行くよ。布団出さないと」
「了解であります」
363や・ゆ・よトリオのタカ君大騒動(8) 2/4:2007/11/06(火) 07:36:04 ID:jw3MuzM40
所変わって客室。
押し入れに入れてあった敷布団、掛け布団、枕を三人分出してセットにする。

「さてと、三人分きっかりあるね」
「うん。それじゃタカ君の部屋に持って行くであります」
「了解ッス♪」
「うん」
「じゃあ運……んじゃいかんだろ!! ダメ! いくらなんでもそれはダメ!!」
「え〜! みんなで寝た方が楽しいよ」
「そうッスよ、今日は家族のつもりで皆で川の字って感じで寝る所っしょ」
「うん。家族団欒のしめとしてはこれ以上の物はない」

……なんか俺の感覚の方がおかしいんじゃないかって思えてくるな。
食事に風呂、極めつけが一緒の部屋で寝るだなんて……余所に知られたら、三又の鬼畜と言われても文句一つ通らんぞ。

「とにかくダメ。頼むから勘弁してくれ」
「……あたしじゃ不満ですか?」
「え?」
「どうせあたしなんか……」
「ああ、いやいやそう言う意味じゃないよ!」
「……」

思いっきり泣き脅しだよこれ……
後ろではこのみは泣きそうな顔だし、チエちゃんもなんか寂しそうな視線で俺を見てるし……
年下の女の子に手玉どころか、バレーボールだよこれじゃあ……
364や・ゆ・よトリオのタカ君大騒動(8) 3/4:2007/11/06(火) 07:38:56 ID:jw3MuzM40
「はい、スリーカードであります」
「ごめんこのみ、フルハウスだ」
「甘いっしょちゃる、ストレートフラッシュッス♪」
「……ツーペア」

結局泣き脅しに勝てず、現在俺の部屋で布団並べてトランプ真っ最中。
……これはヘタな真似したら、末代までの汚点になるな。
いやいや、別に一緒の布団で寝る訳じゃないんだ!
別に寝相が悪い訳じゃないし、気が付いたら……なんて不可能だ

「センパイ、何か暗いッスよ?」
「そう言えば、そろそろ3時だ。眠くなって当然だと思う」
「そうだね、ふぁ〜っ……このみも眠たくなってきちゃった」

……おーい、ちょっとは躊躇ってくれ頼むから。
俺が変みたいじゃないか。



それから一時間後。
365や・ゆ・よトリオのタカ君大騒動(8) 4/4:2007/11/06(火) 07:41:36 ID:jw3MuzM40
「ん〜……ふにゅ〜……」

おいこのみ、服の中に潜り込むな! つーか胸板に顔を押し付けるんじゃない!!

「くぅっ……くぅっ……」

だーっ! チエちゃんそんなにひっつかないで! 柔らかな感触が当たってます!!

「すぅっ……すぅっ……」

ちょっ、ミチルちゃんも近い近い! ああ……そんな、頬擦りなんてダメだよ!!

このみは俺の上で、ミチルちゃんは左側、チエちゃんは右側からひっついているという抱き枕状態。
なぜこんな状況かと言うと、先程の賭けトランプの続きで何故か神様に見放されたかのような引きの悪さが災いして、結局俺のベッドの布団をおろして眠る事になってしまったからである。
何というか、核ミサイル1000発を一度にぶち込まれてるレベルですよこれは!!
ううっ……ダメだ!! ……でもちょっと位なら……って違う! 煩悩退散煩悩退散!!

「天魔外道皆仏性四魔三障成道来魔界仏界同如理一相平等……」

以前法事か何かで聞いたうろ覚えのお経を唱えながら、夜をすごす俺であった。
あー……夜は長い、長すぎるぞこのヤロウ。


チュンチュンッ……

「……やっと朝か」

相も変わらず、このみは俺の服に潜り込んで胸板に顔を埋めた状態。
腕にしがみついてるチエちゃんに、首に手を廻して俺の頬に頬を当ててるミチルちゃん。
結局、疲労がピークを迎えて緊張の糸も意味をなさなくなり、俺は静かに着水する様に意識を手放し睡眠へといざなわれた。
366や・ゆ・よトリオの作者:2007/11/06(火) 07:45:51 ID:jw3MuzM40
『添い寝』というキーワードで脳に神キター!! って感じで短いですが書きました。
とりあえず次のアイディアもなし崩し的に浮かんだので、仕事が終わり次第執筆予定。
書いててこんなことあったらな〜って個人的願望もありますが

よっちちゃる、そしてはるみにシルファのストーリー早く来いって感じです
367名無しさんだよもん:2007/11/06(火) 19:53:12 ID:kFLkhz8i0
>>366
368名無しさんだよもん:2007/11/06(火) 22:45:25 ID:icFRWisd0

長い夜なのに短いよ
369名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 06:27:40 ID:rR2XajQJ0
>366
GJ。服の中に潜り込むこのみは猫っぽくてツボだ
シチュはすばらひいので全体的にもっと詳しい詳細を描写して書いてくれー!
370名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 11:31:58 ID:7fUbE6wL0
詳しい・・・しょう・・・さい・・・?
371名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 11:34:05 ID:cfBjZPDj0
頭痛が痛い 見たいな感じかな
372名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 11:38:17 ID:e08b21Z80
もっと詳しい詳細を描写して書いてくれー!

もっと細部を詳しく描写してくれー!

こんな感じかな
373名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 16:32:04 ID:8nWPA/MI0
超先生か・・・何もかもが懐かしい・・・
374名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 18:28:14 ID:+sTj66KB0
最萌ではテンプレにまで採用された、伝統の言い回しなのにな……
375物書き修行中:2007/11/07(水) 20:30:26 ID:73ZoMJp80
とりあえず騒ぎが収まったようなので…

前回書き込み時はまず自分が引っ込んで騒ぎを早々に収めるのが肝要かと判断して
要点のみ書き込んだきりだったので、遅ればせながらまず、>>300-305 各氏のレスには感謝を。

確かに自分の楽しさに任せて書いたものを投稿していた感は否めないので、今後は執筆工程?を
見直してみたいと思っています。
ただ、書く速度を落とすと途中でテンションが維持できなくなるので、一旦書いてからストックして、
しばらくあとで見直していくことにしようと思っています。
今までも書き終えてから1〜2日間を置いてから見直ししていたのですが、まだ客観的な視点での
推敲が出来ていないな、ということで、書いた当初の気分が醒めたころあいでの推敲に切り替えようと
思います。

それからコテについては、しばらくは「修行中」の看板はかけたままでいるつもりでしたが、
それが荒れる元になるのは本意ではないので、今後は名無しか「〜の中の人」とでも書くことにします。

>>348
「SSスレじゃないから、これ書庫に保管されないんだよね」というレスに「訳あって投稿しなかった」と
答えただけで特別な意図もなく、文句を言った訳でもなかったのですが…
今後は自重します。

最後に、色々お騒がせしたことをお詫びします。<(_ _)>
376名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 20:32:23 ID:73ZoMJp80
>>366
乙です

なんとなく飼い主のベッドにもぐりこんで寝る3匹の猫が頭に浮かんでしまいました…
377名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 20:58:38 ID:5I7HqFrC0
>375
お疲れ。こういう時は黙ってコッソリ戻ってくるのが良いんだが、なんにせよ頑張れや
「どう書く(書いた)か」なんて言い訳程度の話だから宣言する必要も縛られる必要もないし、
外野の言は参考程度に聞き流して、あまり悩まず好きなように書きなされ
378名無しさんだよもん:2007/11/07(水) 22:04:30 ID:4LAwR+mbO
SSスレも丸くなったもんだ。
379名無しさんだよもん:2007/11/08(木) 00:03:13 ID:bBtR0VZW0
日本語が読めないわけではなさそうだから、理解力が足りてないんだろう。
380名無しさんだよもん:2007/11/08(木) 00:03:58 ID:bBtR0VZW0
すまん誤爆。
381名無しさんだよもん:2007/11/08(木) 00:40:43 ID:gMRwc1800
本当に誤爆か、オイwww
382名無しさんだよもん:2007/11/08(木) 12:49:37 ID:/B1onlLh0
俺の場合、逆に書く前にさんざん時間掛けて、頭の中で転がして、
書きながらも戻って直して書いて戻ってを繰り返しつつ、
最後の方は一気に書き上げて、推敲一回軽く流して、即投稿というのがパターンだなぁ。
その、一気に書き上げるというプロセスの前に、没にされるものも多いが。
383や・ゆ・よトリオの作者:2007/11/08(木) 19:00:13 ID:qAyu+eu40
やっぱりちゃんとネタは練りこまなきゃダメか……
その場の勢いだけのはさすがにNGでしたね、反省。

というわけで、現在お泊り編のエピローグと同時に(8)の生中継をただいま制作中。
まあ、5、6話のような感覚で書いてみましょうかね
384名無しさんだよもん:2007/11/08(木) 21:24:42 ID:GXtQyP1Z0
しかし今回のものが問題になって、テンプレそのものだった
河野家がほとんどマンセーばっかだったのは一体・・・
385名無しさんだよもん:2007/11/08(木) 21:32:52 ID:GGJ34axR0
>>384
あれはサザエさんみたいなものだった(褒め言葉だよ)
386名無しさんだよもん:2007/11/08(木) 21:41:55 ID:oldnU7/v0
>384
あれは水戸黄門(以下同文

といいつつ、途中マンネリを叩かれたことも何度かあったと記憶しているが、
あのノリの良さで2年間ほぼ毎週投下という偉業を成し遂げればこその評価だろう
387名無しさんだよもん:2007/11/11(日) 00:04:15 ID:Hob8ztvAO
学食の続きを待ち望んでいる俺が通りますよ
388名無しさんだよもん:2007/11/14(水) 06:03:55 ID:s+fAKF4Y0
書庫さんだいぶん更新ないけど大丈夫でつか?
389名無しさんだよもん:2007/11/14(水) 21:53:21 ID:nC4NWEcc0
しょこしょこ大丈夫
390名無しさんだよもん:2007/11/15(木) 15:36:13 ID:U+jePfWF0
しょーこーしょーこーしょこしょこしょーこー
391名無しさんだよもん:2007/11/15(木) 20:55:41 ID:lA8lO/C30
392名無しさんだよもん:2007/11/15(木) 20:57:17 ID:EgooHyI30
紺野か
393名無しさんだよもん:2007/11/16(金) 16:14:01 ID:tQIx0xMA0
欝厠だろ。
394桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 1/19:2007/11/17(土) 23:41:02 ID:Qo1Tjhtz0

冬の海。

夜明け前後の薄闇の中、玲於奈が砂浜を歩いていた。
「……寒い」
肩を抱いて身を震わせる。トレーナーにジャンパーで防寒はしているものの、冬の潮風は染み通って。
「私は、なにをやっているのでしょうか?」
まだ暗い時間、当てもなく家を飛び出し、遠くに行こうと乗った始発電車。
知っている一番遠い駅名がアナウンスされると、急に心細くなって降りてしまった。
そこは、夏に訪れた海沿いの街。

(誰も、いらっしゃいませんね)
早朝マラソンにも少し早い時間。人影は見あたらない。
(私は、どうしたらいいんでしょう?)
自問するのは、この場所に来てからでも二度目や三度目ではない。
「……雄二さん」
ぽつりと呟いたその時、びゅうっと強い風が吹き付けた。
「きゃっ」
舞い上がった砂嵐に襲われて、玲於奈はその場にしゃがみ込む。
ばちばちと身体にぶつかる粗い粒。襟元を押さえても、髪は砂だらけ。
「まったく、もうっ。……あら?」
泣きそうな気持ちで目を開けた時、眼前の砂浜に突き挿さった異物を見つける。
「箱? あっ!」
包装紙に覆われた小箱には「○×海岸カラオケ大会 副賞」ののし紙。
夏に皆で此処で遊んだ時、玲於奈が獲得して、どこかに放りやった景品。
砂に埋もれ、拾われも流されもせず、再び日の目を見た所に玲於奈が通りかかった。

世のなかには、偶然というものがある。

ただ、それを拾い上げた玲於奈は、
「……決めましたわ」
それに何かを感じて、ぼんやり来た道を、真っ直ぐに戻っていった。
395桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 2/19:2007/11/17(土) 23:43:13 ID:Qo1Tjhtz0

駅前通りを行き交う車の騒音。
信号が変わる度に、交差点に吐き出される人の波。
クリスマスイブを控えた街は、この冬一番の混雑に埋もれていた。

その雑踏の中で、立ち尽くす雄二。
決して低くない背を気持ち伸ばして、無数の人影のなかに想い人を探す。

玲於奈は来ない。

「さっき、玲於奈の家の方から連絡があってね」
少年は、姉との会話を頭の中で反芻する。
「朝、部屋を覗いたら居なくて、書き置きがあって、それで、九条の方に来てないかって」
環の声は、落ち着いてはいたが不安を隠せない。
「薫子とカスミにも聞いてみたけど、会ってないみたいで、二人とも心配してるわ」
それはそうだろう。雄二は同意しようとしたが、頷いただけで言葉が出なかった。
「学校の方でなにか変わったこと、なかった?」
「いや……警察には?」
「捜索願いは出してあるけど、本気で探しては貰えないでしょうね」
誘拐の疑いが強まればともかく、家出少女に真面目に構うほど警察はヒマではない。
「わかった。俺も探してみる」
「当てがあるの? そっちの学校の友達とか、分かる?」
「俺さ、今日、アイツと遊びに行く約束してたんだ」
「えっ?」
雄二は、迷ったが、事の軽重を間違えていい場面ではない。
自分と玲於奈が付き合っていることを、短く告げた。

「あら、中途半端で終わっていたと思ったら、ちゃんとくっついたのね?」
感心したような声色の環は、多少の余裕を取り戻しているだろうか。
「だから、関係あるか分からないけど、駅で待ち合わせだったし、行ってみる」
「そうね。私も薫子と出るわ。連絡は、寮にカスミが残るからそっちか、学校の携帯を借りていくから。番号言うわよ」
言われるままに数字をメモした雄二の字は、心なしか揺れた。
396桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 3/19:2007/11/17(土) 23:45:09 ID:Qo1Tjhtz0

「向坂くん?」
「おおうっ!?」

突然近距離から声が掛けられて、雄二は飛び上がる。
遠目ばかり気にしていた彼の目の前に、2−Aのクラス委員長が立っていた。

「なにぼーっとしてんだ?」
その隣に並ぶ、見飽きたほど見知った顔、河野貴明。
「なんだ、お前らか」
「ご挨拶だね。オプション待ち? にしては待ち時間が長くない?」
「いつから見てたんだよ」
「さ、さっき通りかかって、あっ、お邪魔だと思ってですね、声かけなかったんですけど」
愛佳が言い訳臭く説明。
「でも、お茶して戻ってきたらまだぼーっとしてますから、どうしたのかなーって思って」
二人の表情は、口調ほど軽くない。
事情は知らないながらも、雄二の様子がおかしいことは察しているようだ。
「いや、ちょっと……」
言い淀んだ雄二。
玲於奈の家族に無断で話を広げて良いものか、また、話せば二人にも迷惑がかかる。
けど。

「こーさかくんっ」
じーっ。
愛佳は、両拳を握りしめて委員ちょモード。
貴明も、真剣な顔。
雄二は、真面目な友人達に感謝すると、状況を説明した。

「い、いっ、家っ!?」
「出えええええ?」
「……遊んでんのかお前ら」
少し後悔した。
397名無しさんだよもん:2007/11/17(土) 23:46:25 ID:F7vxhGee0
支援
398桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 4/19:2007/11/17(土) 23:47:31 ID:Qo1Tjhtz0

が、挙動はともかく、愛佳の行動は迅速だった。

「九条院の方には連絡されたみたいですけど、こっちの友達には?」
「してないと思う。俺も電話番号知らねえし。わかるか?」
「二人くらい。由真はアテにならないけど、ツテを辿れば、たぶん」
手帳を取り出す愛佳。
「えーっと、2−A、2−Aで、窓際グループの、玲於奈さんと知り合い……」
「相変わらず人別帳みたいだね」
貴明は、この物体の記載内容を見たことがあった。
「うぅぅ茶化さないでぇ〜! あった」
愛佳が手帳に付箋を挟んで、三人は電話ボックスに歩く。
「あぅ。テレカが切れてる」
「ほれ」
定期入れを引っ繰り返した少女に、雄二が自分のを差し出した。

緒方理奈の、レア物。
貴明は何度も自慢された事がある、中学生時代からの雄二のお護り代わり。
「売店で買ってくるよ、俺」
携帯電話が普及し始めたとはいえ、まだまだ公衆電話の存在意義は失われていない御時世。
「いや、いい」
お護りは、願を掛けてこそ意味がある。
「ん」
小さく笑って、愛佳は受け取った。

プルルルルル。
「ボックスに男二人と女一人ってヤバくね?」
「たかあきくんは外に出てて、ってあっ、もしもし、小牧だけど」
玲於奈と同じグループにいる知り合いから、他のメンバーの電話番号を聞き出して連絡してゆく。
「……だから、もしそっちに行ったら連絡くださいね」
「うん。大丈夫、かくまったりしないって。小牧さんならともかく玲於奈でしょ? 家出なんて無茶無茶」
玲於奈の性格と性能は、彼女らにも理解されているようだった。
399桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 5/19:2007/11/17(土) 23:49:14 ID:Qo1Tjhtz0
かちゃり。
「ふうっ」
受話器を置いて、愛佳が溜息く。
「お疲れ」
「サンキュな」
「んっと。クラスの、付き合いのある子にはだいたい連絡ついたと思う」
玲於奈が訪問することがあれば、連絡をくれるように伝えたと愛佳。
「連絡先って俺の家か? それじゃ空けられねえな」
「探しに出たいよね。俺が留守番してようか?」
「でも、そうすると向坂君と連絡が取れな……あっ!」
愛佳が手を叩く。
「郁乃が携帯持ってる。最近買ったの」

35分後。向坂家前。
「遅い」
門の前でふてくされていた郁乃は、開口一番雄二を責めた。

「お前が早えんだよ。駅からだから時間かかるって言ったろ」
「この子が待つわけないでしょ」
アゴでしゃくった先には、門扉によりかかって半分寝ているこのみ。
緊急連絡用に家から携帯電話を持たされている妹の方の小牧は、
昨夜は柚原家で女の子二人のお泊まり会だったそうだ。
「とにかく、中に入れて、寒いんだから」
「ああ」
がちゃり、鍵を回す。

ぐい。がこん。
「なにやってんの?」
「あれ? 開いてたか」
気が動転して出てきたせいか、閉め忘れたらしい。
「……入ってりゃ良かったわ。ほら、このみ」
「ふぁあい」
400桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 6/19:2007/11/17(土) 23:51:10 ID:Qo1Tjhtz0

「お、お邪魔しまーす」
愛佳が雄二の家に来るのは初めて。おそるおそる敷居をまたぐ。

「寒いな。このみー、ストーブ点けてー」
「うん。ユウくん冷蔵庫のジュース出すよー」
「エアコンないのね。このみ、それ、賞味期限だいじょうぶ?」
勝手知ったる貴明と、同じく慣れっこなこのみと、初めてだけど泰然自若の郁乃。
トイレを借りた愛佳が客間に現れた時には、お茶の用意が出来ていた。

「ほら、昼飯買ってきたから」
「あっ、後でおかーさんがなんか持ってきてくれるって言ってたよ」
「このみが寝坊するから、朝食べ損ねた」
貴明は無論、このみと郁乃も事情は既に知っているが、慌てた様子はない。
まだ今朝の事で書き置きもあるし、客観的には楽観的に構えていい状況だろう。
「ったく。人の気も知らねぇで」
毒づく雄二も、友人達の落ち着きに救われるのを自覚する。

「とりあえず姉貴に電話するわ、俺」
「あっ、じゃあこっちの番号教えた方がいいね。えっと、郁乃?」
「はい。電池ある、けど、一応充電器」
「ありがと」
「……あっ、ええと……薫子か? ああ、雄二だけど、久しぶり」
雄二がメモしていた番号に掛けると、向こうの携帯に出たのは薫子のようだ。
「ああ……こっちもダメだった……うん、そうか、あっ、いや、替わらな……ぐ」
環に交替した模様。
「いや、えっとさ、こっちも小牧に携帯借りたから。ああ、駅でさ……番号言うぞ」

「あっ、えとえと、ちょっと待って番号表示番号表示」
聞き耳立ててた愛佳が慌てて携帯電話のボタンをいじくる。
「覚えてるでしょ? ぜろきゅーぜろ、ぜろななにぃ……」
暗記もメモもしているのに液晶とにらめっこする姉に呆れて、郁乃がフォローした。
401名無しさんだよもん:2007/11/17(土) 23:53:25 ID:hGiZXkM80
あらよっと
402桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 7/19:2007/11/17(土) 23:53:44 ID:Qo1Tjhtz0
「こっちは、カスミに留守番してもらうから」
「俺も午後また出るから、連絡はさっきの番号にくれ」
環と雄二、会話の続き。

「そう? 万一があるから、一人で出るのは感心しないわね」
「誰かと行けって?」
「あっ、このみが一緒に探すっ!」
雄二を挟んで、愛佳の反対側で話を聞いていた少女が元気な声を挙げる。
「あら? このみもそこにいるの?」
「うんっ。ユウ君のことはこのみにおまかせなのでありますよ」
力こぶを作る少女。雄二はついつい苦笑い。
「俺達も手分けするよ。適当なとこで連絡入れるね」
貴明が申し出て、うんうんと愛佳も頷く。

「だけど、もしかしたら玲於奈がそっちに連絡するかも知れないわね」
「ああ、学校の友達にも俺んちに貰うように頼んだ。妹、留守番頼んでいいんだよな?」
「あたしは妹なんて名前じゃないけど。別に構わないわよ、知らない人でもないし」
水族館にも一緒に行ったが、玲於奈は小牧邸にお邪魔した事もあった筈だ。

「みんな頼もしいわね。私からもありがとうって伝えておいて」
「分かってる。それじゃ」
気を付けて、なんて言葉は環に限って不要だろう。雄二は電話を切った。
「うし、じゃあそういう事で、電話貸りてくぞ」
「このみが一緒なら、このみが持ってなさいよ」
愛佳から雄二に渡りかけた携帯は、郁乃の言葉でこのみに携帯者変更。
「ま、間違い電話とか来たら?」
「間違いじゃなくて他の用件でしょ。このみが知らない相手だったら切っていいわ」
このみと郁乃の会話で、雄二もはたと気付く。

「あのな、小牧妹、留守番中に、関係ない電話が来てもだな、」
「致命傷には、ならない程度にしといてあげる」
郁乃は人の悪い笑みを浮かべたが、口調で冗談であることも示していた。
403桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 8/19:2007/11/17(土) 23:55:31 ID:Qo1Tjhtz0

間もなく春夏が差し入れてきた昼食をかっこんで、雄二達は再び玲於奈を探しに出た。
雄二とこのみは街へ、貴明と愛佳は、学校の方を中心に。

「すっかり寒くなったねぇ」
「そうだな」
バス停に向かって歩きながら、このみが自分の手に息を吐く。
少し大きめなクリーム色のダッフルコートは、何年も前から「少し大きめ」だったような気もする。
「なんだか久しぶりだね、ユウくんと一緒に歩くのは」
「そうか?」
「そうだよ。最近ユウくんは……」

ピリリリリ。ピリリリリ。
「わわっ、な、なんの音っ?」
このみが飛び上がる。雄二も驚いたが、すぐに音源が少女自身である事に気付く。

「電話電話っ。鳴ってるぜっ」
「あわわわわわぁっ」
慌ててコートのトグルを外そうとする少女。
「どこに入れたんだよ」
「む、胸ぽっけっ、とっ、とれなっ」
鳴り続ける電子音に、このみは焦ってしまう。胸元がなかなか開かない。
「うー、うりゃあっ!」
面倒とばかり裾からコートを捲り上げると、今日はキュロットではないデニムのジャンパースカートまで一緒に。
「こらこら待てっ!」
雄二は大至急で手を伸ばし、幼馴染みのスカートの裾を引き下げて内容物を自分と通行人の視線から救った。
ピッ。
「は、はい、このみ、……じゃなくて、小牧……じゃなくて、ええっと、なんて言ったらいいのかなユウくん?」
「俺に聞くなよ」
ぼやいた雄二だが、電話機を耳に当てたこのみは、暫くして首を傾げる。
「どうした?」
「うん、なんかね、しーんとしてるの」
404桜の群像 第25話「TALK TO TALK」 9/19:2007/11/17(土) 23:57:17 ID:Qo1Tjhtz0
「無言電話か? ちょっと代われ」
このみから携帯を受け取った雄二は、位置をちょっと迷ってから耳に当てる。
「もしもし、誰です?」
「……」
返答はない。ただ、電話機の向こうで息をつく気配。
「イタ電なら切るぞ。こっちゃ忙しいんだ」
「……待って……さい」
か細い声。聞き覚えのない。いや、どこかで聞いた。
状況と記憶から、雄二は発話者を推測する。
「……カスミか? もしかして」
(コクコク……。)
「いや、頷かれてもわかんねーから」

「……はい、私です」
今度はさっきよりもはっきりした声で、カスミが言葉を喋った。
「誰ですか、今の?」
険がある。女の子が出たことに不審を持ったようだ。
「このみ、ってほら、春に姉貴と貴明と俺とメシ食ってた子」
(ポム……。)
受話器の奥で手を叩いた音がした。
「それで、どうした? なにかあったか?」
「いえ」
少し間が空く。基本的に喋るのが苦手なのだろう。
「……部屋に、直通の、親子電話を借りましたから、番号を」
朝に環に言われた連絡先は、寮の電話だった。
「そうか、サンキュ」
着信入ってるから番号まで言わなくていいぜ、と補足。
「こっちの携帯は多分このみが出るから、次は名乗ってくれ、じゃな」
「あ……待って」
「なんだ?」

「……玲於奈、たぶんそっちだと思うから、お願いします」
405桜の群像 第25話「TALK TO TALK」10/19:2007/11/17(土) 23:59:16 ID:Qo1Tjhtz0

ピ。

「誰だったの?」
「九条院の寮にいる子、髪の黒い、このみも会ったことあんだろ」
「うーんと、かおるこさんだっけ?」
「それは長髪のヤツ。今のはカスミ。ほれ……っとぉ?」
ピリリリリ。
携帯が雄二の手から離れる前に、二度目の呼び出し。
通話ボタンを押してから、郁乃の顔が浮かんで電話をこのみに押しつける。
「えっ、えとえと、もしもし? あっ、う、うん。そうだです。い、いま代わるです」
どもりながら応答した少女は、すぐに電話を耳から話した。

「ユウくん、えっと、“かおるこ”さん」
「なんだよ立て続けに。あー、俺だけど?」
「薫子です。すみません。情報があったわけではないのですが」
「こっちもだ。ってか今、探しに出たとこ」
「そうですか。カスミが直通電話を借りたのでそのご連絡を」
「知ってる。さっきあっちから電話来た」
「そうですか?」
薫子は少し驚いた様子。
「珍しいですね。カスミが自分から電話を掛けるなんて」
「今後は名乗るように指導してくれ、無言電話かと思った。いや、無言電話だった」
雄二の苦情に、スピーカーからクスリと笑い声。
「用件はそれだけですけど、その、雄二さん?」
「あ?」
「今回は根拠がないんですけど、玲於奈は、雄二さんの側に行くと思います」
今回は、の前回とは、九条院からの転校騒ぎの時だろう。
あのとき薫子は、玲於奈の転校先を知っていて雄二に教えなかった。

「だから、繰り返しになりますが、玲於奈のこと、よろしくお願いします」
406桜の群像 第25話「TALK TO TALK」11/19:2007/11/18(日) 00:01:05 ID:zAD7tlI40
「カスミにも同じ事を言われたぜ」
「そう、なんですか? それで電話したんですね、カスミ」
「ったく。お前らの勘なら、当たりそうだな」
学校では半年足らずの付き合いだったが、三人の友情は雄二にも見えていた。
「玲於奈が何考えてるか俺には判らねぇが、なんであれできることはやるよ」
雄二が約束して、薫子は受話器に小さく頭を下げた。

「なんの電話?」
「寮の方の番号変わったからってのと、アイツの事は俺がなんとかしろってさ」
「責任重大だねえユウくん」
電話をコートの内ポケットにしまい込みながら、このみが微笑む。
「なんだか最近のユウくん、すごくカッコいいのでありますよ」
「最近って、これまではどう思ってたんだよ」
「うーんとねー」
人差し指を頬にあてて頭の中から言葉を探している幼馴染み。
「いや、いい。聞きたくねえ」
どんな言葉を引っ張り出してくるのか知らないが、ロクなものではない気がした。

「あーあ、でも、うーん」
伸びをしながら、このみがらしくない顔で空を仰ぐ。
「ユウくんも、ずいぶん遠くにいっちゃった気がするなあ。もしかしてタカくんよりも」
その言葉に、どきりとする雄二。
「そんな事はねーだろ」
反論はしたものの、このみとは水族館以来遊びにも食事にも行ってない。
貴明とは、郁乃と愛佳を経由した繋がりもあるのだろう。
いずれ貴明にしろ雄二にしろ、このみに対する感情は全く変わっていないのだが、
友情も愛情も、持っているだけで伝わるものでもない。

「せっかくタマお姉ちゃんが帰ってきたと思ったら、みんないなくなっちゃった」
少しわがままな独り言を肯定も否定もせず、雄二は幼馴染みの頭を撫でた。
「えへ」
このみは、いつもより照れくさそうに笑った。
407名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 00:02:41 ID:83cg3N6V0
支援
408桜の群像 第25話「TALK TO TALK」12/19:2007/11/18(日) 00:03:32 ID:zAD7tlI40

同じ時間帯、四方で玲於奈捜索の輪は広がっている。

その一方、九条院。
「今回って?」
雄二に電話していたらしい薫子に、環が尋ねる。
「雄二さんが、九条院にいらした時の事です」
いったん足を止めて、薫子は事情を簡単に説明した。
「そうだったの。あれにそんな根性があったとはね」
環は感心した模様。
「でも玲於奈もちょっと頼りない子だから、雄二とじゃ心配ねえ」
今回に限らず、と腕を組んだ環に、後輩から反論があった。
「雄二様は、頼りがいのある方だと思います」
「そう?」
「はい」
先輩は首を傾げたが、薫子はお世辞のつもりはないようだ。
「あの子たちも、成長しているってことかしら」
この春、久しぶりに会った貴明が立派な男性になりつつあったように、
雄二も、いつまでも出来の悪い弟ではないのかもしれない。
嬉しい反面、少し寂しくも。
「といって、面倒見てたというほど世話もしてないか」
気には掛けていても、ずっと九条に居た自分である。
「じゃ、行きましょうか。あなたの勘が正しければ、向こうの健闘を祈るだけだけど」
「祈るのは、カスミがやってくれてると思いますよ」
薫子が頷いて、二人は肩を並べて前を向いた。

次方、九条院女子寮。
(ナムナム……。)
薫子とカスミ、寮内唯一の二人部屋では、昼間なのにカーテンが引かれ、
机の上にローソクを立てた黒髪の少女が、何かに手を合わせて祈っている。
「カスミさん。昼食はよろしいので……す……か? あ、あら、失礼」
様子を見に来た寮当番の教師が扉を開けたが、絶句してそのまま閉めなおした。
409桜の群像 第25話「TALK TO TALK」13/19:2007/11/18(日) 00:04:56 ID:zAD7tlI40

三方目、時間的には少し経って、貴明と愛佳は、学校付近を探索中。

「校舎の中ってことは、ないと思うけどなあ」
「あ、でも2年くらい前のゲームで、家出した恋人同士が生徒会室でってのが」
「まだ先生は出てきてるだろ?」
一応職員室に顔を出してから−玲於奈の家から連絡を受けたらしい担任と教頭も出勤していた−
学校の敷地をぐるっと回って、裏手の神社まで。
とても静か。
「玲於奈さーん、いるなら出てきてくださーい」
思わず声をかけてみたりして。
「猫じゃないんだから、やめなよ」
「そういうたかあきくんは、どうして軒下を覗いているんですか?」
「いや、なんとなくイメージが、最近変わってさ」
「あるよねぇ、元気な人なのに」
膝抱えてうずくまってる少女の図が脳裏に浮かんで、勝手に同情する二人であった。

最後、四方目、その頃の向坂邸。

「ぽりぽり」
米せんべいを囓りながらヒマそうな郁乃。
状況的にイタズラする気は起きないし、といって緊張を保つ必要もない役回り。
捜索隊に加われない自分の足も恨めしくは思えど、心の切り換えは得意技。
「……くぅ」
午後の陽気に、ついつい眠気を誘われたあたり。
ガタン。
「へ?」
音は上方から聞こえてきた、頭を戻して天井を見上げる。
しーん。
「……ネズミ?」
独り言に、回答がある由もなかった。
410桜の群像 第25話「TALK TO TALK」14/19:2007/11/18(日) 00:06:51 ID:zAD7tlI40
雄二とこのみ、貴明と愛佳、環と薫子。
楽観している向きが多かったとはいえ、それぞれの探索は真剣なものだったが、
午後一杯の三組の努力にも関わらず、玲於奈は見つからなかった。

「明日も探すからねっ、絶対見つけるからねっ!」
腕を振り回して慰めてくれた幼馴染みを送って、雄二は自分の家に戻る。

玄関には、靴が三足。
「あっ、おかえりなさい向坂くん」
先に戻っていた愛佳が、わざわざ廊下に顔を出した。
「お疲れさん」
茶の間では、貴明の声と郁乃の視線が出迎える。
「悪いな、遅くなった」
「晩飯、先に食べてたから」
テーブルには、春夏が持ってきたらしい、かなりの量のオードブル。
「後でお礼に行かないといけねえな。妹も、留守番サンキュ」
「座ってただけよ。あとお米炊いた。このみは?」
「直で家に帰した。眠そうだったしな」
外はとうに暗い時間。
三人の顔にも、疲労が見える。
「お前らも、もういいぜ。姉貴と薫子が今夜中にこっち来るって言ってたし」
「あ、そうなんだ」
「向坂先輩が来るまで待ってる?」
「うーん、いや、今日は帰ろう」
貴明は少し迷ったようだが、小牧姉妹を巻き添えにするのを避けた。

「また明日、朝から来るからさ」
「だいじょうぶ。きっと見つかるよ」
「今夜一晩過ごしたら、へばって出てくるでしょ」
異口異音でも、心は一緒。
「ありがとよ」
雄二は改めて、優しい友人達に感謝した。
411桜の群像 第25話「TALK TO TALK」15/19:2007/11/18(日) 00:08:58 ID:zAD7tlI40

「ふうっ」
貴明達が去って、静かになった居間で溜息をつく雄二。
「少し食うか。ってすげーな春夏さん」
半日で良くぞここまで、と思うような品数と量が並ぶ食卓。
「あ、姉貴達の分もあるな。連絡しとくか」
受話器を取りかけて、帰路で電話を入れた時の二人の声を思い出す。
「……そう、お疲れ様」
「明日は、私達もそちらを探しますから、今晩はそちらへ泊めてください」
滅多に聞けない憮然とした環の声と、不安を抑えた様子の薫子。

(みんなに心配かけて、どこにいるんだよ、一体)

「玲於奈は、知らない場所に一人で行く子ではないと思います」
薫子の見解は、雄二も首肯できる。
(行き場所なくて、そこらをウロウロしてそうだよな)
だが、彼女が知っていそうな場所は、殆ど探して回ったつもり。
九条院は環と薫子、学園の方は愛佳と貴明。
そして雄二とこのみが、午後中探し回った街並み。

駅前、喫茶店、映画館、遊園地、水族館。
思えばわずか八ヶ月で、玲於奈とは色々な場所を巡った。
往路復路のバス通り。公園。川辺。並木道。
家の前で少女達と出会った日が、ずいぶん昔に思える。

怒った顔。笑った顔。
喜怒哀楽の賑やかな娘は、今、どこにいても、泣いているような気がして。
「……っきしょうめ」
腹立たしげに呟いた、その時。

ガタンと、天井で大きな音がした。
412桜の群像 第25話「TALK TO TALK」16/19:2007/11/18(日) 00:10:21 ID:zAD7tlI40
「なんだあ?」
素っ頓狂な声を挙げる雄二。
向坂家の屋根裏には、祖父母が使っていた調度品をはじめ、
柄ばかり立派で役にも立たない−と、雄二は思う−家具類が眠っている。
(そういや、小牧妹がなんか鳴ったって言ってたな)
何かの拍子に、積み方が悪かったものが崩れたのかも知れない。
「こんな時に」
ぼやきながらも、雄二は様子を見に行くことにした。

家の隅にある梯子から久方ぶりに上った屋根裏部屋は、以前にも増して埃っぽい。
おまけに真っ暗。
「電気、どこだっけな」
近くの柱を手探りで、スイッチを入れると、裸電球の小さな灯りが。
「ひゃっ?」
点くと同時に、小さな悲鳴が。
聞こえた直後。

ガタ、ガタガタガタタタタタどしゃーん。
まるで天井が抜けそうな音がした。

「な、なんだこりゃ?」
さっきよりも3倍くらい慌てて、雄二が崩れた山に駆け寄る。
崩れたのは、本棚とか、化粧箪笥とか、中物クラスが積んであったらしい箇所。
バラバラと散らばった物品に混じって。
「……」
絶句する雄二の見下ろす先に。
「イタタッ、っ、ごほけほっ」
薄明かりでもはっきり分かるくらい埃まみれになって。

「けほけほっ、あ、あはは、ゆ、雄二さん。お久しぶりです」
床に突っ伏した状態から辛うじて顔だけ上げながら、誤魔化し笑いを浮かべる玲於奈がいた。
413桜の群像 第25話「TALK TO TALK」17/19:2007/11/18(日) 00:13:34 ID:zAD7tlI40
「す、すごく物の多い屋根裏ですわね、ここ」
よたよたと身を起こした少女は、板間に女の子座りして周囲を見上げる。

へたっ。
雄二は力が抜けたように、少女の前に座りこむ。
「ちょっと隠れているつもりが、何かに挟まって身動きが取れなくなりまして……」
玲於奈の説明もごく部分的な代物だったが、そもそも雄二の耳には入らない。
「あ、あの、雄二さん、大丈夫ですか?」
ぼーっと自分を見つめる少年に、アクションに窮する少女。
「え、ええっと、その、何から話したらいいか……きゃ?」

がば。
唐突に、彼女の言葉を全て遮って、雄二は玲於奈を抱き寄せた。

「あ、え? う……ん……」
突然の抱擁に混乱した少女はしかし、すぐに彼の腕に収まって大人しくなる。
「……すみません、でした」
雄二の胸で呟く謝罪。
「……」
すっ。
それを聞いて、雄二がまた不意に少女を離す。
「は、はい?」
戸惑う少女を、まだどこかきょとんとした顔で見つめた少年は。
やがてその表情を消して。
すうっ。
息を吸って。一瞬止めて。

「馬鹿野郎ーーーーーーーーーーーーっっ!」

今度は屋根の方が落っこちそうな怒鳴り声。
「い、いきなり怒鳴らな……」
身を縮めて涙目で反論しかかった玲於奈の声は、雄二の厳しい眼差しに途中でフェードアウト。
414桜の群像 第25話「TALK TO TALK」18/19:2007/11/18(日) 00:14:55 ID:zAD7tlI40
「ご、ごめんなさい……」
両手を割座の太股に挟んで小さくなったまま、上目遣いに説教の続きを待つ少女。
「お前、なぁ」
が、雄二からも次の言葉は出てこない。

ぐぅーきゅるるるぅ。
黙った二人の代わりに、まず玲於奈のお腹が鳴った。

「あ……」
暗いので顔色は判らないが、恥ずかしそうに下を向く玲於奈。
「はぁっ」
雄二は大きく溜息をついて、
「ほれ、来いっ。下に、このみの母さんがメシ持ってきてくれたから」
「あっ、いえ、その」
「いいから来い」
玲於奈の腕を取って、膝の間から引っこ抜く。
彼氏の強引さに引きずられるようにして、少女は居間に降りた。

電灯の下で見ると、玲於奈の顔は寒さと空腹で青白い。
雄二はストーブの火力を上げると、玲於奈にご飯をよそう。
少女は何度か何かを言い掛けたが、食べ終わるまで何も喋らせて貰えなかった。

「それで、だな」
彼女が箸を置いて頭を下げたのを見届けて、雄二が口を開く。
いろいろと聞きたい事はあるのだが。
「とりあえず、なんで家出なんかしたんだ?」
「ああっ、そ、そうでした! ゆ、ゆ、雄二さんっ!」
「はい?」
途中から大人しく食事に専念していた玲於奈の、いきなりな剣幕に驚いた雄二は、次の言葉にもっと驚く。

「わ、私と、か、駆け落ちしてくださいっ!」
415桜の群像 第25話「TALK TO TALK」19/19:2007/11/18(日) 00:17:06 ID:zAD7tlI40

「ところで、どうして家出なんかしたんです? 何かあったのですか?」

雄二が恋人を発見したのと、ほぼ同時刻。
薫子は親友の母親に、今日の結果と明日の予定を報告していた。
「ほんとにもう、ごめんなさいね」
恐縮する玲於奈の母に、薫子は思い当たるふしを尋ねたのだが。
「それがね……」

昨夜。
「お風呂いただきました。お休みなさいませ」
「なんだか浮かれてるわねえ」
茶の間に顔を出して就寝の挨拶をした玲於奈に、母親が声を掛ける。
「そう、かしら?」
言葉と裏腹、愛娘はふふっとあからさまに上機嫌。
「あっ、そうだ、玲於奈、ちょっと座れ」
そのまま去ろうとした少女を、新聞を読んでいたのか眺めていたのか不明な父が呼び止めた。
「なんでしょう?」
座布団を敷くまでもないと畳に直座り。
「いや、あー、実はな、うちにお見合いの話が来てな、いーい話なんだがこれが」

「……そうしたら急に感情的になって、最後は部屋に閉じこもってしまって……」
「朝覗いたらもぬけの空、というわけですか」
「お父さんの言い方も悪かったとは思うんだけど……」
説明を聞くうちに、薫子はなんとも言えない表情になっていく。
「……薫子ちゃんには、いつも迷惑ばかり掛けて悪いわねえ、馬鹿な娘で」
事情を話し終えた玲於奈の母は、受話器の向こうで手を合わせていそう。

「迷惑だとも思いませんし、悪くもありませんけれど」
事情を聞き終えた薫子は、携帯電話を耳に当て、空いている手を腰に当て。
「それは本当に、馬鹿ですねえ」
深々と嘆息した。
416名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 00:17:43 ID:mNs/GOOp0
支援砲撃、てーっ!!
417名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 00:18:15 ID:zAD7tlI40
以上です。支援ありがとうございました。おかげで間隔短めで投下できました。

今回、普段にも増して会話ばかりになってしまい、思わず題名変更。
なんにせよ、次回最終話(今度こそ)「Sound of Destiney」(+エピローグ)、です。
418名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 00:24:43 ID:RapPX2dJ0
前回の引きから続きが気になってた〜

家出した理由はありがちっちゃありがちですが、
そこで駆け落ちに行っちゃう辺りがやはり玲於奈クオリティかw

とにかく乙でした
419名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 10:50:26 ID:KzCOyGgy0
GJ!
>「覚えてるでしょ? ぜろきゅーぜろ、ぜろななにぃ……」
何気に吹いてしまいましたw

貴明、雄二に恋人ができて、このみはどうするんだろう・・・とちょっと思いました。
420名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 11:11:34 ID:X8IE5z6F0
ゲンジマルとry
421名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 17:30:46 ID:gWrrWm/w0
いくのんが世話してくれてるようだぞ
422名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 21:07:11 ID:Vu4z+jkb0
>>418
ありがちっていうか由真シナリオにある
423名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 21:17:24 ID:VokLchHq0
>>422
そういう意味も含めて「ありがち」って言ってるんじゃ?
由真の場合は駆け落ちまでいかなかったわけだし、そこで差を表現してるんだとオモ。

まぁ自分で書くときには、ちょっとこういうのが怖いな〜と思うんだけどねw
原作プレイしてから間があくと、自分で考えたつもりのネタが既に原作にあったりとか
SSが知らず知らずのうちに原作をなぞってるだけになってる、みたいなの。
プレイ直後には絶対にありえないのに、時間の経過とともにどんどん記憶が曖昧に。
424名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 21:23:36 ID:RapPX2dJ0
由真の家出の理由はじいさんが勝手に海外の音楽学校の進学を決めたからだった気がするけど…別ルートあるの?
425名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 21:43:40 ID:Vu4z+jkb0
>>424
PS2版は縁談のはずだよ
PC版は音楽学校であってるから心配すんな
426名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 22:17:19 ID:ZnaNF7dj0
PC版やったのに全然それに気づかなかった俺みたいなのもいるから安心しろ。
427名無しさんだよもん:2007/11/18(日) 22:20:51 ID:tUNzX69U0
PC版だと家出の理由が違うのか、PS2版しか持ってないから知らんかった。
428424:2007/11/18(日) 22:30:35 ID:RapPX2dJ0
やり漏らしがあるのかと思ったよw
まあ、姫百合シナリオとかはかなり怪しいんだけどな
429417:2007/11/18(日) 23:30:28 ID:JP1kAnGy0
>家出と由真の縁談
久々にPS2版起動して確認しました。すっかり忘れてましたw
もっとも、縁談&家出のコンボは由真に関係なく非常にベタな展開ではあります。

話を書く上で意識したのはむしろささらシナリオの方でして、
あれの裏(二人を捜す側)をやりたかったのと、あとは由真でも他のゲームでも、
よくヒロインが行方不明になった時に主人公一人で探す、ってのに違和感があって、
玲於奈をみんなで捜すネットワークを書いてみたかった、というところです

や、イベントが家出なのはラスト一波乱向けの事件が思いつかなかっただけだし、
展開もラス前だから全員出したいという単純な欲求の方が大きいんですけれどね。
いやあ、恋愛話の最後一悶着ってのは難しいですねえ……ええ、単なる力不足でございます(泣)

>このみ
このみは、郁乃に引き取らせる予定だったんですが、もうキャラが勝手に走ってて、
書けば書くほど泥沼というか、フォローしようとしてかえって可哀想になってる気が。
正直このSS内で救済するのは無理になってしまいましたが、先は長いんだし、
そのうちいくのんフィルターを透過するような良い相手が見つからんことを(−人−)
430名無しさんだよもん:2007/11/19(月) 00:22:49 ID:ZOAlGiht0
実は全て雄二の夢オチってことで、実は貴明も委員ちょと付き合っていない・・・なーんてね(笑
431名無しさんだよもん:2007/11/19(月) 03:05:22 ID:bVUz349p0
貴明が小牧姉妹をまとめて面倒を見るでいいんじゃね?
432名無しさんだよもん:2007/11/19(月) 23:26:33 ID:ZOAlGiht0
まあ、ぶっちゃけ俺は、委員ちょとこのみがいれば問題なし!
郁乃は・・・かわいい妹としてなでなでしたいね〜

貴明は本当にうらやましいね。
433名無しさんだよもん:2007/11/20(火) 06:28:39 ID:rD9q3RMs0
むしろ郁乃とこのみの年下丼というのも捨てがたい意味もあるのではあるまいか
434名無しさんだよもん:2007/11/20(火) 20:50:55 ID:s3cQR97eO
>>433
その発想は無かった!
目が覚めるような思いだ
435名無しさんだよもん:2007/11/20(火) 21:15:41 ID:M6bzAqvL0
もの凄い茨の道だけどな。
二人の性格に加えて愛佳、タマ姉、春夏と認めてくれなさそうな人が一杯だ。
436名無しさんだよもん:2007/11/20(火) 21:52:58 ID:bPnxOlBM0
巷ではりゅうおうたんのイメージが強いが、
アナザーEDを見るに、このみはタカくん欲はあるが独占欲はそうでもなさそうだし、
郁乃も倫理観とか欠けてそうだから、当事者達は案外なんとかなるかも?<年下丼

保護者達は、愛佳はどーにかなるだろう。タマ姉と春夏さんは手強い・・・
437名無しさんだよもん:2007/11/20(火) 22:10:50 ID:ySN9CE1Y0
>郁乃も倫理観とか欠けてそうだから
どこから出てきた発想なのか詳しくwwww
438名無しさんだよもん:2007/11/20(火) 22:36:18 ID:bPnxOlBM0
初対面で「自分が何人目(の男)なのか教えてあげようか」などと言い放ち、
異性に突然「パンツ」とかのたまうヤツの、むしろどの辺に倫理感を感じろというんだ
439名無しさんだよもん:2007/11/20(火) 22:47:40 ID:ySN9CE1Y0
>>438
お前が今感じている倫理観は精神疾患の一種だ。
鎮める方法は俺が知っている。俺に任せろ。
440名無しさんだよもん:2007/11/21(水) 02:35:04 ID:razdy4sM0
この作品が力不足ってんなら今世の中にあるラノベはおよそ半数が出版されなかっただろう。
>>194でも言ったが次で終わるのが怖くて仕方ない!

愛佳の
「2年くらい前のゲームで、家出した恋人同士が生徒会室でってのが」
ってのはどう見てもXRATEDのささらルートですほんとうにありg(ry
エロゲやってる愛佳ってのは想像できないな
441名無しさんだよもん:2007/11/21(水) 06:08:57 ID:dYsN9Ao00
まぁラストエピソードが独創的できっちり決まる長編なんてラノベでも漫画でも滅多にない
エロゲでもそうか。戦闘系の話なら派手にラスボス出しときゃそこそこだが
442名無しさんだよもん:2007/11/21(水) 23:32:02 ID:eAAIPWPQ0
頑張り次第では素人が捕まる。俺は実際に2、3人と会えた。
http://agra54g.kinugoshi.net/
443名無しさんだよもん:2007/11/22(木) 22:06:28 ID:uwnR3Nme0
エロゲーマーが出会い系なんか使うんだろうか
444夢あわせ 1/8:2007/11/26(月) 02:09:57 ID:RutWkcOd0
 瞼を開くと、透き通るような青空が目に飛び込んできた。
 そして、風に混じって感じる青臭い草の匂い。
 だがそれらにどこか現実感が伴っていない…そんな違和感に戸惑いを覚えていた彼女の
視界に、一人の男の姿が飛び込んできた。
「あ、おきたんだ…イルファ」
 男の声はよく知った物だった。
 だが、青空のキャンバスを背に目の前に現れた男性は彼女の…イルファの記憶よりも
逞しく、記憶よりもずっと大人の男のものだった。
 それに違和感を感じつつも、なぜか当然のように彼女は男の声に答えた。
「おはようございます…貴明さん。」


    夢あわせ


 心のどこかで微妙な違和感を覚えながらも、イルファは置かれた状況に順応していた。

 イルファは体を起こすと、寝ている間に乱れてしまった髪を整えた。髪は肩にかかる
ほどに伸びていて、耳にセンサーユニットはなかった。

 二人がいたのは、見渡す限り青い空と緑の草原が続く丘陵の中だった。
 辺りにはいくつかの立ち木が在るだけで、他には誰もいない。

「まだちょっと眠そうだね…最近は夜中にたたき起こされるから、よく眠れてないん
 だろ?」
 貴明はそう言って、イルファの横を指した。
445夢あわせ 2/8:2007/11/26(月) 02:10:37 ID:RutWkcOd0
 イルファの横には大きな揺りかごが一つあって、その中ではまだ生まれたばかりの
赤ん坊が一人、すやすやと眠っていた。

 その顔はどこかイルファに似ていて…髪も彼女と同じ色をしていた。

 イルファは手を伸ばして、いとおしそうに、そのふっくらとした頬をそっと撫でた。
 それで目が覚めたのか、その子は急にむずがって泣き出してしまった。
「おなかがすいたのかな?時間も頃合だし。」
 貴明が時計を見ながらそういったのを聞くと、イルファは一つ頷いた。
「では、おっぱいをあげましょうか。」
 そう言って、イルファは手馴れた手つきで揺りかごから赤ん坊を抱き上げると、自分の
胸元をはだけて乳房を取り出した。
 服の間から覗く乳房は母乳のために大きく張っていた。イルファがその先端を口に
含ませると赤ん坊は力強く吸い始める。
 それはイルファにとって、貴明に愛撫されるのとは違う、とても心安らぐ、幸せな感触
だった。
 貴明もそんなイルファと赤ん坊の様子を見てとても幸せそうな柔らかな笑みを浮かべた。
 その暖かい雰囲気に、イルファは例えようのない幸福感を覚えていたが、しばらくして
その時間は唐突に終わりを告げた。
 突然世界が色あせ、遠のき始める。

 待って!

 今までの幸福感から一転、例えようのない喪失感に、イルファの心が悲鳴を上げた。
446夢あわせ 3/8:2007/11/26(月) 02:11:15 ID:RutWkcOd0
 しかしイルファの願いは届かず、貴明の笑顔が脳裏に焼きついたまま、イルファの意識
は光に飲まれた。

                   −

 タイマー起動。
 セルフチェック開始…終了。異常なし。
 いつも通りの朝の目覚め。イルファはゆっくりと目を開けた。
 目に飛び込んできたのは窓から差し込む日の光といつも見慣れた天井。姫百合姉妹の
住むマンションの、イルファの部屋の天井だった。

 さっきのは一体なんだったのでしょう…
 知らない風景の中で、大人の貴明さんと過ごしているなんて…何かのエラーでしょうか。

 イルファはそんなことを考えながら、とりあえず体内時計で現在時刻を確認した。
 するととうに7時を回っていることがわかった。いつもなら6時には起きて姉妹のため
に食事を用意するのが日課なのに大寝坊だ。メイドロボとしてありえない失態といって
いい。
 タイマー設定のミスか、自分にどこか異常があるのか…原因はわからなかったが、後で
珊瑚か長瀬主任に相談してみようと思いながら、イルファはとにかく身支度を整えること
にした。
 急いでパジャマからいつものメイド服に着替えて、鏡で見ながら簡単に髪をブラッシン
グする。
 そのついでに、イルファは鏡の中の自分の姿を確認した…センサーもあるし髪型も
ショートカットの、いつもの自分の姿だった。
447夢あわせ 4/8:2007/11/26(月) 02:12:17 ID:RutWkcOd0

「申し訳ありません、寝坊してしまいまして。」
「あ、いっちゃんおはよう〜」
 イルファがリビングに飛び込むと、すでに起きていた珊瑚が出迎えた。瑠璃はイルファ
の代わりにキッチンに立って朝食を用意している。
「あ、起きたんかイルファ…寝坊ならさんちゃんのせいやから気にしんとき。」
「え?…珊瑚様のせい…ですか?」
「そうや〜ウチの仕業〜」
 珊瑚はいつものようにるーのポーズであっさりと犯行を自供した。
「一体なぜ…」
「今日いっちゃん誕生日やろ?」
 そういわれて、イルファは体内時計のカレンダーを確認した。確かに今日は11月26
日で、イルファが起動した…人間ならば誕生日だった。
「たしかに、私の誕生日ですが…」
「だから…ウチから誕生日プレゼント〜」
「さんちゃん、一体何プレゼントしたん?」
 瑠璃が料理の手を動かしながら、イルファも感じていた疑問を珊瑚に投げかけた。
 珊瑚はそれに対して蕩ける様な笑顔で答えた。
「夢や〜」
「夢…あの、将来の目標とかの夢ですか?」
「そっちの夢やなくて、寝てるときに見る夢〜」
 夢…眠りの中で見る、自分の願望。
 イルファは先ほど見た貴明との未来の姿を思い出していた。あれが自分の望んでいる
未来なのだろうかとイルファは思った。
「イルファ、どんな夢見たん?」
 瑠璃は出来上がった朝食の皿を珊瑚の前に置きながら、イルファに尋ねた。
 イルファは自分の見たものをどう話したものか、少し考えこんでしまった。
「…別に嫌なら話さんでもええよ。」
448夢あわせ 5/8:2007/11/26(月) 02:13:23 ID:RutWkcOd0
 考え込んでしまったイルファを見て、瑠璃は聞くのはやめたほうがいいのかと思ったが、
それをイルファは頭を振って否定した。
「…いえ、そうではないのです。夢を見たのは初めてでしたので、どう話すべきかと
 思いまして。…順番にお話しますね。」

 イルファは夢で見たことを話し出した。
 イルファが貴明と夫婦らしい間柄だったこと。
 貴明との間に子供がいたこと。そして、その関係を幸せに感じたことを。

「…ごめんな、いっちゃん。」
 イルファが話し終わったとき、珊瑚はしゅんとして謝罪の言葉を口にした。
 イルファの中にある願望を元に夢を生成するプログラムを無断でインストールした上に、
そのプログラムが見せたものは、ロボットであるイルファには叶わない残酷な夢だった
からだ。
 だがイルファは珊瑚を責めようとはしなかった。
「珊瑚様が謝られる必要はありません。夢の中だけでも、私の願望が実現したのですから、
 私は幸せです。」
 瑠璃もまた、謝罪の言葉を口にした。
「イルファ…ウチがさんちゃん止めとけば…」
「いいえ。あれでよかったのです。夢を見たおかげで愛する人の子を授かる気持ち、
 そしてわが子を愛しいと思う、人の親の気持ちがわかったのです。」
「イルファ…」
「ですが、現実には私は貴明さんの子を生むことは叶いません。ですから、」
 そう言うと、イルファは瑠璃の手を取ってしっかりと握った。
「ですから、瑠璃様…瑠璃様には貴明さんと結婚して元気な赤ちゃんを生んでいただき
 たいのです。」
「…は?」
 突然の願いの言葉を聞いた瑠璃は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
449名無しさんだよもん:2007/11/26(月) 02:15:17 ID:B8o2i7ms0
うほっ
450夢あわせ 6/8:2007/11/26(月) 02:19:30 ID:RutWkcOd0
「瑠璃様が貴明さんと結婚して母となられた暁には、私も乳母として共にお子様の育児や
 教育に参加させていただき、もう一人の母として愛するわが子の成長を見守りたいの
 です。」
 イルファが熱弁を振るっている間に、瑠璃が正気を取り戻して眉を吊り上げながら反論
した。
「ちょ、ちょっと待ちぃ!」
「はい?」
「な、何でうちが貴明と結婚せなあかんねん!」
「貴明さんはお嫌いですか。」
「う…そやない…けど。」
「みんなで貴明さんのお嫁さんになれれば良いのですが、残念ながらメイドロボに人権は
 認められておりませんし、重婚も許されてはおりません。お嫁さん、つまり正妻の座は
 残念ながら珊瑚様と瑠璃様の二人に一つしかないのです。」
「な、ならさんちゃんが貴明のお嫁さんになればええんや。さんちゃんは貴明のことすき
 すきすき〜やねんから。」
「瑠璃ちゃん。」
 珊瑚もまた瑠璃の手を取りながら真剣な顔で言った。
「瑠璃ちゃんかて貴明のことすきすきすき〜やろ? 自分の方がお嫁さんになりたいのに、
 無理せえへんでもええんよ。」
「あ〜う〜ちゃうねん〜」
 瑠璃としては半分照れ隠し、半分珊瑚を思って「お嫁さん」に押したのだが、まるっき
り逆効果だった
「瑠璃ちゃん、ツンデレはトレンドやけど、ツンもたいがいにせんと本当に貴明に嫌われ
 るよ。」
「あ〜う〜」
451夢あわせ 7/8:2007/11/26(月) 02:22:05 ID:RutWkcOd0

 そんなお嫁さんの座を譲り合う姉妹を見るイルファの眼差しは暖かだった。
 イルファ自身は確かに法的にも貴明の妻となることは叶わない。だがそんなことは関係
無しに、この関係は変わらないでいければいいとイルファは願っていた。

 だが、それはそれとして、こんなほほえましい瞬間にも現実の時間はどんどん過ぎて
いくもので、
「…あ、瑠璃様、珊瑚様、もうそろそろお出かけになりませんと、学校に遅刻してしまい
 ますよ!」
 いつの間にか、時間は8時を回ろうとしていた。
「なっ、もうこんな時間やないか!」
「まだ朝ごはん食べてへん〜」
 珊瑚は瑠璃が用意した朝ごはんを前に指をくわえてそんなことを言っていたが、瑠璃の
ほうは大慌てで出かける準備を整えていた。
「ほらさんちゃん!出かけるで!」
「でも〜、ごはん〜」
「もー、しゃあないな。」
 瑠璃は自分と珊瑚のお皿に乗っていたトーストを手に取ると、同じくお皿に乗っていた
オムレツを片方のパンに乗せ、その上にサラダのレタスを重ねてトーストを載せ、即席の
ホットサンドにした。
「これを半分に切って…はいさんちゃん、これで我慢しとき。」
「わ〜、サンドイッチや〜」
 瑠璃はナイフで2等分した片方を珊瑚に差出して、自分も残りの半分にかぶりついた。
 一方、イルファはすでに二人のかばんを持って玄関口で待っていた。
「珊瑚様、瑠璃様。お早く出かけませんと、貴明さんたちがお待ちですよ。」
「ひゃかあひひやんふぇほうへふぉへへふひゃ!」
 瑠璃はホットサンドを咥えて靴を履いていたので何を言っているのかわからない。
「瑠璃ちゃん、行儀悪いで〜」
452夢あわせ 8/8:2007/11/26(月) 02:22:50 ID:RutWkcOd0
「もが…しゃあないやん。手ぇ使わんと靴履けへんもん。そんなことよりイルファ、
 かばん。」
「あ、はい、どうぞ。」
 イルファの差し出したかばんを二人分まとめて受け取って瑠璃が玄関を出る。
「ほなイルファ、留守頼んだで。ほら、さんちゃん急がな。」
「あ〜、待って〜瑠璃ちゃん〜」
 そう言って、先に走り出した瑠璃を追って珊瑚は玄関を出た。が、なぜかすぐに戻って
きた。
「珊瑚様、何か忘れ物でも?」
「ううん…今日は貴明も誘って、みんなでいっちゃんの誕生日パーティするから〜、
 たのしみにしとってな〜」
 そう言って、珊瑚は再び瑠璃の後を追って走っていってしまった。

                   −

 騒がしいひと時が過ぎ、家の中はイルファだけになってしんと静まり返ってしまった。
 だが夕方には貴明もメンバーに加えて、一段と騒がしくなるに違いない。

 …午前中のうちに家事を済ませて、午後は腕によりをかけてお料理を用意しましょうか。
 今日は瑠璃様に習ったレパートリーを存分に披露してみんなに喜んで貰いましょう。

 イルファは一つ深呼吸をして気合を入れた。
 愛する人たちの笑顔こそ、イルファにとって最高の「プレゼント」だ。
 その笑顔を見るために、今日もまたイルファの忙しい1日が始まった。
453名無しさんだよもん:2007/11/26(月) 02:24:23 ID:RutWkcOd0
>>449
支援THX

一応イルファさん誕生日SSということで

アイデアは割りとすんなり思いついたんですが、いろいろ表現がうまく行かなくて
結局何度も書き直ししてやたらと時間がかかってしまいました…
その割にはあまり成功していない気がするけど…

本当は来週のミルシルも書きたいと思っていたのですが、おかげで何にも
手をつけてないんで無理ですな

ちなみに「夢あわせ」は夢占いのことです
夢占いでは、赤ちゃんが登場する夢を見ると運気が上昇するそうです
454名無しさんだよもん:2007/11/26(月) 02:37:23 ID:CZpVUGTE0
お疲れさまでした〜。無理せず頑張ってくださいな。
455名無しさんだよもん:2007/11/26(月) 19:09:39 ID:Vj7JejDU0
>453
乙! 真面目な珊瑚ってのは珍しいな
双子とメイドロボは、真面目に境遇を省みると辛い部分も少なくないんだよね
だから珊瑚やイルファがぶっ飛んで勢いで引っ張るSSが多いんだろうけど
(本編からしてそうかw)、こういうちょっとローテンションな話もいいもんだ
456名無しさんだよもん:2007/11/30(金) 07:37:23 ID:qFMOojyJ0
age
457名無しさんだよもん:2007/12/03(月) 23:30:17 ID:TMcVn9410
あれ?ミルファの誕生日SSは?
458名無しさんだよもん:2007/12/04(火) 03:02:50 ID:RcE16twL0
しかし、急に書き込みが亡くなったよな・・・
459名無しさんだよもん:2007/12/04(火) 20:37:43 ID:2QyXqQD2O
>>458
冬コミの準備で忙しいんだろ
そう信じようや
460名無しさんだよもん:2007/12/06(木) 19:18:38 ID:JgdJh1+/0
>>458
冬コミか…
461名無しさんだよもん:2007/12/08(土) 23:19:14 ID:mCepAmo20
冬コミ原稿が終わってきたのかSSLinksの方は急に賑やかになったけどなぁ
462名無しさんだよもん:2007/12/09(日) 00:18:08 ID:ZwRQPAOg0
要は冬コミのせいじゃなくてリアルで書き込む人間が減ったってことでしょ
463名無しさんだよもん:2007/12/11(火) 08:56:57 ID:LQOJyPpJ0
ほす
464名無しさんだよもん:2007/12/14(金) 00:39:04 ID:Y16ouhNj0
ほしゅ
465名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 08:37:13 ID:WQr7tuQAO
一体いつになったら前のような賑やかさが戻るんだろ?
466名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 10:10:53 ID:xE79N7y30
賑やかだった時期の方が遥かに短いと思うけど、とりあえず>465が書いてみたら?
467名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 10:37:31 ID:Cyrf0ogk0
投稿いっぱい→誰か目立った作家が叩かれる→他の作家も投稿控える→過疎る→新たな作家登場→投稿復活→最初に戻る の循環だからな
冬コミのせいだとか現実逃避してる香具師もいるけどそんなに賑やかなのが良いなら叩かなきゃ良いのに
468名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 10:50:10 ID:Dy8d7p0BO
>>467
叩かれた作家さんかい?
469名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 10:58:35 ID:xE79N7y30
叩く人は「過疎スレw」って書きたくて追い出してるんだから仕方ない
寂しい人にできることは、まず自分で書いて投下復活のきっかけを作ることだね
470名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 12:18:41 ID:4bHiCxjV0
AD待ちじゃないのか?
471名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 12:58:16 ID:Cyrf0ogk0
じゃああと2ヵ月半待て
472名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 19:29:43 ID:F5xMARSo0
叩き自体は悪いことじゃない。悪感情であれ、それも作品を読んで生まれた一つの感想だから。
問題は作者でもない第三者が、その叩いた人を諌めたり攻撃したり、挙句の果てに
「気にしないで頑張ってください!」などと余計なことを言うこと。
これをやると議論や便乗煽りが起こって、結果作品がそっちのけになり、作者はそれを嫌って
投下を控えてしまいスレが過疎る。
まあ要するに他人の感想にケチつけんなってこった。
作品の内容関係ない個人攻撃とかならなおさらスルーするべきだしな。
473名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 19:38:22 ID:xScygNmQ0
>>472
その通りっちゃその通りなんだが
2ch、しかも過疎ってるとはいえ七厨板だぞ?
煽り煽られ叩き攻撃は止めようがないっつーか、
それを嫌うんだったら他所に行くしかないんじゃね?
作家の保護やってるわけじゃないんだから、
投下する人にもそのくらい覚悟してもらわんと
474名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 20:14:15 ID:1XBhdbXV0
>>叩き自体は悪いことじゃない
そんなわけあるか。
それに作品叩きも感想叩きも本質は同じだ。
475名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 21:07:31 ID:DR2jGGjf0
>>叩き自体は悪いことじゃない
感想(悪い所の指摘含む)と叩きは別物だぞ?
感想はより良い作品への糧だが、叩きは一方的な排除だ。
マンセー以外は叩き、って訳でも無いし。
476名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 21:44:54 ID:toi2iXAR0
ここはSS専用スレであって、議論スレじゃないよ。それにADが出ればここも活性化するだろうし、まったり待たないか?
それまでお前らも自宅警備で色々と忙しいだろうけどみんなで保守頑張ろうぜ。
477名無しさんだよもん:2007/12/16(日) 23:00:38 ID:DP6KWSs90
まぁ、とりあえずADが出ないと書きにくいのは確かだわな。

・・・・・特にメイドロボものは書けんww
シルファなんか怖くて触れん!!
478名無しさんだよもん:2007/12/17(月) 11:17:59 ID:WX7FwQdT0
しょこさん更新乙
479名無しさんだよもん:2007/12/17(月) 19:03:39 ID:BOa1FtxT0
>>477
お前俺がどれだけメイドロボSSを待ち望んでると思ってるんだ
遠慮なく書いてクダサイネー
480名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 02:46:31 ID:bh7schFP0
空気読まず聞きたいんだが、
オマエラ一押しのささらのSSってないか?
481名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 12:47:42 ID:foCOwySv0
>>477
ちょっといいか?こういう思考が理解できんのだが、どうしてそう思うのか教えてくれ
というのも、ADの情報が出てくるにつれて「シルファは書けない書きにくい」って言う
作家の人を結構見かけるんだよね
477はメイドロボ全般について書いてるから、この例には当てはまらないんだけど・・・

なんか堂々とミルファを書く一方で、シルファが書けないって嘆く人いるじゃん
俺はぶっちゃけ出てる情報量はミルファもシルファも変わらないと思うわけよ
だからイルファ以外のメイドロボなんて、妄想の産物に過ぎんと思うんだよね
確かにその妄想が実際のキャラとかけ離れてなさそうなのはミルファの方だが
こういうのを見ると上手く言えないんだがもにょってしまう

AD出たらイメージが刷新されて、既存のSSが過去のSSになるのは変わりないと
思うんだけどなあ
ADが出ることでダメージを負うと思ってる作家の人って、現状自分で何をしてる
つもりなんだろう・・・
482名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 15:18:27 ID:+qA4Rxt60
>>481
う〜〜ん、どう言ったらいいかわからんが……
今出てる断片情報があまりにも従来の自分の中のシルファからかけ離れているから、かな??
言葉遣いとか性格とか、オレん頭の中のシルファは大混乱だもんよ。

ミルファも今は書きにくいっちゃ〜書きにくいが、これは愛ゆえと言ってもいいかも試練。
すっごい好きだから、その期待感で頭がいっぱいになってて、神が降りてこないのよ。
ADが出て過去作品にダメージが、ってまでは思わないけど、ADが出ないうちは妄想が
上手く広がってくれないんだよ。
こんな回答でよろしかろうか??
483名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 17:45:57 ID:LxdGfEm30
>>481
ミルファは今までの情報で強気キャラという点では固まってる。
シルファは、貴明を足蹴にしたCGとダンボールに入ってるCGと、人見知りで研究所から
出たことが無いって情報が出てる。この情報から導き出されるキャラクターが俺にはわからん。
484名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 18:52:53 ID:1hTumo7Z0
>>481
メイドロボSSばかり書いてる人間からすると、乱暴な言い方になってしまうけども
別にADの情報が出ようが出まいが「今の段階では」関係がないな。
だって反映させようがないんだからしょうがない。それでもキャラは書きたいしね。

シルファを槍玉にあげてるようだけど、個人的にはミルファも既存のイメージとは
かなりかけ離れてるんじゃないかなー、と思ってる。
ゲーム画面の写真を数枚見た程度だから確信を持って言えるわけではないけど
単なる強気っていうより、THの綾香みたいな曲者っぽい印象を受けたんだよね。
そういう意味では、ミルファを書けるのにシルファを書けない、って言ってる人の
考えてることは俺にも分からないかな。別に知りたいとも思わないんだけどさ。

ただまあ、俺はもちろんADが出て、気に入ったらそのキャラを反映させて書くよ。
それに、気に食わなかったからといって、今書いてる自分のキャラをごり押しして
書き続けようとは絶対に思わないしね。
485名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 18:55:41 ID:1hTumo7Z0
OCN規制ホントに解除されてて俺歓喜\(^o^)/
486名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 19:28:29 ID:uW+nVFKd0
シルファはふたなりという俺設定があったのだが
無念じゃ
無念じゃわぃ
487名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 19:43:57 ID:+qA4Rxt60
>>486
いや、まぁ、ロボットなんだからして、オプションパーツを付ければお手軽にフタナリ
になるんじゃね??
そういうシチュエーションを作ればSSキャラにするに何の問題もないと思われ。
488名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 20:58:11 ID:rk6bvJq60
外部に対しては「AD非対応」の一言で済む話だろうけど、
結局は書き手自身の気持ちの問題だから議論してもしょーがないことではある

俺は個人的には>477の方に共感するな
自分の書いたキャラに愛着はあっても、設定やイベントならともかく、
キャラの性格づけが公式と真っ向から食い違ったらやっぱションボリするだろうと思う
「後から公式設定でちゃうかもな」くらいの状況ならともかく、
ADで予告されちまってるわけだからね。発売日をまたぐ連載なんか絶対書けん

>481の末2行の答えになるか知らんが、「鳩2SS」を書いてるつもりだから、
原作と大幅にズレたら自分で自分の作品を「鳩2SS」と思えなくなるのが怖い
別に共感は求めないけど、さほど不自然な感情とも思わないんだがな
489名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 21:09:50 ID:jBNVB/kI0
>>480のスルーされっぷりがw
490名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 21:21:04 ID:yA58OcmU0
>>488
その鳩2SSって結局なんなのさって話になるんじゃね?
情報出る前のミルシルを使ったメイドロボSSなんてそれこそ鳩2SSとはもっともかけ離れたSSだろ。
ADでミルシルが出るって確定した時に止めてる人ならともかく、キャラ情報が少しだけ提示されてから
鳩2SSと思えなくなるのが怖いから書けませんってのはなんかおかしくないか?
491名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 22:06:32 ID:+qA4Rxt60
>>490
オレの場合はAD出る&ミルシル出るって決まった段階で書きにくくなったけど……
キャラ情報が出てきたら更に書きにくくなったのは確か。
なんつーか、イメージの乖離が大きくてさ。
まさに「鳩2SSと思えなくなるのが怖いから書けません」状態だよ。
上で>>488も言ってる事だけど、誰よりも自分にウソはつけないからね。
誰がどう感じようと、オフィシャルとあまりにかけ離れてしまったら、自分自身が鳩2SSだと
言えなくなってしまうかも試練。それは非常に怖い。
自分の作品や自分のイメージが生んだキャラにはやっぱ愛着があるやん??
それを偽物と感じたらすごい寂しいんだよ。だから今は書きにくい。そういう事さ。

ま、インスピレーションの神が降臨したら発売日前日でも書いちゃうだろうけどねw
492名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 22:09:33 ID:M8gRX13O0
だれか菜々子のSS書いてくれんかな
493名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 22:16:13 ID:eYsy05jE0
シルファは本編中であった情報からは考えも付かないようなキャラになりそうだよな。
最初は誰かの倉庫のシルファSSみたいなのが俺のもともとのシルファ像だったんだが、
今ではだいぶ、どころか俺脳内のシルファが180度別のキャラクターになってしまった。
かと言って、情報が結構出揃った今でも倉庫のシルファSS読めばTH2のシルファとして萌えるし、
恐らくAD発売後もADのドSシルファにも、それまでに出たSSのMっぽいシルファのどちらにも萌え続けると思う。

現時点なら俺は作者の妄想のキャラクター像でも十分楽しめるから、
別にADと方向性が全く違うキャラクターになっても『今のところは』気にしない。
ただAD発売後では性格の固定化が行われるだろうから、
AD発売後に昔の性格で新しく書かれたシルファを見たら多分叩くと思う。

すまん、結構眠い目で書いてるから、言ってる意味たぶん伝わってないと思う。
要するに今の俺はシルファSSに餓えてて、妄想性格でもいいから俺にもシルファSSくれ、と言いたいかったんだ。寝ます。
494名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 23:08:01 ID:yA58OcmU0
>>491
だからさ、今までさんざんかけ離れたSS書いてたくせに、今更かけ離れるのが怖いって理由はおかしいでしょって話なんだけど。
そら>>491がそう思うなら書かなくてもいいんだけどさ、理由としておかしいだろって言ってるわけ。
自分の作品に愛着があるのはわかるけど、自分のイメージが産んだキャラに愛着があるってのは理解できないなあ。
それこそ>>491のいう鳩2SSってのは自分のイメージした鳩2であって実際の鳩2じゃないってことじゃん。
原作にないからこそ許された妄想を台無しにされる可能性なんか考えてたらSSは書けないし、メイドロボSSなんかは絶対に書けないよ。
あえてキツイ言い方をするけど、自分の作品の価値が無くなることを認めたくないだけにしか見えないわ。
495名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 23:31:27 ID:rk6bvJq60
別に見たいように見てもらって結構だと思うが、
俺や>491のように書きづらくなっている人がいるって所で、
どうやらそうでないらしい>494に一本メイドロボSSを期待したいな
496名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 23:40:35 ID:1hTumo7Z0
>>495
いくらなんでもそれはねーよwwww

ID:yA58OcmU0は自分の意見を述べてるだけだし(その意見をどう感じるかは人それぞれだろうけど)
その意見ってのは別に「俺はお前らと違ってメイドロボSS書きにくくなってねーぜ」なんて主張する
ものではないだろ…

日本語はちゃんと読んだ方がいいと思いまるする^p^
497名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 23:46:13 ID:jBNVB/kI0
とりあえずオフィシャル設定出してくれるってオフィシャルが言っているわけだから、
それが出るまで様子見ておこうか〜、と考えるのはそんなに不自然ではないような。
別に、この時期に無理にシルファを書く理由があるわけで無し、
しばらくは気心の知れたキャラを書いておいて、2月末からは「書くぞ、オラッ」ってね。
出るかでないか判らなかった頃と、出るよ〜って確言されている今では状況が違うんじゃないかなぁ。

と、どっかのSS書きさんが言っていたとかいないとか。
今はパワー充填、ニッカド充電。読む人も書く人も、二月末をお楽しみに!
待ちきれない? ガマンだガマン! あと二ヶ月がんばれ!
って感じかなぁ。
498名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 23:47:51 ID:wO/CQ2G40
発売日がまた延期する可能性に一票
499名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 23:57:36 ID:+qA4Rxt60
>>494
強いて理解して貰おうとは思わんが……

SSってのは結局妄想の産物やん。
原作の枠内でたくましく妄想を育てるのが何より楽しいわけだし、枠が決まっていてこそ
神様も降りてくるわけだ。
また枠の中にいるからこそ「SS」と言えるわけだしね。
ところがこれから新しくオフィシャルが出るってわかった。
一人称や貴明の呼び方、口癖、CVもこれから型枠が出来る事になってるんだぜ??
こりゃ神様も降りてこなくなるって。
少なくともオレの場合はそれが「書けない」最大の原因だよ。
もっと噛み砕けば「燃料マダー?」と言ってもいい。
これでFAって事で。
生暖かく見守ってた皆様スマソ……
500名無しさんだよもん:2007/12/18(火) 23:59:57 ID:oWzqYPSw0
書きたいなら書けばいいと思います
書く気が起きなきゃ書かなきゃいいと思います
それだけの話です

書けないとか言ってる人は読む人間の反応窺いすぎなんでしょう
この時期にあえてシルファのSS書く人ってのはきっと
既に持ってるシルファのイメージが未だ膨らみ続けているか
あるいはシルファのCGや小出しの情報見て妄想掻き立てられたって人でしょうし
そこまで妄想の翼が広がらないって人はwktkして発売を待つだけの話だと思います

要するに「書かない」と「書けない」ではニュアンスが違うよ、ってことではないでしょうか
日本語って難しいですよね
501名無しさんだよもん:2007/12/19(水) 00:10:45 ID:sf76EVQs0
>>494
やはり公式にキャラクターが発表されると違うと思うよ。
今まで個人個人が設定したキャラと公式の設定との剥離が大きいんだよな。
書けなくなると言うよりも原作のキャラを膨らませるのではなく、
オリジナルキャラを出してるような錯覚になるから戸惑いが生まれるんだと思う。
オリジナル設定と公式設定、どちらをベースに書けばいいか分からないってのが正しいんじゃないかな。

ついでに公式設定もいまだ正確なものが出てないしさ。
ぶっちゃけメイドロボどころかたぬきやきつね、まーりゃん先輩すら今は書きづらいと思う。
502名無しさんだよもん:2007/12/19(水) 00:27:48 ID:n7Z4HXWR0
っていうか、いま何人のSS書きが集まってる?w
503名無しさんだよもん:2007/12/19(水) 06:35:46 ID:GEClTu4W0
>496
>494の、要約すれば
「お前が(書きづらいと)感じている感情は精神的疾患の(ry」
という意見が何を意図して述べられたのかなんて知る由もないが、
スレ的に「(書く)方法は俺が知っている俺に任せろ」と言ってくれるのかと期待したw
504名無しさんだよもん:2007/12/20(木) 03:27:49 ID:IQx3Zjvc0
人の書きづらさなんて他人がどうこう言えるもんじゃないと思うんだがw
505名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 22:14:57 ID:7FDuZ9uo0
桜の群像ラスト行きます。最終話とエピローグを連続投下します。
506桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 1/17:2007/12/22(土) 22:17:55 ID:7FDuZ9uo0

クリスマス・イブ。
ネオンサインとイルミネーションが、カップルに溢れる街を彩る夜。
その灯りを窓の外に見ながら、電車に揺られる一組の男女があった。

「……」
ボックス席の一角で、荷物を膝に抱えて小さくなっているのは玲於奈。
ちらちらと向かい側の席に視線を送るが、言葉は発しない。
「……」
その視線の先、流れ去る光を眺めて不機嫌そうなのは雄二。
むっつりと唇を結んだまま、顎に拳を当てて沈黙を保つ。

雄二が自宅の屋根裏で玲於奈を見つけてから、およそ1時間半。

「わ、私と、か、駆け落ちしてくださいっ!」
無茶な申し出の後、
「お前は何を言ってるんだ」
いちおう、色々とやりとりはあって、
「縁談なんか断ればいいだろ」
雄二も説得は試みたのだが、
「相手方の家が格上のようなのです。禍根を残しては」
「駆け落ちはいいのかよ」
「私が勘当されればそれで済みます」
理屈は苦手分野でもあり、
「とにかく落ち着けよ。もうすぐ姉貴と薫子がウチに来るからさ」
失言もあり、
「お、お姉様がいらっしゃるのですか!?」
大慌てになった玲於奈、
「待て待て、すぐに連れ帰らないように俺が説得してやるから」
「雄二さんがお姉様に勝てるわけがありません」
「……まあ、な」
見も蓋もない発言に、思わず頷いてしまった雄二の負けだった。
507桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 2/17:2007/12/22(土) 22:19:22 ID:7FDuZ9uo0

「〜。〜。」
乗車アナウンスが、新たな駅名を告げた。
「あ」
玲於奈が小さく声を挙げる。
いつの間にか自分が知らない路線区域に入っていたことに、少女は気付かなかったのだ。
今朝は無意識に降車してしまった程だったのに。
理由はすぐに思い当たる。
(一人ではないから、ですね)
斜め前に座る少年の様子を窺う視線に、信頼と照れが混じった。

いっぽう雄二は、それを視界の端に感じながら変わらず押し黙る。
信頼されたって、応えられるとは限らないのだ。
「……次の次で降りるぞ」
とりあえず、二駅先の街なら、宿も複数あった筈。
玲於奈よりはマシな程度の土地勘を総動員して、雄二はそう踏んだのだけれども。

「申し訳ありませんが、本日は満室です」
「ご予約がありませんと、すみません」
「今日はねぇ、一杯だねぇ」
観光拠点の宿は、クリスマスに飛び入りできるほど甘くなかった。
「カプセルホテルまで埋まってるとはな」
自分一人なら、サウナでもカラオケボックスでも夜明かしできるだろうが。
「……」
参ったな、と口には出さず、顔に出ているのを見られないように足早に玲於奈の前を歩く。
と、
「あの、ゆ、雄二さん?」
黙って付いてきていた玲於奈が、前に回り込んで来た。
「何だ?」

「あ、あそこですね、“空き室あり”って……」
おずおずと玲於奈が指さした先には、煌々と輝くラブホテルの看板があった。
508桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 3/17:2007/12/22(土) 22:21:17 ID:7FDuZ9uo0

「い、意外と普通の部屋、なんでしょうか?」
「俺が知るかよ」

偽名偽齢で入ったホテルの部屋は、若い二人が妄想逞しくしたような怪しい空間ではなく。
アットホームな印象の壁紙に、大きめのソファと小さい冷蔵庫。
テレビはなかなか立派で、ビデオは貸し出しらしい。
ダブルベッドひとつ。

「「……」」
こればっかりは、どうにもならない。
「そのっ、電子レンジがありますね、お弁当温められますよ」
上滑った手つきで途中で買い物をしたコンビニの袋を引っ繰り返す玲於奈。
「明日の朝でいいだろ、ってなんだそりゃ」
転がったのは、単三電池×4。
「あ、これは、ですね」
がさごそ。
なにやら急に手つきが軽くなって、自分のスポーツバッグを探り出す。
「MD?」
少女が手に取ったのはポータブルプレーヤー。電池を入れて、スイッチを入れて。
「あははっ、動きましたよ」
少年に笑いかけて相手の怪訝な表情に気付くと、続けてバッグから紙片を取り出す。
「のし紙? これって……もしかしてカラオケ大会のアレか?」
雄二は、夏の出来事を、玲於奈が放り出した景品の事まで覚えていた。
「今朝、あの砂浜で拾ったんです」
その事実になお嬉しげな顔をして、ディスクをセット。
「それ、俺の?」
「すみません。お部屋から拝借しました……ほら、音も鳴りますよ雄二さんっ」
どうにも幸せそうな玲於奈が差し出すイヤホンを、もはや諦め顔で受け取る雄二。
耳元で流れる、緒方理奈の声。

二人で片方づつの音楽を聴きながら、暫しの間、雄二も状況を忘れた。
509桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 4/17:2007/12/22(土) 22:23:01 ID:7FDuZ9uo0

「海、行ったのか?」
こく。
目を閉じて歌に聴き入ったまま、玲於奈は小さく頷く。
「本当は、一人で遠くに行くつもりだったのですけれど」
とん。
雄二の右肩に、軽く頭が寄りかかる。
左手を伸ばして頭部に触れると、いつもは柔らかい髪が潮風にべたついていた。
「砂、ついてるぞ」
「ん」
雄二は確かめるかのように、小指から順に玲於奈の髪に手を差し込む。
恋人の指先に髪を梳かれて、猫みたいに目を閉じる少女。
「この時期に砂浜なんてな……寒かったろ?」
「今は温かいです」
雄二の膝に玲於奈の手が乗って、肩の荷重が少し増した。

やがて、カチリと再生が終わる。
「あ……」
玲於奈はわずかに口を尖らせて身を起こすと、イヤホンを耳から外す。
赤い髪に絡ませていた指をほどいて、ぽんとその頭を叩く雄二。
「ほれ、シャワーでも浴びてこい。俺も汗流したいし」
「そうですね」
玲於奈はするりと立ち上がり、ひとつ背伸びをして、それからバッグを持って浴室に向かう。
「……」
扉の前で、ふいに立ち止まって振り向く。

「こ、こういう宿って、浴室が部屋から覗けたり?」
「分かるわけねえだろ」
意識から消えかけていたロケーションをわざわざ想起させられ、雄二はそっぽ。
「そう、ですよね」
玲於奈も顔を赤くしながら、こそこそとバッグを抱えてドアの向こうに姿を消した。
510桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 5/17:2007/12/22(土) 22:25:07 ID:7FDuZ9uo0

玲於奈が普段より長めのシャワーを浴びた後、雄二も風呂をつかった。
「やっぱ寒かったんだな。生き返ったぜ」
「思ったより浴室も広かったです……っよっねっ」
「どうした?」
風呂上がりの会話、急に語尾が怪しくなった少女に怪訝な雄二。
「い、いえ、な、なんでも……」
なくはなさそうな表情と口調で、少年から目を逸らす、ふりをして横目な玲於奈。
「? なんか変か?」
雄二は自分の格好を見直すが、別に前がはだけているわけでもない。
ないのだが。

風呂上がりの少年。
最初から予定の家出だった玲於奈と違って着替えなぞ用意していないので、
ホテルに備え付けのバスローブを羽織っている。
下着はコンビニで買った。シャツは着ておらず、襟から覗く胸元は外見より逞しい。
洗ったばかりの前髪が、額に乱雑に張り付いていて、
「お前、洗面台からドライヤー持ってったただろ」
それを掻き上げながら、テーブルの上からドライヤーを取る仕草とか。
「ブラシ忘れた……ま、いいか」
手で髪を直しながら組んだ脚の、裾から伸びた裸の足とか。

「大丈夫か? 具合でも悪い?」
ふと手を止めて玲於奈を向く視線。
彼女はというと、床にぺたんと座った膝の上で手を組んで、心持ち肩を縮めていて。
「だ、だいじょうぶです。そうではなくて、その……」
組んだ手を口元に持ってきて、意味もなく何度も息を吹きかけてから、その片方を胸に当てる。

「あ、あはは、な、なんだか、急に心臓が止まらなくなりました」
それは止まったら死ぬのだろうが、そういう趣旨ではなく、
初めて見た恋人の寝間着姿に、口から飛び出しそうな少女の心臓は、早鐘のように鳴っていた。
511名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 22:25:30 ID:aM798Zrx0
shien
512桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 6/17:2007/12/22(土) 22:26:50 ID:7FDuZ9uo0
「……なにを言い出すんだか」
玲於奈の鼓動は、1メートルほど離れた雄二にも伝播したようだ。
さっきまで普通に見ていた少女の姿格好を、強く意識してしまう。

家出娘は、スポーツバッグに簡単な着替えを詰め込んできたのだが、
就寝着には、クリーム地にピンクの水玉という、どう見ても外用ではなさそうなパジャマを選んでいた。
少しゆったりした長袖長ズボンに、いつもはすらりとした印象のある手足の指が小さく見えて可愛らしい。
雄二よりも一足先に洗われた髪はふわりと乾いて、潮風の影響を排した本来の柔らかさを主張している。
部屋の暖気と自身の血流が相まって、ほんのり紅潮した頬と首筋。

(……やばいやばい)
心臓から送り出された血液が、微妙に頭と下半身に集まるのを自覚した雄二は、
元凶から意識を逸らそうと少女の周囲に視線を移す。
と、
「なんだ、それ?」
玲於奈の目の前にある物体に目を引かれた。
「えっ? あっ、これはですね」
ひょいと玲於奈が手に取ったのは、小さな預金通帳らしきもの。
「軍資金です」
預金通帳、そのものだったようだ。
「お前の? 貯金なんかしてたのか?」
「はい、といいたいところですが、家のです」
結構平気な顔で、とんでもないことを言い出す少女。
「ちゃんとハンコも持ち出しましたから、下ろせます……あれ? 雄二さん?」

得意げな言葉の途中で、雄二が頭を抱えていることに気が付いた。
「どうしたのですか? 頭が痛いのですか?」
笑ってしまいそうなくらい無邪気な問いに、確かに頭は痛い雄二。
だが、顔を上げた少年は真面目な顔を作った。
「……玲於奈」
「はい?」
「明日の朝イチで、家に戻るぞ。お前も俺も」
513名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 22:27:36 ID:w509jQIw0
支援
514桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 7/17:2007/12/22(土) 22:28:49 ID:7FDuZ9uo0

彼の言葉に、玲於奈から表情が消える。
「なぜ、ですの?」
絞り出す声には、寂しさと不満が入り混じった、自分を否定されたような感情。
「なぜもハゼもあるか。俺はお前を犯罪者にする気なんかねえぞ」
「家のお金ですわ」
「家出しようって奴が何言ってやがる」
「それはそうですけれど、でも」
厳しい口調に、玲於奈はあっというまに目に涙を溜める。
「私は、雄二さんと一緒にいるためなら、どんなことでもしたいのですのに」
俯く少女。

「だから、だよ」
雄二はひとつ溜息をつくと、立ち上がって玲於奈の正面に移動した。
見上げた少女の視線を受け止めながら、片膝をついて目の高さを合わせる。

「お前は、俺と一緒なら不幸になってもいいと思ってくれてるみたいだけどな」
「そうではありません」
玲於奈は首を振る。
「雄二さんと一緒なら、それで幸せなんです」
「サンキュ。俺だってそうだ。でもな、」
小さく目で笑って、雄二は続ける。
「俺は一般的な意味でも、お前に幸せになって、いや、お前を幸せにしたい」
「だから、どうしてもそうしないと一緒にいられないなら、駆け落ちでも犯罪でもするさ」
「けど、それは最後の手段だろ」
「見合話のひとつやふたつで家出してたら、家がいくつあっても足りねえよ」
面白くもない冗談でくくっと笑う雄二。
「でも……」
「いいから普通に頑張ってみろって」
雄二は、抵抗しかけた玲於奈を遮って付け加える。

「もしもどうにもならなくなった時は、俺がお前を攫(さら)ってやる」
515桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 8/17:2007/12/22(土) 22:30:10 ID:7FDuZ9uo0

「雄二さん……」
自分を覗き込む恋人の目を、揺れる瞳で見つめ返す玲於奈。
床に突いた膝と膝は、30センチほどの距離で向かい合わせ。

そうっと、雄二が左手を玲於奈の髪に伸ばした。
「みんな、凄い心配してたんだぜ」
「みんな……」
「姉貴も、薫子達も、委員ちょ達も、クラスの連中も」
「小牧さん達まで……」
「親御さんも、心配してんだろ?」
「おそらく……」
玲於奈の声が詰まる。
「だからさ」
雄二は、俯きそうになった少女の顎に手を当てて、前を向かせる。
「戻ろうぜ、みんなのところに」

「……はい」
少女の瞳から、涙がこぼれた。
少年は、右手を伸ばして頬を指で拭った。
髪を撫でる左手に少しだけ力を入れ、恋人を引き寄せる。
床に座り込んだまま、玲於奈の上体が前に傾く。
合わせるように頭を下げてゆっくりと、覗き込むように唇を寄せる雄二。
玲於奈も両手を膝の前について、自ら相手を求めた。

「んっ……」
静かに重なる、二人の影。
向かいあわせに座って頭だけを重ねた、少し不自然な姿勢。
それでも彫像のように固まって、エアコンの風に少女の髪だけが揺れて。

雄二と玲於奈は、これまでで一番長いキスをした。
516桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」 9/17:2007/12/22(土) 22:31:27 ID:7FDuZ9uo0
やがて唇が離れると、玲於奈は小さく息を吐く。
「雄二、さん、あ、あの、ですね……」
「抱かねぇぞ」
「っ! まだ何も言ってませんっ!」
台詞とは裏腹に、真っ赤っ赤に赤を重ねたくらいの顔色が図星を物語る。
すぐに考えが分かったというのは、雄二も同じ事を考えていたということだが、
恥ずかしさで心臓が飛び跳ねた玲於奈は気付かなかった。
「俺は、お前を幸せにするって決めたからな。無責任な事はできない」
こちらは真剣な顔色で雄二。
さっきから臭い台詞ばかり言っている気もしたが、それでも今は気持ちを伝えたかった。
こくっ。
玲於奈も素直に頷いて、黙って少年に抱きついた。

その夜は、同じ枕で眠った。
ベッドがひとつでも、雄二はソファで寝ることも考えたのだが、
玲於奈は拗ねたし、布団の中では当然のように腕に寄り添ってきた。
「絶対に、お父様とお母様に雄二さんを認めさせてみせますからね」
耳元で、あまり囁くようでもない声で目標を語る少女。
「私も、お姉様に認められる女性になりませんと」
返答は求められていないように感じたので、雄二は黙って聞いている。
「進学でも、雄二さんが就職ならそれでも構いませんけど」
「駆け落ちでなくとも、一時期は二人きりで暮らしたいです」
「家事は任せてくださいな。最近、また料理のレパートリーは増えたんですよ」
「それで、そのうち子供を、何人くらいがよろしいでしょうかね。二人? 三人……」

ぽん。
「あんまり、先走るなよ」
雄二が空いている手で頭を軽く叩くと、玲於奈は切なそうな顔になった。
「そうですね」
彼の腕を枕にして目を閉じる。
「とりあえず明日、怒られる準備をしませんと……」
雄二も、環に殴られる覚悟をしなければいけないなと思った。
517桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」10/17:2007/12/22(土) 22:32:41 ID:7FDuZ9uo0

翌日、玲於奈は自宅に帰った。

予想に反して、玲於奈はあまり叱られなかった。
雄二も、一日連れ回したことを事情も含めて詫びたのだが、
少女の両親は彼を責める事はせず、ただ連れ戻してくれた事を丁重に感謝した。

「御両親は、玲於奈に甘いんですよ」
これは、薫子の言。
雄二に対しては信頼のこもった眼差しで頭を下げた彼女は、
どうも玲於奈には説教する気満々だったので、彼女とカスミが両親の寛容を補うのだろう。
「クラスの友達には、小牧さんが連絡しておいてくれたそうですから」
「みんなにもバレてているのですよね……」
自業自得とはいえ、級友達にも当分からかわれそうだと玲於奈は嘆いた。

環には、向坂邸に戻ってから一発殴られた。
「自分で戻ってきた判断は正しいわ。雄二にしては上出来ね」
殴られた頭をおさえて呻く弟に、それでも姉は好意的な評価を与える。

「とはいえ、迷惑は迷惑だから。罰として年末年始は家に缶詰」
「げっ。ってことは姉貴もこっちに居るのか?」
軟禁自体よりも、そっちを嘆いてもう一発殴られる雄二。
「ご愁傷様。遊びに行くよ」
「やたー! お正月はタマお姉ちゃんと一緒だあ」
貴明とこのみは、自分達自身の労には一言も触れなかった。

年末年始。
雄二は環の宣言どおり家から一歩も出して貰えず、電話すらかけられず。
玲於奈の方も、雄二と連絡を取ることはできないままで。

そして年が明け、まだ冬休み中のある晴れた午後のこと。
518桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」11/17:2007/12/22(土) 22:34:13 ID:7FDuZ9uo0
「ほら、そんな膨れ面してないの。先方に失礼でしょう?」
「わかってますわ。わかってますけど」
よく似た音質の声がふたつ、そこそこ高級なホテルの一角に響く。

「あん……もう、どうしてこんなに早いのですか?」
レストランで言い合う声の主は、玲於奈とその母親。
「貴方に受ける気がないのなら、時期を引っ張っては先方に御迷惑よ」
見合いを今日に設定した母の言い分に一理はあるが、どうも釈然としない。
「でしたら最初から断ってくだされば」
「往生際が悪いわよ、玲於奈」
議論を打ち切られて、娘がまた最初の膨れっ面に戻った時。
「往生際が悪いわよ、さっさと来なさい」
入口から聞こえた声が、玲於奈の耳朶を打つ。

「あら、いらしたようね」
「ようねって、お母様……」
近づいてくる足音。
「会うだけだぜ。ったく。最初からやめときゃあいいのに」
聞こえてくる声。聞き覚えのある声。
「何度も聞いたわ。お父様が決めた事なんだから観念なさい。ほら、シャキッとする!」
バシッと人の背中を叩く音、そして、ドアが開かれて。
「っつっ! っとっと……へ? 玲於奈?」
入ってきた青年、いや、少年は、テーブルで待つ相手方の姿に目を丸くする。
「雄二さんっ? どうして?」
立ちつくす当事者二人を置いて、保護者同士は挨拶を。
「遅くなりまして、申し訳ございません」
「いえいえ、本当に良いお天気で。ほら、早くご挨拶なさい、玲於奈」
「え?」
「なにぼうっとしているの、雄二、こちらが今日のお相手よ」
「え? え?」

「「えええええええええっ?」」
519桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」12/17:2007/12/22(土) 22:36:32 ID:7FDuZ9uo0
「き、聞いてませんわよお母様」
「聞いてねえぞ、姉貴」
問いかける声は、ほぼ同時。
「言ってませんから」
「言ってないもの」
答える声も、若干の悪戯っぽさを含んで同じ。
ぽかんと開いた口が塞がらない雄二と玲於奈。

「学校でも、良くしていただいているようで」
「いえいえ、こちらこそ」
保護者の会話は続く。
「だから、今度の事は良いお話だと思ったんですけどね」
これは玲於奈の母。
「どうも本人が乗り気でないようで、お断りしたいって」
「えっ?」
「あら、そうですか? 実はウチのもなにか事情があるらしく」
玲於奈の疑問符を無視して、環が受ける。
「いや、おい」
「本当に、残念ですわねぇ」
雄二のツッコミも流される。
「それじゃあ、このお話はなかったことに……」

「「ちょ、ちょっと」」
「姉貴っ」
「お母様っ」
からかわれているのは、雄二はむろん玲於奈にだって分かった。
別に縁談の有無で二人の関係が変わるわけでもない。

「「ま、待ってく」」
「れ!」
「ださい!」
それでもここは、やっぱり止めるところなのだろう。保護者二人も微笑んだ。
520名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 22:37:25 ID:Dzdhh7uH0
しえん
521桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」13/17:2007/12/22(土) 22:37:43 ID:7FDuZ9uo0

およそ30分後。

「ああもうっ! お父様もお母様も環お姉様も、悪ふざけが過ぎますわ!」

賑やかな挨拶と、軽い食事−雄二と玲於奈は味など分からなかった−の後、
「暫く本人達に任せましょうか」
少女の母と少年の姉は定番の行動として席を外し、
「「……」」
改めて面と向かうと会話に困って、
「天気がいいし、外にでも出るか?」
「はい」
中庭に散歩に出たあたりで、ようやく玲於奈も調子を取り戻したようでさっきの発言。

「なんかおかしいとは思ったんだ。名前も教えないでお見合いなんて」
雄二もぼやく。相手の素性を尋ねても「どうせ断る気なんでしょ」と環にはぐらかされたのだ。
「そういえば、そうですわね」
「お前は違和感感じなかったのかよ。っつーか、家を飛び出す前に相手くらい確認しろよな」
「違和感は覚えるものです」
恋人の本気ではない口調の苦情に、玲於奈の頬が膨れる。

「雄二さんだって、連絡くださっても良かったじゃありませんか」
「今日知ったんだ。年末年始は家にカンヅメだったしよぉ」
反撃の矛先を流して、雄二は伸びをひとつ。
「うーん、朝から緊張してたから気が抜けたな」
「そうなんですか?」
「ああ」
頷いて、ちょっと意地悪くニヤリと笑う。

「育ちが良くて美人だって聞いてたから、少し楽しみにしてたんだけどな」
「どういう意味ですかっ!」
たちまち、少女の顔が真っ赤に沸いた。
522桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」14/17:2007/12/22(土) 22:39:39 ID:7FDuZ9uo0
「どうせ私は粗野で品がないですよ」
誰もそんな事は言ってないし、少なくとも雄二は思ってもいないのだが。
「こっちはどうやって失礼なく断ろうかと真剣に悩んでましたのに……」
勢いに任せて言葉を続けかけて、少年の目が笑っていることに気付く。
「なんですか?」
「いや、怒った顔は久しぶりだなと思って」
「っ!」
雄二の楽しげな言葉に、玲於奈の赤面ぶりが微妙に色を変える。
「そういう言い方は、ずるいですわ」
もう見慣れた拗ねた顔。どちらにしろ、少年には愛おしい。その視線に、また少女は困る。
「……んもうっ」
紅い頬を膨らませたまま反撃の台詞を探す玲於奈。
やがて、急にニコっと笑って。
「似合ってますね、その服」

「……そう来たか」
いちおう公の場ということで、今日の雄二は濃紺のスーツ姿。
普段は学生服か、私服でもあまり構わない格好なので、
少し子供っぽさは感じるものの、彼を見慣れた玲於奈にも新鮮な印象がある。
「どうせ背伸びしてるよ」
「そんな事ありませんわ。格好いいです」
ニコニコ。
無邪気な笑みに、今度は雄二が追い込まれる手番。
冬の日溜まりの中、常緑樹の間を歩く少女の姿。
玲於奈の方の服装は、まるで雄二に合わせたようなピンクのカジュアルスーツ。
「……」
思いついた台詞はあって、しかし素直過ぎる気がして迷った雄二。
それでもたぶん、言って欲しいんだろうなと思って口を開く。

「お前も、似合ってるぜ」
「ありがとうございます!」
やっぱり言って欲しかったらしい玲於奈は、満開の笑顔で応えた。
523名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 22:40:20 ID:xAVPdKnv0
私怨ノシ
524桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」15/17:2007/12/22(土) 22:41:03 ID:7FDuZ9uo0

「しかしなんだ。全然お見合いらしくはねえな」
「あはは、そうですね」
真面目な格好で場所が場所でも、どうにも気分は出ない。

少しはらしい話題でもしてみようかと、
「ご趣味は」
「音楽鑑賞など」
以下、いつもの緒方理奈談義を妙な丁寧語でひとしきり。

「学校はいかがですか?」
「楽しいですよ。同じクラスの友人もいるし、隣のクラスに……」
恥ずかしい会話になりそうなのでやめた。

「勉強の方は?」
これは玲於奈から、ちょっと意地悪な振り。
「全然ダメですが、なんとか大学には進みたいっスね」
が、回答に表情を変えたのは玲於奈の方。

しげしげと雄二の顔を見る。視線をあさって方向に逸らす少年。
じーっ。
逸らした視線を宙に三回転半くらい彷徨わせて戻しても、まだ玲於奈が見ていた。
「……そういうことだ」
観念して進路変更を認めると、玲於奈は嬉しいようで困ったようにはにかむ。
「そ、そうですか。それでは私も頑張りませんと」
「頑張る必要ある……んですか?」
お見合いごっこが続いているか否か判別できずに変な語尾で尋ねる雄二。
玲於奈の成績は優秀だ。よほど志望が高いのだろうか。

返事は明快だった。
「はい。実は、九条院を受験しようと思っています」
525桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」16/17:2007/12/22(土) 22:42:34 ID:7FDuZ9uo0

九条院の大学部は、エスカレータで昇ってくるお嬢様達は十人十色として、
良家の子女とお近づきになりたい連中の存在と、やはり定員が少ないので結構な難関である。

「それはまた、難儀だな」
成績の差が歴然としている所以、同じ大学を目指そうと思ったわけでもないが、
出戻りした上にもう一度転校した玲於奈は、合格すれば三度目の九条院入学ということになる。

「幼稚園からずっと九条で過ごして来て」
少女は前を向いて言葉を紡ぐ。
「それが当たり前だと思っていたことが、転校して色々と違うことに気がつきました」
「一度戻って、なお差異を感じて、またこちらに戻って、また思うことがありましたし」
「九条には、外から入る人はいますけど、往復する人はあまりいませんから」
「ですから、是非、どこまでできるかは別として、その経験を生かしたい」
「九条を変えるってか」
「いくらなんでも。そこまでは思っていませんけど」
恥ずかしそうな苦笑。
それにしても、玲於奈がそんなことまで考えていたというのは意外だった。
「変わったな。お前」
雄二が指摘すると、玲於奈は首を傾げる。
「どうでしょう?」
「ああ。随分と、大人しくなったような気がする」
大人になったという意味も込めて。
「……雄二さんは、変わりませんね」
誉めたつもりだったが言葉が悪い。ちょっと斜に受けて返す少女。
「あっそ」
この一年で多少は成長した気になっていた雄二としては面白くない。
「ええ」
しかし玲於奈は、穏やかに微笑んだ。

「出会ってからずうっと、私が信じる雄二さんのままですわ」
雄二は、照れてそっぽを向いた。それを見て、玲於奈はいっそう笑った。
526桜の群像 最終話「SOUND OF DESTINY」17/17:2007/12/22(土) 22:43:51 ID:7FDuZ9uo0

日差しが少し雲に隠れて、冬らしい冷たい風が通る。
「寒くないか? そろそろ戻るか」
「もう少し……」
言って玲於奈は身体を寄せる。二人の手が繋がる。

「今年は受験生かあ」
空を仰いで雄二。吐く息が白い。
「お互い、まずは勉強を頑張りましょうね」
彼の肩の隣で、彼と同じ雲を見て玲於奈。
「九条に受かったら、少し離れてしまいますけど」
雄二も受験しろとは、流石に言わない。
「週末は必ず戻ってきますからね」
目線が遠くなったせいか、少女は思考も未来に走っていく。
「それで、卒業して就職したら、二人で一緒にいたいですね」
数日前に、泣きはらした目で呟いた目標。
「あ、私は専業主婦でも共働きでも構いませんから」
空想は、いきなり現実味を帯びてきた。
「それで、そのうち子供……あはははは」
昼間言うと照れくさかったらしい。

二人の未来は始まったばかり。
簡単には行かない事もあるだろう。失敗することもあるだろう。
(ま、目標ってのは下方修正していくもんだろうけどさ)
それでも、
「何人くらいがいいでしょうかね……」
なにやら自分の世界に突入している玲於奈の横顔を見ながら。
少女が広げる未来予想図を、重ねて描くであろう、自分の人生設計を、
自分の力の及ぶ限りは叶えたいと、雄二はそう願った。

「雄二さんは野球チームとサッカーチーム、どっちが好きですか?」
さっそく修正の必要がありそうだったけど。
527名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 22:45:03 ID:7FDuZ9uo0
以上です。
最終話にして風呂上がりの雄二なんぞ描写してしまいました。
続けてエピローグ、行きます。
528桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 1/14:2007/12/22(土) 22:46:29 ID:7FDuZ9uo0

それから、一年と少し経って。季節は春。

山道を走る、一台の乗用車。

「こっちはまだ、咲いてねえな」
「例年どおりなら、もう少し後ですね。今年は暖かいですけれど、山の中ですから」
助手席で答えたのは玲於奈。
「しかし凄い所にあるよな。道も細いし」
「運転、気をつけてくださいね」
ハンドルを握るのは、免許取りたての雄二。

「私も夏休みには免許を……」
「やめとけ。向いてない」
「んもうっ、いつもそうなんですから」
「バスもあるし、電話くれりゃあ迎えに行くぜ」
そんな会話をしながら、向かう先は、私立九条院大学。

この3月、玲於奈は見事に、第一志望の九条院に合格した。
入寮は強制ではないが、近くの町までバスで3時間という地理条件により事実上の全寮制。
地元の大学に通う事になった雄二−周囲の心配を他所に、きっちり合格して見せた−とは、微妙に遠距離になる。
「毎週戻りますから、よろしくお願いしますね」
「無理すんな」
そんな会話をしながら、車はやがて見えた大きな校門をくぐって敷地内に侵入。

「うわ、立派な車ばっか」
普段は無駄なほど広い来客用駐車場に、所狭しと高級車が勢揃い。
外車もあるが、どちらかというと国産車が多いのは学校柄だろうか。
車と車の合間を縫って駐車スペースを捜す雄二の中古。

今日は、九条院大学の入学式。
529桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 2/14:2007/12/22(土) 22:48:02 ID:7FDuZ9uo0

「うーっ、空気がいいな」
長時間の運転から解放された雄二が、車から出て思いっきり欠伸。
「花粉症の人は大変なんですよ、毎春」
馴染みのある場所に舞い戻って楽しげな玲於奈。

「式は11時からか? 少し早かったかな」
「そうですね。でも人はだいぶん……あっ!」
きょろきょろと周囲を伺っていた少女が声を高くする。
人混みという程でもない人の群れの中、落ち着いた様子で周囲を眺めているのは、
「環お姉様っ!」
向坂環。
玲於奈は車の合間を縫って駆け寄った。

「おはようございます! お姉様!」
「久しぶりね、玲於奈。おはよう。それと、入学おめでとう」
「ありがとうございますっ!」
環と玲於奈が会うのは、合格発表の時以来だった。
駆け寄って環の手を握りしめる少女。
(尻尾があったら振ってるだろうな)
苦手の姉を避けて遠目の雄二は、そんな失礼な事を発想したり。

「ええっと……」
「薫子とカスミなら、すぐ来ると思うわ」
第二駐車場の方を見に行って、ここで待ち合わせだから、と、
近くを見渡す玲於奈の思考を読んで環が説明する。
果たして、間もなく校舎の方から現れるふたつの人影。

「薫子っ! カスミーっ!」
周囲の目もはばからずに手を振る玲於奈。
二人も、それに気付いた。
530桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 3/14:2007/12/22(土) 22:50:26 ID:7FDuZ9uo0

タタタッ……。
まず駆け寄ってきたのは、黒髪の少女。
「カスミっ! お久しぶり……あらら?」
ヒシ……。
変わらず無口なカスミは、玲於奈の口上を遮って抱きついた。
ギュウ……。
「く、苦しいですわよ、……カスミ……」
語尾が詰まる玲於奈。
まったく会っていないわけでもなかったわけではないが、
再び同じ学校に通う事には、また違った感慨があるのだろう。

その二人の肩に。
スッと、もうひとつの手が回る。

「ずるいですよ、私も入れてください」
玲於奈とカスミを包むように腕を回したのは、慌てず歩み寄ってきた薫子。
「久しぶりです、玲於奈。会いたかった」
静かに、しかし感情を込めた声で再会を喜ぶ。
「薫子ぉ……」
たちまち涙目になる玲於奈。少し背が伸びた幼馴染みの肩に泣きつく。
カスミも抱きついたまま。三人ひとかたまり。

「ふふっ、三人とも、ようこそ九条院大学へ。歓迎するわ」
優しく見ていた環が、改めて祝いの言葉。
薫子とカスミは高等部からのエスカレーターだが、そこは節目というもの。
先輩の言葉に、姿勢を正して向き直る玲於奈、薫子、そしてカスミ。

「「よろしくお願いします。お姉様!」」
ペコッ……。
九条院三人娘、およそ一年半ぶりの再結成であった。
531名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 22:51:29 ID:Dzdhh7uH0
しえん
532桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 4/14:2007/12/22(土) 22:52:47 ID:7FDuZ9uo0

「もうすぐ会場に入れるわね。ほら、化粧直してきなさい」
先の抱擁で、玲於奈の顔はぐしゃぐしゃ。
カスミの頬にも、珍しく涙の跡がある。
薫子が泣いていないのは性格というか芸風であって、想いの深さは変わるまい。
「は、はい」
トコトコ……。
手近な女子トイレに向かって歩き出す赤と黒のコントラスト。
茶色の少女も一歩後ろをついて行くが、道中で脇に逸れる。

「お久しぶりです雄二さん。玲於奈、お世話になってます」
車に寄りかかって佇む、親友の想い人を目ざとく見つけたのだ。

「よう、初詣以来か? 元気そうだな」
雄二は玲於奈の合格発表には付き合っていないので、その前は年明けになる。
「元気ですよ。私もカスミも」
「アイツはまあ、相変わらずだから。迷惑かけると思うけど、よろしくな」
「えっ?」
少年の言葉に、薫子がキョトンとした顔をした。
何か変な事を言ったろうか、雄二が首を傾げたあたりで、
「あっ、そうですね。ちょっと驚きました」
納得したように頷く。
「ふふっ、ご両親以外に玲於奈をよろしくお願いされるなんて」
幼稚園時代に出会って以来、無鉄砲で方向音痴な親友の世話は薫子の当然の日課だったので、
彼女は他人に玲於奈の事を頼むことはあっても逆は滅多になかった。

「なんせ此処だから、俺は普段は面倒見られないし、やっぱ心配でな」
雄二は地面を指さして九条院の立地を嘆く。
「大丈夫ですよ」
薫子は保証して、楽観する理由を述べた。
「玲於奈、いつも幸せそうですもの」
電話でもノロケ話ばっかりで、と、悪戯っぽく付け加えるのも忘れない。
533桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 5/14:2007/12/22(土) 22:53:58 ID:7FDuZ9uo0
「お前らだって、負けてないだろうが」
やや赤面した雄二が、顎で示す先。
「薫子、何をしてますのっ!」
ジッ……。
校舎に向かう途中で薫子を待つ、玲於奈とカスミ。
「……はぁ」
溜息をつきながらも、薫子の唇には笑みが浮かぶ。
「それでは、また」
「ああ」
くどい挨拶が必要な仲でもない。薫子が踵を返す。

「あっ、そうだ」
と、もう一度返し直して雄二を向く長髪の少女。
「なんだ?」
「ひとつご報告です。カスミ、刃物を持たなくなったんですよ」
「……そうかい、良かったな」
寡黙な少女がポケットに危険物を持ち歩いていた事は、雄二は何度か目撃している。
それをやめたというのがどういう意味か、明確に分かるほど付き合いは深くないが、
薫子が嬉しそうに話すということは、喜ばしいことなのだろう。

「それと、もうひとつ」
「なんだよ」
いい加減しつこいぞと苦笑する雄二に、薫子はニッコリと笑って。
「早く挨拶しなくていいのですか、お待ちかねですよ、お姉様」
反撃も許さずに、薫子は相棒二人の下に駆け去った。

「……」
相手のいなくなった雄二はやむを得ず、ギギギと首を見たくない方向に回す。
「……」
そこには、腕を組んで一向にやって来ない弟を睨む、眉目秀麗な姉の姿があった。
534桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 6/14:2007/12/22(土) 22:55:34 ID:7FDuZ9uo0

「よお、姉貴、来てたのかガガガガガ」
射程距離の1メートル手前で声を掛けたつもりだったのにアイアンクロー。
環の踏み込みの鋭さを計算し忘れた雄二のミスである。

「ってえな、っつーか俺がなにをしたんだよ!」
「挨拶がわりよ。相変わらず頑丈なのだけが取り柄の頭蓋骨ねえ」
わざとらしく溜息。
「失敬な。そっちこそ相変わらずのバカ力ガフッ!」
雄二の方が背が高いはずなのに、拳が脳天に振ってくるのは何故だろう。
「玲於奈も元気そうでなによりだわ。薫子とカスミも、相変わらずみたいだし」
「みたいだしって、同じ校舎だろ?」
「うーん、やっぱり大学部と高等部だから、そんなに会わなかったわねー」
「へえ?」
薫子はともかく、カスミならそんな垣根はもろともせずに押しかけそうなのだが。

「去年の頭から、そんなに頻繁には来なくなったわよ?」
卒業式では泣かれたけど、と付言した上に、
「薫子とは、四六時中一緒みたいだけど」
さらに付け加える。
「玲於奈が嫉妬しそうだな」
先の薫子との会話を思い出しながら雄二は冗談9割本気1割で心配。
「玲於奈は、あの様子なら大丈夫でしょ」
アンタがいれば、とは口には出さずに表情で伝えた。

「そういや、久寿川先輩は来てねえの?」
雄二が名前を口にした、美人で人見知りな元生徒会長久寿川ささらは、なんと九条院大学に進学していた。
元生徒会副会長向坂環を追いかけて、だと、雄二は半分くらい思っている。
「今日は街の方に出ているわ。お母様が見えてるらしくて。よろしく伝えてって言ってた」
「そっか」
やや残念だったが、久寿川がいるとセットで例の危険な先輩も出てきそうだからと自分を納得させた。
535桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 7/14:2007/12/22(土) 22:57:25 ID:7FDuZ9uo0

「卒業式はどうだった? 行きたかったんだけどな」
まだ残念がっている顔で、用事で外した環が尋ねる。
「どうもこうも、メンツは違えど前と一緒だ。このみが大泣きしてな」
「そうでしょうねえ」
はあっ、と、やや環らしくない息を吐く。
「タカ坊が、あんな遠くに行っちゃうなんて」

あまり真面目に進路を考えていた様子もなかった河野貴明は、突如この春から関西移住。

なんでも、卒業旅行先の大阪で偶然手助けしたおばあさんに気に入られ、
家にお邪魔してみたら、そこが恋人である小牧愛佳の母方の実家。
「アイツも詳しくは語らねえけど、色々あって後を継ぐとか継がねえとか」
「タカ坊らしいわ」
もう一回嘆息。
「さすがに、これから逆転は難しいかしらね」
「……まだ諦めてなかったのかよ」
「人の気持ちってのは、そんな簡単じゃないの」
他人事のような物言いに、姉の寂しさを感じた雄二はそれ以上突っ込まない。

「ところで、小牧さんの実家って何やってるの?」
「ケーキ屋」
「……ぷっ」
一瞬絶句した環、ややあって吹き出す。
何を想像したのか、雄二も正確に推察できる。
「そっか、あはは、タカ坊のケーキ屋さん、ふふっ」
何歳になってもどこか女の子っぽい童顔の貴明に白衣。
似合う似合わないとは別に想像力を掻き立てられるものがあるらしい。

「これは近いうちに遊びに行かなきゃね、是非」
貴明強奪は諦めても、玩具にすることは止めないつもりらしい環。
雄二は同情を禁じ得ない、貴明本人よりも、主として彼の恋人の方に。
536桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 8/14:2007/12/22(土) 22:59:31 ID:7FDuZ9uo0

「そんときゃこのみも連れて行ってやれよ」
「もちろんよ。雄二もね」
「日程があればな」
雄二は、今のところ全週末帰ってくるつもりらしい玲於奈の事を考慮して答える。
(でも、玲於奈を連れて行くのもいいかもな)
貴明はともかく、玲於奈は小牧姉とは至って良好な関係で学園生活を終えた。

「電話ちょうだいねぇ〜」
「九条院にも是非、遊びにいらしてください」
別れ際の二人の会話を思い出して、雄二は卒業式を回顧する、

「ごごぎごががぐぐごぎっごぎごぐががぎぎぐぅ〜(このみもタカくんと一緒に大阪に行くぅ〜)」
と、やっぱり思い出す幼馴染みの泣き顔。

「無茶言うなよ。ていうか、この間も散々泣いただろ」
大阪行きが決まった時も、無人になる河野家大掃除の時も豪快にグズった少女だが、
卒業式という節目で再び寂しさ極まったらしい。この後の送別会でも、もちろん大泣きした。

「あ、あははは」
同情しつつも、もはや笑うしかない愛佳。オプションの多い恋人を持つと苦労するという教訓。
彼女にとっては、貴明の進路は色々と望ましいものでもあったろう。
もっとも、愛佳自身は意外とそんな余計な事は考えていないのかも知れない。
河野貴明がどんな道を歩もうと、小牧愛佳は、彼の隣を歩むだけだから。

「ぞずぎょうじだら、ぎぐががげ(卒業したら、行くからね)」
まだ言ってるこのみ。
「このみはこっちの大学受けるんじゃなかったの? あたしと一緒に」
故意に拗ねた表情で引き取ったのは、小牧郁乃。
最近、杖は手放せないものの車椅子なしで外を出歩けるまでに回復した愛佳の妹は、
姉が進学しなかったことで生まれた経済的余裕を、遠慮なく生かすつもりらしい。
537名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 23:00:21 ID:Dzdhh7uH0
しえん
538桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」 9/14:2007/12/22(土) 23:01:54 ID:7FDuZ9uo0

「ごうじゃぐがががおえうががぁ〜?(大阪から通えるかなぁ?)」
無茶言うこのみ。
無茶と言えば、学年一桁順位の郁乃と赤点候補生が同じ学校を目指すのも常識的ではないが、
何事にも素直なちびっ子は、郁乃の言葉と指導を真に受けてメキメキ成績を伸ばしつつあり、

「いつまでも秋田ローカルの超神みたいな発音してないで諦めなさい」
いっぽう郁乃は、既に親友の数字に合わせて志望を落とすと決めているようで、
成績優秀な小牧家の姉と妹は、2年続けて進路指導部を嘆かせることになりそうだ。

「どうせ会いに行ったり来たりはするんだから」
「うんうん、戻ってくるよ」
力一杯頷くのは、妹離れが不安な愛佳。
「あんまり戻ってこなくていい」
「えぇ〜」
相変わらず好き勝手を言う妹が、密かに家を出ることを考えていることを姉は知っている。
あわよくば、そこに寝起きの悪い同居人を獲得しようと目論んでいることも薄々。

もちろん、実現までには数多くの障害、主として郁乃の体調面を中心に、がある。
それでも、家族に頼って生きるという、許された唯一の選択肢を黙々と選び続けてきた彼女が、
一時的にせよ家から離れて生活しようという野望を持てるだけでも愛佳には幸福だったし、
妹を自然にサポートしてくれている元気少女が、もう暫く側に居てくれたらとも願う。

「だがぐんばぼびびぶぶばばべ〜(タカくん遊びに行くからね〜)」
愛佳自身の利害関係も、絡まないというと嘘になるけど。

で、話題の元凶たる約1名は。
「あはは、まあこのみも郁乃も遊びに来たらいいよ。いちおう雄二もね」
困ったような笑顔でいつもの曖昧な発言。
「……私は、やっぱり河野さんが一番性質が悪いと思いますわ」
「今に始まったこっちゃねえけどな」
雄二と玲於奈は、こっそり頷いた。
539桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」10/14:2007/12/22(土) 23:03:18 ID:7FDuZ9uo0

回想終わり。場面戻って九条院。

「そういう貴方は? 玲於奈のご両親に、失礼してない?」
「本人の心配はしねえのかよ」
「見れば分かるもの」
二人が上手く行ってるのは、と環は笑う。
雄二は腕を組んで、
「うーん、嫌われてはいない、と、思う」
玲於奈の家には、お見合いの直後に初めて挨拶に行って、
この一年間で何度もお邪魔して、泊まった事すらある。
「優しい親御さんだな。玲於奈の親とは思えんような」
後半は冗談。
明るくて、どこか抜けたところなど良く似ていると思う。

「そうね。でも娘思いだから、玲於奈を傷つけたら怖いわよ」
「気を付けるよ」
環が脅すが、言わずもがな。
「けど、そうだな。家出の事とか、もっと怒られるかと思ったんだけど」
やや古い話を持ち出す。
あの時雄二は、ホッとしながらも少し愛情に欠ける親ではないかと思った。
今は、そんな誤解は微塵も残っていないが、自分らを自由にさせすぎではないかと感じる事がある。
「あら、怒ってたわよ」
それを告げると、しかし、環は首を振った。

「私が玲於奈の御自宅に連絡した時なんて、怒鳴りこんできそうな勢いだったもの、お父さん」
雄二と玲於奈のプチ家出の、第一発見者は向坂邸に戻った環と薫子だった。
「そうなのか?」
「ええ。俺が娘の幸せを考えずに縁談を持ち込むような親だと思ってるのか、とね」
「……玲於奈が言ったんだぞ」
「そっちにはがっかりしてた。信用されてないんだなって」
クスリと思いだし笑いをしながら環が語る、雄二も玲於奈も知らなかった事情。
540桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」11/14:2007/12/22(土) 23:04:49 ID:7FDuZ9uo0

「取りなすのも大変だったんだから」
「いや、悪かった。けど、ぜんぜん素振りも見せねえけどなあ」
玲於奈の父親とは最近は晩酌の相手−雄二は年齢なりに−をしたりもして、
けっこう人生語られたり打ち解けているつもりだが、その辺は何も聞いていない。
「気を遣ってるのよ」
「俺に?」
「当たり前でしょう。婿に迎えようって男で、しかも向坂本家の人間よ」
「……」
雄二の腕組みが少し深くなる。
それを見て、環が少し真面目な顔をした。
「察しなさい、そのくらい。いつまでも、他人の好意に無邪気に甘えていい年齢ではないわ」
「分かってるよ」
雄二が不機嫌になったのは、前段部分のせいではない。
「家の事もよ」
それも、姉はお見通しだった。

「貴方が家柄とかそういうものを嫌うのは構わない。お婆さまもそう思っていたし」
二人の祖母は、姉弟の性格を見抜いていた。だから、環を後継者として育てた。
「でもね、向坂の人間として生きていく以上、それはついて回ること」
付き合う相手が分家筋の娘であれば、尚更。
「貴方が拒否すれば、その分が玲於奈に降りかかる事になるの」

雄二は腕を組んだまま、姉の言葉を聞いた。
環が言及した雄二と玲於奈の関係が、そのまま環と雄二当てはまる事に気がついたのだ。
そして本当は、姉も家柄や血筋の話など好きではない事を、彼は知っている。
「……分かったよ」
自分が分かっていなかった事が。
「すまなかった、姉貴」
「あら? 私に謝ってもしょうがないわよ?」
「いや、そうだな。じゃあ、サンキュ」
もう一度、雄二は環に感謝した。姉は、いつになく軽く、弟の頭を小突いた。
541桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」12/14:2007/12/22(土) 23:06:03 ID:7FDuZ9uo0

「雄二さんっ! 雄二さんっ!」
かなり遠くから雄二を呼ぶ声は、聞き慣れた玲於奈の声。

どうやら、化粧直しは終わったらしい。
「あら、呼んでるわよ?」
面白そうに環が指さす先に、飛び跳ねながら手を振る赤髪の少女。
ずいぶん長くなった髪が、身体の動きに合わせて上下に揺れている。
「なんだよ、ったく」
玲於奈は何かに夢中になると人目をはばかるということをしない。
恥ずかしい思いする時間を短くしようと、一気に駆け寄る雄二。
「こちらにいらして」
そのまま校舎の裏側に誘う少女。薫子とカスミは、笑いながら環の方に戻っていく。
「トイレなら案内してもらわなくても平気だぜ」
「違いますっ。ほらっ!」
玲於奈に引きずられて辿り着いた、敷地の一角。
日陰になっている校舎裏で、ちょうどそこだけ陽当たりが残る場所。

まだ春になりきらない九条院の構内で、一本だけ桜が咲き始めていた。

「陽当たりいいからか? それとも、種類が違うのか」
「わかりませんけど、この木だけ咲くのが早いんです。毎年そうでした」
自分で思い出したのか薫子あたりに想記させられたのかは分からないが、やたら嬉しそうな玲於奈。

すっと二人は手を繋ぐ。並んで見上げる、薄紅色の春の花。

「学園の方は、今が満開だろうな」
“タカくん”と離れた幼馴染みは、それでも無邪気に跳ね回っているだろうか。
その隣で、皮肉屋の少女が苦笑しているのだろうか。
「西の方は、こっちより遅いんでしたっけか?」
「同じくらいだろ?」
異郷の地で新たな生活を始めた貴明と愛佳は、どんな桜を見上げているのだろうか。
542桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」13/14:2007/12/22(土) 23:07:45 ID:7FDuZ9uo0

「此処も、これからどんどん咲き始めますよ」
まだ蕾の桜達を、空いている方の手で示した玲於奈の目に、

キョロキョロ……。
彼女を捜す、カスミの姿。
「玲於奈ーっ! そろそろ受付の時間ですわよーっ!」
親友を呼ぶ、薫子の声。環もこちらにやってくる。

「ふふっ、それでは一足先に、大学生になってきます」
環達の方に走り出す玲於奈。繋いだ手が、するりと外れた。
「入学式が早いだけで」
苦笑する雄二。
再会した三人娘と、彼女らが尊敬する先輩が見る桜は、
そして、まもなく雄二が自分の学校で見る桜は、どんなものになるだろう。

春。それぞれの未来へ、それぞれが走り出す季節。

「……今晩あたり、委員ちょんとこに電話してみるかな」
少女達の様子に、厚くもないと思っていた友情を刺激されて雄二は呟く。

ずうっと並んで歩いてきた日溜まりを離れ、それぞれの場所を歩き始めた雄二と貴明。
ひょんなことから彼等と同行することになった、玲於奈と愛佳。

「そうそう、柚原さんと小牧さんの妹さんも、今日が始業式なんですよ」
「このみが受験生とはね。可哀想に」
「私たちも、去年は受験生だったのですから。皆が通る道ですわ」
「そんなこと言って、大変だったのは私だけではありませんか」
ニコニコ……。

先輩達の残した標をたどって、間もなく自分の船出を迎える、このみと郁乃。
いったん分かれて、またひとつになった玲於奈と薫子とカスミの、そして環の線路。
543名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 23:08:46 ID:Dzdhh7uH0
しえん
544桜の群像 エピローグ「Brand-new Heart」14/14:2007/12/22(土) 23:10:08 ID:7FDuZ9uo0

先の事は、わからない。

離れた道も何時か交わり、並んだ道も何時か離れ得る。
堅い絆を信じる雄二と玲於奈にも、これから乗り越えるべき壁はいくらだってあるだろう。

だけど、だから。

人混みに紛れてゆく玲於奈の背中に、雄二は願う。
振り向いて確かめた雄二の視線に、玲於奈は想う。

この愛しさだけ、いつも君に届けと。
545名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 23:11:27 ID:7FDuZ9uo0
以上です。支援ありがとうございました。

そういうわけで、完結です。

が、実は番外編をひとつ構想しているので、そこまで書いて「終わり」にしたいと思います。
ADに間に合わないならやめようと思ってたんですが、2月末ならなんとかなるだろうから(苦笑)
ただ、薫子が主役で、三人娘が雄二と会う前の話になるため玲於奈もあまり活躍しません。
後半出番のなかった九条院組のフォロー狙いということで悪しからず。

しかし長い話でした。通算445レス、原稿用紙換算600枚超……間違いなく私の人生最長の文章。
環シナリオやった時から三人娘は「外見可愛いのに勿体ないなあ」と思っていて、
最萌の支援絵で玲於奈の良さげなのを見たのがきっかけで書いてみたくなった作品ですが、
期間も分量も予定の倍以上に。当初は1話も10レス前後にまとめるつもりだったのに……

内容については、自分で評するなら、なんともテンプレどおりなお話だったかなと。
ホントは玲於奈にはもっとツンデレっぽい落差を出したかったし、テーマ的な事を言えば、
彼女の家柄への拘りを雄二が解いていく話にしたかったけど無理無理カタツムリでした。
あと、このみに悪いことした罪悪感が。最後まで貴明に拘るとは予定外だったので。
ちなみに桜の群像というタイトルは、この郁乃&このみ部分(第5話と、11〜13話あたり)を
「桜吹雪の周辺事情」という仮題で妄想していた名残だったりします。
後悔は無数にあるし書き直したい気持ちも一杯ですけど、自分の力は出し切りました。
胸を張れるとすれば、脇役も含めて全てのキャラに愛着を持って書けたことですかね。

あとがきも長くなっててすみません。
「反応ゼロでも最後まで書く」と覚悟して始めた長編ですが、皆様のレスは非常に励みになりました。
特に第8話にして初めて「玲於奈に萌えた」って趣旨の感想を頂いた時は凄く嬉しかったです。
とにかく、本当にありがとうございました。よければもうちょっとだけ、三人娘(+環)とおつきあいください。
546名無しさんだよもん:2007/12/22(土) 23:20:08 ID:Dzdhh7uH0
とりあえず完結乙でした
楽しみに待ってましたよ

>あと、このみに悪いことした罪悪感が。最後まで貴明に拘るとは予定外だったので。
このみに関してはわりと仕方が無いんじゃないかなと。
タマ姉の貴明に対する恋心は意識的な部分が大きいけど、このみの貴明に対するこだわりは無意識の部分も多いと思う。
このみらしく書こうとするとこの部分は避けようが無いと思われ。

ともあれ、長丁場での連載で、俺も楽しませてもらいましたし、最も続きの楽しみな連載でした。
最後にもう一度、乙でした。
547545:2007/12/23(日) 22:55:06 ID:UkKounJg0
>546
レスありがとうございます
このみは13話でさくっと区切りをつけて郁乃とらぶらぶにする予定だったんですが、
22話の水族館でキャラが暴走しまして「これ区切りついてねーじゃん!」てw

この娘の貴明への想いは、このみシナリオだと凄く意識して恋い焦がれていて、
逆に他キャラの話だと、無意識だし、そもそも家族的な感覚が強い印象があります
(そうでないと可哀想でToHeartにならないって事情もあるでしょう)
このSSでは後者で無意識に燻ってる恋心を自覚して失恋させるのを狙ったんですが、
自覚させた時点で私の方が前者に引きずられてしまったのかも知れません

しかし郁乃の手に負えないと、貴明と雄二以外にこのみに似合う子……雅史ちゃんあたり?
548名無しさんだよもん:2007/12/23(日) 23:32:50 ID:GoN4BuMo0
>>545
完結乙&GJです。

まず、これほどまでの長編を最後まで書ききったという偉業を称えさせてください。
途中のまま、絶賛放置中の作品がSS倉庫に眠っている自分には、その凄さが
よく分かります。

内容についても、本編では本当に只の脇役でしかなかった玲於奈を、露骨なキャラの
改変なく、これほどの萌えキャラに仕立て上げたのが素晴らしかったです。
というより、もはや、自分の中での玲於奈のイメージは、この作品の玲於奈に
既に置き換えられてて、前に2周目の環シナリオをやった際、あれ? 玲於奈って
こんな嫌な役どころだったっけ? と、むしろ本編の方に違和感を感じたという
思い出があります。

何はともあれ、本当に楽しませてくれてありがとうございました。
残るは番外編ということで、楽しみにしてます。
549名無しさんだよもん:2007/12/24(月) 09:14:59 ID:jBO+Pgh20
このみと愛佳好きなので二人が出てくるSSとして楽しませてもらいました。
しかし、今後は愛佳も苦労するのですかね?
本当にこのみが関西へきたりして・・・
550545
>548
ありがとうございます。ですがまず、絶賛放置中の作品を続(ry

でも実際、ここで完結した長編ってこれの前が河野家で、
その前ってたぶん「冬のNYのひと時のやすらぎ」あたりまで遡りますよね
期間的にも話数的にも、長いのを連載するのは色々と苦しい
これも当初は1週とか2週間隔だったのに後半は月イチ未満。青息吐息でした

ですがやはり、完結すると嬉しいです。単なる自己満足だなんて重々承知、
自分で書いたキャラに結末を与えられるのは自分だけだから、最後まで面倒みられて良かった
なので>548さんも他の連載中の皆様も、ぜひ続きに挑戦して見てください
もちろん、拘らずに新作というのも良いと思いますけれど

>玲於奈
玲於奈は、原作では薫子との区別すら殆どないくらい無個性だと思います
雄二の方も、各シナリオでバラバラな性格づけをされている奴ですから、
この雄二と玲於奈が本当に“TH2のキャラ”なの? と言われたら難しい所です
(むろん自分では、二人とも原作から妄想してキャラが出来ていったのですが)
それでもなるべく“TH2のSS”にはなるように、展開や他キャラを含めて頑張ったつもり

>549
漏れもこの二人好きだし書き易いので、雰囲気作りと話の推進役をして貰いました
愛佳にはもっと見せ場をあげたかったのですが、このみに食われましたねw
今後……まあ、貴明はあれで愛佳一筋でしょうから、実は問題ないのではないかと
このみと郁乃が大阪に来て四人同居なんてのも、それはそれで面白そうですが(ぉ